2020’カトカラ3年生 其の弐(3)

  vol.25 ナマリキシタバ 第三章

    『嘆きのコロンビーナ』

 
第三章は種の解説編です。
今回もカトカラ界の両巨匠(註1)の『日本のCatocala』と『世界のカトカラ』のお力をガンガンにお借りして書きます。

 
【Catocala columbina yoshihikoi ♀】

 
前翅の稲妻が走ったような模様が美しい。
この上翅の美しさは、カトカラ属屈指のものだと思う。
でも展翅はほぼ完璧なのに、色の写りが不満だ。『兵庫県カトカラ図鑑』の画像みたく綺麗に撮れない。スマホのカメラが勝手に色補正しやがるので、実物の色の再現性が低いのである。それぞれの画像が別方向に美しさの一部だけを際立たせているって感じなのだ。各々の画像のエエとこを足して3で割ったら実物に近づくかもしれない。
まあ所詮は写真なんてどれだけ美しく撮れようとも、己の眼で見る実物、生きてるものや死後間もない姿の美しさには到底かなわないのだ。生命の持つエネルギーが醸し出す、あの輝くような美しさはフィールドで実際に見た者にしか解らない。

そう云う意味では、まだ生態写真の方が標本よりマシかもしれない。標本なんぞ所詮はミイラなのだ。展翅画像は冷凍庫から出したばかりものだから、まだしも生きてた頃の残滓のようなものがあるが、それも時間と共に失われてゆくだろう。

一応、採った直後の画像も貼り付けておこう。
光を当てると、稲妻模様がビカビカに光ったように見える。

 

(2020.8.8 長野県松本市)

 
展翅画像とは違う美しさはあるのだけれど、肉眼で見た姿とはコレも少し齟齬がある。もっと稲妻模様が浮き立つが如く光って見えた。自分の網膜に映った映像は仰け反るくらいの美しさだったのだ。

青っぽく写ってるのは、水銀灯の灯りの下だったからなのかもしれない。紫外線が強いのだろう。
それはさておき、たとえ紫外線が強くとも、ここまで青く写るカトカラはあまりいない。日本のカトカラを全種採ったワケではないけれど、他はアズミキシタバ(註2)くらいだろう。

 

(2020.7.26 長野県白馬村)

 
一応、現在のところ日本のカトカラの約85%は採っている。ゆえに残りの種類構成から考えても、こうゆう色に写るのは、この2種だけだ。
と云うことは、この2種だけが地色の色が特別だと言っても差し支えあるまい。素人は疑問に対して素直だから、それが何を意味しているのかをつい考えてしまう。考えられるのは、互いの祖先種が共通で近縁の間柄なのか、幼虫の食樹が同じだからだろう。そのどちらか、もしくは両方が羽の色に反映されているのではないか❓それをまだまだ駆け出しのペーペーの身ながら、不遜にもこの中で解き明かせたらと思う。

そんなデカい口を叩いといて、実をいうとまだ♂は採れてない。お恥ずかしい限りである。
なので、他から画像を拝借致します。

 
【ナマリキシタバ♂】

(出典『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)

 

(出典『www.jpmoth.org』)

 
上と下の写真は出典が違うが、間違いなく同じ個体だろう。
ようするに同じ物でも写真の撮り方によって、こうも色の印象が変わるのである。ワシの写真がああなるのも致し方ないかもね。

♂の特徴は♀よりも腹部が細くて長い。そして尻先に毛束がある。但し、他のカトカラの♂ほど毛の量は多くないと思われる。

一応、小太郎くんに♂の画像を送ってもらった。

 

 
♂もカッコイイ(☆▽☆)
こうゆうの見ると、俄然♂も欲しくなるなあ。

そうゆう体(てい)たらくだから、当然の如く自前の裏面展翅の画像もない。
なので、これまた画像をお借りしよう。

 
【裏面】

(出典『日本のCatocala』)

 
たぶん♀だろうが、ピントがビシッと合ってないし、標本のミイラ化が進んでるので分かりづらいところがある。腹部の先が微妙なのだ。さて、どうしたものか…。

そういや、フィールドでの画像があることを思い出したので貼っつけておく。

 

(2020.8.8 長野県松本市)

 
アズミキシタバと違って、通常のカトカラの♀と同じく尻先に縦のスリットが入り、その下にはハッキリと黄色い産卵管も認められる。アズミはこのスリットが無いように見えるから雌雄の判別でスゲー悩まされるのだ。マジ、ウザい。

そうだ、展翅前に撮った画像もあったわ。

 

 
尻先にスリットが入っているのがシッカリわかるね。
とにかくコレが有れば♀。フィールドで雌雄を確かめるには、この方法が一番有効かつ確実です。

横からの画像もあった。

 

 
腹が太くて短いし、尻先に毛束が無いから間違いなく♀だろね。

 

 
前翅の外側の帯が白っぽいんだね。大概のキシタバ類は地色が全て黄色いから少し毛色が変わってる。また全体的に縁が白いし、後翅の翅頂にある紋も白っぽい。

不完全な翅の開き方ではあるが、表側の写真も出てきた。

 

 
この上翅の色が、一番実物に近いかもしれない。
やっぱ、(´ω`)美しいやねぇ。高貴でエキゾチックだ。

さてさて、私情丸出しの前置きはこれくらいにして、種の解説をしていきませう。

 
 ナマリキシタバ

日本では比較的近年になって発見されたカトカラ(シタバガ属)である。
前翅は、やや青みのある鉛色を帯び、横線は黒く明瞭。後翅は黄色で、中央黒帯は外縁黒帯と繋がらない。外縁黒帯は太く、内縁に接しない。また翅頂の黄斑は明瞭でない。頸部は淡い樺色。胸部は前翅と同じ色調で、腹部は灰褐色。前翅はアズミキシタバに似るが、後翅の斑紋に差異があり(アズミは黒帯が分離する)、地色の黄色にも差異がある(アズミは明るい黄色)。加えてアズミの方が小型なので判別は容易。
またコガタキシタバ(註3)とは後翅の斑紋がよく似るが、前翅の斑紋が全く違い、アズミとは逆に本種よりも大型なので簡単に区別できる。

 
【学名】Catocala columbina Leech, 1900

属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり下翅が美しいことを表している。
小種名はラテン語の”columbinus”に由来し、「鳩」または「鳩のような」と云う意味かと思われる。確かに前翅の色柄はハトっぽいちゃハトっぽい。
語尾の「a」はラテン語の名詞の活用語尾で女性名詞だろう。例えば「鼻」は「nasus」と表記するが、この「-us(〜ウス)」で終わる語尾のものの大部分は男性名詞である。同じように「バラ」を意味する「rosa」の「-a(〜ア)」は女性名詞を意味するからね。
余談だが「金」を意味する「aurum」の「-um(〜ウム)」は中性名詞を表すことが多い。

また、英語にcolumbine(カランバイン)という言葉もある。
これは「ハトの、dove-like(ハトのような)」という形容詞みたいだ。ラテン語の”columbinus(ハト)”が、古いフランス語である”colonbin”を経て、14世紀に英語化したものだという。このように英語には個々の動物名に対応して、ラテン語起源の形容詞が別にある。これを外来形容詞と呼ぶそうだ。
「columbine」は少しずつ形を変えて、人名や国名にも使われている。例を挙げておこう。

◆「Columbus(コロンブス)」新大陸の発見者
◆「Colombia(コロンビア)」南米の国
◆「District of Columbia」米国ワシントン市コロンビア特別区
◆「Colombo(コロンボ)」スリランカの首都
◆「Colombo(刑事コロンボ)」TV映画

日本でも企業名や喫茶店の名前などに使われているのをよく見かける。世界的に分布しているハトは人々に馴染み深く、昔から愛される存在だったのかもしれない。平和の象徴でもあるしね。あっ、アレは白い鳩か。じゃ、食べるハト(笑)。ハトはフレンチの高級食材だもんね。

そういや、パリやバルセロナでもいたわ。但し、色柄は日本にいるのと同じだけど顔付きは違ってた。どこか外国人っぽい顔立ちなのだ。人と同じで、住む場所によって顔付きも変わってくるんだろね。
でもオラ、ハトが嫌いだから残念な学名だ。あの首の変な動きや、一応野生動物のクセに緊張感ゼロのゆるさに💢イラッとくるのだ。自転車に乗ってる時などは、ギリギリまでどいてくれないので轢き殺してやろうかと思うことさえある。
それで思い出した。昔、ワシなんかよりも遥かにハトが大嫌いな彼女がいたわ。デート中に、それはそれは恐ろしい憎悪の言葉をハトに投げつけておったわ。そのあまりの口汚さにコチラが引いたくらいだった。

 
【和名】

ナマリキシタバのナマリは、おそらく前翅の色が「鉛色」だからだと思われる。さしづめ漢字にすると「鉛黃下羽」だ。
この名前、嫌いじゃないし、悪いネーミングだとは思わないけど、ツマんないといえばツマんない。何ら捻りがないし、どこか安易さを感じるのだ。蛾には、この「ナマリ」という和名を冠した奴が幾つかいるしね。ナマリキリガとかナマリケンモンとかさ。
それにアズミキシタバの前翅だって鉛色じゃないか。だから雷とか稲妻に因んだ和名でも良かったんじゃないかと思うんだよね。今更こんなこと言っても詮ない話なんだけどもさ。

 
【亜種と近縁種】

(亜種)
◆Catocala columbina columbina Leech, 1990
中国・極東ロシア


(出典『世界のカトカラ』)

 
原記載亜種は大陸のものなんだね。
日本のものと比べて後翅内縁が黄色くなるそうだ。

 
◆Catocala columbina yoshihikoi Ishizuka, 2002
(日本)


(出典『世界のカトカラ』)

 
日本産は別亜種とされ、後翅内縁部が黒化する。
学名の亜種名「yoshihikoi」は、ヨシヒコ氏に献名されたものだろう。おそらく蛾界に貢献された名のある方なのだろうが、元来自分は蝶屋なので蛾界の事はあまり知らない。なので苗字も漢字も不明で、何ヨシヒコさんかはワカランのだ。

ちなみにネットの『ギャラリー・カトカラ全集』には「大陸のものとは別種である可能性が高い。」と書いてあった。だとすれば、学名は亜種名が昇格して”Catocala yoshikoi”となるワケか…。何かつまらんのぉー(´ε` )
できることならば、稲妻や雷などサンダーボルト的な、もっとカッコイイ学名にしてもらえんかのう(´ε` )
例えば「raizin」とか「ikazuchi」「raigeki」とかさ。ちょっとダサいけど「inabikari」でもいいや。一瞬、ラテン語で雷、稲妻を意味する言葉でもいいかもと思ったが、問題ありだと直ぐに気づく。ラテン語の雷といえば「fulminea」だが、でもコレは残念ながら使えない。なぜなら、既にキララキシタバの学名に使われているからだ。キララよか、よっぽどナマリの方が雷っぽいと思うんだけど、まあそこは致し方ないやね。
あっ、でも「fulminea」ってイタリア語だっけか。とはいうものの、イタリア語ってラテン語から派生した言語だもんね。
どっちだっていいや。段々面倒くさくなってきた。たぶんラテン語でも似たような言葉でしょう。

も1つ因みにだけど、後翅中央黒帯の内側が著しく黒化する異常型が知られていると何処かに書かれてあったけど、それに相当するような個体の画像は見たことがないなあ…。

 
シノニム(同物異名)に以下のものがある。

◆Ephesia columbina
◆Mormonia bella splendens Mell, 1933

上の”Ephesia”は古い属名である。下の”Mormonia”も古い属名だが、小種名の”bella”で❗❓と思った。bellaといえば、ノコメキシタバの小種名と同じだからである。
ちなみに、その後ろの”splendens”は亜種名で「素晴らしい」という意味だろう。
先ずは、あまり見たことがない属名”Ephesia”から調べてみよう。

Ephesia columbinaでググると下のような絵が出てきた。

 

(出典『Wikipedia』)

 
パッと見、ナマリキシタバに見えなかった。前翅の稲妻のような黄色が目立たなかったからだ。誰なんだ、アンタ❓
でもナマリキシタバの現在の学名”Catocala columbina”でググっても、この絵が出てくる。
まあいい。これ以上は調べようがない。切り替えて次いこう。
Mormonia bella splendensでググる。

結果、Mormonia bellaでは出てこず、「Mormonia」のみでしかヒットしなかった。そこには、こんな絵があった。

 
 
(出典『Wikipedia』)

 
てっきりノコメキシタバっぽい黄色い下翅のが出てくるかと思いきや、驚きの後翅が紅色じゃないか❗頭が混乱する。
コレって、ちょっとオニベニシタバ(註4)に似てねぇか❓
一応、確認しておこう。

 
(オニベニシタバ Catocala dula)

(2019.7.10 奈良市白毫寺)

 
後翅の黒帯の形は違うが、暗めの赤の色調と前翅の柄はオニベニに似ているようにも見える。絵だから、どこまで信用していいのかワカンナイけどさ。

だいたい、そもそも何でナマリキシタバがノコメキシタバ(註5)になって、オニベニになるのだ❓無茶苦茶だ。
そこで、やっと思い出した。アズミキシタバの解説編でDNA解析を見た時は、ナマリの近縁種はノコメだったような気がするぞ。

 

(出典『Bio One complate』)

 
図は拡大できるものの、トリミングしよう。
 

上がノコメで、真ん中がナマリ。そして下が別なクラスターに入ってるオニベニである。やはりノコメとは近縁であることを示唆している。
でも素人目だと、オニベニは元よりノコメにだって全然似てないじゃないか。
しかしだ。よくよく見れば、下翅は似ていると言わざるおえないかもしれん。ノコメの幼虫の食樹もナマリと同じくバラ科(ズミ)だから、近縁関係にあっても不思議ではないのだ。

 
(ノコメキシタバ Catocala bella)

(出典『世界のカトカラ』)

 
そう云う意味では「Mormonia bella」というシノニムは中々の慧眼だったと言えるかもしんないね。この時代に両者が近縁だと見抜いていた可能性がある。

それにしても、この系統図だと下翅の色は系統とは全然関係ないって事になりはしまいか。益々アタマがウニウニになる。
因みにアズミキシタバはこの図のずっと下にあるから、系統的には離れている。と云うことは羽の色は系統が近いからってワケじゃないのか…。
カトカラの分類って、ワケワカメじゃよ(+_+)

 
近縁種とされるものが幾つかある。

 
◆タイワンナマリキシタバ
Catocala okurai Sugi 1965
台湾


(出典『世界のカトカラ』)

 
ナマリキシタバに似るが、前翅か緑色を帯びるので区別できるという。
成虫は6〜7月頃に出現するが少ない。食樹は不明だが、バラ科シモツケ属が予想される。
参考までに言っておくと、Wikipediaではナマリキシタバの亜種扱いになっていた。

 
◆オビナシナマリキシタバ
Catocala infasciata(Mell,1936)
中国雲南省・ミャンマー


(出典『世界のカトカラ』)

 
後翅の黒帯が表裏ともに全く消失する特異な種で、棲息地は局地的で稀。
前翅の横線はナマリキシタバに類似し、交尾器も似ているらしい。こんなの素人目には、絶対に近縁種と見破れないだろう。
成虫は6〜7月頃に出現する。これも食樹は不明だが、シモツケ属と推察されている。

 
◆ウスズミナマリキシタバ
Catocala jouga Ishizuka,2003
中国南西部〜ベトナム北部


(出典『世界のカトカラ』)

 
ナマリキシタバに似るが、前翅の色調、後翅黒帯の形状などにより区別できる。成虫は6月頃に出現するが少ない。食樹は不明。

(・o・)んっ❗❓
けどコレって、下翅の外側黒帯が離れているように見えるし、地色が明るめの黄色だからアズミキシタバに似てるぞ。
ホントにアズミとナマリって遠縁なのか❓もう何が何だかワカランよ。ヽ((◎д◎))ゝお手上げー。

 
【分布】本州、四国、小豆島、九州

東北から九州に局地的に分布する。北海道からは記録がない。
国外では中国、ロシア南東部(沿海州)に分布する。
長野県では、同じ食樹を利用し、同一場所に発生するフタスジチョウほどには寒冷地に適応していないとみられ、標高1800m以上のシモツケ群落には発生しないようである。

 

(出典『日本のCatocala』)

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
上の図は分布域を示し、下図は県別の分布を示している。

最初は奥多摩で発見され(それ以前の1956年に滋賀県鈴鹿山地で既に採集はされていた)、長いあいだ大珍品だったが、その後各地で生息が報告された。しかし、その分布は局地的で個体数も少なく、複数得られることは稀なようだ。ゆえに今でも稀種と言ってもいいだろう。『世界のカトカラ』でも珍品度が星★4つになってるしね。
分布が局地的な理由として、食樹の分布との関連性が指摘されている。これは食樹が崖地や岩場のような乾燥を好む植物ゆえ、謂わば本種は生態的に特殊な環境に依存しているからだと言い換えてもいいかもしれない。また、このような環境は防災上の理由でコンクリート化されやすいゆえ、さらに分布を狭めてもいるのだろう。人知れず絶滅している産地もあるに違いない。

本州中部では松本市や伊那市など長野県下に産地が多いが、やはり局所的。他に本州では東京都奥多摩町、埼玉県秩父市、新潟県糸魚川市、岐阜県白川村、滋賀県鈴鹿山地、兵庫県宝塚市、奈良県十津川村、岡山県高梁市等の産地が知られている。
四国では香川県高松市、小豆島や徳島県の那賀川上流で分布が確認されている。また九州では熊本県矢部町、大分県宇佐市・国東半島で発見されている。

 
【レッドデータブック】

埼玉県:R1(希少種1)
新潟県:地域個体群(LP)
富山県:準絶滅危惧種
岐阜県:情報不足
奈良県:絶滅危惧種Ⅱ類
岡山県:留意種
広島県:準絶滅危惧種
香川県:準絶滅危惧種
高知県:準絶滅危惧種
長崎県:準絶滅危惧種
大分県:情報不足

結構、多いね。こんだけ指定数が多いカトカラは初めて見るかもしんない。ようはそれだけ珍しい種だって事だわさ。

 
【開張】43〜53mm内外

そもそも大きいカトカラではないが、小豆島産は特に小型だと聞いている。確かに『世界のカトカラ』に図示されているものは明らかに小さい。

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
右側が小豆島産である。確かに小さい。だけど左は♀だからなあ。相対的に♀の方が大きいようだし、隣の♀と比べたら小さいのも当たり前だと言えなくもない。
そういえば岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』にも小豆島産が載っていたな。

 

(出典『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)

 
左が長野県産の♂で真ん中が小豆島産の♂である。やっぱ小さいね。
関西からは比較的行きやすい小豆島を訪れなかったのは、この小ささがネックになっていたからだ。憧れのナマリ嬢にガッカリしたくはなかったのである。

でもコレって『世界のカトカラ』と同じ個体のような気がするぞ。たった1例だけの比較だと、小豆島産は小さいと証明する材料としては弱いじゃないか。
けど、小太郎くんの知り合いが小豆島のナマリは小さいってハッキリ言ってるそうだから、きっと小さいんじゃないかな。
それを確かめに1回くらいは小豆島に行ってもいいかもしんない。小豆島には「島宿 真理」っていう泊まってみたい宿があるしね。

 
【成虫の発生期】 7〜9月

7月中旬から現れ、9月中旬まで見られるが、新鮮な個体は8月上旬までとされる。
長野県の生息地、伊那市(1000m イワシモツケ群落)、松本市(1550m アイズシモツケ群落)では7月末から8月にかけて羽化し、没姿するのは9月上旬。個体によっては9月中旬まで見られ、出現期間は約1ヶ月半。伊那市産を室内飼育(22.5℃)した場合の成虫寿命は3〜4週間であったという。

 
【成虫の生態】

食樹であるシモツケ群落が生育する蛇紋岩、石灰岩などの岩礫地に見られる。長野県では川沿いの浸食された段丘崖や渓谷の安山岩地に生育するアイズシモツケ群落にも発生する。

 

 
たぶん、こういう環境を好むのだろう。

思うに東日本では、食樹を同じくするフタスジチョウの産地と分布が重なる可能性があるから、フタスジの既産地から新たな生息地が見つかる可能性があるのではないか❓
また西日本では、この環境だとベニモンカラスシジミの産地で見つかる可能性が高いように思われる。ベニモンカラスの食樹はシモツケ類ではないが、同じような環境に見られるクロウメモドキだからだ。ベニモンカラスはナマリよりも更に局所的な分布なので、ナマリが居るところ=ベニモンカラスが居るとは言えないが、その逆は有り得ると思う。たぶんベニモンカラスの生息地にはナマリも棲息している可能性が高いのではなかろうか❓そういや実際、紀伊半島や中国地方のべニモンの有名産地には少ないながらもナマリの記録があるしね。これは逆にナマリの既産地からベニモンカラスの新産地が見つかる可能性も秘めていると云うワケだ。チャレンジ精神の有る方には、是非ともベニモンカラスの新産地発見にトライして戴きたい。

おっと、それならばクロツバメシジミと混棲している可能性もあるかもしれない。山地の崖に棲息するクロツも同じような環境を好むのだ。クロツの食樹であるツメレンゲは乾燥した崖に生えるからね。
ちょっと待てよ。クロツは河川敷にもいるから、梓川の下流域とかにもナマリが居たりしてね。ナマリは標高の低いところでも生息するから有り得るかも。
問題は食樹の有無だが、イブキシモツケは関西では標高100〜200mくらいの川沿いでも生えているからね。松本盆地の標高は500〜800mだから可能性はあるかもしんない。

成虫はクサボタンやシャジン類などの花に吸蜜に集まるが、上田市の低地(alt.500〜600m)ではクヌギの樹液にもよく飛来するそうだ。高松市内でも樹液に飛来すると聞いたことがある。しかし、兵庫県(alt.190m)で何度も糖蜜トラップを試してみたが、全く飛来しなかった。マオくんも長野県(alt.700〜800m)の多産地で試したが全く来なかったという。また、竹中氏からは紀伊半島の産地で試したがダメだったと聞かされている。
伊那市などの山地(alt.1050m)では成虫の生息数の割には餌を摂る個体数は少なく、摂る時期も発生後半に限られるという。これについて『日本のCatocala』の著者、西尾規孝氏は「低温のため、高温の低地ほど多くの栄養を必要としないかもしれない。」と書かれておられる。
納得できるような出来ないような微妙な説だ。理解できないワケではないのだが、北海道でもカトカラは樹液に集まるというし、自分も長野県の標高1700mで糖蜜トラップを試しているけど、オオシロシタバ、ムラサキシタバ、ベニシタバがそれなりに飛来した。白骨温泉(alt.1500m)ではムラサキ、ベニ、オオシロ、シロシタバ、ゴマシオキシタバ、ヨシノキシタバが飛来したし、平湯温泉(alt.1250m)ではベニとシロが来た。また開田高原(alt.1330m)ではゴマシオ、エゾシロシタバなどが集まった。確かに低地よりも飛来する個体数は少ないような気もするが、それなりには飛んで来るのだ。だとすれば、ナマリの糖蜜への飛来例を殆んど聞かないのはナゼなのだ❓
(´-﹏-`;)ん〜、やっぱメインの餌は花なのかなあ…❓
でも一度は糖蜜トラップでナマリを仕留めねば、気が済まないところがある。今のところ、我がスペシャル糖蜜で採れてないカトカラは、このナマリとアズミキシタバしかいないのだ。来年こそは、ナマリだって糖蜜で採れるということを証明してやろうと思う。

灯火には夜半過ぎに飛来することが多いとされる。
でも自分らのライトトラップには、最初に飛来したのが午後8時40分。以下10時前から10時20分の間、11時過ぎから午前0時過ぎ迄の間で、それ以降は全く姿を現さなかった。
マオくんも早い時間帯でも飛んで来ますよと言っていたから、夜半過ぎに飛来すると云うのは、あくまでもそうゆう傾向があると捉えた方がいいかもしれない。飛来時刻は、その日の気象条件に大きく影響されるのであろう。

アズミキシタバ程ではないが、地這い飛びで灯火にやって来る傾向があり、光源からやや離れた地面にいる事も多かった。しかしアズミみたく特に白布の下部に好んで止まるという事はなかった。アズミと同じく敏感で落ち着きがなく、近づくとすぐ飛び立ち、ムカつく。但し、これらは1回だけの経験なので、それが通常の行動パターンなのかどうかはワカラナイ。
尚、分布は局地的で少ないと言われるが、食樹の群生地では時に多数の個体が灯火に集まる事があるという。

昼間、成虫は頭を下にして石灰岩や安山岩に静止している。前翅は岩肌によく似ていて発見は容易ではないという。

 

(出典『日本のCatocala』)

 
こんなの、至近距離でも見逃しそうだ。遠目だったら、間違いなく見つけることは至難だろう。
まだ試したことはないが、昼間に生息地の崖を網で叩いて採るという方法もあるらしい。驚いて飛び出したものを採集するようなのだが、また崖に止まったらワカランぞなもし。それに葉っぱに止まってくれることは滅多に無さそうだから、蝶のゼフィルス(ミドリシジミの仲間)採集よりも難しそうだ。
体力と根性が必要だから、やる人は少ないかもしれないね。だって灯火採集の方が遥かに楽だもん。酒飲めるしさ。
そんなだから蛾屋さんは普段ネットを振ることが殆んどない。採集はライトトラップ&毒瓶が主なのだ。ゆえにハッキリ言って網さばきが下手な人が多い。あっ、しまった。謀らずもディスってしまった。でもマオくんみたいな天才や蝶屋との2足のワラジの青木くんなどは別として、大半の人がそうだと思う。野球、テニス、ゴルフ、卓球、バトミントンetc…、道具を使う球技と同じだ。普段から、また昔からシッカリ振り込んできてないと、対象物をジャストミート、芯で捕えることは出来ないのである。

驚いて飛び立つと、上向きに着地して、瞬時に体を下向きに反転させる。

交尾の情報は極めて少なく、『日本のCatocala』の各種カトカラの交尾を表に纏めたものに、深夜午後11時〜午前2時とあるのしか見たことがない。どうやら飼育下の観察だから、おそらく自然状態ではまだ見つかっていないものと思われる。とはいえ、表には出てないだけかもしれないけどね。

産卵行動についての記述は全く見つけられなかった。
推察だが、おそらく同環境に棲むアズミキシタバのように崖や岩に生える苔類に産卵するものと思われる。

 
【幼虫の食餌植物】
 
バラ科 シモツケ属のイワガサ、イワシモツケ、イブキシモツケ、アイズシモツケ、ミツバイワガサが記録されている。

1981年、増井武彦氏により本種が香川県小豆島でイワガサを食樹にしていることが初めて明らかにされた。それをキッカケに、その後同属のシモツケ種群からも幼虫が発見された。

 
(イワガサ)

(出典『天草の植物観察日記』)


(出典『www.plant.kjmt.jp』)

 
学名 Spiraea blumei
海岸や山地の日当たりの良い岩場などに生育し、高さ1~1.5mになる落葉低木。漢字で書くと「岩傘」。名前の由来は岩場に生えて花序の形が傘に見えることからだそうだ。
分布は本州の近畿以西、四国、九州、朝鮮半島、中国。
若枝は緑色〜褐色で無毛、又はほぼ無毛で稜角がない。枝はしばしば弓なりに曲がる。
葉は互生し、長さ1.5~3.5cm、幅1~3cmの倒卵形~菱状卵形。時に3裂し、不規則な欠刻状の鋸歯がある。表面の脈はやや凹む。葉や葉柄は、ほぼ両面とも無毛。
一見すると同属のイブキシモツケと似るが、若枝や葉裏に毛の無いことから区別される。
花は5月に見られ、白色の5弁花を20~30個ほどつける。

変種にミツバイワガサ(別名タンゴイワガサ)がある。福井県以西の日本海側の海岸の岩場に生育し、兵庫県下ではイワガサと共に見られる。イワガサよりも葉が大きく広卵形。浅く3つに裂ける。

 
(ミツバイワガサ)


(出典『blog花たちとの刻』)

 
この特徴的な葉が名前の由来だろね。
各種図鑑には食樹としての記録は無いが、『兵庫県カトカラ図鑑』には、2012年に兵庫県美方郡新温泉町城山公園で幼虫が発見されていると書かれてある。

 
(イワシモツケ)

(葉)

 
学名 Spiraea nipponica
バラ科シモツケ属の落葉低木。漢字にすると「岩下野」。
日本固有種で、近畿地方以北に分布し、高い山地の日当たりの良い蛇紋岩地や石灰岩地に生育する。
高さ1〜2mになり、よく分枝する。若枝は淡褐色、古い枝は黒褐色を帯びて毛は無い。
葉は変異が多く、狭長楕円形、倒卵形、倒卵円形、広楕円形または楕円形になり、近縁種とされてきたマルバシモツケとナガバシモツケは現在では同種とされている。葉質は厚く、両面とも無毛で裏面は粉白色または淡色。縁は全縁か先端に2〜3個の鈍鋸歯があり、互生する。
花期は5〜7月。5弁花を多数つける。

尚、今のところアズミキシタバの自然界での食樹は、このイワシモツケのみが知られている。但し、飼育した場合は他のシモツケ類でも順調に育つようだ。

 
(イブキシモツケ)

(出典『風の翼』)


(2020.6月 兵庫県武田尾渓谷)


(出典『六甲山系の植物図鑑』)

 
学名 Spiraea dasyantha
「伊吹下野」と書き、名の由来は滋賀県の伊吹山で最初に発見されたため。別名にマンシュウシモツケ(満州下野)、ホソバイブキシモツケ(細葉伊吹下野)、キビノシモツケ(吉備下野)、トウシモツケ(唐下野)がある。
分布は本州の近畿以西、四国、九州。山地や海岸の日当たりの良い岩礫地に生え、高さ1~1.5mになる落葉低木。石灰岩地域の崖に多く、流紋岩質凝灰岩でも見られる。
枝はよく分枝し、やや弓なりに曲がる。若い枝は淡い赤褐色で、褐色の短毛が密に生える。
葉は互生し、長さ1.5~7cm、幅0.7~2cmの卵形~菱状楕円形となる。葉縁は不規則な欠刻状の鋸歯があり、しばしば3浅裂する。葉の質は硬く、葉の表面の脈は凹み、若い葉では軟毛が密に生え、裏面には褐色の毛が密生し、葉脈は隆起する。葉柄は長さ0.2~1.1cmで、ここにも軟毛が生える。
花期は4~6月。花は白色で、5弁花の小さな花を多数つける。

 
(アイズシモツケ)


(出典『Wikipedia』)

 
学名 Spiraea chamaedryfolia
漢字は「会津下野」。由来は福島県の会津地方で発見されたことによる。
日本では北海道、本州の中部地方以北、九州の熊本県に分布し、山地の日当たりのよい崖地や岩場、林縁に生育する。アジアでは東アジア、シベリアに分布する。基本種はヨーロッパからシベリアに分布する。
樹の高さは2mに達する。若枝は赤褐色を帯び、稜角があり、無毛、もしくは白軟毛がある。
葉は互生し、長さ3〜6cm、幅1.5〜3.5cm。形は卵形から広卵形または狭卵形。葉の先端は鋭頭で、基部は円形または広い切形。葉の表面は無毛か短伏毛があり、裏面は若葉時には軟毛があり、のちに無毛となる場合がある。葉の縁には基部以外の部分に鋭い重鋸歯がある。
花期は5〜6月。直径10mmの白色の5弁花を多数咲かせる。

紛らわしいものに、ミツバシモツケがある。
ミツバイワガサの誤表記かと思ったが、実際にそうゆう名前の植物は存在するようだ。しかし、およそシモツケの仲間には見えない。花も葉も全然似てないのだ。

 
(ミツバシモツケ)

(出典『garakuta box』)

 
調べたら、このミツバシモツケは北アメリカ原産のギレニア属の宿根草で、シモツケとは同じバラ科だが別属のようだ。

  
幼虫は、これらシモツケ類の比較的大きな株を好む傾向があるという。
尚、長野県下の飼育例では、ユキヤナギ、コデマリ、ヤブデマリ等の各種シモツケ類の柔らかい葉が幼虫の代用食になるそうだ。

 
【幼生期の生態】

先ずは卵から。

 
(卵)


(出典『日本のCatocala』)

 


(出典『flickriver photos from kobunny 』)

 
ナゼか同じサイトに別な色の卵もあった。

 

 
卵はやや背の高いまんじゅう型で、ベニシタバ、アズミキシタバ、ノコメキシタバに似る。縦隆起条は太く、気孔が明瞭に開口する。この形態は幼虫の食餌植物がバラ科やヤナギ科のカトカラの特徴のようだ。環状隆起は二重前後花弁状紋は2層、横隆起状の間隔は前極側で広く、後極側で狭くなる。

他のカトカラ(オニベニ、ムラサキ、シロ、ゴマシオなど)のように卵が一斉に孵化するのではなく、長期間に渉ってダラダラと孵化する。また孵化時期も他のカトカラよりも遅く、孵化に要する有効積算温度も、より必要なんだそうだ。これについて西尾氏は「日が当たると高温になる岩場表面での生活に適応した現象と思われた。」と推察されておられる。北海道には分布しないというし、寒冷系のカトカラではないんだろうね。
でもだったら、ナゼに武田尾みたいな低山地であれだけ糖蜜トラップを掛けたにも拘らず、1頭も寄って来なかったのだ❓標高が低い分、活発に動く筈だから、エネルギー源も必要だろうに。それに、この時期の武田尾には花なんてロクに咲いてなかったと思う。なんだから樹液とか糖蜜に寄って来るでしょうに。なのに、なして来んの❓キイーッ(`Д´)ノ❗、全くもって解せん。葉っぱの露でも飲んでるとしか思えん。
(´-﹏-`;)むぅ〜、まさか夏眠とかすんじゃねぇだろなあ。

 
(1・2齡幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
左が1齡幼虫、右が2齡幼虫。

 
(3齡幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
(5齡幼虫)


(出典『日本のCatocala』)

 
この5齡が終齢となる。

幼虫の体色変異は比較的あり、全体が白化したものや黒化したものが見られる。
3齡前後の幼虫は食餌植物の枝先にいるが、終齢になると日中は葉などの目立つところにはあまりおらず、木の根元や地表近くの枝、枯れてブラ下がった枝にいるようだ。また時に根元付近の岩上や草で見つかることもあるという。
ゆえにビーティング採集よりも、食樹を丹念にルッキングで探す方が効率は良いとされる。

4・5齡幼虫の食痕は、枝先の葉柄部と茎を残す形のようだ。

 

(出典『日本のCatocala』)

 
アズミキシタバの幼虫と似るが、頭部の模様で区別できる。

 
(ナマリキシタバ終齢幼虫の頭部)

(出典『日本のCatocala』)

 
カトカラの幼虫の判別には、この頭部の特徴が極めて重要なのだという。参考までにアズミキシタバの頭部も載せておこう。

 
(アズミキシタバの幼虫頭部)

(出典『日本のCatocala』)

 
似ているが、よく見ると違うね。
ついでだから、アズミの幼生期全般も載せておこう。

 
(アズミキシタバの卵)

(出典『日本のCatocala』)


(出典『flickriver photos from kobunny』)

 
(アズミキシタバの2齢幼虫)

 
(5齢幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
体色が灰色のナマリと比べて赤みがかるが、他のステージも含めて全般的に似てるね。どちらも2齢幼虫は黒いしさ。やはり幼虫や卵が似ているのは両者の食樹が同じで、成虫の前翅の色が似てるのとも関係があるのかもしれない。
では、下翅が似ていると言われてるコガタキシタバとはどうだろう❓

 
(コガタキシタバの卵)

 
(コガタキシタバ終齢幼虫)

 
(終齢幼虫頭部)

(出典『日本のCatocala』)

 
全然、(@_@)似てねぇー。
まあDNA解析の系統樹でも両者は離れてるからね。

では、DNA解析だと近縁とされているノコメキシタバとではどうだろうか❓

 
(ノコメキシタバの卵)


(出典『日本のCatocala』)

 
ナマリキシタバと比べて隆起状の数が40本以上あること(ナマリは40本未満)で区別できる。またアズミとは隆起状の間隔で判別できる。アズミは間隔が広く、それに比してナマリとノコメは間隔が狭いという。

 
(ノコメキシタバ終齢幼虫)

 
(終齢幼虫頭部)

(出典『日本のCatocala』)

 
幼虫は変異が多そうだから何とも言えないところがあるが、卵と終齢幼虫の頭部は似ている。自分はDNA解析に対しては懐疑的なところがあるが、これはその解析結果と合致していると言ってもいいだろう。

ついでだから、オニベニの幼生期の画像も添付しておこう。

 
(オニベニシタバの卵)

 
 
(オニベニシタバ終齢幼虫)

 
(終齢幼虫頭部)

(出典『日本のCatocala 』)

 
\(◎o◎)/超絶似てねぇー。
コレは完全に別系統であろう。全くもって的外れもいいところである。そもそもオニベニの食樹はバラ科ではない。全然違うクヌギなどのブナ科コナラ属だもんね。違ってて当たり前かもしんない。

来年はナマリさんの終齢幼虫探しをしてもいいかなぁ…。
あまりにも成虫が採れんし、非効率的過ぎるもん。だからか、多くの皆さんは幼虫採集で標本を得ているみたいだ。成虫採りよりも、よっほど楽に新鮮な標本が得られるという。
終齢だと飼育の苦労も少なそうだし、滅多に飼育をしないワシでも何とかなりそうだ。

とはいえ、成虫採りをやめたワケじゃない。
本当の恋は、まだ始まったばかりなのだ。

                        おしまい

 
追伸
書き忘れたが、蛹化場所についての情報も見つけられなかった。おそらく自然状態での蛹は見つかっていないのだろう。
それにしても崖だと何処で蛹化するのだろう❓まさか地面まで降りては来ないだろうから、崖の窪みに溜まった落葉の下辺りで蛹化するんだろね。

今回の第三章もタイトルを付けるのに苦労した。
どれがどの章に対してのモノなのかはハッキリ思い出せないが、以下のような候補のメモがあった。

『稲妻レェドゥン』
『稲妻コロンビーナ』
『雷雲と稲妻』
『雷神を追い求めて』
『雷撃レッド』
『雷(いかづち)の蹉跌』
『イカロスが幾たりも来ては落っこちる』
『Nの昇天』
『カラビナ 鎖の掟』

とはいえ、メモっといて何で候補としたのか思い出せないものもある。ザッとした草稿は随分前に書いてあったのだ。タイトルは最初に決めてから書き出す場合と書いてる途中で思いつく場合とがあるのだ。
それはそうと、特にレッドと云うのが、よくワカラン。記憶を辿ってみよう。

『稲妻レェドゥン』は、サザンの「稲村ジェーン」がモチーフとなっている。レェドゥン(leaden)の意味は「鉛色の」がベースだが、他に「意気消沈した、重苦しい、陰鬱な」といった意味合いもある。これは、ようは第一章を想定したものだろう。ホント、その通りだったからね。思い出しても辛い9連敗だったよ。
このタイトルのことはすっかり忘れてて、第一章には『汝、空想の翼で駆け、現実の山野にゆかん』というタイトルを付けたけど、そんな仰々しいものよりもコチラの方が良かったかもしれない。まだしもこっちの方が少しはセンス有りじゃろう。今からでも改題してやろうかしら。

『雷撃レッド』は、そこからの更なる聯想だったと記憶している。レェドゥン(leaden)でググッたら「reddn(レェドゥン)」というのが出てきた。意味は「赤く染める」だが、他に「赤面させる」「(恥、怒り、興奮などで)赤を赤らめる」という意味合いもある。9連敗もして屈辱的だったから、タイトルとして考えたのだろう。レッドは、たぶんレェドゥンの略をモジったものじゃろう。『電撃レェド』よか『電撃レッド』の方が何となくカッコイイからね。で、雷撃はそのショックを表してるんだろね。

『雷神を追い求めて』『雷(いかづち)の蹉跌』『イカロスが幾たりも来ては落っこちる』も又、第一章の為に考えられたものだ。

一番最初の『雷神を追い求めて』は、タイトルまんまの意味だろうから説明不要でしょう。
とはいえ、もしかしたらどっかでプルーストの長編小説「失われた時を求めて」を意識したものだったのかもしれない。どちらもクソ長いものだからさ。でもきっと良いアレンジが浮かばなかったんだろう。その辺の事は全く記憶に無いけど。どうあれ、このままじゃベタ過ぎて使えないもんね。

『雷(いかづち)の蹉跌』は、挫折を表している。そんなに悪くないタイトルだと思うが、蹉跌の文字はハイモンキシタバの回(『銀灰(ぎんかい)の蹉跌』)で使ったのでカブるのを避けた。

『イカロスが幾たりも来ては落っこちる』も挫折の日々を表している。翼を得たイカロスが調子ブッこいて太陽に向かって飛ぶのだが、蝋(ろう)で作られた翼ゆえ、やがて太陽の熱に溶かされて墜死するという神話が下敷きになっている。
このイカロス神話で思い出したのが、梶井基次郎の短編小説「Kの昇天ー或はKの溺死ー」。その中の一節「イカルスが幾人も来ては落っこちる。」を思い出し、そこに少し手を加えてタイトルとした。
尚、イカロス(イーカロス)は古代ギリシア語の表記で、ラテン語読みだとイカルスと表記される。
余談だが、このギリシア神話の物語は人間の傲慢さやテクノロジーを批判するものとして有名である。

その「Kの昇天」からモロにパクったのが『Nの昇天』。
Nとは勿論ナマリキシタバの頭文字のNである。これは第二章に流用しようとした。結局使わなかったのはタイトルにするには色々と文章に仕掛けが必要だったからである。伏線となる文章を散りばめないとタイトルが薄っぺらくなっちゃうからね。けど、そんな筆力は持ち合わせていないので断念。

『雷雲と稲妻』も第二章を意識してのタイトルだ。
でもコレとて、そのまんまだと薄っぺらいから仕掛けが必要となる。けど同じく筆力なしゆえの断念だったね。

『カラビナ 鎖の掟』。
何だかVシネマのタイトルみたいだ(笑)。たぶんコレというモノが浮かばなくて、ヤケクソ気味で捻り出したのだろう。そもそも学名はコロンビナなのにね。頭の中でコロンビナとカラビナが鎖のように絡まってたんだろうけど、どうやって鳩からカラビナに持っていこうとしてたんだろ?かなりの力技が必要だから謎です。まさかのダジャレで何とかしようとしてたりしてね(笑)
これは何章に宛がわれたとかは、特に無かったように思う。

まあ、こんな屑ブログでも、タイトルを付けるのにはそれなりの苦労があるんである。

最後に今回のタイトル『嘆きのコロンビーナ』について少し触れて終わりにしよう。
嘆いているのは、コロンビーナ(ナマリキシタバ)ではない。ワタクシ自身だ。トラップに来ないことに嘆き、灯火に来ないことに嘆き、どうやって採ればいいのか分からなくなって嘆き、飛んで来たはいいが翻弄されまくって嘆き、上手く展翅写真が撮れずに嘆きで、全面嘆きだらけだったのだ。
そして、この今書いている文章にだって嘆いている。何度も何度も書き直しているのだ。一度完成してからも、解体、組み替えを繰り返している。つまりナマリキシタバの採集と同じく出口の見えないドン底状態に陥っていたのである。いつもにも増して時間と労力を費やしておったのだ。まあ、時間と労力を費やしたからって、優れたものになるとは限らないけどね。
やれやれだよ。

 
(註1)カトカラ界の両巨匠
世界的なカトカラ研究者である石塚勝己さんと日本のカトカラの生態解明に多くの足跡を残された西尾規孝さんのこと。
それぞれ『世界のカトカラ』『日本のCatocala』という蛾界に多大なる影響を与えた著書がある。

 
【世界のカトカラ】

 
【日本のCatocala】

 
どちらもカトカラを深く知るには必読の書である。

 
(註2)アズミキシタバ


(2020.7.26 長野県北安曇郡)

 
日本では長野県白馬村と新潟県奥只見にのみ棲息する最小のカトカラ。幼虫の食樹はイワシモツケ。
アズミキシタバについては、拙ブログに「2020’カトカラ3年生 其の壱」に『白馬わちゃわちゃ狂騒曲』『黃衣の侏儒』と題して2篇の文章を書いている。

 
(註3)コガタキシタバ

(2020.6月 兵庫県西宮市)

 
低地の雑木林に広く見られるが、同じマメ科を食樹とするキシタバ(C.patala)よりも個体数は少なく、見る機会はそれほど多くはない。稀種と言われていたフシキキシタバの方が寧ろ多いくらいだ。
コガタキシタバについては過去に『ワタシ、妊娠したかも』、その続編『サボる男』という2篇を書いた。それにしても、両方ともフザけたタイトルだよなあ。内容は全然もって覚えてないけど…。

 
(註4)オニベニシタバ
低地の雑木林に棲む下翅が紅色系統のカトカラ。
オニベニシタバについては本ブログの「2018’カトカラ元年」シリーズの其の8に『嗤う鬼』と題した文章がある。

 
(註5)ノコメキシタバ
主に高原に生息するカトカラ。
本ブログに『ギザギザハートの子守唄』『お黙りっ❗と、ベラは言った』という文章がありんす。

 
ー参考文献ー

◆西尾規孝『日本のCatocala』
◆石塚勝己『世界のカトカラ』
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』
◆江崎俤三『原色日本産蛾類図鑑』

(ネット)
◆『ギャラリー・カトカラ全集』カトカラ同好会
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『Wikipedia』
◆『兵庫県カトカラ図鑑』きべりはむし
◆『天草の植物観察日記』
◆『六甲山系の植物図鑑』
◆『風の翼』
◆『blog花たちとの刻』
◆『garakuta box』

 

2020’カトカラ3年生 其の弐(1)

 
 
  vol.25 ナマリキシタバ 第一章

汝、空想の翼で駆け、現実の山野にゆかん

 
2018年 8月13日

ずっと蝶屋だったが、この年から本格的に蛾のカトカラ(シタバガ亜属)も集めだした。蛾は苦手だけど、カトカラは綺麗なモノが多いし、胴体もあんまし太くないから抵抗感があまりなかったのだろう。
そうゆうワケで、謂わばこの2018年が自分の中での「カトカラ元年」と相成った。

ナマリキシタバも初年度から狙いにいった。関西には武田尾渓谷という手軽に電車で行ける有名な産地があったからである。
最初はまだカトカラをそんなに真面目に集める気はなかったけど、この1か月程前に稀種カバブキシタバを採ったあたりから集める気持ちが加速した。その流れの中で、ネットの『兵庫県カトカラ図鑑(註1)』というサイトを見つけた。そこに載ってたナマリキシタバの画像が無茶苦茶に渋カッコ良かった。しかも稀少度は最高ランクの★5つになっていた。
そこからナマリへの憧憬の旅路が始まった。

 
【ナマリキシタバ Catocala columbina ♂】

(出典『www.jpmoth.org』)

 
その後、ナマリの画像をネットで探してみたが、あんなに美しいナマリキシタバの標本画像は他に見たことがない。前翅の複雑な模様の中に、ビカビカの稲妻のような黄色い線がギザギザに走っているのだ。
残念ながら、その画像は取り込めないゆえ掲載できないけど、文末にURLを載せておいたので、興味のある方はアクセスされたし。
あっ、そんな事しなくとも「兵庫県カトカラ図鑑」と打つだけでもヒットはするんだけどもね。

この日はA木くんを焚き付けて、武田尾温泉近くで灯火採集をした。彼は蝶と蛾の二刀流だが、まだナマリは採ったことがないと知っていたから乗ってきてくれると思ったのである。

 

 
そこまでは目論見通りだったが、蛾は沢山飛んで来たのにも拘わらず、ナマリの姿はついぞ見られずじまいだった。
たぶん午前0時くらいには撤退したかと思う。こっから先の時間帯がナマリの飛来タイムである事すら知らなかったのだ。
でもまだ、この時点では楽勝気分だった。自称「まあまあ天才」。蝶なら大概の種は一発で仕留めてきた男なのだ。ゲット数250種くらいある中で、採りに行って連敗した蝶は片手にも満たないのだ。

 
2018年 8月15日

翌々日、渓谷の反対側(南)に行った。
ライト・トラップは持っていないので、糖蜜トラップで採れないかと思ったのである。まあまあ天才なのだ、いくらナマリキシタバがカッコ良くて珍しかろうとも、たかが蛾だ。とっとと片付けてやろう。

後ほど図鑑等で知ったのだが、環境的には絶好の場所で、如何にもナマリが居そうなところである。

 

 
周辺には、幼虫の食樹であるイブキシモツケも沢山生えている。

 

 
やがて、闇が訪れた。

 

 
ここは旧国鉄福知山線の跡地で、今はハイキング道になっており、線路とトンネルがそのまま残っている。
そのトンネルの奥は真っ暗だ。闇が尋常でなく濃い。

 

 
あんぐりと開いた不気味な黒い口の先は、背中に悪寒が走るほど深い闇だ。
怖がりで小心もんのワシには、チビるに充分なシチュエーションじゃよ。

昼間だと、↙こんな感じだが、それでも充分に怖い。

  

 
何てったって、出口の明かりさえ見えない長いトンネルだってあるのだ。昼間でも懐中電灯が無ければ歩けないようなレベルの暗さなのだ。

時々、と云うか頻繁にトンネルの方に目を遣る。

だって、奥から魑魅魍魎どもが走ってきたら、ワシのマイライフはジ・エンドなんだもーん༼;´༎ຶ ۝ ༎ຶ༽

いつでも全速力で逃げられる用意をしておかなくてはならんのだ。一歩でも逃げ出すスピードが遅れれば、致命的な結果になりかねない。

しかし、そこまで必死こいて頑張ったのにも拘わらず、糖蜜に来たのはムクゲコノハとアケビコノハ、それとオオトモエくらいだった。

 
【ムクゲコノハ】

(2019.8月 岐阜県高山市)

 
乙女のカッチャンは「ねっ、ねっ、コイツ綺麗だよね。」と言ってたけど、正直なところ毒々しくて気持ち悪い。元来、蛾はキモいから苦手なのだ。ってゆうか、怖い。餓鬼の頃からの蛾=邪悪と云う図式の刷り込みは容易な事では拭い去られるものではない。

コイツと次のアケビコノハは、よく糖蜜に寄ってくるが、妙に敏感ですぐ逃げよる。これが💢イラッとくる。だから、しばしばバイオレンスな気持ちになる。まだシバき倒してやった事はないけどさ。

 
【アケビコノハ】

(2019.5月 大阪府東大阪市)

 
普通種だが、素直な気持ちで見るとカッコ美しい。
でも前述したように、しばしば殺意を抱(いだ)く存在。

 
【オオトモエ】

(2018.8月 奈良県大和郡山市)

 
個人的には「マスカレード」と呼んでいる。
仮面舞踏会のマスクみたいなデザインだからだ。大きくて見栄えも良いから割りと好きな蛾だが、翅が薄くて直ぐにボロボロになりよる。たぶん藪の中とか変なとこを飛ぶせいもあるのだろう。パッと見キレイそうだからと採ってみたら、大概が縁がボロボロになっとる。羽化直後のような新鮮な個体でも、どこか破れているのだ。そんなワケだから採る度ごとに一々ガッカリするし、コヤツも敏感な奴が多くて直ぐ逃げるのも何だかムカつく。だから最近は見てもフル無視だ。

それにしても展翅がなあ…。よくよく見ると下手クソだわさ。まだ蛾の展翅には慣れてない初期の頃のモノだから、前翅が上がり過ぎてるし、触角の角度も上向き過ぎてる。蝶と蛾とでは羽の形が微妙に異なるから、蝶とは勝手が違うのだ。来年は改めて採り直して、完璧なのを作ろっと。
あっ、全然関係ないけど、台湾の青いトモエガは超カッコイイから是非とも自分の手で採りたいね。

 
【Erebus albicincta obscurata 玉邊目夜蛾】

(出典『飛蛾資訊分享站』)

 
美しいだけでなく、結構デカいらしい。
これはマジで採りたいから、どなたかポイントを教えてくれんかのう。

 
2019年 7月24日

2019年の一発目は、武田尾駅の1つ先の道場だった。
ここにもナマリキシタバの幼虫採集の記録があるからである。去年、武田尾で2連敗した教訓から、場所を変えてみようと考えたのだ。ターゲットを落とす為には、ありとあらゆる可能性を考えて戦略を練らなくてはならない。女の子を落とすのと同じだ。
あっ、でもワシって、いつもその場その場の出たとこ勝負だわさ。まあ、それも戦略っちゃ戦略かもなあ…。

場所は謂うなれば前回とは反対側の渓谷の北の外れにあたり、ここから武田尾渓谷を経て生瀬まで幼虫の採集記録がある。
でも、見たところ幼虫採集のみの記録しかなくて、成虫が採れたと云う話は聞いたことがない。そこんとこは気になるところではある。皆さん、成虫は中々採れないゆえに幼虫採集をしやはるみたいだ。どうやら標本を得るためには、終齢幼虫を採ってきて親にするのが一番手っ取り早いらしいのだ。
でも、蝶を採り始めた時からファーストコンタクトは成虫採集でなければならぬと云う強い拘りがある。はなから幼虫を採ってきて羽化させてハイ採れましたじゃ、卑怯な気がするのだ。どこか正々堂々と対峙してないと感じてしまう。
ことわっとくが、これは別に他人のやり方を誹謗中傷しているワケではない。単に自分は、そうゆう主義なのである。そこは己の生き方にも通じるところがあるから曲げれない。それだけの事だ。他人がどうあろうと関係ないし、興味もない。

 

 
千刈ダムまで行って引き返す。
周囲に灯りは全く無さそうで、日が沈めは真っ暗になると思ったからだ。それに何か辺りの風景が不気味だったので怖かったのだ。ダムってお化けとか幽霊が出そうなんだよなあ…。絶対に誰かが沈められてると思う。アッシ、自慢じゃないが、ウルトラ根性なしの怖がり屋で、チキンハート野郎なのさ。子供の頃、夜中に便所に行くのが怖くて妹に30円払ってついてきて貰ってたような男なのだ。

だいぶ手前の桜並木まで戻り、糖蜜を吹き付けてゆく。
何処であろうとも、採れりゃいいのである。異界の者に会うリスクは出来るだけ避けるべきじゃろう。

午後9時半くらいだったと思う。林縁の高い所を飛ぶカトカラを発見。
裏側は黄色いから、ナマリも含まれるキシタバ類に違いない。
大きさ的にはデカくないからパタラ(キシタバ=C.patala)ではない。消去法でいくと、既に発生が終わっているアサマキシタバやフシキキシタバの可能性も除外していいだろう。いたとしても相当なボロだかんね。どう見ても飛んでるのは、そんなボロ風情ではない。
この時期だと、おそらくコガタキシタバもボロだろうし、関西の低地だとワモンキシタバやウスイロキシタバも同じくボロだろう。それにウスイロは裏の色が薄く、オフホワイトだから間違う可能性は低い。
クロシオキシタバは主に沿岸部に棲み、内陸にはあまり居ない種だし、大きさもキシタバに次ぐものだからデカい。コレも有り得んだろう。

 
【キシタバ ♀】

(2019.6月 奈良県大和郡山市)

 
【アサマキシタバ ♂】

(2019.5月 大阪府東大阪市)

 
【フシキキシタバ ♂】

(2019.6月 兵庫県西宮市)

 
【コガタキシタバ ♂】

(2020.6月 兵庫県西宮市)

 
【ワモンキシタバ ♀】

(2019.8月 長野県上田市)

 
【ウスイロキシタバ 】

(2020.6月 兵庫県西宮市)
 
 
【クロシオキシタバ ♂】

(2018.7月 兵庫県神戸市)

 
残る可能性はアミメキシタバ、カバフキシタバ、マメキシタバ、そしてナマリキシタバくらいだろう。

 
【アミメキシタバ ♀】

(2019.7月 奈良市)

 
アミメって、此処に記録があるのかなあ❓ウバメガシが有ればいるかもしれないけど、あまり聞いた事がない。でも可能性はそれなりにあるだろう。

 
【カバフキシタバ ♀】

(2020.7月 奈良市)

 
カバフは稀種で、分布は局所的だ。いる可能性もないではないが、いない可能性の方が高い。

 
【マメキシタバ ♂】

(2020.7月 長野県北安曇郡)

 
マメは普通種だから間違いなく此処にも居るだろう。
でも翅形はナマリよりも細い気がする。飛んでるのはマメよりも翅が丸いような気がする。
となると、ナマリの公算は高いかもしれない。
しかし、降りて来ることはなく、やがて梢の上を優雅に越えて姿を消した。
まあいい、そのうち我がスペシャルレシピの糖蜜トラップに寄ってくるじゃろうて。何てったって、カバフを筆頭に樹液をも凌駕してきた糖蜜なのである。ドーンと来いじゃ❗

  

 
しかし、トラップには殆んど何もやって来ず、帰り際に飛んでたクソみたいな蛾(たぶんキマダラオオナミシャク)を思わず採ってしまう。
未曾有の大惨敗である。マジで心折れたね。

 
2019年 8月5日

まだ採ったことのないカトカラを求めての信州遠征5日目である。
ミヤマキシタバ、アズミキシタバ、ハイモンキシタバ、ノコメキシタバ、ヒメシロシタバ、ケンモンキシタバ、ヨシノキシタバを狙うも、前半は3連敗でボコボコ、漸く昨日になって何とかミヤマキシタバを仕留める事ができた。

 
【ミヤマキシタバ】


(上は♂で長野県大町市、下は♀で長野県木曽町)

 
とはいえ、連日のテント生活で疲れきっていた。おまけに新しい靴で死ぬほど歩き回ったせいで酷い靴ズレになってて、身も心もボロボロだった(註2)。

 

 
松本から新島々行きの電車に乗る。
目指すは、○○ちゃんに教えてもらった場所だ。

しかし、結構歩いた末に崖崩れで前へ進めず、ポイントには辿り着けなかった。仕方なく中途半端な場所で糖蜜を撒く。居ないとは言い切れないが、環境的にあまり期待が出来ないことは自分でも解っていた。でも糖蜜の甘い匂いに誘われて離れた所からでも飛んで来んだろう。生物の嗅覚は人間の想像する以上に優れていると言うからね。
でも(´Д⊂グスン。そうでも思わないと、やってらんないのである。

そして案の定、結果は惨憺たるもので、全くと言っていいほど何も飛んで来なかった。
もしかしたら、ナマリは糖蜜トラップでは採れないのかもしれない。となると、灯火採集用のライト・トラップが無いと無理なのか❓…。でも樹液に来たという記録は少ないながらも有るんだよなあ。

帰りに、駅で見たことがない蛾を見つける。
すわっ❗、ジョウザンヒトリか❗❓と思って採ってしまった…。

 

 
ついでにスタイリッシュな柄の別な蛾も採ってしまう。

 

 
蛾はカトカラとヤママユ系以外は採らない主義だが、何にも戦利品がないのは悲し過ぎる。なので、つい採ってしまったのである。そうでもしないと、溜飲が下がらなかったのだ。
けど、それで溜飲が下がったか?と訊かれたら、黙り込むかもしんない。所詮は己を誤魔化しているに過ぎないと、心の底では知っているからだ。

結局、帰って調べたら、別に珍しくも何ともない者たちであった。
最初のはシロオビドクガの♀みたいだ。

 

 
ドクガと名がつくが、毒はない。
♂は見た目が全然違くて、前翅の柄はもっと素っ気なく、後翅も黒くて地味。あまりにも両者の見た目が違うので、以前は別種だと考えられていたそうな。

2頭目はボクトウガの仲間である。

 

 
展翅したら、ズッコケるくらいに異様でブサいくな形(なり)だったんで、凹んだよ。
たぶん「ゴマフボクトウ」って奴だろう。

3頭目はマイマイガの仲間と知って、展翅すらしなかった。
たぶんノンネマイマイ。ノンネって何じゃらホイ?意味ワカランわい。死ねや(-_-メ)
マイマイガの仲間は時に大量発生するし、ホント気持ち悪い。触角もヤな感じだし、許せない。以前、カシワマイマイには一杯喰わされたしね(註3)。マジ、コイツら憎悪だ。

  

 
松本の居酒屋に入って、お通しのキャベツに味噌つけて食い、ビール飲んでテーブルに突っ伏す。
このシリーズを読んでおられる方ならお気づきだろうが、ここでも疲労と落胆で突っ伏していたのである。

 

 
店員のブス女に薦められたサラダである。
別にマズくはないのだが、如何せん量が多い。コレでソッコー腹一杯になった。
一人で居酒屋に入る時は絶対にサラダなんか頼まないのに、ブスの言うことなんて聞くんじゃなかったよ。

糞ブスめがっ(ノ`Д´)ノ彡┻━┻❗❗

やる事なすこと上手くいかなくって、オジサンは心がヤサグレてて、とっても荒(すさ)んでいるのである。女子店員に罪はない。

 

 
他にハジカミ(谷中生姜)の豚肉巻きも頼んだ。
けんど期待を下回るもので何ら感動がない。長野県って野沢菜以外にロクに旨いもんがないんだよなー。スマンが長野で食いもんに感動した事は一度だってないのだ。蕎麦は高いわりには美味くないし、馬刺は熊本の方が百万倍旨い。蜂の子とかも、さして旨くなくて、昔の人は食べるもんがないから仕方なしに食ってたんじゃないかという気さえする。五平餅はまだ許せるが、そもそも甘い味付けの食いもんは我が食のカーストでは底辺に位置するのだ。
それに、三河地方出身の小太郎くん曰く、五平餅の元々の発祥は三河で、そこと隣接する長野県南部の一部でも名物だが、それを他の長野県の地方がパクッてドサクサで長野名物にしてしまったという。どこまで本当なのかはワカランし、責任持たないけどね。真偽が知りたい方は、御自身で調べて下され。

ムカつくので、あとは只管(ひたすら)に酒をガブ呑みしてやったよ。
こういうのを、人は「ヤケ酒」と呼ぶ。

 
2019年 8月8日

この日は信州から大阪までボロボロになって戻ってきた。
にも拘らず、青春18切符だったので真っ直ぐには帰らず、根性で兵庫県の道場駅まで足を延ばした。

 

 
我ながら執念である。そこまでしてナマリに会いたいのだ。もうここまでくれば、恋愛の域だ。恋い焦がれている。

そして、今回は前回の道場のリベンジでもある。
でも全く同じ場所では返り討ちに遭うことは明白だから、ポイントを変えて前回よりも奥を目指した。そう、こないだはビビって逃げ出したあのダム・サイトだ。

この前は怖くて、それどころじゃなかったが、千刈ダムにはナマリの食樹であるイブキシモツケが山ほど有った。

よっしゃあー(ノ`Д´)ノ❗
ここで一発逆転じゃあ❗

この地でナマリさえ採れれば、逆転さよならホームラン、全ては大団円で終わるのだ。長野遠征の屈辱と疲れも一気に吹き飛ぼうぞ。

木と崖の岩に糖蜜を目一杯吹き付けてゆく。今日が旅の最終日なので、手持ちの糖蜜を全部使い切ってやる所存だ。

撒き終わった頃に日が沈み、真っ暗闇になった。
辺りには、ダムの放水音が不気味に響き渡っている。出るシチュエーションだ。そして、足を踏み外して落ちたら、土座右衛門必至である。で、朝にはプカプカと川に浮かぶのだ。旅の最後が溺死だなんて悲し過ぎるよ、ベイベェー。

だが、それだけ勇気を振り絞って頑張ったのにも拘わらず、又しても返り討ちに遭う。絶好の場所なのに、ナマリどころか殆んど何も飛んで来ん。武田尾といい、此処といい、極めて蛾の棲息密度が薄い。( ꈨຶ ˙̫̮ ꈨຶ )バカ野郎めが…。

ギザギザにササクレ立った心を抱えて、早めに離脱した。午前0時までに家の最寄りの駅まで帰らないと、青春18切符の期限が切れるのだ。
とにかく又しても負けた。しかも、未だに何の手掛かりも無いに等しい状態だ。光明が何処にも見えない。

 
写真を撮っていないので日付はハッキリしないが、実をいうと、8月12日〜17日の間にも武田尾に行ってる筈だ。北側の武田尾駅方面からトンネルを抜けて樹液採集に行った記憶が強く残っているからだ。
何故に強く脳髄に刻まれているのかと云うと、メッチャクチャ怖かったからだ。ダムの時よか遥かに恐怖はデカかった。
渓谷の南側からのアプローチはトンネル内に入らずともポイントに行けるが、北側からだとポイントに行くのにトンネルを少なくとも2つは通り抜けねばならないからだ。
トンネルといえば、心霊スポットの王道だ。ゼッテー、ヤバいのがいらっしゃるに決まっているのだ。そんな所に一人で行くなんて自殺行為だ。

 

 
昼間だって充分怖い。懐中電灯が無いと歩けないのだ。
なのに、そこを夜に通るだなんて、正気の沙汰ではない。想像しただけでも、髪の毛が立つほどに恐ろしい。
それでも意を決して行ったのは、ナマリ嬢にどうしても会いたい、手籠めにしたいと云う強い欲望の為せる業だった。いつだって恋愛は、人をどこまでも愚かにさせる。

トンネルを通った時の記憶は朧(おぼろ)だ。メモリーはフリーズされ、脳内の永久凍土に奥深く埋められているのだろう。だから、その時の事はあまり思い出せない。でも時々、今でもトンネル内の冷んやりとした空気や暗闇を切り取る懐中電灯の長い光線、背中の毛が総毛立つよな感覚がフラッシュバックする事がある。人はね、恐怖の記憶を無意識に消すように出来てるのだ。でないと、生きていけないからね。

トンネルを幾つか抜け、雑木林に入った。
6月に別なカトカラを探しに来た折りに、樹液の出ている木を何本か見つけておいたのである。もしかして糖蜜トラップは効かないのかもしれないと考え始めていて、ならば樹液だったらどうだと思ったのだ。自然のモノゆえ、少なくとも糖蜜よりかは採れる可能性は高いだろう。
汝、空想の翼で駆け、現実の山野にゆかん。採れないのなら、想像力を働かせて策を練り、一つ一つ実行に移してゆくしかないのだ。

ここまで来ると、川の音も聞こえない。
辺りは森厳としている。
トンネルに比べれば怖くはないが、それでも懐中電灯を消すと暗黒世界だ。やっぱり怖い。鳥の声にギクリとする。怪鳥ギラータかもしれん…(・o・;)
心頭滅却。ナマリの事だけを考えよう。それが恐怖に打ち勝つ最適にして最良の方法だ。

程なくして、
来たっ❗❗と思った。

大きさ的に小さいからナマリだろ❗❓
慎重に距離を詰める。ここで会ったが百年目、何があっても我が手中に収めてやるっ(ノ`Д´)ノ❗

しかし近づくと、上翅にはナマリキシタバ特有の、あの稲妻が走ったような黄色い線が無い。
(-_-;)誰だ、テメェ❓

一拍おいて漸く気づく。
なあ〜んだ、アミメキシタバだわさ。やはり、この渓谷にもアミメちゃんは居たんだね。
にしても、(´ε` )ガッカリだよ。恥ずかしいまでの糠喜びっぷりだった。スゲー損した気分だ。

1時間ほど居たが飛んで来ず、焦れてポイントを移動する事にした。壁にイブキシモツケが沢山生えている場所がある事を思い出したのだ。記憶が一部寸断しているが、多分もう1つトンネルを抜けて其処へ行った筈だ。

だが、糖蜜トラップは又しても殆んど機能せず、クソ蛾がパラパラと散発で飛んで来ただけだった。オマケに雨までポツポツ降り出してきた。泣きっ面に蜂とは、正にこの通りだ。
それで思い出したよ。その小雨の中、壁の上の方を小さめのカトカラが飛んでた。網は全然届かない高さだ。多分、アレこそがナマリだったのではないかと思う。忘れていたところをみると、自分に都合の悪い記憶だから壁に塗り込めていたのだろう。
それにしても、何で糖蜜トラップは無視なのだ❓何ゆえに誘引されないのだ❓もしかしてワシの糖蜜が無能のクズ糖蜜なのか❓いやいや、そんな筈はない。同じレシピで今まで大きな成果を上げてきたのだ。
そういや、蛾界の若手のホープである天才マオちゃんも「ナマリのポイントで何度も糖蜜やってますが、来た試しがありませんね。」と言ってたなあ…。

結局、ソヤツも何処かへ消えた。
深窓の令嬢は未(いま)だに、その姿さえまともに現してはくれないのだ。謎めいた存在のままだ。

どうあれ、又しても惨敗決定である。
終電に間に合うように撤退した。勿論、またメチャンコ怖いトンネルを通ってである。記憶にあるのは、まだ彼女に会えてさえいないのに、こんなとこで魑魅魍魎どもに襲われて死んだとしたら、泣くに泣けないと思った事だけだ。記憶はあまり無いのにも拘わらず、二度とアソコには行きたくないと思ってるところをみると、相当怖かったに違いあるまい。

結局、2019年は屈辱の4連敗で終わった。
2018年の戦績も加えれば、何と6連敗だ。蝶での連敗記録の最大数はキリシマシジミの5連敗だから、最早それをも越えている。まさかである。しかも姿さえまともに見てないんである。「まあまあ天才」の自信、完全に瓦解である。
蛾なんぞと、完全にナメ切っていたが、たぶんチョウよかガを採る方が遥かに難しいと痛感させられたよ。
蛾は夜間採集が主だから、蝶みたく飛んでるのを見つけて採るとゆうワケにはゆかぬのだ。基本的に灯火採集か樹液&糖蜜採集しか採る方法はない。オマケに蝶と比べて情報量が極めて少ない。文献の数は遥かに少なく、マニアの数も少ないから情報も入ってこないのだ。

 
2020年は、余程5月に幼虫採集に行ってやろうかと思った。連敗に次ぐ連敗で、採れる気が全くしない。心は半分以上、折れていたのである。
しかし、グッと踏み堪えた。最後の最後まで闘う矜持を失うワケにはいかない。背水の陣。今年がダメならば、来年は潔く諦めて幼虫採りでも何でもしてやるよ、バーロー。

 
2020年 7月16日

2020年、最初のナマリチャレンジである。
気合が入ってる分、例年よりも始動は早い。

去年は糖蜜には全く反応が無かったので、この為に遂にライトトラップを購入した。
といっても、水銀灯や発電機、安定器がセットとなった大掛かりなものではなく、簡易の何ちゃってライトトラップである。

 

 
高出力UV LEDライトで、めちゃんこシンブル。でもってメチャメチャ軽い。たったの130gしかないのだ。
モバイルバッテリーは200gだから、全部で驚愕の330gしかない。

 

 
とはいえ、上のバッテリーは495gある。途中でライトが消えたら泣くに泣けないので、大容量のモノに変えてもらったのだ。それでも合計は625gである。車で行けないような山奥でも楽勝で持ち運べるのだ。
尚、このバッテリーだと12時間点けっぱなしでも容量が半分以上も残っている。ゆえに一晩だけなら、もっと低い容量のバッテリーでも充分もつだろう。

既にテストで何度か試している。勿論、威力は水銀灯に比ぶべきもないが、それなりに虫は集まって来る。目安としては40Wのブラックライト蛍光灯と同程度の誘引力があるらしい。

 

 
仕様は小太郎くんに貰った三脚に本体をビニールテープで貼っつけ、下に白布を敷いただけである。

 

 
この時点までの実績は、カトカラだとウスイロキシタバとフシキキシタバ、コガタキシタバ、キシタバが寄ってきた(註4)。

布を下に引くだけでは止まる面積が少ないし、見逃しそうなので新たに蚊帳も購入した。
本来ならば、白布をパイプか何かで作った枠組にスクリーン状に張らなければならないのだが、一々セットするのは面倒臭いし、布は重たいので薄手の蚊帳にしたのである。
ホームセンターで展示品だった二千円いくらかのものが、交渉したら消費税込みで千円くらいになった。こうゆう時は生粋の大阪人で良かったなと思う。

組み立ては超簡単だし、とにかく軽い。しかし、折り畳んでもデカいので、車が無ければ邪魔なサイズではある。日帰り採集くらいなら荷物も少ないから電車でも運べるが、荷物の多い長期の採集だと厳しいかもしんない。

そして、昆虫同好会で借りてきた同じ会社で作ってる超高出力のUV LEDライトも持参した。

 

 
コチラは600gと重いが(バッテリーは650g)、それでも1キロちょっと。ザックに入れて持っていける重量だ。
誘引力の目安としては、水銀灯200〜300Wの効果があるそうだ。但し、光はそれなりに強いが、点灯時間が1時間半と短いので、ナマリが飛んで来るという午前0時前後に投入する予定である。
現時点で、出来うる限りの事はやりきった。
今日こそ、今まで溜まり溜まった憤怒のマグマを💥爆発させてやるぜ。

場所は三度目の正直の道場である。
何故に此処を選んだのかと云うと、見通しのいい拓けた場所があって、その先の川向うには如何にもナマリが居そうな崖が有るからだった。だが、心配なのは少し距離がある事だ。崖まで50mはあるだろう。けど、周りが真っ暗なんだから誘引されると踏んだ。長時間点灯してりゃあ、そのうち飛んで来んだろう。
(´ω`)ハハハハ、長時間って書いたのは朝まで灯火採集をやるつもりの覚悟だからだ。そう、言ったように背水の陣なのである。もしこれでダメなら、もう自分で打てる手は無しである。

 

 
何だか美しい。「宇宙船地球号」と呟く。
どこが宇宙船地球号なのか自分でもよくワカンナイが、何となく口から言葉が漏れた。
因みに蚊帳の中の水色の丸いのが蚊帳のケースである。

宇宙船地球号の意外な程の美しさに暫しハシャいでいたが、点灯後すぐに死ぬほど羽蟻が飛んで来やがった。ガッデーム。正直、キモい。これも令嬢の嫌がらせかよと思ってしまう。
あとは何故かコガネムシが大量に飛んで来た。ウザいわ、ボケッ❗

一応、ダメ元で糖蜜も木に吹き付けておく。
これでナマリがライトにではなく、糖蜜に寄ってきたとしたら、お笑い草だよな。ライトした意味ねぇーじゃんかあ(+_+)
けどこの際、採れりゃ何だっていい。

しかし待つも、糖蜜にもライトにも来やしない。
少しずつ追い詰められてゆく。

午前0時。
満を持して、デカい方のライトも点灯する。

 

 
今度こそ、頼んますと手を合わせる。もう採れるのなら、神頼みだって何だってしてやる所存だ。

そして、時々糖蜜トラップの様子も見に行く。

 

 
(☉。☉)ありゃま❗
アンタ、こんなとこにも居たのね。
相変わらず糖蜜トラップにはロクなもんが飛んで来なくて1頭もカトカラは寄って来なかったが、ナゼかレアなカバブキシタバが採れてしまった。まさか、こんなとこにも居るとは思いも寄らなかったよ。カバブは局所的分布で珍しいと言われてるけど、探せば案外どこにでもいるのかもしれん。食樹のカマツカは、さして珍しい木ではないからさ。但し、何処でも個体数は少ないのかもしれないけどね。

(-_-;)……。
でも、お嬢は姿をチラリとも見せない。
心が、どんどんドス黒く染まってゆく。正直、泣きそうだ。

午前2時過ぎ。
業を煮やして場所を変える事にした。
そこなら崖の真ん前だ。イブキシモツケも結構生えてた筈だ。

 

 
去年、謎のカトカラが飛んでいた場所のすぐ近くだ。

 

 
午前3時。
見たことがあるまあまあカッコイイ蛾が大量に飛んで来た。
初めて京都で見た時も午前0時を過ぎてから現れたので、活動時刻が遅い蛾なのかもしれない。

 

(2018.7月 京都市)

 
たぶん、ツマキシャチホコって名前じゃなかったかな?
でも、オマエらなんかどうでもいい。採る気さえ起こらない。
活性が入り、他の蛾も飛んで来て期待値が上がるも、チャンチャン。結局また、お嬢に袖にされた。
白み始めた道を引きずるような足取りで駅まで歩いた。
コロンビーナ(columbina)は、何処にいるのだ❓
思わず、ボロっと口ずさむ。

🎵ビーナ、ビーナス
🎵何処にいるのか ビーナ〜
🎵誰か ビーナを知ら〜な〜いかあ〜❓(註5)

 
2020年 7月18日

明後日にも出動した。

 
再びの宇宙船地球号である。
やるっきゃない。もうヤケクソを超えた意地である。

今度は武田尾渓谷の南側にやって来た。
前回の反省から、もっと棲息地に近そうな場所を選んだのだ。道場は崖まで50mくらいあったが、ここなら20mくらいだろう。もし居れば、必ずや飛んで来る筈だ。いや、最も居る可能性の高い環境なのだ、居ない筈はなかろう。

どうせダメだとは思うが、一応周囲に糖蜜トラップも撒く。
こんだけ効果がないと、もはや期待なんか全然しない。全然してないと言ったけど、心の底の底ではどっかで期待してるんだけどね。奇跡を信じなきゃ、救われないもんね。
でも考えてみりゃ、ここでは1頭たりともカトカラはトラップに寄って来てない。何処でも必ず現れるタダのキシタバさえも見てないのだ。

午後9時半だった。

ビクッΣ(・ω・;|||❗

何か気配のようなものがしたので、振り向く。
見ると、トンネルの奥で灯りが揺れ動いている。
一瞬、🔥鬼火かと思った。だとしたら、お終いだ。
皆さん、ありがとうございました。そしてサヨウナラと心の中で呟く。
けど、ここで死ぬワケにはいかぬ。まだナマリ嬢を落としていないのだ。よし、もしも化け物なら、(-_-メ)ブッ殺してやる。網の柄を強く握り締める。これでタコ殴りして、マシンガンキックを喰らわしてやろうぞ。この溜まりに溜まった鬱憤を暗い怒りに転化してくれるわ( `Д´)ノ❗

よく見ると、灯りは1つではなく、2つだった。もしかして巨大な顔だけの👹鬼だったりして…。水木しげる先生の描いた妖怪に、そんな奴いなかったっけ❓

近づいて来る灯りが、やがてトンネルを出た。
どう考えても懐中電灯だ。とゆう事は、人だ。人間の形の影も見える。ホッとする。
しかし、こんな時間に、こんな場所に人❓
もしかしたら、殺人鬼兄弟が逃亡しているのやもしれん😱
再び全身の筋肉が緊張する。

どんどん近づいて来る。
あと15mってところだ。

こんばんわ〜。

気がついたら、朗らかな声で言っていた。
咄嗟に、殺人鬼ならば懐柔しようと思ったのである。殺されたくないという一心が、いい奴だと思われようとしているのである。だから明るい朗らかな声を掛けたのだ。上手くいけば、殺人鬼に見逃してもらえるかもしれない。
それに考えてみれば、アッチだって怖いかもしれないのだ。たとえ殺人鬼でも闇に浮かぶ宇宙船地球号の傍らに立つ男だなんて、どう見ても怪しい。怪訝に思って然りだろう。だから、それを解消するためにコッチから早めに声を掛けたのだった。一応、網の柄は逆さまに持っていて、いつでもブッた斬る姿勢は崩してなかったけどもね。

直ぐにアチラからも「こんばんわ〜。」と云う挨拶が返ってきた。
良かったあ〜。殺人鬼ではなさそうだ。
見ると、男性の若者二人組だった。

暫く立ち話をする。
聞くと、二人は廃線マニアらしい。鉄ちゃんには、そうゆうジャンルもあるらしい。こんなとこで蛾を探してる自分だって人の事は言えた義理じゃないけど、世の中には変わった人もいるんだね。それにしても。なして夜なの❓
尋ねると、たまたま夜になっただけらしい。なあ〜んだ、廃線マニアで、心霊マニアなのかと思ってたよ。

二人が去ると、再び辺りに静寂が訪れた。
いや、脳が消去していたが、川の流れる音は聞こえている。寧ろ、かえって音は強くなったような気がする。

時々、ライトの角度を変えるも効果なし。
何も起こらなかった。強いて言えば、カブトムシが飛んで来た事くらいか…。

虚しく、夜が明けた。

 

 
目の前は如何にもナマリが居そうな環境なのに、何で飛んでけぇへんの〜(ToT)❓
ホントに此処に居るのかよ❓絶滅したんじゃないのか❓
もう、そう思わずにはやってらんない。

 
2020年 7月19日

翌日と云うか、その日の昼過ぎに小太郎くんから電話があった。プーさんと一緒に灯火採集するけど、来ます?というお誘いだった。小太郎くんは、今年になって遂に水銀灯のライトトラップセットを買ったのである。

場所は能勢方面である。小太郎くんが、ここにはユキヤナギではなくてイブキシモツケ食いのホシミスジがいるからナマリもいる筈だと言い出したのだ。
本音では、そんなとこおるワケあるかーいと思ってたし、今朝の今日だから正直なところ行くのは億劫だった。昨日の惨敗で身も心も疲れきっていたのだ。
でも、その誘いに乗ることにした。ナゼかと云うと、すっごくセコい理由からである。もし行かなくて、本当に採れでもしたらメチャメチャ口惜しいからだ。我ながら、心が狭い。

夕方、川西能勢口でピックアップしてもらい、ポイントへと移動する。

確かにイブキシモツケはあった。しかし、数は少ない。
それに、あまり環境は良さそうには思えない。

日没と共に点灯。

 
やはり水銀灯は光量が強い。
ワシの何ちゃってLEDとは雲泥の差がある。やっぱ、コレくらい光が強くないとダメなのかなあ…。

前から存在が気になっていたムラサキシャチホコを初めて見た。小太郎くんが見つけてくれたのだ。彼には、前から会ってみたいとは言ってたからね。

 

 
こんなの、どう見ても丸まった枯葉にしか見えん。
自然の造形物の妙に、ただただ驚愕する。
別角度から見れば、そうでもないんだけどもね。

 

 
まるで「ダダ」とかオカッパの宇宙人の顔みたいだ。
コレも擬態❓(笑)

 

 
でも、よくよく考えてみれば、コレって昨日もいたよなあ…。
まさかムラサキシャチホコだとは思いもよらなかったので、無視した。頭の中はナマリキシタバで一杯だったのである。他の蛾は全て眼中になかったのだ。

勝手に「白い鷹グリフィス(註6)」と呼んでいるヒトツメオオシロヒメシャクもやって来た。

 

 
結局、カトカラの飛来はナマリどころか、宇宙船地球号に止まったコシロシタバ2頭のみだった。
やっぱりね。こんなとこ居ねえよ。

 
【コシロシタバ ♀】

(2020.7月 奈良市)

 
プーさんが欲しそうにしてたので、どうぞとお譲りする。
ワシを、蝶屋じゃなくて「蛾屋」だと散々に揶揄してきたプーさんだったが、今年からカトカラも集め始めているのである。面倒くさい人だ。

んな事は、どうだっていい。
これで9連敗。状況は、もう泥沼だ。しかも底なし沼である。弱小阪神タイガースかよ(´ε` )
ライト・トラップにも寄って来ないとなれぱ、どうすればいいのだ❓八方塞がりじゃないか…。

プーさんを神戸まで送り、小太郎くんと大阪に戻って来たのは明け方近くだった。夜遊びしまくってた頃だって朝帰りの2連チャンなんて記憶にない。(ㆁωㆁ)何やってんだ、俺…。
菫色の空を茫然と仰いで、深い深い溜息をつく。
もう一生、お嬢には会えないんじゃないかと思った。

                         つづく
 
 
ーお詫びー
小太郎くんの言として五平餅は元々は三河地方発祥のもので、長野県のパクリだと書いたが、小太郎くんから次のような指摘があった。
「あ、五平餅を愛知発祥だと言ったことはありません。飯田からの流れで地元の三河でもよく売られてるだけですよ。
名古屋名物は他のパクリが多いとは言ったけど。」

睡魔で、話がゴチャゴチャにミックスされてしまったようだ。
長野県の皆様、並びに飯田市の皆様、悪口雑言を撒き散らして、どうもすいませんでした。
よく調べずに書いて、ごめんなさいm(_ )m
あと、小太郎くんもm( _)mごめんなさいでしたー。

 
追伸
タイトルの『汝、空想の翼で駆け、現実の山野にゆかん』は推理小説の大家、松本清張の言葉をパクったものである。
数十年前に清張から石見銀山の若者に贈られた色紙に書かれた言葉で、そこに「汝、」を付け足しただけだ。
NHKのBSで清張と鉄道をモチーフにした番組の再放送をやっていて、そこに出てきた。タイトルを付けあぐねていたので、それに飛びついたってワケ。
少々、仰々しいタイトルだが、ナマリへの想いとチャレンジし続けなくては果実は得れないと云うことを表現したかったから、まっいっかとなったのさ。
或いは、『何処にいるのか、コロンビーナ』とでもした方が良かったのかもしれない。邪魔くさいから変えないけど。

 
(註1)『兵庫県カトカラ図鑑』
URLは、www.konchunkan.net.pdf
兵庫県昆虫同好会誌「きべりはむし(39(2)」に、2017年に掲載されたもので、兵庫県のカトカラについて書かれた決定版とも言える内容である。
著者は、阪上洸多・徳平拓朗・松尾隆人各氏の連名になっている。
兵庫県内のカトカラについて精査されており、記録地も書かれてあって、各カトカラに何処へ行けば会えるのかも分かるようになっている。
昨今はネット上では過剰なまでに産地が隠されているから、初心者の身としては誠に助かりもうした。
正直、幾らキレイな写真を御満悦にネットで載せようとも、そんなの記録には残らないからオナニーと同じなんじゃないかと思う。勿論ネットで公開すれば、あっという間に情報が広がり、トラブルの原因にもなることは理解できる。虫屋はモラルに欠ける人間が多いからね。
かといって、蛾なんて人気種のカトカラでさえも記録が少ないのだ。あらゆる面で、記録は後世に残していかなくてはいけないのは当たり前の話で、コレについては異論はなかろう。
記録を積極的に残せて、産地を荒れなくするような何か良い解決法は無いものかね❓そう、いつも思うのだが、妙案は未だ浮かばない。

『兵庫県カトカラ図鑑』の話に戻ろう。
前半はカトカラの概要と、その採集法が書いてあり、カトカラの入門編としての役割も果たしている。次にメインである各種の解説があり、最後には新たに兵庫県で発見される可能性のあるカトカラ(ケンモンキシタバ・ミヤマキシタバ)にまで言及されている。お世辞抜きにバイブルにも成りうる優れたものだと思う。特に近畿地方の人には拝読必須の文献だ。

 
(註2)身も心もボロボロだった
この辺の事については拙ブログに『薄紅色の天女』『白馬わちゃわちゃ狂騒曲』『突っ伏しDiary』と題して書いた。
一応言っとくと、それぞれベニシタバ、アズミキシタバ、ミヤマキシタバの回です。

 
(註3)以前、カシワマイマイには一杯喰わされたしね
これについては、拙ブログに『人間ができてない』と題して書いた。誠にもって大人気(おとなげ)ないと云う話。

 
(註4)何ちゃってライトトラップの実績
9月に試した時はシロシタバ、ゴマシオキシタバ、エゾシロシタバが飛来した。ムラサキシタバも近くまでは飛んで来た。
このライトトラップは、おそらく尾根や山頂などの拓けた場所ではなく、森の中や林縁で効果を発揮するのではないかと思われる。遠くに居る者を引き寄せるというのではなく、近くに居る者を引き寄せると云う考え方をした方がいいかもしれない。

因みに値段は、バッテリー込みで3万円だが、五十嵐さんから聞きまたしと言えば安くしてくれるかもよ。

一応、連絡先を載せておきます。

 

 
(註5)誰か、ビーナを知ら〜な〜いかあ〜
「上海リル」の替え歌です。ビーナとは学名「columbina」の、その場で思いついた略称。ビーナスは勿論あのヴィーナス、美神の事である。ナマリキシタバの美しさと掛けたのだ。
何でこんな世代でもない古い歌を知ってるのかは、自分でもワカンナイ。

 
(註6)「白い鷹」グリフィス
三浦建太郎の漫画『ベルセルク』の重要な登場人物。
戦場で恐れられる傭兵団「鷹の団」の団長。白銀の長い髪をなびかせる中性的な美貌の騎士で、鷹の頭を象った兜と白を基調とした出で立ちから「白い鷹」と云う異名がある。

 

(出典『moemee.jp』)

 
また平民出身でありながらも本物の貴族よりも貴公子然としており、民衆にも人気がある(だったと思う)。
だが、「自分の国を持つ」という夢を果たす為であれば、冷徹なことも平然とやってのける。
書き忘れたが、勿論のこと剣の腕前は超一流である。

 

2020’カトカラ3年生 其の壱

 

    vol.24 アズミキシタバ

   『白馬わちゃわちゃ狂騒曲』

 
 2019年 8月2日

一瞬、自分が何処にいるのか分からなくなる。
ひと呼吸あって、黄緑色のテントの天井に焦点が合う。寝起きの澱んだ脳ミソが、それでようやく自分の置かれている状況を認識した。そうだ、長い長い電車移動の果てに、この湖までやって来たんだったわさ。
マホロバキシタバ(註1)の分布調査が一段落したので信州遠征に出たのだ。また過酷な虫捕り旅が始まったってワケだ。
目的は会ったことのないカトカラ(シタバガ属)たちを採るためである。マホロバという国内新種を見つけたのにも拘らず、カトカラの採集を始めてまだ2年目のペーペー、採ったことのないカトカラがまだまだある。新種を見つけておいて、他のカトカラはあまり採った事が無いというのではカッコがつかない。だから10月の発表までに少しでも採集種類数を増やしておこうと思ったのだ。この時点では、マホロバを含めた全32種のうちの20種しか採れておらず、あと12種類も残っていたのである。

テントから出て歯を磨きに行くと、湖が見えた。

 

 
昨日は日没間近に着いたから気づかなかったけど、こんなにも碧くて綺麗な湖だったんだね。
同時に昨日の苦い記憶が甦ってくる。湖の周辺でミヤマキシタバ(註2)を狙うも擦(かす)りもせずの惨敗だったのだ。
こんだけロケーションが良いのなら、もう1日いてもいいかなと思った。昼間はじっくりミヤマの食樹であるハンノキを探しながら湖畔を散歩するのも悪かない。
しかし、昨日の貧果から多くは望めないと考え直した。もう1回アレを繰り返したら、ハラワタが煮えくり返ってホントに奴らに危害を加えかねない。
ちなみに奴らとは↙コイツの事である。

 
(フクラスズメ Arcte coerula)

(出典『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)

 
コヤツ、カトカラじゃないし、デブだし、醜くてマジキモい。
それに一瞬だけ佳蛾ムラサキシタバ(註3)に見えて、あらぬ期待を持ってしまうから💢イラッとくる。

 
(ムラサキシタバ Catocala fraxini ♂)

(2019.9月 長野県松本市)

 
オマケに普通種のクセして妙に敏感で、こっちはさらさら採る気もないのに大袈裟に逃げてゆくのも腹立たしい。何だかそれがバカにされてるようで(-_-メ)超絶ムカッとくるのだ。なので標本は一つもない。なので岸田先生の図鑑の画像をお借りしたのである。

とにかく、此処で目的のミヤマが採れる気がまるでしない。そうゆう時は自分の勘に素直に従うべきだ。今までだってそうだし、これからだってきっとそうだ。己の勘を信じよう。湖を後にして、白馬村へと向かう。

 

 
又してもキャンプ場なのさ。ボンビー旅行なのもあるが、宿に泊まれば自由が効かない。何てったって蛾採りは夜がメインなのだ。しかも深夜に及ぶことが多い。宿泊してると、おいそれと夜に出歩くワケにはいかぬのだ。要らぬ心配や迷惑をかけたくない。

取り敢えず、ここを拠点にして各所を回るつもりだ。
狙いはアズミキシタバ、ノコメキシタバ、ハイモンキシタバ、ヒメシロシタバ、ヨシノキシタバである。こんだけ居りゃあ、どれか1つくらいは採れんだろ。

温泉入ってテント張ったら、もう夕方になった。
蜩(ひぐらし)の悲しげな声が辺りに侘しく響く。その何とも言えない余韻のある声を聞いていると、何だかこっちまで物悲しくなってくる。夏もいつかは終わるのだと気づかされてしまうからだ。でも、そんな夏の夕暮れこそが夏そのものでもある。この気持ち、何となくノスタルジックで嫌いじゃない。

岩に腰掛けて、ぼおーっと蜩たちの合唱を聞いていたら、サカハチチョウがやって来た。

 

 

夕暮れが訪れるまでの暫しの時間、戯れる。
こちらにフレンドリーで穏やかな心さえあれば、案外逃げないものだ。慣れれば手乗り蝶も意外と簡単。心頭を滅却して無私になれない人はダメだけど。
たぶん20分以上は遊んでたんじゃないかな。お陰さんで心が癒やされたよ。ありがとね、サカハっちゃん。

この地での最初のターゲットは、アズミキシタバだ。
近くの崖にいると聞いている。だが、ぼんやりとした不安が心の隅に蹲(うずくま)っている。

 

 
何となく見覚えのある場所だと思ったら、西尾規孝さんの名著『日本のCatocala(註4)』に載っていた場所と同じだ。しかし様相は随分と変わっている。

 

(出典『日本のCatocala』からトリミング。)

 
たぶん2000年代前半以前に撮られた写真だろう。今と比べて広範囲に岩が露出しており、アズミの食樹であるイワシモツケには適した環境だ。しかし現在は周囲からミズナラなどの木が侵入してきていて、どう見ても環境は悪化している。とゆうことは確実にアズミの数は減っているという事だ。それに此処は標高が低いから発生期のピークは過ぎているものと思われる。果たして採れるんかね❓

とはいえ、悪い事ばかりじゃない。
崖の近くにはアズミが吸蜜に訪れるというヒヨドリバナとリョウブの花があった。

 
(ヒヨドリバナ)

 
(リョウブ)

 
樹液にはあまり来ないとも聞いていたから、これならたとえトラップがダメでも何とかなる可能性はある。実力はさしてないけど、引きだけは強いと言われるワタクシだ。何とかなるっしょ。

夕焼けにバイバイしてから崖下に行き、木に霧吹きで糖蜜を吹き付けてゆく。
アズミキシタバが糖蜜トラップで採れたという話は聞いた事がないが、カバフキシタバ(註5)だってタコ採りの我がスペシャルレシピだ。寄って来るじゃろう。ワシがアズミも糖蜜で採れるという事を証明してやろうではないか。ψ(`∇´)ψケケケケケ…。

幸先良く、直ぐにベニシタバ(註6)がやって来た。
٩(๑´3`๑)۶ほら、見さらせじゃ。

 

 
昨日も採れたけど、嬉しい。元来ベニシタバは💖好きだもんね。それに発生初期であろうこの時期のベニシタバは格別に美しいのだ。

しかし、さあこれからというと段になって、⚡ガラガラピッシャーン❗本気の雷雨がやって来て、チャンチャンで惨敗に終わる。
🎵ズタズタボロボロ、🎵ズタボロロ~。
そして、その後も此の地でことごとく敗退。新しきカトカラは何一つ採れず、泥沼無間地獄の3連敗となる。でもって、秋田さんや岸田先生に「マホロバの発見で、今年の運を全部使い果たしたんじゃないのー。」と揶揄される始末。

 
2020年には、前から買う買うと言っていた小太郎くんが遂にライトトラップのセットを購入した。
なので即座に尻尾を振りまくり、アズミ遠征の約束を取り付けた。去年の惨敗と、その後の調べでアズミはライトトラップ無しでは採るのが難しいと痛感したのだ。この際、形(なり)振りなんか構ってらんない。でも以後、小太郎くんには事あるごとに「アズミ、行くの止めよっかなあー。」などとイジメられ続けたよ。世の中、持つ者と持たざる者とでは、常に持たざる者は虐げられる運命なのだ(笑)。

問題は、お天気である。もし晴れならば、新月でもなければ効果はあまり期待できない。灯火採集に月夜はヨロシクないんである。夜間に活動する昆虫は月の光を頼りに行動していると言われている。だから曇っている方が条件的には良い。月の光に影響されないからだ。詳しい説明は長くなるので割愛するが、とにかく虫たちは月の光と間違えて人工光に吸い寄せられる。
かといって同じく月が隠れる雨もヨロシクない。雨でも蛾は平気で飛んで来るらしいのだが、雨で羽が濡れてボロ化しやすいからマズイんである。それに小太郎くん曰く、雨はライトトラップセットの故障の原因にもなりやすいそうだ。
あとは風が強くてもダメだし、気温が低過ぎるのもヨロシクないと言われている。灯火採集は案外と条件がシビアなのだ。その点、糖蜜採集は楽だ。強い雨や気温が低い以外は、あまり天候に影響されない。自分的には糖蜜トラップの方が性格的には合ってる。ライトトラップは荷物の量が多いし、用意と後片付けとか面倒くさいのだ。あとは待つのが大嫌いな性格とゆうのもある。糖蜜トラップも一見待ちの採集だが、ポイントを巡回するのでアクティブなのだ。網を使う機会も多いしね。動的な採集の方が自分には合ってる。だからライトトラップの時は、今一つ気合が入らない。とはいえ、今度ばかりは気合が入っている。アズミには、そこそこ憧れてるし、絶不調続きで今年はまだ未採集のカトカラを一つも採れてないんである。

 
 2020年 7月26日

天気予報は雨模様で微妙だったが、イチかバチかでGOする事に決定した。この機会を逃すと、時期的に鮮度が良いものは望めないからだ。いくら沢山飛んで来ても、ボロばっかじゃ意味ないのだ。
博奕を打てない奴に良い虫は採れない。でも、どちらかというと予報は悪い方に傾いている。強い雨ならば、ライトトラップは中止にせざるおえない。とはいえ、小雨程度ならガスが掛かり、むしろ絶好のコンディションになるかもしれない。謂わば、我々はゼロ百の状況下にあるのだ。
雨予報でも晴れさせてしまうスーパー晴れ男のワシの力をもってすれば大雨は有り得んとは思うが、最近は何をやっても上手い事いかんしなあ…。こんなとこまで来てダメだったら泣くに泣けんよ。いや、( ;∀;)ダダ泣きさ。どうにかなることを心から祈るよ。

白馬村に入る頃には完全に日が暮れて、夜の帳がおりた。
場所の選定は山の中腹と高地の2箇所で、まだどちらにするか決めかねている。鮮度を考えれば高標高のポイントだが、細かいポイントは知らない。一方、中腹は小太郎くんが場所を詳しく聞いているから確実性は高い。だが、鮮度は落ちている可能性が大だ。ここが運命の分かれ目、思案のしどころである。

相談の結果、高標高のポイントを目指すことにした。もしポイントが見つからなければ、中腹ポイントに変更すればいいと判断したのである。アズミのライトへの飛来は夜半過ぎだと言われている。だから時間的にそれでも何とかなると踏んだ。夜遅くに飛んで来る蛾は待つのがウザいのだが、こうゆう場合は寧ろ助かる。周囲の環境や天候等々、様子によっては、そのポイントを捨てて移動することだって可能なのである。

小雨降る中、車は山へ向かう道へと入ってゆく。
すると、ガスり始めてヘッドライトの前を蛾がワンサカ飛びだした。完全に活性が入ってるって感じで、絶好のコンディションだ。このまま天気がもてば、何とかなる。どころか大爆発だって有り得る。心が期待でグンと膨れ上がる。

しかし着いた場所は真っ暗けで、周囲の環境が全然ワカラン。どこにライトを設置すれば良いのか、さっぱりワカランぞなもし。それでもこの状況ならば、たとえポイントを少々ハズしていたとしても1つや2つは飛んで来るだろう。
けど、嫌な予感がしないでもない。今シーズンのワシはマホロバもカバフもあんまり採れてなくて、絶不調がバリ続いているのだ。何が起こるかワカランのだ。慎重に状況を把握してから決断すべきだ。
考えてみれば、標高が高ければ高いほど雨になりやすい。高い分だけ気温が低いのも気にかかる。気温が低いと虫の活動は鈍くなるのだ。ゆえに確実に採れる場所である中腹を選択すべきではないかと思った。
小太郎くんは此処でやる事を望んでそうな素振りだったけど、ここは譲ってはならぬと感じた。なので、半ば強引に中腹でやることを主張した。小太郎くん、ゴメンね。&譲ってくれてアリガトね。

一旦、山を降り、別なルートを登り返して中腹ポイントを目指す。さあ、気持ちをリセットしてアズミをテゴメにしてやろうじゃないか。

ポイントは人に詳しく聞いていなければ、夜だと絶対に辿り着けないような場所だった。マジ真っ暗けだ。さっきの比じゃない漆黒の闇だ。

幸い雨は止んでいる。
けど寒い。途中で上着を忘れたのに早めに気づき、「GU」で買っといて大正解だったよ。良い兆候だと考えよっと。今日はツイてるから大丈夫だと自分に言い聞かせる。何につけ、ちょっとした事でもメンタルを強化しとくのは大切なのだ。

時計を見ると、早くも午後8時半近くになっていた。
ソッコーで今夜の屋台を組む。

 

 
何だかんだで結局ライトが点灯したのは、たぶん9時になる10分前くらいだった。

 

 
ほぼ雨は止んでいたが、傘つきの雨仕様になっておる。
とはいえ、活躍はあまりしてくれない事を祈ろう。どうか大雨にだけはなりませぬように👏

午後10時。
小太郎くんが突然椅子から立ち上がり、小走りに駆け出した。

えっ❗❓、えっ❗❓、えっ❗❓、もう飛んできたの❓

慌てて、自分も後を追っかける。

小太郎くんがライトトラップの裏へと回った。ねっ、ねっ、アズミなのー❓何か言ってくれよー。

コレ、密かに狙ってたんすよー❗

見ると、手にケバいくらいの派手派手な蛾を持っている。しかも、デカい。
(⑉⊙ȏ⊙)見たことあるぞー、ソレ。

 

 
ジョウザンヒトリである。
ワシも会ってみたかった蛾の一つだ。思ってた以上にデカいんで驚いたよ。それに想像していた以上に美しい。百聞は一見に如かずだね。何だって実物が一番美しくて、生きているオーラがある。

午後10時20分くらいだったと思う。
再び小太郎が慌てて走り出した。

いたっ❗いました❗たぶんアズミに間違いないです❗

しかし、飛んで逃げて忽然と姿を消した。(ㆁωㆁ)マジかよ❓
絶対に、まだ近くにいる筈だ。二人で辺りを探し回る。
思った通りだった。しかし何度か地面にいるのを見つけるのだが、クソ忌々しい事に直ぐに飛んで逃げよる。それを数度繰り返す。何でライトの近くまで寄ってこんの❓

暫くして、ようやくブラックライトまで近寄ってきたのを小太郎くんが見つけた。
白布で行き止まりだから、もう袋のネズミだ。余程の事がない限りは採れるだろ。これで、やっとこさ間近でじっくりと眺められる。小太郎くん、ゲットよろしくー。

しかーし、(⑉⊙ȏ⊙)あちゃま❗、何とブラックライトの隙間に入っていきよるー❗

こりゃ、ボロ化必至だな。
肉を切らして、骨を断つ。それでも小太郎くんは意地で何とか無理矢理ゲットした。

で、見せて貰ったけど、あちゃーの背中ズル剥けになってた。
小太郎くん、御愁傷様(´ε` )
それにしても、思ってた以上に小さい。マメキシタバ(註7)よか小さい。ここまでくると、もう小人ちゃんレベルだな。
とはいえ、実物を見て俄然やる気が出る。

けれど後が続かない。表情には出さないようにしてはいたが、心の中は相当波立っていた。このまま二度と飛んで来ないのではと考えると、胸が締めつけられそうだった。やっぱ絶不調のスパイラルにハマったまんまなのか…。いい加減、勘弁してくれよ、ジーザス。

11時過ぎ。
ようやく自分にもチャンスが巡ってきた。
ふと何気に地面を見たら、ペタッと止まっていたのだ。けどコヤツも同じように敏感で直ぐに飛び立った。目を切らずに姿を追い掛け、止まった辺りに目を凝らす。どこよ、どこー❓地面と同化して、よくワカンナイ。焦燥感が心を撫でる。

(☆▽☆)いたっ❗

けど、必死で毒瓶を被せようとしたら、すんでのところで逃げやがった。クソッ(-_-;)、マジかよ。でも飛びそこねて、ひっくり返りよった。

ダメー❗(༎ຶ ෴ ༎ຶ)ボロになっちゃうー。

ヽ(`Д´#)ノえーい、もうどうなってもええわい。とにかく何でもいいから採らなきゃ来た意味がない。強引に毒瓶を被せた。

中を見ると、ちゃんと毒瓶に収まっている。
(´д`)フゥー、何とか採れたよ。
毒が回り、ほぼ動かなくなったところで、やや震える指先で手のひらに乗せる。

 

 
(・o・;)ちっちゃ❗
そして、暴れ倒したので、ワシのも背中がハゲちょろけて見事なまでの落ち武者化しとるー。(;´д`)トホホのホー。

 

 
ちっちゃいけど、後翅の黄色が鮮やかで綺麗だ。前翅も複雑な紋様でカッコイイ。

腹や羽の形からすると、♀かな❓
それに尻先に毛束があまり無いような気がするもんね。カトカラの♀は♂と比べて腹が短くて太く、尻先の毛の量が少ない傾向がある。また翅形は丸みを帯びることが多い。

確認のために裏返してみる。

 
(裏面)

 
 
裏面は、どって事ない。どう見ても美しいとは言えないやね。
それに随分と擦れてる。時期的にもう遅いのかな❓それとも暴れて擦れたせいなのかな❓判断に苦しむところだ。
あれっ❗❓、♀と思ったけど尻先に縦スリットが入ってないし、産卵管も見えない。って事は♂❓

午前0時前。
ようやくマシなのが採れた。

 

 
(・o・;)やっぱ、ちっちゃ〜。

 

 
これは腹が細く、尻先に毛束があるから♂だろう。
じゃあ、最初のはどっちだったのだ❓
まあいい。数を採ってりゃ、そのうち自ずと分かってくるだろう。

2頭目を三角紙に収めたところで、雨がパラパラと降りだした。
このまま小雨で踏み堪えることを祈ろうと思って歩き出したら、また地面に止まっているのがいた。今度は崖の縁だ。

『いたっ❗』
と言ったら、一拍おいて小太郎くんも
『こっちもいましたあー❗』
と声を上げる。そして次の瞬間には、
『あっ、アッチにもコッチにもいます❗』
と叫んだ。
目を戻すと、視界に何かが入った。
(⑉⊙ȏ⊙)わちゃっ❗❗
コッチも2つ3つ飛んどる❗

雨で活性が入ったのかもしれない。そこから先は、祭が始まった。次から次へと崖の下からアズミが湧くように這い昇って来た。
でも相変わらず白布には止まらず、落ち着きなく地這い飛びしとる。歩くと複数が地面から飛ぶし、もうワチャワチャだ。それを二人とも中腰で右往左往で追いかけ回しているから、滑稽きわまりない。もし第三者が見ていたとしたら、泥鰌掬いのおっさんショーに見えたかもしれない。そして、採っても採っても地面で暴れて次々とボロ化してゆくから、その泥鰌掬いの動きに拍車がかかる。早く採らないとボロボロになってしまうから必死なのだ。もうワシらまでワチャワチャの、わちゃわちゃダンスパーティーなのだ。

狂騒曲は午前1時過ぎまで続いた。
一段落し、何だかバカバカしくって二人して笑う。

気がつけば、いつのまにか雨は上がっていた。

                        おしまい

 
後日談を少し書く。
深夜2時くらいに撤収して山を降りたら、晴れてきて星まで出てくる始末。そして、昼間にコヒョウモンモドキの様子を見に乗鞍まで行った時にも晴れてきた。天気予報は完全に悪かったから、やはり我ながらスーパーな晴れ男なのである。
とは言うものの、その後は土砂降りだったけどね。
で、その日に帰宅したのだが、2頭だけ展翅して睡魔に勝てず、残りを冷凍庫にブチ込み昏倒。以後、今まで1つも展翅してない。
一応、その時の展翅画像と昼間に見たらこんなんです画像を添付しておこう。

 

 
昼間に見ると、よりいっそう美しいことが解る。
下翅の黄色はキシタバ類の中でもトップクラスの鮮やかさだ。上翅もカトカラの中では見たことのないような独特の渋いグレーで、複雑な模様はデザイン性が高い。
とはいえ、激ちっちゃいけどさ。もう少しデカけりゃ、評価はもっと高いのにね。せめて中型サイズくらいあればなあ…。

 
【Catocala koreana azumiensis アズミキシタバ♂】

 
【同♀】

 
スーパー落武者にさせてしまったなりよ(´ε` )
触角も真っ直ぐに出来てないし、胴体も縒れてるしさ。
まあ睡魔に勝てずに力尽きたと云うこってすな。

 
追伸
こうして文章を書いていると、改めて場所の選択は正しかったんだなと思う。高標高側のポイントだと、ずっと雨だったんじゃないかという気がする。たぶん気温も更に下がっていただろう。
それに何よりアズミキシタバは殆んどが上からではなく、下側から飛んで来たからね。

2019年の採集記は他の回とも繋がっており、今のところ前後の話はベニシタバとミヤマキシタバ、ハイモンキシタバ、ノコメキシタバの回と繋がっている。どっかに憎悪のフクラスズメとの戦いも書いてある。おそらく今後、ヒメシロシタバやヨシノキシタバ、ケンモンキシタバの回ともコネクトしてゆく事になろう。御興味のある方は読んで下され。

 
(註1)マホロバキシタバ

【Catocala mahoroba ♂】

(2019.7月 奈良市)

 
2019年に日本で新たに見つかったカトカラ。新種が期待されたが、結局は台湾の”Catocala naganoi”の新亜種に収まった。
拙ブログに『真秀ろばの夏(2019’カトカラ2年生 其の3)』の前・後編、『月刊むし10月号がやって来た、ヤァ❗ヤァ❗ヤァ❗』『喋くりまくりイガ十郎』の4編の文章があります。

 
(註2)ミヤマキシタバ

【Catocala ella ♀】

(2020.8月 長野県木曽町)

 
詳しく知りたい方は本ブログに『突っ伏しDaiary(2019’カトカラ2年生 其の4)』と、その後編となる『灰かぶりの黄色きシンデレラ』と題した文章があるので宜しければ読んで下され。

 
(註3)ムラサキシタバ

【Catocala fraxini】

(2020.9月 長野県松本市)

 
フクラスズメとは、下翅にブルーが入っているのが共通するだけで、似ても似つかない。色、柄、フォルム、全てにおいてムラサキの方が格段に美しいのだ。しかも稀でデカいときてる。謂わば、フクラスズメとは月とスッポンくらいの身分の差があるのである。

拙ブログに『2018’カトカラ元年』シリーズの其の17として、『青紫の幻神』『憤激の蒼き焔(ほのお)』『2019’紫への道』『パープルレイン』『紫の肖像』というムラサキシタバについて書いた五章からなる大作がありんす。おいちゃん、ムラサキシタバ愛が強しなのである。

 
(註4)『日本のCatocala』

 
日本のカトカラについて書かれた図鑑の最高峰。生態図鑑としては圧倒的に群を抜いている存在だと思う。

 
(註5)カバフキシタバ

【Catocala mirifica ♀】

(2020.7月 奈良市)

 
拙ブログの『孤高の落武者(2018’カトカラ元年 其の5)』と『逆襲のモラセス(続・カバフキシタバ)』の前・後編を見られたし。

 
(註6)ベニシタバ

【Catocala electa ♀】

(2019.9月 岐阜県高山市)

 
拙ブログの『薄紅色の天女(2019’カトカラ2年生 其の16)』と、その後編『紅、燃ゆる』を読まれたし。

 
(註7)マメキシタバ

【Catocala duplicata ♂】

(2020.8月 長野県木曽町)

 
拙ブログの『侏儒の舞(2018’カトカラ元年 其の4)』を読まれたし。

 
 

2019’カトカラ2年生 其の六 解説編

 
    vol.23 ノコメキシタバ

       ー解説編ー

 『お黙りっ❗と、ベラは言った』

 
 
【ノコメキシタバ Catocala bella ♂】

  
【同♀】


(以上4点共 2019.8.6 長野県上田市)

 
正直、展翅をするとハイモンの方が綺麗だ。
下翅が思ってた以上に黒くて汚いのは致し方ないにしても、売りである前翅のギザギザまでもハッキリしてない。ワシの撮影技術と展翅がイマイチなせいだとはいえ、あまりにも不憫だ。ここは図鑑『世界のカトカラ』の画像をお借りしよう。

 


(出典 2点共『世界のカトカラ』)

 
上が♂で、下が♀でやんす。
ちゃんとノコギリ紋がビシッと出てるね。

雌雄の判別は、♂は腹部が細くて尻先に毛束があり、♀は腹部が太くて尻先の毛が少ない。また裏側から見ると尻先にスリットが入り、黄色い産卵管が見える。上の画像の♀なんかは尻先からピッと飛び出ているゆえに表側からでも判別可能だ。

前翅はハイモンキシタバに似るが、より暗い灰褐色で、鋸歯状の横線(ギザギザ)は黒くハッキリしている。
後翅はハイモンキシタバの明るい黄色と比べてオレンジ色に近い黄色で面積が狭い。外縁黒帯は太くて内縁に接する。内側の黒帯はやや幅広い。また後翅の翅頂の黄色紋は明瞭でない。頸部は淡い樺色、胸部は前翅と同様の色調、腹部は灰褐色。また前脚脛節にも針を有する。

 
【♂裏面】


(2019.8.6 長野県上田市)

 


(2020.8.9 長野県木曽町)

 
(♀裏面)


(2019.8.6 長野県上田市)

 
最近になって新たな画像が出てきて驚いた。2019年に展翅する前に撮った横向き画像である(上から2番目と1番下)。昼間なのでフラッシュは焚かれていない。今年の、ほぼ同じ条件で撮った木曽町のボロ(上から3、4番目)とは色が全然違う。
そっかあ…、鮮度が落ちれば落ちるほど前翅の色が薄くなって白くなるんだ。本来の色は淡い黄色とかクリーム色なんだね。

展翅画像はボロ個体ゆえに黒帯も薄いから、本来的なものではないだろう。なので、他から画像をお借りして貼りつけておこう。

 

(出典『日本のCatocala』)

 
参考までにハイモンキシタバの裏面画像も添付しておこう。

 
【ハイモンキシタバ裏面】

(出典『日本のCatocala』)

 
ハイモンは下翅の翅頂部の黄紋が広くて、外縁の黒帯が途中で分断される。一方、ノコメは黄色と白のコントラストが強く、翅頂黄紋が小さいので判別は容易である。

尚、ノコメとハイモンは食樹が同じで、見てくれも似ていることから近縁種だと思われがちだが、系統は全く違うとされている。遺伝子解析の結果では、驚いたことに全然似てないナマリキシタバと同じクラスターに入っていて、『世界のカトカラ』でも両者はノコメ、ナマリの順で並べられている。一方ハイモンは、ワモンキシタバ&キララキシタバのグループに入れられている。これまた見た目はあまり似てない。カトカラの遺伝子解析は蝶と違って首を傾げてしまうことが多い。見た目と結果に齟齬が多いのだ。だから、どこまで信用していいのかが分からなくなる。

 
【学名】Catocala bella Butler, 1877

属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり下翅が美しいことを指している。
小種名の bella(ベラ・ベッラ)は、平嶋義宏氏の『蝶の学名ーその語源と解説』によると「愛らしい、上品な、美しい」という意で、ラテン語のbellusの女性形となっていた。
まあ、これなら納得の語源だね。
ネットで更に調べると、他に「戦争」を意味する第2変化中性名詞 bellum,-īn.の複数・対格と云うのも出てきたが、これは無視してもいいだろう。たかだか蛾に「戦争」チョイスは有り得んだろう。

 
   🎵闇に隠れて生きる
    俺たーちゃ、妖怪人間なのさ
    人に姿を見せられぬ
    獣のようなこの身体
    (早く人間になりたーい)
    暗い宿命(さだめ)を吹っき飛ばっせー
    (ベム!、ベラ!、ベロー!)
    妖怪人間

ベラで思い出したのが「妖怪人間ベム」の紅一点、ベラ様だ。
子供心にも怖いオバサンだったが、何となくドキドキもしたよね。ケバいんだけどエロくて、幼少のみぎりにも何となくゾワゾワしたような記憶がある。

 

(以下3点共 出典『原寸画像検索』)

 

 
切れ長のツリ目と真っ白な肌に真っ赤な口紅。そして濃いアイシャドウがエロティックというか、艶めかしい感じがした。オッパイがデカくて肉感的なのも、それに拍車をかけていたのではなかろうか❓ いやはや、性の目覚めだねー。( ≧▽≦)σこのこの〜、マセたエロ餓鬼があー。

 

(左からベム、ベロ、ベラ。)

 
ほらね、おっぱいデカいっしょ。生地の薄い感じとドレープも男のリビドーを刺激する。
驚いたのは、その年齢だ。ググったら、ベラは20代後半らしい。どう見ても30代半ばから40代の熟女だよなあ。オマケに甲高く笑い、その口調が完全にSMの女王様のそれなのだ。もうエロ過ぎ〜♥️

そういや、このお顔で、

💥ベラのムチは痛いよー。

とか、怖い顔でおっしゃるのである。
腕にブレスレットみたいなのが巻き付いてんだけど、それをビシュッと解くとムチになんだよね。
適当な画像が見つからないので、イラスト画像を貼付しときましょう。

 

(出典『ニコニコ動画』)

 
ワシは痛いのヤだから遠慮するが、この表情でビシビシいかれたら、ドMの人は堪らんだろな。
折角ググったんだから、ベラ様の基本情報も付け加えておこ〜っと。
特殊能力満載で、蘇生術や幻術、雷を呼び起こしたり、時には口から冷気も出せる。それらで人を助けたり、悪い奴らを懲らしめるのだ。だが口が悪く、短期で感情が激しいゆえ、時にやり過ぎてベムに諌められたりする事もある。でも心は温かく、人間味あふれる素敵な女性でもある。ベラさん、いい女だす。

変身すると、こんな感じ。

 

(出典『原寸画像検索』)

 
シンプルに怖い。
まあ、妖怪人間だかんね。そういや、ベロがよく子供に「おいら、怪しい奴じゃないよ。」と言って話し掛けてたけど、「オマエ、全身真っ赤で変な髪型なんだから充分怪しいっつーの」と子供心にもツッコミ入れてたなあ…。
とはいえ、一応3人とも正義の味方なんだけどなあ…。でもどう見ても悪役キャラだよね。絵のタッチも画面背景もダークだし、鬼太郎とは対極にある異彩を放つアニメだった。今の時代ならば、コンプライアンス的に引っ掛かる描写なりセリフがテンコ盛りだったと思われる。何でもありの昭和は面白い時代だったのだ。何でもかんでも清廉潔白なのは気持ち悪い。

ちなみにアニメのリメイク版(2019年)もあるみたいだけど、エロさが全然足りない。

 

(出典『TV東京』)

 
今風だし、何だか女子高生みたいだ。オドロオドロしさが微塵も感じられない。
今どき、エログロは流行らんのだ。(`Д´#)ケッ、何でもかんでもマイルドの薄味にしやがって。昭和は酢いも辛いも包含してた良き時代だったよ。

実写版もあって、ベラを女優の杏が演じている。

 

(出典『スポニチÂANNEX』)

 
罵り方とか、かなりいい線いってたけど、如何せん細い。肉感さが足りないから、あんまエロくないのだ。深キョン(深田恭子)のボディラインで、キャラは菜々緒が理想かもね。

そういや、『ダウンタウンのごっつええ感じ』に「妖怪人間」という漫才トリオがいたなあ…。アレ、笑ったよなあ。

 

(出典『Shoの気ままなライフ』)

 
松ちゃんがベロ、今田耕司がベム、Youがベラに扮して漫才をやるのだが、これがベタな下ネタで妙に面白かった。
気になる人はYou Tubeに動画があるから探してみてね。

お黙りっ❗いい加減にしなっ。

ベラ様の声とムチの音が聞こえたような気がした。
アカン、何やってんだ俺。どんだけ大脱線しとんねん。
いいかげん、話を学名に戻そう。

記載者はバトラー。バトラーについてはシリーズ前々回のミヤマキシタバの第二章『灰かぶりの黄色きシンデレラ』に解説文がありますので割愛します。気になる人はソチラを見てくだされ。

ちなみに同じ”bella”の小種名を持つものに、チョウ目 タテハチョウ科 ヒメミスジ属の、Lasippa bella(ベラヒメミスジ)がいる。
画像は見つけられなかったが、たぶん見た目は属的にオレンジ色のちびっ子ミスジチョウだろう。

 
【和名】
どこにもその命名由来は書かれていないようだが、普通に考えれば、おそらく「鋸の目」。「目」には「〜のように見える」という意味もあるから、すなわち前翅のノコギリの刃みたいなギザギザ模様を指しての命名だろう。ノコギリの事を世間一般では「ノコ」と略すのは通例だからね。それに他に考えうる可能性って、どう考えても無いもんね。
まさかの「野米さん」という人に献名されたとかだとしたら驚きだけどもね。それって面白いけど、即座にヤッさんみたく「怒るで、しかしー。」とツッコミ入れちゃうぞ。
野米さんが蛾類界に大きな足跡を残してたのならともかく、そんな人、聞いたことないもんね。
ふと思う。脈絡なく全然関係ない人の名前を和名に付けちゃったという勇気ある人って過去にいないのかなあ。単にファンだからという理由だけで、ヒバリ(美空ひばり)とかモモエ(山口百恵)、アキナ(中森明菜)、セイコ(松田聖子)、ナナセ(相川七瀬)、あゆ(浜崎あゆみ)なんてアイドルの名前をつけちゃった人とかさ。
もしも自分が超マイナーな虫に興味を持ち、バンバンに新種を見つけたとしたら、フザけた変な名前や意味不明とか難解な和名をいっばい付けてやろうと思う。

 
【亜種】
◆Catocala bella bella Butler, 1877
(日本)

日本のものは原記載亜種とされる。ホロタイプに指定されている標本は”Yokohama”となっているようだ。だたし、まだ自然が残っていた時代とはいえ、標高的にノコメが横浜に分布していたとは考えられない。神奈川県の記録もないようだしね。おそらく採集されたのは別な地で、その標本が横浜から送られてきたとか、そうゆう事だろう。

異常型として、後翅外縁の黒帯が発達したものや中央黒帯の内側が黒化するものが知られている。

 


(出典 3点共『世界のカトカラ』)
 
 
おそらく、こうゆう型のことを言ってるのであろう。
一番下の黒化が進んだものは長野県となっているが、トリミングの問題であって、本当は群馬県で採られたものである。また一番上のものも同様で、上部の北海道の文字は無視されたし。コチラは逆に長野県産と図鑑ではなってます。

 
◆Ssp.serenides Staudinger, 1888
(ロシア南東部(沿海州)、中国中北部、朝鮮半島)

大陸のものが別亜種として記載されている。

 


(出典 2点共『世界のカトカラ』)

 
図版で見る限りでは、日本のものよりも下翅の黄色が明るめなせいか、黄色の面積が広く見えるね。こっちの方が綺麗だね。

 
【開翅長】
『原色日本産蛾類図鑑』では、58〜65mm。『日本産蛾類標準図鑑』では、55〜65mm内外となっている。

 
【分布】 北海道、本州(中部地方以北)
『原色日本産蛾類図鑑』やネットのサイトの多くが分布域に九州を入れているが、これは間違いかと思われる。記録を探せなかったし、最近の図鑑では分布地から外されているからね。
海外では、極東ロシア(アムール・ウスリー)、中国中北部、朝鮮半島に分布する。

標高500mから1700mに見られるが、冷温帯を好む寒冷地性の種で、主に標高1000m前後以上に見られる。食樹であるズミが多く生育する高原地帯では多産し、中部地方の高原では最も普通種のカトカラの一つとされるが、その他のところでは少ない。
低標高の産地は1980年代から減少し始め、1990年代には殆んど見られなくなったという。高原地帯でも以前よりも減少しているところが増えていると聞く。
東北地方での産地は散発的で、古い図鑑だと福島県を北限として東北地方のほぼ全域と北海道南部にわたって分布の空白があるとしている。しかし、その他の地域の北海道には広く分布するという。
w(°o°)wえっ❗❓、同じ寒冷地型のハイモンは東北にも万遍なくいるのに何で❓謎だよね。何かまた変なところに足を突っ込みそうだ。😱ヤバい。またしても長大になる兆候が濃厚だよ。

解りやすいように分布図を貼付しておこう。

 

(出典『日本のCatocala』)

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
分布を示す黒塗りされているところが微妙に違うのは『世界のカトカラ』の方が刊行年が少し遅くて、秋田県と宮城県が追加されたのと、上図は分布域を示し、下図は県別の分布図であるせいだろう。下の分布図だと或る県で1頭だけでも記録があれば、その県は塗り潰されるからである。にしても、分布域図でも北海道南部に空白が無いね。多分、北海道南部でも見つかったんじゃろう。そゆ事にしておこう。下手な疑問は抹殺じゃ。
猶、ネットの『ギャラリー・カトカラ全集』から東北地方の分布の空白について次のようなコメントが見つかった。
「東北地方ではほとんど採れていないのは、日本への侵入経路・時期に由来しているのかもしれない。」

とゆう事はだな。ハイモンとノコメの日本への侵入時期が違うという事か…。何だか面倒くさい事になってきたよ。HSPだけど、答えの見えない迷宮地獄になりそうなのでスルーしてコマしたろか。

でも、気づいたら「日本列島の成り立ち」で検索してた。
やれやれである。
以下、Wikipediaからの抜粋、編集したものである。ここから答えをさぐっていこう。

『現在の日本列島は、主に付加体と呼ばれる海洋で出来た堆積物からなっている。かつて日本付近はユーラシア大陸の端で、古生代には大陸から運ばれてきた砂や泥が堆積していた(現在の北陸北部、岐阜県飛騨地方、山陰北部など)。そこへ、はるか沖合で海洋プレートの上に堆積した珊瑚や放散虫などからなる岩石(石灰岩やチャート)が移動してきて、それが海溝で潜り込むときに、陸からの堆積物と混合しながらアジア大陸のプレートに押しつけられて加わった(付加)、この付加が断続的に現在まで続いたため、日本列島は日本海側が古く太平洋側に行くほど新しい岩盤でできている。

このようなメカニズムで大陸側プレートに海洋プレートが潜り込む中で、主にジュラ紀〜白亜紀に付加した岩盤を骨格に、元からあった4〜5億年前のアジア大陸縁辺の岩盤と、運ばれてきた古いプレートの破片などを巻き込みながら日本列島の原型が形作られた。この時点では日本はまだ列島ではなく、現在の南米のアンデス山脈のような状況だったと考えられる。

その後、中新世になると今度は日本列島が大陸から引き裂かれる地殻変動が発生し、大陸に低地が出来始めた。2100〜1100万年前には更に断裂は大きくなり、西南日本は長崎県対馬南西部付近を中心に時計回りに40〜50度回転し、同時に東北日本は北海道知床半島沖付近を中心に反時計回りに40〜50度回転したとされる。これにより今の日本列島の関東以北は南北に、中部以西は東西に延びる形になった。いわゆる「観音開きモデル説」である。そして、およそ1500万年前には日本海となる大きな窪みが形成され、海が侵入してきて、現在の日本海の大きさまで拡大した。』

途中だが、ここで少しでも理解しやすくするために、日本列島の成り立ちの大まかな図を貼付しておく。

 

(出典『出雲平野と神戸川をめぐる自然史』)

 
『1600万年前から1100万年前までは西南日本(今の中部地方以西)のかなり広い範囲は陸地であった。東北日本(今の東北地方)は広く海に覆われ、多島海の状況であった。』

この時期にノコメは西から日本に侵入したって事か❓
しかし、東北地方は大部分が海に沈んでいたから分布を東に拡大できなかったのかもしれない。

『その後、東北日本は太平洋プレートなどによる東西からの圧縮により隆起して陸地となり、現在の奥羽山脈・出羽丘陵が形成されるにいたった。
北海道はもともと東北日本の続き(今の西北海道)と樺太から続く南北性の地塊(中央北海道)および千島弧(東北海道)という三つの地塊が接合して形成されたものである。』

ということは北海道のノコメキシタバは北から侵入して来たのではあるまいか。そして、今の西北海道が東北日本の続きの一部であったのならば、中央北海道や東北海道とは海で隔たれており、それ以上は南下できなかったのではなかろうか。北海道西南部にノコメが分布していないとされるのは、それで何とか説明できそうだ。

『西南日本と東北日本の間は浅い海であったが、この時代以降の堆積物や火山噴出物で次第に満たされながら、東北日本が東から圧縮されることで隆起し中央高地・日本アルプスとなった。』

では何故に西日本のノコメが、この後に分布を東に拡げて東北地方に侵入しなかったのだろう❓食樹であるズミはあるのに何でざましょ❓
考えられるとすれば、フォッサマグナ(深い溝)だ。
ほらほら、やっぱ大げさな話になってきたじゃないか。

『西南日本と東北日本の間の新しい地層をフォッサマグナといい、西縁は糸魚川静岡構造線、東縁は新発田小出構造線と柏崎千葉構造線で、この構造線の両側では全く異なる時代の地層が接している。』

イメージとしては、こんな感じだろうか?

 

(出典『www.shinnshu-u-ac.jp』)

 
フォッサマグナの成り立ちだが、図CとEがそれにあたる。

そういえば、このエリアを境に東と西とでは生物相が異なるって、よく聞くよね。多くの生物種群において、東西日本での遺伝的分化が認められる研究結果が多々あった筈だ。
となれば、中部地方と北海道のノコメキシタバは別種か別亜種の可能性が高いと考えられなくはないか❓でも両者は亜種区分さえされていない。これはどうゆう事なのよ❓
『世界のカトカラ』の著者であり、カトカラの世界的研究者でもある石塚勝己さんは、キララキシタバとワモンキシタバが別種である事を証明するために、ゲニ(ゲニタリア=♂の交尾器の一部)を切りまくって、執念でその差異を見つけたと聞いている。その石塚さんが、この問題を看過するワケがない。きっと調べ済みの筈だ。って事は両者の交尾器に違いを見い出せなかったって事か…。ならば本州産のノコメも北海道産のノコメも全くの同種であるということになってしまう。密かに北海道のものは大陸の亜種”ssp.serenides”じゃねえかと思ってたんだけどねー。
(+_+)くちょー、やっぱ迷宮ラビリンスじゃねえか。

置いといて、ではハイモンキシタバはいつ日本に侵入したのだろうか❓ Wikipediaの記述を続けよう。

『こうして不完全ながらも今日の弧状列島の形として現れたのは、第三紀鮮新世の初め頃であった。その後も、特に氷期の時などには海水準が低下するなどして、大陸と陸続きになることがしばしばあった。例えば、間宮海峡は浅いため、外満州・樺太・北海道はしばしば陸橋で連絡があった。津軽・対馬両海峡は130〜140メートルと深いため、陸橋になった時期は限られていた。』

この時代のどこかでハイモンが日本列島に侵入したのかな❓にしても、ハイモンは一応、日本固有種となっている。どゆこと❓
これは、おそらくニセハイモンキシタバ(C.agitatrix)が日本に渡り、長年隔離されて分化し、別種になったのだろう。その後、陸地化した東北地方、中部地方に分布を拡げ、その過程で北海道のものとも亜種分化したとは考えられないだろうか❓
けれど、そうなればだな、それ以前に日本に侵入していたノコメよりも進化(分化)スピードが早いということになる。って事でいいのかな❓
確かに生物は、それぞれ進化のスピードが同じではない。シーラカンスのように太古の昔から殆んど姿を変えていないものもあれば、ガラパゴス諸島のダーウィン・フィンチのように島ごとに進化して嘴の形が変わったものもいる。ダーウィン・フィンチは環境に合わせて適応放散的に進化したことの例証として有名だけど、これは種によって進化を促進する因子の有無や多い少ないがあるのかもしれない。
でも進化スピードは、東北地方にノコメキシタバがいない事の理由とは直接関係はない。先に進もう。

『また南西諸島ではトカラ海峡(鹿児島以南)、ケラマ海峡(沖縄島以南)は共に1000メートルを超す水深であり、第四紀後半に陸橋になった可能性はまず考えられない。南西諸島の生物相に固有種が多く、種の数が少ないなどの離島の特徴を示すことは、大陸から離れた時代が極めて古いためと考えられている。陸橋問題では、津軽海峡は鮮新世末まで開いており、対馬海峡は日本海塊開裂時代には開いていたが、その後の中新世末から鮮新世には閉じたと考えられている。
最後の氷期が終わり、マイナス約60mの宗谷海峡が海水面下に没したのは更新世の終末から完新世の初頭、すなわち約1万3000年から1万2000年前である。
中新世前期には、沈み込みによる大陸辺縁の分離が活発化する。鮮新世後期〜更新世前期には、日本海の拡大は終息して島孤は現在に近い配置になっている。更新世の終わり2万年前頃には、ほぼ現在に近い地形であるが、最終氷期最盛期のため海面が低下し日本海と外洋を繋ぐ海峡は非常に狭かった。』

今まで触れなかったが、ここで西から侵入したノコメキシタバが、なぜ中部地方から西には居なくなったかについて考えてみよう。
思うに、氷河期が終わり、気候が温暖になってゆくに伴って西日本に広く分布していたノコメキシタバの生息域は次第に狭められていったのではなかろうか。そこには食樹の減少も関係していただろう。そして、現在のように冷涼な気候の中部地方にのみ生き残ったと考えれば、一応の説明はつく。
けど、これも東北地方にノコメが居ない理由の直接的な理由とは関係ない。フォッサマグナが現在の分布に何らかの影響を与えているとしたら何なのだ❓現在は陸続きなんだから、東北に分布をナゼに拡大しないのだ❓そこには何の障壁があるのだ❓もしくはナゼに移動しようとしないのだ❓移動性が低い種だとか❓けど、だったらそもそも大陸から日本には侵入してないよね。理由が皆目ワカラン。
嗚呼、とまどうペリカンだ。自身の力の無さを痛感して、この辺でステージから降りる。グダグダの結末でスマンが、話を本道に戻して先へ進める。

ノコメの西側の分布は福井県、京都府、大阪府に僅かな記録があるのみで、それ以外の地域からは未知。
大阪府の記録は箕面のようだ。しかし標高が低く、開発も進んでいるので再発見は不可能かと思われる。それにそもそも、本当にいたのかね❓古い記録だから同定間違いなんじゃないかと疑りたくもなる。中国地方で見つかれば、信憑性も出てくるんだけどもね。発見されたらいいのになあ…。

垂直分布はハイモンキシタバよりも高く、ハイモンのように低地の渓谷や湿地には進出していない。ハイモンは名古屋市内でも発見されているが、ノコメは棲息が確認されてないからね。つまりハイモンと比べて、より冷温帯を好む種だと思われる。

 
【レッドデータブック】

宮城県:絶滅危惧II類(Vu)

東北地方で指定されているのは、宮城県のみである。
秋田県もレッドリストに指定されて然りなのにね。まあ実状はこんなもんだろ。絶滅危惧種とか準絶滅危惧種とかはアテにならんのだ。恣意的なモノもあるしね。
東北地方の他県で近年発見されてないかと調べてみたが、有望そうな岩手県ではズミのある高原や湿原でも全く見られないという。
ネットを見てると「K’s Life list」というサイトに次のような記事があった。

「こうした東北を飛ばして中部山岳と北海道に隔離分布するタイプの蛾は結構多い.亜高山・高山性のものや北東北には少ない針葉樹食いのものに多いが,本種のように普通に山地性で食樹もありふれたものでは珍しい.」

へぇ〜、蛾ってそうゆう分布をするのが結構多いんだ。蝶にはいないからね。あと「普通に山地性で食樹もありふれたものでは珍しい。」というのも、へぇーって感じ。
あっ、ちょっと待てぇー。蝶にもおるわ。中部地方と北海道に分布するのに東北地方には分布せえへん、もしくは点在分布しかせえへん奴がおる。シジミチョウ科のアサマシジミがそうだよね。但し、北海道では今や絶滅しかかってるけどね。
考えてみれば、他にもいるわ。コヒオドシ、ベニヒカゲ、クモマベニヒカゲ、フタスジチョウ、ヒョウモンチョウ、コヒョウモン、あとはウラジャノメが一部中国地方にもいるが、近い分布をしている。これはいったい何を意味しているのだ❓
あー、また問題を蒸し返しとるがな。
でも、その分布形態の理由が書いてある記述を見たことないがないし、聞いたこともないぞ。

調べたみたけど、やはり明確に書いてある論文は見つけられなかった。もうウンザリだから、必死には調べてないけど…。
改めて思うに、やはり中部地方のものと北海道のものとでは侵入経路が違うのではなかろうか。中国地方に僅かに残るウラジャノメは、西から侵入したものの生き残りではあるまいか。だとしたら、やはり中国地方でも見つかる可能性はあるかもしれない。でもこれも東北地方には居ない理由にはなってないけどさ。
ゴメン、やっぱリタイア(ㆁωㆁ)

 
【成虫の出現期】
7月中旬から出現し、9月中旬まで見られる。
『日本のCatocala』によれば、標高の低い場所(500〜800m)では7月上旬から見られ、8月中には没姿するという。また群馬・長野県の1500m以上の高原では8月から現れると書いてあった。
同所的に見られることの多いハイモンキシタバと比べて発生が1週間ほど遅れ、発生初期に両者の出現が重なる。

尚、『ギャラリー・カトカラ全集』には「山地帯ではかなり多く、普通種のイメージがあるが、意外と新鮮な個体を採集するのは難しい。出現期の早い時期に採れる個体はしっとりとしており、なかなかのものである。」と書かれてある。
また「この種の素晴らしさが理解できれば、カトカラ愛好者として上位者である。」とも書かれていた。

 
【成虫の生態】
クヌギ、ミズナラ、ヤナギ、ハルニレなどの樹液に好んで集まる。
糖蜜にも誘引され、高原で見られるカトカラの中では最も糖蜜に集まる種類の一つなんだそうだ。
午後7時半、深夜の午後11時15分と午前0時20分に飛来したのを見ている。

わずかながら、花(アレチマツヨイグサ)での吸蜜やアブラムシの分泌物を吸汁していた例があるようだ。

灯火にも集まる。
見たのは午後9時半以降だったと思われるが、ボロばっかだったので、あまりハッキリとは憶えてない。ナマリキシタバやアズミキシタバなど他のバラ科を食樹とする種は灯火への飛来は遅い傾向があるので、そんなに早くには飛来しないのかもしれない。ただし灯火への飛来は傾向性はあっても、その日の気象条件にかなり左右されるので、何とも言えないところはある。

成虫は昼間、頭を下にしてカラマツなどの樹幹に静止している。驚いて飛翔すると着地時には上向きに止まるが、瞬間的に体を反転させて下向きとなる。その際、後翅の黄色がよく目立つ。

交尾は深夜11時から午前2時の間に観察されている。
羽化後、数日後には交尾・産卵を繰り返すものと思われる。

産卵行動は2001年の8月6日に長野県真田町の標高1250mの高原で確認されている。日没後に1頭の♀が食樹であるズミの根元の樹皮下に産卵しようとしている様子が観察され、翌春にはその木の下の落葉から複数の受精卵が見つかったという。他のカトカラと比べて産卵はアバウトで、食樹周辺の枯葉や枝などに適当に産み付けるそうだ。

 
【幼虫の食餌植物】
バラ科:ズミ、エゾノコリンゴなどのリンゴ属。他に野生のナシが記録されているが、ナシは暖地性の植物なので、本来の食餌植物ではないと思われる。また、時に栽培されたリンゴでも幼虫が見い出される。

ズミ、エゾノコリンゴについては、ハイモンキシタバの回で詳しく書いたので割愛する。

 
【幼生期の生態】
毎度の事ではあるが、幼生期については西尾規孝氏の『日本のCatocala』におんぶに抱っこさせてもらおう。

 
《卵》


(出典『日本のCatocala』)

 
卵はやや背が高いマンジュウ型で、ナマリキシタバとアズミキシタバに似る。だが隆起条の数が40本以上と多く、横隆起条の間隔が狭くて整然としている。
ちなみにハイモンキシタバの卵とは似てない。食樹が同じで、成虫の見た目が似ていることから両者は兄弟みたいに思われがちだが、遺伝子解析では系統的にはかなり掛け離れている。だから卵が似ていないのは当然なのかもしれない。
それにしても、顕微鏡写真まで撮るなんて西尾氏は凄いな。この『日本のCatocala』は、国内のカトカラにおいては他に追随を許さぬ最高峰の図鑑だと思う。

長野県女神湖(標高1500m)での孵化時期は5月上、中旬。5齡幼虫は6月中旬から7月上旬に見られる。同県上田市(600m)では、6月中旬に5齡幼虫が見られたという。

  
《幼虫の生態》
幼虫は比較的若い木に発生し、樹齢40年以上の古木にはあまり見られない。

 
(2齡幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
日中、若齡幼虫は葉上や付近の枝に静止している。3〜4齡期の幼虫も枝に静止している。

 
(5齡幼虫)


(出典『日本のCatocala』)

 
5齡が終齢。老熟幼虫の昼間の静止場所は枝や樹幹で、地表近くに潜んでいる場合も見受けられる。しかし、ハイモンキシタバほどには樹幹下部には降りないようだ。
高原のズミには多数の幼虫が群れていることかあり、5齡幼虫は昼間でも活動している事があるという。このような群生と摂食習性はハイモンキシタバには観察例がないそうだ。
野外では体色に色彩変異が見られ、側線付近の白い模様が幅広くなるものや全体に白化したものがある。

食樹を同じくするハイモンキシタバとは、顔面の模様が違うことから区別できる。

 
(5齡幼虫の頭部)

 
(ハイモンキシタバ5齡幼虫の頭部)

(出典『日本のCatocala』)

 
だいぶ違うね。
カトカラの幼虫の同定には、この頭部が一番重要だと言われているのがよく解るね。

室内飼育では、室温が25℃以上になると死亡率が高くなることかあるという。やはり寒冷地性なんだね。

蛹化場所については未知のようだ。
蛾のなかでは人気種のカトカラであっても、蛹に関しての記述は殆どない。野外での蛹化場所が見つかっていないカトカラも多いのだ。その点、蝶と比して研究が遅れてるなと思う。たった32種類なのに食樹がまだ判明していないものだっているのだ(註1)。
最近は東京を中心に関東方面では蛾熱が高まっているともいうし、人海戦術で探せるような時代が来ればいいのにね。蝶みたく分母の人数が多ければ、生態の解明は格段に進むだろう。
こんな一銭にもならない連載を書き続けている理由の半分、いや1/3は、それを後押したい気持ちもあるからだ。ヒントが提示されなければ、人は動かないものだ。

                        おしまい

  
追伸
今年は狙って採りに行かなかったけど、来年はハイモンと一緒にシッカリ採ろう。標本が酷くて、こんなんじゃ不満なのだ。

今回のタイトルは全然浮かばなくて悩んだ。細かいところを書き直すうちに、妖怪人間ベラが降臨した。で、突如挿入。それがタイトルのヒントになった。
でもそこから中々決まらなくて、「ベラは言った、お黙りと」に始まり、「お黙り、とベラは言った」「お黙り。とベラはそう言った」「お黙り。と、ベラは言った」「お黙りっ❗そうベラは言った」とマイナーチェンジを繰り返して、最後に「お黙りっ❗と、ベラば言った」に落ち着いた。「、」に拘った結果だ。
けど、いまだもってしてどれが正解なのかはワカラナイ。

 
(註1)食樹がまだ判明していないものだっているのだ
食樹が見つかっていないのは、ヤクシマヒメキシタバとマホロバキシタバ。但し、ヤクシマヒメキシタバは既にウバメガシで飼育されており、野外でのメインの食樹として有望視されている。けど、そこからは進んでいないようで、未だ自然界では幼虫が発見されていないようだけどもね。蛾の文献は簡単には集められないので、古いものしか見れてないから間違ってたら御免だけど。
新種マホロバキシタバは現地の植物相からしてイチイガシが予想されている。たぶんイチイガシで間違いないかと思われる。卵を含めて幼性期は全くの未知。一応、今年探したけど、見つけられなかった。意外と幼虫探しは難航するかもしれない。なぜならイチイガシは大木が多く、もしも大木を好む種ならば、発見はそう簡単ではないからだ。今のところメス親からの採卵、飼育が成功したという話も聞いていない。2019年には採卵が試みられたけど、産まなかったそうだ。
ちなみにアマミキシタバも食樹が長年判明していなかったが、去年(2019年)に解明されたようだ。候補の植物を片っ端から幼虫に与えた結果、判明したんじゃなかったかな。でも自然状態での発見は為されていないかも…。論文を読んでないので詳細はワカランのだ。ネット情報で辛うじて知っただけで、正確性に欠けるかもしれない。あと知っているのはカトカラ類の基本である年1化ではなく、多化性であると云うことくらいだ。
アマミキシタバは従来カトカラには含まれていなくて、別属である Ulothrichopus属に含まれていた。それが近年になって新たにカトカラ属に加えられたものだ。アフリカに多く生息するこの属をカトカラに含めてしまうと分類に混乱をきたすと、どこかで聞いたことがあるような気がするけど細かいことは分からない。多化性だから、たぶん同じシタバガ亜科のクチバの類とかって考えている人がいるのかもしれないね。でも所詮は蝶屋なので、蛾の属のことは全然ワカリマセンというのが本音だ。

 
ー参考文献ー

◆西尾規孝『日本のCatocala』
◆石塚勝己『世界のカトカラ』
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑』
◆江崎悌三『原色日本産蛾類図鑑』
◆平嶋義宏『蝶の学名-その語源と解説』

インターネット
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆ギャラリー・カトカラ全集
◆Wikipedia
◆K’s Life list

  

2019’カトカラ2年生 其の六

 
    vol.23 ノコメキシタバ

  『ギザギザハートの子守唄』

 
前々回のハイモンキシタバの採集記と基本的には途中まで同じなので、その続きとして書きます。つまり前々回と連なる文章として読んで戴きたい。
 

2019年 8月6日

闇が、より濃くなっている気がした。
ここにも熊がいることを思い出す。恐怖が心をサッと撫でる。
深夜の森の中は閑としていて、不気味なまでに静かだ。自分の足音だけが空気を震わせている。
真っ暗な道を何度往復しただろうか…。次第に焦りと後悔がどんよりと澱のように心の底に溜まってゆく。

思えば、日没後さして間もない8時15分に奴は糖蜜トラップにやって来た。なのに網を組み立てている刹那に逃げられた。
dont ‘worry.ドン・ウォリー、気にすんな。自分に言い聞かせるように軽く一人ごちる。

まだ早い時間帯だったから、そのうち戻って来るだろうと思ってたら、その5分後にまた同じ木に飛んできた。
( ̄ー ̄)しめしめ。飛んで火にいる夏の虫。食い意地はってっと、アンタ💀死ぬよ。

しかし近づくと、何かさっきのとは違うような気がするぞ。
( ̄□ ̄;)ハッ❗、ノコメキシタバじゃない❗
コレって…、見た目が似ているハイモンキシタバじゃねえの❓

ハイモンも採ったことが無かったから渡りに船ではあるけれど、その瞬間、気分が楽になった。この時点ではハイモンはノコメよりも珍しくないと思い違いをしてたからだ。こっちではハイモンは普通種だから、どうせこのあとには何んぼでも飛んで来ると思ったのだ。しかし本当は逆である。ノコメが普通種で、ハイモンの方が珍しい。それに気づくのは帰ってから暫くしてからである。我ながら情けない。考えが雑いのだ。
そうゆうワケで、リラックスして簡単にゲット。

 
【ハイモンキシタバ Catocala mabella ♀】


(2019.8.9 長野県上田市)

 
ハイモンも一応ターゲットだったのでそれなりに嬉しかったし、前後が逆になっただけで次はノコメだろうと、まだこの時点は気分上々の楽勝気分だった。
けれどその後、全く想像していなかった展開になった。それ以来、何も飛んで来なくなったのだ。
『嘘でしょ❓』と半ば冗談でウソぶくも、少しずつ自信と楽観気分が砂のように削られてゆく。
見たんだから此処に居ることは分かってる。絶対にいるのだ。もしや見間違え❓ そんなわきゃ無かろう。確かに実物を見た。まさか幻でもあるまいに。心が揺れ動く。
(-_-;)クソッ。何であの時、ターゲットから目を離したのだ。悔やんでも悔みきれない。

真っ暗な道を何度往復しただろうか。
時は徒(いたずら)に過ぎてゆく。
そして、採れない焦燥感と闇の重圧に耐えきれなくなったのか、勝手に歌が口から溢(こぼ)れ出した。ささくれ立った心の声が外に漏れたのだ。

  🎵ちっちゃな頃から悪ガキで
   15で不良と言われたよ
   ナイフみたいに尖っては
   触るものみな傷つけた
   あーぁ わかってくれとは言わないが
   そんなに俺が悪いのか
   ララバイ ララバイ おやすみよ
   ギザギザハートの子守唄

チェッカーズのヒット曲『ギザギザハートの子守唄』だ。
それくらい心はヤサグレていたのである。

深夜午後23時になった。
いよいよ背水の陣を呈してきた。顔が歪んできてるのが自分でもわかる。
俺は深夜の森の中で、いったい一人で何をやっておるのだ❓
次第に何のために此処にいるのかも曖昧になってゆく。
半ばヤケクソで『ギザギザハートの子守唄』を呪文のように歌い続ける。

午後23時15分。
懐中電灯の光の束が指す先、遠目だが何かいるなと思った。木はノコメもハイモンも来た、あの木だ。近づくと、鮮やかな下翅の黄色を覗かせてカトカラが鎮座していた。

来たっ❗❗
でもノコメ❓ハイモン❓どっち❗❓

まだ間隔が離れてるから微妙で、よくワカラン。どっちも上の翅が同じような鈍びた灰色なのだ。
確認のために慎重にゆっくりと距離を詰める。

距離約3m。ようやく上翅に黒いギザギザの線が見えた。ハイモンじゃない。待望のノコメだっ❗
ドクン💕ドクン💕。心臓が急に脈打ち始める。
心を落ち着かせるために『ギザギザハートの子守唄』を再び口ずさむ。でもここは、あえて一番ではなく2番だろう。

  🎵恋したあの娘と二人して
   街を出ようと決めたのさー
   駅のホームで捕ま〜ってー
   力まかせに殴られた
   あーぁ わかってくれとは言わないが
   そんなに俺が悪いのか
   ララバイ ララバイ おやすみよ
   ギザギザハートの子守唄

歌い終わるやいなや、
💥チェ〜スト━━━━━━━━━━❗

気合で網先で幹の下を突き、飛んだところを空中でブン殴る。

入った❗❗
間違いなく網に吸い込まれるのが見えた。

(。•̀ᴗ-)✧やりぃ❗
見ると確かに入っている。しかし、中で狂ったようにメチャンコ暴れてる。慌てて毒瓶を中に突っ込む。しかし更に暴れまくって中々毒瓶に入ってくんない。

(༎ຶ ෴ ༎ຶ)お願━━━い。
暴れないでぇ━━━❗
ボロボロになっちゃ━━━━う❗❗

すったもんだの末になんとか取り込み、息絶えたところで手のひらに乗せる。

 

 
ハイモンと比べて上翅の黒いギザギザがよく目立つ。間違いなくノコメキシタバだ。
しょこたん(註1)風に言うと、ギザカッコイイ。
とは言っても右側だけだ。左側は擦れ擦れでギザギザが消えかかっている。しかも網の中で大暴れしたので、背中が激禿げチョロケのズルむけスーパー落ち武者にさせてしまった。
まあいい。この際、採れたには採れたんだから良しとしよう。ゼロと1とでは雲泥の差なのだ。
とにかく重圧からやっと解放された。これで自己採集のカトカラは23種目となったわけだ。

裏返してみる。

 

 
裏面はハイモンとは全然違うんだね。外側は白で、内側は明るく鮮やかな黄色だ。コントラストが強くて美しい。こんな裏面のカトカラは見たことないかも。たぶん他にはいないよね。
一見、腹が長いので♂かと思ったが、腹先には毛束がなくて産卵管が見える。どうやら♀のようだ。

最初に採ったハイモンよりもコッチの方が表も裏も断然カッコイイような気がするぞ。まあ、こっちの方が珍しいというし、苦労の末のゲットだから欲目がだいぶ入ってるかもしんないけどさ。

午前0時20分。
さらにもう1頭ゲット。

 

 
これもギザギザだから、ノコメだ。
さっきよりも鮮度はマシで、前翅のギザギザがハッキリと見える。
だが、コヤツも落ち武者になっとる。けんど、もうどうだっていいや。もはや採れればいいのである。

裏返してみる。

 

 
バンザイ姿が可愛いね。
良かった良かったの、ワシも\(^o^)/万歳じゃよ。

こちらは腹が細くて産卵管が無いので♂のようだ。
一応、オスメスの雌雄が揃ったぞい(◍•ᴗ•◍)

見上げると、木々の間から天の河が見えた。
空を見上げる余裕もなかったんだね。

暗闇で見る星空はとても綺麗だ。
スッと力が抜け、これで漸くテントに帰ってグッスリ眠れると思った。

                        おしまい

 
一応、おしまいにしたが、オマケで翌日のことも書く。
ストレージが溜まっているので画像を消したいのである。

 
翌朝、早朝から死ぬほど走らされている高校生たちをあとにして撤収、上田駅まで戻ってきた。
もう蕎麦にはウンザリなので、スーパーで昼飯を買って食う。

 

 
298円の鶏の炭火ハラミ焼(塩ダレ)を食い、🍺ラガーをグビグビいき、百円引きの海鮮バラちらし(¥298)を一口食って、またラガーをグビグビいって、ダアーッ。テーブルに突っ伏す。
途中、1日だけカプセルホテルに泊まったが、これでテント生活も5日目なのだ。うちテント野宿が2回。しかも酷い靴ズレ状態で、足は絆創膏だらけだ。それでも熊の恐怖と戦いつつ夜の森を歩き回り続けておったのだ。身も心もボロボロなのじゃよ。

駅前から巡回バスに乗る。

 

 
行き先はココだ。

 

 
(南櫓)

 
そう、上田といえば真田の上田城跡公園である。
何で城なんかに来たのかというと、単に城好きだからだ。それに上田といえば、戦国武将ランキングの常に上位にランクされる真田幸村(信繁)の故郷でもある。大阪人としては、大阪城を獅子奮迅で守った幸村に強い思い入れがあるのだ。行かねばなるまい。

上田城は天正11年(1583)、幸村の父である真田昌幸によって築城された。日本百名城にも選出されており、第一次・第二次上田合戦で徳川軍を二度にわたって撃退した難攻不落の城として知られる。城マニアの評価も高く、とあるTV番組では堂々の第1位に選ばれたこともあった筈だ。
ここ南櫓の下も、かつて千曲川の緩やかで深い分流があり、天然の堀となっていたそうだ。この場所を「尼ヶ淵」と称したことから上田城は別名「尼ヶ淵城」とも呼ばれていたという。
その後、城主は時代の変遷と共に真田氏から仙石氏、松平氏へと移っていった。

でも、訪れた理由はそれだけではない。この上田城跡に、ケンモンキシタバとエゾベニシタバ、あとノコメキシタバの記録もあるからだ。あわよくばの一石二鳥で昼間の見つけ採りも狙っていたのである。

 

 
櫓らしきものが見えてきた。
ちなみに上田城には元々天守閣がない(註2)。

 
(本丸入口)

 
いいなあ。
やっぱ、城って好きだなあ。
左が南櫓、正面が東虎口櫓門である。写っでいないが、この右側には北櫓がある。

 
(真田石)

 
石垣とかって、ずっと見てれるかもしんない。
左下の大きな石が真田石だ。この大きな石が権力と財力を示すものとして、当時の戦国武将がこぞって櫓門の石垣に大きな石を配したと言われている。

 
(真田神社)

 
真田幸村の神霊を「知恵の神様」として崇めており、試験や就職、スポーツなどの勝利祈願の神社としても知られるそうだ。
今更なあ…。昨日、蕎麦なんか食わずにコッチ来ときゃよかったかもね。

 
(北櫓)

 
(西櫓)

 
城跡だけあって、歩くと結構広い。

 

 
あっ、コレってもしかしてハルニレの大木じゃね❓植物の同定には、あんま自信ないけどさ。とにかくハルニレといえば、ケンモンの食樹だよね。どっか、止まってねぇかなあ…。
城跡の端っこのミニ農園みたいなところには、大きなリンゴの木も2、3本あった。林檎類はノコメとハイモンの食樹だね。
城内にはジョナスの食樹であるケヤキも沢山あり、エゾベニの食樹のヤナギ類も一応あった。
でも、つぶさに木を見て歩いたが、残念ながら何も見つけられなかった。あまり期待はしていなかったから、別にショックは無いんだけどね。

 

 
百日紅(さるすべり)の花が咲いている。
夏も真っ盛りだなあと思う。

 

 
城を出て街なかに戻ると、白い入道雲が湧き上がっていた。
今年のオラの夏休みも、そろそろ終りかなあ…。

                    おしまいのお終い

 
と言いつつ、話は尚も続く。

翌2020年は、8月8日(標高約700m)と8月9日(標高約1300m)に他のカトカラ目的で灯火採集した折りに何頭か見た。だが、既にズタボロばかりだった。だから殆んどスルーした。
唯一持ち帰った個体がコレ↙️

 

(2020.8.9 長野県木曽町)

 
尻が細くて長いから♂だね。
採った時はそうでもないと思ったけど、裏を見ると超ボロい。
カトカラの鮮度は表よりも裏の方が如実に出るね。鮮度は裏で見るべしなのだ。

2019年の展翅前の横向き裏面画像も出てきた。
上の個体とは、だいぶ印象が変わる。

 
(♂)

(♀)

 
そっかあ…、鮮度が落ちれば落ちるほど前翅が白くなるんだ。本来の色は淡い黄色、クリーム色なんだね。

♀は横から見ると腹部が太いことがよくわかる。
あと、随分と前翅が丸いように見える。沢山の個体を見たワケではないが、図鑑等の画像を含めて♀にはそうゆう傾向が見受けられるような気がする。微妙な奴もいるだろうから、同定には補足としてしか使えないけどね。

これらの展翅画像は後ほど解説編に貼付します。

               おしまいのお終いのおしまい

 
追伸
今回も1回のみの掲載を試みた。実際に完成もしたのだが、やはり解説編で脱線と迷走を繰り返し、厖大な長文になったゆえに分けることにした。

えー、ハイモンキシタバの回から比較的間隔を置かずに記事をアップできたのは、ハイモンの回と同時進行で書いていたからです。同時進行の方が早く書けて、間違いも少ないと考えたワケやね。

 
(註1)しょこたん
マルチタレント・歌手の中川翔子のこと。

 

(出典『Wikipedia』)

 
『しょこたん』の愛称で知られ、オタクだけでなく一般的な知名度も獲得している。
アキバ系タレントの先駆けの1人として活動を開始した後、自身のブログが爆発的な人気を集め、「新・ブログの女王」と呼ばれた。ネット文化に影響を受けた特有の話し方はしょこたん語と呼ばれている。本文で使った「ギザ」もその一つである。

 
(註2)ちなみに上田城には元々天守閣がない
仙石氏時代の上田城には天守閣が無かったことは明らかではあるが、真田氏時代の有無は定かではなかった。しかし近年、金箔瓦が出土していることから天守が築かれていた可能性が指摘されている。
なお第一次上田合戦の際には「天守もなく小城」と徳川軍が侮ったとする記録があるので、天守があったとすれば、造営はその後だと考えられる。

 
 

2019’カトカラ2年生 其の五 弐の章

 
   vol.22 ハイモンキシタバ

          弐の章
   『銀翼のマベッラ』

 
 
 ー解説篇ー

 
【ハイモンキシタバ♂】

 
【同♀】

(以上2点共『世界のカトカラ』)

 

(2019.8.6 長野県上田市)

 
鮮度の良いものは前翅が銀色で、白灰色の紋が有るんだね。
下翅の黄色は明るく鮮やかで美しい。
ちなみに前回の採集記で書いたように激ヤラかしちまったので、手持ちの標本はこんなんしかない。

 

(2020.8.9 長野県木曽町)

 
来年は銀々にして、ギンギンの羽化したての奴を手ゴメにしてやろう。

さてとー、気持ちをリセットして解説を始めますかね。

前翅は灰褐色で腎状紋付近から前縁にかけて、比較的大きな白灰色の斑紋を有する。後翅中央黒帯と外縁黒帯は繋がらず、後翅は明るい黄色で翅頂の黄紋は明瞭。また北海道のものを除いて後翅外縁黒帯が下部で明確に分離する。頚部は樺色、胸部は灰色、腹部は褐色を呈する。
一見ノコメキシタバに似るが、前翅に灰白紋が有ること、後翅がレモンイエローで、外縁の黒帯が繋がらないことで判別できる。
補足しておくと、ノコメキシタバの後翅の色はオレンジ系統の黄色で、より外縁黒帯が太く、外縁近くまでぴっちぴっちに広がる。

 
【裏面】

(出典『日本のCatocala』)

 

(出典『garui.dremgate.nd.jp』)

 
(♀裏面)

(2019.8.6 長野県上田市)

 
裏面下翅の中央の黒帯はノコメと比べて細くなる傾向があるようだが、決定的な違いは何といっても外縁の黒帯にある。表と同じく途中で黒帯が分断されるのだ。また、他のカトカラと比べて外側の黄色い部分が淡く、白っぽく見える。但し、ノコメはそこが更に白く、下翅内側の黄色い部分とのコントラストが強い。
比較のためにノコメキシタバの画像も載せておこう。

 
(ノコメキシタバ Catocala bella)

(出典『世界のカトカラ』)

 

(2020.8.9 長野県木曽町)

 
よく見れば、両者にはかなりの差異がある事が解って戴けるかと思う。
ちなみに裏面の画像は飛び古した個体ゆえ、黒帯の色がかすれて薄くなっている。

 
【学名】Catocala mabella Holland, 1889

しかしネットで見ると、学名が違う。ほとんどのサイトが学名を「Catocala agitatrix mabella」としているので、まごつく。おいおいである。冒頭からいきなり躓いたんじゃないかと思ってビクついたよ。採集記のみならず、解説編まで蹉跌パターンとなれば目も当てられない。
しかし、落ち着いて考えてみると、小種名”agitatrix”に続く後ろに、件(くだん)の”mabella”がある。と云うことは元々は亜種名に使われていた言葉みたいだね。その”mabella”が亜種名から小種名に昇格して、”agitatrix”とは別種になったのではあるまいか。たぶん、それに間違いないかと思われる。

では、”Catocala agitatrix”とは何じゃらホイ❓
調べたら、わりと簡単に見つかった。どうやら大陸側にいる近縁種のことのようだ。

 
《Catocala agitatrix Graeser, [1889]》

(出典『世界のカトカラ』)

 
上部のロシア云々というデータはキララキシタバのもので、関係ないゆえ無視して下され。
特徴は前翅の灰紋が小さくて、黒い鋸歯線がぼやけてて不鮮明なことだろう。お世辞にも綺麗だとは言えないやね。
 
よく見れば、学名の記載年が括弧で括られているぞ。って事は、これは何かあった証拠だろう。(・o・;)あっ、記載者も別な人になってる。ようは記載年が括弧に入っているので記載後に記載年が変更されたって事❓
でもハイモンキシタバの記載年も1889年になってて同じ年だぞ。変更されたのならば、どっちかが別な年にならないといけないんじゃないのか❓
それに、ナゼに記載者名が変わっておるのだ❓ハイモンキシタバの従来の記載者名は”Graeser, 1889″となっているのだ。それが如何なる理由で”Holland, 1889″となったのさ。これはいったい何を意味してんのよ❓全然ワカンないや。謎ですわ。

和名は「ニセハイモンキシタバ」となっている。
分布は中国・ロシア南東部(沿海州)・朝鮮半島。海を隔ててはいるが、それに連なる地域だ。つまりは両者は元々は同種とされていて、後年に日本のものが別種として分けられたってことか…。それゆえ日本産は固有種となったと云うわけだね。まあ最初から薄々そう思ってたけどね。
あれっ❓だったら和名は”mabella”が後から分けられたんだから「ニセハイモンキシタバ」になるんでねぇの❓
でも今更和名をハイモンキシタバからニセハイモンキシタバに変えるのも妙な話だ。和名なんだから、そこまで厳密にする必要性はないし、変えたら混乱を引き起こすからデメリットはあっても何らメリットはないもんね。これでいいだろう。
何か学名を筆頭に全体的にモヤモヤするけど、突っ込めば迷宮世界に迷い込むこと必至なので、これ以上はアンタッチャブルじゃよ。

ハイモンキシタバと似るが、本種には前翅腎状紋周辺にハイモンほどの大きな白灰紋がなく、より小さいか消失するようだ。
また、前後翅裏面が全面黄色いことからも区別できるという。
裏面の画像を探そう。

 

(出典『gorodinski.ru』)

 
(・o・)あっ、確かに裏面は全面黄色いや。
あと、この個体は前翅の白灰紋が消失してるね。

成虫は6〜8月に見られるが、あまり多くないという。
食樹はハイモンと同じくバラ科リンゴ属だと判明しているようだ。その意味でもハイモンとは極めて近縁な関係にあるものと思われる。

亜種に以下のものがある。

 
◆Catocala agitatrix shaanxiensis Ishizuka,  2010


(出典『世界のカトカラ』)

 
中国の陝西省のものだ。
これも上部のデータは関係ないゆえ、無視して下され。
さておき、下翅の帯が細いね。他の特徴は原名亜種と同じに見える。

とはいえ、調べ進めるうちにワケワカンなくなってきた。
Wikipediaでは、”Catocala mabella”が”agitatrix”のシノニム(同物異名)扱いになってんだよね。
それにネットの『ギャラリー・カトカラ全集』では日本固有種と書いてあるのに、学名は”agitatrix”のままになってる。ワケわかめじゃよ(@_@) 本当のところは、現在どういう扱いになってるんざましょ❓

おっと、肝腎の学名の語源について書くのを忘れてたね。
ライフワークって程じゃないけど、学名の語源については極力知っておきたい。名前を付けた古(いにしえ)の人たちが、その種にどんな思いを込めて名付けたのか興味があるのだ。きっとそこには時代背景があり、各々に何らかの物語があろう。歴史を辿るようで、そこにロマンを感じるのだ。

属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり下翅が美しいことを表している。
小種名の「mabella」はラテン語読みだとマベラかな? 或いはマベッラだろう。感じとしては女性の名前っぽい。「bella」はラテン語の「美しい」の女性形だしね。そういや、ハイモンの学名は「Catocala bella」だったね。それって何か関連があんのかな?

mabellaで検索したら、最初に「美しい海」を意味すると出てきたので楽勝かと思いきや、mabellaではなく、綴りが微妙に違う「marbella」の事であった。
マルベーリャはスペイン南部のアンダルシア州の都市で、地中海に面し、コスタ・デル・ソル(太陽海岸)有数の保養地として知られている。そういえば、あっしもバイクでユーラシア大陸を横断した時に通ったよ。

次にヒットしたのは小惑星 mabella(メイベラ)。たぶん女性名っぽいから、発見した学者が恋人とか奥さんの名前を付けたのだろう。
他にないのかと探していたら、意外なものに行き着いた。
Cyrestis thyodamas mabella。何とイシガケチョウの亜種名に、この”mabella”がある。ヒマラヤ西部~中国に分布するものを指し、日本産もこの亜種に含まれる。
補足しておくと、屋久島以北のものを”kumamotensis”とする見解もある。また台湾産も亜種(ssp.formosana)とされる。
尚、原記載亜種はタイやベトナムにいるようだ。南限のマレー半島北部のモノはどうなるのかな?
『東南アジア島嶼の蝶』で調べてみっか…。
完全にパラノイアとかHSPだよな。これだから話が大幅に逸れて文章が長くなるに違いない。

 


(出典『東南アジア島嶼の蝶』)

 
この図を見ると、マレー半島北部のものも原記載亜種に含まれそうだね。

おっ、そうだ。イシガケチョウの画像を貼付しないとね。
勿論、アチキは蝶屋であるからして標本はあるのだが、探すのが面倒なので図鑑から画像をパクらせて戴こう。

 

(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
こうして改めて見ると、相当にエキゾチックだね。だからってワケじゃないけど、基本的にガッキーは好きだ。小さい頃は関西では和歌山とか紀伊半島南部にしかいなかったから憧れの蝶だったしね。

よし、これを足掛かりにして語源を探っていこう。
ここは先ず、いつもお世話になってる平嶋さんの『蝶の学名ーその語源と解説』に頼ろう。それが一番の近道の筈だ。

(。•̀ᴗ-)✧ビンゴ❗狙い通りだ。イシガケチョウの項からこの亜種の語源が見つかった。
それによると「女性名Mabella=Mabel。ヴィクトリア朝時代に好まれた名。」とあった。
納得いったような、いかないような微妙な気分だ。MabellaにしろMabelにせよ、その語源を調べなければ意味がなかろう。

さらに調べると、比較的簡単に見つかった。
メイベル(Mabel)とは、ラテン語の「愛らしい、魅力的な」と云う意味らしい。ハイモンキシタバが愛らしいかどうかはさておき、スッキリしたよ。まあ「魅力的な」と言われれば、そうとも言えるしね。

「agitatrix」もついでに調べとくか…。
これは語尾が「〜rix」となっているので、たぶんラテン語の女性形の一つであろう。

ウィクショナリーには「Constructed as latin agitatrix feminine of agitator.」と書いてあった。どうやら英語だけでなく、ラテン語にも「agitator」という言葉があるようだ。
agitatorは、英語だと「扇動者,運動員,攪拌器」という意味だから、意訳すると「ラテン語と同じ由来で、女性のアジテーター(扇動者)」ってこと❓

「〜rix」で検索すると、Viatrixとbeatrixというのが出てきた。
Viatrixは、ラテン語の女性の名前で「旅する女」という意味がある。viatorは「旅人」の女性形で、viaは「道」を意味する名詞からの変則的な派生形とあった。beatrixは(人を)幸せにする女という意味だ。
ここから”agitatrix”にも「〜する女」という動詞的な意味合いがあるのではないかと考えた。
けど、その「〜する女」の「〜」が分からない。何をしてる女なのだ❓

あてどないネットサーフィンをしても、以下のようなものしか見つけられなかった。
agitatores=agitator(御者(馬を操る人)、騎手)の複数agitatoresの対格とか、agitatr=運転者だとか、今ひとつジャストフィットするものがない。
agitatorのラテンの語源は、名詞のactio(英語でいうところのaction, doing)で、第3変化動詞 agere(=to set in motion(動かす), drive(走らせる,御する),forward(前へ)等)の完了受動分詞actusから派生した女性名詞だと言われてもなあ…。もう何のこっちゃかわかりゃせんよ。けど、わかりゃせんなりに意地で続ける。ウザいなと思った人は、この項は飛ばしてくだしゃんせ。でも、もう少しで終わるから、もちっと我慢しておくんなまし。

「actioとagereに関連するラテン単語には、acta,activus,actus,agilis,agitatio,agitare等があります。尚、agereの現在分詞は、agens(属格はagentis)であり、英語のagent(代理人)に繋がります。」

どうやら、これら運動と関連せしめる言葉の1つとしてアジデーターがあるという事らしい。いずれにせよ、難し過ぎてワシの足りない脳ミソでは、もうついていけんよ。

ここで一旦、原点に戻ろう。
agitatorの語源とも言える「agitate」は「扇動する,心をかき乱す,動揺させる,一人で苛々する,ゆり動かす,かき混ぜる,波立たせる,(盛んに)論議する,(熱心に)検討する,関心を喚起する」といった意味がある。
ならば、ここから良さげな言葉をチョイスして、agitatrixは「心をかき乱す女」「心を揺り動かす女」「心惹かれる女」と意味とはならないかね。これらならば、この学名が名付けられた理由としては得心がいく。
第一章の『銀灰の蹉跌』で書いたように、アチキもハイモンキシタバに心をかき乱されたのだから、もうマベッラは「心かき乱す女」でいいじゃないか。
(人´∀`)。゚アハハ…。こりゃ、完全にヤケクソ男のコジ付けだな。
あ~、やめた、やめた。アタマ、雲丹じゃよ。ここいらで限界だ。白旗です。誰か分かる人は教えてくんなまし。

 
【和名】
前翅に灰白色の紋があることからつけられたものと思われる。
こういう解りやすい和名はいいね。全くもって意味がワカランような和名は、和名をつける意味がない。そんなだったら潔く学名ほぼそのまんまの、例えばジョナスキシタバとかの方が余程いいと思う。

とはいえハイモンだと、ちょっと素っ気ないところがある。灰色よりも銀色を前面に押し出した和名も有りだったんじゃないかと思えなくもない。和名には、どこか色気があって想像力を掻き立てるようなものがいい。

 
【亜種】
■Catocala mabella mabella
本州のものが原記載亜種とされる。

■Ssp.kobayashii Ishizuka, 2010
北海道のものは後翅外縁の黒帯が分離しないものが多く、亜種として分けられている。

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
確かに僅かだが、黒帯が繋がっている。
亜種名の”kobayashi”は、蛾の研究者で小林という名字の人に献名されたものだろう。
まさか、マオくん(註1)の事だったりしてね。彼の名字は小林で、記載者の石塚さんとも懇意にしているみたいだからね。確かめたいところだが、こんな事で連絡するのも気がひける。何か重要な案件でもあれば、ついでに訊けるんだけど、んなもん無いし…。

 
【開張(mm)】
ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』だと58〜60mmとなっているが、『日本産蛾類標準図鑑』では56〜66mmとなっている。まあ、この範囲内と考えればいいでしょう。
意外と数値的に大きく思えるが、これは横に広い形だからだろう。表面積はそれほど広くはない。形的にはスッキリしてて、カトカラの中ではカッコイイ方だと思う。

 
【雌雄の判別】
♂は尻が細くて長く、尻先に毛が多い。♀はその反対であるからして大体の区別はつく。でも裏返してみるのが一番てっとり早い。

 

 
縦にハッキリとスリットが入っている。これがあって、この先から黄色い産卵管が覗いているか出ていれば、間違いなく♀だ。
カトカラの中には、このスリットが分かりづらい種もいるが、どうやらハイモンは分かりやすいタイプの側のようだ。

 
【分布】 北海道,本州(中部地方以北)


(出典『日本のCatocala』)

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
補足説明をしておくと、『日本のCatocala』は分布領域を示しているが、『世界のカトカラ』は県別の分布を示している。
どちらにせよ、今のところは愛知県尾張地方辺りが南限で、近畿地方以西では見つかっていない。
ノコメキシタバの分布のように東北地方から北海道南西部にかけての空白地帯は無く、東北地方の内陸部にも全県にわたって見られる。
引っ掛かるのは西限とされる福井県だ。県の蛾類目録では記録が有ることになっているが(具体的地名は無し)、福井市自然史博物館のPDFでは未記録になっていた。
但し、岐阜県揖斐郡藤崎村(現 揖斐川町)に記録がある。ここは福井との県境だから、福井県にも分布している可能性はあるだろう。

寒冷な高原地帯のズミによく発生し、以前は1000mを越える高原に多かったが、地球温暖化の影響か近年は減少しているという。
食樹を同じくするノコメキシタバとは共棲することも多いが、ノコメよりも遥かに個体数は少ないとされる。実際、ネットの画像も思いのほか少ない。
にも拘わらず、驚いたことにどの都道府県のレッドデータリストにも準絶滅危惧種にさえ指定されていない。環境省や各都道府県のその手の部署って、ホント糞だ。指定しなくてもいいものを指定して、指定すべきものを指定しなかったり、指定はしても、指定しただけで保護や環境保全はおざなりだったりって事も多い。
それはさておき、何で西日本には居ないのだろう。食樹であるズミは九州まで自生しているのにね。しばしば、東からきて近畿地方に入るとパッタリと分布しなくなる昆虫は見受けられるけれど、中国地方には分布するものは多いのだ。中国地方や兵庫県西部で見つかってもよさそうなものなのにね。冷涼な気候を好むからかな?と一瞬考えたが、濃尾平野の低地にも確実に棲息しているから、それだけでは説明できない。でも他に理由が全然思いあたらないよ。ものすご〜く謎だ。

 
【成虫の出現期】
低地では6月中旬から、高地では7月から出現し、8月下旬まで見られ、ノコメのように9月まで生きのびることはない。尚、新鮮な個体が得られるのは8月初めまでだとされる。

 
【生態】
寒冷地性で、標高1000〜1700mのズミの多い高原や渓谷など冷涼な気候の地で見られることが多いが、名古屋市内や尾張旭市の低地でも棲息が確認されている。

クヌギやヤナギなどの樹液に好んで集まるが、標高の高いところでの採餌行動は発生数に比べて少ないという。
他に成虫の餌として観察されているのは、花蜜(ヤナギラン)と果実(桃の腐果)。しかし、観察例は少ない。

糖蜜トラップにも誘引される。一度だけだが、自分のトラップにも飛来した(標高1250m)。尚、飛来時刻は午後8時15分だった。ゆえに樹液や糖蜜トラップに訪れる時間帯についての知見はない。幼虫がブナ科食のカトカラは日没後直ぐに集まるが、バラ科食のカトカラは一時間ほど遅れる傾向にあると思うのだが、バラ科食のハイモンくんはどうなのだろう?興味深いところだ。

灯火にも飛来する。但し、文献を見ても特に飛来時刻の傾向が書かれているものは無かった。
ちなみに2020年に木曽町で灯火に飛来した時刻はハッキリとは憶えていないが、午後9時半から10時台だったと云う覚えがある。

昼間、成虫はカラマツなどの樹幹に頭を下にして静止している。驚いて飛ぶと別な木に上向きに止まり、瞬時に姿勢を反転して下向きに変えるという。

交尾時刻は、深夜の11時から午前2時の間とされる。羽化して数日後から交尾、産卵を繰り返すものとみられており、ジョナスキシタバなどのように夏眠後からの産卵パターンではないようだ。

産卵例は、2001年8月6日の上田市の高原での記録がある。
日没後、♀が食樹であるズミを次々と渡り、樹皮下に産卵しているのが観察されている。

 
【幼虫の食餌植物】
バラ科:ズミ、エゾノコリンゴなどのリンゴ属。

本州ではズミが基本食樹のようだが、リンゴの台木として植栽された山麓のエゾノコリンゴにもよく付くという。また放置されたリンゴ園でも見られ、時に栽培されたリンゴからも幼虫が見つかることがあるそうだ。参考までに言っておくと、1例だけだがウワミズザクラから卵が見つかっている。ちなみに孵化幼虫に同じバラ科のウメやサクラの葉を与えても摂食しない例が多いと言われている。

 
(ズミ (酸実・桷) Malus toringo)

(出典『www.forest-akita.jp』)

 
高さ10mほどの落葉小高木で、リンゴに近縁な野生種である。
同じリンゴ属のカイドウやリンゴ、ナシ属に似ていて、古くからリンゴ栽培の台木として使われてきた事から、ヒメカイドウ(姫海棠)、ミツバカイドウ(三葉海棠)、ミヤマカイドウ(深山海棠)、コリンゴ(小林檎)、コナシ(小梨)など多くの別名がある。しかし、現在は台木とされることはあまりなく、マルバカイドウ(註2)に取って代わられているそうだ。

語源は樹皮を煮出して黄色の染料にした事から染み(そみ)が転化したもの、或いは実が酸っぱいことから酢実(すみ)が訛ったものとも言われる。

北海道から九州までの広い範囲に自生する。日のよく当たる高原や湿原を好み、時に群生する。
4〜6月にかけてオオシマザクラやカイドウに似た白い小花を枝いっぱいに咲かせる。咲き始めはピンク色を帯び、徐々に純白へと変化する。

 
(花)

(出典『Wikipedia』)

 
(若葉と花)

 
(夏葉)

(2点共 出典『庭木図鑑 植木ペディア』)

 
(幹)

(出典『ケン坊の日記』)

 
幹から直接生じる葉には切れ込みが入り、似たような木と見分ける手掛かりとなる。
小枝はトゲ状。材は硬く、斧や鉈などの柄に使われる。また樹皮は前述したように染料にもなるが、明礬などを加えて絵の具にもする。

 
(実) 

(出典『庭木図鑑 植木ペディア』)

 
9月~10月にかけて小さいリンゴのような赤または黄色の実を付ける。実は酸味が強いが、霜が降りる頃には多少の甘みが出てくるので生食のほかジャムや果実酒に用いることができる。中に含まれる種を撒くと発芽する率は高い。

盆栽などで知られるヒメリンゴは、ズミとセイヨウリンゴの雑種とされる。しかし、人工的に作られた園芸品種であり、天然の分布はない。

 
(エゾノコリンゴ(蝦夷小林檎) Malus baccata)

(出典『四季の山野草』)

 
(花)

(出典『greensnap.jp』)

 
(葉)

 
(樹幹)

 
(実)

(以上3点共 出典『四季の山野草』)

 
分布は北海道、本州(中部地方以北)で、ズミとは近縁。
和名はリンゴよりも実が小さく、北海道に多く産することに由来するという。別名サンナシ、ヒロハオオズミ。
主に山地〜海岸の湿地とその周辺に生え、5〜6月頃に白い花を付ける落葉の小高木。高さは8~10mになる。秋には1cm足らずの赤い実を沢山付ける。

材質は重くて硬く、割れにくいために斧、鍬などの柄に用いられたという。また、ズミと同じく嘗てはリンゴの台木としても用いられた。
ズミとの違いは葉で、ズミには葉の中に3~5裂するものが混じるが、エゾノコリンゴの葉は裂けないことで見分けられる。

ここで緊急的に文章をブチ込む。
追伸まで全部書き終え、さあ最終チェックという段階で、たまたまTVで『ブラタモリ』を見てたら、高尾山の樹林相(落葉広葉樹と常緑広葉樹の分布)の話になった。落葉広葉樹は冷たい気候を好み、常緑広葉樹(照葉樹)は暖かい気候を好むとかそんな話だ。常緑広葉樹は確かにそうだが、落葉広葉樹は例外だらけやんけと思ってたら、説明のための植生図が出てきた。
こんな風な図だ。

 

(出典『雑木林の遊歩道』)

 
それを見て驚いた。落葉広葉樹の植生とハイモンキシタバの分布図がソックリじゃないか❗
この図では濃いグリーンが常緑広葉樹、黄緑色が落葉広葉樹の分布を表している。
さらに驚いのは2つの広葉樹の分布は年平均気温が約13℃を境に分かれていて、13℃以上は常緑広葉樹、13℃以下は落葉広葉樹となると解説されていたことだ。この13℃云々というのは目から鱗だった。何となく感じてはいたが、こうして具体的な数値をあげられると、にわかにリアルなものに見えてくる。
ならば当然、ズミの西日本での分布は限られてくると想像される。上図でも西日本の黄緑色に塗られた地域はかなり狭い。

と云うワケで、ちゃんとズミの分布を調べてみたら、西日本では産地が内陸部の高地に限られ、数も少ないことが明らかになってきた。
となれば、ハイモンキシタバが西日本で見られない理由も自ずと解ってくる。食樹の分布が重要なファクターだからだ。
ハイモンが中国地方あたりで発見される可能性はゼロではないが、寒冷地性なので居るとしても山頂に近いごく限られた場所でしか生き延びられないだろう。勿論、食樹があっての話だ。
100%納得したワケではないが、自分の中では一応の解決にはなったかな。

 
【幼生期の生態】
例によって幼生期に関しては今回も『日本のCatocala』におんぶに抱っこである。西尾さん、いつもすいません。

 
(卵)


(2点共『日本のCatocala』)

 
円盤状で、受精卵の色彩は黒褐色ないし茶褐色。横に走る斑紋は黃白色で、ケンモンキシタバの卵に似る。
食樹の薄い表皮や樹皮の裏に1個から2、3個、稀に5〜6卵ずつ産付される。根元の苔にはあまり産卵されない。反対に食樹を同じくするノコメは、この苔の部分で卵がよく見つかるという。
但しハイモンとノコメは食樹が同じで見た目が似ていることから兄弟の如く並べて語られる事が多いが、種としての両者は系統的には掛け離れているそうだ。

 
(1齢幼虫と2齢幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
左側が1齢、右が2齢幼虫。
孵化期はかなり早く、上田市の標高500mでは4月上旬。終齢の5齢幼虫は5月中旬には見られる。尚、終齢は標高1000mでは5月中・下旬、1200〜1500mでは5月下旬から6月上旬に見られるそうだ。何れの産地でも同じくズミを餌とするノコメキシタバよりもよりも幼生期が1週間程度早く推移する。

幼虫は葉の他に花や蕾も摂食する。
比較的若い木を好み、樹齢40年以上の古木にはあまり見られない傾向があるそうだ。

 
(5齢幼虫)


(出典『日本のCatocala』)

 
5齢幼虫の昼間の静止場所は地表近くの枝や樹幹。時に地表で見つかることもあるという。

色彩変異は顕著で、寒冷地では白化して側線の模様が黒く目立つ個体がよく見られる。ノコメキシタバの白化した個体と識別が困難な場合もあるが、頭部の斑紋で判別できる。

 
(終齢幼虫頭部)

  
(ノコメキシタバの頭部)

(出典 2点共『日本のCatocala』)

 
カトカラの幼虫の同定には、この顔の模様がかなり重要みたいだね。確かに全然違う顔だわ。

幼虫の天敵として、Winthemia cruentataという寄生蝿が記録されている。他に天敵として考えられるのは、鳥を筆頭にスズメバチ、寄生バチ、クモ、サシガメ等が考えられるが、特に記録は見当たらなかった。

蛹は知る限り野外では見つかっていないが、飼育しても丈夫な繭を作らない事から、おそらく落葉の下などで蛹化するものと思われる。

                        おしまい

 
追伸
前回の追伸(の追伸)でも書いたが、ハイモンキシタバについては、いつものように複数回ではなくて1回のみで終える予定だった。実際、この解説編も含めて順調に書き進め、一応の完成はみた。しかし、いざ発表の段になって最終チェックのために読むと、これがクソみたいに長い。特に学名の項などは迷走しまくりで、エンドレス状態なので2回に分けることにしたってワケ。

にも拘らず、その原因となった学名について再び書く。
“agitatrix”の語源が消化不良なまま終わり、どっか心の隅っこで気になっていた。なので図書館へ行き、ラテン語の辞書で調べ直してみることにした。我ながらシツコイ。
『羅和辞典』には、agitatrixという単語そのものは載っていなかった。載ってたのは agitatorと、その他どちらかというと動的な意味のものが並んでいた。
もう面倒くさいので画像を貼り付けちゃえ。画像を指でピッチアウトすると拡大できます。

 

 
これらを見ると、agitatrixは何らかの能動的なアクションを表している言葉だろう。

一応、agitatorの部分を拡大しておこう。

 

 
動物を駆る者❓一瞬、猟師かいなと思ったけど、後ろに農夫と出てきたので牛だの馬だのを操る人なのだと解った。それにしても戦車のドライバーとはね。これが語源だったら、相当面白いや。

どうやら「agitator」の起源は、「agito」と云う言葉らしい。アジト❓ 秘密基地かよ。
意味は以下のとおりである。

 
 
(出典 以上4点共 研究社『羅和辞典』)

 
これらのどれかが学名の語源と関係するのだろうが、やはり特定は出来ない。結局、明白な答えには行き着けなかったね。ハイモンには蹉跌つづきだったってワケだ。敗北感、濃いわ。

 
(註1)マオくん
ラオス在住のストリートダンサーであり、蛾の研究者でもある小林真大くんのこと。蛾界の若きホープで、一言で言うなら虫採りの天才だ。ネットで「小林真大 蛾」で検索すれば、彼のInstagramやTwitterにヒットします。

 
(註2)マルバカイドウ

(出典『土の中の力持ち』)

学名:Malus prunifolia var. ringo。
中国北部・シベリア原産のバラ科リンゴ属の耐寒性落葉高木。
イヌリンゴの変種で白紅色の花を咲かせる。花が咲いた後に林檎に似た小さな赤い実を付けるが、あまり食用には適さない。
セイシ、キミノイヌリンゴ等の別名がある。

 
ー参考文献ー

◆西尾規孝『日本のCatocala』
◆石塚勝己『世界のカトカラ』
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑』
◆平嶋義宏『蝶の学名-その語源と解説』
◆塚田悦造『東南アジア島嶼の蝶』
◆白水隆『日本産蝶類標準図鑑』

インターネット
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆ギャラリー・カトカラ全集
◆Wikipedia
◆庭木図鑑 植木ペディア
◆四季の山野草

 

2019’カトカラ2年生 其の五

 
    vol.22 ハイモンキシタバ

   『銀灰(ぎんかい)の蹉跌』

 
 
2019年 8月6日

白馬で3連続惨敗に終わり、別な場所で何とかミヤマキシタバを採って溜飲を下げた。しかし、翌日には松本市でナマリキシタバを狙うも、かすりもせずで再び惨敗を喫した。
ナマリとはメチャメチャ相性が悪い。このままでは再び悪夢のような流れになりかねないので、スパッとリベンジを諦め、この日は上田市へと移動することにした。

電車だと不便そうなので、バスを選択する。

 

 
平日とはいえ、車内はガラガラだった。
途中、ナマリキシタバの産地として知られる三才山を越えて、上田盆地へと入る。

1時間半ほどで上田駅前に到着。

 

 
時刻は昼過ぎ。目的地行きのバスにはまだ時間があるし、昼飯でも食おう。

長野と云えば蕎麦である。ここ上田も蕎麦で有名だ。
観光案内所で、お薦めの蕎麦屋を幾つか教えてもらう。
で、吟味した結果、安くて量が多く、一番流行っているという店へ行くことにした。

 

 
結構、行列が出来ていた。
並ぶのが死ぬほど嫌いな男だが、せっかくここまで歩いてきたし、上田に来るのは初めてで、この先来ることなど滅多とないだろうから我慢して並ぶことにした。

 

 
意外と列は進み、思ってたほど待たなくとも済んだ。

 

 
店内はレトロな感じで好ましい。

 

 
周りの人たちに目を向ける。食べているのをチラッと見ると、田舎そばって感じだ。

 

 
メニューを見る。
ここは矢張り王道の、もりそばだろう。蕎麦といえば、もりそはに決まってんである。
650円也のもりそば(中)をたのむ。長野県にしては良心的な価格設定だ。
 
ハイハイ、きましたよ〜。

 

 
つゆと薬味の設(しつら)えも良い感じだ。期待値が跳ね上がる。

 

 
しかれども、何だかボソボソしてて全然旨くない。麺の太さもバラバラだ。素朴で野趣あふれる感じは嫌いじゃないが、それも旨いという前提があってこその話だ。
ブッちゃけ言っちゃうと、長野で蕎麦食って旨かったためしが一度もない。その上、高い店が多いから腹が立つ。関西人としては、福井のおろし蕎麦や兵庫は出石の皿そばを擁護したくもなる。
小太郎くんも同意見で、この件に関してはいつも文句タラタラだ。その憤りはワシなんかよりも遥かに強く、もう憎悪と言っても差支えないくらいだ。普段、食いもんに文句を言わない人だけに、その怨みは極めて深い。

いったい何があったのだ❓小太郎くん❗

理由は知ってるけどさ(笑)。

これで何か悪い予感がするなと思ったら、案の定、店を出たら天気は下り坂になっていた。
そして、バスに乗ったら、風雲、急を告げるってな感じになってきた。行き先はどうみてもヤバヤバの黒雲ワールドだ。

 

 
おいら、スーパー晴れ男なのに何で❓ポロポロ( ;∀;)
白馬村で辛酸を舐め、大町市で何とか持ち直して、この地へと移動してきた。なのに又しても地獄の輪廻の再開かと思うと、戦々恐々だよ。

1時間近くバスに揺られ、午後4時前にバスを降りる。
歩き始めると、雨がポツポツと落ちてきた。これは強くなるなと思ったら、案の定、すぐに本格的に降ってきた。
慌てて出荷作業中のレタス農家に飛び込み、雨宿りさせてもらう。長野県民、特に北側は不親切な人が多いけど、スタッフは皆さん親切で色々気遣いして戴いた。ありがとうございました。

雨がやんだら、急速に晴れ始めた。スーパー晴れ男の面目躍如である。基本、強く願えばワシの居るところは晴れることになっとるのだ(笑)。

ここはラグビーの夏の合宿地としてファンならば誰しもが知っている裏の聖地とも言える地だ。
ゆえに、ポイントと決めた場所には沢山の若きラガーマンたちが夕暮れまでマジ走りでランニングをしていた。
たぶん高校生だろう。地獄の合宿ってところだ。
Ψ( ̄∇ ̄)Ψケケケケケ…、血ヘドを吐くまで走りなはれ。それも時間が経てば、悪い思い出じゃなくなるんだからさ。

そういうワケで、キッチリ歩いてポイントの概要は下調べしておいた。

 

 
狙いはノコメキシタバとハイモンキシタバ、そしてケンモンキシタバである。
ノコメ、ハイモンの食樹のズミ(バラ科リンゴ属)とケンモンの食樹ハルニレ(ニレ科)の木は既に確認済みである。ミヤマキシタバで溜飲を下げ、流れも良くなってきてる。本日もミッションを遂行して凱歌をあげるつもりだ。まあまあ天才が調子に乗ったら、連戦連勝は当たり前なのだ。
Ψ( ̄◇ ̄)Ψおほほ星人が見える時は強いぜ、バーロー。

学生たちは去り、辺りは闇に包まれようとしていた。
さあ、戦闘を開始だ。ズミが多くあるところとハルニレだと思われる大木の周りに糖蜜を吹き付けてゆく。

午後7時半。日没後さして間もなく糖蜜にノコメキシタバがやって来た。幸先がいい。
とっとと採っての、とっとーとで勢いをつけて、そのままエンジン全開といこうぜ。マホロバ発見の呪いだと揶揄する秋田さんや岸田先生の期待を何が何でも裏切らねばならぬ。再び笑い者にされるのは御免蒙りたいのじゃよ。ここからは連戦連勝といこうじゃないか。

しかし、網を組み立てて、よっしゃ行くぞと気合を入れて見たら、忽然と消えていた。
……(。ŏ﹏ŏ)、嘘だろ❓マジかよ❓

おいおいだが、反応があったのは一安心だし、そのうち又飛んで来るじゃろうて。どんまいどんまい、Don’t mind.

取り敢えずは糖蜜を撒いた各所を巡回する。
次に飛んで来たのは8時15分だった。同じ木だったし、さっきのノコメが戻って来たのだろうと思った。しめしめである。
しかし何かさっきのとは、ちょっと違うような気がする。
💡ピコリン。😲あっ、ハイモンかあ…。ホントはノコメが一番欲しいんだけど、ハイモンも採ったことないし、まっ、良しとすっか…。

毒瓶を被せるか、網を使うか迷ったが、一応さっきの事もある。また逃すのは嫌だし、早く初物は何でもいいから採っておきたかったので網を選択する。ゼロと1とでは心の有りようが天と地ほどの大違いなのだ。さっさと採って、一刻も早く心を落ち着かせたい。

慎重に距離を詰め、止まってる下を網枠でコツンと軽く叩く。驚いて飛んだところを瞬時に振り抜く💥。
斜め斬り光速剣ハヤブサ❗
(. ❛ ᴗ ❛.)へへへ、決まったな。

 

 
フラッシュ焚いたら、羽が銀色に輝いた。
でもベタで斑紋にメリハリがないな。それに、けっこう素早く取り込んだつもりだったが、背中の毛を剥げチョロケにさせてしまった。(´-﹏-`;)何だかなあ…。
どうせまた飛んで来るだろうし、まっいっか。

裏返してみる。

 

 
たぶん♀だ。
裏面の外側は黄色が薄くて白っぽいんだね。カトカラではあまり見たことのない裏面かもしれない。
マオくん(註1)は時期的にハイモンは厳しいんじゃないですかね。採れても激ボロですよと言ってたから、ちょい嬉しい。
後で報告したら、お褒め戴いた。でもケンモンキシタバだと思ってた奴がワモンだと指摘されて、スゲー恥かいたけど(笑)。

結局、この日飛んで来たのは、まさかのコヤツ1頭のみだった。
まっ、いっか…。深夜ギリギリになって何とか目的のノコメキシタバが採れたしね。

しか〜し、やっちまったな(-_-;)

撤退する前に何気に戦利品を確認したら、なぜか採った筈のハイモンが無い。

無いっつったら、無いっ❗❗

もしや神隠しにでも遭ったのだろうか❓
ヽ((◎д◎))ゝもうパニック寸前てある。

ここで漸く思い当たる。
写真を撮ったあとに蘇生しそうな感じだったので、もう一度毒瓶にブチ込んだような気がする。もしかして、それを回収してなかったりとかして…(-_-;)
恐る恐る左ポケットから、今回あまり使ってなかった毒瓶を取り出す。

😱NOー❗、ガッデーム❗❗

あろう事か、同定できない程にボロッボロッになっていた。
たぶん歩きまくってたから、毒瓶の中でウルトラシャッフルされたのである。
〇¶〆〓§⊿∞✤□➷✫✘ドギャぶぎゃわ、痛恨の失態なり。

 
ぽ〜い(┛◉Д◉)┛彡┻━┻

怒りに任せて捨ててやってまっただよ。
ゆえに標本は無い。大いなる蹉跌だね。写真は撮ってあるから採ったと云うせめてもの証明にはなるが、大ボーンベッドだ。まあ、ノコメじゃなかったからいいか…。
しかし、これもまた大いなる間違いであった。正直この時点ではハイモンよりもノコメの方が珍しいと誤解してたし、上翅もノコメの方が複雑でハイモンはベタでツマラナイと思ってた。だから、のちに小太郎くんに「鮮度の良いハイモンはギラギラのシルバーでめっちゃカッコイイですよ。」と言われた時は焦った。それにノコメよりも下翅が鮮やかな黄色で美しいことも失念してた。当時は上翅ばかりに目がいってて、下翅をロクに見てなかったし、展翅もしてないから気づかなかったのだ。銀灰の蹉跌である。

だから、2020年は密かに完品を名古屋方面で狙っていた。
現地の交通の便も良さそうだし、大阪からは一番近いからサクッとリベンジしてサクッと帰ってこようと思ってた。しかし連日クソ暑いし、何やかんやとあって、その機をいつの間にか逸してしまっていた。

8月に長野県に行った時に灯火採集の外道で採れたから、一応その時の個体の写真を貼っ付けておく。

 

 
同じ個体を手の平に乗せてみる。

 

 
よりみすぼらしく見えるや(笑)
腹が細長いので♂だすな。
次の個体も♂だった。
 
 


(2020.8.9 長野県木曽町)

 
8月のものだから鮮度は当然良くない。
つーか、標高は1300mくらいあったのに両個体とも酷い有様でボロッボロだ。みすぼらしい事、この上ない。やっぱマオくんの言ってたとおりだね。7月中旬辺りに狙いにいかないとギンギラギンのには会えないってワケやね。
そう考えると、あの2019年唯一のハイモンの鮮度は時期的にみれば、かなり良かったということになる。返す返すも痛恨の極みである。

一応、展翅はした。
個体の順番は上の横向きの画像と同じである。

 

 
まあ、こんなもんじゃよ。
上の個体の上翅なんて銀灰色がほぼ消えて、そこだけ見たら何者かワカランくらいに小汚くて、辛うじて下翅でハイモンだと解るというレベルだ。
そうゆうワケで、情けないことにまともな展翅写真がない。
仕方がござらんので、次回の解説編は画像をお借りして話を進めてゆきます。ぽてちーん(T_T)

                         つづく

 
追伸
今回はワモンキシタバの続編『False hope knight』の文章を一部抜粋して使いました。そのワモンの続編では、このあと更にフザけた文章になっていきます。興味がある方は、そちらも併せて読んで下され。
また、この採集記の部分は前回のミヤマキシタバや次回のノコメキシタバの回にも連なっている。そして、ひいては過去のベニシタバの回や今後登場するカトカラにも連なってゆくものと思われる。謂わば隠れたシリーズものなのだ。

ちなみにタイトルの中の銀灰(ぎんかい)という言葉は世間的には馴染みが薄いが、実際にある色(銀灰色)で、文字通り銀色を帯びた灰色を指す。英語でいうところのシルバーグレーのことですな。ハイモンキシタバの上翅にはピッタリだと思って使用した。
蹉跌の方は分かると思うし、これ以上精神的にエグられるのも嫌なので割愛させて戴く。ワカンない人は自分で調べましょうね。
クソッ、何だか思い出してきて、沸々と怒りが込み上げてきたよ。来年はボッコボコにシバいちゃるからね。

 
追伸の追伸
実をいうと、今回は一回のみで終える予定だった。実際、次の解説編も含めて順調に書き進め、一応の完成はみた。しかし、いざ発表の段になって最終チェックのために読むと、これが長い。学名の項などは迷走しまくりで、エンドレス状態だ。
なので、2回に分けることにしたってワケ。

 
(註1)マオくん
ラオス在住のストリートダンサーであり、蛾の研究者でもある小林真大くんのこと。蛾界の若きホープで、一言で言うなら虫採りの天才だ。ネットで「小林真大 蛾」で検索すれば、彼のInstagramやTwitterにヒットします。

 

2019’カトカラ2年生 其の四(2)

 
   vol.21 ミヤマキシタバ 第二章

   『灰かぶりの黄色きシンデレラ』

 
前後逆の順番で書いた2020年版の第三章を含めて今まで長々と書いてきたが、やっとこさクロージングの種解説編である。

 
【ミヤマキシタバ Catocala ella ♂】

 
【同♀】


(以上4点共 2019.8.4 長野県北部)

 
今年採った2020年の♀の画像も加えておこう。

 

 
何か微妙に写真が縒れて撮れてるなあ。撮り直して、もっと拡大しよう。

 

(2020.8.4 長野県木曽町)

 
コチラの♀は下翅の内縁部が、あまり黒くなっていないね。
こっちの方が美しい。やはりカトカラは下翅の色の領域が広い方が綺麗やね。

図鑑等による形態解説を総合すると以下のようになる。

「前翅は僅かに緑色を帯び、中剣紋は黒くて明瞭。亜外縁線が灰白色の帯状となる。後翅は濃い黄色で、内外の黒帯は共に外縁とほぼ平行して走り、中央黒帯は外縁黒帯と繋がらない。外縁に沿う黒帯の幅は太く、中央の黒帯は細い。また、帯は中央付近で殆んど折れ曲がらず、滑らかな曲線を描く。後翅第1室中の黒帯は不明瞭で、翅頂紋は黄色、もしくは白くなる。」

コレって普通の人から見れば、難解過ぎて何言ってんのかワカンないよね(笑)。ワシだって画像なしの文章のみだけなら、何のこっちゃ(@_@)❓の人になりそうだ。
ようは簡単に書くと、他の下翅が黄色いカトカラと比べて、下翅の内側の黒帯が基本的に馬蹄形(U字形)にならない。上翅は丸みのある翅形で、灰白色の帯が目立つ。以上のような特異な特徴から見分けるのは容易である。

とはいえ、馬蹄形とかU字形だって何のこっちゃかワカランか…。一応、画像を貼り付けとこ〜っと。

 
(コガタキシタバ)

(カバフキシタバ)

(ゴマシオキシタバ)

(ジョナスキシタバ)

(クロシオキシタバ)

(ワモンキシタバ)

(キシタバ)

(マホロバキシタバ)

 
内側の帯の形の事を言ってるんだけど、こんなに並べてどうする。パラノイア(偏執狂)かよ。もしくはロンブーの淳がカミングアウトしたHSP(註1)か❓とにかく、ええ加減これくらいでやめておこう。
まあ、コレで下翅が他のキシタバ類とは全然違うことは理解して戴けるでしょう。

 
【♀裏面】

(2019.8.4 長野県北部)

 


(2020.8.4 長野県木曽町)

 
野外では何故か2019年、2020年共に♀の裏面写真しか撮っていない。
『日本のCatocala』に図示されてるものも、どうやら♀みたいだ。

 

(出典『日本のCatocala』)

 
しゃあねぇなあ。既存の標本を裏返して撮ろっと。

 
【♂裏面】

(2019.8.4 長野県北部)

 
今までブログに画像を出してない個体だけど、1年経って触角が狂っとる。カトカラって、展翅が狂いやすいからウザい。

裏面の一番の特徴は下翅の真ん中の黒帯が外側に膨らまない事だろう。あとは外縁部の斑紋の黄色が淡くて白っぽく見えがちだ。似た特徴のカトカラも居ないワケではないが、表の斑紋や大きさなどを総合すれば容易に判別できる。だから、わざわざ裏まで見て同定する必要性のないカトカラだ。
とはいえ、ブログ内で再三再四言っているけど、カトカラの裏面、ひいては蛾類全般に関して裏面は重要かと思われる。各種を同定するにあたり、重要なファクターだからだ。しかし、図鑑を筆頭に他の媒体でも図示されてないことが多い。裏面が全種ちゃんと載ってるのは『日本のCatocala』だけである(出版当時には未記載だったキララキシタバとマホロバキシタバは除く)。ネットだと『みんなで作る日本産蛾類図鑑』が約3分の2くらいを載せているくらいだ。蛾全般を載せた図鑑は種類数が多いから仕方のない面があるとは思うが、ネットまでそれに準ずる必要性は無かろう。にも拘らず、図示されてないものばかりなのは首を傾げざるおえない。裏が軽視され過ぎだよ。せめて科や属単位の図鑑くらいは裏面を載せれるだろうに。それって、裏面が軽視されてる証拠じゃねーの❓
そういえば、ネットだと雌雄が明示されていないものも多い。生態写真は難しい面はあるとは思うが、可能な限り♂か♀かを表示すべきだろう。ヨシノキシタバなんて、生態写真でも雌雄の区別はつくだろうに。
ついでだから、次に雌雄の判別の仕方も書いておく。冒頭の画像を見て比べられたし。

 
【雌雄の判別】
♂は♀と比べて腹が細くて長く。尻先に毛束がある。反対に♀は腹が太くて短めで尻先の毛が少ない。また裏返すと♀には尻先に縦のスリットが入り、産卵管が見える。表側だが冒頭の上から3番目の手のひら写真には尻先から産卵管が出ているのが見える。ちなみに3番目の♀と4番目の♀は別個体です。
あと、あんまし多くの個体を見たワケではないけど、私見だと♂と比べて♀の上翅の方が黒い部分と白い部分とのコントラストが強く、メリハリがあるように思える。
図鑑『世界のカトカラ』の図版もそうゆう傾向が見られるしさ。

 

(左♂で右が♀。)

 
とはいえ偶然かもしんないし、繰り返すが、あくまでも私見ですけど…。

 
ネットの『ギャラリー・カトカラ全集』に拠ると、以前はかなりの珍品だったそうだが、食樹が判明してからは各所で採集されるようになったという。しかし今でも採集するのが難しいカトカラの一つであるとしている。おそらく分布が局所的で、灯火に飛来する時刻が夜半過ぎになることが多いゆえだろう。あとは生息地でも個体数が少ないと聞いたことがあるから、それも得難いものと言われる所以かもしれない。

 
【学名】Catocala ella Butler, 1877
記載者はバトラー(註2)で、日本のものがタイプ産地になる。つまり最初に日本で発見されたカトカラと云うワケだ。
ちなみに記載地は「yokohama」となっている。いくら当時はまだ自然が残っていたとはいえ、分布的にも横浜にミヤマキシタバが居たとは考えられない。だからこれは単に古い時代ゆえの便宜的なものだろう。ブツが横浜から送られてきたとかさ。

小種名の「ella」は英語圏の女性名で、”美しい妖精” という意味があるそうな。
女性名かあ…。女性でエラと云えば、パッと浮かぶのはジャズ歌手のエラ・フィッツジェラルド(1918~1996年)くらいか…。他に聞かない名前だし、あまりポピュラーな女性名ではないようだね。

他の虫の名前から語源を探ってみようと思って調べたら、ミヤマキシタバ以外にも同じ学名が使われているものが幾つかあった。

Hypena ella ソトムラサキアツバ
Orthosia ella ヨモギキリガ

(´ε` ) 蛾ばっかじゃん❗と思ってたら、蝶もいた。

Nephargynnis anadyomene ella(Bremer,1864)。
わりかし好きなクモガタヒョウモンの亜種名に使われているようだ。クモガタちゃんは関西では少ない種なので結構思い入れがある。中々♀が採れなくて、随分と苦労したっけ。

 
(クモガタヒョウモン)

(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
“ella”はロシア南東部を基産地とする亜種に宛がわれた学名のようだ。
因みに日本産は、Ssp.midas(Butler,1866)と云う別亜種とされている。おっ、コヤツもバトラーの記載だね。
でも、朝鮮半島〜ロシア南東部までの個体と区別できないことから、亜種ellaに含めるべきだとする研究者もいるみたい。

調べ進めると、予想外の”シンデレラ”と云う単語が出てきた。
シンデレラといえば、カボチャの馬車とかガラスの靴のあのシンデレラだよね。(・o・;)えっ❗❓、何でシンデレラなの❓正直そう思った。意外な展開になってきたぞ。
更に驚いたのはシンデレラの語源だ。シンデレラの綴りは英文表記の”Cinderella”と云う一つの固有名詞ではなく、本来的には”Cinder Ella”で、2つの言葉から成るものらしい。どうやら「Cinder=灰」という言葉に「ella」という女性や子供を表すときに付ける接尾語がついたものみたいだ。直訳すると「灰かぶりのエラ」、もしくは「灰まみれのエラ」。シンデレラの本当の名前は、エラちゃんだったんだね。
そして”Cinder Ella”には、シンデレラそのものを指すこと以外にも「灰かぶり姫」「隠れた美人」「隠れた人材」「継子扱いされる人」などの意味がある。
考えてみればミヤマキシタバの特徴の一つは、その灰色の渋い上翅にある。また「隠れた美人」ってのもミヤマキシタバらしい。もっと下翅が鮮やかでインパクトの強いムラサキシタバやベニシタバの鮮やかさの前では目立たないし、下翅が黄色いキシタバ系の中では充分美しいとはいえ、ヨシノキシタバやナマリキシタバの上翅の複雑な美しさの前では影に隠れてしまうところがあるからだ。謂わば「秘して花」的なところがあるのだ。そう云う意味でも”Cinderella”ならば、納得のネーミングだ。
もしもバトラーがミヤマキシタバの学名をシンデレラと掛けて名付けたのだとすれば、とっても心憎いネーミングではないか。

でも所詮は蛾だし、見てくれからも、
「シンデレラ❓どこがやねん❗」
なんてツッコミを入れる向きも有りそうだ。
けれど、もしも疑問に思って語源を調べてみたら、その意図するところに行き着くと云う仕組みならば、ちょいと粋じゃないか。ミヤマキシタバが灯火にやって来るのは午前0時前後だしね。あっ、でも逆かあ。シンデレラは午前0時までにはお家に帰らなければならないからね。
ヽ(`Д´)ノえーい、この際どっちゃでもええわい❗誰しにも心理的大きな分岐点となる特別な時刻である午前0時が重要なファクターになってんだからいいじゃないか。
常々思うのだが、ネーミングにはミステリアスな要素とストーリー性が必要だと思う。意味があるからこそ、動き出す物語はあるのだ。
奇しくも、書いてる今は丁度午前0時だ。酔っ払っているとはいえ、魔法の時刻がこんな事を書かせるのかもしれない。

スゲー妄想だ(笑)。ちょいと冷静になったところで、重大な事に気づく。
“ella”も”Cinderella”も、考えてみれば英語だわさ。学名はラテン語由来が基本だから、この仮説の可能性は低いわ。でもバトラーは英国人だぞ。可能性はゼロではないと思うんだよね。それでもこの仮説にはかなり無理があるとは思うけど…。
あ~、別な意味での午前0時のマジックに惑わされとるやないけ。深夜に文章を書くもんじゃないや。

無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ー❗❗


(出典『ピクシブ百科事典』)

 
大いなる無駄な思考に、ディオのザ・ワールド(註3)ばりの無駄無駄ラッシュをしちまっただよ。イチからやり直しだ。

ラテン語で「ella」を検索しても、出てくるのは「〜ella」で「小さい」を意味する女性接尾語というのしか出てこない。こんなのを学名につけるワケないから✕だ。

他にはスペイン語の「ella(エジャ)」くらいしかヒットせえへん。意味は「彼女が、彼女は」。スペイン語はラテン語から派生したものだから可能性は無くはないけど、ピッタリって感じじゃない。学名に「彼女が」とか「彼女は」は無いっしょ。名付ける意味が、意味不明だよ。

となると、最後は女性の名前と云うことか?…。
もしかしたら、バトラーの彼女とか奥さん、姉妹、娘に献名されたものではないか❓
いや待てよ。それならば学名の最後に「ellae」と語尾に「e」が付く筈だよね。

🎵謎が謎呼ぶシンデレラ〜で「💀死んでれら」。
ホールドアップ。降参だ。
王子様はシンデレラを見つけられたのにね。オジサンはella荒野を彷徨い、おっ死んだよ。

やれやれ。前半から早くも大コケだ。先が思いやられるよ。

 
【和名】
ミヤマキシタバのミヤマとは深山の事だろうが、正確な命名由来は不明。おそらく最初に見つかった場所が深山幽谷だったのだろう。
と言いたいところだが、このミヤマと云う言葉、曲者である。日本ではミヤマと名のつく昆虫は割りとあって、ミヤマクワガタ、ミヤマカラスアゲハ、ミヤマシジミ、ミヤマカラスシジミなどがいるが、何れも深山幽谷に限定して生息しているワケではないからだ。取り敢えずミヤマと付けとけば、深山幽谷に棲む珍しい種と云うイメージがあって格が上がるから付けちゃえと考えたとしか思えないところもある。
とはいえ、この問題は面白そうだ。深堀りすれば、何らかの驚愕の事実が分かるのではないだろうか❓
しかれども、我が嗅覚がズブズブの泥沼を感じている。よって今回はパス。もうウンザリなのだ。これ以上長くなるのは極力避けたい。この件に関しては何れまた稿を改めて書くことになろう。
ゴメン、テキトーに言ってます。書くか書かないかと問われれば、7対3で書かないと言っちゃうと思う。

 
【亜種と近縁種】
亜種には以下のようなものがある。

◆ Catocala ella ella Butler, 1877
図示した日本のものが原記載亜種となっている。

 
◆ Ssp.nutrix Graeser、1889
分布 沿海州(ロシア南東部)、朝鮮半島、中国北東部


(出典『世界のカトカラ』)

 
『世界のカトカラ』に図示されてものしか見ていないが、上翅の柄にメリハリがあまりなくて、全然キレイじゃない。
同図鑑によれば、大陸のモノにこの亜種名が宛がわれている。しかし、ウィキペディアではナゼかシノニム(同物異名)扱いになっている。しかも記載年は1888年になっていた。つまり微妙に記載年が1年ズレておるのだ。コレって何か意味あんのかな❓ 正直、ワケわかんないし、どっちだっていいや。

 
◆ Catocala ella tanakai


(出典『世界のカトカラ』)

 
最近になって北海道の小型で後翅が黒化したものが、どうやら新たに亜種として記載されたようだ。
たぶん上のような奴のことなのだろうが、記載論文は見つけられなかった。よって記載年も記載者も分かりまへーん。たぶん今年(2020年)の記載で、石塚さんだとは思うけど…。

それにしても汚い奴っちゃなあ…。ミヤマキシタバは上翅の美しさに定評があるけど、下翅が汚ければ、こんなにも薄汚なく見えるのね。美しいミヤマキシタバの評判をダダ下がりにするような輩だよなあ…。まあ、この亜種自身に全然もって罪は無いんだけどもね。それにコレを渋くてカッコイイと思う人もいるだろうしさ。
ところで、何で北海道のカトカラは黒化するものが多いんだろう❓ワモンキシタバやケンモンキシタバにも同じ傾向があったんじゃなかったっけ❓…。

 
近縁種に、Catocala ellamajor Ishizuka, 2010 がいる。

 
【Catocala ellamajor オオミヤマキシタバ】

(出典『世界のカトカラ』)

 
オオミヤマキシタバって和名が付いているように、ミヤマキシタバに似ているが遥かに馬鹿デカい。
解りやすいように、もう1点画像を追加しよう。

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
ほらね。パッと見、斑紋はソックリだが、これだけ大きさが違うと別種だよな。
中国の四川省から発見されたそうだ。8月頃に現れるが、分布は局地的で稀との事。これは実物を見てみたいなあ。
参考までに言っておくと、左のミヤマキシタバはロシア産亜種の♀だけど、やはり日本産と比べてメリハリに欠ける。

 
【レッドデータブック】
環境省;準絶滅危惧種(Nt)
山梨県;絶滅危惧種Ⅱ類
群馬県;絶滅危惧種Ⅱ類
栃木県;準絶滅危惧種
大阪府;準絶滅危惧種
宮城県:絶滅危惧Ⅱ類(Vu)
岩手県:Dランク

大阪府の準絶滅危惧種指定には笑ろた。んなもん、おらんつーの。いったい何年前の記録なのだ。おそらく何十年も前のものだろう。そんなクソ古い記録からの指定なんて外せよな。どうせ今もいるかどうかなんて調べてないんだろ。準絶滅というのも引っ掛かる。指定するなら絶滅危惧種か情報不足として指定を保留すべきだろう。お役所のこう云うおざなりの仕事ってアホかと思う。

 
【開張(mm)】
『原色日本産蛾類図鑑』とネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には、60mmとだけあった。雑いよなあ(笑)。
岸田さんの『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』は流石にちゃんとしていて、51〜61mm内外となっている。試しに自分の採ったものを測ってみると、最大で61mm、多くのものが55mm〜60mm未満だった。

 
【分布】
北海道、本州(主に中部地方以北)。
海外ではロシア南東部(沿海州・アムール)、朝鮮半島、中国北東部に分布する。
日本での分布は一風変わっており、主に中部地方より東に産するが、近畿地方を飛び越えて広島県(芸北町東八幡原)と山口県に記録がある。しかし極めて稀なようだ。今のところ四国、九州地方では見つかっていない。
東日本でも分布は局所的で、関東の平野部には記録はないようだ。だから横浜にゃ居ねぇと言ったのさ。
食樹である湿性のハンノキや山地性のヤマハンノキが豊富にあるような環境を好むが、同じくハンノキ類を食樹とするミドリシジミ(註4)が豊産するような場所でも見られない場合も多いという。又、生息地であっても個体数は少ないらしい。青森、岩手県下には多産地があるというが、調べたらあくまでも一部であって、両県でも分布は局所的みたいだ。

ここで日本を代表するカトカラ図鑑である『日本のCatocala』と『世界のカトカラ』の分布図を並べておこう。ワシの説明なんかよりも、そっちの方が余程わかりやすいもんね。

 

(出典 西尾規孝『日本のCatocala』)

 

(出典 石塚勝己『世界のカトカラ』)

 
そうは言いつつも、両者の西側の分布が微妙に異なっているからややこしい。謎多きシンデレラなのだ。
但し『日本のCatocala』は分布域図で、『世界のカトカラ』は県別の分布図である。特に近畿は微妙だ。『日本のCatocala』では滋賀県、京都府、兵庫県中北部が入っているが、『世界のカトカラ』では空白になっている。逆に大阪府には記録があるから塗りつぶされている。
まあ、大阪府の記録は前述したように疑わしくはあるんだけどね。古い記録だしさ。ところで、大阪府の何処で採集されたのだろう?
調べてみたが、大阪府のレッドデータブックにも詳しくは書かれていない。他からのアプローチでも見つけられなかった。何十年も前の記録となると、そこそこ有名な昆虫採集地ではなかったのではないか?
だとすれば、金剛山か箕面辺りが有望か…。箕面っぽいような気もするが、でも特定は出来ないやね。古い記録だし、標本は残ってるのかなあ?…。何か段々胡散臭い記録のように思えてきたよ。
でも、ふと思う。古い記録だからといって切り捨てるのもどうだろう。かつては本当に居たのかもしれない。信じたいところではある。いや、本当は居た筈だ。なぜなら、こんなもん他のキシタバ類と判別間違いはせんでしょうよ。けど悲しいかな、今や箕面は乱開発によってズタズタだ。箕面での再発見は難しいだろう。

情報量があまりにも少ないので何とも言えないところはあるが、探せば近畿地方でも見つかる可能性は有ると思う。希望的観測ではあるが、そう願いたいものだ。広島や山口でも見つかってるんだからね。
おそらくだが東日本よりも更に局所的な分布で、標高1000m以上の高所に僅かながら生息しているのではあるまいか❓いやもっと言えば、山口県の生息地は調べても分からなかったが、広島県は標高770mくらいだ。千m以上に拘る必要性はないのかもしれない。但し、得られたのはライトトラップのようだから、周辺の高い山、例えば臥竜山(1223m)などの高い山から降りてきた可能性も無くはない。とはいえ、近畿地方だって1200mくらいの山はあるからね。同じような環境の場所もあるだろう。

 
【成虫の発生期】
7月中旬〜9月下旬。稀に10月に入っても見られる。
しかし新鮮な個体に会えるのは8月中旬までだと言われる。

そういえば西尾氏の『日本のCatocala』には、発生期について大変興味深いことが書かれてあった。ちょっと衝撃的だったので抜粋しよう。
「産地により出現時期はさまざま、標高や緯度にはそれほど関係せず、梅雨のない地方(たぶん北海道の事)での羽化時期は早い。夏に酷暑となる中部地方の低山地での出現時期の方が冷涼な山地の高原よりかなり遅れる場合がある。」
又、西尾氏は夏期休眠を蛹の期間で調整している可能性がある事を示唆されておられる。

こんな発生形態を持つカトカラは他に聞いたことがないから、かなり驚いたよ。なぜに発生がそないにバラバラなのだ❓その意味するところがワカランよ。

因みに採った場所2箇所の日付は、奇しくも同じ8月4日だった。2019年は湿地で標高は約800〜850m。2020年は高原で標高は1100〜1300mだった。但し、採集方法は2019年は糖蜜トラップ、2020年はライトトラップだった。ゆえに2020年は発生地を特定できない。
とは言いつつも近くにヤマハンノキがあり、ライト点灯後の割りかし早い時間帯、8時過ぎに飛来した者も居た。
鮮度はどちらも良かったが、あえて言うならば、高原のものの方がビカビカだった。又聞き情報だが、1週間後に同じ場所に行った人によると飛来数は多かったそうだから、この日はまだ出始めだったのだろう。一方、湿地では個体数が比較的多かった事から、おそらく最盛期だったものと思われる。

(・o・;)おいおい、これだと標高が高い所の方が発生が遅れると云う多くの鱗翅類に見受けられる普通パターンと同じじゃないか。こりゃ他の場所でも採ってみないと何とも言えないやね。
夏期休眠を蛹の期間で調整している可能性があるというのも、今ひとつ意味ワカンナイしさ。少しくらい発生期がズレたところで、どっちにせよクソ暑い時期に羽化してくるんだから、意味あんのかね❓

 
【生態】
成虫は樹液に好んで集まる。低山地では主にクヌギ、コナラの樹液を吸汁し、高原地帯など高標高地ではミズナラの樹液を利用しているようだ。

糖蜜トラップにも飛来する。最初の飛来時刻は午後8時半過ぎから8時40分の間だった。カトカラの中ではカバフキシタバと並び飛来時刻が遅い。しかし一日だけの観察なので、ホントの事はワカラナイ。偶然その日は飛来が遅かった可能性もある。
尚、飛来の最終時刻を前々回には午前0時よりも前だと書いたが、写真の撮影時刻を確認し直すと、午前1時前というのが見つかった。一年も経てば人間の記憶なんて曖昧になるんだね。勝手にイメージの中で記憶を都合よく改竄してましたわ。スンマセン。
つけ加えておくと、吸汁時は下翅を開く。敏感度は、まあまあ敏感か普通。特別に敏感だとか鈍感と云う印象はない。

他にカトカラの餌資源と知られる花蜜、果実、アブラムシの甘露や吸水に飛来した例はないようだ。

灯火にも集まるが、一説によると食樹からの移動性が低く、林内での灯火採集が効果的であるらしい。
飛来時刻は遅く。夜半過ぎに現れるとされる。ピークは午前2時という説があるが、参考にはなるものの、その日のコンディションにもよるだろう。灯火への飛来は気象条件にかなり左右されるからだ。
自分の1回だけの灯火採集の経験だと、前回述べたとおり高原では午後8時過ぎと午前1時頃に飛来した。意外と近い所に居るものは早い時間帯でも集まって来るのかもしれない。何れにしろ、引き続き観察が必要だろう。

観察経験が少ないので、以下は文献、主に『日本のCatocala』からの引用に私見を混じえたものである。

成虫は昼間、ハンノキやアカマツ、カラマツなどの樹幹に下向きに静止している。静止場所は地上数mから十数mと、やや高い位置であることが多い。全ての種類のカトカラの静止している状態を見たわけではないが、カトカラの中ではかなり高い位置での静止のように思える。静止時はやや鈍感だそうだが、これは場所にもよるだろう。
驚いて飛翔した個体は上向きに着地し、暫くしてから下向きになるという。

交尾は深夜の午後11時から午前2時の間に行われ、発生期間内の延べ交尾回数は多数回であることが示唆されている。

産卵は9月7日の日没後に観察されている(西尾, 2004)。
ハンノキの樹幹に止まり、樹皮の隙間に産卵管を挿し込み産卵していたという。
他に、ブログ「青森の蝶たち」にハンノキの根元で産卵している写真がある(岩木山麓)。ちょっと驚いたのは産卵中には下翅を開いている事。樹液吸汁中にも開くんだから、当たり前っちゃ当たり前なんだけど、自分としては盲点だった。イメージが全く頭に無かったからね。尚、日付は8月13〜16日となっており、時刻は午後8時13分とあった。てっきり産卵は9月に入ってからではないかと思っていたが、そうでもないんだね。となると、羽化から比較的短期間に産卵する種って事かな。

 
【幼虫の食餌植物】
カバノキ科 ハンノキ属のハンノキ、ヤマハンノキ。
日本のカトカラでは幼虫がカバノキ科を食する唯一の種。また海外でもカバノキ科を食樹とする種は見つかっていない。但しオオミヤマキシタバがカバノキ科を食樹とする可能性が濃厚ではある。

山梨県西部・長野県北部ではハンノキ、長野県南西部(木曽町)ではヤマハンノキを食樹としている事が分かっている。
西尾氏が長野県上田市の平地で飼育した結果、同属のミヤマハンノキ、カワラハンノキ、ヤマハンノキ、ヤシャブシは代用食にならなかったそうである。但し他地域で色々なハンノキ属で育てたら、無事に飼育を完了したと云う話を聞いているとも書かれている。
上田市ではヤマハンノキを与えたが食べなかったようだし、地域により、それぞれ別なハンノキ属内の他種を食ってる可能性はあるかもしれないね。

それにしても、ハンノキなんぞは関西にだって何処にでもあるし、ヤマハンノキだって割りとよく見掛ける。なのに基本的には関西には居ないという事になってる。となれば、本来が冷温帯を好むカトカラなのだろうか❓にしても広島県や山口県でも見つかってるしなあ…。
ちなみに分布域内でハンノキやヤマハンノキが沢山あるところでも生息しない所が多いらしい。成虫の餌資源とか、気温や湿度、その他諸々のシビアな条件があるんでしょうな。良く言えば繊細、悪く言えば神経質なカトカラだね。

 
(ハンノキ Alnus japonica)

 
幹は直立し、樹高は15〜20mくらいのものが多いが、生育条件の良い所では最大で40m程になるそうだ。太い大木はあまり見たことないような気がするが、相対的に大きい木、正確には高い木と云うイメージがある。
材は適度に柔軟であるため鉛筆の材料に使われるが、材木としての流通は稀という。なお、建材として名高いアルダーは北米を原産とするハンノキの仲間である。

 
(ハンノキ林)

 
湿地だと大体こんな感じで纏まって生えているから、わりと目につきやすい。

 
(幹と樹皮)

 
(葉と実)

(以上4点共 出典『Wikipedia』)

 
ハンノキを探す時は生えてる場所と幹の感じ、そして小さな松ぼっくりみたいな実の有無の3つを総合して判別している。中でも実が最も重要で、下図のように古くて茶色になっているのはよく目立つ。

 

(出典『庭木図鑑・植木ペディア』)

 
夏場でもこの実が結構ついているから、コレが恰好の目印になるのである。あと、葉っぱも一応見るけど、最後の補足確認事項みたいなもんだ。葉の形には変異幅があるようだからね。葉ばっか見てるとワケわかんなくなるのだ。ゆえに目安として湿地に生えてて、樹姿、幹、実を確認してから最後に葉っぱを見るって感じ。
偉そうな事を言ってるが、ハンノキについてはそれくらいの事しか知らない。改めて詳しく調べてみよう。

北海道から九州まで(一応、沖縄でも見つかっている)分布する落葉高木。日本以外では朝鮮半島、台湾、中国東北部、ウスリー、南千島に分布する。尚、ハンノキの仲間は北半球の温帯を中心に30種以上が分布し、日本にはそのうちの10数種が分布する。
日本では山野の低地の湿地、沼や低山の川沿いに自生し、湿原のような過湿地においても森林を形成する数少ない樹木。
樹高は4〜20m。幹の直径は60cm程。湿地周辺の肥沃な土地では極めてよく育ち、高さ30m、幹回りの直径は1mを超える。
普通の樹木であれば、土壌中の水分が多いと酸欠状態になって生きられないが、ハンノキは耐水性を獲得したことで湿地でも生き残ることができる。但し、湿地中央部に生える個体は成長は減退して大きくならない。
水に埋もれても育つため、水田の脇や畦に並木状に植えて稲掛けの梁に使われたことから、古名は榛(はり)、梁(はり)の木と呼ばれ、それが転化してハンノキとなったとされる。漢字には「榛の木」の字が宛がわれるが、本来これはオオハシバミの事であったという。近年では水田耕作放棄地に繁殖する例が多く見られる。
根には放線菌(根粒菌)が共生しており、栄養の乏しい場所でも丈夫に育つ。この事から荒地の復旧対策として真っ先に植栽され、河原の護岸や砂防を目的に植えられることも多い。又、公園樹として園内の池周辺にしばしば植えられる。
ちなみに英名は、Japanese Alder。「日本ハンノキ」って事だね。
 
葉は有柄で互生し、細長い楕円形または長楕円状卵形で先端が尖り、縁には不規則なギザギザがある。葉の長さは5~13cm程だが個体差が大きい。葉に毛があるものと無いものがある。葉の寿命は短く、緑のまま次々と落葉する。春先に伸びた1葉や2葉(春葉)の寿命は以降に延びた夏葉よりも短いため、6月から7月になると春葉が集中的に落葉することが報告されている。
花期は冬の11〜4月頃で、葉に先だって単性花をつける。雌雄同株で雄花穂は枝先に1〜5個付き、黒褐色の円柱形で尾状に垂れ下がる。雌花穂は楕円形で紅紫色を帯び、雄花穂の下部の葉腋に1〜5個つける。花はあまり目立たない。またハンノキが密集する地域では花粉による喘息発生の報告がある。
実は10月頃に熟し、小さな松ぼっくり状。翌春に新たな芽が吹くまでの長い間、枝に残る。
冬芽は互生して枝先につく雄花序と、その基部につく雌花序は共に裸芽で柄があり、赤みを帯びる。仮頂芽と測芽はどちらも葉芽、有柄で3枚の芽鱗があり、樹脂で固まる。葉痕は半円形で維管束痕は3個ある。
樹皮は紫褐色から暗灰褐色で、縦に浅く裂けて剥がれる。

良質の木炭の材料となるために以前には盛んに伐採された。材に油分が含まれ、生木でもよく燃えるため、北陸地方では火葬の薪に使用された。葉の中には根粒菌から貰った窒素を多く含んでいて、そのまま葉が散るため、葉の肥料木としても重要である。材は軟質で家具や器具に使われる。樹皮や実は一部の地方で褐色の染料として使われている。また抗菌作用があり、消臭効果が期待されている。ハンノキには造血作用のある成分が含まれるため漢方薬としても用いられる。

(・o・)へぇー、結構役立っている木なんだね。( ゚д゚)ハッ❗、何か完全にハンノキの話になっとるやないけー。
いかん、いかん。ミヤマキシタバの話じゃった。もう1つの食樹であるヤマハンノキについても調べておこう。

 
(ヤマハンノキ)

(出典『はなQ』)

 
(葉の裏面)

(出典『花の日記』)

 
(樹幹)

(出典『樹木検索図鑑』)

 
幹の感じが縦溝のハンノキとは違うね。そういえば、そんなような気もしてきた。

 
(実)

(出典『四季の山野草』)

 
しかしネットで調べてみてもヒット数が少なく、ハンノキとの違いが殆んど書かれていない。さらにネットサーフィンした結果、驚愕の事実にブチ当たる。
何と、どうやらヤマハンノキはケヤマハンノキの変種らしい。ケヤマハンノキの小枝や葉裏に毛がないのがヤマハンノキと云う事らしいのだ。何じゃ、そりゃ❗❓である。
そうゆう事は蛾のサイトでは一切書かれていなかったから、名前からして寧ろケヤマハンノキがヤマハンノキの変種だと思ってたくらいだからね。ヤマハンノキを食うならば、絶対ケヤマハンノキだって食うでしょうよ。しかし、文献には食樹としてケヤマハンノキが出てくる事は殆んどなく、僅かに西尾氏が、その可能性を示唆しているにすぎない。もしかして皆さん孫引きで、だ〜れも調べてなかったりして…。ワシも孫引きだから、人のこと言えないけどさ。
こういうこと書くとまた蛾屋さんに嫌われそうだけどさあ、それってユルくね❓テキトー人間のオイラが言うのもなんだけど、テキトー過ぎなくねぇか❓誰もが情報を鵜呑みにして向上心が感じられないと言わざるおえない。蛾をやってる人は蝶を敢えて選ばなかったんだから、突き詰めて考える我が道を行くような人ばかりじゃないかと勝手に想像してたから残念だよ。蝶ではなく、白い目で見られがちな蛾をやってると云う時点で偉いと密かに尊敬していたのだ。
えー、この項(@_@)ベロベロで書いてまーす。だからこそディスれるのだー。偏見だけど、もう書いちゃったから素面(しらふ)になっても撤回するつもりはない。吐いた言葉は呑み込まないのだ。ミヤマキシタバそのものについての知見が間違ってたとしたら、直ぐに撤回するけどさ。

えー、ここからは翌日で素面です。
失礼な事ばかり宣(のたま)ってスンマセン。吐いた言葉は呑み込まないけど、少々言い過ぎたと反省しておりまする。それにしても酔っ払いの暗い心のパワーはスゴイもんですな。筆に変な推進力があるや。
素面ゆえに書くのが邪魔くさくなってきたけど、このままでは終われないので、ハンノキ属の植物をまとめて紹介してこの項を終わりとしよう

 
(ケヤマハンノキ)

 
(裏面)

(出典 3点共『葉と枝による樹木検索図鑑』)

 
分布;北海道・本州・四国・九州。アジア東北部。
ヤマハンノキも分布は同じである。ヤマハンノキ、ケヤマハンノキともに山の手や溪谷の斜面に生える。
樹高はヤマハンノキと同じく10〜20m。

 
(タニガワハンノキ(コバノヤマハンノキ))


(出典『www.m-ac.jp』)

 
分布;北海道・本州(中部地方以北)
山地の渓流沿いに生える。葉が小さく、ヤマハンノキと同じく裏面に毛がない。樹高15〜20m。

 
(ミヤマハンノキ)


(出典『葉と枝による樹木検索図鑑』)

 
分布は北海道と本州(加賀白山以北)。飛び離れて中国地方の大山山系烏ヶ山の山頂(1448m)にも自生する。基本的には山奥の亜高山帯から高山帯の岩石が多い斜面に生える。樹高1〜2mのブッシュ状になることが多いが、条件の良い場所では10m近くになる。

 
(サクラバハンノキ)


(出典『葉と枝による樹木検索図鑑』)

 
分布は本州(岩手・新潟以西)・九州で、主に西日本で見られる。ハンノキに似るが、本種の方が葉の横幅が広く、側脈数が多いこと、葉の基部が心臓形になることで区別できるそうだ。樹高10〜15m。

ここで各種の違いが解りやすいように、改めてハンノキの画像を添付しておこう。

 
(ハンノキ)


(出典『葉と枝による樹木検索図鑑』)

 
分布;北海道・本州・四国・九州・沖縄。
そうそう、こうゆう葉っぱなんだよな。でも他の科の葉っぱでも似たようなのがいっぱいあんだよね。そういや昔、サクラと間違えた事があるわ。

 
(カワラハンノキ)


(出典『葉と枝による樹木検索図鑑』)

 
分布;本州(東海以西)・四国・九州。
名前のとおり河原や川辺の岩場に生える。樹高5〜10m。

 
(ミヤマカワラハンノキ)


(出典 以上3点共『葉と枝による樹木検索図鑑』)

 
東北地方や北陸地方を中心とした多雪地帯に分布し、山地のやや湿ったところに生える。樹高8〜10m。

 
(ヤハズハンノキ)

(出典『www.botanic.jp』)


(出典 以上2点共『レモちゃんのワクワク植物ランド』)

 
日本固有種で、本州の中部地方・北陸地方から東北地方の日本海側に分布する。山地から亜高山帯の沢沿いなどに生える。葉の先が切れ込み、ハート型になるのが特徴。樹高10~15m。

参考までに言っておくと、他にヤチハンノキやウスゲヒロハハンノキと云うのもあるが、ヤチハンノキはハンノキの別称で、ウスゲヒロハハンノキはハンノキとケヤマハンノキとの雑種である。

食樹としている可能性は低そうだが、一応ヤシャブシ類も紹介しておこう。

 
(ヤシャブシ)


(出典『葉と枝による樹木検索図鑑』)

 
分布 本州(福島県以南の太平洋側)・四国・九州。
葉に光沢がなく、実が1~3個付き、直立または斜上する。
樹高2〜17m。

 
(オオバヤシャブシ)


(出典『葉と枝による樹木検索図鑑』)

 
分布;本州(福島県以南〜和歌山県の太平洋側)。
葉に光沢があり、幅が広くやや三角状。実は1個のみ付き、直立または斜上する。樹高5〜10m。
オオバヤシャブシも緑化によく用いられるそうだ。

 
(ヒメヤシャブシ)


(出典『葉と枝による樹木検索図鑑』)

 
分布;北海道・本州・四国。
葉が細長く、基部が楔形で側脈が20対以上と多い。実は3~6個付き、下垂する。樹高2〜7m。

ヤシャブシ類も根にはフランキア属の放線菌が共生し、窒素固定を行うようだ。そのため比較的やせた土地にも生育する。どうやらハンノキ属の多くが、この特性を持っていそうだ。ハンノキって、スゲーぞっ✧(>o<)ノ✧❗
(・o・;) あれっ❓、何かミヤマキシタバの回なのに完全にハンノキ属の話になっとるやないけー(笑)。

立て直して、改めてミヤマキシタバの分布と食樹の関係について考えてみよう。
北海道亜種の食樹は、各ハンノキ属の分布からハンノキ、ヤマハンノキ、ケヤマハンノキ、タニガワハンノキ、ミヤマハンノキに限定され、その何れか、もしくは全てを利用している可能性がある。
本州の原記載亜種は、ハンノキ、ヤマハンノキ、ケヤマハンノキ、タニガワハンノキ、サクラバハンノキ、カワラハンノキ、ミヤマカワラハンノキ、ミヤマハンノキ、ヤハズハンノキに食樹としての可能性がある。ヤシャブシ類の可能性もないではないが、更に西寄りの分布だから二次的な利用は有り得るものの主食樹ではないだろう。少々乱暴な結論になるが、食樹の分布から、ハンノキを筆頭にヤマハンノキ、ケヤマハンノキがメインのホストプラントだろう。
でも、何れも分布に際立った局所性はなさそうだ。そうなると、シンデレラの分布が局所的な理由が説明できなくなる。食樹の分布からすれば、もっと広範囲にいて当然だからだ。局所的な種となると、ミヤマハンノキ、ミヤマカワラハンノキ、ヤハズハンノキだが、ミヤマカワラハンノキとヤハズハンノキは日本海側の分布だから、産地の木曽町などは当てはまらない。またミヤマハンノキは、亜高山帯から高山帯に生えるからミヤマキシタバの垂直分布とはズレる。カワラハンノキとサクラバハンノキは西よりの分布だから、これも除外していいだろう。
となれば、やはり主な食樹はハンノキ、ヤマハンノキ、ケヤマハンノキで、気象条件、環境が種の生息の有無のファクターに関係している可能性が高い。棲息条件が厳密で、冷温帯の狭い範囲にのみしか適応できないとか、成虫の餌資源が近くにないとダメとかさ。
或いは地史との関係もあるかもしれない。でもなあ…、羽が退化して飛べないオサムシじゃあるまいし、少々の大きな川や高い山があったとしても飛べるから大きな障壁にはなるまい。
でも待てよ。蝶の幾つかの種類はミヤマキシタバに似た分布の者もいるぞ。不思議な事に、分布が主に中部地方以北で、近畿地方の中心に分布がポッカリ空いてて、中国地方(兵庫県西部も含む)になると突然のように分布するものは多いのだ。
例を挙げれば、ハヤシミドリシジミ、クロミドリシジミ、ヒメシジミ、ゴマシジミ、オオルリシジミ(九州)、カラスシジミ、ヒメシロチョウ、ヒョウモンモドキ(東では既に絶滅)、ウラジャノメ、ホシチャバネセセリ、コキマダラセセリ、スジグロチャバネセセリ、キバネセセリ(少ないながら三重県北部に記録がある)、ヒメヒカゲ(かつては大阪府南部の岩湧山頂にのみ居たそうだ)と、かなり多い。嗚呼、w(°o°)wヤバい。この問題、そもそもよくワカンなくて突っ込めば底なし沼必至なのだ。ここは触れないでおく事にしよう。段々、自分でも何を言いたいのかワカンなくなってきたしさ。

視点を変えよう。
はたと思う。よくよく考えてみれば、野外で見るヤシャブシとヤマハンノキ類がゴッチャになってるとこがあるなあ…。山地性のミドリシジミとか、あんま興味ないしさ。
参考までに言っとくと、『日本産蝶類標準図鑑』によれば、ミドリシジミの食樹はハンノキ、ヤマハンノキの他にケヤマハンノキ、ミヤマハンノキ、サクラバハンノキ、カワラハンノキ、ヤチハンノキ(ハンノキの別称)、コバノヤマ(タニガワ)ハンノキが記録されている。また、ヤシャブシでも飼育可能だ。蝶であるミドリシジミでも色んなハンノキ属を利用しているんだから、ミヤマキシタバだって利用している可能性は高いかもしれない。基本的には蝶よりも蛾の方が食性は広いしさ。いっその事、ミヤマキシタバは紹介したハンノキ属はどれでも食うって事でどーだ。もうヤケクソだよ。
いや待てよ。ミドリシジミは普通種だが、ミヤマキシタバは普通種ではない。となると、むしろミヤマキシタバの方が狭食性で、食性が狭いがゆえに少ない種なのかもしれない。ハンノキは何処にでもあるが、或る種の条件が整ったハンノキのみしか食わないとかさ。或いはハンノキの中に隠蔽種が混じってて、見た目は同じでも別種なのがあって、そっちしか食わないとかさ。あとは標高何m以上のハンノキしか食わないとかさ。もしかして、ソヤツがハンノキとは近似種の全くの別種だったりしてね。

やめた。お手上げだ。いくら頭の中で考えたところで限界がある。自然界で利用されている食樹がもっと詳しく解明されない限りは全部が空論に過ぎないのだ。
今一つ食樹の解明が進まないのは、蛾の愛好家は少ないゆえ、食樹について調べてる人が少ないんだろね。蝶みたく愛好家が多ければ、そうゆう地道で大変そうな事を調べる人も増えるんだろうに。つまり、パーセンテージよりも分母の問題なのだ。
因みにワシって、そうゆう事には全然向いてない人なので、調べてやろうという気概は全然もって無いです、ハイ。
最近は蛾の愛好者も増えているという事だし、誰か根性のある人が出てくることを祈ろう。

 
【幼生期の生態】
これも西尾さんの『日本のCatocala』に頼りっきりで書く。
こっからはグロいので、( ̄ー ̄)おどろおどろの閲覧注意やでぇ〜。

 
(卵)

(出典『日本のCatocala』以下、この項目同じ。)

 
卵は食樹に付着した蘚苔類、地衣類、樹皮の裂け目や裏側に産み付けられる。1箇所に産まれる卵数は1〜8個であるが、1個の場合が多い。
形状は小型のまんじゅう型で、受精卵の色彩は黒褐色ないし茶褐色で黄白色の斑紋が横に走る。縦の隆起条は非常に細く、高さも低くて波状。横の隆起条は溝状で、類似した形態の種は他にはいない。とはいえ、卵は極小ゆえ、んなもん顕微鏡で見んとワカランぞい。

幼虫の齢数は5齡。若齢から中齢まで昼間は枝先の葉上や葉柄に静止している。亜終齢幼虫になると枝先の葉柄に、終齢幼虫は枝先の淡緑色をした当年枝に静止している。
種内における幼虫の色彩変異は特にはないようだ。

 
(初齡幼虫と2齡幼虫)

 
基本的に他のカトカラと同じく尺取り虫型でござる。
毛虫じゃないから、これなら飼育初心者のワシでもまだ飼えそうだ。

 
(終齢幼虫)

 
向かって右側が頭部である。
まあまあカラフル。なんだけど、飼育初心者にはかえって気持ち悪いかも…。毒々しいと触れんもん(+o+)

 
(終齢幼虫頭部)

 
😰怖っ❗邪悪なお顔でありんすなあ。芋虫でも、やっぱ苦手だよなあ…。アタシャ、愛する自信がねえや。
顔は黄色いタイプと青緑色のタイプのものがあるようだ。終齢幼虫は黄色っぽくて、カトカラの中では割りと特異なものの1つだろう。

 

(出典『日本のCatocala』)

 
幼虫を刺激すると体を反らし、口から茶色の体液を吐きかけるという。∑( ̄皿 ̄;;)ひいーっ、🤮ビートルジュースやないけー❗気持ちの悪いやっちゃのうー。あっ、ビートルジュースは甲虫の体液だな。となると、キャタピラージュースか。どっちにせよ、😱阿鼻叫喚なりよ。
まあ、仕方なしの一種の天敵から身を守る防御行動だろね。生きるのに必死なのだ。とはいえ、キャタピラージュースを吐くなんざ、最悪だ。やっぱワシ、芋虫とか毛虫はダメだわさ。飼育は一生でけんかもなあ…。

蛹化場所については観察例がないようだが、おそらく落葉の下だと考えられる。

                       おしまい

 
追伸
今回も長くなった。無駄無駄パンチとかフザけ過ぎたのも理由だが、主な原因は食樹の項だ。ハンノキの事を調べてたらズブズブの泥沼にハマってしまった。ハンノキは湿地に生えるゆえ、下はズブズブの泥沼だから、何だか出来過ぎの展開だよ(笑)。

 
(註1)HSP
HSPとは、Highiy Sensitive Person(ハイリ―・センシティブ・パーソン)の頭文字をとった略称で、訳すと「ひといちばい繊細な人」という意味。
1990年代のはじめに繊細な人について研究していたエレイン・アーロン博士によって名付けられたもので、「人の気質」を表した名称の1つ。アーロン博士によると、5人に1人、人口の約20%がHSPだという。この「繊細さ」は生きるもの全てが本来的に持つ生存本能であり、生き残るための戦略の1つであると考えられている。詳しい症状等は御自分で調べてくだされ。

 
(註2)バトラー
おそらく英国人の昆虫学者、Arthur Gardiner Butler(アーサー・ガーディナー・バトラー)のことだろう。
以下、Wikipediaから抜粋、要約しよう。

 
Arthur Gardiner Butler(1844〜1925)

(出典『Wikipedia』)

 
イギリスの昆虫学者・鳥類学者。またクモの研究者としても知られ、それらの分類で足跡を残している。1844年、ロンドンのチェルシーで生まれ、父は大英博物館の次官補であるトーマス・バトラー(1809-1908)。彼自身も大英博物館に勤め、1879年に動物学のアシスタントキーパー(副室長?)、及びアシスタントライブラリアン(たぶん司書と訳すよりも、副専門的文献管理責任者と訳した方が妥当だろう)として、2つの役割を持つ役員に任命された。
彼はまた、オーストラリアのクモやガラパゴス、マダガスカル、およびその他の場所に関する記事を発表したと書かれてある。

日本のカトカラでは、ミヤマキシタバの他にシロシタバ、ゴマシオキシタバ、ノコメキシタバ、ワモンキシタバ、マメキシタバ、ジョナスキシタバ、ヨシノキシタバの記載者名に、その名がある。結構な数だ。
しかし蝶の方はもっと多い。日本でも馴染みのあるものが、ズラリと並ぶ。
調べたところ、ツマキチョウ、エゾスジグロシロチョウ、ウラキンシジミ、ウラクロシジミ、ダイセンシジミ、コツバメ、ヒメウラボシシジミ、カバイロシジミ、ヒョウモンモドキ、ホシミスジ、ウラナミジャノメ、ヒメウラナミジャノメ、リュウキュウヒメジャノメ、キマダラモドキ、クロヒカゲ、ヒメキマダラヒカゲ、ヤマキマダラヒカゲ、シロオビマダラ、スジグロチャバネセセリ、アカセセリ、ミヤマチャバネセセリと、何と数えたら21種もある。(☉。☉)メチャメチャ多いやんけー。

 
(註3)ディオのザ・ワールド
荒木飛呂彦の漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の第3部「スターダストクルセイダーズ」に出てくる最強の悪役ディオのスタンドのこと。「無駄無駄無駄…」を連呼してパンチを繰り出してくる。
尚現在、火曜深夜1時過ぎからBS日テレでアニメが2話ずつ放映されちょります。物語は佳境に入っており、今夜あたりザ・ワールドが登場しそうだ。

 
(註4)ミドリシジミ

【Neozephyrus japonicus ミドリシジミ♂】

(2018.5.29 京都市)

 
北海道・本州・四国・九州に分布し、全国的に広く棲息するが、西南部の暖地では局地的な稀種。小型となる北海道のものは亜種reginaに分けられている。

 
(分布図)

(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
何となくミヤマキシタバの分布に似てるような気もしないでもない。ややコジツケくさいけどさ。それはさておき、何で紀伊半島南部にいないんだ❓ヤバい、やめとく。これ以上はもう御勘弁。

 
ー参考文献ー

◆『日本のCatocala』西尾規孝 自費出版

 
◆『世界のカトカラ』石塚勝己 むし社

 
◆『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』岸田泰則編著 学研

 
◆『原色日本産蛾類図鑑』江崎悌三編著 保育社

 
インターネット
◆『青森の蝶たち』
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『Wikipedia』
◆『葉と枝による樹木検索図鑑』

 

2020’カトカラ3年生 ミヤマキシタバ

 
   vol.21 ミヤマキシタバ 第三章

       『真夜中の訪問者』

 
あえて2020年のことは従来の『続・ミヤマキシタバ』と云う形はとらず、解説編と併せて綴りまする。

2019年はミヤマキシタバをギリ何とか採ったはものの、背中の毛をハゲちょろけにさせてしまった個体も多かった。裏展翅もしてないし、それにカトカラとしては遅い午後8時半以降という糖蜜への飛来時刻の事も気にかかってる。はたして、その行動が通常のものだったのかどうかも確かめたい。そう云うワケで、まだまだシンデレラへのモチベーションは下がってはいなかった。
だが、連日の猛暑続きで気持ちが萎えてたのと、やんごとなき個人的な事情も相俟って、うだうだと出発を決断できないままでいた。
そんな折、『(☉。☉)えーっ❗、今からあ❓』という急な小太郎くんからの長野方面へのお誘いがあった。渡りに船と言いたいところだけれど、あくまでも彼のターゲットは蝶とナマリキシタバだった。ではガッカリかといえば、そうでもなかった。なぜなら自分も優先順位としてはナマリの方がミヤマよか上だったし、久し振りに真面目に蝶採りもしたかったのだ。ゆえに二つ返事でお誘いに乗っかった。まあミヤマは来年でもよろしかろう。一人だと、熊(・(ェ)・)恐えーしさ。

それに蝶屋としての矜持も取り戻さねばとも思った。
最近はブログでも蛾の事ばかり書いてるし、実際、蝶採りも前ほどには熱を入れてやってない。なので、今では周りの蝶屋たちに蛾屋だと囃したてられ、ニヤけた顔でアレやコレやと揶揄されてる始末なのだ。
何かさあ、蝶屋と云う人種は蛾に少しでも興味を示すと、蔑んだような目で見てくる人が多いんだよねぇ。これはきっと近親憎悪みたいなもんで、蛾を「同じ鱗翅類なのに、どうしてお前らは粉だらけで、汚らしくて、ぶっとくてキモいのだ。大半が夜行性なのも気味悪いや。」とでも思われているのだろう。
本来的にはワシも蝶屋なので、その気持ちは解らないでもないけれど、「もうオマエは蝶屋じゃねぇ、蛾に染まった穢れた存在だ」的な態度は酷いやね。
まだ蛾に関しては初心者なのに偉そうに言わしてもらうと、蛾には蝶にはない渋い美しさがある。またデザインは蝶よりも多種多様で、その世界は蝶よりも奥深そうだ。
思うに、どうやら蝶屋には選民意識があるみたいだね。同じ鱗翅類なのに、蛾のことは一段も二段も下に見ているところがある。とはいえアッシも生来の蛾嫌いで、そうゆうところは多々あった。だから、ワシはあくまでもカトカラ屋であって、今のとこ蛾屋になんか転身してないと言い返している自分がいたりもする。
本当はわざわざ蝶と蛾を線引きするのって、狭小でツマンナイ概念なんだろね。とはいっても世間的にみれば、蛾=悪。蝶イコール正義という構図は厳然として存在するからね。
例えば蝶を採っていると言えば、軽蔑されたり、言われなき注意や説教をされる事がある。可愛い蝶ちょを捕まえて殺すとは何事かとゆうワケだ。一方、たとえ蝶を採っていたとしても蛾を採っていると言えば、気味悪がられるだけで文句を言われる事はまずない。むしろ頑張って殲滅してくれとハッパをかけられる事さえある。だから「何を採っているんですか❓」と尋ねられたら、邪魔くさい時はこう答えるようにしてる。

🦋蛾ですっ❗
もしくは、
(ΦωΦ)猫ですっ❗
と。
これで大体は嫌な顔か怪訝な顔をして、その場から去っていってくれる。この手は真面目に答えるのが面倒くさい時によく使うのだが、撃退法としては中々の効力でっせ。興味のある方は使ってみなはれ。結果、どうなるかは責任持たないけどさ。

話が逸れた。とにかく、その時点でミヤマの事はすんなりと諦めてた。一度でも手ゴメにした女には興味がない。とまでは言わないまでも、モチベーションは下がらずにはおえまい。
(-_-;)あっ❗、ちょっと待て。このような物言いだと、まるでワシが女性をモノ扱いしてる酷い人になるではないか。いやいや、そうゆうつもりじゃなくてー。(༎ຶ ෴ ༎ຶ)お姉さ〜ん、冗談ですよ、ジョーダン。

早くも脱線気味だが、今回はその2020年の採集記と種の解説編です。

 
2020年 8月4日

小太郎くんとの遠征二日目。
この日はオオゴマシジミに会いに長野と岐阜の県境の峠へ行った。

 
【オオゴマシジミ】

 
小太郎くん曰く、これはゴマ無しオオゴマという珍しい型らしい。上翅の黒点の大半が消失しかかっている。
参考までに通常のオオゴマシジミの画像を貼り付けておこう。

 

(2014年7月 岐阜県高山市)

 
全然違うことが御理解戴けるかと思う。
でも変異にはあまり興味がないゆえ、小太郎くんとこにお嫁入り。虫でも人でも喜ばれる所に行くのが一番だかんね。価値のわからんワシなんかが持ってても宝の持ち腐れなのだ。

午後になって奈川村へと移動し、ゴマシジミと御対面。
御対面と書いたのは、奈川ではゴマちゃんが採集禁止だからである。と云うワケで写真だけ撮った。

 
【ゴマシジミ】

 
ゴマちゃんって、何だか可愛い💕
改めてゴマシジミって好きな蝶の一つなんだなと思う。オオゴマもゴマも何故だか会うと親愛なる友だちみたいな感じに思えるのだ。だから、あまりオラオラで手ゴメにしてやろうとは思わない。

 

 
小太郎くんなんかはゴマシジミを愛し過ぎて、手乗りゴマとかまでしてた。

オオゴマにもゴマシジミにも会うのは久し振りである。たぶん4、5年振りだ。よくよく考えてみれば、一日のうちで両方とも会ったのは初めてだ。何だかんだ言っても、やっぱ蝶と戯れるのは楽しい。

奈川から松本方面か木曽方面のどっちに行くかと云う事になった。灯火採集を何処でするかと云う話なのだが、どちらも良い場所なだけに迷うところだ。でも小太郎くん所有のライトトラップなので、最終的な決定権は彼にある。
小太郎くんはヤンコウスキーキリガが採れる可能性のある松本方面に行きたそうだったけど『どっちでもいいですよ。』と言うので、遠慮なく木曽町をグイと強く推させて戴いた。なぜなら、勘が木曽に行けと言っていたからだ。自分は己の勘に絶大なる自信を持っている。だから、たいした実力も無いのに何処へ行っても良い虫が採れる。引きが強いと言われるのは、そうゆう事なのである。ようは「お告げ式採集法」なのだ(笑)。
あとは松本よりも木曽町の方が生息するとされるカトカラの種類数が多い事、少しでも関西方面に近い方が帰りが楽だというのもあった。

木曽町には4時前に着き、アイスクリーム屋でソフトクリーム食って、ヤマキチョウとツマジロウラジャノメのポイントの様子を見てから灯火採集が出来そうな場所を探した。

 

 
やがて夕日は声も無く山並みの向こうへと沈んで行った。
そして今宵も虫たちの夜会が始まる。

珍しく日没前にライトトラップを設置する事ができたので、早めに点灯。

 

 
けっして天候は灯火採集に適しているというワケではなかったが、暫くして虫がアホほど飛んで来た。流石、ワシの勘でんがな。「お告げ式採集法」、絶好調だよ(^3^🎵

 

 
小太郎くんが木曽町には多分いないでしょうと言っていたヤンコウスキーも来たもんね。
自分が先に見つけたけど、お譲りもうした。いつも小太郎くんには譲ってもらっているからさ。まっ、お互い様ちゃ、お互い様だけどもね。

午後8時過ぎ。
背後から飛んで来たカトカラがライトの2mほど手前でボトッと地面に落ちた。
止まった姿を見て、すぐに分かった。
と同時に叫んでいた。

(☆▽☆)ミヤマやっ❗❗

でも二人して慌てて近づいたら、\(◎o◎)/アチャー、驚いてどっか行っちゃった。
まあいい。そのうちまた飛んで来んだろう。

此処にミヤマの記録はあるのは知ってたけど、本当に飛んで来るとは思いもよらなかったよ。この周辺には蝶採りで何度も来てるけど、食樹であるハンノキのイメージなんて全然なかったからさ。それにミヤマは夜中にならないとライトに飛来しないと聞いていたからね。謂わば真夜中の訪問者なのだ。まさかこんな時間に飛んで来るとは思ってないゆえ、ちょい驚いたよ。ふ〜ん、こんなに早い時間帯にも来る事があんのねって感じ。

でも、ふと思う。ホントに真夜中の訪問者なのかね❓
何か蛾はあんまり調べられていないせいなのか、図鑑等に書かれてる事が間違ってる場合もチョコチョコあんだよね。だから記述を極力そのまま鵜呑みにはしないように心掛けてる。
まあ、とはいえおそらく偶然近くに居たのだろう。そういや、すぐそばに食樹であるヤマハンノキらしき木があったしさ。

その後、ミヤマっぽい奴が2度ほど飛んで来たが止まらず、どっか行っちゃった。たぶん同一個体だろう。チッ(-_-メ)、クソ忌々しいかぎりである。
どうして珍しい奴に限って、そうゆうのばかりなのだ❓
いわゆる普通種とされる何処にでもいるものは、どいつもこいつも鈍感なのにね。全く逃げない奴や、中には寄って来る奴さえいる。たぶん熱愛する蝶やカトカラの前に立つと、知らぬうちに体から殺気とかがバリバリ出てんだろね。で、体がガチガチになってるから振り逃す人が多いのかも。自分はまだミスショットは少ない方だとは思うけど、それでも時々やらかす。アレってキツいよね。持っていきようのない怒りと落胆度が半端ない。
これって何だか恋愛と似てるね。好き過ぎて全身から焦りまくりの変なオーラが出ちゃって、揚句に空回りして好きな女の子に嫌われるというのは往々にしてありそうな事だもんね。ようは蝶採りでも蛾採りでも、心に余裕がないとダメって事やね。おのが心をコントロールする強い精神力と、その場その場で臨機応変に対応する力がないと女の子にはモテないし、蝶(蛾)も採れないってことだ。勿論、その前段階での緻密な戦略も必要だろう。
あらあら、ますます恋愛と似てるじゃないか。あっ、でもワシには緻密な戦略なんて無いけどね。はじめは完璧な戦略を立てようとは思うのだが、途中で段々面倒くさくなってきて放り出し、いっつも最後は出たとこ勝負なのだ。考え過ぎると、それが呪縛になってかえって自爆しかねないので、恋も虫捕りも結局はその場その場で戦略を組み立ててくタイプみたい。

話が逸れた。自分の恋愛タイプなんぞどうでもよろし。本筋に戻そう。稀な種は敏感という話だったね。
原因は殺気だけではないだろう。もしくは少ない種は捕まえられてしまうと、即それが種の存続の重大な危機に繋がる。死なないためには敏感にならざるおえない。蝶でも個体数が多い年は全体的に鈍感だけど、反対に少ない年には矢鱈と敏感になる傾向があるからね。生きるって大変なのだ。

ようやく見つかったのが、9時ピッタリだった。ライトトラップの裏側の少し離れた所に止まっていた。
小太郎くんを呼んで、採ってもらおう。譲ったのは、彼がまだミヤマキシタバを採った事がないと知っていたからだ。
隙間の変な所に止まっていたけど、無事ゲット。小太郎くん曰く、変なとこに止まってたせいで背中が落ち武者化したそうだけど、鮮度の良い♂だったそうな。
コレで気合入った。次は譲らなくていいから、又ビシッと見つけて手ゴメにしてやろう。オジサン、変態凌辱男へと変貌す。ψ( ̄ー ̄)ψホレホレ〜、ψ( ̄ー ̄)ψホレホレ〜。ワシの毒牙にかかるがよいわ〜。

しかしその後、深夜の11時になっても、日を跨いだ午前0時を過ぎても真夜中の訪問者は現れない。
遅い時間にしか飛んで来ないって、ホントかね❓再び疑問の首がもたげてくる。

午前1時。
何か気配を感じて振り向くと、背後の闇にキシタバ系のカトカラが飛んでいた。ちょっと違和感を感じた。ようやく真夜中の訪問者のお出ましかも(・∀・)❓…
高さ約2m。羽の裏側がハッキリ見えた。次の瞬間にはミヤマだと脳が認識した。と同時に鋭いステップを切って、五、六歩前へと走って左から右へと網を撫で斬りにする。
手に真芯で捕えた感触があった。腰が入った渾身のスウィングだ。野球のバッティングと同じで、こういうキレイな軌跡で網を振れた時は、まず間違いなくスタンドインだ。

中を見る。

へへへへ(。•̀ᴗ-)✧
∠(`Д´)/シャーーーー❗❗
(^o^)v召し捕ったりぃ〜❗

立ったまま毒瓶を網に突っ込み、迅速に取り込む。去年から取り込み方法も少しは進化しているのだ。ハゲちょろけ率は格段に下がってる。

 
【ミヤマキシタバ♀】

 
たぶん新鮮な♀だ。
しかも落ち武者化してない完品だわさ。ケロケロ🐸
お美しい。前翅の複雑な紋様がベキベキに(☆▽☆)キャッコイイじゃないか。この上翅の美しさはカトカラ屈指のものだろう。中でも♀が綺麗。たぶん、絶対♀の方が紋にメリハリがあるやね。

裏返す。

 
【同裏面】

 
ミヤマキシタバは裏面の黄色味が強く、縁が白っぽく見えるのが特徴だ。だから飛んで来た時にすぐにそれと分かったのだ。
こういう裏面は知る限りではフシキキシタバくらいだろう。

 
【フシキキシタバ】

(2019年 6月 東大阪市枚岡)

 
でもこの時期にはフシキはもう姿を消している筈だから間違えることはない。あとナマリも縁が白っぽいけど、断然小さいから区別は容易だ。それにナマリの裏面はこんなに鮮やかな黄色ではない。

腹と尻先の形からすると、やはり♀だね。
♀は腹が太くて短い。また尻先が♂みたく毛ボーボーではなくて、お毛々少なめでスリットが縦に入り、産卵管らしきものがあるのだ。

帰りの事を考えて午前1時半には撤収の予定だったが、この飛来で小太郎くんから延長の申し出があった。もちろん願ったり叶ったりの吝(やぶさ)かではない。午前2時くらいが飛来のピークだと言われているし、期待値が否応なく膨らむ。
さあ、ここからが本番だ。Hey❗、щ(゜ロ゜щ)カモーン。ジャンジャン飛んで来なさーい。悪辣😈連続強姦魔として化してくれるわい❗

だが、一番飛来数が多いと言われている午前2時を過ぎても1つも飛んで来やしなかった。ホントに基本的には深夜に寄って来るカトカラなのかえ❓

疑問符を頭に抱えたまま午前3時にはクローズする事とあいなった。午前2時にバンバン飛来すると云う情報はガセかよ❓
勿論、ガセではないだろう。好んでそんな情報を流す人はいないからだ。いたとしたら、どうしようもないクズだ。クワガタじゃないんだから、ライバルを手の込んだやり口で情報撹乱する必要性があるとは思えない。蛾はマイナーだからね。
結局のところ、蝶と違って蛾の生態はまだまだ調べられてない事だらけなんじゃなかろうか❓だから、その日によって飛来時間が違うことも多いのかもしれない。
蛾ってワケわかんないや。そう思いつつ、蛾まみれの屋台をバラしていった。

 
                        つづく

 
この日、採ったミヤマキシタバの展翅画像を載っけとこう。

 

 
今回は触角を怒髪天ではなく、真っ直ぐにした。
蝶屋的な展翅だと揶揄する向きもあろうが、ほぼ理想通りの出来だ。美しい。
今年採ったのは結局この1頭のみだったので、来年はもっと採りたいな。

 
追伸
「あえて2020年のことは従来の『続・ミヤマキシタバ』と云う形はとらず、解説編と併せて綴りまする。」
冒頭にはこう書いたが、思いのほか長くなってしまったので、思い切って分けることにした。よって種の解説編は次回にまわします。
なので、この文章を『2019’カトカラ2年生 其の四(2)』から『2020’カトカラ3年生 ミヤマキシタバ』と改題して第三章とする。そして次回の解説編を第二章とし、『2019’カトカラ2年生 其の四(2)』とします。
ややこしい話で申し訳ないのだが、ようするに発表の順番が逆になると云うワケだ。ごめんなさい。解説編が上手く書けなくて、こないな事になってまっただよ(╥﹏╥)

今回も草稿を書き終えてからメチャメチャ書き直す破目になった。段々このシリーズを書くのにも飽きてきたから、調子が乗らないのである。書いてて文章に冴えがないからシックリいかず、アレやコレやといじくっているうちに収集がつかなくなった。

数えたら、まだ書いてないのが11種も残ってる。
+α、ボロしか採ってなくてロクな知見も無いのに書いた種が3種もあるから、その改訂版も書かねばならないだろう。
やれやれだ。考えたら、何だか憂鬱になってきた。とはいえ、台湾の蝶シリーズみたく頓挫するのも何だし、年内には新たに2種分くらいは何とか書きたいかなあ…。

 

2019’カトカラ2年生 其の四(1)

 
     vol.21 ミヤマキシタバ

     『突っ伏しDiary』

 
マホロバキシタバの調査が一段落したので、信州方面に出掛けることにした。

 
2019年 8月1日

大阪駅から東海道線で米原、大垣と乗り換えて名古屋へ。

 

 
名古屋からは中央本線で高蔵寺、中津川と乗り換え、塩尻へ。

 

 
そして塩尻から松本へ。
そう、今年もまた青春18切符の旅が始まったのだ。

 

 
松本駅に着いた頃には、いつの間にか日は傾き始めていた。長い旅になりそうだ。
さらに松本で大糸線に乗り換える。目的の駅までは、あと1回か2回は乗り換えなくてはならないだろう。

 

 
こうゆうローカル線に乗ると思う。嗚呼、随分と遠くまで来たんだなと。

 

 
🎵線路は続くよ、どこまでも。

 

 
駅に降りたのは午後6時過ぎだった。
日没前までには目的地に着きたいところだ。重いザックを背負って湖に向かって歩き出す。今回は普段の超軽装と比べてテントや予備も含めたトラップ用の糖蜜等々荷物が多いので、早くもストレスを感じる。案の定、ちょっと歩いただけで瞬く間に汗ダラダラになる。何だか先が思いやられるや(´ε` )

当初はカトカラの中でも難関と言われるミヤマキシタバ狙いで他の場所に行くつもりだった。けど、信頼しうる筋からの情報が入り、ここならミヤマキシタバの他にもケンモンキシタバ、エゾベニシタバも狙えると聞いた。ならば、マホロバキシタバを発見した勢いを借りて、まだ採ったことのないソヤツらも纏めて片付けてやれと思ったのだ。7月にはマホロバの発見だけでなく、稀種であるカバフキシタバもタコ採りしてやった事だし、今のところ絶好調なのだ。

キャンプ場に着いたのは日没近くだった。
先にテントを張るか、ハンノキ林を確認する為にロケハンするか迷ったが、テントを建てる方を選んだ。久し振りのテント張りだ、暗くなってから組み立てるのが不安だったのだ。暗い中でのテントの組み立ては慣れてないと大きなストレスになる。設置が遅れれば遅れるほど採集時間も削られる。それも大きなストレスになりかねない。それに長旅で疲れていた。一刻も早く落ち着ける場所が欲しかったのだ。古今東西、昔から優れた男というものは、先ずは基地を作りたがるものだしね。

テントを張り終わった頃には辺りは闇に侵食され始めていた。早速、糖蜜トラップを用意して出る。
しかし薄闇の中、湖の畔を歩き回るもハンノキ林が見つからない。まあいい。どうせ湖沿いのどこかには生えている筈だ。とりあえず良さげな木の幹に糖蜜を噴射してゆく。今はマホロバの発見で乗りに乗っているのだ。ソッコーで片付けてやるよ。

しかし飛んで来るのは、ド普通種のパタラ(C.patala)、いわゆる普通のキシタバとフクラスズメばかりだ(註1)。
ハッキリ言って、コイツら死ぬほどウザい。どちらも何処にでもいるし、クソ忌々しいデブ蛾でデカいから邪魔。どころか、特にフクラスズメなんぞは下手に敏感だから、すぐ逃げよる。それにつられて他の採りたいものまで驚いて逃げるから、誠にもって始末が悪い。
おまけにフクラの野郎、カトカラの王様であるムラサキシタバにちょとだけ似てるから、飛び出した時は一瞬だけだが心ときめいてしまうのだ。で、すぐに違うと解ってガッカリする。それが、ものスゲー腹立つ。あたしゃ、本気で奴を憎悪してるとまで言ってもいいだろう。それくらいムカつく奴なのだ。

あっ、また飛んで来やがった。

(#`皿´)おどれら、死ねや❗

よほど怒りに任せてブチ殺してやろうかとも思ったが、彼らに罪はない。だいち、そんな事したら人間のクズだ。何とか踏みとどまる。

結局、夜中まで粘ったが惨敗。姿さえ見ずで狙ってたものは1つも採れなかった。
今日の唯一の救いは、新鮮な紅ちゃんを2頭得られたことくらいだろう。

  
【ベニシタバ Catocala eleta】

(裏面)

 
ベニちゃんを見るのは初めてじゃないけど、新鮮なものはこんなにも美しいんだね。その鮮やかな下翅だけに目が行きがちだが、上翅も美しい。明るめのグレーの地に細かなモザイク模様と鋸歯状の線が刻まれ、上品な渋さを醸し出している。
上翅と下翅の色の組み合わせも綺麗だ。考えみれば、ファッションの世界でもこの明るいグレーと鮮やかなピンクのコーディネートは定番だ。美しいと感じるのも当たり前かもね。ファッションに疎い男子にはワカンないかもしんないけどさ。

 
2019年 8月2日

翌朝、湖を見て驚く。
湖といっても、どうせ池みたいなもんだろうと思ってたけど、意外にも綺麗な青緑色だった。とても美しい。

 

 
こんだけロケーションがいいのならもう1日いて、昼間はじっくりハンノキ林を探しながら湖畔を散歩しても良いかなと思った。
しかし、昨日の貧果から多くは望めないと考え直した。もう1回アレを繰り返したら、ハラワタが煮えくり返ってホントに奴らに危害を加えかねない。
湖を後にして、白馬村へと向かう。

 

 
此処ではキャンプ場を拠点にして各所を回るつもりだ。

移動して温泉入ってテント張ったら、もう夕方になった。
蜩(ひぐらし)の悲しげな声が辺りに侘しく響く。その何とも言えない余韻のある声を聞いていると、何だかこっちまで物悲しくなってくる。夏もいつかは終わるのだと気づかされてしまうからだ。でも、そんな夏の夕暮れこそが夏そのものでもある。嫌いじゃない。

岩に腰掛けて、ぼおーっと蜩たちの合唱を聞いていると、サカハチチョウがやって来た。

 

 
夕闇が訪れるまでの暫しの時間、戯れる。
こちらにフレンドリーで穏やかな心さえあれば、案外逃げないものだ。慣れれば手乗り蝶も意外と簡単。心頭を滅却して無私になれない人はダメだけど。
たぶん20分以上は遊んでたんじゃないかな。お陰で心がリセットされたよ。ありがとね、サカハっちゃん。

此処での狙いは、アズミキシタバ、ノコメキシタバ、ハイモンキシタバ、ヒメシロシタバ、ヨシノキシタバである。この場所も、とある筋からの情報だ。こんだけ居りゃあ、どれか1つくらいは採れんだろ。

 


 

 
🎵ズタズタボロボロ、🎵ズタボロロ~。
だが、各地でことごとく敗退。新しきカトカラは何一つ採れず、泥沼無間地獄の3連敗となる。

1日目はアズミキシタバ狙いだったが、さあこれからというと段になって⚡ガラガラピッシャーン❗ 本気の雷雨がやって来て、チャンチャンで終わる。
2日目は猿倉の奥に行くも、糖蜜には他の蛾はぎょーさん寄って来るのにも拘わらず、カトカラはスーパーにズタボロな糞ただキシタバだけだった。

 

 
思わずヨシノキシタバかと思って採ったけど、この時期にこんなにボロのヨシノは居ないよね。今なら出始めか、下手したら未発生の可能性だってある。それにヨシノはこんなにデカくはない。惨め過ぎて、コヤツにも己に対しても💢ブチ切れそうになったわい。

熊の恐怖と戦いながら闇夜を歩いて麓まで降り、夜中遅くに何とかキャンプ場に辿り着いた。途中、新しい靴で酷い靴ズレになり、両足とも血だらけ状態で見た満天の星空は一生忘れないだろう。
そうまでして頑張ったのに報われず、泣きたくなってくる。これほど連続でボコられてるのは海外だってない。
身も心もボロ雑巾でテントに倒れ込む。

 
2019年 8月4日

 

 
翌朝、テントに付いてるセミの脱け殻を見て、セミにまで馬鹿にされてる気分になった。
そして、悪代官 秋田伊勢守に”Facebook”で言われてしまう。

『マホロバで運を全部使い果たしんじゃないの〜。』

その呪いの言葉に、温厚な岸田先生まで賛同されていた。
きっと、この地は負のエネルギーに満ち満ちているに違いない。こんなに連チャンで負け倒したことは過去に記憶がない。こう見えても虫採りのまあまあ天才なのだ。って云うか、実力はさておき、運というか引きはメチャメチャ強いのである。

(ノ ̄皿 ̄)ノ ⌒== ┫どりゃあ〜。
もう、人に教えられたポイントなんぞ行かんわい❗
最初に自分で考えてた場所に行こう。楽して採ろうなんて考えたからバチが当たったのだ。それに我がの力で採った方が楽しい。人に採らさせてもらった感が極力ない方がカタルシスとエクスタシーは大きいのだ。

 

 
大糸線、笑けるほど本数が少ない。
(´-﹏-`;)知ってはいたけどさ…。

仕方なく白馬駅近くのスーパーへ昼飯を買いに行く。
それにしても死ぬほど糞暑い。燦々と降り注ぐ強烈な太陽光が弱った心をこれでもかと云うくらいに容赦なく苛(さいな)む。

デミグラスハンバーグステーキ弁当と枝豆、発泡酒を買って、イートインコーナーへ。

 

 
全身、頭の先から足の爪先まで心身共にボロボロ状態で枝豆をふたサヤ食い、金麦をグビグビ飲んでテーブルに突っ伏す。
ハンバーグ弁当を半分食って、再び突っ伏す。

 

 
(╥﹏╥)ダメだあ〜、帰りたい。ズブズブの敗残者のメンタルや…。

でもこのあと熊がいると云う湿原に行くのだ。チップス先生、さようなら( ;∀;)

しーさんぷーたー。バラバラになった気力を何とか拾い集め、白馬から当初予定していたミヤマキシタバのポイントへと移動する。

 

 
ここはハンノキ林が多い。この場所でミヤマキシタバが採れなければ終わりだ。いよいよ本当に運を使い果たしたと認めざるおえない。

 

 
キャンプ場は無いので、今夜はテント野宿だ。
幸いにも工事用のトイレがあり、その横にスペースも結構あった。ゆえに充分な距離をおいてテントを設置できた。いくら何でもトイレの真横は嫌だもんね。
トイレ問題は重要だ。野糞は出来なくはないけど、やはりトイレは有った方がいいに決まってる。この精神状態で野糞なんかしたら、ますます惨めになるだろう。こういう一見小さな事が意外とボディーブローのように効いてきて、心の決壊に繋がることはままあるのだ。とにもかくにも1つ問題が解決してホッとする。

残る問題は奴の存在である。当初の予定通りにそこへ行くよとマオくんにLINEしたら、熊がいるから気をつけて下さいという返信があったのだ。まさかそんな標高の低い所にもいるとは思いもしなかった。完全に想定外だったよ。でも考えてみれば、湖にも熊が出まっせ看板があったもんなあ…。(༎ຶ ෴ ༎ຶ)くちょー、キミら何処にでもおるんかいのう。

湿原周辺を歩き回り、良さげなポイントを探す。
しかし、ぐるっと1周回ると思いの外(ほか)広い。ポイントらしき場所を幾つか見つけたが、そのポイント全部を回れそうにはなさそうだ。厳密的には回れなくはないのだが、移動の時間的ロスが大きい。だいち、熊が恐えよ。奥に行けば行くほど遭遇率は高まりそうだもん。
ゆえに場所を大きく2箇所に絞ることにした。一方は壮齢木の多い暗いハンノキ林内、もう一方は比較的明るい若いハンノキ林の林縁を選定した。環境を少し変えたのは、確率を考えての事だ。ミヤマキシタバを採ったことがないゆえ、どんな環境を好むか分かんないのだ。負けっぱなしなだけに慎重にならざるおえない。
その2箇所に広範囲に糖蜜かけまくりのローラー作戦を敢行することにする。もしダメなら、別なポイントに行くしかない。
にしても、どの時点で見切りをつけるかだ。ウスイロキシタバの時は見切りをつけるのが早過ぎて失敗したからね。かといって判断が遅いと手遅れになりかねない。ゴールデンタイムは8時前後から8時半なのだ。それを過ぎると一旦個体数が減る種が多い。特に9時台は止まる。つまり8時を過ぎても飛んで来なければ、ヤバい。しかし、日によっては全体的に飛来時刻が遅れる場合もあるし、カバフキシタバのように8時半になってから漸く現れる種もいるのだ。ミヤマがそっちタイプの可能性だって有り得るのである。悩ましいところだ。判断次第では大コケしかねない。選定した場所が当たりであることを祈ろう。

淋しき夕暮れが終わると、闇の世界の支配が始まった。
暗い。というか黒い。懐中電灯の光で切り取られる湿地はチビりそうなくらいに不気味だ。大体、澱んだ水のある場所ってヤバいんだよね。出ると相場が決まっている。そうゆう所は、京都の深泥池のように心霊スポットになってる場所が多いのである。😱想像して背中が怖気(おぞけ)る。お化けの恐怖と熊の恐怖に怯えながら糖蜜を木に噴きつけてゆく。

暫くしてベニシタバがやって来た。
しかも、立て続けに。

 
【ベニシタバ】

 
美しいけど白馬にもいたし、もう感動は無い。
会いたいのはアナタじゃないのよー(´ε`;)。お目にかかりたいのは、灰かぶりの黄色いシンデレラなのだ。

午後8時近くになってもシンデレラは現れない。
(ー_ー;)ヤバいかも…。
それって、マズくなくなくね❓
普通、糖蜜を撒いたら、大概のカトカラは日没後直ぐか、少し間をおいて集まってくるものだ。まさかのカバフタイプ❓けれども、そんな奴はカバフしか知らない。その確率は低そうだ。やっぱミヤマキシタバって、難関と言われるだけあって採集は難しいのかなあ…。確か「世界のカトカラ(註2)」でも採集難易度が★4つになってた筈だし、灯火採集でも深夜0時を回らないとやって来ないというしさあ。

シンデレラ〜が、死んでれら(ŎдŎ;)

思わずクズみたいな駄洒落を呟いてしまう。重症だ。連敗続きでコワれかけてる。でもクズみたいな冗談でも言ってないと、心の平静が保てないのだ。

駄洒落を言ってる間にも、時間は刻一刻と過ぎてゆく。

さっき、チビッコの死ね死ね団が足元を走っていったような気がする。

心がピンチになると珠に見る幻覚だ。いよいよ、それだけ追い詰めらてる証左って事か。ここでミヤマキシタバが採れなければ、心は完全に崩壊して、チビッコ死ね死ね団くらいでは済まないかもしれない。ダダっ子ぽよぽよ団まで登場すればお終いだ。
焦燥感に居た堪(たま)れなくなって、腕時計に目をやる。
時刻は8時15分になっていた。(-_-;)マジ、ヤバいかも…。
場所を変えるべきか悩みつつ、2箇所を往復する。此処を諦めてポイントを変えるなら8時半、少なくとも9時前までには決断しなければならないだろう。でも靴ズレの痛みが増してきてる。いよいよもって崖っぷちだ。この心と体で、はたして移動できるのだろうか…。

午後8時半過ぎ。
完全にヤバい時間になったなと思いつつ、若木ポイントへと入る。
Σ( ̄□ ̄||)ハッ❗❓
糖蜜を噴きつけた1本目の木に近づこうとして足が止まった。見慣れないカトカラが吸汁にやって来ていたのだ。

コレって、ミヤマキシタバじゃなくなくね❗❓

いや、そうだ。図鑑を何度も見て、姿を脳ミソにインプットしたのだ。間違いなかろう。急速にヤル気モードで全身が武装化される。ここで会ったが百年目、漸くチャンスが巡ってきた。武者震いが走る。
しかし問題はどう採るかだ。網を使うか毒瓶を使うかで迷う。網を使えば、中で暴れて背中がハゲちょろけになる公算が高まる。かといって毒瓶を上から被す方法だと落ち武者にはなりにくいが、逃げられる可能性大だ。
でも迷ってるヒマはない。その間に逃げられたら噴飯ものだ。コヤツが最初で最後の1頭かもしれないのだ。このチャンス、何があっても絶対に逃すわけにはいかぬ。ならば、この戦法しか有るまい。

ここは肉を切らして骨を断つ❗

よし、網で採ろう。先ずは採ることが先決だ。たとえハゲちょろけになろうとも、採れたという事実さえあれば良い。ゼロと1とでは雲泥の差なのだ。それに網で採ったからといって、ハゲちょろけになると決まったワケではない。細心の注意を払って取り込めば何とかなる。

慎重に近づく。ここで逃したら、ダダっ子👻🤡👽🤖ぽよぽよ団たちに捕まって担ぎ上げられ、エッサホイサと運ばれて沼に沈められるやもしれん。で、河童に尻子玉を抜かれるのだ。尻子玉が何たるかはよくワカランが、気合を入れ、心頭を滅却する。
網の柄をスウーッと体の中心、丹田に持ってゆく。そして右足を後ろに引いて腰を落とし、斜めに構える。な、いなや、標的の直ぐ真下に向かって撞きを繰り出す。

とぅりゃあ〜∑(#`皿´ )ノ
秘技✨撞擲ウグイス返し❗

驚いて飛び立った瞬間に💥電光石火でカチ上げ、すかさず網先を捻る。一連の鮮やかな網の軌跡が残像となって脳内に余韻を残す。

(◡ ω ◡)決まったな。

しかし、悦に入っとる場合ではない。急がなければ背中がズルむけ赤チ○ポになりよる。慌てて駆け寄り、ポケットから毒瓶を取り出して網の中に突っ込む。
しかし、驚いたワイのシンデレラちゃんが暴れ倒して逃げ回り始めた。


(@_@)NOーッ、暴れちゃダメ〜。
お願いだから大人しくしてぇー❗
(`Д´メ)テメェ、手ごめにすんぞっ❗

´Д`)ハァ、ハァ。(゚Д゚;)ぜぇー、ぜぇー。
強姦まがいの力づくで何とか毒瓶に取り込んだ。

 

 
けど、(-_-;)やっちまったな…。
見事なまでのキズ物、スーパー落ち武者にしてしまった。

どうやらメスのようだね。メスなのに落ち武者って、何だそりゃ? 自分でも何言ってるのかワカンナイ。しかもシンデレラがハゲてるって、ムチャクチャだ。想像してアホらしくなる。

 

 
翅が他のカトカラと比べて円く、上翅のデザインに独特のメリハリがあって美しい。灰色の帯やギザギザの線が絶妙な位置に配され、上品且つスタイリッシュな魅力を放っている。
思ってた以上に(☆▽☆)キャッコいいー。あっ、久し振りに指が震えとるやないけ。これこそが虫採りの醍醐味であり、エクスタシーだ。だから、こんなにもボロボロにされても網を握れるのだ。やめらんねぇ。

 
(裏面)

 
腹が太くて短いから、やはりメスのようだね。
落ち武者にさせてしまったが、とにかく採れて良かった。心の底からホッとする。全身の力がゆるゆるとぬけてゆく。
これで”Facebook”で公約した通り連敗脱出。秋田さんの呪いの言葉も拭いさられただろう。もう意地である。阪神タイガースとは違うのだよ、クソ阪神タイガースとは。普段カッコつけてる分、そうそう負け続けるワケにはいかないのだ。
ここからは、怒濤の巻き返しの倍返しじゃ(#`皿´)❗

 

 
その後、憑き物が落ちたかのように彼女たちは続けて飛んで来た。しかし、ヒットしたのはこの周辺だけだった。ハンノキ林だったら何処にでもいると云うワケではなさそうだ。そこが珍品たる所以だろう。

 

 
コチラはオスだね。
尻が長くて、先っちょに毛束がある。

その後、何頭目かに漸く落ち武者化させずに回収することができた(画像は無い)。
だが、午前0時を過ぎると、全く姿を見せなくなった。シンデレラは魔女との約束を守って舞踏会から姿を消したのかもしれない。夜中2時まで粘ったが、二度と現れることはなかった。
それでも何とか計8頭が採れた。個体数は何処でも多くないと聞いていたから、まあこの数なら御の字だろう。

疲れ切った体でテントに転がり込む。
四肢を力なく広げて突っ伏し、目を閉じる。
熊の恐怖が一瞬、脳裡を過(よぎ)る。もしかしたら寝ている間に熊に襲われるかもなあ。
だが、あまりにも疲れ過ぎていた。

ミヤマキシタバも採った事だし…。
もう熊に食われてもいいや…。

そう思いつつ、やがて意識は次第に薄れていった。

                         つづく

 
その時に採った雌雄の展翅画像を貼っつけておきます。

 
【Catocala ella ミヤマキシタバ♂】

 
下翅中央の黒帯が一本で、外縁の黒帯と繋がらないのが特徴だ。日本ではソックリさんのキシタバは他に居ないので、まあ間違えることは無かろう。

 
【同♀】

 
この♀は、下翅がやや黒化している。
私見では♀は♂と比べて上翅の柄にメリハリがあるような気がする。けど、どこにもそんな事は書いてないし、言うほど沢山の個体を見ているワケではないので断言は出来まへん。

それはさておき、♀の展翅が前脚出しいのの、触角は怒髪天の上向き仕様になっとる。この時期はまだまだ展翅に迷いがあったのだろう。模索している段階で、どれが正しいのかワカンなくなってた。今でも迷ってるところはあるけどね。

 
追伸
やっぱり一回では終らないので、つづきは何回かに分けて書きます。
なお今回、ミヤマキシタバをシンデレラに喩えているのを訝る向きもありましょうが、意味するところは後々明らかにされてゆきますですよ、旦那。

えー、どうでもいい話だけど、前回に引き続き今回もアホほど書き直す破目になった。草稿は2週間前に書き終えてのにさ。
まあ、文才がないゆえ致し方ないのだろうが、やれやれだよ。

 
(註1)ただキシタバとフクラスズメ

【キシタバ】

 
何処に行ってもいるカトカラ最普通種だが、冷静に見れば大型で見栄えは悪くない。もし稀種ならば、その立派な体躯は賞賛されているに違いなかろう。実際、欧米では人気が高いそうだ。

それにしても、この和名って何とかならんかね。他のキシタバはミヤマキシタバとかワモンキシタバとかの冠が付くのに、コヤツはただの「キシタバ」なので、一々ただキシタバとか普通キシタバなどと呼ばなければならない。それがウザい。そうゆうところも、コヤツが蔑まれる原因になってはしまいか?
ちなみにアチキは「デブキシタバ」、小太郎くんは「ブタキシタバ」と呼んでいる。アレッ?「ブスキシタバ」だっけか? まあ、どっちだっていい。とにかく、どなたか偉い方に改名して欲しいよ。それがコヤツにとっても幸せだと思うんだよね。
そういえば、この和名なんとかならんのかと小太郎くんと話し合った事がある。その時に彼が何気に言った「オニキシタバ」とゆうのが個人的には最も適していると思う。ダメなら、学名そのままのパタラキシタバでいいんじゃないかな。

 
【フクラスズメ】

(出典『http://www.jpmoth.org』

 
手持ちの標本が無いので、画像をお借りした。不便だから1つくらいは展翅しておこうと思うのだが、そのままになってる。今年も何度も見ているのだが、採ることを毎回躊躇して、結局採っていない。正直、気持ち悪いのだ。邪悪イメージの蛾の典型的フォルムだし、ブスでデブでデカいから出来れば関わりたくないと思ってしまう。奴さん、性格も悪いしね。こんなもんが、覇王ムラサキシタバと間違えられてる事がしばしばあるのも許せない

 
【ムラサキシタバ】

 
色、柄、フォルム、大きさ、品格、稀度、人気度etc…、全てにおいて遥かにフクラスズメを凌駕している。月とスッポンとは、この事だ。

 
(註2)世界のカトカラ

 
カトカラの世界的研究者である石塚勝己さんの世界のカトカラをほぼ網羅した図鑑。日本のカトカラを知る入門書ともなっている。