奄美迷走物語 其の六

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第6話
『だいたいにおいて夜のダムはヤバい』

 
 2021年 3月23日(夜編)

4時半。諦めてあかざき公園を辞して山を降りる。
意気消沈だが、今夜の予報は雨ではないから夜にも出動しないワケにはゆかない。身も心もヘトヘトなのにね。
(´ε` ) ったくよー、こんなの殆んど拷問じゃないか。思うに蝶も蛾も採るとなると、昼夜問わずのアクションとなるので体力的にも精神的にもかなりキツい。今までなら夕方には帰ってきて、シャワーを浴びてビールを飲みながら今日も一日御苦労さん。それなりに満ち足りた気分で、ゆったりとイブニングアワーを過ごせた。今にして思えば、至福の時間だったよ。
これが夜にも採集となると、そうはゆかない。ローカルな店に行って美味いもんを食いながら酒飲んで、地元の人たちと仲良くなるなんて事も諦めねはならぬ。改めて思うけど、それが旅の醍醐味の一つでもあり、カタルシスでもあったのだ。
(-_-;)クッソー、今のところロクに結果も出てないし、飲みには行けないし、まるっきり楽しくないぞー。蛾の採集の辛いところは飲みに行けないところに尽きる。だから、蛾に対して罵詈雑言を吐きがちになるのかもしれぬ。
正直なところ、アマミキシタバが採れればそれでいい。本音ではヤツが採れたら、その後は夜間採集を全放棄したっていいとさえ思ってる。つまり早めに結果を出せたら、あとはサボりまくったっていいのだ。毎夜、浴びるほど酒を飲んでも何ら問題ないのである。

 
【アマミキシタバ】


(出典『世界のカトカラ』石塚勝己)

 
但し、ハグルマヤママユにも会いたいのはヤマヤマではある。あっ、意図せず中途半端な駄洒落になっとるやないけー。カッコ悪ぅ〜┐(´д`)┌
えー、整理します。現在の立ち位置は、酒とアマミキシタバならば、アマミキシタバを取る。酒とハグルマヤママユならば、酒を取る。これでワタクシ的プライオリティは御理解戴けたかと思う。

シャワーを浴びて少し休んでたら、6時半から宴会だと報された。今日は参加しますよねと小池くんに言われたが、断腸の思いでそれを振り切って夜間採集に出る。
バイクを走らせながら思う。何やってんだか…。それって本当に正しい判断だったのか❓頭の中でエヴァのアスカ(註1)が、

『あんた、バカぁ❗❓』
『これから若い女の子たちと楽しく飲めるのに蛾を採りに行くだなんて、ホント、バッカじゃないのー❗』

と言ってる。

 

(出典『ニコニコ静画』)

 
アスカ殿、その通りでござんすよ。あたしゃ、ダメだダメだダメだダメだ…の馬鹿シンジよりも愚かな男ですよ。酒好きで女好きで通ってきたイガちゃんの名が泣くよ。クッソー、今すぐ引き返してぇー。

途中でコンビニに寄って晩飯を買う。
ちなみに奄美大島にはセブンイレブンも無ければ、ローソンも無い。おそらくヤマザキデイリーストアも無い。コンビニといえば、ファミマ(ファミリーマート)しかないのだ。

 

(出典『ペンション涼風』)

 
それに営業形体が独自だ。地元のパン屋コーナーが併設されてたり、並んでる弁当の半分は地元業者のものだったりする。まあ、そこまではいい。だけど🍙おにぎりには憤りを感じる。ナゼだか知らんが、おにぎりに限ってはファミマブランドではなくて、全部が地元業者のおにぎりなのだ。コレが許せないほどに絶望的に不味い。何も知らずに買って、パサパサであまりにも不味いので、何でや❓と思って表示を見たら地元の会社だったのだ。来島初日にそれを知って、奄美のコンビニでは死んでもおにぎりは買わないと固く心に誓ったのさ。

迷った末に結局は地元業者のBIGチキン竜田弁当(¥510)なるものを買った。おにぎりはダメでも弁当はイケてるかもしれないと思ったのだ。明らかにボリュームがあって、値段も少し安いからね。それにもしかしたら、おにぎりの業者と弁当の業者は違うかもしれないとも考えた。少々イタいめにあってもチャレンジしなくては驚きと云う果実を得られないもんね。調子が悪い時ほどアグレッシブにいこう。それが悪い波からの脱出のキッカケになるかもしれない。

名瀬の街中を突っ切って、西へと向かう。目指す先は、大川ダム。ここはアマミキシタバが日本で初めて採集された朝戸峠からも距離的に近いから選択した。
今、『じゃあ何で朝戸峠に直接行かないのだ❓』と思った人もいるでしょう。そう、そこの貴方ね。
でも、これには重大な理由がある。ネットで朝戸峠を検索したら古い旧トンネルがあり、コレがメッチャクチャに怖そうなんである。画像で見てもチビるくらいヤバい雰囲気なのだ。実際に心霊スポットとして有名なトンネルらしい。

ワキャ(ノ ̄皿 ̄)ノ、スーパーなチキンハートであるオイラが、そんな恐ろしいところに行けるワケがないのだ。

空はまだ明るい。昨日の知名瀬林道では日没後に着いてスゲー怖かったから、今回は日没前に着くように早めに出たのだ。それに明るいうちだと周囲の環境もわかる。なれば何処にライトトラップを設置するかも吟味できると云うワケやね。

朝戸トンネルに入る。

 

(出典『Amamiの書』)

 
たぶん前々回に来た時には西仲間まで行ってるから二度目だ。いや、帰りにも通っているから三度目か。
でも走っていても、いっこうに出口が見えてこない。何だか気が変になりそうだ。
このまま延々とトンネルから出られなくなったりして…。
(ToT)ダアーッ。偶然、時空の歪みにハマって帰って来れなくなるかもしれんポチー。

冷や汗の中、漸く思い出した。名瀬から西へ向かう南側のルートはトンネルだらけで、しかも長いトンネルが多いのだ。
そうと解っても気持ちは揺れ動いて安定しない。長いトンネルって、無条件に人を不安にさせるんだよなあ。

トンネルを出て直ぐに右折し、ダムへと向かう道をのぼる。
途中、民家があり、そこに住む人が訝しげにコチラを見た。こんな時間に山の中へ行くなんて…という顔だ。その驚いたような顔を見て、不安が過(よぎ)る。この先にいったい何があるというのだ❓あっちょんぷりけ。

ダムの奥まで行くと広場に出た。その先は細い山道になっており、入口にはチェーンがかかっていた。たぶんコレが滝へと向かう道なのだろう。夜の滝なんて怖いから、ゼッテー行かないけどさ。

広場の横に建物があった。
そこに何本か水銀灯らしきものが立っている。コレって当たりかもしれない。もし水銀灯が点けば、蛾たちがワンサカ寄って来る可能性がある。だとしたら、ワシの何ちゃってライトトラップの効力をバックアップして余りある強力な助太刀になるじゃないか。労せずしてアマキシGETじゃよ。

良い位置に煉瓦が積んであったので、それを利用することにした。

 

 
お陰でソッコーで屋台を組めたよ。
続いてバナナトラップを山道に仕掛けに行く。
しかし、何となく不気味な感じで、言葉に表せないような気持ち悪さが漂っている。霊感の無いワシでも本能的に身体が奥へ行くことを拒んでいるような気がする。アンタ、悪いことは言わへん。やめときなはれである。マジ怖いので、入口近くに集中して仕掛けることにした。たとえチキンと言われても構わんけん。ワシ、どうせ小心もんじゃけん。

準備が完了したところで弁当を食う。

 

 
不味くはないのだが、旨くもない。肉、かたいし。
ただし、量は多い。途中から食うのがしんどくなってきたくらいだ。

 

(出典『歩鉄の達人』)


(出典『TundaiBlog』)

 
しっかし、異様なまでに淋しい風景だ。さっきから鳥も鳴かんし、風の音さえしないから無音なのだ。オマケに空はどんよりで、辺りはどんどん暗くなってきてる。シチュエーション的に、何かか起こる時って映画でもドラマでもこうゆう異様に静かで不気味な感じなんだよねー。そして惨殺。悪魔が来たりて笛を吹くのだ。

日が完全に暮れた。
だが水銀灯は点かない。とゆう事は廃屋って事か。いや、廃墟と言った方が正しいだろう。廃墟って昼間でも充分怖いのに、夜なんてヤバすぎでしょうに。
いかん、いかん。思考を停止する。極力そうゆう事は考えないようにしよう。想像が恐怖を増幅させるのだ。一番の敵は己の想像力なのだ。暴走させてはならない。

闇が急速に侵食してくる。
(༎ຶ ෴ ༎ຶ)ダム、超怖ぇー。水は真っ黒で、僅かに水面が動いている気配がする。ダムといえば、ゼッテー何か沈んでるよね。あえて、何かって濁しちゃったけど、言ってしまうとコレはもう死体だよね。あー、ワシ言ったよ、言っちゃったよ。それってタブーだよな。それに口に出した瞬間から言葉に魂が宿って言霊になり、現実化すると聞いたことがあるぞ。或いはそれが何かを呼び寄せるとも。だったらワシ、ヤバくね❓
とにかく絶対、誰か殺された人がダムに放り込まれてるに決まってる。もしくは此の世に怨みを持って自殺した人が沈んでるかもしれない。或いは、その両方かも。だから何処でも夜のダムには、ただならぬ雰囲気が醸し出されておるのだ。
だいたいにおいて水が淀んでいるような場所は昔からヨロシクないと言われている。そうゆう所には出ると相場が決まっているのだ。だから、ダムは元より池や沼、湖、川の下流、井戸とかはヤバいと言われているのだ。トンネルなんかも中は水が染み出していることが多いから出るんだろう。空気も淀んでるしね。
そういや此処は、あのスーパー恐ろしげな朝戸峠の旧トンネルからも近い。ということは、怨霊どもが其処とダムとを縦横無尽に往復してたりして…。今、ワシは怨霊黄金ルートの真っ只中に立っているのやもしれぬ。知名瀬林道も怖かったけど、その怖さとは質感が違ってて、よりリアルさを帯びている。

とはいえ、虫たちがジャンジャンに飛んで来れば、そんな恐怖も忘れるだろう。虫を採りたいという欲望は、恐怖をも凌駕するのだ。虫バカになりさえすれば、大丈夫だ。意識をそっちに集中しよう。

しかしライトトラップを点灯するも、何も飛んで来ない。どんな場所でも大体は点灯直後には近くに居た蛾が幾つかは飛んで来るものだが、白布には何も止まっていないのだ。たぶん正面にある山が遠すぎて光が届かないのだろう。でも、そのうち光に吸い寄せられて徐々に数も増えてゆくだろう。そう思うことにしよう。

バナナトラップの様子を見に行く。

 

 
完全暗闇化すると、益々不気味な場所だ。懐中電灯で足元を照らしながら、おずおずと進む。大蛇ハブが這っているかもしれないからだ。自慢じゃないが、わしゃ大のヘビ嫌いなのだ。足もないのに前に進むのが全くもって解せないし、チロチロと舌なめずりはするし、あのヌメヌメした感じもダメだ。
そういや昔、鈴鹿の方にプーさんとミホとでキリシマミドリシジミを採りに行った時に足元から突然シマヘビが出て来たので、
キャァーε≡≡ヘ( ´Д`)ノ
と女の子みたいな声を出して逃げたら死ぬほど笑われたわ。オイラ、それくらいヘビ嫌いなのさ。
シマヘビ如きでそうなんだから、大蛇化する本ハブなんかに遭遇したら心音プッツリかもしれない。

 

(2014.9月 奄美大島 蒲生崎)

 
戻って何気に廃墟に目をやった瞬間だった。

Σ(゚∀゚ノ)ノ❗何か光って動いた❗❗

すわっ🔥鬼火か❓と思って、その場で石化する。そうです、ワタシは石です。生き物ではごじゃりません。だから無視してください此の世の者ならざる存在さんたち。
けれど恐る恐る懐中電灯を周囲にも照らすと、それと連動して光も動いた。そこで漸く気づく。
何のことはない、ただ懐中電灯の光と自分の姿が建物のガラスに反射したにすぎない。
びっくりしたなー、もぅー(´ε` )

午後8時を過ぎてもライトの白布は開店休業状態で閑古鳥が鳴いている。だからアマミキシタバどころかクソ蛾でさえも1つも採れていない。こんなに何も来ないなんて初めてだ。こりゃ呪われとるね。
バナナトラップも15分おきに見回りに行くが、訪問客はキショいゲジゲジしかいない。ゲジゲジは大嫌いだ。脚が多すぎるのも、それはそれで背中がオゾけるのだ。けど、この日は憤りの方が勝って棒で虐待してやった。したら、慌てて逃げていった。
何だか虚しいわ。怖ぇーし、何もおらんから退屈だし、退屈だから色々あらぬことを考えて心が少しづつフォースの暗黒面へと落ちていってる。それが自分でもよくわかる。

午後9時には、その恐怖と退屈に耐えきれなくなって撤退を決意した。これから先、どう考えても良いことが起こりそうにはないもん。目に見えないけど、きっと此処には瘴気が渦巻いているに違いない。これ以上、悪い事が起こらぬ前に帰ろう。

徒労感に包まれて夜道を下り、また朝戸トンネルを抜けて三十分後には宿に帰り着いた。
玄関を入ると、宴もたけなわであった。可愛い女の子2人の力は絶大で、宿泊客だけでなく地元の人も加わって大盛況だ。
クソー、あんな思いをするなら、最初から宴会に参加すべきであった。こうなりゃ、ヤケ酒だ。浴びるほどに飲んでやるわ。

かなり酔っ払ってるゲストハウスの息子さんに、今日は何処行ってたの❓と訊かれて『大川ダム』と答えたら、驚いたような顔で言われた。

『夜に、よくあんなとこに一人きりで行くよねー』

『(・o・)えっ、それってどゆこと❓』

『地元では有名な心霊スポットだからさ』

『Σ( ̄ロ ̄lll)ガビーン。マジすか❓マジすか❓マジスカポリス❗』

どうりで、あんなにも気待ち悪かったのだ。
何なんだ、この負の連鎖は❓
オジサン、泥酔路線まっしぐら。

                         つづく

 
追伸
もうあんなとこには、二度と行かん。
ちなみにダムの写真をお借りしたのは、自分で撮るような精神的余裕が全くなかったんでしょなあ。真っ暗闇の画像も前日か前々日に撮った名瀬か知名瀬林道の画像を転用だしさ。

そういえば、過去にホラーとスリラーとミステリーの違いについて書いたことがあったな。たぶん初期のカトカラシリーズか春の三大蛾の回だ。3つの違いは長くなるので書かない。気になる人は、申し訳ないが自分で探しとくれ。

 
(註1)エヴァのアスカ
アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の弐号機パイロットである惣流・アスカ・ラングレーのこと。性格は快活で主体性・自立心が強く、非妥協的。異常なまでにプライドが高く、自己中心的だが、一方では自己愛が欠如しており、周囲に対して過敏で傷つきやすい面を持つ。この性格は幼少期のトラウマに大きく影響されており、望んだ相手に自分を見てもらえなかったことによって欠けた自己愛を、他人に認めてもらうことで満たそうとする面が強い。謂わば、その強さは脆さと紙一重のものである。

尚、『あんた、バカぁ!?』のセリフは、壱号機のパイロットであり主人公の碇シンジに対して度々放たれる言葉で、他にも事あるごとに『バカシンジ』などと罵ることが多い。
裏腹にシンジに対して好意を持ち、愛を求めるが、彼が都合の良い逃避先として消去法で自分を求めてきた際には強く拒絶した。
アスカ役の声優宮村優子はアスカについて「今で言うところのツンデレ。異性として気になるのはシンジだけど、なかなかそれを表に出すことが出来ない」と評している。

 

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投稿者:

cho-baka

元役者でダイビングインストラクターであり、バーテンダー。 蝶と美食をこよなく愛する男。

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