エゥダミップスの呪縛

 
Polyura eudamippus フタオチョウについて、『台湾の蝶2フォルモサフタオチョウ』、『エウダミップスの迷宮』、『エウダミップスの憂鬱』と3篇もの文章を書いてきた。

【Polyura eudamippus フタオチョウ】
(2014.4 Laos Luang Namtha)

これが思いの外に難産で、もうウンザリだっただけに書き終えた時には正直ホッとしたと云うのが本音だった。
だが、ホッとしたのも束の間、はたと重要なことに気づいてしまったんだよねー。

「eudamippus」の学名の読み方を、ずっとエウダミップスと書いてきたが、もしかして間違っているんじゃないかと思ったのである。
学名と云うものは、基本的にはラテン語かギリシア語でつけられている。つまり、ローマ字読みが基本だ。だから、「エウダミップス」と読むんだとばかり思っていた。

しかし、例えばイナズマチョウの属名のEuthaliaは、愛好家の間では一般的にユータリアと呼ぶのが習わしになっている。

【Euthalia Patala パタライナズマ】
(2014.4 Laos oudmxay)

また、ルリマダラ類の属名のEupoloeaは、先輩たちがユーポロイアと言ってるのを何度か聞いたことがある。

【Eupoloea mulciber ツマムラサキマダラ】
(2011.3 Laos Tabok)

あらら、「eu」は英語読みだと、「ユー」になる事をすっかり忘れていた。
そういえば「EURO」もユーロって読むもんね。
たぶん大文字の「Eu」と小文字の「eu」が頭の中でリンクしなかったのであろう。
となると、「eudamippus」は、「ユーダミップス」とも読める事になる。
もし、そうだっとしたら、赤っ恥もいいところだ。
でも、そもそも学名はラテン語読みの筈なのに何でコイツらは英語読みなの❓
素人には、業界のルールがワカランよ(# ̄З ̄)

クソー(´д`|||)、eudamippusめー、どこまでワシを苦しめればいいというのだ。どこまでワシを逃すまいとイバラの蔓で絡め捕ろうとするのだ。
もうここまでくれば、eudamippusの呪いじゃよ。

考えてみれば、ムラサキシジミ属のArhopalaなんて、普通の人はアロパラとはとても読めやしません。

【Arhopala hercles? ヘラクレスムラサキシジミ】
(2013.2 Indonesia Sulawesi Palu)

酷い写真だなあ…。
もう少しマシな写真を探そう。

【Arhopala pseudocentaurus ケンタウルスムラサキシジミ】
(2016.3.31 Thailand Ranog)

大概の日本人は、アロホパラと読むざますよ。
知らずにアロホパラを連発でもしたら、業界では小バカにされること確実だ。
でも、んなもん教えられなきゃ、フツーの人は読めるワケがないのである。だけども、周りが知ってれば間違いなく赤っ恥ではあるんだよね。蝶屋としてワンランク下に見られるだしょな。まあ、どうせオイラはまだまだ蝶歴短いぺーぺだから、別にいいんだけどさ。
ところで、これは何語読み❓
英語読みじゃなさそうだから、やっぱりラテン語読みなのかなあ❓

そういえばマネシアゲハの仲間は、キラサと呼ぶ筈だけど、学名の綴りは「Chilasa」だ。
でも英語読みだと、チラサと発音するよね。
さすれば、これはラテン語読みって事になりそうだ。

【Chilasa paradoxa パラドクサマネシアゲハ】
(2011.4 Laos Samnua)

先に紹介したツマムラサキマダラとソックリさんだね。
これはパラドクサが毒のあるツマムラくんに擬態しているのだ。慣れないと、飛んでいる時はまず見抜けないでごわす。

チラサよか、キラサの方が何だかキマエラっぽくてカッコイイな。
小種名のパラドクサという名もスゴい。ようするにパラドックス(逆説的)なワケでしょ。色んな意味で、想像力を掻き立てられる。

あー、ちょい待て。パラドキサと云う表記も見たことがあるぞ。それってラテン語読み❓

こりゃダメだ。ラテン語の基本的な用法を知らなければラチがあかん。
取り敢えずは、ネットでググってみるか。

(^_^)ハイハイ、何となく解ってきましたよ。
例えば、菌類に於いても学名の呼び方は研究者により様々で、古典ラテン語、慣用(教会)ラテン語、英語、ドイツ語風と色々入り混じっているらしい。中には、一つの種に対して6つもの呼称があるという。
その文によると、そもそもラテン語には「k」という文字は無く、「c」は「k」と発音するらしいのだ。
後ろに子音が入れば、カ・キ・ク・ケ・コになる。
で、「h」は発音しない。
だから、キラサと読むのである。
となると、Arhopalaの謎も自然と解けてくる。
つまり、「h」を発音しないからアロパラなのである。

じゃあ「paradoxa」はどうなのかというと、ラテン語ではx=c+sのようだ。つまりパラドクサで正解だというワケだね。
でも、英語読みでもパラドクサの筈だから、パラドキサと云うのがよくワカラン。
ワカランけど、もうパラドクサとしておきましょう。
これ以上、要らんことに首を突っ込んでたまるかである。

調べるうちに、ガビーΣ( ̄ロ ̄lll)ーン❗❗
ここでまた一つ、どエラい事実を見つけてもうた。

ラテン語では「y」を「i」と発音するみたい。そして、前述したように「c」は「k」の音で発音する。
薮蛇(やぶへび)だ。知らねば良かったのに植物の例を見つけちまったよ。
ハナアナナス属の植物に、Tillandsia cyanea というのがあるそうな。その小種名「cyanea」は、英語では「シアネア」と発音するが、ラテン語では「キアネア」と読むんだそうな。
この綴りには、物凄く覚えがある。
オオイナズマの中の覇王、Lexias cyanipardus の小種名だ。

【Lexias cyanipardus ♀】
(2014 Laos oudmxay)

自分はこの学名を言伝てでキヤニパルダス、或いはキャニパルダスだと思っていた。
ブログにも、その都度どちらかの名前を使用してきた。でも先の法則に従えば、「キアニパルダス」ということになる。
(´д`|||)おいおい、全部手直しかよ。アメブロのも含めれば、結構な数があるぞー。
(-“”-;)どないしてケツかろ。

それはそれとして、ひとまず置いといてー。
さてさて、さあ問題の「eu」の読み方だ。
ラテン語では「e」は「エ」、「u」は「ウ」と読む。「eu」だと「エウ」となるのだが、正確には「エ・ウ」とは切らずに一気に「エウ」と続けて発音するらしい。カタカナ表記すれば「エゥ」に近い。これは古典ラテン語でも慣用ラテン語でも同じだ。
つまり、「エウダミップス」でも間違いではないが、「エゥダミップス」と表記した方がより近い発音だと云うことになる。

実をいうと、ここ2、3日は、それであーだ、こーだとずっと悩んでいた。
「ユーダミップス」でいくか、「エゥダミップス」でいくか、それとも「エウダミップス」のままでいくか……。
それが問題だ。

でも、(*`Д´)ノ❗❗決めました。
「エゥダミップス」でいこう。
メンドくせーけど、全部修正しますよコンニャロー。

もうホント、マジ。Polyura eudamippus に関してはコレでオシマイにして欲しいよ。

と、ここまで書いて、脳ミソのシナプスが突然繋がった。或る本の存在を思い出したのだ。
たしか、蝶の学名について書いたバイブルみたいな本が在った筈だ。

図書館に行ったら、ございましたよ。
平嶋義宏 著『蝶の学名 その語源と解説』。
蝶の学名の読み方と、その謂われが書いてある本だ。
辞典と言い切ってもよいものだと思う。
平嶋さんって偉い!よくぞ、書かれたと思う。これを書くには、膨大な時間と労力を要したことは想像に難くない。

それによると、Arhopalaはアロパラになってました。
Chilasaは「キラサ」と読み、paradoxaもパラドクサと読むと書いていた。
両方とも、きっちりラテン語なのだ。

EuthaliaとEupoloeaもラテン語読みで、それぞれ「エウタリア」と「エウポロエア」となっていた。
基本は、矢張りラテン語と云うワケなのである。
でも、Euthaliaはユータリアで慣れてるしなあ…。
無視しよう。エウタリアよか、ユータリアの方がカッコイイもんね。
Eupoloeaは、どっちでもよろし。
でも、エウポロイアって言いにくいし、何だかダサい。これも自分の中ではユーポロイアでいいかなあ…。

Lexias cyanipardusの「cyanipardus」は、
ありゃま(_)、「キュアニパルドゥス」となっとるやないけー\(◎o◎)/
ったくよー(ー。ー#)、何を信じれば良いのだ。
頭のキュアニはどうかとは思うが、最後の「dus」は、そうかもなとも思う。
調べた限りでは、ラテン語の読みなら、ダスじゃなくて「ドゥス」になるんだよなあ…。

これも、保留としておこう。

で、件(くだん)の「eudamippus」である。
辞典では、あちゃー(@ ̄□ ̄@;)!!
なんと、「エウダミップス」となっておるではないか。決して「エゥダミップス」ではないのだ。
困ったよね。どっちにすればよろしいので御座いましょう。
(=`ェ´=)テッメエー、何なんだよ、eudamippus❓

結論。
エゥダミップスを正確に読んで貰えるかは疑わしい。小さい「ゥ」の意図が伝わるかといえば、難しいだろう。
表記をなおすのがメンドくせーと云うのもあるが、スンマセン、エウダミップスの儘にしておきます。

結局、「大山鳴動してネズミ一匹」出ずである。

再度、繰り返す。
もうホント、マジ。Polyura eudamippus に関してはコレでオシマイにして欲しいよ。

                  おしまい

 
追伸
タイトルを、エウダミップスではなく、「エゥダミップスの呪縛」としたのは、ささやかな爪痕みたいなもんです。

えー、それと一言。
先輩たちもこういう重要なことは、後塵に対してちゃんと教えて欲しいよね。
もしかして、そもそも先輩たちもラテン語の読み方のルールを知らんかったりして…(^_^;)

あとタクソン(学名)で、よくワカンナイのは小種名の最後の「i」。コレは発音すべきなの?
「ii」のケースなんて基本ルールが解らないだけに、もうお手上げだすよ。

追伸の追伸
結局、Lexias cyanipardus はキアニパルダスオオイナズマと表記する事にしました。アメブロも含めて過去記事もそれで修正した。
とはいえ修正漏れもあるかも…。

再展翅してる場合かよ?

 
標本箱の整理をしていたら、随分と標本に狂いが生じていた。好きな蝶たちだし、再展翅することにした。

再展翅の仕方は、先ずはタッパーか何かの密閉できる容器を用意する。その真ん中にウレタンやコルクなど針が刺せるものを貼りつけ、蝶をセットしたら周りを水でドボドボにしたティッシュペーパーなどで埋めてやる。
で、カビ防止の為の正露丸をバラまいたら蓋をして冷蔵庫に2~3日安置する。
で、柔らかくなっていたら再展翅。

 
【フタオチョウ Polyura eudamippus ♂】
(2017・4月 タイ北部)

日本の沖縄本島にいるモノ(天然記念物)は、従来同種の別亜種とされてきたが、最近別種として分けられたらしい。
P.eudamippusと比べて遥かに小さいし、全体的に黒っぽくて尾突も短くてかなり特異な姿だからして果たして同種なのかなとは思ってた。食樹も全然違うし、幼虫形態にも差があるらしい。ゆえに別種とするのは納得だ。まあ、かなり近い間柄ではあるけどね。
う~ん、でもジッと見ていると、本当のところどうなのかなあとも思う。別種になる一歩手前という段階だと云う気がしないでもない。地理的隔離もあるから何万年か何千年、何百年先には明らかな別種になっている事は間違いないんだろうけどさ。とにかく別種とか亜種とかの線引きは難しいよね。人によって見る観点が違えば、自ずと見解も変わってくるのは当然だもんね。かといって最近流行りの遺伝子解析が万能で絶対だとも思えない。遺伝子が違うけど見た目で区別できない種なんて果たして種に分ける意味ってあんのかよ❓と思う。

【沖縄本島産フタオチョウ】
(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

多分、新学名はPolyura weismanniだったと思うけど、間違ってたら御免なさい。

 
【ドロンフタオ Polyura dolon ♂】
(2014・4月 タイ北部)

一見すると上のP.eudamippusにソックリだが、よく見ると斑紋も違うし(特に裏側)、縦長の翅形だ。大きさも少し大きい。
P.eudamippusはラオスにも結構いたが、ドロンは見たことがないから分布域はより狭いと云う印象がある。
両種とも♀は更に巨大で迫力がある(特に4月の個体は大きいようだ)。しかし、中々お目にかかれないらしく、自分も生きている姿をまだ見たことがない。フタオチョウ類のメスは殆どが珍で、トラップをかけないとまず見られないという。

 
【キアニパルダスオオイナズマ Lexias cyanipardus ♀】
(2014.4月 ラオス北部)

メスが水玉模様になるcyanipardus種群の最高峰であり最大種。西日本のオオムラサキのメスくらいは優にある。
う~、完品が欲しい。それにまだ♂も採った事がない。コイツは再挑戦してもいい蝶。でも狙って採れる蝶ではないんだよねえ…。

 
【アルボプンクタータオオイナズマ Lexias albopunctata ♂】
(2011.4月 Laos中部)

これもメスが水玉模様になるcyanipardus種群の一員だが、オスはほぼほぼ真っ黒なので区別しやすい。
このあいだ古いTSUISO(蝶のミニコミ誌)を戴いたんだけど、それに拠ると昔はL.albopunctataもL.cyanipardusもL.bangkanaもまだ別種に分けられていなくて、纏めて全部Lexias cyanipardusとされていたようだ。
アルボはわりと採ってるけど、カッコイイからもっと欲しい。柄もさることながら(特に♀)、長い触角が全体のフォルムを引き締めていて( ☆∀☆)萌え~。
それに異常なまでに敏感だから採集難易度が高い。だから狩猟焦燥感と採った時の快感度はマックス。とにかく採りがいがあるのだ。

 
【アルボプンクタータオオイナズマ♀】
(2017・4月 ラオス)

それにしても、ほったらかしでまだ台湾の蝶もほとんど展翅していないのに、何やってんだろ❓こんな事してていいのかね❓
『続・発作的台湾蝶紀行』も二行だけ書いて頓挫したまんまだしさ。何だか憂鬱だなあ…。

むしむし展示即売会 2017’春

昆虫の展示即売会に行った回の続きです。

え~と、前回は本来書くべき事から脱線してしまい、そのまま終わってしまいました。理由は脱線した地点から軌道修正するのが面倒になったからです。
オデ、オデ、バカだから、そんな文章力はないのである。

展示即売会に行った一番の目的はコレです。

『タイ国の蝶 Vol.3 タテハチョウ編』¥10000
これを竹さんに頼んでいたのだ。
何か知らんけど、定価の一万円よりマケてもろた。竹さん、ありがとう。
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