『西へ西へ、南へ南へ』13 停滞という名の失望

ー蝶に魅せられた旅人アーカイブスー
2012-08-18 19:28:28

       ー捕虫網の円光ー
      『西へ西へ、南へ南へ』

    (第九番札所・停滞という名の失望)
                                               
2011年9月16日

朝、一応船会社に電話する。
船は既に今日の便は欠航しているので、次の20日の便を予約する。

9時半にバイクを返しに行った。
そこから近いし、雨が降ってないので拝山に行ってみる。

だが、何もいない。
ナガサキアゲハの♀が寄ってきたので、一応それだけ採った。
白くて綺麗だが、やや擦れ。

ついでにハブ対策室に寄るも、おじーは休みで居なかった。職員に電話番号を教えてもらってかけたが、あまり大した情報は得られなかった。
昔は市街地でもアカボシをよく見たらしいが、今はすっかり姿を消したという話を聞いて暗くなる。

因みに捕まえたハブを売りに来た人がたまたまいた。
全部チビばかりで9頭。大きさに関係なく市が一匹4千円で買い取ってくれるらしい。しめて3万6千円かあ…。いいアルバイトだな。絶対にやらないけど。
それにしても、ハブの一杯いる檻は猛烈に臭かった。
スタッフにハブ酒にでもするんですか?と尋ねたところ、全部焼却するとのこと。何だかハブも憐れだ。

そのまま、らんかん山に向かって住宅街と山裾の間を舐めるようにして歩く。
アカボシの♀は山麓のリュウキュウエノキにいるんじゃないかと思ったからだが、おじーの言によると期待は出来ない。
まあ、どうせすることもないんだし、ダメ元だ。

途中、船会社から電話があった。
20日の便も欠航が決まったと云う連絡だった。今後どうゆうタイムテーブルになってゆくのか分からないが、本来の次の便は25日。いよいよ絶望的に帰れなくなってきた。

続けて電話が入った。
自称虫捕りのプロ・谷村さんからだった。
毎日、ラブコールが来る。いつ家に遊びに来るかというお誘いだ。面倒臭いが、スミナガシをくれると言うし、情報も欲しいから晩に会う事にした。

名瀬市街は、湾内のせいか静かだ。風もあまりない。
天気は曇り時々雨。市内なら雨が降っても、いつでも直ぐに雨宿りができるから気分は楽だ。

一度部屋に帰り、昼飯を食う。
昨日、酔っ払って買った半額冷やし中華である。
宿には共同の冷蔵庫があるから有り難い。ビールも採集した蝶も放りこめる。南国だと蝶が腐り易いので管理が大変だが、冷蔵庫があれば心配ない。

(-。-;)…。
蒸し暑い。
曇っていても関係ない。じっとしているだけでも汗が噴き出してくる。

2時過ぎに再び出た。
らんかん山に向かって歩く。
♀が駄目なら、せめて♂でもと思ったからだ。運が良ければ、蒲生崎みたいに♀も翔んでくるかもしれない。
しかしそれにしても、あれだけ♂がいるんだから♀だって同数いる筈なのにまるで見ないよなあ。
なぜか大概の蝶は、♂は採れても♀はあまり採れない。大方、天敵に襲われないようにじっとしてる事が多いんだろうとは思うのだが、何だか理不尽だ。
そう考えると、♂って皆なリスキーな生き方してるんだよなあ…。♀を探す為にテリトリーを張ったり、ウロウロしたりして目立つと云う事は、それだけ天敵に捕食されやすいって事でもある。
メスの為なら死を賭してでも頑張っちゃうのが、オスと云う生き物なのだ。

3時過ぎからアカボシのテリトリー行動が始まった。
晴れている時みたいに活発ではないが、雨さえ降らなければ活動するようだ。
ただ、あまり止まらないし、この間より飛ぶのが速い気がする。それに位置が高いし、敏感だ。
1頭めは昨日リリースしてやったボロだった。その後、ことごとく逃げられ、やっと新鮮なのを計2つだけ採った。状況によっては、案外採れない蝶なのかもしれない。

アマミカラスの♀も2つ採ったが、2つ共ギリギリ展翅に耐えられる擦れとキレ。

この悪い状況下で両方完品の♀を採れば、やっぱり俺ってまあまあ天才、かなりカッコイイと思ったんだけどなあ…。

いっぱい蚊に喰われて5時に撤退。
帰りぎわ、イワカワシジミがいそうな山梔子(クチナシ)を見つけた。成虫は確認できなかったが、実に穴が空いていた。中に幼虫や蛹がいる可能性があると云うことだ。
しかし、民家なんでスルーした。怪しい人に間違われたら、事だ。

7時に谷村さんが迎えに来る予定だが、連絡がない。
気が進まないし、まあいいんだけどさ…。
でも、何となく腹が立つ。連絡すると言って連絡してこない奴はクズだと思う。

一応、何かあったのかもしれないので電話してみる。
コール音がわりにサザン・オールスターズのファンキーな曲が大音量で延々と鳴っている。しかも音質が最悪。音が絶望的に割れていて、何の曲だか分からない。
唖然…( ; ゜Д゜)
おっさん、サザンが好きなのか…。
サザンが悪いわけではない。だけど何かおっさんとの組み合わせがどうにもイタ過ぎるぞ。

8時にやっと電話があった。
24時間スーパーまで迎えに来ると言う。

助手席は信じられないくらいにゴミだらけだった。
変な臭いもする。
やっぱ、この人イタい。

促されるままに助手席に座る。
捲し立てるように話しかけてくるが、この厚縁眼鏡の小太りオヤジ、滑舌が悪くてそのほとんどが聞き取れない。
やがて、とっちゃん坊やはニコニコしながら『あげるよ。』と言って、額を差し出した。

Σ( ̄ロ ̄lll)❗❗
戦慄が走る。
そこには、古ぼけたツマベニチョウとスミナガシの標本が並んでいた。それは、いつの時代のものなのかというくらいに色褪せており、ガラスの下でひしゃげたように磔りついている。標本と云うよりも、まるで蝶のミイラだ。何だか磔(はりつけ)獄門の刑みたいで、おぞましささえ漂っている。
それに、何だか手に突起物が当たったので裏返してみると、思いっきり針が裏まで貫通していた。よく見ると、その針は蝶を突き刺すにはあまりにも太い。昆虫標本用の針ではないだろう。多分、裁縫用の長い針とかだ。こんなもの、自慢気にプレゼントするかね❓
やっぱこの人、ウルトラ級にイタい。

展翅もお世辞にも巧いとは言えない。
ハッキリ言ってド下手だ。触角が不細工に左右あさっての方向に向いている。
あんた、プロじゃなかったの❓
やっぱこの人、全てにおいてイタいかも…。
頭の中にゴルゴタの丘、五寸釘、藁人形という言葉が浮かぶ。
丁重に御辞退申し上げ、お返しした。怨念の詰まったようなもんなんぞ、受け取れん。

スミナガシのポイントも訊いたが、地元民なのにもう一つ要領を得ない。しどろもどろだ。
このまま家に連れて行かれるのは、どうもなあ…。
ある意味残念な地獄絵図が待ってる事は間違いないだろうし、家は此処から案外遠い。かなり奥まった所だから、歩いて帰るには距離がある。結果、泊まっていけだなどと言われた日にゃ、大変なことになると思ったので、上手く話を切り上げて車から辞去した。
谷村さんは、ちよっとションボリしていた。きっと、さみしがり屋なのだ。
けど、同情は禁物だ。あのゴミだらけの助手席を見たら、家の中は言わずもがなだろう。多分、ゴミ屋敷だ。

その足で脇田丸へ。
今日もアバス(ハリセンボンの唐揚げ)から始める。これで5日連続だ。今や完全なる儀式と化している。

今日の珍しいオーダーは以下の通り。
相変わらず食い気が勝ってしまい、画像を撮り忘れてしまい、今回もあんま無いです。

ズーズルビキ(スズメダイ)の煮付け(490円)
意外だが、結構美味い。板前さん曰く、身が薄いけど、ツノダシもおんなじ味らしい。
因みにツノダシはこんな魚です。

(出展『魚類図鑑・ツノダシ』)

こんなエンジェルさんを奄美大島では食べるのね。
まあ、そんなのはコチラの勝手な概念だけどさ。

【しぶり(冬瓜)と鶏肉の煮物(390円)】

冬瓜がホッとする味だ。
それにしても、沖縄ならともかく奄美大島にもワケのワカンナイ方言がたくさんあるんだね。言葉だけだと、何のコッチャなのか想像がつかないものだらけだ。何で冬瓜が「しぶり」なのか語源が全くもってワカランよ。

すっかり仲良くなった板さんが、こっそりキビナゴの塩漬け(塩辛)を持って来てくれた。

癖があるので、評価の分かれるところだが、焼酎にはピッタリだ。

酔いが回ってくる。
段々、刺身のツマの大葉(青ジソ)が、アカボシの食樹リュウキュウエノキ(クワノハエノキ)に見えてきた。

♀が木に卵を産みにくるかもと、そればっか探していたから、つい反応してしまった。確かによく似てるんだよねぇ。

【リュウキュウエノキ】

今日のお代は、1670円でした。
相変わらず、クソみたいに安い。

ふらふらと宿に向かって歩く。
街は、夜と雨の匂いに満ちていた。

                 つづく

追伸
サラッと手直して記事をアップできるかと思ったが、結局のところ大幅訂正加筆になった。次の回は、前のアメブロではゴッソリ1回分が丸々抜けてるから、昔の携帯を探してきて1から書き移さなければならない。
( ´△`)うんざりだよね。

春の献立の事を書きたいのだが、アフリエイトがまだ出来ないので書く気が起こんない。っていうか、サボり過ぎ。ダメ男だよなあ…。

『西へ西へ、南へ南へ』第7話

ー蝶に魅せられた旅人アーカイブス―
2012-08-09 00:18:25

ー捕虫網の円光ー
『西へ西へ、南へ南へ』

第五番札所その3 脇田丸

 

シャワーを浴びて、晩飯を食いに行く。
雨は既に上がっている。夜空を見上げると、雲間からもう星が瞬き始めていた。
南国のスコールというのはザッと降って、そのあとは急速に天気が回復するということが多い。その逆もまた然りで、晴れていたと思ったら、あっという間に空が暗くなってザアーッときたりもする。
だから天候を読むのは難しい。だが、嫌いじゃない。それもまた南国らしさと思えば楽しいものだ。

店が有りそうな方向に向かって歩く。
5分足らずで居酒屋を見つけた。

『海鮮居酒屋・脇田丸』。
名前の最後に丸とついてあるから、漁船を持ってる店か、もしくは昔、漁師をやっていたオヤジの店だろうか❓
勘で、入ることにする。こういう時は直感に身を任す事にしている。大概はそれで上手くいく。今までさんざんぱら飛び込みで店に入ってきているのだ。その経験値が有れば、そう勘は大きく外れない。

入ってみると、カウンターの手前に多種多様な魚たちが並べられていた。

当たりだ。
間違いなく旨いもんを食わせる店だろう。
アカボシゴマダラも採れたし、スコールを上手く掻い潜って宿に帰ってもこれたし、今日のオイラは冴えている。

当然の如くカウンターに座る。
一人旅ならば尚更のことだ。板前の人たちに色々と訊けるし、さみしさも少しは紛れる。

飲み物の注文を取りにきた店員に訊くと、やはり魚屋経営の居酒屋らしい。ちゃんと脇田丸という船も持っているようだ。

カウンターの隣に並べられた魚を物色する。
漁師経営ゆえ、地魚のオンパレードだ。

南国らしい派手な色の魚たちも並ぶ。
元ダイビングインストラクターだっただけに、南国の魚にも詳しい筈だが、ある程度予想はつくものの特定は出来ない。多分、死んだら体色が変わるものが多いからだろう。

メニューを開く。
(@_@;)何じゃこりゃ⁉
メニューにある名詞が理解不能な言葉だらけだじょー。さっぱりワカラン。

基本的にチャレンジャーな性格なので、あえて未知なるものを攻めてゆくことにする。
現地でしか食えない食材との出会いは、いつも新鮮な驚きを与えてくれる。好奇心を刺激されない旅なんてつまらない。

先ずは、刺身の盛り合わせ(690円)から入る。

ラインナップは地鰹、シビ(キハダマグロ若魚)、シマアジ、地蛸、ソデイカ、地マグロ。
美味い❗❗
やる(^_-)≡★ねっ。

お次は揚げ物でいこう。
揚げ物の項を目でなぞってゆく。
変な単語が目に入った。
(・。・;アバス❓
何じゃそりゃ⁉ 語源さえも想像がつかない。
考えても仕方がないので、すかさず板さんに尋ねる。

板さん曰く、アバスとは奄美大島ではフグの事を指すようだ。でも、トラフグは南の海には生息しない筈だ。となると、別の種類の食用フグなのだろう。でも南の海で食えるフグなんてあるのかね❓
気になるので重ねて尋ねたら、ハリセンボンだと云う答えが返ってきた。
ハリセンボン❓
それって、あのトゲトゲで、怒らせるとパンパンに膨らむ奴だよね❓ダイビングインストラクター時代に、よくオモチャにしてた奴だ。
そんなもんを食うなんて聞いた事がないし、それに食べるだけの量の身があるとも思えない。
ホントかよ(-。-;)❓

まあいい。百聞は一見に如かずだ。そのアバスとやらの唐揚げを頼む事にする。

d=(^o^)=bウルトラ絶品❗
歯を心地好く押し返してくる弾力、淡泊ではあるが、滋味あふれる旨みの奥深さ。下手な河豚よりも数10倍旨いぜ。
しかも、たったの390円だ。

三品目は、シマアジのカマの塩焼き(390円)。
この量とこの旨さで、この値段はオカシイだろうが⁉
(=`ェ´=)何か嬉しくて怒っちゃうぞっ。

四品目は、島雲丹(註1)。
こんな南の海で、食えるウニなんていたっけ❓

さばく前の本体を見せてもらった。トゲが白くて短い。何だか饅頭みたいな形をしている。
板さんが、夏場からこの時期にしか出回らない高級ウニだとつけ加える。

記憶が繋がる。
あーっ、これ見たことあるわ。そういえば、沖縄でも奄美でも水中に転がっとったわ。アレって食えるんだ。惜しいことしたなあ…。

やがて、殻付きウニが運ばれてきた。
普段目にするウニよりも色がかなり黄色い。
ちょい引くが、意を決してスプーンで掬い、人生初の島ウニを口に運ぶ。

ハッ(゜〇゜;)❗、美味いぞなもし。
鹿児島で食った阿久津の雲丹には劣るが、このクオリティーで690円は尋常な値段ではない。

思わず、黒糖焼酎・高倉30℃をボトルで頼む。

魚が旨いのは屋久島までだと思っていたが、認識を改めねばなるまい。

板前の兄さんに色々教えて貰いながらの談笑。
意識がどんどん溶けてゆく。

午前0時前、ヘベレケで撤退。
ボトルキープをして、支払いが5千円ちょい。
恐るべし、脇田丸❗彗星の如く現れた店だな。
頼む、大阪に支店を出してくれ!!
出してくれたら、毎日通う。

店の外に出たら、空はいつしか満点の星空になっていた。明日も晴れそうだ。
南国の生暖かい風が、そよと頬を撫でて通り過ぎていった。

 

追伸
結局、二回に分けた事により、オリジナルの文章に大幅に手を入れる事になった。組み替えもしてるし、加筆もかなりした。記事を移すのって思った以上に大変だ。

(註1)島雲丹
島ウニは地方名で、本当の名前はシラヒゲウニという。沖縄では7、8月の夏場に出回り、高値で取引されるらしい。
因みに本文に画像が無いのは、舞い上がって写メを撮り忘れたからです。
一応、ネットで検索した画像を添付しておきます。


(出展『ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑』)