奄美迷走物語 其の13

 
  第13話『君を待つ昼下り』

 
2021年 3月29日

天気はすっかり回復して、朝から青空が広がっている。
今日はSくんと一緒に宿を出発する。昨日、彼が根瀬部のポイントを教えて欲しいと言ってきたので、直接御案内申し上げる事にしたのだ。昨日は灯火採集に連れてってくれて、オマケにハグルマヤママユまで採らしてくれたし、今晩は湯湾岳の灯火採集にまで連れてってくれるのだ。そんなのお易い御用だ。
フタオチョウとアカボシゴマダラ、イワカワシジミ、ナガサキアゲハ(註1)のポイントを回って、細かい情報まで丁寧に伝えてゆく。
えっ、ナガサキアゲハ❓と思ったが、よくよく考えてみれば思い当たるフシがないでもない。ナガサキアゲハといえば無尾が基本だが、奄美大島では稀に有尾型の♀が採れるのだ。

 
【ナガサキアゲハ♀ 有尾型】

(2017.7 台湾南投県仁愛鄕)

 
彼は積極的に飼育もするようだから、♀を捕えて採卵させるつもりなのだろう。ちなみに根瀬部はナガサキアゲハが多くて、過去に自分も此処で有尾型の♀を採ったことがある。
たぶん日本で継続的に有尾型が毎年採られているのは奄美大島くらいではないかと思う。沖縄諸島や九州本土でも採れてはいるが、記録が最も多いのは奄美みたいだからね。

ひと通り案内したところで、Sくんは『じゃあ、行きます。』と言ってワシを残してサッサと移動していった。えっ、もう行くの❓と思ったくらいにアッサリだった。きっと人とツルむのがイヤなタイプなんだろね。心の底の何処かでは、彼は8mだか9mだかの長竿を持っているので、先ずはそれで木に居座っているフタオを採って戴いて、次に占有する奴を長竿を借りて採ろうだなんて薄っすら思ってた。だってワシの6.3mの竿では絶望的に届かないんだもーん。

 

(右端の梢、高さ約8〜9mにフタオが静止している)

 
でもそんな事、言えなかった。そうゆう雰囲気ではなかったし、セコい作戦だから恥ずかしくて口には出せなかったのだ。
まあ、此処はフタオの個体数が少ないし、こんな狭いポイントに2人いても仕方がないからね。彼的には、その辺を慮って移動してくれたのだろう。けどなあ…、そんな事は望んでなかった。正直なところ、彼にはこのポイントにそのまま入って貰っても構わないとさえ思っていたのだ。だって物理的に網が届かないんだから、此処に一人で居てもしようがないんである。なので知名瀬か小宿でポイントを探そうとも考えていたのだ。

ドラマでも現実でもそうなんだけど、いつも立ち去る側が美しい。ただ立ち去るだけなのに、どことなく優位性みたいなものさえ感じる。一方、取り残されて見送る方は何であんなにも美しくないんだろう。惨めでさえある。むしろ残る方が勇気がいるし、大変だったりするのにね。それって納得いかないよなあ…。そう思いつつ、取り残された男はとりあえず煙草に火を点ける。
はて扠て、どうしたものか❓…。
一昨日、あかざき公園では見ることさえできずに惨敗したからパスだし、蒲生崎は今からでは遠過ぎる。知名瀬も改めて考えてみると問題ありだ。有名なポイントだから、もう既に人が入っていて良いポイントは占領されている可能性が高いし、それにアソコはブヨだらけなのだ。折角やっとこさあの強い痒みと腫れが消えたばかりなのに、またむざむざボコられに行くのは気が進まない。あと、小宿は環境があまり良くないのでポイント探しに手間取りそうだし、探索自体が空振りに終わってしまう可能性だってあるから惨敗率は高そうだ。
(-_- )ノ⌒┫ ┻ ┣ ┳、考えるのヤーメタ。
移動すんのもメンドクセーし、思えばこの地でフタオに屈辱を与えられ続けているのだ。ならばリベンジだ。此処でやられた分は此処でやり返す❗

午前11時半前。
フタオが飛び始めた。でもやはり活動は鈍い。飛んでも梢から離れず、直ぐに高い所に止まって憩(やす)みやがる。でも前に来た時よりかは飛ぶ頻度は少しはマシだ。たまに遠出もする。
飛行コースを見ていると、1箇所だけ高度がやや下がるところがある。通常は8mくらいの高さを飛んでいるのだが、或るゾーンだけが木が比較的低くて、5mくらいの高さを飛ぶのだ。5mなら自分の網でも届く。しかし、そこを通るのは一瞬だ。でも他に妙案が浮かばないんだから、その一瞬のチャンスに賭けるしかない。厳しい局面だが、やるっきゃない。

もう一度、飛ぶコースをじっくりと観察する。
一発で仕留めねば、ゲームセットだ。失敗したら二度とチャンスは巡ってはこないだろう。ぞんざいに網を振るワケにはいかない。
時計を見ると、正午を少し過ぎていた。キミ待つ昼下りだ。
さあ、昼下りの情事といこうじゃないか。手ゴメにしてやる。ケダモノのようにその操をズダズタに凌辱してやるわい❗
Σ(゚∀゚ノ)ノキャー、やめておくんなましー。そんな御無体な。旦那様、後生でございますぅー。
ψ(`∇´)ψギャハハハハハー、泣くがよい、喚けばよい。どれだけ騒ごうが誰も助けに来ぬわー。(ㆁωㆁ)デヘ、デヘヘへへへー。
(/_;)/あれぇ〜〜〜

何言ってんだ俺❓翻弄され続けて頭がオカシクなってるに違いない。これじゃ、あまりにも恋焦がれ過ぎてストーカー男と化した狂人サイコ野郎と同じじゃないか。
けど、もはや髪振り乱した狂人になった方がまだしもマシかもしれない。それくらい精神的ダークサイドに身をやつさねば採れない状況下にあるのだ。それに、もし今日採れなければ、Sくんにヘタレと思われるだろう。だから何としてでも採らねばならぬ。
この際、もう何だっていい。頼めるものならば、ゼウスでもマリア様でも悪魔だって構わない。魂を売ってでも採りたい。それが本音だ。

フタオが根城にしている木から約30m離れた位置に陣取り、木を凝視する。此処ならコッチに飛んで来るまでに心の準備ができる。

暫し、ひりついた時間が流れる。
(ノ゚0゚)ノ飛んだ❗
こっち来い、こっち来い、こっち来い、こっち来い、こっち来い、こっち来い、こっち来い。こっち来い。こっちに来ーい。
コチラに飛んで来るのを強く願う。フタオはモノぐさで、オオムラサキやスミナガシみたいに敏感に反応して他の蝶を追いかけ回す頻度が少ないのだ。チャンスはそう多くはないだろう。
案の定、梢で小さく旋回している。腹立たしい野郎だ。無茶苦茶ムカついてきた。何でこんな目に合い続けなければならんのだ。嗜虐趣味などないから全然楽しくない。根がドS男には虫捕りは向かんわい。

彼が突然、プイという感じで気まぐれに旋回をやめて梢を離れた。そして、コチラに向かって飛んで来ようとしている。
(-_-メ)ドツキ回したる❗
怒りという名の負のエネルギーで全身が充たされる。

頭上を通るのは一瞬だ。その瞬間に全身全霊を注ごう。
来たっ❗❗
どりゃあ〜( ̄皿 ̄)ノ、ナメんなよワレ❗

渾身のフルスイングで網を蝶の背後から💥一閃する。

ジャストミート。スローモーションでハッキリと網に吸い込まれてゆくのが見えた。
すかさず逃げないように網先を捻り、右に流れた体を左に捻り返して大胆に手を離す。その動きは、さしづめバットスイングのフォロースルーだ。その流れのままに向こう側へと倒れてゆく網を追い掛けて走りだす。網が地面に向かってゆっくりと落ちてゆく。コチラも映像はスローモーションだ。気分はライトスタンドに吸い込まれてゆく白球を走りながら見送る左強打者だ。

地面に落ちた網にマッハで駆け寄り、中を確認する。
(☆▽☆)いるっ❗
完品のキレイな個体だ。でも、もしここで取り込みに失敗して逃しでもしたら最悪だ。万死に値する。暴れて羽をボロボロにさせてしまっても同罪だ。
幸い彼は何が起こったのかワカラナイといった体で、暴れる事なく網の底でジッとしている。奴が正気になる前に迅速に〆ねばならぬ。一切の躊躇を廃して胸をブチッと上から押した。

\(`Д´)ノしゃあー❗❗
天に向かって両腕を突き上げ、雄叫びを上げる。
勝ったぜ、この野郎❗ そう思った次の瞬間、急に力が抜けてヘナヘナとその場に膝を折ってヘタり込んだ。
ジーザス、マリア様、有り難う。あと、悪魔も。

網から取り出して、じっくりと見る。
紛う事なきフタオチョウだ。(☆▽☆)カッケー❗
まだ命の熾火のようなものが残っていて、その脈動が指先にジンジン伝わってくる。殺(あや)めるのは申し訳ないが、コレこそが狩りの醍醐味であり、エクスタシーだ。背中を快感がゾワゾワと這い登ってくる。

ところでフタオの♂って、こんなに大きかったっけ❓
沖縄で見た時よりも明らかに迫力があって、大きいような気がする。

 
【Polyula weismamnni♂】

 
尾状突起が短いね。近縁種の中では、この尾突が最も短いのが日本のフタオチョウの特徴なのだ。

何だか色があまりキレイに撮れていないし、大きさも分かりずらいので、手のひらの上に乗せて撮り直しー。

 

 
改めて思う。やはり自分が持っていたイメージよりも大きい。
思えば、初めて沖縄本島でトラップに止まっている夏型の♂を見た時は、インドシナ半島ものと比べてあまりにも小さかったので拍子抜けしたんだよね。また、台湾のモノよりも明らかに大きい。夏型しか見てないけどさ。

 
【Polyula eudamippus タイリクフタオチョウ♂】

(2011.4月 ラオス タボック)

 
【Polyula eudamippus formosana♂】

(2016.7月 台湾南投県仁愛郷)

 
だが今はそんなのどっちだっていい。採れたという事実さえあれば、それで満足だ。しかも大きな個体なんだから文句のありようもない。

後でSくんに訊いたら、やはり春型の方が夏型よりも大きいと言ってた(註2)。けどそんな事、どの図鑑でも一切触れられてないぞー。

昨日のハグルマヤママユのゲットあたりから、やっと流れが良くなってきた。この調子で♀も仕留めて、アカボシゴマダラも落としてやろう。そして夜にはアマミキシタバまでも我が手におさめて、今日中に全てのカタをつけてやろうじゃないか。

2頭目を待っていると、♂のフタオが根城にしている木と自分の立っている間にあるヤエヤマネコノチチの木に、突然♀がふわりと飛んで来た。たぶん産卵にやって来たのだろうが、全くの想定外な出来事であり、そのあまりにも無垢なる無警戒っぷりに刹那だがポカンとする。
やっぱ♀は♂よりも遥かにデカい。存在感も半端ない。次の瞬間には血が逆流するくらいにアドレナリンが沸騰し、心がワチャワチャになる。より欲しいのはオスよりもメスなのだ。

  
【ヤエヤマネコノチチ】


(まさにこの木であった)

 
驚かせないように小走りで距離を詰める。
止まった❗❗
イージーチャンスの到来に心が躍る。コレって完全に流れに乗っかれたんじゃないのー。
だが、近づく手前約5mでフワリと舞い上がった。(-_-;)チッ、気づかれたか❓
しかし飛び方は緩やかなままで、特に警戒されたという感じはしない。位置を変えて再び止まろうとしているように見える。
けど止まりそうで止まらない。真下まで行き、網を振るか振らざるまいか迷う。今振り抜けば採れそうだ。でも止まってくれれば確実に採れる。そう思って数秒間だが逡巡した。ダサい男の典型だ。この迷いが勝負を分けた。やがて彼女はふらふらと叢の中に潜り込んでいき、そのまま向こう側へと突き抜けた。
ヽ((◎д◎))ゝゲロリンコ、向こう側に行ってしまえば、なす術がない。ここいらは生け垣が連なっており、直に向こう側へは行けないのだ。

(-_-;)やっちまったな…。
今回の旅では全般的に判断が頗(すこぶ)る鈍い。ここ数年は蛾ばっか追い掛けてるから、感覚がズレているのかもしれない。スポーツでも何でもそうだけど、体を動かすものはブランクがあくと、感覚を取り戻すまでに結構時間がかかる。咄嗟の時は体が勝手に動いてくれるのだが、時間に少しでも余裕があると色々考えてしまうのだ。それが躊躇に繋がり、動きもぎこちなくなる。
昔は、なあーんも考えずに網を振れたのに何で❓きっと経験と知識がかえって邪魔してるんだろう。
それに見つける速度も確実に落ちている。昔は周辺視野がもっと広くて、何かが動いた気配だけでも瞬時に反応できた。見なくとも何かが飛んだら、空気の微妙な震えを感知したし、地面に影が走っただけでも反応できた。そればかりか反応と同時にもう一歩目が出ていて走り出していたのに…。
昔できてた事が出来なくなるって落ち込むよね。アスリートの蝶屋を自負してきたけど、これじゃ看板を下ろさざるおえない。もはや二流の人だ。このブログ内で度々「まあまあ天才」とノタまってきたが、この体たらくでは半分ジョークの軽口にもならない。そこそこの結果を残せてこそ「まあまあ天才」という軽口が叩けるのだ。もう封印だな。

自らチャンスを潰すと、当然流れは悪くなる。その後、♀どころか♂さえも姿を見せなくなった。ぽてちーん(ㆁωㆁ)

2時半になったので、あかざき公園へ向かう。
取り敢えずはフタオは採れたんだから、気を取り直してアカボシゴマダラを狙おう。

午後3時。駐車場にバイクを停めて下に降りてゆく。
この先でSくんと待ち合わせている。昨日、彼と話していて分かったのだが、アカボシの有名ポイントはこの下の東屋付近らしい。まさかそんなところにポイントがあるとはね。完全に盲点だったよ。上からは見えない場所だし、山頂や尾根筋が♂のテリトリーを張る場所だとばかり思ってたからね。そげな下にポイントがあるとは考えもしなかった。
どうりで知名瀬で会った爺さんにフタオのポイントを訊いても話が噛み合わなかったワケだ。にしても、だとしたら爺さんの説明はクソだな。もっと解りやすい説明はいくらでも出来た筈だろうに。虫屋は言語能力が足らない人が多いとは知ってはいたが、チ○カスだ。あっ、ゴメン。言い過ぎた。

 
【アカボシゴマダラ】

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

 
子供の遊戯施設があるとこまで降りてくると、網を持って立っている若者の背中が見えた。その先に見える木立ちは全般的に低い。なるほどね。となると当然の如く止まる位置も低いから採りやすいってワケだ。

フランクに話かける。
若者曰く、まだアカボシは姿を見せていないそうだ。周りに東屋らしき建物がないので訊いてみたら、この先のもっと奥の方に建っているらしい。でも既に人が陣取っているという。そっか…得心がいったよ。だから仕方なく此処で張ってるんだね。
ならば、そっちに行くのは後回しだ。若者から吸血鬼のように情報を吸い取ろう(笑)。ゴメン、嘘です。普通に訊きました。

自己紹介がてら名前を名乗ると、
『えっ❗❓、もしかして、あのブログを書いてる人ですか❓』
という予想外の言葉が返ってきた。
『あー、そうだけど…。』と目を逸らしてボソボソと答える。恥ずかしかったのだ。
それを意に介さず、彼は
『いつも楽しく読ませて戴いてます❗』
と朗らかに言う。
(☉。☉)ありゃあー、驚き桃の木、山椒の木。ここにもワシの糞ブログなんぞを読んでいる奇特な人がいるのか…。おったまげーだよ。恥の垂れ流しのような低能文章が読まれているのかと思うと、誠にもって照れ恥ずかしい。穴があったら入りたいという言葉があるが、ホント、穴があったら入りたいような気分だ。そして穴の底で膝小僧を抱いてずっと座っていたいよ。

彼の話によると、東屋で陣取っているのは蝶屋の間では有名なKさんらしい。
Kさんは東京を拠点とする蝶の標本商で『蝶屋(てふや)』という飲食店(スナック?)も営まれており、そこで標本も売られている。またガイドでもあり、国内外の採集ツアーも頻繁に開催されていて、採集マップも販売されている方だ。マスコミなんかには「蝶採り名人」と紹介されている。ブログもやっておられ、そのアクセス数は業界ではトップクラスではないかと思われる。
だが、駆け出しの頃に採集マップを買った事があるけれど、全然役に立たなかった。今回もブログの記事に完全に騙された形になっている。春にもトラップに来るような事が書いてあったが、全く来ない。トラップで採れると思ってたから6.3mの長竿しか持ってこなかったのだ。お陰で大苦戦じゃないか。信じたアンタが馬鹿なのさと言われてしまえば、それまでなんだけどさ。
えー、ここからは率直な意見だが、結果的に悪口になるかもしれない。とはいえ、何とか出来るだけ悪意に引っ張られないよう努めよう。

奥の東屋まで行くと、Kさんが長竿を持って立っておられた。
かなりインパクトのある風貌だったので、ちょっと驚く。白髪のロングヘアで全身黒ずくめなのだ。その特異な出で立ちに、心の中で「戸沢白雲斎かよ❗」とツッコミを入れる。
もっと解りやすく言うと、グラサンをかければ、シェキナベイベェーの内田裕也を彷彿とさせる姿だ。幸いな事に裕也さんみたく狂気性は感じられないけどね。まあ、仙人みたいな風貌だと言っときゃいいか…。

 

(出展『朝日新聞デジタル』)

 
挨拶したと同時くらいにアカボシゴマダラが飛んで来た。
しかし仙人は微動だにしない。見ると、後翅が少し欠けている。さすが名人、早々とそれを見切ったというワケか❓
『翅が少し欠けてますねー。もう何頭か採られましたか❓』
既にいくつか採っているから、欠けているのは無視なのかと思ったのだ。
『1週間前から来ているけど、ボロばっかだよ。10頭くらい採ってキレイなのは1、2頭だけかな。』
(☉。☉)えっ❗❓、と思った。アカボシはまだ出始めたばかりの筈だから、俄には信じられなかった。まず10頭も網に入れたというのが時期的には信じ難い。でも名人なら有り得るかも…という考えが一瞬頭をよぎったが、即座にかき消す。待て待て、最盛期や発生後期でもあるまいし、そのうちの8割もが欠けやボロだなんて有り得んだろう。それに1週間前だとまだ未発生の筈だ。信頼できうる複数の筋からフタオは発生しているが、アカボシは未発生だと聞いていたからだ。延べでの数だとしても多過ぎる。

気を取り直して、ぶら下がっているトラップを指して訊く。
『ところで、トラップを掛けてはりますけど、アカボシとかフタオは来てますか❓』
『ずっと1つも来てないよ。』
(・o・;)えっ❗❓これまた心の中で仰け反った。おいおい、アンタ、ブログにこう書いてたじゃないか。

「1化は2化などが見せるような(道路側の)空間を旋回することも、さらにトラップ周辺を飛翔する姿さえあまりみせない。しかし、トラップを仕掛けて根気よく観察をしていると、トラップの仕掛けてある道路側空間ではなく、枝先の密集する樹木の反対側、裏側から小枝の小さな空間を小刻みに飛翔したり、枝を歩いたりしながらだんだんとトラップに近づいてくる。多少離れた場所から見ていたのではほとんど目にとまらないように。2化以降ではトラップに飛来する個体を確認して観察できるが、1化の場合は個体数も少ないことから、ちょうどこの時期咲き乱れるシ―クワ―サ―やミカンの花に吸蜜に飛来するミカドアゲハやカラスアゲハ、青帯班の広いアオスジアゲハなどを採集していながら、時々トラップを見て回るという観察がベストである。」

けれども「枝先の密集する樹木の反対側、裏側から小枝の小さな空間を小刻みに飛翔する」ことも「枝を歩いたりしながら段々とトラップに近づいてくる」ことも一切なかった。何度試してもトラップには全く興味を示さず、フル無視だったぞ。
いくつかの文献にも春にはトラップには寄って来ないと書いてあるし、Sくんも過去に試してみたが来なかったと言っていたように思う。そして、それを裏付ける証言を最も信頼できる人からも聞いている。
奄美在住の標本商である柊田(ふきた)さんの口から直接、
『春はフタオもアカボシもトラップには来ないよ。』
というキッパリハッキリ発言を聞いているのだ。
柊田さんは奄美に長年住んでおられるから、その発言が最も信憑性が高いのは自明の理だし、また氏はベニモンコノハの論文でも知られるように一流の採集者なのである。奄美のフタオの分布も調べられていて、誰よりも詳しかった。そんな人の観察眼が節穴なワケがない。
ちなみに後でSくんに仙人のコメントを伝えたら「発生初期のこの時期に10頭も採り、しかも8頭までがボロだなんて有り得ない。」と言っていた。彼は奄美に4、5回フタオとアカボシを採りに来ていて、もちろん春にも来ているからね。その発言は信用たりうる。
そもそも最近でこそ温暖化で3月後半にもアカボシがそこそこ採れるようにはなったものの、基本は4月の蝶なのだ。個体数の比較的多い根瀬部や知名瀬でも未だ見ていないから、今が発生の走りなのは間違いないだろう。
そういえば、その会話の中で仙人にイワカワシジミのポイントについて尋ねてみたら、
『知名瀬に沢山いるよ。先日も3〜4人を案内したけど、1日で一人あたり4、5頭は採らしてやったよ。』
とか言ってたなあ…。
1人4〜5頭といえば、全部で12〜20頭だ。個体数が多い年もあるから全く可能性がないワケではないけれど、経験上からそんなに一度に沢山は採れない蝶なだけに、ちょっと信じらんない。しかも1日でその数は疑わざるおえない。知名瀬でイワカワをずっと探していた2人組の爺さん達も2日間探しているが見てないと言ってたし、自分もSくんも知名瀬では1頭たりとも見ていないのだ。仙人御一行が全く採れていないワケではないのだろうが、数を盛ってる可能性を疑いたくなる。となれば、アカボシについても情報を盛ってるんじゃなかろうか❓たとえ名人だとしても、やはり10頭は有り得んだろう。

考えてみれば、そもそも名人のブログの他の記事も全体的にホントかよ❓と思うような記述が多いのである。誰も知らないポイントに案内して、沢山採らしてやった云々と書いてあるのを度々見掛けるが、自分が買った採集マップには沢山いた所なんてない。というか、居るのを殆んど見たことがない。
思い出したけど、関西の標本商のMさんも同じような感想を漏らされていて『そのポイントに全くいないというワケではないから嘘ツキとまでは言えないんだけど、沢山いる所は知る限り1つもないからタチ悪いんだよなあ。』と言ってはったなあ。

生態面についても図鑑にはない独自な事が採集マップやブログに書いてあって、これまたホンマかいな❓と思ったことが何度かある。もしそれが本当ならば、この人、天才だなと思うような目から鱗的な事が書いてあるのだ。
描写がリアルに思える部分もあるから、これまた全くのウソではなさそうなのだが、やはり話を大袈裟に盛ってるような気がする。もしもその衝撃的な生態が事実ならば、とっくに伝播している筈なのに、周知の事実にはなっていない事だらけなのだ。
とはいえ、氏とは初対面だし、その実力や人となりを詳しく知っているワケではない。だから、これらはあくまでも自分の個人的な見解であることを断っておく。なので、間違ってたら謝ります。本当に名人ならば、それに越した事はないのだ。むしろそれを望んでいる。もしもブログの生態面の記述が正しければ、大いに採集の参考になるからね。

仙人は午後4時には若者と帰って行き、一人ぼっちになった。
この時間になってもSくんが来ないので、何かトラブルでもあったのかと心配になってきたが、4時半過ぎに漸く現れた。
フタオは2♂1♀を採ったと言う。
負けとるやないけー(笑)。でも全て翅が欠けてて、完品は無しとの事。まあ、ワシと違って8m以上の長竿を持ってるんだから、そのうち完品も採れんだろう。

喋ってると、アカボシが飛んで来て枝先に止まった。
高さ的に楽勝の位置である。しかし直ぐ飛びそうな気がしたので、慌てて網を振ったらハズした。微妙に間合いがズレてたようだ。位置的にブラインドになってて姿が見えなかったから、えいやとアタリをつけて振ったのがいけんかった。
(´-﹏-`;)あちゃーである。
どう言い訳しようがカッコ悪い事、この上ない。やっぱ調子悪りぃや。Sくんがブラインドになってるのに気づいて、位置を教えようとフォローに入ろうとしてくれてたのにね。申し訳ないよ。

バツが悪いので、誤魔化すように話題を変える。
『ところで、夜間採集の湯湾岳行きの出発は何時にする❓』
 
『やっぱ、行くのやめときます。』

\(◎o◎)/嘘やん❗

                         つづく

 
追伸
えー、今回は何だかベタなドロドロの昼ドラみたいなタイトルになってしまったとです(笑)。借りで暫定的につけたタイトルだったけど、他に良いタイトルが浮かばなかったし、段々気に入ってきたので、そのままにした。

前回から大幅に時間があいたのは、何かと個人的なトラブルがあったからとです。前回の5日後くらいには、ほぼ下書きは書き終わっていたのに、トラブル後は書く気になれずにほったらかしになってたのだ。
あとは名人について書いた部分を削除するかどうかも悩んだといのもある。コンプライアンス的に問題が有りはしないかと考えたのである。名人に対する憎悪の心はないが、個人攻撃と捉えられる可能性は充分にあるからだ。でも自分にとっての事実や感じた事を封じ込めるのも変な話だ。昨今の炎上を恐れて何も言えなくなっている風潮に強い違和感を覚えているしね。それに今後、ワテみたいに名人のブログを読んで、春でもフタオやアカボシがトラップで採れるんだと思い込んで長竿を持ってこない人が出てくるかもしれないとも考えた。ゆえに名人が営まれている店の名前やブログ名を悩んだ揚げ句、あえて伏せることはしなかった。長竿を持ってゆくかどうかは、名人のブログを読んでから各人で判断してもらいたい。
これを読まれた名人は御気分を害す事になるだろうから、それについては申し訳ないとは思ってる。ごめんなさい。しかし今のところ吐いた言葉を撤回するつもりはない。トラップの材料や飛来する時間帯が早朝だとか黄昏時だったりという新たなる事実が見つかりでもすれば、話はまた別だけどね。

ところで、なぜに春にはトラップに寄って来ないのだろう❓
これが全くもって解せない。だって春だけ全くエサを摂らないなんて考えられないからだ。夏と活動量は同じなんだから何かは摂取している筈だ。だが、それに対する推察や解答を聞いたことがない。自分なりに考えても、もっともらしい解が見つからない。たぶん誰も説明できないから、どこにも理由が書いていないのだろう。でも、そのままスルーというのも性格的に見過ごせない。一応、有り得る可能性はさぐっておこう。

①春は餌を摂る時間帯が早朝や黄昏どきである❓
有り得るが、知る限りではフタオが古くから生息する沖縄本島でもそうゆう生態が確認された事はない筈だ。ちなみに沖縄で、夏に日没後にフタオの♂がシークヮーサーの樹液にやって来たのは見たことがある。薄闇みたいな状態だった。そういや早朝6時にトラップにいた♂も見たことがある。但し、昼間に来た頭数の方が圧倒的に多い。いや待てよ。そういや沖縄本島南部では、それまで全くトラップには来なかったのに、午後5時半になって急に何頭も来だしたという事があったな。まだ日没前で辺りは明るかったけどね。という事は、可能性はあるかもしれない。仮にだとしても、何で春だけ朝夕にしか来ないのだ❓夏がそうなら、暑い昼間を避けて朝夕にしか来ないとか説明がまだしもできるけど、春ならば気温的に朝夕にだけ来る理由にはならない。

②春は樹液にしか来ない❓
夏にだけ樹液にもトラップにも来て、春は樹液にだけしか来ない。そんな事って有り得るのか❓だとしたら、全然理由がワカラナイ。夏場はより体力が必要だから、頻繁に餌を摂取せねばならず、あんまし好みじゃないけどトラップにも来るとか❓
考えられなくはないけど、理由としては弱いよね。
尚、図鑑によるアカボシゴマダラが樹液に訪れた木の樹種の記録はスダジイ、サルスベリ。自分は秋にスダジイの他にミカン類の樹液に来たものを何度か見ている。しかし『日本産蝶類標準図鑑』には、樹液での観察例は少ないとあった。補足すると、スダジイの樹液量は3〜4月に多いそうだ。樹液で充分だから、トラップには来ないとか❓
フタオはヒラミレモン(シークヮーサー)、その他のミカン類、イジュ、タブノキ、クヌギでの吸汁記録がある。ちなみに観察例は3〜4月のミカン類を除き、他は全て7〜8月となっていた。自分は夏に沖縄でシークヮーサーの樹液に来たものを数度見ている。
参考までに付け加えておくと、トラップに来た蛾は多数のオオトモエとアケビコノハが1頭のみであった。他は一切来なかったから、もしかしたら春は蝶でも蛾でもトラップにはあまり誘引されないのかもしれない。でも理由がサッパリわからない。

③春は別なものを餌にしている❓
だとしたら真っ先に挙げられるのが花の蜜だろうが、フタオチョウには訪花の観察例がない。ちなみにアカボシゴマダラは夏場にはホルトノキでの訪花&吸蜜の報告例が比較的ある(奄美大島・徳之島以外の大陸亜種の訪花記録は除外する)。さらに調べたら、アオキの花での吸蜜例も見つかった。アオキの花期は春だから、可能性はなくはない。しかし、もしそうならば、もっと観察されていてもいいだろう。
春の腐果での観察例は知る限りない。あったとしてもフルーツトラップと内容はほぼ同じだから、腐果には来て、トラップには来ないなんて事は考えられないだろう。
尚、フタオの訪れた腐果の記録はパパイア、サンゴジュ。図鑑には書いていないが、パイナップルやバナナのトラップには好んで集まる。特にパイナップルは好きなようだ。
アカボシはパパイア、スモモ、イチジクの記録がある。とはいえ、スモモ、イチジクは夏場に熟すから除外してもいいだろう。パパイアは年中出荷され、沖縄では春の出荷量が比較的多いようだ。
フタオは獣糞、人糞、動物の死体に集まることも知られているが、そこに季節との関連性はないだろう。そもそも春だけ糞しまくる動物や野糞する人なんていないだろう。春だけ異常に死体が多いなんて事も考えられない。
残るはアブラムシの分泌物だ。アカボシに観察例がある。もしかして春はアブラムシの分泌物しか摂らなかったりして…。けど、何で❓アブラムシが特に春に分泌物を出すとか❓
参考までに書いておくと、Wikipediaのアブラムシの項には以下のような記述があった。
「春から夏にかけてはX染色体を2本持つ雌が卵胎生単為生殖により、自分と全く同じ、しかも既に胎内に子を宿している雌を産む。これにより短期間で爆発的にその数を増やし、宿主上に大きなコロニーを形成する。」
「南方系の種には広域移動を行うものも知られ、主に4月から6月に東南アジア方面から気流に乗って飛来し、野菜や果樹の新芽の茎上や葉の表面・裏面に現れ始め…」。
これにより、春にはアブラムシの個体数が多い事が伺える。アカボシには有り得るかもしれないね。

他に両種には地面での吸水行動というのもあるが、厳密的にはエネルギー補給の餌とは言い難いので除外する。だいたい吸水には♂しか来ないしね。何で♂しか来ないかというと、ザックリ言うと♂は交尾をするために精巣を成熟させねばならない。それに必要な物質を水から得ているらしい。

 
(註1)ナガサキアゲハ

(出展『Wikipedia』上が♀、下が♂で、おそらく本州産。)

学名 Papilio memnon
日本産は亜種”ssp.thunbergii”とされる。
この亜種名はシーボルトよりも前に日本にやって来て、我が国の植物学の基礎を築いたカール・ツンベルクに対して献名されたものだ。また和名はシーボルトが長崎で最初に採集したことに由来する。

開張110〜120mm内外にもなり、オオゴマダラやモンキアゲハと並ぶ日本最大級の大型蝶。
南方系の種で分布は広く、西は北インドからインドシナ半島、インドネシア島嶼、中国南部、台湾を経て日本にまで達する。
日本国内での分布は1930年代辺りまでは九州以南から南西諸島に掛けてであったが、1940年代に入って山口県西部や高知県南部に分布を拡大。1960年代には淡路島へと北上し、21世紀初頭には福井県や神奈川県西部での越冬が確認された。そして近年では更に分布を拡げ、今や東北地方でも成虫の姿が確認されているという。こうした分布の変遷から、本種は地球温暖化の象徴として取り上げられることも多い。
尚、北に行けば行くほど♀の白紋は減退し、反対に南へ行けば行くほど白くなる傾向がある。その頂点だったのが、今や絶滅して久しい西表島の幻の白いナガサキアゲハだ。確か反町さんが120万円で売れたとか言ってたけど、ホントかね❓
それはさておき、残っている標本は極めて貴重なものだろう。


(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

たぶん世界一白いナガサキアゲハなんじゃなかろうか。
沖縄産もかなり白いが、目じゃないくらいに白い。きっとまだ採れていた時代には「白い貴婦人」とか何とか最大級の賛辞を浴びていたのだろう。そういや沖縄本島のナガサキアゲハを、より白いの掛け合わせて続けて西表島なみに白いナガサキアゲハを作った人がいるという噂を聞いたことがあるけど、あれって本当の話なのかな❓

尚、八重山諸島では稀で、台湾等から飛来したものが一時的に発生するのではないかと云う説がある。自分もその説に賛同する。
で、その台湾では再び黒くなり始める(だから西表島以外の八重山諸島産は白くない)。


(2017.6.20 台湾南投県仁愛鄕)

下翅は白いが、前翅は黒い。
日本では上のような尾っぽのない♀がノーマルタイプ(無尾型)で、有尾型は極めて稀。台湾でも稀だが、日本よりも遥かに見る機会は多い。また極めて稀だが、他に短尾型という両者の中間的な型も存在する。

【短尾型♀】

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

参考までに付け加えておくと、遺伝形式は有尾型が優性遺伝、無尾型が劣性遺伝だという事が判明している。

何だか自分の標本画像がないのもなあ…。
取り敢えず、超久し振りに日本のナガサキアゲハなんぞを展翅するか…。

退屈しのぎで、1頭だけ採った♀だ。
もう少し下翅を下げようかとも思ったのだが、展翅板の溝が広いのでやめた。展翅の基本は、やっぱ翅のサイズで展翅板を選ぶよりも溝に合わせて選ぶべきだよな。溝ギリギリな方が触角の調整も上手くいきやすいからね。

それはそうと、この♀は奄美産にしては黒いな。本土のモノとさして変わらん。本来、奄美産は沖縄本島ほどではないにせよ、白いのだ。

【奄美大島産♀】

【沖縄本島産♀】

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

白いナガサキアゲハは優美だと思う。ちょっと見惚れるところがあり、立ち止まって暫く姿を目で追ってしまう存在だ。

 
(註2)春型の方が夏型よりも大きい
帰ってから『日本産蝶類標準図鑑』で確認すると、明らかに春型のフタオの方が大きいように見える。


(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

左上2つが春型で、残りは夏型である。
とはいえ、コレだけのサンプルでは断言はできない。でもそうゆう傾向はありそうだ。アカボシゴマダラも春型の方が大きいしさ。
う〜ん、でも待てよ。夏型の裏面個体は春型なみに大きいような気がするぞ。ようするにもっと沢山の個体を見ないと何とも言えないなあ…。

最後に、この日に採ったフタオの展翅画像を貼り付けておきます。

こんなもんかなあ…。
フタオグループの展翅、特に♂の展翅は難しい。翅のバランスがとりにくいのだ。コツは前翅の下辺を無理に真っ直ぐにしようとしない事だ。下辺が微妙に湾曲しているのに気づかないと、下辺を真っ直ぐしようと必要以上に上げがちになりやすい。頭の中で、翅の根元の起点と後角を結んで、その線が真っ直ぐになるようイメージするよう努めよう。もしも頭が翅に埋まったり、触角の角度が天突くようになってたら上げ過ぎってこってす。
あと、今回はしなかったけど生展翅でも筋肉破壊はした方がいいだろう。フタオ類は筋肉のバネが剛ゆえに元に戻る力がアホみたいに強い。だから左の翅を上げて次に右を上げたらゲロゲロ、左がズリ下がるだなんて事はよくあるのだ。
しかも前翅を無理矢理上げると、真っ直ぐ展翅板に刺した筈の針まで上に引っ張られて前に傾く。ゆえに、それを見越して針を手前に傾けて展翅板に刺すなんていう面倒くさい事もせねばならぬのじゃ。
尚、後翅を上げ過ぎないのもコツ。上げ過ぎると寸詰まりになってカッコ悪い。思い切って下げてみませう。まあ、好みもあるから強くは奨めないけどね。けど、もし下げてみて気に喰わなければ上げりゃいいんだから、1回くらいは試して下され。

 
(註3)戸沢白雲斎
元々は講談師の二代玉田玉秀斎が、その創作講談中で作り出した架空の人物で、『猿飛佐助』や『真田十勇士』などの「立川文庫」の作品に登場する。そしてその後も作品は様々な形でアレンジされて現代に至るが、常に老人として描かれている。
甲賀流忍術の名人で、諸国漫遊中に信濃国鳥居峠で出会った猿飛佐助を鍛え、その秘伝を授けた。ザックリ言ってしまえば、『スターウォーズ』のヨーダとか『ベストキッド』のお師匠さんみたいなジジイの達人的存在だ。


(出展『馬場卓也@るろうビ作家』)

画像は映画『百地三太夫』で丹波哲郎が演じる戸沢白雲斎。
高さ30mくらいの崖をひょいと飛び降り、コマ落としのようにギュンギュンで走ってくるのじゃよ。