ささやんの唐揚げ

  
大国町(註1)に前から気になっている唐揚げ屋がある。
住宅街の一角にひっそりとあるのだが、いつも閉まっていて、どう見ても入口は民家なのだ。で、不連続な開店日が手書きで書いてある。こういう店とゆうのは気になる。嗅覚が動くのである。勘では当たりなんじゃないかと思った。この旨い店を見つけると云う嗅覚には些(いささ)か自信がある。あまり外した事はない。

たまたま前を通ったその日は、民家の入口に貼り紙があった。

『今日は16時に開けます。』

と、その貼り紙には書いてあった。
時計を見ると午後3時半前である。いつ前を通っても、その日は営業日ではなかったのでコレは流れが漸く来たなと思った。時間を潰すために近くにあるスーパー玉出で買い物をすることにした。
その時に買ったのが、前回の天然ムール貝である。

買い物を終えて店に向かうが、縁が無さそうなので開いてるのかどうか、ちょい不安だった。
人と同じで店にも縁というものがある。いつ行ってもナゼか閉まってるとか(最悪の場合、臨時休業なんて事もある)、お目当ての食べたいものは売り切れちゃったとかと云うことは往々にしてあることなのだ。

4時5分過ぎに店に到着したら、ちゃんと開いていた。

 

 
右側のメニューの下を見て戴きたい。
下が普通の民家の玄関しょ。左側も同じサッシだから、閉まっていたら民家感がスゴくあるのが解ってもらえるかと思う。

 

 
既に二人のオッチャンが並んでいた。
どう見ても初めて買いに来たという雰囲気ではない。
たぶん、ここの唐揚げの虜になったオッチャンたちだ。こんな住宅街でもコアなオッチャンファンがいるなら、嗅覚に間違いはないと思った。
とはいえ、ハズしてマズかったら嫌なのでモモ肉の唐揚げを4個だけ買うことにした。

  

 
でも4個で320円。8個だと540円である。
8個の方がコスト的にはお得だ。それに揚げてる時の感じが絶対に旨いという確信になりつつある。
思わず4個追加の8個にしてもらった。
因みに右側のボードが不規則な営業日である。でも、昔に見た時よりも営業日が多い。前に見た時は月の半分程度しか営業していなかったような気がする。

10分ほど待たされたから、揚がった直後に堪らず1個だけ食わしてもらう。
Σ(゜Д゜)ワオッ、1個がデカイ。そして歯を入れるとカリッとした食感の直後に、中から熱々ジューシーな肉汁が噴き出してきた。ワシ好みの片栗粉多めで揚げたカリッふわの唐揚げである。
こんチキショーめ、今すぐ🍺生ビールをゴクゴクいきてぇー(≧∀≦)❗
ぴゅうーε=ε=┏(・_・)┛、途中でビールを買って、ソッコー帰る。

 

 
見よ、この盛りを。無理矢理入れてる感がいいねぇ。
これで540円は、マジ安いよなあ。

 

 
(≧∀≦)きゅー、ビールをグビグビいきながら食うと、ヘラヘラ笑いになるよ。
ここの唐揚げが素晴らしいのは、冷えても旨いところである。仕上げに岩塩を振り掛けてるからかな? 関係ないか…。関係ないな。とにかく揚げたては勿論のこと、冷めてもあまり固くならずで旨いのだ。
唐揚げフリークおじさんとしては、また行くことは決定的だな。書いてて、マジまた食いたくなってきたよ。あっ、でも今日は休みやん(*ToT)

                    おしまい

 
追伸
あとで、一応ネットで検索したら出てこなかった。
何だか嬉しい。偶然とはいえ、自分で見つけた店という実感があるからだ。
昨今は「ぐるなび」を始め、ネット情報が横溢している。それに対して常々疑問感を持っていた。何か、そういうので得た情報って面白くないのである。誰かに踊らされてるような気がしてならない。全く知らない他人の情報をアテにしている自分にどこか忸怩たる思いがある。
「ネットで調べた店に行きましたー。まあまあ旨かったでーす」って、どこか味気ないのである。なぜなら、そこにはスリルもカタルシスもないからである。攻めてないと云うか、安全策の予定調和な気がしてならない。本来、当日の店選びとは自分の経験と勘をフル稼働して選択する知的ゲームなのだ。リスクがあってこそ、カタルシスがあるのである。便利性は全く否定しないが、簡単に手に入る情報はつまらない。そこには見つけるという喜びがないからだ。

昔、ユーラシア大陸をバイクで横断していた時は、毎日が勝負だった。まだスマホなんぞ無い時代だったから、毎回知らない町で食いもん屋を探すのは大変だったし、常にギャンブルだった。店選びを間違えるとガッカリ感が半端ない。特に晩飯どきは真剣勝負だった。その日一日を気持ち良く終えれるかどうかは晩飯の正否にかかっているのである。
最初は失敗続きだった。相棒との意見にも相違が多かった。しかし、時間の経過と共に相棒との意見も一致してきて、次第にハズさなくなった。店探しの謂わば嗅覚みたいなものが鋭くなる。人は必要とあらば進化するのだ。
旨い店と云うのは店構えに何か旨おまっせと云う雰囲気がある。店主の心みたいなものが反映されているような気がするのである。あとは活気を感じるかどうかだ。たとえまだ早い時間で客が少なくとも、活気のある店は何となくわかる。入って暫くしたら、あっという間に満席になることも多い。勿論、既に人が入っていて活気がある店なら間違いない。旨いこと確実だ。但し、ゴッタ返している店は注意が必要。待たされたり、オーダーのトラブルが多かったりして気分良く飯が食えなかったりするのだ。

思い出というのは、食に左右されるところが多分にある。ましてや長い旅だと、自然と食うことが唯一の楽しみになっていったりするのだ。結局は美しい景色よりも、食いもんがその日一日の良し悪しを決めてしまうところはある。
とはいえ、不味い食いもんであっても相方がいれば、過ぎてしまえば楽しい思い出になったりするんだけどもね。

 
(註1)大国町
大阪市浪速区大国町

 

ムール貝の白ワイン蒸し

 
スーパー玉出で、天然のムール貝が1パック¥148で売っていた。
玉出には、あまり市場に出回らないような変わった食材が時折並ぶ。しかも誰もチャレンジしない、買わない事を見越してか、だいたいアホみたいに安い。
スーパー玉出は胡散臭いところもあるが、目利きができる人ならば、中々使えるスーパーである。特に魚は一匹買いすれば、かなりお得だと思う。モノが良いわりに値段が安いのだ。切身や刺身は、あんまお薦めしないけど。たぶん、鮮度が落ち始めたものが解体されるのであろう。

作り方は簡単。
まずムール貝をタワシで洗い、すき間から出ているゴワゴワの陰毛みたいなのを(足糸)をブチッと引き千切る。昔、彼女のをブチッと抜いたら、スゲー怒られた。当たり前である。
そんな事はどうでもよろし。前へ進めよう。
で、フライパンにオリーブオイル、みじん切りにしたニンニクを入れて弱火にかける。お好みで鷹の爪を入れても良い。
ニンニクの香りを油に移したら、そこにムール貝をブチ込み、白ワインをかけて蓋をして蒸し焼きにする。塩は貝から塩味のエキスが出るので不要。
で、中火もしくは強火にして、貝の口が開くまで待つ。たぶん2、3分以内に開く。開かない貝があれば死んでいるので、除外でっせ。死んでる貝を食うたら、アタリまっせ~Ψ( ̄∇ ̄)Ψ
貝が開いたら、すぐ食べれないことはないが、この時点ではまだ半生なので一応+30秒から1分くらいそのまま放置。とはいえ、熱を入れ過ぎると身が固くなるので注意されたし。
あとは器に移して、イタリアンパセリを散らして出来上がり。因みに今回はイタリアンパセリが無かったので、ミツバで代用した。

 

 
殻に対して中の身が小さい。ホンマもんのムール貝ならば、もっと身が大きい筈だ。
ここで漸く気づく。ムール貝と書いてあったが、たぶんコレは近縁種のムラサキイガイ(紫貽貝)。その辺の堤防とかに、ぎょうさん付いてる奴だ。どうりで天然と書いてあったワケだ。もしホンマもんのムール貝の天然ものならば、生きたままヨーロッパ辺りから空輸されたと云うことになる。それなりのコストがかかって然りである。148円は有り得ない。この辺がスーパー玉出の胡散臭いところである。

でも、味は旨い。ムール貝とほぼ同じと言っていいだろう。下手したら冷凍モノのムール貝よりも旨いかもしんない。
値段が値段だし、全然文句あらしまへん。
よく冷えた辛口の白ワインを口にふくみ、ゆっくりと喉に流し込む。
(о´∀`о)良いねぇ~。

南仏プロヴァンスをバイクで旅したことを思い出した。
地中海沿岸ではムール貝の白ワイン蒸しはポピュラーで、プロヴァンスでは名物になっている。
鉄のバケツに山盛りで出てくるんだけど、それを白ワインを飲みながら延々と食べる。食いきれんのか?と思っていたのに、バケツ一杯のムール貝があっという間に無くなっちゃうんだよね。
カルカッソンヌのキャンプ場の記憶が鮮明に甦ってきたよ。キャンプ場併設の野天レストランでアホほど食ったっけ…。
もう20年以上前のことだ。
光陰矢の如しである。

                    おしまい

 
追伸
書き終えて、ムラサキイガイについて言ったことに違和感を感じた。間違っているような気がしてきたので、調べ直してみた。

結果、やっぱ間違ってました。ムラサキイガイはムール貝の和名でやんした。
Wikipediaには以下のような記述がござった。

「原産地は地中海沿岸を中心とした地域だが、船舶の底に付着、あるいは幼生がバラスト水に混入するなどして世界中に分布を広げた。日本では1932年に神戸港で初めて発見され、1950年代頃までには全国に分布を広げた。」

ごめん、ごめん。コレ、知ってたわ( ̄∇ ̄*)ゞ
どこでどう記憶が改竄されたのだろう❓
歳喰うと、脳細胞が次々と死んでゆくなあ。

身が小さかったのは、たぶん時期のせいだと思う。ムラサキイガイは冬が産卵期のようだ。それゆえ、その時期は身が細るのであろう。そういえば夏場に食った時は、もっと身が大きかったわ。旬は春から夏だね。
とはいえ、今の時期でも身が小さいことに我慢すれば、充分旨い。

最後に調理法について書き忘れたことを加えて退散します。
白ワインの代わりに日本酒を使ってもOKです。この場合は散らすのはミツバがよろし。代用品としては、セリとかパクチーも有りだと思う。
オリーブオイルを使わず、ムール貝とニンニクに直接日本酒や白ワインをかけて蒸すと云う方法もある。コチラの方が、もっとお手軽です。面倒くさがり屋なので、半分はこの作り方をしてる。実を云うと画像もそう。一口食って、オリーブオイルを入れ忘れてる事に気づいて、上から垂らした。別にコレでも大丈夫。特に問題はないです。

 

続・アミメキシタバ

 
   『網目男爵物語』

 
網目男爵は孤独だった。
妻には早くに先立たれていて、子供もいなかった。
芦屋の邸宅はいつもひっそりとしており、邸内には男爵と執事の近本しかいなかった。

男爵が再婚しなかったのには理由がある。自分の容貌に自信が無かったのだ。本来の容貌は悪い方ではない、と自分でも思う。中には『端正な顔なのに、勿体ないねぇ。』と言ってくれる人もいる。
しかし、その端正な顔の上に、生まれながらの網目模様の痣(あざ)がある。それが今では男爵にとって大いなる劣等感になっている。
妻と出会った頃は、まだ良かった。人間は見た目ではなく、中身だと信じていたからだ。ゆえに臆することなく自然に振る舞えていた。妻はたぶん、そういうところを気に入ってくれたのだと思う。
しかし、妻が亡くなった後、お見合いの機会があり、その時に相手の女性から『何だか蛇の鱗みたい。』と言われて、心が瞬間的に瓦解した。そこで初めて、改めて自分の容貌の気味悪さに気づいてしまったのだった。
それ以来、男爵は努めて人と極力接触しないように生きてきた。自分の脆弱なガラスのようなコンプレックスに触れられたくはなかったからだ。

そんな男爵にも、唯一の慰み事があった。
それが蛾を蒐集する事だった。皆がチヤホヤする蝶には全く興味は無かった。華やかなものに対する厭世感の投影なのかもしれないと男爵は思う。しかし、同時に男爵は世間に忌み嫌われる蛾の中に、この上もない美を見い出していた。そこには、蝶にはない複雑で変化に富んだ隠微な魅力が在った。控えめでいて、ゆるぎのない美しさを感じたのだった。
ふと、男爵は思う。そういえば妻もそういう人だったのかもしれない。

そんな蛾の中でも、特に男爵のお気に入りのグループがあった。ヤガ科 シタバガ亜科のカトカラ(Catocala属)と呼ばれる蛾たちだった。
シタバガと言うように下羽に特徴があり、普段は上翅に隠された美しい下翅が、時にハッとするような鮮やかさでもって男爵を魅了するのである。黄色、オレンジ、朱色、ピンク、紫、白、紺といった豪華絢爛とも言える色が闇の絵巻のように明滅するのだ。
だから毎年夏になると、度々その美を求めて執事の近本を従えて夜の山へと訪れる。

或る夏の日の出来事だった…。
その日は体調が悪いと言う近本を伴わず、男爵は一人で山に入った。

荘厳な夕焼けが色を失った直後だった。何気に振り返ると、若い女性が立っていた。夕暮れの柔らかい風に、辛子色のワンピースの裾が静かに揺れている。
年齢は20代後半くらいだろうか、ほっそりとしており、どこか嫋(たお)やかな佇まいがある。残光に照らされた横顔は憂いを帯びて美しい。
男爵は一瞬、その姿に魅入られた。しかし、すぐに訝(いぶか)る心が芽生えた。こんな時刻のこんな場所に、なぜ若い女性がいるのだろう❓ 夕焼けを見に来た❓ まさかこんな場所に一人で❓ どうにも違和感が有り過ぎる。
男爵は不安を打ち消すかのように、彼女に声をかけようとした…。

と、ここまで書いて、何やってんだ俺❓と思う。
全ては酔っ払いの為せるわざだ。何となく試しに網目男爵の物語を書き始めたら、気がつけば勝手に筆が動いていた。妄想まで出だしとあらば、病院に行った方がいいかもしれない。オラも網目男爵と同様に、心に深い疵(きず)を負っているのやもしれぬ。

気を取り直して、本来書くべきことに戻ろう。
象は草原に帰り、オランウータンは深い森に帰る。誰しもが本来あるべき場所に戻らなければならない。

 
2019年 7月17日。
奈良でマホロバキシタバの分布調査をしている折りに、アミメキシタバも採れた。
マホロバにしては小さいし、何か変だなと思ってよく見たら、アミメだった。ここにはアミメなんていないと思っていたから、ちょっと驚いた。
7月10日にマホロバを発見して以来、毎日のように此処を訪れている。なのに見ないから、いないと思っていたのだ。それに奈良市にいるなんて聞いたことがない。知っている一番近い産地は生駒山系南部の八尾市。そのすぐ東側の矢田丘陵では、去年足繁く通ったのにも拘わらず一度も見ていない。生駒山地北部の四條畷周辺の山でも見ていない。八尾市に連なる山地に分布しないのならば、そこからそう離れていない奈良でもいないだろうと考えるのが自然な流れでもあった。

 

 
この日は2頭採れたから偶産ではなさそうだ。鮮度が良いことからも此処で発生したものだろう。遠方からの飛来ではないと言い切ってもいい。鮮度もあるし、遠くに移動するならば、もっと遅い時期だろう。

にしても、何か変だ。発生時期としては遅くないか❓ 八尾市では7月上旬辺りから発生しているという。八尾のポイントは詳しくは知らないが、大体の予測はついている。因みに麓にある恩智神社で標高約100m、奈良で採れた所が約110mだ。さして標高は変わらないのにナゼに発生期がそんなにズレるの❓
いや、待てよ。今年は蝶の発生が1週間以上遅れているとも聞く、ならば蛾の発生も遅れているのかもしれない。
まあ1週間程度なら物凄く発生が遅いと云うワケではないから、取り立てて言う程のことではないかもしれない。とにかくマホロバと比べて1週間遅い発生のお陰で助かったと云う思いはある。
もしもマホロバを発見した日にアミメも同時に採れていたなら、気づくのはもっと遅れたかもしれない。例えば、もし最初に採ったものがアミメならば、他も全部アミメだと思い込んでいたに違いない。
否、そんなワケないな。展翅したら同じだ。同じように変だと気づいてた筈。むしろ両者が並んでたら、もっと気づき易いやね。そこに「If」は殆んど無いと言っていい。アミメが居ようが居まいが見つけてたわ。

 
2019年 7月20日。
この日も奈良市で、いくつか採れた。
これで偶産ではないことは決定的と言えよう。アミメはここで間違いなく発生している。そう断言してもいい。

 

 
ポイントは前とは違う場所だ。つまり、この山系には広範囲に居る可能性が高いと推測される。

では、ここではアミメの幼虫は何を食樹としているのだろう❓
アミメキシタバの幼虫の食樹の項を見ると、大概のものには「アラカシ、クヌギなど」、もしくは「アラカシ、クヌギ、アベマキなど」と書いてある。「など」が無いのは岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』の「これまで幼虫はアラカシ及びクヌギで得られている」という記述くらいだ。
この「など」って、何なのだ❓ その「など」については何ら言及されてはいない。何を指して「など」なんぞと書かれてあるのだ❓ ワカラン。それってみんな、孫引きなんじゃありゃしませんか(# ̄З ̄)

この地域の植物相は、中央に古い照葉樹林があり、それを囲むようにしてクヌギ、コナラなどの落葉広葉樹を主体とした雑木林が広がっている。あっ、ワシも早々と「など」を使ってしまったなりよ。コレは説明しなくとも解るとは思うけど、特定の樹種のことを言いたいワケではなくて、単に落葉広葉樹が多い植物相だって事を示したいだけだす。

調べたら、この地域には一応、以下のようなブナ科植物があった。

アラカシ、イチイガシ、ウラジロガシ、ツクバネガシ、シリブカガシ、アカガシ、ツブラジイ、スダジイ、シラカシ、クヌギ、コナラ、アベマキ。
他にツイッターにマテバシイというのもあったが、見たことも聞いたこともないし、疑わしいところがある。どちらにせよ、有ったとしても少ないだろうから、メインの食樹としては除外してもよいだろう。

有望じゃないかと思ったウバメガシは、小太郎くんを始め、色んな人に尋ねたみたが、此処には自生する木は殆んど無いそうだ。あるとしたら、民家の生け垣なんかに使われているものくらいとの事。と云うことは、ウバメガシの可能性は除外せざるおえない。

スダジイは多く見られるが、こちらは元々海岸沿いに自生するもので、おそらく植栽されたものだろう。利用している可能性は無いことはないが、元々の食樹ではなかろう。

シラカシは近年街路樹等を中心に植栽される事が多く、家の近所でもよく見かける。だが、これも本来は関東周辺から東に自生するもので、元々西の地域には少ないものだ。除外しよう。

シリブカガシは北部に纏まって自生しており、ムラサキツバメの食樹にもなっている。しかし、他ではそんなにあるようには思えない。可能性はあるが、印象的には無いと思う。シリブカガシもあまりポピュラーな木じゃない。

ツブラジイ、ウラジロガシ、アカガシ、ツクバネガシは結構自生しているそうだ。これも利用している可能性はあるかもしれない。しかし、何れもカトカラの食樹として記録された例が無い。予断は禁物だが、主たる食樹ではないだろう。

残るはイチイガシ、アラカシ、クヌギ、コナラである。
イチイガシは利用している可能性はある。しかし、この木は、そうどこにでもある木ではない。アミメキシタバの他の分布域で見られることは少ないだろう。ゆえにこれも主食樹からは除外してもよさそうだ。

コナラは何処にでもあるが、今までアミメの食樹としては記録されていない。何処にでもあると云うことは、コナラで幼虫を探した人はそれなりにいた筈だ。にも拘わらず発見されていないと云うことは、外してもいいだろう。

逆にアベマキはあまり見ない。利用しているのだろうが、コレまた主要な食樹ではないとみる。

残ったのは二つ。アラカシとクヌギだ。
どちらも地域内には有り、食樹としても記録されてもいる。だが、クヌギは意外と少ない。コナラの方が多いように思う。
たぶん、クヌギは二次的利用で、多くはアラカシを利用しているものと思われる。
何か印象でばっか言ってて、あまり科学的な検証とは言えまいが、おそらく合っているのではないかと思う。

でもなあ…、クヌギは北海道には自生していないから、アミメは分布していないとは知っているけれども、アラカシの分布はどうなんだろ❓
しゃあない、調べてみっか。

Wikipediaによると、クヌギは日本では岩手県・山形県以南の各地に広く分布し、アラカシの北限は宮城-石川とあった。
アミメの分布図を見ると、大体それと合致する。

 
(出典『世界のカトカラ』)

 
(出典『日本のCatocala』)

 
より踏み込んで言えば、アラカシとアミメの分布の方が、より重なっているように思える。
勝手に解釈すると、やはり幼虫はアラカシを主食樹としており、二次的にクヌギを利用しているのではないかと思う。

あっ、思い出した。
そういえば、今年はナマリキシタバを探しに兵庫県の武田尾渓谷に行った時もアミメを採ったなあ…。あそこも全体的にアラカシが多いもんなあ。よし、アラカシで決まりだーいd=(^o^)=b

でもアラカシって、何処にでもあるんだよなあ…。
その割りにはアミメの分布は局所的とされる。
( ´△`)うわ~、何かメンドクセー。また、変なところに首突っ込んじゃったよ。
よし、こうしよう。アミメはアラカシが沢山ある所には大概いる。でも単に探してる人が少ないだけで見つかっていないだけだ。そういう事にしちまおう。
ガ好きはチョウ好きと比べて圧倒的に少ない。人気者のカトカラと言えども、愛好者の数はたかが知れている。分布調査が進んどらんのだろう。

シャンシャンで、これでクローズできたかと思った。
けんど、この後で西尾規孝氏の『日本のCatocala』の中に、こんな記述を見つけてしまった。

「(食樹は)アラカシ、クヌギ、アベマキ、ウバメガシ、コナラなどでコナラ属全般を食餌植物としているとみられる」

(ФωФ)ニャーゴー、また1からやり直しだ。
ウバメガシも食樹としているというならば、やはりオイラの予想は的中だね。それは嬉しい。しかし、コナラというのが気にかかる。また、ややこしいのが出て来ましたなあ…。
クソッ、コナラの分布も確認しまんがな。

コナラは北海道、本州、四国、九州、朝鮮半島、中国に分布するとある。北海道にも有るんだね。と云うことは、もしアミメの主要食樹なら、もっと北に分布を拡大しててもおかしくない筈だ。いや、アミメは南方系の種だから無理か…。けど、分布を拡大してるとかって何かに書いてなかったっけ?
しかし、コナラは無いな。コナラが主要食樹ならば、もっと普通種であってもいい筈だ。そうゆう事にしておこう。

それはさておき、何でこの『日本のCatocala』にだけウバメガシとコナラが食樹に入れられてんだ❓
他の図鑑等の文献には出てこんぞ。この図鑑は自費出版で刷数が少なく、値段も8万円くらいと高価だから読んだ人があまりいなくて孫引きされてないだけ❓
にしても、ウバメガシ、コナラというのは、どこからの情報なのだろう?著者御自身で確認されたのだろうか?またそれは自然状態での事なのか、飼育実験での事なのか、どっちなのだ?気になるところではある。

それはそうと、やっぱりここでも「……、ウバメガシ、コナラなど」と「など」が出てくる。「など」の中身は何やねん❓他にもあるのか❓アカガシか❓、それともウラジロガシかあ❓

えーい(ノ-_-)ノ~┻━┻、アカガシもウラジロガシも分布を調べたろやないけー❗
とはいえ、だいたいの想像はつく。アカガシはゼフィルス(蝶=シジミチョウの1グループ)のキリシマミドリシジミ、ウラジロガシはヒサマツミドリシジミの主要な食樹だ。
ヒサマツの分布が神奈川県丹沢山系と新潟県の糸魚川辺りが東限とか北限ではなかったかと思う。キリシマは太平洋側が伊豆半島以西(丹沢かも)、北限はどこだっけ?新潟とか石川なんかにはいなかった筈だ。となると滋賀県か?いや、島根県の隠岐の島❓何かどうでもよくなってきたぞ。とにかくキリシマもヒサマツも本州の西側が分布の中心だ。
Wikipediaによれば、アカガシの北限は本州の宮城県・新潟県以西、ウラジロガシは本州の宮城県・新潟県以南とあった。同じってことだ。蝶よか、もっと北まで自生しているんだね。ヒサマツ、キリシマの分布とは微妙に異なり、ピッタリ一致はしないってワケだな。むしろアミメの分布と重なっているような気がする。
(◎-◎;)何か頭がこんがらがってきたぞ。ちょっと頭の中を整理しよう。
ヒサマツもキリシマミドリも奈良市、六甲山地には分布していない。でも、どちらの地域にもアカガシ、ウラジロガシ共に自生しているようだ。つまり、ヒサマツもキリシマも分布は局所的であり、食樹以外の条件も整わないと棲息できない特殊な蝶と言えよう。だから、この際ヒサマツもキリシマも頭から除外しよう。こんなもんと絡めてしまうから、ややこしくなるのだ。
と言いつつ、ここでまた蝶を持ってくる。しかも特殊な蝶であるルーミスシジミだ。奈良のこの森は、絶滅してしまって久しいが、かつてはルーミスの多産地であった。ルーミスの食樹といえば、イチイガシとウラジロガシである。しかし、どちらも自生する場所が少ない。ゆえにルーミスは分布が極限されると言われている。けれど、此処には両者とも沢山自生する(因みに、ルーミスがアカガシに産卵した例やアラカシより幼虫が得られたという報告もある)。
ここから強引に結論に持ってゆく。つまり、アミメキシタバは此処ではイチイガシもウラジロガシも食樹として利用している。アカガシ、アラカシ、クヌギ、コナラも食っている。六甲のものは、アラカシ、クヌギ、コナラ、ウバメガシ、アカガシを食樹として利用している。それで、もういいじゃないか。

そういう観点で冷静に見ると、この『日本のCatocala』の中の「など」は、少し他の「など」とは使い方のニュアンスが違うような気がする。後に続く言葉「コナラ属全般を食餌植物としているとみられる」と関連づけた「など」であれば理解できる。ようするに、コナラ属なら何でも食うという前提のもとでの「など」ならば、文章として辻褄が合ってると解釈できるって事だね。

それを確認するために、もう一度文章を読み直すと、その後ろに更なる文言が付け加えられている事に気づいた。
そこには「本来の食樹は成虫の分布から、カシ類、アベマキとみられる。」と続けられていたのだ。
Σ(T▽T;)ワキャー、マジ最悪の展開になってきた。
実をいうと、この食樹のくだり、あとがきも含めた全体の文章の最後に書いている。ここを書き終えさえすれば、フイニッシュだったのだ。サクッと終わらせるつもりが、何なんだ❓、この泥濘(ぬかるみ)ノタ打ち具合は❓

カシ類ってのは、あまりにザックリだし、ここへきてアベマキとは驚きだよ。
カシ類の何なんすか❓特定して下さいよ。
アベマキ❓何でクヌギではなくてアベマキなのだ❓
(# ̄З ̄)もー、アベマキについても調べなくてはならぬよ。

日本、中国、台湾、朝鮮半島に多く自生している。日本では、関東地方から四国・九州の山地に自生し、西日本では雑木林に普通にみられる。

普通に見られる❓
そうだっけ?関西ではクヌギの方が多いイメージがあるんだけど…。気になるので更に調べてゆくと、驚くべき事実が解ってきた。
関西ではアベマキと云う言葉はあまり聞かないし、名前さえ知らない人が多いと思うけど、アベマキは関西ではクヌギよりも多く自生している木らしい。ネットの素人っぽい方の情報だから鵜呑みは禁物だけどさ。

クヌギとアベマキはとても似ていて、混同されやすい。たぶん小さい時から、周りの大人にカブトムシが集まる木はクヌギだと教えられてきたので、それらしきものは全部クヌギだと脳が判断するように出来てしまっているのだろう。確かに自分の頭の中では、クヌギもアベマキもコナラもゴッチャになっている。区別せよと言われれば、一応蝶屋だから区別できるが、樹液が出てる木なら何だっていいと云う見方しかいていないのだ。これは自分が蝶の飼育をしないからだろう。木を何かの食樹としては、あまり見ていないのだ。だから特別な場合を除き、普段は似たような木を厳密的に区別する必要性を感じていないのである。

一応、クヌギとアベマキの違いを書いておこう。
ネットに『Quercusのブログ』という優れたブログがあったので、その解説をお借りしよう。

①クヌギの葉裏は無毛で緑色。アベマキは星状毛が密生し、白っぽい。また、アベマキの葉はクヌギよりもやや幅広である。

②クヌギの樹皮は灰褐色で、指で押しても硬い。アベマキの樹皮はクヌギよりも明るい灰色で、コルク層が発達し、指で押すと弾力がある。

③どんぐりはクヌギは球形、アベマキは楕円形であることが多い。アベマキのどんぐりはクヌギよりも色が濃く、殻斗の鱗片は長い。どんぐりはクヌギの方が大きい。

解り易い説明だね。

自分的には、アベマキはクヌギよりも樹皮がゴツゴツしている事。葉がクヌギは細長く、アベマキはそれに比べて幅広な事。アベマキはクヌギよりも樹高が高く、大木が多いって感じで区別している。

このサイトには、他にも重要なことが書いてあった。

「クヌギ、アベマキの国内での分布は以下の通り。
クヌギ:岩手県・山形県以南~屋久島・種子島。沖縄県まで植栽。(クヌギは薪炭材を得る目的で植栽されたものも多く、自然分布ははっきりしない)
アベマキ:山形県・長野県・静岡県以西(紀伊半島を除く)~九州。
両者はすみわけをしており、東日本にクヌギ、静岡県(大井川流域以西)・石川県より西がアベマキの林になる。
大阪府周辺の山ではアベマキはある場所とない場所があるという。
また、紀伊半島にアベマキは自生しないらしい。
このように、アベマキは特異的な分布をしている。」

大阪府周辺の山ではアベマキはある場所とない場所というのは、よく解る。だから、あまりアベマキのイメージが強くないのかもしれない。知らなかったが、紀伊半島にアベマキは自生しないと云うのもアベマキの印象を薄くしているのだろう。
アミメキシタバって、紀伊半島にはバリバリいるよなあ…。って事は、紀伊半島のアミメの食樹は別に有るって事だね。やはり一番利用されているのはアラカシ、もしくはウバメガシなんでねーの。

続きを読もう。
「また、クヌギは朝鮮半島からの移入種であり、日本にあるものは全て植栽されたものという説もある。
中国では標高600~1500mにアベマキ、標高900~2200mにクヌギが生育しているという。
私の推測の域だが、元々日本にはクヌギはなく、暖地性のアベマキが分布しない地域(静岡県・石川県以東)に薪炭材を得る目的でクヌギを植林し、現在のようなすみわけになったのかもしれない。」

クヌギは昔の里山では薪や炭として利用価値が大きく、植栽が進んだとは知っていたが、完全な移入種とする説があるとは知らなかった。
もしそうならば、クヌギはアミメの本来の食樹ではないと云う事になる。となると、西尾氏のアベマキを本来の食樹の1つとする言は慧眼かもしれない。
しかし、やはり生息環境からみれば、基本的な食樹は常緑カシ類だろう。アラカシを中心に常緑カシ類、特にコナラ属ならば何でも食うのだろう。で、二次的に落葉性のコナラ属も利用している。そうゆう事にしておこう。もう、ウンザリなのだ(ノ-_-)ノ~┻━┻
でも、そうなると、カシワ、ナラガシワ、ミズナラも利用しているの❓
(-“”-;)もう、やめとこ。

 
2019年 7月21日。
去年に引き続き、クロシオキシタバ狙いで六甲方面へ行った。

夕方前、木に静止しているアミメを見つけてゲット。

 

 
静止位置は目線のやや上、上下逆さまてはなく、頭を上向きにして止まっていた。
カトカラたちは、昼には頭を下にして逆さまに止まっているが、夜は普通に頭を上にして止まっている。
では、いつ逆さま止まりから上向き止まりになるのだろう❓ そもそも、何故に昼間は逆さまに止まるのだ❓しかも昼間に驚いて飛んだ場合、上向きに着地して一旦静止。暫くしてから、また逆さまになるという。ワザワザもう1回逆さまになると云うことは、そこには何らかの意味があるということだ。
でも、考えても意味も必要性も全くワカラーン。
この逆さまになる理由については、誰も何処にも言及していないと思う。誰か、解りやすく説明してくれんかのぅー( ̄З ̄)

夜になって、シッチャカメッチャカになったけど、それなりの数のアミメを確保できた。その辺の顛末は、前回の『網目男爵』、前々回の『絶叫、発狂、六甲山中闇物語』に詳しく書いたので、ソチラを読んで下され。

何度も使っている写真だが、この日採ったものの一部を貼付しておく。

 
【Catocala hyperconnexa アミメキシタバ♂】 

 
【同♀】

 
【同裏面】

 
それなりに採った筈なのに、画像があまり無い。
おそらく面倒臭いので、展翅はしていても写真には撮っていないのだろう。やっぱりアミメキシタバに対しての愛が少ないのかなあ❓

 
                    おしまい

 
追伸
いやはや、冒頭部がまさかの小説風の入りになろうとは自分でも予想外の展開だった。
網目男爵とカトカラを引っ付けた話だなんて、メチャメチャ過ぎて最初から無理だと思っていた。しかし、アルコールの力、恐るべしである。突然、何かが降りてきて、一気に書いた。
翌日に、誤字脱字「てにをは」句読点は一部修正したものの、あとは全文ほぼその時のままである。
また何かが降りてきてくれたら、続きを書けるかもしれない。まあ、どうせ泥酔酒バカ男と化すだけで、そんな都合よくいく事なんて有り得ないと思うけど(笑)。

今回は、かなり短くなると思ってた。それゆえの網目男爵の冒頭文の発想も出てきた。相当短いツマンナイ回になると思ったから、潜在意識の中に何かしらアクセントをつけようという考えがあったのかもしれない。駄文製造家にも、少しでも面白くしようと云うそれなりの気づかいがあるのだ。結局、最後に食樹のところで躓いて、又しても長文になっちゃったけどね。

次回は、やっと書きたかったカトカラについて書ける。謂わば、ソレとアレの2種類についての採集記が書きたくて、この『2018’カトカラ元年』のシリーズを始めたのである。
でも、思った以上に書くのは大変で、始めた事を後悔している。ソレとアレの事だけを書いときゃよかったのに、下手に完璧主義的なところがあって、前後時系列の中での、その文章であって欲しい。そういう無意識下の願望があったのかもしれない。謂わば、ソレとアレを書くために今まで駄文を重ねて来たのだ。
(-“”-;)しまった…。自分でハードルを上げてどうする。
けど、次回取り上げるカトカラも一年半近く前の話だもんなあ…。結構色んなことを忘れてるかもしんない。気合いだけ空回りして、ドツボの回になったりしてさ。
クソッ、いっそ全文小説風、しかも純文学風で押し通してやろうかしら( ̄∇ ̄*)

 
《参考文献》
・『世界のカトカラ』石塚勝己 月刊むし
・『日本のCatocala』西尾規孝 自費出版
・『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』岸田泰則 学研
・『みんなで作る日本産蛾類図鑑』インターネット
・『ギャラリーカトカラ全集』インターネット 
・『兵庫県カトカラ図鑑』阪上洸多・徳平拓朗・松尾隆人 きべりはむし
・『Quercusのブログ』インターネット

 

2018′ カトカラ元年 其の十

 
 vol.10 アミメキシタバ

   『網目男爵』

 

採集過程は前々回のクロシオキシタバの回で既に詳しく書いているので、おさらいでサラッと書きます。
あっ、忘れてた。その前に八尾のことを書いておこう。

7月中旬には記録のある大阪府八尾市に行く予定だった。しかし、去年にマルタンヤンマを探しに行った折り、物凄い数の目まといに襲われてエラい目にあった。奴ら、目の中に入ってくるので死ぬほど鬱陶しい。ワシ、サバンナのライオンちゃうぞ、(#`皿´)ボケッ❗

オイちゃん、網を振りまくって彼奴(きゃつ)らを拿捕し、網の上から纏めてグシャグシャに握り潰しまくってやった。殺戮ジェノサイドである。殺意はとどまることを知らず、爆殺💥カーニバル。少なくとも五百匹は殺してやったと思う。
普段は「生き物は大切にしましょう。」なんて言ってるクセにコレである。酷い男なのだ。
世間には、こういう言葉を正義感ぶって吐く者が多いが、ハッキリ言って欺瞞である。アンタら、家にゴキブリが湧いたら殺さへんのかーい❗蚊にたかられたら、叩き潰さんのかーい❗❓
まあいい。そんな事はどうでもよろし。
兎に角そう云うワケで、もうマルタンヤンマどころではなくなって、殺戮に明け暮れてヘトヘトになってしまったのであった。それを思い出して、行くのを躊躇しているうちに、いつしか7月下旬になってしまった。

 
2018年 7月26日。

この日は明石城跡に出掛けた。
ここにアミメキシタバとクロシオキシタバの両方の記録があったからだ。一挙に2つ合わせて採ってやろうと云う算段だった。
しかし、両者とも姿さえ見ず。惨敗を喫する。

 
2018年 8月1日。

取り敢えず先にクロシオキシタバを落とそうと思い、六甲へと向かう。
調べて、ここに幼虫の食樹であるウバメガシが多いと突き止めたからだ。
山中に入り、すぐクロシオを仕留める。その後、予想外のアミメまで採れた。

 
【アミメキシタバ】

 
個体数は多く、殆んどは樹液に飛来したものだった。
尚、途中でクロシオがド普通種のパタラ(C.patala)に見えてきて、アミメがクロシオに見えてきた。で、クロシオを無視してアミメばっか一所懸命に採るという大失態をしでかしてしまった。情けないけど、カトカラ1年生は下翅の黄色いキシタバ類の区別がロクにつかんのだよ、もしぃ~(´∇`)
でも、これからカトカラを集めようと思ってる人は笑ってらんないよー。アンタらもゼッテーにワケわかんなくなっからね。

と云うワケで、ここにはクロシオを採り直しに8月4日にも再訪した。勿論クロシオをシバき倒して、アミメもシバき倒してやった。

以上である。
Σ( ̄O ̄)ワオッ、要約すると、こんなにも短くできるのね。ワシ、どんだけ枝葉の話ばっか書いとんねん。

あまりにも短いので、当時Facebookにあげた記事を一部訂正して再録する。

『アミメキシタバ❗❓ 採った瞬間、直感的にそう思った。
しかし、ウバメガシの森なのにコレばかり飛来するから、次第にコヤツがクロシオキシタバでは?と思い始めてワケわかんなくなってきたなりよ。で、とりあえずコレ中心に採ってた。
でも普通のキシタバ(C.patala)じゃろうと無視してたデカめなのが、今思えばたぶんクロシオに違いない。そんなデカイだなんてネットの記事や図鑑にはどこにも書いてなかったどー(-_-#)
(# ̄З ̄)むぅー、クロシオは夕方に道中で最初に採ったもの(コレも直感的にはクロシオだと思った)と、他にもう1頭しかないから、明日また行くつもり~。

 
【クロシオキシタバ】

 
けど六甲は坂がキツイから憂鬱なんだよなあ…。明日もクソ暑いそうだから熱中症になりかねんわい。
それに、明日は淀川の花火大会だ。まともな脳ミソの持ち主ならば、どう考えてもソチラに行く方が賢明だと判断するじゃろう。せやけど、人が多いのもイヤだしなあ…。(# ̄З ̄)ブツブツ。』

書いたことはすぐ忘れる性質(たち)なので、自分が書いた文章だとは思えなくて、ちょっと面白かった。
書いたばかりの自分の文章を読むのは嫌いだが、時間が経ってから読む自分の文章は割合好きだ。だって、本人が何を書いたのかをあまり憶えてないから、他人が書いた文章のように読めるのである。時々、自分で書いといて、吹き出してしまう事だってある。コイツ、アホちゃうかと思って笑ってしまうのである。でも、よくよく考えてみれば、自分の書いた文章で爆笑とかって滑稽だ。で、何だか変テコな気分になる。

また、前々回のクロシオの文章や今回の要約文とはタッチが微妙に違うのにも驚いた。オイラって、その日の気分で文章を書いてる人なんだろなあ…。プロットとか、あんましないのだ。全体を考えてから文章を書き始めるタイプではなくて、書いてるうちに何となく文章が出来上がってゆく、謂わば行きあたりバッタリの人なのだ。緻密さなんて、全然ないのさ、ぷっぷっぷー。
何か納得したところで、話を前へと進める。

その時に採ったものの一部を並べておく。

 
【アミメキシタバキシタバ♂】

 
展翅、へったクソやなあ。
カトカラ1年生は展翅バランスが分からなくって、上翅を上げ過ぎてるのさ。蝶の展翅とはバランスが違うのに中々気づかなかったのである。前縁と頭部の周辺に空間が開くのが蛾では当たり前だと知らなかったんだもん。秋田さんに言われて、漸く気づいた。言われた時は、ちょっと気色ばんだけど、今では感謝してる。

もう1つ♂っぽい画像が出てきた。↙
けど、これってホンマに♂かいな❓
腹の形が♂っぽいけど、上翅の感じが♂らしくない。

 

 
アミメの♂の上翅はベタな茶色なのだが、この個体は白斑がやや出ていて、コントラストもある。♀には上翅に白斑が入るものが多いが、♂にもそのタイプって、いたっけ❓
単に腹が伸びちゃっただけ❓
それに♂の特徴である尻先の毛束も少ないような気がする。
(;゜∇゜)アカン…、上から三番目も♀に見えてきた。カトカラは基本的には雌雄同型なので、しばしばオスとメスがわかんなくなる。カトカラも雌雄異型なら、更に人気が出るのになあ…。蛾って、フユシャクとかは別にして、あんまし雌雄異型というイメージがない。雌雄が異型のものは進化した種で、同型のものは旧いタイプの種とかっていう見解は無いのかね❓聞いたことないけど。

 
【アミメキシタバ♀】

 
上翅が上がり過ぎだけでなく、触角も酷いことになってるな(笑)
たぶん、カトカラの触角は細くて長いから、すぐ切れるので頑張らなかったんだと思う。蛾の展翅写真って、下手なのが多いし、こんなもんでいっかと思いがちなのだ。べつに上手いと思われなくてもいいやと思ってたフシがある。蝶は好きでも蛾は嫌いという感情が、まだ色濃く残ってたところもあるんだろね。ようするに、対象物に対しての愛が少なかったのである。

多くの♀が上翅に白斑が出て、白いポッチ(腎状紋)がある。それで、雌雄の区別はある程度できる。
♂よりも♀の方がコントラストがあるから、見た目はまだマシかな。あっ、コレってアミメに愛があんまし無いって言い草だな。
認めよう。小さいし、茶色だし、帯が太いから黄色いところが少ないので、あまり魅力を感じない。採れた当初は嬉しかったが、今となってはアミメなんてどうでもいい存在なのだ。

 
【裏面】

 
他のキシタバと比べて、黒い領域が多い。中でも特に上翅の内側が黒いという印象がある。個体によるだろうけど、大体そこで他種とは見分けがつく。

展翅が酷いので、一応今年のものも並べておこう。
展翅によって種のイメージも変わりかねないからね。

 

 
上から♂、♀、裏面。
比較用にクロシオキシタバの裏面画像も貼っつけておこう。

 

 
全然、ちゃいまっしゃろ。
殆んどの図鑑には裏面が図示されていないし、違いについても言及されていない。それって、どうよ❓ダメじゃなくなくね❓
裏面が、種の同定をするにあたり重要な意味を持つ場合だってあると思うんだけど…。

 
【学名】Catocala hyperconnexa(Sugi,1965)

おそらく蛾の高名な研究者である杉 繁郎氏の記載であろう。
御本人に学名の由来をお訊きすれば、簡単で話も早いのだろうが、残念ながら既に他界されておられる。
取り敢えず、自分で調べてみっか…。岸田せんせや石塚さんに訊くのは、それからでも遅くはないだろう。

頼みの綱の平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』には、残念ながら同じ学名の蝶はいなかった。近いものに、以下のようなものがあった。

[hyperantthus(ヒュペラントス)]
ミヤマジャノメの小種名。ヒュペラントスはアイギュプトスの50人の息子の一人。リンネの命名。

[hypereia(ヒュパレイア)]
トンボマダラ科の1種。

[hyperia(ヒュパリア・ヒュパレイア)]
ヘリアカタテハの小種名。
ヒュパレイアはテッサリアの町ペライの泉の名。ペライはアドメートス王の居所(ラテン語辞典)。なお、ヒュペレイア Hypereiaはギリシア語。一方のHyperiaはラテン語で、大洋神オーケアノスの娘、テッサリアのペライにある泉の精を意味する。

[hypermnestra(ヒュペルネーストラー)]
ルリモンジャノメの小種名。
ヒュペルネーストラーはダナオスの50人の娘の一人。

相変わらず、ギリシア神話って全然アタマに入ってこない。固有名詞がチンプンカンプンである。
それはそうと、読みはハイパーコネックスじゃないんだ。久し振りに学名のことを書くので、無意識に英語読みしてたよ。学名は基本的にラテン語読み、もしくはギリシア語読みなのを忘れてたわ。となると、ヒュパルコネクサ❓ヒュペルコネクサ❓まあ、そんなもんじゃろう。

他にも蝶の属名に Hypermnestra というのがあるようだ。また種名にも hypermnestra が使用されており、マダラチョウ科のIdea属、タテハチョウ科のMestra属にそれぞれいるみたい。

見た感じ、学名の小種名はおそらく何かと何かを組み合わせた造語だろう。たぶん、hyper と connexa という単語が合体したっぽい。和名のアミメと下翅の特徴から、下半分の connexa は、英語のコネクト(connect)を類推させられる。意味も「連結する、接続する、繋げる」といった意味の動詞だから、イメージとも合致する。つまり、アミメキシタバの最大の特徴は下翅下部の黒帯が2ヶ所で繋がるって事ね。ようは日本のキシタバ類の中では、一番繋がってるがゆえの命名なのだろう。

更に調べると、ラテン語に connnexio(コンネクシォ)という言葉があるみたいだ。意味は同じく「絆、共に繋ぐこと」だそうだ。因みにラテン語には、connecto(接続する)という言葉もある。これもまた2つの言葉が組み合わさったもののようだ。con-(一緒に)+necto(結び付ける)➡ gned-(縛る)が語源とされる。「結び合わせること」が、この単語のコアの意味との事。

前半部の「hyper」は、英語だとハイパーだよね。「上」「超越」「向こう側」を意味する英語の接頭語だ。これはギリシャ語のヒュペル ὑπερ (hyper) が語源。似た意味を持つ接頭語に、ラテン語に由来する「スーパー」「ウルトラ」「アルテマ」などがある。いくつかの分野では、やや厳密な意味を持ち、英語の「over」や「above」にあたるとあった。

何だか小難しい表記だなあ。
孫引きばかりで、解りづらくてスマン。
ようは、杉さんはメチャンコ黒帯が繋がっているということを表現したかったのだろう。
多くの学者さん(杉さんの事ではない)は賢すぎて、難解な文章を書かはるから、アタマ悪りぃオイラには何を言わんとしているのかを理解するのは大変だ。
たとえ高尚な文章でも、難解ならば相手に意味が伝わらない。それって、本末転倒だ。アタマいいって、アタマ悪くないか❓

 
【和名】
和名は下翅の黒帯が網目模様のように殆んどが繋がることからの由来だろう。結局、皆そこへ行っちゃうのね。

特に優れた和名とは思わないが、他に適当な和名がないというのも事実だ。
ちなみに、別名にハイイロキシタバなんてのもあったようだが、全く使われていない死語になっている。
そもそも何処が灰色やねん?それに他によく似た名前のハイモンキシタバがいるから、混乱を招きかねない。消えて当然でしょ。

けど、あとで語源がわかった。どうやら腹部が灰黄褐色な事から名付けられたようだ。でも何度と採っているのにも拘わらず、そこには全く気づかなかった。たいたい翅の特徴ではないと云うのが承服しかねる。そもそも余程の色の違いがなければ、そんなもん気づくかボッケーッ(*`Д´)ノ❗❗である。消えて当然の和名ざましょ。

また、学名の小種名をそのまま使うという和名のつけ方があるが、これもアウトだな。ヒュパルコネクサキシタバなんてクソ長いし、舌を噛みそうだ。アミメキシタバで妥当だろう。今のところ、和名に意義なし。

余談だが、こうした後翅の中央黒帯と外縁黒帯が2ヶ所で繋がるパターンのキシタバ類が、近年になって中国やインドシナ半島北部から幾つも発見されているそうだ。何れの種も照葉樹林への依存度が高いと推察されている。
或いは日本にも従来アミメキシタバとされてきたものの中に、隠蔽種の別種が混じっているかもしれない。自分たちが発見した Catocala naganoi mahoroba マホロバキシタバなんかも、その一つの例だろう。黒帯は繋がらないけどさ。

 
【翅の開張】
ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には、前翅長26~28㎜とあったが、これは間違い。3センチって、極小やないけ。それだとカトカラ1のチビッ子になってまうやんけ。
対して岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』には、開張53~59㎜とあった。コチラが正解だろう。
これからは岸田先生の図鑑を参考にしよう。『みんなで作る日本産蛾類図鑑』は参考にはなるけど、情報を鵜呑みにするとエライ目にあう。とにかくカトカラの仲間の中では小さい部類には入る。近似種のクロシオキシタバは比較的大きいので(58~68㎜)、それで一見して、大体の区別はできる。
付け加えておくと、前述のマホロバキシタバは両者の中間の大きさである。この三者の区別方法は、そのうち纏めて書きます。

 
【分布】
関東以西の本州、四国、九州、対馬。
佐渡島にも記録があるようだ。しかし、屋久島には記録がないという記述が散見される。但し、石塚さんの『世界のカトカラ』の分布図には、生息を示す色付けがなされている。どっちなんだ❓
一応、屋久島に産するとされる文献を探してみたが、見つけられなかった。単に鹿児島県という県単位で色付けされているだけなのかもしれない。だとしたら、ややこし過ぎ。

暖温帯系の種とされるが、地球温暖化に伴い北に分布を拡大しているとも言われている。しかし、これも詳細はわからなかった。

かつては日本の固有種だったが、その後インド北部から中国南部を経て日本にまで広く分布していることが分かったそうな。カトカラの分布って、日本も含めて結構いい加減だよなあ…。蛾の中ではポビュラーなグループだけど、それでも蝶に比べて研究はまだまだ進んでいないように思える。蛾って、それくらいマイナーな存在なのだと理解したよ。そう云う意味では面白い分野だとは思う。蝶みたいに、あらかたの事が調べられているものよりも未知な部分があって、調べ甲斐がある。っていうか、性格的には合ってるかも。

 
【レッドデータブック】
宮城県:絶滅危惧I類(CR+En)、滋賀県:絶滅危機増大種、兵庫県:Cランク(少ない種・特殊環境の種)
 
兵庫県も含まれているとは意外だった。レッドデータって、案外とアテにならないと思う。但し、分布は局所的な感じはするので、いるとこには沢山いて、いないとこには全然いないと云うのはある。レッドデータも担当者次第では見方も変わるということか…。
因みに、個人的見解としては照葉樹林のカトカラだと思う。豊かな照葉樹林が残る地域では、稀ではないだろう。

 
【成虫の出現期】
早い年には6月下旬から見られるが、平年は7月上旬から現れ、10月上旬まで見られる。寿命は比較的長いようだ。但し、8月を過ぎると新鮮な個体は殆んど見られなくなる。
余談だが、奈良市ではマホロバとは発生が1週間遅れ、7月中旬の後半から現れ始めた。

 
【成虫の生態】
主に暖帯の照葉樹林帯とクヌギ、アベマキ、コナラを主体としたの落葉広葉樹林帯に見られる。しかし、本州中部以北の落葉広葉樹には殆んど見られない。
稀にブナ帯など高標高地や冷温帯でも採集される。これは飛翔能力が高く、酷暑の時期には移動するのかもしれないという見解がある。
前述したが、基本的には照葉樹林のカトカラだと思う。

樹液に好んで集まり、糖蜜にもよく反応する。飛来時刻は日没直後にワッと集まってきて、その後二度ほどの小ピークはあるが、だらだらと飛んで来る印象がある。但し、これは生息地にもよるだろう。あっしの言葉を鵜呑みにされないが宜しかろう。

灯火採集はしたことはないが、よく集まるという。
昼間は頭を下にして静止している。驚いて飛び立つと、上向きに止まり、暫くしてから下向きになる。

 
【幼虫の食餌植物】
ブナ科コナラ属のアラカシ、クヌギ、アベマキが記録されている。ウバメガシは記録されていないようだが、学術上は近い関係なので、利用している可能性はあると思う。いや、その可能性は極めて高いと思われる。実際、蝶のウラナミアカシジミは基本的にはクヌギ、アベマキを食樹としているが、亜種のキナンウラナミアカシジミはウバメガシを利用しているという例もある。
また、クロシオキシタバのいる海岸林には必ずアミメもいるという意見もあるので、ウバメガシとは密接な関係にあるのではないかと推測している。まだカトカラ2年生の言なので、コレまた鵜呑みにされないが宜し。

西尾規孝氏の『日本のCatocala』には、観察例は少ないものの、幼虫は樹齢15~40年くらいの木を好むそうだ。

                    おしまい

 
追伸
「網目男爵」というフザけた小タイトルは、半分は思いつきのノリでやんす。顔が網目のダンディーな男爵を想像した人はゴメンね。
これは何となくそう感じたというか、そういう単語が浮かんたので、心の中でアミメのことをそう呼んでいたのだ。
だが、人前で口に出して言ったことはない。また、アタマがオカシな人だと思われるのもねぇ…。

とは云うものの、「網目男爵」とタイトルを付けたので、網目男爵物語の捏造を目論みはした。けど、流石に無理がある。アミメキシタバと網目男爵を繋げて、物語として成立させるだなんて云うハイパーコネクトな芸当は不可能に近い。ゆえに早々と断念した。アホな事を考えてるヒマがあるなら、本日の飯の仕込みでもしてた方が良いもんね。

 
《参考文献》
・『世界のカトカラ』石塚勝己 月刊むし
・『日本のCatocala』西尾規孝 自費出版
・『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』岸田泰則 学研
・『蝶の学名-その語源と解説-』平嶋義宏 九州大学出版会
・『みんなで作る日本産蛾類図鑑』インターネット

 

続・クロシオキシタバ

 
     クロシオキシタバ続篇

『絶叫、発狂、六甲山中闇物語』

 

2019年 7月21日

既に7月初めに六甲で発生していることは聞いていた。しかし、マホロバキシタバ(註1)の分布調査をしていたので、中々クロシオを採りに行けなかった。で、漸く出動できたのがこの日だった。

去年と同じコースをゆく。

 

  
生憎(あいにく)と天気は悪い。

 

 
淡路島も雲に隠れかけている。
とはいえ、蝶採りじゃないから晴天である必要性はない。むしろ曇天の方が有り難いくらいだ。気温が下がってる分、身体的には楽なのだ。
蛾がターゲットなんで、ベースは夜だしね。太陽は関係ない。月の満ち欠けの方が重要なのだ。月が隠れていた方が蛾採りには良いとされている。でも外灯廻りやライトトラップをするワケではないので、それすら今日は関係ない。樹液採集の優れているところは、あまり天候に左右されないところだ。晴れていようが雲っていまいが、カトカラは腹が減ったら餌を求めて動く。むしろ霧雨や小雨程度の雨が降っている方が活性化されたりもするという意見さえある。

天候条件云々以上に、ここは去年に二度訪れているから気持ち的にはメチャメチャ楽だ。現地を知っているか知らないかの差は大きい。ポイントへのルート、所要時間、周囲の環境等々を知っていれば、効率よく動けるし、トラブルが起こる可能性も少なくなるのだ。ましてや夜だ。これが精神的にどれだけ余裕を与えてくれるか、その利点は計り知れない。

しかし、全く心配がないワケではない。昨年、木から樹液が出ていたからといって、今年もその木から樹液が出ているとは限らないからだ。
そもそも、木が樹液を出しているということは、健常な状態ではない。謂わば、体液ダダ漏れの怪我とか病気をしているみたいなものなのだ。だから一年も経てば、自らの治癒力でお治しあそばせているケースも多々ある。
それに樹液が出ていたのはウバメガシだ。ウバメガシから樹液が出るなんて、それまで聞いたことがなかった。一部の常緑カシ類からも樹液が出ることは知ってはいたが、あまり一般的ではない。出ている木も少ないし、その流量も少ないと云う印象だ。世間的に昆虫の集まる樹液の出る木といえば、一番はクヌギ。あとはコナラ、アベマキ、ヤナギ類辺りだ。他にハルニレからもよく樹液が出るようだが、ハルニレは北方系なので関西では極めて少ないようである。
とにかく目指すポイントは、謂わばウバメガシの純林だ。もしもあの木から樹液が出ていなければ、周囲にはクヌギもコナラも殆んど無いから苦戦すること必至なのだ。

雲に隠れてゆく淡路島を見ながら、ふと気づく。
そういえば登ってくる途中の最初のウバメガシ林で、今日はクロシオを一つも見かけなかった。去年は夕方前にその林を通過する時には、二度とも数頭ずつ見たのにアレレ~( ̄O ̄)❓ ちょっと嫌な予感がした。

歩き始めて15分くらいだろうか、木に止まっているアミメキシタバを偶然に見つけた。ほぼ木と同化していた。木遁の術だ。コイツら、まるで忍者だよね。よほど注意して見ていないと見破れない。

でも見破られたら終わりだ。オジサンに拐われる。

 

 
下向きではなく、上向きに止まっていた。
カトカラは昼間は逆さま、つまり下向きに止まっているというが、夜は上向きに止まっている。じゃあ、何時頃に向きを変えるのだろう❓ 因みに採ったのは午後6時25分だった。この日の日没時刻は7時10分。日はまだ沈んでいない。
ずっと疑問だったんだけど、ナゼそもそも昼間は下向きに止まっているんだろう❓何かメリットでもあるのかね❓ 上向きに止まろうが下向きに止まろうが、さして見た目に変わりがあるとは思えない。理由が全くワカラン。それについて言及されている書物も見たことがない。何でやねん❓誰か答えてくんろ。

 
【裏面】

 
次第に尾根道は細まってゆく。いわゆる痩せ尾根ってヤツだ。そして、両側は切れ落ちた急峻な斜面になっている。特に右側の神戸方面は斜度がキツい((画像は去年のものです)。

 

 
この辺りは源平合戦(治承・寿永の乱)の古戦場として知られ、一ノ谷の合戦があったところだ。一ノ谷の合戦といえば、源義経による奇襲作戦「鵯越の坂落し(逆落し)」が有名である。義経はここから海に向かって(神戸方面)馬で駆け下り、平家方は想像だにしていなかった背後の急峻な山からの奇襲攻撃に総崩れになったというアレだね。

やがて、去年樹液がバンバンに出ていた木が見えてきた。
(-“”-;)……。
遠目に見るも、カナブンもスズメバチもおらん…。夕方遅いから、お家に帰っちゃったことを祈ろう。

木の前までやって来た。
ゲロゲロゲロー\(◎o◎)/、不安的中やんけー。
樹液が出ている様子なし。見事に傷は癒えて、健康な状態に戻っているではないか。(|| ゜Д゜)ヤッベー。

まあ、仕方あるまい。
そんな事もあろうかと、それを見越して今年は糖蜜トラップを用意しているのだー\(^o^)/。イガちゃん、かしこーい。フフフ( ̄∇ ̄)、カトカラ採りも二年目ともなれば、それなりに進化しているのだ。まあまあ、天才をナメなよである。

 

 
日が暮れてゆく。
それを合図に糖蜜を木の幹に吹き付ける。
( ・∀・)/占==3しゅっしゅらシュッシュッシュー。

しかし、辺りが真っ暗になっても何も飛んで来ない。
寄って来たのは、気色の悪いゲジゲジと👿邪悪なムカデだけだ。おぞましい奴らめ、この世から滅びてしまえばいいのに。

楽勝気分だったのに、おいおいである。焦る💦。
他のカトカラには絶大なる効力があったのに何で❓
そうとなれば、飛んでるものをシバキ倒すしかない。
しぇー、キビシ━━ィッΣ(ノд<)
でもグズってても、何も始まらない。やるっきゃない。ヘッドライトを点け、網を持って歩き始める。

歩き始めて直ぐに沢山飛んでるところを見つけた。
15mほど離れた山の斜面に大木が生えており、その周辺でカトカラたちが乱舞していた。おそらく、木からは樹液が出ているのだろう。
しかし、ここは前述したように鵯越と呼ばれる急峻な斜面だ。あそこまで行くのは至難に思える。降りようと思えば降りれなくはないだろうが、戻ってこれない。なぜなら上部は道からスパッと切れ落ち、崖状になっているからだ。攀じ登るには、かなり厳しそうなのだ。もし降りて、ここから登れないとなれば、登れそうなところを探して彷徨(さまよ)う事になる。こんな急斜面を、しかも暗闇でトラバースし続けるなんて地獄だ。下手したら遭難だ。リスクが高過ぎる。

仕方なしに糖蜜を撒いた場所に戻ったら、糖蜜トラップにクロシオくんが来ていた。
(^-^)効力あるじゃん、あるじゃーん。
一応、上翅の色を確認する。去年やらかしたから、その辺は抜かりがない。昨年はクロシオをパタラ、いわゆる普通キシタバ(C.patala)だと思って無視してしまったのだ。お陰で、再度採り直しに来る破目になったのだった。カトカラ1年生だったとはいえ、情けない。
けど、慣れないうちは誰でも見分けがつかなくて当たり前なんじゃなかろうか。特に野外では難しい。それくらいこのキシタバグループは似た者同士だらけなのだ。

よし、青っぽい。緑色ではないからパタラではない。間違いなくクロシオだ。
慎重に近づき、大胆にネットイン。最初の1頭をゲットする。

 

 
でも、大胆にブン殴るように網を払ったので、中で大暴れ。たちまち背中がハゲちょろけの落武者になってしまった。一瞬、去年の落武者の恐怖を思い出し、半笑いになる。去年は落武者の亡霊が怖くて、Σ( ̄ロ ̄lll)ビビりまくってたんだよなあ。

裏面の写真も撮っておこう。

 

 
お目々、( ☆∀☆)ピッカリンコである。
カトカラは夜に懐中電灯の光を当てると、目が赤っぽく光る。それで比較的簡単に見つけることが出来る。昼間の見つけ採りよか、こっちの方が余程見つけ易いと思う。
それにしても、考えてみれば夜に目が光るだなんて怖いよなあ。これって知ってるから「(^o^)vラッキー、めっけー」だと思うけど、そんなの知らない一般ピーポーからしたら、鬼火とか得体の知れない魑魅魍魎に見えるやもしれぬ。それって、ビビるよねぇ。発狂もんだと思うよ。

けれど糖蜜に来る個体は少ない。仕方なしに空中シバキと糖蜜採りとの二本立てでいくことにした。

一時間が経った。しかし、数が伸びない。去年みたく楽勝で次々とゲットというワケにはいかない。やはり樹液が出ている木がないと厳しい。こうなったら、もう少し探す範囲を広げて、樹液が出ている木を見つけよう。

幸いな事に、少し歩いただけでカトカラの乱舞する木が見つかった。しかも斜面ではない。道沿いの木だ。木は大木ではなくて、結構細い。ウバメガシは大木しか樹液が出ないと思ってだけど、そうでもないんだね。
懐中電灯で照らしていくと、吸汁している者の他にもベタベタと何頭もが木に貼り付いている。おそらく1回目の食事が終わり、休憩しているのだろう。あっ、アミメキシタバも結構いる。
フハハハ…Ψ( ̄∇ ̄)Ψ、ここから楽勝街道爆進じゃあ❗

しかし、問題も有りだった。樹液が出ている箇所が高いのである。4、5mくらいはある。そうなると毒瓶をカポッと被せるという方法が使えないから、網で採るしかない。しかも高いから結局網を振り回す事になる。それに道が細いから両側から木が迫ってきていて、枝も一部覆い被さっている。つまり狭い空間で網を振らざるおえないと云う事だ。狭い場所での長竿のコントロールは難しい。枝に引っ掛けたりするから、自由に振り回せないのだ。
しかも、そんなだから、当然採れてもカトカラたちは網の中で暴れ倒す。特にクロシオが激しく暴れる。で、採っても採っても落武者になりよる。おまけに位置が高いゆえ、真下からだとブラインドになりがちで距離感も掴みにくい。また木が細いと云うのもよろしくない。幹を💥バチコーン叩く手法も使えないからだ。
そういうワケだから、百発百中というワケにはいかない。採り逃しもそこそこあるのだ。いつもよか打率がかなり低い。思うようにいかなくて、段々(=`ェ´=)イライラしてくる。

そんな中、捕らえたやや禿げのクロシオを三角紙に入れた直後だった。右耳の辺りに違和感を感じた。で、耳を触るとガザガサ、ゴワゴワしたものに触れた。
あれっ❓、かさぶた❓ でも耳を怪我なんかした覚えはないよね。一拍おいて、今度は右頬に違和感を感じた。反射的に触れた瞬間だった。
💥バッチ━━━━ン❗❗
Σ( ̄皿 ̄;;痛っ、てぇ━━━━━━━━━ ❗❗❗
赤々と熾(おこ)った火箸をジュッと当てられたような鋭い激痛が走り、その場で絶叫した。
(@_@;)何だ❗❓、(◎-◎;)何だ❗❓、何が起こっているのだ❓ワケわかんなくて頭の中がパニクる。
まさか落武者の呪い❓Σ(T▽T;) 発狂しそうになる。と同時にズキズキとヒリヒリの両方混じったよな痛みで、皮膚がカッと熱くなる。
でもさぁー、それってオカシかないか❓オラ、平家の末裔だぞ。家の家紋も、その証てある蝶だしさあ。守られこそすれ、呪われる筋合いはない。( ;∀;)ポロポロ。御先祖さま、酷いよ。

落武者の亡霊を頭から追いやる。そんなもん居てたまるものか。冷静に考えよう。これは何かに刺されたか咬まれとしか考えられない。でも、じゃあいったい何者なのだ❓
夜だし、スズメバチとは考えにくい。それにスズメバチに刺された時の感覚とは少し違うような気がする。蛇❓ヘビなら、いくらなんでもわかるだろう。
他にヤバイ奴っていたっけ❓そこで漸く思い至る。さっきの木にそういえばムカデがいたことを思い出した。クロシオを網に入れた時に一緒に混入した可能性はある。そうとしか考えられない。でも、どうやって体に這い登ってきたのだ❓あんなもの、這い登ってきたら気づく筈だ。厚いコートを着ているワケでなし、Tシャツ1枚なんだから感じない筈はなかろう。
と、ここで更に思い至った。そういえばチビッコのまだ子供みたいなムカデもいたなあ…。きっとアレに咬まれたに違いない。
ムカデに咬まれたのは初めてだけど、こんなにも痛いものなのか❓あんなチビでもこんだけ痛いのなら、あのデカくて邪悪そのものの奴にやられたとしたなら、どんだけの痛みなのだ❓ ムカデ、恐るべしである。

採っても採ってもクロシオはハゲちょろけになるし、何で誰もいない真っ暗闇の山中に勇気を奮って来たのに、こんな目に遭わなければならないのだ。半泣きで、ベソかきそうである。
でも、何かムチャクチャ腹立ってきた。虫採りって、サイテーの趣味だ。こんな趣味を始めていなかったら、ヒルに血を吸われることも無かったし、スズメバチやアブ、ブヨに刺されることも無かった。ダニに喰い付かれることも無かっただろうし、ハブとかマムシなどの毒蛇や熊に怯えることも無かった筈だ。海外だったら、もっとヤバイ。熊もいるだろうし、蛇はコブラとか青ハブ、百歩蛇(ひゃっぽだ)だぜー。そういえば、虎に豹、野象がいる森に入ったことだってある。地雷の恐怖もあったし、知らぬうちに治安のバリバリ悪そうな村に入ってしまった事だってあった。
で、蛾採りを始めたら、ムカデかよ。夜の闇は死ぬほど怖いし、オイラ何やってんだよと思う。虫採りさえ始めなかったら、こんな目に遭いはしなかった。ヒルもダニもブヨも虫採りを始めてから初めて見たのだ。
だいたい、そもそも虫採りとかをやってるタイプではない。女の子にモテるような事ばっかしやってきたチャラい人間なのだ。

Σ( ̄皿 ̄;;こんな事やめたらぁ~❗

発狂して、闇に向かって絶叫する。
虫採りなんて生産性ゼロだ。やってられっかである。

叫んだら、痛みが増してきた。痺れたような感覚もある。何だか心臓も💓ドキドキしてきた。いや、バクバクか。
そんな事よりどうする❓ムカデって、アナフィラキシーショックとかってなかったっけ❓
いや、あった筈だ。ならば、一刻も早く下山して病院に行かなければならない。
でもハゲちょろけてないクロシオが、まだ一つも採れていない。こんなとこ、もう二度と来たくない。クソッ、採れるまで下りてたまるか、(#`皿´)ボケッ❗

 
午後10時過ぎ。
痛みを堪えて真っ暗な道を下る。
相変わらずの悪路だ。道の横には暗渠の如き闇が口を開けている。誘(いざな)われているような気がする。しかし足を踏み外せば、急斜面をどこまでも転がり落ちることになる。
縮こまった心を抱きしめる。何が何でも無事に下山しなければならぬ。ミッションは何とかやり遂げた。それだけが今の心の支えだ。

途中で、やっと目の前が開けた。

 

 
眼下に神戸の夜景が見える。
ホッとして、少し痛みも和らいだような気がする。
ここまでくれば、あとは道も良い。
さあ、もう一踏ん張りだ。大きく息を吐き出し、気持ちを切らさないようにして再び坂道を慎重に下りていった。傍らを風がそよと吹いた。

                    おしまい
 
 
今年採ったクロシオの一部を並べよう。

 

 
見事なまでに落武者禿げチョロケである。
カトカラって背中の毛が脱落しやすい。ホント、忌々しいわい(=`ェ´=)

因みに左右で展翅バランスが違うのは、ワザとである。どうせ禿げチョロケなので、この際、皆さんの意見を訊いてやろうと思ったのだ。バランスを変えるだけで、印象だけでなく、見た目の大きささえも違ってくるのである。
皆さん、右と左でどっちのバランスがいいと思いますぅ~❓

 

 

 
上翅の白紋って、♀にしか出ないのでは?と思ってたけど、♂でも出るのね。

 

 
コチラは通常タイプの青いの。
この青いタイプと白紋が発達したタイプは好きだ。クロシオって、キシタバの中では割りとカッコイイ方だと思う。

裏面の画像も添付しておこう。

 

 
キシタバ類の裏面って、どれも似たような感じでワケわかんないや。
そういう意味でも図鑑には裏の画像も欲しいよね。大図鑑は膨大な種類を載せなければならないから無理だとしても、属レベルの図鑑くらいは裏面を図示して欲しいよね。

似ているアミメキシタバとの違いは、上翅の翅先(翅頂部)に黄色い紋が出るところだろうか。あとは下翅の真ん中の黒帯の形かな。けんど、こんなの沢山並べてみないとワカランな。

 

 
左上がアミメ、下がマホロバキシタバで、右がクロシオである。
アミメと比べてクロシオは大きいから、それでだいたいは区別できる。問題はアミメとマホロバだ。両者は似ていて、この状態では判別が難しい。概してマホロバの方が大きいが、微妙な大きさなのもいるから注意が必要だ。確実に同定したいなら、上翅の内側を見るしかない。
いかん、いかん。本題から大きく逸れてしまいそうなので、この三者の違いはマホロバの回に纏めて解説しようと思う。けんど、シリーズにマホロバが登場するのは、まだまだ先の事だけどさ。

こんな説明してもワカランだろうから、アミメの画像も貼っとくか。

 
【アミメキシタバ♂】

 
【同裏面♀】

 
表は上翅が茶色く、下翅下部の黒帯が完全に繋がっているのが特徴。クロシオはこの部分がやや隙間が開くか、微かに繋がる程度だ。裏は上翅の内側の黒斑が強く出る。

クロシオの生態に関しては、前回に書いた以上の目新しい知見はない。強いて言えば、やはり敏感な奴だってことくらいかな。

おっ、そうだ。
マホロバの分布調査の仮定で、小太郎くん&マオちゃんコンビが奈良県の若草山でクロシオを見つけた。

 
【クロシオキシタバ】
(画像提供 小太郎くん)

 
他の分布地からかけ離れた場所だったから、これまた新亜種ではないか?と色めき立った。クロシオは移動性が強いと言われ、秋口に時々分布地からかけ離れた場所で偶発的に見つかっている、しかし、この個体は鮮度が良いし、日付も7月23日だったので、遠方から飛来したものとは考えにくい。遠距離移動するのは、もっと遅い時期なのだ。現地で羽化したものと考えるのが妥当だろう。
しかし、石塚さんがゲニを見た結果、ただのクロシオだった。2匹めのドジョウを期待したが、そうそう新種や新亜種が簡単に見つかるものではないよね。世の中、そんなに甘かない。

 
追伸
帰宅後、熱めのお湯(43℃)で患部を洗い流した。
ネットにそうすればいいと書いてあったのだ。水だとかえって痛みが増すらしいから、気をつけてね。
それで痛みがかなり和らいだ。で、メンタム塗って寝た。4、5日もしたら、ちょっと痒いくらいで、ほぼ治った。しかし、ムカデもアナフラシキーショックがあるらしい。今度、咬まれたら、おっ死ぬかもしれない。対馬でツマアカスズメバチにメチャメチャ刺されたから、それも合わせて注意しなければならない。ホント、因果な趣味だよ。(;´д`)トホホである。

話は変わる。
実を云うと、この文章は2ヶ月以上も前に大半が書き上がっていた。ムカデに咬まれて発狂、絶叫の下りだけを残して放置されていたのだ。
理由はマホロバの一件もあるが、一番は想定外だったシルビアの連続もの(全5話)のせいだった。シルビアに関しては、調べものが膨大になり、それを要約しつつ文章に配置するのにかなりの時間を要したからだ。
因みに完成したのは4日前だ。最終稿を読むのが面倒で放ったらかしになってたのだ。

 
(註1)マホロバキシタバ

 
今年、日本で新たに加わった32番目のカトカラ。
新種とはならず、台湾の Catocala naganoi の亜種(ssp.mahoroba)におさまった。
画像は♂。下翅下部の帯が繋がらず、大きく隙間が開いているのが最大の特徴である。

 

泥酔男の冷製カルボナーラ

カルボナーラを作った。

 

 
パンチェッタが望ましいが、無いので厚切りベーコンを弱火でジックリと焼く。
卵は卵黄のみ3個を使い、かき混ぜておく。
そこに黒胡椒、生クリーム、塩、パルメザンチーズを入れて、再びかき混ぜる。

パスタはフイットチーネが良いのだが、これまた無いので普通のスパデッティーを茹でる。

卵液にベーコンをブチ込み、湯煎にかける。
こうしておけば、卵がダマになりにくい。

そこに茹であがったパスタを入れて、素早くかき混ぜる。
それを皿に盛り、パルメザンチーズと黒胡椒をオリャーとかけて出来上がり。

(^_^)v旨いねぇ~。
でも正直、作り過ぎた。食い切れない。
で、タッパーに入れて冷蔵庫に放りこんどいた。

翌日の夜、(@_@;)ベロンベロンに酔っ払って帰ってきたのだが、満腹中枢がいかれポンチになってて、冷蔵庫の中をゴキブリの如く物色する。
そして発掘されたのが残り物のカルボナーラである。
タッパーから取り出そうとしたら、ポコッと取れた。
アハハ(*^。^*)、固まっとるやないけー。
でも何かイタリアンのカッコイイ前菜っぽくねぇか❓
何だかオカシクなってきて、皿に盛ってみた。

 

 
((o(^∇^)o))いいじゃん、いいじゃん。
ちょっとオシャレな感じがするぞ。

 

 
よし、ここはアレで食べてみよう。
滅多に使わないナイフとフォークを探して持ってくる。

イーヨーマンテ━━━━━━ アジャラモンガフンバモンデジラーゼ£$◇‰Φξφ▲Жй👽
自分でもワケわかんない謎の呪文唱える。酔っ払い泥酔男のなせる業だ。
そして、厳かな感じでナイフを入れる。

 

 
あっ、何か知らんけど奇跡的にムッチャ美味いやん❗❗

 

 
その後もキッチリとナイフを入れて食べてゆく。

  

 
笑けてきた。
何でか知らんけど、メチャンコ旨かったやんけ。
冷製カルボナーラ、イケるがな。
今度はこれを食うためだけに、カルボナーラをワザワザ作ったろかしら。

 
                    おしまい

 

シルビアの迷宮 最終章

 
 最終章『さらば、シルビア』

 
大阪空港周辺のシルビアシジミがボルバキア感染しているなんて知らなかったから、とても驚いた(第三章『ボルバキアの陰謀』)。
でも採っても採ってもメスばっかという記憶が全然ないんだよなあ…。もしかして、もうとっくの昔に正常な性比に戻ってんのかあ❓
気になったし、前回訪れた時は♂が一つしか採れなかったしなあ…。しかも思った程には鮮度も良くなかった。あと青い鱗粉が発達した♀もまだ欲しい。
と云うワケで、11月13日に再び伊丹市を訪れることにした。

今回も前回と同じくママチャリで難波から伊丹を目指す。正直、相当遠い。ママチャリで移動する距離ではない。だから行く前からメゲそうになる。でも運動不足だし、途中クロマダラソテツの発生地も見つかるやもしれぬと考えた。たらたら二時間も漕げば、そのうち着くだろう。

今回はいつものポイントは、あえて外すことにした。
なぜなら毎年のように通ってるので、性比異常なんて特にないと知っているからだ。それに前回は3頭しか見かけなかった。おそらく今回も少ないだろう。そもそもが、そんなんじゃ性比異常の調査もヘッタクレもなかろう。そこで、前から居る事は知ってたけど、人が多いだろうから今まで避けていたポイントへ行くことにした。

いつものように先ずは飛行機の着陸を楽しむ。

 

 
これだけ近くで飛行機の着陸を見られる場所は他にあんまり無いと思う。CMでも使われてたしね。
キューン、ゴオーッ❗何せ飛行機が物凄く近くの真上をスゲー迫力で通るのだ。通過したと同時に大きな砂塵が舞うくらいなのだ。

 

 
ひとしきり見て、満足したところでポイントへと移動する。キューン、ゴオーッ。

何やかんやで結局着いたのは、正午前だった。
寄り道をアチコチしたとはいえ、二時間半もかかってしまったなりよ。

 
早速、シルビィーちゃんをゲット。

 

 
相変わらず、何て小さいんざましょ。

 

 
腹のぷっくり感からすると、♀だね。
えー、環境はこんな感じです↙。

 

 
いわゆるシバ型草原というやつだ。
草刈りした人為的な環境だけどね。でも草刈りがされないと、シルビアは生きてはいけない。ほったらかしにすると、あっという間に雑草ボーボーなのじゃ。草丈が高くなると、幼虫の食草であるシロツメクサ(🍀クローバー)やヤハズソウが雑草軍団に負けてしまい、シルビアもそれと共に姿を消してしまう。ここでは、人間様々なのだ。放置するだけが自然保護ではないのだよ。ある種の植物や昆虫にとっては、人為的な環境が保たれないと生存できないのである。

シルビアはここを地を這うように飛ぶ。
しかもチビッコでそこそこ速いから、時々見失う。

試しにスマホで生態写真を撮ってみることにした。
地這いシジミをゆっくりと追いかけ、止まるのを待つ。

止まって直ぐに開翅した。また♀だね。
日光浴をしているのだ。ちょっと愛らしい。

 

 
アハハ( ̄∇ ̄*)ゞ、全然ピント合っとらーん。
スマホで虫を撮るのは至難のワザだ。相当至近距離まで近づかないとピントが合わんのだよ。
這いつくばって撮ったのに、何か腹立つなあー。
しかも中年のブサいくカップルの訝しげな視線に晒されてだ。ブサいくカップルのクセに蔑んだ目で見やがって。プンプンι(`ロ´)ノ。

今度は何とかピントがあった。
でも、このワードプレスのブログに画像を貼ったら、ナゼだか死ぬほど画質が落ちる。ピントが合ってても、ピンボケみたくになる。Facebookだと全然そんな事にはなんないぞ。この糞プロバイダーめがっ(# ̄З ̄)❗

 

 
ホラね。まあ、ワシの生態写真なんかに期待してる人なんて誰もいないから、別にいいんだけどね。
あっ、別によくないぞ。食べ物の回で「文章は良いのに、写真がどうしようもないくらい酷い」とかクソミソに言われたりするのだ。食べ物で写真がダメって致命的じゃないか。

 

 
腹が隠れて見えない。でもこの円い翅形からすると、コヤツもまた♀だな。

どうせスマホではロクな写真なんて撮れやしない。
キレイな♂と青い♀だけ選んで、少しだけ採って帰ろっと。

 

 
\(◎o◎)/ゲゲッ、また♀だ。
鮮度からすると、♂もいなくてはオカシイ。なのにボロの♂さえ飛んでない。もしかして、そうなのか?…。

その後も♀のオンパレードが続く。30頭以上は網に入れたけど、全部♀だった。
ここまでメスばっかだなんて、完全に性比がオカシイ。コレって、どうみてもボルバキア感染じゃなくなくねえか❓
まだ、悪虐ボルバキアは健在だったのね。ここの個体群は完全に奴のコントロール下にあるってワケだ。恐るべし、ボルバキア細菌❗

帰り際に、ようやく♂をゲット。

 

 
ボルバキアに殺されまくるオスも大変じゃのぉー。同じ性の身として、心から同情するよ。
でも、よくよく考えてみれば、コレってオスにとってみればウハウハのハーレムかもしんない。なんだよ、それって選びまくりの、やりまくり三助じゃねえか。(*´∀`)羨ましいにゃあ。

芝生に足を投げ出し、飛行機が轟音と共に着陸してくるのをぼんやりと眺める。
走り回る小さな子供たちに、傾きかけた秋の日射しがやわらかに降り注いでいた。

                    おしまい

 
 
一応、この日採ったシルビアの展翅画像を貼っつけておきます。

 
【シルビアシジミ♂】

 
前回の展翅よか、だいぶとマシになった。
リベンジだし、たった1頭だけだったから真面目にやりましたよ。

 
【シルビアシジミ♀】

 
低温期型の♀だね。
何か気にくわなくって、触角をいじる。

 

 
あれっ?、片方の触角が折れてる❓
大丈夫、大丈夫。折れてなーい。単に右の触角が針穴の跡とくっ付いて見えるだけだった。
でも、触角の角度は前の方が正解だったな。いらん事してもうた。

コレにて終了。もう今シーズンはシルビアに会いに行くこともないだろう。
さらば、シルビア。また来年会おう。

 
追伸

思いの外、長編になってしまった。
最初のタイトルは、ただの『シルビアジジミ』だった。当初は2、3分で読める軽いものを予定していたのだ。取り敢えずシルビアの様子を見に行って来ました~的な簡潔な報告文のつもりだったのさ。
しかし、シルビアの和名の由来が微妙に違うことから脱線が始まった。で、破滅的にどんどん長くなっていったのさ。その中でタイトルも次々と変遷してゆく。
先ずは『ラビリンス・オブ・シルビア』に変えた。何となく『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』というスコセッシの映画っぽいからつけた。(;・∀・)あで❓けどよくよく見れば、あんま似てねえな。もう、そんなの\(^o^)/雰囲気、雰囲気~。
でも何かシックリこなくて『迷宮シルビア』に改題する。それでもどこか納得いかなくって、ひっくり返して『シルビアの迷宮』にした。
しかし、過去にフタオチョウか何かの回で迷宮は使ったもんなあ…。タイトルに矢鱈と迷宮とつけたがる男だとは思われなくないし、ここでまたしても変転。『シルビアのミステリー』となる。しかし、ダサい。
あっ、「しかし」とか「でも」が多くてスマン。
で、またまた変えて、結局のところ今のタイトル『シルビアの迷宮』に戻った。そのかわり各章に分断して、それぞれの章に小タイトルをつけることにした。
けんど、執筆途中に何度また題名を変えてやろうかと思ったことか。けれども、それに代わるものがついぞ頭に浮かんでこなかった。そのうち、どんどん話は迷宮に入っていって、まあそれなりにタイトル的には相応しくなってきたし、まっ、いっか…となったワケ。
まあ、どうであれ、このクソ長い文章を読んで下さった方には感謝です。

余談だけど、最終回の小タイトルは最初『ザ・ファイナル』だった。でもそんなに劇的な展開になるワケでなし、大袈裟過ぎるからやめといた。けんど、いつか使ってやるからね。

虫の次回作は、またカトカラのシリーズに戻ります。
チキショー、年内にはカトカラの連載を終わらせてやるつもりだったのにぃ。それがまさかのシルビア城の迷宮で彷徨ってしまうとはね。何だか足元をすくわれたような気分だよ。
年内だなんて、もう絶対に無理やんけ(=`ェ´=)

 

シルビアの迷宮 第四章

 
 第四章 『断崖のシルビア』

 
ボルバキア感染まで辿り着いて、漸くクロージングに入れると思ったら、また要らぬモノを見つけてしまった。

『石川県能登半島産と日本各地産シルビアシジミの比較検討及び1新亜種』(2016’木村富至)という論文だ。シルビア関連の論文を探してて、ブチ当たってしまったなりよ。
もう何も書きたくないのだが、性格がスルーを許さないのだ。我ながら最悪の性格だよ。

そういえば石川県能登半島西部で、シルビアが17年振りに再発見されたとは聞いたことがある(註1)。たぶん、月刊むしの巻頭カラーだろう。
なぜそんなにも再発見に年月がかかったのかというと、生息環境が全然違うんじゃなかったかな。シルビアといえば、普通は河原や河川敷の堤防、田畑の畔、池の土手といった場所が生息地だが、ソヤツは何と海岸沿いの急峻な断崖絶壁近くの僅かな草地に棲んでいる。だから、そんな場所にまさかいるとは誰も思わなかったのだ。それゆえ、ちょっと特異なシルビアとして記憶している。

この論文タイトルからすると、それを亜種として記載したのだろう。いつの間にそんな事になってたのだ。全然知らなかったよ。

気になるので、調べてみた。
どうやら、Zizina emelina terukoae(Kimura 2015?)という亜種名みたいだ。たぶんテルコさんに献名されたんだろね。きっと奥さんなのだろうが、娘さんだったら驚くなあ。
しかし、困ったことに亜種記載されたらしき冒頭にあげた論文の中身が読めない。仕方なしにネットサーフィンしてたら、能登のシルビアについて色々出てきた。

シルビアフリークの間では、河川の堤防や池の周りの斜面に棲むシルビアのことを「土手ビア」と呼び、海岸沿いに棲むシルビアのことを「海ビア」と呼んでいるそうな。
最初は意味が解らず、土手で飲むビールとか海で飲むビールで、シルビアが採れたらそこで祝杯をあげるのがシルビアフリークの習わしなのかと思った。オデ、バカだからさあ、「中々気持ち良さそうだ。さぞかしビールも旨いだろう」なんて思ったのだ。
でもこれは「土手シルビア」と「海シルビア」の略ってこってすなあ。気づいて苦笑いしたよ。
また、田畑周辺のものを「畔ビア」、能登半島のシルビアを「能登ビア」と呼んでいるサイトもあった。

海ビア(能登ビア)が棲んでいるのは、多分こんな環境なのだろう。

 
(出典『Alis』)

 
写真は能登金剛の関野鼻という景勝地のようだ。
テキトーにキレイな写真を貼っ付けて「能登金剛って有名な観光スポットだし、いつか行きたいものだ」とか何だとか書こうとしたところで、突然、⚡電撃に打たれたかのように脳内でシナプスが繋がった。関野鼻といえば、能登で最初にシルビアが見つかった場所と同じ地名じゃないか。能登にこのような変わった地名が2つあるとは思えない。ならば、これは同一の場所だろう。偶々(たまたま)貼っ付けた画像が、まさかのビンゴだったとはね。何だか嬉しいや。

それにしても、こんなとこにいるとは驚きだな。
前述したが、シルビアといえば河川の堤防や田圃の畦、公園や空港など定期的に手入れされる人為的な場所での発生が殆んどだ。それゆえ、生息地は開発や整備で容易に消滅しやすいし、反対に放置されれば、植物が繁茂して植生が変わってしまい、これまた生きてはいけない。だからこそ、絶滅危惧種になっているのだが、ここは逆に人の手が殆んど入っていない環境だ。ある意味、置かれている環境は端っこと端っこなのだ。何かメタファーみたいなものを感じるよ。でもよくよく考えてみたら、結局好む環境は同じく低草地の所謂(いわゆる)シバ草原的環境なんだけどね。
太古の昔、シルビアは元々こういう厳しい環境に棲んでいるチョウだったのかもしれない。後に人間が作る環境に順応して増えていったとも考えられる。しかし、人間社会に順応したがゆえに、現在の土地開発という新たな局面の中で数を減らしていっているのだろう。何だか皮肉だね。プリンセスは時代の波に翻弄される運命なのだ。

何とか上手いこと纏めたかなと思ったが、ちょい待てよ。能登の環境こそが本来のシルビアシジミの生息環境だと思ったが、むしろ海岸部に追いやられて、細々と生きているといった方が正しいような気もしてきたぞ。河原なんかの方が自然だと思う。
でも、こんなのどっちが正しいのか証明できないよなあ…。

それはさておき、何で17年ものあいだ再発見されなかったのだろう❓
最初に発見された1992年の場所は、シルビアがいる典型的な環境だと勝手に想像してた。だからこそ、まさかそんな断崖絶壁にいるとは誰も考えもしなかったゆえ、発見が遅れたんだと思ってた。しかし、再発見された場所は、関野鼻そのものかどうかはわからないにしても、同じ羽咋郡志賀町だ。と云うことは、同じ場所か近い場所ということになる。となれば、探せば、簡単に再発見できたんじゃないかと勘繰りたくもなる。何で❓謎だよ。

もしかして、誰も探していなかったとか❓
ならば、発表された媒体が地方の昆虫同好会の機関誌か何かで、目に触れる機会が少なかったのではないかと考えた。しか~し、報文が載ったのは、調べてみると『蝶研フィールド』だった。刊行されていた時代には、まだ自分は蝶採りを始めていなかったけど、発行元は蝶研出版だ。蝶マニアにはかなり読まれていた雑誌だと云う認識がある。記事を読んだ人は少なくない筈だ。なのに19年もの空白があるなんて不思議だ。単に怠慢で、誰も探さなかったとしか考えられないじゃないか。でも短報だったとしても、特異な生息環境なんだから、それについての何らかの言及はあった筈。言及されていたのなら、そんな特異な場所にいるシルビアだ、好奇心を持つ蝶屋は居て然りだろう。なのに誰も探さなかったの❓或いは、探しても見つけられなかったのか❓けれど、そういう好奇心を持つ蝶屋ならば、経験値もあり、勘も鋭い優れた蝶屋の可能性が高い。にも拘わらず、見つけられなかったのか❓これまた、謎でしかない。
またしても、迷宮のシルビア・ラビリンスである。

こういう煮詰まった時は他の箇所を書いたりしてると、意外と新たな考えが頭に浮かんだりする。あとがきを先に書いてたら、別な理由が浮かんだ。
或いは1頭だけしか採れなかったから、どうせ偶産だと思われたのかもしれない。つまり、相手にされなかったというか、誰もがバカにしてスルーしたのではあるまいか。これって一番可能性があるような気がしてきたぞ。思い込みとか予断はよくないね。

色んなサイトに能登ビアの生態写真も数多くアップされている。

 
(出典『蝶の生態写真-Photograph of Japanese Butterflies-』)

 
良い写真だね。素晴らしいロケーションだ。
自分の知るシルビアの生息環境とは大きく異なるので、やっぱ、ちょっと驚きだよね。

ここのシルビアは分布の北限にあたる(以前までは栃木県さくら市)。或いはシルビアシジミ属(Zizina)全体の北限にあたるかもしれない。
考えてみたら、この場所は他の棲息地とは随分かけ離れている。今一度、現在の分布状況を確認しておこう。

 
(出典『日本のレッドデータ検索システム』)

 
白い部分は未発見の都道府県。グレーの部分が既に絶滅したと考えられる地で、赤が絶滅危惧種Ⅰ類、オレンジは絶滅危惧種Ⅱ類、黄色が準絶滅危惧種に指定されており、緑色がその他である。
絶滅した場所で一番近い県は岐阜県だけど、これは岐阜市なので意外と遠い。反対にこの図では分布しているとされている群馬県は実際には既に絶滅しているようだ。つまり現存している場所だと一番近い生息地は栃木県という事になる。何れにせよ、それだけ飛び離れた場所で、生息環境も異なるとあらば、生態も違い、DNAレベルでも分化が進んでいて、形態的にも独自進化している可能性はある。ゆえの亜種記載になったのかな❓

ネットを見ていると、食草はミヤコグサみたいだ。
正当派シルヴィーちゃんなんだね。たぶん、ボルバキアには感染していなさそうだ。
ネット情報だと、能登のシルビアには他と違う特徴も見い出だされているようだ。能登ビアの斑紋の特徴の一つは、前翅裏面の上から3つ目の紋が横になる事だそうだ。もう少し詳しく言うと、前翅裏亜外縁の黒点列の一番上が内側にずれ、上から3番目が横長になるというのが北限のシルビアの特徴らしい。

さっき画像をお借りした方の写真が素晴らしいので、再び画像をお借りしよう。良い写真ばかりなので覗いてみられることをお勧めします。

蝶の生態写真-Photograph of Japanese Butterflies –

 
【能登半島のシルビアシジミ】
(以下4点共 出典『蝶の生態写真ーPhotograph of japanese Butterfliesー』)

 

 
前翅裏亜外縁の黒点列の上から3番目の黒点は、確かに横長になっている。
地色なんかも、ちょっと白っぽいような気もするね。でも、色に関しては写真の撮り方にもよるから何とも言えない。それに、そもそもが春・秋型と夏型とでは色に違いがある。♂と♀とでも微妙に違ったりするから、軽率に判断は出来ないよな。

次に、他の産地の裏面を並べてみよう。

 
【兵庫県加古川市のシルビア】

 
【和歌山県白浜市のシルビア】
(出典2点共『蝶の生態写真ーPhotograph of japanese butterfliesー
』)

 
黒点列の一番上が内側にズレるというのは微妙だけど、確かに3番目の黒点には言われているような違いはあるね。コチラは横長にはなっていない。
でも他の写真を見てると、能登産でも微妙なのもいるんだよなあ。

 
【能登ビア】
(出典『Gramho』)

 
コレなんかは、言うほど横長ではない。
逆に別産地のものでも、珠に3番目の黒点が横長になる奴も見受けられる。
おいおい、そんなの亜種としての識別点としては使えんぞ。
大丈夫かよ(# ̄З ̄)、ssp.terukoae❓

更にネットサーフィンしていると、幸い論文と同じ著者である木村富至氏がそれ以前に書いた『能登半島産シルビアシジミの形態的特徴と分布について』という論文を見つけることができた。長いが抜粋しよう。

1.重要な固有の特徴

能登半島産は前翅裏面の外中央斑紋列のなす角度が概ね101°以下の鈍角となり、他産地は101°以上の鋭角となる。ただし、能登半島産春型及び他産地産で稀に角度θが101°前後の紛らわしい個体も出現する。その場合は、同じ季節型同士で比較したり、前翅裏面外中央斑紋の並び方、裏面地色や縁毛と斑紋の色、翅形などを総合的に見て両産地を見比べて判断する必要がある。
外中央の斑紋列は、4室〜5室の黒点が外側に張り出し強く角張った弧を描く(他産地は緩く滑らかな弧を描く)。

2、傾向として見られる特徴

〈1〉♂♀共通の傾向的な特徴

縁毛の色は白色で外縁付近が黒褐色となる(他産地は白色で外縁付近が茶褐色になる)。
前翅裏面の外中央の斑紋列のうち4室の斑紋は5室の斑紋の真下か、やや外側に位置する(他産地は4室の斑紋は5室の斑紋のほぼ真下に位置する)。
1C室の黒点は2室の斑紋の真下から外側に位置する(他産地は真下から内側に位置する)。
前翅の翅形は、幅のやや狭い横長が多い(他産地は、やや幅の広い横長が多い)。
前翅後角部は、やや丸みを帯びる(他産地は、やや角張る)。

〈2〉♂の傾向的な特徴

裏面の地色は青白い灰色系(他産地は茶色味を帯びた灰白色系)。
裏面において、外中央と亜基部の斑紋の色は濃い黒灰 色系でその他の斑紋の色は薄い黒褐色系(他産地は茶褐色系)。

〈3〉♀の傾向的な特徴

裏面地色は青灰色系(他産地は白味を帯びた茶褐色系)。
裏面において、外中央と亜基部の斑紋の色は濃い黒灰色系で、その他の斑紋の色は薄い黒褐色系(他産地は暗い茶褐色系)。

3.幼虫形態で見られた特徴

能登半島産は越冬前の幼虫で食草から落下しないという習性が見られた。他産地では一般的に衝撃や吐息を吹きかけると落下すると報告とされ、また飼育した伊丹市産のものも落下した。但し、今後もっと多くの産地(特に山陰地方(島根半島)の岩場に生息する個体群)で検証する必要がある。

オデ、アタマが悪いので、難しくて今イチわからん。
更に詳しい説明もあるので、それも抜粋しておく。

「能登半島産シルビアシジミシを日本における他産地の個体から区別する最重要地理的変異箇所は、前翅裏面外中央の斑紋の位置にある。具体的には第4室の斑紋の中心からみた第3室と第2室の斑紋の中心の間を結ぶ線と第6室と第5室の斑紋の中心とを結ぶ線が成 す角度θ(以後単に「角度 θ」と称する)が104°以下 (概ね100°以下)が能登半島産であり、他産地は101 °以上(概ね105°以上)の角度になる。標準偏差も小さく他産地とは充分区別できる。但し、線の引き方などにより誤差が、±2.OD程度出る。これらのことを考慮に入れ、春型などの季節型や個体変異を加昧してもこの相違点だけで能登半島産と他産地を少なくとも90 %以上の確率で見分けることができると言える。」

もう何言ってのか全然ワカンナイ。言葉の迷宮じゃよ。
論文には画像もあるので、もう少し解り易いのだが、画像は貼付できないから、今読んでる人はワシより更にワケワカメじゃろう。
何で論文って、こう小難しく書くのだろう?
別にコレは木村氏だけではなくて、他の人も大なり小なりそうだ。木村氏個人を責めているワケではない。もしかして学界(学会?)とかの、「文章は論文らしく難解で格調高くあらねばならぬ」と云う縛りでもあるのかね?小難しい文章でないと、賢く見えないとでも思ってるのかなあ…。

まあいい。そんなことは本題ではない。続けよう。

「ここで間違えてほしくないのは、第6室の外中央斑紋が内側に寄っているのが能登半島の特徴という誤解である。たしかに能登半島産では第6室外中央斑紋が内側に寄る個体が多いがそれほどでもない個体も出現するし、その他の産地でも能登半島産と似たように内側に寄っている個体が出現するので第6室外中央斑紋の位置だけでは角度θを決定する要因になっていない。それでは角度θがこのように能登半島産で安定して狭くなる要因は何かというと実は第6室だけでなく第2室と第3室の外中央斑紋も内側に寄っている。そして、第6室外中央斑紋が内側(外側)に寄ると第2室と第3室の外中央斑紋はその分外側(内側)に寄る傾向がある。つまり角度θは第6室と第2室と第3室の外中央 斑紋の相対的位置関係のバランスにより決定している。この現象は能登半島産もその他の産地も同じである。したがって、第6室外中央斑紋の位置だけで能登半島産を見分けることは難しい。
その他、この能登半島産個体群は一般的な特徴として前翅裏面第4室外中央の斑紋の形状が楕円か横長になるという指摘があるが、山梨、鳥取、岡山、徳島、栃木県産からも多く見られることから能登半島産の特徴とすることは出来ないようだ。」

ようは、巷で言われている能登半島の特徴「前翅裏亜外縁の黒点列の一番上が内側にずれ、上から3番目が横長になる」というのは、亜種としての決定的な相違点ではないと云うことだね。アタマの悪いオイラには、文章が難し過ぎるわ。

「傾向的に見られる相違点としては、縁毛基部の外縁翅脈端付近の色が能登半島産は黒褐色系であり、他産地は茶褐色系である。また、裏面斑紋の色も同様である。この色の違いは汚損した個体では紫外線のため色が劣化したりして見分けにくく、秋型では濃くなるなど季節型の変異などでも見分けにくい。しかし、対象物が小さ過ぎて正確な測定は出来ないものの彩度や明度を考慮してルーペなどで観察すると色が定量的に 表す国際的な尺度の一つであるマンセル表色系(JIS規格のJIS Z 8721を参照)でいうところの色相が違うように見える。その他、第2室と第1C室及び第5室と第4室の黒点の位置関係や翅形(要素が複雑で数値化が難しいし、他産地でも幅の狭い横長の個体が出現する)、裏面地色など総合的に判断するとかなりの確率で見分けることが可能であると思われる。
その他にも他産地では前翅表面第1室外縁付近にはっきりとした白化斑が現れる個体が春型と秋型に出現するが、能登半島産では筆者が被検した個体においてはこの前翅表面第室外縁付近の白化斑がほとんど現れず現れてもかすかに痕跡程度である。」

言わんとしてることは何となく解るけど、やはり難解だね。また、エラいとこ突っついてしまったなりよ。

記載論文を読んでないから、あまり偉そうな事は言えないけど、感想的には角度とか色って微妙過ぎてよくワカンナイや。幼虫の形態ではなく、生態ってのも曖昧で微妙だよなあ…。亜種にする程のことなのかなあ…。あまり能登産シルビアが亜種になりましたという噂を聞かなかったのは、亜種として認めてない人が多いのかもしれない。Zizina emelina terukoaeでググっても殆んど出てこないし、あまり使われていない形跡がある。まあ、その辺の亜種か否かの線引きは素人にはよくワカランよ。
とはいえ、実物を見たことないからなあ…。見たら、瞬時にして違うと感じるかもしんない。経験上、野外で見て直感的に違うと感じたものは、どこがどーのとは具体的に説明できないが、帰って調べてみると大概が別種だったり、亜種だったりすることは多い。海外の蝶なんかは、知識まるで無しで行っても大体それであってたもんね。やっぱり「百聞は一見にしかず」なのだ。
そういえば思い出した。まだヒメシルビアがシルビアの亜種だった時代、石垣島で初めてヒメシルビアに御対面した折りに、直感的に違うと感じた。亜種レベルの違うじゃなくて、別種としか思えなかった。これが何でシルビアの亜種なのか感覚的に理解できなかったのだ。
とにかく「百聞は一見にしかず」である。野外で実物を見ないと、何とも言えないと思う。
いつか、能登半島のシルビアには会いに行かないといけないね。

もう、この辺でいっか…。
第一章から延々と続いてきた迷宮ラビリンスに疲れ切って、もうヘトヘトだよ。
とはいえ、第一章の伊丹市でのシルビアの採集行というか、確認に行った折りの話に戻らないと終えることは出来ない。
 
一応、その時のものを展翅してみた。
ちっこくて大変だ。最近、全く展翅してないしさ。

 
【シルビアシジミ♂】

 
♂だけど、思ってた以上に翅が擦れてる。
裏はキレイだったから、新鮮な個体だと思ったんだけどなあ…。展翅も今イチだし、ガックリくるよ。

 
【シルビアシジミ♀】

 
あっ、低温期型の良い型だ。
秋が深まると、♀はだいぶと青くなるのだ。
なのに、頭が歪んどるやないけー。
このクラスの小ささになると、展翅してても小さ過ぎて細かいとこが見えない。なおすの面倒くさいし、もういいや。

シルビアって小さいし、特別キレイではないけれど、今回のアレやコレやで、より深い魅力を感じた。
ミステリアスな存在は素敵だ。また、来年もシルビアには会いに行こう。そう、思う。

                     つづく

 
追伸
これで終わりかと思いきや、そうではないのだよ。まだ、後日談があるのだ。(ToT)ポテチーン。

一応つけ加えておくと、能登半島のシルビアを亜種と認めていないワケではない。木村氏があれだけ細かく調べて書いておられるのだから、きっとそうなのだろう。ただ、強引に軽微な違いをあげて、亜種としたんじゃないかと考える人もいるだろう。
でもさあ、新種や新亜種の記載をする側の気持ちも解るんだよねぇ。自分も経験があるからだ。今年、蛾のカトカラ(ヤガ科シタバガ属)のニューを見つけ出したんだけど(註2)、記載をお頼みした世界的なカトカラ研究者である石塚勝己さんに『おでぇーかん様~、豪腕で何とか新種にしてくんなせぇー。』とか何とか、恥も外聞もなく頼み込んだもんなあ。新種発見と新亜種発見とでは、響きに雲泥の差があると思ったのである。結局、新亜種になっちゃったんだけどね。正直ガックリきたけど、冷静に考えれば、あれは亜種レベルだと思う。だから、納得はしている。
それでも、実を云うと隠蔽種で、DNA解析したら全然違う別種でしたー、とかってなんねぇかなあと時々思ったりもする(笑)。

 
(註1)能登半島のシルビアの再発見
最初の記録は1992年8月18日、石川県羽咋郡志賀町関野鼻にて小松清弘氏によって採集されたものだった(小松,1993・蝶研フィールド)。だが、その後は全く記録がなく、17年後の2009年に西口 隆氏によって再発見され、まとまった数も採れた(西口,2009・フィールドサロン)。

(註2)カトカラのニュー
Catocala naganoi mahoroba マホロバキシタバ。
『月刊むし』の2019年の10月号にて記載された。

 

シルビアの迷宮 第三章

 
 第三章『ボルバキアの陰謀』

 

 
シルビアシジミの話はまだまだ続く。
 
それにしてもシロツメクサ(🍀クローバー)を食草とするならば、もっと分布を拡げても良さそうなものなのに、何で❓ 謎だよね。シルビアシジミって、そんなに移動能力が低いのかよ❓

さあ、そろそろ坂本女氏の論文に戻ろうか。
他にも平井規央氏等のシルビア関連の論文を見つけたので(註1)、それと併せて要約しよう。

平井規央氏の論文によれば、大阪空港周辺で分布調査を行ったところ、空港周辺から離れれば離れるほど個体密度が低下するようで、1㎞も離れると殆んど見つからないそうだ。
そっかあ…、やはり極めて移動性が低いチョウなんだね。

シルビアとヒメシルビアの種間関係だが、遺伝子解析(ミトコンドリアDNA解析)の結果、かなりの相違があることが明らかになり、全く別系統の種であることが判明した。のちに形態の相違点も見つかり、それらが2006年の別種記載の決め手となったようだ。
形態的な違いは、シルビアはヒメシルビアよりも裏面各室の小黒斑が大きく、前後翅亜外縁の黒斑列が各室の小黒斑と同等に発達している点、後翅表面外縁の黒斑列はシルビアでは波状に、ヒメシルビアシジミでは線状となる傾向が強いなどである。

 
(出典『福岡の蝶』)

(出典『カーコとダンナのお出かけ写真』)

 
上がシルビアの裏面の外縁の黒斑列で、下がヒメシルビアのものである。
言われてみりゃ、そんな気もするが、正直言うと微妙だなあ…。このシルビアの個体は比較的波状だとわかりやすいけど、いくつか確認したら判然としない個体も結構ある。識別点としてはファジー過ぎないかい?
とはいえ、両種を並べたら、裏面をパッと見ただけで区別できちゃうんだけどさ。ようはヒメシルビアは小っちゃくて、裏面の斑点が小さくて薄い。それで充分かと思うよ。

ヒメシルビアは最近になって急速に分布を拡げているそうだ。一方シルビアは極めて移動性が低いワケだから、それも両者が別種であるという証明の一助になるのではなかろうか❓
そういう事を書いている文章を見た事ないけどさ。

両種間での交配実験も行われている。
大阪府産のシルビアシジミのメスと沖縄県八重山産のヒメシルビアのオスとを円筒型ネットに入れて配偶行動を観察した結果、ヒメシルビアのオスはシルビアのメスに強い関心を示し、交尾が成立した。その結果、いずれの母チョウから得られた子世代(F1世代)もオスのみが羽化し、オスの約半数のF1個体では幼虫期に発育が遅延し、孵化後50日以上経過しても蛹化に至らなかったという。
羽化したオスは両種の中間的な形質を示すそうだ。

 
(出典『Potential for interspecific hybridization between Zizina emelina and Zizina otis(Lepidoptera: Lycaenidae)』) 
左端がシルビアの♂。右端がヒメシルビアの♀。真ん中2つがハイブリッドの♂である(スケールバーは5mm)。

 
これらと未発表データ(坂本・平井ほか)の交配実験の結果、別種であることが裏付けられるという。ようはF2世代、特にメスがちゃんと羽化してこないから別種だってワケだね。

それでも両者を別種だと認めない人もまだ結構いるようだ。頑固だなあと思うけど、種の概念なんてものは、所詮は人による勝手な線引きでしかすぎないって事の逆説的証明だとも言えるかもね。

それはさておき、問題なのはシルビアがヒメシルビアのオスから求愛行動を受けることが明らかになった事だ。これはシルビアとヒメシルビアが同所的に生息する場合、つまりヒメシルビアがシルビアの分布域に侵入したとしたら、繁殖干渉が起こる可能性があるということだ。
実際、最近になってヒメシルビアが分布を北上させており、屋久島でも確認されるようになった。そのため、隣の種子島にいるシルビアとの交配の可能性が指摘されている。となると、遺伝子汚染が進み、シルビアが絶滅してしまうって事なのかな❓それとも、いずれ新種へと進化してゆくって事❓
何れにせよ、指摘されてから何年か経っているから、或いはもう心配されたことが既に起こっているかもしれないね。

また実験では、ヒメシルビアシジミのメスは個体によってはシルビアの食草ミヤコグサに興味を示し、多数の卵を産み付けたそうな。しかし、孵化した幼虫にミヤコグサを与えたところ、発育は遅延し、多くの個体が若齢期に死亡したという。
反対にシルビアの幼虫に、ヒメシルビアの食草コメツブウマゴヤシを与えて飼育したところ、25℃長日では 4齢を経過し、幼虫期間は15~18日。シルビアシジミとほぼ同様とあった。羽化したとは書いていないが、死亡したとも書いてはいないので、おそらく成虫にはなったのだろう。それにしても、これまた謎だな。一方は育ち、一方は育たないというのは両種間の関係性において、何らかの意味と云うか、示唆されるものがあるのだろうか❓
考えてみたけど、何にも浮かばないや(´▽`;)ゞ
いや待てよ。シルビアはヒメシルビアから派生した種で、元々コメツブウマゴヤシを食べていたものが分布を東アジアに拡大する過程でミヤコグサに食性転換したとは言えまいか。
ありゃ❓、でも遺伝子解析では別系統だとか言ってなかったっけ❓まあ遺伝子解析の結果が絶対ではないもんな。情報を鵜呑みにするのもどうかとは思う。

因みにヤマトシジミのオスもシルビアシジミのメスに強い興味を示すそうだ。
そういえば、昨今シルビアと比較的近縁なヤマトシジミとの交雑種(ハイブリッド)が出現しているというネット情報もあったなあ。両種の特徴がそれぞれ翅裏の斑紋や翅表の色彩等に現れているとか言ってなかったっけ…。

調べてみたら『ホタルの独り言 part2』というサイトの記事だった。それによると、栃木県の鬼怒川流域や千葉県の一部ではヤマトシジミとのハイブリットが出現しているそうだ。ハイブリッド個体は翅形や色彩はシルビアシジミでありながら裏面の班紋はヤマトシジミというものや、翅形と色彩は全くヤマトシジミでありながら裏面の班紋はシルビアシジミという個体がいるそうである。
元ネタの論文はどんなのだろう?と思って探してみたが、それらしき論文は見つけられなかった。
だが『蝶屋(tefu-ya)のブログ』というサイトに、ほぼ同じ文面があった。これはどうやら、そこからの引用のようだ。
ということは、元々は柿澤清美氏の発信って事か…。
となると、私見が強そうだから、ちょっと気をつけないといけないな。けど、もしこれが事実だとしたら、考えさせられるところはある。
そもそも種って、いったい何なのだ❓ 種の概念がワカンなくなってきたよ。

話はまだ終わらん。
 
論文を読んで一番驚いたのは、昆虫類に性比異常を起こさせる事で知られる共生細菌ボルバキア(Wolbachia)の存在だ。
きっかけは、2002年に森地重博氏が飼育した大阪空港周辺の個体の子世代が、全て♀になった事例であった。そこから、坂本女氏や平井氏はボルバキア感染の可能性を疑った。
ボルバキア感染といえば、タテハチョウ科のリュウキュウムラサキが有名だよね。サモアだったっけ(註2)? そこのリュウキュウムラサキは♀ばっかだと聞いたことがある。あとホソチョウの仲間なんかにも例があったと思う。いわゆる細菌によってオスが成長できなくなるチョウの病気だったよね。
それにしても、メスばっかで生き残ってゆけるのかね❓リュウキュウムラサキは♀だけで繁殖できる単為生殖(註3)ではなかったよね❓
そもそも単為生殖のチョウって、この世にいたっけ❓少なくとも自分は聞いた事がない。

ここで一応ボルバキア感染について説明しておこう。
ボルバキア(Wolbachia pipientis)は、節足動物やフィラリア線虫の体内に生息する共生細菌の一種で、特に昆虫では高頻度でその存在が認められる。ミトコンドリアのように遺伝子として母から子へ伝わり、昆虫宿主の生殖システムを自身の都合の良いように変化させることから、利己的遺伝因子の一つであるとみなされている。
また遺伝子解析では、昆虫を殺して体を乗っ取ることで有名なキノコの仲間、冬虫夏草と近縁関係にあることもわかっている。

ボルバキアって、如何にも悪い奴的な名前だよなあ。
『恐怖のボルバキア』『怪人ボルバキアの呪い』『寄生怪獣ボルバキア』『ボルバキア星人の逆襲』『悪辣ボルバキアの罠』『殺戮のボルバキア軍団』etc…。なんぼでも浮かぶわ。シルビア姫に👿悪魔の手が忍び寄るのら。God save the princess silvia. おぉ神よ、シルビア姫を守りたまえ~。

ボルバキア感染には、以下のような4パターンがある。
マジ、ドえりゃあー悪い奴っちゃでぇ~Ψ( ̄∇ ̄)Ψ

〈1〉オス殺し型
オスの卵のみを殺して、メスだけが孵化するようにする。オスを死滅させることで、メスが餌を独り占めする事となり、ボルバキア菌の繁殖には好都合になるという仕組みだ。
(おみゃーに与える飯はねぇだがやー(#`皿´)❗)

〈2〉単為生殖誘導型
メスがオスなしで、メスのみを産んで繁殖できるようにする。
(男なんて、この世に必要ありませんわ、( ̄∇ ̄)オホホホホホ…。)

〈3〉性転換型
宿主のオスをメスに変えてしまう。
(キャア~、世の中みんな総オカマ化よ\(^-^)/)

〈4〉細胞質不和合型
バルボキアに感染したオスが、感染していないメスの繁殖を妨害する。この場合、オスの卵は殺されるが、メスの卵は殺されることなく正常に孵化するため、世代を積み重ねてゆくと、感染したメスのパーセンテージが集団内で高くなってゆくという手の込んだ仕組みである。
(ジワジワ~、ジワジワ~Ψ( ̄∇ ̄)Ψ、真綿で首を絞めるようにあの世に行ってもらいまっせぇ~)

ムチャクチャ悪い奴やんけ。
でも、人間はもっとズル賢いかもしれない。
近年では、このオス殺し、特に細胞質不和合の仕組みを利用して、蚊が媒介するデング熱やジカ熱などを撲滅する試みが為されている。病の原因となるネッタイシマカを人工的にボルバキアに感染させて大量に野外に放ち、病原体の媒介効率を下げようと云うワケだ。
(;・ω・)ん❗❓、でも蚊のオスって血を吸わないんじゃなかったっけ❓血を吸うのはメスだけだよね。だったら、意味なくね❓

その疑問は扠て置き、話を本筋に戻す。

DNA解析で大阪空港周辺のシルビアのボルバキア感染の有無を調査したところ、採集された個体の多くで予想通りにその感染が認められた。確認されたボルバキアは2系統あり、性比異常が認められた母蝶からは共通のボルバキア系統が確認された。この事から、この性比異常は、ボルバキアによって引き起こされる「オス殺し」であることが明らかになった。

一方、もう1系統のボルバキアでは性比異常は確認されていないが、「細胞質不和合」などの寄主操作を行
っている可能性が考えられている。
兵庫県西部など近隣のミヤコグサに依存している個体群では感染が認められなかったようだ。この事から、昆虫の寄主植物利用の変化に体内の共生細菌が深く関わっているという報告もあるので、シルビアにおいても細菌による寄主操作によってシロツメクサに寄主植物の転換が行われた可能性があると推察している。
しかし、その後の実験では、まだそこまでは証明されていないようだ。因みに、千葉県や韓国においてもシロツメクサに依存する個体群がおり、ボルバキアの感染と性比異常を見つかっている。神出鬼没だぜ、ボルバキア。

それにしても、ボルバキアってのはエグいわ。
自身が生き残る可能性を高めるために、宿主をコントロールするだなんて酷いやり口だ。しかも、宿主が産んだ卵の半数であるオスを抹殺するだなんて、血も涙もありゃしない。オスを標的としたテロであり、ジェノサイドだ。男の敵だ。悪虐非道の限りを尽くす、とんでもねぇ野郎だよ。
ここまでくると、もはや謎とかミステリーの範疇じゃなくて、ホラーの世界だな。もうパラサイト・ホラーじゃんか。
人にも、そんな悪い人がいるかもしんないから、皆さん、気をつけてネ。特に若い女子は気をつけなはれ。世の中には、ボルバキア菌みたいな相手を自在にコントロールする悪い男がいるからネ。
嗚呼、アタシもヒモ男になりたい。

 
                     つづく

 
追伸
ここで漸くクロージングに入れると思ったら、また要らぬモノを見つけてしまった。なので、まだ話は次回へと続くのである。
いつまで続くんだ❓この出口の見えないシルビア・ラビリンスのループは❓
もしかしたら、ワシもボルバキア菌みたいなものに知らず知らずに乗っ取られていて、書き続けさせられているのかもしれない。でないと、こんなパラノイア的文章を書き続けている理由の説明がつかんよ。

 
(註1)他にもシルビア関連の論文を見つけたので

・坂本佳子(2015).シルビアシジミの生息域外保全に向けた保全単位の決定(昆虫と自然,50(2))
・坂本佳子 (2015).絶滅危惧種シルビアシジミにおける遺伝子構成とボルバキア感染(昆虫DNA研究会ニュースレター,23,11-18.)
・平井規央(2016).シルビアシジミのホルバキア感染と性比異常(昆虫と自然,51(1))

 
(註2)サモアのリュウキュウムラサキ

【Hypolimnas bolina ♂】

 
サモアとフィジーのリュウキュウムラサキは、rarikっていう亜種なんだけど、画像が見つけられなかった。太平洋のド真ん中だから♀は海洋型でいいのかなあ❓
リュウキュウムラサキの♂は何処でも同じような見た目だが、♀には地域によってヴァリエーションがある。
一応、この下に海洋型の♀の画像を貼っておくけど、サモアのがこのタイプなのかは自信がない。間違ってたらゴメンなさい。

 
(出典 2点共『Alchetron』)

 
サモアのリュウキュウムラサキはオス殺しボルバキアの蔓延が約百年近く続いていたが(Dyson & Hurst,2004)、その後数年でオス殺しに対する宿主の抵抗性遺伝子(優性の胚性因子:Hornett et al,2006)が急速に広まり,集団全体でボルバキアに感染しているのにも拘わらず、オス殺しが起きなくなったことがわかった(Charlat et al,2007;Mitsuhashi et al,2011)。
興味深いことに,オス殺しが起きなくなることによって出現する感染オスは非感染メスと交尾すると細胞質不和合を引き起こすことが明らかとなった(Hornett et al,2008)。つまり、ボルバキアが持つ細胞質不和合を持つ能力はオス殺しによってマスクされていたことになる。
ボルバキア、恐るべしである。

 
(註3)単為生殖
メスがオスと交尾をしなくとも、単独で受精卵を産んでメス世代を繰り返すこと。
因みに、リュウキュウムラサキは単為生殖ではござんせん。

 

シルビアの迷宮 第二章

 
第二章『シルビアン・ミステリー』

  
でも、論文(註1)をチラッと見てアレルギー反応が出た。
シルビアの謎に翻弄され、もうウンザリなのだ。真面目に読む気にもなれない。ここは一旦、種解説にでも逃げよう。ケースによっては、そのまま逃亡、クロージングになってもいいや。

 
【シルビアジジミ】
シジミチョウ科(Lycaenidae)、ヒメシジミ族(Polyommatini)、シルビアシジミ属(Zizina)に分類される前翅長8~14mmの小型のシジミチョウ。

♂の翅表は紫色がかった青藍色で、春と秋の型に比べて夏型は外縁の黒帯が広くなる。♀の翅表は夏型は黒に近い暗褐色。春型と秋型は翅表基部にも弱い青藍色斑が出る。図鑑等には書かれていないが、私見では秋型の♀は晩秋になると、その青が広がる傾向があるように思う。
裏面は灰白色~暗灰白色で、小黒斑が散らばっている。秋と春には暗灰白色になる傾向が強い。
普通に産する近似種のヤマトシジミと比べ、表翅がより青く(ヤマトは水色系)、前翅裏面の中室内に黒点が無いこと、後翅裏面の外側より3列目の黒点列の前より2番目の黒点が内側にズレるために黒点の形成する円弧がここで分断される点で区別される。
基本。図鑑からパクったけど(*`Д´)ノ!!!でーい、こんなクソ難解な説明、一般ピーポーにはワカランわい❗特に後半はチンプンカンプンじゃい❗❗
もう画像を貼っとくワ。そっちの方がよほど解りやすかろう。

 
【シルビアシジミ 春型♂】

(2017.4.26 伊丹市)

 
相対的に春型が一番大きく、秋型、夏型の順に小さくなる。但し、あくまでも相対的であって、個体差の大小は結構ある。秋でも、たまに春並みに大きい個体もいたりするからだ。

(/ロ゜)/あっ❗、ここでヤマトシジミの画像を貼ろうとして気づく。
ヤマトシジミなんて、何処にだっているドがつく普通種である。ゆえに殆んど展翅したことがない。となれば、数ある標本箱の中から探し出すのは大変そうだ。採りに行った方が余程早い。そう思い、近所の公園に行くことにした。ヤマトくんなんぞ、その辺の児童公園に行きゃあ、大概いるのである。一般ピーポーでも、すぐ見つけられるよん💕。それくらいド普通種なのさ。ある意味、最も都会の環境に順応した賢(かしこ)チョウかもしれない。

しっかし、都会で網出すのって恥ずかしいねー。完全に挙動不審のオッサンだ。大の大人が網持って都市部をウロウロしてるんだから、そりゃあ注目浴びますよ。
網を出すか出さざるまいか迷ってたら、天気が悪くなり始めた。おまけに風も出てきた。
(*`Д´)ノえーい、もうしゃあないわい。人々の好奇の目を頭から追いやり、カバンから網を取り出す。
シャキーン(=`ェ´=)ノ❗いざ、ゆかん。チビどもを殲滅してくれるわ。

しかし思いの外、飛ぶのが速い。風も強くて、網を振ろうとしたら、スッ飛ばされていったりもする。段々、腹が立ってきて、アミ持って追いかけまくる。
ε=ε=(ノ≧∇≦)ー〇 待てぇ~、コンニャロー。
もうオジサン、ヤケクソである。もはや挙動不審者として通報されても仕方あるまい。

頑張って、何とか数頭を確保。

 
(2019.11.11 大阪市浪速区)

 
シルビアほどではないが、小さい。
一応、画像を拡大しておこう。

 

 
たぶん、♂だな。
パリエーションがそれなりにあるので、別個体の♂も貼っておこう。

 

 
シルビアよか、地色が白っぽい。
同じ灰色でも灰白色って感じだ。

♀の裏は微妙に色が異なる。

 

 
メスは薄い黄土色なのだ。
とはいえ、きっとオスみたく微妙な色なのもいるんだろうなあ…。ヤマトなんぞマジメに採った事ないから、どんだけバリエーションの幅があるのかワカラン。

まっ、前回のシルビィーちゃんと見比べてくんろ。

 

 
地色だけでなく、斑紋も微妙に異なることが解るかと思う。

お次は表側だ。

 
【ヤマトシジミ♂】
(2019.11.11 大阪市浪速区)

 
シルビアと比べて、色が水色っぽい青なのだ。
例外もあるが、ヤマトの方が下翅の縁にある黒点が目立つ個体が多い。

 
【シルビアシジミ 春型♀】
(2017.5.2 伊丹市)
 
【同春型♀】
(2017.4.26 伊丹市)

 
【ヤマトシジミ♀】

  
♀も色が違う。
どっちかというと、ヤマトは青というか紺色っぽい奴が多いんだけど、例外もあったりするから注意が必要。ヤマトの方が青が暗い色のものが多いかな。

そういえば、変なのもいた。

 

 
晩秋になると青くなる低温期型の♀かなと思ったが、腹部は♂っぽい。たぶん、♂かな…。普段、ヤマトシジミなんて採らないから、ホント、ワケわかんねえや。

翌日、間違いなく低温期型の♀を見つけた。

 
【低温期型♀】

 
やっぱ、変だと思った奴は♂だな。質感が全然違う。

採って時間が経ってるのに無理に生展翅したら、触角が折れた。結構、青が広がっている良い型なのに勿体ない。
何か悔しいので、標本箱を探したら、低温期型のメスが見つかった。

 

 
古い標本ゆえか、色が褪せて紫色になっている。
でも、こんだけ青い領域が広いとヒマつぶしに探してもいいなと思えてくる。

 
【シルビアシジミ裏面】
(2017.4.26)

 
【ヤマトシジミ裏面】

 
ヤマトは後翅中央斑列が弧を描くが、シルビアは列が乱れる。また後翅外縁の斑紋の感じが違う。外縁の内側2列目の紋が大きい傾向がある。あんまし図鑑には書いてないけど、自分はどっちかというと、そこで判別している。但し、ヤマトでも紋が大きいものはいるので、そういう場合は他の部分も含めて総合的に判断している。

まあ、これで違いがワカラン人は何度説明してもワカランちゃよ。

ついでに今一度ヒメシルビアシジミの画像も貼っておこう。

 
【ヒメシルビアシジミ Zizina otis ♂ 】
(2013.2.24 沖縄県南大東島)

 
こうして改めて見ると、表側は殆んどシルビアシジミと同じだな。別種になった事に納得いってない人もいるだろね。両者の区別点を書いているものがあまり見当たらないから、尚更だろう。
両種の形態的な違いは、シルビアはヒメシルビアよりも裏面各室の小黒斑が大きく、前後翅亜外縁の黒斑列が各室の小黒斑と同等に発達している点、後翅表面外縁の黒斑列はシルビアでは波状になり、ヒメシルビアシジミでは線状となる傾向が強いなどだそうである。

 
【同♀】
(2013.2.24 沖縄県南大東島)

  
たぶん低温期型の♀で合ってると思うけど、間違ってたらゴメンなさい。通常は青色鱗が発達せず、黒褐色です。

 
【裏面】
(2013.2.23 沖縄県南大東島)

 
裏面はシルビアとかなり印象が変わる。
特に低温期型は、このように斑紋が殆んど消失しかける。
手持ちの通常型がナゼか見つからないので、画像をお借りしよう。

 
【裏面通常型】
(出典『双尾Ⅱ 変異・異常型図鑑』)

 
だいたいがこんなもんだ。シルビアと比べて斑紋が小っちゃくて薄いのだ。
それにしても、ネット上でヒメシルビアの展翅写真が殆んど見つからないのはナゼ? 小さ過ぎて、みんな展翅がまともに出来なかったりして…。ワテの展翅も酷いもんな。これだけ小さいと、肉眼で見て頭が歪んでるなんてワカランもん。しゃあないわいな。

この際、他の近似種も並べておこう。
小難しい言葉を並べたくはないので、各種の判別は印象で書く。細かい判別法は図鑑を見て下され。

 
【ハマヤマトシジミ Zizeeria karsandra ♂】
(2013.2.24 沖縄県南大東島)

 
ハマヤマトの♂は紫色だ。シルビアは青いので、それで大まかな区別はつく。だが、南大東島では最初のうちはどっちがどっちかワケわかんなかった。
いる場所も同じで、荒れ地など草丈の低いところで混飛しているので、ややこしい。飛んでいるのを見て、紫色っぽいのがハマヤマトの♂なのだが、どっちなのか微妙なのもいて、採ってみないとワカンナイのだ。
因みに、ヤマトは微妙に生息環境が違い、もう少し草丈が高いところを好む。南大東島では、同じポイントに3種同時にいたが、ヒメシルビア&ハマヤマトとヤマトのいる場所には明確な境界線があった。
また飛び方も違う。ヒメシルビアとハマヤマトは地面スレスレに飛ぶ地這い型だが、ヤマトはもっと高いところを飛ぶ傾向があり、スピードも緩やかだ。

 
【同♀】
(2013.2.24 沖縄県南大東島)

 
正直、♀は飛んでる両者の識別が全然出来なかった。結局、♂も♀も採って確認するしかないのだ。

 
【裏面】
(2013.2.24 沖縄県南大東島)

 
上翅の黒点がハッキリしていて、濃いのが特徴だ。他の近似種はこんなに黒くはなくて、もっと茶色っぽい。だから、採って最初に確認するのがソコ。

 

 
こうして上翅の黒点が目立つのだ。
しかしこれは♀で、♂となると微妙になってくる。

 

 
暫くジッと見てから、ようやくハマヤマトだと特定することができる。

 
【ホリイコシジミ Zizula hyiax ♂】(出典『chariot』)

 
採った事はあるのだが、標本を探すのが億劫なので、画像をお借りした。
これは、Zizula hylax attenuataというオーストラリアの亜種なのだが、まあ基本的にはそんなに変わらんからエエやろ。左の♂の色が実物よりも紫色なのが気になるけど(実物はもっと青っぽい)、許してくれ。正直、ホリイコもネットでググっても標本写真があんま無いのである。ヒメシルビアと同じく生態写真は山ほどあるのにね。たぶん小さ過ぎて、まともな展翅ができる人が少ないから、あまり表には出てこないのだろう。
英名は、Tiny Grass-blue(ちっぽけな草原に棲む青い蝶)っていうくらいだから、とにかく小さい。世界で最も小さな蝶の一つなのだ。
その矮小さが理解できる画像が見つかったので、貼っつけておこう。

 
(2013.10.4 石垣島)

 
ほら、笑けるほど小さいでしょ。
アッシは腕は長いけど手が小さい。ゆえにサイズ感的には、ホントはもっとチビッコです。

言い忘れたけど、日本で迷蝶として採集されるものはインドをタイプ産地とする原名亜種とされている。

近似種との区別点は他と比べて小さいことだが、ヒメシルビアやハマヤマトにも極めて小さな個体もいるので、注意が必要。他の区別点としては、♂の腹部が長いこと、翅形が幅広くて丸いことだろう。あと決定的違いといえば、裏面の前翅前縁に2個の褐色小点があることかな(他の近似種は0~1個)。でも、ボロや擦れた個体だと丸っきりワカランとです。

また寄り道になった。
シルビアの話に戻ろう。

 
《成虫の発生期及び幼虫の食餌植物》
4月下旬より11月頃まで年に数回(4~6回)発生する。幼虫の食草はマメ科で、主な食草はミヤコグサ。他にヤハズソウ、コマツナギ、ウマゴヤシ、シロツメクサ(クローバー)などにもつく。飼育する場合、インゲンマメとエンドウマメ(スナップエンドウ)が代用食になる。で、スナップエンドウで飼育すると巨大化するようだ。但し、無農薬のものでないと緑色の液を吐いて死ぬそうなので、お気をつけあそばせ。

越冬態は幼虫。
時々思うんだけど、幼虫で越冬するって寒くねえか❓
夜間の気温はマイナスになることだってあるし、ゼッテー寒いだろうに。卵や蛹の方があったかそうに思えるんだけどなあ。人間側目線からの、ただの思い込みでしかないのかもしれんけど…。
誰かこの問いに答えられる人おらんかのう❓

 
《学名》Zizina emelina

Zizina otis となっていたのを、emelinaに書き直す。あっ!、それで思い出したわ。ここの項って、第一章を書き始めて、さして間もなく先に途中まで書いてたんだわさ。だから学名は、Z.otisだとばかり思って書き始めているのだ。学名なんかは決まり事なので、比較的早めにチャチャッと草稿を書いてしまう事が多いのである。
まっ、いっか…。順番が相前後するだけで、内容は同じだ。このまま書き直さずに進めよっと。というワケで、先ずはヒメシルビアから。

学名の小種名「otis」の語源はギリシア語で「敏感な」の意かな? 古いドイツ語の「裕福な」ということも考えられるけどさ。また、これは人の名前のオーティスだとも考えられるからして、オーティスさんに献名された可能性もあるだろう。どれが正しいのかな?
ここはまた、平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』の力をお借りするしかあるまい。

それによると「一般に男性の名」とあった。ということは、オーティスさんへの献名ってことかな?

同じくシルビアの「emelina」も人名由来。
女性名のEmeliaに因み、「エメリナの」の意となっていた。

おっと、属名のことをスッ飛ばしてるわ。カトカラの事をシリーズで書いているので、属名はいつも端折ってる癖がついてんだね。
Zizina(ジッジーナ)というジジイがどーしたこーした的な属名は、同じシジミチョウ科のZizera属を元に作られたもので、強いて言えば「Zizera様の」の意なんだそうだ。でもZizeraはそもそもムーアの造語で、単なる文字の組合せによるもので意味はない。ムーアって、語源がワケわかんねぇような学名を乱発しまくってるんだよなあ。ツマベニチョウなんかの属名も意味不明だもんな(註2)。

 
《英名》Lesser grass blue

これは「草原の、より小さなブルーの蝶」、或いは「草原の、より少ないブルーの蝶」という意味だろう。🐼ジャイアントパンダに対するレッサーパンダみたいなもんかな?ということは、ジャイアントパンダは大型の青いシジミ、例えばアリオンゴマシジミなんかを指してて、それよりも小さいって意かな。

他に「Common grass blue」というのもあるようだ。こちらは「草原のありふれた青い蝶」という意味である。
これはおそらくヒメシルビア(Z.otis)に宛てられたものだろう。確かにヒメシルビアはシルビアよりも更に小さいし、南西諸島には何処にでもいる普通種だ。
国外では…と、その分布を書きかけて筆が止まる。wikipediaを孫引きしようとしたのだが、「朝鮮半島南部、台湾、中国よりインド、南はオーストラリアにかけて東洋熱帯に広く分布する。」と書いてあるのを見て気づいた。これは分類がまだ細かく分けられていない時代につけられた英名に違いない。種ヒメシルビア(Z.otis)そのものにつけられたものではなく、謂わば、otis種群全体に対してつけられたものだろう。

ともかく種としての Z.otis(ヒメシルビアシジミ)とは反対に、シルビアジジミは何処にでもいるようなものではなくて、稀種に入る。一方はド普通種で一方は稀種となると、生態他の性向が全く違うという事だろう。両者が別種であると云うのも頷けるわ。
関西の蝶屋の間では、シルビアは大阪空港とその周辺というベリーイージーな場所にいるから軽視されがちだけど、全国的にみれば、かなり珍しいチョウである。
関東から九州の種子島まで分布するが、生息地は局所的で絶滅危惧種にランクされている。フェルトンが最初に見つけた栃木県のさくら市では天然記念物に指定されてもいる。
環境省RDBカテゴリでは、絶滅危惧ⅠB類(EN)に選定され、東京都、埼玉県、愛知県、岐阜県、滋賀県、和歌山県(註3)、高知県、愛媛県では絶滅、福岡県などその他分布域のほとんどの府県が絶滅危惧Ⅰ類に選定している。

もともと里山や平野部などの人間生活に近い場所に生息しているため、土地開発によって大きな影響を受け、1980年以降、全国的に著しく減少しているそうだ。
またその理由として坂本女氏は、本種は発生時期において各個体が羽化するタイミングの同調性が低くて成虫の寿命が短いこと、昆虫類特有の感染症の影響、移動性が低いために地域ごとに異なる遺伝子のタイプをもっていることから近親交配による弱勢が進み、各個体群ごとの遺伝的多様性が低下して個体数が著しく減少していると書いておられる。シルビーちゃんの未来は暗いねぇ~。

前述したが、幼虫の主な食草はマメ科のミヤコグサ。同じマメ科のヤハズソウやコマツナギも食草としている。
しかし、大阪空港とその周辺にはミヤコグサは無い。コマツナギも無いようだ。じゃあ、ここのシルビアシジミは何食ってんのかと云うと、主にシロツメクサ(クローバー)で、一部がヤハズソウ(何れもマメ科)を食草として利用している。シロツメクサは食草転換したとされ、近年になって利用されるようになったと言われる。
(# ̄З ̄)ホントかよ。単に見つからなかっただけで、昔から食ってたんじゃねーの❓
だいちクローバーに食草転換したとして、何故にその必要性があったのだ?食草転換した理由は何なのさ。誰か教えてくれよ。

たぶんシロツメクサを食草としているシルビアが見つかったのは大阪空港周辺が最初だったんじゃないかな。それ以後、千葉などでもシロツメクサを利用している種群が見つかっているようだ。
因みに此所の個体群は兵庫県南西部の個体群よりもサイズが大きいとの報告もあるようだ(2014’京大蝶研SPINDA19)。シロツメクサを食ったらデカくなるのかな?それともシロツメクサは沢山生えてるから、餌資源が豊富だから大きくなるのかな❓
それにしても、シロツメクサを食草とするならば、もっと分布を拡げても良さそうなものなのに、空港周辺にしかおらんのは何で❓ シロツメクサなんて「🍀四つ葉のクローバー」のクローバーなんだから、何処にでも生えている。それを辿っていけば、分布の拡大なんて楽勝なのにさ。謎だよね。羽があるのに、そんなに移動能力が低いのかよ❓

                     つづく

 
追伸
まだ終わらんのだよ。
自分でもウンザリなのだ。次回、益々ワケわかんないラビリンス世界にズブズブに嵌まってゆきます。

 
(註1)論文
『シルビアシジミの生活史と遺伝的多様性に関する保全生態的研究』(坂本佳子 2013’大阪府立大 博士論文)

(註2)ツマベニチョウの属名も意味不明だ
ゴメン、勘違い。平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』によると、Hubner(ヒューブナー)の命名でした。彼もムーア同様に難解な創作学名が多いそうだ。
ツマベニチョウの属名 Hebomoia(ヘボモイア)は、おそらく神話由来で、ギリシア語のhebe(青春の女神という意)=青春+ギリシア語のhomos(同一の)。共通の+接尾辞-iaと書いてあった。
何だそりゃ❓造語ということは解るが、意味があんましワカラン。日本語は難しいのう( ̄З ̄)

(註3)和歌山県では絶滅
南紀に、おるけどなあ…。