(/´△`\)ガッカリやわ

 
こないだの日曜日は、大阪昆虫同好会の総会&新年会だった。
で、標本をオークションに出した。
お金に困っているのだ。

結果はガッカリだった。
みんな酒飲んでるし、オークションに出てた標本数も多かったし(ホイホイ結審になる)、外国の蝶は価値が解らない人も多いから致し方ないんだけどさ。おまけにショバ代も引かれるから思ってた程にはならなかった。

 
【アルボプンクタータオオイナズマ】

 
アルボプンクタータは大好きな蝶だ。特に♀は佳蝶と言っても差し支えなかろう。
場所はラオスのLak Sao(ラクサオ)のものだ。
知る限りでは、記録は殆んど無い所だと思う。たかってくる小蝿に苦しめられながら採ったんだよね。

このアルボは長谷さんのもとへ。
これはOK。長谷さんの標本は何処かちゃんとした機関に寄贈される可能性が高いからいいのだ。後世に残るだろうから、ゴミにならなくて済む。

 
【ヤイロタテハ】

 
これまた佳蝶ですな。
画像のように裏が厳(いか)つくて美しい。
初めて海外採集に行ったマレーシアのキャメロンハイランドで採ったものだ。存在を全く知らなかったので、見た時はメチャメチャ何じゃこりゃ\(◎o◎)/❗❗と思ったものだ。
再展翅までして完璧に仕上げたのに、ガッカリの金額で落札された。

 
【アンビカコムラサキ♂】

 
個人的には世界で最も美しいコムラサキだと思う。
これも存在を全く知らなかったので、初めて見た時は何じゃこりゃだった。場所はラオスのバンビエン。
裏が白くて(裏も美しい)、最初はチビ系のフタオチョウかなと思って採ったら、網の中で青紫の幻光色が青い炎のようにビッカビカッに光った。ものすごーくビックリしたっけ。
外野から『♀ないんかーい!』と言葉が飛んだが、『採っとるわ、ボケー。』と思わず言ってもうた。酒の席じゃ、許せ。
確かに♀はかなりの珍品だ。でも、幻光色がないから全然綺麗ではない。それと言っとくけど、♂は珍品じゃないけれど、行けば確実に採れるというものでもない。イモと引きの弱い人は採れまへんえ。

 
【オオウラギンヒョウモン】

 
長崎の自衛隊演習場で採ったものだ。
今は採集禁止になっていると思われる。
♀もデカ♂も結構採った。その2つがいる微妙な環境が読めたので、その時に来ていた人の中ではダントツで採った筈。この頃が一番感性が研ぎ澄まされていたと思う。
福岡の高島さんと御一緒した思い出深い採集行だ。
それなのに激安で落札(T_T)

 
【コヒョウモンモドキ】

 
岐阜県の湿原でタコ採りした。
普段はある程度採るとすぐ飽きる人なので、あまり数は採らない。だから、昔はよく叱られていた。
なんだけど「そのうちおらんようになるから、今採っとかないとアカンでぇー。」と言われて頑張った。長靴を持ってなかったので、結構大変だったけど面白かった。
なんぼで売れたか知らんけど、安かったんじゃなかったかな。

 
【カトカラセット】

 
特に珍しいものは入ってないゆえ、800円で出した。
1つ百円➕箱代である。千円で落札されたかと思う。
これは、どうせ売れ残ると思ってからラッキー。

来年は屑チョウをアホほど並べて、セコく小銭を稼いだろかしら。

                    おしまい

 

2018′ カトカラ元年 其の13 後編

  vol.13 エゾシロシタバ 後編

      解説編

   『dissimilisの謎を追え』

 
エゾシロシタバの解説編である。
前回、エゾシロをろくに採ってない事は話した。なので御理解戴けるかと思うが、解説編でも生態面に関して何ら新しい事は書いていない。よって、殆んどが文献からのパクリになろうかと思う。というワケなので「~らしい、~みたいだ、○○なんだそうだ」の連発になりそうだ。おまけに初のオリジナル画像無しにもなりそうだ。早くも、そうだ、そうだの連発で先行き不安だが、それでも自分なりの解釈もあろうかと思う。面白く書けることを祈ろう。

 
【エゾシロシタバ】
(出展『世界のカトカラ』)

 
(出展『日本のCatocala』)

 
【学名】Catocala dissimilis Bremer,1861

小種名の dissimilis(ディッシミリス)の語源は、頼みの綱である平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』にも近いものを含めて載っていなかった。
だが、おそらくlatin(ラテン語)由来だろう。何とかなりSODA。ちゅーワケで自分で探すことにした。

ネットでググりまくったら、わりと昆虫の学名には付けられているようだ。日本でもアマミノコギリクワガタ(Prosopocoilus dissimilis)やエゾスズメ(Phillosphingia dissimilis)に、その名がある。この2つ辺りが代表だろうが、ざっと見たところ他にも幾つかある。

・チャモンナガカメムシ Dieuches dissimilis
・ウスチャオビキノメイガ Yezobotys dissimilis
・テンウスイロヨトウ Athetis dissimilis
・アナズアリヅカムシ Batrisceniola dissimilis
・キアシチビメダカハネカクシ Stenus dissimilis

昆虫以外の鳥や貝などにも、この小種名がつけられているものがいるようだ。それだけあれば、何らかのヒントはつかめるだろう。

綴りとラテン語で検索すると、怖れた程には苦労せずにヒントが見つかった。
造語で、dis-➕similis(“resembling, like”)となっている。それで、だいたいの意味は窺えた。
resemblingは、resembleの現在分詞で「○○に似ている」だし、likeは「○○のような」という意味だ。
でも、いったい何と比して似ているのだ❓ 今一つピンとこない。対象物が浮かばん。

更に踏み込んで調べてゆく。
ラテン語だと、disには「二つに分かれて、分離の、逆に、甚だしく」の意味があるようだ。
また違うのが出てきた。嫌な予感がする。ぬかるみ世界が顔を覗かせとるがな。でも何かと似ていて、そこから分離されたと解釈できないこともない。

ググり続けていると、ようやく「dissimilis」そのものにヒットした。
意味は「異なった、異なる、異質の、~とは異なり、違う」。コレまた言葉は違(たが)えど、~と似ているが異なるものと解釈すれば、意味は同じともとれる。

おそらく学名に込められた意味は、これらをひっくるめたもので間違いなかろう。
例えば、Prosopocoilus dissimilis(アマミノコギリクワガタ)なんかの学名は、日本本土にいる普通のノコギリクワガタ(P.inclinatus)を基準に名付けられたものだろうと推察される。即ち見慣れたノーマルのノコギリクワガタと較べて異質で、別種として分離されるべきものだから「dissimilis」と名付けられるに至ったのではないかと想像する。
またアマミノコギリは南西諸島特産で島ごとに変異があり、7亜種(アマミノコギリ・トカラノコギリ・トクノシマノコギリ・オキノエラブノコギリ・オキナワノコギリ・イヘヤノコギリ・クメジマノコギリ)に分けられている。どの亜種も形や色にそれぞれ少しづつ変わった特徴を備えている事も関係しているかもしれない。これもまた、似ているが違うものだからね。
それらのパターンに則れば、エゾシロシタバの学名由来も似たような理由だと思われる。だとしたら、問題はエゾシロシタバが何と較べて異質で、何から分離されたかである。似ているが異なるモノの根本の存在を突き止めねばならぬ。

慌てる乞食は貰いが少ない。先ずは外堀から埋めていこう。答えのヒントは学名に隠されている筈だ。
記載者 Bremerはロシアの昆虫学者であり、自然主義者の Otto Vasilievich Bremer(オットー・ヴァシリエヴィッチ・ブレマーの事かと思われる。没年が1873年11月11日とあるから、活躍した時代とも合致するし、間違いないと思うんだけど…。もし間違ってたら、もう謝り倒すしかないね。けど同じ時代に、同じ名前の昆虫学者はそう何人もいないと思うんだよね。

Bremerといえば、セセリチョウの研究で有名ではなかったかな❓
『日本産蝶類標準図鑑』によれば、日本のセセリチョウだけでもイチモンジセセリ、コキマダラセセリ、チャマダラセセリ、ヒメキマダラセセリ、ヘリグロチャバネセセリ、ギンイチモンジセセリ、ミヤマセセリの記載者にその名がある。
因みに日本のカトカラではオニベニシタバとオオシロシタバの記載者名に、このBremerの名がある。カトカラの記載年は全て1861年。セセリは1852年と1861年の二つに分かれている。
もしやと思い、日本の蝶で他にBremerが記載したものはないかと探してみたら、あった。
オオミスジ(1852)、サカハチョウ(1861)、ミヤマシロチョウ(1861)、クロシジミ(1852)、トラフシジミ(1861)と5つある。そして、全てが1852年か1861年のどちらかの記載だった。蛾は分からないが、日本の蝶に関しては見る限り他の記載年はない。これは何処かから、その年に纏めて送られたきたものに命名したか、実際に其所に本人が訪れて採集したことを示唆してはいまいか❓もしかして、それは日本❓
となると、これら各種の分布が気になってくる。この中に日本固有種がいれば、ある程度それが証明できる。エゾシロシタバのタイプ産地も日本である可能性が出てくる。

だが探した結果、残念ながら日本固有種はいなかった。
(|| ゜Д゜)おいおい、また別のぬかるみにハマっとるやないけー。迷走必至のパターンじゃよ。
但し、共通項はあった。何れの種も日本、朝鮮半島、沿海州(ロシア南東部)、中国東北部に分布していることが分かった。ならば、その何処かである。即ち、タイプ産地が分かればいいワケだ。もう1回、図鑑を仔細に見直す。

ありました❗
ミヤマシロチョウの解説欄に、名義タイプ亜種のタイプ産地はロシア南東部と書いてあるではないか。だとすれば、他の蝶もタイプ産地はロシア南東部なのかな❓
日本がタイプ産地になっているものがある可能性を無視できないところだが、そう云う事にしておこう。調べるのが段々イヤになってきたし、それを追うことが本稿の第一の目的ではない。既にだいぶ本筋から逸脱しているのだ。

遠回りになったが、これらの事からエゾシロシタバに似ているカトカラはロシアにいる筈だ。
もしも本当にBremerがロシア人のO.V.Bremerその人ならば、ロシアに分布するカトカラを見て、エゾシロシタバを「dissimilis」と名付けたのだろう。だから、ロシアにいるカトカラの中からエゾシロに似ていて非なるものを探せばいい。或いは一見エゾシロに似ていないが、よく見れば似ているのを探せばいいのかな。ちょっと脳ミソが錯綜しかけているが前へと進めよう。

世界のカトカラを網羅した文献といえば、石塚さんの『世界のカトカラ』だ。
それ見りゃ、ソッコーで解決でけるんちゃうけー。楽勝やろ。
解決したも同然の気分で『世界のカトカラ』を開く。

 

 
ガ、ガビ━━━Σ( ̄ロ ̄lll)━━━ン❗無い❗❗
無いと云うワケではないが、相当するものが無い。下翅が黒いカトカラが殆んどおらんのだ。アメリカ大陸にはぎょーさんおるのに、ユーラシア大陸には1種類しかいないのだ。それもロシアじゃなく、トルコだ。

 
【Catocala viviannae ターキィクロシタバ】
(出展『世界のカトカラ』)

 
分布地はトルコで、非常に稀な種らしい。トルコ以外にはいないみたいだし、それにエゾシロシタバみたく小さくない。クロシオキシタバくらいはありそうだ。だいち下翅は黒いといっても全然似てないじゃないか。コレとエゾシロが似ているなんて言う輩がいたら、目が腐っとるとしか思えん。
それに決定的なのは記載年だ。記載は1992年。Bremerは百年以上前(1873年)に死んどるわい。有り得ん。

アメリカ大陸にしても、黒い下翅のカトカラは沢山いるのにも拘わらず、似てる奴が1つもおらん。デカイのばっかだし、皆さん上翅がカッコいい。

 
【Catocala flebilis カリモガリクロシタバ】
(出展『世界のカトカラ』)

 
カッコいいので、他にも幾つか並べちゃおう。

 
【Catocala agrippina アグリピナクロシタバ】

 
【Catocala epiona フチシロクロシタバ】

 
【Catocala palaeogama クルミクロシタバ】

 
【Catocala sappho カバフクロシタバ】

 
チンケなエゾシロシタバと比べられたとしたら、一緒にすな!と、みんな怒るで。
他にもカッコいいクロシタバはいるが、それは図鑑を買って見ましょうネ。

( ゜o゜)あらま、見逃していたが小さいのもいた。

 
【Catocala judith ユディトクロシタバ】
(出展 以下5点共『世界のカトカラ』)

 
下翅に白斑はないが、そこそこ似ている。大きさ的にもエゾシロシタバと同じくらいだ。
だが記載されたのは、Bremerが没した翌年の1974年。エゾシロよりも後の記載なので、似て非なる者にはあたらない。

見過ごしていたが、更に後ろの方にも小型のクロシタバが幾つかいた。

 
【Catocala miranda ミランダクロシタバ】

 
記載年は1881年だから、これも既にBremerは他界している。当然、候補から脱落だ。だいち、分布は局地的で非常に稀なカトカラみたい。有り得んな。

 
【Catocala orba ヒメクロシタバ】

 
これまた記載は1903年。枠外だね。

 
【Catocala andromedae コケモモクロシタバ】

 
似ているかもしんない。背景が白くて分かりにくいが、面積は小さいものの下翅の白斑の位置が同じだ。それに同じくらいの大きさか、やや小さいくらいで、エゾシロと大差ない。
記載は1852年。Bremerがバリバリ活動していた時期である。エゾシロよりも早い記載だし、普通種みたいだから、これは有り得るなあ…。
でも、わざわざ遠く離れたアメリカ大陸のカトカラを意識して学名を付けるものだろうか❓考えにくいところではある。判断が難しいところだ。
いや、この時代には下翅の黒いカトカラは、まだ現在みたいに沢山は発見されていない筈である。ならば、当然比較の対象になりうる。

一応調べたら、殆んどがBremerの死後以降の記載だった。生前以前の記載はコケモモクロシタバ、カリモガリクロシタバ、フチシロクロシタバ、クルミクロシタバ、ヒアイクロシタバ、ヤモメクロシタバの6種だった。クロシタバは全部で20種くらいだから少ない。やはり多くは1861年以降の記載と云うワケだ。6種だけなら、カトカラ全体の記載数もまだ少なかった時代だと推測される。ならば、Bremerが比較の対象をアメリカ大陸にも広げていたことは充分考えられる。
その6種のうち小型なのはコケモモクロのみである。
つまりアメリカ大陸に棲む下翅の黒いカトカラの中では、コヤツしか該当する条件を満たす者はいないと云うことだ。暫定だが、筆頭候補としよう。

他に考えうるとすれば、アジアのマメキシタバか…。
たしかマメキシタバは日本以外にも居たよね。

 
【マメキシタバ Catocala duplicata ♀】

(2019.8月 大阪府四條畷市)

 
マメちゃんは一見したところ、エゾシロシタバとは全然似てない。だが研究者の間では類縁関係が示唆されており、岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』には「翅の基本パターン、ゲニタリア(交尾器)の形態、幼虫の形態など類似点も多い。」とあった。だが、類縁関係は明らかでないとも書いてあった。

マメキシタバはロシア南東部にはいないようだが、日本や朝鮮半島、中国にはいる。エゾシロと分布が重なる地もあるのだ。その何処だかは分からないが、そこで両者が二つに分化した可能性はある。ちょっとだけ謎の解明に近づいたかもしれない。

ここで原点に戻ろう。学名「dissimilis」の語源と意味に、今一度立ち返ろうではないか。
これまで調べた語源と意味を全部並べてやれ。
「~に似ている、~のような、二つに分かれて、分離の、逆に、甚だしく、異なった、異なる、異質の、~とは異なり、違う」。
コヤツらを強引、豪腕で組み替えて1つにしたろ。

「エゾシロシタバとマメキシタバは共通の祖先種から二つに分かれて、更に分離が進み、やがて甚だしく違う異質なものとなった。しかし、両者は違うように見えて、よく見れば逆に似ている。」

ムチャクチャである。強引にも程がある。
Ψ( ̄∇ ̄)Ψケケケケケ…。もう行き詰まってて、マッドな男になっているのだ。
このままだとクロージングできない。もうヤケクソでバカボンのパパ風に言ってやる。

コレで、いいのだ。

学名はマメキシタバに比して付けられたとしよう。
もう、それでいいではないか。オジサン、疲れたよ。

Σ( ̄ロ ̄lll)え━━━━━━━っ❗❓
しかし、マメキシタバの記載年を確認して、ひっくり返る。マメキシタバの記載は1885年だ。Bremerは、もう死んどるぅー(T▽T)
マメキシタバは、その対象者じゃなかったって事だ。
もおーっ、どいつと似てて、異質なのぉー(*ToT)

う~ん。現時点では、エゾシロシタバはコケモモクロシタバと比して似ているが異なるモノとせざるおえない。
しかし、この「dissimilis」の語源の見立てそのものが間違っているのではないかと思えてきたよ。なぜにこの学名が採用されたのだ❓

お手上げだ。
参考までにシノニムを付記して、この頃を終えることにしよう。

Wikipediaによれば、シノニム(同物異名)には以下のようなものがある。

◆Ephesia nigricans Mell, 1939(nec Mell, 1939)
◆Catocala nigricans
◆Ephesia griseata Bryk, 1949
◆Catocala hawkinsi Ishizuka, 2001
◆Ephesia fulminea chekiangensis Mell, 1933

 
【和名】
シロシタバとつくが、シロシタバと類縁関係はない。
というか、下翅が白くない。白い部分は有るにしても、申し訳程度だ。大部分が黒い。なのにシロシタバなんである。初心者に混乱を引き起こしかねない酷いネーミングだ。命名者のセンスを疑うよ。脳ミソの中で、どれがどうなったら白シタバという名前が出てくるのだ❓
エゾクロシタバに改名した方がええんでねぇの❓

上につくエゾも酷いっちゃ酷い。エゾは蝦夷(註1)のことで、主に北海道を指しているのだが、これも安易。北海道で発見されたものや北海道や東日本に多いとか、北方系と考えられるものに、このエゾが付けられる場合が矢鱈と多いはしまいか❓
実際、昆虫の名前にはエゾが付くものは多い。
例えばエゾゼミ、エゾハルゼミ、エゾマイマイカブリ、エゾカタビロオサムシ、エゾシロチョウ、エゾスジグロシロチョウ、エゾミドリシジミ、エゾイトトンボ、エゾシモフリスズメ、エゾカメムシetc…と枚挙に暇(いとま)がない。
でもエゾゼミは九州にだっている。もともとエゾゼミはコエゾゼミとは異なり、南方系のセミらしいぞ。夏でも気温があまり上がらず涼しい北海道よりも、むしろ長野県や東北南部で多く見られる傾向があるというではないか。エゾハルゼミだって九州にいるし、エゾカタビロオサムシにいたっては奄美大島にまでいるみたいだぞ。何やソレ❓ってツッコミ入れたなるわ。

(-“”-;)んぅ❗❓ちょっと待てよ。もしも、記載は日本の北海道で採れたものからされたならば、和名をエゾとしても不思議ではない。北海道で最初に採れたんだったとしたら、その和名は有りでしょう。
しかし、ネットで調べてもタイプ産地が何処なのかワカラヘーン\(◎o◎)/
結局、Holotype=基産地が何処なのか見つけられなかった。おまえの探し方が悪いんじゃと言われそうだが、皆さんが思っている以上のパープリンなのだ。能力は低いもんね。
石塚さんが、新たなカトカラ図鑑を作っているという噂を聞いたけど、もし本当なら次の図鑑にはタイプ産地も載せて欲しいなあ。あと、裏面の画像も。図鑑でもネット情報でも裏面写真があまり無いから困るんである。種の同定をするには、裏面も大事だと思うんだよね。

因みに、Bremerのタイプ標本の大半はロシアのサンクトペテルブルグにある動物博物館にあるらしい(やどりが 190号 2001年 松田真平)。
言明はしないけど、総合的に考えると、たぶんエゾシロのタイプ標本はロシア南東部(沿海州)の可能性が高いかな…。明日、真平さんに会うだろうから訊いてみよっと。

 
【亜種】

◆Catocala dissimilis dissimilis
◆Catocala dissimilis melli Ishizuka, 2001

他にもあるかもしれないが、Wikipediaではそうなってた。

 
【変異】
前翅が著しく白化する個体がいるようだ。
↙こう云うヤツのことを言ってるのかな↘

 
(出展『東京昆虫館』)

 
どうやら白化と言っても、翅の付け根部分までは白くならないようだ。

また、黒化するものもいるという。
こんなんかな?↘

 
(出展『世界のカトカラ』)

 
何かカトカラじゃないみたいだ。小汚ないヤガの仲間にしか見えないぞ。

 
【開張(mm)】 45~50㎜
『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には、そうある。『日本産蛾類標準図鑑』では44~51㎜内外となっていた。何れにせよ、日本ではマメキシタバ、ヤクシマヒメキシタバと並び、最も小さいカトカラである。
あっ、ナマリキシタバやアズミキシタバも小さいか…。

 
【分布】北海道・本州・四国・九州・対馬

『世界のカトカラ』の県別分布図によると、日本で記録のない都道府県は千葉県、奈良県、福岡県、沖縄県のみである。一方『日本のCatocal』の分布図では千葉県、山口県、福岡県、沖縄県が空白になっていた。

おそらく分布は主要な食樹であるミズナラとカシワの分布と重なるものと考えられる。
従って東日本に多く、西日本では少ない傾向にある。近畿地方の中心部では稀。九州でも稀。たぶん四国でも稀だと思われる(註2)。
何れもミズナラが自生する冷温帯、比較的標高の高い山地に棲息する。中国地方にはカシワが自生するので、西日本の中では比較的多いようだ。

ネット上に解りやすいミズナラとカシワの分布図があったので、添付しよう。

 
(ミズナラ分布図)

 
(カシワ分布図)
(出展 2点共『www.ffpri.affrc.go.jp』)

 
この二つを重ね合わせたものが、エゾシロシタバの実際の分布に近いのではなかろうか?
これを見れば、近畿地方の真ん中がポッカリ空いているし、九州地方に少ないのも理解できる。
四国にはカシワはないが、ミズナラは中央の四国山地に案外あるなあ…。結構いるのかもしれない。

近畿地方では全府県で記録されているようだ。
但し、前述したように少ない。ネットで記録を拾っただけだが、以下の場所で記録されている。

大阪府 貝塚市和泉葛城山
奈良県 奈良市近畿大学奈良キャンパス
京都府 京都大学芦生演習林
和歌山県 龍神村護摩壇山

『世界のカトカラ』では奈良県は空白になっていたが、一応奈良県にも記録はあるみたい。滋賀県と三重県は分布するとされているが、記録を拾えなかった。でもミズナラの分布図からすれば、少なくとも滋賀県には居そうだな。
兵庫県内では記録が多い。西播から但馬地方などの西側北部に限られるが、生息地での個体数は多いようだ。

日本国外では、沿海州(ロシア南東部)、樺太、朝鮮半島、中国(四川省北部・甘粛省南部)に分布する。

 
【成虫出現月】7~9
7月から出現し、10月頃まで見られるが、新鮮な個体が得られるのは8月初めまでのようだ。

 
【生態】
ネットを見ていると、その殆んどが灯火採集によって得られている。飛来数は多く、クズ扱いされてる感じだ。特に東日本では、居るところにはドッチャリいるみたいだね。東日本では、普通種扱いになってるのも理解できる。

西尾規孝氏の『日本のCatocala』に拠れば、低山地ではクヌギ、ヤナギなどの樹液によく集まる。しかし、標高の比較的高いミズナラ帯では採餌行動は殆んど観察されていないそうだ。
どうりで標高の高いブナ林帯では糖蜜に寄って来なかったワケだ。ただし、その場所に分布していたのかどうかはワカンナイけど。

 

 
日中は頭を下にして樹幹や岩などに静止している。驚いて飛翔した時は上向きに着地して、数10秒以内に姿勢を変えて下向きになるという。また、着地するのは飛び立った木とは反対面に止まることが多いらしい。この行動パターンはマメキシタバと全く同じなんだそうな。
マメキシタバって、そうだったっけ❓
昼間にそれなりの数を見ている筈だが、記憶にない。
おそらくは敏感で、すぐに飛び立ち、小さいから見失ってしまうのだろう。それに所詮はマメなので、フル無視だ。追いかけて探したりまではしないもんね。

 
【幼虫の食餌植物】
主要な食樹はブナ科コナラ属のミズナラとカシワ。
だが『日本のCatocala』によると、低山地(長野県の標高700~1000m付近の谷沿い)ではクヌギ、コナラも食樹になっているようだ。但し、ミズナラの場合よりも遥かに幼虫は少ないという。
つまり、幼虫の主な生息地は山地のミズナラ帯である。長野県の白馬村や大町市といった標高1000mのカシワ林ではマメキシタバ、ヒメシロシタバと混生する場合があるが、どのような場所でも主要な発生木はミズナラみたいである。
飼育する場合、コナラ属(Quercus ssp,)全般が代用食になるという。幼虫は樹齢15~40年の木によく付き、標高の高いところでは巨木に発生することもあるそうだ。

 
【幼生期の生態】
もう、ここは全面的に西尾氏の『日本のCatocala』に頼る。だいちと云うか、そもそもが幼虫期に関してここまで詳しく書かれたものは他に無いのだ。

卵から孵化後、幼虫はマメキシタバと同じく暫く動き回り、物に糸でぶら下がって静止していることが多い。
終齢幼虫は5齢。飼育すると、ごく一部が6齢に達するという。昼間、若齢から中齢幼虫は裏に静止している。終齢になると、太い枝や樹幹に降りてくる。
野外での終齢幼虫の出現時期は、長野県の低山地で6月上・中旬。1600mの蓼科高原では6月末~7月上旬。

 
(出展『フォト蔵』)

 
野外で見つかる幼虫には色彩変異があり、濃淡の強い個体や全体が暗化したり、淡色化した個体までいるんだそうだ。

幼虫はマメキシタバの幼虫と似ていて、高標高のものは白っぽくて殆んど区別できないものもいるという。マメキシタバとの識別点は腹部下面に列生する肉突起。いわゆるフィラメントの有無による。マメキシタバにはフィラメントがあるが、エゾシロにはないそうだ。
これだけ幼生期を詳しく調べられている西尾氏でも、蛹化場所についての知見は無いという。普通カトカラの蛹は落葉の下から見つかるから、発見できないのはちょっと不思議だね。

成虫も幼虫も生態面諸々がこれだけマメキシタバに似ているとなると、無視できないものがある。
学名の項で既に触れているが、もう一度両者について考えてみよう。

と思ってたら、『世界のカトカラ』の末尾に別項で言及されているのを見つけた。
見る時はいつもテキトーにパラパラやってるから、全然気づかなかったよ。けど、タイミングが良いと云えば良い。知らずに全て書き終えた後に気づいてたら最悪だったもんね。本を持っているのに見てないだなんて、アイツは能無しだとバカにされること明白だわさ。

『闇の中の光』と題した文中の「外見が著しく異なる近縁種」のページから抜粋しよう。

「マメキシタバ duplicataーエゾシロシタバ dissimilis
以前からこの2種は近縁と言われてきた。確かに成虫は後翅が黄色いか黒化しているかで、基本的な斑紋パターンやゲニタリアは似ている。幼虫も似ている。外観的には、前述の北アメリカの3組(※)とほぼ同様であり、類縁関係はある筈なのだが、ミトコンドリアDNA、ND5の塩基配列では明瞭な類縁関係は認められない。おそらくCatocalaが最初に一斉に適応放散した頃にこの2種は種分化し、その後あまり形態的変化を生じないまま今日に至っているのではないだろうか。」

※後翅が黄色と黒と著しく異なる近縁種の組合せ

Catocala consores ━ Catocala epione
Catocala palaeogama ━ Catocala lacrymosa
Catocala gracilis ━ andromedae
の3組のこと。

えーい、こんなんじゃ解りづらかろう。
図鑑の画像ばっかパクってるので心苦しいが、ブッ込む。

 

(出展『世界のカトカラ』)

 
ようは一見すると遠縁に思えるが、共通の祖先種から各々分化したと予想されると云うことだ。上翅の斑紋を見ると、それが何となく解る。

また、次のコシロシタバとヒメシロシタバの項にもマメとエゾシロについて触れられている。要約しよう。

「ユーラシア大陸にはコシロシタバ、ヒメシロシタバ、エゾシロシタバ、ターキィクロシタバ、C.nigricans(アサグロシタバ)、チベットクロシタバ(C.xizangensis)という5種類の後翅が黒化したカトカラがいる。」

と、ここで早くも躓く。
アサグロシタバ❓、チベットクロシタバ❓(・。・)何だそりゃ❗❓
ちょっと待て。ユーラシア大陸には黒い下翅のカトカラは、エゾシロシタバ、コシロシタバ、ヒメシロシタバを除けば、ターキィクロシタバしかいないと思っていたけど、他にもおるんかい❗❗
ネットの『ギャラリー・カトカラ全集』にも「北アメリカに後翅が黒化したカトカラが多いが、旧大陸ではターキイクロシタバと本種の2種が後翅が黒化したカトカラとして知られているだけで…」とあったから、ターキィのみだとばかり思ってた。でも、そうじゃないんだ❓ここまで来て、青天の霹靂の急展開じゃないか。おいおいである。
早速、慌てて図版を見返す。

 

 
(-“”-;)あった…。
でも何じゃそりゃである。

 
【コシロシタバ&ヒメシロシタバ】
(出展『世界のカトカラ』)

 
気が引けるし、裏面くらいは自分の画像を使おう。

 
【コシロシタバ裏面】

 
【アサグロシタバ&チベットクロシタバ】
(出展『世界のカトカラ』)

 
チベットクロはバカでかいものの、何のことはない、コヤツらみんなコシロシタバと殆んど同じである。
コシロとヒメシロシタバのページに埋もれてて、見逃しておったわ。我ながらダセーな。

いやいや、ちょと待て、ちょと待て、お兄さん。
もしかしたら、コシロ、ヒメシロ、アサグロ、チベットクロの何れかがエゾシロシタバの学名「dissimilis」の似ているが非なる者の語源になったカトカラかもしれない。灯台もと暗し。盲点じゃったよ。まさかコシロやヒメシロとは考えもしなかった。両者とエゾシロとは上翅の斑紋パターンが違うし、地色や下翅の白紋の位置も違うのだ。
もしそうだったとしたら、🎵チャンチャンのオチじゃないか。まあ、解決すればスッキリするから、それはそれで良いんだけどさ。

(|| ゜Д゜)あちゃー。
けど、それも有り得ない。
コシロの記載年は1874年。ヒメシロが1924年でアサグロは1938年。そしてチベットクロが1991年なのだ。何れもエゾシロシタバの記載年1961年よりも後の記載なのである。
又もや謎は解けなかった。益々もって混迷は深まるばかりだ。

話を石塚さんの文章に戻そう。

「それら(下翅の黒いカトカラ)に対応する後翅が黄色い種がいると考えたが見当たらない。外観からコシロシタバとアミメキシタバ、ヒメシロシタバとヨシノキタバが近い関係とも推測されたが、ゲニタリア(交尾器)が全く違う。この点から従来の常識では類縁関係は認められない。
しかし、日本産のカトカラをDNA解析した結果、コシロシタバとアミメキシタバ、またヒメシロシタバとキシタバに僅かながらの類縁関係が認められた。もしこの結果が正しければ、交尾器の相違は類縁関係を反映していないことになる。」

この結果に対して石塚さんは、こう見解されている。
「地史的に比較的新しい時期に種分化したものはゲニタリアは似ているが、古い時期に種分化したものはゲニタリアにまで著しい違いが出てくる可能性があるのかもしれないが、全くの謎である。
現時点では、マメキシタバとエゾシロシタバもアミメキシタバとコシロシタバもそれぞれ互いの類縁関係はないと解釈するしかない。後翅の黒化は、北アメリカでは地史的に比較的最近の出来事であるが、旧大陸ではかなり古い時代にいろいろな系統内で生じたのではないかと思われる。」

DNA解析の結果ではマメキシタバとエゾシロシタバは類縁関係はないとされるが、互いの成虫の交尾器、形態、大きさ、生態は似ているし、幼虫の形態・生態も似ている。つまり、どう考えても近縁種と思われるのに、類縁関係が無いとはどうゆうこっちゃ❓と云うワケだ。
確かに謎だよね。
石塚さんが「DNA鑑定が100%正しいかどうかは分からない。」云々みたいなことをおっしゃっていた意味がようやく解った気がするよ。自分もDNA鑑定が十全で、絶対だとは思わない。種を規定するにはDNAだけでなく、総合的な観点が必要だと思う。カトカラではないが、外部形態に差異が見出だせないのに、DNAは全然違う昆虫だっているみたいなんである。ならば肉眼では区別できないと云うことだ。そもそも種の分類とは、人間が区別するためにあるものだろう。それだと意味ないじゃないか。意味ないは言い過ぎかもしれないけど、目で区別出来ないものを別種とするのには抵抗感がある。

そう云えば思い出した。オサムシのDNA解析の結果を論じた中で、平行進化という言葉があったな。
平行進化とは、異なった種において似通った方向の進化が見られる現象を指し、その進化の結果が収斂となる場合があるという説。簡単に言うと、全く別系統な種が、例えばカタツムリを餌とすることによって、より容易(たやす)く餌を摂取する為に進化し、首が伸びるとかアゴが強大化して、結果、互いの外観が似ちゃいましたーって事ね。
でも、一部のカトカラの下翅が黒くなる理由を明確に答えられる自信がないし、平行進化を何にどう宛がっていいのかもワカンナイ。これ以上、変なとこに首を突っ込みたくない。やめとこ。

話は戻るが、もう一度DNA鑑定をやったら、また違った結果が出たりしてね。最初にDNA鑑定をしてから年数が随分と経っている。その時よりも手法や精度だって進歩してる筈だし、今なら、より正確な事が分かるんじゃないかな?誰か、やり直してくんないかなあ。

 
                    おしまい

 
追伸
謎が解決するどころか、益々謎が深まっちゃったよ。
前回、ボロクソ言ったけど、エゾシロシタバって奥が深いわ。エゾシロちゃん、ゴメンね。
今年はまた違った観点でエゾシロシタバに向き合えそうだ。糖蜜がどこまで通用するかも試してみたい。

今回は、石塚さんの『世界のカトカラ』と西尾則孝氏の『日本のCatocala』に頼りっきりで書いた。お二人の偉大さを改めて感じたでござるよ。末尾ながら感謝である。

それにしても、結局またクソ長くなったなあ。
エゾシロシは一番楽勝で書き終えられると思ってたのに大誤算だわさ。

 
追伸の追伸

エゾシロシタバの小種名dissimilisは、どの種を基準にして名付けられたかと云う問題に対して、松田真平さんから以下のような回答を戴いた。

「エゾシロシタバの学名は、オオシロシタバCatocala laraに似ているということでCatocala dissimilisと名づけられたのではないでしょうか。1861年にBremerが、東シベリアからアムール付近からもたらされた採集品をタイプ標本にして記載した3種のCatocalaの中で、この2種が色彩的に似ているという意味だと思います。もう1種のオニベニシタバは色彩的に無関係ですね。」

まさかだが有り得るよね。
真平さんは追記で、次のような見解もされておられる。

「カトカラ類が世界で初めて記載された時の三種。後翅表面が白黒で近いというだけですが、この時は時代的にまだそういう研究段階なのだろうと。原記載を読めばさらに面白いと思うのは私くらいかなあ。」

ようするに、昔はアバウトだったって事か。まあ、そう言わてみれば、そんな気もする。昔のまだ色んな事がわかっていない時代の観点と今の色んな事がわかっていて、それが当たり前だと云う立ち位置とでは、当然モノの見方も変わってくるもんね。
一応補足すると、世界で初めて記載されたカトカラ3種と云うのは世界でと云うワケではなくて、エゾシロ、オオシロ、オニベニの事を言うてはるのかなと思います。因みにカトカラで一番古い記載は、たぶん1755年のコオニベニシタバ Catocala promissa。

 
【Catocala promissa】
(出展『世界のカトカラ』)

 
追伸の追伸の追伸

オオシロシタバの解説編の為にネットで色々と調べていたら、こんなんが出てきた。

 
(出展『Bio One complate』)

 
カトカラのDNA解析だ。
あっ、表題を見ると『Molecular Phylogeny of Japanese Catocala Moths Based on Nucleotide Sequences of the Mitochondrial ND5 Gene』となっている。
そっかあ…、コレが石塚さんが新川勉さんに依頼したというDNA解析かあ…。探したけど、全然見つからんかった論文だ。
コレを見ると、オオシロシタバとエゾシロシタバの類縁関係がそこそこ近いじゃないか。
だとするならば、Bremerさんがオオシロに近いと感じてエゾシロに「dissimilis」と云う学名をつけたのは慧眼だったのかもしれない。
とはいえ、DNA解析が本当に正しいかどうかはワカンナイけどね。

 
(註1)蝦夷
Wikipediaには、以下のような解説がある。
「蝦夷(えみし・えびす・えぞ)は、大和朝廷から続く歴代の中央政権から見て、日本列島の東方(現在の関東地方と東北地方)や北方(現在の北海道地方)などに住む人々の呼称である。中央政権の支配地域が広がるにつれ、この言葉が指し示す人々および地理的範囲は変化した。近世以降は北海道・樺太・千島列島・カムチャツカ半島南部にまたがる地域の先住民族で、アイヌ語を母語とするアイヌを指す。大きく「エミシ、エビス(蝦夷・愛瀰詩・毛人)」と「エゾ(蝦夷)」という2つの呼称に大別される。」

 
(註3)たぶん四国でも稀だと思われる
1970年代と古い時代の資料だが、以下のような記述を見つけた。
「石鑓山系(小島,1964)や 剣山(永井・富永,1971)など四国中央山地に分布が知られていたが、香 川と徳島の県境に位置する阿讃山地の尾根にも広く分布するようでもあり,県下(香川県)のカトカラの中で は比較的個体数の多い種である。」(「四国の蛾の分布資料(1)香川県のカトカラ」増井武彦,1976)

やはり中央山地には結構いるんだね。
ブログなどにも割りとエゾシロは出てくるから、どうやら四国での分布は広いようだ。しかし、そんなに多いものでもない旨の文章もあった。

 
 

2018′ カトカラ元年 其の13

   vol.13 エゾシロシタバ

    『黒い虚無僧』

 
また、最初に訂正とお詫び。
前回の記事をアップ後、直ぐに読まれた方もおられると思われる。既に修正済みだが、学名の記載者と記載年の()問題でシクった。『日本産蝶類標準図鑑』が恰(あた)かも全部の記載者、記載年を()で括っているかのような事を書いたが、そんな事はござんせん。ぼおーっとしてました。酒飲みながら書いてるから、やらかしたんだけど、たまたま開いたページ周辺が全部()だらけだったので、勘違いしてそう書いてしまったのだ。酔っ払いは物事を深く考えないのである。
学名の属名が変更された場合は、()で括るというルールが有る。まず命名者については、命名者名が括弧で括られ、その後に変更者の名前を書くことになってる。
よくよく考えてみれば、そのページはタテハチョウ科の項で、タテハチョウは属名が変更になってるものが多いという事をすっかり失念していた。スンマセン。

気を取り直して、本編に進もう。

 
2018年 9月7日

 

 
台風一過。関西を直撃した台風21号の翌々日に旅立った。翌日に発つ予定だったが、被害状況によっては電車が走っていないケースもあると考えて、一日様子をみることにしたのだ。
目的地は山梨県甲州市の「ペンションすずらん」。狙うはムラサキシタバだった。

 
【ペンションすずらん】

 
此処は関東方面の虫屋には名の知れたペンションで、デカいライト・トラップがあるのだ。
この頃はまだカトカラ1年生の終わりかけ。言うほどカトカラに嵌まっていたワケではない。カバフキシタバとシロシタバ、ムラサキシタバさえ採れればいいと思ってた。ムラサキシタバを採ってフイニッシュ。この年でカトカラ採りはやめるつもりでいた。所詮は蝶採りの合間の、ほんの気まぐれから始めたことなのだ。だからライトトラップの道具なんて持っているワケがないのである。だいちライトトラップのセットは高額だ。買う気なんぞ、さらさらなかった。
でもムラサキシタバは、どうしても採りたい。なので最後の手段として、この地を訪れたのだった。

 

 
ここで、ジョナスのあとにエゾシロシタバが飛来した。
しかし情けないことに、止まっているのをコレ何❓って、蛾好きの高校生に訊いたんだっけ…。
でもって、半ば呆れ顔で『エゾシロシタバですね。』と教えてもらったような気がする。だってエゾシロシタバの存在なんて、全く頭の中に無かったのだ。

採ってみての第一印象は、カトカラらしくない小汚ないヤッちゃのーだった。下翅が黒っぽくて、全然鮮やかじゃない。そんなに目立たなくして、アンタ、虚無僧かよと思った。しかもチビである(-“”-;)
正直、何の感動も無かった。採ったことがないカトカラが1種類増えてプチラッキーだとか、その程度にしか思わなかった。見てくれは、ワタクシが元来嫌っている蛾の典型みたいなもので、みすぼらしいんだもーん。
なのか、その時の写真は残っていない。ようするに1枚も撮っていないのだ。目的はカトカラの最美麗種とも言われるムラサキシタバのみだったので、完全に雑魚扱い。眼中に無かったのであろう。撮るに足りないと判断したんだろね。

結局、この遠征では全部で7、8頭が灯りに飛んで来たと記憶している。時刻は8時とか9時台の比較的早い時間だったと思う。静止時は全て羽を閉じていた。
で、持ち帰ったのは2頭か3頭だったと思う。殆んどがボロボロだったからだ。
そう云うワケなんで、展翅した画像しかない。

 
【エゾシロシタバ Catocala dissimilis】

 
♂かなあ…。
展翅したのは、この1点のみ。他の画像は無い。何せコレが一番マシな個体だったのだ。他は展翅すらしていないのさ、(# ̄З ̄)ぷっぷっプー。
しかも、展翅がド下手。愛情ゼロ、やる気が1ミリも感じられない展翅だ。

ゆえに、他からもっとマシな画像をお借りしよう。

 
【♀】
(出展『ww.nkis.info』)

 
鮮度が良い個体でも地味だねぇ~。もっと黒いのかと思いきや、薄汚れた茶色というのもいただけない。見た目が似ているコシロシタバはもっと黒っぽい濃紺で、渋い美しさがある。なのに、こんなんじゃねぇ…。おまけに東日本では普通種とゆうじゃないか。チビでブスで普通種。そりゃ、人気も出ぇーしまへんわ。

 
【コシロシタバ Catocala actaea ♀】
(2019.7月 奈良市)

 
エゾシロシタバと一見似ているが、白斑の位置が全然違う。だいち大きさが違う。コシロはもっと大きいのだ。ふた回りくらいの差がある。

裏面写真も撮ろうと思えば撮れるんだけど、鮮度が悪いので、ここはネットから画像をお借りしよう。

 
(出展『The insects from the Palaearctic region』)

 
画像の左側が表で、右側が裏面である。
自分の標本写真の鮮度が悪いゆえ、表の画像が一緒になってるコレが好都合かと思い、使用させて戴いた。

Σ( ̄ロ ̄lll)あっ❗、よく見ると下翅に帯の痕跡のようなものがある。採った時は全然知らなかったけど、マメキシタバと近縁なんだそうな。

 
【マメキシタバ Catocala duplicate ♀】
(2019.8月 大阪府四條畷市)

 
パッと見は全然似てない。でも、そう言われてみれば、帯の形や角度、太さはマメキシタバに似ていなくもない。前翅の斑紋パターンも近いものがある。

こうして見ると、エゾシロシタバって裏も酷いな。
下翅の根元が汚ないし、お世辞にも美しいとは言えない。コシロシタバには幽玄の美しさが有るのになあ…。

 
【コシロシタバ ♀裏面】
(2019.7月 奈良市)

 
とはいえ、エゾシロシタバにはその後も会っていないし、まだ生きている新鮮な個体は見たことがない。百聞は一見にしかずである。案外、実物はそんなに悪くないのかもしれない。
今年は一応狙って採ってみるか…。

                     つづく

 
追伸
この時は来年の2019年には、どうせまた会えるだろうと思っていた。なのに結果は2回の信州遠征でも1頭たりとも見なかった。いる所にはアホ程いるが、いないところも結構あって、意外と分布は局所的なのかもしれない。

解説編は次回に回します。1回で終える予定だったのだが、学名の項でぬかるみの世界にズブズブにハマってしまったのだ。
(‘ε’*)クショー、書くのは楽勝のカトカラだと思ってたのにぃー。

2018′ カトカラ元年 其の12 後編

 
  vol.12 ジョナスキシタバ
      解説編

  『カトカラのジョナサン』

 
前回に納まりきれなかった解説編です。

本編を始める前に一言。
前回アサマキシタバの発生期を5月下旬からとしたが、間違い。中旬に修正しときました。

それでは、今回もハリきっていきまひょ。

 
【ジョナスキシタバ Catocala jonasii ♂】

 
【♀】

 
【♂裏面】

 
【野外写真など】

 
【学名】Catocala jonasii
記載は、1877年にButlerによって為されたが、今後、記載者と記載年は省く。今まで括弧付きで載せてきたが、学識ある方にオカシイと指摘されたからだ。一般の人には括弧付きでないと、どこまでが学名か分かりにくいと思ったのだ。けど、考えてみれば一般人が記載者や記載年に興味を持つワケでなし、外してもいいだろう。そう判断した。

学名の小種名の語尾に「ii」が付くと云うことは人名由来で(註1)、おそらくジョナス氏に献名されたものであろう。問題はそのジョナス氏が何処のジョナスさんかと云うことである。全く昆虫に関係ない人物だと、歴史上に名前が残り難(にく)い。調べようがないのだ。近所の喫茶店のオッチャンなんかに献名でもされていようものなら、お手上げなのだ。どんな人物で、なぜ献名されたのかが全く辿れなくなる場合が多い。

いつも御世話になっている平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』を紐解くと、「i」は一つ足りないが、jonasiという学名のモノが見つかった。
( ゜o゜)んっ?、コレって、どっか見覚えがあるぞ。
と思ったら、何のことはない。ムモンアカシジミだった(学名 Shirozua jonasi)。そういえばムモンちゃんって、そんな学名だったわ。
蝶屋なんだから勿論採った事はあるんだけど、標本を探すのが面倒なので図鑑から画像をパクろう。

 
【ムモンアカシジミ】
(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

 
その『蝶の学名』から、語源の解説文を抜粋しよう。

「jonasi(ジョナシ)ムモンアカシジミ。ジョナス氏の、意。ジョナス F.M.Jonas(1851-1924)は1872年に来日して横浜に住み、日本の葉煙草をロンドンに輸出したイギリス人で、蝶の熱心な採集家(江崎,1956)」

おー、蝶好きのイギリス人がいるわいな。たぶん欧州人ゆえに蝶と蛾の区別は特にしないだろうから、蛾も採ってた筈だ。と云うことは、ジョナスキシタバの学名も、このジョナスさんに献名された可能性が高い。

調べてゆくと、Wikipedia の英語版には、以下のような文があった。

「Catocala jonasii is a moth in the family Erebidae first described by Arthur Gardiner Butler in 1877. It is found in Japan.」。

訳すと、こんな感じかな。
「Catocala jonasiiは、1877年にArthur Gardiner Butlerによって最初に記載され、日本で発見された。」と謂った感じになる。
日本で発見されたということは、年代的にもムモンアカと同じだし、横浜のジョナスさんに献名されたものと断定していいだろう。間違ってたら相当カッコ悪いけど、そういう事にしておこう。

(@_@)ゲロゲロピー。でも何気にムモンアカシジミの記載者と記載年を見て驚く。
「Janson, 1877」となってて、記載年はいいとしても、何と記載者がButlerではなく、Jansonとなっているではないか。これは別な人がジョナスさんに献名したって事になる。本当に同じジョナスさんかえ❓
でも記載年は共に1877年と、ムモンアカもジョナスキシタバも同じである。或いはジョナス氏は蝶の標本をJansonに、蛾はButlerに送ったのかもしれない。
やめとこ。コレ以上首突っ込むと煙草屋ジョナスさんの物語になり、泥濘(ぬかるみ)世界に囚われること必至だ。ケツをまくろう。どうしても気になる人は、自分で調べましょうね。

 
【和名】
学名の小種名をそのまま和名に転用したものだろうが、日本のカトカラの中では唯一このジョナスのみが横文字和名である。何でかはワカラナイ。コレも泥濘世界必至なのでスルーしよう。
それはともあれ、横文字が入った和名はカッコイイよね。ヤンコウスキーキリガとかシルビアシジミ、マルタンヤンマとかさ。よくあるパターンのトガリキシタバなんてのを付けるよりも、よっぽど良い和名だと思う。

参考までに言っとくと、旧名にジヨナスキシタバがある。

 
【開張(mm)】 65~68㎜
ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には、そうあったが、まんま『原色日本蛾類図鑑(註2)』下巻からのパクリだろう。
怒られそうだが、この『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には不満がある。どんな蛾でも名前で検索すると、このサイトが一番上にくるのだ。だからブログを書いている人などは皆、この情報を孫引きしている。ワシも初めはそうだった。しかし『原色日本蛾類図鑑(下)』といえば、1958年の発行だ。情報が古い。ゆえに間違った記述もある。それでもこのサイトが訂正、更新された形跡は全く無い。つまり古い間違った情報がネットで拡散し続けていると云うことだ。それを蛾界の人々は誰も直そうとしたり、指摘していないのが不思議でならない(してたら、ゴメンナサイ)。
だいたい65~68㎜って、範囲幅が狭くねぇか❓ チビの虫じゃないんだから、普通はそれなりにもっと大きさの幅があって然りでしょうよ。そこに疑問を感じない時点で、何も考えずにそのまま図鑑から書き移したとしか思えない。

一方、近年出版された岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ(註3)』では、64~74㎜内外となっている。ジョナスを沢山採ったワケではないが、おそらくコチラの方が正しいかと思われる。

 
【分布】北海道(南部)?・本州・四国・九州
北海道を❓としたのは、『世界のカトカラ(註4)』など各種蛾類図鑑には北海道にも分布すると書かれているが、『日本のCatocala(註5)』では含まれていないからだ。理由は以下の通りである。

「記録は北海道から鹿児島県まであるが、生息地は幼虫の食餌植物であるケヤキの分布に左右される。したがって、北海道では発生しておらず、当地の記録(函館など)は移動個体と判断される。」

調べてみたら、確かに北海道には食樹であるケヤキが自生していない。されとて、この図鑑だって発行されて、もう10年以上になる(2009年発行)。近年は地球温暖化が声高に言われているし、状況は変わっているかもしれない。
ケヤキは街路樹や木材利用に植栽されることが多い木だ。北海道にだって人為的に植えられている可能性は高い(註6)。青森辺りから飛来したものが、その後に植栽されたもので発生を繰り返し、定着している事だって無きにしも有らずだ。現況はどうなってるのかしらね。

ジョナスの分布に戻ろう。
東日本各地に多く、本州では青森県が分布の北限。
近畿地方では『ギャラリー・カトカラ全集』の都道府県別カトカラ記録表によると、全府県に記録があるようだ。しかし、数は少ない。特に中央部の都市近郊では、調べた限りだと確実な産地が見当たらない。安定して採集されているのは兵庫県西部~西北部と紀伊半島南部の高地帯くらいだろう。中でも兵庫県での記録が多く、西播磨北部・但馬地方の山地帯に多産、佐用町や姫路市にも少ないながら生息しているという。
また、四国や九州でも数は少ないようだ。中国地方は全県に記録があるようだが、詳細はよく分からなかった。とはいえ、そう多いものではないだろう。

とにかく近畿地方では一部を除き、記録は局所的がちで少ない。幼虫の食樹であるケヤキなんて何処にでもあるのに何で❓ そう常々思っていた。
これは別項で詳しく後述するが、西日本では自生するケヤキは案外少ないみたいだ。元々暑いところを好まない木らしい。都市部では公園や並木などでよく見るし、そういう意識が無かった。だから、これには意外だった。
じゃあ、何でケヤキが都会に植えられてるの❓
大阪市なんて緑が全国一少ない都市だから、夏場はヒートアイランド現象で死ぬほど暑いぞ。まさか都会に植えられているケヤキは、品種改良された暑さにメチャンコ強い奴でもあるまいに…。

『日本のCatocala』には、ジョナスは暑さを嫌うような事が書いてあった(これについては生態面で詳しく書く)。たしかに、それは一利ある。関西では但馬地方は降雪量が多く、どちらかと云うと寒い地域だ。紀伊半島南部の高地でも、冬は雪が積もる。だから近畿地方中央部の都市近郊の山地で見られないのは、ケヤキが少ないのとクソ暑いんだからだと思ってた。

そんな折り、前回書いたように奈良市で2019年の7月17日にジョナスが採れた。

 
(2019.7.17 奈良市白毫寺町)

 
マホロバキシタバ(註7)の分布調査をしていた時に偶然見つけたものだ。まさかこんな場所にジョナスなど居るワケないと思ってたから、(◎-◎;)たまげた。
偶産かと思いきや、その後、小林真大くんが若草山周辺でも2、3頭採っている。この事実から、偶産ではなく、定着していることは間違いないだろう。
にしても、標高は白毫寺町で120m前後だぞ。若草山にしたって、たったの342mだ。しかも採れたのは山頂近くではないから、標高はもっと低い。この周辺には特別高い山は無いし、おまけに奈良市は盆地だぞ。夏場はクソ暑い。避暑なんて出来ない筈だから、ずっと此所で世代を繰り返してきた公算になる。あんた、暑くとも生きれるやんか。
となると、六甲山地や生駒山地にいても不思議ではないということだ。詳しく分布調査すれば、意外と各地で見つかるかもしれない。

海外では朝鮮半島、中国南部に分布するが、特に亜種区分はされていないようだ。因みに、台湾には近似種とされる Catocala wuschensis Okano,1964(註8)というのが産する。

 
【変異】
特に亜種区分されているものはいないが、上翅に変異がある事が知られている。

 
(出展『世界のカトカラ』)

 
(出展『フォト蔵』)

 
上翅が著しく黒化するものや、真ん中部分が黒化するものが各地で報告されている。下の画像なんかはカバフキシタバの異常型みたいでカッコイイ。

九州産は白っぽくなり、本州産とは趣をかなり異にするという。また本州産と比べると型も大きいそうだ。

 
【レッドデータブック】
千葉県:D(一般保護生物)、宮崎県:準絶滅危惧種(NT-R)

近畿地方なんて、現状では多くの府県で準絶滅危惧種になってても可笑しかない。たぶん、ろくに調査されとらんのだろう。

 
【成虫出現月】7~9
『みんなで作る日本産蛾類図鑑』にはそうあったが、
比較的新しい図鑑の記述を総合すると、6月中旬から出現し、11月上旬まで見られるというのが妥当だろう。カトカラの中では最も成虫が見られる期間が長い。しかし、新鮮な個体が得られるのは8月初めまでだそうだ。
『日本のCatocala』に拠ると、長野県上田市(alt.550m)では7月の15~20日が羽化のピーク。その後、8月に入ると姿を消し、9月に入って再び纏まった数が見られるといい、夏眠が示唆されている。但し、実際には、まだ夏眠は証明されていないようだ。

そっかあ…、夏眠の可能性有りなのかあ。
だとしたら、謎が一つ解ける。去年、2019年の8月に長野に行ったのだが、行く前はジョナスなんて東日本では普通種なんだし、どうせ何処にでもいると思ってた。しかし行ってみれば、1頭たりとも出会えなかった。もしも夏眠するならば、どうりで見なかったワケだ。だったら納得いくよ。

 
【生態】
先にコチラを書いてから分布の項を書いたので、内容が重複するが、書き直すのが骨ゆえ、そのままにしておく。何卒「忍」の一文字で我慢して読んでくだされ。

成虫は平野部よりも丘陵地の斜面林や山地の谷沿いのケヤキ林に多く見られる。
灯火にも樹液にもよく集まるそうだ。まだ見たことはないが、おそらく糖蜜にも好んで寄ってくるだろう。
少ないながら花蜜に訪れた例がある(矢島 1978)。調べた限りでは、アブラムシ等の甘露、地面等での吸水の観察例は無いようだ。

自分が見たり、採ったりしているのは殆んどが灯火である。おこがましくも少ない経験の中で言わしてもらえれば、灯火に飛来する時刻は比較的早い。日没後、暗くなると直ぐに複数が飛んで来た。午後8時前後にピークがあって、あとはだらだらと飛んで来たという印象が残ってる。

『日本のCatocala』に拠ると、ケヤキの自生しない標高2500mの高山帯の灯火にもよく飛んで来るらしい。ケヤキの垂直分布の上限は1200mだから、標高差は1300mだ。この事から、著者の西尾氏は低地での高温を嫌うのかもしれないと書いておられる。また、成虫期の温度適応による生息場所選択の可能性があるとも書いておられる。ようするに、暑さに弱く、気温によって涼しい場所を求めて移動する種ではないかとおっしゃってるワケだ。
これは蝶なんかでもよく言われてる事で、ヒョウモンチョウの仲間などが例にあげられている。羽化後は周辺にいるが、暫くしてから低地では見掛けなくなり、秋にまた同じ場所て群れていたりする。この事から、従来は夏場の暑い時期は活動せず、夏眠しているとされてきた。しかし、盛夏に標高の高い所で見つかるケースもよくある。つまり、夏眠ではなくて、涼しい場所に移動するのではないかと云う説だ。

じゃあ、奈良市のジョナスはどうなのだ❓
夏眠するのか❓でも動かなくとも標高120mの盆地は暑いぞ。それとも涼しい高地に移動するのかね❓
けど奈良市の周辺に高い山なんて無い。じゃあ、盛夏は何処へ行くのだ❓ 滋賀県の伊吹山❓ 標高は1377mあるから打ってつけだが、奈良市から伊吹山までは約150㎞もあるぞ。まあ、カトカラは飛翔力があるというから、飛んで行けなくもないとは思うけどさ。にしても、遠くねぇか。オラだったら行かないね。って云うか伊吹山麓に住むよ。
だったら大阪府最高峰の金剛山なんてどうだ❓ 標高は1125m、距離は約65㎞だ。全然行けそうだけど、やっぱり金剛山麓に住むわ。ところで、金剛山ってジョナスの記録って有るのかな❓

例えば仮説として、奈良市のジョナスは暑さに適応しているってのはどーだ❓
しかも見てくれはソックリだが、隠蔽種の別種だったりして…。更に論を飛躍させると、西日本と東日本のジョナスは別種で、西日本は暑さに適応して東日本のものからウン千年万前に分化したとか(笑)。ここまで飛躍するとムチャクチャだ。フザけ過ぎだと叱られそうなので、この辺でやめとく。
とにかく、奈良市のジョナスは謎だよ。
果たしてジョナスは本当に涼しいところがお好みなのだろうか❓それとも適応力が高く、暑さにも意外と耐えられる種なのだろうか…。

交尾は9月に入って行われ、産卵は9月の下旬頃になるそうだ。交尾回数は、他のカトカラと比べて少ないらしい。

生態面で特に面白いと思ったのは、昼間のジョナスだ。これも西尾氏の『日本のCatocala』に書かれていた事である。要旨は以下のようなものです。

「成虫は日中、頭を上にして物に静止している。驚いて飛翔した時は上向きに着地し、静止する。」

つまり、逆向き(下向き)には静止しないと云うことだ。他のカトカラは、日中は殆んどが下向きに止まっている。また飛翔後、着地時は上向きに止まるが、暫くしてから下向きになるというのが常道だ。その点からすると、ジョナスは異端の存在と言えよう。
翅先が尖っているから、飛ぶスピードがムチャクチャ速いのかもしれない。カトカラが下向きに止まるのは、それによって天敵に襲われても自重を利用して素早く逃げる為だと云う説がある。でもジョナス隊長はクソ速く飛べるので、そうする必要がないからとかかなあ…❓ コレばっかは、隊長に訊いてみないとワカンナイけどさ。
そういえば、ジョナスは昼間はメチャメチャ敏感らしい。人の気配を少しでも感じると、すぐに飛び立つそうだ。小太郎くんも、白山方面に蝶採りに行った時に、歩いてるとジョナスがバンバン飛んで逃げてたと言ってたわ。元来、飛ぶのが好きなのかもね。
或いは、もしかしたら『かもめのジョナサン(註9)』みたく、ジョナスは飛ぶことに命を燃やし、進化の過程の中で最高の飛行技術を得た一族なのかもしれない。だとしたら、孤高のジョナスと呼びたくなるよね。ジョナスは哲学者なのだ。

 
【幼虫の食餌植物】
この項目も最初の方に書いたので、重複箇所は多いけど、我慢してネ。

ニレ科のケヤキのみが知られている。
世界のカトカラを見回しても、ニレ科を食樹としているものは、今のところケンモンキシタバ(ニレ科ハルニレ)と、このジョナスしかいないようだ。
先に触れたが、近畿地方でもケヤキはわりと何処にでもあるけど、なぜかジョナスをあまり見ない。何でやろ❓
例えば北方系の種で冷温帯を好むからとか、根本的な理由があるのかもしれない。
でも、ちょっと待てー。奈良市のポイントの標高なんぞは、たったの海抜120mくらいだぞ。それにケヤキは北海道には自生していないと云うじゃないか。だったら、北方系というには相応しくない。
気になるので、調べてみよう。

ケヤキは、九州から青森県まで分布しているが、本来シイやカシの類よりも寒いところの樹木で、分布の中心は東日本なんだそうである。そのせいか、県や市のシンボルツリーになっている所も多い。県では、宮城、福島、埼玉各県が県の木として指定いる。膨大な数なので調べないけど、市町村まで含めると指定しているところは相当ありそうだ。因みに西日本ではケヤキを府県の樹木にしているところは一つも無い。この事からも、ケヤキは東日本に多く、人々に身近に親しまれてきたことがわかる。

それはひとまず置くとして、別な理由も考えられる。所詮は忌み嫌われている蛾だ。たとえ人気の高いカトカラといえども、愛好者はまだまだ少数なのだろう。そして、その全ての人が分布調査に余念がないと云うワケでもないだろう。だから、まだちゃんと調べられていない可能性大じゃないかな。分布調査を真面目にやれば、以外と何処にでもいることが分かってくるかもしれない。

 
【幼生期の生態】
幼生期についての経験値はゼロなので、今回も西尾氏の『日本のCatocala』から引用要約します。
幼虫は樹齢10~40年の若い木から壮齢木によくつくが、100年以上の老齢木は好まないという。野外での幼虫の色彩斑紋はバリエーションに富み、黒褐色ものから明るい色のもの、白斑があるものまで発見されている。
終齢は5齢。昼間、5齢幼虫は樹幹下部に降りて静止しており、蛹化は落葉の下などで行われる。

 
書いてるうちに、どんどんジョナスのことが好きになってきた。
今年は、ジョナスの飛行哲学者ぶりをじっくり見てみたいものだと思う。

 
                    おしまい

 
追伸
あっ、採るだけじゃなく、今年は完璧な展翅もしないとなあ。

今回は自分オリジナルの生態観察は少ない。殆んどが文献からのパクリである。考えてみれば、♀なんて1頭しか採っていないんである。偉そうに書いているけど、間違いだらけかもしれない。間違ってたら、ゴメンナサイ。

小タイトルの『カトカラのジョナサン』は、小説『かもめのジョナサン』をもじったものだ。その理由は下欄の註釈10を読んで下され。

 
(註1)学名の小種名の語尾「ii」
平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』には、以下のような説明があった。

「例えば、種名の中には、sieboldiとsieboldiiのように、同じ人物の属格でもその語尾が-i-やii という形のものがあることである。動物学の場合、sieboldi にするのが正しいが、sieboldii でも間違いではない。理由は、Siebold氏をいったん Sieboldius とラテン語化して、その属格Sieboldii を採用した種名であるからである。しかし、現在はこの用法は推奨されていない。」

ネットだと、植物の場合だが、以下のような記述を過去に見つけている。

「この属格が「i」になるか「ii」になるかは慣例によっている。この点に関して、国際植物命名規約の勧告によれば、人名の語尾が母音で終わっていれば「i」を付し、語尾が「er」の場合を除き、子音で終わっていれば「ii」を付す、となっている。」

出展は調べ直したが、見つからなかった。
ややこしそうなので、これ以上はこの問題には首を突っ込みません。

 
(註2)『原色日本蛾類図鑑(下)』

 
江崎悌三氏ほか編著の古い図鑑。長年親しまれてきたもので、多くの目に見えない遺産をもたらした。保育者発行。

 
(註3)『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』

 
岸田泰則氏の日本で最も長大な蛾類図鑑。学研発行。
蛾をやるなら、必須アイテムだろう。持ってないけど(笑)

 
(註4)『世界のカトカラ』

 
カトカラの世界的研究者である石塚勝己氏の、世界中のカトカラをほぼ網羅した図鑑。むし社発行。

 
(註5)『日本のCatocala』

 
西尾規孝氏の日本産カトカラの生態図鑑。日本のカトカラを詳しく知るには一番の書。自費出版。

 
(註6)北海道にも人為的植栽がされている可能性は高い
江差町字東山に明治後期に植栽され、百年を超えるケヤキの人工林が有るそうだ。どうやら北海道西南部では、松前藩によって昔から植栽されていたようだ。因みに札幌市にも結構ケヤキの大木が有るという。
こうなると、ジョナスもその時代から土着していたのかもしれない。分布地に北海道を含めるのが正しいのかもね。西尾氏は、ケヤキが自生しないと云う言葉に惑わされた可能性がある。自生していなくとも、長年植栽されていれば関係ないもんね。

 
(註7)マホロバキシタバ

 
学名 Catocala naganoi mahoroba。
2019年、日本で32番目に見つかったカトカラ。

 
(註8)Catocala wuschensis Okano, 1964

(出展『世界のカトカラ』)

 
やはり記載者と記載年は、あった方がいいかな。
記載は50年以上前で、名前からすると、どうやら日本人によるものみたいだね。

石塚さんの『世界のカトカラ』にはキレオビキシタバと云う和名が付けられている。これは下翅の帯が寸断されていることからのネーミングだろう。
石塚さんの見解では「外観はジョナスキシタバに幾分似るが、類縁関係は明らかでない。」とある。食樹は不明で、稀種のようだ。

確かに、パッと見はそんなに似てない。
でも図鑑に載ってたのは、この♀1個体だけだし、一応クグっとくか…。

 

 
♂である。
ジョナス隊長程には上翅が尖ってないね。飛んだら、ジョナスの勝ちだな。

 
【裏面】
(出展 2点共『jpmoth.www』)

 
表よりも裏面の方がジョナスに似ているかもしれない。って云うか、ソックリだ。
日本の蛾の図鑑には殆んど裏面は載ってないから、同定する時に不便なんだよなあ…。大図鑑は無理としても、属レベルの図鑑だったら裏も載せれると思うんだけど、どうしてかな?何とかならんかね❓

台湾のサイトには生態写真もあった。

 
(出展『Dearlep.tw』)

 
コレなんか見ると、表側(前翅)も一見するとジョナスっぽい。類縁関係は有りそうだ。

台湾名は「霧社裳夜蛾」というらしい。霧社ということは、南投県霧社で最初に発見されたって事かな?
但し、この個体は新竹県観霧で撮影されたものだ。
霧社は台湾で蝶を採ってる時に前をよく通った。だから周辺のどっかでも採れんじゃねーの❓
出ましたねー。自称まあまあ天才、でも引きだけが強い男の楽観的展望(笑)

サイトに種解説もあったので、ついでに載せとこっと。

描述
本種前翅長約36mm;屬於中大型的裳蛾物種,整體鐵灰色,前中線為黑褐色短斜帶,於近臀緣端曲折,後中線鋸齒狀,於近臀脈端較粗並強烈彎曲向前緣,腎紋下方具有一淡黃色梯形斑紋。後翅底色鮮濃黃色,於中央區段、頂角以及臀角具有帶狀黑紋。

生態學
中海拔原生林,稀見,成蟲發生於夏秋季6~10月

分布
臺灣,特有種。

乱暴に要約しちゃうと、前翅長36㎜。中大型のカトカラで、中海抜(1000m前後?)の原生林に生息する。6~10月まで見られるが稀。台湾特産種。
( ・◇・)ん❗❓、前翅長36㎜❓そんなに小っちゃいの❓
でも『世界のカトカラ』の図版だと、ジョナスと同じ大きさだどー。開翅長じゃなくて、前翅長だからか❓けど、前翅長って、どこの長さだっけ❓開翅長とどう違うんだっけ❓ようワカラン。

 
(註9)かもめのジョナサン
『かもめのジョナサン』(Jonathan Livingston Seagull)は、リチャード・バックによる寓話的小説。1970年にアメリカで出版され、最初は当時のアメリカのヒッピー文化とあいまって口コミで徐々に広がり、1972年6月以降に大ヒットした。日本では1974年に五木寛之の訳で出版され、120万部の大ベストセラーとなった(累計270万部以上)。
食べる時間すら惜しんで飛ぶ事に打ち込み、飛ぶとは何かを探究し、「真に飛ぶこと」を求めた1羽のカモメの物語である。
そこには、キリスト教の異端的潮流ニューソートの思想が反映されていると指摘する者や、禅の教えを表しているとする者もいる。読者を精神世界の探究、宗教的な探究へと誘(いざな)う一種の自己啓発本のようにも読まれていた。(参考『Wikipedia』他)

   
《参考文献》
・西尾則孝『日本のCatocala』
・石塚勝己『世界のカトカラ』
・岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑』
・江崎悌三ほか『原色日本蛾類図鑑』
・阪上洸多・徳本拓朗・松尾隆人『兵庫県のカトカラ』きべりはむし39(2)
・カトカラ同好会『ギャラリー・カトカラ全集』
 
 

2018′ カトカラ元年 其の12 前編

 
  vol.12 ジョナスキシタバ

   『ジョナス隊長』

 
実を云うと、人生で初めて採ったカトカラはジョナスキシタバだった。
ムラサキシタバを一目見たくて、A木くんにライトトラップに連れていってもらった時の事である。

 

 
場所は兵庫県但馬地方。
日付を確認すると、2017年の9月23日となっている。
行ったのは結構遅かったんだね。

日没後、暗くなってから直ぐにそこそこ大きい蛾が飛んで来て、目の前の地面にボトッと落ちた。
元来が蛾嫌いなので、瞬間Σ( ̄ロ ̄lll)ヒッ❗と思って、一歩後ろに飛び退いた。ワタクシ、それくらい蛾が怖い人だったのである。

落ちた刹那、僅かに羽を開いたので、ちらりと下翅の黄色が見えた。これが世に言うカトカラって奴なのかなと思った。しかし、下翅の黄色いカトカラは似たようなのが沢山いて、素人目にはさっぱりワカラン。興味が無いから尚更である。すかさず、A木くんを呼んだ。

『あっ、ジョナスですね。結構少ないカトカラですよ。』
『ジョ何❓ジョナサン❓』

思わず訊き返した。そんなカタカナのカトカラがいるなんて初耳だったので、何じゃそりゃ❓と思ったのである。

『ジョナサンじゃなくて、ジョナスです。』

なあ~んだ。ジョナサンじゃないのかあ…。ジョナサンだったら「かもめのジョナサン(註1)」みたくで面白いのに…と思ったのをよく憶えている。
でも、蛾は気持ち悪い。怖々でしゃがんで暫く見てた。元より持って帰る気などさらさら無かったのである。
したら、A木くんが言った。

『採らないんですか❓近畿では中々いませんよ。採っといた方がいいですよ。』

そう言われると、虫屋の性(さが)として、何だか急に惜しくなってくる。
で、記念にもなるしと思って、一応持って帰ることにしたんだっけ。でも当時は蛾を素手で触るなんて到底出来なかった筈だ。どうやって〆たとか全然記憶にない。おそらく優しきA木くんが取り込んでくれたのだろう。
当時のジョナスの記憶は他にあまりない。
あるのは、この日はジョナスの飛来が比較的多かったらしく、A木くんが『今年はジョナスの発生が多いのかも。こんなに飛んで来たのは初めてです。』と言っていた事と、ジョナスという言葉の響きが気に入ったので、飛んで来る度に『ジョナ━━━ス❗』とか叫んでた事くらいだ。アホである。

そういや、この日はただキシタバ(註2)=パタラキシタバ(C.patala)も飛んで来て、そっちの方がデカくて下翅も黄色いので、見映えがいいなとか思ったんだよね。今や屑扱いだけど。

 
【Catocala jonasii ジョナスキシタバ♂】
(2017.9.23 兵庫県香美町)

 
その時のジョナスである。
上翅が尖ってるので、比較的簡単に他のキシタバとは区別がつく。あと、尻が長いのも特徴だろう。
何かシャープでソリッドな感じがして、カトカラ特攻隊の隊長みたいだ。だから、この日から勝手に心の中では「ジョナス隊長」と呼んでいる。

展翅は上翅は上がっているものの、自分的にはバランス良く仕上がってると思う。

 
【同♀】

 
♀は♂程には翅先が尖らず、外縁部に丸みがある。腹も短くて太い。
翅形も腹の形も明らかに♂とは違うので、雌雄の判別が一番容易なカトカラかもしれない。

両方並べてみた。

 

 
形はカトカラの中ではカッコイイ方だと思う。
しかし、如何せん下翅の黄色が薄くて、くすんでいる。残念なことに鮮やかさに欠ける黄色なのだ。今一つ人気がないのも、その辺に原因があるんざましょ。

お気づきの方もおられるかと思うが、このシリーズ連載は採集した順番になっている。だから、何故にジョナスをトップに持って来ないのだ?そう疑問を持たれた方もいるだろう。しかし自分の中では、この2017年のライトトラップはカウントに入れていない。なぜかと云うと、積極的に採ったワケではないからだ。元々蛾を集めようとは露ほども思っていなかったし、この日に採った何種類かのカトカラも記念品みたいなものだった。だから、これがキッカケとなってカトカラを集めようと思ったワケではない。そういう気は全然起きなかった。だいち、所詮は人のライトトラップで採らして貰ったものである。道具、ポイント、移動手段、全てがA木くんのお膳立てである。自分の力はゼロなのだ。とてもじゃないが、自分で採ったとは言えない。貰ったも同然じゃないか、そう考えている。だから、カウントしないのだ。
覚醒したのは、翌年の2018年になってからだ。それゆえの、このメインタイトル『2018’カトカラ元年』なのである。

 
 
2018年 9月1日

 
この日はムラサキシタバを求めて、アホなのか虫採りの天才なのか分からない植村を焚き付けて、兵庫県但馬方面にライトトラップにやって来た。
植村は、ごっつい光量のライトトラップセットを持っているのだ。そのクセ、カトカラはまだあまり採っていない。たぶん、とこでも採れるド普通種くらいだ。そのクセ、珍品カバフキシタバを採ってたりするから、アホなのか天才なのかワカラン奴なのだ。

 

 
しかし、山ほど蛾は飛んで来たが、カトカラはゴマシオキシタバとジョナスのみだった。しかも、それぞれ1頭のみ。A木くんに連れていってもらったポイントはマズイと思って、別な場所に屋台を構えたのだが、見事にコケた。

 
(2018.9.1 兵庫県香美町)

 
♂である。展翅、下手だなあ…。
この頃は、まだまだ上翅を上げ過ぎていた時代だったんだね。

 
 
2018年 9月7日

この日もムラサキシタバを求めて山梨県にやって来た。
大菩薩山麓に、常時ライトトラップが設置されているペンションがあるのだ。

 

 
すずらんというペンションで、関東方面の虫屋にはお馴染みの宿だ。
そういえば、ペンションのお姉さんには、よくしてもらったなあ。楽しかったし、また行けたらと思う。

 

 
ここにジョナスが1頭飛来した。時間は早いと云うイメージも遅いと云うイメージも無いから、7時台か8時台くらいだったのだろう。

 

 
上は、その時の個体である。これまた♂である。
三晩いたが、飛来したのは全部で2、3頭。持って帰ったのは、この1頭のみだった。他はボロボロだったのだ。

 
 
2019年 7月17日

今回も続編を書かずに、2019年の分も組み込んじゃいます。

奈良市でマホロバキシタバの分布調査をしていた時だった。
樹液の出る木の上部に、変なカトカラが翅を閉じて静止していた。小太郎くんはマホロバだと言ったが、自分的には違うと思った。しかし高さは4m程あったので、よく分からない。

 
取り敢えず網の中に入れてみて、何じゃこりゃ(?_?)
❓❓❓❓❓❓…はてな、はてなの嵐。何者かが分からなかったのだ。見た事があるような気がするのだが、何かワカラナイ。一瞬、ヤガ科の糞ヨトウガかなと思ったが、網の中に入った時に裏がチラリと見えたからカトカラの仲間の筈だ。化けた❓まさかと思い、下翅を覗いて見ると、やっぱり黄色いからカトカラだ。くすんだ黄色だから、アサマキシタバかなと思った。

でも、この辺ではアサマキシタバの時期はとうに終わってる筈だ。5月の中旬に現れて、6月半ば頃には姿を消す。今時いるとは思えない。たとえ居たとしても、ボロボロだろう。こんなに鮮度が良いワケがない。(@_@)わにゃにゃにゃにゃあ~、頭が混乱する。
もしかして、また新種見つけちゃんたのう❓だとしたら、オラって天才じゃないか( ̄∇ ̄*)ゞ

『今、ゴチャゴチャ考えても仕方ないですよー。』とか小太郎くんに言われそうだったし、取り敢えずアンモニア注射をブッ刺し、〆る。

  

 
じっくり見る。
ハッ、Σ( ̄ロ ̄lll)
そこで、ようやく記憶のシナプスが繋がった。

声に出して言う。
『コレって、ジョナスキシタバだわさー❗❗』

 

(2019.7.17 奈良市)

 
まさか、こんなところにジョナスが居るワケないと思ってるから、全く頭に無かったのだ。
東日本では、ジョナスは普通種に近い扱いだが、西日本では分布が局所的で少ないのだ。ネットとかで見ても、都市近郊のジョナスの記録は殆んど無いのである。近畿地方で確実に産するのは兵庫県の西部から北部にかけてと、紀伊半島南部の標高の高い所にしかいないとされてきたのだ。後々、A木くんに訊いたが、奈良市内で採れた事に驚いてたくらいなのだ。

 
【裏面】

 
翌日にも、写真を撮った。

 

 
展翅したもの↙。

 

 
【同裏面】

 
上翅は下げているが、触角はLet it be.なすがままで整えた。この時期、まだ触角を殊更(ことさら)に真っ直ぐするつもりはなかった。女性の美しい眉を蛾眉と言うが、蛾の触角とはそうゆうものだと思っていたからだ。自然な感じの方が良いんではないかと思ってたんだよね。けんど、この後くらいから段々と触角が真っ直ぐになってゆく。なぜかと云うと、よくよく考えてみれば、カトカラの触角って生きてる時は真っ直ぐなのである。
もー(# ̄З ̄)、そのまま真っ直ぐになっとけよー。何で死んだら曲がるんだよぉ~。

 
                   つづく

 
追伸
予想以上に解説編が長くなってまったので、分けて次回、後編の方に回します。

前回のシロシタバの英名の項で「Snow underwing 」に文句カマしたんだけど、Facebookにて石塚さんから次のようなコメントを戴いた。

「どうでもいいことですが、シロシタバの英名は Hollandが Snowy Underwing と名付けています。yを加えたほうがいいかも。」

Snowyには「雪の、雪的な、雪の降る、雪の多い、雪の積もった、雪におおわれた、雪白(純白)の、清浄な」と云う意味があるから、ワタクシもそれで宜しいかと存じます。「純白の」とか「清浄な」と云う意味も混じっているのがグッドですな。

考えてみれば、と云うか考えてみなくとも、ジョナスを人にエラそうに語れる程には見ていない。たぶんトータルで15頭にも満たないだろう。だから次回の解説編では、キレが悪いかもしんない。それでも果敢に攻めるとこは攻めようと思う。個人的見解はバシバシ言うつもりだ。

  
(註1)かもめのジョナサン
『かもめのジョナサン』(Jonathan Livingston Seagull)は、リチャード・バックによる寓話的小説。1970年にアメリカで出版され、最初は当時のアメリカのヒッピー文化とあいまって口コミで徐々に広がり、1972年6月以降に大ヒットした。日本では1974年に五木寛之の訳で出版され、120万部の大ベストセラーになった(累計270万部以上)。
食べる時間すら惜しんで飛ぶ事に打ち込み、飛ぶとは何かを探究し、「真に飛ぶこと」を求めた1羽のカモメの物語である。
そこに、キリスト教の異端的潮流ニューソートの思想が反映されていると指摘する者や、禅の教えを表しているとする者もいる。読者たちを精神世界の探究、宗教的な探究へと誘(いざな)う一種の自己啓発本のようにも読まれていた。

  
(註2)ただキシタバ
ジョナスキシタバやカバフキシタバ等と、下翅が黄色いカトカラには後ろにキシタバとつけるのが慣例みたいだ。日本には、この黄色い下翅を持つカトカラが圧倒的に多く、キシタバ類を総称してキシタバと呼ぶ事も多い。
しかし、名前の上に何もつかないキシタバ(C.patala)と云うのがいるから、ややこしい。

 
【キシタバ Catocala patala ♀】
(2019.6月 大阪府池田市)

 
黄色いカトカラの基準となった種だからなのだろうが、これがしばしば混同される。種としてのキシタバそのものを指しているのか、黄色いカトカラの総称としてのキシタバを指しているのかが分かりづらいのである。それを避けるために、種としてのキシタバを普通キシタバとか、ただキシタバと呼ぶのである。これが面倒くさい。だからか、口の悪い人間なんぞは、腹立ちまぎれに糞キシタバとか屑キシタバと呼んでいる。ゆえに、呼称にパタラキシタバを提唱しているのだが、何処にでもいて邪魔なので、つい糞キシタバと言ってしまう(笑)

 

2018′ カトカラ元年 其の11 第四章

 

    vol.11 シロシタバ act4
『2019さまよえるパンチラ捜索隊』

 
いつもなら種解説でクロージングして、2019年の事は『続・~』として別項で書くのだが、今回は思うところがあって趣向を変えてみようと思う。2019年の事も組み込む形にして、一つに纏めてみたい。その方が最後の種解説をスムーズに書けるのではないかと考えたのである。

 
 2019年 7月20日

カトカラ1年生だった2018年は、7月半ばからシロシタバを狙って探していたが、場所の選定を誤ってしまった。
らしくない事に、その場所に変に拘ってしまい、諦めて別な場所を探す決断が大幅に遅れてしまった。その為、最初に採集できたのは8月も下旬近くだった。既に採集適期は終わりかけており、個体数は多かったものの翅が擦れ、欠け、ボロの個体ばかりだった。それでも完品の♂♀が採れたから良いようなものの、完全なる作戦ミスだったと言えよう。
今年は同じ轍は二度と踏むまいと肝に銘じていた。だから7月中旬には始動しようと考えていた。しかし、あろうことかニューのカトカラなんぞを見つけてしまった。のちにマホロバキシタバ(註1)と名付けられる日本で32番目となるカトカラである。発見者の一人としては、当然分布調査をせざるおえず、と云うかしたい。そう云うワケで大幅に計画が狂い、シロシタバは後回しにせざるおえないと覚悟していた。

この日も朝から分布調査で、小太郎くん、マオくん、そしてナゼか甲虫界の重鎮である秋田勝己さんも参戦して下さった。それぞれ手分けして分布調査を行ったのだが、そんな折り、奈良市東部の調査を担当していた小太郎くんから、LINEで『こんなん採れましたあー。』と云うメールが画像付きて送られてきた。

 
(写真提供 小太郎くん)

 
( ☆∀☆)おー、もう出てるんかあ❗
しかも、型の良さそうなド完品の個体じゃないか。
小太郎くん曰く、杉の木に逆さま(下向き)に止まっていたそうだ。しかも2頭並んで。昼間だから、勿論のこと下翅は開いていなかったそうだ。
クソー、マホロバの調査にも飽きてきたし、うかうかしてらんねーや。

 
 
 2019年 7月25日

何とか時間を遣り繰りして、やっとこさ5日後に四條畷のポイントを訪れた。出歯亀探偵、始動である。

 

 
今回も四條畷お約束の分厚い「フレスコ名物 自家製カツサンド」の画(え)から入る。
もはやコレを買うのはゲンかつぎの儀式みたいなもんである。そうでなくともメチャンコ旨いから絶対買うんだけどもね。
あっ、考えてみれば、ほぼ一年振りの再会じゃないか。q(^-^q)へへへへ、楽しみだな。
えー、味云々は書きまへん。興味のある方は当ブログに『フレスコのカツサンド』と題して書いてあるので、そっちを読んでたもれ。

話には全然関係ないけど、道中なぜか道端にド完品のゴマダラチョウが落ちてた。他で使えそうにない画像だから、勿体ないので無理矢理貼り付けとく。

 
【ゴマダラチョウ♂】

 
死んだ直後って感じで、まだ柔らかく、目の色も生きている時そのままの透明感のある黄色だった。ちょっと謎。

話をシロシタバに戻す。
去年はルッキングと樹液のみでの採集だったが、今年は糖蜜トラップを用意した。
甘酸っぱい液を(^.^)/占==3 シュッシュッシューと霧吹きで木の幹なんぞに噴きつけて誘い込み、寄ってきたところをエイやι(`ロ´)ノと手ゴメにしてしまうと云う卑怯千万な作戦である。
卑怯だが、樹液は毎年同じ木から出ているとは限らないのだ。謂わば保険をかけたってワケだ。カトカラ2年生ともなれば、ちぃーとは進化もしているのだ。

真っ暗になってから、その糖蜜トラップに向かってシロシタバが1頭飛んできた。
飛んで来た瞬間は、あまりに馬鹿デカイんで笑ったよ。一年振りだから忘れてたけど、やっぱシロシタバとムラサキシタバは日本のカトカラの中では規格外の大きさだ。
しかし今年最初の1頭目、気合いが入り過ぎてコチラの殺気がメチャンコ出てたのかもしれない。( ̄∇ ̄*)あちゃー、止まらずに慌てて逃げてった。

ふ~ん、なあんだ早い時間帯にもちゃんと甘汁に来るんじゃねえか。去年は一度しか樹液に飛来せず、しかも10時過ぎと云う遅い時間帯だった。だからワケわかんなくなったけど、日没後しばらくしてやって来るなら、他のカトカラ類と同じじゃないか。
逃したのは惜しいが、一つ問題、というか疑問が解決した可能性がある。それだけでも儲けもんだ。気持ちを切り替えよう。そのうちまた飛んで来るじゃろう。それに、どうせそろそろパッカーンと下翅がパンチラになるから見つけるのは簡単ホイホイだもんねー(^^)
そんな感じで、まだこの時点では楽勝気分で余裕ブッこいてた。

しか~し、全然見つかれへーん。仕方なく探す範囲を広げて歩き回るも全然だ、成果なし。
糖蜜トラップに寄って来るのも、キシタバ(C.patala)やマメキシタバ、コシロシタバ、名も知らぬ糞ヤガどものみ。いずれもそこそこの個体数が集まってくるのにも拘わらず、ナゼだかシロシタバだけが姿を見せない。もしかして、さっき糖蜜トラップに寄ってきたのは別に糖蜜に引き寄せられたのではなく、偶然飛んでて、そこに止まりかけただけじゃなかろうか❓また頭の中が(?_?)はてなマークだらけだわさ。

(|| ゜Д゜)次第に焦り始める。或いは、まだ出始めで個体数か少ないのか❓…。
小太郎くんが採った奈良市の場所よりもコッチの方が標高は高い筈だ。その可能性はある。それに今年はチョウの発生が1週間以上も遅れているというではないか。ガだって同じ鱗翅類だ。発生時期が去年とズレていても何らオカシクない。

午後8時半、ようやく山道をフラフラ飛んでいるのを見つけた。
ロケットスタートでダーッシュ💨 タタタタタタッ、走りながら繰り出す。夢想神影流居合🔥陰陽麗斬剣❗ うりゃ💥、マッハで横振りじゃあ❗

おほほ(⌒‐⌒)、ワテの必殺技をナメんなよである。
鮮やかな太刀筋で決まったぜよ。

 

 
やっぱシロシタバって、カッケー( ☆∀☆)
嬉しくって、バシャバシャ写真を撮っちまう。

 

 
一応、裏面も撮っとこっと。

 
【裏面】

 
けれど、後が続かない。
探し回るもパンチラなし。もしかして去年のパンチラ行動は偶然だったのだろうか❓でも偶然が二日も続くかね❓ だいちオッピロゲ状態のは、少なくとも十数頭、下手したら20頭近くは見たぞ。

午後10時過ぎ、帰る間際の時間ギリギリで、やっと糖蜜トラップに1頭が飛来した。最初に来た奴だろうか❓ でも時間が経ってるので分かんない。それにしても、飛来時間が遅いじゃないか。(|| ゜Д゜)えーっ、やっぱりシロシタバは樹液や糖蜜に寄って来るのが遅いのぉー❓ 頭が混乱する。問題、疑問が全然解決してないじゃないか。
でもそれを今考えたところで仕様がない。とにかく採ろう。自分の身長に合わせて糖蜜トラップを噴き付けてあるゆえ、ごっつeasyな高さだ。慎重に毒ビンを被せた。

(^o^)v楽勝でGET。だが浸っているヒマはない。終電の時間を考えて迅速に動く。ここは一刻も早くニべアちゃんを死に至らしめねばならぬ。デカいだけに毒ビンだと死ぬのに時間がかかるのだ。
マッドな注射器💉をすかさずセット。ある程度弱ったところで、毒ビンから取り出し、ブスッ&ブチューとアンモニア液を注射。安楽死させ、ソッコー回収して闇濃い坂道を下った。

翌日、展翅する前に写真を撮っておいた。
日の下で見ると、また感じが違うからだ。

 

 
ベルベットのような白い下翅が美しい。
上翅の樹皮についた苔のようなデザインも渋いね。

 

 
♂だな。たぶん2頭めに採った方だ。
展翅は、こんな感じ。

 
【Catocala nivea シロシタバ♂】

 
カトカラ2年生ともなると、展翅も上手くなってまんがな。一年目みたいに上翅が上がり過ぎていないし、触角も整っとる。カトカラ大明神 石塚先生(註2)の展翅を参考にしたら、格段に上手くなったでごさんすよ。トサカ大明神のカトカラ展翅は世界一とも言われておるのだ。本も貰たし、(^人^)感謝、感謝。
但し、翅のバランスと触角を真っ直ぐするのは参考にはしたけど、触角の角度は先生よりも鋭角にして、下翅をほんの少しだけ下げた。そのまんまのパクリだと芸が無いというのもあるが、元来は蝶屋なので蝶屋的触角バランスの方がカッコイイと思うからだ。賛否はあるだろうが、暫くはこのままのパターンでいく事にした。以下、今年採ったシロシタバの展翅は自分的には完璧に近いかな。
と言いつつも、来年になると去年はまだまだやったなとか宣ってそうだけどさ(笑)。いや、その反対の下手クソに戻ると云うのも有り得るな。だって、そもそも展翅って面倒くさいから嫌いなんだもーん(# ̄З ̄)

もう1頭、最初に採った方が♀だな。

 

 
良い♀なのにナゼに裏面❓と思ったら、あとで裏展翅にしてたわ。最初からそのつもりで裏返し写真を撮ったんだね。でもどうして♂ではなく、あまり採れない♀なのだ❓
どうせ何も考えてなかったんだろな。性格がテキトーなのだ。

 
【裏面展翅♀】

 
完璧を期す為に、脚までキッチリ揃えてやったぜ。
それにしても裏はダメダメだなあ。全然キレイじゃない。

 
 
 2019年 8月5日

 
青春18切符で長野まで遠征した。
まあまあ天才を自負していたが、白馬でボコられ、カトカラ歴の短さと経験値の足りなさを痛感する。関西ではそれなりに結果を出してきてるから、ここまでボコボコの結果は予想外だった。カトカラなんそドヤツでも楽勝で鬼採りじゃいと思ってたけど、ここ信州では気合いとかセンスとか根性では何ともならん事を知る。西とは事情が全然違ってて、オラのスペシャルブレンドの糖蜜が思った程には効かんかったのだ。カトカラの種類や糖蜜のレシピにもよるのだろうが、東日本では糖蜜の効力が西日本よりも低いのかもしれない。

遠征4日目。この日は湿原にいた。
ハンノキが、沢山生えてる。

 

 
狙いはミヤマキシタバだったんだけど、それについては後日また改めて書く。
で、シロシタバも1頭だけ糖蜜トラップに来た。コレは全く想定していなかったから、遠目に見て一瞬何じゃらホイ❓と思ったよ。ひと呼吸おいてシロシタバだと分かって、ガッカリしながらぞんざいに採った。やはり東日本のシロシタバは小さい。四條畷のものと比べて断然小振りだったので、あまり心が踊らなかったのだ。なのか、採った時の画像はない。

飛来時間は正確には覚えていないが、遅い時間帯だったことは確かだ。午後10時は確実に過ぎていたと思う。下手したら11時台だったかもしれない。
ミヤマキシタバに集中していたので、この時は気にも止めなかったけど、今思えば飛来時間はやっぱ遅い。そんなワケないと思うのだが、シロシタバは早い時間帯には樹液や糖蜜に飛来せず、遅い時間に現れる説がドンドン補完されていくじゃないか。

一応、その時に採った個体の展翅画像を添付しておこう。

 

 
♀だったんだね。全然、記憶にないや。
にしても、キレイな個体だね。展翅もバッチリだしさ。

 
 
 2019年 8月11日

 
今日もゆくゆく、パンチラ捜索隊。再び、四條畷のポイントに立つ。
前回、結局採れたのは糖蜜トラップに来たのと空中シバキの2頭だけ。シロシタバは、夜になると下翅をオープンにするという生態的特徴を証明できなかった。
去年、偉そうに周りに吹聴していただけに、このままだと狼少年のレッテルを貼られかねない。それは何としてでも避けたいところだ。とにかく歩き回って出来るだけ多くの個体を見て、正しいか間違っているかの答えを出したい。白黒ハッキリと片をつけたいのだ。もし間違いだったら、素直に謝れぱいい。いずれにせよ、その為には事実を積み重ねてゆくしかない。

そうは言いながらも、気持ち的には楽勝気分である。日付的に今日なら大丈夫だろう。最盛期な筈だから、去年みたいにそこそこの数は見られる筈だ。今日一日で一挙に問題解決といこうじゃないか。

しかれども、今日も状況は芳しくない。日没からだいぶ経ってるのに、まだ1頭も見ないでいる。
\(◎o◎)/どゆ事~❓ワケがワカンナイじゃないか。まさか空中から農薬とか撒いたんじゃねぇだろなー。

午後9時半。やっと最初の1頭が糖蜜トラップにやって来た。

 

 
やっぱ、飛来時刻は遅めだなあ。日没前から糖蜜を撒き散らしているのに、早い時間帯には1頭も来なかったもんなあ…。って事は、益々樹液や糖蜜にやって来る時間は遅めという説が濃厚になってくる。
う~ん、本当にそうなのかなあ…。でも結論づけるのには、まだ早すぎるような気がする。たまたま偶然が重なっただけなんじゃないかと、まだまだ疑ってる。

(^o^)v楽勝でget。このままだと Null(ヌル(註3))になりかねなかったから嬉しくなくはないが、捜してるのはパンチラさんなのだ。ややガッカリ( ´△`)

ありゃ❗、鮮度は悪くないものの、左下翅が少し欠けとる。そろそろ傷み始めの個体が出てきたって事か…。その割りには個体数が少ないよなあ。

少しホッとして、さあここからだと歩き始めた矢先だった。懐中電灯の光が何か白いものを捉えたような気がした。慌てて照準を合わせ直す。距離は約15メートル。なんちゃって千里眼を持つ男だ。ハッキリ見える。間違いない、シロシタバだ❗

\(^o^)/💥パッカーン、おっぴろげジャ━━ンプ❗
( ☆∀☆)フォンテ~~ヌ❤💕 ようやくパンチラ個体を見つけたよ。

あっ、書いてて今、おっぴろげなんて言葉を使うようになった原典が解ったよ。たぶん、っていうか絶対に永井豪の漫画『けっこう仮面(註4)』の影響を受けている事は間違いあるまい。このマンガ、女子から見ればサイテーのエロ漫画である。しかも少年誌の月刊ジャンプに連載されていた筈だ。ジャーンプ!で少年ジャンプを思い出して、芋づる式に記憶が甦った。
笑けるほど下品でバカバカしい漫画で。必殺技のおっぴろげジャンプなんぞは、その極みだもんね。嗚呼、オラもおっぴろげジャンプ喰らいてぇー。悶絶、気絶(◎-◎;)してぇー。だって世の中に、あんなに男子にとって嬉しい必殺技は他にないもんね。
でも現在の社会状況ならば、コンプライアンス的に大問題だろなー。今の世の中、何でもかんでも規制するって感じだもんな。ホント、ツマンねぇ世の中になったよ。清濁、両方相俟ってのメディアが正常だと思うんだけどね。嘘の上に乗っかった清廉などクソ喰らえだ。わしゃ、エログロ復権を断固望むι(`ロ´)ノ❗
めんご、めんご。こう云うどうでもいいような脱線が話を長くしちゃうんだわさ。本編に帰ろう。

慎重に距離を詰める。
腰の辺りと高さは低い。見覚えのある木だ。この木の前は何度も通っている。だから樹液が出ていない事は知ってる。だいち細い。こんな若い木から樹液は滅多な事では出ない。それに、そもそも木の種類が樹液が出るような木ではない。明らかに照葉樹だ。しかも樹液が出るカシ類ではない。

逃げる素振りはない。更に間隔を詰めて確認すると、吸汁のためのストロー(口吻)は出していない。微動だにせず、静止している。つまり樹液を吸っていないのにも拘わらず、下翅を開いていらっしゃるのだ。
となれば、証拠写真をフライデーする絶好のチャンスである。そっと至近距離まで近寄り、スマホを構えて💥パシャ。💥バシャ💥バシャ💥バシャ💥バシャ💥パシャ…。気分は連写で撮ってるエロエロカメラ小僧だ。拙者、接写で撮りまくっておりまする。

 

 
やっぱ、夜は羽開いてるのが普通なんじゃねぇか。
兎にも角にも、これで証拠写真は撮れた。取り敢えずは一安心だ。

♂っぽいね。でも上翅が完全に破れてんなあ。やっぱ、いよいよシーズンも終わりかけって事なのか…。

この日は、コレで終了。
参ったなあ。どうも上手くいかないや。長野では後半持ち直したものの、らしくない絶不調っぷりだったし、秋田さんの言うようにマホロバキシタバの発見で運を使い果たしたのかもなあ…。岸田先生まで、そんなこと言ってたしなあ。この俺様に限って、んなワケあるかいと思ってたけど、何だか段々そんな気になってきたよ。
因みに、この日採ったのは最初の翅が少し欠けていた個体1頭のみ。展翅はしていない。フォトジェニック、2頭めの完全に羽が破れてたのはスルーした。

 
 
 2019年 8月24日
 
パンチラの証拠写真はおさえたとはいえ、まだたったの1頭だ。これでは夜間パンチラを証明するのには、まだ弱い。もっと証拠写真を撮影しといた方が良いだろうと考え、またもや四條畷に出掛けた。

しかし、今宵も中々姿を現さない。パンチラ捜索隊の前途に暗雲が垂れ込める。
まあ、そのうち会えるだろうと思ってたけど、無常にも時間は刻一刻と削られてゆく。時間と共に焦りが増大する。いったい何が起きているのだ❓ワケ、ワカメーやんかあ(T△T)

れれれー(@_@;)、あろうことか、10時になっても1頭も見ずやんけー。この流れだと、ゼロで終わりかねない。出歯亀探偵、窮地に陥る。
去年は多産地だと思ってたけど、考え直さなくてはならぬ。たまたま去年の発生が多かったのかなあ❓これが常態なの❓それとも今年が特別少ないの❓
どちらにせよ、今のところ現実の成果はゼロだ。このままでは帰れない。終電にあう間に合うギリギリまで粘ることにした。最悪の場合、走って山を下りればいい。

(-“”-;)いない…。

 

 
フォースの暗黒面に陥りそうな気分だった。
👿自然破壊魔王、その辺の枝を叩き折りまくりたい衝動に駆られる。そこを何とか踏み堪えて、夜の道を足早に歩く。顔がどんどん歪んでゆくのが自分でもわかる。マジ卍~、ホンマに今年の運を使い果たしてしまったのかもしれない。

(´д`|||)脱力。諦めかけて帰ろうとした10時半。
ぶわ~ん❗と、浮き上がるかのように突然白いものが目の中にジワリと飛び込んできた。ぼやけていた焦点が、ゆっくりと合い始める。
そこには、懐中電灯の光にピン・スポットで照らし出された、白き女王の姿が在(あ)った。
シャーι(`ロ´)ノ、やっと1頭めっけー。
しかも、大サービスでおっぴろげてくれている。
これで夜は下翅を広げて止まっていることを完全に証明できるんじゃないかなと思った。止まっているのは杉の木だから、絶対に樹液に来た個体ではないからだ。

しかしパンチラ写真は撮らなかった。と云うか、撮れなかった。静止している場所が高くて撮影するのには無理があったのだ。遠目でもいいから撮ろうかと思った。けれど、暗すぎてフラッシュを焚いても映らない可能性が高い。それに帰る時間も差し迫っていた。アレやコレやと考えているヒマは無い。直ぐに諦め、ソッコーでネットインして、ソッコーでアンモニア注射を打って〆る。

 

 
一応、写真を撮り、慌ててブツを回収して真っ暗な坂道を走るようにして下った。

今日は暗闇が全然恐くなかった。👻お化けも魑魅魍魎も恐くなかった。そんな事よりもコケたりして大ケガする事の方が余程恐かったから、そっちに集中してて、それどころではなかったのだ。慎重を期しつつも、大胆に駆け降りる。

🎊パンパカパーン\(^o^)/、最速記録更新~。
結局、何事もなく山を降り、終電にも間に合った。
けんど、あんなに苦労して持ち帰った1頭がコレ↙。

 

 
採った時は完品だと思ったが、左下翅に何か変な2本の線が入っとるぅー(T△T)
一瞬、変異個体かと思ったが、たぶん単なる傷だろう。それに右の触角も折れとるぅ~(ToT)

とにかく、これでシロシタバは夜になると樹液などに吸汁に来なくとも下翅を開くという事をある程度は証明できたかと思う。少なくとも此処ではそうだ。今年も翅を閉じているものは1頭も見ていないのだ。去年と二年連続だし、両年合わせれば相当数のパンチラ個体を見ている。どう考えても、一過性のものではないだろう。

そういえば、樹液に飛来した個体を1頭たりとも見ていない。あてにしていた木からは、ちゃんと今年も樹液は出ていて、他の種類のカトカラは変わらず集まって来てたのにね。コレまた謎のままだ。

前述したが、それにしても、もう8月も終わりだというのに、極めて個体数が少ない。今年は何処へ行ってもチョウが少ないと嘆く御仁も多いようだから、ガも少ないのかもしれない。それとも、たまたま去年は発生数が多かったって事なのかな❓
でも、真相は来年にならないと分からないや。それにパンチラ問題の調査もまだ充分とは言えないし、此処には又来るっきゃないな。とはいえ、こんなに個体数が少なければ今年はもうダメだろう。来年、また来ることにしよう。

 
 
 2019年 9月2日

 
再び旅に出た。
今回も青春18切符の旅だ。
しかし、今回はパンチラ捜索隊の任務ではない。

 

 
夕方、岐阜県・平湯温泉に到着。

 

 
いつもの宿で温泉に入って、キンキンに冷えたビールを飲んでから出陣。
探すはエゾベニシタバ、目指すは白谷方面。
しかし、真っ暗けー。

 

 
ここには妖精クモマツマキチョウを採りに何度か訪れているが、夜はこんなにも真っ暗だなんて予想だにしていなかったよ。

 
【クモマツマキチョウ(雲間褄黄蝶)♂】

 
【裏面】
(2019.5.26 岐阜県高山市新穂高)

 
【展翅画像】

 
そういえば思い出した。白谷では、そのクモツキ採りの時に熊の親子連れを見てるわ。此処には、確実に森のくまさんがいるのである。
真っ暗だし、熊は黒い。背後から襲われでもしたら、お手上げだ。((((;゜Д゜)))ブルッとくる。

🎵ラララ…星き~れい~、とか何とか口に出して歌ってはみるが、恐い。マジ卍で熊も闇も恐い。
幸い❓なことに川沿いの道にトラップを噴きつけるのに適した木がないので撤退。温泉の反対側に行くことにした。

その時に採れたシロシタバがコレ。

 

 
写真は二枚だが、同じ個体である。
キレイな個体だ。四條畷では傷み始めたものが多かったけど、コチラでは9月に入ってもまだまだキレイなんだね。やはり西日本よりも発生が遅いのかな❓それとも、どこかに書いてあったように、この辺では夏眠するからなのかな❓

比較的早い時間帯に採れた記憶があるが、それでも9時は軽く過ぎていたと思う。あっ、写真があるから撮影時刻のデータが拾えるか…。
(|| ゜Д゜)ゲッ、確認したら、午後11時09分になってた。どんだけワシの記憶ってエエ加減やねん。
あっ!、これも又もや遅い時間の飛来である。コレだけ糖蜜への飛来時間が遅い例ばかりだと、そんなワケないと思ってたけど、考え直さざるおえない。でもなあ…、そんなカトカラっているのかね❓ 何で遅くにやって来る意味もワカンないしさ。

この日は、この1頭のみ。勿論、糖蜜に来ていたから下翅は開いていらっしゃった。

 

 
♀である。
そして、これが今年最後のシロシタバとなった。

                     つづく

 
追伸

結局、パンチラ問題の証明はある程度は出来たが、まだまだ不充分ではある。引き続き来年も、この件に関しては観察を継続していこうと思う。

その流れで思ったのだが、誤解を怖れずに言う。
蛾屋って、ライト・トラップに頼り過ぎてないかい❓
それで多くの蛾は採集できるかもしれないけど、それだけでは本当の生態は分からない。
真正の蛾屋でもない自分がこう云う事を言うと、激怒される方もいらっしゃると思うが、それって採集方法が片寄ってないか❓ ライト・トラップ自体を否定するつもりは毛頭ないけれど、ターゲットの蛾をライト・トラップで採ると、それだけで満足してしてしまう人が多いのではないかと疑っている。採れたからと、それ以上の生態的興味を失ってしまってないか❓ 勿論、そうでない方も沢山いるだろうけど、どうもそういう気がしてならない。とにかく灯火採集で解るのは生態の極く僅かな一面に過ぎない。もっと自然な状態での生態を観察しなければ、本質は何も見えてこないんじゃないかと思う。各種蛾の生態解明があまり進んでいない原因の一つは、採集をライト・トラップに頼り過ぎているからなのではなかろうか。
つまり、ライト・トラップだけに頼らず、もっと他の方法でも採集、生態観察をする努力をすべきではないかと思うのである。長々とこのシリーズを書いてきた理由の一つは、これが言いたいが為の布石だったとも言える。
図鑑の記述を丸呑みせず、わからない事や疑問があれば積極的に自分で調べる姿勢が必要ではないだろうか。
チョウと比べて、ガには解明されていない事が多い。新たな発見は、まだまだあるだろう。そこにこそ面白味がある。愛好家が生態解明を争うような時代になるように、もっとベテランの人たちの啓蒙活動も必要ではなかろうか。そうなれば、新たに蛾に興味を持つ人の裾野も広がりはしまいか。
今ひとつ上手く言えてないが、言いたい事の根幹はそういうことだ。

  
追伸の追伸

最後の一文は叱られそうだなあ…。まっ、いっか。
叱られるのは構わないが、怒らずにこのシロシタバのパンチラ生態を他の場所でも観察、証明して欲しい。勿論、間違っている事の逆証明でも大歓迎だ。それが不遜、わたくしの願いです。

今回の小タイトルは単なる思いつき。
だから一人でも捜索隊でいいのだぁー。あんましっていうか、全然理屈になってないけど…。
でも、2回も連続でタイトルにパンチラって付けたら、けしからんと思う人もいるんだろなあ…。
もう一言つけ加えておくと、小タイトルは別なものも考えていた。カッコつけた『天鵞絨の~(何ちゃらかんちゃら)』だ。『天鵞絨(びろうど)の刻印』とかさ。けれども、どうしても捜索隊を付けたかったのだ。かといって『天鵞絨捜索隊』じゃあ、漢字だらけでヨロシクないものね。中国のバードウオッチングの団体とか中国雑伎団の名前みたいで、ヤ。

当初は本文に種解説を加えて、今回で最終回にしようと考えてた。けんど、また要らぬ事を沢山書いて長くなってしまい、早々と断念。
(^_^ゞ次は必ずやクロージングしまーす。

 
(註1)マホロバキシタバ

 
2019年7月に奈良県で見つかった新しいカトカラ。
学名 Catocala naganoi mahoroba。惜しくも新種とはならず、新亜種となった。とはいえ、現在のところ分布が確認されているのは、台湾と日本の奈良県の一部のみ。
詳細は「月刊むし」の2019年10月号(No.584)に掲載されてありますので、そちらを読んで下され。

 

 
(註2)石塚先生
カトカラの世界的研究者である石塚勝己氏のこと。
著書『世界のカトカラ』には美しい展翅標本が並んでいる。それを参考にしたでごわす。

 

 
トサカ大明神と、うっかり言ってしまったのはモヒカン頭だから。まだお会いしたことはないけれど、嘘かと思ってたら本当らしい。ファンキー・モスラ・ジジイとは、めちゃめちゃカッコ良すぎるぜd=(^o^)=b

 
(註3)ヌル(Null)
ドイツ語で、Nullは数値の0(ゼロ)を意味し、発音は /nʊl/である。一方、英語においてNullは/nal/と発音される。日本においては「ヌル」という発音が定着しているが、英語読みに近い「ナル」という発音で呼ばれる場合もあるようだ。
初めてこの言葉を蝶屋の先輩達から聞いた時には、意味がワカンナイだけでなく、にゅるっとした感じで何か気持ち悪い言葉だなと思った。しかもダサい。カッコつけたい人が使いだしたのだろうが、カッコつけといてダサいって、どーよ(# ̄З ̄)❓せめてスペイン語のNada(ナーダ)とかにしろよなー。意味は英語でいうところの、nothingにあたり、無し、ゼロってこと。また「虚無」と云う意味でも頻繁に使用されてるようだ。採集しに行って、一つも採れない時などは、まさしく心は虚無。こっちの方が断然良いと思うんだけどね。蝶屋のあいだで流行らしたろかしら(笑)
そう云うワケで、ヌルという言葉は普段は使わない。基本的には、釣りでお馴染みの「ボウズ」を使ってる。

 
(註4)けっこう仮面
ダウンロードした画像を添付しようとしたら、seacretほにゃららみたいな英語の表示が出て不可能でおました。こりゃ、おっぴろげジャンプの画像なんて載せようものなら、何らかのベナルティーを受けかねないな。どうしても見たい人は、ネットで検索しましょうね。

 

2018′ カトカラ元年 其の11 第三章

 

   vol.11 シロシタバact3
   『パンチラを追え』

 
シロシタバの初採集から中2日後に再び出撃した。
中2日間空いたのは甲子園に高校野球を観に行っていたからなのだ(註1)。

 
2018年 8月22日

   

 
これを買っている時点で、又しても四條畷なのらー。
こないだは思いの外、シロシタバが5♂1♀も採れたので今日もシバくのだ(^o^)v
とは言いつつも、本日は小太郎くんが途中から参戦してくる事になっている。四條畷でシロシタバを採った報告をしたら、行きたいと言ってきたのでホントはその案内ってワケ。ゆえに冒頭のスーパーマーケット フレスコの分厚いカツサンド(註2)も彼の為に買ったものだ。マジで旨いから食ってもらいたいと云う気持ちからだったが、今日は車で来るという事なので(註3)、帰りに駅まで送ってもらうつもりだし、まあその駄賃みたいなもんでもある。あの恐怖に満ちた長く辛い夜の山道を一人で下る事を考えれば安いものだ。

 
今宵は月夜。

 

 
懐中電灯なしでも山道も何とか見える。
夜の山を一人彷徨(さまよ)うのにもすっかり慣れた。人工的な明かりが全く無い世界は恐しくもあり、美しくもある。

謂わば、夜の蛾採りはミステリーである。そして、スリルとサスペンスに満ちている。中でもライトを焚かない夜間採集は暗闇が支配する世界。ホラーであり、スリラーでもある。ミステリーな上にスリルとサスペンスに満ち、更にホラーでもあると云う謂わば全部乗せスペシャルなのである。
ここでふと疑問に思って、ついミステリーとサスペンスとスリラーとホラーの違いについて考えてみた。夜の山に一人いると、想念がどこまでも広がりがちだ。闇と対峙しているうちに、普段ある意識と内奥にある意識との間にある薄い膜のようなもの、心理的障壁や夾雑物が消えるのかもしれない。

その手の映画をAはミステリー映画、Bはサスペンス映画と言ったりする事は多い。それをホラーやスリラーとする人だっているかもしれない。ジャンル分けが人によってバラバラなのだ。自分の中でもそれら似たような言葉がゴッチャになってるところがある。その線引きって、どの辺りにあるのかなと思ったワケ。
したら、急に筆がバッシバッシに走り始めた。でも途中で、こりゃマズイ。大脱線になるのは必至だと気づいて急制動。
脱線ばかりしていては話が全然進まない。徒(いたずら)に長くなるから、それについては最近自分でも反省しているのだ。無駄な文章が多すぎ。
このお題に関しては後日、稿を改めて書けたら書こう。だいち、この日は小太郎くんが後から来たから、全然怖くなかったのだ。それだと論旨にリアリティーを欠きそうだし、タイムリーな話題とは言えまい。

暗闇の世界から暫し離れ、待ち合わせ場所へ行く。
小太郎くんが車でやって来たのは、日没後の7時半から8時の間くらいだった。
この日は小太郎くんには2頭ほど採ってもらったっけかなあ?(註4)。でも最初の1頭しか覚えていない。

一番個体数が多かった森に差し掛かった時だった。
森の入口で、小太郎くんが早くも木に止まっているのを見つけた。三日前、自分が最初に採った個体もその木に止まっていたし、止まっている高さもほぼ同じだったから驚いた。御神木かもと思ったよ。もっとも自分の場合は止まっているのに気づかずに飛んでったけどね。その辺のてんやわんやの件(くだり)は前回に詳しく書いたので、そちらを読んで下され。

記憶は朧ろだけど、下翅は開いていなかったと思う。小太郎くんは、止まっているそれを毒瓶を被せて採ったからだ。ワテの毒瓶を貸したのだが、コンビニで売ってるワンカップ焼酎で作ったものゆえ、大きさ的に翅を閉じて止まっているシロシタバでギリの口径なのだ。もし翅を開いていたなら、鱗粉が傷ついてしまうから網で採っていた筈だ。

 
【毒瓶】

 
でも小太郎くん本人に電話で確認したところ、下翅は少しだが開いていたと言う。清純チラ見せパンチラだったワケだね。言われてみたら、翅を開いていたような気もしてきた。
これで人間の記憶が如何にいい加減で曖昧なのかがよく分かったよ。同じ木だっただけに、時間の経過と共に自分が採った夕方4時半の時の記憶とゴタ混ぜになってしまい、いつのまにか夕方なら翅を閉じていた筈だという概念に支配されてしまったようだ。結構、自分の都合の良いように脳が記憶を改竄してるってことは有るんだろなあ…。

ここで今一度、パンチラ問題について説明しておこう。
シロシタバを含むカトカラ(Catocala)属は、上翅が木肌に似た地味な色だが、下翅は黄色や紅色、紫など鮮やかな色を持つものが多い。しかし、普段は昼でも夜でもその鮮やかな色を隠して木に静止している。これは鳥などの天敵から身を守る為だと言われている。つまり上翅の地味な色柄を木と同化させることによって、天敵の眼を欺くと云う高度な生き残り隠遁術なのだ。
そのせいか、下翅を見せる機会は少ない。飛んでいる時と、樹液などの餌を摂取している時くらいにしか下翅を開かないのだ。あとはイレギュラーな例として、天敵に襲われそうになったら、鮮やかな下翅を見せて威嚇するとも言われている。
これがカトカラ属全般の基本的な生態だろう。それが白き女王様ったら、此処では夜になると樹液を吸ってるワケでもないのに、恥ずかしげもなく御開帳。おおっぴらにおっぴろげていらっしゃる。🎵サービス、サービス(あっ、ここ、エヴァ(ヱヴァンゲリヲン)の次回予告の葛城ミサトの口調ねっ❤)。
しかし、こういう生態は自分の知る限りでは聞いた事がない。どこにも書いていないのだ。だから今日はその生態が、はたしてあの日一日だけのものなのか、それとも通常の行動なのかを確かめるという目的もあった。

因みに止まっていた向きは上向きだった。これは覚えているし、小太郎くんにも確認したから間違いない。
カトカラの多くは昼間は下向きに止まっているが、夜になると上向きに止まる。前回書かなかったけれど、一番最初に採った個体だけが日没前の4時半で、驚いて飛び立ったから不明だが、日没後に見た他の5頭は全て上向きに静止していた。
でも何で昼間は下向きに止まってるんだ❓
逆さになって何の得があるのだ❓そこには何らかの理由がある筈なのだが、全くもってその理由がワカラン。

それにもう一つ疑問点がある。では、いつ下向きから上向きになるのだ❓夕方❓夜❓何時何分❓
また、いつ上向きから下向きになるの❓明け方❓朝❓それとも昼❓
これに関しても詳しく書かれたものを見たことがない。
これら疑問については、おいおい解き明かしていくつもりだ。出歯亀探偵、引き続きパンチラも追うぜ。

この日の2頭目は、たぶん自分が見つけたと思う。
池の畔側で、シロシタバがあまり好まない場所なのか、池側ではその一度だけしか見たことがないから覚えてる。上向きに止まっており、下翅は開いていなかった。
後にも先にも日没後に下翅を開いていないノーパンチラ、貞操の固い個体はコレだけだった。この日は前回にも増して個体数が多く、小太郎くん曰く10頭以上は見たそうだが、木の幹に止まっていたものは全て下翅を開いたパンチラ状態だったそうだ。
その割りには採った記憶があまり無いなあと思ってたら、これも小太郎くんの言で疑問が解けた。なぜかと云うと、殆んどの個体が翅が欠けていたり、破れたものばかりで、スルーやリリースしたからみたい。話を聞いているうちに、そういえばそうだったと思い出したよ。
『ほらね、やっぱり下翅を広げてるでしょ。』と小太郎くんに自慢げに言ったわ。彼もちゃんとそのオラの言動は憶えてたし、それで概ね合ってるだろう。
記憶がだいぶ甦ってきたぞ。そういえばこの日はそれだけいたにも拘わらず、1頭たりとも樹液に飛来しなかった。やはり夜遅くにならないと樹液に来ないのか❓そんなワケあるかいと思うのだが、事実なんだから何らかの理由なり意味なりを考えざるおえない。(T_T)もう謎だらけだよ。

情けないことに鮮明に記憶に残っているのは、帰る間際に採ったものくらいだ。
最後に前回♀が採れたウワミズザクラの大木に寄ったのだが、見たところいないので諦めて帰ろうとして振り向いたら背後の木の枝葉に止まっていたのだ。不意だったから、中々に衝撃的だった。
高さは1.8メートルくらいで、幹ではなくて枝と云うか常緑樹の葉っぱに止まっていたのをよく憶えている。葉っぱに止まってるのは珍しいから、映像記憶として鮮明にメモリーされている。勿論、パンチラ全開だった。
今思えば写真を撮っておけば良かったと悔やまれる。パンチラの証拠写真を撮るなら、高さ、近さは申し分なかったし、絵的にも素晴らしいアングルだったのだ。しかも鈍感な子で、近づいても逃げる素振りは微塵も無かった。謂わば最高の条件が揃ったシャッターチャンスだったのだ。終電の時間が気になっていたのだろうが、写真を撮る時間なんてたかがしれている。勿体ない事をした。

結局、この日の個体は翌日に撮った写真しか残っていない。

 

 
お尻の形からすると、♀だね。
次は、たぶん同じ個体の裏面。

 
【裏面】

 
裏面は生成(きなり)色。所謂オフホワイトだ。表よりも薄汚れた感じで、あんまし綺麗じゃない。

探しても展翅写真がナゼか無い。
なので、前回のものをひと纏めに撮ったのを載せて御茶を濁そう。

 

 
この夜に採集したものは、どうせ面倒クセーからと写真を撮らなかったんだろうね。

 
 
2018年 9月7日

 

 
線路の両側の稲穂が金色に輝いていた。

この日は青春18切符で遠路はるばる山梨県までやって来た。
目的は大菩薩嶺の麓で帝王ムラサキシタバ(註5)を狙う為だ。
とはいえ、ライトトラップなんて持ってないからペンションのライトトラップで何とかならんかなと思ったのである。
このペンションは虫屋の間では有名で、毎夜ライトトラップが焚かれているのだ。

 
【ペンション すずらん】

 
ライトトラップはペンションの裏というか横にあり、巨大である。

 

 
横幅が4メートルくらい、高さは3メートルくらいはあったかなあ。
ここにシロシタバが飛んで来た。時刻は比較的早い時間だったと思う。たぶん7時か8時辺りだったかな。

 
【シロシタバ】

 
スマン、間違い。写真のデータを解析したら9時過ぎに撮られたものだったよ。やっぱり古い記憶というものは当てにならん。

ライトトラップに飛来したものはパンチラなし。
灯りに寄って来るカトカラは、翅を閉じるものが多いようだ。ネットの画像なんかでも閉じているものが多い。中々、翅を開いてくれないというコメントも散見されるから、閉じるのが基本だと思われる。
こうして見ると、上翅の黒いスリットのような柄が目立つね。殆んど下翅を開いているものしか見てないから、あまりそっちには目がいかなかったんだろ。シロシタバの苔(地衣類)みたいな上翅は、世界中のカトカラを見回しても唯一無二だが、この黒いスリットが入るカトカラも他には存在しない。
とは言っても、もはや全然興味が無かった。一回やったら飽きるような酷い男なのだ。
それに何だか小さい。四條畷の奴と比べて断然小さく、細いような気もして重量感をあんま感じない。もう魅力半減なのだ。萎えても致し方なかろう。

翌日の夜にはペンション入口の外灯の柱に鎮座していた。飛来時間は同じく9時くらいだったと思う。
この時もパンチラなし。翅は閉じられていた。
翅がコレも少し欠けていたので、蛾LOVEの高校生に譲ったっけ。いや、もしかしたら別な人だったかもしれない。
ここには3泊したが、見たのはその2頭のみだった。

大菩薩山麓で採ったシロシタバ♂を展翅画像を貼り付けとこっと。

 

 
(・。・;あれれっ❓、翅が破れてないぞ。
おっ、そうか。これまた健忘太郎だ。樹液に来たのも採ったんだわさ。たぶん、それだね。
翅は開いていたと思う。なぜなら閉じていたという記憶がないからだ。樹液を吸ってる時は下翅を開くのが当たり前だから、もし閉じていたならば逆に強く印象に残っている筈だ。それが無いという事は、閉じていなかったという三段論法でしかないんだけどもね。
と云うことはライトトラップに来たものは翅が破れていたのでスルーしたんだね。そう云えば持って帰った記憶は1頭しか無い気がする。

あっ、今さら8月22日に四條畷で採った個体の画像が出てきた。随分と後になって撮られたものだから、気づかなかったのだ。

 

 
カトカラの展翅は何が腹立つかって、時間が経って乾燥が進むと触角に狂いが生じてくる事である。
上の画像なんかは、元々はもっと整っていた筈だ。こんなアッチ向いてホイを良しとするワケないのだ。

 

 
両方とも♀だ。
そういえばコレって、たしか秋田さんに蝶屋的展翅だと指摘されてたので、上翅を下げてみたんだよね。
なるほどで納得したよ。確かに、このバランスの方がシックリくる。
同時に、それで画像が後になって撮られた理由も氷解した。展翅バランスが変わったという事は、きっと山梨の個体よりも後に展翅されたものだ。あんまし記憶に無いけど、後になってから軟化展翅したとしたら、話の辻褄が合う。

あっ、よく見ると前肢がもふもふで可愛い(о´∀`о)

 
                     つづく

 
追伸
この第三章から小タイトルを毎回変えることにした。
と云うわけで、第ニ章にも新たにタイトルをつけて、本文も一部手を入れた。
小タイトルの話が出たので、ついでだから書き忘れていたことを書こう。
第一章の小タイトル『ホワイト・ベルベット』のモチーフはデヴィッド・リンチ監督の映画『ブルー・ベルベット』。通の映画好きならば誰もが知っているリンチの代表作であり、カルトムービーの金字塔の一つだ。エキセントリックにしてファンタジック。そしてスタイリッシュ。何度見ても飽きない。
勿論、怪優デニス・ホッパーのガスマスクとか変態っぷりも光るが、一番好きなのはディーン・ストックウェルが「お菓子のピエロ」を歌うシーンだ。映画のストーリーとは直接関係ないのに、とても心奪われる。
そういえば、これまたストーリーとは直接関係ないローラ・ダーンの尋常じゃない泣きじゃくりっぷりがメチャンコ怖いんだよ。全然怖いシーンじゃないんだけど、何だか矢鱈と怖いのだ。
この映画は闇のシーンが多い。それが夜のカトカラ採集と重なり、夜道を歩いている時に珠にこの映画の事を思い出したりもした。更にそこにシロシタバのベルベッドのような下翅とがリンクしたゆえに思いついたタイトルだろう。まあ、映画へのオマージュだね。

第ニ章の『白き、たおやかな女王』のモチーフは北杜夫の小説『白きたおやかな峰』。但し、インスパイアーされたのは題名だけ。ヒマラヤの高峰に臨む登山家たちの話で、その内容とは全く関係がない。

今回の第三章は特に決まったモチーフはない。パンチラという言葉が気に入ったので、単にタイトルに使いたかっただけだ。カッコつけたがると同時にフザけたい人なのだ。
いや、もとい。あるっちゃある。白い下翅を何度も見ているうちに『まいっちんぐマチコ先生』みたいやのうと思った覚えがある。マチコ先生といえば純白パンティーだ。でもってパンチラなのだ。すっかり忘れていたが、その辺が深層心理にあったのだろう。
一瞬、タイトルを『まいっちんぐマチコ先生』に変えてやろうかと今思ったが、やめとく。フザけ過ぎだと叱られそうなんだもん。

次回のタイトルは未だ考えてないから、どうしょっかなあ…。でも全然思い浮かばない。結構、タイトルを考えるのって大変なんだよね。

 
(註1)高校野球を観に行っていたからだ

準決勝と決勝、2日連続で甲子園に行った。

 

 
そう、大阪桐蔭が春夏連覇した時だね。
但し、決勝戦は入場出来ずに近くの喫茶店でTV観戦してた。満杯で入れなかったのだ。下の画像を拡大すると、外野席までもが売り切れになっていることが分かります。

 

 
そういえば毎年恒例の『(@@;)べろ酔い甲子園』と題したシリーズをこの年は結局書いてないんだよねー。選抜の(@@;)ベロ酔いレポートは書いたんだけどさ。

 
(註2)クソ分厚いカツサンド

スーパー・マーケット フレスコの名物カツサンド。
これについては拙ブログにて『フレスコのカツサンド』と題して書いた。

 
(註3)今日は車で来るということなので

こんな事にまで註釈を付ける必要性は無いと思うが、小太郎くんが遂に車を買ったのだ!何か言いたい。
勿論、この日の帰りは車で送って貰ったのだが、車を買って初めて助手席に乗せたのがオラらしい。物凄く残念そうに言われたよ。アンタ如きにと云う気持ちが言外に溢れてとったわさ。
若い女の子じゃなくてゴメンねー(・┰・)

 
(註4)小太郎くんには2頭ほど採って貰ったのかなあ

本人に確認したら、最初の1頭のみだった。この日は発生も終盤なのかボロばっかだったのだ。

 
(註5)ムラサキシタバ

 
日本におけるカトカラの最大種。しかも、美しくて稀な種なので人気が高い。
 

2018′ カトカラ元年 其の11 第二章

 
   Vol.11 シロシタバ act2

  『白き、たおやかな女王』

 
 
うす暗い森の中に足を踏み入れた瞬間だった。
Σ( ̄ロ ̄lll)わちゃっ❗、突然、目の前の木から何かが飛んだ❗
( ̄□ ̄;)デカッ❗❗もしや…と思った次の瞬間、仄暗い中で下翅の白がチラリと見えた。間違いない、白き女王だっ❗❗

しかし、足が固まる。普段ならば即座に反応し、鬼神の如く猛然と走り出すのだが、咄嗟に動けなかった。
目だけで後(あと)を追う。彼女は森の奥へと飛んでゆく。網膜に映る画像がスローモーション化する。
突然訪れたチャンスに驚いて固まってしまったというのもあるが、下手に走って追い掛けると相手に必要以上の恐怖感を与えかねない、これ以上驚かせて本気で逃げられたらマズイと思ったのだ。どうしても採りたいという気持ちが、そう云った慎重な作戦を選ばせたのかもしれない。
それに場所は道なき森の中のキツめの斜面だ。足下が悪過ぎる。追い掛けるにしても飛翔体から目を切ってしまう可能性が高い。一瞬でも目を離してしまえば見失いかねないと判断したのだ。止まった場所をある程度把握できれば、そこからジックリ攻めてけばいい。

彼女は真っ直ぐ森の奥へと向かっている。全身が巨大な目になったかのようになる。しかし、網膜に映るそれはどんどん小さくなってゆく。これ以上離れるとヤバイ。見失う可能性がある。心の中で、止まれ、止まれ、止まってくれと悲痛なまでに念じる。

祈りが通じたのか、やがて途中で大きく右に旋回した。半円を描くような軌道で再び視界に戻ってくる。そして突然、フッと消えた…。

一瞬、見失ったかと思って、(-“”-;)💦焦る。
でも消えたという事は、その周辺の何処かに止まったに違いない。距離は約20mってところか…。その辺りの景色を脳ミソにシッカリと刻み込む。そして、逸る心でザックから網を取り出して組み立て始める。
気持ちを落ち着かせようとするが、組み立ててる間に心がどんどん昂(たか)まってきた。興奮と期待、絶対に結果を出さなくていけないと云うプレッシャー、もし逃がしたら…という怖れと不安、そしてエクスタシーを激しく希求する動物的本能、それらがグジャグジャに交ぜ合わさって溢れ出しそうになる。背中がゾクゾクしてきた。この緊張感、堪んねぇ。久し振りに味わう最高クラスのギリギリ感だ。ワクワクする。

慎重に斜面を登り、距離を詰めてゆく。
やがて近くまでやって来た。目を皿のようにして周辺の木の幹を凝視する。彼女は忍者ばりに木と同化して止まっている筈だ。その木遁の術、見破ってやるぜ。

あれれー?、けどワッカラーンヽ( ´△`)ノ
本当にこの辺に止まったのか❓作戦失敗❓
焦れて一歩踏み出したら、飛んだ❗
\(◎o◎)/ゲッ、何処にいたのだ❓全然ワカランかったぞ。
今度は追い掛けた。危険を感じてか、彼女はスピードを速めてる。コチラもスピードを上げる。ある程度の距離を詰めておかなくては見失いかねない。

止まった❗
よし今度こそ、その隠遁の術を見破ってやる。
しかし、やっぱワカラーン。ワシの眼は節穴か。苛立ってくる。もしかして見失ったか❓
不安に駆られて一歩踏み出したら、また飛びよった。
なしてーε=ε=ε=ε=(ノT_T)ノ。再び追い掛ける。

そして、又しても同じ事を繰り返す。
(ToT)ひぇ~、また飛びやがった❗
走りながら思う。シロシタバって鈍感だと何かに書いてあったけど、全然そんな事ないじゃないか。
それにしても、ワシャ、何をやっとるのだ❓森の妖精の悪戯かよ❓ エンドレスで延々この追いかけっこが続いたりして…。悪い夢でも見てる気分だ。
その間も目は逃すまいと飛ぶ彼女を追尾している。

やがて、森の端で止まった。
(=`ェ´=)追い詰めたぜ。ここなら外からの光が入って明るい。てめぇの姿、次こそ暴いてやる。

5メートル程手前で、やっと視認できた。高さは約2メートル。翅を閉じて静かに止まっている。
やっぱデカイ。今年見てきたカトカラの中では断トツの大きさだ。
今度こそテゴメにしてやり、この追いかけっこに終止符を打ってやる。慎重に木の下まで近づき、そっと下から網を伸ばす。
久々に緊張感で💓ドキドキし過ぎて、網を振る前にフッと笑ったよ。たかが虫にここまで必死って滑稽すぎだろ。我ながらアホだ。笑える。
こういう時はハズさない。力が適度に抜けてるからだ。

網の枠で、止まっている下をコツンと軽く叩く。
ハッ( ̄□ ̄;)❗驚いて右に飛んだ。
でも、そこが狙いじゃい❗
筋肉が収縮し、躍動する。
ダアリャアーι(`ロ´)━○、秘技❇カチ上げ斬撃剣❗
その刹那を見逃さず、ネットを空中でブン殴るようにして左から右上へと💥一閃した。

素早く手首を返して網先を捻る。
ネットを斜め上に掲げたまま一瞬静止する。我ながら美しいフォロースルーである。
(* ̄ー ̄)決まったな…。クリーンキャッチした確信がある。

すかさず網に目をやると、しっかり影が見えた。
感情が爆発する。(#`皿´)ダボがあー❗、ざまー見さらせ。まあまあ天才をナメなよ❗

でも心を弛めるにはまだ早い。肝心なのはここからだ。もし網の横から逃亡されでもしたら、全てが水の泡だ。それだけは何としても避けねばならぬ。己の能力の詰めの甘さを呪って、木の幹に千回、血が出るまで頭を激しく叩きつける事となる。

それはヤだ。この際、毒瓶方式は止めて、確実を期して悪魔的伝家の宝刀、ファイナル・ウェポンを登場させよう。

逃げないように、地面に置いた網の枠を膝でおさえながらザックから注射器を取り出す。用意周到、注射器の中には既にアンモニア液が入っている。
狙いをつけてエイやっ、(`Δ´)💉ブスッ❗
Ψ( ̄∇ ̄)Ψケケケケケ…。死神博士、注射針をブッ刺し、悪魔の毒液を注入する。
クワッ❗、彼女は驚いたように一瞬バッと羽を大きく開いた。そして、次の瞬間にはゆっくりと力を失っていき、静かに事切れた。
もし彼女が声を発する事が出来たなら、毒液を注入した瞬間に断末魔の声をあげていたに違いない。心がちょっとだけ痛む。安楽死とはいえ、殺しには変わらない。酷い所業だ。やってる事は所詮はマッドサイエンティスト。こんな方法で生き物を殺(あや)めまくっとるワシって、ろくな死に方せんで(-“”-;)

しかし、憐憫の情よりも喜悦の感情の方が遥かに勝(まさ)る。ゆっくり、じんわりと幸福感が全身に拡がってゆく。
エクスタシーは狩猟にこそある。それが男性にとって最も大きな本能的快楽なのだ。

我、戦いに勝利せり。全身全霊の渾身の戦いだったぜ。アリガトネ。
網から出して、そっと手の平に乗せる。

 
【シロシタバ Catocala nivea 】

 
地ベタにへたり込む。
朝から探し回って、4時半になって漸く拝めたよ。
安堵が更に身体の力を弛めてゆく。

 

 
手にはズッシリとした感触がある。存在感が半端ない。
シロシタバはその立派な大きさもさることながら、この苔(地衣類)みたいな渋い上翅と下翅のビロードのような白の組み合わせが素晴らしい。上品な美しさを醸し出している。たおやかで、どこか気品があるのだ。去年見たものよりも新鮮なだけに、より美しいと感じる。

あっ、尻に毛束があるから、♂だね。彼女じゃなくて彼だ。とはいえ、蝶も蛾も自分にとっては女性だ。擬似恋愛なのだ。だから男に恋焦がれて追い回すって感覚は受け容れ難い。あちき、バイセクシャルの性癖は無いんじゃもーん。

改めて下翅の白を仔細に見る。
その白は、ただの白ではなくて、ベルベットような質感を持つ白だ。滑らかで色に奥行きがある。ふわふわで撫で撫でしたくなるような毛並みに暫し魅入られる。

次に上翅に目を移す。
渋いグレーにエメラルドグリーンの紋が散りばめられている。(≧∀≦)渋カッケー。神秘的ですらある。宇宙を感じるよ。
こんな柄の上翅を持つカトカラは他にはいない。日本のみならす、海外だっていない。ホントの苔みたいだ。ウメノキゴケとかの地衣類にソックリじゃないか。

 
(出展『いきものは おもしろい!』)

 
そりゃ木肌と同化しちやってワカランわな。精度の高い立派な擬態だ。あんた、偉いね。

 
やがて闇が訪れた。
そして、直ぐに2頭目が採れた。今度も♂である。
木の幹に下翅を広げて止まっていたのだ。楽勝でゲット。

その次も同じく下翅を広げて止まっていた。そのまた次も同じ状況だった。2つとも♂である。
もしかしてシロシタバの♂って、夜は下翅を出して止まっているものなのかあ❓或いは♀へのアピールだったりして…。でもそんな事、図鑑にも文献にも一切書いてなかったぞー。

そして、ウワミズザクラの大木で♀も見つけた。
これまた下翅を広げていた。♀もそうなら、♂のアピールとかは関係ないな。けど、だったら何でパンツ丸見えなの❓まさか男前のワシへのアピールではあるまいに。いやいや♂もパンチラなのだ。だからぁー、オラはバイセクシャルじゃないっつーの(# ̄З ̄)

考えてもコレといった意味が他に思いつかないが、とにかくパンチラは目立つ。ここまで5頭のうちの4頭が下翅を開いていた。夜だとシロシタバの見つけ採りは超簡単やないけ。何処にも書いてないけど、ムラサキシタバ(註1)とかも夜に行けば下翅を開いていて、簡単に見っかったりするんじゃねえの~❓

とはいえ、どこにも書いてないと云う事はたまたま今日だけがそう云う生態なのかもしれない。本日はシロシタバのお祭り、年に一度のパンチラフェスティバルなのかもしれない。
もしくは、この場所のシロシタバだけが特異な生態を持っていると云う事も考えられる。
あまり現実的な考えとは思えないけどさ。

そう云えば、もう一つ疑問点がある。
樹液に飛来したのは最後の6頭目だけだった。しかも時間は帰る間際の午後10時過ぎ。それまで他のカトカラは山ほど樹液に来ていたのにだ。マメキシタバ、オニベニキシタバ、パタラキシタバ、コシロキシタバ、この地に生息するであろうカトカラはシロシタバを除いて日没後すぐに全員集合だった。だから不思議感が拭えない。ゲットしたシロシタバのうちの2頭は樹液の出ている木の周辺の木にいたから、日没後すぐに樹液に来てもオカシクない状況だったのに何で❓
シロシタバが樹液に来るのは遅い時間帯なのか❓
これまた文献には、そういった事はどこにも書かれていない。そもそも常に樹液にそんなに夜遅くに飛来するカトカラなんて聞いたことがないし、経験上も憶えがない(註2)。

色々と疑問は残るが、6頭も採れれば御の字だ。気分は頗(すこぶ)るいい。
午後10時15分撤退。谷を下り始めた。

別に書かなくともいい事だけど、帰りはそこそこ大変だった。メインの下り道が崖崩れで通行止めになっていて、他のルートを使わざるおえなかったのだが、この道が精神的にも肉体的にもキツかった。

満ち足りた気分は下り道を歩き始めて直ぐにフッ飛んだ。昼間でも一度も歩いた事がない道を歩くのは不安なのに、夜ともなるとその精神的負荷は何倍にもなる。ルートを外れて迷う可能性は格段に上がるし、所要時間も読めない。それに付随して終電に間に合わないかもしれないという焦りも生じてくるからだ。

歩き始めてさして間もなく道は真っ暗となり、ビビった( ̄ロ ̄lll)
辺りは樹木が鬱蒼としており、不気味極まりない。今宵は月が隠れていて、光が全く入ってこないのだ。
👻お化けとか本気で恐いマックス怖がり屋さんとしては、チビりそうな様相である。

おまけにダイソーで買った100円の懐中電灯がチンケ過ぎて半泣きだ。光量が弱いし、接触が悪くて時々消えやがる。その都度叩いて復活させるものの、いつブッ壊れてブラックアウトするかもしれへんと思うと、その恐怖感は尋常じゃない。ユルい性格なので、予備の灯りも持ってないのだ。もしも灯りが消えたら、発狂するか、醜態さらしてワンワン泣き喚きそうだ。
オデ、オデ、ココロガオレソウ。ワタス、キオクソウシツニナリマスデス。サヨウナラ。

道もどんどん悪くなり、石がゴロゴロ転がってて歩きにくい。荒れているのは、あまり人が使わない登山道なのだろう。
勾配もかなりキツくなってきた。そしてステップ幅の短い急な階段になった。コケたら、谷下まで転げ落ちるだろう。確実に大怪我するレベルだ。しかも水が滲み出していて滑りやすいときてる。
泣きたくなる心を懸命に抱きしめる。ここで死ぬわけにはいかんのだ。採ったシロシタバをまだ展翅もしてないのに死ねるか、ボケ。死んでも死にきれんわ。

一時間近く歩いて、ようやく住宅街に通じる暗い舗装路に出た。
大きく息を吐き出し、一旦立ち止まる。そしてペットボトルのお茶を飲む。喉が渇いている事さえ忘れていた自分に、何だか可笑しくなって笑みがこぼれる。

道の奥、眼下には街の灯りが瞬いていた。

                    つづく

 
一応、この日に採ったものの展翅画像を並べておこう。

 

 
上3つが♂で、一番下が♀である。
死んでも死にきれんと言ったわりには、酷い展翅だ。
カトカラ一年生、まだまだ展翅が下手クソだよなあ。上翅を上げ過ぎてるし、触角も整えきれてない。まだマシなのは♀くらいか。

あれっ❓、数が合わないな。全部で6頭なのに4つしか展翅画像がない。
おっ、そうだ。翅が破れてたから、修理用にと敢えて展翅しなかったわ。全然、修理してないけど。

 
追伸
この文章は去年酔っ払って書いていたせいか、徒にダラダラに長くなり収拾がつかなくなった。年が明けて文章を整理しようと思ったが、どこをどう切り捨てていいのかも分かんなくなって一部書き直すのみで断念。ソリッドさがないし、テンポも悪いけど、もう書き直すのが嫌になって、そのままいく事にした。絶不調なので投げた感じだ。まあ、そう云う事もある。そのうち調子が出てくることを祈るしかないね。

パンチラ問題は、このあとの回も引き続き取り上げてゆきます。去年2019年までの知見は全部織り込んでゆくつもり。

 
(註1)ムラサキシタバ
(2019.9 白骨温泉)

 
シロシタバに並ぶ大型のカトカラ。且つ美しく稀なことから人気が高い。他のカトカラは既に連載に登場していて画像も紹介しているが、ムラサキシタバのみ未登場なので貼付しておいたなりよ。

 
(註2)常に樹液に遅く飛来するカトカラなんて…
近畿地方の経験だと大概のカトカラは日没後まもなく現れる。カバフキシタバのみが8時を過ぎないと飛来しない。経験値が低いから何とも言えないが、今のところミヤマキシタバ、ベニシタバ、ムラサキシタバも遅めの時間帯の飛来しか見たことがない。中でもムラサキシタバは9時半以降と遅かった。

 

2018′ カトカラ元年 其の11 第一章

 
   Vol.11 シロシタバ

  『ホワイト ベルベット』

 
2018年 7月中下旬辺りから、シロシタバを求めて奈良県の矢田丘陵に何度か通った。
此の場所に狙いを定めたのには理由がある。小太郎くんが此処でシロシタバを採ったことがあると言っていたし、この近辺のカトカラを調査した論文にも記録があったからだ。しかも、そこそこいるようなニュアンスだった。

それで思い出したけど、普段カトカラなんてどうでもいいような口振りの小太郎くんが、このシロシタバとカバフキシタバだけはいかに素晴らしいかを力説してたんだよなあ…。小太郎くんは蝶屋だが(因みにワシも蝶屋)、昆虫全般に興味があり、また詳しくもある。その彼に珍しいとかカッコイイとかと言われると、単純だから影響されちゃうんだよねぇ。おで、バカで単純な性格なんだも~ん( ̄∇ ̄*)ゞ

クソ~、入りは重厚且つロマンチック&カッコつけで入る予定が早くもグダついている。もう最初に言っておこう。今回はスランプだ。いつもにも増して駄作になると思う。

 
2018年 8月10日。

そして、夜の帳が下りた。

 

 
ここを今年訪れるのは何度目だろうか?三度目?それとも四度目か?…。自分でもよく分かんなくなってきてる。
振り返れば、全てはシンジュサン探しから始まった。実物のシンジュサンを見たことがまだ一度も無かったので、6月は此処にターゲットを絞って探し回ってたんだよなあ…(註1)。
それが気がつけば、いつの間にかカトカラ探しに移行してた。フシキキシタバ、ワモンキシタバ、パタラキシタバ、コガタキシタバ、マメキシタバ、コシロシタバ、オニベニシタバと、時期が既に終わっていたアサマキシタバを除いては此処で記録のあるカトカラは順当にゲットしてきた。あとはシロシタバさえ採れれば、ピースが埋まる。ゲットさえすれば、漸く此の場所ともおさらばだ。シンジュサン探しも含めると相当数通ってるのでかなり飽きてきてるし、駅からの長い距離の歩きからもやっと解放される。何せ往復で一時間半以上も歩かねばならないのだ。行程の半分は坂道だしさ。
うーしι(`ロ´)ノ、今日こそはシバいて、この辛いシロシタバ詣でを終わらせてやるわい。そろそろ小太郎くんも遅れて参戦してくる頃だし、その前にサクッと終わらせてドヤ顔で自慢ブッこいてやろう。
さあ、Ψ( ̄∇ ̄)Ψオラオラでイテこましてやろーじゃないの。

(ToT)びえん。
しかし意気込んではみたものの、今宵も影さえも見れなかった。(-∀-;)…またしても惨敗である。如何にまあまあ天才のオラであろうとも(笑)、見もしないものは採れない。惨敗とか言ってる以前の問題だ。
ここまで見れないとなると、現在は極めて稀か、或いは既に絶滅しているのかもしれない…。

帰って調べたら、隣の生駒山地でも記録が少ない。食樹のウワミズザクラもあまり自生していない感じだ。近畿地方の他の山地、六甲や北摂、金剛でも記録はあるようだけれど、何れも単発で少ないという印象だ。わりといるような事が書いてあったのは兵庫県の北西部と高野山くらいだった。
シロシタバは中部地方から東では普通種だが、近畿地方ではどうやら思っていた以上に少ないようなのだ。
但し、所詮は蛾なので探している人じたいが少ないという事は考えられる。意外と近くに多産地が眠っているかもしれない。蛾の愛好家は蝶の愛好家と比べて圧倒的に少ないから情報があまり表に出てこないし、蛾に関する著作物も少ないのだ。
裏を返せば、ライバルが少ないという利点があって、早めに行って必死に場所取りをしなくてもいい。それは助かるし、有り難い事ではある。しかし、その利点を生かすだけの情報量があまりに少ない。何処へ行けば採れるのか、多産地なのか稀なのかがあんましワカランのだ。誰にも会わないと云う利点も、寧ろマイナスなんじゃないかと思えてきたよ。現地で出会う人が極めて稀となれば、情報を訊き出す事さえもままならないのだ。今更ながらに虫採りには情報が如何に大切なのかを痛感したよ。

やがて、8月も半ばに入った。
そう簡単ではないにせよ、そのうち採れるだろうとタカをくくっていたから誤算も誤算だった。このままいけば、時期的にボロしか採れなくなる。💦流石に焦ってきた。

実を云うと、シロシタバの実物は見たことがある。
2017年の秋にA木くんにせがんで、但馬地方にライトラップに連れていってもらった。蛾にもカトカラにも興味は無かったけれど、蛾愛好家以外にも賞賛されるムラサキシタバなるモノをこの目で一度くらいは見ておきたかっのだ。そんな軽い気持ちの謂わば暇潰しだった。

 

 
その折りに、A木くんが飛んできたシロシタバを追っかけて空中で鮮やかに採った。
でも羽が破れてたので『あげますよ。』と渡されたのだった。所詮は蛾だし、カトカラを集める気などさらさら無かったから、正直どうしようか迷った。
でも生来デカくて見栄えの良い奴は好きだ。それに断るのも面倒くさいといえば面倒くさいし、人間関係は円滑にしといた方がいいだろう。こういう場合は、相手の好意を無碍に断わるよりも四の五と言わずに素直に貰っとけばいいのだ。今日の記念にと云うことで、有り難く持って帰ることにした。

翌日の昼間にそれを展翅するのだが、羽を開いてみて、ちょっと驚いた。
夜に見た時とは全然印象が違う。上品さとエキゾチックさが完璧なまでに融合した妖しい魅力を放っていたのである。図鑑で見た記憶では、中途半端なオフホワイトで、パッとせん地味な奴っちゃのうと思っていたが、実物は全然違ってた。
その白は、単なるベタな白ではない。そこには図鑑では分からない精緻な質感があった。白いベルベットのような趣なのだ。しかも、上翅の苔っぽい感じが落ち着いた美しさを醸し出している。他のカトカラとは別次元のオンリーワンの存在だと思った。

 
【シロシタバ♂】
(2016.9. 兵庫県ハチ北高原)

 
考えてみれば、コレって初めてカトカラを展翅した時の一つなんだよね。もしかしたら一番目かもしれない。
当時は展翅の出来はまあまあかなと思ったが、今見れば如何にも蝶屋の展翅然で、上翅と触角を上げ過ぎている。ハッキリ言って下手くそである。
蛾の展翅は難しいや。蝶でさえウザいと思ってるのに、触角が益々どもならんから嫌い。真っ直ぐするのが大変だし、細いから直ぐプチッと切れやがる(-_-#)

もっとボロい個体というイメージがあったが、こうして改めて見ると、羽が破れているだけで鮮度はそんなに悪かない。まあ、わりかし感動したくらいなんだから、鮮度はそう悪いワケないか。
ふと思う。この時のシロシタバがボロボロだったら、どうだったんだろ❓
或いはカトカラなんて集めていなかったかもしれない。となれば、マホロバキシタバの発見も無かったってワケか…。物事と云うのは、色んなファクターが連なっての結果なんだね。
あっ、思い出したわ。この時に来年はシロシタバとムラサキシタバは自分の手で採りたいと思った記憶がおぼろ気ながらにある。もっとも他のカトカラには全く興味がなく、集める気も無かったんだけどさ。
たぶんボロだったら、美しさを認識してなかった筈だ。こんなに必死になって探さなかったかもしれない。どころか、採りに行こうと思った事さえも忘れていたやもしれぬ。ただデカイだけでは食指は動かないのだ。

何か当時のことをどんどん思い出してきたぞ。
2018年は兎に角全然会えなくて、この頃になると恋愛感情みたいなものが芽生え始めていた。
まあまあいい女だけど楽勝で落とせるなと思ってたのに、予想外に手強くてのらりくらりといいようにあしらわれてるって感じだ。そういう時は、よりいい女に見えてきちゃったりするんだよなあ…。で、何が何でも落としてやりたくなって、強引にいって何度もフラれまくるというドツボにハマって💦トッピンシャン。揚げ句、相手の術中に完全にガチ嵌まって翻弄されまくりの恋焦がれ。昔あったなあ…そゆ事。
まあ落としてから逆襲、奈落の底に落としてやったけどさ。あっ、でも別な或る女性には再度地獄に落とされたっけ…。
何れにせよ、何だか心が痛いよ。恋の思い出と云うものは、懐かしく甘美なところもあるが、同時に痛みを伴うものでもある。

モノローグはこれくらいにして、話を本筋に戻そう。
とにかく、ここに通い詰めたところで奇跡でも起きない限りは採れそうにないと思った。だから切り捨てる事にした。この地で今まで充分真摯に戦ってきたではないか。時には名誉ある撤退も必要だ。

改めて文献で近畿地方でシロシタバの採れそうな所を探しまくった。でも記録が多いのはやはり兵庫県北西部で、他は殆んどが偶産と言えるものばかりだった。唯一の場所を除いては。
インターネットの情報だが、そこだけは確実に産していて、個体数もそれなりにいそうな雰囲気だった。
とはいえ、詳しいポイントは分からない。ヒントは町名だけだ。範囲はそれなりに広い。博奕ではある。ポイント探しは、己の経験と勘だけが頼りだ。

 
2018年 8月19日

 

 
このクソ分厚いカツサンド(註2)を購入していると云う事は、四條畷にいるのだ。
桃太郎が鬼ヶ島に行く時の🍡きび団子じゃないが、そんな気分だ。カツサンドで勝つ❗
我、シロシタバ最終作戦に、いざゆかん❗

目的地には午後1時過ぎに着いた。
絵に描いたような青空と入道雲、夏真っ盛りって感じで強烈な光が降り注いでいる。

 

 
こんなに早くに来たのには理由がある。
先ず第一は初めて訪れる場所なので、道と環境をインプットする為である。帰りは夜道を一人で街まで下りなければならない。降り口が分からずに迷ったら地獄だ。ここで夜を明かすとならば、また闇に蠢く魑魅魍魎どもに怯えなければならぬ。チキンハートの男としては、それは是非とも避けたい。
それも大事だが、何よりシロシタバがいそうな環境を昼間のうちに特定しておきたかった。
食樹であるウワミズザクラ(註3)が生えている場所さえ見つかれば、何とかなる。加えて、出来れば昼間のうちに樹液の出る場所も見つけておきたかった。いかにまあまあ天才で(笑)、ここぞと云う時の引きが強かろうとも、現状は惨敗続きなのだ。下調べくらいはしておかないと、またぞろ重い足取りで帰路につかなければならない。おいちゃん、ほぼ背水の陣の状態に追い込まれているのだ。もし又ここでコケたならば、地獄の暗雲ぬかるみ街道爆走になりかねない。

山をあちこち歩き回る。
しかし、ウワミズザクラがワカラン。
一応ネットでウワミズザクラの特徴をアバウトにインプットしてきたものの、ボンクラなので大誤算。花が咲いてるでもなし(普通のサクラ類とは全く花の形が違う)、葉っぱだけでは他のサクラ類と区別がつかんのよ。さすがにソメイヨシノくらいは判別できるものの、他のヤマザクラ類となると何が何だかワカラン(@_@;)❗
やっぱ性格がいい加減で、インプットがゆる過ぎなのである。

成虫の見つけ採りの方もダメ。コシロシタバとオニベニシタバしか見つからん。シロシタバって、あんなにデカイのに何で見つからんのん(ToT)❓
或いは此処も見立て違いで、殆んどいないのかもしれない。(/´△`\)あ~ん、又しても失策かよ。暗黒泥濘怪獣のあんぐり開いた暗い口が見えたような気がした。心がフォースの暗黒面に陥りそうだ。このままでは心がヤバイ。もしも見もしなかったら、怒りの🔥業火で山を焼き尽くしかねないぞ。

もう、形(なり)振りなんて構ってらんない。公園の施設に行って、ウワミズザクラのある場所を訊くことにした。
しかし、スタッフも今イチわかってなくて途方に暮れる。あじゃパー(|| ゜Д゜)

でも捨てる神あれば、拾う神あり。別な施設で尋ねたら、爺さまがウワミズザクラのある場所をピンポイントで教えてくれた。

その場所に行き、やっとウワミズザクラと対面できた。普通のサクラとは幹の感じなんかが全然違う。サクラという概念で探してたら、こんなもん見つからんわい。葉っぱ1つとってもバリエーションや近縁種とのハイブリットがあったりして、植物って同定が難しいなりよ。

葉っぱや幹の木肌などを念入りに脳ミソに記憶させる。葉は裏の葉脈にメリハリが有り、横長の亀甲みたいな柄が目立つ。幹は若い木と老木とでは違うのだろうが、概ね溝があまりなく、灰白色で白っぽい痘痕(あばた)のような斑がある。
3歩あるいたら忘れる鶏アタマゆえ、一応スマホで写真も撮っておいた。

 

 
撮った筈なのにナゼか幹の写真が見つからなかったので、下に京都市左京区で撮ったものを添付しておく。

 

 
一度こういうものだと脳が認識したら、急に見えてきた。多くはないが、ちょこちょことそこかしこにウワミズザクラの木はあるのである。己のポンコツ振りにヘラヘラ笑いになる。網膜に映っていたにも拘わらず、脳には見えていなかったのだ。我ながら、植物を見分ける能力、低っくうー(。>д<)

とにかく食樹を見つけるというミッションはクリアできた。そうなると、急にどんどん良い方向へと転がり始めた。
ここはナラ枯れが激しく、かなりコナラが伐採されてて苦戦していたのだが、森の中まで入って行って、漸く樹液の出ている木も見つけた。カナブンやスズメバチが集まっているから、カトカラが夜間に飛来することは間違いないだろう。ミッション2もクリアだ。

 

 
有り難いことに、周りにウワミズザクラも何本か生えている。これで戦える。もし此処で採れなければ納得もできよう。この場所には居ないと考えていい。この山に固執する必要性も無くなるから、二度と訪れなくとも済む。そう思うと気分は楽になった。これまた良い傾向だ。リラックスすれば、物事も自ずと好転する。引き続き良さげな場所を探査する。

だいぶと日が傾いてきた。時計に目をやると午後4時過ぎだった。
もう一度、樹液の出ている所に戻ることにした。そこで木に止まっている奴を本格的に探そうと思ったのである。あれだけ条件が揃っているのなら、林内にいるんじゃないかと考えたのだ。

うす暗い森の中に足を踏み入れた瞬間だった。

                     つづく

 
追伸
絶不調である。たぶん2ヶ月くらい前から書き始めているけど、全然上手く書けない。何度も書き直している。上手く書けないから色々文章をイジっていたら、徒(いたずら)に長くなるだけで、益々まとまりがつかなくなった。
そう云うワケで、細かく分断して掲載することにした。刻んで刻んで誤魔化し誤魔化しやってるうちに、そのうちキッカケも掴めるだろうと思ったのだ。

 
(註1)その頃は探し回っていたんだね
シンジュサン探しの顛末は、拙ブログに『三日月の女神・紫檀の魁偉』と題して3回にわたって書いた。興味のある方は、そちらの方も読んで下され。

 
(註2)このクソ分厚いカツサンド
スーパー・マーケット、フレスコの名物カツサンド。
これについても拙ブログにて『フレスコのカツサンド』と題して書いた。

 
(註3)ウワミズザクラ
(出展『まったりこたろう』)

 
バラ科ウワミズザクラ属の落葉高木。
学名 Padus grayana。漢字だと上溝桜と書き、和名は古代に亀甲占い(亀卜)をする際、溝を彫った板(波波迦)に、この木が使用された事に由来する。
材は軽くて強い事から建材、彫刻細工、版木、道具の柄などに利用される。香りの良い若い花穂と未熟の実を塩漬にした杏仁子(あんにんご)が新潟県を中心に食用にされている。また、黒く熟した実は果実酒に使われる。

とはいえ、本文ではウワミズザクラで通したが木肌の特徴から近縁種のイヌザクラかもしれない。文中に添付した京都市の幹の画像の葉っぱを確認してみたら、形がイヌザクラっぽい。葉の形が、より細くて先端の形が独特でそれっぽく見える。

 

 
比較のために、改めて四條畷で撮った葉っぱを添付しておこう。

 

 
何れもウワミズザクラ、特に一番下のものはそうだと思うが、間違ってたらゴメンナサイ。。

ネットでウワミズザクラの幹の写真を見たけど、何かシックリいかない。確かにそれ的なものも見受けられるが、異なる画像も多々あるのだ。この四條畷には、ウワミズザクラもイヌザクラも両方自生してるって事なのか❓何だかよくワカンなくなってきたよ。木は若木と老木ではその様相を異にする事が多い。同じ種類の木とは思えないくらいに全然違ってたりするのだ。木肌で樹種を判断するのは素人には難しいですな。

 

続・クロシオキシタバ

 
     クロシオキシタバ続篇

『絶叫、発狂、六甲山中闇物語』

 

2019年 7月21日

既に7月初めに六甲で発生していることは聞いていた。しかし、マホロバキシタバ(註1)の分布調査をしていたので、中々クロシオを採りに行けなかった。で、漸く出動できたのがこの日だった。

去年と同じコースをゆく。

 

  
生憎(あいにく)と天気は悪い。

 

 
淡路島も雲に隠れかけている。
とはいえ、蝶採りじゃないから晴天である必要性はない。むしろ曇天の方が有り難いくらいだ。気温が下がってる分、身体的には楽なのだ。
蛾がターゲットなんで、ベースは夜だしね。太陽は関係ない。月の満ち欠けの方が重要なのだ。月が隠れていた方が蛾採りには良いとされている。でも外灯廻りやライトトラップをするワケではないので、それすら今日は関係ない。樹液採集の優れているところは、あまり天候に左右されないところだ。晴れていようが雲っていまいが、カトカラは腹が減ったら餌を求めて動く。むしろ霧雨や小雨程度の雨が降っている方が活性化されたりもするという意見さえある。

天候条件云々以上に、ここは去年に二度訪れているから気持ち的にはメチャメチャ楽だ。現地を知っているか知らないかの差は大きい。ポイントへのルート、所要時間、周囲の環境等々を知っていれば、効率よく動けるし、トラブルが起こる可能性も少なくなるのだ。ましてや夜だ。これが精神的にどれだけ余裕を与えてくれるか、その利点は計り知れない。

しかし、全く心配がないワケではない。昨年、木から樹液が出ていたからといって、今年もその木から樹液が出ているとは限らないからだ。
そもそも、木が樹液を出しているということは、健常な状態ではない。謂わば、体液ダダ漏れの怪我とか病気をしているみたいなものなのだ。だから一年も経てば、自らの治癒力でお治しあそばせているケースも多々ある。
それに樹液が出ていたのはウバメガシだ。ウバメガシから樹液が出るなんて、それまで聞いたことがなかった。一部の常緑カシ類からも樹液が出ることは知ってはいたが、あまり一般的ではない。出ている木も少ないし、その流量も少ないと云う印象だ。世間的に昆虫の集まる樹液の出る木といえば、一番はクヌギ。あとはコナラ、アベマキ、ヤナギ類辺りだ。他にハルニレからもよく樹液が出るようだが、ハルニレは北方系なので関西では極めて少ないようである。
とにかく目指すポイントは、謂わばウバメガシの純林だ。もしもあの木から樹液が出ていなければ、周囲にはクヌギもコナラも殆んど無いから苦戦すること必至なのだ。

雲に隠れてゆく淡路島を見ながら、ふと気づく。
そういえば登ってくる途中の最初のウバメガシ林で、今日はクロシオを一つも見かけなかった。去年は夕方前にその林を通過する時には、二度とも数頭ずつ見たのにアレレ~( ̄O ̄)❓ ちょっと嫌な予感がした。

歩き始めて15分くらいだろうか、木に止まっているアミメキシタバを偶然に見つけた。ほぼ木と同化していた。木遁の術だ。コイツら、まるで忍者だよね。よほど注意して見ていないと見破れない。

でも見破られたら終わりだ。オジサンに拐われる。

 

 
下向きではなく、上向きに止まっていた。
カトカラは昼間は逆さま、つまり下向きに止まっているというが、夜は上向きに止まっている。じゃあ、何時頃に向きを変えるのだろう❓ 因みに採ったのは午後6時25分だった。この日の日没時刻は7時10分。日はまだ沈んでいない。
ずっと疑問だったんだけど、ナゼそもそも昼間は下向きに止まっているんだろう❓何かメリットでもあるのかね❓ 上向きに止まろうが下向きに止まろうが、さして見た目に変わりがあるとは思えない。理由が全くワカラン。それについて言及されている書物も見たことがない。何でやねん❓誰か答えてくんろ。

 
【裏面】

 
次第に尾根道は細まってゆく。いわゆる痩せ尾根ってヤツだ。そして、両側は切れ落ちた急峻な斜面になっている。特に右側の神戸方面は斜度がキツい((画像は去年のものです)。

 

 
この辺りは源平合戦(治承・寿永の乱)の古戦場として知られ、一ノ谷の合戦があったところだ。一ノ谷の合戦といえば、源義経による奇襲作戦「鵯越の坂落し(逆落し)」が有名である。義経はここから海に向かって(神戸方面)馬で駆け下り、平家方は想像だにしていなかった背後の急峻な山からの奇襲攻撃に総崩れになったというアレだね。

やがて、去年樹液がバンバンに出ていた木が見えてきた。
(-“”-;)……。
遠目に見るも、カナブンもスズメバチもおらん…。夕方遅いから、お家に帰っちゃったことを祈ろう。

木の前までやって来た。
ゲロゲロゲロー\(◎o◎)/、不安的中やんけー。
樹液が出ている様子なし。見事に傷は癒えて、健康な状態に戻っているではないか。(|| ゜Д゜)ヤッベー。

まあ、仕方あるまい。
そんな事もあろうかと、それを見越して今年は糖蜜トラップを用意しているのだー\(^o^)/。イガちゃん、かしこーい。フフフ( ̄∇ ̄)、カトカラ採りも二年目ともなれば、それなりに進化しているのだ。まあまあ、天才をナメなよである。

 

 
日が暮れてゆく。
それを合図に糖蜜を木の幹に吹き付ける。
( ・∀・)/占==3しゅっしゅらシュッシュッシュー。

しかし、辺りが真っ暗になっても何も飛んで来ない。
寄って来たのは、気色の悪いゲジゲジと👿邪悪なムカデだけだ。おぞましい奴らめ、この世から滅びてしまえばいいのに。

楽勝気分だったのに、おいおいである。焦る💦。
他のカトカラには絶大なる効力があったのに何で❓
そうとなれば、飛んでるものをシバキ倒すしかない。
しぇー、キビシ━━ィッΣ(ノд<)
でもグズってても、何も始まらない。やるっきゃない。ヘッドライトを点け、網を持って歩き始める。

歩き始めて直ぐに沢山飛んでるところを見つけた。
15mほど離れた山の斜面に大木が生えており、その周辺でカトカラたちが乱舞していた。おそらく、木からは樹液が出ているのだろう。
しかし、ここは前述したように鵯越と呼ばれる急峻な斜面だ。あそこまで行くのは至難に思える。降りようと思えば降りれなくはないだろうが、戻ってこれない。なぜなら上部は道からスパッと切れ落ち、崖状になっているからだ。攀じ登るには、かなり厳しそうなのだ。もし降りて、ここから登れないとなれば、登れそうなところを探して彷徨(さまよ)う事になる。こんな急斜面を、しかも暗闇でトラバースし続けるなんて地獄だ。下手したら遭難だ。リスクが高過ぎる。

仕方なしに糖蜜を撒いた場所に戻ったら、糖蜜トラップにクロシオくんが来ていた。
(^-^)効力あるじゃん、あるじゃーん。
一応、上翅の色を確認する。去年やらかしたから、その辺は抜かりがない。昨年はクロシオをパタラ、いわゆる普通キシタバ(C.patala)だと思って無視してしまったのだ。お陰で、再度採り直しに来る破目になったのだった。カトカラ1年生だったとはいえ、情けない。
けど、慣れないうちは誰でも見分けがつかなくて当たり前なんじゃなかろうか。特に野外では難しい。それくらいこのキシタバグループは似た者同士だらけなのだ。

よし、青っぽい。緑色ではないからパタラではない。間違いなくクロシオだ。
慎重に近づき、大胆にネットイン。最初の1頭をゲットする。

 

 
でも、大胆にブン殴るように網を払ったので、中で大暴れ。たちまち背中がハゲちょろけの落武者になってしまった。一瞬、去年の落武者の恐怖を思い出し、半笑いになる。去年は落武者の亡霊が怖くて、Σ( ̄ロ ̄lll)ビビりまくってたんだよなあ。

裏面の写真も撮っておこう。

 

 
お目々、( ☆∀☆)ピッカリンコである。
カトカラは夜に懐中電灯の光を当てると、目が赤っぽく光る。それで比較的簡単に見つけることが出来る。昼間の見つけ採りよか、こっちの方が余程見つけ易いと思う。
それにしても、考えてみれば夜に目が光るだなんて怖いよなあ。これって知ってるから「(^o^)vラッキー、めっけー」だと思うけど、そんなの知らない一般ピーポーからしたら、鬼火とか得体の知れない魑魅魍魎に見えるやもしれぬ。それって、ビビるよねぇ。発狂もんだと思うよ。

けれど糖蜜に来る個体は少ない。仕方なしに空中シバキと糖蜜採りとの二本立てでいくことにした。

一時間が経った。しかし、数が伸びない。去年みたく楽勝で次々とゲットというワケにはいかない。やはり樹液が出ている木がないと厳しい。こうなったら、もう少し探す範囲を広げて、樹液が出ている木を見つけよう。

幸いな事に、少し歩いただけでカトカラの乱舞する木が見つかった。しかも斜面ではない。道沿いの木だ。木は大木ではなくて、結構細い。ウバメガシは大木しか樹液が出ないと思ってだけど、そうでもないんだね。
懐中電灯で照らしていくと、吸汁している者の他にもベタベタと何頭もが木に貼り付いている。おそらく1回目の食事が終わり、休憩しているのだろう。あっ、アミメキシタバも結構いる。
フハハハ…Ψ( ̄∇ ̄)Ψ、ここから楽勝街道爆進じゃあ❗

しかし、問題も有りだった。樹液が出ている箇所が高いのである。4、5mくらいはある。そうなると毒瓶をカポッと被せるという方法が使えないから、網で採るしかない。しかも高いから結局網を振り回す事になる。それに道が細いから両側から木が迫ってきていて、枝も一部覆い被さっている。つまり狭い空間で網を振らざるおえないと云う事だ。狭い場所での長竿のコントロールは難しい。枝に引っ掛けたりするから、自由に振り回せないのだ。
しかも、そんなだから、当然採れてもカトカラたちは網の中で暴れ倒す。特にクロシオが激しく暴れる。で、採っても採っても落武者になりよる。おまけに位置が高いゆえ、真下からだとブラインドになりがちで距離感も掴みにくい。また木が細いと云うのもよろしくない。幹を💥バチコーン叩く手法も使えないからだ。
そういうワケだから、百発百中というワケにはいかない。採り逃しもそこそこあるのだ。いつもよか打率がかなり低い。思うようにいかなくて、段々(=`ェ´=)イライラしてくる。

そんな中、捕らえたやや禿げのクロシオを三角紙に入れた直後だった。右耳の辺りに違和感を感じた。で、耳を触るとガザガサ、ゴワゴワしたものに触れた。
あれっ❓、かさぶた❓ でも耳を怪我なんかした覚えはないよね。一拍おいて、今度は右頬に違和感を感じた。反射的に触れた瞬間だった。
💥バッチ━━━━ン❗❗
Σ( ̄皿 ̄;;痛っ、てぇ━━━━━━━━━ ❗❗❗
赤々と熾(おこ)った火箸をジュッと当てられたような鋭い激痛が走り、その場で絶叫した。
(@_@;)何だ❗❓、(◎-◎;)何だ❗❓、何が起こっているのだ❓ワケわかんなくて頭の中がパニクる。
まさか落武者の呪い❓Σ(T▽T;) 発狂しそうになる。と同時にズキズキとヒリヒリの両方混じったよな痛みで、皮膚がカッと熱くなる。
でもさぁー、それってオカシかないか❓オラ、平家の末裔だぞ。家の家紋も、その証てある蝶だしさあ。守られこそすれ、呪われる筋合いはない。( ;∀;)ポロポロ。御先祖さま、酷いよ。

落武者の亡霊を頭から追いやる。そんなもん居てたまるものか。冷静に考えよう。これは何かに刺されたか咬まれとしか考えられない。でも、じゃあいったい何者なのだ❓
夜だし、スズメバチとは考えにくい。それにスズメバチに刺された時の感覚とは少し違うような気がする。蛇❓ヘビなら、いくらなんでもわかるだろう。
他にヤバイ奴っていたっけ❓そこで漸く思い至る。さっきの木にそういえばムカデがいたことを思い出した。クロシオを網に入れた時に一緒に混入した可能性はある。そうとしか考えられない。でも、どうやって体に這い登ってきたのだ❓あんなもの、這い登ってきたら気づく筈だ。厚いコートを着ているワケでなし、Tシャツ1枚なんだから感じない筈はなかろう。
と、ここで更に思い至った。そういえばチビッコのまだ子供みたいなムカデもいたなあ…。きっとアレに咬まれたに違いない。
ムカデに咬まれたのは初めてだけど、こんなにも痛いものなのか❓あんなチビでもこんだけ痛いのなら、あのデカくて邪悪そのものの奴にやられたとしたなら、どんだけの痛みなのだ❓ ムカデ、恐るべしである。

採っても採ってもクロシオはハゲちょろけになるし、何で誰もいない真っ暗闇の山中に勇気を奮って来たのに、こんな目に遭わなければならないのだ。半泣きで、ベソかきそうである。
でも、何かムチャクチャ腹立ってきた。虫採りって、サイテーの趣味だ。こんな趣味を始めていなかったら、ヒルに血を吸われることも無かったし、スズメバチやアブ、ブヨに刺されることも無かった。ダニに喰い付かれることも無かっただろうし、ハブとかマムシなどの毒蛇や熊に怯えることも無かった筈だ。海外だったら、もっとヤバイ。熊もいるだろうし、蛇はコブラとか青ハブ、百歩蛇(ひゃっぽだ)だぜー。そういえば、虎に豹、野象がいる森に入ったことだってある。地雷の恐怖もあったし、知らぬうちに治安のバリバリ悪そうな村に入ってしまった事だってあった。
で、蛾採りを始めたら、ムカデかよ。夜の闇は死ぬほど怖いし、オイラ何やってんだよと思う。虫採りさえ始めなかったら、こんな目に遭いはしなかった。ヒルもダニもブヨも虫採りを始めてから初めて見たのだ。
だいたい、そもそも虫採りとかをやってるタイプではない。女の子にモテるような事ばっかしやってきたチャラい人間なのだ。

Σ( ̄皿 ̄;;こんな事やめたらぁ~❗

発狂して、闇に向かって絶叫する。
虫採りなんて生産性ゼロだ。やってられっかである。

叫んだら、痛みが増してきた。痺れたような感覚もある。何だか心臓も💓ドキドキしてきた。いや、バクバクか。
そんな事よりどうする❓ムカデって、アナフィラキシーショックとかってなかったっけ❓
いや、あった筈だ。ならば、一刻も早く下山して病院に行かなければならない。
でもハゲちょろけてないクロシオが、まだ一つも採れていない。こんなとこ、もう二度と来たくない。クソッ、採れるまで下りてたまるか、(#`皿´)ボケッ❗

 
午後10時過ぎ。
痛みを堪えて真っ暗な道を下る。
相変わらずの悪路だ。道の横には暗渠の如き闇が口を開けている。誘(いざな)われているような気がする。しかし足を踏み外せば、急斜面をどこまでも転がり落ちることになる。
縮こまった心を抱きしめる。何が何でも無事に下山しなければならぬ。ミッションは何とかやり遂げた。それだけが今の心の支えだ。

途中で、やっと目の前が開けた。

 

 
眼下に神戸の夜景が見える。
ホッとして、少し痛みも和らいだような気がする。
ここまでくれば、あとは道も良い。
さあ、もう一踏ん張りだ。大きく息を吐き出し、気持ちを切らさないようにして再び坂道を慎重に下りていった。傍らを風がそよと吹いた。

                    おしまい
 
 
今年採ったクロシオの一部を並べよう。

 

 
見事なまでに落武者禿げチョロケである。
カトカラって背中の毛が脱落しやすい。ホント、忌々しいわい(=`ェ´=)

因みに左右で展翅バランスが違うのは、ワザとである。どうせ禿げチョロケなので、この際、皆さんの意見を訊いてやろうと思ったのだ。バランスを変えるだけで、印象だけでなく、見た目の大きささえも違ってくるのである。
皆さん、右と左でどっちのバランスがいいと思いますぅ~❓

 

 

 
上翅の白紋って、♀にしか出ないのでは?と思ってたけど、♂でも出るのね。

 

 
コチラは通常タイプの青いの。
この青いタイプと白紋が発達したタイプは好きだ。クロシオって、キシタバの中では割りとカッコイイ方だと思う。

裏面の画像も添付しておこう。

 

 
キシタバ類の裏面って、どれも似たような感じでワケわかんないや。
そういう意味でも図鑑には裏の画像も欲しいよね。大図鑑は膨大な種類を載せなければならないから無理だとしても、属レベルの図鑑くらいは裏面を図示して欲しいよね。

似ているアミメキシタバとの違いは、上翅の翅先(翅頂部)に黄色い紋が出るところだろうか。あとは下翅の真ん中の黒帯の形かな。けんど、こんなの沢山並べてみないとワカランな。

 

 
左上がアミメ、下がマホロバキシタバで、右がクロシオである。
アミメと比べてクロシオは大きいから、それでだいたいは区別できる。問題はアミメとマホロバだ。両者は似ていて、この状態では判別が難しい。概してマホロバの方が大きいが、微妙な大きさなのもいるから注意が必要だ。確実に同定したいなら、上翅の内側を見るしかない。
いかん、いかん。本題から大きく逸れてしまいそうなので、この三者の違いはマホロバの回に纏めて解説しようと思う。けんど、シリーズにマホロバが登場するのは、まだまだ先の事だけどさ。

こんな説明してもワカランだろうから、アミメの画像も貼っとくか。

 
【アミメキシタバ♂】

 
【同裏面♀】

 
表は上翅が茶色く、下翅下部の黒帯が完全に繋がっているのが特徴。クロシオはこの部分がやや隙間が開くか、微かに繋がる程度だ。裏は上翅の内側の黒斑が強く出る。

クロシオの生態に関しては、前回に書いた以上の目新しい知見はない。強いて言えば、やはり敏感な奴だってことくらいかな。

おっ、そうだ。
マホロバの分布調査の仮定で、小太郎くん&マオちゃんコンビが奈良県の若草山でクロシオを見つけた。

 
【クロシオキシタバ】
(画像提供 小太郎くん)

 
他の分布地からかけ離れた場所だったから、これまた新亜種ではないか?と色めき立った。クロシオは移動性が強いと言われ、秋口に時々分布地からかけ離れた場所で偶発的に見つかっている、しかし、この個体は鮮度が良いし、日付も7月23日だったので、遠方から飛来したものとは考えにくい。遠距離移動するのは、もっと遅い時期なのだ。現地で羽化したものと考えるのが妥当だろう。
しかし、石塚さんがゲニを見た結果、ただのクロシオだった。2匹めのドジョウを期待したが、そうそう新種や新亜種が簡単に見つかるものではないよね。世の中、そんなに甘かない。

 
追伸
帰宅後、熱めのお湯(43℃)で患部を洗い流した。
ネットにそうすればいいと書いてあったのだ。水だとかえって痛みが増すらしいから、気をつけてね。
それで痛みがかなり和らいだ。で、メンタム塗って寝た。4、5日もしたら、ちょっと痒いくらいで、ほぼ治った。しかし、ムカデもアナフラシキーショックがあるらしい。今度、咬まれたら、おっ死ぬかもしれない。対馬でツマアカスズメバチにメチャメチャ刺されたから、それも合わせて注意しなければならない。ホント、因果な趣味だよ。(;´д`)トホホである。

話は変わる。
実を云うと、この文章は2ヶ月以上も前に大半が書き上がっていた。ムカデに咬まれて発狂、絶叫の下りだけを残して放置されていたのだ。
理由はマホロバの一件もあるが、一番は想定外だったシルビアの連続もの(全5話)のせいだった。シルビアに関しては、調べものが膨大になり、それを要約しつつ文章に配置するのにかなりの時間を要したからだ。
因みに完成したのは4日前だ。最終稿を読むのが面倒で放ったらかしになってたのだ。

 
(註1)マホロバキシタバ

 
今年、日本で新たに加わった32番目のカトカラ。
新種とはならず、台湾の Catocala naganoi の亜種(ssp.mahoroba)におさまった。
画像は♂。下翅下部の帯が繋がらず、大きく隙間が開いているのが最大の特徴である。