2018′ カトカラ元年 その1

 
  『不思議のフシキくん』

  Vol.1 フシキキシタバ

 
前回のプロローグに続き、いよいよ第1回である。
とはいえ時間が経っているので、ヒマな人はプロローグを読み返してね。

 
突然、去年からカトカラ(Catocala)に嵌まっている。
キッカケは6月上旬に奈良県大和郡山市の矢田丘陵にシンジュサンを探しに行った折りだった(註1)。

午後11時。水銀灯のそばの柱に、見慣れない蛾が止まっていた。
(;゜∀゜)あっ❗、もしかしてカトカラ❓
直感的にカトカラの中でもキシタバの仲間だと感じた。しかも、見たことがない奴だと思った。インスピレーションが走った時は大概は☝ビンゴだ。
ぞんざいに近づいたら、驚いて僅(わず)かに下翅の鮮やかな黄色を覗かせた。
(;・ω・)びっくりしたなー、もぅー。威嚇かよ。

 
(出展『フォト蔵』)

 
にしても、小憎らしいチラリズムだ。
男と云う生き物は、とってもチラリズムに弱いのだ。
( ☆∀☆)黄色いパンティー🎵
(@_@)黄色い逆さパンティー❤
\(◎o◎)/キャッホーッ💕

去年(2017年)、下翅が黄色い系統のカトカラはジョナスキシタバとキシタバを採った経験があったが(註2)、それらよりも明らかに鮮やかな黄色だと感じた。

少し離れた所にいる小太郎くんを呼ぶ。
彼は蝶屋だけど(ワシも蝶屋だす)、オイラなんかよりも遥かに蛾に詳しいのだ。って云うか、小太郎くんは虫の事だったら何だって詳しい。若いけど尊敬しちゃうよ。蛾初心者のオイラとしては誠に頼もしい存在だ。
 
『これって、キシタバ系じゃなくなくね❓』
 
と尋ねたら、小太郎くんが事もなげに答える。

『あっ、カトカラですね。この時期だと多分フシキキシタバかな。結構珍品ですよ。だとしたら、奈良県での記録はたぶん無かった筈てす。初記録かも。』

あんた、何でも知ってはるなあ。やっぱ、マジ尊敬するよ。いつまで経っても、ワシ二流でぇ~す( ̄∇ ̄*)ゞ

にしても捕らえて確認せねば、どうしようもない。
上から毒瓶をかぶして、薬殺する。
酷い所業だ。これで、アッシも立派なマッド・サイエンティストの仲間入りじゃよ、Ψ( ̄∇ ̄)Ψケケケケケ…。きっとロクな死に方をせんじゃろうて。

暫く経って、昇天を確認したところで取り出す。

 

 
表の柄は渋いっちゃ渋いけど、所詮は蛾風情。地味だ。
ならばと、裏返してみる。

 

 
(;゜0゜)おっ❗、この特徴的な黄色と黒の縞模様は間違いなくキシタバの仲間だね。馬鹿なオイラだって、それくらいのことは解る。

小太郎くんが言う。
『間違いなく、フシキですね。』
真面目に名前を聞いてなかったので、改めて何だそりゃ?と思って訊き返す。
『フシキ❓、フシギ(不思議)じゃなくて(・。・;❓』

フシギノモリノオナガシジミとか、また誰かがメルヘンチックな名前でも付けたのかと思ったが、小太郎くん曰く、間違いなくフシギじゃなくてフシキだそうだ。
にしても、語源がワカンねえよ。兎に角、蛾トーシロ(素人)には聞いたこともない名前のキシタバだった。
名前なんて別にどっちゃでもええけど、カトカラはカッコ渋美しいから、蛾にしては好きな方かなと思った。
でも、ことさら集めようという気は起こらなかった。

そういえば、こん時はこんな事も考えてたっけ…。
去年も思ったんだけど、このカトカラグループの柄って、サイケデリックっぽくねっ❓
サイケデリック・アートにはカラフルな渦巻きみたいな柄があって、なんかジッと見てると引き込まれそうというか、(◎-◎;)目が回りそうになる。幻覚系ドラッグやってたら、コレってヤバいくらいにウルトラ立体的に見えるのかな❓(勿論、やんないけどー(^o^))
インドで出会った学生ジャンキーくんは、L・S・D をやったら、そんな風に見えたりすると言ってたなあ…。
アイツ、相当なジャンキーだったけど、まだ生きとんのかなあ…。

んな事を考えつつ、そっと上翅を少し上げてみた。
と、同時に色鮮やかな黄色がバァーンと目に飛び込んできた。
黄色はあまり好きな色じゃないけど、素直にとても綺麗だと思った。でも写真は撮らなかった。そんな事よりも意識はまだ見ぬシンジュサンの方に集中してたからだ。その美しさに心を動かされたとはいえ、所詮は前座だと思っていた。いつシンジュサンが飛んでくるかワカランのだ。かまけているヒマなどない。

その夜、💥ビシッとシンジュサンをシバいて、翌朝に帰った。この日が記念すべきオーバーナイト・モスだったワケだね。冷静に考えてみれば、蛾を求めて徹夜するだなんてビョーキだよなあ。我ながら脱力系で笑ってしまうよ。

一眠りしてから展翅してみて、(;゜0゜)驚いた。
日の光の下で見るそれは、もっと鮮烈な黄色だった。

 
【フシキキシタバ Catocala separans ♂】
(2018.6.7)

 
深くて濃い、どこか透明感のある山吹系の黄色だ。見ようによってはオレンジ色にも見える。
これを見て気持ちが一変した。
カトカラの中の所謂(いわゆる)キシタバと言われるグループは下翅が皆さん黄色くて、日本ではこのタイプのカトカラが圧倒的に多い。でも素人目には、どれも似ていて何が何だかワカンない。区別がつかねえもんは面倒クセー。だから敬遠してた。生来ミーハーだから、カトカラと云えば、こん時まではムラサキシタバしか眼中になかったのである。けんど、こんなに美しいのなら集めてみてもいいなと思った。それにスタートからいきなりの珍品で、しかも奈良県では未記録と云うのも何だか気分が良い。俄然、やる気になった。

後々知ることになるのだが、後翅の黄色部は他の黄色系カトカラと比べて、このフシキキシタバが群を抜いて美しい。その理由は他種と比べて下翅の黒帯が細いことにある。即ち、黄色い領域が広いということだ。少し毛色が違うが、この黄色の美しさに対抗しうるのはカバフキシタバくらいだろう。あと、蛾にしてはあんまりデブじゃないのも好感がもてた。
もしも最初に自分の力だけでゲットしたのが、少し前に発生する地味なアサマキシタバだったとしたら、おそらくカトカラには嵌まっていなかっただろう。いや、嵌まるにしても、もっと後だったかもしんない。
そういえばこの年は、ちょっと前の5月半ばにA木くんに『そろそろアサマキシタバの季節ですよ。今年は蝶の発生が全般的に早いから、もう出てるかもしれませんね。』と言われたのだった。けんど、言われても全然ピンとこなかった。そういうのもいたなあ…と云う程度で、あまり興味が無かったのだ。やっぱ、蒐める気がさらさら無かったのね。

 
後日、♀らしきものも採れた。

 
(2018.6.17)

 
♀の方が帯が細くて、より黄色いね。偶々かなと思ったが、図鑑等で確認すると、その傾向はあるようだ。
とはいえ、雌雄の決定的な違いはおそらく腹だろう。
♂は腹が細長く、その先端に尻毛(毛束)があるが、♀には無い。腹も短くて太い。加えて、翅形は♀の方がやや丸っこい。他にも判別点はありそうだが、蛾はトーシロだからワカンねえや。

とにかくコレを機に、フシキキシタバ、ひいてはカトカラ全般について調べてみようと思った。

フシキキシタバは、かつては大珍品だったようだ。
1889年に記録されてから、近年まで記録が無かったそうだ。それくらいレアだった。再発見されたのは1956年で、場所は兵庫県。何と67年ものインターバルがある。(・o・)何で❓
その後、岩手県、山梨県、北陸地方や近畿地方各地での発見が相次いだそうな。

ネットの『カトカラ全集』の県別カトカラ記録を見ると、小太郎くんの言うとおり奈良県では未記録になっていた。でも、これは単に正式な発表がされてないだけだと思う。とは云うものの、調べれば調べるほど珍品じゃなくなってきてるみたいだし、当然奈良県でも採れているという情報も入っている筈だろう。じゃなければカトカラ界の情報ネットワークが余程狭いのか、愛好者が少ないのか、もしくは管理者の怠慢を疑っちゃうよ。

 
【学名】Catocala separans(Leech,1889)

属名Catocalaの語源は、ギリシャ語の kato(下、下の)と kalos(美しい)を組み合わせた造語。つまり、後翅が美しい蛾ということだね。
小種名の「separans」は、おそらくラテン語由来。
意味は「分離」だろう。これは上翅と下翅の色が違うことからきてるのかと思ったが、それじゃテキトー過ぎる。他のカトカラもそうだからだ。
想像だが、たぶん下翅中央の黒帯が途中で分離、もしくは分離しがちだからではないかと考える。間違ってたら、ゴメンナサイ。

フシキキシタバは、英国人リーチによって1889年に富山県高岡市伏木と滋賀県長浜から得られたものから記載された。和名の由来はその辺からだと思われるが、なぜナガハマキシタバではなく、フシキキシタバになったのかと云う経緯はわからない。
どうあれ語源は、まさかの地名だったのね。納得だが、ちょっとガッカリだ。想像では、もっと複雑でドロドロしたややこしいミステリアスな命名ストーリーを描いていたからさ。
(-_-)フシキキシタバ殺人事件。ナガハマキシタバを主張した男は消されたな。アカン、また変な妄想がワいてきた。脳を強制停止じゃ。

分布は本州、四国、対馬。北限は青森県だが、その分布は局所的で記録の無い都道府県も結構ある。国外では朝鮮半島、中国北東部、ロシア沿海州にも分布するとされている。

成虫の開張は55㎜。図鑑等には6月初旬から現れ、8月下旬まで見られるとあるが、実際は7月に入ると殆んど見られなくなった。いても、驚く程みすぼらしいボロだった。新鮮な個体を得られる期間は短いのかもしれない。

フシキキシタバは下翅の黒帯が細く、黄色い領域が広いのが特徴だが、実をいうと日本には同じような特徴を持つものがもう1種いる。Catocala duplicata マメキシタバだ。
けど両者の判別は簡単。名前のとおりマメキシタバの方が遥かに小さいからだ(開張46~48㎜)。それに上翅の斑紋が全然違う。発生時期も1ヶ月近く後ろにズレるから、間違うことはまず無いでしょう。マメちゃんが登場する頃には、フシキさんはボロボロなのだ。少なくとも関西から西はそうだろう。

 
【マメキシタバ Catocala duplicata ♀】
(2018.8 大阪府四條畷市)

 
何か野暮ったいなあ…。
たぶん上翅のデザインにメリハリが無いからだ。それに、下翅の黄色にフシキのような透明感のある輝きが感じられない。どこか燻(くす)んで見える。

話をフシキくんに戻そう。
幼虫の食樹はブナ科コナラ属のクヌギ、アベマキ。
飼育する場合、同じコナラ属であるミズナラやコナラ、カシワが代用食になるというが、産地により受け付けない事もあるそうだ。

先にも触れたけど、フシキキシタバは近年までは指折りの大珍品だった。しかし、最近では関東地方の平野部など各地から多産地が見つかっているという。
これは食樹が判明し、灯火にあまり飛来しないこと、樹液によく集まること、発生期が比較的早くて期間も短いこと、昼間の見つけ採りでも得られることが分かったからのようだ。珍種と言われるものでも生態が分かってしまえば、普通種に成り下がることはままある。
とはいえ、かつては不思議キシタバとも言われるくらいに謎多き存在だったみたいだ。謎とかそういうのって掛け値なしに好き。謎があれば、そこには浪漫があるからだ。興味は尽きない。
これは想像だが、不思議だとされたのは、①記載されてから長い間再発見されなかった事。②再発見されてから突然各地で記録が急に増えた事。③蛾の主たる採集法であるライトトラップや外灯にはあまり飛来しない事。④前年には沢山見られたのに、翌年は全く見かけなくなったりする事。そして、⑤幼虫の食樹が何処にでもあるクヌギやアベマキだからだろう。
幼虫の食餌植物がレアなものなら、珍品たる理由も理解しやすい。それが、まさかの何処にでもあるクヌギの木となると、首を傾げざるおえない。

①と②は後回しにして、③からその理由を紐解いてゆこう。カトカラ1年生の空想、戯れ言だと思って聞いて戴きたい。

③だが、灯火にはあまり飛来しないとあるが、自分は灯火に飛来した個体を5頭以上は見た。但し、何れも深夜11時以降(註3)、遅いものは午前4時過ぎに飛来した。因みに飛来が多かったのは、午前1時前後である。
たぶんライトトラップや灯火まわりは、皆さんそれほど深夜遅くまでやらないから、それで会えなかったのではあるまいか。ゆえに灯火にはあまり飛来しないと考えたのではなかろうか。たった1年の経験だが、フシキは灯火への飛来が遅いタイプという可能性はあると思う。

④は、単に大発生した後の次の年には極めて個体数が減るからではないかと思う。大発生じゃなくとも、多かった年の翌年は個体数が減ると思われる。蝶なんかは、そういう例が結構多い。蛾でも有り得るだろう。

⑤が最大の不思議だった。どこにでもあるクヌギやアベマキが幼虫の食樹なのに、なぜ珍品だったのかが謎過ぎる。これを単にカトカラ愛好家の怠慢だと片付けるのには無理がある。クヌギをホストとするカトカラは他にもいるからだ(註4)。となれば、カトカラ愛好家さんたちがフシキキシタバがいるような環境に行く機会は少なくなかった筈だ。のみならず、その環境ならば甲虫屋だって訪れる機会は多い。甲虫屋の多くが蛾に興味を持っているとは思えないが、情報が入る確率はゼロではない。長い年月の間には、情報がもたらされる事もあって然りだろう。それでも稀にしか見つからなかったという事は、やはり昔は極めて稀な種だったと思われる。

発見されにくいのは、発生が比較的早いからだとも考えたが、コヤツの前にアサマキシタバが発生する。また、フシキの後にはすぐワモンキシタバや、ただキシタバ(Catocala patala)も発生する。前後どちらかを採集に行った折りに、会える可能性はそこそこあるだろう。だから、それも理由とはなりにくい。やっぱ不思議だわさ。

とはいえ原因のない結果は存在しない。きっとそこには某(なにがし)かの理由がある筈だ。
例えば、昔と今とでは里山の環境に何か変化はないだろうか❓地球温暖化とか、乾燥化とか、天敵の減少とかさ。
💡ピコリン❗そこで、はたと閃いた。
クヌギは昔から里山に住む人々に利用されてきた。成長が早く、植林から10年ほどで木材として利用できるからだ。材質は硬く、建築材や各種器具、車両、船舶に使われる他、薪や椎茸栽培の榾木(ほだぎ)、炭(薪炭用材)としても用いられてきた。伐採しても切り株から萌芽が更新し、再び数年後には樹勢を回復する事から、持続的利用が可能な樹木の一つとして農村では重宝されていた。それゆえ下草刈りや枝打ち、定期的な伐採など人の手が入ることによって林は維持されていた。これがいわゆる日本人のイメージする雑木林で、里山の風景の典型を成してきた。しかし、近代化と共に日本人の生活様式や農業そのものの有り様が変化した。そして、今では利用されることも少なくなり、放置されることが多くなった。
つまり、雑木林が放置されることにより伐採が減って、クヌギやアベマキの大木が増えたのではないだろうか。
クロミドリシジミの幼虫がアベマキの大木を好むらしい。そして、最近になって各地で増えているとも聞いている。フシキキシタバの幼虫も大木好きで、クヌギやアベマキの成長が進み、それに伴って増えたのではあるまいか❓ それだとキレイに説明がつく。どこにも、そんな事は書いてなかったけど…。

①は、⑤と関連性があるのではないかと思う。
記載されて長い間再発見されなかったのも、昔はクヌギの大木が少なかったからではないかな。

②も⑤とリンクしていて、再発見されてから急に各地で見つかり始めたのも全国的にクヌギやアベマキの大木が増えたからだろう。時代の流れで、里山の生活様式が想像以上に各地でワッと一斉に変わったんだろね。
個体数が増えると、観察される機会も増える。当然、詳しい生態もわかってくる。それが発表されれば、伝播は早い。加速度的に情報量が増えたから、発見が各地で相次いだのではないかと推察する。

再度言うけど、蛾初心者の戯れ言だと思って聞いて戴きたい。
色々と文献をあたってみたけど、調べた限りではこういった推察なり意見なりは見受けられなかったし、奈良県の記録は今年見ても空白のままだ。カトカラ愛好家って、もしかしてシャイなの❓

怒られそうだ。カトカラ愛好家の皆様方、けっして喧嘩を売っているのではござりませぬ。初心者ゆえにワケもワカラズ、素直に疑問をぶつけただけでござる。納得できる説明を御教示してくだされば、直ぐに謝罪、意見を引っ込める所存でありまする。
納得できねば引っ込めませんけどー。ツゥンマセーン。
あっ、このモノ言い、絶対怒られるなあ。
まあいい。どうせ周りでカトカラを集めているのはA木くんくらいしかいないし、滅多に遊んでもらえない。だったら、勝手な事をゴチャゴチャ言う一人ぼっちカトカラ愛好家になろう。
でも、本当は一人で夜出歩くのは嫌なんだよなあ…。
👻お化け、怖いし。

ここまでを酔っ払って一気に書いた。
翌日、読んでみて、ヤバいかなあと思った。偉そうなことを書いちゃったので、不安になってきたのだ。
そういえば、西尾規孝さんの『日本のCatocala』のフシキキシタバの項を読んでないんだよなあ…。去年の秋の終わりに大阪の自然史博物館で読ましてもらったんだけど、既に採った事のあるカトカラは無視して、まだ採ったことのないものを中心に読んだのだ。採ってしまえば、急速に興味を失う性格が仇になっちまっただよ。
とにかく、ここは是が非でも確認せねばなるまい。もう慌てて、ソッコーで自然史博物館に行ってきましたよ。

 
件の本には、アッシの考えたような事がちゃ~んと書いてあった。

「本種は比較的最近になってあちこちで産地が知られるようになった。老齢木にもつくようである。今から20年前にコシロシタバやマメキシタバ、オニベニシタバの多産した上田市のクヌギ林の樹齢は20年前後であった。40年になるとCatocala はつきにくくなるような印象を持っている。老齢木のタンニンは幼虫の成長阻害要因である。ミドリシジミの類の方がもっと顕著で、30年以上のクヌギにはクロミドリシジミ以外はまずつかない。近年の薪炭材の放置による林の老齢化がCatocala相に影響を与え、結果的に本種の多産につながっている可能性がある。」

別項の食樹についての欄にも関連した記述があった。

「幼虫はコシロシタバが特に発生する10年前後の幼齢の木にはほとんど発生しない。20年以上の大木によく発生する。」

Σ( ̄ロ ̄lll)やっベー、もう少しで大恥をかくとこじゃったよ。ちゃんと考えてはる人は、おるんやね。或いはカトカラ好きの間では、こんなの常識だったりして…。
カトカラ愛好家の皆さま、m(__)mゴメンナサイ。

それにしても、この西尾さんの本ってスゴいよなあ。
日本のカトカラについて、これ程までに突き詰めて書かれてある本は他に無い。幼生期も含めて、よくぞここまで調べ上げられたなと思う。生態写真もふんだんに盛り込まれているし、しかもキレイ。これはもうカトカラ界の金字塔的遺産でしょうよ。しかも自費出版なんだから驚きだ。生意気なカトカラ1年生も、その努力と執念、鋭い観察眼には感服させられましたよ。

 
そういえば、裏側の画像を添付してなかったな。

 
(裏面♂)

 
斜めってて、酷いな(笑)
写真を撮るのがテキトーすぎた。撮り直そうかと一瞬思ったが、もう、いいや。面倒クセーもん。
それはそうと、あんまし考えてなかったけど上翅の裏は黄色いんだね。裏はボオーッと見てたわ。もしも翅の表もこのデザインで、色鮮やかだったとしたら相当カッコイイぞー。

 
(裏面♀)

 
下翅は表の柄とある程度は連動してるっぽいな。
となると、キシタバグループの中では一番明るいのかな?とはいえ、表みたいに黄色が鮮やかではないから、どってことないけど。
そういえば、図鑑には裏側の標本写真が殆んど載ってないんだよなあ~。何でかなあ❓そのうち全種揃ったら、一同に並べてやろう。

とにかく、このフシキキシタバをキッカケに、このあとカトカラにハマって邁進する事とあいなった。
結果、1年で17種類が採れた。日本のカトカラは全部で31種類だから、半分は越えている。近畿地方以外の遠征は秋の山梨と長野の2回だけだった事を考えれば、結構頑張った方だと思う。

ここで「おしまい」と書いて、あっさりクロージングする予定だったが、やめた。らしくない。最後に饒舌男の一言を付け足して終りませう。

フシキキシタバは珍品の座を滑り落ちたが、他の場所でその姿を見る事は一度も無かった。今や大珍品じゃないかもしんないけど、分布は今もそこそこ局所的で、けっして普通種なんかではないと思う。誰にもポイントを教わらずに自分の力だけで見つけ出すことはそう簡単ではない筈だ。レア度のランクは下がったやもしれぬが、美しいことに変わりはないし、個人的には特別さはそんなに失われていないと思ってる。
何よりも黄色いカトカラの魅力を最初に教えてくれた種だ。この先、初恋の相手を悪く言うことはないだろう。最初に惚れた女を蔑(ないがし)ろにするような男にだけはなりたくない。
 
                  おしまい

 
追伸
第1回なのに、のっけから攻撃的な回になってしまったなりよ(^o^;)
カトカラ1年生なのに、生意気だよね。途中で書き直そうかとも思ったが、そのままにしておくことにした。理由の一番は面倒くさいからだけど、一旦吐いた(書いた)言葉は呑み込みたくないし、本音を言うのを厭わない方だからコレで良しとした。批判があれば、素直に謝罪なり反論なりすればいいことだ。

展翅は今思うと上翅を上げすぎたなあ。
蝶の展翅の時みたく、触角の角度と上翅との間隔(空間)を重視して展翅したからだろう。
あと、蛾ビギナーなので、図鑑を持っていないと云うのもある。お手本が無いのでイメージが湧かないのである。自然、テキトー俺流となる。
そういえば、蛾だから邪悪な感じにしたかったと云うのもあったな。上翅を上げ気味にした方がそう見えっからね。蝶じゃないから気楽で自由なのさ。蝶ほどに大切ではないゆえ、失敗しても別にいいやと思ってっからチャレンジャーにもなれるってワケ。
段々、思い出してきたよ。踏み込んで言うと、当時は世間の蛾の展翅に対して、あんまキレイじゃないなと云う印象を持っていた。ならば、ルール無用の悪党のワシがトレンドを作っちゃるーくらいの気分だったのである。我ながら尊大なアホだよねぇ(笑)。
でも実際は違った。今では思う。蛾の展翅は蝶よりも遥かに難しい。蛾は形がバラバラで、その造形は多岐に渡る。個性的なのだ。だから、種によってバランスが全然違ったりもする。やってて、何が正解なのか分からなくなってくるのである。おまけに触角にも色々なバリエーションがあるから、ややこしい。でもって、カトカラなんぞは髪の毛よりも細いから直ぐにブチッと切れるし、真っ直ぐになんないし、左右対称にするのは至難の技。ほとんど不可能と言っていい。
そんなワケで、今回のコレはコレで一つのそういうデザインと考えれば、そこそこカッコイイかもしんないと密かに思ってたりもするんだよねぇ…。
けんど、今年は上翅をもっと下げよ~っと。
先ずは基礎を学んでからでないと、トレンドとか崩しもヘッタクレもあらしまへん。遊ぶなら、もっと上手くなってから遊ぼっと。それに、秋田さんに褒めてもらいたいしね。

と、昨日はここまで書いて、註釈も含めてほぼほぼ文章を完成させてから生駒山地にウラジロミドリシジミの様子を見に行った。テリトリー(占有活動)を張り終える日没近くまでいたから、折角だし樹液が出てる場所を探すことにした。誰もいない真っ暗な山道を懐中電灯を持ってウロウロする。
で、たまたま照らした斜め上にカトカラらしきものが飛んでた。瞬時に反応して片手で網を振り抜いた❗
飛んでる時に裏側が鮮やかな黄色に見えたから、マジ振りである。アサマキシタバではない筈だから、もしやと思ったのだ。勿論、そういう時は滅多とハズさない。
網の中を確かめて、闇に向かって、『俺って、まあまあ天才。』と呟いたよ。

すかさず、毒瓶に放り込む。

 

 
ひゃっほー((o(^∇^)o))❗❗
( ☆∀☆)チラリズムの逆さ黄色いパンチィー❤❤❤
やっぱフシキちゃんだった。

 

 
期せずして、この日は去年初めてフシキキシタバを採った日にちと同じ6月7日だ。

《「この黄色がいいね」とオラが言ったから六月七日はフシキ記念日》

今日から6月7日は『フシキ記念日』と呼ぼう。
\(◎o◎)/おーっ、何と元ネタの俵万智の短歌『サラダ記念日』の日付の七月六日と入れ替わりの反対じゃないか。運命感じるぅー(σ≧▽≦)σ

フザけるのはこれくらいにして、展翅するなりよ。

 

(2019.6.7 東大阪市枚岡公園)

 
出来立て、ほやほやだよ~ん。
上翅の大きさが右側が少し小さいので、ビミョーに変だが、まっ、こんなところでしょうかね。
触角をきっちり整えるのを試みてみたが、(^_^;)無理だわ。これに関しては自然に任す方向で整えるしかないね。

とはいえ、下げたものの全然邪悪感がないなあ。
皆さんは、どっちがカッコイイと思いますぅ―❓
なんだか何が正しいのか、よくワカンナクなってきたよ。

 
(註1)シンジュサンを採りに行った折りに…
そん時のことは、拙ブログに『三日月の女神・紫檀の魁偉』と題した三回シリーズに書いとります。

 
(註2)ジョナスキシタバとキシタバを採った経験…
2017年の秋にA木くんに、ムラサキシタバを見てみたいとせがんだら、兵庫県北部にライト・トラップ採集に連れてってくれた。その時に採れた。といっても、採らしてもらったと云う方が近い。今でも自分の力では採ったとは思ってない。ようするに、お客さんだったワケだね。もっと言うと、最初は持ち帰る気はさらさら無かった。飛んで来たから思わず網に入れたものの、基本的に蛾は苦手だからどうしたものかと思ったのだ。でもA木くんが『持って帰ればいいじゃないですか。』と言うので、記念として持ち帰った。謂わば、この2017年の採集は、1回切りのお遊びだったワケ。だからがゆえの『2018′ カトカラ元年』なのだ。

 
(註3)深夜11時以降…
シンジュサンの回でフシキの飛来を午後10時半と書いたが、知らぬうちに己の記憶を勝手に都合のいいように改竄していたみたいだ。写真の撮影時刻を確認したら、午後11時過ぎになっていた。感覚と印象だけで言っちゃって、すいません。
ついでに補足しておくと、小太郎くんがシンジュサンを1頭持ち帰ったというのも間違い。持ち帰ったのは別な日で、しかもシンジュサンではなくてオナガミズアオでした。小太郎くんからの指摘で判明した。
人間の記憶なんてものは、思った以上に曖昧らしい。
自尊心と思い込みが強い人間は、気をつけた方がエエですな。

 
(註4)クヌギをホストとするカトカラは他にもいる
クヌギは、マメキシタバ、コシロシタバ、オニベニシタバ、アサマキシタバ、アミメキシタバ、コガタキシタバの食樹でもある。

 
 
《参考文献》

1971 保育社『原色日本産蛾類図鑑 下』-江崎悌三ほか

 
1971年の改訂版を参考にした。このあと1981年に、もう1回改訂版が出ているようだ。因みに初版は1958年の発行です。

 
・2011 むし社『世界のカトカラ』石塚勝巳
 

 
初心者がカトカラの世界を知るには、この本が一番だろう。解りやすくて、よく纏まっている。平易な言葉が使われているし、図版の写真も綺麗。レイアウトもスッキリしている。また、日本のみならず世界のカトカラまで紹介しているから、属全体を俯瞰で見られるところも素晴らしい。

 
・2009『日本のCatocala』西尾規孝
 

 
自信の表れだろうか、シンプルで渋い表装だ。
素直にカッコイイと思う。

 

三日月の女神・紫檀の魁偉ー完結編

 
 
第3話である。ようやく完結編だけんね。今度こそ、ちゃんとクロージングさせまっせ。

 
思えば、シンジュサンにはまさかの惨敗に次ぐ惨敗だった…。

 
2018年 6月7日。
この日は午後3時くらいに東大阪市の枚岡公園に出掛けた。ウラジロミドリシジミの様子を見るためである。
まだウラジロミドリを採ったことが無いという中学生に会ったので、ポイントに案内してあげる。
今どき虫採りをしている若者なんざ絶滅危惧種だから、大事にしないといけんのだ。

しかし、個体数は例年よりも多いものの発生が早かったようで、既に傷んだ個体ばかりだった。
それでも中学生は採って感激してくれていた。自分も最初の1頭には震えた事を思い出した。
フィリップ・マーロウの言葉を借りれば、『初めてのキスには魔力がある。2度めには、ずっとしていたくなる。だが、3度めには感激がない。』である(註1)。最初の1頭にこそ価値があるのだ。少々羽が破れていても関係ない。もちろん完品が望ましいが、ファーストインプレッションは必ずしもそうであることが絶対条件にはならない。
どうあれ、よかった。百聞は一見にしかず。狙った虫は、採らなきゃ何も始まらないのだ。虫捕りは恋愛とよく似ているかもね。

 
夕陽を眺める男女を囃し立てて写真を撮らしてもらい、山をおりる。

 

 
枚岡公園から転戦。今宵も矢田丘陵へ。
そう、又しても懲りずにシンジュサンを求めての灯火巡りなのだ。何としてでも6連敗は阻まねばならぬ。これ以上の連敗は自信喪失、心がポッキリと折れかねない(現在のヤクルトスワローズみたいに15連敗もしたら、虫採りなんかやめるね)。

名前がワカランがスタイリッシュで、シャレ乙な蛾がいた(註2)。

 

 
採るかどうか迷ったが、そのままにしておく。
邪魔くさいので、チビッ子蛾はフル無視なのだ。

小太郎くんがコチラに来る道中でバカでかいスッポンを拾ってきた。

 

 
写真はビニール袋を破って逃亡を企てている様子。
持ってみたら驚くほど重かった。このデカさは主(ぬし)クラスだわさ。売ったら、相当な値がつくだろう。

スッポンはスープが絶品なんだよなあと呟いたら、
小太郎くんが『さばきます?』と言ってきた。
(゜ロ゜;ノ)ノそれは絶対無理❗❗

夜10時半。
ヒマ潰しに樹液ポイントを回って戻ってきたら、柱に見慣れぬ蛾が止まっていた。
(;゜∀゜)あっ!、もしかしてカトカラ❗❓
何となく勘でそう思った。

 

 
採って裏返したら、特徴的な黄色と黒の縞々模様がある。やはりカトカラくん(キシタバの仲間)だった。

 

 
キシタバはカッコ渋美しいから嫌いじゃないけど、正直どうだっていい。今はシンジュサン以外は眼中にない。あとは皆、所詮は雑魚だ。
袖にされまくって、いつしか心はシンジュサンに奪われている。そう、恋い焦がれていると言ってもいい。
世の中の、うら若き女子に告ぐ。口説いてくる男子は1回は振っておきましょう。さすれば、バカな男子は貴方により熱を上げまするぞ。2回目のアプローチが無くとも責任持たないけどさ(^o^)

 
気温が高くなってきたせいか、格段に飛来する蛾の種類数と個体数が増えてきている。

 

 
これはトモエガの仲間(註3)だね。
昔は感覚的に気持ち悪かったけど、今や蛾に対する免疫も少しづつ出来てきたので初ゲットしてみる。

 

 
わっΣ(゜Д゜)、裏が鮮やかな紅(くれない)なのね。
紅蓮の🔥炎じゃよ。地獄の業火の色だ。この感じ、まるで地獄の使者みたいじゃないか。
でも同時に素直に美しいと思う。今まで飛び退いてて、ゴメ~ン。

そういえば、台湾に蒼くて糞カッコイイ綺麗なトモエガがいるみたいなんだよね(註4)。生来の青好きとしては、あれはマジで採りたい。でも、名前も何処へ行けば採れるのかもワカラン。アレに会えたら、蛾世界にも素直に入っていけるかもしれんのにのぅ(# ̄З ̄)。
きっと人生には、時に何かを飛び越えるキーワードとか、切っ掛けが必要なんだよね。

  
時刻は既に午後11時を過ぎている。
車が無いので、本来ならば帰らないといけない時刻だ。しかし、今日は背水の陣で臨んでいる。朝まで粘ると決めた。ここまでくれば、もう意地である。執念が無ければ欲しいものは手に入らない。

午前0時前。
小太郎くんとしゃがみこんで、網に入れたクソ蛾についてグダクダ言っている時だった。
視界の端で何かが飛んだ。と同時に『来た❗❗』と叫んでクソ蛾を網に入れたまま走り出していた。💨猛ダッシュだ。久々に体内でアドレナリンが💥爆発しているのが自分でも解る。

夜空に、恋い焦がれていたシンジュサンが舞っていた。
だが、思ってた以上に飛翔速度が速い。しかも、飛ぶ軌道がメチャクチャだ。
背後に小太郎くんがいる気配を背中で感じる。ここで振り逃がしたら笑い者だ。何があってもハズせない。それに、もしハズせばグダクダとあーだこーだと言いワケしかねない。いや、絶対するに決まっている。そうなれば、そこにどう正当な理由があろうともカッコ悪いことには変わらない。結果を出さなければ、クソだ。
緊張と慎重の狭間で構える。脳が躊躇はするなと命令する。両肩にグッと力が入る。距離を詰めた。迷いは禁物だと肝に命ずる。スウィングの始まった瞬間に目の前で左下に急降下した。内角を抉ってくるシンカーの軌道だ。(|| ゜Д゜)えっ、マジ❗❓
その落ち際を💥一閃、左から右へと振り抜く。スローモーションでターゲットがネットに吸い込まれてゆく。すかさず網を捻り、逃亡を防ぐ。
乾坤一擲。鬼神の如き網さばきで、一振りで鮮やかに決めた。超気持ちイイー。
 
しかし、クソ蛾とシンジュサンの両方が網の中で暴れており、(;゜0゜)わっ💦、(;゜0゜)わっ💦、(@_@;)わっ💦、あたふたする。
『どっち❓、どっち❓どっちを先に〆たらいいのー❓』
軽くパニくっちゃってて、小太郎くんにワケのワカランことをのたまってしまう。
『何言ってるんすかー❗❓ クソ蛾よか当然シンジュサンでしょうよ。』
( ・∇・)☝そりゃ、そーだー。
クソ蛾なんぞ、どうなってもいい。2匹が絡んでシンジュサンの羽が傷んだらエライコッチャである。何ならクソ蛾の方は踏みつけて、それを阻止したっていいのだ。
でも、そこまで悪人にはなれないので、手で網を押さえて両者を分かち、その間に小太郎くんにアンモニア注射を打ってもらう。

💉ブチュー❗
一発で👼昇天じゃよ。
虫屋って、やってることがマッドで変態やなあ。

網から取り出す。この僅かな時間がもどかしい。でも同時にその刹那は歓喜へ通ずるプレリュードでもある。

そっと手のひらに乗せる。

 

 
💕やっと会えたよ、シンジュサン。
全身に多幸感がゆっくりと広がってゆく。
4枚の羽一つ一つに三日月紋が配されているね。
シンジュサンの学名の小種名は「cynthia(シンシア)」。ギリシア神話の月の女神に由来している。だったら、神が遣(つか)わし三日月の女神だね。

狙った獲物をシバいた時の❤エクスタシーは堪んないよね。これこそが虫捕りの醍醐味じゃけぇ。
(о´∀`о)ぽわ~ん。我、今年最初の多幸感に包まれり。

『いやあー、普段はチンタラしてるのに、マジ反応早かったですねー。しかもダッシュが半端なく🚀ロケットスタートでしたわ。』
小太郎くんが笑いながら言う。
誉め言葉と取ろう。小太郎くん、蛾好きでもないのに付き合ってくれてアリガトねー。

とにかくコレで何とか一つの種の連敗記録の更新を免れた。5連敗したのはキリシマミドリシジミとコヤツだけ。2連敗したのが、ベニモンカラスシジミとタカネキマダラセセリで、あとは運と引きの強さで全部その日のうちに仕留めてきたのだ。打たれ慣れてないから泣きそうだったけど、これでまたヘラヘラ笑えるよ。

初の出会いの興奮が醒めやらぬうちに、シンジュサンは立て続けに飛んできた。
 
2頭目はデカかった。
さすが日本で2番目に大きいと言われる蛾だ。
羽の厳(いか)ついデザインも相俟って、魁偉と言ってもいい姿かたちだろう。
とはいえ、冷静に見れば、想像してた程の大きさではない。他のヤママユガ科の蛾たちと比べて胴体が細く、羽も薄いので、やや迫力に欠けるきらいがある。ヤママユの方が羽が分厚いし、腹もぽってりで迫力がある気がする。厳ついとかゴツいというよりも、寧ろ優美かもしんない。
いや待てよ。それはあくまでも見る側の視点の置き所にすぎないだけかも…。蛾を怖れる女子やお子ちゃまにとっては、充分恐ろしい姿に見える筈だ。ならば、やはり魁偉と言えよう。

そして、更に続けて飛んで来たのは、何じゃこりゃのチビッ子シンジュサン。大きさにかなりの個体差があるのに驚く。

 

 
他のヤママユガ科の蛾は、だいたい大きさが揃っている印象があるのだが、コヤツらは大きさに落差があり過ぎる(註5)。

午前0時前から約30分間で怒濤の計5頭が飛来。
その後、パッタリと来なくなって、やがて朝を迎えた。
明けてくる菫色の空が美しかった。
爽やかな微風が頬を撫で、背後の森の木々たちを静かに揺らした。
それを合図かのように立ち上がり、駅へとゆっくりと歩き始めた。

 
                 おしまい

 
追伸
ゲットして、懐中電灯を照して撮った写真があまりにも酷くて、全然その美しさが伝わってないような気がする。
と云うわけで、自然光で撮りなおした。

 

 
灯火の下ではオリーブグリーンに見えたが、こうして日の光のもとで見ると、だいぶと印象が変わる。
エレガントだ。何ともいえない淡い赤紫に惚れ惚れとする。でも単純な赤紫色ではない。もっと相応しい色の表現がある筈だ。
そして思い浮かんだのが、紫檀色。これは高級タンスなんかにもよく使われる紫檀(したん)の木の色から来ている。紫檀色って、ちょっと高貴な感じがしてピッタリじゃないか。

 
(出展『伝統色のいろは』)

 
(-_-;)むぅー、でもシンジュサンの写真の色と見比べてみると、違うなあ…。頭の中の記憶ではこういう色に見えた筈なんだけどなぁ…。写真の映りが悪いのか、それとも脳内で勝手に色を増幅させたのかにゃあ…。
ι(`ロ´)ノえーい、この際そんな事どっちだっていい。わたしゃ、イメージ重視の人なのだ。記憶の中の色こそが、リアルな色だ。

因みに、紫檀の木は英名をローズウッドという。
今はコチラの呼び名の方が、紫檀よりもポピュラーかもしんない。

 
(出展『伝統色のいろは』)

 
木の方は更に赤く見える。
けど、これは木にもよるだろう。
例えば、こんなのもあった。

 
(出展『エコロキア』)

 
噺は変わって、羽の先は鉤状に湾曲している。

 

 

 
コレを蛇、もしくは蛇の頭の形に擬態しているとする説が誠にしやかに流布されているが、ホントかよ❓と思う。
んなもんで、鳥が騙されてくれるかね❓それって、無理からでねーの❓所詮は言い出した人の願望であって、こじつけじゃねえの❓
日本の学者とか研究者は、何でもかんでも擬態にしたかる傾向があるような気がするんだけど、おいらの思い過ごしかなあ…。

それにしても、この個体だけ腹ボテで群を抜いてデカいから、てっきりメスだとばかり思ってたけど、触角の形はオスなんだよなあ…。オカマかえ?
たぶん、♂だとは思うけどさ。去年は♀が採れてないから、今年は採らんといかんな。

それでは、恒例の(´・ω・`)もふぅ~。

 

 
🐰うさぴょんみたいだ。
シンジュサンもヤママユの仲間なので、もふ度は高しで可愛いい。前足とか、もこもこやんか💕

 
(註1)フィリップ・マーロウ「初めてのキスには魔力がある…」

レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説の主人公の名前。セリフはハードボイルド小説の金字塔『長いお別れ』の中でのもの。

 
(註2)シャレ乙な蛾がいた
アカスジシロコケガというコケガの1種かと思われる。
美しいが、特に珍しいモノではないようだ。

 
(註3)トモエガの仲間

【ハグルマトモエ Spirama helicina ♀】

 
分類はヤガ科(Noctuidae) シタバガ亜科(Catocalinae) Spirama属とある。
漢字にすると、おそらく「歯車巴」と書くのだろう。
歯車みたいな巴紋をもつ蛾ってことだろね。

トモエガの仲間としたのは、この時点ではハグルマトモエとオスグロトモエの♀との区別がつかなかったからだ。両者は、ホントよく似ているんである。

 
【オスグロトモエ ♀】
(出展『北茨城周辺の生き物』)

 
違いはハグルマトモエと比べて巴紋がやや小さくて、全体的にメリハリがないところ。

 
(註4)台湾の糞カッコイイ青いトモエガ

調べたら、Erebus albicincta obscurata という蛾らしい。台湾名は「玉邊目夜蛾」「玉邊目裳蛾」「白邊魔目夜蛾」など複数があるようだ。

 
(出展『Wikimedia commons』)

(出展『Xuite日誌 随意窩』)

 
バリ、カッケー( ☆∀☆)
結構珍しい蛾のようで、そこそこ高い標高に生息しているみたいだ。誰か採れる場所と採り方を教えてけれ。

(註5)大きさに落差が有りすぎる

 
大人と中学生と小学生くらいに大きさが違う。
自然状態でコレくらい個体差がある鱗翅目って、他にあったっけ❓
たぶん、いる筈だが、ちょっと浮かばない。

ついでに各々の展翅写真も添付しておこう。

 

 
上から大中小である。
それにしても展翅が酷いね。特に1頭目は最初にした展翅だから、上翅を上げすぎてる。慣れない蛾の展翅でバランスがワカランかったのさ。以下、少しづつマシになってゆくのは、上の順の時系列で展翅したから。それがそのまま出ている。パープリンといえど、ちょっとは学習能力があるんである。
今年採れたら、もう少しマシな展翅しよっと。

ついでに展翅板から外した画像も添付しとくか。

 

 
バランスはそんなに悪くはないんだけど、やっぱダメだな。

この日は全部で5頭飛来したのだが、1頭は小太郎くんが持ち帰った。残りの1頭は羽が結構破れていたので展翅していない。修復用にとってあるのだ。けど、こんだけ大きさが違うと、使えんのかね?
この蛾、飛び方の軌道が無茶苦茶で雑い。すぐ地面に落ちて暴れまわるし、木々の中を縫うようにして飛ぶ。おまけに羽が薄いときてる。ゆえに羽が損傷しやすいのだろう。小太郎くん曰く、中々完品に出会えないというのは、そういう事からだろう。

生態面を付け加えておくと、灯火への飛来はこの日が一番多く、他の日は全部1頭のみの飛来だった。何れも飛来時間は遅く、午後11時から午前4時の間であった。
で、後日採れたのは、全て羽が破れていた。採集適期は短いと思われる。

さあ、これでやっとカトカラシリーズに取りかかれる。乞う、御期待あるよ(^o^)

  

2018′ カトカラ元年 プロローグ

 

突然、去年からカトカラ(Catocala)に嵌まっている。
そのキッカケとなったのが、あるカトカラだった。

カトカラとは、ヤガ上科 シタバガ(catocala)属に属する蛾の1グループのことで、学名の属名が総称として使われることが多い。以前はヤガ科 Noctuidae シタバガ亜科に属していたが,現在では Erebinae トモエガ亜科に属するとされる(Zahiri,2011;Regier, 2017)。
Catocala の語源は、ギリシャ語の kato(下、下の)と kalos(美しい)を組み合わせた造語。つまり、後翅が美しい蛾ということだね。
ついでに言っとくと、英名は「underwing」。コチラも下翅に注視したネーミングだ。
日本には31種類がいて、美しいものが多いことから人気の高いグループだ。
とは言っても、所詮は蛾愛好者の間だけのことで、一般の虫好きには見向きもされないと云うのが現状だろう。自分も元々は蝶屋だから、存在は知ってはいたものの、さして興味は無かった。というか、元来は一般ピーポーと同じく生粋の蛾嫌いだから(註1)、おぞましいとさえ思っていた。

しかし、2017年に春の三大蛾の灯火採集に連れて行ってもらってから、少し蛾に興味を持ち始めた。
この辺のことは当ブログに『2017’春の三大蛾祭り(註2)』と題して書いたので、よろしければ併せて読んで戴きたい。格調高い純文学風に仕上げてみました(笑)。いや、ホラー小説風かな❓
えー、ワシが如何に蛾嫌いだったのかも、読めばわかりますです、ハイ。

そういうワケで、その年の秋にはAくんにカトカラで最も人気の高いムラサキシタバの灯火採集に連れて行ってもらった。

 
【ムラサキシタバ Catocala fraxini】
(2017.9.23 兵庫県美方郡香美町)

 
とは云うものの、カトカラ全体に対しての興味は未だ薄かった。ムラサキシタバはカトカラの帝王とも言われ、最も美しくてデカいと云うから、一度くらいは実物を見てみたかっただけだ。

その日、結局ムラサキシタバは1頭しか飛んで来ず、それを空中でシバいたAくんが手に乗せて見せてくれた。それで充分だった。一度でも見とけば、『あれ、デカくてカッコイイですねー。』と言えるのである。ミーハーなので、昆虫界のスター的な種は一応実物を見ておきたい派なのだ。

この日はムラサキシタバ以外にもシロシタバ、ベニシタバ、キシタバ、ジョナスキシタバが飛来した。
持って帰る気はあまりなかったが、Aくんの薦めで一応ムラサキシタバ以外は持って帰った。だから、カトカラの標本は一応持ってはいる。けど、所詮は蛾。わざわざ集めたいとは全然思わなかった。

しかし、6月に奈良県大和郡山の矢田丘陵にシンジュサンを探しに行った折りに、気持ちが一変したのであった。

 
                  つづく

 
追伸
台湾の蝶シリーズも取り上げねばならぬ蝶がまだまだあるというのに、新たなシリーズを始めてしまうのである。節操がないのだ。
でも、こないだのキアゲハですっかり疲弊しちゃったので、リハビリが必要なのである。そのうち気が向いたら、そっちの方も再開する予定です。

ムラサキシタバの画像が酷いので、彼女の名誉のために美しい画像も貼り付けておきます。

 
(出展『昆虫情報センター』)

 
たぶん♀だね。
下翅の美しさはもとより、上翅の複雑な柄も渋美しい。

 
(註1)元来は一般ピーポーと同じく生粋の蛾嫌い

世間が蛾嫌いなのは、たぶん幼少の頃の刷り込みからだろう。
周囲が、蛾を見て『Σ( ̄ロ ̄lll)ひっ❗』とか呻いて仰け反るのを見て、子供は蛾って気持ち悪いもんなんだと学習しちゃうんだろね。海老とか蟹とか雲丹やナマコだって、冷静に見れば相当グロい。我々はそれが食って旨いと知っているから、美味しそうに見えるだけだ。
話が逸れた。ようはファーストインプレッションで学習したそこに、蝶より地味で汚い、主に夜に活動するので不気味、目が光って妖しい、胴体が太くて気持ち悪い、家に飛び込んできて粉(鱗粉)を撒き散らす、毒を持ってそう、毛虫が醜い等々の悪いイメージが重なり、どんどん補完されてゆくと云うワケだ。それにしても、見事なまでの負のイメージのてんこ盛りだすなあ(笑)。
大人になって蝶採りを始めた頃も蛾嫌いなのは変わらず、突然飛び出してきたら一々飛び退いて背中に悪寒を走らせていた。
蛾も蝶と同じ鱗翅目に含まれ、分類学的にも両者の境界は曖昧だ。だから、ヨーロッパでは厳密に区別せず、蝶も蛾も庶民の間では同じものとして認識されているようだ。なのに、日本では何故か蝶は善、蛾は悪というレッテルが貼られている。驚いたことに、蝶屋(蝶愛好家)でさえも蛾嫌いは結構多い。
何で(・。・;❓
これは、おそらく近親憎悪ではあるまいか❓
蝶をこよなく愛する者にとっては、蛾は汚ないし、気持ち悪いし、世間のイメージが悪いから、深層心理で鱗翅類の面汚しだとでも思っているのかもしれない。視点を変えれば、蛾にも美しいものは多いんだけどね。

 
(註2)2017’春の三大蛾祭り

その壱.青天の霹靂編、その弐.悪鬼暗躍編、その参.闇の絵巻編、その四.魑魅魍魎編の四部作で構成された長編。
他に姉妹作『2018’春の三大蛾祭り』というのもあるので注意されたし。