三日月の女神・紫檀の魁偉ー完結編

 
 
第3話である。ようやく完結編だけんね。今度こそ、ちゃんとクロージングさせまっせ。

 
思えば、シンジュサンにはまさかの惨敗に次ぐ惨敗だった…。

 
2018年 6月7日。
この日は午後3時くらいに東大阪市の枚岡公園に出掛けた。ウラジロミドリシジミの様子を見るためである。
まだウラジロミドリを採ったことが無いという中学生に会ったので、ポイントに案内してあげる。
今どき虫採りをしている若者なんざ絶滅危惧種だから、大事にしないといけんのだ。

しかし、個体数は例年よりも多いものの発生が早かったようで、既に傷んだ個体ばかりだった。
それでも中学生は採って感激してくれていた。自分も最初の1頭には震えた事を思い出した。
フィリップ・マーロウの言葉を借りれば、『初めてのキスには魔力がある。2度めには、ずっとしていたくなる。だが、3度めには感激がない。』である(註1)。最初の1頭にこそ価値があるのだ。少々羽が破れていても関係ない。もちろん完品が望ましいが、ファーストインプレッションは必ずしもそうであることが絶対条件にはならない。
どうあれ、よかった。百聞は一見にしかず。狙った虫は、採らなきゃ何も始まらないのだ。虫捕りは恋愛とよく似ているかもね。

 
夕陽を眺める男女を囃し立てて写真を撮らしてもらい、山をおりる。

 

 
枚岡公園から転戦。今宵も矢田丘陵へ。
そう、又しても懲りずにシンジュサンを求めての灯火巡りなのだ。何としてでも6連敗は阻まねばならぬ。これ以上の連敗は自信喪失、心がポッキリと折れかねない(現在のヤクルトスワローズみたいに15連敗もしたら、虫採りなんかやめるね)。

名前がワカランがスタイリッシュで、シャレ乙な蛾がいた(註2)。

 

 
採るかどうか迷ったが、そのままにしておく。
邪魔くさいので、チビッ子蛾はフル無視なのだ。

小太郎くんがコチラに来る道中でバカでかいスッポンを拾ってきた。

 

 
写真はビニール袋を破って逃亡を企てている様子。
持ってみたら驚くほど重かった。このデカさは主(ぬし)クラスだわさ。売ったら、相当な値がつくだろう。

スッポンはスープが絶品なんだよなあと呟いたら、
小太郎くんが『さばきます?』と言ってきた。
(゜ロ゜;ノ)ノそれは絶対無理❗❗

夜10時半。
ヒマ潰しに樹液ポイントを回って戻ってきたら、柱に見慣れぬ蛾が止まっていた。
(;゜∀゜)あっ!、もしかしてカトカラ❗❓
何となく勘でそう思った。

 

 
採って裏返したら、特徴的な黄色と黒の縞々模様がある。やはりカトカラくん(キシタバの仲間)だった。

 

 
キシタバはカッコ渋美しいから嫌いじゃないけど、正直どうだっていい。今はシンジュサン以外は眼中にない。あとは皆、所詮は雑魚だ。
袖にされまくって、いつしか心はシンジュサンに奪われている。そう、恋い焦がれていると言ってもいい。
世の中の、うら若き女子に告ぐ。口説いてくる男子は1回は振っておきましょう。さすれば、バカな男子は貴方により熱を上げまするぞ。2回目のアプローチが無くとも責任持たないけどさ(^o^)

 
気温が高くなってきたせいか、格段に飛来する蛾の種類数と個体数が増えてきている。

 

 
これはトモエガの仲間(註3)だね。
昔は感覚的に気持ち悪かったけど、今や蛾に対する免疫も少しづつ出来てきたので初ゲットしてみる。

 

 
わっΣ(゜Д゜)、裏が鮮やかな紅(くれない)なのね。
紅蓮の🔥炎じゃよ。地獄の業火の色だ。この感じ、まるで地獄の使者みたいじゃないか。
でも同時に素直に美しいと思う。今まで飛び退いてて、ゴメ~ン。

そういえば、台湾に蒼くて糞カッコイイ綺麗なトモエガがいるみたいなんだよね(註4)。生来の青好きとしては、あれはマジで採りたい。でも、名前も何処へ行けば採れるのかもワカラン。アレに会えたら、蛾世界にも素直に入っていけるかもしれんのにのぅ(# ̄З ̄)。
きっと人生には、時に何かを飛び越えるキーワードとか、切っ掛けが必要なんだよね。

  
時刻は既に午後11時を過ぎている。
車が無いので、本来ならば帰らないといけない時刻だ。しかし、今日は背水の陣で臨んでいる。朝まで粘ると決めた。ここまでくれば、もう意地である。執念が無ければ欲しいものは手に入らない。

午前0時前。
小太郎くんとしゃがみこんで、網に入れたクソ蛾についてグダクダ言っている時だった。
視界の端で何かが飛んだ。と同時に『来た❗❗』と叫んでクソ蛾を網に入れたまま走り出していた。💨猛ダッシュだ。久々に体内でアドレナリンが💥爆発しているのが自分でも解る。

夜空に、恋い焦がれていたシンジュサンが舞っていた。
だが、思ってた以上に飛翔速度が速い。しかも、飛ぶ軌道がメチャクチャだ。
背後に小太郎くんがいる気配を背中で感じる。ここで振り逃がしたら笑い者だ。何があってもハズせない。それに、もしハズせばグダクダとあーだこーだと言いワケしかねない。いや、絶対するに決まっている。そうなれば、そこにどう正当な理由があろうともカッコ悪いことには変わらない。結果を出さなければ、クソだ。
緊張と慎重の狭間で構える。脳が躊躇はするなと命令する。両肩にグッと力が入る。距離を詰めた。迷いは禁物だと肝に命ずる。スウィングの始まった瞬間に目の前で左下に急降下した。内角を抉ってくるシンカーの軌道だ。(|| ゜Д゜)えっ、マジ❗❓
その落ち際を💥一閃、左から右へと振り抜く。スローモーションでターゲットがネットに吸い込まれてゆく。すかさず網を捻り、逃亡を防ぐ。
乾坤一擲。鬼神の如き網さばきで、一振りで鮮やかに決めた。超気持ちイイー。
 
しかし、クソ蛾とシンジュサンの両方が網の中で暴れており、(;゜0゜)わっ💦、(;゜0゜)わっ💦、(@_@;)わっ💦、あたふたする。
『どっち❓、どっち❓どっちを先に〆たらいいのー❓』
軽くパニくっちゃってて、小太郎くんにワケのワカランことをのたまってしまう。
『何言ってるんすかー❗❓ クソ蛾よか当然シンジュサンでしょうよ。』
( ・∇・)☝そりゃ、そーだー。
クソ蛾なんぞ、どうなってもいい。2匹が絡んでシンジュサンの羽が傷んだらエライコッチャである。何ならクソ蛾の方は踏みつけて、それを阻止したっていいのだ。
でも、そこまで悪人にはなれないので、手で網を押さえて両者を分かち、その間に小太郎くんにアンモニア注射を打ってもらう。

💉ブチュー❗
一発で👼昇天じゃよ。
虫屋って、やってることがマッドで変態やなあ。

網から取り出す。この僅かな時間がもどかしい。でも同時にその刹那は歓喜へ通ずるプレリュードでもある。

そっと手のひらに乗せる。

 

 
💕やっと会えたよ、シンジュサン。
全身に多幸感がゆっくりと広がってゆく。
4枚の羽一つ一つに三日月紋が配されているね。
シンジュサンの学名の小種名は「cynthia(シンシア)」。ギリシア神話の月の女神に由来している。だったら、神が遣(つか)わし三日月の女神だね。

狙った獲物をシバいた時の❤エクスタシーは堪んないよね。これこそが虫捕りの醍醐味じゃけぇ。
(о´∀`о)ぽわ~ん。我、今年最初の多幸感に包まれり。

『いやあー、普段はチンタラしてるのに、マジ反応早かったですねー。しかもダッシュが半端なく🚀ロケットスタートでしたわ。』
小太郎くんが笑いながら言う。
誉め言葉と取ろう。小太郎くん、蛾好きでもないのに付き合ってくれてアリガトねー。

とにかくコレで何とか一つの種の連敗記録の更新を免れた。5連敗したのはキリシマミドリシジミとコヤツだけ。2連敗したのが、ベニモンカラスシジミとタカネキマダラセセリで、あとは運と引きの強さで全部その日のうちに仕留めてきたのだ。打たれ慣れてないから泣きそうだったけど、これでまたヘラヘラ笑えるよ。

初の出会いの興奮が醒めやらぬうちに、シンジュサンは立て続けに飛んできた。
 
2頭目はデカかった。
さすが日本で2番目に大きいと言われる蛾だ。
羽の厳(いか)ついデザインも相俟って、魁偉と言ってもいい姿かたちだろう。
とはいえ、冷静に見れば、想像してた程の大きさではない。他のヤママユガ科の蛾たちと比べて胴体が細く、羽も薄いので、やや迫力に欠けるきらいがある。ヤママユの方が羽が分厚いし、腹もぽってりで迫力がある気がする。厳ついとかゴツいというよりも、寧ろ優美かもしんない。
いや待てよ。それはあくまでも見る側の視点の置き所にすぎないだけかも…。蛾を怖れる女子やお子ちゃまにとっては、充分恐ろしい姿に見える筈だ。ならば、やはり魁偉と言えよう。

そして、更に続けて飛んで来たのは、何じゃこりゃのチビッ子シンジュサン。大きさにかなりの個体差があるのに驚く。

 

 
他のヤママユガ科の蛾は、だいたい大きさが揃っている印象があるのだが、コヤツらは大きさに落差があり過ぎる(註5)。

午前0時前から約30分間で怒濤の計5頭が飛来。
その後、パッタリと来なくなって、やがて朝を迎えた。
明けてくる菫色の空が美しかった。
爽やかな微風が頬を撫で、背後の森の木々たちを静かに揺らした。
それを合図かのように立ち上がり、駅へとゆっくりと歩き始めた。

 
                 おしまい

 
追伸
ゲットして、懐中電灯を照して撮った写真があまりにも酷くて、全然その美しさが伝わってないような気がする。
と云うわけで、自然光で撮りなおした。

 

 
灯火の下ではオリーブグリーンに見えたが、こうして日の光のもとで見ると、だいぶと印象が変わる。
エレガントだ。何ともいえない淡い赤紫に惚れ惚れとする。でも単純な赤紫色ではない。もっと相応しい色の表現がある筈だ。
そして思い浮かんだのが、紫檀色。これは高級タンスなんかにもよく使われる紫檀(したん)の木の色から来ている。紫檀色って、ちょっと高貴な感じがしてピッタリじゃないか。

 
(出展『伝統色のいろは』)

 
(-_-;)むぅー、でもシンジュサンの写真の色と見比べてみると、違うなあ…。頭の中の記憶ではこういう色に見えた筈なんだけどなぁ…。写真の映りが悪いのか、それとも脳内で勝手に色を増幅させたのかにゃあ…。
ι(`ロ´)ノえーい、この際そんな事どっちだっていい。わたしゃ、イメージ重視の人なのだ。記憶の中の色こそが、リアルな色だ。

因みに、紫檀の木は英名をローズウッドという。
今はコチラの呼び名の方が、紫檀よりもポピュラーかもしんない。

 
(出展『伝統色のいろは』)

 
木の方は更に赤く見える。
けど、これは木にもよるだろう。
例えば、こんなのもあった。

 
(出展『エコロキア』)

 
噺は変わって、羽の先は鉤状に湾曲している。

 

 

 
コレを蛇、もしくは蛇の頭の形に擬態しているとする説が誠にしやかに流布されているが、ホントかよ❓と思う。
んなもんで、鳥が騙されてくれるかね❓それって、無理からでねーの❓所詮は言い出した人の願望であって、こじつけじゃねえの❓
日本の学者とか研究者は、何でもかんでも擬態にしたかる傾向があるような気がするんだけど、おいらの思い過ごしかなあ…。

それにしても、この個体だけ腹ボテで群を抜いてデカいから、てっきりメスだとばかり思ってたけど、触角の形はオスなんだよなあ…。オカマかえ?
たぶん、♂だとは思うけどさ。去年は♀が採れてないから、今年は採らんといかんな。

それでは、恒例の(´・ω・`)もふぅ~。

 

 
🐰うさぴょんみたいだ。
シンジュサンもヤママユの仲間なので、もふ度は高しで可愛いい。前足とか、もこもこやんか💕

 
(註1)フィリップ・マーロウ「初めてのキスには魔力がある…」

レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説の主人公の名前。セリフはハードボイルド小説の金字塔『長いお別れ』の中でのもの。

 
(註2)シャレ乙な蛾がいた
アカスジシロコケガというコケガの1種かと思われる。
美しいが、特に珍しいモノではないようだ。

 
(註3)トモエガの仲間

【ハグルマトモエ Spirama helicina ♀】

 
分類はヤガ科(Noctuidae) シタバガ亜科(Catocalinae) Spirama属とある。
漢字にすると、おそらく「歯車巴」と書くのだろう。
歯車みたいな巴紋をもつ蛾ってことだろね。

トモエガの仲間としたのは、この時点ではハグルマトモエとオスグロトモエの♀との区別がつかなかったからだ。両者は、ホントよく似ているんである。

 
【オスグロトモエ ♀】
(出展『北茨城周辺の生き物』)

 
違いはハグルマトモエと比べて巴紋がやや小さくて、全体的にメリハリがないところ。

 
(註4)台湾の糞カッコイイ青いトモエガ

調べたら、Erebus albicincta obscurata という蛾らしい。台湾名は「玉邊目夜蛾」「玉邊目裳蛾」「白邊魔目夜蛾」など複数があるようだ。

 
(出展『Wikimedia commons』)

(出展『Xuite日誌 随意窩』)

 
バリ、カッケー( ☆∀☆)
結構珍しい蛾のようで、そこそこ高い標高に生息しているみたいだ。誰か採れる場所と採り方を教えてけれ。

(註5)大きさに落差が有りすぎる

 
大人と中学生と小学生くらいに大きさが違う。
自然状態でコレくらい個体差がある鱗翅目って、他にあったっけ❓
たぶん、いる筈だが、ちょっと浮かばない。

ついでに各々の展翅写真も添付しておこう。

 

 
上から大中小である。
それにしても展翅が酷いね。特に1頭目は最初にした展翅だから、上翅を上げすぎてる。慣れない蛾の展翅でバランスがワカランかったのさ。以下、少しづつマシになってゆくのは、上の順の時系列で展翅したから。それがそのまま出ている。パープリンといえど、ちょっとは学習能力があるんである。
今年採れたら、もう少しマシな展翅しよっと。

ついでに展翅板から外した画像も添付しとくか。

 

 
バランスはそんなに悪くはないんだけど、やっぱダメだな。

この日は全部で5頭飛来したのだが、1頭は小太郎くんが持ち帰った。残りの1頭は羽が結構破れていたので展翅していない。修復用にとってあるのだ。けど、こんだけ大きさが違うと、使えんのかね?
この蛾、飛び方の軌道が無茶苦茶で雑い。すぐ地面に落ちて暴れまわるし、木々の中を縫うようにして飛ぶ。おまけに羽が薄いときてる。ゆえに羽が損傷しやすいのだろう。小太郎くん曰く、中々完品に出会えないというのは、そういう事からだろう。

生態面を付け加えておくと、灯火への飛来はこの日が一番多く、他の日は全部1頭のみの飛来だった。何れも飛来時間は遅く、午後11時から午前4時の間であった。
で、後日採れたのは、全て羽が破れていた。採集適期は短いと思われる。

さあ、これでやっとカトカラシリーズに取りかかれる。乞う、御期待あるよ(^o^)

  

三日月の女神・紫檀の魁偉~泥濘編

思えば、去年シンジュサンには振り回された。
普通種だとナメてかかってたけど、連敗に次ぐ連敗で、ボコられたんだよなあ…。

 
5月22日、最初は生駒山地南端の信貴山に行った。

 

 
オオシモフリスズメの記録が多いし、有名なお寺に灯火があると睨んだからだ。
しかし、その殆んどは L.E.D.に替わっていた。

 

 
山頂部に僅かに残る蛍光灯で待つが全然ダメだった。
それで思い出したんだけど、この日は日没後しばらくしてフランス人のオバチャンが登ってきて、網を持ってるオラに英語で『何してるの❓』と尋ねてきた。

 

 
アンタこそ、こんな時間に何してんの❓と思いつつも、素直に『蛾を探してます。』と答えたら、『トレビア~ーン💮』と言われたのだった。
暫し会話して、最後に一緒に記念撮影を求められてパシャ&バイバイ👋。何だかよくワカンなかったけど楽しかったよ。それにしても、フランス人は、オバチャンでもスタイルいいよなあ。所詮、東洋人はネオテニーなのさ。

そういえば若い頃にユーラシア大陸をバイクで横断した時にも、フランス人に同じセリフを言われたっけ…。
たぶんフランスのロワール地方の古城だったと思う。

『OHー、サムラーイ( ☆∀☆)❗トリビア~ン❗』

古城内にベルナール・ビュッフェの小規模なギャラリーがあって、そこで太ったオッサンに目を丸くして言われたのだった。
当時はモトクロス用のプロテクターを着ていたので、それが戦国武将の甲冑にでも見えたのだろう。
一応、笑いながら『この無礼者がっ!』と言ってやった。日本語だから意味なんぞ解るワケがないのだ。
旅では、その後も何度かフランス人にトレビアーンと言われた。エアでバッサリ斬ってやったこともあった。もちろんフランス人は関西人ではないので、『ぎゃあ~。』とか言ってその場で倒れてはくれない。ゆえに、すかさず『It was only joking.』とフォローせねばならないのは言うまでもない。
まあ、フランス人にトレビアンと言われた日本人はそうはいないと思うよ

10時過ぎまで粘ったが、時間の無駄だった。当然、帰りのバスは既に無く、三郷駅まで歩かざるおえなかった。長い坂道を終電に間に合うよう足早に歩く。
駅まであと少しといったところで、コンビニの駐車場の強烈なライトに大きな影が舞った。
ぬおっ( ̄□||||❗❗、一瞬、目に入ったその形は、メモリーされているシンジュサン特有の鉤状に出っ張った羽先に見えた。
Ψ( ̄∇ ̄)Ψおほほのほ、さすが引きの強いオレ様だい。毎度の事ながら、最後の最後にチャンスが舞い降りてきたぜ(^o^)v
強く願う心と諦めないハートを持ち続ける者だけに、神様は幸運をプレゼントしてくれるのだ。
でもコンビニに行くには目の前の道路を横断しなければならない。しかし、タイミングの悪いことに右手から車が近づいてきていて、渡りたくとも渡れない。ざわつく心で車の通過を待って、軽くダッシュ💨する。全速力ではなかったのは、余裕のヨッちゃん、どこかでもう採ったも同然の気分になっていたからだ。ドラマチックなフィナーレを想像して、おっちゃん、ヘラヘラ笑いになっていたのである。

(・。・;あれっ❓……。
しかし、いる筈のシンジュサンの姿がない。そこには、ただ強烈な光だけが在った。そう、跡形もなく忽然と消えていたのだ。慌てて周囲を見渡す。だが、やはり飛んでいる姿はどこにも無い。目を切ったのは5秒くらいだ。狐に摘ままれた気分で呆然とその場に立ち尽くす。
願望が強過ぎて幻覚でも見たのだろうか❓バカな…。にしてはリアルすぎる。

暫く此処で待とうか…。
咄嗟に腕時計に目をやると、終電の時刻が迫っていた。5分くらいは余裕があるかもしれないが、初めて来る土地だ、何があるかワカラナイ。少しでも道を間違えたら、乗り遅れかねない。ギリは避けたい。
漆黒の夜空を恨めしげに見上げる。大きな溜め息を一つ吐(つ)き、駅へと歩き出した。

惨敗だったが、でもこの時はまだ心に余裕があって、そのうち楽勝で採れると思ってた。

 
翌23日、再び三郷のコンビニを訪れた。リベンジである。しかし、天気予報に裏切られて、着いて間もなく雨が落ちてきた。小雨の中、周囲を探索するも、クソ蛾すらいなくて、リベンジどころか返り討ちの憂き目にあう。

 
5月27日は知り合いの姉さんと京都に蛍を見に行った。ついでにちょっとだけ探したが、見つからず。

 

 
おまけに蛍も見れず、晩飯を食って帰った。
ぽろぽろ( ;∀;)、何でおらんのん❓

 
5月29日は矢田丘陵方面に行ったが、見ず。
食樹のクロガネモチがギョーサン有るのに、気持ち悪いエダシャクしかおらん。(=`ェ´=)死ねや、ワレ。

 

 
何でやねん❗❓(/´△`\)
次第に焦燥に駆られる。

  
6月1日には八尾市楽音寺の大阪経済法科大学に行った。
ついでにウラジロミドリシジミの様子も見てやろうと云う算段である。
🚲キコキコキコキコー。しかも、ママちゃりで。バリ、遠かったよ。

 
【ウラジロミドリシジミ ♂】
(2013.6.10 東大阪市枚岡公園)

(2014.6.2 兵庫県猪名川町上阿古谷)

  
しかし、なぜか夕暮れになってもウラジロミドリは姿を見せなかった。
フライング❓でも今年は発生が早いと聞いていたのになあ…。

 

 
ミズイロオナガシジミしかおらず、手乗りさせて遊んでいるうちに日が暮れた。

 
【ミズイロオナガシジミ】

 
青のグラディエーションが美しい黄昏だった。
この時間帯の空が一番好きだ。心がスゥーッと落ち着く。

 

 
しかし、照明は全部 L.E.D.で、お話にもならなかった。成果、ゼロやんけ(ー。ー#)

 
6月3日は京都・南禅寺界隈に行った。そこにシンジュサンの食樹の一つであるカラスザンショウが沢山生えていると云う情報を得たからだ。
また、ここは佳蝶キマダラルリツバメの有名産地でもある。久し振りにキマルリにも会いたいし、上手くいけば一石二鳥だ。キマルリも採れて大団円で凱旋ってな展開を密かに思い描いていた。

 
【キマダラルリツバメ】

(裏面)
(2016.6.18 兵庫県神鍋高原)

 
けんど、又しても惨敗(ToT)
なぜかキマルリも1頭も飛んで来なかった。

 

 
この日も美しい黄昏だけが慰めだった。

これで5連敗だ。真剣には探してない蛍の時も入れれば6連敗である。虫採りで5連敗もしたのは、いまだかつてキリシマミドリシジミだけしかいない。まさかシンジュサンで再び喰らうとは夢にも思わなかった。
シンジュサンって、本当に普通種かよ❓もしかして、昔、普通種。今は激減してて絶滅危惧種とかじゃねえだろうなー。
悔しいやら情けないやらで、なんか半泣きになってきたよ。

今回で、蛾の採集は蝶よりも難しいと痛感した。
蝶と比べて蛾の情報量は圧倒的に少ないし、昼間飛ぶ蛾以外は飛んでいるのを見つけるのは至難だ。当たり前だが、夜は暗いのだ。だから、見つけるには灯火に飛来したものを探すか、花や樹液で待ち伏せするしかない。されど今は照明の殆んどが、L.E.D.に替わってしまっている。昆虫は紫外線の多い水銀灯や蛍光灯にしか寄ってこないのだ。L.E.D.はああ見えて紫外線量が少ないのだ。蛾を忌み嫌っている頃は有り難かったけど、まさか蛾を採る事になろうとはなあ…。青天の霹靂だよ。
また、花や樹液での採集はシンジュサンには無効だ。彼らは口が退化しており、食物を摂らないのだ。

シンジュサンどころか、ウラジロミドリやキマルリにもフラれ、挙げ句に蛍まで見れないなんて酷すぎる。
憂鬱だ。暗憺たる気分になってくる。
けれど、逃げるワケにはいかない。そんなもんはオラのプライドが許さないのだ。心を硬質化させ、いよいよ背水の陣で臨まねばならぬ。
帰り道、ヒロユキは死ね死ね団の歌を口ずさみながらママちゃりを漕ぎ漕ぎ、強くリベンジを誓ったのであった。
ゼッテー、シバく(*`Д´)ノ❗❗
 
 
                   つづく

 
追伸
2回で終わる筈だったが、終わらん。
原因は最初にメインの後半を書いてから、前半部に取り掛かったからだ。ようするに、前半が思いの外に長くなったので力尽きたのだ。
長い間ソリッドな文章を書いていないので、書けなくなっている。実を言うと、文章は短い方が書くのが難しい。長々とウダウダしか書けないのは、才能の無い証拠なんである。

えー、そう云うワケで、次回は必ずや完結させまする。

 

三日月の女神・紫檀の魁偉

 

先日、新たな連載『2018′ カトカラ元年』の第1回 プロローグ編を上梓した。
勢いで、そのまま本題である第2話をあらかた書き終えたところで、はたと筆が止まった。文章の流れ上、お題のカトカラの前にシンジュサンの事を書かねばならぬと強く思ったのだ。

シンジュサンを追いかけ始めた切っ掛けは単純だった。
幼少の頃から蛾は苦手だったけど、なぜかヤママユの仲間はそれほど恐くはなかった。これはたぶん、怪獣モスラの影響だろう。モスラは怪獣界のアイドル。いい奴なんである。モスラって、どこか健気だしねぇ。それが知らぬうちに良いイメージへと繋がっていたのだろう。
それゆえ小さい頃に、恐る恐るではあったが、巨大なヤママユやクスサン、オオミズアオ(註1)を採ったことがある。そこに2017年、春の三大蛾の一つであるエゾヨツメが加わった。その美しきブルーアイズ、青い眼状紋にヤママユ系への興味がグッと湧いたのだった。
それに、ヤママユの仲間は日本にはそんなに種類がいない(註2)。コンプリートするとしたら、比較的容易だ。沼にハマるにしても、底無しではない。但し、海外産に手を出さなければの話だけど…。

兎に角、日本にいるヤママユの仲間で、まだ見たことのない奴らを見てやろうと思った。何でも同じだ。実物を見ないと本当のことは解らないのだ。
このグループには大珍品はいなくて、大概は肩肘張らずに何とかなるレベルだ。ヒマつぶしくらいにはなるだろう。ゆる~い気持ちで、先ずはシンジュサンから始めることにした。

しかし、そうおいそれとはいかなかった。
思えば、シンジュサンにはまさかの惨敗に次ぐ惨敗だった…。

本章に入る前に、シンジュサンについて、ザッと解説しておこう。

子供の頃、最初はシンジュサンのサンは山田さんとか田中さんのさんだと思ってた。ようするにガキの頃から、どうしようもないおバカさんだったのである。
でも、後にこのサンは養蚕のサンのことだと知った。これはヤママユ系の仲間が、繭から生糸をとる蚕(カイコ)さんとか、その原種(註3)と親戚筋にあたるからだろう。
とはいえ、カイコは謂わば人間が作った絹糸製造マシーンで、人が長い歴史の中で改良に改良を重ねて完成させた半人工物だ。だから飛べねぇし、自然界には存在しない。
日本では、カイコ以外の野外で生糸のとれる蛾、繭、また生糸そのものを野蚕といい、ヤママユやウスタビガの繭で作った織物は、超がつく高級品だそうである。

一方、シンジュサンのシンジュは、ずっと真珠のことだと思っていた。真珠みたいに綺麗だからと解釈していたのだ。実際、羽の一部に白やピンクっぽいところがあるしさ。でも、それもハズレ。去年に、それが真珠ではなく、神樹だと知った。だから、シンジュサンのことを漢字では「神樹蚕」と書く。他に「樗蚕」の字をあてがう事もあるようだ。
シンジュサンの語源は、幼虫がこのシンジュ(神樹)を食餌植物としていることから来ている。
神の樹って、スゲーな。神の樹の葉を食うから、神の蛾じゃん❗真珠よか、神の方が上っしょ❓寧ろグレイドアップになってまんがな。

しかし、突っ込んで調べてみたら、あらあらである。
『京都園芸倶楽部のブログ』には、こう書いてあった(申し訳ないが、文章の一部に手を入れたけど)。

「神樹といっても「神様」とか「神聖」に関連しているわけではありません。元々は近縁種であるモルッカ諸島のアンボイナ島に生育するモルッカシンジュが天にも届くような高木であることから英語で「Tree of heaven」と呼ばれ、これがドイツに伝わって、ドイツ語では「Götterbaum」となり、「神の樹」と訳された。その後ドイツ語名が日本に伝わると、ニワウルシを神樹とも呼ぶようになったそうです。」

(# ̄З ̄)ちえっ、調べなけりゃよかったよ。
どこかで特別なものと思いたい心理が働いているから、ガッカリだ。
何でも知ればいいとゆうものではない。知れば知るほど不幸になることだってあるのだ。世の中には知らない方がいい事もある。「知らぬが仏」と云う言葉もあるしね。
こう云う、知ることによって不幸になることを作家 開高健は「知の悲しみ」と呼んだ。当然、知らないがゆえに不幸な事は多々あるから、知っても、知らなくとも人は不幸になりうる。二律背反、これは人類の永遠のジレンマだよね。

神樹は中国原産で、明治時代の初めに日本に入ってきたものだ。ニガキ科に属し、別名にニワウルシがある。日本では、こっちの名称の方がポピュラーかもしんない。
と云うことは、和名は比較的近年になって名付けられたものと思われる。
エリサンだったっけ❓養蚕のためにシンジュサンに改造手術、もとい品種改良を加えた奴もいた気がするから、もしかして移入されたもんが逃亡して、野生化。先祖帰りしたのかも…と一瞬思ったが、それは無いだろう。帰化昆虫ではない筈だ。だったら、おバカのオラの耳にだって情報は入ってきてる筈だもんね。

  
【シンジュ】
(大阪市 堺筋北浜近辺)

(出展『一期一会』)

 
幼虫はシンジュの他にも、ニガキ(ニガキ科)、キハダ、カラスザンショウ(ミカン科)、ヌルデ(ウルシ科)、クヌギ(ブナ科)、クスノキ(クスノキ科)、リンゴ、ナシ(バラ科)、エゴノキ(エゴノキ科)、ネズミモチ,クロガネモチ、モクセイ(モクセイ科)、ゴンズイ(ミツバウツギ科)、クルミ(クルミ科)など多くの植物の葉を食べる。つまり、やはりシンジュが日本に入って来る前から、シンジュサンは日本にいたんだろね。古くから幼虫は「ミツキムシ」と呼ばれていたみたいだし、間違いないだろう。

学名:Samia cynthia pryeri。
すっかり忘れてたけど、学名の小種名は cynthia(シンシア)だったね。素敵な学名だ。
シンシアはギリシア語で「月」。ギリシャ神話に登場する月の女神アルテミスの別名キュンティアの英語読みである。英語圏における女性名としてもよく使われており、「誠実な」「心からの」という意味がある。略称は、シンディ(Cindy)。

去年当時の、Facebookの記事を見ると、こんな風に書いてあった。

「へーっ、学名はシンシアなのね。月の女神じゃ、あーりませんかー。シンシアは月の女神ディアナ(Diana)やアルテミスの別名でもある。オオミズアオとは美人セーラームーンタッグだにゃあ。月の女神は美人と相場が決まっておるのじゃ。もし、月の女神が美人じゃなかったら、ヤッさんやなくとも『怒るで、しかしー』である。
尚,吉田拓郎,かまやつひろしが南沙織に捧げた曲「シンシア」もヒットしました。」

相変わらず、フザけた文章だ(笑)。
補足すると、南沙織ちゃんは1970年代に活躍した沖縄出身の元アイドル歌手。あっという間に引退して、その後、有名カメラマンの篠山紀信氏と結婚した。
秋元康の先駈けが、モジャモジャ頭の巨匠なのだ。

シンシアは南沙織の愛称で、ミドルネーム。それが曲のタイトルとなったようだ。『🎵おー、おー、おー、シンシア~、君の声が~』というサビがいいのだ。

因みに属名の Samia(サミア)は、調べてみたら、最初に「古代ギリシアの作家メナンドロスによるギリシア喜劇の1つ」と出てきた。だが、どうもシックリこない。寧ろアラビア語で「崇高な」「最高の」という意味を持つ Sami という男性名の女性形が名前の由来ではないかと推察したい。

亜種名 pryeri は、昆虫学者 H.pryer(プライヤー・プライヤ、プライア)に献名されたもののようだ。
この pryeri は、多くの生き物の学名に見られる。
昆虫に絞れば、ウラゴマダラシジミ、ホシミスジ、ムカシヤンマ、サラサヤンマ、キイロサナエ、リュウキュウツヤハナムグリなどだ。蛾には特に多く、ミノウスバ、ブライヤオビキリガ、プライヤキリバ、プライヤアオシャチホコ、プライヤエグリシャチホコ、キオビエダシャク、ソトキナミシャク、ウコンエダシャク、ナカアカクルマメイガ、マツアカマダラメイガ、スカシノメイガ、ウスベニトガリバ、シロテンムラサキアツバなど沢山の種類がある。
それにしても、そんな名前、あんま聞いたことないぞ。(;゜∇゜)誰なんだ、プライヤー❓

これが調べるのに骨が折れた。
pryeri だと、いろんな生き物がジャンジャン出てきて埒があかない。
学名に人物の名前をつける場合、語尾に「i」とかが付いたりするから(属格語尾)、そのままではネットでヒットしないのだ。

蛾のサイトにあった H.Pryer にヒントを得て、フルネームを何とか探して漸くヒットした。

「フルネームは、Henry James Stovin Pryer。
生没年(1850年~1888年)。ロンドン生まれの英国人で、1871年来日。16年間横浜のアダムソン・ベル・海上保険会社社員として勤め、1888年2月17日に横浜で病死。」

 
日本で亡くなってはるんやね。
保険会社のサラリーマンだけど、この人で本当にあってんのかよ❓

 
「『太政大臣に届けて正式に雇用された例』としてイギリス人プライア―とアメリカ人モースがよく知られている。
もっとも、彼らを雇用したのは、内務省系ではなく、文科省系の『東京博物館』とその後継の『教育博物館』であるが、蝶類の専門家であるプライア―は1876年から翌年にかけて標本採集を目的として雇用され、国内採集旅行を行っている。ユネスコ東アジア文化センター(1975)によれば彼は、1876年7月から3ヶ月(月給75円)、そして翌1877年当初から1年間(月給60円、ただし5月で依願解約)の契約を結んでいる。」

 
なるほど、多くの献名があるのは、学者というよりも採り子(雇われ採集人)だったからなんだね。命名規約上、新種を見つけた本人が、それを新種として発表(記載)する場合、学名に本人の名前をつけられないからだ。

 
「イギリス人のプライヤー(H. Pryer)は1871年(明治4年)、またはその翌年に来日し、横浜に落ち着きました。幼少の頃より博物学に興味をもっていた彼は、昆虫類を中心に各地の資料を集め、特に日本のチョウ類のすぐれたコレクションを作りました。彼はよほど日本が気に入ったのか、何と16年間も横浜に居住し、39才の若さで死去するまで日本各地を精力的に調査したのです。
このようにして集めた資料を基に、日本では例を見ない学術的な図説の刊行が企画されました。おそらくはプライヤーの日本生活が落ち着いた1875年以降のことだったと思われます。当時の諸外国で出版されたいくつかの図鑑に匹敵するものを日本で作るには、多くの障害がありました。画家の発掘、印刷所や用紙の選定。そして費用の調達などです。しかし、プライヤーの熱意はこれらの難題を乗り越えて、1887年に第一分冊の発行にこぎつけました。そして、1888年には第二分冊、1889年には第三分冊が相次いで発行され、ついに大作が完了しました。
タイトル名は Rhopalocera Nihonica といいます(日本語版「日本蝶類図譜(ヘンリ-・ジェ-ムズ・ストヴィン・プライヤ-著 科学書院(1982))。」(出展 以上3つとも『レファレンス協同データベース』より)

 
あれっ?、図鑑も書いてる❓ということは、採り子じゃなくて学者風情だよね。
これは、おそらく最初は採り子で、最終的には図鑑も出したって云うことでいいんじゃないかな?

日本の昆虫学の礎を築いた江崎悌三さんも、その著書の中でプライヤーに触れていて、「日本人の内妻があったが、子供はなかった」と記述しているみたいだ。
結構、有名人じゃんか。ワタスの勉強不足でした。

(|| ゜Д゜)しまった。プライヤーの沼にハマって、おもいっきり寄り道しただすよ。先へ進もう。

 
チョウ目・ヤママユガ科(Saturniidae)に属し、大きさは開張110~140mmに達する。
翅の地色はオリーブ色を帯びた褐色で、白やピンクなどの綺麗な斑紋が配されている。上下の翅の中央付近に黄色い三日月模様、上翅の翅頂付近には小さな目玉模様がある。

 
【シンジュサン】
(出展『夜間飛行』)

北海道・本州・四国・九州・沖縄・朝鮮半島・中国に分布し、成虫は5~9月の間に年2回(一部年1回)現れる。
亜種は日本亜種 ssp.pryeri の他に、北海道・対馬亜種 ssp.walkeri(Felder & Felder,1862)があり、コチラが基亜種とされている。
対馬亜種は黒化型の割合が多いようだ。これが、かなりカッコいい。

 
【シンジュサン 対馬亜種】
(出展『モスはモス屋 対馬遠征記』)

 
一瞬、対馬に行ったろかい(`へ´*)ノ❗と思ったが、ツマアカスズメバチにボッコボコに刺されたのを思い出して、上げた拳を即座に下ろす。ムッチャクチャ痛かったし、今度刺されたらアナフラシキーショックで、おっ死ぬかもしれん。恐くて行けんよ。

そういえば、国産亜種を独立種 Samia pryeri とする見解もあったようだが、交尾器の差異も微弱で更にDNAによる区別もできなかったとされており、現在は同一種とする意見に落ち着いているみたいだ。

さて、ここからが本文なのだが、プライヤーの沼にハマって、ドッと疲れた。それに予想外に長くもなったので、次回に回します。スマン、スマン。

 
               後編につづく

 
 
追伸
今回も書いてるうちに、あらぬ方向にいって長くなってしもた。もう、このウダウダ癖は病気だよ。
次回は、いよいよ本編です。乞う御期待❗

記事をアップした後で、平嶋義宏さんの『蝶の学名-その語源と解説』の存在を思い出した。
それによると、プライヤーの図鑑は日本最初の原色蝶類図鑑で、日本の蝶蛾類に多大な功績があったようだ。プライヤーさん、過小評価してゴメンナサイ。
因みにホシミスジの学名はプライヤー御本人に献名されたものではなくて、兄の williams に献名されたもののようだ。お兄さんも蝶が好きだったらしい。
なんだよー、最初からこっち見ときゃよかったよ。だったら、あんな苦労しなくてよかったのにさ。
でも、最初からこっちを見ていれば、プライヤーさんに興味は湧かなかっただろう。まあ、それも間違いではなかったという事か…。良しとしませう。

 
(註1)ヤママユとクスサン、オオミズアオ

【ヤママユ】
(2018.9.8 山梨県甲州市)

 
ヤママユは、もふもふだし、(・。・;ほよ顔で可愛い。デカくて標本箱を喰うから邪魔だけど、可愛いから、つい一つ二つくらいは捕ってしまう。

探したが、クスサンとオオミズアオの手持ちの野外写真が見つからない。普通種だから、面倒で撮らなかったのだろう。と云うワケなので、画像を他からお借りしよう。

 
【クスサン】
(出展『里山の生活とmy hobby』)

普通種だが、色に豊富なバリエーションがあって、一つとして同じものはないと云う。
普通種であっても、視点を変えれば楽しめる証左の例だね。

 
【オオミズアオ】
(出展『KEI’S採集記』)

 
幽玄で美しいから、蛾嫌いでもコレは許容する人が多いようだ。近縁種に、ソックリさんのオナガミズアオがいるが、こちらの方はそこそこ珍しい。個人的にはオナガミズアオの方が、より優美で好きかな。
文中に学名的にシンジュサンと姉妹関係だと書いたが、厳密的には間違い。残念ながら、オオミズアオの学名は変わってしまい、現在は artemis、月の女神アルテミスではなく、Actias artemis から Actias aliena になっている。それを惜しむ声は多い。

ついでに、エゾヨツメの画像も添付しておこう。

 
(2019.4 大阪府箕面市)

 
いまだに♀が採れてない。でも、♀はあまり綺麗じゃないから、本音はどっちだっていいと思ってる。

 
(註2)日本には、そんなに多くの種類がいない

日本に棲むヤママユガ科は、ヤママユ、ヒメヤママユ、ハグルママヤママユ、クスサン、エゾヨツメ、シンジュサン、ヨナグニサン、ウスタビガ、クロウスタビガ、オオミズアオ、オナガミズアオの計11種とされる。この中では、わざわざ沖縄や奄美大島まで行かないと会えないハグルマヤママユが難関かな?ヨナグニサンも与那国島に行かないと会えないけど、天然記念物なので採集でけまへん。因みにヨナグニサンが日本最大の蛾で、世界最大級でもある。ドデカイ♀が強風に煽られて道路にボトッと落ちたので、拾って安全なところに移したことがあるけど、笑っちゃうくらいデケーです。次回、画像掲載予定です。

 
(註3)カイコの原種

カイコの原種は東アジアに分布するカイコガ科のクワコ(Bombyx mandarina)だと言われている。

  
【クワコ(桑子)】
(出展『玉川学園』)

 
これを品種改良しまくって作られたのが、カイコってワケだね。絹糸を得るために、スゴいことするやね。
養蚕は五千年前にクワコが中国大陸で家畜化、品種改良されたのが起源というのが有力な説である。
一応、カイコとクワコは近縁だが別種とされている。しかし、両者の交雑種は生殖能力をもち、飼育環境下で生存・繁殖できることが知られている。だが、野生状態での交雑種が見つかった例はないようだ。
実を云うと、5000年以上前の人間が、どのようにしてクワコを飼いならして、今のカイコを誕生させたかは、現在に至るも完全には解明されていないそうだ。
そうだよなあ。虫を家畜化して品種改良するだなんて、現代科学でも難しそうだもん。そんな昔に、飛べなくするために品種改良とか狂気でしょ。さすが、纏足なんぞという変態的なことを考える国だわさ。
カイコの誕生がミステリアスなせいか、カイコの祖先はクワコとは近縁だが別種の、現代人にとって未知の昆虫ではないかという説もある。ようするに、その未知なるヤツは既に絶滅してるって事を言いたいワケだね。
しかし、ミトコンドリアDNAの配列に基づき系統樹を作成すると、カイコはクワコのクレードの一部に収まることから、この仮説は支持されていないという。
やっぱ、改造しとるんだ。昔の人の知恵は凄いわ。