奄美迷走物語 其の11

 
 第11話『ラーメンとゴア様』

 
2021年 3月28日

この日は朝から完全に雨模様だった。
当然ながら採集には出れないのだが、心の底では少しホッとしていたりもする。目的の蝶が採れない日々が続いているので心が疲れきっているのだ。むしろブレイクが入ることで、かえって気持ちがリセットされるかもしれない。心がリセットされれば、この悪い流れも良い方向へと変わるかもしれない。

午前11時前にリビングに降りる。
昨日、若者二人とラーメンを食いに行く約束をしたのだ。
そのラーメン屋というのは、第3話の『ラーメン大好き小池くん』の回でも書いたが、ゲストハウスのオジー曰く、最近できた店で行列が絶えないんだそうだ。しかし一週間ほど前の月曜にラーメン大好き小池くんと来た時は定休日で食べられなかった。今日はそのリベンジというワケである。店頭に貼ってある写真を見た限りでは二郎系の店っぽかった。
ちなみにニ郎系ラーメンとはラーメンニ郎の系列店、及びそのリスペクト店の事を指し、平打ち太麺で、野菜てんこ盛りのガッツリ豚骨醤油ラーメンの系統の事をいう。

だが、リビングの直ぐ横の若者の泊まっているドミトリー部屋からは何の物音もしない。明らかに起きている気配がない。たぶん💤絶賛爆睡中なのだろう。
外で煙草を1本吸って戻ってきたが、相変わらず中はシーンとしているのでドアを叩いて起こした。
待たされるのは死ぬほど嫌いな性格だから💢イラッときた。けれどメシは一人で食うよりも誰かと食う方が旨い。それに、よくそんだけ爆睡できるなあと思うと何だか怒るのがアホらしくなってきた。
爆睡できるのは若者の特権である。オジさんなんて直ぐに目が醒めてしまう。5時間以上は眠りたくとも眠れないのだ。きっと眠るのも体力がいるのだ。羨ましいかぎりだ。

 

 
『自家製麺 きんぐす豚』。
名前はキングストンに掛けているのだろう。キングストンとは「王の町」という意味で、アメリカをはじめ世界各地に同様な名称の土地がある。また人名にも付けられる事があるから、店主はそのどちらかに強い思い入れがあるのだろう。

 

 
午前11:15くらいに着いたが、我々が一番乗りだった。
ちなみに右が若者Aのドロムシ屋の子(東京在住)で、左の若者Bがカブクワ屋の大阪の子だ(註1)。

改めて店先に貼ってあるラーメンの写真を見ると、やはりビジュアルは二郎系に見える。3月3日にオープンしたらしいが、まさか奄美大島に二郎系のラーメン屋ができるとはね。全く頭になかったから、ちょっとした驚きだよ。きっと島民にとってはもっと衝撃的だったろうから、行列になるのも頷ける。
とはいうものの、開店15分前で一番乗りってどうよ❓通常は行列のできるラーメン屋だったら、15分前には長蛇の列になってて然りだろう。もしや早くも島民に飽きられたのか❓となると、一回食えばいい程度のクオリティーのラーメン❓
しかし10分前になると続々と客がやって来て、開店前には20人くらいの行列になった。なるほど島人のおおらかな性格が表れてるんだね。そうゆう「てーげー(テキトー)」な土地の方が好きだなあ。自分は時間にルーズではないけれど、それはあくまでも表向きであって、根はルーズだ。ゆるい方が心地よいのだ。だから南の島が好きだ。沖縄とかサイパンの時間の流れの方が自分には合ってる。

 

 
Iターンで開業した店だけあって時間通りに開店。一番に店内に入る。もしかしたら行列の先頭で店内に入るだなんて、人生初なんじゃないか❓なんだかプチ嬉しいぞ。一番を目指して前日の夜から並ぶ人の気持ちがチ○チンの先っちょ5ミリ分だけ解ったよ。そこには、確かにカタルシスとかエクスタシーがあるのだ。

店内は最近のラーメン屋らしく、そこそこにお洒落だ。今や女性が入りやすい店作りは当たり前の時代なのだ。それを否定するつもりはないが、昔ながらのラーメン屋の方が断然落ち着くんだよなあ。

席に座ると、先にこのラーメン屋に行った小池くんの感想が思い返された。
『やはり二郎系でしたね。けど二郎系にしては少し味が薄めでしたね。俺、二郎系についてはウルサイんすよー。テーブルに醤油ダレみたいなのがあるので、それ入れたら丁度良くなりました。』
流石、ラーメン大好き小池くんである。コメントからラーメン偏差値の高さが伺える。バカにしていたが、小池くんは本当にラーメン大好き小池さんだったのだ。

メニューは『豚そば』と『まぜそば』の2種類のみ。
値段はどちらも¥850。小盛は50円引きで大盛は100円増し。肉増しは+200円とある。
ここはポピュラーに定番の『豚そば』だろう。若者Bくんも同じく豚そばを選択。若者Aくんは『まぜそば』をオーダーした。えっ❓、この期に及んで❓と思ったが、さすがマイナーなドロムシなんかに興味を持つ男だ。凡人のワシとは脳ミソの構造が違うのである。ちなみにAくん曰く、まぜそばはかなり旨かったらしい。そういえば、まぜそばナゼか大盛りができなかったんだよね。彼がそれを嘆いてから憶えているのだ。

店員に背脂と野菜を増し増し(無料)にするかと尋ねられる。
ここはノーマルかなと思った。モヤシが塔のようにそそり立ってたら食えるかどうか自信かないし、背脂ギトギトだとコッテリすぎてオジサンにはキツイかもと思ったのだ。だが、若者Bの大阪の子が即座にキッパリと「お願いします❗」と言ったので、つられて「ワシもお願いします。」と言ってしまった。

 

 
想定内ではあるが、\(◎o◎)/けっこうガッツリだ。普通の店なら間違いなく大盛り仕様だ。
言っとくと、味玉はオープン記念ということで無料でした。

先ずはスープを飲む。
小池くんは薄いと言っていたが、自分にとっては濃いめかな。でも丁度良い濃さの範疇内で、期待に違わぬ味だ。旨いわ。
自家製の麺は太くて食べ応えがある。歯を押し返す弾力が心地よい。自分好みの麺で、これまた旨いと思う。
チャーシューは薄くもなく、分厚くもない。旨いが、特筆する程のものではない。味玉は、中の黄身がドロッで(≧▽≦)うみゃーい。

全体的にバランスが良くて、量に苦しむことなくワッシワッシと食べ進むことができて苦労せずに完食。スープまで飲み干してやったわい。これで¥850は安い❗ 腹パンパン、満足至極だ。
でも今後、味玉がトッピングになって+150円とかだったら安くないよなあ…。ラーメンで千円以上したら、心情的に許せないのだ。そんなの、もはや庶民の食いもんではない。だから納得できない。ラーメンが高級化していってる昨今の風潮には疑問を持たざるおえない。

店を出て歩き始めたら、すぐ目の前をキオビエダシャク(註1)が飛んでいった。
一瞬、心が曇る。そういやフタオチョウ、アカボシゴマダラ、イワカワシジミだけでなく、楽勝だろうと思っていたコヤツでさえも採れていないのだ。あかざき公園や根瀬部で、それなりの数を見ているのだが、1頭も採れていないのである。他の蝶待ちだったし、飛ぶ位置が高くて結構スピードも速いから気づいた時には射程外で見送る機会が多かったのだ。ターゲットとしては六の次くらいで、真剣には狙っていなかったとはいえ、我ながら情けない。
だが、さして悔しくはない。殴られっぱなしのような結果が続いているから心が鈍感になっているのだ。パンチドランカーは、どうせ曇ってるから活発に飛んでるんだろう程度にしか思わなかった。台湾では今日みたいな雨上がりの日に沢山飛んでいたのだ。当時は大の蛾嫌いだったから、けっこう怖気(おぞけ)る記憶だった。

宿に帰ったら、再び雨が降り出した。
今日は完全休業日だね。体も心も休めてリフレッシュしよう。

夕方に雨が上がった。
そこで、ハタと思った。もしかしたら、キオビエダシャクは住宅街の方が簡単に採れるんじゃないか❓考えてみれば、台湾でも住宅街にいたのだ。今頃気づくとは、やっぱりヤキが回ってる。

午後5時。
住宅街に入って、すぐに飛んでいる個体を発見。あとをついてゆくと複数が飛んでいる場所に出た。
そして、食樹のイヌマキもあった。家々の、そこかしこに植えられている。

 

 
九州や奄美では、イヌマキが庭木や生け垣として植栽されているようだ。ようは住宅街が発生地だったというワケだね。
で、一部の個体が山を昇ってあかざき公園にまで飛んで来るんだろうね。٩(๑`^´๑)۶よっしゃ、害虫駆除じゃ❗

あかざき公園よりもかなり低い位置を飛ぶが、それでも基本的な高さは3〜4Mくらいだ。飛ぶ速度も、そこそこ速い。おまけに蛾道みたいものはあるのだが、蝶道ほどにはコースが明確でなく、待つ立ち位置を絞り込むのに苦労する。
あとは心理的な障壁も邪魔した。大の大人が住宅街で大きな網を振り回していたら、誰しもが奇異な目で見るだろう。完全にアタマがイカれた変人のオジサンだ。恥ずかしさも相俟って集中できない。人に会えば、勿論のこと挨拶はしていたが、遠目に人の姿が見えたら、物陰にコソコソ隠れたりしていたのだ。
しかし、そんなんでは採れない。それに時刻が進めば、基本的には昼行性の蛾だから、そのうち居なくなりかねない。
恥も外聞もかなぐり捨てる。こんなもんも採れないようなら、フタオチョウもアカボシゴマダラも採れるワケがない。そんな奴は馬に蹴られて、とっとと引退した方がよかろう。

気合い一発、💥空中でシバく。

 

 
美しいとは思うが、ちょっとキショイ。どこか毒々しいのだ。おそらく体内に毒を有しているのだろう。派手な出で立ちをする事によって鳥の捕食を免れようとする生き残り戦略だ。つまり毒有りならば、当然ながら食べても不味い。知らずに食べた鳥は、その見た目と共に強烈に学習する。よって以降は見向きもしないという事だ。最初の1頭は犠牲になるものの、他は襲われにくくなるってワケだ。

この蛾を見ると、なぜかゴア様(註2)を思い出す。幼少の頃、最も怖かった存在だ。
オカンに『アンタ、そんな悪さばっかりしてたらゴア様が来るでぇー。』と言われたら、即座にいうことを聞いたらしい。ワシにとっては、それくらい恐ろしかったのだろう。

 
【ゴア】

(出展『特撮アラフィー!!〜50オヤジのコレがたまらん!』)

 
この顔面のラメラメの感じとオバハンパーマに瞬きしないギョロ目、そして迫力あるガタイに超ビビッてた記憶がある。

 

 
♀かなあ❓

次第に慣れてきて、恥ずかしさも薄れてきた。
挙げ句には、住民に会っても、
(`・ω・´)ゞ、イヌマキの害虫のクソ蛾を採っとりまんねん。
とか言って、イヌマキがどれかを説明してたりしてた。
えー、皆さん、もしも住宅街で網を振る場合は、ちゃんと挨拶だけはしましょう。あとは住民の迷惑となる行為は慎みましょうね。それが出来ない人が多いから、虫屋は敵視されるのだ。ただでさえ虫採りなんて一般ピーポーのあいだでは市民権ゼロなんだから、これ以上嫌われるような行為はよしましょう。
それが出来ない人は、クズです。

                         つづく

 
追伸
この日は灯火採集にも行ったが、次回に回すことにしました。
思ってた以上に長くなったからです。まあ、想定以上に長くなるのは、いつもの事だけどね。

 
(註1)ドロムシ屋とカブクワ屋
水性甲虫のドロムシの愛好家とカブトムシ&クワガタ類の愛好家の呼称。

(註2)キオビエダシャク

 
シャクガ科の昼行性の蛾で、イヌマキの害虫として知られる。
成虫は濃い紺色に黄色の帯があり、それが和名の由来だろう。日本では南西諸島に多い蛾で、近年になって生息域を拡大させており、九州では定着しているようだ。おそらく地球温暖化の影響だろう。あとは南九州地方では、旧武家屋敷などで生垣としてイヌマキが植えられていることが多く、それも関係しているのかもしれない。


(2017.6.台湾 南投県埔里)
 
台湾で採ったものだ。町なかの花が咲いてる木に沢山集まってた。台湾2度目の来訪の採集初日だったんだけど天気が悪くて、つい採ってしまったのだ。メタリックで美しいとは思いつつも、当時は精神的な蛾アレルギーだったので、背中がゾワゾワで採ってたっけ…。

あれ❓、そういや展翅した覚えがないなあ…。
(;・∀・)あっ、展翅してないわ。たぶん冷凍庫で眠っておられるな。
それはさておき、奄美のものとは下翅の帯部分の感じが違うんじゃね❓黄帯が細くて、外縁にまで達していない。或いは黒斑が連なって帯状になっている。コレって亜種区分とかされてるのかな❓…。
この程度で解説を終えようと思っていたが、気になるから調べておくか…。でもメンドクセーからウィキペディアから引用&編集しよう。

【分類】
シャクガ科(Geometridae)
エダシャク亜科(Ennominae)
Milionia属

【学名】Milionia basalis Walker, 1854
成虫の開帳は50~56mm。光沢を帯びた濃紺の地色に鮮やかな黄色の帯状斑紋のある翅を有する。
幼虫はシャクトリムシ型で、終齢時の体長は45~55mm。頭部、前胸、脚および腹脚、腹部側面、尾端の橙色が目立つ。

【分布】インド、マレー半島、台湾、日本
日本には亜種”ssp. pryeri”が分布する。南西諸島および九州で発生が認められるほか、四国でも成虫が確認されたことがある。

Wikipediaの英語版には、以下のものが亜種として列記されていた。

■Milionia basalis basalis
■Milionia basalis sharpei (Borneo)
■Milionia basalis guentheri (Sumatra)
■Milionia basalis pyrozona (Peninsular,Malaysia, Burma)
■Milionia basalis pryeri (Japan)

台湾のは亜種じゃないのかな❓ Wikipediaの情報って結構間違い多いんだよなあ。だから鵜呑みにするとロクな事はないから、怪しいと思えば調べ直した方がいい。もー、メンドクセーなあ。

調べてみると、変なのが出てきたよ。

「橙帶枝尺蛾 Milionia zonea pryeri Druce, 1888」

台湾の蝶と蛾を調べる時に最も利用する「DearLep圖錄檢索」というサイトに書いてあったのだが、小種名が違うから一瞬別種かと思ったよ。だが亜種名は日本のものと全く同じだ。つまりはコレはシノニム(同物異名)って事なのか❓ クソー、又しても迷宮に足を突っ込んだみたいだ。毎度の事だが、藪ヘビ🐍だよなあ。

英語版のWikipediaにシノニムがズラリと並んでおり、そのものではないが、らしきものがあった。

Milionia zonea Moore, 1872
Milionia guentheri Butler, 1881
Milionia latifasciata Butler, 1881
Milionia pyrozonis Butler, 1882
Milionia butleri Druce, 1882
Milionia sharpei Butler, 1886
Milionia pryeri Druce, 1888
Milionia ochracea Thierry-Mieg, 1907

一番目と下から二番目が、それにあたる。
にしても、そうなるとだな、台湾のものと日本のものは同じ亜種となる。ならば、帯の相違はどう解釈すればいいのだ❓また新たなる藪ヘビ迷宮地獄じゃよ。

しかし、もしやと思い再度「DearLep圖錄檢索」にアクセス。画像を見てみると、簡単に問題解決した。


(出展『DearLep圖錄檢索』)

なんの事はない。日本のモノと同じだ。つまりは自分が台湾で採って撮影したものが、たまたま変異個体だったという可能性大だ。そうゆう事にしておこう。行方不明の台湾のキオビエダシャクを冷凍庫から探し出してきて確認なんざあ、絶対やめておこう。探すこと自体がかなりの労苦だし、それをまた軟化して展翅するのが面倒だというのもある。だが何よりも恐れているのは、複数ある個体の全部が同じような特徴を有しているケースだ。もしもそうなら、亜種群の可能性が出てきて、新たな迷宮に突っ込んでゆく事になる。スマンがキオビエダシャクのために、そこまでの労苦を負いたくはないのだ。

【生態】
成虫は昼行性。花蜜を摂取するため、さまざまな植物に訪花する。夜間、人工の灯りにも飛来する。産卵は主に食樹の樹皮の裂け目や枝の付け根に行われる。
幼虫はナギ、イヌマキ、ラカンマキの葉を摂食するほか、マレーシアでは Dacridium属(マキ科)の摂食が確認されている。幼虫は振動に敏感で、振動を感知すると吐いた糸にぶら下がって植物上から離れる。また、食草から二次代謝産物のイヌマキラクトンおよびナギラクトンを取り込み、外敵に対する防御に役立てている可能性が示されている。成熟した幼虫は土中で蛹化する。
思った通り、やっば毒持ち風情なんだね。

【人との関係】
突発的に大発生し、食草を大規模に食害する傾向があり、特に生垣や防風林などに用いられるイヌマキの害虫として重要視されている。大発生時は樹皮にまで食害が及び、被害を受けた木は枯死する。南西諸島では古くから大発生が起きていたと考えられ、1910年代から断続的な大発生の記録が残されている。九州南部では1950年代ごろに初めて侵入・発生が確認されたが、当時の侵入個体群は数年で絶滅したとされる。その後、再度侵入した個体群は近年、不安定ながら継続した発生が認められている。沖縄および九州南部では最大で年4回の発生が可能であることが明らかになっているが、九州南部では、本来南方系である本種の発育調整メカニズムが気候に適応できておらず、成虫越冬ができない。にも拘らず、冬に羽化する個体が出るなどの不安定な季節消長が見られる。

 
(註3)ゴア様

(出展『特撮アラフィー!!〜50オヤジのコレがたまらん!』)

このラメラメ顔が超絶怖かったのだ。

ゴアとは、手塚治虫の漫画『マグマ大使』を原作としたテレビ特撮番組に登場する悪役のこと。
2〜3億個の星を乗っ取り、悪事を尽くしてきた征服者。アース(30億年前に地球を作った創造者で、マグマ大使も作った)と同じくらい長く生きている。人間体はあくまで仮の姿で、本体は肉食恐竜型とクモ&ムカデ合体型の2パターンを持つ。宇宙の悪魔と言われる反面、子供には甘いという一面がある。