台湾の蝶24『日光菩薩』

 
 
  第24話『大名黄胡麻斑』

 
前回のキゴマダラが月光菩薩ならば、ダイミョウキゴマダラはさしづめ日光菩薩(註1)ってところだろうか。
色が輝くような橙色だから太陽の光(日光)を連想させるし、台湾特産種だ。それくらいの称号を与えてもいいだろう。しかも、かなり珍しい。自分もたった一度しか出会ったことがない。

 
【Sephisa daimio ダイミョウキゴマダラ♂】

 
何で片羽だけの画像かって❓
理由は、こうなのさ。

 

 
♂の新鮮な個体なのに、片方の羽がザックリいかれとるのよ。たぶん鳥に啄(ついば)まれたんだろね。
これにはマジ、ガッカリした(´д`|||)
しかも、羽を閉じて止まっている時は破れていない方の面が見えていたから、完品だと思って心の中で小躍りした。それが採ってみたら、コレだもん。(ToT)泣いたよ。

 

 
(2016.7.14 南投県仁愛郷 alt.1900m)

 
この時の採集記『大名様のお通りだーい』(註2)はアメブロにあるので、よろしかったらソチラも読んで下され。リンク先を文末に貼っておきます。

 

 
裏がまたカッケーんだよなあ。
白とオレンジの組み合わせって、上品な感じがする。
♀は表にも白が入り、橙色が淡くなるから、さらに高貴なるお姿だ。

 
(出典『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
キゴマダラほど顕著ではないが、一応雌雄異型。
♀は更に稀で、長年その存在が未知だったようだ。
上の原色台湾蝶類大図鑑に図示されたものが最初に世に出た画像なんだそうだ(1960年)。ネットでググっても、今でも写真が極めて少ないし、生態写真となると、もっと少ない。しかもロクなものがない。唯一、美しい写真を撮られているのは杉坂美典さんだけだ。
リンク先を貼っておきます。クリックでサイトに飛びます。

 
杉坂美典『台湾の蝶』

 
ちょっと画像をお借りさせて戴こう。

 

 
(出典 2点とも杉坂美典『台湾の蝶』)

 
高貴とまで思えてしまうのは、稀種ゆえの思い入れからかもしんないけど、やっぱカッコイイもんはカッコイイ。

こうして鮮明な画像を見ると、本種は同属他種と比べて前後翅外縁に並ぶ斑紋列が顕著な楔(くさび)型になるのがよくわかるね。この特徴は本種のみにある。

ふつうはタテハチョウ科の蝶は♂に比べて♀は大型になるのだが、インドキゴマダラ(Sephisa dichroa)と同様にそれほど大型にはならないという。なお、♂と見紛うような♀の黄色型は、今のところ例が無いみたいだ。

 
【学名】Sephisa daimio (Matsumura,1910)

タテハチョウ科 コムラサキ亜科のインドキゴマダラ属に分類される。
属名のSephisa(セフィーサ)の語源は不詳。
小種名のdaimioは「大名」を意味する。あの戦国大名の大名だ。これは日本人である松村松年が命名したから。蝶の立派さを大名で表したかったのだろう。つまり、日本人的感性でつけられた名前なのである。
松村松年は日本の近代昆虫学の礎を築いた人で、日本の昆虫の和名を統一し、自らも多くの昆虫に和名をつけた人でもある。
台湾の昆虫の学名には、日本人によって命名、記載されたものが数多くある。これには時代背景があって、当時の台湾が日本の統治下にあった事を物語っている。かつては台湾は日本の領地だったのである。また、当時の台湾で昆虫を本格的に研究している人などいない時代だったと云うのもあるだろう。
そういう背景があったとしても、蝶の名前に大名という立派な名がついているのは、日本人の自分としては何だか嬉しい。daimioだなんて、外国人からすれば何のこっちゃだと思うだろうけどさ。

因みに、学名にこの大名が使われている種は他にもいる。日本にいるダイミョウセセリ Daimio tethysとベニシジミの日本亜種 Lycaena phlaaeas daimio である。
ダイミョウセセリは日本以外にも、朝鮮半島、済州島、中国北部~東北部、ロシア南東部、中国中部~南部、中国西部・チベット、中国雲南省からインドシナ半島北部と台湾にもいて、亜種区分もされている。もしも豊臣秀吉の朝鮮侵攻が成功し、さらに領地を拡大していたならば、朝鮮大名とか支那大名、雲南大名、西蔵(チベット)大名、露西亜(ロシア)大名、暹羅(シャム。タイの旧名)大名とかだよなあと想像したら、笑ってしまった。みんなチョンマゲなのだ。
もし別種のDaimio属のセセリチョウが他にもいるとしたら、それぞれフィリピン大名とかジャワ大名、マレー大名、ビルマ大名になるね、なっちゃいますね(笑)。
アジア群雄割拠の大名祭りだよ~ん\(^o^)/
いかん、また話が横道大介になってもた。本筋に戻そう。

増井さんと猪又さんの論文(註3)を読むと、ダイミョウキゴマダラの学名には紆余曲折があり、興味深いので要約してみよう。

「1908年に松村松年がSephisa princepsの亜種として記録したのが最初である。その2年後に同氏によって、Sephisa属の新種として記載された。松村の命名に遅れること1ヶ月、Wileman(1910)も新種として「Sephisa taiwana」の名で発表したが、これは、S.daimioのシノニム(同物異名)となった。しかし本種はその後、1913年にFruhstorferによって、S.dichroaの亜種とされた。それ以降、全ての研究者がこれに従った。本種を再び独立種として扱ったのは白水(1944)である。」

蝶一つとっても、歴史を紐解くと色々あるんだね。
ダイミョウキゴマダラが一時期は亜種とされていたのは理解出来なくもない。たしかにこのグループは互いに似ているのだ。今一度、Sephisa属を整理しておこう。

 
【Sephisa dichroa インドキゴマダラ】

本種は、Sephisa属の中で最も西寄りのヒマラヤ西北部から中部の南側の樹林帯(ネパール・インド・パキスタン)に分布する稀種。地理的変異は特に知られていないようだ。
小種名dichroaは、多分だがラテン語で「二つの色」と云う意味だろう。これは植物のジョウザンアジサイの属名としても使われている。

 
(インドキゴマダラ♂)
(出典『Butterflies of India』)

 
(出典『wikipedia』)

 
雌雄同型、♂も♀も斑紋が同じなので、♀の画像は割愛させて戴いた。

 
(裏面)
(出典『Butterflies of India』)

 
(出典『Wikipedia』)

 
【Sephisa princeps カバイロゴマダラ】

本種の分布はSephisa属の中で最も北寄りに偏る。
その分布域は広く、南限の雲南省から中国全土(西部の砂漠地帯は除く)・朝鮮半島・ウスリー・アムール地方にまで至る。
小種名の、princeps(プリンケプス)はラテン語の「支配者・君主」の意。

 
(カバイロゴマダラ♂)
(出典『LEPIDPOTELISTES DE FRANCE』)

 
(出典『jpmoth.org 』)

 
(裏面)
(出典『jpmoth.org』)

 
♂はS.dichroa(インドキゴマダラ)と物凄くよく似ている。実際、ネットでも両者がグチャグチャに混同されていて、同定は間違いだらけだ。dichroaとしている画像の、その殆んどがprincepsのものなのだ。
自分もデータを鵜呑みにしてて、やらかした。前回のキゴマダラ編で、dichroaの雌雄同柄の例としてあげた画像は、princepsの♂2頭並びだった。お陰で、あとで別な画像に差し換えなおしたよ。
両者の違いとして先ずあげられるのが、前翅中室の三角形のオレンジ紋。ここの紋がprincepsはdichroaと比べて内側(基部)に一つ多い。だからdichroaは、そこだけポッカリ空いたような感じに見える。また、前翅上端部の斑が白っぽくなる。一方、princepsは翅外縁部の明色斑列が明瞭で、紋が全てオレンジ色になる。

 
【カバイロゴマダラ♀】
(出典『sunyou.vo.kr』)

 
♀はこんなにカッコいいんだ…。知らなかったよ。
薄青い幻光色が出る個体もいるという。
たとしたら、( ☆∀☆)スッゲー。ポチ、欲しいよ。

Princepsはキゴマダラと同じで雌雄異型なんだね。S.dichroaは雌雄同型なのに、不思議だよねぇ~。
♀はきっと毒系の蛾に擬態してるな。この手の柄の蛾は居て当然な気がする。
しかし、調べていくと、♂と同柄の黄色型の♀もいるようだ。ウスリーや朝鮮半島は全て白色型で、中国中部辺りから西にいくにつれて黄色型が増え、雲南省や四川省までくると黄色型が優勢になるようだ。
おそらくカバイロゴマダラが種として誕生した場所は西ヒマラヤで、きっとその辺りでSephisa属の祖先種からdichroa、chandra、そしてprincepsが分化したのだろう。たぶんだがdichroaが祖先種に近く、そこからprincepsが分かれて東へと分布を拡大したのではないかな。前回のキゴマダラの回でも触れたけど、東へ進む段階で♀は徐々に擬態と云う武器を獲得していったとは言えまいか❓
ダイミョウキゴマダラは、princepsが台湾に到達し、長年隔離される中で独自進化したものだろね。
ところでこの属って、遺伝子解析はされてるのかな❓
されてたら、類縁関係が一発で解るのになあ。

 
(出典『www.guri.go.kr』)

 
【Sephisa chandra キゴマダラ】
分布はネパールからインドシナ半島北部、中国南部を経て台湾に至る。飛び離れてマレー半島にもいる。
小種名chandraは梵語由来で「月・月の神」を意味する。

 
(キゴマダラ♂)

 
(裏面)

 
一見して他とはかなり違う印象をうけるけど、上翅の白斑をオレンジにすれば、他とそう変わらない雰囲気になるかもしれない。

 
(キゴマダラ♀)

 
(裏面)

 
流石にキゴマダラの♀は特異だすな。
擬態化すると、個性が際立ってくるんだろね。

  
【Sephisa shizuyai ヒメキゴマダラ】
ミャンマー・サガイン州

 
(出典 2点とも『月刊むし』2016 11月号)

 
記載されたものの1♂?のみで、♀は未知。
異常個体ではないかという意見もあるようだ。たぶん、別種のような気がするけど、複数個体と♀が発見されないと何とも言えないね。

 
【台湾名】臺灣燦蛺蝶

蛺蝶はタテハチョウの事を指すから、燦(きら)びやかな台湾のタテハチョウってことだすな。
他に、臺灣黃斑蛺蝶、臺灣繚斑蛺蝶、臺灣黃胡麻斑蛺蝶、高砂黃斑挾蝶、臺灣帥蛺蝶、白裙黃斑蛺蝶という別称がある。
漢字でだいたいの雰囲気がつかめるが、いくつかわかりづらいものもある。
「繚」には、まとう・まつわる・めぐる・めぐらすと云う意味があり、百花繚乱にも使われている。よくわからないが、百花繚乱の華やかさを表しているのかもしれない。
「高砂」は山岳民族である高砂族のことだろう。
「帥」の字は将軍を表す。
「白裙」の裙は裳(もすそ)や裙子(くんす)のことで、僧侶がつける黒色で襞(ひだ)の多い下半身用の衣服。裙(くん)、内衣(ないえ)、腰衣(こしごろも)。これは、外縁の楔形の紋のことを言ってるのかなあ。
それはそうと、台湾名には大名の文字は使われていないんだね。残念だ。きっと中国語では大名は通じないんだろう。

 
【英名】
特に無いようだが、キゴマダラに倣いそれに準じるならば、「Formosa Courtier」ってところだろうか。
Courtierは宮廷や朝廷に仕える人、朝臣、廷臣、公家を指し、Formosaは欧州での旧い台湾の呼び名だから、さしづめ『台湾の宮人(みやびと)』といったところだろうか。
でも大名なんだから、もう少し威厳のある名前であってもいいと思うけどねぇ。
例えば「Orange Feudal Lord」なんかはどうだろう。Feudal Lordは、封建時代の君主って意味だから「オレンジの君主」。きっとオレンジ色の派手な甲冑を纏っているのだ。でも、甲冑って、大概がそんな感じの色やんけ( ̄∇ ̄*)ゞ
大名なんだから、そのまま「Orange Daimyo」とか、日光菩薩由来で「God-Sunshine Daimyo」とかさ(笑)。あっ、仏さんは神様じゃないか。
でも日光菩薩には、別にちゃんとした英名があるのではないかと思って調べてみたら、やはりありました。「Suryaprabha」というらしい。何かピンとこないわ。もっ、いっか。

それにしても何で学名はdaimyoじゃなくて、daimioなんだろう。ためしにdaimioで検索したら、すぐに大名と出てきた。ここで漸く解ったような気がした。学名の基本は英語ではなくてラテン語なのだ。daimioはラテン語表記なのかもしれない。相変わらず、どうでもいい事が気になる人だよなあ。だから、徒(いたずら)に文章が長くもなるのである。ビョーキだ。

 
【生態】
開張57~67㎜。台湾特産種で、中北部より中南部の標高500m~2500mで記録されている。だが、おそらく垂直分布の中心は1200~2300mくらいかと思われる。低地での記録は偶産だろう。
発生地は局所的で、個体数も少ないとされる。
成虫は4月下旬~9月に年1回発生すると言われるが、圧倒的に7月の記録が多いという。自分が採ったのも7月だった。見たのもその一度きりなので、やはり個体数は少ないのだろう。
杉坂さんのブログによると、飛び方は速いが、すぐに地上に止まるので撮影はしやすかったと書いておられる。けど正直、自分にはわからない。なんせ、果物トラップに止まっているのしか見たことがないのだ。因みに飛来時間は不明だが、採集した時刻は10時20分である。再度言うが、この時の顛末はアメブロに書いたので、文末を御参考あれ。

他に詳しい生態を書いた資料が見つからないが、その生態は概(おおむ)ねキゴマダラと似たようなものだろう。花には飛来せず、樹液や獣糞、熟して発酵した果物に集まるものと思われる。ちょっと驚いたのは、吸水には雌雄ともに集まるようなのだ。この点は♀が殆んど吸水に来ないキゴマダラとは違う。近縁種なのに不思議なもんだね。
♂はキゴマダラのようにテリトリー(占有行動)を張るのだろうか❓でもなあ…聞いたことがないし、もしそうだとしたら、もっと採集例があってもよさそうなもんだよね。

『アジア産蝶類生活史図鑑』を見たら、近縁のカバイロゴマダラと生態は変わらない云々と書いてあった。
カバイロゴマダラの生態部分を抜粋してみよう。

「♂は日当たりのよい樹梢を数mの高さで活発に飛ぶ。また乾いた路上に静止する。動物の死体や腐った果実などに止まるものも見られる。♀の飛翔は緩慢で、Quercus(シイ・カシ類)の梢を高く飛ぶ。好んで腐った果実に飛来する。産卵はおそらく食餌植物のかなり高い位置で行われるのではないかと想像される。台湾に産する近縁のダイミョウキゴマダラもほとんど上記と同じ習性を示す。」

♀の飛翔は緩慢と云うことは、何か毒のあるものに擬態している可能性がある。体内に毒をもつマダラチョウには似たような種類はいないから、擬態しているとしたら蛾だろう。

  
【幼虫の食餌植物】
未知のようだが、おそらく他のSephisa属と同じくブナ科 コナラ属であることはほぼ間違いないだろう。
因みに他のSephisa属からは以下の食樹が記録されている。

-キゴマダラ-
Quercus glauca(アラカシ)
Quercus morii(モリガシ)
Quercus acata(アカガシ)
Quercus monholica(モンゴリナラ)
Quercus incana

-インドキゴマダラ-
Quercus incana

-カバイロゴマダラ-
Quercus mongolica(モンゴリナラ)
Quercus variabilis(ワタクヌギ)
Quercus crispula?(ミズナラ)

飼育では、Quercus serrata(コナラ)、Q.dentata(カシワ)、Q.gluca(アラカシ)などを広く受け容れたという。
カバイロは常緑カシ類ではなく、主に落葉性のナラ類をホストにしてるんだね。とはいえ、変な産卵習性を持ってて、他の昆虫の丸めた巣の空き家に卵を産むから、ナラ・カシ類だったら何だっていいのかもしれない。

調べた限りでは、唯一ダイミョウキゴマダラの飼育記録があるのは、台湾の蝶の幼生期の解明に多大な功績を残された内田春男さんの1例のみ。
1990年7月29日に南投県で採集した♀により、三角紙内に産卵された卵が孵化、現地でQuercus glauca(アラカシ)により飼育されたようだ。この一部が3齢まで生育したが、結局越冬には至らず死亡したという。
その後、解明が進まなかったのは、本種の♀が珍しいために人工採卵も儘ならないからだろう。

とはいえ、その幼生期はおそらくカバイロゴマダラとかなり近いものと考えられる。参考までにカバイロの幼生期を紹介しておこう。

 
【幼生期】
『アジア産蝶類生活史図鑑』の記述を要約しよう。

♀の産卵行動は、前回のキゴマダラと似ている。
人工採卵させた場合、Quercusの葉をラッパ形に丸めたり、2つに折ったりしたものに産みつけるという。キゴマダラと違うのは、筒の中よりも周辺の葉の重なった狭い隙間や折れ曲がったわずかな空間を選ぶことだ。そこに40~50個の卵を押し込むように産み付ける。
卵は他の蝶のように底辺が平らではないので葉に固定することはなく、互いに表面を覆う粘膜で付着しあっている。
孵化した幼虫はコムラサキ亜科の典型的スタイルで、いわゆるナメクジ型。強い群居性を示し、食餌植物の表面に静止する。
これはキゴマダラの幼虫の習性と同じだね。おそらくSephisa属は皆さんそうで、ダイミョウキゴマダラも同じだと推察される。
越冬は3齢で行われる。これもキゴマダラと同じだ。
越冬幼虫は枝に糸を結びつけられた枯れ葉の皺や重なった部分に体を寄せあって静止する。気温が上がったり、刺激を受けると冬季でも容易に動き始める。

 
(幼虫)
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
キゴマダラと比べて、背中の白いぺラッとした突起物が1対少ない。ダイミョウキゴマダラは、はたしてどうな姿なんだろね。突起物は同じ数なのか、もしくは多いのか、或いは色がピンクだったりしてね。

 
(幼虫正面図)
(出典 『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
キゴマダラとよく似ている。キゴマダラは、ほっぺがピンクだったけど、カバイロは目の回りがピンクなんだね。正直、キゴマダラの方が可愛い。ダイミョウキゴマダラがどんなんなのか楽しみだなあ。顔全面ピンクで、体全体も( ☆∀☆)どピンクだったりして。

群居性は5齢になると失われ、単独で葉の表面に静止する。その際、きわめて大量の糸を葉の表面に張るので、幼虫を剥がすことは容易ではないという。

 
(蛹)
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
蛹も基本的にコムラサキ亜科のそれだね。
キゴマダラと比べると、背中の盛り上りが弱く、スリムな感じがする。色も白っぽい。また頭の耳みたいなのが長めだ。
ダイミョウキゴマダラは蛹全体がピンクで…。
ええ加減フザけるのはやめましょう。

面倒だから飼育したいとは思わないけど、♀は是が非とも自分の手で採ってみたい。でも7月中・下旬って他の蝶があんまり期待できないんだよなあ…。適期といえば、シロゴマダラシジミくらいしか思い浮かばない。
あっ、幻のマレッパイチモンジがいるじゃないか。
ダイミョウキゴマダラの♀とマレッパならば、浪漫がある。コケるリスクが高いけど、ならばこそのロマンだ。行きたいなあ。行けるかなあ…。
虫採りにロマンを持てなくなったら、網を置くときだと思う。
 
                 おしまい

 
追伸
ここまで書いて、ふと気づいた。♀は擬態している可能性があると書いたけど、ならばモデルは何だろう❓

調べてみたら、シャクガ科(Geometridae)のエダシャク亜科(Ennominae)に、こんなのがいた。

 
撒旦豹紋尺蛾
Epobeidia lucifera extranigricans (Wehrli, 1933)
(出典『圖録檢索』)

(出典『gaga.biodiv.tw』)

 
結構、大型のエダシャクなんじゃないかな。
エダシャクならば、毒を体内に持っている可能性が高い。擬態のモデルとしては申し分ないだろう。

 
狹翅豹紋尺蛾 Parobeidia gigantearia marginifascia Prout, 1914
(出典『圖録檢索』)

(出典『gaga.biodiv.tw』)

 
もしコイツらだったとしたら、擬態精度はそんなに高くないよね。まあ、それでも飛んでる時はかなりの効果があるだろう。
実をいうと、もっと高い精度でこの手のエダシャクにソックリな蝶が他にいる。次回は、その蝶を紹介する予定です。

 
(註1)日光菩薩
日光菩薩(にっこうぼさつ)は、仏教における薬師如来の左脇に控える一尊であり、月光菩薩と共に薬師三尊を構成している菩薩のことである。
『薬師経』に依れば、日光菩薩は一千もの光明を発することによって広く天下を照らし、そのことで諸苦の根源たる無明の闇を滅尽するとされる。
月光菩薩と対になるように対称的に造形される。つまり、日光菩薩が右腕を上げて左腕を垂らす場合は、月光菩薩は左腕を上げて右腕を垂らすといった具合である。また、その上げた方の手の親指と人差指で輪を作る例が多く、宝冠と持物に太陽を表す標幟を表現されることも多い。

 
(註2)この時の採集記

発作的台湾蝶紀行46 大名様のお通りだーい

 
(註3)増井さんと猪又さんの論文
増井暁夫・猪又敏男『世界のコムラサキ(6)』やどりが 157号(1994)

1994年かあ…、25年も前なんだね。
それにしても25年も経っているのに、まだ幼生期が解明されていないの❓信じられないや。
でもネットで検索しても幼生期の画像が一切出てこない。それって、やっぱそうゆう事なんだろね。

 

台湾の蝶23『月光菩薩』

 
  第23話『黄胡麻斑』

 
キゴマダラは、とても好きな蝶の一つだ。
そのせいか、過去に『ネイビーブルーの衝撃』『東洋の宮人』などの採集記を含めた幾つかの文章を書いている。文末にリンク先を貼り付けておくので、興味のある方は読んで下され。

 
【分類】
蛺蝶科    Nymphalidae(タテハチョウ科)
閃蛺蝶亞科  Apaturinae(コムラサキ亜科)
燦蛺蝶屬   Sephisa(インドキゴマダラ属)

キゴマダラの他にオオムラサキやゴマダラチョウなどの胴体が頑健なものをまとめて、Euripus属群と呼ぶ場合もあるようだ。

 
Sephisa属には、以下のような種が含まれる。
 
◆Sephisa chandra  キゴマダラ
◆Sephisa dichroa インドキゴマダラ
◆Sephisa princeps カバイロゴマダラ
◆Sephisa daimio ダイミョウキゴマダラ

また近年、新たにミャンマーから新種が加えられた。
◆Sephisa shizuyai ヒメキゴマダラ(註1)
 
この中ではダイミョウキゴマダラが台湾にも生息する。というか台湾特産種だ。これについては次回に書く予定です。でもメスがまだ採れてないからなあ…。予定は未定であって、しばしば変更なのである。あまり期待はしないで下され。

 
【Sephisa chandra androdamas キゴマダラ♂】
(2017.6.15 南投県仁愛郷南豊村)

 
鮮やかな橙黄色と黒に限りなく近い紺色とのコントラストが美しい。

 
(裏面)
(2016.4.18 Laos oudomxay)

 
裏も美しい。下手したら裏の方が渋キレイなんじゃないかと思う。
なぜか台湾産の裏側の野外写真が無いので、仕方なくラオス産を貼付しときました。

 
【キゴマダラ♀】
(2017.6.21 南投県仁愛郷南豊村)

 
一方、メスは深い群青色に青や橙色が配され、落ち着いた美しさを醸し出している。そしてオスよりも一回り以上あって、かなり大きい。
採れた時は指先が震えたっけ。虫採りはエクスタシーなのだ。最近は滅多に味わえなくなったけど、この陶酔感と達成感と安堵が入り混じった感覚は何にも代えがたい。それくらい気持ちいい。謂わば麻薬的なのだ。だから虫採りはやめられまへーん。

 
(裏面)
(2017.6.20 南投県仁愛郷南豊村)

 
この蝶は、知らない人が見たら同種とは思えない程にオスとメスとでは色彩斑紋が著しく違う雌雄異型なのである。メスにはヒサゴスミナガシと云う別名もあるから、当初は同じ蝶とは思えず別種と考えられていたのかもしれない。
雌雄異型の蝶は大概どちらかが汚い。オスもメスも美しいものは案外少ないし、裏も表も美しいと云う蝶はさらに少ないと思う。おまけに分布は局所的で、中々会えないときているから、オジサンは( ☆∀☆)萌え~なのだ。
とはいえ、台湾ではオスならまだ比較的会えるチャンスがある。他の生息地域よりも個体数も多いと思う。
但し、台湾でもメスには滅多な事では会えない。

メスは個体変異が多く、それもコレクターの魂を揺さぶるようだ。

 
(2017.6.20 南投県仁愛郷南豊村)

 
一番最初に示した個体は全体的に斑紋が発達しており、上翅の亜外縁に白斑が出ている。時にここが著しく白化するものもいるようだ。
一方、上の写真の個体は全体的に斑紋の発達が悪く、暗い印象を受ける。でも、これはこれで渋い美しさがあって嫌いじゃない。

 
(2017.6.20 南投県仁愛郷南豊村)

 
これは新鮮な個体ではないが、下翅の青紋が比較的発達しているかな。

 
(2016.7.15 南投県仁愛郷南豊村)

 
コレも下翅の青紋が発達したタイプだ。しかし、上翅中室のオレンジの紋が最も小さい。

因みに、上翅が白化した個体はこんなの。

 

(出典 2点とも『季刊ゆずりは』)

 
このタイプは北タイなどに多く見られるようで、半数近くが白化するという。
台湾産のメスは黒色と青色が発達する暗色傾向にあり、青紋の上に灰色の鱗粉が乗ることから他地域のメスと区別ができるという。

他の変異としては、前翅と後翅の青色紋が白色に置き代わる型がある。
たぶんコレだろう。

 
(出典『Wikipedia』)

 
この型は北東インド・シッキム・ネパールなどの分布 域西部にのみ分布するとされ、白色部は時に黄色くなり、♂と見紛うばかりの個体まで現れるという。

 
台湾産の標本写真も貼付しておこう。

 
【♂】

(♂裏面)

 
【♀】

(♀裏面)

 
【学名】Sephisa chandra

平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』によると、属名のSephisa(セフィーサ)は語源不詳で、意味のない造語であろうとしている。
小種名chandra(チャンドラ)は、サンスクリット(梵語)由来で、Candra(月)や月の神を意味する。月の化身だね。カッコイイ学名だ。やはり、佳い蝶には良い名前がつく。因みに平嶋氏は命名者のMoorが語頭のCを発音通りのchに置き換えたものだとしている。
台湾産は亜種「androdamas」とされるが、その語源は不詳。
但し、前半部のandroはギリシア語では「人間」、特に男性を表し、強健という意味としても使われるようだ。一方damasはスペイン語で女性を指す。スペイン語もラテン語由来の言語だから、ラテン語やギリシア語でも女性を意味する言葉として使われていた可能性は高い。
つまりandrodamasは、andro+damasの造語とは考えられないだろうか❓男性と女性の両方とが合体した名前ならば、雌雄異型のこの蝶の学名にはふさわしい。それに強健というのもこの蝶のイメージと合致している。
まあ、あくまでワタスの妄想ですが…。

 
【台湾名】燦蛺蝶
「燦」は中国語の繁体字で、略字の簡体字だと「灿」と書く。意味は日本語の燦然と輝くなどの用法と同じで、鮮やかに輝く様である。蛺蝶はタテハチョウの事だから、燦(煌)めくようなタテハチョウってことだね。中国でも最大級の賛辞が送られておるのだ。

他に多くの別称がある。参考までに並べておこう。

帥蛺、黃斑蛺、蝶雌黑黃斑挾蝶、黃胡麻斑挾蝶、黃胡麻斑蛺蝶、雌黑黃斑蛺蝶、櫟繚斑蛺蝶、東方帥蛺蝶。

漢字からだいたいイメージできるが、一部わかりづらいかと思うので、少し補足しておこう。
帥蛺蝶の「帥」は日本では大宰府の長官と云う意味でもあるが、概ね将軍とか統率者(リーダー)といった意味で使われる。中国でも同じく将軍を表す字のようで、現代ではイケメン(ハンサム)を指す言葉としても使われているみたい。イケメンの将軍って、最大の賛辞だよな。ちょっと想像してみた。
( ☆∀☆)女子萌え~だよね。

帥蛺蝶がオスを表しているならば、雌黒黄斑蛺蝶はメスを主題とした名前だね。でも実物の蝶を知らなければ、漢字だけだとワケわかんない姿が目に浮かびそうだ。

櫟繚斑蛺蝶の「櫟」はクヌギを意味する。カブトムシが集まる木だね。またイチイにもこの漢字が宛がわれている。イチイとはイチイガシの事で、ようするにブナ科コナラ属の植物を表している。つまり、この蝶の幼虫がこの樹木類をホストとしている事からの命名だろう。
「繚」は百花繚乱にも使われる語だから、美しいとかと云う意味で使われているのかなと思った。ところがドッコイ、どうやら糸がもつれる様を表しているようだ。縁起悪りぃ~。他に、まとうと云う意味もある。衣服を身に纏うとかのまとうだ。にしても意味的には、どうもスッキリしない。
う~ん、困ったな。櫟繚で検索すると、オーク風という訳が出てきた。オークとはカシとかナラの木のことだ。
ここで行き詰まった。それほど重要な問題でもないし、まあ、もうええやろ。

 
【英名】Eastern Courtier
Courtierは宮廷や朝廷に仕える人、朝臣、廷臣、公家を指し、Easternは東の、東国のと云った意味だから、さしづめ『東洋の宮人(みやびと)』といったところだろうか。中々に優雅だ。但し、Courtierには御機嫌とりとか、おべっか使いという意味もあるようだ。英語名が一番敬意が払われておりませんな。

 
【分布と亜種】
(出典『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
従来、キゴマダラの分布図といえば、こうだった。『アジア産蝶類生活史図鑑』の分布図もほぼ同じだ。
インドシナ半島北部一帯とマレー半島、台湾と分布が極端にかけ離れている。
しかし、杉坂美典氏のブログ『台湾の蝶』では全然違う分布図になっていたので驚いた。

 
(出典 杉坂美典『台湾の蝶』)

 
調べてゆくと、どうやら近年になって中国で続々と新たな産地が見つかっているようだ。この飛び離れたような特異な分布に対して浪漫と畏敬の念を抱いていたから、正直残念でならない。何だか特別感が減っちゃったなあ…。憧れてた女性が、意外と「させ子」ちゃんだった…みたいなガッカリ気分になるよ。
コムラサキ亜科に詳しい研究者として知られる増井暁夫氏の論文(註2)によれば、主に中国南部で見つかっているようで、浙江省と海南島のものは亜種として記載されている。
杉坂さんは、他に雲南省、四川省、貴州省、広西自治区、湖南省、広東省、福建省を産地としてあげられている。
おいおい、結構おるやんけー(>o<“)
とはゆうものの、中国でもその分布は局所的で稀種である事には変わりはないようだ。
従来の生息域以外では、他にテナッセリム、ブータン、香港、南ベトナムでも発見されているようだ。
因みに分布の西限はネパール中部。

亜種には以下のようなものがあるとされる。

 
◆Sephisa chandra chandra
Moor,1858
原名亜種(シッキム・アッサム・インドシナ半島北部)

 
(2016.4.21 Laos oudomxay)
 
(2016.5.2 Laos oudomxay)

(2011.4.16 Thailand Changmai)

 
◆Sephisa chandra androdamas
Fruhstorfer,1908
台湾亜種

 
(2017.6.19 南投県仁愛郷)

 
ん~、表はそれほど大きな違いは感じられない。
強いていえば、原名亜種と比べて黒色部が発達傾向にあり、全体的に紋が小さくなって下翅の真ん中の黒点大きい。また、下翅外縁の紋も消失している。
裏面はまだ違いが分かりやすくて、全体的に黒い部分が多く、下翅に白斑が入っている。
とはいえ、多くの標本を検したわけではないから、何とも言えない。見立てが間違ってたらゴメンナサイ。

 
◆Sephisa chandra stubbsi
Corbet,1941
マレー半島亜種(マレーシア)

 

 
画像が小さくて分かりづらいかもしれないけど、表側下翅の黄色い部分が広い。裏側はさらに黄色くて明らかに他とは区別できる。もしかしたら、キゴマダラは表よりも裏に亜種の特徴が出るのかもしれない。

 
(出典 2点とも『ぷてろんワールド』)

 
画像はないが、♀は表側前翅中室のオレンジ斑が消失し、全体的に青色部が減退傾向にあり、これも他地域のものとは明確に区別できるようだ。

 
◆Sephisa hainanensis
Miyata & Hanagusa,1993
海南島亜種(中国)

海南島産は、かなり黒化が進んだ個体群とされる。
だが増井氏によると、ホロタイプ(正模式標本)は極めて黒化した個体で、他の海南島産の標本を検した結果(7個体)、黒化の程度はホロタイプ程ではなく、黒化が進んでいない個体も混じるようだ。
因みに、対岸のベトナムでも黒化が進んだ個体が得られるという。どうやら黒化傾向の強い個体は北ベトナムから海南島にかけて分布し、その傾向がハッキリしているのが海南島ということらしい。両地域の変異幅はかなり重なっているという。

これ、黒いなあ。↙

(出典『Wikipedia』)

 
でも産地は書かれてなかったけど海南島産ではないと思う。以前にKSLオークションで見たものは、こんなに黒くはなかったからだ(画像はダウンロード出来なかった)。
ちょっと待てよ。コレって♀じゃねえか?もしかしたらコヤツが♂の斑紋みたいな♀って奴かな?

日をおいて、しつこく探してたら、KSLオークションから新たな画像が見つかった。

 
(出典『昆虫専門KSLオークション』)

 
一番下が海南島亜種のようだ。
しかもパラタイプ(副模式標本)である。
画像をトリミングしてみよう。

 

 
確かに下翅外側の紋や上翅先端付近の紋が消失しかかっている。でもどう見ても黒化してるって感じじゃない。前に見たKSLの画像もこんなだった。
どっからどこまでを黒化と認じるかは人によって違うって事なんだろね。
もしかしたら裏が黒いのかとも思ったが、残念ながら裏の画像は無い。でも、よくよく考えればダウンロード出来なかった方の個体も黒化してるってほど特に黒いとは思わなかった。黒化って何だよ?謎だよなあ。

言い忘れたが、3頭並んだ画像の右上は北ベトナムのTam Dao産で、左上は西マレーシア産。
ということは西マレーシアのものはマレー半島亜種だね。やっぱり下翅の黄色い部分が広い。コレは変異が解りやすいから亜種区分されて当然かもしれない。

 
◆Sephisa chandra zhejiangana
Tong,1994
中国亜種(浙江省)

ググってみたが情報が得られなかった。浙江省は地理的には台湾の対岸上方にあって比較的近いから、それに準じた変異のものだと思われる。とはいえ、予想外のモノ凄く変わった奴かもしれん。ワカラン。断言は避けときます。

増井暁夫さんの論文によると、♂の地理的変異としてはブータン産のものが、かなり変わっているようだ。
一部を抜粋してみよう。

「前翅頂の内側にある白点列が黄色くなり、前翅第2室の眼状紋が明瞭に分離し、かつ翅型も丸みを帯びる。これと全く同一の特徴を有する個体が矢崎ら(1985)にも図示されている。前翅を見るかぎりSephisa dichroaと類似した斑紋といえる。図示 した個体が本種であることは、裏面の特徴から判断した。ブータン産の♀は未知と思われ、是非とも同地における変異が詳しく解明されることを望む。」

日本蝶類学会のブログで、らしきものを見つけた。

 
ブータンのキゴマダラ
(出典『BSJ BLOG』)

 
映像には文章も添えられている。
「キゴマダラはまだまだ整理がされていないようで、本種に詳しい当会の増井暁夫理事によれば隠蔽種や新亜種の可能性も秘めているという。その一つの例がブータンのものである。図示したミャンマー産の標本(原名亜種?)と動画を見比べていただければ分かると思うが、前翅表面の亜外縁の斑紋が、ブータンのものはすべてオレンジ色を呈している。増井理事によればこの変異が見られるのはブータンだけだそうで、今後の詳しい検討が待たれるところである。」

参考までに言っておくと、隠蔽種というのは見た目がほぼ同じで同種や亜種と考えられていたものが、実をいうと別種だったというパターン。例えば1種類だと思われていた日本のキマダラヒカゲには2種類が混じっている事が判明して、サトキマダラヒカゲとヤマキマダラヒカゲに分けられたなんてのがそれにあたる。見た目は同じでも、遺伝子解析してみたら、全然別物だったなんて例もポチポチ出始めている。遺伝子解析で全てがスッキリすると思っていたが、新たな混乱が生じているのだ。種って、何ぞや❓と思うよ。

一応、参考までにSephisa dichroa インドキゴマダラの画像も貼付しておこう。

 

(2点とも出典『Butterflies of India 』)

 
(出典『Wikipedia』)

 
インドキゴマダラは雌雄異型ではないんだよね。
キゴマダラ以外のSephisa属は、皆さん♂♀同型なのだ。なぜにキゴマダラだけがそう進化したんだろね。

 
シノニム(同物異名)に以下のようなものがある。

◆Sephisa chandra albofasciata
(Sonan,192)
◆Sephisa chandra hirayamai
(Nakahara,193)
◆Sephisa chandra horishana
(Matsumura,1929)
◆Sephisa chandra pandularis (Matsumura,1909)
◆Sephisa chandra rex
(Wileman,1908)
◆Sephisa chandra scurrae
(Murayama,1961)

随分とシノニムが多い。
理由は色々あるんだろなあ…。想像するに、たぶん功名心に駆られた学者たちが、よく調べもせずに無闇矢鱈と記載を競い合った結果ではないだろうか。それが後(のち)に、分布が連続する亜種間の境界地域では両者の区別がつかない事が判明したりして、亜種としては認められなくなったんじゃないかな?

 
【生態】
台湾では標高200~2700m付近の間で得られているが、その生息域の中心は中海抜の標高500~1000m前後だろう。マレー半島では1200m以上の高地に限って生息する。いずれの地方でも得られる個体数は少なく、特に♀は稀である。台湾では3月下旬から12月上旬にかけて見られ、年3回以上の発生をするものと考えられる。埔里周辺では、♂は6月中旬には鮮度が落ち始め、7月に入るとボロばっかだった。♀は6月中、下旬に鮮度の良い個体が多かった。
♂の飛翔はきわめて敏速で、特に山頂に飛来するものは速い。頂上占有癖が強く、山頂の樹梢上に静止しているところへ他の個体が接近すると激しく追尾するという。しかし、自分は占有行動を見た事がなく、多くは谷沿いや林道で見られた。
♀の飛翔は♂に比べると遥かに緩慢で、樹梢の高位置で静止もしくは飛翔するという。
とはいえ、午前中に一度モノ凄いスピードで上から降りてきて地面に一瞬止まったかと思ったら、またモノ凄いスピードで飛んでいった事がある。たぶん♀は他の毒持ちの蝶や蛾に擬態しているから、普段はゆったりと飛ぶのではないかと思う。これはケースによっては♂にも当てはまる。
それで思い出した。タイのチェンマイでの事である。初めてこの蝶の♂に会った時は、最初は蛾だと思ったのだ。派手で緩やかに飛んでいるから、てっきり昼行性のシャクガかトラガの仲間だろうと思って無視していた。しかし、ひょろひょろと近づいてきて、目の前に止まった。何気に見たら、蛾がいきなり蝶に変わった。その時はまだ蝶屋3年目でキゴマダラの存在さえも知らなかったから、死ぬほどおったまげた。

 
(2011.4.16 Thailand Changmai)

 
黄色いゴマダラチョウみたいだと思った。
上から熱帯の強烈な光が降り注いでいたから、もの凄く黄色く見えたのを憶えている。
ラオスで吸水しに飛んできた多くの個体も、普段とは違うひらひら飛びだったから、♂も毒のある蛾に擬態している可能性は充分に考えられる。

見間違えた蛾の画像を探してみた。

 
(出典『Wikipedia 』)

 
そうそう、コレ、コレ。
たぶん、Dysphania militaris だろう。トラシャクという昼行性の蛾の仲間で、東南アジア各所で吸水に集まっているところをたまに見かける。

キゴマダラの♂は、体内に毒を持つスジグロカバマダラ(以降スジカバと略す)に擬態しているという説があるようだが、可能性はあるものの、そういう風に見えたことは一度もない。
スジカバは沖縄でも何度も見ているので、脳が学習していて容易に識別できてしまう可能性が無きにしもあらずだけどね。

 
(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
でも考えてみれば、そもそもスジカバとキゴマダラの好む環境は違うじゃないか。スジカバはオープンランドの蝶で、人里付近の明るく開けた場所を好む。一方、キゴマダラは森の蝶だ。だから、両者が同じニッチ(環境&空間)に同時にいる事は稀だろう。ならばキゴマダラがスジカバに擬態する意味はあまりない。
だから、むしろ蛾の方に似せているような気がするんだよね。前にFacebookにキゴマダラについて書いた折りに、どなたかがトラシャクには毒があるっておっしゃってたし、どちらかというと擬態対象はこっちだと思うんだよな。
幼虫だって、いかにもワタシ、毒ありますって感じだもんなあ。

 
(出典『香港蛾蝶網』)

 
だいたいにおいて、派手な奴には毒があると云うのが自然界の法則なのだ。捕食者にヤバい奴だと認識してもらう為に、ワザと目につきやすい派手派手信号を送っているのである。蜂とか工事現場の看板みたいなもんだ。いわゆる警戒色ってやつだね。

そういえば台湾でトラガを一瞬だけだけど、キゴマダラの♂に間違えかけた事があったっけ…。

 
【Chelonomorpha formosana❓】
(2017.6月 南投県仁愛郷)

 
細かい柄や翅形は違うけど、飛んでいる時は直ぐには見抜けないものだ。
とはいえ、このトラガに毒があるかどうかは分からないけどさ。

そういえば♀も一度毒蝶のルリマダラと間違えた事があった。
横からふらふらと飛んできた時は、(=`ェ´=)ケッ、ルリマダラかよと思った。しかし次の瞬間にはどこか違うと感じて咄嗟に網を振った。中を見て、キゴマダラの♀だったのでバキ驚いたんだよね。

 
【ルリマダラ】
(2017.6.20 南投県仁愛郷)

 
厳密的にはそれほど似ていなくとも、飛び方さえ似せていれば、かなり騙されると云うことだ。

♀はルリマダラだけでなく、毒のある蛾にも擬態している可能性があるだろう。
例えばサツマニシキ(註3)なんかはどないだ❓
毒持ちだしアジアに広く分布しているから、擬態の対象としては有望かもしれない。
コイツ、捕まえると体の横から青酸の泡をブクブク吹き出しよんねんでー。(T△T)気味悪いったら、ありゃしない。

 
(出典『島平の自然だより』)

 
そこそこ似ているから、間違えることもあるだろう。
とはいえ、ソックリとまではいかない。
もっと似ている奴が他にいる筈だ。

コレなんか、どうだ❗❓

 
(出典『隨意窩』) 

 
Sanguiglua viriditincta という蛾。
裏面だけど、似てるよね。この蛾も昼行性の蛾だから、擬態相手の可能性は充分にある。
おそらくマダラガ科の蛾だろう。サツマニシキもマダラガ科だし、いかにも毒が有りそうだ。

種としてのキゴマダラはチベットの辺りで誕生したと言われている。想像するに、最初の頃は他のインドキゴマダラ属と同じように雌雄同型だったと思われる。たまに♂と同柄の♀が現れるのはその証左であり、先祖返りみたいなものかもしれない。擬態するという生存戦略を得て、東へと分布を拡げる中で、おそらく土地、土地の擬態相手に似せることで多くのフォームが生まれたのだろう。きっと北タイには上翅の先端部が白い毒持ちの蛾がいるに違いない。

話が生態から、だいぶ逸れた。本題に戻そう。

♂は吸水に地上に下りるほか、樹液や爛熟した果実、獣糞に飛来する。そういえば台湾でゆっくり飛ぶ♂を見たことがないなあ…。吸水に来る時も素早く飛んで来るし、地上に降りても敏感で容易に近づけない。
あるいはトラガって毒が無いのかもしれない。そもそもトラガって、吸水に来るのかあ?来るイメージが全然ない。調べた限りではトラシャクは台湾にはいないようだし、台湾の♂は特に何かに擬態しているわけではないのかもしれない。
♀も樹液や熟した果実を好むが、吸水の観察例はない。♀は吸水に来ないし、あまり飛び回らずに木の高い位置で静止しているから、出会うチャンスが少ないのだろう。基本的に♀はトラップでもかけない限り採れまへん。

 
【幼虫の食餌植物】
コムラサキ亜科の大半がアサ科 Celtisエノキ属(註4)を好むのに対し、唯一このSephisa属の蝶のみがブナ科コナラ属(Quercus)を食する。
南方では常緑カシ類、北方では落葉性のナラ類を利用しているようだ。食餌植物として記録されているものに、以下のようなものがある。

Quercus glauca 校欑  アラカシ
Quercus morii 赤柯   モリガシ
Quercus acata      アカガシ
Quercus mongolica   モンゴリナラ(ミズナラ)
Quercus incana

おそらく上2つが台湾での食樹であろう。

【卵】

(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

♀は食餌植物の周辺をゆるやかに旋回して、ゾウムシなどその他昆虫が丸めてつくった筒状の巣の放棄されたものを見つける。そしてこの筒の中に尾端をさし入れて15~20個の卵を産みつける。この習性はカバイロゴマダラの産卵にも見られるものである。産卵位置は地上2~5m。
♀の腹端が腹面側に大きく湾曲しているのは、この変わった産卵習性がゆえの進化だろう。それにしても、他の虫が丸めた葉を探すのは大変だろうなあ。と云うことは、たとえ食樹があったとしても葉を丸めてくれる虫が生息していなければ生きていけないって事だ。難儀な生き方をしてはるなあ。分布が限られ、個体数が少ないのは、そのせいなのかもしれない。

 
【幼虫】
(出典『アジア産蝶類生活歴史』)

(出典『蝴蝶的幼蟲圖鑑』)

 
角は短めだがいわゆるナメクジ型で、日本のオオムラサキやゴマダラチョウの幼虫とよく似ている。間違いなくコムラサキ亜科の仲間だと云うことがよく解るね。

顔はどうだろう❓

 
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
エイリアンだ(笑)
オオムラサキなんかと比べて顔の黒点が横にあるので、あんまし可愛くない。ほっぺがピンクなのに惜しい。

『アジア産蝶類生活史図鑑』に、幼虫について詳しく書かれてあるので、長いがそのまま引用しよう。

「孵化した幼虫は群居性が強く、1齢から終齢に至るまで常に葉の表面に身を寄せあって静止する。越冬は台湾においては3~4齢期に行われるものを観察した。越冬幼虫は体色濃緑色のままで変色せず、食餌植物の葉の表面に群居して静止する。寒さが増すと、上方に他の葉が被さる位置に移るか或いは裏面に移動する。気温が-6℃まで下がっても死ぬ個体はなかった。そして直射日光が当たると動き始める。越冬中も生命を維持するのに必要な最小限の摂食を続けるが成長はしない。3月上旬に脱皮して終齢となる。孵化直後から終齢に至るまで若葉を好まず終始して硬く成長した葉を食う習性は珍しい。終齢幼虫は単独、あるいは2匹が共生するのが見出だされる。終齢幼虫は葉の表面に大量の糸を吐いて台座を設けるが、この糸は左右両端だけしか葉に付着せず、中央部は葉の表面から離れている。したがってここに静止する幼虫の体は葉の表面には触れず宙に浮いている。幼虫は常に葉柄に頭を向けて静止する。4月の上旬~中旬に至り、幼虫は食餌植物の葉の裏面で蛹化する。」

幼虫の習性は、どうせオオムラサキやゴマダラチョウと同じようなものだろうとタカを括っていたが、かなり違うのでビックリした。
まさか群居するとは思いもよらなかったよ。日本のコムラサキ亜科の蝶は全て単独で生活しているのだ。国外のコムラサキ亜科の蝶だって、大半はそうだろう。

 
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
結構グロいなあ…(^o^;)
集まって暮らすだなんて、まるで蛾じゃないか。
きっとそんなひねくれ者は、コイツくらいなもんじゃねえか❓

越冬期になっても体の色が変わらないというのも驚きだった。オオムラサキやゴマダラチョウなどは冬になると木を下り、根元の落葉の裏で越冬する。ゆえに目立たないように枯れ葉色に変色するのだ。コムラサキのように根元には降りないものもいるが、越冬時に変色するのがコムラサキ亜科の特徴だとばかり思っていた。
でも考えてみれば理にかなっている。葉っぱの上で越冬するんだから、色が変わる必要性がないのだ。
いや待てよ。インドシナ半島北部などに分布する原名亜種は、落葉性のブナ科植物(コナラ属)を食うというじゃないか。だとしたら、木の根元で越冬する可能性もある。となると変色するに違いない。もしかしたら台湾のものだけが樹上越冬で、体色変化がないのかもしれない。だとしたら、生き物って面白いよなあ。

 
【蛹】
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
蛹も如何にもコムラサキ亜科って感じである。
オオムラサキなんかと比べたら、少しスリムかな。

 
こうして改めて雌雄の成虫が並んだ画像を見ると、美しき夜空とでも呼びたくなる。♀の羽模様はゴッホの蒼黒い夜空だ。そこにオレンジ色の星が銀河に彩りを添える。青い流れ紋は流星群のようだ。♂は夜空に浮かぶ月ってところか。羽のデザインを横に並べると、なんだか一幅の絵みたいではないか。まるで夜空の絵巻だ。さらに思念は自由に広がり、飛躍する。その夜空から冴えざえとした月光が降り注ぎ、神々しき月光菩薩(註5)の姿が重なるようにして浮かび上がってくる。手を合わせて拝もう。
この蝶にはいつ出会っても、会えた悦びにありがたやと云う感謝の気持ちが湧いてくる。
そう、菩薩なのだ。

                 おしまい

 
追伸
いやはや、ラストは空想太郎で終わってまっただよ。

今回は調べものが多くて、書くのに随分と時間がかかった。長げえし、やめてぇなあ…、このシリーズ。

メインタイトルにも悩んで、中々決まらなかった。
最初はアメブロで使った『ネイビーブルーの衝撃』だった。けれど、これはメスだけを表しているタイトルだからボツ。
次に考えたのが『阿修羅男爵の~』だった。
阿修羅男爵とは、永井豪の漫画『マジンガーZ』に出てくる半身が男で半身が女の悪役キャラのこってすな。
「阿修羅男爵の秘密」「阿修羅男爵と陽気な仲間たち」「哀愁の阿修羅男爵」「阿修羅男爵に恋して」「阿修羅男爵の華麗なる生活」etc……Σ( ̄皿 ̄;;フガー。
でも、ほにゃららの部分(~のこと)がどうしてもフザけたフレーズしか思い浮かばず、断念。
続いて浮上したのが『月の化身』とか『月の女神』。悪かないが、何だかシックリこない。こういうタイトルは、どちらかというとオオミズアオなど蛾のイメージの方が強い。
で、最後の最後に今のタイトルになった。とはいえ、一度は『夜空の絵巻』に書きかえたんだけどね。

思えば、まだ台湾以外では♀を採った事がない。
タイは個体数が少ないから厳しいが、ラオスならば何とかなるかもしれない。
生きている白っぽい♀をこの目で一度は見てみたいものだ。

アメブロの過去記事5編です。
青文字をタップすると記事に飛びます。

東洋の宮人

発作的台湾蝶紀行56『ネイビーブルーの衝撃』

発作的台湾蝶紀行11『幻の美女』前編

発作的台湾蝶紀行43『白水さん大活躍、ワシ虐待おとこ』

全然採れる気がしない

 
(註1)Sephisa shizuyai ヒメキゴマダラ
ミャンマー・サガイン州で得られた♂によって記載された。♀は未知。キゴマダラ(前翅長37~38㎜)と比べて34㎜と小さいらしい。

 

(裏面)
(出典『月刊むし』No.549 Nov.2016)

 
キゴマダラの異常型に見えるが、小岩屋さんは斑紋パターンが異常型のそれではないと述べられている。
何れにせよ、新たに複数の個体が採れないとこんなの分かんないよね。その後、3年くらい経ってるけど、採れたのかなあ?

(註2)増井暁夫氏の論文
増井暁夫・猪又敏男『世界のコムラサキ(6)』やどりが 157号

(註3)サツマニシキ
名前を漢字にすると、薩摩錦であろう。日本屈指の美しい蛾だと言われてる。薩摩は現在の鹿児島県にあたるから、たぶん最初に発見されたのがその辺りだったんだろう。
関西では、紀伊半島のみに生息するところからみると、南方系の蛾である事は間違いないだろう。

(註4)アサ科 Celtisエノキ属
Celtis属は、かつてはニレ科とされていたが、最近のAPG分類体系(遺伝子解析)ではアサ科となっている。
 
(註5)月光菩薩
月光菩薩は「がっこうぼさつ」と読み、仏教における菩薩の一つ。日光菩薩と共に薬師如来の脇を務め、薬師三尊を構成している。
月光菩薩は月の光を象徴する菩薩で、日光菩薩と共に薬師如来の教説を守る役割を果たしているといわれる。
余談だが、月光仮面のモデルは、この月光菩薩だそう。