第20話『奄美大島の蝶と蛾 春編』
前回に、この旅で採った蛾と蝶を紹介して終わる予定だった。けど、またぞろパンドラの匣を開けてしまい、何かと問題が起きてバカ長くなってしまった。拠って、おまけ編として今回に回す次第と相成った。
だだし、採集したものを全て展翅しているワケではないので一部の紹介になります。
【アマミシャクドウクチバ ♀】
漢字で書くと「奄美赤銅朽葉」かな。
以下、間違いもあるかもしれないが、解る範囲で漢字表記を試みます。その方が和名の由来をイメージしやすいと思うのだ。
学名 Mecodina sugii Seino, 2003
ヤガ科 シタバガ亜科 Mecodina属に分類される。
開張35〜45mm。
オキナワマエモンヒメクチバと酷似するが、外縁は緩やかに湾曲し、前翅は紫褐色で翅頂が突出することで区別できる。
(オキナワマエモンヒメクチバ)
(出展『日本産蛾類標準図鑑』)
奄美大島の固有種。徳之島からも記録があるようだが、『蛾類通信』でオキナワマエモンヒメクチバに訂正されていた。
尚『日本産蛾類標準図鑑』では、同属の他3種と棲み分けており、分布は重複しないとある。3,5,8月に得られており、季節型があるみたい。春型は全体的に大きく、翅表は強く褐色を帯び、翅頂の三角斑が紫白色に縁取られる。幼生期は未知。
新種記載は2003年と比較的新しく、ネットにもあまり情報がないので雌雄に自信があまりないが、♂触角は絨毛状というから、おそらくこの個体は♀だろう。
【オオウンモンクチバ ♂ 大雲紋朽葉】
学名 Mocis undata (Fabricius, 1775)
ヤガ科 シタバガ亜科 ウンモンクチバ属に分類される。
開張45〜50mm。日本産の同属中では最大種となる。
どうやら雌雄の斑紋は少し異なるようである。
(出展『日本産蛾類標準図鑑』)
♂は前翅の黒点は目立つ個体が多い。また横線の縁取りが明瞭で、外縁が直線的である。対して♀は斑紋が全体的に不明瞭となる。
分布は『日本産蛾類標準図鑑』によると、本州、伊豆諸島、小笠原諸島、四国、九州、対馬、沖縄諸島、宮古島、石垣島、西表島、与那国島。
(・o・)あれれ❓奄美大島がスコッと抜けてるぞ。確認のために『みんなで作る日本産蛾類図鑑』も見たが、やはり奄美が抜けてた。沖縄と九州に居るんだから、奄美にも当然いてしかりだろうに。記録漏れ❓
日本本土域では3〜9月に見られ、年2化。昼間に見る機会も多いという。
幼虫の食餌植物は、クズ、フジ、ヌスビトハギ、ヤブマメ(マメ科)。海外では、エニシダ(マメ科)、オヒシバ(イネ科)が記録されている。
【ホシヒトリモドキ 星火盗蛾擬】
横から見ると、蜂みたいだ。
たぶん♀かなあ。
黄色と黒の縞々は警戒色だから、天敵に対する何らかの効果はあるのかもしれない。ちなみにコヤツはもう1つ採ったが、何れも擦れ擦れの個体だった。なので、参考までに新鮮な個体の画像を貼り付けておく。
(出展『日本産蛾類標準図鑑』)
結構スタイリッシュだ。でも如何にも蛾って感じで気持ち悪い。
学名 Asota plana lacteata (Butler, 1881)
ヤガ科 ヒトリモドキガ亜科 Asota属。
開張 56〜61mm
国内では屋久島、奄美大島、徳之島、沖縄本島、石垣島、西表島、国外では台湾、インドシナ半島、インド、ボルネオに分布する。日本と台湾のものは、亜種 lacteata(Butler,1881)とされる。
低温期を除き、ほぼ一年中見られるが、詳しい化性は不明。
幼虫の食餌植物は、クワ科のガジュマル、アコウ。
【キイロヒトリモドキ 黄色火盗蛾擬】
(出展『日本産蛾類標準図鑑』)
採ったけどボロだったので展翅してない。なので図鑑の図版をお借りする。そういやコイツ、奄美大島に到着したその日の晩にライトに飛んで来たんだよね。真っ黄っ黄ーで結構大きかったからからビックリした。でもどっか行っちゃって、何者か分からずじまいだった。鮮度は結構良かったように思う。で、最後の方でボロが採れて正体が分かった。
学名 Asota egens Walker, 1854
ヤガ科 ヒトリモドキガ亜科 Asota属
開張 57〜62mm。♀は♂よりも大きく、翅がやや太い。
分布は九州の福岡県と鹿児島県に記録があるが、確実に産するのは屋久島、トカラ列島、奄美大島、徳之島、沖永良部島、沖縄本島、久米島、伊江島、宮古島、石垣島、西表島、与那国島、南大東島。奄美大島以南は個体数が多い。
原記載亜種はインドネシア。多数の亜種が知られており、日本・台湾・フィリピンのものは、亜種 confinis Rothschild, 1897とされる。
低温期を除き、ほぼ周年見られるが、化数は不明。
幼虫の食餌植物は、クワ科のガジュマル、イヌビワ、オオイタビ、ホソバムクイヌビワ。
【リンゴツノエダシャク ♂ 林檎角枝尺】
枝尺の由来は、おそらく幼虫が枝に擬態する尺取虫だからだろう。
学名
Phthonosema tendinosarium (Bremer, 1864)
シャクガ科 エダシャク亜科 Phthonosema属に分類される。
開張 ♂40〜52mm ♀55〜62mm。♂はトビネオオエダシャク♂に似るが、本種は翅が細長くて外横線が太くくっきり出る。
北海道、本州、伊豆諸島、四国、九州、対馬、屋久島、奄美大島に分布する。寒冷地から暖地に向かって色が濃くなる傾向がある。ということは、この奄美産が一番濃いってことかな。
比較の為に本土産の画像も貼り付けておく。
(出展『日本産蛾類標準図鑑』)
成虫は北海道では年1化、7〜8月に出現するが、本州中部では5〜9月に見られるので、おそらく年2化、更に温暖な地域では年3化以上の可能性があるようだ。
幼虫の食餌植物はヤナギ科、ブナ科、ニレ科、バラ科、カエデ科、ツツジ科、キク科などの植物が記録されており、針葉樹から草本をも含む広食性。
【ミカンコエダシャク ♂ 蜜柑小枝尺】
学名 Hyposidra talaca (Walker, 1860)
シャクガ科 エダシャク亜科 Hyposidra属に分類される。
開張 ♂30〜38mm ♀49〜59mm。♂の触角は櫛歯状で、♀は♂よりもかなり大きいことから、雌雄の判別は容易。
分布は奄美大島、沖縄本島、久米島、小浜島、石垣島、西表島、南大東島。沖縄では1月から11月まで幼虫が観察されている事から多化性と考えられる。
幼虫は柑橘類(ミカン科)やレイシ(ムクロジ科)、ユーカリ(フトモモ科)を食べる害虫として知られる。広食性で、この他にもトウダイグサ科、ブナ科、バラ科、ミソハギ科、アカテツ科、クマツヅラ科、ヒルガオ科、マンサク科、カキノキ科などの多くの植物を食べる。
【ツマジロエダシャク ♂ 褄白枝尺】
学名 Krananda latimarginaria Leech, 1891
シャクガ科 エダシャク亜科 Krananda属。
開張 27〜43mm
分布 本州(関東地方、石川県以西)、伊豆諸島(伊豆大島・神津島・三宅島)、四国、九州、対馬、屋久島、トカラ列島(中之島・宝島)、種子島、奄美大島、徳之島、沖永良部島、沖縄本島。国外では、中国、朝鮮半島、済州島、台湾。
成虫は年2化。4〜5月と9〜11月上旬に見られ、クヌギやコナラ、ヤナギなどの樹液を吸汁する。
幼虫の食餌植物は、クスノキ科クスノキ、モクレン科オガタマノキ。
【セダカシャチホコ ♂? 背高鯱鉾蛾】
シャチホコガの命名由来は、幼虫の形態が鯱鉾に似ているから。背高は、成虫の背の部分が盛り上がってるからだろう。
写真は撮らなかったけど、このセダカシャチホコさん、とても可愛い。
(出展『もももぐらの巣』)
(出展『フォト蔵』)
モヒカン頭で、つぶらな黒い瞳。オマケにもふもふなのら。
可愛いので、SNS上では一部の女子の話題をさらっているらしい。
学名 Rabtala cristata (Butler, 1877)
シャチホコガ科 Rabtala属に分類される。
開張 ♂70-83mm内外 ♀78〜82mm内外
分布は北海道、本州、四国、九州、対馬、屋久島、奄美大島、沖縄本島、石垣島、西表島。色彩は北方の黄色から南西諸島の赤褐色まで変化に富む。
成虫は本土地域では5〜6月と8月に見られ、年2化だが、八重山諸島では2月から見られる。
幼虫の食餌植物はブナ科コナラ属のコナラ、ミズナラ、クヌギ、アラカシ、アカガシ、カシワ、ウバメガシ。南西諸島では、おそらくスダジイとかを食ってるんだろな。
ちなみに幼虫は糞を投げるらしい。キュートだ(笑)
【カワムラトガリバ ♂?】
漢字で書くと、川村尖羽❓河村尖羽❓どちらにせよ、カワムラ氏に献名されたものだろう。じゃあ、そのカワムラ氏とは誰ですかいのう❓おそらく蛾界に貢献した人であろうと思い、調べた。だが、ビンゴな情報が見つからない。
『原色図鑑 夜蛾百種;吸蛾類を中心として』の著者の一人に川村満という人を見つけたが、出版は1989年だ。でもこの種が記載されたのは1921年だ。つまり、その68年後の出版なのである。相当長生きだった人になるし、だいちそんなに若いうちに献名されたとは考えにくい。もしそのような人ならば、もっと名が残ってて然りだろう。たぶん別人に献名されたものだろう。奄美ではド普通種だし、これ以上この件に関しては掘り下げないけどね。
学名 Horithyatira decorata Moore, 1881
日本産は亜種 kawamurae (Matsumura, 1921)とされるが、以前は「Horithyatira kawamurae」という日本固有の独立種であった。しかしながら、2007年に”decorata”の亜種とされ、シノニムとなった。
カギバガ科 トガリバガ亜科 Horithyatira属。
開張 ♂31〜35mm ♀34〜36mm
分布は、本州(紀伊半島南部)、四国、九州、対馬、種子島、屋久島、奄美大島、沖縄本島。
年1化、春に現れ、3月下旬から5月に見られる。
幼虫の食餌植物は、ブナ科のアラカシ。
【ツマジロイラガ ♂ 褄白苛蛾】
採った時は気づかなかったけど、胴体には青が散りばめられている。画像を拡大されたし。
学名 Belippa horrida Walker, 1865
イラガ科 イラガ亜科 Belippa属。
コレがまさかイラガの仲間だとはツユほどにも思わなかった。だから図鑑で探すのに苦労したよ。
タイプ産地は中国。亜種区分はされておらず、本種がBelippa属のタイプ種になる。
この種とオガサワライラガは前翅が細長く、イラガ科としては特異な翅形をしている。
分布は、九州、奄美大島、徳之島、沖縄本島、石垣島、西表島、与那国島。国外では、台湾、中国(南部・西部)、ベトナム。
開張 ♂♀30〜33mm。♂の触角は葉片状、♀は糸状だから、この個体は♂だね。
年2化。成虫は、4〜5月と8月に発生する。
幼虫の食餌植物は『日本産蛾類標準図鑑』では、トウダイグサ科のアカギとなっていたが、『みんなで作る日本産蛾類図鑑』では、クマツヅラ科クサギ、トウダイグサ科アカメガシワ、アオイ科フヨウとなっていた。ちなみにアカギは以前はトウダイグサ科に分類されていたが、現在はコミカンソウ科に入れられている。
【ハグルマノメイガ ♂】
漢字で書くと、おそらく「歯車野螟蛾」。メイガは古(いにしえ)の時代から稲の害虫だったゆえ、このような漢字があるのだろう。にしても、虫偏に冥界の冥とはね。歯車は放射状の柄からの命名と思われる。すなわち歯車模様の野に棲む螟蛾って事かな❓考えもしなかったけど、ところでメイガの語源って何だろ❓
調べたら、古代中国の由来で、冥々(=暗愚)な役人が違法行為を行う時に発生する虫だから「螟蛾」なんだそうな。それがそのまま日本に伝来したのだろう。
灯火採集の常連ではあったが、中々にスタイリッシュだ。触角が長いのも優美でよろし。
学名 Nevrina procopia (Stoll, 1781)
ツトガ科 ノメイガ亜科 Nevrina属。
タイプ産地はインドで、本種がNevrina属のタイプ種となる。
開張 28〜35mm。
分布は『日本産蛾類標準図鑑』ではトカラ列島(宝島)、奄美大島、沖縄本島、石垣島、西表島となっていたが、『みんなで作る日本産蛾類図鑑』では、これに九州、屋久島、久米島が加えられていた。どちらが正しいかはワカラン。
国外では台湾、中国、東南アジアに分布する。みんなで作る図鑑には、これ+アフリカとあった。これはちょっと信じられない。嘘くさいぞ、『みんなで作る日本産蛾類図鑑』。
成虫の発生期は『日本産蛾類標準図鑑』には沖縄本島以北は5〜9月、八重山諸島は2月から発生していると書いてあった。たぶん真冬を除き、ほぼ周年発生に近いんじゃないのかな。一方『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には7月とあった。益々ウソ臭いぞ『みんなで作る日本産蛾類図鑑』。
幼虫の食餌植物は、ミツバウツギ科のショウベンノキとゴンズイ。小便の木❓植物って、ヘクソカズラとか、結構酷い名前が付いてるよね。
ここから先は既に連載中の何処かで解説しているので、解説は割愛します。
【タッタカモクメシャチホコ ♂ 立高木目鯱鉾】
【アサヒナオオエダシャク 朝比奈大枝尺】
(♂)
(♀)
【アマミハガタベニコケガ ♀? 奄美歯型紅苔蛾】
【ハグルマヤママユ ♂ 歯車山繭】
【ギンボシスズメ ♂ 銀星雀蛾】
【ムラサキアミメケンモン♂ 紫網目剣紋】
【クロフシロエダシャク♀ 黒斑白枝尺】
【ウスアオシャク♂ 薄青尺】
【キオビエダシャク ♂ 黄帯枝尺】
【キバラモンシロモドキ♀ 黄腹紋白蝶擬】
【オオトモエ 大巴蛾】
【アケビコノハ ♂ 木通木ノ葉】
こんなもんをヒメアケビコノハと間違ったかと思うと、恥ずかしい。ムカつくので、裏展翅の刑にしてやったわい。
ついでに、全部じゃないけど蝶も貼付しておこう。
【アカボシゴマダラ 赤星胡麻斑】
(♂)
(同♀)
【フタオチョウ♂ 双尾蝶】
【アマミカラスアゲハ 奄美鴉揚羽】
(♂)
(♀)
アマミカラスアゲハと書いたが、通称である。正式名称はオキナワカラスアゲハ奄美大島亜種となる。
【ナガサキアゲハ 長崎揚羽】
(♂)
(♀)
【モンキアケハ♂ 紋黄揚羽】
南方系の種で、分布はインド、ヒマラヤ山脈、東南アジアと周辺の島嶼、中国、台湾を経て日本にまで達する。但し、何故か八重山諸島には分布しておらず、迷蝶の扱いになっている。多くの亜種に分けられ、日本産には ssp. nicconicolens Butler, 1881 と云う亜種名が与えられている。尚、今年(2021年)になって御蔵島・神津島のモンキアゲハが新亜種として記載されている(月刊むし 2021年3月号)。記載したのは、大屋さんと強面の有田のオジキだ(笑)。確か小種名は奥さんに献じらたんじゃなかったかな?
日本では基本的に関東以西に分布し、冬は蛹で越冬する。その事から北日本では蛹が越冬出来ないとされる。なので観察された場合には、分布の北限である関東で羽化した夏型が台風などの強風に乗って飛来したと考えられてきた。しかし、2009年6月に宮城県仙台市で、春型と見られるモンキアゲハが初めて採集された事から、温暖化によって分布を北に拡げている可能性も出てきたそうな。
展翅するのが面倒なので、過去の画像を探したら、あった。
但し、コレはたぶん台湾で採ったものだ。日本とは別亜種とされ、ssp.fortunius Fruhstorfer,1908 と云う亜種名が与えられている。因みに、この台湾産も南西諸島のモノも本土産と比べて小さい。と云うか、数ある亜種の中でも日本本土のものが圧倒的にデカい。特に夏型(中でも本州北限付近)は、日本にいる蝶の中で、オオゴマダラ、ナガサキアゲハ、ミヤマカラスアゲハの第3化と並び、日本で最も大きな蝶とされているくらいに大きいのだ。
(・∀・)んっ❗❓、でも何か台湾のモンキアケハの画像に違和感がある。こんなに洗練されてたっけ❓
(☉。☉)あっ❗、ゴメン。たぶんコレ、別種のタイワンモンキアゲハだ。台湾産とはいえ、モンキアゲハなんて展翅したとしても写真なんか撮るワケがないのだ。
(日本産モンキアゲハ♂ ssp. nicconicolens)
(同♀)
(♀裏面)
(出展『日本産蝶類標準図鑑』)
♂の裏面画像も貼っつけておこうと思ったが、♀の裏面画像しかない。所詮はモンキアゲハ、それくらいの扱いでしかないのだろう。
(台湾産モンキアゲハ ssp.thaiwanus)
(出展『原色台湾産蝶類大図鑑』)
左が♂で、右が♀の裏面である。
一応、♂の画像も貼っつけておくか…。
でも、台湾産のモンキアゲハの標本画像が見つけられない。台湾でも、所詮はモンキアゲハなのだ。
ここは、台湾の蝶といえば杉坂美典さんの画像をお借りしよう。
(出展 杉坂美典『台湾の蝶』)
台湾産亜種の特徴は以下のとおりである。
①本土産亜種と比べて小型である。
②後翅表面の黃白紋は、その後端が第5室(第5脈)で終り、第4室、或いは更に第3、2室まで拡がる事がない。
③同黃白紋はより内側に偏し、第5室のそれは中室端脈に接し(日本産のものでは黃白紋の内側縁では中室端脈よりやや離れる)、しばしば中室端脈を越えて中室末端部に黃白鱗粉をあらわす。
④裏面より見た第5、6室の黃白紋列の外側線は内側に深く抉られる事が普通である(通常、日本産ものでは直線状に近いか或いは弱く外側に膨出する)。
⑤♀後翅表面の亜外縁にある橙赤色弦月紋はより顕著に発達すること。
要約すると、日本産と比して小型で、表側の黃白紋が縦に短くて内側に偏る。裏面は、白紋の上から2番目が深く抉られる。♀は表側の赤紋がより発達する。
(´д`)めんどくせー。
(-_-メ)クソッ、こんなことなら台湾のモンキアゲハも奄美のモンキアゲハも展翅しておけば良かった。したら、変に解説なんぞせずに済んだのに…。
一応、参考までに御蔵島・神津島のモンキアゲハの画像も貼り付けておこう。
亜種名は「P.helenus toshikoae ssp.nov」みたいだから、矢張り有田さんの奥さんの名前になってる。
(モンキアゲハ 御蔵島・神津島亜種)
(裏面)
(出展『月刊むし 2021年3月号』)
どうせ軽微な差異で、無理からに亜種記載したのだろうと思っていたが、裏が全然違うね。
説明を読むと、以下のような事が書いてあった。
「本亜種の前翅長は、♂62mm ♀66mm。本土亜種の平均前翅長は♂72mm、♀86mm。本土亜種の平均翅長より本亜種の♂は10mm、♀は20mmほど小型になる。
前翅は弧を描いて丸みかあり、先端は外方に突出せず、外縁のくびれは小さい。後翅の第6翅脈は突出せず、前後翅とも、全体的に丸みのある翅形で、尾状突起は前翅長に対して短く、細い。この翅形は本土亜種とは異なり、奄美亜種orosiusの翅形に近似している。」
ちょっと待てよ。奄美のものは亜種なの❓『日本産蝶類標準図鑑』には、特に南西諸島のものは亜種区分はされてなかった筈だぞ。
そういや、この報文の冒頭には13亜種もいるとか書いてたような気がするな。嫌な予感がする。亜種区分に関しては、研究者の間でしばしば見解の相違があって、ややこしい事になってることが多いのだ。
冒頭の部分に戻って見直すと、こう書いてあった。
「モンキアゲハの模式産地は中国の広東で、スリランカ、インド、北西ヒマラヤ、ネパール、ミャンマー、インドシナ半島、中国(海南島を含む)、大スンダ列島(スラウェシは除く)、小スンダ列島、フィリピン、台湾、朝鮮半島など東洋熱帯にも広く分布し、各島嶼を含めて13亜種に区分されている。日本産は日本本土亜種・朝鮮半島亜種 niconicolens(以下本土亜種)と、奄美・沖縄亜種(以下奄美亜種)」の2亜種が知られている。13亜種はいずれの亜種もおしなべて変異幅が小さいが、確実に変異を区別できる的確な命名がなされている。」
でも、英語版のWikipediaで調べてみたら、以下の亜種しか載っていなかった。
・P. h.daksha(南インド)
・P. h.linnaeus(インド北西部からミャンマー)
・P. h.fortunius(台湾)
これだと、日本本土産すら亜種区分されていない事になる。
けど、こんなの泥濘(ぬかるみ)ラビリンスだ。これ以上は突っ込まないようにしよう。ロクな事がない。モンキアゲハの軽微な差異など、どうだっていい。文献の転載を続けよう。
「後翅表面の亜外縁に出現する橙色の弦月紋は、♂では出現せず、♀において弱く現れる。
後翅裏面の斑紋構成は特異で、外縁の弦月紋は明るい橙色で、本土亜種の弦月紋とは異なり、典型的な馬蹄形にならず、むしろ湾曲は弱い。亜外縁の橙色斑は第1a、1b室のものは大きく、さらに第4室まで発達した個体が少なくない。本土亜種・奄美亜種の1b室の斑紋は円形ではなく、馬蹄形になる。肛角紋の赤色眼状紋と第2室の眼状紋は完全な円形となり、青灰色鱗を欠く。本土亜種・奄美亜種の肛角紋の眼状紋は楕円形で、環状にならず、さらに肛角部には青灰色の鱗粉が強く散布され、本亜種とは区別できる。裏面の白斑の1/2の大きさである。このため第7室の白紋は内側にずれ、結果的に白斑と弦月紋とは離れた位置になり、本土亜種および奄美亜種とは斑紋位置が異なり、区別点となる。
♀の前翅裏面に散布される幅広い帯状の白色鱗の出現は弱く、消失気味で全体的に黒化している。」
別に有田さんに文句を言いたいワケではないのだが、学術文って、まるで呪文だな。一般ピーポーには何言ってんのかワカンナイ。ワシらでも、一回読んだだけではワカリまへーん。
要約すると、こんな感じかな。
「本土産と比べて小型で、翅形は全体的に丸みがある。前翅の先端は外側にあまり出っ張らず、くびれも弱い。後翅の尾っぽは短くて細い。後翅表側の赤い紋は♂では現れず、♀も僅かしか現れない。後翅裏面の赤紋は明るいオレンジ色で典型的な馬蹄形にはならず、湾曲は弱い。外縁内側の赤紋は大きく、中心部近くまで達するモノも少なくない。目玉模様は本土産や南西諸島産のように馬蹄形とはならず、円形。また本土産&奄美産では、その周囲に青色の鱗粉があるが、御蔵島&神津島産には青い鱗粉がない。裏面の白斑は小さく、より赤紋と離れる。前翅裏面の白い帯は消えがちで、全体的に黒っぽく見える。」という事になる。
もっと解りやすくするために、翅部分の名称図も貼っつけておく。
(出展『日本産蝶類標準図鑑』)
こうなると、奄美&沖縄本島産のモンキアゲハの画像を図示しなくてはならぬ。
(春型♂)
(夏型♂)
(夏型♀)
(出展『日本産蝶類標準図鑑』)
本土産と何処がどう違うのかサッパリわからん。ホントに亜種なのかよ❓ネットで確認しよっと。
でも、何処にも亜種なんて書いてないぞ。『BINRAN(日本産蝶類和名学名便覧)』でも何も触れられていなかった。きっと、違いが軽微なので、誰もが亜種として認めていないのだろう。
さておき、問題は裏だ。御蔵島・神津島の裏面と本土産や沖縄&奄美産の裏がどう違うかだ。
(裏面)
(出展『月刊むし 2021年3月号』)
左が本土産亜種で右側が沖縄・奄美のものだ。
沖縄・奄美産は本土産よりもやや小型で、前翅裏面亜外縁の白条が本土産よりも幅広い。この辺りが亜種区分された理由だろう。
確かに3つとも裏面が違う事は認めよう。でも今後、御蔵・神津島亜種が亜種として定着するかどうかは分からない。蝶屋の皆さんたちが亜種と認めなければ、フェイドアウトしちゃうからね。で、新たな図鑑や改訂版に載らなければ消えるね。個人的には、沖縄・奄美産は亜種とは認めないが、御蔵・神津島産は亜種でもいいんじゃないかと思う。但し、もっと沢山の個体を見ないと何とも言えない面はあるけどさ。
【クロセセリ 黒挵蝶】
めんどくせーから展翅してない。
標本はある筈だから、それを撮影しようかと思ったが、それもまた探して撮影するのが面倒なので、図鑑から拝借させて戴く。
(出展『日本産蝶類標準図鑑』)
学名 Notocrypta curvifascia
分布は南は沖縄から九州、中国地方西南部、四国南部にまで至る。但し、分布を拡大しているようだから、現在はもっと東でも定着しているかもしれない。因みに飛び離れて京都でも定着してたけど、アレって今でも居るのかね❓網持って哲学の道をウロウロしてたのを思い出すよ。ミョウガで発生してたんだよね。まだ蝶採りを始めた初期の頃だったので、アレはとても恥ずかしかったなあ…。
猶、以前は八重山諸島産は小型で斑紋に違いがあることから亜種 yaeyamanaとされる事があるが、認めない研究者も多く、全て原記載亜種とされる見解が大勢を占める。東洋熱帯に分布が広く、国外ではインド、スリランカからインドシナ半島、中国、台湾、マレー半島、インドネシア各島嶼まで見られ、日本がその北限にあたる。
【アオバセセリ♂ 青葉挵蝶】
沖縄本島や八重山諸島のものは裏面が明るい黄緑色で、よりメタリックなイメージがあるが、奄美のものはそうでもない。なので、本土産の♂を貼り付けておく。
(2020.5 大阪府四條畷市)
なお、八重山産と台湾のものは、以前までは亜種 formosanaとされていたが、本土産亜種 japonicaとそれぞれが春型と夏型に対応するとして、今では”japonica”に統一されている。
おしまい
追伸
やっとコレで連載完結である。
このシリーズのお陰で他の文章が書けなかったし、カタルシスもあまりなかったが、とにかく漸く解放されたよ。
労多くして、益少なしだったが、まあ久し振りにブログタイトルの『蝶に魅せられた旅人』どおりの内容ではあったから、良しとしよう。
参考文献
◆『日本産蛾類標準図鑑』
◆『日本産蝶類標準図鑑』
◆『原色台湾産蝶類大図鑑』
◆大屋厚夫・有田 斉『東京都御蔵島・神津島のモンキアゲハ新亜種の記載』月刊むし 2021年3月号
◆高田兼太『「虫屋」とは?ーリフレームによる言葉の分析』きべりはむし 37号(1),2014
インターネット
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『Wikipedia』