クロカタビロちゃんが、樹液に来た

 

先日5月18日、蛾の夜間採集に行った折りに樹液にクロカタビロオサムシ Calosoma maximowiczi が来ていて驚いた。
クロカタビロオサムシといえば、樹上性のオサムシで毛虫を食うことで知られているが、樹液を吸うなんて聞いたことがなかったからだ(註1)。

 

 
最初、遠目から見た時はキマワリかと思った。
けど、近づくにつれ、形も鞘羽の質感も違うと感じて直感的にクロカタビロだと思った。

普通、オサムシの多くは羽が退化しており、飛べないんだけど、このカタビロオサムシの仲間にはちゃんと羽があって飛べるんだよね。
目の前で飛んだらヤだなと思いつつ、グッと寄る。スマホで写真を撮るのには相当近づかないと撮れないのだ。したら、嫌がりはって移動。

 

 
わかりにくいので、トリミングしときます。

 

 
これでクロカタビロだと誰が見てもわかるだろうと思って、その場を一旦離れた。
しかし、暇なのでベンチに座って撮った写真をチェックしてみたら、これが酷い。あとで何を言われるか堪ったもんではないので、撮りなおすことにした。

 

 
それでも小さいから、一応トリミングしとくか…。

 

 
前脚の跗節の形からすると、♂みたいだね。
♂はここが幅広いが、♀は細いので判別しやすい。

場所は奈良県大和郡山市の矢田丘陵。
時刻は午後7時過ぎ。この日の日没時刻は7時半くらいだったが、天候がダダ曇りだったせいか辺りは完全に日没後の様相だった。吸汁時間は20~30分くらいだったかと思われる。

クロカタビロオサムシと云えば、アッシのガキの頃は関西では珍品だった。能勢で珠に採れるくらいで、確実に産しているのは兵庫県佐用町の大撫山くらいだったと記憶している。
それが2014年だったか、関西で大発生したんだよね。この年は各地でマイマイガの幼虫が大発生していて、餌が豊富だったからそれに連動してクロカタビロも大発生したのだと言われている。

でも、それって何か変なんだよなあ…。
確かクロカタビロオサムシって成虫越冬だよね。夏の終わりだか秋の初めに幼虫が土中に潜り込み、蛹から成虫になる筈だ。つーことは前年に既に沢山の幼虫がいた事になる。しかし、前年にマイマイガは大量発生していたワケではないよね。他の蛾の幼虫が大発生したというのも聞いていない。だったら計算が合わないじゃないか。前年にクロカタビロの幼虫が大量に生き残るには、餌となる芋虫だの毛虫だのが沢山必要となる。けど、マイマイガの幼虫が大発生するのは翌年なのだ。何でクロカタビロがそんなに生き残ったのかが、よくワカンナイ。
調べてみたら、クロカタビロオサムシは寿命が2年もあるらしい。越冬成虫には前年の成虫と新成虫の両方がいるようだ。一瞬、大発生の前年と前々年との成虫が合わさって、たまたま偶然にスゴい数の成虫が現れたのかと思った。しかし、東北なんかでは蛾の幼虫の大量発生(シャチホコガの1種)とクロカタビロの大発生は連動するらしい。どうやら偶然では無さそうだ。実際、今年も大量の毛虫が湧いてて、各地でクロカタビロオサが頻繁に見掛けられ始めているようだ。

それはさておき、何でクロカタビロちゃんは来年にマイマイガが大発生するって解ってたんだ❓予知能力でもあんのかよ❓
予知能力があるんだったら、スゴいよね。
理解不能だわさ。虫って、宇宙人だな。

 
                 おしまい

 
追伸
情が湧いたのか、このクロカタビロオサムシは採集しなかった。それに尻から臭い液を噴射されんのがヤだったというのもある。
因みに、樹液に来ていたワケではないが、もう1頭樹幹に静止していた個体も見ました。どちらも日没後まもなくだった。或いは夜はその時間帯くらいまでしか行動しないのかもしれない。ワカンナイけど。

一応、参考までに標本写真も添付しようと思ったが
手持ちのものがある筈だが行方不明。仕様がないので、綺麗な展足写真をお借りしよう。

 
【クロカタビロオサムシ♂】
(出展『日本産環境指標ゴミムシ類データベース 里山のゴミムシ』)

 
オサムシにしては、ズングリ型なのが特徴。
カッコイイ。オサムシはフォルムがスタイリッシュなので、基本的に好きだ。北海道にはオオルリオサムシやアイヌキンオサムシなど、美麗な金属光沢に輝くものもいて「歩く宝石」なんて言われたりもする。

 
【オオルリオサムシ】
(出展『井村有希・水沢清行 著『世界のオサムシ大図鑑』』以下、同じ)

 
色のバリエーションが様々なのも魅力だ。

 

 
【アイヌキンオサムシ】

 
似ているが、オオルリオサムシよりも一回り小さい。

   
(註1)樹液を吸うなんて聞いたことがなかった…

クロカタビロオサムシは聞いたことがなかったが、オサムシの仲間ではマイマイカブリやツシマカブリモドキが樹液や果実を発酵させたトラップに集まることが知られている。去年、山梨の大菩薩ではクロナガオサムシの仲間(コクロナガオサムシ?)がトラップに2頭寄って来てた。
 

2018′ カトカラ元年 プロローグ

 

突然、去年からカトカラ(Catocala)に嵌まっている。
そのキッカケとなったのが、あるカトカラだった。

カトカラとは、ヤガ上科 シタバガ(catocala)属に属する蛾の1グループのことで、学名の属名が総称として使われることが多い。以前はヤガ科 Noctuidae シタバガ亜科に属していたが,現在では Erebinae トモエガ亜科に属するとされる(Zahiri,2011;Regier, 2017)。
Catocala の語源は、ギリシャ語の kato(下、下の)と kalos(美しい)を組み合わせた造語。つまり、後翅が美しい蛾ということだね。
ついでに言っとくと、英名は「underwing」。コチラも下翅に注視したネーミングだ。
日本には31種類がいて、美しいものが多いことから人気の高いグループだ。
とは言っても、所詮は蛾愛好者の間だけのことで、一般の虫好きには見向きもされないと云うのが現状だろう。自分も元々は蝶屋だから、存在は知ってはいたものの、さして興味は無かった。というか、元来は一般ピーポーと同じく生粋の蛾嫌いだから(註1)、おぞましいとさえ思っていた。

しかし、2017年に春の三大蛾の灯火採集に連れて行ってもらってから、少し蛾に興味を持ち始めた。
この辺のことは当ブログに『2017’春の三大蛾祭り(註2)』と題して書いたので、よろしければ併せて読んで戴きたい。格調高い純文学風に仕上げてみました(笑)。いや、ホラー小説風かな❓
えー、ワシが如何に蛾嫌いだったのかも、読めばわかりますです、ハイ。

そういうワケで、その年の秋にはAくんにカトカラで最も人気の高いムラサキシタバの灯火採集に連れて行ってもらった。

 
【ムラサキシタバ Catocala fraxini】
(2017.9.23 兵庫県美方郡香美町)

 
とは云うものの、カトカラ全体に対しての興味は未だ薄かった。ムラサキシタバはカトカラの帝王とも言われ、最も美しくてデカいと云うから、一度くらいは実物を見てみたかっただけだ。

その日、結局ムラサキシタバは1頭しか飛んで来ず、それを空中でシバいたAくんが手に乗せて見せてくれた。それで充分だった。一度でも見とけば、『あれ、デカくてカッコイイですねー。』と言えるのである。ミーハーなので、昆虫界のスター的な種は一応実物を見ておきたい派なのだ。

この日はムラサキシタバ以外にもシロシタバ、ベニシタバ、キシタバ、ジョナスキシタバが飛来した。
持って帰る気はあまりなかったが、Aくんの薦めで一応ムラサキシタバ以外は持って帰った。だから、カトカラの標本は一応持ってはいる。けど、所詮は蛾。わざわざ集めたいとは全然思わなかった。

しかし、6月に奈良県大和郡山の矢田丘陵にシンジュサンを探しに行った折りに、気持ちが一変したのであった。

 
                  つづく

 
追伸
台湾の蝶シリーズも取り上げねばならぬ蝶がまだまだあるというのに、新たなシリーズを始めてしまうのである。節操がないのだ。
でも、こないだのキアゲハですっかり疲弊しちゃったので、リハビリが必要なのである。そのうち気が向いたら、そっちの方も再開する予定です。

ムラサキシタバの画像が酷いので、彼女の名誉のために美しい画像も貼り付けておきます。

 
(出展『昆虫情報センター』)

 
たぶん♀だね。
下翅の美しさはもとより、上翅の複雑な柄も渋美しい。

 
(註1)元来は一般ピーポーと同じく生粋の蛾嫌い

世間が蛾嫌いなのは、たぶん幼少の頃の刷り込みからだろう。
周囲が、蛾を見て『Σ( ̄ロ ̄lll)ひっ❗』とか呻いて仰け反るのを見て、子供は蛾って気持ち悪いもんなんだと学習しちゃうんだろね。海老とか蟹とか雲丹やナマコだって、冷静に見れば相当グロい。我々はそれが食って旨いと知っているから、美味しそうに見えるだけだ。
話が逸れた。ようはファーストインプレッションで学習したそこに、蝶より地味で汚い、主に夜に活動するので不気味、目が光って妖しい、胴体が太くて気持ち悪い、家に飛び込んできて粉(鱗粉)を撒き散らす、毒を持ってそう、毛虫が醜い等々の悪いイメージが重なり、どんどん補完されてゆくと云うワケだ。それにしても、見事なまでの負のイメージのてんこ盛りだすなあ(笑)。
大人になって蝶採りを始めた頃も蛾嫌いなのは変わらず、突然飛び出してきたら一々飛び退いて背中に悪寒を走らせていた。
蛾も蝶と同じ鱗翅目に含まれ、分類学的にも両者の境界は曖昧だ。だから、ヨーロッパでは厳密に区別せず、蝶も蛾も庶民の間では同じものとして認識されているようだ。なのに、日本では何故か蝶は善、蛾は悪というレッテルが貼られている。驚いたことに、蝶屋(蝶愛好家)でさえも蛾嫌いは結構多い。
何で(・。・;❓
これは、おそらく近親憎悪ではあるまいか❓
蝶をこよなく愛する者にとっては、蛾は汚ないし、気持ち悪いし、世間のイメージが悪いから、深層心理で鱗翅類の面汚しだとでも思っているのかもしれない。視点を変えれば、蛾にも美しいものは多いんだけどね。

 
(註2)2017’春の三大蛾祭り

その壱.青天の霹靂編、その弐.悪鬼暗躍編、その参.闇の絵巻編、その四.魑魅魍魎編の四部作で構成された長編。
他に姉妹作『2018’春の三大蛾祭り』というのもあるので注意されたし。
 

春を送る鰆のたたき

 
2週間前の話。

 
季節は、もうすっかり初夏の趣である。
魚辺に春と書く鰆(さわら)の季節も、そろそろ終わりである。

 

 
上は韓国産の鰆のたたき。国産のもあったけど、値段が倍近くしたので断念。それに、見た感じでは韓国産の方が元の魚体が大きくて美味しそうに見えたというのもある。

( ☆∀☆)うみゃーい❗
鰆のたたきって、ホント美味いよねー。
最初、ねっとりとした食感が歯にからみつき、香ばしい香りが鼻に抜けたかと思ったら、あとから旨味のつまった濃密な脂が口に中にじんわりと広がる。
(о´∀`о)溜まんないよね。

数日後、国産ものも試してみた。
予測では値段ほど美味いものではないと思ったが、食ってみないと本当のところはわからない。

 

 
予想通りだった…。
韓国産の方が遥かに美味い。
どこが違うかというと、脂と旨味が足りないのである。これは予想した通り元の魚の大小によるところが大きいと思われる。どうゆうことかと云うと、鰆は大きければ大きいほど脂がのって美味いのである。
そう云うワケだから、その後はもっぱら韓国産のものばかり食ってた。

 

 
もちろん国産のものでも丸々と太っているものならば、そちらの方がより鮮度は良い筈だから少々お高くとも買う用意はあった。だが、なぜかそれに見合うようなものを見掛けなかったのである。
もしかしたら韓国産の方が、この時期は美味いのかもしれない。

そういえば思い出したよ。鰆はその漢字の字面から、春が旬だと云うイメージが強いが、実をいうと本当の旬は最も脂の乗る秋から冬である。だから「寒鰆(かんざわら)」なんて云う言葉もあるのだ。

それでまた思い出した。対馬で秋に食った寒鰆がメチャクチャ美味かったんだよなあ~(о´∀`о)
対馬って、かなり韓国に近いよね。ってことは韓国周辺で獲れる鰆は特別美味いのかなあ…❓
あんま、聞いたことないけどさ。

鰆の旬が春だと言われるようになったのは、どうやらその時期に瀬戸内海で鰆が沢山獲れるからみたいだ。沢山獲れるということは、庶民の口に入る機会も多い。ゆえに必然、旬と言われるようになったのだろう。また、鰆の本当の旬は冬だとは言ったが、春の鰆が極端に味が落ちると云うワケではない。春でも充分美味いのである。それも旬たる由縁になったのだろう。

鰆の刺身を普段あまり見ないのと、見てもたたきが多いのには、これも実をいうと理由がある。
先ず第一にに、鯖の親戚だからか足が早い。傷みが早いので、よほど新鮮なものでないと刺身にはならないのだ。
たたきにする理由も同じでもあるが(すぐに表面を焼くと鮮度の保ちが良い)、もっと言えば、鰆の身が割れやすいからだろう。つまり、周りを焼くことによって身崩れを防ぐためなのである。

鰆の刺身を最初に食べたのは、大学1年の時だった。
女の子と行った初めての旅行だったから、よく憶えている。
場所は広島県の鞆の浦。
レトロな町で、昭和の古い時代にタイムスリップしたかのようだった。町には、漸く寒さがゆるんだホッとした雰囲気が漂っていた。柔らかな陽射しが溢れ、赤い椿がたおやかに咲いていた。
たぶん春休みだったのだろう。ということは3月だ。

そこの旅館の夕食に出てきたのが鰆の刺身だった。
たたきではなかったと記憶する。分厚く切られたもので、四角いブロック型だった。おそらく大きな鰆の一番分厚くて良いところを贅沢に切り出したものだったのだろう。
その頃はまだ鰆の刺身なんて聞いたことがなかったし、鯛とは違う濁った白っぽい色にとまどった。そう云うものだとは知らないから、鮮度が到底良さそうには見えなかったのだ。
恐る恐る口に入れて、食べた時の驚きと衝撃は今でも忘れられない。あまりの美味さに頬っぺたが、痛いくらいギュンとなった。
彼女もその美味しさにビックリしてたっけ…。

あの時の衝撃と感動を越える鰆の刺身には、その後、出会えていない。
ファーストインプレッションにして、最高峰。
どこか恋愛にも通ずるものがある。
おそらく、あれを越えるものには、生涯出会うことはないだろう。

 
                 おしまい

 
追伸
『消えたキアゲハ 完結編』にあまりにも時間を要してしまい、書けなかった文章。
ホント、蝶の話は時間がかかってアホらしい。食べ物の文章なら、ものの30分もあれば下書きが出来上がるのにさ。

そういえば、今年は鰆の味噌焼もつくってみた。

 

 
甘いのはあまり好きじゃないし、わざわざ西京焼きの為に白味噌を買うのもイヤだし(西京焼きじたいは好き)、普通の味噌に酒と味醂少々と刻んだネギを加えて漬け込んでみた。
しかし、アホだから存在を完全に忘れてて、気づいたのは2週間後。
周りに付いた味噌を落とし、弱火でじっくり焼いてみた。それを、ややビビりながら口に運んだ。

(・。・)えっ、メッチャ旨いやんか❗
腐った様子もないし、全然イケる。普通に塩焼きしたものよりも断然に美味い。味噌の力には、とても感心したよ。発酵食品、恐るべし❗
少々、味が濃いが、むしろ日本酒のアテにはビッタリだった。勿論、白ごはんにも抜群に合う。
これからは、余った魚は味噌漬けにしょっと(^o^)v

 

台湾の蝶32『消えたキアゲハ 完結編』

  
        台湾の蝶32
  『消えたキアゲハ 完結編』

 
まさか3回もキアゲハを取り上げる事にはなろうとは夢にも思わなかった。でも取り上げたのには、それなりの理由があるのだ。

前回に少し触れたが、五十嵐 邁さんの図鑑『世界のアゲハチョウ』を見る機会があった。
そこにはキアゲハグループの幼生期の細密画も並んでいた。そのクオリティーの高さには驚かざるおえなかった。

 
       (出展『日本の古本屋』)

 
(出展『natsume-books.com』)

 
発行されたのは、51年前の1979年。アゲハチョウだけに的を絞った幼生期を含めた図鑑だが、当時の世界の蝶愛好家たちが度肝を抜かれたというのも頷ける。

この図鑑に触発されたのは確かだが、この時点ではまだ3話目を書くかどうかは微妙だった。
しかしその後、台湾のキアゲハの幼虫写真を漸く見つけることが出来た。それで書く気になった。
なぜだか、探しても探しても台湾のキアゲハの幼生期の写真が全然見つからなかったのだ。台湾の蝶の幼生期の解明に多大なる功績を残された内田さんの三部作(註1)にさえも、写真が載っていないのである。
ゆえに、前2回の記事中に台湾のキアゲハの幼虫写真を添付することができなかった。肝心の幼虫写真が1枚も文中に無いのは片手落ちと云うものだ。それが見つかったのだ。面倒だが、もう書かざるおえないだろう。

とはいえ、それだけでは尺が全然足りない。
折角だからこの際、併せて初回に載せたキアゲハ種群の幼虫写真と図鑑の絵図を見比べて検証していく事を思いついた。アップした幼虫写真は自分がネットで探してきたものだから、同定に疑問の残るものもあったからだ。
この図鑑の情報を加味し、もう一度全体を俯瞰して見れば、新たな地平も見えてくるかもしれない。

おさらいの意味も含めて、図鑑の成虫写真も載せて解説していこう。

 
【Papilio machaon キアゲハ】 

 

 
各亜種が並んでいるが、分布が広い分それなりに違う。と言っても、亜種にする必要性があるのか疑問なものも多いというのが現状らしい。

 
 
【Papilio machaon hippocrates 春型♂】

 
【ssp.hippocrates 春型♀】

 
【ssp.hippocrates 夏型♂】

 
【ssp.hippocrates 夏型♀】

  
日本亜種の、それぞれ春型と夏型の雌雄である。
夏型の♀は全亜種内にあって、著しく大型且つ黒っぽいゆえ、特異な位置づけにあるようだ。
我々日本人は忘れがちだが、日本は世界の極東にあり、その東には茫漠たる海原が広がっている。謂わば日本列島は、旅する命ある者の終着駅なのだ。分布の拡大を求めて移動してきた末のドン突きであり、そこにとどまるしかないのである。ゆえに独自な進化を遂げた生物も少なくない。蝶も、キアゲハ以外にも特化しているものが少なからずいるのである。それを忘れてはならない。今更ながらにそう思う。

  
(終齢幼虫)
(出展『そらいろネット』)

 
キアゲハの幼虫なんて日本の蝶屋にはお馴染みだろうが、他との比較のために幼生期の写真と絵図を添付しておこう。何事にも基準は必要なのだ。それが無ければ、比較対照とはなりえない。

お次は五十嵐図鑑の細密画。

 

 
美しい図版だ。
写真よりも味があって良い。
現代の図鑑は、殆んどが写真で構成されているから正確性は高い。だけど、面白味には欠ける。その事に改めて気づかされたよ。絵の方が想像力を掻き立てるのだ。そこには、絵画を楽しむ気持ちと相通ずるものがある。中世ヨーロッパの、絵だけで構成された図鑑なんて美しいもんね。ずっと見てても飽きない。きっと、そこに芸術性を感じているからだ。

 
(終齢幼虫)

 
キアゲハの幼虫といえば、この派手派手縞々のガチャピンみたいな終齢幼虫のイメージが強い。
実物は結構インパクトがある。❗(゜ロ゜ノ)ノ、最初はギョとしたもん。
毒は無かった筈だけど、有りそうには見えるから、まあ一種のハッタリだよね。でも、それなりの威嚇にはなるでしょう。

越冬前の秋の個体は地色の黒化傾向が強く、稀に緑色部の全く失われた個体も見られるみたいだ。但し、このような個体であっても橙色点が消失することは無いという。

 

(出展『青森の蝶たち』)

 
寒ければ寒いほど黒化しやすくなるようだ。
でも、何で寒いと黒くなんだろね❓
人間は暑い季節になるとメラニン色素が増えて肌が黒くなるのに、それって逆じゃんか。
あっ、(・。・)そっか、黒くなることによって太陽熱をより吸収しようという作戦かえ?
だとしたら、納得じゃよ。皮膚の色を自由に変えられたら、マイケル・ジャクソンもあないな苦労をしなくても済んだのにね。
 
幼虫は全部で4回脱皮を繰り返して姿を変えながら、やがて5齢(終齢)となり、その後、前蛹を経て蛹となる。

 

 
各齢が2つずつ描かれており、上から見た俯瞰図と横から見た側面図が並んでいる。
3齢の途中までは黒っぽい。これは鳥の糞に擬態しているからだと言われている。糞に化けるとは、お主やるな。ウンコ💩に化けるなんて発想は、人間様には目から鱗だよ。

それにしても4齢幼虫が4齢幼虫らしくないなあ。
4齢は、もっと白っぽかった筈なんだけどなあ…。

 

(出展『我が家の家の生き物たち』)

 
或いは図鑑に図示されているものは、終齢に脱皮する直前の幼虫かもしれない。

 
(出展『蝶の図鑑~今日の蝶』)

 
脱皮が近づくと、見た目が次第に終齢幼虫に似てくるのである。これって「おいら、ゼッテー終齢幼虫になるけんねっι(`ロ´)ノ!」と云う強い意志の表れかもしれない。
おっちゃん、「女の一念、岩をも砕く」と一人ゴチて、勝手に笑う。阿呆である。それに使い方が今いちズレとるがな。

因みに、各種、各亜種の幼虫の食草については第2話『続・消えたキアゲハ』に詳しく書いたので、今回は割愛します。気になる人は遡って前の文章を読んでくだされ。
それで思い出したんだけど、そういえば日本のキアゲハを飼っていた人が言ってた。庭にセリとパセリを植えておられるんだけど、幼虫はセリよりもパセリの方を圧倒的に好むらしい。キアゲハの食草といえばセリ科だから、てっきりセリの方が好きかと思いきや、そうじゃなかったって云う話だね。
まあ、日本ではたまたまセリが科の代表になったと云うだけだろうから、よく考えれば不思議でも何でもないんだけどね。

 

 
左上が卵、真ん中が幼虫各齢の頭部正面で、右上がその肉角だ。
肉角とは天敵に襲われそうになった時に、頭からニョキッと出すヤツだね。そこから柑橘系の嫌な匂いを発する。天敵に対して、あんま効果があるとは思えないけど、実際はどうなのかな?
まあ、こんなのを急にニョッキリ出されて、しかも臭かったりしたら、結構引くかもしんない。少なくとも、小学生のアッシはビックリした。

 
(蛹)

 
夏季の蛹は緑色で、越冬する蛹は茶色になるのは周りの環境と同化する為だ。これはよく知られた事だけど、改めて考えてみると、そんなことが出来るだなんて凄いよね。よくよく考えてみれば、神秘的だよなあ…。
だってさー、1回体内をドロドロに溶かして、全く違う形に再形成するってワケでしょ❓
異能戦士かよ。レインボーマンとか、そんな技を持ってなかったっけ?
現代人は当たり前の知識として、芋虫から蛹、そして蝶へと大きく姿を変えることを誰でも知ってはいる。だけど冷静になって考えてみたら、全く違う姿・形に変身できるだなんて驚愕モンである。不可思議としか言い様がない。昔の人たちが蝶を霊的な存在として崇めていた気持ちがよく解る。これはリーインカネーション、輪廻転生という思想とも繋がっているに違いない。

 

 
もう1つ色の違う蛹が図示されているが、よくワカンナイ。

図版にある各亜種を紹介する前に、イメージが湧き易いように改めてキアゲハの分布図を載せておこう。
キアゲハの分布は、とても広いのだ。それを踏まえて、読み進んでもらいたい。

  

 
キアゲハの分布は北半球に広く、ヨーロッパからシベリアを経て、北米にまで達している。これはきっと地史とも関係がありそうだが、壮大になるのでこれ以上触れないようにしよう。

ところで、キアゲハの祖先種は何処で誕生したのだろうか❓
それも調べた限りではワカラナイので、そもそも地史と照らし合わせて論じることには無理があるよね。迷宮に彷徨うことになりそうなので、やっぱアンタッチャブルにしておこう。首を突っ込んだら、ロクなことになりそうにない。

それでは各亜種を並べてみよう。
因みに一旦は図版の番号順に並べて各個体の解説をしてみたが、書き進めれば進めるほど不都合が生じてきた。で、その殆んどを入れ替えざるおえなくなった。番号順だと、各亜種の関連性が無茶苦茶になるのである。説明があっちこっちに飛び、相前後しまくって全く系統だてて書けないのだ。
理由は、図版内に上手く蝶をおさめる為だとか、美しい並びにしたかったのかなとも思ったが、たぶん五十嵐さんは、あんましキアゲハの分類については詳しくなかったのではないかと思う。
いや、そう云う言いぐさは後出しジャンケンみたいでヨロシクない。50年前なんだから、情報量は今よりも格段に少なかった筈だ。これでも当時の知識としては、きっと最高レベルだろう。大部分の蝶屋が、世界には様々なタイプのキアゲハがいるという事すら知らなかったに違いない。しかも、当時は多くの亜種が乱立していて、分類も錯綜していただろう。そんな時代に各亜種間の関連性まで理解して並べろというのには無理がある。順番が無茶苦茶なのも致し方ないだろう。
おかげで随分と苦労したので、いささか口が滑りもうした。五十嵐さん、ごめんなさい。

気を取り直して、次は台湾産のキアゲハである。

 
 
【ssp.sylvinus 夏型?♂】

 
【ssp.sylvinus 夏型?♀】

 
台湾産も特化している。
小型になり、翅形が縦長で上翅外縁の黒帯が細く、内側がギザキザになる傾向がある。

上翅の基半部が黒っぽくないので、おそらく夏型かと思われる。台湾のキアゲハは日本と逆で、春型が黒っぽくて、夏型の方が明るい色をしているのだ。
っていうか、世界的にはそっちの方が当たり前らしい。日本など極東地域だけが逆で、夏型の方が黒っぽくなるのだ。

 
 
【ssp.gorganus ♀】

 
フィンランド産とある。
黄色くて、別種と見紛うばかりの出で立ちだ。
(◎-◎;)何じゃ、こりゃ❗❓ もうここは、藤岡図鑑(註2)の力を借りるしかあるまいて。

スカンジナビア半島などの北方では、前翅亜外縁の黒帯が細くて一様な太さで、外側に寄っている。また、翅脈上の黒条が極めて細い。写真の個体は究極的に黒条が細くなった個体だから、矢鱈と黄色く見えるのだろう。
ヨーロッパの他地域は通常年2化の発生だが、この地域とイギリスのみが年1化だという。

エラー(Eller 1936)やセイヤー(Seyer 1982)は、これを別亜種 ssp.lapponicus としているが、明確に亜種として区別できない個体も多く、分布の地理的区分も不明確のようだ。
五十嵐さんは亜種名を ssp.gorganus としているが、原記載亜種のタイプ産地はスウェーデンだから、フィンランドとは近い。亜種名は、ssp.machaon machaon が妥当かと思われる。

 
 
【ssp.gorganus ♂】

 
これもフィンランド産と同じく ssp.gorganus としているが、コチラはドイツ産とある。フランス産などもこの亜種に含まれるようだ。
フィンランド産と同様に、前翅表面亜外縁の黒帯が細く、一様な太さで、翅脈上の黒条が細い傾向があるとされる。それゆえ、五十嵐さんは両方とも同じ亜種としたのだろう。つまり、この gorganus の特徴がより進んだものがフィンランド産だと考えられたと推測される。だから、同じカテゴライズに入れたのだろう。
でも、そんなに黒帯は細いとは思えないし、一様な太さでもないよなあ…。

この他にもヨーロッパのキアゲハには多くの亜種名が与えられてきたが、何れにせよ斑紋は連続的で明確な分布の線引きが出来ないようだ。
そんな事から近年では、ライレーとヒギンズ(Riley &Higgins 1971)が提唱したように、ヨーロッパ全体を一つの亜種とする見解が主流となっている。藤岡さんも同じ見解で、その上でヨーロッパ亜種を3つの準亜種に区分(註3)しておられる。

 
 
【ssp.britanicus ♂】

 
イギリス産。
英国本土の土着個体は対岸の大陸産に比べ、前翅表面亜外縁の黒帯が太く、波状となり、翅脈上の黒条も太い。藤岡さんはこれに加えて、前翅の形に丸みがあって、尾状突起が短いという特徴も挙げておられる。

年1化が普通だが、気温の高い年には部分的に2化目が発生する。対岸の大陸側は年2化が基本だから、緯度的に変わらないのにも拘わらず年1化なのは、見てくれの違いだけでなく、生態的にも特異なものである事を示している。
しかし、大陸側のフランスから迷蝶として飛来することがあるようで、その上、大陸産を飼育して放蝶する例もあって、血が混じってきているらしい。そのせいなのか、最近では純粋な britanicus は姿を消しつつあるそうだ。また、2化目の発生例も増えてきているという。
藤岡図鑑の刊行は1997年だから、この記述からもう22年もの時が経っている。現在ではどうなっているのだろう❓何も対策していなければ、大陸産に呑み込まれてブリタニカスは確実にこの世界から消えているか、消えつつあるだろう。だとしたら、嘆かわしいことだ。
これって、遺伝子汚染の典型じゃね❓
放蝶は蝶を増やして野に放つワケだから、美談になり易い。しかし、一見その善に見える行為が如何に悪なのかが、この例でよく解るよ。そんな事をすれば、地域に固有なものがこの世から永遠に消えてしまうと云うことが解っちゃいないのだ。善だと思って頑張ってやってる奴が、一番始末に悪い。正義を振りかざす奴が、意外と手強いのと同じだ。そう云う人は論理的に説明しても、大概が納得してはくれないのだ。

 
【ssp.oreinus ♂】

 
標本写真の産地は、Altay U.S.S.R とある。
これはたぶんアルタイ山脈のことで、そのソビエト連邦側で採集されたものであろう。
一瞬、U.S.S.R って何だっけ?と思ったよ。改めて図鑑の古さを実感したね。今時の子は、かつてソビエト連邦という国があったことすら知らないかもしんない。

この亜種は、現在は中央アジア亜種 centralis に吸収されているようだ。コチラも両者の斑紋が連続的に繋がり、亜種として明確な線引きが出来ないからだろう。

 
 
【ssp.oreinus ♂】

 
【ssp.oreinus ♀】

 
これらもソビエト連邦産と同じく ssp.oreinus という亜種名になっている。
採集地は両方ともアフガニスタンとある。
相変わらずアフガンに入国するのは難しいだろうし、ましてや山野で網を振るだなんて死ぬ覚悟がないと出来ないだろうから、今や貴重な標本かもしれないね。

これらも同じく中央アジア産の亜種 ssp.centralis のタクソンに含まれる。
トルキスタン、サヤン、タジキスタン産にも亜種名がつけられているが、地中海地方と殆んど変わらない個体もあり、変異は東ヨーロッパ、南ロシアを経て完全に連続的で、ヨーロッパを一つの亜種とするならば、これらの地域も同一亜種とすべきだと考えられている。ひいてはヨーロッパ産をもひっくるめて一つとし、ssp.machaon machaon とする研究者もいるようだ。

 
 
【ssp.annae ♂】

 
産地はブータン。
黒っぽくて、尾状突起が短い。
亜種名が「annae」ってなっているが、これってどう見ても高地に棲む異質な集団で、別種に分けられたタカネキアゲハ(Papilio sikkimensis)だよね❓
たしかタカネキアゲハの分布域にブータンも入っていた筈だよな。別種として記載されたのは、五十嵐図鑑の刊行後だから、藤岡さんによってまだ分類が整理されていなかったかと思われる。たぶん、それまではブータンの個体群は、この亜種名が宛がわれていたのだろう。テキトーに言ってみたから、本当のところはよくワカンナイけどさ。
マズい。集中力が切れてきた。あとでちゃんと調べなおそう。

 
 
【ssp.sikkimensis ♂】

 
ネパール産とある。学名からすると、これが別種となったタカネキアゲハ(Papilio sikkimensis)だね。
でも、黒っぽくないし、尾状突起も短くない。むしろ尾突は普通のキアゲハよりも長いくらいだ。いや、単に細いから長く見えるだけか…。いやいや、ミャンマーなどの標高2,500m前後に棲む超長尾型ほどでないにせよ、充分に長い。
タカネキアゲハは変異幅が多いというし、厳密的に精査すれば、その変異はキアゲハと連続的で別種とは言い難くなるかもしれない。遺伝子解析の結果でも、キアゲハと同じだとする見解もあるしね(註4)。
キアゲハの分類は今も研究者によって見解がバラバラだ。他の各亜種間も見た目の違いは連続的に推移するものが多いから、亜種を廃して全部同じものだとする研究者もいるくらいだ。ようするに曖昧でワケわかんないのである。

 
【ssp.punjabensis ♂】

 
インドとしか書いてなかったが、学名からするとパンジャブ州で得られたものだろう。
しかし、ssp.punjabensis で調べてみてもヒットしない。藤岡図鑑には、ssp.pendjabensis というのがあるから、おそらく五十嵐さんの誤記であろう。
そう思ったのだが、確認し直したら、punjabensis というのも少数ながらあった。だから、五十嵐さんは他の人の誤記をそのまま使ったのかもしれない。或いは punjabensis はシノニムなのかもしれない。

この亜種を調べている仮定で、問題のタカネキアゲハ的なものも含めて疑問が解けた。
亜種 pendjabensisは、annae、sikkimensisと密接な関係にある。この辺の話は物凄くややこしいのだが、頑張って説明してみようと思う。

どうやら pendjabensis は亜種 asiaticus という種群に含まれるようだ。annae も同じくこの種群に入れられている。他に emihippocrates と云う亜種も此処に含まれている。これらは皆、Hindu Kush(ヒンドゥークシュ)、Karacoram(カラコルム)、Himalayas(ヒマラヤ)などの低地に同所的に分布するとされてきた。そして尾状突起の長いものを ssp.pendjabensis、短いものを ssp.annae として区別していた。
五十嵐さんは、それを踏まえて短尾型をssp.annae、長尾型をssp.pendjabensisとしたのであろう。
しかし、実際は短尾型は3,000m以上に棲み、低地には分布しておらず、それが混乱に拍車をかけた。
加えて問題をややこしくしたのは、当時の分類研究の大家であったタルボット(Talbot)が、春型と夏型を混同し、両者をそれぞれ別々な亜種としてしまったことだ。
asiatica はエベレスト西方の谷(Longshar valley)が基産地だが、同地の標本を検したタルボットは前後翅の黒帯が幅広く全体的に黒いものを asiatica とし、黄色い部分が広くて上翅基部が黄色鱗粉に覆われているものを中央アジア亜種の centralis とした。しかし、彼が asiatica としたのは春型で、centralis は夏型にしかすぎなかった。ようするに、これらは同じもので、その季節型でしかなく、当然ながら亜種とはなり得ない。
タルボットは更に長尾型の pendjabensis がパンジャブからクマオン、emihippocrates がネパール、短尾型の annae がシッキムからブータンに分布するとし、斑紋が異なるものが異所的にいるかのように書いた。だが、長尾型と短尾型は標高で生息を異にしているだけで、実際は同じ地域に分布しているし、長尾型同士に明確な差は見出だせない。

後にディール(Deal1977)は asiaticus がヒマラヤ南斜面の低地型キアゲハと見なすべきと論証し、更に従来は短尾型キアゲハの亜種名として用いられてきた annae も長尾型でしか有り得ないことを証明してみせた。
前述したが、つまり短尾型と長尾型は同所的に標高で棲み分けており、3000m以上に短尾型、それ以下には長尾型が棲息しているというワケだね。
そして、3000m付近では両者が混棲し、中間型が見られないことから、藤岡さんはこの短尾型を別種と考えた。で、ディールの考証に従って他の地方も含めて短尾型といわれるキアゲハの特徴を全て持ったキアゲハの中で最も古い学名を用いて新種タカネキアゲハ Papilio sikkimensis(Moore 1884)として記載したというのが当時の流れだろう。
因みに、藤岡さんは原記載亜種の産地にシッキム、雲南省を挙げている。

一応、タカネキアゲハの分布域も書いておこう。
分布の西限はパキスタン西部のバルチスタン北方で、パキスタン最西北のチトラール地方から東へはカラコルム山脈、ヒマラヤ山脈沿いに広く分布し、ヒマラヤ山脈が南限となる。北はパミール高原及びチベット高原、天山山脈、そして東は中国の雲南省、四川省、甘粛省、青海省に至るまでの高地に分布している。
それにしても、驚くほどに分布域が広いんだね。

バルチスタンとかチトラールとか懐かしいなあ…。
と云うことは、タカネキアゲハはギルギットなんかにも棲んでるんだろね。
いや、ギルギットはそんなに標高は高くなかった筈だ。思い返せば1,500mくらいかな。ならば、フンザ辺りか? でも一応調べてみたら、たったの2,500mくらいしかない。ちょっと歩いただけで息切れしたから、だいぶと空気が薄かったと感じたけどなあ…。すると、ススト辺りまで行かないといないってワケか。スストで泊まった時に眠れず、一人夜中に外に出た時の記憶が突然フィードバックしてきた。冴え冴えとした月光が水の無い河原に降り注ぐ様は、まるで別な天体にいるかのようだった。凄絶なまでに美しく、恐ろしく寂しい風景だった。

五十嵐図鑑に示された個体は、おそらくネパールでも低標高地で得られたものだから尾状突起が長いのだろう。つまりこれは厳密的にはタカネキアゲハではない。きっと採集された場所がネパールというだけで sikkimensis としたのだろう。
因みにネパールのタカネキアゲハは産地からすると、ssp.rinpoche(Wyatt,1959)という亜種となる筈だ。しかし、五十嵐図鑑の個体の見た目はどちらかというと原記載亜種 sikkimensis sikkimensis に近いような気がする。

ssp.pendjabensis(Elmer1985)だが、パンジャブ州がタイプ産地ではなく、Dehara Dun(デヘラードゥーン)とAllahabad(イラーハーバード)となっていた。
デヘラードゥーンは、日本語では「デーラドゥン」や「デラドゥン」と表記される事も多いインドのウッタラーカンド州(旧ウッタラーンチャル州)の暫定州都である。パンジャブ州と隣接し、その東側に位置する。
一方、イラーハーバードは、英語名称に由来するアラーハバードという表記されることが多いインド北部ウッタルプラデーシュ州の都市で、テラドゥンの東南にある。ようするにパンジャブ州、ウッタラーカンド州、ウッタルプラデーシュ州は連なっており、何れもヒマラヤ山脈の麓にあるのである。つまり、亜種 pendjabensis も低地の長尾型キアゲハということになる。
但し、ssp.annae や ssp.asiaticusとは、現在どういう風に関連づけされているのかはワカラナイ。
しかし、たぶんこれらは皆同じもので互いに区別できず、どれか一つの亜種名(asiaticus?)に集約されて、他はシノニム(同物異名)として使用されなくなっているものと思われる。
以上、ザックリで説明したから、細かいところは間違っているかもしんないけど、大まかにはそう云うことだろう。

パンジャブ州はインド北西部にあり、パキスタンと国境を接している。
ついでに言うと、パキスタン側の州もパンジャブ州である。今更ながらに、パキスタンはインドから独立したんだなと思い起こさせられる。つまり、それによってパンジャブ地方は分断されたって事なんだね。

昔、パキスタン側の国境の街ラホールからインド側の国境の街アムリットサルへと旅したことがある。この国境は、しょっちゅう突然閉鎖されることで有名で、ビクビクしながら国境越えした事を思い出す。
そういえばアムリットサルといえば、誇り高きシーク教徒の聖地だったな。着いて煙草を吸ってたら、デカいシーク教徒に「ここで煙草を吸うな。」と威厳に満ちた態度で、たしなめられたっけ…。シーク教徒は、みんな大柄で誇り高き戦士なのだ。
まだその頃は蝶採りなんぞしていなかったから、キアゲハの存在くらいは知ってはいたものの、こんなところにまで分布しているだなんて考えもしなかった。
思えば人間にも多くの民族がいて、それぞれ見てくれは違ったりするから、いわば亜種だらけだ。でも、その境界はキアゲハと同じで曖昧だ。何だかそう思うと、種の定義って何なんだ❓と思うよ。ワカラナクなってくる。

何だか結びの文章みたくなっちゃったが、先はまだ長い。気をとり直して次の図版に移ろう。

 
  
【ssp.schantungensis ♀】

 
標本の産地は熱河省とあった。
熱河省❓そんな省、中国にあったっけ❓
これは流石に調べた。それによると「ねっかしょう」と読み、かつて存在した省らしい。中華民国の時代にうまれ、満州時代を経て中華人民共和国の時代に入っても存続したが、1955年に廃省となったようだ。場所は現在の河北省、遼寧省及び内モンゴル自治区の交差地域に相当するみたいだ。

 
  
【ssp.chinensis ♂】

 
これも同じく中国産のキアゲハ。学名もいかにも中国って感じだ。でも、産地は特に記されていなかった。
どうやらこの亜種は、上の亜種 schantungensis に集約されているようだ。schantungensis は東中国が基産地だから、ということは中国のド真ん中、もしくは南部辺りのキアゲハなのかな?

 
 
【ssp.orientis ♂】

 
標本の産地は、Manchuria 北部大興嶺。
これはおそらく大興安嶺山脈の事を指しているものと思われる。この山脈は火山山脈で、中国北東部、ロシア、モンゴルとの国境に沿って南北約1,200㎞にわたって連なっている。どんな所か今一つ想像がつかないが、想像するにきっと厳しい環境なのだろう。キアゲハは乾燥地帯や湿潤な温帯域、低地から高山地帯と、色んな環境に適応できたから、分布を世界に広げることが出来たんだろうね。

摸式産地はサヤン山地。シベリア、北ロシア、ウラル山脈などに分布し、藤岡さんも別亜種として扱っている。
英語の産地表記には、polar(極地)という言葉があるから、北極圏にまで分布しているものと思われる(註5)。
強えぜ、キアゲハ。だったら何で台湾では消えてしまったのだろう❓

 
  
【ssp.sachalinensis ♂】

 
【ssp.sachalinensis ♀】

 
サハリン産のもので、遺伝子解析では日本の北海道産に極めて近いようだ。

これら解説してきた亜種の幼虫の見てくれは、日本のキアゲハと殆んど変わらないようだ。但し、タカネキアゲハは保留としておく。調べた限りでは、幼生期の解明がなされていないからだ。高地に棲む特異なキアゲハだけに、見てくれに大きな違いがある可能性はある。もしも特異な幼虫ならば、遺伝子解析の結果がどうあれ別種とすべきだと思う。遺伝子解析による分類が絶対ではないと考えているからだ。見た目が同じなのに、遺伝子解析では別種という結果が出ている昆虫も最近は少なくない。目で見て全く区別できないものなんて、そんなもんに果たして名前をつける意味があるのかね❓分類とは本来、人間が生物を区別するために生まれたものだ。それを忘れたら、本末転倒だと思う。見た目で判別できないものは、同種でいいじゃん。徒(いたずら)に遺伝子解析の結果を重視するのは混乱を引き起こすだけじゃないか(# ̄З ̄)

 
ここからはキアゲハの亜種、もしくは近縁の別種とされるが、幼虫形態が違うものです。

 
 
【Papilio saharae ♂】

 
【Papilio saharae ♀】

 
【Papilio saharae ♂ 】

 
【Papilio saharae ♀ 】

 
上2つが北アフリカのアルジェリア産。下2つが地中海のマルタ諸島産である。
アフリカではサハラ砂漠北側の500~2,000m以上の山岳地帯に棲み、西からモロッコ、アルジェリアを経てチュニジアに続くアトラス山脈とリビア北東部のアカダール山地が確実な産地であるが、地中海沿いの他の場所でも迷蝶として採集されることも多いという。

年1化で2~5月に発生する地が多いが、環境の厳しくない場所に適応した産地では、年2~3回発生するところもあるという。

コヤツは従来キアゲハの亜種扱いだったが、後に別種に分けられたものだ。理由はヨーロッパのキアゲハと混棲している場所が見つかったからみたい。つまり、既に生殖的には種として分化していると云うワケだね。しかも、キアゲハが草原などの穏やかな環境を好むのに対し、サハラキアゲハはガレ地や砂漠の中のオアシスを好むというから、生態的にも差違がある。
でも、コヤツもタカネキアゲハと同じく遺伝子解析では同種という判定が出ているんだよね。

そういえばモロッコのカサブランカから内陸のマラケッシュにバイクで移動した時に見た風景は壮大だったっけ…。時刻は夕暮れ間近で、荒涼とした大地の向こうに茶色い山々がデーンと連なっていた。そこには見渡す限り道路以外の人工物は全くなく、時間が止まったかのようだった。バイクを走らせているのに、全てがスローモーションのように見えた。今でも、あれは本当に見た景色なのかと思うくらいに幻想的だった。今、自分は日本から遠く離れた土地にいるんだなと実感したのを思い出す。
あそこには、きっとサハラキアゲハもいた筈だ。

 
幼虫はこんなのである。

 
(出展『wildisrael.com』)

 
おそらく左下が4齢幼虫で、左上が終齢幼虫だろう。
かなりキアゲハとは見た目を異にする。
しかも、幼虫はキアゲハが好む食草であるセリ科 Ferula communis(オオウイキョウ)やFerula vulgare(フェンネル)を好まず、同じセリ科だが、Deverra chioranthus、Deverra scopularia、Saseli varium などを食する。これも別種とする理由になったようだ。遺伝子解析がどうあれ、別種説を推したいところだね。
因みに、五十嵐図鑑には成虫写真を4個体も載せているのに、残念ながら幼虫の絵は図示されていなかった。

 
 
【ssp.aliaska ♀】

 
北米大陸のキアゲハで、アラスカ亜種とされる。

 
(終齢幼虫)
(出展『Butterflies and Moths of America』)

 
幼虫は初回の時に上の画像を添付したが、同定に自信が持てなかったので他の画像も探した。けれど画像は少なく、漸く見つけたものは有料だったので添付はパス。でも特徴は同じなので、この画像で問題ないと判断した。

キアゲハの幼虫と基本的なデザインは同じだが、決定的に違うのはオレンジの部分が黄色に置き換わっているところだ。しかし、別種レベルという程の相違は無いだろう。ここは五十嵐さんの見解を知りたかったところだが、残念ながら図鑑には絵図も解説も無かった。

さらに次ページの図版へと進もう。

 

 
左と真ん中の縦1列が北米大陸のキアゲハグループだ。黒いものが多いので、かなり異質に感じる。
特に♀が黒くなるものが多いようだ。これは体内に毒を持つアオジャコウアゲハに擬態していると言われている。ようは擬態することにより、鳥の捕食から免れるためだね。
おそらくユーラシア大陸のキアゲハがシベリアから北米大陸に渡り、独自の進化を遂げたものだろう。
何となくそれは理解できる。だが、ではなぜユーラシア大陸のキアゲハはそういった擬態的進化を指向してこなかったのだろうか❓
ユーラシアにも毒を持つジャコウアゲハやアケボノアゲハの仲間は沢山いる。しかし、それに擬態したキアゲハは自分の知る限りではいない。それはどうしてなの❓ 擬態した方が生き残る確率は上がる筈だけど、ユーラシアのどの地方のキアゲハもその戦略を選ばなかったということになる。
とはいえ、何でもかんでも擬態で片付けるのは、どうよ❓安易過ぎないか。そもそも北米のキアゲハは本当にアオジャコウに擬態してんのかな❓ 幼虫の食いもんの違いや極地やアラスカの厳しい環境を潜り抜けてきたせいで黒化しちゃったら、たまたまアオジャコウに似てましたーってな事って無いのかな❓ 果たしてアオジャコウの分布と黒いキアゲハの分布ってビッタリ重なるの❓ 自分も困ったら擬態を持ち出す傾向が強いから、大きなことは言えないけど、一考の余地はあると思う。

  
【Papilio machaon bairdii ♂】

 
【Papilio bairdii ♀】

 
標本はアメリカ・カリフォルニア州産のもの。
以下、他にもカリフォルニア州産のものが多いので、混乱を避けるために分布図も添付しておこう。

 

 
図鑑ではミヤマキアゲハという和名が付与されているが、あまり使われていないようだ。少なくとも、自分は聞いたことがない和名だ。
五十嵐さんは学名を Papilio bairdii としているから、キアゲハとは別種と考えていたみたいだね。しかし、藤岡さんはコレをキアゲハの亜種に含めた。

それでは幼生期を見てみよう。
初回時に添付した画像はコレ。

 
(出展『Butterflies and Moths of America』)

 
図鑑の絵図と見比べてみよう。

 
(終齢幼虫)

 
微妙に違うが、基本的には合っていそうだ。
どうやら地色が緑色ではなくて、青いのが最大の特徴みたいだね。

 
(幼生期全ステージ)

 
キアゲハに極めて近いものだと思われるが、若齢期は黒ではなく、茶色。そして、4齢が白くなると云うのが特異だ。でも白くなる意味が全然ワカンナイ。白くなって得する意味ってある?

  
(4齢幼虫)

 
藤岡さんはキアゲハ(P.machaon)に含めたが、こうなると別種の可能性も有りうる。

 
(幼虫の頭部)

 
顔も青っぽいね。
実物を見ないと何とも言えないが、キアゲハの幼虫よりかはおぞましく無い。キュートで、ちょっとお洒落感さえある。

 
(蛹)

 
特に変わったところは無さそうだ。
一見したところ、キアゲハの蛹と区別がつかない。
しかし解説を見ると、頭部の突起が極めて短いという。言われてみれば、そうかもしんない。

 
 
【Papilio rudikini ♂】

 
コチラも標本はカリフォルニア州産だ。

 
(分布図)

 
和名は図鑑ではアリゾナキアゲハとなっているが、別名コロラドサバクキアゲハとも言われ、現在は次に紹介する Papilio polyxenes の亜種(ssp.coloro)とされている。
狭義のコロラドサバクキアゲハ Papilio rudikini は砂漠に限って棲息する種で、黒い型はおらず、黄色い型のみしかいないみたい。
これは以前はキアゲハの亜種 bairdii と考えられていたが、種間雑交の研究結果、別種 P.polyxenes に極めて近い事がわかった。それが polyxenesの亜種とされるキッカケとなったようだ。

polxenesの亜種とするならば、分布域は広がり、黒くなるクラーキ型が東部に行くほど増え、逆に西では黄色い型が増えるという。

 
(幼生期全ステージ)

 
色も斑紋も、キアゲハとはかなり違う印象をうける。
サハラキアゲハと似ているかも…。キアゲハとは別種とされるのも納得がいく。

 
(終齢幼虫)

 
(頭部と肉角)

 
卵が写っていないが、キアゲハと同じく淡い黄色である。

 
(蛹)

 
夏型の蛹の色が、キアゲハと比べてくすんだ緑色だ。背中に黄色い部分も無い。やはり別種くさいな。

 
 
【Papilio polyxenes ♂】

 
【Papilio polyxenes ♂】

 
【Papilio polyxenes ♀】

 
まさに黒いキアゲハだ。和名がクロキアゲハなのも理解できる。標本は全てミシシッピー州産になっているが、分布は広い。

 

 
この分布図と先のアリゾナキアゲハの分布図を重ね合わせたものが、Papilio polyxenes(クロキアゲハ)の分布になると云うワケだね。

ではでは、幼虫さんの画像。

 
(幼生期全ステージ)

 
(終齢幼虫)

 
(各齢図)

 
(幼虫の頭部)

 
顔が黄色い。アリゾナキアゲハは4齢の顔が黒かったけど、こっちはキアゲハ的な顔だ。
とはいえ、総合すればアリゾナキアゲハと殆んど同じである。アリゾナキアゲハがクロキアゲハに吸収されたのも致し方ないだろう。

 
(蛹)

 
蛹は何故か越冬仕様のものしか載っていなかった。
夏も茶色だったりしてね(笑)。
図鑑には、蛹頭部の突起がキアゲハよりも細長く尖り、両突起間の中央は顕著に凹むと書いてあった。

あっ、そういえば初回で添付した画像を載っけてなかったね。

 
(出展『Butterflies and Moths of America』)

 
(◎-◎;)❗❗ゲロゲロー。
全然、違うやん❗❗❗❗
黒くなくて、Papilio machaon aliaska アラスカキアゲハ的やんかー(|| ゜Д゜)
もうワケわかんねぇぞー❗Σ(×_×;)❗

ネットで、Papilio polyxenes の写真を探しまくる。
それで漸く見えてきた。

 

 

 

 

 
黒いのもちゃんといるのである。
そして、キアゲハ的なオレンジ紋の奴までいる。

 

 
若齢幼虫も色々なタイプがいる。

 

 

 

 

 
どれがどれだかワカンナイけど、たぶん画像には緑色タイプと黒いタイプの若齢幼虫が混じってると思う。
ようするに、この Papilio polyxenes という種は多型が生じるタイプなのだ。そういえば初回にそんな事を書いた記憶が甦ってきたよ。同じ場所に黒いタイプと緑色のタイプの幼虫が混在するみたいな事を書いた筈だ。
あ~、三歩あるけば忘れてしまう鶏アタマ振りを見事に露呈してしまったわい。ちゃんと初回をシッカリ読んでから書けよなー(  ̄З ̄)。性格の問題点まで露(あらわ)にしちまっただよ。
と言いつつ、読み直すつもりはサラサラ無い。あんなクソ長い文章なんて、我ながら読みたくないのだ。
ともあれ、コヤツにキアゲハという種の根本的な特性のヒントが隠されているかもしれない。多型化しやすいがゆえに、各地で独自に形態変化が進みやすいのではなかろうか❓

 
【Papilio zelicaon ♂】

 .
【Papilio zelicaon ♀】

 
キアゲハ(P.machaon)っぽい。パッと見はキアゲハにしか見えない。
見ていると、画像は黄色いタイプが多いので、黒いタイプはいないのかと探してみたら、ユタ州なんかには黒いのもいるらしい。

五十嵐さんは別種としてアメリカキアゲハという和名をつけているが、藤岡さんは P.polyxenes の亜種とし、これら polyxenes種群にヤンキーキアゲハという和名を与えている。和名って、ホントややこしいや。

標本は2点ともカリフォルニア産となっている。
分布は特異な形で、主に西側沿岸に偏り、一部が内陸部にも侵入している。

 

 
初回で添付した画像はコレ。

 
(出展『Butterflies and Moths of America』)

 
黒いタイプなのかと思いきや、キアゲハ的である。
第4~7腹節亜背線には左右1対の顕著な突起を有するようだ。

 

 

 

 

 
(出展『Butterflies and Moths of America』)

 
調べてみたが、どうやらコヤツらには黒いタイプの幼虫はいないようだ。基本は緑色のオレンジ紋型で、黄色紋型もいるようだ。これは、どう解釈すればいいのだろう❓
緑色タイプの幼虫が所謂キアゲハ的な黄色い成虫となり、黒いタイプの幼虫が黒い成虫になるとか連動性は無いのかなあ❓ユタ州なんかには黒いタイプの成虫がいるそうだから、そこには黒い幼虫も存在するとか無いのかね❓ キアゲハとクロキアゲハは同種で、黒いタイプの幼虫が別種に分化する途上にあるのかもしれないとは考えられないだろうか…。
でもなあ…。当然、アメリカのキアゲハの遺伝子解析も終わっている筈だろうけど、論文が見つけられないので何とも言えない。
あー、これじゃダメだ。各種が交雑している場所もあるとか何とかと自分で書いた記憶もあるぞ。もう、これは初回を読み直すしかあるまい。

ザアーッと読み直しましたよ(  ̄З ̄)
どうやらクロキアゲハとキアゲハが交雑している地域も一部にはあるらしい。ということは両者は非常に近い類縁関係にあるということだ。と云うことは自分の推論も、そう大きくハズレてはいなかったワケだ。でも、論はそこから発展していかない。
考えても仕様がない。次へ進もう。

 
 
【Papilio alexanor ♂】

 
【Papilio alexanor ♀】

 
コチラは北米産ではなく南フランス産で、ヨーロッパから中央アジアにかけて分布する。この南フランス産が原記載亜種かと思われる。和名はトラフキアゲハで通っている。

一見するとキアゲハの仲間に見えるが、よく見ると毛色はかなり違う。上翅の斑紋のパターンがキアゲハとは異なり、どちらかと云うと北米のトラフアゲハ類に似ている。だが幼虫はキアゲハ的で、食草もキアゲハと同じセリ科だから長年キアゲハの仲間とされてきた。しかし近年のDNA解析の結果、キアゲハの仲間では無い事がわかってきている。

 

【Papilio alexanor orientalis ♂】

 
【Papilio alexanor orientalis ♀】

 
U.S.S.R 産とあるから、旧ソビエト連邦のものだね。分布の東端の亜種だろう。

 
【Papilio alexanor hazurajatica ♂】

 
コチラはアフガニスタン産だ。これにも亜種名がついている。

 
(幼生期全般)

 
確かにキアゲハの幼生期に似ている。
特に終齢幼虫なんかは似ているように見える。

 
(終齢幼虫)

 
けれど詳細に見ると、かなり違うことに気づかされる。先ず卵の色が黄色ではなく、青い。キアゲハは3齢まで鳥の糞に似るが、コヤツには糞に模した真ん中の白い帯が無い。

 
【各齢幼虫】

 
また、4齢幼虫が白くなるという特徴もある。一瞬、アラスカキアゲハ(Papilio machaon bairdii)の4齢幼虫のことが頭を掠めたが、他人の空似だろう。直接の類縁関係は無いと思われる。

 
(4齢幼虫)

 
(幼虫の頭部と肉角)

 
頭部はキアゲハに近いね。

 
(蛹)

 
だが蛹には凹凸が無く、明らかに系統が違うことを示している。別種であることは間違いない。下手したら亜属に分類されてもいいくらいに離れている感じだ。

次がキアゲハ関係の最後のページである。

 

 
2種が混じっているが、全部アメリカ・ミシシッピー州産のものである。

 
 
【Papilio glaucus ♂♀ 春型】

 
【Papilio glaucus yellow&black 夏型 】

 
所謂、トラフアゲハって奴だ。五十嵐図鑑ではメスグロトラフアゲハという和名がつけられていた。
しかし、メスが黒くならない地域もあって名前にそぐわない。また英名も「Tiger Swallowtail」だから、和名はトラフアゲハの方が適しているだろう。

キアゲハを精悍にした感じで、中々カッコイイ。
デカそうだし、いつか採ってみたいね。分布は広いみたいだし、行けば採れそうだ。

 
(分布図)

 
(終齢幼虫)

 
キアゲハ的な縞々ではないね。全然違う。
これって、アオスジアゲハの幼虫っぽくね❓
とはいえ、形はグラフィウム(アオスジアゲハ属)的ではなく、Papilio属系の形をしている。

 
(アオスジアゲハ 終齢幼虫)

 
(蛹)
(出展『博物雑記』)

 
同じアゲハでも、Graffium属は蛹の形が全然違う。

 
(幼生期全ステージ)

 
(卵)

 
卵は緑色で、基本的に黄色い卵であるキアゲハとは一線を画すね。

 
(各齢幼虫)

 
若齢幼虫はキアゲハと同じく鳥の糞みたいな奴だ。

 
(幼虫の顔面)

 
(蛹)

 
蛹は勿論アオスジアゲハ的ではなく、キアゲハと同じく典型的な Papilio型だが、スリットが入ってるんだね。色は茶色型のみで、緑色型の蛹は存在しないようだ。

一応、写真も見てみよう。

 
(終齢幼虫)
(出展『Butterflies and Moths of America』)

 
(出展『Butterflies and Moths of America』)

 
わおっ❗❗、茶色いのもいるんだ。
秋冬型❓ワケわかんねぇぞ。

でも、どうやら蛹になる前に茶色に変色するようだ。
それにしても、何で(;・ω・)❓色が変わっちゃったら、目立つでしょうに。鳥に襲われちゃうぞー。どうせ色が変わるなら、蛹になる時でもエエんでねえの❓

年1化だそうだし、異なる点だらけだから、キアゲハとは遺伝的には結構離れていそうだ。

 
 
【Papilio rutulus ♂♀ 春型】

 
コチラにはオオトラフアゲハという和名がつけられていた。しかし、この和名もそぐわない。多くの地域で本種はトラフアゲハより小型になるからだ。
英名は「Western Tiger Swallowtail」ゆえ、ニシトラフアゲハという和名もあるが、まんまのウエスタントラフアゲハにして欲しいよね。そっちの方が西部劇っぽくてカッコイイじゃんか。
北アメリカ西海岸に生息し、南部に行くほど大型になるそうだ。

 
(分布図)

 
図鑑には幼生期が載っていないので、画素を添付しておきましょう。

 
(若齢幼虫)
(出展『Rising Butterflies』以下同じ)

 
(4齢幼虫)

 
(終齢幼虫)

 
基本的に、トラフアゲハとあまり変わらない。

 

 
コチラも蛹になる前には茶色になるようだ。

 
(蛹)

 
蛹もトラフアゲハと同じようなものだ。おそらくコヤツも緑色型のものは存在しないだろう。
ようするに、やはりトラフアゲハ群はキアゲハとは遠縁にあたるってワケだ。

因みにトラフアゲハ群には、他に以下のようなものがいる。

・Papilio canadensis(カナダトラフアゲハ)
・Papilio eurymedon(ウスイロトラフアゲハ)
・Papilio multicaudata(フタオトラフアゲハ)
・Papilio pilumnus (ミツオトラフアゲハ)
・Papilio esperanza(エスペランサアゲハ)

しかし、図版には載っていないので、画像は割愛させて戴く。
そういえば、なぜか五十嵐図鑑にはヒメキアゲハも掲載されていなかった。コチラは以前の回にも載せたし、トラフアゲハよりもキアゲハに近い種だと思われるので紹介しておく。

 
【ヒメキアゲハ Papilio indra】

(出展『Raising Butterflies』)

 
小型で、クロキアゲハの近縁種とされる。
多くの亜種に分けられているが、いわゆるキアゲハ的な黄色い型はいないようだ。

幼虫写真も添付しておこう。

 
(卵)

 
色が変だが、これは孵化が近いせいなのかもしれない。

 
(1齢幼虫)

 
(2齢幼虫)

 
(3齢幼虫)

 
(4齢幼虫)

 
(終齢幼虫)
(以上 出展『Raising Butterflies』)

(出展『Butterflies and Moths of America』)

 
基本はキアゲハ系統だ。
それにしても、ウミヘビみたいで気持ち悪い。
ピンクと黒の配色って、超苦手なんだよなあ…。背中に悪寒が走ったよ。

 
(蛹)

(出展『Raising Butterflies』)

 
凹凸が少なく、キアゲハとはあまり似てないね。
色は茶色型しか見つけられなかった。コヤツも茶色型オンリーなのかなあ?

 
今まで見過ごしてて気づかなかったが、藤岡図鑑には遺伝子解析の図もちゃんとあった。相変わらずユルいよなあ…。

 

 
元ネタは『Phylogeny of Papilio machaon group by Mitochondrial DNA variation(Sperling & Harrison 1994) ミトコンドリアDNA比較によるキアゲハ群の近縁関係』という論文である。
見にくいけど、画像は拡大できます。

これによると、キアゲハの祖先種から先ずはトラフアゲハ(Papilio alexanor)が分かれる。やはり遠縁なんだね。次にヒメキアゲハ(Papilio indra)とナミアゲハ(Papilio xuthus)が分岐する。おいおい、トラフアゲハってナミアゲハよりも遠縁なのか。続いて Papilio polyxenes と Papilio zelicaon のヤンキーキアゲハ(アメリカキアゲハ)群とコルシカキアゲハ(Papilio hospiton)が分岐する。
残ったものがキアゲハ群(P.machaon)で、そこからサハラキアゲハ(saharaeとは書いていないが、Morocco(モロッコ)とあるのでそう判断した)とssp.pikei(カナダ・アルバータ州亜種)が分岐する。サハラキアゲハは解るとしても、何でカナダ産のマイナーな亜種なんかがここで突然出てくるのだ❓
次に日本のキアゲハ(ssp.hippocrates)が分かれる。やはり日本のキアゲハは古い時代に分岐したようだ。更にアラスカ産のキアゲハ(ssp.aliaska)が分岐するのだが、この辺からどんどんオカシな感じになってくる。
残ったクラスターは2つに分かれ、一方にはアメリカのキアゲハ(ssp.aliaska 、ssp.dodi、ssp.joanae、ssp.brevicauda)とフランス産キアゲハが、もう一方のグループには Czecho(チェコ)産とアメリカのキアゲハ(ssp.bairdii)が入っている。
この最後の2つのクラスターは、俄かには信じがたい。aliaskaが何度も登場するし、チェコ産とフランス産がそれぞれ別々のクラスターに分かれていて、そこに両方ともアメリカのキアゲハが入っているのはオカシイからだ。
おそらく分岐年代が新しいものは、当時の遺伝子解析の精度では正確性に欠けていたのであろう。遺伝子解析の結果を鵜呑みにしちゃなんねえって事だ。何しろ所詮は人のやる事だ、各人の解析の仕方如何によっては当然結果も違ってくる可能性がある。遺伝子解析を100%信じるのではなく、どうやら参考程度に考えた方が良さそうだ。

 
キアゲハはあまりにも亜種が多いし、おまけにシノニム(同物異名)だらけだ。ゆえに面倒だから今まで全亜種を並べてこなかったが、一応最後だし並べておこう。但し、分類は学者によって違うということに留意しておいて戴きたい。
とここまで書いて、やっぱやめることにした。確認したら、人によって見解が違い過ぎて分類がグジャグジャなのだ。やっぱワケわかんないや。ゴメンナサイ。興味のある方は自分で調べて下され。

 
長々と引っ張ってきたが、ここで漸く台湾のキアゲハの幼虫写真を添付して結びとしよう。

 

(出展『蝴蝶資料』以下同じ)

 
新たな生態写真も同サイトで見つかった。
上翅の基部が黒いから、たぶん春型だと思われる。

 
(卵)

 
色が黄色ではなくて茶色くて濃いが、おそらく撮影時の条件が悪かったのだろう。もしくは孵化が近い卵だったのかもしれない。
卵期は5~7日間とある。日本のキアゲハと変わらない。

 

 
4齢幼虫かなあ❓

 
(終齢幼虫)

 
予想はしていたが、普通のキアゲハの終齢幼虫と特に変わりはない。ちょっと残念だ。

幼虫期間は25~30日間と書いてあった。これも日本のキアゲハとほぼ同じだろう。

 
(蛹)

 
上下が逆さまである。
たまたま逆さまで蛹化したのかなあ…❓
でも、そんなこと可能なのかしら。逆さまだと蛹化に失敗しそうじゃないか。単なるミスで、天地が逆の写真を載せてしまったのかもしれない。
けど普通、そんなの気づくよね。それに誰かに指摘されるだろうから、早々と修正するよな。にも拘わらず、そのまんまということは、やはりコヤツは逆さま状態で蛹になったのだろう。
もしかして台湾のキアゲハは、みんな逆さまで蛹になったりして…。だとしたら、特殊過ぎて別種にしたくなるなあ(笑)。

冬季以外の蛹期間は15~20日間と書いてあった。
ここにも特殊性は無い。

うだうだと書いたが、台湾のキアゲハについての大発見も無いし、締まりのない結びになりそうだ。
って云うか、クロージングが思いつかないので、このまま終わりにします。

一端、それで「おしまい」の文字を入れたのだが、とはいえ三回にもわたりクソ長い文章を書いてきたのだ。これじゃあ、あんまりだ。もう少しマシな事を書いて結びとしよう。

ここまでキアゲハの事を延々と書き連ねてきたが、キアゲハという種は誠に逞しいと云う印象を強くした。
分布は北半球全般と広く、オーストラリアと南極を除く各大陸に分布する蝶なんて、そうはいない。垂直分布も海岸から3,000mを越える山地までと広い。熱帯地方には分布しないが、亜熱帯には分布し、一部は北極圏にも分布している。湿潤な気候にいるのはもちろんのこと、砂漠地帯にも適応しているのだ。
幼虫の食餌植物もセリ科を中心に広く、ミカン科やキク科、ギョリュウ科などにもその範囲を拡げている。
これだけ分布が広く、食餌植物も多いとあらば、他種との生存競争に勝ち残ってきた種という証しでもある。それなのに、なぜ台湾のキアゲハは忽然と消えたのだろう❓
地球温暖化などの気候変動はあるものの、そう急激に絶滅するとは普通では考えられない。また、幼虫の食草が絶えたワケでもない。石山渓が地震によって崩壊したから食草が無くなって絶滅したという説があるが、これも冷静に考えれば有り得ない事だろう。だって一つの渓にしか生えていないという植物ではないからだ。たとえ仮にそうだったとしても、蝶には羽がある。ミツバやニンジン(ノラニンジン)など他のセリ科植物が代用食になるから、それを求めて飛んで行けば命脈は保たれる筈だ。食草の減少が関係無いワケではないだろうが、絶滅の決定的理由とはならないだろう。
乱獲も理由としては考えられない。貴重な亜種ではあるが、キアゲハ自体は日本やヨーロッパにもいるから、唯一無二という存在ではない。見た目はそんなに変わらないのだ。特別高価で取引されていたとは思えない。同じ台湾なら、フトオアゲハの方が遥かに高値で取引されていただろう。でもフトオアゲハは絶滅してはいない。
乱開発も理由としては弱い。台湾のキアゲハは1000m以上の高地に棲息するから平地のような大規模開発は出来ないからだ。
しかし、環境がそう変わっていないのに姿を消した蝶もいないワケではない。日本でいえばオオウラギンヒョウモンなんかがそうだ。昔は広く何処にでも生息していたのに、一部を除き全国的に一斉に忽然と姿を消したと云う例もある。自然環境や食草が残っていても、絶滅はするのである。
ならば天敵が大量発生したと云うのはどうだ❓
それも鳥や蜂など目立つ天敵ではなく、矮小な寄生蝿や寄生蜂ではなかろうか❓いや、もっと微小なウィルスみたいなものに感染したのかもしれない。

どうあれ、自分は台湾のキアゲハが完全に絶滅したとは思ってはいない。
今も彼女は、台湾のどこかの山中で人知れず優雅に舞っている筈だ。

 
                  おしまい

  
追伸
またしてもクソ長くなってしまった。
長いだけでもシンドイのに、おまけに各亜種の順番を並べ替えたので、全部書き直しという労苦を味わう破目になった。ところどころ文章の時系列に整合性を欠くのも、ちょいちょいブッ込むおフザけにキレがなかったのも、そのせいである。アタマがウニってて、余裕が無かったのだ。カラスアゲハの時ほどじゃないが、キアゲハも書くのに相当疲れたよ。三話目は書くんじゃなかったと後悔してる。こういうのを世間では蛇足というんだね。

蛇足ついでに書く。
思えば、フィンランド、ドイツ、イギリス、フランス、スペイン、モロッコ、イラン、パキスタン、インド、ネパール、中国、台湾、カナダ、アメリカと、気せずして自分はキアゲハ・グループの特徴的な種類の故郷を幾つも旅してきているんだね。
目を閉じると、瞼の裏にそれぞれの風土が甦ってくる。北欧の森、アルプスの草原、英国のなだらかな緑の丘、地中海の青、モロッコの荒涼な大地、イランの漠たる平原、ヒマラヤやカラコルムの峻険たる山々、インドの猥雑、中国の喧騒と雄大、台湾のどこか懐かしさを感じる山河、カナダ・アメリカの青空と緑のコントラスト。そのどれもの風景には、その時々の気温や肌に感じる湿度の有無、そして風や大地の匂いの記憶が混じっている。どの土地でも実際にはキアゲハの姿は見ていないけれど、彼ら彼女たちが飛ぶであろうロケーションは容易に思い浮かべることができる。頭の中で飛ぶキアゲハたちはとても美しい。

  
(註1)内田さんの三部作
故 内田春男氏の著書『ランタナの花咲く中を行く』、『常夏の島フォルモサは招く』、『麗しき蝴蝶の島よ永えに』のこと。もちろん今や古書だが、そこそこの値がついている。

 
(註2)藤岡図鑑
藤岡知夫/築山洋『日本産蝶類及び世界近縁種大図鑑』。

(註3)3つのヨーロッパ準亜種
おそらくイギリス亜種 britanicus 以外の以下を指すものかと思われる。

・北ヨーロッパ亜種(原記載亜種) ssp.machaon
・中央ヨーロッパ亜種 ssp.alpicus アルプス地方
・地中海亜種 ssp.sphyrus 南イタリアなど

 
(註4)キアゲハとタカネキアゲハを同種とする見解

日本列島に分布するキアゲハの遺伝的多様性と系統関係
Genetic variations and phylogenetic relationships among the populations of swallowtail
butterfly, Papilio machaon, in the Japanese Islands. (宮川美紗 2018?)

遺伝子解析による結果、両者を同種としているのだが、詳しい理由は見当たらない。この論文には系統図も載ってないから、別に元ネタの原稿があるのかもしれない。

(註5)北極圏にも分布している
タイミル半島基部、エニセイ河流域の北緯69度にも分布している。北極圏は66度33分以北だから、間違いなく圏内に分布しているということになる。
因みに、69度付近が人間の居住限界と言われている。

 

酒肴 黒マグロの切り落とし

 
黒マグロ(本マグロ)の切り落としといっても、刺身の端っこの見栄えが悪い部分を切り落とした寄せ集めではない。厳密的に言えば、血あいに近い筋の多い部分だ。そのまま食うと口の中に筋が残り不快だから、あまり出回らない。本来は棄てるものだろう。
そう云うワケだから、てんこ盛りで¥198だった。

そいつをスプーンで身を小削いで、筋を取り除く。
地道な作業で、コレがウザい。気が短いオイラは次第にイライラしてくる(=`ェ´=)
でも旨いもんを安くで食いたいんだから、我慢するしかない。

残った白い筋は捨てない。
そのままでは噛み切れないが、火を入れると魔法みたく食べられるようになるのである。弾力があって、普通の身に火を入れたものより寧ろ旨い。

それを小削いだ部分と混ぜあわせ、包丁でテキトーにたたく。出来ればネギトロ的部分(ミンチ状)とブツ切りの部分が半々くらいが良い。食感もあった方が旨いからだ。

そこに煮きった酒と味醂、醤油をテキトーに入れて混ぜ合わせる。比率はお好みです。自分は甘いのがイヤなので、味醂は少なめにした。
最後に太白胡麻油を混ぜて、味が馴染むまで小一時間ほど冷蔵庫で寝かせる。これも時間はお好みである。15分後くらいから食べ頃になるかな。

因みに太白胡麻油は透明な胡麻油で、普通の胡麻油よりもマイルド且つ上品である。旨味も強い気がする。少しお高い胡麻油だが、こちらを強くお薦めする。
何故なら、普通の胡麻油だと個性が強すぎて味を壊すからだ。無い場合は、普通の胡麻油を控えめに入れるか、オリーブオイルやサラダ油で代用するという方法もある。全然、別物にはなるけど…。

 

 
大葉の上に天盛りにし、白胡麻を指で潰しながら振りかければ出来上がり。
葱や玉葱を入れてもいいが、今回は邪魔なので加えなかった。こういうものには、世間では必ずネギが入るが、はたしてそんなに合うものかね❓何にでもネギを入れる風潮って、ハッキリ言って疑問。如何なものかと思うよ。

 

 
まっこと、((o(^∇^)o))美味いじゃきにぃー❗
高知の辛口の冷酒が止まんないぜよ。

 
追伸
勿論、普通の切り落としでもでけます(^o^)

 

コツバメの思ひ出

 
春先に福井県の今庄にギフチョウに会いに行ったおり、久し振りにコツバメにも会った。

 
【コツバメ Callophrys ferrea 】
(2019.4.6 福井県南越前町今庄)

 
一緒に行った姉さんが、ピュンピュン飛んでるのをコレ何?と言ったので採って見せた。羽が破れていたので、御覧いただいてからリリース。
もう1頭、ぽよぽよ飛んでいたので、ソイツも何となく網に入れた。今度は鮮度が良かったので、持って帰ることにした。それが上の展翅写真で、♂である。

そう云えば、コツバメの♂は♀をゲットする為にテリトリー(縄張り)を張るんだったね。なので1頭見つけると、同じ場所で複数見られることが多い。

ギフチョウと同じくスプリング・エフェメラルと呼ばれ、年に一度春先にだけ現れる蝶だ。
日本産は、Callophrys ferrea ferrea という学名となっているから、原名亜種(名義タイプ亜種)のようだね。日本以外ではロシア極東地域・中国東北部・朝鮮半島などにもいるようで、それぞれ別亜種とされている。
日本国内では北海道から九州までと分布は広く、特に珍しいものではない。コレは幼虫がアセビなどのツツジ科とコデマリやリンゴ、ボケなどのバラ科を中心に、ガマズミ(スイカズラ科)、アカショウマ(ユキノシタ科)、バッコヤナギ(ヤナギ科)など多くの植物の花、蕾、実を食べるからだろう。また、見た目が何処でも同じで、地方による地理的変異がコレといって無い(註1)。
だからか、人気はあまりない。
しかし、こうして改めて見ると、メタリックな鈍色(にびいろ)で、そこはかとない渋い美しさがある。
学名の小種名「ferrea(フェッレア)」は、ラテン語の ferreus の女性形で「鉄、鉄の、鉄色(の)」が語源なのも頷ける。
因みに属名の「Callophrys(カロフリュス)」は、ギリシャ語由来。「kallos(美)」と「ophrys(容貌・眉)」を合わせた言葉で、美しい容貌を意味するようだ。
蛇足だけど、このCallophrysというのは新しい属名で、昔は「Ahlbergia(アールベルギア)」という属名だったそうな。アールベルギアって、何だかカッコイイ響きだ。「アールベルギアの秘宝」とか有りそうだもん。
でも、語源はAhlbergという人に因むようだ。願わくば大海賊とかであってほしいよね。その妃とか娘に遺した秘宝とかさあ。

♂は♀と比べて蒼い領域が少ないのが特徴だ。
探せば♀の標本もある筈だが、面倒なので図鑑から画像を拝借させて戴こう。

 
(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

  
蒼い部分が増えたからといって、飛躍的にキレイになると云うワケでもない。やはり、どこか地味である。
こういうのを褒める場合、世間では「いぶし銀の美しさ」とでも讃えるんだろね。

(・。・;❓ ここで、はたと気づいた。最初に掲げた展翅写真って、もしかして♂じゃなくて♀じゃね❓
色がくすんでて明るくないので、♂だとばかり思っていたが、翅形が♂みたく縦型じゃない。♀は、どちらかというと横型なのだ。それに蒼の領域が♂ほど狭くはない。
そっかあ…、最初にピュンピュン飛んでたのが、テリトリーを張ってる♂で、ぽよぽよ飛んでたのは♀だったってことか…。何故、それに気づかなかったのだろう。そんなの多くの蝶の♂と♀に見られる基本的な生態じゃないか。
普通、蝶は♀よりも♂の方が色鮮やかで綺麗なケースが多い。顕著ではないけれど、コレがコツバメでは逆だからと云うのも勘違いした要因だろう。
(-“”-;)やっちまったな…。コツバメなんて長いこと無視してたから、そんなの忘れてたよ。
にしても、ダサダサだな。情けない(´д`|||)

♂はこんなのです⬇

  

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

 
♂は蒼い部分が狭くなり、色もくすんでて、更に地味だ。

 
【裏面】

 
裏もまた地味。でも、よく見ると渋いデザインとも言える。好きな人は好きだろね。

既に皆さんも感じておられるだろうが、コツバメに対してぞんざいというか、雑魚的な扱いが言外に滲み出ている。言っちゃ悪いが、その程度の存在なのだ。
でも今にして思えば、最初の1頭を採るのには思いの外、苦労したんだよなあ…。

蝶採りを始めた二年目、周囲にキッパリと宣言してしまった。日本に土着するとされる蝶、約230~240種類のうちの200種類を三年以内に採ると言い切ってしまったのだ。
これは今は亡き蝶界の巨人、小路さんがその著書の中で200種類以上を採らねば一流の蝶屋とは認めないと書いてあったのを見て、反発を覚えたからだった。ならば、んなもん三年で達成してやろうと思ったのだ。
今にして思えば、バカバカしい啖呵だ。若気の至りとしか言い様がない。恥ずかしいかぎりである。
けど、色んな人に「おまえ、蝶採りナメとんのか。」とか「無理、無理。蝶採りはそんな甘ないで。」などと言われつつも、お陰様で楽勝で達成できた。たしか三年で223種類にまで達した筈だ。怒りこそが、我がモチベーションを保つ原動力なのだ。
だから、色んな意味で小路さんには感謝している。短期間に飛躍的に知識と経験が増したし、飽き性の自分が途中で蝶採りをやめなかったのも明確な目標があってこその事だ。
小路さんといえば、国内の蝶に関してはトップだった人だ。是非とも生きておられる時に会いたかったよ。蝶採りを始めた頃には、既に他界されていたのが残念でならない。

そういうワケで、二年目の春はコツバメを必死に探していた。でもナゼか見つけることが出来なくて焦っていた記憶が甦ってきた。宣言しといて、いきなりコツバメ程度で躓くわけにはいかないのだ。

奈良県と大阪府との境界にある葛城山にギフチョウを採りに行ったおりの帰りの車中だった。既に蝶屋として実績のあったOKUくんに、必死さを隠して生意気な感じで『コツバメ、何処に行ったら採れるん❓』と尋ねたことはよく憶えている。
そういえばこの時、ツマキチョウのいる場所も尋ねたんだよね。ツマキチョウでさえもまだ採ったこともないのに啖呵を切っているような輩に対して、そりゃ周囲も冷ややかにもなるわな(笑)。今の自分だったら、『バカかぁー、おめぇ❗❓』とキレ気味で言うか、冷ややかな目で『せいぜい、お気張りやすぅ。』とでも言うに違いない。
彼はその質問に暫し考えてから『コツバメって、普通種だけど何処にでもいるってワケじゃないんだよなあ…。そこに行けば絶対採れると云う有名な場所も特に無いんじゃないかなあ。』と言った。
その時は不親切な野郎だと思ったが、今にして思えば彼の言動は正しい。
コツバメなんてものはギフチョウを採りに行った折りについでに存在を認識する程度の蝶だと、後においおい理解した。コツバメだけをターゲットにワザワザ探しにいく者なんぞは殆んどいないのである。それが現状だ。だから、彼の言動は極めて真っ当なリアクションだったといえる。それゆえ、他の人にも同じ質問をしたが、的確に答えてくれた人は誰もいなかったのだろう。

コツバメを初めて採ったのは、忘れもしない大阪と京都の県境にある鴻応山(こうのやま)だった。
記録を紐解くと、葛城山に行った二日後となっている。山頂でテリトリーを張っていたのを必死で採った。頭の中に、その時の映像はシッカリと残っている。
当時はまだ、新しい蝶を採る度にいちいち指が震えていた時代だった。だから、きっとそれなりに感動して、指も震えたに違いない。振り返れば、幸せな時代だった。今や、滅多な事では簡単に感動できなくなってしまっている。去年はとうとう蝶で指が震えることは一度もなく、何とカバフキシタバ、シロシタバ、ムラサキシタバという蛾のみだった。

そういえば、山頂で陣取っていたオジサンが必死にコツバメを採るオイラを訝しげな目で見てたっけ…。
オジサンの背後の檜の枝でテリトリーを張っていたので、一応『採っていいすかっ❓』とお声掛けしたのだった。
鴻応山といえば、鴻応山型(註1)と言われるギフチョウの異常型が稀に採れることで有名な山だった。今は鴻応山型どころか、普通のギフチョウでさえも絶滅しかかっているらしい。それに現在はギフチョウの採集が禁止されている。
だからギフチョウそっちのけで必死にコツバメを追いかけている姿は、ド素人のイモ兄ちゃんにしか見えなかっただろう。しかし、その時は鴻応山型なんかよりも、圧倒的にコツバメの方が自分にとってのプライオリティーは上だったのだ。
ゆえに、まだ誰にも言ったことはないけれど、実を言うとその時は鴻応山型を採ったのにも拘わらず、羽が欠けていたからリリースしてしまった(片方の尾突が無かった)。変なギフチョウだなあとは思ったが、価値が解らなかったのだ。あとで知って、恥ずかしいので、ずっと黙っていたのだ。
こういう場合、「今更だけど断腸の思いだ」なんぞと言うべきなのだろうが、正直あまり後悔はしていない。
変異に興味が無いワケではないけれど、心のどこかで所詮は奇形じゃんかと思っているところがある。
それに当時はイガちゃん3頭伝説と言われるくらいに、3、4つ採れれば満足して(この時も普通のギフチョウは幾つか採っていた)、あとはサボってた。元々が飽き性だし、個体数よりも種類数に重きを置いていた時代でもあった。未だ見ぬ蝶に会う事が一番面白かったのさ。それは今もあまり変わっていないような気がする。だから、蝶採り三年目の年の2月に早々と海外に一人で採集に出掛けた。
国内外を問わず、自分が見たことが無い蝶は誰よりも先に最初の1頭目を採ることが精神安定剤であり、そこに最大のモチベーションがある。数の大小は二の次だ。挑まれでもしないかぎり、今でもそれほど気にはしていない。恥ずかしくない程度に採れればいいと思ってる。
とはいえ、周りから『採れる時に採っとかないと、あとで後悔するでぇ~。』と口酸っぱく言われ続けているので、前よりかは少しは採るようにはしている。それに種類数にはとうに興味を無くしているので、モチベーションを上げるためにワザと数を競うことも増えてきているような気がする。
でも、今でも真面目さには何処か欠けるところがある。とっとと帰って、温泉なり銭湯なりにでも入って汗を流し、キンキンに冷えたピールを飲む方が人生においての最優先事項だったりするのだ。

しまった。誓ったのにも拘わらず、令和に元号が変わっても悪いクセは治らない。一発目から早くも大脱線である。話をコツバメに戻そう。

文章を書いていて、改めて思った。
コツバメという和名は中々に秀逸だ。言葉に、どこか颯爽としたイメージがある。きっとツバメさんのイメージとも重なっているのだろう。
それにしても、ツバメと名がつくのにも拘わらず、コツバメには尾突(尾状突起)が無いのは、これ如何に❓
キマダラルリツバメやツバメシジミetc…とかには皆さん尾突があって、それが名前の由来になっているのだ。
んぅー(-“”-;)、コレはおそらくコツバメの♂がピュンピュンって感じで、ツバメみたく素早く飛ぶからだろう。考えても他に理由が思い当たらないので、そう云うことにしておこう。

ふと思う。もしもコツバメじゃなく、何とかシジミと云う名前だったら、きっと酷い名前で、更なる下賤な扱いを受けてるんだろなあ…。

♂の画像と裏面の画像があまりにも酷いので、標本を探すことにした。

 

(2012.4.12 兵庫県三田市香下)

 
写真は思いの外にキレイに写っているが、実物はもっとくすんだ色です。お世辞にも美しいとは言い難い。
むしろ、裏面の方が複雑な柄でカッコイイかもしんないなあ…。
でも、きっと青みの強い美麗個体だっているだろう。
展翅も今イチだし、来年は真面目にコツバメを採ろっかなあ…。

                 おしまい

 
追伸
実を言うと、文章の下書きが終わった時点で、雌雄を間違えているのに気づいた。面倒なので、このまま押しきってやろうかと考えもしたが、簡単にバレそうだし、何を言われるかワカラナイ。仕方なく大幅に書き直した。んなワケで、令和初日に記事をアップする予定が1日ズレちった。

余談だが、国外にはコツバメの仲間(Callophrys属)が結構いて、緑色の奴なんかもいたりする。

 
【Callophrys rubi】
(出展『Learn about Butterflies』)

 
美しいねぇ(⌒‐⌒)
でも表は茶色一色。コツバメの方がまだキレイだ。
分布は広く、ヨーロッパから温帯アジア、シベリアまでいるようだから、インドシナ半島の北部辺りで会えないものかなあ?
いや、蛾みたいなホソオチョウとか、品が致命的にない中国産のアカボシゴマダラを放蝶するならば、こういうのこそ放しなさいよ。きっと定着すると思うよ。
m(__)mスンマセン、冗談です。放蝶はダメでやんす。

 
【Callophrys gryneus】
(出展『Carolina Nature』)

 
おやおや、尾突があるのもいるんだね。
無茶苦茶、( ☆∀☆)カッコイイやんかー。
但し、亜属のようだ。因みに、コツバメ属には6亜属約50種類がいるもよう。
画像はアメリカ・カロライナ州のもので、分布は北米に広そうだね。

参考までに言っとくと、Callophrys属はカラスシジミに近いらしい。上位分類は、Eumaeini カラスシジミ族になっている。何となくそうじゃないかとは思ってたから、納得だすよ。

(註1)地方による地理的な変異はコレといってない

九州産のコツバメは大型で裏面地色が濃くなり、明色部と暗色部のコントラストが弱くなる傾向があるらしい。

 
(註2)ギフチョウ鴻応山型

(出展『ギフチョウ88ヶ所めぐり』)

 
(@_@;)わちゃ❗、斑紋がエラい事になっとる。
変異のタイプとしては、有名な福井県の杣山型に相通ずるところがあるかな。

次の大阪府高槻市産も、おそらく鴻応山型だろう。
京都西部から大阪北部に連なる地域で、時折採集されたようだ。

 
   (出展『ギフチョウ 変異・異常型図鑑』)

 
因みにリリースしたのは、これほど顕著な異常型ではなかった。こんだけ異様だったら、アホのオイラであってしても、いくらなんでも持って帰る。
(ToT)くちょー、今だったらリリースなんかゼッテーしない。あの時、尾突なんぞは幾らでも修理できると知っていたなら、持って帰ったのにぃー(T△T)

追伸の追伸
ふと思ったんだけど、コツバメって、何で年1化なんざましょ❓

 
 

真フグのパスタはエロチック

 
鯛の白子を食べたいんだけど、小さかったり鮮度が悪かったり、はたまた値段が高すぎたりと、ナゼか今年は良いものと全くめぐり会えない。

そんな折、たまたま真フグの白子を見つけた。
スーパーで真フグの白子に出会えるのは、そうある事ではない。600円と値段は少し高めだが、量はそこそこあるし、トラフグの白子の事を考えれば超激安だ。買うことにした。

取り敢えずは定番の白子ポン酢をつくる。
酒と昆布だしをあわせたものに白子を沈め、火にかける。弱火でゆっくりと温度を上げてゆき、沸騰する前に火を落とし、あとは余熱で火を通す。

 

 
ポン酢をかけて、葱を散らす。かんずりを切らしていたので一味を振った。

 

 
しかし、期待したほどには旨くなかった…。
不味いってワケじゃないんだけど、鯛の白子やトラフグの白子と比べれば数段落ちると言わざるおえない。なんていうのかなあ…。旨味に奥行きがなく、薄いのである。美味い白子はゆっくりと旨味が舌に広がってゆき、あとを引くような余韻があるのだ。
それに食感も今一つだ。張りがない。良いものは歯を一瞬押し戻すような感覚があり、次の瞬間には諦めたかのようにはんなりと極薄の薄皮が弾けて中身が溢れ出してくる。そして、口の中いっぱいが滋味で凌辱されるのだ。どこか女性の柔肌と肉叢(ししむら)を想起させるところがある。そう、白子はエロチック。官能的な食べ物なのだ。

個人的意見としては、鯛とトラフグの白子が二大巨頭。次に続くのがサバフグの白子かなあ…。その次がタラの白子で、サイテーなのが鮭の白子だ。鮭は身は勿論のこと、卵(イクラ)だって抜群に旨いのに何でじゃろう❓

真フグの白子は、まだ沢山ある。正直言って、この程度の白子ポン酢ばっか食い続けるのは苦痛だ。はてさて、どうしたものか…。

あーでもない、こーでもないと考えあぐねて、翌日出した答えがパスタだった。
でも、通常の太さのスパデッティーニは切らしており、冷製パスタで使われる細麺のカペリーニしかない。
白子のパスタは今まで作ったことがないし、カペリーニというのも不安だ。
しかし、買いに行くのが面倒なので、カペリーニでいくことにした。テキトーに作っても何とかしてしまう、アタシャまあまあ天才なのだ。何とかなるじゃろう。

先ずはフライパンにオリーブオイル、ニンニク、鷹の爪を入れて、弱火でじっくりと油にニンニクの香りを纏わせる。強火でニンニクをキツネ色のカリカリにするのも悪くはないが、アレは日本だけ。本場イタリアには存在しない。

テキトーなところで厚めの輪切りにした白子を投入。
白子の茹で汁も入れて、塩で味を整える。
同時進行でパスタも茹で始める。パスタの茹で時間は標示よりも1分短くする。これは後に炒め混ぜ合わせることを想定してのことだね。

パスタが茹で上がったらフライパンに移し、オリーブオイルを少しづつ入れながら乳化させる。汁気が無くなったら皿に盛り、クレソンを添えて出来上がり。

 

 
( ☆∀☆)マジ、美味い❗❗

ダメな白子が見事に甦った。油と昆布だしが旨味を補い、ニンニクと鷹の爪が味のアクセントとなって絶妙なバランスになっている。程よく潰れた白子がパスタによく絡まるのも堪りまへん(≧∀≦)。細麺にしたのは怪我の功名だったかもしんない。

日は沈み、いつの間にか外はすっかり暗くなっていた。
官能的なパスタを食いつつ、平成の時代は終わりを迎えようとしている。

 
                  おしまい

 

台湾の蝶31『続・消えたキアゲハ』

 
 
 第31話『続・消えたキアゲハ』

 
(出展 五十嵐 邁『世界のアゲハチョウ』)

 
早くも続編である。
何でかっていうと、幼虫の食草の新たな情報が見つかったからだ。
カッコ悪いことに、内田さんの台湾の蝶に関する著書の存在をすっかり失念していた。内田春男氏と云えば、台湾の蝶の幼生期の解明に多大なる功績を残された方だ。それを忘れるだなんて、ブラマヨの吉田風に言えば『どーかしてるぜっ❗』である。
しかも、台湾三部作と言われるシリーズの一冊『常夏の島フォルモサは招く』の古書を去年の秋に買って持っているのである。我ながらド阿呆である。

 

 
その著書によると、内田さんは1988年5月4日に南投県翠峰で2齢幼虫を採集。同年8月10日に台中県石山渓で卵と各齢の幼虫を採集されている。
あちゃま(;゜∇゜)、成長の過程がバラバラじゃないか。と云うことは、一部は第3化として秋に羽化するって事だよね❓

食草はセリ科のモリゼリ Angelica morii となっていた。
えっ❗、Peucedanum formosanum タイワンカラスボウフウ以外にも食草があるの❓
和名と学名からすると、たぶんセリ科植物の1種だろう。キアゲハの基本的な食餌植物と云えばセリ科だから、違和感はない。

巻末資料「台湾産蝶類の食草に関する覚書」には、更に以下のようなものが食草の記録として付記されていた。

 
・ヨロイグサ Angelica dahurica
・ハマトウキ Angelica hirsutiflora
・ニイタカシシウド Angelica morrisonicola
・ミツバ Cryptotaenia canadensis
                (蔡百峻,1988)

 
上3つがセリ科植物で、一番下のミツバも属は違うだろうが、おそらくセリ科であろう。
えっ、ミツバ❓ たぶん吸い物に入っているあのミツバだよね。だとしたら、んなもん何処にでも有りそうじゃないか。それ食ってたら、絶滅なんかしないよね❓

他にも更に別な植物の記録が4つあった。

 
・オランダミツバ Apium graveolens
・コエンドロ Coriandrum sativum
・タイワンカワラボウフウ Peucedanum formosanum
・ニンジン Daucus carota
              (李俊延ほか,1988)

 
ニンジン❓ 勿論「🎵1本で~も人参、2本で~も人参」のニンジンだやね。

前回、食草とした Peucedanum formosanum 臺灣前胡(セリ科カラスボウフウ属)も、ちゃんとあるじゃないか。ひと安心だわさ。
あれれ(/ロ゜)/❓、でも和名はタイワンカラスボウフウではなくて、タイワンカワラボウフウとなっている。考えられるとすれば、内田さんの誤記の可能性が高い。
一応念のために検索してみたら、あっしの方が誤記だった。カワラボウフウが正しい。内田さん、ゴメンナサイ。前回の間違ってる箇所を全部修正しとこっと…。
何か、こういうのってガックリくる。恥ずかしいし、自分が悪いので怒りの持っていきどころがないのだ。

この際だから、今一度日本でのキアゲハの食草を記しておこう。

「ニンジン、ノダケ、ミツバ、ウイキョウ、シシウド、ハナウド、ハマウド、エゾシシウド、オオハナウド、セリ、オカゼリ、イブキゼリ、ドクゼリ、ヤマゼリ、マツバゼリ、ハマニュウ、エゾニュウ、ハマボウフウ、ボダンボウフウ、イブキボウフウ、タカネイブキボウフウ、アメリカボウフウ、ハクサンボウフウ、シラネセンキュウ、カワラボウフウ、イシヅチボウフウ、ミヤマセンキュウ、オオバセンキュウ、ウマノミツバ、イワミツバ、イワテトウキ、シラネニンジン、ノラニンジン、ミヤマニンジン、ヤブジラミ、アシタバ、パセリ、セロリ、トウキ、ミシマサイコ、エゾノヨロイグサなどの各種のセリ科植物を食草とするが、キハダ、サンショウ、イヌザンショウ、カラスザンショウ、コクサギ、カラタチなどのミカン科植物や、ギョリュウ(ギョリュウ科)、フジアザミ、コスモス、ベニバナボロギク(キク科)を野外で食べる場合も知られている。」

ここでもカワラボウフウとなっている。完全にオラのミステイクだ。カワラボウフウだと認識すると、カワラは河原の事だと解る。たぶん河原に生えるボウフウの仲間なんだろね。
とはいえ、ボウフウといっても食用のボウフウ(防風)とはまた違うようだ。ボウフウは正式名をハマボウフウ Glehnia littoralis)といい、同じセリ科だがハマボウフウ属と云う別属でありんす。カワラボウフウは食用ではないれす。

 

 
ボウフウは海岸に生えてて、だいたいは刺身などのあしらい(飾り)や薬味に使われる。

 

 
茎に縦に包丁を入れて水に放つと、くるくると巻くちょいとお洒落な高級野菜だがね。

そういえば、カラスボウフウってカラスが好んで食べるのかな❓なんて事をほんやりと思いつつ、同時にどこか違和感を覚えてたんだよなあ…。
情けない言いワケはこれくらいにするとして、話を本題に戻そう。

OTTOさんがブログ内で食草としたタイワンサイコなるものは入ってない。やはり謎のままだ。
待てよ、臺灣前胡の前胡って、もしかしたら台湾(中国)語で、サイコと読むんだったりして…。
(^-^)vひらめいたねー。おいら、名探偵じゃよ。
でも「胡」って「フー」って読むんじゃなかったっけ? なぜなら中国語圏では蝶のことを蝴蝶と書き、読み方は「フーディエ」の筈だからだ。あまり期待は持てそうにない。

調べたら、名推理ならず。やっぱ見当違いだった。
前胡と書いて「チィェンフー」と読むらしい。
タイワンサイコって、何なの~(T△T)❓
永遠の謎、こりゃ迷宮入りになりそうじゃよ。

謎といえば、気になるのが内田さんが幼虫の食草を発見した年が1988年。蔡氏が新たな食草を発表したのも同じ年の1988年。李氏がまた別の食草を発表したのも同じく1988年だ。そう、全部が1988年なのだ。偶然の一致にしては不自然過ぎやしないか❓(?_?)ミステリーである。
内田さんがセリ科アンジェリカ(アンゼリカ)属の植物から幼虫を発見した事に刺激されて、探査が一挙に進んだという可能性はある。しかし、それ以前から日本や欧州のキアゲハの食草はセリ科だと、とっくに解っていた筈だ。その情報が1988年以前に台湾に伝わっていない筈はない。有り得ないと言い切ってしまってもよい。それがなぜ1988年になって、急に一極集中して発見されたのだ❓そもそも1988年までタイワンキアゲハの食草が未知だったのにも驚きだが、同時に何でそんなに遅くまで解明されなかったのかも謎だ。そこに至るまでには、それなりの物語があった筈でドラマツルギー(註1)を感ぜずにはおられない。
台湾のキアゲハは謎だらけだ。多くの謎を残したまま絶滅するだなんて、ドラマチック過ぎるじゃないか。

謎だ、謎だとばかり言っていてもしようがない。気を取り直して、取り敢えず各植物を上から順に検証していこう。

 
【Angelica morii モリゼリ】

(出展『kplant.biodiv.tw』)

 
ネットで検索したら、アンジェリカ・モリーという綺麗なパツキン(金髪)の姉ちゃんがいきなり出てきて笑ってしまったよ。
たしかに学名そのままだと人名だよな(笑)。Facebookの名前検索とも繋がってて、見てみたら世界にはアンジェリカ・モリーさんの他にアンジェリカ・モリさん、アンジェリカ森さんとかが結構いて、静岡県にも住んでいたりしたから再度笑ってもうた。

Angelica(アンジェリカ)はセリ科シシウド属の総称。
たぶんだけど、どうせ命名者が自身に縁(ゆかり)のある人物に献名したのだろう。
何かテキトーだなあ…。疲れてくると、ぞんざいにもなる。たとえ献名であってもAngelicaと云う名前にも由来がある筈だ。面倒くさいが検索してみよう。

語源由来図鑑に、その由来がちゃんと記されていた。
『「angelica(アンジェリカ)」は、「天使」を意味するラテン語に由来し、「angel(エンジェル)」と同系。「天使」に由来する理由は、アンジェリカの香りには、心身を強壮するはたらきがあるため、天使がもたらしたものといった喩えからといわれる。』
なるほどね。m(__)m失礼しやしたー。

学名の後ろには”Hayata”とあるので、おそらく記載は「台湾の植物の父」とも呼ばれる早田文蔵氏であろう。
あれっ?、この人の名前ってどっかで出てきたよな。
何だったっけ❓まあいい。思い出せないので、話を前へと進めよう。

標高3000m以上の高山地帯に自生し、台湾特産種のようだ。完全に高山植物だね。
台湾では「玉山當歸」と呼ばれ、食用や薬用として利用されているようだ。玉山とは日本統治時代には新高山と呼ばれていた台湾最高峰(alt.3952m)のことである。たぶん最初に見つかったのが玉山だったんだろね。なるほど、ならば三千メートル以上の高山地帯に自生すると云うのも頷ける。

タイワンキアゲハの垂直分布よりも標高が高いが、台湾は亜熱帯だから利用は可能だろう。日本の標高3千メーターとは環境が違う。まだ森があったりもするのだ。つまり森林限界がもっと上なのである。キアゲハは元々寒帯から温帯に棲むチョウだから、寧ろ丁度いいくらいかもしんない。

(;・ω・)ん❓
でも内田さんが幼虫を見つけたという翠峰の標高は、それほど高くはない筈だ。たぶん2200~2300m前後だったかと思う。3000mには程遠い。おそらく、もっと低い所にも自生しているのだろう。そう考えた方が自然だし、論を進めるのにも都合がいい。

 
【Angelica dahurica ヨロイグサ】

(出展『松江の花図鑑』)

 
大型の多年草で、花期は5~7月。
日本では九州に自生し、根は生薬ビャクシ(白芷)として古くから知られている。主成分はフロクマリン誘導体で、消炎・鎮痛・排膿・肉芽形成作用がある。その消炎と血管拡張の作用から肌を潤し、むくみや痒みをとるとして古来中国の宮廷の女性達により美容に用いられていた。また鎮痛、鎮静の効果のため、五積散などの漢方薬にも配合されている。因みに、同じアンジェリカ属でも、種によって生薬の用法がそれぞれ異なるという。

台湾名は野當歸(ノトウキ)。別名に臺灣當歸(タイワントウキ)、臺灣独活(タイワンウド)がある。

 

 
どうやら野生のものは台湾北部の低山地に分布しているようだ。となると、タイワンキアゲハの分布する台湾中部~中南部からは外れている。とはいえ、薬草園らしき「福星花園」というサイトでも画像が載ってるから、薬草として中部の山地帯でも栽培されているかもしれない。
因みに中国では、海抜200m~1500mの森林地の林縁部、川岸、草原などで見られると云う。

 
【Angelica hirsutiflora ハマトウキ】

(出展『随意窩日誌』)

 
台湾では「濱當歸」と呼ばれている。
台湾北部と北東部の沿岸地域、及び近隣の島々のみに分布し、主に標高100m以下の丘陵地帯、海岸や岩石地形の岩石節理で見られる。
ということは、これもタイワンキアゲハの分布域からは外れている。しかも、主に標高100m以下に見られるというから、いくらなんでも標高が低すぎる。台湾のキアゲハが自然状態で利用しているとは思われない。おそらく飼育時に幼虫に与えたら、単に食したという事だけなのではなかろうか❓

一般的に台湾固有のものと考えられているようだが、日本の Angelica japonica var hirsutiflora と同種のようである。

 
【Angelica japonica var. hirsutiflora】

(出展『nangokuudo』)

 
石垣島で撮られた写真だ。
和名はナンゴクハマウド(南国浜独活)。沖縄地方の海岸地帯に生えてるみたいだ。そういえば、見たことがあるような気もする。

つけ加えると、ハマトウキで検索したらセリ科 マルバトウキ属の Ligusticum hultenii マルバトウキ(円葉当帰)が出てくる。別名がハマトウキだからのようだ。

 
(マルバトウキ)
(出展『素人植物図鑑』)

 
分布は北海道、本州北部である。
ハマトウキやナンゴクハマウドが大きくなるのに対して小さいし、葉の形も著しく違う。何より学名が違うので、これは完全に別種だろう。
和名って必要なものだとは思うけど、混乱を引き起こす素でもあるよね。特に植物と魚は別名が多すぎるわ。

 
【Angelica morrisonicola ニイタカシシウド】
(出展『随意窩日誌』)

(出展『Useful Temperate Plans』)

(出展『随意窩日誌』)

 
検索すると、玉山當歸と出てくる。
あれっ(;・ω・)❗❓、この名前ってモリゼリと同じじゃね❓
写真を見ても同じ植物っぽい。どうやら2つは同物異名であるようだ。つまり、同じものだってワケだね。
おそらくモリゼリ Angelica morii がシノニムになるかと思われる。小種名を morrisonicola としているサイトの方が断然多いからだ。

おいおい、それにしても次々と討ち死にしていっとるやないけー。今のところ台湾のキアゲハの食草として納得できるものは、このニイタカシシウド(モリゼリ)だけじゃないか。

 
【ミツバ Cryptotaenia canadensis】
(出展『kplant.biodiv.tw』)

 
こちらもセリ科ではあるが、ミツバ属に含まれる。
台湾名「鴨兒芹」。他に「山芹菜」の別名がある。
どう見ても日本でもお馴染みの、あのミツバだ。亜種記載くらいはされているのだろうが、ほぼ同じものと考えてよいだろう。生えている場所も日本と同じで、湿った所に生えるとあった。

台湾でも食用として利用されているみたいだ。間違いなく栽培もされているものと思われる。
翻訳が危ういけど、台湾全土に見られ、中部と南部には野生種がある云々的なことも書いてあった。いい感じだ。キアゲハの分布とも合致する。
でも気になるのは、垂直分布はどうやら低山地が中心のようなのだ。利用はしていた可能性はあるが、メインの食草ではないだろう。

 
【オランダミツバ Apium graveolens】
(出展『grttingimages』)

 
皆さん、この植物には見覚えがあるでしょう(^o^)❓
そう。何のこっちゃない。オランダミツバとはセロリの事なのだ。
\(◎o◎)/アタシもコレには面喰らいましたよ。名前からして渡来種とか帰化植物だろうとは思ってはいたが、まさかのセロリなんだもーん。
セロリも同じくセリ科だが、オランダミツバ属に分類されている。

ところで、セロリの花ってどんなんだろ❓
見たことないなあ。にわかに知りたくなってきたよ。

 
(出展『VEGGY DESIGN』)

 
特に変わったところはなく、セリ科らしい花だ。
メチャメチャ変なのを期待してたから残念なりよ。
ついでだから、ミツバの花も調べとくか。

 
(出展『奥行き1mの果樹園』)

 
ミツバが一番セリ科らしくない花だね。
まあ、植物そのもののフォルムが他のセリ科植物とは印象を異にするから、セリ科の異端児くんなのかもしんない。
 
セロリの台湾名は「芹菜」。もしくは「西洋芹菜」なんだそうな。
もちろん野生種ではない。栽培作物である。
でも台湾の蝶の本(図鑑?)『鳳翼蝶衣』でもセロリが食草に挙げられているようだから、幼虫が食べて育つことは間違いなさそうだ。
セロリって高原野菜っぽいよなあ…。意外と食草として有望かもしれない。

調べてみたら、思ったとおりだった。台湾では野外での生育温度は16〜21℃で、高温では育ちにくく、また品質も落ちるために夏場は中高度地で育てるらしい。おー、完全に高原野菜じゃんか!
でもなあ…。ゼッテー、しこたま農薬とか掛かってそうだ。幼虫が食えば、緑色のビートルジュースを吐き出して、憐れ(○_○)悶絶死するに違いない。そうでなくとも、あんなド派手で目立つ幼虫だ。すぐに農家の人に目っけられて💥ブチュじゃよ。食草としては、利用したくとも中々利用できないと云うのが現状だろう。

 
【日本産キアゲハ幼虫】
(出展『あおぞらネット』)

 
でもその半面、メリットもある。もしもキアゲハが再発見されれば、このセロリやミツバ等を代替植物にして育てることが出来る。ガンガン増殖させて野に放せば、また復活するやもしれぬ。
とはいえ、自然ってそんなに甘いもんじゃないし、台湾政府が本腰を入れて保護増殖させるかどうかは疑問だけどさ。
絶滅したのには必ず何らかの原因がある。食草の問題以外にも土壌や気候などの環境変化も要因として考えられうる。それらを解決しなければ、いくら放したところで定着はしないだろう。
考えてみれば、キアゲハが絶滅したのにも拘わらず、モリゼリ(ニイタカシシウド)やタイワンカワラボウフウは絶滅してはいない。多くはない植物なのだろうが、ネットを見る限りでは絶滅に瀕しているワケでもなさそうだ。それに標高が高い方が乱開発されにくい。つまり、食草の減少だけが絶滅の理由ではないと云うことだ。じゃあ、何で絶滅したの❓
(-“”-;)謎すぎる…。

 
【コエンドロ Coriandrum sativum】
(出展『新浪博客』)

 
これも見覚えがあるでしょうよ(^o^)
ヒントは今や日本でもすっかりポピュラーになった野菜で、東南アジアではお馴染みの葉っぱだ。西洋では種(果実)や葉を乾燥させたものが香辛料としてよく使われている。
見当はついたかな❓それでは答えの発表\(^^)/❗
答えはコリアンダー。このヒントで解った人は偉い!
コリアンダーでもピンと来なければ、あの好き嫌いがハッキリする、カメムシ草とも言われる野菜といえば流石に解るじゃろうて。
そうなのだ。巷では女子を中心に中毒者(註2)が増えているというパクチーなのだ。オイラもタイで中毒患者になりましたよん。

パクチー、アローイ( ☆∀☆)❗❗

実をいうと、今アチキの部屋にもあるのじゃよ。

 

 
料理に使うのは勿論だが、時々手で毟って食っている。

中国名は香菜(シャンツァイ)。こちらもポピュラーな名称だね。日本では中国パセリとも呼ばれていたね。
とにかく中国人も昔からコヤツが好きなのさ。とはいえ在来種ではなく、外来のものであろう。原産地は、たしか地中海辺りだったかと思う。

調べたら、台湾全土で栽培されているようだ。まあ普通に消費量を考えれば、そうだわな。
これも高原野菜なのかな❓ でも調べても、今一つよくワカンナイ。高原野菜だとしても、たぶんコレにも農薬が掛かってんだろな…。

そういえば、パクチーの花も見たことないなあ。
興味が湧いてきたから、これも調べちゃおう。

 
(出展『kplant.biodiv.tw』)

 
中々、可愛い花だ。カスミ草の替わりにでもなりそうだな。
それで思い出したけど、そういえば台湾名をまだ書いてなかったね。台湾では「芫荽」と呼ばれているようだ。字が花ではないけど、花っぽい字なんで思い出した。

おっ、そういえばコエンドロという名称の説明もしていなかったね。
えー、このコエンドロが実をいうと、本来の和名なのだ。日本に入ってきたのは意外と古く、鎖国前の時代にはもうあったようで、ポルトガルから伝来したそうな。つまり、コエンドロはポルトガル語なのだ。
用途は刺身の臭みを消すために使われていたという。

ここまできて、あと残りはニンジンとタイワンカワラボウフウだけとなった。
ニンジンは言わずもがなだが、一応調べておこう。

 
【ノラニンジン Daucus carota】
(出展『had0.big.ous.ac.jp』)

(出展『FLOWER PHOTOGRAPH』)

 
セリ科ニンジン属に含まれる一年草。
学名+臺灣で検索したところ、胡蘿蔔=ワイルドキュロットと出てきた。どうやら野生種のノラニンジン(野良人参)の事のようだ。このノラニンジンはヨーロッパ原産の帰化植物で、人参の原種とも言われており、日本のキアゲハも食草として利用している。
一方、ニンジンで検索すると、原産地はアフガニスタンとあった。そこから東西に伝播していったそうだ。東と西でそれぞれ独自に進化、もしくは品種改良されて、西洋ニンジンと東洋系ニンジンとなったとされる。昔は日本でも東洋系ニンジンが食されていたようだが、栽培が難しく、次第に栽培が容易な西洋ニンジンへと移り変わっていったようだ。つまり、今我々日本人がニンジンと呼んで食っているものは、ほぼほぼ西洋ニンジンって事だね。

ニンジンもノラニンジンも基本的には学名は同じみたいなので、台湾のキアゲハがノラニンジンと栽培種のニンジンのどちらを利用していたかはわからない。
ノラニンジンは北海道では結構どこでも見られるそうなので、台湾の高地にも生えていてもオカシクない。
食草として利用されていた可能性はあるだろう。

しかしながら、内田さんは和名をニンジンと書いておられる。そこが引っ掛かる。別な研究者の発表とはいえ、もしそれがノラニンジンであるとするならば、たとえ学名が同じであっても和名をニンジンではなく、ノラニンジンとしていた筈だ。となれば、栽培種のニンジンの可能性の方が高いとは言えまいか?
けど、何も考えずに、単にそのまま書き移しただけかもしんないけど…。

 
【Peucedanum formosanum タイワンカワラボウフウ】
(出展『福星花園』)

(出展『随意窩日誌』)

 
タイワンカワラボウフウについては、前回書いたので、写真のみ添付しておきます。

ここで漸く思い出したよ。これも早田文蔵氏の記載だわさ。つまりキアゲハの食草であるモリゼリもカワラボウフウも、この方の記載なワケだね。もしかしたら、発見した折に派手派手な幼虫も見ておられたかもしれない。ほんでもって、激引きだったりして(笑)。
植物学者って、昆虫に興味があるのかな❓もちろん人にもよるのだろうが、相対的にはどうなのだろう❓
虫好きは植物に興味があるのは間違いない。その昆虫のホスト植物を知らなければ、採集も儘ならないからだ。必然、興味を持たざるおえない。しかし、植物に興味があるからって、虫のことまで知る必要性はあまりなさそうだ。植物学者で虫好きの人って、あまり聞いたことがないし、むしろ嫌いなんじゃなかろうか❓

 
脱線した。いい加減、まとめに入ろう。
ヨロイグサとハマトウキはタイワンキアゲハの分布と重ならないから、食草として利用されることは殆んど無かったと考えられる。ミツバは垂直分布が低いからメインの食草ではないだろう。
セロリ、コリアンダー(パクチー)、ニンジンは栽培植物で、ムチャクチャ古くから台湾にあったワケではないだろう。それらの流入以前に台湾のキアゲハは存在していた筈だから、本来の食草ではないだろう。また栽培作物ゆえ、農薬の影響で無事に育たないケースも多々あるだろう。メインではなく、あくまで二次的利用だったかと思われる。
これらの理由から、基本的に食草として利用されていたのはニイタカシシウド(モリゼリ)とタイワンカワラボウフウだろう。+ノラニンジンを利用していた可能性もあるってところか。
いずれにせよ、食草の利用範囲が狭かったゆえ、個体数も自然少なかったのだろう。

論をここまで進めといて、遅ればせながら『常夏の島フェルモサは招く』の本文の記述を取り上げよう。
ここまで書いといて、実をいうと巻末の食草のところしか見てなくて、本文を読んでいなかったのだ。パラパラと見て、無いやと思って見過ごしていたのである。
とはいえ、そこには吸蜜に訪れた成虫の生態写真しか載っておらず、残念ながら幼虫写真は無かった。
飼育された筈なのに(;゜∇゜)なぜにぃ~❓
もしかして、飼育に失敗したんちゃうん❓

文章でも幼生期については詳しく触れられていなかった。触れているのは以下の程度で、台湾中部の石山渓に訪れた時のものだ。

「断崖の続くこのあたりを注意すると、いたる場所にモリゼリの株が見え、白い花をつけていた。これは台湾名を山当帰といって薬草になる。(中略)幼虫も比較的多く、それは鳥の糞のように葉の上に止まっていた。高地でもあまり見掛けない蝶であるが、時期とポイントを押さえれば、さほど少ない種でもないことを知った。」

まさか内田さんも、のちに台湾のキアゲハが絶滅するとは思いもよらなかっただろう。「断崖の続くこの辺りを注意すると、いたる所にモリゼリの株が見え、時期とポイントを押さえれば、さほど少ない種でもない」と云った印象を述べられているが、もしかしたら此所だけがキアゲハの多産地だったのかもしれない。
しかし、石山渓は1999年の大地震により崩壊し、中部横貫公路は長らく寸断されたままだ。
OTTOさんが「タイワンサイコという台湾特産の植物ただ一種を食草としていたため、地震による生息地の崩壊などで、命脈を絶たれたと考えられている。」と書いた場所は、おそらくこの石山渓のことを指していたのだろう。そして、謎の食草タイワンサイコとは、このモリゼリ(ニイタカシシウド)のことではあるまいか。その可能性は高い。

一応、謎の一部は解決した。
とはいえ、この植物は石山渓だけに生えているワケではない。だから、地震による崖崩れだけがキアゲハの絶滅の理由にはならない。これが一番の謎かもしれない。
だいち現地には人は入れない状態だから、モリゼリが絶滅したかどうかは本当のところはわからないよね❓
誰かドローンを飛ばせば、崖崩れ何のそので、意外とシッカリ生き残ってたりしてね。

  
内田さんが最初にモリゼリ(ニイタカシシウド)で幼虫を見つけられたのは南投県の翠峰だ。
となれば、自分がキアゲハの幻を見たのは、その下の松岡付近だから地理的にはかなり近い。
あながち自分の見た光景は、幻ではなかった可能性もあると云うことだ。

 
                 おしまい

 
 
追伸
本文脱稿後、内田さんの三部作の第1巻にあたる『ランタナの花咲く中を行く』を見る機会を得た。

 

 
そこには、1987年6月27日に松岡で幼虫を採集したと書いてあった。
と云うことは、松岡周辺にもモリゼリが自生していた事になる。つまり、キアゲハも生息していたわけだ。益々、朧げな幻影が輪郭を帯びてきたような気がする。

この『ランタナの花咲く中を行く』を見た折りに、五十嵐 邁 著『世界のアゲハチョウ』を見る機会にも恵まれた。冒頭のキアゲハの写真はそこに載っていたもので、脱稿後、急遽コチラに差し替えた。
その図鑑からは、新たな知見も複数得た。もしかしたら、更なる続編を書くかもしんない。
完全にキアゲハの迷宮のドツボにはまっとるがな。

 
(註1)ドラマツルギー
元々は演劇用語で、ドラマの製作手法。作劇論。演劇論。それがアーヴィング・ゴッフマンによって社会行動学にも応用され、日常生活における社会的相互作用を取り扱う微視的社会学として発展した。その社会学的観察法そのものを指す場合も多い。
もう少し説明すると、人は普段の生活でも自然と何らかの演技をしており、ある一人が行動することによって、他者や世界に影響を及ぼす。逆に世界性や文化性、その他諸々の要因によってある一人の人物の役割や演技に影響を及ぼしている。その相互作用によって社会と個人の関係が成り立っていると捉えることが「ドラマツルギー」である。

(註2)女子を中心に中毒者が…
パクチーサラダとか女子が喜んで食ってるが、タイの人たちがそれを見ると首を傾げるらしい。何でかっていうと、タイではそもそもパクチーは薬味扱いで、料理のメインになることなど考えられないからだ。謂わば、パセリのサラダを喜んで食ってるようなもんなのさ。たしかに、もしパセリだけのサラダを食ってる人がいたら、オカシな人だと思うもんね。

 

台湾の蝶30『消えたキアゲハ』

  
  第30話『消えたキアゲハ』

 
この連載も遂に30回目を迎えた。
ならば、折角だからそれに相応しい蝶を取り上げようと思った。
最初は皆が喜びそうな森の宝石ゼフィルス(ミドリシジミの仲間)にしようかと考えた。でも、それじゃ普通だ。芸が無い。おいら、ひねくれ者なのだ。
ならばと次に候補として考えたのが、セセリチョウの地味な稀種だった。
でもさあ…、ひねくれ過ぎ。先ずは記事に写真を添付したんだけど、あまりにも地味過ぎて悲しくなっちった。
と云うワケで、どうせなら今回は台湾で採った事が無い蝶に焦点を当ててみることにしませう。

 
(キアゲハ台湾亜種♂ Papilio machaon sylvinus)

 
(同♀ Papilio machaon sylvinus (Hemming,1933))
(出典 2点共『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
よりによって普通種のキアゲハ❓
そう訝る向きもいらっしゃるかと思う。日本では南西諸島(奄美大島以南)を除けば全国どこにでもいる普通種だもんね。そう思われても当然でしょう。
だが、ところがどっこい。台湾のキアゲハは弩級の珍品なのである。
とはいっても、初めて台湾に行った時はそんなに珍しいものだとは知らなかった。帰ってきてから、誰かに教えてもらったのである。でも、珍品だよと言われただけで、詳しいことまでは聞いていない。
そんなワケで、ちょいと調べてみることにした。

調べていくうちに驚いたのは、元々少ない蝶だったが、近年は記録が無く、姿を見掛けなくなってからもう何年も経つゆえ絶滅したと考えられているようなのだ。
(|| ゜Д゜)マジかよ❗❓ 珍しいといっても、たかがキアゲハだぞ。世界に最も分布を拡げたアゲハ(Papilio)の一つだ。そんなもん、絶滅するかね❓

先ずは原点に帰って、白水先生の『原色台湾蝶類大図鑑』の中の解説文から読み解いていこう。
だが、図版の写真を撮っているのにも拘わらず、肝心の解説文のコピーが無い。あれれ(・。・;❓、何で❓
暫し考えて、記憶が甦る。キアゲハなんてどうせ普通種だからと思って、コピーを取らなかったのである。仕方なしに図書館へ行き、書庫から図鑑を出して貰ってコピーした。

では、先ずは解説文の一部を抜粋しよう。

「台湾産のキアゲハは日本産とは別の標記の亜属に属する。日本産亜種に較べて小型で尾状突起は細く、夏型においても亜外縁の黒帯が狭く、一見して日本亜種とはかなり著しく感じが異なる。♂♀による色彩斑紋の差異は少なく、夏型♀においても黒鱗の発達は弱く♂と大差がない。(中略)台湾中部より中南部の山地帯~高地帯(大甲渓、霧社方面、阿里山、新高山付近、関山越道路など)に分布するもので、主として1000m以上の標高の地域に発見されるが、大甲渓下流の久良栖付近、約600m(江崎,1932;斎藤,1940)、東勢郡明治温泉付近、約600m(野村,1931;江崎,1932)、高雄州屏東郡関山越道路のビビュウ~濁水、約700~730m(江崎,1932)、高雄州ガニ、約600m(野村,1932)のような低標高の地域でもかなり多くの採集記録が見られる。従来知られる分布の北限は大甲渓、南限は高雄州ガニ。採集記録は1月より11月に亘って見られ、年数回の発生を繰り返すものと思われるが詳細は不明。台湾における食草、幼生期は未知。台湾以外の地域で知られている食草は主としてセリ科で、地域によってはミカン科を食べる場合もある。本種はアゲハチョウ属の中では最も北部にまで分布するもので、旧北区に分布が広く、全ヨーロッパ、アフリカ北西海岸(モロッコ、アルジェリア、チュニス)よりシベリア、ヒマラヤを経て極東の中~北部に亘りさらに北アメリカの北部にも産し、多くの亜種に分類される。原名亜種の基産地はヨーロッパ。」

 
パッと見は、日本産とそんなに変わらないように見えたが、「かなり著しく感じが異なる」とあるではないか。
ならば、較べてみよう。。

 
(日本産キアゲハ♂ Papilio machaon hippocrates)
(2019.4.6 福井県南越前町藤倉山)

 
(同♀ Papilio machaon hippocrates (Felder,1964))
(2017.5.7 東大阪市枚岡公園)

 
何れも春型である。中々に美しい。もしも年1化で稀種なれば、ギフチョウと双璧を為す存在だったろうにと思う。

こうして雌雄を並べてみると、今更ながらに春型の♂と♀の見た目に大きな差がない事に気づく。
たぶん下の個体は♀だと思うが、段々同定に自信が無くなってきたよ。間違ってたらゴメンナサイ。
でも尻の感じからすると(註1)、間違いないかと思うんだよなあ…。それに亜外縁黒帯内の黄色鱗粉帯が♀の方が広いし、下翅の帯の青色鱗粉帯も広い。たぶん同定は合ってるかと思う。

んっ(・。・)❓、それはさておき、図鑑の台湾産と日本産の区別点が言うほど著しく違うとは思えないぞ。言われてみれば亜外縁の黒帯は細いような気もするが、春型の♀に於ては顕著と言う程の差は感じない。台湾産の♀は、帯が結構広くねえか?
それよりも帯の形に違いがあるのではなかろうか?
台湾産は帯の形が内側に向かってギザギザで、特に下方の出っ張りが強い。けど、個体差はありそうだ。
尾状突起の細さも相違は微妙だ。寧ろ、細さよりも長短に差があるように見える。台湾産の方が比較的短いような気がする。
もっと大きな差をあげるとするならば、台湾産は上翅基部の黒色鱗粉の発達が弱い。だから、全体的に明るめの印象をうける。

とはいえ、たったコレだけの個体の検証では何とも言えない。もう少しサンプルが必要だ。

 

(出展 2点共『蝴碟資料』)

 
たぶん、上が♂で下が♀だろう。

 

(出展 2点共『臺灣生命大百科』)

 
OLYMPUS DIGITAL CAMERA[/caption](出展 『flichr.com』)

 
おそらく上3点とも♂かと思われる。

  

(出展 4点共『圖錄檢索』)

 
こっちは上から順に♂と♀で、下がその裏面である。
尾突の細い太いと上翅亜外縁の黒帯の幅の広さは、正直なところ判別点としては微妙だ。これは標本に春型と夏型が混じっている可能性があるから、こう云う見解にならざるおえないのかもしれない。
しかし、上翅基部の黒色鱗粉は明らかに全個体ともに薄い。勝手に言い切るが、おそらくこの点が最大の日本産との相違点ではないだろうか。

裏面も、もしかしたら区別点になるかもしれない。
日本産の裏面画像も添付してみよう。

 
(春型♂裏面)
(2019.4.6 福井県南越前町藤倉山)

 
台湾産と比べて、日本産の方が後翅のオレンジ色が発達していて美しい。
但し、台湾産の標本はおそらく古いであろうから色褪せている可能性もある。
けれど詳細に見ると、たとえ色褪せていたとしてもオレンジの領域は日本のものよりも狭そうだ。

とはいえ、この2点だけで決めつけるのは乱暴過ぎる。あとで図書館に行って、藤岡大図鑑(註2)で確認が必要だよなあ…。

参考までに言及しておくと、日本産の夏型は全然違う。

 
(キアゲハ夏型♂)

 
(キアゲハ夏型♀)
(出展 2点共『日本産蝶類標準図鑑』)

 
春型と比べて著しく大型化し、後翅の黒帯が太くなる。
♂と♀の違いも一見して区別できるようになる。♀は、だだ黒なのだ。正直、春型と比べてあまり美しくない。
因みに、日本産の夏型がキアゲハの全亜種中で最も巨大化すると誰かに聞いたことがある。最もかどうかはワカンナイけど、何れにせよ最大級ではあろう。
それで改めて思い出したのだが、標本写真では分からないが、日本産と比べて台湾産はかなり小型らしい。その点も大きな違いかもしれない。
台湾産は夏型でも黒っぽくならないようだから、そう云う意味では両者はかなり遺伝的には離れているのかもしれない。そう云えば、白水さんも亜属が違うとか書いてたよね。
とはいえ北海道や中部地方の高地では、夏型が低山地のものほど黒くはならないようだ。実際、北海道や中部地方の高地で採ったキアゲハは黒くはなかった記憶がある。但し、大きさは春型ほど小さくはなかったと云う印象がある。春型と夏型の中間くらいの大きさだったかと思う。

更に情報を求めてネットで検索してみた。
予想通り情報は少なかったが、『OTTOの蝶々ブログ』さんの記事から重要な情報を得ることができた。

「キアゲハは、台湾の蝶愛好者にとっては悲しみと共に思い起こさずにはいられない蝶だ。1999年の大地震の後、台湾高地の生息地から忽然と姿を消してしまった。日本のキアゲハに比べて濃色で、サイズが著しく小さく、狭い台湾の高地帯に特殊な変異を遂げた個体群だった。
タイワンサイコという台湾特産の植物ただ一種を食草としていたため、地震による生息地の崩壊などで、命脈を絶たれたと考えられている。」

 
へぇ~、絶滅してから、もう20年にもなるんだ…。
忽然と姿を消したと云うところに何だか浪漫を掻き立てられる。絶滅した理由はあとでまた考察するとして、先ずは形態の違いに目を向けよう。

日本のキアゲハと比べて濃色であると云う見解は白水図鑑には無かった。でも確かに言われてみれば、貼付した「蝴碟資料」の写真などはかなり黄色く見える。
しかし、そうでもない写真もある。こう云うのって、写真の撮り方にもよるしなあ…。もしくは黒色鱗粉の発達が弱いから、より黄色く(濃色)見えると云う事ってないのかなあ?人によって表現の仕方は違うからさ。捉え方の齟齬だってあるかもね。
でも、結局こう云うのって、両者を並べて写真でも撮らないかぎり、本当のところはワカンナイよね。

サイズは著しく小さいとあるから、やはり大きさは相当小さいのであろう。そうなると日本産の春型と並べれば、両者の印象はかなり異なるのかもしれない。

いつも頼りにしている杉坂美典さんのブログ『台湾の蝶』にもキアゲハについての記述がちゃんとあった。
それによると、1970年代以降に絶滅したとある。
えっ!?、もっと前に絶滅してるの❓
以降というのが引っ掛かるが、この書き方だとそう解釈しちゃうよね…。
まあいい。ここでそれを詮索したところで、あまり意味は無い。絶滅している事には変わりはないのだ。

形態については「日本産亜種に比べて小型で,尾状突起が短い。夏型でも亜外縁の黒帯の幅が狭い」とある。
ここでも小型が強調されている。尾突が短いというは初めて見る記述だが、自分の見立てと同じだから、ちょっと嬉しい。
夏型でも亜外縁の幅が狭いというのは「原色台湾産蝶類大図鑑」にも同じ記述があった。という事は黒帯が細いというのは間違いないのかなあ…?
やっぱ、ここは藤岡大図鑑に御登場と願わねばなるまい。

図鑑にある世界各地の膨大な数のキアゲハの標本写真を見て納得した。確かに台湾産キアゲハの上翅亜外縁の黒帯は他と比べて細い。広く全体から俯瞰で見る巨視的な視線が必要なんだと、今更ながらに痛感したよ。

 
(出展『日本産蝶類及び世界近縁種大図鑑1』以下、特に出展が記されていない標本写真は同図鑑からお借りしたものです)

 
上から3列目の左側4つが台湾のキアゲハである。
こうして並んでいるのを目(ま)の当たりにすると、確かに黒帯は細いことが解る。
但し、日本産でも細いものはいるようだ。

 

 
真ん中と左が北海道の稚内産で、右が岐阜県のものだ。稚内産は上翅黒帯が細めである。北海道産の画像を拡大してみよう。

 

 
(同 裏面)

 
細いような気はする。
とはいうものの個体変異の範疇であり、台湾産みたいに安定した形質とは言えまい。

それでは、台湾産をクローズアップしてみよう。

 

 
(同裏面)

  
\(◎o◎)/ゲロゲロー。
上翅の基部が黒いのもいるやんけー。左2つは、日本の春型と同じくらい黒っぽいじゃないか。
アタマの中が、ソッコーでグチャグチャだよ。毎度毎度の事ながら、調べれば調べるほど迷宮に迷いこむって、どーよ❓ ったくもー(-“”-;)、サクッと終わらせる予定だったのに、またクソ長い文章になりそうだ。

落ち着け。とにかく先に解説文を見てみよう。
とはいえ、台湾産を論じる前に先ずは極東地域及び日本産のキアゲハから入ろう。キアゲハの分布は北半球全般と広いのだ。さっき学んだばかりじゃないか、俯瞰で見なければ見えてこないものもある。

「極東地域のキアゲハの斑紋の特徴は、夏型の前翅基半の黒色部に黄色鱗粉がのり、黒色部が全般的に広いことで、その点では中央アジアやヨーロッパ地中海周辺型と変わりはない。しかし全般的な傾向として、夏型♀は黒色部がより広く、後翅表面にも基半部が黒くなる傾向が強いことがある。その極限が日本産であるが、朝鮮半島南部もこれに近く、浙江省辺りからかなり黒い夏型も出現する。それでも、中国の西から東へと変異は連続的であるし、分布も中央アジアから天山山脈を経て、ほぼ連続しているので、やはりヨーロッパ大陸と同一の亜種 P.machaon machaon として扱うべきかも知れない。(中略)
日本産の最も大きな特長は、夏型が大型で黒色部が広く、表面では地色の黄色にも黒色鱗粉が混じり黒ずんで見える点である。この特徴は、北海道ではあまり顕著ではなく、♀表面の黒色鱗粉は全体的に少ないが、変異は連続的である。日本産の特徴として他に、♂♀共、また春型夏型共に、前翅表面中央寄りの黒帯が翅底から翅端に向かって、細くなる点がある。
日本産亜種の中で、千島産は北海道産と差異がない。日本列島は地理的には独立しているが、多数の標本で変異を見ると、南では朝鮮半島経由で中国大陸の亜種と連続するし、北ではウスリーの変異と連続する。従って地理変異の連続性を斑紋だけで厳密に見れば、短尾型キアゲハ(タカネキアゲハ Papilio sikkimensis)を除き、ユーラシアのキアゲハは一亜種という立場もあり得る。」

なるほど、キアゲハは変異は多いものの連続的で亜種区分は明確でなく、整理、集約されて然るべきものであると聞いた事があるのは、こういう事だったんだね。

折角だから、タカネキアゲハの画像も添付しておこう。

 
【タカネキアゲハ Papilio sikkimensis】

(同 裏面)

 

(同 裏面)

 
短尾型といっても、長さは一様ではないようだ。
上の個体はチベットNyalam産で、この地域のものが最も尾突が短くなり、小型化もするようだ。
下はパキスタン北部のチットラール地方のものである。タカネキアゲハは変異幅が広く、場所によって随分と印象が変わる。段々面倒くさくなってきたので画像は添付しないが、記載に使われたシッキム地方のものは黒化が進んでいる。

続いて、いよいよ台湾産キアゲハの項である。

「台湾産は小型で前後翅共に表面の外縁に沿う黒帯が細く、その内側が凸凹に富み、後翅亜外縁の黄紋が大きく、翅形も縦長である。春型は夏型より小型で、裏面の翅脈上や前翅表面中室の黒色が顕著である。」

やはり小型であることには間違いなさそうだ。
上翅の黒帯も細いとある。そして、自分の見立て通りのギザギザ(凸凹)とある。
ワシ、結構やるやんか(o^-^o)

後翅亜外縁の黄紋が大きいというのと、翅形が縦長であると云うのは初耳。藤岡図鑑の標本では特に差異があるとは思えないが、台湾のサイトからお借りした標本写真には、その傾向が見られないこともない。
だが例外も多い。ようするに傾向は有りこそすれ、決定的な同定ポイントにはなり得ないと言えよう。
因みに、地色の黄色が濃色であることには触れられていない。こちらも傾向はあるが、例外も多そうだ。

問題は、そんなことよりも上翅基部の黒の濃淡である。けど藤岡図鑑には、それについての言及が無い。
ワシの見立ては見当違い❓
しかし頭から解説文を読むと、概論のところでその謎があっさりと解けた。気持ちが逸っていたゆえ、概論をすっ飛ばして読んでいたのである。

「キアゲハの変異を複雑にしている一つの原因は、第1化と2化以後で斑紋が異なる点である。日本は1化と2化が最も異なる例で、2化は大型で黒色の発現が良く、特に本州以南の♀は著しい。他の地域では日本ほどに差がなく、ヨーロッパでは1化に比べて2化は黒色が黄色の鱗粉で薄く覆われ、外縁の内側が黒で縁取られ、後翅の黒帯が細く、青色が顕著で、腹部の横の黒い線を伴った黄色はより顕著になる。2化のこの傾向は、北方ではあまり目立たないが、南ヨーロッパでは明確になる。
1化春型と2化夏型を比べると、ヨーロッパでは春型の方が「黒い」ということができ、この傾向は世界中ほとんど年2回以上発生する地域では同じである。例外は日本で、春型と比べると、夏型の方が♂♀共に黒い。韓国及び中国南東部の夏型は日本産のように♀が黒化する個体がある一方、日本産の春型のような個体も見られ、個体変異は複雑である。日本とは異なるようであるが、被検標本の数が少ないので確定的なことは未だ言えない。しかしいずれにしろ日本を中心とした極東とそれ以外の世界各地では、春型と夏型の黒さの度合いが逆であって、そのような観点から、日本など極東のキアゲハは特異である。」

まさかの春夏の特徴が逆である。キアゲハの春型は明るい色で夏型は黒っぽいと云う概念に完全に凝り固まっていた。
とはいえ、さすれぱ白水大先生の解説文(原色台湾産蝶類大図鑑)でさえも、その概念の上に立って書かれたものだと云うことになる。これについては杉坂さんも同じである。
いや、丁寧に白水図鑑を読み返すとそうでもない。夏型においても黒帯が太くならないと書いてあるだけで、夏型は黒っぽくはならないとは書いてはいない。
鬼の首でも取ったように息巻いてしまったが、オイラの完全な勇み足である。\(__)反省なりよ。
でも春型と夏型の特徴が逆ならば、ちゃんとそう書くよね?それが書いてないってことは、そういう概念を持ち合わせていなかったとは言えまいか?
まあいい。台湾には日本みたいな黒いタイプはいないと云う事は理解した。1歩前進としよう。

 

(同 裏面)

 
これが春型で、下のが夏型ってワケだやね。

 

(同 裏面)

 
ってことは、藤岡図鑑の基部が黒っぽい2点の個体を除けば、ここに掲載したのは全て夏型の標本写真だったということか…。そりゃ、アッシも上翅基部の濃淡が同定の決定的ポイントだと言っちまいまさー。
けど、少なくとも夏型においては区別に使えるポイントだよね。
それにしても、世に流れている写真は夏型ばっかってのが気になる。どこにも書いてないけど、春型は夏型と比べて個体数が少ないのかな?それとも単なる偶然?
でも、そこには何らかの理由がある筈だと思うんだよね。また謎が増えたよ(;つД`)

裏面だが、台湾産は「翅脈上や前翅表面中室の黒色が顕著である」とある。
一応、比較の為に日本産の裏面写真を貼付しておこう。

 

 
確かに日本と比べて台湾産は黒い。春型は特に黒いわ。夏型もよく見ると黒の線が日本産よりも太い。
けど、冒頭に近い部分で添付した春型の野外写真の裏を見ると、日本のも結構黒いんだよなあ…。産地や個体差もあるんだろなあ…。これまた、そういう傾向があるって考えた方がいいのかもしれない。
 
下翅帯部分のオレンジの発色は、見たところ思っていた通り日本産よりも弱いと言えそうだ。

 
(日本産キアゲハ 夏型裏面)

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

 
何れにせよ、複数の区別点を総合に鑑みて、識別、判断しなければならないって事だろう。

 
【学名】Papilio machaon sylvinus(Hemming, 1933)

属名のPapilio(パピリオ)とはラテン語で「蝶」を意味し、リンネの命名。そして、キアゲハがこの属名の模式種ともなっている。つまり、言うなればキアゲハは蝶の中の蝶であり、ヨーロッパ人の蝶に対するイメージの代表的存在とも言えよう。

小種名のmachaon(マカロン)は、ギリシア神話の英雄マカーオーンが由来。医神アスクレピオスの息子で、テッサリアに領国をもっていたが、兄弟のポダリリオスとともに30艘の船団を率いてトロイア戦争の遠征に軍医として加わり、父より受継いだ医術の才能を生かしてギリシア軍の勝利に貢献したとされる。ペンテシレイア、またはエウリュプロスに討ち取られ,戦死したとされる。

台湾の亜種名の「sylvinus(シルヴィヌス)」は、そのままの綴りで検索しても全くヒットしなかった。
しかしながら、語尾の「nus」はラテン語の人物名によく使われるし、前半部のsylviもラテン語であろう。おそらくこれは森を意味する「silva(シルヴア)」、もしくは同じく森を意味し、ギリシャ神話の美しい清楚な乙女の名前でもある「silvia(シルビア)」が語源だと考えられる。そこから推察すると、学名には「森の神」、或いは「森の女神」といった意味あいが込められているのではないかと思われる。

参考までに、同物異名に以下のようなものがある。
Papilio machaon sylvia(Esaki&Kano,1930)

こちらは「sylvia」となっている。記載者は江崎先生&鹿野博士のゴールデンな組み合わせだわさ。なのにシノニムになっちったのは惜しい。

因みに、日本産の亜種名である「hippocrates(ヒッポクラテス)」は、ギリシア、ローマなど古代の人名で、数学者や医者、僣主(独裁的支配者)などにこの名前の著名人がいるようだ。
そういえば、昔の映画に大森一樹監督の『ヒポクラテスたち』というのがあったなあ…。詳しい内容は憶えてないけど、たしか医者たちの群像劇だったかと思う。従来の日本映画から脱却した日本のヌーヴェルバーグ的な実験的作品として、ある程度の評価はあったのではなかろうか? 中途半端で、全然面白くなかったけどさ。
日本でも「ヒポクラテスの誓い(註3)」が有名だし、数学者でも独裁者でもなく、たぶん医者のヒポクラテスを想定してつけられた名前だろね。
それにしても、マカオン(machaon)といい、キアゲハが何で医者関係の学名なの❓

 
【英名】Swallow tail(スワロウテイル)

ようするにツバメの尻尾(しっぽ)だ。
おそらく長く伸びた尾状突起を指してのことだろう。

欧州でスワロウテイルと云えば、このキアゲハのことを指すことが多いようだ。きっと我々日本人が思う以上に、欧州の人々の心の中にキアゲハの存在は強く浸透しているのだろう。

米国でも同じ呼び名で呼ばれているとばかり思っていたが、実をいうと「Old World Swallowtail」という別な名前が付けられている。
これは北米には、近い関係ではあるが別種のヤンキーアゲハ(Papilio polyxenes)が分布しているからみたいだ(英名 Anise Swallowtail)。この2種を区別するために、アメリカでは普通のキアゲハにOld World Swallowtail(旧世界のアゲハ)という名をわざわざつけたそうだ。

 
【台湾名】金鳳蝶

Lepidoptera 鱗翅目
Papilionidae 鳳蝶科
Papilio 鳳蝶屬

鳳蝶は真正アゲハチョウの仲間を指す言葉のようだから、「金鳳蝶」は、さしづめ金色のアゲハチョウってところかな。
別名に「黄鳳蝶」があるが、こちらは黄色いアゲハチョウって意味だね。
中国語圏では尾っぽのあるアゲハチョウの名前に、だいたいこの「鳳蝶」ってのがつくんだけど、小さな鳳凰みたいで中々ステキだと思う。

 
【分布】
ヨーロッパ全土から極東アジア、アフリカ北部、北アメリカと、広く北半球一帯に分布している。

 
(出展『Butterflycorner』)
 
(出展 杉坂美典『台湾の蝶』)

(出展『日本産蝶類及び世界近縁種大図鑑』)

 
一番上のグレーの部分が全世界のアバウトな分布で、真ん中のピンクの部分がアジアでの分布である。
でも、あまりにざっくりなので、一番下に藤岡図鑑のユーラシア大陸の分布図も追加した。但し、サハラキアゲハやタカネキアゲハの分布も含まれている。

日本の分布の南限は屋久島。沖縄など南西諸島には分布せず、飛び離れて台湾山地に分布し、それが種の南限の一つともなっている。
台湾中部から中南部の標高1000m以上の高地帯で多く見られたが,600m前後の低地帯でも記録がかなりあるようだ。とはいえ移動性が高い蝶なので、渓に沿って下りてくることは充分に考えられる。渓流沿いは気温がそれほど上がらないからだ。おそらく垂直分布の中心は1000m以上に変わりなかろう。発生地も1000m以上だと推測される。
藤岡図鑑に拠れば、大陸の南限記録は中国広東省の九連山及び広西省大瑤山。しかし、安定して分布しているワケではなくて、あくまでも記録に過ぎないと云う可能性もある。藤岡図鑑の分布図には、広東省が入っていないように見受けられるからだ。
また、タイなどインドシナ半島には分布しないとされてきたが、近年ベトナム北部のハザンとドンバンで見つかっているようだ。ここも南限の一つだろう。この地域のキアゲハは尾状突起が極めて細長い特異な型で、分布は雲南省や四川省西部に連なり、ミャンマー北部からインド・アッサム州東端のマニプールにまで達している。

 

 
これは超長尾型とも呼ばれ、尾状突起が長いだけでなく翅形が細長くて前翅は外方に張り出しており、前翅基半の黒色部が広く、後翅中央の翅脈上の黒条が巾広い割には後翅1室の黒色が極めて狭い。
マニプールやシャンステート(ミャンマー)では、この型のキアゲハだけが分布しており、雲南や四川ではこの超長尾型のみならず普通の長尾型及び短尾型(タカネキアゲハ)も分布していて、四川省康定と雲南省Tse-kouでは、この三型全てが見られるという。
これは標高及び食草で棲み分けているものと考えられ、標高2500m付近に超長尾型が分布し、これより高い標高には短尾型が、低い標高には普通の長尾型が棲息するようだ。

 
台湾のキアゲハは、なぜ絶滅したのだろう❓
キアゲハは、分布からも北方系の種類であることは間違いない。となると、南限に分布するキアゲハはギリギリの環境で生きていることになる。だとすると、もしかしたら地球温暖化も絶滅に関係しているのかもしれない。成虫はまだしも、卵や幼虫、蛹などは高温に耐えきれずに衰退していったという事も有り得るかもね。
日本でも最近は熱暑が話題にあがる事が増えてきた。普通種だから誰も気づいていないが、或いは西日本では知らぬうちに数を減らしているのかもしれない。将来的には稀種の一つにならないとも限らないのだ。キアゲハの隠れファンとしては、稀種ともなれば、その美しさが再認識されるだろうから嬉しいような気もする。しかし、それはやっぱ良くないよね。さみしくなる。いつでも会える庶民的な美人さんは貴重なのだ。

 
【亜種】
分布が広く地理的変異も多く、その上にヨーロッパ人が好きな蝶であるがゆえ、極めて多くの亜種名、型名が命名され、100頁にわたる大著さえ出版されているという(Eller,1936)。
Wikipediaに拠れば、37亜種にも分けられている。シノニム(同物異名)も数多くある筈だから、それも含めれば膨大な数にのぼるだろうし、分類の仕方も研究者によってバラバラだろう。と云うワケで、面倒なので並べません。興味のある方は自分で調べたし。

ところで、キアゲハの遺伝子解析はもう済んでるのかな? もし済んでいるならば、分類も少しは整理されているかもしれない。

調べてみたら、あった。くしょー(ToT)、また文章が長くなるやんけ。ウンザリだ。
でも、知ってしまえば書かないワケにはいかない。
論文は以下のタイトルで、最近に発表されたもののようだ。

 
日本列島に分布するキアゲハの遺伝的多様性と系統関係
Genetic variations and phylogenetic relationships among the populations of swallowtail
butterfly, Papilio machaon, in the Japanese Islands. (宮川美紗 2018?)

日本列島および海外のキアゲハを遺伝子解析したもので、本題は日本のキアゲハである。
結果は、世界のキアゲハは遺伝的に異なる5つの集団に分けられるという。内訳はユーラシア大陸、北アメリカ、日本列島及びサハリン、それに別種とされる北アフリカのサハラキアゲハ(Papilio saharae)とチベットのタカネキアゲハ(Papilio sikkimensis)である。

日本列島及びサハリンのキアゲハは、サハラキアゲハ(別名サバクキアゲハ)、タカネキアゲハ、ユーラシア大陸や北アメリカ大陸のキアゲハとは遺伝的に明確に区別されるという。驚いたのは、別種とされるサハラキアゲハとタカネキアゲハもキアゲハと同種だとしているところである。
サハラキアゲハもタカネキアゲハも同所的に普通のキアゲハと混棲するから別種とされてた筈だけど、何で?
でも調べたら、サハラもタカネも分布の端っこでは微妙な個体が見い出されるようだ。どちらとも言えないようなキアゲハとの中間的なものもいるって事ね。
心情的には別種であって欲しいんだけどなあ…。
まあ遺伝子解析が絶対だとは言えない面もある。食草や標高など生態的に違えば、少なくとも両種は別種の途上にはあるだろう。

論文では、日本列島及びサハリンの集団はキアゲハの中で最も早く分岐し、それは約80万年前だと推定している(系統図は載ってなかった)。
へぇ~、意外な結果である。見てくれはそれほど特異な感じはしないのにね。外部形態の進化スピードが遅いタイプってことか?…。

結果を纏めると以下のようになるそうだ。

①日本列島のキアゲハはユーラシア大陸・北アメリカ大陸のキアゲハとは大きく系統が異なるが、サハリンと日本列島の集団は系統的に近縁であることが示された。

②サハリンと日本列島の集団は他のキアゲハ集団より系統的に先に分岐し(隔離され)、現在まで大陸との遺伝的交流はほとんどなかったと考えられる。

③大陸、サハリン、北海道、本州以南の集団の遺伝的構造は互いに有意に異なっていて、集団がタタール海峡、宗谷海峡、津軽海峡、対馬海峡によって隔離されていることがわかった。すなわち、オホーツク海沿岸に分布していたハプロタイプの1つが、第四期の陸続きの時期にサハリン、北海道を通って本州以南に変異しながら広がり、海峡成立後にそれぞれの島において特徴的なハプロタイプが短期間で島内に分布を拡大したのち、安定したことが示唆された。

朝鮮半島南部のものは黒化が進んでいて日本の夏型とソックリだから、てっきり朝鮮半島南部のものが日本列島の西側から侵入し、一方、極東ロシア(ハバロフスク地方・沿海州)のものが樺太、千島列島を経由して北海道に侵入したものだとばかり思っていたが、そうじゃないんだね。これまた驚きだ。地史的には南西側も大陸と繋がっていた時代はある筈だけど、その時にナゼ進出して来なかったんだろ❓

オサムシの例なんかにもあるように、外部形態の変化が小さい種においても遺伝的には隔離されてるって事が蝶でも有るんだね。一方、シナカラスアゲハみたいに見た目はかなり特異なのに、ミヤマカラスの亜種に過ぎないという逆の例もあるから、生き物って不思議だよね。

 
【生態】
白水さんと杉坂さんは年数回の発生、1月~11月に記録があったとしている。
とはいえ、春から夏にかけての年2化が基本だろう。加えて、一部が秋に3化として羽化するものと思われる。たぶん、越冬態は日本と同じく蛹であろう。
藤岡図鑑の標本のデータでは、春型は3月中旬、夏型は7月下旬と8月上旬になっていた(何れも1992年の採集)。おそらくその時期が、春夏それぞれの最盛期だったと推測される。
成虫の生態に関しては特に記されているものは無い事から、日本のキアゲハとさしたる違いは無いかと思われる。すなわち、♂は山頂や尾根、草原などの開けた場所で占有活動し、また湿った地面に吸水に集まる。♂♀ともに花に吸蜜に訪れるといったところだろう。

 
【幼虫および食餌植物】

台湾のサイト『DearLep 圖錄檢索』によれば、食樹は Peucedanum formosanum 臺灣前胡。
和名は、調べたら「タイワンカワラボウフウ」となっていた。あれれー❓、「OTTOの蝶々ブログ」では、食樹はタイワンサイコってのになってたぞ。
探してみたけど、タイワンサイコでは該当するものは見つからなかった。ワケわかんねえよ(‘ε’*)

タイワンカワラボウフウは、セリ科のカワラボウフウ属(formosanum)に含まれ、早田文蔵氏によって記載された。亜種はどうやら無いようだ。台湾のサイトには特有種とあるので、おそらく台湾特産の植物だろう。分布は全島中低高海拔山區と書いてある。つまり標高が低い所でも見られるようだ。これは意外だった。ならばキアゲハも低山地でも普通に見られて然りなのにね。
んっ(・。・)?、いや、それは間違いだわさ。
台湾は亜熱帯ということをすっかり失念してたよ。キアゲハは基本的に温帯から寒帯に棲むチョウだ。台湾の低地では暑すぎて生息できないに違いない。沖縄など南西諸島に分布しない事からも、それは窺える。

 
【タイワンカワラボウフウ】
(出展『生物多様性研究中心』)

(出展『福星花園』)

(出展『随意窩日誌』)
 
 
絶滅に瀕している植物かと思いきや、そうでも無さそうだ。特にそういう記述を見つけられなかったと云うのもあるが、ネットで意外と画像が拾えるからだ。
この植物の減少が台湾のキアゲハの絶滅に大きな影響を与えたとばかり思っていたが、そうじゃなかったらワケわかんねぇぞ。
でも、二番目に示した出展の画像は「福星花園」ってあるよね。画像が多いのは一部で栽培しているのかな? それともコレって植物園で、保護・育成してるのかな?

丹念に調べたら、どうやら食用として栽培されてる事がわかってきた。中国でだって栽培されてるようだ。ならば、益々エサにはそんなに困らないんじゃないの? 或いは最近になって栽培され始めたのかもしれない。だとしたら、何てバッドにタイミングの悪い蝶なんだろう。不幸すぎる。

いやいや、待てよ。果たしてそんな結論でいいのか❓
冷静に考えてみれば、栽培されるくらいだから過去を含めてもそんなに珍しい植物だとは思えない。「絶滅危惧種が栽培されて増え、食用となりましたー。めでたし、めでたし」なんて話、聞いた事がない。そもそもが弱くて栽培も難しいから、絶滅危惧種になるんじゃないの?
もしかして食草はこの臺湾前胡ではなくて、OTTOさんの言うとおりタイワンサイコなる植物だったりして…。
でも、ブログの記事内にはタイワンサイコとしか書いてなくて、学名も漢字名も示されていない。他にヒントも無い。だから、これ以上探しようがないのだ。
謎は深まるばかりだよ(-“”-;)

因みに、台湾の北部と東部の沿岸地域には「日本前胡」という極めて近似の植物があるそうだ。

 
【日本前胡】 

(出展 2点共『随意窩日誌』)

 
タイワンカワラボウフウとソックリで、判別は困難らしい。しかし、タイワンカワラボウフウは中高度の海抜で見られるのに対して、沿岸部に自生することから、標高でだいたいの判別ができるそうだ。
そっか…、やっぱタイワンカワラボウフウは低地には基本的に生えてないんだね。
亜熱帯の海岸ともなれば相当クソ暑いだろう。したがって台湾のキアゲハが、この日本前胡を食草として利用するのには無理があろう。
にしても、山には他にもセリ科植物なんて沢山あるだろうに。そちらに食草転換できなかったのかね?

それはそうと、この日本前胡って和名は何だろ?
サイトには学名が書いてなかったのだ。
ボタンボウフウ(長命草)なのかなあ?(註4)

食草はタイワンカワラボウフウだとして、話を更に前へと進めよう。
「日本産蝶類標準図鑑」に拠れば、日本のキアゲハの幼虫の食餌植物として以下のものがあげられていた。

「ニンジン、ノダケ、ミツバ、ウイキョウ、シシウド、ハナウド、ハマウド、エゾシシウド、オオハナウド、セリ、オカゼリ、イブキゼリ、ドクゼリ、ヤマゼリ、マツバゼリ、ハマニュウ、エゾニュウ、ハマボウフウ、ボダンボウフウ、イブキボウフウ、タカネイブキボウフウ、アメリカボウフウ、ハクサンボウフウ、シラネセンキュウ、カワラボウフウ、イシヅチボウフウ、ミヤマセンキュウ、オオバセンキュウ、ウマノミツバ、イワミツバ、イワテトウキ、シラネニンジン、ノラニンジン、ミヤマニンジン、ヤブジラミ、アシタバ、パセリ、セロリ、トウキ、ミシマサイコ、エゾノヨロイグサなどの各種のセリ科植物を食草とするが、キハダ、サンショウ、イヌザンショウ、カラスザンショウ、コクサギ、カラタチなどのミカン科植物や、ギョリュウ(ギョリュウ科)、フジアザミ、コスモス、ベニバナボロギク(キク科)を野外で食べる場合も知られている。」

いやはや、スゴい数だ。セリ科だけでなく、ミカン科やキク科など、科を跨いで多岐にわたっている。
あっ、ボタンボウフウも入ってるね。日本のキアゲハの幼虫は食うんだね。だから、海岸でも珠に飛んでるのを見かけるんだろう。
それにしても、こんなにあるんだったら、台湾のキアゲハも別な植物を利用しても良さそうなもんなんだけどなあ…。
それに考えてみれば、台湾だってニンジンやセロリ、パセリくらいは栽培しているだろう。ミツバやセリ、ウイキョウ、アシタバだって作ってる可能性がある。中には高原で栽培されてるものだってある筈だ(註5)。それ食えばいいじゃんか❗
なのにタイワンカワラボウフウしか食べないって、どゆこと(;・ω・)❓ 不器用だよなあ。そりゃ絶滅もするわ。
いや待てよ。日本のキアゲハと台湾のキアゲハはきっと別な系統なのだろう。遺伝的には、思っている以上に離れている可能性はある。台湾に長く隔離されることにより独自に進化したか、或いは逆に殆ど進化しておらず、原種に近い古い起源のものなのかもしれない。ゆえに食性だって違うという事は考えられる。他の植物を利用したくとも出来ないのかもしれない。例えばタカネキアゲハは普通のキアゲハとは食餌植物が違うようだ。ブータン高地のものはセリ科やミカン科の植物を与えても食べなかったという話もある。本来的には、食性が狭い種なのかもしれない。日本産は早くに分岐し、独自に進化して食性を広げていったと考えられなくもない。

  
【終齢幼虫】
(出展『そらいろネット』)

 
派手派手のガチャピンみたいだな(笑)
そういえば小学生の頃、ニンジン掘りに行った時にコヤツがいて、とてもビックリした記憶がある。ド派手で気持ち悪くて、激引きでしたわΣ( ̄ロ ̄lll)
因みに画像は台湾産のものではなく、日本産のものである。台湾産の幼虫画像が見つけられなかったのだ。藤岡図鑑によると、ヨーロッパ産から日本のものまでは、幼虫形態がほぼ同じだというので使用しやした。

 
【ヨーロッパキアゲハ Papilio machaon machaon】

(同 裏面)

 
原記載に使われたスウェーデン産の標本写真が無かったので、とりあえずスペイン産を図示しておいた。

  
(終齢幼虫)
(出展『pyrgus.de』)

 
たしかに日本のものとさして変わらない。
しかし、アフリカや北米のものは形態的にかなり違うようだ。面倒くさいが、ここまでくれば徹底しようではないか。長いが藤岡図鑑から抜粋要約しよう。
え~いι(`ロ´)ノ、この際だ、幼虫の画像も探してきて添付しちゃうぞー❗

 
「ヨーロッパでは日本と同様にセリ科を広く食するが、ミカン科も食している(Riley&Higgins 1970)。
アフリカのサハラキアゲハはヨーロッパと食性が異なり、ヨーロッパでキアゲハが好むセリ科のFerulacommuやFoenniculum vulareを食わないようで、これがアフリカ産のキアゲハを別種とする根拠の一つとなっている(Larsen 1984)。
アフリカのキアゲハとヨーロッパのキアゲハでは幼虫の色彩のパターンも全く異なり、ヨーロッパ産は日本と殆ど同じであるが、アフリカのサハラキアゲハは白黒の横縞に加え、気門線と背線の両側にオレンジ色の点列があり、キアゲハよりも別種コルシカキアゲハに似ている。」

 
【サハラキアゲハ Papilio saharae】

(同 裏面)

 
少し違うが、見た目は間違いなくキアゲハだね。

 
(終齢幼虫)
(出展『wildisrael.com』)

 
幼虫は見慣れたキアゲハの幼虫とは全然色が違うし、細かいところも違うから、別種とされるのも頷ける。

 
【コルシカキアゲハ Papilio hospiton】

(同 裏面)

 
分布は地中海のコルシカ島とサルディニア島。
従来はワシントン条約の1類に指定され、採集や売買が禁止されていたが、最近1類から外されたと聞いている。島には沢山飛んでるらしいから、解除されたのかなあ?でも、採ってもOKになったのかはワカンナイ。

おぼろ気な記憶だと、キアゲハの中でも原始的であると云う見解を聞いたことがある。言われてみれば、そんな気もするような見てくれではあるよね。

ところで、学名の「hospiton」って、これも医療関係❓病院とかって意味かなあ?
語源はおそらくラテン語の「hospes」だろう。
でも、この言葉は「Hospital」の他にも「Hotel」や「Host」の語源でもあるんだよね。hospesの意味は、客=おもてなし。だから、皆そこから派生した言葉なんだよね。
まっいっか。んな事、どっちだってよくなってきた。

 
【終齢幼虫】
(出展『nkis.info』)

 
確かにキアゲハの幼虫とは全然違うわ。アゲハチックに見えない。まるで蛾の幼虫だ。これまた別種とされて当然だろう。
因みにコレに見た目が近いものに、他にトラフキアゲハ(チチュウカイトラフアゲハ)の幼虫がいる。

 
【トラフキアゲハ Papilio alexanor】
(出展『butterflycorner.net』)

 
分布はイラン付近から中東、ギリシア東岸部、イタリア南端部、シチリア島、フランス・プロヴァンス地方。
パッと見はアメリカ大陸のトラフアゲハに似てるね。

 
(終齢幼虫)
(出展『by Heiner Ziegler』)

 
サハラキアゲハとキアゲハを混ぜたような幼虫だ。
幼虫の食草がキアゲハと同じくセリ科(パセリ、フェンネルなど)で、成虫・幼虫ともにキアゲハに似ている事から、長らく同じキアゲハ種群に入れられてきたようだ。
しかし、遺伝的にはキアゲハともトラフアゲハとも違う独立したモノだという。他に近い種が無く、原始的なものであるらしい。
これはカッコいいし、採ってみたいなあ(*´∀`)

「またラーセンが P.machaon に分類しているアラビア半島・オマーンのキアゲハssp.muetingiはオレンジ色が薄く、ヨーロッパや日本とはかなり違ったものである(Larsen 1983)。
ヒマラヤのキアゲハが飼育された記録は知らないが、ブータンの短尾タカネキアゲハの卵から孵化した1齢幼虫は、セリ科もミカン科も食さなかった(原田基弘 未発表)。」

残念ながら、アラビア半島のssp.muetingiの幼虫とタカネキアゲハの幼虫画像は見つけられなかった。

 
お次は北米のキアゲハ。
 
「アメリカのキアゲハの食性は、キク科Artermisia horregica、A.dracunculus frigidus。セリ科ではHelacleum lanatum、Zizia apteraと2科6種が知られているにすぎない。地域毎に何を食草とするかが異なり、ssp.brevicaudaはセリ科の8種を食し、ミカン科とキク科にも産卵するが、幼虫が食した記録はないようである。アメリカのキアゲハは、ヨーロッパのようにミカン科を食べないが、ヨーロッパでは食わないキク科を主たる食草の一つとしている。
幼虫の色彩と斑紋も多彩な地理変異があり、五十嵐(1979)、タイラ(Tyleret.al.,1994)によると、終齢幼虫の色彩はbrevicaudaが日本と同じ緑と黒なのに対し、aliskaは黒の中にクリーム色の細い縞、oregoniaは黒の中にオレンジ色の縦縞が入り、bairdiiは黒と空色の縞で、黒の中に白の縦縞が入る。幼虫の地理変異の亜種間類似性は、成虫の斑紋の地理変異と一致していない方が多い(Scott 1986)。」

 
【Papilio machaon aliaska】

(同 裏面)

 
分布はアラスカなど北米大陸北部。
この辺りのものは、ユーラシア大陸のキアゲハに近い種類だと考えられてきた。しかし、アメリカ産キアゲハの遺伝子解析について書かれた論文を読んでいないので、どこで線引きがあるとか詳しいことは分からない。

 
(終齢幼虫)
(出展『Butterflies and Moths of North America』)

 
見慣れたキアゲハの幼虫とは違うね。
いや~ん(*´∀`)、むちむちのブリブリさんだー。

 
【Papilio machaon Oregonia】

(同 裏面)

 
和名にオレゴンキアゲハの名がある。
オレゴン州の州蝶にも指定されているらしい。

 
(終齢幼虫❓)
(出展『wikimedia』)

 
幼虫はコレかどうかワカンナイ。らしきものを一応載せただけなので、間違ってる可能性もあります。

 
【Papilio machaon bairdii】

(同 裏面)

 
メキシコ国境辺りにまで分布しており、成虫は黒いキアゲハだ。初めて存在を知った時は北米には黒いキアゲハがいるだなんて思いもよらず、かなりの衝撃だった。
しかし、日本でも極く稀に黒いキアゲハが見つかっているから、種に黒くなる遺伝子が元々具(そな)わっているのだろう。何かのキッカケで、そのスイッチが入ると黒化するんだろね。
黒化するのは、毒を持つアオジャコウアゲハに擬態しているからだろうと言われている。北米ではそれがスイッチになったんだね。南へ行けば行くほどアオジャコウが多いので、それに伴って黒いタイプの割合が増えていくらしい。

 
(終齢幼虫)
(出展『Rising Butterflies』)

 
ssp.ariskaの幼虫に似ているね。
数多くの幼虫画像を見ていると、色んなヴァリエーションがあるように見受けられる。北米のキアゲハの幼虫は、同じ場所でも色んなフォーム(型)がいるのかもしれない。各亜種の分布境界地帯辺りでは、中間型も含めて多種多様なタイプが現れる事は考えられる。となると、幼虫形態は同定には参考程度にしかならないかもね。

 
比較の為に、アオジャコウの画像も添付しておこう。

 
【アオジャコウアゲハ Battus philenor】

(同 裏面)
(出展『MABA Fauna』)

 
キアゲハの仲間のみならず、タテハチョウなど多くの種類が、このアオジャコウに擬態しているそうだ。
憧れのダイアナヒョウモンの♀なんかも、コヤツに擬態してんだろなあ…。

キアゲハの幼虫ばっか見てると、段々免疫が出来てきたようで、気持ち悪さがだいぶと薄れてきた。
今や、ちょっと可愛いかも(・。・)、とさえ思い始めている。
 
近縁の別種であるヤンキーキアゲハの幼虫くんも、ついでにいっとこう。
 
「ヤンキーキアゲハ(Papilio polyxenes)の西側亜種であるssp.zelicaonはセリ科及びミカン科を広く食し、スコットは食草としてセリ科46種、ミカン科3種を挙げている。東側亜種(ssp.polyxenes)もセリ科33種、ミカン科4種を食し、キアゲハに比べて食草の選択は広いが、キク科は食さない。」

 
【Papilio polyxenes polyxenes 東側亜種】
(出展『Canadian Biodiversity Infomation Facility』)

(出展『SciELO Colombia』)

 
黄色いのから黒いのまで色んなフォームがあるんだね。

 
(終齢幼虫)
(出展『The Childrens Butterfly Site』)

 
ヤンキーキアゲハ(別名クロキアゲハ・メスグロキアゲハ)もアオジャコウアゲハに擬態しているとされ、分布はさらに南に広く、中南米にまで達している。
キアゲハの中から擬態と暑さに順応したものが、分岐、進化してきたものかもしれないね。

 
【Papilio polyxenes zelicaon 西側亜種】

(同裏面)

 
ユタ州のもので、超キアゲハ的な見た目である。
これを見て、すぐにヤンキーキアゲハだと答えられる人は少ないだろう。

こちらも黒いのがいる。

 

(同 裏面)

 
これまたユタ州のものである。
同所的に黄色いのと黒いのがいるのかよ❓
頭が混乱してきたが、♀がアオジャコウに擬態してて黒くなるって事でいいのかな?

 
(出展『Utah Lepidopterists’Society』)

 
ようするに、西側は色んなタイプが入り乱れてるんだね。コレにキアゲハの亜種も加わってくるから、現地に行ったらワケわかんねぇだろなあ…(-“”-;)

 
(終齢幼虫)
(出展『PBase.com』)

 
ヤンキーキアゲハの幼虫もアメリカのキアゲハの幼虫も一緒じゃん❗
コレって、果たして別種なのー(◎-◎;)❓

調べたら、自然状態でも雑種が見つかるらしい。それ見た事か!と思ったが、雑種が見られるのはあくまで一部の地域であり、多くの地方では交雑しないという。
交配実験でもF1の雑種は作れるものの、第2世代のF2は基本的には出来ないみたいだ(戻し交配は出来るようだ)。と云うことは、かなり近縁ではあるが別種ということか…。

藤岡さんは幼虫に関しては言及していないが、実をいうとアメリカには、もう1種類のキアゲハ系統の蝶がいる。コヤツも間違いなくキアゲハの仲間だろう。

 
【Papilio indra】

(同 裏面)

 
小型で黒いのが特徴だ。
和名にタカネキアゲハを使用しているサイトがあるから、アジアのタカネキアゲハと被っててややこしい。
それはさておき、タカネ(高嶺)とあるし、小型な事からもおそらくは高地に棲む種類だと推測する。何らかの理由で高地に追いやられた(或いは取り残された)ヤンキーキアゲハが独自に進化したものなのかな❓
調べりゃワカルかと思うが、本題からこれ以上脱線したくないので、興味のある人は自分で調べてね。

 
(終齢幼虫)
(出展『Butterflies and Moths of North America』)

 
キアゲハの幼虫に、サハラキアゲハやトラフキアゲハの幼虫のテイストを混ぜたような見た目だ。
緑色とオレンジや黄色の組み合わせは、まだボップな気がして可愛いが、この手の白とかピンクと黒の組み合わせは受け容れ難い。蛇やウミヘビに通ずるところがあるからだ。わたしゃ、ヘビが大の苦手なのさ。
とはいえ、生き物たちの進化の過程を想像させてくれる多様な変化(へんげ)は面白い。興味が尽きない。

 
最後に藤岡さんはこう締め括っておられる。

「以上要するに、キアゲハの斑紋は極めて地理変異に富んでいるが、幼生期の色彩と食性にもそれ以上に複雑な地理変異があり、しかもそれらの大部分は未調査で全容は未知と言えよう。」

そもそもは台湾のキアゲハの話だから、これ以上はツッ込まないけど、ヤンキーキアゲハも含めて全部キアゲハ(P.machaon)だとする学者もいるんだろなあ…。
一方、ヤンキーキアゲハの両亜種をそれぞれ別種としているサイトもあるから、キアゲハの亜種全部とは言わないまでも、相当数を別種だと考えてる研究者もいそうだ。
アジアでさえ頭がこんがらがっているのに、益々ワケわかんないや。
キアゲハの世界って奥深いなあ…。

 
色々書いているうちにフッと思い出した。
不意に微かな記憶が甦ってきたのである。
2016年、初めて台湾を訪れた時の事だった。着いて、二日目が三日目だったと思う。標高1900m付近でアゲハみたいな影を見た記憶が微かに残っている。一瞬の事で、木の梢の向こうにあっという間に消えたし、かなり遠くだったからキアゲハだったと言い切る自信は全く無い。ただのナミアゲハだったかもしれない。或いはオナシアゲハとかリュウキュウアサギマダラとかの他のチョウだった可能性もある。再度強調するが、何せ距離は40、50mくらいは離れていたし、一瞬の出来事だったのだ。それに、当時は台湾でも日本と同じくアゲハやキアゲハは普通種だと思ってるから、ほぼ無視だろう。そんなの真面目に見ていないのだ。だから記憶として鮮明にメモリーされにくい状況にあったとは言えよう。普通種の映像メモリーなんて要らないから、脳ミソはソッコー消去なのだ。
とはいえ、ナミアゲハやオナシアゲハだったとしたら、標高が高過ぎる。両種は垂直分布がもっと低い。その標高でもいる事もあるだろうが、遭遇率は決して高くはない。

じゃあ、あれはいったい何だったのだろう❓
陽炎立つ尾根で、白昼夢でも見ていたのかもしれない。

目を閉じる。
キアゲハの幻影と共に、あの青い空と緑の稜線が瞼の裏にゆっくりと浮かびあがってきた。
今もキアゲハは台湾の山奥の何処かで人知れずひっそりと生きているに違いない。
 

                  おしまい

 
追伸
谷関の道路が開通すれば、きっとキアゲハもマレッパイチモンジも見つかる筈だ。谷関から東側へと抜ける道が何十年振りかに一部開通したと云う噂もある。
幻のマレッパイチモンジとキアゲハに会いにいく旅って、浪漫を感じるなあ…。

冒頭にキアゲハを取り上げた理由をグダグダと書いたが、実を言うともう一つ候補があって、どちらにするか迷っていた。
しかし、福井にギフチョウを採りに行った際に偶々(たまたま)キアゲハに出会い、改めてその美しさに感銘したのがダメ押しとなった。

 

 
普通種である事を除(の)けて純粋な目で見れば、その美しさはギフチョウと甲乙つけ難いと思う。もしも、ギフチョウと同じくらいの珍しさで年1化であったならば、春先の蝶の人気を二分していたかもしれない。個人的には、裏側のデザインと全体のフォルム(翅形)はギフチョウよりも美しいと思う。

今回は書き始めてから完成まで二週間近くかかった。
調べれば調べるほど泥沼化していったんだよね。カラスアゲハの回よりかはマシだったけど、難産だった。最悪である。解説文が多くてストレスが溜まるし、疲れたよ。図鑑の解説文が時に数式に見えたくらいだよ。図鑑の文章は面白味が無くて嫌い。
いつも書きたいから書き始めるんだけど、結局、文章を書くのがバカバカしくなってきて暗擔たる気分になる。こんな文章、所詮は生産性が極めて低いのだ。
赤ん坊はもう疲れたよ、サヨナラをするよ。

  
(註1)尻の感じからすると
キアゲハの♀は♂と較べて尻先が尖る傾向にある。

(註2)藤岡大図鑑
藤岡知夫『日本産蝶類及び世界近縁種大図鑑1』

(註3)ヒポクラテスの誓い
医師の職業倫理について書かれた宣誓文で、世界中の西洋医学教育において長きに亘って教えられてきた。
内容は、金銭的報酬だけを目的に医療を施したり医学を教えたりすることを戒め、人命を尊重し、患者のための医療を施すこと、患者等の秘密を守る義務などについて述べられている。

(註4)前胡=ボタンボウフウなのかなあ?
前胡の学名は、どうやらPeucedanum japonicumみたいだ。で、やっぱ和名はボタンボウフウでした。

ボタンボウフウ Peucedanum japonicum
本州中部以西、四国、九州、琉球、朝鮮南部、中国、フィリピンに分布する。
沖縄県では長命草、サクナと呼び、葉を和え物、薬味などの食用に利用する。

食べたことあるけど、結構美味しかったような記憶がある。台湾では食べないのかなあ?

(註5)高原で栽培されてるものだってある筈だ
セリ科ではないけれど、標高2500mにキャベツ畑があった事を思い出した。だからニンジンやセロリなんかも高地栽培しててもオカシクないと思うんだよね。でも農薬かかってたら、あきまへんなー(_)。
生きのびるのは、そう容易くはないのだ。
 
追伸の追伸
脱稿後、タイワンキアゲハの食草について新たなる情報を得たので、続編を予定しています。

 

初たけのこ

 
実を言うと、10日程前に既に今年初の筍は食べている。
この時期はまだまだお高いので中々買えないのだが、小振りの奴がおつとめ品で¥248だったのだ。

糠を入れ、圧力鍋でコトコトと弱火で1時間半ほど茹でた。最近は鷹の爪は入れない。一度入れ忘れたことがあるんだけど、有っても無くても変わらないと思ったからだ。火を切り、そのまま一晩放置。翌日に調理する。こうした方が、筍の香りが逃げないような気がするからそうしてる。

迷うことなく、若竹煮にした。
獲れたてをそのまま豪快に焚き火にブチ込む焼きタケノコが一番美味いのだが、そんな事は家では中々出来ない。家事になるわい(#`皿´)❗
(;・ω・)「タケノコ焼いても、家焼く」なである。
あっ、それって焼肉だわさ。
だいち、しおつとめ品だ。そこまでする程のクオリティーのタケノコではない。頑張ったところで、努力に味が釣り合わない。となると、若竹煮になるのは自明の理じゃろう。

切り分けた筍を薄味の出汁で、弱火で沸騰させないようにじっくりと煮る。仕上げに生の若布を入れて出来上がり。
でも、丁度そのタイミングで電話がかかってきた。
火を切ってはいたのだが、結果、ワカメがヘドラみたいにドロドロに。

 

 
見てくれは悪くなったが、それはそれで嫌いじゃない。旨みがアップして美味いのだ。
最後に、木の芽を軽く叩いて添える。

ほっこりとした香りと仄かな苦みに舌鼓を打つ。
すかさず、冷やの日本酒を口にふくむ。

春ですなあ……(´∇`)

                 おしまい

 
追伸
翌日はヘドラたけのこを活かして、粒山椒を入れてグチャグチャにしてみた。

 

 
見てくれはさらに悪くなったけど、これが予想外に旨いんだよなあ~(´∇`)