2020’カトカラ3年生 其の弐(3)

  vol.25 ナマリキシタバ 第三章

    『嘆きのコロンビーナ』

 
第三章は種の解説編です。
今回もカトカラ界の両巨匠(註1)の『日本のCatocala』と『世界のカトカラ』のお力をガンガンにお借りして書きます。

 
【Catocala columbina yoshihikoi ♀】

 
前翅の稲妻が走ったような模様が美しい。
この上翅の美しさは、カトカラ属屈指のものだと思う。
でも展翅はほぼ完璧なのに、色の写りが不満だ。『兵庫県カトカラ図鑑』の画像みたく綺麗に撮れない。スマホのカメラが勝手に色補正しやがるので、実物の色の再現性が低いのである。それぞれの画像が別方向に美しさの一部だけを際立たせているって感じなのだ。各々の画像のエエとこを足して3で割ったら実物に近づくかもしれない。
まあ所詮は写真なんてどれだけ美しく撮れようとも、己の眼で見る実物、生きてるものや死後間もない姿の美しさには到底かなわないのだ。生命の持つエネルギーが醸し出す、あの輝くような美しさはフィールドで実際に見た者にしか解らない。

そう云う意味では、まだ生態写真の方が標本よりマシかもしれない。標本なんぞ所詮はミイラなのだ。展翅画像は冷凍庫から出したばかりものだから、まだしも生きてた頃の残滓のようなものがあるが、それも時間と共に失われてゆくだろう。

一応、採った直後の画像も貼り付けておこう。
光を当てると、稲妻模様がビカビカに光ったように見える。

 

(2020.8.8 長野県松本市)

 
展翅画像とは違う美しさはあるのだけれど、肉眼で見た姿とはコレも少し齟齬がある。もっと稲妻模様が浮き立つが如く光って見えた。自分の網膜に映った映像は仰け反るくらいの美しさだったのだ。

青っぽく写ってるのは、水銀灯の灯りの下だったからなのかもしれない。紫外線が強いのだろう。
それはさておき、たとえ紫外線が強くとも、ここまで青く写るカトカラはあまりいない。日本のカトカラを全種採ったワケではないけれど、他はアズミキシタバ(註2)くらいだろう。

 

(2020.7.26 長野県白馬村)

 
一応、現在のところ日本のカトカラの約85%は採っている。ゆえに残りの種類構成から考えても、こうゆう色に写るのは、この2種だけだ。
と云うことは、この2種だけが地色の色が特別だと言っても差し支えあるまい。素人は疑問に対して素直だから、それが何を意味しているのかをつい考えてしまう。考えられるのは、互いの祖先種が共通で近縁の間柄なのか、幼虫の食樹が同じだからだろう。そのどちらか、もしくは両方が羽の色に反映されているのではないか❓それをまだまだ駆け出しのペーペーの身ながら、不遜にもこの中で解き明かせたらと思う。

そんなデカい口を叩いといて、実をいうとまだ♂は採れてない。お恥ずかしい限りである。
なので、他から画像を拝借致します。

 
【ナマリキシタバ♂】

(出典『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)

 

(出典『www.jpmoth.org』)

 
上と下の写真は出典が違うが、間違いなく同じ個体だろう。
ようするに同じ物でも写真の撮り方によって、こうも色の印象が変わるのである。ワシの写真がああなるのも致し方ないかもね。

♂の特徴は♀よりも腹部が細くて長い。そして尻先に毛束がある。但し、他のカトカラの♂ほど毛の量は多くないと思われる。

一応、小太郎くんに♂の画像を送ってもらった。

 

 
♂もカッコイイ(☆▽☆)
こうゆうの見ると、俄然♂も欲しくなるなあ。

そうゆう体(てい)たらくだから、当然の如く自前の裏面展翅の画像もない。
なので、これまた画像をお借りしよう。

 
【裏面】

(出典『日本のCatocala』)

 
たぶん♀だろうが、ピントがビシッと合ってないし、標本のミイラ化が進んでるので分かりづらいところがある。腹部の先が微妙なのだ。さて、どうしたものか…。

そういや、フィールドでの画像があることを思い出したので貼っつけておく。

 

(2020.8.8 長野県松本市)

 
アズミキシタバと違って、通常のカトカラの♀と同じく尻先に縦のスリットが入り、その下にはハッキリと黄色い産卵管も認められる。アズミはこのスリットが無いように見えるから雌雄の判別でスゲー悩まされるのだ。マジ、ウザい。

そうだ、展翅前に撮った画像もあったわ。

 

 
尻先にスリットが入っているのがシッカリわかるね。
とにかくコレが有れば♀。フィールドで雌雄を確かめるには、この方法が一番有効かつ確実です。

横からの画像もあった。

 

 
腹が太くて短いし、尻先に毛束が無いから間違いなく♀だろね。

 

 
前翅の外側の帯が白っぽいんだね。大概のキシタバ類は地色が全て黄色いから少し毛色が変わってる。また全体的に縁が白いし、後翅の翅頂にある紋も白っぽい。

不完全な翅の開き方ではあるが、表側の写真も出てきた。

 

 
この上翅の色が、一番実物に近いかもしれない。
やっぱ、(´ω`)美しいやねぇ。高貴でエキゾチックだ。

さてさて、私情丸出しの前置きはこれくらいにして、種の解説をしていきませう。

 
 ナマリキシタバ

日本では比較的近年になって発見されたカトカラ(シタバガ属)である。
前翅は、やや青みのある鉛色を帯び、横線は黒く明瞭。後翅は黄色で、中央黒帯は外縁黒帯と繋がらない。外縁黒帯は太く、内縁に接しない。また翅頂の黄斑は明瞭でない。頸部は淡い樺色。胸部は前翅と同じ色調で、腹部は灰褐色。前翅はアズミキシタバに似るが、後翅の斑紋に差異があり(アズミは黒帯が分離する)、地色の黄色にも差異がある(アズミは明るい黄色)。加えてアズミの方が小型なので判別は容易。
またコガタキシタバ(註3)とは後翅の斑紋がよく似るが、前翅の斑紋が全く違い、アズミとは逆に本種よりも大型なので簡単に区別できる。

 
【学名】Catocala columbina Leech, 1900

属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり下翅が美しいことを表している。
小種名はラテン語の”columbinus”に由来し、「鳩」または「鳩のような」と云う意味かと思われる。確かに前翅の色柄はハトっぽいちゃハトっぽい。
語尾の「a」はラテン語の名詞の活用語尾で女性名詞だろう。例えば「鼻」は「nasus」と表記するが、この「-us(〜ウス)」で終わる語尾のものの大部分は男性名詞である。同じように「バラ」を意味する「rosa」の「-a(〜ア)」は女性名詞を意味するからね。
余談だが「金」を意味する「aurum」の「-um(〜ウム)」は中性名詞を表すことが多い。

また、英語にcolumbine(カランバイン)という言葉もある。
これは「ハトの、dove-like(ハトのような)」という形容詞みたいだ。ラテン語の”columbinus(ハト)”が、古いフランス語である”colonbin”を経て、14世紀に英語化したものだという。このように英語には個々の動物名に対応して、ラテン語起源の形容詞が別にある。これを外来形容詞と呼ぶそうだ。
「columbine」は少しずつ形を変えて、人名や国名にも使われている。例を挙げておこう。

◆「Columbus(コロンブス)」新大陸の発見者
◆「Colombia(コロンビア)」南米の国
◆「District of Columbia」米国ワシントン市コロンビア特別区
◆「Colombo(コロンボ)」スリランカの首都
◆「Colombo(刑事コロンボ)」TV映画

日本でも企業名や喫茶店の名前などに使われているのをよく見かける。世界的に分布しているハトは人々に馴染み深く、昔から愛される存在だったのかもしれない。平和の象徴でもあるしね。あっ、アレは白い鳩か。じゃ、食べるハト(笑)。ハトはフレンチの高級食材だもんね。

そういや、パリやバルセロナでもいたわ。但し、色柄は日本にいるのと同じだけど顔付きは違ってた。どこか外国人っぽい顔立ちなのだ。人と同じで、住む場所によって顔付きも変わってくるんだろね。
でもオラ、ハトが嫌いだから残念な学名だ。あの首の変な動きや、一応野生動物のクセに緊張感ゼロのゆるさに💢イラッとくるのだ。自転車に乗ってる時などは、ギリギリまでどいてくれないので轢き殺してやろうかと思うことさえある。
それで思い出した。昔、ワシなんかよりも遥かにハトが大嫌いな彼女がいたわ。デート中に、それはそれは恐ろしい憎悪の言葉をハトに投げつけておったわ。そのあまりの口汚さにコチラが引いたくらいだった。

 
【和名】

ナマリキシタバのナマリは、おそらく前翅の色が「鉛色」だからだと思われる。さしづめ漢字にすると「鉛黃下羽」だ。
この名前、嫌いじゃないし、悪いネーミングだとは思わないけど、ツマんないといえばツマんない。何ら捻りがないし、どこか安易さを感じるのだ。蛾には、この「ナマリ」という和名を冠した奴が幾つかいるしね。ナマリキリガとかナマリケンモンとかさ。
それにアズミキシタバの前翅だって鉛色じゃないか。だから雷とか稲妻に因んだ和名でも良かったんじゃないかと思うんだよね。今更こんなこと言っても詮ない話なんだけどもさ。

 
【亜種と近縁種】

(亜種)
◆Catocala columbina columbina Leech, 1990
中国・極東ロシア


(出典『世界のカトカラ』)

 
原記載亜種は大陸のものなんだね。
日本のものと比べて後翅内縁が黄色くなるそうだ。

 
◆Catocala columbina yoshihikoi Ishizuka, 2002
(日本)


(出典『世界のカトカラ』)

 
日本産は別亜種とされ、後翅内縁部が黒化する。
学名の亜種名「yoshihikoi」は、ヨシヒコ氏に献名されたものだろう。おそらく蛾界に貢献された名のある方なのだろうが、元来自分は蝶屋なので蛾界の事はあまり知らない。なので苗字も漢字も不明で、何ヨシヒコさんかはワカランのだ。

ちなみにネットの『ギャラリー・カトカラ全集』には「大陸のものとは別種である可能性が高い。」と書いてあった。だとすれば、学名は亜種名が昇格して”Catocala yoshikoi”となるワケか…。何かつまらんのぉー(´ε` )
できることならば、稲妻や雷などサンダーボルト的な、もっとカッコイイ学名にしてもらえんかのう(´ε` )
例えば「raizin」とか「ikazuchi」「raigeki」とかさ。ちょっとダサいけど「inabikari」でもいいや。一瞬、ラテン語で雷、稲妻を意味する言葉でもいいかもと思ったが、問題ありだと直ぐに気づく。ラテン語の雷といえば「fulminea」だが、でもコレは残念ながら使えない。なぜなら、既にキララキシタバの学名に使われているからだ。キララよか、よっぽどナマリの方が雷っぽいと思うんだけど、まあそこは致し方ないやね。
あっ、でも「fulminea」ってイタリア語だっけか。とはいうものの、イタリア語ってラテン語から派生した言語だもんね。
どっちだっていいや。段々面倒くさくなってきた。たぶんラテン語でも似たような言葉でしょう。

も1つ因みにだけど、後翅中央黒帯の内側が著しく黒化する異常型が知られていると何処かに書かれてあったけど、それに相当するような個体の画像は見たことがないなあ…。

 
シノニム(同物異名)に以下のものがある。

◆Ephesia columbina
◆Mormonia bella splendens Mell, 1933

上の”Ephesia”は古い属名である。下の”Mormonia”も古い属名だが、小種名の”bella”で❗❓と思った。bellaといえば、ノコメキシタバの小種名と同じだからである。
ちなみに、その後ろの”splendens”は亜種名で「素晴らしい」という意味だろう。
先ずは、あまり見たことがない属名”Ephesia”から調べてみよう。

Ephesia columbinaでググると下のような絵が出てきた。

 

(出典『Wikipedia』)

 
パッと見、ナマリキシタバに見えなかった。前翅の稲妻のような黄色が目立たなかったからだ。誰なんだ、アンタ❓
でもナマリキシタバの現在の学名”Catocala columbina”でググっても、この絵が出てくる。
まあいい。これ以上は調べようがない。切り替えて次いこう。
Mormonia bella splendensでググる。

結果、Mormonia bellaでは出てこず、「Mormonia」のみでしかヒットしなかった。そこには、こんな絵があった。

 
 
(出典『Wikipedia』)

 
てっきりノコメキシタバっぽい黄色い下翅のが出てくるかと思いきや、驚きの後翅が紅色じゃないか❗頭が混乱する。
コレって、ちょっとオニベニシタバ(註4)に似てねぇか❓
一応、確認しておこう。

 
(オニベニシタバ Catocala dula)

(2019.7.10 奈良市白毫寺)

 
後翅の黒帯の形は違うが、暗めの赤の色調と前翅の柄はオニベニに似ているようにも見える。絵だから、どこまで信用していいのかワカンナイけどさ。

だいたい、そもそも何でナマリキシタバがノコメキシタバ(註5)になって、オニベニになるのだ❓無茶苦茶だ。
そこで、やっと思い出した。アズミキシタバの解説編でDNA解析を見た時は、ナマリの近縁種はノコメだったような気がするぞ。

 

(出典『Bio One complate』)

 
図は拡大できるものの、トリミングしよう。
 

上がノコメで、真ん中がナマリ。そして下が別なクラスターに入ってるオニベニである。やはりノコメとは近縁であることを示唆している。
でも素人目だと、オニベニは元よりノコメにだって全然似てないじゃないか。
しかしだ。よくよく見れば、下翅は似ていると言わざるおえないかもしれん。ノコメの幼虫の食樹もナマリと同じくバラ科(ズミ)だから、近縁関係にあっても不思議ではないのだ。

 
(ノコメキシタバ Catocala bella)

(出典『世界のカトカラ』)

 
そう云う意味では「Mormonia bella」というシノニムは中々の慧眼だったと言えるかもしんないね。この時代に両者が近縁だと見抜いていた可能性がある。

それにしても、この系統図だと下翅の色は系統とは全然関係ないって事になりはしまいか。益々アタマがウニウニになる。
因みにアズミキシタバはこの図のずっと下にあるから、系統的には離れている。と云うことは羽の色は系統が近いからってワケじゃないのか…。
カトカラの分類って、ワケワカメじゃよ(+_+)

 
近縁種とされるものが幾つかある。

 
◆タイワンナマリキシタバ
Catocala okurai Sugi 1965
台湾


(出典『世界のカトカラ』)

 
ナマリキシタバに似るが、前翅か緑色を帯びるので区別できるという。
成虫は6〜7月頃に出現するが少ない。食樹は不明だが、バラ科シモツケ属が予想される。
参考までに言っておくと、Wikipediaではナマリキシタバの亜種扱いになっていた。

 
◆オビナシナマリキシタバ
Catocala infasciata(Mell,1936)
中国雲南省・ミャンマー


(出典『世界のカトカラ』)

 
後翅の黒帯が表裏ともに全く消失する特異な種で、棲息地は局地的で稀。
前翅の横線はナマリキシタバに類似し、交尾器も似ているらしい。こんなの素人目には、絶対に近縁種と見破れないだろう。
成虫は6〜7月頃に出現する。これも食樹は不明だが、シモツケ属と推察されている。

 
◆ウスズミナマリキシタバ
Catocala jouga Ishizuka,2003
中国南西部〜ベトナム北部


(出典『世界のカトカラ』)

 
ナマリキシタバに似るが、前翅の色調、後翅黒帯の形状などにより区別できる。成虫は6月頃に出現するが少ない。食樹は不明。

(・o・)んっ❗❓
けどコレって、下翅の外側黒帯が離れているように見えるし、地色が明るめの黄色だからアズミキシタバに似てるぞ。
ホントにアズミとナマリって遠縁なのか❓もう何が何だかワカランよ。ヽ((◎д◎))ゝお手上げー。

 
【分布】本州、四国、小豆島、九州

東北から九州に局地的に分布する。北海道からは記録がない。
国外では中国、ロシア南東部(沿海州)に分布する。
長野県では、同じ食樹を利用し、同一場所に発生するフタスジチョウほどには寒冷地に適応していないとみられ、標高1800m以上のシモツケ群落には発生しないようである。

 

(出典『日本のCatocala』)

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
上の図は分布域を示し、下図は県別の分布を示している。

最初は奥多摩で発見され(それ以前の1956年に滋賀県鈴鹿山地で既に採集はされていた)、長いあいだ大珍品だったが、その後各地で生息が報告された。しかし、その分布は局地的で個体数も少なく、複数得られることは稀なようだ。ゆえに今でも稀種と言ってもいいだろう。『世界のカトカラ』でも珍品度が星★4つになってるしね。
分布が局地的な理由として、食樹の分布との関連性が指摘されている。これは食樹が崖地や岩場のような乾燥を好む植物ゆえ、謂わば本種は生態的に特殊な環境に依存しているからだと言い換えてもいいかもしれない。また、このような環境は防災上の理由でコンクリート化されやすいゆえ、さらに分布を狭めてもいるのだろう。人知れず絶滅している産地もあるに違いない。

本州中部では松本市や伊那市など長野県下に産地が多いが、やはり局所的。他に本州では東京都奥多摩町、埼玉県秩父市、新潟県糸魚川市、岐阜県白川村、滋賀県鈴鹿山地、兵庫県宝塚市、奈良県十津川村、岡山県高梁市等の産地が知られている。
四国では香川県高松市、小豆島や徳島県の那賀川上流で分布が確認されている。また九州では熊本県矢部町、大分県宇佐市・国東半島で発見されている。

 
【レッドデータブック】

埼玉県:R1(希少種1)
新潟県:地域個体群(LP)
富山県:準絶滅危惧種
岐阜県:情報不足
奈良県:絶滅危惧種Ⅱ類
岡山県:留意種
広島県:準絶滅危惧種
香川県:準絶滅危惧種
高知県:準絶滅危惧種
長崎県:準絶滅危惧種
大分県:情報不足

結構、多いね。こんだけ指定数が多いカトカラは初めて見るかもしんない。ようはそれだけ珍しい種だって事だわさ。

 
【開張】43〜53mm内外

そもそも大きいカトカラではないが、小豆島産は特に小型だと聞いている。確かに『世界のカトカラ』に図示されているものは明らかに小さい。

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
右側が小豆島産である。確かに小さい。だけど左は♀だからなあ。相対的に♀の方が大きいようだし、隣の♀と比べたら小さいのも当たり前だと言えなくもない。
そういえば岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』にも小豆島産が載っていたな。

 

(出典『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)

 
左が長野県産の♂で真ん中が小豆島産の♂である。やっぱ小さいね。
関西からは比較的行きやすい小豆島を訪れなかったのは、この小ささがネックになっていたからだ。憧れのナマリ嬢にガッカリしたくはなかったのである。

でもコレって『世界のカトカラ』と同じ個体のような気がするぞ。たった1例だけの比較だと、小豆島産は小さいと証明する材料としては弱いじゃないか。
けど、小太郎くんの知り合いが小豆島のナマリは小さいってハッキリ言ってるそうだから、きっと小さいんじゃないかな。
それを確かめに1回くらいは小豆島に行ってもいいかもしんない。小豆島には「島宿 真理」っていう泊まってみたい宿があるしね。

 
【成虫の発生期】 7〜9月

7月中旬から現れ、9月中旬まで見られるが、新鮮な個体は8月上旬までとされる。
長野県の生息地、伊那市(1000m イワシモツケ群落)、松本市(1550m アイズシモツケ群落)では7月末から8月にかけて羽化し、没姿するのは9月上旬。個体によっては9月中旬まで見られ、出現期間は約1ヶ月半。伊那市産を室内飼育(22.5℃)した場合の成虫寿命は3〜4週間であったという。

 
【成虫の生態】

食樹であるシモツケ群落が生育する蛇紋岩、石灰岩などの岩礫地に見られる。長野県では川沿いの浸食された段丘崖や渓谷の安山岩地に生育するアイズシモツケ群落にも発生する。

 

 
たぶん、こういう環境を好むのだろう。

思うに東日本では、食樹を同じくするフタスジチョウの産地と分布が重なる可能性があるから、フタスジの既産地から新たな生息地が見つかる可能性があるのではないか❓
また西日本では、この環境だとベニモンカラスシジミの産地で見つかる可能性が高いように思われる。ベニモンカラスの食樹はシモツケ類ではないが、同じような環境に見られるクロウメモドキだからだ。ベニモンカラスはナマリよりも更に局所的な分布なので、ナマリが居るところ=ベニモンカラスが居るとは言えないが、その逆は有り得ると思う。たぶんベニモンカラスの生息地にはナマリも棲息している可能性が高いのではなかろうか❓そういや実際、紀伊半島や中国地方のべニモンの有名産地には少ないながらもナマリの記録があるしね。これは逆にナマリの既産地からベニモンカラスの新産地が見つかる可能性も秘めていると云うワケだ。チャレンジ精神の有る方には、是非ともベニモンカラスの新産地発見にトライして戴きたい。

おっと、それならばクロツバメシジミと混棲している可能性もあるかもしれない。山地の崖に棲息するクロツも同じような環境を好むのだ。クロツの食樹であるツメレンゲは乾燥した崖に生えるからね。
ちょっと待てよ。クロツは河川敷にもいるから、梓川の下流域とかにもナマリが居たりしてね。ナマリは標高の低いところでも生息するから有り得るかも。
問題は食樹の有無だが、イブキシモツケは関西では標高100〜200mくらいの川沿いでも生えているからね。松本盆地の標高は500〜800mだから可能性はあるかもしんない。

成虫はクサボタンやシャジン類などの花に吸蜜に集まるが、上田市の低地(alt.500〜600m)ではクヌギの樹液にもよく飛来するそうだ。高松市内でも樹液に飛来すると聞いたことがある。しかし、兵庫県(alt.190m)で何度も糖蜜トラップを試してみたが、全く飛来しなかった。マオくんも長野県(alt.700〜800m)の多産地で試したが全く来なかったという。また、竹中氏からは紀伊半島の産地で試したがダメだったと聞かされている。
伊那市などの山地(alt.1050m)では成虫の生息数の割には餌を摂る個体数は少なく、摂る時期も発生後半に限られるという。これについて『日本のCatocala』の著者、西尾規孝氏は「低温のため、高温の低地ほど多くの栄養を必要としないかもしれない。」と書かれておられる。
納得できるような出来ないような微妙な説だ。理解できないワケではないのだが、北海道でもカトカラは樹液に集まるというし、自分も長野県の標高1700mで糖蜜トラップを試しているけど、オオシロシタバ、ムラサキシタバ、ベニシタバがそれなりに飛来した。白骨温泉(alt.1500m)ではムラサキ、ベニ、オオシロ、シロシタバ、ゴマシオキシタバ、ヨシノキシタバが飛来したし、平湯温泉(alt.1250m)ではベニとシロが来た。また開田高原(alt.1330m)ではゴマシオ、エゾシロシタバなどが集まった。確かに低地よりも飛来する個体数は少ないような気もするが、それなりには飛んで来るのだ。だとすれば、ナマリの糖蜜への飛来例を殆んど聞かないのはナゼなのだ❓
(´-﹏-`;)ん〜、やっぱメインの餌は花なのかなあ…❓
でも一度は糖蜜トラップでナマリを仕留めねば、気が済まないところがある。今のところ、我がスペシャル糖蜜で採れてないカトカラは、このナマリとアズミキシタバしかいないのだ。来年こそは、ナマリだって糖蜜で採れるということを証明してやろうと思う。

灯火には夜半過ぎに飛来することが多いとされる。
でも自分らのライトトラップには、最初に飛来したのが午後8時40分。以下10時前から10時20分の間、11時過ぎから午前0時過ぎ迄の間で、それ以降は全く姿を現さなかった。
マオくんも早い時間帯でも飛んで来ますよと言っていたから、夜半過ぎに飛来すると云うのは、あくまでもそうゆう傾向があると捉えた方がいいかもしれない。飛来時刻は、その日の気象条件に大きく影響されるのであろう。

アズミキシタバ程ではないが、地這い飛びで灯火にやって来る傾向があり、光源からやや離れた地面にいる事も多かった。しかしアズミみたく特に白布の下部に好んで止まるという事はなかった。アズミと同じく敏感で落ち着きがなく、近づくとすぐ飛び立ち、ムカつく。但し、これらは1回だけの経験なので、それが通常の行動パターンなのかどうかはワカラナイ。
尚、分布は局地的で少ないと言われるが、食樹の群生地では時に多数の個体が灯火に集まる事があるという。

昼間、成虫は頭を下にして石灰岩や安山岩に静止している。前翅は岩肌によく似ていて発見は容易ではないという。

 

(出典『日本のCatocala』)

 
こんなの、至近距離でも見逃しそうだ。遠目だったら、間違いなく見つけることは至難だろう。
まだ試したことはないが、昼間に生息地の崖を網で叩いて採るという方法もあるらしい。驚いて飛び出したものを採集するようなのだが、また崖に止まったらワカランぞなもし。それに葉っぱに止まってくれることは滅多に無さそうだから、蝶のゼフィルス(ミドリシジミの仲間)採集よりも難しそうだ。
体力と根性が必要だから、やる人は少ないかもしれないね。だって灯火採集の方が遥かに楽だもん。酒飲めるしさ。
そんなだから蛾屋さんは普段ネットを振ることが殆んどない。採集はライトトラップ&毒瓶が主なのだ。ゆえにハッキリ言って網さばきが下手な人が多い。あっ、しまった。謀らずもディスってしまった。でもマオくんみたいな天才や蝶屋との2足のワラジの青木くんなどは別として、大半の人がそうだと思う。野球、テニス、ゴルフ、卓球、バトミントンetc…、道具を使う球技と同じだ。普段から、また昔からシッカリ振り込んできてないと、対象物をジャストミート、芯で捕えることは出来ないのである。

驚いて飛び立つと、上向きに着地して、瞬時に体を下向きに反転させる。

交尾の情報は極めて少なく、『日本のCatocala』の各種カトカラの交尾を表に纏めたものに、深夜午後11時〜午前2時とあるのしか見たことがない。どうやら飼育下の観察だから、おそらく自然状態ではまだ見つかっていないものと思われる。とはいえ、表には出てないだけかもしれないけどね。

産卵行動についての記述は全く見つけられなかった。
推察だが、おそらく同環境に棲むアズミキシタバのように崖や岩に生える苔類に産卵するものと思われる。

 
【幼虫の食餌植物】
 
バラ科 シモツケ属のイワガサ、イワシモツケ、イブキシモツケ、アイズシモツケ、ミツバイワガサが記録されている。

1981年、増井武彦氏により本種が香川県小豆島でイワガサを食樹にしていることが初めて明らかにされた。それをキッカケに、その後同属のシモツケ種群からも幼虫が発見された。

 
(イワガサ)

(出典『天草の植物観察日記』)


(出典『www.plant.kjmt.jp』)

 
学名 Spiraea blumei
海岸や山地の日当たりの良い岩場などに生育し、高さ1~1.5mになる落葉低木。漢字で書くと「岩傘」。名前の由来は岩場に生えて花序の形が傘に見えることからだそうだ。
分布は本州の近畿以西、四国、九州、朝鮮半島、中国。
若枝は緑色〜褐色で無毛、又はほぼ無毛で稜角がない。枝はしばしば弓なりに曲がる。
葉は互生し、長さ1.5~3.5cm、幅1~3cmの倒卵形~菱状卵形。時に3裂し、不規則な欠刻状の鋸歯がある。表面の脈はやや凹む。葉や葉柄は、ほぼ両面とも無毛。
一見すると同属のイブキシモツケと似るが、若枝や葉裏に毛の無いことから区別される。
花は5月に見られ、白色の5弁花を20~30個ほどつける。

変種にミツバイワガサ(別名タンゴイワガサ)がある。福井県以西の日本海側の海岸の岩場に生育し、兵庫県下ではイワガサと共に見られる。イワガサよりも葉が大きく広卵形。浅く3つに裂ける。

 
(ミツバイワガサ)


(出典『blog花たちとの刻』)

 
この特徴的な葉が名前の由来だろね。
各種図鑑には食樹としての記録は無いが、『兵庫県カトカラ図鑑』には、2012年に兵庫県美方郡新温泉町城山公園で幼虫が発見されていると書かれてある。

 
(イワシモツケ)

(葉)

 
学名 Spiraea nipponica
バラ科シモツケ属の落葉低木。漢字にすると「岩下野」。
日本固有種で、近畿地方以北に分布し、高い山地の日当たりの良い蛇紋岩地や石灰岩地に生育する。
高さ1〜2mになり、よく分枝する。若枝は淡褐色、古い枝は黒褐色を帯びて毛は無い。
葉は変異が多く、狭長楕円形、倒卵形、倒卵円形、広楕円形または楕円形になり、近縁種とされてきたマルバシモツケとナガバシモツケは現在では同種とされている。葉質は厚く、両面とも無毛で裏面は粉白色または淡色。縁は全縁か先端に2〜3個の鈍鋸歯があり、互生する。
花期は5〜7月。5弁花を多数つける。

尚、今のところアズミキシタバの自然界での食樹は、このイワシモツケのみが知られている。但し、飼育した場合は他のシモツケ類でも順調に育つようだ。

 
(イブキシモツケ)

(出典『風の翼』)


(2020.6月 兵庫県武田尾渓谷)


(出典『六甲山系の植物図鑑』)

 
学名 Spiraea dasyantha
「伊吹下野」と書き、名の由来は滋賀県の伊吹山で最初に発見されたため。別名にマンシュウシモツケ(満州下野)、ホソバイブキシモツケ(細葉伊吹下野)、キビノシモツケ(吉備下野)、トウシモツケ(唐下野)がある。
分布は本州の近畿以西、四国、九州。山地や海岸の日当たりの良い岩礫地に生え、高さ1~1.5mになる落葉低木。石灰岩地域の崖に多く、流紋岩質凝灰岩でも見られる。
枝はよく分枝し、やや弓なりに曲がる。若い枝は淡い赤褐色で、褐色の短毛が密に生える。
葉は互生し、長さ1.5~7cm、幅0.7~2cmの卵形~菱状楕円形となる。葉縁は不規則な欠刻状の鋸歯があり、しばしば3浅裂する。葉の質は硬く、葉の表面の脈は凹み、若い葉では軟毛が密に生え、裏面には褐色の毛が密生し、葉脈は隆起する。葉柄は長さ0.2~1.1cmで、ここにも軟毛が生える。
花期は4~6月。花は白色で、5弁花の小さな花を多数つける。

 
(アイズシモツケ)


(出典『Wikipedia』)

 
学名 Spiraea chamaedryfolia
漢字は「会津下野」。由来は福島県の会津地方で発見されたことによる。
日本では北海道、本州の中部地方以北、九州の熊本県に分布し、山地の日当たりのよい崖地や岩場、林縁に生育する。アジアでは東アジア、シベリアに分布する。基本種はヨーロッパからシベリアに分布する。
樹の高さは2mに達する。若枝は赤褐色を帯び、稜角があり、無毛、もしくは白軟毛がある。
葉は互生し、長さ3〜6cm、幅1.5〜3.5cm。形は卵形から広卵形または狭卵形。葉の先端は鋭頭で、基部は円形または広い切形。葉の表面は無毛か短伏毛があり、裏面は若葉時には軟毛があり、のちに無毛となる場合がある。葉の縁には基部以外の部分に鋭い重鋸歯がある。
花期は5〜6月。直径10mmの白色の5弁花を多数咲かせる。

紛らわしいものに、ミツバシモツケがある。
ミツバイワガサの誤表記かと思ったが、実際にそうゆう名前の植物は存在するようだ。しかし、およそシモツケの仲間には見えない。花も葉も全然似てないのだ。

 
(ミツバシモツケ)

(出典『garakuta box』)

 
調べたら、このミツバシモツケは北アメリカ原産のギレニア属の宿根草で、シモツケとは同じバラ科だが別属のようだ。

  
幼虫は、これらシモツケ類の比較的大きな株を好む傾向があるという。
尚、長野県下の飼育例では、ユキヤナギ、コデマリ、ヤブデマリ等の各種シモツケ類の柔らかい葉が幼虫の代用食になるそうだ。

 
【幼生期の生態】

先ずは卵から。

 
(卵)


(出典『日本のCatocala』)

 


(出典『flickriver photos from kobunny 』)

 
ナゼか同じサイトに別な色の卵もあった。

 

 
卵はやや背の高いまんじゅう型で、ベニシタバ、アズミキシタバ、ノコメキシタバに似る。縦隆起条は太く、気孔が明瞭に開口する。この形態は幼虫の食餌植物がバラ科やヤナギ科のカトカラの特徴のようだ。環状隆起は二重前後花弁状紋は2層、横隆起状の間隔は前極側で広く、後極側で狭くなる。

他のカトカラ(オニベニ、ムラサキ、シロ、ゴマシオなど)のように卵が一斉に孵化するのではなく、長期間に渉ってダラダラと孵化する。また孵化時期も他のカトカラよりも遅く、孵化に要する有効積算温度も、より必要なんだそうだ。これについて西尾氏は「日が当たると高温になる岩場表面での生活に適応した現象と思われた。」と推察されておられる。北海道には分布しないというし、寒冷系のカトカラではないんだろうね。
でもだったら、ナゼに武田尾みたいな低山地であれだけ糖蜜トラップを掛けたにも拘らず、1頭も寄って来なかったのだ❓標高が低い分、活発に動く筈だから、エネルギー源も必要だろうに。それに、この時期の武田尾には花なんてロクに咲いてなかったと思う。なんだから樹液とか糖蜜に寄って来るでしょうに。なのに、なして来んの❓キイーッ(`Д´)ノ❗、全くもって解せん。葉っぱの露でも飲んでるとしか思えん。
(´-﹏-`;)むぅ〜、まさか夏眠とかすんじゃねぇだろなあ。

 
(1・2齡幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
左が1齡幼虫、右が2齡幼虫。

 
(3齡幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
(5齡幼虫)


(出典『日本のCatocala』)

 
この5齡が終齢となる。

幼虫の体色変異は比較的あり、全体が白化したものや黒化したものが見られる。
3齡前後の幼虫は食餌植物の枝先にいるが、終齢になると日中は葉などの目立つところにはあまりおらず、木の根元や地表近くの枝、枯れてブラ下がった枝にいるようだ。また時に根元付近の岩上や草で見つかることもあるという。
ゆえにビーティング採集よりも、食樹を丹念にルッキングで探す方が効率は良いとされる。

4・5齡幼虫の食痕は、枝先の葉柄部と茎を残す形のようだ。

 

(出典『日本のCatocala』)

 
アズミキシタバの幼虫と似るが、頭部の模様で区別できる。

 
(ナマリキシタバ終齢幼虫の頭部)

(出典『日本のCatocala』)

 
カトカラの幼虫の判別には、この頭部の特徴が極めて重要なのだという。参考までにアズミキシタバの頭部も載せておこう。

 
(アズミキシタバの幼虫頭部)

(出典『日本のCatocala』)

 
似ているが、よく見ると違うね。
ついでだから、アズミの幼生期全般も載せておこう。

 
(アズミキシタバの卵)

(出典『日本のCatocala』)


(出典『flickriver photos from kobunny』)

 
(アズミキシタバの2齢幼虫)

 
(5齢幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
体色が灰色のナマリと比べて赤みがかるが、他のステージも含めて全般的に似てるね。どちらも2齢幼虫は黒いしさ。やはり幼虫や卵が似ているのは両者の食樹が同じで、成虫の前翅の色が似てるのとも関係があるのかもしれない。
では、下翅が似ていると言われてるコガタキシタバとはどうだろう❓

 
(コガタキシタバの卵)

 
(コガタキシタバ終齢幼虫)

 
(終齢幼虫頭部)

(出典『日本のCatocala』)

 
全然、(@_@)似てねぇー。
まあDNA解析の系統樹でも両者は離れてるからね。

では、DNA解析だと近縁とされているノコメキシタバとではどうだろうか❓

 
(ノコメキシタバの卵)


(出典『日本のCatocala』)

 
ナマリキシタバと比べて隆起状の数が40本以上あること(ナマリは40本未満)で区別できる。またアズミとは隆起状の間隔で判別できる。アズミは間隔が広く、それに比してナマリとノコメは間隔が狭いという。

 
(ノコメキシタバ終齢幼虫)

 
(終齢幼虫頭部)

(出典『日本のCatocala』)

 
幼虫は変異が多そうだから何とも言えないところがあるが、卵と終齢幼虫の頭部は似ている。自分はDNA解析に対しては懐疑的なところがあるが、これはその解析結果と合致していると言ってもいいだろう。

ついでだから、オニベニの幼生期の画像も添付しておこう。

 
(オニベニシタバの卵)

 
 
(オニベニシタバ終齢幼虫)

 
(終齢幼虫頭部)

(出典『日本のCatocala 』)

 
\(◎o◎)/超絶似てねぇー。
コレは完全に別系統であろう。全くもって的外れもいいところである。そもそもオニベニの食樹はバラ科ではない。全然違うクヌギなどのブナ科コナラ属だもんね。違ってて当たり前かもしんない。

来年はナマリさんの終齢幼虫探しをしてもいいかなぁ…。
あまりにも成虫が採れんし、非効率的過ぎるもん。だからか、多くの皆さんは幼虫採集で標本を得ているみたいだ。成虫採りよりも、よっほど楽に新鮮な標本が得られるという。
終齢だと飼育の苦労も少なそうだし、滅多に飼育をしないワシでも何とかなりそうだ。

とはいえ、成虫採りをやめたワケじゃない。
本当の恋は、まだ始まったばかりなのだ。

                        おしまい

 
追伸
書き忘れたが、蛹化場所についての情報も見つけられなかった。おそらく自然状態での蛹は見つかっていないのだろう。
それにしても崖だと何処で蛹化するのだろう❓まさか地面まで降りては来ないだろうから、崖の窪みに溜まった落葉の下辺りで蛹化するんだろね。

今回の第三章もタイトルを付けるのに苦労した。
どれがどの章に対してのモノなのかはハッキリ思い出せないが、以下のような候補のメモがあった。

『稲妻レェドゥン』
『稲妻コロンビーナ』
『雷雲と稲妻』
『雷神を追い求めて』
『雷撃レッド』
『雷(いかづち)の蹉跌』
『イカロスが幾たりも来ては落っこちる』
『Nの昇天』
『カラビナ 鎖の掟』

とはいえ、メモっといて何で候補としたのか思い出せないものもある。ザッとした草稿は随分前に書いてあったのだ。タイトルは最初に決めてから書き出す場合と書いてる途中で思いつく場合とがあるのだ。
それはそうと、特にレッドと云うのが、よくワカラン。記憶を辿ってみよう。

『稲妻レェドゥン』は、サザンの「稲村ジェーン」がモチーフとなっている。レェドゥン(leaden)の意味は「鉛色の」がベースだが、他に「意気消沈した、重苦しい、陰鬱な」といった意味合いもある。これは、ようは第一章を想定したものだろう。ホント、その通りだったからね。思い出しても辛い9連敗だったよ。
このタイトルのことはすっかり忘れてて、第一章には『汝、空想の翼で駆け、現実の山野にゆかん』というタイトルを付けたけど、そんな仰々しいものよりもコチラの方が良かったかもしれない。まだしもこっちの方が少しはセンス有りじゃろう。今からでも改題してやろうかしら。

『雷撃レッド』は、そこからの更なる聯想だったと記憶している。レェドゥン(leaden)でググッたら「reddn(レェドゥン)」というのが出てきた。意味は「赤く染める」だが、他に「赤面させる」「(恥、怒り、興奮などで)赤を赤らめる」という意味合いもある。9連敗もして屈辱的だったから、タイトルとして考えたのだろう。レッドは、たぶんレェドゥンの略をモジったものじゃろう。『電撃レェド』よか『電撃レッド』の方が何となくカッコイイからね。で、雷撃はそのショックを表してるんだろね。

『雷神を追い求めて』『雷(いかづち)の蹉跌』『イカロスが幾たりも来ては落っこちる』も又、第一章の為に考えられたものだ。

一番最初の『雷神を追い求めて』は、タイトルまんまの意味だろうから説明不要でしょう。
とはいえ、もしかしたらどっかでプルーストの長編小説「失われた時を求めて」を意識したものだったのかもしれない。どちらもクソ長いものだからさ。でもきっと良いアレンジが浮かばなかったんだろう。その辺の事は全く記憶に無いけど。どうあれ、このままじゃベタ過ぎて使えないもんね。

『雷(いかづち)の蹉跌』は、挫折を表している。そんなに悪くないタイトルだと思うが、蹉跌の文字はハイモンキシタバの回(『銀灰(ぎんかい)の蹉跌』)で使ったのでカブるのを避けた。

『イカロスが幾たりも来ては落っこちる』も挫折の日々を表している。翼を得たイカロスが調子ブッこいて太陽に向かって飛ぶのだが、蝋(ろう)で作られた翼ゆえ、やがて太陽の熱に溶かされて墜死するという神話が下敷きになっている。
このイカロス神話で思い出したのが、梶井基次郎の短編小説「Kの昇天ー或はKの溺死ー」。その中の一節「イカルスが幾人も来ては落っこちる。」を思い出し、そこに少し手を加えてタイトルとした。
尚、イカロス(イーカロス)は古代ギリシア語の表記で、ラテン語読みだとイカルスと表記される。
余談だが、このギリシア神話の物語は人間の傲慢さやテクノロジーを批判するものとして有名である。

その「Kの昇天」からモロにパクったのが『Nの昇天』。
Nとは勿論ナマリキシタバの頭文字のNである。これは第二章に流用しようとした。結局使わなかったのはタイトルにするには色々と文章に仕掛けが必要だったからである。伏線となる文章を散りばめないとタイトルが薄っぺらくなっちゃうからね。けど、そんな筆力は持ち合わせていないので断念。

『雷雲と稲妻』も第二章を意識してのタイトルだ。
でもコレとて、そのまんまだと薄っぺらいから仕掛けが必要となる。けど同じく筆力なしゆえの断念だったね。

『カラビナ 鎖の掟』。
何だかVシネマのタイトルみたいだ(笑)。たぶんコレというモノが浮かばなくて、ヤケクソ気味で捻り出したのだろう。そもそも学名はコロンビナなのにね。頭の中でコロンビナとカラビナが鎖のように絡まってたんだろうけど、どうやって鳩からカラビナに持っていこうとしてたんだろ?かなりの力技が必要だから謎です。まさかのダジャレで何とかしようとしてたりしてね(笑)
これは何章に宛がわれたとかは、特に無かったように思う。

まあ、こんな屑ブログでも、タイトルを付けるのにはそれなりの苦労があるんである。

最後に今回のタイトル『嘆きのコロンビーナ』について少し触れて終わりにしよう。
嘆いているのは、コロンビーナ(ナマリキシタバ)ではない。ワタクシ自身だ。トラップに来ないことに嘆き、灯火に来ないことに嘆き、どうやって採ればいいのか分からなくなって嘆き、飛んで来たはいいが翻弄されまくって嘆き、上手く展翅写真が撮れずに嘆きで、全面嘆きだらけだったのだ。
そして、この今書いている文章にだって嘆いている。何度も何度も書き直しているのだ。一度完成してからも、解体、組み替えを繰り返している。つまりナマリキシタバの採集と同じく出口の見えないドン底状態に陥っていたのである。いつもにも増して時間と労力を費やしておったのだ。まあ、時間と労力を費やしたからって、優れたものになるとは限らないけどね。
やれやれだよ。

 
(註1)カトカラ界の両巨匠
世界的なカトカラ研究者である石塚勝己さんと日本のカトカラの生態解明に多くの足跡を残された西尾規孝さんのこと。
それぞれ『世界のカトカラ』『日本のCatocala』という蛾界に多大なる影響を与えた著書がある。

 
【世界のカトカラ】

 
【日本のCatocala】

 
どちらもカトカラを深く知るには必読の書である。

 
(註2)アズミキシタバ


(2020.7.26 長野県北安曇郡)

 
日本では長野県白馬村と新潟県奥只見にのみ棲息する最小のカトカラ。幼虫の食樹はイワシモツケ。
アズミキシタバについては、拙ブログに「2020’カトカラ3年生 其の壱」に『白馬わちゃわちゃ狂騒曲』『黃衣の侏儒』と題して2篇の文章を書いている。

 
(註3)コガタキシタバ

(2020.6月 兵庫県西宮市)

 
低地の雑木林に広く見られるが、同じマメ科を食樹とするキシタバ(C.patala)よりも個体数は少なく、見る機会はそれほど多くはない。稀種と言われていたフシキキシタバの方が寧ろ多いくらいだ。
コガタキシタバについては過去に『ワタシ、妊娠したかも』、その続編『サボる男』という2篇を書いた。それにしても、両方ともフザけたタイトルだよなあ。内容は全然もって覚えてないけど…。

 
(註4)オニベニシタバ
低地の雑木林に棲む下翅が紅色系統のカトカラ。
オニベニシタバについては本ブログの「2018’カトカラ元年」シリーズの其の8に『嗤う鬼』と題した文章がある。

 
(註5)ノコメキシタバ
主に高原に生息するカトカラ。
本ブログに『ギザギザハートの子守唄』『お黙りっ❗と、ベラは言った』という文章がありんす。

 
ー参考文献ー

◆西尾規孝『日本のCatocala』
◆石塚勝己『世界のカトカラ』
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』
◆江崎俤三『原色日本産蛾類図鑑』

(ネット)
◆『ギャラリー・カトカラ全集』カトカラ同好会
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『Wikipedia』
◆『兵庫県カトカラ図鑑』きべりはむし
◆『天草の植物観察日記』
◆『六甲山系の植物図鑑』
◆『風の翼』
◆『blog花たちとの刻』
◆『garakuta box』

 

2020’カトカラ3年生 其の壱 後編

 
    vol.24 アズミキシタバ

      『黄衣の侏儒』

 
後編は種の解説編でごわす。
毎度の事ながら、カトカラ界の両巨匠である石塚勝己さんの『世界のカトカラ』と西尾規孝さんの『日本のCatocala』の画像をふんだんに拝借させて戴きます。礼❗m(_ _)m

 
【アズミキシタバ♂❓】


(2020.7.26 長野県白馬村)

 
小さいけれど美しいカトカラだと思う。
特に下翅のレモンイエローは素敵だね。しかも、その黄色の面積が広い。日本のキシタバ類では、この明るい黄色を有しているのは他にカバフキシタバとハイモンキシタバくらいだ。ジョナスやゴマシオも明るめの黄色だが、その色がくすんでいたり、黒帯が太くて黄色が目立たなかったりするからね。

 
【同♀❓】


(2020.7.26 長野県白馬村)

 
【裏面♂❓】

(2020.7.26 長野県白馬村)

 
【裏面♀❓】

(2020.7.26 長野県白馬村)

 
日本では最も小さなカトカラである。
腹部は僅かに黄色味を帯びた灰色。前翅はわずかに金属光沢を帯びた暗い灰褐色で、亜外縁に縦長の灰白紋を有し、ワモンキシタバ(C.xarippe)やキララキシタバ(C.fulminea)のように黒い腎状紋の下の線が大きく湾曲する。後翅はレモンイエロー(明るい黄色)で、中央黒帯と外縁黒帯は繋がらず、外縁黒帯は途中で分離する。また翅頂にはハッキリとした黄斑がある。
前翅はワモン&キララやナマリキシタバと似るが、後翅の柄は何れも似ておらず、また遥かに小型ゆえ、判別は容易。

 
(ワモンキシタバ Catocala xarippe)

(2020.8 長野県木曽町)

前翅の斑紋は似るが、色が違う。

 
(ナマリキシタバ Catocala columbina)

(出典『世界のカトカラ』)

前翅の色は似ているが斑紋が違う。また後翅の帯の形も違う。
大きさは近いものがあるが、相対的にナマリの方が少し大きい。

反対に後翅が似ているハイモンキシタバとは前翅の色柄が全く違う。

 
(ハイモンキシタバ Catocala mabella)

(出典『世界のカトカラ』)

同じく大きさに格段の差もあるから、これまた判別は容易である。

 
【雌雄の判別】

基本的なカトカラの雌雄の違いは、♂は腹部が細くて長い。また尻先に毛が多く、筆状(毛束)に見える。
一方、♀は腹部が太くて短い。そして尻先に毛が少なくて尖って見える。また翅形が丸みを帯びる傾向がある。
しかし現地で採ってても、今イチ雌雄の区別がつかんかった。ならばと『世界のカトカラ』のアズミの写真を見たら、コレが驚いた事に微妙なんである。

 
(♂)

 
腹が細くて細いけど、尻先の毛束の量が思った以上に多くなくて、雌雄に大きな差がなかったりするのだ。
図の右は毛が有るのが明確に分かるが、左はよくワカラン。冒頭の展翅した♂とおぼしきものも、他のカトカラの♂と比べて毛があまり無い。

  
(♀)

(出典 2点とも『世界のカトカラ』)

 
そして、♀は毛束こそ目立たないが腹が細くて長く、一見して♂っぼく見えるのだ。あとは尻先が毛束がない分、尖って見える。これは他のカトカラの♀も同じような特徴を持つものが多いから理解できる。
翅形はやや丸みを帯びるが、例外も多いので決定的な判別には使えそうにない。あくまでも補足事項なのだ。

ならば裏面から尻先を見たらと思った。多くのカトカラの雌雄の違いは此処に縦にスリットが入っているか否かで分かる。スリットが入っており、その下に黄色い産卵管が見えていれば、間違いなく♀だからだ。しかし図鑑やネットで裏面写真を掲載しているものは極めて少ない。そして尚悪いことに干からびたような標本写真が多いので、判別が困難なものばかりなのだ。

取り敢えず冷凍庫にブチ込んだままの残りのアズミを展翅しよう。でないと埓が開かない。まだたったの2頭しか展翅していないのだ。それも3ヶ月も前の話だ。展翅が嫌いなのだ。だから億劫にもなる。
それはそうと、ろくに展翅もせずに文章を書いてるって初めてなんじゃないか❓あっ、言っとくと、この時点では実をいうと後編の解説編の方から先に書きだしておるのだ。で、この項の途中で投げだして前編の採集記の方を書いたのである。たとえ展翅したものが無くても前編は書けたってワケ。

さて、邪魔くさいけど展翅すっか。
その前に、前回載せた展翅個体の展翅する前の画像が出てきたから載せておこう。

 

 
冒頭の♂とおぼしき個体の展翅画像と、おそらく同一個体であろう。
尻先にあまり毛がないから♀に見えなくもない。いや、♀かも…。
何か早くも迷宮世界に入っちゃった気がするぞ(ー_ー;)💦

お次は前回に♀とおぼしきものと書いたものだ。

 

 
何度も画像を貼り付けるのが恥ずかしくなるくらいのハゲちょろけ、MAXハゲだ。
腹が太くて全体的に羽に丸みがあるので♀に間違いないと思うんだよね。
その同一個体がコレ↙。

 

 
画像だと何となく腹が短いような気がする。ならば♀か❓
でも尻先に毛束があるようにも見える。そして、反対側の面の画像を見て、あれっ❓と思った。

 

 
尻が長いので♂にも見える。
いや待てよ。アズミの♀って腹が長かったよね。ならば尻先はどうだ❓
┐(´д`)┌ありゃあー、毛がないように見える。あっ、♀なら無い方がいいのか…。頭の中がグジャグジャで、段々自分でもワケわかんなくなってるぞ。完全にラビリンスだ。

取り敢えず、新たに展翅してみよう。
先ずは腹先にスリットが入っているかどうか確かめよう。

 

 
あちゃま、腹の部分だけ黒く映っとるやないの。
撮り直しだね。

 

 
尻先にスリットは無いように見える。産卵管も見受けられない。けど小さいから、よく分かんねぇぞ。ん〜、毛束も有るみたいだから♂かえ❓

横からの画像も撮る。

 

 
w(°o°)wゲッ、全然ピント合っとらへんやないけー。
尻先は一応、毛束があるように見える。でも他のカトカラの♂と比べて、やっぱり少ない。(´-﹏-`;)何なんだよ〜、おまえー。

展翅してみる。

 

 
しっかり毛束があるから、たぶん♂だね。
となると、♀であると言い切れるようなものを探せば、この迷宮から脱出できるってワケだ。

 

 
毛束が結構あるように見える。
とゆうことは♂❓

ひっくり返す。

 

 
スリットは無い。って事は♂なのか…❓
腹も細くみえるしね。

 

 
コレは腹が細いし、毛束もあるから♂だろう。
ん❓ちょっと待てよ。さっきのは尻先に毛束が有ったけど、腹はもっと太かったような気もするぞ。
まあいい。ならば、♀を早く見つけるのが先決だ。一つ一つアテなくチビチビ展翅してらんない。よし、ここは取り敢えず全部の三角紙を開けて、♀らしきもんを探して展翅していこう。自ずとそれで答えに辿り着けるだろう。

おっ❗、あった。

 

 
ちょっと大きめで腹が太いからコレは絶対♀だろう。鮮度も抜群に良さそうだし、ラッキー✌️

しかし展翅しようと羽を開いたら、ヽ((◎д◎))ゝガビーン❗
何と、まさかのマメキシタバの♀であった。どうりで大きくて裏面の黄色が鮮やかなワケだ。変だなあとは薄々思ってたんだよなあ…。(-_-メ)ケッ、即座に冷凍庫にお帰り願おう。

 
(Catocala duplicata マメキシタバ♀)

(2019.8月 大阪府)

 
そうゆうワケで展翅はしてない。なので、さっきの個体ではないが、代わりの画像を貼っつけておく。コレを見れば、カトカラの♀の典型的な形が御理解戴けるかと思ったのである。
すなわち腹部が太くて尻先の毛が少ない。また毛が少ないゆえに尻の先端が尖ったように見える。
比較のために♂の画像も貼付しておく。

 

(2020.8月 長野県木曽町)

 
既に前述しているが、通常のカトカラの♂は腹部が長くて細く、尻先に毛束がある。ねっ、コレ見ると、アズミが全部♂に見えてくるざましょ。

他に♀っぽいものはないかと探したが、コレというものが見つからない。何かどれも微妙なのだ。
気を取り直して地道に展翅してゆくことにした。

 

 
毛束も無いようだし、胴体に厚みがあるように見えるから♀っぽいような気がする。

反対向きでも撮ってみる。

 

 
えっ❓、何か毛があるように思えてきたぞ。腹部も長く見える。
ん❓、長さは関係ないんだっけか…。
何かまた自信が無くなってきた。

裏返す。

 

 
腹が太いから♀っぽい。
でもスリットは入ってないよなあ…。
もしかしてアズミって、♀もスリットが無いのか❓

展翅してみる。

 

 
♀っぽいような気もするし、♂っぽいような気もする。
もうアンタ、どっちなんだよー(≧▽≦)❓全員、オカマとちゃいますのん❓

脳ミソがパニくりながらも、次へと挑む。

 

 
ヤケに胴体が長いなあ。
尻先は毛があまり無くて、尖ってる。

 

 
コレは♀なんじゃないか。
尻先に僅かにスリットが入っているようにも見える。それに尻先に毛束が無く、先端もカトカラの♀特有の形をしているように見える。もしかしてコレこそが正真正銘の♀❓
早る心で展翅する。

 

 
だから気合入れて触角を真っ直ぐにしたよ。
でもさあ…、特別♀って感じがしないんだよなあ…。

ここで、ふと思う。スリットが入っているように見えたが、単に毛に分け目が出来てただけかもしんない。改めて他の種類のカトカラで、スリットが入っているモノを確認してみよう。

 

 
上がウスイロキシタバで下がハイモンキシタバである。
どちらも縦にスリットが入り、その下に黄色い産卵管が見えるのが御理解いただけるかと思う。とはいえ、分かりづらい種もいたとは思う。何だっけかなあ…、ミヤマキシタバかなあ。ちょっと思い出せないけど、ここではこれ以上触れない。今はスリットが有るのはどんなものなのかと云う話なので、また別な機会にでも取り上げよう。

参考までに、もう一点だけ貼付しておきます。

 

 
中でも最も分かりやすいのが、このムラサキシタバであろう。
これでよく解ったよ。スリットはどれもハッキリと見える。さっきのアズミのスリットとおぼしきものは、これらから見たら、とてもじゃないがスリットが入ってるなんて言えない。ただの毛の分け目だよ。
\(◎o◎)/ゲロゲロー、と云う事はだな、どれもスリットが入っておらん❗とゆう事になる。
何なんだ❓この展開は❗❓
もう1回、ネットで裏面画像を探そう。それでスリットが入ってる奴が見つかれば、今回採ったものは全て♂とゆう事になる。まさかそんな事はあるまいとは思うが、だとしたら奇跡的偶然だろう。いや、背中ハゲちょろけのスーパー落武者の♀とおぼしきものが有るか…。アレは絶対に♀だと思うんだよね。
(+_+)クソー、どちらにせよ、来年また♀を採り直しに行かねばならぬと思うと、暗澹たる気分になるよ。

先ずは『みんなで作る日本産蛾類図鑑』で確認しよう。確か裏面画像があった筈だ。

画像は貼り付けないが、確かにあった…。
しかし、のっけから奈落へ。そこにはオスとの表記があり、確かに腹が細くてオスっぽいのだが、何と尻先に毛束がない。だから『世界のカトカラ』のメスの腹端に似てる。これって或いは♀なんじゃねえの❓もしや誤表示❓でも蛾のプロかプロ的な人が執筆しておられる筈なんだから、そんな事ってある❓
とはいえ、やはり腹先にはスリットも産卵管も認められない。とゆう事は♂で合ってんのか…。
まあいい。それも含めて雌雄が明記されている画像を他から探そう。

(-_-;)…。
しかし、スリットや産卵管がある画像は一つも見つけられなかった。そして驚いたことに標本如何にかかわらず、雌雄が明示されているサイトが殆んどない。怠慢❓いや、皆さん自信がないのかもしれない。それくらい雌雄の判別が難しいとか…❓考えてみれば、そもそもアズミの雌雄の判別について言及された資料を一つも見てないのだ。

そんな中、雌雄が明記されたサイトに漸くヒットした。
2012年に中国から近縁の新種(C.borthi)が記載されており、そこにアズミの画像もあった。


(出典『A new species of Catocala Schrank,1802 from china』)

 
どうやら記載論文のようだ。その”Catocala borthi”が一番上で左が♂、右が♀である。以下各種、雌雄が左右同じ法則の並びになっている。
2列目がアズミキシタバだ。因みに3列目と4列目の左はキララキシタバ、4列目右は C.invasa(ヒカルキシタバ)である。
さて、アズミキシタバである。カトカラを見慣れたものからすると、どう見ても雌雄が逆になっているように見える。すなわち右は腹部が長くて尻先に毛束があり、カトカラ全般の♂の形だ。一方、左は腹部が短くて尻先に毛束がなく、先が尖っていて、♀的な形なのだ。まさか、また誤表示❓
( •́ ε •̀ #)ったくよー。頭の中が益々グシャグシャだ。
尚、この中では交尾器&DNA解析の結果、新種と一番近縁なのがアズミなんだそうだ。

ここで、んなワケなかろうとサイトを見直してみた。どう見ても、左は♀でしょうに。
(´ε` ) あちゃー、驚いた事に何と”C.borthi”の♀以外は全て♂ではないか。キララが3つも並んでいるから当然♀も図示されているかと思いきや、単にリトアニアとロシア、中国の亜種らしきものが並んでいただけだった。そんな表記の仕方なんて全く頭に無かったから、オートマチックで左が♂、右が♀だと思い込んでしもうた。普通、そんな表記の仕方はせんでしょうに…。

だとしても、これで問題が解決したワケではない。解決するどころか、かえって謎はより深まったかもしれん。
なぜなら両方とも♂と言われれば、雌雄の違いが益々ワカランくなってくるからだ。腹部の長さとか、尻先の毛束とか形とかに更なる混迷を呼んどるやないけー。それに右側の♂の翅形は丸くて♀っぽいんだよねー。羽だけみれば、とてもじゃないが♂には見えない。こんなの見ると、また悩まざるおえない。アズミにおいては翅形の違いは雌雄とは関係ないのかもしれん。
ならば『世界のカトカラ』と『みんなで作る日本産蛾類図鑑』のどっちの雌雄表記が正しいのだ❓
どっちも正しかったりして…。もう何を基準にすればよいのかワカらぬよ。

もう1つ雌雄表記が有るものを見つけた。
岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』のものだ。

 

 
しかし、混迷は増すばかり。
図鑑には♂しか載ってないのだ。
でも一応検証しておこう。
腹部は長いが、細いとも太いとも言えない。尻先の形と毛束も微妙で、尖ってるとも丸いとも言えないし、毛束は有るとも無いとも判断し難い。いや、丸いか❓
自分でも何言ってるのかワカラナイ。何か脳が基準を見失って判断不能に陥ってるぞ。

『日本のCatocala』にも裏面画像があった。

 

 
コレは腹が太いから♀だろう。
だとしたら問題はスリットと産卵管だ。画像が小さくて粗いから、腹端にスリットが無いようでいて有るような感じだ。けど、無いと思うんだよなあ。すると、やはり♀はスリットも産卵管も見た目では確認できないのか❓けど、この画像に雌雄の表記は無いから♀とは断定できないんだよね。やれやれである。

一応、小太郎くんに電話で確認したけど、彼もワカランと嘆いておった。小太郎くんでさえも♂♀がワカランのかあ…。
なればカトカラ3年生のワシには、乁( . ര ʖ̯ ര . )ㄏお手上げじゃよ、せにょ〜る。まだまだカトカラ・カーストの底辺に在るアッシには無理ざんす。

と、一旦はクローズしかけたが、ケツまくって敵前逃亡するのも口惜しい。一応、自分なりの見解を述べて、この項をクローズする事にしよう。クソッ、まさか雌雄の違いなんぞに躓くとはね。こんなとこで迷宮徘徊するとは夢にも思わなかったよ。

あえて誤解を怖れずに言えば、たぶん♀のスリットも産卵管もある筈だ。しかし毛に隠れて見えないのではあるまいか。だからパッと見では判別には使えないのかも。
翅形も例外が有り過ぎて使えないだろう。腹部の長さも微妙だから現時点では何とも言えない。腹部の太さは使えそうだけど、これまた微妙。たぶん太ければ♀だと思われるが、展翅して暫くしたら縮む奴もいたりするから困る。展翅をしても萎まなければ、♀と判定してもいいだろう。
あとは尻先の毛束だが、これまた微妙ではある。でも♂の方が僅かだが毛が多いような気がする。横から腹部を見て感じたのは、もしかして先端が尖るのが♀で、毛がやや多いから丸く見えるのが♂ではないかと思う。これとて微妙だけどね。
曖昧な着地点で申し訳ないが、この裏から見た腹部先端の毛の量と形、腹部全体の太さを総合してジャッジメントするしかないのではなかろうか❓
m(_ _)mスマン、こんな事しか言えんよ。

後で、また3つほどアズミが出てきたので展翅した。
ウンザリなところではあるが、再度検証に臨もう。

 

 
先ずは横面。
腹部は短いように思える。尻先には毛束なさそうだ。

 

 
次いで腹を正面から見るためにひっくり返す。
この腹の太さだと♀っぽいなあ…。腹先も尖って見えるしね。
ならばと腹先の毛を掻き分けてみた。しかし、スリットも産卵管らしきものも無さそうだ。とはいえ、アズミって小さ過ぎるし、こっちは老眼が入ってきてるから見落としてるかもしれない。一応、確実を期すために虫眼鏡で見ようかとも思ったが、持っていない事に気づき、もういいやの人になる。もはや全てがウンザリなのだ。

それでは展翅してみよう。

 

 
展翅すると微妙で、同定に自信が無くなってくる。
腹の太さは微妙だし、尻先に毛束が有るようにも見える。
たぶん♀だとは思ってたけど…。でも毛を掻き分けても産卵管が見つけられなかったしなあ…。♂かもしんない。
相変わらず、彷徨いラビリンスだ。

(-_-メ)クソッ、もうこうなったら翅をバラしてやろうか❓
今まで一言も言わなかったけど、実をいうと確実に雌雄を見分けられる方法が無いワケではない。かなり問題ありだけど、有るには有るのだ。
カトカラは基本的に前翅と後翅の根元の境目辺りに刺棘のようなものがあり、その本数に雌雄で差があるのだ。

 

(出典『日本のCatocala』)

 
画像をピンチアウトで拡大してみて下され。左の♀の翅の根元には3本の刺棘が有るが、右の♂には1本しかない。
でもそれを調べるためには前翅を切り取らねばならない。コレには流石に抵抗感がある。貴重なアズミちゃんを解体する勇気がないのだ。だいち、それで分かったところでどうなのだ❓
一々、前翅を毎回切り取るだなんて、そんなの識別法としては手軽には使えない。現実的ではないし、だいち邪魔くさ過ぎる。特別なケースでもなければ、ナンセンスだ。

気を取り直して、次へと進もう。

 

 
腹部は長いような気がする。尻先の毛束は微妙。どうやらアズミは他のカトカラみたく、横からは簡単には判別できないような気がしてきた。

 

 
上手くひっくり返せなかったので、腹だけ撮った。
腹は細い。尻先は丸く見える。♂っぼいね。

 

 
腹部が細い。胴も細くて全体的に華奢だ。これは♂だと言い切ってもよさそうだ。

そして、最後となる3頭目。

 

 
腹部はやや長く、尻先にはそんなに毛は無さそうだ。

ひっくり返そう。

 

 
この張った感じの太い腹からすると、♀だね。それに尻先も尖って見えるから間違いないかと思われる。
ここで再度、毛を掻き分けるべきだったのだが、忘れた。この辺がワシの限界だ。こうゆう地道に細かいことを調べるには抜け作で、そもそも向いてない性格なんである。

 

 
 
表から見ても、やはり腹が太くて先が尖ってるから♀じゃろう。
もしかして表から見るよりも、裏から見た方が雌雄は判別しやすいのではなかろうか❓
思うに、裏からの方が腹の膨らみと太さがよく分かる。特に根元付近の張りのある太さは♀を表していると言えよう。
そして尻先は尖る傾向にある。毛が少ない分、そう見えるのだろう。これが表側からだと、よく分からない。裏からだと毛が少なく見えるのに、表からは毛束が有るようにも見えてしまうのである。この辺が雌雄の判別に迷いを生じさせる原因となっているのではあるまいか。

整理しよう。
♂は腹が細い。胴も細くて全体的に華奢に見えるものが多い。但し、腹部の長さはあまり関係がない。普通のカトカラは腹の長さに差異があり、♀は短いのだが、アズミは♀でも腹部が長いものがいるからだ。しかし、♀は腹の根元が太くてガッシリしている。裏から見れば、それが比較的よく分かる。また胴もガッシリしており、裏からだと尻先が尖って見える。毛束の量は表からだと微妙だが、裏側から見ると判別しやすい。但し、微妙なものもいる。これらは他のカトカラほどには明確な差異がないゆえ、補助的な要素として留意しておいた方がいいかもしれない。翅形からの判別もアテにならないから、これもあくまで補助的要素として考えた方がよかろう。尚、他の多くのカトカラのように♀の尻先に明確なスリットは入らなくて産卵管も見えないから、これまた識別には使えない。また横からだと♂の毛束が目立つ筈なのだが、それもアズミには完全には当てはまらないから使えない。
ホント、面倒なカトカラだよ。ようはアズミキシタバの雌雄の判別には、普通のカトカラの識別セオリーは十全には使えないものが多いってことだね。

最後に確実にオスとメスであると今の時点で言い切れる個体を並べてお終いとしよう。

 
(オス)

(メス)

 
絶対にオスとメスだと言い切れるのは、トホホな事にボロとハゲの、この2つしかないというワケだ。
スマンが、もうこれくらいで御勘弁願おう。

とは言いつつも、後悔はある。
今にして思えば、前翅をブッた切っておけば良かった。確実に♂と思(おぼ)しきものと♀と思しきものを解体すべきであったと後悔している。上に図示した奴らとか、ボロとハゲなんだから解体したとしても、そう惜しくはない。もし、それで互いの刺棘の数が違えば、オスとメスが確定できる。確定できれば、両者の特徴の違いを仔細に調べたら答えは自ずと見えて来るのではなかろうか。
とはいえ、もうウンザリMAXだから、そんな事までして確かめる気力がない。どなたか代わりに調べて教えてくんないかなあ…。
けど、刺棘の数がどっちも同じだったりしてね(笑)。

 
【学名】Catocala koreana Staudinger, 1892

属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり下翅が美しいことを表している。
小種名の”koreana”は「朝鮮の」という意味で、最初に朝鮮半島で発見された事に由来する命名だろう。

いつもこの学名の語源で苦しめられるのだが、今回は楽勝だったよ。その代わりに雌雄の判別で苦しめられたけどさ。なかなか上手くはいかないよね。

それにしても、つまんない学名だよなー。

 
【亜種と近縁種】 

日本のものは亜種 azumiensis Sugi,1965 とされる。
記載者は日本の蛾界に多大なる功績を残された杉 繁郎氏。最初は新種として記載されたが、後にシュタウディンガーによって1892年に既に朝鮮半島から記載済みだったことが判明し、亜種へと降格になったそうだ。

 
(原記載亜種 ssp.koreana koreana)

(出典『世界のカトカラ』)

 
日本のモノと何処が異なるんだろう❓
細かく見れば、微妙に違うような気もするが、個体変異もあるだろうから何とも言えない。交尾器に差異があるのかな?
因みにネットの『ギャラリー・カトカラ全集』には「日本産を別亜種にするかどうかは微妙であり、今後の課題でもある。」と書かれてあった。もしや交尾器を調べてないの❓

また、この朝鮮半島のものはキララキシタバ(C.fulminea)の変種として記載され、その後にヨーロッパに産するイメンキシタバ(C.hymenaea)の亜種としても記載されたことがあるという。

 
(Catocala hymenaea Schiffermuller, 1775)

(出典『世界のカトカラ』)

 
ヨーロッパ南東部からトルコにかけて分布する。アズミに似るが、DNA解析では類縁関係は認められないという。
とはいえ似てる。亜種とした見解もわからないでもない。
こうゆう事があると、種とはいったい何ぞや❓と思ってしまう。果たしてシャカリキになってまで分類する意味ってあんのかなあ…。
勿論、必要ではあるんだけどもね。解っちゃいるが、言いたくもなるくらい「雌雄の判別」のせいで心が疲弊しておるのだ。

シノニム(同物異名)から探してみたら、あった。

◆Catocala paranympha koreana Staudinger、1892
◆Catocala hymenaea ussurica Sheljuzhko、194​​3
◆Catocala azumiensis Sugi、1965

なるほどね。
そう書きかけて引っ掛かる。
一番上の「Catocala paranympha」って何や❓
記載者も記載年も原記載されたものと同じだから、完全に同一のものだろう。
とゆうことは、最初は”paranympha”って奴の亜種として記載されたってワケ❓
あ〜あ、また面倒くさいパンドラの匣をあけちゃったよ。

調べてみると、この”paranympha”ってのは、C.fulminea、つまりはキララキシタバのシノニムみたいだ。わりと簡単に見つかって、何とかパンドラの匣のオープンは回避されたよ。
ついでだからキララキシタバの画像も貼っとくか…。

 
(Catocala fulminea)

(出典『世界のカトカラ』)

 
前翅はそこそこ似てるけど、後翅の柄は結構違う。それに何より大きさが全然違う。こんなの普通ならどう見ても別種と分かるだろうに。何で亜種にしちゃったんだろね❓

参考までに他の近縁種も紹介しておこう。

 
(Catocala invasa Leech, 1900)

(出典『BOLD SYSTEMS』)

 
和名ヒカルキシタバ。中国から朝鮮半島にかけて分布する。
キララキシタバに酷似するが、より大きく、後翅中央黒帯湾曲部が外側に突出する傾向がある。

 
(Catocala borthi Saldaitis,Ivinskis,Floriani & Babics, 2012)

 
「雌雄の判別」の項でも触れた2012年に新たに記載された新種である。
分布は中国・四川省北部の九寨溝付近。それ以外のラベルも見たが、どうやら2000m以上の高地に棲息するようだ。
書き忘れたが、画像の上が♂で下が♀である。アズミに一番近い種とされるが、雌雄の判別は簡単だ。カトカラ属特有の雌雄の差異が見てとれる。
(@_@)クソー、何なんだよ、アズミー。

 
【和名】

アズミキシタバのアズミは安曇野が由来だろうと思っていた(因みに本来の仮名遣いは「あづみの」で「あずみの」は現代的な仮名遣い)。
しかし、白馬村に安曇野と云うイメージはない。安曇野はもっと南の筈だ。違和感を感じたので調べてみると、安曇野は長野県中部(中信地方)にある松本盆地のうち、梓川・犀川の西岸から高瀬川流域の最南部にかけて広がる扇状地全体のことだそうだ。
「安曇野」が指し示す市町村範囲として明確に画定された線引きは無いが、概ね安曇野市、池田町、松川村、大町市南部の4市町村と松本市梓川地区(旧・梓川村)とされているようだ。ほらね。つまり白馬村は含まれていない。
じゃあ何でそんな名前をつけたのだ(・o・;)❓
更に調べてみると、どうやら白馬村は北安曇郡に含まれるんだそうだ。なるほどね。けど奥歯に何かが挟まったようで、完全には納得してない。どこか正確性に欠けるような気がするからだ。嫌いな和名じゃないけど、そんなんでいいのか?…。
でも『キタアズミキシタバ』だと、また変な誤解を生じさせそうだ。まあ、アズミキシタバという言葉の響きは好きだから、べつにいいんだけどね。

 
【分布】


(出典『日本のCatocala』)

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
例によって上が分布域図、下は県別の分布である。
長野県白馬村、新潟と福島の県境にある奥只見のみに棲息するとされてきたが、2017年に群馬県土合、2018年には長野県伊那谷での採集が報告されている。とはいえ、どちらもその後に追加記録は無いようだ。
おそらく日本では最も分布域の狭いカトカラだろう。おそらくと言ったのは、去年(2019年)にマホロバキシタバが発見されたからだ。現時点では分布の狭小性は同じくらいなのだ。けど、今後マホロバは各地で新たな分布が確認される可能性が高い。ゆえに最終的にはアズミの、その座は揺るがないだろう。

国外では朝鮮半島、アムール(ロシア南東部)、中国東北部に分布する。日本では極めて分布域が狭いけれど、大陸には広く分布するようだ。何で日本だと超局地的分布になるワケ❓全然もって理由がワカラン。
コレについては、世界的なカトカラの研究者である石塚勝己さんも自著『世界のカトカラ』で以下のように述べられている。

「地史的にはナマリキシタバより新しい時代に日本へ侵入してきたと思われるが、何故日本国内の分布がこのように狭いのかは謎である。」

石塚さんでもワカランのだから、ワシに分かるわけがないのである。
幼虫の食餌植物は、やや珍しいものではあるが、アズミほど分布が局所的ではないからね。食樹があって、気候・環境ともあまり変わらない場所は他に幾らでもあるのだ。考えられるとすれば、フォッサマグナとかかなあ…。でもハイモンキシタバとノコメキシタバの回でエラい目にあってるから、アンタッチャブルだ。どうせ素人如きでは話がデカ過ぎて答えは出ないだろうし、徒(いたずら)に文章が長くなるだけだから止めとく。
もしかして日本で独自進化した別種だとかいう論も浮かんだが、コレも深堀りは止めとく。理由は同じざます。

 
【レッドデータブック】

環境省:準絶滅危惧(NT)
新潟県:準絶滅危惧(NT)

 
【成虫出現月】 7〜8月

西尾規孝氏の『日本のCatocala』には「白馬村でのピークは7月下旬から8月上旬」とあったが、『世界のカトカラ』では「新鮮な個体は7月一杯である。」となっていた。また、ネットの『ギャラリー・カトカラ全集』では「新鮮な個体を採集するには7月中旬頃がよさそうだ。」としている。地球温暖化で発生期が早まっているのかもしれない。
しかし、標高の高い棲息地では8月に入っても新鮮な個体が得られるとマオちゃんから聞いている。
尚、飼育下では寿命が2〜3週間と短く、野外でも発生期はそれくらいだろうと推定されている。
発生期はその年により1週間程度のズレはあるだろうから、寿命が短いだけに適期を当てるのは難しい種かもしれない。

 
【開張】 40〜45mm

日本のカトカラ属の中では最も小さいとされている。
確かにチビッコで、初めて見た時は思ってた以上に小さくて少し驚いた。

たまたま同じ展翅板にチビっ子カトカラの代表であるマメキシタバが乗っていたから、更にその小ささに驚いたよ。

 

 
ほらね。バリ小さいことが解る人には解るっしょ。
最大種であるムラサキシタバと比べればゴジラと人、巨人と侏儒(小人)ほどの差異がある。
ちなみに、真ん中はカトカラとは全然関係ないキバラケンモンでありんす。

 
【成虫の生態】

食樹イワシモツケが群生する蛇紋岩地では比較的多産する。
しかし、白馬村では姫川上流の八方尾根から下流の平川氾濫原まで広く見られたが、1980年代以降は別荘地開発や砂防工事等により激減したという。これは自然破壊により食樹そのものが減ったこともあるが、砂防工事で撹乱が起きなくなってミズナラ等が侵入して森林化が進み、イワシモツケの生育には適さなくなり衰退したからだとも言われている。

奥只見でヤナギの樹液に飛来したものが観察されているが、ごく少数のみのようだ。噂では、あまり樹液には誘引されないと聞く。糖蜜トラップで採集したという話も聞いたことがない。
ちなみに自分は糖蜜を試したことはない。ポイントに着いた頃には真っ暗だったし、荒れ地で周りに糖蜜を噴きつけるような木が見当たらなかったからだ。今思えば、岩や石に噴きつければ良かったのかもしれない。
いや待てよ。2019年に試してるわ。しかし、生息地の崖下で試してみたが、一つも飛んで来なかった。ちなみにベニシタバとキシタバは飛来したから、糖蜜そのものに問題はなかったと思われる。いや、好む配合はあるかもしれないゆえ、断言は出来ないか…。あとは日付が8月日で、しかも最も標高の低いポイントだったせいもあるかもしれない。発生が既に終わっているか、終わりかけていた可能性はある。来年、機会があったら、再挑戦しようと思う。

キク科ヒヨドリバナ属やリョウブの花に飛来した観察例がある。

 
(ヒヨドリバナ)

 
(リョウブ)

 
もしかしたら、樹液よりも花の蜜を好む種なのかもしれない。
とはいえ、でも生息地に両方ともあったけど、一つも見なかったな。チビだけに、あまり多くの餌を必要としない種なのかもしれない。

またアブラムシのコロニーでの目撃例もある。これはアブラムシの甘露も餌としている可能性を示唆している。

ライトには夜半過ぎに多く飛来するという。
2020年は午後10時20分頃に現れ、次第に数を増し、午前0時過ぎから1時過ぎまでが飛来のピークだった。多くは崖の下から昇ってきて、地面を這うように飛翔してライトに近寄って来た。しかし辿り着けずに地面に静止するものの方が圧倒的に多かった。そしてライトトラップの白布の下部に止まり、上部に止まるものは1つもいなかった。但し、これはブラックライトを下部に設置したのが原因かもしれない。とはいえ、他のカトカラは上部に止まっていたけどもね。印象としては地這いカトカラだ。 
そして極めて落ち着きがなく、近づくと敏感に察知して飛び、ワチャワチャに地面で暴れ回るのでたちまちボロ化する。尚、この日の天候は曇り時々雨で、小雨が降り始めると活性が入る傾向にあった。但し、多く飛んで来る時間と偶々重なっただけかもしれない。

日中は頭を下にして蛇紋岩や木の幹に静止しているが、木の幹で発見されることは少なく、大半は蛇紋岩で見つかる。とはいえ、上翅が岩肌と同化して発見は容易ではないようだ。

 

(出典『日本のCatocala』)

 
驚いて飛翔した時は、上向きに着地して直ぐに姿勢を下向きに変える。その際、後翅の黄色を見せ、それがよく目立つという。

交尾は深夜午後11時から午前0時の間に行われるようだ。
飼育では羽化時には既に♀の卵巣が成熟しており、羽化直後に交尾・産卵することが確認されている。これは寿命が2〜3週間と短いためだろう。

産卵行動は西尾氏により1993年 8月13日に白馬村で観察されている。1頭の♀がイワシモツケの株の根元のスナゴケに産卵管を差し込んでいたという。よくそんなの見つけられるよね。西尾さんって凄いと思うわ。

 
【幼虫の食餌植物】

バラ科:イワシモツケ


(出典『Wikipedia』)

 
(花)

(出典『山川草木図譜』)

 
(葉)

(裏面)

(出典『三河の植物観察』)

 
学名 Spiraea nipponica。
バラ科シモツケ属の落葉低木。漢字で書くと「岩下野」となる。日本固有種で、近畿地方以北に分布し、高い山地の蛇紋岩地や石灰岩地に生育する。
高さ1〜2mになり、よく分枝する。若い枝は淡褐色、古い枝は黒褐色を帯びて毛は無い。
葉は変異が多く、狭長楕円形、倒卵形、倒卵円形、広楕円形または楕円形になり、近縁種とされてきたマルバシモツケとナガバシモツケは現在では同種とされている。葉質は厚く、両面とも無毛で、裏面は粉白色はたは淡色。縁は全縁か先端に2〜3個の鈍鋸歯があり、互生する。
花期は5〜7月。5弁花を多数つける。

幼虫は幼齢木には殆んど付かず、よく繁茂した大きな株に発生する。
野外ではイワシモツケのみからしか幼虫が発見されていないようだが、ヤブデマリ、コデマリ、ユキヤナギでも飼育は可能。累代飼育も容易に出来るようだ。

従来、食樹を同じくするナマリキシタバとの混生地は見つかっていないとされてきたが、最近になって白馬村の高標高地で混生地が見つかっている。

 
【幼生期の生態】

幼生期については、毎度の事ながら『日本のCatocala』に全面的にお頼りする。

 
(卵)


(出典『日本のCatocala』)

 


(出典『flickriver』)

 
卵は背の高いまんじゅう型で、縦隆起条と横隆起条は太い。環状隆起は低いが変異に富み、全く認められないものから3重になるものまである。見た目はナマリキシタバやコガタキシタバに似るが、アズミは横隆起条の間隔が広く、ナマリは狭い。またコガタは気孔がよく目立つことから判別できる。

ナマリキシタバと成虫や卵、幼虫が似ているし、食樹も同じだから両者はてっきり近縁関係にあると思っていたが、どうやら類縁関係は認められていないようだ。(・o・)えっ、そうなのー❓

一応、DNA解析図で確認してみよう。

 

(出典『Bio One complate』)

 
石塚勝己さんが新川勉氏と共にDNA解析した論文の中のものである。
図はピンチアウトして拡大できるが、ピックアップしよう。

 

 
(/ロ゜)/ありゃま。アズミの下には何と”C.nubila”、ゴマシオキシタバの名前があるじゃないか。

 
(ゴマシオキシタバ♀)

(2020.8 奈良県吉野郡)

 
全然、アズミとは見た目が似てない。ホンマに近縁種❓

ナマリ(C.columbina)とはクラスターが違ってて、図では離れた位置にあるように見える(系統図の上部)。
そしてナマリの上には”C.bella(ノコメキシタバ)”があるじゃないか。同じバラ科を食樹とするくらいで、2つの種の見た目は全然似てない。因みにワモン(C.xarippe)&キララ(C.fulminea)も大きな意味で、このクラスターに含まれる。
つまり、この図を信じるならば、アズミとナマリの両者に近縁関係はないと云うことだ。共にカトカラの中では小型だし、前翅もわりと似てるのにね。
DNA解析は、従来の見た目での分類とは随分と違う結果が出るケースもある。蝶なんかはワケわかんなくなってるものが結構いるから、見た目だけで種を分類するのには限界があるのかもしれない。オサムシを筆頭に、違う系統のものが食物や環境を同じくする事によって姿や形が似通ってくるという、いわゆる収斂されたとする例も多いみたいだしさ。
まあ、とは言うものの、DNA解析が絶対に正しいとは思わないけどもね。

飼育条件下での孵化は深夜から夜明け前。孵化時期は冬季の積雪に左右されるが、白馬村では5月下旬から6月上旬。

 
(1齢幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
(2齢幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
(終齢(5齢)幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
幼虫は日本のカトカラでは最も小さく、野外にいる幼虫は多少の色彩変異が見られ、奥只見では黒化したものが見つかっている(白馬村では未発見)。

 
(奥只見産5齡幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
ナマリキシタバの幼虫とやや似るが、アズミは赤みがかり、ナマリは灰色がかる。また、頭部の斑紋が異なる。

 
(アズミキシタバ頭部)

 
(ナマリキシタバ頭部)

(出典『日本のCatocala 』)

 
似ているが、細かに見るとかなり差異がある。やはりカトカラの幼虫の識別には顔面の模様が重要な鍵となるんだね。

一応、DNA解析では一番近い関係とされるゴマシオキシタバの幼生期も確認しておくか。

 
(ゴマシオキシタバの卵)

 
(終齡(6齡)幼虫)

(終齡幼虫頭部)

(出典 以上4点共『日本のCatocala』)

 
(⑉⊙ȏ⊙)全然、似てへんやないけー❗
こんなの近縁種とは思えない。終齢の齡数も5齡ではなく、6齡だし、そもそも食樹はバラ科ではなくてブナ科のブナだ。
だから、DNA解析って今イチ信用できないんたよねー。

アズミの幼虫の生態の話に戻ろう。
昼間、若齢幼虫は食樹の枝に静止している。6月下旬、終齢になると食樹の下方に降りるようにもなる。4、5齢幼虫は枝先の葉柄部と茎を残すので、食痕を探せは見つけやすいという。
自然状態での蛹化場所については知られていない。

アズミキシタバは分布が局地的で、貴重なカトカラだ。
自分で採っといて言うのもなんだけど、いつまでも命を繋げ続けていって欲しいと思う素敵なカトカラだ。
これ以上「黄衣の侏儒」たちの生息地が破壊されない事を切に願う。

                        おしまい

 
追伸
小タイトルの『黄衣の侏儒』は芥川龍之介の『侏儒の言葉』がモチーフになっている。
「侏儒」とは、背丈が並み外れて低い人。つまり小人の事だ。アズミキシタバは小さいので、それになぞらえたワケだが、別な意味も込められている。侏儒には他の意味もあって、見識のない人を嘲っていう言葉でもある。謂わば、長野県に対しての嫌味である。砂防ダムとオリンピック道路の建設の結果、アズミキシタバが激減したと聞いている。
まあ、砂防ダムは岩石や砂が押し寄せてくるのを防ぐためだから必要だろうし、致し方のない面はあると理解できる。でもオリンピック道路は経済のためだろう。あっ、やめておこう。言い出したら止まんなくなりそうだ。アッチにも色々と事情は有るだろうしね。

追伸を書いてる途中で、思い出した。
そういや、裏展翅した♂らしきものの展翅前の画像を載せるのを忘れてたよ。

 

 
冒頭部分のコレの事ね。
で、展翅前の画像がコレらだ↙

 

 
コレで光明が見えた。
明らかに尻先が尖らず、丸みがある。たぶん毛が多いからだ。

続いて裏返す。

 

 
腹部が細くて、尻先が尖らずに丸みがあり、毛が♀よりもやや多い。
何だよー、これらの画像をもっと早くに載せていたら、こんなに泥沼迷宮にならなかったのにぃー(>o<)ノ

ここに改めて雌雄の識別法を書こう。

 
(アズミキシタバ♂)

 
♂は横から見ると、尻先が尖らずに丸みを帯びる。

 
(アズミキシタバ♀)

 
♀は尻先が尖り、毛束が少ない。
こんなに♀らしきものばかり並べたのは、ようするに♀の時期だったとゆうこともあるが、それなりに意図するところがある。後で、それについては書く。

ひっくり返した画像も検証しよう。
個体の並びは横からの画像と同じ並びである。

 
(♂)

 
同じく尻先は尖らず丸くなり、毛がやや多い。
そして腹部は全体的に細い。

 
(♀)

 
腹部が太く、尻先が尖る。

一応♂の裏展翅の♂を除いて、それぞれの展翅画像も貼りつけておこう。

 
(♂)

 
(♀)

 
改めて展翅画像を見ても、明確な識別法はコレと言えるものがない。腹部の長さはまちまちだし、♂とした中の一番下などは尻先に毛束があるけど腹が太いから♀にも見える。冒頭で♀とした裏面画像(採集当日に野外で撮影したもの)はコレとおそらく同一個体である。もしかして♀だったりしてね。
こうして♀ばかり並べた意図はそこにある。ようするに♂はまだ比較的同定しやすいが、問題は♀なのである。カトカラを見慣れたものが同定に苦しむのは、まさにそこにある。乱暴な言い方をすれば、♂らしい♂は割りかしいても、♀らしい♀があまりいないのだ。完全に♀と言い切れるのは冒頭ハゲちょろけの♀くらいだ。何かのメタファーかよと言いたくもなる。ったくもー。

最後にコレも貼付しておこう。

 

 
方程式に従えば、これは♀とゆう事になる。
因みに上図は冒頭一番最初に♂とした個体である。
コレの事ね↙

 

 
つまりは誤同定だった可能性が高い。思うにアズミは表側からの同定は極めて難しいとも言えよう。どうりで混乱するワケだ。
とはいえ、今もって裏からの識別法が100%と合ってるかどうかはムチャクチャ自信が有るってワケでもないんだよね…。コレ、見当違いだったら相当カッコ悪いけど、そん時はまあ仕方がないよね。

まさか雌雄の識別に、ここまで翻弄され、紙数を費やすとは思いもよらなかった。想定外も想定外である。いっそのことタイトルは『呻吟、オカマ街道2020』とでもすべきだったかもしれない。いやはや、ホント疲れました。

次回、『雷神降臨』。まだ一行も書いてないけど、これまた苦行を強いられる事、想像に難くない。又もや長い道程の回になりそうだ。

 
ー参考文献ー

◆西尾規孝『日本のCatocala』

◆石塚勝己『世界のカトカラ』

◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』

◆江崎俤三『原色日本産蛾類図鑑』

 
(ネット)
◆カトカラ同好会『ギャラリー・カトカラ全集』
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆Wikipedia
◆『山川草木図鑑』
◆『三河の植物図鑑』

 

2020’カトカラ3年生 其の壱

 

    vol.24 アズミキシタバ

   『白馬わちゃわちゃ狂騒曲』

 
 2019年 8月2日

一瞬、自分が何処にいるのか分からなくなる。
ひと呼吸あって、黄緑色のテントの天井に焦点が合う。寝起きの澱んだ脳ミソが、それでようやく自分の置かれている状況を認識した。そうだ、長い長い電車移動の果てに、この湖までやって来たんだったわさ。
マホロバキシタバ(註1)の分布調査が一段落したので信州遠征に出たのだ。また過酷な虫捕り旅が始まったってワケだ。
目的は会ったことのないカトカラ(シタバガ属)たちを採るためである。マホロバという国内新種を見つけたのにも拘らず、カトカラの採集を始めてまだ2年目のペーペー、採ったことのないカトカラがまだまだある。新種を見つけておいて、他のカトカラはあまり採った事が無いというのではカッコがつかない。だから10月の発表までに少しでも採集種類数を増やしておこうと思ったのだ。この時点では、マホロバを含めた全32種のうちの20種しか採れておらず、あと12種類も残っていたのである。

テントから出て歯を磨きに行くと、湖が見えた。

 

 
昨日は日没間近に着いたから気づかなかったけど、こんなにも碧くて綺麗な湖だったんだね。
同時に昨日の苦い記憶が甦ってくる。湖の周辺でミヤマキシタバ(註2)を狙うも擦(かす)りもせずの惨敗だったのだ。
こんだけロケーションが良いのなら、もう1日いてもいいかなと思った。昼間はじっくりミヤマの食樹であるハンノキを探しながら湖畔を散歩するのも悪かない。
しかし、昨日の貧果から多くは望めないと考え直した。もう1回アレを繰り返したら、ハラワタが煮えくり返ってホントに奴らに危害を加えかねない。
ちなみに奴らとは↙コイツの事である。

 
(フクラスズメ Arcte coerula)

(出典『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)

 
コヤツ、カトカラじゃないし、デブだし、醜くてマジキモい。
それに一瞬だけ佳蛾ムラサキシタバ(註3)に見えて、あらぬ期待を持ってしまうから💢イラッとくる。

 
(ムラサキシタバ Catocala fraxini ♂)

(2019.9月 長野県松本市)

 
オマケに普通種のクセして妙に敏感で、こっちはさらさら採る気もないのに大袈裟に逃げてゆくのも腹立たしい。何だかそれがバカにされてるようで(-_-メ)超絶ムカッとくるのだ。なので標本は一つもない。なので岸田先生の図鑑の画像をお借りしたのである。

とにかく、此処で目的のミヤマが採れる気がまるでしない。そうゆう時は自分の勘に素直に従うべきだ。今までだってそうだし、これからだってきっとそうだ。己の勘を信じよう。湖を後にして、白馬村へと向かう。

 

 
又してもキャンプ場なのさ。ボンビー旅行なのもあるが、宿に泊まれば自由が効かない。何てったって蛾採りは夜がメインなのだ。しかも深夜に及ぶことが多い。宿泊してると、おいそれと夜に出歩くワケにはいかぬのだ。要らぬ心配や迷惑をかけたくない。

取り敢えず、ここを拠点にして各所を回るつもりだ。
狙いはアズミキシタバ、ノコメキシタバ、ハイモンキシタバ、ヒメシロシタバ、ヨシノキシタバである。こんだけ居りゃあ、どれか1つくらいは採れんだろ。

温泉入ってテント張ったら、もう夕方になった。
蜩(ひぐらし)の悲しげな声が辺りに侘しく響く。その何とも言えない余韻のある声を聞いていると、何だかこっちまで物悲しくなってくる。夏もいつかは終わるのだと気づかされてしまうからだ。でも、そんな夏の夕暮れこそが夏そのものでもある。この気持ち、何となくノスタルジックで嫌いじゃない。

岩に腰掛けて、ぼおーっと蜩たちの合唱を聞いていたら、サカハチチョウがやって来た。

 

 

夕暮れが訪れるまでの暫しの時間、戯れる。
こちらにフレンドリーで穏やかな心さえあれば、案外逃げないものだ。慣れれば手乗り蝶も意外と簡単。心頭を滅却して無私になれない人はダメだけど。
たぶん20分以上は遊んでたんじゃないかな。お陰さんで心が癒やされたよ。ありがとね、サカハっちゃん。

この地での最初のターゲットは、アズミキシタバだ。
近くの崖にいると聞いている。だが、ぼんやりとした不安が心の隅に蹲(うずくま)っている。

 

 
何となく見覚えのある場所だと思ったら、西尾規孝さんの名著『日本のCatocala(註4)』に載っていた場所と同じだ。しかし様相は随分と変わっている。

 

(出典『日本のCatocala』からトリミング。)

 
たぶん2000年代前半以前に撮られた写真だろう。今と比べて広範囲に岩が露出しており、アズミの食樹であるイワシモツケには適した環境だ。しかし現在は周囲からミズナラなどの木が侵入してきていて、どう見ても環境は悪化している。とゆうことは確実にアズミの数は減っているという事だ。それに此処は標高が低いから発生期のピークは過ぎているものと思われる。果たして採れるんかね❓

とはいえ、悪い事ばかりじゃない。
崖の近くにはアズミが吸蜜に訪れるというヒヨドリバナとリョウブの花があった。

 
(ヒヨドリバナ)

 
(リョウブ)

 
樹液にはあまり来ないとも聞いていたから、これならたとえトラップがダメでも何とかなる可能性はある。実力はさしてないけど、引きだけは強いと言われるワタクシだ。何とかなるっしょ。

夕焼けにバイバイしてから崖下に行き、木に霧吹きで糖蜜を吹き付けてゆく。
アズミキシタバが糖蜜トラップで採れたという話は聞いた事がないが、カバフキシタバ(註5)だってタコ採りの我がスペシャルレシピだ。寄って来るじゃろう。ワシがアズミも糖蜜で採れるという事を証明してやろうではないか。ψ(`∇´)ψケケケケケ…。

幸先良く、直ぐにベニシタバ(註6)がやって来た。
٩(๑´3`๑)۶ほら、見さらせじゃ。

 

 
昨日も採れたけど、嬉しい。元来ベニシタバは💖好きだもんね。それに発生初期であろうこの時期のベニシタバは格別に美しいのだ。

しかし、さあこれからというと段になって、⚡ガラガラピッシャーン❗本気の雷雨がやって来て、チャンチャンで惨敗に終わる。
🎵ズタズタボロボロ、🎵ズタボロロ~。
そして、その後も此の地でことごとく敗退。新しきカトカラは何一つ採れず、泥沼無間地獄の3連敗となる。でもって、秋田さんや岸田先生に「マホロバの発見で、今年の運を全部使い果たしたんじゃないのー。」と揶揄される始末。

 
2020年には、前から買う買うと言っていた小太郎くんが遂にライトトラップのセットを購入した。
なので即座に尻尾を振りまくり、アズミ遠征の約束を取り付けた。去年の惨敗と、その後の調べでアズミはライトトラップ無しでは採るのが難しいと痛感したのだ。この際、形(なり)振りなんか構ってらんない。でも以後、小太郎くんには事あるごとに「アズミ、行くの止めよっかなあー。」などとイジメられ続けたよ。世の中、持つ者と持たざる者とでは、常に持たざる者は虐げられる運命なのだ(笑)。

問題は、お天気である。もし晴れならば、新月でもなければ効果はあまり期待できない。灯火採集に月夜はヨロシクないんである。夜間に活動する昆虫は月の光を頼りに行動していると言われている。だから曇っている方が条件的には良い。月の光に影響されないからだ。詳しい説明は長くなるので割愛するが、とにかく虫たちは月の光と間違えて人工光に吸い寄せられる。
かといって同じく月が隠れる雨もヨロシクない。雨でも蛾は平気で飛んで来るらしいのだが、雨で羽が濡れてボロ化しやすいからマズイんである。それに小太郎くん曰く、雨はライトトラップセットの故障の原因にもなりやすいそうだ。
あとは風が強くてもダメだし、気温が低過ぎるのもヨロシクないと言われている。灯火採集は案外と条件がシビアなのだ。その点、糖蜜採集は楽だ。強い雨や気温が低い以外は、あまり天候に影響されない。自分的には糖蜜トラップの方が性格的には合ってる。ライトトラップは荷物の量が多いし、用意と後片付けとか面倒くさいのだ。あとは待つのが大嫌いな性格とゆうのもある。糖蜜トラップも一見待ちの採集だが、ポイントを巡回するのでアクティブなのだ。網を使う機会も多いしね。動的な採集の方が自分には合ってる。だからライトトラップの時は、今一つ気合が入らない。とはいえ、今度ばかりは気合が入っている。アズミには、そこそこ憧れてるし、絶不調続きで今年はまだ未採集のカトカラを一つも採れてないんである。

 
 2020年 7月26日

天気予報は雨模様で微妙だったが、イチかバチかでGOする事に決定した。この機会を逃すと、時期的に鮮度が良いものは望めないからだ。いくら沢山飛んで来ても、ボロばっかじゃ意味ないのだ。
博奕を打てない奴に良い虫は採れない。でも、どちらかというと予報は悪い方に傾いている。強い雨ならば、ライトトラップは中止にせざるおえない。とはいえ、小雨程度ならガスが掛かり、むしろ絶好のコンディションになるかもしれない。謂わば、我々はゼロ百の状況下にあるのだ。
雨予報でも晴れさせてしまうスーパー晴れ男のワシの力をもってすれば大雨は有り得んとは思うが、最近は何をやっても上手い事いかんしなあ…。こんなとこまで来てダメだったら泣くに泣けんよ。いや、( ;∀;)ダダ泣きさ。どうにかなることを心から祈るよ。

白馬村に入る頃には完全に日が暮れて、夜の帳がおりた。
場所の選定は山の中腹と高地の2箇所で、まだどちらにするか決めかねている。鮮度を考えれば高標高のポイントだが、細かいポイントは知らない。一方、中腹は小太郎くんが場所を詳しく聞いているから確実性は高い。だが、鮮度は落ちている可能性が大だ。ここが運命の分かれ目、思案のしどころである。

相談の結果、高標高のポイントを目指すことにした。もしポイントが見つからなければ、中腹ポイントに変更すればいいと判断したのである。アズミのライトへの飛来は夜半過ぎだと言われている。だから時間的にそれでも何とかなると踏んだ。夜遅くに飛んで来る蛾は待つのがウザいのだが、こうゆう場合は寧ろ助かる。周囲の環境や天候等々、様子によっては、そのポイントを捨てて移動することだって可能なのである。

小雨降る中、車は山へ向かう道へと入ってゆく。
すると、ガスり始めてヘッドライトの前を蛾がワンサカ飛びだした。完全に活性が入ってるって感じで、絶好のコンディションだ。このまま天気がもてば、何とかなる。どころか大爆発だって有り得る。心が期待でグンと膨れ上がる。

しかし着いた場所は真っ暗けで、周囲の環境が全然ワカラン。どこにライトを設置すれば良いのか、さっぱりワカランぞなもし。それでもこの状況ならば、たとえポイントを少々ハズしていたとしても1つや2つは飛んで来るだろう。
けど、嫌な予感がしないでもない。今シーズンのワシはマホロバもカバフもあんまり採れてなくて、絶不調がバリ続いているのだ。何が起こるかワカランのだ。慎重に状況を把握してから決断すべきだ。
考えてみれば、標高が高ければ高いほど雨になりやすい。高い分だけ気温が低いのも気にかかる。気温が低いと虫の活動は鈍くなるのだ。ゆえに確実に採れる場所である中腹を選択すべきではないかと思った。
小太郎くんは此処でやる事を望んでそうな素振りだったけど、ここは譲ってはならぬと感じた。なので、半ば強引に中腹でやることを主張した。小太郎くん、ゴメンね。&譲ってくれてアリガトね。

一旦、山を降り、別なルートを登り返して中腹ポイントを目指す。さあ、気持ちをリセットしてアズミをテゴメにしてやろうじゃないか。

ポイントは人に詳しく聞いていなければ、夜だと絶対に辿り着けないような場所だった。マジ真っ暗けだ。さっきの比じゃない漆黒の闇だ。

幸い雨は止んでいる。
けど寒い。途中で上着を忘れたのに早めに気づき、「GU」で買っといて大正解だったよ。良い兆候だと考えよっと。今日はツイてるから大丈夫だと自分に言い聞かせる。何につけ、ちょっとした事でもメンタルを強化しとくのは大切なのだ。

時計を見ると、早くも午後8時半近くになっていた。
ソッコーで今夜の屋台を組む。

 

 
何だかんだで結局ライトが点灯したのは、たぶん9時になる10分前くらいだった。

 

 
ほぼ雨は止んでいたが、傘つきの雨仕様になっておる。
とはいえ、活躍はあまりしてくれない事を祈ろう。どうか大雨にだけはなりませぬように👏

午後10時。
小太郎くんが突然椅子から立ち上がり、小走りに駆け出した。

えっ❗❓、えっ❗❓、えっ❗❓、もう飛んできたの❓

慌てて、自分も後を追っかける。

小太郎くんがライトトラップの裏へと回った。ねっ、ねっ、アズミなのー❓何か言ってくれよー。

コレ、密かに狙ってたんすよー❗

見ると、手にケバいくらいの派手派手な蛾を持っている。しかも、デカい。
(⑉⊙ȏ⊙)見たことあるぞー、ソレ。

 

 
ジョウザンヒトリである。
ワシも会ってみたかった蛾の一つだ。思ってた以上にデカいんで驚いたよ。それに想像していた以上に美しい。百聞は一見に如かずだね。何だって実物が一番美しくて、生きているオーラがある。

午後10時20分くらいだったと思う。
再び小太郎が慌てて走り出した。

いたっ❗いました❗たぶんアズミに間違いないです❗

しかし、飛んで逃げて忽然と姿を消した。(ㆁωㆁ)マジかよ❓
絶対に、まだ近くにいる筈だ。二人で辺りを探し回る。
思った通りだった。しかし何度か地面にいるのを見つけるのだが、クソ忌々しい事に直ぐに飛んで逃げよる。それを数度繰り返す。何でライトの近くまで寄ってこんの❓

暫くして、ようやくブラックライトまで近寄ってきたのを小太郎くんが見つけた。
白布で行き止まりだから、もう袋のネズミだ。余程の事がない限りは採れるだろ。これで、やっとこさ間近でじっくりと眺められる。小太郎くん、ゲットよろしくー。

しかーし、(⑉⊙ȏ⊙)あちゃま❗、何とブラックライトの隙間に入っていきよるー❗

こりゃ、ボロ化必至だな。
肉を切らして、骨を断つ。それでも小太郎くんは意地で何とか無理矢理ゲットした。

で、見せて貰ったけど、あちゃーの背中ズル剥けになってた。
小太郎くん、御愁傷様(´ε` )
それにしても、思ってた以上に小さい。マメキシタバ(註7)よか小さい。ここまでくると、もう小人ちゃんレベルだな。
とはいえ、実物を見て俄然やる気が出る。

けれど後が続かない。表情には出さないようにしてはいたが、心の中は相当波立っていた。このまま二度と飛んで来ないのではと考えると、胸が締めつけられそうだった。やっぱ絶不調のスパイラルにハマったまんまなのか…。いい加減、勘弁してくれよ、ジーザス。

11時過ぎ。
ようやく自分にもチャンスが巡ってきた。
ふと何気に地面を見たら、ペタッと止まっていたのだ。けどコヤツも同じように敏感で直ぐに飛び立った。目を切らずに姿を追い掛け、止まった辺りに目を凝らす。どこよ、どこー❓地面と同化して、よくワカンナイ。焦燥感が心を撫でる。

(☆▽☆)いたっ❗

けど、必死で毒瓶を被せようとしたら、すんでのところで逃げやがった。クソッ(-_-;)、マジかよ。でも飛びそこねて、ひっくり返りよった。

ダメー❗(༎ຶ ෴ ༎ຶ)ボロになっちゃうー。

ヽ(`Д´#)ノえーい、もうどうなってもええわい。とにかく何でもいいから採らなきゃ来た意味がない。強引に毒瓶を被せた。

中を見ると、ちゃんと毒瓶に収まっている。
(´д`)フゥー、何とか採れたよ。
毒が回り、ほぼ動かなくなったところで、やや震える指先で手のひらに乗せる。

 

 
(・o・;)ちっちゃ❗
そして、暴れ倒したので、ワシのも背中がハゲちょろけて見事なまでの落ち武者化しとるー。(;´д`)トホホのホー。

 

 
ちっちゃいけど、後翅の黄色が鮮やかで綺麗だ。前翅も複雑な紋様でカッコイイ。

腹や羽の形からすると、♀かな❓
それに尻先に毛束があまり無いような気がするもんね。カトカラの♀は♂と比べて腹が短くて太く、尻先の毛の量が少ない傾向がある。また翅形は丸みを帯びることが多い。

確認のために裏返してみる。

 
(裏面)

 
 
裏面は、どって事ない。どう見ても美しいとは言えないやね。
それに随分と擦れてる。時期的にもう遅いのかな❓それとも暴れて擦れたせいなのかな❓判断に苦しむところだ。
あれっ❗❓、♀と思ったけど尻先に縦スリットが入ってないし、産卵管も見えない。って事は♂❓

午前0時前。
ようやくマシなのが採れた。

 

 
(・o・;)やっぱ、ちっちゃ〜。

 

 
これは腹が細く、尻先に毛束があるから♂だろう。
じゃあ、最初のはどっちだったのだ❓
まあいい。数を採ってりゃ、そのうち自ずと分かってくるだろう。

2頭目を三角紙に収めたところで、雨がパラパラと降りだした。
このまま小雨で踏み堪えることを祈ろうと思って歩き出したら、また地面に止まっているのがいた。今度は崖の縁だ。

『いたっ❗』
と言ったら、一拍おいて小太郎くんも
『こっちもいましたあー❗』
と声を上げる。そして次の瞬間には、
『あっ、アッチにもコッチにもいます❗』
と叫んだ。
目を戻すと、視界に何かが入った。
(⑉⊙ȏ⊙)わちゃっ❗❗
コッチも2つ3つ飛んどる❗

雨で活性が入ったのかもしれない。そこから先は、祭が始まった。次から次へと崖の下からアズミが湧くように這い昇って来た。
でも相変わらず白布には止まらず、落ち着きなく地這い飛びしとる。歩くと複数が地面から飛ぶし、もうワチャワチャだ。それを二人とも中腰で右往左往で追いかけ回しているから、滑稽きわまりない。もし第三者が見ていたとしたら、泥鰌掬いのおっさんショーに見えたかもしれない。そして、採っても採っても地面で暴れて次々とボロ化してゆくから、その泥鰌掬いの動きに拍車がかかる。早く採らないとボロボロになってしまうから必死なのだ。もうワシらまでワチャワチャの、わちゃわちゃダンスパーティーなのだ。

狂騒曲は午前1時過ぎまで続いた。
一段落し、何だかバカバカしくって二人して笑う。

気がつけば、いつのまにか雨は上がっていた。

                        おしまい

 
後日談を少し書く。
深夜2時くらいに撤収して山を降りたら、晴れてきて星まで出てくる始末。そして、昼間にコヒョウモンモドキの様子を見に乗鞍まで行った時にも晴れてきた。天気予報は完全に悪かったから、やはり我ながらスーパーな晴れ男なのである。
とは言うものの、その後は土砂降りだったけどね。
で、その日に帰宅したのだが、2頭だけ展翅して睡魔に勝てず、残りを冷凍庫にブチ込み昏倒。以後、今まで1つも展翅してない。
一応、その時の展翅画像と昼間に見たらこんなんです画像を添付しておこう。

 

 
昼間に見ると、よりいっそう美しいことが解る。
下翅の黄色はキシタバ類の中でもトップクラスの鮮やかさだ。上翅もカトカラの中では見たことのないような独特の渋いグレーで、複雑な模様はデザイン性が高い。
とはいえ、激ちっちゃいけどさ。もう少しデカけりゃ、評価はもっと高いのにね。せめて中型サイズくらいあればなあ…。

 
【Catocala koreana azumiensis アズミキシタバ♂】

 
【同♀】

 
スーパー落武者にさせてしまったなりよ(´ε` )
触角も真っ直ぐに出来てないし、胴体も縒れてるしさ。
まあ睡魔に勝てずに力尽きたと云うこってすな。

 
追伸
こうして文章を書いていると、改めて場所の選択は正しかったんだなと思う。高標高側のポイントだと、ずっと雨だったんじゃないかという気がする。たぶん気温も更に下がっていただろう。
それに何よりアズミキシタバは殆んどが上からではなく、下側から飛んで来たからね。

2019年の採集記は他の回とも繋がっており、今のところ前後の話はベニシタバとミヤマキシタバ、ハイモンキシタバ、ノコメキシタバの回と繋がっている。どっかに憎悪のフクラスズメとの戦いも書いてある。おそらく今後、ヒメシロシタバやヨシノキシタバ、ケンモンキシタバの回ともコネクトしてゆく事になろう。御興味のある方は読んで下され。

 
(註1)マホロバキシタバ

【Catocala mahoroba ♂】

(2019.7月 奈良市)

 
2019年に日本で新たに見つかったカトカラ。新種が期待されたが、結局は台湾の”Catocala naganoi”の新亜種に収まった。
拙ブログに『真秀ろばの夏(2019’カトカラ2年生 其の3)』の前・後編、『月刊むし10月号がやって来た、ヤァ❗ヤァ❗ヤァ❗』『喋くりまくりイガ十郎』の4編の文章があります。

 
(註2)ミヤマキシタバ

【Catocala ella ♀】

(2020.8月 長野県木曽町)

 
詳しく知りたい方は本ブログに『突っ伏しDaiary(2019’カトカラ2年生 其の4)』と、その後編となる『灰かぶりの黄色きシンデレラ』と題した文章があるので宜しければ読んで下され。

 
(註3)ムラサキシタバ

【Catocala fraxini】

(2020.9月 長野県松本市)

 
フクラスズメとは、下翅にブルーが入っているのが共通するだけで、似ても似つかない。色、柄、フォルム、全てにおいてムラサキの方が格段に美しいのだ。しかも稀でデカいときてる。謂わば、フクラスズメとは月とスッポンくらいの身分の差があるのである。

拙ブログに『2018’カトカラ元年』シリーズの其の17として、『青紫の幻神』『憤激の蒼き焔(ほのお)』『2019’紫への道』『パープルレイン』『紫の肖像』というムラサキシタバについて書いた五章からなる大作がありんす。おいちゃん、ムラサキシタバ愛が強しなのである。

 
(註4)『日本のCatocala』

 
日本のカトカラについて書かれた図鑑の最高峰。生態図鑑としては圧倒的に群を抜いている存在だと思う。

 
(註5)カバフキシタバ

【Catocala mirifica ♀】

(2020.7月 奈良市)

 
拙ブログの『孤高の落武者(2018’カトカラ元年 其の5)』と『逆襲のモラセス(続・カバフキシタバ)』の前・後編を見られたし。

 
(註6)ベニシタバ

【Catocala electa ♀】

(2019.9月 岐阜県高山市)

 
拙ブログの『薄紅色の天女(2019’カトカラ2年生 其の16)』と、その後編『紅、燃ゆる』を読まれたし。

 
(註7)マメキシタバ

【Catocala duplicata ♂】

(2020.8月 長野県木曽町)

 
拙ブログの『侏儒の舞(2018’カトカラ元年 其の4)』を読まれたし。