『西へ西へ、南へ南へ』第9話

蝶に魅せられた旅人アーカイブス
2012-08-11 20:12:01
  

      ー捕虫網の円光ー
     『西へ西へ、南へ南へ』

(第七番札所・地獄の沙汰も崖次第、およよ)

2011年 9月14日

天気予報では曇り時々雨だったが、昨日と同じような天気だ。
台風は、どうなったんだろう?
大方、熱帯低気圧にでもなったんだろう。人生前向きなのだ。

本日の狙いもアカボシ、アマミカラスの♀狙い。
あと、書き忘れていたが、日本一美しいスミナガシ(墨流し)も狙いにいくつもり。奄美のが一番蒼っぽい群青色をしていると言われているのだ。

南西に針路をとる。
先ずは知名瀬だ。昨日、尊敬する蝶の先逹である森さんに電話をしたら、前は村内に♀がそこそこ翔んでたよとアドバイスされた。
谷を詰めれば、スミナガシもいるようだし、イワカワシジミもクチナシを丹念に探せばいるという。

午前10時、知名瀬着。
着いてすぐ、らしきものが翔んでいたから楽勝だと思ったら、クソ普通種リュウアサ(註1)だった。紛らわしい…(-“”-;)
アカボシの♀は、毒のあるリュウアサに擬態しており、ふわふわした翔び方までそっくりに似せているらしい。

日陰の無い村内をぐるぐる回っていたら、すぐにバテバテになった。
一切、姿なし。12時まで三角ケースの中身は空っぽ。
それまで無視していたが、思い直してカバマダラを5つほど摘まんで奥へと向かう。

【カバマダラ】

だが、大したものはいない。
仕方なく尾根近くまで詰めた。

アマミカラスが乱舞している。
あふれる太陽光を反射して、青い翅がハッとするくらいに美しい。
しかし、採っても採っても♂だらけで、そのうちウンザリしてきた。

予定では尾根まで行き、中央林道を南下して三太郎峠でスミナガシを奪取して、上手くいけば東側の西仲間で再びアカボシにチャレンジと云う算段だった。

だが、奄美中央林道は想像とは違い、完全なるノン・アスファルト。所謂(いわゆる)、ただの山道だった。
しかも道は石だらけの悪路である。
そのうち良くなるだろうと思っていたら、どんどん悪くなり、終いにはブッシュだらけの細い登山道になった。
ハブのお好きそうな環境で超ビビる(|| ゜Д゜)
こんな所で咬まれたら、麓に下りる迄に毒が回り、哀れ絶命ご臨終ちゃんになるかもしれない。
大体コブラでもガラガラヘビでも、まず威嚇があるらしいのだが、コヤツはいきなり飛び掛かってくるらしい。だから、被害も多いと云うことだ。

取り敢えずこのまま三太郎峠に行こうとしたら、15㎞進んだ地点で「崖崩れにより通行止め」と云う看板が出てきた。
悪路で時間を大幅にロスしているのに最悪だ。仕方なく西側の海岸に降りるルートを選択する。
道はアスファルトになった。ラッキーと思いきや、濡れた落葉が降り積もっており、滑りやすくてまた一苦労。多分、通る車もほとんど無いのだろう。

5㎞ほど行ったところで、(◎-◎;)およよー。
また崖崩れ通行止めの看板に突き当たった。これで津名久にも降りられなくなった。
困ったことには、地図を見ると更に南のフォレストパークまで行かなければ海岸の主要道路には降りられないようなのだ。
去年の台風の大雨被害の爪痕が、今もって色濃く残っているんだね。特に南部が酷いようだ。そういえば、幹線道路さえも至るところ片側通行だった。当然、山のなかは修復も後回しなのだろう。これで計画は完全に崩壊した。

走っている途中、目の端に蒼黒いものが入った。
うわっとととっとっとーΣ( ̄ロ ̄lll)、急制動する。

木の幹に、逆さに止まっている蝶がいた。
スミナガシだ❗
どうやら樹液に来ているようだ。慌ててネットを組み立てる。
羽をしきりと開閉している。綺麗だ。
確かに本州や八重山のものよりかなり蒼い。

下からいくか、横からバチコーンとカマすかギリギリまで躊躇した。それがいけなかった。慎重になり過ぎて、ネットを動かす手前で逃げられた。もう数秒早く判断していたら充分採れた筈なのに…。
悪路プラス連続通行止めで心が折れ掛かっていたのが、これで完全に折れた。

もう一度やって来ることを願って待つことも考えた。
しかし、一番のターゲットはアカボシの♀だ。今、山を降りなければ、麓のポイントには時間的に間に合わない。断腸の思いだが、明日またじっくり来ればいいと思った。

だが、一度狂った歯車は戻らない。
どころか、せっかく見つけた新鮮なアマミカラスの♀を焦って力一杯振ってしまい翅を大破させてしまう。
バイクを乗り捨てて、あんなにダッシュしたのに…。
もう1頭採ったが、それも上半分がバッサリ無かった。結局、両方とも逃がしてやった。♀は腹ん中に卵を持っているからだ。殺してしまえば、1頭だけではなく、何百もの生命を奪うことになる。無用な殺生は慎むべきだろう。

メスアカムラサキのイージーチャンスも振り逃がし、ようやくたどり着いたアカボシポイントは、♂しかいないような環境でガックリ。
10分足らずで2頭採り、諦めて根瀬部・知名瀬方面に戻る。だが、着いた頃には日没ゲームセット。
お守りの蝶ライターを忘れたのが、まずかったのかな?…。

夜7時に宿に帰った。
そこで台風の詳しい情報を初めて聞いた。
こちらにノロノロで向かっているという。
うねりが強く、取り敢えず明日の鹿児島行きの船の欠航が決まったらしい。
『明後日の便も多分ダメなんじゃないかな。』と宿の親父に言われた。
マジかよ…( ̄▽ ̄;)

男はスーパー晴れ男だが、実を言うと台風男でもある。
ダイビング・インストラクターだったサイパン時代もしょっちゅう飛行機が欠航になった。
ダイビング・ツアーの前のりで三宅島に行った時も、船が欠航してお客さんが来れずにツアー中止。自身も東京に2、3日帰れなかった。
そういえば、初めて行った石垣島でも帰れなかった。
何れの場合もずっと晴れていたのに、帰る段になっての天候急変だった。
まだある。一昨年は、八重山ゆきの飛行機が飛ばず。
去年は石垣・与那国で直撃を喰らった。
まあ帰れなかったがゆえに、楽しい事も一杯あったし、天気が悪いわりには蝶は採れて、目的はほぼ達成してはいるんだけどね(^^ゞ

今日も脇田丸。

ボトルを入れてしまったせいもあるが、気に入ったし、まだまだ食べていない謎のメニューもある。

今日もアバス(ハリセンボンの唐揚げ)から入った。

(画像、使い回しっす。)

これで三連チャン。
それでも、やっぱり絶品ですな。

ハーシビ(トガリエビス)煮付け(690円)。

潜ってる時も、密かにコイツ旨いんじゃないかと思っていた。
白身で脂が乗っているが、上品だ。味は金目鯛やキンキに近い。

画像は無いが、あとのツマミは以下のものだった。

浅蜊と野菜のかき揚げ(390円)。
カラッと揚がっており、申し分なし。

ティラダ(地物の貝)の煮付け(390円)。
普通に旨い。先っちょに鉤爪があり、見た目は完全にヤドカリです。

油ソーメン(390円)。
所謂、ソーメンチャンプルーの1種。外れのない安心オーダー。

因みにまだ頼んでないが、刺身定食はたったの390円です。嘘やろ!?(^o^;)の値段である。

今日もまた痛飲。
明日は、早いんだけどな…。

                   つづく

追伸

【註1】リュウアサ
リュウキュウアサギマダラの略名。漢字で書くと「琉球浅葱斑」となるのかな。つまり南方系の蝶で、日本では主に南西諸島に分布している。

これは石垣島で、初めて採ったものの1つだ。
標本だけで見比べると、アカボシゴマダラゴマダラに間違うワケはないと思うのだが、飛んでいる時は大きさや飛び方がソックリなのだ。
ワシらでも慣れないと見紛うのだから、一般人には区別がつかないだろうし、天敵の鳥に対しても、それなりに効果はあって然りなのかと思われる。

一応、アカボシゴマダラの画像も添付しておきます。

『西へ西へ、南へ南へ』第6話

蝶に魅せられた旅人アーカイブス
2012-08-09 00:18

 
    ー捕虫網の円光ー
 『西へ西へ、南へ南へ』

第五番札所その2・流星レッドスター

 

市の職員二人が下から登ってきた。
リュウキュウマツ(琉球松)の調査だと言う。
確かに赤茶色の松が多い。こんな所にも松枯れの原因、マツノザイセンチュウがいるのか…。
詳しく訊いてみると、媒介を助けるマツノマダラカミキリと共に台湾から入って来たと説明してくれた。

カミキリムシの飛翔力ではこんなところまで翔んでこれるわけもない。多分、貨物の松材か何かに紛れて入って来たのだろう。
離島は外来生物が入って来ると、在来種が駆逐され、簡単に絶滅しやすい。そして、その原因のほとんどは人間様だ。

空を見上げる。
雲行きも怪しくなってきた。多分絶対、南国の雨の洗礼がやって来る。
もう一度だけ詔魂碑まで上がって駄目なら、とっと宿に帰ろうと決めた。体力もそろそろ限界に近い。

登ってすぐ、頭上に気配を感じた。
松の上空をアカボシが流れるように滑空している。
やっとテリトリーを張り始めた❗
鮮やかな赤がよく目立つ。

あたふたと網を組み立てる。
(~O~;)うわっ!、だが無情にもポツポツと大粒の雨が落ちてきた。(゜〇゜;)え━━━っ、 嘘やん!
畜生、スコールがやって来たようだ。慌てて樹下に逃げる。

OH~、神よ、毎度毎度のことながら、この期に及んでまたしても我に試練をお与えなさるおつもりか…。
一挙に状況は逼迫してきた。雨が止むのを心から祈るしかない。止まないのなら、惨敗決定だ。

思いが通じたのか、5分余りで再び晴れ間が顔を覗かせ始め、やがて光が射した。
と同時にアカボシも飛び始めた!!
南国の不安定な天気だ。再び雨が来る前に決着をつけねばならない。

採り方は、近縁の国蝶オオムラサキと変わらない筈である。ならば楽勝だ。網を正面からそっと被せればいい。落ち着いていこう。

しかし、オオムラサキと違って、そんなにバカ蝶じゃなかった。
枝先に止まるが、結構敏感で網を近付けようとすると直ぐに翔んでしまう。三、四度、同じ事が繰り返される。

(-“”-;)クッソ~、残された時間はそうないぞ。いつまた陽が陰り、雨がやって来るとも限らない。
えーい、もう今までみたいにゆっくりと慎重に網を近付ける方式は諦めた。
心頭滅却、ビシッといったるわい(`へ´*)ノ

目測およそ頭上約6m。止まって、一拍おくかおかないかのうちに反応して、間髪措かずに網先を走らせる。
(=`ェ´=)ウリャ!!、腕の筋肉がしなる。
バサリと正面斜めから網を振り被せ、そのまま強引に空間へと逃がす。そして、ホームランを打った時のフォロースルーが如く手から竿を離す。
決まった…。手応え充分の感触がある。
網先を敢えて捻らなかったので、風を孕んでふくらんだ網が真っ直ぐ地面に向かってスローモーションのように落ちてゆく。

地面に落ちたことを確認して、ゆっくりと歩いてゆく。
勇者の如く、まあまあ天才は急がない。

 

 
よっしゃーd=(^o^)=b、今度は完品だ。
手にとり、まじまじと見る。
ひょえ~、お美しい。

蝶採りは、こうでなくっちゃネ d(^-^)
ギリギリの勝負にしか、エクスタシーはないのだ。

 

 
その後、落ち着いて続けざまに3頭を加える事ができた。何れも完品のレッドスターだ。

午後5時半。本格的な強いスコールがやってきた。すんでのところで、公園の東屋に逃げこむ。

30分間待ち、小雨になった間隙を縫って宿まで急いで帰ってきた。
着いたと同時に、再び叩きつけるような豪雨がやって来た。

 

追伸
やはり、文章を二回に分けることにしました。
すんません。次回こそ、食いもんの話です。奄美大島の旨いもんテンコ盛りだすよ。

 

『西へ西へ、南へ南へ』第5話

ー蝶に魅せられた旅人アーカイブスー

いやはや驚いた事にアメブロには第5話が掲載されていない。
どうやら「第五番札所」の回が前後編に分かれている事に気づかずに後編のみをアップしたようだ。重要な回なのにね。よくぞスッ飛ばしたものだ。
だから、第5話は謂わば幻の第5話ってワケだね。

でも正直、心が折れそうになった。なぜなら、どっかに埋もれている原稿を探さねばならないからだ。もし見つからなければ、昔の彼女の誰かに連絡をとらねばならない。連絡もしにくいし(どうせ酷い事をしているのだ)、たとえ連絡したところで原稿が残っているかどうかも分からない。自然、億劫にもなってくる。だから、よっぽど連載を打ち切りにしてやろうかと思った。

でも、一応探したら昔の携帯電話が出てきた。幸いな事に起動もした。そして、何と原稿も残っていた。
というワケで旧い原稿をシコシコ書き移してゆく事にしよう(コピペ出来ないから物凄く大変そうだけど…)。

それでは幻の第5話の始まり始まり~。

      ー捕虫網の円光ー
    『西へ西へ、南へ南へ』

  第五番札所 南国の紅い流れ星

 
2011年9月12日

いつしかフェリー乗り場のロビーには、誰もいなくなっていた。
それぞれがそれぞれの落ち着くべく場所、自分の家やホテルに向かったのだろう。

ホテルを予約していない男には行くあてがない。
午前5時に宿の誰かを叩き起こして嫌われるのもイヤだ。せめて7時くらい迄はここで時間を潰そう。ここなら少なくともクーラーだけは効いている。第四番札所の原稿でも書いていれば、時間も費えるだろう。

美しい朝焼けを眺めながら書き進める。

 

 
7時に名瀬市街に向かって歩き始めた。
遂に来たと云う高揚感とこんなとこまで来てしまったと云う軽い後悔とがない交ぜになった心持ちで海岸線を歩く。

市街地に入ってから宿に電話を入れる。
一発で決まった。
「あづま屋」素泊まり一泊 2500円。
簡単に言えば、飯なしの民宿だ。設備的にはこの値段なら、まあ良い方だろう。唯一の欠点はクーラーがコイン制だということである(150分 100円)。

ひょんなことから、宿のおやじが奄美で一番最初にダイビングショップを始めた事がわかり、驚く。
あえて尋ねなかったが、もしかして師匠とも知り合いかもしれない。
実をいうと、男は奄美大島に訪れるのが今回で三回目になる。過去二回は何れもダイビング・インストラクターをやっていた頃の事である。まだ蝶採りを始めていなかった。

それにしても此処のおやじ、侮れない。持っている玉の柄(竿)を見て、釣りだと言わずに『蝶?』と言ったのには驚いた。

8時半まで部屋で原稿を書き、出来立てほやほやの第4話を読者に送信する。
そして、ササッと5分で用意してスクランブル発進した。船旅で疲れてはいるが、蝶を求める心の方が遥かに強い。もうそれは恋愛感情に近いものだ。望みの蝶に会うことが全てにおいて優先されるのだ。

今回のターゲットはアカボシゴマダラ。
彼女の存在が、はるばるこの島まで男を誘(いざ)ってきた。

【アカボシゴマダラ(赤星胡麻斑)】
学名 Hestina assimilis shiraki。
近縁種ゴマダラチョウに似るが、後翅に赤い輪紋があることにより容易に判別される。
日本では本来、奄美諸島のみに産する固有亜種。
しかし、近年は中国の大陸亜種(a.assimilis)が関東地方に流入し、急速に分布を拡大しており、近似種のゴマダラチョウを圧迫しているという。これが人為的な放蝶なのは明らかだ。つまらん事をする輩もいるものだ。
しかも、この中国の亜種、奄美大島亜種の鮮やかな赤紋とは違い、赤紋がいやらしいピンク色なのだ。そして、輪紋がだらしなく潰れていて下品。場末のピンサロの姉ちゃんみたいで全然美しくないから、男はその存在を絶対にアカボシゴマダラと認めない。アカボシゴマダラに憧れていた者としては、あんなものがアカボシゴマダラだと思われるのは忸怩たるものがある。日本における美蝶の一つだったのに、コイツのせいで確実にアカボシゴマダラのブランド力は下がったと言えよう。
発生は4月、6月、8月、及び9月中旬から10月。
幼虫の食樹はリュウキュウエノキ(クワノハエノキ)。

第二のターゲットは、アマミカラスアゲハ(オキナワカラスアゲハ奄美亜種)。そして、第三のターゲットはイワカワシジミだ。
アマミカラスは後翅の帯状紋が発達しており、美麗。
イワカワシジミも奄美大島のものが特に美しいとされている。

宿のおやじから近くに24時間営業のスーパーマーケットがあると聞き、まずは朝昼兼用の飯を買いに行く。
おにぎりを二つ買って、はやる心で歩き出す。

今日は街のすぐ背後にあるらんかん山(くれないの塔)か拝山に行く予定だ。
こんな市街地近くにもアカボシは棲息しているようだ。元々、里山の蝶だから不思議ではないのだが、感覚的にはちよっと驚きだ。この島はそれだけ自然が豊かなのだろう。

先ずは拝山に行った。
宿から歩いて15分程でポイントに着いた。
九州も暑かったが、当たり前だがもっと暑い。亜熱帯特有のねっとりとした湿気も相俟ってか、直ぐに滝のように汗が流れ出す。九州では秋の兆しもあったのに、完全に真夏に逆戻りだ。

 

 
期待に反して、蝶影は薄い。
クロマダラソテツシジミだけがアホみたいにいる。
数年前までは珍品迷蝶だったが、今やゴミだ。

  
【クロマダラソテツシジミ】
(2016.10月)

 
あとはモンキアゲハくらいしか飛んでいない。ヒマつぶしに網に入れる。みんな羽化したての新鮮な個体だ。
しかし、興味がないから全部リリースしてやる。

糞暑くて早々とグッタリとしていたら、突然、ハイスピードでアマミカラスアゲハが目の前に現れた。
瞬時に反応して鮮やかに決まったが、尾状突起(尾っぽ)の片方が千切れていた。おまけに擦れ個体でガッカリする。時期が合わなければ綺麗な蝶は採れない。不安が頭をもたげる。
南国を象徴する佳蝶、ツマベニチョウもボロ。
そして、憧れのアカボシゴマダラの姿は全く無い。
ダメな所で粘ったところでダメだ。判断の遅い愚図は果実を得られない。
10時過ぎ、ウスキシロチョウの銀紋型のキレイなのだけを三角ケースに収め、諦めて下山した。

下まで降りてきたら、網を持った青年がいた。虫屋だ。
暫し雑談する。千葉の人で、もう1週間も奄美にいるそうだ。
『何を採りに来たんですか❓』と尋ねたら、『何でも。』という答えが帰ってきた。
アカボシについて訊いてみたら、アカボシはまだ一度も見ていないと言う。やっぱり少し発生期には早かったか❓不安がよぎる。
晩飯に誘ったが、レンタカーで寝泊まりしていて、飯はカロリーメイトだと言われたのでやめた。そういう人と飯を食っても楽しくない。

すぐ隣の大島支庁舎前で、惰性でウスキシロチョウを採っていたら、ちよっと不思議な雰囲気のおじいが近づいてきて、いきなり目の前の木の葉っぱを指さし、『これ、食草。』とおっしやった。
更にコレコレと指さし、あっという間に幼虫を見つけて、『1令幼虫だ』と呟く。
するってえと、この木がナンバンサイカチ❓それとも園芸種のゴールデンシャワーかな❓多分、支庁舎に植えられているくらいなんだから、綺麗な花の咲くゴールデンシャワーだろう。尋ねようとしたら、既におじーは歩き始めている。まっ、いっかと思ったら、おじーは暫く歩いてからふわっと振り返って、おいでおいでする。何となく手招きされるままに歩み寄る。
ついてゆくと、ひょいひょいと支庁舎の敷地内に入ってゆく。おじー、どこ行くの❓
そして、迷うことなく何やら細い通路に入ってゆく。半信半疑で後ろをついてゆく。おじー、何者❓

路地を抜けたら、目の前に小屋が現れた。
入口の横に看板が掛かっている。
『大島支庁 ハブ対策室』。
なぬっ(゜ロ゜;⁉、おじーはそのまま建物へと入ってゆく。一瞬躊躇したが、続いて入る。
すると、おじーにスタッフ達が挨拶する。何とおじーは大島支庁のハブ対策室の室長だったのだ。

檻の中には沢山のハブがいた。
Σ( ̄ロ ̄lll)ゾワッ❗
そっか…(^_^;)アハハ。すっかり忘れていたが、奄美大島には毒蛇ハブがいるのだ。しかも、本ハブだ。そして、本ハブの中でも奄美大島のものが一番デカくて最強だと言われている。
あちゃー、今回も危険なミッションかよ…( ̄▽ ̄;)
虫捕りって、リスクあんなあ…。

そん事を考えていたら、袋を持ったおじさんが入ってきた。
袋の中身はどうやらハブらしい。奄美大島では捕獲したハブをお役所が買い取るという制度があると聞いた事がある。それだけハブの被害が多いって事でもあるんだろう。Σ( ̄ロ ̄lll)ヤバいぞ、奄美大島。

袋の中には7匹のハブが入っていた。でも小さい。
その場で2万8千円が支払われた。何と買い取り価格4千円である(現在はもっと下がっているそうだ)。
こんなチビハブで2万8千円ってボロ儲けじゃないか。訊くと、買い取り価格に大きさは関係ないそうである。
『こんなん仕事に出来るんちゃいますのん❓』とおじーに尋ねたら、実際職業にしている人も結構いるらしい。住民も小遣い稼ぎ感覚で捕獲しているようで、タクシーの運転手などは必ず蛇の捕獲用具をトランクに入れているという。

それにしても臭い。室内にケダモノの悪臭が立ち込めている。蛇って無臭なイメージだったが、臭いんだ…。

お茶を御馳走して戴き、雑談が続く。涼しいし、蛇が臭いこと以外は快適だ。
袖すりあうのも多少の縁と言うではないか。どうせ今日はアカボシは無理そうだし、まあいいや。

昼過ぎ。少し体力も回復したので、おじーにお礼を言い、らんかん山に向かう。

らんかん山も拝山と同じようなもんだった。蝶影が薄い。
仕方なしに猫と遊ぶ。
猫と遊ぶのは好きだ。腹をさすってやると、気持ち良さそうに目を細める。

 

 
遊んでいたら、アマミカラスがふわりと何処からともなく現れた。
咄嗟に網を拾い上げ、ダメ元で慌てて振ったら、キレイに入った。

 

 
今度は、ほぼ完品。♂だ。
やっぱり羽が傷んでいないものは、ドキッとするくらいに美しい。

しかし、相変わらずアカボシの姿は見えない。
午後1時20分。半ば諦めて山道を歩いていたら、横の灌木から驚いた蝶が飛び出した。
そして、2mくらい先の枝先にとまった。

うわっ(゜〇゜;)、アンタやん❗❗
まごうワケがない。白黒の格子模様に流れるような赤の輪っかの列。間髪入れずに網先が動いた。キレイに振り抜く。

 

 
想像していたよりも小さい。
だが、それでも一目惚れだよ(≧∀≦)

美人蝶だ。指先が震える。
白黒のコントラストがハッキリしていて、エッジが効いている。それを鮮やかな赤が更に引き締めている。

だが、何か呆気ない幕切れでもあった。
アカボシゴマダラは夕方にテリトリーを張ると聞いていたから、これからが本番だと思っていたのに、いきなりの出会い頭だ。しかも、ほとんど間を措かず網を振り抜いたから、緊張している暇もあまり無かった。
この見つけた時から網を振るまでの間が蝶採りのクライマックスであり、醍醐味なのだ。その先にはエクスタシーか絶望がが待っている。だから心が千々に乱れ、心拍数もハネ上がる。謂わば、この刹那が手に汗にぎる瞬間でもあるのだ。
正直、朝からのこの展開だと、もっと苦労する事を予想していた。それが予想だにしなかった展開で、わりかし簡単に手にする事が出来た。採れてホッとはしたが、でも何だか複雑な気持ちだ。簡単に採れるに越したことはないが、とこか拍子抜けなところがある。心は、どうやらもっと高いハードルを望んでいるようだ。

でも、よく見ると反対側の羽が破れている。
残念だが、これで逆にモチベーションが取り戻せる。完品を採ってこそ、ストーリーは完結するのだ。

とはいっても、この破れた個体をどう解釈すべきかと思い悩む。破れてはいるものの、比較的鮮度が良いから判断が難しい。
もう発生しているんだなと最初は安心したが、この状態では何とも言えぬ。最盛期の8月に羽化する筈の個体が、たまたま遅れてこの時期に出てきたものを偶然に捕まえたという可能性も否定できない。
それに、もし9月の第4化目が発生しているのなら、有名産地なんだからもっと数を見かけてもよい筈だ。
いや、もしかしたら6月以外は個体数が少ないと云うから、こんなもんなのか?だとしたら、相当少ないって事になる。そんなに採集難易度が高いのか❓
虫屋の青年もまだ一度も見てないと言ってたし、そういえば宿のおやじも『アカボシ、昔に比べて最近はとんと見かけなくなったねぇ。』とも言ってた。確かに減ったと云う話は文献など巷でもよく聞く。

頭の中が整理できないままに山道を歩く。
だが、指標となる次のアカボシには出会えない。
次第に不安が募ってゆく。

腕時計に目をやる。
針は、いつの間にか午後3時半を指していた。

                   つづく

  
ー追伸ー
ハブの件(くだり)なんかは、かなり説明不足だったし、他もちょこちょこ訂正加筆した。だから、結局書くのにかなりの時間を擁した。
次回は美味い食いもんが一杯出てきます。
でも、もしかしたら2回に分けるかもしれない。

 
追伸の追伸
1年ぶりに読んだが、結構面白い。
でも当時は完璧な出来だと思っていたか、やっぱり手を入れる所はちょこちょこと見つかる。
てにをはの間違いや誤字脱字もあったし、気に入らないので一部つけ足したり、削ったところも有りです。
文章を書くのは、思った以上に難しいよね。