青春18切符1daytrip 春 第二章(4)

 
  第四話 流浪のプチトリッパー 後編

 

  2020年 4月6日

丹波にも福知山にも行かず、戻って三田駅で降りた。
そして、例年通りの王道コースを踏襲することにした。ご機嫌になる事が確実な選択を知ってて、むざむざそれをスルーするなんてバカバカしいと思ったのだ。どうせこの時間に田舎町の丹波に行ったところで、情報ゼロゆえ路頭に迷うのがオチだ。それでも行こうなんてのは真正M男である。オイラ、基本的にマゾっ気はないからね。マゾ的思考になる時は窮地に陥った時だけだ。状況を愉しむしか精神の平衡を保てないから、そうしてるだけにすぎない。

 

 
先ずは銭湯へ行く。極楽気分になる為のステップその1だ。
三田駅から10分ほど歩いたところに三田市唯一の銭湯『しんち湯』がある。数年前に廃業のピンチがあったそうだが、お客さん達の強い要望で何とか存続になったと聞いている。

梅の暖簾が粋だね。
ここの銭湯、昭和レトロな雰囲気があって好きなのだ。周囲の町並みの雰囲気も、そこはかとなく鄙びた感じが漂っていて落ち着く。

 

 
この小ぢんまりとしたところもいい。

 

 
湯船は中央にある瓢箪型のみしかないけれど、レトロで昭和ロマンの香りがある。こうゆう形の湯船はあまり見たことがないから相当に古そうだ。昭和でも比較的古い時代のものだろう。
それに比して、蛇口は白と赤のゴルフボールでボップだ(画像を拡大されたし)。そして壁面上部はキッチュ。普通の銭湯画ではなく、トタン板に何やらシュールな生物どもが貼り付けられておる。おそらく深海生物、いや太古の昔の原始生物だろう。悠久の世界観ですな。空間で小さな宇宙が展開している。

客はワシ一人の貸し切り状態だ。気兼ねなく湯船で大の字になって浮かぶ。
重力から開放され、四肢がゆるゆるとほどけてゆく。
スッゲー開放感。やっぱ銭湯って最高だよ(≧▽≦)❗

銭湯では、たっぶり1時間過ごした。スーパーリラックスで夕暮れ間近の外へ出る。目に見える風景全てが優しく見える。

少し駅の方向へと戻り、お目当ての居酒屋へゆく。
極楽気分になる為のステップその2だ。

 

 
大通りを少し入ったところにある『うまいもん酒房 和来(わらい)』。
四、五年前だろうか、三田でギフチョウを採って「しんち湯」に入った後、酒でも呑もうと思ってうろついてて偶然見つけた店だ。それ以来、毎年この時期にだけ訪れてる。中々良い店で、近所にあったら絶対に通うのだが、三田なんてギフチョウを採りに来るくらいしか用がないから、どうしてもそうならざるおえない。だが、完全に年中行事にはなってる。もはやギフチョウと銭湯とこの店がセットになっていて、優先順位に優劣なく、均衡を保っている。

時刻は、まだ5時40分。どうやら自分が最初の客らしい。
一番最初の客は嫌いじゃない。

「僕は店を開けたばかりのバーが好きなんだ。店の中の空気がまだキレイで、何もかもがピカピカに光ってて、客を待ってるバーテンが髪が乱れていないか、蝶ネクタイが曲がってないかを確かめてる。酒の瓶がキレイに並び、グラスが美しく光って、バーテンがその晩の最初の一杯を振って、綺麗なマットの上に置き、折りたたんだ小さなナプキンをそえる。
それをゆっくりと味わう。静かなバーでの最初の静かな一杯、こんな素敵なものはないと思ってる。」

ハードボイルド小説の金字塔、レイモンド・チャンドラーの『長いお別れ(註1)』の一節を思い出した。大学生の頃に暗記したのだが、今でもこうして諳(そら)んじることができる。ただし、語彙の一部は自分なりの言葉に微妙に変換されてるけどね。
この小説には、他にも粋な言葉が数多(あまた)散りばめられており、このセリフのすぐ後にも名文句がある。
「アルコールは恋に似てるね。初めてのキスには魔力がある。二度目にはずっとしていたくなる。だが三度目にはもう感激がない。あとは服を脱がせるだけだ。」
話が逸れた。戻そう。

ここは勿論バーじゃない。居酒屋だ。けれど開店直後の店の空気はまだキレイであり、独特の清新さがあることには変わりはない。

カウンターに座ると、目の前に「ワンピース」のフィギュアが並んでいる。

 

 
数は年々確実に増えているようだ。現在進行中の「ワノ国編」の登場人物もいるしね。ワンピースのストーリーは同じパターンの繰り返しで、どのエピソードも結局のところ少年ジャンプ的ヒエラルキーだから飽きているのだが、アニメの方だけはまだ継続して見ている。どうせルフィーは、もう1回くらい四皇の一人であるカイドウにボゴボコにされるだろうけど、最終的には勝つに決まってるからね。

先ずは「5種造り盛り」¥1000から頼む。

 

 
何だこりゃ❓
画像を見ても全然メンツが思い出せない。マズイな。

あっ、でも探したらメニューの写真を撮ってあったわ。

 

 
酒のアテの欄がソソるねぇ〜(´▽`)
如何にも左党が好みそうなアイテムが並んでいる。店主も酒好きなのが如実に現れているラインナップだ。そういや初めて来た時は、通が喜ぶ「鯖のへしこ」なんかもあったな。アレはもう無尽蔵に何ぼでも酒が呑めるのだ。あっ、そうだ。酒といえば、この日に飲んだ酒の事も書いておこう。
(・o・)ありゃ、でも酒関係の写真を一枚も撮ってない。まあいい。どうせビールから始まって芋焼酎のロックへと移行したのであろう。こうゆうアテの美味い店ならば、大体のパターンは決まっておるのだ。せいぜいどこかで日本酒を挟むくらいしかバリエーションは無い。チェーンの居酒屋では、ビール飲んでから酎ハイレモンとハイボールを延々飲んでるけどもね。旨い料理には敬意を表して酒を選ぶが、どうでもいいような食いもんの時には、ただ酔えればいいって感じのチョイスになるのだ。

このメニューの刺身の項から類推すれば、左のサーモンみたい奴は桜マスだろう。
桜マスは渓流魚のヤマメの降海型で、鮭みたく海に下り、デカくなって川に戻って来た奴だ。尚、桜マスの名前の由来は桜の咲く頃に川を遡上するからという説とオスがメスの産卵期が近づくと体が桜色になるから(婚姻色)という説がある。
西日本では五月(サツキ)マスと呼ばれ、こちらは亜種であるアマゴの降海型である。また、海ではなく琵琶湖に下るアマゴもいて、ビワマスと呼ばれている。これら全部をひっくるめてもサケ科の中では漁獲量が最も少なく、珍重もされている高級魚だ。日本では古来から食べられており、「鱒(マス)」といえばこの魚の事を指していた。

サツキマスとビワマスは何度か食べた事があるけど、サクラマスって食った事あったっけかなあ❓多分、あったとは思うけど。

画像を再度見て、舌の記憶が甦ってきた。味の印象はサツキマスやビワマスとほぼ同じだったと思う。どちらも美味です。身は柔らかく、甘みと旨みが強いのが特徴だ。それでいてサーモンみたく味はしつこくなく、舌にベタベタと残らない。キレが良く、どこか上品さがあるのだ。

その奥の赤いのはマグロはマグロなんだけど、その脳天。脳天といっても脳味噌ではなくて、頭の頂部の両脇にある身で一匹の鮪から2本しか取れない希少部位である。上から見れば、漢字の「八」に見えることから、別名「八の身」とも言われてるそうだ。
マグロ(本マグロ)の頭は全体的に脂が乗っており、味はトロに近いのだが、脳天はどうじゃろう❓
あっ、味はトロだが、トロよりも弾力がある。よく動かすところなのか筋肉質で、トロの甘みの中に赤身のコクも混じってて、めちゃんこ美味い。

真ん中は生のホタルイカ、右手前の白身はイサキだろう。となると、その奥は消去法でシマアジとゆう事になる。
画像からするとイサキの質が高そうだ。けど、あまり記憶にない。逆に不味かったら記憶に残るだろうから、目を見張るほどではないが、そこそこには旨かったのだろう。

お次は「春野菜天ぷら盛合せ」¥550をチョイス。

 

 
一番左端の黒緑色なのがワカラン。大葉?ワサビ菜?
その横はウルイだね。その隣もワカランが、若ゴボウかなあ?
で、タケノコ、コゴミときて、右下はフキノトウかな。
多分、塩で食ってるな。天つゆを否定はしないが、甘ったるいので殆んど使うことがない。それに何食っても天つゆ味になりがちで味を壊しかねない。繊細な春野菜ならば、尚更だ。塩のみで食ってる確率は、100%だろう。
塩は藻塩かなあ…、自信ないけど。とにかく普通の塩ではないだろう。
不満は特にないが、ここに山菜の女王コシアブラがあればなと思う。山菜で一番美味いのはコシアブラだからね。

 

 
これは「なめろう ¥400」だな。
基本はアジ、サンマ、イワシなど青魚の刺身に味噌、生姜、ネギ、大葉、ミョウガ等を加えて細かく包丁で叩いて混ぜ合わせたものだ。
元々は房総の郷土料理で「皿まで舐めるくらいに旨い」というのが由来だったかな。
日本酒や焼酎のロックを飲みながらチビチビ食うのだが、酒バカエンドレスになるアテだ。由来に恥じないくらいに旨かったという記憶がある。

(・o・)んっ❗❓改めて画像を見て思った。
なめろうといえば、真鯵が基本だが、コレってマアジか❓
サンマは季節的に有り得ないから除外だし、イワシならばもっと銀ピカだから容易に区別できる。だからマアジだとばかり思っていたが、よく見るとマアジにしては色が白っぽくて、身に透明感がある。
もしかしたら、コレってシマアジで作った「なめろう」かもしれない。いや、刺身の項にアジは無かった筈だから、間違いなくシマアジだろう。道理で旨かったワケだ。シマアジの「なめろう」なんて贅沢だよなあ(´∀`)

 

 
だし巻き玉子。
左側は大根おろしだが、鬼おろしだから粗い。
個人的にはボソボソしているから粗い大根おろしはあまり好きではない。とはいえ、おろし方よりも辛みのエッジが如何に立っているかの方が遥かに重要だ。辛くない大根おろしは大根おろしではない。あの、世にはびこる水っぽくて味も素っ気もない大根おろしを憎悪してやまない。

店主曰く、関東と関西では巻き方が違うらしい。玉子焼き用の道具も東西では違うから何となくは知ってたけど、どっち側から巻くかまでは知らなかった。

調べてみよう。
色が濃くて甘い関東風の厚焼き玉子は焦げ目をつけて、一回で厚く卵を巻くという作り方が主流。一回で卵を巻きやすいように東(あずま)型や角型と呼ばれる正方形で幅のある大きな卵焼き器を使って、奥から手前へ折りたたむように巻いて作られる。一方、だしを多く使いフルフルの柔らかい食感が特徴の関西風だし巻き卵は、手前側から少しずつ何層にもなるように巻いて作られる。巻きやすいように西(にし)型や角長型と呼ばれる細長く長方形の卵焼き器を使うのが一般的である。
ちなみに自分は無意識に手前から奥へと巻いている。たぶんオカンの玉子焼きの作り方を小さい頃から見ていたせいである。

関西風のだし巻き玉子って、しみじみ旨いよなあ(´ω`)
酒のアテだけでなく、オカズにもなる。だから関西では「だし巻き玉子定食」とゆうのがあって、わりかしポピュラーな存在なのだ。
このあいだ「秘密のケンミンSHOW」か何かでやってたけど、関東には「だし巻き玉子定食」とゆうのが存在しないらしい。オバハンがキレ気味に「玉子焼が御飯に合うワケないよー。」と言ってたが、こっちが(  ̄皿 ̄)キレるわい❗
関東の人には申しワケないが、あんなクソ甘い玉子焼きだったら御飯に合うワケないやろ、お菓子かボケー(-_-メ)❗❗である。
そういや築地にテリー伊藤の実家の老舗玉子焼屋があって、そこで厚焼き玉子を食ったことがあるけど、💢😈ブチキレたね。
関東の人は関西に来たら、是非ホンマもんのだし巻き玉子を食べてみて戴きたい。錦市場には「三木鶏卵」とか「田中鶏卵」というだし巻き玉子専門店があるから気軽に買えますよ。
中でも「三木鶏卵」がお薦め。ここのは冷めても美味しい。いや、むしろ冷めてるヤツの方が美味い。しっとりとしていて、噛むとジュワッと出汁が口の中で広がるのだ。

店はいつ来ても多くの客で賑わっていたが、この日はずっと静かだった。
7時過ぎになって漸く新しい客がやって来たくらいだ。しかも一組だけ。やはりコロナの影響は凄まじい。
お陰で店の大将と色々話せたけどね。ここの大将は結構面白い人なのだ。曰く、実際大変な状況になってるらしい。家賃や光熱費、人件費などは黙っていても出ていくし、食材だって大半が廃棄になってしまうそうだ。自分も飲食やっていただけに、よく解る。

 

 
どうやら「サラミポテトサラダ ¥350」みたいだね。
ポテサラって大好きなんだけど、外では中々自分好みのポテサラには会えないんだよね。
多分ここのは合格の範囲内だったと思うけど、細かい味までは憶えてない。とはいえ、自分も珠にサラミ入りのポテサラを作るから味の想像はつく。あまりポピュラーではないけれど、実をいうとコレが旨いんだよね。だから旨かったのは間違いないかと思われる。

そういえば、店の大将が言ってたけど、作ろうと思えばもっと旨い究極のポテサラが作れるらしい。ただし、大変手間がかかるから3日前には電話してほしいと言ってたなあ…。
普段は予約とかしない人だけど、次回はマジで電話してそのポテサラを作っておいてもらおっかなあ。
でも来年も店が有るかどうかはワカラナイ。今は先が全く見えないという御時世なのだ。
たとえそうじゃなくとも、一人だけなのに予約するのは恥ずかしい。それに一人だと食べられる品数に限りがあるんだよね。ワタシャ、出来れば沢山の種類をちょっとずつ食べたい人なのだ。
なれば、元カノでも誘おっかなあ…。でも、こないだドタキャン喰らったからなあ…。かといって、こうゆう良い店には心を許した人でないと誘えない。それに食いもんの好みが合わない人だと、楽しいどころか寧ろマイナスになりかねない。相談もなく、勝手に自分の食べたいものだけを頼むような人間とか抹殺したくなるもんな。
まあ、場所も場所だし、誘っても断られるのがオチかもしんないけどさ。チッ、それはそれで癪じゃないか。

 

 
ほろ酔い気分で午後8時半に店を出た。
春のやわらかな風が頬を撫でる。

午後8:43の高槻行き普通電車に乗る。

 

 
午後9時前、又しても武田尾駅に降り立った。
山の中だけあって夜気が冷たい。夜桜も心なしか寒そうだ。
それにしても夜に見る桜はどこか妖艶だ。そして死の匂いがする。
ましてや今宵は朧月(おぼろづき)だ。余計にそう見える。

 

 
だが、蛾の採集には最悪のコンディションである。虫は月夜の夜にはあまり灯火に飛来しないのである。天気予報では夜から曇ると言ってたのになあ…。
この周辺には春の三大蛾(註2)が確実に生息しているから、どれか一つくらいは飛んで来ると期待してたけど、芳しくない傾向だ。

割と虫が集まる灯火までやって来た。

 

 
しかし、見事なまでに何あ〜んもおらん。春の三大蛾どころか、クソ蛾さえおらん始末。
寒いし退屈だし、早々と午後10時くらいには諦め、電車に乗って大阪駅まで戻ってきた。

 

 
これで、青春18切符もあと2回分だ。さて、次は何処へ行こう。

                         つづく

 
追伸

JR難波駅⇒武田尾駅¥770
武田尾駅⇒相野駅¥330
相野駅⇒三田駅¥240
三田駅⇒武田尾駅¥200
武田尾駅⇒JR難波駅¥770
             計¥2310

 

 
青春18切符なんだから、もっと遠くへ行こうかなと思ったが、切符の期日が迫っていたので使うことにした。宝の持ち腐れが一番最悪だからである。
まあ、上のように正規の電車運賃は、買った青春18切符の1回分(4回分で5千円だから1回分¥1250)よりかは高いので、損はしてないからね。

家に帰ってから、前編で登場した相野駅近くの「肉のマルセ」で買ったコロッケとかメンチカツとかの残りを食った。

 

 
冷えても、そこそこ旨い。

この文章を書いている時点では、まだ『和来』は店の営業を続けているようだ。4月にまた大将の顔を拝めればいいなと切に願う。

 
(註1)『長いお別れ』
原題は『The Long Goodbye)』。
1953年に刊行されたアメリカの作家レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説。私立探偵フィリップ・マーロウを主人公とするシリーズの第6作にあたる。
『大いなる眠り』や『さらば愛しき女よ』と並ぶ、チャンドラーの長編小説の代表作の一つである。感傷的でクールな独特の乾いた文体と登場人物たちの台詞回し、作品の世界観に魅了されるファンは多い。チャンドラーの小説は、その殆んどが一人称によって語られる形式だが、本作によりハードボイルド小説というジャンルの文体が確立されたと言っても過言ではあるまい。謂わばハードボイルド小説の礎的作品である(始祖は『マルタの鷹』で知られるダシール・ハメット)。そして、今やこの形式が模倣を超えて定番化したと言える。まあ、謂わばハードボイルド小説のお手本みたいになっている。

1995年出版のアメリカ探偵作家協会によるベスト100では13位にランクされている。日本ではハヤカワミステリーベスト100など多くのランキングで、チャンドラー作品の中では1位に選ばれ、雑誌「ミステリマガジン」が2006年に行なった「オールタイム・ベスト」でも堂々の第1位を獲得しており、傑作とする人が多い。

ハヤカワ・ミステリ文庫の清水俊二訳では「ギムレットにはまだ早すぎるね」や「さよならを言うのはわずかのあいだ死ぬことだ」、「警官にさよならを言う方法はまだ発明されていない」「君はいったい何を求めてる。薔薇色の霧の中に飛んでいる金色の蝶々か」など多くの粋なセリフで知られる。
尚、村上春樹もこの作品を2007年にタイトルを『ロング・グッバイ』と変えて翻訳している(早川書房)。
村上春樹は最も影響を受けた小説として『カラマーゾフの兄弟』『グレート・ギャツビー(華麗なるギャッビー)』、そして本作を挙げており、評論家は初期の代表作『羊をめぐる冒険』は本作の影響が色濃い事を指摘している。
春樹さんの小説は好きだけど、この翻訳はハッキリ言って嫌い。台詞が粋じゃなくなってて心が動かされない。何か会話に色気がないんだよなあ。どこか村上春樹の小説の登場人物と似ていて、虚無的な感じなのだ。気障な軽口じゃなくなってる
から全然ハードボイルドっぽくないのである。テリー・レノックスとマーロウとの会話が好きなのに、あれじゃ、あんまりだ。

1973年にロバート・アルトマン監督により、原題と同じ『The Long Goodbye』のタイトルで映画化もされている(日本では『ロング・グッドバイ』のタイトルで公開)。
時代設定を現代(1970年代)に変えており、公開当時はマーロウが全然カッコ良くないので、チャンドラーファンからは酷評されたらしい。だが、その後再評価され、カルト映画の1つとして名を連ねている。
確かにファンとして観れば不満のある映画ではあるが、それを取っ払って純粋な映画として観れば面白い。中でも飼っている猫とのシーンが印象に残っている。

 
(註2)春の三大蛾
エゾヨツメ、イボタガ、オオシモフリスズメの大型蛾3種の事を指す。何れも個性的な姿で、蛾マニアの間では人気が高い。

 
【エゾヨツメ】

(2018.4 武田尾)

 
ヤママユガの中では、唯一春先に現れる。
闇の中で照らされる青い紋は美しく、ハッとさせられる。

 
【イホタガ】

(2018.4 武田尾)

 
国外に酷似した近縁種が数種いるようだが、数ある蝶と蛾の中でも類するものが無く、唯一無二とも言える個性的なデザインだ。極めてスタイリッシュだと思う。

 
【オオシモフリスズメ】

(2018.4 武田尾)

 
日本最大のスズメガ。怪異な姿で、しかも鳴きよるから怖い。
おぞましくて邪悪の権化みたいな見た目だが、慣れれば鈍臭くて可愛い。もふもふだしね。

エゾヨツメは日没直後に灯火に飛来し、イボタガとオオシモフリスズメは深夜にやって来る。だからエゾヨツメは別として、本気で採りたいなら10時に帰るようではダメなのだ。採れるもんも採れん。けど、たとえ粘っていたとしてもダメだったと思う。この日は、やって来る気配みたいなものが全くなかったからね。結局、去年は1つも会えなかったし、今年は何とか会いたいね。
これら三種に関しては拙ブログに何編か詳しく書いているから、御興味のある方は探してみて下され。