2018′ カトカラ元年 その四

  『ワタシ、妊娠したかも…』 

   vol.4 コガタキシタバ

 
 
『ワタシ、妊娠したかも…』と彼女は言った…。

 
正直言うと、コガタキシタバは最初に採った時の記憶があまりない。

 
【コガタキシタバ Catocala praegnax ♀】

 
(裏面)

  
場所は矢田丘陵なのは間違いないが、細かいシチュエーションの記憶が殆んどないのだ。確認すると、日付は7月10日となっている。

小太郎くんが『あっ、コガタキシタバですよ。まだ採ったことないでしょ。採らないんですか?』と言って、『ワカッター、じゃあ一応採っとくー。』的な会話があったような気もするが、定かではない。

当時のFacebookにあげた記事を遡ると、こんな風に書いてあった。

『たぶん、コガタキシバかな?
だとしたら、採ったことがないから素直にちょっと嬉しい。
なのに蝶じゃないから、触角はアグレッシブに天突く怒髪天にしてみた。蛾の展翅は知らない分だけ自由な感性で勝手にやれるからお気楽。』

これだけである。
しかも、展翅写真もこの♀だけしか残されていない。
稀種じゃないから、この1頭しか見てない筈はないんだけど、無いと云うことは興味があまり無かったのだろう。パタラキシタバ(=キシタバ Catocala patala)を小型にしたような奴で、特別個性を感じなかったのかもしれない。
いや、たぶん1頭採れれば充分だと思ったような気がする。デブだしさ。
ワモンキシタバの回で、フシキキシタバ、ワモンキシタバと美しいカトカラが続いたから、完全にカトカラにハマっとか書いたが、よくよく考えてみればアレって嘘である。全くの嘘ではないが、正直ムラサキシタバとカバフキシタバ、シロシタバ、ナマリキシタバ辺りにしか興味はなかった気がする。ようは、根がミーハーなんである。美しいカトカラは採りたいと思ったが、他はどうでもいいやとでも思っていたのだろう。

 
【分類】
ヤガ科(Noctuidae) シタバガ亜科(Catocalinae)
カトカラ属(Catocala) Schrank, 1802

 
【学名】
Catocala praegnax praegnax(Walker,1858)

ネットで最もポピュラーなサイトである jpmoth(みんなで作る日本産蛾類図鑑)では、aegnax が2つ連なってるから、たぶん日本のものが原記載亜種なのだろう。

( ̄▽ ̄;)あれっ❗❓
でも『世界のカトカラ』には「日本のものは亜種 olbiterata Menetries 1864とされる。」とあった。おそらくコチラが正しいかと思われる。
おいおい、jpmoth(みんなで作る日本産蛾類図鑑)っていい加減だなあ。ワモンキシタバの学名も変わってないしさあ。蛾を名前検索したら、大概は一番先に出てくるサイトなのに問題有り有りだよ。

ゲゲッΣ( ̄皿 ̄;;、『原色日本産蛾類図鑑(下)』では、亜種名が esther(Butler)となっている。ワケわかんねえや。
まあ、『世界のカトカラ』が一番新しい図鑑だから、その亜種名が正しいんだろね。それに著者の石塚さんはカトカラの世界的研究者だからね。

「praegnax」の語源をネットで調べてみたら以下のようなものが出てきた。

・妊娠した,(…で)充満して,意味深長な,含蓄のある,示唆的な,工夫に富む。

・ラテン語 prae-(前の)+gnascor(誕生する)+-ans(状態)>genh-(産む)が語源。

・「出産までの状態」がこの単語のコアの意味nation(国家)と同じ語源をもつ。

一番アタマの「意味深長な,含蓄のある,示唆的な,工夫に富む。」辺りが語源と言いたいところだが、圧倒的に出てくるのは妊娠なので、となると「妊娠した」が語源になるのかなあ…❓デブで腹ボテだから❓

 
【和名】
コガタキシタバというが、それほど小さくはない。フシキキシタバなんかと同じくらいの大きさだ。『原色日本産蛾類図鑑(下)』には開張50~58㎜とある。となれば、中型のカトカラだ。
これは多分、パタラキシタバに似ていて、それと比べて小型だからということから名付けられたのだろう。
大きさを除けば、確かにパッと見は両者はよく似ている。少なくとも初心者にはそう見える。

 
【パタラキシタバ Catocala patala 】

 
両者の幼虫の食餌植物(マメ科フジ)も重なるところがあるから、きっと兄弟とか姉妹だと考えたんだろね。
しかし、近年の遺伝子解析の結果、両者に類縁関係はないようだ。他人の空似ってヤツだね。
確かによく見ると、下翅の柄もかなり違う。馬蹄形の形が異なるし、パタラキシタバと比べて帯が細く、橙黄色の部分が広い。あと、上翅の色柄も明らかに違う。コガタキシタバの上翅はバリエーションに富むが、パタラキシタバみたいに緑色を帯びることは基本的にない。
今にして思えば、この頃はまだ初心者で、黄色い下翅のカトカラは全部同じに見えたんだね。だから黄色系のカトカラは、一見して区別できてカッコいいカバフキシタバやナマリキシタバくらいにしか興味がなかった。

因みに、昔は「コガタノキシタバ」という名前だったみたい。実際、自分の見た『原色日本産蛾類図鑑(下)』の古い版でもそうなってた。

 

 
これって名前を耳で聞いたって、それが果たしてコガタノキシタバを指しているのか、それとも小型のキシタバ(パタラキシタバ)を指しているのかがワカンナイ。改名は妥当だね。

 
【分布】
北海道、本州、四国、九州、対馬、種子島、屋久島。
国外では、中国、台湾、朝鮮半島、ロシア沿海州にも分布しているようだ。

 
【レッドデータブック】
滋賀県が要注目種にしている程度なので、そう珍しいものではないと思われる。
しかし『世界のカトカラ』では少ないとあるし、『日本のCatocala』でも同じようなニュアンスの記述があった。
でも近畿地方では、何処にでもそこそこいると云う印象だ。但し、パタラキシタバみたいにクソみたいに沢山いると云うワケではない。どこでも、いくつかは見るって感じだ。これは後述する幼虫の食餌植物と関係があると思われる。

 
【成虫出現期】
『世界のカトカラ』では6月中旬から出現し、9月上旬まで見られるとある。一方、『日本のCatocala』には「近畿地方では6月下旬から既に得られるが、一般には7~8月に多い。」とあった。だが、近畿地方では6月中旬には見られる。
順番で云うと、フシキキシタバに少し遅れて発生する。そして両者が同時に見られる期間も短いながらあるようだ。実際、2019年の6月17日は両方が半々くらい樹液に訪れていた。
また『日本のCatocala』によると、寿命は比較的短く、室内飼育だと3週間だったようである。近畿地方では7月中旬ともなると汚損した個体が多いので、寿命はそんなもんなのかもしれない。

  
【生態】
クヌギやコナラなどの樹液によく集まる。糖蜜トラップにもよく来た。飛来時間は日没後、比較的早く現れる印象があり、深夜まで断続的に飛来する。
成虫は昼間、頭を下にして樹幹に静止しており、飛翔➡着地時は上向きに止まり、しばらくして下向きになるという。
毎度言うが、何で昼間はわざわざ逆さまに止まるの❓
全然、理由が思いつかない。

 
【幼虫の食餌植物】
jpmothには「ブナ科コナラ属:ミズナラ、ナラガシワ(※KD)、マメ科:ハギ属、フジ属」とあった。
やっぱ、jpmoth はダメだな。間違ってはいないが、順番がオカシイ。東日本では最も好むのがマメ科のハギ類で、次に続くのが同じマメ科のフジのようだ。ブナ科を利用しているのは西日本だけで、東日本ではブナ科から幼虫は発見されていないという。また飼育しても幼虫は摂食しないそうだ。
この辺が東日本では個体数が少なく、西日本では多い原因なのかもしれない。

 
全然関係ない話だけど、学名 praegnax の語源を調べてて、突然、フラッシュバックで記憶が甦った。
大学時代の彼女が何でもない会話の途中で、急にワッと泣き出して『ワタシ、妊娠したかも…。』と言った事を思い出した。青天の霹靂。あれはフリーズしたね。
脳が真空状態みたいな感覚で『おまえが産みたいなら、いつでも父親になる覚悟はあるよ。』とか何とか言った覚えがある。
結局、妊娠はしてなかったんだけど、でも今思えば、あの時に彼女が本当に妊娠してて、学生結婚とかしてた方が幸せだったかもしれない。

 
                 おしまい

 
追伸
ものスゴい実験的な入りからの終わりになっちゃいましたなあ。
まあ論文じゃないんだから、こういうのもあっていいだろう。それに、こんなの読んでる人、少ないと思うしさ。

展翅は、この時はそこそこ上手いやんかと思ってたけど、今見ると上翅を上げ過ぎだね。50点。
今年2019年は上翅を少し下げてみた。

 
(2019.6.17 西宮市名塩)

 
結局、怒髪天にはなってるけど(笑)
因みに性別は♂である。♂はデブじゃないのだ。
続いて♀。

 

 
妊娠しとるやないけー(ー。ー#)

 

続・キシタバ

 
  『黄下羽虐待おとこ誕生』

 
2019年、カトカラ二年生のキシタバとの再会は、6月21日だった。

 
【Catocala patala キシタバ♂】

 
場所は大阪府池田市にある五月山公園。
目的はウスイロキシタバの探索だった。しかし全然飛んで来ず、暇をもて余しているところにキシタバが飛んで来た。ワテの糖蜜トラップに誘引されたのである。
それにしても、久し振りに見るとやっぱデカい。

ケッ、ただキシタバか(# ̄З ̄)…と思いつつ、一応採ってやるかと近づいたら、敏感に反応して逃げた。
(#`皿´)クソッ、キシタバ風情が生意気にも逃げやかって。オイちゃん、イラッ(ー。ー#)ときたね。

書いてると何かこのキシタバと云う名前、ウザい。
前回も言ったが、キシタバと云う名前は羽の下が黄色いカトカラの総称としても使われる事が頻繁にあるので、ややこしいのだ。例えば、誰かと採集に行った折りなどは一々「ただキシタバ」とか「普通キシタバ」と言いなおさなければならないケースが多い。これが誠に鬱陶しい。だから最近では「糞キシタバ」と呼んでいる。因みに小太郎くんは「屑キシタバ」って呼んでる。何れにせよ、どこにでもいるから、こないな扱いになる。
んなワケで、以降キシタバのことをその学名である Catocala patala からとって、パタラキシタバと呼ぶことにしよう。ついでに言っとくと、コモンセンスからの「コモンキシタバ」も考えたが、コモンを小紋と取られかねない。オデなんかアホだから、蝶の「コモンタイマイ」のことをずっと「小紋タイマイ」と思ってたもんね。ゆえに却下。

以後、飛んできては逃げ、また飛んできては逃げが三、四度繰り返された。こうなるとハンターの血が🔥燃える。昔からナメられることが死ぬほど嫌いな男なんである。何としてでもシバき倒すと決意した。おどれ、ナメとったらあかんど、Σ( ̄皿 ̄;;シャーき倒したるど、ワレーである。

最後は逃げた瞬間に空中で豪腕の振りでシバキ倒してやった。ワシの鬼神の如き本気の網振りをナメとったらあかんど。おとといきやがれの、ざまあ見さらせである。
その時に採ったものが上の個体である。羽化したてのような新鮮な個体で、まだ前脚がもふもふだったので展翅はその前脚を思いきり出してやった。

以下、今年採って展翅したものを並べよう。

 

 
これも♂である。採集場所は奈良県大和郡山市。下の4つも同じ場所だ。

メスはこんなん⬇

 

 
デブである。だから糞キシタバ、もといパタラキシタバはあまり好きになれない。いつもより展翅写真か少ないのも、邪魔だからコレだけしか採っていないのである。
それにデカくて何処にでもいるからウザい。ウザい上に、樹液に飛来した時などは他のカトカラを蹴散らすから腹が立つ。
この大和郡山の時も小太郎くんが邪魔だと言って、思いきり指でデコピンしてた。フッ飛んだキシタバは地面でひっくり返って、ビビッ、ビビッと痙攣してた。
キシタバ虐待おとこの誕生である。

『アンタ、酷いことすんなあ。糞キシタバとはいえ、それって虐待やでー。』
『大丈夫ですよ、コイツら。そのうち生き返りますよ。クソ邪魔だから、いいっしょ。』

こないだのカバフキシタバの時も、樹液や糖蜜トラップに来た糞キシタバに指でパチキかましまくっとった。
どうした小太郎くん、何かあったのかね❓ キミの心の中の深い闇を見たような気がするよ。
小太郎くんはマジメで優しく、穏やかな青年とばかり思っていたが、彼にも時に邪悪なものが憑依するのだね。
でも許す。確かにカバフ様を蹴散らす糞キシタバは邪魔だ。退治してよろし。

そして、一昨日の大発見の折りも糞キシタバをことごとくデコピンしてた。挙げ句の果てにはコッチに投げてきやがった。小太郎くん、キミの心の闇はそんなにも深いのか…。

『おいおい、キミの心の闇は、どんだけ深いねん❓』
『いやあ、コレって力の入れ加減がケッコー難しいんですよ。でも、下はあらかた屑キシタバいなくなったでしょ。』

そうなのだ、この日はオラが斜面の上にいて、小太郎くんが下にいたのだ。
確かに見ると、幹の下側にはキシタバは一つもいない。
でも、許す。この日は糞キシタバ、もといパタラキシタバがブンブン飛んでて、それに刺激されて他のカトカラも飛び回って中々止まってくれなかった。スゲー、ウザいから、ブチのめしてくれてケッコー。どんどんおやりなさいだった。

そんな小太郎くんだが、今日は来られないらしい。
ならばオイラも、今日は心を鬼にして黄下羽虐待オトコと化してやるか。
 

                 おしまい

 
追伸
もちろん、そんな悪いことはしません。だってオラ、心の闇なんて無いもーん(⌒‐⌒)

おーっと、裏展翅もしたんだった。

 
【裏面】

 
表は黒帯が太くて黄色い領域が狭いけど、裏はかなり黄色い。だから飛んでるとこを下から見ると、たまーにアケビコノハと間違える。いや、アケビコノハをキシタバと間違えると言った方が正しいか(笑)

 

2018′ カトカラ元年 その參

 

『頭の中でデビルマンの歌が流れてる』

     vol.3 キシタバ

 
 
 2018年 7月4日 黄昏。

いつものように階段を登ってたら(註1)、5Fのエレベータ前の壁に結構大型の蛾が止まっていた。
遠目に見て、どうせ糞フクラスズメだろうと思って近づこうとしたら、飛んだ❗えっ(°Д°)、4mは離れてたのにもう飛ぶの❓
メッチャ敏感やんと思った瞬間に灯火の下で明るい黄色が火花のように明滅した。
!Σ( ̄□ ̄;)WAOっ❗
大阪のド真ん中、難波の自宅マンションにカトカラ❗
嘘やん(@_@;)❗❓こんな都会にカトカラとは驚きざます。
急いで部屋に帰って、興奮しながら殺戮道具の注射器とアンモニア、毒瓶と捕虫網を用意した。

戻ったら、カトカラくんは天井にへばりついていた。
写真を撮ろうかとも思ったが、強烈な逆光だし、いつ住人がエレベーターで昇ってくるやもしれぬ。見つかったら、どう考えても挙動不審の怪しいオジサンだ。
瞬時に悟る。ここは刹那の時間との勝負である。
しかし、一見して手を伸ばしても毒瓶では距離的に届かない。となれば、ネットを出すしかあるまい。
(;゜∇゜)マジっすか❓マンションに虫網男。間違いなく異様な光景だわさ(°Д°)
💓もう心臓はバクバク。💓ドキドキのハラハラだよ。半ば震える手でソッコーで網を組み立てて、エレベーターの階数表示に目をやる。大丈夫だ。1Fに止まったまんまだ。昇ってくる気配はない。いや、そんなのワカンナイぞ。油断大敵だ。いつ昇ってくるやもしれぬ。予断は許さない。

🎵だあーれも知らない 知られちゃいけなーい
🎵デビルマンが だぁーれなのかー
🎵何も言えなーい 話ちゃいけなーい
🎵デビルマンが だぁーれなのかー

頭の中でデビルマンの歌が流れている。
何があっても、この姿をマンションの住人に見せるワケにはいかぬ。驚きと蔑みの冷たい目に晒され、恥にまみれるわけにはいかないのだ。
階数表示を横目に見ながら、💥バチコーン、電光石火で下から網を叩きつけた。
ネットイン❗ 網に蛾を入れたまんま素早く反転する。ソルジャーは機敏でなくては戦場で命を落とす。
撤退❗、てったあーい❗心の中で叫ぶ。
ダッシュで塹壕、いや階段の踊り場へと退却。ここなら上の階からも下の階からもブラインドになって見えない筈だ。もしも誰かがエレベータから降りてきたとしても身を隠せる。
💦あたふた、💦あたふた、慌てて毒瓶に放り込んで、ぷぴゅーε=ε=(ノ≧∇≦ ノ 脱兎の如くその場から逃走だべさ。もうバリバリ犯罪者の気分である。
そこには背徳感とスリル、禁忌を冒す悦楽とが入り交じった興奮がある。そう、悪い事をするのはエクスタシーなのだ。人は悪に惹かれるものなのだ。
あっ、べつに悪りい事はしてねえか( ̄▽ ̄)ゞ

部屋に帰ったら、なんだかバカバカしくなってきて、
笑いが込み上げてきた。大の大人がやってる事にしては、あまりにもアホ過ぎる。
でも、久し振りの面白き((o(^∇^)o))ワクワクでありんした。危地にこそ、アドレナリンやエンドルフィンなどの脳内麻薬物質が溢れる。それこそがエクスタシーだ。虫採りにそれが無くなったら、いつでも辞めてやる所存だ。

コヤツがほぼ何者だかはもう解っているけど、毒瓶の中を改めて確認してみる。
大阪のド真ん中ミナミで捕らえたカトカラは、思ったとおりキシタバだった。

その日のうちに展翅したので、大丈夫かと思いきや、ソッコー触角が折れた。矢張りカトカラの触角は細くて長いので、生展翅でもキチッとお湯なり水なりで濡らしてからでないと折れちゃうのね。
下翅も欠けてることだし、まっ、( ̄▽ ̄)ゞいっか…。

 

 
( ̄∇ ̄*)ゞハハハハハ。
上翅がバンザイになってて、我ながら酷い展翅だ。
恥ずかしいかぎりである。思うに去年はまだまだカトカラの展翅のイメージが掴めてなかった。ほぼ蝶の展翅しかしてこなかったから、触角を含む左右上翅の間の空間が空き過ぎるのが何となく嫌だった。それを避けようとして、無意識に必要以上に上翅を上げてしまう傾向があったのだと思われる。

それはそうと、幼虫は何を食ってこんな都会で育ったんじゃ❓ 疑問に思って調べてみたら、食餌植物はフジとコナラみたい。都会には基本的にコナラは無いから、きっとフジだね。近くの公園に藤棚もあるしさ。
どうあれ都会で人間に捕まるなんざー、普通では有り得ない。捕まるパーセンテージは限りなくメッチャメッチャ低い筈だ。つくづく不幸なキシタバくんだよね。合掌。

実を云うとキシタバに出会ったのは、この時が初めてではない。前年の秋に既に会っている。帝王ムラサキシタバに一度くらいは会っておきたいと思ったので、A木にライトトラップに連れていってくれとせがんだのだ。その時に一応は採っている。

とはいえ、人さまのライトトラップにお邪魔して採集したものだ。自身の力ではない。だからカトカラ採りを始めるにあたって、この時のものはカウントしない事にした。だから、vol.3 なのだ。

マンションでキシタバを捕らえてから数日後、矢田丘陵で又もやキシタバに会った。しかも大量の。
樹液の出ている木に行ったら、その周りの樹木の幹にベダベタと止まっていたのだ。数えたら、30近くはいた。この日は午後9時くらいに訪れたから、おそらく1回目の食事を終えて、憩んでいたのだろう。
10時半くらいからまた樹液に集まりだした。これでカトカラの生態の一端が垣間みえてきた。樹液の出ている木の周囲にはカトカラが止まっているケースは多い。採集する時は、樹液に求むターゲットがいなくとも、周囲を探されたし。それで案外採れる。そんな事、図鑑とか文献のどこにも書いてないけど…。

 
樹液ちゅーちゅー( ̄З ̄)、キシタバくん。

 

 
たくさんいると警戒心がゆるまるのか、スマホでも至近距離で写真が撮れる。
この個体は上翅が緑色っぽくて中々美しい。
この日は採ろうと思えば50くらいは採れたけど、4つくらいで飽きた。
後日、別な場所に行っても必ずそこそこの数がいた。ド普通種なんだと納得じゃよ。

しかし黄色系のカトカラの中では世界最大級種なので、国外での評価は高いらしい。
でもなあ…、慣れてくると、あんま魅力ないんだよなあ。どこでもいるから、段々存在がウザくなってきたというのもある。コレクターは普通種をクズみたいな目で見がちなのだ。それを差し引いても魅力をあまり感じない。なぜなら総体的に上翅が美しくないのだ。柄にメリハリが無いし、基本的には地味な茶色のものが多い。また変異幅も少ない。それに何よりデブだ。デブだから蛾感が強まるし、優美さにも欠ける。ようするに、どこか野暮ったいのだ。

 
【学名】
Catocala patala (Felder & Rogenhofer,1874)

おっ、小種名 patala はオラの大好きなチョウ、パタライナズマ(註2)と同じ学名じゃないか。
patala の語源の由来は、最初は小アジアのリュキア地方南西部の地中海沿いにあった古代の港湾・商業都市パタラ(patara)であり、リュキア連邦の首都だとばかり思っていた。しかし、綴りが違うことに気づいた。語尾はraではなく、laなのだ。
で、再度調べなおし。

パーターラ(pātāla)とは、インド神話のプラーナ世界における7つの下界(地底の世界)の総称、またはその一部の名称の事だそうである。
またこの世界はナーガ(Naga)と呼ばれるインドの伝説と神話に登場する上半身が人間の蛇神の棲んでいる世界だともされてるみたいだ。たぶん、語源はこっちだね。キシタバは上翅が緑っぽいのもいるから、案外蛇神さまになぞらえたのかもしれない。

 
【和名】
このキシタバ(黄下翅)という名前は、カトカラの中で下翅が黄色いグループの土台名にもなっているので、おそらくこのグループで最初に和名がつけられた種だと推察される。まあ、基準種みたいなもんだね。
しかし、これがややこしくて、何とかならんもんかなと思う。なぜなら、このキシタバは下翅が黄色いグループの総称としても用いられることも多いからだ。だから、キシタバと書かれたり、言われたりするそれが、はたしてキシタバ(Catocala patala)という種そのものを指すのか、それともキシタバグループ全体(キシタバ類)を指しているのかが解りにくい面が多々あるのだ。
だから、会話では一々「ただキシタバ(ただのキシタバ)」とか「普通キシタバ」などと言わなければならない。
これが誠にもって面倒くさくて、(-_-#)イラッとくる。そのせいか、最近ではクソキシタバと呼んでいる。もういっそのこと、そのクソキシタバとかデブキシタバと呼んだらどうだと思うくらいだ。
まあそれは無理があるにしても、ホント何とかしてほしいよ。その際、下手に凝った名前やメルヘンチックな名前、カッコつけたキラキラネーム、如何にも学者が考えたシャチホコばった名前は何卒よしてもらいたい。
ここはシンプルに学名そのままの「パタラキシタバ」でいいと思う。もしくはド普通種なんだから、「コモンキシタバ」でも構わない。
パタラキシタバかあ…。名前の響きも悪くない。そう聞くと、途端にカッコよく思えてくるから不思議だ。名前は大事だす。

 
【開張(mm)】
69~74㎜。
日本産キシタバグループの最大種。北米大陸を除く旧大陸では、これと肩を並べる大型種はタイワンキシタバ Catocala formosana くらいしかいないようだ。
だから、他のキシタバとの区別は比較的簡単である。とにかくデカいのだ。しかし、たまに矮小個体がいるので、判別方法を一応書いておきますね。
後翅の黒帯はよく発達し太く、外帯の後縁付近で内側に突起し、中央部の黒帯に接する。他のキシタバ類はアミメキシタバとヨシノキシタバを除き、ここが繋がらない。また、アミメキシタバとヨシノキシタバはキシタバと比べて小型で、上翅の柄も違うので容易に判別できる。

 
【分布】
ネットで最もポピュラーなサイトの『みんなで作る日本史蛾類図鑑(www.jpmoth.org)では、本州、四国、九州、対馬、中国、朝鮮、インドとなっていた。
と云うことは学名からすると、原記載はインドかな?
しかし『世界のカトカラ』では北海道南部にも生息すると書かれている。『原色日本産蛾類図鑑(下)』にも北海道は分布域に入っていた。また、『日本のCatocala』でも北海道に分布する旨が書いてある。地球温暖化のせいか、最近は採集記録が増加しており、定着した可能性が高い云々ともあった。
その言葉尻だと、昔は北海道には分布していなかったのかも。にしても、jpmoth の情報って古いって事だよね。もしかしたらワモンキシタバの学名が以前のままになっているのも、そのせいかもなあ。蛾業界の人は、そうゆうこと誰も指摘しないのかなあ…。

 
【成虫出現期】
その www.jpmoth.org では、7月~8月となっている。
『世界のカトカラ』では、6月中旬から出現し、10月下旬まで見られるとある。また、新鮮な個体は7月中旬頃までだが、秋に新鮮な個体が採れることもあるので、あまり盛夏には活動しないのかもしれないと記述されている。
盛夏に活動しないかもしれないかあ…。中部地方以北では、それも有り得るのかもしれないが、少なくとも去年の関西の知見ではそんな兆候は見受けられず、継続していつでも何処にでもいた。今年も果たしてそうなのかは心に留めておこうと思う。
『日本のCatocala』の解説では、長野での羽化時期は7月以降で、10月まで見られ、11月の記録もあるそうだ。因みに、他の論文からの引用で、岡山県では6月下旬から見られるとの付記もある。
またそこには、こういう文章もあった。
「Catocalaの中では出現期は長いが、メスの交尾嚢や翅の新鮮さからみると、9月中旬以降に見られる個体は遅く羽化した個体であることが示唆された。9月から10月まで連日メスを採集して交尾回数と新鮮さを調査したことがあった。10月のメスに比べ、9月上旬に採集した個体の方が汚損していて交尾回数は多かった。」

これは『世界のカトカラ』の秋に新鮮な個体が採れることもあるので、盛夏には活動しない云々に対する答えの一つにはなっていないだろうか❓

今年2019年も含めての自分の感覚としては、6月中旬から姿を見せ、徐々に個体数を増やして7月上、中旬辺りにピークを迎えるといった感じがする。

 
【生態】
樹液にも灯火にも好んで集まるとされる。
自分の経験でも、そのようた。
灯火には結構早い時間帯から集まり、夜遅くまで断続的に飛来する。
樹液には日没後、フシキキシタバやコガタキシタバなんかと比べてやや遅れてやって来ることが多い。また同じ個体が時間を措いて何度も訪れ、驚いて逃げても暫くしたら戻ってくるケースが多い。吸汁時間はわりと長い印象がある。
樹液には日没から夜明け近くまで訪れるが、空が白み始めると一斉に飛び立ち、森の奥へと消えてゆく。その際、近くの樹木に静止するものはいなかった。

『日本のCatocala』に因ると「成虫は日中、頭を下、もしくは上、時に横にして樹幹や暗い岩影、石垣の隙間などに静止している。はっきりした静止時の姿勢はない。着時は上向きに着地し、そのまま静止する。昼間のはっきりした静止姿勢が認められないことは、Catocalaとしてはむしろ異例とみられる。」とある。
たしかに自分が昼間に見た1例は、逆さま向きではなくて左斜め向きに止まっていた。

 
【幼虫の食餌植物】
マメ科 フジ属のフジ。
食樹の樹齢に関係なく付くようだが、古木はあまり好まないらしい。
他にブナ科コナラ属も稀に利用するとされるが、飼育しても育たないケースが結構あるようだ。

 
お粗末ながら、この年のキシタバの展翅を並べて終わりとしよう。

 

 
上が♂で下が♀である。
あっ、これは2017年にA木くんに初めてライトトラップに連れていってもらった時のものだね。
ということは9月に採集したものだね。そのわりには意外と翅が傷んでいない。やはり遅くに羽化するものもいるのだろうか?

それでは、以下2018年のもの。

 
【♂】

 
【♀】

 
いやはや酷い展翅である。
ほぼほぼ形が\(^_^)/バンザイになっとるやないけー。

中ではこれが一番マシかなあ…。

 

 
これも上翅はバンザイだが、バランスはそれほど悪くない。悪魔的な感じがして、これはこれで有りなんじゃないかと云う気がしないでもない。

最後に裏側も載せておこう。

 

 
結構、黄色い。
生態のところで書き忘れたけど、飛翔中でも他の下翅の黄色いカトカラとは区別は割かし容易である。なにしろデカくて黄色い。間違え易いのはクロシオキシタバくらいだろう。あと、カトカラとは違うけど、下からだと一瞬アケビコノハに騙される。

 
【アケビコノハ】

 
表は全然違うけど、裏は一瞬カトカラに見えるのだ。

 
【裏面】
(出典『フォト蔵 monro』)

でも、もっとデカイから違うと気づいて脱力する事、多々ありである。

それはそうと、こうしてキシタバくんを並べてみると、ただデカイだけで面白味の無いカトカラだなあ。
上翅の柄が、とにかく地味。色も汚い。下翅も変化が殆んど綯い。調べてないけど、おそらく日本全国どこでも変わりばえしないじゃないかなあ。亜種レベルに近いものがいるという話も聞かないしね。因みに、これらは全て近畿地方で採集したものである。

もう1つ出てきた。
たぶん9月に山梨に行った時のものだ。

 

 
これは結構いい線いってる。
何でだろう❓ と思ったら、すぐに思い当たった。
そういえばシロシタバの展翅について、とあるトップクラスの甲虫屋さんから上翅を上げ過ぎだという御指摘を戴いた。きっと、そのあとだったからだね。
今にして思えば、有り難き御言葉だった。
秋田さん、感謝してまーす\(^o^)/

一応、今年2019年の最初に展翅したものも、参考までに貼付しておこう。

 

 

 
上が♂で下が♀です。
この辺りが正解かな。

 
                 おしまい

 
《参考文献》
西尾 規孝『日本のCatocala』自費出版
石塚 勝巳『世界のカトカラ』月刊むし社
江崎悌三『原色日本産蛾類図鑑(下)』保育社

 
追伸
 
(註1)いつものように階段を登ってたら
普段は極力9Fの部屋まで階段を登るようにしている。虫採りは体が資本。それを訛らせないためなのさ。体力が維持できてる間は先鋭的虫採りができる。

 
(註2)パタライナズマ
ユータリア(イナズマチョウ属)の中の緑系イナズマである Limbusa亜属の最大種。インドシナ半島北部などに分布する。

 
【Euthalia patala パタライナズマ】
<img src=”http://iga72.xsrv.jp/wp-con(2016.3 タイ)

 
裏面もカッコイイ。

 

 
♀はオオムラサキと遜色ない。

 

 
コチラの個体はラオス産。
こういうの見ると、また会いたくなってくる。
蝶採りに戻ろっかなあ…。

 

続・ワモンキシタバ

 
   『欠けゆく月』

  
 2019年 6月28日。

ウスイロキシタバにかまけていたので、中々ワモンを狙いに行けなかった。そして、ようやく本格的に始動したのがこの日だった。
ワモンキシタバの発生は6月中旬からと言われるているのに、もう水無月も終わろうとしている。
狙うにはちょっと遅いかも…と不安が無いではなかった。でも、この時はまだ楽観的だった。カトカラは意外とダラダラと発生する面があるから、まだキレイな個体も採れる筈だと踏んでいたのだ。

去年、ワモンキシタバを採った矢田丘陵方面へ行く。
ここ最近は北ばかり攻めていたから、久し振りの来訪だ。今回も小太郎くんが途中から参戦してくれた。

だが、樹液にはフシキキシタバと普通のキシタバしかやって来ない。となると、考えざるおえない。このまま此処で待つべきか、それとも他へ移動すべきか思案のしどころだ。
此処でグシュグジュと判断できずに時間を浪費すれば、敗北が待っていると感じた。それに、そもそも此処でワモンを採るのは偶発性に頼るしかないとも思っていた。ならば、判断は迅速であるべきだ。判断がトロい奴は、欲しいものを手に入れることは出来ない。残り少ない時間の中で最善の策を尽くそう。

小太郎くんの車で信貴山方面へと移動する。
今回は灯火の方が確率が高いと読んだのだ。理由は確として自分の中にはあるのだが、言葉には出来ない。何となくだ。こういうのを、世間では勘と呼ぶんだろう。

着いたら、建物の三角形の屋根の庇の裏側にらしきものが止まっていた。高さ5mってところか。
でも三角形の屋根だから庇が斜めになっている。角度的に右側から攻めるか左から攻めるか微妙だ。思いあぐねているうちに、左右に動かした網に敏感に反応され、どこかへ飛んで行かれた。(;゜∇゜)あららららら…。
(`ロ´;)ガッデーム❗迷うとロクな事がない。己の判断能力のトロさを呪う。
まあ、ただのクソ夜蛾(ヤガ)だったかもしんないし、ここは気持ちを切り替えて忘れよう。

暫くして、庇の側面に止まっているのを発見。九分九厘、さっきと同じ奴だ。いつの間に( ; ゜Д゜)❓ 二人とも全然気づかなかったよ。

今度は真っ直ぐに網を伸ばし、叩いた。
網に入った感触はある。半信半疑で中を確認する。

d=(^o^)=bイエーッい、やはりワモンキシタバだった。しかも♂は初ゲットである。これで文章が書ける。ホッと胸を撫でおろす。

 

 
しかし、上翅にメリハリがなく、思っていたほどには美しくない。高校生の時に、紹介してもらった女の子が、期待していたほどキレイじゃなかったことを思い出した。

翌日に展翅しても、その印象は変わらなかった。
 

  

 
メリハリが無くて、全体にぼうーっとしてる。
翅こそ破れていないが、鮮度は今一つな気がする。
やはり、遅かったか…。

 
  
 2019年 7月1日。

天気の関係で動けず、とうとう7月に入った。
(`ロ´;)クッソー、思い起こせばウスイロキシタバ探査での初動捜査の失敗が今に響いている。本来ならば一発ビンポイントで探査は終わっていた筈なのだ。そこで我慢して待っていればビンゴだったのに、別ポイントへ移動してしまったのだ。この見切りの早さが結果的にその後の迷走に繋がった。新米刑事イガー、忸怩たる思いだ。ヤバいかも…。ワモンキシタバの♀の逮捕は厳しい状況にある。月が欠けゆくようにチャンスは確実に細まってきている。
でも、あとは翅の破れていない♀さえ採れれば合格ラインだ。それで、次のステージへと進める。前向きに考えよう。真のハンターは強靭な精神力で必ずや何とかする。それが無ければ敗北という名の恥辱にまみれるしかない。

 
この日も同じパターンだった。
小太郎くんと矢田丘陵で樹液に飛来するのを待ったが、来る気配が無いので、諦めて信貴山方面の灯火回りへとシフト・チェンジする。こないだの三日月の形からすれぱ、今夜辺りの月齢は新月に近い筈だ。月が無い夜は灯火への蛾の飛来が多いというから期待しよう。

9時台半ば過ぎだった。闇の奥からカトカラらしきものが、パタパタと真っ直ぐに飛んできた。
緊張が走る。大きさ的に普通の糞キシタバよりは一回り以上小さいし、フシキキシタバならば、もっと裏側の色が明るい。コガタキシタバだってもっと明るかった筈だ。もしかして、( ; ゜Д゜)ワモン❓

そして、そのままペタッと建物の壁に止まった。
高さは2、3mくらい。その特徴的な上翅、間違いない。ワモンキシタバだ。こないだの個体よか大きく見えた。♀❓ もし♀ならば、参戦2回目にしてゲームセットだ。ウスイロで迷走したとかそんなもんは、それで一発チャラにできる。

壁面を軽く叩き、難なくゲット。
しかし、かなりスレた♂だった。
あ〰(~O~;)。

裏返すと、やはりあまり黄色くない。

 

  
この時期にいる他のカトカラは裏がもっと濃い黄色だから、飛んでいる時に薄黄色っぽいものは本種と思って間違いないだろう。但し、ボロのフシキキシタバもいる事は念頭に入れておきましょうね。

あっ、ゴメン。ウスイロキシタバの事を忘れてたよ。

 
【ウスイロキシタバ Catocala intacta ♀】

 
(裏面)

 
黒帯がウスイロの方が細い。
でも大きさもほぼ同じだし、飛んでいるのを下から見て両者を判別するのは至難の技だろう。カトカラは結構な高速で翅を回して飛んでいる。灯火や樹液に飛来する時はホバリング状態とはいえ、帯は見えてもその細かい形まではハッキリとは見えない。
とはいえ、慣れれば雰囲気で看破できると思うけどさ。

 
粘って、その後小太郎くんの力も借りて2頭を追加。
しかし何れも♂で、やはり鮮度は良ろしくない。
どうやら、やっぱり来るのが遅かったようだ。でも一晩で3頭も採れたという事は、偶産ではない。間違いなく此処には確実にいると言えるだろう。♀ならば、まだ鮮度は良いかもしれぬと期待する。
しかし、結局午後11時15分まで待っても飛んで来ず。失意を抱えて、その場を離脱した。

車窓を闇が擦過してゆく。
同時に想念も擦過してゆく。思えばウスイロの探索に力を注いだのは、場所を何ヵ所も攻める予定だったからだ。その折に、ついでに何処かでワモンも採れるだろうと楽観視していたのである。
でも宝塚市、西宮市、池田市、箕面市、奈良市と回っだが、結局どこでもワモンの姿を見ることは一度としてなかった。やはり西日本では、そうは簡単に採れないカトカラなのかもしれない。その思いを強くした。

気がつけば、さっきまで厚く垂れ込めていた雲の隙間から、細くてちっちゃな月が覗いていた。

 
                  おしまい

 
追伸
翌日、ざっと1時間くらいで文章を書き終えたのだが、その後、記事をアップするために細かい所を直し始めたら、全然しっくりこず。大幅に書き直す破目になってしまった。で、最初の時の5倍以上の時間を要した。死ねばいいのに(#`皿´)、苛々して思いきりスマホを叩きつけてやった。
あっ、またやっちまったな( ; ゜Д゜)と思ったが、今回はたまたまベッドだったのでセーフ。
文章を書くのには、毎度の事ながら疲れる。他人から見ればクソみたいな文章でも、いざ書くとならば、そう簡単ではない。

この日に得たワモンも一応展翅した。

 

 
これは上翅にメリハリがある。
スレているとはいえ、やはり本来は美しいカトカラなのだと納得する。

 

  
触角を怒髪天にしてみた。
クソ展翅だ。(-_-)死ねばいいのに。

だいぶと下翅の黄色が褪せているのだと解る。
新鮮な個体ならば、この黄色がもっと鮮やかで美しいのだろう。

 

 
最後に採ったものは翅が破れていた。
これは型も良く、それなりに触角も決まっているのに残念だ。(-_-)死ねばいいのに。

展翅はこんなもんじゃろう。
去年よりも上翅を下げて、皆が良しとしそうなところで整えた。
とはいえ、思っていた以上に翅が傷んでいるのにショックは隠せない。
このまま♀を探し回っても、良い結果は得られないと思った。それに7月半ばに長野辺りに遠征すれぱ、まだ会える可能性は残されている。とはいえ、そのシチュエーションはあまり嬉しくないか…。狙って採ってこそ、歓喜とカタルシスがあるからね。
まあ、どうでもいい。ワモンは、もう過去だ。ここはスッパリと諦めて、ターゲットをカバフキシタバに絞ることにしよう。

 
追伸の追伸
ワモンキシタバの発生期を6月中旬からと書いたが、確認してみると6月上旬だった。この翅の傷み具合からすると、納得だ。6月上旬には出ていた可能性が高い。発生期を間違えたのは去年唯一採った1頭(♀)が6月26日の採集で、新鮮な個体だったからだろう。だから6月中旬の発生だと勝手に思い込んでしまったんだと思う。
(-_-)死ねばいいのに。

前回、キララキシタバからワモンキシタバが分かれて南下して分布を拡げた云々みたいな事を書いたが、今はその逆ではないかと思い始めている。
つまり、最初にワモンキシタバ有りきで、ワモンからキララキシタバ(Catocala fulminea)が分化したのではなかろうか❓
新しく分化した種の方が、どちらかと云うと環境に対する適応力があるように思われる。ゆえに一挙に分布を拡大したという例も多いような気がする。考えてみれば、ワモンよかキララキシタバの方が分布は広い。キララの原記載はヨーロッパだから、ヨーロッパから東に分布を広げたような気になりがちだが、極東からヨーロッパに分布を拡大した可能性は否定できないと思うんだよね。
 
その後、ワモンキシタバは8月にも採れた。
♀で、しかも鮮度も良い個体だった。

 

 
場所は長野県。これについては色々あったので、別稿で書こうかと思ってます。

 

2018′ カトカラ元年 其の弐

 

    『少年の日の思い出』
   vol.2 ワモンキシタバ

 
 
2018年 6月26日。
シンジュサンのまだ♀が採れていないので、再び矢田丘陵方面へと出掛けた。今回も小太郎くんが途中から参戦してくれた。

午後9時から10時の間くらいだったろうか、水銀灯まで来たら、小太郎くんが『あっ、たぶんワモンかな❓』と言って突然左手の建物の壁に近づいて行った。
(・。・)ワモン❓、何じゃそりゃ❓と思いつつ、後ろをついてゆく。

そこには見たことのない渋い柄の蛾が止まっていた。

『これって、もしかしてカトカラ❓』
『あっ、そうです。たぶんワモンキシタバですね。西日本では、けっこう珍だから採っといた方がいいですよ。』

小太郎くんは蝶屋で蛾は集めていないので、何だかよくワカンナイけど有り難く戴いておくことにする。
特に緊張もせず、上から毒瓶を被せる。
でも、さしたる感激はない。この時は絶対に欲しいとか採りたいと云う気持ちが希薄だったからだ。シンジュサン探しのオマケみたいなもんで、まだカトカラを集める気などさらさらなかったのだ。

しかし、翌日展翅してみて驚いた。
( ☆∀☆)ワオッ❗、何か渋カッケーぞー。

 
【ワモンキシタバ Catocala xarippe ♀】
(2018.6.26 奈良市中町)

 
【裏面】

 
何となく和のイメージを感じた。水墨画や枯山水を思わせる上翅の柄が、とてもシックだ。前回のフシキキシタバとはまた違った魅力がある。

蛾の展翅などあまりした事がないので、鬼のごたるイカついフォームにしてやったでごわすよ。まだ蛾は自分の中では魑魅魍魎、邪悪なモノと捉えていたから、こないな風にセオリーを無視した形になったのだろう。
チョウの展翅は蝶屋なんだから、誰が見ても綺麗なものに整形したいと思うが、蛾なんてどう思われようと構わないと云う意識があった。だから、そういう他人の目からは解放されてた。たかが、蛾。何を言われても関係ない。つまり自由だった。批判を恐れず、好きに展翅できた。今はそういうワケにはいかないけどさ。

当時の事は詳しく憶えてないが、フシキ、ワモンと美しいカトカラが続き、これでカトカラ熱が一気にヒートアップした気がする。謂わば、このワモンキシタバがキシタバを集めるキッカケの決定打となったかもしれない。
今にして思えば、この順番に意味があった。これがアサマキシタバや普通のキシタバ、マメキシタバなんぞという並びだったら、きっとカトカラには嵌まっていなかっただろう。何事においても順番は大事だ。蝶に嵌まったのも、最初の出会いがギフチョウで、そのあとにキアゲハ、クロアゲハ、カラスアゲハ、ミヤマカラスアゲハ、スミナガシ、イシガケチョウ、ウラジロミドリシジミ、オオムラサキと云う流れがあったからだと思う。
これって、少し恋愛に似ているかもしれない。女性の好みなんかも出会った順番に影響されてるところはあると思う。いつもながらのチャラい喩えでスンマセン。
でも、本質的には同じだろう。

しかし、標本になったのは、結局この♀1頭のみだった。他に二度ほど樹液に飛来していたものを見ているが、何れもボロだったので持ち帰らなかったのだ。
小太郎くんが言った通り、やはり西日本では分布は広いが個体数は少ないようだ。因みにだが、奈良県では準絶滅危惧種に指定されている。小太郎くん曰く、奈良市ラベルのワモンなんて持ってる人はあまりいないんじゃないかと云うことだ。フシキキシタバの時もそうだったけど、アチキはそういう風に珍しいとか稀だとか貴重だと言われると、途端にカッコよく見えたり、美しく見えたりする性質(たち)みたいだ。ようは、根が珍品好きのミーハーなんである。

それにしても、何で西日本では少ないんだろう❓
中部地方以北の東日本では、わりと何処にでもいるらしい。但し、東日本でも個体数は少なくて、同一地点で一度に多数の個体を得るのは容易ではないようだ。何で❓これまた謎である。
この辺の疑問を解くために、ワモンキシタバについて改めて調べてみることにした。普段は展翅し終わった瞬間に興味を失いがちなので、今回のように存在も知らなかったのに採れた場合はロクに知識を得ようとはしないのだ。テキトー男と言われる所以である。

一通りググってみて、矢鱈とドイツの作家へルマン・ヘッセの『少年の日の思い出(原題Jugendgedenken)』についての記事が多い事に気づく。
勿論、文豪の名作だから読んだことはあるけど、ヤママユ(クジャクヤママユ)の事は何となく記憶はしているけれど、ワモンキシタバなんて出てたっけ❓

この短編小説は1947年から現在に至るまで多くの中学校の国語の教科書に採用されてきたから知っている方も多いだろうが、一応あらすじを載せておこう。

『語り手である「私」のもとを訪れた友人の「僕」が、子供と一緒に最近始めたというチョウやガの標本を見せられる。しかし主人公である「僕」は美しい標本から目をそむける。なぜなら、蝶(蛾)の標本にまつわる辛い記憶があったからだ。やがて「僕」はその少年の頃の辛い思い出を少しづつ語り始める。
「僕」は蝶の収集に情熱を燃やしていた少年の頃、青くて美しいコムラサキ(註1)を捕える。いつもは妹にしか見せなかったが、あまりにも珍しいモノだったので、その展翅した蝶を隣に住むあらゆる面で優等生だが嫌な奴でもあるエーミールに見せた。彼は蝶や蛾に詳しく、その展翅にも長けていたのである。しかし、彼はその珍しさを認めながらも「僕」のその展翅技術の稚拙さを厳しく批評した。
二年後、「僕」が最も熱烈に欲しがっていた美しい蛾クジャクヤママユをエーミールが蛹から羽化させたと聞き、彼の部屋を訪ねる。しかし、エーミールは留守だった。どうしても一目みたいと思った「僕」は、部屋へ勝手に忍び込む。そして、誘惑に負けて展翅板に乗ったクジャクヤママユを盗み出してしまう。すぐに良心と不安から戻そうとするのだが、その時にはクジャクヤママユはポケットの中でバラバラに壊れてしまっていた。一度は逃げ出しだが、罪の意識に耐えきれずに打ち明けた母にも促されて「僕」はエーミールに自分の罪を告白する。そして、お侘びとして大切な自分のコレクションを全て差し出すことを提案した。
だが彼は許さなかった。しかし激高することもなく、ただ冷ややかな目で「僕」を侮蔑する。

「そうか、そうか、つまりきみはそんな奴なんだな。」

そして「僕」の提案を拒絶する。

「結構だよ。僕は、君の集めたやつはもう持ってる。そのうえ、今日また、君がチョウやガをどんな風に取り扱っているか、ということを見ることができたさ。」

その夜、「僕」は家に帰ると、あれほどまでに情熱を注いで作った自分のコレクションのチョウやガを全て指で粉々に握りつぶしてしまう。』

 
【クジャクヤママユ】
(出展『Lepiforum』)

 
なぜ文中にワモンキシタバの記憶が無かったのかという疑問は早々と答えが予想できた。
たぶん自分の読んだ本には、そもそもワモンキシタバの名前が無かったのであろう。これは翻訳が二つあるからだと推測している。ようするに、翻訳者が二人いるのである。最初の翻訳者が高橋健二さん。新たに訳されたのが、その弟子でもある岡田朝雄さんだからだ。
岡田朝雄さんといえば、ドイツ文学者にして虫好きとしても有名である。日本昆虫協会副会長や日本蝶類学会理事を務められてもいるから、虫採りを長くしている者ならば、大概はその名前くらいは知っているだろう。
一方、高橋さんはドイツ文学についてはプロフェッショナルでも、虫についてはド素人だったに違いない。つまり、岡田さんは新訳を手掛けるにあたって、文中に出てくる虫の名前を正確に訳しなおそうと思ったのではないだろうか。それが虫屋の性(さが)だし、そうしなければ虫屋としての沽券にもかかわる。
ヘッセも元々が虫好きだから、モデルに選んだ蝶や蛾には当然意味や意図があった筈だと考えるのが虫屋の目線だ。しかし、虫好きではない高橋さんからは、そういう発想は生まれえない。蝶や蛾に詳しくないので、出てくる蝶や蛾の名前を特定しなかった、もしくは出来なかったのだろう。
ようは出てくる美しい蝶や蛾の名前には、それ自体にそれほど重要性はなく、少年たちにとってそれがとても大切なものだということさえ伝わればいいと云うスタンスだったのだろう。あくまでもメタファーであって、モチーフに過ぎないという扱いだ。だから、それが蝶であろうと蛾であろうと構わないというワケだ。況(ま)してや種名まて特定することに、さしたる意味など無いと考えたのであろう。ゆえに高橋さんは蛾でも蝶と訳されたのだと思われる(註2)。
それはそれで。間違っちゃいないんだけどね。ガと訳すよりもチョウと訳す方が、日本人には馴染みやすく、物語に違和感なく入っていけるからね。そういう計算はあったと思う。
とにかく、蝶や蛾はあくまでもメタファーであって、それがガラス細工など美しくて壊れやすいものだったら何だっていい。それで物語は成立するのである。
繰り返すが、しかしヘッセは虫好きだから、そこに必ず意味を持たせていた筈だ。だからわざわざ登場する蝶や蛾を種名で載せたのである。虫好きの少年たちにとっては何と云う名前の蝶や蛾かは、とても大事なのだ。子供であったとしても、真の虫好きは憧れの虫は死ぬほど欲しいのだ。ヘッセはそこにリアリティーを持たせたかったのだろう。それが虫屋の岡田さんには解ったのである。
そして岡田さんは、作品冒頭の場面で「私」が自慢気に「僕」に見せる、従来は「蝶」と訳されていた箇所に新たにワモンキシタバの名前を入れたのだろう。

これで、なぜ文中にワモンキシタバの記憶が無いのかと云う謎が解けた筈だ。きっと高橋訳では名前が出てこないからである。おそらく自分が読んだのは高橋訳だったのだろう。だからワモンキシタバの記憶が無いのかもしれない。

と、ここまで書いて、一応確認のために高橋訳をネットで探してみた。
\(◎o◎)/ゲロゲロー。
何と高橋訳でも、ちゃんとワモンキシタバの名前があるじゃないか❗❗
Σ( ̄ロ ̄lll)えー、って事はここまで苦労して書いた文章が全部、ムダ、ムダ、ムダ、ムダ、ムダ、ムダ、ムダ、ムダ、ムダ、ムダー、無駄じゃないか。

名探偵イガーが一所懸命に構築してきた推理の塔が、スローモーションでガラガラと瓦解してゆく。
アメユジュ トテチテ ケンジャー(T△T)

でも、そんな事はあるまいと思いなおす。へっぽこ名探偵は尚も推理する。せっかく書いた文章を消すのはイヤだから、めげないのだ。
💡ピコリン。そっかあ…。もしかしたら、高橋訳自体にいくつかのヴァージョンが存在するのかもしれない。
これは大きな図書館に行って、確かめなければならぬ。(・┰・)メンドクセー。

けんど、その前にジュンク堂書店で問題は解決した。
一応、文庫本の岡田訳を見てみようと思ったのだ。その辺の経緯を岡田さんが、あとがきに書いているかもしれないと思ったのだ。

 
  (出展「Amazon」)

 
💥ビンゴ❗あった。
へっぽこ名探偵イガーの面目躍如だぜ。
これで一挙に疑問が氷解した。
早速、あとがきの一部を引用しよう。

「大学院時代、私は高橋先生に教えを受ける機会に恵まれた。大学院の仲間たちと出した”Wohin?”というガリ版刷りの同人雑誌に、私は「ドイツ文学に現れる蝶と蛾」という小論文を書いた。ヘッセ、カロッサ、シュナックなどの作品に出てくる蝶や蛾を、引用文とともに解説したものである。もちろん『少年の日の思い出』も取りあげた。
これが高橋先生の目にとまり、「一度家へ来て、蝶や蛾の話をしてくれないか」と言われた。私は、ドイツから取り寄せた蝶や蛾の標本や図鑑を持ってお伺いした。残念ながらそのときには三種類のクジャクヤママユの標本だけは持っていなかった。私は、中学のときに『少年の日の思い出』を読んだこと、この作品に出てくる蝶や蛾の名前に疑問をもっていたことなどについてお話しし、ヨーロッパ産の蝶や蛾の標本や図鑑をお見せした。そして、Gelbes Ordensband は「黄べにしたば蛾」ではなく「ワモンキシタバ(輪紋黄下翅蛾)であること、Nachtpfauensuge は「楓蚕蛾」よりも「クジャクヤママユ(孔雀山繭蛾)」とした方がよいのではないか、などと申し上げだ。」
先生は私の話を興味深く聞いてくださり、先生がヘッセから直々いただいたという『少年の日の思い出』の原文を見せてくださった。それは前述のように地方新聞の切り抜きであった。それを拝見して、私はそこにひとつミスプリントがあるのを見つけた。ワモンキシタバの学名 fulminea が tulminea になっていたのである。これは誤植であると気づかれぬまま、翻訳では「ツルミネア」、郁文堂のドイツ語テクストでも tulminea となっていた。先生は、訳文も、ドイツ語のテクストも訂正してくださると約束してくださった。」

マジ、(*^3^)/~☆ホッとしたよ。
って事は、高橋訳にもいくつかヴァージョンが有りそうだ。

 
しかし、そのワモンキシタバの学名が近年変わった。
いや、正確にはドイツのものは何ら変わっていない。
スッゲーややこしいんだけど、日本のが変わったのだ。次の学名の項で、それについて記述したいと思う。ホント、スッゲーややこしいから説明すんのヤダなあ…。

 
【学名】Catocala xarippe(Butler, 1877)

〈分類〉
ヤガ科(Noctuidae)
シタバガ亜科(Catocalinae)
カトカラ属(Catocala)

2009年12月に、今までワモンキシタバとしていたものの中に2種類が混じっていることが発表された(註3)。
北海道の中央から東部の一部に棲息するワモンキシタバが別種キララキシタバとなり、従来ワモンキシタバに宛てられていた学名 Catocala fulminea が採用された。そして、新たに「kamuifuchi」という亜種名が付与された。これは北海道産のものの方がヨーロッパの原記載亜種に近いと判断されたからだろう。
一方、それ以外のモノは和名をそのままのワモンキシタバとし、以前の学名 Catocala fulminea xarippe の亜種名 xarippe を種名に昇格させた。
これは亜種から種への格上げで新種記載とも取れるが、この学名は既に記載されていて、新種とはならないようだ。
とはいえ、何で新種記載にならないのか今イチ解らんなあ…。普通、こういう場合は新種になる筈だよなあ。
そもそもキララキシタバの和名は新種だけど学名は新種じゃなくて新亜種で、ワモンキシタバは和名がそのままで学名は新種っぽいって、どーよ(# ̄З ̄)❓ワケわかんねえや。
こうなると、キララキシタバは種名(学名)がワモンキシタバで、亜種名がキララキシタバという、益々ややこしい解釈(言い回し)をする人だっていかねない。ホント、学名と和名があるのって面倒クセーよ。でも和名がないと困ることも多いから、致し方ないよね。

でもって、北海道のワモンキシタバが原記載亜種とされ、Catocala xarippe xarippe の学名が与えられた。
フツー、本州・四国のものが原記載亜種に指定されそうなもんだけどなあ…。
でもこれはたぶん日本で最初に Catocala fulminea の亜種として記載された ssp.xarippe の模式標本が北海道産だったからだろうね。
ややこしいなあ、もうー(/≧◇≦\)
説明してるこっちもこんがらがってきたよ。
因みに北海道産ワモンキシタバは後翅黒帯が個体により幾分変異があり、本州・四国産と比べて黒化傾向が強いようだ。

 
(出展「南四国の蛾」)

 
確かに黒いね。
あんま綺麗じゃないけど、カトカラを真剣に集め始めたら欲しくなるんだろなあ…。

そして本州・四国のモノには ssp.okitsuhimenomikoto という新たな亜種名が与えられた。
語源はおそらく奥津姫命(奥津比売命)の事だろう。
奥津姫命は竈(かまど)の神であり、火所を守護する神聖な火の神てもある。これはたぶん下翅の色になぞらえたものだろう。悪くない名前だけど、それにしても矢鱈と綴りが長いよね(笑)

国外には、ロシア・沿海州に亜種 santanensis が産する。語源は語尾に”ensis”とあるから santan と云う所で最初に採られたからではなかろうか❓ラテン語だと、この「ensis」という語尾かつくと「~産の」という場所を表す形容詞になり、生物の学名にはよく用いられるからだ。

種名の xarippe の語源は調べてもわからなかった。植物に類似の学名もなく、ヒントすら掴めなかった。何かと何かを組み合わせた造語かもしれない。
元々の小種名で、今はキララキシタバに使われている fulminea の語源は、たぶんラテン語由来で「稲妻」とか「電撃」といった意味かな。おそらく上翅のデザインから連想されたものと推察される。

因みに、jpmoth(www.jpmoth.org)というネットで最もポピュラーな蛾のサイトでは、学名が変更されておらず、以前のままの Catocala fulminea xarippe となっている。キララキシタバを認めてないって事なのかな❓
だとしたら、業界のドロドロの権力闘争が水面下で暗躍してたりして…。怖いなあ。こんな蛾の門外漢が言いたい放題ばっか書いてると、抹殺されるかもしんないぞー。(@_@;)ヤバイよ、ヤバイよー。

 
【和名】
この文章を書くまでは、ずっとワモンキシタバは「和紋黄下羽」だとばかり思っていた。和のテイストを感じていたからだ。しかし、そうではなくて「輪紋黄下羽」、もしくは「輪紋黄下翅」が正しいようだ。
スマンが間違いに気づくまでは、全然輪状紋に見えなかったよ。正直、気づいたあとでも微妙だなと思う。もっと他に名前のつけようだってあっただろうに…。

 
【分布】
北海道、本州、四国。
九州では見つかっていない。また、四国では香川県のみでしか確認されていない。海外では極東ロシア(ロシア南東部)に分布する。
北海道ではキララキシタバと混棲する場所も多くあるようだ。って云うことは、やはり別種ってことか…。
でもパッと見、特に野外では余程の熟練者でもないかぎり両者の区別は出来ないようだ。中には標本にしても微妙な個体もあるらしい。

遅ればせながら、参考までにキララキシタバの画像も貼付しておこう。

 
《キララキシタバ》
(出展「南四国の蛾」)

 
(出展『昆虫情報センター』)

 
上が♂で、下が♀である。
より黄色い感じはするが、ワモンキシタバとソックリだ。よくこんなの別種だと見抜いたよね。スゴい慧眼だと思う。

石塚勝巳さんの『世界のカトカラ』には、両者を見分ける点が幾つか挙げられていた。

①ワモンは上翅の中央部がキララよりも白くなる傾向がある。
②後翅の内縁がキララより黒くなる傾向がある。
③後翅頂黄色紋はキララよりも淡くなる傾向がある。
④上翅裏面は白化する傾向があり、個体によっては淡黄色になることもあるが、キララのように明らかな黄色とはならない。
⑤ワモンよりもキララの方が相対的に小型である。

結構、微妙だなあ…。傾向があるとか曖昧な言葉が多いしさ。見分けるには、ある程度の経験が必要そうだ。
この程度の差違だと、中には両者を別種と認めない人もいるかもしれないね。
ところで、キララの幼生期って解明されてるのかな❓(註4) 明らかな違いがあれば、間違いなく別種だろうけど、区別がつかなかったら怪しいよね。
それはそうと、遺伝子解析は終わってるのかなあ❓(註5) その結果いかんで、どっちなのかは割りかしハッキリするよね。

成虫の垂直分布は比較的広く、平地から山地までの比較的開けた里山周辺や高原の疎林などに生息している。どうやら標高1500mくらいまではいるようだ。結構、標高の高いところまでいるんだね。

 
【レッドデータリスト】
大阪府、奈良県、香川県では、準絶滅危惧種に指定されている。
自分は奈良県で採ったから、ラッキーな出会いだったんだね。

 
【発生期】
6月中旬頃から出現し、少数が9月まで見られる。

 
【生態】
開張 53~56㎜。
成虫はクヌギやミズナラ、ヤナギなどの樹液によく飛来する。
日中は樹幹に頭を下にして静止している。飛翔して幹に着地した時には上向きに止まるが、瞬間的に体を反転させて下向きとなる。その際、後翅の黄色い斑紋をチラリと見せるという。
とはいえ、夜間は上向きに静止しているんだよなあ。
何で昼間は逆さに止まるんだろね❓
殆んどのカトカラもそうみたいだし、某(なにがし)かの意味があんのかね❓ 例えば、逆さまにならないと寝れないとかさ。ところで、そもそも蛾って眠るのかね❓
考えてみたけど、相応の理由が思いつかないや。

 
【幼虫の食餌植物】
バラ科のズミ、ウメ、スモモ、アンズ、リンゴ、エゾノリンゴ、サクラ類(マメザクラ、ヤマザクラなど)。
『原色日本産蛾類図鑑(下)』では、他にナシ、サンザシも挙げている。

ワモンキシタバが西日本では稀なのは、おそらく幼虫の食樹と関係があるのではないかと推測していた。
基本的な食樹はズミで、ウメやスモモ、アンズなどは、二次的利用ではないかと考えたのだ。関西では、あまりズミやズミの花のことを聞かないからである。つまり、ズミは北方系の植物ではないかと考えたってワケやね。
だが、ズミの事を調べてみたら、見事にアテが外れた。ズミの分布は広く、北海道、本州だけでなく、四国や九州の山地にも自生するようなのである。
いきなり壁にブチ当たって、早々とお手上げとなった。とはいえ、これで匙を投げるのも癪だ。何か糸口を探そう。

食樹にはリンゴやエゾリンゴも挙げられている。
これらは北方系のものだろう。日本での栽培は主に長野から北だし、原産地は北部コーカサス地方が有力視されているから、これは間違いないだろう。
調べたところ、ズミはリンゴの台木としても用いられるようだ。少々乱暴なモノ言いだが、ズミはリンゴと近縁なのかもしれない。となると、ズミも基本的には北方系の植物ではあるまいか? だから九州など西方にも自生はするが、数は少ないのではなかろうか?
う~ん、でもなあ…。ウメなんかは何処にでもあるもんなあ…。それを代用として積極的に利用すればいいだけの話だもんね。生物にとっては生きる為なら、そんな事はお茶の子さいさいじゃろう。ヤマザクラだって何処にでもあるから、そっちを食べるという作戦だってあるじゃないか。再び壁にブチ当たる。

マメザクラに糸口を探す。
しかし、富士山近辺やその山麓、箱根近辺等に自生する桜の野生種の一つで、フジザクラやハコネザクラとも言うらしい。
箱根じゃ、どうしようもない。
(ノ-_-)ノ~┻━┻えーい、食樹からのアプローチは捨てじゃ。

従来はワモンキシタバとされてきたけど、今はキララキシタバと呼ばれているものは、間違いなく北方系の種だろう。なぜなら原記載はヨーロッパだからだ。ヨーロッパは緯度が高いし、気候的には亜寒帯の地域が多い。また、この種はシベリアにも分布している。つまり、キララキシタバは北方系の種だ。ワモンキシタバはキララキシタバと極めて近い間柄だから、ワモンキシタバも元々は北方系の種ではなかろうか。もしかしたら、ワモンキシタバはキララキシタバから分化して、南に分布を拡げたのかもしれない。だから本来は暑さに弱い種とはいえまいか。その証拠に九州には分布していない。
アカン、誰でも考えつきそうな事しか言えんわ。
スマン、これくらいで許してくれ(/´△`\)
何処でも個体数が少ないという謎も残ってるが、スマン、これも許してくれ。全然、その理由が浮かばないや。

 
ここまで書いてきて、和名がもう一つあることを知った。
旧名か別名なのかは定かではないが、他に「モクメキシタバ」と云う和名もあるようだ。モクメは木目の事だろう。なるほどね。上翅は確かに木目調だ。一瞬、コチラの方が説得力あるかもと思ったが、響きがダサいので、個人的な好みとしては、まだワモンキシタバの方がいいや。
和名って、一つの種に複数つけられてる例が結構あるけれど、アレって何ざましょ❓それって、何だか和名って勝手につけても構わさそうじゃないか。ルールが有りそうで無いぞ。ワシら素人は、時々そのせいで翻弄されとるやないけー。
そういえば思い出した。昔、まだ蝶採りを始めた頃の話だ。周りのお爺ちゃんたちが、ダイセン、ダイセンって言うので、何じゃそりゃ❓と思った事があった。持ってる蝶のポケット図鑑には、そんな名前の蝶は載っている記憶がなかったからだ。
おそるおそる『ダイセンって何すか❓』と尋ねてみると、『ダイセンはダイセンじゃ❗』とキレ気味に言われた。
『でも、そんな蝶は僕の持ってる図鑑には載ってなかったと思うんですけどー。』と言ったら、ようやく意味が呑み込めたようで、穏やかな顔になって『あー、あれかあ。ダイセンシジミの名前を誰か学者が勝手にダサい名前に変えよったんや。えーと、何っつったかなあ? おー、そうそうウラミスジシジミや。あんなクッサイ名前、誰も使っとらんでぇー。』

オイラもウラミスジシジミはダサい名前だと思う。ダイセンシジミの方が百万倍カッコイイ。それ以来、自分もダイセンシジミの方を使っている。もしもウラミスジシジミなんて名前を使っている奴がいたら、間違いなく『てめぇー、トーシロかよ。』と思うだろう。
そういえば、あれから十年が経つが、ウラミスジシジミと云う名前を使っている蝶屋に会ったことは、まだ一度もない。ようするに全然支持されていないって事だ。そういうのって、名前を元に戻すべきだと思う。新しく蝶の図鑑を出す人は、断固として「ダイセンシジミ」で押し通してほしいね。

あっ、まじい。こんな事と書いたら、何か誤解されそうだ。えー、上の文章はべつにワモンキシタバやキララキシタバの命名に対して、暗に批判しているのではごさりませぬ。ダイセンシジミの話とは関係ない。意図して含みを持たせて書いたワケじゃなくて、単にたまたま話の流れで書いただけだ。
とはいえ、これまた流れだから、ついでに言っとくか。
正直、今後『少年の日の思い出』の中のワモンキシタバの扱いがどうなるかは気になる。学名に従えば、文中のカトカラはワモンキシタバからキララキシタバに訂正されなければならない。それはやめて欲しいという願いはある。
ドイツでは、Catocala fulminea は「黄色いリボン(Gelbe Ordensband)」と呼ばれている。その称号は和名のワモンキシタバに与えたいと思っちゃうんだよね。キララキシタバの方が黄色いけど、後発のポッと出の名前だから、それに黄色いリボンという素敵な称号を奪われるのは耐えられないところがある。
けんど、虫屋には厳密主義者が多いんだよなあ。オカシイ、変えろとか言い出しそうな輩(やから)が絶対いそうだ。文学での世界の事だから、そこは別モノだとして、そっとしておいてほしい。
とはいえ、キララキシタバにした方が綺羅星とか✴キラキラのイメージを喚起させて、より美麗な蛾を想像させるから読者にとっても良いじゃないかという意見もあろう。その意見も解らないではない。確かにそうかもしれない。
でもなあ…、何とかワモンキシタバのままにしといて欲しいんだよなあ…。ノスタルジィーと云うか、心情的に変えて欲しくない。それが偽らざる気持ちだ。

 
                 おしまい

 
追伸
流石に今年2019年はアグレッシブな展翅はやめて、フツーに展翅した。

 

 
画像は同じ個体で、♂です。
正直、何か真ともすぎてツマラナイ。
って云うか、♂が思っていた程にはカッコ良くないからかなあ…。上翅にメリハリがない。
けど、この一つだけじゃ何とも言えない。
ウスイロキシタバにかまけてて、やっと一昨日にワモンを探しに行ったので、これっきゃ無いのだ。でも、また採れるかどうかは微妙。ウスイロを追っかけている時に一度くらいは会えるだろうと思っていたが、全然だった。やはり西日本では少ないのかもしれない。

 
(註1)青くて美しいコムラサキ

【Apatura iris イリスコムラサキ♂】

 
ドイツには、Apatura iris イリスコムラサキと Apatura iria イリアコムラサキ(タイリクコムラサキ)という2種類のコムラサキが分布しているので、文中のコムラサキがそのどちらを指しているかは特定できないようだ。
しかし、より美しいのは昔はチョウセンコムラサキと呼ばれていたイリスの方なので、勝手にそっちだと解釈して画像を添付した。たまたま自分で展翅したものが展翅板にあったので、都合がよかったというのもあるけどさ。
オスの翅は構造色になっており、光の当たる角度により紫色の幻光を放つ。
因みに日本にもコムラサキの仲間はいて、そちらが見た目はイリアに近いかな…。テキトーに言ってるけど。

 
【コムラサキ Apatura metis ♂】

 
(註2)高橋さんは蛾でも蝶と訳された
因みに、高橋さんが作品中で「チョウ」と訳しているドイツ語は「Schmetterling」及び「Falter」で、どちらもチョウとガをまとめて指す言葉である。このような概念を持つ言葉は「鱗翅目」などの専門用語を除けば、一般的な日本語には存在しない。このチョウとガを区別せずに一括りにした言葉はスペイン語やロシア語にもあり、ほぼ100%がチョウと訳されるフランス語の”Papillon”(パピヨン)もチョウとガの両方の意味が含まれている。つまり、ヨーロッパの人たちは日常的にチョウとガを区別していないと云うことだ。日本みたいにチョウは美しく、ガは汚なくて邪悪なモノという概念はなく、そこには美しいか美しくないかの観点しかないと思われる。おそらく欧州のコレクターも両者を学術的には区別していても、概念としては鱗翅類と云う大きな枠組みでチョウもガも同等なものとして捉えているのかもしれない。日本では蝶屋はチョウだけをコレクトし、蛾屋はガだけをコレクトしている人が多いことを考えれば、欧米とは大きな認識の差がある。チョウは好きでも、ガは大嫌いというコレクターは多い。自分もその一人だった。
何かと誉めそやされる蝶と比べて、日本人全般の蛾に対する心情は極めて悪い。殆んどの種は色が汚ないし、胴体も太い。主に夜に活動するのも不気味だし、粉を撒き散らして飛ぶのも気持ち悪い。部屋に飛び込んできて、狂ったように暴れまわる姿は恐怖でしかない。かく言うワタクシも最近まではそうだった。
だから、一般の人たちがこのヘッセの短編を読んで、少年たちが蛾を美しく素晴らしい宝物と捉えて、自慢や嫉妬を生むものとして描かれていることに、驚きや違和感を抱く人も多いと思われる。実際、ネットでこの小説を読んだ人の感想には、蛾に対する憎悪の念が数多く出てくる。それくらい蛾は世間に嫌われている。
あまりのクソミソの罵詈雑言に、蛾に同情したよ。

 
(註3)2種類が混じっていることが判明した
石塚 勝己『日本に2種いた,ワモンキシタバ』日本蛾類学会。
論文は読んでないっす。

 
(註4)キララキシタバの幼生期
ざっと調べた限りでは、まだ解明されていないようだ。
何れにせよ、幼虫の食餌植物はワモンキシタバと同じでバラ科であろう。
でも別種とされてから、もう10年くらいにもなるのに未だ解明されてないの?解せないよなあ…。
まさかバラ科とは全然違う科の植物ってワケはないよね❓だったら、面白いよね。完全に別種、いやヨーロッパの Catocala fulminea はバラ科食いと判明しているから新種の可能性も出てくるよね。

 
(註5)遺伝子解析は終わってるのかなあ?
『世界のカトカラ』によると、野中勝・新川勉両氏が遺伝子解析を行っており、結果も出ているようだ。だが、論文は探しても見つけられなかった。
遺伝子解析については引き続き追っていこうと思う。解り次第、また別稿で書きます。
でも、もしかしたら『世界のカトカラ』に系統図があるかもしれない。その頃は系統に興味が無かったから、その辺は真面目に見てなかった可能性はある。そのうちまた堺の図書館まで行って確認しなきゃなあ…。

 
《参考文献》
西尾 規孝『日本のCatocala』自費出版
石塚 勝巳『世界のカトカラ』月刊むし社
江崎悌三『原色日本産蛾類図鑑(下)』保育社

 

続フシキキシタバ(2)不思議なんて無い

 
2018年 6月12日。
生駒山地から約1週間後、矢田丘陵の様子も見ておくことにした。小太郎くんにも声を掛ける。

この日、現地に到着したのは遅めの午後9時だった。
しかし、樹液には何も来ていなかった。去年からの観察だと、カトカラはだいたいこの時間帯に一度樹液への飛来が止まる傾向があるようだ。日没と同時に飛来し、一旦9時前後にいなくなる。そして10時くらいから又ポツポツと集まり始める。けれど、これはあくまでも傾向であり、その日の天気や温度、湿度、風の有無などによって状況は変わるものと思われる。

何でおらんねん(=`ェ´=)❓
ちょいムカつく。最近は昔ほど珍品じゃないらしいけど、やっぱ基本的には少ない種なのかなあ…?まさか、まだ発生してないと云うワケは無いよねなどと思いつつ、所在なげにその辺をウロウロする。

『あっ、いましたよ。』
と小太郎くんが言った。懐中電灯が照らす方向を見ると、幹に鮮やかな下翅をチラ見させているフシキキシタバがいた。相変わらずの逆さパンティーじゃのう(^。^)
高さは約3m。網で幹をドツき、難なくゲット。驚いたカトカラが反動で網に飛び込んで来るという採集法だ。コツは躊躇(ためら)わないこと。慎重という名のチキンハートはあきまへんえー。中途半端にかぶすと横から逃げられる。とはいえ、バカみたいに強すぎると網が壊れるから、気をつけなはれ。

暫くして、また小太郎くんが幹に止まっているのを見つけた。彼は見つけるのが上手いから助かる。
今度は4mくらいの位置だった。これも難なくネットイン。

思うに、これは樹液に来ていた奴がお腹いっぱいになって憩(やす)んでいるのではなかろうか。だから、一回飛来が止まると考えれば、説明がつく。つまり、カトカラは樹液にやって来るのは一晩に一回だけではなく、複数回吸汁に訪れるのではないかと想像する。そういえば、去年もキシタバが周辺の木にベタベタ止まっていたことがあったっけ…。時々、居なくなったと思ったら、樹液に来ていた事があったな。
経験上、カトカラはたとえ樹液には居なくとも、周辺の木を探せば案外採れると思うぞ。図鑑等には、そんな事は全然書いてないけどさ。

でも、小太郎くんが言った。
『フシキって、日没後の早い時間帯にしか樹液に飛んで来なくて、皆それを知らなかったから中々採れない稀少種になってたそうですよ。でも、この習性がわかってからはわりと採れるようになったみたいですね。』

それも「不思議キシタバ」と言われる由縁なのかな?
(・。・;ふ~んと相槌を打ちながらも、(# ̄З ̄)ホントかよーと心の中で思う。
だとしたら、カトカラ愛好家は早い時間帯に樹液採集に行かなかったの❓それが事実だったとしたら、ダサ過ぎない❓センスを疑うよ。いくらなんでも、そんなワケないと思うんだよなあ…。虫屋はアタマいい人、多いしさ。絶対、早い時間帯にも行ってる筈だ。
そんな偉そうなことを言っといて、実を言うとオイラ、去年は樹液では1頭も採ってない。「去年は」ということは、まだ一度も樹液に来たフシキキシタバを採ってないとゆうことだ。我ながら、よくそれで諸先輩方に向かってエラソーな事が言えるよね。自分でもあまりの尊大振りに笑っちゃうよ( ̄∇ ̄*)ゞ

それはさておき、この日採った2頭はこんなの。
先ずは♂。

 

 
図鑑的お手本の展翅ってところかな。
続いてコチラ↙が♀。

 

 
コヤツは人為的にボロにしてしまったなりよ。
ピカピカの完品だったと思われるが、網の中で暴れまくって、挙げ句に網の横から外に飛び出しよった。で、落葉に止まったのを慌てて上から毒瓶を被せて仕留めた。したら、こないな風になりよった。小太郎くんに、ひどいなーという顔で笑われたよ。やってる事が全般的にぞんざいなのである。

こちらは触角を真っ直ぐにしてみた。
まっ、んなもんじゃろ。

 
6月13日。
翌日も矢田丘陵へ行った。
フシキキシタバは本当に早い時間帯にしか樹液に飛来しないのかを確かめたかったのである。だから、今回は誰かに行動を影響されない単独行なのだ。

日没と同時に1頭が飛んで来た。

 

 
フシキ、樹液での初ゲットである。
暫くして、更にもう1頭が飛んで来た。いい感じだ。
しかし、これでピタリと飛来が止まった。やはり小太郎くんが言った通りなのか❓…。それとも元々個体数が少ないのかなあ❓

埒が開かないので、新たな樹液ポイントを探すことにした。幸いな事に比較的短時間で新たな樹液ポイントを見つけることができた。
ここでは3頭ゲットできた。2頭が樹液で、あとの1頭は前日と同じように近くの木の幹に止まっていた。
しかし、それっきりだった。10時半まで待ったが新たには飛んで来なかった。最後に採った時刻は午後9時過ぎだ。おいおい、まさかの小太郎くんの言ってた説が有力になってきたぞ。
いや、待てよ。単に周辺にいる個体を採り尽くしたと云うのは考えられまいか。この日の個体も全部ピカピカの完品。昨日、今日と全部が羽化したてのような鮮度でボロがいないということは、それも有り得る。翌日には、また新たなものが羽化してくる筈だ。

それでは、この日採った個体の展翅。
先ずは♂。

 

 
触角は自然な蛾眉系。上翅を上げ気味、下翅をやや下げ気味にしてみた。

 

 
続いて上がり蛾眉系。上翅をやや上げて、下翅も上げてみた。

 

 
お次は触角を鬼っぽい弓ぞり上がり系にしてみた。

 

 
こちらも蛾眉系かな。バランス重視の展翅にしてみた。

こうやって並べて見ると、上翅の柄が個体によって微妙に違うんだね。中でもこの個体がメリハリが一番美しい。

続いて♀。

 

 
段々、やや上翅が上がりめに見えるバランスになってきた。但し、これを自分は上げ気味だとは思っていない。蝶でもそうなんだけど、上翅の後縁(下辺)を真っ直ぐにするのが絶対的に正しいとは思わないからだ。

例えばマルバネルリマダラなどは、その法則に従って展翅すると、バンザイ展翅になってしまう。

 

 
まだマシな方だけど、こんな感じだね。これでも下辺はまだ下がっている。だから、ネットの画像なんかを見ると、無理矢理に下辺を真っ直ぐにしようとして、もっと超バンザイなのがわりとある。

お手本にするには、やや気に入らないが、こんな感じが正解に近いのではないかと考える。

 

 
つまり下辺は参考にはするが、それよりも翅の付け根の起点と後角部(外縁の一番下の角)を結んだ線が真っ直ぐになるのを重視している。強いて言えば、それよかちょっとだけ上げ気味にする。この方式にすると、大概の蝶ならバランスがとれる。

ヤマキチョウの仲間やコノハチョウなんかも、それでだいたいバランスがとれる。

 
【タイワンヤマキチョウ】

 
【台湾産コノハチョウ】

 
だからコノハチョウなどは下辺が下がり気味になる。但し、触角とのバランスや左右の翅の間の空間との関係性もあるから厳密的にはこれも絶対ではない。

話をカトカラの展翅に戻そう。ようするにカトカラもよく見ると、上翅根元の起点付近が真っ直ぐな線ではなく、やや内側にラウンドしている。ゆえに羽の起点は見た目よりも上にある。だから見た目が上げ気味に見えるのである。

とはいえ、まあこんなのは好みの問題なので、その人がカッコイイと思う展翅であれば全然いいんだけどさ。

とはいうものの、解説しだしたので途中で止めるのもなんだし、最後まで続けよう。

 

 
今度は下翅をやや下げてみた。上翅と下翅を詰め過ぎて寸詰まりになるのは、あまり好きではないからだ。それに寸詰まりにすると、個体が小さく見えちゃうと思うんだよね。

因みに前脚を前に出したり、出さなかったりするのは気分。今のところ、どちらが良いのかは微妙なところかな。でも、やや前脚を出す方に傾きかけている。自身の中には蝶の展翅法が基準にあるから、上翅の間の空間が空き過ぎると不安になると云うか、落ち着かないところがあるのだ。

 
6月17日
この日は宝塚市の行者山へ行った。
目的は稀種カバフキシタバの為の下見である。ちょこっとだが複数が採れているようだから、数は少ないにせよ居るのは確実だと読んだ。それに此所はウスイロキシタバの記録もあるので、あわよくばとも考えていたのだ。あと、ウラキンシジミ(註1)の様子も見ておきたかったと云うのもある。

ウラキンのポイントに着くも、栗の木が弱っていて、あまり花が咲いていない。でもそこいらで夕暮れまで待てば、やがて飛び始めるだろう。しかし、今回のメインの目的はウラキンではない。そんな時間までその場にとどまっていれば、黄昏になる。ここでカバフの幼虫の食樹カマツカと樹液が出ている木を探すのが本来の目的なのだ。ウラキンなんぞ、この際どうでもよろし。気持ちを切り替えて、白瀬川源流コースを降りることにした。

しかし、思ってた以上に道が険しい。多くの場所に補助ロープが張られていて、結構危険な箇所もある。夜にここに入るのにはリスクが有り過ぎる。それに結局、カマツカの木も樹液の出ている木も見つけられなかった。思惑が完全にハズレた。ポイントから除外せざるおえないだろう。

この山には何本も登山ルートがあるので、片っ端から探ってみることを覚悟した。
されど、中々良さげな樹液が出ている木が見つからない。唯一、見つけた木は根元近くから樹液が出ているだけで、何とも心もとない。

そのうちに日が沈んだ。
だが、日が沈んでも直ぐには暗くならない。

 

 
漸く暗さが増し始めた7時20分に、その唯一の樹液ポイントへ行く。だが、ヤガらしいクソ蛾が1頭いただけだった。まあいい。クソ蛾であっても、蛾が誘引される樹液ではあると云う証明にはなる。希望はゼロではないということだ。ゼロと1とでは、格段の差がある。

取り敢えず此処はおいといて、新たな樹液ポイント探して夜の山道を歩き始める。今日は万全を期して、あの戦慄を引き起こした恥ずかしい動画は消しておいた。あとは六甲方面はイノシシが多いから、遭遇しないことを祈ろう。イノブタよかイノシシの方が恐い。

5分ほど歩いたところで、空気中に微かな樹液の匂いを感じた。立ち止まり、咄嗟に懐中電灯をその方向へ向けた。下から上へと灯りを動かす。
❗Σ( ̄□ ̄;)ワッ、地上約4mくらいのところでカトカラが乱舞していた。少なくとも10頭以上は飛んでいる。こんなに沢山のカトカラが乱舞している光景を見るのは初めてだ。
時期的に考えればカバフではないだろう。まだ早い。黄色いからウスイロである可能性も無さそうだ。だとしたら、フシキかな❓コガタにもちょっと早い気がする。あっ、ワモンの可能性も無いではないね。でも感じからすっと、おそらくフシキだろう。最近、網膜にインプットされた画像と同じに見えるもん。

とやかく考えていても時間の無駄だ。
網をスルスルと伸ばして、空中でエイやι(`ロ´)ノ❗と掬い採る。たぶん一度に3つ入った。
中を見ると、予想通りの3つともフシキだった。どうやら飛んでるのは皆フシキのようだ。どこが珍品やねん❓こないにおったら普通種やんけー。

樹液への飛来時間の謎を解きたいので、ガツガツは採らずに目についた型の良さそうなものだけを選んでチョビチョビ採る。
いくつか採り、落ち着いたところで周辺を見ると、やはり周囲の木の幹に止まっている個体が複数いた。樹液の出ている木の上部や下部で憩んでいるものもいる。

 

 
下翅は開いていたり、この個体のようにビッタリと閉じているものもいる。勘だが、お腹いっぱいなど気分的にユルい時に翅が開きがちになるような気がする。あとは樹液で夢中で吸汁している時は、ほぼほぼ下翅を見せている。ようは身の危険を感じるなど緊張状態にあると、翅を閉じるのではなかろうか?
この個体も最初は下翅を見せていたが、写真を撮るために近づくと途端に閉じた。
因みに昼間は、ほぼ100%が翅を閉じている。昼間に派手な下翅を見せていれば、目立つ。つまり翅を閉じるのは、天敵に襲われるのを回避する為だろう。だから上翅の柄は木の幹に擬態、同化しているものと思われる。

8時を過ぎても乱舞は続いている。これで9時頃にピタッと飛来が止まったとしたら、小太郎くんが言ってた説に間違いないだろう。
だが、9時を過ぎても数は減ったものの、相変わらず樹液に飛来し続けていた。全然途切れる気配がない。
そして、そろそろ帰らなければならない10時を過ぎても飛来は間断なく続いていた。
これで「フシキキシタバ、早い時間帯にしか樹液に飛んで来ない説」は崩れた。んなワケねーと思ってたよ。
とはいえ、個体数が多すぎるゆえの異常行動とも考えられる。それに、まだたった1回だけの例だ。もっと観察を続けないと、断言は出来ないだろう。

翌日、採った数を数えると何と15頭も採っていた。
合間にちょぼちょぼ採っていたつもりだが、いつの間にかそんなに採ってたんだね。
ということは採ろうと思えば、ゆうに30以上、下手すりゃ50以上採れたかもしんない。
どこが稀種やねん❗Youにはガッカリだよ。こんなもん、ド普通種やないけー(# ̄З ̄)
でもなー、たまたま今年は大発生ってのも有り得るから、本当のところはワカンナイよね。

 
今回の展翅画像も先ずは♂から。

 

 
上翅が黒い。

 

 
上翅を上げ過ぎない方がバランスはいいかもしんない。

 

 
触角の整形は出たとこ勝負なところがある。カトカラの触角はとても細いので無理にいじり過ぎると、直ぐに切れるのだ。諦めが肝心だと心得る。

 

 
段々、触角が上がり気味になってくる。

 

 
ここまでは蛾眉系で、次は触角の先が内側に巻く弓反り系。

 

 
上翅をやや下げ気味にしている。

 

 
触角を下げて、下翅も下げてみた。次第に何が正解なのかワカンナクなってきた。

 
そして♀。

 

 
意外と弓反り系が何となく好きになってきたかなあ…。ちょっと悪魔が入るのがお好みかもしんない。

 
6月17日。
西宮市名塩へと向かう。
この日の目的は未だ採ったことのないウスイロキシタバだった。確実な情報は無いが、勘で場所を決めた。

何とか樹液が出ている場所を2ヶ所見つけた。➕アルファで今回は糖蜜トラップも用意している。この前みたいに樹液が出ている木が上手く見つけられるかどうかの保証は無いと感じたからだ。
糖蜜トラップは思いの外、活躍してくれた。樹液に勝ってんじゃねーの❓というくらいによく効いたっぺよ。
中身は去年作って冷凍庫にブチ込んでたもんだから、詳しいレシピは覚えてない。匂いと色からすると、黒砂糖は確実に入ってる。あとはおそらく焼酎と酢ってとこかな…(・o・)❓

両ポイントは歩いて10分程度離れているが、両方ともフシキはいた。計5~6頭が採れた。
時間帯は7時過ぎから11時過ぎまで。それぞれのポイントの滞在時刻は7時から8時半くらいと8時半くらいから11時過ぎまで。ピタリと飛来が止まる時間は少しあったが、日没後、直ぐに飛来して、あとは全く来なくなるということは無かった。帰る直前の11時でも糖蜜トラップにいた。
これで「フシキは早い時間帯にしか飛んで来ない説」を否定する材料がまた増えた。
そーだよなー。んな事あるワケないと思ってたもん。

  

 
 
♂である。何だか展翅も落ち着いてきた。触角は弓反り傾向が進行。上翅はやや上げ、下翅は下げ過ぎないといったところか。

そして♀。

 

 
とはいえ、原点に帰って触角を真っ直ぐ系にしてみた。一番カッコイイかもしんない。でも、真っ直ぐにするには時間が掛かって正直面倒くさいんだよなー。

 
中にちょっと変な奴が混じっているなと思ったら、出始めのコガタキシタバだった。もう出てるんだね。

 

 
下翅の黒帯がフシキよりも太いし、途切れない。
もう♀も出ていた。

 

 
蝶の発生は今年は1週間は遅れていると言われているが、カトカラは通常通りか、下手したら少し早いかもしんない。

 
6月19日。
この日は西宮市の生瀬を探索することにした。
ターゲットはやはりウスイロキシタバである。
しかし、良い環境が見つからないので、宝塚市の塩尾寺(えんぺいじ)・岩倉山を目指すことにした。ここを更に進むと、先に登場した行者山に至るコースだ。状況如何によっては、再び行者山に行くことも視野に入れている。

でも、樹液が出ている木がロクに無く、あってもショボい。糖蜜トラップに対する反応も薄い。こりゃダメだと思い、大返しで、また名塩へ行った。予定は未定であって、しばしば変更なのだ。決断と判断の迅速さは雌雄を決す。すったもんだのその話については、この先ウスイロキシタバの回を書く機会があれば、詳しく書こうかと思う。このシリーズも書いててシンドイからワカンナイけど。

名塩のポイントには、午後9時40分くらいに着いた。
着いた時は樹液には何もいなくて、たぶん10時くらいから活性が入った。滞在時刻は11時半までだった。
この日に採ったフシキは2♂1♀だったかと思う。つまり、日没後の早い時間帯ではないと云うことだ。
ハッキリ言おう。カトカラ愛好家たちの間の「フシキキシタバは早い時間帯にしか樹液に飛んで来ない」という説は嘘だ。ガセネタだ。全否定する。
(# ̄З ̄)ブウーッ、誰もその説に対して疑問に思わなかったのかよ❓

とはいえ、昔は個体数が少なかったから、そういう説が流布したのかもしれない。確かに日没直後から8時くらいまでに飛来する個体が多い傾向はあるような気がする。昔みたく絶対数が少ないならば、分母が小さいゆえに他の時間に得られる個体は極めて少なかったのかもしれない。だから、カトカラ愛好家の人たちがそう考えたのも無理もない事なのかもしれない。
にしても何でそんな説が、まことしやかに流布したのだろう❓誰も検証しようとは思わなかったの❓
もしかして、樹液採りは樹液が出ている木を探すのが大変だし、夜に山を徘徊しなければならず、しんどいし、怖いし、面倒クセーから、灯火採集ばっかしてたとか無いでしょな(¬_¬)❓
汗、かかない虫屋はダメだぜ。
まあいい。単に昔から噛みつきたい性格なのだ。それが己の原動力やら推進力にしているところがある。深く自己検証したことはないが、あえてとか、ワザとやっているフシがある。性格が天の邪鬼なのだ。
だから、けっして本気でケンカを売っているのではござりませぬ。気分を害された方は、単に口の悪い奴だと思って、お許し下され。

それでは展翅コーナー。
だいぶと飽きてきて、♂♀1つずつだけ展翅した。

  

 
♂だ。まあ、こんなもんか。

 

 
何か触角が弓反りに落ち着いてきた。真剣に展翅する時は触角は真っ直ぐ、それ以外は弓反り系にして、気分によっては蛾眉系ってことでエエんでねえのと思うことにした。
やっぱオラって、展翅するのが本来的にキライみたい。段々、ぞんざいになってきてる。

 
6月20日。
池田市五月山へ行く。
狙いは同じくウスイロキシタバ。
予測はしていたが、こんなとこにもフシキがいた。

 

 
もう最後は裏展翅にしたよ。
たぶん3頭ほど見たと思うけど、持ち帰ったのはこの1頭だけ。他は羽が傷んでいたからだ。この日は今年初の普通のキシタバもいたので、そろそろフシキの時期も終わりが近づいているようだ。

 
6月23日
箕面公園の大惨敗を挟んで、再び名塩へ。
そして、ダメ押しのフシキキシタバ。

 

 
寸詰まりも試してみた。
これが正しい展翅だ思う人もいるんだろなあ…。
人の好みは千差万別です。

 

 
最後に美しい♀が採れたけど、この頃になると極端に数が減り、一部の♀を除いて残っているものは羽がボロなのばかりだ。ほとんどはリリースした。
って云うか、もうオマエら、いらん(=`ェ´=)

                  おしまい

 
追伸
長々と三回にも亘ってフシキキシタバについて書いた。たぶんプロローグの回でも触れているだろうから、それも含めれば計4回にもなる。
しかし、これを書き終えて、今やフシキキシタバにはこれっぽっちの興味も無くなった。けっして嫌いになったワケではない。美しいカトカラだと云う思いに、今も変わりはない。何か過去の女になったみたいな気分だなあ…。
まあ、カトカラを始めるキッカケとなった種だから、最初に付き合った彼女みたいなもんかもしれない。想いは大事にしなければならないね。

次回からも『2018′ カトカラ元年』を上梓したのちに、2019年にも採れたものに関しては『続・何ちゃらかんちゃら』と題して文章を書くという方式になってゆくかと思う。
本当は2019年のカトカラ関係の文章は別タイトルで書く予定だったが、ややこしくなりそうなのでやめた。2019年の採集記は『2019′ カトカラ2年生』と題して一つに纏めて出版する予定です(ゴメン、嘘です)。

今回のタイトル「不思議なんて無い」は、フシキキシタバは不思議キシタバとも言われ、謎が多いキシタバだったことを意識したものです。不遜なタイトルだけど、この3話を通してだいぶと謎が解けたのではないかと思ってつけてみた。でも、本当は不思議なんて無いとは思っていない。幼生期も含めて、きっと調べれば調べる程、また新たな不思議が出てくるでしょう。生き物は何だって不思議だと思う。

最後に大きさについて少し言及しておきたい。

 

 
結構、大きさに幅がある。
もちろん基本的には♂より♀が大きいのだが、中には♀に迫る大きさの♂もいるし、♂と変わらない大きさの♀もいる。
一番小さい♂で50㎜に満たない48㎜だった。一方、一番大きな♀は60㎜もあった。全体の平均は55㎜ってところだろう。
あっ、言い忘れたけど、一部フシキキシタバとは関係のない別種の蛾も入ってます。

斑紋についても触れておこう。
上翅については多少の個体差はあるが、コガタキシタバやアミメキシタバなどのように大きな変異幅はなく、比較的安定している。
下翅だが、以前、♀の方が真ん中の黒帯が細くなると書いたが、それほど顕著に差があるワケではないようだ。但し、極端に細いものは♀だと言ってもいいと思う。

 
(註1)ウラキンシジミ

(2017.6.10 行者山)

(註2)ウスイロキシタバ

 

続フシキキシタバ(1)ダミアンの闇

 
去年は蛾ビギナーゆえに、カトカラの展翅も手探り状態だった。図鑑なんて持ってねえし、自己流でやるっきゃなかったぺよ。
けど自分で言うのも何だが蝶の展翅ならば、そこそこ上手い。だから、蛾なんぞ楽勝だと思ってた。ネットで見ても蛾の展翅は酷いものが多いし、何ならワシが蛾の展翅の新たなトレンドを作っちゃるわい(# ̄З ̄)❗みたいな気分さえあった。
しかれども、やればやるほど自分でも下手なのか上手いのかようワカランくなってまっただよ(@_@;)
ちゅーワケで、今年はカトカラの展翅を真面目にやり直すことを決意した。
その第一弾として、キシタバグループのファースト・インパクトだったフシキキシタバを探しに行った。

とはいえ、同じ場所から始めたくない天の邪鬼な性格。矢田丘陵にいるのならば、生駒山地にもいるとふんだ。
詳しいことは何ちゃらワカランし、来年か再来年かも知らぬが、大阪昆虫同好会で生駒山地の昆虫相を調べて本にするようだ。その協力もやんわりと打診されていたから枚岡公園へ行くことにした。
それに枚岡なら通い慣れたフィールドだ。ついでにウラジロミドリ(註1)の様子も併せて見る事も出来る。

 
2019年 6月6日。

もう一つ6が揃えば、悪魔の子ダミアン(註2)だなと思いつつ、夕方に出掛ける。

 

 
尾根筋でテキトーにウラジロミドリシジミと遊んだ後、展望台に向かっておりる。時刻は7時を過ぎている。そっかウラジロに夢中で気づかなかったが、確実に6月6日午後6時6分6秒と云うズラリと6が並んだ時間を此処で過ごしていた事になる。変な事が起こらない事を祈ろう。

夕闇の中で、外国人たちがボソボソ喋っている。
眼下には大阪平野の夜景が広がっている。綺麗だ。

 

 
にしても、生駒山中に外国人かあ…。
しかもこの時間帯とは時代も変わったもんだなと思う。こんなとこまで外国人観光客がやって来る時代になるとは考えもしなかった。ジャパンはこの先どうなってゆくのだ❓

暗闇の中、懐中電灯を照らして木を小まめにチェックしてゆく。実を云うと、昼間よか夜の方が樹液の出ている木は見つけやすい。なぜなら、ある種の蛾やクワガタとかカブトムシは夜に樹液に集まるからだ。懐中電灯を照らすと、カブトやクワガタはデカイだけに、よく目立つのである。蛾も飛び方で何となく樹液に寄って来たのだと解る。それらを観察していれば、樹液が出ている場所を特定できる。

いくつか樹液が出ている木を見つけた。
しかし、寄って来たのは矮小クワガタや何処にでもいるアケビコノハと名も知らぬクソ蛾どもだ。

梅園に降りる道が封鎖されていたので、仕方なく椋ヶ根橋へと繋がるルートに入る。

 

 
暗い。木々の間から僅かに街の灯が垣間見える。
道は尾根道から逸れ、やがて谷へと下ってゆく。街の灯りが届かず、真っ暗闇だ。この辺はイノブタ(猪豚)が出没するから注意せよという看板があったことを思い出してブルッとくる。いわゆる武者震いである。
そして、こんな暗い夜道。しかも山道を一人で歩いているだなんて、つくづく自分でも阿呆だなと思う。それも蛾を探して…。オイラ、頭オカシイぜ。
そもそもアチキは、子供の頃から夜の闇がメチャンコ怖くて一人でトイレにも行けなかったし、蛾もパニックな存在で、見たら飛び退くのが常だったのだ。しかも、この2つは時にリンクする。もう最悪パターンである。

しかし、げに恐ろしきは虫採り魂である。狂気の沙汰も虫次第。虫が採りたいという強い欲望が恐怖心をも凌駕してしまうのである。心頭滅却、恐怖心さえ排除して、対象物にのみに神経を集中させられるだなんて、我ながらスゴい心理コントロールじゃないか。ちょっとしたゾーンに入ってるのかもしんない。これって、まるでトップアスリートや武術の達人の領域だじょー(´▽`;)ゞ

懐中電灯の光の束が忙(せわ)しげに闇を走る。
一応蛾を探してはいるものの、イノブタへの警戒心も怠(おこた)っていないのだ。心なしが背中の毛が逆立っているような気がする。久し振りに恐怖心が芽生え始めていた。
オデ、オデ、イノブタ、怖いよー(T_T)。

そんな折り、何となく気配を感じた。
慌てて懐中電灯を照らす。
その先、頭上斜め上で蛾がくるくると飛んでいた(イノブタと思った人、残念ハズレでぇーす)。
下から黒と黄色の縞模様が見えた。
カトカラだ( ̄□ ̄;)❗
しかも、明るい黄色だからアサマキシタバではない。たぶんフシキだ。
瞬時に片手で網を左から右へとナギ払った。

手応えはあった。出会い頭の居合い殺法には自信がある。昔から運動神経と反射神経はいいのだ。
網の中を見ると、色鮮やかなオレンジが明滅している。間違いない。フシキキシタバだ。

 

 
ところで、生駒山地ってフシキキシタバの記録あんのかな❓初記録だったりして。

その場にしゃがんで、闇の中でスマホで写真を撮り、ブツを三角紙におさめる。
もし、こんな時間、こんなところでしゃがみ込んでる男に出くわしとしたら、きっと怖いだろうなあ…。行動が得体が知れなさ過ぎるよ。もしも傍らまできて急に襲い掛かれたとしたら…と思うとゾクゾクくる。足が確実に止まるね。で、追い掛け回されたりでもしたら、確実に髪の毛があっちゅー間に真っ白になるに違いない。

スマホを足元に転がるザック内の小ポケットに戻し、立ち上がって煙草に火をつけようとしたその時だった。
人の声がしたような気がした。
その場で凝固した。
(・。・;気のせい❓いや、ハッキリと聞こえた。
こんな山の中の暗闇で、人❓でも誰かが近づいて来た気配なんて無かった筈だ。なのに、いつの間に❓
もしかして、悪魔の子ダミアンの声(|| ゜Д゜)❗❓
しかも男女二人のようだ。
Σ( ̄ロ ̄lll)ハッ、ダミアンが二人❓
どわっ( ̄□ ̄;)❗❗、それとも双頭のシャム双生児的ダミアン❓それはアカン過ぎるやろ。
懐中電灯の光が激しく前後左右に振られる。
(;゜∀゜)誰だ❗❓何処にいる❗❗
女の喘ぎ声が聞こえたてきた。
背中が凍りつく。お化け❓妖怪❓それとも何かの霊❓
何にしろ、出たなと思った。
(ToT)チップス先生、さようなら。皆さん、お世話になりました。

けれど、何やら音が小さい。
しかも足元近くから聞こえてくる。
(・。・)小人❓
そして女の喘ぎ声も、どう考えても呪詛の声というよりかはアッチ系の声だ。

『あん、あん、あん、あっふぅ~ん❤』

(;・ω・)はあ❓
ザックに近づき、スマホを取り出す。
その画面には若い娘が歓喜の嗚咽を漏らして激しく交(まぐ)わっている映像が映っていた。
それは紛れもなく自分がダウンロードしたアダルト動画だった。それがザック内のポケットに無理矢理押し込んだ時に、偶々(たまたま)、変なところの触れて起動したのだろう。

恐怖はドッと解き放たれた。
安堵と同時にバカバカしくなって、声を出して笑ってしまった。
闇の中で、その笑い声は辺りに奇妙に反響し、やがて何事もなく静寂が訪れた。

                  つづく

 
追伸
その時のフシキキシタバの個体はコチラ。

 

 
♂である。
上翅を下げて、皆が良しとしそうなパターンでやってみた。
まあ、んなもんじゃろう( ̄З ̄)

因みに、去年の展翅はこんな感じだった。

 

 
鬼的なものを意識して展翅した。この頃は、まだまだ深層心理では蛾を畏怖する存在として捉えていたのかもしれない。

だいふと前に既に『2018’カトカラ元年』の2種めの原稿はほぼ書き上げているのだが、去年の自分のカトカラの展翅に少なからずショックをおぼえた。故にこの文章を書く気になっただす。後々、展翅写真がズラリと並ぶ予定なので、どれが正しい展翅なのか忌憚なき意見をお伺いしたい。
それと、フシキキシタバじたいに対する考えも今年は去年とは変わってきた。次回は、その辺りにも言及しようと思う。

 
(註1)ウラジロミドリ
ウラジロミドリシジミ(Favonius saphirinus)のこと。

 

 
(註2)悪魔の子ダミアン

1976年のホラー映画『オーメン』に登場した悪魔の子ダミアンのこと。
6月6日午前6時に生まれ、頭に666のアザを持つ少年ダミアンを巡る奇妙な物語。 監督はリチャード・ドナー。
1978年に続編『オーメン2/ダミアン』、1981年に『オーメン/最後の闘争』、1991年に『オーメン4』とシリーズ化されており、2006年には1976年版をリメイクした同名映画『オーメン』も製作された。2016年にはその後を描くテレビドラマにもなっている。

生まれたのは午前6時だったんだね。
考えてみれば、午後6時は18時だもんね。でも、この時はそんな事を考える余裕は無かった。だいたい午前6時って朝じゃんか。全然怖くない。一方、午後6時は昼と夜の狭間の黄昏(誰ぞ彼)の時間であり「逢魔が刻」なのである。その時間にダミアンが誕生したと記憶するのもしゃあないっしょ。

 

2018′ カトカラ元年 その1

 
  『不思議のフシキくん』

  Vol.1 フシキキシタバ

 
前回のプロローグに続き、いよいよ第1回である。
とはいえ時間が経っているので、ヒマな人はプロローグを読み返してね。

 
突然、去年からカトカラ(Catocala)に嵌まっている。
キッカケは6月上旬に奈良県大和郡山市の矢田丘陵にシンジュサンを探しに行った折りだった(註1)。

午後11時。水銀灯のそばの柱に、見慣れない蛾が止まっていた。
(;゜∀゜)あっ❗、もしかしてカトカラ❓
直感的にカトカラの中でもキシタバの仲間だと感じた。しかも、見たことがない奴だと思った。インスピレーションが走った時は大概は☝ビンゴだ。
ぞんざいに近づいたら、驚いて僅(わず)かに下翅の鮮やかな黄色を覗かせた。
(;・ω・)びっくりしたなー、もぅー。威嚇かよ。

 
(出展『フォト蔵』)

 
にしても、小憎らしいチラリズムだ。
男と云う生き物は、とってもチラリズムに弱いのだ。
( ☆∀☆)黄色いパンティー🎵
(@_@)黄色い逆さパンティー❤
\(◎o◎)/キャッホーッ💕

去年(2017年)、下翅が黄色い系統のカトカラはジョナスキシタバとキシタバを採った経験があったが(註2)、それらよりも明らかに鮮やかな黄色だと感じた。

少し離れた所にいる小太郎くんを呼ぶ。
彼は蝶屋だけど(ワシも蝶屋だす)、オイラなんかよりも遥かに蛾に詳しいのだ。って云うか、小太郎くんは虫の事だったら何だって詳しい。若いけど尊敬しちゃうよ。蛾初心者のオイラとしては誠に頼もしい存在だ。
 
『これって、キシタバ系じゃなくなくね❓』
 
と尋ねたら、小太郎くんが事もなげに答える。

『あっ、カトカラですね。この時期だと多分フシキキシタバかな。結構珍品ですよ。だとしたら、奈良県での記録はたぶん無かった筈てす。初記録かも。』

あんた、何でも知ってはるなあ。やっぱ、マジ尊敬するよ。いつまで経っても、ワシ二流でぇ~す( ̄∇ ̄*)ゞ

にしても捕らえて確認せねば、どうしようもない。
上から毒瓶をかぶして、薬殺する。
酷い所業だ。これで、アッシも立派なマッド・サイエンティストの仲間入りじゃよ、Ψ( ̄∇ ̄)Ψケケケケケ…。きっとロクな死に方をせんじゃろうて。

暫く経って、昇天を確認したところで取り出す。

 

 
表の柄は渋いっちゃ渋いけど、所詮は蛾風情。地味だ。
ならばと、裏返してみる。

 

 
(;゜0゜)おっ❗、この特徴的な黄色と黒の縞模様は間違いなくキシタバの仲間だね。馬鹿なオイラだって、それくらいのことは解る。

小太郎くんが言う。
『間違いなく、フシキですね。』
真面目に名前を聞いてなかったので、改めて何だそりゃ?と思って訊き返す。
『フシキ❓、フシギ(不思議)じゃなくて(・。・;❓』

フシギノモリノオナガシジミとか、また誰かがメルヘンチックな名前でも付けたのかと思ったが、小太郎くん曰く、間違いなくフシギじゃなくてフシキだそうだ。
にしても、語源がワカンねえよ。兎に角、蛾トーシロ(素人)には聞いたこともない名前のキシタバだった。
名前なんて別にどっちゃでもええけど、カトカラはカッコ渋美しいから、蛾にしては好きな方かなと思った。
でも、ことさら集めようという気は起こらなかった。

そういえば、こん時はこんな事も考えてたっけ…。
去年も思ったんだけど、このカトカラグループの柄って、サイケデリックっぽくねっ❓
サイケデリック・アートにはカラフルな渦巻きみたいな柄があって、なんかジッと見てると引き込まれそうというか、(◎-◎;)目が回りそうになる。幻覚系ドラッグやってたら、コレってヤバいくらいにウルトラ立体的に見えるのかな❓(勿論、やんないけどー(^o^))
インドで出会った学生ジャンキーくんは、L・S・D をやったら、そんな風に見えたりすると言ってたなあ…。
アイツ、相当なジャンキーだったけど、まだ生きとんのかなあ…。

んな事を考えつつ、そっと上翅を少し上げてみた。
と、同時に色鮮やかな黄色がバァーンと目に飛び込んできた。
黄色はあまり好きな色じゃないけど、素直にとても綺麗だと思った。でも写真は撮らなかった。そんな事よりも意識はまだ見ぬシンジュサンの方に集中してたからだ。その美しさに心を動かされたとはいえ、所詮は前座だと思っていた。いつシンジュサンが飛んでくるかワカランのだ。かまけているヒマなどない。

その夜、💥ビシッとシンジュサンをシバいて、翌朝に帰った。この日が記念すべきオーバーナイト・モスだったワケだね。冷静に考えてみれば、蛾を求めて徹夜するだなんてビョーキだよなあ。我ながら脱力系で笑ってしまうよ。

一眠りしてから展翅してみて、(;゜0゜)驚いた。
日の光の下で見るそれは、もっと鮮烈な黄色だった。

 
【フシキキシタバ Catocala separans ♂】
(2018.6.7)

 
深くて濃い、どこか透明感のある山吹系の黄色だ。見ようによってはオレンジ色にも見える。
これを見て気持ちが一変した。
カトカラの中の所謂(いわゆる)キシタバと言われるグループは下翅が皆さん黄色くて、日本ではこのタイプのカトカラが圧倒的に多い。でも素人目には、どれも似ていて何が何だかワカンない。区別がつかねえもんは面倒クセー。だから敬遠してた。生来ミーハーだから、カトカラと云えば、こん時まではムラサキシタバしか眼中になかったのである。けんど、こんなに美しいのなら集めてみてもいいなと思った。それにスタートからいきなりの珍品で、しかも奈良県では未記録と云うのも何だか気分が良い。俄然、やる気になった。

後々知ることになるのだが、後翅の黄色部は他の黄色系カトカラと比べて、このフシキキシタバが群を抜いて美しい。その理由は他種と比べて下翅の黒帯が細いことにある。即ち、黄色い領域が広いということだ。少し毛色が違うが、この黄色の美しさに対抗しうるのはカバフキシタバくらいだろう。あと、蛾にしてはあんまりデブじゃないのも好感がもてた。
もしも最初に自分の力だけでゲットしたのが、少し前に発生する地味なアサマキシタバだったとしたら、おそらくカトカラには嵌まっていなかっただろう。いや、嵌まるにしても、もっと後だったかもしんない。
そういえばこの年は、ちょっと前の5月半ばにA木くんに『そろそろアサマキシタバの季節ですよ。今年は蝶の発生が全般的に早いから、もう出てるかもしれませんね。』と言われたのだった。けんど、言われても全然ピンとこなかった。そういうのもいたなあ…と云う程度で、あまり興味が無かったのだ。やっぱ、蒐める気がさらさら無かったのね。

 
後日、♀らしきものも採れた。

 
(2018.6.17)

 
♀の方が帯が細くて、より黄色いね。偶々かなと思ったが、図鑑等で確認すると、その傾向はあるようだ。
とはいえ、雌雄の決定的な違いはおそらく腹だろう。
♂は腹が細長く、その先端に尻毛(毛束)があるが、♀には無い。腹も短くて太い。加えて、翅形は♀の方がやや丸っこい。他にも判別点はありそうだが、蛾はトーシロだからワカンねえや。

とにかくコレを機に、フシキキシタバ、ひいてはカトカラ全般について調べてみようと思った。

フシキキシタバは、かつては大珍品だったようだ。
1889年に記録されてから、近年まで記録が無かったそうだ。それくらいレアだった。再発見されたのは1956年で、場所は兵庫県。何と67年ものインターバルがある。(・o・)何で❓
その後、岩手県、山梨県、北陸地方や近畿地方各地での発見が相次いだそうな。

ネットの『カトカラ全集』の県別カトカラ記録を見ると、小太郎くんの言うとおり奈良県では未記録になっていた。でも、これは単に正式な発表がされてないだけだと思う。とは云うものの、調べれば調べるほど珍品じゃなくなってきてるみたいだし、当然奈良県でも採れているという情報も入っている筈だろう。じゃなければカトカラ界の情報ネットワークが余程狭いのか、愛好者が少ないのか、もしくは管理者の怠慢を疑っちゃうよ。

 
【学名】Catocala separans(Leech,1889)

属名Catocalaの語源は、ギリシャ語の kato(下、下の)と kalos(美しい)を組み合わせた造語。つまり、後翅が美しい蛾ということだね。
小種名の「separans」は、おそらくラテン語由来。
意味は「分離」だろう。これは上翅と下翅の色が違うことからきてるのかと思ったが、それじゃテキトー過ぎる。他のカトカラもそうだからだ。
想像だが、たぶん下翅中央の黒帯が途中で分離、もしくは分離しがちだからではないかと考える。間違ってたら、ゴメンナサイ。

フシキキシタバは、英国人リーチによって1889年に富山県高岡市伏木と滋賀県長浜から得られたものから記載された。和名の由来はその辺からだと思われるが、なぜナガハマキシタバではなく、フシキキシタバになったのかと云う経緯はわからない。
どうあれ語源は、まさかの地名だったのね。納得だが、ちょっとガッカリだ。想像では、もっと複雑でドロドロしたややこしいミステリアスな命名ストーリーを描いていたからさ。
(-_-)フシキキシタバ殺人事件。ナガハマキシタバを主張した男は消されたな。アカン、また変な妄想がワいてきた。脳を強制停止じゃ。

分布は本州、四国、対馬。北限は青森県だが、その分布は局所的で記録の無い都道府県も結構ある。国外では朝鮮半島、中国北東部、ロシア沿海州にも分布するとされている。

成虫の開張は55㎜。図鑑等には6月初旬から現れ、8月下旬まで見られるとあるが、実際は7月に入ると殆んど見られなくなった。いても、驚く程みすぼらしいボロだった。新鮮な個体を得られる期間は短いのかもしれない。

フシキキシタバは下翅の黒帯が細く、黄色い領域が広いのが特徴だが、実をいうと日本には同じような特徴を持つものがもう1種いる。Catocala duplicata マメキシタバだ。
けど両者の判別は簡単。名前のとおりマメキシタバの方が遥かに小さいからだ(開張46~48㎜)。それに上翅の斑紋が全然違う。発生時期も1ヶ月近く後ろにズレるから、間違うことはまず無いでしょう。マメちゃんが登場する頃には、フシキさんはボロボロなのだ。少なくとも関西から西はそうだろう。

 
【マメキシタバ Catocala duplicata ♀】
(2018.8 大阪府四條畷市)

 
何か野暮ったいなあ…。
たぶん上翅のデザインにメリハリが無いからだ。それに、下翅の黄色にフシキのような透明感のある輝きが感じられない。どこか燻(くす)んで見える。

話をフシキくんに戻そう。
幼虫の食樹はブナ科コナラ属のクヌギ、アベマキ。
飼育する場合、同じコナラ属であるミズナラやコナラ、カシワが代用食になるというが、産地により受け付けない事もあるそうだ。

先にも触れたけど、フシキキシタバは近年までは指折りの大珍品だった。しかし、最近では関東地方の平野部など各地から多産地が見つかっているという。
これは食樹が判明し、灯火にあまり飛来しないこと、樹液によく集まること、発生期が比較的早くて期間も短いこと、昼間の見つけ採りでも得られることが分かったからのようだ。珍種と言われるものでも生態が分かってしまえば、普通種に成り下がることはままある。
とはいえ、かつては不思議キシタバとも言われるくらいに謎多き存在だったみたいだ。謎とかそういうのって掛け値なしに好き。謎があれば、そこには浪漫があるからだ。興味は尽きない。
これは想像だが、不思議だとされたのは、①記載されてから長い間再発見されなかった事。②再発見されてから突然各地で記録が急に増えた事。③蛾の主たる採集法であるライトトラップや外灯にはあまり飛来しない事。④前年には沢山見られたのに、翌年は全く見かけなくなったりする事。そして、⑤幼虫の食樹が何処にでもあるクヌギやアベマキだからだろう。
幼虫の食餌植物がレアなものなら、珍品たる理由も理解しやすい。それが、まさかの何処にでもあるクヌギの木となると、首を傾げざるおえない。

①と②は後回しにして、③からその理由を紐解いてゆこう。カトカラ1年生の空想、戯れ言だと思って聞いて戴きたい。

③だが、灯火にはあまり飛来しないとあるが、自分は灯火に飛来した個体を5頭以上は見た。但し、何れも深夜11時以降(註3)、遅いものは午前4時過ぎに飛来した。因みに飛来が多かったのは、午前1時前後である。
たぶんライトトラップや灯火まわりは、皆さんそれほど深夜遅くまでやらないから、それで会えなかったのではあるまいか。ゆえに灯火にはあまり飛来しないと考えたのではなかろうか。たった1年の経験だが、フシキは灯火への飛来が遅いタイプという可能性はあると思う。

④は、単に大発生した後の次の年には極めて個体数が減るからではないかと思う。大発生じゃなくとも、多かった年の翌年は個体数が減ると思われる。蝶なんかは、そういう例が結構多い。蛾でも有り得るだろう。

⑤が最大の不思議だった。どこにでもあるクヌギやアベマキが幼虫の食樹なのに、なぜ珍品だったのかが謎過ぎる。これを単にカトカラ愛好家の怠慢だと片付けるのには無理がある。クヌギをホストとするカトカラは他にもいるからだ(註4)。となれば、カトカラ愛好家さんたちがフシキキシタバがいるような環境に行く機会は少なくなかった筈だ。のみならず、その環境ならば甲虫屋だって訪れる機会は多い。甲虫屋の多くが蛾に興味を持っているとは思えないが、情報が入る確率はゼロではない。長い年月の間には、情報がもたらされる事もあって然りだろう。それでも稀にしか見つからなかったという事は、やはり昔は極めて稀な種だったと思われる。

発見されにくいのは、発生が比較的早いからだとも考えたが、コヤツの前にアサマキシタバが発生する。また、フシキの後にはすぐワモンキシタバや、ただキシタバ(Catocala patala)も発生する。前後どちらかを採集に行った折りに、会える可能性はそこそこあるだろう。だから、それも理由とはなりにくい。やっぱ不思議だわさ。

とはいえ原因のない結果は存在しない。きっとそこには某(なにがし)かの理由がある筈だ。
例えば、昔と今とでは里山の環境に何か変化はないだろうか❓地球温暖化とか、乾燥化とか、天敵の減少とかさ。
💡ピコリン❗そこで、はたと閃いた。
クヌギは昔から里山に住む人々に利用されてきた。成長が早く、植林から10年ほどで木材として利用できるからだ。材質は硬く、建築材や各種器具、車両、船舶に使われる他、薪や椎茸栽培の榾木(ほだぎ)、炭(薪炭用材)としても用いられてきた。伐採しても切り株から萌芽が更新し、再び数年後には樹勢を回復する事から、持続的利用が可能な樹木の一つとして農村では重宝されていた。それゆえ下草刈りや枝打ち、定期的な伐採など人の手が入ることによって林は維持されていた。これがいわゆる日本人のイメージする雑木林で、里山の風景の典型を成してきた。しかし、近代化と共に日本人の生活様式や農業そのものの有り様が変化した。そして、今では利用されることも少なくなり、放置されることが多くなった。
つまり、雑木林が放置されることにより伐採が減って、クヌギやアベマキの大木が増えたのではないだろうか。
クロミドリシジミの幼虫がアベマキの大木を好むらしい。そして、最近になって各地で増えているとも聞いている。フシキキシタバの幼虫も大木好きで、クヌギやアベマキの成長が進み、それに伴って増えたのではあるまいか❓ それだとキレイに説明がつく。どこにも、そんな事は書いてなかったけど…。

①は、⑤と関連性があるのではないかと思う。
記載されて長い間再発見されなかったのも、昔はクヌギの大木が少なかったからではないかな。

②も⑤とリンクしていて、再発見されてから急に各地で見つかり始めたのも全国的にクヌギやアベマキの大木が増えたからだろう。時代の流れで、里山の生活様式が想像以上に各地でワッと一斉に変わったんだろね。
個体数が増えると、観察される機会も増える。当然、詳しい生態もわかってくる。それが発表されれば、伝播は早い。加速度的に情報量が増えたから、発見が各地で相次いだのではないかと推察する。

再度言うけど、蛾初心者の戯れ言だと思って聞いて戴きたい。
色々と文献をあたってみたけど、調べた限りではこういった推察なり意見なりは見受けられなかったし、奈良県の記録は今年見ても空白のままだ。カトカラ愛好家って、もしかしてシャイなの❓

怒られそうだ。カトカラ愛好家の皆様方、けっして喧嘩を売っているのではござりませぬ。初心者ゆえにワケもワカラズ、素直に疑問をぶつけただけでござる。納得できる説明を御教示してくだされば、直ぐに謝罪、意見を引っ込める所存でありまする。
納得できねば引っ込めませんけどー。ツゥンマセーン。
あっ、このモノ言い、絶対怒られるなあ。
まあいい。どうせ周りでカトカラを集めているのはA木くんくらいしかいないし、滅多に遊んでもらえない。だったら、勝手な事をゴチャゴチャ言う一人ぼっちカトカラ愛好家になろう。
でも、本当は一人で夜出歩くのは嫌なんだよなあ…。
👻お化け、怖いし。

ここまでを酔っ払って一気に書いた。
翌日、読んでみて、ヤバいかなあと思った。偉そうなことを書いちゃったので、不安になってきたのだ。
そういえば、西尾規孝さんの『日本のCatocala』のフシキキシタバの項を読んでないんだよなあ…。去年の秋の終わりに大阪の自然史博物館で読ましてもらったんだけど、既に採った事のあるカトカラは無視して、まだ採ったことのないものを中心に読んだのだ。採ってしまえば、急速に興味を失う性格が仇になっちまっただよ。
とにかく、ここは是が非でも確認せねばなるまい。もう慌てて、ソッコーで自然史博物館に行ってきましたよ。

 
件の本には、アッシの考えたような事がちゃ~んと書いてあった。

「本種は比較的最近になってあちこちで産地が知られるようになった。老齢木にもつくようである。今から20年前にコシロシタバやマメキシタバ、オニベニシタバの多産した上田市のクヌギ林の樹齢は20年前後であった。40年になるとCatocala はつきにくくなるような印象を持っている。老齢木のタンニンは幼虫の成長阻害要因である。ミドリシジミの類の方がもっと顕著で、30年以上のクヌギにはクロミドリシジミ以外はまずつかない。近年の薪炭材の放置による林の老齢化がCatocala相に影響を与え、結果的に本種の多産につながっている可能性がある。」

別項の食樹についての欄にも関連した記述があった。

「幼虫はコシロシタバが特に発生する10年前後の幼齢の木にはほとんど発生しない。20年以上の大木によく発生する。」

Σ( ̄ロ ̄lll)やっベー、もう少しで大恥をかくとこじゃったよ。ちゃんと考えてはる人は、おるんやね。或いはカトカラ好きの間では、こんなの常識だったりして…。
カトカラ愛好家の皆さま、m(__)mゴメンナサイ。

それにしても、この西尾さんの本ってスゴいよなあ。
日本のカトカラについて、これ程までに突き詰めて書かれてある本は他に無い。幼生期も含めて、よくぞここまで調べ上げられたなと思う。生態写真もふんだんに盛り込まれているし、しかもキレイ。これはもうカトカラ界の金字塔的遺産でしょうよ。しかも自費出版なんだから驚きだ。生意気なカトカラ1年生も、その努力と執念、鋭い観察眼には感服させられましたよ。

 
そういえば、裏側の画像を添付してなかったな。

 
(裏面♂)

 
斜めってて、酷いな(笑)
写真を撮るのがテキトーすぎた。撮り直そうかと一瞬思ったが、もう、いいや。面倒クセーもん。
それはそうと、あんまし考えてなかったけど上翅の裏は黄色いんだね。裏はボオーッと見てたわ。もしも翅の表もこのデザインで、色鮮やかだったとしたら相当カッコイイぞー。

 
(裏面♀)

 
下翅は表の柄とある程度は連動してるっぽいな。
となると、キシタバグループの中では一番明るいのかな?とはいえ、表みたいに黄色が鮮やかではないから、どってことないけど。
そういえば、図鑑には裏側の標本写真が殆んど載ってないんだよなあ~。何でかなあ❓そのうち全種揃ったら、一同に並べてやろう。

とにかく、このフシキキシタバをキッカケに、このあとカトカラにハマって邁進する事とあいなった。
結果、1年で17種類が採れた。日本のカトカラは全部で31種類だから、半分は越えている。近畿地方以外の遠征は秋の山梨と長野の2回だけだった事を考えれば、結構頑張った方だと思う。

ここで「おしまい」と書いて、あっさりクロージングする予定だったが、やめた。らしくない。最後に饒舌男の一言を付け足して終りませう。

フシキキシタバは珍品の座を滑り落ちたが、他の場所でその姿を見る事は一度も無かった。今や大珍品じゃないかもしんないけど、分布は今もそこそこ局所的で、けっして普通種なんかではないと思う。誰にもポイントを教わらずに自分の力だけで見つけ出すことはそう簡単ではない筈だ。レア度のランクは下がったやもしれぬが、美しいことに変わりはないし、個人的には特別さはそんなに失われていないと思ってる。
何よりも黄色いカトカラの魅力を最初に教えてくれた種だ。この先、初恋の相手を悪く言うことはないだろう。最初に惚れた女を蔑(ないがし)ろにするような男にだけはなりたくない。
 
                  おしまい

 
追伸
第1回なのに、のっけから攻撃的な回になってしまったなりよ(^o^;)
カトカラ1年生なのに、生意気だよね。途中で書き直そうかとも思ったが、そのままにしておくことにした。理由の一番は面倒くさいからだけど、一旦吐いた(書いた)言葉は呑み込みたくないし、本音を言うのを厭わない方だからコレで良しとした。批判があれば、素直に謝罪なり反論なりすればいいことだ。

展翅は今思うと上翅を上げすぎたなあ。
蝶の展翅の時みたく、触角の角度と上翅との間隔(空間)を重視して展翅したからだろう。
あと、蛾ビギナーなので、図鑑を持っていないと云うのもある。お手本が無いのでイメージが湧かないのである。自然、テキトー俺流となる。
そういえば、蛾だから邪悪な感じにしたかったと云うのもあったな。上翅を上げ気味にした方がそう見えっからね。蝶じゃないから気楽で自由なのさ。蝶ほどに大切ではないゆえ、失敗しても別にいいやと思ってっからチャレンジャーにもなれるってワケ。
段々、思い出してきたよ。踏み込んで言うと、当時は世間の蛾の展翅に対して、あんまキレイじゃないなと云う印象を持っていた。ならば、ルール無用の悪党のワシがトレンドを作っちゃるーくらいの気分だったのである。我ながら尊大なアホだよねぇ(笑)。
でも実際は違った。今では思う。蛾の展翅は蝶よりも遥かに難しい。蛾は形がバラバラで、その造形は多岐に渡る。個性的なのだ。だから、種によってバランスが全然違ったりもする。やってて、何が正解なのか分からなくなってくるのである。おまけに触角にも色々なバリエーションがあるから、ややこしい。でもって、カトカラなんぞは髪の毛よりも細いから直ぐにブチッと切れるし、真っ直ぐになんないし、左右対称にするのは至難の技。ほとんど不可能と言っていい。
そんなワケで、今回のコレはコレで一つのそういうデザインと考えれば、そこそこカッコイイかもしんないと密かに思ってたりもするんだよねぇ…。
けんど、今年は上翅をもっと下げよ~っと。
先ずは基礎を学んでからでないと、トレンドとか崩しもヘッタクレもあらしまへん。遊ぶなら、もっと上手くなってから遊ぼっと。それに、秋田さんに褒めてもらいたいしね。

と、昨日はここまで書いて、註釈も含めてほぼほぼ文章を完成させてから生駒山地にウラジロミドリシジミの様子を見に行った。テリトリー(占有活動)を張り終える日没近くまでいたから、折角だし樹液が出てる場所を探すことにした。誰もいない真っ暗な山道を懐中電灯を持ってウロウロする。
で、たまたま照らした斜め上にカトカラらしきものが飛んでた。瞬時に反応して片手で網を振り抜いた❗
飛んでる時に裏側が鮮やかな黄色に見えたから、マジ振りである。アサマキシタバではない筈だから、もしやと思ったのだ。勿論、そういう時は滅多とハズさない。
網の中を確かめて、闇に向かって、『俺って、まあまあ天才。』と呟いたよ。

すかさず、毒瓶に放り込む。

 

 
ひゃっほー((o(^∇^)o))❗❗
( ☆∀☆)チラリズムの逆さ黄色いパンチィー❤❤❤
やっぱフシキちゃんだった。

 

 
期せずして、この日は去年初めてフシキキシタバを採った日にちと同じ6月7日だ。

《「この黄色がいいね」とオラが言ったから六月七日はフシキ記念日》

今日から6月7日は『フシキ記念日』と呼ぼう。
\(◎o◎)/おーっ、何と元ネタの俵万智の短歌『サラダ記念日』の日付の七月六日と入れ替わりの反対じゃないか。運命感じるぅー(σ≧▽≦)σ

フザけるのはこれくらいにして、展翅するなりよ。

 

(2019.6.7 東大阪市枚岡公園)

 
出来立て、ほやほやだよ~ん。
上翅の大きさが右側が少し小さいので、ビミョーに変だが、まっ、こんなところでしょうかね。
触角をきっちり整えるのを試みてみたが、(^_^;)無理だわ。これに関しては自然に任す方向で整えるしかないね。

とはいえ、下げたものの全然邪悪感がないなあ。
皆さんは、どっちがカッコイイと思いますぅ―❓
なんだか何が正しいのか、よくワカンナクなってきたよ。

 
(註1)シンジュサンを採りに行った折りに…
そん時のことは、拙ブログに『三日月の女神・紫檀の魁偉』と題した三回シリーズに書いとります。

 
(註2)ジョナスキシタバとキシタバを採った経験…
2017年の秋にA木くんに、ムラサキシタバを見てみたいとせがんだら、兵庫県北部にライト・トラップ採集に連れてってくれた。その時に採れた。といっても、採らしてもらったと云う方が近い。今でも自分の力では採ったとは思ってない。ようするに、お客さんだったワケだね。もっと言うと、最初は持ち帰る気はさらさら無かった。飛んで来たから思わず網に入れたものの、基本的に蛾は苦手だからどうしたものかと思ったのだ。でもA木くんが『持って帰ればいいじゃないですか。』と言うので、記念として持ち帰った。謂わば、この2017年の採集は、1回切りのお遊びだったワケ。だからがゆえの『2018′ カトカラ元年』なのだ。

 
(註3)深夜11時以降…
シンジュサンの回でフシキの飛来を午後10時半と書いたが、知らぬうちに己の記憶を勝手に都合のいいように改竄していたみたいだ。写真の撮影時刻を確認したら、午後11時過ぎになっていた。感覚と印象だけで言っちゃって、すいません。
ついでに補足しておくと、小太郎くんがシンジュサンを1頭持ち帰ったというのも間違い。持ち帰ったのは別な日で、しかもシンジュサンではなくてオナガミズアオでした。小太郎くんからの指摘で判明した。
人間の記憶なんてものは、思った以上に曖昧らしい。
自尊心と思い込みが強い人間は、気をつけた方がエエですな。

 
(註4)クヌギをホストとするカトカラは他にもいる
クヌギは、マメキシタバ、コシロシタバ、オニベニシタバ、アサマキシタバ、アミメキシタバ、コガタキシタバの食樹でもある。

 
 
《参考文献》

1971 保育社『原色日本産蛾類図鑑 下』-江崎悌三ほか

 
1971年の改訂版を参考にした。このあと1981年に、もう1回改訂版が出ているようだ。因みに初版は1958年の発行です。

 
・2011 むし社『世界のカトカラ』石塚勝巳
 

 
初心者がカトカラの世界を知るには、この本が一番だろう。解りやすくて、よく纏まっている。平易な言葉が使われているし、図版の写真も綺麗。レイアウトもスッキリしている。また、日本のみならず世界のカトカラまで紹介しているから、属全体を俯瞰で見られるところも素晴らしい。

 
・2009『日本のCatocala』西尾規孝
 

 
自信の表れだろうか、シンプルで渋い表装だ。
素直にカッコイイと思う。

 

三日月の女神・紫檀の魁偉ー完結編

 
 
第3話である。ようやく完結編だけんね。今度こそ、ちゃんとクロージングさせまっせ。

 
思えば、シンジュサンにはまさかの惨敗に次ぐ惨敗だった…。

 
2018年 6月7日。
この日は午後3時くらいに東大阪市の枚岡公園に出掛けた。ウラジロミドリシジミの様子を見るためである。
まだウラジロミドリを採ったことが無いという中学生に会ったので、ポイントに案内してあげる。
今どき虫採りをしている若者なんざ絶滅危惧種だから、大事にしないといけんのだ。

しかし、個体数は例年よりも多いものの発生が早かったようで、既に傷んだ個体ばかりだった。
それでも中学生は採って感激してくれていた。自分も最初の1頭には震えた事を思い出した。
フィリップ・マーロウの言葉を借りれば、『初めてのキスには魔力がある。2度めには、ずっとしていたくなる。だが、3度めには感激がない。』である(註1)。最初の1頭にこそ価値があるのだ。少々羽が破れていても関係ない。もちろん完品が望ましいが、ファーストインプレッションは必ずしもそうであることが絶対条件にはならない。
どうあれ、よかった。百聞は一見にしかず。狙った虫は、採らなきゃ何も始まらないのだ。虫捕りは恋愛とよく似ているかもね。

 
夕陽を眺める男女を囃し立てて写真を撮らしてもらい、山をおりる。

 

 
枚岡公園から転戦。今宵も矢田丘陵へ。
そう、又しても懲りずにシンジュサンを求めての灯火巡りなのだ。何としてでも6連敗は阻まねばならぬ。これ以上の連敗は自信喪失、心がポッキリと折れかねない(現在のヤクルトスワローズみたいに15連敗もしたら、虫採りなんかやめるね)。

名前がワカランがスタイリッシュで、シャレ乙な蛾がいた(註2)。

 

 
採るかどうか迷ったが、そのままにしておく。
邪魔くさいので、チビッ子蛾はフル無視なのだ。

小太郎くんがコチラに来る道中でバカでかいスッポンを拾ってきた。

 

 
写真はビニール袋を破って逃亡を企てている様子。
持ってみたら驚くほど重かった。このデカさは主(ぬし)クラスだわさ。売ったら、相当な値がつくだろう。

スッポンはスープが絶品なんだよなあと呟いたら、
小太郎くんが『さばきます?』と言ってきた。
(゜ロ゜;ノ)ノそれは絶対無理❗❗

夜10時半。
ヒマ潰しに樹液ポイントを回って戻ってきたら、柱に見慣れぬ蛾が止まっていた。
(;゜∀゜)あっ!、もしかしてカトカラ❗❓
何となく勘でそう思った。

 

 
採って裏返したら、特徴的な黄色と黒の縞々模様がある。やはりカトカラくん(キシタバの仲間)だった。

 

 
キシタバはカッコ渋美しいから嫌いじゃないけど、正直どうだっていい。今はシンジュサン以外は眼中にない。あとは皆、所詮は雑魚だ。
袖にされまくって、いつしか心はシンジュサンに奪われている。そう、恋い焦がれていると言ってもいい。
世の中の、うら若き女子に告ぐ。口説いてくる男子は1回は振っておきましょう。さすれば、バカな男子は貴方により熱を上げまするぞ。2回目のアプローチが無くとも責任持たないけどさ(^o^)

 
気温が高くなってきたせいか、格段に飛来する蛾の種類数と個体数が増えてきている。

 

 
これはトモエガの仲間(註3)だね。
昔は感覚的に気持ち悪かったけど、今や蛾に対する免疫も少しづつ出来てきたので初ゲットしてみる。

 

 
わっΣ(゜Д゜)、裏が鮮やかな紅(くれない)なのね。
紅蓮の🔥炎じゃよ。地獄の業火の色だ。この感じ、まるで地獄の使者みたいじゃないか。
でも同時に素直に美しいと思う。今まで飛び退いてて、ゴメ~ン。

そういえば、台湾に蒼くて糞カッコイイ綺麗なトモエガがいるみたいなんだよね(註4)。生来の青好きとしては、あれはマジで採りたい。でも、名前も何処へ行けば採れるのかもワカラン。アレに会えたら、蛾世界にも素直に入っていけるかもしれんのにのぅ(# ̄З ̄)。
きっと人生には、時に何かを飛び越えるキーワードとか、切っ掛けが必要なんだよね。

  
時刻は既に午後11時を過ぎている。
車が無いので、本来ならば帰らないといけない時刻だ。しかし、今日は背水の陣で臨んでいる。朝まで粘ると決めた。ここまでくれば、もう意地である。執念が無ければ欲しいものは手に入らない。

午前0時前。
小太郎くんとしゃがみこんで、網に入れたクソ蛾についてグダクダ言っている時だった。
視界の端で何かが飛んだ。と同時に『来た❗❗』と叫んでクソ蛾を網に入れたまま走り出していた。💨猛ダッシュだ。久々に体内でアドレナリンが💥爆発しているのが自分でも解る。

夜空に、恋い焦がれていたシンジュサンが舞っていた。
だが、思ってた以上に飛翔速度が速い。しかも、飛ぶ軌道がメチャクチャだ。
背後に小太郎くんがいる気配を背中で感じる。ここで振り逃がしたら笑い者だ。何があってもハズせない。それに、もしハズせばグダクダとあーだこーだと言いワケしかねない。いや、絶対するに決まっている。そうなれば、そこにどう正当な理由があろうともカッコ悪いことには変わらない。結果を出さなければ、クソだ。
緊張と慎重の狭間で構える。脳が躊躇はするなと命令する。両肩にグッと力が入る。距離を詰めた。迷いは禁物だと肝に命ずる。スウィングの始まった瞬間に目の前で左下に急降下した。内角を抉ってくるシンカーの軌道だ。(|| ゜Д゜)えっ、マジ❗❓
その落ち際を💥一閃、左から右へと振り抜く。スローモーションでターゲットがネットに吸い込まれてゆく。すかさず網を捻り、逃亡を防ぐ。
乾坤一擲。鬼神の如き網さばきで、一振りで鮮やかに決めた。超気持ちイイー。
 
しかし、クソ蛾とシンジュサンの両方が網の中で暴れており、(;゜0゜)わっ💦、(;゜0゜)わっ💦、(@_@;)わっ💦、あたふたする。
『どっち❓、どっち❓どっちを先に〆たらいいのー❓』
軽くパニくっちゃってて、小太郎くんにワケのワカランことをのたまってしまう。
『何言ってるんすかー❗❓ クソ蛾よか当然シンジュサンでしょうよ。』
( ・∇・)☝そりゃ、そーだー。
クソ蛾なんぞ、どうなってもいい。2匹が絡んでシンジュサンの羽が傷んだらエライコッチャである。何ならクソ蛾の方は踏みつけて、それを阻止したっていいのだ。
でも、そこまで悪人にはなれないので、手で網を押さえて両者を分かち、その間に小太郎くんにアンモニア注射を打ってもらう。

💉ブチュー❗
一発で👼昇天じゃよ。
虫屋って、やってることがマッドで変態やなあ。

網から取り出す。この僅かな時間がもどかしい。でも同時にその刹那は歓喜へ通ずるプレリュードでもある。

そっと手のひらに乗せる。

 

 
💕やっと会えたよ、シンジュサン。
全身に多幸感がゆっくりと広がってゆく。
4枚の羽一つ一つに三日月紋が配されているね。
シンジュサンの学名の小種名は「cynthia(シンシア)」。ギリシア神話の月の女神に由来している。だったら、神が遣(つか)わし三日月の女神だね。

狙った獲物をシバいた時の❤エクスタシーは堪んないよね。これこそが虫捕りの醍醐味じゃけぇ。
(о´∀`о)ぽわ~ん。我、今年最初の多幸感に包まれり。

『いやあー、普段はチンタラしてるのに、マジ反応早かったですねー。しかもダッシュが半端なく🚀ロケットスタートでしたわ。』
小太郎くんが笑いながら言う。
誉め言葉と取ろう。小太郎くん、蛾好きでもないのに付き合ってくれてアリガトねー。

とにかくコレで何とか一つの種の連敗記録の更新を免れた。5連敗したのはキリシマミドリシジミとコヤツだけ。2連敗したのが、ベニモンカラスシジミとタカネキマダラセセリで、あとは運と引きの強さで全部その日のうちに仕留めてきたのだ。打たれ慣れてないから泣きそうだったけど、これでまたヘラヘラ笑えるよ。

初の出会いの興奮が醒めやらぬうちに、シンジュサンは立て続けに飛んできた。
 
2頭目はデカかった。
さすが日本で2番目に大きいと言われる蛾だ。
羽の厳(いか)ついデザインも相俟って、魁偉と言ってもいい姿かたちだろう。
とはいえ、冷静に見れば、想像してた程の大きさではない。他のヤママユガ科の蛾たちと比べて胴体が細く、羽も薄いので、やや迫力に欠けるきらいがある。ヤママユの方が羽が分厚いし、腹もぽってりで迫力がある気がする。厳ついとかゴツいというよりも、寧ろ優美かもしんない。
いや待てよ。それはあくまでも見る側の視点の置き所にすぎないだけかも…。蛾を怖れる女子やお子ちゃまにとっては、充分恐ろしい姿に見える筈だ。ならば、やはり魁偉と言えよう。

そして、更に続けて飛んで来たのは、何じゃこりゃのチビッ子シンジュサン。大きさにかなりの個体差があるのに驚く。

 

 
他のヤママユガ科の蛾は、だいたい大きさが揃っている印象があるのだが、コヤツらは大きさに落差があり過ぎる(註5)。

午前0時前から約30分間で怒濤の計5頭が飛来。
その後、パッタリと来なくなって、やがて朝を迎えた。
明けてくる菫色の空が美しかった。
爽やかな微風が頬を撫で、背後の森の木々たちを静かに揺らした。
それを合図かのように立ち上がり、駅へとゆっくりと歩き始めた。

 
                 おしまい

 
追伸
ゲットして、懐中電灯を照して撮った写真があまりにも酷くて、全然その美しさが伝わってないような気がする。
と云うわけで、自然光で撮りなおした。

 

 
灯火の下ではオリーブグリーンに見えたが、こうして日の光のもとで見ると、だいぶと印象が変わる。
エレガントだ。何ともいえない淡い赤紫に惚れ惚れとする。でも単純な赤紫色ではない。もっと相応しい色の表現がある筈だ。
そして思い浮かんだのが、紫檀色。これは高級タンスなんかにもよく使われる紫檀(したん)の木の色から来ている。紫檀色って、ちょっと高貴な感じがしてピッタリじゃないか。

 
(出展『伝統色のいろは』)

 
(-_-;)むぅー、でもシンジュサンの写真の色と見比べてみると、違うなあ…。頭の中の記憶ではこういう色に見えた筈なんだけどなぁ…。写真の映りが悪いのか、それとも脳内で勝手に色を増幅させたのかにゃあ…。
ι(`ロ´)ノえーい、この際そんな事どっちだっていい。わたしゃ、イメージ重視の人なのだ。記憶の中の色こそが、リアルな色だ。

因みに、紫檀の木は英名をローズウッドという。
今はコチラの呼び名の方が、紫檀よりもポピュラーかもしんない。

 
(出展『伝統色のいろは』)

 
木の方は更に赤く見える。
けど、これは木にもよるだろう。
例えば、こんなのもあった。

 
(出展『エコロキア』)

 
噺は変わって、羽の先は鉤状に湾曲している。

 

 

 
コレを蛇、もしくは蛇の頭の形に擬態しているとする説が誠にしやかに流布されているが、ホントかよ❓と思う。
んなもんで、鳥が騙されてくれるかね❓それって、無理からでねーの❓所詮は言い出した人の願望であって、こじつけじゃねえの❓
日本の学者とか研究者は、何でもかんでも擬態にしたかる傾向があるような気がするんだけど、おいらの思い過ごしかなあ…。

それにしても、この個体だけ腹ボテで群を抜いてデカいから、てっきりメスだとばかり思ってたけど、触角の形はオスなんだよなあ…。オカマかえ?
たぶん、♂だとは思うけどさ。去年は♀が採れてないから、今年は採らんといかんな。

それでは、恒例の(´・ω・`)もふぅ~。

 

 
🐰うさぴょんみたいだ。
シンジュサンもヤママユの仲間なので、もふ度は高しで可愛いい。前足とか、もこもこやんか💕

 
(註1)フィリップ・マーロウ「初めてのキスには魔力がある…」

レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説の主人公の名前。セリフはハードボイルド小説の金字塔『長いお別れ』の中でのもの。

 
(註2)シャレ乙な蛾がいた
アカスジシロコケガというコケガの1種かと思われる。
美しいが、特に珍しいモノではないようだ。

 
(註3)トモエガの仲間

【ハグルマトモエ Spirama helicina ♀】

 
分類はヤガ科(Noctuidae) シタバガ亜科(Catocalinae) Spirama属とある。
漢字にすると、おそらく「歯車巴」と書くのだろう。
歯車みたいな巴紋をもつ蛾ってことだろね。

トモエガの仲間としたのは、この時点ではハグルマトモエとオスグロトモエの♀との区別がつかなかったからだ。両者は、ホントよく似ているんである。

 
【オスグロトモエ ♀】
(出展『北茨城周辺の生き物』)

 
違いはハグルマトモエと比べて巴紋がやや小さくて、全体的にメリハリがないところ。

 
(註4)台湾の糞カッコイイ青いトモエガ

調べたら、Erebus albicincta obscurata という蛾らしい。台湾名は「玉邊目夜蛾」「玉邊目裳蛾」「白邊魔目夜蛾」など複数があるようだ。

 
(出展『Wikimedia commons』)

(出展『Xuite日誌 随意窩』)

 
バリ、カッケー( ☆∀☆)
結構珍しい蛾のようで、そこそこ高い標高に生息しているみたいだ。誰か採れる場所と採り方を教えてけれ。

(註5)大きさに落差が有りすぎる

 
大人と中学生と小学生くらいに大きさが違う。
自然状態でコレくらい個体差がある鱗翅目って、他にあったっけ❓
たぶん、いる筈だが、ちょっと浮かばない。

ついでに各々の展翅写真も添付しておこう。

 

 
上から大中小である。
それにしても展翅が酷いね。特に1頭目は最初にした展翅だから、上翅を上げすぎてる。慣れない蛾の展翅でバランスがワカランかったのさ。以下、少しづつマシになってゆくのは、上の順の時系列で展翅したから。それがそのまま出ている。パープリンといえど、ちょっとは学習能力があるんである。
今年採れたら、もう少しマシな展翅しよっと。

ついでに展翅板から外した画像も添付しとくか。

 

 
バランスはそんなに悪くはないんだけど、やっぱダメだな。

この日は全部で5頭飛来したのだが、1頭は小太郎くんが持ち帰った。残りの1頭は羽が結構破れていたので展翅していない。修復用にとってあるのだ。けど、こんだけ大きさが違うと、使えんのかね?
この蛾、飛び方の軌道が無茶苦茶で雑い。すぐ地面に落ちて暴れまわるし、木々の中を縫うようにして飛ぶ。おまけに羽が薄いときてる。ゆえに羽が損傷しやすいのだろう。小太郎くん曰く、中々完品に出会えないというのは、そういう事からだろう。

生態面を付け加えておくと、灯火への飛来はこの日が一番多く、他の日は全部1頭のみの飛来だった。何れも飛来時間は遅く、午後11時から午前4時の間であった。
で、後日採れたのは、全て羽が破れていた。採集適期は短いと思われる。

さあ、これでやっとカトカラシリーズに取りかかれる。乞う、御期待あるよ(^o^)

  

三日月の女神・紫檀の魁偉~泥濘編

思えば、去年シンジュサンには振り回された。
普通種だとナメてかかってたけど、連敗に次ぐ連敗で、ボコられたんだよなあ…。

 
5月22日、最初は生駒山地南端の信貴山に行った。

 

 
オオシモフリスズメの記録が多いし、有名なお寺に灯火があると睨んだからだ。
しかし、その殆んどは L.E.D.に替わっていた。

 

 
山頂部に僅かに残る蛍光灯で待つが全然ダメだった。
それで思い出したんだけど、この日は日没後しばらくしてフランス人のオバチャンが登ってきて、網を持ってるオラに英語で『何してるの❓』と尋ねてきた。

 

 
アンタこそ、こんな時間に何してんの❓と思いつつも、素直に『蛾を探してます。』と答えたら、『トレビア~ーン💮』と言われたのだった。
暫し会話して、最後に一緒に記念撮影を求められてパシャ&バイバイ👋。何だかよくワカンなかったけど楽しかったよ。それにしても、フランス人は、オバチャンでもスタイルいいよなあ。所詮、東洋人はネオテニーなのさ。

そういえば若い頃にユーラシア大陸をバイクで横断した時にも、フランス人に同じセリフを言われたっけ…。
たぶんフランスのロワール地方の古城だったと思う。

『OHー、サムラーイ( ☆∀☆)❗トリビア~ン❗』

古城内にベルナール・ビュッフェの小規模なギャラリーがあって、そこで太ったオッサンに目を丸くして言われたのだった。
当時はモトクロス用のプロテクターを着ていたので、それが戦国武将の甲冑にでも見えたのだろう。
一応、笑いながら『この無礼者がっ!』と言ってやった。日本語だから意味なんぞ解るワケがないのだ。
旅では、その後も何度かフランス人にトレビアーンと言われた。エアでバッサリ斬ってやったこともあった。もちろんフランス人は関西人ではないので、『ぎゃあ~。』とか言ってその場で倒れてはくれない。ゆえに、すかさず『It was only joking.』とフォローせねばならないのは言うまでもない。
まあ、フランス人にトレビアンと言われた日本人はそうはいないと思うよ

10時過ぎまで粘ったが、時間の無駄だった。当然、帰りのバスは既に無く、三郷駅まで歩かざるおえなかった。長い坂道を終電に間に合うよう足早に歩く。
駅まであと少しといったところで、コンビニの駐車場の強烈なライトに大きな影が舞った。
ぬおっ( ̄□||||❗❗、一瞬、目に入ったその形は、メモリーされているシンジュサン特有の鉤状に出っ張った羽先に見えた。
Ψ( ̄∇ ̄)Ψおほほのほ、さすが引きの強いオレ様だい。毎度の事ながら、最後の最後にチャンスが舞い降りてきたぜ(^o^)v
強く願う心と諦めないハートを持ち続ける者だけに、神様は幸運をプレゼントしてくれるのだ。
でもコンビニに行くには目の前の道路を横断しなければならない。しかし、タイミングの悪いことに右手から車が近づいてきていて、渡りたくとも渡れない。ざわつく心で車の通過を待って、軽くダッシュ💨する。全速力ではなかったのは、余裕のヨッちゃん、どこかでもう採ったも同然の気分になっていたからだ。ドラマチックなフィナーレを想像して、おっちゃん、ヘラヘラ笑いになっていたのである。

(・。・;あれっ❓……。
しかし、いる筈のシンジュサンの姿がない。そこには、ただ強烈な光だけが在った。そう、跡形もなく忽然と消えていたのだ。慌てて周囲を見渡す。だが、やはり飛んでいる姿はどこにも無い。目を切ったのは5秒くらいだ。狐に摘ままれた気分で呆然とその場に立ち尽くす。
願望が強過ぎて幻覚でも見たのだろうか❓バカな…。にしてはリアルすぎる。

暫く此処で待とうか…。
咄嗟に腕時計に目をやると、終電の時刻が迫っていた。5分くらいは余裕があるかもしれないが、初めて来る土地だ、何があるかワカラナイ。少しでも道を間違えたら、乗り遅れかねない。ギリは避けたい。
漆黒の夜空を恨めしげに見上げる。大きな溜め息を一つ吐(つ)き、駅へと歩き出した。

惨敗だったが、でもこの時はまだ心に余裕があって、そのうち楽勝で採れると思ってた。

 
翌23日、再び三郷のコンビニを訪れた。リベンジである。しかし、天気予報に裏切られて、着いて間もなく雨が落ちてきた。小雨の中、周囲を探索するも、クソ蛾すらいなくて、リベンジどころか返り討ちの憂き目にあう。

 
5月27日は知り合いの姉さんと京都に蛍を見に行った。ついでにちょっとだけ探したが、見つからず。

 

 
おまけに蛍も見れず、晩飯を食って帰った。
ぽろぽろ( ;∀;)、何でおらんのん❓

 
5月29日は矢田丘陵方面に行ったが、見ず。
食樹のクロガネモチがギョーサン有るのに、気持ち悪いエダシャクしかおらん。(=`ェ´=)死ねや、ワレ。

 

 
何でやねん❗❓(/´△`\)
次第に焦燥に駆られる。

  
6月1日には八尾市楽音寺の大阪経済法科大学に行った。
ついでにウラジロミドリシジミの様子も見てやろうと云う算段である。
🚲キコキコキコキコー。しかも、ママちゃりで。バリ、遠かったよ。

 
【ウラジロミドリシジミ ♂】
(2013.6.10 東大阪市枚岡公園)

(2014.6.2 兵庫県猪名川町上阿古谷)

  
しかし、なぜか夕暮れになってもウラジロミドリは姿を見せなかった。
フライング❓でも今年は発生が早いと聞いていたのになあ…。

 

 
ミズイロオナガシジミしかおらず、手乗りさせて遊んでいるうちに日が暮れた。

 
【ミズイロオナガシジミ】

 
青のグラディエーションが美しい黄昏だった。
この時間帯の空が一番好きだ。心がスゥーッと落ち着く。

 

 
しかし、照明は全部 L.E.D.で、お話にもならなかった。成果、ゼロやんけ(ー。ー#)

 
6月3日は京都・南禅寺界隈に行った。そこにシンジュサンの食樹の一つであるカラスザンショウが沢山生えていると云う情報を得たからだ。
また、ここは佳蝶キマダラルリツバメの有名産地でもある。久し振りにキマルリにも会いたいし、上手くいけば一石二鳥だ。キマルリも採れて大団円で凱旋ってな展開を密かに思い描いていた。

 
【キマダラルリツバメ】

(裏面)
(2016.6.18 兵庫県神鍋高原)

 
けんど、又しても惨敗(ToT)
なぜかキマルリも1頭も飛んで来なかった。

 

 
この日も美しい黄昏だけが慰めだった。

これで5連敗だ。真剣には探してない蛍の時も入れれば6連敗である。虫採りで5連敗もしたのは、いまだかつてキリシマミドリシジミだけしかいない。まさかシンジュサンで再び喰らうとは夢にも思わなかった。
シンジュサンって、本当に普通種かよ❓もしかして、昔、普通種。今は激減してて絶滅危惧種とかじゃねえだろうなー。
悔しいやら情けないやらで、なんか半泣きになってきたよ。

今回で、蛾の採集は蝶よりも難しいと痛感した。
蝶と比べて蛾の情報量は圧倒的に少ないし、昼間飛ぶ蛾以外は飛んでいるのを見つけるのは至難だ。当たり前だが、夜は暗いのだ。だから、見つけるには灯火に飛来したものを探すか、花や樹液で待ち伏せするしかない。されど今は照明の殆んどが、L.E.D.に替わってしまっている。昆虫は紫外線の多い水銀灯や蛍光灯にしか寄ってこないのだ。L.E.D.はああ見えて紫外線量が少ないのだ。蛾を忌み嫌っている頃は有り難かったけど、まさか蛾を採る事になろうとはなあ…。青天の霹靂だよ。
また、花や樹液での採集はシンジュサンには無効だ。彼らは口が退化しており、食物を摂らないのだ。

シンジュサンどころか、ウラジロミドリやキマルリにもフラれ、挙げ句に蛍まで見れないなんて酷すぎる。
憂鬱だ。暗憺たる気分になってくる。
けれど、逃げるワケにはいかない。そんなもんはオラのプライドが許さないのだ。心を硬質化させ、いよいよ背水の陣で臨まねばならぬ。
帰り道、ヒロユキは死ね死ね団の歌を口ずさみながらママちゃりを漕ぎ漕ぎ、強くリベンジを誓ったのであった。
ゼッテー、シバく(*`Д´)ノ❗❗
 
 
                   つづく

 
追伸
2回で終わる筈だったが、終わらん。
原因は最初にメインの後半を書いてから、前半部に取り掛かったからだ。ようするに、前半が思いの外に長くなったので力尽きたのだ。
長い間ソリッドな文章を書いていないので、書けなくなっている。実を言うと、文章は短い方が書くのが難しい。長々とウダウダしか書けないのは、才能の無い証拠なんである。

えー、そう云うワケで、次回は必ずや完結させまする。