日本の美しい蛾

 
岸田先生の『世界の美しい蛾』には、日本の美しい蛾も紹介されている。

 

 
数えると、偶産も含めて23種類もあった。
意外とオラ、知らないうちに結構採ってるぞ。

 
【エゾヨツメ Aglia japonica ♂】
(2018.4.5 兵庫県 武田尾)

 
年に1回、春先に現れる夜のスプリングエフェメラルだ。青い瞳のような紋が美しい。

 
(2019.4月 大阪府箕面公園)

 
画像は去年のものだが、初めて出会ったのは2017年の春だった。初の灯火採集に連れていってもらった時の事だ。
その辺のくだりは、『春の三大蛾祭』と題して当ブログに二年連続で書いているので、是非読んで戴きたい。特に2017年版がお薦めです。蛾の話だけど、闇について語ったホラーな物語で、自分的には好きな文章だ。

 
【ヨナグニサン♀ Attacus atlas】
(2010.10.22 沖縄県 与那国島)

 

 
沖縄県の天然記念物である。
二度目の与那国島に行った時にいた。いたというか道の真ん中に落ちてた。林道の小道をレンタルバイクで走ってたら、転がっていたのだ。
WAO(゜ロ゜;ノ)ノ❗、思わず急ブレーキをかけたよ。
で、ギリギリ停まった。危うく天然記念物を轢き殺すところじゃったよ。
バイクを脇に停めて近づき、Σ( ̄ロ ̄lll)ギョッとする。そのあまりのデカさに、その場で固まった。

軽く小枝で突っつくと生きてた。そのままにしておくと車に轢かれそうなので、避難させることにした。
で、掴んだらモノごっつデカかったので、ちょっと感動して撮ったのが上の写真である。

 

 
道路脇のシダに止まらせて、再度パチリ。
いやはや、こうして改めて見ると笑けるほどデカイよねー。いや、一人だったけど実際声に出して笑った記憶有りだ。デカイしデブだから多分♀だったんだろなあ。
そういうワケで展翅写真は無い。勿論、標本も無い。持って帰ってたら犯罪者なのだ。だいち持ち帰るにしても三角紙には到底入りきらない。そこまでデカイ三角紙は市販されとらんのじゃ。だから三角紙を収める三角ケースにも入らん。収納不可だ。また、代用になる紙をそんな都合よく持ち合わせているワケもない。たとえ採集禁止じゃなくとも持って帰らなかったと思う。蛾だしさ。

知ってる事はこれくらいで、考えてみればヨナグニサンの事はそんなに詳しいワケじゃない。本来は蝶屋で、蛾屋じゃないからね。一応ググッとこっと。

『鱗翅目ヤママユガ科に分類されるガの一種。前翅長は130~140mmほどで日本最大、昆虫の中で翅の面積が最大のガとして知られているが、近年の研究によりオセアニアに分布するヘラクレスサン(Coscinocera hercules)に次ぐ2位の大きさであることが明らかとなった。』

ほおーっ、もっとデカイのがいるのね。知らなかったよ。
そういえば、ヨナグニサンってゴジラ怪獣のモスラのモデルと言われてるんだよね。

 
(出展『M-ARTS』)

 
モデルと言われてるわりにはヨナグニサンとあまり似てない。翅の柄なんて、かなり違う。たぶん大きさ由来だけなんじゃねえの?

モスラって、ダサいからあんまり好きじゃない。バトラの方がカッコイイ。バトラとは、モスラの対となる破壊神のことね。

 
(出展『魂ウェブ』)

 
黒くて邪悪な感じがいい。
自分で言うのも何だが、邪悪な感じがするものには心惹かれがちなとこあるんだよねぇ~。

『与那国島で初めて発見されたことから「ヨナグニサン」という和名が付けられた。
日本の沖縄県八重山諸島(石垣島、西表島及び与那国島)のものは、亜種ryukyuensisとされ、漢字では「与那国蚕」と書く。ヤママユガ科の蛾は、漢字にするとクスサン(楠蚕)、シンジュサン(新樹蚕)など大体この「蚕」の字が宛がわれる。
与那国島の方言では「アヤミハビル」と呼ばれる。 「アヤミ」とは「模様のある」。「ハビル」とは「蝶」を意味する。』

蝶じゃないけどさ。

『学名のAttacus atlasは、その体が巨大であることから。ギリシア神話の巨人アトラースに起因する。
また英名 atlas moth(アトラスガ)も同じ理由からの命名。中国では「皇帝の様な蛾」を意味する「皇蛾(拼音:huáng’é)」と呼ばれている。
インドから東南アジア、中国、台湾、日本にかけて幅広く分布し、いくつかの亜種に分けられている。日本のものは分布の北限にあたる。日本国外の亜種は日本産と比べて羽の三角模様が少し小さいという特徴を持つ。フィリピン産のカエサルサン、ニューギニアやオーストラリア北部のヘラクレスサンはヨナグニサンよりはるかに大型の別種である。
口器(口吻)は退化して失われているため、羽化後は一切食事を取れない。幼虫の頃に蓄えた養分で生きるため、成虫寿命は長くても1週間ほどと短い。
成虫の前翅先端部には、蛇の頭のような模様が発達し、これを相手に見せて威嚇すると言われているが、定かではない。灯火によく飛来する。』

纏めると、こんなところかな。
この蛇の頭に擬態していると云うのは昔からよく言われているが、大いに疑問だ。たぶんそれを証明した者は誰もいないだろう。個人的見解では、あんなもんが威嚇になるとは思えない。鳥の目は無茶苦茶いいから、この程度では騙されんじゃろう。コレは最初に言い出した人のコジツケだろうと思う。でも、そうゆう風に想像することじたいは悪くないと思うけどね。発想が豊かで想像力が逞しい方が面白いじゃないか。時に、それが正しいことだってあるだろう。クソ真面目を否定するつもりはないが、クソ真面目ばっかだと、ツマラン。

あっ、幼虫の餌を書くのを忘れてた。
『森林域に生息し、幼虫はアカギやモクタチバナ、フカノキ、カンコノキ類、トベラ、ショウベンノキなどを食草とする。』

やっぱ蛾って、何でも食うんだな。蝶と比べて蛾の方が食樹や食草の領域が広い傾向が強い。蛾の進化したものが蝶だと云う説を聞いたことがあるけど、こういう食の嗜好性が広いモノの方が進化してると言えまいか❓蝶好きは蛾嫌いの人が多いから、蝶の方が優れていると思いたいんだろね。

『年に3回(4月、7月下旬~8月上旬、10月中旬頃)発生する。卵の期間は11から12日、幼虫期は摂氏20度で57日、25度で43日、30度で46日、蛹は24度で28日、30度で46日。熱帯産にもかかわらず、高温だと成長が遅い。2齢までの幼虫は2から5頭の群れを作る。』

へぇ~、年三回も発生するんだ。日本のヤママユガ科の多くは年1化のものが多く、一部が年2化だから、意外だった。まあ、南方系だから、そうなるか。だいたい南の暖かい場所の昆虫は多化性になるのだ。

参考だが、ネットの「みんなで作る日本産蛾類図鑑」のヨナグニサンの項に興味深い記述があった。

繭の写真について述べられたものだ。
『写真は与那国島のもので、中はすでに空。繭にヨナグニサンの脱出坑が無いので、コロギスに寄生された疑いが濃厚。コロギスは繭に卵を産みつけ、初齢で繭に潜り込み、ヨナグニサンの蛹を食し成虫に至る。食糧が無くなると、適当に繭を食い破り、脱出するらしい。』

コロギスってバッタ、いやさキリギリスの仲間だろ❓
そんなもんが寄生するなんて、俄には信じがたい。だとしたら、無茶苦茶に面白い。でもググっても他に関連した記事は見つけられなかった。

 
【オキナワルリチラシ Eterusia aedea】
(2010.5.27 沖縄県 与那国島)

 
与那国島に蝶採りに行った時に結構飛んでた。
綺麗だなと思いつつも蛾だからずっと無視してた。蝶好きだからといって、綺麗でも蛾はダメなのだ。

コレって、そういえば大人になって初めて採った蛾だ。でも、あまりにも綺麗なので、つい採ってしまった。
けど、採っても恐くて三角紙に翅をたたまずに放り込んで厳重に何重にも包んだ。もしも這い出してきたら、発狂すると思ったのだ。してからに、宿の冷凍庫に放り込んでもらい、完全にブッ殺したのだった。

 
(出展『yohbo.main.jp』)

 
これも綺麗だけど、岸田先生の本には凄いのが載ってるので、ソチラも添付しておこう。

 

 
配色が素晴らしい上に、メタリック。仰け反る美しさだ。

オキナワルリチラシといえば、昼間に飛んでることくらいで、詳しいことは殆んど知らない。
んなワケで、Wikipediaで調べてみた。

『スリランカ、インド、ネパール、ミャンマー、タイ、中国、台湾にかけてのアジア一帯と、日本では琉球列島から本州中部まで広く分布しており、名にオキナワとあるが南西諸島特産種ではない。ただし、南西諸島産のものは多くの亜種に細分される。また本州のうち温暖でない地域では個体数が極めて少ないため、自治体によっては絶滅危惧種としてレッドリストに掲載しているところもある。
成虫は開翅長30-35mm ほどの小さなガであるが、名にあるとおり前後翅、頭胸部及び脚に見る方向によって緑から瑠璃色に変化する金属光沢を有し、日本産のガとしてはサツマニシキと並ぶ美しいガである。ただし、体のどの部位にどのくらいの金属光沢が出るかは亜種により異なり、八重山産種は前後翅のほぼ全部が光り輝くが、本州に産する亜種は地味な赤褐色にしかならない。
オス、メスともに櫛型の触角を有する。オスの触角の櫛歯はメスよりはるかに長く、先端が扁平となり広がる。
幼虫は、ヒサカキやツバキなどを食草とする。人の手で捕えるなど、体表に何か触れると外敵から身を守るため青酸系の毒物を含んだ液体を出す習性がある。 成虫は、チョウのように昼間飛ぶことが多い。また、捕まえると胸部から青酸系の毒物を含んだ白い泡のような液体を出す習性がある。』

久米島亜種 Eterusia aedea azumai Owada, 2001
徳之島亜種 Eterusia aedea hamajii Owada, 2001
中之島亜種 Eterusia aedea masatakasatoi Owada, 2001
屋久島種子島亜種 Eterusia aedea micromaculata Inoue, 1982
八重山亜種 Eterusia aedea okinawana Matsumura, 1931
沖縄本島亜種 Eterusia aedea sakaguchii Matsumura, 1931
本土亜種 Eterusia aedea sugitanii Matsumura, 1927
奄美亜種 Eterusia aedea tomokunii Owada, 1989

ものすごく亜種があるんだね。海外にも亜種が沢山いるみたいだけど、面倒なので端折(はしょ)る。

 
【サツマニシキ Erasmia pulchella】
(出展『おきなわカエル商会』)

 
(出展 岸田泰則『世界の美しい蛾』)

 
美しくもあるが、毒々しくもある。
元々は蛾嫌いだから、偏見なんだけどもね。
でも捕まえると、コヤツも体から青酸の泡を噴き出しよるから、やっばおぞましいわい。

和名は漢字で書くと『薩摩錦』。どなたが名付けられたか知らないが、優美な名前でセンスあると思う。

コヤツもオキルリと同じく昼行性の蛾で、目にする機会は、そこそこある。だから、採ったことは日本でも海外でも何度かある。けれど、画像が一つもないので、図鑑からパクらせて戴いた。展翅もしていないから、そっちの方の画像もないのだ。
採ったものは全てどなたかに御進呈申しあげた。

ついでに岸田先生の解説文も、そのまま使わせて戴こう。

『数多くの個体変異や地理的変異が見られる。例えば後翅の白色部が拡大したものや、まったく失ったものなど様々である。幼虫は双子植物の「ヤマモガシ」を食す。生息域はインド、中国南部、インドシナ半島、台湾、日本などのアジア各地で、いくつかの亜種が認定されている。日本では近畿地方以西の暖地に生息。南西諸島のものは特に美しい色が特徴だ。』

多分、日本には本土亜種と屋久島亜種、南西諸島亜種に分けられてたんじゃないかな。海外の亜種はもう面倒臭いので割愛させて戴きやす。

 
【キオビエダシャク Milionia basalis】
(2017.6.台湾 南投県埔里)

 
台湾で採ったものだ。町中の花が咲いてる木に沢山集まってた。台湾2度目の来訪の初日だったんだけど天気が悪くて、つい採ってしまった。
メタリックで美しいとは思いつつも、蛾アレルギーなので、背中がゾワゾワで採ってた。

シャクガ科の蛾で、イヌマキの害虫として知られる。
成虫は濃い紺色に黄色の帯があり、それが名前の由来だろう。日本では南西諸島に多い蛾で、近年は九州で定着、生息域を拡大させている。おそらく地球温暖化の影響だろう。あとは南九州地方では旧武家屋敷などに生垣としてイヌマキが植えられていることが多く、それも関係しているのかもしれない。

因みに、日本では採ったことがない。
あれ❓展翅した覚えがないなあ…。
(;・∀・)あっ、展翅してないわ。多分、冷凍庫で眠ってるな。

 
【イボタガ Brahmaea japonica】
(2018.4.5 兵庫県 武田尾)

 
エゾヨツメと同じ日に採ったものだ。
運が良ければ、春の三大蛾のエゾヨツメとイボタガ、オオシモフリスズメが同時に採れる。

 
(2018.4月 大阪府箕面公園)

 
中でも、このイボタガが飛んで来るとテンションが上がる。
鱗翅類で唯一無二のスタイリッシュなデザインでカッコイイ。モノトーンの美しさの極みだろう。
岸田先生も、「国鳥」や「国蝶」があるように、もしも「国蛾」を制定するならば、このイボタガが一番の候補だろうとおっしゃっておられる。

分布は北海道・本州・四国・九州・屋久島。
日本の固有種だが、近縁なものが世界に15種類ほどいるようだ。

幼虫の食樹は、イボタノキ、モクセイ、トネリコ、ネズミモチ。近年は各地で生息数を減らしているようだ。

展翅は、まだ蛾の展翅に慣れていなかったので上翅が上がり過ぎてる。今年はもっと完璧な展翅をしてやろっと。

せっかくだから、春の三大蛾のもう1つも紹介しておくか。

 
【オオシモフリスズメ Langia zenzeroides】(2018.4.5 兵庫県 武田尾)

美しいと云うか、禍々(まがまが)しくてカッコイイ。悪の魅力に満ち満ちているのだ。

最初に見たときは、ステルス戦闘機かと思ったのを、よく憶えているよ。
デカイし、迫力も半端ない。翅はギザギザで鋭利な刃物のようだし、鈍色のネズミ色も強者の雰囲気を醸し出しておる。触角も悪魔的だ。脚は太く、クワガタムシ並みに強力で、手から剥がす時は痛い。オマケに鋭い棘があって、最初は咬まれたかと思って、メッチャびっくりした。
それに、尻を上げ、気持ちの悪い形になって威嚇しよる。

 

 

 
こんな奴、普通は気持ち悪くて触れんやろ。

頭の方に⚡雷的というか、ソリコミというか、ヤバイ系の柄まである。

 
(以上3点共 画像提供 森博司氏)

 
掴むとキューキュー鳴くしね。悪魔の落とし子かよ。
何か全てが規格外と言えよう。最初は度肝抜かれたけど、慣れたら可愛いんだけどね。

この蛾も春先の3月から4月だけに現れるものだ。
分布は本州・四国・九州・対馬。西日本に多く、中部地方から東ではあまり見られない。
幼虫の食樹はサクラ類である。

イボタガとオオシモフリスズメの事も『春の三大蛾祭り』に書いてあるので、読んでね。っていうか、コッチが主役なんだけどもね。

思った以上に長くなったので、今回はここまでにしておこう。但し、続けるかどうか気分です。

                    おしまい

 

2018′ カトカラ元年 其の16

 
   vol.16 ベニシタバ

   『薄紅色の天女』

 

 2017年 9月23日

蛾は気持ち悪くて嫌いだったけど、誰もが賞賛するムラサキシタバは一度見ておきたかった。蛾屋じゃない蝶屋の人でも、アレは別格だと言ってる人が何人かいたので前から気になっていたのだ。
そういうワケで、蝶と蛾の二刀流のA木くんにせがんで灯火採集に連れて行ってもらった。
といっても、この時はカトカラ全体に特別興味はなかった。黄色いキシタバグループなんて、どれがどれだか全然区別がつかんのである。何で人気なのかサッバリわからんかった。

 

 
場所は兵庫県の但馬地方だった。
その時にベニシタバにも会えた。ちょっとだけ嬉しかった。ベニシタバも綺麗だと云う話は聞いていたからだ。
それに、こういう色を持つ蝶は日本にはあまりいない。強いていえば、南国にいるベニモンアゲハくらいだろう。それとて裏面下翅の外縁くらいにしか紅色は配されていない。だから、実物の色をちょっと見てみたかったのだ。

ライト・トラップに2つほど飛んできたのだが、持って帰る気はさらさらなかった。ムラサキシタバでさえ、その気はなかった。所詮は蛾だからだ。蛾って、デブだし、大概は色が汚ない。夜に活動するのも気味悪いし、鱗粉を撒き散らすのも許せない。おいら、ガキの頃から蛾に対しての心理的アレルギーが強いのである。だから、写真さえ撮ってない。

ライト・トラップに飛んできたのは2頭だけで、あと1、2頭はトラップの近くをビュンビュン飛んでた。夜空をスゴいスピードで飛んでて、ちょっと驚いた。そんなに高速で飛ぶものだとは全然知らなかったのである。高速で飛ぶことで知られるスズメガと、さして変わらん。カトカラに対しての興味がそれで上がったワケではないが、アスリートの魂は刺激された。蝶採りは半分スポーツだと思ってるところがあるから、おいちゃん、空中でバチコーン💥シバくのが大好きなのである。そこに大いなるエクスタシーとカタルシスがある。

しかし、見てるだけー(;・∀・)
高さは6、7mくらいで、網が届かん。一瞬でも降りてきたら、その瞬間に電光石火で💥バチーッしばいたろかと構えていたが、全く降りてこんかった。

A木くんに、白布に寄って来たベニシタバを『記念に持って帰れば❓』と言われた。逡巡はあったが、持ち帰ることにした。折角連れてきてもらったのに、礼を欠くのではないかと思ったのだ。下手に断って、気まずくなるのも何だしね。正直、持って帰ってから捨てても、バレなきゃOKじゃろうと思ってた。

翌日、一応三角紙を開いてみた。

 

 
ボロボロだな。
こうして見ると、カトカラの鮮度の良し悪しは表よりも裏面の方がよくわかるかもしれない。

捨ててやろうかとも思ったが、折角だから展翅してみた。

 
(2017.9.23 兵庫県香美町ハチ北高原)

 
上が♀で、下が♂だ。
上翅を上げ過ぎてる蝶屋的な酷い展翅だすな。
秋田さんにボロクソ言われそうだ。
蝶は蛾みたいに両上翅の間の空間が、こんなにも空かない。蝶と蛾の一つ大きな違いだろう。全ての種がそうではないにせよ、蛾と蝶の翅のバランスは全然違うのだ。ゆえに蝶の展翅の時と同じような感覚で展翅してしまった。クセで左右の上翅との空間と触角のバランスを重視してしまうから、それに伴って上翅もつい上げてしまったのだろう。

その後、カトカラの事は完全に忘れてた。
この日は、所詮は一日限りの遊び、ヒマ潰しでしかなかったのだ。カトカラなんぞ、正直どうでもよかった。

しかし翌年、シンジュサンを探しに行った折りに、たまたまフシキキシタバやワモンキシタバが採れた。それで、少し興味を持ち始めた。小太郎くんの惹句のせいである。彼は人を乗せるのが上手い。
とはいえ、まだカトカラに完全に嵌まっていたワケではない。

   
 2018年 9月6日

翌年の9月初旬、ムラサキシタバを求めて山梨を訪れた。その数日前に兵庫県のハチ北高原にムラサキを求めて行ったのだが、惨敗に終わり、すこぶる口惜しかったのだ。負けることは大嫌いだ。だから、これを採らないと終えれないと思っていた。裏を返せば、ムラサキシタバさえ採れれば、カトカラを追いかけるのも、この年でお終いにする予定だった。外野が蝶屋じゃなくて、蛾屋だと囃し立てるのに我慢ならなかったのだ。

 

 
久し振りに青春18切符を使った旅だった。
線路の両側に広がる金色の稲穂に、何だかホッとした。
遠くへ行くのは好きだし、知らない場所に行くのも好きだ。旅人の時の自分は悪くない感じだ。キツいけど、らしい自分だと思える。きっと生来、放浪とか流浪が好きなのだ。多くの生物には、そういう遺伝子を持つ者が何パーセントかいるらしい。死滅海遊魚とかもそうだけど、そう云う一部の者が分布の拡大に寄与しているらしい。けど、だいたいがオッ死ぬけどね。所詮は死屍累々の特攻隊なのだ。

 

 
大阪駅から米原、大垣、名古屋、中津川、塩尻、甲府と乗り継いで、やっとこさ着きました。

 

 
こうして見ると、意外と東京と山梨って近いんだね。
高尾や八王子まで、あとちょっとだ。

ペンションのお姉さんに駅まで迎えに来てもらった。
このお姉さんが良い人で、後々世話になった。こういう奥さんだったら、旦那も幸せだろう。

 
【ペンションすずらん】

 
この連載ではもう、お約束みたいな画像だ。
関東方面の虫屋には知れた場所で、大きなライト・トラップが常設されている。

 
【ライト・トラップ】

 
これ又コメントは毎回ほぼ同じだ。
皆さん、もうウンザリのくだりだとは思うが、こっちはもっとウンザリなのだ。アンタらより、こっちはとうに一番に飽きとるわい。

この初日に、ベニシタバは見てる。
樹液の出ているミズナラを見つけたら、そこに来ていたのだ。

この日は蛾屋の人が二人ほどいて、その話をしたら、よく樹液の出てる木なんて見つけられたよねと褒められた。
(;・∀・)えっ❓、そんな事で褒められんの❓と思ったことを憶えてる。
批判を恐れずに言うが、蛾屋って、たいしたことないなと思った。勿論、そうじゃない人も当然いるとは思う。でも全体的にはライト・トラップに頼り過ぎな人が多すぎる。歩き回る人が少ないわ。だから、そんな弛いコメントが出てくるのだろう。

話を戻す。
結果を先に言うと、でもそのベニシタバは採れなかった。やる気というか、必死さも足りなかったのだろうが、状況が悪かった。あまり太くない木で、細い枝が沢山横から出てて、さらに周りからは他の木の枝が張り出してた。ようするに藪だ。おまけに樹液が出ている場所が少し裏側に被ってて、ブラインド気味だから視認しづらい状態だった。
まあ、それでも自信過剰な男は、何とかなると思ってた。刺激を与えて驚いて飛んだところを空中でシバく予定だった。しかし、網の先で突っついたら、あろうことか、藪の奥の方へと逃げていった。脳は反応してても、網先は1センチたりとも動かせなかった。振っても、無駄だと思ったのだ。下手に強引に振れば、網が破けかねないと判断したのである。
まあいい。ターゲットはベニシタバじゃなかったから、特に悔しいとも思わなかった。去年採ってるしね。たとえボロだろうと、一度でも採った事のあるものに対してのモチベーションは低い。そういう性格なのだ。一度、寝た女に対して急速に興味を失うのと似たようなもんだ。
それに、どうせそのうち又会えるだろうと思った。樹液が出てる木を見つけたんだから、その確率は低くない。

 
 2018年 9月9日

そのうち採れるだろうと思っていたが、翌日は姿を見なかった。そして、3日目のこの日が最終日だった。

 

 
昼間は、大菩薩峠方面にキベリタテハを探しに行ったが、惨敗。1頭たりとも見なかった。何か、よろしくないよね。流れが悪い。

昨日は、高校生の蛾屋の子に周辺を案内してもらった。他にも蛾の採り方とか道具とかアレコレ教えてもらう。前言半分撤回。蛾屋も、ちゃんとそれなりに色々工夫してるのを知ったよ。
とっておきのポイントも教えてくれた。そこは、まさかのペンションすずらんのライト・トラップの真裏の森だった。灯台もと暗しだね。
彼がトラップを仕掛けた場所は特別良い場所だとは思えなかったが、蝶屋目線のトラップの設置場所とは違っていたことには目から鱗だった。考えてみれば、夜は昼間とは全然違う世界なのだ。蝶採りのイメージでしか、物事を考えていなかったよ。

高校生が東京に帰ったので、そこにフルーツトラップをかけさせて戴いた。知らない者は知ってる者に対して、基本的に謙虚であるべきだ。彼はそこでムラサキシタバも採ったと言ってたしね。

そのムラサキシタバがやって来たと教えられた同じ木に、ベニシタバがやって来た。時刻は午後10時頃だった。

 

 
嬉しかったのか、他のカトカラは無いのにベニシタバの写真だけはあるんだよね。
これで、カトカラ元年16種類目だ。ホッとしたような記憶がある。当時は日本のカトカラは全部で31種類だったから、その半分くらいは一年目で採っておきたいなと思っていたからだろう。
とはいえ、この年はまだまだカトカラに嵌まっていたワケではない。蝶の時みたいに、日本の蝶を3年で200種類、4年で230種類以上採ってやろうとかと云うギラギラした野心は無かった。もし本気で採りたいと思っていたなら、シーズン頭のアサマキシタバを採りに行っていただろうし、ウスイロキシタバも狙いに行ってた筈だ。でも行かなかった。さらにいうと、もし真剣に取り組んでいたならば、関西では殆んど記録のないノコメキシタバ、ハイモンキシタバ、ケンモンキシタバ、ミヤマキシタバ、エゾベニシタバ辺りも狙いに行ってた筈だ。しかし、シーズン真っ只中の7、8月には甲信越方面には行っていない。行く気もさらさらなかった。マジで採ってやろうと思ったのは、カバフキシタバとシロシタバ、そしてムラサキシタバだけだったのだ。

その時に採ったベニシタバがこれかな。

 

 
♂だね。印象に無いから、たぶん♂♀とかもどうでもよかったんだろう。

上翅は去年よりだいぶ下がってるけど、まだまだ上がり気味だし、触角の整形が全然ダメだな。
当時は蛾の触角を、蝶みたく真っ直ぐにする必要性を感じていなかったからだろう。美人の代名詞に「蛾眉」という言葉もあるし、真っ直ぐじゃない方が自然だと思っていたのだ。

たまたま、上はオニベニシタバだったみたいね。

 

 
オニベニも採った時は綺麗だと思ったけど、こうして並べてみると、やはりベニシタバの方が断然美しい。
あっ、大きさは同じくらいと思ってたが、ベニシタバの方が大きいんだね。これは多分、オニベニの方がデブで重量感があるからだろう。身長は低いけど、圧が強い人がデカく見えるのと同じだ。
それにしても、オニベニの展翅が酷いな(笑)

今回も纏めて2019年のことも書いちゃいます。
疲れた人は、読むのをここで一旦やめて。あとでまた続きを読みましょうね。

 
 2019年 8月1日

青春18切符で信州方面に旅した。
これで二年連続だ。

 

 
大阪駅から米原駅まで行き、大垣、名古屋、中津川、松本と乗り換え、大糸線に入った。もう1回、信濃大町で乗り換えて、ようやく簗場駅に着いた。
11時間くらいかかっとるやないけー。青春18切符の旅も、そろそろ考えなくっちゃいけない歳だよなあ。オジサンにはキツいわ。

 

 
駅から青木湖まで歩く。
下車したのは、自分一人だけだった。遠くまで来た感、あるなあ…。

地図で見たよりも遠くて、日没間近になってやっとキャンプ場に着いた。

 

 
画像は翌日に撮ったもので、予想外の水の美しさに驚いたっけ。

慌てて一人用のテントを組立て、下見に行く。
今回の狙いはミヤマキシタバだった。ポイントを教えてくれたMくんによると、ライトトラップした時はケンモンキシタバやエゾベニシタバも飛んで来たらしい。

だが、全然下見の時間が足りなかった。ミヤマの食樹であるハンノキが沢山ある場所が見つからないうちに暗くなってしまう。
見つけたのは熊出没注意の看板くらいだ。まさか、こんな標高の低いとこにも熊が出没するとはね。(-“”-;)マジかよ。

仕方なく、湖畔を中心に糖蜜を木に吹き付けてゆく。
まあ何とかなるだろう。実力はないけど、引きだけは強いのだ。

しかし、飛んで来るのは糞ただキシタバ(C.patala)や憎っくきフクラスズメばっかで発狂しそうになる。そして、シクった感がどんどん濃厚になってゆく。

午後10時半前、やっと違うカトカラが飛んできた。
裏面から下翅が赤系のカトカラである事は間違いない。エゾベニ❓ と思った次の一瞬、下翅が見えた。
いや、薄紅色の天女だ。優雅にゆっくりと舞いながらトラップに近づいてゆく。闇の中で見るそれは、一種幻想的な光景だった。ちょっと夢まぼろしっぽい。闇夜にうろうろしていると、段々と心が通常の感覚から逸脱してくる。そもそもが、やってることオカシイよな。狂ってるわ。そう思うと、何だか笑けてきた。

トラップに止まり、下翅を開いた。鮮やかな桃色が目に飛び込んでくる。やっぱエゾベニじゃなく、ベニシタバかあ…。ベニがいるなんて想定外だったわ。
一瞬、ガックリくるが、こんなに新鮮なベニシタバを見るのは初めてだ。美しい。そして、セクシーだ。
そう思うと、テンションが上がった。それにこれを逃したら、今日の収穫はゼロだ。何としてでも採らねばならぬ。わりかし緊張感が全身に走る。

必死こいて採ったよ。
写真には、その場にヘタりこんで撮った感がある。
でもそんな事、自分しかワカンナイか…。

  

 
あっ、フラッシュ焚くの忘れてた。

 

 
でも、反対に真っ白になった。
手のひらに乗せ、今度はまたフラッシュなしで撮る。

 

 
こっちの方が質感があっていい。

そう、このピンクだ。( ̄∇ ̄)美しいねぇ。
暫し、見惚れる。

そう云えば、シロシタバが下翅を開くことをパンチラと呼んでいたのを思い出す。
純白パンティーならぬ、妖艶ピンクパンティーのパンチラだ。❤エロだね。
闇の中で、その馬鹿馬鹿しい発想にケラケラ笑ってしまう。ホント、阿呆だ。

  

 
一応、もう1回フラッシュ焚いて撮る。
こっちの方が上翅は美しく写る。明るいグレーがキレイだ。

 
(裏面)

 
裏面は、オニベニとさして変わらないね。エゾベニも多分そう変わらんだろう。

 
 2019年 8月2日

翌日、白馬村へ移動。

駅近くのスーパーで、発泡酒とカツカレーを買い、半分食ったところで、テーブルに突っ伏す。

昨日からのあまりに過酷な旅に、ドッと疲れが出たのだ。長い長い移動と残念な結果に心は擦り減っている。それに、テントの下に敷くマットを忘れたので背中が痛くてあまり眠れなかった。おまけにド・ピーカンで死ぬほどクソ暑いときてる。バロムワンのエネルギーメーターの針も、限りなくゼロに近いところを指しとるのだ。

 

 
バスで移動し、キャンプ場に入った。
狙いはアズミキシタバ。上手くいけばヒメシロシタバも採れるだろうと考えていた。

 

 
夜まで時間があるので、サカハチチョウと遊ぶ。

 

 
手乗りサカハチチョウだ。
10分以上はいた。
手乗り蝶は昔から得意。心頭滅却、良い人になれば、わりかし友達になれる。

この辺までは、まだ余裕があったんだよね。

アズミキシタバのポイントはすぐ近くだ。有名な崖下の周辺に糖蜜を吹き付ける。サラシナショウマも咲いてることだし、いい感じだ。アズミは花に吸蜜に来るというから、楽勝やんけと思った。どうせ時期的にボロだろうが、この際、採れたという事実があればよい。

しかーし、日没後すぐにベニシタバを採って間もなく、✴ピカッ⚡ゴロゴロガッシャーン❗ザーザー降り。
(-o-;)終わったな…。

 
 2019年 8月4日

🎵ズタズタボロボロ、ズタボロロ~。
泥沼無間地獄の3連敗。
昨日はヨシノキシタバ狙いで猿倉まで行くも、糖蜜に他の蛾はぎょーさん寄って来るのに、カトカラはこのズタボロのクソただキシタバだけ。ゴマシオキシタバやエゾシロシタバさえ見なかった。

 

 
泣きたくなる。こっちのハートがズタボロじゃい。

熊の恐怖と闘いつつ歩いて麓まで戻り、夜中にキャンプ場に着いた。新しい靴のせいで足を痛めてて、靴を脱いだら血だらけ。これまた地獄。これほどボコられてるのは海外だってない。

朝起きたら、テントにセミの脱け殻が付いていた。
ここまで登ってきて、羽化したのだろう。

 

 
何かバカにされたみたいで、ガックリくる( ´△`)

今日も大いなる惨敗の予感。
3日連続で連敗が続くと、ここまで弱気になるのね。初めて知ったよ。
虫採りやってて、こんなに絶不調は嘗て記憶にない。(@_@;)ぽてちーん。

白馬駅まで戻ってきた。
一昨日と同じスーパーへ行く。

 

 
今回は「デミグラスハンバーグステーキ弁当」をチョイスした。

 

 
枝豆を2鞘(ふたさや)食って、金麦飲んで突っ伏す。
ハンバーグ弁当を半分食って、再び突っ伏す。

電車に乗り、午後4時くらいに目的の駅に着く。
そこから歩いて湿原へ移動せねばならない。レンタカーを借りればよかったかなあ…。でも今さらどうしようもない。それに今はボンビーおじさんなのだ。

相当歩くことを覚悟していたが、意外と早く着いた。

 
【ハンノキ林】

 
狙いは、ミヤマキシタバ。初日のリベンジである。
ここは文献で調べた所だから、確実にいる筈である。
いなきゃ、もう呪われているとしか思えない。

宿泊施設は無いので、近くにテントを張る。

 

 
ここも熊がいるらしいから💕ドキドキもんだが、最早そんな事は言ってらんない。何も結果が出てないのだ。熊が恐くて、虫捕りがやってられっかであるι(`ロ´)ノ

広範囲に糖蜜かけまくりのローラー作戦で、1ヶ所だけヒットした。もう意地である。

ここでもベニシタバが飛来した。
日没後、暫くして飛んで来た。あとは8時台に複数頭が飛んで来た。しかし、今やどうでもいい存在だ。写真も撮ってない。どんだけ綺麗な女の子でも、結構早めに飽きるという酷い男なのである。

冷や冷やの綱渡りだったが、何とか目的を達成した。
秋田さんや岸田先生にFacebookで『マホロバ(キシタバ)を発見したから、今年の運、全部使い果たしたんじゃないのー?』と笑われていたが、これで公約通りに連敗脱出である。阪神タイガースとは違うのだ。
夜中まで粘って、テントで昏倒、💤爆睡。

その後、3日ほどいて各地を転戦し、怒濤の巻き返しをするもベニシタバは見てない。で、結局最後は力尽きて突っ伏し、帰阪した。

 
 2019年 9月2日

青春18切符の旅、再び。

 

 
今回は大阪駅から米原、大垣、岐阜、美濃太田と乗り継いで、高山までやって来た。

高山駅が改築されて、メチャお洒落になってるのに驚く。

 

 
噴水まで出よる。

 

 
でも、昔の駅舎の方が好きだ。新しい建物には風情というものがない。

 

 
バスに乗り換える。

1時間ほどバスに揺られて、やっと目的地の平湯温泉までやって来た。今回は約8時間の移動だった。

 

 
既に陽は沈んでいる。
常宿に旅装を解き、温泉に直行。
で、すかさず居酒屋でキンキンに冷えた生ビールを頼む。

 

 
 
でも、そのキンキンに冷えた生を飲んで、やる気をなくす(笑)

嗚呼、蛾採りなんかやめて、ビール飲んで旨いツマミ食って、ヘラヘラしていたい。
でも、それじゃ何しに来たかワカラナイ。重い体を引き摺って出陣。
探すはエゾベニシタバ、目指すは白谷方面。
しかし、真っ暗けー。

 

  
ここには妖精クモマツマキチョウを採りに何度か訪れているが、夜はこんなにも真っ暗だなんて予想だにしていなかったよ。

 
【クモマツマキチョウ(雲間褄黄蝶)♂】

 
【裏面】
(2019.5.26 岐阜県高山市新穂高)

 
【展翅画像】

 
そういえば思い出した。白谷では、そのクモツキ採りの時に熊の親子連れを見てるわ。つまり、此処には確実に森のくまさんがいるのである。
真っ暗だし、熊は黒い。背後から襲われでもしたら、お手上げだ。((((;゜Д゜)))ブルッとくる。

🎵ラララ…星き~れい~、とか何とか口に出して歌ってはみるが、恐い。マジ卍で熊も闇も恐い。
幸い❓なことに川沿いの道にトラップを噴きつけるのに適した木がないので撤退。温泉の反対側に行くことにした。
言っとくけど、チキンじゃないからね。いや、本当はチキンだけど、目的の前ではチキンじゃないぞ。何か言い訳がましいが、そんなに悪い判断ではなかったと思う。

午後10時半くらいに漸くカトカラが飛んで来た。
しかし、エゾベニではない。低い位置、地表近くを飛んでいたので、すぐにベニだとわかった。
けど、トラップには寄り付かず、笹藪の端をちまちまとホバリングしながら飛んでいる。見たところ♀だ。もしかしたら、卵を産みに来たのかもしれないと思った。でも近くに食樹であるヤナギ類なんてないぞ。暫く見てたが、笹藪の中に入りそうになったので、網を一閃。ゲットしてしまった。

糖蜜には他にシロシタバが1頭飛んで来ただけで、クソ蛾さえも殆んど寄り付かずだった。糖蜜のレシピを間違ったやもしれぬ。いい加減に作ったもんなあ…。
ましてやヨシノやエゾベニには糖蜜はあまり効果がないとされている。序盤から劣勢だわさ。
そうだ、ワシってキベリタテハを採りに来たのじゃ。カトカラ採りはついでだ。
そゆことにしておこう( ̄∇ ̄*)ゞ

 
 2019年 9月3日

平湯から新穂高・わさび平小屋へ。
ターゲットはヨシノキシタバとエゾベニシタバ。あとはムラサキシタバとゴマシオキシタバってところか。
ここは大きなブナ林があるし、その下部にはドロノキやヤナギ類もある。わさび平にヨシノがいると聞いたことはないけど、絶対いるじゃろうと思ったのだ。もしダメでも、このどれかは採れるだろうと読んだのである。効率重視の男なのだ。

 
【わさび平小屋】

 
この右横の奥のサイトにテントを張った。

 

 
アサマイチモンジと遊ぶ。

 

 
でも手乗り蝶をやると、前みたいにその後は悲惨な結果になるんじゃないかと云う思いがよぎった。
こういう事を思うじたい、絶不調なのだろう。らしくない。メンタル弱ってんなあ。

ここには熊が沢山いる事は周知の事実である。ワシも此処のすぐ近くで見たことがある。前日以上に恐怖に怯えながら、夜道を歩き回った。
しかし、ブナ林は不気味なまでに静かで、糖蜜トラップには何も来ん。泣きたくなる。
東日本では、糖蜜トラップがカトカラにはあまり通用しないことをひしひしと痛感する。ヨシノやエゾベニどころか、ゴマシオ、エゾシロさえも寄って来んかった。
やっぱライト・トラップが無いとアカンわ。だいぶと前に遡るけど、前言撤回。灯火採集は蛾採りには必要不可欠だ。
蛾屋の皆様、m(__)mゴメンなさい。

結局、来たのはベニ2頭のみ。

 

 
それと、なぜか標高1500mに桃色クソ蛾ムクゲコノハちゃん(註1)が複数飛来。
何処にでもおるやっちゃのー(=`ェ´=)、💧涙チョチョギレそうやわ。(*ToT)ダアーッ。

 

 
雨が降り始めたので、小屋で雨宿りする。
暗闇で飲むビールは苦かった。

                     つづく

 
追伸
雨はやがて激しくなった。
テントの下は川となり、凍えながら眠った。ボロボロの大惨敗である。
その後、1ヶ所だけ転戦して大阪に帰った。

一応、2019年に採ったベニシタバの展翅画像のいくつかを貼り付けておこう。

 
【Catocala electa ベニシタバ】

 

 

 
【同♀】

 

 
【裏面】

 
展翅もだいぶ上手くなっとる。
幾つかは『ひゅう~、完璧じゃねえのd=(^o^)=b』と勝手に自画自賛しちゃうぞ。
これからは、上翅を心持ち上げえーの、触角を真っ直ぐしいーの、やや上げえーの路線でゆきまーす。

触角に関しては、以前に蛾眉的な形の方が自然で良いだとか何だとかホザいたが、撤回。よくよく考えてみれば、生きてるカトカラの触角は真っ直ぐだと気づいたのである。つまり、むしろ真っ直ぐな方が自然なのだ。

次回、ベニシタバの種解説編の予定っす。

 
(註1)ムクゲコノハちゃん

 
同じピンクでも毒々しいなあ。
おらにとっての、ザ・蛾だよ。正直、背中がおぞける。

 

インカのめざめに瞠目せよ

 
おつとめ品の「インカのめざめ」が百円で売ってた。
だいぶと名前も浸透してきたとはいえ、まだ「インカのめざめ」のことを知らない人もいると思うので、説明しとこう。

「インカのめざめ」とはジャガイモの品種の一つである。

 
(出展『さとふる』)

 
南米アンデスでも晴れの日(お祭り)にしか食べられなかった原種に近いソラナムフレファ種を日本向けに改良したものである。その品種改良は複雑過ぎてややこしいので、ざっと云う。アンデスの原種にアメリカのジャガイモを掛け合わせ、他にもコチャコチャと掛け合わせたものだ。「きたあかり」と同じく黄色系ジャガイモにカテゴライズされる。

外見は他のジャガイモと比べて丸くて小さい。皮を剥くと黄色く、火を入れると更に鮮やかな黄色になる。味は栗とかサツマイモのような風味があり、甘い。ジャガイモの糖度は一般的に5度程度なのに対し、インカのめざめは糖度が6~8度と高いのだ。だから甘みと濃厚な味わいをもち、ねっとりした口当たりがある。黙って食べさせられたら、サツマイモと間違う人は結構多いと思うよ。謂わば、ジャガイモの概念をブチ破るジャガイモなのだ。

栽培も難しい事から、普通のスーパーではあまり出回らない高級ジャガイモとなっている。これは、小ぶりであることから大型機械では取りこぼしが多くなることや、収穫量が少なくて休眠期間が極めて短いため長期間の保存に向いていない等が原因になっている。つまり、大規模栽培には適さない品種なのだ。ゆえに生産量は限られてて、高級ってワケ。

家に帰って、早速調理の準備をする。インカのめざめは芽が出るのが早いのだ。
先ずは芋を洗う。で、皮も剥かずにレンチン。ラップの上から押してみて、軟らかくなってたらOK。出来れば途中で裏返した方が望ましい。満遍なく火が通るからだ。

取り出したら、熱々のままを包丁で十字に切れ目を入れる。ほんでもって、両手で四方からギュッと内側に押してやると、こないなようになる。火傷に注意あるよ。

 

 
右にはバターを乗っけた。お好みで塩を振ってもいい。左には塩のみを振った。

d=(^o^)=bイエ━━━━イ。
ねっとりとしていて、甘みと旨みが濃い。
何度食っても、裏切らない美味さだ。

他は、ポテサラにした。
玉ねぎを薄くスライスして、塩を振って暫くおく。
ハムはテキトーな大きさに切る。他は何にもいらない。人参もキュウリも邪魔なだけだ。ましてや、邪道のキャベツなんぞ言語道断である。

水が沁み出してきた玉ねぎをシッカリ搾って水気を切り、ハムとマヨネーズを入れて混ぜて完成。マヨネーズは好みのものでよろしかろう。
今回は邪魔だと思ったから入れなかったが、味をみて足りなかったら塩と黒胡椒を加えてもいい。出来れば味を馴染ませるために暫くおいといた方がよろし。

 

 
彩りに貝割れを飾ったが、無くてもよござんす。
コチラもジャガイモの甘さが引き立ち、美味い。
不自然な甘い味付けは嫌いだが、野菜の持っている自然な甘みは嫌いじゃない。寧ろ大歓迎。好きだ。

翌日も食った。

 

 
まだ食べたことない人は、トライすべし。そして「インカの目覚め」に瞠目されたし。

                    おしまい

 

キツネカツオ❓おまえ、誰や❓

ちょっと前の話と去年の暮れの話。

しかも去年の暮れというのは、🎄クリスマスイヴだった。
イヴ用の料理は既に仕込みが終わっていたが、白ワインかシャンパンだかを買いに行った。その帰りに、何となく『スーパー玉出』に寄ったら、コレが目に入った。

 

 
見慣れぬ結構デカい魚が半身で売っていた。
長崎産で価格は驚きの480円。しかも刺身用のシールが貼ってある。この量で、この値段は激安だろう。
でも名前を見て、首を傾げる。

キツネカツオ❓おまえ、誰や❓

である。全く聞いたことのない魚名だったのだ。
「カツオ」と名がついているからには、カツオの仲間であることは想像がつくが、そんな種類のカツオっていたっけか❓
それに、身の色はカツオみたいに赤くない。どちらかと云うとサワラに近いものがある。そこが怪しい。
だいたいキツネと云う名前が、そもそも怪しいじゃないか。キツネといえば、化かすというイメージがある。見た目はカツオと似ているが、食べてみたら全然カツオとは似ても似つかない糞マズ魚だったんで、騙されたと思った人が「キツネカツオ」と呼んだんじゃないのか❓
また、カツオと名はつくが、全く関係のない別グループの魚やもしれぬ。謂わばパチモン、偽物って可能性も充分ありうる。漁業の流通業界は信用おけないところがある。売らんが為に奴ら、深海魚や淡水魚に平気で何とかダイ(鯛)だの、銀タラ、銀ムツとかの嘘の名前をつけるのだ。謂わば、擬装が罷り通っている業界なのである。売ってるところが、またスーパー玉出というのも、ちょっと胡散臭い。よく利用はしているが、100%信用できないところがあるのだ。

あれこれ考えても仕様がないので、すかさずその場でググる。
したら、一発で出てきたよ。便利な世の中になったものだ。

それによると、キツネカツオとはハガツオの別名らしい。
なあ~んだ。ハガツオなら知ってるよ。でも、あんまし食べたことがないよな。暫し記憶を反芻する。

💡おっ、そうだ。4、5年前に対馬で食った事あるわ。メチャメチャ美味かったような記憶があるが、おぼろだ。対馬ではツマアカスズメバチにボッコボッコに刺されたし、他にもロクでもない思い出ばかりだったので、脳が記憶を消したがっているのだろう。
だから記憶違いの可能性もあるが、損しても480円だ。マズかったら、焼いてマヨネーズとか塗りたくっとけば何とか食えるだろう。ならば、ここは断然買いだろう。

取り敢えず半分に切って金串を打ち、皮目をガス火で直接焼いてやった。カツオの仲間なんだから、タタキにすりゃいいだろうと云う極めて安易な発想からである。

 

 
薬味は青ネギ、山葵、おろしニンニク。
先ずは、塩のみで食う。
( ☆∀☆)しょえー、バキ美味いやんけ❗❗❗
脂が乗ってて、旨みが強く、鼻から香ばしい香りが抜ける。ねっとりとした歯触りもよろしい。
味わいはカツオとサワラの中間的と言ったら、伝わり易いかもしれない。だけど、どっちかというとサワラ寄りかな。

醤油でも試してみたが、圧倒的に塩を推す。そっちの方がハガツオ本来の味を、よりダイレクトに堪能できるからだ。薬味も無くてもいいくらいだ。飽きたら、たまに使う程度でいい。

残り半分は、闇の食糧庫に眠っていたこんなもんをつい使ってしまった。

 

 
日本製粉のオーマイブランドのカルパッチョの素だ。
賞味期限は過ぎているけど、勿体ないから使用。
フリーズドライのトマト、ブラックペッパー、ディルなどが入っているような事が書いてある。

 

 
かけて食ってみた。
白ワインヴィネガーの風味がするな。
ても味は悪くないのだが、良くもない。さっきの塩のみと比べれば、ゴテゴテと味をつけたのに失敗してるって感じだ。素材の味を完全に殺しとる。
思うに、カルパッチョって、良い魚でする必要性があんのかな?何か勿体ない気がする。カルパッチョは、くたびれた魚や元々味があまり良くない魚を美味しくするためのテクニックじゃなかろうか❓

とにかく、これはダメ。何とかせねばならない。
オリーブオイルをブッかけて、イタリアンパセリをふんだんに散らしてやった。

 

 
まあまあかな。少しはマシになったような気がする。
とはいえ、ハガツオの良さは完全に消えている。
ん~、( ´△`)勿体ないことしたよ。

それはさておき、キツネカツオ(ハガツオ)くんの事が気になってきた。アンタ、誰?とか言った手前、知っておかねばなるまい。

ハガツオはスズキ目サバ科ハガツオ属に分類され、体長1m前後になる。

 
(出展『つりまる』)

 
カツオは勿論だが、サバにも似てるかも。

 
(出展『つりまる』)

 
歯は鋭く、顔は厳(いか)つい。
ははあーん。名前の由来はここら辺りだな。

 
(出展『旬の食材百科』)

 
Wikipediaによると、カツオに似ているが鋭い歯を持つことからハガツオ(歯鰹)と名付けられたようだ。
ドンピシャだ。まあ、それくらいは誰でも想像つくだろうから、自慢するほどの事じゃないけどさ。
とにかく歯が鋭いわ。下手に触れたら、スパッといきそうだ。歯が小さくて目立たないサバ科の中にあって、特異な存在だな。

また細長い顔つきから「キツネガツオ」とも呼ばれるんだって。コレまた納得じゃな。
それはそうと、パッケージには「キツネカツオ」とあったが、本当は「キツネガツオ」と濁るんだね。そっちの方が言い易いから、コレまた納得。

他に、背に幾筋も縦筋が入っていることから「スジカツオ」とも呼ばれている。また、関東では「トウサン」「トウザン」「ボウサン」などとも呼ばれているとある。

古くはキツネガツオ(狐鰹)が標準和名だったそうな。ハガツオは三重県、和歌山県の関西方面、長崎、静岡、高知県などでの呼び名みたい。けど、関西でも市場で見たことは一度ないぞ。

続きを読んだら、その理由も解った。

日本列島をはじめ、西太平洋・インド洋に広く生息している。回遊魚で、日本の沿岸で漁獲される時期は初夏から秋にかけてで、盛期は8月から10月。沢山穫れる時期という意味での旬は夏と言えるが、秋から晩秋にかけては身に脂がのり、味の点からすれば、その時期が旬と言える。
しかし、サバ科のなかでは漁獲量が少なく、この魚を目的とした漁は殆んど行われておらず、カツオやサバなどに混じって漁獲される。安定的に獲れないので知名度が低く、産地などでは味の良さから好んで食べられているが、消費地では知られていない魚でもある。

他のサイトでも調べてみた。幾つかのサイトを総合すると、こないな感じになる。

「旬は脂の乗る秋から冬だが、年間を通して味がいい。
鱗は無く、皮は薄く弱い。骨も軟らかい。赤みは弱く、熱を通すと硬く締まるが、カツオほどではない。卵巣も美味。だが、何といっても生食が一番美味。鮮度が良いハガツオの刺身はカツオ特有の鉄臭さが無くて旨みもあり、魚類中、最上級クラスの味である。
とはいえ、ハガツオは鮮度落ちが非常に早く、水揚げされてから翌日辺りまでしか美味しく食べられないとさえ言われている。」

かなりの高評価じゃねぇか。かえすがえすも、カルパッチョなんかにするんじゃなかったよ。激しく後悔したね。

今年に入ってからの2月11日、再びスーパー玉出で御対面あいまった。まさか、また会えるとは思っていなかったよ(´ω`)

 

 
今度は580円と、前よりも百円高い。
けど、それでもこの量なんだから安い。それに前回の失敗カルパッチョのリベンジもしたいところだ。迷わずに買う。

今回も金串に刺して、ガス火で直かに皮目を炙る。
でもって、塩のみで食う。

 
【ハガツオのタタキ】

 
相変わらず、バリうまー( ☆∀☆)
マジ、美味い。
画像には無いが、スダチを軽く搾っても美味かった。

 
【ハガツオの辛子醤油】

 
包丁で切ると、腹の周辺がバラバラになりよった。
ハガツオは身割れしやすいのだ。そう云う意味でも、カツオよかサワラに近いのではないかと思う。

それを適当に盛って、芥子醤油で食った。
サバは芥子醤油と相性がいいので、ハガツオにも合うと思ったのだ。
正解d=(^o^)=b。合うね。山葵よか、全然合うかもしんない。

 
【〆ハガツオ】

 
鯖寿司ならぬ、ハガツオ寿司を作ろうと思った。
ハガツオにたっぷりと砂糖をまぶす。えっ、砂糖?普通は塩締めでしょうよ。と思う人は多いだろうが、御心配なく。鯖寿司を作る時でもそうなんだけど、砂糖の方が仕上がりがいい。因みに、全く甘くはならないという一言も添えておこう。

皿を傾けて1時間程おくと、ピンク色の液体が下に溜まってくる。これが生臭みの素なので、本体に触れないようにして捨てて、流水で洗う。してからに、キッチンペーパーで水気を拭き、酢で〆る。酢が回り過ぎるのは嫌なので、15分程で上げる(途中で一度裏返してね)。それをラップして、数時間おく。アニサキスが恐い人は、これを冷凍庫にブチ込みなはれ。死によるで。
味が落ちるので、自分はしないけどさ。

量があるので、棒寿司にする前に少し食べてみることにした。それが上の写真である。

d=(^o^)=bいいね。
酢で〆た分、角が少しとれて、飽きのこない味になった。これはこれで刺身とはまた違う良さがあって美味い。

 
【ハガツオの棒寿司】

 
〆たハガツオの中骨を抜き、腹側の骨も取り除く。してからに酢飯と合体させて、昆布を乗せる。それをラップして、巻き簾で巻いた。ほいでもって、一晩冷蔵庫で寝かす。

分厚めに切る。
鯖寿司でもそうなんだけど、棒寿司は分厚めに切った方が旨いのだ。

大皿に盛って、南天なんかを飾ろうかと思ったが、近所の公園に取りにいくのか面倒でパス。ふた切れだけを皿に盛る。酔っ払ってるので、飾りは一切なし。

醤油をちょいとつけて食う。
(о´∀`о)どんだけ美味いねん。

 
【ハガツオの鉢寿司】

 
翌日に冷蔵庫から出したら、酔っ払ってたせいかラップが外れてて、酢飯が乾いていた。パッサパサのボッロボロである。
なので、飯部分をバラして酒を振りかけてレンチン。冷ましてから、古伊万里に盛る。その上にハガツオを切って乗せ、貝割れ大根と胡麻を散らした。

肉厚感はないが、コレはコレで美味い。結構な量があったが、全部食っちまったべよ。
今思うと、酢飯に刻んだガリを混ぜ込めば、もっと美味くなってたかもしれん。

 
【ハガツオの昆布締め】

 
それでもまだ少しだけハガツオが残った。
で、昆布に巻いて一晩寝かした。

コレまた少し味わいが違う。より昆布の旨みが移って酒の肴には打ってつけだ。
ハガツオは傷みが早い魚だと云うけれど、酢で締めたり、昆布締めにしたら、意外ともつもんだね。

ハガツオを食べる機会は中々ないかもしれないけど、出会ったら是非食べて戴きたい。まだ、季節的には出回る可能性はあると思うよ。

                    おしまい
 
 

2018′ カトカラ元年 其の15

  vol.15 ゴマシオキシタバ
  『風のように、曇の如く』

 
 
2018年 9月1日

この日は植村を焚き付け、兵庫県のハチ北へライトトラップをしに行った。狙いはムラサキシタバである。

 

 
天気は曇りで、時折霧雨が降るような灯火採集には絶好のコンディションだった。
植村の持ってきたツインターボ水銀灯ギャラクシーセットは強力で、超明るい。当然、ブラックライトも備えておるから万全の体制だ。

おまんら、ι(`ロ´)ノジャンジャン飛んでこいやー❗

とかフザけて言ってたくらいだから、もう勝ったも同然の気分だった。

しかし、蛾はアホほど飛んで来るのに、なぜかカトカラの飛来は少ない。パタラ(C.patala)だけで、ムラサキシタバどころか、ベニもシロもジョナスも飛んで来ない。
場所の選定を間違ったのかもしれん。やっぱ日没前に余裕をもって現地に着いて、設置場所を吟味して考えなきゃダメだね。

飛んで来るのは、相変わらずただキシタバ(C.patala)ばっかで、時間は徒(いたずら)に過ぎてゆく。
午後10時前後、漸くパタラとは違うカトカラが飛んできた。尖った翅の形で、すぐに分かった。ジョナスキシタバだった。
そういえばこの時は、植村が『いいなあ、ジョナス。いいなあ、ジョナス。』と連発してたんだよなあ。

その後、ライトトラップをそのままにして外灯回りに行った。
たいした成果もなく、11時くらいに戻った。
したら、植村が白布に止まっているカトカラらしき奴を見つけた。
それが人生で初めて見るゴマシオキシタバだった。

植村が『コレ、何すかね❓』と言うので、『どうせ、ゴマシオなんじゃねえの。』とぞんざいに答えた覚えがある。
正直、第一印象は、あまり特徴のないツマンねぇカトカラだなと思った。ムラサキシタバに比べれば、雑魚みたいなもんだ。
植村も初めて採ったのにも拘わらず、『ジョナスの方がいいなあ~。』と又も言っていたくらいだから、彼も多分しょーもないカトカラだと思ったに違いない。

これで少し期待したが、その後ジョナスもゴマシオも1頭も飛んで来ず、午前0時半に撤退した。

 

2018年 9月8日
 

お馴染みの「ペンションすずらん」の画像だから、今回も山梨県甲州市での話。

 

 
この日の昼間はキベリタテハを探しに大菩薩峠まで足を伸ばした。
でも、この年は大不作だったようで1頭たりとも会えなかった。

森の写真は峠の下の環境で、ブナとミズナラの混交林が広がっている。

 

 
これまたお馴染みの、ペンションすずらんに常設されているライトトラップ。
ここにゴマシオが複数飛んで来たのだが、何の感動もなかった。どうせ採れるだろうと思ってたし、ボロばっかだったせいもあるが、やっぱりどこか魅力に欠けるのだ。だからか、当時の写真は1枚もない。おそらく撮っていないのだ。

この時は4、5頭は見ている筈だが、1頭しか持ち帰らなかった。別にカトカラにまだハマっていたワケではなかったから、どーでもいい存在には興味が薄かったのだ。どーでもいい存在のボロを持って帰る気にはなれなかったのだろう。一応、採ったという証拠があればいいと云う感じだ。
その時の、それがコレ↙

 

 
展翅、下手クソだなあ…。カトカラ1年生、まだまだ上翅と触角を上げた蝶屋的なクセが出てる。

これで話は大体終わっちゃう。
実を云うと、2019年には1頭も見ていないのだ。
一応、2019年の事も書いておくか。

正直、ゴマシオを狙うと云う意識は全く持っていなかった。ブナがあるところではド普通種だと聞いていたからだ。そのうちどっかで採れるだろうとタカを括っていたのだ。
しかし、他のカトカラ狙いで猿倉、平湯温泉、新穂高左股、白骨温泉とブナがある場所に入ったものの、全く糖蜜トラップには寄って来なかった。今考えると、何でだろ❓と思う。
理由は、そもそも分布していなかったのか、糖蜜トラップに全然反応しなかったかのどちらかだろう。

但し、三角紙に入った手持ちのゴマシオは幾つか持っている。小太郎くんがくれたのだ。
白川村周辺に蝶採りに行った折りに、沢山いたのでお土産に採ってくれたのである。優しい男なのだ。
昼間、蝶採りをしていたら、驚いてジャンジャン飛ぶので、ついでに採ってきたそうだ。結構敏感で、沢山いたけど、大半はどっかに飛んで行ったらしい。

 
(2019.8.2 岐阜県白川村平瀬)

 
ずっと、放ったらかしだったが、この為に今日ようやく展翅することにした。興味の無さが見てとれるよね。

 

 
カトカラ歴二年目の終わりともなれば、上翅を下げ、触角も寝かせ気味にしたカトカラ屋の展翅になってきてる。

♂だな。
それにしても地味だなあ。
テンション、⤵だだ下がるわ。

 

 
(・。・)おっ、お次は上翅が黒い個体だ。
中々にカッコイイじゃないか。
ワザと上翅を少し上げた蝶屋的展翅にしたけど、正解だったかもしんない。黒っぽいだけに、ちょいワル感が出てて、コレはコレで有りだとは思うけどね。

展翅する前は横から見て腹が短いから♀だと思ったけど、展翅したら♂に見えてきたぞ。どっちだコレ❓

 

 
横から見て、コヤツは腹がもっと短いし、間違いなく♀だと思ったんだよね。けど展翅してみたら、やはり腹が細い。だいたい♂にしても、腹先にあまり毛束が生えてないんである。カトカラの仲間の♂は、大概が腹先に毛束が多めに生えている。それで大概は判別できるのだ。
♀はまだ卵を持ってないから、腹がパンパンに膨らんでないのかなあ?
まさかコヤツも♂だったりして…。

 

 
コレも横から見て腹が短いから♀かなと思ったけど、微妙。ワケ、わかんねえや(◎-◎;)
どいつもコイツも上翅が汚いし、雌雄はワカランし、段々腹立ってきたよ( ̄皿 ̄;;

  

 
コレは腹が長いから、絶対に♂だな。腹先の毛も少し多めなような気がする。

どれも鮮度は悪くないのに、やはり魅力に欠けるなあ。大半の個体が上翅にメリハリが無くて、ベタだ。もしも、最も見た目がツマンナイ黄下翅(キシタバ)選手権があったとしたら、間違いなく上位に食い込むね。変異が無いと、ホントつまらんカトカラだな。
展翅も、ぞんざいになってきたわ。体が縒れてるけど、もういいや。なおしません❗
よし、次はもう少し見栄えよく展翅してみよう。

 

 
触角を段階的に上げてきて、ザ・蝶屋風の展翅にしたった。
少しは上翅の柄はマシだけど、こんなもんか…。

あっ、裏展翅したのを忘れてた。

 
(裏面)

 
脚も整えて、完璧してやろうかとも思ったが、たかだかゴマシオなので、やめた。

それにしても何か今イチだ。下翅の内側が擦れてる。
一応、他からも画像を引っぱっとくか。

 
(出展『日本のCatocala』)

 
西尾規孝氏の『日本のCatocala』の標本写真をトリミングしたもの。この図鑑は唯一裏面の画像も載せてくれている図鑑だから助かる。
でも自分の写真の撮り方が悪いせいか、実物より黄色く写っている。
まっ、いっか。んな事よりも斑紋の方が大切だ。それさえ見比べらればいい。あとは雰囲気さえ解ってもらえればええやろ。

さてとー。そろそろ解説編、始めますかあ。

 
【学名】Catocala nubila Butler, 1881

最初に学名を見た時は「nubile」に見えた。
nubileといえば、英語だと性的魅力のある女性とか色気がある女性という意味だ。ようするにエロい女のことである。
だから、(|| ゜Д゜)えぇーっと思った。
記載者のバトラー(Butler)って、ゴマシオキシタバの何処に色気を感じたのだ❓変態じゃねえの❓と思った。しかもマニアックな。
でも、nubileには「年頃の、結婚適齢期の」という意味があるのも直ぐに思い出した。にしても、ゴマシオにつけるには、とても相応しいようには思えない。やっぱり、このロリコン爺じいめっがっ(# ̄З ̄)❗と思ったよ。

しかし、よ~く見ると綴りが違う。最後の文字は「e」ではなくて「a」で終わってる。何だかホッとしたような、ツマンナイような妙な気持ちになったよ。エロ爺じいの性的歪みを暴いてやろうと思ったのにぃー。

お決まりの平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』には、同じ学名のものは載っていなかった。
ゆえに仕方なく、ネットで探す。アタマから苦労してるなあ…。

で、出てきたのが、Post nubila Phoebus.(ポスト・ヌービラ・ポエブス)。これがズラズラズラーッと並んでた。どうやら有名な言葉のようで、諺(ことわざ)の定番らしいね。

少し長くなるが、説明しよう。
「post」は対格を支配する前置詞で「後、後ろに」という意味。英語でいえば「behind」と「after」の2つの意味を持ち併せてる言葉のようだ。
「nubila」は中性名詞の nubilum「雲・雨雲」の複数主格/呼格/対格。
「Phoebus」は、太陽神アポロと太陽の2つの意味を持っている。
動詞は省略されているが、estを補うと「雲の後(あと)の太陽」もしくは「雲の後ろにある太陽」という意味になり。これを日本語風に勝手に意訳すると「雨(曇り)のち晴」とか「雨降って地固まる」って云う辺りになる。
さらに意訳すれば、今はどんなに不幸であっても、いつか必ず光が射す。未来に希望を持とうではないか。「人生、苦あれば楽あり」みたいな感じだすな。

他に、nubilaで出てくるのは、キューバロックイグアナの学名「Cyclura nubila」である。キューバに棲むイワイグアナの1種だ。
ゴマシオキシタバと何か共通点がないかと探してみたが、残念ながら見つけられなかった。

nubilaは「雲」もしくは「雨雲」って云うことでいいのかな❓
となると、何ゆえバトラーはそのような学名をつけたのだろう❓
あっ、ヤバイ。こないだ変なとこに足を突っ込まないようにしようと誓ったばかりなのに、またしても泥沼迷宮になりかねない。しかも、まだ解説欄を書き始めたばかりじゃないか。嫌な予感がするよ。

考えられうるのは、先ずは上翅の斑紋だろう。その斑紋をバトラーは、雲に見立てたのではあるまいか。
あー、また始めちった。
しかし、ゴマシオの上翅だけが特別に雲の柄というワケでもない。他のカトカラだって、雲と見れば雲みたいな柄なのは沢山いる。名付けた理由としては弱い。説得力にやや欠けるし、決定打とまではいかない。

次に候補として浮かんだのが生息環境。ゴマシオの棲息場所は主に食樹のあるブナ林帯だ。ということは、標高1000m以上で、上は1500~1600mくらいだろう。そうなれば、雲や靄(もや)が掛かることも多かろう。悪くない理由だ。しかし、これも弱いっちゃ弱い。ゴマシオだけの特性だとは言えないからだ。それくらいの標高を中心に生息するカトカラは他にも幾つかいるのである。

三番目は「Post nubila Phoebus.」という諺だ。ラテン語なんだから、きっと古い諺の筈。バトラーが生きていた時代にもポピュラーで、誰しもが知っていたものと推測される。この馴染みのある諺とリンクさせたとかは考えられないだろうか❓
けど、どうリンクさせんの❓
ダサいカトカラだから不憫に思って、そのうちに良い事あるよと優しい気持ちを込めてつけたとか?
それは理由としては流石に苦しいなあ。コジツケにしても無理が有りすぎる。
ならば、ギアチェンジ。想像力をフル回転させよう。

来日したバトラーは採集に出掛けたものの、悪天候によりブナ林帯の山中で何日も停滞を余儀なくされた。その間、めぼしい採集品は殆んどなかった。数日後、やがて天候が回復し、その最初に採れたのがこのゴマシオキシタバだった。雲の如き上翅をそっと持ち上げると、下から明るい黄色が目に飛び込んできた。まるで雲に隠れていた太陽が顔を出したかのようだった。
それに感激したバトラーは「Post nubila Phoebus」の言葉の一部を、この蛾の学名に宛てましたとさ。
というのは、でや(・。・)❓
想像力が逞し過ぎるか(笑)。

これ以上踏み込みたくないけど、ちょっとだけバトラーさん本人についても調べてみよっと。

Arthur Gardiner Butler(アーサー・ガーディナー・バトラー)。
生没年 1844年6月27日~1925年5月28日
イギリスの昆虫学者、クモ学者、鳥類学者。大英博物館で鳥類、昆虫、クモ類の分類学を研究した。

( ̄O ̄)ほおーっ。生没年からすれば、ゴマシオキシタバの記載は1881年だから、37歳の時の記載なんだね。思ってた以上に若い。変態ジジイじゃなくて、変態オヤジだな。あっ、失敬。語源はエロい女じゃなくて、雲だったね。スマン、スマン。

バトラーといえば、蝶の図鑑を見ていると、やたらと記載者にその名前が出てくる。数えてないけど、たぶん日本の蝶の記載数はバトラーがトップだろう(註1)。

ネットサーフィンをしてたら、そのワケとゴマシオキシタバを解き明かす鍵となりそうなものを見つけた。
『佐賀むし通信19 日本産蝶の命名者のプロフィル(註2)』の中に、以下のような記述があった。要約しよう。

「バトラーは大英博物館で Fenton、その他の日本在住の採集家や旅行家によって送られてきた材料を記載していた。1876年、石川千代松が採集したミスジチョウの標本が1頭しかなく、Fentonが石川千代松が写生した図だけをButlerに送ったところ、Butlerはその図をもとに、Neptis excellens と命名記載した。このexcellensは図が優れていると云う意味からの命名である。
中略。
これが、のちに実物を見ずに図だけで新種を記載したと問題になった。また明治期に来朝した英国のPryerは、Butlerは博物館的分類学者であると、鋭い批判を加えている。」

ようするに、これはバトラーはフィールドに出ずに記載をしていたと云う批判である。
又この文章には、江崎悌三博士が明治の初期に活躍した来朝(来日?)外人に興味をもち、優れた記事を多く書いている(『江崎悌三著作集』1984)とあるが、バトラーが来日したような事は一言も書いていない。Fenton、その他の日本在住の採集家や旅行家によって送られてきた材料を記載していたとも書いてある事からも、おそらくバトラーは、日本には来日していないものと思われる。
だとするならば、バトラーは日本での生息環境を知らずに名前をつけていたと云うことになる。つまり、バトラーは棲息環境を見て名付けたという仮説は成り立たない。もちろん三番目のワタクシが想像力を駆使した物語風仮説も成立しえない。
となると、残るは一番最初の、上翅の斑紋からのネーミングであるというシンプルな仮説だ。
よし、今一度、そこに立ち返ってみようではないか。

(ФωФ)🎵ニャニャニャニャニャーニャニャ、ニャンカニャンニャンニャーニャニャ、ニャンニャンニャーニャニャ、ニャンニャカニャンニャンニャー🎉
🎊ども~、今回もニヒルでお茶目なカトカラ探偵、白毫寺伊賀蔵の登場だぁーす。京極堂の如く(註3)、ホイホイ解決しまっせ、しまくりまっせの憑き物落としじゃ❗

バトラーってさあ、他にも日本のカトカラを記載してるよね。一応、彼が記載した日本の他のカトカラとその記載年を洗い直してみよう。
シロシタバ(1877年)、ミヤマキシタバ(1877)、ノコメキシタバ(1877)、ジョナスキシタバ(1877)、ワモンキシタバ(1877)、ヨシノキシタバ(1881)、マメキシタバ(1885)と7種もいる。このうちゴマシオの記載年である1881年よりも以前の記載は、シロ、ミヤマ、ノコメ、ワモン、ヨシノである。

石塚先生、毎回パクりまくりですが、又もや『世界のカトカラ(註5)』から画像を拝借させて戴きやんす。すんません。

 
上記にあげた各種カトカラの上翅を並べてみよう。

 
(シロシタバ)

 
(ミヤマキシタバ)

 
(ノコメキシタバ)

 
(ワモンキシタバ)

 
(ジョナスキシタバ)

 
(ヨシノキシタバ)

 
そして、最後にゴマシオくん。

 
(ゴマシオキシタバ)
(以上全て出展『世界のカトカラ』)

 
(ー_ー;)う~ん、こう云うのって人によりけりで認識の差がありそうだけど、これらの上翅の柄を見比べてみれば、ゴマシオが一番雲っぽいかもしれない。というか曇天、曇り空っぽい。前翅の斑紋が明瞭でない個体が多く、ベタでメリハリがないのだ。雲と考えれば、どの種も雲に見えるが、曇り空と考えれば、ゴマシオが最もそれに合致しているのではなかろうか。

それにだ、別な観点でこうとも考えられはしまいか。
のちに詳細は後述するが、ゴマシオキシタバはカトカラの中でも特に上翅のデザインのバリエーションが豊富な種なのだ。変異の幅が広いのである。つまり、バトラーは日本から送られてきた複数のゴマシオキシタバの標本を見て、そのバリエーションの多さに驚いた。そこに、雲の如く変幻自在に変わる様を感じたのではないだろうか❓そして「nubila=雲」と名付けた。

こんなもんでどうかね❓、金田一くん。

半分、やっつけ仕事みたいなもんだが、もうウンザリなのだ。ゴマシオに対しての愛がないから、この辺で幕を下ろさせていただく。

 
【和名】
ゴマシオといえば、胡麻塩。あの御飯にかけたり、🍙おにぎりに乗ってるアレだよね。
日本人なら誰もが知っている、焼き塩と炒った黒ゴマを混ぜ合わせた定番のふりかけの1種だすな。
あとは考えられるとしてら、坊主頭に白髪とかが混じったゴマシオ頭のこってすな。ヒゲなんかも白髪混じりだと、ゴマシオ髭なんて言ったりもする。ようは黒と白が点々で混じるものの喩えとして使われる言葉だ。
他は言葉的に、どう考えてもないな。ならば、語源は、そのどっちかだろう。
ふりかけのゴマ塩は黒と白のコントラストがハッキリし過ぎているし、名付けられた時代に調味料としてゴマ塩があったかどうかも怪しい(註4)。あったとしても、今ほどポピュラーなものではなかったろう。
上翅の柄からすると、ゴマシオ頭のゴマシオの方が近いし、多分そっちのゴマシオ起源なんだろな。それでいいと思う。

まあ、和名として、それってワカンなくもないんだけど、クールに言うとダサい名前だよな。名前だけ聞いて、それが良い虫だとは絶対思えないもん。どう足掻いても脇役の名前で、メインキャラであるワケがない。ネーミングって大事だと、今更ながらに思うよ。
かといって、他に良い名前が浮かばないのも確かだ。たぶん、名付けた人も苦し紛れにつけたんだろな。同情するよ。それだけこのカトカラには、コレといった特徴がない。そりゃ人気も出んわな。東では普通種みたいだし、雑魚扱いになってるというのも解るわ。

 
【変異】
前翅斑紋の個体変異が激しく、多様なんだそうな。

 
(出展 石塚勝己『世界のカトカラ』)

 
上のなんかは黒化型みたいなもんなのかな❓
変異を沢山見ているワケではないから、よくワカンナイ。

翅の中央が黒化する型もいる。

 
(出展『世界のカトカラ』)

 
こう云う型を、f.fasciataと呼ぶそうだ。
ふ~ん、型にまで名前が付いてるんだ。
これはカッコイイかもね。

「fasciata(ファスキアタ)」はラテン語で「縞模様とか「ストライプ」を意味する。生物の学名としてはわりかしポピュラーな方で、蝶や蛾の他にも植物とか貝とかにも使われている。
そういや「包帯」なんて意味もあったな。そう考えれば、この型の上翅はまさしく包帯みたいだもんね。

んっ❗❓、でも、f.fasciataの前の「f」って何だ❓ 最初はシノニムなのかな?と思ったが、属名の「Catocala」の略ではないし、亜種のシノニムにしても「nubila」の頭文字の「n」の略でもない。
やめとこ~っと。こんなの調べ始めたら、ロクな事ない。たかが、型の1フォームにズブズブになってたまるかである。

ワオッ❗スゴい異常型もおる。

 
(出展『世界のカトカラ』)

 
ここまでくると、もはやパッと見では、どのカトカラの異常型なのかもワカランわ。
因みに、何故か九州では変異幅が小さいそうだ。

亜種は記載されていないようだが、極く近縁な種が中国にいる。

 
【Catocala ohshimai タイリクゴマシオキシタバ】
(出展『BOLDSYSTEMS』)

 
ゴマシオよりも後翅黒帯が発達する傾向があるという。

また中国・四川省には、やや大型のジョカタキシタバ という近縁種もいる。

 
【Catocala joyokata ジョカタキシタバ】
(出展『世界のカトカラ』)

 
石塚さんが2006年に記載した極珍のカトカラ。
『世界のカトカラ』が刊行された2011年の時点では、Holotypeの1♂しか知られていない。ボロしか載せられていないと云うことは、それだけ珍品度が高いことを示している。他にキレイな個体は無いということだ。但し、ボロボロなのは9月に採集されたものだからみたい。発生は7~8月だろうと推察されている。
記載論文は読んでいないが、四川省北部の標高4500mの高地(宝山?)で得られたようだ。飛んでもねぇ高さだ。そういうのって、浪漫を掻き立てられる。調べた限りでは、他の個体の画像は見つけられなかったから、今も珍品の座にあるのかもしれない。

参考までに言っとくと、DNA解析の結果ではアズミキシタバ(Catocala koreana)に近いようだ。両者の見た目は全然似てないから、ホントかよー❓と思う。DNA解析って、どこまで信じていいのかワカランよ。

 
【開張(mm)】

『原色蛾類図鑑』には、50~57㎜とあり、『日本産蛾類標準図鑑』には、50~62㎜内外とあった。
手持ちのものを計ったら、一番大きなもので58㎜。あとはだいたい55㎜前後だった。

 
【分布】北海道、利尻島、本州、四国、九州

日本の特産種とされているようだ。
北海道ではブナの北限である南西部に多いが、ブナの自生していない東側でも散発的な記録が各地にある。この事からも移動性が高い種だとされるのだろう。日本での北限記録は利尻島、南限は九州の霧島山塊(高隈山)とされている。
本州では中部以北に多い。西日本では、ブナ林が少ないことから分布は高所に限られる。しかし棲息地では個体数が少なくないようだ。シロシタバなど、九州では珍品になるカトカラが多いが、このゴマシオだけは比較的多く採れるみたいである。

四国では、愛媛県石鎚山成就杜、高知県手箱、香川県大滝山、徳島県剣山など全県に記録がある。剣山見越付近(標高1500m)では、本種の発生量はカトカラの中では少なくなく、成虫が見られる期間も一番長いようである(「四国の蛾の分布(Ⅲ)」増井 1978))。
ゴマシオって、発生地では何処でも多いカトカラなのかなあ…。

近畿地方では記録が少なく、『ギャラリー・カトカラ全集』では大阪府と京都府に記録がない。ザッと調べたところ、和歌山県では田辺市に記録があり、奈良県でも上北山村大台ヶ原に記録があることから、紀伊半島南部のブナ帯には広く分布しているのかもしれない。
滋賀県での記録は拾えなかった。だがブナは豊富にあるので、分布はしているだろう。確実に産するのは兵庫県で、西播北部,但馬のブナ帯に分布している。
中国地方でも全県に記録があるようだ。
何か面倒くさくなってきたので、分布図を貼り付けておく。

 
(出展『日本のCatocala』西尾規孝)

 
おいおい、近畿地方に空白地帯が無いぞ。
『世界のカトカラ』の分布図ではどないなっとんのやろ❓

 
(出展『世界のカトカラ』)

 
一見、かなり違うように見えるが、こちらは県別の分布図であることに留意されたし。
見ると、こっちは大阪府と京都府は空白になっている。
この2つの分布図に対しては特に言及はしない。まっ、いっかなのだ。ゴマシオの分布概念が解りゃいいだろう。

日本の固有種だが、国外にも記録がある。朝鮮半島、鬱陵島、ロシア南東部、樺太などだが、偶産的な扱いになっているようだ。これはブナ属の植物が、これらの場所には無いからだと思われる。
しかし、鬱陵島(ウルルン島)の記録は偶産ではない可能性もあるようだ。
朝鮮半島から東、沖合い約130kmに位置するこの島には、ブナ属が自生しているらしい。島の最高峰は聖人峯(ソンインボン 성인봉)で、標高は984mというから、ブナが生えていてもおかしくないよな(註6)。

 
【レッドデータブック】

香川県では、絶滅危惧II類に指定されている。

 
【成虫出現月】

成虫は7月の上旬から出現し、11月上旬まで見られるが、新鮮な個体が得られるのは8月中頃まで。9月以降に見られる個体は翅の損傷が激しい。

 
【生態】

ろくに自分では採っていないワケだから、独自の知見はない。ほぼ他人の文章からのパクりであることを御断りしておく。

本州では、主に標高900m程度の山地から標高1700m程度の亜高山帯に見られ、ブナ帯では最も多く見られるカトカラである。
ただし本種はブナやイヌブナが全くない場所やブナの生育していない低地でも採集されることがよくあり、かなりの距離を飛翔すると考えられることから、強い移動性を持つ種と位置づけられている。特に9月中旬を過ぎると移動性が高まり、低山地だけでなく、時には市街地でも見つかるという。

夜間、灯火によく集まり、東日本では多数の個体が飛来することがしばしばある。東北地方では、一晩に数百頭ものゴマシオが押し寄せたこともあるらしい。
主な飛来時刻は分からない。けれど、特に言及されているものは見ないので、時間にあまり関係なく飛来するのだろう。
また、盛夏に灯火採集をすると、標高2700mの高地でも多数が飛来することがあるそうだ。そういう日は、下界が猛暑日である事が多いという。おそらく暑さを嫌って移動するのではないかと推測されている。

樹液にも集まるというが、『日本のCatocala』で、西尾規孝氏は低地でクヌギの樹液に来ているものは観察したことはあるが、ブナ帯にいる成虫の餌は観察していないという。
ネットで、樹液や糖蜜・果物トラップに飛来した例を探してみたが、青森県での、ダケカンバの樹液での吸汁例しか見つけられなかった。
自分も吸汁しているのを見たことがない。2018年 山梨県甲州市の大菩薩山麓の標高1200~1400mでは、2本のミズナラから樹液が出ていたが見ていないし、果物トラップにも寄って来なかった。高校生が糖蜜を撒いていたが、そちらにも飛来は無かった。
2019年は、長野県の猿倉荘周辺、白骨温泉と岐阜県平湯温泉、新穂高左股わさび平小屋周辺で糖蜜トラップを撒いたが、やはり1頭たりとも見ていない。もしかしたら、1000m以上の比較的高標高地では、あまり餌を摂らないのかもしれない。西尾氏も他のカトカラの解説欄で、そのような旨のことを書いておられる。
或いは、灯火にあまり集まらないカトカラがいるように、樹液や糖蜜にはあまり集まらないカトカラなのかもしれない。
但し、西尾氏は「(ゴマシオキシタバの)成虫を解剖すると、白い糖の液体が入っているので花蜜か甘露を摂食していると推定される。」とも書かれている。
じゃあ、何を栄養にしているのだ❓
因みに、図鑑の中の「日本産Catocala 成虫の餌」という表のゴマシオキシタバの欄には、樹液の項のみにしか○がなく、花蜜の項など他は空欄になっていた。つまり、花への飛来も観察されていないと云うことだ。謎だわさ。

真面目にゴマシオなんて採ろうと思っていなかったから、真剣にトラップで狙ったワケではない。正直、今でも別に採りたいとは思わない。だって、全然魅力がないんだもーん。
とは云うものの、気にはなる。一度、多産地で糖蜜やフルーツトラップを使って実験しないといけんね。
でも、それって誰か今まで実験したことないのかね❓
無いとしたら、驚きだよな。

成虫は日中、頭を下にしてブナなとの樹幹に静止している。静止場所は暗い場所が多い。わりかし敏感で、驚いて飛び立った時は10~30mほど飛翔して樹幹に上向きに着地し、暫くして下向きになる。

西尾氏が解剖した結果、交尾は羽化後、間もなく行われると推定されている。

 
【幼虫の食餌植物】

ブナ科ブナ属 ブナ・イヌブナ。
クヌギが代用食になると云う記録があるようだ。

一応、ブナとイヌブナについて解説しておきます。

ブナ(山毛欅、橅、椈、桕、橿)。
学名:Fagus crenata。 
日本の北海道南部から九州南部に分布。都道府県でブナが自生していないのは千葉県と沖縄県のみ。落葉高木広葉樹で、温帯性落葉広葉樹林の主要構成種であり、日本の温帯林を代表する樹木。

 
(ブナの分布図)
(出展『東北森林管理局』)

 
本州中部では、ほぼ標高1000~1500mまでの地域がブナ林となる。日本の北限のブナ林は、一般的には北海道黒松内町のものが有名であるが、実は最北限のブナ林は隣町の寿都町にある。また、日本のブナの離島北限は奥尻島である。一方、南限のブナ林は鹿児島県高隈山にある。

 
イヌブナ(犬橅)。
学名:Fagus japonica Maxim。
岩手県花巻市以南の本州、四国、九州に分布し、一般にブナよりも温暖で雪の少ない土地を好む。中部地方より寒さの厳しい地域の日本海側では、ほとんど見られない。和名はブナより材質が劣ることから名付けられた。

 
(イヌブナの分布図)
(出展『神戸の自然シリーズ10』)

 
今一度、ブナとイヌブナの違いを整理しよう。

ブナの樹皮は「シロブナ」と呼ばれる事もあるほど樹皮は白っぽくて美しい。樹高は30mほどになり、北海道~鹿児島に分布する。
一方、イヌブナの樹皮は別名「クロブナ」と呼ばれる事もあるほど樹皮は黒っぽく、ザラついた感じ。樹高は25mほどになり、岩手県より南の太平洋側、四国、九州に分布する。

 
(ブナの幹)

 
(イヌブナの幹)
(出展 2点共『Quercusのブログ』)

 
ブナは見慣れているが、イヌブナはこんな幹なんだね。知らなかったよ。
この「Quercusのブログ」というサイトは詳しくて優れているから、葉っぱとか他は、そっちで見てね。

 
(ブナとイヌブナの分布図)
(出展『黒松内町ブナセンター』)

 
一応、他の主な違いも書いておこう。

①葉脈の側脈の数
 ブナ=7~11対
 イヌブナ=10~14対
②葉の質感
 イヌブナの方がやや葉質が薄い
③葉の裏
 ブナ=脈と縁以外は、ほぼ無毛
 イヌブナ=細くて柔らかい長い毛が生える

 
【幼生期の生態】

ここは今回も西尾氏の『日本のCatocala』に全面的にお助けもらおう。
幼虫は壮齢木から大木まで見られる。終齢は6齢で、室内飼育では稀に7齢にまで達するという。これには少し驚いた。多くのカトカラの幼虫の終齢は5齢だからだ。しかも7齢に達するものまでいるというじゃないか。変な奴だな。
野外での幼虫の色彩は、やや緑色を帯びるものや淡色化する個体などがあるくらいで、変異は微少。
多くのカトカラの幼虫が色彩変異に富むから、これも変わっている。
昼間、幼虫は伸びた枝の先の方に静止しており、時に地上10数メートルの高さにいる個体も観察されている。樹幹には降りてこないそうである。

蛹化場所については知られていないが、おそらく落葉の下で蛹化するものと考えられる。でも変な奴だから、変なところで蛹化しているかもしれない。

                    おしまい

 
追伸
ソッコーで終われる回だと思っていたが、解説欄が長くなってしまい、結局長文になってしまった。
今まで記載者なんて気にならなかったのに、前回のオオシロシタバ、いや、その前のエゾシロシタバ辺りから気になり始めてドツボにハマってる。よろしくない傾向だ。

今回のタイトルは、決めるのに随分と時間がかかった。書いている途中もコレといったものが浮かばなかったのだ。
で、つけた最初のタイトルは『胡麻塩少将』。大将には役不足だし、少将にしといた。それに、どっかでゴマ塩を少々ふりかけてぇー的な駄ジャレもカマしたろかいなと考えていたしね。
次に暫定タイトルになったのが『曇りのち晴』。
これはもうお分かりだろう。ラテン語のことわざである「Post nubila Phoebus.」がモチーフだ。
で、その次が『あの雲のように』。イワ(岩)イグアナの件(くだり)で、猿岩石のヒット曲『あの白い雲のように』がピーンと浮かんだのだ。
作詞は藤井フミヤ、作曲は藤井尚之の元チェッカーズの藤井兄弟。プロデュースは秋元康という豪華ラインナップ。曲も風を感じる浪漫溢れる良い曲だ。
この時代の後に一旦消えたけど、有吉も出世したなあ…。
でも「白い」と云う部分の替わりとなる他の言葉が思いつかなかったので却下。ゴマシオキシタバって、どう誤魔化したって、白くないんだもん。まさか「ドドメ色の雲のように」とか「胡麻塩色の雲のように」とは付けれんだろ。だいたい胡麻塩色って、どんな色やねん。
で、そこからマイナーチェンジして『雲の如く』になり、それに落ち着いていた。
しかし、記事のアップ直前に突然閃いて『風のように、曇の如く』に変えた。ロマンがあって、ちょっとカッコいいんでねえの?と思ったのだ。それによくよく考えてみれば、ゴマシオは生まれた場所から離れて遠くへと移動する事が特徴の一つのカトカラだ。きっと、風のように旅するのだろう。
目を閉じ、ゴマシオが風に乗って旅する姿を想像する。なかなか素敵な光景だ。そこには、それぞれの物語があるに違いない。
くれぐれも鳥には気をつけてね。
頭の中で飛ぶゴマシオくんに向かって、そう呟いた。

 
(註1)日本の蝶の記載数はバトラーがトップだろう
佐賀むし通信によると「原色昆虫大図鑑1(蝶蛾編) 北隆館1962)に掲載された211種の蝶の学名の命名者を調べてた結果、多い順から記すと、Butler 38、Fruhstorefer 26、Matsumura 23、Linné 14、Ménétriès 9、Shirôzu 6、C.et R.Felder 6となるそうである。
バトラーさん、断トツである。
 
(註2)プロフィル
資料の原文にはそうあった。間違いか誤字脱字、誤植だろう。でも、これってプロフィール?それともプロファイル?どちらの間違い?

 
(註3)京極堂の如く
京極夏彦の推理小説、京極堂シリーズ(百鬼夜行シリーズ)の終盤に主人公の中禅寺秋彦(別称 京極堂)が、憑き物落としの名の下に「この世には、不思議なことなど何もないのだよ」と言って、事件を鮮やかに解決してゆくこと。電話帳みたく分厚い本で、長々と綴られた文章を読み続ける苦痛のあとにやっと来るそれは、大いなるカタルシスとなっている。

京極さん、いつになったらシリーズの新作『鵺の碑』を出してくれるのかしらね?次回のタイトルを予告してから、もう10年以上も経つぞ。

 
(註4)胡麻塩ふりかけの起源
調べたところ、御飯に塩を振りかけて食べるようになったのは16世紀に「焼塩」が作られるようになってからのことであり、そのバリエーションとして「ごま塩」や「しそ塩」などのふりかけが誕生したと考えられている。
起源は、かなり古いのだ。戦国時代の武将たちは、にぎりめしに胡麻や塩、昆布、または味噌などを混ぜこんで戦場食としていたそうだ。「ごま塩」というふりかけのルーツとは言い難いところもあるが、ひとつの組み合わせとして「ごま」と「塩」が「ごま塩」になるきっかけになった可能性はある。ただ、当時から「ごま塩」と呼ばれていたかどうかは分からない。

でも、ここまでしか分からなかった。胡麻の歴史も塩の歴史も数多の文献があって知ることができるが、ごま塩の歴史に関する情報は殆んどなかったのである。

余談だが、市販品は塩が顆粒状になってゴマと混ぜ合わせられている。これは塩が小さい粒のままではゴマと比べ小さく、比重も大きいため。つまり、次第に塩が下に沈み、振ってもゴマのみが出てくることになるからである。塩を顆粒状にすることでゴマと比重を同程度にし、均等に出てきやすくしたんだね。賢い。

ついでに言っとくと、「胡麻塩頭」は、ふりかけのゴマ塩が起源なんだそうな。塩の白とゴマの黒との対比から、白と黒が混じったものの比喩に用いられ、白髪混じりの黒髪の頭髪を「胡麻塩頭」と呼ぶようになったそうだ。

 
(註5)世界のカトカラ
石塚勝己さんの世界中のカトカラを紹介した図鑑。日本のカトカラの入門編としても優れた内容になっている。

 
(発行元 むし社)

 
(註6)鬱陵島のブナ
タケシマブナ Fagus multinerというブナが自生しているみたい。因みにタケシマはあの韓国と領土問題で揉めてる竹島のことではないようだ。別な竹島みたいだね。

 

ポテチ熱愛主義者の呟き

 
隠していたワケではないが、ポテチ好きである。
熱愛主義者と言ってもいい。だから、新しい味のポテトチップスが発売されてるのを見ると、心がザワつく。

 

 
湖池屋のプライドポテトシリーズの『食塩不使用 芋まるごと』である。

裏を見ると、何か色々と蘊蓄(うんちく)が山盛り全面に書いてある。
左側には、こう書いてあった。

「創業当時の想いを込めて、まるで料理を作るように。」という前置きがあって、更に続く。
「新プライドポテト製法」で、また一歩、理想のおいしさに近づきました。老舗・湖池屋のプライドをかけた本当に美味しいポテトチップスです。」

まだ何か書いてあると思ったら、今度は新プライドポテト製法について書かれてあった。

1.日本産の中でも、旨みの濃いじゃがいもを選定。

2.温度を変えながら揚げることで、素材本来の旨みや甘みを閉じ込める。

3.揚げ温度を見極めて、旨みの衣をまとわせ、軽快な食感を生み出す。

4.二段階の味付けで奥深い味わいに。

 
「理想」「プライド」「素材本来」「旨みの衣をまとわせ」「まるで料理を作るかのように」etc…。
一見、何かスゴいこと言ってるみたいだけど、美辞麗句を並べてるだけで、具体性に欠ける。何か上っ面だけの言葉で、説得力が無いのだ。
どんだけ惹句で塗り塗りしたところで、所詮はポテトチップスだろ。この会社、どこか自分に酔ってるみたいで気持ち悪い。

右側にも何か書いてある。

「あえて食塩を使わず、北海道産昆布の旨みによって、じゃがいも本来のおいしさを最大限に引き出した、まさに”芋味”のポテトチップス。新プライドポテト製法だからこそ実現できる味わいです。」

湖池屋って、商売が上手だよね。
言葉巧みだし、宣伝の仕方も上手い。食塩不使用なんて、見事な逆転の発想だ。自分もスゴく気になって買っちゃたもん。
パッケージデザインも高級感があって、他のポテチとの差別化に成功している。
でもさ、ポテチなのにそこまでカッコつけてどうよ❓とは思う。金かけてカッコつけてる暇があったら、もっと旨いポテチ作りなはれと、やっぱり思うんだよね。

 

 
普段、わざわざそんな事はしないが、形状が分かりやすいようにと器に盛った。
湖池屋のプライドシリーズの特徴である厚みが、何となく解りやすかね、旦那。
えっ!?、この画像じゃ解らない。そりゃ、そっすよね。次から、また考えときまっさー。

食ってみた。
ほおーぅ、塩味がついてないのに、思ってた以上に味が濃い。確かにジャガイモの味がダイレクトに感じられて旨い。ような気がした。
しかし、3枚くらい食ったところで飽きた。
何か物足りないのだ。そう、塩味が足りないのである。確かに味として、コレはコレで成立しうるのかもしれないが、脳がポテトチップス=塩味と記憶しているのだ。足りない感が、モン凄くある。

塩かけたら、どうなるんだろ❓
って云うか、堪らずにソッコーで塩をかけたよ。

( ☆∀☆)うんめっ❗❗❗❗
数百倍、旨なっとるやないけー(#`皿´)

やっぱポテチには、塩が必要っすよ。絶対に。

 
                    おしまい

 

初めての自家製焼売

 
又しても天然の芝海老が売っていたので買う。
今度も、お手軽に塩ゆでにするつもりだったが、はたと思いついた。『一芳亭(註1)』のシュウマイが作れんかなと考えたのだ。
『一芳亭』のシュウマイといえば、全国の焼売フリークも絶賛の、日本一旨いとも言われているシュウマイだ。『崎陽軒』何するものぞ、なのだ。そこのシュウマイは海老ミンチも入っているのを思い出したのである。

しかし、すぐさま諦める。
一芳亭の焼売の皮は薄焼き玉子なのである。あんなもん、面倒くさくて作る気になれん。だいち焼売なんて、自分で作ったことは一度たりともないのである。
と云うワケで、シュウマイの皮を買ってきた。どうせ根性なしなのさ。笑うてくれ。

シュウマイ初心者の身としては、先ずは取り敢えずネットでレシピの検索じゃ。
テキトーに読んで、頭の中で幾つかをミックスさせる。

〈材料〉
シュウマイの皮 20枚くらい
豚ひき肉 200g
芝海老 150g
干し椎茸(戻したもの) 1枚
玉ねぎ 1/2個
片栗粉 大さじ1.5

〈調味料〉
醤油 小さじ2
砂糖 小さじ2
塩 小さじ2/3
こしょう 少々
ごま油 小さじ1弱

作り方
①芝海老は背ワタを取って、スプーンで潰してから包丁で叩く。干し椎茸はぬるま湯に入れて戻しておく。玉ねぎは荒みじん切りにする。

②戻した干し椎茸を微塵切りにして、ボウルに入れる。玉葱もブッ込み、片栗粉を入れてシッカリと混ぜ合わせる。こうしておけば、玉葱の水分が後から出て来るのを防げると同時に、蒸している時に肉が堅くならない。
豚ひき肉と芝海老も投入。調味料全部を加えて、手で粘り気が出るまで混ぜ合わす。ここでシッカリと手首の上、手のへりで潰すように練り込むことが大事。こうしておけば、タネがバラバラにならないし、旨みも増すそうだ。テレビで餃子つくりの匠が言ってた。
ありゃ❓、それって餃子だわさ。まあ、似たようなもんだろ。

③タネをシュウマイの皮で包む。
最初はネット情報で見た方法でやってみる。どうするのかと云うと、お猪口の上にシュウマイの皮を被せ、そこに焼売のタネをスプーンで乗っけて軽く押し込む。お猪口にスポッとハマったら、傾けて取り出して形を整える。
でも段々面倒くさくなってきて、普通の方法に変える。片手で輪っかを作り、その上にシュウマイの皮、タネの順に乗せて、くるんで形を整えてゆく。こっちの方が早いぜよ。

全部を包み終えたところで、蒸し器が無いことに気づく。今さら気づくとはド阿呆である。急遽、ネットで蒸し器が無くとも焼売が蒸せる方法を探す。

④大皿にレタスのザク細切りを敷くとあったが、無いので、キャベツで代用する。こうすると、皿に引っ付かないんだってさ。焼売をテキトーに並べ、上から更にキャベツを被せる。小皿に入れた水を回しかけ、ラップをする。ラップをしたら、テキトーな道具でテキトーに穴をあける。あとはレンジで15分くらいチンする。で、蒸し上がったら、キャベツを取り除いて出来上がり。

 

 
お好みで、辛子醤油や酢醤油を付けて食べませう。

まあまあ旨い。
というか、タネは旨いんだけど、シュウマイの皮がやや乾いてしまって、一部がパリパリになっちった。
もう1回、水かけてレンチンする。

だいぶマシになった。旨いかも(о´∀`о)
一安心して、🍺ビールをグビグビいく。
(´∇`)結構しあわせ。

それはそうと、やっぱ蒸し器がないとヨロシクないなあ…。誰か、買ってくれないかなあ…。

                    おしまい

 
(註1)『一芳亭』の焼売

 
プリプリで美味いんだよなあ。

  

サーモンの酢締め

 
前回の塩締めしたサーモンの残り半分をどうしたのかと云うと、酢締めにした。
醤油洗い、塩締めときて、最後は酢締め。サクの刺身三部作のサク2段活用である。
あっ、マグロの醤油洗いはサクじゃなかったけか。
まあいい。それでは作り方もサクサクいきまひょ。

①塩締めしたサーモンをバットに置き、底面が浸る程度の酢を張る。その上からキッチンペーパーをピッタリと被せる。こうすれば、紙が酢を吸い取って上部にも酢がまわるのである。金持ちの人は、そんな面倒な事はせず、ジャブジャブの酢につけましょう。
で、そのまま5分ほど放置。

②ペーパーを取って、表面がうっすら白くなっていれば出来上がり。あとは切って盛り付けるだけ。

ホンマにサクッと終わりましたな。
あまりにも素っ気ないので、あしらいや薬味なんぞも書いておくか…。

その1
生姜を細切りにして、針ショウガをつくる。
それをサーモンの酢締めの横に添える。
あとは醤油をつけて食うだけ。

その2
サーモンの上に水にさらした玉葱の薄切りを乗せ、上に糸唐辛子を飾る。無ければ、サクッと一味唐辛子をひと振りでもええで。

色々カッコつけて書いたが、実をいうと本当は酢締めの上にチャラっと醤油を垂らして食うのが一番旨かったりもする。

あっ、そうだ。書き忘れてた。え~と、残った酢は勿体ないので、捨てずに活用しましょうね。酢の物や酢めしなんかに転用しまひょ。
と思ったところで、急転直下で発作的にちらし寿司が作りたくなった。常に予定は未定であって、しばしば変更なのである。
何か、ちらし寿司って春っぽくなくなくねっ❓と思ったのさ。寒いのが超苦手なオイラだから、春を待つ心、強しなのだ。

余った酢に、やや多めに砂糖を入れる。塩は少しだけ。顆粒の昆布だしも入れる。慣れない人は少し入れて混ぜ、味見をしながら調整しましょうね。
あとは白御飯を炊き、熱いうちにそれを入れて手早くかき混ぜるのだが、御飯が炊きあがる前に他の具を用意しよう。

冷蔵庫に海老があったので、それも使うことにした。
海老は背ワタを取っておく。海老を熱湯に放り込んだら、すかさず火を切る。余熱で火を通す方式である。こうすると、だいたいプリプリになる。
これは海老の大きさにもよるので、不安な人は冷ましている途中で1つ取り出して包丁で真っ二つに切りなはれ。断面を見れば火の通り具合が一目瞭然でわかりまっせ。OKなら取り出して冷ます。まだダメなら、もう一度戻せばいい。

錦糸玉子をつくる。
といっても、繊細な薄焼き玉子を作るのが面倒くさかったので、玉子焼きを作って細切りにした。
海老は半分にスライス、サーモンは削ぎ切りにする。
酢飯の上に何ちゃって錦糸玉子を敷き、海老と酢締めサーモンを適度に配置する。
絹さやなんかが有れば、更にちらし寿司らしくなるのだが、冷蔵庫に無かった。なので、彩りは貝割れ大根でお茶を濁すことにした。

 

 
出来上がり。
想像してたのよりも、ピンキーな見た目になってまっただよ。調子乗って海老とサーモンだらけにしてしまい、下の錦糸玉子が見えなくなってもうた。けど、雛祭っぽいかも。

御飯も盛り過ぎた。でも、盛りなおすのは面倒だから、そのまま食うぜよ。けんどさあ、こんな量、一人で食えんのかね❓

酢締めサーモンに醤油をチョロっとつけて、酢飯と一緒にパクリ。

(о´∀о)えへへへへ。
パクつく。
(о´∀
о)えへへへへ。
ニヤつきながら、食べ続ける。
(о´∀`о)えへへへへ。
で、楽勝で食いきったっちゃ(^o^)v
ラムちゃん、だっちゃ❤

春、早く来ないかなあ。

                   おしまい 

 
追伸
アンタの頭の中は、もう春やんけ。
そうツッコミを入れられても、断固否定しますよ。

 

サーモンの塩締め

 
前回はマグロの醤油洗いと鉄火丼を紹介したが、今回はサーモンの塩締め。
サーモンはアトランティックサーモンを使ったけど、トラウトサーモンでもさして変わらないと思われる。

作り方は簡単で、こんな感じ。↙

①サーモンのサクをさっと水洗いして、キッチンペーパーで水気をとる。

②上から満遍なく塩を振り、サーモンに塩を纏わせる。注意することは、けっして塩を擦り込まないこと。優しくしてネ💖

③でもって、10~30分ほど放置する。塩の結晶が溶け始めて表面が汗をかいたようエロティックにジュクジュクしてきたら、流水で洗い落とす。水気を丁寧に拭きとってペーパータオルに包む。でもって、冷蔵庫に安置。置くほどに塩味が浸透するのだが、今回は30分足らず放置プレーにした。昔みたいに、酷い男ではないのである。

④サクを半分に切る。食べきれないから、もう半分は薄めに塩を振って、もう少し熟成させることにした。
適当に、削ぎ切りして皿に盛る。
薬味は、あえて使わない。今回は貝割れ大根を添えたが、少し太めに切った大根の千切りを添えてもよい。

 

 
勿論、醤油はつけない。そのまま食う。

塩が適度にまわって、旨味が増して美味。
すかさず芋焼酎をロックでグビリとやると、もう何も言うことはない。思わず漏れたように低く唸るだけだ。

簡単なんで、一度お試しあれ。

 

2018′ カトカラ元年 其の14 後編

 vol.14 オオシロシタバ 後編
      解説編

    『沈黙の妖精』

 
前々回、エゾシロシタバの解説の学名欄で、その小種名である「dissimilis」についての疑問をとりとめもなくダラダラと書いた。主な論調は、その学名の意味する「~と似ているが異質なもの」がいったいどの種に対して似ていて、異質なのかと云う探索譚だった。
これについて、記載者のBremerがらみで博学の松田真平氏に御伺いする機会を得た。エゾシロシタバの追伸に、追記として既に書き加えてあるが、次のようなコメントを戴いたので、紹介しておこう。

「エゾシロシタバの学名は、オオシロシタバCatocala laraに似ているということでCatocala dissimilisと名づけられたのではないでしょうか。1861年にBremerが、東シベリアからアムール付近からもたらされた採集品をタイプ標本にして記載した3種のCatocalaの中で、この2種が色彩的に似ているという意味だと思います。もう1種のオニベニシタバは色彩的に無関係ですね。」

ようするに、Bremerは先にオオシロシタバを見て、その後にエゾシロシタバを見たのではなかろうか。どちらも下翅が黒っぽい事から似ていると思って、学名の小種名を「dissimilis」と名付けたのだろうと云うワケだ。
見た目も大きさも結構違うから、正直、似てるかあ❓とは思う。でも真平さんは、古い時代の事だし、当時のレベルはそんなもんちゃうかと云う旨のことを仰ってもいた。確かに、その時代は記載されているカトカラの数も少なかっただろうから、狭い範疇の中では似ていると思うのも理解できなくはない。

前置きが長くなったが、それではオオシロシタバの解説と参ろう。

 
【オオシロシタバ♀】
(2018.9 山梨県 大菩薩山麓)

 
(同♂)(2019.9 長野県 白骨温泉)

 
(裏面1)
(出展『日本のCatocala』)

 
鮮度にもよるけど、こんなに黄色くはないよなあ…。
スマホの露出がよろしくないせいもあるかもしれん。

 
(裏面2)

 
ボロ過ぎると、今度は白っぽくなってしまう。

 
(裏面3)
(出展『Colour Arras the Siberian Lepidoptera』)

 
ロシア産のものだが、これが一番近いように思う。

 
【学名】Catocala lara lara Bremer, 1861

平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』によると、「Lara(ララ・ラーラ)。ラティウムのアルモー河神の娘。美貌だが、おしゃべりなニンフ(妖精)。多言のため、jupiter大神に舌を抜かれた。」とあった。

補足すると、Laraは同じくラテン語のLarunda(ラールンダ)と同義語で、ローマ神話における美しくお喋りなニュンペー(妖精・精霊)で、ナーイアデス(泉や川の妖精)の1人でもある。長母音を略してラルンダとも表記される。
ユートゥルナとユーピテルの間の情事をユーノーに漏らしたため、怒ったユーピテルがラールンダの舌を切り取り、口をきけなくした。そしてメルクリウスに冥界へ連れて行くことを命じた。しかし二人は恋に落ち、ラールンダは二人の息子(ラレース)を産む。その後は「唖者」を意味するムートス(ラテン語: Mutus)と呼ばれるようになった。

早くも余談になるが、この本によれば「Lara」は蝶の学名にも幾つか付けられている。

・タテハチョウ科 アメリカイチモンジ属
 Adelpha lara ベニモンイチモンジ

・シジミチョウ科 Leptomyrina属
 Leptomyrina lara

・セセリチョウ科 キバネセセリ属
 Bibasis lara

ちなみにこのセセリは現在、B.gotamaの亜種になっているようだ。
何れもキュートな奴らで、これらの蝶たちも気になるところだが、また話が逸れまくりそうなのでやめておく。気になる人は自分で調べてね。

扠て、オオシロシタバの話に戻ろう。
記載者はロシア人の Bremer。同じ年(1861年)にエゾシロシタバとオニベニシタバもアムール地方から記載している。
Bremerが、どうしてオオシロシタバに「Lara」という妖精の名をつけたのかはワカラン。上記の蝶たちは多分ちょこまかと妖精の如く動くだろうと想像がつくけど、オオシロシタバからはそんな感じは見てとれない。それに妖精にしては地味。お喋りなオジサンとしては納得いかない。
💡( ・∇・)あっ、そっか。想像を逞しくすると、舌を抜かれて大人しくなったから、Laraなのかもしれない。それにつれて見た目も地味になったとか?
地味になったとかはさておき、そうだと思えば、どこかこのカトカラには聾唖(おし)黙った静かな雰囲気がある。沈黙の妖精と考えれば納得できるかもしんない。だいぶ大柄な妖精だけどさ(笑)。

 
【和名】
度々、オオシロシタバとの和名の逆転現象が指摘されている。シロシタバよりもオオシロシタバの方が明らかに小さいのにオオと付くのは紛らわしいというワケだ。
『原色日本産蛾類図鑑(下)』のシロシタバの解説の項にも、それについて触れられている。

「前種(オオシロシタバ)よりは常に大きく、その和名は前種と入れかえる方が合理的であるが、永年使用されてきたものであるし、さして不便もないのでそのままにしておく。」

と書いてあるから、皆が妙に納得して声高に糾弾するまでには至らなかったのであろう。この図鑑のメインの著書は江崎悌三先生だもんね。偉い先生が言うんだから、文句言えないよね。
自分も図鑑に倣(なら)い、このままで良いと思う。シロシタバはシロシタバでよろし。オオシロシタバはオオシロシタバでよろし。今さら「明日からシロシタバはオオシロシタバになります。オオシロシタバはシロシタバになります。」と言われても困る。そんなの余計にややこしくなるに決まっているのだ。一々、旧シロシタバとか旧オオシロシタバとかと説明するのは面倒くさ過ぎるし、文献だって後々シロ、オオシロのどっちを指しているものなのかがワカンなくなっちゃうぞー。

とは言うものの、シロシタバより小さいのにオオシロシタバという和名は変。知らない人からすれば、それって、❔なぞなぞかと思うぞ。
じゃあ、何でそんな和名をつけたんだろう❓

或いはコレって目線がそもそも違ってたのかも。シロシタバ比較ではなく、コシロシタバ、もしくはエゾシロシタバ目線で、それらよりも大きいという意味での命名だったのかもしれない。そう解釈すれば、解らないでもない。
もしも日本で見つかった順番が、コシロシタバ(エゾシロシタバ)➡オオシロシタバ➡シロシタバだったとしたら、成立しうる話だ。オオシロシタバって付けたあとに、もっとデカイのが見つかったとしたら、オオオオシロシタバとは付けられないもんね。でも、だったらオウサマシロシタバとでも付ければいいではないかと云うツッコミが入りそうだけどさ。
それになあ…。この順番で見つかったとは考えにくいところがある。シロシタバはデカイし、垂直分布も広い。それに中部以北では普通種だから目立つだろう。発見は、この中では一番早かった公算が高い。オオシロシタバよりも遅く見つかったとは考えにくいもんね。
けど、日本で見つかった順番なんて、どうやって調べればいいのだ❓誰か教えてよ(ToT)

一応、参考までに付記しておくと、記載の順番と現記載地(タイプ標本の産地)は以下のようになっている。

・オオシロシタバ(1861年 アムール(ロシア南東部))
・エゾシロシタバ(1861年 アムール(ロシア南東部))
・コシロシタバ(1874年 日本)
・シロシタバ(1877年 日本)

ここで又しても本筋から逸れるが、ネットで色々と調べてたら、こんなんが出てきた。

  
(出展『Bio One complate』)

 
カトカラのDNA解析図だ。
あっ、表題を見ると『Molecular Phylogeny of Japanese Catocala Moths Based on Nucleotide Sequences of the Mitochondrial ND5 Gene』となっている。
そっかあ…、コレが石塚さんが新川勉さんに依頼したというDNA解析かあ…。探したけど、全然見つからんかった論文だ。
コレを見ると、オオシロシタバとエゾシロシタバの類縁関係がまあまあ近いじゃないか❗
だとするならば、Bremerさんがオオシロに近いと感じてエゾシロに「dissimilis」と云う学名をつけたのは慧眼だったのかもしれない。すげー直感力かも。
とはいえ、DNA解析が本当に正しいかどうかはワカンナイけどね。
嗚呼、どうあれ、またエゾシロシタバの解説編を書き直せねばならぬよ( ノД`)…。

また、この和名には別な面でも問題がある。
オオシロシタバというが、白というよりも黒のイメージの方が強い。後翅には白い帯紋があるものの、真っ白じゃないので、どっちかと云うと黒の方が目立つ。全体的に見ても、黒っぽさが勝っている。これじゃ、和名として二重にダメじゃないか。
思うに、そもそもの間違いはコシロシタバ、ヒメシロシタバ、エゾシロシタバにシロシタバと名付けたのがヨロシクなかったんじゃないかと言わざるおえない。コイツら皆、下翅が黒っぽいんだからクロシタバとしとけば良かったのだ。
前言撤回❗
オオクロシタバでもシロオビクロシタバでもいいから、名前を変えればいいんでねぇーの❓そうすればシロシタバとの大きさ逆転問題も解決する。シロシタバは、そのままシロシタバにしておけばいいから混乱は最小限にとどめられる。間違ってもシロシタバをオオシロシタバに変えるだなんて要らぬ愚行さえしなけれぱ、何の問題も無くなるじゃないか。
バンバン(*`Д´)ノ!!!、今からでもいい、そうなさい(笑)。
とはいえ、どなたか偉いさんが言わないと無理だよね。

こうなってくると、誰がこのダメ和名を付けたのか、どうしても気になってくるよね。
おいおい( ̄ロ ̄lll)、又それって危険なとこに足を突っ込むことになりかねないぞ。いんや、絶対に泥沼になる。いやいや、もう既に泥沼になっとるから、底無し沼だわさ。

『原色日本蛾類図鑑』の下巻が発行されたのが1958年(昭和33年)。そこにオオシロシタバの和名についての錯綜振りが書いてあるワケだから、それ以前に刊行された図鑑のどれかから、その和名が世に出てきたことは疑いあるまい。
とはいえ、江戸時代の図譜レベルとは考えにくい。となると、明治、大正と昭和前半の時代のものが候補だろう。

調べてみると、これが結構大変。古い時代のものだけに、あまりネットに情報が上がってこないのだ。
そう云うワケで、漏れているものもあるかもしれないことを先にお断りしておく。

・『日本千虫図解』松村松年(1904年 明治37年)

・『蛾蝶鱗粉転写標本』名和昆虫研究所(1909 明治42)

・『日本昆虫図鑑』石井悌・内田清之助他(1932 昭和7)

・『分類原色日本昆虫図鑑』加藤正世(1933 昭和8)

・『原色千種昆虫図譜』平山修次郎(1933 昭和8)

・『日本昆虫図鑑 改訂版』(1950 昭和25)
 
この、どれかじゃろう。けど結構あるなあ。
上から2番目の『蛾蝶鱗粉転写標本』は鱗粉転写本だから、そう多くの種類は掲載できないだろうし、鱗粉転写に地味な色の蛾を選ぶ可能性は極めて低いものと思われる。除外してもいいだろう。
残りはどれも怪しい。とにかく、これらを順を追って遡ってゆけば、誰が命名したのかが特定できそうだ。
探偵さんは解決が見えてきて、ぷかぁ~(-。-)y-~、余裕で煙草をくゆらせるもんね。

しか~し、🚨問題発生、🚨問題発生。
近場の図書館や古本屋では、見れるところがなーい❗

唯一、辛うじて見れたのが、1950年(昭和25)に発行された改訂版の『日本昆虫図鑑』だけだった(大阪市立中央図書館蔵)。
そこには平仮名で「おおしろしたば」の名があり、執筆担当者は河田薫とあった。

 
(出展『日本昆虫図鑑 改訂版』北隆館)

 
命名は、この河田さんの可能性も無いではないが、確率は低いだろう。なぜなら『原色日本蛾類図鑑』には「永年使用されてきたものであるし…」という記述があるからだ。たかだか8年やそこらで永年とは言わんだろう。
いや、改訂版の前の昭和7年の初版も見なければ何とも言えないな。そこでも解説を河田氏が執筆していたならば、有り得ることだ。

しかし、ここで早くも頓挫。討ち死にする。他の図鑑は探せなかったのだ。
( ´△`)もう、別にいいや。犯人探しをして突き止めたところで、何になるというのだ❓それに、その方はとっくに鬼籍に入っておられる筈だ。死者にムチ打ってどうする。死んでるのに恥かかせたら、👻化けて出られるかもしれん。それは困るぅ━━(ToT)
どうしても気になる人は、御自身で調べておくんなまし。で、ワテに教えて戴きたいでごわす。

 
【開張(mm)】78~85㎜
『みんなで作る日本産蛾類図鑑』にはそうあったが、岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』では、70~85㎜となっている。『みんなで作る…』は古い図鑑の『原色日本蛾類図鑑』からのパクリと思われるので、岸田先生の記述を支持する。

ネット上の『ギャラリー・カトカラ全集』には、次のようなコメントがあった。

「シロシタバより小さいオオシロシタバだが、東(旧大陸)の三役(大関は無理だから関脇か小結あたりか)に入れてもいいだろう。」

たぶん、これは大きさからの番付だろう。確かにオオシロシタバはムラサキシタバ、シロシタバに次ぐ大きさだ。でも、見た目などのイメージも付加すれば、関脇でも役不足のような気がするぞ。世間で評価されてる感じが全然しないもん。
学名は舌を抜かれた妖精だし、ネットで検索しても必ず「もしかして:コシロシタバ」なんて云うお節介な文字が頭に出てくる始末。ようは検索エンジンにさえ、あまり認識されていないのだ。何だか段々オオシロちゃんが不憫に思えてきたよ。
とはいえ、評価する向きもある。ネットのブログを見ると「渋めの前翅と後翅が素晴らしく、翅を開いた時の総合的な美しさはカトカラ随一である。」なんて書いたりしている方もおられるのである。但し、最後に括弧して(と思う)となってるけどね。
でも確かにそう言われてみれば、鮮度が良いものからはモノトーンの渋い美しさを感じる。

 
(出展『我が家周辺の鱗翅目図鑑』)

 
きっと、これまた和名が悪いんだろなあ。
もっと横文字のカッコイイ和名だったなら、評価も変わっていたかもしれない。それはそれで、ツッコミ入ってたかもしんないけど…。(゜o゜)\(-_-)
やっぱり不憫だぜ、オオシロちゃん。

 
【分布】北海道、本州、四国、九州、対馬
主に中部地方以北に分布するが、食餌植物の分布が限定されるので産地は限られる。棲息地は標高1000m以上のところが多いが、北海道では平地にも産し、個体数も多いようだ。
西日本からの記録は少なく、局所的である。九州では福岡県・熊本県・大分県・長崎県の高標高地から数件の記録がある。ただし,長崎県対馬では近年記録が増加しているという。四国では石鎚山系や愛媛県の天狗高原に、中国地方は山口県太平山、島根県松江市長江町、鳥取県伯耆大山、広島県冠高原、岡山県蒜山などに散発的な記録がある。四国・九州では非常に稀なカトカラなのだ。
近畿地方でも少なく、ネットの『ギャラリー・カトカラ全集』では、兵庫県、大阪府、滋賀県、和歌山県に記録があるとしている。しかし『世界のカトカラ』や『日本のCatocala』の分布図では、和歌山県は空白になっている。

 
(出展『世界のカトカラ』)

(出展『日本のCatocala』)

 
とはいえ、紀伊半島南部には標高が高い山もあるので、分布していても不思議ではない。おそらくいるだろう。
大阪府と滋賀県の産地は拾えなかった。
確実に産するのは兵庫県西北部で、氷ノ山やハチ北高原などで採集されている。ハチ北では、2018年の8月に一晩で10頭以上がライトトラップに飛来したそうだ。

海外ではアムール(ロシア南東部・沿海州)、ウスリー、樺太、朝鮮半島、中国中北部に分布する。
伊豆大島、カムチャッカ半島などのシナノキが自生していないところでも記録されており、遠距離移動する可能性が示唆されている。

見たところ、特に亜種区分されているものは無いようだが、シノニム(同物異名)に以下のものがある。

・Catocala pallidamajor Mell, 1939

ユーラシア大陸では本種に近縁なものは知られていないが、北アメリカに近いと思われる種がいる。

 
【Catocala cerogama オビキシタバ】
(出展『世界のカトカラ』)

 
帯が濃い黄色ゆえ全然違うように見えるが、仔細に見ると両者が似ていることが理解できる。
幼虫もオオシロシタバと同じく、Tilia(シナノキ属)を食樹としているし、上のDNA解析図でも極めて近縁な関係にあることが示されている。

 
【変異】
前翅中央部が著しく黒化するものが知られる。

 
(出展『世界のカトカラ』)

 
この型は渋くてカッコイイかもしんない。

 
【レッドデータブック】
絶滅危惧II類:福岡県、長崎県
準絶滅危惧種:大阪府、広島県

上記の場所にかかわらず、西日本では何処でも同じようなカテゴリーに入るものと思われる。

 
【成虫出現月】
年1化。早いものは7月下旬から出現するが、発生のピークは8月中旬~9月初旬。10月でも生き残りの個体が見られる。

 
【生態】
冷涼な気候を好み、標高1000~1800mの間の山地に見られる。平地にも棲息する北海道を除けば、棲息地はわりと局所的なようだ。但し、産地では比較的個体数は多いみたいだ。

『日本のCatocala』によれば、発生数の多い年は昼間も活動し、サラシナショウマ、フジウツギ、ツリガネニンジン、クサボタンなどの花に吸蜜に訪れるという。発生数が通常時の場合は、夜間にサラシナショウマに吸蜜に訪れる。
また図鑑には、稀に低山地のクヌギの樹液で摂食する姿が観察されていると書いてあり「日本産Catocala 成虫の餌」という表でも花蜜は◎、樹液は△となっていた。
しかし、この記述に関しては疑問を持っている。
なぜなら、高標高地(1400~1700m)でもフルーツトラップや糖蜜、シラカバの樹液に寄って来たからだ。トラップにかなりの個体数が飛来しているのを見ているので、偶然ではないことは明白だろう。むしろ他のカトカラよりも誘引される傾向が強いと言ってもいいくらいだ。
樹液に飛来した例は他にクヌギ、ミズナラ、ヤナギがあるようだ。
尚、吸汁時には下翅を開く。結構敏感で、慎重に近づかないと飛んで逃げる傾向が強かった。しかし、これは時期や場所、時間帯にもよるかもしれない。
飛来時間は午後9時前後からが多かった。但し、これも観察がもっと必要だろう。

灯火にもよく飛来し、最もポピュラーな採集方法になっているものと思われる。自分はあまり灯火採集はやったことがないが、A木くんの話だと、居るところでは多数飛んで来るらしい。飛来時刻は主に9時以降だとするネット情報があった。しかし他のサイトでは、日没直後にまとめて飛来したと書いてあるものもあった。調べた限りでは他に言及されているものはなかった。
因みに、自分は灯火に来た個体は一度しか見たことがない。白骨温泉の外灯に来ていたものだ。時刻は深夜0時を過ぎていた。

『日本のCatocala』によると、昼間は樹木の幹や岩陰などで頭を下向きにして静止している。人の気配などに驚いて飛び立ち、その後に着地する際は、頭を上にする個体と下にする個体があり、上向きに着地した場合は暫くしてから下向きに姿勢を変えるという。
ちょっと驚いたのは、この記述だと、いきなり下向きに止まる個体がいると云うことだ。多くのカトカラは上向きに着地してから、頭を下向きに変えるからだ。いきなり下向きに止まるだなんて、ちょっとサーカス的じゃないか。となれば、飛んでて着地する手前でクルッと回転、でんぐり返って止まるって事じゃん。だとすれば、器用と言うしかない。本当にそうなら、そのアクロバティックな技を是非一度見てみたいものだ。

 
【幼虫の食餌植物】
シナノキ科 シナノキ(科の木、級の木、榀の木)。

あんまりシナノキって馴染みがない。植物の知識がないせいもあってか、見た記憶が殆んど無い。イメージが湧かないので、Wikipediaで調べてみよう。

「学名 Tilia japonica。日本特産種である。
新エングラー体系やクロンキスト体系ではシナノキ科、APG体系ではアオイ科シナノキ属の落葉高木に分類されている。
シナはアイヌ語の「結ぶ、縛る」に由来するという説がある。長野県の古名である信濃は、古くは「科野」と記したが、シナノキを多く産出したからだとも言われている。それが由縁なのか、長野市の「市の木」に指定されている。
九州から北海道までの山地帯、本州の南岸を除いた日本全国の広い範囲に分布し、特に北海道に多い。」

なるほど。オオシロシタバが北海道に多いのは、そゆ事なのね。
でも、そうなると紀伊半島にはシナノキって自生してるのかな❓(註1)
無ければ和歌山県の記録は偶産の可能性大になるね。

「幹の直径は1m、樹高は20m以上になる。樹皮は暗褐色で表面は薄い鱗片状で縦に浅く裂けやすい。
葉は互生し、長さ6-9cm、幅5-6cmで先の尖った左右非対称のハート型。周囲に鋸状歯がある。春には鮮やかな緑色をしているが、秋には黄色に紅葉する。
5~7月に淡黄色の小さな花をつける。花は集散花序で花柄が分枝して下に垂れ下がる。花序の柄には苞葉をつける。果実はほぼ球形で、秋になって熟すと花序と共に落ちる。」

これじゃ、ワシら素人にはワケワカメだよ。やっぱ画像がいるな。

 

(出展『神戸市立森林植物園』)

(出展『Wikipedia 』)

 
見たことあるような無いような木だ。
植物は同定するのが難しいよね。

木は色んなものに利用されているようだ。

「樹皮は「シナ皮」とよばれ、繊維が強く主にロープの材料とされてきたが、近年は合成繊維のロープが普及したため、あまり使われなくなった。水に強く、大型船舶の一部では未だに使用しているものがある。
アイヌ人などにより、古くは木の皮の繊維で布を織り衣服なども作られた。現在でもインテリア小物等の材料に使われる事がある。
木部は白く、年輪が不明瞭。柔らかくて加工しやすいが耐久性に劣る。合板や割り箸、マッチ軸、鉛筆、アイスクリームのヘラ、木彫りの民芸品などに利用される。
また、花からは良質の蜜が採取できるので、花の時期には養蜂家がこの木の多い森にて採蜜を営む。」

そういえば、この花にはカミキリムシが集まると聞いたことがあるなあ。

シナノキは日本特産種だが、結構近縁種があるみたい。
「シナノキ属(ボダイジュの仲間)はヨーロッパからアジア、アメリカ大陸にかけての冷温帯に広く分布している。ヨーロッパではセイヨウシナノキ(セイヨウボダイジュ)がある。シューベルトの歌曲『リンデンバウム』(歌曲集『冬の旅』、邦題『菩提樹』)で有名。
また、1757年にスウェーデン国王アドルフ・フレデリックが「分類学の父」と呼ばれる植物学者カール・フォン・リンネを貴族に叙した際に、姓としてフォン・リンネを与えたが、リンネとはセイヨウシナノキを指し、これは家族が育てていた事に由来するものである。」

( ̄O ̄)おー、あの偉大なリンネ(註2)の名前はシナノキ由来なんだね。

「日本では、他にシナノキ属にはオオバボダイジュが関東北部以北に、ヘラノキが関西以西に分布するとされるが、他にもあるようだ。

ブンゴボダイジュ
日本では大分県の山地にまれに生育する。

シコクシナノキ(ケナシシナノキ)
四国の山地に生育する。

マンシュウボダイジュ
環境省の絶滅危惧IA類(CR)に選定されている。日本では岡山県、広島県、山口県に分布し、高地の谷間などの冷涼地にまれに生育する。日本以外では朝鮮半島、中国大陸(北部、東北部)に分布する。

ツクシボダイジュ
環境省の絶滅危惧IB類(EN)に選定されている。日本では大分県の九重山周辺にまれに生育する。日本以外では朝鮮半島にも生育する。

モイワボダイジュ
北海道、本州の東北地方に分布し、山地に生育する。ときに本州中部地方北部にも見られる。

ボダイジュ(註3)
中国原産で、日本ではよく社寺に植栽されている。

ノジリボダイジュ
シナノキとオオバボダイジュの交雑種と考えられ、長野県と新潟県に見られる。

主な海外種
アメリカシナノキ、フユボダイジュ、アムールシナノキ、タケシマシナノキ、モウコシナノキ、ナツボダイジュ、セイヨウシナノキ。

属名のTiliaは、ボダイジュに対するラテン語古名。語源は ptilon「翼」で、翼状の総苞葉が花序の軸と合着している様子から。属名のTiliaは繊維を意味するギリシア語tilosとする説もある。」

オオシロシタバは他のシナノキの仲間では発生しないのかなあ❓
日本のシナノキ属だけでなく、海外のセイヨウシナノキ(セイヨウボダイジュ)、オランダシナノキなども結構植林されているようだしさ。
でも標高がある程度高くないと無理か…。
『日本のCatocala』にも、シナノキ科ボダイジュ類からは幼虫の採集例はないと書かれていたし、意外と代用食となるものは少ないのかもしれない。

 
【幼生期の生態】
幼虫に関しては、そもそも蝶の飼育さえしない男なのでオリジナルの知見ゼロである。ここは全面的に西尾則孝氏の『日本のCatocala』の力をお借りしよう。

それによると、幼虫は林縁部や牧場周辺の残存林といった開放的な場所のシナノキによく見られ、壮齢木から大木の老齢木に付くそうだ。

野外での幼虫の色彩は変化に富み、著しく濃淡が強く出るものや全体が暗化した個体も見られるそうだ。室内など高温下で飼育すると、著しく黒化するみたい。
また飼育時、たまたま餌にしたシナノキに付いていたキリガの幼虫をしばしば捕食していたという。
コレには驚いた。肉食性のカトカラなんて聞いたこともなかったからだ。(# ̄З ̄)邪悪じゃのう。

昼間、若齢幼虫はシナノキの葉の間に、中齢幼虫は葉の上に静止している。終齢幼虫(5齢)は他の多くのカトカラのように樹幹には降りず、枝に静止している。
終齢幼虫の食痕には特徴があり、葉の部分だけを食べて葉柄を残す。または葉柄を囓じって切り落とす。
これはアメリカの近縁種 Catocala cerogama(オビキシタバ)でも、同じような生態が観察されている(1985 ハインリッチ)。ハインリッチは他の数種のカトカラについても同様の観察をしており、その理由として、食痕やそこに付着した幼虫の唾液から蜂など天敵に見つからない為の行動だと推定している。日本でも、オオシロシタバの他にムラサキシタバの幼虫が食樹の葉柄を齧じり落とすことが観察されている。

長野県の標高1000mの高原では、孵化は5月上旬から中旬、終齢幼虫は6月上旬~下旬に見られる。蛹化場所についてはハッキリ調べられていない。

 
                    おしまい

 
追伸
またしても泥濘(ぬかるみ)に嵌まったよ。
正直、あんまり色んなことに疑問を持つのもどうかと思うよ。

因みに、今回は先に解説編を書いてから本編(前回)を書き始めた。どうせ1話で完結しないと思ったからだ。毎回、文章を切り取って移すのは面倒だと思ったのだ。いつも1話で完結することを目指して書いてるんだけど、無駄な努力だと悟ったのだ。

 
(註1)紀伊半島にはシナノキって自生してるのかな❓

和歌山県の植物について書かれた報告書(https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/032000/032500/yasei/reddata_d/fil/shokubutu.pdf)によれば、和歌山県のシナノキは絶滅危惧IA類(CR)に指定されていた。
絶滅危惧IA類とは、ごく近い将来に絶滅する危険性が極めて高い生物に対して付与される記号みたいなものだ。略号はCR(Critically Endangered)。

そんなに絶滅に瀕している木ならば、食樹転換でもしてない限り、オオシロシタバが和歌山に生息する確率は極めて低いね。

シナノキそのものの分布図は見つけられなかったが、下のような図を見つけた。

 
(出展『広葉樹林化技術の実践的体系化研究』)

 
上部の図を見ると、厳密的にはシナノキの分布図ではないにしても、何となくオオシロシタバが西日本では極めて珍しいのも理解できるね。ただ、注目すべきは中国地方。意外とシナノキがありそうだ。もしかしたら、探せば中国地方ではもっと生息地が見つかるかもしれない。

 
(註2)リンネ
カール・フォン・リンネ(Carl von Linné)。
生没年1707~1778。スウェーデンの博物学者、生物学者、植物学者。同名の息子と区別するために大リンネとも表記される。
「分類学の父」と称され、それまで知られていた動植物についての情報を整理して分類表を作り、生物分類を体系化した。その際、それぞれの種の特徴を記述し、類似する生物との相違点を記した。これにより、近代的分類学が初めて創始された。
生物の学名を、属名と小種名の2語のラテン語で表す二名法(または二命名法)を体系づけた。生物の学名を2語のラテン語に制限することで、学名が体系化されるとともに、その記述が簡潔となった。現在の生物の学名は、リンネの考え方に従う形で、国際的な命名規約に基づいて決定されている。
分類の基本単位である種のほかに、綱、目、属という上位の分類単位を設け、それらを階層的に位置づけた。後世の分類学者たちがこの分類階級をさらに発展させ、現代おこなわれているような精緻な階層構造を作り上げた。
リンネの発案により、初めて植物の雄株と雌株に記号を用いられるようになった。この記号は、もともとは占星術に用いられてきたもので、火星(♂)をつかさどる戦の神マルス=男性的=オス、金星(♀)をつかさどる美の女神ビーナス=女性的=メスとした。それが他の生物にも転用されてゆくことになる。
また、人間を霊長目に入れ,ホモ−サピエンスと名づけた。

 
(註3)ボタイジュ
菩提樹。日本へは臨済宗の開祖栄西が中国から持ち帰ったと伝えられる。釈迦は菩提樹の下で悟りを開いたとされる事から、日本では各地の仏教寺院によく植えられている。しかし、これは間違って移入、広まったたもので、本来の菩提樹は本種ではなく、クワ科のインドボダイジュ(印度菩提樹 Ficus religiosa)のこと。中国では熱帯産のインドボタイジュの生育には適さないため、葉の形が似ているシナノキ科の本種を菩提樹としたと言われる。

 
主な参考文献
・石塚勝巳『世界のカトカラ』
・西尾則孝『日本のCatocala』
・岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑』
・江崎悌三『原色日本蛾類図鑑』
・カトカラ同好会『ギャラリー・カトカラ全集』
・インターネット『みんなで作る日本産蛾類図鑑』