2020’青春18切符1daytrip春 第三章(1)

 
第一話
無駄無駄パンチ、大人気ないのねんのねん

 
 2020年 4月8日

青春18切符の旅、3日目である。

この日は西を目指した。
大阪駅から東海道線に乗り換え、加古川駅まで行く。
東海道線は新快速とか走ってるから速くて助かるけど、加古川辺りまで来ると流石に遠方感がある。

 

 

 
ここで加古川線に乗り換える。
時刻は朝7:52。
今日も空は気持ち良く晴れわたっている。

 

 
ここで8時発の西脇市ゆきに乗る予定だ。
それにしても、電光掲示板下の「厄神」ってのはスゴい駅名だな。不幸の吹き溜まりじゃないか。

 

 
へぇー、車体が濃い緑なんだね。あまり関西では見ない電車の色だから新鮮だ。たぶん加古川線に乗るのは初めてだ。未知なことは楽しい。((o(´∀`)o))ワクワクする。

車両に乗り込む。
ここで妙なところにヒットする。さておき西脇市ゆきは8時ちょうど発じゃないか。それに脳ミソが勝手に反応してしまう。

🎵8時ちょうどの あずさ2号で
🎵ワタシはワタシは貴方から 旅立ちーますぅ〜

気づいたら、狩人の『あずさ2号』を口ずさんでいた。
アホは続いて「ワタシ」の後ろを言い換えて再び口ずさむ。

🎵は〜ち時ちょうどの〜 あ〜ずさ2号で〜
🎵ワタシはタワシは貴方から〜 た〜び立ちーますぅ〜

あまりにもチープな駄洒落だ。しかも「〜貴方から」のところで一旦止めて溜めを作ってからの「旅立ちーますぅ〜」の全開放なのだ。そのアホさ加減に自分でも吹き出しそうになり、下を向いて肩をヒクつかせながら必死で笑いを噛み殺す。しまった…、こんなところで恥を晒すワケにはゆかぬぞよ。
で、ひとしきり笑いの渦が去ったところで、顔を上げて恐る恐る周囲に目をやる。もしも誰かが見ていたら、気味悪がられてるんじゃないかと思ったのだ。朝の電車で中年のオッサンが一人を肩を震わせて笑いを懸命に堪えている姿は、相当に不気味だろうからね。
幸い車両の端っこに一人座っている女子高生は、スマホを何やら一心不乱にタッチしているからセーフそうだ。
女子高生に嫌われるのは絶対ヤダ。傷つくもんね。中年のオッサンはナイーブなのだ。

電車は長閑な春の里山をゴトリゴトリとのろのろ走ってゆく。
やがて見たことがあるような風景になった。もしやと思って車内の路線図を見たら、次は粟生駅だった。そういや粟生駅から加西市のギフチョウポイントまで元カノと歩いた事があるな。
いや、待てよ。粟生駅で思い出した。前言撤回。加古川線には乗ったことあるわ。新開地から神戸電鉄に乗り、粟生で加古川線に乗り換え、青野ヶ原駅までという短い区間だったが乗ってる。青野ヶ原には、まだ蝶採りを始めて間もない頃にヒメヒカゲとウラギンスジヒョウモン(註1)を採りに来たことがあるもんな。正確に言うと、ヒメヒカゲもいるとは知らなくて、上から降りてきた人に教えてもらったのだった。
両方とも数が減ってると風の噂で聞いたけど、まだ生き残ってるのかな❓ 元気でいる事を祈ろう。記憶にある蝶たちが消えてゆくのは偲びない。

 

 
8時50分過ぎ、西脇市駅に到着。

 

 
春爛漫。まだ桜は満開だ。

駅でバスの時刻表を見ると、出たばかりだった。
たぶん本数が少ないので、歩いてもバスに乗っても目的地への到着時間は変わらんだろう。だったら少し痩せないといけないし、交通費も浮くから歩くよ。その浮いた金を、例えば「老祥記」の豚まん代とかに回せるしね。それにそもそも、待つのが大嫌いな男なのだ。待つのなら、死んだ方がマシだとか言ってるくらいのせっかちな人だからね。

今回も目的はギフチョウである。
しかし、隣接する加西市や小野市には行ったことはあるけど、西脇市は初めてだ。しかも情報はあまり持ってない。知っているのはポイントの地名だけで、詳しい場所までは知らない。でも何とかなるっしょ。まあまあ天才なんだから(笑)。
巨漢プーさんが、昔よく行ってた場所だから、登りはそうキツくはないだろう。となれば、比較的なだらかな地形を探せばよかろう。
いや、待てよ。その頃のプーさんはまだ膝を傷めていなかった筈だよな。或いは、現実はそう甘くはないのかもしれん。

九時半前。
やがてポイントの山が近づいて来た。しかし思いの外に高く、山容は険しい。傾斜はキツそうだ。山頂待ち、尾根待ちするとすれば、それなりに汗をかかねばなるまい。めんどくせー。
一方、左手の山は比較的なだらかだ。そっちにもいるだろうと判断した。たぶん雑木林の中にも飛んでいるだろうから、山頂や尾根まで登らなくても済むだろう。必死になってまでギフチョウを採りたいワケではないから、ゆるい男は楽な方を選ぶのじゃ。

9時40分。山裾まで来た。
ここまで約1時間足らず。とゆう事は、5km以上は歩いた計算になる。まあまあ遠かったもんなあ。

 

 
ギフチョウ日和だ。
雲雀が空高く舞い上がり、陽気な声で歌っている。
桜も咲いてるし、あちこちで若緑が萌え始めている。つくづく春だなあと思う。何だか心がほっこりするよ。

しかし、山へ入る道が見つからない。一本だけ有ったが、入口がネットで塞がれている。入るなって事だろう。トラブルはヤだし、先へと進む。けど、道が無いぞなもしー。
途中、婆さんに道を訊ねたが、御高齢過ぎて要領を得ない。仕方なく更に進むが、見つからん。おいおいの展開である。

ネットで塞がれてた山道まで戻ろうかと考え始めたところで、やっと山へ向かう道を見つけた。

 

 
神社を過ぎると、奥で網を持った爺さんが立っていた。
V(^o^)vラッキー。とゆう事は、ここには確実にギフチョウがいると云う事だ。

挨拶して、色々と情報をお訊きする。
どうやら此処は数は多くはないらしい。昔と比べてかなり減っているという。しかも放蝶もしてるのに、その程度だと言う。
放蝶と云う言葉に一挙にヤル気が失せる。養殖モンを追いかけ回すって、どこか滑稽な気がして萎えるのだ。それに何だか泥棒っぽい。上で放流した魚を下流で獲ったら、どう考えてもズルくて悪い人だもんね。
まあいい。それでも此処のは採った事が無いんだから記念に採っておけばいいじゃないかと思うことにした。それに別に標本が沢山欲しいワケじゃない。そもそもが自分にとっては虫採りは狩猟ゲームであり、スポーツなのだ。そこのところに血湧き肉躍るのだ。正直、チマチマしてるから展翅も嫌いだし、飼育も苦手な性質(たち)なのだ。

暫くして爺さんは他の場所の様子を見に行くと言って、去っていかれた。
精神をリセットして、五感を研ぎ澄ませる。
待つのは嫌いだが、絶対飛んで来ると云う確信をもって待っている時間は好きだ。そこには((o(´∀`)o))ワクワクしかないからだ。スイッチが入り、コンセントレーションが高まってゆく感じはエクスタシーへの序曲(プレリュード)だ。そして、その先には大いなるカタルシスが待っている。これがあるから虫捕りはやめられない。
しかし、いっこうに女神は姿を現さない。天気も気温も上々だし、ゴールデンタイムの時間帯なのに何で❓やはり爺さんの言うとおり数が少ないのかな…。

午前10時45分。
視界の右端っこで何かが動いた気がした。
素早く向きを変え、凝視する。一拍おいて、ふわっと地面から飛び上がる姿を目が捉えた。瞬時に駆け出す。距離を一挙に詰めて、乾坤一擲、💥秘技ルーム&アンピュテート❗
トラファルガー・ローの必殺技をイメージして、網で空間を蝶ごと切り取る。

 

 
今日の1頭目は、珍しく♀だ。美しい。
武田尾のギフチョウとはまた違って、黄色い部分が広くて明るい感じがする。そういや、加西市や小野市のギフも黄色かったような気がする。
でも1頭だけでは傾向を断定できない。もっと採らないと比較対象の材料にはならんのだ。

 

 
一見派手で目立つデザインのように見えるが、ギフチョウは枯れ草の上に止まると消える。ミラージュ効果で枯れ草と同化して見失うのだ。
こうして背後の環境が写っている画像だと、その一端を御理解戴けるかと思う。隠遁術のレベルは思いの外に高いのである。

裏面は、こんな感じ。

 

 
さあ、ここからが祭りの始まりだと意気込んだが、何故か後が続かない。仕方なく、その辺に足を投げ出して座り、ファミマで買った🍙おにぎりを食う。

 

 
「日高昆布」と「魚卵づくし」。
魚卵づくしかあ…。魚卵好きだから迷わず買ったんだよなあ…。
そこそこ旨かったから、また発売してくんないかなあ?
昆布は3年ほど前から好んで選ぶようになった。昆布は好きだけど、何かジジむさいから買う気が起こらなかったのだ。けど或る日コンビニに行ったら、おにぎりが昆布しか残ってなかった。仕方なく買って食ったら、それが衝撃の旨さだった。昆布の底力に、まざまざと感じいったのである。以来、昆布がおにぎりチョイスの1番手となったのである。

食い終わっても飛んで来なかったので、仕方なく蕨(わらび)を摘みだしたら、ギフチョウそっちのけになってしまい、気がついたら12時前になってた。
1頭だけでは誰かに「また、ヤル気なし之助ですかあ。」と揶揄されかねない。♂もまだ採ってないしね。なので、慌ててポイントを移動した。しかし道は行き止まりになってて、仕方なく薮に突っ込み、トラバースを敢行する。
したら、道に出た。

 

 
如何にもギフチョウが居そうな環境である。
少し歩くと、網を持った四人組がいた。どうやらこっちがメインポイントだったみたいね。
近づくと、同好会の先輩Tさん一行だった。

正直、メンドくせーなと思った。
同好会の合宿でヒサマツミドリシジミで有名な三川山に行った時に、この人にワシだけ山頂で番をさせられたのだった。
皆は秘密のポイントに行くからとかで別な場所に行ったんだけど、何でワシだけがそんな仕打ちを受けねばならぬのだと思った。それで後から別な人にワケを訊いたら、理由は「全部、彼が採ってしまうから。」だった。
それを聞いて、開いた口が塞がらなかったよ。

そんなの物理的に無理だし、自分ばっか採って人には譲らないなんて事、するワケないっつーの( `ε ´ )ノ❗人として、逆にそっちの方が勇気いるわい。

それに、全く知らぬ相手ならまだしも、同じ同好会の人にそんな事するワケないじゃないか。
思い出したら、段々腹が立ってきた。なので、そのあと鬼神の如くいっぱい採ってやったワイ(--メ)❗おまんらなんぞにギフチョウを採らせてなるものか、ボケがっ(--メ)❗
どーせオラ、大人気(おとなげ)ないのである。
でも計27頭も採ったのに殆どがボロ。どうやら時期が遅かったみたいだ。♂なんか全滅だ。武田尾より先にコッチに来るべきだったよ。実際、どっちを先にするか迷ったんだよなあ…。まあ、たった2日だけの違いだから、結果はそんなに変わんなかったかもしんないけどね。
♀の方も羽化不全だらけだった。たぶん放蝶だからだろう。きっと蛹をバラ撒いたんじゃないかな❓
自分では飼育をしないから、半分コジ付けで言ってるけど、養殖もんは生命力が弱いんじゃなかろうか。弱い遺伝子をバラ撒くと、全体的に集団の生きる能力が下がるんじゃないかと密かに思ってる。多様性は必要だが、弱い遺伝子が増えると、種全体の生き抜く力が落ちるような気がする。種を維持するためには、強い遺伝子を遺す淘汰も必要なんではなかろうか。弱肉強食の中で生き残ったものだけが遺伝子を遺すというシンプルなルールが本来のものだろう。こんなことを言うと、現代社会では袋叩きになりかねないけどね。
正直、人間のオスのポテンシャルは確実に昔よか下がってるような気がする。養殖モノのオスばかりだ。
ならば、いっそ女性がもっと強くなった方がいい。そっちの方が余程、世の中は上手くいくんでねーの❓

結局、帰りしなに殆んどをリリースした。労多くして益少なし。あのシャカリキは何だったのだ❓ 心の中で、ジョジョの悪玉キャラのディオ様ばりに無駄無駄パンチを打ちまくる。

 

(出典『ピクシブ百科事典』)

 
大人気ない事なんてするから、こうなっちゃうんだよねー。
 

                         つづく

 
追伸
その時のモノを展翅したのがコレ。

 

 
西脇市の♂は全部リリースしたので♀でやんす。
全体的に黒帯が細い。
でもギフチョウって個体変異の幅が広いから何とも言えないんだよなあ。ギフチョウは好きだけどマニアではないから、変異にはそんなに興味がない。小太郎くんみたく各地の細かい特徴までは頭にインプットされてないのだ。

そういや、あの時にTさんに質問したな。
『ここのギフチョウって、何か特徴あるんすか❓武田尾辺りと、どう違うんですかね❓』
しかし、返ってきた言葉はこうだった。
『一緒、一緒。変わらへん。おんなじや。』

でも本当にそうだろうか❓
武田尾より黄色かった気がするんだけどなあ…。

武田尾のギフチョウの画像(♀)と見比べてみよう。
同じ兵庫県でも東部の武田尾と中西部の西脇市とでは離れている。それに六甲山地には生息しないから間に大きな空白地帯があった筈だ。同じなワケがなかろう。

 

 
(-_-;)ビミョー…。
後翅中央の黒帯が太く、全体的に西脇市の方が黒帯が細いような気もするが、各帯を一つ一つ見ると逆なのもある。でも、そもそも1個体ずつだけを見比べて論じるには限界がある。もっと沢山の個体を見て検証しないといけんね。
西脇市に隣接した加西市や小野市の標本がある筈だが、探すのが面倒なので手っ取り早く図鑑(日本産蝶類標準図鑑)で済ませてしまおう。

 

(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
同じ兵庫県中西部、三木市の♀個体だ。
やはり帯が細くて、全体的に黄色っぽく見える。

 

(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
隣接する小野市産の♂である。コチラも黄色くて西脇市や三木市のものと同系統なのが伺える。

図鑑の解説欄も見てみよう。
近畿地方の中部〜西部の産地については、こう書いてあった。
「京都府中南部〜大阪府・兵庫県東部には、やや黒い個体群がみられる。兵庫県中南部の個体群は黄色部が広い。この個体群は分布的にほかの個体群との接点はほとんどない。」

ほら、やっぱりそうじゃないか。すると、武田尾(兵庫県東部)のものと西脇市(兵庫県中南部)のものとは違う個体群とゆうことになる。
では武田尾産はどうだろうと思って図鑑内を探してみたが、図示されていなかった。しゃあないので、代わりに同じ個体群とされる大阪府豊能町と京都市産のものを図示しよう。

 
(豊能町産♂)

 
(京都市産♂)

(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
どちらも♂だが、慥かにやや黒っぽいような印象をうける。
とはいえ、これとてファジーで明確な線引きは出来ないような気がする。
段々、話が大袈裟になってきたな。軽い気持ちで調べ始めたのに、とんだ藪蛇だ。泥田に足を突っ込んだような気分だよ。

そういえば『ギフチョウ88か所めぐり』のコピーを持ってた筈だな。探そう。

ありました。
武田尾のギフチョウの欄の解説にはこうあった。
「京都〜大阪北部の集団と、兵庫県の山陽側の集団とはかなり印象が異なるが、ここらあたりが接点となる。斑紋は基本的には兵庫県山陽型であるが、京都〜大阪北部型も混じる。」

一見、記述の内容は図鑑と同じようだが、なれど、この記述の仕方だと基本的には武田尾・三田産のギフチョウは西脇市産と似ているという事になってしまう。(-_-;)おいおいである。
毎度お約束の迷宮世界の風が吹き始めた。嫌な予感がするよ。

コピーゆえ白黒だが、標本画像も貼り付けておく。

 
(武田尾産♀)

(同♂)

(出典『ギフチョウ88か所めぐり』)

 
♀は黄色そうだね。たしかに西脇のと変わらん。でも♂は、かなり黒っぽく見える。

分布が隣接する三田市のギフチョウの項も見てみよう。

 
(三田市産♀)

(同♂)

(出典『ギフチョウ88か所めぐり』)

 
コチラの♂も黒っぽい。でも♀は後翅中央黒帯が太くて微妙だなあ。かといって北部のものとも違う気がする。

解説は以下の通りである。
「兵庫県の瀬戸内側、三田市から西脇市あたりにかけてのヒメカンアオイ食いのギフチョウはやや変わった一集団である。この産地では尾状突起が短く、丸い翅形の個体が多い。」

ここでは完全に三田市と西脇市の個体群が同じ扱いになっている。一瞬、三田の個体群と武田尾の個体群とは別な扱いになってるのかと思ったが、そんなわきゃない。三田と武田尾は隣接しており、ギフチョウの分布も連続している。地理的障壁もないから、両者は互いの生息地を自由に行き来できる筈だ。同じ個体群であることは間違いない。

ここで、改めて88か所めぐりの地図の、近畿地方の部分を見てみよう。

 

(出典『ギフチョウ88か所めぐり』)

 
番号は59が大阪府鴻応山、60が京都市岩倉。何れも黒っぽいギフチョウとされる地域である。

 
(鴻応山産♂)

(出典『しっぽスターの娯楽』)

 
やはり黒っぽい。
そういや、鴻応山で採った事もあるなあ…。すげー辺鄙な場所で、登山口も至極わかりにくかったんだよね。記憶だと、黄色かったという印象はない。

鴻応山といえば、鴻応山型と言われる前翅が特徴的な異常型が出ることでも知られていたね。

 
(鴻応山型♂)

(出典『ギフチョウ88か所めぐり』)

 
どこか杣山型に相通じるものがある型だ。
しかし今は絶滅の危機に瀕しており、採集禁止になっていたと思う。いや、保護活動してるから採集自粛の要請が出たのかな? 尚、岩倉のギフチョウは既に絶滅している。昔は京都を囲む山々には何処にでも居て、五山送り火で有名な大文字の「大」のとこにも居たそうだ。でも現在は花の寺(勝持寺)の上くらいにしかいない。保護してるみたいだけど、風前の灯だと聞いている。

そして64が武田尾、65は三田市、66神戸市西区、67西脇市、68加古川市となる。そして加古川辺りから西の山陽側は分布の空白地帯となっている。
そっか…。少し解ってきたぞ。電車で移動しているから武田尾と西脇市はかなり距離が離れていると思い込んでいたが、地図上で見ると、それ程でもないんだよね。

ところで「神戸市西区 雌岡山」なんて産地もあるな。六甲にもいるのか❓ えっ、いたっけ❓
でも今は取り敢えずは西脇市だ。そっちは後回しにしよう。

 
(西脇市産♀)

(同♂)

(出典『ギフチョウ88か所めぐり』)

 
♀は黄色くて、典型的な山陽型だ。♂も黄色い。図鑑の小野市の♂も黄色かったから、或いは変異は♂に色濃く表れるのかもしれない。

では兵庫県西脇市の解説はどうなっているだろう。
「三田市とよく似ているが、丸い感じの個体は少ない。京都あたりと比べると橙色斑の発達は悪くなく、黒さも薄れ、赤色紋はやや発達がよい。イエローテール型が数頭採れている。」

そういや、オラの武田尾産の画像も翅形が丸いね。尾突も短いような気がする。三田も武田尾も、大阪・京都のギフチョウの血が入っているのかもしれない。
さておき、此処にはハッキリと西脇市産は三田市産とよく似ていると書いてある。
とゆうことはTさんのコメントは正しかったとゆう事か…。

ついでだから加古川市のモノも貼付しておこう。

 
(加古川市産♀)

(同♂)

(出典『ギフチョウ88か所めぐり』)

 
♀が変わってる。後翅中央の黒帯の形が違うね。でも、こうゆう黒帯の型は福井県南部に結構いたな。

 

(2020.4.3 福井県南越前市)

 
北陸地方のギフチョウは小さくて黒いのが特徴だ。
でも黒くないのも珠に居たりする。

 

 
前翅の黒帯が細くて、かなり黄色く見える。こんなの黙って見せられたら、どこのギフチョウなのかワシではワカランよ。

ついでだから♀の画像も貼り付けておこう。

 

 
赤紋が上に伸びる所謂「赤上がり型」ってヤツだね。
因みにコレらは全て同じ日、同じ山で採集したものである。展翅画像は他にもまだあるけど、これくらいにしておこう。
ようは此処には色んな型がいて、バリエーション豊富なのね。この山は過去に杣山型の記録だって有るようだしね。

(´-﹏-`;)うーむ。各地の標本を見れば見るほどワケが分かんなくなってきたぞ。
結局のところ、ギフチョウって同じ産地内でも変異が多々あって、その幅も広いって事だ。あくまでも各個体群は、そうゆう傾向の特徴がある集団だとしか言えないのだ。しかも各産地の間で連続的に変異は移行している。ゆえに明確に分けれなくて、亜種が1つも存在しないのである。

一応、加古川の解説文も載せておこう。
「基本的に西脇市あたりのものと変わらない。兵庫県山陽型の西端に近い地域で、安定した兵庫山陽型を産し、紀伊半島型の後翅中央黒帯をもつ個体はまったくみられない。」

参考までに言っとくと、紀伊半島型の後翅中央黒帯をもつ個体とは、こんな奴だ。

 

(出典『ギフチョウ88か所めぐり』)

 
京都府南部・三重県伊賀地方以南の紀伊半島には後翅中央黒帯、橙色班列に共通の特徴をもつ個体群が知られ、このように後翅中央黒帯に強いくびれが入る。
この個体は大阪府南河内郡岩橋山産のモノのようだ。岩橋山かぁ…、懐かしい地名だ。思えば小学生の時に自分一人で初めてギフチョウを採りに行ったのが、この地だった。当時は植林されたばかりで辺りは拓けており、絶好の環境だった。今は木が大きく育って見る影もないけどね。ちなみに此処はギフチョウを採った2番目の場所で、初めて採ったのは和歌山県の龍門山だった。龍門山のギフチョウといえば、幻のギフチョウとも言われ、標本が高値で取引されることで有名である。龍門型とも呼ばれ、わかる人にはひと目でそれとわかるギフチョウだ。

 


(出典『蝶の戸籍簿』)

 
龍門型の特徴は、後翅は紀伊半島型で前翅前縁がリング状の黄紋になる事である。これが現出する個体が多かったそうだ。
上の画像は、長年その龍門型を累代飼育されている方のもの。美しいね。何十年にもわたって命脈を繋がれてきたワケだから頭が下がる。素直に凄いと思う。

 

(出典『しっぽスターの娯楽』)


(出典『ギフチョウ88か所めぐり』)

 
次に貼付する画像は異常型だろう。後翅の中央黒帯の形が変わってる。たぶん切れ目が入ってるから、マニアの間ではCカットと呼ばれている型だろう。

 

(出典『ヤフオク』)

 
小6か小5だったと思う。オカンとハイキングの会に参加してて、頂上で弁当を食ってたら下から真っ直ぐに飛んできた。脳内にその時の映像が鮮明に残ってる。そんなとこにギフチョウがいるなんて知らなかったから、すごく驚いたのをよく憶えてる。でもボロッボロッの♀だったんだよなあ。
初めて採ったギフチョウが龍門型とは、我ながらどんだけ引きが強いねんである。実力はさしてないのにね(笑)
勿論、標本は残ってない。小学生の標本箱だからボール紙仕様で、大方ヒメマルカツオブシムシの餌にでもなって、この世から永遠に消滅したのだろう。

尚、龍門山のギフチョウは1980年代(1986)に絶滅している。
その後、誰かが別なところのものを放蝶して(註2)、現在も健在だという。しかも、それを保護までしているそうだ。謂わば北海道のキタキツネを持ってきて放ち、それを保護してるみたいなもので、ちゃんちゃらオカピーだ。

そうだ、忘れてた。
「神戸市西区 雌岡山」のギフチョウだが、そこのページのコピーがない。おそらく借りた時点で欠落していたのだろう。
一応、巻頭に標本写真があったので、それを貼付しておこう。

 
(♀)

(出典『ギフチョウ88か所めぐり』) 

 
見た目は丸いが、斑紋は西脇市〜加古川市の個体群と変わらない。いったいコレは何を意味してるのだ❓昔は六甲山地が移行地帯になっていたのか…。あっ、それは変か?

調べたら、この山は神出町にある。で、この神出町、神戸市といっても北西端にあり、何と隣接するのは加古川市と三木市で、小野市とも目と鼻の先の距離にある。つまりは六甲山地でも何でもない。拍子抜けしたよ。
でも考えてみれば、武田尾駅(宝塚市)と三田駅(三田市)に挟まれた道場駅は神戸市北区である。神戸市といえば海沿いの街のイメージしか浮かばないが、その範囲は驚くほどに広いのである。関西人でも、この事実を知ってる人は少ないだろう。
一応、道場にも極めて少ないながらもギフチョウはいる。つまり此処で採れば、ラベルは神戸市産のギフチョウと相成るワケだ。そういやプーさんが必死に探してたなあ…。そっか、プーさんって神戸市民だもんね。だとしたら理解できる。オラだって大阪市ラベルのオオムラサキがいたら、採りに行くもんね。

何かこのままだとオチのない話でグダグダで終わりそうだから、小太郎くんに教えを請いました。
彼曰く。
「微妙な違いは感じますが、兵庫県中南部のヒメカン(ヒメカンアオイ)食いは基本似たようなもんかと。武田尾は少し北摂っぽい顔が混じるという人も居ますが、基本は兵庫県瀬戸内海側地域の顔ですね。」
との事。さすが小太郎くん、的確な説明である。そっか、そういや武田尾もヒメカン食いのギフチョウだったわさ。食いもんが同じならば、見た目が似るのも納得だ。
勉強なりました。あざーすm(_ )m
でもってTさん、ゴメンナサイm(
_)m

とは言いつつも、西脇市や加西市のギフチョウが武田尾や三田のものよりも明るいと感じたのは確かだ。だから自分的には間違ってないと思う。多分に感覚的なものだけど、微妙な差異を感じるのは大切な事だろう。違和感を感じたからこそマホロバキシタバの発見に繋がったワケだし、クラシップス(クラシペース)ジャコウアゲハやパラドクスマネシアゲハ等々も採れたワケだからね。これからも、そうゆう感覚は失わずに大切にしていこうと思う。

 
(註1)ヒメヒカゲとウラギンスジヒョウモン

【ヒメヒカゲ】

(2009.6.14 兵庫県小野市)

 
ジャノメチョウの仲間で、日本では中部地方と中国地方〜兵庫県西部の一部にのみ分布する。主に湿地草原に棲息するが、各地で急速に数を減らしており、絶滅した地域も多い。

 
【ウラギンスジヒョウモン】

(2009.6.14 兵庫県小野市)

 
タテハチョウ科のヒョウモンチョウの1種。 
北海道、本州、四国、九州に分布する。
このチョウも数を急速に減らしている。今や近畿地方では確実に見られるのは兵庫県西部の一部のみだろう。

(註2)その後、誰かが別なところのものを放蝶して
噂では、導入されたのは奈良県御所市の大和葛城山のものが有力だとされている。尚、現在は大阪府側も含めてこの山の個体群は採集禁止になっている。

 
追伸の追伸

この日に採った蕨(ワラビ)はおひたしにした。

 

 
椎茸を出汁でサッと煮たものと混ぜて、一晩おいたものも作った。

 

 
今まで椎茸とのコラボの発想はなかったけど、やってみると合うね。旨いわ。

翌日は更に竹輪を加えてみた。

 

 
中々に旨いぞ。これも意外と合う。但し、チープな感じになっちゃうけど(笑)。竹輪を入れると、どうしてああも庶民的な食いもんになっちまうんだろう❓竹輪にトリュフとかキャビアを乗せた図を想像してみたけど、そんなの高級レストランや料亭で出てくるワケないよね。居酒屋でも無いとは思うけどさ。

で、最終的には京揚げを加えてクタクタに煮てやった。

 

 
クタクタにしたのはシャキシャキの食感に飽きてきたので、ヌルズルにしたかったのである。味も少し味醂を加えて、やや甘くしてみた。
これはこれで旨かったと記憶してる。

 

青春18切符1daytrip 春 第二章(3)

 
去年、第二章の2話目まで書いて頓挫、長らく放置していた青春18切符 春シリーズを再開します。

 
  第三話 流浪のプチトリッパー 前編

 
 2020年 4月6日

 

 
武田尾駅の周辺の桜は、今が盛りと咲き誇っている。朝も満開だったが、この陽気で更に開花が進んだのだろう。華やかさは増している。
よく晴れた春うららかな一日だったし、ギフチョウ(註1)にもそれなりに会えた。それによく歩いた。充実した疲れが全身を薄布のように覆っている。
思い出したように時折そよぐ風に花びらが舞うのを和やかな心で見送る。でも世の中はコロナ騒ぎで大変な事になってるんだなと思うと、妙な気分だった。

時計に目をやると、まだ午後3時前だった。
晩飯の時間まではかなりある。汗を流しに行くにしても時間潰しが必要だろう。さて、どうしたものか…。まあいい、流浪の民だ。流されるまま、気の向くままでいい。
取り敢えずは、2:57の篠山口行の列車に乗る。丹波方面をうろつくのも悪かない。

道場を過ぎ、三田駅を過ぎる。ここから先は福知山線になるのかな❓いや尼崎からか…。
毎年、道場はクロツバメシジミ、三田はギフチョウに会いに来てるから武田尾から三田までは馴染み深いが、そっから先は殆んど未知の世界だ。城崎温泉に行く際に何度か通ってはいるものの、特急ゆえに途中下車はしていないし、オネーチャンと一緒なんだから外の風景なんかロクすっぽ見てないのだ。この地方は、ほぼほぼ未知だと言っても差し支えないだろう。

車窓から外をぼんやりと眺める。
列車の両側には田畑が広がっている。しかし作物は殆んど無く、枯れた野が延々と続く。「夢は枯野を駆けめぐる。」と呟く。
このまま福知山辺りまで行って、デンして帰ってこようか❓取り敢えず流れる風景さえ見ていれば退屈することはない。時間は確実に流れてゆくのだ。電車に乗ってると時間が早く流れるような気がするのは、自分だけだろうか…。
ふと思う。電車で移動するのと歩くのとでは、物理的にスピードに雲泥の差がある。だとすれば自(おの)ずと時間の流れ方は変わるのではないか❓いや、時間は時間だ。スピードが速かろうが遅かろうが同じだ。
でも江戸時代の人と現代の人とでは、時間の流れの感じ方は違っていたのではないだろうか❓少なくとも昔はもっとゆるやかに時間が流れていたのではあるまいか❓
そんな事を考えてると、列車のスピードが突然弱まり、車内アナウンスが入った。

 『次は、あいの〜、あいの〜。』

「あいの」という地名は聞いたことがある。「あいの」って、もしかして「相野」かな❓
3、4年前だったろうか、大阪昆虫同好会の夏合宿の帰りに、兄貴こと河辺さんに肉屋に寄るからつきあえと言われて少し遠回りした事があった。兄貴曰く、そこのハンバーグが死ぬほど旨いらしい。その肉屋があったのが相野駅のすぐそばだった筈だ。

列車は駅のホームへとゆっくりと入ってゆく。すかさず駅名表示を見る。
やはり「相野」だ。でも、ホントにそれであってんのか❓
(ノ`Д´)ノ彡┻━┻えーい、ままよ。降りちまえー。

 

(出典『改札画像.net』)

 
これでもし記憶違いだったら、とんだ笑いもんだが、所詮は特に行くあてのない流浪の旅なのだ。それもまた縁だ。ここで運命的な女性との出会いが無いとは言い切れないのだ。そして二人は💋ぶっちゅう〜。
まあ、そんな事は万に一つもないだろうけどさ。

スマホでググると、確かに駅近くに肉屋があった。
しかも、そこそこ有名みたいだ。店の名前でピンとはこなかったけど、そんな名前だったような気もしてきた。おそらくそこで間違いなかろう。そして、肉屋だけにコロッケやメンチカツとかもあった筈だ。それならオヤツ代わりにもなる。ハンバーグは高かった覚えがあるし、そんな生肉なんぞを持って歩く気にはなれないけど、コロッケなら1つだけ食って、あとは持って帰る事だって出来る。

5分ほどで着いた。

 

 
『肉のマルセ』。
こんな店だったかなあ。見憶えがあるような、無いような…。
まあいい。この際、たとえ別な店であっても構わん。もうコロッケさえ食えれば、それでいいや。
しかし、店内を覗いて此処で間違いないと確信した。完全に見憶えのある風景だったからだ。そいでもって、コロッケとかも売ってるぞなもし。
だが店内には入らず、スマホで近隣の酒屋とスーパーマーケットを探す。揚げ物があるとなったら、ここは当然ビールでしょうよ。
ガビー\(◎o◎)/ーン❗
しかーし、行ったらスーパーは潰れてやがった。
(--;)マジかよ❓である。
もうスマホなんぞに頼るかボケッ(ノ ̄皿 ̄)ノ❗ スーパーの斜め前の和菓子屋でビールの売ってる場所を尋ねる。すると婆さんが雑貨屋を教えてくれた。そこに売ってるらしい。雑貨屋にビール❓それってド田舎パターンだ。屋久島を思い出したよ。半信半疑で店に入ったら、奥にちゃんと売ってた。
ケッ(-
-メ)、スマホの情報なんぞを鵜呑みしたからだ。人に聞く方が早い。但し、選ぶ人を間違えれば最悪だけどね。
 
🎵コーロッケ、🎵ビール、🎵コーロッケ、🎵ビール
肉屋にマッハで戻り、コロッケを買う。

 

 
ミートコロッケじゃよ。
でもビール(発泡酒)を買った時点で、タガがハズレていた。

 

 
他のもんまで買っちまったよ。
マジックでちゃんと何なのかを書いてくれてるところが親切だ。
左上から時計回りに牛カツ、カレーコロッケ、そして下段はメンチカツである。ちょっと買い過ぎのような気もするが、すぐに腐るもんでもなし、余ったら家に持って帰ればいいのだ。

 

 
揚がるまでにビール(発泡酒)片手に突っ立っていたものだから、店員さんに笑われた。ワシも笑って軽口で返す。したら、店の端のテーブルを使って食べてもいいよと言われた。何かと得なセーカクー✌️😄

チラシを横にどけて陣地を確保して、先ずはやっぱりミートコロッケから。

 

 
(≧▽≦)うみゃーい🎉
すかさず発泡酒をグビグビいく。
(≧▽≦)うみゃーい🎊

続いて牛カツ。
(人´∀`)。゚+うみゃーい🥰
やっぱ関西人は牛好き文化なのだ。豚カツも勿論美味いけど、牛カツには敵わない。関西では串カツといえば牛カツだかんね。

お次はカレーコロッケ。
感動する程ではないが、旨いっぺよ(◠‿・)—☆

そして、最後はメンチカツ。
うま、うま、うまっ、✨💕激うま〜(☆▽☆)
他のも旨かったが、コヤツが断トツに美味い。玉ねぎと肉汁の甘みが渾然一体となってジュパ〜と襲ってくる。

午後4時半。
駅まで戻ってきた。
扠てと、どうしたものか…❓相野駅周辺に他に寄るような所はない。となると、このまま前に進むか戻るかだが、思案のしどころだ。
(ー_ー゛)う〜ん、上手い具合にだいぶ時間が潰せた事だし、時刻を考えれば、ここはやっぱワシ的王道コースかなあ。

                         つづく

 
追伸
間が9ヶ月も開いての連載再開である。別に誰も続きを待ってなかったとは思うけど、中途半端なのはどうにも心苦しい。心の片隅のどこかで頓挫したことが、ずっと気にはなっていたのだ。
とはいえ、再開したはいいが当時の事をどこまで憶えているかは心許なかった。オジンになると、忘却スピードは加速度的に早まるのだ。
けど書き始めたら、意外と憶えてた。記憶とゆうものは1つ思い出せば、数珠繋ぎに甦ってくるものだと改めてわかったよ。

えーと、頓挫した理由も書いとこう。

①カトカラ(蛾のグループの1つ)の方の連載再開の時期が迫っていたので、そっちの下書きを優先したから。
アサマキシタバの話は長くなりそうだったので、早めに2019年の分だけでも下書きをしておこうと思ったのだ。そして、そのままソチラの連載に掛かりきりになってしまったのである。

 
【アサマキシタバ Catocala streckeri】

(2020.5 東大阪市枚岡)

 
②飽きたから。
文字通りである。この連載も長くなっていた。第一章だけでも5話も要した。オマケに各話が長い。愚かなことに、いつも簡単にサラッと書けるだろうと考えてシリーズものを始めるのだが、書くうちにアレもコレもと付け加え、また脱線もしてしまうので長くなってしまう。で、結局途中で書くのがウンザリになって放り出したくなるのだ。カトカラの連載再開は、放り投げる格好の理由にもなったワケだ。

本文が一部斜めの字体になってて読みにくい箇所がありますが、どうしても治らないので、そのまましておきました。すいません。

 
(註1)ギフチョウ

 
春先にだけ現れ、「春の女神」とも呼ばれるアゲハチョウの1種。
 

2019年の空たち 冬・春編

 
空を見るのが好きだ。

 

 
画像は去年の師走、12月17日に撮ったものだ。
ドン突きまで並ぶ雲に奥行きがあって、モノ凄い遠近感を感じたので、つい撮ってしまったのだ。

でも、スマホのストレージが溜まってきたので、そろそろ消去しなければならない。しかし、このまま日の目を見ずに此の世から人知れず永遠に消えてしまうには忍びない画像だ。そこで去年に撮った空の写真を纏めてアップしてから消すことにした。

 

 
2019年、最初に撮った空だ。
紅梅が晩冬の空の下、凛と咲いている。

日付は2月23日になっている。昔の彼女と久し振りに会って、天下茶屋から昭和町まで歩いた時に撮ったものだ。たぶん途中の公園で咲いてた紅梅が美しかったから撮ったと記憶してる。
その後すぐ、何故かアチキは突発的に布施明の『シクラメンのかほり』を歌いたくなって、アカペラで情感たっぷりで熱唱。元カノに脱力で笑われた。

 
 

 
4月3日。
青春18切符の旅が、また始まった。
福井県南越前町まで足を伸ばす。

 

 
天気は良好。ぽかぽか陽気の中で、ギフチョウたちが沢山舞っていた。

 

 
スプリング・エフェメラル。春だけに現れる妖精だ。
毎年のように会っているが、最初の1頭には毎回ハッとさせられる。忘れているワケではないが、改めてその美しさに心奪われるのだ。

 

 
敦賀まで戻り、寂れた歓楽街を彷徨う。
人影は無く、時間の流れが止まったかのようだ。空には一点の雲も無いので余計にそう感じる。動くものが何もないのだ。

 

 
氣比神宮の鳥居の向こうに、空も石畳もトパーズ色に染めて夕陽が沈んでゆく。

 

 
敦賀駅まで戻ってきたら、喫茶店のスピーカーからボズ・スキャッグスの名曲『ウィ・アー・オール・アローン』が流れてきた。

 

(※画像をタップすると曲が流れますよ〜ん。)

 
あまりにも曲と夕景とがピッタリで泣きそうになった。
我々は皆、所詮は一人ぼっちなのだ。

 
 
4月6日。
青春18切符 ONEDAYトリップの2日めは、武田尾方面のギフチョウに会いに行った。

 

 
空の青とピンク色の花とのコントラストが美しい。
大きな木ではないが、やはり枝垂れ桜は華やかだ。正直、ソメイヨシノよりも綺麗だと思う。
そういや、去年は紅枝垂桜を見てない。たぶんコロナウィルスのせいだな。山なら人と接触することは少ないけれど、シダレザクラで有名な平安神宮なんかだと、そうともゆかぬ。で、断念。
ベニシダレザクラ、見たかったなあ…。だって桜の中では圧倒的にゴージャスだからね。
今年は何とか行ければいいけど…。

この日は、一旦武田尾から離れて夜にまた舞い戻ってきた。 
何でかっつーと、春の三大蛾(註1)がいないかなあと思ったのだ。

 

 
天気予報は夜には曇ってくると云うことだったが、夜遅くになっても、あいにく夜空には満月。
虫たちは晴れの日よりも曇りや小雨の日に灯火に飛来する事が多いと言われている。月の光が邪魔なのだ。だから満月の月夜は最悪のコンディションとなる。
結局、どれ1つとして目的の面々とは会えなかった。
まあいい。春のちょっと肌寒い夜空に浮かぶ朧月(おほろづき)は美しい。ことに満開の桜の夜ならば、尚の事だ。考えてみれば、極上の月見ではある。

 

 
真っ黒な夜空の下で咲く桜は、いつ見ても妖艶だ。暗い想念が仄かに蠢く。

 
 

 
4月7日。
ちょっと悔しいので、翌日には箕面を訪れた。

天気予報は今宵もハズレ、満月が昇ってきた。
まだ芽吹いていない裸木の枝が、月をより美しく見せている。
だが、当然ながら結果は又しても惨敗だった。

 
 

 
4月8日。
青春18切符の旅、3日目である。
行先は兵庫県西脇市。又してもギフチョウに会うためだった。
蝶好きのギフチョウ愛は強く、ワシなんぞはギフチョウ愛が足りないと言われるクチだが、それでも、それなりにギフチョウ愛はちゃんとある。特別な蝶の一つではあるのだ。

この日も快晴。でも春特有の霞が掛かったような空だった。
そういや、雲雀(ヒバリ)が喧しく歌いながら天高く飛んでいったのを思い出したよ。しみじみ春だなあと思った。
こうゆう時は、横に誰か女性が居て、互いに黙して風景を見ていたいものだと思う。

 

 
乗り降り自由の切符だからアチコチ回って、最後に桜ノ宮で夜桜を見てから帰った。

黄昏どきの桜も美しい。
青の色を失いつつある空が、心をゆらゆらと揺らす。

 
 

 
4月12日。
青春18切符の旅の最終日は、和歌山へと向かった。
先ずは道成寺駅で下車。

 

 
この日の空は澄んだ青だった。
雲も白い。

 

 
田辺へと向かう車窓に突然、空と海とが飛び込んできた。
フレームの中で青と青が、せめぎ合う。
けれど春の空も春の海も、どこか優しい。やわらかな陽射しの中で、たゆたっている。

田辺の街をぶらぶらと歩く。

 

 
南方熊楠顕彰館の隣にある旧熊楠邸では、ミツバツツジが咲いていた。やはりピンクの花は青空と合うんだね。何だか、ほっとする。

 

 
田辺の夕暮れ間近の歓楽街を歩く。
細い舗道には誰もいなくて、何処かの時代へタイムスリップしたかのような錯覚に陥る。そこには長い年月がゆっくりと削り取った時間の澱みたいなものの残滓がある。
それを、人はノスタルジーと呼んでいるのかもしれない。

 
 

 
5月2日。
これは一瞬、画像を見ても自分でも何だか分からなかった。
前後の画像を見て漸くコシアブラの木だったと思い出した。この日は四條畷に山菜採りに来たのだった。

 
(コシアブラ)

 
他には、イタドリとワラビくらい。

 

 
そういや、タカノツメも採ったね。
植物学的にはコシアブラと近いものらしいが、味は劣る。

 

 
ついでにカバフキシタバ(註2)の食樹であるカマツカ探しも兼ねていたかな。

 

 
ふと、スミナガシ(註3)にも会おうと思い立ち、場所を移動して大阪平野を望む。
ぼんやりとした春の空の下(もと)、街はベールが掛かったかのように、けぶっている。
昔は春が好きじゃなかったけど、今はとても好きだ。冬がどんどん嫌いになっているから、ホント待ち遠しい。

 
 

 
伊丹空港(大阪空港)だ。
日付は5月7日。とゆうことは、シルビアシジミ(註4)の様子でも見に行ったのだろう。
空港には、真っ青な空がよく似合う。

 
 

 
上の写真は瓢箪山駅の手前だとすぐに分かった。山並みの形が見慣れた生駒山地だったからだ。
だが日付を見ると、5月13日となっている。どうせアサマキシタバ(註5)でも採りに行ったのだろうと思っていたが、時期的にはまだ微妙に早い。じゃあ、何しに行ったのだ❓

💡ピコリン。
そっか、思い出したよ。スミナガシを採りに行ったんだ。四條畷では何故か現れなかったので、仕方なしに生駒に来たんだった。しかも、難波からママチャリで。マジ、遠かったわ。
あとは去年の初冬にカマツカの木を見つけたけど、本当にそうなのかを確認するためでもあった。あの特徴的な花が咲いてさえいれば、確定だからね。

生駒から大阪の街を見下ろすのは好きだ。
此処まで登ってくれば、空を遮るものは背後の生駒山だけだし、空が広いのは気分がいい。それに何となく街を支配したかのような気分になれる。

 
 

 
5月24日。
枚岡神社の手前辺りで日が沈んだ。
この時間帯に此の地点に居るという事は、今度こそ目的はアサマキシタバだろう。彼女たちは夜に活動するからね。
そして、眺め的に間違いなく又してもチャリである。遠いだけでなく、山の中腹まで登らねばならんから、もうクソみたいにしんどいのだ。
難波から、こんなとこまでママチャリで来るなんてのは、どう考えても中学生レベルの発想だな。ようはアホである。全然成長してない。

 

 
夜の空。
当たり前だが、夜の空は暗い。
懐中電灯を消すと、一瞬は真っ黒けだ。けど、そのうち目が慣れてくると、ぼんやりと色んなものが形を成してくる。そして夜の空にも表情がある事に気づく。雲は昼間と同じように動いており、けっしてとどまることはなく、風景は一様ではないのだ。

 

 
山側の空は暗いが、大阪平野側は街の灯が明るいから、それに照らし出される空も明るい。
でも曇っているから、見ようによっては不気味だ。
きっと、そのうち悪魔共が空をヒュンヒュンでワンサカ飛び交いだし、やがて大阪の街は火の海と化すのだ。ψ(`∇´)ψケケケケケ…。

夜の山に一人でいると、ロクなことを考えない。

                         つづく

 
追伸
(ー_ー゛)う〜む。今更ながら武田尾辺りの文章を書いてる時に思い出したよ。すっかり忘れていたが『青春18切符の旅 春』と題した連載が、武田尾駅まで戻ってきたところで中断、っていうか頓挫、第二章の途中でプッツンの未完のまま放ったらかしになっておるのだ。
そっから、またアッチコッチ行って夜桜に繋がるのである。
我ながら割りと面白い紀行文ゆえ、宜しければ読んで下され。そのうち続きも書きます。

次回は後編の夏・秋冬編。
空が写ってる画像はもっと少ないかと思ってたが、意外と多かったので2回に分けることにしたのだ。

 
(註1)春の三大蛾
エゾヨツメ、イボタガ、オオシモフリスズメのこと。

 
【エゾヨツメ】

(2018.4 兵庫県宝塚市)

光の加減によっては、目玉模様がコバルトブルーに光る。

 
【イボタガ】

(2018.4月 兵庫県宝塚市)

デザインに似た者がいない、類を見ない唯一無二の大型蛾。
このモノトーンの幾何学模様には、何度見ても不思議な気持ちにさせられる。多分、その翅には太古の昔の財宝の在り処が示されているに違いない(笑)。

 
【オオシモフリスズメ】

(2018.4 兵庫県宝塚市)

異形の者、化け物、魑魅魍魎。悪魔のステルス戦闘機。
日本最大のスズメガで、鵺の如きに鳴く(笑)。
でも慣れると可愛い(´ω`)

これらはギフチョウと同じく年一回、春先だけに現れ、何れも人気が高い蛾である。
気になる人は、当ブログにて『春の三大蛾祭』とかと題して2017年と2018年の事を分けて書いたので読んでけろ。コミカル・ホラーでっせ(笑)。

 
(註2)カバフキシタバとカマツカ

【カバフキシタバ】

ヤガ科カトカラ属の稀種。主に西日本に局所的に分布する。
カバフキシタバの事もカトカラシリーズで何編か書いている。
そういや最初に書いた『孤高の落ち武者』もコミカル・ホラー的な文章だったかもしれない。

 
【カマツカ】

バラ科の灌木。名前の由来は材が硬くて鎌の束などに使われた事から。

 
(註3)スミナガシ

【♀】

 
【♂】

タテハチョウ科スミナガシ属の中型の蝶。
名前の由来は古(いにしえ)の宮中の遊び「墨流し」から。
日本の蝶の中では唯一、眼が青緑色でストロー(口吻)が紅い。
稀種ではないが、かといって何処にでもいる蝶ではなく、その渋美しい姿からも人気が高い。
たぶん、スミナガシの事もちょくちょく書いてる。でも詳細は全然思い出せないので、自分で自分の書いた文章を検索すると云う変な事になる。
えー、本ブログ内の奄美大島に行った時の紀行文『西へ西へ、南へ南へ』の中に「蒼の洗礼」と題して書いている。アメブロの方の「蝶に魅せられた旅人」には『墨流し』と題して書いている。他には台湾の採集記にも出てくる筈だ。

 
(註4)シルビアシジミ

全国的に数が少なく絶滅危惧種だが、何故か伊丹空港周辺には普通にいる。
シルビアシジミの事も『シルビアの迷宮』と云う長編に書いた。内容はミステリー仕立てだったような気がするけど、あんま憶えてない。

 
(註5)アサマキシタバ

【♂】

(2019.5 奈良県大和郡山市)

 
カトカラの中では発生が最も早く、5月の半ばから現れる。
そのせいなのかはどうかは知らないけど、最も毛深いカトカラだと思う。
採集記と種の解説は、拙ブログのカトカラの連載に『晩春と初夏の狭間にて』『コロナ禍の狭間で』『深甚なるストレッケリィ』と云う題名で、それぞれ前後編の6編を書いた。詳しく知りたい人は、ソチラを読んで下され。
 
 

青春18切符oneday-trip春 第一章(2)

第2話 Spring fairy‐春の妖精‐

 

 
春の女神に会うために4時間半かけ、はるばる大阪からここまでやって来た。

 

 
逸る心で山へと向かう。

 

 
苔むした階段を上がり、登山口に取り付く。
麓ではカタクリの花が保護されているが、女神の姿はない。

 

 
やがて傾斜がキツくなる。去年のことを段々思い出してくる。ナメてたけど、この山は急登続きでキツい事をすっかり忘れてたよ。しかも、尾根まで上がらないとギフチョウはいない。

 

 
ようやく尾根まで登ってきたが、如何にもギフチョウが好きそうな環境なのにナゼか姿が見えない。しかも、もう10時半過ぎだ。彼女たちが活発に飛び回っている時間帯なのに何で❓
早くもヘロヘロになりながら、そう云えば去年もそうだったなと思う。歳を喰うと忘却の人になりがちだ。

暫く歩いたところで、ようやく飛び回る女神が視界をかすめた。
心が沸き立つ。全身がゾワゾワする。この見つけて最初の一振りまでがギフチョウ採りの醍醐味にしてクライマックスだ。
背景に溶け込み、断続的に姿が消えるが、動きを予測して後を追う。
細かくステップを踏みながら、距離を詰めてゆく。
射程内に入った。
最初の一振りで空振りするのは縁起が悪い。コンセントレーションを高める。
しかし、左に飛んだかと思いきや、急に右に進路を変えよった。😨ヤバイと思いつつも、素早く反応して咄嗟に網を左から右へと💥一閃する。

ジャストミートで振り抜いた手応えがあった。
逃亡を防ぐためにすかさず網先を捻り、中を確認する。
網の中で蝶が暴れている。
(ノ`Д´)ノよっしゃ❗GET。
まあまあ天才の、ここぞと云う時の集中力をナメんなよである。
だが、生きたまま取り出すと、翅がやや擦れている。今年は発生が早く、1週間程前から発生していると聞いてはいたが、やはり遅かったか…。

リリースしてやったら、飛んで行かずに地面にふらふらと止まった。ギフチョウ本人も何が起きたかワケ解らず、ショックを受けているのだろう。何だか申し訳ない気持ちになった。ゴメンね。
折角だから写真を撮ることにした。

 

 
これは近い距離だから姿が容易に視認できるけれど、1Мも離れれば、枯葉と同化して姿がかき消える。派手な翅のように見えるが、保護色になっているんだよね。生き物って、よく出来てるよな。

オスだね。
と云うことは、この鮮度だとメスはまだまだ綺麗なものもいそうだ。

写真を撮っていると、立て続けにギフチョウが飛んで来た。
ここは鞍部になっており、どうやら集まって来やすい場所のようだ。

短時間に5頭GETして、鮮度の良い1頭と少し斑紋が変なものをキープして、あとはリリースする。

そうこうしていると、下から4人連れの登山者が上がってきた。
毎度の事ながら、訝り目線が飛んでくる。まあ、大の大人が大きな網を持って立っているんだから、当たり前といえば当たり前のリアクションである。4人のうち一人は男性で「ギフチョウですか?」と声を掛けてきた。「そうです。」と答えていたら、丁度ギフチョウが飛んで来た。
ここで、オバサンたちの前でカッコつけたろと思ったのがイケなかった。派手に思い切り網を振ったら、

 
💥べキッ❗

 
(-_-;)やっちまったな…。
強く振り過ぎて、柄の2段目が折れた。
鮮やかに決めてやろうと云う虚栄心にバチが当たったに違いない。
(눈‸눈)カッコ悪りぃ〜。

既に採っているものをオバサンたちに見せて、何とか体裁を保つ。オバサンたちも喜んでいたから、それでいいじゃないかと自分を慰める。

取り敢えず補修しておこうと、いつもザックに入れっぱなしになっているビニールテープを探すが、無い…。
😥マジかよ❓である。たぶん去年のシーズンが終わって、ザックを洗濯した時に取り出したものと思われる。で、今回は開幕戦ゆえにパッキングする時に入れ忘れたのだろう。又しても、(-_-;)やっちまったな…である。
仕方がないので、殺している1段目に巻いていたビニールテープを剥がす。先程、2段目が折れたと書いたが、正確には3段目が折れたのである。1段目が細いから折れ易いので1段目を殺して2段目と合体させていたのだ。と云うワケで1〜3段目までを合体させる。
しかし試し振りをしたら、連結部の固定が弱くてフニャフニャだ。仕方なく、人差し指と親指を網枠に掛けて残りの指で柄を掴んで振ることにした。ようするに網を伸ばさずに、網の根元を掴んでそのまま左手一本でスウィング、勝負するしかないってワケだ。

早速飛んで来た奴を、すかさず片手一本で居合斬り。
どーじゃ、ワレー( `Д´)ノ、”弘法、筆を選ばず”じゃ❗まあまあ天才をナメなよである❗❗

暫くいたが、やはり鮮度が悪いものが多い。もっと上へ行くことにした。
しかし、どんどん道は急になってゆく。斜度がキツくてロープが張られている箇所も何ヶ所か出てきた。余程さっきの場所に戻ろうかとも思ったが、去年来ているから上にもっと良いポイントがあると知っているだけに戻れない。だいち性格上、今さら引き返すのも癪にさわる。

時々、飛んで来るギフチョウを拾い採りしながら、喘ぎながら登ってゆく。

視界が開けた。

 

 
白山だろうか、遠くに雪を冠した山塊が望見できる。

 

 
眼下には今庄の宿場町が見える。随分と登って来たな。

左側に目を転じると、日野山らしき山容も見える。
その先は武生、鯖江、福井の街だ。一瞬、ノスタルジーが溢れ出しそうになるが、それを振り払うかのように踵を返した。

道は先程でもないが、相変わらず急登が続く。
途中、待望のメスが採れた。

 

 
ギフチョウはオスよりもメスの方が美しい。
特に裏面は、より色鮮やかだ。

 

 
午後12時過ぎ。やっとこさポイントに着く。
予想通りギフチョウは沢山いた。次々と飛んで来る。
しかし、鮮度は特に良くなりはしない。ギフチョウは麓と山頂を往復する蝶だから、当たり前っちゃ当たり前なんだけどね。

段々飽きてきて、惰性でぞんざいに網を振ったら、枠に当たったようで、ふらふら飛んで行って枯枝に止まった。
半ヤラセみたいなものだが、コレ幸いにと写真を撮る。

 

 
それにしても、去年はいたキアゲハを今日は1頭も見ない。
ここではキアゲハの方が珍しい。

 

 

 
(裏面)

 

(2019.4.6)

 
こうして見ると、キアゲハの美しさはギフチョウにも負けてないと思う。少なくともスタイルは負けていない。
でも悲しい哉、普通種。あまり評価されることはない。

午後1時過ぎ、完全に飽きたので下山を開始する。
登りもキツかったが、下りの方がしんどかった。こんなキツイとこ登ってきたのねと、より斜度を実感した。此処は足に自信のない老人は訪れるべきではないだろう。

 

 
途中、辛夷(コブシ)の花が咲いているのに癒やされる。
登りの時に気づかなかったわけではないが、その時はじっくり見てる余裕がなかった。白木蓮も好きだが、たおやかに野で咲く辛夷の方が好きだ。

駅まで下りてきたが、へとへと。体力落ちてる。
福井に行くにせよ敦賀に戻るにせよ、電車の時間まで1時間程あったので、馴染みの蕎麦屋にでも行くかと思った。ここ今庄の蕎麦は「今庄そば」として、つとに有名だ。おろし蕎麦が旨い。しかし、あまり腹が減ってないので、やめにした。

一応、馴染みの蕎麦屋を紹介しておく。

 
【ふる里】

 
何とはない、飾らない店だ。

 

 
店内には、来店したのだろう、名優 宇野重吉の写真が飾ってある。息子は、これまた名優の寺尾聰だね。

 

 
右の、おろし蕎麦を強く推す。
素朴だが、真っ当に旨い。越前そばと云えば、やはりおろし蕎麦に限る。因みに自分は、大根を皮ごと擦ってもらう。その方が辛みが増し、エッジが立つのだ。
婆さんが一人でやってるから、いつ無くなるかワカランので、早めに行かれることをオススメする。

 
宿場町をゆるゆると歩く。

 

 

 

 

 

 
古(いにしえ)の宿場町は風情があるだけでなく、レトロだ。
昭和の匂いが色濃く残っている。

 

 
ここでも桜は花盛りだ。
早朝や夜に見る桜はどこか妖艶だが、昼間に見る桜は、ただただ美しい。

 

 
喉か渇いたので、古い造り酒屋でビールを買って横の長椅子でビールを飲む。
(≧▽≦)プハーッ。歩いたあとのビールは殊の外に旨い。

 

 
平日のせいか、宿場町の人通りは少ない。
時が止まったかのように森閑としてる。
やわらかい光が辺りの景色に陰影をもたらしている。
春だなと、しみじみ思う。

                         つづく

 
一応、この時のギフチョウを展翅したものを並べておきます。

先ずはオス。

 
【ギフチョウ♂】

(2020.4.3 福井県南条郡南越前町今庄)

 
正直言って、ギフチョウの展翅は大嫌いだ。
触角が元々湾曲しているし、先端がびよ〜んと伸びるので整形が難しいのだ。だから真っ直ぐにしづらいし、左右の長さを揃えるのも大変。オマケに長さを合わせる為に無理に先端を伸ばすと、すぐプチッと千切れよる。クソ忌々しいかぎりである。
あとは下翅の赤紋が縮れているので、それを伸ばしてやらないといけない。コレが面倒くさい。でも、やらないと美しさが半減してしまう。

 

 
矮小個体だ。北陸のギフチョウは関西なんかと比べて小さい。そして黒っぽいものが多い。好み的にはデカくて黄色いギフチョウが好きかな。

 

 
ギフチョウの展翅が嫌いな理由を、もう一つ思い出した。
毎年、上下の翅のバランスが分からなくなるのである。二番目は上翅を上げ過ぎだし、一番下のモノなどは寸詰まりになっとる。でも昔の展翅写真なんかは、だいたい寸詰まりだった。触角も真っ直ぐにはされてない。蝶の展翅にもトレンドがあるようである。
自分的には一番最初、冒頭に貼付した画像のようなバランスが好きかな。そのうちまた変わる可能性はあるけど。

 

 
これは越前にしては黄色みが強い個体。

 

 
コレも矮小型だが、尾状突起が短い。

 

 
一方、コチラは尾状突起が長くて細い。しかも左上翅の斑紋に異常がある。ここの黒帯が分断されるのを「H型」と言うらしい。黄色いところがアルファベットのHに見えるからだとさ。

 

 
コヤツは地面に止まった時に変な奴だぞと思って採った。
この辺りのギフチョウとしては黄色い領域が多い。そして赤紋もオレンジ色だ。
良い型なのに、左側の触角がプチッと切れた。こう云う事が起こるから忌々しいのである。

お次はメス。

 
【ギフチョウ♀】

 
メスはオスよりも相対的に大きく、翅が全体的に丸みを帯びる。そして、頭の下の毛が赤っぽい。

 

 
綺麗な個体だなと思ったら、赤紋が上に伸びる「赤上がり」と呼ばれる型だった。
越前ではかなりの数のギフチョウを採っているが、赤上がりは初めて見た。この辺にもいるのね。

それにしても、知らぬうちに結構な数を採ってしまってるね。
殆んどリリースしたから、まさかこんなに採っているとは思わなかった。たぶん網に入れたのは40頭は下らないと思う。だからヘトヘトにもなったのね。

 

青春18切符oneday-trip春 第一章(1)

 
第1話 ノスタルジック・トレイン

 
一回くらいはギフチョウ(註1)を採りに行こうと、金券ショップで青春18切符を探した。
しかし、コロナウィルス騒動の影響か何処も5回分や4回分のチケットばかりだった。それくらいチケットが動いていないのだろう。
6軒目にダメ元で1回分のものはないかと尋ねてみたら、4回分のものを2回分の料金で売ってもいいと持ちかけられた。売れてないから、店としては少しでも金を回収しようと云う苦渋の判断をしたってワケだ。正直、たとえお得でも4回分も要らないと思った。けれど、ふと思い直した。昔の彼女にタダでいいから行こうと誘えばいいじゃないか。最近、無理な頼み事をした事だし、少しは恩返しできるかもしれない。そう考えて買うことにした。値段は5千円くらいだった。

 
2020年 4月3日

早朝、午前5時48分。JR難波駅を出発。
新今宮で環状線に乗り換え、大阪駅へ。
満開の桜が、白み始めた朝の光に仄かに浮かび上がっている。

6時18分発の米原ゆき新快速に乗り換える。
生駒山から朝日が登ってきた。そういえば、こんな時間に女性を生駒方面に車で送ったことがあったな。あの時と同じような日の出だ。
先物取引の会社に勤めていて、とても足が綺麗な女性だった。顔は加藤登紀子だったけど…。

沿線は至る所で桜が満開になっていた。
この時期、満開の桜を見ると必ず「桜の樹の下には屍体が埋まっている。」という梶井基次郎の短編小説の一節を思い出す。
あんなに美しいのは死体を養分としているに違いない。それが人を不安にさせると云うお話だ。
たしかに桜の美しさには、どこか狂気じみた匂いを感じる。狂ったように咲く様は時に凄惨であり、凶々(まがまが)しさと通底しているような気がする。満開の桜には人を惑わせ、狂わせるものがあるのかもしれない。
そういえば満開の桜の下、好きになってはいけない人に告白したことがあったな…。

米原で、敦賀ゆきに乗り換える。
電車は、やがて長浜駅に近づいてゆく。長浜には何度か女性とデートに来たことがある。長浜城に行ったこと、黒壁スクエアでガラス食器作りを体験したこと、有名な親子丼を食ったことが思い返される。その彼女たちも、今では結婚したり、子供を産んでいたりしているのだろう。心に軽い後悔と痛みが走る。

木ノ本駅。ここには古戦場として有名な賤ヶ岳の麓に宿があり、当時の彼女と泊まったことがある。五右衛門風呂で有名な宿で、観音開きのドアのクラシック・カーで送迎してくれたっけ…。新米が美味かったから、たぶん秋だったのだろう。そうだ、宿の前には秋の稲穂がどこまでも続いていて、緩やかな風に揺れていた。

8時40分に敦賀に到着。
しかし、やっちまった。ろくに時刻表を見ずに来たものだから、スタック。福井方面への乗り継ぎ電車まで、あと1時間もある。ギフチョウが飛び始めるのは9時くらいだから、致命的なミスである。1時間以上は出遅れることになる。
まあ悔いたところで、どうにかなるワケでもない。それに、どうしてもギフチョウを採りたいという気分でもない。福井県のギフチョウは何回も採っているのだ。杣山型も特に採りたいとは思っていない。

時間つぶしに駅の外に出る。青春18切符の良いところは、乗り降りが自由な事だ。ただ、ぼおーっと駅で待つのは退屈なだけでなく、間抜けな感じがして耐えられないところがあるから助かる。

先ずは観光案内所に寄って地図を貰い、色々と訊く。
帰りにまた敦賀で降車せねばならない。重要なミッションがあるからだ。

 

 
有名な気比神宮以外にも赤レンガ倉庫とかもあって、結構見所がある。

駅前に大魔神みたいな銅像が建っていた。

 

 
すわっ!大魔神かと心踊ったが、顔があんなに憤怒の形相ではない。だいち片手を上げていて、何だかフランクだ。

 

(出典『紀行歴史遊学』)

 
退屈だし、調べてみることにする。

この銅像は、都怒我阿羅斯等(つぬがあらしと)という朝鮮の人らしい。日本書記には、崇神天皇の時代に角の生えた人物が船で此の地を訪れたと書かれており、その彼が渡来した場所ということで、角鹿(つのが)となり、やがて敦賀(つるが)となったという由来説があるそうだ。

少し歩いてみたが、まだ店は殆んど閉まっていたので、駅の待合室に引き返す。
テレビでは、朝からコロナ関係のニュースで溢れている。この時期に、こんな事してていいのかとも思うが、来てしまったものは仕方がない。今さら帰ったところで、何がどうなると云うワケではないだろう。

午前9時53分。
福井ゆき普通電車に乗る。

南今庄を過ぎ長いトンネルに入った。
突然、想念が過去へと向かって走り出す。
学生の頃、当時の彼女が福井県鯖江に帰省する時に、このトンネル(註2)が怖いとよく言ってた。トンネルを抜けるまでは、毎回とても不安で堪らなくなり、祈るような気持ちになるとも言ってた。実際、過去には大きな事故もあったとも言ってた。
その時の彼女の姿が紗が掛かったように朧気に浮かび、その声や口振りが聞こえたような気がした。

真冬に彼女の実家に行くときに初めてこのトンネルを通ったが、確かに彼女の言う通りだった。人を不安にするに充分な長さだった。10分くらいはトンネルの中を走り続けていた。
そしてトンネルを抜けると、目の前がパッと開け、光を照り返す眩ゆい雪景色が広がった。その時、違う国へと来たんだと実感したんだっけ…。
その後、何度かこのトンネルを通っているが、やはり落ち着かない気持ちに襲われた。トンネルも又、人を不安にさせる。

 

 
午前10時過ぎ、目的地の今庄駅に着いた。
さあ、ノスタルジーとはおさらばして、気持ちを切り替えよう。虫捕りにノスタルジーは必要ない。

                         つづく

 

(註1)ギフチョウ

 
春にのみ現れるアゲハチョウの仲間。
「春の女神」とも呼ばれ、蝶愛好家の間では人気が高い。

 
(註2)このトンネル

北陸トンネルの事。福井県の敦賀市と南条郡南越前町に跨がる複線鉄道トンネル。北陸本線の敦賀〜南今庄駅間に位置し、木ノ芽峠の直下にある。総延長は13,870mもあり、1962年6月10日に開通した。
1972年(昭和47年)に山陽新幹線の六甲トンネルが完成するまでは日本最長のトンネルであった。なお、狭軌の陸上鉄道トンネルとしては2020年時点の今でも日本最長である。

1972年11月6日、北陸トンネルを通過中の急行「きたぐに」の食堂車で火災が発生し、30名の死者、729人もの負傷者を出した。この事故をきっかけに長大トンネル区間を想定した列車の空調、電源設備の安全性改善が進んだと言われている。
また、この事故の前の1969年12月にも北陸トンネルを通過中の寝台特急「日本海」の電源車から出火する事故があったが、運転士の判断で列車をトンネルから脱出させて消火したため死者は出なかった。(Wikipediaの記事からの編集)

 

2017 春の女神に会いにゆく

火曜日(4月4日)に春の女神ギフチョウに会いに行ってきた。

蝶好きにとってはギフチョウは特別な存在である。
年に一度早春に現れ、待ちに待ったシーズンの到来を告げる美しい蝶だからだ。
だから、蝶好きたちは今年はいつ姿を見せるのかとヤキモキするし、どこで開幕戦を迎えようかと思いを巡らせたりもするのだ。
そうなのだ、ギフチョウに会いにゆくということは、謂わばプロ野球の開幕戦みたいなもので、ワクワクが止まらない特別な一戦なのである。

実を言うと、ギフチョウに会うのは新潟県の弥彦以来(註1)だから、二年振りになる。
去年のこの時期はタイとラオスにいたのだ。それだけに久し振りの再会を前に心は沸き立っている。

とここまで書いて、本文に入ろうと思ったのだが、何だかまた長くなりそうだし、面倒臭くなってきた。
それに色々と釈然としない事もあったから、いつもみたいな書き方だと激しく毒づきそうだ。
なのでサラッと書くことにします。

今日は単独ではなくて、珍しく三人組である。
メンバーは最近蝶採りを始めた植村くんとギフマニアの小太郎くんの若者二人だ。

関西から福井方面に向かって、ひた走る。
だが色々あって、9時に着く予定が10時半に南越前町のとある山の麓に着いた。
え~い(ノ-_-)ノ~┻━┻、面倒くせぇ。インターネットでは暗黙のルールらしいから場所を隠そうかとも思ったが、福井県と言えば誰だって知っているポイントだ。今さら勿体ぶってどないすんねん。杣山型で有名な杣山じゃよ、そまやま。

中腹の駐車場に向かって登ってゆくと、青い網が並んでいるのが見えた。既に各々が陣取る場所でギフチョウを待ち構えているのだ。
結構いる。それでも今日は少ない方だろう。初めて来た時は50~60は人が入っていた。
ここ杣山は、杣山型と言われる特異な柄をしたギフチョウが極く稀に出現する事から、全国のギフマニアが集結する場所なのである。
自分は変異に拘る人ではないから、それほど興味は無いが、ギフマニアはこの変異に対する拘りが驚くほど強い。変異だけにとどまらず、全国のギフチョウを都道府県ごと、また産地ごとに集めている人だっているのである。ギフマニア、恐るべし。

車の窓を開けて、挨拶がてらに状況を訊いてゆく。
(◎-◎;)ありゃま。
天気は快晴。気温も上がってきているのに、まだ誰も採れていないらしい。例年に比べて発生が相当遅れているようだ。

嫌な予感がした。この時間になっても1頭も見掛けないということは、ここに居てもそう成果は上がらないだろう。そう読んだ。
二人に別な場所に転戦する事を提案する。判断が遅いと果実は手に入らない。だから、トロい奴が嫌いだ。
そもそもが植村くんに沢山ギフチョウを採ってもらうのが今回の目的の第一義なのだ。特に杣山型に強く拘っているワケではない。それに、杣山でしか杣山型が採れないワケでもなかろう。少ないながらも周辺でも杣山型は採集されていると聞いた事がある。採れる奴は、何処へ行っても採れる。採れない奴は何度杣山に足を運ぼうが採れない。そういうものだ。

休憩がてらに駐車場に車を停める。
降りると、すぐに小太郎くんが飛んでいるギフチョウを見つけた。流石、ギフ好き。気合いが違う。
しかし、女神は木立の中へと消えていった。
気合いが入り過ぎた❓
気合いが入り過ぎると、蝶は殺気を感じて逃げるのだ。蝶も生きる為に必死なのだ。

小太郎くんが言う。
『下のお堂まで様子を見てきてもいいですか?それで居なかったら移動しても構いません。』

どうぞ、どうぞである。姿を見たら、そうもなる。
スイッチの入った小太郎くんの後ろについて皆で尾根を降りてゆく。
だが、傾斜がものスゴくキツい。ここに来るのは6、7年振りだからすっかり忘れていたが、そういえばそうだったわ。

『やめとくわー。』
根性なしはソッコーで降りるのを諦めて、駐車場に戻ることにした。でも、戻ろうと思ったのは根性なしだからだけではない。本能的に下よか上の方がいると感じたのだ。

駐車場横のギフチョウが飛んできそうな場所に入った途端に木立の中を飛んでいるのを発見。
瞬時にアドレナリンが全身を駆け巡る。この感じ、堪んねえ。眠っていた狩猟本能が呼び覚まされる。最近の男の子は小さい時から虫捕りもさせて貰えないから、植物系男子などと呼ばれるのだろう。かわいそう、かわいそう教育なんぞ糞喰らえだ。

んな事は今はどうでもよろし。ι(`ロ´)ノやったるでぇ~。闘争心ギンギンで小走りに追いかける。
だが、前の灌木がブラインドになった。ヤバい。足を速める。
こりゃ見失うパターンだなと思った瞬間、いきなり横から飛び出てきてコチラに向かって飛んできた。
不意を突かれて一瞬あたふたする。

だが体が勝手に動き、反射的に左から右へ払う。
2mくらい先で捌いたから、捕らえたかハズしたかは自分でも半信半疑だ。

網の中を覗く。
(^o^)おっ、いたわ。
俺、やっぱまあまあ天才やわー(笑)

(_)ありゃりゃ、メチャンコちっけー。
福井のギフチョウは小さいとは知ってはいたが、こんなに小さかったっけ❓
そのせいか、いつもなら年度最初の1頭は指が震えたりするのだが、全然そんなことは無かった。

それでも、(* ̄◇)=3ホッとする。
これで少なくともヌル(ドイツ語=採集ゼロ)は無くなった。福井くんだりまでやって来て、全く成果なしで帰るのは悲惨である。
蝶採りに来て、目的の蝶が得られないとマジ落ち込む。それはちよっとした💔失恋くらいの落ち込みようなのだ。
そう、大袈裟ではなく蝶を追い求めるのは恋と同じだ。少なくとも自分にとってはそういうところがある。だから、やめられない。

二人が戻ってきた。
成果なし。
一応、歳上の面目が保たれて胸を撫で下ろす。
蝶採りは勝ち負けじゃないとは思いつつ、やっぱりバカにされるのはイヤだ。裏で下手クソ呼ばわりされるのには耐えられない。無駄にプライドが高いのも困りものだ。

発生が此処より早そうで、しかも数も多そうな越前市の池ポイントへと移動する。
ここは初めて行くポイントだが、数が多いという事は前から聞いていた。だから、一度行ってみたかった場所ではある。

着いて、歩き始めたら上から車が降りてきた。
大木さんだった。7つ採れたと言う。
OK。ここの方がいそうだ。

一時間後に集合と決めて、三人それぞれに散り散りとなる。
初めて来る場所だから何処が良いポイントだか知らない。だから、腕の見せどころでもあるし、宝探しみたい気分で燃える。
けれど、同時に読みを間違えれば能力の無さを露呈してしまうという恐さもあるんだよねえ。
こういう時は、負けず嫌いとか恥を掻きたくないとかという自分の性格を呪うね。周りなんか気にせずマイペースでやればいいのに…。我ながらバカだと思うよ。

杉林を詰めかけて、すぐに踵を返す。
何となく違うと感じたからだ。この勘みたいなのを、いつも大事にしている。勘が悪いと蝶は採れない。

しかし、違う道を奥に向かって歩くも、環境は全然良くない。どうもギフチョウが好む場所とは思えない。
目的の蝶が好む場所を読み取れなければ、出会うことさえ出来ないのが蝶採りである。知識、経験、勘、体力、視力、根性、運動神経、道具やトラップなどの工夫etc…、蝶採りにはあらゆるものが必要とされるのだ。アホでは蝶は採れないんである。

既に時計の針は15分を経過している。
💦焦るで、焦るでぇー。

ようやく良い環境らしき所に出た。
と思ったら、背後から飛んできてスミレの花に止まった。吸蜜にやって来たのである。
難なくゲット。

道はここから上にのぼってゆく。
そのまま進むのは集合時間を考えると、賭けだ。
登りは時間を取られるし、奥に行けば行くほど帰る時間も要する。タイムオーバーになりかねない。自分で1時間後と言っといて、遅刻は許されないだろう。

息を吐き、一旦冷静になって周りを見回してみる。
背後の暗い杉林の奥に簡単に取りつけそうな低い尾根を見つけた。ギフチョウは尾根に集まる習性がある。抜群の環境とまでは言えないが、試してみる価値はありそうだ。

道無き斜面を登って尾根に到達すると、1つ飛んでいた。
これも難なくゲット。さらに尾根を進んでゆく。
だが、すぐに小枝だらけのブッシュになり、前を阻まれた。
左手の谷を見下ろすと、暗い杉林が切れて雑木林になっている。良さげな環境だ。

斜面をズリ降りると、舞う女神の姿が見えた。
盛んに地面を飛び回っている。遠目に見て、どうやらカタクリの花に訪れているようだ。

ここまで書いて、全然サラッとやないやんかと思う。
でも、今さら書いた文章を削除も出来ない。続けよう。

ここで2頭立て続けにゲット。
さらに良い場所を求めて谷を詰める。

1頭追加するも、再び暗い杉林が立ちはだかった。
引き返してカタクリの花が咲くポイントに陣取ることに決めた。ここが一番採れると判断したのだ。

思った通りに次々と飛んで来る。
青い網にも寄ってくる。
6つ追加して計10頭になった。実質30分間で10ならば、まあまあじゃろ。

集合場所に戻る。
各々それなりに採れたようだ。ホッとする。何人かで行く場合は全員が採れないと雰囲気が悪くなるもんね。

車に戻りしなに1頭追加。
やけに赤っぽい黄色だと思ったら、♀だった。
この辺の♀って、こんなに赤っぽかったっけ❓

同じ越前市の神社裏にある有名ポイントへと移動。

ここも有名産地である。
取り敢えず一番近い楽勝ポイントに案内する。
着いたと同時に2頭が飛び、立て続けにバラバラと前後左右から飛んで来る。ギフチョウ交差点だね。
10分程でそれぞれ3頭、計9頭が採れた。

ここで植村くんが、『ニホンセセリモドキがおる❗』と叫んだ。さっきの場所にもいたそうだ。植村くんは蛾屋から蝶屋に転身したという珍しいタイプなのだ。
そういえば蝶屋であり、蛾屋でもある尊敬するMさんが、昔、このニホンセセリモドキを探し回っていると言ってた事があったなあ…。
全くもって蛾には興味が無いが、珍品らしいし、ニホンと名の付くものなんだから、きっと日本だけの固有種だろう。だから一応、どんなもんなのかを見ておきたいと思った。百聞は一見に如かず。

どれ❓どれ❓どれよー❗❓
植村くんの指差す所を見ると、日向ぼっこしているのか地面に止まっている。
えっ⁉、こんなにこんまい奴なの❓
それにミヤマセセリに擬態していると聞いていたが、全然ぽくない。ただの小さい地味な蛾じゃん。

(出典『一寸の虫にも五分の魂』)

因みに飛んでる姿は小さくて速いから、まるで蝿みたいだ。
最初は間違えてコツバメを採っちまう。

上がニホンセセリモドキで、下がコツバメ。
一応、画像を拡大しときますね。

(_)ぶっさあ~。
どうしようもなく、地味で変なカタチー。

充分納得したので、右側奥のポイントへと移動する事にした。
だが、以前とは環境が随分と変わっている事に驚く。
下草がほとんど無いのだ。4年程前に来た時は笹がいたるところに生えていて、カタクリの花も沢山あったのに…。
多分、鹿の食害のせいだろう。全国的に鹿が爆発的に増えているが、政府や自治体はちゃんと対策しているのかね❓
植物が無くなると、それを食う虫は当然減る。ということは、その虫を食う鳥や動物も減るのは自明の理だ。で、結局何もいなくなるのだ。日本の豊かな生態系もそのうち滅ぶで。
でも、それを知ってる人って案外少ないんだよね。
寧ろ虫なんてこの世からいなくなってしまえばいいのにと思ってる人が大半なんだろなあ…。

ギフチョウを採る気も起こらなくなって、セセリモドキの居た場所に戻る。

ワシらのあとに別なオッサンが陣取っていた。
聞けば、一つもギフチョウが飛んで来ないそうである。
同じ場所なのに採れない人は採れない。虫捕りには運も必要なのだ。

オッサンは仕方なくセセリモドキを採り始めた。
ドン臭いオジサマで、せっかく網を被せたのにことごとく網の横から逃げられていた。
見かねて毒瓶をお貸しする。というかワシが取り込んであげました。

でも、見ると自分の採ったのとは何か違う。
あっ、コレってもしかして♀じゃね❓
自分の奴(♂)よりも大きくて、下の黄色い紋が鮮やかだ。こっちの方が遥かにミヤマセセリっぽいし、ちよっと可愛いかも。

完全にギフチョウそっちのけで♀を探し始める。
だが、♂ばっかだ。(`Δ´)フガー。
しかも、戻ってきた小太郎くんが♀を採りよった。
まあ所詮は蛾だから、そんなに悔しくはないんだけど、クソ♂だけなら展翅する気も起こらんやんけ。

でも、見つからん。
そのうち♂さえ全然見なくなった。
所在なくなってきたし、時間はもう午後3時だ。
植村くんに電話して、帰ろうぜと言う。
集合場所で待っていると、下から三人組のオジサマチームが上がってきた。
挨拶すると、何と山口さんだった。
久し振りだ。二年半前の名古屋でのムシャクロツシジミ以来である。気合いの入った蝶採りは、東京からこんな所にまで遠征してくるのである。
このオジサマ、結構ヒドいところがあってイタズラ好きだ。それがどこか茶目っ気がある。だから、面白くて好きだ。こんな生意気な目下にツッこましてくれるしね。

みんなで立ち話をしていると、お連れのオジサマが飛んでいるニホンセセリモドキを見つけてくれた。

難なくゲット。人が見ていると滅多に振り逃さない。人前で外したらカッコ悪いと思うので、集中力が高まるんだろう。
どんだけ自意識が強くて、自己顕示欲が高いねん(笑)

帰りに蕎麦を食いに行く。
福井といえば蕎麦である。せっかく来たんだから、食べない手はない。

今庄の蕎麦屋に入る。
この辺の蕎麦は今庄そばと呼ばれ、ソバの名産地なのだ。

『ふる里』。
田舎そのものの店名だなと思いつつ、中に入る。

何だかよくワカランが、ミニ提灯だらけだ。
で、なぜか遺影みたいな写真が掲げられている。
最初は在りし日の店のオヤジさんかと思った。でも、よく見ると随分と前に亡くなった「宇野重吉」だ。昔、お店に来たのだろう。
えーと、どんな人かと言えば、名優と謳われた役者さんで、「ルビーの指輪」の寺尾聡のお父さんだね。
と言われても、若い子はワカランか…。重吉さんどころか、大ヒット曲のルビーの指輪も俳優・寺尾聡も知らんかもね。

福井で蕎麦といえば「おろしそば」である。
店のオバチャンに訊いても、お奨めはおろしそばだと言うし、迷いなくオーダーすっぺよ。

【おろしそば 650円】
(○○)!!
画像を入れようと思ったら、チャンチャン。
(@
@;)ゲッ、せっかく写メ撮ったのに画像を消しとるやんけー。

このままチャンチャン落ちで終わらしてやろうかしらと思ったが、そうもいくまい。何とか説明します。

え~と、蕎麦に大根おろしがかかってます。
え~と、素っ気ないほどシンプルです。
え~と、蕎麦はかなり細めの田舎蕎麦系です。とは言いつつ、色はそんなに濃くないソバ茶色だす。
え~と、え~と、旨いです❗
歯を心地よく押し返すコシがあって、舌触りがツルツルだ。
入って正解だ。文句なく旨いっす。
因みに大根おろしはそんなに辛くないとです。自分としては、もう少し辛ければ満点と言ってもいいでしょう。

え~と、おしまいです。
チャンチャン。

《追伸》
一応、この日採ったギフチョウをいくつかの展翅画像を添付しておきます。

【杣山産】

形が、やや寸詰まりになったか…。
それにしても、ちよっと黒くねえか❓
この辺の個体って、こんなだっけ❓
昔の標本を調べたら分かりそうだけど、面倒臭いからまあいいや。

【2ヶ所目の越前市の個体 ♂】

こっちが福井の典型的な個体だったっけ…。

【2ヶ所目の個体 ♀】

やはり赤っぽい黄色だわさ。

【3ヶ所目の個体】

次はちよっと下翅を下げ気味にしてみた。

下げ過ぎたか…。
まっ、いっか。

まだまだあるけど、ここで力尽きる。
そもそもが展翅嫌いなのに、ギフチョウの展翅はもっと嫌い。触角がびよ~んと伸びるので整形が上手くいかないのである。

セセリモドキの画像も添付しておきます。
取り敢えず、♂から。

南米のツバメガを展翅した事があるけど、実質的に蛾の展翅をするのは初めてだ。
蛾は前足を前に出して整形するらしい。(_)メンドクセー。

同じく♂。

蛾なだけに胴体がブッとい。
それにしても、蝶とは違うから翅のバランスがワカラン。
触角も矢鱈と細いし、湾曲気味で超メンドクセーよ。
こんなんでエエのんか❓

最後に♀。

こっちの方が紋の色が濃くて、まだしもミヤマセセリに似ている。
と言っても、こんなもん羽を広げたアブラゼミやんか。ブサいくやのぉー。

【註1】新潟県の弥彦以来
前のアメブロの捕虫網の円光シリーズの新潟編に採集紀行があります。題名は何だっけ❓
そうだ、『越後の虎』だ。
暇な人は読んで下され。

捕虫網の円光『越後の虎』
http://ameblo.jp/iga72/entry-12012035619.html