先日、天王寺で用事があった。
ちょうど昼飯時だったので何か食おうと思った。
それで思い出したのが、あべのハルカス(近鉄百貨店)にある『すし 古径』。
店名の由来は、おそらく日本画家の小林古径だろう。
夏八月に来た時に、ここの鰯がメチャメチャ美味かった。それを思い出したのだ。
先ずは小手調べにツマミ三種をたのむ。
寿司を握ってもらう前に、ツマミで刺身をたのむ人が多いが、自分は滅多なことではたのまない。これから寿司食うのに、何で刺身を食わなきゃならんのだ?と思ってしまうのだ。
左から蛸のやわらか煮、高野豆腐、小針魚(サヨリ)の昆布絞めである。
蛸はタコでないくらいに物凄くやわらかい。美味しいけど、蛸に弾力を求める者には特に感銘はない。
高野豆腐はガキの頃はスポンジやんけと思っていたが、大人になると出汁次第だと解った。高野豆腐は出汁を食う料理なのだ。
サヨリの昆布絞めは侮れない旨さだ。地味にメチャ美味い。あまり締め過ぎていないので、身がかたくなってなくて、刺身に近いフレッシュな感じが残っているのがいい。
昼間なので、あまり酒は飲めないゆえに早々と握ってもらう。
関西ではあまりお目にかかれない小肌があったので、少し迷ったがたのんでみた。
見た感じは艶があって期待が持てる。コハダはセクシーでなければならぬ。
ここは醤油を自分でつけて食べる店ではなく、こうして職人が煮切り醤油を刷毛で塗って出してくるタイプの店である。所謂、職人がネタに仕事をするという江戸前寿司ってヤツだね。
因みに煮切り醤油とは、濃口醤油、又はたまり醤油に酒、味醂などを加えて火にかけてアルコール分をとばしたものである。店によって調合は違い、それぞれ工夫が施されていたりもする。
小肌は旨い不味いの落差が一番あるタネである。
旨いと思うことよりも、ガッカリさせられることの方が遥かに多い。だから少したのむのを迷ったのだ。
手でスッと持ち上げ、ちらりと見て、さっと口に入れる。
(ー_ー;)う~む。
悪くはない。悪くはないんだけど、やはり今回も期待値を下まわった。酢がややキツい。自分にとっては締め過ぎである。好みは浅締めなのだ。酢に浸ける時間が長いと身がかたくなる。それがあまり好きではないのだ。きずしとか鯖寿司とかも、これは同じである。酢締めのネタって、微妙な世界なんである。この状態が好みで、良しとする人もいるだろう。所詮、食いもんなんてものは、突き詰めれば最後は好みなのだ。
とにかく、それでやや気落ちして写真を撮るのを止めた。この先、期待はできないなと思ったのだ。
次にたのんだのは鯛。
塩に柑橘の絞り汁をキュッと垂らしてもらった。
鯛はこの食べ方が一番美味い。鯛の旨みと甘みを一番感じられるからだ。噛めば噛むほどに旨みが増す。
これも悪くはないものの、感動を呼び起こすほどのものではなかった。時期もあまり宜しくないのだろう。美味しくなるのは、気温が下がってゆくこれからだろう。
続いてたのんだは縞鯵(シマアジ)。
座って、ネタケースに並んでいるのを見た時から目を引いた。ネタがぴかぴかに輝いていたのだ。良い素材は表面が光っているように見えるものだ。食べてよ、食べてよとアピールしてくる。冗談ではなく、これはホントだ。わかる人にはわかる。どんなものでも、ホンマもんには美が宿るのだ。
これは抜群に美味かった。身がイカっているのに、噛むと歯切れがよく、あとから旨みがグングン追いかけてくる。
イカってる魚は歯応えはいいけど、旨みには欠ける事が多い。それがないのに驚いた。旨みが噛んでるうちに心地好く舌に広がってゆくのだ。
元々、シマアジは身質的にそういう魚ではあるけれど、参った。たぶん、秘密は切身の絶妙な厚さだろう。寿司ネタには、それぞれの、その時々の最良の厚さというものがあり、またシャリとのバランスがあるのだ。
この手の魚のカンパチ、ヒラマサ、ブリ等の中ではシマアジが一番美味いと思う。最近のブリとかハマチとかって、生臭くて食えたもんではない。だから、天然か、それに近い寒ブリしか食わない主義だ。昔は、ハマチが大好きだったのなあ…。オジサンになると、好みも変わるのだ。
このシマアジで考えを改めなおした。
好きなものを勝手にたのむのではなく、職人さんのお薦めを訊いてからオーダーすることにした。段々、寿司屋にも行けない人になってきたので、セオリーを忘れてたよ。悲しいやね。
そう云うワケで、次は薦められたカマスを素直にたのんだ。
でもカマス❓とは思った。カマスなんて魚は水っぽいから、寿司には向かないネタだと云うイメージがあったからだ。カマスといえば、一夜干しでしょうよ。
でも、出されたカマスの炙りは、悶絶するくらいにメチャメチャ美味かった。香ばしさが最初に鼻腔をくすぐり、上品なのに甘みと旨みが強い。そして、最後にもう一度、香ばしさが鼻から抜けてゆく。
カマス、ナメてました。脱帽。今まで寿司屋で食ったカマスの中では、ナンバー1と言ってもいい。
というワケで、写真も復活。
【剣先烏賊】
やわらかくて、旨みと甘みが半端ない。
イカ本来の甘みもさることながら、細かい包丁が入っているがゆえだろう。おそらく身の裏面にも隠し包丁が入っていた筈だ。イカは繊維を断ち切れば切るほど旨みと甘みが舌に感じ易いのだ。
【鯵】
わかりづらいから、反対からも撮る。
上に生姜が添えられている。
これも美味かったが、縞鯵の感動には及ばない。
但し、そもそも同じアジと言っても全く違う魚だ。そう思えば、アジとしてはそれなりに完成しているかもしれない。順番が逆ならば、もっと好評価だっただろう。寿司は食う順番も大事なのだ。
【アワビ】
煮アワビではなくて、生である。
普通にメッチャ旨い。メッチャは言い過ぎだけど、コリコリの中に貝独特の旨みがあって、よろし。
江戸前だから、火が入ったアワビかと思いきや。生しかないと言われた。でも好みとしては煮アワビよりも生のアワビの方が食感があって好きだから問題ないのさ。
煮アワビって、時々カマボコ的だなと思ってしまう。そう思ったら、おしまいだ。有り難みが無くなる。
【土瓶蒸し】
秋だすなあ…。しみじみ美味いよ。
土瓶蒸しは大好きだ。あんまり食べる機会はないけどさ。中を覗くと、ちゃんとハモも入ってた。ハモが入っていない土瓶蒸しは土瓶蒸しと認めない。全然、味が違うからである。ハモが入ると、出汁の旨みが格段に出て、尚且つ上品さを失わないと云うところがマストなのだ。
海老も入っていた。これは正直いらないと思っている。松茸とハモの極上のハーモニーを壊しかねない存在だと思ってる。重ねて言う。土瓶蒸しに海老はいらない。
【茶碗蒸し】
茶碗蒸しって良いよねぇ。
何だか心の底からホッとする。癒しの食いもんだ。このクオリティのもんだったら、毎日食ってもいいや。
茶碗蒸しと土瓶蒸しを考えた人は天才だと思う。
写真も撮ってない事だし、もう一回シマアジをたのんだ。
【縞鯵】
これもわかりづらいから、反対からも撮る。
最初と比べれば驚きがない分、感動は薄れるが、やはり美味い。
【カマスの炙り】
カマスも写真が無いので、もう一回たのんだ。
コチラは、遜色ないくらいの感動を味わえた。メチャメチャ美味い。この日のマイ・フェバリットは、間違いなくカマスだろう。
〆は穴子にしようと思ったのだが、生憎のところ売り切れとのこと。残念至極だ。
【ツブ貝】
生のツブ貝を久しく食べていない気がしたので、たのんだ。
歯触りは良いが、旨みが足りない。これも、もう少し季節が進んだ方が美味くなるのだろう。それぞれの旬は、ちゃんと覚えておいた方がいいやね。でも、同じ魚でも旬は場所によって違うから、世間で言われている旬が絶対ではないんだよね。
【トロ鉄火】
最後は、トロ鉄火で〆た。
やっぱ、トロ鉄火って最高だ。もちろんマグロは旨いけど、この海苔が堪らん。パリッとした食感と磯の仄かな香りがマグロの旨みを極限にまで引き出してくれるのだ。うめぇ~…。腹いっぱい。ノックアウトである。
それにしても、マグロと海苔の相性って抜群だな。わかっているのに、毎回一々感心することしきりである。
相性抜群の誰か現れてくんないかなあ…。ノックアウトされたいよ。
おしまい