台湾の蝶19『水色のさざ波』

 
台湾の蝶19 タイワンサザナミシジミ

 
シジミチョウの第2弾は、タイワンサザナミシジミ(台湾漣小灰蝶)。
カレンコウシジミと同じく美麗種揃いのTajuria属に含まれる稀種だ。

 
【Tajuria illurgis タイワンサザナミシジミ♀】
(2017.7.1 南投県仁愛郷 alt.1900m)

 
【同♀】
(2016.7.11 南投県仁愛郷 alt.1900m)

 
あちゃー、♂の画像は撮っていないようだ。
たぶん日陰の無い炎天下に長い間いたからだろう。南国の直射日光は強烈だ。殺人的と言ってもよい。晒され続けていると、思考も弛緩。色んな事が面倒くさくなり、ぞんざいにもなる。皆さん、クソ暑いところでの採集には気を付けましょう。って、(#`皿´)タアーッ❗そんなこたあ、別に言いたかったワケではない。本当は展翅写真があるから、まっ、いっかと言いたかっただけだ。何か、のっけからスベりがちであるが、気を取り直して話を進めよう。

 
【Tajuria illurgis ♂】

 
上翅を上げ過ぎた。50点ってところだな。

 
【Tajuria illurgis ♀】

 
♀の方が全体的に白っぽくて、翅形が丸みを帯びるので雌雄の区別は比較的簡単。但し、♂はクロボシルリシジミの♀に似ているので注意が必要である。

和名タイワンサザナミシジミは、裏面の特徴から名付けられたのだろう。

 
【裏面】

 
ん~、ちょっと分かりづらいか❓
他から画像をお借りしよう。

 
(出典『臺灣生命百科事典』)

 
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
たぶん、下翅の線がさざ波をうったかのように見えるからだろう。
サザナミと云う和名は雅(みやび)で悪くない。しかし、タイワンと云うのが邪魔だ。最初に台湾で発見されたワケではないし、ヒマラヤ方面にもいるから台湾の固有種と云うワケでもない。この和名だと台湾固有種だと云う誤解を生じさせかねないし、タイワンはいらないだろう。単に「サザナミシジミ」とするか、「ミズイロサザナミシジミ」等の方が良いと思うんだけどね。

 
【英名及び台湾名】

英名は、二つあるようだ。

◆The white Royal
◆The double-spot Royal

前者は翅表の特徴からで、後者は裏面由来だろう。
ダブルスポットというのは、並んだ二つの点の事を指しての命名かと思われる。

台湾名は漣紋青灰蝶。
他に淡藍雙尾灰蝶、漣紋小灰蝶、臺灣漣小灰蝶、臺灣漣漪小灰蝶、漣灰蝶の呼び名がある。

  
【学名】Tajuria illurgis(Hewitson,1869)

白水先生は『原色台湾蝶類大図鑑』で、♂交尾器の形態の違いによりTajuria属とは別属とし、新たにCophanta illurgisの名を与えたが、現在はシノニム(同物異名)とされ、使用されない。
他に以下のような記載があるが、何れもシノニムになっている。

◆Iolaus illurgis(Hewitson,1869)
◆Pratapa illurgis(荒木,1949)

 
小種名の「illurgis」の語源は不詳。平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』にも載っていなかった。一応ググってみたが、らしきものにはヒットせず。
参考までに言っておくと、「illu」には光ると云う意味があった(illusion イリュージョンに通づる語のようだ)。「rgis」はそのものの言葉は見つからなかったが、「rex rgis 」という言葉がラテン語にあり、王を表すようだ。他に「regina(女王)」などもあり、illuとrginsを組み合わせたものかもしれない。『光の王(女王)』ならば、物凄くカッコイイ学名だよなあ。

台湾の亜種名「tattaka」は、1941年に台湾中部の立鷹(霧社)で発見された1♀によって記載された事に起因すると思われる。

 
【分布と亜種】

(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
カレンコウシジミとよく似た飛び離れた分布をしている。但し、ジャワ島やスマトラ島には分布しないようだ。前回にも言ったが、どうしてこんな変わった分布をしているのだろう❓広域の空白地帯がある理由がワカラン。

 
現在、以下の2亜種に分けられている。

◆Tajuria illurgis illurgis(原名亜種)
ブータン、アッサム、インドシナ半島北部、雲南省

◆Tajuria illurgis tattaka
台湾中部

原名亜種は、台湾亜種とは印象がかなり異なる。
ちょっと画像が今イチだが、こんなん⬇

 

    (2点共 出典『Wikipedia 』)

 

(2点共 出典『yutaka.it-n.jp』)

 
何れも♂であるが、青白色の紋が著しく減退しており、一見すると別種っぽいくらいに違う。
裏面も違った印象だ。黒点が目立ち、これならダブルスポットと云う英名も納得できる。
それにしても、探してもまともな画像が出てこない。ネットから拾えないのは、きっと原名亜種もかなりの稀種なんだろな。

杉坂美典さんのブログ『台湾の蝶』によると、中国のでも見つかっているようだ。西蔵區(チベット自治区)と台湾対岸の福建省に分布しており、西蔵區に分布しているものはssp.illurgis illurgis(原名亜種)で,福建省に分布しているものは台湾と同じ亜種(ssp.tataka)だそうである。

 
【生態】
前翅長19~21㎜。
台湾においては中部の山地帯、標高600~3000mの常緑広葉樹林周辺に見られる。
成虫は3月下旬~11月上旬まで見られ、年数回発生するが、主に見られるのは4~8月、特に5月下旬から7月上旬に出会える可能性が高い。とはいえ、個体数は何処でも少ないらしいから、探す人は会えればラッキー程度に思っていた方がいいかもしれない。
♂♀共に花に吸蜜に訪れ、♂は湿地に吸水に集まる。
タイワンソクズの花と照葉樹の白黄色の花で吸蜜しているのを見た。たぶん白っぽくて小さな花が集合したようなものを好むのだろう。

杉坂美典さんのブログには、次のような記述があった。

「非常に速く飛ぶ。早朝や日中は,ほとんど活動せず,♂は,夕方の3時半頃から活動を始め,4時半頃まで活発に占有行動をする様子を観察することができた。」

占有行動は見た事はないが、採集したのは何れも4時前後以降なので、その時間帯辺りから活動するのだろう。飛翔は速いと云うが、たぶん占有行動時のことを指しておられるのだろう。自分の見た範囲では、特に速く飛ぶといったような姿は見受けられなかった。但し、それなりに敏感。近づくと、だいたい網を振る前に飛び立った。とは云うものの、すぐ近くの葉や花にとまる。

成虫が記録されている産地は仁愛郷眉渓、阿里山、八仙山、マレッパ、谷関、碧緑神木など。

参考までに言っとくと、旧ブログに2016年の採集記があります(発作的台湾蝶紀行32『(-“”-;)ヤッチマッタナ❗』)。
前半部と最後の解説部分に登場しますんで、よろしければ併せて読んで下され(リンク先は記事の最後の方に貼り付けておきます)。
 
(・。・;あらあら、一応確認のために再読してみると、朝9時くらいに採れとるやないけー。朝や日中は活動しないと聞いていたが、朝も活動するのね。
記憶というものは概して曖昧なものだ。採ったのは夕方近くだとばかり思い込んでいたが、2017年の記憶とゴッチャになったのかもしれぬ。
思うに、生態について書かれたものをそのまま鵜呑みしてはならないね。同じ蝶でもそれぞれの地方や標高によって生態が変わるケースも珠にある。書く人によって観察視点も違うだろう。思い込みが強すぎると視野が狭くなりかちだ。気をつけよっと。

 
【幼虫の食餌植物】
台湾においてはTaxillus nigrans ニンドウバノヤドリギが知られており、他に以下のようなものが記録されている。

木蘭桑寄生 Scurrula limprichtii
大葉桑寄生 Scurrula liquidambaricolus
忍冬葉桑寄生 Taxillus lonicerifolius lonicerifolius
杜鵑桑寄生 Taxillus rhododendricolius
李棟山桑寄生 Taxillus ritozanensis
蓮華池寄生 Taxillus tsaii

 
【卵】
(出典 内田春雄『常夏の島フォルモサは招く』)

 
卵の写真は「アジア産蝶類生活史図鑑」にも載っていなかったし、ネットで検索しても画像が見つからなかった。知る限り卵の画像はこの内田さんの著書のみ。
内田さんは台湾の蝶の幼生期の解明に多大なる功績を残された。このタイワンサザナミシジミの幼生期を最初に解明したのもたぶん氏だと思われる。
Tajuria属の卵もゼフィルスみたいに種によってデザインが違うんだろうが、素人にはワカラン。スンマセン。詳しくは解説できましぇん。

 
【終齢幼虫】
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

(出典『常夏の島フォルモサは招く』)

 
何れも上からと横からの写真だ。
「アジア産蝶類生活史図鑑」によると、越冬態は幼虫で、齢数は一定ではないが4月頃になると終齢幼虫と蛹だけが見られるという。

コレまたボコボコで変な形だ。怪獣みたい。
他の同属が平滑なので、白水先生が別属としたのはもしかしたら正解なのかもしれない。遺伝子解析とかは、もう済んでいるのかな❓もしまだなら、分類が変わる可能性はあるかもね。
色も地味だ。これは食樹の色に準じているのではないかと、内田春雄先生が『常夏の島フォルモサは招く』の中で推察されている。カレンコウシジミの食樹カオヤドリギは緑色だが、タイワンサザナミの食樹ニンドウバノヤドリギは茶色っぽいらしい。また、内田さんの言によると、幼虫は若齢の時は花芽(蕾)を食し、3齢になってから漸く葉を食べ始めるという。

 
【蛹】
   (出典『臺灣生命大百科』)

(出典『常夏の島フォルモサは招く』)

 
カレンコウシジミもそうだったが、垂蛹の形をとる。
コレまた色が地味だし、形も素人目には特異と云う程の特徴はない。

 
タイワンサザナミシジミも真面目に探した事はない。
他の蝶を狙ってる時に偶然採れるって感じだ。でも何となく採り方は解ったような気がする。次回、台湾を訪れる時はタコ採りしてやろうかと思っている。稀種と云うが、採り方さえ判れば結構採れるんじゃないかと思う。
でも沢山採っちゃえば、美人もその辺のブスと同じになる。やっぱ、このままでいいや。自身の中で、タイワンサザナミシジミは永遠の美蝶の儘でいい。
 
                  おしまい

 
追伸
アメブロの採集記のリンク先を貼っておきます。

発作的台湾蝶紀行32『(-“”-;)ヤッチマッタナ❗』
https://www.google.com/amp/s/gamp.ameblo.jp/iga72/entry-12199315255.html?source=images

 

台湾の蝶18 カレンコウシジミ

 
  第18話『青空色のスキッパー』

 
【カレンコウシジミ ♀】

(2017.6.29 南投県仁愛郷 標高1900m)

 
(同♂)
(2017.7.2 南投県仁愛郷 標高1900m)

 
色が違うので、雌雄の区別は容易だ。
この個体はボロだから分からないが、新鮮なものは金属光沢があるらしい。

 
【裏面 ♂】
(2017.7.2 南投県仁愛郷)

 
ボロ過ぎて、特徴があまり出てない。画像をお借りしよう。

 
(出典『圖録檢索』)

一方、裏面は雌雄共に同じ柄で、葉上に静止している時など自然状態ではその判別は困難である。

展翅画像も貼付しておこう。

  
【カレンコウシジミ♀】

 
美しいね。でも下側の尾突起が捻れてるなあ…。
そういえば展翅中に直すか否かで悩んだんだよなあ。
でもこういうシジミチョウの尾突って、下手に触るとすぐ千切れちゃう。で、やめとくことにしたのだった。

 
【同♂】

 
コチラは尾突が最初から千切れてた。
こういうタイプのシジミって、結構尾突が失われている個体が多い。鮮度が良いものでも切れてたりするから、泣きたくなる時が多々ある。

 
【学名】Tajuria diaeus karenkonis

属名のタユリアは平嶋義宏氏の『新版 蝶の学名-その語源と解説-』には、語源不詳。Moor(1881)の創作とある。
しかし、ローマ・ウルドゥー語にこのTajuriaと云う言葉があることを見つけた。「おめでとう」という意味らしい。意訳すれば「祝福」といったところか。
最初はまさかパキスタンの言語からの引用はあるまいと思ったが、これがそうとも言えないところがある。なぜならウルドゥー語はヨーロッパ・インド語族に属し、ローマ・ウルドゥー語とも表記されるからだ。つまりローマで使われていた言語から派生したものがウルドゥー語というワケである。あとは女性の名前に使われるようだから、ムーアの全くの創作というワケでもなさそうだ。
因みに台湾にはTajuria属のチョウが他に2種(アサギシジミ、タイワンサザナミシジミ)おり、カレンコウを含め何れ劣らぬ稀種とされる。

小種名のディアエウスも語源がハッキリしない。
この名は中米のセセリチョウの属名にも使われていて、平嶋氏はギリシャ語のdiaimos(血まみれの)をラテン語化したDiaemusの誤記(mが脱落)と思われるとしている。
血まみれと云うのは尋常じゃないな。命名された由縁に血塗られた歴史でもあるのかな❓もしそうなら、命名の背景にそれなりの有名なエピソードがあって然りだろう。でも、無いよね。それにカレンコウシジミにしても中米のセセリにしても、見た目のイメージには全くそぐわない。血ならば赤色と云うのが相場だろう。納得いかないので検索してみる。

すると、ローマの軍司令官にdiaeusという人物がいることがわかった。
Wikipediaには、以下のような説明があった。

「ダイアエウスメガロポリス(Διαῖος)は、146BCに死亡した。最後strategosのアカイア同盟における古代ギリシャリーグはローマ人によって解散する前に。彼は死ぬまで紀元前150〜149、紀元前148年からリーグの将軍を務めました。」

翻訳が無茶苦茶で何ちゃらよくワカランが、偉い将軍ではあるのは確かなようだ。それなら学名に採用される可能性は充分にある。或いはコチラが語源なのかもしれない。

余談だが、Diaeusというセセリは1属1種(3亜種)であるらしく、渋カッコイイ。

 
【Diaeus variegata】
(出典『Butterflies of the Andes』)

 
何となく稀種の匂いがするし、これは自分でも採ってみたいなと思う。

亜種名である「karenkonis」の由来は、台湾の地名「花蓮港」から来ている。最初に発見された場所が花蓮港というワケである。和名もそれに因んだもの。
カレンコウシジミと云う名前の響きが好きだ。如何にも珍しくて高貴なチョウといった感じがするではないか。カレンは可憐にも通ずるし、カレンという女性の名前をも連想させるしね。素敵な名前だと思う。

それにしても、はたして花蓮港なんて低地にいるのかな❓港だろ❓そんなところで最初に見つかったとしたら、奇跡みたいなもんだ。カレンコウシジミって、そもそも山地に棲むチョウだもんね。
しかし、この疑問は比較的簡単に解けた。
花蓮港といえば、現在は花蓮県にある港のことを指すが、昔は花蓮県全体を指す言葉だったようだ。どういう事かというと、当時この地方は「花蓮港庁」と云う行政区分名で呼ばれていたようなのだ。つまり、カレンコウシジミは港そのものではなく、花蓮地方の何処かで発見されたというワケだね。それはおそらく低地ではなく山地帯であろう。納得である。

書き忘れたが、このTajuria属にはヤドリギツバメ属とタカネフタオシジミ属と云う2つの和名が使われていて誠にややこしい。ヤドリギツバメ属は、この属のチョウの幼虫の食餌植物がヤドリギ類であることからの命名で、タカネフタオシジミ属は成虫の姿かたち(フタオ=双尾)と生息領域(タカネ=高嶺)を表している。
和名というのは、こういう事がよくあるから面倒だ。どっちゃでもええから、どっちかに統一してほしいよね。

 
【台湾名】
白腹青灰蝶、白日雙尾灰蝶、花蓮青小灰蝶、花蓮小灰蝶、宙斯青灰蝶、白裡青灰蝶

台湾って、相変わらず凄い数の異名のオンパレードだな。オラが台湾人だったら混乱するよ。しかし台湾人でも中国人でもないから、これはこれで純粋に楽しめる。それぞれが、その蝶の特徴を漢字で一所懸命に表そうとしているのが愉しいのだ。それぞれ微妙に観点が違うのが面白い。漢字から推理して、その姿を思い描いてみるのは知的ゲームみたいなもので暇潰しになる。

科名と属名も記しておこう。
Lycaenidae 灰蝶科 Tajuria 青灰蝶屬

台湾や中国ではシジミチョウの事を「小灰蝶」と呼んでいる。諸説あるが、小灰とは「とても小さい」と云う意味で、そこには可愛いというニュアンスも入っているようだ。

 
【英名】
Straightline Royal

ストレートラインとは、裏面にある線のことを指しているのだろうが、ちょっと素っ気ないね。
ロイヤルは、他のTajuria属のチョウの英名にも必ずついている。王とは最大限の賛辞であるからして、それだけこの属のチョウは美しいものが揃っているって事だね。もしかしたら、発見が後の方だったので、賛辞の言葉が尽きてしまい、苦し紛れでストレートラインと名付けたのかもしれない。
この妄想は、記載年の順番を調べれば是非が判るだろうけど、面倒くさ過ぎるのでやめときます。気になる人は自分で調べてみてね。

 
【分布と亜種名】
インド北部、ヒマラヤ、インドシナ半島北部、飛び離れて台湾、インドネシアのジャワ島とスマトラ島に分布する。

(出典 杉坂美典『台湾の蝶』)

 
分布図からスマトラ島が抜けているが、今まで見た分布図は皆んなコレである。これはスマトラ島亜種が比較的最近である1996年に発見され、2006年に記載されたからだろう。

 
亜種には以下のようなものがある。

◆原名亜種 ssp.diaeus
北インド~インドシナ半島北部

◆ssp.karenkonis
台湾中部~中北部

◆ssp.dacia
インドネシア ジャワ島

◆ssp.mirabilis
インドネシア スマトラ島

 
補足すると、以前は西北ヒマラヤ~シッキムのものを原名亜種ssp.diaeusとし、アッサム~インドシナ半島北部のものは別亜種ssp.thydiaとして分けられていた。しかし、変異が連続的で区別できないと云う事で、現在はssp.diaeusに集約されたようだ。
また、台湾亜種は最初は新種Tajuria karenkonisとして記載されたが、後に亜種に降格したという経緯がある。
 
こういう飛び離れた分布の仕方をするチョウって、他にもキゴマダラとか幾つかいるけど、不思議だ。
何でインドシナ半島南部からマレー半島、中国などに分布の空白域が有るのだろう❓
地史とか、きっと何らかの理由が有るのだろうが、さっぱりワカラナイ。空白域のものは絶滅したのだろうが、何で絶滅したのかが解らないのだ。一時期、海に沈んだのでは?とも思ったけど、中国にも高い山がある筈だ。普通に考えればそこで生き残っている筈だ。二次的にその地域だけで地史を揺るがすような地殻変動でも起こったのかしら❓でも、そんな話は聞いた事が無いよなあ。
おバカには、(@_@;)全然ワカンねえや。

 
【生態】
台湾では海抜400m~2500mで得られているが、その生息域の中心は中高海抜であろう。
発生期は4~9月、もしくは5~8月とされ、年に数回の発生をしていると考えられている。しかし、2月の記録もあり、周年発生の可能性もある。
常緑広葉樹林周辺に棲息し、飛翔は活発で、高い梢上を非常に速く飛ぶが、葉上などに静止している事が多い。
♂♀共に花に吸蜜に集まる。

カレンコウシジミを含めてこの属のチョウが中々得られない稀種揃いなのは、この辺に理由があるのかもしれない。梢上高くを素早く飛び、そのクセあまり飛ばないとなれば、目に付きにくい。採集が難しいのは当たり前だ。
因みに、自分は止まっているものしか見た事がない。
敏感なチョウで、近づくとぴょんぴょんとスキップするかのように飛び、すぐに別な葉に止まる。これが愛らしくて可愛いんだけど、網が中々振れなくて結構ムカつく。

花に吸蜜に集まるとあるが、草本ではなく樹木の花を好むような気がする。付近にはタイワンソクズなど複数の花も咲いていたが全く訪れず、もっぱら照葉樹の白くて小さい花に来ていた。

 
【幼虫の食餌植物】
Loranthaceae ヤドリギ科。
台湾では以下のような植物が記録されている。

◆高氏桑寄生 Loranthus kaoi カオヤドリギ

◆大車前草 Plantago major

◆大葉桑寄生 Scurrula liquidambaricolus オオバフウジュヤドリギ

◆忍冬葉桑寄生 Taxillus lonicerifolius

◆杜鵑桑寄生 Taxillus rhododendricolius

◆李棟山桑寄生 Taxillus ritozanensis

 
他に台湾の蝶の幼生期解明に多大なる功績を残した内田春男氏が『常夏の島フォルモサは招く』で、タイワンマツグミ Taxillus caloreas をあげている。
因みに、インドでは同じくヤドリギ科のLoranthus longiflorusを食している事がわかっている。

 
【卵】
(出典『圖錄檢索』)

 
【終齢幼虫】
(出典『圖錄檢索』)

 
シジミチョウの幼生期については、あまり詳しくないからかもしんないけど、(-_-;)変な奴っちゃなー。
シジミの幼虫といえば、団子虫みたいなイメージがあるけど、細長い。頭の形も変だ。
興味深いのは、台湾では同じ食餌植物を利用している近縁種のアサギシジミ Tajuria yajna が葉を食べ、カレンコウシジミが花や若実を食っている事だ。互いが競合しないように食い分けをしているんだね。

 
【蛹】
(出典『圖錄檢索』)

(出典『台灣生物多樣性資訊入口網』)

 
蛹も変だな。
小鬼みたいでグロ可愛い。

 
次に台湾に行く機会があれば、真面目にカレンちゃんを探そうと思う。ポイントではホッポアゲハとスギタニイチモンジ狙いだったから、片手間でしか探していないのだ。
去年は台湾には行けなかったし、今年は何とか行きたいもんだね。シロタテハへのリベンジも残ってるし、ダイミョウキゴマダラの♀がまだ採れていないもんな。
とはいえ、今年は先の事が全然わかんないんだよね。

                  おしまい

  
追伸
考えてみれば、台湾のシジミチョウを紹介するのは、今回がたぶん初めてだ。そういえばシロチョウもジャノメチョウもセセリチョウも未登場だ。まだまだ紹介していない蝶は山ほどあるのだ。
このシリーズ、いつになったら終わるんやろ(笑)。
バカなこと、始めちゃったなあ…。
 
 

壮麗なる王女~ヤイロタテハ~(改訂版)

 
ここんとこ、ヤイロタテハの展翅をしてFacebookにあげている。
そこで、ふと思い立って記事を一つに纏めようと思った。本当は台湾の蝶シリーズを書くべきなのだが、次の題材選びに思いあぐねているのだ。当初はアサクラコムラサキの事を書こうと思ったのだが、そうなると、その前にタイワンコムラサキ辺りから始めないと話の流れが悪い。順番は大事である。後々、スムーズにいかなくなる。でもタイワンコムラサキだって、そう簡単に論じられるワケでもないのだよ、明智く~ん(ここんとこ江戸川乱歩関連の番組ばっか見ているのだ)。
そう、コレはブログの年末調整的にお茶を濁そうと云う計画なのである。それが、まさかの出口の見えない無間地獄に又しても陥る事になろうとは、この書き出しの時点ではまだ想像だにしていなかった。
(# ̄З ̄)ったくよー。

今までに、以下のような文章をFathbookにアップしてきた。
ついでだから少し手を入れたが、概(おおむ)ね文章は当時のままである。

 
去年、お嬢にお土産で戴いたマレーシア産のヤイロタテハ。

 
【Agatasa calydonia ヤイロタテハ♂ 裏面】

 
(@_@;)ゲッ、お漏らしで翅がグチャグチャやんか。揚げ句、首チョンパのバラバラ~。あらあら、腐ってたのね~。あと2頭残ってるから、まっ、いっか…。
とはいえ、この個体が最も紋が鮮やかで形もいいんだよなあ…。こういう汚れた蝶を綺麗に修復する方法って、ないものなのかしら。

Σ( ̄ロ ̄lll)ゲッゲッ~❗

 

 
2頭めのヤイロタテハもお漏らしさんだべさー。
フタオチョウとかコイツらって、下(しも)がホントっゆるい。食ってるもんも腐った果実や糞尿とかでサイテーの悪食だしさ。あと、現地でそのままタッパーとかに入れてたら腐るし、蟻にもよくタカられる。
何度も、マジかっ、ワレーΣ( ̄皿 ̄;;になったよ。
展翅も羽のバネが強過ぎて、すぐにズリ下がってきて超ウザイし、ボケ~(ノ-_-)ノ~┻━┻❗❗となる。

えーい、急遽、裏展翅じゃボケ~(* ̄ー ̄)

 

 
思うに、タテハチョウって裏の方がカッコいい奴が多いよね。
幸い裏側は汚れてない事だし、コレはお嬢に帰そっかな。でも、臭いと断られそうだな…。

ここからが、Facebookにアップしていない文章。

3頭めも、やはりお漏らしさんだった。
けれど、汚れがまだ少ない方なので、表展翅することにする。考えてみれば、表展翅は初めてだ。

 

 
ヤイロタテハって、上翅を上げるのはこれくらいが限界だと思う。下翅の下辺を無理に真っ直ぐにしようとすると、頭が翅に埋まってしまう。これはあまりにブサいくだ。再三再四そこかしこで述べているが、昔から言われている蝶の展翅のセオリーに囚われ過ぎるのはナンセンスだと思う。翅だけではなく、全体のバランスを考えて整形すべきだと云うのが、ここ数年で行き着いた結論だ。
とはいえ、人にはそれぞれの好みと云うものがあるからして、正解は一つでは無いんだけどもね。
それにしても、汚物で尻が真っ黒けになっとるやないけー。この蝶、お漏らし大王だから、ウルトラ完品って中々手に入らないのかもなあ…。

3日後、嬉しい事に一番最初に展翅したグチョグチョの個体が復活していた。

 

 
少し汚れてはいるが、コレくらいならセーフだろう。
とはいえ、何となく真っ直ぐに写真が撮れてないような気がするので、後日撮りなおす。

 

余計に歪んだ写真になっとるやん( ̄∇ ̄*)ゞ 
それにしても、美しいね(⌒‐⌒)

そういえば、昔ヤイロタテハについてアメブロに書いた文章があったな。

 
https://www.google.com/amp/s/gamp.ameblo.jp/iga72/entry-12110534183.html?source=images

 
暇な人は読んでみて下され。

とはいえ、自分で書いといて、どんな文章を書いたのか全然憶えてない。気になるので、再読してみることにした。

( ̄~ ̄;)むにゃあ~、不満だ。文章に手を入れたくなる。井伏鱒二先生ほどじゃないが、過去の自分の文章が気に入らなくて弄(いじ)くってしまう癖(へき)がある。それがしょっちゅうって云うか、時にパラノイア的であったりする。
大学の後輩が何年か前に言っていたが、或る種の完璧主義なのかもしれない。面倒くさい性格だ。

以下、改訂版である。

 
今回は謂わばマレーシアの蝶の番外編である。

紹介するのはAgatasa calydonia ヤイロタテハ。
この旅では季節が合わず、結局再会できなかった蝶だ。
平嶋義宏氏の『蝶の学名 その語源と解説』に因れば、学名の属名「Agatasa」は語源不詳だそうである。
とはいえ、ギリシャ語のaga(非常に)とtasis(力、強さ)とを合わせたもの、もしくは発音の類似から聖女で殉教者のアガタ(Agatha)に模した造語ではないかと推察しておられる。
小種名の「calydonia(カリュドニア)」は、古代都市の名前で、神話のカリュードンに因むという。

ここで、はたと気づく。そういえば学名の属名は変更されたんじゃなかったかな❓
確認したら、案の定だった。今はヤイロタテハ族・ヤイロタテハ属「Prothoe calydonia」と云う学名になっている。
「Prothoe」の語源は、ネーレース(海神ネーレウスの50人の娘)たちの一人であるprotho(プーロートー)のフランス名なんだとさ。相変わらずのギリシャ神話由来ばかりだ。もう、うんざりじゃよ。

ついでに言っとくと、英名はglorious begum。
gloriousはまだ解るとしても、begumという単語が何なのかさっぱり分からなかったので、これまた調べてみた。お茶を濁すつもりが、もう大変である。

「begum」とは、どうやらインドやパキスタンのイスラム教徒の位の高い女性を指す言葉らしい。辞書によっては、イスラム教徒の王女、王妃、貴婦人とも書かれている。

ここからが種の解説的なものになるのだが、文章の訂正加筆箇所が少ない事を祈ろう。

 
【Prothoe calydonia ヤイロタテハ】
(2011.2.20 Malaysia cameronhighland )

 
大型のタテハチョウの仲間で、フタオチョウに近い種類である(註1)。
和名の由来は、羽の裏側の豪華絢爛たる色彩からであろう。つまり八色からのヤイロなのだ。

4年前(2011年)、初めてキャメロンハイランドで見た時は、その存在さえも知らなかったので仰け反るくらいに驚いた。想像外のデザインだったのである。悪魔的ですらある、そのおどろおどろしくも美しい姿に畏怖さえ覚えた記憶がある。

前に何処かでチラッと書いたかとは思うけど、そのヤイロタテハのラオス産が出てきた。
師匠に戴いたおこぼれのボロだが、探して展翅しようと思うも見つからずに悶々としていたのだ。それが先日、何とまさかの標本箱から見つかった。
まだ展翅していないとばかり思っていたのに、ちゃんと既に展翅してあったのである。人間の記憶なんてものは、如何にいい加減かという証左である。いや、単に己の記憶力が悪いだけか…(笑)

言い忘れたが、師匠に戴いた頃はヤイロタテハは広く東南アジア全般にいる普通種だとばかり思っていた。
だが、それがどうやら違うようなのである。図鑑を見ると、分布はミャンマー、タイ、ラオス辺りから南にあり、その中心はスンダランドだ。驚いた事には、インドシナ半島には多くの空白地帯がある。

 
(出典 塚田悦造『東南アジア島嶼の蝶』)

 
分布図には、ラオスは入っていない。
しかも、既存の分布圏からもかなり離れている。ワケわかんないぞの混乱(´・∀・`)ぴよこちゃんだ。

ならばと他の図鑑でも確認してみる。

 
(出典 五十嵐 邁・福田晴夫『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
こっちの図鑑でもラオスは分布圏に入ってない。(・。・;)どゆ事❗❓

きっと亜種なのだろうが、じゃあ何と云う亜種に含まれるのだろう❓南ミャンマー亜種 A.belisamaなのか❓それとも新亜種なのかな❓

取り敢えずは二つを並べて見比べてみよう。
先ずはマレーシア産の原名亜種 ssp.calydoniaの裏面画像から。

 
(2011.2.20 Malaysia 19miles )

 
お次はラオス南部産の裏面。

 
(2011.4. Laos Tateng)

 
鮮度が悪いので、あまり色は参考にならないだろう。
しかし、上翅の黄色い領域は確実に広い。紋も細かく見れば違う。特に後翅根元の赤い⚡稲妻紋の形などはかなり違う。
だが、こういうのは個体変異もあるから一概には何とも言えない。この2頭だけで判断するのは意気焦燥だろう。

ならばと、表側も見比べてみる。

 
(マレーシア産)

 
(ラオス産)

 
Σ(-∀-;)びっくりだわっ❗、全然違う。
明らかに下のラオス産の方が、マレーシアのものよりも黒い部分が少ない。♀なのかもしれないが、上翅の形も全然違う。こりゃ、完全に別亜種だわ。
塚田悦造氏の『東南アジア島嶼の蝶』には南ミャンマーの個体は図示されていないが、『黄色味の強い基斑紋が後中央まで拡がった美しいもの』とあるから、マレー半島の原名亜種よりかは、そちらの方に近いかとは思われる。

問題は亜種 belisamaに含まれるのか、それとも新たな別亜種となるのかだ。
でも、塚田図鑑にはbelisamaの画像が無いのだから、両者を見比べられない。ここで行き詰まりだ。結局、何かワカランやんか。

 
一応、他の亜種も参考までに図示しておこう。

 
【c.auricinia スマトラ島亜種】
(出典 『東南アジア島嶼の蝶』。以下、何れも同じ。)

 

原名亜種とほとんど変わらないが、後翅裏面亜外縁の黄条が少し太まる。

 
【c.mahasthama ボルネオ島亜種】

少し小型になり、裏面の白色部が目立ち、後翅の白横条が太くなる。

 
【c.multicolor シンケップ・リンガ島亜種】

これもやや小型になり、♂の翅表第2室の黄斑が外に細まり、同室裏面黄色が濃色となる。♀は裏面の赤色紋が褐色に変わる。

因みに参考までに言っておくと、フィリピンに代置種とされるクリソドノイアヤイロタテハとゆうのがいる。

 
【Prothoe(Agatasa) chrysodonia】 

黄色味が強い。ミンダナオ島ではまだ比較的得られるようだが、ルソン、ミンドロ島では稀で大珍品らしい。

ラオス産の完品を見ないとわからないが、個人的には裏の色が一番濃いと言われる原名亜種が好きだ。
珍しい亜種よりも、種内で一番美しいものを評価すると云うのが基本的スタンスなのだ。
もっと言うと、亜種に限らず蝶全般を、どちらかというと珍しさよりも美しさで評価する傾向が自分の根本にはあると思う。普通種のベニシジミやキアゲハを素直に美しいと思うのだ。もし、これらが珍品ならば、拝み倒している人は多いと思う。この業界、珍しいか否かで美しさの値打ちが変わる傾向があるのだ。
まあ、どんな蝶でもよく見れば、大概はそれぞれ固有の美しさがあるんだけどもね。

                         おしまい

 
追伸
師匠にメールでラオス産のヤイロタテハについて尋ねたが、調べると言ったまま、いまだ返答がない。
だから、この文章は最初に書いてから、だいぶ経っているのだ。終わり方に尻切れトンボ感があるのも、そのせいなのだ。

後々、解ったのだが、どうやらこのラオス産のヤイロタテハは新亜種ではなく、亜種belisamaに含まれるようだ。

 
(註1)フタオチョウ

【Polyura endamipps フタオチョウ♂】
(2011年 4月 Laos)

 
大型のタテハチョウで、湾曲した羽と2本の剣のような尾状突起が💖萌え~である。頑強な体躯で矢のように飛ぶ事も含め、オラの大好きなグループの一つだ。
日本の沖縄本島にも天然記念物に指定されている亜種e.weismanniが棲息している(註2)。
但し、分布の最東端にあたり、別種と見紛うばかりに原記載亜種とは見た目の印象がかなり違う。大きさが下手したら二回りくらい小さくなり、尾突も著しく短くなる。また、白い部分も減退し、全体的にかなり黒っぽい。

 
(『日本産蝶類標準図鑑』より。)

 
見た目どころか、幼虫の食樹も違うし(インドシナ半島ではマメ科植物だが、沖縄ではクロウメモドキ科ヤエヤマネコノチチとニレ科リュウキュウエノキ(クワノハエノキ)、こんなのもう別種でもいいんじゃないかと思う。
それに噂では、幼虫形態やその生態も違うらしい。でも天然記念物であるがゆえに、採集は元より飼育も出来ない事になっているから研究も発表も出来ない状態のようだ。官がつくる昆虫関連の法律は、大概が柔軟性に欠け、結局クソなのだ。

ヤイロタテハは、激レア亜種は別として、大珍品とまではいかない蝶だろう。
かといって普通種でもなく、何処にでもいるという蝶ではない。図鑑の記述に拠ると、どの産地でも個体数は少ないようだ。
つまり、行けば誰でも簡単に見られるというものでは無いと云うことだ。実際、自分もキャメロンハイランド以外では見たことがない。しかも、いまだメスにはお目にかかった事がない。たぶんPolyura(フタオチョウ)と同じで、メスは珍品なんだと思う。
それに、たとえ見たとしても弾丸みたいに飛ぶから、先ず空中では採れないだろう。自分みたく運良く吸水に来たものが偶然採れるくらいだ。トラップが無ければ、基本的に採れない蝶なのだ。
そういえば思い出した。タイのチェンマイでお会いした爺さまが言ってたな。その爺さまは毎年チェンマイに通っているそうで、昔はヤイロタテハも結構いたらしい。それが10年ほど前から全く姿を見掛けなくなったという。きっと他にもそういう場所は多いだろう。
考えてみれば、図鑑『東南アジア島岨の蝶』が世に出てから、もう40年近くも経っているのだ。その頃とは珍稀度が大きく変わっている可能性がある。この蝶は低山地に棲む蝶のようだから、環境破壊の影響も受けやすいに違いない。現在のレア度はかなり高いかもしれない。
それでも東南アジアに行く機会があったなら、ぜひとも自然の中で生きている王女に会ってもらいたい。
その力強さ、威厳、悪魔的な色柄、深いジャングルと云うロケーションetc…。探す価値はある。

王女には、もう一度会いたいなあ…。

 
追伸の追伸
 それにしても、初期の頃の展翅は我ながら下手だねぇ~(笑)
よほど展翅しなおしてやろうかとも思ったが、思いとどまった。この文章の為だけになんて、(=`ェ´=)邪魔臭いわい。そこまで完璧主義ではごさらん。

おっ、そうだ。それで思い出した。そういえば、お嬢に貰ってすぐに展翅した奴があった筈だ。

 

 
(・。・)あれっ!?、2頭もしたっけか❓
それにしても、(´∇`)カッコいいなあ。
地面に止まっているのを見た時は、Σ(-∀-;)ビクッとなって立ち止まったのを思い出したよ。その存在を知りもしなかったので、(; ̄ー ̄Aあはは…、幻覚でも見てるんじゃないかと思った。それほどの衝撃だった。そういえば、下手したら、コヤツ蛾でねえの❓とも思ったなあ…。
震える指先で手のひらに乗せて、じっくり見た時の感想も思い出した。曼荼羅みたいだとか、歌舞伎的やなとも思ったっけ。
残念ながら、その時の画像は無い。興奮し過ぎて撮るのを忘れたのだ。初めての海外採集の、まだ二日めとかだったもんな。

  

 
おっ、表側もある。
と云うことは、やっぱり2頭を展翅したって事だね。

 

 
針を外した画像もあった。

 

 
と云う事は、全部で5頭も戴いたってワケだ。
お嬢、💖ありがとね。
こうなると、やっぱメスも欲しくなるなあ…。この蝶は雌雄同型だけど、メスはもっとデッカイ筈。どんだけデカイんじゃろう❓
何とか並べてみたいもんだよねぇ~。

(註2)
このあと、日本のフタオチョウは亜種から別種に昇格し、学名は Polyura weismanni となった。
この辺の事は拙ブログの台湾の蝶シリーズの第2話『フォルモサフタオチョウ』と、その番外編『エウダミップスの迷宮』、『エウダミップスの憂鬱』に詳しく書いたので、宜しければ併せて読んでつかあさい。

それにしても、文章の細かいところも含めてかなり書き直す破目になった。お陰で大掃除は進まんし、オジサンは疲れたよ。

                  おしまい

 
ここで終わりにするつもりだった。
しか~し、文章をアップする為に読みなおしたら、またドえれーところに気づいちまっただよ。
ヤイロタテハはフタオチョウに近い仲間と書いたが、本当かよ❓と云う疑問がムクムクと頭をもたげてきたのだ。又しても、無間地獄のドツボに嵌まっちまった。

疑問を持ったのは、フタオチョウの遺伝子解析の結果を思い出したからである。コムラサキ亜科とかの真正タテハチョウのグループだとばかり思っていたが、結果はジャノメチョウに近いという事が判明したのだった。
ヤイロタテハの、その頑強な体躯や翅の分厚さ、翅表の配色、後翅の尾突起らしき形状は、如何にもフタオチョウを彷彿とさせる。ゆえに両者は近縁関係だとばかり思っていた。しかし、フタオチョウがジャノメに近いならば、果してヤイロタテハもそうなのか❓虫の世界には、他人のそら似と云うのがよくあるんである。
よくよく考えてみれば、裏側の斑紋パターンはフタオチョウとはかなり違う。どころか同属のルリオビヤイロタテハを除けば、他に似ているものさえいない。
じゃ、あんた何者❓

ヤイロタテハの遺伝子解析の論文を探すが、見つからない。絶対、既に解析済みの筈なんだけどなあ…。学者さんが、その辺を見過ごすワケがないと思うんだよねぇ。
勝山さあ~ん、おせーてよー(ToT)
とはいえ、直接お尋ねする程の面識は無いもんなあ…。

ならば、幼生期の形態で判断じゃ。蝶は幼生期の形態で、大体の類縁関係が分かるのだ。
伝家の宝刀『アジア産蝶類生活史図鑑』を開いてみる。

(;゜∇゜)あぅぅぅ…ゲロリンコ、何じゃお主は❗❓

 

(出展『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
ヘ(゜ο°;)ノ≡3≡3きっしょー、最低クラスの醜さだ。バケモンじゃよ、バケモン。形だけでなく、色までトドメ色で酷いや。おどろゲロリンコ星人やな、おまえー。
それにしても、フタオチョウの幼虫とは全然似てないぞー。

 
【フタオチョウ幼虫】

 
【フタオチョウ頭部正面図】
(出展二点共 手代木 求『日本産タテハチョウ幼虫・成虫図鑑』)

 
一応、コムラサキ亜科特有のナメクジ型ではある。
強いていうならば、目の先の形状がスミナガシの仲間に近いかもしれない。いや、トゲトゲや突起物は無いけれど、ミスジチョウやイチモンジチョウ系の幼虫にも似てるっちゃ似てるか…?
『アジア産蝶類生活史図鑑』の解説を読むと、興味深いことに、その生態はイシガケチョウ属、スミナガシ属、イチモンジチョウ属、ミスジチョウ属など様々なタテハチョウ科の幼虫の色々な習性が混じっているらしい。何じゃ、そりゃ❓

蛹の形状も見てみよう。
左から側面、腹部側正面、背面側正面である。

 
(出展『東南アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
解説にも書かれてあるが、蛹の形状は色は違えど何とまた別なタテハチョウ科のEuthalia(イナズマチョウ属)にソックリじゃないか。色が灰色じゃなくて緑色だったら、まんまである。

一応、フタオチョウの蛹も図示しておこう。

 
(出展『日本産タテハチョウ幼虫・成虫図鑑』)

 
違うなあ…。
この事実を見ると、とてもフタオチョウに近縁だとは言えそうにない。
それにしても、イシガケチョウ、スミナガシ、イチモンジチョウ、ミスジチョウの幼虫と行動様式に共通点があって、蛹はイナズマチョウに似てるって、もう鵺(ぬえ)的存在で、何が何だかワカラナイや。

因みに、食樹はバンレイシ科のDesmos chinensisと云う植物らしい。バンレイシ(蕃茘枝)って、たしか果物だよね?別名シュガーアップルとか釈迦頭と言われている奴だ。味はバナナとパインの合の子みたいで甘みが強い。けど、食感は梨みたいなシャリ感のある摩訶不思議な果物だ。
(`ロ´;)クソッ、食樹までも果物界の鵺とかキメラなのかよ。
とにかくバンレイシ科を食ってる蝶の幼虫だなんて、勉強不足かもしんないけど、知る限り記憶にない。上位分類にまで広げるとモクレン目になるが、それとてざっと見る限り、タテハチョウの食樹らしきものは見当たらない。クスノキとかモクレン系が含まれる目だけれど、それはアオスジアゲハとかのアゲハの食樹なんだよなあ。
これじゃ、植物に疎い自分には何に近い種なのか特定しようもない。
スマン。大風呂敷を広げといて、結局はグダグタの結末だ。

結論の無いまま迷宮に取り残され、歳末の夜は静かに更けてゆく。
皆さん、良いお年を。

              今度こそ、おしまい

  

台湾の蝶17 タカサゴカラスアゲハ

 
   台湾の蝶17『高砂鴉揚羽』

 
前回の『さまよえるカラスアゲハ』で力尽きて、又しても時が経った。
そもそもがこの回を書かんが為に前回はカラスアゲハ全般の分類について長々と書いたのだが、台湾のカラスアゲハだけでも分類学的にやっぱりややこしい。で、『書くの面倒クセーなあ…』と思ってるうちに再び結構な時間が流れた。とはいえ、この回を書かないと前には進めない。ちゅーワケで渋々書き始めまあ~す。

先ずは前回のおさらい。
と言いたいところだが、そんな事を書き始めたらまた無間地獄に陥るので、前回の続きとしてそのまま書き進めます。気になる方は、前回『さまよえるカラスアゲハ』を読んで下され。

 
従来、台湾のカラスアゲハも日本のカラスアゲハも同じ種類「Papilio bianor」に含まれ、それぞれ別亜種とされてきた。しかし、近年の遺伝子解析の結果に拠り、日本のカラスアゲハは独立種 Papilio dehaaniiとして別種に分けられた。但し、八重山諸島に分布するヤエヤマカラスアゲハは、台湾のカラスアゲハと同じグループとされてPapilio bianorに組み込まれた。
因みに、どうやら台湾のものは、以前はクジャクアゲハ(Papilio polyctor)と呼ばれていたヒマラヤからインドシナ半島等に産するものに近いようだ。

台湾では2亜種が知られ、台湾本土亜種の他に蘭嶼亜種 Papilio bianor kotoensis(コウトウルリオビアゲハ)もいるが、今回は本土亜種のみを取り上げます。ただでさえ既にアタマがパニくりかけてるのに、コウトウルリオビまで論じる力は無いんでござるよ。そちらはまた別の項を設けて書く予定です。あしからずでありんす。

 
【Papilio bianor thrasymedes ♂】
 
(2017.6.19 南投県仁愛郷 alt600m)

 
(2017.7.4 南投県仁愛郷)

 
(2017.6.26 南投県仁愛郷)

 
(2017.6 南投県仁愛郷)

 
(2016.7 南投県仁愛郷)

 
【同 ♀】
 
(2016.7.12 南投県仁愛郷 alt1900m)

 
(2016.7.12 南投県仁愛郷 )

 
【学名】Papilio bianor thrasymedes

小種名「bianor」は、ギリシア神話の半獣人ビアノールの事で、ケンタウロス(下半身が馬で腰から上が人間の怪物)の一人である。
亜種名は世界的にthrasymedesで落ち着いているようだが、以前の学名はPapilio bianor takasagoであった。「takasago」とは台湾の先住山岳民俗の高砂族を念頭に入れての命名だろう。一方、「thrasymedes」はおそらくギリシア神話の登場人物の一人トラシュメーデスを指していると思われる。トラシュメーデス❓聞いた事はあるけど、全然イメージが湧かない。
と云うワケでググってみた。
wikipediaには以下のような記述があった。

「トラシュメーデース。ギリシア神話の人物である。長母音を省略してトラシュメデスとも表記される。ピュロス王ネストールの子で、ペルセウス、ストラティコス、アレートス、エケプローン、アンティロコス、ペイシストラトス、ペイシディケー、ポリュカステーと兄弟。シロスの父、アルクマイオーンの祖父で、アテーナイのアルクマイオニダイの祖。
トラシュメーデースはネストールやアンティロコスとともにトロイア戦争に参加した。ピュロスの軍勢15隻を率いたともいわれる。トラシュメーデースはキマイラを育てたというアミソーダロスの子マリスを倒した。またパトロクロスがアキレウスの鎧をまとって戦っている間、ネストールの指示でアンティロコスとともに前線から離れたところで味方に気を配りながら戦った。そしてアンティロコスがパトロクロスの死をアキレウスに知らせに行ったとき、彼がピュロス勢を指揮した。
後にアンティロコスがメムノーンに討たれたとき、トラシュメーデースはメムノーンを討とうとして果たせなかった。しかしアカマースを攻撃して戦場から退かせ、また木馬作戦に参加した。
戦後、トラシュメーデースはネストールとともに無事にピュロスに帰り、テーレマコスにも会った。」

(;・ω・)何じゃこりゃ?ゴチャゴチャ人物が出てきて、何ちゃらワカラン。ギリシア神話に通じてる人間でもなければ、チンプンカンプンである。
一応、他のサイトも覗いてみる。

「彼は弟のアンティロコスほどではないが、重要な若いアカイア人リーダーの一人として描かれた。ディオメデスとオデュッセウスがスパイに行った時、彼は鎧と剣を前者に与えた。弟のアンティロコスがメムノンに殺された時、父と共に死体を守って戦ったが、メムノンが優れて強かったため、アキレウスの助けを求めることを余儀なくされた。オデュッセウスがトロイアのお守りを盗んだ時、彼を乞食と思い鞭で打った。トロイの木馬に入った。彼は戦争を生き残り、父と共に故郷へ帰った。」(出典 「wik!」)

少しはマシな説明だが、理解が飛躍的に深まったとはいえない。話の本筋じゃないし、まっいっか…。
それにしても、何で台湾の蝶がギリシア神話と関係あんねん!?どう考えても高砂族の方が相応しいじゃないか。

学名に納得いかないので調べてみる。
藤岡知夫氏の『日本産蝶類及び世界近縁大図鑑1』を見て、漸くその経緯が解った。

「台湾産亜種の学名としては古くtakasago Nakahara et Esaki,1930が使われ、最近でもこの学名が使われることがある。これは台湾産亜種名formosanus Rebel,1906が、オナシモンキアゲハ Papilio castor formosanus Rothschild 1896に先取りされていて、亜種名としては使えないため提起された名である。しかし、永井(1996)も述べたようにPapilio polyctorの亜種として命名されたthrasymedes Fruhstorfer,1909の方がtakasagoより先行していて、大英博物館に所蔵されるタイプ♂♀の内、♂を図示してあるが、台湾のカラスアゲハそのものであるので、台湾のカラスアゲハの亜種名としてはthrasymedesを使うべきである。」

( ̄ー ̄)ん~、納得できるような出来ないようなモヤモヤした気分じゃよ。
学名って、いったい何なのかね❓混乱を避けるために最初に命名されたものに先取権があるのは理解できる。しかし、より相応しいものにフレキシブルに変更できないものなのかしら❓takasagoなら、学名を見ただけで台湾の蝶だと容易に想像できるけど、トラシュメーデスじゃ、想像力が全然もって湧かないよ。
とはいえ、まあ学名はコレでよしとしよう。問題は寧ろ和名である。コチラも、まことにややこしい。

台湾のカラスアゲハの和名は従来「カラスアゲハ」だった。しかし、遺伝子解析の結果、日本本土のモノは別種 Papilio dehaanii になった。そして、沖縄本島・奄美大島に分布するオキナワカラスアゲハも別種Papilio okinawensisになった。八重山諸島に分布するヤエヤマカラスアゲハも分けられ、台湾や中国・インドシナ半島・ヒマラヤに棲むものと同じグループに組み込まれ、Papilio bianor ryukyuensisとなった(オキナワカラスとヤエヤマカラスの学名が逆だと指摘される方もおられるだろうが、自分は和名と連動するコチラを推します)。
こうなると、区別しやすくするために和名も整理する必要があるだろう。dehaaniiは後から種に昇格したのだから、ニッポンカラスアゲハとかキョクトウカラスアゲハにすべきだと云う意見もあるだろうが、そんなクソ長いのは真っ平御免だ。だいち過去にカラスアゲハと記述されてきた出版物はどうなるのだ❓そんなの混乱の極みを生じさせる。それに長年親しまれてきた名前を廃棄するだなんて心情的に許せない。あくまで日本のカラスアゲハは「カラスアゲハ」。そう胸にも刻み込まれておる。他はあり得ない。
まあ、コレにはそう異論は無いとは思うけどね。

オキナワカラスアゲハとヤエヤマカラスアゲハも、そのままの和名で異論は無かろう。
いや、待てよ。ヤエヤマカラスはbianorなんだから、台湾や大陸のものと同じ名前にすべきだと言う輩も出てきそうだ。それには、アタシャ、(*`Д´)ノ断固反対します!!それも混乱を引き起こす事、明白じゃよ。そもそも和名は日本人に解るようにと作られたものなのだ。アタマの堅いリゴリズム(厳密至上主義)って、学名しかりどうかと思うよ。ルールを頑なに振りかざす奴にロクな奴はいない。八重山諸島にいるカラスアゲハはヤエヤマカラスアゲハでよろし❗
因みに台湾のカラスアゲハを同じbianorなんだから、ヤエヤマカラスアゲハと呼ぶべしと云う意見もあるようだが、そんなものは言語道断。論じる気にもなれない。

一番問題なのは台湾と大陸側に連なるbianorだ。
そのままカラスアゲハとするとややこしいから、タイリクカラスアゲハを提唱する人もいたような気がするけど、ここはもういっそのことクジャクアゲハの和名を復活させたらどうだろうか?勿論、異論は有るだろうけど、中国のモノは別としても分布の大部分の地域では孔雀の名に相応しい見てくれのモノが多いような気がするんだよね。
一応、かつてクジャクアゲハ Papilio polyctorと呼ばれていたものの画像も添付しておきましょう。

 
(2015.4.13 Thailand)

 
まあコレに関しては、それほど拘泥しているワケではないんだけどね。別にタイリクカラスアゲハでも構わないやって思う。それよりも何よりも気になるのは、台湾のカラスアゲハの和名だ。
杉坂美典さんのブログ『台湾の蝶』では、「カラスアゲハ」としている。その根拠に日本鱗翅学会の機関誌やどりがのNo.239(2013)の宇野彰氏の論文をあげられている。そこでは台湾産カラスアゲハの和名をカラスアゲハとしており、それに従う云々と述べられていた。
これには納得できない。じゃあ、別種になった日本のカラスアゲハは❓まさかニッポンカラスアゲハとかキョクトウカラスアゲハでもあるまいに。たぶん同じくカラスアゲハと呼んでおられる事でしょう。
今や別種とされる両者が、カラスアゲハと云う同じ和名で呼ばれるならば、その経緯を知らない者はワケわかんなくなるよ。
ゆえに、自分は一部で使われていた「タカサゴカラスアゲハ」を圧倒的に推す。それが最も台湾のカラスアゲハとして容易に認識しやすいではないか(因みに和名タイワンカラスアゲハは別種Papilio dialisに使用されているので使えない)。前述したように、和名とは本来日本人が理解しやすいようにと名付けられたのだから、いたずらに混乱をきたすような名前は宜しくないと云うのが確固たるワタクシの考えでござる。

 
【台湾名】
翠鳳蝶、烏鴉鳳蝶、碧鳳蝶

 
【終齢幼虫と蛹】

(出典 「典蔵臺灣」)

(出典 「台湾昆虫譜」)

(出典 「圖錄檢索」)

 
一見したところ日本のカラスアゲハの幼虫と変わりばえしない。それにしても正面から見た顔はイジケ顔で可愛らしい。何だか奈良美智の絵の女の子にも似てる。

 
【幼虫の食樹】
ミカン科
賊仔樹 Tetradium glabrifolium ハマセンダン
食茱萸 Zanthoxylum ailanthoides カラスザンショウ
Zanthoxylum nitidum テリバザンショウ
Euodia lepta アワダンモドキ

ハマセンダンの学名は、他にEuodia melifoliaやEuodia glaucaと云うのもある。植物は複数の学名があるものが珍しくない。属まで違う事だってよくある。蝶以上に学名バトルがあって、👿憎悪渦巻く錯綜した世界なのかもしれない。
因みに、ハマセンダンとカラスザンショウはヤエヤマカラスアゲハの食樹でもある。おそらくヤエヤマカラスと同じように、ヒラミレモンなどの他のミカン科植物なども利用しているものと考えられる。
余談だが、賊仔樹とは泥棒の木と云う意味らしい。
何でそんな名前が付けられたのかはワカラナイ。何れにしても酷いネーミングだよね。

 
【生態】
台湾本土全域の平地から高地(~2500m)まで広く分布し、雌雄ともに花に集まる。オスは山頂や尾根筋を飛び回り、谷あいの湿地で吸水する姿もよく見掛けられる。飛翔は日本のカラスアゲハと比べて緩やかで、ヤエヤマカラスアゲハの飛び方に近い。

 
【周年経過】
多化性で、成虫は冬期の1、2月でも見られ、周年に渡って発生するとされる。

 
台湾で初めて採った時は「(・。・)何じゃこりゃ❓」と思った。カラスアゲハの仲間なのは理解できるけど、種名が頭の中で合致しなかったのだ。勝手にイメージしてたのは隣の八重山諸島に分布するヤエヤマカラスアゲハ。それと同じような見てくれだとばかり思い込んでいたのだ。
だが、それとは異なる印象をうけた。ヤエヤマカラスと比べて全体的に色調が暗く、スリムに見えた。
ヤエヤマカラスのフォルムは四角っぽいBOX型だが、タカサゴカラスはそれに比して翅先が尖り、どちらかというとクジャクアゲハの翅形に近い。下翅の紋の色も違う。ヤエヤマカラスは紺に近い青だが、タカサゴカラスは水色っぽい青緑色だ。コレもクジャクアゲハ寄りだ。謂わば、ヤエヤマカラスと云うよりも、地味なクジャクアゲハみたいな奴っちゃなあと思った記憶がある。
ちょっと説明が主観的やもしれぬ。ここは藤岡図鑑(日本産蝶類及び近縁種大図鑑1)の力をお借りしよう。
それによると、「八重山産は前翅形が角張り、外縁が直線状または外に膨らむ傾向があるのに対し、台湾産では翅端が外方に突出し、表面の青緑色鱗粉の密度は台湾産の方が薄く、外縁近くまで達することはない。前翅裏面外方の白斑は台湾産の方が薄いなどの諸点で区別できる。」とある。
つまり、あんまり似てないんである。私見だが、正直、同種の亜種関係には見えなかった。
ヤエヤマカラスのパッと見は、むしろタイワンカラスアゲハ(Papilio dialis)に近いと思う。

 
ヤエヤマカラスアゲハ♂
Papilio bianor ryukyuensis
(2013.10.4 沖縄県石垣島)

 
タイワンカラスアゲハ Papilio dialis ♂
(2017.6.25 南投県仁愛郷)

 
一応、タカサゴカラスアゲハとヤエヤマカラスアゲハの標本を並べて見比べてみよう。

  

 
上がヤエヤマカラスアゲハで、下がタカサゴカラスアゲハである。こうして改めて並べてみると、見た目は明らかに違う。ヤエヤマカラスの翅形が全体的に丸い印象なのに対し、タカサゴカラスは細っそりに見える。下翅の青緑色紋の色も違う。またヤエヤマカラスの青緑色紋下部の線はシャープで、緑色の部分とのコントラストが強い。そして、緑色の鱗粉は全体的に散りばめられており、隙間があまりない。タカサゴカラスに比して明るく見えるのは、そのせいだろう。更には下翅外側の半月紋が消失仕掛かっている個体が多い(これに関しては手持ちの標本が偶々そういうものばかりだと云う可能性はある)。
大量の標本を検分したワケではないが、概ねコレらの差違は同定の目安にはなると思う。

裏側も検証してみよう。

 
【ヤエヤマカラスアゲハ♂裏面】

 
【タカサゴカラスアゲハ♂裏面】

 
藤岡さんの言うように、確かにタカサゴカラスの方が上翅の白紋が薄い。そして、私見だが下翅を縁取る白紋がヤエヤマカラスの方が発達する傾向があると思う。
こうして事細かに比べてみると、両者は見た目レベルで結構違う事が解った。
実際、遺伝子解析の結果でもそれなりに離れた関係のようだ。分析図では、タカサゴカラスはクジャクアゲハと同一クラスターに含まれるが、ヤエヤマカラスはそれとは分離が進み始めているように見える。

 

(出典 「蝶類DNA研究会ニュースレター」)

 
だからゆえか、ヤエヤマカラスアゲハを独立種とすると云った見解が何処かに書いてあったような気がするが、アレはどうなったんだろう❓個人的には、もう別種にしてもらいたいよなあ…。
(;・ω・)んにゃ❗❓そういえば、かつてヤエヤマカラスアゲハに学名 Papilio juniaを与えて、独立種として扱うと云う見解もあったのではなかろうか?
それならそれで色んな問題が解決するから有り難いんだけど、あまり学名として認知されてないよね?
いや、待ちなはれ。Papilio bianor juniaと云う亜種扱いの学名もあったような気がするぞ。
ジュニア❓何だそりゃ?年少組?下級生?息子?
じゃ、いったい誰の2世なのだ❓Σ( ̄皿 ̄;;キイーッ、バルタン星人Jrは本当にバルタン星人の息子かえ❓おまえ、パチモンやろがっ(#`皿´)❗❗
ハッ(゜ロ゜)、しまった。迷宮で迷走。ワケわかんなくなってきて、危うく気がフレるとこじゃったよ。脱線ポンコツ列車を止めねばならない。冷静になろう。
考えてみれば、そもそもがそのジュニアとは綴りが違うよね。そのジュニアならjuniaではなく、juniorと書く筈だわさ。学なし男の初歩的ミスでありんした。\(__)反省。
落ち着いたところで、先ずはjuniaの意味からさぐってみよう。

juniaと書いて、ユニアと読むようだ。学名の基本はラテン語読みという事をすっかり忘れてたよ。
ユニアとは、ローマ神話のユーノー(Juno)の事で女性の結婚、出産を司る女神。またユーノーはJune(6月)の語源でもあり、ジューンブライド(6月の花嫁)の謂われもユーノー神から来ているようだ。
ギリシア神話ではないけれど、又しても神話だ。ヨーロッパ人は神話が好きだねぇ~。
ユーノーが携えている聖鳥は孔雀だというから、その辺りが命名の由来だと推測する。カラスアゲハの英名は、「Chinese peacock」。中国の孔雀だもんね。

更に図鑑でjuniaの学名を探してみる。
1982年保育社発行の「原色日本蝶類生態図鑑1」では、オキナワカラスアゲハは別種扱いになっていたが、ヤエヤマカラスアゲハはカラスアゲハに含み、亜種 bianor juniaとしている。
一方、2006年学研発行の「日本産蝶類標準図鑑」のヤエヤマカラスアゲハの項には「与那国島産と西表島産・石垣島産の間では(中略)、一般的に、与那国島産の方が青色鱗が発達し、台湾亜種に近いと言われている。八重山諸島に産するものは八重山亜種 junia Jordan,1909とされる。」
(|| ゜Д゜)えー❓、青色鱗はタカサゴカラスよりヤエヤマカラスの方が発達してるような気がするぞー。人によって見え方が違うのかな?
それに、与那国島産も石垣島産も見た目には、そう大差ないと云う記憶があるんだよなあ…。
又しても混乱してきた。もうー(ToT)、結局のところヤエヤマカラスアゲハの学名がどれが正しいのー❓益々、ズブズブの混迷の域に突入じゃよ。もうアタマわいてきた。(_*)ワケわかんねえや。

しかし、確か両者の交配結果では妊性が充分あって、F1(第1世代)もF2(第2世代)も出来るんだったよね。
と云うことは、やっぱり同種と言わざるおえないのかなあ…。しかし、ふと思う。妊性の有無が、はたして種を分ける絶対的なものなのかしら?F1が出来てもF2が出来なければ別種で、出来れば同種って誰が決めたのだ?それだって、誰かが勝手に決めた線引きに過ぎないとは言えまいか?
まあ、きっと学術的にそう認められる整合性のある理論がちゃんとあるのだろうし、そんな事を言い出したら分類なんて出来ないんだけどさっ。
妊性は置いといて、見た目でそこそこ区別できるものは、もう全部に和名をつけちゃったらエエやんかと云う暴論を吐きたくもなってきたよ。
研究者の中で、もの凄くお偉いさんで人望がある人がスッくと立って、カラスアゲハの分類について英断を下してくんないかなあ。ダメならば、いっそこの際ネットの公開多数決でもいいぞー。その結果には素直に従いますよ。とにかく、スッキリさせて欲しいワ。

ここで重大な事に気づく。
書き忘れたが、成虫の画像はみな夏型である。
春に台湾に行った事がないのだ。実をいうと、八重山諸島にも春に訪れた事は無い。勿論、持ち合わせの標本もない。ここまで書いてきて、完全な片手落ちである。相変わらずの詰めの甘いダダ漏れ男なのである。

一応、春型の画像をお借りして添付しておくか…。

 
【ヤエヤマカラスアゲハ春型♂】
(出典「昆虫舘」)

 

 
(出典2点とも「虫村の日記」)

 
【同♀】
(出典「虫村の日記」)

 
前にも言った事あるような気がするけど、この方の展翅は上手いよね。

( ̄ _  ̄)うーむ、夏型とは明らかに違う。
解りやすく纏められている方の画像も見つけたので、更に画像をお借りさせて戴こう。

 
(出典『昆虫館』)

 
上から夏型の♂。春型の♀、春型の♂と云う順番で、その右側がそれぞれの裏面になる。
春型は夏型に比して全体的に色調が暗い。翅の形はヤエヤマカラスだけど、下翅の青緑紋の色調はタカサゴカラスに近いような気もする。でも青緑紋の形はヤエヤマカラスアゲハ寄りである。(-“”-;)むにゃあ~。

お次はタカサゴカラスの春型。

と書いて進めようとするも、おっとととっととー。
Σ( ̄ロ ̄lll)ぎゃひーん❗❗
でもググっても画像が全然出てこん。特に春型とかスプリングフォームと名打っている記述が見つからないのだ。
ここで、ハタと思った。タカサゴカラスって周年発生で冬も成虫がいるって事だよね。ならば、そもそも春型って云うフォームが存在しなかったりして…。だから、春型らしきものが見つからないのかもしれん。
いやいや、🎵ちょっと待て、ちょっと待て、お兄さん
八重山諸島でも、最西端の与那国島辺りまでくると、台湾と緯度は同じだぞ。経度も近い。晴れた日には、与那国から台湾が肉眼で見えるとも言うじゃないか。

再度、図鑑で確認してみる。
標準図鑑には、フォームの違いは特に記されていないが、3月上~中旬が第1化(春型)とハッキリ明記されている。生態図鑑には「八重山諸島では個体数は少ないが低温期にも姿を見ることがあり、発生に遅延はあっても本土産のように明瞭な休眠をしないものと考えられる。」と記述され、春型については触れていない。
\(@@;)/ひょえ~。オイちゃん、又しても迷宮に迷いこむ。
だが、今度は冷静だぜ。タカサゴカラスアゲハの垂直分布は、下は海沿いの海岸林から上は標高2500mくらいと幅が広い。思うに、低地では周年発生で、標高が高い所では日本と同じく蛹で越冬している筈だ。と云う事は、そこでは春型も存在するに違いない。
とはいえ、画像を図示できてないからなあ…。
それに生態写真を数多く見ていると、段々タカサゴカラスアゲハとヤエヤマカラスアゲハが同じに見えてきた。何だか自信が無くなってきたよ。ヤバイ。迷走グダグタだ。
(○
○)ひゅろろろろ~、ピッ・ボッ・ロッコ・ケ~。

『赤ん坊はもう疲れたよ。いつまでも壊れた玩具(オモチャ)で遊び過ぎたからね。もう、さよならをするよ。』

                  おしまい

 
 
追伸
かつてないスゴい尻切れトンボの終わりかたである。
無責任、敵前逃亡、オチなし。こんな突然ブッツリで終わるだなんて、自分でも過去に記憶が無い。
でも、頭の中がサドンデス、突然ブッ壊れてR.チャンドラーの小説『長いお別れ』の一節が口から漏れ出て脳が急停止したのだ。心と体が、これ以上考えるのはよせと命令したのであろう。久し振りの長文に耐えきれず、自己崩壊したのかもね。
ゆえに、この追伸は翌日に書いているのら。
時間が経って冷静さを取り戻しているので、書き直そうと思えば書き直せなくもない。しかし、このままにしとく事にした。コレはコレて良いではないかと思ったのだ。たまには、こう云う回もあってもいいでないか。

               2018.12.16

 
追伸の追伸
お願いだから『復帰早々、ポンコツかよヾ(¬。¬ )』とか言わないでよねー。
 
 

台湾の蝶16 1/2 さまよえるカラスアゲハ

 
(前書き)
2ヶ月前に草稿をある程度書いたところで、書きあぐねてそのまま放置していた文章である。
そもそもは台湾のカラスアゲハについて書く予定だったのだが、そうなると台湾のみならず他の地域のカラスアゲハについても言及せざるおえない。だが、コレが分類学的に誠にややこしい。説明するとなると、カラスアゲハの全体像を整理して書くだけでも長文にならざるおえない。そこから更に台湾のカラスアゲハについて論じなけれならないと思うと、オジサン、💫クラッと目眩(めまい)でよろめいたよ。
ゆえにここは敢えて分けて、先ずはカラスアゲハの種全体について書き、のちに回を改めて台湾のカラスアゲハのことを書こうと思った。だから第17話ではなく、第16 1/2話なんぞと云うややこしい表記になったのである。
言い訳とか御託はこれくらいにして、取り敢えず書き始めまーす。

 
  第16 1/2話『さまよえるカラスアゲハ』

 
カラスアゲハの分類は昔から学者やアマチュア研究家たちが百家争鳴、それぞれバラバラの主張が入り乱れてグチャグチャに錯綜してきた歴史がある。
次回に予定している台湾のカラスアゲハの回を上梓する前に、ここで今一度カラスアゲハの分類を整理しておきたいと思う。でないと書いてる本人もワケわかんなくなるだろうし、読んでる方はもっとワケわかんなくなりそうだ。
とはいえ、カラスアゲハの世界はラビリンス(迷宮)である。どこまで解り易く説明できるかは書いてみないとわからない。蝶採りを始めてまだ10年ゆえ、過去の分類の変遷史も、当時の論争がどんなものだったのかもあまり知らないのだ。出口の見えない無間地獄(むけんじごく)に陥るやもしれぬし、勝手な推察や思い込みがやたらと入ってしまい、正確性を欠く文章になるやもしれぬ。でもここは当たって砕けろで、ともかく舟を漕ぎ出そう。

 
従来、カラスアゲハは東アジアから中国北西部にかけての冷温帯から亜熱帯にかけて広く分布し、各地で変異はあるもののそれぞれ亜種とされ、全部ひっくるめて「Papilio bianor」とされてきた。

 
(出展『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
しかし、沖縄諸島のカラスアゲハを雌雄の交尾器や斑紋の違いから、別種「Papilio okinawensis」とする研究者も現れた(川副・若林 1976)。
推察だが、その辺りから喧々諤々の論争が始まったのではないだろうか?
さらに奄美大島の亜種ssp.amamiensisを別種とする見解もあったようだし、それらを全て認めずに以前と同様にカラスアゲハ(Papilio bianor)1種とすべきと云う意見も多かったみたいだ。
確か日本で採れた蝶の種類数を競う「与那国ルール」では、遺伝子解析後も頑としてカラスアゲハは1種として数える事になってたけど、あれって今でもそのままなのかなあ……。

この時点で早くも書きあぐねだしたのだが、ここは落ち着いて先ずは日本に棲むカラスアゲハから説明していこう。

 
カラスアゲハは中国北西部から日本全国、北は北海道から南は沖縄・八重山諸島まで見られ、各地で独自進化は見られるものの各々亜種とされ、昔は全てが同種Papilio bianorとされていた事は既に述べた。
因みに日本国内では、以下のような亜種に分けられていた。

 
◆ssp.dahanii
カラスアゲハ(日本列島亜種)

(2018.4.28 大阪府大東市 飯盛山)

 
分布は北海道・本州、四国、九州、対馬など。
これがワシらが見慣れたカラスアゲハだね。

   
(2018.4.28 大阪府大東市 飯盛山)

 
(2018.4.23 東大阪市 額田山)

 
(2018.4.23 東大阪市 額田山)

 
上3つが♂、下が♀で、何れも春型である。基本的に春型は夏型に比べて小振りで、斑紋のメリハリがあって美しい個体が多い。

夏型はこんなんです。

 
【夏型♂】

 
【夏型♀】
(二点共 『日本産蝶類標準図鑑』)

 
なぜか標本が見つからないので画像を図鑑から拝借。
たぶん、あまり綺麗じゃないから真面目に採ってないのだ。実際、ネットで画像を探してもミヤマカラスアゲハばかりで、カラスアゲハの夏型の標本写真は数える程しかなかった。人気ないんだね。

それはそうと、よくよく考えてみれば春型のカラスアゲハ(ssp.dehaanii )って近畿地方でしか採った事がないや。多分、本土産はわざわざ他の地方にまで採りに行く蝶ではないからだろう。場所によってさして大きな差異は無いし、ミヤマカラスアゲハと比べればどうしても美しさにおいて劣るから、扱いが蔑(ないがし)ろになりがちなのだ。
とはいえ、厳密的には北海道産は明るめの色で九州産は黒っぽくなる傾向がある。かといって、どこでもそれなりに色調にヴァリエーションがあるんだよなあ。パーセンテージは別として、青系、緑系、黒系が同じ場所でも混じるのが普通かと思う。
元々、種として個体変異に幅のある蝶で、多型性を包含する某(なにがし)かを持っているのかもしれない。例えば遺伝子が変化しやすいとかさ。
あっ、そっか( ̄▽ ̄;)…。その辺が分類を難しくさせている原因なのかもしんない。

 
◆ssp.hachijonis
ハチジョウカラスアゲハ(八丈島亜種)

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

 
標本を持っていないので、図鑑から画像を拝借。
左が♂で、右側が♀である。特徴は本土のカラスアゲハに比べて色調が明るいところ。
カラスアゲハは毒のあるジャコウアゲハに擬態しており、ジャコウアゲハが分布しない地域(北海道、伊豆諸島、トカラ列島)では色調が明るくなる傾向があるという見解がある(柏原精一 1991)。

 
【ジャコウアゲハ♂ Byasa alcinous】
(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

 
【同♀】
(2015.8.28 大阪市淀川河川敷)

 
けど、個人的意見としてはホントかね?と思う。
実際、海外でもこの法則はある程度あてはまるみたいなんだけど、だとしてもマネシアゲハなんかに比べれば擬態の精度は相当に低いと思う。
そんなに見た目が似ているとは思わないし、飛び方なんかは全く似てない。ジャコウアゲハは緩やかに飛ぶが、それと比べるとカラスアゲハは断然速い。飛ぶ高さだってジャコウアゲハよりも高いし、そもそもの生息環境が違う。ジャコウアゲハは主に草原的環境を好むが、カラスアゲハは森の蝶だ。
( ̄▽ ̄;)いや、待てよ。たまに森でもジャコウアゲハを見かけるなあ…。沖縄本島なんかは、わりかし森にもいたわ。草原と云う環境には後から適応したのかもしれない。
まあいい。そこは置いとくとしても、とにかくジャコウアゲハと間違えるだなんて、よほどのことがない限り有り得ない。一般ピーポーの素人ならまだしも、蝶屋で騙された事がある人って果たしているのかね❓いたとしたら、蝶屋としてさあー…。
やめておこう。人のことはどうでもよろし。
とにかく蝶の一番の天敵である鳥は、人間が思っている以上に賢い。犬よりも賢いという説まであるのだ。だいち、鳥の目は四原色でメチャクチャいい。この程度の擬態精度で、鳥の目が誤魔化せるとは思えない。学者やベテラン蝶屋は、ちょっと似てるくらいで矢鱈と擬態関係にしたがる傾向があるような気がするんだよねー。そこにはきっと擬態であって欲しいという願望が入ってんじゃねーかと思う。
まあ、とは言いつつ、ぺーぺーのクセに自分にもそう云う傾向が多分にあるんだけどもさ( ̄∇ ̄*)ゞ。

とにかくオラはこのジャコウアゲハ擬態説に関しては懐疑的である。真似してるとしたら、中途半端過ぎっしょ?速く飛ぶのは難しくても、ゆっくり飛ぶのは簡単な筈。本気で真似する気があるのなら、とうにゆっくり飛んどるわい(#`皿´)❗と思うんだよね。
翅の色が明るくなる事とジャコウアゲハがいない事との相関性なんて本当は無くて、単なる偶然の一致だと思うんだよなあ…。
擬態関係にしちゃうと、生物の不思議ワールド増幅でアカデミックと云うか、何となくカッコよく見えるのだ。それに大概の事がそれなりに都合よく説明できる。だいたい擬態って、言うほど効果とかあんのかね?意外と無いと思うぞ。そういえばヒヨドリ?か何かにバクッといかれたカラスアゲハを見た事があるなあ…。だいち、明らかに鳥に後翅を啄まれて損傷したような個体が多いじゃないか。中途半端な擬態は効果無しっしょ。Chilasa paradoxa(パラドクサマネシアゲハ)とかクラスの高い擬態精度が無いと効力は低いんじゃねえの?

  
◆ssp.tokaraensis
トカラカラスアゲハ(トカラ列島亜種)

 
戴き物の標本で、トカラ列島 諏訪之瀬島の飼育品である。
ハチジョウカラス程ではないようだが、コチラも青緑鱗粉が明るく、♀の上翅に黄白斑が出るのが特徴。図示した個体は、たぶん夏型だろう。

 
◆ssp.okinawensis
オキナワカラスアゲハ(沖縄諸島亜種)

 
(2013.2.28 沖縄本島 名護市)

 
【裏面】

  
両方とも春型。
オキナワカラスの春型も夏型と比べて小振りで、色鮮やかな傾向がある。個人的には春型の方が断然好き。

本土産に比べて地色の黒みが強く、下翅の赤色弦月紋が大きくなる。翅形も四角いので、次のアマミカラスと共にカラスアゲハの中ではかなり異質なグループだろう。

 
◆ssp.amamiensis
アマミカラスアゲハ(奄美諸島亜種)

  

 

 
(全て2011年 9月 奄美大島)

 
上3つが♂で下が♀。
上の2つは同じ個体ですが、色が撮影条件により随分違って見える事を示す為にわざと添付した。だから、以下の写真も色そのままを鵜呑みしないで戴きたい。蝶は光の当たり具合など諸条件でどうとでも変わって見えるものなのです。
ハハハ( ̄∇ ̄*)ゞ、自分の撮影技術の拙さを棚に上げといてよく言うよ(笑)
とにかく、色みは参考程度に思って下され。

これらは秋の個体だが、色調からして夏型と言っていいだろう。春型は下翅の青紋に赤が入る。

オキナワカラスアゲハに似るが、♂はより青みが強く、♀の下翅の赤紋は大きくなる傾向がある。また、翅形は更に四角くいボックス型。裏面の白帯もよく発達する。

 
【裏面】

 
う~ん、裏面の画像を入れると他も入れないとアカンかなあ…。
えーい(*`Д´)ノ!、これで誤魔化しちゃれー!!

 

 

 
(三点共 出展『日本産蝶類標準図鑑』)

 
あんまりカラスアゲハの裏をまじまじと見たことなんて無いけど、結構違うものなんだね。

 
◆ssp.junia
ヤエヤマカラスアゲハ(八重山諸島亜種)


 
(2013.10.4 石垣島 万勢山)

 
野外で見ると色は下の個体に近いが、斜め下から見ると上の個体みたく見える。
手持ちの標本は♂しかない。なぜか♀はボロしか採った事がないのだ。ゆえに画像を拝借させて戴こう。
ヤエカラの♀って、必死に探した記憶が全然ない。あんま綺麗じゃないから、探すモチベーションも低かったんだろなあ…。

 
(出展『虫村の日記』。画像はトリミングしています。)

  
全体的に地色が黄緑色っぽくて、♂の下翅弦月紋の目立たない傾向が強い。翅形はオキナワカラス程ではないが、やや四角っぽい気がする。本土産と沖縄・奄美大島産の中間くらいかな?少なくともお隣の台湾産よりは四角っぽいと感じる。台湾産は翅が外側に広がり、尖って見える。

( ̄□ ̄;)!!あっ、ここでオイチャン重大なことに気づく。
図示した個体は夏型だわさ。色も形も完全に夏型目線でした。そもそもワシって夏とか秋にしか八重山には行ったことがないわ。春型の実物は見たことがないから全然アタマに無かったよ。

 
【春型】

(二点共 出展『虫村の日記』。画像はトリミングしています。)

 
スマン、スマン。春型には、ちゃんと紋があるわ。
でも地味なことには変わりない。ハッキリ言ってババちいカラスアゲハだ。春型でこれじゃあ、人気がないのも解るわ。
それにしても、このお借りした画像3点共がキレイな展翅だなあ。この方の展翅は上手いなと思う。

ここで、ふと気づく。全ての亜種の春型と夏型の雌雄を図示するべきなんじゃねえの?と。
しかし、既にオジサンは疲れてへろへろなのだ。どうしても気になる人は、自分で画像を探してくだされ。

お隣の台湾のカラスアゲハ(ssp.thrasymedes)とはあまり似ていなくて、パッと見はむしろ別種のタイワンカラスアゲハ Papilio dialisに似ていると思う。春型は見たことがないから、あくまでも夏型目線でだけど。

 
【タイワンカラスアゲハ♂ Papilio dialis】
(2017.7 台湾南投県仁愛郷)

 
翅形など細部は厳密的には違うけど、少なくとも色とか鱗粉の粒子の粗さ具合なんかはかなり似ていると思う。
お陰で、なあーんも考えずに発作的に台湾に行った時は頭が混乱した。何も調べずに初めて行ったから、知識もショボくて台湾のカラスアゲハ事情なんて知らなかったのだ。採ってるうちに何となくどうやら2種類いるようだとは解ったが、どっちがホントのカラスアゲハなのか首をひねった。この辺の事は次回にて詳しく書きます。

それにしても翅が剥げててみっともない標本だなあ。
えー、恥ずかしながらこれは人為的損傷です。展翅後にアチキが誤って手を触れて、ゴソッといっちゃいました。
他にも手持ちのタイワンカラスは幾つかあって、キレイなのもあるんだけど、まだ展翅もしてない。これを機会に展翅しようかとも思ったが、面倒くさいのでやめた。書いてて、もうだいぶウンザリしてきてて、そんな気力は無いのだ。

以上、日本産のカラスアゲハの亜種は従来こんな風に分けられてきた。
しかし、大英博物館の「okinawensis」のところにあったタイプ標本(種の基準となる標本)を確認した或る研究者(藤岡 知夫氏?)が、そこにあったのが八重山諸島のヤエヤマカラスアゲハだったことから、八重山産のカラスアゲハにokinawensisの学名をあてるべきとした。
だが、阿江 茂氏(?)はそれ以前に大英博物館で確認した時には、okinawensisのところには標本が無かったこと(それ以降に標本が置かれた事になる)、学名の命名者であるFruhstorferが南西諸島の島の名前を間違うとは考えられないこと、原記載の論文で示した特徴がオキナワカラスアゲハに合致することなどにより、その論が間違いである事を指摘した。
これに対して藤岡氏は『日本産蝶類及び世界近縁種大図鑑1』の中で以下のような反論をしている。長いが引用しよう。

「bianor okinawensis のタイプ産地(最初に採集された場所)について、タイプがすり替わったのではないかと疑問がなされている(阿江 1990)。確かに、現在あるタイプがすり替わっている可能性は無い事はないが、記載者が何を見てどう判断したかまで考え始めたら、あらゆる動物のタイプに疑問が持たれることになる。Fruhstorferのokinawensisの原記載には、石垣島から手に入れたと明記されており、タイプ標本として大英博物館に残されている標本も石垣島産であり、Fruhstorferの記載以前にFritzが入手した個体はもとより、沖縄産のカラスアゲハの標本は大英博物館には全く無いのであるから、okinawensisのタイプは石垣島以外に考えられない。必要以上に学名を窄鑿してもサイエンスは何も進歩しない。」

中々の泥試合である。
藤岡氏はこの論に則って八重山諸島の亜種名juniaをを破棄して「ssp.okinawensis」とし、沖縄・奄美諸島のものには新亜種名「ryukyuensis」を与えた。
おかげで古い文献を読んでいると困る。中身が学名表記のみの文章だと、それがオキナワカラスアゲハを指しているのか、それともヤエヤマカラスアゲハを指しているのかが読んでる途中でこんがらがってくる。で、アタマがパニックになるのだ。
まあ、二つの学名が存在するのだから仕方がないにしても、後からこの世界に入ってきた者としては迷惑千万である。

だいたい、ryukyuensisという命名の根拠も疑問だ。
ryukyuは琉球を指すのだろうが、それが琉球王国なのか、それとも琉球諸島を指すのか判然としない。それによって微妙に示す範囲が変わってくるのだ。
琉球といえば、奄美諸島から台湾までの間を指すのが一般的だが、諸説あって薩南諸島や大東諸島、尖閣諸島も含むとする見解もある。何れにせよ広範囲なのだ。
だからryukyuensisを使用することによって、混乱を誘発させる可能性を十二分に孕んでるよね。知らない人なら、学名を見て奄美大島辺りから与那国島まで分布する蝶と思いかねない。
何で「yanbaru(山原)」とかにしなかったのかね?沖縄本島では主に北側の山原地域に生息してるしさ。
あっ、奄美大島にもいるから無理か…。
ワタクシ、書き疲れておりまする。脳が回らなくなってきております(@@;)
とにかく下手に地域を指す言葉を使って混乱を起こすような学名なら、嫁はんの名前でもつけとった方がまだええんとちゃうかー。
あっ、スイマセン( ̄∇ ̄*)ゞ。暴言です。ワタクシ、書き疲れておりますから、脳が回らなくなってきておるのです(@
@;)。

学名を巡る論争はまだまだ続く。
種の解明の為に各地のカラスアゲハの交配実験も盛んに行われるようになった。
ようするに生殖的に離れていれば、両者は別種という考え方だ。つまり交尾をして次世代が生まれたとしても、その世代に生殖能力が無ければ既に種分化しており、別種であると云う見解だね。
えー、もっと解りやすく説明すると、ライオンとヒョウが交尾すると「レオポン」と云う雑種(F1)ができるんだけど、そのレオポンには生殖能力が無くて、レオポンのオスとメスが交尾しても子供(F2)は産まれない。もしくは産まれても奇形だったり、親までちゃんと成長しない。ゆえにライオンとヒョウは別種であると云う証明になるってワケ。
一方、人間はたとえ肌の色が違っても子供はでき、その子供には生殖能力がある。だからブラックもホワイトもイエローも同一種で、ホモ・サピエンス(人間)は1種類ってワケだね。人類みな兄弟なのだ。
皆しゃーん、つまりは肌の色で差別するのはナンセンスなのですよー。

話が逸れた。戻ろう。
各地のカラスアゲハを交配したところ、本州産(ssp.dehaanii)とオキナワカラスアゲハとの交配ではF1(第1世代)の♀は不妊であり(浜 1977)、ヤエヤマカラスアゲハとは♂♀共にF1に生殖能力はあるが完全ではなく、同一地域のF1に比べると生育率は低い(阿江 1990)という結果がでた。

これに対して藤岡氏は次のような見解を述べている。

「交雑実験の結果によれば、沖縄のカラスアゲハは八重山及び本州のカラスアゲハに対し、100%別種ではないが、100%同種でもない、別種と同種の中間の状態であると言える。そこで、もし地殻変動が起こるなどで、二つの群が同所的に棲息を始めたと仮定したら、両者の間に、交尾形態が異なるといった交尾阻害機構が存在しない限り交雑し、交雑すればF1が生じるのであるから、両者の血は交じりあっていく可能性が高い。この場合も命名法上の単位としては、両種を一つの種として扱うべきである。」

おいおい、アンタ、大英博物館云々のオキナワカラスの学名のくだりで、たられば論は否定するような事を書いてたんじゃないの?現実には起こっていない地殻変動まで持ち出してきたら、それも立派な「たられば論」だじょー。

オキナワカラスは見た目にも他のカラスアゲハとは異質で、♂前翅表面の性標と♂♀の前翅裏面の白帯がミヤマカラスアゲハ的である上、幼虫形態も他地域のカラスアゲハと差異があるとされる。ゆえに別種と考える人も多かったそうだから、この交配結果で俄然オキナワカラス別種説が有力になったようだ。でも、沖縄諸島のものを別種にするならば、他の地域の亜種も別種にすべきであるという意見なども噴出したみたいだね。たぶんアマチュアの蝶屋の間でもそれぞれの持論が飛び交い、口角、泡飛ばして議論されたんだろうなあ…。絶対、人間関係とか悪くなったと思うな。

その後、台湾、八重山諸島、沖縄諸島、奄美諸島、本州の隣り合う地域間の交配も行われた(阿江 1990)。全ての組み合わせを試したワケではないものの、結果は生殖能力を持つF1が生じたようだ。この結果と先程の藤岡氏の見解が、全てのカラスアゲハを1種とカウントする「与那国ルール」のネタ元かもしんない。
因みに論文を直接読んでいないから、生育率はわからない。良くはないと推察するけどね。まあ、飼育は気温や湿度などの環境とか与える食餌植物、飼育者の技術力などによっても自ずと変わってくるだろうから、結果は一概に鵜呑みできないところはあるよね。また、1度だけの実験では正確性に欠くから、それをもって論じるのは危険だわね。じゃあ、いったい何回同じ実験を繰り返せば信頼できる結果だと言えるのか?これまた大きな問題ではある。3回?5回?10回?それとも100回?、最低何回の実験をすればいいのかなんて誰にも断言できないよね。

とはいえ、色んな人が交配を試したみたいで、ssp.dehaanii(本土産)とssp.okinawensis(沖縄諸島産)、ssp.junia(八重山諸島産)間には種間雑種F1(第1世代)は出来てもF2(第2世代)が出来ないことの方が多いから、別種説が次第に有力になっていったみたい。

また同時に、それまでは近縁ではあるが別種とされてきたクジャクアゲハ Papilio polyctorとの交配実験も試みられたようだ。
交配結果をお伝えする前に、ここでクジャクアゲハとカラスアゲハの分布を整理しておこう。
カラスアゲハは極東から中国西部を経てミャンマー北部まで分布し、クジャクアゲハの分布は西はカシミール(東アフガニスタン)から東は中国四川省・雲南省にまで達し、中国西部からミャンマー北部の間が両者の混棲地とされてきた。

それでは交配実験の結果である。
ネパール産クジャクアゲハと本州産カラスアゲハの場合はF1♂には生殖能力があるが、♀には無い。つまり両者は別種、或いはそれに近い関係だという事だ。だが、事は簡単には終わらない。
何と、クジャクアゲハと台湾産カラスアゲハとの場合は、F1♂♀共に生殖能力があるという結果が出た。両者の幼生期の形態、生態も殆んど同じで区別がつかないという(原田 1992)。
また、その飼育実験によると、四川省の♀が産卵した卵から、何とカラスアゲハと判断される個体とクジャクアゲハと判断される個体の両方、及びその中間型が羽化したそうだ。
こうなると、クジャクアゲハはカラスアゲハ(Papilio bianor)と同種ではないかと云う見解も出てきた。
ワハハハハヽ( ̄▽ ̄)ノ、日本のカラスアゲハだけでなく、大陸のクジャクアゲハまでカラスアゲハ論争に割り込み参戦じゃよ。いよいよ戦禍は拡大。🔥火の海じゃわい。

  
【クジャクアゲハ♂ Papilio bianor gradiator】
(2015.4.13 Thailand Fang )

 
因みに、図示した個体は多分グラディエーターと云う亜種かと思う。それにしても、綺麗ではあるがグラディエーター(古代ローマの剣闘士)とは大袈裟な亜種名じゃのう(  ̄З ̄)

そういえばクジャクアゲハを初めて採った時は、Papilio paris ルリモンアゲハかなと思ったんだよね。

 
【ルリモンアゲハ Papilio paris】
(2015.5.22 Laos Tabok Tadxaywaterfall)

 
蝶採りを始めて三年目、何の知識もなく行った初めての海外採集で、まだルリモンアゲハを採ったことが無かったから区別できなかったのだ。それくらい似ている。
とはいえ、見慣れれば間違うことはまず無いんだけどね。

クジャクアゲハも亜種がいくつもあって、ややこしい。西から東へ順に並べてみよう。

 
◆ssp.polyctor(原名亜種)
アフカニスタン北東部~西ヒマラヤ

 
(出展二点共『swallowtails.net』)

 
上が♂で、下が♀。
小型で青緑色が強い。パッと見はルリモンアゲハと見紛うばかりだ。これは飛んでたら、また間違いそうだな。

 
◆ssp.triumphator
ネパール~ブータン

(出展『日本産蝶類及び世界の近縁種大図鑑』)

 
前翅表面に青緑色の帯を生じ、後翅の青紋も大きいとされる。
藤岡さんの図鑑だと、ssp.triumphatorの分布はネパール~ブータンになってるけど、インドシナ半島北部や中国西部のものにこの亜種名を宛がう人もいるようだ。ネパールからこの辺のヤツをひっくるめてtriumphatorという亜種名になったのかな?ワケ、わかんねーや。

  
◆ssp.ganesa(Dobleday 1842)
インド北部(カシヒル&ナガヒル、アッサム)

(出展『swallowtails.net』)

 
青緑色紋の形がヒマラヤの亜種に近く、前翅外縁に沿う青緑色帯が広いという。

 
◆ssp.significans
北ミャンマー

(出展『日本産蝶類及び世界近縁種大図鑑』)

 
斑紋はpolyctor系だが、次のstocreyiの特徴である白紋が僅かに出るのが特徴のようだ。また、後翅赤紋の発達が良く、前翅の翅形も尖る傾向がある。

 
◆ssp.stockleyi
ミャンマー南東部~タイ西部(Dawana山脈南部)

(出展『pictame』)

 
上翅の白紋、下翅を縁取る白が異様に発達しており、シナカラスアゲハを彷彿とさせる特化振りだ。
これはいつか自分で採りに行きたいと思う。
( ☆∀☆)おー、そういえばこの辺にはワモンチョウの王様、Stichopthalma godfleyi ゴッドフレイワモンチョウもいたんじゃなかったっけ❗❓

 
◆ssp.pinratanai
タイ東南部

(出展『swallowtails.net 』)

 
stocleyiと並ぶクジャクアゲハの異端児。下翅の瑠璃紋の発達が著しく、美しい種群である。
stocreyiとpinratanaiは共にpolyctor種群の分布の端にあり、しかも連続しない隔離された分布圏だから特化が進んだのではと推測されている。
これも現地に行って、是非ともこの目で見てみたい蝶だ。
( ☆∀☆)おーっ、そういえばこの辺にも特異なワモンチョウがいた筈だぞ❗
えーと、何だっけ?確かStichopthalma cambodia ハイイロワモンチョウという奴で、コヤツもカッコいいんだよなあ。
それにしても、特異なクジャクアゲハの分布と特異なワモンチョウの分布が重なるだなんて偶然とは思えない。何か地史的なものが関係しているのかなあ…。

 
◆ssp.gradiator
タイ北部、ラオス、ベトナム北部、中国雲南省

(2011.4.19 Laos Samnua)

 
最初に図示したタイ北部産よりもラオス東部産(ベトナム国境に近い産地)の方が、より東側なだけに下翅の青紋が減退傾向にある。とは言っても、同じ地域でも個体差は結構あるんだよねぇ…。

 
ついでに、まだ紹介していなかった日本以外のカラスアゲハ(Papilio bianor)の亜種も並べておこう。

 
◆Papilio bianor bianor(原名亜種)
中国東部~中国南部

(Papilio maackii ミヤマカラスアゲハ Achillides私論)

 
(出展『日本産蝶類及び世界近縁種大図鑑』)

 
図示した個体は黒っほくて地味だが、西へ行けば行くほど青紋が出るpolyctor的な個体が増えてゆくようだ。
bianorは黄河の北側と南側、厳密的にいうと北緯34~35度を境にして北型と南型に分かれるという。北型は次の朝鮮半島亜種(ssp.koreanus)から日本本土へと連なる型で、青緑色をしている。一方、南型は青緑色の鱗粉の濃淡が無くなる黒っぽい型で、クジャクアゲハに連なってゆく個体群かと思われる。

 
(出展『日本産蝶類及び世界近縁種大図鑑1』)

 
クジャクアゲハの飼育実験のところでも触れたが、四川省や雲南省ではbianor系とpolyctor系が自然状態でも入り乱れており、両者の中間的な特徴を有したものも得られるようだ。
正直、クジャクアゲハとされるミャンマー辺りから中国西部に分布するインドシナ半島北部の奴らは、自分程度の眼識では同じ種群にしか見えない。アッサム辺りのモノまで含めても、さして変わらないような気がする。
特異なstocreyiとpinratanaiは別としても、こんなの一つの亜種にまとめればいいのにと思う。とはいえ、見た目が連続的に変移してゆくので、どこで線引きするかは西側も東側も難しいよね。そうなると、中国からアフガンまで全部bianor1種としなくてはならなくなるんだよなあ…。それもまた変な感じではあるから、お手上げだすなあ。

 
◆Papilio bianor koreanus
朝鮮半島~中国黄河流域北側及び山東省

(出展『Insect Design』)

 
トカラカラスと同じように♀の前翅に白斑が出るが、黄色くはならないという。
とはいえ、相対的に見れば日本本土に分布するカラスアゲハ(ssp. dehaanii)に極めて近いと云うか、自分にはほぼほぼ同じに見える。亜種区分する程のものかなあ?遺伝子解析の結果は知りつつも、形態的見地から見てもそう思う。注釈するのを忘れたけど、この項はあくまでも形態的見地の目線で語っております。

ロシアやウスリーに分布する亜種もいたような気がするけど、あれはシノニム(同物異名)になってんのかしら?

調べてみたら、それらしき古い亜種名が3つも出てきた。

・Papilio bianor doii[Matsumura, 1928]
・Papilio bianor mandschurica[Matsumura, 1927]
・Papilio bianor nakaharae[Matsumura, 1929]

3つともシノニムになっている。
ssp.doiiは、dehaaniiのシノニムになっているようだ。
ssp.mandschuricaは、タイプ産地が中国・満州になっていた(ミヤマカラスアゲハのシノニム?)。となると、ウスリー亜種ではない。
ssp.nakaharaeは、樺太産に与えられたもののようだ。しかし、これは北海道のモノと区別がつかない為にdehaaniiのシノニムになったみたい。

ということはdoiiがウスリー亜種にあたるのかな?
まあ、今やどっちでもいいけど。

調べてたら、ついでに各種の英名もわかった。
せっかくだから付記しておこう。

西ヒマラヤのpolyctor(クジャクアゲハ原名亜種)は、「West Himalayan Common Peacock」。
東ヒマラヤのganesaは、「East Himalayan Common Peacock」。
その更に東側のgladiatorは、「Indo-Chinese Common Peacock」となっていた。
クジャクアゲハの和名は、この英名由来からの命名なのかもね。
因みにカラスアゲハは「Chinese Peacock」。
ようするにカラスアゲハはみんな孔雀さんなのだ。

 
◆Papilio bianor thrasymedes(takasago)
台湾本土

(2018.6.19 台湾南投県仁愛郷)

 
(2017.7 台湾南投県仁愛郷)

 
(2017.7.12 台湾南投県仁愛郷)

 
あまり使われていないが、タカサゴカラスアゲハという和名がある。区別するのには便利なので、便宜上、以後台湾本土のものにはこの和名を使用します。

私見では、お隣東側のヤエヤマカラスアゲハよりも反対側の中国大陸のssp.bianorに似ていると思う。
タカサゴカラスについての詳細は、次回17話に書く予定です。

 
◆Papilio bianor kotoensis
台湾 蘭嶼・緑島

(出展『花居虫時計』)

 
(出展『Papilio maackii ミヤマカラスアゲハ Achillides私論』)

 
例によって上が♂で、下が♀である。

和名コウトウルリオビアゲハ。
その名のとおり明るい青緑色をしており、カラスアゲハ(bianor)屈指の美しさを誇る。
緑島産も同じ亜種とされるが、コウトウルリオビアゲハ的な明るい青緑色から台湾本土のようなタカサゴカラスアゲハ的な暗い色のものまでが混在しており、特徴が一定しないようだ。そのことから、緑島産をssp.kotoensisに含めるのを疑問視する声がある。

こうしてヒマラヤのクジャクアゲハから日本のカラスアゲハまで西から東へと順に並べてゆくと、分布の端と端とではかなり見た目の印象が違うが、連続的に並べてみれば徐々に移行していっているようにも見える。

 
(出展『微博台灣台站』)

 
上段左2つが中国・天津産、右側3つが雲南省産のbianor。下段は左から順にgradiator(ラオス サムヌア産)、stocreyi(タイ西部)、significans(ミャンマー シャン州)、pinratanai(タイ東部)、台湾本土産(台北)、kotoensis(台湾 蘭嶼)となる。

stocreyiは別としても、あとは似た者同士だ。
それゆえか、やがてクジャクアゲハとカラスアゲハとを全部包含して1種類(Papilio bianor)とする考えが主流となっていった。

つまり、こんな風になっちゃうワケね。

 
(出展『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
(×_×;)あちゃー、茫洋過ぎて蝶屋ぺーぺーには何ちゃらワカランような事態だ。
大まかな分類から細分化されて、再び大まかに戻るって、何じゃそりゃ❓で笑っちゃうよな。

しかし、時は2000年前後のミレニアムの頃、遺伝子解析という伝家の宝刀的なものが昆虫界にも登場してくる。そして、21世紀の幕開けに相応しく多くの蝶屋を驚愕させる結果がもたらされた。

自分も今イチわからんので説明は端折るけど、簡単に言うと細胞核のDNAではなく、人間と共生するミトコンドリアのDNA、そのND5遺伝子の塩基配列によって種とは何ぞや?ってところを探ろうと云う試みなのだ。
一言つけ加えておくと、何でミトコンドリアなんだというとですなあ、細胞核のゲノムでは変化があまりないので使えないのだ。例えると、人間とチンパンジーは明らかに別な生物だよね。しかし両者の細胞核の遺伝子配列はたった1%しか変わらないのだ。つまり、人間とチンパンジーの祖先は共通だと云うことくらいしかわからない。それに比べてミトコンドリアのDNAの変化(進化)は早く、そいつを調べたら人間とチンパンジーの遺伝子の違いは9%になる。ようするに、それだけ違えば別種の証明になるってことなんだね。

いやはや、ここまで辿り着くまで長かったよ(´O`)
やっとこれで本題に入ることができる。それでは、カラスアゲハの遺伝子解析の結果じゃよ~\(^o^)/
おっと、その前にネタ元はこれね。

 

 
JT生命誌研究館(高槻市)のオサムシ研究グループと基礎生物学研究所(岡崎市)の蝶類DNA研究会が発行した遺伝子解析のレポート(1995~2004年)を一冊にまとめたものである。
ニュースレターという形をとっており、正式に論文として発表される前段階のものと思われ、研究結果の速報、あるいは論文の予報みたいなものだろう。
その後、細かいところを詰めて各紙に正式発表されている筈だから、細部の違いはあるかもしれない。しかし概ねの論旨は変わらないものと判断して、そのまま引用させて戴きます。
字が小さくて見にくいですが、画像をクリックすれば拡大できます(の筈です)。できなければ、ハズキルーペを使いましょうね(^o^)

 
(出展『蝶類DNA研究会No.2 「カラスアゲハ亜属(Achillides)の系統関係」』)

 
カラスアゲハの仲間の系統図はこんな感じ。
普通レベルの蝶屋ならば、系統図を見ただけで『ふむふむ、なるへそね( ̄ー ̄)』となるとは思う。でも、キレイなオネーチャンと前途あるオコチャマたちの為に一応解説しときますね。

図を見ると、この群はナガサキアゲハ(P.memnon)やオナガアゲハ(P.macilentus)から分かれ、さらにオナシアゲハ(P.demoleus)と分岐した。このオナシアゲハから分岐したグループの総称がAchillides(カラスアゲハ亜属)と呼ばれているものだ。
そこから最初に分岐したのがperanthus group(アオネアゲハグループ)だ。

 
【アオネアゲハ Papilio peranthus adamantius】
(2013.2 Indonesia Sulawesi)

 
スラウェシ島亜種である。アオネアゲハは多くの亜種に分かれるが、コヤツは群を抜く巨大亜種です。
スラウェシ島の蝶は巨大化する傾向が強いんだけど、その例によくあげられている。

何だか展翅が下手クソなので、アオネアゲハグループからもう一点追加しよう。

 
【ヘリボシアオネアゲハ Papilio lorquinianus】

 
これは買った三角紙標本を自分で展翅したもの。
多分、マルク(モルッカ)諸島のBacan島亜種だったかと思う。触角が折れているが、これは最初から。でもオマケで付けてもらったモノだから文句は言えない。美しい種だし、いつかパプア・ニューギニアに行けたらシバキ倒したいね。

 
次に分化したのが、palinurs group(オビクジャクアゲハグループ)だ。
オビクジャクは幾つか採った事があるけど、全部ボロなので同じグループのブルメイアゲハ(オオルリオビアゲハ)でお茶を濁しときまーす。

 
【ブルメイアゲハ Papilio blumei】
(2013.2 Indonesia Sulawesi Palopo)

 
これもスラウェシ島特産だからバカでかい。
グループ最大種で、オビクジャクとは大人と子供ほどの差がある。
尾っぽまでギラメタで好きな蝶。

 
ブルメイと分化したもう一方のクラスターが、所謂(いわゆる)真性カラスアゲハ群と呼ばれているグループだ。
そこから更に2系統に分かれてゆく。
上側がbianor group(カラスアゲハグループ)、下側がPapilio maackii ミヤマカラスアゲハやタカネクジャクアゲハなどが含まれるグループである。
そして、ミヤマカラスアゲハ系のクラスターから先ずはparis group(ルリモンアゲハグループ)が分かれ、そこから更にPapilio karna(カルナルリモンアゲハ)のグループが分岐していった。

ルリモンアゲハはクジャクアゲハの項で画像を貼付したので、ここではカルナルリモンアゲハの画像のみ図示しときます。

 
【カルナルリモンアゲハ Papilio karna】
(出展『蝶の標本 麗蝶』)

 
ルリモンアゲハとカルナルリモンアゲハは何となく似ているから近い関係なんだろうとは思っていた。だから納得の結果だわね。とはいえ、大きさはかなり差があってカルナの方が断然大きい。

図示した個体は、ssp.irauana パラワン島(フィリピン)亜種だが、他にポルネオ(ssp.carnatus)やジャワ島(ssp.karna)にもいる。だが、ジャワ産のものとボルネオ・パラワンのものとは塩基配列に大きな違いがあるようだ。
また、ルリモンアゲハの各亜種も塩基配列に大きな違いが見受けられる。それをうけてか、たしか現在は台湾中南部のルリモンアゲハと北部に棲むルリモンアゲハ(従来オオルリモンアゲハと呼ばれていたもの)が別種扱いになっている筈だ。北部のものがルリモンアゲハ(paris)の亜種(ssp.nakaharai)とされ、中南部のものには新名タイワンルリモンアゲハ Papilio hermosanus が与えられている。両者は幼虫形態にも差があり、食餌植物も違うという。

 
もう一方のクラスターからは最初にオオクジャクアゲハ(Papilio arcturus)が分かれた。

 
【オオクジャクアゲハ Papilio arcturus】
(2016.4 Thailand Fang)

 
このオオクジャクが分布拡大して辿り着いた果てが台湾で、後に隔離されて進化したのがホッポアゲハだろう。

 
【ホッポアゲハ Papilio hoppo】

 
(2016.7.12 台湾 南投県仁愛郷)

 
上が♂で、下が♀である。
ホッポアゲハはオオクジャクアゲハの亜種とされた時期もあったようだから近縁なのは解っていたけど、やはりそうなんだね。
とはいえ、いまだにホッポアゲハをオオクジャクアゲハの亜種とする研究者もいるようだ。確かに成虫の生態はほぼ同じで、♂は山頂や尾根の高い梢でテリトリーを張る。しかし、両者の分布間には広範囲の空白地帯があるので雑交する可能性は極めて低いから、別種とするのが妥当だろう。ところで、オオクジャクとホッポの交配をした人っているのかな?

 
さらにクラスターはタカネクジャクアゲハとミヤマカラスアゲハに分離する。

 
【タカネクジャクアゲハ Papilio krishna】
(出展『オークファン』)

 
タカネクジャクアゲハはオオクジャクアゲハよりもミヤマカラスアゲハに近いんだね。ちょっと驚きでした。いや、図で見たらそう見えるだけか?分岐順は図とは関係ないかもしんない。何れにせよ、オオクジャク、ホッポ、タカネクジャクの三者が近い関係である事には変わりはないだろう。

クリシュナ(タカネクジャク)は、死ぬまでに一度はフィールドで生きてる姿を見てみたい。
もし見たら、アドレナリン💥爆発!採れたら悶絶必至じゃよ。

そして最後は日本人にも馴染みの深いミヤカラさん。

  
【Papilio maackii ミヤマカラスアゲハ】
(2013.6.23 北海道 芽室町)

 
(2018.4.23 東大阪市枚岡)

 
日本一美しい蝶を選ぶとしたら、おそらく最も票が集まるであろうと言われている美麗種。特に北海道産は輝きが強くて美しい。
日本にいるからあまり感じないけど、ヨーロッパやアメリカのコレクターなんかには憧れの蝶らしい。

 
そして、渋い美しさのシナカラスアゲハ。
何とミヤマカラスアゲハと同種だと云う結果が出た。

 
【Papilio syfanius シナカラスアゲハ】
(出展『蝶の標本 麗蝶』)

  
従来は別種とされてきたが、ミヤマカラスアゲハとの分布間に両者の中間的なものがいるから、一部では同種ではないかと噂されてはいた。にしても、この結果に衝撃を受けた人は多かったのではなかろうか。
だって見た目は全然違うもんなあ…。でも塩基配列がほとんど同じなんだよね。(´д`|||)う~ん、個人的には別種であって欲しかっただすよ。

あっ、こんなこと書いているから長くなるのだ。
とっとと肝心のカラスアゲハグループに進もう。

 
(図1カラスアゲハ亜属のDNAによる系統樹(『カラスアゲハ亜属(Achillides)の系統関係』より抜粋トリミング)

 
これが今回のお題であるカラスアゲハの系統図である(コチラも画像は拡大できます)。
いよいよ、ここからが主題であり本題です。いやはや、ここまで来るのはホント長うございました。

 
このグループからはPapilio dialis タイワンカラスアゲハが最初に分岐した。
ふう~ん、あんまり考えた事がなかったけどタイワンカラスはカラスアゲハと近いんだね。
タイワンカラスの画像は既に添付済みなので、ここではベトナムやラオスなどにいる無尾型(ssp.doddsi)ドドッシーの画像を添付しておこう。

 
【Papilio dialis doddsi】
(出展『蝶の標本 麗蝶』)

 
またしても『麗蝶』さんからの画像拝借なのだ。
展翅が他と比べて断然にキレイだから、いの一番にこのサイトから画像を探します。やっぱ、プロの展翅はちゃいますわ。

ここでふと思う。じゃあ、タイワンカラスの無尾型と見た目が似ているオナシカラスアゲハはどれに近いんだ?気になるなあ…。

 
【オナシカラスアゲハ♂ Papilio elephenor】

  
【裏面】
(二点共 出展『AUREUS butterflies&insects』)

 
近年、インド北東部(アッサム?)で何十年振りかで再発見された幻のカラスアゲハだ。

それにしても、これがカラスアゲハの仲間だとは到底思えない。何度見てもクロアゲハ、もしくはナガサキアゲハの出来そこないみたいな奴っちゃのーと思う。
カラスアゲハの仲間なのに頭と腹が白いのも変わっている。これは毒のあるアケボノアゲハの類に擬態しているからだと言われている。だとしたら、その擬態精度はかなり高い。カラスアゲハ本来の美しい姿態を捨ててまで生き残ろうと云う見上げた根性の持ち主だよ。
でも遺伝子解析をしたら、カラスアゲハじゃなくてクロアゲハに近かったりしてね(笑)。
流石にそれは無いとは思うけど、ミヤマカラスアゲハとか予想外の種と近縁だったら面白いにゃあ。

擬態のホストは、コイツかな?
擬態精度はかなり高そうですぞ。飛び型とかも似ていたら完璧クラスじゃよ。

 
【Atrophaneura aidoneus】

(二点共 出展『Butterflies of India』)

 
でもオナシカラスの遺伝子は簡単には調べられないよね。大大大珍品だから、標本数が極めて少ないし、ムチャクチャ高価(100万円くらい!)だから手に入れるのは容易な事ではない。それに遺伝子解析の為には標本の一部が必要だ。たった脚3本で事足りるらしいが、サンプルを提供してくれるような徳のあるコレクターはおらんじゃろ。コレクターにとっては、たとえ見た目に影響のない脚3本といえども、1本たりとも失いたくないと云うのが本音だろう。どうあれ標本が不完全になる事には耐えられないに違いない。

アカン、また寄り道してもうた。
もう一回言っとこ。ここからが主題であり本番です。

タイワンカラスと分岐した群は、やがて4つのサブクラスターに分かれる。

①韓国・対馬・福岡・京都・白浜・伊豆・石巻・北海道・樺太・八丈島・三宅島・悪石島(トカラ列島)

②沖縄本島・奄美大島

③西表島・石垣島・竹富島・与那国島

④中国広西荘族自治区・中国福建省・四川省・台湾緑島・P.polyctor triumphator(ラオス Lak Sao)・P.polyctor stocreyi(タイ)・P.polyctor polyctor(北インド)・台湾(本土)・P.polyctor triumphator(ラオス Non Het)・台湾蘭嶼

①は、ようするに日本本土はもとより八丈島やトカラ列島、さらには樺太、朝鮮半島のものも遺伝子的には殆んど差が無いことを示している(三宅島の1塩基差を除いて、他は塩基配列が全く同じらしい)。おそらく中国の黄河北側の個体群も此処に含まれるものと思われる。
でもハチジョウカラスやトカラカラスは現在もその亜種名は健在で、そのまま使用されている。たぶん、見た目から本土のものとはハッキリと区別できるからだろう。そういうものは自分も亜種にすべきだと思うから、全く異論はない。しかし、線引きの条件はあまりにも曖昧模糊だ。
例えばハチジョウカラスとトカラカラスを同じ標本箱にアトランダムにバラバラに混ぜて入れたとしよう。果たして、それでも両者を100%区別ができるものなのだろうか?どちらとも言えないような個体が、絶対いそうじゃないか。
ハチジョウカラスもトカラカラスも自分で採ったことが無いからこんな事を言うんだけど、自分には両者を確実に判別できる自信は無い。
( ・◇・)ん!?、でもソックリさん同士のオキナワカラスとアマミカラスは両方とも採ったことがあるから、パッと見で区別できる自信があるんだよなあ…。
いったいオラは何が言いたいのだ?長時間、文章を書いてるから脳ミソがふやけてきたよ。
たぶん、種の線引きなんぞはかなり曖昧なものだとでも言いたかったのだろう。

②のオキナワカラスとアマミカラスが同じクラスターに入るのは納得。
確か沖縄本島と奄美大島が陸続きになっていた時代があった筈だ。その後、二つの島の間の陸地が海に沈んだのだろう。いつの時代だったっけ?いやいや、八重山諸島、引いては台湾や大陸、日本列島にも繋がっていた時代もあった筈だよね❓

だが、地史を調べる前に系統図を見直して仰け反る。
Σ( ̄ロ ̄lll)ギョヘー、何とオキナワカラス&アマミカラスのクラスターにPapilio hermeli ミンドロカラスアゲハが入っているじゃないか❗❗

 
【ミンドロカラスアゲハ Papilio hermeli ♂】
(出展『蝶の標本 麗蝶』)

 
【ルソンカラスアゲハ Papilio chikae 】

(出展『花居虫時計』)

 
ミンドロカラスの♀の画像にあまり良いのが無かったので、替わりにルソンカラスの画像を貼付しといた(一番下が♀)。両種の見た目は殆んど同じ様なものなのだ。
表向き両者は別種とされるが、明らかに同種の亜種関係にある。これは色々と曰く付きで、ルソン島(フィリピン)のルソンカラスアゲハがワシントン条約の第1類に指定されて採集や売買が禁止になった事に起因する。
その後、同じフィリピンのミンドロ島でソックリな蝶が発見された。それがP.hermeliだ。しかし、ルソンカラスの亜種として記載してしまうと、これも採集・売買が禁止になってしまう。だから、どう見ても亜種なのに、わざと別種として記載したと云う次第なのである。
現地に行けば結構いるルソンカラスがワシントン条約の1類に指定されたのにも裏があるようだが、ここでは本題とは関係ないので割愛する。

見た目の華やかさからルソン&ミンドロカラスはてっきりミヤマカラスアゲハのグループかと思いきや、カラスアゲハグループなんだね。
でもよくよく見ると、どちらも下翅外縁の紋が派手なのが特徴だ。これはオキナワカラスやアマミカラスがメチャメチャ進化して、ルソン&ミンドロカラスになったとは考えられないだろうか?特に♀はそんな感じに思える。オキカラ&ミヤカラの延長線上にある蝶のような気がしてならない。
いや、反対も有り得るな。ルソンorミンドロカラスの祖先が沖縄までやって来て、長い年月の間に紋が変化してオキナワカラス&アマミカラスになった可能性だって有り得る。
どっちの島が地史的に成立が古いのだろうか?それがわかれば、どちらが起源種なのかも解明できそうだ。
でも、そもそもフィリピンと沖縄が陸続きに繋がった時代なんてあったっけ?

しかし、調べる前に本文を読み進めると、次のような記述が出てきた。

「ミンドロカラスアゲハ(P.hermeli)も後者(沖縄諸島&奄美大島諸島亜種)のサブクラスターに含まれるがこの種は他種と比べてなぜか独自の変異の数が多く(図1でこの種の横軸が異様に長い)、それがこの種を含むブートストラップ値を下げている。従ってミンドロカラスアゲハ(たぶんルソンカラスアゲハ(P.chikae)も)はカラスアゲハに近縁であることには間違いないが、図1における分岐点を正しく反映していない可能性がある。」

おいおい、正しく反映していないだなんて、遺伝子解析ってそんなに曖昧なもんなのかよ?
遺伝子解析って、明確で絶対的なものだと云うイメージを持ってたけど、そうでもないのね。
因みにブートストラップ値というのは、各分岐点の脇にある数字で、100回実験したらこれくらいの回数は同じ結果が得られますよと云うことを表している。ようするにルソンカラスならば、数字は56だから半分くらいしか同じ実験結果にならないということだ。これではいくらなんでも信頼性が低い。
とはいえ、このあとも更に実験は繰り返されてる筈だよね。新しい知見もあるに違いない。探すか…。

ありました。

 
(出展『蝶類DNA研究会 ニュースレターNo.3「東アジア各地産カラスアゲハ亜属の系統関係」』)

 
(´・ω・`)何だよー。レポート集の後ろに続報の論文があったわ。知ってたら、最初からそっちの系統樹を載せたのになー。まっ、早めに見つかったのはラッキーと思おう。

 

 
コチラがカラスアゲハとミヤマカラスアゲハを含むいわゆる真性カラスアゲハのグループだね。
そして、更にそれを拡大したものが、下図のカラスアゲハ bianor groupの系統図。

 

 
わっ!、前回よりもだいぶ各地のサンプルが増えて詳しくなっている。
こうなると、本来なら前文を消して書き直すべきなんだけど、メンドくせーのでそのまま書き進めていく。

4つに分かれるカラスアゲハグループの①と②は解説済みだけど再検証ねっ。
基本的にはあまり変わっていないが、ミンドロカラスの横に新しくルソンカラスが加えられている。
予想通り両種は別種ではなくて、亜種関係ということが証明されたワケだ。また、ルソンカラスグループはミヤマカラスアゲハのクラスターではなく、カラスアゲハのクラスターに入るのは、やっぱり間違いない事らしい。但し、4グループのカラスアゲハとの分岐順列は明確でないとあった。
そもそもルソンカラスはどこからフィリピンに侵入したのだろう?いったいどのカラスアゲハの末裔なのだ?
大陸➡台湾からなのか?それとも沖縄or奄美大島から?興味の尽きないところではある。希望的に言うと、沖縄・奄美大島からであって欲しい。その方が、見た目には進化の流れの過程としては納得しやすいもんね。

③は八重山諸島に産するいわゆるヤエヤマカラスアゲハのグループだ。
石垣島・西表島・竹富島の個体群と与那国島の個体とは2塩基異なるが、別亜種にする程ではないようだ(5塩基以内は同種)。因みに、オキナワカラスとアマミカラスも2塩基異なる。

④は台湾から中国、インドシナ半島北部を経て、インド北部、カシミールに分布するもの全てが、同一種であることを示している。
とはいえ、図を見てもこのサブクラスターは細かく分かれていて、複雑な様相を呈している。
チベットから中国広西壮自治区の個体群が分岐し、さらに台湾本土産と蘭嶼の個体群がそれぞれ分岐する。驚くべきなのは蘭嶼とラオス Non Het産のものが同じクラスターに含まれていることだ。蘭嶼のカラスアゲハが明るい青緑なのはそのせいなのかな? だとしても、両者の分布圏はあまりにも遠い。これはいったいどう捉えればいいのだ❓蘭嶼産の侵入経路が全くワカラナイぞ。遺伝子解析って、本当に正しいのかよ(# ̄З ̄)?
それは置いといて、そのラオスのヤツの亜種名がやっぱりssp.triumphatorってなっているではないか。triumphatorってネパール~ブータン亜種じゃないのー? むぅー、triumphatorの分布域はいったいどうなっとるのー?誰か、おせーて( ;∀;)
もう脳みそがグシャグシャのドロドロだよ。

更にそこから先は、従来クジャクアゲハとされてきた亜種群とカラスアゲハとされてきた群が一つのサブクラスターに詰め込まれた形になっている。
中国・福建省、四川省成都(P.bianor.bianor)、インド・カシミール(P.polyctor polyctor)、タイ西部(P.polyctor stocreyi)、ラオス Lak Sao(これも亜種名はtriumphatorになっている!)、そして、ここには台湾・緑島産のカラスアゲハも含まれる。蘭嶼とは由来が違うってことか…。
あっ、でも論文には全部塩基配列が完全に一致すると書いてあったなあ。
(-_-;)むぅ~、図の見方がイマイチわかっとらんのかのぅー。でも、どっかに5塩基以内の違いにおさまってるとかって書いてなかったっけー❓だったら、完全に一致しているとは言えないよね。
(;・ω・)もういいや。アタマわいてきた。どうせバカだから理解力が低いのさ。とにかく、クジャクアゲハとカラスアゲハは同種と云う事だすなあ。
それはそれとして、遺伝子解析と見た目からの分類とで、この先どう整合性をとってゆくのかしら?
一つの解決が、また新たなる疑問を生じせしめているだなんてパラドックスだ。益々カラスアゲハの迷宮無間地獄、💥爆発じゃないか❗❓
さすらいのカラスアゲハよ、何処へゆく。

 
日本のカラスアゲハだけに焦点を当てると、次のような系統図になる。

 
(出展『蝶類DNA研究会 ニュースレターNo.1 「日本産アゲハチョウ科の分子系統樹」』)

 
上から日本列島&トカラ列島、アマミカラス、オキナワカラス、ヤエヤマカラス、タカサゴカラス(台湾)、中国のカラスアゲハ(bianor)だ。
既に述べたが、「日本列島&トカラ列島」と「アマミカラス&オキナワカラス」が同じクラスター、「ヤエヤマカラス」と「タカサゴカラス(台湾)&中国のbianor」が同じクラスターとなり、2系統に別れている。
この4つは、別種とすべきほど塩基配列の違いが大きいらしい。この事から現在は亜種ではなく、別種に昇格したものもあるようだ。

朝鮮半島、ウスリー、樺太、日本列島、八丈&三宅島、トカラ列島のものが、全く塩基配列が同じことから独立種『Papilio dehaanii』となり、八丈島やトカラ列島はその亜種という扱いになった。
たぶん、遺伝子配列が同じということは、最終氷期辺りに分布を拡大した均一の個体群なんだろね。日本に入ってきたのは比較的遅い時代だと推測される。とは言っても何万年とか何十万年単位だけどさ。
トカラ列島や八丈島のものから考えると、まずは形態が変化して、後に遺伝子が変化してゆくのが進化の流れの常道なのかもしれない。

沖縄諸島と奄美諸島の個体群も別種になったもよう。
で、奄美諸島のものは沖縄個体群の亜種という扱いになったみたい。
しかし、その論文を読んでいないので、種名は果たして『Papilio ryukyuensis』なのか、それとも『Papilio okinawensis』なのかはワカンナイ。けど、感じではたぶん『Papilio ryukyuensis』になってそうやね。
とはいえ、現状は遺伝子解析後も「ryukyuensis」と「okinawensis」の両方が学名として使用されている。もうグッチャグチャなのだ。
ネットとかで見ると、3分の2は「okinawensis」を採用している。Wikipediaだって、okinawensisだ。たぶん、オキナワカラスアゲハの和名や分布から、そちらの方がしっくりくるからだろう。オキナワカラスアゲハの和名があるのに「沖縄の」を意味する学名「okinawensis」がヤエヤマカラスについてるだなんて納得いかないよね。
自分もその意見に全面的に賛成します。命名の先取権なんぞ糞くらえだ。ルールは大切だけど、アタマ硬いよね。もうちょっと柔軟性とかないのかね❓きっと蝶好きなんぞと云うのはオタクの集まりで、融通の効かないクソ真面目人間だらけなんだろなあ…。

八重山諸島産は台湾や中国のものと比較的近いことから別種とはならず、Papilio bianorの1亜種に組み込まれたようだ。別種くらい塩基配列が違うとか言ってたけど、その辺はどないなってもーたんかいな❓
個人的には別種でもいいんじゃないかなーと思う。
根拠はフィールドで見た時の印象が直感的に違うと思ったから。アバウト過ぎて叱られそうだけど、勘って意外と侮れないと思う。違和感と云うのかな、フィールドで何か微妙に違うなと思って採ったものは、大体が激似の別種とか擬態種だとか異常型なんだよね。
とはいえ、勘なんてものはあくまでも個人的なものだし、何となくだなんてあまりにファジー過ぎる。数値化も出来なければ、言語化も覚束ない。科学的でないと言われれば、ゴメンなさいなのだ。

これも亜種名が「ssp.okinawensis」なのか、「ssp.junia」のどちらになったのかはワカンナイ。どうせssp.okinawensisだとは思うけど、心情的にはjuniaを推す。
ホント、ややこしいよねー( ̄~ ̄;)
いっそのこと、新名『yaeyamaensis』とでもしたらどうだ。オキナワカラスの問題も含めて、その方が和名との齟齬がなくて余程スッキリするわい。

もうそろそろ、ええ加減にクローズしたいんだけど、最後に地史との関係を少し書いて終わりにしたい。

 
先ずは地史による南西諸島の成り立ちから始めよう。

 
(1)500万~170万年前(第三紀鮮新世)
(出展『蝶類DNA研究会 ニュースレターNo.2 「カラスアゲハ亜属(Achillides)の系統関係」』。以下、同様。)

 
各図の右上が九州、左下が台湾にあたる。

  
(2)200万~170万年前(第三紀鮮新世末)

 
(3)170万~100万年前(第四紀更新世初期)

 
(4)100万~40万年前(第四紀更新世後期)

  
(5)40万~2万年前(第四紀更新世末期)

 
遺伝子解析の論文では、日本のカラスアゲハがどこから来たかも推測している。
ND5遺伝子を用いた進化速度の計算によると、カラスアゲハが4つの系統に分かれたのが500万~390万年前と推測されるようだ。中国南部・台湾産各個体が互いに分岐し始めたのが約90万年前、奄美大島と沖縄本島産、与那国島産と八重山諸島産が分かれたのが約50万年前と云う結果が出たという。
過去の地史を紐解くと、500万年~170万年前は南西諸島の西側には島尻海と呼ばれる海が広がり、奄美大島と沖縄本島は一つの大きな島、八重山はまた別な大きな島であった。その頃に奄美・沖縄と八重山のカラスアゲハは隔離された(図1)。
その後、島尻海の陸地化の際にも古黄河と古揚子江・古尖閣川によって隔離され続けた(図2)。
南西諸島のすぐ西側は沈降し始めて湿地化していき、やがて陸地化して現在の固有種の祖先の多くが侵入した(図3)。
100万年~40万年前に沖縄トラフの沈降による東シナ海の成立で、現在の南西諸島の形がほぼ出来上がると、奄美と沖縄の間、与那国島と他の八重山の島々との間でさらに隔離が起こった(図4)。たぶん、この年代前後にオキナワカラスとヤエヤマカラスが別種化が進んだのだろう。
氷河時代になって海面が下がり南西諸島は陸地化したが、トカラ海峡、ケラマ海峡、与那国海峡はほとんど陸地化せずに隔離が続いた。一方、台湾は大陸と陸続きに、朝鮮半島と樺太は日本と陸続きになった(図5)。
この頃、大陸と陸続きとなった台湾には中国南部より南方型のカラスアゲハ(Papilio bianor)が侵入した。また、朝鮮半島と陸続きとなった日本本土へは、中国東北部・朝鮮半島に隔離されていた北方小集団のカラスアゲハ(Papilio dehaanii)が、最終氷期かそれに近い時代に分布を拡大し、サハリンに至るまで侵入したと考えられる。しかし、既に成立していたトカラ海峡から南へは進めなかった(これは塩基配列が全く同じであることから、比較的最近(約25万年前以内)の事だと言われている)。
また同時に、このトカラ海峡の存在は南西に分布していた個体群(ssp.amamiensis)の北進も阻んだ。

論文では特に言及はされていないが、一方クジャクアゲハ(polyctor)は、南方のカラスアゲハ(bianor)と陸続きで分布が連続するから完全には分化しえなかったのだろう。
祖先種が四川、雲南省辺りで誕生して東西に分布を拡大したと云う説を聞いた事があるような気がするけど、この系統図でそれは証明できないのかな?

では、ルソンカラスアゲハはどうなんだ❓
探してみたら、こんなんを見つけた。

 
(出展『奄美群島広域事務組合』)

 
ついでに、同じサイトにあった200万年前の図も添付しときます。

 

 
( ☆∀☆)おー、フィリピンと奄美・沖縄が繋がっていた時代があるじゃないか❗❗
でも、インドシナ半島にも繋がっとる。
えっ(-_-;)❗❓、でも1500万年前ってかー。
そんな古い時代には、オキナワカラスアゲハどころか未だAchillides(カラスアゲハグループ)自体が存在してないよね❓
いやそんなことはないか?見落としかもしんないけど、論文にはカラスアゲハグループがミヤマカラスアゲハグループと分岐した推定年代が書いてないんだよなあ。そこには言及しておらず、オキナワカラスアゲハ↔ルソンカラスアゲハ説にも触れてないから、やっぱ、たんなるオラの妄想なのかなあ…。

フィリピン群島の地史をネットで調べてみたけど、求める資料にはヒットしなかった。
この辺がもうド素人の限界だ。書くのにもウンザリだし、おしまいにします。

駄文に最後までお付き合いして戴いた皆様、アリガトごぜえますだ。
ポチは犬小屋に帰ります。

次回は台湾のカラスアゲハの予定です。

                  おしまい

 
  
追伸
えー、先に謝っておきます。御気分を害された方、御免なさい。
批判めいたものも含めて結構言いたい放題言っちゃいましたが、所詮は蝶歴のまだ浅いぺーぺーがギャアギャア何か言ってるなとでも思って大目にみて下され。知識も経験も無い者に限って吠えたがるものです。このようなアホは放っておきましょう。

ふいーっ(´д` )、今回は死ぬほど書き疲れましたわい。
一応、折角ここまで書いたんだから次回の台湾のカラスアゲハについては頑張って書くつもりですけど、それ以降は続けていく自信なしです。
まだまだ台湾には腐るほど多種の蝶がいる。書き終わるまでどれくらいかかるかと考えると、ホント元気のないチ○ポコみたいに萎えてくるよ。

補足しとくと、カラスアゲハグループとミヤマカラスアゲハグループにそれぞれ斑紋が似ている蝶がいるけど(カラスアゲハ↔ミヤマカラスアゲハ、クジャクアゲハ↔ルリモンアゲハ、ルソンカラスアゲハ↔ホッポアゲハなど)、これは系統分岐が先に起こり、後に形態変化が系統とは無関係に起こっていることを示しているらしい。2つの種が系統的には遠く離れていても似たような環境に生息すると、形態的に似た種になるのではないかと云うことだ。いわゆる平行進化とか収斂って言われているやつかな。
えっ、待てよ。形態変化よりも遺伝子変化の方が先なのか?じゃあハチジョウカラスとかトカラカラスの例はどう説明するのよ?それともどっちとも有り?
まあ、どちらにせよ環境が変わると形態が変わると云うのは理解できる。でも水中とか高山に適応した形態に変化するのなら解るけど、何でそれが斑紋なんだ?この斑紋(ルリモンアゲハとクジャクアゲハなど)を見ても、特別なメリットが有るとは思えない。メリットがあると思うのは、せいぜいホッポアゲハくらいだろう(毒のあるアケボノアゲハに擬態していると云う説がある)。
平行進化とか一斉放散は理論としては解らないでもないが、その意味するところは何なのよ?説明としては不充分で何か無理がないかい❓
まあ、こんなこと考えても明確な答えなんて見つからない。進化に全て意味や理由があるとは限らないのだ。それこそ何となくそうなっただけなのかもしんない。たまたまそんな風に形態変化(進化)したら、偶然生き残っちゃいましたー( ̄∇ ̄*)ゞってのが真相だったりしてね。

ついでに言っとくと、遺伝子解析後もカラスアゲハの新しい分類の仕方を良しとしない学者もいるようだ。
全くもってややこしい話である。カラスアゲハなんて、もうどうでもええわい(ノ-_-)ノ~┻━┻

  続きを読む 台湾の蝶16 1/2 さまよえるカラスアゲハ

台湾の蝶16 タイワンカラスアゲハ

 
       アゲハチョウ科3

      第16話 『蒼穹の銀河』

 
  
【Papilio dialis タイワンカラスアゲハ♂】
(2017.6 台湾南投県仁愛郷南豊村)

 
実をいうと、野外で撮したタイワンカラスアゲハの写真はこれ1枚しかない。
2017年のものだが、2016年にも採集したのに何故かその時は1枚も写真を撮っていなかったようなのだ。
だいたい2017年だって1枚しか撮っていないというのは解せない。ミステリーだ(-“”-;)……。

にわか探偵は過去に思いを巡らせる。
鋭い洞察力と類い稀なる記憶力、勝手なこじつけで記憶を平気で改竄する妄想力と厚顔力etc…。ご都合主義の権化が、その明晰な頭脳をフル回転して事件を解決してみせようではないか。

ひとしきりフザけたところで、記憶を辿ってゆく。
反芻すると、何となく朧ろ気に思い出してきた。

2016年に初めて台湾に訪れた時は、『発作的台湾蝶紀行』と題してブログを現地発信で連載していた。このタイトルがヒントになってくれた。
三歩あるいたら忘れると言われている鶏アタマのイガちゃんだって、それくらいの事は覚えている。発作的に台湾行きの飛行機のチケットを購入、三日後には台湾へと旅立ったのである。
出発の準備だけで手一杯だった。だから、台湾の蝶の事など碌(ろく)に知らないままに出てきたのである。
ゆえに、カラスアゲハの仲間も流石にホッポアゲハぐらいは知ってはいたが、他のカラスアゲハの事は今イチよくわかっていなかった。
ミヤマカラスアゲハって、台湾にいたっけ❓(註1)とかのレベルである。
そう云うワケで、現地で採っててもカラスアゲハが1種類だけではなさそうだとは思いつつも、どう云う位置づけなのかは理解できていなかったのである。
感覚的には日本本土にいるカラスアゲハとは明らかに違うし、奄美大島や沖縄のものとも違う。一番近い八重山諸島のものとも少し違うような気がしつつ、網に入れていた。でも、深くは考えなかった。
カラスアゲハの分類は錯綜していて、種の分け方が学者によって解釈が違うから誠にややこしいのである。
学名だって二転三転していて、アタイのような頭の出来の悪いのは本能的に脳を凍結するクセがあるのだ。

重ねて言うけど、採ってて見た目ソックリだけど違うのがいるのは何となく解ってはいた。
でもクソ暑くて写真をイチイチ撮るのが面倒くさかったとか、撮ろうとしたら別な蝶が飛んできて後回しになったりとかしたのだろうと推察する。
で、帰ってきて展翅して、明らかに違うのがいると漸くハッキリと認識したと云う次第なのであった。
我ながら、オソマツくんなのである。蝶偏差値二流だから、仕方がないのであ~る。

じゃあ、何で2017年も1枚しか撮らなかったのかと云うと、単純にタイワンカラスアゲハがあんまりいないからなのである。2016年に当然何枚か写真を撮っているであろうと云う思い込みもあったに違いない。だから複数頭採ったのにも拘わらず、これ1枚しか写真が残っていないのかもしれない。
(  ̄▽ ̄)フフフ…。早くも、どうだどうだの御都合主義の言いワケかましである。

『原色台湾蝶類大図鑑』には、恒春半島では極めて稀。埔里周辺、台北ウラル付近では普通とあったが、他の文献(台湾など外国の文献も含む)では少ないという表記が多かった。
台湾には、他にカラスアゲハの仲間がホッポアゲハ、カラスアゲハ(タカサゴカラスアゲハ)、ルリモンアゲハ(タイワンルリモンアゲハ)、オオルリモンアゲハ(ルリモンアゲハ)が棲息しているが、自分の経験ではこのタイワンカラスアゲハが最も個体数が少ないと感じた。♀なんかは滅多に採れないから珍品扱いになっていたと記憶する。
私見だが、台湾のアゲハの中でもその珍しさは5指に入るのではないかと思う。
内訳は、キアゲハ(台湾では大珍品。記録が途絶えていて、既に絶滅したとも言われる)、フトオアゲハ(台湾で最も有名な蝶、且つ現存する最稀種)、モクセイアゲハ(非常に分布が狭い稀種)、コウトウキシタアゲハ(台湾では蘭峽島のみに分布)。この4つが先ずは上げられるだろう。ここまでは異論は少ないと思う。
ランクが二、三段くらい下がって、あと一つをタイワンカラス、コモンタイマイ、アサクラアゲハ、ジャコウアゲハ等がその座を争うといったところだろうか?
でもコモンタイマイなんて、コモンと名前がつくくらいだから、そもそもが庶民派の蝶なんである。大陸に行けば、普通種だ。山ほどいる。
アサクラアゲハもインドシナ半島なら、標高さえ上げれば結構いる所には沢山いる。
ジャコウアゲハなんて、台湾ではいくら珍しかろうとも、所詮はジャコウアゲハ。日本ではその辺にいる。淀川にだって飛んでいるのだ。
でも、タイワンカラスは台湾以外では見たことさえ無い。分布域のインドシナ半島北部でも、足繁く通ったのにも拘わらず、一度もその姿を拝んだことがないのだ。
大陸側でも決して個体数が多い蝶ではないとも聞いたことがある。拠って、タイワンカラスを勝手に五番目の使徒とさせてもらう。

そういうワケで、残念ながら♀は採れていない。
でも、見た目は♂と殆んど変わんないんだよねー。翅形は微妙に異なるものの、♂は上翅に性斑と呼ばれる毛束があるが、♀にはそれが無いという事くらいしか目立った差異はない。
一応、メスの画像を探して添付しておくか…。

しかしながら、ネットでも中々画像が見つからない。
辛うじて杉坂さんのホームページから目っかった。

 
(出典 杉坂美典『台湾の蝶』)

 
台湾には年に何度も行かれていて、膨大な写真を撮っておられる杉坂さんでさえも、1枚しか写真をアップされておられないのである。♀の珍しさは推してはかるべしであろう。

だけど残念なことに、この写真では辛うじて腹の出っ張りでしか♀と認識できないんだよね。

もう少し探してみる。
これが♀かなあ❓

 
(出典『台湾蝴蝶誌』)

 
性斑が無いように見えるんだけど、画像が鮮明ではないので断言は出来ない。
まあどちらにせよ、♂とあんま変わらないのだ。より美麗なものを期待していた身としては、ガッカリ感は否めない。

仕方がないので、♀の標本写真を探してきた。

 
(出典『Theln sectCollecter』)

 
たぶん台湾産で、上が夏型で、下が春型である。
夏と春とでは随分大きさが違うようだ。
因みに夏型は台湾にいるカラスアゲハの仲間の中では一番大きいと思う。少なくとも翅の表面積は一番広いだろう。そのせいか、何か見た目がゴツい感じなのだ。

たまたま、このあいだインセクト・フェア(昆虫展示即売会)があったので、そこで探してみたら、水沼さんのブースで台湾産の♀を目っけた。

 

 
何と、値段は三千円もする。
即売会の蝶の値段をずっと観察してきた結果、外国の蝶は高いものは何十万とはするが、国産の蝶と比べて平均的には安い傾向にある。
1500円ならば、たとえ現地に行っても採れない可能性が高い蝶だ。日本の蝶に比べて安すぎだろ?と思うが、アジアの物価は日本に比べて安い。つまり、単に仕入れ値が安いから、売値も安いのである。
とにかくこの値段からすると、やっぱタイワンカラスの♀は簡単に採れる蝶ではないのである。

それにしても見事に地味だ。
しかし、よくよく見ればカラスアゲハの仲間内では、かなり特異な蝶だなと思う。参考に台湾のカラスアゲハの画像を添付しておきましょう。

 
(2016.7 台湾南投県仁愛郷黄肉渓)

 
比較して、先ずもって違うのが尾状突起である。
タイワンカラスの方が明らかに太い。
そして、尾突起全体に青い鱗粉が広がっている(各写真は拡大できます)。
基本的にカラスアゲハの類は尾突起に1本通った支脈の回りにしか青緑の鱗粉が無く、両縁は黒い。
この尾突にベッタリと鱗粉があるタイプは、カラスアゲハグループ(Achillides)にしては珍しい特徴で、他にはオオルリオビアゲハ(Papilio blumei )くらいしか例が思い浮かばない。

 
【オオルリオビアゲハ】
(2013.2 Indonesia Sulawesi Palopo)

 

次に形である。
コレは標本写真の方が解りやすいだろう。

 
【Papilio dialis tatsuta 台湾亜種♂】
(2016.7 台湾南投県仁愛郷南豊村)

 
コレって完品に近かったのに、展翅中に翅に手がぶつかって鱗粉がゴッソリ剥がれちやったんだよねー。
やっちまったな(ToT)である。胴体に合わせて展翅すると、触角の整形は上手くいくけど、ままこういう事が起こる。

他に無かったかなあ?

 
(2016.7 台湾南投県仁愛郷黄肉渓)

 
コイツは一見完品に見えるけど、よく見ると翅が欠損している。

たぶん去年2017年には完品をいくつか採ってる筈なんだけど、この期に及んでまだ展翅していない。ブログ用に一つくらいは展翅しとけよなー。もう半年以上も過ぎてるのに、山とある採集品が放ったらかしなのである。
だって、展翅嫌いなんだもーん(# ̄З ̄)
サイテーだな、オイラ。

今一度、標本写真を見て戴きたい。
所謂(いわゆる)カラスアゲハの定番のフォームとは感じが違う。ボックス型なのだ。ちよっとナガサキアゲハの翅形に似ているような気もする。

参考までに台湾のカラスアゲハの標本写真も添付しておきましょう。

 
【Papilio bianor ♂】 
(2016.7 台湾南投県仁愛郷)

 
タイワンカラスよりもほっそりとしており、全体的に優美な形だ。コレがカラスアゲハ類の定番の翅形パターンかな。

色も鮮やかな青緑色だ。
それと比べてタイワンカラスは渋い青緑色である。
さっきは地味だとか何だとか悪口を吐(ぬ)かしたが、本当は渋い美しさがあり、好きだ。特に生きている実物は、カラスアゲハなんかよりも余程美しいと思う。

 
(出典『wikimedia』)

 
上の写真が、太陽光の下、最も美しく見える瞬間だ。
下翅の前縁と尾状突起に配された群青は、まるで夜が始まる直前にほんの一時だけ現れる蒼穹のようだ。
そこに散りばめられた粗い鱗粉が、瞬き始めた星々の如く煌めいて見える。銀河だ。

蝶の翅をミクロでじっくり見ていると、時々魅了されてしまい、『鱗粉、ヤッベー(@_@;)』と思う。
そこには、宇宙が存在するのだ。

  
【学名等名称について】
学名 Papilio dialisの小種名「dialis(ディアーリス)」は、ラテン語のユーピテル大神の(形容詞)、ユーピテル大神の神官(名詞)の意。
ユーピテルはローマ神話の最高神にあたり、ギリシヤ神話のゼウスと同一神とされる。その神官なんだから、そこそこ敬意を払われて名付けられ学名なんだね。
亜種名の「tatsuta」については、次項で言及します。

英名は「The Southern Chinese Peacock」。
南中国の孔雀さんだ。

台湾での名称は穹翠鳳蝶。
穹翠鳳蝶の穹は「アーチ、ドーム」という意味と「空、大空」と云う意味があるようだ。
アーチ、ドームは、おそらく裏面に並んだ半月紋を指しての事だろう。
しかし、自分には月のイメージよりも、星のイメージの方がある。前述したが、表面に散りばめられた鱗粉が他の近縁種よりも浮き立って見え、それがまるで夜の始まりの青藍の空に瞬く星々に見えるのだ。

他に南亞翠鳳蝶、臺灣烏鴉鳳蝶と云う別称があるようだ。
南亞翠鳳蝶は南アジアの緑色のアゲハという意味だね。
でも、南アジアと言われてもピンとこない。南アジアといえば、インド、ネパール、パキスタン、ブータン、スリランカ、モルジブを含む地域を指す筈だ。蝶の分布とはピッタリ合わない。

臺灣烏鴉鳳蝶は台湾のカラスアゲハという意味。
つまり和名そのままである。ちよっと面白いのは、台湾や中国では「烏鴉」の二文字でカラスを表すんだね。日本では「烏」一文字でカラスと読むし、「鴉」一文字でもカラスだ。もしかしたら、本来は「烏鴉」で、日本に伝来当初はそのままだったけど、時間の経過と共に変化、略されていったのかもね。

 
【分布と亜種】
台湾以外の分布は、中国南部~南西部、海南島、インドシナ半島北部が知られている。

 
(出典『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
「原色台湾蝶類大図鑑」には以下のような亜種が記されていた。
だが古い図鑑なので、現在はどうなっているのかはわからない。調べたが、文献を見つけられなかったとです。

 
▪P.dialis.schanus ミャンマー・シャン州

▪P.dialis.doddsi トンキン(ベトナム北部)

▪P.dialis.cataleucus 海南島(中国)

▪P.dialis.dialis 中国西部~中部

▪P.dialis.andronicus 台湾

 
気になるのは、台湾の亜種名。
現在は「andronicus」ではなく、「tatsuta」と云う亜種名が使われているようだ。
どうゆう経緯でそうなったのかはよくワカンナイけど、とにかくアンドロニカスはシノニム(同物異名)になってしまっているみたい。
それにしても、「tatsuta」というのの語源が解らない。竜田揚げしか浮かばんわい。もしかして竜田さん、もしくは立田さんという人に献名されたのかな?
だとしたら、ダサい。そもそも献名という方式に疑問を感じる。個人のエゴ丸出しではないか。第三者から見れば、誰かへのゴマスリとかオベンチャラ、個人的センチメンタリズムにしか見えない。本来は、その蝶のキャラにあった名前をつけるのが筋でしょう。
とはいえ、誰かにアナタの名前を学名につけてしんぜましょうと云う申し出があったとしたら、鼻の下を伸ばして『どうぞ、どうぞ。つけて下さいまし。いや、絶対につけて下さい。おねげぇーしますだあー(ToT)』と懇願したゃうんだろなあー。
( ̄∇ ̄*)ゞハハハハ…、プライドの欠片も無い男なのだ。

それはそうと、アンドロニカスというのは、あのシェイクスピアの戯曲『タイタス・アンドロニカス』から来てる筈だよねぇ。
だとしたら、学名の変更は勿体ないよなー。言葉の響きもカッコイイしね。
とはいえ、シェイクスピアの戯曲の中では最も残虐な内容だから、見方によっては汚名返上とも言えるんだけどね。

おっと、書き忘れるところだったわい。
亜種のうち、インドシナ北部の生息するドッドッシー(ssp.dodosi)は尾突が退化していて、一見してかなり印象が異なる。ゆえに別種とする学者もいるようだ。

 
(出典『蝶の標本 麗蝶』)

 
ナガサキアゲハとかオナシカラスアゲハに似ている。
確かに、見てくれは別種と言われれば、納得できない事もない。
遺伝子解析とかは、されてるのかな❓
されてたら、きっと同種扱いなんだろなあ…。特に理由は無くて、何となくだけだけど。
因みに、コイツには「ミナミカラスアゲハ」と云う和名が付いているみたい。また南だ。特に南に分布しているワケではないと思うんだけど、何でじゃ❓

 
【生態】
台湾全島の低山地から山地にかけて広く分布するが、個体数は少ない。垂直分布は200m~2700mとされるが、その中心はおそらく1000m以下だろう。
4月上旬に現れ、10月まで見られる。台湾の文献(註3)によると、桃園県の山地では、4月中旬を中心に羽化が始まる。第1化は春型とされ、夏型に比べて遥かに小型。後翅表面前縁の藍色鱗は、より緑色を帯びる。
以後、6月中旬、7月下旬~8月上旬、9月上旬を中心に羽化が見られる。但し、1973年と古い文献なので、現在は少し発生が前倒しになっているかもしれない。

渓流沿いや樹林周辺の明るい所に多く、♂♀共に花に吸蜜に訪れる。♂は午前中に活発に飛び、好んで吸水に集まる。但し、他のカラスアゲハ類に比べて個体数が少なく、他種に紛れて吸水していることが多いので注意が必要。他と比べて大きい個体がいれば、本種の可能性を疑ってかかるべし。
飛翔は他のカラスアゲハ類の中では、ややゆるやかな印象があるが、決してトロいワケではない。むしろ一番敏感かもしれない。吸水中でも、近づくと他のアゲハと比べて反応が早い。

なおタイワンカラスアゲハの採集記は、アメブロの『発作的台湾蝶紀行』の第28話 「イエローミートバレー」他にあります

 
【幼生期及び食餌植物】
『アジア産蝶類生活史図鑑』には、Euodia glauca ハマセンダンとToddalia asiatica サルカケミカンが食餌植物とあった。

台湾では以下のようなものが記録されている。

賊仔樹 Tetradium glabrifolium
吳茱萸 Tetradium ruticarpum
食茱萸 Zanthoxylum ailanthoides

一番上は、カラスザンショウ。
上から2番目は、ゴシュユ。3番目はホソバハマセンダン。何れもミカン科の植物である。
ホッポアゲハと同じく、またもやサルカケミカンもハマセンダンもあげられていないが、まあそこをツッ込んだところで泥沼迷宮じゃろう。カラスアゲハ類全般が食う樹種ならば、幼虫に与えれば食して、問題なく成長するとみられる。

それでは、いつもの幼虫の御披露目タイムだ。
今回もキモかわキューティーちゃんである。

 
【側面】  
(出典『圖録検索』)

 
【側面及び俯瞰図】
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
青い紋が顕著になり、中々にお洒落さんだ。
成虫はカラスアゲハ界ではかなり地味な存在なのに、幼虫はこの群の中では最も美しいとは何だか逆説的だ。

 
【正面写真】
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
ホッポアゲハ程とぼけた顔ではないが、そこそこ可愛い。でも目つき(頭部側面の眼状紋)が奈良美智(註2)の登場人物みたいで、ややひねくれ顔だ。まあ、写真を撮る角度で、そう見えるだけだと思うけど。

 
【蛹】
(出典『生物多様性資訊入口網』)

 
(出典『圖録検索』)

 
ホッポアゲハの回では冬季越冬時に見られる茶色いタイプの蛹の画像を見つけられ無かったが、コチラは『アジア産蝶類生活史図鑑』に茶色いタイプも載っていた。
でも、面倒クセーので端しょります。卵もアゲハは皆変わりばえしないので添付なしです。

幼生期の生態は、近縁種のカラスアゲハ(Papilio bianor)と変わらないという。
文献によると、卵から羽化まで約40日間を要するようだ。
以下、例をあげておく。
6.24 産卵。6.28 孵化。7.20 蛹化。8.2 羽化。

イナズマチョウとかは、あまりにも邪悪すぎる姿なので無理だが、アゲハの幼虫だったら、飼ってやってもいいかなあ…(笑)。

                 おしまい

 
 
追伸
今回は完成するまで何やかんやと時間がかかった。
これは書き方を変えてみたからです。いつもは頭から順に書いてゆくのだが、今回は先に各項目を並べて、書きたいところからアトランダムに書いていった。
最初から各部門に分ければ、より効率的に書き進められると思ったからである。
しかし、コレが失敗だった。気分次第でアッチコッチ書くので、各章の連携を無視してズンズン書いてしまった。したら、全体的な整合性が合わなくなってきた。各項目で重複した記述が一杯出てきたのである。そうなれば、当然どっちかを削らなければいけない。
しかし、文章には流れと云うものがあるワケで、そこだけ削ると文脈やレイアウト(構成)がオカシクなってしまうのだ。各章の連結も悪く、全体的な文章の流れもヨロシクなくて、読んでいてもどこか居心地の悪いチグハグな感じなのだ。それを修正しようと四苦八苦しているうちに時間が経ったというワケである。まあ、途中でイヤになって、放り出してた期間もあるんだけどね。

 
(註1)台湾のミヤマカラスアゲハ
今や古典と言ってもいい『原色台湾蝶類大図鑑』には図示・解説されているが、その時点での記録は1935年、台北州新店で採集された1♂のみ。その後、ミヤマカラスに触れた文献ほ殆んど無いようだし、たぶん再発見はされていないと思われる。きっと現在では大陸側(中国)からの迷蝶扱いとされているのだろう。

 
(出典『原色台湾産蝶類大図鑑』)

 
美麗種としてならしているミヤマカラスにしては、汚いのぅー(# ̄З ̄)
見た目、カラスアゲハにしか見えへん。本当にミヤカラなのかなあ?…。交尾器を見ないと、こんなの判断できないよね。
まさか学者が交尾器も見ないで判断するワケはないから、ミヤマカラスで間違いないとは思うけどさ。
けど、標本が残ってて、調べなおしたら案外カラスアゲハだったりしてね( ̄∇ ̄*)

蝶は買わない主義。なのだが…

 
一昨日、3月11日はインセクト・フェア(昆虫展示即売会)だった。
インセクト・フェアとは、昆虫の標本を中心に昆虫関連の書籍や道具が売買される虫好きの虫好きによる催しなのだ。
まあ、虫嫌いな一般ピーポーからすれば、(;゜0゜)はあ❓とか、(|| ゜Д゜)へぇー❓の世界である。
自分も蝶に嵌まるまでは、こんなマニアックの世界がこの世に存在するとは夢にも思わなかった。世の中、色んなマニアさんがいるのである。

 

 
画像は去年のものだが(註1)、こんな感じである。
年齢層が異様に高い。
ただでさえマイナーな業界なのに、10年後には益々衰退、風前の灯火になっていること必至でしょうな。
珍しい虫だけでなく、虫好きも今や絶滅危惧種なのだ。

 
基本的には虫(蝶)は買わない主義だ。
蝶は買うもんではなく、自分で採るもんだと思っているからだ。買ってしまうと、自らの足で現地に会いにゆきたいと云うモチベーションが著しく下がるような気がしてならない。もう採ったような気分になってしまうのだ。恋愛なら、妄想変態野郎である。
しかし、憧れの蝶の棲むロケーションに実際に身をおき、生きている実物を見る感動は大きい。そこには心躍る純粋なハンティングの快楽がある。それに、生きた蝶には謂わば生命の輝き、標本を遥かに凌ぐ美しさが具わっているのだ。その珠玉の楽しみを自ら放棄、もしくは薄めてしまうのは勿体ないと思うのだ。
だから、死んだ蝶は買わない主義なのだ。

じゃあ、何で行くのかと云うと、虫仲間と虫談義をする為である。虫の話が出来るのは、虫仲間しかいないのだ。
普通は同じテーマについて喋り続けることは出来ないものだが、誰しもが何時間でも延々と虫の話をしていられる。全然飽きないのである。
これは自分にとっては驚きであった。たとえ文学や映画が好きでも、延々とそれについての話をしようとは思わないからだ。食いもんの話だって無理だ。話は自然と別なジャンルへと移行してゆくのが普通なのである。

そんな蝶は買わない主義の自分だったが、一昨年辺りから蝶をちょぼちょぼ買うようになってきた。
キッカケはヘリボシアオネアゲハである。出谷さんのところのブースで、三角紙標本が300円だか500円だかで売っていたのをつい買ってしまったのである。

 
【Papilio lorquinianus ヘリボシアオネアゲハ】
(実際はもっと緑っぽい。スマホだと何故だかこの色にしか写らへん)

 
分布はニューギニア周辺である。
多分、モルッカ諸島のバカン島(Bachan)のヘリボシだったかと思う。
その辺の事はアメブロに『マリンブルーの肖像』と題して書いた筈だから、興味のある方は読んでみて下され。

マリンブルーの肖像
(青のとこ、クリックすると本文に飛ぶ筈です)

Σ( ̄ロ ̄lll)ゲッ、自分で読んだらキッカケはヘリボシアオネアゲハではなく、チモールの貴婦人オリルスフタオであった。しかも、軍神マルスフタオも買ったので、ヘリボシアオネはオマケにつけてくれたのだ。
人の記憶と云うものは曖昧である。自分の都合のいいように勝手に改竄するなどお手のものなのである。

 
【Charaxes orilus オリルスフタオ♂】

 
この辺の経緯もアメブロにあります。
計5、6回のシリーズものだったかと思う。

蝶を買ってしまった…

そいでもって、その年の冬のフェアにはもう蝶なんて買うまいと決めていたのに、山積み300円均一のアフリカのフタオチョウを前に決意がいとも簡単に消し飛んだ。

 
【Charaxes imperialis❓】 

 
多分、これも『アフリカのフタオチョウ』と題して文章を書いている筈だが、探すのが面倒くさいのでURLは貼りません。興味のある方は、申し訳ないが御自分で見つけて下され。

とにかく、自ら採りに行くことを考えれば、屑みたいな値段である。そう考えたら、なし崩しになってきた。それでも、金額は抑えてきた。二千円を越える蝶は買うまいと自らを戒めていたのだ。
しかし去年、遂に絶対に自分で採りに行くと決めていた魔王クギヌキフタオまでをも買ってしまった。

 
【Polyura dehaanii クギヌキフタオ♂】

【♀裏面】

 
ジャワ島産の1ペアの三角紙標本が1万円五千円だったかと思う。それが値引きして1万3千円にするよと言われたのだ。
昔は1頭何十万もした蝶で、今でも♂1頭で1万円前後、♀ならばその倍くらいの値段はついているのである。
中を開けてみて、その裏面のあまりの複雑怪奇さに一発KOのノックアウト☆(゜o(○=(゜ο゜)o

遂に1万円越えの買い物をしてしまった。
もう、こうなると、一回体を許した処女の気分みたいなものだ。二回目以降はパッカーンである(スイマセン。決して女性蔑視ではありません。あくまでもバカ男の脳内想像です)。

去年の冬にはパンダルスムラサキのペアを買ってしまった。

 
【パンダルスムラサキ】
(出典『蝶の標本 麗蝶』)

 
インドネシア・アンボン島のパンダルスだ。
まあ、♂♀ペアで1200円くらいだったから、安い。アンボン島は遠いし、治安がメッチャ悪いと言われているのだ。
でも、まだ展翅もしてないんだよねー。

それで、病気の進行は収まりつつあるのではと思った。
ならば、この機に病気を完治させようと思って今回は臨んだ。何も買うまいと決めたのだ。

その作戦は前半には上手くいっていた。
だが、後半になって病気再発。小原さんのとこに前半には沢山あったシナシボリアゲハの三角紙標本が見る見る減っていくのをみて、心が揺れたのだ。
追い討ちをかけるように、小太郎くんの悪魔の囁き。

『コレ、安いと思いますよー。今度また同じ値段の出物があるかどうかはわかりませんよねΨ( ̄∇ ̄)Ψ』

真面目そうに見えて、案外Ψ( ̄∇ ̄)Ψダークな青年なのである。煽り方が巧みなのだ。
で、結局買いました。
それにしても、若い20代の若者のせいにするだなんて、サイテーだ。病巣は思った以上に自身を蝕んでいそうだ。

 

 
3頭で1800円。♂3頭だが、1つ600円と考えれば激安である。中国は、というか漢民族とはソリが合わないので中国に行く気にはなれない。無礼者に対して怒ってばかりだと疲れるのである。そう考えれば安い買い物だ。
あ~、でも経費とか考え出したら、益々買う方に走るよね。でも、そこには浪漫が無いんだよなあ…。
蝶採りとは、浪漫である。そう言い続けてきた身としては、肩身が狭い。

何だかグズグズ言ってるよなあ。ちよっとカッコ悪い。
何れにせよ、禁断の領域に足を踏み入れてしまってるよね。

ウンナンシボリアゲハも売っていたが、コレは触角が折れていたので、何とか踏みとどまった。
喉元まで『マケてくれんかのうー( ̄З ̄)』という言葉がせり上がってきていたが、言って値下がりしたら買わざるおえないと思い、全力でブレーキをかけた。
けど、今度耐えれるかは自信がない。考えてみれば、シボリアゲハは既に持っているのだ。これがよろしくない。

 
【シボリアゲハ】

 
ミャンマーに行かれた人のお土産の三角紙標本を、自分で展翅したものだ。
これがあるゆえに、シボリアゲハ4種類をコンプリートしたいと思ってしまったんだね。
コレクターという人種は、蝶に限らず同じカテゴリーのものをコンプリートしないと気が済まないように出来ているのだ。ビョーキである。

一応実物はどんなものなのか気になるので、中を開けて確認してみる。

 

 
尾状突起が長く、優美だ。
しかし、思ったほどには色があんまり綺麗ではない。近縁のギフチョウっぽい裏面を想像していたので、何だかガッカリだ。ギフチョウよりもホソオチョウに近いのかもしれない。あの蛾みたいな奴に近いかと思うとモチベーションが下がるよ。

 
【ギフチョウ裏面】
(2017.4 兵庫県三田市)

 
【同表面】

 
【ホソオチョウ 夏型♀】

 
【同裏面】
(2016.9 大阪市淀川河川敷。上が♀)

 
でも、表はそんなこと無いよね❓
けど、どんなだっけ❓
画像を探してくる。

 
【Bhutanis thaidina シナシボリアゲハ】
(出典『ゆのはな虫屋』)

ついでにウンナンシボリアゲハの画像も添付しておこう。

 
【Bhutanis mansfieldi ウンナンシボリアゲハ】
(出典『蝶の標本 麗蝶』)

 
良かった。表は美しい。
安心したところで、タッパーに放り込む。
おいおい、展翅せんのかぁーい❗❓
ハハハ( ̄∇ ̄*)ゞ、展翅が嫌いなのである。パンダルスムラサキどころか、去年台湾で採った蝶もろくすっぽ展翅してないんである。
とは言っても、シボリアゲハとシナシボリアゲハを並べて見てみたい。
そのうち気が向いたら展翅します。展翅したら、ブログには書きますネ。

                 おしまい

 
追伸
何だか、よう意図のワカランような文章を書いてしまった。
次回の蝶の話は、台湾の蝶シリーズの予定。アゲハのどれかです。

(註1)画像は去年のものだが
去年は『虫マニアはデビルマンの歌を歌う』と題して文章を書きました。

虫マニアはデビルマンの歌を歌う

自分で書いたのを忘れてて、思わず笑ってしもうた。
 
 

台湾の蝶15 ホッポアゲハ

 
      アゲハチョウ科 2

     第15話 『美貌の覇者』

 
ホッポアゲハは台湾で最も採りたい蝶の一つだった。
なぜなら台湾特産種で、しかも台湾屈指の美しさを誇る蝶だからである。
いや、メスならば台湾のみならず世界のAchillides(アキリデス=カラスアゲハ類)、ひいては世界のアゲハの中でも屈指の美しさだろう。

初めて出会ったのは、標高2000m前後の開けた尾根の小ピークだった。
♂だろう。メスを待つために高い樹の梢でテリトリーを張っていた。
テリトリーといっても、ゼフィルス(ミドリシジミの仲間)やタテハチョウのように葉上の先に止まり、別な蝶が飛んできたらスクランブル発進、追尾して追い出し、また同じ場所に戻ってくると云うのではない。止まることなく、回遊しながらパトロールしているといった感じだった。
飛ぶスピードは他の♂を追いかけ回す時以外は、そんなに速くはない。むしろ上昇気流に乗り、ゆったりと飛んでいる。だが、その高さは高い。地上7mから10m。制空権を支配する覇者の如く悠然と飛翔していた。王者の睥睨である(註1)。

 
【Papilio hoppo ホッポアゲハ♂】
(2016年 7月 台湾南投県仁愛郷)

 
その様はラオスやタイで出会ったオオクジャクアゲハを彷彿とさせるものがあった。
♂のテリトリーの張り方が似ているし、その占有する高さも7mくらいが多い(註2)。活動する標高もどちらも2000m前後から上が中心だ。

【Papilio arcutrus オオクジャクアゲハ♂】
(2014.3.28 Laos Samnua)

 
両者は見た目も近いところがある。
それで思い出した。そういえばホッポアゲハは昔はオオクジャクアゲハと同種で、その1亜種とされていた時代もあったのだ。
まあ生態も似ているし、斑紋形態の基本的パターンも近いから、そう考えた学者がいても不思議ではない。
きっとオオクジャクアゲハが東に分布を伸ばし、台湾に到達したものが長く隔離される中で独自に進化していったんだろうね。

但し、裏面はかなり違うし、別種とするのが妥当でしょう。

 
【ホッポアゲハ♂ 裏面】
(2016年 7月 台湾南投県仁愛郷)

 
本来このAchillides(Paris group)の仲間は、下翅裏面に並ぶ紋が一重なのだが、ホッポは何と二重紋になっているのである。
艶やかでゴージャスだ。黒と赤のコントラストに身悶えする。裏面はこのグループの中では最も美しいだろう。これに異論を唱える者はいないでしょう。いたとしたら、美的感覚を疑うよ。

この美しき赤い紋は、同じく台湾特産種であるアケボノアゲハの♂に擬態しているのではと云う説がある。
つまり体内に毒を有するアケボノアゲハに似ることによって、鳥の捕食から身を守っているのではないかと云うワケである。いくら似たいからって、そんなに簡単に似せられるもんかね❓
念じれば何とかなるって凄いな。ワシもあやかりたいよ。明日から王子様 羽生結弦くんになることでも念じてみっか。男の一念、巌(いわお)も通すというではないか。
(・o・)ほよっ?、あれは女の一念だっけか(笑)

兎に角このベーツ型擬態(註3)ってのは、理論として理解できなくもないが、オツムの悪いオラには俄(にわか)には信じがたいよ。そんなに都合よくいくもんかね❓ 学者のコジツケ的推論が、たまたま業界の理解を得て拡がったとは言えまいか…。

とはいえ、時間軸を長くすれば説明は可能かもしれない。
例えば、突然変異で裏面が二重紋で赤が目立つ蝶がたまたま沢山生まれた年があったとする。そして、オオクジャクアゲハのノーマル型よりも鳥に狙われずに済み、生き残ったとしよう。すると、赤い型同士が交尾する機会が増え、そのパーセンテージが徐々に上がってゆく。それが長きに渡って繰り返され、次第にノーマル型が減っていき、やがて消えてしまって別種になったとは考えられないだろうか❓
ダーウィンの自然淘汰説というヤツである。
まあ、実際に見た人はいないだろうから、永遠の謎だけどね。
でも正直言っちゃうと、こんなの必然としての擬態とは言えないよね。蝶本人の意志ではなく、たまたま赤い型がアケボノアゲハに似ていて、たまたま鳥に襲われにくくなったという偶然の結果に過ぎないんじゃないかと思うよ。

 
【Atrophaneura horishana アケボノアゲハ】
(出典『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
両種は垂直分布も重なるので(2000m以上の高地)、擬態している可能性はあると思うが、アケボノアゲハの飛んでいる所は見た事がないので個人的には何とも言えない。
しかし、アケボノアゲハはジャコウアゲハの系統なので、飛び方はゆるやかなのは間違いないだろう。
だとすれば、少なくとも飛ぶのがそれよりも明らかに速いホッポの♂の擬態効果は低いのではないかと思う。メスはそれなりにゆったりと飛ぶので、似ていなくもなかろう。だから、擬態効果が発揮されてるとしたらメスの方だろう。

 
一応、参考にオオクジャクの裏面写真も添付しておきます。

 
(出典『蝶の標本 麗蝶』)

 
赤紋は他のカラスアゲハの仲間よりもやや大きく見えるが、基本的にはカラスアゲハ系統の裏面そのものだ。
そう云う意味では、ホッポアゲハはこの亜属(種群)の中では特異な存在と言えよう。
因みに、二重紋といえば想起されるのがクロアゲハだ。一部にそういう型が現出するようである。

 
【Papilio protenor クロアゲハ♀】 
(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
あっ、コレって表面ではないか。
裏面の二重紋をネットで探そっと。

 
(出典『変異・異常型図鑑』)


いやはや凄いのもいるんだね。
それにしても、コヤツらは擬態しているとしたら何に擬態しているのかね❓
いや、擬態じゃないよね。単なる異常型だよな。何だか頭がこんがらがっちやってきたよ。

  
去年(2017年)は低いところでも採れたので、ちよっと驚いた。

 
(2017年 6月 台湾南投県仁愛郷南豊村)

 
標高700mを切っていたと思う。
正面から飛んできたのを咄嗟にさばいて、網の中を覗いたらホッポだったので(゜ロ゜)ありゃまと思った。
文献では垂直分布は標高1200~4000m近くと聞いていたから、まさかそんな所で採れるとは思っていなかったのだ。
調べたら、alt.455mでの採集記録もあるようだ。
但し、偶産みたい。なぜなら『アジア産蝶類生活史図鑑』に拠ると、低標高で幼虫を飼育するとまともに育たない旨が書いてあったからだ。
あまりにザックリした言い方なので、図鑑から抜粋しよう。

『1200~2500m前後に最も多く、1000m以下の低地からも稀に得られる。しかし、飼育の結果からいえば、このような低地においては人工的な産卵も、幼虫の成育率もきわめて悪く、羽化した成虫も小型のものが多いから、低地における採集例はかなり例外的なものと考えられる。』

あくまでも自分の経験だが、埔里周辺では標高2000m前後から2400mくらいで多く見られた。

因みにだが、オスをメスと間違える人は多いようだから注意が必要だ。実際、ネットにあげられている写真でもちょこちょこ誤同定が見受けられる。
これは♂の表面が明るい緑色だからだ。この緑色が日本のカラスアゲハ類(カラスアゲハ、オキナワカラスアゲハ、ヤエヤマカラスアゲハ、ミヤマカラスアゲハ)の♀の色に近いからだろう。
おまけに、日本のカラスアゲハ類のオスに定番に具わっている性斑が無いのだ。それも間違える原因になっていると思う。あっ、性斑というのは、上翅の表面にあるビロード状のお毛々の事です。

自分も実際、一度だけ見事に間違えてしまった。
午前11時くらいだったと思う。林縁から少し中に入ったところで、羽を広げて静かに止まっていたヤツを偶然見つけた。オスがバンバンにテリトリーを張っている時間帯である。そんな時に林内で休んでいるのは、だいたいにおいて♀である。しかも、色は日本で見慣れた♀の色にそっくりなんだから、てっきりそうだと思い込んでしまったのである。
無事捕らえて、しめしめと思いつつ手にしてから何か変だなと感じて♂だと理解するまでには、たっぷり10秒はかかったかと思う。

(;・∀・)あっ、メスと云う言葉で気づいた。
書いているうちに擬態だとか何だとかと逸れていってしまい、肝心のメスの画像を添付するのを忘れてたよ。

 
【Papilio hoppo ♀】

 
表の赤紋が発達していて美しい。
♂も美しいが、♀のこの白眉なる美しさの前では霞んでしまう。
でも、メスには滅多に会えないんだよね。
蝶がよく飛んでくる花場で1日待っていたとしても、1回飛んでくるか来ないかと云う確率だった。
まあ、日本のカラスアゲハでもメスにはそんなに会えないから当たり前か…。食樹に産卵に来るのを待って採る方が、よほど遭遇する確率は高いだろう。
しかし、食樹だったらどの食樹にでも母蝶が卵を産みに来るワケではないから、その木を探しあてるのは大変だ。短い滞在期間でそんな事はやってらんないよね。
たとえ台湾に行ったとしても、メスの採れる確率は皆さんが思っているほど高くはないですよ。Ψ( ̄∇ ̄)Ψケケケケケ。オラって、性格悪いのだ。

 
【♀裏面】

 
裏面も凄いかと思いきや、オスとあまり変わらない。
まあ、これ以上赤いところが増えたら、擬態効果が無くなっちゃうもんね。

ホッポアゲハの採集記はアメブロの『発作的台湾蝶紀行』にあります。
第11、12話「幻の美女」の前後編、32話「ヤッチマッタナ!」、37話「炸裂秘技大開帳!」39話「揚羽祭」などに登場しています。
例によって不親切なので、URLは貼り付けません。
興味のある方は、御自分で探されて下され。ハツカネズミ並の脳ミソさえあれば簡単に見つかります。

何だか文章が荒れてきてるなあ…。
やさぐれがちなのは、体調が思わしくないのだよ。
文章長いし、苛々してきた。
そろそろ、とっとクロージングに向かおう。

 
標本写真も添付しときまっさ。

(2016年 7月 台湾南投県仁愛郷)

(2016.7 台湾南投県仁愛郷)

(2017.6 台湾南投県仁愛郷)

 
何だか今一つの展翅だ。
まあ去年はたくさん完品が採れたし、そのうち展翅すればいっか…。

 
【ホッポアゲハ♀】

 
これは真面目に展翅したので、自分でも納得の出来。
こういうのを見ると、また会いたいなあと思う。
蝶でも人間でも、美人には同じくらいの恋慕の情がある。他人には理解し難いだろうが、蝶に魅せられると云うのは、そういう事なのだ。マジで盲目になるところがある。

 
比較の為にオオクジャクアゲハの画像も添付しときまっさ。

 
【オオクジャクアゲハ♂】
(2016.4 Thailand Fang)

 
何か真っ直ぐ撮れてなくて、歪んだ写真だなあ…。
気にくわないので、展翅板から外したものも添付。

 

 
今度は真っ直ぐだが、酷い写真だ。
ライティングとかちゃんとしてないとキレイな写真は撮れないんだろな…。
メンドクセーからする気は全くないけどさ。

因みにオオクジャクの♀はホッポみたいに表の赤紋は発達しない。だから♂と♀の見た目はさほど変わらない。
ついでだから言っとくと、オオクジャクはオオとつくだけあってホッポと比べてかなり大きい。と云うかホッポ自体がそもそもあまり大きくない。春型よりも大きいとされる夏型でさえ、日本のカラスアゲハの春型くらいか、やや小さいくらいだ。
だが、春型の方が色が明るくて美しいとされている。
春型も一度は採らねばのう((o( ̄ー ̄)o))

  
【学名とその由来とか何とかetc…】
学名の属名「Papilio」は、ラテン語で蝶と云う意味。
小種名の「hoppo」は地名由来。台湾中北部・新竹県の北埔郷で最初に見つかったことから命名された。
その最初に採集したのが当時の北埔支庁長 渡辺亀作氏。ワタナベアゲハ、ワタナベキマダラヒカゲ、ワタナベシジミは、この渡辺氏に因んだ和名だ。
しかし、氏はこれらの名がつけられたことを知らないままに亡くなられたという。台湾史に残る暴動事件、北埔事件の犠牲になって殉職されたのだ。
ホッポアゲハのあの鮮やかな赤は、血塗られた赤なのかもれない…。などと勝手に結びつけたくなるが、勿論そんなことはない。単なる自分のロマンティシズムだ。美しい蝶には関係のないことだ。

そういえば「アジア産蝶類生活史図鑑」では属名にAchillidesが使用されているが、これは現在はシノニム(同物異名)となっていると思われる。
ついでに言っとくと、Achillidesはラテン語で、たぶんギリシヤ神話の英雄アキレウス(アキレス)の息子を意味していたと思う。

台湾名は「雙環翠鳳蝶」。
「雙」は、二つの、二重の、ダブルといった意味で、「環」とは囲むとか、巡らせたといった意味だから、これは裏面の二重紋の事を指しての命名だろう。
「翠」は緑色。「鳳」は瑞鳥のことで、鶴や鳳凰などのめでたい鳥のことです。付け加えると鳳はオスの鳳凰のことで、凰がメスを表しています。
「鳳蝶」は中国語ではアゲハチョウに冠される名前だから、つまりは二重紋のある緑色のアゲハチョウってワケだね。

他に別称として次のようなものがあった。
重幃鳳蝶、雙環鳳蝶、北埔鳳蝶、重月紋翠鳳蝶、重幃翠鳳蝶。
重幃鳳蝶の幃は日本の漢字では帳(とばり)にあたる。謂わば重厚なカーテンだね。これも裏面の二重紋をベルベットのカーテンに喩えているのだろう。
雙環鳳蝶は翠が無いだけだから、もう説明不要だろう。
北埔鳳蝶は和名そのままに原産地の北埔を採用したものだね。
重月紋翠鳳蝶も裏面を月に喩えていると思われる。
重幃翠鳳蝶も説明不要でしょう。

和名はホッポアゲハでいいと思うけど、普通なら何とかかんとかカラスアゲハ、例えばウラアカカラスアゲハとかの和名和名したコテコテの和名がついてても良さそうなもんだけど、何でそうならなかったんだろね❓
不思議ですよ( ̄З ̄)

えー、ここで全然関係ないけど、ホッポアゲハを花場で待ってる時は、よく鼠先輩の名曲『六本木ーGIROPPONー』をもじった歌を口ずさんでました。

『🎵ホッポポポポポポポッーポー 🎵ホッポッホッポポポポホッポッポッポッポッポー…』
(-“”-;)阿呆である。

鼠先輩「六本木ー GIROPPON ー」
(青いとこポッチで偉大な鼠先輩の曲が聞けます)

待ってても、そんなに頻繁に飛んで来るワケもなく、一人で突っ立ってると退屈なのだ。アホにならんと、やってらんないのである。

で、飛んで来た時も口ずさみ続けて、
『🎵ホッポポポポポポポッーポ🎵ホッポポポポポポポッポッポッ(#`皿´)ポーッ=3❗❗』ってな具合で最後のフレーズで網を💥ガツーンと振ってた。
なぜだか、これがまた見事に採れるんである。もう百発百中で、このパターンで振り逃したことは一度たりともなかった。
嘘だと思うなら、試してみな。Ψ( ̄∇ ̄)Ψケケケケケ

  
【分布と発生期】
台湾特産で、中北部から南部の中高海抜の山地帯に広く分布する。標高1200mから4000m近くまで見られるが、2000~2400mの間に最も多く、1000m以下の低地でも稀に得られる。
3月下旬から11月上旬に渡って見られ、年数回の発生を繰り返す。
埔里周辺では6月から7月に見られたが(おそらく第2化)、7月は鮮度は悪くないものの、鳥にやられたのか翅がザックリいかれた個体ばかりだった。

 

 
何れも2016年の7月10日前後のものである。
結構バチバチにいかれている。裏の赤紋、ホントに鳥に対して擬態効果があんのかね❓
そもそも擬態つっても、人間目線で言ってるに過ぎないのである。効果の程を鳥に直接訊けるワケではないから、本当のところはわからない。
だいたい鳥の眼って四原色(註4)じゃなかったっけ❓三原色でモノが見えてる人間とは、見てる風景がそもそも違うんだよね。
人間って、最初に答えありきで、無理矢理こじつけで論理をくっつけたがるクセがあるからね。
あっ、『オマエもじゃ!』とツッこまれそうだ。
そん時は、ハイ、そうですと認めます。ワタシャ、素直すぎるくらいに素直な人なのだ。

えーと、勿体ないので、コヤツらは合体させてニセ完品を作るつもりです。

この年はたまたま鳥にやられた個体が多かっただけかもしれないけど、完品を撮影や採集したければ、適期は6月中旬だろう(年によって変動はある)。但し、梅雨がまだ明けてるか明けてないかの微妙な時期でもあるので、運が悪ければ連日雨なんてこともある事をつけ加えておきませう。

 
【生態】
♂は午前中8時半くらいから山頂や尾根筋の樹梢でテリトリー(占有行動)を張る。その際、止まる事は殆んどなく、周囲を回遊する。
飛ぶ高さは周囲の木の高低にもよるが、主に7m前後が多かった。時折、低いところに降りてくるので、その時が撮影や採集のチャンス。
その日の天気次第にもよるが、午前10時~10時半くらいにピークがあり、次第に数を減じて、午後になると姿を見なくなる事が多かった。
明るい開けた場所を好み、林内で飛ぶことはない。
♀は何処かで憩んでいるのだろう。飛翔は滅多に見ない。
♂♀ともに花蜜を求めて花を訪れる。吸蜜は主に午前中に行われ、昼を過ぎると一旦姿を見せなくなる。午後2時半くらいから再び現れ、日没近くまで見られる。但し、訪れる個体は午前中の方が圧倒的に多かった。
♀は午前中の早い時間(午前9時前後)と午後4時くらいに現れる事が多かった。
♂は吸水にも訪れ、その時が最も観察しやすい。

 
【幼生期と食樹】
『アジア産蝶類生活史図鑑』によると、野外ではミカン科のEuodia glauca ハマセンダンとToddalia asiatica サルカケミカンの2種が食餌植物として確認されているとあった。

台湾の文献では、次のようなものが食樹として記録されている。

賊仔樹 Tetradium glabrifolium
飛龍掌血 Toddalia asiatica
食茱萸 Zanthoxylum ailanthoides

上から2つめがサルカケミカンだね。
一番上はホソバハマセンダン。三番目はカラスザンショウである。
日本のカラスアゲハ、オキナワカラスアゲハ、ヤエヤマカラスアゲハ、ミヤマカラスアゲハの食餌植物と同じなんだね。
それにしても漢字名が何だか仰々しいよなあ…。

 
それでは恒例のゾグッとくるぜの幼虫写真といきましょう(一応、閲覧注意ね)。

 
【幼虫側面】
(出典『臺灣生物多様性資訊入口網』)

 
さんざんぱら、イナズマチョウ軍団やイチモンジチョウ師団のスーパー邪悪なる姿を見てきた身としては拍子抜けだ。もはや可愛くさえ思えてくる。

次のコレなんかは、キューティーと呼びたくなってくるくらいだ。

  
【幼虫前面】
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
ちよっと惚(とぼ)けた感じが可愛い。お目々なんて、バリにキュートだ(実際は目ではなくて、そう見える紋だけどね)。

おいおい、長年、毛虫・芋虫を毛嫌いしてきたのに、この傾向は免疫できちやってんじゃねえのか❓
う~む、こういうのって、心理学で云うところの「Door in the face」とかって事なんだろなあ。
ドア・イン・ザ・フェイスってのは、例えば女の子に最初に『たのむから一回やらしてくれ。』と言って断られた後に、すかさず『じゃあ、手だけでも握らせてくれ。』と言って、まんまと手を握る方法である。
あっ、これは今回の例とはまた違うか?
まあいい。何れにせよ、人間の意識なんてものはどうにでもなるのだ。怖いよね。

 
【蛹】
(出典『臺灣生物多様性資訊入口網』)

 
越冬態は蛹。
色は何色なんだろね❓調べたが、よくワカンナイ。
日本でもアゲハ類は蛹で越冬するのだが、その際の色は緑色ではなくて茶色になる事が多い。目立たないように葉が落ちた周囲の色に合わしていると言われている。
でも台湾は亜熱帯で常緑樹が多そうだ。緑色の可能性もありそうだな。

幼虫、蛹ともにオオクジャクアゲハと極めて似ている。写真を見た限りでは、強いて言えば頭部がオオクジャクの方が白っぽい。
何れにせよ、両種はとても近い類縁関係にあるのだろう。

 
【卵】
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
卵はつるつるで、タテハチョウ科などのように表面に複雑な造形は全く無い。全然もって面白くないのだ。
アゲハの仲間の卵はどれもこんな感じのもんざます。種間にさしたる違いはないのだ。拠って次回からはアゲハの卵は基本的に添付しませんので、あしからず。

                 おしまい

  
追伸
次回もアゲハの予定です。
同じカラスアゲハの系統のタイワンカラスアゲハ、カラスアゲハ、ルリモンアゲハの何れかになるかとは思う。
分類学的にややこしい奴等ばかりなので、書く前からちよっと憂鬱です。迷宮の深みに嵌まらないことを祈ろう。

(註1)王者の睥睨
とはいっても、春先はキボシアゲハやカバシタアゲハの方が強くて、彼らに追いかけ回されるという。
この2種は春のみの年1化の発生なので、繁殖にそれだけ必死なのかもれないね。

(註2)テリトリーを張る高さ
オオクジャクアゲハはラオスのサムヌアでは7mくらいで、その上10m~をテングアゲハが占有していた。タイでも一番北の生息地では同じ構図だった。
しかし、タイの別の生息地では腰から上(1m~2m)の低い所を飛んでいた。これは山頂が草原になっていて、高い木が無かったせいだろう。ホッポアゲハも木が5mくらいのところでは5m前後を飛んでいたから、周りの木の高さに準じて飛ぶ高さが決まってくるのだと思われる。

(註3)ベーツ型擬態
葉や幹、枝などの自然物に自らを似せ、天敵から身を守る(カマキリ等はその逆利用)のが一般的に擬態と呼ばれているものだが、それに対して毒のあるものに自らをそっくりに似せることによって捕食者の目から免れるタイプの擬態は、ベーツ型擬態と呼ばれている。

(註4)四原色
光の四原色の事。
人間と有袋類は、赤、緑、青の光の組合せを眼が感知して色を認識しているが、鳥はこれにプラスして紫外線も見えている。
だから人間には同じ色に見える雌雄の鳥でも、鳥たちには全く違った色に見えているようなのだ。
因みに、昆虫や爬虫類も四原色とされている。だから、モンシロチョウなんかは我々にはオスもメスも白に見えるが、四原色の者からは一方は黒っぽく見える(たぶんメス)ようなのだ。
ついでに言っとくと、哺乳類の殆んどが二原色。
ゆえにネコちゃんには、この世界は白、茶色、黒で構成されたモノクローム的世界に見えているようなのだ。つまり、ネコや犬の世界には赤と青しかなく、緑色が存在しないのである。だから人間みたいに電気信号を脳内で変換して、沢山の色として可視化することが出来ない。
おまけにネコは弱視で、その見ている風景はかなり荒い画像のものだと言われている。それをカバーする為に嗅覚が発達したと云うワケだね。

舌の根の根も渇かぬうちに

 
前回のカニの話の続編である。

文章を書き終わって、スーパーに買い物に行った。
すると、前回に登場した今朝がた売っていた蟹が、なんと半額以下になっていた。980円が、な、何と400円❗生きている生の蟹が980円でも激安なのに、400円とは破格である。
しかし、今しがたスーパーに売っている蟹は大概がハズレで、旨かった試しなど一度たりともなかったと罵詈雑言を並べたばかりなのである。
この期に及んで、何と云うタイミングだ。舌の根の根も渇かぬうちに、ここで蟹を買ってしまえば、学習力ゼロの💫パープリンと言われても致し方なかろう。
むう~(-“”-;)、暫し悩んだ。
慥(たし)かに、この状況でまたぞろ蟹を買ってクソ不味いなんて事になれば、救いようのないアホだ。そんなアホは、カニ型宇宙人にムシャムシャ食われて死んだ方がよろし。

だが、気づけば手にとっており、重さを量っておった。それって、買う意志が無きにしもあらず、いや買う気全然ありやんか( ; ゜Д゜)
いやいや重さを量って、どうせ軽いんだろう? ほら、やっぱり軽いやんけー。誰がそんなクソ蟹なんぞ買うかボケーッ(=`ェ´=)と言いたかっただけなのだ。
と心の中で言いワケかましてみたが、嘘です。買う気、かなりありました。
だってさー( ̄З ̄)、400円なんだもーん。

で、4匹あるうちの一番重いのを買ってしまった。

 

 
前回には紅ズワイガニと書いたが、正体はズワイガニであった。
何で間違えたのかというと、朝方売っている時は魚屋さんみたいにクラッシュアイスの上に平積みにされており、札に紅ズワイガニと書いてあったのだ。しかもカニは全部裏側になってた。表側だと見間違うワケがないが、腹側だとチラ見程度では見分けにくいのだ。

因みに言っとくけど、カニ、特に生の蟹は腹側を上にして売られているモノの方が美味しい可能性大。
そうする事によって、カニ味噌が崩れにくいからである。それだけ店側がカニに対する扱いが丁寧である事をも証明している。
まあ、パックにされた時に表側になってたら世話ないけど(笑)

中を開けてみると、今朝はまだ辛うじて生きていたが、流石に御臨終されておられた。
さて、問題は調理法である。

もう刺身はしません。焼き蟹も蒸し蟹もしません。蟹めしも蟹チャーハンも致しません。
ここはシンプル。原点に帰って、茹で姿蟹にさせていただきやす。

塩水を2L分つくる。水1Lに対しておおよそ大さじ2の塩を入れればよい。
しかし、一番大きい鍋でもカニの幅に足りぬ。
ヤケクソで無理矢理ネジ込み、蓋をして半蒸し煮にしてやった。蒸し煮にした時間はおおよそ15分強。ぬるま湯の状態からブッ込んでやった。低温から徐々に火を入れた方が身質を損なわないのではと思ったのである。まあ、単なる思いつきなんだけどね。

カニの忌まわしいところは、外からではどれだけ火が入っておるのか皆目見当がつかないところだ。
コレは蟹を買う時にも当てはまるから、何とも苛立たしい。見てくれだけでは、どれくらい身が詰まっているのかワカランのだ。持って重さを量ると云う方法も無いではないが、コレとて所詮は相対的なものだ。並んでいるカニの中で一番身が入っていると云う事はわかっても、それがギッシリ詰まっている保証にはならない。魚と違って、目利きもへったくれもありゃしない。

Σ( ̄皿 ̄;;興奮してきた。カニには何度も落胆させらてきたのだ。そういえば、買った冷凍の蟹を解凍したら、青緑色に変色した事もあったな。チキショーめがっ❗

心を落ち着かせよう。
まあ、またクソ蟹だったとしても、所詮は400円なのだ。それほど怒ることはないと自身に言い聞かせる。
とはいえ、マズかったらどうせ怒髪天(#`皿´)にはなるんだろうけどさ。心の狭さはいくつになっても変わらんのだ。

グジャグジャ考えてるうちに茹で上がりましたよん。

 

 
ねっ、無理から鍋に入ってた形でしょ。
ザルの中でほっこり。湯あがりカニ型宇宙人の寛ぎの図。

取り敢えず、温かいうちに食ってみよう。
一番太い足をワッシと折る。で、鋏✂を入れて、まだ湯気の立っているところをそのまま頬張る。

\(◎o◎)/甘っめぇー❗❗❗
火の通り具合は、今しがたギリギリ火が通りましたと云った感じで、しっとりふっくらだ。
( ☆∀☆)ムッチャクチャ旨いやんけー。
身の詰まり具合もスーパーで買ったカニの中では一番だ。あのスカスカだった時のガッカリ感ったらないもんなあ…。

と、ここで近所の姉さんから飲みのお誘いが入った。
後ろ髪引かれる思いだったが、ただ酒という事なのでホイホイ出掛ける事にした。
と云うワケで昨日は文章を発表出来なかったのである。

翌日、残りのカニを食うことにした。

 

 
キレイに並べようと思ったが、既に足を1本食っているのである。左右対称にはならない。と云うワケで、ザックリと皿に盛った。

先ずはちよっとカニ味噌を味見をしてみる。
\(^o^)/うんめぇー。前回のカニ味噌は苦くてクソ不味かったが、ねっとりとして、微かな苦味のなかに旨みがたっぷりとあるではないか。

身をほじり出す。

 

 
うん、良い感じだ。
勿論、何もつける気はない。カニ酢なんぞ邪魔だ。
シンプル・イズ・ザ・ベストが一番である。

食ってみると、茹でたてには負けるが身はやっぱ甘い。
カニはやはり茹でたてが一番美味いんだなと改めて感じ入る。昨日は勿体ないことをしたが、冷えても旨いから許す。

ほじほじ~。ほじほじ~。
至福のほじほじ男の顔からは、微笑みが絶えることはなかった。

                 おしまい
 

台湾の蝶14 ムラサキイチモンジ

  
      タテハチョウ科11

      第14話『紫の貴公子』

 
結構、自分にとっては曰くつきのある蝶である 
初めて見たのは、ラオスのポンサヴァン(Phonsavan)。
2014年の3月下旬だった。
ひらひら緩やかに飛んでいた。見たこともない蝶だったから気合いが入ったし、緊張もした。知識は無くとも珍品か否かは何となく解るものだ。言葉では説明しにくいが、珍なる蝶には独特のオーラがある。
そこそこ大きかったし、間違いなく♀だろうと思った。ならば、益々得難いと本能的に感じてた。
いまだに思い出すけど、ひらひら飛びではあるけれど、その飛ぶ軌道が一定では無かった。急にブレーキをかけて向きを変えたり、上下にもブレる。
ここからは負け惜しみである。言い訳をかまさせて戴く。
ゆえに慎重になった。振ろうとした瞬間に軌道を変えるので、思いきって振るのをすんでのところで踏みとどまったのが少なくとも2回はあった。
そうだ、思い出した。一番最初はブッシュを抜けた瞬間、出会い頭で正面から近寄ってきた。その距離50㎝以内である。しかし、狭い場所で窮屈だったから咄嗟に網が出なかった。野球でいえば、真っ直ぐ飛んでくる正面の打球は足が止まり、意外と捕球が難しいとか、内角の球をキレイに振り抜くのは難しいと云うのと同じ状況だろう。
そういえばトゲトゲの草も生えていたから、思いきって振るのにも躊躇があった。慎重にチャンスを待った記憶が甦ってくる。
しかし、結局は網を一度も振れずじまいで、やがて彼女はゆっくりとブッシュの向こうへと消えていき、二度と戻って来なかった。
そして、その後インドシナ半島では一度もムラサキイチモンジには会えていない。

振らなきゃ採れるワケがない。確率ゼロだ。忸怩たる思いである。しかるべき時にしかるべき決断が出来ない者は死んだ方がいい。いつまでもチビ黒サンボの周りを回り続け、バターになってしまえばいいのだ。

普段はそれほど考えずに一閃できるのだけれど、時々エアポケットみたいに下手に慎重になる時がある。
そして、そういう時は大概良くない結果に終わるのだ。解ってはいるんだけど、どうしても欲しいモノを前にすると固まってしまう時があるのである。
何だか恋愛論を語っているみたいだ。そうなのだ。蝶を追いかけることは恋と同じなのだ。

だからこそ、台湾初日にして出会った時は興奮した。
吸水に来た個体を見た時は、テンションが一挙にハネ上がったのをハッキリと憶えている。
フラれた女にはリベンジしなければならない。
しかし、とても敏感な蝶で中々間が詰めれなかった。
自分にとっては、こういう時はかえって良い。たぶん喜怒哀楽のうちで怒りが自分の一番の原動力なのである。奮い立つ気持ちが動きを俊敏にさせ、冷静にもさせる。慎重且つ大胆に電光石火で網を被せたのを思い出す。
その時の個体が、下の個体だ。

  
【Parasarpa dudu ムラサキイチモンジ♂】
(2016年 7月 台湾南投県仁愛郷南豊村)

 
【裏面】
(2016年 7月 台湾南投県仁愛郷南豊村)

この裏面が稀有だ。他に似たものはいない。美しい。
指先が震えた。
キリッとした蝶で、品もあるから『紫の貴公子』とでも呼びたくなる。

その後、何度か出会えた。その度に飽きることなく捕らえた。男前とか美人の蝶は緊張感を伴うので対峙していて楽しい。

 
2017年にも会えた。

(2017年 6月 台湾南投県仁愛郷南豊村)

(2017年 6月 台湾南投県仁愛郷南豊村)

美しくて、敏捷な蝶は無条件に好きだ。
膝まずきたくなる。と、同時に征服したくもなる。
そこには狩猟本能のエクスタシーがある。
だから、蝶採りはやめられない。

 
標本写真も添付しておこう。

しかし告白すると、♂しか採れていない。
一度だけ、ホッポアゲハを待っている時に横から不意にメスが飛んできたが、恥ずかしながら振り逃がした。
しかも、ふらふら飛びのヤツである。
言いワケ太郎的には、ホッポのメスに集中していたからだとか、足場が悪かったとか、急だったので心の準備が出来ていなかっただとか御託を並べたいところだ。
しかし、本当はオイラが惚れた女には弱いイモなだけだ。いや、厳密的にはそうではない。惚れていても自由闊達に振るまえる事の方が遥かに多い。ただ、ある種の相手にだけはそうなだけだ。その際、愛の量の多少は関係ない。
とにかく人間と同じで、ある種の蝶とは縁がないと云うか相性が悪いのだ。

と云うワケなので、カッコ悪いがメスの画像をよそから引っ張ってこよう。

(出展『原色台湾蝶類大図鑑』)

上がオスで下がメスだ。
基本的には雌雄同斑紋だが、メスの方が白帯が太くて翅形が丸くなる。そして、遥かに大きい。
書いていると、なんだか採れなかった事に沸々と怒りが込み上げてきたよ。
基本は単独で動くけど、やっぱ他人と一緒に採集した方がいいのかなあ…?
誰かと一緒に採集していると、馬鹿にされたくないから気合いが入るし、集中力も増す。だから、あまり振り外すことは無い。ええカッコしいで、自尊心が強いのである。
人前で振り逃がすのはカッコ悪い。そして、大概の人は無理な言い訳をカマすから、益々カッコ悪くなるのだ。それを避けたくば、人前で常に鮮やかにネットインしなければならぬのである。
でも誰かと一緒ということは、イージーチャンスを振り逃がすと、結構後々までネタにされるんだよねぇ…。
プーさんや麿師匠のルーミス(註1)とか、小太郎くんのクモツキ(註2)、アニキのムモンアカ(註3)とかがすぐ頭に浮かぶ。自分なら、ジャコウアゲハでやらかしている。あと樫尾さんの前で振り逃がしたオオイチモンジの♀も相当カッコ悪かった。

何か話が逸れたね。 
そうだ、忘れるところだった。
気を取り直して標本の裏面写真を添付しよう。

裏面を見ると、翅の根元の斑紋がちよっとイナズマチョウに似ている気がする。

 
【タカサゴイチモンジ裏面拡大】

 
【ムラサキイチモンジ裏面拡大】

根元の斑紋に同じ系統を感じるのは、気のせい❓
一応、タイワンイチモンジの裏も見てみよう。

  
【タイワンイチモンジ裏面拡大】

同じイチモンシチョウの仲間とは言っても、タイワンイチモンジ(Athyma)とは属も違うし、斑紋だけだと類縁性は感じられない。ムラサキイチモンジは分類学的には案外イナズマチョウに近いのかもしれない。
とは言っても、蝶には他人の空似というのがよくある。
交尾器とかはどうなってんのかなあ?
見ても、全然ワカランと思うけどさ。

 
【学名の由来など】
学名のParasarpaもduduも語源は不詳。
記載者のMooreの創作とされている。
台湾のモノは亜種「jinamitra」とされており、語源は梵語(サンスクリット語)由来で、勝者の友人の意。

『原色台湾蝶類大図鑑』や『アジア産蝶類生活史図鑑』では属名がSumalia(語源不詳)となっているが、最近の殆んどの文献がParasarpaとしているので、現在Sumaliaはシノニム(同物異名)になっているのではないかと思う。結構、生き物って学名の変更が頻繁にあるんだよね。
名前が変わる事情はそれなりに理解はしているが、正直、一般人としては面倒クセーなと思う。名前と云うものは本来解りやすくする為にあるのにも拘わらず、かえってややこしくなってて、本末転倒なんじゃねえのと思ってしまう。

台湾名は紫俳蛺蝶。
俳は中国語では、並ぶ、並べる、列などを表すようだ。
別称は紫單帶蛺蝶、Y紋俳蛺蝶、紫一文字蝶、紫一字蝶、忍冬單帶蛺蝶。
Y紋とは上翅の帯の形からだろう。また、忍冬は植物のスイカズラ(ニンドウ)のこと。

英名は、White commondore。
Commondoreは海軍准将、代将、提督のこと。
タイワンイチモンジやヤエヤマイチモンジにつけられたsargent(2等、3等軍曹)に比べれば、遥かに位は上だ。納得である。それだけヤエヤマイチモンジなんぞよりも珍しく、威厳や品位があると云うことなのだろう。

 
【分布】
『原色台湾蝶類大図鑑』に拠ると、台湾以外ではシッキム、ブータン(以上の地では極めて稀)、アッサム(普通)、ミャンマー、海南島、スマトラ島(極めて稀)に分布が知られるとあった。
そっかあ…、インドシナではやはり珍しいのかあ。
しかも♀だったワケだから、逃した蝶は大きい。

(出展『原色台湾蝶類大図鑑』)

あっ、分布図には中国西部から南部が入っているのに図鑑の文章には抜けてたよね。
この図鑑はかなり古いので、一応『アジア産蝶類生活史図鑑』でも確認してみる。
図示しないが、ほぼ分布は同じだった。
こういうパターンの分布だと必ずと言っていいほど、マレー半島の高地にも分布しているものだが、どうやらいないみたいだ。

『原色台湾蝶類大図鑑』では、以下の3亜種に分類されていた。
たぶん分布図がさして変わらないから、亜種が増えていたとしても、そう特異なものは発見されていないだろう。

▪ssp.duda duda シッキム、ブータン、アッサム、ミャンマー、海南島

▪ssp.bocki スマトラ島(Battk高原)

▪ssp.jinamitra 台湾

分布が広い割には、亜種数が少ないんだね。
学者は細分化したがるが、素人にはワケわかんなくなるだけだから、亜種は極力濫造して貰いたくないというのが本音です。

台湾では珍ではないが、かと言って普通種ではないと思う。近縁のタイワンイチモンジやヤエヤマイチモンジよりも明らかに個体数が少ないし、棲息地も局所的だ。同じ山塊でも、居る場所は特定されていた。

 
【生態】
『アジア産蝶類生活史図鑑』に拠ると、台湾では2~12月に姿が見られ、年数回の発生を繰り返す。
自分の経験(埔里周辺)だと、夏場は6月下旬から現れ始め、最盛期は7月上中旬が最盛期だろう。
標高500~2000mの常緑広葉樹周辺に見られると云うが、その中心の棲息帯は今一つ解らない。自分の見たのは標高700m前後と2000m前後。ラオスでは1200mくらいだったと記憶している。
図鑑では♂♀ともに飛翔は敏活とあったが、これには疑問を呈する。
確かに♂はそうだ。しかし、♀はそうでもないと思う。見た2回ともが、ひらひら飛びだったからだ。
だいたい、♀で飛ぶのが格別速い蝶なんて、日本と海外を含めても記憶にない。だいたい、♀は♂に比べて飛ぶのが遅い。♂並みにカッ飛ぶ♀なんているのかな❓少なくとも自分は知らないし、聞いた事もない。

♂は路上や草木の低い葉上に止まる事が多い。
テリトリー(占有行動)も張るらしいけど、自分は見た事がない。
♂♀ともに熟した果実や獣糞、花、樹液に飛来すると言われているが、コレも見た事がない。そういえば、果実トラップにも一度も飛来しなかった。
そっか…、振り逃がした♀は花にやって来たのかもしれない。近くにタイワンソクズの花場があって、明らかにソチラに向かっていたような気がする。
慌てる乞食は貰いが少ないのである(あっ、コジキと打っても漢字が出てこない。差別用語って事からなんだろうけど、御苦労なこった。昔からある言葉をないがしろにするのも或る種の差別だと思うんだけどねぇ。何だか言葉狩りの世の中になっちやったよね)。

♂でいいなら、採集チャンスは吸水時が狙い目だろう。敏感だが吸水時間はイナズマチョウ類よりも長い。
斑紋云々とは言ったけど、生態はイナズマチョウよりもヤエヤマイチモンジやタイワンイチモンジ等のイチモンシチョウの類に近いと思う。

 
【幼生期と食餌植物】
『アジア産蝶類生活史図鑑』によると、幼虫の食餌植物は、スイカズラ科のLonicera accminata ホソバスイカズラ(アリサンニンドウ)、L.hypoglauca キダチニンドウとなっていた。

台湾のサイトでは、食樹は一つだけしか表記されていなかった。

忍冬 Lonicera japonica

普通の日本にもあるスイカズラじゃないか。
因みに、生活史図鑑では与えれば良好に育つと書いてあった。
なぜに一つしか表記されていないかを突っつくと碌(ロク)な事が無いので、このままスルーじゃよ。

ハイハイ、それでは恒例の激キモ幼虫タイムである。
今回はエッジの効いた化け物なので、見てもいい人でも心して戴きたい。マジ、ヤバい見た目なのである。
あとで文句言われても困るので、今回も一応閲覧注意と書いておくよ。自己責任で見られたし。

 
(出展『台湾生物多様性資訊』)

地球防衛軍、応答せよ❗、応答せよーっ❗❗
アギャブワビー‰♯△■¢§☆▼※ザザザザザザー。

ムチャクチャやなあ。
何なんだ、チミは❓
悪逆非道。悪の権化。まるで、世界の全ての憎悪を集約したのではないかと云うくらいに醜くておどろおどろしい。

次の正面写真は、もっとエグいぞ。

(出展『flickriver』)

完全にエイリアンとか怪獣だ。おぞまし過ぎる。
否、怪獣もエイリアンもコヤツらをモチーフにして生み出されたと云うのが正解だろう。
皆さん、手近にエイリアンは居まっせ(・┰・)

時々、感じるんだけど、そもそも昆虫ってエイリアンなんじゃないかと思う。別に地球を征服に来たワケじゃないけど、遥か太古の昔に遠い天体から隕石か何かに乗ってやって来て、そのまま地球に適応して分化、繁栄したんじゃなかろうか❓
甲殻類と共に、体の構造が何か特異と云うか、地球的ではないような気がする。

ヤケクソついでに更に画像を添付じゃい(=`ェ´=)❗

(出展『アジア産蝶類生活史図鑑』)

何をどうしようが、邪悪な見てくれである。
もう1つ画像、このキショイ幼虫が他の幼虫様なものに寄生されていると云う全身おぞけまくりのモノを見つけたのだが、この世のものとは思えないくらいの気色悪さなので、流石に自粛しました。
ワシでさえ、背中に悪寒が走ったのだ。気の弱い御婦人などはその場で卒倒、口から泡を吹きかねないのだ。

蛹もかなり怪しい形だ。

(出展『圖録検索』)

蝶の蛹にしては斬新過ぎる頭部だ。
造形の意味が解らない。はたして、その形になる必要性はあるのだろうか?
むうー(-_-;)
もう何か秘めたる異教、まるで邪教の偶像みたいではないか。千年後に蘇生、地球の大地を全て焼き尽くしそうな悪魔の化身を思わせる造形だ。キャラクターデザインのお仕事の方、必見であろう。

(出展『アジア産蝶類生活史図鑑』)

正面から見ても、ヤバいよね。
幼虫と蛹は特異ではあるが、イナズマチョウ型ではなく、どちらかというとイチモンシチョウ型の方がまだしも近い。

  
最後に卵。
安心して下さい。コレは普通のイチモンシチョウ型です。

(出展『圖録検索』)

                  おしまい

 
追伸
えー、今回は和名で憤慨する事もなく、また調べれば調べるほど迷宮に迷いこむ事もなく、無事平穏に終わりました。お陰さまで、すらすら書けた。
実を言うと、このムラサキイチモンジの回、ヤエヤマイチモンジの回の次の日には、もうほぼほぼ完成しておりました。何でかというと、早々と頭の中に構成があったからです。だから筆は思いのほか順調に進んだ。
では、なぜに間がこんなに開いたのかというと、オリンピックに嵌まっちやったからである。
そして、オリンピックロスに罹患。全然、文章なんて書く気にはなれなかったのである。

ムラサキイチモンジの採集記は、『発作的台湾蝶紀行』の第5話 紫の貴公子 の回にあります。興味のある方は読んで下され。

次回はタテハチョウ科を離れ、お約束どうりにアゲハチョウ科です。乞う、御期待!
といっても構想ゼロなんで、あまり期待などされぬように。

(註1)ルーミス
ルーミスシジミの略称。

(註2)クモツキ
クモマツマキチョウの略称。

(註3)ムモンアカ
ムモンアカシジミの略称。

3種何れも日本では珍しいとされる。
だから、人々の嘲笑のネタになるし、本人も口惜しいからいつまでも言われてしまうんだろうね。