『西へ西へ、南へ南へ』25 最終回 怒りを込めて五臓六腑の矢を放とう

蝶に魅せられた旅人アーカイブス
2012-09-10 20:12:27

      ー捕虫網の円光ー
     『西へ西へ、南へ南へ』
        最終回

(第十九番札所・怒りを込めて五臓六腑の矢を放とう)

  
2011年 9月25日

  山間に湧く
  無慈悲な雲に涙しぼり
  熱帯に満つる
  濃密な空気に声を呑み
  天翔ける胡蝶に
  よしんば、骨肉ここに朽ち果つるとも
  九月の驟雨は凜として
  今、千の針となり天上から降り注ぐ
  されば膝を折り、頭を垂れ
  憤然、五体の怒りを込めよう
  五臓六腑の矢を放とう

(奄美出身・詩人泉芳朗の詩へのオマージュ。)

男は、何があっても脱出する事を決心した。
埒があかない。
結果がどうあれ、この無間地獄の呪縛から逃れよう。
潮時だ。旅は終焉の時を迎えたのだ。

だが、天気は最悪の様相。大雨警報が出ている。
朝のニュースでは記録的豪雨と繰返し報じている。
1時間に135㎜、降りだしてからは500㎜を越えているという。どうやら、去年災害をもたらした大雨に匹敵するくらいの雨量のようだ。

兎に角、少しでも雨が弱まれば出よう。
土砂崩れで、道が寸断されてない事だけを祈ろう。

午前10時、出ようとしたら強い雨が来た。
部屋に籠るしかない。残された時間は確実に減ってゆく。
アハハハハ…ヾ(@゜▽゜@)ノ♪
気がフレたよ。
もう、知んなーい。

11時40分。小雨の中、男は意を決して出発した。
晴れ男なんだから、何とかなる。何とかして見せようホトトギス。
って、でもこの天気で出るなんて尋常ならざる判断。

アハハハハ(~▽~@)♪♪♪

アメユキトテキテケンジャ

オデ、コワレタ

正午、あかざき公園着。
取り敢えず梔子(クチナシ)の木を叩き出して、イワカワシジミを手中に入れる。

爽やかな翠(みどり)と長い尾状突起が優雅で美しい。

 
樹液ポイントの萱(かや)を踏み固め、邪魔な枝を排除してネットが振れる空間を広げる。

『そこはハブの巣窟だよ。』

と昨日地元のおじさんに言われたが、もうこうなりゃヤケのヤンパチだ。少しでもやれることをやるしかない。

作業をしていたら、木の根元にデンと居座る大きなクワガタを発見❗❗

アマミヒラタクワガタ❓
黒光りしてカッコイイのぉー( ☆∀☆)

考えてみれば、甲虫採りの人はいいよなあ…。
蝶とは違い、雨とかあんま関係ないじゃん(  ̄З ̄)
晴れていないと蝶を採るのは難しいけど、甲虫ならばまだ何とかなる可能性があるだろう。それに雨で翅が傷まんしのぉー。
いっそ、クワガタ屋に転向したろかい(*`Д´)ノ!

12時半、雨止む。
だが、樹液には大きなルリタテハしかいない。
やはりアカボシゴマダラは夕方にしか来ないのか?

どきゃぶぎゃわ❗Σ(_)

クエッケッケ~Σ( ☆∀☆)

益々アタマが変になる。
再び強い雨が降り出したのだ。
(;o;)アメユキトテキテケンジャ~

1時半。頭上をボロ♀通過。

2時半。ボロ♀来たる。キヤッチ&リリース。

3時。さあ、これからという時に又しても雨が降り始めた。

(T_T)アメユキトテキテケンジャー

天に向かってどなる。

(◎-◎;)ひでぶ~

 
4時半。空は暗い。

そして、何も飛ばなくなった。細かい霧雨がシトシトと降り続いている。

アメユキトテキテケンジャ(ToT)
男は、敗北を覚悟した。

4時40分、強い雨がまた降り始めた。
無情の雨だ。
(T^T)アベユギドデギテゲンジャー

レインコートに着替え、合間に採った3頭の♂達を次々にリリースする。
彼等は開いた三角紙の上をトコトコと歩いて立ち止まり、小首を傾げるようにして周囲を見回す。
やがて、思い出したかのようにふわりと翔び立ち、雨の中をゆっくりと森に消えていった。
サヨナラ。そして、ありがとう。

腕時計の針は午後5時ちょうどを指していた。
タイムアップだ。

ここに円は閉じる事はなかった。
怒りの矢を放つことさえも出来なかった。
男は誰に言うでもなく、「完敗。」と呟いた。
そして、降りしきる驟雨の中、靄(もや)にけぶる坂道をゆっくりと下って行った。

 
午後9時20分。
定刻通り鹿児島ゆきのフェリーは、島を離れた。

北へ北へ、東へ東へ。

                 ー 完 ー

(subject 写真解説)

【イワカワシジミ】
完品は、矢張り美しい。完璧なフォルムだ。
イワカワは、たぶん日本に棲む蝶の中では最も長い尾突を持つ蝶だ。エレガントなのだ。でも、それが仇となって、結構尾っぽが切れている事が多くて中々完品が得られない蝶の一つらしい。そんとおりですわ~、三代目。

【スジブトヒラタクワガタ♂】
黒光りした渋いツヤ、ガッシリとした体躯。
( ☆∀☆)カッコいいですな~。
てっきりアマミヒラタクワガタだと思っていたら、帰って調べてみるとスジブトヒラタクワガタと云う奄美諸島の固有種であった。確かに太い筋がある。
気性がメチャメチャ荒いクワガタで、大きなものは体長70㎜に達するようだ。測ってないが、この個体も相当に大きかった。
持って帰るかどうかだいぶと悩んだが、逃がしてやることにした。
多分、元々クワガタは好きなだけにこんなもんまで集め始めたら収拾がつかなくなると思ったのだろう。
ただでさえ、家の中が標本箱だらけでエライこっちゃになりつつあるのだ。クワガタにまで手を出したら、
寝る場所さえも無くなりかねない。
でも、今考えるとちよっと惜しい事をした。

6年後の今、改めて勿体ない事をしたと思ってる。
クワガタは、男の子にとってはヒーローなのだ。興味を示さない男の子は、オスとして将来大丈夫かと思う。インポなんじゃないかと疑りたくなるね。
でも、最近はそんな男の子も多いらしい。草食性男子ってヤツ❓日本の行く末、危うしである。

【民宿の慣れ親しんだ部屋】

結局、この部屋に15日間も居た。
もう、気分はいっぱしの下宿人なのだ。

そういえば宿の外観の画像を添付し忘れていたので、ついでに添付しておきます。

釣具屋の右横手が「民宿あづまや」の入口。
因みに釣具屋の上、二階の左から二番目が泊まっていた部屋。
釣具屋は開いてるとこを見たことがないから、多分廃業してるんだと思う。

【フェリー】

デカイですなあ。
湾内は穏やかで大したことなかったから、あれ?と思ってたら、外洋に出たらしっかりと揺れました。

【三角紙】

中身はシロオビアゲハだね。多分、沖縄本島の時のものだ。
それにしても、何かぞんざいな蝶の入れ方だなあ…。
一応、正しいしまい方の画像も添付しておくか。

(中身はミヤマカラスアゲハ)

触角や尾っぽを傷めない為には、これが一番正しい。
野外では、このような戦利品を蝶の頭を下にしてケースにしまう。

三角紙って、普通の人には解らないと思うので、一応軽く解説しておきます。
まあ写メを見てもらえれば理解できるとは思うんだけど、三角紙とは簡単に言うと採集した蝶を入れる紙です。素材はパラフィン紙などですね。

半透明なのには理由があります。
一つは中身の蝶が何なのか一発で判るから。最初に作った人が整理する時に分かり易いようにと考えたんでしょうね。
でも、最大の理由は蝶の翅を傷めたくないがゆえのアイテムだろう。
この紙はツルツルで、蝶の鱗粉が剥がれにくくなっています。鱗粉を損なえば、美しい蝶の姿も台無しになってしまいますからね。

フィールドに出る時は、これを納める三角ケース(三角缶)と云うものを持っていきます。
形は三角紙と同じで三角形。ベルトを通せるようになっており、腰にぶら下げます。
僕は牛革製の物を使用していますが、気分はちよっとしたガンマン気分(笑)
個人的には、三角ケースは戦闘体勢に入る為のスイッチの一つ。コレを腰に巻けば、必殺モードになるのだ。気合いが入る。

(註1)アメユキトテキテケンジャ
宮沢賢治の詩『永訣の朝』に出てくる一節。
本当はアメユキトテキテケンジャではなく、「あめゆきとてちてけんじゃ」が正しい。「とてきて」ではなく、「とてちて」ね。
あえて一文字変えたのは、その方が何となく感情が伝わるんじゃないかと思ったのだ。効果の程は全然ワカンナイけど(笑)

最後に5話で添付すべきだった画像をアップしておきます。

拝山から見下ろして名瀬市内の画像だ。
この写真が一番奄美大島らしい。

さらば、奄美。
良いとこだったよ。