2019年の空たち 冬・春編

 
空を見るのが好きだ。

 

 
画像は去年の師走、12月17日に撮ったものだ。
ドン突きまで並ぶ雲に奥行きがあって、モノ凄い遠近感を感じたので、つい撮ってしまったのだ。

でも、スマホのストレージが溜まってきたので、そろそろ消去しなければならない。しかし、このまま日の目を見ずに此の世から人知れず永遠に消えてしまうには忍びない画像だ。そこで去年に撮った空の写真を纏めてアップしてから消すことにした。

 

 
2019年、最初に撮った空だ。
紅梅が晩冬の空の下、凛と咲いている。

日付は2月23日になっている。昔の彼女と久し振りに会って、天下茶屋から昭和町まで歩いた時に撮ったものだ。たぶん途中の公園で咲いてた紅梅が美しかったから撮ったと記憶してる。
その後すぐ、何故かアチキは突発的に布施明の『シクラメンのかほり』を歌いたくなって、アカペラで情感たっぷりで熱唱。元カノに脱力で笑われた。

 
 

 
4月3日。
青春18切符の旅が、また始まった。
福井県南越前町まで足を伸ばす。

 

 
天気は良好。ぽかぽか陽気の中で、ギフチョウたちが沢山舞っていた。

 

 
スプリング・エフェメラル。春だけに現れる妖精だ。
毎年のように会っているが、最初の1頭には毎回ハッとさせられる。忘れているワケではないが、改めてその美しさに心奪われるのだ。

 

 
敦賀まで戻り、寂れた歓楽街を彷徨う。
人影は無く、時間の流れが止まったかのようだ。空には一点の雲も無いので余計にそう感じる。動くものが何もないのだ。

 

 
氣比神宮の鳥居の向こうに、空も石畳もトパーズ色に染めて夕陽が沈んでゆく。

 

 
敦賀駅まで戻ってきたら、喫茶店のスピーカーからボズ・スキャッグスの名曲『ウィ・アー・オール・アローン』が流れてきた。

 

(※画像をタップすると曲が流れますよ〜ん。)

 
あまりにも曲と夕景とがピッタリで泣きそうになった。
我々は皆、所詮は一人ぼっちなのだ。

 
 
4月6日。
青春18切符 ONEDAYトリップの2日めは、武田尾方面のギフチョウに会いに行った。

 

 
空の青とピンク色の花とのコントラストが美しい。
大きな木ではないが、やはり枝垂れ桜は華やかだ。正直、ソメイヨシノよりも綺麗だと思う。
そういや、去年は紅枝垂桜を見てない。たぶんコロナウィルスのせいだな。山なら人と接触することは少ないけれど、シダレザクラで有名な平安神宮なんかだと、そうともゆかぬ。で、断念。
ベニシダレザクラ、見たかったなあ…。だって桜の中では圧倒的にゴージャスだからね。
今年は何とか行ければいいけど…。

この日は、一旦武田尾から離れて夜にまた舞い戻ってきた。 
何でかっつーと、春の三大蛾(註1)がいないかなあと思ったのだ。

 

 
天気予報は夜には曇ってくると云うことだったが、夜遅くになっても、あいにく夜空には満月。
虫たちは晴れの日よりも曇りや小雨の日に灯火に飛来する事が多いと言われている。月の光が邪魔なのだ。だから満月の月夜は最悪のコンディションとなる。
結局、どれ1つとして目的の面々とは会えなかった。
まあいい。春のちょっと肌寒い夜空に浮かぶ朧月(おほろづき)は美しい。ことに満開の桜の夜ならば、尚の事だ。考えてみれば、極上の月見ではある。

 

 
真っ黒な夜空の下で咲く桜は、いつ見ても妖艶だ。暗い想念が仄かに蠢く。

 
 

 
4月7日。
ちょっと悔しいので、翌日には箕面を訪れた。

天気予報は今宵もハズレ、満月が昇ってきた。
まだ芽吹いていない裸木の枝が、月をより美しく見せている。
だが、当然ながら結果は又しても惨敗だった。

 
 

 
4月8日。
青春18切符の旅、3日目である。
行先は兵庫県西脇市。又してもギフチョウに会うためだった。
蝶好きのギフチョウ愛は強く、ワシなんぞはギフチョウ愛が足りないと言われるクチだが、それでも、それなりにギフチョウ愛はちゃんとある。特別な蝶の一つではあるのだ。

この日も快晴。でも春特有の霞が掛かったような空だった。
そういや、雲雀(ヒバリ)が喧しく歌いながら天高く飛んでいったのを思い出したよ。しみじみ春だなあと思った。
こうゆう時は、横に誰か女性が居て、互いに黙して風景を見ていたいものだと思う。

 

 
乗り降り自由の切符だからアチコチ回って、最後に桜ノ宮で夜桜を見てから帰った。

黄昏どきの桜も美しい。
青の色を失いつつある空が、心をゆらゆらと揺らす。

 
 

 
4月12日。
青春18切符の旅の最終日は、和歌山へと向かった。
先ずは道成寺駅で下車。

 

 
この日の空は澄んだ青だった。
雲も白い。

 

 
田辺へと向かう車窓に突然、空と海とが飛び込んできた。
フレームの中で青と青が、せめぎ合う。
けれど春の空も春の海も、どこか優しい。やわらかな陽射しの中で、たゆたっている。

田辺の街をぶらぶらと歩く。

 

 
南方熊楠顕彰館の隣にある旧熊楠邸では、ミツバツツジが咲いていた。やはりピンクの花は青空と合うんだね。何だか、ほっとする。

 

 
田辺の夕暮れ間近の歓楽街を歩く。
細い舗道には誰もいなくて、何処かの時代へタイムスリップしたかのような錯覚に陥る。そこには長い年月がゆっくりと削り取った時間の澱みたいなものの残滓がある。
それを、人はノスタルジーと呼んでいるのかもしれない。

 
 

 
5月2日。
これは一瞬、画像を見ても自分でも何だか分からなかった。
前後の画像を見て漸くコシアブラの木だったと思い出した。この日は四條畷に山菜採りに来たのだった。

 
(コシアブラ)

 
他には、イタドリとワラビくらい。

 

 
そういや、タカノツメも採ったね。
植物学的にはコシアブラと近いものらしいが、味は劣る。

 

 
ついでにカバフキシタバ(註2)の食樹であるカマツカ探しも兼ねていたかな。

 

 
ふと、スミナガシ(註3)にも会おうと思い立ち、場所を移動して大阪平野を望む。
ぼんやりとした春の空の下(もと)、街はベールが掛かったかのように、けぶっている。
昔は春が好きじゃなかったけど、今はとても好きだ。冬がどんどん嫌いになっているから、ホント待ち遠しい。

 
 

 
伊丹空港(大阪空港)だ。
日付は5月7日。とゆうことは、シルビアシジミ(註4)の様子でも見に行ったのだろう。
空港には、真っ青な空がよく似合う。

 
 

 
上の写真は瓢箪山駅の手前だとすぐに分かった。山並みの形が見慣れた生駒山地だったからだ。
だが日付を見ると、5月13日となっている。どうせアサマキシタバ(註5)でも採りに行ったのだろうと思っていたが、時期的にはまだ微妙に早い。じゃあ、何しに行ったのだ❓

💡ピコリン。
そっか、思い出したよ。スミナガシを採りに行ったんだ。四條畷では何故か現れなかったので、仕方なしに生駒に来たんだった。しかも、難波からママチャリで。マジ、遠かったわ。
あとは去年の初冬にカマツカの木を見つけたけど、本当にそうなのかを確認するためでもあった。あの特徴的な花が咲いてさえいれば、確定だからね。

生駒から大阪の街を見下ろすのは好きだ。
此処まで登ってくれば、空を遮るものは背後の生駒山だけだし、空が広いのは気分がいい。それに何となく街を支配したかのような気分になれる。

 
 

 
5月24日。
枚岡神社の手前辺りで日が沈んだ。
この時間帯に此の地点に居るという事は、今度こそ目的はアサマキシタバだろう。彼女たちは夜に活動するからね。
そして、眺め的に間違いなく又してもチャリである。遠いだけでなく、山の中腹まで登らねばならんから、もうクソみたいにしんどいのだ。
難波から、こんなとこまでママチャリで来るなんてのは、どう考えても中学生レベルの発想だな。ようはアホである。全然成長してない。

 

 
夜の空。
当たり前だが、夜の空は暗い。
懐中電灯を消すと、一瞬は真っ黒けだ。けど、そのうち目が慣れてくると、ぼんやりと色んなものが形を成してくる。そして夜の空にも表情がある事に気づく。雲は昼間と同じように動いており、けっしてとどまることはなく、風景は一様ではないのだ。

 

 
山側の空は暗いが、大阪平野側は街の灯が明るいから、それに照らし出される空も明るい。
でも曇っているから、見ようによっては不気味だ。
きっと、そのうち悪魔共が空をヒュンヒュンでワンサカ飛び交いだし、やがて大阪の街は火の海と化すのだ。ψ(`∇´)ψケケケケケ…。

夜の山に一人でいると、ロクなことを考えない。

                         つづく

 
追伸
(ー_ー゛)う〜む。今更ながら武田尾辺りの文章を書いてる時に思い出したよ。すっかり忘れていたが『青春18切符の旅 春』と題した連載が、武田尾駅まで戻ってきたところで中断、っていうか頓挫、第二章の途中でプッツンの未完のまま放ったらかしになっておるのだ。
そっから、またアッチコッチ行って夜桜に繋がるのである。
我ながら割りと面白い紀行文ゆえ、宜しければ読んで下され。そのうち続きも書きます。

次回は後編の夏・秋冬編。
空が写ってる画像はもっと少ないかと思ってたが、意外と多かったので2回に分けることにしたのだ。

 
(註1)春の三大蛾
エゾヨツメ、イボタガ、オオシモフリスズメのこと。

 
【エゾヨツメ】

(2018.4 兵庫県宝塚市)

光の加減によっては、目玉模様がコバルトブルーに光る。

 
【イボタガ】

(2018.4月 兵庫県宝塚市)

デザインに似た者がいない、類を見ない唯一無二の大型蛾。
このモノトーンの幾何学模様には、何度見ても不思議な気持ちにさせられる。多分、その翅には太古の昔の財宝の在り処が示されているに違いない(笑)。

 
【オオシモフリスズメ】

(2018.4 兵庫県宝塚市)

異形の者、化け物、魑魅魍魎。悪魔のステルス戦闘機。
日本最大のスズメガで、鵺の如きに鳴く(笑)。
でも慣れると可愛い(´ω`)

これらはギフチョウと同じく年一回、春先だけに現れ、何れも人気が高い蛾である。
気になる人は、当ブログにて『春の三大蛾祭』とかと題して2017年と2018年の事を分けて書いたので読んでけろ。コミカル・ホラーでっせ(笑)。

 
(註2)カバフキシタバとカマツカ

【カバフキシタバ】

ヤガ科カトカラ属の稀種。主に西日本に局所的に分布する。
カバフキシタバの事もカトカラシリーズで何編か書いている。
そういや最初に書いた『孤高の落ち武者』もコミカル・ホラー的な文章だったかもしれない。

 
【カマツカ】

バラ科の灌木。名前の由来は材が硬くて鎌の束などに使われた事から。

 
(註3)スミナガシ

【♀】

 
【♂】

タテハチョウ科スミナガシ属の中型の蝶。
名前の由来は古(いにしえ)の宮中の遊び「墨流し」から。
日本の蝶の中では唯一、眼が青緑色でストロー(口吻)が紅い。
稀種ではないが、かといって何処にでもいる蝶ではなく、その渋美しい姿からも人気が高い。
たぶん、スミナガシの事もちょくちょく書いてる。でも詳細は全然思い出せないので、自分で自分の書いた文章を検索すると云う変な事になる。
えー、本ブログ内の奄美大島に行った時の紀行文『西へ西へ、南へ南へ』の中に「蒼の洗礼」と題して書いている。アメブロの方の「蝶に魅せられた旅人」には『墨流し』と題して書いている。他には台湾の採集記にも出てくる筈だ。

 
(註4)シルビアシジミ

全国的に数が少なく絶滅危惧種だが、何故か伊丹空港周辺には普通にいる。
シルビアシジミの事も『シルビアの迷宮』と云う長編に書いた。内容はミステリー仕立てだったような気がするけど、あんま憶えてない。

 
(註5)アサマキシタバ

【♂】

(2019.5 奈良県大和郡山市)

 
カトカラの中では発生が最も早く、5月の半ばから現れる。
そのせいなのかはどうかは知らないけど、最も毛深いカトカラだと思う。
採集記と種の解説は、拙ブログのカトカラの連載に『晩春と初夏の狭間にて』『コロナ禍の狭間で』『深甚なるストレッケリィ』と云う題名で、それぞれ前後編の6編を書いた。詳しく知りたい人は、ソチラを読んで下され。
 
 

2020’カトカラ三年生 其の四 第一章

 
   vol.27 ヨシノキシタバ

    『吉野物語』前編

 
2019年 8月3日

青春18切符の旅の3日目である。
1日目は湖の畔でミヤマキシタバを狙うも惨敗。昨日は白馬村のキャンプ場に移動してアズミキシタバを狙うが、これまた惨敗。そして今日はヨシノキシタバ狙いで山の上に行く予定だ。

ヨシノには密かに憧れている。愛好家の間でも人気が高く、最も美しい前翅を持つカトカラだと評する人もいるくらいだ。また分布は局所的で個体数も少なく、稀種ともされている。石塚さんの『世界のカトカラ』でも★星4つと高評価だ。この★が4つ以上のカトカラは他に6種だけで、カバフキシタバ、ナマリキシタバ、アズミキシタバ、ヤクシマヒメキシタバ、ミヤマキシタバ、ムラサキシタバという綺羅星の如き面々が並んでいる。

ヨシノという名前もいい。ヨシノといえば古来から桜の名所として知られ、また歴史ある土地としても有名な「吉野」が思い起こされるし、麗しき女性の名前も想起される。「佳乃」「吉乃」「愛乃」「美野」「与志乃」など何れも古風で雅びな風情があり、また響きもいい。「よしの」という名前の女性は、だいたい美人と決まっておるのだ。
今宵は、お嬢にめぐり逢えることを心から祈ろう。そして恋に落ちよう。

昼過ぎ、バスターミナルまで行く。
着いたらバスが出たあとで、次の便まで1時間以上もあった。タイミング、最悪だ。
なのでヒマを持て余して、夕飯にする予定だったローソンで買った麻婆豆腐を食ってしまったなりよ。

 

 
この麻婆豆腐、結構旨かった。
最近のコンビニはレベル上がってると聞いていたけど、ホントなのね。普段あまりコンビニで食いもんは買わないし、買っても🍙おにぎりとかサンドイッチくらいだから全然気づかなかったよ。

で、食い終わって突っ伏したんだよね。無駄に待ってる事もそうだけど、惨めな連敗続きとテント生活で身も心も疲弊していたのだ。にも拘らず、今から無謀な計画を敢行しようとしている自分に、何やってんだ俺❓と思って突っ伏したのだった。いい予感が何処にもない。

車窓を流れる風景をぼんやりと眺めていると、心底バカバカしくなってきた。たかだか蛾を採りたいばかりに今から山中の暗闇を一人ウロつくのだ。一般ピーポーからすれば、どう考えても狂気の沙汰だ。しかも当然の事ながら夜のバス便なんてないから、帰りのバスは無いときてる。つまり、行きっぱなしの片道切符なのだ。
戻るには、朝まで過ごして始発のバスに乗るか、歩いてキャンプ場まで帰るかしかない。歩くのなら、下りとはいえ多分1時間半、いや2時間、下手したら3時間くらいかかるかもしれない。車窓から見た限りでは麓まで街灯は皆無だ。夜は真っ暗闇になる事は必定だろう。熊が出たら一巻の終わりである。誰も助けてくれん。(ノД`)シクシク。

猿倉荘に着いたのは午後3時半くらいだったように思う。

 

 
確かに周辺はブナだらけだった。
ブナの森は美しい。何だか人の心をホッとさせるものがある。巨樹も多いし、精霊が宿っているような気がするのである。たぶんヨシノキシタバも精霊に違いない。

 

(画像は別の場所です。)

 
ヨシノキシタバ(Catocala connexa)の食樹はブナだから此処に居ることは確実だろう。
問題は、ヨシノが果たして糖蜜トラップに寄って来るかどうかだ。いくら沢山いようとも糖蜜に寄ってこなくては徒手空拳である。ライトトラップは持ってないのだ。
文献を見ると、東日本では樹液に殆んど寄って来ないらしい。糖蜜トラップでの採集例も知る限りでは無い。よくそれで来たなと自分でも思う。
けど、蛾の生態情報は眉唾で見てる。どこか信頼できないところがあるのだ。だから糖蜜には来ないと言われてても鵜呑みにはしないようにしてる。実際、今まで図鑑とは違う生態を幾つも確認しているしね。従来オオシロシタバは花蜜を好み、樹液にはあまり来ないとされてきたが、糖蜜にはよく集まる。稀種とされ、灯火採集が当たり前のカバフキシタバだって糖蜜でタコ採りしてやったもんね。カバフは樹液よりも糖蜜の方が採れるのだ。ならば、樹液にあまり来ないと言われてるヨシノだって糖蜜なら楽勝かもしれない。ゆえに何とでもなると思ったのさ。とゆうワケで、我がスペシャルレシピの糖蜜だったら、んなもん粉砕じゃい(ノ ̄皿 ̄)ノ❗と意気揚々と信州まで乗り込んで来たのである。

 
【オオシロシタバ Catocala lara】

(2020.8月 長野県木曽町)

 
【カバフキシタバ Catocala mirifica】

(2020.7月 兵庫県宝塚市)

 
蛾の情報を鵜呑みしないのは、情報量が少なすぎるからだ。少ないゆえ、それが本当に事実なのか、それとも間違った情報なのかを見極めることは難しい。
これは蛾の愛好家が少ないからだろうが、それだけではないような気もする。その情報が本当に正しいのかどうか疑問を持って調べるような気概のある輩が少ないような気がするのだ。情報を鵜呑みにして、そこに疑問を持たない蛾屋さんが多い気がしてならない。ネットを見てても、新たな知見を書いている人は少ないように思う。
勿論、そうじゃない人もいるのは知ってはいる。別にディスりたくてディスっているのではない。元々蝶屋のオラが言うと怒りを買うのは解っているが、是非とも奮起して戴きたいのだ。蛾は蝶と比べて判明していない事が多い。自らで新たな発見をし、世に知らしめるチャンスがまだまだある世界だ。つまり、蝶と比べて浪漫がある世界なのだ。情報を鵜呑みにするなんて勿体ないではないか。
蛾屋諸君よ、勃ちなはれ❗エレクトしなければ、虫採りは面白くない❗❗
とはいえ、最近の若手蛾屋の活躍は目を見張るものがある。こんなこと言う必要性は無いかもね。

偉そうなことを宣(のたま)ったが、その新たな地平を切り裂いてやれと云う気持ちも、正直なところ昨日、一昨日の2連敗で足元から揺らぎ始めている。糖蜜に寄って来ないワケではないのだが、関西にいる時みたいに今一つ爆発力がない。東日本では糖蜜があんまし効かんのかもと思い始めていたのである(註1)。
それだけじゃない。ここは標高が1230m以上もある。ヨシノが発生しているかどうかは微妙だ。未発生の可能性も充分に考えられるのだ。バクチ度はかなり高いよなあ…。けんどバクチを打たなきゃ、欲しいものは手に入らない。

 
夜が来るまで、凄く長かった。

 

 
ブナの他にミズナラとかも結構あるし、ゼフィルス(ミドリシジミの仲間)でも採ってヒマを潰そうと思ったが、1匹もおらんのだ。どころか蝶が全くと言っていいほど何もおらん。長野に来てから何やってもダメだ。

 

 
半分ふて腐れて砂利道に仰向けになる。
空が青いなあ…。何だか採れる気が全然しないや。
なのにナゼここにいるのだ❓いる意味あるのか❓益々、自分で自分が何やってんのかワカランくなる。

 
午後7時半。ようやく闇が訪れる。長かった…。

 

 
糖蜜の用意をしていたら、変な蛾がシツコク体に纏わりついて邪魔してきた。何ゆえワシの足に止まるのだ❓
見たこと無い奴のような気がするが、どうせクソ蛾だろう。小馬鹿にしやがって(-_-メ)
何だかなあ…。昔から好きじゃない女に追いかけ回されてる時は調子が悪いのだ。たぶん生体エネルギーが落ちているんだろう。えてして、そうゆう時はオーラが弱まっているから悪い気が入り込みやすい。だからロクでもないものが寄って来るんである。詐欺師など悪い人は弱ってる奴を狙うって言うからね。嫌な予感が過(よ)ぎったよ。

その予感は見事に的中した。
ブナ林では普通種のゴマシオキシタバくらいは、いくら何でも寄って来るだろうと思ってたが、殆ど何も飛んで来んかった。
飛んで来たカトカラは、8時10分に来たコレだけ。

 

 
ゴマシオだと思いつつもヨシノだったらいいなと思って採ったカトカラは、まさかの何とズタボロのキシタバ(C.patala)だった。ボロ過ぎて何者なのかワカランかったのだ。
何で低山地にいるド普通種のキシタバ(註2)が、よりによってこんな所におるのだ❓しかもスーパーにボロ。こんな高い標高で屑キシタバを、それも糞ボロを採るだなんて可能性は確率的にモノ凄く低いものと思われる。ある意味、スゴい引きである。逆説的奇跡だ。
何やってんだ俺(´-﹏-`;)❓やるせない気分を闇に投げつける。

 

 
ヤケクソで、見たことのない蛾を1つだけ採って(註3)、9時半には下山を開始した。

暗い。

 
  

 
とにかく暗い。笑けるほど真っ黒だ。試しに懐中電灯を消したら何も見えなくなった。四方八方がウルトラブラックの世界の中で、遠近感ゼロになる。対象物が何も見えなければ、人間の目は何処にも焦点が合わないのだ。
発狂しそうになったので慌てて灯りを点ける。光の束が何とか闇を押し退ける。コレって、もし何かの突発的トラブルで懐中電灯が壊れたら…。(ㆁωㆁ)死ぬな。持ってる懐中電灯は百均で買ったもので極めて劣悪なる製品なのじゃ。恐ろしいことにしばしばサドンデスしよる。ブラッキャウト(BLACK OUT)❗熊の餌食になる前に発狂死かもな…。

五感を研ぎ澄まして尚も坂を下る。風は死んでいる。自分の歩く音だけが闇に変な感じに強調されて谺する。
一刻も早くこの地獄から脱出したい。そう思うから急ぎたいのたが、さっきから足の指と踵が痛みだしている。新しい登山靴のせいで昨日から靴ズレになっているのだが、それがドンドン酷い状態になっていってるのが自分でもよくわかる。
痛みは更に増してゆき、やがて足を引きずるような歩き方になった。もし今ここで熊に襲われたら走れないなと思う。恐怖に駆られて、慌ててザックから網を出して組み立てる。これを上に掲げておれば、熊だって何者かと恐れをなして近寄って来ないかもしれないと考えたのだ。網の円が顔に見えたら相当デカい生物に見える筈だ。それにもし襲って来たとしても、柄でメッタ打ちのタコ殴りくらいはできる。何なら柄の底で目を突いて潰してやるぜ。どうせ死ぬのなら、相手に襲ったことを後悔させるくらいのダメージを与えてやる。

熊の気配を敏感に嗅ぎとろうと五感をマックスに研ぎ澄ましつつも、同時に目は飛翔物を探している。あわよくばヨシノが飛んでないかと期待もしていたのだ。地獄の沙汰も蛾次第なのである。因果な趣味だよ。

それにしても遠い。歩いても歩いても坂道は延々と続き、漆黒の闇は終わらない。もしや異次元ワールドにでも迷い込んだのでは❓と段々不安になってくる。ここで👽異星人が出現でもしたら、熊よかシャレにならん。発狂寸前男は、ラバウル小唄を口ずさむ。

漸く「おひなたの湯」の灯りが見えてきた。
温泉に入れてもらえんやろけ❓ とっても足が痛いんじゃー。湯治させてくれんかのー(´ε` )
一縷の望みにかけるが、着いたら閉まっていた。宿じゃないんだから、こんな時間にやってるワケがないよね。期待したアタイが馬鹿だったよ。

でもここまで来たら、行きのバスの記憶ではキャンプ場まではそう遠くない筈だ。車での所要時間を徒歩に換算すると、実際はとんでもなく遠かったりするんだけどもね。
それでも此処まで来たら、熊の恐怖もだいぶ薄まった事だし、気持ちはだいぶと楽だ。まだ油断はできないけど…。

取り敢えず、一旦休憩しよう。この場所なら外灯があるから、まさか熊も襲って来んじゃろうて。

靴下を脱ぐと、両足とも血だらけになっていた。
もう身も心も満身創痍である。そして、地獄の3連敗がほぼ確定だ。標高的に採れる確率は絶望的に低い。
ペシャンコになったオニギリを食いながら、深い溜息をつく。心は熊の恐怖から開放された安堵感と惨めな敗北感とがない混ぜになった奇妙な気分だった。
見上げると、星が死ぬほど綺麗だった。涙が出そうになった。

案じたとおり、世の中そんなに甘くなかった。その後もかなり歩いた。やはり車って速いわ。レンタカーを借りるという考えは全然浮かばなかったんだから仕方ないよね。

ボロボロになってキャンプ場に着いたのは、午前0時過ぎだった。ここまで2時間半以上も掛かったワケだ。
後で調べたら、猿倉荘からキャンプ場までは約9Kmだった。普段の自分なら普通に歩いても1時間半もあれば着く距離だ。「飛天狗」とも呼ばれた韋駄天のワタクシだ。本気の高速歩きなら1時間以内で歩けただろう。

酒でも飲みたい気分だが手に入るワケもなく、絶望を抱いて寝袋に潜り込む。やがて、泥のような眠りが訪れた。

翌朝、テントを見たらセミの抜け殻が付いていた。
昨夜は全然気づかなかったが、地面を這って此処まで登ってきて羽化したのだろう。

 

 
何もこんなところで羽化することないじゃないか。周りに他に登れそうな木はいっぱいあるのに何で❓ 何だかセミにまでもバカにされたような気分だった。
コヤツを見て、村を出ようと決心した。これ以上ここに居てもマイナスのスパイラルから脱け出せないだろう。セミにバカにされるような男には、エンドレスにヨシノなんて採れるワケがない。今年はもうヨシノ嬢のことは諦めよう。
珍しく弱気なのは、ヒドいフラれ方で完全に心が折られていたからだ。昔から惚れた女に何度も告るほどの強靭なメンタリティーは持ち合わせていない。

 
                       つづく

 
追伸
この旅での惨敗で、東日本での糖蜜採集の限界を痛いほど知らしめられた。それで2020年は灯火採集へと半分シフトした。結果、蛾屋の皆さんたちが主に灯火採集をする理由も理解したよ。
しかし、今後とも糖蜜採集があまり効果がないとされているカトカラに対してもチャレンジすることはやめないだろう。得られる生態面の情報は灯火採集よりも多いからね。新たな発見があるからこそ面白いのだ。灯火トラップは採集効率はいいかもしれないが、生態面に関しては大した知見は得られない。
とは言いつつ、それでも生態を紐解く鍵は僅かながらも有るとは思う。けれどもネットなんかはユルい孫引きばかりだ。ライトしましたー。何々が飛んで来ましたー。ハイ、おしまい。それじゃ観察眼が無さ過ぎる。何の参考にもならんのだ。詳しい場所を書けとまでは言わないが、せめて日付や飛来時刻、その日の天候や気温、標高くらいは書いておいてくれと思う。もしかして、教えてたまるかの😜アッカンべー精神❓ だったとしたらセコ過ぎる。
まあ、時代だろね。こっちだってホントなら採集地もキッチリ書きたいところだが、周りに止められてるから最近は詳しく書けてないしね。情報が下手に回れば、ルール無視の人間が場を荒らすから明かさないというのは理解できる。でも地名は、よっぽど細かく書かなければ問題ないと思うんだけどなあ…。例えば松本市だけじゃ探しようがないくらい広いけど、その下の郡とか町レベルまではいいんじゃないかと思う。トレジャーハンティングじゃないけど、あまりにヒントが無いと面白くないよね。やる気が起こらないのだ。それじゃ人も育ちまへんで。

ちなみに、この時の青春18切符の旅は連作となっている。
前日譚はアズミキシタバの回に『白馬わちゃわちゃ狂騒曲』と題して書いた。前々日譚はベニシタバの回『薄紅色の天女』の後半部分と繋がってる。後日談は翌日のミヤマキシタバの『突っ伏しDiary』に始まり、以下ナマリキシタバの『汝、空想の翼で駆け、現実の山野にゆかん』、ワモンキシタバの『アリストテレスの誤謬』、ハイモンキシタバの『銀灰の蹉跌』、ノコメキシタバの『ギザギザハートの子守唄』、ヒメシロシタバの『天国から降ってきた小さな幸せ』へと順に連なってゆく。それで、この時の旅の全貌が分かる仕掛けになっている。暇な人は読んでみて下され。
次回は後編の2020年の採集記です。

 
(註1)東日本では、あまり糖蜜が効かんのかも…

そんな事はないのだが、そんな傾向も無きにしもあらずというのが現在においての見解である。
この翌日にはミヤマキシタバとベニシタバが糖蜜でけっこう採れた。その翌々日は、多くはないが上田市でワモンキシタバ、ノコメキシタバ、ハイモンキシタバも採れた。その後も長野県や岐阜県ではそれなりの成果を上げてはきた。しかし関西ほどに爆発的成果は上げていない。寄って来るには来るのだが、全体的に数が少ないのだ。
思うに、どうもこれは標高と関係しているのではなかろうか。比較的飛来数の多かったミヤマ、ベニのポイントは標高800mくらいだったが、上田市は1300mだった。他に試した場所の標高は1200〜1700mで、何れも全般的にカトカラの飛来数は多くはなかった。もしかしたら標高1000m、特に1300mをこえると活発に食物摂取をしないのかもしれない。そもそも標高が高ければ高いほど樹液が出ているような木は少なくなる筈だから、或いは花蜜など別なものを主体に摂取しているのかもしれん。まさかの水飲んで生きてたりしてね。

因みに1700mでも結構来たのはオオシロシタバである。花蜜を好むとされてたから、これは意外だった。ムラサキシタバやベニシタバも高い標高でも割りと来る。

 
(註2)ド普通種のキシタバ

あの画像では、どんなカトカラなのかワカランし、どんだけボロかもワカランので、まともな画像も貼っつけておきます。

 
【キシタバ Catocala patala】

 
関西なら何処にでもいるド普通種。それゆえ「ただキシタバ」と呼ばれる事が多い。ただのキシタバだからだ。他に「テブキシタバ」「ブタキシタバ」「クソキシタバ」「クズキシタバ」など更に酷い呼ばれ方もされている。
もし普通種でなければ、そこそこ高い評価をされて然るべきカトカラなのにね。何てったって日本最大のキシタバであり、ユーラシア大陸を含めてもコレに匹敵するキシタバ類は他にタイワンキシタバ(C.formosana)くらいしかいないんである。実際にヨーロッパ辺りでは、かなり評価が高いらしいしね。
そもそも和名も悪い。ただの「キシタバ」だから、それがキシタバ類全般を指しているのか、それとも種そのものを指している言葉なのかが分かりにくいので、こうゆう「タダ」だの「デフ」「クソ」だのをアタマに付されるのである。もしも学名そのままの「パタラキシタバ」や、デカイので「オニキシタバ」とでも名付けられていたならば、ここまでボロカスに言われることはなかったろうに。
今まで折りに触れ言ってるけど、早急に改名して欲しいよ。

おっと言い忘れた。この時はまだカトカラ2年生なので知らなかったが、標高1200mでもキシタバは採れる。但し、数は低地ほどには多くはない。けどライトトラップでの話だから、もしかしたら麓から飛んで来た可能性もある。キシタバは飛翔力あるからネ。でも猿倉のこの個体は麓から飛んで来た可能性は極めて低い。いくらワシのスペシャルな糖蜜の匂いがスゴかろうとも(笑)、麓までは匂いは届かんだろう。ゆえに元々周辺に居たことになる。💢何処にでもいやがって(-_-;)

 
(註3)ヤケクソで見たことのない蛾を一つだけ採って

名前は、ハガタキリバ(Scoliopteryx libatrix)というらしい。
調べた時は最初、芳賀田切羽かと思った。だが芳賀田さんが発見したからではない。正しいのは歯形切羽で、前翅の形からの命名だろう。
開張は約46mm。
分布は北海道、本州、四国、九州と広くて、生息地も丘陵地から比較的高い山地と広い。しかし個体数は何処でも少ないようだ。そこそこ珍しいから初めての出会いだったんだろね。
出現期は5~9月で、春と夏の年2化だそうだ。でもって成虫越冬らしい。そんなに長生きだとは、ちょっと意外だった。
成虫はクヌギやコナラの樹液に集まるみたい。だから糖蜜トラップにも来たんだね(飛来時刻は午後8時)。
幼虫はヤナギ科のバッコヤナギ、カワヤナギ、ポプラの葉を食べるそうだ。という事はベニシタバの生息地にはいる可能性が高そうだ。

雌雄の違いは触角で簡単に見極められるようで、♂だけ触角が鋸歯状になるという。画像に写ってる個体は鋸歯状・櫛状になってないから♀だね。

展翅画像はない。おそらく心が折れてて、展翅する気すら起きなかったのだろう。でも下翅がどんなのか気になる。ネットで展翅画像を探そう。

 

(出典『www.jpmoth.org』)

 
コレが♂のようだね。上翅が美しい。
でも後翅は多くの蛾と同じく地味。もし下翅も美しかったら相当に魅力的だから、蛾の素人のワシでさえも存在くらいは知っていただろう。
まあ下翅の地味さを差し引いても思ってた以上にフォルムはカッコイイ。展翅してやってもいいかもしんない。でも去年のものだし、探すのは大変そうだ。

 
ー参考文献ー

◆石塚勝己『世界のカトカラ』
◆西尾規孝『日本のCatocala』
◆『むしなび』
◆『www.jpmoth.org』

 

2020’カトカラ3年生 其の弐(1)

 
 
  vol.25 ナマリキシタバ 第一章

汝、空想の翼で駆け、現実の山野にゆかん

 
2018年 8月13日

ずっと蝶屋だったが、この年から本格的に蛾のカトカラ(シタバガ亜属)も集めだした。蛾は苦手だけど、カトカラは綺麗なモノが多いし、胴体もあんまし太くないから抵抗感があまりなかったのだろう。
そうゆうワケで、謂わばこの2018年が自分の中での「カトカラ元年」と相成った。

ナマリキシタバも初年度から狙いにいった。関西には武田尾渓谷という手軽に電車で行ける有名な産地があったからである。
最初はまだカトカラをそんなに真面目に集める気はなかったけど、この1か月程前に稀種カバブキシタバを採ったあたりから集める気持ちが加速した。その流れの中で、ネットの『兵庫県カトカラ図鑑(註1)』というサイトを見つけた。そこに載ってたナマリキシタバの画像が無茶苦茶に渋カッコ良かった。しかも稀少度は最高ランクの★5つになっていた。
そこからナマリへの憧憬の旅路が始まった。

 
【ナマリキシタバ Catocala columbina ♂】

(出典『www.jpmoth.org』)

 
その後、ナマリの画像をネットで探してみたが、あんなに美しいナマリキシタバの標本画像は他に見たことがない。前翅の複雑な模様の中に、ビカビカの稲妻のような黄色い線がギザギザに走っているのだ。
残念ながら、その画像は取り込めないゆえ掲載できないけど、文末にURLを載せておいたので、興味のある方はアクセスされたし。
あっ、そんな事しなくとも「兵庫県カトカラ図鑑」と打つだけでもヒットはするんだけどもね。

この日はA木くんを焚き付けて、武田尾温泉近くで灯火採集をした。彼は蝶と蛾の二刀流だが、まだナマリは採ったことがないと知っていたから乗ってきてくれると思ったのである。

 

 
そこまでは目論見通りだったが、蛾は沢山飛んで来たのにも拘わらず、ナマリの姿はついぞ見られずじまいだった。
たぶん午前0時くらいには撤退したかと思う。こっから先の時間帯がナマリの飛来タイムである事すら知らなかったのだ。
でもまだ、この時点では楽勝気分だった。自称「まあまあ天才」。蝶なら大概の種は一発で仕留めてきた男なのだ。ゲット数250種くらいある中で、採りに行って連敗した蝶は片手にも満たないのだ。

 
2018年 8月15日

翌々日、渓谷の反対側(南)に行った。
ライト・トラップは持っていないので、糖蜜トラップで採れないかと思ったのである。まあまあ天才なのだ、いくらナマリキシタバがカッコ良くて珍しかろうとも、たかが蛾だ。とっとと片付けてやろう。

後ほど図鑑等で知ったのだが、環境的には絶好の場所で、如何にもナマリが居そうなところである。

 

 
周辺には、幼虫の食樹であるイブキシモツケも沢山生えている。

 

 
やがて、闇が訪れた。

 

 
ここは旧国鉄福知山線の跡地で、今はハイキング道になっており、線路とトンネルがそのまま残っている。
そのトンネルの奥は真っ暗だ。闇が尋常でなく濃い。

 

 
あんぐりと開いた不気味な黒い口の先は、背中に悪寒が走るほど深い闇だ。
怖がりで小心もんのワシには、チビるに充分なシチュエーションじゃよ。

昼間だと、↙こんな感じだが、それでも充分に怖い。

  

 
何てったって、出口の明かりさえ見えない長いトンネルだってあるのだ。昼間でも懐中電灯が無ければ歩けないようなレベルの暗さなのだ。

時々、と云うか頻繁にトンネルの方に目を遣る。

だって、奥から魑魅魍魎どもが走ってきたら、ワシのマイライフはジ・エンドなんだもーん༼;´༎ຶ ۝ ༎ຶ༽

いつでも全速力で逃げられる用意をしておかなくてはならんのだ。一歩でも逃げ出すスピードが遅れれば、致命的な結果になりかねない。

しかし、そこまで必死こいて頑張ったのにも拘わらず、糖蜜に来たのはムクゲコノハとアケビコノハ、それとオオトモエくらいだった。

 
【ムクゲコノハ】

(2019.8月 岐阜県高山市)

 
乙女のカッチャンは「ねっ、ねっ、コイツ綺麗だよね。」と言ってたけど、正直なところ毒々しくて気持ち悪い。元来、蛾はキモいから苦手なのだ。ってゆうか、怖い。餓鬼の頃からの蛾=邪悪と云う図式の刷り込みは容易な事では拭い去られるものではない。

コイツと次のアケビコノハは、よく糖蜜に寄ってくるが、妙に敏感ですぐ逃げよる。これが💢イラッとくる。だから、しばしばバイオレンスな気持ちになる。まだシバき倒してやった事はないけどさ。

 
【アケビコノハ】

(2019.5月 大阪府東大阪市)

 
普通種だが、素直な気持ちで見るとカッコ美しい。
でも前述したように、しばしば殺意を抱(いだ)く存在。

 
【オオトモエ】

(2018.8月 奈良県大和郡山市)

 
個人的には「マスカレード」と呼んでいる。
仮面舞踏会のマスクみたいなデザインだからだ。大きくて見栄えも良いから割りと好きな蛾だが、翅が薄くて直ぐにボロボロになりよる。たぶん藪の中とか変なとこを飛ぶせいもあるのだろう。パッと見キレイそうだからと採ってみたら、大概が縁がボロボロになっとる。羽化直後のような新鮮な個体でも、どこか破れているのだ。そんなワケだから採る度ごとに一々ガッカリするし、コヤツも敏感な奴が多くて直ぐ逃げるのも何だかムカつく。だから最近は見てもフル無視だ。

それにしても展翅がなあ…。よくよく見ると下手クソだわさ。まだ蛾の展翅には慣れてない初期の頃のモノだから、前翅が上がり過ぎてるし、触角の角度も上向き過ぎてる。蝶と蛾とでは羽の形が微妙に異なるから、蝶とは勝手が違うのだ。来年は改めて採り直して、完璧なのを作ろっと。
あっ、全然関係ないけど、台湾の青いトモエガは超カッコイイから是非とも自分の手で採りたいね。

 
【Erebus albicincta obscurata 玉邊目夜蛾】

(出典『飛蛾資訊分享站』)

 
美しいだけでなく、結構デカいらしい。
これはマジで採りたいから、どなたかポイントを教えてくれんかのう。

 
2019年 7月24日

2019年の一発目は、武田尾駅の1つ先の道場だった。
ここにもナマリキシタバの幼虫採集の記録があるからである。去年、武田尾で2連敗した教訓から、場所を変えてみようと考えたのだ。ターゲットを落とす為には、ありとあらゆる可能性を考えて戦略を練らなくてはならない。女の子を落とすのと同じだ。
あっ、でもワシって、いつもその場その場の出たとこ勝負だわさ。まあ、それも戦略っちゃ戦略かもなあ…。

場所は謂うなれば前回とは反対側の渓谷の北の外れにあたり、ここから武田尾渓谷を経て生瀬まで幼虫の採集記録がある。
でも、見たところ幼虫採集のみの記録しかなくて、成虫が採れたと云う話は聞いたことがない。そこんとこは気になるところではある。皆さん、成虫は中々採れないゆえに幼虫採集をしやはるみたいだ。どうやら標本を得るためには、終齢幼虫を採ってきて親にするのが一番手っ取り早いらしいのだ。
でも、蝶を採り始めた時からファーストコンタクトは成虫採集でなければならぬと云う強い拘りがある。はなから幼虫を採ってきて羽化させてハイ採れましたじゃ、卑怯な気がするのだ。どこか正々堂々と対峙してないと感じてしまう。
ことわっとくが、これは別に他人のやり方を誹謗中傷しているワケではない。単に自分は、そうゆう主義なのである。そこは己の生き方にも通じるところがあるから曲げれない。それだけの事だ。他人がどうあろうと関係ないし、興味もない。

 

 
千刈ダムまで行って引き返す。
周囲に灯りは全く無さそうで、日が沈めは真っ暗になると思ったからだ。それに何か辺りの風景が不気味だったので怖かったのだ。ダムってお化けとか幽霊が出そうなんだよなあ…。絶対に誰かが沈められてると思う。アッシ、自慢じゃないが、ウルトラ根性なしの怖がり屋で、チキンハート野郎なのさ。子供の頃、夜中に便所に行くのが怖くて妹に30円払ってついてきて貰ってたような男なのだ。

だいぶ手前の桜並木まで戻り、糖蜜を吹き付けてゆく。
何処であろうとも、採れりゃいいのである。異界の者に会うリスクは出来るだけ避けるべきじゃろう。

午後9時半くらいだったと思う。林縁の高い所を飛ぶカトカラを発見。
裏側は黄色いから、ナマリも含まれるキシタバ類に違いない。
大きさ的にはデカくないからパタラ(キシタバ=C.patala)ではない。消去法でいくと、既に発生が終わっているアサマキシタバやフシキキシタバの可能性も除外していいだろう。いたとしても相当なボロだかんね。どう見ても飛んでるのは、そんなボロ風情ではない。
この時期だと、おそらくコガタキシタバもボロだろうし、関西の低地だとワモンキシタバやウスイロキシタバも同じくボロだろう。それにウスイロは裏の色が薄く、オフホワイトだから間違う可能性は低い。
クロシオキシタバは主に沿岸部に棲み、内陸にはあまり居ない種だし、大きさもキシタバに次ぐものだからデカい。コレも有り得んだろう。

 
【キシタバ ♀】

(2019.6月 奈良県大和郡山市)

 
【アサマキシタバ ♂】

(2019.5月 大阪府東大阪市)

 
【フシキキシタバ ♂】

(2019.6月 兵庫県西宮市)

 
【コガタキシタバ ♂】

(2020.6月 兵庫県西宮市)

 
【ワモンキシタバ ♀】

(2019.8月 長野県上田市)

 
【ウスイロキシタバ 】

(2020.6月 兵庫県西宮市)
 
 
【クロシオキシタバ ♂】

(2018.7月 兵庫県神戸市)

 
残る可能性はアミメキシタバ、カバフキシタバ、マメキシタバ、そしてナマリキシタバくらいだろう。

 
【アミメキシタバ ♀】

(2019.7月 奈良市)

 
アミメって、此処に記録があるのかなあ❓ウバメガシが有ればいるかもしれないけど、あまり聞いた事がない。でも可能性はそれなりにあるだろう。

 
【カバフキシタバ ♀】

(2020.7月 奈良市)

 
カバフは稀種で、分布は局所的だ。いる可能性もないではないが、いない可能性の方が高い。

 
【マメキシタバ ♂】

(2020.7月 長野県北安曇郡)

 
マメは普通種だから間違いなく此処にも居るだろう。
でも翅形はナマリよりも細い気がする。飛んでるのはマメよりも翅が丸いような気がする。
となると、ナマリの公算は高いかもしれない。
しかし、降りて来ることはなく、やがて梢の上を優雅に越えて姿を消した。
まあいい、そのうち我がスペシャルレシピの糖蜜トラップに寄ってくるじゃろうて。何てったって、カバフを筆頭に樹液をも凌駕してきた糖蜜なのである。ドーンと来いじゃ❗

  

 
しかし、トラップには殆んど何もやって来ず、帰り際に飛んでたクソみたいな蛾(たぶんキマダラオオナミシャク)を思わず採ってしまう。
未曾有の大惨敗である。マジで心折れたね。

 
2019年 8月5日

まだ採ったことのないカトカラを求めての信州遠征5日目である。
ミヤマキシタバ、アズミキシタバ、ハイモンキシタバ、ノコメキシタバ、ヒメシロシタバ、ケンモンキシタバ、ヨシノキシタバを狙うも、前半は3連敗でボコボコ、漸く昨日になって何とかミヤマキシタバを仕留める事ができた。

 
【ミヤマキシタバ】


(上は♂で長野県大町市、下は♀で長野県木曽町)

 
とはいえ、連日のテント生活で疲れきっていた。おまけに新しい靴で死ぬほど歩き回ったせいで酷い靴ズレになってて、身も心もボロボロだった(註2)。

 

 
松本から新島々行きの電車に乗る。
目指すは、○○ちゃんに教えてもらった場所だ。

しかし、結構歩いた末に崖崩れで前へ進めず、ポイントには辿り着けなかった。仕方なく中途半端な場所で糖蜜を撒く。居ないとは言い切れないが、環境的にあまり期待が出来ないことは自分でも解っていた。でも糖蜜の甘い匂いに誘われて離れた所からでも飛んで来んだろう。生物の嗅覚は人間の想像する以上に優れていると言うからね。
でも(´Д⊂グスン。そうでも思わないと、やってらんないのである。

そして案の定、結果は惨憺たるもので、全くと言っていいほど何も飛んで来なかった。
もしかしたら、ナマリは糖蜜トラップでは採れないのかもしれない。となると、灯火採集用のライト・トラップが無いと無理なのか❓…。でも樹液に来たという記録は少ないながらも有るんだよなあ。

帰りに、駅で見たことがない蛾を見つける。
すわっ❗、ジョウザンヒトリか❗❓と思って採ってしまった…。

 

 
ついでにスタイリッシュな柄の別な蛾も採ってしまう。

 

 
蛾はカトカラとヤママユ系以外は採らない主義だが、何にも戦利品がないのは悲し過ぎる。なので、つい採ってしまったのである。そうでもしないと、溜飲が下がらなかったのだ。
けど、それで溜飲が下がったか?と訊かれたら、黙り込むかもしんない。所詮は己を誤魔化しているに過ぎないと、心の底では知っているからだ。

結局、帰って調べたら、別に珍しくも何ともない者たちであった。
最初のはシロオビドクガの♀みたいだ。

 

 
ドクガと名がつくが、毒はない。
♂は見た目が全然違くて、前翅の柄はもっと素っ気なく、後翅も黒くて地味。あまりにも両者の見た目が違うので、以前は別種だと考えられていたそうな。

2頭目はボクトウガの仲間である。

 

 
展翅したら、ズッコケるくらいに異様でブサいくな形(なり)だったんで、凹んだよ。
たぶん「ゴマフボクトウ」って奴だろう。

3頭目はマイマイガの仲間と知って、展翅すらしなかった。
たぶんノンネマイマイ。ノンネって何じゃらホイ?意味ワカランわい。死ねや(-_-メ)
マイマイガの仲間は時に大量発生するし、ホント気持ち悪い。触角もヤな感じだし、許せない。以前、カシワマイマイには一杯喰わされたしね(註3)。マジ、コイツら憎悪だ。

  

 
松本の居酒屋に入って、お通しのキャベツに味噌つけて食い、ビール飲んでテーブルに突っ伏す。
このシリーズを読んでおられる方ならお気づきだろうが、ここでも疲労と落胆で突っ伏していたのである。

 

 
店員のブス女に薦められたサラダである。
別にマズくはないのだが、如何せん量が多い。コレでソッコー腹一杯になった。
一人で居酒屋に入る時は絶対にサラダなんか頼まないのに、ブスの言うことなんて聞くんじゃなかったよ。

糞ブスめがっ(ノ`Д´)ノ彡┻━┻❗❗

やる事なすこと上手くいかなくって、オジサンは心がヤサグレてて、とっても荒(すさ)んでいるのである。女子店員に罪はない。

 

 
他にハジカミ(谷中生姜)の豚肉巻きも頼んだ。
けんど期待を下回るもので何ら感動がない。長野県って野沢菜以外にロクに旨いもんがないんだよなー。スマンが長野で食いもんに感動した事は一度だってないのだ。蕎麦は高いわりには美味くないし、馬刺は熊本の方が百万倍旨い。蜂の子とかも、さして旨くなくて、昔の人は食べるもんがないから仕方なしに食ってたんじゃないかという気さえする。五平餅はまだ許せるが、そもそも甘い味付けの食いもんは我が食のカーストでは底辺に位置するのだ。
それに、三河地方出身の小太郎くん曰く、五平餅の元々の発祥は三河で、そこと隣接する長野県南部の一部でも名物だが、それを他の長野県の地方がパクッてドサクサで長野名物にしてしまったという。どこまで本当なのかはワカランし、責任持たないけどね。真偽が知りたい方は、御自身で調べて下され。

ムカつくので、あとは只管(ひたすら)に酒をガブ呑みしてやったよ。
こういうのを、人は「ヤケ酒」と呼ぶ。

 
2019年 8月8日

この日は信州から大阪までボロボロになって戻ってきた。
にも拘らず、青春18切符だったので真っ直ぐには帰らず、根性で兵庫県の道場駅まで足を延ばした。

 

 
我ながら執念である。そこまでしてナマリに会いたいのだ。もうここまでくれば、恋愛の域だ。恋い焦がれている。

そして、今回は前回の道場のリベンジでもある。
でも全く同じ場所では返り討ちに遭うことは明白だから、ポイントを変えて前回よりも奥を目指した。そう、こないだはビビって逃げ出したあのダム・サイトだ。

この前は怖くて、それどころじゃなかったが、千刈ダムにはナマリの食樹であるイブキシモツケが山ほど有った。

よっしゃあー(ノ`Д´)ノ❗
ここで一発逆転じゃあ❗

この地でナマリさえ採れれば、逆転さよならホームラン、全ては大団円で終わるのだ。長野遠征の屈辱と疲れも一気に吹き飛ぼうぞ。

木と崖の岩に糖蜜を目一杯吹き付けてゆく。今日が旅の最終日なので、手持ちの糖蜜を全部使い切ってやる所存だ。

撒き終わった頃に日が沈み、真っ暗闇になった。
辺りには、ダムの放水音が不気味に響き渡っている。出るシチュエーションだ。そして、足を踏み外して落ちたら、土座右衛門必至である。で、朝にはプカプカと川に浮かぶのだ。旅の最後が溺死だなんて悲し過ぎるよ、ベイベェー。

だが、それだけ勇気を振り絞って頑張ったのにも拘わらず、又しても返り討ちに遭う。絶好の場所なのに、ナマリどころか殆んど何も飛んで来ん。武田尾といい、此処といい、極めて蛾の棲息密度が薄い。( ꈨຶ ˙̫̮ ꈨຶ )バカ野郎めが…。

ギザギザにササクレ立った心を抱えて、早めに離脱した。午前0時までに家の最寄りの駅まで帰らないと、青春18切符の期限が切れるのだ。
とにかく又しても負けた。しかも、未だに何の手掛かりも無いに等しい状態だ。光明が何処にも見えない。

 
写真を撮っていないので日付はハッキリしないが、実をいうと、8月12日〜17日の間にも武田尾に行ってる筈だ。北側の武田尾駅方面からトンネルを抜けて樹液採集に行った記憶が強く残っているからだ。
何故に強く脳髄に刻まれているのかと云うと、メッチャクチャ怖かったからだ。ダムの時よか遥かに恐怖はデカかった。
渓谷の南側からのアプローチはトンネル内に入らずともポイントに行けるが、北側からだとポイントに行くのにトンネルを少なくとも2つは通り抜けねばならないからだ。
トンネルといえば、心霊スポットの王道だ。ゼッテー、ヤバいのがいらっしゃるに決まっているのだ。そんな所に一人で行くなんて自殺行為だ。

 

 
昼間だって充分怖い。懐中電灯が無いと歩けないのだ。
なのに、そこを夜に通るだなんて、正気の沙汰ではない。想像しただけでも、髪の毛が立つほどに恐ろしい。
それでも意を決して行ったのは、ナマリ嬢にどうしても会いたい、手籠めにしたいと云う強い欲望の為せる業だった。いつだって恋愛は、人をどこまでも愚かにさせる。

トンネルを通った時の記憶は朧(おぼろ)だ。メモリーはフリーズされ、脳内の永久凍土に奥深く埋められているのだろう。だから、その時の事はあまり思い出せない。でも時々、今でもトンネル内の冷んやりとした空気や暗闇を切り取る懐中電灯の長い光線、背中の毛が総毛立つよな感覚がフラッシュバックする事がある。人はね、恐怖の記憶を無意識に消すように出来てるのだ。でないと、生きていけないからね。

トンネルを幾つか抜け、雑木林に入った。
6月に別なカトカラを探しに来た折りに、樹液の出ている木を何本か見つけておいたのである。もしかして糖蜜トラップは効かないのかもしれないと考え始めていて、ならば樹液だったらどうだと思ったのだ。自然のモノゆえ、少なくとも糖蜜よりかは採れる可能性は高いだろう。
汝、空想の翼で駆け、現実の山野にゆかん。採れないのなら、想像力を働かせて策を練り、一つ一つ実行に移してゆくしかないのだ。

ここまで来ると、川の音も聞こえない。
辺りは森厳としている。
トンネルに比べれば怖くはないが、それでも懐中電灯を消すと暗黒世界だ。やっぱり怖い。鳥の声にギクリとする。怪鳥ギラータかもしれん…(・o・;)
心頭滅却。ナマリの事だけを考えよう。それが恐怖に打ち勝つ最適にして最良の方法だ。

程なくして、
来たっ❗❗と思った。

大きさ的に小さいからナマリだろ❗❓
慎重に距離を詰める。ここで会ったが百年目、何があっても我が手中に収めてやるっ(ノ`Д´)ノ❗

しかし近づくと、上翅にはナマリキシタバ特有の、あの稲妻が走ったような黄色い線が無い。
(-_-;)誰だ、テメェ❓

一拍おいて漸く気づく。
なあ〜んだ、アミメキシタバだわさ。やはり、この渓谷にもアミメちゃんは居たんだね。
にしても、(´ε` )ガッカリだよ。恥ずかしいまでの糠喜びっぷりだった。スゲー損した気分だ。

1時間ほど居たが飛んで来ず、焦れてポイントを移動する事にした。壁にイブキシモツケが沢山生えている場所がある事を思い出したのだ。記憶が一部寸断しているが、多分もう1つトンネルを抜けて其処へ行った筈だ。

だが、糖蜜トラップは又しても殆んど機能せず、クソ蛾がパラパラと散発で飛んで来ただけだった。オマケに雨までポツポツ降り出してきた。泣きっ面に蜂とは、正にこの通りだ。
それで思い出したよ。その小雨の中、壁の上の方を小さめのカトカラが飛んでた。網は全然届かない高さだ。多分、アレこそがナマリだったのではないかと思う。忘れていたところをみると、自分に都合の悪い記憶だから壁に塗り込めていたのだろう。
それにしても、何で糖蜜トラップは無視なのだ❓何ゆえに誘引されないのだ❓もしかしてワシの糖蜜が無能のクズ糖蜜なのか❓いやいや、そんな筈はない。同じレシピで今まで大きな成果を上げてきたのだ。
そういや、蛾界の若手のホープである天才マオちゃんも「ナマリのポイントで何度も糖蜜やってますが、来た試しがありませんね。」と言ってたなあ…。

結局、ソヤツも何処かへ消えた。
深窓の令嬢は未(いま)だに、その姿さえまともに現してはくれないのだ。謎めいた存在のままだ。

どうあれ、又しても惨敗決定である。
終電に間に合うように撤退した。勿論、またメチャンコ怖いトンネルを通ってである。記憶にあるのは、まだ彼女に会えてさえいないのに、こんなとこで魑魅魍魎どもに襲われて死んだとしたら、泣くに泣けないと思った事だけだ。記憶はあまり無いのにも拘わらず、二度とアソコには行きたくないと思ってるところをみると、相当怖かったに違いあるまい。

結局、2019年は屈辱の4連敗で終わった。
2018年の戦績も加えれば、何と6連敗だ。蝶での連敗記録の最大数はキリシマシジミの5連敗だから、最早それをも越えている。まさかである。しかも姿さえまともに見てないんである。「まあまあ天才」の自信、完全に瓦解である。
蛾なんぞと、完全にナメ切っていたが、たぶんチョウよかガを採る方が遥かに難しいと痛感させられたよ。
蛾は夜間採集が主だから、蝶みたく飛んでるのを見つけて採るとゆうワケにはゆかぬのだ。基本的に灯火採集か樹液&糖蜜採集しか採る方法はない。オマケに蝶と比べて情報量が極めて少ない。文献の数は遥かに少なく、マニアの数も少ないから情報も入ってこないのだ。

 
2020年は、余程5月に幼虫採集に行ってやろうかと思った。連敗に次ぐ連敗で、採れる気が全くしない。心は半分以上、折れていたのである。
しかし、グッと踏み堪えた。最後の最後まで闘う矜持を失うワケにはいかない。背水の陣。今年がダメならば、来年は潔く諦めて幼虫採りでも何でもしてやるよ、バーロー。

 
2020年 7月16日

2020年、最初のナマリチャレンジである。
気合が入ってる分、例年よりも始動は早い。

去年は糖蜜には全く反応が無かったので、この為に遂にライトトラップを購入した。
といっても、水銀灯や発電機、安定器がセットとなった大掛かりなものではなく、簡易の何ちゃってライトトラップである。

 

 
高出力UV LEDライトで、めちゃんこシンブル。でもってメチャメチャ軽い。たったの130gしかないのだ。
モバイルバッテリーは200gだから、全部で驚愕の330gしかない。

 

 
とはいえ、上のバッテリーは495gある。途中でライトが消えたら泣くに泣けないので、大容量のモノに変えてもらったのだ。それでも合計は625gである。車で行けないような山奥でも楽勝で持ち運べるのだ。
尚、このバッテリーだと12時間点けっぱなしでも容量が半分以上も残っている。ゆえに一晩だけなら、もっと低い容量のバッテリーでも充分もつだろう。

既にテストで何度か試している。勿論、威力は水銀灯に比ぶべきもないが、それなりに虫は集まって来る。目安としては40Wのブラックライト蛍光灯と同程度の誘引力があるらしい。

 

 
仕様は小太郎くんに貰った三脚に本体をビニールテープで貼っつけ、下に白布を敷いただけである。

 

 
この時点までの実績は、カトカラだとウスイロキシタバとフシキキシタバ、コガタキシタバ、キシタバが寄ってきた(註4)。

布を下に引くだけでは止まる面積が少ないし、見逃しそうなので新たに蚊帳も購入した。
本来ならば、白布をパイプか何かで作った枠組にスクリーン状に張らなければならないのだが、一々セットするのは面倒臭いし、布は重たいので薄手の蚊帳にしたのである。
ホームセンターで展示品だった二千円いくらかのものが、交渉したら消費税込みで千円くらいになった。こうゆう時は生粋の大阪人で良かったなと思う。

組み立ては超簡単だし、とにかく軽い。しかし、折り畳んでもデカいので、車が無ければ邪魔なサイズではある。日帰り採集くらいなら荷物も少ないから電車でも運べるが、荷物の多い長期の採集だと厳しいかもしんない。

そして、昆虫同好会で借りてきた同じ会社で作ってる超高出力のUV LEDライトも持参した。

 

 
コチラは600gと重いが(バッテリーは650g)、それでも1キロちょっと。ザックに入れて持っていける重量だ。
誘引力の目安としては、水銀灯200〜300Wの効果があるそうだ。但し、光はそれなりに強いが、点灯時間が1時間半と短いので、ナマリが飛んで来るという午前0時前後に投入する予定である。
現時点で、出来うる限りの事はやりきった。
今日こそ、今まで溜まり溜まった憤怒のマグマを💥爆発させてやるぜ。

場所は三度目の正直の道場である。
何故に此処を選んだのかと云うと、見通しのいい拓けた場所があって、その先の川向うには如何にもナマリが居そうな崖が有るからだった。だが、心配なのは少し距離がある事だ。崖まで50mはあるだろう。けど、周りが真っ暗なんだから誘引されると踏んだ。長時間点灯してりゃあ、そのうち飛んで来んだろう。
(´ω`)ハハハハ、長時間って書いたのは朝まで灯火採集をやるつもりの覚悟だからだ。そう、言ったように背水の陣なのである。もしこれでダメなら、もう自分で打てる手は無しである。

 

 
何だか美しい。「宇宙船地球号」と呟く。
どこが宇宙船地球号なのか自分でもよくワカンナイが、何となく口から言葉が漏れた。
因みに蚊帳の中の水色の丸いのが蚊帳のケースである。

宇宙船地球号の意外な程の美しさに暫しハシャいでいたが、点灯後すぐに死ぬほど羽蟻が飛んで来やがった。ガッデーム。正直、キモい。これも令嬢の嫌がらせかよと思ってしまう。
あとは何故かコガネムシが大量に飛んで来た。ウザいわ、ボケッ❗

一応、ダメ元で糖蜜も木に吹き付けておく。
これでナマリがライトにではなく、糖蜜に寄ってきたとしたら、お笑い草だよな。ライトした意味ねぇーじゃんかあ(+_+)
けどこの際、採れりゃ何だっていい。

しかし待つも、糖蜜にもライトにも来やしない。
少しずつ追い詰められてゆく。

午前0時。
満を持して、デカい方のライトも点灯する。

 

 
今度こそ、頼んますと手を合わせる。もう採れるのなら、神頼みだって何だってしてやる所存だ。

そして、時々糖蜜トラップの様子も見に行く。

 

 
(☉。☉)ありゃま❗
アンタ、こんなとこにも居たのね。
相変わらず糖蜜トラップにはロクなもんが飛んで来なくて1頭もカトカラは寄って来なかったが、ナゼかレアなカバブキシタバが採れてしまった。まさか、こんなとこにも居るとは思いも寄らなかったよ。カバブは局所的分布で珍しいと言われてるけど、探せば案外どこにでもいるのかもしれん。食樹のカマツカは、さして珍しい木ではないからさ。但し、何処でも個体数は少ないのかもしれないけどね。

(-_-;)……。
でも、お嬢は姿をチラリとも見せない。
心が、どんどんドス黒く染まってゆく。正直、泣きそうだ。

午前2時過ぎ。
業を煮やして場所を変える事にした。
そこなら崖の真ん前だ。イブキシモツケも結構生えてた筈だ。

 

 
去年、謎のカトカラが飛んでいた場所のすぐ近くだ。

 

 
午前3時。
見たことがあるまあまあカッコイイ蛾が大量に飛んで来た。
初めて京都で見た時も午前0時を過ぎてから現れたので、活動時刻が遅い蛾なのかもしれない。

 

(2018.7月 京都市)

 
たぶん、ツマキシャチホコって名前じゃなかったかな?
でも、オマエらなんかどうでもいい。採る気さえ起こらない。
活性が入り、他の蛾も飛んで来て期待値が上がるも、チャンチャン。結局また、お嬢に袖にされた。
白み始めた道を引きずるような足取りで駅まで歩いた。
コロンビーナ(columbina)は、何処にいるのだ❓
思わず、ボロっと口ずさむ。

🎵ビーナ、ビーナス
🎵何処にいるのか ビーナ〜
🎵誰か ビーナを知ら〜な〜いかあ〜❓(註5)

 
2020年 7月18日

明後日にも出動した。

 
再びの宇宙船地球号である。
やるっきゃない。もうヤケクソを超えた意地である。

今度は武田尾渓谷の南側にやって来た。
前回の反省から、もっと棲息地に近そうな場所を選んだのだ。道場は崖まで50mくらいあったが、ここなら20mくらいだろう。もし居れば、必ずや飛んで来る筈だ。いや、最も居る可能性の高い環境なのだ、居ない筈はなかろう。

どうせダメだとは思うが、一応周囲に糖蜜トラップも撒く。
こんだけ効果がないと、もはや期待なんか全然しない。全然してないと言ったけど、心の底の底ではどっかで期待してるんだけどね。奇跡を信じなきゃ、救われないもんね。
でも考えてみりゃ、ここでは1頭たりともカトカラはトラップに寄って来てない。何処でも必ず現れるタダのキシタバさえも見てないのだ。

午後9時半だった。

ビクッΣ(・ω・;|||❗

何か気配のようなものがしたので、振り向く。
見ると、トンネルの奥で灯りが揺れ動いている。
一瞬、🔥鬼火かと思った。だとしたら、お終いだ。
皆さん、ありがとうございました。そしてサヨウナラと心の中で呟く。
けど、ここで死ぬワケにはいかぬ。まだナマリ嬢を落としていないのだ。よし、もしも化け物なら、(-_-メ)ブッ殺してやる。網の柄を強く握り締める。これでタコ殴りして、マシンガンキックを喰らわしてやろうぞ。この溜まりに溜まった鬱憤を暗い怒りに転化してくれるわ( `Д´)ノ❗

よく見ると、灯りは1つではなく、2つだった。もしかして巨大な顔だけの👹鬼だったりして…。水木しげる先生の描いた妖怪に、そんな奴いなかったっけ❓

近づいて来る灯りが、やがてトンネルを出た。
どう考えても懐中電灯だ。とゆう事は、人だ。人間の形の影も見える。ホッとする。
しかし、こんな時間に、こんな場所に人❓
もしかしたら、殺人鬼兄弟が逃亡しているのやもしれん😱
再び全身の筋肉が緊張する。

どんどん近づいて来る。
あと15mってところだ。

こんばんわ〜。

気がついたら、朗らかな声で言っていた。
咄嗟に、殺人鬼ならば懐柔しようと思ったのである。殺されたくないという一心が、いい奴だと思われようとしているのである。だから明るい朗らかな声を掛けたのだ。上手くいけば、殺人鬼に見逃してもらえるかもしれない。
それに考えてみれば、アッチだって怖いかもしれないのだ。たとえ殺人鬼でも闇に浮かぶ宇宙船地球号の傍らに立つ男だなんて、どう見ても怪しい。怪訝に思って然りだろう。だから、それを解消するためにコッチから早めに声を掛けたのだった。一応、網の柄は逆さまに持っていて、いつでもブッた斬る姿勢は崩してなかったけどもね。

直ぐにアチラからも「こんばんわ〜。」と云う挨拶が返ってきた。
良かったあ〜。殺人鬼ではなさそうだ。
見ると、男性の若者二人組だった。

暫く立ち話をする。
聞くと、二人は廃線マニアらしい。鉄ちゃんには、そうゆうジャンルもあるらしい。こんなとこで蛾を探してる自分だって人の事は言えた義理じゃないけど、世の中には変わった人もいるんだね。それにしても。なして夜なの❓
尋ねると、たまたま夜になっただけらしい。なあ〜んだ、廃線マニアで、心霊マニアなのかと思ってたよ。

二人が去ると、再び辺りに静寂が訪れた。
いや、脳が消去していたが、川の流れる音は聞こえている。寧ろ、かえって音は強くなったような気がする。

時々、ライトの角度を変えるも効果なし。
何も起こらなかった。強いて言えば、カブトムシが飛んで来た事くらいか…。

虚しく、夜が明けた。

 

 
目の前は如何にもナマリが居そうな環境なのに、何で飛んでけぇへんの〜(ToT)❓
ホントに此処に居るのかよ❓絶滅したんじゃないのか❓
もう、そう思わずにはやってらんない。

 
2020年 7月19日

翌日と云うか、その日の昼過ぎに小太郎くんから電話があった。プーさんと一緒に灯火採集するけど、来ます?というお誘いだった。小太郎くんは、今年になって遂に水銀灯のライトトラップセットを買ったのである。

場所は能勢方面である。小太郎くんが、ここにはユキヤナギではなくてイブキシモツケ食いのホシミスジがいるからナマリもいる筈だと言い出したのだ。
本音では、そんなとこおるワケあるかーいと思ってたし、今朝の今日だから正直なところ行くのは億劫だった。昨日の惨敗で身も心も疲れきっていたのだ。
でも、その誘いに乗ることにした。ナゼかと云うと、すっごくセコい理由からである。もし行かなくて、本当に採れでもしたらメチャメチャ口惜しいからだ。我ながら、心が狭い。

夕方、川西能勢口でピックアップしてもらい、ポイントへと移動する。

確かにイブキシモツケはあった。しかし、数は少ない。
それに、あまり環境は良さそうには思えない。

日没と共に点灯。

 
やはり水銀灯は光量が強い。
ワシの何ちゃってLEDとは雲泥の差がある。やっぱ、コレくらい光が強くないとダメなのかなあ…。

前から存在が気になっていたムラサキシャチホコを初めて見た。小太郎くんが見つけてくれたのだ。彼には、前から会ってみたいとは言ってたからね。

 

 
こんなの、どう見ても丸まった枯葉にしか見えん。
自然の造形物の妙に、ただただ驚愕する。
別角度から見れば、そうでもないんだけどもね。

 

 
まるで「ダダ」とかオカッパの宇宙人の顔みたいだ。
コレも擬態❓(笑)

 

 
でも、よくよく考えてみれば、コレって昨日もいたよなあ…。
まさかムラサキシャチホコだとは思いもよらなかったので、無視した。頭の中はナマリキシタバで一杯だったのである。他の蛾は全て眼中になかったのだ。

勝手に「白い鷹グリフィス(註6)」と呼んでいるヒトツメオオシロヒメシャクもやって来た。

 

 
結局、カトカラの飛来はナマリどころか、宇宙船地球号に止まったコシロシタバ2頭のみだった。
やっぱりね。こんなとこ居ねえよ。

 
【コシロシタバ ♀】

(2020.7月 奈良市)

 
プーさんが欲しそうにしてたので、どうぞとお譲りする。
ワシを、蝶屋じゃなくて「蛾屋」だと散々に揶揄してきたプーさんだったが、今年からカトカラも集め始めているのである。面倒くさい人だ。

んな事は、どうだっていい。
これで9連敗。状況は、もう泥沼だ。しかも底なし沼である。弱小阪神タイガースかよ(´ε` )
ライト・トラップにも寄って来ないとなれぱ、どうすればいいのだ❓八方塞がりじゃないか…。

プーさんを神戸まで送り、小太郎くんと大阪に戻って来たのは明け方近くだった。夜遊びしまくってた頃だって朝帰りの2連チャンなんて記憶にない。(ㆁωㆁ)何やってんだ、俺…。
菫色の空を茫然と仰いで、深い深い溜息をつく。
もう一生、お嬢には会えないんじゃないかと思った。

                         つづく
 
 
ーお詫びー
小太郎くんの言として五平餅は元々は三河地方発祥のもので、長野県のパクリだと書いたが、小太郎くんから次のような指摘があった。
「あ、五平餅を愛知発祥だと言ったことはありません。飯田からの流れで地元の三河でもよく売られてるだけですよ。
名古屋名物は他のパクリが多いとは言ったけど。」

睡魔で、話がゴチャゴチャにミックスされてしまったようだ。
長野県の皆様、並びに飯田市の皆様、悪口雑言を撒き散らして、どうもすいませんでした。
よく調べずに書いて、ごめんなさいm(_ )m
あと、小太郎くんもm( _)mごめんなさいでしたー。

 
追伸
タイトルの『汝、空想の翼で駆け、現実の山野にゆかん』は推理小説の大家、松本清張の言葉をパクったものである。
数十年前に清張から石見銀山の若者に贈られた色紙に書かれた言葉で、そこに「汝、」を付け足しただけだ。
NHKのBSで清張と鉄道をモチーフにした番組の再放送をやっていて、そこに出てきた。タイトルを付けあぐねていたので、それに飛びついたってワケ。
少々、仰々しいタイトルだが、ナマリへの想いとチャレンジし続けなくては果実は得れないと云うことを表現したかったから、まっいっかとなったのさ。
或いは、『何処にいるのか、コロンビーナ』とでもした方が良かったのかもしれない。邪魔くさいから変えないけど。

 
(註1)『兵庫県カトカラ図鑑』
URLは、www.konchunkan.net.pdf
兵庫県昆虫同好会誌「きべりはむし(39(2)」に、2017年に掲載されたもので、兵庫県のカトカラについて書かれた決定版とも言える内容である。
著者は、阪上洸多・徳平拓朗・松尾隆人各氏の連名になっている。
兵庫県内のカトカラについて精査されており、記録地も書かれてあって、各カトカラに何処へ行けば会えるのかも分かるようになっている。
昨今はネット上では過剰なまでに産地が隠されているから、初心者の身としては誠に助かりもうした。
正直、幾らキレイな写真を御満悦にネットで載せようとも、そんなの記録には残らないからオナニーと同じなんじゃないかと思う。勿論ネットで公開すれば、あっという間に情報が広がり、トラブルの原因にもなることは理解できる。虫屋はモラルに欠ける人間が多いからね。
かといって、蛾なんて人気種のカトカラでさえも記録が少ないのだ。あらゆる面で、記録は後世に残していかなくてはいけないのは当たり前の話で、コレについては異論はなかろう。
記録を積極的に残せて、産地を荒れなくするような何か良い解決法は無いものかね❓そう、いつも思うのだが、妙案は未だ浮かばない。

『兵庫県カトカラ図鑑』の話に戻ろう。
前半はカトカラの概要と、その採集法が書いてあり、カトカラの入門編としての役割も果たしている。次にメインである各種の解説があり、最後には新たに兵庫県で発見される可能性のあるカトカラ(ケンモンキシタバ・ミヤマキシタバ)にまで言及されている。お世辞抜きにバイブルにも成りうる優れたものだと思う。特に近畿地方の人には拝読必須の文献だ。

 
(註2)身も心もボロボロだった
この辺の事については拙ブログに『薄紅色の天女』『白馬わちゃわちゃ狂騒曲』『突っ伏しDiary』と題して書いた。
一応言っとくと、それぞれベニシタバ、アズミキシタバ、ミヤマキシタバの回です。

 
(註3)以前、カシワマイマイには一杯喰わされたしね
これについては、拙ブログに『人間ができてない』と題して書いた。誠にもって大人気(おとなげ)ないと云う話。

 
(註4)何ちゃってライトトラップの実績
9月に試した時はシロシタバ、ゴマシオキシタバ、エゾシロシタバが飛来した。ムラサキシタバも近くまでは飛んで来た。
このライトトラップは、おそらく尾根や山頂などの拓けた場所ではなく、森の中や林縁で効果を発揮するのではないかと思われる。遠くに居る者を引き寄せるというのではなく、近くに居る者を引き寄せると云う考え方をした方がいいかもしれない。

因みに値段は、バッテリー込みで3万円だが、五十嵐さんから聞きまたしと言えば安くしてくれるかもよ。

一応、連絡先を載せておきます。

 

 
(註5)誰か、ビーナを知ら〜な〜いかあ〜
「上海リル」の替え歌です。ビーナとは学名「columbina」の、その場で思いついた略称。ビーナスは勿論あのヴィーナス、美神の事である。ナマリキシタバの美しさと掛けたのだ。
何でこんな世代でもない古い歌を知ってるのかは、自分でもワカンナイ。

 
(註6)「白い鷹」グリフィス
三浦建太郎の漫画『ベルセルク』の重要な登場人物。
戦場で恐れられる傭兵団「鷹の団」の団長。白銀の長い髪をなびかせる中性的な美貌の騎士で、鷹の頭を象った兜と白を基調とした出で立ちから「白い鷹」と云う異名がある。

 

(出典『moemee.jp』)

 
また平民出身でありながらも本物の貴族よりも貴公子然としており、民衆にも人気がある(だったと思う)。
だが、「自分の国を持つ」という夢を果たす為であれば、冷徹なことも平然とやってのける。
書き忘れたが、勿論のこと剣の腕前は超一流である。

 

マホロバキシタバ発見記(2019’カトカラ2年生3)

 
   vol.20 マホロバキシタバ

     『真秀ろばの夏』

 
倭(やまと)は 国の真秀(まほ)ろば 畳(たた)なづく青垣 山籠(こも)れる 倭し美(うるは)し

 
 ープロローグー

2019年 7月10日。曇り。
この日も蒸し暑い夜だった。

「五十嵐さぁーん、何か変なのがいますー。』
樹液の出ているクヌギの前にいる小太郎くんの声が、闇夜に奇妙に反響した。
「変って、どんなーん❓」
テキトーに言葉を返す。
「カトカラだと思うんですけど、何か細いですー。こっち来てくださぁ~い。」
どうせヤガ科のクソ蛾だと思いながら、足先をそちらへと向けた。
「どれ❓」
「これです、コレ。」
小太郎くんが懐中電灯で照らす幹に目をやる。そこには、翅を閉じた見慣れない蛾がいた。
「確かに細い感じやなあ。見たことない奴のような気がするけど…何やろ❓ でもコレってホンマにカトカラかいな❓ カトカラっぽいけど翅閉じてるしさ。」  

話は去年に遡る。
きっかけは2018年の8月の終わりに、カミキリムシ・ゴミムシダマシの研究で高名な秋田勝己さんが Facebook にアップされた記事だった。そこには奈良県でのゴミムシダマシの探索の折りに、カトカラ(シタバガ)属有数の稀種カバフキシタバを見つけたと書かれていた。

 
【カバフキシタバ Catocala mirifica】

(2020.7.7 兵庫県宝塚市 撮影 葉山卓氏)

 

(2020.7.5 兵庫県六甲山地)

  
まだその年にカトカラ採りを始めたばかりの自分は既に京都でカバフは得てはいたものの(註1)、来年はもっと近場で楽に採りたいと思い、メッセンジャーで秋田さんに連絡をとった。
秋田さんは気軽に応対して下さり、場所は若草山近辺(採集禁止区域外)だとお教え戴いた。また食樹のカマツカは奈良公園や柳生街道の入口付近、白毫寺周辺にもある旨のコメントを添えて下された(何れも採集禁止エリア外)。何れにせよ、カバフの記録はこの辺には無かった筈だ(註2)。俄然、やる気が出る。

その年の秋遅くには奈良公園へ行って、若草山から白毫寺へと歩き、カマツカと樹液の出ていそうな木を探しておいた。

 
【カマツカ(鎌束)】

(2018.11月 奈良公園)

 
カマツカは秋に赤い実をつけるから見つけやすいと思ったのだ。ちなみに春には白い花が咲かせるので、そちらで探すと云う方法もある。
   
 
 カバフキシタバを求めて

2019年 6月25日。
満を持して始動。 先ずは若草山周辺を攻める。
しかし、秋田さんに教えてもらった樹液の出る木にはゴッキーてんこ盛りで、飛んで来る気配というものがまるでない。『秋田の野郎〜٩(๑òωó๑)۶』と呟く。
もちろん秋田さんに罪はない。取り敢えず人のせいにしておけば、心は平静を保てるってもんだ。
とにかくコレはダメだと感じた。🚨ピコン、ピコン。己の中の勘と云う名のセンサーが点滅している。このまま此処に居ても多くは望めないだろう。決断は早い方がいい。午後9時過ぎには諦め、白毫寺へと向かう。

真っ暗な原始林をビクつきながら突っ切り、白毫寺に着いたのは午後10時くらいだった。目星をつけていた樹液の出ているクヌギの木を見ると、結構な数のカトカラが集まっている。しかしカバフの姿はない。
取り敢えず周辺の木に糖蜜でも吹きかけてやれと大きめの木に近づいた時だった。高さ約3m、懐中電灯の灯りの端、右上方に何かのシルエットが見えたような気がした。そっと灯りをそちらへとズラす。
w(°o°)wどひゃ❗
そこには、まさかのあの特徴的な姿があった。

 

(こんな感じで止まってました。画像提供 葉山卓氏)

 
間違いない、カバフキシタバだ❗ 後ずさりして、充分な距離を置いてから反転、ザックを置いてきた場所へと走る。
逸(はや)る心を抑えながら網を組み立てる。💦焦っちゃダメだ、焦るな俺。慌ててたら、採れるもんも採れん。
心が鎮まるにつれ、アドレナリンが体の隅々にまで充填されてゆく。やったろうじゃん❗全身に力が漲(みなぎ)り始める。
∠(`Д´)ノシャキーン。武装モード完了。行くぜ。小走りで戻り、目標物の手前7mで足を一旦止める。そこからは慎重に距離を詰めてゆく。逃げていないことを祈ろう。6m、5、4、3、2、1m。目の前まで来た。
(☆▽☆)まだいるっ❗心臓がマックスに💕バクバクだ。この緊張感、堪んねぇ。このために虫採りをやってるようなもんだ。
目を切らずに体を右側へとズラし、ネットを左に構える。必殺⚡鋼鉄斬狼剣の構えだ。武装硬化。心を一本の鋼(はがね)にする。音の無い世界で、ゆっくりと、そして静かに息を吐き出す。やいなや、慎重且つ大胆に幹を💥バチコーン叩く。
手応えはあった。素早く網先を捻る。
ドキドキしながら懐中電灯で照らすとシッカリ網の底に収まっていた。しかも暴れる事なく大人しく静止している。自称まあまあ天才なのだ。我ながら、ここぞという時はハズさない。
移動して正解だ。やっぱ俺様の読みが当たったなと思いつつ、半ば勝利に酔った気分で網の中にぞんざいに毒瓶を差し込む。
しかし、取り込むすんでのところで物凄いスピードで急に動き出して毒瓶の横をすり抜けた。
(|| ゜Д゜)ゲゲッ❗、えっ、えっ、マジ❗❓
ヤバいと思ったのも束の間、パタパタパタ~。網から脱け出し、闇の奥へと飛んでゆくのが一瞬見えた。慌てて懐中電灯で周りを照らす。だが、その姿は忽然とその場から消えていた。
(;゜∇゜)嘘やん、逃げよった…。ファラオの彫像の如く呆然とその場に立ち尽くす。
(-“”-;)やっちまったな…。大ボーンヘッドである。大事な時にこういうミスは滅多にしないので、ドッと落ち込み「何でやねん…」と闇の中で独り言(ご)ちる。

朝まで粘ったが、待てど暮らせどカバフは二度と戻っては来なかった。ファラオの呪いである。
しかし、結局このボーンヘッドが後の大発見に繋がる事になる。その時はまさか後々そんな事になろうとは遥か1万光年、想像だにしていなかった。運命とは数奇なものである。ちょっとしたズレが結果を大きく左右する。おそらくこの時、ちゃんとカバフをゲット出来ていたならば、今シーズン、この地を再び訪れる事は無かっただろう。そしてニューのカトカラを見つけるという幸運と栄誉も他の誰かの手に渡っていたに違いない。

 
 リベンジへ

その後、去年初めてカバフを採った京都市で更に惨敗するものの、六甲山地で多産地を見つけてタコ採りしてやった。思えば、これもまた僥倖だった。直ぐに奈良へリベンジに行っていたならば、彼奴が時期的には発生していたか否かは微妙のところだろう。やはり新しきカトカラの発見は無かったかもしれない。
計30頭くらい得たところで溜飲が下がり、漸くこの日、7月10日に再び白毫寺へと出撃した。屈辱は同じ地で晴らすのがモットーだ。白毫寺で享けた仇は白毫寺で返すヽ(`Д´#)ノ❗

日没の1時間半前に行って、新たに他の樹液ポイントを探す。叶うのならば、常に二の手、三の手の保険は掛けておくことにしている。手数は数多(あまた)あった方がいい。たとえ時間が短くとも下調べは必要だ。
首尾よく樹液の出ている木を数本見つけて、小太郎くんを待つ。彼は奈良市在住なので、奈良県北部方面に夜間採集に出掛ける折りにはよく声をかける。蝶屋だけど(ワテも基本は蝶屋です)、虫採り歴は自分よりも長いし、他の昆虫にも造詣が深いから頼りになる。それに夜の闇とお化けが死ぬほど怖いオイラにとっては、誰か居てくれるだけでメチャンコ心強い。

日没後に小太郎くんがやって来た。 おそらく彼が先にカバフを見つけたとしても譲ってくれるだろう。心やさしい奴なのだ。
しかし、そんな心配をよそに日没後すぐ、呆気なく見つけた。何気に樹液の出てる木の横っちょの木を見たら、止まっていたのだ。
 
難なくゲット。
 

(画像は別な個体です。背中が剥げてたから撮影せずでした)

 
早めにリベンジできたことにホッとする。
これで今日の仕事は終わったようなもんだ。急激に、ゆるゆるの人と化す。
そして、話は冒頭へと戻る。

 
 採集したカトカラの正体は?

新たに見つけた樹液ポイントで、コガタキシタバか何かを取り込んでる時だった。少し離れた小太郎くんから声が飛んできた。
『五十嵐さぁ〜ん、何か変なのがいますー。』
『コレ取り込んだら、そっち行くー。どんな〜ん❓』
『カトカラだと思うんですけど、何か細いですぅー。』
どうせヤガ科のクソ蛾だと思った。カトカラ以外のヤガには興味がない。急(せ)くこともなく取り込んで、小太郎くんの元へと行く。
『どれ❓』
『これです、コレ。』
小太郎くんが懐中電灯で照らす幹に目をやる。そこには見慣れないヤガ科らしき蛾がいた。しばし眺める。
『確かに細い感じやなあ。見たことない奴のような気がするけど…何やろ❓ でもコレってホンマにカトカラかいな❓ カトカラっぽいけど翅閉じてるしさ。』

 

(撮影 葉山卓氏)

 
『見てるヒマがあったら、採りましょうよ。』
小太郎くんから即刻ツッコミを入れられる。
<(^_^;)そりゃそーだー。確かにおっしゃるとおりである。もし採って普通種のクソ蛾だったら腹立つからと躊躇していたけど、採らなきゃ何かはワカラナイ。
止まっている位置を見定め、その下側を網先でコツンと突くと、下に飛んで勝手に網の中に飛び込んできた。カバフをしこたま採るなかで自然と覚えた方法だ。網の面を幹に叩きつけて採る⚡鋼鉄斬狼剣を使わなくともよい楽勝簡単ワザである。あちらが剛の剣ならば、こちらは謂わば静の剣。さしづめ「秘技✨撞擲鶯(どうちゃくウグイス)返し」といったところか。
網の面で幹を叩く採集方法は、その叩く強さに微妙な加減がある。弱過ぎてもダメだし、強過ぎてもヨロシクなくて、網の中に飛び込んでくれない。他の人を見てても、失敗も多いのだ。つまり、それなりに熟練を要するのである。いや、熟練よりもセンスの方が必要かな?まあ両方だ。
一方、網先で下側を軽く突いて採る方法は微妙な加減とか要らないし、視界も広いから成功率は高い。叩く方法でも滅多にハズさないけど、ハズしたらカヴァーは出来ない。横から逃げられたらブラインドになるから、返し技が使えないのだ。とにかく鶯返しの方がミスする率は少ない。飛んで、勝手に網に入ってくる場合も多いし、たとえ上や横に飛んだとしても、素早く反応して網の切っ先を鋭く振り払えばいいだけのことだ。鋭敏な反射神経さえあれば、どってことない。

網の中で黄色い下翅が明滅した。
どうやらキシタバグループのカトカラのようだ。どうせアミメキシタバあたりだろう。余裕で毒瓶に素早く取り込み、中を凝視する。
『五十嵐さん、で、何ですか❓』
小太郎くんが背後から尋ねるも、脳ミソは答えを探して右往左往する。考えてみれば、そもそも此処にアミメがいるなんて聞いた事ないぞ。
『ん~、何やろ❓ \(◎o◎)/ワッカラーン。下翅の帯が太いからアミメかなあ❓ いや、クロシオ(キシタバ)かもしんない。』
『五十嵐さん、去年アミメもクロシオも採ってませんでしたっけ❓』と小太郎くんが言う。アンタ、相変わらず鋭いねぇ。
『そうなんだけど、こっちは去年からカトカラ採りを始めたまだカトカラ2年生やでぇー。去年の事なんぞ憶えてへんがな。特定でけんわ。』と、情けない答えしか返せない。

その後もその変な奴は飛来してきたので、取り敢えず採る。だが、採れば採るほど頭の中が混乱してきた。
冷静に去年の記憶を辿ると、アミメにしては大きい。反対にクロシオにしては小さいような気がする。上翅の色もアミメはもっと茶色がかっていたような記憶があるし、クロシオはもっと青っぽかったような覚えがある。でもコヤツはそのどちらとも違う緑色っぽいのだ。しかし、採ってゆくと稀に茶色いのもいるし、青緑っぽいのもいるから益々混乱に拍車がかかる。
けど冷静に考えてみれば、クロシオは確か7月下旬前半の発生で、分布の基本は海沿いだ。移動性が強くて内陸部でも見つかる例はあった筈だが、にしても移動するのは発生後期であろう。ならば更に時期が合わない。

小太郎くんに尋ねる。
『この一帯ってウバメガシってあんの❓ クロシオの食樹がそうだからさ。』
『ウバメガシは殆んど無かった筈ですね。あるとしても民家の生け垣くらいしかないと思いますよ。』
となると、消去法でアミメキシタバと云うのが妥当な判断だろう。
でもコレって、ホントにアミメかあ❓
心が着地点を見い出せない。
とはいえ、段々考えるのが面倒くさくなってきて、その日は「暫定アミメくん」と呼ぶことにした。けれど、ずっと心の奥底のどこかでは違和感を拭えなかった。
結局、この日はオラが8頭、小太郎くんが1頭だけ持ち帰った。
 
翌日、明るい所で見てみる。

 

 
何となく変だが、どこが変なのかが今イチよく分かんない。
取り敢えず、展翅してみる。

 
【謎のカトカラ ♂】

 
【謎のカトカラ ♀】

 
展翅をしたら、明らかに変だと感じた。
見た目の印象がアミメともクロシオとも違う。確認のために去年のアミメとクロシオの展翅画像を探し出してきて見比べてみた。

 
【アミメキシタバ Catocala hyperconnexa】

(兵庫県神戸市)

 
【クロシオキシタバ Catocala kuangtungensis】

(兵庫県神戸市)

 
目を皿にして相違点を探す。
そして直ぐに決定的な違いを見つけた。下翅の黒帯下部が繋がらなくて、隙間があるのだ。ここがアミメはしっかりと繋がり、クロシオも辛うじて繋がっている。たまに少し隙間が開く個体も見られるが、ここまで開くものはいない。それにクロシオとアミメは真ん中の黒帯が途中で外側に突出する傾向があるが、コヤツにはそれが見うけられない。またアミメやクロシオと比べて帯がやや細いような気がする。とはいえ、最初は異常型かな?とも思った。しかし残りを見てみると、全部の個体が同じ特徴を有していた。
大きさも違う。クロシオは相対的にデカい。一方、アミメは相対的に小さい。コヤツは多少の大小はあるものの、相対的に両者の中間の大きさなのだ。

 

(後日、わざわざ神戸にアミメとクロシオを採りに行ったよ)

 
左上がアミメ、左下が別種と思われるもの、右がクロシオだ。
大きさに違いがあるのが、よく分かるかと思う。

裏を見て、更に別物だと云う意を強くした。
裏面展翅をして、比較してみる事にする。

 
【謎のキシタバ 裏面】

 
【アミメキシタバ 裏面】

 
【クロシオキシタバ 裏面】

 
上翅の胴体に近い内側の斑紋(黒帯)が他の2種とは異なる。
アミメは帯が太くて隣の縦帯と連結するから明らかに違う。全体的に黒っぽいのだ。また翅頂(翅端)の黄色部の面積が一番狭い。
クロシオとはやや似ているが、謎のカトカラは内側の黒帯の下部が横に広がり、上部に向かって細まるか消失しがちだ。クロシオはここが一定の太さである。決定的な違いは、その隣の中央の帯がクロシオは圧倒的に太いことだ。逆に一番外側の帯は細まり、外縁部と接しない。だから外縁が黄色い。またクロシオの下翅は帯が互いに繋がらないし、黒帯が一本少なくて内側の細い帯が無い。あとはアミメとクロシオは下翅中央の黒帯が途中で外側に突出して先が尖るが、謎のカトカラは尖らない(註3)。
ようは三者の裏面は全く違うのである。表よりも裏面の方が三者の差異は顕著で、間違えようのないレベルだ。
こりゃエラい事になってきたなと思い、小太郎くんに昨日持ち帰った個体の展翅画像を送ってもらった。

 

(画像提供 葉山卓氏)

 
やはり下翅の帯が繋がっていない。
となると、絶対に日本では未だ記録されていないカトカラだと思った。でも、じゃあコヤツはいったい何者なのだ❓ 新種の期待に心が震える。

何者かを知るにはどうしたらいいのだろう❓
足りない脳ミソをフル回転させて懸命に考える。そこで、はたと思い出す。そういえば去年、図書館で石塚勝己さんの『世界のカトカラ』のカラー図版を見開き3ページ分だけコピーしたのがあった筈だ。アレに載ってるかもしれない。

 
【世界のカトカラ】

 
でも何となく気になったページを適当にコピーしただけなので、確率は極めて低い。図版はユーラシア大陸のものだけでも20ページくらいはあった筈だ。新大陸(北米)のものまで含めると、40ページ近くはあったような気がする。見開きだから、その半分としても3/20。確率は1割5分だ。いや、そのうちの1枚はめちゃんこカッコイイ C.relicta(オビシロシタバ)の図版である事は間違いないから、確率は10%だ。となると、そこにそんなに都合よく載っているとは思えない。
そう思いつつ確認してみたら、(☆▽☆)何とあった❗❗
奇跡的にその3ページの中に同じく下翅の帯が繋がらない奴がいたのである。しかも他の2ページは北米のカトカラの図版だったから、確率は5%。まさに奇跡だ。

 

(出展『世界のカトカラ』)

 
名前は Catocala naganoi キリタチキシタバとなっている。
生息地は台湾で、特産種みたいだ。台湾は日本と近いし、これは有り得るなと思った。昔は連続して分布していたが、様々な理由で棲息地が分断され、辛うじてこの森で生き残ったのかもしれない。だったら同種か近縁種の可能性大だ。
しかし、困ったことに『世界のカトカラ』には裏面の写真が載ってなかった。両面を見ないと本当にコヤツと近縁種なのかは特定できない。ならばと学名をネットでググったら、zenodo(註4)と云うサイトで、らしきものが見つかった。そこには、ちゃんと裏面の画像もあった(下図3列目)。

 

(出展『zenodo』)

 
早速見比べてみると、どう見ても同じ種の裏面に見える。Catocala naganoi と同種か近縁種に間違いあるまい。
小太郎くんに画像を送ったら、彼の見解も自分と同じだった。ならば、こりゃ絶対に日本では未知のカトカラだと思い、夕方にはドキドキしながらFacebookに記事をあげた。

「昨日、奈良県で変なカトカラを採った。クロシオキシタバにはまだ早いし、だいち奈良は海なし県である。おらん筈。となるとアミメキシタバかなと思ったが、下翅下部の帯が繋がっていない。裏もアミメと違う。採ったやつ8つ全てが同じ特徴やった。どう見ても新種か新亜種だと思うんだけど、岸田先生どう思われます? たぶん、台湾の Catocala naganoi とちゃいますかね?」

記事をアップ後、ソッコーで蛾界の重鎮である岸田泰則先生からコメントが入った。
 
「確認しますが、すごいかもしれません。」

蛾のプロ中のプロである岸田先生のコメントだから、ホンマにエライことになってきたと思った。って事は新種ちゃいまんのん❓ 期待値がパンパンに膨れ上がる。
そして、夜9時にはもうメッセンジャーを通じて先生から直接連絡があった。どえりゃあスピーディーさである。ますます夢の新種発見が現実味を帯びてきた。

内容は以下のとおりである。

「五十嵐さん このカトカラですが、専門家の石塚勝巳さんに聞いたところ、やはり、クロシオではないようです。新種または新亜種の可能性もあります。石塚さんを紹介しますので、連絡してみて下さいませんか。」

(☉。☉)ありゃま❗、カトカラの世界的研究者である石塚さんまで御登場じゃないか。蛾の中でも屈指の人気種であるカトカラのニューなんて、蛾界は激震とちゃいまんのん❓ もうニタニタ笑いが止まらない。
それにしても岸田先生の動きの早さには驚嘆せざるおえない。優れた研究者は行動が迅速だ。でないと、多くの仕事は残せない。ところで、石塚さんに連絡せよとは岸田先生御自身で記載するつもりはないのかな❓
先生に尋ねてみたら、次のような返答が返ってきた。
「新種か新亜種の記載には、近縁種を調べないと判断できません。近縁種を一番知っているのは石塚さんです」
なるほどね。それなら理解できる。にしても、記載を人に譲るだなんて、先生って器がデカいよなあ(最終的には共著で記載された。どういう経緯かは知んないけど)。

 
 奈良を再訪

その翌々日の12日。再び奈良を訪れた。
こんな奴が元々あんな何処にでもあるような普通の雑木林にいるワケがない。おそらくすぐ隣の春日山原始林が本来の生息地で、原始林内には樹液の出る木があまりないゆえコッチまで飛んで来たのではあるまいかと考えたのである。

夕方に着き、原始林内で樹液の出ている木を探したら簡単に見つかった。でも結局、樹液の出ている木はその木だけしか見つけられなかった。不安だったが、裏を返せばここに集中して飛来する可能性だってあるじゃないかと前向きに考える。おいら、実力は無いけど、昔から引きだけは強い。どうにかなるじゃろう。

日没後、少し経った午後7時33分に最初の1頭が飛来した。
その後、立て続けに飛来し、午後9時には数を減じた。個体は重複するだろうが、観察した飛来数はのべ20頭程だった。驚いたのは、その全部が樹液を吸汁中に1頭たりとも下翅を開かなかった事だ。大概のカトカラは吸汁時に下翅を見せるから、特異な性質である。

 

(画像提供 葉山卓氏)

 
知る限りでは、そんなカトカラはマメキシタバくらいしかいない(註6)。
そして、ヨトウガ達ほどではないにせよ、樹幹に止まってから樹液のある所まで、ちょっとだけ歩く。だから最初は、どうせ糞ヤガだと思ったのだ。奴らゴッキーみたいにシャカシャカ歩くからね。そういう意味でも、日本では未知のカトカラだと確信した。

この日は岸田先生から電話も戴いた。近いうちに生息地を視察したいとの事。そのレスポンスの早さに再び舌を巻く。
その後、石塚さんとも連絡をとった。石塚さん曰く、やはり見たところ Catocala naganoi に極めて近い新種か、C.naganoiの新亜種になる可能性大だそうだ。
なお、新種の場合は学名と和名は考えてくれていいよと言われた。石塚さんも太っ腹である。
「Catocala igarashii イガラシキシタバとかも有りかな❓」などと考えると、だらしのないヘラヘラ笑いが抑えきれない。
しかし、普段から和名の命名について自身のブログ(註5)で散々ぱらコキ下ろしている身なので、それはあまりにもダサ過ぎる。そんな名前をつけたとしたら、周りに陰でボロカス言われるに決まっているのだ。そんなの末代までの恥である。ゼッテー耐えられそうにない。
それで思いついたのが「マホロバキシタバ」。もしくは「マホロキシタバ」という和名だった。
「まほろ」とは「素晴らしい」という意味の日本の古語である。その後ろに「ば」を付けた「まほろば」は「素晴らしい場所」「住みよい場所」を意味する。謂わば楽園とか理想郷ってところだ。
『古事記』には「倭(大和=やまと)は 国の真秀(まほ)ろば 畳(たた)なづく青垣 山隠(籠=こも)れる 倭し美(うる)はし」というヤマトタケルノミコト(註7)が歌ったとされる有名な和歌もあり、これが最も相応しい名ではないかと思った。
そして、この言葉は「JR万葉まほろば線(註8)」など奈良県所在の企業、店舗名、施設等々の名称にもよく使われており、奈良県の東京事務所や桜井市の公式ホームページにも使用されている。つまり奈良県民のあいだではポピュラーで親しみ深い言葉でもある。また虫屋は学のある方が多いゆえ、「マホロバ」という言葉だけでピンときて、奈良県で最初に見つかったものだと容易に想像がつくだろうとも考えた。手垢の付いた言葉ではなく、且つ、そこそこ知っている人もいると云うのが名前の理想だろう。加えて雅な言葉なら、完璧だ。とにかく、出来るだけ多くの人に納得して戴くために心を砕いたつもりだ。
小太郎くんに提案すると、奇しくも彼も同じことを考えていたようだ。「マホロ」よりも「マホロバ」の方がポピュラーだし、発音しやすくて響きもいいと云うことで、すんなり二人の間では「マホロバキシタバ」で決まった。
あとは、この和名を如何にして岸田先生と石塚さんに受け入れてもらうかである。それで一計を案じた。コチラに来るという岸田先生とのやりとりの中で「一々、新種・新亜種のキシタバと言うのは面倒なので、葉山くんとの間では便宜上マホロバキシタバ(仮称)と呼んでおります。いよいよ明日、まほろば作戦決行です❗もちろんこの作戦の隊長は先生です。明日は宜しくお願いします、隊長∠(・`_´・ )❗」というメールを送っておいた。
ようは既成事実を作ってしまおうと云う巧妙な根回し作戦だ。連呼しておけば、先生とて心理的に反対しにくかろう。わしゃ、狡い男なのだ、٩(๑´3`๑)۶ぷっぷっぷー。

 
 強力メンバーで調査

7月16日。午後4時に先生と近鉄奈良駅で待ち合わせる。その後、小太郎くんも加わって、その足で奈良公園管理事務所に調査の許可申請へと向かう。原始林内は採集禁止だから、手は早めに打っておいた方がいいだろう。
その後に白毫寺へ行き、先生に採集してもらった(採集禁止区域外)。虫屋たるもの、自分の手で採らなければ納得いかないものだ。
先生は実物をひと目見て、これは新種か新亜種だねとおっしゃった。小太郎くんが先生に「マホロバを世界で三番目に採った男ですね。」と言う。その言葉に先生も笑っていらした。お陰か、和名マホロバキシタバも気に入って戴いたようだ。自分では考えもしなかったけど、その世界で何番目という称号って、いい響きだねぇ~。ということは、さしづめオラは「新種(新亜種)を世界で一番最初に採った男」ってことかい。何だか気分いいなあ。

後日、石塚さんにも、三人の間では一応仮称マホロバキシタバになっている旨を伝えたら、気に入ってくれたようだった。

早々と切り上げて、三人で居酒屋で祝杯をあげた。
短い時間だったが、とても楽しい一刻(ひととき)を過ごせた。

店の外に出て、何気に空を見上げる。そこには沈鬱な面持ちの雲が厚く垂れ込めていた。
フッと笑みが零れる。
空はどんよりだが、心はどこまでも晴れやかだった。

                       つづく

 
追伸
この文章は『月刊むし』の2019年10月号に掲載されたものを大幅増補改訂したものである。

 

 
普段のブログと構成が少し違うのは気合い入ってたのだ(笑)。
流石にいつもみたいに何も考えずに書き始めるということはせず、先ずは頭の中で構成をシッカリと考えて、文章もある程度繰ってから書きだした。結果、最近はあまり使わない倒置法的な手法になったってワケ。出来るだけドラマチックな展開にしたかったし、珍しく読み手のこともかなり意識して書いたのさ。クソ真面目な報告文なんて自分らしくないし、オモロないもん。
「だったら、毎回そうせいよ」とツッコミが入りそうだが、それは出来ませぬ。性格的に無理なのである。毎回そんな事してたら、書く前に放り出してしまうに決まってるんである。何も考えずに書き始めるからこそ書けるのであって、一行でも書いたら、完成させねばと思って何とか最後まで書き続けられるのである。

改めて記事を読み返すと、つくづく偶然の集積だらけの結果なんだなと思う。そもそもの発端を掘り起こしてゆくと、もし蝶採りに飽きてシンジュサンを採ろうなどと思わなかったら(註9)、この発見は無かった。中々採れなくて、もし小太郎くんに相談していなかったら矢田丘陵なんかには行かなかったし、そこで小太郎くんに偶然いたフシキキシタバやワモンキシタバを採ることを奨められなかったら、カトカラなんて集めていなかっただろう。また彼がカバフキシタバについて熱く語らなかったら、カバフ探しに奔走することもなかっただろう。あとは文中で語ったように、秋田さんのFacebookの記事が無かったら奈良なんて行かなかっただろうし、カバフを逃していなかったら再訪することもなかった。一旦諦めて他の場所にカバフを探しに行ったと云うのも大きい。直ぐにリベンジに行っていたら、マホロバには会えなかったような気がする。結果とは、ホント偶然の集積なんだね。もちろん二人ともボンクラで、ニューのカトカラだと気づかなかったら、この発見は無かったのは言うまでもない。バカだけど、バカなりに一所懸命頑張ってきた甲斐があったよ。
でも、こんだけ偶然が重なると、もう必然だったんではないかと不遜にも思ったりもする。実力は無いけど、昔っから何となく運だけは強いのだ。春日山原始林といえば、カミキリ屋や糞虫屋を筆頭に数多(あまた)の虫屋が通ってきた有名な場所だ。蛾類だって、調査されたことが無いワケがない。なのに今まで見つからなかったのは、奇跡としか言いようがない。申し訳ないけど、きっとワシも小太郎くんも選ばれし人なのだ。
あっ、言い忘れた。小太郎くんと秋田さんには感謝しなくてはならないね。ありがとうございました。
おっと、岸田先生と石塚さんにも感謝しなきゃいけないや。先生が直ぐにFacebookの記事を見て気づいてくれなければ、どうなってたかワカランもん。仲の良い石塚さんにソッコーで連絡して下さり、直ぐに太鼓判を押して戴いたのも大きい。もし御二人が仲が悪かったりしたら、面倒くさいことになってたかもしんないもんね。変な奴がシャシャリ出てきて、手柄を全部自分のモノにしてた事だって有り得るからさ。この業界、人としてダメな人も多いのだ。功名心ゆえのルール無用も普通にあったりするから怖い。お二人の記載で良かった良かった。蛾界の重鎮が記載者名に並ぶというのもバリュー有りだ。御両名とも、改めて有難う御座いました。

次回、後編です。主に知見のまとめ、謂わば種の解説編になる予定です。

 
ー後記ー
この改稿版を書くにあたり、色々ネタを探してたら執筆当時のメールが出てきた。月刊むしの原稿の構成を担当して下さった矢崎さんに送ったメールだ。ちょっと面白いので載せておこう。

日付は、2019年08月04日となっている。
あれからもうきっかり一年経ってるんだね。何だが懐かしい。

 
件名: マホロバキシタバ発見記① 五十嵐 弘幸・葉山 卓
To: 矢崎さん(月刊むし)

五十嵐と申します。
岸田泰則先生から発見記を是非書いて下さいとの御要請を賜り、僭越ながら、わたくし五十嵐が代表して発見の経緯を綴らさせて戴きます。
現在、PCが無いゆえ、失礼乍ら携帯メールで記事をお送りします。多々、不備があるかとは存じますが、何卒御勘弁下さいまし。

と云う前置きがあって、本文を送った。
自分でも忘れてたけど、その最後に以下のような文章が付け加えられていた。

ー矢崎さんへー
当方『蝶に魅せられた旅人(http://iga72.xsrv.jp/ )』というおバカなブログを書いておりまする。堅苦しい文章も書けなくはないのですが、気が進まない。それで岸田先生に御相談したところ『発見記なんだから自由に書けばいいんじゃない?矢崎さんという優秀な編集者もいるし、ダメなら上手く直してくれるよ。』とおっしゃてくれました。結果、こういう勝手気儘な文章になりました。で、勢いで顔文字まで入れちゃいました(笑)。流石に顔文字はマズイと思われるので削除して下さって結構です。本文も不適切なところがあれば、直して下さって構いません。あまり大幅に改変されると悲しいですが…。
とにかく掲載のほど何卒宜しくお願いします。

追伸
えー、添付写真が送りきれないので何回かに分けてお送りします。写真を入れる位置はお任せします。
それと、実を言うと文章はこれで終わりではありません。生態面など気づいたこともありますので、稿を改めてお送りします。本文の後にそれをくっつけて下されば幸いです。

以上なのだが、矢崎さんは有り難い事に「クソ蛾」等の不適切な箇所を除いては、ほぼ原文をそのままで載せて下さった。よくこんなフザけたような文章を載っけてくれたよ。感謝だね。
オマケに読みやすいようにと、各章に「プロローグ」「採集したカトカラの正体は?」などの小タイトルを付けて下さった。これまた感謝である。気にいったので、今回その小タイトルをそのまま使わせて戴いた。岸田せんせの「矢崎さんという優秀な編集者もいるし」と云う言葉にも納得だすよ。
この場を借りて、改めて矢崎さん、有難う御座いました。

 
(註1)京都で既にカバフは得てはいたものの
カバフの採集記は拙ブログのカトカラ元年のシリーズに『孤高の落武者』『続・カバフキシタバ(リビドー全開!逆襲のモラセス)』などの文があります。興味のある方は、そちらも併せて読んで下されば幸いです。

 
(註2)奈良公園のカバフキシタバの記録
小太郎くん曰く、過去に古い記録が残っているそうだ。

 
(註3)謎のカトカラは尖らない
但し、裏面の斑紋に関しては細かい個体変異はあるかと思われる。本当はもっと沢山の個体を図示して論じなければならないのは重々承知しているが、これはあくまでもその時の流れで書かれてある事を御理解戴きたい。

 
(註4)zenodo
https://zenodo.org/record/1067407#.XTkdVmlUs0M
学術論文のサイトみたいだね。
尚、C.naganoiは1982年に蛾の大家、杉 繁郎氏によって記載された。桃園県で発見され、バラタイプには新竹県の標本が指定されている。
台湾名は「長野氏裳蛾」。ネットでググっても情報があまり出てこないので、おそらく台湾では稀な種だと思われる。

 
(註5)自身のブログ
http://iga72.xsrv.jp/ 蝶に魅せられた旅人。
アナタが読まれている、このブログの事ですね。

 
(註6)吸汁に下翅を開かないカトカラ
全てのカトカラを観察したワケではないけれど、文献を漁った結果、マメキシタバ以外にはそうゆう生態のものは見つけられなかった。優れた生態図鑑として知られる西尾規孝氏の『日本のCatocala』にも載ってなかった。

 

 
但し、通常は下翅を開く種でも、ケースによっては閉じたまま吸汁するものもいることを書き添えておく。

 
(註7)ヤマトタケルノミコト
『古事記』『日本書紀』などに伝わる古代日本の皇族(王族)。
『日本書紀』では「日本武尊」。『古事記』では「倭建命」と表記されている。現代では、漢字表記の場合には一般的に「日本武尊」の字が用いられる場合が多い。カタカナ表記では、単にヤマトタケルと記されることも多い。
第12代景行天皇の皇子で、第14代仲哀天皇の父にあたり、熊襲征討・東国征討を行ったとされる日本古代史上の伝説的英雄である。須佐之男命(すさのおのみこと)がヤマタノオロチ(八首の大蛇)をブッた斬った時に中から出てきた「草薙の剣」を携えている。この伝説の剣はスサノオが天照大神(あまてらすおおみかみ)に献上したもので、それをタケルくんが天照大神から貰ったってワケ。ようするに伝説だらけの人が絡んでくるバリバリの英雄なんである。
その倭建命が故郷の大和の国を離れ、戦いに疲れて病に伏す。そのさなかに大和の美しい景色を想って歌ったとされるのが「倭は 国のまほろば…」という歌なんである。
訳すと「大和は国の中で最も素晴らしい場所だ。幾重にも重なり合った青垣のような山々、その山々に囲まれた大和は本当に美しい場所だ。」といった意味になる。

 
(註9)万葉まほろば線
JR桜井線の別称。JR奈良駅から奈良県大和高田市の高田駅までを結ぶ西日本旅客鉄道(JR西日本)の鉄道路線。

 
(註8)シンジュサンを採ろうなどとは思わなかったら
これについては本ブログに『三日月の女神・紫檀の魁偉』と題して書いた。

  

2019’カトカラ2年生 其の弐(1)

 

  vol.19 ウスイロキシタバ

   『象牙色の方程式』

 
カトカラを本格的に採り始めた2018年は、ウスイロキシタバを探しに行かなかった。
フシキキシタバ(註1)を偶然に採って、カトカラに少し興味を持ち始めたばかりの頃だったので、カトカラ1年生の触り、謂わば黎明期。また本格的にカトカラを集める気なんてサラサラ無かったのである。
だいちウスイロキシタバなんて、カトカラの中でも一番汚い奴っちゃと思っていた。下羽が鮮やかな者が多いこのグループの中にあって、ウスイロは下羽に鮮やかさが微塵も無いのである。
それにカトカラ同好会のホームページ(註2)のウスイロキシタバの項には「関東以北の愛好者にとっては憧れのカトカラだが、関西の愛好者にとってはなんということのない種である」云々といったようなことが書かれてあった。ゆえに、そのうちどっかで採れるだろうと思っていたのだ。
しかし、2018年は結局どこでも会うことはなかった。

それでも2019年には、どうにでもなると思っていた。
そうゆう事実はスパッと忘れていて、いつものように根拠の無い自信に溢れていた。そう、相変わらずのオメデタ楽観太郎になっていたのである。

 
2019年 6月13日
 
夏の青空が広がっている。
時期的にはもう梅雨に入っていてもオカシクない筈だが、ここのところ天気は頗(すこぶ)る良い。この先の予報も晴れ続きだ。何でもかんでも異常気象で片付けるのもどうかとは思うが、やっぱりここ数年の天気は何だかオカシイ。

この日は宝塚方面へ行った。

 

 
第一の目的は、来たるカバフキシタバ(註3)のシーズンに備えての下見だった。ライトトラップを持ってないので、現状は樹液採集に頼らざるおえないのだ。その為には予め樹液の出てる木を探しておきたい。天才肌なので(笑)、いつもは下見なんぞ面倒臭くてしないのだが、天下のカバフ様である。手は抜けない。それに此処にはウスイロキシタバの記録もあるので、あわよくばと云うのもあった。謂わば、一石二鳥の作戦ってワケ。

山を歩き回るが、樹液の出ている木は1本しか見つけられなかった。しかもバシバシに樹液が溢れ出ているような木ではない。誠に心許ないようなチョロチョロ状態だ。もしその木に何も寄って来ないようなら、暗闇の中を山に登って探しなおすしかない。昼間歩いている時に樹液の甘い香りがしたのだが、どの木から出ているのか分からなかったのだ。それを探すしかないってワケ。
実をいうと、樹液の出ている木は昼間よりも夜の方が見つけやすい。カブトムシやクワガタは目立つし、クソ蛾どもが複数飛んでいたら、その周辺から樹液が出ている可能性が高いのだ。それに昼間だと視界が広過ぎて視認センサーが散漫になりやすい。対して夜だと見えるのは懐中電灯の照らす範囲だけなので余計なものは目に入らず、見逃す確率が格段に減るのである。

ようやく暗さが増し始めた午後7時20分、その唯一の樹液ポイントへと行く。
だが、来ていたのはヤガらしいクソ蛾が1頭だけだった。
まあいい。クソ蛾であっても蛾が誘引される樹液であると云う証明にはなる。希望はゼロではないということだ。ゼロと1とでは雲泥の差がある。明るい未来を想像しましょう。

とは言いつつも、正直この木だけでは厳しい。取り敢えず此処は置いといて、新たな樹液ポイントを探しに夜の山道を歩き始める。
10分ほど歩いたところで、空気中に微かな樹液の匂いを感じた。見つけられなかった木は、この辺だったような気がする。立ち止まり、咄嗟に懐中電灯をその方向へと向けた。下から上へと灯りを移動させる。
❗Σ( ̄□ ̄;)ワッ、地上約4mくらいのところでカトカラが乱舞していた。
どうりで見つけられなかったワケだよ。昼間見つけられなかったのは、樹液が出ている箇所が高かったからだね。
それにしても凄い数だ。少なくとも10頭以上は飛んでいる。いや、20頭くらいはいるだろう。こんなに沢山のカトカラが乱舞している光景を見るのは初めてだ。
時期的に考えれば、勿論カバフではないだろう。まだ早い。黄色いからウスイロである可能性も無さそうだ。ウスイロは名前通りに色が薄いのだ。だとしたら、フシキかな❓コガタ(註4)にもちょっと早い気がするしね。あっ、ワモン(註5)の可能性も無いではないね。でもワモンにしても出始めの頃だろうから、こんなに沢山いる筈はない。だいちワモンは何処でも個体数が少ないと言われているので、こんだけ大量にいたら事件だ。可能性、却下だ。逆にアサマ(註6)は、もう姿を消している頃だ。同様に、こんなに大量にいるワケがない。
黄色が鮮やかに見えるし、感じからすっと、たぶん全部フシキキシタバで間違いないだろう。最近、網膜にインプットされた画像と同じに見えるもん。

とやかく考えていても話は始まらない。
網をスルスルと伸ばして、空中でエイやっι(`ロ´)ノ❗と掬い採る。たぶん一度に3つ入った。
中を見ると、予想通りの3つともフシキだった。どうやら飛んでるのは皆、フシキくんのようだ。
どこが珍品やねん٩(๑`^´๑)۶❗嘗(かつ)ては、そうだったらしいけど、今や普通種の域だ。

樹液への飛来時間の謎を解きたいので、ガツガツ採らずに目についた型の良さそうなものだけを選んでチョビチョビ採る。
いくつか採り、落ち着いたところで周辺を見ると、やはり思ったとおり、周囲の木の幹に止まっている個体が複数いた。樹液の出ている木の上部や下部で憩(やす)んでいるものもいる。
おそらく宵になると直ぐに餌を摂りに樹液にやって来て、お腹いっぱいになったら周辺で憩んでいるのだ。で、また腹が減ると、再び樹液に訪れるものと思われる。その合間に交尾も行われるのではなかろうか。それだと、途中でピタリと飛来が止まる謎にもスッキリと説明がつく。餌場はオスとメスとの出会いの場でもあるのだ。

 
【フシキキシタバ】

 
しかし、交尾しているカップルは1つも見つけられなかった。出歯亀作戦、失敗である。

ウスイロキシタバは、結局1頭も飛んで来なかった。
とはいえ、さしたるショックは無かった。昼間に山の植物層を見て、殆んど諦めてたもんね。
ウスイロキシタバの幼虫の食樹はアラカシだと言われている。どうやら、そのアラカシが多く生える豊かな照葉樹林が棲息地みたいなのだ。でも此処は乾燥した二次林って感じで、あまり居そうには見えなかったのである。
まあ、そのうち会えるっしょ。

 
2019年 6月17日

この日から本格的なウスイロ探しが始まった。
でも場所の選定には迷った。『ギャラリー・カトカラ全集』には、関西なら何処にでも居るような事が書いてあったが、調べてみると意外と文献記録が少ないのだ。ネットを見ても、関西のウスイロの記事は少ない。

場所は武田尾方面と決めた。
理由は、わりかし最近の記録があるし、ナマリキシタバの下見もしておこうと思ったのだ。またしても一石二鳥作戦である。虻蜂取らずにならぬ事を祈ろう。

 

 
ここは国鉄時代の旧福知山線が走っていたのだが、跡地が遊歩道になっている。
でもトンネルだらけで、昼間でもメッチャ怖い((( ;゚Д゚)))

 

 
昼間でコレなんだから、夜なんて想像に難くない。チビるに充分なシュチエーションだろう。
いや、超怖がり屋としては恐怖のあまり発狂するやもしれぬ。2年目ともなると夜の闇にもだいぶ慣れてきたとはいえ、トンネルはアカンで、Σ(゚Д゚|||)アカンでぇー。

 

 
トンネルを抜けたら、又トンネルってのが何度も続く。長くて出口が見えないトンネルだってあるから、バリ怖い。カッちゃんだったら、髪の毛ソッコー真っ白やな。

 

 
ナマリキシタバは流紋岩や蛇紋岩の岩場環境に棲息するとされている。ここは流紋岩だろう。この感じ、如何にもナマリが居そうな環境だ。

ナマリの食樹であるイブキシモツケも結構そこかしこにある。

 

 
これでミッション1はクリアだ。ナマリも何とかなりそうな雰囲気だね。7月半ば過ぎ辺りに来れば大丈夫だろう。

メインミッションの方も着々と進んでいた。
アラカシの多い森で、樹液の出ているクヌギの木を1本見つけた。有望なポイントだろう。そして、クヌギが主体だがアラカシも結構混じる雑木林でも樹液がドバドバ出ている木を見つけた。一安心だ。取り敢えず、これで戦える態勢は整った。この2つのうちのどっちかにポイントを絞ろう。

とはいえ夜が訪れるまでには、まだまだ時間がある。ナマリキシタバの幼虫記録は生瀬にもあるから、そこまで歩くことにした。それに生瀬辺りに、行きしの電車の車窓から見て気になる場所があった。山頂に赤い鳥居があって、その山が何か環境的にいい感じなのだ。そこも確かめておきたかった。もしソチラの方が良さげなら、ポイントを変えてもいい。夜の森は何処でも怖いが、トンネルは特別だ。ホラー度マックスなのだ。アソコは避けれるものなら避けたい。それが偽らざる心情だ。
その場でググると、アラカシ林も有るようだ。今日のオラ、冴えてるかも。<( ̄︶ ̄)>へへへ、早くも楽勝気分になる。

だが、生瀬までの道程はつまらなかった。イブキシモツケは結構生えているのだが、如何せん交通量の多い車道沿いなのだ。成虫のポイントとしては使えない。いくら何でも、こんなところで網を振る勇気は無い。危険だし、通報されかねない。気分が少し下がる。

生瀬に到着。
しかし、麓が住宅地で道が入り組んでおり、赤い鳥居の神社への登り口が中々見つけられない。そして、ウロウロしているうちに日が暮れてきたので断念。やむなく武田尾方面に戻ることにした。無茶苦茶歩いてるからヘトヘトだし、何だか雲行きが怪しくなってきた。

迷ったが、アラカシの森を選択することにした。ウスイロの方程式はアラカシの森だ。それに従おう。
午後7時を過ぎて暫くすると、突然闇が濃くなったような気がした。(-_-;)怖っ…。戦々恐々だが、やるっきゃない。

 

 
午後8時を過ぎても、ウスイロは姿を見せない。飛んで来たカトカラはフシキキシタバだけだった。嫌な予感が走る。
このままだと決断を迫られる事になる。此処に残って粘るか、思い切って移動するかを判断せねばならぬ。

8時半になっても、姿なし。どうする❓
この時間になっても飛んで来ないと云うことは、此処には居ないのかもしれない。それに闇の恐怖にも耐えきれなくなってきた。照葉樹の森の中は、ことさらに暗いのだ。
ヽ(`Д´)ノえーい、しゃらクセー。クヌギの雑木林に移動することを決断した。判断に迷ったら「動」だ。攻めよう。何もせずに戦いに敗れるなんて耐えられない。無策に終わる奴は滅びればよい。

樹液がドバドバ出ている木には、いっぱい蛾が集まっていた。
クソ蛾も多いが、カトカラも結構いる。
採ってみると、大半がフシキキシタバだったが、コガタキシタバも混じっていた。

だが、結局ついぞウスイロは1頭たりとも現れなかった。
(ㆁωㆁ)…。闇の中で💥💣爆死。白目オトコと化す。

 
2019年 6月19日

この日も天気が良い。
日付的には、とっくに梅雨に入っている筈なのに連日晴天が続いている。ライト・トラップをするわけではないので、特に問題があるワケではないが、連日の晴れも考えものかもしれない。乾燥し過ぎるのも良くないような気がする。ウスイロキシタバは紀伊半島なんかでライト・トラップをすると、ヤクシマヒメキシタバと一緒に飛んで来るそうなのだが、その際、雨が降ると活動が活発になると聞いたことがある。おそらくヤクヒメと同じく湿気の多い環境を好む種なのではあるまいか。そう思ったりもするからだ。

生瀬駅で降り、あの頂上に赤い鳥居がある場所を目指す。リベンジだ。
前回は北側の斜面からアプローチを試みたのだが、結局登山口を見つけられずに時間切れとなった。だから、今回は駅を出て一旦右に針路をとり、北西側から回り込んでルート探査することにした。

しかし斜面はアホほどキツいし、山へはフェンスで囲まれていて入れない。結構アラカシも生えているし、環境的には悪くないのに何でやねん❓
オマケに直射日光に晒され、((o(∵~エ~∵)o))アジィィ〜 。たちまち汗ダクになる。でもって、再び住宅地に迷い込む。もう最悪である。
結局、ぐるりと歩いて山の南東側までやって来てしまった。このままいくと、前回歩いた所にまで行きついてしまう。だったら、何処から登れというのだ❓もしかして、謎の霊的な山だったりして…。結界じゃよ、結界❗そんな山に、夜一人ぼっちで入るのか❓絶対、魑魅魍魎どもに拐(さら)われるな…(ー_ー;)
また要らぬ事を考えてしまう。基本的に超がつく怖がり屋さんだし、チキンハートのビビりなのだ。

山の南東の端まで降りてきて、やっと道が見つかった。しかも、この前に引き返した辺りだ。まさか学校の裏に登山口があるとは思いもよらなかったよ。(╯_╰)徒労感、激しいわ。ものスゲー遠回りしたし、せっかく登ったのに降りてきて、また登るのかよ。

斜面を登ってゆくが、意外と山は乾燥している。住宅地のそばだし、致し方ないか…。アラカシもあるにはあるのだが、思っていた程にはない。

山頂に辿り着く。

 

 
幟(のぼり)に光照稲荷大明神とある。「あまてらすいなりだいみょうじん」と読むのかと思いきや、まんまの「こうしょういなりだいみょうじん」と読むんだそうな。

 

 
眼下に生瀬の町が見える。
眺めは気持ちいいくらいに抜群に良い。さぞや夜景も綺麗だろう。でもここじゃ、多くは望めそうにない。また惨敗の可能性大だ。

こうゆう事もあろうかと思って、第2の候補地として岩倉山方面の下調べもしてあった。塩尾寺周辺にアラカシ林があるらしい。それに、この近くにもウスイロの記録がある。

麓に降り、宝塚駅まで歩く。郊外の一駅は遠いわ。
甲子園大学の横を抜け、山を登り始める。しかし、あまりにも坂がキツくて半泣きになる。忘れてたけど、六甲山地の斜面はキツイのだ。去年、クロシオキシタバ(註7)の時に散々ぱらそれを味わった筈なのにね。見事なまでに忘れておる。六甲と云えば、あの源平合戦の一ノ谷の戦いの鵯越えで有名なのだ。半端ない坂なんじゃよ。

「人間とは、忘却し続ける愚かな生命体である。」
          by イガリンコ・インタクタビッチ

言葉に含蓄ありそで、全くねぇー。底、浅ぇー(◡ ω ◡)
3歩あゆめば忘れる鶏アタマ。単に阿呆なだけだ。

午後5時半に塩尾寺に到着。

 

 
マジ、しんどかった。
標高は350mだが、平地から一気に登っているので、かなり高いとこまで来た感がある。

寺を越えて尾根道に入る。
樹液の出ている木を探すが、中々見つけられない。クヌギやコナラの木は結構あるのに、何で❓
それに尾根にはアラカシがあまり生えていない。見た感じではアラカシ林はもっと下にあり、そこへゆく道はどうやら無さそうだ。ピンチじゃのう。完全に負のスパイラルに入りつつある。否、既に入っとるわ。

あっちこっち探してるうちに日が暮れ始めた。

 

 
夜になれば見つけられるかもしれないと思って、日没後も探してみたが、ねぇっぺよー(༎ຶ ෴ ༎ຶ)
こりゃダメだと思い、標高を下げることにした。
そこで漸く樹液の出ている木を1本だけ見つけた。しかし、出てる樹液の量は少なく、寄って来るのはクソ蛾のみ。

 

 
夜景が綺麗だが、それも今は虚(むな)しく見える。焦りからか、心に余裕が全然ないのだ。
まだウスイロを採ったことがないので、その方程式が見えない。どうゆう環境を好むのかがワカラナイ。前回に惨敗してるから、尚更イメージ出来なくなってる。もしかしたら、これってオドロ沼にハマったのかもしれん。蝶の採集では、そうゆうことは滅多に無かったからパニックになりそうだ。何で小汚いウスイロ如きが採れんのだ。関西では普通種だと聞いてたけど、ホントかよ(-_-メ)❓
まさかの躓きに、暗澹たる気分に支配される。

午後8時40分。
このままでは惨敗必至だと思った。採れるイメージが全然湧かないのである。この感覚は大事にしてて、そうゆう時は蝶での経験で大概は惨敗に終わると知っている。ここにずっといてもロクな事は無い。ダメな場所でいくら粘ろうともダメなものはダメなのだ。
もう一人の俺が、動けと命令している。
意を決して、ここを離脱することにした。まだ今ならギリギリで何とかなる。駆け足で山を下った。

記憶では、汗ダクになりながら9時20分くらいの武田尾方面ゆきの電車に飛び乗った。
一発逆転。イチかバチかの博打(ばくち)だ。勝負師ならば、大胆に最後の一手を打とう。そこに一縷の望みを賭けよう。

                        つづく
 

追伸
2019年の採集記は1回で終わる予定だったが、結局長くなって2回に分けることにした。毎度ですが、頭の中の草稿構成力が甘い。というか、アバウト過ぎるのだ。よく考えもせず書き始めるから、こうゆう事になる。書いてるうちに構成が決まってきて、それに肉付けしてるうちに結局長くなっちゃうんだよね。熟思黙考には向いてない人なんである。喋ってるうちにするすると言葉が出てきて、自分でも、へーそうゆうこと思ってたんだねと感心しちゃうようなタイプなのだ。

 
(註1)フシキキシタバ

(Catocala separans)

上が♂で下が♀。
詳細は拙ブログの、2018’カトカラ元年シリーズの『不思議のフシキくん』とその続編『不思議なんてない』を読まれたし。

 
(註2)カトカラ同好会のホームページ
ホームページ内の『ギャラリー・カトカラ全集』のこと。
日本のカトカラ各種の写真と簡潔な解説が付与されており、カトカラの優れた入門書になっている。

(註3)カバフキシタバ

(Catocala mirifica)

(♂)

(♀)

日本のカトカラの中では、トップクラスの珍品だが、去年タコ採りしたので、本当にそうなのかな?と思ってる。
これまたカトカラ元年シリーズの『孤高の落武者』と『リビドー全開❗逆襲のモラセス』の前後編を読んでおくれやす。

  
(註4)コガタ=コガタキシタバ

(Catocala praegnax)

(♂)

(♀)

同じくコチラも元年シリーズのvoi.4『ワタシ、妊娠したかも…』と、その続編『サボる男』を読んでけろ。
それにしても、フザけたタイトルだよなあ…。

 
(註5)ワモン=ワモンキシタバ

(Catocala xarippe)

(♂)

(♀)

 
詳細は、元年シリーズのvol.2『少年の日の思い出』と、その続編『欠けゆく月』、続・続編『アリストテレスの誤謬〜False hope knight〜』を読んでたもれ。

 
(註6)アサマ=アサマキシタバ

(Catocala streckeri)

(♂)

最新作の『2019’カトカラ2年生』の解説編の第5章『シュタウディンガーの謎かけ』と第6章『深甚なるストレッケリィ』を読んで下され。暇な人は第一章の『晩夏と初夏の狭間にて』から読みませう。

こうして黄色い下翅のカトカラの幾つかを並べてみると、矢張りアサマだけが雌雄の触角の長さに相違がある。まだ全種の触角を確認してはいないけど、今のところアサマの♀だけが触角が短い傾向がある。これについては第1章から第4章にかけて書いとります。

因みに、この日は1頭だけアサマがいた。勿論、ボロボロでした。

  
(註7)クロシオキシタバ

(Catocala kuangtungensis)

(♂)

(♀)

カトカラ元年vol.9『落武者源平合戦』と、その続編『絶叫、発狂、六甲山中闇物語』を読んでおくんなまし。

何だか今回は、自分のブログの宣伝ばっかになっちゃったなあ…。

 

ゼフィルスなんて、どうでもいい

  
ゆえあってカトカラの連載がひと月ほど書けないので(註1)、キアゲハの回で力尽きていた『台湾の蝶』の連載を再開させる気になった。
再開するに辺り、何をテーマにするかを考えた。
あまり地味過ぎるのも何だし、ここは一発、勢いづけに派手な奴から始めよう。そう考えた。で、今まで一度も取り上げてこなかったゼフィルス(ミドリシジミ類)にしようかなと思った。綺麗だし、とても人気のあるグループだから、再開の第1回目には相応しい。謂わば、再開に花を添えるような存在だと思ったからだ。
因みに、ゼフィルス(Zephyrus)とは「西風」もしくは「西風の妖精」という意味である。

だが、画像を探してるうちに、ワケわかんなくなってきた。整理してなくてグッチャグッチャに並んでるのだ。
これって、何だっけ❓

 

 
エサキミドリシジミ(Chrysozephyrus esakii)❓
でも、よくよく見れば、どうやらただのミドリシジミ(Neozephyrus japonicus)のようだ。
念の為に展翅した日付から野外写真を探すと、間違いなくミドリシジミであることが判明した。

 
(2018.5.27 京都市)

 
スマン。情けないが、ミドリシジミの類って、いまだに同定に自信がないのだ。
正直、ハヤシミドリシジミとヒロオビミドリシジミ、エゾミドリシジミ、ジョウザンミドリシジミの♂を並べられて、『ハイ、どれがどれでしょう❓』と尋ねられたら、すぐにテキパキとは答えられないと思う。ジッと見て考えてからでないと、正しい答えは導き出せないだろう。
♂はまだ何とかなる。♀なんか正しく答えられるかどうか、まるで自信がない。
ゼフィルス好きの人からみれば、ダッせー、アホちゃうかと言われそうだが、蝶屋にしてはゼフ(こう略称するのが通例)なんてどうでもいいと思っているのである。

蝶好きの間の中で最も人気のあるグループといえば、ギフチョウとこのゼフが双璧ではないかと思う。

 
【ギフチョウ】

 
シーズンになると、皆さんゼフの仲間を嬉々として採りに行くし、冬場は卵探しに余念がない。完品の標本を得る為に卵から飼育するのだ。蝶の中で最も飼育されているのがゼフィルスではないかと思う。それくらい人気があるのである。
でも、自分は正直、熱量が低い。宝石のように美しいし、可憐だとは思う。だから嫌いじゃない。寧ろ好きだ。けれど日本産ゼフィルス全種を採ってからは、急速に興味を失った。
正直、採っててあまり楽しくないのである。
ゼフィルスの成虫採りといえば、それぞれの♂が縄張り行動(占有活動)をする時間帯に行って採ると云うのが基本である。これが嫌いだ。だいたいが木の高い所で飛び回るから長竿が必要になってくる。最低でも7mくらいはないと勝負にならない。中には10m以上を持つ猛者もいる。自分のような非力なものは、これを振り回すのがしんどい。シャープに振れないのも苛つく。一閃💥電光石火の如く振り抜きたい性質(たち)なのだ。また、たとえ振り回せたところで、しなるからそれを計算して網を振らなければならない。これが難しい。
それに目線は上になる。下から見ると人の目は距離感が狂うようだ。そのままの視覚で網を振ると、大概は手前を振ってしまうのだ。中には蝶が枝先に止まっているのに、とんでもない手前を振っている輩もいる。つまり、これまた修正、計算しなくてはならないのである。
そして、最も嫌いなのが上をずっと見てるから首が痛くなることだ。自分のような細くて美しい流麗な首を持つものには(笑)、これが誠にもって辛い。

あっ、もっと嫌いなことがあるわ。
ゼフィルスはテリトリーを張る時間帯があって、主にその時間帯に採集するという事を既に述べた。じゃあ、それ以外の時間はどうやって採るのかというと、「叩き出し」と言われる手法が使われる。これはどんな方法なのかというと、網で木の枝先を叩きまくって、驚いて飛び立たせるという戦術だ。やがて蝶はどこかに止まるから、位置を確認して採るのである。
しかし、これが儘ならない。飛び立った蝶が思い通りの場所に止まってくれるとは限らないのである。更に上、網の届かない所に行ってしまう場合も多いし、見失ってしまうケースも多々ある。それに叩けば幾らでも飛ぶというものではない。叩いた回数に対して、蝶が飛ぶ回数は圧倒的に少ない。ダメな時は、どんだけ叩いても全く飛ばないなんてことはよくあるのだ。
夏のクソ暑い、しかも一番湿気の多い時期に上を向き、首の痛みと腕の痛みに耐えてひたすら叩くのである。その頑張りに与えられる対価は極めて低い。殆んど罰ゲームの域である。
これを自分は「労働」と呼んでいる。囚人の無益な労働だ。そこにはクリエイティブなものは無い。自分の好きな採集スタイルではないのだ。

でもなあ…、今年は結局一度もゼフ採りに行かなかったんだよなあ。そうなると何だか淋しい。
あの美しい輝きは何にも変えがたいのだ。『森の宝石』と言われるだけのことはある。
来年は「労働」を厭(いと)わず、会いに行こう。

  
                    おしまい

 
追伸
この文章は7月に書き始めて、途中で投げ出したものである。こんなこと書くと、ゼフィリストに無茶苦茶罵られるのではないかと思ったのである。もとより好んでワザワザ揉め事を起こしたくはない。
しかし、折角書いたのに破棄するのも勿体ないと考え直した。と云うワケで加筆して完成させたのが、この文章である。
ゼフィリストの皆さん、怒らないでネ。

 
(註1)ゆえあってカトカラの連載がひと月ほど書けないので

カトカラのニュー、マホロバキシタバを発見しちゃったので、「月刊むし」に発表されるまでは書けなくなった。連載の次作はカバフキシタバだったのだが、マホロバの発見にカバフが深く関わっていたのである。カバフの事を書くとならば、どうしても場所に触れなければならない。そうなると勘のいい人ならば、マホロバの産地を特定できる可能性が出てくる。まさかそんな事はあるまいとは思ったが、それを見つけて先に記載される可能性が無いとはいえない、との事で、関係者の間で箝口令が敷かれていたのだ。
因みに、月刊むしの10月号は無事に発行され、記載も完了した。一方、カバフの回の方も書き終えることができた。拙ブログに『2018′ カトカラ元年』と題して書いた連載の第5話とその続篇に、その辺のことは書いてあるから御興味のある方は読まれたし。

 

続・カバフキシタバ(後編)

 

『リビドー全開❗逆襲のモラセス』後編

  
2019年 7月4日。

当初は奈良にリベンジしに行く予定だったが、急遽方針を転換して六甲へ。
勘ではあるが、天気予報も含めて考えた結果だ。
予定は未定であって、しばしば変更。虫採りは常にフレキシブルでなくてはならない。特に天候に関してはビビットであるべきだと思う。

今日は下見の時とは違う別ルートを探すも、やっぱり幼虫の食樹であるカマツカの木は見つけられなかった。近くにカバフの記録はあるが、ホンマに此処におるんかいのお❓ このままの流れだと、再び辛酸ナメ子さんになりかねない。見えないけど、恐怖を好物とする性格の悪い小人くんたちが、傍らでクスクス笑いをしてそうだ。テメエら(=`ェ´=)、人の人生に悪さすんじゃねえぞ。

夜がやってきた。
暗い山道を黙々と登る。夜になってもクソ暑い。瞬く間にTシャツが汗でビッチャビチャになる。

午後7時半。
ようやく樹液ポイントに到着した。さあ、今日こそカバフを手ゴメにしてやろう。

が、(◎-◎;)ゲロゲロー。
あろうことか、半月程前にあれほどカトカラが乱舞していたコナラの木の樹液が止まっていた。
(・_・)……。見事なまでに何もいない。嘘でしょ❗❓
三連敗という現実が目の前にグッと迫ってくる。

暫く様子を見てみたが、やっぱ何も飛んで来ーん。
( ̄ロ ̄lll)まさかである。これってさあ、世間的に言うところの、見事に思惑が外れるってヤツだよね…。惨敗の予感は益々濃厚となる。
だが、備え有れば愁いなし。昼間、用心のために別な場所で新たな樹液ポイントを見つけておいた。オデ、だいたいアホだけど、たま~に賢いのである。
僅かな期待を抱き締めて、そちらへと移動する。

Σ(◎-◎;)アキャア━━━。マジかよ❗❓
けんど、糖蜜を吹き掛けるための霧吹きが一回使用しただけで、早々と詰まった。やること為(な)すこと上手くいかない。再び暗雲が垂れ込める。惨敗の予感、ダダ黒モジャモジャだ。

コシュコシュ、コシュコシュ。コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュー…、(ノ-_-)ノ~┻━┻ ダアーッ❗何度やっても霧吹きから何も出てこん(#`皿´)❗
気が短い男ゆえ、ダンダンダーン(*`Д´)ノ❗、思わず破壊の衝動に駆られる。
(; ̄ー ̄A 落ち着け~、(; ̄ー ̄A 落ち着け~、俺。

🎵( ̄ー ̄)落ち着いたあ~、お~れ~。
と云うワケで、わりかし簡単に冷静になったワタクシは、一旦アタマの部分を取り外し(ワシの頭やないでぇ~、霧吹きでっせー)、管も抜いてお茶をブッかけてみた。
でもって、Ψ( ̄∇ ̄)Ψこちょこちょ~、Ψ( ̄∇ ̄)Ψこちょこちょ~。魔法の愛撫をしてやる。
Ψ( ̄∇ ̄)Ψええんか、Ψ( ̄∇ ̄)Ψええんかあ~。

装着しなおして、再度シュコシュコやってみる。
暫くやってたら、ピュッ💦と出た。
❤あっはあ~ん。💕うっふ~ん。とれびあ~ん。
<(`^´)>ふっか~つ❗❗オイラ、🎵\(^o^)/てくにしゃあ~ん。
ぬははははΨ( ̄∇ ̄)Ψ、エロ男の超絶テクニックをナメんなよである。リビドー全開だぜ❗
これで思う存分、ブッカケてやれる。その辺の木を、まみれまみれのヌチョヌチョのネチャネチャにしまくってやらあ。男のリビドー、💥爆発じゃーい❗

だが寄ってくるのは糞キシタバのパタラ(C. patala)とチョコチョコ歩き回る糞ヤガのみ。この歩き回るところが💢癇(かん)に障る。イラッときて、石を投げつけたくなる。
名前はたぶんカラスヨトウって奴だ。ヨトウというのは漢字で書くと「夜盗」らしい。だから泥棒みたく歩き回るのか?、(=`ェ´=)小癪なっ。もしも携帯用殺人レーザービームとかがあったら、1匹1匹ピンポイントで八つ裂きにしてくれるのに(-_-)
人間、焦りが募ると心が荒れてくる。きっと闇の中の今の顔は、焦燥がベットリと貼り付いた醜い顔になっているに違いない。

午後8時26分。
樹液に何やら他とは違うカトカラが飛来していた。
でも結構高い位置だし、角度的にも真横に近くてよく見えない。おまけに手前の葉っぱが邪魔で下側が見えづらい。下翅を僅かに開いていそうだが、それも確認できない。持ってる懐中電灯が100均で買ったモノだから、光量が弱いというのも相俟って(註1)、兎に角よくワッカラーン。
でも消去法でいくと、マメキシタバにしては大きいし、パタラにしては小さい。アサマキシタバやフシキキシタバは季節的にもう終わっているし、ウスイロキシタバもそうだろう。ワモンキシタバも関西では終わりかけの時期だ。見たところ鮮度は良さそうだから、コヤツらも除外していいだろう。反対にアミメキシタバやクロシオキシタバには時期的にまだ早い。となると、残るはカバフキシタバとコガタキシタバしかいない。大きさ的にもそれくらいだ。でもコガタキシタバは最近ちょくちょく見ているから、雰囲気的に違うような気がする。ということはカバフ❓だよね❓
けど、そもそもカトカラじゃないと云う可能性もあるなあ…。上翅の見た目は似てるけど、下翅に色鮮やかさが無い糞ヤガの一種かもしれない。ヤガ科全般の知識がないから、それも充分有り得る。採ってはみたものの、下翅がドドメま○こ色でしたーという残念なパターンは往々にしてある事なのだ。

まあここでグダグダ考えていても埒が開かない。
取り敢えず採ってみっか。4m竿をするすると伸ばす。
それなりに緊張感はあるものの、それは通常のもので、過度な緊張感は無い。どうせ糞ヤガだろうという気持ちが心のどこかに有るからだ。きっと連敗で打ちひしがれていて、マイナス思考になっているのだ。糠喜びで、更なる落ち込み簾(すだれ)男になるのは避けたいという深層心理が無意識に働いてるんだろね。

高さを慎重に合わせて、💥叩く。
飛んで逃げた形跡はないから、たぶん網に入った筈だ。竿をすぼめて、中を覗く。

あらま(@ ̄□ ̄@;)❗、カバフやんかあ。
急に緊張感が高まる。今度は何があっても逃すワケにはいかない。もし又やらかしたら、その場で首カッ切って息絶えねばならぬ。慎重に慎重を期して、毒ビンに取り込んだ。

 

 
とはいえ、思っていた程の高揚感はない。何か拍子抜けした感じだ。奈良と京都の惨敗があったから、次の出会いはもっとドラマチックな展開を想像してたからだろう。背水の陣での戦いを覚悟していたのだ。それがまさかのシチュエーション曖昧の棚ボタ的だったから、どこかガッカリ感は否めない。虫採りにロマンとドラマ性を求める者としては、肩スカシを喰らったような気分だ。
それに背中の毛が落武者禿げチョロケになっているのに、途中で気づいちゃったと云うのもあるかもしれない。憧れていた美人さんが実をいうと円形脱毛症だった…。なんて事は万に一つも無いことだろうから、喩えとしては無理があるとは思うけど、そんな感じだ。

 

 

 
そんなに暴れてなかったし、取り込みも早かったのになあ…。何でやのん…❓

でも1頭いるということは複数いる可能性が高い。気を取り直して、糖蜜を集中的に撒いた場所へと移る。

(@ ̄□ ̄@;)あっ❗こっちにもおった。
今度は糖蜜トラップに来てるから、目の高さだ。
楽勝じゃん。テンション⤴上がるうーっ(о´∀`о)
しかし、ネットを構えかけてやめた。この高さだと毒ビンを直接かぶせる事ができる。ならば暴れる時間も短い。さすれば落武者化も防げる可能性が高い。そう踏んだのさ。

ヘッドライト、スイッチ・オーン。
準備万端。毒ビンを持ち、そっと近づく。
幸い、夢中で甘汁を吸っている。油断しているスキに背後からガバッじゃ❗でもって、カクカクカクカク…、手ゴメにしたるぅー(=`ェ´=)

だが、カブしたが紙一重。すんでのところで飛んだ❗
あちゃーΣ(×_×;)、また失敗かよう。俺、この毒ビンを被せるやり方って苦手なんだよネー。いつも、すんでのところで逃げられる。慣れてないから、下手に緊張感とか殺気が出ちゃうんだろなあ。蝶を手で採るのは得意なのになあ…。心を無にするには、対象に対して、それなりの経験値が必要だ。蝶には慣れていても、カトカラに対しての慣れはない。もう少し時間が必要そうだ。

逃したが、飛び方はパタパタ飛びだから目で追える。懐中電灯を拾って、あとを追う。
普段、カトカラはビュンビュン飛びで、かなり飛翔速度が高い。夜空を飛んでいる時などはスズメガの仲間かと見紛うばかりだ。しかし、なぜか樹液や花に飛来する時や、そこを飛び去る時はパタパタ飛びで遅い。ホバリングや方向転換が下手で、なんか鈍クサイ飛び方なのだ。急発進できないというか、トップスピードになるのに時間がかかり、急にスピードを落とす事も出来ないのだろう。
原因は体が重いのかな?とも思ったが、それほど特別に胴体がデカイわけではないのにナゼ❓胴体はスズメガの仲間とさして変わらんぞ。いや、寧ろスズメガよか細いくらいだ。はて…、何でやろ❓
もしかしたら、翅の形と厚さが関係しているのかも…。種類にもよるが、スズメガの方が上翅がより横に長くて、下翅がコンパクトだ。翅も分厚い。その辺に答えがあるのかもしれない。

目で追っていると、10mほど飛んで木の幹に止まった。
今度もわりと低い位置だ。毒ビンを被せる事も出来よう。しかし、位置をシッカリと確認してから網を取りに戻る。毒ビンで採る自信が無かったのだ。今度またハズせば、せっかく気分が乗りかけてたのに再び暗黒ビチャグチョの精神世界に沈みかねない。もうこれ以上、カタルシスが無い日々が続くのは辛いのだ。虫は採れてこそ、面白い。

幹を💥ブッ叩き、なんなくゲット。
しかし、又もや禿げチョロケ。まあ、いいや。採れないよかマシだろ。仕方なく、裏面写真を撮ることにする。

 

 
カバフは、裏も微妙にいいねぇ。
それを三角紙におさめてる時に、またカバフが糖蜜に飛んで来るのが視界に入った。

 

 
今度は、もっとハゲ~(ToT)
これは裏展翅ゆきだろなあ…。

その後も立て続けに飛んできた。
カトカラ国内No.1の稀種であるカバフキシタバを怒濤の20分間で3♂1♀ゲット❗❗
相変わらず無傷の背中フサフサさんは採れてないが、気分は悪かない。カバフの1日最高ゲット数のレコードをも射程内なんじゃないの~(^o^)v

と思ったけど、それでピタッと止まった。その後、11時前くらいまで粘るも飛来なし。
まあ、一日で複数採るのも難しいとされる稀種がこれだけ採れれば、いいだろ。
ところで、1日最高ゲット数っていくつなのだ❓ 最高ゲット数のレコードも射程内とか言っといて、知らんのだ。所詮は何も考えとらんテキトー男の、テキトー発言なのだ(笑)

 
一応、展翅画像も貼付しておこう。

 
【カバフキシタバ ♂】

 
無惨なハゲ度合いだが、カバフは美しい。
カバフキシタバの特徴と云えば、その特異な上翅のデザインだが、下翅も個性的だ。他のキシタバ類に比して下翅が明るい黄色で、しかもその領域が広い。珍しくて個性的で、しかも美しいとあらば、特別な存在とされるのも理解できる。

 
【カバフキシタバ ♀】

 
何か黄色の色が違うような気がするので、撮り直す。

 

 
( ̄~ ̄;)ん~っ、今イチ再現できてないが、まっいっか…。
 
雌雄の見分け方は、♀の方が♂よりも大きく、翅は全体的に丸みがある。また♀は腹部が太くて短く、先っちょの毛束の量も少ない。

 

 
裏展翅もした。
でも酷い写真だな。

 
【裏面】

 
裏面は他のキシタバ類と比べて劇的に違うワケではない。全体的に黄色みが強くて白っぽいところがあまりなく、領域も広い印象がある。但し、一つ一つ仔細に見たワケではない。同定するにあたって、裏を見る必要性がないし、特異とまで言える程の斬新性はないからである。

 
7月5日。

そこそこ満足したとはいえ、やはり落武者ハゲちょろけじゃない完品が欲しい。
と云うワケで、翌日も六甲に出掛けた。

午後8時17分。
最初の1頭が糖蜜に飛んできた。
その後、立て続けに4頭飛来。何れも糖蜜に寄ってきた。京都で採った最初の1頭も飛んできたのは8時半くらいだったし、どうやらカバフは日没直後には飛んで来ないようだ。基本的には8時を過ぎないと現れないと思われる(註2)。

15分程で一旦飛来が止まり、午後9時過ぎに1頭追加。その後、午後9時50分に1頭、10時15分に1頭が飛来して終了。

 


 

 
Ψ( ̄∇ ̄)Ψふはははは…、糖蜜、樹液に完勝❗
周囲には樹液が出ている木が計3本あるが、今日は樹液には1頭も来ず、7頭全てが糖蜜に寄ってきた。オラの作ったモラセス(糖蜜)ってスゴくねっ❓

レシピはテキトー&且つ複雑過ぎて正確なところは、教えたくともお教えできない。だから、たぶん二度と同じものは作れないだろう。
ベースはカルピス➕麦焼酎。そこに酸味として酢を足し、バヤリースオレンジジュースを加えた。しかし、今一つ匂わない。そこに飲み残しのビールを足したが、やっぱ今一つ。もうヤケクソでバナナを皮ごとグジャグジャにして入れてみた。焼酎も増量。これで香りにエッジが立った。イガちゃんスペシャルモラセスの誕生である。
もし真似するなら、ちゃんと濾してから使いましょうね。ワシみたいにエエ加減に作ると、霧吹きが詰まりもうすぞ。

流石に7頭も採れば、落武者じゃないのも採れる。

 

 
仔細に見たら、ナゼにこんなにも禿げチョロケになるのかが、概(おおむ)ね解ってきた。どうやらカバフちゃんの背中の真ん中の毛が元々薄いようなんである。毛が短くて、他と比べてフサフサ度が低いと思うんだよね。だから、すぐ円形脱毛症みたくなるんじゃないのかなあ…。

比較のために、参考として他のキシタバの画像を貼付しておきませう。

 

 
上がアサマキシタバ、下がコガタキシタバである。
毛が長いのが、お解り戴けるかと思う。
たぶん、普通のキシタバやフシキキシタバなんかも長い方だと思われる。
反対に短いタイプは他にもいるかもしれない。ムラサキシタバなんかも禿げちょろけ易いので、短いのかもなあ…。沢山採ったワケではないので、全然言い切れませんけど…。
或いは毛が長いタイプと短いタイプの2系統に分かれるとかないんだろうか❓
でも書いてて、段々自信が無くなってきた。所詮は印象で言っているだけの事で、数多くの個体を検証したワケではない。それに野外品ではジャッジメントの線引きが難しい。検証には不向きだ。こう云うのは、厳密的には各種を飼育、羽化させて比較してこそ、検証可能なものだろう。だから、この件に関しては半分以上は戯れ言として聞き流して戴けると有り難い。
但し、カバフに関してだけは、そこそこ当てはまってると思うんだけどなあ…。

今回も、展翅した画像を貼っておきます。
但し、便宜的に適当に選んだ写真なので、採集日は違うかもしれないです。

 

 
この時期は触角を自然な感じにするのが、マイ・トレンドだったんだろうなあ…。来年は真っ直ぐにしよっと。

 
7月6日

今日こそ、奈良でカバフをシバく予定だった。
しかし天気予報を見ると、生憎(あいにく)そっち方面の天気は思わしくない。どうやら、にわか雨があるようなのだ。雨はヨロシクない。網が濡れて、取り込む時に翅の鱗粉が剥がれてしまい、ボロ化しやすいのだ。当然、背中の毛も禿げ易いだろう。
それで急遽、昨日、一昨日のポイントにチェンジした。まさかの三連続出勤である。
また、7頭のうちの2頭は♀だと思ったのに、全部♂だったというのもある。これでは10♂1♀じゃないか。蝶や蛾は基本的に同柄ならば、♀の方が圧倒的に魅力があるのだ。♀、ぽちぃ~。

カバフは8時を過ぎないと飛来しないことが解ってきたので、今日は出発を30分ほど遅らせた。
今日もまた、エッチらオイラ…、じゃなくてエッチラオッチラと駅から長い坂道を歩く。

午後7時半、ポイントへと向かう入口に到着。
でも三日目ともなれば落ち着いたもんだ。念入りに全身に虫避けスプレーを散布して、毒瓶二つを両ポケットに捩じ込む。ヘッドライトを装着後、左手に捕虫網と懐中電灯、右手には糖蜜入りの霧吹きを持って夜の山へと入る。

寄って来たがる木にも好みがあるようで、昨日、一昨日を踏まえて、実績のある木を中心に8ヶ所に糖蜜を吹き付けた。辺りに、甘い香りが立ち込める。

2日間で11頭得ているので、気持ちは楽だ。
しかし、不安が全くないワケではない。虫採りに油断は禁物。常に予断は許せぬものなのだ。2日間でそこそこの数を得たからといって、翌日にまた同じように採れるという保証はどこにも無いのである。条件は変わらないのに、なぜだか1頭も採れない、姿さえ見ないということは往々にしてある事なのだ。況(ま)してや珍品で、個体数が少ないと言われているカバフキシタバである。この2日間で採り尽くした可能性も無いワケじゃない。
でも、♀は一つしか採れてないから、これからは♀の時期になってゆく可能性も無きにしも非ずとも考えられる。まだチャンスはある筈だ。

夕焼け空が次第に色を失い、群青色からやがて漆黒の闇へと移りゆく様は、いつ見ても飽きない。このカトカラを待つあいだの時間は、毎回特別な時の流れの中にあると思う。美しい風景と期待や不安が混じった感情が、不思議な感覚を一時(いっとき)与えてくれるのだ。マジックアワーとでも呼びたくなる素敵な時間だ。
少しニュアンスは違うが、これは昼間の蝶採りの時でも基本は同じだ。中学生がデート相手の女の子を待つみたいな気分なのだ。そこには期待と不安、ワクワクとドキドキ、胸を締め付けるようなものがある。
大人になると、そんな心持ちになれる事は滅多に無くなる。この歳になっても、そのワクワクを味わえるのは幸せなことだ。だから、蝶採りにハマったのかもしれない。
但し、待ち人きたらずで、心がズタズタになる事も多いんだけどね。

午後8時過ぎ。
早くも樹液に来ているカバフを発見。今日は飛来が早い。
でも矮小個体の♂だ。驚いたことにマメキシタバくらいしかない。思わず、二度見したよ。
カバフって、大小の個体差が大きい種なのかもしれないないと思う(註3)。

しかし、あとが続かない。
どうやらフライング個体だったようだ。まさか、これでおしまいってワケじゃないよね❓不安が擦過する。

8時22分。糖蜜トラップに漸く1頭が飛来。
この8時半前後が、カバフのゴールデンタイムの口火の時間なのだろう。

昨日、編み出した下コツッの採集方法で、難なくゲット。
そこから怒濤のラッシュが始まった。
9時前まで間断なく糖蜜トラップにやって来て、休む暇も無かった。あっという間に10頭をゲット。
その後も時折飛んできて、そこからあとは数を数えるのも面倒くさくなって、いくつ採ったかわからなくなった。
しかも、最初の矮小個体1頭以外は全部我がスペシャル糖蜜に来たものだ。ほぼ完勝と言っていいだろう。この三日間を合わせれば、モラセス(糖蜜)の圧倒的勝利だ。
ふははははΨ( ̄∇ ̄)Ψ、モラセスの逆襲だぜ❗

 

 
生息地は局所的で個体数も少ないと言われるカバフキシタバを、この日は結局17頭も採ってしまった。
1日で17頭って、それこそレコードじゃねえの❓(註4)

前の2日間も合わせると計28頭だ。
カバフって、ホンマに珍品かいな(;・ω・)❓

 

 
 
7月7日。

カバフをタコ採りしてやったので、溜飲も下がった事だし、この日はお休みにする予定だった。
しかし昨日、調子に乗って小太郎くんに自慢メールを送ってしまった。

小太郎くんは20代後半の若者で、基本的には蝶屋だが、虫全般について詳しい。驚くほど何だって知っているのだ。若いけど、かなりレベルの高いオールラウンダーだ。ゆえに、結構バカにされている(笑)。でも虫歴は向こうの方が長いし、レベルも高いから仕方がないのだ。それにカトカラの最初の先生だしさ。
彼は蛾にもそこそこ詳しくって、カトカラの事も基本的な事はだいたい知っている。最初にカトカラに興味を持ったのも、彼に影響されたところが大きい。中でもカバフの美しさと珍しさについての熱弁は印象に残っている。彼は基本的にカトカラは採らないし、採っても誰かに進呈するみたいだけど、カバフだけは別格らしい。アレだけは、人にはあげないと言ってた。
その彼から案内して下さいと言われて断るワケにはいかない。そう云うワケで、御案内申しあげた。まさか、まさかの四連チャンである。

今宵も我がモラセスは鬼のごたる効力を発揮した。
小太郎くんも、その効果を素直に認めたくらいである。ただし、この日は樹液に飛んできたヤツもそれなりにいた。

この日もそこそこの数が飛んできたが、正確な数はわからない。おそらく10頭ちょっとは飛んできたのではないだろうか❓前半は小太郎くんの採集と撮影のサポートをしていたので、正確な数を把握していなかったのである。

 

(写真提供 小太郎くん)

 
小太郎くんが満足したところで、最後に自分も幾つか採ったと思うけど、数は定かではない。それさえもあんまり憶えてないのだ。たぶん、急速にカバフに対して興味を失っていたのだろう。

カバフキシタバは稀種と言われてるけど、それに対しての疑問を明確に自覚したのは、この日からではないかと思う。本当はそれほど珍品ではなくて、意外と何処にでもいるんではないかと思ったのだ。それと同時に、食樹に対しての疑念も芽生えた。自分の目が節穴という可能性もあるが、随分と注意してカマツカの大木を探したつもりだが、結局1本も見つけられなかった。にも拘わらず、こんなにも成虫が採れたのである。
カバフの幼虫はカマツカの大木を好むと言われ、それが個体数の少なさの原因だと推測されてきた。けど、こんだけ採れりゃあ、別に大木じゃなくても発生するんじゃないかと疑ったのである。大木を意識するあまり、小さな木を見逃していた可能性はある。
また、こうも考えた。或いは此処ではカマツカ以外の植物も食樹として利用していて、見つからないのは、そのせいではないかと。
しかし、これはあくまでも推測に過ぎない。大ハズレの可能性もあるからね。

 
7月10日。

漸く奈良のカバフにリベンジする日がやって来た。
カバフに対するモチベーションは、かなり下がっているけど、奈良で享けた仇は奈良で返す❗やられたら、やり返す。それが人生のモットーだからだ。負けたままでは終われない性格なのだ。
とはいえ、返り討ちにされないとも限らない。勝つパーセンテージは少しでも上げておくべきだ。早めに行って、新たに樹液が出ている木を探しておいた。

この日は、家が近い小太郎くんにも声をかけておいた。日没後に合流する。
そこで、あのカトカラのニュー、マホロバキシタバ(註5)と出会ったのである。アミメキシタバともクロシオキシタバとも違う何じゃこりゃ❓のそれで、その日はカバフどころではなくなった。リベンジする事すら、頭から消えていたのである。

 
7月某日。

マホロバの発見で、蛾界の一部が騒然となった。
完全にカバフどころではなくなって、マホロバの分布調査にいそしむ事となる。
でも心の奥底では、通っているうちにそのうち何とかなるだろうと思っていた。それがこの日だった。

樹液の出ている木のそば、別な木に翅を閉じて静止していた。
でも、リベンジという意識はあまりなくて、『あっ、カバフおるやんか。』と云う感じで、さしたる興奮はなかった。特別緊張も無いから、なんなくゲット。

 

 
でも落武者になっとるー( ̄∇ ̄*)ゞ。
せやけどワシのせいちゃいまっせ。最初からやった。やっぱ、カバフは驚く程すぐ禿げチョロけるのねー。

時間は正確には憶えてないけど、たぶん8時は絶対過ぎていたと思う。
因みに、結局この周辺では糖蜜に飛来したものはゼロだった。もっとも、樹液がバンバン出ていたので、あんまり真面目に糖蜜採集やってなかったけどさ。

ここまで書いて、はたと気づいた。
7月某日だなんて、何で日付がハッキリわからんねやろ?と。
それで、上の展翅写真のデータを見直した。すると、何と日付が7月11日となっていた。と云うことはマホロバを見つけた日、つまりリベンジ初日の7月10日に、ちゃんとカバフを採っていたと云うことになる。Facebookに上げた記事もマホロバの記事を最初にあげた翌日(12日)の昼間になっている。12日は、小太郎くんが用事があるとかで、一人で訪れている。となると、10日に採っている可能性が極めて高い。

慌てて小太郎くんに電話して確認を取ったら、「その日かその前かはどうかは微妙ですけど、マホロバを採る前だったと思いますよ。」と云う答えが返ってきた。このカバフを採った時には、小太郎くんも一緒にいたのだ。
7月7日に彼と一緒にカバフを採りに行ってから、何処にも行ってない筈だ。ましてや奈良に行っていたとしたら、記憶がないワケがない。たとえパープリンの記憶喪失男だったとしても、小太郎くんが一緒に居たことは間違いないワケだから、それは有り得ない。
たぶん、マホロバの発見が強烈過ぎて、その日カバフを採った記憶がフッ飛んでいるのだ。
その後、なかなか次の1頭が得られなかったので、記憶がソチラに引っ張られたのかもしれない。奇しくも、如何に人間の記憶が曖昧なのかの証左を突きつけられた感じだ。思い込みとは恐ろしい。
何はともあれ、リベンジ一発目でカバフを採ったんだね。俺ってやっぱ、やる時はやる男やんか。何かプライドが強化されたようで、得した気分(о´∀`о)

その後、岸田先生がマホロバの分布調査に送り込んできた刺客、小林真大くんが若草山近辺でもカバフを見つけて、複数採った。そういえば、彼が言ってたなあ。糖蜜にソッコー来たそうだが、樹液には一つも来なかったって。カバフは樹液よりも、モラセス好きなのかもしれない。
自分も、後に赤松の幹に止まっているのを見つけた。カバフは赤松の木が好きで、昼間よく止まっていると聞いてたけど、この時初めて見た。真大くんも赤松の木で見つけたと言っていたから、やはり赤松好きなのだろう。もしかして、アカマツも食樹だったりしてね(笑)。日本のカトカラは基本的に針葉樹を食わないだろうから、それは無いとは思うけど…。
それで思い出したが、若草山近辺にもカマツカの木はそれなりにあるようだ。自分も2本くらい見た。探せば、もっと北や東にもあって、カバフもいるんじゃないかと思う。

自分の六甲でのタコ採り、奈良近辺での採集数、それに松尾さんが兵庫県西部で相当数のカバフを見ていることから、今年は大発生なのではと云う意見もあるようだ。しかし、果たして本当にそうなのかな?と疑問に感じている。それ以外で、他にはあまり例を聞かないからだ。たまたま沢山いる所が見つかって、情報が強調されたにすぎないんじゃないかと思ってる。間違ってたら、ゴメンナサイ。

思ったんだけど、大発生とかではなくて、寧ろ今まであまり調査されてこなかっただけの事ではなかろうか。意外とカバフは何処にでもいて、個体数も思われているほど少なくないのではないか。単にベストな採集方法が分かってなかっただけではないかと云う考えに傾き始めている。
今までカバフがあまり目に触れてこなかったのは、採集を主に外灯に来たものやライトトラップ、或いは昼間に静止しているもの、樹液への飛来に頼ってきたせいではなかろうか❓
カトカラの中でも、カバフは特徴的な上翅をしているから見つけ易いとは言われているが、にしても昼間の見つけ採りは決して効率が良いとは言えないだろう。樹液にも、個体数のわりには寄って来ないのかもしれない。自分の経験値と真大くんの見解を併せれば、樹液で採るよか、糖蜜の方が遥かに有効である可能性はあると思う。
しかし、糖蜜トラップでカバフを採ったという話はあまり聞かない。常識的に考えれば、糖蜜よりも樹液の方に寄ってくると考えるのは当たり前だろう。が、その当たり前が常に正しいとは限らないと云うことだ。
ライトトラップにも、そもそもあまり寄って来ない種なのかもしれない。或いは寄って来るのが遅い時間帯と云うのも有り得る。皆が皆、そんなに夜遅くや明け方までライト・トラップをやってないだろうからね。撤収した後がゴールデンタイムと云う可能性も無くはないか❓

結局、奈良でも六甲でもライトトラップを試してないから、ライトへの飛来に関しては本当のところはわからない。あれだけの数が糖蜜で採れて、ライトトラップにはあまり寄って来なかったとしたら、走光性が低いという可能性がある。
同地で、糖蜜とダブルで試してみたら、事実の一端が見えてくるかもしれない。どちらが有効であるか、来年試す価値はあると思う。
でもさあ( ̄∇ ̄*)ゞ、おいらライトトラップの道具持ってないんだよねー。

 
                   おしまい

 
追伸
計3話に渉る長々としたクソ文章にお付き合いくださいました方々、御拝読ありがとうございました。
相変わらずフザけまくるは、生意気に意見するわでスンマセンm(__)m

夏の強烈な日射し、荘厳なる夕暮れ、木々を揺らす風、部活動をする学生たちの声と楽器の音、タールのような漆黒の闇、儚く光る蛍たち、溶けそうな蒸し暑さ、糖蜜の甘い香り、帰り道の静まりかえった夜の街、そして灯りの中で明滅するカバフキシタバの鮮やかな黄色。
この長い文章を書いている間、色んな風景や温度、その他もろもろがフラッシュバックした。
来年も、カバフキシタバに会いに行きたい。

 
(註1)100均の懐中電灯
100均の懐中電灯はショボい。でも、敢えて使っている。何でかっつーと、照らしてもカトカラがあまり逃げないからなのである。カトカラは敏感だ。強い光を当てるとビックリして飛びがちなのだ。光量があって性能が良い懐中電灯は素晴らしいと思う。が、性能が良過ぎて、あまりヨロシクないんである。あくまでワタクシ的感想ですが。

 

 
ただしコヤツ、100均だけあってマジしょぼい。すぐに接触不良を起こして調子悪くなるのだ。で、しばしばブラックアウト。ドツいて、また光だすというポンコツ振り。電池が無くなりかけると、驚くほど光量が落ちるしさ。だから、予備電池は必須アイテム。お陰で、初期の頃は夜の山中で懐中電灯が消えかけて半泣きになったことが何度かある。一人ぼっちだったし、チビりそうになった。

 
(註2)8時を過ぎないと現れないと思われる
そんな事、図鑑とか何処にも書いてないけど、少なくとも関西では間違いなかろう。今夏、他人の採集も含めて知っている範囲では、50近い飛来数のうちで例外は一つもない。

 
(註3)カバフって大小の個体差が大きいのかもしれない

展翅した一部を並べてみた。

 

 
特別そうだとは言えないだろうが、それなりにはあると思う。

それよりも気づいたのは、♂と♀の下翅の斑紋の違いである。
今一度、並べてきた展翅写真を見て戴きたい。下翅の真ん中の黒帯が♂の方が細い傾向がある。だから、♂の方が黄色っぽく見える。そんな事、どこにも書いてなかったよね?
とはいえ、微妙なのもいる。同定の際の決定的な相違点とはならないだろうが、その一助にはなると思う。♂か♀なのか微妙な個体の場合には、使えるかもしんない。

 
(註4)それこそレコードじゃねえの❓
調べたら、石塚勝己さんの『世界のカトカラ』によると、島根県で143頭も採れた記録があるらしい。物凄い数だにゃあ。ケタが一桁違うわ。
但し、よくよく見たら外灯(水銀灯)に来たもので、しかも1959年から1960年の二年間での総数のようだ。
成虫の発生期間を少なく見積もって1ヶ月として、2年間で60日としよう。単純に143を60で割ったとしたら、2.83だ。つまり1日3頭も採れていないことになる(それでもスゴい数字とは言える)。となると、1日17頭って、凄くねえか❓レコードも有り得るよね。もちろん単純計算に過ぎないから、天候不順の日だってあるだろうし、飛来日数はもっと少ないかもしれない。けど、カトカラは雨でも全然飛んで来るからね。また、1日3頭ずつコンスタントに飛んで来るワケではなかろう。中には爆発的に集まって来る日もあっただろう。にしても17と云う数字は、かなりいい線いってると思うんだけどなあ。
因みに3日間で28頭だから、それを3で割ると平均は約9である。9×60=540だ。圧勝じゃん❗
小太郎くんと行った日も10頭くらいは採れているから、仮に38÷4としても9.5である。コチラの方がもっと凄いことになる。
まあ、何だかんだ言っても、所詮は机上の理論に過ぎないんだけどね。
とはいえ、少なくとも樹液&糖蜜採集の数としては、レコードに近いんじゃなかろうか❓

 
(註5)マホロバキシタバ

 
学名 Catocala naganoi mahoroba 。
日本で32番目に見つかったカトカラ。詳しいことは『月刊 むし』の10月号を見てくだされ。不肖ワタクシの発見記も有るでござる。

 

続・カバフキシタバ

  
随分と間があいたが、連載『2018’カトカラ元年』シリーズの再開である。
何でこんなに開いたのかと云うと、日本では未知のカトカラ、Catocala naganoi mahoroba マホロバキシタバ(註1)を目っけてしまったからである。
この発見にはカバフキシタバが深く関わっており、それでマホロバの記載が終わるまでは下手な事は書けなくなった。奈良県で見つけたカバフとマホロバの生息地が同一である事から、情報漏れを防ぐために自粛したのである。

と云うワケで、今回は前回のカバフキシタバの続編でありんす。
(-o-;)ん~、何かちょいややこしくなってるかもなあ。いっそ各カトカラの続編は『2019年’ カトカラ二年生』というタイトルに変えてやろうか…。でもそれはそれでゴチャゴチャになって、ややこしくなりそうだ。それに前に書いた続編シリーズのタイトルも全部書き直さないといけないしさ。面倒くさいし、とりあえずは暫くはこのまま2018年版と2019年版を交互に書いていくスタイルでいこう。

前半部は月刊むしの2019年10月号掲載の『マホロバキシタバ発見記』の文章が下敷きになっています。
もちろん「てにをは」を含めて微妙には変えるつもり。というか、遠慮してマイルドになったところも書き直すつもりの増補改訂版になろうかと思う。
完成すれば、たぶん時間が経ってる分、コチラの方が文章はコナれていると思う。ヒマな人は微妙な違いを探してね。とはいえ、書いてるうちに大幅に改変するかもしんないけど。

前置きが長くなった。取り敢えずタイトルを新たにつけて、前へと話を進めよう。

 
『リビドー全開❗逆襲のモラセス』

 
2018年、8月の終わり頃だったと思う。
カミキリムシ・ゴミムシダマシの研究で高名な秋田勝己さんが、Facebookに奈良県でのゴミムシダマシ探査の折りに、たまたまカバフキシタバを見つけたと書いておられた。
その年にカトカラ採りを始めたばかりの自分は、既に京都でカバフは得てはいたものの、来年はもっと近くで楽に採りたいと思った。それで、秋田さんとは殆んど面識はないものの、勇気を出してメッセンジャーで連絡をとった。
秋田さんは気軽に応対して下さり、場所は若草山近辺の昆虫採集禁止区域外だとお教え戴いた。また食樹のカマツカは奈良公園や柳生街道の入口付近、白毫寺周辺にもある旨のコメントを添えて下された。

ところで、奈良県にカバフの記録ってあったっけ❓
ネットで調べてみる。てっとり早いのは『ギャラリー カトカラ全集』だ。このサイトには各都道府県別のカトカラの記録の有無が表にされているのだ。
それによると、奈良県にカバフの記録は無いようだ(註2)。こういう誰も採った事が無い的なものは大好物だ。それで、俄然やる気が出た。根が単純なので、だったらオラが最初に採ったろやないけー❗となるのである。

その年の秋遅くには奈良公園へ行き、若草山、白毫寺と歩き、幼虫の食樹であるカマツカと樹液の出ていそうな木を探しておいた。

 
【カマツカ】
(於 奈良公園)

 
この画像を『コレがカマツカで、よござんすか❓』と秋田さんに送ったところ、正解との御墨付きを戴いた。
因みに月刊むしの原稿で、秋田さんが「こやつ、カマツカも知らんとカバフを探しとんのか❓イモかよ。」的なニュアンスの事を書かれていたが、まあその通りかな。
だってカトカラ1年生だし、飼育なんて蝶さえ殆んどしないから、植物には疎い。ましてや蛾の食樹だ。んなもん、知るワケないもーん<(`^´)>
そんなオイラだが、引きだけは強くて日本でも海外でも何か知らんけど珍しい蝶や甲虫だのを採ってきてしまう。海外なんかは現地にいる虫の事をろくに下調べもせず出掛けて行って、ガイドも雇わないというテキトー振りでだ。だから、周りに冷ややかな目で見られ、『おまえ、虫採りナメとんのか。』と御叱りを受けるのである。
まあ、皆さんが怒るのも解るけど、採れるんだから仕方がないのさ( ̄▽ ̄)ゞ。そないに叱られてもなあ…。
 
そんなオイラだが、翌年は秋田さんのお陰もあって、万を持して始動。

2019年 6月25日。

先ずは若草山近辺を攻める。しかし秋田さんに教えて戴いていた樹液の出てる木はゴッキーてんこ盛り。
Σ( ̄ロ ̄lll)キショっ、皮膚が粟立ち、おぞける。
一瞬、意地の悪い秋田さんのことだから、もしかしてワザとゴッキーだらけの木を教えたんじゃないかと疑う。
しかし、悪魔のような秋田さんといえども、たぶんそこまで手の込んだことはすまい。
そう思うが、一応『(=`ェ´=)秋田の野郎~。』と呟いとく(秋田さん、ゴメンナサイ)。

霧吹きで糖蜜を撒き散らすも、全然ダメ。小汚いクソ蛾どもと、ただキシタバ(パタラキシタバ)しか来ない。カバフが飛んで来る気配というものがまるでないのだ。
この気配を感じる感じないかは、謂わば勘みたいなものだ。言葉にするのは難しいが、その勘というものを自分は大切にしている。今回もそれに従おう。ダメなもんはダメ。決断は早い方がいい。チラッと若草山からの夜景を見て、午後9時過ぎには諦めて白毫寺へと向かった。

 

 
周囲は原始の森だ。真っ暗闇の中、長い坂道をひたすら下る。忍耐である。
勿論、人っ子一人いない。闇の奥で、何かあずかり知らぬ者どもが蠢いていそうな気がしてくる。マジで、こういう古い森は精霊とかがいそうだ。でも精霊が皆が皆、良い精霊だとは限らない。中には邪悪な精霊もいるかもしれない。でもって、ゴブリン、ゴブリン。小人で、人相がゼッテー悪いんだな。そうに決まってる。そいでもって滑舌が悪くって、何言ってるか解らないのだ。
一人で暗闇の中を歩いていると、色んな思いが去来して、どんどん心が磨り減ってゆく。コレが結構キツイ。ボディーブロウのように心身を次第に蝕んでゆくのだ。「こんなとこで、ワシ何やっとんねん❓」である。
冷静に考えれば、やってる事が一般ピーポーから見ると狂人の域だ。フツーの人は怖すぎて絶対に夜の森を一人でなんて歩き回りゃしません。そんなの、アタマおかしい人か犯罪者くらいだ。
でも、それに耐え忍ばねば、甘い果実は得られない。虫採りとは、勘と忍耐である。

白毫寺に着いたのは午後10時くらいだったと思う。
目星をつけていた樹液の出ているクヌギの木を見ると、結構カトカラが集まっている。
しかしカバフの姿はない。取り敢えず周辺の木に糖蜜を吹きかけてやれと、大きめの木に近づいた時だった。
高さ約3m、懐中電灯の灯りの端、右上方に何かのシルエットが見えたような気がした。そっと灯りをそちらへ持ってゆく。

そこには、あの特徴的な姿があった。
だが、脳が現実なのか幻なのか直ぐには判断てきなくて、頭の中で時間が止まる。ややあってから、目と脳の認識が漸く一つに重なりあった。
間違いない、カバフキシタバだっΣ( ̄ロ ̄lll)❗
瞬間フリーズ。ゴーゴンかメデューサの凶眼に射すくめられたかのように、その場で石化する。体が動かない。
だからといって、いつまでも🐍ヘビ女の呪縛に雁字搦めに囚われているワケにはゆかぬ。懸命に心を鎮め、ゆっくりと後ずさりする。7、8mほど離れてから反転。音を立てないようにして忍者の如く爪先立ちで走る。心は高揚感で乱れに乱れている。
30mほど後ろの荷物が置いてある場所まで戻った。離れたことにより、少し心を落ち着かせることが出来た。
しかし、ここからが仕切りなおしの本当の勝負だ。大きく一回、深呼吸をして気を整える。
焦ったら負けだ。逸る心を抑えて網を組み立てる。
Σ(T▽T;)ヒッ、でも手が覚束なくてネジに真っ直ぐ入れれな━━い。落ち着こう、俺。ここで焦ってどうする。ネジがバカになったら元も子もないではないか。もう一回深呼吸する。だいたい立ってやってるからダメなんだ。しゃがんでやろう。
それで何とか装着することができた。すっくと立ち上がる。もう大丈夫だ。侍魂がフツフツと甦ってくる。
いよいよ、ここからが本チャンの闘いが始まるかと思うと、背中がブルッとくる。武者震いってヤツだ。このギリギリ感、溜まんねえや。これがあるから虫採りはやめられない。我が愛刀、蝶次郎で必ずや斬る❗
軽く息を吐き、ゆっくりと一歩を踏み出す。落葉がカサカサと乾いた音をたてる。静かな夜の森に、その音が奇妙に誇張されて響く。彼奴を刺激しないように、懐中電灯の光を直接当てずに慎重に近づいてゆく。

この木だったな。
歩みをやめ、ゆっくりと懐中電灯を止まっていた辺りにズラしていく。再び緊張感が高まる。
ピピピピピピッ……、ロックオーン❗
ほっ( ̄▽ ̄)=3、逃げずにまだいる。よっしゃ、ゲーム続行だ。
けれども刹那、どう網を振るか迷う。ダメだ。その一瞬の躊躇が負の連鎖を呼び起こしかねない。自念する。迷いは捨てろ。何も考えるな。メンタルの弱い奴には幸運など降りてきはしない。
蝶次郎の柄を握り締める。そして次の瞬間、息を詰め、大胆に幹をバチコーン💥❗思いっきしブチ叩く。
秘技✴嵐流狼牙斬鉄剣❗❗

手応えはあった。
空中で網を素早く捻り、地べたへと持ってゆく。
どうだ❓ 波立つ心で、慌てて懐中電灯を照らす。
そこには、シッカリ網の底に収まっている彼奴の姿があった。しかも暴れる事なく大人しく静止している。安堵がさざ波のように拡がってゆく。
やっぱ俺様の読みが当たったなと思いつつ、半ば勝利に酔った気分で近づき、ぞんざいに網に毒瓶を差し込んだ。まあまあ天才をナメんなよ(`◇´)、狙った獲物はハズさないのさ。

しかし、取り込むすんでのところで物凄いスピードで急に動き出して、毒瓶の横をすり抜けた。
(|| ゜Д゜)ゲゲッ、えっ、えっ、マジ❓
ヤバいと思ったのも束の間、パタパタパタ~。網から抜け出して飛んでゆくのがチラッと見えた。
嘘でしょ❓嘘であってほしい。慌てて周りを懐中電灯で照らすも、その姿は忽然とその場から消えていた。
(;゜∇゜)嘘やん、逃げよった…。ファラオの彫像の如く呆然とその場に立ち尽くす。
(-“”-;)やっちまったな…。大ボーンヘッドである。あんま普段はこういうミスはしないので、ドッと落ち込み、「何でやねん…。」と闇の中で独り言(ご)ちる。己の詰めの甘さに心の中が急速にドス黒い後悔で染まってゆく。

結局、その日は明け方まで粘ったが、待てど暮らせどカバフは二度と戻っては来なかった。ファラオの呪いである。

しかし、その時はまだこのボーンヘッドが後のマホロバキシタバの発見に繋がろうとは遥か1万光年、露ほども想像だにしていなかった。
運命とは数奇なものである。ちょっとしたズレが、その後の結果を大きく左右する。人生は紙一重とはよく言ったものである。おそらくこの時、ちゃんとカバフをゲット出来ていたならば、今シーズン再びこの地を訪れる事は無かっただろう。そしてニューのカトカラを見つけるという幸運と栄誉も他の誰かの手に渡っていたに違いない。

閑話休題。
でも、この時点では後にそんな大発見に至るとは知らないという前提で話を先に進めまする。

 
2019年 7月2日。

天気や個人的な用事もあり、あれから約1週間のインターバルがあいてしまった。

この日は奈良にリベンジをしに行く事も考えだが、その前に去年カバフを採った京都市左京区へ行くことにした。

  
【カバフキシタバ Catocala mirifica ♂ 】

(2018.7.15 京都市左京区)

 
去年、人為的にボロにしてしまった1♂のみしか採れなかったとはいえ、先ずは実積のある場所で確実におさえておきたかったからである。
ここなら寄ってくる樹液も知っているから、楽勝である。♂♀の完品が採れれば、気分はだいぶと楽になる。その後でジックリ奈良を攻めればいい。

 
今年もまだ有りまんな、ビビらす看板。

 

 
去年の、あの真っ暗闇の世界と謎の動物の咆哮を思い出したよ。超ビビりまくったんだよなあ…。マジあん時は恐かったもんなあ。怖すぎて逆ギレしてたっけ…。
しかし、あれからコチラもそれなりに闇の経験を積んできている。今回は二度めの来訪だし、あの時の恐怖感と比べれば、どって事ない。鬼採りでイテこましてくれるわ。今日こそ、まあまあ天才の実力をとくと見せてくれようぞ(=`ェ´=)

去年、カバフの食樹であるカマツカかなと思っていた木はウワミズザクラだった。

 

 
木肌の感じからしても間違いないかと思われる。
さっきも言ったけど、一年も経てばアチキだってそれなりに進化しているんである。植物の知識も少しは増えているのだ。
だが、その後歩き回るもカマツカの木が一つも見つからない。嫌な予感が、サッと撫でるようにして走る。もしかして、個体数が元々少ない場所だったりして…。

夜の帳が降りると、やっぱ真っ暗になった。

 

 
でも今年は蛍が沢山いた。
去年は一つも見なかったのに、不思議だ。
だから最初見たときは、🔥鬼火かと思って腰くだけになりそうになっただよ。京都って、妖怪だの幽霊だのの魑魅魍魎が跳梁跋扈してそうじゃん。そういうイメージがある。それに、この辺は昔は刑場とか墓場だったと聞いたことが有るような気がしてきた。だから、マジで出たなと思った。
稀代の怖がり屋としては、熊よか鬼火の方が余っぽど怖いんである。もちろん熊も怖いけど、まだ現実の存在だから対処のしようもある。マウントされたとしても、脇に息が出来ない程の強烈なフックをおみまいしてやることだって出来る。けれど、お化けだったら対処のしようがない。いらぬ想像力が増幅して、恐怖が異様に膨れ上がってのお地蔵さんだ。動けるか、ボケッ❗急に得体の知れないものがボオーッと闇から浮き出てきて、口から緑色の液をジャーと吐きでもしたら、どうするのだ❓オチンチン、激りんこメリ込むわい。この世のものならざる者は、あきまへーん(T▽T)

蛍は源氏も平家もいた。川沿いにはゲンジボタル、真ん中の水田にはヘイケボタルと、棲み分けしていて、時々その境界線で両者が絡まって飛ぶ。道ならぬ恋。ちょっとした幻想的風景だ。
それで、心にフッと上手い具合に隙間が空き、何だか心が休まってくる。このリラックスした気分で、カバフをジャンジャン採りまくるけんね。

 

 
(-o-;)……。
夜が明けた。

嫌な予感が当たってしまった…。
夜通し探し回り、明け方まで粘ったのにも拘わらず、1頭たりとも見ることすらできなかった。まさかの返り討ち、又しても大惨敗を喫してしまう。
見もせんもんは、如何にワシでも採れん。やはり、此処は個体数が少ないのかもしれない(註3)

結局、採れたのはコカダキシタバと、まあまあ渋いんでねえのと思って採った、この蛾くらいだった(註4)。

 

 
けど、いまだに展翅すらしていない。
如何せん渋過ぎるのだ。

何にせよ、(◎-◎;)ショックで身も心もボロボロじゃよ。徒労感、半端ない。

やがて、朝日が昇ってきた。
無駄に眩しい。
日の光に照射されたヴァンパイアの如く、いっそ、その場で灰になってしまいたかった。

やはりカバフ採りは、甘くないのか…。
珍品と言われたる所以が解ったよ。

                     つづく

 
追伸
スランプで、思うように筆が進まない。
気に入らなくて何度書き直したことか…。
そう云う時は必要以上に長くなるし、気持ち的にもシンドイ。なので一旦前編で切ることにした。

そういえば思い出した。朝まで粘ったのは、今年はこの連続の二回だけだった。
両日ともに、あまりにも退屈過ぎて、睡魔と戦いながらずっと一人シリトリをやってたんだよね。何処にも到達しない、未来永劫救われることのない無益なシリトリだ。
アレは今思い出しても辛かった。そりゃ、ドラキュラみたく灰になりたくもなるよ。

 
(註1)マホロバキシタバ

 
新種になりかけた時期もあったが、結局は台湾のみに分布が知られていた Catocala naganoi の新亜種におさまった。
マホロバに関しては、またいつか書く機会はあろうが、まだカトカラ No.5なので、まだまだ先のことになりそうだ。

(註2)奈良県にカバフの記録は無いようだ
「大切にしたい奈良県の野生動植物2016 改訂版」には、カバフキシタバが絶滅危惧種としてリストアップされている。記録地の詳細は書かれていないが、大阪と奈良の県境、信貴山辺りでも採れているみたいだし、記録は間違いではないだろう。
「ギャラリー カトカラ全集」の都道府県別のカトカラ記録表は参考にすべきものではあるが、それをそのまま鵜呑みにしてはならないと思う。例えばフシキキシタバは奈良県から記録が無いとされているが、実際にはアホほどいるからね。

(註3)個体数が少ないのかもしれない
もしかしたら、まだ未発生でフライングだった可能性はある。去年の採集日よりも2週間くらい早い出陣だったし、今年は蝶の発生が1週間以上遅れていたようだからだ。それからすると、蛾の発生も遅れていた可能性は充分ある。
とはいえ、今のところ来年リベンジしに行くつもりはない。ごっつ真っ暗なとこだし、謎の動物の咆哮も怖いので、行くとしても来年はもう一人では行かないと思う。

(註4)この蛾くらいだった
たぶん、Phalera minor クロツマキシャチホコという蛾かと思われる。
あまり見かけない蛾だが、幼虫の食樹はブナ科コナラ属のウバメガシ、クヌギ、コナラ、アラカシとなってるから、そんなに珍しくはなさそうだ。

 

カトカラ元年2018′ その五

 

    『孤高の落武者』

       vol.5 カバフキシタバ

 

闇に震撼した…。

2018年 7月14日。
京都市左京区の某所に着いたのは午後の4時だった。
天候は晴れ。とてつもなく蒸し暑い。

この場所は京大蝶研のOBであるTくんに教えてもらった場所だ。無理を言って後輩の蛾屋の子にカバフキシタバの採れる場所を訊いてもらったのだ。
狙ったターゲットは、普段は文献の記録を頼りに探しに行くことが多い。なのに形振(なりふ)り構わずわざわざ訊いたのは、今思えば余程採りたかったのだろう。

自分は不遜で負けず嫌いな男だ。
だから『世界のカトカラ(註1)』では国内最高峰の珍品度★5つ星、カトカラ界きっての稀種となっているカバフキシタバをカトカラ採りを始めて一年目にして採ってやろうと思っていた。最初にライト・トラップに連れていってくれたカトカラ好きのA木くんでさえもまだ採ったことがないと言ってたから、やりがいはある。
オラは人とは違う、( ̄ヘ ̄メ)まあまあ天才をナメんなよである。実績もさしてないのに変な自信だけはあるのだ。国内でも海外でも蝶はそんな感じで採ってきた。だから度々『蝶採りナメてんのか。』と叱られる。でも引きだけは強いから何とかなっちゃうんだよねー(・┰・)

歩きながら、何となく蝶採りを始めた頃の事を思い出す。
オデ、オデ、馬鹿だから、蝶採りを始めた一年目が終わって、周りに「約240種類いるとされる日本の蝶のうちの200種類を三年で、230種類を四年で採ったるわい❗」と宣(のたま)ってしまったのだった。
吐いた言葉は飲み込まない。だから言った手前、必死だった。中盤辺りから難易度がどんどん上がってゆくので、いつも背水の陣で臨んでいた。もし狙いの蝶が採れなければ来年に持ち越しになるから、翌年の日程が苦しくなって益々達成が難しくなる。ゆえに遠征の時などは取りこぼしは許されない。連続惨敗でもしようものなら、取り返しがつかなくなるのだ。スケジュールの組み方を一つ間違えただけでも命取りだ。発生期を外せば採れないし、それに天候だってある。こればかりはどうしようもない。悪ければ、ほぼアウトだ。運も必要なのだ。思えば、ボイントも殆んどが自分で探さざるおえなかったし、ギャンブルの連続だった。とにかく少ないチャンスを確実にモノにしていかなければならない。それに時間的、経済的な面から遠い所へはそう何度も行けはしない。車も持っていなかったから、簡単にリベンジはできないのだ。だいち翌週には次に採らなければならない蝶の発生が迫っている。採れなければ、どんどんスケジュールはカツカツになってゆく。だから、いつも血眼になって探し回ってたっけ…。
愚かな挑戦だったが、結局三年で221種類、四年で238種類が採れた。お陰で苦い思い出にはならずに済んだ。虫は採れなきゃ面白くないのだ。だからカバフも一発で仕止めちゃる。でもって、その勢いで今年中に日本産カトカラ全31種のうちの半分は片付けてやろうじゃないか。

 
早くも汗だくになりながら、山の入口へと辿り着く。
何か看板がある。

 

 
しょえー(|| ゜Д゜)
熊って夜行性だよね❓、絶対そうだったよね❓
一瞬、熊と遭遇した時のことを想像した。マウントされて、上からボコボコにされてる図だ。
で、内臓食われんだ。シクシク(;_;)。んでもって暫く誰にも発見されないのだ。山中、o(T□T)oハッコツシターイ❗ (*ToT)やだよー、白骨死体だなんて。

眦(まなじり)をキッと上げる。
だからといって撤退する気は毛頭ない。熊が怖くて、虫採りがやってられっかいι(`ロ´)ノである。欲望が恐怖をも凌駕するのだ。それが虫屋の性(さが)というものだ。やるっきゃない。

Tくんには詳しい場所は聞いてない。京都市左京区○○とだけしか教えてもらってなくて、その下の町名までは報されていない。といっても○○だけじゃ広過ぎる。よほどTくんにもう一回訊こうかとも思ったが、カッコ悪いのでやめた。ピンポイントで場所を教えてもらったら楽だし、確実ではある。しかし、それじゃ面白くない。予定調和なんぞ、糞喰らえだ。だいち、そんなの狩りじゃない。それにそんなところには浪漫は微塵も無い。自身の全知全能をフル回転して採ってこそ、エクスタシーと云う快楽は与えられる。物語のない虫採りに、ロマンなどありはしない。

場所は国土地理院の地図とGoogleマップを見てエリアを4分割し、最も可能性の高い場所に決めた。それが昔一度だけ来たことのある所と偶々(たまたま)合致した。ちょっと一安心だ。まるで土地勘のない場所よりも効率よく探せる。
ところで、こんなとこ何採りに来たんだっけ(・。・)❓
あっ、オオウラギンスジヒョウモン(註2)か。しかも秋だな。そのうち何処かで採れるだろうと思っていたが、中々出会えなくて結構苦労した記憶がある。ここでも結局会えなかったんじゃないかな。

先ずはカバフの幼虫の食餌植物であるカマツカの木と樹液の出ている木を探そう。無ければ他のエリアを探すしかない。

しばらく歩くと、またしても熊注意の看板が出てきた。

 

 
悪戯に恐怖心を煽るのぅー( ´△`)
前途多難じゃよ。

 

  
これってサクラ類の葉っぱだよね❓
もしかしてカマツカ❓(註3)
結構、大きな木だ。ここも一応チェックポイントにしよう。夜に♀が産卵に訪れるかもしれない。

さらに歩くと、その花らしきものも見つけた。

 

 
ネットで調べたカマツカの花って、こんなだっけ❓
ワカンナイや。植物のトーシロに、んなもん分かるワケねえわ(;・ω・)

いくつか樹液の出ているクヌギの木を見つけた。
だが、左右に分かれた道のそれぞれ2本ずつだけだ。何れも道の奥で、互いの距離はそれなりにある。両者を歩いて移動するのに最低でも15分くらいはかかりそうだ。帰りのバスの時刻を考えると、持ち時間はそうはない。移動の時間が勿体ないから、どちらか一方に絞った方がいいかもしれない。でも、そうなると賭けに負ければ地獄ゆきだな。

 
日が暮れ始めた。
そろそろポイントをどっちにするか決めなければならない。

結局、樹液がより出ている方のポイントを選択した。但し、そちらは一本は崖の上、もう一本は森の奥まで入り込まねばならない。でもって、かなりの急斜面にある。熊が出たら、一貫の終わりだ。それこそ死体は発見されんじゃろう。
一瞬、やはりもう片方のポイントにしようかと心が揺れ動いた。そちらは道沿いだし、もし居たとしたら採り易い場所でもある。更には杉の植林が多いから、熊の出る確率も低そうだ。
いや、よそう。楽して採ろうなんて虫がよすぎる。神様は、きっとチキンハートな者には微笑まないだろう。

 
午後7時10分くらいに日が沈んだ。

 

 
やがて、徐々に風景は色を失い。闇が支配する世界がやって来る。

 

 
おいおい、真っ暗けやないけー。
街灯も一切ないしぃ~。そして、ここは擂り鉢状の地形になっており、市街地の灯りも全く見えないのだ。しかも、今日は新月。月の光もないから漆黒の真っ黒けー。してからに一人ぼっちで真っ暗な森の急斜面を徘徊かよ。アタマがオカシクないと、こんな事は出来しまへん。我ながら完全なおバカさんだ。苦笑する。

森に突入する。
懐中電灯の照らしたところだけが、切り取られたように青白い。背中にベッタリと恐怖が張り付く。
上を仰ぐ。🎵ららら…🌟星き~れぃ~。

樹液の出ている2本の木を行ったり来たりする。
でも行ったり来たりしているうちに新たな恐怖が芽生え始める。考えてみれば、懐中電灯を1本しか持ってない。もしコレが途中で消えたらと思うとチビりそうだ。しかも予備の電池も持ってないときてる。致命的ミスだ。ようはぬけてるというか、なあ~んも考えていないのである。それでも目的のものは大概採れてきたから始末に悪い。蝶採りナメとんかと言われても仕方ないよね。
加えて所詮は百均で買った安物の懐中電灯だ。性能に大いに不安がある。前に突然接触が悪くなり、プッツリ消えたことがあることを思い出し、ゾッとする。その時は小太郎くんがいたからいいようなものの、今夜は一人きりだ。切れた時のことを想像すると、ベソかきそうだ。
道から近い方の樹液の出ている木は、まだいい。灯りが消えてもギリ夜目でも何とかなるだろう。問題は森の奥の木だ。もしそっちでブラックアウトしたら、おしまいだ。道無き複雑なルートなだけに到底戻ってこれない。倒木だって結構あるから、その場から動けなくなる。しゃがみ込み、熊の恐怖に怯え、朝が来るまで(/´△`\)シクシク泣き続けるしかないだろう。
とはいえ、それが一番正しい選択なのだ。下手に動いたら益々ドツボにハマる可能性が高い。それこそ死の危険に近づくことになる。その辺はダイビングインストラクターをしていたので、教えとして骨の髄まで刷り込まれている。水中で迷ったら、慌てて動き回るのが一番してはいけないことなのだ。パニくってかえって事態を悪化させることの方が多い。その場にとどまってよく考え、一度浮上して位置を確認するなり何なり冷静に対処するのが正しい。幸い此処は陸上だ。空気が無くなる心配はない。もっと気楽にいこうぜ、ベイベェ~(*^ー^)ノ♪
(ー_ー;)あかん…。陽気に心を宥めてみたがダメだ。そんな状況で鋼の心を持つことなど無理だね。

 
もう一時間くらいは異次元ワールドを徘徊している。段々、頭がオカシクなってくる。そのうち、この世の者ならざるモノを見るやもしれぬ。お化けとか幽霊が出たら、髪の毛真っ白になって発狂だな。

午後8時半。
道から近い方の崖の上の木を、さして期待もせずに懐中電灯で照らした。
一瞬、幻覚かと思った。突然、下翅を開いた何かカトカラらしきものの姿が目に飛び込んできたのだ。距離は目測7、8m。遠いが、その特徴的な上翅と下翅の明るい黄色で瞬時にして理解した。間違いない。カバフキシタバだ❗( ☆∀☆)カッケー❗
💓ドクン、ドクドクドクドクドクドクドクドク…。
即、心臓の鼓動が早鐘の如く打ち始める。この血が滾(たぎ)るようなワクワク感と是が非でも採りたい、採らねばならぬというプレッシャーがない交ぜになったゾクゾク感、堪んねぇ。肌が粟立つ。久々、気合いがバシバシに入る。
一度、その場で大きくゆっくりと息を吐く。
それでスイッチが入った。さあ、戦(いくさ)の始まりだ。全身に力が漲(みな)ぎってゆく。この戦闘モードに入ってゆく瞬間が好きだ。闘争は恐怖でもあるが、エクスタシーでもあるのだ。ケンカと同じだ。
先ずは慎重に小崖をよじ登る。そして木を掴みながら斜面をそろりそろりと距離を詰めてゆく。
よっしゃ、射程内に入った。でもそこで迷いが生じた。ポケットに捩じ込んだお散歩ネットで仕止めるか、それとも毒瓶を上から被せるかで心が揺らいだ。
毒瓶を直接かぶせるのって、あんまりやったことがないんだよなあ…。ダイナミックな採り方じゃないから好きじゃないのだ。
しかし、出した答えは毒瓶を被せるだった。網だと背中の毛がハゲちょろけになりやすいからだ。カトカラは迅速に〆ないと、すぐ無惨な落武者になってしまうのだ。直接毒瓶でゲットするのが一番ハゲちょろけになりにくいのである。

左手に懐中電灯、右手に毒瓶を持って、息を詰めて近づく。ドキドキの心臓バクバクだぜ。そっと毒瓶を持っていき、一気に被せてやろう。
ハッ(゜ロ゜;、だが被せようと毒瓶の先が僅かに動いた瞬間だった。飛んだ❗
ゲゲッΣ( ̄ロ ̄lll)、逃げよった❗
慌てて懐中電灯で周りを照らす。光がメチャメチャな軌道で激しく闇を切り裂く。しかし、ようやくその姿を捉えた時には、彼奴は既に斜面の奥の闇へと消えようとしていた。最早そのまま見送るしかなかった。
Σ(T▽T;)あーん、やってもたー。ワイ、呆然自失。その場に力なく佇む。
(;・ω・)何でやねん…。めっさ敏感やんけ。何だか泣きたくなってくる。何のために今まで恐怖に耐え忍んできたのだ。全ては無意味だ。ゼロじゃないか。

まあいい。時間はまだある。大丈夫、そのうちまた飛んで来るさ。どんまい、どんまい、ドン・ウォーリー。心の中で自分を励ます。でないと、己の不甲斐なさにその辺の灌木にメガトン級の蹴りを入れそうだった。

しかし、何度も往復するもいっこうに姿を現さない。
暇潰しにでも採ってやろうかと思ったオオトモエ(註4)たちにさえも、近づけば嘲笑うかのように何度も逃げられる。ナメとんのか、ワレ(-_-#)

カチッ。
時々、懐中電灯を消す。暇なのもあるが、少しでも懐中電灯をもたせようと云うセコい計算だ。
それにしても本当に真っ暗だ。鼻を摘ままれそうになってもワカリャしない闇だ。べっとりと塗り込られたような黒には、遠近感が無いのだ。そういえばイランとパキスタンの国境に跨がる砂漠で過ごした夜も、こんな漆黒の闇だった。普段、我々が見ている夜の闇は本当の闇ではない。必ず何処かしらからの人工の光が届いていると云うことを今更ながらに理解する。月明かりのない闇とは本来こういうものなのだ。今、眼前にあるのは、謂わば太古の闇だ。
心と闇の境界線が溶けてゆくような錯覚に襲われる。ともすれば、体も無くなってゆくような不思議な感覚だった。でも五感はある。しかも、より鋭敏になっているような気がする。
( ̄□ ̄;)ハッ、自身が闇と同化して消えて無くなるのではと思い、慌てて懐中電灯を点ける。すると、まるで手品のように森の木立が現れる。と同時に、あの不思議な感覚は消えてしまう。目に見えるものが全てではないのだろう。風が目に見えないように。

そうしてる間も刻一刻と時間は削られてゆく。帰りのバスの事を考えれば、ここを10時15分くらいには離れなければならない。
取り逃がしたことをジクジクと後悔する。1頭目はハゲちょろけになる事など気にせず、確実に採る為に網を使うべきだった…。被せる瞬間に、より照準を確実に定めるために一瞬躊躇しなかったか?…。いや、正面からではなく、下から持っててガッと被せた方が良かったかも…。そんな事をグズグズ考えていると、忸怩たる思いで心が溢れ出しそうになる。

そんな折りだった。
『グオーッ❗、グオーッ❗、グオーッ❗』
突然、森の奥で得体の知れない何かが吠える声が、闇に谺した。
💥(|| ゜Д゜)ビクッ。ピタリと体の動きが止まり、全身に戦慄が走る。そして、不気味な静寂。
何なんだ❓太い鳴き声だったから鹿ではないことは確かだ。野犬でもあるまい。野犬といえども鳴き声はフツーの犬と同じだ。キツネやタヌキでもなさそうだ。こんな声じゃなかった筈だ。じゃあ何なんだ❓ガルルの穴熊(註5)か❓それとも熊さん❓サンチュウ、ハッコッシターイヽ(ToT)ノ
泣きっ面に蜂ところじゃねえや。
でもゼッテー帰らんぞ(-_-#)、帰ってなるものか。
たとえ死の翳りに伏すとも…。何かの小説の一節が頭を過(よぎ)る。これ、何だっけ?だが何という題名の小説の中の言葉だったか思い出せない。バカか。そんな事、今はどうだっていい。そんな場合ではない。
でも、ここまできたら、引き下がるワケにはいかない。

『グオーッ❗、グオーッ❗、グオーッ❗』
再び咆哮が闇をつんざいた。背中の毛が逆立つのが自分でもよく解った。恐怖に支配されかかっている。
でも、段々腹が立ってきた。ワケのワカラン奴に脅されるのもムカつくし、それに支配されかかっている自分も許せない。

『うっせぇー、ボケー❗てめえブッ殺すぞ(#`皿´)❗』

気がついたら、大声で叫んでた。
( ̄▽ ̄;)あちゃー、死んだな。愚かだ。アホ過ぎる。全然冷静じゃないじゃないか。
しかし、ナゼかそれきり吠え声は止まった。ワシの気迫にビビったかえ(;・∀・)❓
とはいえ、かえって恐怖は増したりなんかした。熊さまは大変お怒りになって、闇からコチラの動静を伺って、いきなり背後から襲ってくるやもしれぬ。以降、ビビりまくりの全身全霊で気配と野獣臭に気を配った。時々、後ろを振り返ったりなんかしてね。ワシ、本当はごっつ小心もんなじゃよー(T△T)

更に時間は削られてゆく。
午後10時前になった。あと此処にいられるのは10分少々だ。心が悲鳴を上げそうだった。段々、顔が醜く歪んでゆく。あんさん、あんじょう殺したってやあ。

最後の望みをかけて、取り逃がした場所へと行く。
祈るような気持ちで懐中電灯を照らす。
(@ ̄□ ̄@;)ぐわん❗❗その光の束の先に、まさかのカバフがいた。ドラマは急速に動き出す。毎度、毎度のドラマチックな展開だ。有り難いが、何ゆえ神はどうしてこうもワタクシを試されるのだ❓
とにかく、ここであったが百年目、この神に与えられし千載一遇のチャンス、逃してなるものか(=`ェ´=)

悲愴感を振り払うかのように深呼吸する。そして、気合いを入れて崖をよじ登る。慎重に距離を詰める。その刹那も頭の中を考えが答えを求めて目まぐるしく駆け巡る。どうする❓網でいくのか、それとも毒瓶でいくのか❓どっち❓どっち❓どっちが正解なのだ。

出した答えはこうだ。
やはり落武者にしたくないので毒瓶でいこう。しかし、万が一ハズした時のことを考え、左手にお散歩ネットを持つことにした。それでダメなら、熊に喰われて死んでやる(-_-#)

目の前まで来た。
懐中電灯を口にくわえる。汚いが、もうそんなこと言ってらんない。毒瓶の蓋を取り、静かに足元に置く。そして左手に網を持つ。二刀流”羅生門”❗(註4)。ワンピースのゾロ気分で立つ。

慎重度マックスで毒瓶を近づける。
たぶん、初めて見た個体と同じ奴だろう。今度こそ捕らえてやる。もう躊躇はしない。思いきって被せにゆく。

💥カポッ。
だが、ギリギリすんでのところで飛び立った❗
ゲロゲローΣ( ̄ロ ̄lll)❗❗❗❗❗、ハズした❗
糞ッタレがっ❗己に対しての怒りに血流が憤怒の河となって逆流する。急な斜面だがアドレナリン全開。懐中電灯を口にくわえたまま後を追う。殺(や)ってやる。

10mくらい追い掛けたところで、照葉樹の繁みに止まった❗しめた(・∀・*)
しかし、変な所に止まっている。下から網をもってゆくか、横に払うか迷うところだ。いや、横からは枝が邪魔して無理っぽい。どうする❓だが時間は切迫している。迷っているヒマはない。もうボロボロになっても仕方ない。肉を切らして骨を断つ❗
秘技『⚡雷神』❗渾身の一撃を💥”斬”❗上から下へとザックリ振りおろす。

恐る恐る中を見る。( ☆∀☆)入っている❗
でも時間はない。急いで毒瓶を網の中に突っ込み、取り込みにかかる。しかし、お散歩ネットは濃い緑色だ。中を視認しにくい。又しても選択ミス。おまけに暴れて網の中で逃げ回る。ダメダメダメ~(T_T)、ボロボロになっちゃうー。
焦れば焦るほど上手くいかない。汗が滴り落ち、くわえた懐中電灯の横からヨダレが流れ出る。
えーい(*`Д´)ノ、もうどうなっても構わん。おどれ、絶対に捕獲しちゃるわいΣ( ̄皿 ̄;;❗
とぅりゃあー、ヤケクソで半ば無理矢理にネジ込んでやった。

ハー、ハー( -。-) =3、ゼー、ゼー( ̄◇ ̄)=3
その場にへたりこむ。
やったぜ、仕留めた。安堵と達成感がジワジワと全身に拡がってゆく。

 

 
シンプルだがスタイリッシュな上翅と、下翅の鮮やかな黄色。間違いなくカバフキシタバだ。
ふはははは……Ψ( ̄∇ ̄)Ψ
蛾を本格的に採り始めて1年目にして早くもカトカラの最稀種とも言われるカバフキシタバ様をGETじゃーい❗ 俺って、やっぱ引きだけは強いのれす。(^o^)オホホのホー。

  

 

 
(裏面)

 
とはいえ、見事にハゲちょろけて落武者化している。
だが、むしろ最後まで生き延びようと抗い闘い続けた孤高の侍の証しだと思った。敬意をもって三角紙に収める。
それに、漆黒の闇に震撼し、謎の動物の咆哮にビビりまくりつつも撤退ギリ3分前に仕止めたのだ。コチラだって全身全霊で闘ったのだ。その証しでもある。落武者禿げチョロケも勲章と考えればいい。

超特急で帰り支度をし、真っ暗な坂道を足早に歩く。
この深い闇も、今や怖れるものではない。むしろ、夜の冷気と共に優しく包んでくれているようにさえ感じられる。

やがて、街の灯が見えてきた。
そこには、きっと目映(まばゆ)い光を灯す最終バスが待っている筈だ。
 
                   おしまい

 
 
その時のものがコレだ。

 

 
蛾採りを始めてまだ一年目だとしても、酷い展翅だ。
上翅も上がり過ぎだし、下翅は下がり過ぎだ。触角も酷い。
思い出したけど、コレって下翅が上翅の下にどうしても入らなくて諦めたんだよね。だから下翅を上げられなかった。上げれたら、もう少しマシになってたかもしれない。
兎に角あまりに酷いし、これではカバフの美しさが伝わらないから、今年展翅したのを添付しておきます。

 
(Catocala mirifica ♂)

 
(同 ♀)

 
雌雄の判別は尻の形で、だいたい区別できる。
細長くて、尻先に多めに毛束があるのが♂で、尻が短くて太く、尻先の毛が少ないのが♀である。
あとは比較的♀の方が翅形が丸い。
 
裏面はこんなん。

 

 
いやはや、ちゃんと展翅するとカッコイイねぇ。
こうして改めて見ると、数多(あまた)いるカトカラの中でも特異な姿だ。上翅のシンプルで渋いデザイン、下翅の鮮やかなレモンイエローが異彩を放っている。世界を見回しても、似た者はいない。そういう意味では、孤高のカトカラと言ってもいいだろう。

種の解説もしておこう。

 
【学名】Catocala mirifica (Butler, 1877)

フランス語にミリフィック(Mirific)と云う言葉があるから、おそらくラテン語由来だろう。
フランス語 Milific の意味は「驚くべき」「素晴らしい」など。

蝶にも同じ小種名のものはいないかと探してみたら、ジャノメチョウ科にいた。
豪州とその周辺に Heteronympha mirifica というジャノメチョウ科のチョウがいるようだ。
それにしても、ヘテロナュムパ(Heteronympha)って、なんだか舌を噛みそうな属名だにゃあ。
一応、平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』で調べてみたら、ちゃんと載ってた。この本には毎度助けられてるなあ。重宝してます。
それによると、ヘテロナュムパはミナミジャノメ属と訳されておる。mirifica(ミリフィカ)はやはりラテン語で、 milificus の女性形なんだそうな。意味は「驚くべき、不思議な」となっていた。ミリフィカという素敵な響きといい、この佳蛾には相応しい学名だと思う。

 
【和名】
由来は調べたがワカンナイ。カバは樺の木かなあ❓それとも蒲の事なのかなあ❓湿地に生える蒲(ガマ)の事をカバとも言うからね。どちらにしても色は茶色だ。おそらく上翅の先の紋の色を表しているものと思われる。
問題はフだ。斑(ふ、ぶち)なのか布(ふ)なのかなあ。たぶん斑の方だろうけど、ブチといえばブチハイエナとかブチ犬など複数の斑点を持つものを指すイメージが強い。
一応調べてみたら、「斑(まだら)は、種々の色、また濃い色と淡い色とが混じっていること。」ともあるから、あながち間違っているワケではなさそうだ。
まあ、そうだとしても、個人的には何か納得できない和名だけどね。もう少し良い名前をつけて欲しかったなというのが、正直な感想だ。

 
【開帳】
45~58㎜。
基本的にはフシキキシタバやコガタキシタバなどよりも、やや小さい。だが大きさには結構な幅があり、小さいものではマメキシタバくらいしかないものもいる。

 
【分布】
関東以西の本州、四国。
西側に多いが、局所的で稀とされている。また各地で得られる個体数も少ないようだ。但し、島根県浜田市田橋や三重県青山高原では多くの個体が得られている。とはいえ、浜田市田橋は産地が潰れたという噂を聞いているし、青山高原は風力発電の施設が出来てからは激減したそうだ。関東では伊豆半島が確実な産地として知られている。

因みに、長いあいだ日本固有種とされてきたが、近年、中国でも発見されている。

 
【成虫出現期】
6月下旬から現れ、8月下旬まで見られる。
近畿地方での最盛期は7月上、中旬と思われる。

 
【生態】
成虫は好んでクヌギやコナラなどの樹液に集まる。
飛来時刻は他のカトカラと比べて遅く、午後8時を過ぎないと飛んで来ないようだ。京大蝶研のTくんからも事前にそう聞いていた。これは翌年(2019年)に各地で確認しているので、少なくとも近畿地方では安定した生態だと言っても過言ではないだろう。
今年は糖蜜トラップも試してみたが、よく飛来した。糖蜜のレシピにもよるのだろうが、樹液よりも寧ろ糖蜜に反応する事の方が多かった。
主に低山地の落葉広葉樹林帯の開けた二次林に見られる。西尾規孝氏の『日本のCatocala 』によると、飼育経験から低温と高温、乾燥に弱いという。また、良好な発生地の中には湿潤な地方があり、近畿、中国地方のブナ帯下部からコナラ群落を好む狭適温性の可能性があるとしている。
これに関しては当たっているところもあるが、微妙という印象を持っている。たしかに湿潤なところにもいるが、そうでもないところにもいるからだ。狭適温性と云うのにも疑問がある。少なくとも近畿地方では、特別な気候の場所に棲むと云う印象はない。

日中はアカマツなどの木に頭を下にして翅を閉じて静止している。その特徴的な上翅の斑紋から、他のカトカラと比べて比較的見つけやすい。

余談だが、カバフは背中の毛が薄いのか、すぐにハゲちょろける。これは翌年(2019)わかったのだが、落武者化する確率が異様に高いのだ。因みに、このハゲちょろけることを上の世代では「金語楼になる」とおっしゃっているようだ。これは落語家の柳家金語楼がハゲちょろけてるところからきているらしい。でもさあ、柳家金語楼なんて今時の人は誰も知らないよね(笑)

 
【幼虫の食餌植物】
バラ科 カマツカ(Pourthiaea villosa)。

 

 
漢字で書くと鎌柄となる。これは材を鎌の柄に用いたことによる。材質が硬く、別名ウシゴロシ(牛殺し)とも言われる。

『日本のCatocala』によれば、幼虫はカマツカの大木を好むという。5齢幼虫は花と蕾を摂食し、この事から花を豊富に付けるカマツカの大木が必要のようだ。稀種とされ、個体数も少ないのは、おそらくこの幼虫の嗜好性に因るものではないだろうか。

 
追伸
この時の経験が一つの分水嶺となった。
それ以降、闇に対する畏怖が大幅に軽減したという実感がある。あの時の恐怖に比べれば、他は屁でもない。お陰で余計なことを考える事なく、ターゲットに集中できるようになった。謂わば記念碑的な日でもあったのだ。当ブログに書いた四話構成の2017版『春の三大蛾祭』シリーズ(2018年版ではない)の頃から考えれば、隔世の感がある。
恐怖は想像する事にある。その侵入をブロックすることが出来たら、闇もそれほど恐るるものではない。

実を言うと、この回の草稿は既に7月上旬には出来ていた。でもゆえあってアップを控えていた。
通例ならば、次回は2019年版のカバフ続編になる筈だが、その関連で10月以降になる予定。理由は月刊むしの10月号(9月発売)を見て下されば、いずれ解るかと思われます。それまではカトカラシリーズのvol.6を書くか、休止している『台湾の蝶』シリーズを再開させるかは未定。もしくは他の昆虫の記事になるか、食べ物系になるかもしれない。或いは完全お休みになるかもね。もう一回、長野の行って紫の君に会わなければならないのだ。

言い忘れたが、三角紙上のカバフの一連写真は帰りのバスの中で撮ったものだ。現場で写真を撮っているヒマなど無かったって事だね。それくらいギリギリでのゲットだった。

 
(註1)『世界のカトカラ』

 
月刊むし・昆虫図説シリーズの第一弾(2011)。
カトカラの世界的研究者 石塚勝巳氏による全世界のカトカラを紹介したものだが、同時に日本のカトカラ入門書としても使える本。

 
(註2)オオウラギンスジヒョウモン♀
(2015.6.14 京都府南山城村)

 
ヒョウモンチョウの仲間は結構好き。

 
(註3)これってカマツカ❓
たぶんウワミズザクラ。翌年、確認した。
ウワミズザクラといえば、シロシタバ(Catocala nivea)の食樹だ。時期に行けば、いるかもしんない。行かないけど。

Facebookで、さる方から花の付いてる木はリョウブだと御指摘があった。確かにウワミズザクラの花の時期は5月くらいだから、とっくのに前に終わっているもんね。間違えました( ̄▽ ̄)ゞ

 
(註4)オオトモエ
(2018.8.9 奈良県大和郡山市)

 
普通種だが、デカくて中々立派な蛾だ。こういう黒っぽい個体はカッコイイと思う。

 
(註5)ガルルの穴熊
昔、フジミドリシジミを採りに滋賀県比良山に行った時の話だ。山道を歩いていると、一所懸命に穴を掘っている動物がいて、タヌキかなと思ったが、にしては白っぽくて、どうも違うような気がした。向こうが気がついてくれないので、しようがなしに背後から近づいて行ったら、7、8m手前で振り向かれ、ガルルーとムチャクチャ威嚇されたのだった。マジで怖かったー。
帰ってから調べてみたら、アナグマだった。

 
(註6)二刀流”羅生門”
漫画『one piece』の登場人物ロロノア・ゾロの必殺技の一つ。両腰に一本ずつ刀を構えた居合の構えから抜刀し、対象物を縦に一刀両断にする。技の初登場は「ウォーターセブン編」。