未だ見ぬ日本の美しい蛾1

  
年末に岸田先生の『世界の美しい蛾(註1)』について書いたが、今回はその続編。
本には海外の美麗蛾のみならず、日本の美しい蛾も数多く紹介されている。

大概の蛾は知っていたから驚きはあまり無かったが、コレには目を見張った。
 

【ダイセツヒトリ Grammia quenseli daiset】

 
ヒトリガ科(Arctiidae)・ヒトリガ亜科(Arctiinae)。
北海道の大雪山系に棲む高山蛾だ。昼行性の蛾だから、高山植物のお花畑なんかに飛んでるのかな?
国外では、ヨーロッパからアラスカにかけての寒冷地、高地に棲息する。
存在を知らないワケではなかったけれど、認識不足だった。小さいし、もっと地味なイメージを持っていたんだけど、拡大された画像を見て驚いた。まさか、こんなにも渋カッコイイとはね。シンプルだけど、とても洗練されたデザインだ。
そういえば棲息地である大雪山系に行った事があるけど、見なかったなあ。時期的には6月下旬だったから、見ていてもおかしくないんだけどね。或いは蝶以外は眼中に入ってなかったのかも。

調べたら、何と頻繁には飛ばずに地面を歩き回ることが多いようだ。おいおいである。お花畑を優雅に飛ぶのを想像してたからガッカリさんだ。しかも地表の地衣類なんかにジッとしてて、保護色になって見分けがつかんらしい。道理で目にしない筈だ。まあ、それでも次回行く事があったら、真面目に探してみよう。

 
【トラガ】

 
そういえば、トラガは台湾で採ったな。
花に吸蜜に来ていた。トラガは昼間に活動する蛾なのだ。
昼行性の蛾はこのように派手な柄のものが多いような気がする。毒のある奴が多いのかな?
とも思ったが、そうでもなさそうだ。毒のある者もいるが、無い者も結構いるみたい。このトラガも調べた限りでは毒持ちではないようだ。考えてみれば、昼間飛んでいる派手めの蝶に毒があるかといえば殆んど無いもんね。日本で毒があるものは、ベニモンアゲハとツマベニチョウくらいしか思い浮かばない。

 
(2017・7月 南投県仁愛郷)

 
(・。・;ん❗❓
よく見りゃ、微妙に全然違うぞ。翅形も違うし、柄も
似てるが仔細に見れば異なる。
あ~、そうだ。これってトラガじゃないや。別種だったよね。忘れてたわ。
たしか、Epistene lectrix(選彩虎夜蛾)って奴だったっけ…。近縁種なのかな❓トラガの学名を調べてみよっと。
あれれ❓、Chelonomorpha japana となっている。属名だって全然違うじゃないか。
どちらもNoctuidae(ヤガ科)・Agaristinae(トラガ亜科)だとは思うんだけど、よくワカンナイや。下手に足突っ込むと、またエライことになりそうなのでスルーしとこっと。

兎に角、本チャンのトラガはまだ見た事がない。いや、見た事はあるかもしれないが、眼中に無しでスルーしてた可能性は高い。何れにせよ、採ったことがないと云うのが現実だ。今年は、ぽいのを見掛けたら採ることにしよう。でも、この柄って気持ち悪いっちゃ、気持ち悪いんだよなあ…。腹が黄色いとか赤いのもゾワつく。

他に本の中で紹介されている日本の蛾は、オオシモフリスズメ、キョウチクトウスズメ、クロメンガタスズメ、ギンモンスズメモドキ、キマエコノハ、ベニモンコノハ、ハグルマヤママユ、エゾヨツメ、ヨナグニサン、イボタガ、サツマニシキ、オキナワルリチラシ、キオビエダシャク、シンジュキノカワガ、ヒトリガ、ジョウザンヒトリ、イチジクヒトリモドキ、シロシタバ、ムラサキシタバ。
思ってた以上に意外とオラ、結構採ってるぞ。

とはいえ、採った事が無いものも多い。
採ってないものは、キマエコノハ、ベニモンコノハ、シンジュキノカワガ、クロメンガタスズメ、キョウチクトウスズメ、ギンモンスズメモドキ、ハグルマヤママユ、ヒトリガ、ジョウザンヒトリ、イチジクヒトリモドキ、ハグルマヨトウかあ…。

 
【キマエコノハ Eudocima salaminia】
(出展『outsvx.com』)

 
画像は岸田さんの本ではなく、他の人のブログから拝借した。
この方の展翅が一番美しくカッコイイからだ。他の蛾の展翅だって美しいしね。文章も好きだから、よく読まさせて戴いている。
そういえば思い出した。ネットでこの画像を見て、初めてキマエコノハの存在を知って、カッケー( ☆∀☆)と思ったんだよね。
あと、この画像を選んだ理由としては、あまり先生の本の画像をお借りすると御迷惑を掛けそうなので、適宜ちょいちょい入れてく事にした(特に出展と記していない画像は『世界の美しい蛾』からの引用)。
載せてないのは、本を買って見てくだされ。

話を本筋に戻す。
見たことない蛾で一番会いたい筆頭は、今のところこの蛾かなあ…。
色も綺麗だし、配色もいい。形もシャープな感じがして好きだ。全体的にエキセントリックというか、攻めたデザインで、巨大化させれば怪獣としても充分通用するだろう。「毒蛾怪獣キーマエコノハー」、結構人気出ると思うよ。あっ、キマエコノハには毒持ちじゃないと筈だけどさ。

分類はヤガ科(Noctuidae)・Eudocima属。
補足として、エグリバ類(Calpinae)ともあった。
アッシは今も蝶屋だし、純粋な意味での蛾屋ではないから、これが何を意味するのかはワカラン。きっと蛾の分類は蝶よりもややこしいんだろなあ。

南方系の種で、日本での分布は主に南西諸島のようだ。しかし最近は地球温暖化に伴って分布を西へ拡大しており、九州や四国、本州西部での記録が増えているようだ。とはいえ、まだ迷蛾の部類で、定着はしていないだろう。国外の分布はインド、南大平洋諸島、オーストラリアなど。

ライトトラップにもパイナップルやバナナなどのフルーツトラップに寄って来るそうだ。沖縄・奄美諸島に行けば何とか会えそうだなあ。でも、出来れば近畿地方で狙って採りたいものだ。

生態面で、ちょっと面白いなあと思ったのはコレ↙

 
(出展『与那国フィールドノート』)

 
昼間は、こんな風に葉っぱに止まってるらしい。
この画像を見て、一瞬何が何だか解らなかったよ。どう見ても、落ちた緑の葉が枯れかけて外側が丸まり始めたようにしか見えない。まるで3D的だまし絵みたいじゃないか。
(´∇`)嗚呼、アナタに騙されてみたい。

 
【ベニモンコノハ Phyllodes consobrinus】

 
分類は(Noctuidae(ヤガ科)・Catocalinae(シタバガ亜科)。あらま、かなりキマエコノハに近いものかと思いきや、案外遠い❓

上翅は地味でどって事ないけど、下翅は美しいね。
日本の国旗、日の丸みたいだと思ってたら、本にも「その紋様から標本商の間では「日の丸」と呼ばれることもある。」と書いてあった。

 
(出展『断虫亭日乗』)

 
(;゜∇゜)ワオッ❗、思ってた以上にデカイね。
デカいのは好きだ。ハンター気質としてはモチベーションが上がる。蝶採りを始めて10年ちょっと、蛾採りを始めて2年だが、基本はミーハーなのでデカくて綺麗くてカッコイイのはシバく意欲が湧く。

生態的にちょっと変わってると思ったのは、ライトトラップには殆んど誘引されないようだ。蛾だからって、何でもかんでも光に集まるワケじゃないんだね。その代わり、パイナップルなどのフルーツトラップにはよく集まるようだ。

岸田さんの解説には、分布はインド、インドネシア、中国南部、日本で、日本のものは小型で別亜種だとあった。しかし文献を漁っていると、基本的には迷蛾で、日本には土着していない可能性が高いとする向きもある。
2011年に奄美大島で纏まって採れたそうだが、二町一成氏他の論文(註2)によると、偶々海外から飛来したものが、その年に二次発生した可能性が高いとある。自分も論文を読んだ限りでは、概ねその論に賛成だ。おそらく中国辺りからの飛来したもので、狙って採れるものではないだろう。その理由は長くなるのでここでは詳しく書かない。知りたい方は註2の論文にアクセスされたし。

ネットサーフィンしてて、ゲッΣ( ̄ロ ̄lll)❗❗
グワッと仰け反り、笑ってもうた。幼虫の姿が、どえりゃーエグいのだ。厳密的にはベニモンコノハそのものではない近縁種のようだが、キマエコノハの幼虫とさして変わらんらしい。

 
(出展『カラパイア』)

 
何とも珍妙な姿に、(;゜∇゜)ハア❓って感じ。
最初はフザけたペリカンかよ❓って思った。どこか漫画っぽい。誰かが考え出した想像上の生き物みたいだ。そういえば、その記事にはポケモンのキャラ的感想が添えてあった。ポケモンに関しては詳しくはないけど、それって解る気がする。グロなんだけど、キモ可愛いところがあるのだ。

疲れてきたので、続きはまた次回。

                      つづく

 
追伸 
以後、不定期にこのシリーズはちょこちょこ書いていく予定です。

 
(註1)世界の美しい蛾

2019年にグラフィック社から出ています。
ジュンク堂など大きな書店に行くと売っとります。

(註2)ベニモンコノハの論文
『2011年 奄美大島にて多数採集されたベニモンコノハ』やどりが 2013 236号

 

『世界の美しい蛾』

 

 
『世界の美しい蛾』という、岸田先生が今年出版された本だ。
この本の存在は知ってはいたが、長いこと未見だった。春先だったと思うけど、Oくんが買って損したとか文句を言ってたので、ふ~んと思ってそのまま存在を忘れてしまってた。
で、最近になって大きな本屋に行った時に偶々(たまたま)見つけた。中をパラパラと見ると、見たこともない綺麗な蛾が並んでて、Oくんの口振りから想像していたものとは随分と印象が違った。値段も¥3850と、そう高くはなかったので衝動的に買ってしまったなりよ。ただいま絶賛ボンビー中なのにさ。

帰りの電車の中で、中を見る。
表紙の綺麗な蛾は「Baorisa hieroglyphica タナバタユカタヤガ」という名前のようだ。漢字で書くと、たぶん「七夕浴衣夜蛾」になるのだろう。一瞬、夏祭りの甘酸っぱい思い出が甦る。ノスタルジィーを掻き立てる粋な和名だと思う。

見てると、ガにはチョウには無い独特の翅のデザインが有ることに気づく。チョウよりもそのデザインはバリエーションに富み、種によってはチョウよりも複雑な模様を持っている。男性よりも女性の方が蛾に興味を持つのは、その辺に理由があるのかもしれない。仔細に見れば、スタイリッシュなのだ。
男はモノをざっくりと見がちだが、女性は細部までをよく見ているのだろう。男は色のデザインよりも形、つまりフォルムに反応するように出来ているのかもしれない。車やメカ(機械)、カブトムシやクワガタをカッコイイと感じるのが男なのだ。女性の体も、細部よりも先ずは体のライン、全体のフォルムを重視して見ているところがある。各パーツに目がいくのは、その次だ。で、顔を除けば、乳、ケツ、足に集約される。
一方、女性は最初から細部に目がいっているような気がする。男性の体の中でどこが好きですか?と訊かれて「手」と答える女性は多いが、男からすれば、有り得ない答えだ。もしも男で、最初に「手」とか答える奴がいたら、そいつは間違いなく変態です。乳、ケツ、足以外の「首筋(襟足)」とか「耳」のチョイスも解らないでもないが、1位に持ってきた時点で変態性が強い。
一言添えておくと、もちろん男は細部に拘っていないワケではない。あくまでも全体像、フォルム有りきの細部なのである。
これは太古の昔、狩猟採集の時代は男が狩猟を、女が村の周りの食物の採集を担当していた名残からなのかもしれない。
話が逸れた。このままいくと、また迷走なので本筋に戻そう。

艶やかな蛾が並ぶ中、目新しいもので特に惹き付けられたのはコレかな。

 
【レプレータルリチラシ Eterusia repleta】

 
オキナワルリチラシの親戚だね。
緑に青と少し黄色が入るって、カッコイイなあ。
蝶や蛾の知識の無い人から見れば、蝶にカテゴライズされるかもね。世間一般では、キレイ=蝶。汚ない=蛾という概念が定着しているところがあるからね。

こんなのも気になった。↙

 
【アフリカミドリスズメ Euchloron megaera】

 
黄色と緑の組み合わせの服なんて絶対に着れないけど、デザインとしては全然有りなんだよなあ…。
服や周りの調度品としての緑は好きじゃないが、自然界にある緑は掛け値なしに好きなのはナゼだろう。

更に見ていくと、後半のページで仰け反りそうになった。

 
【アサギマダラガ Cyclosia notabilis】

 
何じゃ、こりゃ(゜ロ゜;ノ)ノ❗❓
へぇ~、アサギマダラに擬態したチョウは知ってるけど、ガにもいるんだ…。そう思った。
アサギマダラは体内に毒を持つ事から、鳥に捕食されにくいと言われている。心憎いことに、殆んど襲われないと知っているからなのか、ゆるりと優雅に飛んでいらっしゃる。
それにあやかろうと、一部の毒の無い蝶や蛾が自らをアサギマダラに似せて難を逃れようと進化したのが擬態だ。本当にそうだとしたら、とんでもない高等戦術だ。しかし、似せようと思って似せられるものなのかね❓それがいまだ疑問だけど、どうあれ自然とか生き物って、やっぱスゲェーな。
ん❓、ちょい待てよ。このアサギマダラガもマダラガの仲間なんだから、元々自身も毒を持ってそうだな。だとしたら、ミューラー型擬態って事になる。種を越えて互いに擬態効果を高めてるってヤツだね。似たような毒ある奴が沢山いた方が、より鳥への訴求力は高まるって寸法だ。

解説文には「中国とラオスでの分布が確認されているが、野性下の姿を見られる機会は極めて稀だろう。」とあった。中国と云うのは、おそらくインドシナ半島北部に隣接する雲南省辺りなのだろう。
ふ~ん、ラオスにいるのなら何処かで見ててもオカシクないよな、と思った次の瞬間、記憶の映像が💥ガーンとフラッシュバックした。
コレって、見たことあるぞーΣ( ̄ロ ̄lll)
どこだっけ❓
たぶん…、インドシナ半島北部だな。確か吸水に来てるのを撮ったぞ。
 
帰宅後、探しまくって漸く画像を見つけた。

 

 
画像を拡大しよう。

 
(2016.4.22 ラオス北部)

 
遠目に見て、一瞬ちっちゃいアサギマダラ(蝶)かなと思った。だが違和感ありありで、すぐにニセモノだなと気づいた。にしても、他のマダラチョウの仲間でもなさそうだった。たぶん見たことがない奴だ。
何じゃらほいと思いながら近づいてゆくと、地面に止まって吸水し始めた。それを見て、一発で蛾だと理解した。だってさあ、触角がモロに蛾なんだもーん。

で、アサギマダラに擬態してる蛾なんて聞いたことがなかったから、一応証拠として写真を撮ったのだった。
ところで、コレって結局採ったんだっけ❓
いや、でも展翅した憶えがない。だとしたら、M氏辺りに渡したのかな❓ いやいや、当時はまだ蛾は気持ち悪かったし、写真撮ったからもういいやと思って採らなかったわ。相当に珍みたいだし、採っときゃよかったなあ…。

あれっ❗❓、でもよくよく見れば、どこかアサギマダラガと違うぞ。あっ❗上翅と下翅の地色が逆になっとるやないけー(@_@)

もしかして、まさかオスとメスとで上下の色が入れ替わるとか❓ でもそんな例、聞いたことがない。そりゃ、たぶん無いわ。
となると、これはアサギマダラガとは違う別種って事になるぞな…。
しかし、だったらコイツはいったい何者なのだ❓
でも、蛾の情報って少ないんだよなあ…。ちょっと調べてみたけど、直ぐにイヤになってやめた。まさか新種だったりして(笑)。まあ、それは無いとは思うけど。
それはそうと、コイツも珍なのかしら❓
岸田先生、教えて下され。

それはさておき、アサギマダラに擬態してる蝶がいると前述したが、コレが凄い精度なのだ。この際、ついでだから紹介しておこう。

 
【カバシタアゲハ Chilasa agestor】

 
タイやマレーシアの可能性もあるが、たぶんラオスで採ったものだろう。サムヌアかバンビエン辺りのものかな。

 
(裏面)

 
コレには完全に騙されたなあ。
その存在さえも知らなかったから、マレーシアで初めて会った時には腰を抜かしそうになった。それくらい似てるのだ。姿、形だけではなく、飛び方までソックリなのさ。マネシアゲハの仲間は擬態精度がメチャメチャ高い。アサギマダラガもいい線いってるけど、カバシタアゲハには敵わないんでねぇの❓
とは言っても、飛んでいる現物を見ないと、何とも言えねえな。余談は禁物だわさ。

おっと、本家本元、肝心要のアサギマダラにも登場して貰わないと本末転倒だ。これじゃ、普通の人には伝わらんよね。

 
【アサギマダラ Parantica sita】

 
とはいっても、ド普通種ゆえに展翅画像なんて撮ってない。よって、図鑑の画像をお借りした。

 
(裏面)
(出展 2点共『日本産蝶類標準図鑑』)

 
コレで如何に似ているかは御理解戴けたかと思う。
擬態って、改めてスゲェー世界だよなあ。

 
本を見ていると、他にも見たことや採った事があるものがそこそこ載っていた。トラシャクなんかは、そこそこ見てる。

 
【トラシャク Dysphania militaris】

 
コレは散々迷った揚げ句、採った記憶がある。
各地で珠に見ていたが、綺麗だけど蛾だと云う概念が邪魔して採る勇気がなかったのだ。じゃあ、何でこの時は採ったんだろ❓魔が差したのかなあ…。それか、この時は目ぼしいものかいなかったからヒマ潰しで、つい採ったのかも…。ブツは蛾好きのM氏に進呈したと思う。

本の解説には「日中、梢を飛翔し樹上に留まることが多いから捕獲は難しい種だと言える。ただし、稀に吸水のため地面に降りることもある。」と書いてあった。
目立つ蛾だから、そんなに珍しいモノだとは思っていなかった。しかし言われてみれば、そんな気もしてきた。よくよく考えてみると、何処にでもいたワケではない。でも吸水に来ている時は集団の事もしばしばあって、アオトラシャクなんかも混じってたなあ。採ろうと思えば、トータルで軽く20くらいは採れてたと思う。
もしも又、東南アジアに行く機会があったなら、真面目に採ろっと。

オウサマアゲハモドキもあった。

 

 
バックが暗くて分かりづらいので、他のところから画像を引っ張ってこよう。

 
【オウサマアゲハモドキ Epicopeia polydora】
(出展 『学研の図鑑 世界の昆虫』)

 
【裏面)
(出展『insectdesigns.comlithops.com』)

 
名前が王様なのだ。おそらくアゲハモドキの仲間の最大種だろう。タイのチェンマイで見たことがある。
最初はナガサキアゲハとかオオベニモンアゲハ、レテノールアゲハ(アルクメールアゲハ(註1))かなと思ったが、よく見ると違うので背中に悪寒が走ったよ。何度も言うが、その頃は蛾を忌み嫌っていたからね。
だから勿論の事、無視した。随分と後になってから、かなり稀なものだと知った。結構沢山いたので、今思えば、コレも採っときゃよかったよ。因みに此の場所以外では見た記憶はない。

チョウと見間違えたのは、コヤツも体内に毒を持つので、コレに擬態してるチョウが多いからだ。
つまり、ガがチョウに似せているのてはなくて、反対にチョウがガに似せているのだ。謂わば、それらのチョウはオウサマアゲハモドキモドキなのである。
いや、違うか❓ 違うな。勢いで、つい筆がスベったが、毒持ちなのはオオベニモンアゲハだわさ。冷静になって考えれば、オオベニモンアゲハはジャコウアゲハ系アゲハだもんね。ジャコウアゲハと言えば、食草はウマノスズクサ科(Aristolochiaceae)である。この植物には毒があり、幼虫はそれを体内に取り込み、成虫になってもその毒は体内にとどめられる。植物の種類は違うが、原理はアサギマダラと同じだ。それによって、鳥などの捕食者から身を守るのだ。
思い出したよ。台湾のオオベニモンアゲハは、確かタイワンウマノスズクサやリュウキュウウマノスズクサを食ってた筈だ。となると、インドシナ半島北部でも同じ系統のものを食しているものと推察される。毒ありなのは相違なかろう。
一方、アゲハモドキの仲間はアオキ科などを食樹としているものが多く、知る限りでは毒持ちではない。オウサマアゲハモドキが何を食ってるかは調べても分かんなかったから断言は出来ないけど、おそらく毒持ちではないだろう。間違ってたらゴメンだけど。

このチェンマイのポイントには、互いに擬態関係にあるものが数種いたと云う記憶がある。オウサマアゲハモドキに、オオベニモンアゲハ、レテノールアゲハ、ナガサキアゲハの4種類だ。

 
【オオベニモンアゲハ♀ Atrophaneura polyeuctes】

 
【裏面】

 
美しくもあるが、毒々しい。翅だけじゃなく、頭や腹まで赤いところが妖しい。毒婦じゃよ。
コレは台湾産のオオベニモンだけど、インドシナ半島のモノとそう変わらないだろう。見事にオウサマアゲハモドキに似ているね。いや、オウサマアゲハモドキがオオベニモンアゲハに似てるってのが正しいか。

インドシナ半島のモノも見っかった。

 

 
こっちは翅形的に♂かな。
白紋が大きいくらいで、やっぱ基本的には変わらんね。

 
【ワタナベアゲハ♀ Papilio thaiwanus】

 
(裏面)

 
これも飛んでたら、同じように見えるだろう。
違うと気づいたとしても、その時にはもう遅い。当然スタートも遅れる。たとえ結果的に見破られたとしても、判断を遅らせることが出来たならば、逃げれる確率は格段に上がるのである。

 
【ナガサキアゲハ♀ Papilio memnon】

 
裏展翅がないので、杉坂美典さんの画像をお借りしよう。

 
(裏面)
(出展『台湾の蝶』杉坂美典)

 
台湾産の有尾型だ。日本のものは、基本的には尾っぽがありゃせん。一応、そっちも載せとくか…。

 
【ナガサキアゲハ無尾型♀】

 
白いから、たぶん沖縄本島のものだろう。
そういえば白いのは、これまた毒を持つオオゴマダラに擬態してるという説もあったような気がするなあ。

 
(裏面)
(出展『蝶の傍らに』)

 
改めて見ると、ナガサキアゲハは腹が赤くないんだね。そういう意味では擬態精度はやや落ちるかもね。

参考までに言っとくと、当時見た記憶は無いが、此の場所にはベニモンアゲハとホソバシャコウアゲハもいるかもしれない。一応、両者とも分布域には入ってるからね。特にベニモンはいる可能性が高いだろう。

ベニモンアゲハもド普通種なので、展翅画像が無い。
まさかベニモンなんぞをブログで取り上げることなど無かろうと思ってたから、写真もありゃせんのだ。って云うか、ベニモンなんて採らない。いても普通種なので今や無視なのだよ。どうせ採っても展翅しないだろうからさ。無駄な殺生してもしゃあないし。

 
【ベニモンアゲハ Pachiliopta aristolochiae】

 
(裏面)
(出展 2点共『日本産蝶類標準図鑑』)

 
毒持ちでやんす。でもオオベニモンアゲハと比べると、かなり小さい。レテノールもやや小さいから、もしかしたらベニモンに寄せて擬態してるのかもしれない。そういう観点からみれば、オオベニモンに一番寄せてるのはオウサマアゲハモドキかもしんない。

 
【ホソバシャコウアゲハ Losaria coon】

 
変な形だニャア(ФωФ)
たぶんラオスで採ったものだ。バンビエンかタボックの個体だろう(どっちにもいる)。
裏展翅をした記憶が無いから、裏面画像はネットから拝借しよう。

 
(裏面)
(出展『SAMUIBUTTERFLIES』)

 
ホソバシャコウもジャコウと名が付くだけあって、毒持ちだ。横から見ると、やはり毒々しいねぇ。

整理すると、毒持ちはオオベニモンアゲハ、ベニモンアゲハ、ホソバシャコウ。毒無しはナガサキアゲハ、レテノールアゲハ&ワタナベアゲハ、オウサマアゲハモドキって事になる。
ここまでパッと見が互いに似ているのがいたら、天敵の鳥だってワケわかんなくなって騙されるに違いない。擬態組の何れ劣らぬ擬態振りに改めて感心するよ。
いかん、いかん。ついつい、またミミクリー(擬態)の話になってしまった。語り始めたら長くなるから、これくらいにしておこう。擬態は奥が深いのだ。
それにオウサマアゲハモドキと擬態については、以前にアメブロの方で『第三のアゲハモドキ』と題して書いた。興味のある方はソチラを読んでたもれ。一応リンク先を貼りつけておきます。

 
https://ameblo.jp/iga72/entry-12248086677.html

 
キボシルリニシキ、アオトラヤガ、アオトラシャク等々、見たり、採ったりしたものがまだまだある。もっと紹介したいところだが、調子に乗って紹介すると、先生の営業妨害になりそうだから、この辺でやめとく。興味を持った方は、あとは本を買って見て下さいな。

                      つづく

 
追伸
意外と日本の蛾も紹介されていたので、次回はそれについて少し書こうかと思います。

 
(註1)レテノールアゲハ(アルクメールアゲハ)
レテノールの画像が、めっかった。♂だけど。

 

 
(裏面)

 
昔は、Papilio rhetenorという学名だったが、近年になって Papilio alcmenorという学名になったようだ。その経緯(いきさつ)は知らないか。
だが勝手に推測するならば、たぶん、P.rhetenorよりも、P.alcmenorの方に名前の先取権があることが後に判明したのだろう。つまりコウテイモンキチョウのパターンと同じじゃないかと考えたワケだ。
個人的には、断然レテノールという名前の方が好きだ。だから、いまだにレテノールと呼んでいる。
歩くメールアゲハだなんて、ダサいじゃないか。
 

喋くりまくりイガ十郎

   
1週間ちょっと前(12月7日)、日本鱗翅学会の東海支部総会に招待されて、不肖ワタクシなんぞが講演しに名古屋へ行って参りやした。
お題は今年7月に新発見されたカトカラ、マホロバキシタバ(註1)についてである。

 
【マホロバキシタバ Catocala naganoi mahoroba】
(2019.7月 奈良市)

 
しか~し、いい加減ちゃらんぽらん男のイガちゃんである。なあ~んも考えずにノープランで大阪からノコノコやって来た。

駅から講演会場に行く道すがら、流石にヤバいと思って話す内容を真面目に考え始めた。
それにしても、名城大学って坂が多すぎ。どうも物事を考えるのに坂道というのは向いていないようだ。考えがまとまらぬうちに会場に着いてしまう。

で、受付でチャラける。
受付が大学院生の可愛い女の子たちだったから、ソッコー笑いを取りにいってしまう。往年の悪いクセが出た。オジサンになってもアホはアホのまんまなんである。

で、調子に乗って話し込む。
一人の女の子は苔とハダニの研究をしているそうだ。
こんな若い娘がハダニとな。世の中、ワカンねえよなあ。

でも今は油を売っている場合ではニャーい(ФωФ)
「早く喋る内容を考えなさいよ、イガ十郎くん。アンタ、名古屋は鬼門やろ。恥かくで。」
心の中で自分で自分に軽くツッコミを入れて外に出る。大学構内は全面禁煙なので、外で煙草を吸いながら考えようと思ったのだ。時間はまだ30分ある。何とかなるだろう。っていうか何とかせんとマズイ。

パンフを改めて見る。
わおっ(゜ロ゜;ノ)ノ、特別講演になっとるやないけー。ちょっと背中がムズ痒い。

 

 
講演名は『マホロバキシタバ発見を振り返って』。
自分で考えたのではない。お任せしたら、そうなっていた。まあ題名としては特に問題はないし、解りやすい題名だ。つまりは、それに従って喋ればいいってだけの事だよね。問題は、最後にどうもっともらしい事を言って壇上を降りるかだ。纏まりのない話を延々して終われば、ノータリンと思われかねない。アホなクセに賢く思われたいのだ。
坂道を下りながら考える。登り坂は物事を考えるのには向いていないが、下りながら考えるのには向いている。何となく考えが纏まってきた。
取り敢えず、アタマの入りとケツの〆だけを決めた。真ん中部分は思い付くままをテキトーに箇条書きでメモっておいた。アタマとケツだけシッカリやっとけば、体裁は何とか保てるだろう。
けど、こんなんで1時間も喋れんのか❓と一瞬思った。講演なんて一度もした事がないのである。だったら、ちゃんと準備しとけよなー、俺。
けんど、アッシは昔から根拠の無い自信に満ちた男なのさ。お気楽なんくるないさで、マイナス思考を打ち消す。幼少の頃より何でもぶっつけ本番で生きてきたもんね。
お題について喋ることが無くなって、早く終わりそうになったら、途中から全然関係ない別の話にすり替えれちまえ。ウケさえすれば、聴衆も文句は無かろう。

会場に戻ると司会の若い子が打ち合わせに来た。
『内容は何をどう話される予定ですか?』
『ワカラン。ノープランでぇーす\(^o^)/。その場で適当に考えて喋りまーす。』
フザけた男である。でも、気がつけば口がそう勝手に動いていた。どうせ、お喋り糞野郎の犬の漫才師なのだ。

考えが今イチ纏まらぬうちに、いよいよ犬の漫才師劇場開幕。
流石に、やや緊張する。マイクを持って人前で喋るだなんて、あんまし有ることじゃないもん。そのまま歌でも歌って帰ったろかしらという考えがチラついたが、そんな事は幾らおバカなアチキでも、ようやりまへん。ここは真面目に話すしかない。肚を据える。

喋り出したはいいが、口の中が直ぐにパッサパッサになる。噛みまくりやがな。
こりゃマジイと思って早々と壇上を降り、持参のお茶を取ってきて飲む。( ̄∇ ̄*)ゞカッコわるぅ~。
でもそれで少し落ち着けた。あとは秋田さんの悪口をちょいちょい挟みつつ笑いを取りながらのマシンガントーク。予定の1時間を越える1時間15分も喋ってしまった。犬の漫才師の面目躍如である。

あっ、秋田さん、尊敬している旨もちゃんと話して、フォローも入れときましたから怒らないでネ(^。^)

 

 
画像はアチキが講演している姿ではないが、会場はこんな感じでありんした。

 
因みに自分のあとの講演は以下のようなものでした。

◆鈴木英文「ラオス10年間の蝶類調査の結果」

◆高橋真弓「蝶はなぜそこに棲むのか」の謎を追って

◆大岡啓二「ベトナム北部クックホン国立公園の蝶 2019」

自分もラオスには三度ほど行っているので、鈴木氏の講演は興味深かった。講演後、ビャッコイナズマのポイントも教えてもらったし、🎵ラッキョンキョンキョン。有意義だった。それだけでも来た意味はある。引きだけは強いから他の稀種には会えるのだが、ビャッコだけがナゼだか会えないのだ。

高橋真弓さんには御迷惑をお掛けした。
自分が15分も超過して喋ったので、講演時間を短くさせてしまった。この場を借りて謝らせて戴きます。先生、申し訳ありませんでしたm(__)m
因みに、せんせは女の子みたいな名前だが、男性のお爺ちゃまです。

高橋真弓さんといえば、蝶界の重鎮である。蝶屋で名前を知らない人はいないだろう。
数々の著書もあり、自分も名著と名高い『チョウ-富士川から日本列島へ』を小学生の時に読んだことがある。大人になって虫採りを再開した時にも読み直した。そんな尊敬する先生の時間を、結果的に削るだなんて恐縮しきりである。
その偉業の中でも特筆されるのは、従来1種類と考えられてきたキマダラヒカゲには実を云うと2種類が混じっていると看破したことだろう。
山地にいるものと平地にいるものとでは羽の模様が微妙に違うが、学者はキマダラヒカゲの単なる山地型と平地型だと片付けてきた。ところがどっこい、高橋先生はこの山地型と平地型を別種だと見抜き、生態や幼虫形態などを精査し、1970年に両種が別種であると証明されたのである。そして、それまで山地型とされてきたものを「ヤマキマダラヒカゲ」、平地型を「サトキマダラヒカゲ」と名付けられた。
この「日本産キマダラヒカゲ属 Neope に属する二つの種について」という論文は、全国の蝶愛好家に衝撃を与えたという。
そりゃそうだ。その年代だと海外を含めてまだまだ新種探しに熱かった時代だ。全く見た目が違う未知なる新種を追い求める虫屋が多かっただろう。そんな中にあって、先生はごく普通種のキマダラヒカゲに疑問を持ち、隠された事実を暴き出してその常識を覆してみせた。そして、それが新種として記載されたワケだから皆がビックリ仰天、灯台もと暗しの目から鱗だったようだ。

 
【サトキマダラヒカゲ】
(2018.5.奈良県 信貴山)

 
なんか、このサトキマって白くねぇかあ?…。
写真撮るのに必死で、その時は気づかんかった。スマホで写真を撮るには相当近寄らなくてはいけないので、大変なのだ。今さらだが、写真なんか撮らずに採れば良かったよ。
でもサトキマなんて、自分的チョウのヒエラルキーの中においては最下層なのだ。普段はフル無視で、ウザい存在でしかない。なので展翅画像もない。ゆえに図鑑からパクらせて戴く。

 
【サトキマダラヒカゲ(里黄斑日陰)】
(出展 以下3点共『日本産蝶類標準図鑑』)

 
【ヤマキマダラヒカゲ(山黄斑日陰)】

 
【両種の見分け方】

 
今さらながらに思うけど、見た目が殆んど同じやないけー。バリエーション豊富な同種にしか見えない。
こんなもん、よくぞ別種と見抜いたなあと思う。
高橋せんせは、やっぱ偉いや。

こう云う誰もが見過ごしてきた「当たり前」を覆したという意味では、マホロバキシタバも蛾愛好家たちに同じような衝撃を与えたかもしれない。
蛾の中でも特に人気が高く、愛好者も多いカトカラから今時まさか新種が見つかり、しかも離島や深山幽谷ではなくて、奈良市内で見つかるだなんて誰も想像していなかったのだ。
けんどオラって蛾屋じゃないから、その衝撃度を周りから言われても今イチ実感は湧かなかったんだけどね。
此処は大物のオオトラカミキリやギガンティアもいるカミキリムシ屋の聖地の一つだし、近年ではゴミムシダマシの聖地と言ってもいいだろう。またルリセンチコガネなど糞虫を求めて訪れる人も多い場所だ。蝶屋だって昔はルーミスシジミやオオウラギンヒョウモンを求めて足を運んだ人は相当数いたと思う。そんな虫屋が数多く入ってきた場所にも拘わらず、長い間発見されてこなかったのである。まあ、そこそこ知識のある虫屋なら驚くわな。絶対に、網膜には映った虫屋は何人もいた筈だからね。つまりは、見えてはいるのに見逃してきたのだ。
だから自分の講演の最後には「少しでも変だなと思ったものは採った方がいいっすよ。どんな小さな事でも疑問に思ったことは自分で調べましょう。予断や常識に囚われない事が大事です。そしたら、意外と皆さんの周りでも新たな発見はあるかもしれませんよ。」云々的な事を言って締め括った。

何かさあ、偶然にもさあ、その先駆者である高橋真弓先生を前にしてこんなセリフを喋れてる自分って、超幸せ者だなと思ったよ。会場でコレを堂々と言える特権を有するのは先生とワシだけだと思うと、強い縁を感じたね。コレって、嘘みたいに偶然過ぎやしねえか❓
神様はきっとテキトー過ぎるワシをテキトーに話させないように高橋先生を遣わしたに違いない。今ではそう思ってる。

 
と、カッコつけて、ここで句切りよく「おしまい」としたいところだが、話はもう少し、いやもうそこそこ続く。

そういえば先生は、台湾のキマダラヒカゲについても調べておられ、従来タイワンキマダラヒカゲとワタナベキマダラヒカゲに分けられていたものを1種とし、ワタナベは単なる季節型(註2)だとも看破したんだよね。今度は1種が2種になるのではなく、2種が1種になるというキマダラヒカゲ逆ヴァージョンだね。

 
【タイワンキマダラヒカゲ Neope bremeri 】
(2016.7月 台湾 南投県仁愛郷 alt.1900)

 
う~ん、上翅を上げすぎてんなあ…。
触角は完璧なのにね。まだまだですわ。

 
(裏面)
(2016.7.12 台湾南投県仁愛郷)

 
キマダラヒカゲは日本では何処にでもいる普通種だが、台湾のタイワンキマダラヒカゲは少ない種なのではなかろうか❓
台湾には6月と7月の2度行った事があるが、この蝶にはたったの1回しか出会えていないのだ。その時に訪れた各ポイントの標高は200~3000mに亘るから、この見立ては間違いないと思うんだよね。それぞれ1週間以上は居たしさ。この2回を繋ぎ合わせると、6月中旬から7月下旬になる。発生期としてはド真ん中だと思うんだよね。
台湾にはキマダラヒカゲの仲間は他に明らかに違う別種が3種いるし、ヒカゲチョウの仲間やジャノメチョウ類の種類数は日本よりも遥かに多い。ゆえに食草の競合相手が多すぎるのかなあ…。テキトーに勘で言ってるから間違ってるかもしんないけどさ。まあ何れにせよ、食草を日本ほど独占は出来ないと思う。

珍しい種だと思ったら、途端にカッコ良く見えてくるから不思議だ。いや、違うな。採って見た瞬間には、直ぐに日本のキマダラヒカゲよかカッケーと思った記憶があるぞ。だから、これは後々の印象操作ではないと思う。タイワンキマダラヒカゲは結構カッコいいのだ。

 
最後に講演された大岡啓二氏は全く知らない人かと思いきや、冒頭の自己紹介でアレ?っと思った。面識は無いけれど、お名前は存じている方だったのだ。
まだまだ蝶屋駆け出しだった頃、大岡氏が『みやくに通信』に書かれた「熱帯降雨林における蝶採集法(註3)」と題された文章は何度も読んで参考にさせて戴いたし、ブログ『ジャングルに蝶を求めて!』の海外採集の情報から随分とヒントも得た。特にバンカナオオイナズマとダンフォルディーチャイロフタオの探索に際しては、初動のヒントを貰えたという記憶がある。
それにも増して大岡氏といえば、特異なキマダラルリツバメの発見者として名の通った人だという印象がある。種名は何だったっけ❓ 確か奥さんの名前が付いてたんだよね。

調べてみたら、やっぱそうだった。

 
【Spindasis masaeae マサエキマダラルリツバメ】
(出展『清邁極楽蜻蛉』)

 
(出展『ジャングルに蝶を求めて!』)

  
キマダラルリツバメの仲間の中では異端。一見、異常型に見えるくらいに変わっている。
木村勇之助氏は、図鑑『タイ国の蝶』で、コレに「キッカイキマダラルリツバメ」なる奇っ怪な和名をつけている。まあ、それくらい変なキマルリって事だね。
 
大岡氏によって、1995年の3月にタイ北部チェンマイで2個体が初採集され、2000年4月に関 康夫氏により新種として記載されたものだ。
コレも考えてみれば、きっと目から鱗の発見だったんだろうと思う。まだ蝶採りしてない頃の発見だから、あくまでも想像だけど。

ドイステープ(Doi suthep)はチェンマイの市街地から、かなり近い。中心部からバイクで30分くらいで山の麓まで行ける。上に有名な寺があって観光客も多いからアクセスもいいし、道も良い。そんなワケだから、日本人を含めてかなりの虫屋が訪れている。なのに長年見つかってこなかったのだ。そう云う意味ではマホロバと発見のシチュエーションが似ているかもしれない。つまり、まさかまさかの新発見なのである。つーことは、この会場にはアチキと高橋先生以外に、もう一人同じ立ち位置を経験されてた人がいたんだね。だとしたら、スゴい確率だよなあ…。
大岡さんには怒られるかもしんないけど、神様は更なる一人をアッシの助けに召喚してたんだね。( ̄∇ ̄*)ゞエヘ、どんだけ自分に都合のええ解釈やねん(笑)。

閉会後、真っ直ぐ帰るかどうか迷ったが、結局飲み会にも参加した。
6、7年前だろうか、ヒサマツミドリシジミを京都・杉峠に採りに行った折りに会った若い青年とも再会できた。彼は当時京都在住だったが、その後に名古屋へ居を移したという。とは言っても、彼に言われるまで全然忘れてた。出来事は何とか憶えてはいたものの、顔はのっぺらぼう、おぼろげでしか記憶にない。青年よ、ゴメンね。でも、そんなのはキミに限った事ではない。所詮はニワトリ並みの脳ミソしかない男なのだ。人の事は大概忘れてる。こう云うケースは過去にも多々あるのだ。「どこそこで会いましたよね。」とは、よく言われる。お喋り犬の漫才師の変な人だから、向こうの記憶には残りやすいのかなあ…。

そうだ。あの時の帰りは結構スゴい人に送ってもらったんだよね。
ヒサマツの食樹の発見に関わり、また『楽しい昆虫採集案内』という伝説の採集バイブルの「京都北山」の項を執筆された方に車で出町柳まで送ってもらったのだった。そういえば、オオイチモンジの交尾写真を野外で初めて且つ完璧に撮ったのも自分だと仰って、証拠写真も見せて戴いたっけ…。

飲み会は楽しかった。
知っている人は誰もいないので、名古屋はアウェーなんだけど、全然そういうのは得意というか、物怖じしない。必要以上の気配りは無駄だと思っているのだ。言いたいこと言いまくって、楽しく過ごさせて戴いた。優しき人たちで、良かったー(^o^)

根がミーハーなだけに、最後には高橋先生ともツーショット写真を撮らせて戴いた。

 

 
先生って、柔和で良いお顔をされてるなあ…。
御年80歳だっけ…。まだまだ日本の蝶界には必要な方だから、長生きされてほしいものだ。

 

 
(|| ゜Д゜)ゲッ、それに引きかえアチキの顔が丸い。パンパンやないけー。思ってた以上に太ってんなあ…。
知らんうちに、見た目まで嘗てない程に太っとるわ。今年は夏場でも体重があまり落ちず、ずっと例年よりも5㎏前後オーバーで推移してきてたんだよなあ…。ベスト体重からだと、7㎏オーバーだもんね。
来年は東南アジアに行って、また過酷な旅でもしない限りは戻らんかもなあ…。
そんなことはどうでもよろし。
とにかく東海地区の虫屋の皆様、本当に有り難う御座いました。d=(^o^)=bとても楽しかったです。

                    おしまい

 
追伸
マホロバキシタバ関連の記事は、他に以前に書いた『月刊むし10月号が我が家にやってきた、ヤァ❗ヤァ❗ヤァ❗』と云う文章があります。又この文章以後には、2019’カトカラ2年生のシリーズ連載に2篇書きました。2篇と言っても、マホロバキシタバ発見記『真秀ろばの夏』と題して書いたものの前・後編だけどさ。現時点ではマホロバキシタバについて最も詳しく書かれた文章です。言い切っちゃうけどね(笑)。

 
(註1)マホロバキシタバ
日本においては、32種目のカトカラ。発見の経緯や生態等については『月刊むし』の10月号に詳しく載っているので、興味のある方はソチラを読まれたし。

(註2)単なる季節型
従来ワタナベキマダラヒカゲと呼ばれていたものは、単なるタイワンキマダラヒカゲの春型、もしくは秋冬型なんだそうな。

(註3)「熱帯降雨林における蝶採集法」
宮国(充義)さんが発行してた蝶のミニコミ誌『みやくに通信』の2012年のNo.195号とNo.196号に前・後編に分けて掲載された。
熱帯ジャングルでの蝶の採集法について、疑問に答える形式で基礎から応用まで細かく書かれている。東南アジアに蝶採りに行く人は必見です。

 

アリストテレスの誤謬

 

  『False hope knight

 

2019年 8月6日。

学生たちは去り、辺りは闇に包まれた。
長野・菅平高原にいる。白馬村で辛酸を舐め、大町市で何とか持ち直して、この地へと移動してきた。

菅平といえば、ラグビーの夏の合宿地としてファンならば誰しもが知っている裏の聖地とも言える地だ。
ゆえに、ポイントと決めた場所には沢山の若いラガーマンたちが夕暮れまでマジ走りでランニングをしていた。
たぶん高校生だろう。地獄の合宿ってところだ。
Ψ( ̄∇ ̄)Ψケケケ、血ヘドを吐くまで走りなはれ。それも時間が経てば、悪い思い出じゃなくなるんだから。

そういうワケで、キッチリ歩いてポイントの概要は下調べしておいた。
狙いはノコメキシタバとハイモンキシタバ、そしてケンモンキシタバである。
ノコメ、ハイモンの食樹のズミ(バラ科リンゴ属)とケンモンの食樹ハルニレ(ニレ科)は既に確認済みである。大町市で溜飲を下げ、流れも良くなってきてる。本日もミッションを遂行して凱歌をあげるつもりだ。まあまあ天才が調子に乗ったら、連戦連勝は当たり前なのだ。
Ψ( ̄∇ ̄)Ψおほほ星人が見える時は強いぜ、バーロー。

日没直後、ズミが多くあるところとハルニレだと思われる大木の周りに糖蜜を吹き付けてゆく。

暫くしてハルニレの大木前の木に、早速ケンモンらしき上翅の一部が白っぽいのがやって来た。

しゃあーι(`ロ´)ノ
余裕でシバく。

 
(2019.8.6 長野県菅平高原)

 
【同裏面】

 
幸先良いスタートだ。
その後、ピンチもそこそこ有りいのだったけど、持ち前の引きの強さでミッションを完遂した。
と、その時は思った…。
翌朝、それを蛾の若手ホープの小林真央くんにLINEで報告したら、「五十嵐さん、ケンモンと言ってるのはワモンですよ。」という衝撃の返信が返ってきた。
慌てて、送った画像を凝視する。

ガビ━━━━━ Σ( ̄ロ ̄lll) ━━━━━ン❗❗

おっしゃる通り、紛れもないワモンキシタバだった。
( ; ゜Д゜)何で❓、(;゜∀゜)何で❓
一瞬、狐に摘ままれたように(・o・)キョトンとする。もしかしたら、闇のイタズラ者ゴブリンにすり替えられたとか❓

暫く考えて得心がいく。
先ず、こんな時期にワモンがいるなんて云う概念が全く無かったのだ。続・ワモンキシタバ『欠けてゆく月』の回でも書いたように、関西では6月後半になるとボロばっかなのだ。8月にまさか鮮度の良いワモンがいるだなんて全く頭に無かった。ゆえに、てっきりケンモンだと思ってしまったのだった。

ワモンがズミも食樹としていると云うのも、完全に失念していた。ワモンの食樹といえば、関西ではウメ、スモモというイメージが強い。関西にはズミなんて殆んど生えてないのだ。

とはいえ、メチャクチャ格好悪い。
我ながら情けない事、この上ない。
でもさあ…、ネット見たら同じ間違いをしてる人が何人かいるじゃないか。アホなのは、ワシだけではないのだ。ちょっとだけホッとする。

考えてみれば、あのソクラテスやプラトンに並ぶ偉大な哲学者アリストテレスだって、現在ではその考えに多くの誤りがあるとされているのだ(註1)。ワシみたいな凡人が間違うのも当たり前じゃないか、(# ̄З ̄)ブー。

こういうのをボーンヘッドという。
コレで意気消沈。運が逃げて再びスランプに陥っていったのだった。ぽよよ( ;∀;)

                    おしまい

 
その時採ったヤツの展翅画像を載せておこう。

 
【ワモンキシタバ Catocala xarippe】

 
2頭とも♀である。
今年、関西では綺麗な♀が採れなかったので、まっいっか…。

 
追伸
今回は、謂わば『続・続 ワモンキシタバ』だすなあ。
メインタイトルも最初はそうしてた。でも何か気に入らなくて、現在のタイトルに変えた。

サブタイトルは、フォールス・ホープ・ナイトと読みます。
意味は「ぬか喜び」や「あらぬ期待」といったところ。
“false”は「間違った」「事実に反する」「偽った」などで、”hope”は「期待」「希望」。ナイトは「夜」ではなくて「騎士」の方です。意訳すると、「糠喜び侍」だ。
あっ、今にして思えばタイトルは「フォールス・ホープ・サムライ」にしても良かったな。直さないけど。
えっ?、騎士は馬に乗っているとな。「あんた、馬に乗って虫採りしとるんかい❓」とツッコミが入りそうだが、騎士は中世ヨーロッパにおける戦士階級の呼称、総称としても使われている。領主に仕え、武芸・礼節などの修業を通じて、騎士道を実践したものは皆ナイト(騎士)なのだよ。

メインタイトルについて誤解のないように言っとくと、流石に自分を偉大な哲学者アリストテレスになぞらえるだなんて不遜な考えはない。そこはシッカリ言っときますね。

何か、やっぱ調子悪いなあ…。あんま納得いく文章が書けないや。

 
(註1)アリストテレスの考えの誤り
誤謬の多さにもかかわらず、その知的巨人さゆえに、またキリスト教との結びつきにおいて宗教的権威付けがされたため、彼の知的体系全体が中世を通じ疑われることなく崇拝の対象となった。これが後にガリレオ・ガリレイの悲劇を生む要因ともなる。
中世の知的世界はアリストテレスがあまりにも大きな権威を得たがゆえ、誤った権威主義的の知の体系化がなされた。しかし、その後これが崩壊することで近代科学の基礎が確立し、人間の歴史は大きく進歩したとも言われる。
補足すると、アリストテレスの誤りの原因は、もっぱら思弁に基づいた頭で作り上げた理論でしかなく、事実に立脚していなかった。それゆえ近代科学によって理論の崩壊をみたが、それがその後に「Fact finding(事実を見出だしてゆくこと)」が新しい原理となったとする見解がある。

 

続・アミメキシタバ

 
   『網目男爵物語』

 
網目男爵は孤独だった。
妻には早くに先立たれていて、子供もいなかった。
芦屋の邸宅はいつもひっそりとしており、邸内には男爵と執事の近本しかいなかった。

男爵が再婚しなかったのには理由がある。自分の容貌に自信が無かったのだ。本来の容貌は悪い方ではない、と自分でも思う。中には『端正な顔なのに、勿体ないねぇ。』と言ってくれる人もいる。
しかし、その端正な顔の上に、生まれながらの網目模様の痣(あざ)がある。それが今では男爵にとって大いなる劣等感になっている。
妻と出会った頃は、まだ良かった。人間は見た目ではなく、中身だと信じていたからだ。ゆえに臆することなく自然に振る舞えていた。妻はたぶん、そういうところを気に入ってくれたのだと思う。
しかし、妻が亡くなった後、お見合いの機会があり、その時に相手の女性から『何だか蛇の鱗みたい。』と言われて、心が瞬間的に瓦解した。そこで初めて、改めて自分の容貌の気味悪さに気づいてしまったのだった。
それ以来、男爵は努めて人と極力接触しないように生きてきた。自分の脆弱なガラスのようなコンプレックスに触れられたくはなかったからだ。

そんな男爵にも、唯一の慰み事があった。
それが蛾を蒐集する事だった。皆がチヤホヤする蝶には全く興味は無かった。華やかなものに対する厭世感の投影なのかもしれないと男爵は思う。しかし、同時に男爵は世間に忌み嫌われる蛾の中に、この上もない美を見い出していた。そこには、蝶にはない複雑で変化に富んだ隠微な魅力が在った。控えめでいて、ゆるぎのない美しさを感じたのだった。
ふと、男爵は思う。そういえば妻もそういう人だったのかもしれない。

そんな蛾の中でも、特に男爵のお気に入りのグループがあった。ヤガ科 シタバガ亜科のカトカラ(Catocala属)と呼ばれる蛾たちだった。
シタバガと言うように下羽に特徴があり、普段は上翅に隠された美しい下翅が、時にハッとするような鮮やかさでもって男爵を魅了するのである。黄色、オレンジ、朱色、ピンク、紫、白、紺といった豪華絢爛とも言える色が闇の絵巻のように明滅するのだ。
だから毎年夏になると、度々その美を求めて執事の近本を従えて夜の山へと訪れる。

或る夏の日の出来事だった…。
その日は体調が悪いと言う近本を伴わず、男爵は一人で山に入った。

荘厳な夕焼けが色を失った直後だった。何気に振り返ると、若い女性が立っていた。夕暮れの柔らかい風に、辛子色のワンピースの裾が静かに揺れている。
年齢は20代後半くらいだろうか、ほっそりとしており、どこか嫋(たお)やかな佇まいがある。残光に照らされた横顔は憂いを帯びて美しい。
男爵は一瞬、その姿に魅入られた。しかし、すぐに訝(いぶか)る心が芽生えた。こんな時刻のこんな場所に、なぜ若い女性がいるのだろう❓ 夕焼けを見に来た❓ まさかこんな場所に一人で❓ どうにも違和感が有り過ぎる。
男爵は不安を打ち消すかのように、彼女に声をかけようとした…。

と、ここまで書いて、何やってんだ俺❓と思う。
全ては酔っ払いの為せるわざだ。何となく試しに網目男爵の物語を書き始めたら、気がつけば勝手に筆が動いていた。妄想まで出だしとあらば、病院に行った方がいいかもしれない。オラも網目男爵と同様に、心に深い疵(きず)を負っているのやもしれぬ。

気を取り直して、本来書くべきことに戻ろう。
象は草原に帰り、オランウータンは深い森に帰る。誰しもが本来あるべき場所に戻らなければならない。

 
2019年 7月17日。
奈良でマホロバキシタバの分布調査をしている折りに、アミメキシタバも採れた。
マホロバにしては小さいし、何か変だなと思ってよく見たら、アミメだった。ここにはアミメなんていないと思っていたから、ちょっと驚いた。
7月10日にマホロバを発見して以来、毎日のように此処を訪れている。なのに見ないから、いないと思っていたのだ。それに奈良市にいるなんて聞いたことがない。知っている一番近い産地は生駒山系南部の八尾市。そのすぐ東側の矢田丘陵では、去年足繁く通ったのにも拘わらず一度も見ていない。生駒山地北部の四條畷周辺の山でも見ていない。八尾市に連なる山地に分布しないのならば、そこからそう離れていない奈良でもいないだろうと考えるのが自然な流れでもあった。

 

 
この日は2頭採れたから偶産ではなさそうだ。鮮度が良いことからも此処で発生したものだろう。遠方からの飛来ではないと言い切ってもいい。鮮度もあるし、遠くに移動するならば、もっと遅い時期だろう。

にしても、何か変だ。発生時期としては遅くないか❓ 八尾市では7月上旬辺りから発生しているという。八尾のポイントは詳しくは知らないが、大体の予測はついている。因みに麓にある恩智神社で標高約100m、奈良で採れた所が約110mだ。さして標高は変わらないのにナゼに発生期がそんなにズレるの❓
いや、待てよ。今年は蝶の発生が1週間以上遅れているとも聞く、ならば蛾の発生も遅れているのかもしれない。
まあ1週間程度なら物凄く発生が遅いと云うワケではないから、取り立てて言う程のことではないかもしれない。とにかくマホロバと比べて1週間遅い発生のお陰で助かったと云う思いはある。
もしもマホロバを発見した日にアミメも同時に採れていたなら、気づくのはもっと遅れたかもしれない。例えば、もし最初に採ったものがアミメならば、他も全部アミメだと思い込んでいたに違いない。
否、そんなワケないな。展翅したら同じだ。同じように変だと気づいてた筈。むしろ両者が並んでたら、もっと気づき易いやね。そこに「If」は殆んど無いと言っていい。アミメが居ようが居まいが見つけてたわ。

 
2019年 7月20日。
この日も奈良市で、いくつか採れた。
これで偶産ではないことは決定的と言えよう。アミメはここで間違いなく発生している。そう断言してもいい。

 

 
ポイントは前とは違う場所だ。つまり、この山系には広範囲に居る可能性が高いと推測される。

では、ここではアミメの幼虫は何を食樹としているのだろう❓
アミメキシタバの幼虫の食樹の項を見ると、大概のものには「アラカシ、クヌギなど」、もしくは「アラカシ、クヌギ、アベマキなど」と書いてある。「など」が無いのは岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』の「これまで幼虫はアラカシ及びクヌギで得られている」という記述くらいだ。
この「など」って、何なのだ❓ その「など」については何ら言及されてはいない。何を指して「など」なんぞと書かれてあるのだ❓ ワカラン。それってみんな、孫引きなんじゃありゃしませんか(# ̄З ̄)

この地域の植物相は、中央に古い照葉樹林があり、それを囲むようにしてクヌギ、コナラなどの落葉広葉樹を主体とした雑木林が広がっている。あっ、ワシも早々と「など」を使ってしまったなりよ。コレは説明しなくとも解るとは思うけど、特定の樹種のことを言いたいワケではなくて、単に落葉広葉樹が多い植物相だって事を示したいだけだす。

調べたら、この地域には一応、以下のようなブナ科植物があった。

アラカシ、イチイガシ、ウラジロガシ、ツクバネガシ、シリブカガシ、アカガシ、ツブラジイ、スダジイ、シラカシ、クヌギ、コナラ、アベマキ。
他にツイッターにマテバシイというのもあったが、見たことも聞いたこともないし、疑わしいところがある。どちらにせよ、有ったとしても少ないだろうから、メインの食樹としては除外してもよいだろう。

有望じゃないかと思ったウバメガシは、小太郎くんを始め、色んな人に尋ねたみたが、此処には自生する木は殆んど無いそうだ。あるとしたら、民家の生け垣なんかに使われているものくらいとの事。と云うことは、ウバメガシの可能性は除外せざるおえない。

スダジイは多く見られるが、こちらは元々海岸沿いに自生するもので、おそらく植栽されたものだろう。利用している可能性は無いことはないが、元々の食樹ではなかろう。

シラカシは近年街路樹等を中心に植栽される事が多く、家の近所でもよく見かける。だが、これも本来は関東周辺から東に自生するもので、元々西の地域には少ないものだ。除外しよう。

シリブカガシは北部に纏まって自生しており、ムラサキツバメの食樹にもなっている。しかし、他ではそんなにあるようには思えない。可能性はあるが、印象的には無いと思う。シリブカガシもあまりポピュラーな木じゃない。

ツブラジイ、ウラジロガシ、アカガシ、ツクバネガシは結構自生しているそうだ。これも利用している可能性はあるかもしれない。しかし、何れもカトカラの食樹として記録された例が無い。予断は禁物だが、主たる食樹ではないだろう。

残るはイチイガシ、アラカシ、クヌギ、コナラである。
イチイガシは利用している可能性はある。しかし、この木は、そうどこにでもある木ではない。アミメキシタバの他の分布域で見られることは少ないだろう。ゆえにこれも主食樹からは除外してもよさそうだ。

コナラは何処にでもあるが、今までアミメの食樹としては記録されていない。何処にでもあると云うことは、コナラで幼虫を探した人はそれなりにいた筈だ。にも拘わらず発見されていないと云うことは、外してもいいだろう。

逆にアベマキはあまり見ない。利用しているのだろうが、コレまた主要な食樹ではないとみる。

残ったのは二つ。アラカシとクヌギだ。
どちらも地域内には有り、食樹としても記録されてもいる。だが、クヌギは意外と少ない。コナラの方が多いように思う。
たぶん、クヌギは二次的利用で、多くはアラカシを利用しているものと思われる。
何か印象でばっか言ってて、あまり科学的な検証とは言えまいが、おそらく合っているのではないかと思う。

でもなあ…、クヌギは北海道には自生していないから、アミメは分布していないとは知っているけれども、アラカシの分布はどうなんだろ❓
しゃあない、調べてみっか。

Wikipediaによると、クヌギは日本では岩手県・山形県以南の各地に広く分布し、アラカシの北限は宮城-石川とあった。
アミメの分布図を見ると、大体それと合致する。

 
(出典『世界のカトカラ』)

 
(出典『日本のCatocala』)

 
より踏み込んで言えば、アラカシとアミメの分布の方が、より重なっているように思える。
勝手に解釈すると、やはり幼虫はアラカシを主食樹としており、二次的にクヌギを利用しているのではないかと思う。

あっ、思い出した。
そういえば、今年はナマリキシタバを探しに兵庫県の武田尾渓谷に行った時もアミメを採ったなあ…。あそこも全体的にアラカシが多いもんなあ。よし、アラカシで決まりだーいd=(^o^)=b

でもアラカシって、何処にでもあるんだよなあ…。
その割りにはアミメの分布は局所的とされる。
( ´△`)うわ~、何かメンドクセー。また、変なところに首突っ込んじゃったよ。
よし、こうしよう。アミメはアラカシが沢山ある所には大概いる。でも単に探してる人が少ないだけで見つかっていないだけだ。そういう事にしちまおう。
ガ好きはチョウ好きと比べて圧倒的に少ない。人気者のカトカラと言えども、愛好者の数はたかが知れている。分布調査が進んどらんのだろう。

シャンシャンで、これでクローズできたかと思った。
けんど、この後で西尾規孝氏の『日本のCatocala』の中に、こんな記述を見つけてしまった。

「(食樹は)アラカシ、クヌギ、アベマキ、ウバメガシ、コナラなどでコナラ属全般を食餌植物としているとみられる」

(ФωФ)ニャーゴー、また1からやり直しだ。
ウバメガシも食樹としているというならば、やはりオイラの予想は的中だね。それは嬉しい。しかし、コナラというのが気にかかる。また、ややこしいのが出て来ましたなあ…。
クソッ、コナラの分布も確認しまんがな。

コナラは北海道、本州、四国、九州、朝鮮半島、中国に分布するとある。北海道にも有るんだね。と云うことは、もしアミメの主要食樹なら、もっと北に分布を拡大しててもおかしくない筈だ。いや、アミメは南方系の種だから無理か…。けど、分布を拡大してるとかって何かに書いてなかったっけ?
しかし、コナラは無いな。コナラが主要食樹ならば、もっと普通種であってもいい筈だ。そうゆう事にしておこう。

それはさておき、何でこの『日本のCatocala』にだけウバメガシとコナラが食樹に入れられてんだ❓
他の図鑑等の文献には出てこんぞ。この図鑑は自費出版で刷数が少なく、値段も8万円くらいと高価だから読んだ人があまりいなくて孫引きされてないだけ❓
にしても、ウバメガシ、コナラというのは、どこからの情報なのだろう?著者御自身で確認されたのだろうか?またそれは自然状態での事なのか、飼育実験での事なのか、どっちなのだ?気になるところではある。

それはそうと、やっぱりここでも「……、ウバメガシ、コナラなど」と「など」が出てくる。「など」の中身は何やねん❓他にもあるのか❓アカガシか❓、それともウラジロガシかあ❓

えーい(ノ-_-)ノ~┻━┻、アカガシもウラジロガシも分布を調べたろやないけー❗
とはいえ、だいたいの想像はつく。アカガシはゼフィルス(蝶=シジミチョウの1グループ)のキリシマミドリシジミ、ウラジロガシはヒサマツミドリシジミの主要な食樹だ。
ヒサマツの分布が神奈川県丹沢山系と新潟県の糸魚川辺りが東限とか北限ではなかったかと思う。キリシマは太平洋側が伊豆半島以西(丹沢かも)、北限はどこだっけ?新潟とか石川なんかにはいなかった筈だ。となると滋賀県か?いや、島根県の隠岐の島❓何かどうでもよくなってきたぞ。とにかくキリシマもヒサマツも本州の西側が分布の中心だ。
Wikipediaによれば、アカガシの北限は本州の宮城県・新潟県以西、ウラジロガシは本州の宮城県・新潟県以南とあった。同じってことだ。蝶よか、もっと北まで自生しているんだね。ヒサマツ、キリシマの分布とは微妙に異なり、ピッタリ一致はしないってワケだな。むしろアミメの分布と重なっているような気がする。
(◎-◎;)何か頭がこんがらがってきたぞ。ちょっと頭の中を整理しよう。
ヒサマツもキリシマミドリも奈良市、六甲山地には分布していない。でも、どちらの地域にもアカガシ、ウラジロガシ共に自生しているようだ。つまり、ヒサマツもキリシマも分布は局所的であり、食樹以外の条件も整わないと棲息できない特殊な蝶と言えよう。だから、この際ヒサマツもキリシマも頭から除外しよう。こんなもんと絡めてしまうから、ややこしくなるのだ。
と言いつつ、ここでまた蝶を持ってくる。しかも特殊な蝶であるルーミスシジミだ。奈良のこの森は、絶滅してしまって久しいが、かつてはルーミスの多産地であった。ルーミスの食樹といえば、イチイガシとウラジロガシである。しかし、どちらも自生する場所が少ない。ゆえにルーミスは分布が極限されると言われている。けれど、此処には両者とも沢山自生する(因みに、ルーミスがアカガシに産卵した例やアラカシより幼虫が得られたという報告もある)。
ここから強引に結論に持ってゆく。つまり、アミメキシタバは此処ではイチイガシもウラジロガシも食樹として利用している。アカガシ、アラカシ、クヌギ、コナラも食っている。六甲のものは、アラカシ、クヌギ、コナラ、ウバメガシ、アカガシを食樹として利用している。それで、もういいじゃないか。

そういう観点で冷静に見ると、この『日本のCatocala』の中の「など」は、少し他の「など」とは使い方のニュアンスが違うような気がする。後に続く言葉「コナラ属全般を食餌植物としているとみられる」と関連づけた「など」であれば理解できる。ようするに、コナラ属なら何でも食うという前提のもとでの「など」ならば、文章として辻褄が合ってると解釈できるって事だね。

それを確認するために、もう一度文章を読み直すと、その後ろに更なる文言が付け加えられている事に気づいた。
そこには「本来の食樹は成虫の分布から、カシ類、アベマキとみられる。」と続けられていたのだ。
Σ(T▽T;)ワキャー、マジ最悪の展開になってきた。
実をいうと、この食樹のくだり、あとがきも含めた全体の文章の最後に書いている。ここを書き終えさえすれば、フイニッシュだったのだ。サクッと終わらせるつもりが、何なんだ❓、この泥濘(ぬかるみ)ノタ打ち具合は❓

カシ類ってのは、あまりにザックリだし、ここへきてアベマキとは驚きだよ。
カシ類の何なんすか❓特定して下さいよ。
アベマキ❓何でクヌギではなくてアベマキなのだ❓
(# ̄З ̄)もー、アベマキについても調べなくてはならぬよ。

日本、中国、台湾、朝鮮半島に多く自生している。日本では、関東地方から四国・九州の山地に自生し、西日本では雑木林に普通にみられる。

普通に見られる❓
そうだっけ?関西ではクヌギの方が多いイメージがあるんだけど…。気になるので更に調べてゆくと、驚くべき事実が解ってきた。
関西ではアベマキと云う言葉はあまり聞かないし、名前さえ知らない人が多いと思うけど、アベマキは関西ではクヌギよりも多く自生している木らしい。ネットの素人っぽい方の情報だから鵜呑みは禁物だけどさ。

クヌギとアベマキはとても似ていて、混同されやすい。たぶん小さい時から、周りの大人にカブトムシが集まる木はクヌギだと教えられてきたので、それらしきものは全部クヌギだと脳が判断するように出来てしまっているのだろう。確かに自分の頭の中では、クヌギもアベマキもコナラもゴッチャになっている。区別せよと言われれば、一応蝶屋だから区別できるが、樹液が出てる木なら何だっていいと云う見方しかいていないのだ。これは自分が蝶の飼育をしないからだろう。木を何かの食樹としては、あまり見ていないのだ。だから特別な場合を除き、普段は似たような木を厳密的に区別する必要性を感じていないのである。

一応、クヌギとアベマキの違いを書いておこう。
ネットに『Quercusのブログ』という優れたブログがあったので、その解説をお借りしよう。

①クヌギの葉裏は無毛で緑色。アベマキは星状毛が密生し、白っぽい。また、アベマキの葉はクヌギよりもやや幅広である。

②クヌギの樹皮は灰褐色で、指で押しても硬い。アベマキの樹皮はクヌギよりも明るい灰色で、コルク層が発達し、指で押すと弾力がある。

③どんぐりはクヌギは球形、アベマキは楕円形であることが多い。アベマキのどんぐりはクヌギよりも色が濃く、殻斗の鱗片は長い。どんぐりはクヌギの方が大きい。

解り易い説明だね。

自分的には、アベマキはクヌギよりも樹皮がゴツゴツしている事。葉がクヌギは細長く、アベマキはそれに比べて幅広な事。アベマキはクヌギよりも樹高が高く、大木が多いって感じで区別している。

このサイトには、他にも重要なことが書いてあった。

「クヌギ、アベマキの国内での分布は以下の通り。
クヌギ:岩手県・山形県以南~屋久島・種子島。沖縄県まで植栽。(クヌギは薪炭材を得る目的で植栽されたものも多く、自然分布ははっきりしない)
アベマキ:山形県・長野県・静岡県以西(紀伊半島を除く)~九州。
両者はすみわけをしており、東日本にクヌギ、静岡県(大井川流域以西)・石川県より西がアベマキの林になる。
大阪府周辺の山ではアベマキはある場所とない場所があるという。
また、紀伊半島にアベマキは自生しないらしい。
このように、アベマキは特異的な分布をしている。」

大阪府周辺の山ではアベマキはある場所とない場所というのは、よく解る。だから、あまりアベマキのイメージが強くないのかもしれない。知らなかったが、紀伊半島にアベマキは自生しないと云うのもアベマキの印象を薄くしているのだろう。
アミメキシタバって、紀伊半島にはバリバリいるよなあ…。って事は、紀伊半島のアミメの食樹は別に有るって事だね。やはり一番利用されているのはアラカシ、もしくはウバメガシなんでねーの。

続きを読もう。
「また、クヌギは朝鮮半島からの移入種であり、日本にあるものは全て植栽されたものという説もある。
中国では標高600~1500mにアベマキ、標高900~2200mにクヌギが生育しているという。
私の推測の域だが、元々日本にはクヌギはなく、暖地性のアベマキが分布しない地域(静岡県・石川県以東)に薪炭材を得る目的でクヌギを植林し、現在のようなすみわけになったのかもしれない。」

クヌギは昔の里山では薪や炭として利用価値が大きく、植栽が進んだとは知っていたが、完全な移入種とする説があるとは知らなかった。
もしそうならば、クヌギはアミメの本来の食樹ではないと云う事になる。となると、西尾氏のアベマキを本来の食樹の1つとする言は慧眼かもしれない。
しかし、やはり生息環境からみれば、基本的な食樹は常緑カシ類だろう。アラカシを中心に常緑カシ類、特にコナラ属ならば何でも食うのだろう。で、二次的に落葉性のコナラ属も利用している。そうゆう事にしておこう。もう、ウンザリなのだ(ノ-_-)ノ~┻━┻
でも、そうなると、カシワ、ナラガシワ、ミズナラも利用しているの❓
(-“”-;)もう、やめとこ。

 
2019年 7月21日。
去年に引き続き、クロシオキシタバ狙いで六甲方面へ行った。

夕方前、木に静止しているアミメを見つけてゲット。

 

 
静止位置は目線のやや上、上下逆さまてはなく、頭を上向きにして止まっていた。
カトカラたちは、昼には頭を下にして逆さまに止まっているが、夜は普通に頭を上にして止まっている。
では、いつ逆さま止まりから上向き止まりになるのだろう❓ そもそも、何故に昼間は逆さまに止まるのだ❓しかも昼間に驚いて飛んだ場合、上向きに着地して一旦静止。暫くしてから、また逆さまになるという。ワザワザもう1回逆さまになると云うことは、そこには何らかの意味があるということだ。
でも、考えても意味も必要性も全くワカラーン。
この逆さまになる理由については、誰も何処にも言及していないと思う。誰か、解りやすく説明してくれんかのぅー( ̄З ̄)

夜になって、シッチャカメッチャカになったけど、それなりの数のアミメを確保できた。その辺の顛末は、前回の『網目男爵』、前々回の『絶叫、発狂、六甲山中闇物語』に詳しく書いたので、ソチラを読んで下され。

何度も使っている写真だが、この日採ったものの一部を貼付しておく。

 
【Catocala hyperconnexa アミメキシタバ♂】 

 
【同♀】

 
【同裏面】

 
それなりに採った筈なのに、画像があまり無い。
おそらく面倒臭いので、展翅はしていても写真には撮っていないのだろう。やっぱりアミメキシタバに対しての愛が少ないのかなあ❓

 
                    おしまい

 
追伸
いやはや、冒頭部がまさかの小説風の入りになろうとは自分でも予想外の展開だった。
網目男爵とカトカラを引っ付けた話だなんて、メチャメチャ過ぎて最初から無理だと思っていた。しかし、アルコールの力、恐るべしである。突然、何かが降りてきて、一気に書いた。
翌日に、誤字脱字「てにをは」句読点は一部修正したものの、あとは全文ほぼその時のままである。
また何かが降りてきてくれたら、続きを書けるかもしれない。まあ、どうせ泥酔酒バカ男と化すだけで、そんな都合よくいく事なんて有り得ないと思うけど(笑)。

今回は、かなり短くなると思ってた。それゆえの網目男爵の冒頭文の発想も出てきた。相当短いツマンナイ回になると思ったから、潜在意識の中に何かしらアクセントをつけようという考えがあったのかもしれない。駄文製造家にも、少しでも面白くしようと云うそれなりの気づかいがあるのだ。結局、最後に食樹のところで躓いて、又しても長文になっちゃったけどね。

次回は、やっと書きたかったカトカラについて書ける。謂わば、ソレとアレの2種類についての採集記が書きたくて、この『2018’カトカラ元年』のシリーズを始めたのである。
でも、思った以上に書くのは大変で、始めた事を後悔している。ソレとアレの事だけを書いときゃよかったのに、下手に完璧主義的なところがあって、前後時系列の中での、その文章であって欲しい。そういう無意識下の願望があったのかもしれない。謂わば、ソレとアレを書くために今まで駄文を重ねて来たのだ。
(-“”-;)しまった…。自分でハードルを上げてどうする。
けど、次回取り上げるカトカラも一年半近く前の話だもんなあ…。結構色んなことを忘れてるかもしんない。気合いだけ空回りして、ドツボの回になったりしてさ。
クソッ、いっそ全文小説風、しかも純文学風で押し通してやろうかしら( ̄∇ ̄*)

 
《参考文献》
・『世界のカトカラ』石塚勝己 月刊むし
・『日本のCatocala』西尾規孝 自費出版
・『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』岸田泰則 学研
・『みんなで作る日本産蛾類図鑑』インターネット
・『ギャラリーカトカラ全集』インターネット 
・『兵庫県カトカラ図鑑』阪上洸多・徳平拓朗・松尾隆人 きべりはむし
・『Quercusのブログ』インターネット

 

2018′ カトカラ元年 其の十

 
 vol.10 アミメキシタバ

   『網目男爵』

 

採集過程は前々回のクロシオキシタバの回で既に詳しく書いているので、おさらいでサラッと書きます。
あっ、忘れてた。その前に八尾のことを書いておこう。

7月中旬には記録のある大阪府八尾市に行く予定だった。しかし、去年にマルタンヤンマを探しに行った折り、物凄い数の目まといに襲われてエラい目にあった。奴ら、目の中に入ってくるので死ぬほど鬱陶しい。ワシ、サバンナのライオンちゃうぞ、(#`皿´)ボケッ❗

オイちゃん、網を振りまくって彼奴(きゃつ)らを拿捕し、網の上から纏めてグシャグシャに握り潰しまくってやった。殺戮ジェノサイドである。殺意はとどまることを知らず、爆殺💥カーニバル。少なくとも五百匹は殺してやったと思う。
普段は「生き物は大切にしましょう。」なんて言ってるクセにコレである。酷い男なのだ。
世間には、こういう言葉を正義感ぶって吐く者が多いが、ハッキリ言って欺瞞である。アンタら、家にゴキブリが湧いたら殺さへんのかーい❗蚊にたかられたら、叩き潰さんのかーい❗❓
まあいい。そんな事はどうでもよろし。
兎に角そう云うワケで、もうマルタンヤンマどころではなくなって、殺戮に明け暮れてヘトヘトになってしまったのであった。それを思い出して、行くのを躊躇しているうちに、いつしか7月下旬になってしまった。

 
2018年 7月26日。

この日は明石城跡に出掛けた。
ここにアミメキシタバとクロシオキシタバの両方の記録があったからだ。一挙に2つ合わせて採ってやろうと云う算段だった。
しかし、両者とも姿さえ見ず。惨敗を喫する。

 
2018年 8月1日。

取り敢えず先にクロシオキシタバを落とそうと思い、六甲へと向かう。
調べて、ここに幼虫の食樹であるウバメガシが多いと突き止めたからだ。
山中に入り、すぐクロシオを仕留める。その後、予想外のアミメまで採れた。

 
【アミメキシタバ】

 
個体数は多く、殆んどは樹液に飛来したものだった。
尚、途中でクロシオがド普通種のパタラ(C.patala)に見えてきて、アミメがクロシオに見えてきた。で、クロシオを無視してアミメばっか一所懸命に採るという大失態をしでかしてしまった。情けないけど、カトカラ1年生は下翅の黄色いキシタバ類の区別がロクにつかんのだよ、もしぃ~(´∇`)
でも、これからカトカラを集めようと思ってる人は笑ってらんないよー。アンタらもゼッテーにワケわかんなくなっからね。

と云うワケで、ここにはクロシオを採り直しに8月4日にも再訪した。勿論クロシオをシバき倒して、アミメもシバき倒してやった。

以上である。
Σ( ̄O ̄)ワオッ、要約すると、こんなにも短くできるのね。ワシ、どんだけ枝葉の話ばっか書いとんねん。

あまりにも短いので、当時Facebookにあげた記事を一部訂正して再録する。

『アミメキシタバ❗❓ 採った瞬間、直感的にそう思った。
しかし、ウバメガシの森なのにコレばかり飛来するから、次第にコヤツがクロシオキシタバでは?と思い始めてワケわかんなくなってきたなりよ。で、とりあえずコレ中心に採ってた。
でも普通のキシタバ(C.patala)じゃろうと無視してたデカめなのが、今思えばたぶんクロシオに違いない。そんなデカイだなんてネットの記事や図鑑にはどこにも書いてなかったどー(-_-#)
(# ̄З ̄)むぅー、クロシオは夕方に道中で最初に採ったもの(コレも直感的にはクロシオだと思った)と、他にもう1頭しかないから、明日また行くつもり~。

 
【クロシオキシタバ】

 
けど六甲は坂がキツイから憂鬱なんだよなあ…。明日もクソ暑いそうだから熱中症になりかねんわい。
それに、明日は淀川の花火大会だ。まともな脳ミソの持ち主ならば、どう考えてもソチラに行く方が賢明だと判断するじゃろう。せやけど、人が多いのもイヤだしなあ…。(# ̄З ̄)ブツブツ。』

書いたことはすぐ忘れる性質(たち)なので、自分が書いた文章だとは思えなくて、ちょっと面白かった。
書いたばかりの自分の文章を読むのは嫌いだが、時間が経ってから読む自分の文章は割合好きだ。だって、本人が何を書いたのかをあまり憶えてないから、他人が書いた文章のように読めるのである。時々、自分で書いといて、吹き出してしまう事だってある。コイツ、アホちゃうかと思って笑ってしまうのである。でも、よくよく考えてみれば、自分の書いた文章で爆笑とかって滑稽だ。で、何だか変テコな気分になる。

また、前々回のクロシオの文章や今回の要約文とはタッチが微妙に違うのにも驚いた。オイラって、その日の気分で文章を書いてる人なんだろなあ…。プロットとか、あんましないのだ。全体を考えてから文章を書き始めるタイプではなくて、書いてるうちに何となく文章が出来上がってゆく、謂わば行きあたりバッタリの人なのだ。緻密さなんて、全然ないのさ、ぷっぷっぷー。
何か納得したところで、話を前へと進める。

その時に採ったものの一部を並べておく。

 
【アミメキシタバキシタバ♂】

 
展翅、へったクソやなあ。
カトカラ1年生は展翅バランスが分からなくって、上翅を上げ過ぎてるのさ。蝶の展翅とはバランスが違うのに中々気づかなかったのである。前縁と頭部の周辺に空間が開くのが蛾では当たり前だと知らなかったんだもん。秋田さんに言われて、漸く気づいた。言われた時は、ちょっと気色ばんだけど、今では感謝してる。

もう1つ♂っぽい画像が出てきた。↙
けど、これってホンマに♂かいな❓
腹の形が♂っぽいけど、上翅の感じが♂らしくない。

 

 
アミメの♂の上翅はベタな茶色なのだが、この個体は白斑がやや出ていて、コントラストもある。♀には上翅に白斑が入るものが多いが、♂にもそのタイプって、いたっけ❓
単に腹が伸びちゃっただけ❓
それに♂の特徴である尻先の毛束も少ないような気がする。
(;゜∇゜)アカン…、上から三番目も♀に見えてきた。カトカラは基本的には雌雄同型なので、しばしばオスとメスがわかんなくなる。カトカラも雌雄異型なら、更に人気が出るのになあ…。蛾って、フユシャクとかは別にして、あんまし雌雄異型というイメージがない。雌雄が異型のものは進化した種で、同型のものは旧いタイプの種とかっていう見解は無いのかね❓聞いたことないけど。

 
【アミメキシタバ♀】

 
上翅が上がり過ぎだけでなく、触角も酷いことになってるな(笑)
たぶん、カトカラの触角は細くて長いから、すぐ切れるので頑張らなかったんだと思う。蛾の展翅写真って、下手なのが多いし、こんなもんでいっかと思いがちなのだ。べつに上手いと思われなくてもいいやと思ってたフシがある。蝶は好きでも蛾は嫌いという感情が、まだ色濃く残ってたところもあるんだろね。ようするに、対象物に対しての愛が少なかったのである。

多くの♀が上翅に白斑が出て、白いポッチ(腎状紋)がある。それで、雌雄の区別はある程度できる。
♂よりも♀の方がコントラストがあるから、見た目はまだマシかな。あっ、コレってアミメに愛があんまし無いって言い草だな。
認めよう。小さいし、茶色だし、帯が太いから黄色いところが少ないので、あまり魅力を感じない。採れた当初は嬉しかったが、今となってはアミメなんてどうでもいい存在なのだ。

 
【裏面】

 
他のキシタバと比べて、黒い領域が多い。中でも特に上翅の内側が黒いという印象がある。個体によるだろうけど、大体そこで他種とは見分けがつく。

展翅が酷いので、一応今年のものも並べておこう。
展翅によって種のイメージも変わりかねないからね。

 

 
上から♂、♀、裏面。
比較用にクロシオキシタバの裏面画像も貼っつけておこう。

 

 
全然、ちゃいまっしゃろ。
殆んどの図鑑には裏面が図示されていないし、違いについても言及されていない。それって、どうよ❓ダメじゃなくなくね❓
裏面が、種の同定をするにあたり重要な意味を持つ場合だってあると思うんだけど…。

 
【学名】Catocala hyperconnexa(Sugi,1965)

おそらく蛾の高名な研究者である杉 繁郎氏の記載であろう。
御本人に学名の由来をお訊きすれば、簡単で話も早いのだろうが、残念ながら既に他界されておられる。
取り敢えず、自分で調べてみっか…。岸田せんせや石塚さんに訊くのは、それからでも遅くはないだろう。

頼みの綱の平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』には、残念ながら同じ学名の蝶はいなかった。近いものに、以下のようなものがあった。

[hyperantthus(ヒュペラントス)]
ミヤマジャノメの小種名。ヒュペラントスはアイギュプトスの50人の息子の一人。リンネの命名。

[hypereia(ヒュパレイア)]
トンボマダラ科の1種。

[hyperia(ヒュパリア・ヒュパレイア)]
ヘリアカタテハの小種名。
ヒュパレイアはテッサリアの町ペライの泉の名。ペライはアドメートス王の居所(ラテン語辞典)。なお、ヒュペレイア Hypereiaはギリシア語。一方のHyperiaはラテン語で、大洋神オーケアノスの娘、テッサリアのペライにある泉の精を意味する。

[hypermnestra(ヒュペルネーストラー)]
ルリモンジャノメの小種名。
ヒュペルネーストラーはダナオスの50人の娘の一人。

相変わらず、ギリシア神話って全然アタマに入ってこない。固有名詞がチンプンカンプンである。
それはそうと、読みはハイパーコネックスじゃないんだ。久し振りに学名のことを書くので、無意識に英語読みしてたよ。学名は基本的にラテン語読み、もしくはギリシア語読みなのを忘れてたわ。となると、ヒュパルコネクサ❓ヒュペルコネクサ❓まあ、そんなもんじゃろう。

他にも蝶の属名に Hypermnestra というのがあるようだ。また種名にも hypermnestra が使用されており、マダラチョウ科のIdea属、タテハチョウ科のMestra属にそれぞれいるみたい。

見た感じ、学名の小種名はおそらく何かと何かを組み合わせた造語だろう。たぶん、hyper と connexa という単語が合体したっぽい。和名のアミメと下翅の特徴から、下半分の connexa は、英語のコネクト(connect)を類推させられる。意味も「連結する、接続する、繋げる」といった意味の動詞だから、イメージとも合致する。つまり、アミメキシタバの最大の特徴は下翅下部の黒帯が2ヶ所で繋がるって事ね。ようは日本のキシタバ類の中では、一番繋がってるがゆえの命名なのだろう。

更に調べると、ラテン語に connnexio(コンネクシォ)という言葉があるみたいだ。意味は同じく「絆、共に繋ぐこと」だそうだ。因みにラテン語には、connecto(接続する)という言葉もある。これもまた2つの言葉が組み合わさったもののようだ。con-(一緒に)+necto(結び付ける)➡ gned-(縛る)が語源とされる。「結び合わせること」が、この単語のコアの意味との事。

前半部の「hyper」は、英語だとハイパーだよね。「上」「超越」「向こう側」を意味する英語の接頭語だ。これはギリシャ語のヒュペル ὑπερ (hyper) が語源。似た意味を持つ接頭語に、ラテン語に由来する「スーパー」「ウルトラ」「アルテマ」などがある。いくつかの分野では、やや厳密な意味を持ち、英語の「over」や「above」にあたるとあった。

何だか小難しい表記だなあ。
孫引きばかりで、解りづらくてスマン。
ようは、杉さんはメチャンコ黒帯が繋がっているということを表現したかったのだろう。
多くの学者さん(杉さんの事ではない)は賢すぎて、難解な文章を書かはるから、アタマ悪りぃオイラには何を言わんとしているのかを理解するのは大変だ。
たとえ高尚な文章でも、難解ならば相手に意味が伝わらない。それって、本末転倒だ。アタマいいって、アタマ悪くないか❓

 
【和名】
和名は下翅の黒帯が網目模様のように殆んどが繋がることからの由来だろう。結局、皆そこへ行っちゃうのね。

特に優れた和名とは思わないが、他に適当な和名がないというのも事実だ。
ちなみに、別名にハイイロキシタバなんてのもあったようだが、全く使われていない死語になっている。
そもそも何処が灰色やねん?それに他によく似た名前のハイモンキシタバがいるから、混乱を招きかねない。消えて当然でしょ。

けど、あとで語源がわかった。どうやら腹部が灰黄褐色な事から名付けられたようだ。でも何度と採っているのにも拘わらず、そこには全く気づかなかった。たいたい翅の特徴ではないと云うのが承服しかねる。そもそも余程の色の違いがなければ、そんなもん気づくかボッケーッ(*`Д´)ノ❗❗である。消えて当然の和名ざましょ。

また、学名の小種名をそのまま使うという和名のつけ方があるが、これもアウトだな。ヒュパルコネクサキシタバなんてクソ長いし、舌を噛みそうだ。アミメキシタバで妥当だろう。今のところ、和名に意義なし。

余談だが、こうした後翅の中央黒帯と外縁黒帯が2ヶ所で繋がるパターンのキシタバ類が、近年になって中国やインドシナ半島北部から幾つも発見されているそうだ。何れの種も照葉樹林への依存度が高いと推察されている。
或いは日本にも従来アミメキシタバとされてきたものの中に、隠蔽種の別種が混じっているかもしれない。自分たちが発見した Catocala naganoi mahoroba マホロバキシタバなんかも、その一つの例だろう。黒帯は繋がらないけどさ。

 
【翅の開張】
ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には、前翅長26~28㎜とあったが、これは間違い。3センチって、極小やないけ。それだとカトカラ1のチビッ子になってまうやんけ。
対して岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』には、開張53~59㎜とあった。コチラが正解だろう。
これからは岸田先生の図鑑を参考にしよう。『みんなで作る日本産蛾類図鑑』は参考にはなるけど、情報を鵜呑みにするとエライ目にあう。とにかくカトカラの仲間の中では小さい部類には入る。近似種のクロシオキシタバは比較的大きいので(58~68㎜)、それで一見して、大体の区別はできる。
付け加えておくと、前述のマホロバキシタバは両者の中間の大きさである。この三者の区別方法は、そのうち纏めて書きます。

 
【分布】
関東以西の本州、四国、九州、対馬。
佐渡島にも記録があるようだ。しかし、屋久島には記録がないという記述が散見される。但し、石塚さんの『世界のカトカラ』の分布図には、生息を示す色付けがなされている。どっちなんだ❓
一応、屋久島に産するとされる文献を探してみたが、見つけられなかった。単に鹿児島県という県単位で色付けされているだけなのかもしれない。だとしたら、ややこし過ぎ。

暖温帯系の種とされるが、地球温暖化に伴い北に分布を拡大しているとも言われている。しかし、これも詳細はわからなかった。

かつては日本の固有種だったが、その後インド北部から中国南部を経て日本にまで広く分布していることが分かったそうな。カトカラの分布って、日本も含めて結構いい加減だよなあ…。蛾の中ではポビュラーなグループだけど、それでも蝶に比べて研究はまだまだ進んでいないように思える。蛾って、それくらいマイナーな存在なのだと理解したよ。そう云う意味では面白い分野だとは思う。蝶みたいに、あらかたの事が調べられているものよりも未知な部分があって、調べ甲斐がある。っていうか、性格的には合ってるかも。

 
【レッドデータブック】
宮城県:絶滅危惧I類(CR+En)、滋賀県:絶滅危機増大種、兵庫県:Cランク(少ない種・特殊環境の種)
 
兵庫県も含まれているとは意外だった。レッドデータって、案外とアテにならないと思う。但し、分布は局所的な感じはするので、いるとこには沢山いて、いないとこには全然いないと云うのはある。レッドデータも担当者次第では見方も変わるということか…。
因みに、個人的見解としては照葉樹林のカトカラだと思う。豊かな照葉樹林が残る地域では、稀ではないだろう。

 
【成虫の出現期】
早い年には6月下旬から見られるが、平年は7月上旬から現れ、10月上旬まで見られる。寿命は比較的長いようだ。但し、8月を過ぎると新鮮な個体は殆んど見られなくなる。
余談だが、奈良市ではマホロバとは発生が1週間遅れ、7月中旬の後半から現れ始めた。

 
【成虫の生態】
主に暖帯の照葉樹林帯とクヌギ、アベマキ、コナラを主体としたの落葉広葉樹林帯に見られる。しかし、本州中部以北の落葉広葉樹には殆んど見られない。
稀にブナ帯など高標高地や冷温帯でも採集される。これは飛翔能力が高く、酷暑の時期には移動するのかもしれないという見解がある。
前述したが、基本的には照葉樹林のカトカラだと思う。

樹液に好んで集まり、糖蜜にもよく反応する。飛来時刻は日没直後にワッと集まってきて、その後二度ほどの小ピークはあるが、だらだらと飛んで来る印象がある。但し、これは生息地にもよるだろう。あっしの言葉を鵜呑みにされないが宜しかろう。

灯火採集はしたことはないが、よく集まるという。
昼間は頭を下にして静止している。驚いて飛び立つと、上向きに止まり、暫くしてから下向きになる。

 
【幼虫の食餌植物】
ブナ科コナラ属のアラカシ、クヌギ、アベマキが記録されている。ウバメガシは記録されていないようだが、学術上は近い関係なので、利用している可能性はあると思う。いや、その可能性は極めて高いと思われる。実際、蝶のウラナミアカシジミは基本的にはクヌギ、アベマキを食樹としているが、亜種のキナンウラナミアカシジミはウバメガシを利用しているという例もある。
また、クロシオキシタバのいる海岸林には必ずアミメもいるという意見もあるので、ウバメガシとは密接な関係にあるのではないかと推測している。まだカトカラ2年生の言なので、コレまた鵜呑みにされないが宜し。

西尾規孝氏の『日本のCatocala』には、観察例は少ないものの、幼虫は樹齢15~40年くらいの木を好むそうだ。

                    おしまい

 
追伸
「網目男爵」というフザけた小タイトルは、半分は思いつきのノリでやんす。顔が網目のダンディーな男爵を想像した人はゴメンね。
これは何となくそう感じたというか、そういう単語が浮かんたので、心の中でアミメのことをそう呼んでいたのだ。
だが、人前で口に出して言ったことはない。また、アタマがオカシな人だと思われるのもねぇ…。

とは云うものの、「網目男爵」とタイトルを付けたので、網目男爵物語の捏造を目論みはした。けど、流石に無理がある。アミメキシタバと網目男爵を繋げて、物語として成立させるだなんて云うハイパーコネクトな芸当は不可能に近い。ゆえに早々と断念した。アホな事を考えてるヒマがあるなら、本日の飯の仕込みでもしてた方が良いもんね。

 
《参考文献》
・『世界のカトカラ』石塚勝己 月刊むし
・『日本のCatocala』西尾規孝 自費出版
・『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』岸田泰則 学研
・『蝶の学名-その語源と解説-』平嶋義宏 九州大学出版会
・『みんなで作る日本産蛾類図鑑』インターネット

 

続・クロシオキシタバ

 
     クロシオキシタバ続篇

『絶叫、発狂、六甲山中闇物語』

 

2019年 7月21日

既に7月初めに六甲で発生していることは聞いていた。しかし、マホロバキシタバ(註1)の分布調査をしていたので、中々クロシオを採りに行けなかった。で、漸く出動できたのがこの日だった。

去年と同じコースをゆく。

 

  
生憎(あいにく)と天気は悪い。

 

 
淡路島も雲に隠れかけている。
とはいえ、蝶採りじゃないから晴天である必要性はない。むしろ曇天の方が有り難いくらいだ。気温が下がってる分、身体的には楽なのだ。
蛾がターゲットなんで、ベースは夜だしね。太陽は関係ない。月の満ち欠けの方が重要なのだ。月が隠れていた方が蛾採りには良いとされている。でも外灯廻りやライトトラップをするワケではないので、それすら今日は関係ない。樹液採集の優れているところは、あまり天候に左右されないところだ。晴れていようが雲っていまいが、カトカラは腹が減ったら餌を求めて動く。むしろ霧雨や小雨程度の雨が降っている方が活性化されたりもするという意見さえある。

天候条件云々以上に、ここは去年に二度訪れているから気持ち的にはメチャメチャ楽だ。現地を知っているか知らないかの差は大きい。ポイントへのルート、所要時間、周囲の環境等々を知っていれば、効率よく動けるし、トラブルが起こる可能性も少なくなるのだ。ましてや夜だ。これが精神的にどれだけ余裕を与えてくれるか、その利点は計り知れない。

しかし、全く心配がないワケではない。昨年、木から樹液が出ていたからといって、今年もその木から樹液が出ているとは限らないからだ。
そもそも、木が樹液を出しているということは、健常な状態ではない。謂わば、体液ダダ漏れの怪我とか病気をしているみたいなものなのだ。だから一年も経てば、自らの治癒力でお治しあそばせているケースも多々ある。
それに樹液が出ていたのはウバメガシだ。ウバメガシから樹液が出るなんて、それまで聞いたことがなかった。一部の常緑カシ類からも樹液が出ることは知ってはいたが、あまり一般的ではない。出ている木も少ないし、その流量も少ないと云う印象だ。世間的に昆虫の集まる樹液の出る木といえば、一番はクヌギ。あとはコナラ、アベマキ、ヤナギ類辺りだ。他にハルニレからもよく樹液が出るようだが、ハルニレは北方系なので関西では極めて少ないようである。
とにかく目指すポイントは、謂わばウバメガシの純林だ。もしもあの木から樹液が出ていなければ、周囲にはクヌギもコナラも殆んど無いから苦戦すること必至なのだ。

雲に隠れてゆく淡路島を見ながら、ふと気づく。
そういえば登ってくる途中の最初のウバメガシ林で、今日はクロシオを一つも見かけなかった。去年は夕方前にその林を通過する時には、二度とも数頭ずつ見たのにアレレ~( ̄O ̄)❓ ちょっと嫌な予感がした。

歩き始めて15分くらいだろうか、木に止まっているアミメキシタバを偶然に見つけた。ほぼ木と同化していた。木遁の術だ。コイツら、まるで忍者だよね。よほど注意して見ていないと見破れない。

でも見破られたら終わりだ。オジサンに拐われる。

 

 
下向きではなく、上向きに止まっていた。
カトカラは昼間は逆さま、つまり下向きに止まっているというが、夜は上向きに止まっている。じゃあ、何時頃に向きを変えるのだろう❓ 因みに採ったのは午後6時25分だった。この日の日没時刻は7時10分。日はまだ沈んでいない。
ずっと疑問だったんだけど、ナゼそもそも昼間は下向きに止まっているんだろう❓何かメリットでもあるのかね❓ 上向きに止まろうが下向きに止まろうが、さして見た目に変わりがあるとは思えない。理由が全くワカラン。それについて言及されている書物も見たことがない。何でやねん❓誰か答えてくんろ。

 
【裏面】

 
次第に尾根道は細まってゆく。いわゆる痩せ尾根ってヤツだ。そして、両側は切れ落ちた急峻な斜面になっている。特に右側の神戸方面は斜度がキツい((画像は去年のものです)。

 

 
この辺りは源平合戦(治承・寿永の乱)の古戦場として知られ、一ノ谷の合戦があったところだ。一ノ谷の合戦といえば、源義経による奇襲作戦「鵯越の坂落し(逆落し)」が有名である。義経はここから海に向かって(神戸方面)馬で駆け下り、平家方は想像だにしていなかった背後の急峻な山からの奇襲攻撃に総崩れになったというアレだね。

やがて、去年樹液がバンバンに出ていた木が見えてきた。
(-“”-;)……。
遠目に見るも、カナブンもスズメバチもおらん…。夕方遅いから、お家に帰っちゃったことを祈ろう。

木の前までやって来た。
ゲロゲロゲロー\(◎o◎)/、不安的中やんけー。
樹液が出ている様子なし。見事に傷は癒えて、健康な状態に戻っているではないか。(|| ゜Д゜)ヤッベー。

まあ、仕方あるまい。
そんな事もあろうかと、それを見越して今年は糖蜜トラップを用意しているのだー\(^o^)/。イガちゃん、かしこーい。フフフ( ̄∇ ̄)、カトカラ採りも二年目ともなれば、それなりに進化しているのだ。まあまあ、天才をナメなよである。

 

 
日が暮れてゆく。
それを合図に糖蜜を木の幹に吹き付ける。
( ・∀・)/占==3しゅっしゅらシュッシュッシュー。

しかし、辺りが真っ暗になっても何も飛んで来ない。
寄って来たのは、気色の悪いゲジゲジと👿邪悪なムカデだけだ。おぞましい奴らめ、この世から滅びてしまえばいいのに。

楽勝気分だったのに、おいおいである。焦る💦。
他のカトカラには絶大なる効力があったのに何で❓
そうとなれば、飛んでるものをシバキ倒すしかない。
しぇー、キビシ━━ィッΣ(ノд<)
でもグズってても、何も始まらない。やるっきゃない。ヘッドライトを点け、網を持って歩き始める。

歩き始めて直ぐに沢山飛んでるところを見つけた。
15mほど離れた山の斜面に大木が生えており、その周辺でカトカラたちが乱舞していた。おそらく、木からは樹液が出ているのだろう。
しかし、ここは前述したように鵯越と呼ばれる急峻な斜面だ。あそこまで行くのは至難に思える。降りようと思えば降りれなくはないだろうが、戻ってこれない。なぜなら上部は道からスパッと切れ落ち、崖状になっているからだ。攀じ登るには、かなり厳しそうなのだ。もし降りて、ここから登れないとなれば、登れそうなところを探して彷徨(さまよ)う事になる。こんな急斜面を、しかも暗闇でトラバースし続けるなんて地獄だ。下手したら遭難だ。リスクが高過ぎる。

仕方なしに糖蜜を撒いた場所に戻ったら、糖蜜トラップにクロシオくんが来ていた。
(^-^)効力あるじゃん、あるじゃーん。
一応、上翅の色を確認する。去年やらかしたから、その辺は抜かりがない。昨年はクロシオをパタラ、いわゆる普通キシタバ(C.patala)だと思って無視してしまったのだ。お陰で、再度採り直しに来る破目になったのだった。カトカラ1年生だったとはいえ、情けない。
けど、慣れないうちは誰でも見分けがつかなくて当たり前なんじゃなかろうか。特に野外では難しい。それくらいこのキシタバグループは似た者同士だらけなのだ。

よし、青っぽい。緑色ではないからパタラではない。間違いなくクロシオだ。
慎重に近づき、大胆にネットイン。最初の1頭をゲットする。

 

 
でも、大胆にブン殴るように網を払ったので、中で大暴れ。たちまち背中がハゲちょろけの落武者になってしまった。一瞬、去年の落武者の恐怖を思い出し、半笑いになる。去年は落武者の亡霊が怖くて、Σ( ̄ロ ̄lll)ビビりまくってたんだよなあ。

裏面の写真も撮っておこう。

 

 
お目々、( ☆∀☆)ピッカリンコである。
カトカラは夜に懐中電灯の光を当てると、目が赤っぽく光る。それで比較的簡単に見つけることが出来る。昼間の見つけ採りよか、こっちの方が余程見つけ易いと思う。
それにしても、考えてみれば夜に目が光るだなんて怖いよなあ。これって知ってるから「(^o^)vラッキー、めっけー」だと思うけど、そんなの知らない一般ピーポーからしたら、鬼火とか得体の知れない魑魅魍魎に見えるやもしれぬ。それって、ビビるよねぇ。発狂もんだと思うよ。

けれど糖蜜に来る個体は少ない。仕方なしに空中シバキと糖蜜採りとの二本立てでいくことにした。

一時間が経った。しかし、数が伸びない。去年みたく楽勝で次々とゲットというワケにはいかない。やはり樹液が出ている木がないと厳しい。こうなったら、もう少し探す範囲を広げて、樹液が出ている木を見つけよう。

幸いな事に、少し歩いただけでカトカラの乱舞する木が見つかった。しかも斜面ではない。道沿いの木だ。木は大木ではなくて、結構細い。ウバメガシは大木しか樹液が出ないと思ってだけど、そうでもないんだね。
懐中電灯で照らしていくと、吸汁している者の他にもベタベタと何頭もが木に貼り付いている。おそらく1回目の食事が終わり、休憩しているのだろう。あっ、アミメキシタバも結構いる。
フハハハ…Ψ( ̄∇ ̄)Ψ、ここから楽勝街道爆進じゃあ❗

しかし、問題も有りだった。樹液が出ている箇所が高いのである。4、5mくらいはある。そうなると毒瓶をカポッと被せるという方法が使えないから、網で採るしかない。しかも高いから結局網を振り回す事になる。それに道が細いから両側から木が迫ってきていて、枝も一部覆い被さっている。つまり狭い空間で網を振らざるおえないと云う事だ。狭い場所での長竿のコントロールは難しい。枝に引っ掛けたりするから、自由に振り回せないのだ。
しかも、そんなだから、当然採れてもカトカラたちは網の中で暴れ倒す。特にクロシオが激しく暴れる。で、採っても採っても落武者になりよる。おまけに位置が高いゆえ、真下からだとブラインドになりがちで距離感も掴みにくい。また木が細いと云うのもよろしくない。幹を💥バチコーン叩く手法も使えないからだ。
そういうワケだから、百発百中というワケにはいかない。採り逃しもそこそこあるのだ。いつもよか打率がかなり低い。思うようにいかなくて、段々(=`ェ´=)イライラしてくる。

そんな中、捕らえたやや禿げのクロシオを三角紙に入れた直後だった。右耳の辺りに違和感を感じた。で、耳を触るとガザガサ、ゴワゴワしたものに触れた。
あれっ❓、かさぶた❓ でも耳を怪我なんかした覚えはないよね。一拍おいて、今度は右頬に違和感を感じた。反射的に触れた瞬間だった。
💥バッチ━━━━ン❗❗
Σ( ̄皿 ̄;;痛っ、てぇ━━━━━━━━━ ❗❗❗
赤々と熾(おこ)った火箸をジュッと当てられたような鋭い激痛が走り、その場で絶叫した。
(@_@;)何だ❗❓、(◎-◎;)何だ❗❓、何が起こっているのだ❓ワケわかんなくて頭の中がパニクる。
まさか落武者の呪い❓Σ(T▽T;) 発狂しそうになる。と同時にズキズキとヒリヒリの両方混じったよな痛みで、皮膚がカッと熱くなる。
でもさぁー、それってオカシかないか❓オラ、平家の末裔だぞ。家の家紋も、その証てある蝶だしさあ。守られこそすれ、呪われる筋合いはない。( ;∀;)ポロポロ。御先祖さま、酷いよ。

落武者の亡霊を頭から追いやる。そんなもん居てたまるものか。冷静に考えよう。これは何かに刺されたか咬まれとしか考えられない。でも、じゃあいったい何者なのだ❓
夜だし、スズメバチとは考えにくい。それにスズメバチに刺された時の感覚とは少し違うような気がする。蛇❓ヘビなら、いくらなんでもわかるだろう。
他にヤバイ奴っていたっけ❓そこで漸く思い至る。さっきの木にそういえばムカデがいたことを思い出した。クロシオを網に入れた時に一緒に混入した可能性はある。そうとしか考えられない。でも、どうやって体に這い登ってきたのだ❓あんなもの、這い登ってきたら気づく筈だ。厚いコートを着ているワケでなし、Tシャツ1枚なんだから感じない筈はなかろう。
と、ここで更に思い至った。そういえばチビッコのまだ子供みたいなムカデもいたなあ…。きっとアレに咬まれたに違いない。
ムカデに咬まれたのは初めてだけど、こんなにも痛いものなのか❓あんなチビでもこんだけ痛いのなら、あのデカくて邪悪そのものの奴にやられたとしたなら、どんだけの痛みなのだ❓ ムカデ、恐るべしである。

採っても採ってもクロシオはハゲちょろけになるし、何で誰もいない真っ暗闇の山中に勇気を奮って来たのに、こんな目に遭わなければならないのだ。半泣きで、ベソかきそうである。
でも、何かムチャクチャ腹立ってきた。虫採りって、サイテーの趣味だ。こんな趣味を始めていなかったら、ヒルに血を吸われることも無かったし、スズメバチやアブ、ブヨに刺されることも無かった。ダニに喰い付かれることも無かっただろうし、ハブとかマムシなどの毒蛇や熊に怯えることも無かった筈だ。海外だったら、もっとヤバイ。熊もいるだろうし、蛇はコブラとか青ハブ、百歩蛇(ひゃっぽだ)だぜー。そういえば、虎に豹、野象がいる森に入ったことだってある。地雷の恐怖もあったし、知らぬうちに治安のバリバリ悪そうな村に入ってしまった事だってあった。
で、蛾採りを始めたら、ムカデかよ。夜の闇は死ぬほど怖いし、オイラ何やってんだよと思う。虫採りさえ始めなかったら、こんな目に遭いはしなかった。ヒルもダニもブヨも虫採りを始めてから初めて見たのだ。
だいたい、そもそも虫採りとかをやってるタイプではない。女の子にモテるような事ばっかしやってきたチャラい人間なのだ。

Σ( ̄皿 ̄;;こんな事やめたらぁ~❗

発狂して、闇に向かって絶叫する。
虫採りなんて生産性ゼロだ。やってられっかである。

叫んだら、痛みが増してきた。痺れたような感覚もある。何だか心臓も💓ドキドキしてきた。いや、バクバクか。
そんな事よりどうする❓ムカデって、アナフィラキシーショックとかってなかったっけ❓
いや、あった筈だ。ならば、一刻も早く下山して病院に行かなければならない。
でもハゲちょろけてないクロシオが、まだ一つも採れていない。こんなとこ、もう二度と来たくない。クソッ、採れるまで下りてたまるか、(#`皿´)ボケッ❗

 
午後10時過ぎ。
痛みを堪えて真っ暗な道を下る。
相変わらずの悪路だ。道の横には暗渠の如き闇が口を開けている。誘(いざな)われているような気がする。しかし足を踏み外せば、急斜面をどこまでも転がり落ちることになる。
縮こまった心を抱きしめる。何が何でも無事に下山しなければならぬ。ミッションは何とかやり遂げた。それだけが今の心の支えだ。

途中で、やっと目の前が開けた。

 

 
眼下に神戸の夜景が見える。
ホッとして、少し痛みも和らいだような気がする。
ここまでくれば、あとは道も良い。
さあ、もう一踏ん張りだ。大きく息を吐き出し、気持ちを切らさないようにして再び坂道を慎重に下りていった。傍らを風がそよと吹いた。

                    おしまい
 
 
今年採ったクロシオの一部を並べよう。

 

 
見事なまでに落武者禿げチョロケである。
カトカラって背中の毛が脱落しやすい。ホント、忌々しいわい(=`ェ´=)

因みに左右で展翅バランスが違うのは、ワザとである。どうせ禿げチョロケなので、この際、皆さんの意見を訊いてやろうと思ったのだ。バランスを変えるだけで、印象だけでなく、見た目の大きささえも違ってくるのである。
皆さん、右と左でどっちのバランスがいいと思いますぅ~❓

 

 

 
上翅の白紋って、♀にしか出ないのでは?と思ってたけど、♂でも出るのね。

 

 
コチラは通常タイプの青いの。
この青いタイプと白紋が発達したタイプは好きだ。クロシオって、キシタバの中では割りとカッコイイ方だと思う。

裏面の画像も添付しておこう。

 

 
キシタバ類の裏面って、どれも似たような感じでワケわかんないや。
そういう意味でも図鑑には裏の画像も欲しいよね。大図鑑は膨大な種類を載せなければならないから無理だとしても、属レベルの図鑑くらいは裏面を図示して欲しいよね。

似ているアミメキシタバとの違いは、上翅の翅先(翅頂部)に黄色い紋が出るところだろうか。あとは下翅の真ん中の黒帯の形かな。けんど、こんなの沢山並べてみないとワカランな。

 

 
左上がアミメ、下がマホロバキシタバで、右がクロシオである。
アミメと比べてクロシオは大きいから、それでだいたいは区別できる。問題はアミメとマホロバだ。両者は似ていて、この状態では判別が難しい。概してマホロバの方が大きいが、微妙な大きさなのもいるから注意が必要だ。確実に同定したいなら、上翅の内側を見るしかない。
いかん、いかん。本題から大きく逸れてしまいそうなので、この三者の違いはマホロバの回に纏めて解説しようと思う。けんど、シリーズにマホロバが登場するのは、まだまだ先の事だけどさ。

こんな説明してもワカランだろうから、アミメの画像も貼っとくか。

 
【アミメキシタバ♂】

 
【同裏面♀】

 
表は上翅が茶色く、下翅下部の黒帯が完全に繋がっているのが特徴。クロシオはこの部分がやや隙間が開くか、微かに繋がる程度だ。裏は上翅の内側の黒斑が強く出る。

クロシオの生態に関しては、前回に書いた以上の目新しい知見はない。強いて言えば、やはり敏感な奴だってことくらいかな。

おっ、そうだ。
マホロバの分布調査の仮定で、小太郎くん&マオちゃんコンビが奈良県の若草山でクロシオを見つけた。

 
【クロシオキシタバ】
(画像提供 小太郎くん)

 
他の分布地からかけ離れた場所だったから、これまた新亜種ではないか?と色めき立った。クロシオは移動性が強いと言われ、秋口に時々分布地からかけ離れた場所で偶発的に見つかっている、しかし、この個体は鮮度が良いし、日付も7月23日だったので、遠方から飛来したものとは考えにくい。遠距離移動するのは、もっと遅い時期なのだ。現地で羽化したものと考えるのが妥当だろう。
しかし、石塚さんがゲニを見た結果、ただのクロシオだった。2匹めのドジョウを期待したが、そうそう新種や新亜種が簡単に見つかるものではないよね。世の中、そんなに甘かない。

 
追伸
帰宅後、熱めのお湯(43℃)で患部を洗い流した。
ネットにそうすればいいと書いてあったのだ。水だとかえって痛みが増すらしいから、気をつけてね。
それで痛みがかなり和らいだ。で、メンタム塗って寝た。4、5日もしたら、ちょっと痒いくらいで、ほぼ治った。しかし、ムカデもアナフラシキーショックがあるらしい。今度、咬まれたら、おっ死ぬかもしれない。対馬でツマアカスズメバチにメチャメチャ刺されたから、それも合わせて注意しなければならない。ホント、因果な趣味だよ。(;´д`)トホホである。

話は変わる。
実を云うと、この文章は2ヶ月以上も前に大半が書き上がっていた。ムカデに咬まれて発狂、絶叫の下りだけを残して放置されていたのだ。
理由はマホロバの一件もあるが、一番は想定外だったシルビアの連続もの(全5話)のせいだった。シルビアに関しては、調べものが膨大になり、それを要約しつつ文章に配置するのにかなりの時間を要したからだ。
因みに完成したのは4日前だ。最終稿を読むのが面倒で放ったらかしになってたのだ。

 
(註1)マホロバキシタバ

 
今年、日本で新たに加わった32番目のカトカラ。
新種とはならず、台湾の Catocala naganoi の亜種(ssp.mahoroba)におさまった。
画像は♂。下翅下部の帯が繋がらず、大きく隙間が開いているのが最大の特徴である。

 

2018′ カトカラ元年 其の九

 
 vol.9 クロシオキシタバ

   『落武者源平合戦』

  
2018年 7月23日。

次のターゲットはアミメキシタバだったが、何だかんだと用事があったので行く暇がなかった。
それでクロシオキシタバも抱き合わせで採れる場所を探した。で、候補に上がったのが両方の記録のある明石城跡公園だった。ここは明石にフツーに遊びに行った折りに何度か訪れているし、駅からも近い。何せプラットホームから丸見えなのさ。山登りもしなくて済むし、楽勝じゃん。
それに明石といえば魚の棚商店街があるから、昼網の新鮮な魚介類が堪能てきるし、名物の明石焼きだってある。夕方早めに行って、寿司か明石焼きを食ってから採りに行く事だって可能だ。或いはトットと採ってソッコー切り上げて、ゆっくりと酒飲みながら旨いもん食うと云う手も有りだ。
あっ、( ̄∇ ̄)それがいいわ。と云うワケで飯食うのは後回しにして、先に下見をすることにした。

探すと、結構樹液が出ている木がある。
カナブンや見たことがないハナムグリが群れている。
下調べの段階で知ったが、コヤツがキョウトアオハナムグリって奴だね。

 
【キョウトアオハナムグリ♂】
(出典『フォト蔵』)

 
このハナムグリは結構珍しい種みたいなんだけど、この明石公園に多産することが分かってからは価値が激落ちしたようだ。記念に1頭だけ採って、あとは無視する。

クロシオの幼虫の食樹であるウバメガシはあまりない。しかし、大木があった。常緑カシ類はどれも似たようなものばかりで区別が苦手だけど、コヤツは簡単にわかる。なぜなら、この木は葉が硬くて生垣によく使われるからそれなりに見慣れている。それに樹肌がお婆ちゃんみたいなのだ。漢字で書くと姥目樫。ようするに老女に見立てている。老女のようなシワシワの木肌だもんね。但し、ウバメガシの新芽、あるいは若葉が茶色いことからきているとする説もある。

櫓の向こうに夕陽が落ちてゆく。

 

 
余談だが、明石城は江戸幕府2代将軍徳川秀忠の命で小笠原忠真が元和5年(1619)に築城したとされる。
因みに天守閣は無い。焼失したとかそういう事ではなくて、最初から無いのだ。勿体ない。
理由は諸説あるが、ここでは書かない。こんな初めの方から大脱線するワケにはいかないのだ。

 

 
夕陽を見送り、いよいよ戦闘体制に入る。
しっかし、ちとやりにくい。けっこうイチャイチャ💕カップルがいて、ベンチの大半を占拠しておるのだ。ベンチの近くに樹液の出ている木もあるから正直気が引ける。それに何度も行ったり来たりしていたら、確実に怪しい人だと思われるだろう。で、そこで網なんか出しでもしたら、益々アンタ何者なんだ?ということになるに決まってんである。

で、そわそわマインドで探し回ったけど、結局飛んで来たカトカラはクソただキシタバのパタラ(C.patala)のみだった。
暇ゆえ、カップルへの意趣返しにカブトムシの交尾にちょっかいをかけてた。
(*`Д´)ノアンタたちー、ここで乳繰り合うのは許しませぬぞ❗

  

 
葉っぱ付きの枝でコチョコチョしたり邪魔して遊んでたら、あっちゅー間にタイムアップ。
結局、寿司も明石焼きも御預けになってしまい、終電で帰った。しょっぱいわ(;つД`)
やはり楽しちゃダメって事だね。イージーに採ろうとしたので、きっと神様にお灸をすえられたのだろう。

 
8月1日。

この日は須磨方面へ行くことにした。
考えた揚げ句、関西でウバメガシが一番多いところをネットで探すことにした。それが須磨周辺だった。
ウバメガシが一番多い場所も特定できたし、地図も手に入れた。準備万端だ。これを電撃⚡黒潮作戦と名付けよう。ここで採れなきゃ神様の胸ぐらを掴んでやるわい(*`Д´)ノ❗❗

海が見える。

 

 
長い間、海を見ていなかった気がする。
やっぱ海はいい。何だかホッとする。

歩きながら、ここへは一度来たことがあるのを思い出した。何年か前、プーさんにウラキンシジミ(註1)の採集に連れて来られたのだった。
しかし、結局1頭も見ずじまいだった。失意のままキツい傾斜を下りたんだよなあ…。須磨は大阪から案外遠いから、時間も電車賃も割合かかるし、徒労感はかなりあった記憶がある。
あの坂を上がるのかあ…。ウンザリだよ。それに此処はそんなワケだから鬼門かもしれない。ナゼか相性の悪い場所ってのはあるのだ。
もしも採れなかったら、神様の胸ぐらを掴むだけじゃすまない。そのまま、(#`皿´)オラオラオラー、テメエどうしてくれんだよーと激しく揺すって揺すぶって、揺すりたおしてやるよ。

15分ほどアスファルトの道を登ると、ウバメガシがチラホラ散見できるようになった。生息地は近い。
で、本格的な登山道に入ったと思ったら、いきなり深いウバメガシ林になった。(;・ω・)えっ、もう❓ これなら当たりをつけていた遠い尾根まで行かなくとも済むかもしんない。
と思ってたら、何かが慌てたように目の前を飛んで逃げた。間違いなく蛾だ。しかもカトカラっぽい。クロシオ❓ やがて、7~8m飛んで木の幹に止まった。
⤴テンションが上がる。ザックからネットと竿を取り出し、迅速に組み立てる。時刻はまだ4時半。明るいうちに採れれば、気分はグッと楽になる。トットと終らせようぜ、イガちゃん。んでもって、三宮辺りで旨いもんでも食おう。

慎重に距離を詰め、止まった辺りを凝視する。
いたっ❗かなり大きい。えっ、もしかして糞パタラ❓でも横向きだし、種を特定できない。けれど、ここはウバメガシ林だ。パタラよりもクロシオの可能性の方が高い。とにかく採ろう。採らなきゃワカランわい。
一歩踏み出し、網を振ろうとした時だった。
( ̄□||||❗❗ゲッ、また飛んだ❗(|| ゜Д゜)あちゃー、何たる敏感さ。慌てて後を追いかける。
しか~し、ガビ━━━ Σ( ̄ロ ̄lll) ━━━ン。森の奥へと消えて行った。
( ̄0 ̄;マジかよ…。やはり此処は鬼門なのか…。
己に言い聞かす。まだ4時半だ、時間はたっぷりある。チャンスはまだまだある筈だ。メゲずにいこうぜ。

暫く進むと、両側が石垣の道になった。そこを歩いていると、左側からいきなり何かが飛んだ。咄嗟にヒュン💥電光石火で網を振った。
手には、入ったと云う確信がある。
覗くと、おった( ☆∀☆)
いえ~d=(^o^)=b~い。運動神経と反射神経がよくて良かったー。

 

 
一見、パタラに似ているが、やや小さい。上翅の柄もパタラとは違うような気がする。それに何よりも色が違う。パタラは緑か茶色っぽいが、コイツは青っぽいのだ。おそらく、コヤツで間違いないだろう。キミがクロシオキシタバくんだね。

ホッとする。1頭でも採れれば、人には一応採ったと言える。その事実さえあれば、最低限のプライドは保たれる。嵌まりかけているとはいえ、いくら蛾の世界では人気があろうと、所詮は蛾風情だ、そうそう連敗するワケにはいかぬ。

さてとぉ~、この先どうすべっか…。
まだ午後4時40分なのだ。日没にはまだまだある。ここにいることはハッキリわかったのだから、この場所で張ってても問題ないだろう。駅にも比較的近いし、帰りも楽だ。でも、あと2時間以上も此処にいるのは精神的にキツい。時間を潰すのが大変だ。それに、動きたい、他にもポイントを見つけたいという生来の性格が此処にとどまることを許さない。だいち樹液の出ている木をまだ見つけていない。となると、闇の中での空中戦になる。それでは満足な数が採れる確率は低かろう。とにかく時間はまだたっぷりある。最初に地図で当たりをつけていた場所まで様子を見に行こう。その途上で樹液の出ている木も見つかるかもしんないし、他にも有望なポイントが見つかるかもしれない。ダメなら、戻ってくればいいだけの事だ。

山頂に向かって歩き始める。斜度は思っていたとおりキツい。あっという間に汗ビッショリになる。でも時折、心地好い海風が吹き、悪くない気分だ。

山頂にもウバメガシの木は沢山あった。でも次のクロシオが目っけらんない。樹液の出てる木も見つからん。
さらに尾根づたいに歩いてゆく。しかし、段々ウバメガシの木が減ってきた。相変わらず樹液の出ている木も見つからない。
道はさっきから下り坂になっている。それなりに傾斜はキツい。これを登り返すのかと思ったら、ゲンナリしてきた。

目指す森まであと3分の1というところで考えた。
帰りのことを考えれば、その森から駅まで戻るのは大変だ。登り返しだし、そのあと今度はキツい下り坂が待っている。時間的ロスもかなりあるだろう。さっきの場所ならば、その心配はない。でもこのまま目的地まで進めば、引き返す時には途中で日没になっている公算が高い。夜道を急いで戻るのは得策ではないし、何らかのトラブルを起こす確率も間違いなく上がるだろう。引き返すならば、今だ。それに道はどんどん狭まってきている。いわゆる痩せ尾根だ。

 

 
そういえば、この辺りが源平合戦で有名なところだったな。あの源義経が大活躍した一ノ谷の戦いは、この麓で行われたのだ。そして、この今いる場所から急峻な斜面を馬で駈け下りるという大奇襲作戦が勝負を決した。あの有名な、世にいう「鵯(ひよどり)越えの逆(さか)落とし」という奴である。平家は有り得ないと思っていた背後からの奇襲に大パニック、そのまま総崩れ、敗走を余儀なくされたのだった。

本当にこんな急斜面を馬で駈け下りたのだろうか❓俄かには信じ難い。絶対、ハナシ盛ってんな。
そういえば昔、TVで本当にそんな作戦が可能だったのかを検証すると云う番組があったな。ここと同じ斜度の別な場所で実験してた。たぶんサラブレッドではなく、ちゃんとその時代の馬に近い丈の低い種類の馬まで用意して実験は行われていた。
結果は途中棄権。確か限りなくアウトに近いものだったと思う。乗馬では無理で、実際は馬を牽いて下りたのではないかとも言ってたっけ…。
そんなことを思い出してたら、突然、心の中を恐怖が擦過した。もしかしたら、平家の亡霊に谷底に引き摺り込まれるやもしれぬ。o(T□T)o落武者じゃあ~。怖いよぉ~。落武者に山中で追いかけ回される映像が瞼の裏に浮かんだ。怖すぎだろ、ソレ。アメユジュトテチテケンジャア~(T△T)(註2)
んでもって、痩せ尾根から足を踏み外し、斜面を止めどなく転がってゆくのだ。最低でも骨折、打ち所が悪けりゃ、あの世ゆきだ。
あっ、でもウチの御先祖は平家だ。それはないでしょうよ。仲間じゃん。でもそんなこと言ったって、片目から目ん玉がドロリと落ちかけた落武者に必死コイて説明、懇願したところで聞いてくれる保証はどこにも無いよね。(ノ_・。)グスン。
そのうち源氏の亡霊どもも続々と現れて、合戦が始まるやもしれぬ。夜な夜な此処ではそんな事が行われてたりして…。そうなったら、もう阿鼻叫喚だ。木の根元で縮こまって震えてるしかない。
それに、落武者は扨ておき、もしも懐中電灯が途中で切れたなら、危険過ぎてその場から動けなくなる。膝小僧を抱いてシクシク泣きながら夜が明けるのを待つしかあるまい。そうなると、落武者以外にも魑魅魍魎がお出ましになるやもしれぬ。いや、ゼッテーおどろおどろしい色んなのが大挙して押し寄せて来るに決まってるんである。やっぱ予備の懐中電灯とか電池は持っとくべきだなあ…。性格なんだろうけど、その辺がいい加減というかユルい。

でも、足は意に反して前へ前へと出る。もしかしたら、何か得体の知れない者に誘(いざな)われているのやもしれぬ…。
冷静になろう。単に性格的に途中で中途半端に引き返すのがイヤなだけなのかもしれん。今まで歩いた分が勿体ないじゃないか❗と云うワケだ。しかし、理由が自分でもどっちがどっちなんだかワカンナクなってくる。( ̄~ ̄;)も~。

目的地が近くなってくると、またウバメガシが増え始めてきた。やがてウバメガシの純林とも言える状態になった。こりゃ、アホほどいるじゃろう。ここを目指したのは正解かもしんない。そう思って歩いてたら、老木にペタペタと何かが付いているのが目に入った。

 

 
あっ、カナブンやんか❗
ということは、樹液が出ているということだ。よく見ると何ヵ所かから樹液が出ている。
Ψ( ̄∇ ̄)Ψフフフ…、賭けに勝ったな。もし此処に飛んで来ないなら、この森にはいないと云う事になる。しかし、これだけ大規模なウバメガシ林にいないなんて有り得ないだろう。それこそ七不思議の落武者の呪いだ。

もう一度樹液の出ている場所を丹念に確認してゆくと、木肌の或る箇所に違和感を覚えた。あらま、木と同化して、既にカトカラくんらしきものが下翅を閉じて止まっているではないか。何だろう❓大きさ的にはフシキとかコガタキシタバくらいの大きさだ。いや、もっと小振りか…。しかも上翅の感じはそれらとは違うような気がする。何かもっと茶色っぽい。とはいえ、下翅は見えないからカトカラじゃない可能性だってある。下翅が小汚い糞ヤガどもも上翅は似たような感じなのだ。
悪いクセだ。グダグダ思い煩う前にさっさと採ろう。

網でドツいて、難なくゲット。

 

 
あっ❗、コレってもしかしてアミメキシタバじゃね❓
また新しく1種増えた。らっき~(^o^)v
そっかあ…、アミメは幼虫の食性の幅が確か広かった筈だ。おそらくウバメガシも食樹になっているのだろう。よし、ならばここに居座ることは、もう決定だな。

夕暮れになっても歩いている人がちょこちょこいる。
さすが六甲だ。住宅街のすぐ上が山なのだ。住民が手軽に来れるというワケだ。
そこで考えた。それだけ登山者が多いと云うことは道も多い筈だ。正直、帰りはもう一回来た道を戻るのはしんどい。所要時間もそれなりにかかるだろう。ならば、この周辺から下へ下りられないか?その方が登りもないし、時間の短縮にもなるだろう。そこで訊いてみることにした。
人の良さそうなオジサンに声を掛ける。そのオジサンによると、一ノ谷を下りる道があるという。分岐も此処から近いそうだ。
でも歩いたことのない道だ。しかも、ましてや夜である。道に迷う可能性は大いにある。下手したら、やっぱりその場で膝小僧を抱いてシクシク泣きながら、夜明けを待つことになりかねない。当然、落武者と魑魅魍魎どもとも戦わねばなるまい。賭けではある。
よっしゃ、決めた。一ノ谷を下りよう。鵯越えの逆落としを義経張りに鬼神の如く勇猛果敢に下ってみせよう。あっ俺、平家だけどいいのか(・。・;❓
まっ、いっか。細かいことは、この際忘れよう。

やがて、闇が訪れた。

 

 
撮影事故ではござんせん。
ライト💡オーフ。試しに懐中電灯を消してみたら、一瞬にして目の前がマジで黒一色の世界になったのだ。エコエコアザラク、エコエコザメラク。
たぶんウバメガシ林が密過ぎて、街の灯が全く届かないから真っ暗けなのだ。京都以来のホラーな漆黒の闇、再びである。
まあ、ここは熊はいないだろうから惨殺されることはないゆえ、あの時ほどの恐怖は無いんだけどさ。
と思った次の瞬間には思い出していた。確かに此処には熊はいないけれど、イノシシがワンサカいるのだ。六甲といえばイノシシというのは有名だ。毎年、人がイノシシに襲われる事件が頻発しているのだ。住宅街にだってウロウロしているくらいなのさ。クソッ、落武者に魑魅魍魎、それにリアル猪かよ。ったくよー(# ̄З ̄)

日没後、すぐにカトカラがワンサカ集まって来た。
作戦的中。ざまー見さらせである。取り敢えずアミメをジャンジャン採る。時期的に最盛期を越えた感じなので、翅が欠けていたり擦れている奴が多い。ゆえに鮮度の良い奴の確保を優先したのだ。
パタラも多数飛来してきた。ウザい。ほんま、オマエら何処にでもおるのぉー(# ̄З ̄)
にしても、パタラの幼虫の食樹はフジなどのマメ科だ。なのに、こんなウバメガシしかないところにもいるんだね。あっ、でも翅がある生き物だもんね。樹液が出てりゃ、余裕で麓から飛んで来るわな。
ここで段々、疑問が芽生えてきた。夕方にクロシオだと思って採った奴は、もしかしたらパタラ、ただのキシタバなんじゃねえか❓それで今一所懸命に採ってるのがアミメではなくて、クロシオなんじゃねえの❓
そもそもクロシオって、そんなに大きかったっけ❓ 付け焼き刃の知識には、そんなことインプットされてないぞ。えー、(ToT)どっちなんだよー。頭の中がこんがらがってグチャグチャになる。この辺がカトカラ1年生のダメなところである。知識と経験値がショボい。
今にして思えば、これが落武者の呪いというか、落武者の悪戯だった。

混乱したままタイムリミットが来た。
急いで尾根を少し戻り、一ノ谷へと下る道に入る。いよいよ鵯越えの逆落としだ。果敢に攻めて、見事下りきってやろうではないか。
しかし、あまり使われていない道のようで、かなり荒れている。おまけに細い。泣く子も黙る更なる超真っ暗闇の中、思考は世話しなく動く。あらゆる物事に対して神経を研ぎ澄ます。闇では己の五感が頼りだ。
やがて崖崩れで道が寸断しかかっている所に出た。
ステップは足幅一つ分である。それが6、7mくらいは続いている。咄嗟に下を見る。真っ暗な崖底が不気味に口を開けている。
どうする❓リスクを冒してそのまま突っ切るか、それとも引き返すべきか…。だが、迷っている時間はない。えーい(*`Д´)ノ、行ったれー❗源氏ではないが、武士の血が流れている男だ。ここで引き下がるワケにはゆかぬ。
慎重に足を置き、バランスを崩さぬよう一気に崖崩れ地帯を渡る。
セーフ❗そのままの勢いで足早に駈け下ってゆく。

その後も所々寸断しかかってる急峻な坂道を慎重且つ大胆に駈ける。いやはや、流石のキツい傾斜だ。闇夜を一人歩くのはスリル満点っす。
分岐と枝道が多く、途中何度かロストしかけた。だがその都度、野生の勘と抜群の方向感覚で何とか乗り切る。

駅に着いた時には汗だくだった。
安堵感がジワリと広がる。無事に間に合った事だけでなく、闇の恐怖やミッションに対するプレッシャーから解放されて、ドッと体の力が抜けたよ。

翌日、展翅しようとして、愕然とする。
アミメはそこそこの個体数を採っているのに、クロシオは、たったの1頭しかなかったのだ。そう、夕方に最初に採った奴だけである。(@_@;)アチャー、やってもた~。パタラと思って無視していた奴、あれがようするにクロシオだったのである。カトカラ1年生、大ボーンベッドである。

それが、この1頭である。

 
【クロシオキシタバ Catocala kuangtungensis】

 
たぶん♂だね。
カトカラ1年生、やっぱり酷い展翅だな。上翅を上げ過ぎてしまっている。

「1頭でも採れたからいいじゃないか。そもそもアンタ、蝶屋でしょ?蛾なんだし、カトカラも所詮はヒマつぶしで採ってんでしょ?そこまで頑張ることないやん」と心の中でもう一人の自分が囁く。
確かにそうかもしれない。でも、このままでは引き下がれない。己のアホさをこのまま捨て置きはできぬ。そんなもんはプライドが許さないのだ。リベンジしてこその自分だ。それが無くなったら自分じゃなくなる。
🎵ボク~がボクであるためにぃ~ 勝ち~続けなきゃ~ならない

三日後、再び同地を訪れた。

 
8月4日。

 
ビーチだ。須磨の海水浴場でありんす。
思えば此処には高校生の頃からの思い出が沢山詰まっている。青春時代の夏と言えば、もう海水浴場っきゃない。ビール、ラジカセ、海の家、日焼けローションの香り、そしてそしての水着GALである。Tバックのお姉ちゃんたちが闊歩していたあの光景は、今考えると異様な時代だったよなー。Tバックのお姉さんの背中にローション塗るだなんて、高校生にとっては刺激が強過ぎて、もう頭の中が💥大爆発でしたよ。
そういえば夜に花火やってて、地元の奴らとモメて乱闘になりかけた事もあったよなー。オイラが原因を作っといて、オイラがその場を治めるというワケがワカンナイ無茶苦茶な展開だった。
何はともあれ、古き良き時代だった…。
このあと水着GALのいるビーチには目もくれず、夜の山に一人で蛾を採りに行こうとしてるんだから隔世の感しきりである。人生って、先のことはわかんないよね。

にしても、須磨の海岸も随分と様変わりした。
須磨といえば水着のお姉ちゃんだらけだったのに、夏真っ盛りというのにも拘わらず、家族連ればっかだ。きっと、今時の女の子は日焼けなんてしたくないのだろう。むしろ今は肌なんて出したくない美白の時代なのだ。嘆かわしい事だ。夏といえば若者の欲望が渦巻いてて当たり前だろ。こんなんじゃ、ナンパでけへんやんか。エロ無くして、日本の未来はないぞ。

 

 
また、キツい斜面をえっちらおっちら登ってきた。

 

 
淡路島が見える。
もう少しすれば、明石海峡大橋の向こうに夕陽が沈んでゆくんだね。六甲山地は山の上から海が見えるのがいいよね。

先日とは違い。不安が無いから気分にザワつきはない。クロシオが採れて当たり前の予定調和だ。採れないワケがない。そのゲット率は100%ではないが、それに近いだろう。突然、雷雨がやってでも来ない限りは大丈夫な筈だ。

美しい夕暮れが空を茜色に染め、やがて色を失い、闇が浸食してくる。
この一瞬に、ちょっとだけ不安がよぎる。物事には絶対はないからだ。もしクロシオが飛んで来なかったとしたら、心は行き場を失うだろう。怒りをどこに持ってゆけばいいのか想像がつかない。

心配は杞憂に終わった。
闇が訪れると、直ぐにジャンジャンやって来た。楽勝だ。それを確実にゲットしてゆく。

この日は神戸の港で花火大会が行われていて、花火を打ち上げる音がボンッ、ボンッと、ものすごーくよく聞こえてくる。しかし、鬱蒼としたウバメガシ林が邪魔して何も見えない。音だけで聞く花火ってのは、人を妙な気分にさせる。不思議な感覚に教われる。歓声を上げたりして、みんな楽しそうに花火を見ているのだろう。一方、自分は一人ぼっちで闇の中で蛾を採っている。何だ、この落差あり過ぎの孤独感は…。
しかし、お陰で闇の恐怖は確実に薄れている。闇の国、異界に隔絶されたような感覚は消え、現世(うつつよ)と繋がっているのだという安心感があるのだ。

乱舞するカトカラを採りまくって、溜飲が下がったところで撤退。帰路につく。

 

 
漆黒の闇地帯を抜けると、燦びやかな夜景が眼前に広がった。花火大会は、とっくに終わっている。
でもやっぱ神戸の夜景は綺麗じゃのう。昔だったらキスしまくりじゃわい。それが蛾とのランデブーとは隔世の感あり。全くもって(^_^;)苦笑しきりである。
とはいえ、やはり神戸の夜景は美しい。
満ち足りた気分で、ゆっくりと坂道を下りる。たぶん、明日も晴れるだろう。何となく、そう思った。

 
                    おしまい

 
クロシオキシタバは上翅にバリエーションがある。

 

 
ここまでが普通の型で、上翅が青っぽい。
上2つが♂で、一番下が♀である。♀は紋にメリハリがあって美しい。

 

 
こういう茶色っぽいのもいる。

 

 
これは白い紋が出るタイプである。カッコイイ。
これも♀である。

上翅がベタ黒のもいた。

 

 
一瞬、黒化型かと思ったが、下翅は別に黒くはないから、黒化型とは言えないだろう。
これも♀だ。もしかしたら、♀の方が変わった型が出やすいのかな❓

 
(裏面)

 
それにしても、全般的に展翅が下手ッピーだ。黒いのなんかは結構珍しいタイプそうなのに勿体ない。
一応、今年の展翅も載せておくか…。

 

 
だいぶ上達している。
触角の整形が、まだまだ甘いけどね。

今回のお題クロシオキシタバは久し振りに2019年版の続編を書きます。自分にとっては最悪だが、他人からすればたぶん笑える話なので、乞う御期待❗

それでは種の解説と参ろう。

 
【学名】
Catocala kuangtungensis sugii(Ishizuka, 2002)

小種名「kuangtungensis」は最後にsisとあるので、おそらく地名由来の学名だろう。kuangtungenで検索したら、広東省と出てきた。きっと最初に広東省で見つかったんだろうね。
亜種名「sugii」は最後に「i」で終わっているので、これは人名由来だろう。たぶん蛾の研究で多大なる功績を残された杉 繁郎氏に献名されたものと思われる。

 
【和名】
和名のクロシオは黒潮から来ている。次項で詳述するけど、これは分布が黒潮が流れる太平洋沿岸部だからでしょう。種の特性を上手く表現していて、良い和名だと思う。

 
【分布】
本州、淡路島、四国、小豆島、九州、屋久島。

本種は1960年代に高知県室戸岬、静岡県石廊崎で発見され、のちに幼虫の食樹がブナ科のウバメガシであることが判明し, この植物の分布するところには多産することが明らかになった。このため日本での本種の産地はウバメガシの分布域と重なり、九州から伊豆半島までの太平洋側沿岸部に見られる。東限はその伊豆半島となり、知多半島、紀伊半島、瀬戸内海沿岸部と家島、淡路島、小豆島などの島嶼、四国南部、屋久島などの産地が知られている。九州本土では少なく、大分、宮崎県下の沿岸部のみで得られているようだ。
飛翔力があり、成虫の寿命も長いことから、ウバメガシが自生しない場所でも稀に見つかる。中には長野県開田高原の地蔵峠など、発生地から150㎞も離れた場所での発見例がある。他に福井県、群馬県に記録がある。
食樹が判明するまでは、かなりの珍品だったようだ。今ではそう云うイメージは無くなってしまっているが、それでも全国的に見ると局地的な分布で、豊かなウバメガシ林があるところ以外では極めて稀な種だろう。

国外では中国南部広東省に原名亜種を産し、陝西省や四川省のような内陸部にも分布している。
👍ビンゴだね。やはり、学名は最初に発見された広東省から来てるんだね。それはさておき、内陸にも分布していると云うのは意外だった。クロシオというイメージからハズレちゃうね。食樹は判明してるのかな?やっぱウバメガシなんかな?でもウバメガシって、そんなに内陸部にあるのかしら?もし食樹が別なものだとしたら、極めて似通った別種の可能性もあると思うんだけど、どうなんだろ❓
とはいえ、日本でも和歌山県大塔山、香川県大滝山など、植生によってはかなり内陸部にも見られるらしいからなあ…。にしても、数十キロだ。中国の内陸産とは、海岸からの距離はとてつもない差があるとは思うけどさ。

 
【亜種と近縁種】
▪Catocala kuangtungensis kuangtungensis(Mell,1931)
中国・広東省の原記載亜種。

▪Catocala kuangtungensis sugii(Ishizuka, 2002)
日本亜種。

▪Catocala kuangtungensis chohien(Ishizuka、2002)
陝西省・四川省亜種。

四川省には、他にも小型の別種 Catocala dejeani(Mell,1936) がいるが、クロシオキシタバの亜種とする研究者もいるようだ。従来、台湾産のクロシオキシタバとされてきたものは、コヤツなんだそうじゃよ。

 
【開張】
大型のキシタバの1つで、パタラキシタバ(C.patala)の次に大きい。なぜかどこにも前翅長が書いていない。これはおそらく『原色日本蛾類図鑑』に大きさが載っていないからだろう。ワシも含めて、みんな孫引きに違いない。誰か自分で測る奴が一人もおらんのかよ。(# ̄З ̄)ったくよー。
と云うワケで、自分で計測してみようとしたが、岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』にはちゃんと載っていて、開張58~68㎜となっていた。そんなもんだと思う。流石、岸田せんせである。

前翅は青灰色の鱗粉が広がり、内横線の外側に白色を帯びた淡色部がある。後翅の外側の帯は内側の帯と接触し、内縁角では黒色紋が分離する.

 
【レッドデータブック】
滋賀県:要注目種、大阪府:準絶滅危惧、兵庫県:Cランク(少ない種・特殊環境の種など)、香川県:準絶滅危惧、宮崎県:準絶滅危惧(NT-g)

 
【成虫出現期】
6月下旬~9月下旬まで見られる。
関西では7月初めから出現し、7月中、下旬に多い。8月に入ると傷んだ個体が増えるので、新鮮なものを得たければ7月中に狙うべきである。
成虫の寿命は長く、室内飼育では2ヶ月間も生きた例があるようだ。

 
【成虫の生態】
豊かなウバメガシ林に見られ、そういう場所では個体数が多い。
昼間は頭を下にして暗い場所の樹幹、岩石、石垣などに静止している。湿った暗い場所が好きなようで、生息地の冷んやりした石垣に止まっているのをよく見た。その際は敏感で、近づくと直ぐに飛び立つ。着地時は上向きに止まり、暫くして逆さまになるそうだ。
ウバメガシやクヌギなどの樹液に好んで集まる。また糖蜜にも寄ってくる。しかし、今のところは樹液の方を好む傾向がある。まあ、レシピ次第ではあろうけどね。
吸汁中は下翅を開く個体が多い。パタラキシタバも下翅を開くので、紛らわしい。しかし、慣れれば上翅の色と柄で区別できる。但し、アチキがやらかしたように、懐中電灯の灯りの色によっては間違うので、注意が必要。
日没直後から姿を現し、吸汁に満足すると、その木や周辺の木に翅を閉じて憩んでいる。おそらくその後数度にわたり吸汁に訪れるものと思われる。
灯りにもよく集まるそうだが、ライトトラップをした事がないので見たことはない。
前述したが、飛翔力があり、成虫の寿命も長いことから、ウバメガシが自生しない場所でも稀に見つかるそうだ。2019年は食樹が殆んどない奈良市若草山近辺や大和郡山市信貴山でも見つかっている。

 
【幼虫の食餌植物】
ブナ科コナラ属のウバメガシ(Quercus phillyraeoides)。
 
ウバメガシは日本産の常緑カシ類では、葉が特に丸くて小さく、また硬い葉を持つカシである。
暖かい地方の海岸部から山の斜面にかけて多く見られ、特に海岸付近の乾燥した斜面に群落を作るのがよく見かけられ、しばしば密生した森を作る。トベラやヒメユズリハとともに、日本の暖地では海岸林の重要な構成樹種の一つとなっている。また乾燥や刈り込みに強いことから生垣や街路樹などとしてもよく使われている。その材は密で硬く、備長炭の材料となることでも有名である。和歌山県では、最高級の炭である紀州備長炭の材料ゆえ、計画的に植栽されている。

 
(出典『庭木図鑑 植木ぺディア』)

 
(出典『イーハトーブ火山局』)

 
しっかし、よくこんな硬い葉っぱ食うよな。若葉だって硬いらしい。でも、クロシオは黄色い系のカトカラの中では二番目に大きいんだよね。不思議だよ。
そういえば、ウラナミアカシジミの亜種とされるキナンウラナミシジミ(註1)は、このウバメガシを食樹としている。ウラナミアカよか小さいのは、通常の食樹であるクヌギやアベマキが無いので、仕方なしにウバメガシを食うも、葉っぱが硬いから大きくならないと言われている。クロシオは関係ないのかな❓
自然状態では、ウバメガシ以外の食樹は見つかっていないが、クヌギなどのナラ類でも容易に飼育できるそうだ。その場合は、どうなのだろう❓巨大化するのかな❓でも、そういう事は聞いたことがない。まあ、飼ったことがある人はそう多くはないと思うけどさ。カトカラは蛾の中では人気種とはいえ、蝶愛好家に比べれば圧倒的に少ないのだ。その中で飼育もするという人となると、数も限られてくるだろう。

ここまで書いて、ふと思った。キナンウラナミって、何でワザワザそんな硬い葉のウバメガシなんか食ってんだ❓紀伊半島ならば、アカガシやイチイガシ、アラカシ、ブナとか他にもブナ科の木はあるじゃないか。何でよりによってウバメガシ❓
気になったので、Wikipediaを真面目に最後まで読むことにした。
それで目から鱗ちゃん、漸く理由が理解できた。ウバメガシは日本に自生するカシ類の中では唯一のコナラ亜属(subgenesis Quercus)に属し、他に日本に自生するアカガシ亜属(subgenesis Cyclobalanopsis)のカシよりはナラ類に近縁なんだそうだ。常緑だし、見た目からしても、全く想像だにしていなかったよ。アカガシやアラガシなんかよりも、クヌギやアベマキに近いんだ。納得です。
また、他の疑問も解けた。ウバメガシの分布は本州の神奈川県以南、四国、九州、それに琉球列島にも分布するとあったから、クロシオは沖縄や奄美大島にはいないのかな?と云う疑問を持っていたのだ。これも沖縄県では伊平屋島と伊是名島、それに沖縄本島から僅かな記録があるのみという事が判明した。つまり南西諸島では珍しい植物なのだ。クロシオの分布は完全に否定できないものの、極めて可能性が低いことを示唆している。
また、日本国外では中国中部、南部、西部とヒマラヤ方向へ分布が広がっている。また、沖縄県が分布の南限である。これでクロシオが中国内陸部でも分布する理由がわかった。また沖縄が分布の南限ということは、その辺りが分布の限界であり、クロシオにとっても生育には適さない環境なのだと想像できる。おそらく暑すぎるのだ。

 
 
追伸
書いてて、ふと思った。
もしかしたら、明石公園で見たパタラキシタバの一部はクロシオだったのかもしれない。一年以上経って初めてその可能性に気づいたよ。おバカだ。我ながら、抜けている。でも、全部パタラだったと思うんだよなあ…。
しかし、これが怪我の功名だったかもしれない。お陰でアミメキシタバが須磨で採れた。もしも明石でクロシオが採れていたら、アミメは大阪の八尾辺りで探し回っててエラい目にあってたかもしんない。あの辺は山が荒れてて、道があまり良くないし、メマトイだらけだしさ。

前述したが、クロシオキシタバについては久し振りに2019年版の続編を書きます。そこで見た目が近いアミメキシタバと日本で初めて見つかったニューのカトカラであるマホロバキシタバの違いについても言及する予定。あっ、アミメの時の方がいっか。いや、マホロバの時でいっか…。まだまだ先の話だけど。

今回のタイトルは、最初『黒潮の詩』『暖流の民』とかを考えていたのだが、どこかシックリこなかったので『電撃⚡黒潮大作戦』で書き始めた。結局、途中で今のタイトル『落武者源平合戦』に変えた。でも、今もって納得はいってない。

 
(註1)ウラキンシジミ
(2017.6月 宝塚市)

 
この時は、何週間か前にプーさんがウラキンシジミの終齢幼虫をパラシュート採集で結構採ったので、成虫もそこそこいるだろうと出掛けたのであった。しかし、結果は惨憺たるものだった。

 
(註2)アメユジュトテチテケンジャア~
宮沢賢治の詩集「永訣の朝」の1節。
拙ブログの過去文にも度々登場し、ピンチの時に発せられる崩壊状態を示す言葉。

 
(註3)キナンウラナミアカシジミ(裏面)
(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
Japonica saepestriata gotohi(Saigusa,1993)紀伊半島南部亜種。
ウラナミアカシジミの名義タイプ亜種と比べると、前翅長が短く(小さい)、裏面の黒条が発達していて、尾状突起が長いなどの特徴がある。
でもクヌギなどを与えるとウラナミアカ並みの大きさに育ち、名義タイプ亜種と区別がつかないという。そのことから亜種ではなく、一つのフォーム(型)とする見解もある。しかし、若干大きくなるだけで、紀伊半島中部産の名義タイプ亜種の大きさには達しないとする意見もある。

 

2018′ カトカラ元年 その八

 
 Vol.8 オニベニシタバ

    『嗤う鬼』

 
彼女に、ちゃんと会えたのは意外と遅かった。
「ちゃんと」とわざわざ書いたのは、既に2017年の9月の終わりに会っているには会っているからだ。A木くんにハチ北にライトトラップに連れていってもらった時、帰り道のコンビニにいたのだ。
A木くんに要ります?と訊かれたが、要らないと答えた。ボロボロだったし、元々カトカラなんて集める予定はなかったからだ。この日の目的は、あくまでもムラサキシタバの実物を見ることだけだったのだ。

そもそも自分にとって蛾は基本的に忌み嫌うべき存在だった。チョウは好きなのに、ガは見ただけでオゾける。大の大人が女の子みたいにキャッと言って飛び退くぐらい怖かったのだ。おそらくこれは幼少の頃に植えつけられた蛾に対する負の概念の刷り込みだろう。通常、そう云うものは生涯変わることはない。概念として、脳髄の奥の奥まで染み込んでいる。それがまさか翌年には蛾を追っかけてることになろうとは夢にも思わなかった。カトカラは美しいものが多いとはいえ、青天の霹靂である。

あかん。このままいけば脱線確実なので、話を本筋に戻す。

そういえば、A木くんがオニベニなんて…みたいな言い方してたなあ。それで普通種なんだと認識した記憶がある。
翌年の初夏、小太郎くんにも『ド普通種だから、いっぱいいますよ。下手したら、ただキシタバ(C.patala)よか多いんじゃないですかね。』と聞かされていたから、やっぱ普通種なんだという認識をより強くした思いがある。だから7月に入れば、そのうち何処かで会えるだろうと思っていた。
しかし、なぜだか何処でも姿を見なかった。
(;・ω・)あれれ❓、オニベニって普通種じゃなかったのー❓
そうこうするうちに、7月も下旬になった。まさかである。このままだと新鮮な個体が得られない。それに、小太郎くんにも『えっ?まだオニベニを採ってないんですか?』と言われかねない。それも癪だ。
そんなマジで焦り始めていた頃のことだった。

 
2018年 7月26日。

2週間振りに矢田丘陵にやって来た。
日没直後にいつもの森へと入る。ここに樹液のドバドバ出ているクヌギの大木がある。そこには様々な虫が寄ってくる。昆虫酒場だ。カブトムシやクワガタをはじめ、各種の昆虫たちでいつも賑やかだ。勿論、カトカラたちも集まってくる。

木の前まで来ると、アカアシオオアオカミキリ(註1)がワチャワチャと軍団で群れていた。均整のとれた美しいカミキリムシで、かなりカッコイイんだけれども、こんだけいるとウザい。
カトカラは、見飽きまくって最近は憎悪さえ感じるパタラしかいない。何処にでもいるし、図体がデカイから邪魔なのだ。ゆえなのか、小太郎くんなんかは酷い仕打ちをしている(この辺のくだりは本シリーズの「続・キシタバ」の回に詳しく書かれています。おもろいから読んでね)。

何でオニベニいないのー(ノ_・。)❓
まさか今年から突然大減少したとか?でも、そんな事ってあるの?ワケわかんねえやと思って、ふと何気に隣の木に目をやった。
体の動きが止まる。あっ(゜ロ゜)、何かおる…。
そこには、翅を閉じて木肌と同化している蛾がいた。
見た瞬間、カトカラだと云う直感があった。種は特定出来ないものの、他の糞ヤガではないと感じたのだ。でも最初はどの種類のカトカラなのかは分からなかった。けど、大きさと上翅の色柄からして消去法で考えてゆくと、オニベニシタバではないかと云う予感はあった。
どうであれ、初めて見るカトカラだと感じれば、それなりに緊張感は走る。
でも、網を使った記憶がないんだよなあ…。

多分、この最初の1頭は毒ビンを被せて採ったものじゃなかろうか❓
書きながら、段々思い出してきた。高さは低かったから毒ビンを直接使ったのだ。どうせオニベニだろうから、たとえハズしてもこの先いくらでもチャンスはあるだろうとでも思ったのだろう。全然見つからなくて、しかも最初の1頭のわりには心の余裕があったのネ。
とはいいものの、この毒ビンを上から被せて採るという方法は苦手なので、それなりに緊張した感覚は残っている。
毒ビンを上から被せるのって、慣れてないから妙に緊張するのだ。網を振る時みたいに心を上手くコントロールできない。その緊張が相手にも伝わるのだろう。だいたいすんでのところで逃げられる。手で蝶を採るのは得意なんだけど何でだろ❓
蝶は心頭を滅却すれば、わりかし簡単に手掴みで採れる。そんな神技みたいなことができて、何で毒ビンを被せるのが下手なのかなあ…。そっちの方が簡単な筈なんだけどね。やっぱ慣れるしかないのかなあ…。

完全に思い出した。やはり最初の1頭は毒ビンで採ったわ。でも当日写した画像がない。どうやら写真を撮らなかったようだ。
と云うことは、さしたる感動もなかったのだろう。
周りに言われたり、図鑑等を読んでオニベニシタバ=ド普通種という概念が植え付けられてたんだろね。
こういうのは、あまりヨロシクない。情報が自分本来の素直な感性で見る心を阻害してしまっている。虫採りは感動があってこそ面白い。なのに、それを自ら放棄するのは勿体ないことだ。

で、翌日に取り敢えず撮ったのがコレ。

 
(2018.7.26 大和郡山市 矢田丘陵)

 
あっ、この画像を見て思い出したよ。
想像してたよりも美しいなと思ったのだ。皆がクソミソに言ってた程には汚くはない。渋い美しさがある。
下翅が同じ紅色系統のベニシタバと比べて色が暗くて鮮やかさに欠けるから、下に見られがちなんだろうけど、コレはこれで美しいなと思った。
もしも、日本にベニシタバやエゾベニシタバがいなければ、それなりに高い評価とか人気を得ていただろうに…。オニベニくんって、何だか不憫な存在だな。同情するよ。

昔、小学生の頃、クラスに松宮という性格の悪い嫌な奴がいた。小学校6年生か5年生の時だ。そいつが理科の天才とモテ囃されていた。しかし、Mくんという転校生がやって来てから、事態は一変した。彼がもっと理科の天才だったからだ。理科の授業中、先生の質問に何でもスラスラと答えたのである。松宮が先にあてられて、答えられなかった後だっただけにクラスに衝撃が走った。その時の、松宮の醜く歪んだ顔は忘れられない。恥と屈辱がベッタリと貼り付いていた。
Mくんは性格もいい奴で、瞬く間にクラスの人気者になった。当然、松宮の株は暴落した。松宮は嫌な奴だけど、その凋落振りは目を覆いたくなるような残酷な感じで、他人事ながら気の毒だった。先生も難しい問題は真っ先にMくんをあてるようになったからね。
自分はそんな目にあった事は一度もないけれど、もしもそんな立場になったとしたら、相当キツいと思う。自分だったら確実に今よりも性格がネジ曲がっていたに違いない。別人格になっていたのではないかと思うと、マジ怖い。今よりも数段イヤな奴になっていた自信がある。実際、松宮は益々イジけた陰険な野郎になった。中学生になってから、俺様に陰湿な方法で牙を剥いてきた時には驚いたよ。俺、全然関係ないのに、女の子の事で謂れのないトバッチリを受けた。無視したけどね。おまえの好きな女の子が俺の事を好きだからって、陰で悪口をある事ない事その娘に吹き込むんじゃねえよ。そのせいで、別な俺の好きな女の子にも嫌われそうになった。まあ、陰湿で人気のない奴だったから、皆が自分に味方してくれて、それ以上悪い方向にはいかなくて済んだけどさ。

いつもの如く、話が逸れた。
もちろん、オニベニシタバは松宮みたく性格は悪くはない。むしろ、いい方だ。カトカラの中では性格は素直な方だと思う。だから、採るのはそんなに難しくはない。ムラサキシタバなんかは結構性格が悪いもんな。異常に敏感だし、ライトトラップには中々近くまで寄ってこなくて、寄ってきたと思ったら、採りにくい変な所に止まるとかって、よく聞くもんね。

 
(2018.7.26 大和郡山市 矢田丘陵)

 
真ん中の黒帯が細くて、ジグザクになっているのがオニベニさんの特徴だ。色よりも、この黒帯の形で他の近似種と区別する方が同定間違いはしにくい。なぜなら、古い標本や飛び古したものは色が褪せているからだ。あとは翅形も違う。ベニやエゾベニは上翅が横長で、先端が尖る。オニベニはここが他の2種と比べて丸い。この二点さえ抑えておけば、判別間違いすることはないだろう。

この太い腹の形からすると、たぶん♀だろう。
でも、オニベニは♂もデブだから雌雄の区別は意外と難しい。

それにしても、やっぱり一年目の展翅は酷いな。上翅が上がり過ぎてる。まあ、カトカラ1年生だし、しゃあないか…。

この日は、他にも何頭か採った。

 

 
たぶん、コチラが♂だろう。
♀よりも腹が若干細くて長い。先端もやや丸い。でも他のカトカラの♂みたく尻先にいっぱい毛束があるワケではないから、やはり分かりにくい。

あっ、これは上翅に白い紋が入るタイプだね。こっちの方がカッコイイ。
どうやら前翅斑紋は個体変異に富むようだ。何処にも書いてないけど、この白紋が出るのは♂の方が多いような気がするが、本当のところはどうなんだろ?まだカトカラ2年生なので、断言できないけど…。
どちらにせよ、クロシオキシタバとかコガタキシタバ程にはヴァリエーションはないようだ。

裏面が意外と美しい。

 

 
そういえば、初めて飛んでいるのを下から見た時は、数秒間その場で固まった。何だかワカンなかったのだ。シロシタバにしては小さいし、白もオフホワイトではなくて真っ白だったからだ。因みに飛翔中は赤い部分は意外と目立たない。白の方に目がいくのだ。
答えは、コレまた消去法でオニベニにゆきついた。

 

 
赤、白、黒のコントラストが効いていて、素晴らしい。色の配分も申し分ない。
ベニシタバやエゾベニシタバには表の美しさでは負けるが、裏はオニベニが一番美しいと思う。

次に出会ったのは、四條畷だった。
シロシタバ探査の折りで、昼間にウワミズザクラを探していたら、突然飛んで逃げた。結構早いスピードだった。この日はコシロシタバも見たけど、やっぱり早かった。カトカラは夜に樹液に飛来する時はパタパタ飛びで遅いけど、昼間は飛ぶのが速いと知ったのは、この時が初めてだったかもしれない。マジ飛びのカトカラは速い。
それで、突然思い出した。カトカラを初めて見たのは、A木くんに連れて行ってもらったハチ北で見たジョナスキシタバではないや。実を云うと、もっと早い時期にオニベニシタバを見ていることを、まじまじと思い出したよ。間違いなくそれがカトカラとのファーストコンタクトだ。しかも、真っ昼間に見ているのだ。
あれって、ちょっとした白昼夢的だったよなあ…。

詳しい年月は憶えてない。
でも、おそらく2011年か2012年のどちらかの8月だ。場所は生駒山地だった。目的はオオムラサキ(註2)の♀狙いだった。
その場所は誰にも知られていないオラだけの秘密の樹液ポイントで、必ず複数の♀がゲットできた。樹液がドバドバ出ているクヌギの大木に、多い時では♂が一同に10数頭も集まっていたこともある。

時刻は午前10時過ぎだったと思う。
パンパンに膨らんだ期待を胸に、その木に向かって真っ直ぐに斜面を降りてゆく。オオムラサキの♀は綺麗じゃないけど、バカでかくて笑けるほど迫力があるので、その頃は毎年会いに行っていたのだ。
で、目の前まで来て、ゲゲッΣ( ̄ロ ̄lll)、見たら大きめの蛾たちがベタベタと樹液の出ている所に止まっていた。元々、大の蛾嫌いだったから激引きした。
向こうも驚いたようで、複数が下翅をパッと開いた。どひゃ\(◎o◎)/❗❗茶色かと思いきや、突然ビビットな赤が悪魔の口のように開いた❗
ヘ(゜ο°;)ノひっ、思わず飛び退いたよ。( ; ゜Д゜)ビックリしたなあ、もー。
キシタバは普段色鮮やかな下翅を隠して止まっており、天敵に襲われそうになったら、パッとそれを見せて相手を威嚇すると言われている。毒々しい鮮やかな色なので、相手が怯むのだ。それにまんまと引っ掛かったというワケだ。あたしゃ、しっかり怯みましたよ。

やや遠目から様子を伺う。数えたら5、6頭はいた。
コレが何とかシタバとか云う名前の人気のある蛾のグループの1種なんだろうなと思った。
ミーハーなので、人気があるものには興味がある。ちょっと悪魔的で怖くはあるけれど、綺麗といえばキレイだ。だから、採ろうかどうか悩んだ。でも、蛾だから採ったら暴れて、鱗粉を辺りにその辺に撒き散らす光景が目に浮かんだ。((((;゜Д゜)))ブルッときたよ。
だいち、蛾なんて元来よう触らんのだ。網に入れても、心がワヤクチャになってパニックになるやもしれぬ。考えた結果、採集は見送ることにした。
とはいえ、オオムラサキが飛んで来たら邪魔だ。排除せねばならぬ。
一旦、深呼吸をしてから、再び木に小走りで近づき、勢いをつけて思いきし前蹴りしてやった。
Σ(゜Д゜)ヒッ、(゜ロ゜;ノ)ノヒッ、Σ(T▽T;)ヒィーッ❗全員驚いて飛びやがった。それを狙ったんだけども、思った以上にシッチャカメッチャカ四方八方に飛んで横をかすめていったので、発狂しそうになっただよ。
(´д`|||)キモ~。一瞬、背中が凍りついたわ。体に異常なまでの変な力が入っていたようで、その場で肩で息したよ。

その日の夜、夢を見た。
何十頭ものオニベニシタバが、自分の周りを飛び交っている夢だ。下翅の赤い色がチカチカと明滅する。それが鬼の口が開いたり閉じたりして、まるでケタケタ嗤(わら)っているように見えた。嗤う鬼軍団だ。怖すぎる。
アキャーo(T□T)o、魘(うな)されて、恐怖のあまり飛び起きた。
もちろん、パジャマは汗ビッショリだった。

今宵、貴方の夢にもオニベニが乱舞するやもしれませぬぞ。

 
                   おしまい

 
 
今回も続編は書かない。前回と同じく解説は後回しの、2019年版をくっ付けたヴァージョンでいきます。

 
【学名】Catocala dula (Bremer, 1861)

小種名の「dula」は、ネットで調べたがワカランかった。dula じゃなくて、dura というのが矢鱈と出てくる。
頼みの綱の平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』にも載っていなかった。
ヒカゲチョウ属に、Lethe dora オビクロヒカゲ という似ているのがあったけど、綴りが微妙に違う。
ついでだから言っとくと、ドゥーラの語源はラテン語で「堅い、鈍感な」という意味。梵語由来ならば「遠い、長い」です。

ワカンねぇから、ここから先はいい加減な推測を書く。
たぶん、これは誰かに献名されたものではなかろうか❓おそらく女性の名前で、ドゥーラじゃなくて、ダラと読むんではないかな。ダラとかって、アメリカ人女性の名前とかに多くねえか❓
綴りがそれだと違うよな気がするが、もういいや。ゴメンナサイ。ワッカリまっしぇーん\(ToT)/

 
【和名】
オニベニシタバという和名は悪くないと思う。
たぶん赤鬼から来ているのだろう。その鬼の赤と下翅の色とを重ね合わせたのだと思われる。
いや、待てよ。オニと名のつく生物には、デカイとか厳(いか)ついとか凶暴だとかといった意味が込められたものが多い。
例えば、オニカマス(バラクーダ)、オニイトマキエイ(マンタ)、オニオコゼ、オニダルマオコゼ、オニハタタテダイ、オニヒトデ、オニヤドガリ…。あっ、思い浮かんだのは、海の生物ばかりだ。これはダイビングインストラクター時代の名残だね。
因みにオニカマスは、その厳つい風貌と鋭い歯から名付けられた。オニイトマキエイは、そのデカさからだろう。オニオコゼ、オニダルマオコゼは鬼のように醜くくて厳つい。また猛毒があり、危険なことから名付けられたものだと思われる。オニハタタテダイは、目の上にある小さな突起を鬼の角に見立てたようだ。オニヒトデはデカくてトゲトゲだからだろう。性格も荒い。トゲトゲは鬼の角だけでなく、鬼の金棒のイメージでもあるのだろう。オニヤドガリは、毛むくじゃらで獰猛だからかな?
植物ならオニユリ、オニアザミ、オニバス、オニグルミ、オニツツジなんかが有名だ。
オニユリの名の由来は、花が大きく豪快だとか、花の様子が赤鬼に似ているなど諸説あるようだ。オニアザミやオニバスは、その棘と大きさに由来する。以下は面倒くさいので、省略する。
ようするに生物に鬼の名がつく場合は「①大きい。②刺、角がある。③見た目が厳つい。④凶暴・獰猛である。⑤色合いが鬼に似ている」の何れかの理由から付けられている模様だ。
昆虫はといえば、オニヤンマ、オニクワガタが代表か…。他にもいるようだが、でもこの辺で止めとく。あまりにもショボい面々揃いなので、更なる脱線、怒気を含む言葉になるのが必至だからだ。コレについては機会があれば、また別稿で書くかもしんない。

話をオニベニの和名に戻そう。
オニベニシタバの和名には、色合いだけでなく、厳ついと云う意味も込められているのではないかと思う。オニベニは翅に比して胴体が太い。ゴツいんである。その体躯と赤黒い翅とが相俟って、鬼っぽく見えるといえば見えなくもないのだ。初めて会ったあの日の昼間は、その姿に兇々(まがまが)しい感じを受けたもん。

 
【開張】 65~70㎜
カトカラ全体の中では大きい部類に入るが、他の下翅が赤いグループ(ベニシタバ、エゾベニシタバ)の中では一番小さい。でも腹と胴がデブだからか、あんま大きさは変わんない印象がある。人だって身長が低くてもデブだと迫力があるから、そんなに小さく見えないんだよね。あっ、コレってデブ批判じゃないからね。迫力があった方が得です。
因みに、同じ下翅が紅いグループでも、オニベニシタバとベニシタバ&エゾベニシタバとは分類学的に系統が違うようだ。下翅が紅いだけで、あとは形態や斑紋、幼虫の食樹も異なるから、言われてみれば納得だすな。

 
【分布】
北海道、本州、四国、九州、対馬。
九州南部には分布していないようだ。ということは暑さや湿気には弱く、どちらかというと北方寄りの種なのかもしれない。低山地のカトカラというイメージがあったから、南方系とまでは言わないまでも、暖かい地域を好むカトカラだと勝手に思ってたけど、違うんだね。そういえば去年、長野県の標高1700mぐらいのとこでも採ったことあるわ。
因みにレッドデータブックだと「千葉県:D(一般保護生物)、高知県:準絶滅危惧、長崎県:絶滅危惧IA、大分県:情報不足」となっているようだ。こんなもんと言っては失礼だが、稀な地域もあるんだね。
あっ、長崎、大分、高知が入っているから、やはり温暖なところには、あまりいない種なんだ。納得だよ。

参考までに言っとくと、国外ではアムール(ロシア沿海州)、樺太、朝鮮、中国(中北部)に分布が知られる。

  
【成虫出現期】 6~10月
近畿地方では6月下旬辺りから現れるとあるが、実際見る機会が多いのは7月上旬からだろう。その頃から次第に個体数を増やし、8月半ば迄よく見かけた。

 
【生態】
クヌギの木が多い比較的乾燥したに二次林でよく見られる。コナラ主体の雑木林や常緑カシ林には少ない。
クヌギ、ヤナギ、ハルニレの樹液によく飛来する。また、ブドウなどの果実にも好んで集まるようだ。
樹液への飛来時刻は比較的早く、日没後すぐに現れる。但し、直接樹液には寄ってこず、近くの木に頭を上向きにして止まっていることも多い。
糖蜜トラップは、オニベニ狙いで試したことはないので、効果の程は分からない。とはいえ、おそらく反応するものと思われる。

発生初期は他のカトカラと同じく夜間に活動するが、8月に入って繁殖期になると昼間でも活発に活動し、昼夜を問わず樹液やブットレアなどの各種花にも吸蜜に訪れる。昼間に活動するカトカラは他にあまりいないので(註3)、カトカラの中では得意な生態を持つ種だと言えよう。
発生初期の昼間は、頭を下向きにして木の幹に止まっており、驚いて飛ぶと他の木に頭を上向きにして着地し、ややあってから下向きとなる。しかし、交尾期になると頭を上向きにして止まる個体が多いという。

灯火にもよく誘引されるようだ。けれど、灯火に来ているものを見たことが殆んどない。数えるくらしかした事がないけれど、ライトトラップでも見たことは一度もない。だから、光に寄ってくるという実感は個人的にはあまりない。
あっ、思い出した。標高1700mで採った奴は車のライトに飛んで来たわ。

 
【幼虫の食餌植物】
食樹はクヌギ、ミズナラ、カシワ、コナラなどブナ科コナラ属全般だが、少ないながらもアラカシなど常緑カシ類も利用している。
幼虫はクヌギを最も好み、以下ミズナラ、カシワの順に嗜好するが、コナラはあまり利用されていないようだ。これはコナラの芽吹きが早く、若葉がかたくなるのが早いからだと推察されている。マメキシタバやアサマキシタバも同様の傾向があるという。
樹齢15~30年くらいのものによく付くが、大発生するような年には老齢木にも幼虫が見られるそうだ。

 
2019年は、驚いたことに2頭しか採っていない。

 
(2019.7.10 奈良市白毫寺町)

 
こうして見ると、上翅があんま魅力的じゃないよなあ。その辺もベニやエゾベニに比べて、一段劣る評価になってんだろな。

裏面の写真もあった。

 

 
胸がもふもふだね。もふもふ大好き~(^o^)

この個体を採ったの時のことは、場所もシチュエーションもよく憶えている。
場所は白毫寺町東山緑地の雑木林で、日没後すぐの時間帯に樹液に寄ってきていた。小太郎くんが来るまでヒマだったので、新たな樹液ポイントを探している時に見つけたんだよね。
しかし、シチュエーションの記憶がこれだけ鮮明なのに、なぜだか日付の記憶はどうにも曖昧だ。
日付を確認してみると七月十日になっていた。七月十日といえば、日本で初めて見つかったカトカラ、新亜種マホロバキシタバ(註4)を発見した日だ。
と云うことは、そっちのインパクトが強すぎて、それ以前のオニベニの記憶がその日からフッ飛んでたみたいだ。

 
(2019.7.10 奈良市 白毫寺町)

 
♀かなあ…。だと思うんだけど。
今年は展翅もだいぶとマシになった。触角をどうするかは今だに迷ってて模索中だけどね。前脚も気分で出したり出さなかったりと、統一されてない。
コレは前脚出しいの、アンテナ真っ直ぐ寝かしーのパターンだす。
下の2頭目の個体も、同じパターンの展翅だね。

 
(2019.7.16 奈良市 高畑町)

 
これは住宅街で捕らえたんだよね。だから、ちょっとドキドキした。夜に住宅街で網持ってたら、怪しまれて当然なのだ。

2頭とも♀だと思うけど、見てると段々自信が無くなってきたよ。

それにしても、何で2頭しか採っていないんだろう❓
別に採るのをサボってたとかスルーしてたワケではないのにね。つまりこれは、それだけ今年は見ていないって事だ。多い時期に、去年一番個体数の多かった矢田丘陵に行っていないと云うのもあるかもしんないけど…。
或いは、意外といる所には沢山いるけれど、いないとこにはいないカトカラなのかもしれない。たった二年間でのモノ言いだけどさ。
でも、もしかしたら雑木林が放置されて老齢木ばかりになってきていて、幼虫が好む樹齢15~30年くらいの木が減っているのかもしれない。
ド普通種だとバカにしてたら、そのうち段々減っていって、いつの間にか絶滅危惧種になってたりしてね。

 
               おしまいのおしまい 
 
 
追伸
書くことが、あまりないから楽に終わるかと思いきや、そうでもなかった。松宮の事なんて思い出したのが間違いだったよ。そこから、何だかエンジンがかかっちゃって、どんどん長くなっていった。

最初のタイトルは『紅の鬼豚』だった。宮崎駿の映画『紅の豚』がモチーフだ。オニベニってデブでピンク系だからって安易につけた。自分でも笑ったわ。
テキトーにつけたけど、どうやってこのタイトルとオニベニをリンクさせんねんと思いながら書き始めた。まあ、どうせゼッテーまたフザけた方向にいくねんやろなあと思ったけどさ(笑)
因みに、そこから派生した『紅の鬼嫁』と云うのも候補としてあった。益々、どうやって本文とリンクさせるねんって感じだよね。輪をかけてムチャクチャな展開になること、明白である。
で、そのうち過去のファーストコンタクトの記憶が甦ってきて、今のタイトル『嗤う鬼』に落ち着いたと云うワケ。

 
(註1)アカアシオオアオカミキリ
(2018.7 大和郡山市 矢田丘陵)

 
夜行性。夏場、わんさか樹液に寄ってくる。今年も多かった。

 
(註2)オオムラサキ
世界最大級のタテハチョウの1種。日本の国蝶でもある。

 
【♂】

 
【♀】

 
下はブルーオオムラサキのスギタニ型。

 
(註3)昼間に活動するカトカラは他にあまりいない

エゾベニシタバやオオシロシタバなどに例があるが、通常の生態ではない。おそらく大発生した時などに限った生態ではないかと推察される。

 
(註4)マホロバキシタバ

【Catocala naganoi mahoroba ♂】

 
日本で32番目に見つかったカトカラ。
詳しくは月刊むしの2019年10月号を見て下され。

 
《参考文献》
▪西尾規孝『日本のCatocala』自費出版
▪石塚勝己『世界のカトカラ』月刊むし社
▪江崎悌三ほか『原色日本蛾類図鑑』保育社