2021’カトカラ5年生 ヤクヒメ編4 解説編

 
vol.28 ヤクシマヒメキシタバ

 『雲霧林の賢人』

 
 最初に断っておくが、この解説編は2021年の冬には既に完成していた。だから長文にも拘わらず、前回からたった中3日で記事をアップできたのである。つまり、実を言うとヤクヒメ編は解説編から書き始めたのだ。その後に本編が書かれると云う逆パターンだったってワケ。
一昨年に書かれた文章を改めて読むと、ちょっと新鮮だ。へぇー、そんな事を考えてたんだ…と驚く。しまった。これでは3歩あるけば忘れる鶏頭、脳みそパープリン男の証明になってしまうではないか。

 その後、2022年にも採集に行ったので、今回はその文章を母胎に訂正加筆したものです。

 先ずは画像を並べておこう。

 
【ヤクシマヒメキシタバ♂】


(2022.6.20 三重県北牟婁群紀北町)
 
 
【ヤクシマヒメキシタバ♀】

(2021.6.30 三重県北牟婁群紀北町)


(2021.6.30 三重県北牟婁群紀北町)


(2021.6.30 三重県北牟婁群紀北町)


(2022.6.20 三重県北牟婁群紀北町)

 
雌雄の見分け方も書いておこう。
一番わかりやすいのは、裏面から見た腹端である。♀ならば産卵管が剥き出しになっており、腹部は太く短い傾向がある。また♀は♂と比べて翅形が全体的に丸みを帯びる。一方、♂は腹部が細長く、腹端の毛が♀よりも長く、束状となる。以上の事から判別は容易である。

 
【裏面】

(2021.6.30 三重県北牟婁群紀北町)

 
ボロ過ぎて、斑紋が不鮮明なので、他から画像をお借りしよう。

 

(出典『日本のCaocala』)

 
蛾の裏面画像は少ない。その点『日本のCatocala』は流石だ。図鑑として抜かりがない。

 
(♂裏面)


(2022.6.20 三重県北牟婁群紀北町)

 
(♀裏面)

(2021.6.30 三重県北牟婁群紀北町)


(2022.6.20 三重県北牟婁群紀北町)

 
 1972年に屋久島で発見された小型種で、稀なことからマニアの間では人気が高く、珍品とされる。
後翅地色はくすんだ淡いクリーム色。中央黒帯と外縁黒帯はボヤけて明瞭でなく、繋がらない。この点が他のカトカラと大きく違うところだろう。言ってしまうと、最も下翅が汚いカトカラなのだ。他のカトカラの多くが黄色や赤やオレンジ、紫色、白など美しいものばかりだからね。

 
(キシタバ♀)

(ミヤマキシタバ♀)

(ナマリキシタバ♀)

(ベニシタバ♂)

(ムラサキシタバ♂)

(シロシタバ♂)

(オオシロシタバ♂)

(ヒメシロシタバ♀)

 
よって、カトカラは蛾類の中でも最も人気の高いグループの一つだと言われている。

ヤクヒメの話に戻ろう。
前翅は少し青みを帯びた淡暗灰褐色で、斑紋は不明瞭。胸部は前翅と同じ色調の淡暗灰褐色で、腹部は後翅と同じ色調の暗めの淡いクリーム色をしている。

前翅斑紋に、雌雄とは無関係に2つの型が認められる。
 
 

 
コチラがノーマル型だが、個体によって色の濃淡があり、メリハリのある白っぽいモノの方が少ないような気がする。あくまでも私見的印象だけど。

他に前翅の底部(下部)が黒化する型が知られており、稀に著しく黒化するものも見られる(註1)。

 

(出典『jpmoth.org.www』上記2点とも)

  
『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』の画像も貼り付けておこう。

 


(出典『日本産蛾類標準図鑑2』)

 
アレっ❗❓、コレって下は『jpmoth.org.www』に掲載されてる黒化型と同じ個体じゃないか。今になって漸く気づいたよ。
写真の撮り方や印刷によって、こうも色の印象が変わるのね。
だから「百聞は一見に如かず」、実物を見ないとその種の本当の美しさや魅力は解らないのだ。
なので比較的再現性の高そうな石塚さんの『世界のカトカラ』からも画像を拝借させて戴こう。

 


(出展『世界のカトカラ』)

 
画像は拡大できるので、詳細に比較したい人はピッチアウトしてね。

 
【分類】
科:ヤガ科(Noctuidae) シタバガ亜科(Catocalinae)
属:Catocala Schrank, 1802

 
【学名】Catocala tokui Sugi, 1976
属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり下翅が美しいことを表している。

小種名の「tokui」は、1972年に屋久島で最初にこのカトカラを発見した渡辺徳氏の名前に因む。尚、語尾の「i」は学名が人物(男性)に献名される場合には「i」を付け加えるのがルールになっているからだ。ややこしい話だけど、けっして徳井さんではないのだ。
ちなみに氏は翌1973年には対馬でも精力的に蛾類の調査をされ、そこでも本種を発見されている。その後、1978年に中谷進治氏によって和歌山県大塔山系でも発見された。

 
【和名】
屋久島で発見され、小さいことから「ヒメ」と名付けられたのだろう。補足しておくと、昆虫の名前は大きいものには頭の部分に「オオ」もしくは「オニ」が使用されるが、小さいものには「コ」、もっと小さいものには「ヒメ」と名付けられるケースが多い。

 
【亜種と近縁種】
先ずは亜種から。
日本産が原記載亜種”Catocala tokui tokui”となり、台湾のものは別亜種”ssp.tayal”とされる。亜種名は、おそらく台湾の地名「タイヤル」に因んでいるものと推察される。あの珍品タイヤルミドリシジミが発見されたタイヤルだ。
余談だが、台湾名は『渡邊氏裳蛾』。命名の由来は発見者の渡辺徳氏からだろう。

 
(ヤクシマヒメキシタバ台湾亜種)

(出典『臺灣生命大百科』)

 
(⁠・⁠o⁠・⁠;⁠)んっ❗❓ でも、あれれー❓

 

 
ラベルをよく見ると、何と日本のホロタイプの標本じゃないか。このサイトは台湾の蛾について一番参考になるサイトだ。なのに台湾亜種の標本画像を表記できないだなんて、それ程までに台湾では稀種なのか❓
仕方なく他の画像を探す。

 

(出典『飛蛾資訊分享站』)

 
が、この一点しか見つけられなかった。なので裏面画像もない。
おそらく♀だろう。採集地は台湾中部の南投縣凌霄殿となっていた。他も調べたが、わかった事は最初に発見されたのが桃園仙蘇漣の標高1200m地点で、台中県梨山にも記録があると云う事くらいで極めて情報量が少ないのだ。やはり相当な珍品みたいだ。
見た目は下翅の外側の黒帯が日本産のモノより細いような気がする。又、地色の色も、明るくて黄色味が強いように見える。だが、この1個体だけを見て両者の違いを述べるのには無理がある。それは亜種固有の特徴ではなく、単なる個体変異かもしれないからだ。

 中国南東部のモノにも亜種名が付けられている筈だと思ったが見つけられなかった。『世界のカトカラ』では、”tokui”となっているから、特に亜種区分はされていないのだろう。
ナゼに台湾だけが亜種❓という疑問符が頭に浮かばないワケではないが、変にツッコミを入れると藪蛇になりかねない。やめておこう。台湾では各種の生物が独自進化している例が多い。ヤクヒメもその例に漏れずという事なのだろう。そうゆうことにしておこう。

 
(中国産ヤクシマヒメキシタバ)

(出典『世界のカトカラ』)

 
日本のものと比べて、前翅にややメリハリを欠くような気もするが、見た目は殆んど同じだ。なるほど亜種区分する程のことはないと云うのも理解できる。

 タイから中国南部に近縁種のシャムヒメキシタバがいる。

 
(Catocala siamensis kishida&Suzuki, 2002)

(出典『世界のカトカラ』)

 
ヤクヒメに似るが、後翅の黒帯の形状などで区別できるそうな。稀な種だそうで、食樹も不明とのこと。

 他に中国南東部に生息するヒメウスイロキシタバとも見た目が近い。

 
(Catocala hoferi Ishizuka&Ohshima, 2003)

(出典『世界のカトカラ』)

 
日本のウスイロキシタバと比べて、かなり小型。
成虫は5月頃に現れるが、少ないという。食樹は不明。

 ついでだからウスイロキシタバの画像も貼り付けておこう。

 
(ウスイロキシタバ Catocala intacta ♂)

(裏面♀)

(2020年 6月 兵庫県宝塚市)

 
表側はヤクヒメと少し雰囲気が似ているくらいだが、裏面はかなり近いものがある。両種を間違うことはあるまいが、ヤクヒメの生息地には必ずと言っていいほどウスイロもいるので、一応裏面の違いを列記しておこう。

①ヤクヒメはウスイロと比して上翅の黒帯、特に中央の黒帯が太い。
②ウスイロは上翅の頭頂部(先端)に黄色い小紋が入るが、ヤクヒメには入らない。
③ヤクヒメは下翅中央の黒帯が外側に向かって膨らみ、丸く弧を描くような曲線を示す。また、その内側に「くの字形」の小紋が入る。
④ヤクヒメは下翅外側の黒帯が太い。一方、ウスイロはその黒帯が細く、外縁から離れて見える。また上部で帯が消失する。

図鑑では並べて図示される事が多いし、共に照葉樹林のカトカラだから、おそらく近縁関係にあるのだろう。
一応、念の為にDNA解析で確認しておこう。

 

(出典『Molecular Phylogeny of Japanese Catocala Moths Based on Nucleotide Sequences of the Mitochondrial ND5 Gene』)

 
図は拡大できるが、探すのが大変だろうから拡大したものを載せておきます。

 

 
やはり近そうだ。
でもクラスターは上の Catocala streckeri アサマキシタバの方が近縁に見えるぞ。

 
(アサマキシタバ♂)

(同♀)

(2023.5.12 東大阪市枚岡公園)

(裏面)

 
表も裏も全然似てない。ホンマに近縁かあ❓
ここで漸く思い出した。そういやこのDNA解析に関しては、世界的なカトカラ研究者である石塚勝己さんからメールで次のような御指摘があったんだわさ。

「ブログ、楽しく読ませていただきました。
引用されているDNA系統樹は、新川さんにやっていただいたミトコンドリアND5をMLで処理したものです。これでアサマとウスイロが近縁と判断するのは誤りです。ここで類縁が指摘されているのはワモンとキララ、オオシロとcerogama、ムラサキとrelicatだけです。そのほかのものは類縁関係は判断できません。おそらくミトコンドリアND5の解析ではカトカラの系統を推定するのは無理なのだと思います。😀」

つまり、この図でウスイロとアサマが近縁でないならば、ヤクヒメとの類縁関係も証明されないとゆう事だね。
だとしたら、この系統図って何なのよ❓ 素人目には混乱を助長しているとしか思えんぞ。

 
【開張】40〜48mm内外
日本のカトカラの中ではアズミキシタバ、マメキシタバと並ぶ小型種。
だが、アズミキシタバと比べて胴体がゴツい。またマメキシタバは大きさに幅があり、同等の小さいものから更に大きなものまでいる。
常々、大きさを開張だけで述べるのには疑問を感じている。翅の表面積と胴体の表面積とを無視して大きさを語るのは間違ってるんじゃないかと思うんだよね。
例えば日本最大のカトカラはムラサキシタバだとされる事が多いが、シロシタバも最大種としているケースは結構ある。なんだか曖昧なのだ。コレは両種の開張が同じくらいだからだろう。ところが、時に西日本の低地のシロシタバは開張だけならムラサキシタバを凌駕する大きな個体もいる。でもシロシタバの上翅はムラサキシタバと比べて細長いし、やや下翅も小さいのだ。つまり表面積はムラサキシタバの方が広い。だからムラサキシタバを最大種とするのが妥当かと思われる。
その論に則れば、小さい順はアズミ、ヤクヒメ、マメという並びになると思う。まあ、どうでもいいっちゃ、どうでもいい話だけど…。

 
【分布】本州,四国,九州,対馬,屋久島


(出典『日本のCatocala』)

 
分布域図である。コチラの図鑑の方が出版が少し早いので、高知県ではまだ発見されていないゆえ空白になっている。

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
コチラは塗り潰されている範囲が広いが、県別の分布図であることに留意されたし。つまり対馬にしか分布していなくとも長崎県全体が塗り潰され、鹿児島県は屋久島にのみ分布していても鹿児島本土までも塗り潰されてしまうという事だ。調べた範囲では、九州本土の鹿児島県や長崎県からの記録は見つけられなかった。『日本のCatocala 』の分布図でも、長崎・鹿児島両本土共に分布を示してはいないしね。尚、分布図にはないが、2018年には大分県でも見つかっている(註2)。

アカガシ、ウラジロガシを主体とするシイ・カシ類の多い自然度の高い照葉樹林帯(暖帯多雨林)のカトカラで、屋久島の中腹や対馬の有明山、宮崎県美郷町、大分県、宿毛市や日高村などの高知県西部、徳島県、紀伊半島南部の大塔山系などの原生林に局地的に産する。
分布はクロシオキシタバの棲息域に包含されるが、クロシオよりも遥かに局限される。コレは雨量が多くて湿度の高い、いわゆる雲霧林的な環境でしか見られないからだろう。
尚、分布図にはないが、他に2018年の『誘蛾燈』に、兵庫県市川町から得られたという報文がある。但し、その後の追加記録は無いようだ。また広島県の庄原市東城町にも記録があるみたいである。
国外では台湾中部の山地、中国南東部に分布している。

垂直分布は、生息地のロケーションが深山幽谷の原生林といった趣きだから、高い標高に棲むと思われがちだが案外低い。
和歌山県田辺市の大塔渓谷は約400m。安川渓谷も400mだ。三重県熊野市の布引の滝で299m。奈良県上北山村の坂本貯水池で385m。採集した三重県紀北町のポイントは、何とたったの115mであった。そして高知県の日高村に至っては100m前後だという。対馬の有明山は標高558m。おそらく生息地はそれ以下だから高くはないだろう。あと比較的高い標高ならば、三重県紀北町(旧海山町)の千尋峠の766mというのがある。そうなると、一番高い所に生息しているのは屋久島と云う事になりそうだ。屋久島は高い所では標高2000m近くある。ヤクヒメは中腹に棲息しているらしいから、単純にそれを2で割ると1000mにもなる。とはいえ、一番高い標高を2で割っただけの数字だ。多くの山はもっと低標高ゆえ、実際はもっと低い所に生息しているものと思われる。だとしても高い。千尋峠と同等か、それ以上の高さに居るという計算になる。でも、俄には信じ難い面もある。基本的には低山地のカトカラだ。そんな高い所に好んで居るかね❓
あっ、待てよ。もしかして雲霧林があるのが、それくらいの標高なのかもしれない。そういえば屋久島に遊びに行った時、下はピーカンに晴れてるのに山の上の方には雲が掛かってるなんて事はよくあった。で、その中に突っ込んで行ったら、大雨だったんでビックリした事があるな。納得である。あながち1000m以上に居ても何らオカシクはない。

 
【レッドデータブック】
和歌山県:学術的重要
長崎県:絶滅危惧IB
宮崎県:絶滅危惧IB類(EN-R)
三重県:絶滅危惧種I類

 
【成虫の出現期】
6月中旬から現れ、7月下旬頃まで見られる。
とはいえ、西尾規孝氏は『日本のCaocala』の中で「野外個体の飼育結果から、成虫の寿命は約3週間と推定される。」と書かれているように比較的発生期間は短いようだ。そういえばT氏など採集されたことのある方々からは「すぐボロになる。」と聞いた事がある。おそらく寿命が短いだけに発生期を少しでもハズすと鮮度の良い個体は得られないのだろう。確かに最初に採集した2021年の6月30日の時点で、既に♂はボロであった。2022年の6月20日でも、♂♀共に完品は採れたが、既にスレ個体もいた。或いは早いものでは6月上旬から発生しているかもしれない。それらから推察すると、紀伊半島南部では6月中旬が採集適期と考えられる。

 
【成虫の生態】
産地では時に灯火採集で多数得られることもあるが、元々は少ない種のようだ。『世界のカトカラ』でも珍品度は★4つがついているし(最高ランクは★5つ)、分布域が狭くて局所的だから珍品だと言って差支えないだろう。また今のところ採集方法が、ほぼ灯火採集に限定されており、樹液や糖蜜での採集では結果が望めないというのも採集難易度を高めている。あと、雨が降らないと灯火にもあまり来ないようだし、かといって土砂降りではダメだから、その点でも厳しいものがある。条件はシビアなのだ。

対馬では樹液に集まるようだが、糖蜜トラップで採集された例は今のところ1例も無いようだ。とはいえ、おそらく対馬なら糖蜜にも誘引されるだろう。しかし樹液で観察されているのだって、知りうる限りでは対馬のみで、他では観察例がない。だから対馬以外では糖蜜トラップでの採集は難しいだろう。実際、T氏の話では何度も生息地で糖蜜を撒いたが一度も寄ってきた事はないと言っておられた。そういや蛾採りの天才小林真大(まお)くんも、そんな事を言ってたような気がする。
尚、自分が糖蜜を撒いたのは最初の布引の滝の時の一度のみ。結果はウスイロキシタバしか寄って来なかった。他は全て雨天だったので撒いていない。どうせ撒いても雨で流れるだろうと思ったからだ。やるなら糖蜜ではなく、バナナトラップ等の腐果トラップの方がまだしも採れる可能性があるかもしれない。

灯火へは雨の日など湿度の高い日に多く飛来する。
それを証明するような記述が『日本のCatocala』にあり、著者の西尾氏は「成虫を室内で飼育すると、雨天時に行動が活発になる」と書いておられる。つまり日本のカトカラの中では、最も湿潤な環境を好む種だと考えられる。ようは主に雲霧林に棲むカトカラなのだ。
灯火に飛来する時間帯は特に決まっていなくて、夜暗くなってすぐ来る者があれば、夜明け前になって漸く飛来する者もいるという。だが、雨の日以外の飛来は概して遅く、午後11時くらいにならないと飛んで来ないと聞いたことがある。
自分の少ない観察例だと、2021年の6月30日は午後8時半に1頭目(♀)が飛んで来た。その後、9時過ぎまでに2頭が飛来。10時台前半から中盤に散発で2頭が飛来。長いインターバルがあって11時15分から立て続けに3頭が現れた。その後、雨が強くなったせいかピタリと飛来が止まった。2022年は、21:50と0:45に♀が、午前0:50と01:20に♂が飛来した。偶然だろうが、前半は♀、中盤以降から♂が混じり始めるという印象を持っている。

『日本のCatocala』には、他にも野外での試験、飼育下での観察経過が書かれている。それによると、成虫は昼間は他の多くのカトカラと同じように頭を下にして静止しているという。交尾は多数回交尾で、時刻は夜の午後11時から午前2時だったとあった。

 
【幼虫の食餌植物】
成虫から採卵した飼育下ではあるが、ブナ科コナラ属のウバメガシとクヌギを摂食することが分かっている。
大方の予想では、食樹はウバメガシだと推測されているが、野外では未だ幼虫や卵は発見されていない。ウバメガシは海岸に多いから原生林に生えてると云うイメージはない。文献では誰も言及していないが、案外ウバメガシじゃなくて他の樹種が本命の食樹だったりしてね。
カトカラと生活史や食樹が似ている蝶のゼフィルス(ミドリシジミの仲間)の例もある。ゼフィルスは野外では食樹が限定的なのに、飼育下では広範囲の植物で飼育可能なのだ。ゆえにカトカラにもその可能性はある。ましてや蛾だ。基本的に蝶よりも食性は広い。つまり、メインの食樹は他の木である事は充分に考えられるのだ。

 
(ウバメガシ(姥女樫))


(出典『庭木図鑑・植木ペディア』)

 
学名:Quercus phillyraeoides
別名:イマメガシ(今目樫)、ウマメガシ(馬目樫)

ブナ科コナラ属に分類される常緑広葉樹の1種。
日本に自生するアカガシ亜属のカシ類よりもナラ類に近縁で、カシ類では唯一コナラ亜属に属している。
南欧に自生するコルクガシ(Quercus suber)とは特に近縁であり、交雑もするという。
そういや南欧にコレを食うであろうカトカラがいたな…。

 
(コルクガシキシタバ Catocala conversa)

(出展『世界のカトカラ』)

 
食樹が近いものならば、もしかして近縁種かと思ったのだが、全然似てないね。因みに分布は南欧、北アフリカ、ロシア南部(ヨーロッパ)、トルコにかけてと広いが、あまり多くない種だそう。

話をウバメガシに戻そう。
常緑広葉樹の高木で、高いものだと20m近くまで成長するが、通常は5〜6m程度の低木が多い。樹形はゴツゴツしていて、樹皮には独特の縦方向のひび割れが出る。若枝には黄褐色の柔らかい毛が密生する。
葉の長さは3~7㎝。日本産の常緑カシ類では特に丸くて小さく、また硬い葉を持つ。葉の上半分に浅い鋸歯があり、裏は淡緑色。若葉の頃は葉裏に星状毛が見られる。葉は厚くて硬く、艶があって乾燥や塩分に強い。小柄の葉は乾燥への適応とも考えられ、裏側に丸まるのは付着した波しぶきを落としたり、葉の裏側から水分が蒸発するのを防ぐためだとされる。また、硬いので落ち葉になっても分解が遅く、そのぶん保水力があるとも考えられている。新芽は茶色く、和名はこれに由来するとされるが、葉が馬の目に似ていることから「馬目樫」と名付けられたという説もあるようだ。
 硬くて小さいなんて、如何にも不味そうな葉じゃないか。そんなのワザワザ好んで食うかね❓他に柔らかい葉はいくらでもあるだろうに。ホンマにウバメガシかえ❓
 乾燥だけでなく刈り込みにも強く、病気にも強いことから生け垣や街路樹としてもよく植えられている。その材は密で硬く、備長炭の材料となることでよく知られている。備長炭といえば、高級焼鳥店で使われる炭だ。そして、その品質の最高峰と評されているのが紀州備長炭である。それゆえだろう、和歌山県の県の木にも指定されている。

分布は日本、朝鮮半島、中国(中部、南部、西部)、ヒマラヤ。
日本では本州の房総半島以西、四国、九州、南西諸島(屋久島、種子島、伊平屋島、伊是名島、沖縄島など)に分布する。但し沖縄県での分布域は極めて狭く、伊平屋島、伊是名島と沖縄本島から僅かな記録があるのみである。
主に太平洋側の暖かい地方に見られ、潮風や乾燥に強い特性を持つことから、海岸付近の乾燥した尾根や岩石地、急傾斜地に自生する。群落を作り、密生することが多く、トベラやヒメユズリハと共に海岸林を構成する代表的な樹木である。降水量の少ない瀬戸内式気候地域に多い。

こうゆう特性を見ていると、ホントにウバメガシがヤクシマヒメキシタバの食樹なのかなあ❓と思ってしまう。ウバメガシは乾燥地に生える木だが、ヤクヒメの生息地は真逆なのである。全ての生息地の環境を調べたワケではないが、ヤクヒメは基本的には湿潤な環境を好む。しかも多くは谷間で、極めて空中湿度が高い場所だ。だからヤクヒメの産地にはルーミスシジミやキリシマミドリシジミも生息している場合が多い。両方とも空中湿度が高い場所を好む種だからね。
意外とメインの食樹はイチイガシやウラジロガシ、アカガシだったりして…。

だが、ウバメガシについて更に詳しく調べていくと、新たな事が分かってきた。驚いたことにウバメガシは紀伊半島では内陸部の渓谷の岩場にも生育しているのだ。

 

(出展 後藤伸『明日なき森』より)

 
この図を見ると、かなり山側にもウバメガシが生育している事が解る。そういやウバメガシを食樹とし、主に海岸部で見られるクロシオキシタバが紀伊半島南部では山地帯でも見られるというのを思い出したよ。
図の解説によると、紀伊半島南部では内陸部の崖地にウバメガシが優占する森林があり、やや特殊な昆虫相を維持しているという。その代表的なものとしてウラナミアカシジミの亜種、キナンウラナミアカシジミが挙げられている。すっかり忘れていたが、キナンウラナミアカもウバメガシが食樹だったわ。本来ウラナミアカはクヌギなどの落葉ナラ類の柔らかい葉を食すのに、このイジけた亜種はクソ硬いウバメガシを餌にしているのだ。キナンウラナミは十津川村だとか内陸部にも居て、確かに其処にはウバメガシがあるわ。
この内陸部にあるウバメガシ林は、紀伊半島独特の例外的存在であるかのように言われることがあるが、実際には他にも四国など西日本各地に内陸のウバメガシ林が点在し、それぞれの地域で「ここは例外である」と言われているという。
尚、和歌山県大塔山系法師山の山頂(1120m)にはウバメガシの低木林があり、おそらく最も高い標高の生育地だそうだ。
また、紀伊半島南部ではあちこちの低山地の斜面に、備長炭の用材としてウバメガシが優占するように育成された森林があるらしい。しかしながら最近は備長炭の需要増加のため、減少が目立つという。

でも屋久島のウバメガシの分布を調べたら、殆んど海岸部にしかないような感じなんだよなあ…。ヤクヒメの棲息域は島の山地中腹部だというし、やっぱホントにウバメガシが食樹なのかな❓それに海外での分布は朝鮮半島、中国(中部、南部、西部)、ヒマラヤとなってたよな。となれば、ヤクヒメ台湾亜種がいる台湾には無いって事になる。益々、ウバメガシがメインの食樹ではない可能性が出てきた。
意外とルーミスの食樹であるイチイガシだったりして…。

 
(ルーミスシジミ)

 
でもその前に、一応ウバメガシが本当に台湾に生えていないのか調べ直そう。

(⁠@⁠_⁠@⁠)ゲッ❗、台湾にもバチバチに生えてるじゃないか。ったくよー、鵜呑みにして大恥かくとこじゃったよ。
気を取り直してイチイガシで検証してみよう。

 
(イチイガシ)

 
(イチイガシの分布)

(出典『雑想庵の破れた障子』)

 
ちなみにこの図はイチイガシの分布そのものではなく、巨樹の分布である。それでもだいたいの分布と合致しているものと思われる。尚、イチイガシも台湾に自生しちょります。

分布図を詳細に見る。
ゲッ❗、でも対馬にはあまり生えていないようだ。巨樹の分布ではあるが、4本以下しかない。対馬はヤクヒメの個体数が比較的多いとされているから(註3)可能性は低まる。
となると、同じくルーミスの食樹ウラジロガシなんかはどうだろうか❓

 
(ウラジロガシ)


(出典『庭木図鑑・植木ペディア』)

 
(ウラジロガシの分布)

(出展『植物社会学ルルベに基づく植物分布図』)

 
この分布ならば、ヤクヒメの分布とも合致する。台湾でも自生している。となれば、可能性は高まる。
誰かウラジロガシで飼育してみてくんないかなあ。

そういや対馬も屋久島もキリシマミドリシジミの産地として有名だったな。

 
(キリシマミドリシジミ♂)

 
だとすれば、キリシマの食樹であるアカガシの可能性も考えられはしまいか…。いや、ルーミスはヤクヒメの居る所には大体いるが、高知県と対馬には生息しない。ではキリシマはどうだ❓ 居ないとこって、あったっけ❓ 全て居たんじゃないかしら。急ぎ図鑑で確認する。

 

(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
\⁠(⁠◎⁠o⁠◎⁠)⁠/おーっ、やっぱヤクヒメの分布地全てにキリシマは生息している事になってる❗となれば、アカガシが一番有望ではないか。

 
(アカガシ)


(出典『庭木図鑑・植木ペディア』)

 
(アカガシの分布)

(出展『植物社会学ルルベに基づく植物分布図』)

 
コチラもヤクヒメの分布と重なるし、台湾でも自生している。
もうアカガシじゃね❓

けど待てよ。そういや思い出したぞ。【分布】の欄に、自分で「対馬と屋久島と紀伊半島南部のヤクヒメの生息地は、アカガシとウラジロガシ等を主とする原生林で発見されている。」と書いてたよな。すっかり忘れてたよ。脳みそ鶏並みじゃよ。
それでまた思い出した。キリシマミドリシジミの幼虫はの食樹はアカガシだが、それ以外にウラジロガシも食樹としているよな。となると、ウラジロガシも同等の可能性があるよね。
(⁠ب⁠_⁠ب⁠)むぅー、となればアカガシやウラジロガシはヤクヒメの食樹として、かなり有望とは言えまいか。或いは、どっちもメイン食樹だったりして…。
重ねて言う。どなたかイチイガシ、ウラジロガシ、アカガシで飼育してくんないかなあ。オラって、蝶さえもロクに飼育した経験がないからさ。自分で究明するのは無理でごわすよ。

 でも、話はまだ終わらない。
さらに屋久島の植物構成を調べてみると、イスノキが多そうだ。イスノキも照葉樹だし、マンサク科だ。大部分のカトカラはブナ科とバラ科を食樹としているが、少ないながらもニレ科、ハンノキ科を食樹としているものもいる。またカトカラはゼフィルス(ミドリシジミ類)と食樹がかぶるものも多い。マンサクはミドリシジミの仲間であるウラクロシジミの食樹だから、可能性はゼロではないだろう。

 
(イスノキ)


(出典『庭木図鑑・植木ペディア』)

 
(イスノキの分布)

(出典『植物社会学ルルベデータベースに基づく植物分布図』)

 
ウラジロガシやアカガシ等に比べれば可能性は低そうだが、一応ヤクヒメの分布とも重なる。分布か海岸部に片寄りがちなのが気になるが、イスノキの可能性もないではないね。コレも誰か試してくんないかなあ…。

 
【幼性期の生態】
幼生期については西尾氏の『日本のCatocala』の力をお借りして、全面的にオンブに抱っこで書かせて戴きやす。

 
(卵)


(出典『日本のCatocala』以下全て同じ)

 
卵は長経と短経の差がやや大きい饅頭(まんじゅう)型。大きさは小さく、ヨシノキシタバの卵に似るが、横隆起条の間隔がより広い。参考までに付け加えておくと、ヨシノキシタバもヤクヒメと同じく湿った苔に産卵されると推測されている。
環状隆起は認められない。花弁状紋とその外側の類似層は合わせて4、5層。縦隆起条、横隆起条は共に直線的。
受精卵は褐色で、若草色の斑紋があるが、まだ野外では発見されていない。西尾さんは「母蝶の採卵経験から、卵は湿潤な苔の中に産付されると推定される。」と書いておられる。やっぱ雨が相当降るような所じゃないと生息できないカトカラなのかもね。屋久島はもとより紀伊半島南部、特に大台ケ原から尾鷲市辺りは日本有数の多雨地帯だもんね。当然、苔も多いだろう。
ところで対馬とか他の生息地はどうなのだ❓

調べてみると、海に囲まれた対馬は対馬暖流の影響を受ける温暖で雨が多い海洋性の気候だと書いてあった。
年間降水量は2250mm。全国平均の1611mmよりも多く、6~8月に年間量の約45%(990mm)の雨が降る。この数値は同期間の東京の約2倍、札幌の4倍弱にあたり、台風の多い那覇と比べても1.6倍程だそうだ。
なお、年間降水量の1位は屋久島で4477mm、2位は宮崎県えびの市(4393mm)、3位が高知県馬路村(4107mm)で、4位が三重県尾鷲市(3848mm)となっていた。尚、県別では高知県が1位だそうである。とゆうことは高知県や宮崎県の生息地も雨が多い地域であろうことは想像に難くない。
あっ、予断でモノを言っちゃダメだね。邪魔くさいが調べれば分かりそうなものは、ちゃんと確認しておこう。

Wikipediaによると、生息地の宮崎県美郷町はケッペンの気候区分において、温帯夏雨気候となっている。降水量の多い宮崎県内でも特に多雨な地域の一つで、年降水量は毎年2500〜3500mm前後で推移しており、多い年は年降水量が4000mmを越える事もあるようだ。
高知県宿毛市の気候は暖かく温暖で、コチラも年間雨量が非常に多いそうだ。最も乾燥している時期でも雨がよく降り、年平均降雨量は2074mmとあった。
鏡地区は四国山地と太平洋の間に挟まれた場所にあり、四国地方の中では特異な気候である。夏季は太平洋に近いため、高温多湿かつ台風が襲来する地域である。但し鏡村では気象観測が行われておらず、隣接する土佐山村で行われているそうだ。矢張り、ヤクヒメと雨とは切っても切れない仲なんだね。

 ♀の産卵管には特徴的な剛毛を輪生しており、西尾氏は産卵習性に関連があるとみられている。繊維質なものを産卵床に敷いておくと、卵に繊維を巧妙に絡ませるという。この点から、西尾が苔に卵を産むと考えたのだね。苔に卵を産む為にヤクヒメは進化したのだ。雲霧林の賢人だね。

 

(出典『日本のCatocala 』)

 
確かに♀裏面の交尾器周辺は他のカトカラとは随分と違う。今一度、画像を貼り付けておこう。

 

 
比較のために他種の画像も並べておく。

 
(カバフキシタバ♀裏面)

(2020.6.29 奈良市)

(ノコメキシタバ♀裏面)

(2019.8.6 長野県上田市)

(ハイモンキシタバ♀裏面)

(2019.8.6 長野県上田市)
 
(マホロバキシタバ♀裏面)

(2019.7.16 奈良市)

(ムラサキシタバ♀裏面)

(2019.9.4 長野県白骨温泉)

(ヨシノキシタバ♀裏面)

(2020.8.25 奈良県吉野郡)

(ミヤマキシタバ♀裏面)

(2020.8.10 長野県開田高原)

(ヒメシロシタバ♀裏面)

(2020.8.9 長野県開田高原)

(ナマリキシタバ♀裏面)

(2020.8.8 長野県松本市)

(アサマキシタバ♀裏面)

(2019.5.22 東大阪市枚岡公園)

 
まだ他の種の画像もあるが、コレくらい並べれば充分だろう。兎に角、何れも尻先のスリットが細い。載せてない他のカトカラも同じようなものだ。それと比してヤクヒメは極めて特異な形をしており、溝が圧倒的に広い。その特異な形態には何らかの理由がある筈だ。西尾氏は産卵管の剛毛については言及されているが、交尾器全体についての形態的理由には触れられていない。ではなぜこのような形態になったのか❓暫し考えたけど、全然思いつかーん。

最後にウスイロキシタバを載っけておこう。

 
(ウスイロキシタバ♀裏面)

(2020.6.19 兵庫県西宮市)

 
まだしもウスイロがヤクヒメと近いかもしれない。
ウスイロも暖帯照葉樹林に棲み、どちらかといえば湿潤な気候を好む。それと何か関係があるのかもしれない。

 次に幼虫についてみていこう。

 
(1齢幼虫)

(出典『日本のCatocala 』以下全て同書からの引用)

 
(2齢幼虫)

 
(5齢幼虫)

 
終齢は5齢。体長は約55mm。頭の幅は3mm。
西尾さんは数系統を飼育したが色彩変異は特に認められなかったそうだ。

 
(終齢幼虫の頭部)

(頭部の脱皮殻)

 
ウスイロキシタバの回で既に言及してるけど、卵は全然似ていないが終齢幼虫は結構似ているかも。詳しくはウスイロキシタバの回を読んでくれたまえ。
邪魔くさいからそうは書いたものの、アタイはいい人なのて画像を貼付しておきます。

 
(ウスイロキシタバの卵)

(終齢幼虫)

(幼虫の頭部)

(頭部の脱皮殻)

 
カトカラの幼虫の識別には頭部の斑紋の違いが重要だと言われている。となると、顔はかなり似ているから親戚くさいぞ。卵が似てないから微妙ではあるが、両者は近縁関係にあると言えなくもないってところか…。

                 おしまい

 
追伸
 結局、2021年は♂が採れなかったし、2022年も紀伊半島南部に足を運ばざるおえないだろう。でもなあ…、渋い魅力はあるけれど、それは珍品であるがゆえにそう見えるだけかも。冷静に見れば子汚い蛾だから、あんましモチベーションが上がんないんだよなあ…。

前書きに書いたように、コレは2021年に書かれたものです。ここからは追伸の追伸です。

 えー、カトカラシリーズの中でもヤクヒメ編が一番の難産でした。ホント疲れたよ。書き始めてから足掛け三年だもんね。
コレで、あと残るはケンモンキシタバ、エゾベニシタバ、キララキシタバ、アマミキシタバの4種となった。書くのが段々億劫になってきたが、何とかシリーズの完結を成し遂げたい。

 尚、複数の人から聞いた噂だと、2020年、2021年共に紀伊半島南部では雲霧林の賢者は不作だったようで、何処でも数があまり採れなかったそうだ。2022年も、一部では個体数が多かった所もあったものの、全体的には不作だったと聞く。北牟婁郡も少なかったしね。
正直、思っていた以上の稀種だったので、少しばかり驚いている。気候変動が進めば、益々珍しい種になるだろう。雲霧林の賢者が、いつまでも雨の中を元気に舞ってくれる事を願ってやまない。

 
(註1)稀に著しく黒化するものも見られる…
画像は邪魔くさいので貼り付けないが、ブログ『南四国の蛾』の「変異」の項目に、それに該当するような個体の画像がある。

 
(註2)2018年には大分県でも見つかっている
大分昆虫同好会の会誌『二豊のむし』の、No.56号に記事がある。中身は読んでないけどー。

(註3)対馬では個体数が比較的多いとされるから…
但し、2008年発行の『日本のCatocala』には「対馬は原生林の伐採により絶滅状態にある。」と云う記述があった。そういや長崎県ではレッドデータ入りしてるな。
一方、個体数が多いような事が書いてあったのはツイッターの「火の粉」さんのサイトで、2020年の投稿に「対馬最優先種と言っても過言ではないくらいいた。」と書いてあった。猶、おそらく「優先」は間違いで、ホントは「占有」と書きたかったのだろう。でないと意味が通らない。つまりはその時はニッチを支配するようなド普通種だったってこったろう。
しっかし、十数年前に絶滅寸前だったものが、今になって個体数が増えてるってどゆ事❓対馬といっても広いから、多産地もあるのかな❓

 
ー参考文献ー

◆『世界のカトカラ』石塚勝己
◆『日本のCatocala』西尾規孝
◆『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』岸田泰則
◆『明日なき森』後藤伸
◆『日本産蝶類標準図鑑』白水隆

インターネット
◆『Wikipedia』
◆『南四国の蛾』
◆Twitter『火の粉』
◆『庭木図鑑・植木ペディア』
◆『植物社会学ルルベデータベースに基づく植物分布図』
◆『雑想庵の破れた障子』
 

2021’カトカラ4年生 其の壱

 
vol.28 ヤクシマヒメキシタバ

   『陰翳礼讃』第一話

 超久し振りのカトカラシリーズである。
下手すりゃ二年半振りくらいの更新やもしれぬ。どんだけサボってんねんである。頓挫していた理由は色々あるのだが、そんな事をつらつらと書いたところで読者にはツマラナイと思われるので書かない。勿論、書けと言われれば幾らでも書けるが、第一章がワタクシの言いワケだけで終わっても知らんでぇ(ー_ー)。んなもん誰も望まんでしょうよ❓

 それはさておき、書くにはのっけから問題山積である。
先ずタイトルからして問題ありきだ。ヤクシマヒメキシタバを最初に採りに行ったのは2020年だから、タイトルは『2020’ カトカラ3年生』とすべきではないかと云うツッコミが入りかねない。まあ、それは甘んじて受けるとしても、読む側にとっては時系列を把握しにくい面がある。その年(2020年)に書いておけば良かったのだが、サボったせいで時系列の整合性がとれるどうか自信ないよ。まだしも2021年に書いておけば何とかなったのになあ…。でも今はもう2023年なんであ〜る、ψ(`∇´)ψケケケケ…。オデ、オデ、頭パー。早くも追い詰められてプレッシャーかかってのヤケクソ笑いじゃよ。
それに当時から既に2年と9ヶ月もの月日が経っているのだ。記憶も薄いヴェールが掛かったかのように曖昧模糊となりつつある。そして当然ながら、ちゃらんぽらん男にメモをとる習慣などなーい。🎵記憶たどれなーい。
そう云うワケだから、勝手な思い込みの、事実とは乖離した間違いだらけの文章になりかねないし、時系列もメチャメチャになるかも…。記憶が欠落してるがゆえに、書くことが無くて文章がスカスカになる可能性だって否めない。「たぶん」とか「おそらく」とか「かもしれない」等々のファジーな文言だらけにもなるやもしれぬ。そして何よりも長い間まともな文章を書いてないんで、クソおもろない駄文になる確率高しでしょう。
皆様方はそれを踏まえた上で読まれたし。期待してはならんのだ。そこんとこヨロシク〜(^o^)v

 
2020年 7月2日

 車中から外に目をやる。こんもりとした照葉樹林の明るい黄緑色が目に眩しい。ようやく森の仙人が棲む領域に入ってきたのだと実感する。

奇しくも、この日はオイラの誕生日だった。
正直、やっぱオラって持ってる男だよなーと思ったね。もしかして神様の計らいで、この日に導いてくれたんじゃないか。だとしたら、もう神様からのプレゼントを貰ったも同然じゃないか。しかもヤクシマヒメキシタバ(以下ヤクヒメ)は深山幽谷に棲む珍種とはいえ、ポイントに行けさえすれば絶対に採れるみたいな話も聞いていたからスーパー楽勝気分だった。そういや道すがら、余裕の心持ちで「おー、ここが高校野球の名門、智弁和歌山高校かあー」とか言ってた憶えがあるもんなあ。

【ヤクシマヒメキシタバ】

(出典『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)


(出典『世界のカトカラ』)

 申し訳ないが、下翅が黄色や赤、オレンジ、ピンク、紫色など色鮮やかに彩られるものが多いカトカラグループの中においては、最も小汚い種だ。そう言わざるおえないような地味な見てくれのカトカラなのである。
オマケにチビッ子ときてる。国内では最小クラスの小人カトカラでもあるのだ。チビでブス。純粋に見たら魅力的ではない(あっ、チビとかブスとかってコンプライアンス的に言っちゃマズかったかしら❓)。
されど、屋久島、九州南部、対馬、四国、紀伊半島南部等に局所的に棲む種ゆえに、簡単には会えない珍種とされている。また、標高は高くはないものの、深山幽谷の様相を呈するような環境、いわゆる原生林、もしくはそれに準ずるような自然度の高い照葉樹林でしか見られないことから、愛好家の間では憧れられていたりもする。どこか神秘的なものを感じるのだろう。その深山幽谷のイメージとリンクして、お爺ちゃんみたいな見てくれでさえも、視点を変えれば”仙人”の風情を湛えているように見えなくもない。そうゆう目で改めて見ると、落ち着いた渋い魅力があるような気もする。ゆえに高貴で格調高いと評する人もいるのだろう。
とはいえ、オラはそもそもが美人好きであり、美食を好み、美しい絵画、美しい風景etc…、世のあらゆる正統派の美をこよなく愛する男なのだ。当然、蝶や蛾も美しい者に強く惹かれる。つまり、パッパラパーのミーハー男なのさ。だから今までヤクヒメにはあまり食指が動かなかった。
それに関西からでも紀伊半島南部の山奥は直線距離以上に遠いんである。山深いから、所要時間的には飛行機で北海道や沖縄に行くのと変わらんのだ。場所によったら、下手すればもっと時間がかかる。謂わば陸の孤島なのだ。ゆえに腰も重くもなる。
加えて、ヤクヒメは灯火採集でないと殆んど得られないと言われている。だからワシのようなライトトラップの道具を持ちあわせておらず、糖蜜トラップのみに頼るような採集では極めて分が悪い。惨敗濃厚だ。なのに小汚いブス蛾に誰が会いに行けるかっつーのである。ブスに会いに行って告白して、挙げ句の果てにはフラれるなんざ目も当てられない。ワシの人生経験には、んなもん皆無なのだ。つまりワシ的辞書には無いって事。なので後回し。そのうち行く機会もあるだろう程度に思っていた。

 そんな折り、カトカラ採集の盟友である小太郎くんからヤクヒメ採集のお声が掛かった。遂に灯火採集のセットを購入したらしい。因みに、この年はコロナウイルスが日本中を恐怖に陥れた最初の年だった。で、全国民に等しく給付金10万円が配られた。彼は、そのあぶく銭(笑)をドーンと注ぎ込んだというワケだね。嫌味ではなく、もうコロナ様々である。この年は、後々その小太郎くんのライトトラップのお陰で、アズミキシタバ、ヒメシロシタバ、ナマリキシタバ、ヨシノキシタバと、未採集のカトカラを次々と撃破できたからね(これらの採集記は既に書いてあるので、興味のある方は遡って読まれたし)。

 採集ポイントは、最初はヤクヒメが最も得られている和歌山県田辺市の大塔渓谷にターゲットを絞っていた。単純に個体数が多ければ多いほど採れる確率が高まると考えたからだ。知り合いの爺さんも、大塔に行けば楽勝で採れると言ってたしさ。
しかし、数日前に谷が土砂崩れで通行不能になっていると云う情報が入り断念。なので1から計画を練り直さざるおえなくなった。そこで新たに候補に挙がったのが、三重県熊野市紀和町の布引の滝と三重県北牟婁郡紀北町(旧海山町)の千尋峠、奈良県上北山村の貯水池だった。
で、小太郎くんとディスカッションして最終的に選んだのが布引の滝。アクセスの良さとかもあるのだが、決め手は西尾規孝氏の名著『日本のCatocala』に載っている写真だった。


(出典『日本のCatocala』)

背後の森の感じとか環境が良さげなのは勿論だが、一番の理由は橋が架かっている事である。この手の橋があると云う事は、地面がほぼ平らであることを示している。つまり、ライトトラップが設置しやすくて安全度が高い。傾斜がある所だと安定感を欠くのだ。となれば強い風が吹けば倒れかねない。もしも小太郎くんのライトトラップのデビューの日に、三脚がコケて高価な水銀灯が割れでもしたら最悪である。小太郎くん本人の落ち込みは当然激しいだろうし、ワシの申し訳ないという気持ちもマックスになる事は想像に難くない。それだけは何としてでも避けたかったのだ。縁起が悪いからと、コンビを解消されたら悲しすぎる。
他にも理由はある。実を言うと、以前この場所には一度だけ来たことがある。Mr紀伊半島。紀伊半島の蝶に造詣が深く、ワシの兄貴分でもある河辺さんに珍蝶ルーミスシジミの採集に連れて来てもらったことがあるのだ。

【ルーミスシジミ】

(2017.6月 三重県熊野市紀和町)

ルーミスといえば、空中湿度の高い場所に棲息する蝶だ。そして、ヤクヒメも雨が多くて湿度が高い雲霧林的な環境を好むと言われている。ならば、採れる確率は高い。更に言えば、橋は駐車場に隣接しているから利便性も良い。荷物運びが楽だかんね。水銀灯用の安定器や発電機はバリ重いのだ。勿論、近いと時間の節約になるのは言うまでもない。設置や撤収に無駄な時間を要しないということだ。つまり、布引の滝は申し分ないくらいの好条件が揃っている地なのだ。

 まだ空が明るい夕方近くにポイントに到着した。
ここは紀和町の中央に位置し、一族山(標高801m)の南側の登山口にもなっており、楊枝川の上流部に辺る。そして、少し下った所には高さ29mの「布引の滝」がある。三段からなる優雅で気品ある美しい滝で、日本の滝百選にも選ばれている。

【布引の滝】

(出典『滝ガール』)

調べてみると、この周辺は自然度の高い天然林と原生林が広がっており、1991年6月には「紀和町切らずの森」と名付けられて、20.1haにわたる面積が保護される事になったようだ。
生物相も豊かで、キツネ、タヌキ、シカ、ノウサギ、ニホンザル、イノシシ等の哺乳類が多く生息し、稀少種であるワカヤマヤチネズミもこの周辺では数多くみられるという。鳥類も多く、猛禽類のハチクマ、サシバをはじめ、アオゲラ、コゲラ、ルリビタキ、キビタキ、アカハラ、ミソサザイ、オオルリ、キバシリ等々が確認されているそうな。そして沢沿いや渓流には、アマゴやオオダイガハラサンショウウオも棲むという。
昆虫は蝶で言えば、ルーミスの他には、同じく珍品とされるヒサマツミドリシジミや美麗なるキリシマミドリシジミ、メスアカミドリシジミなど「森の宝石」とも称されるゼフィルス(ミドリシジミの仲間)も豊富にいると書いてあった。まあコレは蝶屋なんだから、さすがに知ってたけどさ。

【ヒサマツミドリシジミ】

(2014.6月 京都市左京区杉峠)

あと、特筆すべき記述も見つけた。何と此処は幻のヘビ、あの「ツチノコ」の伝説が残る里でもあるらしい。
バチヘビじゃ、バチヘビ〜❗テンション、バキ上がるわ〜🤩
あっ、バチヘビとはツチノコの別名ね。ちなみにツチノコ(槌の子)とは、日本に生息すると言い伝えられる未確認動物(UMA)の1つで、形が横槌に似ていて、胴が太くて短い蛇の事やね。北海道と南西諸島を除く日本全国で目撃例があるという。ワシも、小学生の頃に九頭竜で見たでぇー。あっという間に石の隙間に潜り込みよったけど、アレは絶対にツチノコだったわさ。

【ツチノコ】

(出典『海洋堂』)

そういや昔、ツチノコブームってのがあって、スゲー額の懸賞金がかかってたよなー。あの頃は他にも中国山地の類人猿ヒバゴンとか、屈斜路湖の首長竜クッシーとかも話題になってたなあ…。なので子供心にも、日本ってどんだけ謎の怪物がおるねんと思ったものだ。昭和の時代って、夢のある幸せな時代だったんだね。
嗚呼、ツチノコ見てぇー🤩❗お~し、ツチノコもヤクヒメも一網打尽じゃあ〜。

おっと、肝心の植物のことを書き忘れてたよ。
滝周辺は、アラカシ、アカガシをはじめとするカシ類を中心に、シイノキ、ヤブツバキ、クスノキ、トチノキ、各種カエデ類などの落葉樹が混生する天然林となっているそうだ。原生林じゃないのは気になるが、まあ大丈夫っしょ。

 天気は上々。有り難いことに望んだような極上の曇り空だ。雲が厚めだから、これだと月が顔を出すことは無いだろう。ヤクヒメは曇りか雨の日にしか飛んで来ないとされている。月夜には姿を現さないのだ。そして、雨を降らせるような雲も見当たらない。雨に濡れるのは嫌だし、かといって晴れられると困る。そう云う意味では、ワシ的にはまるで誕生日を祝うかのような絶好の天気なのだ。

 小太郎くんは橋の中央部に、ワシは何ちゃってライトトラップを駐車場に設置。日没後に同時点灯した。

【小太郎くんのライト】

尚、上の画像は大幅にトリミングしていて、小太郎くんの屋台(ライトトラップの事)は除外してある。初期の屋台組みなのでプロフェッショナルな人から見ればダサいからとの理由で、本体は載せないでくれと言われたのだ。小太郎くん、バラしてゴメンね、ゴメンねー。
さておき、緑色に映ってるから、メチャメチャ紫外線が出とる証拠やねぇー。水銀灯は肉眼では普通の色の灯りに見えるが、スマホで写すと緑色に映る。なので外灯回りで虫採りする場合には、とても役に立つのだ。一見、水銀灯に見えても、殆んど紫外線が出ていない外灯もあったりするのである。もっとも最近では水銀灯は絶滅しつつあり、世はLEDライトだらけになってしまったから、あんま意味ないんだけどね。ようは普通のLEDライトは紫外線がカットされていて、虫が誘引されないってことね。

 駐車場の脇に鳥居があり、その奥の環境が良さげなので、一応ワシのスペシャル糖蜜を木に撒いておいた。ヤクヒメは糖蜜トラップには来ないと言われ、吸汁したという記録がないのは知っている。けれども、まあまあ天才のワシの作ったスペシャルレシピである。悪いが、大どんでん返しさせてもらうえー。

暫くして様子を見に行ったら、早速ウスイロキシタバが来ていた。しかも2頭も。流石、ワシのスペシャル糖蜜じゃよ。ここまで良い流れできてるし、この調子だとヤクヒメも楽勝で採れんじゃないのー😙

【ウスイロキシタバ Catocala intacta】


(2020.6月 兵庫県西宮市)

まだウスイロを一度も採ったことのない小太郎くんを呼びに行き、無事ゲットしてもらう。
しかし、如何せん鮮度が悪い。羽も一部が欠けている。となると、ヤクヒメの鮮度も気になるところだ。完品が採れることを祈ろう。

 時間が経つに連れ、小太郎くんのライトトラップは虫だらけの阿鼻叫喚状態と化す。けれど、圧倒的に多いのはカワゲラやトビケラなどの気持ちの悪い羽虫どもだ。中でも巨大なヘビトンボどもは邪悪な成りで超絶気持ち悪い。

【ヘビトンボ】

(出典『Wikipedia』)

 コヤツは昔から敵視してきた。生態はロクに知らんが、見てくれからして絶対邪悪な奴に決まってるからだ。(⁠⁠´⁠ω⁠`⁠⁠)デヘデヘ、お嬢ちゃん、ちぃとばかし股開きんしゃい。きっと、か弱き者たちに不埒な悪戯(いたずら)をしているに違いない。
しっかし、シクったなあ…。体中、羽虫にタカられるとは想定外だったわい。でも普通に考えれば、川のそばなんだから当たり前なんだよなー。奴らの生活圏の真っ只中なんだからさ。

虫は羽虫ども以外にもコガネムシなどの甲虫や各種の蛾が大量に飛んで来るのだが、カトカラは普通種のキシタバ(Catocala patala)しかやって来ない。当然、フル無視である。

【キシタバ】

 コヤツは市街地近くから標高2000m近くの深山に至るまで、ホント何処でも見掛ける普通種だ。灯火にも樹液にも一番集まるから節操がない感じがするし、オマケに図体がデカくてデブだから邪魔で💢マジむかつく。時に他の良いカトカラをパワーで追い散らかしたりもするので憤りの対象になるのだ。
とはいえ、外国、特にヨーロッパ圏では人気が高いらしいんだよね。確かに大きくてゴツいから、見方によっては重厚感や風格があるようにも見える。たとえ我々にとってはド普通種ゆえに評価が低くとも、そんなのヨーロッパの人々にとっては当て嵌まらないのだ。だってヨーロッパには生息していないんだからね。
所変われば品変わるというが、場所により評価も変わる。そんなものは容易に変容するものなのだ。そういや北海道では南部の一部にしか分布していないから珍しいのだ。だから北海道の虫屋の間では「おー、キシタバやんけー❗カッケー🤩」的扱いになってるやもしれん。
色眼鏡や珍稀度に惑わされずに、純粋な姿、形のみで評価ができる人間になりたいけど、ワシって人間できてないもんなあ…。

【ワシの何ちゃってライト】

 この日がデビュー2戦目の5w UV LEDライトである。
小太郎くんがライトトラップを買ったのに刺激されて、ワシも買ってもうた。とはいえ威力は遥かに及ばない。でも車では入れない場所でも灯りを焚けるような機動力の有る携帯タイプの方が、自分には合ってると思ったのさ。
本体重量は超軽量の130g。モバイルバッテリーが200gだから、合わせてもたったの330gしかない。それでいて一応、謳い文句には40wのブラックライト蛍光灯と同程度の威力があると書いてあった。
まあ、それくらいの効力はあるかもしれない。ちなみに、この日はコチラにはウスイロキシタバも飛んで来た。にしても、矢張りこっちにもヤクヒメは飛んで来ない。
不安がよぎる。でもヤクヒメは雨の日じゃないかぎりは遅い時間帯にしか飛んで来ないという説もあるようだし、気長に待とう。

 とはいえ退屈なので、橋を渡った向こう側にも糖蜜を撒きに行く事にする。鳥居周辺は疎林だからヤクヒメはいなくて、もっと深い森に居るんじゃないかと思ったのだ。小太郎くんも誘うが、リー即で却下された。冷たいよねー。
まあ、いつ突風が吹いてライトが倒れるやもしれぬから、離れられないってのもあるんだろうけどね。

一人、橋を渡り、暗黒世界に足を踏み入れる。直ぐにライトトラップの光は届かなくなり、真っ暗闇になる。
背中に緊張感がサッと広がる。メチャメチャ不気味なのだ。そもそもルーミスの生息地は気持ちの悪い場所が多い。そういや大塔渓谷にルーミスを採りに行った際には、プーさんが子供の声が聞こえたと騒いでたな。で、声がした方に行ってみたら、子供用の靴が片方だけ落ちてたらしい。けれど子供の姿なんて影も形もなかったという。あんな奥まった不気味な谷に、子供が一人ぼっちでいるワケがない。非現実的だ。或いは、その場に埋められてたりなんかしたりして…。で、その霊が呼んでたとか…。余談だが、その何日か前にはルーミス採集に来ていた人が、このすぐ近くの滝の横崖から墜落して死んだらしい…。
そんな事を思い出しながら歩く。良くない兆候だ。だが思念を止めたくとも止めれない。他にもアレやコレや想像してしまう。そして、とてもじゃないが此処には書けないような恐ろしい事まで想像して、ビクッ⁠( ꒪⌓꒪)❗悪寒が走る。ヤバい。我ながら相当ビビっている。元来、オラは超がつくウルトラ怖がり屋なのだ。チビりそうだ。懸命に意識を滅却させる。考えてはならない。考えれば考えるほど恐怖は膨張するのだ。
だが、空気がジメジメしていて重く澱んでいるし、足元には水が流れていてビチャビチャで気持ちが悪い。そして…、静か過ぎる。自分の歩く足音だけが奇妙に反響し、強調される。心頭なんて滅却できるワケがない。😱怖ぇー。
早く戻りたい一心で、あたふたと霧吹で糖蜜を木に吹き付け、慌てて引き返す。

橋まであと少しというところで、目の前の闇から突然光がぼわ〜っと浮き上がり、すう〜っと横切って消えた。足がピタリと止まる。😨すわっ❗鬼火🔥かぁ❗❓全身の血が逆流する。何じゃ❓何が起こっておるのだ❗❓必死で状況を把握しようと頭の中が高速で回転しているのが自分でもわかる。
暫くして、また光った。それを身じろぎもせずに凝視する。刹那、答えを求める脳ミソのシナプスが繋がる。この動きは何処かで見た事があるような気がする。
ホタル❓ でも見慣れたゲンジボタルやヘイケボタルよりも遥かに小さくて弱い光だ。色も少し違う気がするし、点滅の間隔も異なるように感じる。じゃあ、何❓
次の瞬間には無意識に体が勝手に動き、光を追い求めて夢遊病者の如くふらふらとついて行っていた。
そして、気がついたら両手で光を覆い包んでいた。
ゆっくりと掌を開く。と、そこには見たことのない小さな蛍が静かにゆっくりと明滅していた。もう恐怖は無かったが、幻想的で不思議な感覚だった。よく蛍の灯は死者の魂になぞらえるが、或いはそうなのかもしれない。そう思った。

橋まで戻って小太郎くんにそのホタルを見せると、即座に「これ、ヒメボタルですよ。」という答えが返ってきた。

【ヒメボタル】

(出典『東京にそだつホタル』)

ゲンジボタルやヘイケボタルのように幼虫時代を水中で過ごす水棲ホタルではなく、陸棲のホタルなんだそうだ。
欲しいって言うから進呈したけど、小太郎くんが欲しがるくらいだから、それなりに稀少なホタルなのだろう。

 午後11時を過ぎた。さあ、ここからが正念場だ。そろそろ飛んで来てもいい時刻だ。彼奴を見逃すまいと周囲にせわしなく目を配る。

でもヤクヒメは11時半になっても、いっこうに姿を現さない。
時間は刻一刻と削られてゆく。(⁠゜⁠o⁠゜⁠;マジかぁ❓楽勝じゃなかったんじゃないのー❓神様〜、アチキへの誕生日プレゼントはどうなっちゃってんのよー❓

小太郎くんと相談して、12時半に店じまいすると決める。
素早く後片付けして午前1時に此処を出られたとしても、それでも帰ったら明け方近くにはなっているだろう。もっと居たいのはやまやまだったが、妥当な判断だ。反対はできない。

午前0時。東側の空が少し明るくなってきた。まさかと思って見ていたら、やがて山の端から朧月(おぼろづき)が顔を覗かせ始めた。
小太郎くんが笑う。
「マジっすか❓ 五十嵐さん、どんだけ晴れ男なんすかあ。天気予報では曇り時々雨だったのにー。」
そうなのだ、彼の中ではオイラはスーパー晴れ男なのだ。彼の前だけに限ったことではないが、たとえ雨の予報でも「晴れるでー」とワシが宣言したら本当に晴れるのだ。だから周囲にはしばしば驚かれる。ゆえに小太郎くんには重宝されている面がある。蝶採りには晴れが絶対条件だかんね。だが今回に至っては、それが完全に裏目になった。せやけどワシ、今日は晴れさせるなんて一言も言ってないからね。
こりゃ終わったなと思いながらも、それでも一縷の望みをもって待つ。

0時半になった。しかし、ヤクヒメはついぞ飛んで来なかった。惨敗決定だ。呆然とした面持ちで後片付けを始める。
そんな中でも、頭の中ではずっと
(⁠・⁠o⁠・⁠)何で❓(⁠☉⁠。⁠☉⁠)⁠何で❓
(⁠@⁠⁠@⁠)何で❓ヽ⁠(⁠(⁠◎⁠д⁠◎⁠)⁠)⁠ゝ何で❓
щ⁠(⁠゜⁠ロ⁠゜⁠щ⁠)何で❓w⁠(⁠°⁠o⁠°⁠)⁠w何で❓
༼⁠⁰⁠o⁠⁰⁠;⁠༽何でぇー❓(⁠●⁠
⁠_⁠●⁠)何でやねーん❓

の、あらゆる何でやねん嵐が吹き荒れ続けていた。

                   つづく

追伸
 久々に虫の話を書いたが、大変じゃったよ。
文章の書き方を忘れてて、調子が出るまでだいぶ時間がかかったし、画像の貼付方法や字のフォントの大きさの変更等々とか技術的な事も忘れてて困った。それに、ロクに構成も考えずに行き当たりバッタリで書き進めていったから、筆が止まる事もしばしばだった。で、アレコレ文章をイジくってるうちに長くなったってワケ。予定では解説編を除く全2話に収めるつもりだったが、この調子だと少なくとも3話以上にはなりそうだ。
まあ、いつもの如く長丁場になるとは思うが、これからも気長に付き合ってつかあさい。

 
《参考文献》 
◆西尾規孝『日本のCatocala』
◆石塚勝己『世界のカトカラ』
◆岸田泰則編『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』
◆新宮市教育委員会 文化振興課『熊野学』
◆Wikipedia
 

2019’カトカラ2年生 其の2(5)

 
   vol.19 ウスイロキシタバ

   最終章『穢なきインタクタ』

 
第五章の最終章は、種の解説編である。
ここまでやっとこさ辿り着いたんだから、また迷宮に囚われてクソ長くならないことを祈ろう。

 
【ウスイロキシタバ ♂】

 
スマホの自動画像補正機能の関係で下翅の色の再現性が低い。実際に肉眼で見る新鮮な個体の下翅の色は3番目が一番近い。スマホを買い替えて機能がアップしたと喜んでたけど、まさかこんな落とし穴があるとはね。前の機種にはあった画像をシャープにする機能も見当たらないし、ピンボケ写真が増えそうだ。機能アップも考えもんだよ┐(´(エ)`)┌

 
【同♀】


  
 
前翅の地色は明るい灰白色。波状の内横線は前半が巾広い黒色で縁取られ、前縁中央に大きな黒斑がある。後翅の地色は淡い黄白色で、中央黒帯と外縁黒帯は繋がらない。以上の事から他のキシタバ類とは容易に区別できる。
ヤガの大家であった杉 繁郎氏(故人)は、このウスイロキシタバを論文(註1)の中で褒め称えており「極めて顕著で優美な蛾である。」と書いておられる。

 
【♂裏面】

 
【♀裏面】

 
何か画像が暗いから撮り直しするっぺよ。

 

 
裏面は他のキシタバ類と比べて全体的に黒帯が細く、地色はやや淡い黄色である。
近縁種と思われるヤクシマヒメキシタバ(以下ヤクヒメ)の裏面と相似するが、以下の点で容易に区別できる。

 
【ヤクシマヒメキシタバ Catocala tokui】

(出展『日本のCatocala』)

 
①ヤクヒメはウスイロと比して上翅の黒帯、特に中央の黒帯が太い。
②ウスイロは上翅の頭頂部(先端)に黄色い小紋が入るが、ヤクヒメには入らない。
③ヤクヒメは下翅中央の黒帯が外側に向かって膨らみ、丸く弧を描くような曲線を示す。また、その内側に「くの字形」の小紋が入る。
④ヤクヒメは下翅外側の黒帯が太い。一方、ウスイロはその黒帯が細く、外縁から離れて見える。また上部で帯が消失する。

 
【分類】
ヤガ科(Noctuidae)
シタバガ亜科(Catocalinae)
カトカラ(シタバガ)属(Catocala)

 
【学名】Catocala intacta intacta Leech, 1889

記載者は、Leech(リーチ(註2))。
冒頭の杉 繁郎氏の論文『ウスイロキシタバ(改称)の採集記録』に拠れば、1886年の7月にリーチ自身が滋賀県長浜で採った1頭により記載されたものらしい。ようは最初に日本で発見されたってワケだね。

属名の「Catocala」は、ギリシャ語のkato(下)とkalos(美しい)の2つの言葉を合わせた造語。つまり後翅が綺麗な蛾であることを表している。

小種名 intacta の語源は、頼みの綱である平嶋義宏氏の『蝶の学名―その語源と解説―』には載っていなかった。ゆえに仕方なく自分で探すことにした。

学名にはラテン語が使われることが多いので、おそらく由来はラテン語であろう。
ならば綴りの語尾が「a」で終わっていることから女性名詞かな? ラテン語の名詞には男性・女性・中性の3つの文法上の性がある。例えばラテン語で「バラ」を意味する「rosa」の(〜a・〜ア)なんかが女性名詞となる。
いや待てよ。誰か女性に献名されたとは考えられないだろうか? だとしたら、ややこしい事になる。ここは外堀から攻めずに正面突破、先に綴りだけでググッておこう。それで見つかればラッキーちょんちょん。話が早い。

調べてみると、有り難いことにラテン語から同じ綴りの言葉が見つかった。
意味は「完全なままの、失われた部分がない、手つかずの、完全なる、完璧な」とあった。意訳すると「穢(けがれ)のない」「純潔の」といったところか。
更に”intact”の語源を辿ってゆくと、”intactus”に行き着いた。in(否定)+tactus(touchに相当)=untouched という構造になっているらしい。多分これがラテン語の語源中の語源で「intacta」はそこから派生した言葉だろう。何れにせよ、おそらく学名の由来はここらへんに違いなかろう。

だとしたら、ツッコミどころ満載の学名じゃないか。
どこが完全、完璧で、穢れなき純潔な存在やねん❓と言いたいアナタ、気持ちは解らんでもない。
記載者であるリーチが自分で見つけたからって、それはジャッキアップし過ぎの贔屓(ひいき)の引き倒しだろう。図鑑の画像なんかを見ると、中途半端な下翅の色はお世辞にも美しいとは言えない。つまり完璧だとは言い難い。そう思う人も多いだろう。
でも上翅は文句なく美しいから、もしも下翅が鮮やかな黄色だったとしたら完璧かもしんない。或いは純白ならば、それこそ純潔の証、穢れなき完璧な存在だ。そう考える人だっているかもしんない。
とはいえ、たとえそうじゃなくとも冒頭で書いたように杉 繁郎氏は「極めて顕著で優美な蛾である。」と述べられておられる。御大、アンタもリーチと同じで贔屓の引き倒しかよ。と言いたくなる向きもあろう。アチキも自分て採る前なら、そう言っていたに違いない。
しかしである。そこまで贔屓の引き倒しじゃないけれど、自分で採った今はアッシも優美な蛾だと思う。標本と生きている新鮮な個体とでは、まるで印象が違うのだ。実物を見て、素直に(☆▽☆)カッケーと思った。スタイリッシュな上翅はもとより、下翅も渋い象牙色で、思ってたよりも遥かに美しいのだ。これについては「成虫の生態」の項で改めて書くつもりだ。

因みに、全然関係ないんだけど、巨大衝突で周惑星円盤を経てない衛星を「intact moon」と言うらしい。
んっ(・∀・)❗❓、何故にムーンなのだ❓
いかん、いかん。危うく早くも脱線するところであった。気になる人は自分で調べてみて下され。

 
【和名】ウスイロキシタバ

キシタバ(黄下羽)の名を冠するが、後翅は鮮やかな黄色ではなく、淡い黄白色なことから名付けられたのだろう。色の薄いキシタバってワケだね。
昔はチャイロシタバとかチャシタバなんて云う酷い名前が付けられていたそうだ。しかし故 杉 繁郎氏によって名称が変更された。その経緯を前述の論文から一部抜粋しよう。

「従来チャシタバ(三宅,動物学雑誌,15:384,1903),チャイロシタバ(松村,日本毘蟲大図鑑:775,1931)の和名があるが、余りに不適当でおそらく実物を見ずにつけられたものであろう。幸にまだ多く使われていないので私達はここに改めてこの和名を提唱しておく。」

そういえば論文には、こうも書いてあった。
「原記載の図はよくできているが、SEITZ(ザイツ)の図はきわめて出来が悪く、前翅は褐色に、後翅の地色は強い黄色に描かれていて、およそ実物とは似つかぬものとなっているから注意する必要かある。」
それって、Wikipediaに載ってたコレの事かなあ❓

 

(出展『Wikipedia』)

 
コレ見たら、確かにチャイロと付けたくもなるかもね。
ウスイロキシタバもどうかとは思うが、チャシタバとかチャイロシタバよりかは遥かにマシだ。
って云うか、そもそも「うすいろ」の使い方、間違ってないか❓ 薄色って、たぶん薄い紫っぽい色じゃなかったっけ❓

『コトバンク』には、次のような説明があった。

ー薄色(うすいろ)ー
浅紫うすむらさきともいう。薄く、ややくすんだ紫色のこと。平安時代には紫系統の色が好まれ、最高位は深紫こきむらさきであった。薄色はそれに次ぐ序列の色。

 

(出典『カラーセラピーランド』)

 
ほらね。生成り色とかオフホワイト系の色じゃないのだ。
それはさておき、もしこの淡い紫が下翅だったら、かなり優美だよね。たおやかな美しさだろうから、ムラサキシタバと人気をニ分していたかもしれない。でも「ウスイロシタバ」だと、語源を知らない人ばっかだろうから、ダサいと言われそうだ。
何で「フジイロシタバ」とちゃうねん(ノ`Д´)ノ彡┻━┻❗と怒る人もいるだろね。

それはさておき、古(いにしえ)の色の呼び名って良いよね。
古色を使って、もっと雅(みやび)で渋カッコイイ名前って付けれなかったのかなあ…。

参考までに書き添えておくと、カトカラ同好会のホームページにある『ギャラリー・カトカラ全集(註3)』には「キシタバと称されているが、後翅は黄色ではない。薄クリーム色で、ほとんど白色である。ウスキシロシタバというような和名の方が的を射ている。」と云う一文がある。
まあ、それも解らないワケでもないが、あまりピンと来ない。って云うか反論しちゃうと、採れたての新鮮な個体は標本よりも下翅が断然黄色っぽい。飛び古した個体や死んで時間が経ったものが白っぽく見えるのではないかと個人的には思っている。シロスジカミキリと同じようなもんじゃなかとね❓ シロスジカミキリは新鮮な個体だと白筋カミキリではなく、黄筋カミキリだもんね。
しかし、生きている時の色を命名の基本とするか、標本の色を命名の基本とするかはジャッジメントが難しいところではある。逆にモンキアゲハなんかは生きてる時は紋が白くて、死ぬと紋が黄色くなったりするからさ。生きている時の見た目で、もしも「モンシロアゲハ」と名付けてたとしたら、「どこがモンシロやねん。モンキやないけ、ダボがっ(-_-メ)」とツッコミが入ることは想像に難くない。
段々、頭の中がこんがらがってきて、自分でも何言ってんのかワカンなくなってきた。こんな事に正否を追い求めること自体がナンセンスなのかもしんない。

でもさあ…。
黄色いんだよなあ。

 
(♂)

(♀)

 
象牙色か、それよりやや黄色味が強い。
いっそのこと、シンプルにキナリシタバやゾウゲシタバ。或いはゾウゲキシタバとかじゃダメだったのかな❓
まっ、これとてベストとは言えないけどさ。

そういえば『日本産蛾類標準図鑑2(註4)』には、黄色い下翅の個体が図示されてたな。

 

(出展『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)

 
ウスイロって元々は下翅が黄色くて、進化の過程で色が薄くなっていったのかな❓ だったら、基本は名前の後ろにキシタバと付けるのが妥当かしらね。
因みに変なのはコレくらいで、調べた限りでは他に顕著な異常型は見つけられなかった。この種には大きな変異幅はあまりないようだ。

話を和名に戻そう。
この際だから言っちゃうと、下翅じゃなくて美しい上翅に目を向けるという手もある。例えばモザイクシタバとかさ。
(´-﹏-`;)う〜ん、あんまシックリこないな。ダサいかも(笑)
偉そうなこと言っちゃってるけど、和名を付けるのって難しいや。簡単じゃないやね。

 
【英名】
英語では、カトカラの仲間は「〜underwing」と呼ばれているが、調べた限りではウスイロキシタバには特に英名は付けられていないようだ。
もし名付けるとするならば「Off white underwing」あたりが妥当かな? 或いは「Ivory underwing」「Ivory white underwing」とかだろね。個人的には、オフホワイトよかアイボリーの方がシックリくるな。
まあ、英名なんてどっちだっていいけどさ。

 
【亜種と近縁種】

■Catocala intacta intacta Leech, 1889(日本)
日本で発見されたので、日本産が原記載(名義タイプ)亜種となる。

■Catocala intacta taiwana Sugi, 1965(台湾)
1965年に杉 繁郎氏によって記載された台湾亜種。
日本のモノとはどう違うんだろ❓
でも『世界のカトカラ(註5)』にはナゼか台湾産の標本写真が載ってなかった。もしかして珍しいのかも❓

探したけど、画像はこんなんしか見つけれんかった。⬇
情報が少ないと云うことは、どうやら台湾では稀そうだな。

 


(出典 3点共『台湾生物多様性資訊入口網』)

 
何となく日本のものとは違うような気がするが、標本が古くて真面目に検証する気が起こらない。
そうだ。日本人の記載だし、それも蛾の大家である杉さんだったら、アホなワシでも何とか記載論文を見つけられそうだ。

(◠‿・)—☆ありましたー❗
わりかし簡単にネットで目っかったよん。

『Illustrations of the Taiwanese Catocala,with Descriptions of Two New Species :Noctuidae of Taiwan1(Lepidoptera)』と云うタイトルの論文なのだが、全面英文で書かれていた。(╯_╰)メンドくせー。

たぶん、両者の違いについて書かれているのは、この箇所あたりだろう。

「differs from the nominate subspecies in the reduced median and marginal bands of hindwing, otherwise nearly identical.」

意訳すっと「原記載亜種とは異なり、後翅中央の黒帯、並びに外側の黒帯が減じ、細くなる。それ以外はほぼ同じである。」てな感じだろうか。

確かに日本のモノと比べて明らかに下翅の黒帯が細い。
亜種となるのも納得である。
余談だが、ネットには台湾名に『白裳蛾』と云う漢字を宛がっているサイトがあった。

大陸側の中国(中国浙江省の西天目山)でも分布が確認されているが、ソヤツは特に亜種区分は為されていないようだ。
『世界のカトカラ』には台湾産は無かったけど、中国産は図示されていた。

 


(出展『世界のカトカラ』)

 
台湾産みたく下翅の黒帯は細くなく、日本のものと特に変わったところは見当たらない。亜種区分されてないのも納得だね。

近縁種に、Catocala hoferi Ishizuka&Ohshima(ヒメウスイロキシタバ)という中国南東部に分布するものがいる。
ウスイロキシタバと比べて小型で、後翅の色調は暗い。成虫は5月頃に出現するそうだ。

 
【Catocala hoferi Ishizuka&Ohshima,2003】

(出典『世界のカトカラ』)

 
ウスイロというよりも、ヤクシマヒメキシタバの方がパッと見的には近い。それにしても子汚い奴っちゃのー。★4つだから、珍品みたいだけどね。

何となくネットサーフィンしてたら、変なのが出てきた。

 
(図1)

(出典『ResearchGate』)

 
(図2)

(出典『BioOne』

 
Catocala becheri Kons&Saldaitis といい、最近になってベトナム中部から発見され、2017年に記載されたようだ。どうりで石塚さんの『世界のカトカラ』にも載ってなかったワケだね。

画像1枚目の1.2.3が新種で、4.5.6がウスイロだ。ちなみに4は日本産(多治見)、5が中国江西省・武夷山、6は中国福建省のものだ。浙江省以外にもいるんだね。
この新種、一見してウスイロとソックリだ。けど上翅の黒い斑が濃く、外側も黒ずんでてメリハリが強い。後翅は茶色っぽくて黒帯が減退しがちだ。そして外側の黒帯が太い。
論文の触り(抄録)には、ウスイロや Catocala hoferi とは♂交尾器の形態が明らかに異なると書いてあった。

試しに学名でググッたら、ラオス在住の蛾採りの天才 小林真大(まお)くんのツイッター(Moth Explorer LAOS)にヒットし、そこに灯火に飛来した C.becheri の写真があった。画像は貼っつけれないけど、物凄く黒っぽくて、ウスイロとはかなり印象を異にする。黒い魔術師と白い魔術師ってな感じだから、ちょっと自分の標本箱に並べてみたくなったよ。
発生は3月からのようで、日付は3.26となっていた。一瞬、エラく早いなと思ったが、よくよく考えてみれば3月、4月の雨季前のこの時期は蝶も多い。ラオスは亜熱帯だかんね。この時期でもクソ暑い。
あー、またラオス行きてぇー。長いこと行ってないもんね。
論文の標本写真のラベルは5月になっていたから、少なくとも2ヶ月くらいの寿命はあるのだろう。発生は3月下旬、もしくは中旬から始まるものと思われる。ビャッコイナズマだけがまだ採れてないし、行きたいなあ…。

画像2枚目は、A.B.C.Dがベトナムの新種。E.Fはラベルがネパール産となっている。G.Hが日本の原記載のウスイロ。IとJはウスイロの台湾亜種だ。
論文を読めてないので、E.Fが何なのかがよくワカンナイ。ウスイロはネパールに分布しないから、これも新種 C.becheriになるのかな? それともウスイロの新亜種なのかな? 上翅はウスイロでも新種でもない変な感じだ。強いて言えば、その中間? 但し、新種は裏面上翅の帯がウスイロよりも太い。ネパール産のモノも太い。コレって何者なんざましょ❓
 
ところで、図鑑等では並びになっている Catocala tokui ヤクシマヒメキシタバとの類縁関係はどうなっているのだろうか❓ 何となく似てるし、並んでるから近縁だと思ってたけど、他人の空似という事はないのかね❓
DNA解析では、どうなってたっけ❓

 

(出典『Molecular Phylogeny of Japanese Catocala Moths Based on Nucleotide Sequences of the Mitochondrial ND5 Gene』)

 
図は拡大できるが、探すのは大変だろうからトリミングしよう。

 

 
近いっちゃ近い。
でもクラスターは上の Catocala streckeri アサマキシタバの方が近縁に見える。
この疑問に関してはアサマキシタバの回でも書いたが、世界的カトカラの研究者である石塚勝己さんから次のような御指摘があった。

「ブログ、楽しく読ませていただきました。
引用されているDNA系統樹は、新川さんにやっていただいたミトコンドリアND5をMLで処理したものです。これでアサマとウスイロが近縁と判断するのは誤りです。ここで類縁が指摘されているのはワモンとキララ、オオシロとcerogama、ムラサキとrelicatだけです。そのほかのものは類縁関係は判断できません。おそらくミトコンドリアND5の解析ではカトカラの系統を推定するのは無理なのだと思います。😀」

つまり、ウスイロとヤクヒメの類縁関係は証明されていないとゆう事だね。

 
【開張(mm)】
ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』では、58-60mmとなっていた。一方、岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』では54〜61mm内外となっていた。『みんなで作る〜』は古い図鑑、たぶん『原色日本産蛾類図鑑』の表記をそのまま採用していると思われるので、岸田先生の図鑑の54〜61mmを支持する。但し、58〜60mmくらいの個体が多い。

 
【分布】
本州(中部地方以西)、四国、九州、対馬、屋久島。
国外では中国南部・台湾に分布する。

 

(出展『日本のCatocala』)

 

(出展『世界のカトカラ』)

 
杉 繁郎氏の『ウスイロキシタバ(改称)の採集記録』によると、タイプ産地の滋賀県長浜でリーチが1886年7月に採集して以来、その後ほとんど採集されず、僅かにMELIが神戸で採集した1♂の記録(1936)のみしか長年無かったそうだ。つまり、嘗(かつ)ては大珍品だったのである。そんな時代、永井洋三氏が1956年に静岡市北安東にある静岡県農業試験場の予察燈で本種を採集し、その分布が意外にも本州南岸に沿って東に延びている事が知られるようになった。その後、静岡県金谷町、長野県下伊那郡など東日本の各地でも少ないながら分布が確認されるようになったようである。また、日本海側では福井県武生市山室町(北限)でも見つかっている。

暖温帯系の種で、主に九州から山梨県南部(東限)に分布する。西尾規孝氏の『日本のCatocala(註6)』には、成虫の分布は食樹であるアラカシの分布と重なると書いてあった。
この事からも、たぶん垂直分布は低くて平地から低山地に棲むカトカラだろう。

北から順に調べた範囲内での主な産地を並べてみよう。
東日本では山梨県南巨摩郡身延町、長野県下伊那郡、岐阜県美濃加茂市、愛知県豊田市、豊川市平尾町、北設楽郡に記録がある。
ネットを見ると、愛知県や岐阜県南部では比較的多く見られるようだ。

関西では、京都市八瀬、京都府美山町芦生原生林。滋賀県長浜市、八日市。大阪府能勢町、池田市、箕面市。奈良県上北山村、川上村。和歌山県田辺市中辺路町、日置川町。三重県紀伊長島町、海山町、紀和町の記録がある。
人伝ての話だと、どうやら紀伊半島南部には広く分布するようだ。この地域は植林地も多いが、原始からの暖帯照葉樹林も結構残っているから解る気がする。気になるのは沿岸部の紀伊長島町の記録。探したら、意外と沿岸部の産地が沢山見つかるかもしれない。案外、キナンウラナミシジミと分布が重なったりしてネ。でもキナンウラナミの食樹はアラカシではなくてウバメガシだからなあ…。全然、的外れかもしんない。
大阪府南部に記録がないのも気になる。それなりに暖帯照葉樹林はあるし、記録の多い紀伊半島南部とも連なるから探せば見つかるかもしれない。
兵庫県の記録も比較的多く、神戸市の他にも宝塚市、西宮市、姫路市豊富町、丹波市山南町、赤穂市上郡町、相生市矢野町、佐用郡佐用町などの記録があり、よく調べられているといった感がある。
だが『兵庫県のシタバガ(註7)』には「県下では南部の平坦地に分布するが確認されている地点は少ない。」と書かれてあった。ならばと『兵庫県のカトカラ(註8)』で確認すると、やはり★★の「分布は限られるが、産地では個体数が多い」というカテゴリーに入れられていた。
これで疑問が解けたよ。
カトカラ同好会の『ギャラリー・カトカラ全集』には「関西の愛好者にとってはなんということのない種であるが、関東以北の愛好者にとっては憧れのカトカラの一つである。」と書かれてあったから、正直採る前から楽勝気分だった。でも全然そんな事はなかったからね。カトカラ同好会に所属しているAくんも姫路でしか見たことが無いと言ってたし、小太郎くんも赤松か加西のサービスエリアで1回だけしか見たことがないと言ってた。自分も各地を探してみたが池田市と箕面市で惨敗。生駒・金剛山地では記録は無いようだし、他のカトカラを採りに行った折りに偶然出会った事も無い。それで何処にでもいると云うイメージは完全に吹っ飛んだ。食樹であるアラカシは何処にでもあるのだが、何処にでもいないのだ。分布は関西でも局所的で、そんなに簡単に採れるような普通種ではないと思う。

中国地方では、岡山県吉備中央町、倉敷市、広島県庄原市、島根県三瓶町、大田市などからの記録が拾えた。岡山県南部から中部では普通に見られ、北部では少ないという。

四国は高知県土佐市宇佐町、高松市の記録しか見つけられなかった。しかし、上の分布図によると四国全県に記録はあるみたいだ。

九州地方は福岡県のレッドデータブックによると、九州での記録は少なくて局地性が強いという。西に行けば行くほど生息地が増え、普通種となるのかと思いきや、意外とそうでもないんだね。とはいえ、コチラも分布図を見ると全県に記録があるみたいだ。
福岡県内では、過去に大牟田市勝田で記録されただけであったが、近年朝倉市山田で確認された。そして朝倉市の記録は大分県日田市内の記録の延長線上にあると考えられると添えられていた。その大分県は他に佐賀関町、深耶馬渓に記録がある。耶馬渓には個体数が多く、散発的に日田市内まで見られるという。宮崎県は延岡市に記録がある。佐賀県、熊本県の記録は見つけられなかった。但し、熊本県は耶馬渓に隣接する地域には棲息すると思われる。鹿児島県は屋久島の記録しか見つけられなかった。長崎県も対馬の記録しか見つけられなかったが、多産するみたいだ。因みに何処にも書いていないけど、対馬のものは普通の型の他に黒っぽいタイプもいるみたいだ。

 

(出展『世界のカトカラ』)
 

(出展『撮影・採集した対馬の興味ある蛾』)

 
これについては、たまたま黒っぽい個体が目についただけだから、真偽の程には自信が無いことをお断りしておく。
それはそうと、下の個体って新種 C.becheri に似てなくね❓

話を戻そう。
西尾規孝氏の論文『環境指標としてのカトカラ(やどりが 204号 2005)』には、各カトカラの希少度を数値で示した表が載っていた。それによると、希少度が一番高いのがアズミキシタバで数値は338。以下、ヤクシマヒメキシタバ331、フシキキシタバ312、カバフキシタバ311、ナマリキシタバ310、ミヤマキシタバ304、ヒメシロシタバ283。そして、ウスイロキシタバとケンモンキシタバが278という順になっていた。
この時代の日本のカトカラは全部で30種(今は32種)だった筈だから、同率だが8位って事はかなり上位にランクされている。それはそうと、昔はフシキって相当な珍品だったのね。今や関西なら何処にでも居るけどさ。あっ、フシキを除けば実質7位じゃないか。7位と云うのは、かなり珍しい部類と言えるよね。
ようは全般的にウスイロの分布は局所的で、やはり何処にでもいると云うワケではなさそうだ。情報を何でもかんでも鵜呑みにしちゃダメだね。同時に書く方も気をつけなきゃいけないと思ったよ。実際、ネットには孫引きで関西には多いと書いているブログをよく目にする。そういや、まだカトカラ1年生でウスイロを見たことがない頃、山梨で会った関東の高校生に「関西はウスイロが簡単に採れていいですよねぇ。」と言われた事があったわ。きっと東日本の人が関西へ来て、誰かに現地を案内された場合、産地には個体数が多いから何処にでも沢山居ると思い込むケースなんてのもあったのだろう。『ギャラリー・カトカラ全集』の記述とそれらが『関西では普通種』という説が伝播していった原因になったのかもしれない。

おそらく西日本でも自然度が高い環境の良い照葉樹林(常緑カシ林)にのみ生息するものと思われる。類推するに、+アルファで起源の古い大きな森でアラカシの大木があり、すぐそばには川があって湿度の高い環境を好むのではなかろうか❓ 自分が見た兵庫県と三重県の生息地は、どちらもこれらの条件を満たす環境だった。紀伊半島南部ではヤクシマヒメキシタバと同時に得られることが多く、個体数も多いと聞いたことがある。そういえば、規模が大きな林であれば個体数は少なくないようなことが何処かに書いてあったな。居ないところも多いが、居る所には沢山いるって感じなのだろう。
でもなあ…、規模の大きい照葉樹林がある奈良市春日山で探し回っても見つからんかった。もしかしてクヌギやコナラの混じる照葉樹林の方が良いのかなあ…。 けどそんな環境だったら、関西だと何処にだってある。ワケわかんねえよ(@_@)

一方、ネットのブログ『尾張の蛾、長話』の「ウスイロキシタバ覚え書き」には、愛知県豊田市では以前は居なかった場所でも見つかるようになり、分布が広がっているようなことが書かれてあった。そして以下のような一文で締め括られていた。

「近年、放棄された森林にアラカシやツブラジイが侵入し、照葉樹林化していることが分かってきているが、その影響なのか?地球温暖化もあり、北限もそのうち更新されるかもしれない。」

この文章の雰囲気だと、原生林と云うよりも放置された二次林にいるような感じだ。でも棲息環境については詳しく書かれていない。それくらい書いてくれても良さそうなものなのにね。何でこうも大概のブログは秘密主義ばっかなのだ。詳しい産地まで書く必要性はないとは思うが、生態面や観察時刻まで秘密にする必要性は無いと思うんだよね。でも、あんましそれらを書いているサイトはあらへん(この人はまだ書いてる方だ)。特に蝶の写真しかやってない人たちが酷い。露出とかシャッタースピードなんてどうでもよろし。対象物に対する観察記述が殆んど見られないから正直使えない情報ばっかで、糞オナニーかよと思う。写真だけで、何の生態データもほぼ無いに等しいものだらけなのだ。そんなの文献としての価値はゼロだ。オナニーなら、魅せるオナニーをしろよな。画期的なオナニー方法なら、オラも知りたいよ。
もし目の前で「ネットマン」とか揶揄してくる奴がいたら、その場でボッコボコにしたるわい(ノ`Д´)ノ❗
あっ、いかん、いかん。酒飲みながら書いてるから、つい熱くなってしまったなりよ。撮る人も採る人も仲良くやった方がいいよね。マナーを守って互いに情報交換すれば有益だと思うんだけどな。特に蛾なんて生態が解明されてない種が多いから、協力しあった方がいいに決まってる。一応言っとくけど、撮影する人とは何処でも上手くやってまーす。楽しい方がいいもんね。腹立つのは、カメラやってる人の網を持ってる人へのネットでの陰湿な攻撃なのさ。٩(๑`^´๑)۶プンプン。
けんど、よくよく考えてみると蛾好きに写真しかやってない人なんているのかね❓
たぶん居ないよね。だって夜だもん。蝶の写真を撮ってる人とゴッチャになっとるわ。酒、呑み過ぎー😵🥵

やっぱり脱線してまっただよ。
それはそうと、果たしてウスイロは二次林に進出したアラカシと共に分布を拡げているのだろうか❓ もし愛知県ではそうなら、関西でも事情は同じ筈だろう。放置された雑木林がカシ類の進出により各地で薮化しているからね。でも何処にでも居るような感じにはなってなさそうだ。アラカシの若木に幼虫が寄生するなら、とっくに関西でも普通種になってる筈じゃないか。でもあまり見ないし、簡単には北限なんて更新されるとは思えない。
いや待てよ。分布の端っこに行けば行くほど生態は変わるという例はよくある。或いは食樹も含めて新たな生活様式を獲得して進化しているのかもしれない。けど、愛知県は分布の端っこではないか…。ないよね。酔いが回っとるわ。
まあ、こっちはまだカトカラ三年生だし、所詮は考えの浅いド素人だ。バカの放言でしかない可能性もあるからして、蛾のベテランさん達は怒らんといてやー。アホな奴の戯言だと思って流して下され。

 
【レッドデータブック】
滋賀県:絶滅危惧種
高知県:情報不足
宮崎県:情報不足

蛾類については、この情報不足と云うのが多い。
やっぱ蝶なんかと比べて愛好者が少ないんだろなあ…。

 
【雌雄の判別法】
野外の暗い中では、意外と雌雄を間違え易い種だと思う。
多くのカトカラの♂は腹が細長く、尻先に毛束がある。♀はその反対の見た目だからパッと見で大体区別がつく。それに対してウスイロはその特徴がやや弱いところがある。♂でも腹がそんなに長くないし、結構太かったりもする。加えて尻先の毛束もボーボーじゃないから、ややこしいのだ。最近は老眼も入ってきてるしさ。細かいとこが見えんのじゃ。
やっぱ決定的な差異は、裏側から見た尻先だろね。そこが判別のキモだ。

 
(♂裏面)

 
♂は尻先に毛束がある。
画像は拡大できるが、拡大図も載せておこう。

 

 
 
でも、あんまし毛束が無いのもいるから、ややこしい。

 

 
ピンボケでスマンが、♂なのにあまり毛束がないことは分かるかと思う。
一応、同じ個体の展翅画像を拡大したのも貼っつけておこう。

 

 
ねっ、♂なのに毛束があんまし無いっしょ。

 
(♀裏面)

 

 
♀は尻先に縦にスリットが入り、産卵管らしきものが見える。
コチラも画像は拡大できるが、展翅画像をトリミングしたものを貼っつけておこう。

 

 
でも、⬇こんなワケわかんないのもいる。

 

 
腹太だから一見すると♀に見えるが、尻先にスリットが無く、産卵管も見えない。となると、♂ということになる。こんなのがいるから、ワケわかんなくなるのだ。

因みに横から見ても判別は大体できる。

 
(♂横面)

 
(♀横面)

 
腹の太さと尻先の形で、おおよそは判別可能だ。
♀は腹が太くて尻先が尖って見える。この尖って見えると云うのが重要な区別点だ。それが横からだとよく分かる。
他に♂の方が前脚のモフ度がやや高いというのもあるが、アサマキシタバ程には差が無いし、飛び古した個体は毛が抜け落ちてるので補助的にしか使えない。また♀の方が翅に丸みを帯びるというのもあるが、微妙なのもいるから同様に補助的にしか使えまへん。

 
【成虫の発生期】
ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には6ー7。『日本産蛾類標準図鑑』では「6月上旬から出現し、7月下旬まで見られる」とあり、『世界のカトカラ』もそれと同じ発生期になっていた。『日本のCatocala』でも基本は同じだが、ごく一部の個体が8月上旬まで生き残るとあった。但し、7月上旬を過ぎると大半は姿を消す。ゆえに新鮮な個体を得たければ6月下旬までだろう。場所にもよるだろうが、7月に入ると傷んた個体ばかりになる。このカトカラは鮮度が命。新鮮な個体でなければ魅力は半減する。傷んだ個体は他のカトカラと比べて色が薄いだけに、より擦れ擦れに見えるのだ。

 
【成虫の生態】
成虫はコナラやアベマキ、クヌギなどの樹液に飛来する。
『日本のCatocala』には「一般に糖蜜採集では採集困難…」とあったが、自分の糖蜜トラップには楽勝で飛んで来た。レシピ次第では樹液をも凌駕する。ちなみに今年は常にワシの勝ちじゃったよ。カバフキシタバの時もワンサイド勝ちだったから、ワシって糖蜜トラップ作りの天才じゃね❓
けど、毎回テキトーに作ってるからレシピは自分でもワカラン。だから再現でけへんねん(笑)。ようはアホなのである。

飛来時は白っぽく見えるからウスイロだと直ぐに分かる。
白いゆえ他のカトカラと比べて上品な感じがして、(´▽`)💞萌え〜。まさに「穢れなきインタクタ」だ。リーチも最初は闇の中で飛んでいるのを見たのかもしれない。その時に無垢なる印象を強く持ったことは充分に考えられる。だったら、この学名にも納得だ。標本だけを見て、あーだこうだ言うのは考えもんだね。標本は所詮はミイラなのだ。生きている時の本当の美しさは損なわれている。

樹液に飛来した時刻は、早いもので日没後間もない7時半頃。とはいえ、フシキキシタバやコガタキシタバよりも遅れて飛来し、大体は8時くらいから活性が入り始める。暫くして飛来が一旦止まり、9時半前後からまたポツポツと飛んで来て、午後10時〜11時台にかけて再び小規模だが活性が入る。但し、これはその日の気象条件によっても変わり、午後8時半を過ぎても飛来しなかった事もあった。
尚、吸汁時には殆んどの個体が下翅を開く。敏感度は普通ってところかな。
調べた限りでは、樹液以外の餌となりうる花蜜、果実、アブラムシの甘露での観察例は無いようだ。また吸水に来た例も見つけられなかった。

灯火にもよく飛来し、一晩に何十頭と飛んで来る事もあるという。個体数が多い所では樹液や糖蜜採集よりも灯火採集の方が効果があるという説を又聞きだが聞いたことがある。
因みにアチキの何ちゃって小型ライトトラップには午後9時半頃と10時15分、11時過ぎに飛んで来た。これまた又聞きだが、灯火への飛来時刻は夜更けになってからが多いみたい。
個人的な意見だが、多数の個体を望まないなら、樹液や糖蜜トラップの方が早めに片が付く。おそらく樹液に集まるカトカラ類は、先ずは吸汁してから、その後に灯火に飛来するのだろう。

日中、成虫は頭を下にして樹幹に静止しているというが、見たことはない。驚いて飛ぶと、おそらく着地時は上向きに止まり、暫くして下向きに姿勢を変えるものと思われる。

交尾記録は、少ないながらも午後11時から午前2時の間で確認されている。

 
【幼虫の食餌植物】
ブナ科コナラ属のアラカシ(Quercus glauca)。
幼虫の好む樹齢については調査されていないようで不明。
自然界ではアラカシのみが知られるが、クヌギやアベマキでも代用食になり、累代飼育も可能なようだ。
思うに、自然状態でもアラカシ以外の樹種を利用しているのだろう。ガって、チョウみたいに食餌植物に対してあまり厳密的ではなく、属レベルどころか科も関係なく何でも食う奴は多いからね。

 
【幼生期の生態】
いつものように幼生期は西尾さんの『日本のCatocala』に全面的に頼らせて戴く。西尾さん、いつもすいません。

 
(卵)


(出展『日本のCatocala』以下この項の写真は同出展)

  
卵は食樹の樹皮の裏などに産まれるが、観察例は少ないという。飼育下だが、卵の孵化の時期はナラ属を餌とするカトカラの中では早い方で、アミメキシタバよりも1週間から10日ほど早く、5月中には蛹化するという。

 
(3齢幼虫)

 
(5齢幼虫)

 
(5齢幼虫の頭部と、その脱皮殻)

 
終齢は5齢で、昼間は細めの枝に静止しているようだ。色彩変異は野外でも飼育下でも認められないという。
幼虫を高密度で飼育すると、4、5齢時に幼虫同士が口器で互いを噛じり合って傷をつけ、死亡する場合があるそうだ。
蛹については、よく分からないが、おそらく落葉の下で蛹化するものと思われる。

チョウやガは、互いが近縁種かどうかは幼生期の形態で大半は分かるとされている。なので、ついでだからヤクシマヒメキシタバの幼生期の写真と比較してみよう。

 
(ヤクシマヒメキシタバの卵)

 
幼虫は自然状態では見つかっておらず、食樹は不明だが、ウバメガシで良好に育つことが知られている。

(3齢幼虫)

 
(5齢(終齢)幼虫)

 
飼育下では、ウスイロと同じく色彩変異は認められていないようだ。

 
(5齢幼虫の頭部と、その脱皮殻)

 
卵は全然似ていないけど、終齢幼虫は結構似ているかも。
カトカラの幼虫の識別には頭部の柄の違いが重要だと言われているが、顔も似ている。親戚くさいぞ。
微妙ではあるが、両者は近縁関係にあると言えなくもないってところか…。

                       おしまい

 
追伸
やれやれ。今回も長おましたな。書いてて酷く疲れたよ。下書きはサラッと書けたのになあ…。

次回は2019年に目っかった新しきカトカラ、マホロバキシタバの予定。
とはいえ、今年の調査が終わってから書くかもしんない。たった一年の調査で偉そうな事を書いて恥かきたくないしさ。
どうしても知りたい人は、『月刊むし』の2019年10月号を買いましょう。その採集記に、現時点で知ってる事は全部書いてある。 

 
(註1)杉繁郎氏の論文
杉 繁郎・永井洋三『ウスイロキシタバ(改称)の採集記録』
(蝶と蛾 8(3),34-35,1957 日本鱗翅学会)

 
(註2)LEECH
John Henry Leech(ジョン・ヘンリー・リーチ)
[1862年12月5日〜1900年12月29日]


(出典『Wikipedia』)

鱗翅目と甲虫目を専門とするイギリスの昆虫学者。日本や韓国、中国の昆虫を数多く記載した。日本ではギフチョウを記載したことで知られるから、その名に記憶がある人は多いかもしれない。他にゴイシツバメシジミの記載者にも、その名がある。
日本のカトカラでは、ウスイロキシタバの他にフシキキシタバやナマリキシタバの記載を行っている。

(註3)『ギャラリー・カトカラ全集』
カトカラ同好会のネットサイト。日本のカトカラ各種についての説明がコンパクトに書かれている。カトカラについて知る入門書としては打ってつけのサイトだろう。

 
(註4)『日本産蛾類標準図鑑』

蛾類学会の会長でもある岸田泰則氏編著の、今のところ日本の蛾類について最も詳しく書かれた図鑑。全4巻からなる。2011年に学研から出版されており、ジュンク堂書店など大きな本屋に行けば売っている。

 
(註5)『世界のカトカラ』

世界的なカトカラ研究者である石塚勝己氏によって書かれた本。世界中のカトカラの標本写真が掲載されており、カトカラ属全体を俯瞰して見るには格好の書。2011年に、むし社から出版されている。

 
(註6)『日本のCatocala』

2009年に西尾規孝氏により自費出版された日本のカトカラについて最も詳しく書かれた本。生態面に関しては他の追随を許さぬ優れた生態図鑑である。

 
(註7)『兵庫県のシタバガ』
高島 昭 きべりはむし 31(2)
「きべりはむし」は兵庫昆虫同好会の機関誌だが、活動休止に伴い、2009年4月からは「NPO法人こどもとむしの会」が引き継いでPDF管理している。

 
(註8)『兵庫県のカトカラ』
阪上 洸多・徳平 拓朗・松尾 隆人 きべりはむし 39(2)

兵庫県のカトカラについては、これを読めば全て解ると言っても過言ではないくらいによく調べられている。兵庫県は関西で最もカトカラの種類が記録されているから、ひいては関西のカトカラの事もこれを読めば大体解るという優れた報文。
近年、新たに市川町でヤクシマヒメキシタバも見つかっているらしいので(※)、是非とも改訂版を執筆して戴きたい。

(※)
坪田 瑛:ヤクシマヒメキシタバを兵庫県市川町で採集
誘蛾燈No.234 2018

中身は読んでない。誰か詳しい場所を教えてくれんかのう。

 
 
 

 

2019’カトカラ2年生 その弐(4)

 
   vol.19 ウスイロキシタバ

 第四章『瓦解するイクウェジョン』

 

2020年 6月17日

取り敢えずウスイロキシタバの新鮮な個体を雌雄共に確保できたので、新たな産地を探すことにした。

 
【ウスイロキシタバ Catocala intacta ♀】

 
これまでの結果、ウスイロが樹液、糖蜜トラップ、ライトトラップに飛来することは分かった。となれば残る象牙色の方程式の解明は、その棲息環境だろう。予測ではアラカシの大木が有るような古い起源の照葉樹林で、且つある程度の広さを有する湿潤な環境を好むのではないかと考えていた。
そういう場所となると、近畿地方では何処だろう❓
そこで真っ先に浮かんだのが奈良県の春日山原始林だった。あそこなら、これらの条件が完璧に揃っている。広大な原始林は常緑照葉樹を主体としており、そこに落葉広葉樹が混じる。幼虫の食樹であるアラカシも有り、古い起源の森だから勿論のこと大木もみられる。またイチイガシなどのアラカシ以外のカシ類も豊富だから、それらを二次的に利用する事も充分可能な環境でもある。加えて成虫の餌である樹液の供給源、クヌギやコナラ、アベマキも点在する。そして、原始林内には川も数本流れており、湿潤な環境という要素も満たしている。ようは、ここにいなきゃ何処にいるのだ❓というような場所なのだ。もしかしたらウスイロばかりか、ヤクシマヒメキシタバ(註1)だっているかもしれない。

 
【ヤクシマヒメキシタバ】

(出展『www.jpmoth.org』)

 
もしヤクヒメが見つかったら、ちょっとしたニュースだろう。マホロバキシタバ(註2)に次ぐ2匹目のドジョウじゃないか。そんな風に想像してたら、ニヤついてきた。今年も連戦、連勝じゃーいヽ(`Д´)ノ❗

ただ、一つ気掛かりなのは此処でのウスイロの記録が探しても見つけられなかった事だ。調べた範囲では奈良県の記録は上北山村ぐらいにしか無い。まあどうせ調査が行き届いてないんだろうけどさ。所詮は世の嫌われ者の蛾だ。調べた人が少なくて、しかもイモばっかだったのだろう。
あっ、でも甲虫屋とか蝶屋もよく訪れるところだから、記録があってもよさそうなもんじゃないか…。
いやいや、だったらマホロバもとっくに発見されて然りだった筈だ。それがあれだけ長年にわたり多数の虫屋が入ってきたのにも拘らず、去年まで見つからなかったのだ。ようは皆さん、蛾なんて無視なのだ。だから記録もない。そうゆう事にしておこう。

この日はマホロバの予備調査も兼ねていたので、小太郎くんも参戦してくれた。勿論、春日山と奈良公園一帯は昆虫採集は禁止されているので、公園事務所の許可を得ての調査だ。

 

 
今年、マホロバの採集を目論んでる方は、採集禁止エリアを調べてから出掛けることをお薦めします。許可なく夜の原始林内をウロウロしてトラブルを起こすリスクをわざわざ冒さなくとも、禁止エリア外でも結構採れますから。

マホロバの事も考えて、原始林とその周辺にかけて樹液の浸出状況を確認してゆく。その経過の中で、どうせウスイロも見つかるだろうと思っていたのだ。

しかし、何処でも姿は全く見られない。どころか、別なカトカラの仲間さえ殆んど見ないし、他の蛾たちも数が少ない。居るのはノコギリクワガタばっか。あまりにも何もいないので、つい普段はムッシングするクソ夜蛾を採ってしまう。

 

 
羽を閉じて止まっているのを見て、体の真ん中の白い線(上翅下辺)が目立ったから、見たことない奴だと思ったのだ。
名前がワカンなくて、Facebookに載っけたら、何と有り難いことに石塚(勝己)さんから、ノコメセダカヨトウだという御指摘を受けた。けんど驚いたでやんす。まさか奴だとは微塵も思ってなかったからね。

ノコメセダカヨトウといえば、だいたいはこんな感じだ。

 

(出展『茨城の蛾』)

 
コヤツなら、何処へ行ってもウザいくらいにアホほどいる。
なので、(⑉⊙ȏ⊙)マジか❓と思ったワケ。でもよく見ると、コヤツの上翅の下辺にも白い縁取りがある。
石塚さん曰く「普通種ですが、色調の変異は多様です。」との事。ふ〜ん、これは謂わば黒化型みたいなもんだね。
けど、ネットで検索しても、ここまで黒いのは見つけられなかった。もしかして、コレってレアな型❓
所詮はデブ蛾だから、どっちゃでもえーけど。

最後に若草山の山頂をチェックして、この日の調査を終えることにした。

 

 
若草山の山頂は夜景スポットとして人気があり、観光客が結構来ていた。
駐車場から山頂までの遊歩道の途中で、小太郎くんが上空を飛ぶカトカラを見つけた。それなりに高くて網が届かない位置だったから見送るしかなかったのだが、アレって何だったんだろう❓という話になった。かなり裏面が全体的に黄色っぽく見えたのだ。
消去法でいくと、キシタバ(C.patala)は特別大きいから可能性は低いだろう。だいち裏面はウスイロとは全然違うから間違えるワケがない。

 
(パタラキシタバ 裏面)

 
因みに、キシタバ(註3)の回で小太郎くんの事をキシタバ虐待男と書いたが、今や蔑視度は更に上がって「デブキシタバ」と呼んでいらっしゃる。但し、その憎悪も突き抜けてしまい、虐待にも値しないようだ。キシタバくん、良かったね。悪いお兄さんは、もう怖くないよ(•‿•)

あと、この時期に此処で見られるキシタバの仲間もいえば、コガタキシタバとフシキキシタバくらいしかいない。
でもコガタは裏面が黒っぽいから、ウスイロと間違うことはない。除外していいだろう。

 
(コガタキシタバ 裏面)

 
となると、フシキかウスイロのどちらかしかない。
けど、ウスイロって飛んでるのを下から見た事って、あんましないんだよね。採ってた場所は木が密生していて、上に大きな空間が無く、皆さん横に飛んで行かはるケースが多かったのだ。
しかし、小太郎くんは、アレはフシキじゃなかったと思うと言う。たしかにフシキならば、もっと黄色が濃くて鮮やかな気がする。

 
(フシキキシタバ 裏面)

 
(ウスイロキシタバ 裏面)

 
ならば、おそらくウスイロだろうと思った。あの飛んでるのを下から見たという一点だけで充分だった。居るならば、そのうち採れる。だからその後、探し回ることも無く、直ぐにワモンキシタバを求めて平群町へと移動した。
時期的に、そろそろワモンを採っとかないとボロばっかになる。優先順位はワモンさんなのだ。ウスイロはもう新鮮な個体は採ったし、ここではボロだって構わない。居るという事実さえ掴めばいいのだ。

で、帰る時間ギリで何とか採って帰った。

 
【ワモンキシタバ Catocala xarippe ♂】

 
ワモンって、渋カッコいいから好きなのだ。
あれっ?待てよ、自分は見たことないけど、そういえば小太郎くんが若草山にもワモンがいるって言ってたな。

あの見送った奴はワモンの可能性もあるかもしれない。たぶんワモンの裏面も黄色は薄かった筈だ。

 
(ワモンキシタバ 裏面)

 
でも、こんなに黒帯は太くはなかった筈だから、ワモンでもなかったと思われる。益々、ウスイロの可能性大だ。
 
 
 
2020年 6月20日

前回は様子見だったが、この日はマジ探しだった。
一番可能性の高そうな春日山遊歩道に狙いをつけて入った。
ここは照葉樹の原始林の真っ只中だし、道の横には川が流れているからだ。予測した環境としては申し分ない。どうせ居るだろうから、まあサクッと居ることを確認して、とっとと帰ろう。

 

 
森の中、真っ暗けー。

そういえば、去年は若草山でカバフキシタバを探したが見つけられず、早めに見切ってこの道を降りたんだよね。その時も真っ暗で、相当ビビりながら歩いた。オマケに思ってた以上に道のりが長かったから、途中でバリ不安になった。もしや別な異次元世界にでも迷い込んだんじゃないかと思って、パニくり寸前の半泣きどした。
そうだ、そうだ。思い出してきたよ。その後にカバフキシタバを採ったのに、あろう事か取り込みで逃しちまったんだよな。まあそれが結局はマホロバの発見に繋がったんだけどね。人生、何が幸いするのかはワカランもんだね。

 
【カバフキシタバ】

 
樹液の出てる木は見当たらないので、取り敢えず糖蜜を霧吹きで吹き付けてゆく。
しかし、少し時間が経っても何も寄って来ない。いつもなら、このスペシャル糖蜜に何らかの虫が直ぐに寄って来る筈なのだが…。
あっ、霧吹きを振ってから、かけるの忘れてた。下にエキスが沈殿するので、振って混ぜないと効力が半減するんだったわ。
とゆうワケで、今度は振ってから掛けようとしたら、シュコシュコ、シュコシュコ。シュコシュコシュコシュコシュコシュコ…。焦って何度もやるが、暗闇にシュコ音だけが空しく響くだけで液体は全く出てこない。
(-_-;)やっちまった…。こりゃ完全にノズルが詰まったな。
慌てて霧吹きを分解するも、だが事態を打開できない。何度試してもダメ。ただ握力だけが鍛えられるのみである。

まあいい。一回分だけでも、そのうち寄ってくんだろ。我が糖蜜トラップは無敵なのじゃよ。それに今回は採るのが目的ではない。何なら写真だけでもいいのだ。とにかく1頭だけでも飛んで来て、ここに居ることさえ証明できればいいのである。

だが、待てど暮せど、見事なまでに何もいらっしゃらない。
結局、9時過ぎまで待ったが何の音沙汰もなかった。諦めて下山し、樹液や灯火に来ていないかを確認しながら駅まで歩いた。他のカトカラも殆んどおらず、パタラが1頭だけ樹液に来ているのを見たのみで終わった。

 
【Catocala patala】

 
つまり、まさかの大惨敗を喫したってワケ。
あまりの惨事に、たぶん鬼日と言われる異常な日だったんだと思う事にした。でないと、プライドが保てない。

 
 
2020年 6月22日

何で、こないだはダメだったんだろ❓
本当にあの日は、たまたま鬼日に当たっただけなのだろうか❓
もしかしたら、純然たる照葉樹林よりも少しクヌギやコナラ、アベマキなどの広葉樹が混じる環境の方が良いのではと思い始めた。成虫の餌資源が有った方が良好な環境ではないかと思い直したのである。
そうゆうワケで、この日は滝坂の道を選んだ。

ここは道の左側(北)が春日山の原始林で、右側が広葉樹の混じる森だからである。道沿いに川が流れているので、空中湿度も高い。もう此処に居なけりゃ、何処にいるのだ❓という環境なのだ。

しかし、矢張り結果は同じだった。
(・o・;)マジかよ❓である。コレで完全に心が折れた。
で、調査打ち切りにした。何にも採れないって面白くないのだ。面白くない虫探しはしないというのがオラのモットーなのだ。
別に方程式なんて解けなくてもいいや。所詮はアマチュア。そこまで調べる義理は無い。どうせワシ、根性なしの二流虫屋やけん。
(TОT)ダアーッ。

                        つづく

 
追伸
なんとも冴えない終わり方である。
想定していたイクウェジョン、方程式は見事に瓦解した。象牙色の方程式は、また来年に持ち越しだよね。
因みに6月29日にも行ったが、ついぞウスイロを見つけることは出来なかった。こんだけ探しても見つからないということは、いないのかなあ❓…。絶対いる筈なのになあ…。いるけど、めちゃめちゃレアだとか❓
それはそうと、ならば小太郎くんと見送ったアレは何だったのだ❓フシキかなあ?…。でもフシキなんかとは間違えるワケないと思うんだよなあ。
ワテは根性なしなので、もういいやと思ってるけど、誰か根性がある人に是非とも此処でウスイロを見つけて欲しいよね。

次回、解説編で閉店ざんす。

 
(註1)ヤクシマヒメキシタバ
屋久島で最初に発見され、1976年に記載された。その後、九州、対馬、四国、紀伊半島でも分布が確認されている。

 
(註2)マホロバキシタバ

【Catocala naganoi mahoroba ♂】

2020年の7月に春日山原始林とその周辺で新たに見つかったカトカラ。しかし、国内新種にとどまり、最終的には台湾特産のキリタチキシタバ(Catocala naganoi)の新亜種として記載された。

 
(註3)キシタバ

各所で何度も書いているが、Catocala patalaの、このキシタバと云う和名、何とかならんもんかと思う。
毎度説明するのが面倒クセーんだけど、しなけりゃ論が進められないので説明します。カトカラ類の中で、この下翅が黄色いグループのことを総称して、皆さんキシタバと呼んでいる。でも、この C.patala の和名がキシタバだから、誠にもってややこしい。「キシタバ」と言った場合、それがキシタバ類全体を指しているのか、それとも種としてのキシタバを指しているのかが分かりづらいのだ。だから種としてのキシタバのことをいう場合、一々「ただキシタバ」とか「普通キシタバ」「糞キシタバ」「屑キシタバ」、又は小太郎くんのように「デブキシタバ」と呼ばねばならんのだ。にしても、人によって普通とか糞とかデブの概念が違ったりするから伝わらないこともあって、それはそれでヨロシクない。
そこで、自分は学名そのままの「パタラキシタバ」を極力使うようにしていると云うワケだ。パタラだったら、パタライナズマ(註4)と云う佳蝶もいる事だし、神話の蛇神様なんだから少しは尊敬の念も出よう。
とはいえ、ずっともっと他に相応しい和名があるのではないかと思ってた。で、こないだ小太郎くんとたまたまオニユミアシゴミムシダマシの話になって、そこから「オニ」と名のつく生き物の話に発展した。そこでワイのオニ和名に対する講釈が爆発したのだが(これについては拙ブログに『鬼と名がつく生物』と題して書いた)、その流れの中で、小太郎くんがボソッと言った。

「キシタバとか、いっそオニキシタバにしたらどうですかね❓」

これには、目から鱗だった。たしかに、このグループの中では圧倒的にデカい。鬼のようにデカいし、上翅は緑っぽいから青鬼と言っても差し支えなかろう。それに鬼のパンツは黄色と黒の縞々だと相場が決まってるんだから、まさに相応しいじゃないかの灯台もと暗し。即座に「それ、いいやんか。」と返した。
だが、言った本人の小太郎くんは奴を憎んでおるから「えー、あんな奴にオニをつけるんですかあ?」と不満そうだったけどね(笑)。

カトカラ界の頂点に立たれる石塚さん辺りが、この和名を改称してくんないかなあ…❓
風の噂では新しい図鑑を出す御予定もあると云うし、ねぇ先生、この際だから和名を改称しませんか。もちろん最初に和名を付けられた方に対しての敬意を失ってはいけないのでしょうが、この問題を解決できる良い機会だと思うんだけどなあ…。
あっ、でもカトカラには他にオニベニシタバってのがいるなあ。まっ、問題はべつにないか…。オニキにオニベニの青鬼と赤鬼の揃いぶみでございやせんか。悪かないと思うよ。

 
(註4)パタライナズマ

【Euthalia patala】

(裏面)

(2016.3月 Thailand)

ユータリア(イナズマチョウ属)属、Limbusa亜属の最大種。
激カッコ良くて、裏まで美しい。そしてデカい。しかも、レアものときてる。
パーターラ(pātāla)とは、インド神話のプラーナ世界における7つの下界(地底の世界)の総称、またはその一部の名称。また、この世界はナーガ(Naga)と呼ばれるインドの伝説と神話に登場する上半身が人間の蛇神の棲んでいる世界だともされている。
パタライナズマについては、拙ブログの初期の頃に何編か書いとります。興味がある方は探してみてくだされ。

 

2019’カトカラ2年生 其の2(3)

 

  vol.19 ウスイロキシタバ

  『2020′ 象牙色の方程式』

 
2020年 6月12日

夏の扉が開いた。
日増しに陽射しも強くなり、ここのところ蒸すような暑さが続いている。いよいよ、今年もカトカラの発生が本格的に始まるんだなと思った。

去年、ウスイロキシタバは採れたものの、たった5頭のみだった。しかも新鮮な完品個体は1つも採れなかった。それにその生態、謂わば象牙色の方程式もまだ解けていなかった。今年はその答えも見つけたい。
問題はいつ先陣を切るかだ。文献に拠れば、九州や四国だと6月の上旬には発生するらしい。近畿地方ではどうなんだろ? 情報量が少ないので何とも言えないところがあるが、おそらく6月上旬の後半辺りには発生しているものと思われる。但し近年は気候の温暖化に伴い、虫たちの発生も年々早まっていると言われている。かといって春先の天候によっては発生が遅れる年もあったりするから判断が難しいところではある。今年の蝶の発生は、途中からやや遅れているとも聞いているしね。

去年、最初に採った日付が6月19日。鮮度はまずまずの♀だった。しかし、羽にスリットが入っていた。そこから逆算すると、フライング無しで新鮮な♂をゲットしたくば、その1週間前が頃合いではないかと考えた。そんなワケで、満を持してこの日に開戦することを早々と決めていた。
テキトーな性格なわりに意外と慎重なのは、単に何度も行きたくないからだ。これはあまり言った事かないけれど、金も労力も最低限で何とかしたがる効率重視の人でもあるのだ。

しかし当日にネットで天気を確認したら、夕方から夜にかけての予報は微妙だった。各社まちまちで、夕方から雨のところもあれば、そのままずっと曇りとしているところもあったりする。また雨としている予報にしても、丸っきり同じではなく、それぞれ降る時間帯にズレがある。予測雨量もバラバラだった。1mmのところもあれば30mmのところもある。それだとポツポツとザァーザァーくらいの違いがある。出掛けるとなると、博奕だろう。悩むところだ。
しかし、日が経てば経つほど彼女たちの羽はボロくなる。そろそろ行っとかないとヤバい。賭けではあるが、出掛けることにした。場所は去年と同じ武田尾渓谷。先ずは実績のあるところで確実に仕留めようという手堅い作戦だ。

車窓からずっと空の様子を見ていたが、福知山線 川西池田駅辺りで不穏な感じになってきた。北側の一部が帯のような黒雲に覆われている。悪意の塊のような不気味な雲だ。不安がよぎる。でもここは祈るしかない。現地が何とかあの雲から逸れることを願おう。

駅を降りて、歩き始める。
けんど、おら自慢のお天気センサーは判断を保留している。この先の天気が読めないのだ。おいらの肌で天気の変化を敏感に察知するセンサーは、自慢じゃないが精度が高い。だから日本でも海外でも雨でズブ濡れになったことは殆んどない。事前に察知して、早めに避難するからだ。それでも今回は何とも言えないという状況だ。この先は夜だし、森の中だし、空の微妙な変化がワカラン。

黒雲は微妙な位置にある。ここから外れてはいるが、雲の流れによっては、いつ近づいて来てもおかしくない位置関係だ。
『お願いだから、あっち行ってね。』と小さく呟く。

アラカシの森には午後7時15分くらいに着いた。
日没直後の仄かに残る光のなか、素早く網を組み立て、ヘッドライトを装着。毒瓶を両ポケットに突っ込む。網と糖蜜トラップを片手に、もう片方に懐中電灯を持って準備万端、森に入る。

 

 
さあ、夜会の始まりだ。
今宵も闇の世界で戯れよう。

去年、樹液が出ていた木には何もいなかった。どうやら今年は樹液が渇れているようだ。まあいい、ワシのスペシャルな糖蜜トラップなら何とでもなる。その威力、今回も存分に見せてくれようぞ。
( – -)/占==3 シュッシュラシュッシュッシュー。
昨年の記憶を頼りに、実績のあった木を中心に糖蜜を吹き付けてゆく。

午後7時28分。
早くも糖蜜トラップに飛来した。特徴的な上翅のデザインと色とで、すぐにウスイロだとわかった。この色の上翅のカトカラはカバフキシタバ(註1)とコヤツくらいなのだ。けど、両者は羽のデザインが全く違うし、発生時期も違う。同時期に見られることは、ほぼほぼ無いから間違えようがない。

毒瓶を上から被せるか、網で採るか迷ったが、ここは確実にゲットする為に網を選択した。毒瓶を被せる方法は未だままならない。どうしても殺気が出てしまい、相手にそれが伝わるようで結構逃げられる。下手に慎重になり過ぎてるところもヨロシクない。恋愛でも何でも自信が無い時は上手くいかないものだ。世の中、大体の事柄は心の有りようによって正否が決まるのだ。

網をターゲットの下まで持っていって軽くコツンとやり、驚いて飛んだのを⚡電光石火で左から右へ払うようにして振る。

(•‿•)難なくゲット。
(ΦωΦ)フフフ…。去年とは違うのだよ、去年とは。幹にいるカトカラを採る手法は去年のこの時期よりも格段に進歩しておるのだ。前の網ごと面で叩く方法でも高打率だったが、今やこの方法で百発百中の域だ。

 

 
やはり、上翅が美しい。コントラストが効いたオシャレなデザインだ。だが、羽が僅かに欠けている。

裏返す。

 

 
腹の感じからすると、どうやら♀だね。
♀で、やや欠けているとなると、やはり発生は6月上旬の後半には始まっていた可能性が高い。出動がやや遅かったか…。
とはいえ、幸先のいいスタートだ。このまま雨さえ降らなきゃ、タコ採りじゃねえの(◠‿・)—☆

他のキシタバたちもやって来た。
フシキ❓それともコガタ❓(註2)
けど今年はまだどちらも見ていないので、判断に迷う。フシキの季節の真っ只中だが、コガタもそろそろ出ててもおかしくない時期だ。見た感じでは、たぶん両方混じっていそうだ。どっちもべつに要らないけど、確認の為に採ってみることにする。

楽勝でゲット。
ಡ ͜ ʖ ಡデヘデヘのスカートめくりみたく、羽を持ち上げれば区別がつくのだろうが、頑な感じで閉じているので、裏返す。

 

 
黒っぽいね。フシキはこんなに黒くないし、もっと明るい黄色だった筈だから、おそらくコガキシタバだろう。

8時8分。
2頭目が飛来した。さっきとは違う木だが今度も糖蜜トラップに寄ってきた。ワシのスペシャル糖蜜、絶好調やん(^_^)v

これは毒瓶を直接カポッと被してゲット。死ぬまではタイムラグがあるので、地面に転がしておく。
移動を始めたと同時にポツリときた。雨かと思ったら、もうポツポツきだした。マイセンサーがヤバいと言っている。雨粒が大きめなので、コレは来るなと思った。慌てて折り畳み傘を取り出す。時は急を要する。毒瓶を回収しに戻る寸暇が仇になりかねない。地面に放置したまま、その場をマッハで離脱した。
トンネルに逃げ込んだところで、バケツをひっくり返したような激しい雨がやって来た。ギリ、セーフといったところだ。
雨は、あっという間に辺りを水浸しにしてゆく。無情の雨だ。これからという時に…何でやねん( ;∀;)❓ 恨めしげに空を見上げる。

恨めしいといえば、怨めしや〜である。
ここに着いた時から背後のトンネル内の漆黒の闇が気になってしかたなかった。引き摺り込まれそうな深く濃い闇で、尋常ならざるくらいにメッチャ怖い(´-﹏-`;)

 

 
暗闇の一部が、突然ぼおーっと白くなり、白い着物の幽霊が浮かび上がってきたりして…。或いは、奥からぬらりと此の世のモノならざる奴👹が出てきそうで、怖気(おぞけ)る。そして、想像力はどんどん逞しくなる。もし鎌をもった鬼首(おにこべ)おりんが高速で走ってでも来たら、ε=ε=ε=ε=ε=┌(TOT;)┘うわ〜ん、涙チョチョギレで逃げねばならぬ。捕まったら、確実に此の世とおさらばだ。見たくないけど、何度も後ろを振り返る。

雨は40分程で小雨になった。これはセンサーで予測してた。このまま止むだろう。
怖えし、出る。

森に戻る頃には、雨は完全にやんだ。
ゴールデンタイムを棒に振ったが、雨上がりには活性が入ると聞いたことがあるし、ここは一つ期待するとしよう。
でも気温はだいぶ下がったから、それがどう影響するかだ。たとえダメだとしても、それも一つの結果であって、己の経験値にはなる。けっして無駄にはならないだろう。こんなこと言えるのは、既に2つゲットしているから心に少しばかり余裕があるのだ。

先ずは転がしていた毒瓶を回収する。
中に水が侵入しているのではないかと心配していたが、大丈夫だった。胸を撫でおろす。そうゆう惨事が起こると、流れは一挙に悪い方向へと行きかねないからね。

 

 
今度も♀だった。もしかして、もう♀の時期❓だとしたら、♂は既に擦れてたりして…。
どちらかと云うと、♂が欲しいのになあ。フライング覚悟で、もっと早くに訪れるべきだったかもしんない…。

9時過ぎに1頭飛んできたが、懐中電灯を下に置いてヘッドライトを赤外線に切り替えてる隙に忽然と消えていた。
他の蛾もボチボチとしか飛んで来ないし、特に活性は入っておらんようだ。

9時40分過ぎに漸く1頭飛んできた。
(-_-メ)待たせやがって、次は何があってもシバいたるわい。

 

 
(ノ∀`)アチャー。網で採ったゆえ、取り込みにやや手間どったせいか、背中の毛が抜けとる。(-_-メ)チッ、落武者になっとるやないけー。
しかも、♂っぽくねえか?

裏返した。

 

 
腹を見ると、やはり♂だね。
クソー、折角の♂だったのに…。ガックシやわ。
けどまあいい。鮮度は悪くない。とゆうことは、まだまだチャンスはあるって事だ。ここからダイナマイト打線💥爆発といこうではないか。

(ー_ー゛)……。
だが、後が続かず、この日はこれで終わりだった。
ライトトラップならまだしも、糖蜜採集に雨上がりはヨロシクないようだ。糖蜜が流れるしさ。また一つ勉強したなりよ。

翌日、この日に採った個体を展翅した。
先ずは♂から。

 

 
やっぱり、シッカリ背中が禿チョロけておる。
よほど腹の毛を移植してやろうかと思ったが、秋田さんに叱られそうなのでやめた。

 
【ウスイロキシタバ Catocala intacta ♂】

 
ハゲちょろけなので裏展翅しようかとも考えたが、表にした。しかも、蝶屋的な展翅。触角をV字にしてやったわい(笑)

 
【同♀】

 
今度は蛾屋的な展翅にした。
この中間を目指そうかな…。どうせ、どっちがいいのか途中でワカンなくなるんだろうけどさ。

 
【♀裏面】

 
3つめは裏展翅にした。鮮度が良いものを早めに裏展にしておこうと思ったのだ。

ウスイロを裏展翅するのは初めてである。
表は象牙色なのに、裏は明るめの黄色なんだね。他のカトカラとはデザインの印象がだいぶ異なる。蛾の場合、図鑑でさえも大概は裏面が載せられていないが(註3)、同定するにあたって裏面は重要である。無視できない。表よりも違いがハッキリ出たりするからね。
黒帯が細くて、黄色い領域が広い。色も、他のキシタバと比してやや薄めの黄色だ。ここまで黒帯が細い種は他に見た記憶が無い。その形もかなり変わってる。これだけ黒帯が細くて線が単純なのは、たぶん他にはヤクシマヒメキシタバ(註4)くらいしかいないだろう。実物はまだ見たこと無いけどさ。
 

2020年 6月15日

完品の♂を求めて再度武田尾渓谷へ。
そして、初のライトトラップも試みた。小太郎くん曰く「ウスイロは樹液採集よりもライトトラップの方がジャンジャン採れますよ。」と聞かされていたからである。

7時45分。無事点灯。

 

 
とはいっても、誠にもってショボい屋台でおま。
けど、高出力UV LEDライトというから期待してみよう。結果が良ければ、軽いし点灯時間もそこそこ長いようだから充分な戦力になる。

ライトトラップ設置後に糖蜜トラップを撒く。設置にそんなに戸惑ったワケではないが、散布はこないだよりも30分ほど遅れた。だったら早よ来いよという話だが、性格に難ありなので仕方がないのである。いい加減でナメた性格なもんで、この前と同じ時間に家を出たのさ。基本は、なあ〜んにも考えてないんである。

この日は8時15分に最初の飛来があった。
寄ってきたのは糖蜜である。因みに前回に渇れていると言った木は復活。少ないながらも樹液が出始めていた。

 

 
♀っぽい。(´-﹏-`;)ガッカリだよ。
メスが要らないワケじゃないけど、オスが欲しいんだよー。
やっぱもうメスの時期に入っちゃってるのかなあ❓

9時前後に活性が入って、連続で飛んで来た。
前回は途中から土砂降りになったので、飛来時間の傾向はまだハッキリとは掴めていない。とはいえ。特別顕著な傾向は無いとみる。

 

 
またメスだな。
(;´Д`)おいおいだよ。

ならば、これはどっちだ❓↙

 

 
オスっぽく見えるけど、何か段々ワカンなくなってきた。
ウスイロは他のキシタバみたく雌雄の腹の長さや太さが明らかに違うワケではないようだから、夜だと今イチ同定に自信が持てない。オスの尻先の毛もボーボーじゃないしさ。

↓コヤツはどっち❓

 

 
腹が太いからメスに見えるけど、腹先にスリットが入ってないような気もする。老眼入ってきてるんで、細かいとこまで見えないよ、せにょ〜る┐(´(エ)`)┌

9時35分。
ライトトラップの様子を見に行くと、(⑉⊙ȏ⊙)あら、いるじゃないのよー💖
しかし証拠写真を撮ろうと近寄ったら、(ノ∀`)アチャー。飛んで逃げた。しかも暗くて何処へ飛んでったかワカンナイ。💦焦る。
(@_@)アッチャッチャー、そんなに遠くへ行ってない筈だと思って辺りを探しまくるが居なーい。
諦めかけたところで、(・o・;)ありゃま。灯台もと暗しのカメラの三脚に止まっていやはった。光にターンバックしちゃう虫の悲哀だね。紫外線の力には抗えはしないのだ。

 

 
しかし、よく見ると翅の先が欠けている。写真を撮って、そのまま放置。コヤツが呼び水とかになんねえかな?

飛来が止まって退屈なので、ウスイロキシタバの好む環境について考えてみた。
幼虫の食樹であるアラカシなんて関西でも何処にだってあるのに、どうして何処にでもいないのだろう❓ ワモンキシタバ(註5)みたく個体数は少ないながらも広く分布すると云うワケでもなさそうなのだ。自分の調べた限りでは記録された場所は案外少ない。
となると、アラカシの大木があるような古い起源の照葉樹林でしか生きられないのかもしれない。しかも、ある程度の広さの森を必要とするのかも。でもって、照葉樹林といえども小さい社寺林では生きていけなかったりして…。
だとしたら、理由は何だろう❓ もう少し掘り下げてみよう。
もしかしたら、幼虫は大木を好むのかもしれない。大木好きならば、ある程度の広さの古い森が必要だろう。でも待てよ。規模の小さい社寺林にも大木はある。でも広い森ならば、林内の中心部は乾燥しにくいのではなかろうか❓ 一方、もし小規模の社寺林には居ないのだとすれば、狭いゆえに乾燥しているのが理由とはならないだろうか❓
そういえば、紀伊半島ではヤクシマヒメキシタバの採集の折りに、ウスイロもよく得られるという。つまり空中湿度が高い場所を好むのではあるまいか❓
考えてみれば、ここも直ぐ傍には川が流れている。そして、森の中は、どちらかというと湿ってる。
整理しよう。ウスイロは本来、アラカシの大木があるような古くて広い照葉樹林に棲むカトカラで、加えて渓間など空中湿度の高い湿潤な環境を好む種なのではあるまいか…。

10時前後にまた糖蜜に飛んでき始めた。
飛んで来るとなると、何でこう示し合わせたように同時的にいらっしゃるのかね❓あんたらテレパシー持ちかよ。
蝶でもそうゆうことはよくあるんだけど、その細かい条件がサッパリわからへん。それ分かったら、楽だろね。けど、つまんなくなりそうだけどさ。解らないことは面白いのだ。

 

 
こりゃ完全にメスだな。尻先から産卵管が見えている。

10時20分にライトトラップに2頭目が飛来した。
しかし、上から毒瓶を被せようとしたら、敏感に察知して逃げよった。で、暗いから又どこ行ったかワカンなくなる。補助ライトとか必要かもなあ…。でも荷物が重たくなるから絶対買わないと思うけど。
まあ、そのうち戻ってくんだろ。でもって、暫く放ったらかしにしとけば落ち着くっしょ(・∀・)
けれど帰る時間を考えれば、あと10分とか15分くらいで消灯しなければならない。何せ初めてのライトトラップだ。後片付けは余裕をもって行いたい。慣れてないから何が起こるかワカランのである。そーゆーとこは慎重なのだ。ちゃんと考えてる。己の失態で帰れんくなるとか、そーゆーのは絶対にヤな人なのだ。

煙草を吸い始めたら、また戻ってきた。それを横目で見ながら、ぷか〜( ´ー`)y-~~。
しっかし、もし誰かがこんな怪しき青白い光の横で立ってる男を見たら、怖いだろなあ…。絶対、心臓が止まりそうになんだろなあ。誰か来たら、ワザと絶叫してやろうかしら。相手はチビるどころでは済まないぞ。阿鼻叫喚、その場で絶叫して脱兎の如く逃げるやもしれん。それを全速力で怒号の声を上げながら追尾するのだ。
想像すると、何だか笑けてきた。驚かす側に回れば、闇は怖くはないのである。闇への恐怖は、おのが自身の心の有りようにこそ在る。

アホな妄想をしている間にウスイロくんは落ち着いたようだ。
難なく毒瓶を被してゲット。

 

 
今度は羽は欠けていない。
裏返してみる。

 

 
しかも、こりゃ完全にオスだね。
腹がやや細めで長いし、尻先に毛束があるように見える。
ほぇ〜(◍•ᴗ•◍)✧*。やっとオスが採れたよ。ヨッシャである。
それにライトトラップにはあまり期待してなかったから、嬉しい。2頭も来れば御の字だろう。設置場所もベストと言えるとこじゃなかったしね。頑張った方だよ。

さあ、とっとと店じまいしよう。迅速に片付けに入る。
でも、白布にはビッシリ細かな虫たちが付いている。それに全身ダニまみれのシデムシもいる。正直、むちゃンコ気持ち悪い。ライトトラップって、やっぱ向いてないかもしんない。
けど片付けなければ帰れない。ビビリながら消灯し、意を決して白布を引っぺがしてバサバサやる。矮小昆虫たちの乱舞だ。マジ、とっても(〒﹏〒)キモいでござる。

帰る間際に樹液と糖蜜トラップを確認しに行くと、また活性が入った感じだった。林内で飛んでるのを2頭も見た。けど、電車に乗り遅れそうなので一つだけゲットして毒瓶にソッコーでブチ込み、そのまま闇の帝国を脱出した。

さあ、次は他の産地で見つけて、象牙色の方程式を完全に解いてやろうじゃないか。

                         つづく

 
この日に採った個体を並べておこう。
展翅していて驚いたのは、思いの外に♂が多かった事だ。

 
【♂】

 
(♂裏面)


 
 
オスがあんま採れないと嘆いていたが、5♂も採っとるやないけー。結果は5♂3♀だったから、半数以上が♂だったワケだ。我ながら節穴メクラ男だ。あっ、メ○ラは放送禁止用語か。すまぬ。我ながら節穴盲目男だ。何かシックリこんなあ。世の中、益々言葉狩り化してて、どんどん窮屈になってる。べつに言葉がどうあれ、その意味するところは同じだよね。問題は、そこ(使う側)に悪意があるか無いかだろう。言葉そのものにではなく、問題は単に文脈にあるんだと思うんだけど…。世の中、何か色々とオカシな方向に行ってて気持ち悪いや。

雌雄が結構わかりにくいのは、オスの腹があまり細く長くないからだろう。それに毛束も他種の♂と比べて少ないような気がする。一番上の個体は野外でも直ぐに♂と判ったのは、♂の特徴がよく出ていたからだと思われる。

 
【♀】

 
何か下翅の色が肉眼で見る色と違うように写っちゃう。

 

 
まだしも実際の色に近いのはコレかな。

 

 
最後の1頭は帰り際に慌てて採ったので、上翅が欠けている事に気づかなかった。ゆえにリリースせずに持って帰ってきてしまった。なので、これは修復用に取っとこうと思って展翅しなかった。

♀は腹が太く、尻先に毛が少なくて尖ったように見える。
裏面から見て、産卵管が確認出来れば♀と断定していいだろう。しかし、野外では判別に熟練を要するかもしれない。

 
追伸
今回はザアーッと一挙に下書きを書いたのだが、その後が書き直しに次ぐ書き直しの連続でムチャクチャ時間がかかった。ウスイロの季節も終わりかけになってまって、すまぬ。

次回、2020年の続きです。で、その後の解説編で完結予定です。結局、又もや5章になっちゃうなあ…。

 
(註1)カバフキシタバ

(2019.7月 兵庫県宝塚市)

早いところでは6月下旬、通常は7月上旬に現れる。ウスイロキシタバは6月中に殆んど姿を消すので、同時に見られることは稀だろう。

  
(註2)フシキキシタバ❓コガキシタバキシタバ❓

【フシキキシタバ♂】

(出展『狭山市の昆虫』)

なぜか下翅を開いてる手持ちのパンチラ写真が一枚も無い。
なので、ネットから画像をお借りした。黄色いね。キレイに撮ってはる。

以下、この項は自分の撮った写真。


(2019.6.12 兵庫県宝塚市)

(裏面)

(2018.6月 奈良県矢田丘陵)

 
【コガタキシタバ♂】


(2020.6月 兵庫県宝塚市)

(裏面)

(2019.6月 兵庫県西宮市)

両者の上翅には差はあるものの、似てるので羽を閉じて静止してる場合は判別困難だ。下翅は展翅すると明らかに違うが、樹液吸汁時には少ししか開かない場合もあるし、これまた判別に悩むところがある。フシキの方が黄色い領域が多くて明るい色で、コガタは黒帯が太いのだが、個体差もあるから夜だと一瞬ワカラン。
だが、採ってしまえば、裏側で一発でわかる。

それにしても、酷い裏展翅だな。こりゃ今年、しっかり裏展翅をし直そうと思ったが、フシキは時期的にもう無理だすな。裏展翅が出来なくはないけれど、季節的にもう擦れているだろう。カトカラは裏から翅の鮮度が落ちるのだ。ゆえに表翅の見た目よりも裏側を見れば、本当の鮮度がわかる。

 
(註3)図鑑でさえも裏面が載せられていないが
蝶と比べて蛾は圧倒的に種類数が多い。ゆえに裏面まで載せると膨大な紙数を要する。長大になれば値段も高くなるというワケだ。それらの事情は誠にもって理解できる。しかし、蛾に興味を持つ人も増えてきてる事だし、そろそろ裏面を載せた図鑑も必要なんじゃねえの❓分冊にするだとか、従来の図鑑の装丁を見直すなど何とか工夫してやれば、出来ないことはないと思うんだよね。今の時代なら印刷にしても格段に進化してるからね。安価にあげる方法はあると思う。事情知らずが勝手なこと言いますけど…。
因みに、カトカラに関しては唯一、西尾規孝氏の『日本のCatocala』のみが裏面写真を載せておられる。

 
(註4)ヤクシマヒメキシタバ

【Catocala tokui♀】

(出展『www.jpmoth.org』)

 
上翅は結構、変異の幅か広いようだ。ノーマルタイプは、こんなにカッコよくない。

 
(裏面)

(出展『日本のCatocala』)

屋久島で最初に発見され、1976年に記載されたカトカラ。
分布は紀伊半島、四国、九州、屋久島、対馬とされているが、最近になって兵庫県西部でも発見された。
裏面はウスイロに似てるね。図鑑でも並んで載ってるし、おそらく近縁関係にあるのだろう。

 
(註5)ワモンキシタバ

【Catocala xarippe ♂】

(2020.6月 奈良県平群町)

北海道から本州全土(唯一、鳥取県に記録が無い)、四国の一部までと分布は広いが、どこでも多数の個体が得られることはないと言われてる。自分も一度に沢山採ったことはない。大体が1頭で、多くて3頭しかない。

 

2019’カトカラ2年生 其の弐(2)

 
    vol.19 ウスイロキシタバ

   『象牙色の方程式』後編

 
えー、前回の2019年 6月19日の後半部分です。

 
2019年 6月19日

黒い車窓に自分の顔がぼんやりと映っている。
酷い顔だ。屈辱と焦燥が入り混じった顔は疲れきっている。
でも、やるっきゃない。出来うる限りのやれる事をやらないで敗北するのは、それこそ負け犬だ。たとえ敗北したとしても、毅然たる心持ちでいたい。でないと、己の誇りに傷がつく。

頭の中で考える。
問題は、こないだのアラカシの森とクヌギを主体とする雑木林のポイントのどちらを選ぶかだ。
ポイントで実際に使える時間は、アラカシの森だと40分か多くて50分。雑木林だと1時間10分から20分くらいだろう。どっちを選ぶかは賭けだ。両方を回ることも可能だが、せわしないし、どっちつかずで終わりかねない。それこそ虻蜂取らずだ。それに、そんな思い切りの悪い男に神様は幸運を与えてはくれないだろう。
(ノ`Д´)ノ彡┻━┻えーい、ままよ。雑木林にターゲットを絞った。

駅に着いた。
時刻は午後9時40分過ぎ。
駅を出て走る。Dead or alive。背中の毛が逆立つ。

期待を込めて、雑木林の樹液が出ている木を照らす。
昆虫酒場は大盛り上がりだ。クワガタさんもいる。
しかし、鱗翅類で居たのは名前の分からないクソ蛾どもとアケビコノハ。カトカラはフシキキシタバとコガタキシタバのみ。
アケビコノハは、新鮮で美しい個体だったので、もっと近くで見ようかなと思って一歩近づいたら、嘲笑うかのようにサッと飛んで逃げて行きよった。

 
【アケビコノハ】

 
べつに欲しいとも思わなかったのに、自意識過剰な女みたいにクソ忌々しい奴めっ❗もし今度飛んで来たら、網の枠でブン殴ってやらあ(`Д´)ノ❗ナメとったらあかんど、ワレー(-_-メ)

( ゚д゚)ハッ❗、いかん、いかん。危うくアケビちゃん虐待男になるところだったわい。
冷静になろう。冷静でないと採れるものも採れなくなる。それに虐待なんかしたら、どこかで神様が見てて、罰をお与えになるかもしれない。敗北という名の、今の自分にとって一番の罰を。
もうこうなったら、採れるんなら神頼みでも何でもする。

神様の旦那あ〜、ボロでも何でもいいから、オラにウスイロを採らせて下せぇー。

もはやプライド、ゼロである。
でもこの際、採れればプライドなんぞ、どうだっていい。

しかし、時は刻一刻と残酷なまでに抉(えぐ)り取られてゆく。悲痛な思いで、頻繁に懐中電灯で木を照らすも状況は変わらない。
やはり持ち時間は少なくとも、正攻法でアラカシの森を攻めるべきだったか❓ ざわざわと漣(さざなみ)のような後悔か心の内壁で寄せては返す。

午後10時50分。
帰る電車のタイムリミットまで、あと5分か10分。いよいよ崖っぷちまで追い詰められた。

神様の野郎、ブン殴ってやろうか(`Д´)ノ

天に唾(つばき)す。
そうか解ったよ。アンタなんかにゃ頼らん❗テメェの力で何とかしてやるよ、ダボがっ( ̄皿 ̄)ノ❗❗、🔥ゴオーッ。

懐中電灯で下から順に上へと木を照らす。
この木は根元から上の方まで数か所から樹液が出ているのだ。

いなーい(--;)
いなーい(ب
ب)
いなーい(◡ ω ◡)
いなーい(ー_ー゛)

(☉。☉)何かおる❗❗

高さ4m程の1番上の樹液に見たことがない蛾がいた。
色はグレーっぽい。大きさや形的にはカトカラも含まれるヤガ科の蛾に見える。でも下からなのでハッキリわからない。確認しようと後退るが、道が狭くて大して下がれないから状況はあまり変わらない。それに斜め横向きに止まっているので、下翅の柄もチラッとしか見えない。
アナタ、誰❓ 🎵放出(はなてん)中古車センター〜〜〜(註1)。
冗談を言っとる場合かよ。

でも、直感的に思った。

『ウスイロじゃ、なくなくねっ❗❓』

考えとるヒマはない。帰るリミットは迫っている。
とっとと採って、確認しよう。違うなら、八つ当たりで木に憤怒のドロップキックをカマすまでだ。
網をするすると伸ばす。だが、緊張感はマックスではない。時間が無いのでブルッてるヒマは無いのだ。それにもしクソ蛾だったら…と思うと変に期待できない。過度な期待を掛けて糠喜びだったりしたら、それこそ怒り爆発💥オロナミシCだ。何のコッチャかワカランけど、そうゆう事だ。
ややブラインドになっていて採りにくい角度だが、逡巡はしない。

💥バチコーン、横から強く網を幹に叩きつけた。

入った❗❓、それとも逃した❗❓
手応えも無ければ、逃したという感触もない。とにかく素早く網先を捻り、そのまま大胆かつ慎重に下に落とした。その刹那に、網の中に何かの影がチラリと見えた。どうやら逃してはいないようだ。でも、ただのクソ峨だったりして…。疑心暗鬼になりつつ、慌てて駆け寄る。

彼女は暴れることも無く、何があったのか解らないといった感じで静かに鎮座していた。

(☆▽☆)ぴきゅう〜❗
ウスイロ❓だよね❗❗

その特徴的な上翅のデザイン、間違いなくウスイロキシタバだっ❗❗
(´ω`)やっと採れた…。
ヘタヘタとその場にヘタり込みそうになる。だが、そんなヒマは無い。網の上からマッハでアンモニア注射をブッ刺す。
一瞬、彼女はクワッ❗と羽を広げ、次の瞬間にはゆっくりと羽を閉じてゆき、フェイドアウトで事切れる。
ゴメンなちゃいね。哀悼の念で軽く手を合わせる。

満ち足りた気分で、三角紙に収めようとして、写真を撮っとかなきゃいけない事を思い出す。

 

 
上翅の柄が独特で、他のカトカラとは全く斑紋が違う。
図鑑などの画像では、その特異な薄黄色い下翅に目がいっていたが、上翅も特異だったんだね。

 

 
メリハリが効いてて、カッコイイかもしんない。
いんや、カッコイイと断言してしまおう。バカにしてたけど、実物は標本写真なんかよりも遥かに美しい。玄人好みの渋い魅力がある。

おそらくメスだね。
裏返す。

 

 
あっ、他のカトカラとは全然違う。明らかに黒帯が細くて黄色い領域が多い。(•‿•)いいじゃん、(^o^)いいじゃーん。

でも、ニヤけ顔で浸っている場合ではない。終電の時刻がパッツンパッツンに迫っている。
震える手で慌てて三角紙に収め、闇を小走りで離脱した。

夜空には、星が瞬いていた。
早足で歩きながら、もう少しすれば七夕だなと思った。

                        おしまい

 
と言いたいところだが、話はまだまだ続く。

翌日、展翅した。
展翅しながら思う。はたして、あの雑木林の中にアラカシが混じる環境がウスイロキシタバの棲む場所を解く方程式なのかと。例えばアラカシの純林よか、アラカシの混じる雑木林の方が寧ろ適性な環境ではないかと一瞬、考えたのだ。
でもあんな環境なら、関西でも何処にでもある。だったら、もっと何処にでも居てもよさそうなものだが、どうもそんな感じではないような気がする。ならば、あそこから比較的近いアラカシの森から飛んで来たって事か❓となると、もう1回行ってアラカシの森で確かめねばなるまい。
けど、それはあんまり気が進まないんだよなあ…。あの森、暗くて怖いんだもん(。ŏ﹏ŏ)

アレコレ考えてているうちに展翅完了。

 
【ウスイロキシタバ Catocala intacta ♀】

 
展翅して、よりその美しさに魅了された。
特徴的な上翅のデザインが渋カッケー。下翅の色も、そんなに汚くは見えない。象牙色だ。薄色とか薄黄色だなんて言うからババちく見えるのだ。
名前って大事だ。名付け親になる人は愛をもって命名しないといけないよね。だからセンスの悪い人は誰かに相談しましょうね。
あっ、センスが悪い人は自覚がないから人には相談しないか❓ それでいいと思ってんだから、人には相談なんかいったし〜ませーん❗

 
2019年 6月21日

一応、ウスイロは採れたが、たった1頭だけだったので、別な所で探すことにした。他にもっと多産するところを見つけて、ゴッチャリ採ってやろうと云う皮算用である。それに象牙色の方程式を解きたい。色んな環境を見ることによって、自ずとその解も見つかるだろう。

文献から大阪府池田市にターゲットを絞る。
五月山に記録があったからだ。だったら駅から近いし、何なら昼間は其処から近い東山でクロヒカゲモドキ(註2)を探してもいい。絶滅危惧種のモドキちゃんは渋カッコイイのだ。

 
【クロヒカゲモドキ】

(2016.6.20 大阪府箕面市)

 
結局、クロヒカゲモドキは探しには行かず、昼めしを食ってから出掛けた。
クロヒカゲモドキのポイントはダニだらけなので、ダニが体のどっかに食いついてんじゃないかと思いながら夜道を歩き回るのは精神衛生上ヨロシクない。そう考えたのである。

池田駅には何度か降りているが、五月山に来るのは初めてだ。
遠目に見て、意外と山は険しいんだよなあ。だから今まで避けてたところがある。

 
【五月山】

(出展『MUJI✕UR』の画像をトリミング)

 
午後3時前に登山口に到着。
五月山にもアラカシが案外あることは、ネット検索済みだ。
望海亭跡への道を登り始めると、直ぐに照葉樹林が始まり、そこを抜けるとコナラやクヌギの混じる雑木林になった。これは居そうな環境かも?と思った。ただ、林内が乾燥がちなのが気になるところではある。とはいえ、今年は空梅雨だからね。そのせいで、そう感じたのだろうと思うことにした。
何事も前向きなのさ。でないと、虫採りなんぞ、やってらんない。虫採りは基本、苦行だと思ってるもんね。欲しいものを得るための道程(みちのり)は、けっして平坦ではないのだ。

🎵タラタラッタラー、イガちゃんスペシャル甘汁〜。
<( ̄︶ ̄)>フフフフフフ…、秘密兵器の登場である。
今回は満を持して糖蜜トラップを用意したのだ。前回の六甲みたく樹液の出る木を探して彷徨うのは、もうゴメンなのだ。
何で糖蜜トラップを今まで試さなかったのかと云うと、生態に関して最も信頼できる文献『日本のCatocala(註3)』のウスイロキシタバの項には、樹液には集まるが糖蜜トラップには集まらないみたいな事が書いてあったからだ。
疑問に思わないワケでも無かったが、信頼している文献なので素直にそれに従ったのである。糖蜜が効かないなら無駄だし、だいち勿体ない。それに荷物が増えるのは大嫌いだもんね。

日が暮れ、闇の時間が訪れた。
さあ、ここでタコ採りして、方程式の答えに近づこう。

だが、寄って来るカトカラはフシキとコガタキシタバのみ。しかも、個体数は少ない。効いてんのか❓、マイトラップ。
けんど、樹液に来るのも糖蜜に来るのも、さしたる数の差はあるようには見えない。

 
【フシキキシタバ】

 
【コガキシタバ】

 
午後9時半。
何かデカいのが糖蜜トラップに飛んで来た。
一瞬、何者❓と思ったが、次の瞬間には理解した。
ただキシタバのパタラキシタバ(C.patala)だ。今年初めて見るけど、やっぱデカい。その大きさは他の黄色い下翅を持つカトカラの中にあって、頭一つ抜きん出ている。あっ、パタラとはキシタバ(註4)の事ね。

今年初めての個体だし、一応採るか…。
でも、網を構える前に逃げよった。ただキシタバの分際で生意気である。(ー_ー゛)ちっ、パタラのクセにエラく敏感じゃねえか。

パタラといえば、鈍感というイメージがある。樹液に来ている時は夢中で吸汁しているから、かなり近づいても逃げない。そして樹液を吸い終わった者は、その周辺の木にベタベタと止まっていることが多いが、その際もあまり逃げない。

 
【パタラキシタバ】

 
スマホだって、楽勝でこれくらいは近づけるのである。
距離的に10センチ以内まで寄らないと、ここまでは撮れない。
やっぱ発生初期で、個体数が少ないから敏感なのかな❓
最盛期になって個体数が増えれば、段々鈍感になってゆくのかも。だいたい虫なんてものは、発生数が多ければ大概はバカになる。こんだけいりゃあ、ワシ一人が死んだところで我が一族は滅びんやろとかテーゲーなるのかな❓人間だって周りに人がそれなりに居たら、何となく安心するもんね。それって家畜みたいで、ヤだけど。

何度か攻防があったが、最終的にはシバいたった。
でも、それでタイムリミットとなった。惨敗である。
どうにも上手くいかないや。

 
2019年 6月22日

この日は大阪府箕面市へ行った。勿論、ウスイロ探しである。
個体数は少なさそうだけど、此処にもウスイロの記録があったからだ。因みに、この場所は前回の五月山と連なる山地だ。一帯に広く薄く棲息しているのかもしれない。

でも、夕方になって人が増えてきた。その多さに訝しがる。
箕面は滝があって観光客は多いけど、もうすぐ夜だぞ。何で❓

滝への道沿いに水銀灯があるので、一応そっちの様子から見ることにした。
暫く歩くと、人が多い謎が解けた。
闇の中を、すうーっと緑色の光が走ったのだ。そうゆう事か。皆さん、蛍狩りにいらっしゃったのだ。箕面にはホタルがいるとは知ってたけど、こんなにも有名だったのね。

 
【箕面大滝】

(夜に滝なんて撮らないので、昼間の写真です)

 
一応、奥の外灯まで行ったが、何もいなかった。
降りて来ると、更に人は増えていた。こんなところで恥ずかしくて網なんか出せやしない。しかも、蛾なんて採っていようものなら、一般人から見れば完全に狂人だ。方針を転換して、展望台に登ることにした。

石段を登ってゆくと、周りは照葉樹の多い森になった。少し期待する。
それはさておき、傾斜がキツくてしんどい。普通の人たちは蛍狩りしてんのに、ワシ、何やってんだ❓と思う。つくづく、虫屋って愚かな変人だ。

展望台に着いた。
夜景が見える。そして、イチャつきカップルもいた。二人きりでイチャイチャしたいが為に、ここまで登ってきたのか。エロという名の欲望、恐るべしである。

 

 
夜景を見ながら、己のアホさ加減にガックシくる。蛍狩りよかイチャ付いてる方が、もっと楽しそうじゃないか。全てがアホくさくなる。
でも、ここまで登ってきたのだ。その労力、無駄にしたくはない。尾根筋を少し歩き、そこで糖蜜を撒きまくる。闇は濃いが、そんなことも今やどうだってよくなる。

五月山の時に書き忘れたが、液体の糖蜜トラップを使うのは、あの時が初めてだった。前年にムラサキシタバ(註5)を採りに行った時にトラップは使ったが、それは蝶屋らしく果物トラップだった(言っとくけど、ワシって基本は蝶屋だかんね)。
バナナやパインをストッキングに入れて、上から酒を掛けて発酵させたものを木に括りつけるのだ。蝶屋の間ではポピュラーなものだが、蛾屋の間ではマイナーな手法のようだ。大概の蛾屋はジュースなどに酢と酒を混ぜ合わせたものを霧吹きに詰めて、(。・_・)r鹵~<巛巛巛シュッシュラ、シュッシューと幹や葉っぱに吹き付けて、お目当てのものを誘引するのだ。
そして、この日がその糖蜜トラップの2回目ってワケ。

大いなる期待値は、時間の経過と共に無残にも萎々(しおしお)になってゆく。何かの可能性が少しづつ失われてゆくのを見るのは、とても辛いものだ。やはり、ウスイロは糖蜜に反応しないのか❓…。
けれど樹液に来て、糖蜜に来ないってのは、どう考えても変だ。理屈に合わない。それとも、オラの作った糖蜜のレシピがダメなのか❓ 他のカトカラには問題なくとも、ウスイロさんにはお気に召さないってこと❓ どんどん頭の中がウニ化する。

結局飛んで来たのは、糞チビ蛾どもと鬱陶しいアケビコノハのみだった。正直、アケビコノハに当たり散らす気力も湧かなかった。
帰りしなに、己の心を少しでも和ませたいがゆえ、何とかコケガ(苔蛾)とかいうスタイリッシュで可愛い蛾の写真を撮って帰った。
言うまでもなく、今回も惨敗決定だ。

 
【アカスジシロコケガ】

 
電車の中で確認すると、ピントまでズレとるがな。 
又しても惨敗を喫した事実をひしひしと思い出した。ダメ押しでヘコむ。

これで、象牙色の方程式が全く見えなくなった。
誰やねん❓ ウスイロキシタバは、西日本ではどって事ないって言った奴。記録地でも、かすりもせんやないけ。情報を鵜呑みにした、アチキが馬鹿だったよ。

  
2019年 6月24日

再び武田尾の渓谷にやってきた。
まだ1頭しか採れていないのだ。謎とか方程式とか、もうどうでもいい。次の1頭が欲しい。

今回は一番最初に来た時に、ここぞと思ったアラカシの森に布陣することにした。泰然自若。今度は何があっても動かない。此処で心中する覚悟で臨む。
あの時は8時半を過ぎても飛んで来なかったから、焦れて雑木林に移動したが、やはりこの環境が最もウスイロキシタバが好む場所に相応(ふさわ)しいと判断したのだ。
ここでコケれば、我が軍は総崩れである。象牙色の方程式が解けないまま、この先1年間はエレファント凍土の迷宮に閉じこめられることになる。それを避けたければ、背水の陣で結果を出すしかない。

午後7時過ぎ。
今宵は7時半前くらいが日没時刻だったような気がするが、既に森の中は闇の世界に支配されようとしている。鬱蒼とした森が覆いかぶさって光を遮っているのだ。
Σ(゚∀゚ノ)ノ暗いよ、怖いよー(TOT)

 

 
オノレ、地底星人の仕業か。おおかた魑魅魍魎どもを操っているのも、お主たちであろう。ならば、北辰一刀流免許皆伝の抜刀術で目の前の邪魔者は全て一刀両断に斬るのみ❗、斬るのみ❗殺戮のセレナーデとなろう。
あかん…。明日のジョーの「打つべし❗、打つべし❗」の変形ヴァージョンになっとるやないけ。闇が怖すぎて妄想が酷い。

(。・_・)r鹵~<巛巛巛シュッシュラ、シュッシュー。
心を落ち着かせて糖蜜を吹き付けてゆく。
これで寄ってこなけりゃ、オラの糖蜜レシピが駄作なのか、やはり樹液には寄ってきても糖蜜には反応しないのか、はたまた此処には居ないのかが、ある程度は明らかになるだろう。
どっちにせよ、今日で終わりにしよう。これ以上、心を折られたら再起不能だ。負け慣れてないので打たれ弱いのだ。

午後8時になった。
やっぱダメなのかなあと諦めて( ´ー`)y-~~煙草を吸ってたら、目の前の糖蜜トラップにパタパタとあまり見覚えない蛾が飛んできてピタッと止まった。

(⑉⊙ȏ⊙)ゲゲッ❗、ウスイロやん❗❗❗❗

ここで会ったが百年目。慌てて煙草を揉み消し、そろりそろりと近づく。緊張感はあるが、初めての1頭ではないからか、意外と心は落ち着いている。すうーっと息を吐き、💥バチコーンいったった。
次の瞬間、驚いて飛んで網に入ったのが見えた。

中を確認して、ホッとする。
これで何とかエレファント凍土に閉じ込められなくて済んだ。

この日は、結局2♂2♀が採れた。
しかも、全部が樹液ではなく、糖蜜トラップに誘引された。
(・3・)何だよー、やっぱ糖蜜にも来るじゃんか。寧ろ樹液よか効果があるぞ。こんなんだったら、最初から使っておけば良かったよ。

これで象牙色の方程式が、全部じゃないけど、ある程度は解けた。
やはり、基本的な棲息環境は照葉樹林だろう。中でも昔から在るような古い照葉樹林ではなかろうか❓
樹液にも来るが糖蜜トラップにも反応する事も分かった。飛来時刻は情報不足だが、おそらく特別遅くはないだろう。これは断言出来ないから来年の課題だけどさ。
好む環境も完全に把握できたワケではないし、他にも幾つか疑問点は残った。でも翅の傷み具合から、そろそろ発生期も終盤みたいだし、これらは又、来年の宿題としよう。

満ち足りた気分で帰途につく。
車窓に映る今日の自分の顔は悪くないなと思った。

                         つづく

 
一応、この日の個体を並べておこう。

 

 
我ながら、ド下手な展翅だすな。
完品ではなかったから、ヤル気なし蔵だったのもあるけど、理由の一番は酔っ払って展翅したせいです。酔っ払うと、ただでさえテキトーな性格が益々テキトーになるのである。
それと、ウスイロキシタバは鮮度が落ちると、途端にみすぼらしくなるというのもあった。何かメリハリが無くなるのである。モチベーション、だだ下がりだ。
ウスイロキシタバを採りたい人は、発生初期に行かれることをお薦めします。

 
追伸
今回は、後半をバタバタで書いた。
酔っ払って寝ようとしてる時に、3分の2程まで書いていた文章に少し手を入れようとしたのがマズかった。朦朧としてて、書きかけの文章をそのままアップしてしまったのだ。それでいっぺんに酔いが醒めた。で、朝までかかって残りの3分の1を書いた。最悪やったわ。

次回は解説編か、もしくは続編の『2020’カトカラ3年生』になる予定です。

 
(註1)アナタ誰❓ 🎵放出中古車センタ〜〜〜
昔、関西ローカルで、そうゆうCMが流れてた。
ちょい、セクシーなCMでした。

 
(註2)クロヒカゲモドキ

全国的に減少しており、各地で絶滅危惧種や準絶滅危惧種に指定されている。
しかも、見つけても直ぐに藪の中へ逃げ込むので、あまり採れない。産地に行っても全く採れない事もある蝶の1つだろう。
因みにオラとは相性が良くて、何処へ行っても採れなかったことはない。その日、来てる人の中でオラだけ採った事も何度もある。
そういえば、3、4年ほど採りに行ってないね。でも関西では何処でもダニとセットだから、あんまし気が進まないんだよなあ…。最後に行った時は、あまりのダニの多さにポイントに着いて30分で帰った。採集に行って家に帰った最短記録である。この超絶短い滞在記録は今後とも塗り替えられる事はないだろう。あっ、言っとくけど滞在時間30分でも、ちゃんと採ったさー。

参考までに書いとくと、クロヒカゲモドキについては昔のブログ(アメブロ)に『へろへろ(@_@;)、箕面モドキ軍団殲滅作戦』と題して書いた事がある。他にも数篇の関連文章がある筈だ。ヒマな人は探してみてね。

 
(註3)日本のCatocala

西尾規孝氏によって書かれた日本のカトカラの生態図鑑。
その生態観察力は、飛び抜けている。

 
(註4)キシタバ

(Catocala patala ♂)

(♀)

 
日本のキシタバグループの最大種。和名がただの「キシタバ」だから、ややこしい事この上ない。「キシタバ」という言葉が種としてのキシタバを指しているのか、それともグループとしてのキシタバを指しているのか、判断に一瞬迷うから誠にもってややこしいのだ。
だから、それを避けるために出来るだけ学名のパタラを使うようにしている。誰か偉い人の鶴の一声で和名を変えて欲しいよね。
キシタバ(C.patala)くん本人としても、「ただキシタバ」とか「糞キシタバ」「屑キシタバ」「デブキシタバ」なんて酷い呼ばれ方をするのは心外だろう。
パタラキシタバについてもっと詳しく知りたい人は、拙ブログの、2018’カトカラ元年シリーズのvol.3『頭の中でデビルマンの歌が流れてる』の回と続編『黃下羽虐待おとこ誕生』を読んでね。
前回の註釈の項でも、ナメたタイトルが列挙されていたが、これまたフザけたタイトルざます。けど最近はカッコつけたタイトルが多いので、またおバカなタイトルをつけたいね。

 
(註5)ムラサキシタバ

(Catocala fraxini ♂)

(同♀)

カトカラの女王。日本最大種にして最美とも言われ、人気が高い。
詳しくは、拙ブログ内の『2018′ カトカラ元年』vol.17の連載を是非とも読まれたし。

 

2019’カトカラ2年生 其の弐(1)

 

  vol.19 ウスイロキシタバ

   『象牙色の方程式』

 
カトカラを本格的に採り始めた2018年は、ウスイロキシタバを探しに行かなかった。
フシキキシタバ(註1)を偶然に採って、カトカラに少し興味を持ち始めたばかりの頃だったので、カトカラ1年生の触り、謂わば黎明期。また本格的にカトカラを集める気なんてサラサラ無かったのである。
だいちウスイロキシタバなんて、カトカラの中でも一番汚い奴っちゃと思っていた。下羽が鮮やかな者が多いこのグループの中にあって、ウスイロは下羽に鮮やかさが微塵も無いのである。
それにカトカラ同好会のホームページ(註2)のウスイロキシタバの項には「関東以北の愛好者にとっては憧れのカトカラだが、関西の愛好者にとってはなんということのない種である」云々といったようなことが書かれてあった。ゆえに、そのうちどっかで採れるだろうと思っていたのだ。
しかし、2018年は結局どこでも会うことはなかった。

それでも2019年には、どうにでもなると思っていた。
そうゆう事実はスパッと忘れていて、いつものように根拠の無い自信に溢れていた。そう、相変わらずのオメデタ楽観太郎になっていたのである。

 
2019年 6月13日
 
夏の青空が広がっている。
時期的にはもう梅雨に入っていてもオカシクない筈だが、ここのところ天気は頗(すこぶ)る良い。この先の予報も晴れ続きだ。何でもかんでも異常気象で片付けるのもどうかとは思うが、やっぱりここ数年の天気は何だかオカシイ。

この日は宝塚方面へ行った。

 

 
第一の目的は、来たるカバフキシタバ(註3)のシーズンに備えての下見だった。ライトトラップを持ってないので、現状は樹液採集に頼らざるおえないのだ。その為には予め樹液の出てる木を探しておきたい。天才肌なので(笑)、いつもは下見なんぞ面倒臭くてしないのだが、天下のカバフ様である。手は抜けない。それに此処にはウスイロキシタバの記録もあるので、あわよくばと云うのもあった。謂わば、一石二鳥の作戦ってワケ。

山を歩き回るが、樹液の出ている木は1本しか見つけられなかった。しかもバシバシに樹液が溢れ出ているような木ではない。誠に心許ないようなチョロチョロ状態だ。もしその木に何も寄って来ないようなら、暗闇の中を山に登って探しなおすしかない。昼間歩いている時に樹液の甘い香りがしたのだが、どの木から出ているのか分からなかったのだ。それを探すしかないってワケ。
実をいうと、樹液の出ている木は昼間よりも夜の方が見つけやすい。カブトムシやクワガタは目立つし、クソ蛾どもが複数飛んでいたら、その周辺から樹液が出ている可能性が高いのだ。それに昼間だと視界が広過ぎて視認センサーが散漫になりやすい。対して夜だと見えるのは懐中電灯の照らす範囲だけなので余計なものは目に入らず、見逃す確率が格段に減るのである。

ようやく暗さが増し始めた午後7時20分、その唯一の樹液ポイントへと行く。
だが、来ていたのはヤガらしいクソ蛾が1頭だけだった。
まあいい。クソ蛾であっても蛾が誘引される樹液であると云う証明にはなる。希望はゼロではないということだ。ゼロと1とでは雲泥の差がある。明るい未来を想像しましょう。

とは言いつつも、正直この木だけでは厳しい。取り敢えず此処は置いといて、新たな樹液ポイントを探しに夜の山道を歩き始める。
10分ほど歩いたところで、空気中に微かな樹液の匂いを感じた。見つけられなかった木は、この辺だったような気がする。立ち止まり、咄嗟に懐中電灯をその方向へと向けた。下から上へと灯りを移動させる。
❗Σ( ̄□ ̄;)ワッ、地上約4mくらいのところでカトカラが乱舞していた。
どうりで見つけられなかったワケだよ。昼間見つけられなかったのは、樹液が出ている箇所が高かったからだね。
それにしても凄い数だ。少なくとも10頭以上は飛んでいる。いや、20頭くらいはいるだろう。こんなに沢山のカトカラが乱舞している光景を見るのは初めてだ。
時期的に考えれば、勿論カバフではないだろう。まだ早い。黄色いからウスイロである可能性も無さそうだ。ウスイロは名前通りに色が薄いのだ。だとしたら、フシキかな❓コガタ(註4)にもちょっと早い気がするしね。あっ、ワモン(註5)の可能性も無いではないね。でもワモンにしても出始めの頃だろうから、こんなに沢山いる筈はない。だいちワモンは何処でも個体数が少ないと言われているので、こんだけ大量にいたら事件だ。可能性、却下だ。逆にアサマ(註6)は、もう姿を消している頃だ。同様に、こんなに大量にいるワケがない。
黄色が鮮やかに見えるし、感じからすっと、たぶん全部フシキキシタバで間違いないだろう。最近、網膜にインプットされた画像と同じに見えるもん。

とやかく考えていても話は始まらない。
網をスルスルと伸ばして、空中でエイやっι(`ロ´)ノ❗と掬い採る。たぶん一度に3つ入った。
中を見ると、予想通りの3つともフシキだった。どうやら飛んでるのは皆、フシキくんのようだ。
どこが珍品やねん٩(๑`^´๑)۶❗嘗(かつ)ては、そうだったらしいけど、今や普通種の域だ。

樹液への飛来時間の謎を解きたいので、ガツガツ採らずに目についた型の良さそうなものだけを選んでチョビチョビ採る。
いくつか採り、落ち着いたところで周辺を見ると、やはり思ったとおり、周囲の木の幹に止まっている個体が複数いた。樹液の出ている木の上部や下部で憩(やす)んでいるものもいる。
おそらく宵になると直ぐに餌を摂りに樹液にやって来て、お腹いっぱいになったら周辺で憩んでいるのだ。で、また腹が減ると、再び樹液に訪れるものと思われる。その合間に交尾も行われるのではなかろうか。それだと、途中でピタリと飛来が止まる謎にもスッキリと説明がつく。餌場はオスとメスとの出会いの場でもあるのだ。

 
【フシキキシタバ】

 
しかし、交尾しているカップルは1つも見つけられなかった。出歯亀作戦、失敗である。

ウスイロキシタバは、結局1頭も飛んで来なかった。
とはいえ、さしたるショックは無かった。昼間に山の植物層を見て、殆んど諦めてたもんね。
ウスイロキシタバの幼虫の食樹はアラカシだと言われている。どうやら、そのアラカシが多く生える豊かな照葉樹林が棲息地みたいなのだ。でも此処は乾燥した二次林って感じで、あまり居そうには見えなかったのである。
まあ、そのうち会えるっしょ。

 
2019年 6月17日

この日から本格的なウスイロ探しが始まった。
でも場所の選定には迷った。『ギャラリー・カトカラ全集』には、関西なら何処にでも居るような事が書いてあったが、調べてみると意外と文献記録が少ないのだ。ネットを見ても、関西のウスイロの記事は少ない。

場所は武田尾方面と決めた。
理由は、わりかし最近の記録があるし、ナマリキシタバの下見もしておこうと思ったのだ。またしても一石二鳥作戦である。虻蜂取らずにならぬ事を祈ろう。

 

 
ここは国鉄時代の旧福知山線が走っていたのだが、跡地が遊歩道になっている。
でもトンネルだらけで、昼間でもメッチャ怖い((( ;゚Д゚)))

 

 
昼間でコレなんだから、夜なんて想像に難くない。チビるに充分なシュチエーションだろう。
いや、超怖がり屋としては恐怖のあまり発狂するやもしれぬ。2年目ともなると夜の闇にもだいぶ慣れてきたとはいえ、トンネルはアカンで、Σ(゚Д゚|||)アカンでぇー。

 

 
トンネルを抜けたら、又トンネルってのが何度も続く。長くて出口が見えないトンネルだってあるから、バリ怖い。カッちゃんだったら、髪の毛ソッコー真っ白やな。

 

 
ナマリキシタバは流紋岩や蛇紋岩の岩場環境に棲息するとされている。ここは流紋岩だろう。この感じ、如何にもナマリが居そうな環境だ。

ナマリの食樹であるイブキシモツケも結構そこかしこにある。

 

 
これでミッション1はクリアだ。ナマリも何とかなりそうな雰囲気だね。7月半ば過ぎ辺りに来れば大丈夫だろう。

メインミッションの方も着々と進んでいた。
アラカシの多い森で、樹液の出ているクヌギの木を1本見つけた。有望なポイントだろう。そして、クヌギが主体だがアラカシも結構混じる雑木林でも樹液がドバドバ出ている木を見つけた。一安心だ。取り敢えず、これで戦える態勢は整った。この2つのうちのどっちかにポイントを絞ろう。

とはいえ夜が訪れるまでには、まだまだ時間がある。ナマリキシタバの幼虫記録は生瀬にもあるから、そこまで歩くことにした。それに生瀬辺りに、行きしの電車の車窓から見て気になる場所があった。山頂に赤い鳥居があって、その山が何か環境的にいい感じなのだ。そこも確かめておきたかった。もしソチラの方が良さげなら、ポイントを変えてもいい。夜の森は何処でも怖いが、トンネルは特別だ。ホラー度マックスなのだ。アソコは避けれるものなら避けたい。それが偽らざる心情だ。
その場でググると、アラカシ林も有るようだ。今日のオラ、冴えてるかも。<( ̄︶ ̄)>へへへ、早くも楽勝気分になる。

だが、生瀬までの道程はつまらなかった。イブキシモツケは結構生えているのだが、如何せん交通量の多い車道沿いなのだ。成虫のポイントとしては使えない。いくら何でも、こんなところで網を振る勇気は無い。危険だし、通報されかねない。気分が少し下がる。

生瀬に到着。
しかし、麓が住宅地で道が入り組んでおり、赤い鳥居の神社への登り口が中々見つけられない。そして、ウロウロしているうちに日が暮れてきたので断念。やむなく武田尾方面に戻ることにした。無茶苦茶歩いてるからヘトヘトだし、何だか雲行きが怪しくなってきた。

迷ったが、アラカシの森を選択することにした。ウスイロの方程式はアラカシの森だ。それに従おう。
午後7時を過ぎて暫くすると、突然闇が濃くなったような気がした。(-_-;)怖っ…。戦々恐々だが、やるっきゃない。

 

 
午後8時を過ぎても、ウスイロは姿を見せない。飛んで来たカトカラはフシキキシタバだけだった。嫌な予感が走る。
このままだと決断を迫られる事になる。此処に残って粘るか、思い切って移動するかを判断せねばならぬ。

8時半になっても、姿なし。どうする❓
この時間になっても飛んで来ないと云うことは、此処には居ないのかもしれない。それに闇の恐怖にも耐えきれなくなってきた。照葉樹の森の中は、ことさらに暗いのだ。
ヽ(`Д´)ノえーい、しゃらクセー。クヌギの雑木林に移動することを決断した。判断に迷ったら「動」だ。攻めよう。何もせずに戦いに敗れるなんて耐えられない。無策に終わる奴は滅びればよい。

樹液がドバドバ出ている木には、いっぱい蛾が集まっていた。
クソ蛾も多いが、カトカラも結構いる。
採ってみると、大半がフシキキシタバだったが、コガタキシタバも混じっていた。

だが、結局ついぞウスイロは1頭たりとも現れなかった。
(ㆁωㆁ)…。闇の中で💥💣爆死。白目オトコと化す。

 
2019年 6月19日

この日も天気が良い。
日付的には、とっくに梅雨に入っている筈なのに連日晴天が続いている。ライト・トラップをするわけではないので、特に問題があるワケではないが、連日の晴れも考えものかもしれない。乾燥し過ぎるのも良くないような気がする。ウスイロキシタバは紀伊半島なんかでライト・トラップをすると、ヤクシマヒメキシタバと一緒に飛んで来るそうなのだが、その際、雨が降ると活動が活発になると聞いたことがある。おそらくヤクヒメと同じく湿気の多い環境を好む種なのではあるまいか。そう思ったりもするからだ。

生瀬駅で降り、あの頂上に赤い鳥居がある場所を目指す。リベンジだ。
前回は北側の斜面からアプローチを試みたのだが、結局登山口を見つけられずに時間切れとなった。だから、今回は駅を出て一旦右に針路をとり、北西側から回り込んでルート探査することにした。

しかし斜面はアホほどキツいし、山へはフェンスで囲まれていて入れない。結構アラカシも生えているし、環境的には悪くないのに何でやねん❓
オマケに直射日光に晒され、((o(∵~エ~∵)o))アジィィ〜 。たちまち汗ダクになる。でもって、再び住宅地に迷い込む。もう最悪である。
結局、ぐるりと歩いて山の南東側までやって来てしまった。このままいくと、前回歩いた所にまで行きついてしまう。だったら、何処から登れというのだ❓もしかして、謎の霊的な山だったりして…。結界じゃよ、結界❗そんな山に、夜一人ぼっちで入るのか❓絶対、魑魅魍魎どもに拐(さら)われるな…(ー_ー;)
また要らぬ事を考えてしまう。基本的に超がつく怖がり屋さんだし、チキンハートのビビりなのだ。

山の南東の端まで降りてきて、やっと道が見つかった。しかも、この前に引き返した辺りだ。まさか学校の裏に登山口があるとは思いもよらなかったよ。(╯_╰)徒労感、激しいわ。ものスゲー遠回りしたし、せっかく登ったのに降りてきて、また登るのかよ。

斜面を登ってゆくが、意外と山は乾燥している。住宅地のそばだし、致し方ないか…。アラカシもあるにはあるのだが、思っていた程にはない。

山頂に辿り着く。

 

 
幟(のぼり)に光照稲荷大明神とある。「あまてらすいなりだいみょうじん」と読むのかと思いきや、まんまの「こうしょういなりだいみょうじん」と読むんだそうな。

 

 
眼下に生瀬の町が見える。
眺めは気持ちいいくらいに抜群に良い。さぞや夜景も綺麗だろう。でもここじゃ、多くは望めそうにない。また惨敗の可能性大だ。

こうゆう事もあろうかと思って、第2の候補地として岩倉山方面の下調べもしてあった。塩尾寺周辺にアラカシ林があるらしい。それに、この近くにもウスイロの記録がある。

麓に降り、宝塚駅まで歩く。郊外の一駅は遠いわ。
甲子園大学の横を抜け、山を登り始める。しかし、あまりにも坂がキツくて半泣きになる。忘れてたけど、六甲山地の斜面はキツイのだ。去年、クロシオキシタバ(註7)の時に散々ぱらそれを味わった筈なのにね。見事なまでに忘れておる。六甲と云えば、あの源平合戦の一ノ谷の戦いの鵯越えで有名なのだ。半端ない坂なんじゃよ。

「人間とは、忘却し続ける愚かな生命体である。」
          by イガリンコ・インタクタビッチ

言葉に含蓄ありそで、全くねぇー。底、浅ぇー(◡ ω ◡)
3歩あゆめば忘れる鶏アタマ。単に阿呆なだけだ。

午後5時半に塩尾寺に到着。

 

 
マジ、しんどかった。
標高は350mだが、平地から一気に登っているので、かなり高いとこまで来た感がある。

寺を越えて尾根道に入る。
樹液の出ている木を探すが、中々見つけられない。クヌギやコナラの木は結構あるのに、何で❓
それに尾根にはアラカシがあまり生えていない。見た感じではアラカシ林はもっと下にあり、そこへゆく道はどうやら無さそうだ。ピンチじゃのう。完全に負のスパイラルに入りつつある。否、既に入っとるわ。

あっちこっち探してるうちに日が暮れ始めた。

 

 
夜になれば見つけられるかもしれないと思って、日没後も探してみたが、ねぇっぺよー(༎ຶ ෴ ༎ຶ)
こりゃダメだと思い、標高を下げることにした。
そこで漸く樹液の出ている木を1本だけ見つけた。しかし、出てる樹液の量は少なく、寄って来るのはクソ蛾のみ。

 

 
夜景が綺麗だが、それも今は虚(むな)しく見える。焦りからか、心に余裕が全然ないのだ。
まだウスイロを採ったことがないので、その方程式が見えない。どうゆう環境を好むのかがワカラナイ。前回に惨敗してるから、尚更イメージ出来なくなってる。もしかしたら、これってオドロ沼にハマったのかもしれん。蝶の採集では、そうゆうことは滅多に無かったからパニックになりそうだ。何で小汚いウスイロ如きが採れんのだ。関西では普通種だと聞いてたけど、ホントかよ(-_-メ)❓
まさかの躓きに、暗澹たる気分に支配される。

午後8時40分。
このままでは惨敗必至だと思った。採れるイメージが全然湧かないのである。この感覚は大事にしてて、そうゆう時は蝶での経験で大概は惨敗に終わると知っている。ここにずっといてもロクな事は無い。ダメな場所でいくら粘ろうともダメなものはダメなのだ。
もう一人の俺が、動けと命令している。
意を決して、ここを離脱することにした。まだ今ならギリギリで何とかなる。駆け足で山を下った。

記憶では、汗ダクになりながら9時20分くらいの武田尾方面ゆきの電車に飛び乗った。
一発逆転。イチかバチかの博打(ばくち)だ。勝負師ならば、大胆に最後の一手を打とう。そこに一縷の望みを賭けよう。

                        つづく
 

追伸
2019年の採集記は1回で終わる予定だったが、結局長くなって2回に分けることにした。毎度ですが、頭の中の草稿構成力が甘い。というか、アバウト過ぎるのだ。よく考えもせず書き始めるから、こうゆう事になる。書いてるうちに構成が決まってきて、それに肉付けしてるうちに結局長くなっちゃうんだよね。熟思黙考には向いてない人なんである。喋ってるうちにするすると言葉が出てきて、自分でも、へーそうゆうこと思ってたんだねと感心しちゃうようなタイプなのだ。

 
(註1)フシキキシタバ

(Catocala separans)

上が♂で下が♀。
詳細は拙ブログの、2018’カトカラ元年シリーズの『不思議のフシキくん』とその続編『不思議なんてない』を読まれたし。

 
(註2)カトカラ同好会のホームページ
ホームページ内の『ギャラリー・カトカラ全集』のこと。
日本のカトカラ各種の写真と簡潔な解説が付与されており、カトカラの優れた入門書になっている。

(註3)カバフキシタバ

(Catocala mirifica)

(♂)

(♀)

日本のカトカラの中では、トップクラスの珍品だが、去年タコ採りしたので、本当にそうなのかな?と思ってる。
これまたカトカラ元年シリーズの『孤高の落武者』と『リビドー全開❗逆襲のモラセス』の前後編を読んでおくれやす。

  
(註4)コガタ=コガタキシタバ

(Catocala praegnax)

(♂)

(♀)

同じくコチラも元年シリーズのvoi.4『ワタシ、妊娠したかも…』と、その続編『サボる男』を読んでけろ。
それにしても、フザけたタイトルだよなあ…。

 
(註5)ワモン=ワモンキシタバ

(Catocala xarippe)

(♂)

(♀)

 
詳細は、元年シリーズのvol.2『少年の日の思い出』と、その続編『欠けゆく月』、続・続編『アリストテレスの誤謬〜False hope knight〜』を読んでたもれ。

 
(註6)アサマ=アサマキシタバ

(Catocala streckeri)

(♂)

最新作の『2019’カトカラ2年生』の解説編の第5章『シュタウディンガーの謎かけ』と第6章『深甚なるストレッケリィ』を読んで下され。暇な人は第一章の『晩夏と初夏の狭間にて』から読みませう。

こうして黄色い下翅のカトカラの幾つかを並べてみると、矢張りアサマだけが雌雄の触角の長さに相違がある。まだ全種の触角を確認してはいないけど、今のところアサマの♀だけが触角が短い傾向がある。これについては第1章から第4章にかけて書いとります。

因みに、この日は1頭だけアサマがいた。勿論、ボロボロでした。

  
(註7)クロシオキシタバ

(Catocala kuangtungensis)

(♂)

(♀)

カトカラ元年vol.9『落武者源平合戦』と、その続編『絶叫、発狂、六甲山中闇物語』を読んでおくんなまし。

何だか今回は、自分のブログの宣伝ばっかになっちゃったなあ…。

 

続・ワモンキシタバ

 
   『欠けゆく月』

  
 2019年 6月28日。

ウスイロキシタバにかまけていたので、中々ワモンを狙いに行けなかった。そして、ようやく本格的に始動したのがこの日だった。
ワモンキシタバの発生は6月中旬からと言われるているのに、もう水無月も終わろうとしている。
狙うにはちょっと遅いかも…と不安が無いではなかった。でも、この時はまだ楽観的だった。カトカラは意外とダラダラと発生する面があるから、まだキレイな個体も採れる筈だと踏んでいたのだ。

去年、ワモンキシタバを採った矢田丘陵方面へ行く。
ここ最近は北ばかり攻めていたから、久し振りの来訪だ。今回も小太郎くんが途中から参戦してくれた。

だが、樹液にはフシキキシタバと普通のキシタバしかやって来ない。となると、考えざるおえない。このまま此処で待つべきか、それとも他へ移動すべきか思案のしどころだ。
此処でグシュグジュと判断できずに時間を浪費すれば、敗北が待っていると感じた。それに、そもそも此処でワモンを採るのは偶発性に頼るしかないとも思っていた。ならば、判断は迅速であるべきだ。判断がトロい奴は、欲しいものを手に入れることは出来ない。残り少ない時間の中で最善の策を尽くそう。

小太郎くんの車で信貴山方面へと移動する。
今回は灯火の方が確率が高いと読んだのだ。理由は確として自分の中にはあるのだが、言葉には出来ない。何となくだ。こういうのを、世間では勘と呼ぶんだろう。

着いたら、建物の三角形の屋根の庇の裏側にらしきものが止まっていた。高さ5mってところか。
でも三角形の屋根だから庇が斜めになっている。角度的に右側から攻めるか左から攻めるか微妙だ。思いあぐねているうちに、左右に動かした網に敏感に反応され、どこかへ飛んで行かれた。(;゜∇゜)あららららら…。
(`ロ´;)ガッデーム❗迷うとロクな事がない。己の判断能力のトロさを呪う。
まあ、ただのクソ夜蛾(ヤガ)だったかもしんないし、ここは気持ちを切り替えて忘れよう。

暫くして、庇の側面に止まっているのを発見。九分九厘、さっきと同じ奴だ。いつの間に( ; ゜Д゜)❓ 二人とも全然気づかなかったよ。

今度は真っ直ぐに網を伸ばし、叩いた。
網に入った感触はある。半信半疑で中を確認する。

d=(^o^)=bイエーッい、やはりワモンキシタバだった。しかも♂は初ゲットである。これで文章が書ける。ホッと胸を撫でおろす。

 

 
しかし、上翅にメリハリがなく、思っていたほどには美しくない。高校生の時に、紹介してもらった女の子が、期待していたほどキレイじゃなかったことを思い出した。

翌日に展翅しても、その印象は変わらなかった。
 

  

 
メリハリが無くて、全体にぼうーっとしてる。
翅こそ破れていないが、鮮度は今一つな気がする。
やはり、遅かったか…。

 
  
 2019年 7月1日。

天気の関係で動けず、とうとう7月に入った。
(`ロ´;)クッソー、思い起こせばウスイロキシタバ探査での初動捜査の失敗が今に響いている。本来ならば一発ビンポイントで探査は終わっていた筈なのだ。そこで我慢して待っていればビンゴだったのに、別ポイントへ移動してしまったのだ。この見切りの早さが結果的にその後の迷走に繋がった。新米刑事イガー、忸怩たる思いだ。ヤバいかも…。ワモンキシタバの♀の逮捕は厳しい状況にある。月が欠けゆくようにチャンスは確実に細まってきている。
でも、あとは翅の破れていない♀さえ採れれば合格ラインだ。それで、次のステージへと進める。前向きに考えよう。真のハンターは強靭な精神力で必ずや何とかする。それが無ければ敗北という名の恥辱にまみれるしかない。

 
この日も同じパターンだった。
小太郎くんと矢田丘陵で樹液に飛来するのを待ったが、来る気配が無いので、諦めて信貴山方面の灯火回りへとシフト・チェンジする。こないだの三日月の形からすれぱ、今夜辺りの月齢は新月に近い筈だ。月が無い夜は灯火への蛾の飛来が多いというから期待しよう。

9時台半ば過ぎだった。闇の奥からカトカラらしきものが、パタパタと真っ直ぐに飛んできた。
緊張が走る。大きさ的に普通の糞キシタバよりは一回り以上小さいし、フシキキシタバならば、もっと裏側の色が明るい。コガタキシタバだってもっと明るかった筈だ。もしかして、( ; ゜Д゜)ワモン❓

そして、そのままペタッと建物の壁に止まった。
高さは2、3mくらい。その特徴的な上翅、間違いない。ワモンキシタバだ。こないだの個体よか大きく見えた。♀❓ もし♀ならば、参戦2回目にしてゲームセットだ。ウスイロで迷走したとかそんなもんは、それで一発チャラにできる。

壁面を軽く叩き、難なくゲット。
しかし、かなりスレた♂だった。
あ〰(~O~;)。

裏返すと、やはりあまり黄色くない。

 

  
この時期にいる他のカトカラは裏がもっと濃い黄色だから、飛んでいる時に薄黄色っぽいものは本種と思って間違いないだろう。但し、ボロのフシキキシタバもいる事は念頭に入れておきましょうね。

あっ、ゴメン。ウスイロキシタバの事を忘れてたよ。

 
【ウスイロキシタバ Catocala intacta ♀】

 
(裏面)

 
黒帯がウスイロの方が細い。
でも大きさもほぼ同じだし、飛んでいるのを下から見て両者を判別するのは至難の技だろう。カトカラは結構な高速で翅を回して飛んでいる。灯火や樹液に飛来する時はホバリング状態とはいえ、帯は見えてもその細かい形まではハッキリとは見えない。
とはいえ、慣れれば雰囲気で看破できると思うけどさ。

 
粘って、その後小太郎くんの力も借りて2頭を追加。
しかし何れも♂で、やはり鮮度は良ろしくない。
どうやら、やっぱり来るのが遅かったようだ。でも一晩で3頭も採れたという事は、偶産ではない。間違いなく此処には確実にいると言えるだろう。♀ならば、まだ鮮度は良いかもしれぬと期待する。
しかし、結局午後11時15分まで待っても飛んで来ず。失意を抱えて、その場を離脱した。

車窓を闇が擦過してゆく。
同時に想念も擦過してゆく。思えばウスイロの探索に力を注いだのは、場所を何ヵ所も攻める予定だったからだ。その折に、ついでに何処かでワモンも採れるだろうと楽観視していたのである。
でも宝塚市、西宮市、池田市、箕面市、奈良市と回っだが、結局どこでもワモンの姿を見ることは一度としてなかった。やはり西日本では、そうは簡単に採れないカトカラなのかもしれない。その思いを強くした。

気がつけば、さっきまで厚く垂れ込めていた雲の隙間から、細くてちっちゃな月が覗いていた。

 
                  おしまい

 
追伸
翌日、ざっと1時間くらいで文章を書き終えたのだが、その後、記事をアップするために細かい所を直し始めたら、全然しっくりこず。大幅に書き直す破目になってしまった。で、最初の時の5倍以上の時間を要した。死ねばいいのに(#`皿´)、苛々して思いきりスマホを叩きつけてやった。
あっ、またやっちまったな( ; ゜Д゜)と思ったが、今回はたまたまベッドだったのでセーフ。
文章を書くのには、毎度の事ながら疲れる。他人から見ればクソみたいな文章でも、いざ書くとならば、そう簡単ではない。

この日に得たワモンも一応展翅した。

 

 
これは上翅にメリハリがある。
スレているとはいえ、やはり本来は美しいカトカラなのだと納得する。

 

  
触角を怒髪天にしてみた。
クソ展翅だ。(-_-)死ねばいいのに。

だいぶと下翅の黄色が褪せているのだと解る。
新鮮な個体ならば、この黄色がもっと鮮やかで美しいのだろう。

 

 
最後に採ったものは翅が破れていた。
これは型も良く、それなりに触角も決まっているのに残念だ。(-_-)死ねばいいのに。

展翅はこんなもんじゃろう。
去年よりも上翅を下げて、皆が良しとしそうなところで整えた。
とはいえ、思っていた以上に翅が傷んでいるのにショックは隠せない。
このまま♀を探し回っても、良い結果は得られないと思った。それに7月半ばに長野辺りに遠征すれぱ、まだ会える可能性は残されている。とはいえ、そのシチュエーションはあまり嬉しくないか…。狙って採ってこそ、歓喜とカタルシスがあるからね。
まあ、どうでもいい。ワモンは、もう過去だ。ここはスッパリと諦めて、ターゲットをカバフキシタバに絞ることにしよう。

 
追伸の追伸
ワモンキシタバの発生期を6月中旬からと書いたが、確認してみると6月上旬だった。この翅の傷み具合からすると、納得だ。6月上旬には出ていた可能性が高い。発生期を間違えたのは去年唯一採った1頭(♀)が6月26日の採集で、新鮮な個体だったからだろう。だから6月中旬の発生だと勝手に思い込んでしまったんだと思う。
(-_-)死ねばいいのに。

前回、キララキシタバからワモンキシタバが分かれて南下して分布を拡げた云々みたいな事を書いたが、今はその逆ではないかと思い始めている。
つまり、最初にワモンキシタバ有りきで、ワモンからキララキシタバ(Catocala fulminea)が分化したのではなかろうか❓
新しく分化した種の方が、どちらかと云うと環境に対する適応力があるように思われる。ゆえに一挙に分布を拡大したという例も多いような気がする。考えてみれば、ワモンよかキララキシタバの方が分布は広い。キララの原記載はヨーロッパだから、ヨーロッパから東に分布を広げたような気になりがちだが、極東からヨーロッパに分布を拡大した可能性は否定できないと思うんだよね。
 
その後、ワモンキシタバは8月にも採れた。
♀で、しかも鮮度も良い個体だった。

 

 
場所は長野県。これについては色々あったので、別稿で書こうかと思ってます。