アリストテレスの誤謬

 

  『False hope knight

 

2019年 8月6日。

学生たちは去り、辺りは闇に包まれた。
長野・菅平高原にいる。白馬村で辛酸を舐め、大町市で何とか持ち直して、この地へと移動してきた。

菅平といえば、ラグビーの夏の合宿地としてファンならば誰しもが知っている裏の聖地とも言える地だ。
ゆえに、ポイントと決めた場所には沢山の若いラガーマンたちが夕暮れまでマジ走りでランニングをしていた。
たぶん高校生だろう。地獄の合宿ってところだ。
Ψ( ̄∇ ̄)Ψケケケ、血ヘドを吐くまで走りなはれ。それも時間が経てば、悪い思い出じゃなくなるんだから。

そういうワケで、キッチリ歩いてポイントの概要は下調べしておいた。
狙いはノコメキシタバとハイモンキシタバ、そしてケンモンキシタバである。
ノコメ、ハイモンの食樹のズミ(バラ科リンゴ属)とケンモンの食樹ハルニレ(ニレ科)は既に確認済みである。大町市で溜飲を下げ、流れも良くなってきてる。本日もミッションを遂行して凱歌をあげるつもりだ。まあまあ天才が調子に乗ったら、連戦連勝は当たり前なのだ。
Ψ( ̄∇ ̄)Ψおほほ星人が見える時は強いぜ、バーロー。

日没直後、ズミが多くあるところとハルニレだと思われる大木の周りに糖蜜を吹き付けてゆく。

暫くしてハルニレの大木前の木に、早速ケンモンらしき上翅の一部が白っぽいのがやって来た。

しゃあーι(`ロ´)ノ
余裕でシバく。

 
(2019.8.6 長野県菅平高原)

 
【同裏面】

 
幸先良いスタートだ。
その後、ピンチもそこそこ有りいのだったけど、持ち前の引きの強さでミッションを完遂した。
と、その時は思った…。
翌朝、それを蛾の若手ホープの小林真央くんにLINEで報告したら、「五十嵐さん、ケンモンと言ってるのはワモンですよ。」という衝撃の返信が返ってきた。
慌てて、送った画像を凝視する。

ガビ━━━━━ Σ( ̄ロ ̄lll) ━━━━━ン❗❗

おっしゃる通り、紛れもないワモンキシタバだった。
( ; ゜Д゜)何で❓、(;゜∀゜)何で❓
一瞬、狐に摘ままれたように(・o・)キョトンとする。もしかしたら、闇のイタズラ者ゴブリンにすり替えられたとか❓

暫く考えて得心がいく。
先ず、こんな時期にワモンがいるなんて云う概念が全く無かったのだ。続・ワモンキシタバ『欠けてゆく月』の回でも書いたように、関西では6月後半になるとボロばっかなのだ。8月にまさか鮮度の良いワモンがいるだなんて全く頭に無かった。ゆえに、てっきりケンモンだと思ってしまったのだった。

ワモンがズミも食樹としていると云うのも、完全に失念していた。ワモンの食樹といえば、関西ではウメ、スモモというイメージが強い。関西にはズミなんて殆んど生えてないのだ。

とはいえ、メチャクチャ格好悪い。
我ながら情けない事、この上ない。
でもさあ…、ネット見たら同じ間違いをしてる人が何人かいるじゃないか。アホなのは、ワシだけではないのだ。ちょっとだけホッとする。

考えてみれば、あのソクラテスやプラトンに並ぶ偉大な哲学者アリストテレスだって、現在ではその考えに多くの誤りがあるとされているのだ(註1)。ワシみたいな凡人が間違うのも当たり前じゃないか、(# ̄З ̄)ブー。

こういうのをボーンヘッドという。
コレで意気消沈。運が逃げて再びスランプに陥っていったのだった。ぽよよ( ;∀;)

                    おしまい

 
その時採ったヤツの展翅画像を載せておこう。

 
【ワモンキシタバ Catocala xarippe】

 
2頭とも♀である。
今年、関西では綺麗な♀が採れなかったので、まっいっか…。

 
追伸
今回は、謂わば『続・続 ワモンキシタバ』だすなあ。
メインタイトルも最初はそうしてた。でも何か気に入らなくて、現在のタイトルに変えた。

サブタイトルは、フォールス・ホープ・ナイトと読みます。
意味は「ぬか喜び」や「あらぬ期待」といったところ。
“false”は「間違った」「事実に反する」「偽った」などで、”hope”は「期待」「希望」。ナイトは「夜」ではなくて「騎士」の方です。意訳すると、「糠喜び侍」だ。
あっ、今にして思えばタイトルは「フォールス・ホープ・サムライ」にしても良かったな。直さないけど。
えっ?、騎士は馬に乗っているとな。「あんた、馬に乗って虫採りしとるんかい❓」とツッコミが入りそうだが、騎士は中世ヨーロッパにおける戦士階級の呼称、総称としても使われている。領主に仕え、武芸・礼節などの修業を通じて、騎士道を実践したものは皆ナイト(騎士)なのだよ。

メインタイトルについて誤解のないように言っとくと、流石に自分を偉大な哲学者アリストテレスになぞらえるだなんて不遜な考えはない。そこはシッカリ言っときますね。

何か、やっぱ調子悪いなあ…。あんま納得いく文章が書けないや。

 
(註1)アリストテレスの考えの誤り
誤謬の多さにもかかわらず、その知的巨人さゆえに、またキリスト教との結びつきにおいて宗教的権威付けがされたため、彼の知的体系全体が中世を通じ疑われることなく崇拝の対象となった。これが後にガリレオ・ガリレイの悲劇を生む要因ともなる。
中世の知的世界はアリストテレスがあまりにも大きな権威を得たがゆえ、誤った権威主義的の知の体系化がなされた。しかし、その後これが崩壊することで近代科学の基礎が確立し、人間の歴史は大きく進歩したとも言われる。
補足すると、アリストテレスの誤りの原因は、もっぱら思弁に基づいた頭で作り上げた理論でしかなく、事実に立脚していなかった。それゆえ近代科学によって理論の崩壊をみたが、それがその後に「Fact finding(事実を見出だしてゆくこと)」が新しい原理となったとする見解がある。