奈良で念願の蕎麦を食う

 
  
奈良で、やっと念願の蕎麦を食った。

多くの外国人観光客でごった返すメイン通りを左に外れ、土塀に囲まれたひっそりとした道へ入る。そして、依水園の横を通り過ぎる。
店はその先、戒壇院の近くにある。店の隣は奈良を撮り続けた写真家、入江泰吉の旧居だ。
この辺は東大寺の裏道にあたり、人も少なく閑静なところなので昔から好きだ。
だから、その蕎麦屋の前はよく通る。店は20年くらい前からあったような気がするが、なぜか一度も入る機会が無かった。定休日だったり、蕎麦が売り切れて早々と店じまいしていたり、或いは既にお昼を食べてしまったあとだったりと、いつもタイミングが合わなかったのだ。
とはいえ、今日も既に早めの昼食は済ませていた。タイミングがバッチシというワケではない。だから一旦店の前で立ち止まり、暫し迷いはした。でも、今ここで入らないと一生食えないんじゃないかと思った。愚図愚図してるうちに店が閉店したり、遠くへ移転したりするなんて事は往々にしてあるのだ。こういう悪い連鎖は多少無理をしてでも行かないと、断ち切れない。そういう意味では、今が最大のチャンスかもしれないと考えなおした。それに時刻は既に午後2時を過ぎていたから、小腹が空きかけてはいた。で、漸く入る気になったと云うワケ。

 

 
奥に秋を演出する栗とススキが飾られてある。
おっ洒落だね~。

 

 
外観は、大体こんな感じである。
古民家風で、如何にも旨そうな蕎麦屋然とした雰囲気を醸し出している。
だが昔はもっと素っ気ない外観で、見過ごしそうなくらいに周囲と同化していた。そこに、お洒落感は微塵もなく、わびさび感が半端なかった。そういう意味では、どこか緊張を強いられるところがあって、もっと入りづらかったような雰囲気だった気がする。

 

 
このような外国人向けの看板も無かったしね。
そういえば、昔は店の入口に信楽焼のタヌキなんて無かったような気がするぞ。或いは店が前と変わってたりして…。

中へ入る。

 

 
店内はこんな感じで、癒し系の音楽が流れている。
写ってないけど、手前の大きなテーブルには大人数の白人の家族連れがいた。後から外国人カップルも入って来た。外国の人が好んで蕎麦を食う時代がやって来てるのかなあ❓

座ってすぐ、メニューも見ずに「もりそば」を頼む。初めての蕎麦屋では必ず「もりそば」を頼むことにしている。Simple is the best. 蕎麦そのものの旨さを測るには、余計なものはいらない。シンブルが一番だ。

だが、もりそばと言ったら、店員さんに怪訝な顔をされた。どうやら、もりそばが通じてないようなんである。
これは関西では従来「もりそば」とゆう言葉はあまり馴染みがなくて、笊に乗っけられた冷たい蕎麦は大体「ざるそば」と呼ばれてきたからだろう。最近は関西でも江戸スタイルの店が増えてはいるけれど、まだまだ知らない人も多いってワケだね。やはり関東は「そば文化」、関西は「うどん文化」なのだ。
とはいえ、実を言うと蕎麦店の発祥は東京ではなくて大阪なのだ。コレ、東京の人に言うと、大概は怒るか機嫌が悪くなるんだよね。でも、これはれっきとした事実なのだ。嘘だと思うんだったら、ウィキペディアでも何でもいいから、調べてくれたら得心がいくだろう(とはいえ諸説あり)。

話が逸れた。
きょとんとしている店員のオバチャンに、『ざるそばの海苔抜きのことです。とにかく海苔抜いてくれたら、それでいいです。』と言う。
『あのう…、でもうちのざるそばには最初から海苔が入っていません。』
今度は、コッチがきょとんとする番だった。
何だ、この会話のギクシャク感は。ちょっと気持ちがゾワゾワする。
一刻も早くこの変な間を終わらせたくって、『じゃあ、その海苔の入ってないざるそばでいいです。』と早口で返した。

テーブルに座って蕎麦茶を飲みながら、ふと思う。
でもさあ、ざるそばを頼んで、もし海苔が乗っかってなかったら『(#`皿´)おんどれ、海苔乗っかとらんやないけー。何ケチっとんねんワレ。』と怒る客もいるんじゃないか❓いや、絶対いるだろう。そん時は、どう答えるのだろうか❓一々、かくかくしかじか説明するのであろうか❓それって、相当面倒くさくねえか❓ 想像して、再びギクシャク感とゾワゾワ感に包まれる。
けんど、そんな心配をしてどうなるもんでもない。そもそもワシとは関係ない事だ。考えること自体ムダな事に気づいて、想念をシャットアウトした。

テーブルに店の名刺が置いてあるのを見て、初めてこの店が『そば処 喜多原』という名だと知る。こんな名前だったっけ…。

中々、蕎麦が来ない。もりそばの一件といい、一瞬イラッとしかけたが、ふと思い直した。
時間がかかっていると云うことは、「挽きたて」「打ちたて」「湯がきたて」の所謂(いわゆる)「三たて」の可能性がある。だとしたら、期待はかなり持てる。

10分以上待たされて、ようやく蕎麦が運ばれてきた。

 

 
いい感じだ。
旨い蕎麦は佇まいが良い。見た瞬間に旨いことを確信した。

 

 
細くて端整な蕎麦だ。
『先ずは塩で御賞味ください。』と言われたので、素直にそれに従う。ようは最初は蕎麦の香りを楽しめって事だろう。

食べてみる。
なるほどね。言わんとしている事はよく解る。確かに蕎麦の香りが鼻孔からスウーッと抜ける。だがこの食べ方、理解はできるが、あまり好きではない。何か口の中でボソボソするからだ。つゆが無いから、スルッと喉の奥へと入ってゆかないのが何だかもどかしいのだ。蕎麦の香りを楽しみたかったら、蕎麦そのものに鼻をもっていけば、充分に事足りると思うんだよね。それじゃ、ダメなの?

お次は、いよいよ蕎麦の先3分の1ほどをつゆにつけてすする。
(≧▽≦)美味い❗
細いのにコシがあり、心地好い歯触りと共に喉をするりと通ってゆく。喉ごしもいい。
十割蕎麦ではなく、つなぎの小麦粉が入っていそうだ。しかし、割合は二八蕎麦でもないような気がする。小麦粉の量はもっと少なさそうだ。十割と二八の中間なら、エエとこ取りである。ならば理想的じゃないか。

そばつゆも香り高くて、味がしっかりとしている。
おそらく昆布と鰹を合わせたものだろうが、素材は相当良いものを使っているとみえる。

いやはや、今年食った蕎麦の中では断トツ1位の蕎麦だよ。美味くて、あっという間に食べ終えてしまう。満足至極である。

でも、ここでずっと前から思っていた蕎麦に対しての文句を言っちゃおう。
蕎麦って、値段が矢鱈と高くねえか❓
この店は870円だから、このクオリティにしての値とすれば他の店と比して安い。量も他の店と比べて特に少ないワケではないから、良心的と言ってもよい。
それでも思う。真っ当な蕎麦を食わせる店って、量が少ないわりに値段が高いよね。ラーメンやウドンと比べて明らかに量が少ないのだ。だから、冷たい蕎麦だと満腹にならない。で、別で天麩羅なんぞを頼んじまい、気がつけば結構な値段になっている。で、食い終わったあとに、美味かったのに何か気分的にスッキリしないのだ。旨ければ、まだいい。これが値段のわりに不味かったりなんかすると、ホント腹が立つ。
この辺、皆さんはどう思ってるんざましょ。

とはいえ、きっと原材料が高いのだろうとは思う。小麦粉が主体のラーメンやウドンとは違うのだと言われれば口ごもらざるおえないところはある。でも、蕎麦って痩せた土地でも育つというじゃないか。簡単に育てられるなら大量生産できるから、安く提供できないものなのかね❓

最後に蕎麦湯が出てくる。

 

 
つゆが旨いだけに、蕎麦湯も当然の事ながらに旨い。
寛いでいると、オバチャンがテーブルを片付けている中に「すだちそば」らしきものがあることに気づいた。
すだちそば、好きなんだよなあ…。季節的にも今の時期しか食えないものだし、とても気になる。
と云うワケで今更ながらにメニューを所望する。

 

 
右側が冷たい蕎麦で、左側が温かい蕎麦である。思ってた以上にメニュー豊富なんだね。

 

 
ざるそばのところに「蕎麦粉10割+つなぎ1割」と書いてある。やはり十割蕎麦じゃなかったんだね。小麦粉も二八の割合じゃないから、十割蕎麦と二八蕎麦の間と云う見立てはビンゴだったワケだよね。我ながら、中々鋭いじゃないか。
でも待てよ。この記述だと蕎麦粉10割と小麦粉1割となってるから、足せば11割だよね❓オカしかないか❓割合が10対1って意味なのかな❓まあ、美味かったから、どっちだっていいんだけどね。

結構お酒もある。
奈良の辛口といえば『春鹿』だよなあ。酒、呑みたくなってくるわ。
ところで、蕎麦屋で酒飲むって粋な感じがするけど、あれって何でだろうか❓

 

 
結局、すだち蕎麦は頼まなかった。これからムラサキツバメ(註1)の様子も見ないといけないし、若草山でもっとカマツカの木を探さねばならない。結構歩くから腹八分目がよろしかろうと思ったのだ。

外に出て、戒壇院に向かって歩き始める。
あっ、今年の冬に訪れた時は門の修復をしてたけど、もう終わったんだね(註2)。
この階段と門の感じが好きだ。いつ見ても心が落ち着く。

 
【戒壇院】

 
でもそのうち、この辺も観光客だらけになってしまうのかもしれない。それは、きっと良い事なのだろうが、あまり嬉しくないなと思った。

                   おしまい

 
追伸
この店をあとで調べてみたら、色んなことがわかってきた。
まず驚いたのは、食べログか何かに「旧店名 そば処 よし川」とあったことだ。という事は代替わりじゃなくて、店主が前と変わってるって事なのかな❓
オーナーが吉川(芳川?)さんから喜多原(北原?)さんに変わった可能性が高いよね。店の外観の雰囲気が変わったのも、そのせいかもしれない。
だとしたら、「そば処 よし川」の時代に行っとくべきだったなと後悔してる。

ホームページを見ると、やはり「挽きたて」「打ちたて」「湯がきたて」の三たてで、蕎麦は北海道産のものを毎朝石臼で挽き、自家製粉しているようだ。北海道産のソバといえば良質とされ、評価が高い。で、三たてとくれば、なるほど美味いワケだ。納得だよ。

出汁は北海道産の利尻昆布と真昆布、干シイタケと3種類の削り節を使用しているとの事。これまた予想通りで、やはり良い素材を使っている。
因みに、使っている醤油など他の素材については言及されていなかった。

 
(註1)ムラサキツバメ

 
南方系の大型のシジミチョウの仲間で、近年になり、東に分布を拡げている。
奈良公園には幼虫の食樹であるシリブカガシが比較的あり、毎年安定して発生している。
この日は時期が悪く、見る個体はボロばっかだった。

 
(註2)戒壇院の門の修復…
当ブログに、その時の話があります。タイトルは『巨樹と仏像』だったっけかな。ヒマな人は読んで下され。

 

『特別展 昆虫』に行ってきた

 

先日、大阪市自然史博物館で開催されている『特別展 昆虫』に行ってきた。

   

 
網とカブトムシ(アクタエオンゾウカブト)を持って嬉しそうにしてるのは、俳優で虫大好きの香川さんだ。
これも彼の昆活の一環なのだろう。虫はマイナーだから、啓蒙活動ガンガンやってね。
よく彼を批判する虫屋がいるけど、賛成できない。たしかに虫屋としては三流かもしんないけど、香川さんの熱い気持ちはよく解る。言い方は悪いけど、こういう広告塔をやってくれる人には素直に感謝すべきだと思う。我ら虫屋が少しでも市民権を得る為には、こういった有名人がいた方がいい。大局が見えてない細かい事をゴチャゴチャ言うのは、虫屋の最も悪い性向だ。

 

 
この企画は去年、東京で大盛況だったから気になっていたし(44万人以上の動員があったらしい)、今月末には終わってしまうので、博物館の図書室で調べものをするついでに行ってみた。

入口はこんな感じ。

 

 
スタッフに確認してみたら、中で写真を撮るのは基本的にはOKみたい。ナイスだね。何でもかんでも禁止にしたがる最近の風潮からすれば素晴らしいよ。
但し、映像はダメとのこと。たぶん著作権の問題があるからだろう。そこは致し方なかろう。

 

 
入っていきなり、ミツバチの巨大模型があった。
そこそこリアルで、中々良くできてると思う。
こういうのは結構好き。もし本当にこれくらいの大きさのミツバチがいたら、どう戦ってやろうかとマジで考えるのは楽しい。ワシとがっぷり四つで戦っている様を想像したら、何だかo(^o^)oワクワクしてきたよ。
あっ、こんな事、思う人はあんましいないか…❓
脳ミソの基本構造がお子チャマ仕様なのかもしんない。

 

 
日本の国蝶であり、世界最大級のタテハチョウとも言われるオオムラサキだ。
ワタクシの守護蝶でもあるので、個人的には親しみを込めて「ムラさん」と呼んでいる。
でも、この模型はミツバチと比べてクオリティーが低い。何かオモチャ的で多々不満がある。
オモチャとは全然戦う気は起きんわい(=`ェ´=)。回し蹴りで一発粉砕じゃ❗

まず羽の質感が全然表せてない。こんなベタで薄い紫色、ちっとも美しくないわい。ニセモンだ。ちょっと虫を知ってる子供が見ても同感じゃろう。
本来は構造色なんだから、角度によって色が変わるくらいやれよなー。今の技術なら、そう難しくはなくなくねぇか❓

目も死んでる。実物はもっと透明感のある黄色だ。せめてガラス玉とかにしろよなー(・ε・` )

胴体のふさふさの毛も無い。ツルッツルッだわさ。
こんなんだったら巨大化する意味あんのかよ。細かなところをリアルに再現してこそ、「わっ、こうなってんだね。」と解り、驚きと発見があるのだ。そこにこそ、巨大化する意味があるんじゃないのかね。子供たちがそれを自由に触れるようにすれば、なお面白いじゃないか。

 

 
ミンミンゼミじゃ。
緑色の質感が本物と比べてくすんでいるが、コヤツなら充分戦える。
後ろから羽交い締めにして、(ノ-_-)ノ~┻━┻ おりゃーと後ろに倒してやったら、すかさずマシンガンキックの嵐じゃ。

 

 
言わずと知れたオオクワガタ様じゃよ。
デカイと怪獣感増すなあ。ウルトラマンの怪獣アントラーズを思い出したよ。
勿論、コヤツなら戦える。相手にとって不足なしじゃ。

先ずは正面から睨み合い、互いの出方を探りあって円を描くように動く。儀式の如き前哨戦だ。そして次の瞬間、グワシャ❗互いの両手をガッツリ組み合っての力競べじゃ。
(#`皿´)ヌオーッ、ガガカ…、ギギギ…。均衡のなかで、彼奴の最大の武器である屈強な大顎がカチカチ鳴りながらワイの頭部へとググッと迫ってくる。
(|| ゜Д゜)マズイ、ピンチじゃけぇ。だが気持ちは負けてない。どころかコチラも頭を近づけ、おもいきしバチコーン💥、パチキ(頭突き)をカマしてやる。
ダアリャーッ、両者飛び退くように離れる。
( ̄~ ̄;)うぬ~、力勝負では分が悪い。ここはスピード勝負じゃ❗蝶のように舞い、蜂のように刺ーすっ❗軽(かろ)やかなステップで、左右に細かに動きながら、右から左からと千手観音の如くパンチとチョップを、アチョー、アタタタタアーと連続で繰り出す。御陀仏せえや。
(@_@;)痛ってぇ━━━❗❗
わちゃΣ(゜Д゜)、我が手を見ると血だらけじゃないか。お前、硬いよー。反則なくらい硬いよー(T-T)。
クソッ、卑怯な程の防護プロテクターじゃねえか。
ならばコチラも反則の火焔放射器じゃ❗
🔥ゴオーッ、Ψ( ̄∇ ̄)Ψほれほれ~、業火に焼かれるがよいわ。そのまま黒焦げになってしまえ、(*≧∀≦*)ケケケケケケケ…。
しかし、オオクワガタの奴、びくともしない。その黒い甲冑様なもの、熱にも強いのか…。手強い。

その後も、拮抗した攻防は続いた。
そのなかで見えてきた。弱点は足だ❗オオクワガタの脚は体のわりには細い。そこを攻めてバランスを崩させれば勝機はある。でもコイツ、何でオオクワガタなのに立ってるの❓ふつう立ってないっしょ。
この際、細かい事はいい。死ねばもろとも、攻撃をかいくぐって果敢に内側に入り、スライディングして足元をすくう。
ぐらり。バランスを崩して前のめりに倒れてくる。迫って来るそれを巧みに避(よ)け、グワシャーン❗倒れたところをすかさずマウント。馬乗りになって、コレでもかコレでもかと雨あられの如く死ぬほど打撃を加えてやった。
(* ̄○ ̄)ハー、ハー、ゼェー、ゼェー。タコ殴りにしてやったワイ。ざまぁー見さらせ。
奴は、やがて意識を喪い、グッタリとなった。
落ちたな。しゃあー❗、拳を天に突き上げて雄叫びを上げる。イガちゃん、\(^o^)/大勝利ぃ~。おどれら、みんな死ねや~。

何をやっとるんじゃ( ・◇・)❓
妄想が酷い。我ながら、やってる事がアホ過ぎる。フザけるにも程がある。

 

 
ツノゼミだ。
コチラはガラスケースに入った模型で巨大ではない。
しかし、倍率をからすればオオクワガタやミンミンゼミと変わらないかもしれない。それだけ実際の大きさは小さい虫だってことだ。
まあ、コヤツがたとえ更に巨大化したとしても、楽勝で勝てそうだけどね。このワケのワカラン、何に役立っているのかも不明な飾りを掴んで捩じ切ってやれば、闘争心も萎えて大人しくなるじゃろう。勝負有りじゃ。
しかし、まだ予断は許せない。コヤツの意味不明の役割の頭部の飾りから💥ブシャーと毒液が飛び散り、目潰しを喰らうやもしれぬ。
(・┰・)アカン。まだ妄想暴走列車は走り続けとるやないけー。

 

 
この写真はそうでもないけど、平日のわりには結構人が多い。スタッフの数も多い。
正直、美術館じゃないんだから、そんなにスタッフいるか❓とは思う。

 

 
あっ、最近話題の野村ホイホイの実物だ。
画期的なトラップとして、とみに評価が高い。
けど、甲虫や蜂などには良いだろうが、鱗翅類のチョウやガには使えないよなあ…。おそらく、コレだと羽がボロボロになっちまうだろう。何か鱗翅類でも使えるような改造方法はないかえ❓

 

 
コレは蝶だが、甲虫とか他にも標本はそこそこあった。
でも、東京の時よか標本の出展数は減っているらしい。規模が小さくなってるとも聞いてるのは、そのせいかな❓
あんまり詳しいことは知らないけど、東京では標本を供出した人に対して一切ギャラが支払われなかったようだ。当然香川さんにはギャラが支払われているだろう。なのに標本を貸した人間はノーギャラというのはオカシイと思った人たちが何人かいたようだ。そのせいで、大阪では標本を貸す人がだいぶと減ったと聞いている。あくまでもまた聞きの噂話だから間違ってたらゴメンナサイ。話半分程度で聞いて下さればエエかと存じます。
まあ、この業界はアマチュア精神の善意で成り立っているから、標本を無料で提供するのが慣わしではある。しかし、コレは官の大阪市自然史博物館独自のオリジナルの企画ではないようだから、民間の企業の金儲けのイヴェントだろう。主催者の欄に読売新聞社と関西テレビ放送とあるからね。つまり基本的には営利目的だ。ならば、主催者側はギャラを払って然るべきだと思う。

結構、面白かったけど、入場料は¥1400は、ちょっと高いよね。そんなにボルなら、スタッフを削ってでも、標本を提供した人にギャラを支払うのが筋だと思うな。

昨日、酔っ払ってここまで書いたところで力尽きた。
でも朝起きて酔いも醒めると、果たしてここまで勝手な憶測を書いていいものかと考え直した。
このイヴェントには一ミリたりとも全く関わっていないから、裏事情とか本当の事は全く知らないのだ。
だから、何もわかっちゃいない人間の戯れ言だと思って読み流してけれ。
何かトーンダウンのグダグダの終わり方でスンマセン。

 
                   おしまい

  
追伸
今回も青春18切符の回と同じく、当初は写真だけ並べてサラッと最後にコメントを書いて終わる筈だった。
しかし、戦うとか妄想おふざけモードになってから止まらんくなった。おまけに事情を何も知らないのに噛みついてる。ホント、悪い癖だよ。

 

あおはる1day trip その弐(前編)

 

『お城とおでんとお菊さん』前編

 
2時50分前に彦根駅に着いた。
長浜・敦賀方面に行くか、それとも醒ヶ井・岐阜方面へ行くかは中に入ってから気分で決めよう。青春18切符なら、どっちへ行こうが自由だ。
あっ、でも考えてみれば、別に彦根で決めなくともいいや。そっち方面に行くならば、乗り換える米原まで行ってからでもまだ変更は可能だ。ひと駅だが都会と違って駅間は長い。それだけあれば考える時間には充分だろう。

 

 
でもこの電光掲示板を見て考えを変えた。
そうだ、姫路へ行こっ\(^o^)/
久し振りに姫路城を見るのだ。そういえば大かがりな改修工事が終えてからの姫路城をまだ見ていない。
おーし、テーマは決まった。本日は城攻めじゃあ~❗彦根城に続き天下の名城 姫路城をも攻め落とすのじゃ❗
ここで、だったら長浜城に行けばいいじゃんと訝る向きもおられよう。だが、悪いがあんなものは城とは言わん❗
なぜならば、現在の天守は30年か40年前に犬山城や伏見城をモデルとして模擬復元されたものなのだ。豊臣秀吉が最初に手にした歴史的由緒ある城ではあるが、でっかい模型には用がないのじゃ❗

それにしても、この新快速というのはスゴいな。始発は米原だろうから、そこから姫路まで乗り換え無しで一発で行けちゃうんだもんな。米原から姫路って相当離れてるぞ。しかも停まる駅はかなり少ないから、特急とかに乗ってるのと変わらん。あの長野や岐阜のクソ遅い、しかも滅多に来ない電車と比べたら、考えられんくらいに素晴らしい存在だ。長野や岐阜の人には申し訳ないけど、都会に生まれ育ったことにつくづく感謝するよ。移動においての時短を都会人の方が圧倒的に享受してるってことだ。ここで田舎と高齢者ドライバーについての話に怒濤の如く入ってゆきそうになるが、やめておこう。長くなるし、それについてはまた別で話す機会もあろう。

それにしても、今度は姫路とは大返しもいいところだ。完全に導線を無視している。しかし予定は未定であって、しばしば変更なのだ。それが旅の醍醐味ってもんだ。スケジュール有りきの旅行とは、そこが決定的に違う。旅と旅行とは似て非なるものなのだ。この話も語り始めたら長くなるので、やめておこう。電車だけに今回は脱線はあきまへん(笑)
しまった、おやじギャグがつい浮かんでしまった。止せばいいのに浮かんだら言ってしまうのがオヤジなのさ。誰にも止められやしない超特急\(^o^)/
あっ、またやっちまった。( ̄∇ ̄*)ゞ失礼しやしたー。

長野みたいにクーラーがたる~い温度ではなく、キンキンに冷えてて快適だったので、車内でいつの間にか爆睡。気がつけば大阪の高槻付近だった。

大阪駅で時間を確認したら、米原から所要時間約1時間15分だった。歩いたら、何日かかんねんである。昔の人は大変だったねー。でも道中は昔の人の方が楽しかったかもなあ…。効率化が進むことが、イコール幸せではない。

尼崎で、一瞬またしても予定を変更しそうになった。乗り換えて、宝塚で有名な玉子サンド食って、それから更に奥の丹波とか篠山まで行ったろかいと思ったのである。だが、何とか踏み堪えた。帰りのことを考えれば、早いし、電車の本数もある東海道線(山陽本線)の方が選択肢は広まる。

明石駅で又しても誘惑に駆られる。
明石で寿司食って、明石焼きでフィナーレなんてのも有りだ。城だって天守閣こそ無いが、明石城跡ってのがある。でもなあ、明石は今年の初夏に行ったし、行くにしても姫路の後だろう。

 

 
4時15分くらいに姫路駅に到着した。彦根から2時間ちょっととは恐れ入る。恐るべし新快速。

ホームを歩いてて、思い出した。

 

 
そういや姫路といえば「えきそば」である。
日本一の立ち食いそば屋と称されることもある名店だ。久し振りに食べたくなってきた。まだお腹は空いてないのに、誘(いざな)われるようにふらふらと券売機の前へ行き、食券を買い、中へと入る。

 

 
中は典型的な立ち食いそば屋である。
狭い店内はサラリーマンとおぼしきオジサンや近所のオバサンっぽい人、若い兄ちゃんでゴッタ返している。残念ながらピチピチの女子高生はいない。

セルフで水を入れ、食券を厨房内のオジサンに渡したら、何と4秒で出てきた。(゜д゜)どんだけ早いねん。驚き、半笑いになる。えきそば、恐るべし。

 

 
きつねと迷ったが、えきそばといえば天ぷらそばである。こういう場合は王道を外してはならない。経験上、変化球的なものを頼むと失敗する確率が高いと知っているのだ。

ここで、姫路名物「えきそば」を知らない人もいると思われるので、軽くレクチャーしておこう。
簡単に言うと、和風だしにかんすい入りの中華麺という、有りそうで無い禁断の組み合わせの立ち食いそばなのだ。

先ずは軽く汁をすする。
間違いない。ちょっと甘めの和風だしである。万人受けする優しい味だ。人気の秘密はその辺にもあるのだろう。
続いて麺をすする。これまた間違いない、紛れもなく中華麺だ。これがミスマッチかと思いきや、違和感をさほど感じない。全然イケてるのである。
七味を軽く振り、お次は天ぷらを少し囓じってから麺をすする。
この天ぷらがいい。豪華なものではないが、だし汁や麺にモノごっつ合うのである。食べ進めるうちに天ぷらの油が汁に溶け、味が僅かづつ変化してゆくのもいい。

旨かったっす。でも麺類って、けっこう腹に溜まる。
昼飯を食べ過ぎたかもしんない。調子乗って、そば湯を飲み過ぎたのも効いてる。

改札を出て、観光案内所へ行く。
地図を貰うためだ。そこで姫路城までの所要時間を尋ねたら、オバサンにもう姫路城は4時に閉まりましたよと言われる。そんなに早かったっけ❓
でも、そんな事に動じるワタシではない。姫路には来たことがあるから知っている。姫路城は城内に入らずとも城の姿はよく見えるのだ。それに元より入るつもりもなかった。中は知ってるし、見学してる時間が勿体ないと思っていたからだ。

駅正面に出ると、大通りの奥に姫路城が見えた。

 

 
スマホの画像だから小さくしか写っていないけど、肉眼だと、もっと近くにハッキリと見える。姫路城はデカイのだ。

大通りを避け、みゆき通り商店街を北に向かって歩く。先程えきそばを食ったばかりだけど、晩飯を食う場所を物色しながら姫路城を目指そうというワケだ。

城は近くに見えたけど、案外遠い。15分程かかって漸く門に辿り着く。

 

 
大手門をくぐり左に曲がると、直ぐ正面に城が見えた。

 

 
彦根城とは違い、スケールがデカイ。幾つかの天守が組合わされたその姿は勇壮だ。
しかし、威圧感はない。白鷺城とも言われるだけあって、白くて優美なのだ。さすがは世界遺産。コレこそがキャッスルと呼びたくなる。ヨーロッパの名だたる城にも全然負けてない。
でも、惜しむらくは改修工事が完全には終わっていないことだ。手前の櫓がまだ工事中のようである。

先ずは正面左へと回る。

 

 
こっちに城内への入口がある。
思い出した。ここから城を眺めながら近づいてゆくアプローチは素晴らしいの一言に尽きる。早めに来てたら、やっぱ入城してただろう。もし、姫路城に行く機会があったのなら、中にも入ることを強くお薦めする。金を払って入る価値は十二分にある。

姫路城の天守は、江戸時代のままの姿で現在まで残っている12の天守の一つで、その中でも最大の規模を誇っている。世界遺産だけでなく、もちろん国宝である。

今度は右手に回る。

 

 
コチラの方が外から城に近づける。
それにしてもデカイ。高さは石垣が14.85m、大天守が31.5mなので、合計すると約45mにもなる。
見上げる城の、この圧倒的存在感に心を動かされない者などいないだろう。スマホで撮った写真ではそれが全然伝わらなさそうなのがもどかしい。実際はデーン❗と感じで城がダイナミックに迫ってくるのだ。

 

 
傾きかけた陽が、雲に映えて美しい。シルエットの姫路城も悪かない。
気がつけば、辺りには誰もいなくなっていた。暫く静かに城と対峙する。次第に心がゆるりとほどけてゆくのがわかる。わざわざ姫路まで来て良かったよ。

城を出て、広場で煙草を吸う。
そこにレリーフというか説明書きみたいなものがあった。

 

 
揚羽蝶の家紋は我が家系のものでもある。自然と目がいく。
そういや姫路城の城主といえば池田輝政と云うことを失念していたよ。その池田家の家紋がアゲハチョウなのである。姫路城は関ヶ原の戦いの後に城主となった輝政によって今日見られるような大規模な城郭へと拡張されたんだったね。
ところで、小さい頃から揚羽の家紋は平家の流れだと聞かされてきたけど、あれってホントかね?(註1)

その横に、もう一つ説明書きがあった。

 

 
ジャコウアゲハが姫路市の市蝶なんだそうな。
それは知らなかったが、姫路城とジャコウアゲハの話は聞いたことがある。
説明書きを原文そのままに書き移そう。

「姫路城の城主、池田輝政の家紋が揚羽蝶であることや、この蝶の蛹が姫路地方に伝わる幽霊伝説の”お菊”に似ており”お菊虫”と呼ばれていることから麝香揚羽が市の蝶に指定された。」

「”」の使い方に違和感があるが、まあいいだろう。これ以上ゴチャゴチャ言うのは時間の無駄だ。そんな事よりも、この文だけでは説明不充分なので補足しておこう。
ジャコウアゲハが「お菊虫」と言われるのには、もっと深いワケがある。有名な怪談の皿屋敷(さらやしき)が関係しており、ひいては話は東海道四谷怪談にも通ずるのだ。少し長くなりそうだが、出来るだけかいつまんで説明しよう。

怪談 皿屋敷とは、数多くの異聞がある怪談話の総称である。お菊の亡霊が井戸で夜な夜な「いちま~い、にま~い… 」と皿を数えるアレである。で、特に有名なのが、播州姫路が舞台の『播州皿屋敷』と江戸は番町が舞台の『番町皿屋敷』。この二つがよく知られており、映画や歌舞伎、浄瑠璃、文学等々多くの原作になっている。
実際あった話が下敷きとされ、播州もの『播州皿屋敷実録』では戦国時代の出来事だとされるが、史実としてそこまでは遡れないようだ。

異説はあるが、物語の内容は大体こうだ。
『姫路城第九代城主 小寺則職の代(永正16年(1519年)~)、家臣であり城代の要職に就く青山鉄山が主家の乗っ取りを企てていた。これを忠臣 衣笠元信が察知、自分の妾だったお菊という女性を鉄山の家の女中として送り込み、鉄山の謀略を探らせた。そして、元信は鉄山が増位山の花見の席で主家を毒殺しようとしていることを突き止める。元信は花見の席に切り込んで則職を救出、家島に隠れさせる。
乗っ取りに失敗した鉄山は家中に密告者がいたと睨み、家来の町坪弾四郎にその者を探すよう命じた。程なく弾四郎は密告者がお菊であったことを突き止める。以前からお菊に惚れていた弾四郎はこれを好機としてお菊を脅し、妾になれと言い寄る。だが、お菊に拒まれてしまう。それを逆恨みした弾四郎は、お菊が管理を任されていた10枚揃わないと意味のない家宝の毒消しの皿「こもがえの具足皿」のうちの一枚をわざと隠す。そして皿が紛失した責任をお菊になし付ける。お菊は縄で後ろ手に縛られ、松(柳という説も有り)の木に吊るされて激しく折檻される。そして、ついには責め殺されて古井戸に捨てられた。以来、その井戸から夜な夜なお菊が皿を数える声が聞こえたという。
その後、元信らによって鉄山一味は討たれ、姫路城は無事に則職の元に返った。
後に則職はお菊の事を聞き及び、その死を哀れんで姫路城の南西に位置する十二所神社の中に「お菊大明神」として祀ったと言い伝えられている。』

 
【伊藤晴雨「番町皿屋敷」】
(出展『東京銀座ぎゃらりぃ秋華洞』)

 
因みに、この時にお菊が投げ込まれたとされる井戸が「お菊井戸」として現在も姫路城内に存在する。この井戸がいつから存在するのかはハッキリしない。
城外との秘密の連絡経路になっていたため、誰も近づかないように怪談の噂を広めたという説もあるようだが、これも定かではないようだ。過去に本格的な調査をしようとしたこともあったようだが、不気味な空気が流れて中止したという記録があるともいう。
Σ( ̄ロ ̄lll)ゾゾゾッ。

それから約三百年経った寛政7年(1795年)、城下に奇妙な形をした虫が大量発生した。これがまさしく赤い口紅をつけた「お菊さん」が後ろ手に縛られた姿に似ていた。そのことから、お菊さんの祟りだと大騒ぎになった。人々はお菊さんがその身を虫の姿に変えて帰ってきたのだと思ったのである。それ以来、その虫のことを「お菊虫」と呼ぶようになったという。
新たな「お菊伝説」の誕生である。

今では、この虫はジャコウアゲハの蛹ではないかと考えられている。
暁鐘成の『雲錦随筆』では、お菊虫が「まさしく女が後手にくくりつけられたる形態なり」と形容し、その正体は「蛹(よう」であるとし、さらには精緻な挿絵も添えられていたからだ。

 
【ジャコウアゲハの蛹】
(出展『じいさんの日記』)

(出展『あまけろの尼崎ネタ』)

(出展『大阪市とその周辺の蝶』)

 
お菊さんが後ろ手に縛られ、拷問の痛みに体をよじっているようにも見える。色が肌色というのも人間っぽくて、妙に艶かしい。蠱惑的でさえある。縛られて折檻される女性の姿には、倒錯の美がある。エロチックなのだ。何かもう、この蛹が情念の塊みたいに見えてきたよ。

続いて、斜め横から。

 
(出展『昆虫漂流記』)

 
言われてみれば、確かに頭部のオレンジ色の紋が口紅に見えてくる。或いは痛みに堪えかねて、強く唇を噛んで血に染まった様に見えなくもない。

そして、正面からの画。

 
(出展『大阪市とその周辺の蝶』)

 
段々、形が女性の凹凸のある体に見えてくるから不思議である。
この異形とも言えるフォルムもさることながら、日本ではこういう朱色紋が入るアゲハの蛹はない。庭木のミカンやカラタチ、サンショウなどにつく、当時見慣れたであろう他のアゲハチョウたちの蛹とは見た目が明らかに違う。見慣れない蛹だけに、見た人にはインパクト大だ。そういうところも背景としてお菊さんになぞらえやすかったのだろう。もしこれら全部をひっくるめて、この虫は「お菊さん」みたいだと他人に話せば、刷り込まれて誰もがそう見えてくるだろう。そうなると伝播は早い。そして、その見慣れぬものが大発生したとあらば、伝播は爆発的に広がる。因みに、ジャコウアゲハは蛹化時に食草から離れ、壁などの人工物で蛹になることが多い。だから必然、とっても目立つことを付け加えておこう。そんなのが壁一面にバアーッとくっ付いていたとしたら、もうそれは怨念の世界だよね。

以上のような因縁があった事から、ジャコウアゲハが姫路市の市蝶に指定されたようだ。
市には「ジャコウアゲハが飛び交う姫路連絡協議会」なる組織があり、その中には「ジャコウアゲハ倶楽部」と云う市民活動の会もあり、ジャコウアゲハサミットやスケッチ大会、フォトコンテストなどのイヴェントも開催されているようだ。

ついでだから、より理解を深めてもらうためにジャコウアゲハのことをもう少し詳しく説明しておこう。

 
【Byasa alcinous 麝香揚羽(ジャコウアゲハ)♀】

 
春から夏にかけて現れ、年3~4回発生する。成虫は午前8時頃から午後5時頃まで活動する。
決して珍しくはないが、何処にでもいてそうで意外と何処にでもいない蝶である。
分布は石垣島・沖縄地方から本州北部と広い。沖縄地方では離島間で特化が進み、各亜種に分類される。

(裏面)
(三点とも 2018.4.22 大阪市淀川河川敷)

 
画像は何れも♀である。
メスは明るい褐色なのに対し、オスは黒色でビロードのような光沢がある。
♂の画像は撮っていないので、他からお借りしよう。

 
(出展『しょうちゃんの雑記蝶』)

 
これは赤紋が発達する八重山諸島の亜種(ssp.bradanus)のようだ。

 
(裏面)
(出展『蝶一日』)

 
ジャコウアゲハの名前は、オスが腹端から麝香のような匂いを発することに由来する。成分はフェニルアセトアルデヒドで、香りは「蜂蜜のよう」「甘い」「バラの香り」「ヒヤシンスの香り」「みずみずしい」「草の香り」などと表現される。ジャコウはん、どこまで妖艶要素そろえとんねん(°Д°)

蛹だけでなく、蝶になった成虫の姿もエロチックだ。
頭や体の横側に赤色が配され、毒々しくも妖艶である。赤はお菊さんの怒りを具現化した紅蓮の🔥炎だ。騒動の時に、蛹からこの蝶が一斉に羽化して舞ったのなら、当時の人々は更に驚いて、それこそ黄泉の国から甦った「お菊さん」の化身と思ったやもしれない。その光景はちょっとした幻想夢物語だ。

飛翔はゆるやかで、飛ぶ様は中々に優雅である。そういえば「山女郎」という別名もあったな。女郎とはこれまた妖艶ではないか。女郎に身をやつした「お菊さん」なのだ。どこまでも不幸だねぇ~。
でもそれだけではない。その優雅な飛び方にも理由があって、それが更なる妖艶さを一層際立たせている。
幼虫の餌となる植物はウマノスズクサといい、この草には毒がある。幼虫はその毒を体内に溜め込み、鳥などの天敵から身を守っていると言われている。成虫になってもその毒を体内に持ち続ける事から、やはり鳥に忌避されて襲われない。飛翔がゆるやかなのは、敵に襲われないがゆえの余裕のよっちゃんなのだ。エロティシズムだだ漏れの美しき毒婦には、誰も近づけないのさ。

 
城を振り返る。
目を閉じると、姫路城とその城下を無数の麝香揚羽が飛び交っている光景が浮かんだ。やがて、蝶たちはスローモーションになって、ゆっくりと天に舞い上がっていった。

                    つづく

 
追伸
サクサク終わらせるつもりが、皿屋敷とジャコウアゲハの話になって大脱線してしまった。ゆえに前編と後編に分けざるおえなくなったんだよね。「電車なだけに脱線はあきまへん。」なんぞと云うオヤジギャグをカマしておきながらの大脱線とは世話ないよ(笑)。
タイトルが変なのもそのせい。皿屋敷とジャコウアゲハについて詳しく書く予定は無かったので、最初のタイトルは『お城とおでん』だったのだ。そこに「お菊さん」をつけ加えたってワケ。でも、それなら『お城とお菊さんとおでん』とすべきだよね。それはそうなんだけど、何かそれでは音感がよろしくない。と云うワケで、そのままにしておいた。それに、お城に続いてお菊さんとくれば、頭のいい人ならば、はは~ん、皿屋敷とジャコウアゲハの話だなと気づく。それを防ぐというのもあった。たとえ気づいたとしても順番が変なので、少なくとも攪乱することくらいは出来ると考えたのだ。

余談だが、『東海道四谷怪談』のお岩さんと『皿屋敷』のお菊さんは混同されることが多い。だが、お菊さんは顔半面が爛れていないし、お岩さんは皿を数えない。井戸とも関係がない。なのに、その二つがミックスされて記憶されている方も多いだろう。実際、自分もそうだった。
これは昔、『8時だよ、全員集合』などのドリフ(ドリフターズ)のコントで、志村けんが顔面にお岩さんみたいな瘤を付けて、井戸の側で「いちま~い、にま~い…、一枚たりな~い」とやったからだと言われている。
納得である。子供なんだから、そりゃセットで刷り込まれるわな。

 
(註1)揚羽の家紋は平家の流れだと聞かされてきたけど、あれってホントかね?

ホントです。
ことに平清盛の流れをくむ者が蝶の紋を多用したので、後世に蝶が平家の代表紋になったようだ。しかし、その美しさゆえ他の家も多く用いられている。公家の西洞院、平松、交野の諸氏や戦国時代・江戸時代に祖先を平氏と標榜する家は殆んどが家紋を蝶柄としている。また、清和源氏の流れの中川、池田、逸見、窪田の諸氏、宇多源氏の建部、間宮、喜多村の諸氏、他にも藤原氏を流れとする諸家、平氏の子孫と称した織田氏も木瓜紋と共に蝶紋を使用していた。
たぶん本当は平家とは全然関係ない田舎の豪族の末裔や百姓あがりだとしても、先祖は平家だと名乗るのが流行りだったんだろね。ようするに、平家とその家紋は一種のブランドだったのだろう。

 

青き藩王シュレイベル

 
 
一年近く展翅板で超ほったらかしになっていた佳蝶シュレイベルを発見す。我ながら雑も雑の酷い性格だ。

 
【シュレイベルヒメフタオ Polyura schreiber 】

 
西ジャワ産の原記載亜種 ssp.schreiber の♂である。
時間が経っているせいか、展翅が微妙に狂ってる。

コレって、三角紙標本で300円ポッキリで売ってたんだよね。安いのは有り難いのだが、シュレイベルを冒涜するような低価格だ。正直安過ぎて、なんだか物凄く腹が立つ。現地に行っても滅多に会えない蝶なのに何で❓
きっと西ジャワから大量に入ってきた結果、値崩れしたんだろなあ…。西ジャワには、そんなにウジャウジャいるのかなあ❓それとも大量に養殖してんのかなあ❓ 或いは、それが一番正解っぽかったりして…。
そういえば幼虫の食樹は基本はマメ科植物(註1)だけど、最近は果物のランブータン(ムクロジ科)も大いに利用していると聞いたことがある(シンガボール辺りでは、街路樹にもなっているらしい)。だったら苗木を買ってきて、大量に飼育も可能だもんな。街路樹で発生しているとしたら、もっと楽勝だ。そうだとすれば、益々ガッカリだ。養殖もんは、どっか貧弱で魅力に欠けるところがあるような気がしてならない。この個体も小さいのは養殖だからかえ❓

それに比して♀は大きい。

 
【Polyura schreiber schreiber ♀】
(西ジャワ産)

 
尾状突起が長くなり、横幅も広がる。日本には、こういう形の蝶はフタオチョウ(Polyura weismanni)しかいないから、蝶採りを始めた頃はごっつ憧れましたなあ。

これも値段は700円くらいと激安だった。これって、昔からすると考えられない値段だろうな。当時いったいどれくらいしたのかはワカンナイけど、万単位のかなりの高額で売買されていたに違いない。フタオチョウの仲間はどの種も♀は得難く、珍品揃いなのだ。
不思議なんだけど、普通種のフタオチョウ(Polyura eudamipps)やベルナルダスフタオだって、野外で♀を見たことすらない。唯一見たことがあるのは交尾していたアタマスヒメフタオ(Polyura athamas)くらいだ。ナゼか♀は果実トラップにもあまり誘引されないんだよなあ…。もしかしたら、時間帯とかあるのかもしれない。寄ってくるのは日没寸前前後とか、早朝とかさ。♀は天敵に食われたら子孫を残せないので、きっと、より臆病なんだろね。
でも日本のフタオチョウの♀は昼間にトラップに寄ってくるのを観察した事がそこそこある。そう云う意味でも、日本のフタオは特異な存在なのかもしんない。
いや、もとい。記憶を思い起こすと、真っ昼間はあんまり来なくて、午後3時以降から飛来してたな。で、一番活発に飛来したのは夕刻5時以降だったわ。あと、♂は朝6時半くらいとかにも寄って来てたな…。

ところで♂って、こんな小さかったっけ❓過去に自分で採ったシュレイベルの画像を探してみる。

あった。コレだな。

 
【ssp.tisamenus】
(2011.2月 Malaysia)

 
やっぱ断然大きいじゃん。
これには ssp.tisamenus という亜種名が冠されている。学名の由来はワカラン。地名かな?

東南アジアには何度か旅してるけど、実をいうと野外でシュレイベルを見たのはたった2回だけである。
そして、上の個体が最初に出会ったものだ。場所はマレーシアのキャメロン・ハイランドの麓である。渓谷で吸水に来ていた。蝶採りを始めてまだ3年で、バカだから勢いで一人で海外採集に行ったんだよね。勿論、同行者無しのガイドも無し。外国の蝶の知識もまるで無かった。
ゆえに、このシュレイベルとかヤイロタテハを見た時は( ☆∀☆)カッケーとは思ったが、価値は全然解ってなくて採った。緊張はしたけど、自然にゲットできた。今思えば、これがその後の海外採集のスタイルの基本になった。メインのターゲットを除き、あまり知識を入れずに行った方がピュアな気持ちで臨めるから純粋に楽しいのだ。知らない事のマイナス面よりも、見る蝶、見る蝶が新鮮な方が寧ろ愉快なのである。後々、色々と発見もあるしね。後で何者かを調べるのは、ちょっとしたワクワク感があって面白い。

この一個体だけでは何とも言えないけど原記載亜種と比べて翅形が幅広く、ガッシリしている。帯も少し太いような気がする。

もう一つも探そう。

 
【ssp.assamensis ♂】
(2014.4月 Laos vangvieng)

 
コチラもござった。でも、小さいなあ…。
まあ、自分で採ってるから小さいとは知ってたけどさ。

 

 
場所はラオス・バンビエンの渓谷である。岩上のカビカピになっていた獣糞に来ていた。
当時は単なる矮小個体だと思ってたけど、或いはもしかしたら、これが標準サイズなのかもしれない。なるほど、ならば和名ヒメフタオの語源はそれに起因していると理解できなくもない。
大きさに対する認識は、ともすれば最初にマレーシアで採ったもののインパクトが強過ぎたのかもしれない。イスワラモンキアゲハとかゴッドフレイワモンチョウなど、マレー半島では蝶が全般的に大型化する傾向があるゆえ、マレーシアのシュレイベルも特別にデカイのやもしれぬ。

ファジーな個人の見立てを書いてても埒が開かないので、塚田さんの図鑑『東南アジア島嶼の蝶(註2)』で確認してみよう。

亜種 tisamenus の分布はマレー半島とシンガポール。特徴は大型で前翅端の小白紋は消えかかり、中央帯か少し太まるみたいだ。
おっ、我ながら見立てはイイ線いってたな。

ついでだから、図版の♀の画像も添付しておこう。

 
(出典『東南アジア島嶼の蝶』)

 
もう一方のインドからインドシナ半島に棲む亜種 assamensis は、やや小型で中央条や裏面の亜基条も少し細まり、前翅端の小白紋がよく出るとされる。
コチラも♀の画像を貼り付けておこうと思ったが、ナゼか塚田図鑑には標本写真が一つも図示されていなかった。

順番を違(たが)えたが、ジャワ島産の原記載亜種 ssp.schreiber の特徴も書いておこう。
小型で前翅端は鋭く尖り、外縁の湾曲も強い。白帯は発達し、青灰色鱗もよく出る。
おー、何となくそう感じてはいたけれど、言われてみれば確かに前翅端は湾曲が強くてシャープな感じだ。

亜種は、これだけでは終わらない。何と塚田図鑑では21亜種にも分けられている。そんなに細分化する必要性が果たしてあるのかね❓
他亜種については、余裕があればの話だが、別掲する予定でありんす。

言い忘れだが、シュレイベルは裏面もカッコイイ。

 

 
何か写りが暗い。
明るくしてみよう。

 

 
この複雑な幾何学模様が美しいのだ。
思うに、フタオチョウの仲間は表も美しいが、裏の方がより複雑且つ個性的で美しいものが多いように感じる。だから、いつものっけから表展翅よか裏展翅したくなる衝動に駆られる。1頭しかないと、さすがに堪えるけどさ。
因みに上はラオス産だから、ssp.assamensis。下は西ジャワ産だから、原記載亜種 ssp.schreiber の裏面である。
比較の為に、マレー半島亜種 tisamenus の裏面も塚田図鑑から拝借しよう。

 

 

ここでフタオチョウ類の展翅について一言。
フタオチョウの展翅は正直ウザい。めちゃんこマッチョな筋肉質なので、バネが強くて翅を上げても簡単に戻ってしまうのだ。左翅を上げて、さあ右翅を上げようとすると、あっという間に左翅が簡単にズリ下がる。誠にもって忌々しい。だりゃあー(ノ-_-)ノ~┻━┻。で、時々マジ発狂する。
無理に強引に上げようとすると、蝶に真っ直ぐに刺していた筈の針が上に引き上げられて、横から見たら思いっきり斜め上になってたりもする。だから、それを見越してワザと針を手前に傾けて刺すだなんて云う面倒な裏技も使わなくてはならない。
それと、無理に上翅の下辺を真っ直ぐにしようとすると触角が上手く収まらなくなって、天突く形になってしまう。これはそもそもフタオの上翅の下辺は湾曲しているので、真っ直ぐにしようとする事じたいが間違いなのだ。胴体基部の翅が始まる一点と後角部の角を結んだ線が真横になるイメージで展翅すると上手くいきやすい。もしくは触角に合わせて翅の上下を調整するとよい。これはべつにフタオに限った事ではなく、殆んどの蝶に当てはまるセオリーではないかと思う。昔から言われてる上翅の下辺を真っ直ぐ真一文字にすると云う教えは、今やナンセンスだと思う。基礎としては間違ってないけれど、絶対条件ではないということだ。
あっ( ̄0 ̄;、全然一言で終わってないでやんす。

 
【学名】Polyura schreiber (Godart, 1824)

和名にイチモンジフタオの名があるが、あまり使われていない。おそらくネーミングが普通過ぎて、何の面白味もなくてツマラナイからだろう。それに他にも縦一文字柄のフタオチョウの類は幾つもいるのだ。
ルリオビフタオという和名もあるようだが、そう悪くないネーミングだけど浸透はしていない。ゆえか、蝶好きの間ではシュレイベルフタオと呼ばれる事が多く、ヒメは省略される傾向にある。おそらく長いし、ヒメという程には小さくはない亜種もいるし、♀は決して小さくはないからではなかろうか。
和名って混乱を招き易いし、国内の昆虫にはまあ必要だとしても、外国産の昆虫には、もう無理矢理つけるのは止めた方がいいと思う。その無理から名前が複数あったら最悪だ。何が何だかワカラナクなる。
外国産の昆虫には、いっそ学名そのままの和名でいいのではないかと思う。その方が現地の人にも伝わる。シュレイベルなら通じるが、ルリオビフタオチョウなんて現地で言ったところで全く通じないのだ。和名なんて、ぶっちゃけ日本以外では要らないのだ。

頼みの綱、平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と由来-』には小種名 schreiber の語源が載っていなかった。
仕方がないので自分で調べてみると、読み方はシュレイベルの他にシュライバー、シュライベル、シュレイバー、シュレイベール、シュレーベル、シュレベールと数多(あまたは)の候補があることに驚く。のっけから頭イタイよ。実際、ネットなんかを見てるとシュライバーヒメフタオやシュレイバーヒメフタオの記述も散見されるから混乱してきた。いったい、どれが正しい読み方やねん(=`ェ´=)❓何だか憂鬱になってくる。
でも学名の発音の基本はラテン語読みだから、たぶんシュレイベル、もしくはシュライバルがあってるのではないかと思う。

じゃあ、シュレイベルとは何ぞや❓ その学名にはどういう意味が込められているのだろう❓
勘だと、おそらくこれは人名で、シュレイベルさん、もしくはにシュライバーさんに献名されたものではないかと思う。で、綴りと音感の感じからすると、その人はドイツ人ではなかろうか❓

Schreiberは、もともと schreiben という動詞の名詞形と云う記述もあったが、多くで schreiben は「書く」という意味の動詞だと書かれていた。
またドイツ語の姓の一つでもあり、「作家、著述家、吏官」などの意味がある。ようは文筆に関わる仕事を生業とする人たちのことだね。
語源はラテン語の scribo。英語の scribe(書く)の語源でもあるようだ。
だが、ここまでが限界。それ以上の事はワカラン。ワシの推理が果して真実かどうかは責任持たないよ➰ん。

英名は blue nawab(ブルー・ナワーブ)。
ナワーブはムガール帝国における各地の地方長官の称号であるが、この語は18世紀以降に普及した語であり、ムガール帝国期のインドの知事ともされる。
イギリス統治下ではナワーブは『藩王』の称号の一つであり、ニザームやマハラジャと同等に使われていたようだ。まあ知事とするか藩王とするかは、単なる訳し方なんだろね。でも古い時代に付けられた学名だし、知事とするよりも藩王とした方がしっくりくる。それに現代のイメージだと、知事なんてものには威厳も重厚さもまるで足りない。あまり尊敬されてる感じがしないもんね。東京都知事の桝添とか猪瀬とか酷かったもんな。そういえば芸人上がりの大阪都知事は、女性のケツ触ってセクハラで訴えられて辞めたもんなあ。でも、あの時は大阪府民は言うほどノックさんに対して怒ってなかったんだよね。辞める理由が汚職とかではなくて、女の尻を触ってだもんなあ。前代未聞だよ。何か、皆さん怒る気がしないというか、エロ蛸坊主の辞め方のオチとして笑えたというか、脱力して怒る気にもなれなかったというか…。

 
シノニム(同物異名)が、そこそこある。

・Nymphalis schreiber(1824)
・Charaxes schreiberi(1944)
・Eulepis schreiber schreiber(1899)
・Eriboea schreiber schreiber(1914)
・Polyura schreiber Stichel(1939)

 
同じフタオチョウ族(Charaxini)の Charaxes属に含まれるとする見解もあったんだね。

 
【亜種と分布】
一応、ウィキペディア(Wikipedia)でも調べてみた。

◆ Polyura.ssp.schreiber
◆ P. ssp.balambangana
◆ P. ssp.bilarensis
◆ P. ssp.ikami
◆ P. ssp.lindae
◆ P. ssp.luzonica
◆ P. ssp.malayica
◆ P. ssp.mentawaica
◆ P. ssp.niasica
◆ P. ssp.praedicta
◆ P. ssp.assamensis
◆ P. ssp.tisamenus
◆ P. ssp.wardii

 
うわっ💦、いまだに13亜種もある。現在もあまり整理集約されずに残ってるんだね。
いや、それでも21亜種が13亜種なってるんだから8亜種も減ってる事になる。むしろ、かなり整理されてると言った方がいいかもしんない。

面倒だけど、前言したとおり塚田図鑑の各亜種の解説を要約しよう。
先ずは各亜種の分布図を転載するっぺよ。

 
(出典『東南アジア島嶼の蝶』)

 
種のそのものの分布は、南インド、アッサムからテナッセリウム、ミャンマー、そしてインドシナ半島を経由して中国南部からフィリピンにまで達し、南はマレー半島からインドネシアのボルネオ、ジャワまでと広い。しかし、棲息地は極めて局所的で、従来どの産地でも珍品とされてきた。
 
 
【ssp.niasica ♂】

【同♀】
(出典『東南アジア島嶼の蝶』以下同じ)

ニアス島亜種(ssp.niasica)は中央帯が細く、周辺の青灰色部が広まったもので、裏面の銀白色鱗が発達し、褐色地が黄緑色を帯びる。

 
【ssp.mundus】

シンケップ・ビンタン島亜種(ssp.mundus)は大型で、翅表地色が濃く青黒い。♂の前翅端の小白紋は殆んど消失し、裏面の褐色地は緑色を帯びて後翅の黒い細条が太まる。mundusは「上品な」の意。

 
【ssp.entheatus】

ビリトン亜種(ssp.entheatus)は、小型で白帯が細い。裏面の地は白っぽく、斑紋はやや赤みを帯びる。

 
【ssp.andamanica】

アンダマン諸島・南島亜種(ssp.andamanica)の♀は前翅第5、6室の白斑が大きく、裏面亜基部の褐色条が太くなる。
図版には、このボロ♀しかなかった。レアな亜種って事なんだろね。
 
 
【ssp.malayica】

ボルネオ島亜種(ssp.malayca)は、マレー半島・シンガボール亜種 tisamenus に似るが、尾状突起の発達がやや悪く短めで、裏面の褐色地に少し赤みを帯びるもの。

 
【ssp.praedicta】

フィリピン南部のパラワン島亜種(ssp.praedicta)は、malayicaに似るが、裏面第3、4室に出る臙脂色斑が退化するという。
しかし、図鑑にはナゼか裏面画像は載っていなかった。

 
【ssp.valensius】

北スマトラ亜種(ssp.valensius)の♂はやや小型で尾状突起も短く、前翅端の白紋は消える。♀はこの小白紋が大きくなって、裏面の暗黄褐色条が細まる。

 
【ssp.notus】

南スマトラ亜種(ssp.notus)の♀は、やや小型で地色が濃色で中央白帯が細まる。学名は「南風」の意。
♂の画像は無かった。

 
【ssp.caesius】

ナツナ島亜種(ssp.caesius)は、中央白帯が細く、両翅小白紋はよく出て、裏面の地色に青味を帯びるもので、学名は青緑色の意。

 
【ssp.glaucus】

アナンバス諸島カリマタ島亜種(ssp.glaucus)は、中央白帯が細く、外側に青灰色鱗を幅広く、裏面が少し赤みを帯びた暗褐色となる。学名は青灰色の意。

 
【ssp.kitaharai】

バリ島亜種(ssp.kitaharai)は、ジャワの基亜種 schreiber に似るが、白帯が少し細まる。裏面地色が原記載亜種が黄色味を帯びるのに対し、黒味が増してメリハリがある。

 
【ssp.lusonica】

フィリピン北東部のものは特化しており、ルソン島亜種(ssp.lusonica)は小型で、前翅端の尖りは強く、外縁の湾曲も強い。白帯は極めて細く、周辺の青灰色鱗が広がる。マリンドゥッゲ、マスバテ島産もこれに含まれる。

青いし、湾曲が強くて尾状突起が長く無茶苦茶カッコイイ。これはいつか自分の手で採りたいと思う。
でもなあ…フィリピンなんだよなあ。実を云うとフィリピンには行ったことがない。行きたいんだけど、治安が悪いイメージが強いから中々踏ん切りがつかないのだ。ダイビングインストラクターをやっていた頃、勤めていた店にフィリピン支店があって、そこで銃乱射事件が起こった。詳しいことは長くなるから書かないけど、その事件でスタッフの一人が死亡した。現場にいたお客さんに、床に伏せた時に薬莢が顔の横に転がってきたとかリアルな話を聞いたのがトラウマになっているのかもしれない。
フィリピンにはヒカルゲンジイナズマとかサトラペスオオイナズマ、ブランカカザリシロチョウ、センペリィアケボノアゲハ、アカネアゲハ、コウトウキシタアゲハ等々の魅力的な蝶が沢山いるんだよなあ。行きてぇなあ。
原則、海外に行くときは一人だけど、誰かフィリピンに一緒に行ってくんないかなあ…。

 
【ssp.mizunumai】

ネグロス島亜種(ssp.mizunumai)は、スンダランドのものに似るが、尾状突起の発達がよい。白帯も太まり、青灰色部が後翅後中央部に広く出る。
亜種名は標本商であり、クワガタ、カブト界の巨人でもある水沼さんに献名されたっぽいけど、どうなのかな?

 
【ssp.bilarensis】

 
レイテ島亜種(ssp.bilarensis)は、翅表地色が褐色を帯びるもので、後翅のオレンジ斑はよく出るが、裏面の臙脂色斑の出かたは小さいもの。サマール、ボホール島産もこれに含まれる。

 
【ssp.delicatus】

ディナガット島亜種(ssp.delicatus)は、地色が bilarensis と同じであるが、白帯は細まり、後翅のオレンジ斑が広く発達する。学名は「優美な」の意。

 
【ssp.toshikoe】

ミンダナオ島亜種(toshikoe)は、delicatus によく似たものであるが、白帯が太まる。また裏面の褐色条に少し赤みを帯びる。

 
【ssp.cyaneus】

バウェアン島亜種(ssp.cyaneus)は小型で、♂♀共に白帯が細く、前翅第5、6室の白斑が明瞭。後翅のオレンジ条は♀によく出る。また後翅裏面の臙脂色の半月状斑の発達が良い。両翅端はいずれも外縁よりも突出し、ゴリゴリした感じになる特異なもの。学名は青いの意。

 
【ssp.wardii】
南インド産亜種(ssp.wardii)は中央白帯が前翅に長く伸びたもので、普通は第4室止まりなのに第5、6室にまで及ぶ。後翅亜外縁の赤茶条も太く鮮やか。

こうして塚田図鑑に解説があるのにも拘わらず、画像は載っていなかった。図鑑のコンセプトの分布範囲外だし、おそらくスペースの問題もあったのだろう。
他にも一部♂が無かったり、♀が無かったり、裏面が無いのは決してアチキが端ょっているワケではないので、あしらからず。

因みに、同じ図版に並んでいる次の画像には一瞬驚かせられた。

 

 
こんな変わった亜種もいるんだなあと思ったら、何とスラウェシ島の固有種であり、別種のコグナトスフタオ(Polyura cognatus)だった。
これは bellona という島南部の亜種で、自分の採った亜種と雰囲気が違ったからだ。原名亜種と比べて尾状突起が細くて長いし、上翅の湾曲の反りも大きい。全体のフォルムがシュレイベルのフィリピン方面のモノに近いのだ。

 
【原名亜種 ssp.cognatus】

(2点とも 2013.2月 スラウェシ島 タナ・トラジャ)

 
裏なんかも両者はかなり雰囲気が似ている。だから、シュレイベルもコグナトスと同じくクギヌキフタオ種群に含まれるとばかり思っていた。だが、どうやら違うらしい。塚田図鑑では、シュレイベルをこの1種のみの種群としているのだ。
確かにコグナトスの♀の尾突起の湾曲具合は、クギヌキフタオ(Polyura dehanii)と同じ系統の種である事を示唆している。

 
【Polyura cognatus yumikoe ♀】 

 
【Polyura cognatus cognatus ♀】

 
裏面だが、参考までにクギヌキフタオ(註3)の画像も添付しておこう。

 
【クギヌキフタオ Polyura dehanii ♀裏面】
(2010.5月 西ジャワ)

 
相変わらず、鬼のごたる様な斑紋で激カッコ美しい。
一方シュレイベルの♀には、その湾曲徴候があまり見られない。その辺が別の種群とされた理由なのかもしんない。
でもシュレイベルとコグナトスの裏面は、どう考えても類縁関係があると思うんだよね。因みにシュレイベルとクギヌキフタオはジャワ、スマトラで分布が重なるが、スラウェシ島にはシュレイベルはおらず、コグナトスのみしか分布していない。或いは、もしかしてシュレイベルの一部がクギヌキフタオに進化して、スラウェシ島に侵入したシュレイベルがコグナトスに進化したとは考えられないだろうか❓だから南部のモノ(bellona)はシュレイベルに似ているのかもしれない。けどなあ…、似ているのはフィリピン北東部方面のシュレイベルだから辻褄が今一つ合わない。酔っ払った思いつきでテキトーに書いてるから、やはり論理に穴があるなあ。まあ、だからどうした?って話だけどもね。

 
ウィキペディアに載ってない亜種は、caesius、toshikoe、delicatus、entmeminus、kitaharai、mundus、notus、valensius、andamanica、caesius、glaucus、mizunumai だな。
(◎-◎;)あれあれー、12もあるじゃないか。それによく見ると、ウィキペディアには lindae、ikami、balambangana、mentawaica と、4つもの新たな亜種が挙げられているぞ。もうワケわかんねぇよ。
( ̄▽ ̄;)あちゃー、下手に首突っ込んじまっただ。参ったなー。こう云うのってさあ、どちらも正しいと言えるし、どっちも間違ってると言えたりもするから、どうしようもないんだよなあ…。学者によって見解も違うしさ。それを己の力で今から検証するの❓
ウン、そりゃ無理だぁー。そんな力は無い。このまま放ったらかしにしよっと。気になる人は自分で調べてね。

 
【生態】
産地では周年発生するようだが、インドでは1~5月に最も多いという。因みに自分の捕らえた2個体は、それぞれ2月と4月で、雨季と乾季という別々の季節だった。
低地を好み、市街地でも見掛けることがあるという。
シンガポールなどでは街路樹にランブータンが使われていて、そこそこいるらしい。だとしたら妙に清潔で、人工的な感じがしてつまんないシンガポールでも、また行ってやってもいいかな。とはいえ、実際に行ってみると、そう甘くはないんだろうけどさ。
おそらく本来の棲息環境は緑豊かな低山地の渓谷沿いだろう。捕らえた個体はどちらも渓谷沿いで、標高は何れも700M以下だった。

♂♀共に飛翔は極めて敏速で、樹林の上空を高く飛ぶ。♂は高い梢に静止して占有域を保持する習性が強く、中々降りて来ないことから捕獲は容易ではないとされる。
飛んでいる姿は一度も見たことないけれど、フタオチョウの1種なんだから、そこは容易に想像はつく。フタオの仲間は殆んどの種が筋力がバキバキに強いので、まあ当たり前だろね。群を抜いて飛翔力が強いのだ。こんなのがジャノメチョウ科に近いだなんて、俄(にわか)には信じ難いよな。遺伝子解析を益々疑いたくなってくるよ。
とにかく、この仲間は飛翔はマッハなので、空中で捕らえるのは至難の技だ。とはいえ、熟して発酵した果物(腐果)や動物の糞尿、死体などに集まる習性があるので、幸運にもそう云う場面に遭遇したならば、わりと楽勝で採れる。大概は吸汁に夢中で、アホになっているのだ。網を被せても微動だにしないことさえある。だから、慣れれば手でも採れる。その方が翅も傷まないし、採り方としてはベストなのだ。ラオスやタイでは、結構手で採ってた。コツは心頭を滅却し、オーラを消して後ろからスウーッと手を伸ばして、💥電光石火でガシッと掴む。パワーがあるので、しっかり掴まないと弾かれるので注意されたし。

シュレイベルに限らず、皆とにかくフタオは卑しい。悪食なのだ。💩ウンコに小便、揚げ句は死体だもんなあ。それを必死になって採ってる自分も自分だけどさ(笑)。アタマ、オカシイよね。
おまけに三角紙の中で大量のお漏らしをする。で、綺麗な翅が台無しになる。〆たら直ぐにアンモニア注射とかを射った方がいいかもしんない。でも海外で注射器なんか持ってたら、麻薬中毒を疑われそうだしなあ…。
ウンコ、小便、お漏らし、注射器…。それにしても出てくる言葉が一々酷いな。スカトロプレイじゃん。アブノーマル、完全に変態さんの世界でんがな。
このグループは美しくて品もあって大好きだけど、謂わば一見淑女に見えて娼婦なのだ。でも、そう云う女性は男子の理想でもあるよね。重度の変態女はちょっと考えるけど、昼は淑女、夜は娼婦なんて女性は最高だすな。そういえば、そういう娘、いたなあ…。
過去の事を思い出して、思わず語り出しそうになったけど、何を書き始めるかワカランし、大脱線必至なので今回は自制しておきます。後半、官能小説ってのはかなり斬新だけど、人間性疑われそうだしなあ…。

そういえば、あの娘は青いワンピースがとてもよく似合ってた。夏の終わりの湖で、その裾が風にそよそよと揺れてたっけ…。それが二人の最後の夏だった。
嗚呼…、人は失ってみないと、そのモノの本当の存在価値は解りはしないのだ。

                   おしまい

 
追伸
最初のタイトルは『シュレイベルの憂鬱』だったが、本ブログに『エウダミップスの憂鬱』というタイトルの回があるので変更した。エウダミップスも同じフタオチョウ属(Polyura)の種であり、タイプの違う姉妹みたいなもの。学名は Polyura eudamippus。日本のフタオチョウも最近まではこの学名だった(現在は別種 P.weismanni)。『エウダミップスの憂鬱』は、その日本のフタオチョウを含めた全亜種について書いたものだ。ヒマな人は台湾のフタオチョウの回と合わせて読んでみて下され。
次に考えたタイトルが『群青色の狙撃手(スナイパー)』だった。悪くはないと思ったけど、カッコつけ過ぎかなと思って取り下げた。だいち飛んでる姿は一度も見たことがないのだ。盛り過ぎじゃろう。
そして、考えあぐねて捻り出したタイトルが『青き藩王』。これでいこうと思ったのだが、本文を書いてる途中で、急にやっぱシュレイベルという言葉を入れたくなって、現在のものに落ち着いた。

本当は『台湾の蝶』シリーズを再開させようかと思ったのだが、書き方忘れたあー( ̄∇ ̄*)ゞ
それに再開するとなると、また過去文を見直さねばならない。どの台湾の蝶を紹介したのかも忘れたしぃー。
正直、考えただけでも面倒くさい。憂鬱だ。だいたいこの雨続きのジメジメした毎日に、そんな気力が湧くワケないんである(8月後半の雨続きの時期に草稿を書いていたのだ)。

 
(註1)マメ科植物
インドからは Leguminosae マメ科 のWagatea spicata と Connaraceae マメモドキ科の Rourea santaloides が食餌植物として記録されている。
他に Adenanthera pavonina、Nephelium lappaceum などの記録もある。
元々 Polyura属の基本食樹はマメ科で、そこから多くの種が食性を広げ、食樹転換をしている例は多い。本種がランブータンを利用するようになったのは、比較的最近のことかもしれない。

 
(註2)東南アジア島嶼の蝶
稀代のコレクターである塚田悦造氏により、1980年から1991年にかけて刊行された5巻からなる図鑑。インドネシア・スラウェシ島からスマトラ島域内の島々の蝶に的を絞った特化した図鑑だが、枠外の周辺亜種をも網羅した金字塔とも言える大図鑑である。アゲハチョウ編、シロチョウ・マダラチョウ編、ジャノメチョウ・ワモンチョウ・テングチョウ編、タテハチョウ編(上下巻)までは刊行されているが、シジミチョウ編、セセリチョウ編は発行されておらず、未完。シリーズが刊行されてから、もう30年以上も経っているので、おそらく未完のままで終わるだろう。シジミとセセリは膨大な種があるから、断念したのかもしれない。セセリなんて人気がないから、採算も合わないだろうしね。

 
(註3)クギヌキフタオ
ジャワ島とスマトラ島に分布する佳蝶にして怪蝶。
クギヌキフタオについては拙ブログに『Rucifer Rising』と題した詳しい文があるので、興味のある方は併せてソチラも読んで下され。

 

台湾の蝶32『消えたキアゲハ 完結編』

  
        台湾の蝶32
  『消えたキアゲハ 完結編』

 
まさか3回もキアゲハを取り上げる事にはなろうとは夢にも思わなかった。でも取り上げたのには、それなりの理由があるのだ。

前回に少し触れたが、五十嵐 邁さんの図鑑『世界のアゲハチョウ』を見る機会があった。
そこにはキアゲハグループの幼生期の細密画も並んでいた。そのクオリティーの高さには驚かざるおえなかった。

 
       (出展『日本の古本屋』)

 
(出展『natsume-books.com』)

 
発行されたのは、51年前の1979年。アゲハチョウだけに的を絞った幼生期を含めた図鑑だが、当時の世界の蝶愛好家たちが度肝を抜かれたというのも頷ける。

この図鑑に触発されたのは確かだが、この時点ではまだ3話目を書くかどうかは微妙だった。
しかしその後、台湾のキアゲハの幼虫写真を漸く見つけることが出来た。それで書く気になった。
なぜだか、探しても探しても台湾のキアゲハの幼生期の写真が全然見つからなかったのだ。台湾の蝶の幼生期の解明に多大なる功績を残された内田さんの三部作(註1)にさえも、写真が載っていないのである。
ゆえに、前2回の記事中に台湾のキアゲハの幼虫写真を添付することができなかった。肝心の幼虫写真が1枚も文中に無いのは片手落ちと云うものだ。それが見つかったのだ。面倒だが、もう書かざるおえないだろう。

とはいえ、それだけでは尺が全然足りない。
折角だからこの際、併せて初回に載せたキアゲハ種群の幼虫写真と図鑑の絵図を見比べて検証していく事を思いついた。アップした幼虫写真は自分がネットで探してきたものだから、同定に疑問の残るものもあったからだ。
この図鑑の情報を加味し、もう一度全体を俯瞰して見れば、新たな地平も見えてくるかもしれない。

おさらいの意味も含めて、図鑑の成虫写真も載せて解説していこう。

 
【Papilio machaon キアゲハ】 

 

 
各亜種が並んでいるが、分布が広い分それなりに違う。と言っても、亜種にする必要性があるのか疑問なものも多いというのが現状らしい。

 
 
【Papilio machaon hippocrates 春型♂】

 
【ssp.hippocrates 春型♀】

 
【ssp.hippocrates 夏型♂】

 
【ssp.hippocrates 夏型♀】

  
日本亜種の、それぞれ春型と夏型の雌雄である。
夏型の♀は全亜種内にあって、著しく大型且つ黒っぽいゆえ、特異な位置づけにあるようだ。
我々日本人は忘れがちだが、日本は世界の極東にあり、その東には茫漠たる海原が広がっている。謂わば日本列島は、旅する命ある者の終着駅なのだ。分布の拡大を求めて移動してきた末のドン突きであり、そこにとどまるしかないのである。ゆえに独自な進化を遂げた生物も少なくない。蝶も、キアゲハ以外にも特化しているものが少なからずいるのである。それを忘れてはならない。今更ながらにそう思う。

  
(終齢幼虫)
(出展『そらいろネット』)

 
キアゲハの幼虫なんて日本の蝶屋にはお馴染みだろうが、他との比較のために幼生期の写真と絵図を添付しておこう。何事にも基準は必要なのだ。それが無ければ、比較対照とはなりえない。

お次は五十嵐図鑑の細密画。

 

 
美しい図版だ。
写真よりも味があって良い。
現代の図鑑は、殆んどが写真で構成されているから正確性は高い。だけど、面白味には欠ける。その事に改めて気づかされたよ。絵の方が想像力を掻き立てるのだ。そこには、絵画を楽しむ気持ちと相通ずるものがある。中世ヨーロッパの、絵だけで構成された図鑑なんて美しいもんね。ずっと見てても飽きない。きっと、そこに芸術性を感じているからだ。

 
(終齢幼虫)

 
キアゲハの幼虫といえば、この派手派手縞々のガチャピンみたいな終齢幼虫のイメージが強い。
実物は結構インパクトがある。❗(゜ロ゜ノ)ノ、最初はギョとしたもん。
毒は無かった筈だけど、有りそうには見えるから、まあ一種のハッタリだよね。でも、それなりの威嚇にはなるでしょう。

越冬前の秋の個体は地色の黒化傾向が強く、稀に緑色部の全く失われた個体も見られるみたいだ。但し、このような個体であっても橙色点が消失することは無いという。

 

(出展『青森の蝶たち』)

 
寒ければ寒いほど黒化しやすくなるようだ。
でも、何で寒いと黒くなんだろね❓
人間は暑い季節になるとメラニン色素が増えて肌が黒くなるのに、それって逆じゃんか。
あっ、(・。・)そっか、黒くなることによって太陽熱をより吸収しようという作戦かえ?
だとしたら、納得じゃよ。皮膚の色を自由に変えられたら、マイケル・ジャクソンもあないな苦労をしなくても済んだのにね。
 
幼虫は全部で4回脱皮を繰り返して姿を変えながら、やがて5齢(終齢)となり、その後、前蛹を経て蛹となる。

 

 
各齢が2つずつ描かれており、上から見た俯瞰図と横から見た側面図が並んでいる。
3齢の途中までは黒っぽい。これは鳥の糞に擬態しているからだと言われている。糞に化けるとは、お主やるな。ウンコ💩に化けるなんて発想は、人間様には目から鱗だよ。

それにしても4齢幼虫が4齢幼虫らしくないなあ。
4齢は、もっと白っぽかった筈なんだけどなあ…。

 

(出展『我が家の家の生き物たち』)

 
或いは図鑑に図示されているものは、終齢に脱皮する直前の幼虫かもしれない。

 
(出展『蝶の図鑑~今日の蝶』)

 
脱皮が近づくと、見た目が次第に終齢幼虫に似てくるのである。これって「おいら、ゼッテー終齢幼虫になるけんねっι(`ロ´)ノ!」と云う強い意志の表れかもしれない。
おっちゃん、「女の一念、岩をも砕く」と一人ゴチて、勝手に笑う。阿呆である。それに使い方が今いちズレとるがな。

因みに、各種、各亜種の幼虫の食草については第2話『続・消えたキアゲハ』に詳しく書いたので、今回は割愛します。気になる人は遡って前の文章を読んでくだされ。
それで思い出したんだけど、そういえば日本のキアゲハを飼っていた人が言ってた。庭にセリとパセリを植えておられるんだけど、幼虫はセリよりもパセリの方を圧倒的に好むらしい。キアゲハの食草といえばセリ科だから、てっきりセリの方が好きかと思いきや、そうじゃなかったって云う話だね。
まあ、日本ではたまたまセリが科の代表になったと云うだけだろうから、よく考えれば不思議でも何でもないんだけどね。

 

 
左上が卵、真ん中が幼虫各齢の頭部正面で、右上がその肉角だ。
肉角とは天敵に襲われそうになった時に、頭からニョキッと出すヤツだね。そこから柑橘系の嫌な匂いを発する。天敵に対して、あんま効果があるとは思えないけど、実際はどうなのかな?
まあ、こんなのを急にニョッキリ出されて、しかも臭かったりしたら、結構引くかもしんない。少なくとも、小学生のアッシはビックリした。

 
(蛹)

 
夏季の蛹は緑色で、越冬する蛹は茶色になるのは周りの環境と同化する為だ。これはよく知られた事だけど、改めて考えてみると、そんなことが出来るだなんて凄いよね。よくよく考えてみれば、神秘的だよなあ…。
だってさー、1回体内をドロドロに溶かして、全く違う形に再形成するってワケでしょ❓
異能戦士かよ。レインボーマンとか、そんな技を持ってなかったっけ?
現代人は当たり前の知識として、芋虫から蛹、そして蝶へと大きく姿を変えることを誰でも知ってはいる。だけど冷静になって考えてみたら、全く違う姿・形に変身できるだなんて驚愕モンである。不可思議としか言い様がない。昔の人たちが蝶を霊的な存在として崇めていた気持ちがよく解る。これはリーインカネーション、輪廻転生という思想とも繋がっているに違いない。

 

 
もう1つ色の違う蛹が図示されているが、よくワカンナイ。

図版にある各亜種を紹介する前に、イメージが湧き易いように改めてキアゲハの分布図を載せておこう。
キアゲハの分布は、とても広いのだ。それを踏まえて、読み進んでもらいたい。

  

 
キアゲハの分布は北半球に広く、ヨーロッパからシベリアを経て、北米にまで達している。これはきっと地史とも関係がありそうだが、壮大になるのでこれ以上触れないようにしよう。

ところで、キアゲハの祖先種は何処で誕生したのだろうか❓
それも調べた限りではワカラナイので、そもそも地史と照らし合わせて論じることには無理があるよね。迷宮に彷徨うことになりそうなので、やっぱアンタッチャブルにしておこう。首を突っ込んだら、ロクなことになりそうにない。

それでは各亜種を並べてみよう。
因みに一旦は図版の番号順に並べて各個体の解説をしてみたが、書き進めれば進めるほど不都合が生じてきた。で、その殆んどを入れ替えざるおえなくなった。番号順だと、各亜種の関連性が無茶苦茶になるのである。説明があっちこっちに飛び、相前後しまくって全く系統だてて書けないのだ。
理由は、図版内に上手く蝶をおさめる為だとか、美しい並びにしたかったのかなとも思ったが、たぶん五十嵐さんは、あんましキアゲハの分類については詳しくなかったのではないかと思う。
いや、そう云う言いぐさは後出しジャンケンみたいでヨロシクない。50年前なんだから、情報量は今よりも格段に少なかった筈だ。これでも当時の知識としては、きっと最高レベルだろう。大部分の蝶屋が、世界には様々なタイプのキアゲハがいるという事すら知らなかったに違いない。しかも、当時は多くの亜種が乱立していて、分類も錯綜していただろう。そんな時代に各亜種間の関連性まで理解して並べろというのには無理がある。順番が無茶苦茶なのも致し方ないだろう。
おかげで随分と苦労したので、いささか口が滑りもうした。五十嵐さん、ごめんなさい。

気を取り直して、次は台湾産のキアゲハである。

 
 
【ssp.sylvinus 夏型?♂】

 
【ssp.sylvinus 夏型?♀】

 
台湾産も特化している。
小型になり、翅形が縦長で上翅外縁の黒帯が細く、内側がギザキザになる傾向がある。

上翅の基半部が黒っぽくないので、おそらく夏型かと思われる。台湾のキアゲハは日本と逆で、春型が黒っぽくて、夏型の方が明るい色をしているのだ。
っていうか、世界的にはそっちの方が当たり前らしい。日本など極東地域だけが逆で、夏型の方が黒っぽくなるのだ。

 
 
【ssp.gorganus ♀】

 
フィンランド産とある。
黄色くて、別種と見紛うばかりの出で立ちだ。
(◎-◎;)何じゃ、こりゃ❗❓ もうここは、藤岡図鑑(註2)の力を借りるしかあるまいて。

スカンジナビア半島などの北方では、前翅亜外縁の黒帯が細くて一様な太さで、外側に寄っている。また、翅脈上の黒条が極めて細い。写真の個体は究極的に黒条が細くなった個体だから、矢鱈と黄色く見えるのだろう。
ヨーロッパの他地域は通常年2化の発生だが、この地域とイギリスのみが年1化だという。

エラー(Eller 1936)やセイヤー(Seyer 1982)は、これを別亜種 ssp.lapponicus としているが、明確に亜種として区別できない個体も多く、分布の地理的区分も不明確のようだ。
五十嵐さんは亜種名を ssp.gorganus としているが、原記載亜種のタイプ産地はスウェーデンだから、フィンランドとは近い。亜種名は、ssp.machaon machaon が妥当かと思われる。

 
 
【ssp.gorganus ♂】

 
これもフィンランド産と同じく ssp.gorganus としているが、コチラはドイツ産とある。フランス産などもこの亜種に含まれるようだ。
フィンランド産と同様に、前翅表面亜外縁の黒帯が細く、一様な太さで、翅脈上の黒条が細い傾向があるとされる。それゆえ、五十嵐さんは両方とも同じ亜種としたのだろう。つまり、この gorganus の特徴がより進んだものがフィンランド産だと考えられたと推測される。だから、同じカテゴライズに入れたのだろう。
でも、そんなに黒帯は細いとは思えないし、一様な太さでもないよなあ…。

この他にもヨーロッパのキアゲハには多くの亜種名が与えられてきたが、何れにせよ斑紋は連続的で明確な分布の線引きが出来ないようだ。
そんな事から近年では、ライレーとヒギンズ(Riley &Higgins 1971)が提唱したように、ヨーロッパ全体を一つの亜種とする見解が主流となっている。藤岡さんも同じ見解で、その上でヨーロッパ亜種を3つの準亜種に区分(註3)しておられる。

 
 
【ssp.britanicus ♂】

 
イギリス産。
英国本土の土着個体は対岸の大陸産に比べ、前翅表面亜外縁の黒帯が太く、波状となり、翅脈上の黒条も太い。藤岡さんはこれに加えて、前翅の形に丸みがあって、尾状突起が短いという特徴も挙げておられる。

年1化が普通だが、気温の高い年には部分的に2化目が発生する。対岸の大陸側は年2化が基本だから、緯度的に変わらないのにも拘わらず年1化なのは、見てくれの違いだけでなく、生態的にも特異なものである事を示している。
しかし、大陸側のフランスから迷蝶として飛来することがあるようで、その上、大陸産を飼育して放蝶する例もあって、血が混じってきているらしい。そのせいなのか、最近では純粋な britanicus は姿を消しつつあるそうだ。また、2化目の発生例も増えてきているという。
藤岡図鑑の刊行は1997年だから、この記述からもう22年もの時が経っている。現在ではどうなっているのだろう❓何も対策していなければ、大陸産に呑み込まれてブリタニカスは確実にこの世界から消えているか、消えつつあるだろう。だとしたら、嘆かわしいことだ。
これって、遺伝子汚染の典型じゃね❓
放蝶は蝶を増やして野に放つワケだから、美談になり易い。しかし、一見その善に見える行為が如何に悪なのかが、この例でよく解るよ。そんな事をすれば、地域に固有なものがこの世から永遠に消えてしまうと云うことが解っちゃいないのだ。善だと思って頑張ってやってる奴が、一番始末に悪い。正義を振りかざす奴が、意外と手強いのと同じだ。そう云う人は論理的に説明しても、大概が納得してはくれないのだ。

 
【ssp.oreinus ♂】

 
標本写真の産地は、Altay U.S.S.R とある。
これはたぶんアルタイ山脈のことで、そのソビエト連邦側で採集されたものであろう。
一瞬、U.S.S.R って何だっけ?と思ったよ。改めて図鑑の古さを実感したね。今時の子は、かつてソビエト連邦という国があったことすら知らないかもしんない。

この亜種は、現在は中央アジア亜種 centralis に吸収されているようだ。コチラも両者の斑紋が連続的に繋がり、亜種として明確な線引きが出来ないからだろう。

 
 
【ssp.oreinus ♂】

 
【ssp.oreinus ♀】

 
これらもソビエト連邦産と同じく ssp.oreinus という亜種名になっている。
採集地は両方ともアフガニスタンとある。
相変わらずアフガンに入国するのは難しいだろうし、ましてや山野で網を振るだなんて死ぬ覚悟がないと出来ないだろうから、今や貴重な標本かもしれないね。

これらも同じく中央アジア産の亜種 ssp.centralis のタクソンに含まれる。
トルキスタン、サヤン、タジキスタン産にも亜種名がつけられているが、地中海地方と殆んど変わらない個体もあり、変異は東ヨーロッパ、南ロシアを経て完全に連続的で、ヨーロッパを一つの亜種とするならば、これらの地域も同一亜種とすべきだと考えられている。ひいてはヨーロッパ産をもひっくるめて一つとし、ssp.machaon machaon とする研究者もいるようだ。

 
 
【ssp.annae ♂】

 
産地はブータン。
黒っぽくて、尾状突起が短い。
亜種名が「annae」ってなっているが、これってどう見ても高地に棲む異質な集団で、別種に分けられたタカネキアゲハ(Papilio sikkimensis)だよね❓
たしかタカネキアゲハの分布域にブータンも入っていた筈だよな。別種として記載されたのは、五十嵐図鑑の刊行後だから、藤岡さんによってまだ分類が整理されていなかったかと思われる。たぶん、それまではブータンの個体群は、この亜種名が宛がわれていたのだろう。テキトーに言ってみたから、本当のところはよくワカンナイけどさ。
マズい。集中力が切れてきた。あとでちゃんと調べなおそう。

 
 
【ssp.sikkimensis ♂】

 
ネパール産とある。学名からすると、これが別種となったタカネキアゲハ(Papilio sikkimensis)だね。
でも、黒っぽくないし、尾状突起も短くない。むしろ尾突は普通のキアゲハよりも長いくらいだ。いや、単に細いから長く見えるだけか…。いやいや、ミャンマーなどの標高2,500m前後に棲む超長尾型ほどでないにせよ、充分に長い。
タカネキアゲハは変異幅が多いというし、厳密的に精査すれば、その変異はキアゲハと連続的で別種とは言い難くなるかもしれない。遺伝子解析の結果でも、キアゲハと同じだとする見解もあるしね(註4)。
キアゲハの分類は今も研究者によって見解がバラバラだ。他の各亜種間も見た目の違いは連続的に推移するものが多いから、亜種を廃して全部同じものだとする研究者もいるくらいだ。ようするに曖昧でワケわかんないのである。

 
【ssp.punjabensis ♂】

 
インドとしか書いてなかったが、学名からするとパンジャブ州で得られたものだろう。
しかし、ssp.punjabensis で調べてみてもヒットしない。藤岡図鑑には、ssp.pendjabensis というのがあるから、おそらく五十嵐さんの誤記であろう。
そう思ったのだが、確認し直したら、punjabensis というのも少数ながらあった。だから、五十嵐さんは他の人の誤記をそのまま使ったのかもしれない。或いは punjabensis はシノニムなのかもしれない。

この亜種を調べている仮定で、問題のタカネキアゲハ的なものも含めて疑問が解けた。
亜種 pendjabensisは、annae、sikkimensisと密接な関係にある。この辺の話は物凄くややこしいのだが、頑張って説明してみようと思う。

どうやら pendjabensis は亜種 asiaticus という種群に含まれるようだ。annae も同じくこの種群に入れられている。他に emihippocrates と云う亜種も此処に含まれている。これらは皆、Hindu Kush(ヒンドゥークシュ)、Karacoram(カラコルム)、Himalayas(ヒマラヤ)などの低地に同所的に分布するとされてきた。そして尾状突起の長いものを ssp.pendjabensis、短いものを ssp.annae として区別していた。
五十嵐さんは、それを踏まえて短尾型をssp.annae、長尾型をssp.pendjabensisとしたのであろう。
しかし、実際は短尾型は3,000m以上に棲み、低地には分布しておらず、それが混乱に拍車をかけた。
加えて問題をややこしくしたのは、当時の分類研究の大家であったタルボット(Talbot)が、春型と夏型を混同し、両者をそれぞれ別々な亜種としてしまったことだ。
asiatica はエベレスト西方の谷(Longshar valley)が基産地だが、同地の標本を検したタルボットは前後翅の黒帯が幅広く全体的に黒いものを asiatica とし、黄色い部分が広くて上翅基部が黄色鱗粉に覆われているものを中央アジア亜種の centralis とした。しかし、彼が asiatica としたのは春型で、centralis は夏型にしかすぎなかった。ようするに、これらは同じもので、その季節型でしかなく、当然ながら亜種とはなり得ない。
タルボットは更に長尾型の pendjabensis がパンジャブからクマオン、emihippocrates がネパール、短尾型の annae がシッキムからブータンに分布するとし、斑紋が異なるものが異所的にいるかのように書いた。だが、長尾型と短尾型は標高で生息を異にしているだけで、実際は同じ地域に分布しているし、長尾型同士に明確な差は見出だせない。

後にディール(Deal1977)は asiaticus がヒマラヤ南斜面の低地型キアゲハと見なすべきと論証し、更に従来は短尾型キアゲハの亜種名として用いられてきた annae も長尾型でしか有り得ないことを証明してみせた。
前述したが、つまり短尾型と長尾型は同所的に標高で棲み分けており、3000m以上に短尾型、それ以下には長尾型が棲息しているというワケだね。
そして、3000m付近では両者が混棲し、中間型が見られないことから、藤岡さんはこの短尾型を別種と考えた。で、ディールの考証に従って他の地方も含めて短尾型といわれるキアゲハの特徴を全て持ったキアゲハの中で最も古い学名を用いて新種タカネキアゲハ Papilio sikkimensis(Moore 1884)として記載したというのが当時の流れだろう。
因みに、藤岡さんは原記載亜種の産地にシッキム、雲南省を挙げている。

一応、タカネキアゲハの分布域も書いておこう。
分布の西限はパキスタン西部のバルチスタン北方で、パキスタン最西北のチトラール地方から東へはカラコルム山脈、ヒマラヤ山脈沿いに広く分布し、ヒマラヤ山脈が南限となる。北はパミール高原及びチベット高原、天山山脈、そして東は中国の雲南省、四川省、甘粛省、青海省に至るまでの高地に分布している。
それにしても、驚くほどに分布域が広いんだね。

バルチスタンとかチトラールとか懐かしいなあ…。
と云うことは、タカネキアゲハはギルギットなんかにも棲んでるんだろね。
いや、ギルギットはそんなに標高は高くなかった筈だ。思い返せば1,500mくらいかな。ならば、フンザ辺りか? でも一応調べてみたら、たったの2,500mくらいしかない。ちょっと歩いただけで息切れしたから、だいぶと空気が薄かったと感じたけどなあ…。すると、ススト辺りまで行かないといないってワケか。スストで泊まった時に眠れず、一人夜中に外に出た時の記憶が突然フィードバックしてきた。冴え冴えとした月光が水の無い河原に降り注ぐ様は、まるで別な天体にいるかのようだった。凄絶なまでに美しく、恐ろしく寂しい風景だった。

五十嵐図鑑に示された個体は、おそらくネパールでも低標高地で得られたものだから尾状突起が長いのだろう。つまりこれは厳密的にはタカネキアゲハではない。きっと採集された場所がネパールというだけで sikkimensis としたのだろう。
因みにネパールのタカネキアゲハは産地からすると、ssp.rinpoche(Wyatt,1959)という亜種となる筈だ。しかし、五十嵐図鑑の個体の見た目はどちらかというと原記載亜種 sikkimensis sikkimensis に近いような気がする。

ssp.pendjabensis(Elmer1985)だが、パンジャブ州がタイプ産地ではなく、Dehara Dun(デヘラードゥーン)とAllahabad(イラーハーバード)となっていた。
デヘラードゥーンは、日本語では「デーラドゥン」や「デラドゥン」と表記される事も多いインドのウッタラーカンド州(旧ウッタラーンチャル州)の暫定州都である。パンジャブ州と隣接し、その東側に位置する。
一方、イラーハーバードは、英語名称に由来するアラーハバードという表記されることが多いインド北部ウッタルプラデーシュ州の都市で、テラドゥンの東南にある。ようするにパンジャブ州、ウッタラーカンド州、ウッタルプラデーシュ州は連なっており、何れもヒマラヤ山脈の麓にあるのである。つまり、亜種 pendjabensis も低地の長尾型キアゲハということになる。
但し、ssp.annae や ssp.asiaticusとは、現在どういう風に関連づけされているのかはワカラナイ。
しかし、たぶんこれらは皆同じもので互いに区別できず、どれか一つの亜種名(asiaticus?)に集約されて、他はシノニム(同物異名)として使用されなくなっているものと思われる。
以上、ザックリで説明したから、細かいところは間違っているかもしんないけど、大まかにはそう云うことだろう。

パンジャブ州はインド北西部にあり、パキスタンと国境を接している。
ついでに言うと、パキスタン側の州もパンジャブ州である。今更ながらに、パキスタンはインドから独立したんだなと思い起こさせられる。つまり、それによってパンジャブ地方は分断されたって事なんだね。

昔、パキスタン側の国境の街ラホールからインド側の国境の街アムリットサルへと旅したことがある。この国境は、しょっちゅう突然閉鎖されることで有名で、ビクビクしながら国境越えした事を思い出す。
そういえばアムリットサルといえば、誇り高きシーク教徒の聖地だったな。着いて煙草を吸ってたら、デカいシーク教徒に「ここで煙草を吸うな。」と威厳に満ちた態度で、たしなめられたっけ…。シーク教徒は、みんな大柄で誇り高き戦士なのだ。
まだその頃は蝶採りなんぞしていなかったから、キアゲハの存在くらいは知ってはいたものの、こんなところにまで分布しているだなんて考えもしなかった。
思えば人間にも多くの民族がいて、それぞれ見てくれは違ったりするから、いわば亜種だらけだ。でも、その境界はキアゲハと同じで曖昧だ。何だかそう思うと、種の定義って何なんだ❓と思うよ。ワカラナクなってくる。

何だか結びの文章みたくなっちゃったが、先はまだ長い。気をとり直して次の図版に移ろう。

 
  
【ssp.schantungensis ♀】

 
標本の産地は熱河省とあった。
熱河省❓そんな省、中国にあったっけ❓
これは流石に調べた。それによると「ねっかしょう」と読み、かつて存在した省らしい。中華民国の時代にうまれ、満州時代を経て中華人民共和国の時代に入っても存続したが、1955年に廃省となったようだ。場所は現在の河北省、遼寧省及び内モンゴル自治区の交差地域に相当するみたいだ。

 
  
【ssp.chinensis ♂】

 
これも同じく中国産のキアゲハ。学名もいかにも中国って感じだ。でも、産地は特に記されていなかった。
どうやらこの亜種は、上の亜種 schantungensis に集約されているようだ。schantungensis は東中国が基産地だから、ということは中国のド真ん中、もしくは南部辺りのキアゲハなのかな?

 
 
【ssp.orientis ♂】

 
標本の産地は、Manchuria 北部大興嶺。
これはおそらく大興安嶺山脈の事を指しているものと思われる。この山脈は火山山脈で、中国北東部、ロシア、モンゴルとの国境に沿って南北約1,200㎞にわたって連なっている。どんな所か今一つ想像がつかないが、想像するにきっと厳しい環境なのだろう。キアゲハは乾燥地帯や湿潤な温帯域、低地から高山地帯と、色んな環境に適応できたから、分布を世界に広げることが出来たんだろうね。

摸式産地はサヤン山地。シベリア、北ロシア、ウラル山脈などに分布し、藤岡さんも別亜種として扱っている。
英語の産地表記には、polar(極地)という言葉があるから、北極圏にまで分布しているものと思われる(註5)。
強えぜ、キアゲハ。だったら何で台湾では消えてしまったのだろう❓

 
  
【ssp.sachalinensis ♂】

 
【ssp.sachalinensis ♀】

 
サハリン産のもので、遺伝子解析では日本の北海道産に極めて近いようだ。

これら解説してきた亜種の幼虫の見てくれは、日本のキアゲハと殆んど変わらないようだ。但し、タカネキアゲハは保留としておく。調べた限りでは、幼生期の解明がなされていないからだ。高地に棲む特異なキアゲハだけに、見てくれに大きな違いがある可能性はある。もしも特異な幼虫ならば、遺伝子解析の結果がどうあれ別種とすべきだと思う。遺伝子解析による分類が絶対ではないと考えているからだ。見た目が同じなのに、遺伝子解析では別種という結果が出ている昆虫も最近は少なくない。目で見て全く区別できないものなんて、そんなもんに果たして名前をつける意味があるのかね❓分類とは本来、人間が生物を区別するために生まれたものだ。それを忘れたら、本末転倒だと思う。見た目で判別できないものは、同種でいいじゃん。徒(いたずら)に遺伝子解析の結果を重視するのは混乱を引き起こすだけじゃないか(# ̄З ̄)

 
ここからはキアゲハの亜種、もしくは近縁の別種とされるが、幼虫形態が違うものです。

 
 
【Papilio saharae ♂】

 
【Papilio saharae ♀】

 
【Papilio saharae ♂ 】

 
【Papilio saharae ♀ 】

 
上2つが北アフリカのアルジェリア産。下2つが地中海のマルタ諸島産である。
アフリカではサハラ砂漠北側の500~2,000m以上の山岳地帯に棲み、西からモロッコ、アルジェリアを経てチュニジアに続くアトラス山脈とリビア北東部のアカダール山地が確実な産地であるが、地中海沿いの他の場所でも迷蝶として採集されることも多いという。

年1化で2~5月に発生する地が多いが、環境の厳しくない場所に適応した産地では、年2~3回発生するところもあるという。

コヤツは従来キアゲハの亜種扱いだったが、後に別種に分けられたものだ。理由はヨーロッパのキアゲハと混棲している場所が見つかったからみたい。つまり、既に生殖的には種として分化していると云うワケだね。しかも、キアゲハが草原などの穏やかな環境を好むのに対し、サハラキアゲハはガレ地や砂漠の中のオアシスを好むというから、生態的にも差違がある。
でも、コヤツもタカネキアゲハと同じく遺伝子解析では同種という判定が出ているんだよね。

そういえばモロッコのカサブランカから内陸のマラケッシュにバイクで移動した時に見た風景は壮大だったっけ…。時刻は夕暮れ間近で、荒涼とした大地の向こうに茶色い山々がデーンと連なっていた。そこには見渡す限り道路以外の人工物は全くなく、時間が止まったかのようだった。バイクを走らせているのに、全てがスローモーションのように見えた。今でも、あれは本当に見た景色なのかと思うくらいに幻想的だった。今、自分は日本から遠く離れた土地にいるんだなと実感したのを思い出す。
あそこには、きっとサハラキアゲハもいた筈だ。

 
幼虫はこんなのである。

 
(出展『wildisrael.com』)

 
おそらく左下が4齢幼虫で、左上が終齢幼虫だろう。
かなりキアゲハとは見た目を異にする。
しかも、幼虫はキアゲハが好む食草であるセリ科 Ferula communis(オオウイキョウ)やFerula vulgare(フェンネル)を好まず、同じセリ科だが、Deverra chioranthus、Deverra scopularia、Saseli varium などを食する。これも別種とする理由になったようだ。遺伝子解析がどうあれ、別種説を推したいところだね。
因みに、五十嵐図鑑には成虫写真を4個体も載せているのに、残念ながら幼虫の絵は図示されていなかった。

 
 
【ssp.aliaska ♀】

 
北米大陸のキアゲハで、アラスカ亜種とされる。

 
(終齢幼虫)
(出展『Butterflies and Moths of America』)

 
幼虫は初回の時に上の画像を添付したが、同定に自信が持てなかったので他の画像も探した。けれど画像は少なく、漸く見つけたものは有料だったので添付はパス。でも特徴は同じなので、この画像で問題ないと判断した。

キアゲハの幼虫と基本的なデザインは同じだが、決定的に違うのはオレンジの部分が黄色に置き換わっているところだ。しかし、別種レベルという程の相違は無いだろう。ここは五十嵐さんの見解を知りたかったところだが、残念ながら図鑑には絵図も解説も無かった。

さらに次ページの図版へと進もう。

 

 
左と真ん中の縦1列が北米大陸のキアゲハグループだ。黒いものが多いので、かなり異質に感じる。
特に♀が黒くなるものが多いようだ。これは体内に毒を持つアオジャコウアゲハに擬態していると言われている。ようは擬態することにより、鳥の捕食から免れるためだね。
おそらくユーラシア大陸のキアゲハがシベリアから北米大陸に渡り、独自の進化を遂げたものだろう。
何となくそれは理解できる。だが、ではなぜユーラシア大陸のキアゲハはそういった擬態的進化を指向してこなかったのだろうか❓
ユーラシアにも毒を持つジャコウアゲハやアケボノアゲハの仲間は沢山いる。しかし、それに擬態したキアゲハは自分の知る限りではいない。それはどうしてなの❓ 擬態した方が生き残る確率は上がる筈だけど、ユーラシアのどの地方のキアゲハもその戦略を選ばなかったということになる。
とはいえ、何でもかんでも擬態で片付けるのは、どうよ❓安易過ぎないか。そもそも北米のキアゲハは本当にアオジャコウに擬態してんのかな❓ 幼虫の食いもんの違いや極地やアラスカの厳しい環境を潜り抜けてきたせいで黒化しちゃったら、たまたまアオジャコウに似てましたーってな事って無いのかな❓ 果たしてアオジャコウの分布と黒いキアゲハの分布ってビッタリ重なるの❓ 自分も困ったら擬態を持ち出す傾向が強いから、大きなことは言えないけど、一考の余地はあると思う。

  
【Papilio machaon bairdii ♂】

 
【Papilio bairdii ♀】

 
標本はアメリカ・カリフォルニア州産のもの。
以下、他にもカリフォルニア州産のものが多いので、混乱を避けるために分布図も添付しておこう。

 

 
図鑑ではミヤマキアゲハという和名が付与されているが、あまり使われていないようだ。少なくとも、自分は聞いたことがない和名だ。
五十嵐さんは学名を Papilio bairdii としているから、キアゲハとは別種と考えていたみたいだね。しかし、藤岡さんはコレをキアゲハの亜種に含めた。

それでは幼生期を見てみよう。
初回時に添付した画像はコレ。

 
(出展『Butterflies and Moths of America』)

 
図鑑の絵図と見比べてみよう。

 
(終齢幼虫)

 
微妙に違うが、基本的には合っていそうだ。
どうやら地色が緑色ではなくて、青いのが最大の特徴みたいだね。

 
(幼生期全ステージ)

 
キアゲハに極めて近いものだと思われるが、若齢期は黒ではなく、茶色。そして、4齢が白くなると云うのが特異だ。でも白くなる意味が全然ワカンナイ。白くなって得する意味ってある?

  
(4齢幼虫)

 
藤岡さんはキアゲハ(P.machaon)に含めたが、こうなると別種の可能性も有りうる。

 
(幼虫の頭部)

 
顔も青っぽいね。
実物を見ないと何とも言えないが、キアゲハの幼虫よりかはおぞましく無い。キュートで、ちょっとお洒落感さえある。

 
(蛹)

 
特に変わったところは無さそうだ。
一見したところ、キアゲハの蛹と区別がつかない。
しかし解説を見ると、頭部の突起が極めて短いという。言われてみれば、そうかもしんない。

 
 
【Papilio rudikini ♂】

 
コチラも標本はカリフォルニア州産だ。

 
(分布図)

 
和名は図鑑ではアリゾナキアゲハとなっているが、別名コロラドサバクキアゲハとも言われ、現在は次に紹介する Papilio polyxenes の亜種(ssp.coloro)とされている。
狭義のコロラドサバクキアゲハ Papilio rudikini は砂漠に限って棲息する種で、黒い型はおらず、黄色い型のみしかいないみたい。
これは以前はキアゲハの亜種 bairdii と考えられていたが、種間雑交の研究結果、別種 P.polyxenes に極めて近い事がわかった。それが polyxenesの亜種とされるキッカケとなったようだ。

polxenesの亜種とするならば、分布域は広がり、黒くなるクラーキ型が東部に行くほど増え、逆に西では黄色い型が増えるという。

 
(幼生期全ステージ)

 
色も斑紋も、キアゲハとはかなり違う印象をうける。
サハラキアゲハと似ているかも…。キアゲハとは別種とされるのも納得がいく。

 
(終齢幼虫)

 
(頭部と肉角)

 
卵が写っていないが、キアゲハと同じく淡い黄色である。

 
(蛹)

 
夏型の蛹の色が、キアゲハと比べてくすんだ緑色だ。背中に黄色い部分も無い。やはり別種くさいな。

 
 
【Papilio polyxenes ♂】

 
【Papilio polyxenes ♂】

 
【Papilio polyxenes ♀】

 
まさに黒いキアゲハだ。和名がクロキアゲハなのも理解できる。標本は全てミシシッピー州産になっているが、分布は広い。

 

 
この分布図と先のアリゾナキアゲハの分布図を重ね合わせたものが、Papilio polyxenes(クロキアゲハ)の分布になると云うワケだね。

ではでは、幼虫さんの画像。

 
(幼生期全ステージ)

 
(終齢幼虫)

 
(各齢図)

 
(幼虫の頭部)

 
顔が黄色い。アリゾナキアゲハは4齢の顔が黒かったけど、こっちはキアゲハ的な顔だ。
とはいえ、総合すればアリゾナキアゲハと殆んど同じである。アリゾナキアゲハがクロキアゲハに吸収されたのも致し方ないだろう。

 
(蛹)

 
蛹は何故か越冬仕様のものしか載っていなかった。
夏も茶色だったりしてね(笑)。
図鑑には、蛹頭部の突起がキアゲハよりも細長く尖り、両突起間の中央は顕著に凹むと書いてあった。

あっ、そういえば初回で添付した画像を載っけてなかったね。

 
(出展『Butterflies and Moths of America』)

 
(◎-◎;)❗❗ゲロゲロー。
全然、違うやん❗❗❗❗
黒くなくて、Papilio machaon aliaska アラスカキアゲハ的やんかー(|| ゜Д゜)
もうワケわかんねぇぞー❗Σ(×_×;)❗

ネットで、Papilio polyxenes の写真を探しまくる。
それで漸く見えてきた。

 

 

 

 

 
黒いのもちゃんといるのである。
そして、キアゲハ的なオレンジ紋の奴までいる。

 

 
若齢幼虫も色々なタイプがいる。

 

 

 

 

 
どれがどれだかワカンナイけど、たぶん画像には緑色タイプと黒いタイプの若齢幼虫が混じってると思う。
ようするに、この Papilio polyxenes という種は多型が生じるタイプなのだ。そういえば初回にそんな事を書いた記憶が甦ってきたよ。同じ場所に黒いタイプと緑色のタイプの幼虫が混在するみたいな事を書いた筈だ。
あ~、三歩あるけば忘れてしまう鶏アタマ振りを見事に露呈してしまったわい。ちゃんと初回をシッカリ読んでから書けよなー(  ̄З ̄)。性格の問題点まで露(あらわ)にしちまっただよ。
と言いつつ、読み直すつもりはサラサラ無い。あんなクソ長い文章なんて、我ながら読みたくないのだ。
ともあれ、コヤツにキアゲハという種の根本的な特性のヒントが隠されているかもしれない。多型化しやすいがゆえに、各地で独自に形態変化が進みやすいのではなかろうか❓

 
【Papilio zelicaon ♂】

 .
【Papilio zelicaon ♀】

 
キアゲハ(P.machaon)っぽい。パッと見はキアゲハにしか見えない。
見ていると、画像は黄色いタイプが多いので、黒いタイプはいないのかと探してみたら、ユタ州なんかには黒いのもいるらしい。

五十嵐さんは別種としてアメリカキアゲハという和名をつけているが、藤岡さんは P.polyxenes の亜種とし、これら polyxenes種群にヤンキーキアゲハという和名を与えている。和名って、ホントややこしいや。

標本は2点ともカリフォルニア産となっている。
分布は特異な形で、主に西側沿岸に偏り、一部が内陸部にも侵入している。

 

 
初回で添付した画像はコレ。

 
(出展『Butterflies and Moths of America』)

 
黒いタイプなのかと思いきや、キアゲハ的である。
第4~7腹節亜背線には左右1対の顕著な突起を有するようだ。

 

 

 

 

 
(出展『Butterflies and Moths of America』)

 
調べてみたが、どうやらコヤツらには黒いタイプの幼虫はいないようだ。基本は緑色のオレンジ紋型で、黄色紋型もいるようだ。これは、どう解釈すればいいのだろう❓
緑色タイプの幼虫が所謂キアゲハ的な黄色い成虫となり、黒いタイプの幼虫が黒い成虫になるとか連動性は無いのかなあ❓ユタ州なんかには黒いタイプの成虫がいるそうだから、そこには黒い幼虫も存在するとか無いのかね❓ キアゲハとクロキアゲハは同種で、黒いタイプの幼虫が別種に分化する途上にあるのかもしれないとは考えられないだろうか…。
でもなあ…。当然、アメリカのキアゲハの遺伝子解析も終わっている筈だろうけど、論文が見つけられないので何とも言えない。
あー、これじゃダメだ。各種が交雑している場所もあるとか何とかと自分で書いた記憶もあるぞ。もう、これは初回を読み直すしかあるまい。

ザアーッと読み直しましたよ(  ̄З ̄)
どうやらクロキアゲハとキアゲハが交雑している地域も一部にはあるらしい。ということは両者は非常に近い類縁関係にあるということだ。と云うことは自分の推論も、そう大きくハズレてはいなかったワケだ。でも、論はそこから発展していかない。
考えても仕様がない。次へ進もう。

 
 
【Papilio alexanor ♂】

 
【Papilio alexanor ♀】

 
コチラは北米産ではなく南フランス産で、ヨーロッパから中央アジアにかけて分布する。この南フランス産が原記載亜種かと思われる。和名はトラフキアゲハで通っている。

一見するとキアゲハの仲間に見えるが、よく見ると毛色はかなり違う。上翅の斑紋のパターンがキアゲハとは異なり、どちらかと云うと北米のトラフアゲハ類に似ている。だが幼虫はキアゲハ的で、食草もキアゲハと同じセリ科だから長年キアゲハの仲間とされてきた。しかし近年のDNA解析の結果、キアゲハの仲間では無い事がわかってきている。

 

【Papilio alexanor orientalis ♂】

 
【Papilio alexanor orientalis ♀】

 
U.S.S.R 産とあるから、旧ソビエト連邦のものだね。分布の東端の亜種だろう。

 
【Papilio alexanor hazurajatica ♂】

 
コチラはアフガニスタン産だ。これにも亜種名がついている。

 
(幼生期全般)

 
確かにキアゲハの幼生期に似ている。
特に終齢幼虫なんかは似ているように見える。

 
(終齢幼虫)

 
けれど詳細に見ると、かなり違うことに気づかされる。先ず卵の色が黄色ではなく、青い。キアゲハは3齢まで鳥の糞に似るが、コヤツには糞に模した真ん中の白い帯が無い。

 
【各齢幼虫】

 
また、4齢幼虫が白くなるという特徴もある。一瞬、アラスカキアゲハ(Papilio machaon bairdii)の4齢幼虫のことが頭を掠めたが、他人の空似だろう。直接の類縁関係は無いと思われる。

 
(4齢幼虫)

 
(幼虫の頭部と肉角)

 
頭部はキアゲハに近いね。

 
(蛹)

 
だが蛹には凹凸が無く、明らかに系統が違うことを示している。別種であることは間違いない。下手したら亜属に分類されてもいいくらいに離れている感じだ。

次がキアゲハ関係の最後のページである。

 

 
2種が混じっているが、全部アメリカ・ミシシッピー州産のものである。

 
 
【Papilio glaucus ♂♀ 春型】

 
【Papilio glaucus yellow&black 夏型 】

 
所謂、トラフアゲハって奴だ。五十嵐図鑑ではメスグロトラフアゲハという和名がつけられていた。
しかし、メスが黒くならない地域もあって名前にそぐわない。また英名も「Tiger Swallowtail」だから、和名はトラフアゲハの方が適しているだろう。

キアゲハを精悍にした感じで、中々カッコイイ。
デカそうだし、いつか採ってみたいね。分布は広いみたいだし、行けば採れそうだ。

 
(分布図)

 
(終齢幼虫)

 
キアゲハ的な縞々ではないね。全然違う。
これって、アオスジアゲハの幼虫っぽくね❓
とはいえ、形はグラフィウム(アオスジアゲハ属)的ではなく、Papilio属系の形をしている。

 
(アオスジアゲハ 終齢幼虫)

 
(蛹)
(出展『博物雑記』)

 
同じアゲハでも、Graffium属は蛹の形が全然違う。

 
(幼生期全ステージ)

 
(卵)

 
卵は緑色で、基本的に黄色い卵であるキアゲハとは一線を画すね。

 
(各齢幼虫)

 
若齢幼虫はキアゲハと同じく鳥の糞みたいな奴だ。

 
(幼虫の顔面)

 
(蛹)

 
蛹は勿論アオスジアゲハ的ではなく、キアゲハと同じく典型的な Papilio型だが、スリットが入ってるんだね。色は茶色型のみで、緑色型の蛹は存在しないようだ。

一応、写真も見てみよう。

 
(終齢幼虫)
(出展『Butterflies and Moths of America』)

 
(出展『Butterflies and Moths of America』)

 
わおっ❗❗、茶色いのもいるんだ。
秋冬型❓ワケわかんねぇぞ。

でも、どうやら蛹になる前に茶色に変色するようだ。
それにしても、何で(;・ω・)❓色が変わっちゃったら、目立つでしょうに。鳥に襲われちゃうぞー。どうせ色が変わるなら、蛹になる時でもエエんでねえの❓

年1化だそうだし、異なる点だらけだから、キアゲハとは遺伝的には結構離れていそうだ。

 
 
【Papilio rutulus ♂♀ 春型】

 
コチラにはオオトラフアゲハという和名がつけられていた。しかし、この和名もそぐわない。多くの地域で本種はトラフアゲハより小型になるからだ。
英名は「Western Tiger Swallowtail」ゆえ、ニシトラフアゲハという和名もあるが、まんまのウエスタントラフアゲハにして欲しいよね。そっちの方が西部劇っぽくてカッコイイじゃんか。
北アメリカ西海岸に生息し、南部に行くほど大型になるそうだ。

 
(分布図)

 
図鑑には幼生期が載っていないので、画素を添付しておきましょう。

 
(若齢幼虫)
(出展『Rising Butterflies』以下同じ)

 
(4齢幼虫)

 
(終齢幼虫)

 
基本的に、トラフアゲハとあまり変わらない。

 

 
コチラも蛹になる前には茶色になるようだ。

 
(蛹)

 
蛹もトラフアゲハと同じようなものだ。おそらくコヤツも緑色型のものは存在しないだろう。
ようするに、やはりトラフアゲハ群はキアゲハとは遠縁にあたるってワケだ。

因みにトラフアゲハ群には、他に以下のようなものがいる。

・Papilio canadensis(カナダトラフアゲハ)
・Papilio eurymedon(ウスイロトラフアゲハ)
・Papilio multicaudata(フタオトラフアゲハ)
・Papilio pilumnus (ミツオトラフアゲハ)
・Papilio esperanza(エスペランサアゲハ)

しかし、図版には載っていないので、画像は割愛させて戴く。
そういえば、なぜか五十嵐図鑑にはヒメキアゲハも掲載されていなかった。コチラは以前の回にも載せたし、トラフアゲハよりもキアゲハに近い種だと思われるので紹介しておく。

 
【ヒメキアゲハ Papilio indra】

(出展『Raising Butterflies』)

 
小型で、クロキアゲハの近縁種とされる。
多くの亜種に分けられているが、いわゆるキアゲハ的な黄色い型はいないようだ。

幼虫写真も添付しておこう。

 
(卵)

 
色が変だが、これは孵化が近いせいなのかもしれない。

 
(1齢幼虫)

 
(2齢幼虫)

 
(3齢幼虫)

 
(4齢幼虫)

 
(終齢幼虫)
(以上 出展『Raising Butterflies』)

(出展『Butterflies and Moths of America』)

 
基本はキアゲハ系統だ。
それにしても、ウミヘビみたいで気持ち悪い。
ピンクと黒の配色って、超苦手なんだよなあ…。背中に悪寒が走ったよ。

 
(蛹)

(出展『Raising Butterflies』)

 
凹凸が少なく、キアゲハとはあまり似てないね。
色は茶色型しか見つけられなかった。コヤツも茶色型オンリーなのかなあ?

 
今まで見過ごしてて気づかなかったが、藤岡図鑑には遺伝子解析の図もちゃんとあった。相変わらずユルいよなあ…。

 

 
元ネタは『Phylogeny of Papilio machaon group by Mitochondrial DNA variation(Sperling & Harrison 1994) ミトコンドリアDNA比較によるキアゲハ群の近縁関係』という論文である。
見にくいけど、画像は拡大できます。

これによると、キアゲハの祖先種から先ずはトラフアゲハ(Papilio alexanor)が分かれる。やはり遠縁なんだね。次にヒメキアゲハ(Papilio indra)とナミアゲハ(Papilio xuthus)が分岐する。おいおい、トラフアゲハってナミアゲハよりも遠縁なのか。続いて Papilio polyxenes と Papilio zelicaon のヤンキーキアゲハ(アメリカキアゲハ)群とコルシカキアゲハ(Papilio hospiton)が分岐する。
残ったものがキアゲハ群(P.machaon)で、そこからサハラキアゲハ(saharaeとは書いていないが、Morocco(モロッコ)とあるのでそう判断した)とssp.pikei(カナダ・アルバータ州亜種)が分岐する。サハラキアゲハは解るとしても、何でカナダ産のマイナーな亜種なんかがここで突然出てくるのだ❓
次に日本のキアゲハ(ssp.hippocrates)が分かれる。やはり日本のキアゲハは古い時代に分岐したようだ。更にアラスカ産のキアゲハ(ssp.aliaska)が分岐するのだが、この辺からどんどんオカシな感じになってくる。
残ったクラスターは2つに分かれ、一方にはアメリカのキアゲハ(ssp.aliaska 、ssp.dodi、ssp.joanae、ssp.brevicauda)とフランス産キアゲハが、もう一方のグループには Czecho(チェコ)産とアメリカのキアゲハ(ssp.bairdii)が入っている。
この最後の2つのクラスターは、俄かには信じがたい。aliaskaが何度も登場するし、チェコ産とフランス産がそれぞれ別々のクラスターに分かれていて、そこに両方ともアメリカのキアゲハが入っているのはオカシイからだ。
おそらく分岐年代が新しいものは、当時の遺伝子解析の精度では正確性に欠けていたのであろう。遺伝子解析の結果を鵜呑みにしちゃなんねえって事だ。何しろ所詮は人のやる事だ、各人の解析の仕方如何によっては当然結果も違ってくる可能性がある。遺伝子解析を100%信じるのではなく、どうやら参考程度に考えた方が良さそうだ。

 
キアゲハはあまりにも亜種が多いし、おまけにシノニム(同物異名)だらけだ。ゆえに面倒だから今まで全亜種を並べてこなかったが、一応最後だし並べておこう。但し、分類は学者によって違うということに留意しておいて戴きたい。
とここまで書いて、やっぱやめることにした。確認したら、人によって見解が違い過ぎて分類がグジャグジャなのだ。やっぱワケわかんないや。ゴメンナサイ。興味のある方は自分で調べて下され。

 
長々と引っ張ってきたが、ここで漸く台湾のキアゲハの幼虫写真を添付して結びとしよう。

 

(出展『蝴蝶資料』以下同じ)

 
新たな生態写真も同サイトで見つかった。
上翅の基部が黒いから、たぶん春型だと思われる。

 
(卵)

 
色が黄色ではなくて茶色くて濃いが、おそらく撮影時の条件が悪かったのだろう。もしくは孵化が近い卵だったのかもしれない。
卵期は5~7日間とある。日本のキアゲハと変わらない。

 

 
4齢幼虫かなあ❓

 
(終齢幼虫)

 
予想はしていたが、普通のキアゲハの終齢幼虫と特に変わりはない。ちょっと残念だ。

幼虫期間は25~30日間と書いてあった。これも日本のキアゲハとほぼ同じだろう。

 
(蛹)

 
上下が逆さまである。
たまたま逆さまで蛹化したのかなあ…❓
でも、そんなこと可能なのかしら。逆さまだと蛹化に失敗しそうじゃないか。単なるミスで、天地が逆の写真を載せてしまったのかもしれない。
けど普通、そんなの気づくよね。それに誰かに指摘されるだろうから、早々と修正するよな。にも拘わらず、そのまんまということは、やはりコヤツは逆さま状態で蛹になったのだろう。
もしかして台湾のキアゲハは、みんな逆さまで蛹になったりして…。だとしたら、特殊過ぎて別種にしたくなるなあ(笑)。

冬季以外の蛹期間は15~20日間と書いてあった。
ここにも特殊性は無い。

うだうだと書いたが、台湾のキアゲハについての大発見も無いし、締まりのない結びになりそうだ。
って云うか、クロージングが思いつかないので、このまま終わりにします。

一端、それで「おしまい」の文字を入れたのだが、とはいえ三回にもわたりクソ長い文章を書いてきたのだ。これじゃあ、あんまりだ。もう少しマシな事を書いて結びとしよう。

ここまでキアゲハの事を延々と書き連ねてきたが、キアゲハという種は誠に逞しいと云う印象を強くした。
分布は北半球全般と広く、オーストラリアと南極を除く各大陸に分布する蝶なんて、そうはいない。垂直分布も海岸から3,000mを越える山地までと広い。熱帯地方には分布しないが、亜熱帯には分布し、一部は北極圏にも分布している。湿潤な気候にいるのはもちろんのこと、砂漠地帯にも適応しているのだ。
幼虫の食餌植物もセリ科を中心に広く、ミカン科やキク科、ギョリュウ科などにもその範囲を拡げている。
これだけ分布が広く、食餌植物も多いとあらば、他種との生存競争に勝ち残ってきた種という証しでもある。それなのに、なぜ台湾のキアゲハは忽然と消えたのだろう❓
地球温暖化などの気候変動はあるものの、そう急激に絶滅するとは普通では考えられない。また、幼虫の食草が絶えたワケでもない。石山渓が地震によって崩壊したから食草が無くなって絶滅したという説があるが、これも冷静に考えれば有り得ない事だろう。だって一つの渓にしか生えていないという植物ではないからだ。たとえ仮にそうだったとしても、蝶には羽がある。ミツバやニンジン(ノラニンジン)など他のセリ科植物が代用食になるから、それを求めて飛んで行けば命脈は保たれる筈だ。食草の減少が関係無いワケではないだろうが、絶滅の決定的理由とはならないだろう。
乱獲も理由としては考えられない。貴重な亜種ではあるが、キアゲハ自体は日本やヨーロッパにもいるから、唯一無二という存在ではない。見た目はそんなに変わらないのだ。特別高価で取引されていたとは思えない。同じ台湾なら、フトオアゲハの方が遥かに高値で取引されていただろう。でもフトオアゲハは絶滅してはいない。
乱開発も理由としては弱い。台湾のキアゲハは1000m以上の高地に棲息するから平地のような大規模開発は出来ないからだ。
しかし、環境がそう変わっていないのに姿を消した蝶もいないワケではない。日本でいえばオオウラギンヒョウモンなんかがそうだ。昔は広く何処にでも生息していたのに、一部を除き全国的に一斉に忽然と姿を消したと云う例もある。自然環境や食草が残っていても、絶滅はするのである。
ならば天敵が大量発生したと云うのはどうだ❓
それも鳥や蜂など目立つ天敵ではなく、矮小な寄生蝿や寄生蜂ではなかろうか❓いや、もっと微小なウィルスみたいなものに感染したのかもしれない。

どうあれ、自分は台湾のキアゲハが完全に絶滅したとは思ってはいない。
今も彼女は、台湾のどこかの山中で人知れず優雅に舞っている筈だ。

 
                  おしまい

  
追伸
またしてもクソ長くなってしまった。
長いだけでもシンドイのに、おまけに各亜種の順番を並べ替えたので、全部書き直しという労苦を味わう破目になった。ところどころ文章の時系列に整合性を欠くのも、ちょいちょいブッ込むおフザけにキレがなかったのも、そのせいである。アタマがウニってて、余裕が無かったのだ。カラスアゲハの時ほどじゃないが、キアゲハも書くのに相当疲れたよ。三話目は書くんじゃなかったと後悔してる。こういうのを世間では蛇足というんだね。

蛇足ついでに書く。
思えば、フィンランド、ドイツ、イギリス、フランス、スペイン、モロッコ、イラン、パキスタン、インド、ネパール、中国、台湾、カナダ、アメリカと、気せずして自分はキアゲハ・グループの特徴的な種類の故郷を幾つも旅してきているんだね。
目を閉じると、瞼の裏にそれぞれの風土が甦ってくる。北欧の森、アルプスの草原、英国のなだらかな緑の丘、地中海の青、モロッコの荒涼な大地、イランの漠たる平原、ヒマラヤやカラコルムの峻険たる山々、インドの猥雑、中国の喧騒と雄大、台湾のどこか懐かしさを感じる山河、カナダ・アメリカの青空と緑のコントラスト。そのどれもの風景には、その時々の気温や肌に感じる湿度の有無、そして風や大地の匂いの記憶が混じっている。どの土地でも実際にはキアゲハの姿は見ていないけれど、彼ら彼女たちが飛ぶであろうロケーションは容易に思い浮かべることができる。頭の中で飛ぶキアゲハたちはとても美しい。

  
(註1)内田さんの三部作
故 内田春男氏の著書『ランタナの花咲く中を行く』、『常夏の島フォルモサは招く』、『麗しき蝴蝶の島よ永えに』のこと。もちろん今や古書だが、そこそこの値がついている。

 
(註2)藤岡図鑑
藤岡知夫/築山洋『日本産蝶類及び世界近縁種大図鑑』。

(註3)3つのヨーロッパ準亜種
おそらくイギリス亜種 britanicus 以外の以下を指すものかと思われる。

・北ヨーロッパ亜種(原記載亜種) ssp.machaon
・中央ヨーロッパ亜種 ssp.alpicus アルプス地方
・地中海亜種 ssp.sphyrus 南イタリアなど

 
(註4)キアゲハとタカネキアゲハを同種とする見解

日本列島に分布するキアゲハの遺伝的多様性と系統関係
Genetic variations and phylogenetic relationships among the populations of swallowtail
butterfly, Papilio machaon, in the Japanese Islands. (宮川美紗 2018?)

遺伝子解析による結果、両者を同種としているのだが、詳しい理由は見当たらない。この論文には系統図も載ってないから、別に元ネタの原稿があるのかもしれない。

(註5)北極圏にも分布している
タイミル半島基部、エニセイ河流域の北緯69度にも分布している。北極圏は66度33分以北だから、間違いなく圏内に分布しているということになる。
因みに、69度付近が人間の居住限界と言われている。

 

コツバメの思ひ出

 
春先に福井県の今庄にギフチョウに会いに行ったおり、久し振りにコツバメにも会った。

 
【コツバメ Callophrys ferrea 】
(2019.4.6 福井県南越前町今庄)

 
一緒に行った姉さんが、ピュンピュン飛んでるのをコレ何?と言ったので採って見せた。羽が破れていたので、御覧いただいてからリリース。
もう1頭、ぽよぽよ飛んでいたので、ソイツも何となく網に入れた。今度は鮮度が良かったので、持って帰ることにした。それが上の展翅写真で、♂である。

そう云えば、コツバメの♂は♀をゲットする為にテリトリー(縄張り)を張るんだったね。なので1頭見つけると、同じ場所で複数見られることが多い。

ギフチョウと同じくスプリング・エフェメラルと呼ばれ、年に一度春先にだけ現れる蝶だ。
日本産は、Callophrys ferrea ferrea という学名となっているから、原名亜種(名義タイプ亜種)のようだね。日本以外ではロシア極東地域・中国東北部・朝鮮半島などにもいるようで、それぞれ別亜種とされている。
日本国内では北海道から九州までと分布は広く、特に珍しいものではない。コレは幼虫がアセビなどのツツジ科とコデマリやリンゴ、ボケなどのバラ科を中心に、ガマズミ(スイカズラ科)、アカショウマ(ユキノシタ科)、バッコヤナギ(ヤナギ科)など多くの植物の花、蕾、実を食べるからだろう。また、見た目が何処でも同じで、地方による地理的変異がコレといって無い(註1)。
だからか、人気はあまりない。
しかし、こうして改めて見ると、メタリックな鈍色(にびいろ)で、そこはかとない渋い美しさがある。
学名の小種名「ferrea(フェッレア)」は、ラテン語の ferreus の女性形で「鉄、鉄の、鉄色(の)」が語源なのも頷ける。
因みに属名の「Callophrys(カロフリュス)」は、ギリシャ語由来。「kallos(美)」と「ophrys(容貌・眉)」を合わせた言葉で、美しい容貌を意味するようだ。
蛇足だけど、このCallophrysというのは新しい属名で、昔は「Ahlbergia(アールベルギア)」という属名だったそうな。アールベルギアって、何だかカッコイイ響きだ。「アールベルギアの秘宝」とか有りそうだもん。
でも、語源はAhlbergという人に因むようだ。願わくば大海賊とかであってほしいよね。その妃とか娘に遺した秘宝とかさあ。

♂は♀と比べて蒼い領域が少ないのが特徴だ。
探せば♀の標本もある筈だが、面倒なので図鑑から画像を拝借させて戴こう。

 
(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

  
蒼い部分が増えたからといって、飛躍的にキレイになると云うワケでもない。やはり、どこか地味である。
こういうのを褒める場合、世間では「いぶし銀の美しさ」とでも讃えるんだろね。

(・。・;❓ ここで、はたと気づいた。最初に掲げた展翅写真って、もしかして♂じゃなくて♀じゃね❓
色がくすんでて明るくないので、♂だとばかり思っていたが、翅形が♂みたく縦型じゃない。♀は、どちらかというと横型なのだ。それに蒼の領域が♂ほど狭くはない。
そっかあ…、最初にピュンピュン飛んでたのが、テリトリーを張ってる♂で、ぽよぽよ飛んでたのは♀だったってことか…。何故、それに気づかなかったのだろう。そんなの多くの蝶の♂と♀に見られる基本的な生態じゃないか。
普通、蝶は♀よりも♂の方が色鮮やかで綺麗なケースが多い。顕著ではないけれど、コレがコツバメでは逆だからと云うのも勘違いした要因だろう。
(-“”-;)やっちまったな…。コツバメなんて長いこと無視してたから、そんなの忘れてたよ。
にしても、ダサダサだな。情けない(´д`|||)

♂はこんなのです⬇

  

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

 
♂は蒼い部分が狭くなり、色もくすんでて、更に地味だ。

 
【裏面】

 
裏もまた地味。でも、よく見ると渋いデザインとも言える。好きな人は好きだろね。

既に皆さんも感じておられるだろうが、コツバメに対してぞんざいというか、雑魚的な扱いが言外に滲み出ている。言っちゃ悪いが、その程度の存在なのだ。
でも今にして思えば、最初の1頭を採るのには思いの外、苦労したんだよなあ…。

蝶採りを始めた二年目、周囲にキッパリと宣言してしまった。日本に土着するとされる蝶、約230~240種類のうちの200種類を三年以内に採ると言い切ってしまったのだ。
これは今は亡き蝶界の巨人、小路さんがその著書の中で200種類以上を採らねば一流の蝶屋とは認めないと書いてあったのを見て、反発を覚えたからだった。ならば、んなもん三年で達成してやろうと思ったのだ。
今にして思えば、バカバカしい啖呵だ。若気の至りとしか言い様がない。恥ずかしいかぎりである。
けど、色んな人に「おまえ、蝶採りナメとんのか。」とか「無理、無理。蝶採りはそんな甘ないで。」などと言われつつも、お陰様で楽勝で達成できた。たしか三年で223種類にまで達した筈だ。怒りこそが、我がモチベーションを保つ原動力なのだ。
だから、色んな意味で小路さんには感謝している。短期間に飛躍的に知識と経験が増したし、飽き性の自分が途中で蝶採りをやめなかったのも明確な目標があってこその事だ。
小路さんといえば、国内の蝶に関してはトップだった人だ。是非とも生きておられる時に会いたかったよ。蝶採りを始めた頃には、既に他界されていたのが残念でならない。

そういうワケで、二年目の春はコツバメを必死に探していた。でもナゼか見つけることが出来なくて焦っていた記憶が甦ってきた。宣言しといて、いきなりコツバメ程度で躓くわけにはいかないのだ。

奈良県と大阪府との境界にある葛城山にギフチョウを採りに行ったおりの帰りの車中だった。既に蝶屋として実績のあったOKUくんに、必死さを隠して生意気な感じで『コツバメ、何処に行ったら採れるん❓』と尋ねたことはよく憶えている。
そういえばこの時、ツマキチョウのいる場所も尋ねたんだよね。ツマキチョウでさえもまだ採ったこともないのに啖呵を切っているような輩に対して、そりゃ周囲も冷ややかにもなるわな(笑)。今の自分だったら、『バカかぁー、おめぇ❗❓』とキレ気味で言うか、冷ややかな目で『せいぜい、お気張りやすぅ。』とでも言うに違いない。
彼はその質問に暫し考えてから『コツバメって、普通種だけど何処にでもいるってワケじゃないんだよなあ…。そこに行けば絶対採れると云う有名な場所も特に無いんじゃないかなあ。』と言った。
その時は不親切な野郎だと思ったが、今にして思えば彼の言動は正しい。
コツバメなんてものはギフチョウを採りに行った折りについでに存在を認識する程度の蝶だと、後においおい理解した。コツバメだけをターゲットにワザワザ探しにいく者なんぞは殆んどいないのである。それが現状だ。だから、彼の言動は極めて真っ当なリアクションだったといえる。それゆえ、他の人にも同じ質問をしたが、的確に答えてくれた人は誰もいなかったのだろう。

コツバメを初めて採ったのは、忘れもしない大阪と京都の県境にある鴻応山(こうのやま)だった。
記録を紐解くと、葛城山に行った二日後となっている。山頂でテリトリーを張っていたのを必死で採った。頭の中に、その時の映像はシッカリと残っている。
当時はまだ、新しい蝶を採る度にいちいち指が震えていた時代だった。だから、きっとそれなりに感動して、指も震えたに違いない。振り返れば、幸せな時代だった。今や、滅多な事では簡単に感動できなくなってしまっている。去年はとうとう蝶で指が震えることは一度もなく、何とカバフキシタバ、シロシタバ、ムラサキシタバという蛾のみだった。

そういえば、山頂で陣取っていたオジサンが必死にコツバメを採るオイラを訝しげな目で見てたっけ…。
オジサンの背後の檜の枝でテリトリーを張っていたので、一応『採っていいすかっ❓』とお声掛けしたのだった。
鴻応山といえば、鴻応山型(註1)と言われるギフチョウの異常型が稀に採れることで有名な山だった。今は鴻応山型どころか、普通のギフチョウでさえも絶滅しかかっているらしい。それに現在はギフチョウの採集が禁止されている。
だからギフチョウそっちのけで必死にコツバメを追いかけている姿は、ド素人のイモ兄ちゃんにしか見えなかっただろう。しかし、その時は鴻応山型なんかよりも、圧倒的にコツバメの方が自分にとってのプライオリティーは上だったのだ。
ゆえに、まだ誰にも言ったことはないけれど、実を言うとその時は鴻応山型を採ったのにも拘わらず、羽が欠けていたからリリースしてしまった(片方の尾突が無かった)。変なギフチョウだなあとは思ったが、価値が解らなかったのだ。あとで知って、恥ずかしいので、ずっと黙っていたのだ。
こういう場合、「今更だけど断腸の思いだ」なんぞと言うべきなのだろうが、正直あまり後悔はしていない。
変異に興味が無いワケではないけれど、心のどこかで所詮は奇形じゃんかと思っているところがある。
それに当時はイガちゃん3頭伝説と言われるくらいに、3、4つ採れれば満足して(この時も普通のギフチョウは幾つか採っていた)、あとはサボってた。元々が飽き性だし、個体数よりも種類数に重きを置いていた時代でもあった。未だ見ぬ蝶に会う事が一番面白かったのさ。それは今もあまり変わっていないような気がする。だから、蝶採り三年目の年の2月に早々と海外に一人で採集に出掛けた。
国内外を問わず、自分が見たことが無い蝶は誰よりも先に最初の1頭目を採ることが精神安定剤であり、そこに最大のモチベーションがある。数の大小は二の次だ。挑まれでもしないかぎり、今でもそれほど気にはしていない。恥ずかしくない程度に採れればいいと思ってる。
とはいえ、周りから『採れる時に採っとかないと、あとで後悔するでぇ~。』と口酸っぱく言われ続けているので、前よりかは少しは採るようにはしている。それに種類数にはとうに興味を無くしているので、モチベーションを上げるためにワザと数を競うことも増えてきているような気がする。
でも、今でも真面目さには何処か欠けるところがある。とっとと帰って、温泉なり銭湯なりにでも入って汗を流し、キンキンに冷えたピールを飲む方が人生においての最優先事項だったりするのだ。

しまった。誓ったのにも拘わらず、令和に元号が変わっても悪いクセは治らない。一発目から早くも大脱線である。話をコツバメに戻そう。

文章を書いていて、改めて思った。
コツバメという和名は中々に秀逸だ。言葉に、どこか颯爽としたイメージがある。きっとツバメさんのイメージとも重なっているのだろう。
それにしても、ツバメと名がつくのにも拘わらず、コツバメには尾突(尾状突起)が無いのは、これ如何に❓
キマダラルリツバメやツバメシジミetc…とかには皆さん尾突があって、それが名前の由来になっているのだ。
んぅー(-“”-;)、コレはおそらくコツバメの♂がピュンピュンって感じで、ツバメみたく素早く飛ぶからだろう。考えても他に理由が思い当たらないので、そう云うことにしておこう。

ふと思う。もしもコツバメじゃなく、何とかシジミと云う名前だったら、きっと酷い名前で、更なる下賤な扱いを受けてるんだろなあ…。

♂の画像と裏面の画像があまりにも酷いので、標本を探すことにした。

 

(2012.4.12 兵庫県三田市香下)

 
写真は思いの外にキレイに写っているが、実物はもっとくすんだ色です。お世辞にも美しいとは言い難い。
むしろ、裏面の方が複雑な柄でカッコイイかもしんないなあ…。
でも、きっと青みの強い美麗個体だっているだろう。
展翅も今イチだし、来年は真面目にコツバメを採ろっかなあ…。

                 おしまい

 
追伸
実を言うと、文章の下書きが終わった時点で、雌雄を間違えているのに気づいた。面倒なので、このまま押しきってやろうかと考えもしたが、簡単にバレそうだし、何を言われるかワカラナイ。仕方なく大幅に書き直した。んなワケで、令和初日に記事をアップする予定が1日ズレちった。

余談だが、国外にはコツバメの仲間(Callophrys属)が結構いて、緑色の奴なんかもいたりする。

 
【Callophrys rubi】
(出展『Learn about Butterflies』)

 
美しいねぇ(⌒‐⌒)
でも表は茶色一色。コツバメの方がまだキレイだ。
分布は広く、ヨーロッパから温帯アジア、シベリアまでいるようだから、インドシナ半島の北部辺りで会えないものかなあ?
いや、蛾みたいなホソオチョウとか、品が致命的にない中国産のアカボシゴマダラを放蝶するならば、こういうのこそ放しなさいよ。きっと定着すると思うよ。
m(__)mスンマセン、冗談です。放蝶はダメでやんす。

 
【Callophrys gryneus】
(出展『Carolina Nature』)

 
おやおや、尾突があるのもいるんだね。
無茶苦茶、( ☆∀☆)カッコイイやんかー。
但し、亜属のようだ。因みに、コツバメ属には6亜属約50種類がいるもよう。
画像はアメリカ・カロライナ州のもので、分布は北米に広そうだね。

参考までに言っとくと、Callophrys属はカラスシジミに近いらしい。上位分類は、Eumaeini カラスシジミ族になっている。何となくそうじゃないかとは思ってたから、納得だすよ。

(註1)地方による地理的な変異はコレといってない

九州産のコツバメは大型で裏面地色が濃くなり、明色部と暗色部のコントラストが弱くなる傾向があるらしい。

 
(註2)ギフチョウ鴻応山型

(出展『ギフチョウ88ヶ所めぐり』)

 
(@_@;)わちゃ❗、斑紋がエラい事になっとる。
変異のタイプとしては、有名な福井県の杣山型に相通ずるところがあるかな。

次の大阪府高槻市産も、おそらく鴻応山型だろう。
京都西部から大阪北部に連なる地域で、時折採集されたようだ。

 
   (出展『ギフチョウ 変異・異常型図鑑』)

 
因みにリリースしたのは、これほど顕著な異常型ではなかった。こんだけ異様だったら、アホのオイラであってしても、いくらなんでも持って帰る。
(ToT)くちょー、今だったらリリースなんかゼッテーしない。あの時、尾突なんぞは幾らでも修理できると知っていたなら、持って帰ったのにぃー(T△T)

追伸の追伸
ふと思ったんだけど、コツバメって、何で年1化なんざましょ❓

 
 

台湾の蝶31『続・消えたキアゲハ』

 
 
 第31話『続・消えたキアゲハ』

 
(出展 五十嵐 邁『世界のアゲハチョウ』)

 
早くも続編である。
何でかっていうと、幼虫の食草の新たな情報が見つかったからだ。
カッコ悪いことに、内田さんの台湾の蝶に関する著書の存在をすっかり失念していた。内田春男氏と云えば、台湾の蝶の幼生期の解明に多大なる功績を残された方だ。それを忘れるだなんて、ブラマヨの吉田風に言えば『どーかしてるぜっ❗』である。
しかも、台湾三部作と言われるシリーズの一冊『常夏の島フォルモサは招く』の古書を去年の秋に買って持っているのである。我ながらド阿呆である。

 

 
その著書によると、内田さんは1988年5月4日に南投県翠峰で2齢幼虫を採集。同年8月10日に台中県石山渓で卵と各齢の幼虫を採集されている。
あちゃま(;゜∇゜)、成長の過程がバラバラじゃないか。と云うことは、一部は第3化として秋に羽化するって事だよね❓

食草はセリ科のモリゼリ Angelica morii となっていた。
えっ❗、Peucedanum formosanum タイワンカラスボウフウ以外にも食草があるの❓
和名と学名からすると、たぶんセリ科植物の1種だろう。キアゲハの基本的な食餌植物と云えばセリ科だから、違和感はない。

巻末資料「台湾産蝶類の食草に関する覚書」には、更に以下のようなものが食草の記録として付記されていた。

 
・ヨロイグサ Angelica dahurica
・ハマトウキ Angelica hirsutiflora
・ニイタカシシウド Angelica morrisonicola
・ミツバ Cryptotaenia canadensis
                (蔡百峻,1988)

 
上3つがセリ科植物で、一番下のミツバも属は違うだろうが、おそらくセリ科であろう。
えっ、ミツバ❓ たぶん吸い物に入っているあのミツバだよね。だとしたら、んなもん何処にでも有りそうじゃないか。それ食ってたら、絶滅なんかしないよね❓

他にも更に別な植物の記録が4つあった。

 
・オランダミツバ Apium graveolens
・コエンドロ Coriandrum sativum
・タイワンカワラボウフウ Peucedanum formosanum
・ニンジン Daucus carota
              (李俊延ほか,1988)

 
ニンジン❓ 勿論「🎵1本で~も人参、2本で~も人参」のニンジンだやね。

前回、食草とした Peucedanum formosanum 臺灣前胡(セリ科カラスボウフウ属)も、ちゃんとあるじゃないか。ひと安心だわさ。
あれれ(/ロ゜)/❓、でも和名はタイワンカラスボウフウではなくて、タイワンカワラボウフウとなっている。考えられるとすれば、内田さんの誤記の可能性が高い。
一応念のために検索してみたら、あっしの方が誤記だった。カワラボウフウが正しい。内田さん、ゴメンナサイ。前回の間違ってる箇所を全部修正しとこっと…。
何か、こういうのってガックリくる。恥ずかしいし、自分が悪いので怒りの持っていきどころがないのだ。

この際だから、今一度日本でのキアゲハの食草を記しておこう。

「ニンジン、ノダケ、ミツバ、ウイキョウ、シシウド、ハナウド、ハマウド、エゾシシウド、オオハナウド、セリ、オカゼリ、イブキゼリ、ドクゼリ、ヤマゼリ、マツバゼリ、ハマニュウ、エゾニュウ、ハマボウフウ、ボダンボウフウ、イブキボウフウ、タカネイブキボウフウ、アメリカボウフウ、ハクサンボウフウ、シラネセンキュウ、カワラボウフウ、イシヅチボウフウ、ミヤマセンキュウ、オオバセンキュウ、ウマノミツバ、イワミツバ、イワテトウキ、シラネニンジン、ノラニンジン、ミヤマニンジン、ヤブジラミ、アシタバ、パセリ、セロリ、トウキ、ミシマサイコ、エゾノヨロイグサなどの各種のセリ科植物を食草とするが、キハダ、サンショウ、イヌザンショウ、カラスザンショウ、コクサギ、カラタチなどのミカン科植物や、ギョリュウ(ギョリュウ科)、フジアザミ、コスモス、ベニバナボロギク(キク科)を野外で食べる場合も知られている。」

ここでもカワラボウフウとなっている。完全にオラのミステイクだ。カワラボウフウだと認識すると、カワラは河原の事だと解る。たぶん河原に生えるボウフウの仲間なんだろね。
とはいえ、ボウフウといっても食用のボウフウ(防風)とはまた違うようだ。ボウフウは正式名をハマボウフウ Glehnia littoralis)といい、同じセリ科だがハマボウフウ属と云う別属でありんす。カワラボウフウは食用ではないれす。

 

 
ボウフウは海岸に生えてて、だいたいは刺身などのあしらい(飾り)や薬味に使われる。

 

 
茎に縦に包丁を入れて水に放つと、くるくると巻くちょいとお洒落な高級野菜だがね。

そういえば、カラスボウフウってカラスが好んで食べるのかな❓なんて事をほんやりと思いつつ、同時にどこか違和感を覚えてたんだよなあ…。
情けない言いワケはこれくらいにするとして、話を本題に戻そう。

OTTOさんがブログ内で食草としたタイワンサイコなるものは入ってない。やはり謎のままだ。
待てよ、臺灣前胡の前胡って、もしかしたら台湾(中国)語で、サイコと読むんだったりして…。
(^-^)vひらめいたねー。おいら、名探偵じゃよ。
でも「胡」って「フー」って読むんじゃなかったっけ? なぜなら中国語圏では蝶のことを蝴蝶と書き、読み方は「フーディエ」の筈だからだ。あまり期待は持てそうにない。

調べたら、名推理ならず。やっぱ見当違いだった。
前胡と書いて「チィェンフー」と読むらしい。
タイワンサイコって、何なの~(T△T)❓
永遠の謎、こりゃ迷宮入りになりそうじゃよ。

謎といえば、気になるのが内田さんが幼虫の食草を発見した年が1988年。蔡氏が新たな食草を発表したのも同じ年の1988年。李氏がまた別の食草を発表したのも同じく1988年だ。そう、全部が1988年なのだ。偶然の一致にしては不自然過ぎやしないか❓(?_?)ミステリーである。
内田さんがセリ科アンジェリカ(アンゼリカ)属の植物から幼虫を発見した事に刺激されて、探査が一挙に進んだという可能性はある。しかし、それ以前から日本や欧州のキアゲハの食草はセリ科だと、とっくに解っていた筈だ。その情報が1988年以前に台湾に伝わっていない筈はない。有り得ないと言い切ってしまってもよい。それがなぜ1988年になって、急に一極集中して発見されたのだ❓そもそも1988年までタイワンキアゲハの食草が未知だったのにも驚きだが、同時に何でそんなに遅くまで解明されなかったのかも謎だ。そこに至るまでには、それなりの物語があった筈でドラマツルギー(註1)を感ぜずにはおられない。
台湾のキアゲハは謎だらけだ。多くの謎を残したまま絶滅するだなんて、ドラマチック過ぎるじゃないか。

謎だ、謎だとばかり言っていてもしようがない。気を取り直して、取り敢えず各植物を上から順に検証していこう。

 
【Angelica morii モリゼリ】

(出展『kplant.biodiv.tw』)

 
ネットで検索したら、アンジェリカ・モリーという綺麗なパツキン(金髪)の姉ちゃんがいきなり出てきて笑ってしまったよ。
たしかに学名そのままだと人名だよな(笑)。Facebookの名前検索とも繋がってて、見てみたら世界にはアンジェリカ・モリーさんの他にアンジェリカ・モリさん、アンジェリカ森さんとかが結構いて、静岡県にも住んでいたりしたから再度笑ってもうた。

Angelica(アンジェリカ)はセリ科シシウド属の総称。
たぶんだけど、どうせ命名者が自身に縁(ゆかり)のある人物に献名したのだろう。
何かテキトーだなあ…。疲れてくると、ぞんざいにもなる。たとえ献名であってもAngelicaと云う名前にも由来がある筈だ。面倒くさいが検索してみよう。

語源由来図鑑に、その由来がちゃんと記されていた。
『「angelica(アンジェリカ)」は、「天使」を意味するラテン語に由来し、「angel(エンジェル)」と同系。「天使」に由来する理由は、アンジェリカの香りには、心身を強壮するはたらきがあるため、天使がもたらしたものといった喩えからといわれる。』
なるほどね。m(__)m失礼しやしたー。

学名の後ろには”Hayata”とあるので、おそらく記載は「台湾の植物の父」とも呼ばれる早田文蔵氏であろう。
あれっ?、この人の名前ってどっかで出てきたよな。
何だったっけ❓まあいい。思い出せないので、話を前へと進めよう。

標高3000m以上の高山地帯に自生し、台湾特産種のようだ。完全に高山植物だね。
台湾では「玉山當歸」と呼ばれ、食用や薬用として利用されているようだ。玉山とは日本統治時代には新高山と呼ばれていた台湾最高峰(alt.3952m)のことである。たぶん最初に見つかったのが玉山だったんだろね。なるほど、ならば三千メートル以上の高山地帯に自生すると云うのも頷ける。

タイワンキアゲハの垂直分布よりも標高が高いが、台湾は亜熱帯だから利用は可能だろう。日本の標高3千メーターとは環境が違う。まだ森があったりもするのだ。つまり森林限界がもっと上なのである。キアゲハは元々寒帯から温帯に棲むチョウだから、寧ろ丁度いいくらいかもしんない。

(;・ω・)ん❓
でも内田さんが幼虫を見つけたという翠峰の標高は、それほど高くはない筈だ。たぶん2200~2300m前後だったかと思う。3000mには程遠い。おそらく、もっと低い所にも自生しているのだろう。そう考えた方が自然だし、論を進めるのにも都合がいい。

 
【Angelica dahurica ヨロイグサ】

(出展『松江の花図鑑』)

 
大型の多年草で、花期は5~7月。
日本では九州に自生し、根は生薬ビャクシ(白芷)として古くから知られている。主成分はフロクマリン誘導体で、消炎・鎮痛・排膿・肉芽形成作用がある。その消炎と血管拡張の作用から肌を潤し、むくみや痒みをとるとして古来中国の宮廷の女性達により美容に用いられていた。また鎮痛、鎮静の効果のため、五積散などの漢方薬にも配合されている。因みに、同じアンジェリカ属でも、種によって生薬の用法がそれぞれ異なるという。

台湾名は野當歸(ノトウキ)。別名に臺灣當歸(タイワントウキ)、臺灣独活(タイワンウド)がある。

 

 
どうやら野生のものは台湾北部の低山地に分布しているようだ。となると、タイワンキアゲハの分布する台湾中部~中南部からは外れている。とはいえ、薬草園らしき「福星花園」というサイトでも画像が載ってるから、薬草として中部の山地帯でも栽培されているかもしれない。
因みに中国では、海抜200m~1500mの森林地の林縁部、川岸、草原などで見られると云う。

 
【Angelica hirsutiflora ハマトウキ】

(出展『随意窩日誌』)

 
台湾では「濱當歸」と呼ばれている。
台湾北部と北東部の沿岸地域、及び近隣の島々のみに分布し、主に標高100m以下の丘陵地帯、海岸や岩石地形の岩石節理で見られる。
ということは、これもタイワンキアゲハの分布域からは外れている。しかも、主に標高100m以下に見られるというから、いくらなんでも標高が低すぎる。台湾のキアゲハが自然状態で利用しているとは思われない。おそらく飼育時に幼虫に与えたら、単に食したという事だけなのではなかろうか❓

一般的に台湾固有のものと考えられているようだが、日本の Angelica japonica var hirsutiflora と同種のようである。

 
【Angelica japonica var. hirsutiflora】

(出展『nangokuudo』)

 
石垣島で撮られた写真だ。
和名はナンゴクハマウド(南国浜独活)。沖縄地方の海岸地帯に生えてるみたいだ。そういえば、見たことがあるような気もする。

つけ加えると、ハマトウキで検索したらセリ科 マルバトウキ属の Ligusticum hultenii マルバトウキ(円葉当帰)が出てくる。別名がハマトウキだからのようだ。

 
(マルバトウキ)
(出展『素人植物図鑑』)

 
分布は北海道、本州北部である。
ハマトウキやナンゴクハマウドが大きくなるのに対して小さいし、葉の形も著しく違う。何より学名が違うので、これは完全に別種だろう。
和名って必要なものだとは思うけど、混乱を引き起こす素でもあるよね。特に植物と魚は別名が多すぎるわ。

 
【Angelica morrisonicola ニイタカシシウド】
(出展『随意窩日誌』)

(出展『Useful Temperate Plans』)

(出展『随意窩日誌』)

 
検索すると、玉山當歸と出てくる。
あれっ(;・ω・)❗❓、この名前ってモリゼリと同じじゃね❓
写真を見ても同じ植物っぽい。どうやら2つは同物異名であるようだ。つまり、同じものだってワケだね。
おそらくモリゼリ Angelica morii がシノニムになるかと思われる。小種名を morrisonicola としているサイトの方が断然多いからだ。

おいおい、それにしても次々と討ち死にしていっとるやないけー。今のところ台湾のキアゲハの食草として納得できるものは、このニイタカシシウド(モリゼリ)だけじゃないか。

 
【ミツバ Cryptotaenia canadensis】
(出展『kplant.biodiv.tw』)

 
こちらもセリ科ではあるが、ミツバ属に含まれる。
台湾名「鴨兒芹」。他に「山芹菜」の別名がある。
どう見ても日本でもお馴染みの、あのミツバだ。亜種記載くらいはされているのだろうが、ほぼ同じものと考えてよいだろう。生えている場所も日本と同じで、湿った所に生えるとあった。

台湾でも食用として利用されているみたいだ。間違いなく栽培もされているものと思われる。
翻訳が危ういけど、台湾全土に見られ、中部と南部には野生種がある云々的なことも書いてあった。いい感じだ。キアゲハの分布とも合致する。
でも気になるのは、垂直分布はどうやら低山地が中心のようなのだ。利用はしていた可能性はあるが、メインの食草ではないだろう。

 
【オランダミツバ Apium graveolens】
(出展『grttingimages』)

 
皆さん、この植物には見覚えがあるでしょう(^o^)❓
そう。何のこっちゃない。オランダミツバとはセロリの事なのだ。
\(◎o◎)/アタシもコレには面喰らいましたよ。名前からして渡来種とか帰化植物だろうとは思ってはいたが、まさかのセロリなんだもーん。
セロリも同じくセリ科だが、オランダミツバ属に分類されている。

ところで、セロリの花ってどんなんだろ❓
見たことないなあ。にわかに知りたくなってきたよ。

 
(出展『VEGGY DESIGN』)

 
特に変わったところはなく、セリ科らしい花だ。
メチャメチャ変なのを期待してたから残念なりよ。
ついでだから、ミツバの花も調べとくか。

 
(出展『奥行き1mの果樹園』)

 
ミツバが一番セリ科らしくない花だね。
まあ、植物そのもののフォルムが他のセリ科植物とは印象を異にするから、セリ科の異端児くんなのかもしんない。
 
セロリの台湾名は「芹菜」。もしくは「西洋芹菜」なんだそうな。
もちろん野生種ではない。栽培作物である。
でも台湾の蝶の本(図鑑?)『鳳翼蝶衣』でもセロリが食草に挙げられているようだから、幼虫が食べて育つことは間違いなさそうだ。
セロリって高原野菜っぽいよなあ…。意外と食草として有望かもしれない。

調べてみたら、思ったとおりだった。台湾では野外での生育温度は16〜21℃で、高温では育ちにくく、また品質も落ちるために夏場は中高度地で育てるらしい。おー、完全に高原野菜じゃんか!
でもなあ…。ゼッテー、しこたま農薬とか掛かってそうだ。幼虫が食えば、緑色のビートルジュースを吐き出して、憐れ(○_○)悶絶死するに違いない。そうでなくとも、あんなド派手で目立つ幼虫だ。すぐに農家の人に目っけられて💥ブチュじゃよ。食草としては、利用したくとも中々利用できないと云うのが現状だろう。

 
【日本産キアゲハ幼虫】
(出展『あおぞらネット』)

 
でもその半面、メリットもある。もしもキアゲハが再発見されれば、このセロリやミツバ等を代替植物にして育てることが出来る。ガンガン増殖させて野に放せば、また復活するやもしれぬ。
とはいえ、自然ってそんなに甘いもんじゃないし、台湾政府が本腰を入れて保護増殖させるかどうかは疑問だけどさ。
絶滅したのには必ず何らかの原因がある。食草の問題以外にも土壌や気候などの環境変化も要因として考えられうる。それらを解決しなければ、いくら放したところで定着はしないだろう。
考えてみれば、キアゲハが絶滅したのにも拘わらず、モリゼリ(ニイタカシシウド)やタイワンカワラボウフウは絶滅してはいない。多くはない植物なのだろうが、ネットを見る限りでは絶滅に瀕しているワケでもなさそうだ。それに標高が高い方が乱開発されにくい。つまり、食草の減少だけが絶滅の理由ではないと云うことだ。じゃあ、何で絶滅したの❓
(-“”-;)謎すぎる…。

 
【コエンドロ Coriandrum sativum】
(出展『新浪博客』)

 
これも見覚えがあるでしょうよ(^o^)
ヒントは今や日本でもすっかりポピュラーになった野菜で、東南アジアではお馴染みの葉っぱだ。西洋では種(果実)や葉を乾燥させたものが香辛料としてよく使われている。
見当はついたかな❓それでは答えの発表\(^^)/❗
答えはコリアンダー。このヒントで解った人は偉い!
コリアンダーでもピンと来なければ、あの好き嫌いがハッキリする、カメムシ草とも言われる野菜といえば流石に解るじゃろうて。
そうなのだ。巷では女子を中心に中毒者(註2)が増えているというパクチーなのだ。オイラもタイで中毒患者になりましたよん。

パクチー、アローイ( ☆∀☆)❗❗

実をいうと、今アチキの部屋にもあるのじゃよ。

 

 
料理に使うのは勿論だが、時々手で毟って食っている。

中国名は香菜(シャンツァイ)。こちらもポピュラーな名称だね。日本では中国パセリとも呼ばれていたね。
とにかく中国人も昔からコヤツが好きなのさ。とはいえ在来種ではなく、外来のものであろう。原産地は、たしか地中海辺りだったかと思う。

調べたら、台湾全土で栽培されているようだ。まあ普通に消費量を考えれば、そうだわな。
これも高原野菜なのかな❓ でも調べても、今一つよくワカンナイ。高原野菜だとしても、たぶんコレにも農薬が掛かってんだろな…。

そういえば、パクチーの花も見たことないなあ。
興味が湧いてきたから、これも調べちゃおう。

 
(出展『kplant.biodiv.tw』)

 
中々、可愛い花だ。カスミ草の替わりにでもなりそうだな。
それで思い出したけど、そういえば台湾名をまだ書いてなかったね。台湾では「芫荽」と呼ばれているようだ。字が花ではないけど、花っぽい字なんで思い出した。

おっ、そういえばコエンドロという名称の説明もしていなかったね。
えー、このコエンドロが実をいうと、本来の和名なのだ。日本に入ってきたのは意外と古く、鎖国前の時代にはもうあったようで、ポルトガルから伝来したそうな。つまり、コエンドロはポルトガル語なのだ。
用途は刺身の臭みを消すために使われていたという。

ここまできて、あと残りはニンジンとタイワンカワラボウフウだけとなった。
ニンジンは言わずもがなだが、一応調べておこう。

 
【ノラニンジン Daucus carota】
(出展『had0.big.ous.ac.jp』)

(出展『FLOWER PHOTOGRAPH』)

 
セリ科ニンジン属に含まれる一年草。
学名+臺灣で検索したところ、胡蘿蔔=ワイルドキュロットと出てきた。どうやら野生種のノラニンジン(野良人参)の事のようだ。このノラニンジンはヨーロッパ原産の帰化植物で、人参の原種とも言われており、日本のキアゲハも食草として利用している。
一方、ニンジンで検索すると、原産地はアフガニスタンとあった。そこから東西に伝播していったそうだ。東と西でそれぞれ独自に進化、もしくは品種改良されて、西洋ニンジンと東洋系ニンジンとなったとされる。昔は日本でも東洋系ニンジンが食されていたようだが、栽培が難しく、次第に栽培が容易な西洋ニンジンへと移り変わっていったようだ。つまり、今我々日本人がニンジンと呼んで食っているものは、ほぼほぼ西洋ニンジンって事だね。

ニンジンもノラニンジンも基本的には学名は同じみたいなので、台湾のキアゲハがノラニンジンと栽培種のニンジンのどちらを利用していたかはわからない。
ノラニンジンは北海道では結構どこでも見られるそうなので、台湾の高地にも生えていてもオカシクない。
食草として利用されていた可能性はあるだろう。

しかしながら、内田さんは和名をニンジンと書いておられる。そこが引っ掛かる。別な研究者の発表とはいえ、もしそれがノラニンジンであるとするならば、たとえ学名が同じであっても和名をニンジンではなく、ノラニンジンとしていた筈だ。となれば、栽培種のニンジンの可能性の方が高いとは言えまいか?
けど、何も考えずに、単にそのまま書き移しただけかもしんないけど…。

 
【Peucedanum formosanum タイワンカワラボウフウ】
(出展『福星花園』)

(出展『随意窩日誌』)

 
タイワンカワラボウフウについては、前回書いたので、写真のみ添付しておきます。

ここで漸く思い出したよ。これも早田文蔵氏の記載だわさ。つまりキアゲハの食草であるモリゼリもカワラボウフウも、この方の記載なワケだね。もしかしたら、発見した折に派手派手な幼虫も見ておられたかもしれない。ほんでもって、激引きだったりして(笑)。
植物学者って、昆虫に興味があるのかな❓もちろん人にもよるのだろうが、相対的にはどうなのだろう❓
虫好きは植物に興味があるのは間違いない。その昆虫のホスト植物を知らなければ、採集も儘ならないからだ。必然、興味を持たざるおえない。しかし、植物に興味があるからって、虫のことまで知る必要性はあまりなさそうだ。植物学者で虫好きの人って、あまり聞いたことがないし、むしろ嫌いなんじゃなかろうか❓

 
脱線した。いい加減、まとめに入ろう。
ヨロイグサとハマトウキはタイワンキアゲハの分布と重ならないから、食草として利用されることは殆んど無かったと考えられる。ミツバは垂直分布が低いからメインの食草ではないだろう。
セロリ、コリアンダー(パクチー)、ニンジンは栽培植物で、ムチャクチャ古くから台湾にあったワケではないだろう。それらの流入以前に台湾のキアゲハは存在していた筈だから、本来の食草ではないだろう。また栽培作物ゆえ、農薬の影響で無事に育たないケースも多々あるだろう。メインではなく、あくまで二次的利用だったかと思われる。
これらの理由から、基本的に食草として利用されていたのはニイタカシシウド(モリゼリ)とタイワンカワラボウフウだろう。+ノラニンジンを利用していた可能性もあるってところか。
いずれにせよ、食草の利用範囲が狭かったゆえ、個体数も自然少なかったのだろう。

論をここまで進めといて、遅ればせながら『常夏の島フェルモサは招く』の本文の記述を取り上げよう。
ここまで書いといて、実をいうと巻末の食草のところしか見てなくて、本文を読んでいなかったのだ。パラパラと見て、無いやと思って見過ごしていたのである。
とはいえ、そこには吸蜜に訪れた成虫の生態写真しか載っておらず、残念ながら幼虫写真は無かった。
飼育された筈なのに(;゜∇゜)なぜにぃ~❓
もしかして、飼育に失敗したんちゃうん❓

文章でも幼生期については詳しく触れられていなかった。触れているのは以下の程度で、台湾中部の石山渓に訪れた時のものだ。

「断崖の続くこのあたりを注意すると、いたる場所にモリゼリの株が見え、白い花をつけていた。これは台湾名を山当帰といって薬草になる。(中略)幼虫も比較的多く、それは鳥の糞のように葉の上に止まっていた。高地でもあまり見掛けない蝶であるが、時期とポイントを押さえれば、さほど少ない種でもないことを知った。」

まさか内田さんも、のちに台湾のキアゲハが絶滅するとは思いもよらなかっただろう。「断崖の続くこの辺りを注意すると、いたる所にモリゼリの株が見え、時期とポイントを押さえれば、さほど少ない種でもない」と云った印象を述べられているが、もしかしたら此所だけがキアゲハの多産地だったのかもしれない。
しかし、石山渓は1999年の大地震により崩壊し、中部横貫公路は長らく寸断されたままだ。
OTTOさんが「タイワンサイコという台湾特産の植物ただ一種を食草としていたため、地震による生息地の崩壊などで、命脈を絶たれたと考えられている。」と書いた場所は、おそらくこの石山渓のことを指していたのだろう。そして、謎の食草タイワンサイコとは、このモリゼリ(ニイタカシシウド)のことではあるまいか。その可能性は高い。

一応、謎の一部は解決した。
とはいえ、この植物は石山渓だけに生えているワケではない。だから、地震による崖崩れだけがキアゲハの絶滅の理由にはならない。これが一番の謎かもしれない。
だいち現地には人は入れない状態だから、モリゼリが絶滅したかどうかは本当のところはわからないよね❓
誰かドローンを飛ばせば、崖崩れ何のそので、意外とシッカリ生き残ってたりしてね。

  
内田さんが最初にモリゼリ(ニイタカシシウド)で幼虫を見つけられたのは南投県の翠峰だ。
となれば、自分がキアゲハの幻を見たのは、その下の松岡付近だから地理的にはかなり近い。
あながち自分の見た光景は、幻ではなかった可能性もあると云うことだ。

 
                 おしまい

 
 
追伸
本文脱稿後、内田さんの三部作の第1巻にあたる『ランタナの花咲く中を行く』を見る機会を得た。

 

 
そこには、1987年6月27日に松岡で幼虫を採集したと書いてあった。
と云うことは、松岡周辺にもモリゼリが自生していた事になる。つまり、キアゲハも生息していたわけだ。益々、朧げな幻影が輪郭を帯びてきたような気がする。

この『ランタナの花咲く中を行く』を見た折りに、五十嵐 邁 著『世界のアゲハチョウ』を見る機会にも恵まれた。冒頭のキアゲハの写真はそこに載っていたもので、脱稿後、急遽コチラに差し替えた。
その図鑑からは、新たな知見も複数得た。もしかしたら、更なる続編を書くかもしんない。
完全にキアゲハの迷宮のドツボにはまっとるがな。

 
(註1)ドラマツルギー
元々は演劇用語で、ドラマの製作手法。作劇論。演劇論。それがアーヴィング・ゴッフマンによって社会行動学にも応用され、日常生活における社会的相互作用を取り扱う微視的社会学として発展した。その社会学的観察法そのものを指す場合も多い。
もう少し説明すると、人は普段の生活でも自然と何らかの演技をしており、ある一人が行動することによって、他者や世界に影響を及ぼす。逆に世界性や文化性、その他諸々の要因によってある一人の人物の役割や演技に影響を及ぼしている。その相互作用によって社会と個人の関係が成り立っていると捉えることが「ドラマツルギー」である。

(註2)女子を中心に中毒者が…
パクチーサラダとか女子が喜んで食ってるが、タイの人たちがそれを見ると首を傾げるらしい。何でかっていうと、タイではそもそもパクチーは薬味扱いで、料理のメインになることなど考えられないからだ。謂わば、パセリのサラダを喜んで食ってるようなもんなのさ。たしかに、もしパセリだけのサラダを食ってる人がいたら、オカシな人だと思うもんね。

 

台湾の蝶30『消えたキアゲハ』

  
  第30話『消えたキアゲハ』

 
この連載も遂に30回目を迎えた。
ならば、折角だからそれに相応しい蝶を取り上げようと思った。
最初は皆が喜びそうな森の宝石ゼフィルス(ミドリシジミの仲間)にしようかと考えた。でも、それじゃ普通だ。芸が無い。おいら、ひねくれ者なのだ。
ならばと次に候補として考えたのが、セセリチョウの地味な稀種だった。
でもさあ…、ひねくれ過ぎ。先ずは記事に写真を添付したんだけど、あまりにも地味過ぎて悲しくなっちった。
と云うワケで、どうせなら今回は台湾で採った事が無い蝶に焦点を当ててみることにしませう。

 
(キアゲハ台湾亜種♂ Papilio machaon sylvinus)

 
(同♀ Papilio machaon sylvinus (Hemming,1933))
(出典 2点共『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
よりによって普通種のキアゲハ❓
そう訝る向きもいらっしゃるかと思う。日本では南西諸島(奄美大島以南)を除けば全国どこにでもいる普通種だもんね。そう思われても当然でしょう。
だが、ところがどっこい。台湾のキアゲハは弩級の珍品なのである。
とはいっても、初めて台湾に行った時はそんなに珍しいものだとは知らなかった。帰ってきてから、誰かに教えてもらったのである。でも、珍品だよと言われただけで、詳しいことまでは聞いていない。
そんなワケで、ちょいと調べてみることにした。

調べていくうちに驚いたのは、元々少ない蝶だったが、近年は記録が無く、姿を見掛けなくなってからもう何年も経つゆえ絶滅したと考えられているようなのだ。
(|| ゜Д゜)マジかよ❗❓ 珍しいといっても、たかがキアゲハだぞ。世界に最も分布を拡げたアゲハ(Papilio)の一つだ。そんなもん、絶滅するかね❓

先ずは原点に帰って、白水先生の『原色台湾蝶類大図鑑』の中の解説文から読み解いていこう。
だが、図版の写真を撮っているのにも拘わらず、肝心の解説文のコピーが無い。あれれ(・。・;❓、何で❓
暫し考えて、記憶が甦る。キアゲハなんてどうせ普通種だからと思って、コピーを取らなかったのである。仕方なしに図書館へ行き、書庫から図鑑を出して貰ってコピーした。

では、先ずは解説文の一部を抜粋しよう。

「台湾産のキアゲハは日本産とは別の標記の亜属に属する。日本産亜種に較べて小型で尾状突起は細く、夏型においても亜外縁の黒帯が狭く、一見して日本亜種とはかなり著しく感じが異なる。♂♀による色彩斑紋の差異は少なく、夏型♀においても黒鱗の発達は弱く♂と大差がない。(中略)台湾中部より中南部の山地帯~高地帯(大甲渓、霧社方面、阿里山、新高山付近、関山越道路など)に分布するもので、主として1000m以上の標高の地域に発見されるが、大甲渓下流の久良栖付近、約600m(江崎,1932;斎藤,1940)、東勢郡明治温泉付近、約600m(野村,1931;江崎,1932)、高雄州屏東郡関山越道路のビビュウ~濁水、約700~730m(江崎,1932)、高雄州ガニ、約600m(野村,1932)のような低標高の地域でもかなり多くの採集記録が見られる。従来知られる分布の北限は大甲渓、南限は高雄州ガニ。採集記録は1月より11月に亘って見られ、年数回の発生を繰り返すものと思われるが詳細は不明。台湾における食草、幼生期は未知。台湾以外の地域で知られている食草は主としてセリ科で、地域によってはミカン科を食べる場合もある。本種はアゲハチョウ属の中では最も北部にまで分布するもので、旧北区に分布が広く、全ヨーロッパ、アフリカ北西海岸(モロッコ、アルジェリア、チュニス)よりシベリア、ヒマラヤを経て極東の中~北部に亘りさらに北アメリカの北部にも産し、多くの亜種に分類される。原名亜種の基産地はヨーロッパ。」

 
パッと見は、日本産とそんなに変わらないように見えたが、「かなり著しく感じが異なる」とあるではないか。
ならば、較べてみよう。。

 
(日本産キアゲハ♂ Papilio machaon hippocrates)
(2019.4.6 福井県南越前町藤倉山)

 
(同♀ Papilio machaon hippocrates (Felder,1964))
(2017.5.7 東大阪市枚岡公園)

 
何れも春型である。中々に美しい。もしも年1化で稀種なれば、ギフチョウと双璧を為す存在だったろうにと思う。

こうして雌雄を並べてみると、今更ながらに春型の♂と♀の見た目に大きな差がない事に気づく。
たぶん下の個体は♀だと思うが、段々同定に自信が無くなってきたよ。間違ってたらゴメンナサイ。
でも尻の感じからすると(註1)、間違いないかと思うんだよなあ…。それに亜外縁黒帯内の黄色鱗粉帯が♀の方が広いし、下翅の帯の青色鱗粉帯も広い。たぶん同定は合ってるかと思う。

んっ(・。・)❓、それはさておき、図鑑の台湾産と日本産の区別点が言うほど著しく違うとは思えないぞ。言われてみれば亜外縁の黒帯は細いような気もするが、春型の♀に於ては顕著と言う程の差は感じない。台湾産の♀は、帯が結構広くねえか?
それよりも帯の形に違いがあるのではなかろうか?
台湾産は帯の形が内側に向かってギザギザで、特に下方の出っ張りが強い。けど、個体差はありそうだ。
尾状突起の細さも相違は微妙だ。寧ろ、細さよりも長短に差があるように見える。台湾産の方が比較的短いような気がする。
もっと大きな差をあげるとするならば、台湾産は上翅基部の黒色鱗粉の発達が弱い。だから、全体的に明るめの印象をうける。

とはいえ、たったコレだけの個体の検証では何とも言えない。もう少しサンプルが必要だ。

 

(出展 2点共『蝴碟資料』)

 
たぶん、上が♂で下が♀だろう。

 

(出展 2点共『臺灣生命大百科』)

 
OLYMPUS DIGITAL CAMERA[/caption](出展 『flichr.com』)

 
おそらく上3点とも♂かと思われる。

  

(出展 4点共『圖錄檢索』)

 
こっちは上から順に♂と♀で、下がその裏面である。
尾突の細い太いと上翅亜外縁の黒帯の幅の広さは、正直なところ判別点としては微妙だ。これは標本に春型と夏型が混じっている可能性があるから、こう云う見解にならざるおえないのかもしれない。
しかし、上翅基部の黒色鱗粉は明らかに全個体ともに薄い。勝手に言い切るが、おそらくこの点が最大の日本産との相違点ではないだろうか。

裏面も、もしかしたら区別点になるかもしれない。
日本産の裏面画像も添付してみよう。

 
(春型♂裏面)
(2019.4.6 福井県南越前町藤倉山)

 
台湾産と比べて、日本産の方が後翅のオレンジ色が発達していて美しい。
但し、台湾産の標本はおそらく古いであろうから色褪せている可能性もある。
けれど詳細に見ると、たとえ色褪せていたとしてもオレンジの領域は日本のものよりも狭そうだ。

とはいえ、この2点だけで決めつけるのは乱暴過ぎる。あとで図書館に行って、藤岡大図鑑(註2)で確認が必要だよなあ…。

参考までに言及しておくと、日本産の夏型は全然違う。

 
(キアゲハ夏型♂)

 
(キアゲハ夏型♀)
(出展 2点共『日本産蝶類標準図鑑』)

 
春型と比べて著しく大型化し、後翅の黒帯が太くなる。
♂と♀の違いも一見して区別できるようになる。♀は、だだ黒なのだ。正直、春型と比べてあまり美しくない。
因みに、日本産の夏型がキアゲハの全亜種中で最も巨大化すると誰かに聞いたことがある。最もかどうかはワカンナイけど、何れにせよ最大級ではあろう。
それで改めて思い出したのだが、標本写真では分からないが、日本産と比べて台湾産はかなり小型らしい。その点も大きな違いかもしれない。
台湾産は夏型でも黒っぽくならないようだから、そう云う意味では両者はかなり遺伝的には離れているのかもしれない。そう云えば、白水さんも亜属が違うとか書いてたよね。
とはいえ北海道や中部地方の高地では、夏型が低山地のものほど黒くはならないようだ。実際、北海道や中部地方の高地で採ったキアゲハは黒くはなかった記憶がある。但し、大きさは春型ほど小さくはなかったと云う印象がある。春型と夏型の中間くらいの大きさだったかと思う。

更に情報を求めてネットで検索してみた。
予想通り情報は少なかったが、『OTTOの蝶々ブログ』さんの記事から重要な情報を得ることができた。

「キアゲハは、台湾の蝶愛好者にとっては悲しみと共に思い起こさずにはいられない蝶だ。1999年の大地震の後、台湾高地の生息地から忽然と姿を消してしまった。日本のキアゲハに比べて濃色で、サイズが著しく小さく、狭い台湾の高地帯に特殊な変異を遂げた個体群だった。
タイワンサイコという台湾特産の植物ただ一種を食草としていたため、地震による生息地の崩壊などで、命脈を絶たれたと考えられている。」

 
へぇ~、絶滅してから、もう20年にもなるんだ…。
忽然と姿を消したと云うところに何だか浪漫を掻き立てられる。絶滅した理由はあとでまた考察するとして、先ずは形態の違いに目を向けよう。

日本のキアゲハと比べて濃色であると云う見解は白水図鑑には無かった。でも確かに言われてみれば、貼付した「蝴碟資料」の写真などはかなり黄色く見える。
しかし、そうでもない写真もある。こう云うのって、写真の撮り方にもよるしなあ…。もしくは黒色鱗粉の発達が弱いから、より黄色く(濃色)見えると云う事ってないのかなあ?人によって表現の仕方は違うからさ。捉え方の齟齬だってあるかもね。
でも、結局こう云うのって、両者を並べて写真でも撮らないかぎり、本当のところはワカンナイよね。

サイズは著しく小さいとあるから、やはり大きさは相当小さいのであろう。そうなると日本産の春型と並べれば、両者の印象はかなり異なるのかもしれない。

いつも頼りにしている杉坂美典さんのブログ『台湾の蝶』にもキアゲハについての記述がちゃんとあった。
それによると、1970年代以降に絶滅したとある。
えっ!?、もっと前に絶滅してるの❓
以降というのが引っ掛かるが、この書き方だとそう解釈しちゃうよね…。
まあいい。ここでそれを詮索したところで、あまり意味は無い。絶滅している事には変わりはないのだ。

形態については「日本産亜種に比べて小型で,尾状突起が短い。夏型でも亜外縁の黒帯の幅が狭い」とある。
ここでも小型が強調されている。尾突が短いというは初めて見る記述だが、自分の見立てと同じだから、ちょっと嬉しい。
夏型でも亜外縁の幅が狭いというのは「原色台湾産蝶類大図鑑」にも同じ記述があった。という事は黒帯が細いというのは間違いないのかなあ…?
やっぱ、ここは藤岡大図鑑に御登場と願わねばなるまい。

図鑑にある世界各地の膨大な数のキアゲハの標本写真を見て納得した。確かに台湾産キアゲハの上翅亜外縁の黒帯は他と比べて細い。広く全体から俯瞰で見る巨視的な視線が必要なんだと、今更ながらに痛感したよ。

 
(出展『日本産蝶類及び世界近縁種大図鑑1』以下、特に出展が記されていない標本写真は同図鑑からお借りしたものです)

 
上から3列目の左側4つが台湾のキアゲハである。
こうして並んでいるのを目(ま)の当たりにすると、確かに黒帯は細いことが解る。
但し、日本産でも細いものはいるようだ。

 

 
真ん中と左が北海道の稚内産で、右が岐阜県のものだ。稚内産は上翅黒帯が細めである。北海道産の画像を拡大してみよう。

 

 
(同 裏面)

 
細いような気はする。
とはいうものの個体変異の範疇であり、台湾産みたいに安定した形質とは言えまい。

それでは、台湾産をクローズアップしてみよう。

 

 
(同裏面)

  
\(◎o◎)/ゲロゲロー。
上翅の基部が黒いのもいるやんけー。左2つは、日本の春型と同じくらい黒っぽいじゃないか。
アタマの中が、ソッコーでグチャグチャだよ。毎度毎度の事ながら、調べれば調べるほど迷宮に迷いこむって、どーよ❓ ったくもー(-“”-;)、サクッと終わらせる予定だったのに、またクソ長い文章になりそうだ。

落ち着け。とにかく先に解説文を見てみよう。
とはいえ、台湾産を論じる前に先ずは極東地域及び日本産のキアゲハから入ろう。キアゲハの分布は北半球全般と広いのだ。さっき学んだばかりじゃないか、俯瞰で見なければ見えてこないものもある。

「極東地域のキアゲハの斑紋の特徴は、夏型の前翅基半の黒色部に黄色鱗粉がのり、黒色部が全般的に広いことで、その点では中央アジアやヨーロッパ地中海周辺型と変わりはない。しかし全般的な傾向として、夏型♀は黒色部がより広く、後翅表面にも基半部が黒くなる傾向が強いことがある。その極限が日本産であるが、朝鮮半島南部もこれに近く、浙江省辺りからかなり黒い夏型も出現する。それでも、中国の西から東へと変異は連続的であるし、分布も中央アジアから天山山脈を経て、ほぼ連続しているので、やはりヨーロッパ大陸と同一の亜種 P.machaon machaon として扱うべきかも知れない。(中略)
日本産の最も大きな特長は、夏型が大型で黒色部が広く、表面では地色の黄色にも黒色鱗粉が混じり黒ずんで見える点である。この特徴は、北海道ではあまり顕著ではなく、♀表面の黒色鱗粉は全体的に少ないが、変異は連続的である。日本産の特徴として他に、♂♀共、また春型夏型共に、前翅表面中央寄りの黒帯が翅底から翅端に向かって、細くなる点がある。
日本産亜種の中で、千島産は北海道産と差異がない。日本列島は地理的には独立しているが、多数の標本で変異を見ると、南では朝鮮半島経由で中国大陸の亜種と連続するし、北ではウスリーの変異と連続する。従って地理変異の連続性を斑紋だけで厳密に見れば、短尾型キアゲハ(タカネキアゲハ Papilio sikkimensis)を除き、ユーラシアのキアゲハは一亜種という立場もあり得る。」

なるほど、キアゲハは変異は多いものの連続的で亜種区分は明確でなく、整理、集約されて然るべきものであると聞いた事があるのは、こういう事だったんだね。

折角だから、タカネキアゲハの画像も添付しておこう。

 
【タカネキアゲハ Papilio sikkimensis】

(同 裏面)

 

(同 裏面)

 
短尾型といっても、長さは一様ではないようだ。
上の個体はチベットNyalam産で、この地域のものが最も尾突が短くなり、小型化もするようだ。
下はパキスタン北部のチットラール地方のものである。タカネキアゲハは変異幅が広く、場所によって随分と印象が変わる。段々面倒くさくなってきたので画像は添付しないが、記載に使われたシッキム地方のものは黒化が進んでいる。

続いて、いよいよ台湾産キアゲハの項である。

「台湾産は小型で前後翅共に表面の外縁に沿う黒帯が細く、その内側が凸凹に富み、後翅亜外縁の黄紋が大きく、翅形も縦長である。春型は夏型より小型で、裏面の翅脈上や前翅表面中室の黒色が顕著である。」

やはり小型であることには間違いなさそうだ。
上翅の黒帯も細いとある。そして、自分の見立て通りのギザギザ(凸凹)とある。
ワシ、結構やるやんか(o^-^o)

後翅亜外縁の黄紋が大きいというのと、翅形が縦長であると云うのは初耳。藤岡図鑑の標本では特に差異があるとは思えないが、台湾のサイトからお借りした標本写真には、その傾向が見られないこともない。
だが例外も多い。ようするに傾向は有りこそすれ、決定的な同定ポイントにはなり得ないと言えよう。
因みに、地色の黄色が濃色であることには触れられていない。こちらも傾向はあるが、例外も多そうだ。

問題は、そんなことよりも上翅基部の黒の濃淡である。けど藤岡図鑑には、それについての言及が無い。
ワシの見立ては見当違い❓
しかし頭から解説文を読むと、概論のところでその謎があっさりと解けた。気持ちが逸っていたゆえ、概論をすっ飛ばして読んでいたのである。

「キアゲハの変異を複雑にしている一つの原因は、第1化と2化以後で斑紋が異なる点である。日本は1化と2化が最も異なる例で、2化は大型で黒色の発現が良く、特に本州以南の♀は著しい。他の地域では日本ほどに差がなく、ヨーロッパでは1化に比べて2化は黒色が黄色の鱗粉で薄く覆われ、外縁の内側が黒で縁取られ、後翅の黒帯が細く、青色が顕著で、腹部の横の黒い線を伴った黄色はより顕著になる。2化のこの傾向は、北方ではあまり目立たないが、南ヨーロッパでは明確になる。
1化春型と2化夏型を比べると、ヨーロッパでは春型の方が「黒い」ということができ、この傾向は世界中ほとんど年2回以上発生する地域では同じである。例外は日本で、春型と比べると、夏型の方が♂♀共に黒い。韓国及び中国南東部の夏型は日本産のように♀が黒化する個体がある一方、日本産の春型のような個体も見られ、個体変異は複雑である。日本とは異なるようであるが、被検標本の数が少ないので確定的なことは未だ言えない。しかしいずれにしろ日本を中心とした極東とそれ以外の世界各地では、春型と夏型の黒さの度合いが逆であって、そのような観点から、日本など極東のキアゲハは特異である。」

まさかの春夏の特徴が逆である。キアゲハの春型は明るい色で夏型は黒っぽいと云う概念に完全に凝り固まっていた。
とはいえ、さすれぱ白水大先生の解説文(原色台湾産蝶類大図鑑)でさえも、その概念の上に立って書かれたものだと云うことになる。これについては杉坂さんも同じである。
いや、丁寧に白水図鑑を読み返すとそうでもない。夏型においても黒帯が太くならないと書いてあるだけで、夏型は黒っぽくはならないとは書いてはいない。
鬼の首でも取ったように息巻いてしまったが、オイラの完全な勇み足である。\(__)反省なりよ。
でも春型と夏型の特徴が逆ならば、ちゃんとそう書くよね?それが書いてないってことは、そういう概念を持ち合わせていなかったとは言えまいか?
まあいい。台湾には日本みたいな黒いタイプはいないと云う事は理解した。1歩前進としよう。

 

(同 裏面)

 
これが春型で、下のが夏型ってワケだやね。

 

(同 裏面)

 
ってことは、藤岡図鑑の基部が黒っぽい2点の個体を除けば、ここに掲載したのは全て夏型の標本写真だったということか…。そりゃ、アッシも上翅基部の濃淡が同定の決定的ポイントだと言っちまいまさー。
けど、少なくとも夏型においては区別に使えるポイントだよね。
それにしても、世に流れている写真は夏型ばっかってのが気になる。どこにも書いてないけど、春型は夏型と比べて個体数が少ないのかな?それとも単なる偶然?
でも、そこには何らかの理由がある筈だと思うんだよね。また謎が増えたよ(;つД`)

裏面だが、台湾産は「翅脈上や前翅表面中室の黒色が顕著である」とある。
一応、比較の為に日本産の裏面写真を貼付しておこう。

 

 
確かに日本と比べて台湾産は黒い。春型は特に黒いわ。夏型もよく見ると黒の線が日本産よりも太い。
けど、冒頭に近い部分で添付した春型の野外写真の裏を見ると、日本のも結構黒いんだよなあ…。産地や個体差もあるんだろなあ…。これまた、そういう傾向があるって考えた方がいいのかもしれない。
 
下翅帯部分のオレンジの発色は、見たところ思っていた通り日本産よりも弱いと言えそうだ。

 
(日本産キアゲハ 夏型裏面)

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

 
何れにせよ、複数の区別点を総合に鑑みて、識別、判断しなければならないって事だろう。

 
【学名】Papilio machaon sylvinus(Hemming, 1933)

属名のPapilio(パピリオ)とはラテン語で「蝶」を意味し、リンネの命名。そして、キアゲハがこの属名の模式種ともなっている。つまり、言うなればキアゲハは蝶の中の蝶であり、ヨーロッパ人の蝶に対するイメージの代表的存在とも言えよう。

小種名のmachaon(マカロン)は、ギリシア神話の英雄マカーオーンが由来。医神アスクレピオスの息子で、テッサリアに領国をもっていたが、兄弟のポダリリオスとともに30艘の船団を率いてトロイア戦争の遠征に軍医として加わり、父より受継いだ医術の才能を生かしてギリシア軍の勝利に貢献したとされる。ペンテシレイア、またはエウリュプロスに討ち取られ,戦死したとされる。

台湾の亜種名の「sylvinus(シルヴィヌス)」は、そのままの綴りで検索しても全くヒットしなかった。
しかしながら、語尾の「nus」はラテン語の人物名によく使われるし、前半部のsylviもラテン語であろう。おそらくこれは森を意味する「silva(シルヴア)」、もしくは同じく森を意味し、ギリシャ神話の美しい清楚な乙女の名前でもある「silvia(シルビア)」が語源だと考えられる。そこから推察すると、学名には「森の神」、或いは「森の女神」といった意味あいが込められているのではないかと思われる。

参考までに、同物異名に以下のようなものがある。
Papilio machaon sylvia(Esaki&Kano,1930)

こちらは「sylvia」となっている。記載者は江崎先生&鹿野博士のゴールデンな組み合わせだわさ。なのにシノニムになっちったのは惜しい。

因みに、日本産の亜種名である「hippocrates(ヒッポクラテス)」は、ギリシア、ローマなど古代の人名で、数学者や医者、僣主(独裁的支配者)などにこの名前の著名人がいるようだ。
そういえば、昔の映画に大森一樹監督の『ヒポクラテスたち』というのがあったなあ…。詳しい内容は憶えてないけど、たしか医者たちの群像劇だったかと思う。従来の日本映画から脱却した日本のヌーヴェルバーグ的な実験的作品として、ある程度の評価はあったのではなかろうか? 中途半端で、全然面白くなかったけどさ。
日本でも「ヒポクラテスの誓い(註3)」が有名だし、数学者でも独裁者でもなく、たぶん医者のヒポクラテスを想定してつけられた名前だろね。
それにしても、マカオン(machaon)といい、キアゲハが何で医者関係の学名なの❓

 
【英名】Swallow tail(スワロウテイル)

ようするにツバメの尻尾(しっぽ)だ。
おそらく長く伸びた尾状突起を指してのことだろう。

欧州でスワロウテイルと云えば、このキアゲハのことを指すことが多いようだ。きっと我々日本人が思う以上に、欧州の人々の心の中にキアゲハの存在は強く浸透しているのだろう。

米国でも同じ呼び名で呼ばれているとばかり思っていたが、実をいうと「Old World Swallowtail」という別な名前が付けられている。
これは北米には、近い関係ではあるが別種のヤンキーアゲハ(Papilio polyxenes)が分布しているからみたいだ(英名 Anise Swallowtail)。この2種を区別するために、アメリカでは普通のキアゲハにOld World Swallowtail(旧世界のアゲハ)という名をわざわざつけたそうだ。

 
【台湾名】金鳳蝶

Lepidoptera 鱗翅目
Papilionidae 鳳蝶科
Papilio 鳳蝶屬

鳳蝶は真正アゲハチョウの仲間を指す言葉のようだから、「金鳳蝶」は、さしづめ金色のアゲハチョウってところかな。
別名に「黄鳳蝶」があるが、こちらは黄色いアゲハチョウって意味だね。
中国語圏では尾っぽのあるアゲハチョウの名前に、だいたいこの「鳳蝶」ってのがつくんだけど、小さな鳳凰みたいで中々ステキだと思う。

 
【分布】
ヨーロッパ全土から極東アジア、アフリカ北部、北アメリカと、広く北半球一帯に分布している。

 
(出展『Butterflycorner』)
 
(出展 杉坂美典『台湾の蝶』)

(出展『日本産蝶類及び世界近縁種大図鑑』)

 
一番上のグレーの部分が全世界のアバウトな分布で、真ん中のピンクの部分がアジアでの分布である。
でも、あまりにざっくりなので、一番下に藤岡図鑑のユーラシア大陸の分布図も追加した。但し、サハラキアゲハやタカネキアゲハの分布も含まれている。

日本の分布の南限は屋久島。沖縄など南西諸島には分布せず、飛び離れて台湾山地に分布し、それが種の南限の一つともなっている。
台湾中部から中南部の標高1000m以上の高地帯で多く見られたが,600m前後の低地帯でも記録がかなりあるようだ。とはいえ移動性が高い蝶なので、渓に沿って下りてくることは充分に考えられる。渓流沿いは気温がそれほど上がらないからだ。おそらく垂直分布の中心は1000m以上に変わりなかろう。発生地も1000m以上だと推測される。
藤岡図鑑に拠れば、大陸の南限記録は中国広東省の九連山及び広西省大瑤山。しかし、安定して分布しているワケではなくて、あくまでも記録に過ぎないと云う可能性もある。藤岡図鑑の分布図には、広東省が入っていないように見受けられるからだ。
また、タイなどインドシナ半島には分布しないとされてきたが、近年ベトナム北部のハザンとドンバンで見つかっているようだ。ここも南限の一つだろう。この地域のキアゲハは尾状突起が極めて細長い特異な型で、分布は雲南省や四川省西部に連なり、ミャンマー北部からインド・アッサム州東端のマニプールにまで達している。

 

 
これは超長尾型とも呼ばれ、尾状突起が長いだけでなく翅形が細長くて前翅は外方に張り出しており、前翅基半の黒色部が広く、後翅中央の翅脈上の黒条が巾広い割には後翅1室の黒色が極めて狭い。
マニプールやシャンステート(ミャンマー)では、この型のキアゲハだけが分布しており、雲南や四川ではこの超長尾型のみならず普通の長尾型及び短尾型(タカネキアゲハ)も分布していて、四川省康定と雲南省Tse-kouでは、この三型全てが見られるという。
これは標高及び食草で棲み分けているものと考えられ、標高2500m付近に超長尾型が分布し、これより高い標高には短尾型が、低い標高には普通の長尾型が棲息するようだ。

 
台湾のキアゲハは、なぜ絶滅したのだろう❓
キアゲハは、分布からも北方系の種類であることは間違いない。となると、南限に分布するキアゲハはギリギリの環境で生きていることになる。だとすると、もしかしたら地球温暖化も絶滅に関係しているのかもしれない。成虫はまだしも、卵や幼虫、蛹などは高温に耐えきれずに衰退していったという事も有り得るかもね。
日本でも最近は熱暑が話題にあがる事が増えてきた。普通種だから誰も気づいていないが、或いは西日本では知らぬうちに数を減らしているのかもしれない。将来的には稀種の一つにならないとも限らないのだ。キアゲハの隠れファンとしては、稀種ともなれば、その美しさが再認識されるだろうから嬉しいような気もする。しかし、それはやっぱ良くないよね。さみしくなる。いつでも会える庶民的な美人さんは貴重なのだ。

 
【亜種】
分布が広く地理的変異も多く、その上にヨーロッパ人が好きな蝶であるがゆえ、極めて多くの亜種名、型名が命名され、100頁にわたる大著さえ出版されているという(Eller,1936)。
Wikipediaに拠れば、37亜種にも分けられている。シノニム(同物異名)も数多くある筈だから、それも含めれば膨大な数にのぼるだろうし、分類の仕方も研究者によってバラバラだろう。と云うワケで、面倒なので並べません。興味のある方は自分で調べたし。

ところで、キアゲハの遺伝子解析はもう済んでるのかな? もし済んでいるならば、分類も少しは整理されているかもしれない。

調べてみたら、あった。くしょー(ToT)、また文章が長くなるやんけ。ウンザリだ。
でも、知ってしまえば書かないワケにはいかない。
論文は以下のタイトルで、最近に発表されたもののようだ。

 
日本列島に分布するキアゲハの遺伝的多様性と系統関係
Genetic variations and phylogenetic relationships among the populations of swallowtail
butterfly, Papilio machaon, in the Japanese Islands. (宮川美紗 2018?)

日本列島および海外のキアゲハを遺伝子解析したもので、本題は日本のキアゲハである。
結果は、世界のキアゲハは遺伝的に異なる5つの集団に分けられるという。内訳はユーラシア大陸、北アメリカ、日本列島及びサハリン、それに別種とされる北アフリカのサハラキアゲハ(Papilio saharae)とチベットのタカネキアゲハ(Papilio sikkimensis)である。

日本列島及びサハリンのキアゲハは、サハラキアゲハ(別名サバクキアゲハ)、タカネキアゲハ、ユーラシア大陸や北アメリカ大陸のキアゲハとは遺伝的に明確に区別されるという。驚いたのは、別種とされるサハラキアゲハとタカネキアゲハもキアゲハと同種だとしているところである。
サハラキアゲハもタカネキアゲハも同所的に普通のキアゲハと混棲するから別種とされてた筈だけど、何で?
でも調べたら、サハラもタカネも分布の端っこでは微妙な個体が見い出されるようだ。どちらとも言えないようなキアゲハとの中間的なものもいるって事ね。
心情的には別種であって欲しいんだけどなあ…。
まあ遺伝子解析が絶対だとは言えない面もある。食草や標高など生態的に違えば、少なくとも両種は別種の途上にはあるだろう。

論文では、日本列島及びサハリンの集団はキアゲハの中で最も早く分岐し、それは約80万年前だと推定している(系統図は載ってなかった)。
へぇ~、意外な結果である。見てくれはそれほど特異な感じはしないのにね。外部形態の進化スピードが遅いタイプってことか?…。

結果を纏めると以下のようになるそうだ。

①日本列島のキアゲハはユーラシア大陸・北アメリカ大陸のキアゲハとは大きく系統が異なるが、サハリンと日本列島の集団は系統的に近縁であることが示された。

②サハリンと日本列島の集団は他のキアゲハ集団より系統的に先に分岐し(隔離され)、現在まで大陸との遺伝的交流はほとんどなかったと考えられる。

③大陸、サハリン、北海道、本州以南の集団の遺伝的構造は互いに有意に異なっていて、集団がタタール海峡、宗谷海峡、津軽海峡、対馬海峡によって隔離されていることがわかった。すなわち、オホーツク海沿岸に分布していたハプロタイプの1つが、第四期の陸続きの時期にサハリン、北海道を通って本州以南に変異しながら広がり、海峡成立後にそれぞれの島において特徴的なハプロタイプが短期間で島内に分布を拡大したのち、安定したことが示唆された。

朝鮮半島南部のものは黒化が進んでいて日本の夏型とソックリだから、てっきり朝鮮半島南部のものが日本列島の西側から侵入し、一方、極東ロシア(ハバロフスク地方・沿海州)のものが樺太、千島列島を経由して北海道に侵入したものだとばかり思っていたが、そうじゃないんだね。これまた驚きだ。地史的には南西側も大陸と繋がっていた時代はある筈だけど、その時にナゼ進出して来なかったんだろ❓

オサムシの例なんかにもあるように、外部形態の変化が小さい種においても遺伝的には隔離されてるって事が蝶でも有るんだね。一方、シナカラスアゲハみたいに見た目はかなり特異なのに、ミヤマカラスの亜種に過ぎないという逆の例もあるから、生き物って不思議だよね。

 
【生態】
白水さんと杉坂さんは年数回の発生、1月~11月に記録があったとしている。
とはいえ、春から夏にかけての年2化が基本だろう。加えて、一部が秋に3化として羽化するものと思われる。たぶん、越冬態は日本と同じく蛹であろう。
藤岡図鑑の標本のデータでは、春型は3月中旬、夏型は7月下旬と8月上旬になっていた(何れも1992年の採集)。おそらくその時期が、春夏それぞれの最盛期だったと推測される。
成虫の生態に関しては特に記されているものは無い事から、日本のキアゲハとさしたる違いは無いかと思われる。すなわち、♂は山頂や尾根、草原などの開けた場所で占有活動し、また湿った地面に吸水に集まる。♂♀ともに花に吸蜜に訪れるといったところだろう。

 
【幼虫および食餌植物】

台湾のサイト『DearLep 圖錄檢索』によれば、食樹は Peucedanum formosanum 臺灣前胡。
和名は、調べたら「タイワンカワラボウフウ」となっていた。あれれー❓、「OTTOの蝶々ブログ」では、食樹はタイワンサイコってのになってたぞ。
探してみたけど、タイワンサイコでは該当するものは見つからなかった。ワケわかんねえよ(‘ε’*)

タイワンカワラボウフウは、セリ科のカワラボウフウ属(formosanum)に含まれ、早田文蔵氏によって記載された。亜種はどうやら無いようだ。台湾のサイトには特有種とあるので、おそらく台湾特産の植物だろう。分布は全島中低高海拔山區と書いてある。つまり標高が低い所でも見られるようだ。これは意外だった。ならばキアゲハも低山地でも普通に見られて然りなのにね。
んっ(・。・)?、いや、それは間違いだわさ。
台湾は亜熱帯ということをすっかり失念してたよ。キアゲハは基本的に温帯から寒帯に棲むチョウだ。台湾の低地では暑すぎて生息できないに違いない。沖縄など南西諸島に分布しない事からも、それは窺える。

 
【タイワンカワラボウフウ】
(出展『生物多様性研究中心』)

(出展『福星花園』)

(出展『随意窩日誌』)
 
 
絶滅に瀕している植物かと思いきや、そうでも無さそうだ。特にそういう記述を見つけられなかったと云うのもあるが、ネットで意外と画像が拾えるからだ。
この植物の減少が台湾のキアゲハの絶滅に大きな影響を与えたとばかり思っていたが、そうじゃなかったらワケわかんねぇぞ。
でも、二番目に示した出展の画像は「福星花園」ってあるよね。画像が多いのは一部で栽培しているのかな? それともコレって植物園で、保護・育成してるのかな?

丹念に調べたら、どうやら食用として栽培されてる事がわかってきた。中国でだって栽培されてるようだ。ならば、益々エサにはそんなに困らないんじゃないの? 或いは最近になって栽培され始めたのかもしれない。だとしたら、何てバッドにタイミングの悪い蝶なんだろう。不幸すぎる。

いやいや、待てよ。果たしてそんな結論でいいのか❓
冷静に考えてみれば、栽培されるくらいだから過去を含めてもそんなに珍しい植物だとは思えない。「絶滅危惧種が栽培されて増え、食用となりましたー。めでたし、めでたし」なんて話、聞いた事がない。そもそもが弱くて栽培も難しいから、絶滅危惧種になるんじゃないの?
もしかして食草はこの臺湾前胡ではなくて、OTTOさんの言うとおりタイワンサイコなる植物だったりして…。
でも、ブログの記事内にはタイワンサイコとしか書いてなくて、学名も漢字名も示されていない。他にヒントも無い。だから、これ以上探しようがないのだ。
謎は深まるばかりだよ(-“”-;)

因みに、台湾の北部と東部の沿岸地域には「日本前胡」という極めて近似の植物があるそうだ。

 
【日本前胡】 

(出展 2点共『随意窩日誌』)

 
タイワンカワラボウフウとソックリで、判別は困難らしい。しかし、タイワンカワラボウフウは中高度の海抜で見られるのに対して、沿岸部に自生することから、標高でだいたいの判別ができるそうだ。
そっか…、やっぱタイワンカワラボウフウは低地には基本的に生えてないんだね。
亜熱帯の海岸ともなれば相当クソ暑いだろう。したがって台湾のキアゲハが、この日本前胡を食草として利用するのには無理があろう。
にしても、山には他にもセリ科植物なんて沢山あるだろうに。そちらに食草転換できなかったのかね?

それはそうと、この日本前胡って和名は何だろ?
サイトには学名が書いてなかったのだ。
ボタンボウフウ(長命草)なのかなあ?(註4)

食草はタイワンカワラボウフウだとして、話を更に前へと進めよう。
「日本産蝶類標準図鑑」に拠れば、日本のキアゲハの幼虫の食餌植物として以下のものがあげられていた。

「ニンジン、ノダケ、ミツバ、ウイキョウ、シシウド、ハナウド、ハマウド、エゾシシウド、オオハナウド、セリ、オカゼリ、イブキゼリ、ドクゼリ、ヤマゼリ、マツバゼリ、ハマニュウ、エゾニュウ、ハマボウフウ、ボダンボウフウ、イブキボウフウ、タカネイブキボウフウ、アメリカボウフウ、ハクサンボウフウ、シラネセンキュウ、カワラボウフウ、イシヅチボウフウ、ミヤマセンキュウ、オオバセンキュウ、ウマノミツバ、イワミツバ、イワテトウキ、シラネニンジン、ノラニンジン、ミヤマニンジン、ヤブジラミ、アシタバ、パセリ、セロリ、トウキ、ミシマサイコ、エゾノヨロイグサなどの各種のセリ科植物を食草とするが、キハダ、サンショウ、イヌザンショウ、カラスザンショウ、コクサギ、カラタチなどのミカン科植物や、ギョリュウ(ギョリュウ科)、フジアザミ、コスモス、ベニバナボロギク(キク科)を野外で食べる場合も知られている。」

いやはや、スゴい数だ。セリ科だけでなく、ミカン科やキク科など、科を跨いで多岐にわたっている。
あっ、ボタンボウフウも入ってるね。日本のキアゲハの幼虫は食うんだね。だから、海岸でも珠に飛んでるのを見かけるんだろう。
それにしても、こんなにあるんだったら、台湾のキアゲハも別な植物を利用しても良さそうなもんなんだけどなあ…。
それに考えてみれば、台湾だってニンジンやセロリ、パセリくらいは栽培しているだろう。ミツバやセリ、ウイキョウ、アシタバだって作ってる可能性がある。中には高原で栽培されてるものだってある筈だ(註5)。それ食えばいいじゃんか❗
なのにタイワンカワラボウフウしか食べないって、どゆこと(;・ω・)❓ 不器用だよなあ。そりゃ絶滅もするわ。
いや待てよ。日本のキアゲハと台湾のキアゲハはきっと別な系統なのだろう。遺伝的には、思っている以上に離れている可能性はある。台湾に長く隔離されることにより独自に進化したか、或いは逆に殆ど進化しておらず、原種に近い古い起源のものなのかもしれない。ゆえに食性だって違うという事は考えられる。他の植物を利用したくとも出来ないのかもしれない。例えばタカネキアゲハは普通のキアゲハとは食餌植物が違うようだ。ブータン高地のものはセリ科やミカン科の植物を与えても食べなかったという話もある。本来的には、食性が狭い種なのかもしれない。日本産は早くに分岐し、独自に進化して食性を広げていったと考えられなくもない。

  
【終齢幼虫】
(出展『そらいろネット』)

 
派手派手のガチャピンみたいだな(笑)
そういえば小学生の頃、ニンジン掘りに行った時にコヤツがいて、とてもビックリした記憶がある。ド派手で気持ち悪くて、激引きでしたわΣ( ̄ロ ̄lll)
因みに画像は台湾産のものではなく、日本産のものである。台湾産の幼虫画像が見つけられなかったのだ。藤岡図鑑によると、ヨーロッパ産から日本のものまでは、幼虫形態がほぼ同じだというので使用しやした。

 
【ヨーロッパキアゲハ Papilio machaon machaon】

(同 裏面)

 
原記載に使われたスウェーデン産の標本写真が無かったので、とりあえずスペイン産を図示しておいた。

  
(終齢幼虫)
(出展『pyrgus.de』)

 
たしかに日本のものとさして変わらない。
しかし、アフリカや北米のものは形態的にかなり違うようだ。面倒くさいが、ここまでくれば徹底しようではないか。長いが藤岡図鑑から抜粋要約しよう。
え~いι(`ロ´)ノ、この際だ、幼虫の画像も探してきて添付しちゃうぞー❗

 
「ヨーロッパでは日本と同様にセリ科を広く食するが、ミカン科も食している(Riley&Higgins 1970)。
アフリカのサハラキアゲハはヨーロッパと食性が異なり、ヨーロッパでキアゲハが好むセリ科のFerulacommuやFoenniculum vulareを食わないようで、これがアフリカ産のキアゲハを別種とする根拠の一つとなっている(Larsen 1984)。
アフリカのキアゲハとヨーロッパのキアゲハでは幼虫の色彩のパターンも全く異なり、ヨーロッパ産は日本と殆ど同じであるが、アフリカのサハラキアゲハは白黒の横縞に加え、気門線と背線の両側にオレンジ色の点列があり、キアゲハよりも別種コルシカキアゲハに似ている。」

 
【サハラキアゲハ Papilio saharae】

(同 裏面)

 
少し違うが、見た目は間違いなくキアゲハだね。

 
(終齢幼虫)
(出展『wildisrael.com』)

 
幼虫は見慣れたキアゲハの幼虫とは全然色が違うし、細かいところも違うから、別種とされるのも頷ける。

 
【コルシカキアゲハ Papilio hospiton】

(同 裏面)

 
分布は地中海のコルシカ島とサルディニア島。
従来はワシントン条約の1類に指定され、採集や売買が禁止されていたが、最近1類から外されたと聞いている。島には沢山飛んでるらしいから、解除されたのかなあ?でも、採ってもOKになったのかはワカンナイ。

おぼろ気な記憶だと、キアゲハの中でも原始的であると云う見解を聞いたことがある。言われてみれば、そんな気もするような見てくれではあるよね。

ところで、学名の「hospiton」って、これも医療関係❓病院とかって意味かなあ?
語源はおそらくラテン語の「hospes」だろう。
でも、この言葉は「Hospital」の他にも「Hotel」や「Host」の語源でもあるんだよね。hospesの意味は、客=おもてなし。だから、皆そこから派生した言葉なんだよね。
まっいっか。んな事、どっちだってよくなってきた。

 
【終齢幼虫】
(出展『nkis.info』)

 
確かにキアゲハの幼虫とは全然違うわ。アゲハチックに見えない。まるで蛾の幼虫だ。これまた別種とされて当然だろう。
因みにコレに見た目が近いものに、他にトラフキアゲハ(チチュウカイトラフアゲハ)の幼虫がいる。

 
【トラフキアゲハ Papilio alexanor】
(出展『butterflycorner.net』)

 
分布はイラン付近から中東、ギリシア東岸部、イタリア南端部、シチリア島、フランス・プロヴァンス地方。
パッと見はアメリカ大陸のトラフアゲハに似てるね。

 
(終齢幼虫)
(出展『by Heiner Ziegler』)

 
サハラキアゲハとキアゲハを混ぜたような幼虫だ。
幼虫の食草がキアゲハと同じくセリ科(パセリ、フェンネルなど)で、成虫・幼虫ともにキアゲハに似ている事から、長らく同じキアゲハ種群に入れられてきたようだ。
しかし、遺伝的にはキアゲハともトラフアゲハとも違う独立したモノだという。他に近い種が無く、原始的なものであるらしい。
これはカッコいいし、採ってみたいなあ(*´∀`)

「またラーセンが P.machaon に分類しているアラビア半島・オマーンのキアゲハssp.muetingiはオレンジ色が薄く、ヨーロッパや日本とはかなり違ったものである(Larsen 1983)。
ヒマラヤのキアゲハが飼育された記録は知らないが、ブータンの短尾タカネキアゲハの卵から孵化した1齢幼虫は、セリ科もミカン科も食さなかった(原田基弘 未発表)。」

残念ながら、アラビア半島のssp.muetingiの幼虫とタカネキアゲハの幼虫画像は見つけられなかった。

 
お次は北米のキアゲハ。
 
「アメリカのキアゲハの食性は、キク科Artermisia horregica、A.dracunculus frigidus。セリ科ではHelacleum lanatum、Zizia apteraと2科6種が知られているにすぎない。地域毎に何を食草とするかが異なり、ssp.brevicaudaはセリ科の8種を食し、ミカン科とキク科にも産卵するが、幼虫が食した記録はないようである。アメリカのキアゲハは、ヨーロッパのようにミカン科を食べないが、ヨーロッパでは食わないキク科を主たる食草の一つとしている。
幼虫の色彩と斑紋も多彩な地理変異があり、五十嵐(1979)、タイラ(Tyleret.al.,1994)によると、終齢幼虫の色彩はbrevicaudaが日本と同じ緑と黒なのに対し、aliskaは黒の中にクリーム色の細い縞、oregoniaは黒の中にオレンジ色の縦縞が入り、bairdiiは黒と空色の縞で、黒の中に白の縦縞が入る。幼虫の地理変異の亜種間類似性は、成虫の斑紋の地理変異と一致していない方が多い(Scott 1986)。」

 
【Papilio machaon aliaska】

(同 裏面)

 
分布はアラスカなど北米大陸北部。
この辺りのものは、ユーラシア大陸のキアゲハに近い種類だと考えられてきた。しかし、アメリカ産キアゲハの遺伝子解析について書かれた論文を読んでいないので、どこで線引きがあるとか詳しいことは分からない。

 
(終齢幼虫)
(出展『Butterflies and Moths of North America』)

 
見慣れたキアゲハの幼虫とは違うね。
いや~ん(*´∀`)、むちむちのブリブリさんだー。

 
【Papilio machaon Oregonia】

(同 裏面)

 
和名にオレゴンキアゲハの名がある。
オレゴン州の州蝶にも指定されているらしい。

 
(終齢幼虫❓)
(出展『wikimedia』)

 
幼虫はコレかどうかワカンナイ。らしきものを一応載せただけなので、間違ってる可能性もあります。

 
【Papilio machaon bairdii】

(同 裏面)

 
メキシコ国境辺りにまで分布しており、成虫は黒いキアゲハだ。初めて存在を知った時は北米には黒いキアゲハがいるだなんて思いもよらず、かなりの衝撃だった。
しかし、日本でも極く稀に黒いキアゲハが見つかっているから、種に黒くなる遺伝子が元々具(そな)わっているのだろう。何かのキッカケで、そのスイッチが入ると黒化するんだろね。
黒化するのは、毒を持つアオジャコウアゲハに擬態しているからだろうと言われている。北米ではそれがスイッチになったんだね。南へ行けば行くほどアオジャコウが多いので、それに伴って黒いタイプの割合が増えていくらしい。

 
(終齢幼虫)
(出展『Rising Butterflies』)

 
ssp.ariskaの幼虫に似ているね。
数多くの幼虫画像を見ていると、色んなヴァリエーションがあるように見受けられる。北米のキアゲハの幼虫は、同じ場所でも色んなフォーム(型)がいるのかもしれない。各亜種の分布境界地帯辺りでは、中間型も含めて多種多様なタイプが現れる事は考えられる。となると、幼虫形態は同定には参考程度にしかならないかもね。

 
比較の為に、アオジャコウの画像も添付しておこう。

 
【アオジャコウアゲハ Battus philenor】

(同 裏面)
(出展『MABA Fauna』)

 
キアゲハの仲間のみならず、タテハチョウなど多くの種類が、このアオジャコウに擬態しているそうだ。
憧れのダイアナヒョウモンの♀なんかも、コヤツに擬態してんだろなあ…。

キアゲハの幼虫ばっか見てると、段々免疫が出来てきたようで、気持ち悪さがだいぶと薄れてきた。
今や、ちょっと可愛いかも(・。・)、とさえ思い始めている。
 
近縁の別種であるヤンキーキアゲハの幼虫くんも、ついでにいっとこう。
 
「ヤンキーキアゲハ(Papilio polyxenes)の西側亜種であるssp.zelicaonはセリ科及びミカン科を広く食し、スコットは食草としてセリ科46種、ミカン科3種を挙げている。東側亜種(ssp.polyxenes)もセリ科33種、ミカン科4種を食し、キアゲハに比べて食草の選択は広いが、キク科は食さない。」

 
【Papilio polyxenes polyxenes 東側亜種】
(出展『Canadian Biodiversity Infomation Facility』)

(出展『SciELO Colombia』)

 
黄色いのから黒いのまで色んなフォームがあるんだね。

 
(終齢幼虫)
(出展『The Childrens Butterfly Site』)

 
ヤンキーキアゲハ(別名クロキアゲハ・メスグロキアゲハ)もアオジャコウアゲハに擬態しているとされ、分布はさらに南に広く、中南米にまで達している。
キアゲハの中から擬態と暑さに順応したものが、分岐、進化してきたものかもしれないね。

 
【Papilio polyxenes zelicaon 西側亜種】

(同裏面)

 
ユタ州のもので、超キアゲハ的な見た目である。
これを見て、すぐにヤンキーキアゲハだと答えられる人は少ないだろう。

こちらも黒いのがいる。

 

(同 裏面)

 
これまたユタ州のものである。
同所的に黄色いのと黒いのがいるのかよ❓
頭が混乱してきたが、♀がアオジャコウに擬態してて黒くなるって事でいいのかな?

 
(出展『Utah Lepidopterists’Society』)

 
ようするに、西側は色んなタイプが入り乱れてるんだね。コレにキアゲハの亜種も加わってくるから、現地に行ったらワケわかんねぇだろなあ…(-“”-;)

 
(終齢幼虫)
(出展『PBase.com』)

 
ヤンキーキアゲハの幼虫もアメリカのキアゲハの幼虫も一緒じゃん❗
コレって、果たして別種なのー(◎-◎;)❓

調べたら、自然状態でも雑種が見つかるらしい。それ見た事か!と思ったが、雑種が見られるのはあくまで一部の地域であり、多くの地方では交雑しないという。
交配実験でもF1の雑種は作れるものの、第2世代のF2は基本的には出来ないみたいだ(戻し交配は出来るようだ)。と云うことは、かなり近縁ではあるが別種ということか…。

藤岡さんは幼虫に関しては言及していないが、実をいうとアメリカには、もう1種類のキアゲハ系統の蝶がいる。コヤツも間違いなくキアゲハの仲間だろう。

 
【Papilio indra】

(同 裏面)

 
小型で黒いのが特徴だ。
和名にタカネキアゲハを使用しているサイトがあるから、アジアのタカネキアゲハと被っててややこしい。
それはさておき、タカネ(高嶺)とあるし、小型な事からもおそらくは高地に棲む種類だと推測する。何らかの理由で高地に追いやられた(或いは取り残された)ヤンキーキアゲハが独自に進化したものなのかな❓
調べりゃワカルかと思うが、本題からこれ以上脱線したくないので、興味のある人は自分で調べてね。

 
(終齢幼虫)
(出展『Butterflies and Moths of North America』)

 
キアゲハの幼虫に、サハラキアゲハやトラフキアゲハの幼虫のテイストを混ぜたような見た目だ。
緑色とオレンジや黄色の組み合わせは、まだボップな気がして可愛いが、この手の白とかピンクと黒の組み合わせは受け容れ難い。蛇やウミヘビに通ずるところがあるからだ。わたしゃ、ヘビが大の苦手なのさ。
とはいえ、生き物たちの進化の過程を想像させてくれる多様な変化(へんげ)は面白い。興味が尽きない。

 
最後に藤岡さんはこう締め括っておられる。

「以上要するに、キアゲハの斑紋は極めて地理変異に富んでいるが、幼生期の色彩と食性にもそれ以上に複雑な地理変異があり、しかもそれらの大部分は未調査で全容は未知と言えよう。」

そもそもは台湾のキアゲハの話だから、これ以上はツッ込まないけど、ヤンキーキアゲハも含めて全部キアゲハ(P.machaon)だとする学者もいるんだろなあ…。
一方、ヤンキーキアゲハの両亜種をそれぞれ別種としているサイトもあるから、キアゲハの亜種全部とは言わないまでも、相当数を別種だと考えてる研究者もいそうだ。
アジアでさえ頭がこんがらがっているのに、益々ワケわかんないや。
キアゲハの世界って奥深いなあ…。

 
色々書いているうちにフッと思い出した。
不意に微かな記憶が甦ってきたのである。
2016年、初めて台湾を訪れた時の事だった。着いて、二日目が三日目だったと思う。標高1900m付近でアゲハみたいな影を見た記憶が微かに残っている。一瞬の事で、木の梢の向こうにあっという間に消えたし、かなり遠くだったからキアゲハだったと言い切る自信は全く無い。ただのナミアゲハだったかもしれない。或いはオナシアゲハとかリュウキュウアサギマダラとかの他のチョウだった可能性もある。再度強調するが、何せ距離は40、50mくらいは離れていたし、一瞬の出来事だったのだ。それに、当時は台湾でも日本と同じくアゲハやキアゲハは普通種だと思ってるから、ほぼ無視だろう。そんなの真面目に見ていないのだ。だから記憶として鮮明にメモリーされにくい状況にあったとは言えよう。普通種の映像メモリーなんて要らないから、脳ミソはソッコー消去なのだ。
とはいえ、ナミアゲハやオナシアゲハだったとしたら、標高が高過ぎる。両種は垂直分布がもっと低い。その標高でもいる事もあるだろうが、遭遇率は決して高くはない。

じゃあ、あれはいったい何だったのだろう❓
陽炎立つ尾根で、白昼夢でも見ていたのかもしれない。

目を閉じる。
キアゲハの幻影と共に、あの青い空と緑の稜線が瞼の裏にゆっくりと浮かびあがってきた。
今もキアゲハは台湾の山奥の何処かで人知れずひっそりと生きているに違いない。
 

                  おしまい

 
追伸
谷関の道路が開通すれば、きっとキアゲハもマレッパイチモンジも見つかる筈だ。谷関から東側へと抜ける道が何十年振りかに一部開通したと云う噂もある。
幻のマレッパイチモンジとキアゲハに会いにいく旅って、浪漫を感じるなあ…。

冒頭にキアゲハを取り上げた理由をグダグダと書いたが、実を言うともう一つ候補があって、どちらにするか迷っていた。
しかし、福井にギフチョウを採りに行った際に偶々(たまたま)キアゲハに出会い、改めてその美しさに感銘したのがダメ押しとなった。

 

 
普通種である事を除(の)けて純粋な目で見れば、その美しさはギフチョウと甲乙つけ難いと思う。もしも、ギフチョウと同じくらいの珍しさで年1化であったならば、春先の蝶の人気を二分していたかもしれない。個人的には、裏側のデザインと全体のフォルム(翅形)はギフチョウよりも美しいと思う。

今回は書き始めてから完成まで二週間近くかかった。
調べれば調べるほど泥沼化していったんだよね。カラスアゲハの回よりかはマシだったけど、難産だった。最悪である。解説文が多くてストレスが溜まるし、疲れたよ。図鑑の解説文が時に数式に見えたくらいだよ。図鑑の文章は面白味が無くて嫌い。
いつも書きたいから書き始めるんだけど、結局、文章を書くのがバカバカしくなってきて暗擔たる気分になる。こんな文章、所詮は生産性が極めて低いのだ。
赤ん坊はもう疲れたよ、サヨナラをするよ。

  
(註1)尻の感じからすると
キアゲハの♀は♂と較べて尻先が尖る傾向にある。

(註2)藤岡大図鑑
藤岡知夫『日本産蝶類及び世界近縁種大図鑑1』

(註3)ヒポクラテスの誓い
医師の職業倫理について書かれた宣誓文で、世界中の西洋医学教育において長きに亘って教えられてきた。
内容は、金銭的報酬だけを目的に医療を施したり医学を教えたりすることを戒め、人命を尊重し、患者のための医療を施すこと、患者等の秘密を守る義務などについて述べられている。

(註4)前胡=ボタンボウフウなのかなあ?
前胡の学名は、どうやらPeucedanum japonicumみたいだ。で、やっぱ和名はボタンボウフウでした。

ボタンボウフウ Peucedanum japonicum
本州中部以西、四国、九州、琉球、朝鮮南部、中国、フィリピンに分布する。
沖縄県では長命草、サクナと呼び、葉を和え物、薬味などの食用に利用する。

食べたことあるけど、結構美味しかったような記憶がある。台湾では食べないのかなあ?

(註5)高原で栽培されてるものだってある筈だ
セリ科ではないけれど、標高2500mにキャベツ畑があった事を思い出した。だからニンジンやセロリなんかも高地栽培しててもオカシクないと思うんだよね。でも農薬かかってたら、あきまへんなー(_)。
生きのびるのは、そう容易くはないのだ。
 
追伸の追伸
脱稿後、タイワンキアゲハの食草について新たなる情報を得たので、続編を予定しています。

 

台湾の蝶29『宮島さんはミステリアス』

  
  第29話『宮島三筋』

又しても、Neptis(ミスジチョウ属)の蝶である。
三連発なんで自分でも少々食傷気味だが、前回、前々回と連なる部分もあるので取り上げることにした。
と云うワケで、第3弾はミヤジマミスジ。

 
【Neptis reducta ミヤジマミスジ♂】

(2017.6.20 南投県仁愛郷)

 
白紋が全体的に横長になり、下翅の白帯が他の近縁種と比べて太くなるのが特徴だ。

裏面は、こんなの。
 

 
前回と前々回に取り上げたアサクラミスジやエサキミスジの裏側とはかなり異なる。だが、このタイプの裏側こそが Neptis(ミスジチョウ属)の典型であり、主流の斑紋パターンである。

♀は採ってるかもしれないけど、ワカンナイ。展翅されていないミスジチョウの仲間が、まだまだ冷凍庫で眠ってるんである。
探してきて展翅するのは億劫なので、ここは画像を他からお借りしよう。

 
【ミヤジマミスジ♀】

 
♀は♂に比べてやや大きくなり、羽に丸みを帯びる。

 
(裏面)
(出展 二点とも『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
レア度はエサキミスジ、アサクラミスジには敵わないが、滅多に会えない蝶の一つではあるだろう。
とはいえ、ミヤジマミスジのみが台湾特産種で、エサキ、アサクラよりも分布域が狭い。さすれば世界的見地からすれば、その珍稀度に遜色はなかろう。いや、下手すりゃコッチの方が珍しい可能性だってある。

そんだけ珍しいのにも拘わらず、実を言うとミヤジマミスジを採った記憶が殆んど無い。
度々述べているが、発作的に台湾ゆきを決め、その三日後には機上の人となっていたのである。だから、有名な数種を除いてどんな種類がいるのか殆んど知らなかったのだ。当然、何が珍しいのかも今イチわかんなかった。
もっとも、たとえ下調べしていたとしても、ワケわかんなかったと思うけどさ。何せ台湾には、似たようなのが沢山いるのである。

 
(出展『原色台湾蝶類大図鑑』以下二点も同じ)

  

 

 
(;・ω・)ねっ、ワケワカンナイっしょ❓
こんなもん、飛んでたら最初は全部おんなじに見えるわい(-“”-;)❗

図版1は、コミスジなどの小型種群である。
左列が♂の表、中央列がその裏面。右列が♀の表裏となる。
図版2つめはミスジチョウなどの中大型種群で、全て♂。左列が表、右列がその裏面である。
図版3の左下の黄色いの3つはキンミスジで、これだけは厳密にいうとNeptisではなく、Pantoporia(キンミスジ属)だ。但し、両者は同じNeptini族に含まれるから、かなり近縁の間柄ではある。

数えたら、台湾には何と14種類もの Neptis属の蝶がいる。それに比して、日本にはたった6種類しかいない。しかも台湾の面積は九州くらいしか無いのだ。その多種多様さが理解して戴けるだろう。
つけ加えると、似たようなのはこればかりではない。
他にもいるんである。

 

 
(出展 二点とも『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
コイツらは、Limenitis イチモンジチョウのグループである。Neptisとは縁戚関係にあり、両者ともイチモンジチョウ亜科(Limenitinae)に含まれる。
そして、このグループとミスジチョウのグループが、渓谷とか林縁など大体同じような環境で見られる。中でも吸水に集まる場所では、両グループの何種類かが入り乱れて飛んでいて、マジで何が何だかワカンねぇ(@_@;)

前置きがあまりにも長くなり過ぎたが、ようは台湾採集1年生の、しかも勉強不足のワタクシにですな、コレら似たような、しかも飛んでいるモノたちを正確に識別するだなんて、どだい無理な話なんである。
明らかに見た事がないと解るアサクラミスジやエサキミスジならまだしも、ミヤジマミスジなんて日本のコミスジとそう変わらんのである。ゆえに、何となぁ~く違うなと感じたものは一応採ってみると云う姿勢で臨んでいた。

 
【ミヤジマミスジ】
(出展『DearLep 圖錄檢索』)

 
野外写真をお借りしたが、やっぱ日本にもいるコミスジと見た目は殆んど同じだ。こんなのが強く印象に残るワケがない。
だから「実を言うと、ミヤジマミスジを採った記憶が殆んど無い」と言ったワケなんだすな。

でも、帰国後に図鑑で調べてもワケワカランかった。
特にコミスジ系が、どれもメチャンコ似たような奴ばっかなのだ(図版1)。正直、おでアホだから、図鑑と実物を見比べてもよくワカンナイ。それぞれの特徴とされる識別点が曖昧というか、例外も多々あるので、幾つかの識別点を鑑みて総合的に判断するしかないのである。
図版とニラメッコしてると、脳ミソが爛れてきそうになる。♂はまだしも、♀ともなれば何がなんだかマジでワケワカメじゃよ。裏面まで含めて検討していると、脳の回路がショートしてフリーズしてしまう。脳がそれ以上考えることを拒否するのだ。
勿論、この無間地獄のループにはミヤジマミスジも含まれている。♂は比較的まだ判別しやすいが、♀ともなると、お手上げだ。
一応、「原色台湾蝶類大図鑑」の識別点のくだりを抜粋して載せておく。それを読んで、アンタらも脳ミソぐしゃぐしゃになりなはれ、Ψ( ̄∇ ̄)Ψケケケケケ…。

 
「翅表における前翅中央白斑列、後翅中央白帯の発達は他の4種に較べて最も強く、前翅第2、3室及び第5、6室の白斑が大きく横長であること、前翅中室白条はその先端部が外縁に向かって伸長し、その先端部が第3及び第5室白斑の内側縁を結ぶ線に達することによって一見近似の他種より識別できる場合が多い。裏面の地色はスズキミスジよりは濃色、やや赤味を帯びることが多い。後翅裏面において中央白帯は前翅より後端に亘りその幅は殆んど等幅、中央白帯の幅は外側白帯のそれよりかなり幅広く、その2倍近くに達する。亜外縁白条は外側白帯と翅の外縁の中央より心持ち外縁寄りを走り、外縁白条の出現は弱く全く消失する場合が多い。前翅裏面翅端部のB斑の強さはA斑と殆んど同様、A2斑の大きさはBの各斑と殆んど等大。」

 
(-_-#)何かのナゾナゾかよ❓
こんな文章読んだら、一般人は意味わかんなくて発狂するぞ。

識別点を大雑把に纏めてみよう。

①白帯が太く、斑紋が大きい。

 
(出展『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
斑紋は横長になる。
比較のために、コミスジの♂らしきものを貼り付けておこう。

 

 
上翅の紋は大きいが、横長にはならない事が解るかと思う。

 

 
これはタイワンミスジの♂かな。
紋が小さくて、帯も細い。

  
②上翅の上側にある筆みたいな紋の先っぽが長め。

 

 
筆先が右上の白い紋の下まで伸びている。
また筆がスズキミスジ、リュウキュウミスジのように太くはならないというが、これは決定的な判別点ではないと思う。個体により結構太さに幅があるようだから、注意が必要だろう。

一応、リュウキュウミスジの場合はこんなんです。

 

 
筆先が太くて短いのが、よくわかる。
但し、所詮は解りやすい例を挙げているに過ぎない。
スズキミスジとかコミスジは、もっと微妙な形だ。

 
③触角の先が黒い。

 

 
コミスジや他の多くの種は、先の部分が白い(死んだら黄色くなる)。
スズキミスジも黒いみたいだけど、裏側は白くなるという。だが、よくワカンないところがある。スズキミスジとされる色んな画像を見たが、結構微妙なのだ。もしかしたら、それら画像の種の同定がそもそも間違っているケースもあるやもしれぬ。そういうのが、更なる混乱を助長するんだろね。

触角が黒いし、スズキミスジは多分これかなあ…。

 

 
一応、先が黄色いのも挙げておきます。

 

 
おそらくコミスジと思われるモノの触角。
少し解りにくいかもしれないが、先っぽが黄色い。

  
④裏面の地色が濃く、下翅の外縁の白条が消失する

 

 
地色が濃く、赤みを帯びる。
とはいっても、こんなの熟練者でもなければ、並べてみなきゃ分からないレベルだ。野外で判別するのは至難の技だろう。
また、他の近縁種では外縁の一番端に白条があるのだが、ミヤジマミスジはそれが消失する。
解り易いように、コミスジかと思われる個体の下翅裏面の画像も添付しておきます。

 

 
一部消失しているが、外側にもう1本の線があるのが御理解戴けるかと思う。

こんなもんで許してくれ。
もう、(;つД`)ウンザリだ。先へ進ませてくれ。

ガビ━━ Σ( ̄ロ ̄lll) ━━━━━ ン❗❗
しかし、ここで重大な事に気づく。
何と、冒頭に添付した展翅画像が、よくよく見るとミヤジマミスジではなく、コミスジではないか❗❗
マジ、ワケわかんねぇっすよ(ToT)

♂は比較的まだ判別しやすいなんて言っちゃって、コレだもんなあ…。恥ずかしい限りだよ。
(# ̄З ̄)ったくよー。ブツブツ言いながら、台湾産の蝶が入ったタッパーをひっくり返し、チマチマと確認しながら宮島くんを探す。もし見つからなければ、この文章そのものが御蔵入りする事になる。そうなれば、最悪の展開だわさ(ノ_・,) アタイの今までの努力はどうなるのさ。全て水の泡どすえ。

で、結構追い込まれつつも、らしきモノを何とか見つけて、どうにか軟化展翅した。
それを写真に撮って、再び貼り付けなおした。だから、皆さんが見た冒頭の写真はミヤジマミスジです。
マジ、疲れる。自分の同定力の無さにもガックリだ。
因みに、最初に貼り付けられていた画像はこんなんですわ。

 
(南投県仁愛郷 alt.400m)

 
下翅の白帯が、他と比べて明らかに太いから、ミヤジマミスジだと思ったのだ。
しかし、識別点について書き終わったところで触角の先が真っ黒でない事にハタと気づいた。そこで、各部の判別点を仔細に点検しなおしてみると、どう考えてもコミスジだと云う結論に達した。

因みに、普通のコミスジはこんなんです↙

 
(2016.7 南投県仁愛郷 alt.500m)

 
どうやら、コミスジには白帯が太くなるタイプが珠にいるようだ。
危うく大恥を掻くところじゃったわい。

 
【和名】
本シリーズで、あえて和名の項を設けた事は無いかと思う。なのにわざわざ設けたのには理由がある。
考えてみれば、この台湾のミスジチョウグループには矢鱈と人名らしき名前がついている。改めて、何でやろ?と思ったのだ。

ミヤジマミスジは元よりアサクラミスジ、エサキミスジ、イケダミスジ、スズキミスジがいて、イチモンジチョウグループにまで範囲を広げると、さらにヒラヤマミスジ、シラキミスジ、ニトベミスジまでいる。たぶん違うとは思うけど、ナカグロミスジだって中黒さんが由来の可能性がある。
何で、そんなに多いんだ❓
コレはたぶん誰かに献名されたものか、発見者の名前がつけられたのだろう。ここまでは容易に想像できる。
問題は、かようなまでに何故そこまで過剰に人名が採用されたかだ。
思うに、あまりにも似たような種類が多すぎて、見た目の特徴で和名をつけるのには限界があり、また混乱を避けるためではないかと推察する。
さすれば、先人の配慮に感心せざるおえない。
ヒロオビミスジとか、ホソスジミスジとかつけてゆくのには限界がある。揚げ句にウラアカミスジとかなんか付けられたら最悪だ。大概のモノは、裏は赤っぽいといえば赤いのだ。つまり、無理に特徴を表す名前をつけようとすると、混乱を生じさせるだけだと思ったのではないだろうか?

折角だから、それぞれの和名の語源なり、由来なりを書き止めておこう。
ミスジチョウ属とイチモンジチョウ属がゴッチャに混じるが、由来が分かるものから順に書いていくので許されたし。

 
「アサクラミスジ」
台湾で標本商を営んでいた朝倉喜代松氏に起因する。
他にもアサクラコムラサキ、アサクラアゲハなど氏の名前が冠された蝶が幾つかある。これは、氏が新種を研究者に提供した際につけられたものだろう。

 
「エサキミスジ」
著名な昆虫学者 江崎悌三博士が由来。御本人が採集された標本が記載(ホロタイプ)にも使われた(記載は野村健一博士かと思われる)。
因みに、エサキキチョウやエサキオサムシなど「エサキ」とついた昆虫名は数多くある。人徳ですな。

 
「イケダミスジ」
本種は池田成実氏が台湾北部の拉拉山(ララサン)で採集した1♀に基づいて、白水 隆博士が新種として記載したものである。
たぶん、その功績を讃えてのものだろう。

 
「シラキミスジ」
松村松年博士が、その命名に用いたタイプ標本は昆虫学者の素木得一博士が埔里で得た1♂だったという。たぶん、それ由来だろう。
シラキは白木さんかと思いきや、素木さんだったんだ。素木をシラキとは中々読めないものだよね。
そういえば、この人がフトオアゲハを新種記載したんじゃなかったっけ…。
調べてみると、やはりそうで、応用昆虫学のかなり偉い先生だったようだ。農作物害虫の防除などで先駆的な研究をなし、日本だけでなく台湾でも活躍されたみたい。台湾総督府農事試験場昆虫部長、台北帝大教授、名誉教授を歴任し、植民地統治下の台湾の農作物害虫を調査・研究を行ない、多大な功績を挙げたそうだ。

 
「ヒラヤマミスジ」
たぶん、昆虫学者の平山修次郎氏の名前を冠しているのではないかと推察する。
氏は昭和初期に昆虫図鑑『原色千種昆蟲図譜』を刊行し、当時の昆虫少年に多大なる影響を与えた。また平山昆虫博物館を開設し、昆虫採集ブームを牽引したと言われている。漫画家 手塚治虫は少年時代に同級生が学校に持ってきた本書を借り、食い入るように読んだという。そして、その中のオサムシをモチーフに、本名の治(おさむ)に虫(むし)の一字を加えてペンネームとしたのは有名な話である。

 
「ニトベミスジ」
由来は、おそらく新渡戸稲雄かな?
とはいえ、原記載はFruhstorfer(1912)だし、その記載に用いられたタイプ標本の採集者も日本人ではなく、Sauterとある。ちょっと怪しくなってきたが、まあよろし。それはおいといて、新渡戸路線で突き進もう。
新渡戸稲雄は日本の昆虫学者。リンゴの害虫研究について多くの研究成果を残した。教育者・思想家としても知られ、国際連盟初代事務次長にもなった。あの五千札にもなった新渡戸稲造は従兄にあたる。
東北帝国大学農科大学(現・北海道大学)にいた松村松年教授の元に多くの標本を送り、研究を依頼した。その結果、ニトベギングチバチなど多くの学名や和名に「ニトベ」がつけられたようだ。これらの功績から、青森県で最初に科学的な昆虫研究をした学者として名を残すこととなったという。
松村松年博士が出てきた時点で、この新渡戸稲雄氏が和名に関係している可能性は濃厚だと思った。
それに台湾とも所縁(ゆかり)がある人物だ。
従兄の稲造が台湾総督府民政部殖産局長心得の職に就いていた事により、1906年に台湾総督府農業試験場に勤務。台湾においても害虫研究で成果を上げたが、帰国直後にアメーバ赤痢に罹り、1915年に32歳で死去した。
稲雄がニトベミスジの発見者という記述は見つからないから、稲雄は直接ニトベミスジとは関係ないのかもしれない。でも、松村さんが若くして逝去した氏を思って名前をつけたと云う事は有り得ると思う。

 
「スズキミスジ」
スズキが鈴木姓を指していることは間違いないだろう。しかし、台湾と関係のある鈴木という名の昆虫学者など聞いたことがないし、『原色台湾蝶類大図鑑』のスズキミスジの項にも、その命名の由来を示唆する記述がない。困った事に、それ以上は手掛かり見つからなかった。
しかし、シラキミスジの項でフトオアゲハが出てきた事から、ヒントが見つかった。フトオアゲハの新種記載は素木博士と楚南仁博氏だが、発見者は別にいて、鈴木利一という人だとわかった。台湾宜蘭県の農業学校で教師をしていた人みたいで、1932年 台湾東部の宜蘭県羅東鎮烏帽子の川辺で発見したという。
とはいえ、そこから先へは進めずじまい。結局スズキミスジと鈴木利一氏との関連は見い出だせなかった。
しかし、この鈴木さんしか該当するような人物は見つからないから、矢張この人がスズキミスジの由来なんじゃないかなあ?…。
もしかしたら、フトオアゲハにスズキアゲハという和名がつけてあげられなかったから、お詫びに別な蝶に名前をつけるんで許してケロとかって無いのかなあ?(笑)
だとしたら、交換条件としては酷いよね。一方は台湾を代表する珍稀なる美蝶、もう一方は囚人服柄の、しかも似たような兄弟だらけの中の一は匹だ。あまりにも両者には落差があるではないか。オイラだったら、怒っちゃうね。
或いは松村さんなり、白水さんなりが、このイチモンジチョウ亜科の蝶たちの名前に、台湾の蝶に所縁(ゆかり)のある人たちの名前をつけたらオモロイやんけーと思って片っ端から付けたとかないのかね❓

 
「ミヤジマミスジ」
そして最後はミヤジマミスジだ。コレが一番謎である。
調べまくったけど、由来として考えられうるのは、宮島幹之助という人くらいしかいない。
宮島幹之助は、明治〜昭和期の寄生虫学者で、後に衆院議員(民政党)にもなったようだ。
彼は日本の近代医学の父とも呼ばれる、あの北里柴三郎の弟子の一人なんだそうな。1903年 内務省所管で北里柴三郎が所長をつとめていた国立伝染病研究所に入所。痘苗製造所技師となり、ツツガムシ、マラリア、日本住血吸虫、ワイル病の研究に従事したという。
その後、マレー半島のマラリア調査、ブラジル移民の衛生状態調査、台湾地方病および伝染病調査委員の嘱託など、たびたび海外に派遣された。

こうして経歴を見ると、台湾とも所縁は有りそうだ。
しかし、寄生虫といっても昆虫ではないから、蝶とは繋がらない。困っただすよ。

更に調べてゆくと、ようやく蝶とリンクした。
どうやら『日本蝶類図説』(1904年発行)という日本人の手で最初に作られた蝶譜(図鑑)の著者でもあるみたいだ。
日本の蝶史を紐解くと、Pryerと Leechの集成によって日本の蝶研究の土台が出来上がり、宮島幹之助がその大要を編纂して紹介したことによって、その知識が広く普及したとされる。
へぇー、そうなんだ。勉強になるねぇー。

でもなあ…、台湾の蝶と繋がるような情報が出てこないんだよなあ。それどころか、宮島幹之助が蝶の採集をしていただとか、蝶の愛好家であったとかと云う記述が見当たらないのだ。
そもそも、寄生虫学者の宮島幹之助と「日本蝶類図説」の著者である宮島幹之助は同一人物なのかな❓(註1)
同じ紙面に「寄生虫学者であり、蝶愛好家でもあった…」などとはどこにも書いていないから、両者がどうにも繋がらないのである。
再び壁にブチ当たって、前へ進めない。
ここでも、結局のところ謎のままで終わってしまうじゃないか、宮島くん。

 
【学名】Neptis reducta (Fruhstorfer,1908)

属名の Neptis はラテン語で「孫娘、姪」の意。
小種名 reducta はラテン語由来だと思われるが、どうも今一つピンとこない。なぜなら、どうやら「減退・減少・簡略化」とか云う意味らしいのだ。「削る・切り下げる・ちんけな」なんて云う意味合いもある。だとしたら、ちょっと酷いではないか。
まあ、それは置いておくとしても、命名の意図が解らない。この種は下翅の白帯が減退どころか広くなるし、紋だって他のものと比べて発達している。それが、この蝶の最大の特徴なのである。なのに減退だとは、これ如何に❓である。謎すぎて、(;・∀・)キョトンとなるよ。
考えても、まるで謎が解けないので、話を先に進める。

台湾特産種なので、亜種は無い。
でも「原色台湾蝶類大図鑑」の解説を読んで、又しても脳ミソが固まる。

「種 nandina は西はインドから東はフィリピン、ボルネオ、ジャワ、小スンダ列島にかけて記録されているが、その同定には疑義が残っており、その分布についても再検討が必要と思われる。」

(・。・;はあ❓
何で、この期に及んでインドだのフィリピンだのが出てくるのだ❓コレだと亜種とかもいそうな口振りではないか。またもや新たなる謎の勃発である。
(# ̄З ̄)なあ~んじゃそりゃ❗❓
今回はサクサク進んで、ソッコーで書き終えれると思ったのにー。
(=`ェ´=)ったくもう…。

でも、一呼吸おいてピンときた。もしやと思い、図鑑の学名を確認してみる。
❗Σ( ̄□ ̄;)ゲッ、学名が全然違う❗❗

Neptis nandina formosana(Shirôzu, 1960)となっているではないか。
やっぱ、そゆことかあ…(´д`|||)

気を取り直して調べてみたら、どうやらこれは現在、シノニム(同物異名)となっているようだ。つまり、途中で誰かが別種だと言い出したって事だ。それが認められたってこってすな。どこで、どないなってそうなったのかは残念ながらわからない。謎です。

一応、平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』で、学名を確認してみる。
でもコレが何と、学名が昔のまんまの nandina となっているではないか。補足しておくと、ネタ元は旧版の方ではなく、比較的最近に刊行された新版(改訂版)の方です。
これはおそらく氏が学名が変更になっていることに気づかなかったのであろう。そうしておこう。

せっかくだから、nandina の語源も載せておきます。
nandina(ナンディーナ)は、シヴァ神の称。梵語(サンスクリット語)由来。シヴァ神とはインドの神様だね。ヒンドゥー教の最高神の一人で、破壊と創造を司るとされている。仏教の伝来と共にシヴァも日本に入ってきて、それが変じて大黒さん(大黒天)になったと言われている。
コチラの学名の方が余程格調高い。改めて reducta は酷い学名だと思うわ。自分の見立てが間違ってなかったとしてだけど…。
亜種名 formosanaは「台湾の」と云う意味だね。
平嶋さんは他の亜種 Susruta(スシュルタ)にも言及されている。コチラも梵語由来である。
「〈よく聞いた〉が原意で、〈よくヴェーダを学んだ〉という形容詞。また高名なインド医学者の名前。インド医学アーユルヴェーダの聖典の一つとされるスシュルタ・サンヒターの著者(針貝,1989,1992)。この亜種名もMooreの命名。」

正直、ギリシア神話よりも梵語由来の方が、まだ身近に感じられる。やはり、そこは自分もアジア人の一人なんだからだろうね。

 
【台湾名】無邊環蛺蝶

無邊とは中国語で「無限」。環は「回る」。蛺蝶はタテハチョウのこと。環蛺蝶でミスジチョウを指す言葉になる。直訳すると、無限ループじゃん。今の心境にピッタリだ。謎だらけで、答えを見つけられずに延々回り続けてるってヤバイよね。永久運動し続ける変テコな装置に自分が組み込まれ、その部品の一部になっている図を想像した。(T▽T;)地獄じゃないか。

別名に以下のようなものがある。
寬紋三線蝶、寬環蛺蝶、寬紋環蛺蝶、回環蛺蝶、清義三線蝶、闊三線蝶がある。
寬紋三線蝶、寬環蛺蝶、寬紋環蛺蝶の「寛」は、広いと云う意味。ようするにこの蝶の特徴である広い帯(紋)を表しているワケだね。
闊三線蝶の「闊」も広いと云う意味だ。
回環蛺蝶の「回」は「帰る、返す、戻る」なんて意味がある。その飛び方を表しているのだろうか?意味は解るようで、今イチわからん。
清義三線蝶の「清義」は中国語で「清く正しく」が基本だけど、どうやら別な意味もあって、この場合は清らかな渓谷の事を指すようだ。謂わば、清らかな渓谷に棲む三本線の蝶だね。
「清く正しく義を貫く三本線の蝶」というのも、それはそれでエエけどね(笑)。

 
【英名】

「Great Yellow Sailer」というのを見つけた。
偉大なる黄色い帆船という意味だね。
ミスジチョウ属の英名は Glider だとばかり思っていたが、Sailerってのもあるんだね。Gliderは滑るように飛ぶものを意味するから、海の上を滑るように航行する帆船とは共通点がある。つまり、この属のチョウの飛び方を表しているワケだから違和感はない。しかし、Yellowというのが気になる。全然、黄色くないからだ。
自分で英名をつけるとしたらどうだろう?
一瞬、『Milkyway Glider(天の川を滑空する者)』と云うのが浮かんだが、盛り過ぎだろう。そこまで素晴らしい蝶ではない。
まあ『White Wideband Glider』辺りが妥当かな。

 
【生態】

開張 50~57㎜。
発生期は3月~11月上旬。年数回発生するとされる。
台湾北部~中部の低・中標高(400m~1600m)の常緑広葉樹林周辺に見られるが、発生地が局部的で個体数も多くないようだ。
とはいえ、ソックリな奴が多いので見逃されているケースは多いと思う。台湾を訪れる採集者も最初は小型のミスジチョウを採るだろうが、そのうち飽きて採らなくなるだろうし、飛んでいるものをミヤジマミスジと見抜ける人はそうはいないだろう。またミヤジマミスジ狙いだけで台湾を訪れる人もあまりいないかと思う。ミヤジマミスジだけを血眼になって探す人に遭遇したら、恐いなあ…。尊敬するけどさ。

成虫は地面に吸水に集まり、また動物の糞尿にも好んで集まる。岩場を好むらしいが、確認はしていない。

 
【幼虫の食餌植物】
Trema olientalis❓

『アジア産蝶類生活史図鑑』には、アサ科(旧ニレ科)のTrema olientalis(ウラジロエノキ)だと書かれている。
世界の蝶の幼生期を次々と解明してこられた五十嵐 邁さんと福田晴夫さんの巨匠コンビの図鑑だから、食樹はそのウラジロエノキなる木で何の疑いも持たなかった。
しかし、前回にも少し触れたが念のためネットで調べてみたら、驚いたことに何もヒットして来なかった。嫌な予感がした。その予感は的中して、最も信頼しているサイトである『DearLep 圖錄檢索』でも食樹の欄はこうなっていた。

寄主資訊
 中名   學名
(未填寫) (未填寫)

未填寫というのは、未解明という意味だろう。つまり、食樹は未知だと云うことである。
( ̄▽ ̄;)謎である。
台湾本国のサイトで何も出てこないということは、未知である可能性が高いではないか。それに『アジア産蝶類生活史図鑑』の刊行は1997年である。それから12年間も経っているのに、台湾の学者や研究者がそれに気づかないなんておかしい。そこには何らかの理由が隠されているに違いない。
とはいえ、図鑑には厳然たる証拠として幼生期の写真が在る。と云うことは、食餌植物の同定間違いなのか?

取り敢えず食餌植物から検証していこう。
ウラジロエノキをWikipediaで調べてみた。

「ウラジロエノキ Trema orientalis (L.)Blumeは、アサ科(ニレ科)の樹木。エノキにはさほど似ていない。成長が早く、アジアの熱帯域におけるパイオニア植物(註1)の一つ。
日本では屋久島、種子島以南の琉球列島に見られる。国外では台湾、中国南部、東南アジア、インド、マレーシア、オーストラリアにまで分布する。また、アフリカにおいてもセネガルやスーダンから南アフリカ共和国の旧ケープ州にかけての降雨量の多い2200メートルまでの場所で見られる。
エノキと同じくアサ科に属するが、属は異なる(ウラジロエノキ属)。同属のものは熱帯域を中心に20種以上があるが、日本にはもう一種、T.cannabina キリエノキ(コバフンギ)だけがある。」

 
(出展『沖縄植物図鑑』)

 
普通のエノキよりも葉が細長いね。

「材は柔らかくて器具や建材に使われる。成長が早くて10-20年で利用でき、下駄材としてはキリに次ぐ。樹皮からはタンニンが取れるほか、その繊維から紙が作られる。成長が早いことから護岸用に植栽されることもある。」

おいおい、ポピュラーで全然珍しくない木じゃないか。

 
(出展『welcome stewartia.net』)

 
これなんて、背景からすると明らかにマンションの空き地に生えとるやないけー。
だとしたら、ミヤジマミスジの食樹としては疑念を抱(いだ)かざるおえない。そんなにポピュラーな植物ならば、もっとミヤジマミスジが沢山いてもおかしくないではないか❓ なのに数が少ないのは解せない。
稀種と言われるチョウが少ないのには幾つかの理由があるが、最も有力なのは食樹の分布が局所的で珍しい植物だからだ。それに伴いチョウの数も少ないと考えられている。そのセオリーからすれば、幼虫がウラジロエノキ食いだとするならば、個体数が少ない理由が謎すぎる。

因みに近縁のスズキミスジもウラジロエノキを食樹として利用しているようだ。
スズキミスジの幼虫を飼育する際に、ミヤジマミスジの幼虫も一緒に見つかっても良さそうなもんだけどなあ…。けど、考えてみれば、スズキミスジを飼育した人がどれだけいるというのだ?絶対数はおそらくムチャムチャ少ないやろね。だいち代用植物は他にいくらでもあるから(註2)、ウラジロエノキで育てる人は更に少なかろう。そんな中で、稀なるミヤジマミスジの幼虫が見つかるなんて奇跡に等しい。

ここで、ふと思った。もしかしたら、ミヤジマミスジの幼生期の死亡率が以上に高かったりして…。
卵の孵化率が異常に低く、幼虫がすぐ病気になり、寄生率も超絶高いとかさ。
そんなもん、とうに絶滅しとるわい(*`Д´)ノ!!!
ツッコミが入りそうだ。それに、何でそうなるのかと問われれば、周りを納得させる理由が見つからないわな。
思うに、ウラジロエノキの他に本来利用している食樹があり、稀にウラジロエノキにも産卵されて、ちゃんと親まで育つものもいるのではないだろうか?

諦めずに手掛かりを探していると、ネットの『OTTOの蝶々ブログ』というサイトで、答えの一端を見つける事ができた。

「ミヤジマミスジは、食樹が判明しているそうですが、その楡(ニレ)科のケヤキの一種には、まだ正式な学名がなく、台湾名の植物名さえも付けられていないのだとか。このケヤキは台湾特産でごく限られた場所で生育が確認されているだけだそうですが、ミヤジマミスジが非常に珍しいのはその食樹の希少性のためだということです。」

ガイドを伴っての台湾採集記の中にある一節だ。
エノキではなくケヤキと書いているのが気になるところだが、日本人同士の会話ではないから、コレは単なる言葉の問題で、相互理解にズレが生じただけなのかもしれない。おそらくケヤキではなく、エノキの類だと推察するが、ケヤキの可能性も否定できない。何れにせよケヤキとエノキは類縁関係にある植物だ。たとえケヤキであれ、そうは驚かない。
ガイドは林春吉氏で、記事の中で羅錦吉氏の所にも訪ねておられるから、指摘はそのどちらか、もしくは両方の言だろう。お二方とも台湾の蝶の研究者としてはトップクラスだから、ケヤキにせよエノキにせよ、ニレ科の植物であると云う話の信憑性は高い。

謎が完全に解けたワケではないが、これで一安心だ。
落ち着いたところで、幼虫と蛹の画像を添付しておこう。

 
(終齢幼虫)
(出展『アジア産蝶類生活史図鑑』以下二点とも同じ)

 
紛うことなくミスジチョウ属系統の幼虫形態だが、お尻近くに朱色系の紋が入るモノは他にはいない。同じ種群のコミスジ、リュウキュウミスジ、スズキミスジ、タイワンミスジの幼虫とは見た目が明らかに違うので、間違いなくミヤジマミスジの幼虫だろう。

 
(幼虫正面図)

 
(≧∀≦)ハハハハハ…、まるで乞飯じいさんだよ。
基本的にはミスジチョウ属の幼虫の特徴である「なんちゃってバットマン」とか「なんちゃってキャットウーマン」、或いは「なんちゃってクリオネ」、もしくは「おじいちゃんになって落ちぶれて、風呂にも入らなくなった汚れピカチュウ」であるからして、この属の仲間であることに異論はないだろう。
最初は笑っていたが、見ようによっては可愛らしいかもしんない。でも、こういうのを可愛いとか言い出し始めたらヤバいよね。

 
(蛹)

 
何だか脱け殻みたいな蛹だにゃあ。
反射率が高い蛹なのかな? 実物は銀紙みたいにピカピカしているのかもしれない。
この色と形の蛹はコミスジ種群の特徴だから、このグループの仲間であることに疑いはなかろう。

ちょっと驚いたのは、図鑑のミヤジマミスジの解説が他種と比べて著しく短くて素っ気がないことだ。解説を抜粋してみよう。

「成虫は近縁の他のNeptis(ミスジチョウ属)と混生するので、識別ができず、詳しい生態は確認されていない。標高500m~1200mの地域における採集品に混じって発見されるが、同属他種に比べて個体数が少ない。幼虫は食餌植物の地上1m前後の位置の枝先に静止ものが発見された。いずれも中脈を食べ残して、これに静止していた。」

通常の解説文の3分の1にも満たない量だ。憶測や推察も加えられていない。
これは何を示唆しているのだろうか?
もしかしたら、言及するには飼育期間が短すぎて情報量があまりにも少なかったのかもしれない。或いは食樹の同定も含めて自信が無かったと云うか、他も含めて色々と半信半疑だったからなのかもしれない。
何でこんな短い文章になったのかを、解説の執筆者である五十嵐さんに訊いてみたいよね。
でも、残念なことに既に五十嵐さんは鬼籍に入っておられる。だから、これは永遠の謎だ。

謎が謎呼ぶ、宮島さん。
何だかさあ、見た目はそれほど綺麗な女の子でもないのにメッチャ振り回されたような気分だ。
いたなあ…、そういう娘(こ)。
ちょっとミステリアスな、謎多き女の子だった。
 
 
                 おしまい

 
追伸
いやはや、マジで今回は疲れました。
謎だらけだし、同定間違いでテンヤワンヤにはなるし、完成するのに物凄く時間がかかった。カラスアゲハ関係の回と匹敵するくらい苦しめられたかもしれない。
にも拘わらず、お題目が地味だし、日の目をみない文章になるんだろうなあ…。どうせ注目も評価もされないだろうしさ。何だかバカバカしいやなあ。

ミヤジマミスジには直接触れていないが、ミスジチョウ軍団の似かよいっぷりは、別ブログの『発作的台湾蝶紀行』にも書きました。

 
台湾の蝶6『豹柄女はフェイクなのさ』

 
オスアカミスジがメインの回だが、当時の混乱ぶりが少しは伝わるかと思う。

 
(註1)同一人物なのかあ?
同一人物のようです。宮島幹之助に関する文章には、寄生虫学者&蝶愛好家と云う記述が同じ紙面に無い云々と書いたが、ウィキペディアにあった。とはいえ解説欄には蝶に関する事は一切出てこないのだが、著者欄に「日本蝶類図説」があった。
幹之助は、本当に蝶好きだったのかなあ?

(註2)パイオニア植物
低地~山地の崩壊地や造成地にいち早く侵入する先駆的な植物のこと。日当たりのよい適潤なところを好む傾向がある。

(註3)スズキミスジ幼虫の代用食
この蝶の食樹はマメ科全般と旧ニレ科のエノキ属が中心だが、他の科の植物も利用しており、その嗜好は多岐にわたる。

 

台湾の蝶28『真昼のデジャヴ』

 

  第28話『江崎三筋』

  
今回は、前回取り上げたアサクラミスジとの姉妹編になります。

 
アサクラミスジを採った翌日のことだった。
この日も南投県の同じポイント、標高約1900mの尾根筋に入った。狙いも同じくホッポアゲハである。
そして、やはりこの日もホッポがピタッと飛んで来なくなった。
で、クソあじぃ~し、同じようにゲンナリ気分で地べたに座り込んでいたのである。
そこへ、又しても右手からふらふらと低空飛行でミスジチョウの仲間が飛んできた。
何なんだ、この既視感は。(;・ω・)デジャヴじゃね❓
天気も同じだし、時間もさして変わらない。全てが昨日のシチュエーションとほぼ同じだ。一瞬、暑さでアタマがオカシクなって、白昼夢でも見てるのかと思った。
裏の淡い色の感じからすると、昨日採ったアサクラミスジかなと思った。どこまでデジャヴやねん( ̄ロ ̄lll)
ヨッコラショと立ち上がって、ぞんざいに網を振る。

網の中を見て、アサクラミスジの♀かなと思った。
昨日のものより一回り大きくて横幅か広かったからだ。蝶の♀と云えば、殆んどの種が♂よりも一回り大きくて横長になりがちというのが相場なのだ。

実を言うと、この時に撮った写真は1枚も無い。
アサクラミスジは昨日に証拠写真を撮ったから、もういいやとでも思ったのだろう。クソ暑いと大概のことが面倒くさくなるのである。

それが宿に帰ってから、その日の戦利品を整理していて、あれれ(;・∀・)?????、何か変だなと気づいた。
昨日の奴って、こんなだったっけ❓ 違和感を感じたのである。どこか雰囲気が違う気がしたのだ。
慌てて昨日の奴と見比べてみると、明らかに裏面の斑紋が違うではないか。線がギザギザじゃない。それに大きさも全然違ってて、デカイ。
こりゃ、どう見ても別種だわさ。でも、その時点では何という種類の蝶なのかは分からなかった。

帰国後に調べてみると、コレが何と台湾におけるミスジチョウの仲間では、最稀種のエサキミスジだった。
しかも、たぶん中々採れないであろう♀だぜd=(^o^)=b

 
【エサキミスジ Neptis sylvana esakii ♀】
(2016.7.12 南投県仁愛郷 alt.1900m)

 
(^o^ゞハハハ、1年以上ほったらかしだったから、胴体が埃まみれになっとるやないけー。
相変わらず、ええ加減な性格やのう。

アサクラミスジと同じく、ちょっと上翅を上げすぎたかなあ…。
でも、ミスジチョウの類は上翅を下げると、寸詰まりになる。それって何だかモッチャリしててカッコ悪いんだよなあ…。今後の課題です。
まあ、展翅も既存のイメージに囚(とら)われてはならないと思うし、コレはコレでカッコイイような気もするから、良しとしよう。

  
【裏面】

 
確か、この写真は展翅前に撮った写真だな。
あらためてアサクラミスジと見比べてみよう。

【アサクラミスジ ♀】 

 
こうして並べてみると、似てはいるけど全然違うことがよく解る。アサクラミスジは紋がギザギザだ。
斑紋だけでなく、翅形も違う。アサクラミスジの方が丸っこい。
大きさも違うし、こんなの間違うかね?と思うが、きっと裏がこんな色したミスジチョウが他にもまさかいるとは思っていなかったのだろう。だいたいがだ、そもそもが発作的に初の台湾行きを決めて、3日後には出発だったのである。だから旅の仕度で手一杯で、台湾の蝶を調べてるヒマなど無かったのだ。

採れたのは、この♀らしき1頭のみだから、♂の画像を探して引っ張ってこよう。

 

(出典『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
ネットでググったが、なぜか標本写真が自分のもの以外は一点も見つからなかった。
情報量が少ないので、せめてでも生態写真を貼りつけておこう。

 

(出典『台湾生物多様性資訊入口網』)

 
イケダミスジなんかにもよく似ているが、裏面の色が全然違う。

 
(出典『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
とにかく、採ったのは間違いなくエサキミスジだね。
落ち着いたところで、前へ進もう。

『原色台湾産蝶類図鑑』の解説には、こうあった。

「本種は現在の知見では台湾の特産種。同島産大型ミスジチョウ属の中でも最も稀な1種で、従来記録されたものは4頭にすぎない。」

アサクラミスジもそこそこの稀種だと思われるが、もっと珍しいってことだね。
その4頭の内訳も書いてあった。

 
1♂ 台中州東勢郡(ウライ~ピスタン~サラマオ)1932.7.16 江崎悌三教授採集(本種の記載標本)

1♂ 高雄州阿里山沼ノ平 1932.5.21 梅野明・平貞市採集

1♀ 台北州文山郡檜山 1935.7.1 和泉泰吉採集

1♀ 台北州文山郡チャゴン~檜山 1935.6.28 和泉泰吉採集

 
州となっているのは、昔の台湾の行政区分の時代だからだろう。現在は縣(県)となっている。因みに、図鑑は1960年刊行である。

それにしても、たった4頭かあ…。
ネットで調べても画像は少ないから、おそらく現在でも稀種の座にあるものと思われる。

 
【学名】Neptis sylvana (Oberthür, 1906)

台湾のものは亜種 esakii(Nomura, 1935)とされている。
原色台湾蝶類大図鑑では、「Neptis esakii」という学名になっていたので、てっきり独立種で台湾の固有種かと思いきや、亜種なんだね。
昔の図鑑と今の図鑑とでは学名が変わっていることがしばしばあるので、注意が必要だすな。

属名 Neptisはラテン語の「孫娘、姪」の意。
小種名 sylvana(シルバニア)の語源もラテン語で「森林、樹林、森の土地」を意味するものと思われる。
亜種名 esakiiは日本の昆虫学者 江崎悌三博士(註1)に献名されたもの。和名もそれに因んでいる。

 
【台湾名】深山環蛺蝶
 
訳すと、深山に棲むミスジチョウって事だね。
別名に、林環蛺蝶、淺色三線蝶、森環蛺蝶、江崎環蛺蝶、江崎三線蝶がある。
林環蛺蝶と森環蛺蝶は、学名の小種名由来であろう。
淺色三線蝶は、淡い色のミスジチョウという意味で、裏面の色を指しての命名だろう。
江崎環蛺蝶と江崎三線蝶は、和名からの命名であるに違いあるまい。

 
【英名】
 
特に無さそうだ。
ミスジチョウ属の英名はGlider(滑空するもの)だから、もしつけるとすれば『Deep Forest Glider』辺りが妥当かな。

  
【分布】
 
台湾では、北部から中部の山地帯に見られる。
台湾以外では、中国南西部(雲南省)とミャンマー北部に分布する。
中国南西部のものが原名亜種 sylvana sylvana となる。台湾の他には亜種は無いようなので、ミャンマーのものも原名亜種に含まれるものと思われる。

分布図は、今回も杉坂美典さんからお借りしよう。

 
(出典 杉坂美典『台湾の蝶』)

 
中国南西部と台湾とにかけ離れて孤立分布しているのがよく解る。分布が狭いゆえ、アサクラミスジよりも稀種度が高いのも容易に想像できるね。
でも、こんなに分布が離れてるなら、もう別種でええんとちゃうのん❓などと素人は考えちゃうなあ。
両者が分断してから相当長い時間が経っているワケだし、遺伝子解析したら別種って事になるんでねえの❓

 
【生態】

開長55~65mm。
「原色台湾蝶類大図鑑」によれば、「資料より判断すれば本種は台湾中北部~中部のかなりの山地帯に産するもので、その出現期は5~7月。食草・幼生期は勿論未知。」とある。
一方、杉坂美典さんのブログには、台湾の北部・中部の低・中・高標高(600m~2500m)に産し、発生は5~8月の年1化としている。
両者の記述に大きな齟齬はないが、気になるのは標高についてである。低地でも得られているのだろうが、自分の採集地点や台湾名の深山環蛺蝶と云う名前からも、おそらく垂直分布は高地寄りだろう。

ネットの情報だと、常緑の広葉樹林の林縁および林冠で見られるという。
林冠で活動するとなれば、アサクラミスジよりも活動場所は高所なのかもしれない。日本のミスジチョウも梢上を好むので、同じような生態だと考えられなくもない。一方、コミスジなどはわりかし低い所を好むから、アサクラミスジはコミスジ寄りの生態なのやもしれぬ。同じば場所で、互いに空間を上下に棲み分けている可能性はある。
森林性が強く、湿地で吸水したり、動物の糞尿に集まる習性もあるようだ。

雌雄同形で、♀は♂よりも一回り大きく、翅形が丸みを帯びると考えられる。
アサクラミスジと同じく♂は前脚に毛が密生するが、♀には殆んど見られない。
コレは両種の裏面横からの画像でも確認できるので、ヒマな人は拡大してみて下され。両種とも♀だと解ります。

 
【幼虫の食餌植物】

台湾のサイト『DearLep 圖錄檢索』では、こうなってた。

寄主資訊
中名  學名
(未填寫) (未填寫)

未填寫というのは、未解明という意味だろう。つまり、食樹は未知だと云うことである。
しかし、ネットの『台湾生物多様性資訊入口網』には、幼虫はブナ科植物の葉を食べると書いてあった。だが、それ以上の詳しい記述は無く、具体的な植物名は挙げられていなかった。
ブナ科かぁ…。何かの間違いじゃないのか❓ミスジチョウとブナ科なんて全然イメージに無い。ブナ科を食ってるミスジチョウなんていたっけか❓

世界的にみると、Neptis属の食樹はマメ科やアサ科(旧ニレ科)のエノキ属、及びアオギリ科が多い。
ここは一度原点に帰って、改めて日本のNeptis属の食樹を確認しておこう。
『日本産蝶類標準図鑑』に拠れば、以下のようなものが食樹が挙げられている。

(コミスジ)
ハリエンジュ、フジ、ハギなど各種マメ科。稀にクロツバラ(クロウメモドキ科)、ケヤキ、ハルニレ、エノキ、ムクノキ(旧ニレ科)、アオギリ(アオギリ科)、タチアオイ(アオイ科)にも幼虫がつくことがある。

(リュウキュウエノキ)
コミスジと同じくマメ科全般を食う。奄美大島では旧ニレ科のクワノハエノキ(リュウキュウエノキ)からも幼虫が発見されている。

(フタスジチョウ)
ユキヤナギ、シモツケ、コデマリなどのバラ科。

(ホシミスジ)
フタスジチョウと同じくユキヤナギなどのバラ科。
シバザクラ(ハナシノブ科)でも幼虫が見つかっている。

(オオミスジ)
ウメ、アンズ、スモモ、モモ、エドヒガンザクラなどのバラ科。

(ミスジチョウ)
イロハモミジなどのカエデ科全般とカバノキ科のアカシデ、クマシデ、サワシバ。

ここで驚くべき記述にブチ当たった。
「ブナ科も食草となる記録もあり、クヌギで幼虫を発見し、飼育した結果、羽化したという報告、飼育中の幼虫3頭が横にあったナラガシワにうつり、ナラガシワを食べて蛹化、羽化したという報告があり、大きさは正常のものと違わなかったという。」

これは、エサキミスジの食樹がブナ科というのも有り得ると云う事だね。ブナ科だとすれば、はたして何だろう?
常緑のカシ類なのかな、それとも落葉性のコナラ類なのかなあ?上の例だと、おそらく落葉性のコナラ属かと思うが果たしてどうだろう?ブナ科とは全く別な意外なものが食樹になっている可能性もあるので、まあ予断はよしておこう。本当は他の科の植物がメインのホスト植物で、ブナ科はあくまでもサブ的な食餌植物というケースも無きにしもあらずだからだ。

ついでながら言っておくと、日本には他にもミスジと名のつくシロミスジというのが与那国島に土着している。しかし、これは似てはいるものの Neptis属ではなく、近縁関係のAthyma(ヤエヤマイチモンジ属)に含まれるので、除外した。食樹はトウダイグサ科のヒラミカンコノキ。

気になるので、台湾の他のNeptis属の食樹も可能な限り調べてみた。

(チョウセンミスジ)
カバノキ科 クマシデ属のCarpinus kawakamii。他にホソバシデ、シマシデなども食し、シデ類やハシバミ類を好むようだ。

(スズキミスジ)
アサ科エノキ属(ナンバンエノキ等)とマメ科(クズ等)が中心だが、シクシン科、アオイ科、イラクサ科の記録もある。

(タイワンミスジ)
主にマメ科と旧ニレ科(エノキ類)を食し、アオギリ科、イラクサ科、トウダイグサ科、シソ科など他の広葉樹も広く利用している。普通種たる所以だ。

こうして各ミスジチョウの食樹をみると、はたと思う。
食樹の嗜好傾向で、ある程度グループ分けが出来るのではないだろうか❓。
コミスジなどの小型種はマメ科と旧ニレ科のエノキ属を中心に幅広く色んな植物を利用している広食型で、これにはコミスジの他にリュウキュウミスジ、スズキミスジ、タイワンミスジなどが挙げられる。一方、ミスジチョウなどの中大型種は、マメ科、旧ニレ科とは別な科の植物を食樹としていて、決まった科以外の植物はあまり食べない狭食性のものが多いのではないだろうか。ミスジチョウ、オオミスジ、ホシミスジ、チョウセンミスジ、アサクラミスジなどが、このグループに含まれる。たぶん、同じNeptis属でも、両者は種群が違うのではなかろうかと推察する。

(ホリシャミスジ)
これも後者のグループに含まれるかと思う。
エサキミスジとは裏の地色が異なり、一見かなり違う印象をうける。しかし、よく見れば裏も表も斑紋パターンが似ていて、一番近い関係なような気もする。

 

 
(裏面)

 
コレだけではちょっと分かりにくいから、図鑑の両者が並んでいる画像を貼りつけよう。

 
(出典『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
上がホリシャで下がエサキである。 
こうして並んでいるのを見ると、両者の関係がかなり近いように見えてくる。

圖錄檢索に拠れば、ホリシャミスジの食餌植物に以下のようなものが挙げられていた。

樟樹 Cinnamomum camphora
クスノキ科 ニッケイ属 クスノキ

長葉木薑子 Litsea acuminata
クスノキ科 タブノキ属 ホソバタブ(アオガシ)

黃肉樹 Litsea hypophaea
クスノキ科 タブノキ属 タブノキ

假長葉楠 Machilus japonica japonica
クスノキ科 ハマビワ属 バリバリノキ

豬腳楠 Machilus thunbergii
クスノキ科 ハマビワ属 タイワンカゴノキ

臺灣雅楠 Phoebe formosana
クスノキ科 タイワンイヌグス属 タイワンイヌグス

 
何とクスノキ科を食っている❗変わり者だわさ。
コレには驚いた。クスノキを食ってるミスジチョウがいるだなんて、夢にも思わなかった。タテハチョウ科で、クスノキ食ってる奴なんて珍しいよね。そんな奴、いたっけ?クスノキといえば、食樹にしてるのは、アゲハ類くらいだろう。
でも、エサキミスジの食樹がクスノキ科とは思えない。もしそうだったとしたら、こんなに稀種なワケがなかろう。いや、待てよ。非常に特殊で稀なクスノキ科の植物だけを食べている可能性も捨てきれないよね。

まあいい。それよりも問題なのはミヤジマミスジだ。
『アジア産蝶類生活史図鑑』に拠れば、アサ科のTrema olientalis(ウラジロエノキ)だと判明している。しかし、DearLep 圖錄檢索だと、エサキミスジの項と同じように未填寫となっているのだ。つまり、エサキの食樹が未知かどうかも疑っておくべきだと云うことだ。
とは云うものの、エサキミスジの幼生期の画像は一切見つからない。一番近い関係なのではないかと推察するホリシャミスジの幼生期もナゼか一切見つからない。お手上げである。この辺が潮時だろう。
仕方がないので、参考としてアサクラミスジとミスジチョウの幼生期の画像を添付して終わりにしましょう。

 
【アサクラミスジ】

(出典『DearLep 圖錄檢索』)

 
【ミスジチョウ】

(出典 手代木 求『日本産蝶類幼虫・成虫図鑑 タテハチョウ科』)

 
遠く台湾の山河に思いを馳せる。
またいつかエサキミスジに会えるだろうか❓
脳裡に、高い梢の上を滑るようにして優雅に舞う姿が浮かんだ。その空は、どこまでも青かった。

 
                 おしまい

 
追伸
エサキミスジの採集記は別ブログにあります。

 
発作的台湾蝶紀行39『揚羽祭』

 
発作的台湾蝶紀行40『ダブルレインボー』

 
発作的台湾蝶紀行57『踊る台湾めし』

 
青文字をタップすれば記事に飛びます。
また、当ブログには、オスアカミスジの回にチラッと登場します。

 
台湾の蝶10『オスアカミスジ』

 
よろしければ、コチラも読んでくだされば幸いです。

 
(註1)江崎悌三博士
えさき・ていぞう(1899年生~1957没)
明治生まれの著名な昆虫学者。東京に生まれ育ち、1923年(大正12年)東京帝国大学理学部動物学科卒。同年九州帝国大学助教授に就任。1924年、研究のため渡欧し、1928年に帰国。1930年九州帝国大学教授となる。のちに九州大学農学部長、教養部長、日本学術会議会員、日本昆虫学会会長、日本鱗翅学会会長などを歴任した。水生半翅類(タガメ、ミズカマキリなどの類)の世界的権威で、国際昆虫学会議常任委員として国際的にも活躍した。昆虫全般、動物地理学、動物関係科学史にも造詣が深く、全国の昆虫研究者の尊敬と信頼を集め、また昆虫少年たちにも多大なる影響を与えた。水生半翅類の分類のほか、日本とその近隣のチョウ、ミクロネシアの動物相、ウンカの生態などの研究にも大きく貢献した。
昆虫の名前に博士の名を冠したものも多く、エサキミスジの他にもエサキオサムシ、エサキキチョウ、エサキモンキツノカメムシ、エサキタイコウチ、エサキキンヘリタマムシ等々多数の名前が残っている。
著書に「動物学名の構成法」「土壌昆虫の生態と防除」「太平洋諸島の作物害虫と駆除」などがある。
昆虫関連の共著・監修には以下のようなものがある。

・『日本昆蟲圖鑑』石井悌,内田清之助,川村多実二,木下周太,桑山覚,素木得一,湯浅啓温共編 北隆館 1932
・『原色日本昆虫図説』堀浩、安松京三共著 三省堂 1939
・『原色少年昆虫図鑑』河田党共著 北隆館 1953
・『原色昆虫図鑑 学生版 第2 甲虫・半翅類篇』素木得一,高島春雄共著 北隆館 1955
・『原色幼年昆虫図鑑』共監修 北隆館 1956
・『原色図鑑ライブラリー 第22 蝶』監修 北隆館 1956
・『天然色昆虫図鑑』監修 学習研究社 天然色生物図鑑シリーズ 1956
・『原色日本蛾類図鑑』一色周知、六浦晃、井上寛、岡垣弘、緒方正美、黒子浩共著 保育社の原色図鑑 1957-58

また、翻訳も手掛けてられている。

・ビー・ピー・ウヴァロフ『昆虫の栄養と新陳代謝』国際書院 1931
・ヘンリー・ジェームズ・ストヴィン・プライヤー『日本蝶類図譜』白水隆校訂 科学書院 1982

ほかに雑文や著作を纏めたものもある。

・『江崎悌三随筆集』江崎シャルロッテ編 北隆館
・『江崎悌三著作集』全3巻 思索社 1984

著作集は、日本の蝶の学名の命名に関して興味深い記事もあり、蝶屋必見のようだが、読んだことはないです。
また、随筆集を編んだのは妻であるシャルロッテ。
ドイツ留学中に恋に落ち、博士は365日間毎日欠かさずに彼女にラブレターを送ったという。夫人は日本で、ドイツとの文化交流にも尽力し、名を残しているので、興味がある方は調べてみてもよろしかろう。
因みに本文の最後のエサキミスジが飛ぶ一節には、この夫人のイメージも重なっている。夫や子供たちを空から見守る姿であったりとか、2頭が江崎夫婦のように仲睦まじく飛んでいる姿であったりとかがリンクして、頭の中にはあった。それを文章化する事も考えたが、そうなると1から文章を組み直さなければならないので断念した。もしも、そうなってたらタイトルも『華麗なる一族』とかになっていたかもしれない(笑)
余談はまだまだあって、博士の母方は江戸時代の蘭学者として有名な杉田玄白の家系にも繋がっている。また、息子は「よど号ハイジャク事件」の時のパイロットである。その他、親戚縁者には名前がある人が多いようだ。