令和二年のブラックホール冷凍庫

 
冷凍庫から正体不明なものが出てきた。
タッパーに入ってるから食いもんであることは間違いないと思われるが、何なのか見当もつかない。
いや、果たして食いもんと断定してよいものだろうか❓
冷凍庫には蝶々を中心に虫関係の物も入っておるのだ。誰かに頼まれて奇怪で醜悪な蟲を採集したはいいが、渡し忘れている可能性だってある。そう、相も変わらず冷凍庫がブラックホール化したままなのだ。
もしそんな醜悪な蟲に熱が入れば、とんでもない悪臭を放つのではないか❓ げに恐ろしや。想像してチビりそうになる。
なワケで、ビビってレンジで急速解凍するのを回避することにし、自然解凍に委ねることにした。

そして一晩冷蔵庫に安置してあった棺、もといタッパーをだいぶビビりながら開けてみた。
(?_?)はあ❓ 開けてみても何なのか今ひとつワカラン。邪悪な蟲でないことは確かだが、白っぽいゴワゴワなもので何かワカランのだ。オラが作ったものである筈なのだが、全く記憶にない。ワシの脳ミソ内も整理されないままの記憶の塵だらけでブラックホール化が進行しているみたいだ。

匂いを嗅ぐと冷凍臭がする。そのせいか、他の匂いがあまりワカラン。おまえ、誰じゃ(;゚∀゚)❗❓
捨てようかとも思ったが、それはそれで敵前逃亡みたいで何か癪にさわる。
何者かを特定するためには、ここはもう食うしかないだろう。そう考えた途端、急に💕ドキドキしてきた。よくテレビでお笑い芸人が得体の知れない食いもんを食わされているが、その気持ちが解るような気がした。
仕方なしに指で摘んで、えいや❗と口に放り込む。
ゆっくりと咀嚼してゆくのだが、直ぐには味がしなくて少しインターバルがある。この僅かな間に何とも言えない感情が来襲する。恐る恐る感が半端ないのだが、その数秒の間に様々な思考と感情が交錯するのだ。背中がゾワゾワして、何かあれば即吐き出すモードになってる事が解る。
冷凍臭の後から、魚らしき味が立ち上がってきた。
どうやら酒蒸しした鯛のほぐし身のようだ。ベースの味付けは良い。でも、いつのやねん❗❓って感じだ。
それに乾燥が進んでカピカピだ。なので、とりあえず酒に浸す。ここまですれば、もう捨てられないわな。
もう半日おいて、冷凍臭さを軽減させる。

さてさて、どうしたものか❓
雑炊あたりにするのが誤魔化しが効いて、何とかなりそうだが、それじゃ芸がない。発作的に玉子焼きにする事を思いついた。寿司屋の玉子焼きに魚のスリ身が入っていることを思い出したのだ。

玉子3個を溶いて、鯛のほぐし身を入れ、水も少し入れてかき混ぜる。水を足したのは、やや出汁巻き寄りにしようと云うワケだ。
少しだけ砂糖と塩、顆粒の昆布だしを入れて味を調整する。
あとはじっくり弱火で玉子焼きを巻いてゆく。

 

 
何か素っ気なくてさみしいので、豆苗を飾るが今ひとつ決まらない。

 

 
豆苗を千切ってみる。
まあ、こんなもんじゃろ。
そのままラップして冷蔵庫に入れる。
玉子焼きは温かいものより、冷やしたものの方が味が濃くて旨いと思ってるからだ。

翌日、食べてみることにする。
ここまで三日間も要している。何だか笑けてきたわ。

 

 
あいにく大根おろしがないが、まあええじゃろ。そのままでもしっかり味がついている筈だ。

食う。
味は冷凍臭もなく、普通にかなり旨い。
スリ身ではないから、寿司屋の玉子焼きのような滑らかさはないが、味は近いものがある。魚を入れた玉子焼きを初めて作ったけど、有りだな。
わざわざその為に魚を買ってきてまで作らないけどさ。

                        おしまい

 

酒井さんの新潟茶豆

 
おつとめ品の茶豆を買う。

 

 
定価は398円だけど、128円に値下がりになってた。
この値段だったら、ダメ元だ。

面倒くさいので両端をハサミで切らず、そのまま塩揉みして5分ほど茹で、団扇で扇ぐ。よく水に浸けて粗熱をとる人がいるが、そんなことすると豆の香りが飛んで台無しなるのにね。

  

 
山形県鶴岡市の名産だだちゃ豆以外の茶豆には、正直あまり期待していない。香りが全然だからだ。だだちゃ豆だけが圧倒的に独特の香ばしい芳香を放っている。香りの良し悪しは、もしかしたら土壌と大きく関係があるのかもしれない。

しかし、だだちゃ程ではないにせよ、この枝豆からは香ばしい香りがする。
もしかして…と思いながら口に放り込むと、甘い。豆に自然な甘みがしっかりあって、味が濃い。こりゃ、かなり美味いかもしれん。今一度、パッケージを見ると、場所は新潟の五泉市という所で作ってるんだそうだ。あまり聞いたことのない地名だ。
調べてみると、新潟市の近くのようだ。

 

(出典『Wikipedia』)

 
但し、食い進めると、鞘によってかなり味にムラがある。美味しい豆は抜群に旨いが、反対に抜群に不味いものもあるのだ。何ゆえ、そんなにバラツキがあるんだろ❓まだ品種改良して間がなく、性質が安定していないのかな❓

そういえば、そろそろだだちゃ豆の季節だ。いや、もう入ってるか。
明日、高島屋に確認しに行こっと(^3^♪。

                        おしまい

 

突然アレを食いたくなる、オジサンは。

 
若い頃に居酒屋で、頑なに敬遠していたものがある。
理由はダサいからである。そんなもん頼めば、絶対周りに『おまえ、何でそんなシジむさいもん、頼むねん。ダッサいのおーっ。それに、それって小鉢やろ。そんなもん、皆で食べれへんやんけ。却下、却下。』と言われるに決まっているからである。
って云うか、ワシがそのセリフ、真っ先に言うとるわい。
ましてや女の子といる時などは、そんなもん頼んだら洒落れならん。この人、オジサンみたいだと嫌われる可能性大だ。百歩譲って嫌われはしなくとも、パンツを脱いではくれんだろう。

まず色が汚い。緑色野菜が入っているのにも拘わらず、まるで鮮やかさがなく、女子が喜ぶ「インスタ映え」に著しく欠けるのである。もー、全然可愛くない。
奴はオッサンが好む食いもんだと云うのも許せなかった。大体、地味で貧乏くさい上に名前がダサい。

おっと忘れて話を進めるところだった。
そろそろヤツの名前を明かそう。

拙者、「ぬた」と申す。

『ぬた❓何それ〜❓変な名前〜。ぬちゃぬちゃして何か気持ち悪〜い。』
などとオツムの弱い今時の若い小娘どもに言われそうだ。それくらい認知度も低そうである。
クソッ、ぬたが不憫で何か腹立ってきたなあ。
ぬちゃぬちゃ、ぬちゃぬちゃ。ಡ ͜ ʖ ಡデヘデヘ。でも半分ハゲ上がったオッサンが気持ち悪い音を立てながら、嬉しそうにヌタを咀嚼している姿が目に浮かんだ。\(◎o◎)/ダメだこりゃ、サイテーだ。
そんなだから、気持ち悪いとかダサいとか言われて若者に嫌われるのである。およそ女子に好かれる要素が皆無じゃないか。ワシもそう思ってた。

しかしだ。オジサンになると、何故かその「ぬた」が好きになるのだ。居酒屋で「ぬた」の文字を見つけると、間違いなく頼んでしまう。いつの間にか「ぬた肯定派」になっているのだ。いや、どころか「ぬた偏愛主義者」になっとる。ナゼにオヤジになると、「ぬた」が好きになるのだろう❓
暫し考えたが、全然ワカンなかった。これはもう、日本男子には自動的にヌタを好きになる遺伝子が予め体内に組み込まれていて、オッサンになると突然発症するとしか考えられない。中学生になったら、チ○毛ボーボー。うっすらヒゲが生えてくるようにね。

長々とアホな事を書き連ねたが、ここからが本題である。
最近はコロナ渦のせいで、居酒屋にも殆んど行っておらん。そんなワケで、突然発作的にヌタを食べたくなった。いや、コロナは関係なくとも、オッサンたちは時々発作的にヌタを無性に食べたくなるのだ。

スーパーでスルメイカを2ハイ(杯)買ってくる。値段は¥298だった。昔と比べてイカって高いよな。数年前から漁獲高が激減してるから仕方ないんだけどさ。そういえば今年のサンマも漁獲高が見込めないそうだ。昨今は大衆魚が、もはや大衆魚と言えなくなってきてる。嘆かわしい事だが、原因を言い出すと止まらんくなるので止めとく。

①冷蔵庫にあった万能ネギを熱湯にブチ込み、3分ほど茹で冷水に晒す。

②イカは洗ってバラシ、これまた熱湯にブチ込む。
茹で時間は秒単位の勝負だ。部位にもよるが5秒から15秒で取り出し、すかさず冷水に落とす。イカは茹でると固くなるのが早いのである。固くなればゴムみたくなるので、この茹でる時間には全神経を集中されたし。

③ネギとイカの水気をしっかり取り、それぞれ適当な大きさに切り分ける。ネギは擂りこぎ棒で中身のネバネバしたものを押し出すというのが常道だが、オラはあえてしない。あの透明のぬるぬるベトベトの奴がネギの旨味の根源なのだ。栄養価も高いしね。

④辛子酢味噌は作るのが面倒クサいので今回はパス。
コレをベースにする事にした。

 

 
久原の「からし酢味噌」である。甘ったるい辛子酢味噌が多いの中では比較的甘さが抑えられている。それでもそのままでは甘いので、酒呑みはそこに辛子を加えて混ぜる。量はお好みで調整されたし。

④あとはネギとイカをブチ込んで和えるだけなのだが、重大な注意点がある。和える時は食べる直前ね。なぜなら、時間と共に水分が出てきて、ベチャベチャになるからである。こうなると、著しく味が落ちるからね。

完成。

 

 
別角度からも撮ろっと。

 

 
結構キレイで、美味しそうに見えるが、それは夕方に撮ったからである。部屋はまだ明るかったからね。
でも、夜に居酒屋で見ると、こんなんじゃない。もっと汚い。

 

 
これでもマシな方だ。実際はもっと汚い見てくれなものの方が多い。

一口食べて、冷酒を口に含む。

ぬたはダサい。ダサいけど美味いっ❗

今、笑ってる若者男子たちに告ぐ。ゼッテー、キミらも将来的には嬉々としてヌタをヌチゃヌチャ食ってんだからなー。そして、キモいオッサンとして若い女子に忌み嫌われるのじゃ。

                        おしまい

 
文中で結局ヌタとは何であるかを説明し忘れたので、一応ヌタについて説明しとくね。
Wikipediaから抜粋、再編すると以下のようなものなる。

「ぬた(饅)、もしくはぬたなます(饅膾)と言い、膾(なます)の一種。ネギ、分葱(ワケギ)などの野菜類、マグロ、イカなどの魚類、青柳などの貝類、ワカメなどの海藻類を酢味噌や辛子酢味噌で和えた日本の伝統料理、郷土料理の一つ。
味噌のどろりとした見た目が沼田を連想させることからこの名がついた。起源は古く、室町時代末期までに料理として成立していた。」
沼田だってよ、酷いね(笑)。

「ぬたの味付けとなるタレは、甘みや色合いの点から米麹を多めに使用した白味噌が多く使われ、この味噌に酢、砂糖、和カラシなどを混ぜて作る。
具材は上記の通り、植物では「葷酒山門に入るを許さず」の、仏門で禁じられている「葷(くん)」が特によく合い、分葱を代表とするネギ類がぬたの標準材料と言えるほどに多く使われる。ネギ類の他にもラッキョウ、ニラ、ニンニク、或いは野草のノビル、ギョウジャニンニクなど、硫化アリルを臭み成分として持つ「葷」の範疇となる植物はぬたと相性が良い。
一方、魚介類ではイカやタコの他に貝類なら青柳の舌きり、赤貝。魚類ではマグロの赤身、イワシなどがぬたの具材として好まれ、よく使われる。
しかし、ぬたのソースは懐が広く、かなりのものがぬたで美味しく食べられる。端的に言えば、野菜類では「おひたしで食べられるもの」、魚介類では「刺身で食べられるもの」がぬたにしても美味である。鶏肉もぬたに合い、脂肪の少ない胸肉、ササミを霜降りにしたものはぬたによく合う。ホタルイカはゆでておき、食べる時にからし酢味噌を付けることが多いが、ぬたとしても良い。」
ぬた、最強じゃんか❗
でも、こんなのどうせオッサンとかジジイが書いているに違いなかろう。所詮はヌタ偏愛主義者なのだ。いくら褒め称えようとも、この先一生、ヌタが若者にウケることは無いだろね。

 

マホロバキシタバ発見記 後編

 
   vol.20 マホロバキシタバ

   『真秀ろばの夏』後編

 
まほろばの夏は終わらない。
その後も奈良通いは続いた。次の段階は、この地域での分布と生態の解明だった。

岸田先生(註1)が帰京したのが7月16日。その2日後には先生肝いりの刺客として、ラオス在住で偶々(たまたま)帰国していた小林真大(まお)くんという若者が送り込まれてきた。彼はストリートダンスをしながら世界中の蛾を採集していると云う異色且つスケールのデカいモスハンターで、体力、運動神経ともに優れ、センス、知識、根性をも持ち合わせた逸材。おまけに男前で性格も良いときている。久々に虫採りの天才を見たと感じたよ。
彼は自分や小太郎くんが家に帰った後も、夜どおし原始林を歩き回って多くの知見をもたらしてくれた。その結果、分布や生態の調査が大幅に進んだ。
 
まだ不確定要素もありますが、それら分かったことを2019年だけでなく、2020年の分も付記しておきます。但し、まだまだ調査不足なので、以下に書かれた事は今後覆される事も有り得ると思って読んで戴きたい。

 
【マホロバキシタバ♂】

 
【同♀】

 
【♂裏面】

 
【♀裏面】

 
日本では、2019年の7月に奈良市で見つかった。って云うか、見つけた。
アミメキシタバやクロシオキシタバに似るが、表側の後翅中央黒帯と外縁黒帯とが繋がらず、隙間が広く開くことで区別できる。また、三者の裏面の斑紋は全く違うので、むしろ裏面を見た方が同定は簡単だろう。3種の判別法の詳細は前回に書いたゆえ、そちらを見られたし。

 
【雌雄の判別】
♂は腹部が細長くて、尻先に毛束がある。一方、♀は腹が短く、やや太い。また尻先にあまり毛が無くて上から見ると先が尖って見えるものが多い。とはいえ、微妙なものもいる。特に発生初期の♀は腹があまり太くないので分かりづらい。
確実な判別法は、裏返して尻先の形状をみることである。今一度、上記のメス裏面画像を見て戴きたい。尻先に縦にスリットが入り、黄色い産卵管が見えていれば(わかりにくいが尻先の黄色いのがそれ)、間違いなく♀である。

 
(オス)

 
♂は尻先の毛束がよく目立つ。

 
(メス)

 
なぜかメスの腹部が見えている写真が無い。なので、お茶を濁したような画像を貼っ付けておいた。意味ないけどー(´ε` )

 
(オス)

(メス)

 
表よりも裏の方が雌雄の区別はつきやすい事は既に書いた。しかし、時にオスの腹先の毛に分け目ができ、それが縦スリットのように見えてメスと見間違えるケースが結構ある。メスだと思ったら、最後に産卵管の有無を確認されたし。

 
(オス)

(メス)

 
実を云うと、横から見るのが一番わかりやすい。腹の太さと長さ、尻先の形、毛束の量がよく分かるからだ。また、上のようにメスの産卵管が外に飛び出ていれば、一目瞭然だ。

 
【学名】Catocala naganoi mahoroba Ishizuka&Kishida, 2019

属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり、下翅が美しいことを表している。マホロバのように黄色い下翅を持つものが多いが、紫や紅色、オレンジ、ピンク、白、黒、象牙色等の種もいて、バリエーション豊かである。

台湾の基亜種は蛾の研究の大家である故 杉繁郎氏により1982年に記載された。
小種名の「naganoi」は「長野氏の」と云った意味である。

「The specific name of the present new species is dedicated to Mr Kikujiro Nagano(1868-1919), a pioneer lepidopterist of Japan, inyrho contributed much to taxonorny and biology at Nawa Entomolegical Laboratory, Gifu.」

記載論文に上記のような文章があったから、日本の鱗翅類研究の黎明期に名和昆虫館を創設した名和靖氏の片腕として働いた長野菊次郎(註2)氏に献名されたものであろう。

亜種名「mahoroba」は日本の古語「まほろば」からで、「素晴らしい場所、住みよい場所、楽園、理想郷」などの意味が込められている。また奈良の都を象徴する言葉の一つでもあり、県内ではポピュラーな名称だというのも命名の決め手となった。コレも詳細は前回を読まれたし。

残念ながら新種ではなく、Catocala naganoiの亜種となったので、小種名「mahoroba」は幻に終わってしまった。
ぶっちゃけ、分布調査をしていたワシと小太郎くんとマオくんとの間では絶対に新種になるだろうと話し合っていた。なぜならば、その時点では奈良県春日山原始林とその周辺でしか見つかっていなかったからだ。原記載亜種のいる台湾と奈良市とでは、海を隔てて遥か遠く離れている。分布が隔離されてから少なくとも30万年以上(註3)の時が経っているわけだから、両者は分化している可能性が極めて高く、ゲニ(註4)には何らかの差異が見い出されて当然だろうと思っていたのである。
また、記載を担って戴いた石塚さんに「その剛腕っぷりで、何とかして新種にして下せぇ。」とジャッキアップ掛けえので懇願してたのもある。石塚さんも「任しときぃー。」ってな感じだったからね。
石塚さんはカトカラの新種記載数の横綱を目指されており、キララキシタバを新たに記載するにあたり、モノ凄い数のゲニを切って執念で別種であることを突き止めたと岸田先生から聞いてたしさ。ならば今回も執念で新種であることを証明してくれるだろうと勝手に思い込んでいたのだ。実際、石塚さんとのメールのやり取りでは、早い段階で「軽微だが違いを見つけた」とも仰ってたからね。その調子で、決定的な差異も見つけてくれはるだろうとタカを括ってたところがある。
亜種に落ち着いたのは、あくまでも推測だが、石塚さんと岸田先生とで話し合った結果なんだろね。オサムシみたいに軽微な差異のものでも無理からに別種にしてしまうのはいかがなものか?と云う事なのだろう。それに関しては自分も以前から同意見だったので、致し方ない結果だとは思っている。両者の見てくれは、普通に見れば同種なのだ。長年、分布が隔離されているゆえ、別種になっている可能性もないではないが、両者の交配実験でもしない限りはワカランだろ。
まだ試みられていないといえば、DNA解析も気になるところではある。但し、DNA解析の結果が絶対だとは思わない。そこに問題点が全く無いワケではなかろう。そりゃあ、DNA解析の結果、マホロバが別種になれば嬉しいけど、ホシミスジの亜種を沢山作っちゃったり、ウラギンヒョウモンを3つに分けたりとか、正直なところ何でも有りかよと思う。DNA解析の結果が何でもかんでもまかり通るんだとしたら、可笑しな話だわさ。

惜しむらくは亜種になったので、女の子にならなかった事だ。自分はカトカラを女性のイメージで捉えている。だから偶然だけど、mahorobaの綴りの末尾が「a」で終わっているのを嬉しく思ってた。学名の綴りの末尾が「a」ならば、ラテン語では女性名詞になるからね。
一方「naganoi」の語尾の「i」は男性単数(1名)に献名する場合に付記されるものだ。ようはオッサンなのだ。菊次郎さんには申し訳ないが、オッサンの蛾なんてヤじゃん。

 
【和名】
前回と学名の項で既に和名の命名由来については述べているが、もう少し詳しく書いておこう。
「まほろば(真秀ろ場)」とは、素晴らしい場所、理想郷、楽園といった意味だが、実際のところマホロバの棲む一帯は素晴らしい場所だ。棲息地は、ほぼ手つかずの太古の森で、ナチュラルに厳かな気持ちになってしまうような巨樹が何本も生えている。何百年、何千年と生き長らえてきた木は特別な存在だ。見上げるだけで理屈なく畏敬の念が湧いてくる。その林内には春日大社があり、森の近くには興福寺五重塔や二月堂、三月堂、そして東大寺があって、大仏様がおられる。他にも名の知れた歴史ある古い社寺が沢山あり、阿修羅像や南大門の金剛力士像、戒壇院の四天王像などの有名な仏像彫刻、また正倉院には数多(あまた)の宝物もある。加えて神様の遣いである鹿さん達も沢山いらっしゃる。謂わば、此処は八百万(やおろず)の神々の宿る特別な場所であり、掛け値なしの「まほろば」なのだ。だからこそ名付けたと云うのが心の根本にある。そして、我々に滅多とない機会と栄誉を与えてくれた素晴らしい場所でもあるという想いも込められている。これらが根底にある偽らざるコアなる想いだ。

だが、そこに至るのにはそれなりの紆余曲折があり、実をいうとマホロバ以外の候補も幾つかあった。

『アオニヨシキシタバ』
青丹(あおに)よし 寧楽(奈良)の都は 咲く花の にほうがごとく 今盛りなり (万葉集巻三328)

奈良で最初に発見されたので、奈良に因んだ和名にしようと考えた時に真っ先に頭に浮かんだのが、小野 老(おのの おゆ)の有名なこの和歌だった。
意味は「奈良の都は今、咲く花の匂うように真っ盛りである」と謂ったところである。
ここで出てくる「にほう」とは嗅ぐ匂いの事ではなく、赤や黄や白の花の色が目に鮮やかに映えて見えるという奈良の春景色の見事さを表している。色の鮮やかさを「におふ」と表現しているところに、当時の人達の粋と感性の豊かさが感じられる。マホロバキシタバも下翅が鮮やかだし、名前としては悪かないと思った。しかし、一般の人からみれば、アオニヨシと言われても何のこっちゃかワカラナイだろう。語呂もけっしていいとは思えないので断念。

『ウネメキシタバ』
ウネメとは「采女」から来ている。奈良時代に天皇の寵愛が薄らいだ事を嘆き悲しんだ天御門の女官(采女)が猿沢池に身投げしたという。その霊を慰める為に池の畔に建立されたのが采女神社の起こりとされ、入水自殺した池を見るのは忍びないと、一夜にして社殿が池に背を向けたという伝説が残っている。
古(いにしえ)の伝説というのは神秘的な感じがして、いとよろしだすな。マホロバキシタバの発見を伝説になぞらえ、重ね合わせるといった趣きもあるじゃないか。
女性というのもいい。自分の中では、基本的にカトカラは女性のイメージだからね。
それに毎年、秋(中秋の名月)になると「采女祭」が開催され、地元では名のしれた祭だと云うのもある。名前は棲息地近辺に住む人々に愛されるのが理想だからね。
しかし猿沢池となると、棲息地とはちょっと離れていて、森ではなく、町なかだ。さりとて、この神社は春日大社の末社でもあるワケだから、無理からに関連づけてしまう事も可能だ。けんどさあ、よくよく考えてみれば不幸な女の話だ。縁起が悪いのでやめておくことにした。
昔から不幸な女には近づかないようにしている。負のエネルギーの強い女をナメてはいけない。運の太いワシでも負のパワーに引きずり込まれそうになったもん。

ベタなところでは、以下のような候補もあった。

『マンヨウキシタバ』
これは「万葉(萬葉)」からだ。春日山の原始林を万葉の森と呼ぶ人もおり、また棲息地の春日大社の社域には「萬葉植物園」もあるからだ。「万葉集」に繋がるイメージも喚起されるだろうから、雅な趣きもある。
しかし、ベタ過ぎだと思って外した。なんか語呂の響きもダサいしさ。

『カスガノキシタバ』
春日大社一帯は「春日野」と呼ばれ、また住所も春日野町という事からの着想。
名前の響きは悪かない。しかし、春日と名のつく地名は全国に幾つもある。混同を避けるために却下。

そういえば、その関連で、↙こうゆうのもあったな。

『トビヒノキシタバ』
春日野からの連想である。これは棲息地が飛火野に隣接しているからだ。って云うか、少ないながらも飛火野にもいる。
飛火野とは、春日山麓に広がる原野のことを指す。ここは春日野の一部であり、また春日野の別称でもあって、風光明媚なことから鹿たちの楽園としてもよく知られている所だ。和名としては、そう悪かないと思う。しかし、漢字はカッコイイんだけど、カタカナにすると何かダサい。拠ってスルー。
因みに「飛火野」の地名は、元明天皇の時代に烽火(のろし)台が置かれたことに由来する。
ウネメもそうだけど、天皇さんに由縁する言葉は何となく高貴な気がするし、歴史を感じるんだよね。それってロマンでしょう。そこには少し拘ってたような記憶がある。

そう云う意味では「マホロバキシタバ」だって天皇とは関係がある。有名な「倭は 国の真秀ろば 畳なづく青垣 山籠れる 倭しうるわし」という歌は、日本武尊(やまとたけるのみこと)が詠んだとされているからだ。日本武尊は天皇その人ではないが、天皇の皇子だもんね。つまり皇族なのだ。高貴な身の上でありんすよ。どころか古代史上の大英雄だ。スサノオがヤマタノオロチから取り出して天照大神に献上した伝説の剣「草薙の剣」をアマテラスから貰って、バッタバッタと敵をブッた斬るんだもんね。
余談だが「ヤマトタケルノミコトキシタバ」というのも考えないではなかった。けど長過ぎる。「ヤマトタケルキシタバ」でも長いくらいだ。それに捻りが無くて、あまりにも名前が仰々し過ぎるのでやめた。正直、そこまでマホロバをジャッキアップするのは恥ずかしい。もし伝説の英雄になぞらえるとするならば、よほどデカいとか孤高の美しさや異形(いぎょう)で特異な見てくれでないとダメでしょうよ。日本の何処かで、とんでもなく凄い見てくれの固有のカトカラを見つけたとしたら、つけるかもしんないけどさ(笑)。

ついでに言っとくと、絶対に命名を避けたかったのが「ナラキシタバ」と「ヤマトキシタバ」。
「ナラキシタバ」は、もちろん奈良黄下羽である。全く捻りが無くて、こんなの小学生でも思いつくレベルだ。想像力と語彙力がゼロだと罵られても致し方なかろう。また語源が木のナラ(楢)と間違われる可能性もある。食樹がミズナラやコナラ等のナラ類だと感違いする人だっているかもしれない。二重にダサいネーミングだ。

「ヤマトキシタバ」の「ヤマト(大和)」は、昆虫の名前として使い古されてる感があり、国内新種なのに新しい雰囲気がどこにも感じられない。
「アンタ、考えるのが面倒くさかったんとちゃうかあ❓それって怠慢やろが。」と言われて然りのネーミングだろう。
それに「ヤマトシジミ」や「ヤマトゴキブリ」「ヤマトオサムシ」などのド普通種の駄物イメージ満載である。ヤマトと名の付く虫は「ヤマトタマムシ」だけでヨロシ。
いっそのこと「ヤマトナデシコキシタバ(大和撫子黄下羽)」にしたろかとも思った。けれど長いし、だいち言いにくい。
「ヤマトナデシコキシタバ、ヤマトナデシコキシタバ、ヤマトナデシコキシタバ」と3回早口で言うてみなはれ。噛む人、絶対おるで。
ならばと「ナデシコキシタバ」も考えてみた。「なでしこ」は、女子サッカー日本代表の「なでしこJAPAN」の愛称でもあるし、いい感じではある。しかしヤマトを外してしまったら、奈良は関係なくなるから元も子もない。それこそ本末転倒だ。
それにヤマトナデシコキシタバだと「メルヘンチックだとか、ポエムかよ❗」と笑われそうだから即座に脳内から消した。「フシギノモリノオナガシジミ」とかみたく失笑されるのはヤだもんね。
名前を付けるのって、その人のセンスが問われるから大変なんだと思い知ったよ。「フシギノモリノオナガシジミ」だって、付けた方はウケ狙いではなく、一所懸命に考えられて良かれと思って付けたに違いあるまい。
あんまし人のつけた和名の悪口言うの、やめとこ〜っと…。

(´・ω・`)しまった。どうでもいいような事に膨大な紙数を費やしてもうた。スマン、スマン。話を前へ進めよう。
おっと、そうだ。でも、ちょっとその前に書いておかなきゃなんない事を思い出したよ。申し訳ないが、もう少しお付き合いくだされ。

別種ではなく亜種になったんだから、和名は先に石塚さんが台湾の名義タイプ亜種に名付けた「キリタチキシタバ」なんじゃねえの❓と云うツッコミを入れてる人もいそうだね。私見混じりだが、マホロバキシタバになった経緯についても書いておこう。
これは自分たちが絶対に新種だと思ったから「マホロバキシタバ」と名付けて使いまくってた事に起因する。つまり新種の体(てい)で話が進んでいたのだ。新種ならば、当然名前が必要となるから名づけた。その名前を気に入って戴いた方も多かったようで、やがて関係者の間では「マホロバキシタバ」が当たり前のように使われるようになった。その後、亜種になっても、何となく「マホロバキシタバ」がそのまま使われていた。特にそれについての議論なり、協議は無かったと思う。石塚さんも何も言わなかったしさ。もしかしたら、岸田先生と石塚さんの間では何らかの話し合いがあったのかもしれないけどね。
そして『月刊むし』で発見が公表されるのだが。その際の和名も「マホロバキシタバ」のままだった。結果、キリタチではなく、マホロバの方が世間的にも定着していったってワケ。
又聞きの話だが、キリタチの和名をつけた石塚さんに、そうゆうツッコミを実際に入れた人がいたようだ。でも、ツッ込まれた石塚さんが『いいんだよー、マホロバでぇー。』と仰ったらしい。石塚さん御本人がいいって言ってんだから、それでいいのだ。もう「マホロバキシタバ」でエエんでねえの❓(註5)
亜種和名があるってのは、すごく光栄なことだと思う。幸せだ。
とはいえ、ヤヤこしいからやっぱ新種になんねぇかなあ(笑)

 
【英名】
英名は勿論ない。ゆえにここでドサクサ紛れに提唱しておこう。
「まほろば」は素晴らしい場所という古(いにしえ)の言葉だから、さしづめ『Great place underwing』といったところだろうか。カトカラは下翅に特徴があるゆえ、「Underwing」と呼ばれているのだ。
しかし外国人からすれば、「Great place」なんて何の事やら分からんだろう。和歌とか知らんし。
となると、やはり形態的特徴を示すような英名が妥当かと思われる。
マホロバキシタバの一番の特徴といえば、やはり下翅の黒帯が1箇所だけ繋がらず、隙間が開いている点だろう。帯が多い系のキシタバで、こういうのは他にあまりいないようだからね。
となると、『Broken chain underwing』ではどうだろうか❓ 意味は「断ち切られた鎖」。
とはいうものの、あくまでもお遊びの範囲内での話だから、他に相応しいモノがあれば、それでも構わない。そうゆうスタンスです。
とここまで書いて、『Great place underwing』でもいいかなあと思い直した。考えてみれば、奈良の都は世界遺産である。その時点でもう世界的に素晴らしい場所だと認定されているじゃないか。昨今は多くの外国人観光客も訪れているワケだから、外国でもかなり認知されてるんじゃないかと思われる。何せ、野生の鹿とあれだけ簡単に触れ合える場所は世界的にみても珍しいからね。我々にはそうゆう概念はあまりないけど、あれは一応野生動物だかんね。野生動物と気軽に触れ合える事のない外国人は大喜びなのさ。
まあ、本音はどっちゃでもいいけどね。どっちも悪くないと思うもん。

 
【変異】
大きな変異幅は見られないが、それなりにはある。
よく見られるタイプの一つは、上翅がベタ柄なもの。

 

 
冒頭に貼付した♂の画像もこのタイプである。
或いは♂に、このタイプが多いのかもしれない。

もう一つのタイプは上翅にメリハリのあるもの。

 

 
何れも♀である。冒頭の♀もこのタイプだし、もしかしたら、ある程度は雌雄の判別に使える形質かもしれない。
でも、微妙なのもいるんだよね。

 

 
コヤツなんかはメリハリがそれなりにあるけど♂である。
まあ、傾向として有ると云う程度で心に留めて下さればよろしかろう。

稀に上翅の中央に緑がかった白斑が入る美しいものがいる。

 

(画像提供 葉山卓氏)

 

 
コヤツらもメリハリがあるけど、ちょっと自分でも雌雄がよくワカンナなくて、♂か♀かは微妙なところだ。
とはいえ、両方とも♂かなあ…。

また、上翅が蒼っぽくなった個体が1頭だけ採れている。

 

 
コレもどちらかというとベタ柄の♂だ。やっぱ、雌雄の上翅の違いは有るかもしんないね。面倒なので展翅した個体全部の画像は貼付しないけど、傾向としては有ると言ってもいいような気がする。恣意的な部分を差し引いても、そんな気がする。とはいえ、白斑が発達した奴はたぶん♂だもんなあ…。まあ、補助的な要素として頭に入れておいても損はないだろう。

帯に隙間はあるが、上翅の茶色みが強くてアミメキシタバみたいなのもいる。

 

 
と云うか、コレってアミメキシタバそのものかもしんない。或いはハイブリッド❓(笑)。まあ、それは無いとは思うけどさ。アミメかもと思ったのは上翅の柄からだ。色が茶色いというのもあるが、マホロバみたく鋸歯状の柄が目立たず、その形も違うように見えたからだ。
こういうややこしい場合は裏面を見ましょう。それで簡単に判別できるだろう。面倒だから、この個体を探し出してまで裏面写真は撮らないけどさ。前編から長い文章を書いてきて、もうウンザリなのだ。これ以上は頭を悩ませたくない。どうせアミメだしさ。

因みにパラタイプ標本に指定してもらったものは、ちょっとだけ変。だから、展翅が今イチだけど出した。パラタイプは、バリエーションがあった方がいいと思ったのである。

 

 
ベタ柄の♂だが、よく見ると上翅に丸い斑紋がある。

自分らの標本をパラタイプに指定して貰おうと云うのは小太郎くんの発案だった。全くそういう発想が無かったから有り難い。何かタイプ標本を持ってるって、自慢っぽくて(◍•ᴗ•◍)❤嬉しいや。
石塚さん、我々のワガママをお聞き下さり、誠に有難う御座いました。

 
【近縁種】
『FIGURE 2 in The Catocala naganoi species group (Lepidoptera: Noctuidae), with a new species from Vietnam』と云う論文によれば、Catocala naganoi種群には、交尾器、翅のパターン、及びDNA解析(COI 5 ‘mtDNA特性)に基づいて、以下のようなものが含まれるとしている。

■Catocala naganoi Sugi、1982
キリタチキシタバ(マホロバキシタバ)
分布地 台湾・日本
ホロタイプ標本は桃園県。パラタイプには、新竹県のものが指定されている。また有名な昆虫採集地であるララ山でも採集されているみたいだ。ネットで見た限りでは稀な種のようだね。

 
■Catocala solntsevi Sviridov、1997
タムダオキシタバ
分布地 ベトナム〜中国南部
グループの中では一番分布域が広く、最近になって台湾でも見つかったそうだ。マホロバに似るが幾分大きく、前翅亜基線より内側が濃褐色になる傾向がある。
石塚勝己さんの『世界のカトカラ』によると、成虫は5〜6月頃に出現し、あまり多くはないという。食樹は不明とのこと。

 
■Catocala naumanni Sviridov、1996
分布地 中国雲南省
雲南省北部の標高2000mを超える地域に見られる。
「naumanni」という小種名が気になる。もしかして、コレってナウマン象とか関係あんのかな?

 
■Catocala katsumii Kons Jr, Borth, Saldaitis & Didenko, 2017
分布地 ベトナム中央高地・中国雲南省
外観はマホロバよりもアミメキシタバに似ている。
主な分布地はベトナムで、標高1600〜1700m以上で得られている。食樹は不明。
年一化が基本のカトカラ属の中では珍しく、と云うか驚いたことに新鮮な個体が5月、6月、7月、10月、12月に得られているという。新北区(北米)では、幾つかの大型のカトカラ種が同じような発生パターンを持っているそうだ。多化性だとしたら、俄かには信じ難い。カトカラと云えば、殆んどの種が年一化だ。日本で多化性なのは、今のところはアマミキシタバだけなのだ。
余談だが、学名の小種名は世界的なカトカラ研究者である石塚勝己さんに献名されたものである。

 

(出展『Catocala katsumii Kons Jr, Borth, Saldaitis & Didenko, 2017』)

 
上の図版には、C.naumanniの画像が入っていないので、別な図版を貼っつけておく。

 

(出展『Catocala naumanni Sviridov、1996』)

 
因みに石塚さんは、C.naumanniを同グループには入れられておられない。とはいえ、DNA解析のクラスター図にはあるので含めた。一応、その図も載せておこう。

 

(出展 2点共『FIGURE 2 in The Catocala naganoi species group (Lepidoptera: Noctuidae), with a new species from Vietnam』)

 
見た目が似ているアミメキシタバやクロシオキシタバは、クラスターには入っていない。つまり似てはいても系統は別だと云うことだ。どうやらキシタバの仲間は見た目だけでは類縁関係は分らないって事だね。

 
【アミメキシタバ Catocala hyperconnexa】

(裏面)

 
【クロシオキシタバ Catocala kuangtungensis】

(裏面)

 
とはいえ、DNA解析の結果が絶対ではないだろう。クラスターの中に全然見た目の違う C.kishidai なんかが入ってるしね。このアマミキシタバっぽいタイプの奴って、そもそも昔はカトカラ属に入ってなかった筈だしさ。カトカラじゃなくて、クチバの仲間だと考えてる人も多いみたい。こう云うのを見ると、DNAの解析結果を鵜呑みにしてはならないとは思う。

しかし、あとで『世界のカトカラ』を見てて、重要なミステイクに気づいた。Catocala kishidai キシダキシタバについての認識が完全に間違ってました。先の naganoiグルーブの図版の中のキシダキシタバの画像が小さいので、下翅だけを見て、うっかりアマミキシタバみたいだと思ってしまったのだ。でも、『世界のカトカラ』に載ってるキシダキシタバの上翅を見て、アマミキシタバとは全然違うことに気づいた。上翅の色、柄、形は完全にnaganoiグルーブのものだ。前言撤回です。ゴメンなさい。

 
【キシダキシタバ Catocala kishidai】

(出典『世界のカトカラ』)

 
ミャンマーで発見された極珍のカトカラで、図鑑にはこのホロタイプの1個体しか知られていないと書かれていた。その後、再発見されてるのかなあ❓…。
たぶん学名の小種名は岸田泰則先生に献名されたものだろう。

 
【開張】
52~60㎜。
中型のカトカラにカテゴライズされるが、その中では大きい部類だろう。

 

 
最大級サイズものと最小個体を並べてみた。
結構、差があるね。でも大きさのバラツキは少なく、55mmくらいの個体が多い。

 
【分布】
岸田先生肝いりの刺客として送り込まれてきたマオくんのおかげで、一挙に春日山周辺の分布調査が進んだ。
因みに虫採り名人秋田勝己さんも一日だけ参戦され、調査に御協力くださった。秋田さんはゴミムシダマシやカミキリムシの調査で原始林内を熟知されており、マオくんとコンビを組んでもらって彼に樹液の出る木を伝授して戴いた。調査地域は北部の若草山とその周辺をお願いした。
小太郎くんには最もしんどくてツマンなさそうな東側を担当してもらい、自分は南部から南東部を担った。
それにより、原始林の南西部や西部の他に、予想通り北西部や北部の若草山周辺、南部の滝坂の道でも見つかった。調査不充分で、まだ南東部や東部では見つかっていないが、そのうち確認されるだろう(とはいえ、個体数は少ないものと思われる)。
おそらく発生地は春日山原始林内で、その周辺の二次林には吸汁に訪れるものと思われる。あくまでも予想だが、それより離れた場所では見つからないだろう。離れれば離れるほど棲息に適した場所が無いからだ。つまり移動性は高くない種だと考えられる。否、飛翔力はあっても、移動したくとも移動できない種と言うべきか…。
尚、奈良公園、春日山原始林、春日大社所有林での昆虫採集は禁じられており、採集には許可が必要となる。

 

(改めて見ると、許可証じゃなくて許可者なんだ…)

 
その後、2020年春に岩崎郁雄氏によって宮崎県でも採れている事が分かり、月刊むし(No.589,Mar.2020)で報告された。氏の標本箱の中から見い出されたという。採集地は以下のとおりである。

「2015.7.25 宮崎県日南市北郷町北河内 1♂」

採集は氏御本人で、宮崎昆虫調査会主催の夜間採集の際に樹液の見回りにて採集されたものだ。ハルニレの樹液に飛来していたそうで、当時はアミメキシタバと同定されていたという。
他に、鹿児島県でも過去の標本から見つかったと聞いている。
どちらの場所にも、今年2020年に蛾類学会の調査が入ったようだし、地元の虫屋も探す筈だから、再発見の報が待たれるところだ。
たぶん九州には豊かな照葉樹林が比較的多いから、他の県でも見つかる可能性は高いと思われる。そのうち多産地も見つかるだろう。採りたい人は、採集禁止区域の多い奈良よりも九州に行った方がいいかもね。

見た目はアミメキシタバとクロシオキシタバに似ているから、標本箱の中をチェックした人は多かったみたいだね。でも紀伊半島南部のアミメやクロシオの標本の中からはまだ発見されていないようだ。
因みに、T中氏が紀伊半島南部にも絶対いる筈だから本格的に探すと言っておられた。しかし、まだ採ったと云う話は聞かない。紀伊半島南部にも居るとは思うけど、九州に居るのなら、むしろ四国に居る可能性の方が大かもね。他には中国地方でも良好な環境の照葉樹林があれば、居ても何らオカシクない。
あくまでも自分の想像だが、好む環境は手つかずの照葉樹林、及びそれに近い自然林で、空中湿度が高く、イチイガシのある森ではないかと思われる。謂わば、ルーミスシジミやヤクシマヒメキシタバが好む環境ではなかろうか❓(かつては春日山もルーミスの多産地だったが、台風後の農薬散布で絶滅したと言われて久しい)。

 
(ルーミスシジミ)

(2017.8.19 和歌山県東牟婁郡古座川町)

 
そう云う意味では、千葉県のルーミスシジミの多産地にも居る可能性はある。確率は低そうだけどもね。

 
【発生期】
日本では年一化と推定される。最初に見つけた7月10日の計9個体のうち、既に2頭がかなり翅が傷んでいた。この点から、おそらく7月上旬からの発生で、早いものは6月下旬から現れるものと思われる。最盛期は7月中旬で、下旬になると傷んだ個体が目立ち始める。
小太郎くんが最後に見たのが8月15日か16日で、♂はボロボロ、♀は擦れ擦れだったそうだ。現時点ではまだハッキリとは言明できないが、たぶん8月下旬くらいまでは生き残りの個体が見られるのではないかと思われる。
尚、此処にはアミメキシタバも生息しており、マホロバに遅れて7月中旬の後半から見られ始めた。他の場所はどうあれ、此処ではアミメの方がマホロバよりも小さい傾向が顕著で、両者の区別は瞬時につきやすい。また驚いたことに7月下旬になるとクロシオキシタバも1個体のみだが見つかった。

『月刊むし』にはこう書いたが、2020年の発生は予想を覆すものだった。6月下旬には見られず、7月に入っても姿が確認できなかった。小太郎くんが7月5日に確認に行っても見られず、ようやく発生が確認されたのは何と7月9日だった。去年に発見した7月10日と1日だけしか変わらない。年により発生期に多少の変動があるのだろうが、これは意外だった。となると、7月上旬ではなく、7月中旬の発生なのだろうか❓
どちらにせよ、来年の調査を待って最終的な結論を出さねばならないだろう。

個体数は2019年は多く、林内ではキシタバ(C.patala)に次ぐ数で、1日平均10頭くらいは見られた。しかし2020年は1日平均3頭以下しか見られなかった。
よくよく考えてみれば、2019年だって厳密的には個体数が多いとは言い切れないところがある。なぜなら、樹液の出てる御神木があって、林内には他に樹液の出てる木が殆んど見られなかったからだ。つまり其処に集中して飛んで来ていた可能性が高いとも言えるのだ。ゆえに、それだけの数が採れただけであって、もしかしたら元々はそんなに個体数が多い種ではないのかもしれない。
ただ、2020年はマホロバだけでなく、他のカトカラの個体数も少なかった。春日山原始林のみならず、関西全体どこでもそうゆう傾向があったから、何とも言えないところはある。春先が暖かくて、その後寒波が訪れた影響かもしれない。食樹がまだ芽吹いていないのに孵化してしまい、餓死したものが多かったのだろう。テキトーに言ってるけど。
個体数についても来年また調査しなくてはならないだろう。来年も少なければ、稀種だね。
それに、たとえ発生数が多くとも御神木の樹液が渇れてしまえば、かなり採集は困難となる(これについては後述する)。たとえ2020年と同じ発生数だったとしても、あんなには採れないだろう。何だかんだ言っても稀種かもね。

 
【生態】
クヌギ、コナラの樹液に飛来する。今のところヤナギや常緑カシ類の樹液では確認されていない。
飛来時、樹幹に止まった時は翅を閉じて静止する。その際、下翅を一瞬でも開くことはない。但し、小太郎くんが一度だけだが見たそうだ。

 

(撮影 葉山卓氏)

 
また更に特異なのは、多くのカトカラが樹液を吸汁時にも下翅を見せるのに対し、一切下翅を開かないことである。その為、木と同化して視認しづらく、しばしば姿を見失う。
樹液にとどまる時間は割りあい短く、警戒心が強くて直ぐ逃げがち。懐中電灯を幹に照らし続けていると、寄って来ない傾向がある。また、御神木ではキシタバ(Catocala patala)が下部の樹液にも集まるのに対して、2.5m以上の箇所でしか吸汁しなかった。
静止時の見た目は他のカトカラと比べて細く見える。これは上翅を上げて下翅を見せないところに起因するものと思われる。他のヤガ、特にヨトウ類とは見間違えやすいので注意が必要である。角度によっては今でも珠にヨトウガをマホロバと見間違える事がある。見たことがない人には、逆にマホロバがヨトウガにしか見えないだろう。
個体にもよるが、懐中電灯の灯りを当てると概ね緑色っぽく見える。飛来時、この点でアミメキシタバや他のカトカラとは判別できる。アミメは上翅が茶色に見えるし、小さいからね。
但し、慣れればの話であって、見慣れていない人には難しいかもしれない。

 
(マホロバキシタバ)

(画像提供 葉山卓氏)

 

 
昼間の自然光の中では、それほど緑っぽく見えない。

 

 
お次はアミメちゃん。

 
(アミメキシタバ)

(出典『里山ひきこもり−豊川市とその周辺の鳥と虫』)

 
なぜだか夜に撮った写真がないので、画像をお借りした。
懐中電灯で照らすと、大体はこんな風に茶色に見える。

 

 
昼間に見ると、当然の事だがバリ茶色い。
一応、クロシオキシタバの画像も貼っつけとくか。

 
(クロシオキシタバ)

 
クロシオは上翅の変異に幅があるのだが、青緑っぽく見えるものが標準タイプだ。

 

 
デカいので基本的にはマホロバと見間違うことはなく、むしろパタラキシタバ(C.patala)と間違えやすい。小さめのパタラに見えるのだ。但し、マホロバにも珠にデカいのがいるので、注意が必要。

樹液への飛来時刻はパタラ等と比べてやや遅れ、日没後少し間をおいて午後7時半過ぎくらいから姿を見せ始める。以降、数を増やし、8時前後がピークとなり、9時くらいになると急に減じることが多かった。他のカトカラと同じく飛来が一旦止まるのだ。そして10時前後から再び現れ始める。しかし断続的で、最初の飛来時よりも数は少ない。但し、その日によって多少の時間のズレはある。また晴れの日でも小雨の日でも関係なく見られ、天候による飛来数の差異は特に感じられなかった。
とはいえ、2020年は1頭も見られない日や飛来が午後9時半近くになって漸く始まった日もあった。両日共に特に変わった天候でもなかったから、頭の中が(?_?)❓だらけになったよ。我々の預かり知らぬ某(なにがし)かの理由があったのだろうが、全くもって不思議である。

糖蜜トラップも仕掛けたが、フル無視され続けた。マオくんのトラップにもずっと寄って来なかったが、キレて帰り間際に木にバシャっと全部ブチまけたら、一度だけだが来たらしい。彼曰く、酢が強めのレシピには反応するのかもしれないとの事。2019年は、この1例のみだった。
2020年にも糖蜜トラップを試してみた。しかし自分を含め、小太郎くんや蛾類学会の人達も糖蜜を撒いたにも拘わらず、全く寄って来ない日々が続いた。その後、漸く蛾類学会の人の糖蜜に一度だけ飛来し、2日後(7月20日)には自分の糖蜜にも一度だけ飛来した。何れも複数の飛来は無く、1頭のみである。樹液を好むカトカラは糖蜜にも寄ってくるというのが常道だから、ワケがわかんない。これだけ試しても3例のみしかないと云うのは謎である。正直なところ糖蜜で採集するのは、今のところかなり難しいと言わざるおえない。

ここまで書き終えたところで、追加情報が入った。
クワガタ用のフルーツ(腐果)トラップにも来たらしい。但し、2日間で各々1度ずつのみとの事。御神木の樹液が渇れていた状態でもその程度なんだから、やはり餌系トラップで採るのはスペシャルなレシピでも開発されない限りは困難と言えよう。

2019年には大々的な灯火採集は行っていないが、小太郎くんが樹液ポイントのすぐ横に設置した小さなブラックライトに、採り逃がした個体が2度ほど吸い寄せられた事から、おそらく灯火にも訪れるものと予想された。
2020年に蛾屋さん達を中心に調査が行われた結果、灯火トラップにも飛来することが確認されたようだ。灯火には何となく夜遅くに飛来するのではないかと予想していた。理由はユルい。大体において良いカトカラ、珍しいカトカラというものは、勿体ぶって深夜に現れるというのが相場と決まっているからだ。だが、予想に反して点灯後すぐに飛来したと聞いている。飛来数は計3頭だったかな。但し、たまたま近くにいたものが飛来した事も考えられる。詳しいことは後ほど発表があるかと思うので、興味のある方は動向に注視されたし。
尚、春日山原始林内や若草山周辺では、許可なく勝手に灯火採集は出来ないので、その点は強く留意しておいて戴きたい。

昼間の見つけ採りも困難だ。今のところ数例しか聞いていない。羽の模様と木の幹とが同化して極めて見つけづらいのだ。夜間、樹液に来てても視認しづらいくらいなんだから、その辺は想像に難くなかったけどね。
2019年はマオくんがクヌギの大木のそれほど高くない位置に静止しているものを見つけている。小太郎くんも後日、その近くで見たそうだ(何れも若草山近辺)。
2020年の小太郎くんの観察に拠ると、生木よりも立ち枯れの木を好む傾向があり、静止場所はやや高かったという。自分は昼間の見つけ採りはあまり積極的にしていないが、もしかしたら基本的には視認しづらい高い位置で静止するものが多いのかもしれない。
また、木の皮の隙間に半分体を突っ込んでいる個体もいたという。となると、木の皮の下や隙間、洞に完全に隠れている者もいるかと思われる。これらの事から昼間には見つけにくいのかもしれない。

昼間、樹幹に静止している時の姿勢は下向き。非常に敏感で、近づくと直ぐに反応して逃げ、その際の飛翔速度は速いと聞いている。また藪に向かって逃げ、再発見は困難だそうだ。一度だけ追尾に成功した際は、下向きに止まっていたらしい。その際、上向きに着地してから即座に姿勢を下向きに変えたか、それとも直接下向きに着地したのかは定かではないという。

昼間は見つけにくいと言ったが、夜だって同じようなものだ。いや、下手したら昼間よりも見つからん。ヤガの仲間は夜に懐中電灯をあてると目が赤っぽく光る。だから、昼間よりも見つけやすい。なのに、森の中を歩く時は注意して見ているのにも拘わらず、まあ見ない。見られるのは樹液の出ている木の周辺くらいで、しかも珠にだ。他の多くのカトカラと同じく、おそらく樹液を吸汁してお腹いっぱいになったら、近くの木で憩(やす)むのだろう。そして、お腹が減ったらまた吸汁に訪れると云うパターンだ。とはいえ、他のカトカラ、例えばパタラやフシキ、クロシオ、アミメなんかのように樹液の出ている木や周りの木にベタベタと止まっていると云う事はない。
そういえば、日没前に樹液近くの木に止まっている場合もあった。夜の帳が落ちるまで待機していたのかもしれない。こう云う生態はカトカラには割りと見られる。その際の姿勢は上向きだった。夜間の向きは他のカトカラと同じく上向きだから、夕刻や夕刻近くになると上下逆になるのだろう。
昼夜どちらにせよ、視認での採集は極めて効率が悪い。
但し、例外はある。2020年8月6日に小太郎くんが訪れた時は何故か結構止まっている個体がアチコチにいて、計10頭以上も見たという。一日で確認された数としては極めて突出している。見ない事が当たり前で、見ても複数例は殆んど無かったのだ。ちなみに全て飛び古した個体で、不思議なことに全部オスだったそうだ。偶然かもしんないけど、興味深い。尚、御神木の樹液は既に止まっており、そこから約70mほど離れた所から奥側にかけてだったそうな。いずれにせよ、マホロバの行動は謎だらけだよ。

その小太郎くん曰く、♀の腹が膨らむのは7月末くらいからだそうだ。おそらく産卵は8月に入ってから行われるものと思われる。今のところ、産卵の観察例は皆無で卵も見つかっていない。
参考までに言っておくと、二人からそれぞれ石塚さんに生きた♀を7月中旬と8月初旬に送ったが、7月中旬に送ったものは産卵せず、8月のものは産卵したそうだ(孵化はしなかったもよう)。交尾後から産卵するまでには一定の期間を要するものと考えられる。尚、交尾中の個体もまだ観察されていない。

 
【幼虫の食餌植物】
現時点では不明だが、おそらくブナ科コナラ属のイチイガシ( Quercus gilva)だと推察している。中でも大木を好む種ではないかと考えている。
なぜにイチイガシに目を付けたかと云うと、奈良公園や春日大社、春日山原始林内に多く自生し、大木も多く、イチイガシといえば、ここが全国的に最も有名な場所だと言っても差し支えないからだ。しかも近畿地方ではイチイガシのある場所は植栽された神社仏閣を除き、此処と紀伊半島南部くらいにしかないそうだ。つまり、何処にでも生えている木ではない。もしマホロバキシタバの幼虫が何処にでも生えているような木を主食樹としているのならば、とっくの昔に他で発見されていた筈だ。と云う事はそんじょそこらにはない木である確率が高い。ならば、この森の象徴とも言えるイチイガシと考えるのは自然な流れだろう。
また林内には他に食樹となりそうなウバメガシが殆んど自生しないことからも、イチイガシが主な食樹として利用されている可能性が濃厚だと考えた。但し、正倉院周辺にシリブカガシの森があり、ムラサキツバメもいるので、そちらの可能性もゼロとは言えないだろう。シリブカガシも近畿地方では少ない木だからね。
因みに林内にはアラカシ、ウラジロガシ、アカガシ、シラカシもあるそうだ。でもアラカシとシラカシは近畿地方では何処にでもあるゆえ、主食樹ではないものと思われる。またウラジロガシはヒサマツミドリシジミ、アカガシはキリシマミドリシジミの主食樹だし、けっして多くは無いものの、各地にあるから可能性は高くはないと思われる。

前述したが、マホロバはルーミスシジミなどのように空中湿度の高い場所を好む種なのかもしれない。
とはいえ、これだけでは論理的にはまだ弱い。イチイガシについて、もう少し詳しく調べておこう。

 
【イチイガシ(一位樫) Quercus gilva】

 
ブナ科コナラ属カシ類の常緑高木。
別名:イチガシ。和名はカシ類の中で材質が最も良いこと(1位)に由来する。よく燃える木を意味する「最火」に由来するという説もある。
分布は本州(千葉県以西の太平洋側と山口県)、四国、九州、対馬、済州島、朝鮮半島、台湾、中国。
紀伊半島、四国、九州には多いが、南九州では古くから植栽されて自然分布が曖昧になっているようだ。実際、天然記念物に指定されているイチイガシ林は南九州に多い。と云うことは、南九州の山地では普通に見られる木と考えても良さそうだ。
これはある程度知ってた。だから、この点からも九州を筆頭に紀伊半島南部や四国でもマホロバの分布が確認される可能性はあるだろうとは思ってた。実際、九州南部で過去の標本が見つかったからね。遅かれ早かれ、他の地方でも今後見つかるだろう。
また、イチイガシはマホロバの原記載亜種の棲む台湾にもあるみたいだから、食樹である可能性は更に高まったのではあるまいか。
あっ、そういえば台湾の佳蝶スギタニイチモンジって、イチイガシを食樹としてなかったっけ❓(註6)

低地~山地の照葉樹林に自生し、谷底の湿潤な肥沃地に多いそうだ。と云うことは、ルーミスやマホロバが好む環境とも合致する。春日山原始林内も小さな川が縦横に流れており、基本的には空中湿度が高く、標高も低いから良好な環境なのだろう。

東海~関東地方では少なく、見られるのは殆んどが社寺林である。北限(東限)はルーミスの多産地として有名な清澄山付近。静岡県以西では、ルリミノキ、カンザブロウノキなどを交えたイチイガシ群落を構成する。
神社に植栽されることが多く、特に奈良盆地で多く見られると書いてあった。他のサイトでも奈良公園と春日大社、春日山原始林に多いと書いてあるから、やはり相当イチイガシの多い場所なのだろう。

 

 
幹は真っ直ぐに伸び、樹高は30mに達し、幹の直径が1.5mを超える大木となる。長寿で、寿命は400~600年とされる。

 
(壮齢木)

 
樹皮は灰褐色で、成長するにつれて不揃いに剥がれ落ちる。

 
(若木の幹)

 
(葉)

 
(葉の裏側)

 
葉は先端が急に尖り、縁は半ばから先端にかけて鋭い鋸歯状となる。葉はやや硬く、若葉はその表面に細かい毛が密生し、後に無毛となり深緑色になる。又、裏は白に近い黄褐色の毛で覆われる。その為、木を下から見上げると黄褐色に見える。春先に見られる新芽も同じようにクリーム色で、よく目立つ。

花は雌雄同株で4〜5月頃に開花し、実(どんぐり)は食用となり、11~12月に熟す。カシ類では例外的に実をアク抜きしなくても食べることができ、生でも食べられる。そのため、昔は救荒食として重要な木であった。縄文時代から人間の食糧となっていたことが遺跡からも判明している。

丈夫な材が船の櫓に使われたことから「ロガシ」という別名もある。材は他のカシ類に比べて軽くて軟らかく、加工しやすくて槍の柄など様々な器具の材料に使われた。
和歌山県ではごく限られた地点に点在するのみであるが、遺跡からは木材がよく出土することから、かつてはもっと広く分布していたものと考えられ、人為的な利用によって減少したと見られる。和歌山県は紀伊半島南部なのに、意外と少ないのね。
ちょっと待てよ。紀伊半島の蝶に詳しい Mr.紀伊半島の河辺さんが、紀伊半島南部には意外とイチイガシが少なくて、ルーミスはむしろウラジロガシを利用している場合が多いと言ってなかったっけ❓
だとしたら、紀伊半島南部でのマホロバの発見は簡単ではないかもしれない。
あんまり変な事をテキトーに書くとヤバいので、河辺兄貴に電話した。したら、間違ってましたー。ワシの記憶力は鶏並みなのだ。兄貴曰く、和歌山、三重、奈良県共にイチイガシは多いんちゃうかーとの事。そしてルーミスは標高400m以下ではイチイガシを食樹として利用し、それより標高の高いところではウラジロガシを利用しているらしい。また、アラカシなど他のブナ科常緑樹も食ってるようだ。

イチイガシとアラカシの交雑種(雑種)が大分県で確認されている(イチイアラカシ(Quercus gilboglauca))。この事から、或いはアラカシを稀に食樹として利用しているものもいるのかもしれない。蛾類は蝶よりも幼虫の食樹が厳密的ではなく、科を跨いで広範囲に色んな植物を食すものも多いのだ。同じ科なら、飼育下では平気で何でも食うじゃろて。

一応、2020年の5月下旬に小太郎くんと幼虫探しをした。
しかし、思ってた以上にイチイガシが多く、大木も多かったから直ぐにウンザリになった。自分は、こうゆう地道な事には向いてないなとつくづく思い知ったよ。
小太郎くんは奈良市在住なので、度々探しに行ってたみたいだけど、結局見つけられなかったそうだ。もしかしたら、幼虫はメチャメチャ高いところに静止しているのかもしれない。
また小太郎くん曰く、イチイガシは他の常緑カシ類と比べて芽吹きが大変遅いそうだ。この日(5月27日)で、まだこんな状態だった。

 

 
オラは飼育を殆んどしない人なので、そう言われても正直よくワカンナイ。なので、幼生期の解明については小太郎くんに任せっきりだった。
彼曰く、下枝はこの時期になってから漸く芽吹くそうだ。となると、成虫の発生期と計算が合わなくなってくる。成虫の発生を7月上中旬とするならば、この時期には終齢幼虫になっていないといけない筈なのだ。もし幼虫が新芽を食べるとすれば、成長速度が度を越してメチャンコ早いと云う事になっちゃうじゃないか(# ゚Д゚)
新芽の芽吹きは大木の上部から始まると云うから、それを食ってるのかもしれない。にしても、新芽を食べるのならば幼虫期間は矢張り相当短いと云う事にはなるけどね。
まあいい。高い所の新芽を食べるとして話を進めよう。もし幼虫は高い所にいるのだとしたら、探すのは大変だ。ゼフィルス(ミドリシジミの仲間)の卵さえロクに探しに行った事がないワシなんぞには、どだい無理な話だ。誰かが見つけてくれることを祈ろっと。

いや、待てよ。小太郎くんは新芽を食うと断定していたが、花の時期は4月から5月だ。新芽ではなく、もしかして花を食ってんじゃねえか❓そう考えられないだろうか❓ あるいは花の蕾、または硬い枝芽を食うのなら、辻褄は合う。
待て、待て。こう云う考え方も有りはしないか❓例えば弱齢期は他のブナ科常緑樹の新芽を利用し、終齢に近づくにつれ、食樹転換をしてイチイガシを利用するとかさあ…。所詮は飼育ド素人の考えだけど、ダメかなあ❓

食樹をイチイガシと予想したが、もしかして全然違うかったりしてね。だとしたら、何を食ってんだ❓ これ以上は見当もつかないや。

何れにせよ、まだまだ生態的に未知な面もあり、来年もまた調査を継続する予定である。

 
                       おしまい

        
謝辞
最後に、Facebookにアップした記事にいち早く反応され、迅速に動いてくださった岸田泰則先生、記載の役目を快諾され、ゲニタリアを仔細に精査して戴いた石塚勝己さん、発見のきっかけをくださった秋田勝己さん、分布調査で目覚ましい活躍をしてくれた小林真大くん、またこの様なフザけた文章を掲載してくれることをお許し戴いた月刊むしの矢崎さん、そして今回の相棒であり、共に発見に立ちあってくれ、殆んどの調査行に同行してくれた葉山卓くん、各氏にこの場を借りて多大なる感謝の意を表したいと思います。皆様、本当に有り難う御座いました。

ここからは編集者の矢崎さんに送ったメールです。

矢崎さんへ
奈良公園のイチイガシの大木の写真を添付しておきます。残念ながら葉っぱの写真は撮っておりません。
それから1頭だけ採れたクロシオキシタバ(註7)のことは伏せておいた方がいいかもしれません。採れた場所が採れた場所ですから石塚さんが興味を示されています。新亜種くらいにはなるかもしれません。ゆえに状況次第で、その部分は削って戴いてかまいません。石塚さんに訊いてみて下さい。尚、そのクロシオはマオくんが採り、現在葉山くんが保有しています。

以上、多々面倒かと思われますが、宜しくお願いします。
それとマホロバの産地は伏せるとは聞いたのですが(註8)、いったい何処まで伏せるのでしょうか? 個人的にはどうせそのうちにバレるんだから、正直に書いて県なり市なりに働きかけて保護するなら保護した方がよいと思うんですが…。
とはいえ、クソ悪法である「種の保存法」とかにはなってもらいたくはないです。禁止区域外でもいるんだから、虫屋の採る楽しみを奪うのもどうかと思うんですよね。

                      
追伸
前編でもことわっているが、この文章のベースは『月刊むし』の2019年10月号に掲載されたものである。

 
【月刊むし】

 
そう云うワケだから、前編も含めて楽勝で書けると思ってた。しかし、いざ書き始めると、前・後編に分けた事もあって、大幅に書き直す破目になった。新しい知見も加わったので、レイアウトも修正しなくてはならず、思ってた以上に苦労を強いられた。たぶん50回くらいは優に書き直したんじゃないかな。文章の端々に投げやり感が出ているのは、そのせいだろう。マジで無間地獄だったよヽ((◎д◎))ゝ。結果、手を入れ過ぎて原形からだいぶと変形した大幅加筆の増補改訂版となった。

えーと、それから月刊むしの記事よりもフザけた箇所は増えちょります(特に前編)。
え〜と、あと何だっけ❓あっ、そうだ。生態面の新たな発見があれば、随時内容をアップデートしてゆく予定です。あくまでも予定ですが…。
それと参考までに言っとくと、当ブログには他にマホロバ関係の記事に『月刊むしが我が家にやって来た、ヤァ❗、ヤァ❗、ヤァ❗』と『喋べくりまくりイガ十郎』と云う拙文があります。

 
(註1)岸田先生
日本蛾類学会の会長である岸田泰則先生のこと。
国内外の多くの蛾類を記載されており、『日本産蛾類標準図鑑(1〜4)』『世界の美しい蛾』など多くの著作がある。
さんまの『ほんまでっか!? TV』で池田清彦(註9)爺さまが岸田先生を評して『アイツ、すっごく女にモテるんだよねー。』と言ってたらしい。きっとオチャメなんだろね。

 
【日本産蛾類標準図鑑(Ⅱ)】

 
【世界の美しい蛾】

 
(註2)長野菊次郎
名和昆虫研究所技師。九州で生まれ、東京の中学校で博物学を教えていたが、岐阜の中学校に移ったのを機に名和靖と交流するようになった。後に名和の研究所の技師となって、最後まで名和の仕事を支えたという。
著書に『日本鱗翅類汎論』『名和昆蟲圖説第一巻(日本天蛾圖説)』などがある。なお、天蛾とはスズメガの事を指す。
またホソバネグロシャチホコの幼性期の解明に、その名があるようだ(1916)。

 
(註3)分布が隔離されてから少なくとも30万年以上前…
おぼろげな記憶から30万年前と書いたが、実際のところはもっと幅が広く、台湾、南西諸島、日本列島の成り立ちは複雑である。

①500万年前は南西諸島全域に海が広がり、日本列島と沖縄諸島・奄美諸島を含む島と八重山諸島を含む島(台湾の一部を含む)があった。
 

(出典『蝶類DNA研究会ニュースレター「カラスアゲハ亜属の系統関係」』以下、同じ。)

 
しかし200万年〜170万年前(第三紀鮮新世末)に隆起して大陸と繋がった。

 

 
②170〜100万年前(第四紀鮮新世初期)、南西諸島の西側が沈降して海になった。だが、台湾から九州までは陸地で繋がっていた。多分この時代に、C.naganoiは台湾から日本列島に侵入したのだろう。他にも多くの種が侵入し、ヤエヤマカラスアゲハとオキナワカラスアゲハの祖先種も、この時期に渡って来たものと思われる。

 

 
③100万年~40万年前(第四紀鮮新世後期)に沖縄トラフの沈降による東シナ海の成立で、現在の南西諸島の形がほぼ出来上がると、日本列島と奄美の間、奄美と沖縄の間、与那国島と他の八重山の島々との間でさらに隔離が起こった。たぶん、この年代前後にオキナワカラスとヤエヤマカラスの分化が進んだのだろう。

 

 
カラスアゲハとオキナワカラス、ヤエヤマカラスは別種化したのに、マホロバは40万年以上も前から隔離されているのに別種にはならなかったのね。もっと進化しとけよ。おっとり屋さんだなあ。
ちなみに記載者の石塚さんは「台湾と日本の地理的位置を考慮すると、別種の可能性が高いが、今のところ決定的な形質の差異が認められないので新亜種として記載した。」と書いておられる(月刊むし 2019年10月号)。しつこいようだが何とか新種に昇格してくんねぇかなあ(笑)。新種を見つけたと云うのと、新亜種を見つけたと云うのとでは受ける印象が全然違うもんなあ…。
とはいえ、小太郎くんもマオくんも「新亜種でも大発見ですよー。国内新種だし、ましてやカトカラなんだから凄い事だと思いますよ。」と言って慰めてくれたので、まあいいのだ。

 
(註4)ゲニ
ゲニタリアの略称。ゲニタリアとはオスの交尾器の一部分で、種によって形態に差異がある事から多くの昆虫の分類の決め手となっている。

 
(註5)もう「マホロバキシタバ」でエエんでねえの❓
最近発売された岸田先生の新しい図鑑、『日本の蛾』でも和名は「マホロバキシタバ」になっている。

 

 
『日本産蛾類標準図鑑』の1〜4巻を整理して纏めた廉価版で、この中に「標準図鑑以降に公表された種」として追加掲載されている。

 

 
こんだけ既成事実があれば、もう「マホロバキシタバ」で動かないだろう。有り難いことだ。

 
(註6)スギタニイチモンジってイチイガシを食樹としてなかったっけ❓
どうやら自然状態での食樹はまだ解明されていないようだが、飼育では無事にイチイガシで羽化したそうだ。

 
【Euthalia insulae スギタニイチモンジ ♂】

(2017.6.27 台湾南投県仁愛郷)

 
【同♀】

(2016.7.14 台湾南投県仁愛郷)

 
大型のユータリア(タテハチョウ科 Euthalia属 Limbusa亜属)で、とても美しい。
しかし生きてる時にしか、この鮮やかな青や緑には拝めない。死ぬと渋いカーキーグリーンになっちゃう。それはそれで嫌いじゃないけどさ。
スギタニイチモンジについては、当ブログの『台湾の蝶』の連載の第5話に『儚き蒼』と云う文章が有ります。
そういえば『台湾の蝶』シリーズ、長い間頓挫したままだ。ネタはまだまだ沢山残ってるんだけど、キアゲハとカラスアゲハの回でウンザリになって、プッツンいってもうて書く気が萎えた。いつかは再開はするんだろうけどさ。
嗚呼、最後に台湾に行ってから、もう3年も経っちゃってるのね。行けば、間違いなく書く気も復活するんだろうな。来年辺り、行こっかなあ…。

 
(註7)1頭だけ採れたクロシオキシタバ
石塚さんは、内陸部で採れた極めて新鮮な個体だったから興味を示されたのではないかと思う。

 

(画像提供 葉山卓氏)

 
コレがその個体だ。
見た目は、どう見てもクロシオではある。
ようは移動個体ではない事が考えられ、棲息地には食樹であるウバメガシは殆んど無い事から、別な種類の木を食樹としている亜種ではないかと考えられたのだろう。しかし調べた結果、ゲニはクロシオそのものだったそうな。
つけ加えておくと、その後、クロシオは2020年も含めて、この1頭だけしか採れていない。
素人目には、この森で発見されたジョナス(キシタバ)の方が衝撃だったけどなあ…。標高が低くて、孤立した分布地だからね。

 

(2019.7月 奈良市白毫寺)

 
何で怒髪天的な触角にしたんだろね。一つしか採れてないのにさ。
因みに、マオくんも採っているから偶産ではなかろう。上の個体は南西部の白毫寺で採れたものだが、マオくんは原始林を挟んだ反対側、北西部の若草山の北側で採っているので広く薄く生息しているのだろう。

しかし「月刊むし」のマホロバ特集号が発売されて石塚さんと岸田先生の記載論文の末尾を読んで、石塚さんの本当の意図するところが解った気がした。たぶんだが、石塚さんはクロシオとは思っていなくて、もしやクロシオの近縁種であるデジュアンキシタバ(C.dejeani)の可能性を考えたのではなかろうか❓

 
【Catocala dejeani Mell, 1936】

(出典『世界のカトカラ』)

 
パッと見、ほぼほぼクロシオである。下翅の帯が太いのかな❓

 

(出典『世界のカトカラ』上がクロシオ、下がデジュアン。)

 
マホロバとアミメよりも、こっちの方が互いにソックリさんだ。こんなの、よく別種だと気づいたよな。いや、古い時代のことだから、どうせ先に記載されていたクロシオの存在(1931年の記載)を知らずに記載したんだろ。ろくに調べず、テキトーなこと言ってるけど。

ここへきて落とし穴と云うか泥沼の予感だ。出来るだけサクッと調べて、サラッと終わらせよう。

1936年にスズメガの研究で知られるドイツ人のルドルフ・メリ(Rudolf Mell)によって記載された。
分布は中国(四川省、陝西省、広西チワン族自治区)と台湾。生息地は局地的で少ないとされている。
一部の研究者は種としては認めず、クロシオキシタバの亜種と見なしているようだ。

Wikipediaによると、亜種として以下のようなものがあるとされている。

◆Catocala dejeani dejeani Mell, 1936
(中国 広西チワン族自治区?)

メリは暫くの間、広州(広東省)のドイツ人中学校の校長だったらしいから、おそらく隣の広西チワン族自治区で採集されたものを記載したのだろう。あくまでも勘だけど。

◆Catocala dejeani chogohtoku Ishizuka 2002
(中国)

ググッても、この学名では産地が出てこなかった。ほらね、やっぱり泥沼だ。
記載は石塚さんだから、御本人に直接お訊きすればいいのだろうが、こんな些事で連絡するのも気が引ける。まあ、四川省か陝西省のどっちかだろう。たぶん原記載から遠い方の四川省かな? ウンザリなので、もうどんどんテキトー男と化しておるのだ。

◆Catocala dejeani owadai Ishizuka 、2002
(台湾)

台湾では最初、クロシオキシタバとして記録されていた。でもって、その後に台湾ではクロシオは見つかっておらず、今のところ台湾にはデジュアンしかいない事になっているそうな。
ようは、石塚さんは台湾にいる C.naganoiが日本にも居たんだから、デジュアンだっているかもしれないとお考えになったのだろう。それにクロシオとデジュアンは中国では同所的に分布するところも多いというからね。日本にデジュアンが居ても不思議ではないってワケだ。

 
【台湾産デジュアンキシタバ】

(出典『www.jpmoth.org』)

 
裏面画像を見たら、どうやらクロシオとの違いは裏面にあるみたいだ。

 


(出典 2点とも『www.jpmoth.org』)

 
上翅の内側の斑紋がクロシオとは違うような気がする。何だかマホロバっぽい。それにクロシオは翅頂部の黄色い紋が大きく、個体によっては外縁にまで広がって帯状になる。本当にそれが区別点なのかはワカンナイけどさ。
いや、待てよ。下翅が全然違うわ。クロシオは一番内側の黒帯が1本無いが、コヤツにはある。
前から思ってたけど、やはりカトカラを判別するためには裏面が重要だわさ。でも裏面画像は図鑑でもネットでも載ってない事の方が多い。マジで思うけど、裏面の画像も示さないとダメじゃね❓ って云うか鱗翅類を扱った図鑑は本来そうあるべきだろう。だいたい、蛾類は蝶と違って裏面に言及されてる事じたいが少ないってのは、どゆ事❓ 何でこうもそこんとこに無頓着なのだろう。蛾は種類数が多いと云うのは解るけどさ。それに裏まで載せれば、紙数が膨大となり、値段も高くなる。蛾の図鑑なんて誰も買わねぇもんが、益々売れねぇーってか❓ あっ、ヤバい。毒、メチャ吐きそうだ。この辺でやめときます。だいち、これ以上文章が長くなるのは、もう御免なのだ。

と言いつつ書き加えておくと、春日山原始林とその周辺には今のところ14種のカトカラの生息が確認されている。内訳は以下のとおりである。
キシタバ、マホロバキシタバ、アミメキシタバ、アサマキシタバ、フシキキシタバ、コガタキシタバ、カバフキシタバ、ワモンキシタバ、マメキシタバ、ジョナスキシタバ、クロシオキシタバ、オニベニシタバ、コシロシタバ、シロシタバ。ちなみに絶対いるだろうと思ってたウスイロキシタバは見つけられなかった。とはいえ、都市部に隣接した場所で、これだけの種類がいるのは中々に凄いことだ。それだけ森が豊かな証拠なのだろう。やはり素晴らしい場所だよ。

 
(註8)マホロバの産地は伏せるとは聞いたのですが…
採集禁止区域が多いので、トラブルを避ける為の配慮かと思われる。
個人的には、四国で新たなルリクワガタが見つかった時に、「生息地 四国」と発表されたことがあったから、ああゆうダサい事だけはしたくないと思った。どうせ自分たち以外の人に採らせたくないとかケチな理由からなんだろうけど、あまりにも雑過ぎる生息域の記述だったので笑ったワ。狭小な根性が丸出しじゃないか。腹立つくらいにセコいわ。だから、ああゆう風な提言となった。
それで、思い出したんだけど、最初に”Facebook”に記事を書いた時は奈良県で採ったと書いたら、誰もが場所は紀伊半島南部を想像したみたいだね。まさか奈良市内だとはワシだって思わんもん。今まで春日山には星の数ほどの虫屋が入ってるからね。そんなもん、とっくに発見されていて然りだと考えるのが普通でしょう。でも、オラの行動範囲を知っていたA木くんだけは見破ったけどね。
因みに、産地については即座に箝口令が敷かれた。と云うワケで、Facebookの記事も奈良県から近畿地方に修正しといた。でも、色んな人が具体的な場所まで知ってたのには笑ったよ。別に誰かを批判してるワケじゃないけど、「人の口には戸は立てられない」って事だよね。まさか身をもって自分がそれを知るだなんて思いもよらなかったから、変な気分だったよ。中々に貴重な体験でした。

 
(註9)池田清彦
生物学者。評論家。早稲田大学名誉教授、山梨大学名誉教授。
ダーウィンの進化論に異を唱え、構造主義を用いた進化論を提唱している。虫好きで、カミキリムシのコレクターとしても知られる。同じく虫屋であるベストセラー『バカの壁』で有名な養老(猛)さんやフランス文学者でエッセイストの奥本大三郎さんとも仲が良い。
御三方の本は昔から結構読んでる。虫屋で頭のいい人の本は面白い。

 

マホロバキシタバ発見記(2019’カトカラ2年生3)

 
   vol.20 マホロバキシタバ

     『真秀ろばの夏』

 
倭(やまと)は 国の真秀(まほ)ろば 畳(たた)なづく青垣 山籠(こも)れる 倭し美(うるは)し

 
 ープロローグー

2019年 7月10日。曇り。
この日も蒸し暑い夜だった。

「五十嵐さぁーん、何か変なのがいますー。』
樹液の出ているクヌギの前にいる小太郎くんの声が、闇夜に奇妙に反響した。
「変って、どんなーん❓」
テキトーに言葉を返す。
「カトカラだと思うんですけど、何か細いですー。こっち来てくださぁ~い。」
どうせヤガ科のクソ蛾だと思いながら、足先をそちらへと向けた。
「どれ❓」
「これです、コレ。」
小太郎くんが懐中電灯で照らす幹に目をやる。そこには、翅を閉じた見慣れない蛾がいた。
「確かに細い感じやなあ。見たことない奴のような気がするけど…何やろ❓ でもコレってホンマにカトカラかいな❓ カトカラっぽいけど翅閉じてるしさ。」  

話は去年に遡る。
きっかけは2018年の8月の終わりに、カミキリムシ・ゴミムシダマシの研究で高名な秋田勝己さんが Facebook にアップされた記事だった。そこには奈良県でのゴミムシダマシの探索の折りに、カトカラ(シタバガ)属有数の稀種カバフキシタバを見つけたと書かれていた。

 
【カバフキシタバ Catocala mirifica】

(2020.7.7 兵庫県宝塚市 撮影 葉山卓氏)

 

(2020.7.5 兵庫県六甲山地)

  
まだその年にカトカラ採りを始めたばかりの自分は既に京都でカバフは得てはいたものの(註1)、来年はもっと近場で楽に採りたいと思い、メッセンジャーで秋田さんに連絡をとった。
秋田さんは気軽に応対して下さり、場所は若草山近辺(採集禁止区域外)だとお教え戴いた。また食樹のカマツカは奈良公園や柳生街道の入口付近、白毫寺周辺にもある旨のコメントを添えて下された(何れも採集禁止エリア外)。何れにせよ、カバフの記録はこの辺には無かった筈だ(註2)。俄然、やる気が出る。

その年の秋遅くには奈良公園へ行って、若草山から白毫寺へと歩き、カマツカと樹液の出ていそうな木を探しておいた。

 
【カマツカ(鎌束)】

(2018.11月 奈良公園)

 
カマツカは秋に赤い実をつけるから見つけやすいと思ったのだ。ちなみに春には白い花が咲かせるので、そちらで探すと云う方法もある。
   
 
 カバフキシタバを求めて

2019年 6月25日。
満を持して始動。 先ずは若草山周辺を攻める。
しかし、秋田さんに教えてもらった樹液の出る木にはゴッキーてんこ盛りで、飛んで来る気配というものがまるでない。『秋田の野郎〜٩(๑òωó๑)۶』と呟く。
もちろん秋田さんに罪はない。取り敢えず人のせいにしておけば、心は平静を保てるってもんだ。
とにかくコレはダメだと感じた。🚨ピコン、ピコン。己の中の勘と云う名のセンサーが点滅している。このまま此処に居ても多くは望めないだろう。決断は早い方がいい。午後9時過ぎには諦め、白毫寺へと向かう。

真っ暗な原始林をビクつきながら突っ切り、白毫寺に着いたのは午後10時くらいだった。目星をつけていた樹液の出ているクヌギの木を見ると、結構な数のカトカラが集まっている。しかしカバフの姿はない。
取り敢えず周辺の木に糖蜜でも吹きかけてやれと大きめの木に近づいた時だった。高さ約3m、懐中電灯の灯りの端、右上方に何かのシルエットが見えたような気がした。そっと灯りをそちらへとズラす。
w(°o°)wどひゃ❗
そこには、まさかのあの特徴的な姿があった。

 

(こんな感じで止まってました。画像提供 葉山卓氏)

 
間違いない、カバフキシタバだ❗ 後ずさりして、充分な距離を置いてから反転、ザックを置いてきた場所へと走る。
逸(はや)る心を抑えながら網を組み立てる。💦焦っちゃダメだ、焦るな俺。慌ててたら、採れるもんも採れん。
心が鎮まるにつれ、アドレナリンが体の隅々にまで充填されてゆく。やったろうじゃん❗全身に力が漲(みなぎ)り始める。
∠(`Д´)ノシャキーン。武装モード完了。行くぜ。小走りで戻り、目標物の手前7mで足を一旦止める。そこからは慎重に距離を詰めてゆく。逃げていないことを祈ろう。6m、5、4、3、2、1m。目の前まで来た。
(☆▽☆)まだいるっ❗心臓がマックスに💕バクバクだ。この緊張感、堪んねぇ。このために虫採りをやってるようなもんだ。
目を切らずに体を右側へとズラし、ネットを左に構える。必殺⚡鋼鉄斬狼剣の構えだ。武装硬化。心を一本の鋼(はがね)にする。音の無い世界で、ゆっくりと、そして静かに息を吐き出す。やいなや、慎重且つ大胆に幹を💥バチコーン叩く。
手応えはあった。素早く網先を捻る。
ドキドキしながら懐中電灯で照らすとシッカリ網の底に収まっていた。しかも暴れる事なく大人しく静止している。自称まあまあ天才なのだ。我ながら、ここぞという時はハズさない。
移動して正解だ。やっぱ俺様の読みが当たったなと思いつつ、半ば勝利に酔った気分で網の中にぞんざいに毒瓶を差し込む。
しかし、取り込むすんでのところで物凄いスピードで急に動き出して毒瓶の横をすり抜けた。
(|| ゜Д゜)ゲゲッ❗、えっ、えっ、マジ❗❓
ヤバいと思ったのも束の間、パタパタパタ~。網から脱け出し、闇の奥へと飛んでゆくのが一瞬見えた。慌てて懐中電灯で周りを照らす。だが、その姿は忽然とその場から消えていた。
(;゜∇゜)嘘やん、逃げよった…。ファラオの彫像の如く呆然とその場に立ち尽くす。
(-“”-;)やっちまったな…。大ボーンヘッドである。大事な時にこういうミスは滅多にしないので、ドッと落ち込み「何でやねん…」と闇の中で独り言(ご)ちる。

朝まで粘ったが、待てど暮らせどカバフは二度と戻っては来なかった。ファラオの呪いである。
しかし、結局このボーンヘッドが後の大発見に繋がる事になる。その時はまさか後々そんな事になろうとは遥か1万光年、想像だにしていなかった。運命とは数奇なものである。ちょっとしたズレが結果を大きく左右する。おそらくこの時、ちゃんとカバフをゲット出来ていたならば、今シーズン、この地を再び訪れる事は無かっただろう。そしてニューのカトカラを見つけるという幸運と栄誉も他の誰かの手に渡っていたに違いない。

 
 リベンジへ

その後、去年初めてカバフを採った京都市で更に惨敗するものの、六甲山地で多産地を見つけてタコ採りしてやった。思えば、これもまた僥倖だった。直ぐに奈良へリベンジに行っていたならば、彼奴が時期的には発生していたか否かは微妙のところだろう。やはり新しきカトカラの発見は無かったかもしれない。
計30頭くらい得たところで溜飲が下がり、漸くこの日、7月10日に再び白毫寺へと出撃した。屈辱は同じ地で晴らすのがモットーだ。白毫寺で享けた仇は白毫寺で返すヽ(`Д´#)ノ❗

日没の1時間半前に行って、新たに他の樹液ポイントを探す。叶うのならば、常に二の手、三の手の保険は掛けておくことにしている。手数は数多(あまた)あった方がいい。たとえ時間が短くとも下調べは必要だ。
首尾よく樹液の出ている木を数本見つけて、小太郎くんを待つ。彼は奈良市在住なので、奈良県北部方面に夜間採集に出掛ける折りにはよく声をかける。蝶屋だけど(ワテも基本は蝶屋です)、虫採り歴は自分よりも長いし、他の昆虫にも造詣が深いから頼りになる。それに夜の闇とお化けが死ぬほど怖いオイラにとっては、誰か居てくれるだけでメチャンコ心強い。

日没後に小太郎くんがやって来た。 おそらく彼が先にカバフを見つけたとしても譲ってくれるだろう。心やさしい奴なのだ。
しかし、そんな心配をよそに日没後すぐ、呆気なく見つけた。何気に樹液の出てる木の横っちょの木を見たら、止まっていたのだ。
 
難なくゲット。
 

(画像は別な個体です。背中が剥げてたから撮影せずでした)

 
早めにリベンジできたことにホッとする。
これで今日の仕事は終わったようなもんだ。急激に、ゆるゆるの人と化す。
そして、話は冒頭へと戻る。

 
 採集したカトカラの正体は?

新たに見つけた樹液ポイントで、コガタキシタバか何かを取り込んでる時だった。少し離れた小太郎くんから声が飛んできた。
『五十嵐さぁ〜ん、何か変なのがいますー。』
『コレ取り込んだら、そっち行くー。どんな〜ん❓』
『カトカラだと思うんですけど、何か細いですぅー。』
どうせヤガ科のクソ蛾だと思った。カトカラ以外のヤガには興味がない。急(せ)くこともなく取り込んで、小太郎くんの元へと行く。
『どれ❓』
『これです、コレ。』
小太郎くんが懐中電灯で照らす幹に目をやる。そこには見慣れないヤガ科らしき蛾がいた。しばし眺める。
『確かに細い感じやなあ。見たことない奴のような気がするけど…何やろ❓ でもコレってホンマにカトカラかいな❓ カトカラっぽいけど翅閉じてるしさ。』

 

(撮影 葉山卓氏)

 
『見てるヒマがあったら、採りましょうよ。』
小太郎くんから即刻ツッコミを入れられる。
<(^_^;)そりゃそーだー。確かにおっしゃるとおりである。もし採って普通種のクソ蛾だったら腹立つからと躊躇していたけど、採らなきゃ何かはワカラナイ。
止まっている位置を見定め、その下側を網先でコツンと突くと、下に飛んで勝手に網の中に飛び込んできた。カバフをしこたま採るなかで自然と覚えた方法だ。網の面を幹に叩きつけて採る⚡鋼鉄斬狼剣を使わなくともよい楽勝簡単ワザである。あちらが剛の剣ならば、こちらは謂わば静の剣。さしづめ「秘技✨撞擲鶯(どうちゃくウグイス)返し」といったところか。
網の面で幹を叩く採集方法は、その叩く強さに微妙な加減がある。弱過ぎてもダメだし、強過ぎてもヨロシクなくて、網の中に飛び込んでくれない。他の人を見てても、失敗も多いのだ。つまり、それなりに熟練を要するのである。いや、熟練よりもセンスの方が必要かな?まあ両方だ。
一方、網先で下側を軽く突いて採る方法は微妙な加減とか要らないし、視界も広いから成功率は高い。叩く方法でも滅多にハズさないけど、ハズしたらカヴァーは出来ない。横から逃げられたらブラインドになるから、返し技が使えないのだ。とにかく鶯返しの方がミスする率は少ない。飛んで、勝手に網に入ってくる場合も多いし、たとえ上や横に飛んだとしても、素早く反応して網の切っ先を鋭く振り払えばいいだけのことだ。鋭敏な反射神経さえあれば、どってことない。

網の中で黄色い下翅が明滅した。
どうやらキシタバグループのカトカラのようだ。どうせアミメキシタバあたりだろう。余裕で毒瓶に素早く取り込み、中を凝視する。
『五十嵐さん、で、何ですか❓』
小太郎くんが背後から尋ねるも、脳ミソは答えを探して右往左往する。考えてみれば、そもそも此処にアミメがいるなんて聞いた事ないぞ。
『ん~、何やろ❓ \(◎o◎)/ワッカラーン。下翅の帯が太いからアミメかなあ❓ いや、クロシオ(キシタバ)かもしんない。』
『五十嵐さん、去年アミメもクロシオも採ってませんでしたっけ❓』と小太郎くんが言う。アンタ、相変わらず鋭いねぇ。
『そうなんだけど、こっちは去年からカトカラ採りを始めたまだカトカラ2年生やでぇー。去年の事なんぞ憶えてへんがな。特定でけんわ。』と、情けない答えしか返せない。

その後もその変な奴は飛来してきたので、取り敢えず採る。だが、採れば採るほど頭の中が混乱してきた。
冷静に去年の記憶を辿ると、アミメにしては大きい。反対にクロシオにしては小さいような気がする。上翅の色もアミメはもっと茶色がかっていたような記憶があるし、クロシオはもっと青っぽかったような覚えがある。でもコヤツはそのどちらとも違う緑色っぽいのだ。しかし、採ってゆくと稀に茶色いのもいるし、青緑っぽいのもいるから益々混乱に拍車がかかる。
けど冷静に考えてみれば、クロシオは確か7月下旬前半の発生で、分布の基本は海沿いだ。移動性が強くて内陸部でも見つかる例はあった筈だが、にしても移動するのは発生後期であろう。ならば更に時期が合わない。

小太郎くんに尋ねる。
『この一帯ってウバメガシってあんの❓ クロシオの食樹がそうだからさ。』
『ウバメガシは殆んど無かった筈ですね。あるとしても民家の生け垣くらいしかないと思いますよ。』
となると、消去法でアミメキシタバと云うのが妥当な判断だろう。
でもコレって、ホントにアミメかあ❓
心が着地点を見い出せない。
とはいえ、段々考えるのが面倒くさくなってきて、その日は「暫定アミメくん」と呼ぶことにした。けれど、ずっと心の奥底のどこかでは違和感を拭えなかった。
結局、この日はオラが8頭、小太郎くんが1頭だけ持ち帰った。
 
翌日、明るい所で見てみる。

 

 
何となく変だが、どこが変なのかが今イチよく分かんない。
取り敢えず、展翅してみる。

 
【謎のカトカラ ♂】

 
【謎のカトカラ ♀】

 
展翅をしたら、明らかに変だと感じた。
見た目の印象がアミメともクロシオとも違う。確認のために去年のアミメとクロシオの展翅画像を探し出してきて見比べてみた。

 
【アミメキシタバ Catocala hyperconnexa】

(兵庫県神戸市)

 
【クロシオキシタバ Catocala kuangtungensis】

(兵庫県神戸市)

 
目を皿にして相違点を探す。
そして直ぐに決定的な違いを見つけた。下翅の黒帯下部が繋がらなくて、隙間があるのだ。ここがアミメはしっかりと繋がり、クロシオも辛うじて繋がっている。たまに少し隙間が開く個体も見られるが、ここまで開くものはいない。それにクロシオとアミメは真ん中の黒帯が途中で外側に突出する傾向があるが、コヤツにはそれが見うけられない。またアミメやクロシオと比べて帯がやや細いような気がする。とはいえ、最初は異常型かな?とも思った。しかし残りを見てみると、全部の個体が同じ特徴を有していた。
大きさも違う。クロシオは相対的にデカい。一方、アミメは相対的に小さい。コヤツは多少の大小はあるものの、相対的に両者の中間の大きさなのだ。

 

(後日、わざわざ神戸にアミメとクロシオを採りに行ったよ)

 
左上がアミメ、左下が別種と思われるもの、右がクロシオだ。
大きさに違いがあるのが、よく分かるかと思う。

裏を見て、更に別物だと云う意を強くした。
裏面展翅をして、比較してみる事にする。

 
【謎のキシタバ 裏面】

 
【アミメキシタバ 裏面】

 
【クロシオキシタバ 裏面】

 
上翅の胴体に近い内側の斑紋(黒帯)が他の2種とは異なる。
アミメは帯が太くて隣の縦帯と連結するから明らかに違う。全体的に黒っぽいのだ。また翅頂(翅端)の黄色部の面積が一番狭い。
クロシオとはやや似ているが、謎のカトカラは内側の黒帯の下部が横に広がり、上部に向かって細まるか消失しがちだ。クロシオはここが一定の太さである。決定的な違いは、その隣の中央の帯がクロシオは圧倒的に太いことだ。逆に一番外側の帯は細まり、外縁部と接しない。だから外縁が黄色い。またクロシオの下翅は帯が互いに繋がらないし、黒帯が一本少なくて内側の細い帯が無い。あとはアミメとクロシオは下翅中央の黒帯が途中で外側に突出して先が尖るが、謎のカトカラは尖らない(註3)。
ようは三者の裏面は全く違うのである。表よりも裏面の方が三者の差異は顕著で、間違えようのないレベルだ。
こりゃエラい事になってきたなと思い、小太郎くんに昨日持ち帰った個体の展翅画像を送ってもらった。

 

(画像提供 葉山卓氏)

 
やはり下翅の帯が繋がっていない。
となると、絶対に日本では未だ記録されていないカトカラだと思った。でも、じゃあコヤツはいったい何者なのだ❓ 新種の期待に心が震える。

何者かを知るにはどうしたらいいのだろう❓
足りない脳ミソをフル回転させて懸命に考える。そこで、はたと思い出す。そういえば去年、図書館で石塚勝己さんの『世界のカトカラ』のカラー図版を見開き3ページ分だけコピーしたのがあった筈だ。アレに載ってるかもしれない。

 
【世界のカトカラ】

 
でも何となく気になったページを適当にコピーしただけなので、確率は極めて低い。図版はユーラシア大陸のものだけでも20ページくらいはあった筈だ。新大陸(北米)のものまで含めると、40ページ近くはあったような気がする。見開きだから、その半分としても3/20。確率は1割5分だ。いや、そのうちの1枚はめちゃんこカッコイイ C.relicta(オビシロシタバ)の図版である事は間違いないから、確率は10%だ。となると、そこにそんなに都合よく載っているとは思えない。
そう思いつつ確認してみたら、(☆▽☆)何とあった❗❗
奇跡的にその3ページの中に同じく下翅の帯が繋がらない奴がいたのである。しかも他の2ページは北米のカトカラの図版だったから、確率は5%。まさに奇跡だ。

 

(出展『世界のカトカラ』)

 
名前は Catocala naganoi キリタチキシタバとなっている。
生息地は台湾で、特産種みたいだ。台湾は日本と近いし、これは有り得るなと思った。昔は連続して分布していたが、様々な理由で棲息地が分断され、辛うじてこの森で生き残ったのかもしれない。だったら同種か近縁種の可能性大だ。
しかし、困ったことに『世界のカトカラ』には裏面の写真が載ってなかった。両面を見ないと本当にコヤツと近縁種なのかは特定できない。ならばと学名をネットでググったら、zenodo(註4)と云うサイトで、らしきものが見つかった。そこには、ちゃんと裏面の画像もあった(下図3列目)。

 

(出展『zenodo』)

 
早速見比べてみると、どう見ても同じ種の裏面に見える。Catocala naganoi と同種か近縁種に間違いあるまい。
小太郎くんに画像を送ったら、彼の見解も自分と同じだった。ならば、こりゃ絶対に日本では未知のカトカラだと思い、夕方にはドキドキしながらFacebookに記事をあげた。

「昨日、奈良県で変なカトカラを採った。クロシオキシタバにはまだ早いし、だいち奈良は海なし県である。おらん筈。となるとアミメキシタバかなと思ったが、下翅下部の帯が繋がっていない。裏もアミメと違う。採ったやつ8つ全てが同じ特徴やった。どう見ても新種か新亜種だと思うんだけど、岸田先生どう思われます? たぶん、台湾の Catocala naganoi とちゃいますかね?」

記事をアップ後、ソッコーで蛾界の重鎮である岸田泰則先生からコメントが入った。
 
「確認しますが、すごいかもしれません。」

蛾のプロ中のプロである岸田先生のコメントだから、ホンマにエライことになってきたと思った。って事は新種ちゃいまんのん❓ 期待値がパンパンに膨れ上がる。
そして、夜9時にはもうメッセンジャーを通じて先生から直接連絡があった。どえりゃあスピーディーさである。ますます夢の新種発見が現実味を帯びてきた。

内容は以下のとおりである。

「五十嵐さん このカトカラですが、専門家の石塚勝巳さんに聞いたところ、やはり、クロシオではないようです。新種または新亜種の可能性もあります。石塚さんを紹介しますので、連絡してみて下さいませんか。」

(☉。☉)ありゃま❗、カトカラの世界的研究者である石塚さんまで御登場じゃないか。蛾の中でも屈指の人気種であるカトカラのニューなんて、蛾界は激震とちゃいまんのん❓ もうニタニタ笑いが止まらない。
それにしても岸田先生の動きの早さには驚嘆せざるおえない。優れた研究者は行動が迅速だ。でないと、多くの仕事は残せない。ところで、石塚さんに連絡せよとは岸田先生御自身で記載するつもりはないのかな❓
先生に尋ねてみたら、次のような返答が返ってきた。
「新種か新亜種の記載には、近縁種を調べないと判断できません。近縁種を一番知っているのは石塚さんです」
なるほどね。それなら理解できる。にしても、記載を人に譲るだなんて、先生って器がデカいよなあ(最終的には共著で記載された。どういう経緯かは知んないけど)。

 
 奈良を再訪

その翌々日の12日。再び奈良を訪れた。
こんな奴が元々あんな何処にでもあるような普通の雑木林にいるワケがない。おそらくすぐ隣の春日山原始林が本来の生息地で、原始林内には樹液の出る木があまりないゆえコッチまで飛んで来たのではあるまいかと考えたのである。

夕方に着き、原始林内で樹液の出ている木を探したら簡単に見つかった。でも結局、樹液の出ている木はその木だけしか見つけられなかった。不安だったが、裏を返せばここに集中して飛来する可能性だってあるじゃないかと前向きに考える。おいら、実力は無いけど、昔から引きだけは強い。どうにかなるじゃろう。

日没後、少し経った午後7時33分に最初の1頭が飛来した。
その後、立て続けに飛来し、午後9時には数を減じた。個体は重複するだろうが、観察した飛来数はのべ20頭程だった。驚いたのは、その全部が樹液を吸汁中に1頭たりとも下翅を開かなかった事だ。大概のカトカラは吸汁時に下翅を見せるから、特異な性質である。

 

(画像提供 葉山卓氏)

 
知る限りでは、そんなカトカラはマメキシタバくらいしかいない(註6)。
そして、ヨトウガ達ほどではないにせよ、樹幹に止まってから樹液のある所まで、ちょっとだけ歩く。だから最初は、どうせ糞ヤガだと思ったのだ。奴らゴッキーみたいにシャカシャカ歩くからね。そういう意味でも、日本では未知のカトカラだと確信した。

この日は岸田先生から電話も戴いた。近いうちに生息地を視察したいとの事。そのレスポンスの早さに再び舌を巻く。
その後、石塚さんとも連絡をとった。石塚さん曰く、やはり見たところ Catocala naganoi に極めて近い新種か、C.naganoiの新亜種になる可能性大だそうだ。
なお、新種の場合は学名と和名は考えてくれていいよと言われた。石塚さんも太っ腹である。
「Catocala igarashii イガラシキシタバとかも有りかな❓」などと考えると、だらしのないヘラヘラ笑いが抑えきれない。
しかし、普段から和名の命名について自身のブログ(註5)で散々ぱらコキ下ろしている身なので、それはあまりにもダサ過ぎる。そんな名前をつけたとしたら、周りに陰でボロカス言われるに決まっているのだ。そんなの末代までの恥である。ゼッテー耐えられそうにない。
それで思いついたのが「マホロバキシタバ」。もしくは「マホロキシタバ」という和名だった。
「まほろ」とは「素晴らしい」という意味の日本の古語である。その後ろに「ば」を付けた「まほろば」は「素晴らしい場所」「住みよい場所」を意味する。謂わば楽園とか理想郷ってところだ。
『古事記』には「倭(大和=やまと)は 国の真秀(まほ)ろば 畳(たた)なづく青垣 山隠(籠=こも)れる 倭し美(うる)はし」というヤマトタケルノミコト(註7)が歌ったとされる有名な和歌もあり、これが最も相応しい名ではないかと思った。
そして、この言葉は「JR万葉まほろば線(註8)」など奈良県所在の企業、店舗名、施設等々の名称にもよく使われており、奈良県の東京事務所や桜井市の公式ホームページにも使用されている。つまり奈良県民のあいだではポピュラーで親しみ深い言葉でもある。また虫屋は学のある方が多いゆえ、「マホロバ」という言葉だけでピンときて、奈良県で最初に見つかったものだと容易に想像がつくだろうとも考えた。手垢の付いた言葉ではなく、且つ、そこそこ知っている人もいると云うのが名前の理想だろう。加えて雅な言葉なら、完璧だ。とにかく、出来るだけ多くの人に納得して戴くために心を砕いたつもりだ。
小太郎くんに提案すると、奇しくも彼も同じことを考えていたようだ。「マホロ」よりも「マホロバ」の方がポピュラーだし、発音しやすくて響きもいいと云うことで、すんなり二人の間では「マホロバキシタバ」で決まった。
あとは、この和名を如何にして岸田先生と石塚さんに受け入れてもらうかである。それで一計を案じた。コチラに来るという岸田先生とのやりとりの中で「一々、新種・新亜種のキシタバと言うのは面倒なので、葉山くんとの間では便宜上マホロバキシタバ(仮称)と呼んでおります。いよいよ明日、まほろば作戦決行です❗もちろんこの作戦の隊長は先生です。明日は宜しくお願いします、隊長∠(・`_´・ )❗」というメールを送っておいた。
ようは既成事実を作ってしまおうと云う巧妙な根回し作戦だ。連呼しておけば、先生とて心理的に反対しにくかろう。わしゃ、狡い男なのだ、٩(๑´3`๑)۶ぷっぷっぷー。

 
 強力メンバーで調査

7月16日。午後4時に先生と近鉄奈良駅で待ち合わせる。その後、小太郎くんも加わって、その足で奈良公園管理事務所に調査の許可申請へと向かう。原始林内は採集禁止だから、手は早めに打っておいた方がいいだろう。
その後に白毫寺へ行き、先生に採集してもらった(採集禁止区域外)。虫屋たるもの、自分の手で採らなければ納得いかないものだ。
先生は実物をひと目見て、これは新種か新亜種だねとおっしゃった。小太郎くんが先生に「マホロバを世界で三番目に採った男ですね。」と言う。その言葉に先生も笑っていらした。お陰か、和名マホロバキシタバも気に入って戴いたようだ。自分では考えもしなかったけど、その世界で何番目という称号って、いい響きだねぇ~。ということは、さしづめオラは「新種(新亜種)を世界で一番最初に採った男」ってことかい。何だか気分いいなあ。

後日、石塚さんにも、三人の間では一応仮称マホロバキシタバになっている旨を伝えたら、気に入ってくれたようだった。

早々と切り上げて、三人で居酒屋で祝杯をあげた。
短い時間だったが、とても楽しい一刻(ひととき)を過ごせた。

店の外に出て、何気に空を見上げる。そこには沈鬱な面持ちの雲が厚く垂れ込めていた。
フッと笑みが零れる。
空はどんよりだが、心はどこまでも晴れやかだった。

                       つづく

 
追伸
この文章は『月刊むし』の2019年10月号に掲載されたものを大幅増補改訂したものである。

 

 
普段のブログと構成が少し違うのは気合い入ってたのだ(笑)。
流石にいつもみたいに何も考えずに書き始めるということはせず、先ずは頭の中で構成をシッカリと考えて、文章もある程度繰ってから書きだした。結果、最近はあまり使わない倒置法的な手法になったってワケ。出来るだけドラマチックな展開にしたかったし、珍しく読み手のこともかなり意識して書いたのさ。クソ真面目な報告文なんて自分らしくないし、オモロないもん。
「だったら、毎回そうせいよ」とツッコミが入りそうだが、それは出来ませぬ。性格的に無理なのである。毎回そんな事してたら、書く前に放り出してしまうに決まってるんである。何も考えずに書き始めるからこそ書けるのであって、一行でも書いたら、完成させねばと思って何とか最後まで書き続けられるのである。

改めて記事を読み返すと、つくづく偶然の集積だらけの結果なんだなと思う。そもそもの発端を掘り起こしてゆくと、もし蝶採りに飽きてシンジュサンを採ろうなどと思わなかったら(註9)、この発見は無かった。中々採れなくて、もし小太郎くんに相談していなかったら矢田丘陵なんかには行かなかったし、そこで小太郎くんに偶然いたフシキキシタバやワモンキシタバを採ることを奨められなかったら、カトカラなんて集めていなかっただろう。また彼がカバフキシタバについて熱く語らなかったら、カバフ探しに奔走することもなかっただろう。あとは文中で語ったように、秋田さんのFacebookの記事が無かったら奈良なんて行かなかっただろうし、カバフを逃していなかったら再訪することもなかった。一旦諦めて他の場所にカバフを探しに行ったと云うのも大きい。直ぐにリベンジに行っていたら、マホロバには会えなかったような気がする。結果とは、ホント偶然の集積なんだね。もちろん二人ともボンクラで、ニューのカトカラだと気づかなかったら、この発見は無かったのは言うまでもない。バカだけど、バカなりに一所懸命頑張ってきた甲斐があったよ。
でも、こんだけ偶然が重なると、もう必然だったんではないかと不遜にも思ったりもする。実力は無いけど、昔っから何となく運だけは強いのだ。春日山原始林といえば、カミキリ屋や糞虫屋を筆頭に数多(あまた)の虫屋が通ってきた有名な場所だ。蛾類だって、調査されたことが無いワケがない。なのに今まで見つからなかったのは、奇跡としか言いようがない。申し訳ないけど、きっとワシも小太郎くんも選ばれし人なのだ。
あっ、言い忘れた。小太郎くんと秋田さんには感謝しなくてはならないね。ありがとうございました。
おっと、岸田先生と石塚さんにも感謝しなきゃいけないや。先生が直ぐにFacebookの記事を見て気づいてくれなければ、どうなってたかワカランもん。仲の良い石塚さんにソッコーで連絡して下さり、直ぐに太鼓判を押して戴いたのも大きい。もし御二人が仲が悪かったりしたら、面倒くさいことになってたかもしんないもんね。変な奴がシャシャリ出てきて、手柄を全部自分のモノにしてた事だって有り得るからさ。この業界、人としてダメな人も多いのだ。功名心ゆえのルール無用も普通にあったりするから怖い。お二人の記載で良かった良かった。蛾界の重鎮が記載者名に並ぶというのもバリュー有りだ。御両名とも、改めて有難う御座いました。

次回、後編です。主に知見のまとめ、謂わば種の解説編になる予定です。

 
ー後記ー
この改稿版を書くにあたり、色々ネタを探してたら執筆当時のメールが出てきた。月刊むしの原稿の構成を担当して下さった矢崎さんに送ったメールだ。ちょっと面白いので載せておこう。

日付は、2019年08月04日となっている。
あれからもうきっかり一年経ってるんだね。何だが懐かしい。

 
件名: マホロバキシタバ発見記① 五十嵐 弘幸・葉山 卓
To: 矢崎さん(月刊むし)

五十嵐と申します。
岸田泰則先生から発見記を是非書いて下さいとの御要請を賜り、僭越ながら、わたくし五十嵐が代表して発見の経緯を綴らさせて戴きます。
現在、PCが無いゆえ、失礼乍ら携帯メールで記事をお送りします。多々、不備があるかとは存じますが、何卒御勘弁下さいまし。

と云う前置きがあって、本文を送った。
自分でも忘れてたけど、その最後に以下のような文章が付け加えられていた。

ー矢崎さんへー
当方『蝶に魅せられた旅人(http://iga72.xsrv.jp/ )』というおバカなブログを書いておりまする。堅苦しい文章も書けなくはないのですが、気が進まない。それで岸田先生に御相談したところ『発見記なんだから自由に書けばいいんじゃない?矢崎さんという優秀な編集者もいるし、ダメなら上手く直してくれるよ。』とおっしゃてくれました。結果、こういう勝手気儘な文章になりました。で、勢いで顔文字まで入れちゃいました(笑)。流石に顔文字はマズイと思われるので削除して下さって結構です。本文も不適切なところがあれば、直して下さって構いません。あまり大幅に改変されると悲しいですが…。
とにかく掲載のほど何卒宜しくお願いします。

追伸
えー、添付写真が送りきれないので何回かに分けてお送りします。写真を入れる位置はお任せします。
それと、実を言うと文章はこれで終わりではありません。生態面など気づいたこともありますので、稿を改めてお送りします。本文の後にそれをくっつけて下されば幸いです。

以上なのだが、矢崎さんは有り難い事に「クソ蛾」等の不適切な箇所を除いては、ほぼ原文をそのままで載せて下さった。よくこんなフザけたような文章を載っけてくれたよ。感謝だね。
オマケに読みやすいようにと、各章に「プロローグ」「採集したカトカラの正体は?」などの小タイトルを付けて下さった。これまた感謝である。気にいったので、今回その小タイトルをそのまま使わせて戴いた。岸田せんせの「矢崎さんという優秀な編集者もいるし」と云う言葉にも納得だすよ。
この場を借りて、改めて矢崎さん、有難う御座いました。

 
(註1)京都で既にカバフは得てはいたものの
カバフの採集記は拙ブログのカトカラ元年のシリーズに『孤高の落武者』『続・カバフキシタバ(リビドー全開!逆襲のモラセス)』などの文があります。興味のある方は、そちらも併せて読んで下されば幸いです。

 
(註2)奈良公園のカバフキシタバの記録
小太郎くん曰く、過去に古い記録が残っているそうだ。

 
(註3)謎のカトカラは尖らない
但し、裏面の斑紋に関しては細かい個体変異はあるかと思われる。本当はもっと沢山の個体を図示して論じなければならないのは重々承知しているが、これはあくまでもその時の流れで書かれてある事を御理解戴きたい。

 
(註4)zenodo
https://zenodo.org/record/1067407#.XTkdVmlUs0M
学術論文のサイトみたいだね。
尚、C.naganoiは1982年に蛾の大家、杉 繁郎氏によって記載された。桃園県で発見され、バラタイプには新竹県の標本が指定されている。
台湾名は「長野氏裳蛾」。ネットでググっても情報があまり出てこないので、おそらく台湾では稀な種だと思われる。

 
(註5)自身のブログ
http://iga72.xsrv.jp/ 蝶に魅せられた旅人。
アナタが読まれている、このブログの事ですね。

 
(註6)吸汁に下翅を開かないカトカラ
全てのカトカラを観察したワケではないけれど、文献を漁った結果、マメキシタバ以外にはそうゆう生態のものは見つけられなかった。優れた生態図鑑として知られる西尾規孝氏の『日本のCatocala』にも載ってなかった。

 

 
但し、通常は下翅を開く種でも、ケースによっては閉じたまま吸汁するものもいることを書き添えておく。

 
(註7)ヤマトタケルノミコト
『古事記』『日本書紀』などに伝わる古代日本の皇族(王族)。
『日本書紀』では「日本武尊」。『古事記』では「倭建命」と表記されている。現代では、漢字表記の場合には一般的に「日本武尊」の字が用いられる場合が多い。カタカナ表記では、単にヤマトタケルと記されることも多い。
第12代景行天皇の皇子で、第14代仲哀天皇の父にあたり、熊襲征討・東国征討を行ったとされる日本古代史上の伝説的英雄である。須佐之男命(すさのおのみこと)がヤマタノオロチ(八首の大蛇)をブッた斬った時に中から出てきた「草薙の剣」を携えている。この伝説の剣はスサノオが天照大神(あまてらすおおみかみ)に献上したもので、それをタケルくんが天照大神から貰ったってワケ。ようするに伝説だらけの人が絡んでくるバリバリの英雄なんである。
その倭建命が故郷の大和の国を離れ、戦いに疲れて病に伏す。そのさなかに大和の美しい景色を想って歌ったとされるのが「倭は 国のまほろば…」という歌なんである。
訳すと「大和は国の中で最も素晴らしい場所だ。幾重にも重なり合った青垣のような山々、その山々に囲まれた大和は本当に美しい場所だ。」といった意味になる。

 
(註9)万葉まほろば線
JR桜井線の別称。JR奈良駅から奈良県大和高田市の高田駅までを結ぶ西日本旅客鉄道(JR西日本)の鉄道路線。

 
(註8)シンジュサンを採ろうなどとは思わなかったら
これについては本ブログに『三日月の女神・紫檀の魁偉』と題して書いた。

  

和風 鱧の子パスタ

 
だいぶ前に鱧の子のパスタのことを書いたが、今回は同じハモの子パスタでも、ちと違う。
いつもならニンニクと鷹の爪を使ったペペロンチーノ風だが、和風で攻めてみた。
とはいえ、最初から和風にしようと思ったワケではない。鱧の子をオリーブオイルで炒めている時に、突然そうしようと思ったのだ。
でも特にプランがあったワケではない。取り敢えず、そこに酒と顆粒の昆布だしを加え、塩て味付けしてみた。
しかし、何かパンチがない。
そこで、山から採ってきた青山椒を包丁で細かく刻んで放り込み、パスタの煮汁を足してみた。

山椒の辛味と痺れで引き締まって、味は良くなった。
けれどもパスタを入れて混ぜて味見したら、何かもの足りない。味に深みがないのである。
取り敢えず、パスタの煮汁とオリーブオイルを少しずつ足して乳化させる。
ここで漸く気づく。和といえば醤油じゃないか。基本中の基本の調味料を忘れておったよ。
「😠ぼおーっと、生きてンじゃねぇよ❗」
つい、一人ツッコミを入れてしまう。
しかれども、薄口醤油の瓶を持ったところで手が止まり、そのまま片手に醤油を持って暫し仁王立ち。何か、それは正解じゃないような気がした。

(-ω☆)✨キラリンコ、醤油はやめじゃ❗
そのままパスタを器に盛り、ベランダで育てている木の芽を乗っける。

\(^o^)/🎉チャッチャラーン🎊
ここで伝家の宝刀を繰り出す。

 

 
大阪が誇る高級塩昆布『まつのはこんぶ』様のお通りだい❗

 

 
誰に進呈しても泣くほど喜ばれる大阪は新町の「花錦戸」の塩昆布じゃよ。名前は松の葉のような形からだ。
細かく刻んだ昆布をスッポンの出汁で炊きあげたもので、そこに仄かな山椒の風味が加わり、絶品。上品で深い味わいが口いっぱいに広がり至福の極みなのじゃよ。

 

 
 
基本は御飯のお供だが、酒のつまみにもなると云う逸品でおま。
そやつをだな、ようするに醤油の替わりにパスタの上に乗っけちゃう作戦なのだ。

 

 
おっと、木の芽を散らしておこう。

 

 
美味いっ❗❗
やっぱ、まつのは昆布は最強だな。ケチらず、更に増量じゃ❗
何てったって、鱧の子は結構な量で200円台だったもんね。ふんだんに松の葉昆布を入れても、コスパは良いもんね。

とはいえ、大量に作り過ぎて残した。無理して食うことはないと思ったのである。たぶん冷えても美味いんじゃないかな。

 

 
思ったとおり、冷えても美味い。
むしろ温かいのよか美味いんじゃないかとさえ思えるくらいだ。

パスタを食い終わっても鱧の子が残ったので、ふりかけ代わりに御飯に乗っけて食う。

 

 
(☆▽☆)メチャメチャ美味いやんけー。
これが一番美味いかもしれへん。

                       おしまい

 

アンタにゃ、ガッカリだよ

 
生駒山地・枚岡で夜間に糖蜜採集してたら、見慣れぬ蛾がやって来た。
カトカラ(註1)以外はフル無視なのだが、羽を開いて吸蜜する姿が綺麗だったので、つい採ってしまった。

 

 
でも名前がワカラン。蛾は種類数が多いので調べるのが億劫だ。と云うワケでFacebookに載っけたら、カッチャンから御回答があった。
「ホソオビアシブトクチバ」という名前なんだそうな。
珍しいのかな❓と思って調べたら、ソッコーで┐(´(エ)`)┌ガックリ。バラの害虫で、園芸する人達にメッチャ嫌われとるやないけー。
という事は…とは思ったが、調べてみるとヤッパのド普通種であった。ネットで各画像を見てたら、段々見たことがあるような気がしてきた。羽を閉じた三角形のは見覚えあるかも。きっと羽を開いて吸蜜してたから、見たことない奴だと思ったんだね。その印象が強過ぎて、冒頭の三角形の画像でも気づかんかったのねんのねん。

よほど捨てたろかとも思ったが、それじゃ彼奴も浮かばれんだろう。そう思って展翅することにした。

 
【ホソオビアシブトクチバ Parallelia arctotaenia 】

 
羽を広げると、やっぱスタイリッシュでカッケーじゃんか。
珍しいか珍しくないかだけで評価するのもどうかとは思うが、惜しい。もし珍だったとしたら、きっと💗ラブリィーになってたに違いないのにね。

ゲッw(°o°)w、でも裏見たらメチャ汚い。

 

 
ほぼ文章が出来上がったので、画像を纏めて消そうと思ったら、裏側の写真が出てきたのじゃよ。記憶から完全に消されてた。そういえば帰り間際に急いで撮ったわ。
ラブリィー発言は撤回です。やっぱりアンタにゃ、ガッカリだよ。

一応、種の解説をしとくっか…。

ヤガ科(Noctuidae) シタバガ亜科(Catocalinae)に属する開張38〜44ミリの小型の蛾である。
分布は本州、四国、九州、対馬、沖縄本島、石垣島。海外では台湾、インド、大平洋地域、オーストラリア。
日本だけでなく、海外でも何処にでもいるって感じだな。もう愛情、ゼロである。

成虫の出現期は、5〜10月。こんだけ長く見られるということは、年2回は発生するのかな❓まあ、今やどっちゃでもエエけど。

幼虫の食餌植物はバラ(バラ科)の他に、ウバメガシ(ブナ科)、サルトリイバラ(ユリ科)、トウゴマ(トウダイグサ科)なんかも食うそうだ。属レベルにとどまらず、科まで越えて餌にしとるのね。相変わらず、蛾類って食いもんに節操がない奴が多いニャアー。

レッドデータブックでは、茨城県が希少種に指定しているようだ。こんなもんまで希少種にするって、茨城県には虫がそんなにもおらんのかえ❓
あっ、つもりじゃなかったけど、結果、ディスってるな。でも、茨城県って、何が有名で珍しい奴っておったっけ❓
考えてもチャマダラセセリくらいしか頭に浮かばんよ。

 
                       おしまい

 
追伸
思い入れがないと、書くのは早いから楽ちんなのだ。蝶の事とカトカラの事は、そうはいかないけど。只今、マホロバキシタバについての原稿を書いてるけど、全然進まへんしぃ〜。

 
(註1)カトカラ
ヤガ科シタバガ亜科 シタバガ(Catocala)属の総称。
名前はギリシア語由来で、美しい下羽という意味。その名のとおり美しい下羽を持つものが多く、人気の高い蛾。現在、日本には32種が記録されている。その代表的なモノの画像をいくつか貼り付けておきましょう。

 
【ムラサキシタバ】

(2019年 9月 長野県松本市)

 
【ベニシタバ】

(2019年 9月 岐阜県高山市)

 
【カバフキシタバ】

(2020年 7月 兵庫県宝塚市)

 
【シロシタバ】

(2019年 8月 長野県大町市)

 
ここに並べたものは、上翅にもそれぞれ特徴があって美しい。
本ブログに「2018′ カトカラ元年」と「2019′ カトカラ二年生」というカトカラについて書かれた連載があります。よろしければ、ソチらも読んで下され。

 

自家製 激旨一夜干し

 
前回の黒豆の枝豆を茹でた汁が残った。勿体ないし、立て塩みたいなもんだろうから一夜干しを作る事にした。
問題は魚を何にするかだ。アジとかカマスが真っ先に浮かんだが、候補はまだまだある。ノドグロ、キンキの高級魚コンビにハタハタ、キンメダイ、連子鯛、甘鯛。魚じゃないけどイカも有りだよな。変わったところではエボ鯛とかウツボなんてのもあるしなあ…。でもウツボなんか、その辺のスーパーで生で売ってるワケないよね。えーい、ぐじゅぐじゅ考えても始まらない。取り敢えずスーパーに行ってから考えよーっと。

で、たまたま鮎が売っているのが目に入ったた。川魚なので全く頭になかったけど、それも選択肢と全然有りだわさ。鮎の名産地なんかでは、鮎の一夜干しを売ってるもんね。思い立ったが吉日。養殖物だけど値段は¥298と手頃だし買うことにした。

先ずは鮎を洗う。
(☉。☉)あっ❗、スイカの匂いがする。鮎って川の中石に付いた苔を食ってるから西瓜とかメロンとか胡瓜の香りがするって云うけど、養殖モンでもするのか❓…。じゃあ、養殖モンにも苔を食わしてのか❓ それって面倒クサくて大変なんじゃないの❓

取り敢えず腹開きにして内蔵を取り出す。鮎のワタは苦くて結構好きだから勿体ないような気もするが、内蔵付きの一夜干しなんて聞いたことがない。とてつもなく生臭そうだし、いくらアホなチャレンジャーのワイでも、そんな変態チックなものは作らへん。ゴミ箱にポーイ(ノ•̀ o •́ )ノ ~ ┻━┻

捨てたところで気づく。
そういえば鮎の内蔵で作った塩辛の「うるか」ってのがあったな…。アレって苦味があって、大人の塩辛って感じで旨いんだよな。日本酒の冷やがバシバシいける。だが、後の祭りと言わない。養殖モノなんて餌に何食わしてるかワカラン。そんな内蔵で作ったウルカなんて気持ち悪くて食えるワケあらへんがな。

何か干物の開き方があったような気がするが、適当に真ん中割りにする。してからにキッチンペーパーで水気を拭いてから黒豆の茹で汁にブッ込むのだが、ブチ込むすんでで手が止まる。その前に茹で汁を舐めてチェックせなアカンがな。どれくらいの塩分濃度なのか正確には分かっとらんのである。

(ー_ー)ふむふむ。ちょっとキツいような気もするが、塩加減はこんなもんだろ。鮎をブッ込み、浮かないように落とし蓋をして30分ほど漬けておく。

時刻は夕方。取り敢えず笊に乗せ、ベランダの風通しの良いところに置く。上からネットを掛けたいところだが、無いゆえにそのまんま放置。どうせ焼くのじゃ、蝿が卵を産もうがカマヘン、カマヘン。もしも「ザ・フライ」、恐怖の蝿男になったらなったでエエんやないの。それならそれで世のうら若き女性たちを死ぬほど怖がらせて、イタズラなんかしちゃうまでだ。ぷちゅー。血い吸うたろか。

午前1時くらいに思い出して、一旦ひっくり返す。
裏表、万遍なく風に当ててやった方がいいだろうと云うワケである。

で、お昼くらいには、こんな感じになっとった。

 

 
いい感じの乾き具合である。
やっぱり蝿に卵を産まれるのはヤだし、カラスに持ってかれるのもヤだ。取り込んで軽くラップして冷蔵庫に安置する。
それはそうと、最近は金バエとか肉バエとかのデカい蝿を見ないよね。それだけ世の中、衛生的になってんだろ。しかしハエもおらんような世界と云うのも不自然な気がする。世の中、清潔になり過ぎるのも果たしてどうかと思うよ。ゼッテー人間って、生物として弱くなってるよね。菌とかに対しても抵抗力はだいぶ弱まってんじゃねえか❓ 今や人間も養殖モンだらけかもな。

夜になった。
さあ、焼きましょ焼きましょ、💕ルンルンルン。
身が薄いので、弱火でジックリ焼くことにした。

じっくり焼いて完成。
ええ感じに焼き上がった。

 

 
裏と表で交互に盛り付けてみた。
でもって、気を張っての器は織部だぜ、この野郎。

(◍•ᴗ•◍❤まっこと美味いにゃあ〜。
奇跡的に塩加減が絶妙。火の入り具合も程好い。香ばしくて頭や骨までバリバリとイケる。
(@_@)駄目だあ〜。今夜は飲まないと決めていたのに、コレはとてつもなく酒を呼びまんがなあ〜。

取り敢えず、焼酎のロックだなあ。

 

 
白玉の
歯にしみとほる
夏の夜の
酒は静かに飲むべかりけり
 
                       おしまい

 
追伸
最後の歌は吉井勇の有名な作品を夏ヴァージョンにもじったものだ。もっと改変してオリジナリティーさを出そうかとも思ったが、優れた詩には、それさえ許さないところがある。素人では、おいそれと触れれない完璧なカタチで成立しているのである。
  
ネットでググると「かつての養殖は生の魚(イワシなど)をエサにすることが多かったため、「養殖アユはイワシの味がする」とか言われてたそうだ。しかし現在では、天然に近づけるため魚粉に海苔や緑藻類を配合し、品質は非常に向上しています。ただし良い香りはあまりしないようです」みたいな事か書いてあった。

 

(出展『三卯養魚場』)
 
 
何れにせよ、やっぱり鮎の基本は天然に限るって事かもな。
思うに養殖で天然に近い鮎を作る事よりも、いっそ別な振り幅でええんちゃうのん❗例えば、鮎はサケ科の魚だけど一年魚で通常は巨大化しないから、寧ろ肥え太らせて鮭的なものを作るとかの方が面白いんでねぇの❓ いわゆる三倍体とかってヤツとかさ。

 

枝付き黒枝豆

 
枝付きの黒豆が、特売で¥398で売っていた。
少し高いが、枝付きは普通の枝豆だって500円くらいはするから、ここは買いでしょう。

 

 
場所は丹波ではなく、和歌山産だすな。
ハサミで鞘の端の内側をカットしてゆく。切り取ったら反対側もカットする。こうしておけば、茹でた時に塩水が染み込み易くて見た目が美しいからだ。でも普段はそんな事はしない。面倒くさいもん。

それをビニール袋にブッ込み、粗塩を入れてモミモミする。表面の産毛を取るためだが、これも面倒なので普段はしない。けど今回は何たって枝付きの黒豆さんなのである。真面目にしまっせハカセタロー。

産毛が取れたらサッと水で洗い流し、水1リットルに塩30gくらい入れて沸騰させる。本当は40gくらいが妥当なのだろうが、塩がキツ過ぎたら暗黒宇宙のハカセタローになりかねないので弱めにした。ところで、さっきからナゼにハカセタローなのだ❓酒飲んで書いてるから、アタマがワいてるな。
えー、珍しく慎重なのは、料理は足し算は簡単だが、引き算は出来ないからである。薄かったら、塩ぶっかけて蓋してシャカシャカやればいいだけの事だかんね。ダイビングインストラクター時代に、サイパンの居酒屋で慎ちゃんが小鉢に小皿で蓋してよくシャカシャカやってたなあ。

コトコト10分程茹でて、笊にあける。
普通の枝豆だと5分くらいだが、豆がデカい黒豆だから長めに茹でた。水では締めない。ナゼかっつーと、豆の香りが飛ぶからである。旨みとかも洗い流しそうだし、それに何より折角絶妙に塩で味付けしたのに、もう1回味付けし直すなんて許せないじゃないか。
そのかわり色止めにはならないから、見た目は悪くなる。そこは致し方ないところではあるが、見た目よか味重視っしょ。

温かいうちに食う。

 

 
もちろんキンキンに冷えたビールを改めてスタンバイさせておる。黒枝豆を口に放り込んだら、すかさずビールで流し込む。
(•‿•)旨い。
旨いけど5鞘くらい食ったところで、ふと疑問に思う。
枝豆って冷やした方が旨いような気がするぞ。茹でたてホクホクが旨いというイメージに騙されてると云うか引っ張られてるだけなんじゃないか❓
全員、冷蔵庫に撤退、テッターイ❗

急遽、登板予定を早め、リリーフ陣を投入してゆく。

 

 
冷凍物のトロカツオ。いわゆる戻り鰹の冷凍さんね。
もちろん生の鰹よか味は落ちるが、最近は冷凍技術も進歩しているので、昔ほどガッカリすることは無くなってきてる。
因みに薬味は生姜よりもニンニク派。生のニンニクの香りと辛味がアクセントになってていいんだよね。

 

 
豚肉の青山椒煮。
豚肉に出汁と野外採取した青山椒を入れて、サッと煮た。
旨いねっ。山椒の香りが食欲をアップさせる。試合、つくってるねー。(◍•ᴗ•◍)❤エンジン全開だぜ、ベイベェー。

十分に冷えたところで、いよいよ再戦に臨む。

 

 
(ー_ー゛)うーむ。やはり枝豆は冷やしたヤツの方が旨い。
より香りもするような気がするし、味も馴染んでる。

 

 
翌日も残ってるのを食った。
色はどんどん悪くなるけど、味はどんどん良くなる。

そろそろ夏本番だね。

                    おしまい

 

闇の中の小さな幽玄

  
太古の森の中で、ひっそりとヒメハルゼミが羽化していた。

 

 
何という美しさであろう。
闇の中に浮かび上がる、その透き通るような美しさは幽玄で儚い。

 

 
何れも産卵管が長く伸びているからメスだね。
ここにいるとは知ってはいたが、肉眼で見るのは初めてだ。
見慣れたクマゼミやアブラゼミと比べて、大変小さい。まるで妖精だね。

妖精ならば、そっとしておこう。
それにそもそも、ここは採集禁止だしね。まあ、たとえそうじゃなくとも持って帰らないけどさ。蝶だけでも標本箱だらけなのだ。他の虫まで集め始めたら大変な事になる。
セミは好きなんだけどね。元々、少年の頃は「セミ採り名人」と言われてたしさ。何だか懐かしい。少年の頃の思い出が映像となって、頭の中を次々と流れてゆく。

羽が乾くと、こんな感じになる。

 


(出展 2点共『セミの図鑑 zikade.world.coocan.jp』)

 
ヒメハルゼミの事はあまり知らないので、ちょいとWikipediaで調べてみた。

ヒメハルゼミ(姫春蟬)
学名 Euterpnosia chibensis
カメムシ目(半翅目)・セミ科に分類されるセミの一種。
西日本各地の照葉樹林に生息し、集団で「合唱」することが知られる。他のセミは生息分布域が面であるのに対し、ヒメハルゼミは点で表される。
(・∀・)ん❗❓ どうゆう意味❓ようするに分布が極めて局所的って事か…。
自分の言葉に変換した方が良さそうだ。以下、要約しよう。

飛翔力があまり強くなく、分布を広げようとしない性格に加え、生息条件も限られるために稀少なセミである。
成虫の体長はオス24-28mm、メス21-25mm、翅端まで35mmほどで、ハルゼミと同じくらいの大きさである。

 
【ハルゼミ♂】

【同♀】

(出展『セミの家』)

 
えっ❓ハルゼミと同じ大きさなのに何でヒメハルゼミなの❓ 普通、昆虫の名前にヒメと冠される場合は、その仲間の中では小さいモノであることを指す。なのに、同じ大きさなのに、何でヒメ❓
まあいいや。掘り下げるとロクな事がなさそうなので、スルーしておこう。

外見はハルゼミに似るが、ハルゼミより体色が淡く、褐色がかっている。前翅の翅脈上に2つの斑点があり、さらにオスの腹部には小さな突起が左右に突き出る。頭部の幅は広いが、体は細長い。オスの腹部は共鳴室が発達しており、ほとんど空洞となっていて、外観も細長い。一方メスは腹部が短く、腹部の先端に細い産卵管が突出する。
それにしても産卵管が異様に長いよね。木のどっかのメチャメチャ奥に産卵すのかな❓

 
【分布】
基亜種ヒメハルゼミ E. c. chibensis は西日本の固有種で、新潟県・茨城県以西の本州・四国・九州・屋久島・奄美大島・徳之島に分布する。
学名の小種名 “chibensis” は「千葉の(に棲む)」の意である。地名に因んだ学名の場合は、後ろに「ensis」が付けられからね。
生息域はシイ、カシなどからなる丘陵地や山地の照葉樹林で、人の手が入っていない森林に集団で生息する。

 
【生態】
成虫は6月下旬頃から現れ、8月上旬頃まで見られる。
オスの鳴き声はアブラゼミに強弱をつけたようで「ギーオ、ギーオ…」「ウイーン、ウイーン…」などと表現され、集団で合唱する習性をもつ。1頭が鳴き始めると周囲のセミが次々と同調し、やがて生息域全体に広がる。同様に鳴き終わる時は次々と鳴き止んでゆく。局所的に生息するために鳴き声を聞く機会は少ないが、発生期に生息地の森林に踏み入ると「森の木々が鳴いている」とも表現される蝉時雨に見舞われる。特に夕方に連続してよく鳴く。
走光性が強く、成虫や羽化直前の幼虫は光に集まる。
セミに走行性があるのは知っていたが、へぇー、幼虫まで光に集まるのね。

 
【保全状況】
照葉樹林が開発で伐採されることにより生息地が各地で減少しているが、同時に各地での保護活動も盛んである。
分布の北限に近い3ヶ所の生息地が、国の天然記念物に指定されている。

茨城県笠間市  片庭ヒメハルゼミ発生地(1934年指定)
千葉県茂原市  鶴枝ヒメハルゼミ発生地(1941)
新潟県糸魚川市 能生ヒメハルゼミ発生地(1942)

他にも、神奈川県箱根湯本の早雲寺周辺=箱根町指定天然記念物,岐阜県揖斐郡谷汲村花長下神社天然記念物 =岐阜県指定天然記念物,愛知県蒲郡市相楽町=愛知県指定天然記念物など.福井県,鳥取県,山口県などで愛知県蒲郡市相楽町など自治体レベルで絶滅危惧種や天然記念物に指定している所が数多くある。

 
【亜種】
オキナワヒメハルゼミ(沖縄姫春蝉)
E. c. okinawana Ishihara, 1968
 

(出展『インセクトアイランド』)

 
ダイトウヒメハルゼミ(大東姫春蝉)
E. c. daitoensis Matsumura, 1917


(出展『生物多様性センター』)

 
南大東島・北大東島に分布する固有亜種。体長25-30mmで、基亜種よりやや大きい。海岸部のアダンやススキなどからなる群落に生息し、成虫は3月~4月(西海岸の産地では6月~7月)に発生する。基亜種とは多くの差異があり、隔離分布地で独自の種分化を遂げたと考えられている。また個体変異も著しく、色彩・模様の両極端な個体を並べると、とても同一亜種とは思えないほどである。海岸部の開発で生息地が減少しており、環境省レッドリストで絶滅危惧II類(VU)に指定されている。南大東島では楽観はできないものの、比較的持ち直しつつある傾向が見られるが、北大東島では主な生息地に近年道路が造られ、種の存続が大いに危ぶまれている。

基亜種のヒメハルゼミとは随分と棲息環境が違うんだね。深い照葉樹林と海岸のアダンやススキとでは、棲む環境が天と地ほどに違う。大東島といえば絶海の孤島だ。昔々、何かの拍子に偶然に流れ着いたヒメハルゼミが、仕様がなしに島の環境に適応したんだろね。ガンバレ❗、ダイトウヒメハルゼミちゃんって感じだな。。
そういえばハマヤマトシジミを探しに南大東島に行った時に、いねえかなあと思ってたんだよね。でも2月だったから、まだ発生していなかった。大東島は面白かったから、また行きたいな。

他に同属種にイワサキヒメハルゼミがいる。

イワサキヒメハルゼミ(岩崎姫春蝉)
E. iwasakii (Matsumura, 1913)


(出展『インセクトアイランド』)

 
ヒメハルゼミの亜種ではなく別種とされる。体長19-28mmで、ヒメハルゼミよりも更に細長い体型をしている。石垣島・西表島・与那国島に分布し、成虫は4〜8月に発生する。種名は八重山諸島の自然を研究し功績を残した岩崎卓爾に対する献名である。

その他ヒメハルゼミ属のセミは東南アジア・中国・台湾にかけての熱帯・亜熱帯域に広く分布する。

                       おしまい