突然アレを食いたくなる、オジサンは。

 
若い頃に居酒屋で、頑なに敬遠していたものがある。
理由はダサいからである。そんなもん頼めば、絶対周りに『おまえ、何でそんなシジむさいもん、頼むねん。ダッサいのおーっ。それに、それって小鉢やろ。そんなもん、皆で食べれへんやんけ。却下、却下。』と言われるに決まっているからである。
って云うか、ワシがそのセリフ、真っ先に言うとるわい。
ましてや女の子といる時などは、そんなもん頼んだら洒落れならん。この人、オジサンみたいだと嫌われる可能性大だ。百歩譲って嫌われはしなくとも、パンツを脱いではくれんだろう。

まず色が汚い。緑色野菜が入っているのにも拘わらず、まるで鮮やかさがなく、女子が喜ぶ「インスタ映え」に著しく欠けるのである。もー、全然可愛くない。
奴はオッサンが好む食いもんだと云うのも許せなかった。大体、地味で貧乏くさい上に名前がダサい。

おっと忘れて話を進めるところだった。
そろそろヤツの名前を明かそう。

拙者、「ぬた」と申す。

『ぬた❓何それ〜❓変な名前〜。ぬちゃぬちゃして何か気持ち悪〜い。』
などとオツムの弱い今時の若い小娘どもに言われそうだ。それくらい認知度も低そうである。
クソッ、ぬたが不憫で何か腹立ってきたなあ。
ぬちゃぬちゃ、ぬちゃぬちゃ。ಡ ͜ ʖ ಡデヘデヘ。でも半分ハゲ上がったオッサンが気持ち悪い音を立てながら、嬉しそうにヌタを咀嚼している姿が目に浮かんだ。\(◎o◎)/ダメだこりゃ、サイテーだ。
そんなだから、気持ち悪いとかダサいとか言われて若者に嫌われるのである。およそ女子に好かれる要素が皆無じゃないか。ワシもそう思ってた。

しかしだ。オジサンになると、何故かその「ぬた」が好きになるのだ。居酒屋で「ぬた」の文字を見つけると、間違いなく頼んでしまう。いつの間にか「ぬた肯定派」になっているのだ。いや、どころか「ぬた偏愛主義者」になっとる。ナゼにオヤジになると、「ぬた」が好きになるのだろう❓
暫し考えたが、全然ワカンなかった。これはもう、日本男子には自動的にヌタを好きになる遺伝子が予め体内に組み込まれていて、オッサンになると突然発症するとしか考えられない。中学生になったら、チ○毛ボーボー。うっすらヒゲが生えてくるようにね。

長々とアホな事を書き連ねたが、ここからが本題である。
最近はコロナ渦のせいで、居酒屋にも殆んど行っておらん。そんなワケで、突然発作的にヌタを食べたくなった。いや、コロナは関係なくとも、オッサンたちは時々発作的にヌタを無性に食べたくなるのだ。

スーパーでスルメイカを2ハイ(杯)買ってくる。値段は¥298だった。昔と比べてイカって高いよな。数年前から漁獲高が激減してるから仕方ないんだけどさ。そういえば今年のサンマも漁獲高が見込めないそうだ。昨今は大衆魚が、もはや大衆魚と言えなくなってきてる。嘆かわしい事だが、原因を言い出すと止まらんくなるので止めとく。

①冷蔵庫にあった万能ネギを熱湯にブチ込み、3分ほど茹で冷水に晒す。

②イカは洗ってバラシ、これまた熱湯にブチ込む。
茹で時間は秒単位の勝負だ。部位にもよるが5秒から15秒で取り出し、すかさず冷水に落とす。イカは茹でると固くなるのが早いのである。固くなればゴムみたくなるので、この茹でる時間には全神経を集中されたし。

③ネギとイカの水気をしっかり取り、それぞれ適当な大きさに切り分ける。ネギは擂りこぎ棒で中身のネバネバしたものを押し出すというのが常道だが、オラはあえてしない。あの透明のぬるぬるベトベトの奴がネギの旨味の根源なのだ。栄養価も高いしね。

④辛子酢味噌は作るのが面倒クサいので今回はパス。
コレをベースにする事にした。

 

 
久原の「からし酢味噌」である。甘ったるい辛子酢味噌が多いの中では比較的甘さが抑えられている。それでもそのままでは甘いので、酒呑みはそこに辛子を加えて混ぜる。量はお好みで調整されたし。

④あとはネギとイカをブチ込んで和えるだけなのだが、重大な注意点がある。和える時は食べる直前ね。なぜなら、時間と共に水分が出てきて、ベチャベチャになるからである。こうなると、著しく味が落ちるからね。

完成。

 

 
別角度からも撮ろっと。

 

 
結構キレイで、美味しそうに見えるが、それは夕方に撮ったからである。部屋はまだ明るかったからね。
でも、夜に居酒屋で見ると、こんなんじゃない。もっと汚い。

 

 
これでもマシな方だ。実際はもっと汚い見てくれなものの方が多い。

一口食べて、冷酒を口に含む。

ぬたはダサい。ダサいけど美味いっ❗

今、笑ってる若者男子たちに告ぐ。ゼッテー、キミらも将来的には嬉々としてヌタをヌチゃヌチャ食ってんだからなー。そして、キモいオッサンとして若い女子に忌み嫌われるのじゃ。

                        おしまい

 
文中で結局ヌタとは何であるかを説明し忘れたので、一応ヌタについて説明しとくね。
Wikipediaから抜粋、再編すると以下のようなものなる。

「ぬた(饅)、もしくはぬたなます(饅膾)と言い、膾(なます)の一種。ネギ、分葱(ワケギ)などの野菜類、マグロ、イカなどの魚類、青柳などの貝類、ワカメなどの海藻類を酢味噌や辛子酢味噌で和えた日本の伝統料理、郷土料理の一つ。
味噌のどろりとした見た目が沼田を連想させることからこの名がついた。起源は古く、室町時代末期までに料理として成立していた。」
沼田だってよ、酷いね(笑)。

「ぬたの味付けとなるタレは、甘みや色合いの点から米麹を多めに使用した白味噌が多く使われ、この味噌に酢、砂糖、和カラシなどを混ぜて作る。
具材は上記の通り、植物では「葷酒山門に入るを許さず」の、仏門で禁じられている「葷(くん)」が特によく合い、分葱を代表とするネギ類がぬたの標準材料と言えるほどに多く使われる。ネギ類の他にもラッキョウ、ニラ、ニンニク、或いは野草のノビル、ギョウジャニンニクなど、硫化アリルを臭み成分として持つ「葷」の範疇となる植物はぬたと相性が良い。
一方、魚介類ではイカやタコの他に貝類なら青柳の舌きり、赤貝。魚類ではマグロの赤身、イワシなどがぬたの具材として好まれ、よく使われる。
しかし、ぬたのソースは懐が広く、かなりのものがぬたで美味しく食べられる。端的に言えば、野菜類では「おひたしで食べられるもの」、魚介類では「刺身で食べられるもの」がぬたにしても美味である。鶏肉もぬたに合い、脂肪の少ない胸肉、ササミを霜降りにしたものはぬたによく合う。ホタルイカはゆでておき、食べる時にからし酢味噌を付けることが多いが、ぬたとしても良い。」
ぬた、最強じゃんか❗
でも、こんなのどうせオッサンとかジジイが書いているに違いなかろう。所詮はヌタ偏愛主義者なのだ。いくら褒め称えようとも、この先一生、ヌタが若者にウケることは無いだろね。