三日月の女神・紫檀の魁偉

 

先日、新たな連載『2018′ カトカラ元年』の第1回 プロローグ編を上梓した。
勢いで、そのまま本題である第2話をあらかた書き終えたところで、はたと筆が止まった。文章の流れ上、お題のカトカラの前にシンジュサンの事を書かねばならぬと強く思ったのだ。

シンジュサンを追いかけ始めた切っ掛けは単純だった。
幼少の頃から蛾は苦手だったけど、なぜかヤママユの仲間はそれほど恐くはなかった。これはたぶん、怪獣モスラの影響だろう。モスラは怪獣界のアイドル。いい奴なんである。モスラって、どこか健気だしねぇ。それが知らぬうちに良いイメージへと繋がっていたのだろう。
それゆえ小さい頃に、恐る恐るではあったが、巨大なヤママユやクスサン、オオミズアオ(註1)を採ったことがある。そこに2017年、春の三大蛾の一つであるエゾヨツメが加わった。その美しきブルーアイズ、青い眼状紋にヤママユ系への興味がグッと湧いたのだった。
それに、ヤママユの仲間は日本にはそんなに種類がいない(註2)。コンプリートするとしたら、比較的容易だ。沼にハマるにしても、底無しではない。但し、海外産に手を出さなければの話だけど…。

兎に角、日本にいるヤママユの仲間で、まだ見たことのない奴らを見てやろうと思った。何でも同じだ。実物を見ないと本当のことは解らないのだ。
このグループには大珍品はいなくて、大概は肩肘張らずに何とかなるレベルだ。ヒマつぶしくらいにはなるだろう。ゆる~い気持ちで、先ずはシンジュサンから始めることにした。

しかし、そうおいそれとはいかなかった。
思えば、シンジュサンにはまさかの惨敗に次ぐ惨敗だった…。

本章に入る前に、シンジュサンについて、ザッと解説しておこう。

子供の頃、最初はシンジュサンのサンは山田さんとか田中さんのさんだと思ってた。ようするにガキの頃から、どうしようもないおバカさんだったのである。
でも、後にこのサンは養蚕のサンのことだと知った。これはヤママユ系の仲間が、繭から生糸をとる蚕(カイコ)さんとか、その原種(註3)と親戚筋にあたるからだろう。
とはいえ、カイコは謂わば人間が作った絹糸製造マシーンで、人が長い歴史の中で改良に改良を重ねて完成させた半人工物だ。だから飛べねぇし、自然界には存在しない。
日本では、カイコ以外の野外で生糸のとれる蛾、繭、また生糸そのものを野蚕といい、ヤママユやウスタビガの繭で作った織物は、超がつく高級品だそうである。

一方、シンジュサンのシンジュは、ずっと真珠のことだと思っていた。真珠みたいに綺麗だからと解釈していたのだ。実際、羽の一部に白やピンクっぽいところがあるしさ。でも、それもハズレ。去年に、それが真珠ではなく、神樹だと知った。だから、シンジュサンのことを漢字では「神樹蚕」と書く。他に「樗蚕」の字をあてがう事もあるようだ。
シンジュサンの語源は、幼虫がこのシンジュ(神樹)を食餌植物としていることから来ている。
神の樹って、スゲーな。神の樹の葉を食うから、神の蛾じゃん❗真珠よか、神の方が上っしょ❓寧ろグレイドアップになってまんがな。

しかし、突っ込んで調べてみたら、あらあらである。
『京都園芸倶楽部のブログ』には、こう書いてあった(申し訳ないが、文章の一部に手を入れたけど)。

「神樹といっても「神様」とか「神聖」に関連しているわけではありません。元々は近縁種であるモルッカ諸島のアンボイナ島に生育するモルッカシンジュが天にも届くような高木であることから英語で「Tree of heaven」と呼ばれ、これがドイツに伝わって、ドイツ語では「Götterbaum」となり、「神の樹」と訳された。その後ドイツ語名が日本に伝わると、ニワウルシを神樹とも呼ぶようになったそうです。」

(# ̄З ̄)ちえっ、調べなけりゃよかったよ。
どこかで特別なものと思いたい心理が働いているから、ガッカリだ。
何でも知ればいいとゆうものではない。知れば知るほど不幸になることだってあるのだ。世の中には知らない方がいい事もある。「知らぬが仏」と云う言葉もあるしね。
こう云う、知ることによって不幸になることを作家 開高健は「知の悲しみ」と呼んだ。当然、知らないがゆえに不幸な事は多々あるから、知っても、知らなくとも人は不幸になりうる。二律背反、これは人類の永遠のジレンマだよね。

神樹は中国原産で、明治時代の初めに日本に入ってきたものだ。ニガキ科に属し、別名にニワウルシがある。日本では、こっちの名称の方がポピュラーかもしんない。
と云うことは、和名は比較的近年になって名付けられたものと思われる。
エリサンだったっけ❓養蚕のためにシンジュサンに改造手術、もとい品種改良を加えた奴もいた気がするから、もしかして移入されたもんが逃亡して、野生化。先祖帰りしたのかも…と一瞬思ったが、それは無いだろう。帰化昆虫ではない筈だ。だったら、おバカのオラの耳にだって情報は入ってきてる筈だもんね。

  
【シンジュ】
(大阪市 堺筋北浜近辺)

(出展『一期一会』)

 
幼虫はシンジュの他にも、ニガキ(ニガキ科)、キハダ、カラスザンショウ(ミカン科)、ヌルデ(ウルシ科)、クヌギ(ブナ科)、クスノキ(クスノキ科)、リンゴ、ナシ(バラ科)、エゴノキ(エゴノキ科)、ネズミモチ,クロガネモチ、モクセイ(モクセイ科)、ゴンズイ(ミツバウツギ科)、クルミ(クルミ科)など多くの植物の葉を食べる。つまり、やはりシンジュが日本に入って来る前から、シンジュサンは日本にいたんだろね。古くから幼虫は「ミツキムシ」と呼ばれていたみたいだし、間違いないだろう。

学名:Samia cynthia pryeri。
すっかり忘れてたけど、学名の小種名は cynthia(シンシア)だったね。素敵な学名だ。
シンシアはギリシア語で「月」。ギリシャ神話に登場する月の女神アルテミスの別名キュンティアの英語読みである。英語圏における女性名としてもよく使われており、「誠実な」「心からの」という意味がある。略称は、シンディ(Cindy)。

去年当時の、Facebookの記事を見ると、こんな風に書いてあった。

「へーっ、学名はシンシアなのね。月の女神じゃ、あーりませんかー。シンシアは月の女神ディアナ(Diana)やアルテミスの別名でもある。オオミズアオとは美人セーラームーンタッグだにゃあ。月の女神は美人と相場が決まっておるのじゃ。もし、月の女神が美人じゃなかったら、ヤッさんやなくとも『怒るで、しかしー』である。
尚,吉田拓郎,かまやつひろしが南沙織に捧げた曲「シンシア」もヒットしました。」

相変わらず、フザけた文章だ(笑)。
補足すると、南沙織ちゃんは1970年代に活躍した沖縄出身の元アイドル歌手。あっという間に引退して、その後、有名カメラマンの篠山紀信氏と結婚した。
秋元康の先駈けが、モジャモジャ頭の巨匠なのだ。

シンシアは南沙織の愛称で、ミドルネーム。それが曲のタイトルとなったようだ。『🎵おー、おー、おー、シンシア~、君の声が~』というサビがいいのだ。

因みに属名の Samia(サミア)は、調べてみたら、最初に「古代ギリシアの作家メナンドロスによるギリシア喜劇の1つ」と出てきた。だが、どうもシックリこない。寧ろアラビア語で「崇高な」「最高の」という意味を持つ Sami という男性名の女性形が名前の由来ではないかと推察したい。

亜種名 pryeri は、昆虫学者 H.pryer(プライヤー・プライヤ、プライア)に献名されたもののようだ。
この pryeri は、多くの生き物の学名に見られる。
昆虫に絞れば、ウラゴマダラシジミ、ホシミスジ、ムカシヤンマ、サラサヤンマ、キイロサナエ、リュウキュウツヤハナムグリなどだ。蛾には特に多く、ミノウスバ、ブライヤオビキリガ、プライヤキリバ、プライヤアオシャチホコ、プライヤエグリシャチホコ、キオビエダシャク、ソトキナミシャク、ウコンエダシャク、ナカアカクルマメイガ、マツアカマダラメイガ、スカシノメイガ、ウスベニトガリバ、シロテンムラサキアツバなど沢山の種類がある。
それにしても、そんな名前、あんま聞いたことないぞ。(;゜∇゜)誰なんだ、プライヤー❓

これが調べるのに骨が折れた。
pryeri だと、いろんな生き物がジャンジャン出てきて埒があかない。
学名に人物の名前をつける場合、語尾に「i」とかが付いたりするから(属格語尾)、そのままではネットでヒットしないのだ。

蛾のサイトにあった H.Pryer にヒントを得て、フルネームを何とか探して漸くヒットした。

「フルネームは、Henry James Stovin Pryer。
生没年(1850年~1888年)。ロンドン生まれの英国人で、1871年来日。16年間横浜のアダムソン・ベル・海上保険会社社員として勤め、1888年2月17日に横浜で病死。」

 
日本で亡くなってはるんやね。
保険会社のサラリーマンだけど、この人で本当にあってんのかよ❓

 
「『太政大臣に届けて正式に雇用された例』としてイギリス人プライア―とアメリカ人モースがよく知られている。
もっとも、彼らを雇用したのは、内務省系ではなく、文科省系の『東京博物館』とその後継の『教育博物館』であるが、蝶類の専門家であるプライア―は1876年から翌年にかけて標本採集を目的として雇用され、国内採集旅行を行っている。ユネスコ東アジア文化センター(1975)によれば彼は、1876年7月から3ヶ月(月給75円)、そして翌1877年当初から1年間(月給60円、ただし5月で依願解約)の契約を結んでいる。」

 
なるほど、多くの献名があるのは、学者というよりも採り子(雇われ採集人)だったからなんだね。命名規約上、新種を見つけた本人が、それを新種として発表(記載)する場合、学名に本人の名前をつけられないからだ。

 
「イギリス人のプライヤー(H. Pryer)は1871年(明治4年)、またはその翌年に来日し、横浜に落ち着きました。幼少の頃より博物学に興味をもっていた彼は、昆虫類を中心に各地の資料を集め、特に日本のチョウ類のすぐれたコレクションを作りました。彼はよほど日本が気に入ったのか、何と16年間も横浜に居住し、39才の若さで死去するまで日本各地を精力的に調査したのです。
このようにして集めた資料を基に、日本では例を見ない学術的な図説の刊行が企画されました。おそらくはプライヤーの日本生活が落ち着いた1875年以降のことだったと思われます。当時の諸外国で出版されたいくつかの図鑑に匹敵するものを日本で作るには、多くの障害がありました。画家の発掘、印刷所や用紙の選定。そして費用の調達などです。しかし、プライヤーの熱意はこれらの難題を乗り越えて、1887年に第一分冊の発行にこぎつけました。そして、1888年には第二分冊、1889年には第三分冊が相次いで発行され、ついに大作が完了しました。
タイトル名は Rhopalocera Nihonica といいます(日本語版「日本蝶類図譜(ヘンリ-・ジェ-ムズ・ストヴィン・プライヤ-著 科学書院(1982))。」(出展 以上3つとも『レファレンス協同データベース』より)

 
あれっ?、図鑑も書いてる❓ということは、採り子じゃなくて学者風情だよね。
これは、おそらく最初は採り子で、最終的には図鑑も出したって云うことでいいんじゃないかな?

日本の昆虫学の礎を築いた江崎悌三さんも、その著書の中でプライヤーに触れていて、「日本人の内妻があったが、子供はなかった」と記述しているみたいだ。
結構、有名人じゃんか。ワタスの勉強不足でした。

(|| ゜Д゜)しまった。プライヤーの沼にハマって、おもいっきり寄り道しただすよ。先へ進もう。

 
チョウ目・ヤママユガ科(Saturniidae)に属し、大きさは開張110~140mmに達する。
翅の地色はオリーブ色を帯びた褐色で、白やピンクなどの綺麗な斑紋が配されている。上下の翅の中央付近に黄色い三日月模様、上翅の翅頂付近には小さな目玉模様がある。

 
【シンジュサン】
(出展『夜間飛行』)

北海道・本州・四国・九州・沖縄・朝鮮半島・中国に分布し、成虫は5~9月の間に年2回(一部年1回)現れる。
亜種は日本亜種 ssp.pryeri の他に、北海道・対馬亜種 ssp.walkeri(Felder & Felder,1862)があり、コチラが基亜種とされている。
対馬亜種は黒化型の割合が多いようだ。これが、かなりカッコいい。

 
【シンジュサン 対馬亜種】
(出展『モスはモス屋 対馬遠征記』)

 
一瞬、対馬に行ったろかい(`へ´*)ノ❗と思ったが、ツマアカスズメバチにボッコボコに刺されたのを思い出して、上げた拳を即座に下ろす。ムッチャクチャ痛かったし、今度刺されたらアナフラシキーショックで、おっ死ぬかもしれん。恐くて行けんよ。

そういえば、国産亜種を独立種 Samia pryeri とする見解もあったようだが、交尾器の差異も微弱で更にDNAによる区別もできなかったとされており、現在は同一種とする意見に落ち着いているみたいだ。

さて、ここからが本文なのだが、プライヤーの沼にハマって、ドッと疲れた。それに予想外に長くもなったので、次回に回します。スマン、スマン。

 
               後編につづく

 
 
追伸
今回も書いてるうちに、あらぬ方向にいって長くなってしもた。もう、このウダウダ癖は病気だよ。
次回は、いよいよ本編です。乞う御期待❗

記事をアップした後で、平嶋義宏さんの『蝶の学名-その語源と解説』の存在を思い出した。
それによると、プライヤーの図鑑は日本最初の原色蝶類図鑑で、日本の蝶蛾類に多大な功績があったようだ。プライヤーさん、過小評価してゴメンナサイ。
因みにホシミスジの学名はプライヤー御本人に献名されたものではなくて、兄の williams に献名されたもののようだ。お兄さんも蝶が好きだったらしい。
なんだよー、最初からこっち見ときゃよかったよ。だったら、あんな苦労しなくてよかったのにさ。
でも、最初からこっちを見ていれば、プライヤーさんに興味は湧かなかっただろう。まあ、それも間違いではなかったという事か…。良しとしませう。

 
(註1)ヤママユとクスサン、オオミズアオ

【ヤママユ】
(2018.9.8 山梨県甲州市)

 
ヤママユは、もふもふだし、(・。・;ほよ顔で可愛い。デカくて標本箱を喰うから邪魔だけど、可愛いから、つい一つ二つくらいは捕ってしまう。

探したが、クスサンとオオミズアオの手持ちの野外写真が見つからない。普通種だから、面倒で撮らなかったのだろう。と云うワケなので、画像を他からお借りしよう。

 
【クスサン】
(出展『里山の生活とmy hobby』)

普通種だが、色に豊富なバリエーションがあって、一つとして同じものはないと云う。
普通種であっても、視点を変えれば楽しめる証左の例だね。

 
【オオミズアオ】
(出展『KEI’S採集記』)

 
幽玄で美しいから、蛾嫌いでもコレは許容する人が多いようだ。近縁種に、ソックリさんのオナガミズアオがいるが、こちらの方はそこそこ珍しい。個人的にはオナガミズアオの方が、より優美で好きかな。
文中に学名的にシンジュサンと姉妹関係だと書いたが、厳密的には間違い。残念ながら、オオミズアオの学名は変わってしまい、現在は artemis、月の女神アルテミスではなく、Actias artemis から Actias aliena になっている。それを惜しむ声は多い。

ついでに、エゾヨツメの画像も添付しておこう。

 
(2019.4 大阪府箕面市)

 
いまだに♀が採れてない。でも、♀はあまり綺麗じゃないから、本音はどっちだっていいと思ってる。

 
(註2)日本には、そんなに多くの種類がいない

日本に棲むヤママユガ科は、ヤママユ、ヒメヤママユ、ハグルママヤママユ、クスサン、エゾヨツメ、シンジュサン、ヨナグニサン、ウスタビガ、クロウスタビガ、オオミズアオ、オナガミズアオの計11種とされる。この中では、わざわざ沖縄や奄美大島まで行かないと会えないハグルマヤママユが難関かな?ヨナグニサンも与那国島に行かないと会えないけど、天然記念物なので採集でけまへん。因みにヨナグニサンが日本最大の蛾で、世界最大級でもある。ドデカイ♀が強風に煽られて道路にボトッと落ちたので、拾って安全なところに移したことがあるけど、笑っちゃうくらいデケーです。次回、画像掲載予定です。

 
(註3)カイコの原種

カイコの原種は東アジアに分布するカイコガ科のクワコ(Bombyx mandarina)だと言われている。

  
【クワコ(桑子)】
(出展『玉川学園』)

 
これを品種改良しまくって作られたのが、カイコってワケだね。絹糸を得るために、スゴいことするやね。
養蚕は五千年前にクワコが中国大陸で家畜化、品種改良されたのが起源というのが有力な説である。
一応、カイコとクワコは近縁だが別種とされている。しかし、両者の交雑種は生殖能力をもち、飼育環境下で生存・繁殖できることが知られている。だが、野生状態での交雑種が見つかった例はないようだ。
実を云うと、5000年以上前の人間が、どのようにしてクワコを飼いならして、今のカイコを誕生させたかは、現在に至るも完全には解明されていないそうだ。
そうだよなあ。虫を家畜化して品種改良するだなんて、現代科学でも難しそうだもん。そんな昔に、飛べなくするために品種改良とか狂気でしょ。さすが、纏足なんぞという変態的なことを考える国だわさ。
カイコの誕生がミステリアスなせいか、カイコの祖先はクワコとは近縁だが別種の、現代人にとって未知の昆虫ではないかという説もある。ようするに、その未知なるヤツは既に絶滅してるって事を言いたいワケだね。
しかし、ミトコンドリアDNAの配列に基づき系統樹を作成すると、カイコはクワコのクレードの一部に収まることから、この仮説は支持されていないという。
やっぱ、改造しとるんだ。昔の人の知恵は凄いわ。

 
 

2018′ カトカラ元年 プロローグ

 

突然、去年からカトカラ(Catocala)に嵌まっている。
そのキッカケとなったのが、あるカトカラだった。

カトカラとは、ヤガ上科 シタバガ(catocala)属に属する蛾の1グループのことで、学名の属名が総称として使われることが多い。以前はヤガ科 Noctuidae シタバガ亜科に属していたが,現在では Erebinae トモエガ亜科に属するとされる(Zahiri,2011;Regier, 2017)。
Catocala の語源は、ギリシャ語の kato(下、下の)と kalos(美しい)を組み合わせた造語。つまり、後翅が美しい蛾ということだね。
ついでに言っとくと、英名は「underwing」。コチラも下翅に注視したネーミングだ。
日本には31種類がいて、美しいものが多いことから人気の高いグループだ。
とは言っても、所詮は蛾愛好者の間だけのことで、一般の虫好きには見向きもされないと云うのが現状だろう。自分も元々は蝶屋だから、存在は知ってはいたものの、さして興味は無かった。というか、元来は一般ピーポーと同じく生粋の蛾嫌いだから(註1)、おぞましいとさえ思っていた。

しかし、2017年に春の三大蛾の灯火採集に連れて行ってもらってから、少し蛾に興味を持ち始めた。
この辺のことは当ブログに『2017’春の三大蛾祭り(註2)』と題して書いたので、よろしければ併せて読んで戴きたい。格調高い純文学風に仕上げてみました(笑)。いや、ホラー小説風かな❓
えー、ワシが如何に蛾嫌いだったのかも、読めばわかりますです、ハイ。

そういうワケで、その年の秋にはAくんにカトカラで最も人気の高いムラサキシタバの灯火採集に連れて行ってもらった。

 
【ムラサキシタバ Catocala fraxini】
(2017.9.23 兵庫県美方郡香美町)

 
とは云うものの、カトカラ全体に対しての興味は未だ薄かった。ムラサキシタバはカトカラの帝王とも言われ、最も美しくてデカいと云うから、一度くらいは実物を見てみたかっただけだ。

その日、結局ムラサキシタバは1頭しか飛んで来ず、それを空中でシバいたAくんが手に乗せて見せてくれた。それで充分だった。一度でも見とけば、『あれ、デカくてカッコイイですねー。』と言えるのである。ミーハーなので、昆虫界のスター的な種は一応実物を見ておきたい派なのだ。

この日はムラサキシタバ以外にもシロシタバ、ベニシタバ、キシタバ、ジョナスキシタバが飛来した。
持って帰る気はあまりなかったが、Aくんの薦めで一応ムラサキシタバ以外は持って帰った。だから、カトカラの標本は一応持ってはいる。けど、所詮は蛾。わざわざ集めたいとは全然思わなかった。

しかし、6月に奈良県大和郡山の矢田丘陵にシンジュサンを探しに行った折りに、気持ちが一変したのであった。

 
                  つづく

 
追伸
台湾の蝶シリーズも取り上げねばならぬ蝶がまだまだあるというのに、新たなシリーズを始めてしまうのである。節操がないのだ。
でも、こないだのキアゲハですっかり疲弊しちゃったので、リハビリが必要なのである。そのうち気が向いたら、そっちの方も再開する予定です。

ムラサキシタバの画像が酷いので、彼女の名誉のために美しい画像も貼り付けておきます。

 
(出展『昆虫情報センター』)

 
たぶん♀だね。
下翅の美しさはもとより、上翅の複雑な柄も渋美しい。

 
(註1)元来は一般ピーポーと同じく生粋の蛾嫌い

世間が蛾嫌いなのは、たぶん幼少の頃の刷り込みからだろう。
周囲が、蛾を見て『Σ( ̄ロ ̄lll)ひっ❗』とか呻いて仰け反るのを見て、子供は蛾って気持ち悪いもんなんだと学習しちゃうんだろね。海老とか蟹とか雲丹やナマコだって、冷静に見れば相当グロい。我々はそれが食って旨いと知っているから、美味しそうに見えるだけだ。
話が逸れた。ようはファーストインプレッションで学習したそこに、蝶より地味で汚い、主に夜に活動するので不気味、目が光って妖しい、胴体が太くて気持ち悪い、家に飛び込んできて粉(鱗粉)を撒き散らす、毒を持ってそう、毛虫が醜い等々の悪いイメージが重なり、どんどん補完されてゆくと云うワケだ。それにしても、見事なまでの負のイメージのてんこ盛りだすなあ(笑)。
大人になって蝶採りを始めた頃も蛾嫌いなのは変わらず、突然飛び出してきたら一々飛び退いて背中に悪寒を走らせていた。
蛾も蝶と同じ鱗翅目に含まれ、分類学的にも両者の境界は曖昧だ。だから、ヨーロッパでは厳密に区別せず、蝶も蛾も庶民の間では同じものとして認識されているようだ。なのに、日本では何故か蝶は善、蛾は悪というレッテルが貼られている。驚いたことに、蝶屋(蝶愛好家)でさえも蛾嫌いは結構多い。
何で(・。・;❓
これは、おそらく近親憎悪ではあるまいか❓
蝶をこよなく愛する者にとっては、蛾は汚ないし、気持ち悪いし、世間のイメージが悪いから、深層心理で鱗翅類の面汚しだとでも思っているのかもしれない。視点を変えれば、蛾にも美しいものは多いんだけどね。

 
(註2)2017’春の三大蛾祭り

その壱.青天の霹靂編、その弐.悪鬼暗躍編、その参.闇の絵巻編、その四.魑魅魍魎編の四部作で構成された長編。
他に姉妹作『2018’春の三大蛾祭り』というのもあるので注意されたし。
 

2018′ 春の三大蛾祭

 

そろそろ春の三大蛾の季節である。
その前に去年のおさらいをしておこう。
とはいえ、2017年にこの三大蛾については4回にわたる渾身の文章を書いた(註1)。ゆえに今回はサラッといかさせて戴きやす。

去年の記録を紐解くと、計4回出動していた。
1回目は、今日と同じ日付の4月1日にライトトラップに行っている。この日は選抜高校野球の準々決勝を観に行ってて、第4試合の途中でアホの植村に迎えに来てもらい、兵庫県の武田尾方面に行った。

 

 
強力な水銀灯を植村が用意してくれた。
植村くん、あんたはエライ偉い❗

それにしても、蛾を採りたいが為に人里離れた山の中でこんな事してるって、普通の人から見れば、狂気の沙汰だよな。自分がそんな人になるとは思いもよらなかったよ。人生、何があるかわからない。

 
【オオシモフリスズメ♂】

 
デカい。日本最大のスズメガだ。
そして、悪魔的な出で立ちである。
そのバケモン振りに、初対面は畏怖したね。

 

 
でも今や、可愛いとさえ思える。
もふもふだし、ほよ(;・ω・)顔なのである。
おまけにチューチューと鳴くから笑える。
だからと言って、不用意に触ってはなりませぬぞ。
毒があるというワケではないが、脚に鋭いトゲがあるのだ。
そんなことは知らなかったから、掴んだら手に鋭い痛みが走った時は、(|| ゜Д゜)ウワッ❗、コイツ噛みよった━━━❗❗とマジでビビった。

 

 
この日は5、6頭は飛んできたんじゃないかな?
でも、全て♂だった。
実を言うと♀の標本は一つも無い。採ったことは一度だけあるけど、羽が欠けていたのでリリースしたのだ。だから、♀が欲しいのである。

エゾヨツメも飛んできた。
しかし、画像は無い。植村が三大蛾をどれも採ったことがないから譲ったのだ。それに計3つほど飛んできたかと思うが、これも全部♂だった。それも写真を撮らなかった理由だろう。
と云うワケで、2017年の画像を使おうと思ったが、コレまた画像が無い。仕方がないので、裏面と標本写真のみ添付しておきます。

 
【エゾヨツメ♂】

 
青い瞳のエリスちゃんだ(笑)
コバルトブルーが美しい。
腕が白いのも、お嬢の長袖の手袋みたいで可愛い。

実を言うとエゾヨツメの♀も採ったことが無い。
コチラは見たことすらない。だから、何とか♀をゲットするのがこの年の目標だった。

結局、イボタガは一つも飛んで来なかった。
春の三大蛾の中ではイボタガが一番遅れて出てくるのではないかと思う。しかし、場所にも拠るだろうし、あくまでも私見ですので、あまり鵜呑みにはなさらぬように。

  
2回目もライトトラップで、3日後の4月4日だった。
この日も選抜高校野球の決勝戦を観に行ったあとだね。とはいえ、試合終了後から日没まではだいぶ時間があったので一旦家に帰った。で、一眠りして晩飯を食い終わった頃に植村に迎えに来てもらった。場所は同じく武田尾方面である。
今、思い起こすと、植村はイボタガが採れなかったので執念を燃やしていたのだろう。虫屋の鏡である。そうでなくっちゃ、良い虫は採れない。たかが虫捕りだが、根性は必要不可欠な要素なのだ。

 

 
この日はオオシモフリが、ジャンジャン飛んできた。
15頭前後は飛んできたかと思う。でも、又しても全て♂だった。
植村は前年と比べて格段に虫捕りが上手くなっていた。何よりも反応が早い。彼の方が飛んで来た蛾を見つけるのが一瞬だけ早いのだ。この能力に関しては、自分は殆んど人に負けることは無いのだが、この日はやられっぱなしだった。まあ、オイラはどう云うワケか夜目が効かないと云うのはある。夜の運転時などは、遠近感があやふやになるのだ。それに♀以外は興味が無かったというのもある。でも、それを差し引いても彼のポテンシャルは高いと思う。まあ、アホだけど。

待望のイボタガも飛んで来た。

 
【イボタガ♂】

 
計3つか4つ飛んできたかな。
解せないのは、3日前に一つも飛んで来なかったにも拘わらず、完品は一つしか採れなかったことだ。他は羽がやや擦れていたり、切れてたりしていたのだ。
と云うことは、3日前には既に発生していた可能性が高い。じゃあ、何で3日前は飛んでこなかったの❓
虫の考えてることは、よくワカランよ。

一方、エゾヨツメは一つしか飛んで来なかった。
コレまた、どう解釈すればいいのかワカラン。

因みに、イボタガの♀は既に採っていて、完品の標本もある。でも、イボタちゃんは沢山ほしい。三大蛾の中では、コヤツが一番カッコイイと思うからだ。似たような柄の蝶や蛾はいないんじゃないかな。それくらいに個性的でモダンなデザインに牽かれる。

 
3回目は生駒の枚岡公園に外灯回りに一人で出掛けた。日付は4月11日。ターゲットは勿論オオシモフリスズメとエゾヨツメの♀である。
しかし、外灯は殆んどLEDに換わっており、何も飛来しないという惨憺たる状態だった。
唯一、エゾヨツメらしきものが飛んでいるのを豊浦橋で見つけた。しかも♀っぽかった。しかし、まさかそんな高い所を飛ぶものとは思いもしなかったので、長竿を持ってきていなかった。ライトトラップに飛んでくる蛾を見て、奴らは低い所を飛ぶものとばかり思い込んでいたのだ。けれど冷静に考えてみれば、昆虫は光に向かって飛んでくるのである。徐々に引き寄せられて来るから、たとえ高い所を飛んでいるものでも、近づくにつれて自然と高度は下がってゆくのが道理だ。そこに思い至らなかったアタイは、おバカちゃんである。

そやつは暫く飛んだあと、やがて橋の袂にあるナラガシワの樹の梢に止まった。7、8mはあったかと思う。50センチにも満たないお散歩ネットでは届くワケがないので、その辺に転がっていた倒木の端くれを投げたら見事💥命中❗
元、高校球児を(#`皿´)ナメんなよである。
しかし、羽があるものが落下するワケもなく、驚いて飛び立ち、全速力で闇の奥へと消えて行った。

 

 
肩を落としての帰り道。大阪平野の夜景が、ただただ美しかったのを憶えている。

 
4回目は、翌4月12日。
悔しくてリベンジしたろと思ったのである。しかし、もう一度生駒に出掛けるほどアホではない。水銀灯や蛍光灯も無いのにリベンジも何もあったものではない。昨日、出会えたのは単なる偶然にすぎないと考えるのが妥当だろう。橋の袂で煌々と光を放っていた外灯は、LEDなのである。そいつに寄ってきた可能性は皆無に等しい。偶々(たまたま)、そこを通過する時に出くわしただけだろう。
そういうワケで、まだ水銀灯がまだ残っている箕面の滝へと出掛けた。
ここは水銀灯がそこそこあって、トイレも蛍光灯だから期待が少しは持てる。しかし、飛んで来る蛾の個体数は決して多くはない。

 

 
この日もロクなものは飛んで来ず、唯一持ち帰ったのは10時半に飛んできたイボタガの♀だけだった。

 
【イボタガ♀】

 
それでもイボタガは三大蛾の中で一番好きなので、少しは溜飲が下がった。

この年は、結局エゾヨツメの♀もオオシモフリスズメの♀も会うことさえ出来なかった。今年こそ、シバく所存だ。今週辺り、そろそろ動き出そうかと思う。
誰か、ライトトラップに連れていってくれよー(ToT)

 
                 おしまい

 
追伸
サクッと終わらせる予定だったが、思いの外に長くなってしまった。

因みに、この時の選抜高校野球の記事もあります。
興味がおありの方は、本ブログの野球のカテゴリーの欄から探してみて下さい。

それはそうと、オオシモフリスズメとエゾヨツメの展翅は、ちょっと上翅を上げ過ぎたかなあ…。蛾の展翅は、お手本があまりないから自己流過ぎたかもしれない。今年は、もう少し下げてみよっかな。

(註1)渾身の文章を書いた
『春の三大蛾祭』と題して、当ブログで4回に分けて連載した。
各タイトルは以下の通りである。

第1話「青天の霹靂編」
第2話「悪鬼暗躍編」
第3話「闇の絵巻編」
最終話「魑魅魍魎編」

第1話のみリンク先を貼っておきます。

青天の霹靂編

他は下の関連記事の欄から記事に飛べます。
 

続・舞妓はん

 

前回の続編である。
6日後の21日にも、マイコちゃんを探しに行った。
場所は同じ矢田丘陵方面で、今回もK太郎くんが参戦してくれた。

午後8時前にポイントに着いた。
月はあれからかなり満ちてきている筈だが、曇っており、いい具合に隠れている。
光に集まる昆虫の数は、月の満ち欠けと天気に大きく左右される。月明かりの無い新月がベストだと言われるが、月が雲に隠れてさえいれば期待は持てる。とはいえ、その日の気温や湿度、風などにも影響されるから、結果は常に読めない。現地に行ってみないとわからないと云うのが現状なのだ。

と言いつつも、楽勝だと思っていた。勘みたいなものだ。いくら条件が揃っていても、嫌な予感がする時はダメな事が多く、それほど条件が揃っていなくともイケると感じた時は、大概良い結果が得られる。その分岐点は何処に有るのだろうと自分でも時々考えるが、正確な言葉には出来ない。ただそう感じるとしか言い様が無いのだ。
で、今回も直ぐにロック・オン。既に3頭が来ていた。
その後に飛来は無かったので、矢張りマイコトラガは日没後すぐに飛んできて、以降はあまり飛んで来ないと思われる。この6日間のあいだにK太郎くんが一度来たそうだが、やはり飛来パターンは同じだったと言う。他の地方では違う可能性もあるが、少なくとも関西ではそういう生態だと思われる。

棒で軽く突っついたら、前回と同じく下にボトッと落ちた。

 
(2019.3.20 奈良市)

 
舞妓はんの着物のような柄が、お洒落さんだ。
手のひらの上に乗せると、前脚を投げ出して『いとはん、もうどうにでもしておくんなましー。』の体勢になりんした。

 

 
これが可愛い❤
寄って写真を撮る。

 

 
蒼い❗
ブルーベルベットだ。

 
舞妓はぁぁぁーん( ☆∀☆)❗

 
おいちゃん、又しても心の中で叫ぶのであった。
懐中電灯の光を当てると、上半身がこんなにも蒼いのね。
もふもふだし、お主、可愛いのぉー(≧∀≦)
死んだフリしてる感じも微笑ましい。

前回、死んだフリの効果について意味ねぇんじゃないの❓的な事を言ったが、撤回しようかと思う。
考えてみれば、此所は下がコンクリートだから目立って当然だ。でも、天敵に襲われて落下した場合、通常ならば下は土や草だ。となれば、落ちてしまえば地面に色が紛れてしまって発見しにくいに違いない。下手に動くよか、死んだフリをした方が生き延びられる可能性は高いかもしれない。

突っつくと歩いた。

 

 
これがヨチヨチ歩きでカワユい( ̄∇ ̄)
オジサン、すっかり彼女に❤参っチングである。

 
翌日、展翅して、♂と♀の違いが漸く解った。
先ずは前回と今回の♀とおぼしきものから。

 

 
そして、♂である。

 

 
残念ながら羽化不全の個体だ。右側の上翅が伸びきっていないせいか、小さい。だから、全体のバランスが悪い。でも、雌雄の区別に上翅は関係ないかと思う。 
OくんとK太郎くんが言うように、♂は下翅の黒い部分が広くなり、黄土色の中にある点が大きくなるようだ。大きさも、基本的には♂の方が小さい。
但し、K太郎くん曰く、♀と変わらない大きさの♂もいるようだ。翅も含めて、どっちとも判別し難い個体もいるという。

 

 
コレなんかは、大きさ的には♀であるが、下翅の黒点は♂、黒い部分の領域は中間的だ。
♂だと思うんだけど、微妙なんだよなあ…。
いや、♀のような気もしてきた。なぜかというと、お尻の先の形に雌雄の違いが表れるのではないかと思ったのである。
♂の尻先には毛が多いし、四角っぽい。一方、♀の尻先には毛が少なくて、やや尖ったように見える。

 
(♂に違いない個体の尻と下翅)

 
尻毛がフサフサで、下翅が黒くて黒点が大きい。

 
(♀に違いない個体の尻と下翅)

 
尻毛が少なくて、下翅が黄色で黒点が小さい。

 
(微妙な個体)

 
大きさは♀と同じであるが、下翅は黒っぽくて黒点も大きく♂的。尻毛はあまりなく、形も♀っぽい。
最初は♂だと思っていたが、尻まで含めるとワケわかんなくなってきた。
一応、最初に採った個体も検証してみよう。

 

 
♀だとばかり思っていたが、下翅を見てると、段々自信が無くなってきた。意外と黒い領域が多いし、黒点の大きさも微妙である。尻の形も♂っぽい。
♂だったりして…Σ(×_×;)

でも、サンプルがあまりにも少な過ぎる。
もう一回行って、もっと♂を採らなきゃいけんかなあ❓
 

                 つづく…かも

 
追伸
はたと思ったのだが、手のひらの上の写真、どうにでもしてくんなせい的な姿は猫に通じるものがある。だから、可愛いって感じた部分もあるかもしれない。
画像は添付しなかったけど、裏バンザイも可愛いおます。

後日、岸田さんの蛾図鑑を見た。
益々、わからなくなったが、もし図鑑の雌雄の見た目が合っているとするならば、下翅の黒点の大きさは関係ないと思われる。だとするならば、下翅の黒の領域と形が判別点になると感じた。
その判別方法だと、2回目に採集した中で、明確に♀と断じたもの以外は、♂となる。
でも、それで納得はできる。線引きのラインが見えたなら、違う地平が見えてスッキリするところはあるのだ。

 

舞妓はぁ ━━━━━ ん!!!

 
夜空に上弦の月が掛かっている。
裸木の影が時折、風に静かに揺れる。
何だかちょっぴり淋しげな、口笛を吹きたくなるよな夜だ。
3月も半ばだが、奈良の早春の夜はまだまだ底冷えがする。じっとしていると、足元から冷気が這い昇ってきて、体の芯まて染み込んでくる。

午後8時過ぎ。K太郎くんと待ち合わせて矢田丘陵方面へとやって来た。今年最初の虫採りは、外灯回りをして早春の蛾を探す事と相成った。

着いて早速、蛍光灯にお目当てのマイコトラガがいらっしゃった。

 

(2019.3.15 奈良市)

 
羽は横にベターッとは広げないで、大体はこういう風にすぼめてはる。
だから、サイドから見る方が羽の柄がよく見える。

 

 
マイコトラガは、日没後すぐに灯りに寄ってくると云うイメージがある。ライトトラップに何度か連れてってもらった時に、いつもそうだったからだ。厳密に言うと、完全に日が落ちて暗闇が支配する世界になると1、2頭飛んで来て、あとはパッタリと来なくなる。
とはいえ、これはあくまでも蛾初心者の少ない経験値からの印象です。なので、あまり鵜呑みにはなさらぬように。

小網で突っつくと、ボトッと下に落ちた。
一瞬、空中で羽を開いたが、飛べずに墜落したって感じだ。きっと飛ぶには、まだ寒すぎるんだろね。
じゃあ、何でわざわざこの時期に羽化してくるんだろう?しかも、年一回の春先だけに。もうちょっと暖かくなってから出てきても良さそうなもんじゃないか。急ぐ必要がどこにあるの?
まあ、とはいうものの我々のあずかり知らぬ、彼女たちには彼女たちなりの某(なにがし)かの事情ってのがあるんだろう。

下に落ちたら、仰向けになって動かなくなった。
えっ(;・ω・)、ショック死❗❓
だが、K太郎くん曰く、コヤツは捕まえると死んだふりをするらしい。えっ(・o・)、マジでー❓何だか微笑ましいなあ。けど、効果あんのかね?死んでるフリくらいで、そう簡単に捕食者は見逃してくれるもんかね?食われる時は食われるやろ。それってさー、ちょっとアホっぽくね❓

写真を撮るために表向きにひっくり返そうとするが、羽をすぼめているので、すぐコロンと横に倒れる。
何とか立たせて、スマホで写真を撮る。

 

 
(*´∀`)羽の柄が洒落オツだねー。黒地に白い勾玉紋、アクセントに赤が入り、斜線と波のような線が複雑に絡み合っている。そして、とどめとばかりにオレンジの縁取りが全体を引き締めていて、心憎いばかりのデザインだ。
和名を付けた人は、きっと舞妓さんの着物をイメージしたんだろね。粋で良い名前だと思う。
でも、どっちかというと、舞妓さんというよりかは芸妓さんの着物の柄だと思う。けど、ゲイコトラガじゃなあ…、様にならない。断然マイコトラガの方が秀逸だ。名前に厳密さを求める人もいるだろうが、無粋である。そういう人とは、あまりお友だちにはなりたくないネ。

背中から頭は結構毛だらけで、もふもふというよりもモサモサのふぁっさ~なのだ。まるでスターウォーズの猿人チューバッカみたいだ。

 
(出典『www.amazon.co.jp』)

 
前脚はもふもふ。

 

 
それを前に投げ出しているのが、「もう、どうにでもしてくださぁ~い。」って感じで可愛い。
マイコちゃんは、💕サセコちゃんなのだ(笑)。

暫くしたら、ひょこひょこ歩き出した。

 

 
ぴゃあ~、( ☆∀☆)超 ━━━━ キャワイイ━━。
(о´∀`о)可愛い過ぎるぅ━━━━❗❗

舞妓はぁぁぁぁーん❗❗❗

 
本当はロッキーみたく両腕を天に突き上げて、
『エ━━━イドリア━━━━━ン❗』ばりに絶叫したかったのだが、K太郎くんにキ○ガイ扱いされかねないので、心の中で叫んだ。

よく見ると、背中にぼんぼりみたいなフサフサ玉があるじゃないか、これまたキュートちゃん(゜∇^d)!!
しかも黒と思えし色が、よくよく見れば濃い群青色である。限りなく濃い群青色なので、黒く見えるってワケなんだね。前脚のもふもふも青黒い。しかも水色の紋が入る。あんさん、どこまで洒落乙やねん。
シックな柄の着物に、毛皮の襟巻き。手元はブルーベルベットの手袋だ。( ̄▽ ̄;)う~ん、ここまでくれば、可愛いいを通り越して大人のめちゃめちゃスタイリッシュなお姉さんだ。
あ~(@ ̄□ ̄@;)❗❗、ここで気がついた。
ブルーベルベットといえば、あの鬼才デヴィッド・リンチ監督の最高傑作の映画タイトルと同じじゃないか❗
そうだ、そうなのだ。タイトルの『ブルーベルベット』には、ベルベットのような青が重なって重なって重なったものの集積が暗闇であることを示唆しているのではなかったか❓ 闇というものは、単純な黒ではないのだ。
そう思うと、何だかゾクゾクしてきたよ。何かそれって、超カッケーんですけどー《*≧∀≦》

マイコトラガは、早春の闇が偶然に産み落とした徒花(あだばな)のお稚児さんかもしれない。いや、姫ぎみかしら。
とにかく春先に現れるこの美蛾は、スプリング・エフェメラル、春の女神の名に相応しい。

 
ここまでで文章はおしまいだったのだが、一般ピーポーには何の事だかワカンナイと思われるので、ちょこっと種の解説もしておきますね。

ヤガ科(Noctuidae)のトラガ亜科(Agaristinae)に属するようだ。あまり意識してなかったけど、名前にトラガ(虎蛾)と付いているのは、トラガの仲間だったからなんだね。

学名は、Maikona jezoensis jezoensis(Matsumura 1928)
あらあら、属名も舞妓さんなんだ。Maikonaは訳すと『舞妓さんの』という意味ですな。

小種名の jezoensis は、最初は意味がワカランかった。ジェゾエンシス❓ゾゾタウンの親戚みたいやんけと思った。でも、ラテン語だから、アタマの「j」を発音しないで「エゾエンシス」と読むのだろう。とすると「蝦夷(えぞ)の」という意味になる。つまり、蝦夷は北海道の昔の呼称だから、最初に発見されたのが北海道だったんだろう。
記載は「Matsumura, 1928」となっているゆえ、おそらく命名者は松村松年先生だろね。

亜種名は、jezoensis jezoensis と同じ綴りが連なっているから、日本産が原名亜種(名義タイプ亜種)のようだ。北海道から九州までのものがこれにあたり、屋久島産のモノが別亜種とされているようだ。
学名は、Maikona jezoensis tenebricosa。
亜種名の tenebricosa は、おそらくだがラテン語の「暗い・暗闇」を表しているものと思われる。
これは本土産のものよりも、黒っぽいからなのかな?

調べてみたら、ドンピシャだった。
原名亜種に比べて著しく暗色で、前翅の白帯は狭くなり、後翅は基半まで黒くなるという。
記載は「Inoue, 1982」となっているので、亜種になったのは比較的最近みたいだね。

そういえば、K太郎くんが『関西の奴の方が大きくて、カッコイイっすねー。』と言ってたなあ。
東の方のは、小っちゃくて斑紋がハッキリしないらしい。でも、特に亜種区分はされていないということは、両者の変異が連続的で明確な線引きが出来ないんだろう。

分布は、北海道の中部および南部、本州では東北地方から近畿地方までの主として日本海側と内陸部に産するが、伊豆半島と伊豆大島にも記録がある。 また、対馬でも発見されている。四国では香川・徳島県に産する。
分布の南限は屋久島だから、どちらかと云うと温帯系の種類なんだと思われる。
思った以上に分布は広いが、局所的で数は少なく、稀種の部類に入るらしい。
とはいえ、関西と北海道には割と多くいるみたい。こういうパターンはあまり見ないので、ちょっと不思議だ。なぜ北海道と関西では多いのか、その原因がまるで思い当たらない。

調べたところ、海外では発見されていないみたいだ。
と云うことは、今のところ日本の固有種ってことだね。
ちょっと誇らしい。でも、そのうち中国のどっかとかで見つかるんだろなあ…。

成虫の出現時期は3月から6月。関西では3月から4月初めのごく短い時期に見られる。
夜間、アセビ(馬酔木)や梅などの花に吸蜜に訪れ、灯火にもよく集まる。

幼虫の食餌植物は、ブドウ科のノブドウ。
野ブトウなんて何処にでもありそうだけど、何で少ないんだろ❓不思議といえば、不思議だよね。

翌日、展翅した。
とはいえ1頭だけ。もう1頭採れたんだけど、そっちはK太郎くんの元へ行ったのです。

 

 
まだ微かに生きていた。
歩く時は、羽をベタにしたこの状態で進まはります。
考えてみれば、羽をすぼめてたら歩きにくいよね。

 

 
裏面はこんな感じです。

 

 
想像してたのと、ちょっと違う。
もっと汚いかと思ってたけど、縁取りがあって意外と渋い魅力がある。

ではでは、展翅です。

 

 
いざ展翅をしたら、どうせ胴体と腹がクソぶっとくて可憐さが失われたブス糞蛾と化すのだろうと踏んでいたが、そうでもない。下翅もどうせ真っ黒かと思いきや、意外とお洒落なツートンカラーである。
( ̄▽ ̄)ん~、カッコイイかもしんない。

実をいうと、最初は前脚を出さない普通のパターンで展翅した。でも前脚がもふもふで可愛いのを思い出したので、1からやり直すことにしたのである。
触角はとても細い。先は緩やかに湾曲していて、まさに蛾眉。美人さんの綺麗な眉を意味する言葉の語源は、まさかの蛾の触角なんですな。
でも、くれぐれも女性に対して、褒め言葉のつもりで『蛾みたいな眉だね。』などと言ってはなりませぬぞ。そんなこと言ったら、確実に(#`皿´)激ギレされまっせ。
世の中の女子の大半は、申し訳ないがモノを知らない。でも、それでいいんである。何でも知ってるような女子は可愛げがないからね。

触角は自然な感じが良かろうと、殆んど手を加えていなかったが、どうも気に入らないので整形することにした。

 

 
しかし、右側の途中で真っ直ぐするのを諦めた。
段々、面倒くさくなってきたのだ。それに、これ以上コチャコチャ触ってると折れると思ったのよ。

 

 
前翅張は48㎜越えていた。大きい方だと思う。
ということは、♀なのかなあ❓

でも、調べても♂と♀の違いがワカンナイんだよね。
まあ、ともあれ大きい方を譲ってくれてアリガトね、K太郎くん。

数日後にOくんが、『後翅の黄色が少なくて黒っぽいやつが♂だと勝手に決めてまーす🎵(・ε・` )ノ』とSNSでコメントをくれた。
けんど、断言はしていないので何とも言えない。
でも数日後にK太郎くんも同じような事を言ってて、プラス下翅の黒点がメスの方が小さいのが特徴だと話してくれた。但し、中間的なモノもいるから、微妙ではあるとはつけ加えてた。
二人ともスゴいなあ。そんな知識、どっから仕入れてるのん?ネットでは見つからなかったぞ。もし、センスで違いを渇破しているならば、尚のことスゴいよね。

以下、写真を撮りまくるが、よれて真っ直ぐに撮れない。蝶や蛾の展翅写真って、中々左右対称には撮れないのじゃよ。見た目はキレイに展翅してる筈なのに、溝が真っ直ぐ写ってないもん。

 

 
マイコちゃんは、もっと欲しいなあ。
そろそろ春の三大蛾であるオオシモフリスズメ、エゾヨツメ、イボタガも出てくることだし、明日あたり、もう1回行こっかなあ…。

                  おしまい

                        2019.3.19

  
追伸
今回のタイトルは、映画『舞妓Haaaan!!!』がモチーフになっている。主なキャストは阿部サダヲと堤真一、柴咲コウ。脚本はクドカン(宮藤官九郎)だから、バカバカしくて面白かった。あっこまでフザけてくれると楽しい。
因みに映画は、第31回日本アカデミー賞主演男優賞、助演男優賞、脚本賞優秀賞を受賞しております。

余談だが、途中で「ブルーベルベット」というワードが出てきたので、タイトルの変更も考えた。
でも「闇夜のブルーベルベット」とか「舞姫ブルーベルベット」、「舞妓はんはブルーベルベット」、「ブルーベルベットな夜」なんていう今イチなタイトルしか浮かばなかったので断念しました。

この文章を完成前する直前に、もう1回舞妓はんに会いに行った。それでオスとメスの区別がある程度わかったので、続編を書く予定です。

 
 

ダリアとシンジュキノカワガ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで、イチモンジセセリさんと一緒に休憩。
普段は無視だけど、この日は和ませてもらいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
何と、これぜ~んぶダリアです。
色んなダリアがあるんだね。でも黒いダリアから後はダリアとは思えないようなダリアだな。

ダリアはキク科(Asteroidear) ダリア属(Dahalia)に分類され、原産地はメキシコだそうである。メキシコの国花でもある。
1789年にメキシコからスペインに移入され、そこで多種多様の品種改良がなされたそうだ。

花言葉は「華麗」「優雅」「威厳」「移り気」「不安定」「感謝」「栄華」。
花言葉って、いつも思うんだけど、そんなにぎょーさんあってどないよ(# ̄З ̄)❓ワッケわかんねーよ。意味あんのかね。

因みに、日本では当初テンジクボタン(天竺牡丹)という名で呼ばれたていたらしい。確かに大輪の花は、まるで牡丹みたいだなと思った。
ついでに言っとくと、食用のダリアもあるらしい。塊根を食べるようだけど、レンコンに近い食感なんだとさ。他に花や葉がサラダなんかにも利用されてるみたいだね。

写真は2018年 10月8日に奈良県河合町の馬見丘陵公園で撮ったものだ。
何で、こんなに沢山ダリアの花の写真を撮ったのかというと、ヒマつぶしなんである。
この日の目的は他にあった。ものスゴく珍しい蛾、シンジュキノカワガを探しに来たのである。

【シンジュキノカワガ Eligma narcissus】
(出典『青森の蝶たち』以下2点とも)

 
ゾクゾクくるエキゾチックさだ。

 

 
羽を閉じると渋い魅力になる。
外側の太い縁どり線は妖しい緑色なのもいい。

 

 
裏側もスタイリッシュだ。鮮やかな黄色とデニムの青のとのコントラストが素晴らしい。

この蛾は南方系の蛾で、基本的には日本には棲んでない。たま~に外国のどっかから飛んで来るようだ。
蛾のパイセンが、コイツを2年前に此所で採ったと言う。しかも、2頭も。トイレの灯りに飛んできたらしい。それで、のこのこと出てきたワケだ。昼間から来ていたのは幼虫の食樹であるシンジュ(ニワウルシ)もあると聞いたからだ。この蛾は食樹のそばで見つかる事も多いみたいだから、何とかなんでねーのと思ったのさ。
でも、エエかげんな性格のパイセン、公園中を探しても食樹なんて1本もありゃしない。公園事務所の植物担当の爺さんに訊ねても、「知らんなあ。そんな木、たぶんないで。」と言われたよ。

結局、夜の公園を夢遊病者の如く徘徊したけど、会えなくて惨敗。
どころか、新月なのに他の蛾さえも殆んど何も飛んで来なかった。
暗い夜道をとぼとぼと駅に向かって歩いている間、ずっとダリアの花々が脳裏で浮かんでは消えていった。

                 おしまい

 
追伸
残念だが、この日はまだ皇帝ダリア(キダチダリア)は咲いていなかった。

 

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(出典『樹木好き!I❤Trees』)

皇帝ダリアが咲くのは11月。カイザーは満を持して最後に現れるのだ。

 

吸血蛾

 
『2017′ 春の三大蛾祭り』の第4話(最終回)の余談で吸血蛾について少し書いたが、何とも気になる。

 
春の三大蛾第4話(最終回)

  
怪蛾オオシモフリスズメの採集記を書いたんだけど、掴んだら鋭い痛みが走ったので、Σ( ̄ロ ̄lll)ウギャ❗、コイツ噛みつきよったあー。おどれ、もしかして吸血蛾かあ~( ; ゜Д゜)❓と謂ったくだりがあったのである。

で、んなワケなかろうとは思いつつも帰宅後に一応調べてみた。

妄想でした( ̄∇ ̄*)ゞ、勿論そんなワケはなかった。オオシモフリスズメは吸血蛾なんぞではござんせん(痛みの原因は本文を読まれたし)。
だいたい、そんな大型の蛾が人の生き血を吸おうものなら、知らぬ者などいなかろう。そげな恐ろしい奴が、このネット社会に於いて世間の人々の口の端にのぼらないなんて有り得ないのだ。

そもそも吸血蛾なんぞはホラー小説や映画・ドラマの空想世界のもので、現実世界にはいるワケないと思ってた。横溝正史先生の世界だすなあ(註1)。
だが、ついでに吸血蛾、Vampire mothでネットサーフィンをしてたら、コレが驚いたこと現実にいたんである。

「ロシアのシベリア地方に棲む蛾で、2008年に発見されたらしい。この蛾はヨーロッパ中央部から南ヨーロッパに分布する「Calyptra thalictri」という蛾の亜種なんだそうな。若干斑紋に差異が認められるだけで両者の見てくれはほとんど同じだという。だが、ヨーロッパにいる奴は果物の汁を餌としており、血は吸わないとの事。シベリアの過酷な環境が、加速度的に進化を促したのかもしれない。
それにしても、蚊じゃなくて蛾だぜー。そう大きくはない蛾だろうが、蚊よりも遥かに大きい筈だ。となると、当然ながらそこそこの量の血を吸われちゃうってワケだよね❓
ロシア人って、そんなもんに喰いつかれても気づかんのかね❓いくらなんでも鈍感過ぎっしょ(・。・;
何れにせよ、シベリア地方に行かれる予定の方は、お気をつけあそあせ。」

なんて云う解説文らしきものを書いた。
でも、写真も無しで充分とは言えない内容だった。
と云うワケで、今回は写真もちゃんと添付して、もう少し突っ込んで調べてみることにした。

 
(出展『National Geografic News 』)

(出展 上三点共『maghk.com』)

 
もう少し小さいのを想像してたけど、結構大きな蛾だ。こんなのに止まられて血を吸われたら、普通気づくでしょうに(笑)。きっと、普段は人間なんかよりも野生動物や家畜の血を吸ってんだろね。
いや待てよ、ヒル(蛭)みたいに麻酔液みたいなのを注入しといてから、コチラか気づかぬうちにジックリと血を吸いにかかると云う高等ワザを使う手練れやもしれぬ。

どうやら生き血を吸うのはオスだけらしい。これは意外だった。普通は蚊みたいに卵を産む為に栄養が必要なメスが吸血しそうなものなのにね。まあ、オスならばオスの、そこには何らかの吸血理由があるんだろうけどさ。

噛まれた後は皮膚が赤く膨らみ、痛みもあるそうだ。
でも特に表現が強調されてはいないようなので、激烈なる痛みではないと推測する。
痒みに関しては特に記述が無かったように思う。もっともコチラの英語読解力の低さゆえに見つけられなかったやもしれぬ。
今のところ、刺されても病気(感染症)の心配は無いそうだ。しかし、サンプル数は少なそうだから安心は出来ないだろう。後々になって未知の病気が見つかる事だって無いとは言えない。

 
(出展『maghk .com 』)

 
それにしても茶色くて地味な蛾でガッカリだなあ…。
出来ればニシキオオツバメガ(註2)とかド派手絢爛豪華だったり、もしくはタランチュラみたく黒くて毛むくじゃらのゴワゴワした如何にも邪悪です的な姿であって欲しかった。だいたい悪夢のような存在なんてもんは、それなりに特異なキャラというのが相場なのに、茶色一色とは地味過ぎー。全然、想像力が膨らまん。だから恐怖のストーリーが喚起してこない。せいぜい、「恐怖吸血ムササビ男」とかしか思い浮かばんよ。それじゃあ、何だかギャグっぽいもんなあ…。

 
日本語サイト『カラパイア』には、以下のような文章があった。

『フィンランドでは以前にもCalyptra thalictriという血を吸うようになった蛾が発見されているのですが、今回発見された蛾はCalyptra thalictriとは違う進化をしているとフロリダ大学の昆虫学Jennifer Zaspelさんは述べています。
しかし、外見上の差がほとんど見られないため、ロシアの吸血蛾のDNAとの比較分析を来年の1月に行う予定とのこと。果物を食べる蛾が血を吸うようになったのだとすれば、蛾がどのような過程で吸血するようになったのか調べる手がかりになるとZaspelさんは話しています。』

フィンランドで先に吸血蛾が見つかってんのか?
しかも種名はロシアと同じ「Calyptra thalictri 」という学名じゃないか…。だったら、ロシアで新種のVampire mothが見つかったっていう見出しは変だよね。どないなっとんのん❓
上の文章だと、C.thalictriとは違う進化をしていると書いてあると云う事は別種って意味だろ?訳し方にもよるのだろうが、少なくとも亜種って意味だよなあ。
いや、その下の文では外見上の差が殆んど見られないと書いてあるから、別種だとオカシイよね?
となれば、あくまでも亜種の関係なんだけど、現在、両者は違う進化の道筋を辿り始めていると云う意味か?
どちらにせよ、両者の遺伝解析をやるらしいから類縁関係は何れ解明されるだろう。
ところで、このニュースが流れたのはいつだっけ?

あっ、2008年でねえの。結構、古い。
遺伝子解析から既に10年くらいが経過していることになる。その後、DNA解析の結果はどうなったのだろう?

ネットでこんな記事を見つけた(ブログ「揺りかごから酒場まで☆少額微動隊」)。

『種としてはありふれた、日本にもたくさんいるエグリバ(ヤガ)の仲間で、中南ヨーロッパではCalyptra thalictri(ウスエグリバ)として知られるものの一種のようだという。手を差し出したところ、ちゅーちゅー吸い始めたという。動画、痛そう。
何故血を吸う行動をとるのか?フロリダ大の教授は羽根の模様しか形質的な違いの無い近隣の同種が果実を主食としていることに着目、汁を吸う行動の延長上で、この亜種が鉤爪状の針先を持つ吻口を仲間に・・・生殖行動のときにメスがオスに・・・突き刺し、不足した塩分を補給する、といったことから遺伝的に分化していく途上にあるのではないかという。地理的、羽根の模様、そして行動からいってあきらかに新種なのにDNAの違いがはっきりしていない、未だ種として分化していない、まさに進化の途中にある状態だというのだ。
しかし別の可能性として極端に塩分が少ない土地で(繁殖期のメスにとっては幼虫に)ナトリウムを提供するためやむなく行われてきた行動から発展したものかもしれない。他の種の蝶や蛾にもこういったことを行う習慣があるかもしれないとしている。どっちみち、進化の分かれ道になる可能性は残されるわけだけど。』

何と遺伝的には違いが見られないと云うじゃないか❗
同種の亜種関係で、こんなにも生態が変わるってスゴい例だ。今は進化(分化)の途上にあるって事なんだけど、この新たな生態を獲得してから何年くらいで外部形質も変化して完全な別種になるんだろね?興味が尽きないところだ。でも、別種になってる時には、たぶんワシはとうにこの世からいなくなってるよね。下手したら、別種になるのは何千年後かもしれんもんなあ…。

この記事ではオスではなく、メスが吸血するという前提で書かれている。そっちの方が納得だけど、これはメスで確定なのかなあ?

  
吸血蛾というと、イメージがホラー的だから物凄くビビったけど、よくよく考えてみれば世の中には他にも吸血生物が結構いるんだよなあ…。
ヒルにブヨ、アブ、マダニ、ツツガムシ(ダニ)、ナンキンムシ(トコジラミ)、ヌカカ、ツェツェバエ、スナノミ(ノミの一種)etc…。
マダニやツツガムシ、ツェツェバエなんぞは感染症を引き起こすと致死率が高いし、スナノミは足の裏から皮膚を破って侵入して増殖するというから、現実的には吸血蛾よりもコイツらの方が余程恐ろしいよね。
それにしても、上記のうちヒル、ブヨ、アブ、マダニ、ナンキンムシは、オイラ、既に経験済みなんだよなあ…。
あのおぞましき姿のヒルには何度も血を吸われているし、ブヨやアブにも酷いめにあっている。ブヨのせいで耳がボロボロになった事もあったっけ…。あとで物凄く痛痒くなるんだよね。ヒルはまだ痒いだけだから、ブヨの方が断然に後遺症があるのだ。
マダニにも食いつかれた事が数度ある。慎重に取り除かないと頭が残る。そうなると、感染症になりやすいとか、1年くらい痒みに悩まされるとかって聞いたことがある。食いつかれたら、素人はソッコーで病院に行きましょう。
ナンキンムシに最初に遭遇したのはインドだった。
その時は別な人の部屋だったので被害は無し。でも、ラオスでは酷いめにあった。背中を数百箇所も噛まれて、もう死ぬほど痒くて1週間以上痒みがとれなかった。ナンキンムシ、最悪です。

これらの被害にあうようになったのは、ここ最近の7、8年前からである。蝶採りを始める前までは蚊と虻ぐらいしかお目にかかったことがなかったのだ。
海外に行けば、他にも毒蛇に毒蜘蛛、毒アリ、毒草、それに大型動物の熊とか虎とか豹、オオカミ、野象なんて云う遭遇したら命にかかわるような奴等に会う確率だってケッコーあるのだ。
虫捕りって、最悪の趣味だよなあ…。冷静に考えれば、アホだ。でも、愚かにも恐怖よりも虫を捕りたいと云う欲望の方が勝ってしまうのだ。
虫捕り、やめよっかなあ…。全然、わりにあわないや。

                  おしまい

 
追伸
(註1)横溝正史的世界
横溝さんの推理小説に『吸血蛾』という作品があります。映画化もされました。金田一耕助も出てきまっせ。

 
(出展『Amazon』)

 
(註2)ニシキオオツバメガ
マダガスカル特産の世界一美しいと称される蛾。
体内に毒を持っている。

 

 
因みに裏面はもっとゴージャス。
あっ、そういえばまだ展翅してないや。
 

2017′ 春の三大蛾祭り 其の四 魑魅魍魎篇

 
長らく間があいたが、いよいよ最終回である。
でも、書きあぐねていたワケではなく、単に書く気が起こらなかっただけ。だから、別に練りあげた文章でも何でもないです。期待されても、その辺は無理。
えーと、今度こそ魑魅魍魎どもが登場するので、閲覧注意ですぞ😁

と、ここまで書いて、さらに1週間が経ってしまった。なので、今回は親切にも前回までのあらすじ付きなのじゃ(ヒマな人は過去3話を読み返しましょう)。
それでは、蛾嫌いでも読める手に汗にぎるノンフィクションホラーの始まり始まりぃ~\(^-^)/

 
【前回までのあらすじ】
2017年 4月上旬。ひょんなことからヒロユキは或る秘密結社の夜会に同行することとなった。その夜会とは、プロチームによるライトトラップを使った泣く子も黙るおぞましき蛾採集であった。
ヒロユキにとっては初のライトトラップにして、初の本格的蛾採集である。元来、ヒロユキは大の蛾嫌い。しかもターゲットは春の三大蛾と言われるエゾヨツメ、イボタガ、オオシモフリスズメという身の毛もよだつ凶悪な面々なのであった。
暗雲垂れ込める不気味な空。春まだき、寂たる白骨の森。とある山奥へと車はゆっくりと進んでゆく。
未知との遭遇への畏れ。武者震い。不安をかき消さんがための饒舌と過度の飲酒etc…。
やがて漆黒の闇が訪れる。戦々恐々とした中、碧い眼の妖蛾、エゾヨツメが現れる。酒の力を借りて、悪霊を退治するヒロユキ。しかし、梟男爵と闇の帝王は、いっこうにその邪悪なる姿を現さない。
真夜中、焦燥に駆られたヒロユキは、そこでついに決断した。遠く離れた巨匠のライトトラップへと一人で向かうことにしたのだ。暗黒世界に跳梁跋扈する魑魅魍魎の影に怯えるチキンハートのヒロユキ。恐怖と戦い、ようやく辿り着いた闇夜に浮かぶ宇宙船、光輝くライト・トラップ。だが、安堵も束の間。ついに戦慄の時を迎えるのであった…。

 
真夜中、丑三つ刻の山中を一人でうろうろしていたら、何が起こるかわからない。小心者のヒロユキは怯えた。闇の国の者どもに絡め取られるぬうちにとっとと戻ろう。

 

 
そう思って歩きだそうとした矢先だった。
ライト・トラップ右側の視界に違和感を覚えて、何気に杭の辺りに目をやった。
 
ドオ━━━ (◎-◎;) ━━━ ン❗❗

いきなりの強引なカットインで、おどろおどろしい映像が暴力的に網膜を支配してきた。
瞬時に全身がフリーズする。腰が抜けそうになった。

 

 
そこには、闇の将軍が夜陰に紛れて静止していた。
( ; ゜Д゜)何たる怪異なデザイン…。
デジタル悪魔じゃよ。
その特異な姿、間違いなく梟男爵イボタガだ。
一歩近づき、マジマジと見た。
((((;゜Д゜)))ブルッときた。背中から首筋にかけてゾクゾクしたものがギュンと走る。

さて、どうしたものか(-_-;)❓…。
アンモニア注射は持ってないし、網はベース基地に置いてきた。有るのは毒ビンだけである。
ということは、このバケモノを取り込む為には手で触らねばならない可能性が高い。
( ̄▽ ̄;)触るのか…。生来、大の蛾嫌いなオラに、こんな恐ろしげなものに触れというのか❓
碧眼魔女エゾヨツメは動き回っていたので、逃げられまいと思わず手が出た。だが、今回は違う。覇王色の覇気を放ち、静かに鎮座されておるから、畢境考えざるおえない。
時として思考は恐怖の敵だ。考えれば考える程にかえって怖さの実感がまざまざと這い上がってくるのだ。

だとしても、接触せねば採れない。
ここは男度胸。やるしかあるまいて(=`ェ´=)
武者震い。惑乱と恐怖が体を強(こわ)ばらせる。

しかれども、ビビって中途半端に触れて逃げられたら非常にマズイ。
Mさんに『いたんですけどぉー、掴もうとしたら逃げられちゃいました~\(・o・)/』などとホザいたところで、到底信じてはくれまい。現物が無ければ、嘘つき言いワケ野郎と云うレッテルを貼られるに決まっているのである。何があっても、根性なしの汚名を着させられるのだけは御免蒙りたい。

おもむろにスマホを取り出す。
取り敢えずは、保険として証拠写真を撮っておこうと云うワケである。イガちゃん、カシコイ。

2、3枚撮ったところで、Σ(゜Д゜)ドワッ❗❗

大きく羽を広げおった❗

 

 
闇の将軍、お怒りである。
それって、威嚇っすか❗❓
むぅ~( ̄▽ ̄;)…、目玉模様が怖い。
あながちフクロウの顔に擬態していると云うのも嘘じゃないかもしれぬ。

ブルン、ブンブンブン…。

ブルン、ブンブンブン……。

 

 
ヒッ❗❗(゜ロ゜ノ)ノ

思わず、後ずさりする。
男爵殿、ものすご~く御立腹の御様子である。

取り敢えず、ここは一旦離れて落ち着かせよう。
距離を置くために2、3歩下がったその時だった。少し離れた左下に禍々しいシルエットを感知した。視線はそのまま釘付けになる。

ドッ(◎-◎;)❗、

ドオッ(@_@;)❗、

ドオ━━ Σ( ̄ロ ̄lll) ━━━ ン❗❗

 

 
Σ( ̄ロ ̄lll)のわっ❗
慄然。マックス震撼する。

(@_@;)あわわわわ…。いつの間に❗
そこには、闇の帝王が仁王立ちするかの如く傲然と静止していた。紛れもないオオシモフリスズメだ。
きゃん玉がキュッと縮みあがる。

( ; ゜Д゜)デ、デカイ…。
形も悪魔みたいである。

前門の狼、後門の虎❗
丑三つ💓ドキドキ、💓ドキッドキッ❗

いきなり魑魅魍魎に囲まれ、チビりそうになる。
(○_○)どぎゃんするとですか?
一瞬、脳死状態になる。

大きく深呼吸する。
落ち着け俺。落ち着けオレ~。

そうだ、コヤツも写真を撮っておこう。
気を取り直して、へっぴり腰で近づいてみる。

 
キャヒ ━━ Σ(T▽T;) ━━ ン❗

 
(註1)

突然、ケツをオッ立てよった❗
アナタ様も御機嫌斜めの威嚇っすか❓

それにしてもこのポーズ、パッと見は何が何ちゃら分からないムチャクチャ異形(いぎょう)なカタチだ。
気持ち悪ぅ~Σ(-∀-;)

 

 

 
(以上3点共、画像はM氏からの御提供)

 
( ; ゜Д゜)…な、何たる…。息を呑む。
羽がギザギザやんけー。見る者を充分にたじろかせる、まるで鋭利なナイフのようだ。
アナタ、モルグ街の殺人鬼ですかあー❓

脚は太くてガッシリとしており、強靭そのものだ。
その前脚でグワシと獲物をワシ掴みにして、ムシャムシャと肉を貪る残虐悪鬼さんどすか❓

体は分厚く、装甲車を思わせる。或いは屈強なる戦士の鎧か…。
( ̄∇ ̄*)ホホホホ…。あらゆるものをブチかましの粉砕ですかあー❓

フォースの暗黒面に陥りしアナキン・スカイウォーカー、頭はダースベーダーみたいだ。蛾って、蝶から暗黒面に転落した堕天使どもの成れの果てやもしれぬ…。
おまけに稲妻の如き太い線が入っておる。スーパー極悪ヤンキー兄ちゃんのパンチパーマーにソリコミじゃよ。
そこまで凄みをテッテッー的に効かせはりますかあ❓

睨みつけるような焦げ茶色の眼も凶悪そうだ。
やっぱりyouも御機嫌悪かとですか❓
(ToT)っんましぇーん。

とにかく、邪悪の極み。この世のありとあらゆる憎悪を凝縮させたような姿だ。もうモンスターとか、怪獣レベルですけん。

さてさて、問題は二大凶悪犯をどう生け捕るかだ。
一瞬、敵前逃亡が頭を過(よぎ)る。いや、敵前逃亡なんかじゃない。一旦戻って、オジサン達を呼んでくるのが得策やもしれぬ。それに、これはそもそも巨匠のトラップだ。勝手に獲物を持ち去るのは泥棒じゃないか。まずは巨匠の許可を受けるべきである。それが人の道と云うものであろう。
とか何とか考えるが、本当は言いワケである。所詮は、敵前逃亡を正当化する為の方便でしかない。どう御託を並べたところで、Mさんはこのチキンハートの敵前逃亡を見破るだろう。(ToT)くちょー、ヘタレ呼ばわりされてたまるものか!である。
それに、行って戻ってきたら姿がかき消えてましたじゃあ、後悔してもしきれない。せっかくのチャンスを自らみすみす放棄するなんざ愚か者の極みだ。
やるっきゃない(*`Д´)ノ!!!

とはいえ、毒ビンは一つ。
どうみても、デカい蛾が二つも入りそうにない。
どちらも怖いが、より怖いのは帝王オオシモフリスズメの方だ。胴体も太いから、蝶みたいに指で圧死させる事は到底不可能に思える。
それに、もし無理に試みて、

シモフリ、ブチッと押したら、白いの出た。

になったら、どーすると云うのだ。
想像して、((((;゜Д゜)))オゾ気づいた。
そりゃ、阿鼻叫喚のスプラッター地獄絵図じゃよ。
18禁どころか、永遠の発禁モノじゃわい。
ならば、毒ビンにオオシモフリを放り込み、イボタガを指で圧死させる選択しかあるまい。
でも、イボタガだって蝶と比ぶればどの蝶よりも胴体は太いぞー(;o;)

ふぅ~(* ̄◇)=3
もう一回深呼吸。
先ずはイボタガから片付けよう。
丑三つ刻の悪夢を一刻も早く終わらせて、無事帰還せねばならない。地球へ戻ろう、宇宙飛行士ヒロユキくん。

丑三つ💓ドキドキ、💓ドキッドキッ❗

この期に及んで、またしても駄洒落を言うとる場合かっ!?

 
衝撃の展開に、酔いは完全に醒めている。

ドルルルルルゥー、グガガガガガー。

突然、発電機のけたたましい騒音が耳に甦ってきた。
それで、冷静さをいくらか取り戻した。
心頭滅却。考えてはいけない。感情を殺せ。
すうーっと手を伸ばし、フクロウ男爵を掴んだと同時に胴体をブチッと力を込めて押した。そして、マッハで三角紙に放り込む。心の動きを一切おし殺した、流れるような一連の動きである。
ワタシはレイケツニンゲン、ワタシは冷血人間。

勢いそのままに闇の帝王に挑みかかる。
毒ビンのフタをあけて近寄り、電光石火で掴む。
考えていた以上にデカイ❗、重い❗と思った瞬間、

Σ(T▽T;)痛って━━━ ❗

コ、コヤツ…、咬みよったあー❗❗

思わず、手を振り離してしまう。
怪物は狂ったように円を描いて飛んだ。
ヤッベー( ̄□||||!!と思ったが、金縛りにあったようにその場で固まる。
しかし、バケモノはバタバタとよろけるように飛んで横の白布に止まった。

 

  
吸血鬼❓エイリアン❓プレデター❓
何なんだ、アンタ❓
咬むって、そんな蛾がこの世にいるのかよ?(註2)
吸血蛾❓( ̄O ̄)嘘でしょ❗❓
二流怪奇映画とかで血を吸う蛾を見た記憶があるような気がするけど(註3)、アレってフィクションじゃなかったのー❓そこまでオオシモフリって、邪悪凶暴なの❓
(-_-;)まさかである。見てくれはいくら強面(こわもて)で恐ろしくとも、本当は意外と善良なヤツなんじゃねえのと思っていたが、とんでもない。見たまんまじゃねえか。

パニックになりかけるが、ここで戦陣を引いては沽券にかかわる。もうヤケクソ、アドレナリン大量放出。思いきって再度つかみにかかる。
いやいや、待て、待て。待てーい。すんでのところで手が止まった。指先に、さっきの鋭い痛みの感覚がまだ残っている。慌てて掴んだら、また同じ轍を踏むことになる。ここは再度冷静になろう。
そうだ。毒ビンを上から頭にズッポリかぶせ、⚡電光石火でもう片方の手で一挙にケツをグイと押し込む作戦でいこう。そいでもって、すかさず蓋を閉める。これなら、最小限の接触でスムーズにミッションを完遂できる筈だ。

 
意を決して、

ズバババババアーン❗❗

頭から覆せた。

三( ゜∀゜)ひっ、

ひいーっΣ(T▽T;)❗

ゴツい脚がガッツリと布に喰い込んどるぅー❗

えーい(*`Д´)ノ、こうなったらヤケクソじゃあー!

手で掴み、無理矢理に引き剥がす。
そして、毒ビンに頭を突っ込む。

ギヤッΣ(゜Д゜)!、

暴れて入らんo(T□T)o❗❗

パニ ━━ ック\(◎o◎)/❗❗❗

※▼☆§¢%◆β!Σ(×_×;)❗
激しい抵抗にあい、中々押し込めなーい(T_T)
デカ過ぎるんじゃ、(# ̄З ̄)ボケ~。

だりゃあーΣ( ̄皿 ̄;;、コンニャロ❗、コンニャロ❗、コンニャロ❗おどれ、魂(たま)取っちゃるけん❗

渾身の力で、強引にブチ込んだった。

 

 
はあー( -。-) =3、はあー( -。-) =3
m(。≧Д≦。)mぜぇー、m(。≧Д≦。)mぜぇー。
肩で息をする。
やってやったぜ、オカーチャン。
急に力が抜けて、その場にへなへなとへたり込む。
だが直ぐには恐怖と興奮はおさまらない。アドレナリンだだ漏れのまんまだ。全身がまだ緊張で強ばっている。指も小刻みに震えている。

しかし、本能が此処にとどまっていてはならぬと頭の後で警鐘を鳴らしている。そうなのだ。いつ闇の住人たちが、この心の隙間を狙って雪崩れこんで来るやもしれぬ。油断してたら、フォースの暗黒面に引き摺り込まれかねない。一刻も早くこの場所を離脱すべきだ。

全方位に警戒しながら、足早に坂道を下りる。
しかし、周囲の闇は深い。道を照らす懐中電灯の灯りは心もとなく、さしてスピードは上げられない。
心はざわついている。早く戻りたい。でも周囲にも警戒を怠ってはならぬ。それに、怪物たちがいつ甦生するとも限らないのだ。ここで暴れられたら、😱大絶叫するだろう。

10分後。ようやく坂の下にベース基地が見えてきた。
翼よ、あれが巴里の灯だ。

Mさんは、まだ起きていた。
興奮して、事の顛末を喋りまくる。
Mさんは笑いながら『ほーかぁー。良かったのぉー。』と言ってくれた。だが、こちらの興奮は伝播しない。
『よっしゃー、出動じゃーい(*`Д´)ノ!!!』とか雄叫びをあげるかと思いきや、余裕のよっちゃん。
『まあ、座って酒でも飲みいーや。』なのである。

30分後。
Mさんはようやく腰を上げ、巨匠を起こしにいかれる。
目をこすり、眠たげに起きてきた巨匠にダイジェストで顛末を語り、勝手に採集した非を侘びる。
巨匠は軽く『ええでぇー。かめへん、かめへん。』とおっしやった。人物がおおらかでデカいのだ。
しかし、その巨匠にも興奮は伝播しない。やはり、余裕のよっちゃんなのだ。すぐ見に行こうと云った雰囲気は全然ない。
その余裕、アンタら、魔道士かっ!?

 
一行が漸くライト・トラップに向けて出発したのは、その20分後である。

車で乗り付ける。

((((;゜Д゜)))シェーッ❗❗
どえりゃー事になっとるだがやー。

 

 
魑魅魍魎、真夜中の魔王祭りである。
しっかし、ワカランものよのう。Mさんからはオオシモフリは夜10時くらいから飛んで来ると聞いていたけど、全然飛んで来ずで、今はもう午前1時半前だもんなあ…。たぶん様々な細かい条件が重なりあって、今日は午前0時からの飛来開始になったのだろう。蝶と比べて活動時間の幅がかなり流動的だ。蛾の気持ちは、よーワカラン。

Mさんが『コイツ、鳴きよるねんでぇー。』と言って、掴んだオオシモフリを耳元に持ってきた。

『🎵チュー、チュー。』

Σ(゜Д゜)わっ!、ホンマに鳴いてる。
鳴くって、アンタ哺乳類かよ❗❓
見てくれといい、脚のゴツさといい、どこまで規格外なんじゃよ。何だか笑けてくる。ちよっと愛着が出てきたかもしんない。
と思ってたら、Mさん、必殺アンモニア注射をブチューと刺す。

 

 
鳴き声も聞こえなくなった。
哀れ、あえなく絶命じゃよ。
魔道士にかかれば、蛮王もイチコロである。
マッドサイエンティスト、恐るべし。

   

 
いやはや、それにしてもデカイよ。
でも、これはオス。メスはさらにデカくてブッといらしい。これよかデカくて太いって…、どないやねん!?恐ろし過ぎやろ。
(因みにこの日飛んで来たのは、全部♂だった。しかも、出たてらしい完品揃い。となると、♀の発生はもう少し後。う~ん、♀も見てみたかった。
それから、この日2017年の4月7日は寒い日が続いた後で、発生が例年より1週間ほど遅れていたそうな。蝶と違って蛾は発生期間が短い種が多く、且つ天候条件がシビアだから採集日和を当てるのは結構難しいようだ。同じ鱗翅類でも、蝶とはだいぶと勝手が違うんだね。)

 
Mさんから、王の遺骸をおし戴く。

  

 
昇天した帝王を膝に乗せる。
本当はこんな色なのだ。緑色に写っているのは水銀灯のせい。光の波長が違うのだろう。蛾は紫外線が好きなのだ。だから、蛍光灯なんかにも寄ってくる。でも最近は外灯のLED化が進んで、蛾も寄って来なくなったらしい。LEDからは紫外線が殆んど出ないらしいのだ。
蛾マニアには受難の時代だが、蛾たちにとっては喜ばしいことだろう。外灯なんかに寄ってきたら、車に踏んづけられたり、コウモリや猫の餌になったりして、ロクなことがないのである。

 
1頭だけだが、イボタガもいた。

 

 
掴もうとしたら、飛んで膝の上に止まりはった。

お目々、( ☆∀☆)ピッカー✴

怖い、怖い。
そして、またしてもブルン、ブンブンブンじゃ。
オオシモフリはボテーッとしてて、あまり羽ばたかないが、イボタさんはアクティブなのだ。

 
その後もオオシモフリはジャンジャン飛んで来た。
しかし、体が重いのか灯りに辿り着けずに、地面にボタボタ落ちている。
時々、誰かが気づかずに踏んづける。でも、誰も悔しがらない。それだけ飛来数が多いからなのだよ、オトーサン。

光と影のコントラストをぼんやりと眺めながら思う。
初のライト・トラップにして初の蛾採集は、どうやら成功裡に終わりそうだなあ…。
オラって実力は無いけど、引きだけは強いのだ。
春の三大蛾、一発で全部採れちゃったなあ…。
蛾好きのバカ植村だって、まだ一つも採ったことがないって言ってたもんね。あとで死ぬほど自慢してやろう。
Ψ( ̄∇ ̄)Ψケケケケ…、オイラは性格が悪いのだ(笑)

 
へい、らっしゃーい❗
オオシモフリの姿造り二丁❗❗

 

 
プロのお二人の手に、オオシモフリてんこ盛り。
凄い光景だ。蛾嫌いの女子なんぞが見たら、絶叫、発狂、失禁、卒倒しかねない。
でも、あまりのおぞましさに笑ってしまう。恐怖もマックスの線を越えてしまえば、ギャグになってしまうのである。
正確には数えていないが、踏んづけたものも含めて少なくとも30頭くらいは飛んで来たんじゃないかと思う。
プロのお二方は飄々としたものだったが、僕ちゃんだけが終始ワーキャー言っていた。蛾は怖いが面白い。

 
飛来がパタリと止まったので、ベース基地に帰還。
酒を飲みながら、ウダウダ話す(プロのお二方は車の運転があるので、コーヒーを飲んでおられた)。

やがて、うっすらと空が白み始めた。
あと少しすれば、闇の世界は閉じるだろう。都会に住む殆んどの人は、本当の夜の闇というものがどんなものなのかを知らないと思う。夜といっても、現代ではどこを見ても某(なにがし)かの灯りはあるのである。
本当の闇は距離感さえも失わせる漆黒なのだ。だから、昔の人は闇を恐れたのである。その恐怖が生み出した想像の産物が、魑魅魍魎であり、妖怪、幽霊なのだ。

妄想。惑乱。焦燥。驚愕。興奮。そして、恐怖と歓喜。いやはや、濃密な時間じゃった。
男は大きく欠伸をして、両腕を上げて背伸びするように体を反らせた。
たまたま、それが天を仰ぐかたちになった。
空のわずかな隙間に、微かに星が瞬いていた。

                 おしまい

 
 
一応、今回は登場しなかったエゾヨツメの画像と本文未使用の写真、標本写真なども並べておきます。
それから、各種の蛾の解説は第1話にあるので割愛させて戴きやす。

 
【Aglia japonica エゾヨツメ♂】

 
【エゾヨツメ裏面】

 
【標本写真】

 

 

 
考えてみれば、これが人生初の蛾の展翅じゃないか。
翅は蝶とそれほど差はないからまだいいとしても、問題は触角だよね。こんな羊歯(シダ)型の触角をした蝶はいないのだ。どうやって整形すれば良いのかワカラン。
それに、だいたいこういうヤママユ系蛾の触角って、裏表の色や構造が微妙に違ったりするのだ。
しかし、触角が基本的には立った状態なので、そもそもがどっちが表で、どっちが裏なのかさえもワカランとですよ。
それはそうと、これって裏表は合ってんのかなあ?

 
(;・ω・)もふぅ~。

 
(出展『www.jpmoth.org』)

 
エゾヨツメ、かわゆすなあ~。
もふもふなのら~。
ヤママユガ科の蛾は脚までもふもふで、全体的にもこもこしててカワユイのだ。
脚の毛だけが白いので、何だか昔流行った女子高生のルーズソックスみたいだね。キュート❗
触角もぴょーんとなってて、ウサちゃんみたい。世には意外と隠れ蛾好き女子がいると聞くが、こういうところに萌え~なのかもしんないね。

 
続いてフクロウ男爵のお出ましどすえ。

 
【Brahmaea japonica イボタガ】

 
それにしても、凄いデザインだよね。アートしてる。
この蛾に似ている蛾も蝶もいないから、唯一無二のデザインと言ってもいいかもしんない。
しかも、よく見たら厳密的にはシンメトリーではない。左右の翅の柄が微妙に違うのだ。特に目玉模様の中の斑紋が顕著に違うらしく、一つとして同じ柄は無いようだ。

 
【イボタガ裏面】

 
裏も、中々にスタイリッシュだ。
この蛾はモノトーンの蝶蛾の畢粋でしょう。
こういう柄の着物があったら、買う人は絶対いるだろね。でも着る人を選ぶ柄かもしれない。若い娘じゃダメ。年増のええ女じゃないと着こなせないでしょう。

 
【標本写真♂】

 
【標本写真♀】

 
採った時は翅の柄に目を奪われて気づかなかったが、背中は虎柄なんだね。スタイリッシュにして、攻撃的デザインなのだ。( ☆∀☆)カッケー❗

メスはオスよりも一回り以上大きく、翅形が全体的に丸くなる傾向があるようだ。

最近の蛾展翅のトレンドは前脚を前に出すのが流行りらしいので、やってみた。
触角は捻れてて整形が大変だし、前脚までもとなると、正直メンドクセー(=`ェ´=)

 
(;・ω・)もふぅ~。

 

 

 
もふもふではあるが、細面でちよっとキツい目だ。
何だか意地悪女みたい。顔に邪悪感ありである。
( ̄へ ̄ )むぅ…。見方によっては、よく西洋で描かれる悪魔に似てるかも。西洋の悪魔は、頭が山羊(ヤギ)なのだ。
しかれども、この写真では今イチ邪悪度が足りない。
もっと悪辣非道キャラらしい画像を何処ぞでお借りしてこよう。

  
(出展『蛾色灯』)

 
間違いなく魔界より出(いで)し邪悪なる者だ。
こんな顔だと、あのスタイリッシュとか言ってた翅の柄も、何だか魔界の魔方陣に見えてくるよ。
蛾って、現世と魔界を往復せしめる存在なのかもしれない。

そういえばイボタガの幼虫って、成虫なんて目じゃないくらいにムチャクチャ邪悪な姿なんだよねー。
この世の者とは思えないような気持ち悪さなのだ。アレは写真を見ただけで、2m後ろに幽体離脱したね。

Ψ( ̄∇ ̄)Ψ出すぞ、Ψ( ̄∇ ̄)Ψ出すぞー。
画像、出しちゃうぞーΨ( ̄∇ ̄)Ψ
そりゃそりゃ、閲覧注意の最悪印の登場じゃわい。皆の衆、逃げ遅れんなよー。

 
(出展『フォト蔵』)

 
OLYMPUS DIGITAL CAMERA/caption

 
( ̄□||||❗❗キッショ❗
何度見ても💫めまいがする。
(|| ゜Д゜)何なんだ、そのムチのような突起物は❓
これを振りかざして、鳥の眼を潰します(=`ェ´=)❗
と言いたいところだが、それは無いだろう。たぶん威嚇のためのものだね。こんなもん、人ならずとも鳥だって会った瞬間には激引きだろう。たぶん世の中には、生き物全員が本能的に忌避する形や色の配色と云うものがあるのだ。
因みに終齡幼虫になると、このムチは無くなるらしい。
無くなったところで、気持ちが悪いのは何ら変わらないけどね(笑)

 
最後はビビビのネズミ男。もとい、闇の帝王である。

 
【Langia zenzeroides オオシモフリスズメ♂】

 
【オオシモフリスズメ裏面】

 
いかにも蛾らしく太い胴体だすなあ~。
この胴体の太いところが、蛾が気持ち悪がられる要因の一つだよね。
でも何だか見慣れてきちやって、それほど怖くなくなってきた。

 
(;・ω・)もふぅ~。

 

 
(;・ω・)もふぅ~。

 

 
(;・ω・)もふぅ~。

 

 
凶悪な顔とか言っちゃったけど、よく見ると案外可愛らしい。
手脚も短めに見えて、ちょっと萌え系かもしんない。
毛並みの感じなんかテディベアに見えてきたよ(笑)
おいおい、大丈夫か俺❓

 
【標本写真】

 
地味な色だが、よく見るとベタなグレーではない。
細かな柄が入っており、渋い。どこか大島紬(註4)のいぶし銀の魅力に通ずるところがある。

重ねて言うが、蛾の展翅なんて今回が初めてだからバランスがよくワカンナイ。図鑑は持ってないし、ネットでも参考になる資料が少ないのだ。ましてや、スズメガみたいなこんな翅形の蝶はいないから、翅の上げ下げのバランスが今イチわからん。
触角はエゾヨツメやイボタガに比べて単純な構造だから楽だけど、その角度に悩む。まあ、取り敢えずの一発目は無難な線で攻めてみた。

翅の上下、上翅と下翅の間隔の開け方、触角の角度、その組み合わせetc…。次からは色々と試してみよう。

で、今度は触角を上げて、下翅を下げてみる。

 

 
放射能により巨大化したクリオネだな。
絶対、人に危害を加えるタイプだ。
一応言っとくけど、クリオネさんはケッコー獰猛な奴です。

 
逆に次は触角を下げてみた。

 

 
これはこれでカッコイイと思う。
必ずしも触角と翅を平行にしなくても良さそうだ。

 
お次は触角をさらにグンと上げて、先っぽを真っ直ぐにしてみた。

 

 
ちよっと👿悪魔的じゃね?
ならばと、最後は思いきし翅を上げてみた。

 

 
q(^-^q)おー、邪悪感満載じゃよ。
蛾マニアからは上げ過ぎだと叱られるだろうが、こっちの方が断然👿悪魔的でカッケーと思うんだけどなあ。
まあ、所詮はオラは蝶が専門で、蛾は初心者なのである。批判されても全然痛くも痒くもないのだ。

 
(追伸)
書いてるうちにどんどん長くなってしまったニャア。
2018年版の『2018′ 春の三大蛾 ~悪魔が来たりてチューと鳴く~』を書こうと思って、この2017年版を書き始めたんだけど、もうお腹いっぱいだすよ。完全に書く気が萎えました。書くとしてもレポート程度になりそう。こういうのを世間では本末転倒という(笑)

 
(註1)画像はMさんから提供して戴いた。ケツを上げて威嚇してきたので、その瞬間に頭が真っ白になって写真を撮り忘れたんである。

 
(註2)咬むって、そんな蛾がこの世にいるのか?
(註3)二流怪奇映画、吸血蛾
相前後するが、まとめて説明します。

結論から言うと、オオシモフリは吸血蛾なんぞではござんせん。
もし、あんなもんが襲って来たら、人類の脅威だもんね。春先に好んで野山に訪れる人はあまりいないと思う。少なくとも夜には誰も出掛けたがらないだろう。

『皆様、今年もオオシモフリの季節がやって来ました。山間部に住まわれる方は、くれぐれも御注意ください。』

などと、必ずやニュースで流される筈だ。んな事は聞いた事が無いから、吸血蛾であるワケがないのであ~る。

検分してみたが、口には強力な顎や牙などは有しておらず、ストロー状のものがあるだけである(もふぅ~の拡大画像を見てくだされば確認できるかと思う)。つまり、蝶の口と同じなのだ。
しっかし、オオシモフリって何食ってんのかねー?
けど、花の蜜や樹液に来るとか聞いた事が無いんだよなあ。単に調べ足りないだけなのかなあ?
しかし、蛾には口が退化したものも多いというし(無駄を省いて交尾さえ出来ればいいと云う生存手段)、口吻の形は残っていてもエサは一切とらない連中もいると小耳に挟んだことがある。オオシモフリもそのクチなのかもしれない。
ならば、原因は何だったのかと云うと、コレ。

 

 
何と脚に鋭利なトゲがあるのだ。ちゃんと見てないが、前脚にはたぶん無くて、中脚と後脚にだけある。中でも後脚には大小3本もあって、中脚にあるものよりも硬くて長い。やっぱバケモノだよ。

調べてみたら、吸血蛾の映画はやはりありました。
タイトルはそのものズバリの『吸血蛾』。

 
(出展『さくらいこうすけ いにしえの川』)

 
1956年公開と云う古い映画だ。主演は池部良。
全然もってまだ産まれていないので、たぶんTVの再放送なんかで見たんだろうけど、記憶は覚束ない。

因みに、DVDも発売されているようだ。

 
(出展『Amazon』)

 
何と原作はあの横溝正史である。横溝さんは若い頃にあらかた読んでいるから、たぶん原作も中学生くらいの時に読んでいるのではないかと思う。
金田一耕助は出てきたっけ?全然記憶にないや。

怪奇推理小説の方の画像もありました。

 
(出展『Amazon』)

 
この表紙、見覚えありますねー。
これは確実に読んでるなあ。でも、やはりストーリーは全く思い出せない。
調べてみっか…。

(゜ロ゜)あらまっ、金田一耕助は出てくるけど、吸血蛾そのものは出てこない。吸血蛾はあくまでも暗喩なのだ。
だったら、吸血蛾そのものが出てくる映画とかドラマって、いったい何だったんだろ?
まっ、いっか…。それほど知りたいワケじゃないしさ。

 
この時点では、まだ現実には吸血蛾なんてこの世にいないと思っていた。
しかし、これが驚いた事に本当にいるんである。
ロシアのシベリア地方に棲む蛾で、2008年に発見されたらしい。この蛾はヨーロッパ中央部から南ヨーロッパに分布する「Calyptra thalictri」という蛾の亜種なんだそうな。両者は見てくれもほとんど同じだという。だが、ヨーロッパにいる奴は果物の汁を餌としており、血は吸わないとの事。シベリアの過酷な環境が、加速度的に進化を促したのかもしれない。
それにしても、蚊じゃなくて蛾だぜー。そう大きくはない蛾だろうが、蚊よりも遥かに大きい筈だ。となると、当然ながらそこそこの量の血を吸われるワケだよね❓
ロシア人って、そんなもんに喰いつかれても気づかんのかね?
何れにせよ、シベリア地方に行かれる予定の方は、お気をつけあそあせ。

 
(註4)大島紬(おおしまつむぎ)
奄美大島で作られる泥染めの高級紬のこと。ただし、高級着物ではあるがカジュアル(訪問着)なものとされ、フォーマルな席には着て行ってはいけない事になっている。

 

2017′ 春の三大蛾祭り 其の参 闇の絵巻編

 
前回「悪鬼暗躍編」の続きである。

 
『ひ、一人でですかあ(◎-◎;)?』

 
巨匠のライトトラップの様子を見に行きましょうとMさんを誘ったのだが、キッパリと断られた。
で、一人で行ってこいと懐中電灯を渡されたのだった。

(-o-;)マジですか?

( ; ゜Д゜)マジですか?

( ̄□||||マジですかあ?

 
自慢じゃないが、オイラはものすごーく怖がり屋さんなのである。お化けとか幽霊とか妖怪とかがこの歳になってもメチャンコ恐いのである。ビビりのチキンハートのヘタレ野郎なのだ。
そんな男に、一人で山中の闇夜の道を歩けというのか。旦那~、ひどい、ひどすぎるよ(/´△`\)
しかも待っているのは闇の住人やら、蛾の怪物たちときてる。気がふれそうだ。

しかし、それを隠して『(`◇´)ゞアムロ、行っきまーす!』とか言ってしまったのだ。今さら、口が裂けても行けませんとは言えない。
(・。・)あっ、口が裂けてるといえば「アタシ、キレイ❓」の口裂け女だよね。また、いらぬ事を思い出してしまったではないか。闇夜に口裂け女に追い掛けられる様を想像して、ブルッとくる。
おまけに映画『八つ墓村(註1)』の白塗りの山崎努まで思い出してしまう始末。恐怖は連動する。
満開の夜桜をバックに、努がスローモーションで駆けてくるのだ。鬼の形相。躍動する筋肉。凄惨であり、美しくもある稀有な映像だ。口裂け女よか、努に追いかけ回される方がよほど怖いかもしんない。
そのシーンの後だっけ?前だっけ?
とにかく努は懐中電灯2本を鉢巻きにブッさし、修羅の形相で村人を追いかけ回し、💥🔫ダキューン❗、💥🔫ダキューン❗
猟銃で、村人全員皆殺しである。
( ̄□|||| こっわ~。

時刻は午前0時過ぎ。
泣く子も黙る丑三つ刻(うしみつどき 註2)である。
うしみつ💓ドキドキとMさんにわからぬよう小さく声に出して呟いてみる。
それで少しは気が楽になるかと思ったが、そんな低レベルの駄洒落、全然もって笑えない(-“”-;)

気のせいか、少し闇が濃くなったような気がした。
懐中電灯を手に持ち、意を決してなだらかな坂道を登り始めた。
チップス先生、さようなら(;_;)/~~~(註3)

歩き出してすぐにグンと一段、気温が下がった。
ひんやりとした空気が首筋を撫でる。
相変わらず細かな霧雨は音もなく降り続いている。
辺りは幻想的な靄(もや)に包まれており、懐中電灯で照らすと、光の束が闇を貫くようにして真っ直ぐに伸び、その先で漆黒の闇へと呑み込まれている。
奥は暗くて何も見えない。背中の毛が逆立つ。五感が鋭くなる。あらゆる音に耳をすまし、全身の皮膚で気配を感じ取ろうとする。なんとしてでも戦場から生きて帰らねばならない。

闇は単一ではない。微妙な濃淡があり、何か秘密の絵が何枚もそこに描かれていて、上から黒く塗り込められているような気がしてくる。闇の絵巻…。
梶井基次郎(註4)の小説にそんなタイトルの短編があったなと思う。どんな話だったっけ?
思い出そうとするが、どうしても思い出せない。

 
『哀れなるかなイカロスが、幾度(いくたり)も来ては落っこちる。』

 
あれは別な短編、『Kの昇天』か?
一瞬、自分がもう一人いて、今ごろ部屋でTVを見ながら酒でも飲んでいるのではないかと思った。
現実感がまるでない。同時に、このシーンとシチュエーションは過去にもあったのではないかと思えてきた。妙な既視感があるのだ。でも、そんなワケはない。この土地に訪れるのは間違いなく初めてなのだ。
ドッペンゲンゲル(ドッペルゲンガー)とデジュヴュがグチャグチャに混じりあって、その錯覚世界に脳が溺れそうになる。思考的溺死…。気が狂うのも時間の問題かもしれない。

昇天…。
(*`Д´)ノえーい、昇天とは縁起でもない。
想像が恐怖を増幅させる。恐怖とは想像だ。想像するからこそ、そこに恐怖が生まれる。何も考えるな。考えるからこそ、モノは恰(あた)かもそこに存在するかのように思えてくるのである。
普段我々が生きている現実世界でさえも、もしかしたら仮想の現実にすぎないのかもしれない。世界が本当にあるかどうかは誰にも証明出来ないのだ。

道の真ん中をゆっくりと歩く。
なぜなら横から何かが出てきても逃げられるようにする為だ。最初の一歩が肝腎なのである。距離が少しでもあれば、🚀ロケットスタートで逃げおおせる。ガキの頃から逃げ足だけはメチャンコ速いんである。

そういえば、大学時代の友人と3人で山の中で日が暮れたことがあった。熊とか何かが出たら、3人で戦おうぜとか言って手を繋がさせたんだよね。
これはホントは熊とか何だとかは関係なくて、だだオラが怖かっただけだ。
もちろんオイラは真ん中である。何かあったら、二人に守って貰わねばならないのだ。
暫く歩いた時だった。突然、横でガサガサガサーと云う音がした。
音がした瞬間の0.01秒後には、二人の手を振りほどいてロケットスタートでε=ε=ε=ε=┏( ≧∇≦)┛爆走し、彼らを遥か後方へと置き去りにしていた。
深層心理の中では、何なら彼らが熊の餌食になっている間に首尾よく逃走しようなどと思っている男なのだ。
そうです。ワタシは卑怯者なのです。
単に右隣の奴が横のススキを何気に叩いただけだったのだが、当然のことながら、あとでブチブチ文句は言われましたなあ。

懐かしい思い出だ。一瞬、和む。
だが、気を許してはならない。
時々、背後を振り向く。いつ口裂け女が追いかけてくるかワカランのだ。油断は禁物だ。

脳内モノローグは、エンドレスで目まぐるしく思念を
駆け巡らせる。
口裂け女に追いかけ回されたら死を覚悟するしかあるまい。ならば、窮鼠、猫を咬む。全身全霊をもって一矢報いようではないか。口裂け女のそのアゴの辺りに渾身のストレートを上から下に叩きこんじゃるぅ(#`皿´)❗

5分ほど歩いただろうか。遠くから地鳴りのような音が聞こえてきた。
このクソ真夜中に、👽宇宙人めがっ、地底基地でも作っているのか❓

ゴオーッ、バババババババ……。
近づくにつれ、段々音が大きくなってくる。

100mほど先で、膨大な光が空に向かって漏れ出しているのが見えた。
この期に及んで、宇宙人までもがワシの命を亡きものにしようとしているのか?…。
だったら、受けて立ってやろうではないか。刺し違えちゃる。

しかしすぐに、もしかして…と思った。

翼よ、あれが巴里の灯だ!(註3)

坂を登りきると、ハッキリと見えてきた。
たぶん、あれが巨匠のライトトラップだ。
闇夜に浮き立つ煌々と輝くそれは、未知との遭遇の世界だ。まるで着陸した宇宙船に見える。
同時に( -。-) =3ホッとする。
光とは、なんと人の心を安寧にすることよ。
もう大丈夫だと安堵の心がじんわりと全身を包み込む。

 

 
ガガガガガカァー、ドルルルルルゥー……。
目の前まで来ると、ものスゲー爆音だ。
巨匠は強力な発電機を使っているようだ。ライトも水銀灯だろう。バッキバキの強烈な光だ。
悪いが、Mさんのライトトラップとは次元が違う。スケールがデカいのだ。さすが虫捕り王と言われたお方は違う。

大きく息を吐く。さあ、目的を果たそう。
何だか肝だめしに来たみたいだなと思いつつ、まずは白布から点検していく。集まってきた蛾たちが、この白い布に止まるようにと配慮されたものだ。
だが、降り続けた霧雨のせいか、布はぐっしょりと濡れており、滑り落ちた蛾たちが底の方で折り重なるようにして弊れこんでいた。
下には水が溜まり始めており、半ば溺死、その殆どは亡骸と化している。死体の混沌(カオス)である。

『哀れなるかなイカロスが、幾度も来ては落っこちる。』

イカロスは太陽に向かって飛び、蝋でできた羽が溶けて墜死したが、蛾たちは人工の光に向かって飛んで、屍となった。🙏合掌。

それにしても酷いな。恐怖と闘いながらせっかくここまでやって来たというのに、目ぼしいものはまるでおらず、死屍累々とした蛾の死体の山を見させられるだなんて、サイテーだ。何かの罰だとしか思えない。

恐がり屋さんは長居などするつもりはない。ひととおりサラッと見たら、魑魅魍魎が跋扈する前に一刻も早く戻ろう。

そう思って、ふと何気に右側の杭の辺りに目をやった。

 
ドオ━━━ (◎-◎;) ━━━ン❗❗

 
いきなり強引のカットインで、おどろおどろしい映像が暴力的に網膜を支配した。
瞬時に全身がフリーズする。腰が抜けそうになった。

( ̄□||||あわわわわ…。
そこには、闇の将軍がたおやかに静止していた。

                   つづく

 
追伸
ハイ、またもや完結しませんでしたねー。
前にも言ったけど、書いてるうちに色んなことを思い出して、つい長くなるんである。
次こそは最終回です、ハイ。申しわけなかとです。

 
(註1)映画「八つ墓村」
(出典『サンダーストームのブログ』)

 
1977年に公開された日本映画。
原作は横溝正史。実際にあった事件「津山三十人殺し」をモチーフとしている。この事件はいまだに犯人が捕まっておらず、一人で人を殺した数の日本レコードである。
出演は渥美清、萩原健一、小川眞由美、山崎努など豪華キャスト。秘密は龍のアギトにあるのじゃあ~。
てっきり、努の疾駆するシーンは夜桜だと思っていたが、どうやらそうではないらしい。夜明けかな?
人間の記憶は曖昧である証左だね。勝手に恐怖を増幅させているのだ。

 
(註2)泣く子も黙る丑三つ刻
本当は「草木も眠る丑三つ刻」です。しかも丑三つ刻と言われる時間帯は、正確には午前1時から3時の間である。因みに、丑三つ時と書くと、午前2時から2時半を指す。なぜそんな間違いをしたのかというと、怖くて考える余裕が無かったのである。恐怖は判断力を鈍らせる。丑三つ刻といえば、幽霊とか、この世の者ではならざる者が現れると言われているのである。で、夜中➡怖い➡丑三つ刻と頭の中で勝手に三段論法になったと云うワケですな。

 
(註3)チップス先生、さようなら
ジェームス・ヒルトンが1934年に発表したイギリス小説。名作文学の古典です。読んだことないけど。
小説の中身と本文の内容とは直接の関係はありましぇん。この世とおさらばの気分の時に、よくワテが使うフレーズです。

 
(註4)梶井基次郎
日本の小説家。1901年~1932年。
20篇あまりの短編を遺して、31歳の若さで肺結核で病没した。代表作には「檸檬」「櫻の樹の下には」「冬の蝿」などがある。

「Kの昇天」の文中の「哀れなるかな…」のくだりの句読点の位置は、本当は「哀れなるかな、」である。
自分的には「哀れなるかなイカロスが、」がしっくりくるから、そう記憶していたのであろう。
記憶では、梶井は中3か高1の頃に耽読してたと思う。ナィーヴで独特の世界観のある素敵な短編群だ。
今でも文庫本で売ってる筈なので、読まれることをお薦めする。

 
(註5)翼よ、あれが巴里の灯だ!
チャールズ・リンドバーグの伝記映画「翼よ!、あれが巴里の灯だ」からの引用。
1957年に公開されたアメリカ映画で、名画の一つとされる。
監督 ビリー・ワイルダー。主演 ジェームス・スチュアート。
リンドバーグの歴史的な偉業、大西洋横断無着陸飛行を描いた作品で、歓迎に沸くパリ、ル・ブルジュ空港に凱旋飛行した時にリンドバーグが放ったとされる「翼よ、あれがパリの灯だ!」と云う台詞が、そのまま邦題となったようだ(実際はそんなカッコイイことは言ってなくて、後付けのフィクションみたいです)。
因みに原題は「Sprit of St.Louis」。これはリンドバーグの愛機、セントルイス号の事である。シンプルなタイトルで好感が持てる。だが、邦題の方がロマンティックで素敵だ。
最近の洋画の邦題は原題そのままの事が多く、邦訳のタイトルをあまり見かけなくなった。何だか寂しい。
監督の意の入った作品そのままの題名にすべきと云う意見は理解できるが、タイトルだけ見ても、瞬時には意味が解らない事ってよくあるよね?あれって、何だかもどかしい。また、調べても直訳だと全く意味が解らないという事もよくある。邦訳って、結構味があって好きだったから、復活させてほしいよね。まあ、ワケのワカンナイの和訳や行き過ぎた意訳、ベタでダサいタイトルが増えるのは困りもんだけどさ。
この辺は、蝶の和名と同じだ。名付ける人に広範な深い知識がないから、クソみたいな和名がつけられるのだろう。昔の人の方が、風情とか粋の境地の精神があったのではないかと思う。

 

2017′ 春の三大蛾祭り 其の弐(悪鬼暗躍編)

 
前回「青天の霹靂編」の続きである。
今回も先に警告しておきますね。たぶんオモロい回になるとは思うけど、💀閲覧注意です。

蝶だけではなく蛾にも詳しいMさんに拠ると、3月の末から4月上旬が春の三大蛾の採集適期だという。
しかし、今年(2017年)は寒い日が続き、ギフチョウの発生も遅れている。ギフチョウしかり、天候が安定しないこの時期の動植物の見頃を読むのは難しい。
拠って、4月上旬から半ばにかけての様子をみて、天候次第で日を決めようということになった。

因みに、天候といっても蝶採りのように晴天がグッドウェザーではない。むしろ反対の天気である。曇り、もっといえば雨上がりとか霧雨のようなコンディションが、蛾の灯火採集には最高のシチュエーションらしいのだ。
これは蛾に限らず走光性のあるカブトムシとかクワガタとかもそうで、光に向かって飛ぶ習性がある者は、月が出ていると人工の光には集まりにくいようなのだ。たぶん月光に負けてしまうからだろう。つまり晴れていても、新月のような月の無い夜には灯火効果があるとされている。
霧や霧雨の場合は、スモーク効果で光の帯がハッキリと見える。そうなると、他に光源が無ければ虫たちは光の束に向かって一直線に飛んでゆくというワケなのだ。但し、気温が低いと飛ばないとの事。
蝶とは全く違う道理に戸惑うが、愉しい。実をいうと、自分は蛾の採集も灯火採集も初めてなのだ。
未知なるものには、いつもo(^o^)oワクワクする。

 
4月7日。
いよいよ初陣の日がやってきた。
午後3時頃にMさんが車で迎えに来てくださった。
一路、兵庫県宝塚市の某所へと向かう。

今回は、Mさんと同じく標本商を生業(なりわい)とする巨匠Mさんも参加されると聞かされる。
伝説的な人で、虫を捕らしたら天才とも言われている方だ。心強い。虫捕りの天才ならば、経験とセンスは抜群じゃろう。ならば、いくらなんでもボウズは無かろうて。
しかし、相手は自然だし、生き物だ。絶対は無い。
やや不安がもたげるが、まあ、何とかなるっしょ。
ならなくとも、どうせワシはそもそも蛾屋ではない。れっきとした蝶屋なのだ。たとえ結果がダメだったとしても痛くも痒くもない。そう自らに言い聞かせる。

車内では、エロ話の花が咲く。
虫屋には珍しくMさんも若い頃からチ○ポの先が乾くことかなかったというタイプだ。武勇伝をたくさん聞かせて戴く。Mさんは、周囲に犬と呼ばれたくらいの男なのだ。爆笑エピソードてんこ盛りなのである。
なぜか虫好きはエロ話をしないが、Mさんとワテは結構したりする。
何で虫屋はエロ話をしたがらないのだろうか?
二人して理由を考えてみたが、今イチ明快な答えは見つけられなかった。誰か良い解答があったら、教えてくれ。
花より団子。女より虫❓

車窓の外を流れる風景は寒々しい。
木々の芽吹きにはまだ早く、白骨化したようや雑木林がどこまでも連なっている。その上には、暗鬱な鉛色の空が不気味に垂れ込めていた。とても今から虫捕りに行くって云う雰囲気ではない。
でも、Mさんが『ええ感じやね。』と呟いた。
そっか…、ええ感じなんだ。プロが仰るのだから間違いない。沈みがちだった気持ちに💡ポッと灯がともる。
自分は虫捕りの実力はさしてないが、引きだけは強い。何とかなるだろう。

途中、買い物やら何やらして、午後5時過ぎ頃に現地到着。

 

 
周囲を雑木林に囲まれた窪地だ。
いよいよ、魔神たちの領域に踏み入ったというワケだ。期待と緊張でブルッとくる。

早速、ライト・トラップの用意をお手伝いする。

 

 
ぬりかべ❓いったんもめん❓(註1)
早くも魑魅魍魎の登場かあーい!と心の中でツッコミを入れる。

左は蛍光灯かな?右の青黒っぽいのはブラックライトだな。昆虫はブラックライトの光がお好きのようだ。光の波長とかが、きっと違うんだろね。
蛍光灯はそれ自体にも誘蛾効果もあるが、どちらかと云うと視認性を高める為のものだろう。ブラックライトだけでは暗くて、何が飛んできたのか今イチわからないのだ。

段々、日が暮れてきた。

 

 
ライトの色も鮮明になりつつある。

そんな折り、颯爽と巨匠が現れた。
お付の者一人も一緒だ。
ライト・トラップは来た道の途中に仕掛けてきたとおっしゃる。巨匠がどんな装備か見たかったので、ちょっぴり残念。

やがて、酒盛りが始まる。
Mさんは小さめのフライパンを出してきて、肉を焼き始めた。何だかキャンプに来たみたいだ。
今回は用意してないようだが、巨匠なんかは普段は準備万端、お好み焼きまで焼くらしい。
目から鱗だ。夜間採集には、こんな楽しみ方もあるのかあ…。
諸先輩方曰く、昼間の網を持って追い掛けまわす採集とは違い、灯火採集は謂わば待ちの採集。けっこうヒマで長丁場だから、酒でも飲んでないとやってらんないらしい。
なるほどね。オイラには合ってるかもしれんね。

生来の蛾嫌いゆえ、酒をガブ飲みする。
だって、蛾がメッチャ怖いんだもーん(# ̄З ̄)
見ただけでも、幼少から( ̄□||||オゾるのだ。
素面(しらふ)じゃ、とても耐えれそうにない。ましてや、今回は邪悪なる魔王と梟(フクロウ)男爵、そして妖鬼青眼メフィストの魔界三衆なのだ。泥酔でもしてなければ、とてもじゃないがまともに対峙できない。

ここで魔界三衆をあらためて紹介しておこう。
先ずは魔王から。

【Langia zenzeroides オオシモフリスズメ】
開張140~160㎜。日本産スズメガの中では最大種。
前翅外縁は鋸歯状。全身鼠色。胸部から腹部にかけて毛状鱗が密生し、前脚~後脚は青みを帯びる。
分布は本州中部地方以西、四国、九州、対馬。国外では台湾、朝鮮半島南部、中国南部、インドシナ半島北部からネパールにかけて分布する。基亜種は朝鮮半島産。日本産は亜種ssp.nawaiとされる。
幼虫の食餌植物はサクラ類、ウメ、アンズ、モモ、スモモなどのバラ科。

次将は梟男爵だ。
実を言うと、コヤツが今回一番見たいと思った蛾だ。
と云うか、蛾全部の中で最も実物を見てみたい蛾である。
そのモノトーンのデザインは、スタイリッシュ且つソフィスケートされたものだ。複雑怪奇のオンリーワン。他に似たデザインをもつ蛾も蝶もいなくて、異彩を放っている。とにかく、小さい頃にすぐ名前を覚えたくらいに特異なお姿なのだ。

【Brahmaea japonica イボタガ】
英名 Owl moth。つまりフクロウ蛾である。
開張90~100㎜。翅に複雑な斑紋と無数の波状紋があり、前翅後縁中央部に大きな眼状紋がある。雌雄同紋だが、♀の方が一回り大きく、前翅に丸みを帯びる。
分布は北海道、本州、四国、九州、屋久島。
以前はインド、中国、台湾に分布する巨大(140㎜もある)なBrahmaea wallichiiの亜種とされていたが、それと比べて遥かに小型であること、♂交尾器に差があることから別種とされ、現在は日本の固有独立種。
幼虫の食餌植物は、イボタノキ、キンモクセイ、トネリコ、ネズミモチ、ヒイラギなどのモクセイ科。

ここでイボタガのウルトラ邪悪なる幼虫画像を一発ブチかまして、皆をΨ( ̄∇ ̄)Ψビビらせたろかと思ったが、踏みとどまる。
なぜなら、あまりの衝撃画像ゆえ、ページから離脱されかねないと思ったからだ。話はまだ序盤なのである。この先も読んでもらわねば困る。皆さん、忘れて前へ進んでくれたまえ。

そして、最後は青き眼の妖鬼だ。

【Aglia japonica エゾヨツメ】
開張♂65㎜内外、♀100㎜内外。
オレンジ色の地に後翅に青い眼状紋を配し、日本産ヤママユガの仲間では最も小型種である。
雌雄同型だが、♀の方が大型で翅に丸みを帯び、地色が淡くなる。
分布は北海道、本州、四国、九州、サハリン。
以前はヨーロッパから朝鮮半島までのユーラシア大陸北部に分布するAglia tauの亜種とされてきたが、近年サハリンと日本産は分けられて別種となった。
幼虫の食餌植物はハンノキ(カバノキ科)、ブナ、クリ、コナラ、カシワ(ブナ科)など。

上記3種とも年一回春先に現れ、蛾愛好家の間では「春の三大蛾」と呼ばれている。3種とも特別珍しいものではないが、生息地は局所的とも言われ、けっしてどこにでもいると云うような蛾ではない。

画像は今のところ、あえて添付しない。
まあ、せいぜい脳内で姿を想像してくれたまえ。想像こそが恐怖を増幅させるのである。Ψ( ̄∇ ̄)Ψケケケ…。

そうこうするうちに日が暮れて、辺りが暗くなってきた。

 

 
闇の世界のお出ましである。魑魅魍魎が大挙してやって来るやもしれぬ。黒々とした森が、とっても不気味だ。闇の奥で悪鬼たちの暗躍する気配がある。
お化け怖い。妖怪怖い。蛾も怖いという怖い怖いづくしの身としては戦々恐々である。
あまり人前では言った事はないが、ガキの頃、お化けが怖くて、寝ているうちに異界に連れ去られるのではないかと思い、妹に30円を払って手を繋いで寝てもらっていたような男なのだ。喧嘩はそれなりに強かったけど、昔からお化けとか幽霊とかは大の苦手だったのだ。
そういえば女の子とお化け屋敷に入って、腰が抜けそうになった事がある。あれは情けなかったなあ…。
でも、怖いもんは怖いのである。

それにしても、オッチャンたちは凄いなあ。
今回は四人もいるけど、普段は人里離れた淋しい山の中で、夜に一人で虫捕りをしておられるんである。怖くないのかね❓
ワシだったら、恐怖のあまり悶絶発狂死するやもしれん。本気で虫捕りをするなら、狂人にならざるば一流にはなれんちゅー事か…。
それなら、オデ、オデ、二流でええだすぅー(T△T)

午後6時。
蒼き眼のメフィストが早々と現れた。
魔王の露払いとあらば、順番的には先ずは貴女でしょう。
ドラマーツルギーだね。全世界は劇場だ。然るべき役者が、然るべき時に現れるようになっているのである。

しかし、けっこう素早い。モスラさんは翅を小刻みに震わせて動き回り、全然落ち着かないのだ。

あっ( ̄∇ ̄*)ゞ……。
気づいたら、手で掴んでいた。
蛾恐怖症にしては信じられない行為だ。見ただけでもフリーズするのに、手で掴むとは何事かである。
頭のネジがフッ飛んだとしか思えぬ。これも全ては酒の為せるわざである。酒の霊力、恐るべし。

 
【エゾヨツメ♂】

 
( ☆∀☆)おーっ、コバルトブルーの紋がメッチャクチャ綺麗じゃないか❗❗
こんなに蒼いんだ…。思っていた色よりも遥かに鮮やかな深淵なるブルーだ。陳腐な表現だが、まるで宝石のサファイアのよう。その青をジッと見つめていると、引き込まれそうになる。
あんまり見ちゃダメー(>_<)、ゴーゴンの呪いみたく、石になっちゃうぞー。

でもさあ…。見れば見るほど不思議とカワゆく見えてくるんだよなあ。

 
(出典『誘色灯』)

 
(出典『fandf.exblog.jp』

 
( ・ω・)もふぅ~。
目が円(つぶ)らで、体はもふもふのモコモコなんでげすよ。ウサちゃんみたいだ。
このこのこのぅー(σ≧▽≦)σ、キャワイイぞー、お主~。

Mさんがコヤツは♂だと教えてくれる。
♂は触角が羊歯(シダ)状なんだってさ。♀は、このシダみたいなもんじゃなくて、いわゆる蛾眉、細長い触角らしい。ヤママユガの仲間の♂♀はみんなそうだという。
ふ~ん、なるほどね。
プロのおじ様たちは初心者に優しい。色々と教えてくれる。補足すると、エゾヨツメは基本的に日没直後にしか飛んで来ないんだってさ。(^o^)へぇ~。
どんな事であっても、上手な人、知識が深い人のそばにいた方がいい。その方が何でも上達が早いよね。

それを合図のように次々と小型の蛾が集まり始めた。カルナヴァル(祝祭)の予感だ。
があ~祭りの始まりじゃーい\(^o^)/
嬉しいような怖いような変な気分だが、酒飲んでるから、もうどうなったっていいのだ。蛾でも鉄砲でも飛んで来やがれと云う心持ちになってくる。

しかし、(・ω・)もふちゃんの3頭めが飛んできたところで、ピタリと飛来が止まる。以後、屑みたいな矮小蛾がポツポツとしか来なくなった。
えっ(^_^;)、フィーバー、もうおしまいなの❓
不安になってくる。この先大丈夫かよ?
エゾヨツメは勿論見たかったけど、それよりも見たいのは梟男爵と魔王なのだ。このままで終わるワケにはいかない。

ベテランのオジサンたちに訊いてみると、オオシモフリやイボタガは、もっと遅くに飛んで来るという。
そっか…、蛾によって飛来する時間帯が違うんだ。昼間と違って、夜なんて何時だって同じようなもんじゃないか?と思うんだが、蛾には、蛾にしか預かり知らぬ事情があるのだろう。

やがて、霧雨が振りだした。
絶好のコンディションである。この靄(もや)の立つ幻想的なシチュエーション、如何にも怪物が現れそうな様相ではないか。映画なら、確実にチビりそうな雰囲気である。出るね。絶対ヤバいのが来るね。
脳内でおどろおどろしい重低音が流れ始める。映画『シャイニング(註2)』のテーマ曲だ。

ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。

いよいよ闇の世界の支配者が満を持してワタクシを恐怖のズンドコ、もといドン底に陥れる時がやって来るのだ。凍りつくまであと何秒?何分?
心臓が💓ドキドキしてくる。

しか~し、9時になっても10時になっても現れず。
辺りは相変わらず細かい霧雨が舞っているのに何故❓
そして、11時になっても音沙汰なし。
巨匠が『今日はアカンのかなあ~?』と呟く。
まさかの御言葉である。頼みにしていた巨匠がそんな弱気なセリフを吐くとは、事態はあまりヨロシクないというか、惨敗のピンチではないか…。

Mさんも、『こんな日もあるよ。虫はなあ、ワシらでもワカラン事だらけなんや。いくら条件が揃ってる時でも、アカン時はあるねん。』とおっしやった。
そりゃ、ワテだって、それなりに蝶採りをしてきたのだ。言わんとしておられる事は充分に承知してますよ。でも、よりによって何でそれが今日なのよー(T_T)

11時半前。
巨匠が『ワシ、もう寝るわ~。』と言い残して、ワゴン車に消えていかはった。
益々、惨敗感が満ちてきた。
セーブしていた酒の量がグッと増えて、ヤケ酒気味になってくる。

12時前。
光の屋台に集まるお客さんは、相変わらずショボショボの面々だ。
退屈すぎて、段々居ても立ってもいられなくなる。
酒を飲みながら、Mさんに『巨匠のライトトラップの様子を見に行ってみません❓』と提案した。
しかし、Mさんからは、『いかへーん。一人で行ってきいや。』と云うニベにもない一言が返ってきた。

 
『ひ、一人でですかあ(◎-◎;)?』

 
『マ、マジっすか(|| ゜Д゜)❓』
声が心なしか震えている。

『でもオイラ、懐中電灯とか持ってないっすよ。』
もしかしたら、「仕方がないから一緒に行ってやっか。」とか言ってくれるんじゃないかという期待を込めての言葉だ。

しかし、Mさんは素っ気なく言った。
『懐中電灯くらいなら、貸したるわー。』

『イヤイヤ、そうじゃなくてー。そんな事ではなくてー、1人だと怖いんですよー。お化けが出たらどうするんですかあ。虫捕りのプロフェショナルの旦那~、頼みますからついてきて下さいよー(T_T)』
と云う言葉が喉元まで出かかったが、グッと呑み込む。
あとでネタにされるに決まってるんである。それは何があっても避けたい。チキンと蔑まれるのは真っ平御免だ。そんなことはプライドが絶対に許さない。

 
『わっかりましたー。(`◇´)ゞアムロ、行っきまーす。』

 
気づいたら、心とは裏腹の言葉が出ていた。
(-。-;)えらいこっちゃである。何かあったらどーするのだ❓
闇の世界に引き摺り込まれるかもしれんし、得体の知れない者に追いかけまわされたあげくに非業の死を遂げるやもしれんのだ。
でも、言ったからには行かねばなるまい。

 
    If I die combat zone.

もしもオイラが死んだなら、誰か骨を拾ってくれ。

 
                   つづく

   
追伸
いやはや、又しても完結せずである。
書いてると、色んな事を思い出してくるのである。
そうなると、自然長くもなる。で、途中で力尽きたと云うワケだ。

次回『闇の絵巻編』、もしくは『魑魅魍魎編』。
いよいよ怪物たちの全貌があらわになります。
乞う、御期待❗

(註1)ぬりかべ?いったんもめん?
両者とも水木しげる大先生の「ケゲゲの鬼太郎」でお馴染みの妖怪さんである。

 
【ぬりかべ】
(出典『matome.navar.jp』)

 
何だかライト・トラップって、ぬりかべと次のいったんもめんを足して2で割ったハイブリッドのようなもんだなあ。

 
【いったんもめん】
(出典『猫八のカッチコロヨ!』)

 
こんなもん、わざわざ画像をダウンロードせんでも自分で書けるがなーと思ったが、やめといた。
フザけた人間なのだ。どうせ鼻毛とか書いちまうんである。
試しに書いてみようか?

 

 
ほらね。

テイッシュの箱に書いたんだけど、フザけてるよねー。

拡大しまあーす。

 

 
やっぱり鼻毛ボーボーにしとります。
さらにフザける。

 

 
今度は脇毛ボーボーである。

最後は何ちゃらワカランことに。

 

 
フザけてるよなー。

 
(註2)映画『シャイニング』
1980年に上映されたアメリカ映画。
巨匠スタンリー・キューブリック監督によるホラー映画の金字塔。キューブリックがホラー映画を作るとこうなるのだ。双子がヤバすぎです。カメラアングル(ローアングル)と三輪車の効果音だけで、あそこまで人を怖がらすかね。
因みに文中の「ジャックは狂ってる…」の羅列は、映画の或るシーンがモチーフになっている。主演のジャック・ニコルソンがタイプライターで打った小説の原稿が、全部同じ文言『All work and no play makes Jack a dullboy.(仕事ばかりで遊ばない。ジャックは今に気が狂う)』と云う言葉て延々と埋め尽くされていたという怖いシーンだ。
そのままの文言では使えないので、短くアレンジしたのが「ジャックは狂ってる…」である。
原作はこれまたホラー小説の巨匠スティーヴン・キングだけど、キングはこの原作を無視した映画を気に入らなかったみたいだ。よほど肚に据えかねたのか、後にわざわざ自分で撮りなおしたくらいなのだ。
たしかに両者は全然違う。映画では父親が主役だが、小説では子供が主役なのである。まあ、どちらも面白いんだけどね。