2019年の空たち 冬・春編

 
空を見るのが好きだ。

 

 
画像は去年の師走、12月17日に撮ったものだ。
ドン突きまで並ぶ雲に奥行きがあって、モノ凄い遠近感を感じたので、つい撮ってしまったのだ。

でも、スマホのストレージが溜まってきたので、そろそろ消去しなければならない。しかし、このまま日の目を見ずに此の世から人知れず永遠に消えてしまうには忍びない画像だ。そこで去年に撮った空の写真を纏めてアップしてから消すことにした。

 

 
2019年、最初に撮った空だ。
紅梅が晩冬の空の下、凛と咲いている。

日付は2月23日になっている。昔の彼女と久し振りに会って、天下茶屋から昭和町まで歩いた時に撮ったものだ。たぶん途中の公園で咲いてた紅梅が美しかったから撮ったと記憶してる。
その後すぐ、何故かアチキは突発的に布施明の『シクラメンのかほり』を歌いたくなって、アカペラで情感たっぷりで熱唱。元カノに脱力で笑われた。

 
 

 
4月3日。
青春18切符の旅が、また始まった。
福井県南越前町まで足を伸ばす。

 

 
天気は良好。ぽかぽか陽気の中で、ギフチョウたちが沢山舞っていた。

 

 
スプリング・エフェメラル。春だけに現れる妖精だ。
毎年のように会っているが、最初の1頭には毎回ハッとさせられる。忘れているワケではないが、改めてその美しさに心奪われるのだ。

 

 
敦賀まで戻り、寂れた歓楽街を彷徨う。
人影は無く、時間の流れが止まったかのようだ。空には一点の雲も無いので余計にそう感じる。動くものが何もないのだ。

 

 
氣比神宮の鳥居の向こうに、空も石畳もトパーズ色に染めて夕陽が沈んでゆく。

 

 
敦賀駅まで戻ってきたら、喫茶店のスピーカーからボズ・スキャッグスの名曲『ウィ・アー・オール・アローン』が流れてきた。

 

(※画像をタップすると曲が流れますよ〜ん。)

 
あまりにも曲と夕景とがピッタリで泣きそうになった。
我々は皆、所詮は一人ぼっちなのだ。

 
 
4月6日。
青春18切符 ONEDAYトリップの2日めは、武田尾方面のギフチョウに会いに行った。

 

 
空の青とピンク色の花とのコントラストが美しい。
大きな木ではないが、やはり枝垂れ桜は華やかだ。正直、ソメイヨシノよりも綺麗だと思う。
そういや、去年は紅枝垂桜を見てない。たぶんコロナウィルスのせいだな。山なら人と接触することは少ないけれど、シダレザクラで有名な平安神宮なんかだと、そうともゆかぬ。で、断念。
ベニシダレザクラ、見たかったなあ…。だって桜の中では圧倒的にゴージャスだからね。
今年は何とか行ければいいけど…。

この日は、一旦武田尾から離れて夜にまた舞い戻ってきた。 
何でかっつーと、春の三大蛾(註1)がいないかなあと思ったのだ。

 

 
天気予報は夜には曇ってくると云うことだったが、夜遅くになっても、あいにく夜空には満月。
虫たちは晴れの日よりも曇りや小雨の日に灯火に飛来する事が多いと言われている。月の光が邪魔なのだ。だから満月の月夜は最悪のコンディションとなる。
結局、どれ1つとして目的の面々とは会えなかった。
まあいい。春のちょっと肌寒い夜空に浮かぶ朧月(おほろづき)は美しい。ことに満開の桜の夜ならば、尚の事だ。考えてみれば、極上の月見ではある。

 

 
真っ黒な夜空の下で咲く桜は、いつ見ても妖艶だ。暗い想念が仄かに蠢く。

 
 

 
4月7日。
ちょっと悔しいので、翌日には箕面を訪れた。

天気予報は今宵もハズレ、満月が昇ってきた。
まだ芽吹いていない裸木の枝が、月をより美しく見せている。
だが、当然ながら結果は又しても惨敗だった。

 
 

 
4月8日。
青春18切符の旅、3日目である。
行先は兵庫県西脇市。又してもギフチョウに会うためだった。
蝶好きのギフチョウ愛は強く、ワシなんぞはギフチョウ愛が足りないと言われるクチだが、それでも、それなりにギフチョウ愛はちゃんとある。特別な蝶の一つではあるのだ。

この日も快晴。でも春特有の霞が掛かったような空だった。
そういや、雲雀(ヒバリ)が喧しく歌いながら天高く飛んでいったのを思い出したよ。しみじみ春だなあと思った。
こうゆう時は、横に誰か女性が居て、互いに黙して風景を見ていたいものだと思う。

 

 
乗り降り自由の切符だからアチコチ回って、最後に桜ノ宮で夜桜を見てから帰った。

黄昏どきの桜も美しい。
青の色を失いつつある空が、心をゆらゆらと揺らす。

 
 

 
4月12日。
青春18切符の旅の最終日は、和歌山へと向かった。
先ずは道成寺駅で下車。

 

 
この日の空は澄んだ青だった。
雲も白い。

 

 
田辺へと向かう車窓に突然、空と海とが飛び込んできた。
フレームの中で青と青が、せめぎ合う。
けれど春の空も春の海も、どこか優しい。やわらかな陽射しの中で、たゆたっている。

田辺の街をぶらぶらと歩く。

 

 
南方熊楠顕彰館の隣にある旧熊楠邸では、ミツバツツジが咲いていた。やはりピンクの花は青空と合うんだね。何だか、ほっとする。

 

 
田辺の夕暮れ間近の歓楽街を歩く。
細い舗道には誰もいなくて、何処かの時代へタイムスリップしたかのような錯覚に陥る。そこには長い年月がゆっくりと削り取った時間の澱みたいなものの残滓がある。
それを、人はノスタルジーと呼んでいるのかもしれない。

 
 

 
5月2日。
これは一瞬、画像を見ても自分でも何だか分からなかった。
前後の画像を見て漸くコシアブラの木だったと思い出した。この日は四條畷に山菜採りに来たのだった。

 
(コシアブラ)

 
他には、イタドリとワラビくらい。

 

 
そういや、タカノツメも採ったね。
植物学的にはコシアブラと近いものらしいが、味は劣る。

 

 
ついでにカバフキシタバ(註2)の食樹であるカマツカ探しも兼ねていたかな。

 

 
ふと、スミナガシ(註3)にも会おうと思い立ち、場所を移動して大阪平野を望む。
ぼんやりとした春の空の下(もと)、街はベールが掛かったかのように、けぶっている。
昔は春が好きじゃなかったけど、今はとても好きだ。冬がどんどん嫌いになっているから、ホント待ち遠しい。

 
 

 
伊丹空港(大阪空港)だ。
日付は5月7日。とゆうことは、シルビアシジミ(註4)の様子でも見に行ったのだろう。
空港には、真っ青な空がよく似合う。

 
 

 
上の写真は瓢箪山駅の手前だとすぐに分かった。山並みの形が見慣れた生駒山地だったからだ。
だが日付を見ると、5月13日となっている。どうせアサマキシタバ(註5)でも採りに行ったのだろうと思っていたが、時期的にはまだ微妙に早い。じゃあ、何しに行ったのだ❓

💡ピコリン。
そっか、思い出したよ。スミナガシを採りに行ったんだ。四條畷では何故か現れなかったので、仕方なしに生駒に来たんだった。しかも、難波からママチャリで。マジ、遠かったわ。
あとは去年の初冬にカマツカの木を見つけたけど、本当にそうなのかを確認するためでもあった。あの特徴的な花が咲いてさえいれば、確定だからね。

生駒から大阪の街を見下ろすのは好きだ。
此処まで登ってくれば、空を遮るものは背後の生駒山だけだし、空が広いのは気分がいい。それに何となく街を支配したかのような気分になれる。

 
 

 
5月24日。
枚岡神社の手前辺りで日が沈んだ。
この時間帯に此の地点に居るという事は、今度こそ目的はアサマキシタバだろう。彼女たちは夜に活動するからね。
そして、眺め的に間違いなく又してもチャリである。遠いだけでなく、山の中腹まで登らねばならんから、もうクソみたいにしんどいのだ。
難波から、こんなとこまでママチャリで来るなんてのは、どう考えても中学生レベルの発想だな。ようはアホである。全然成長してない。

 

 
夜の空。
当たり前だが、夜の空は暗い。
懐中電灯を消すと、一瞬は真っ黒けだ。けど、そのうち目が慣れてくると、ぼんやりと色んなものが形を成してくる。そして夜の空にも表情がある事に気づく。雲は昼間と同じように動いており、けっしてとどまることはなく、風景は一様ではないのだ。

 

 
山側の空は暗いが、大阪平野側は街の灯が明るいから、それに照らし出される空も明るい。
でも曇っているから、見ようによっては不気味だ。
きっと、そのうち悪魔共が空をヒュンヒュンでワンサカ飛び交いだし、やがて大阪の街は火の海と化すのだ。ψ(`∇´)ψケケケケケ…。

夜の山に一人でいると、ロクなことを考えない。

                         つづく

 
追伸
(ー_ー゛)う〜む。今更ながら武田尾辺りの文章を書いてる時に思い出したよ。すっかり忘れていたが『青春18切符の旅 春』と題した連載が、武田尾駅まで戻ってきたところで中断、っていうか頓挫、第二章の途中でプッツンの未完のまま放ったらかしになっておるのだ。
そっから、またアッチコッチ行って夜桜に繋がるのである。
我ながら割りと面白い紀行文ゆえ、宜しければ読んで下され。そのうち続きも書きます。

次回は後編の夏・秋冬編。
空が写ってる画像はもっと少ないかと思ってたが、意外と多かったので2回に分けることにしたのだ。

 
(註1)春の三大蛾
エゾヨツメ、イボタガ、オオシモフリスズメのこと。

 
【エゾヨツメ】

(2018.4 兵庫県宝塚市)

光の加減によっては、目玉模様がコバルトブルーに光る。

 
【イボタガ】

(2018.4月 兵庫県宝塚市)

デザインに似た者がいない、類を見ない唯一無二の大型蛾。
このモノトーンの幾何学模様には、何度見ても不思議な気持ちにさせられる。多分、その翅には太古の昔の財宝の在り処が示されているに違いない(笑)。

 
【オオシモフリスズメ】

(2018.4 兵庫県宝塚市)

異形の者、化け物、魑魅魍魎。悪魔のステルス戦闘機。
日本最大のスズメガで、鵺の如きに鳴く(笑)。
でも慣れると可愛い(´ω`)

これらはギフチョウと同じく年一回、春先だけに現れ、何れも人気が高い蛾である。
気になる人は、当ブログにて『春の三大蛾祭』とかと題して2017年と2018年の事を分けて書いたので読んでけろ。コミカル・ホラーでっせ(笑)。

 
(註2)カバフキシタバとカマツカ

【カバフキシタバ】

ヤガ科カトカラ属の稀種。主に西日本に局所的に分布する。
カバフキシタバの事もカトカラシリーズで何編か書いている。
そういや最初に書いた『孤高の落ち武者』もコミカル・ホラー的な文章だったかもしれない。

 
【カマツカ】

バラ科の灌木。名前の由来は材が硬くて鎌の束などに使われた事から。

 
(註3)スミナガシ

【♀】

 
【♂】

タテハチョウ科スミナガシ属の中型の蝶。
名前の由来は古(いにしえ)の宮中の遊び「墨流し」から。
日本の蝶の中では唯一、眼が青緑色でストロー(口吻)が紅い。
稀種ではないが、かといって何処にでもいる蝶ではなく、その渋美しい姿からも人気が高い。
たぶん、スミナガシの事もちょくちょく書いてる。でも詳細は全然思い出せないので、自分で自分の書いた文章を検索すると云う変な事になる。
えー、本ブログ内の奄美大島に行った時の紀行文『西へ西へ、南へ南へ』の中に「蒼の洗礼」と題して書いている。アメブロの方の「蝶に魅せられた旅人」には『墨流し』と題して書いている。他には台湾の採集記にも出てくる筈だ。

 
(註4)シルビアシジミ

全国的に数が少なく絶滅危惧種だが、何故か伊丹空港周辺には普通にいる。
シルビアシジミの事も『シルビアの迷宮』と云う長編に書いた。内容はミステリー仕立てだったような気がするけど、あんま憶えてない。

 
(註5)アサマキシタバ

【♂】

(2019.5 奈良県大和郡山市)

 
カトカラの中では発生が最も早く、5月の半ばから現れる。
そのせいなのかはどうかは知らないけど、最も毛深いカトカラだと思う。
採集記と種の解説は、拙ブログのカトカラの連載に『晩春と初夏の狭間にて』『コロナ禍の狭間で』『深甚なるストレッケリィ』と云う題名で、それぞれ前後編の6編を書いた。詳しく知りたい人は、ソチラを読んで下され。
 
 

2019’カトカラ2年生 其の1

No.18 アサマキシタバ 前編

『晩春と初夏の狭間にて』

 
2018年にカトカラ(シタバガ属)を集めようかと思い始めた頃には、既にアサマキシタバの時期は終わっていた。
なので、2019年はまだ見ぬアサマくんからのスタートとあいなった。

思えば、カトカラを追い掛けるキッカケになったのはシンジュサン探しからだった。
蝶採りにも飽きてきて、この年はまだ見ぬ有名な昆虫たち、例えばオオトラカミキリとかオオチャイロハナムグリなんかを探そうと思っていた。予定調和は面白くない。未知なるモノを全智全能を傾けて採るから楽しいのだ。
そのリストの中にシンジュサンも入っていた。つまり、恥ずかしながらも実物のシンジュサンを一度も見た事がなかったのである。虫捕りを始めた時には、そう珍しいものではないだろうから何処かでそのうち会えるだろうと思っていたが、なぜか一度も出会えなかった。
で、この年は真面目に探し始めたんけど、これがどうにも見つからない。んなわけなかろうと、途中から必死モードになったんだよね(笑)。たぶんシンジュサンって、今や普通種じゃないんでねえの❓
その辺の苦労話は拙ブログに『三日月の女神・紫檀の魁偉』と題して書いたので、宜しければ読んでつかあさい。

【シンジュサン(神樹蚕)】


(2018.6月 奈良市)

その折りに、副産物としてフシキキシタバとワモンキシタバが採れて、ちょっとカッコイイかもしんないと思ってしまった。それが黄色いカトカラに本格的に興味を持ち始めた切っ掛けになった。
そういえば、その1ヶ月程前の5月中旬くらいにシンジュサンが見たくてA木くんにせがんでライト・トラップをしてもらったんだった。
場所をお任せしたら、彼は金剛山地の持尾方面を選定した。
だが。結局飛んで来たのはベニスズメとかコスズメくらいで、そのうち雨が強くなって早々と撤退。結局、シンジュサンは見れずじまいだった。
その時に、A木くんから『もう、アサマキシタバも出てるかもしれませんよ。』と言われたんだっけな…。
でも、アサマキシタバと言われてもピンとこなかった。よくワカンなかったから、生返事しか出来なかったように思う。言われてキシタバの仲間だろうと云う事くらいは何となく想像できたが、頭の中には図鑑等でインプットされた画像は一切無かったのである。
だから、もしもこの年、2018年に最初に出会ったカトカラがアサマキシタバだったならば、黄色い系のカトカラには全く興味を持たなかったかもしれない。正直、アサマキシタバは黄色いカトカラ類の中にあっては一番小汚いのだ。蛾は基本的に忌むべきものだったから、(`ェ´)ケッと思ったに違いない。汚いのは蛾の概念の域を出ない気色の悪い存在でしかないのである。

 
2019年 5月18日

小太郎くんに『アサマは見られる時期がわりと短いですよ。鮮度の良いキレイな個体を採りたければ、早めに行っといた方がいいんじゃないですか。』と事前には聞かされていた。たしかに去年ここを最初に訪れた時は6月上旬だったけど、ボロでさえも一つも見なかった。
今年は蝶の発生が例年よりも早いと言われているし、もう出ているだろうと思い、この日はその奈良県大和郡山市の矢田丘陵へと出掛けた。

この季節を人々は初夏と呼ぶが、自分の中では晩春だ。なぜなら、1年を夏は6,7,8月。秋は9,10,11月。冬を12,1,2月。そして、春を3,4,5月と便宜上区切っているからだ。だから、3月1日がどんなに寒かろうとも春だと自分に言い聞かせて気持ちを切り替えるようにしてきた。
とはいえ現実の感覚とか心は、けっしてそんな風には割り切れないところがある。今日はまだ5月だが、既に気分は半分夏だ。あれっ?自分で何を言いたいのかワカンなくなってるぞ。
まあいい、いつも通り構成を考えずに書き始めておるのだ。そのうち思い出すだろう。

ポイントへ行く道すがら、アルテミスと出会った。ギリシャ神話の月の女神だ。

【オオミズアオ】

あっ、今はアルテミスじゃないんだったな。本種の日本産の学名は Actias artemis から Actias aliena に変わっちゃんだよね。ものスゴくガッカリだよ。別種になったみたいだから、致し方ないんだろうけどさ。

そんな事はどうあれ、その儚き翠(みどり)はいつ見ても幽玄で美しい。
もうオイラの心の中ではアルテミス、月の女神でいいじゃないか。そうゆう事にしておこう。と云うワケなので、女神に会ったんだから幸先良いスタートだ。たぶん、この調子でアサマも余裕のヨッちゃんで楽勝ゲットだろう。前向き軽薄男は御都合主義のプラス思考なのだ。

(ー_ー゛)……。
しかし、去年カトカラがわんさか集まっていた樹液出まくりのクヌギの大木には何にも居なかった。
たぶん樹液が出ていないのだ。😰あっちゃっちゃー。そんな事はまるで予測していなかったので、ものスゴ〜く💦焦る。どうせ樹液で採れるからと糖蜜トラップは持ってきてないし、此処では外灯に集まって来る個体は樹液に集まるものよりも遥かに少ないからだ。余裕のヨッちゃん気分が一気にフッ飛ぶ。

オラ、もう必死のパッチで他に樹液が出ている木を探しましたよ。そいだらこと縁起が悪いべよ。開幕戦からー、コケるのはー、何としてでもー、避けねべならねっ。
で、何とか3本の木を見つけることが出来た。しかし、どれも少量の樹液しか出ていない。もしもコクワガタくんが来てくれていなけりゃ、見つけられんかったよ。それくらい心もとない樹液滲出状況なのだ。
こりゃ採れんかもしれん…。林内の闇の中空に、行き場を失った不安が所在なげに浮遊する。
いかん、いかん。悲観的な考えは後で恰好な言い訳の材料になる。ダサいぞ、俺。そんなもんは直ぐ様うっちゃって、プラス思考に切り替えよう。でないと、益々採れんくなる。
樹液状況が芳しくないとはいえ、コクワガタくんが来てるんだから大丈夫っしょ。飛んで火に入る夏の虫、デヘデヘ🥵。悪意に満ちたストーカー変態男が待伏せているとも知らずに、そのうちノコノコやって来るっぺよ。
危うしアサマくん、Σ(゚∀゚ノ)ノキャアー、逃げてぇー。
ひとしきり一人遊びしたところで、いつもの前向きオチャラケ男に戻る。

(ー_ー;)……。
(。ŏ﹏ŏ)……。
༼;´༎ຶ ۝ ༎ຶ༽……。

けれども、待てど暮せどアサマキシタバはいっこうに姿を見せない。
もしかしてフライング❓ それとも今年はムチャクチャ発生数が少ないとか❓ 或いは何らかの理由で、ここでは既に絶滅してたりとか❓ だから去年、6月上旬でも見れなかったのかもしれない…。頭の中をあっちゃこっちゃ色んな思考が駆け巡る。

とにかく、まさかの展開である。アサマって嘗ては珍品だったらしいけど、最近は普通種に成り下がったと聞いていたし、2015年には大発生したみたいで、その時の話も散々ぱら聞かされてもいた。何と大阪市内や神戸市内、果ては関西空港の外灯にもいたらしい。そんなワケだから、戦う前から楽勝気分だったのだ。
もしかして、樹液に来るのはメチャメチャ遅い時間だったりして❓ 前向きに考えるも、でもそんな情報、聞いたことがない。だいち、もしもそんな特異な生態をもっていたならば、沢山採ったことのある小太郎くんが必ずや言及している筈だ。

🙀ゲロゲロー。
結局、樹液に来たのはコクワガタとクロカタビロオサムシくらいだった。
クロカタビロオサムシが樹液を吸汁するなんて聞いたことがなかったから、一応証拠写真を撮っとくことにした。オサムシ屋さんにとっては、多分それなりに価値ある例だろう。オイラ、こう見えても小学生の時は、日浦(勇)さんに「オサムシ少年」と呼ばれていたのだ。オサムシの知識のベースはそれなりにある。

【クロカタビロオサムシ】

(2019.5.18 奈良県大和郡山市 矢田丘陵)

この画像を Facebookに載せたら、オサムシの研究で知られる神吉正雄さんからワザワザ連絡があったくらいだから、かなり珍しい例のようだ。と云うことで、この写真はニュー・サイエンス社の学術誌『昆虫と自然』にも掲載された。
エヘヘ(^^)ゞ、タダではコケない男なのである。

(ノД`)グスン。そんなこと言ったって、所詮は負け犬の遠吠えである。現実は惨敗なのだ。夜道を1時間半、暗澹たる思いで駅まで歩いて帰ったよ。

 
2019年 5月23日

前回採れなかったので、満を持して5日後に再訪した。
5月下旬ならば、絶対に発生している筈だ。それでも会えないとなれば、ここには居ないということだ。捜索は振出しに戻る。つまりイチから場所の選定をし直さなければならない。

まさか、そんなわきゃなかろう。たかだかアサマキシタバだ。大丈夫だろう。そうは思うが、正直なところ半信半疑だった。
夜の森を一人でウロウロしてるだけでもストレスなのに、また採れないとなると最悪な気分になること必至だ。それだけは何としてでも避けたいところだ。
それにアサマで2連敗なんかしたら、小太郎くんあたりに何を言われるかワカったもんではない。もし今日も採れなかったら、黙っておこう。2連敗の事実は闇に永遠に葬り去ろう。

午後7時。
やがて日が沈んだ。この黄昏から夜へと移る時間帯は毎回心がゾワゾワする。逢魔が刻(おうまがとき)なのだ。この時間帯が暗闇よりも寧ろ恐かったりもする。これは来たるべく黒い闇を怖れて心が敏感になっているからだろう。口裂け女が現れるのも、この時間だというしね。

『ワタシ、キレイ❓』

😱ゾクッときた。口裂け女のセリフを思い出して、背中に悪寒が走ったのだ。そして、もしも口裂け女が出たらと想像してしまったのである。マジ、それ怖すぎー😭。
あんなもんに横走りで追い掛け回されたら、😭涙チョチョギレで超マッハで走らねばならぬ。でも口裂け女は100メートルを5秒で走るというから、小学校6年間と中学3年間、ずっとリレーの選手でトップかアンカーをつとめ、100メートルを12秒フラットで走れたワシでもソッコー追いつかれるだろう。そして、そして…。
次々と、その後のヤバい展開の映像が浮かんでくる。
いかん。恐怖の連鎖反応じゃ。恐怖が恐怖を呼んでおる。想像力こそが恐怖を増幅させるのだ。これ以上想像したら、発狂してしまう。
 
負の脳内物語を全て頭から遮断し、心頭を滅却させる。
 
٩(๑`^´๑)۶、ヤアーッ❗

『臨、兵(びょう)、闘、者、皆(かい)、陣、烈、在、前(ざん)、オンソワカー❗』(註1)
 
左腰から右上に手刀でキレッキレで、空を「九字切り」する。
念の為に同じ呪文を唱えながら、神様の形を真似て手指を結び、「契印(手印結び)」も行う。
もう気分は、陰陽師 安倍晴明じゃよ。式神も出したろか、ワレ。
  
7時20分。
空はまだ仄かに明るかったが、森の中は真っ暗になった。
闇の物語の始まりじゃあ〜と思ったら、らしきものが直ぐにパタパタと飛んで来た。そして、先日クロカタビロオサムシがいた木と同じところに止まった。
たぶんアサマキシタバで間違いなかろう。この時期にいるカトカラはアサマしかいない。何だかε-(´∀`*)ホッとする。

ヘッドライト、オーン💡
網を構えて距離を詰める。緊張感は、さしてない。会えたと云う安堵の心の方が強かったのだろう。
取り敢えず、💥ダアリャー。網を幹に強く叩きつける。すると、驚いた彼奴(きゃつ)は自ら網の中に飛び込んできた。
もう、この採り方もお手の物である。網の面を正確に幹と合わせる事と、力加減さえ間違えなければ、ほぼ百発百中だ。

今思えば、この頃(2019年初夏)はまだ、こんな博奕度の高い採り方をしてたんだね。もっと楽勝の採り方を編み出したのは、もう少し後の事だったわ。たぶんカバブキシタバかマホロバキシタバの時だね(註2)。

素早く毒瓶にブチ込み、〆る。
暫く経ったところで取り出し、手の平に乗せる。

【アサマキシタバ ♂】

(裏面)

冒頭に『もしもこの年、2018年に最初に出会ったカトカラがアサマキシタバだったなら、黄色いカトカラには興味を持たなかったかもしれない。』と書いたように、その第一印象は酷いものだった。カトカラを本格的に集めようと思っていたから、採れたのは素直に嬉しかったが、一方、右脳は別な評価を下していた。
『チビだなあ…。それに何だよ、コイツの下翅。黄色いとこが少ないし、オマケにその黄色に鮮やかさがまるて無いじゃないか。薄汚れてて美しくないなあ。それに何だか毛深いや。』
正直、お世辞にも全然魅力的には見えなかったのである。

その後、この日は4、5頭程が飛来した。
ド普通と聞いてたけど、今回そうでもないと実感したよ。その年により発生数の増減が激しい種なのかもしれない。

 
2019年 6月3日

♀があまり採れていなかったので、もう1回訪れた。
この日は小太郎くんも参戦してくれた。

コナラにウスタビガの幼虫がいた。

【ウスタビガ 終齢幼虫】

一瞬、持って帰ったろかと思ったが、やめた。
面倒くさがりやの自分には飼育は向いていないからだ。それに、尻の一部が茶色い。小太郎くん曰く、寄生されてるかも…と云う意見もあったしさ。

この日も日没後、暗くなったら、アサマくんたちが樹液に飛来した。やはり飛来時刻は早い。
で、いくつか連続でゲットしてソッコー飽きた。

 
2019年 6月6日

この日は、夕方に生駒山地の枚岡にウラジロミドリシジミの様子を見に行った。

【ウラジロミドリシジミ ♂】

こんなに美しいのに、酷い和名だなと思う。
何で、この色にフォーカスしないのさ。

たぶん、この裏面からのネーミングだと思うけど、もっと他に名付けようがあっただろうに。
学名は、Favonius saphirinus。小種名の語源は宝石のサファイアだぜ。学名が先に有りきの和名の命名だろうから、より想像力の欠如と言わざるおえない。

折角だからと、ゴージャスな夕日を見て帰ることにした。

けど、ついでに夜までいた。
 

 
べつに夜景を見たかったワケではない。理由は他にある。
生駒山地の昆虫調査をしている東さんが、フシキキシタバの記録が無いと言っていたのを思い出したのだ。
矢田丘陵にフシキキシタバがいるなら、隣の生駒山地にいないワケがなかろう。それって、蛾屋の怠慢じゃないか❓だったら、それをお茶の子さいさいで証明してやろうと云う心が芽生えたのである。負けず嫌いのイヤらしい性格なのだ。
しかし、同時にこうも思っていた。東さんは協力者が少ないのに真面目に調査してはるみたいだし、世話になってるところもあるから少しは貢献しようとも思ったのである。嘘じゃなくて、そう云う殊勝な心もちゃんとあったんだかんね。

それに樹液が出ている木を探しておいて損はない。
10年ここに通っているが、いまだもってスミナガシ(註3)の♀が一度も採れていないんである。どころか見たことさえ殆んど無い。どうやらメスは、ほぼ樹液でしか採集は望めないようなのだ。でも、枚岡って意外と樹液がバシバシ出てるような御神木的な木が無いのだ。だから、そういう木を昔から探しているのだが、標高の低いイージーな場所では、ナゼか見つからない。昼間に樹液の出ている木を探すのは意外と難しいのだ。むしろ夜の方が意外と見つけ易かったりする。その事に気づいたのは、カトカラ採りもするようになった去年(2018年)だった。夜は視界が制限されるから、かえって集中力が高まるし、蛾、特にヤガの仲間は懐中電灯の光が当たると目が光るから目印になるのだ。また昼間よりも樹液に集まる昆虫が多いので、目につきやすい。昼間はあまり見ない夜行性のカブトムシやクワガタなどの大型甲虫も集まるから、よく目立つのである。

日没後、ウロウロしていると懐中電灯の光がアケビコノハの姿を捉えた。

【アケビコノハ】

(2019.6.13 )

コヤツが木に下翅を開いて止まっていると云うことは、樹液が出ている証拠だ。(^3^♪オホホ、ソッコーでフシキがおることも証明したるわい(ノ`Д´)ノ❗

そして、別な木だが樹液に来てるアサマも3頭見つけた。
しかし、3頭とも羽が傷んでいたのでリリース。場所は違えど、初見からまだ10日だぞ。ボロになるのが早過ぎやしないか❓
 
アサマがいるなら、フシキも採れんだろ。採れなきゃ採れないで、いないって逆証明にもなりうる。ただ、季節的には発生初期だろうから、まだ発生していない可能性もある。かりに発生していても、出始めで個体数は少ないだろう。

結局、フシキキシタバは樹液には来なかった。
だが、帰りの夜道で飛んでるのをシバいたった。

【フシキキシタバ ♂】

やはり、いたね。
ザマー、見さらせである。センスを証明されたいがために虫採りやってんのかもなあ。
 
 
2019年 6月12日

この日はアサマではなく、フシキキシタバを探しに矢田丘陵へとやって来た。

ガクアジサイがひっそりと咲いており、夕暮れのそよ風に嫋(たお)やかに揺れている。

予想したとおり、フシキキシタバは最盛期に入ろうとしていた。

【フシキキシタバ♂】

どれも新鮮な個体ばかりだ。

【同♀】

アサマと比べたら、遥かに美しい。

アサマも飛んで来たが、既に古びたボロ個体ばかりで数も少なかった。見たのは2頭だけだ。初見から20日足らずで、この状態とあらば、やはりアサマって発生期間が短いようだね。
 
 
2019年 6月13日

翌日に兵庫県宝塚市にカバブキシタバの下見に行った時も、大量のフシキキシタバに混じってボロボロのアサマを1頭だけ見た。この例からも、成虫の発生期は他のカトカラと比べて、比較的短いのではないかと思う。

2019年に採ったアサマキシタバの展翅画像を貼り付けておこう。

【Catocala streckeri アサマキシタバ♂】

形はカッコイイと思うんだけど、下翅が汚い。
それにしても、酷い展翅だな。上から3、4つまではまあまあだけど、段々酷くなっていってる。

【同♀】

更にメスは目を覆いたくなるような出来だよ。このテキトーさ加減、対象に対する愛が感じられないねぇ。これは年を越えたゆえ、カトカラに対する概念がリセットされて、アサマを見て改めて所詮は蛾だと云う認識に逆戻りしたのかもしれなーい。オイラ、元々は生粋の蛾嫌いなのだ。

それはさておき、何か♀の触角が短くないかい❓

【♂裏面】

【♀裏面】

裏展翅のコレも♀の触角が短いぞ。
気になるから、石塚さんの『世界のカトカラ』を開いてみた。

♂と比べて、やっぱ少し短くなくねぇか❓
今一度、アチキが展翅した♂の画像と見比べて戴きたい。明らかに♂の触角は長いよね。でも、この一つだけじゃ何とも言えない。慌てて他の♀画像に目を転じる。

あっ、コレも短い。と一瞬思ったが、左の触角はそうでもない。
٩(๑`^´๑)۶ハッとさせんじゃないよ。

一瞬、これも短いと思ったが、コチラは右の方の触角が長い。
長い方が本来の長さだろうから、たぶん♀の触角が短いなんて気のせいだろう。

あっ、短い❗とコレも思ったが、よく見れば左側が少し長いな。やっぱ、きっと気のせいなんだろうな。
 
それはさておき、しかしこうも触角の先って切れるもんかね❓
何か理由があるのかもしれない。元々メスは左右の触角が同じじゃない個体が多いとか、メスって極めて触角の先が折れやすいとかさ…。
(ノ´・ω・)ノ ミ ┻━┻、んなワケあるかーい。理由として論理的に苦しいわ。アカンな。
 
おーっと、そうだ。オスも見てみよう。
 

 
ヽ(`Д´#)ノクソッ、コイツもかよ。右の触角が折れとるのか短いじゃないか。アサマって、そんなにも触角が折れやすい種なのか❓
それはさておき、左の触角はメスよかオスの方が長いような気がする。けど、微妙な長さではあるんだよね。上から3番目、番号10のメス個体も触角が長めだからなあ。
ならばと他のオスを探すが、(・o・)ありゃま。でも他にオスの標本が図示されてない。オスはこの1個体だけなのだ。それじゃサンプルが少な過ぎて、これ以上は何とも言えないや。
 
異常型だが、メスをもう1点。


(以上すべて、石塚勝己『世界のカトカラ』より)

これは明らかに短いような気がするぞ。
けど短い感じたものが偶々(たまたま)連続したから、そうゆう印象を最初に持ってしまっただけなのかもしれない。こんなどうでもいいような事をグダグダ書いてたら、レベルが低いと笑われそうだな。声高に論じるテーマとも思えんしなあ…。

まあ気のせいだとは思うけど、今年(2020年)、確認しに行こう〜っと。
 
                         つづく
 
 
追伸
終わりそうで終わらない物語みたいでヤだけど、アサマキシタバの話は尚も続きます。このままいくと3話構成にはなる。3話で終わることを祈るよ。

えー、この文章は3月の時点で下書きが粗方出来上がっておりました。でも、触角問題と生態面でハッキリとしないところがあって一旦お蔵入りになってました。そこにある程度の目処(めど)がついたので、晴れて蔵出しとあいなったワケである。
けんど、シリーズ初回にも拘らず、改めて文章の手直しを始めだら、大脱線。要らぬところで筆が止まらず、大幅訂正加筆の1.5倍以上に膨れ上がってしまった。我ながら、愚かじゃよ。

愚か者ゆえに、次回は触角問題に切り込むでぇ〜。まだ一行も書いてないけどー。
嗚呼、次もどうせ大脱線になりそうだ。自分にウンザリだよ。
 
 
(註1)『臨、兵、闘、者、皆、陣、烈、在、前』オンソワカ
悪霊退散の呪文の1つ。九字を唱える事でその場を清め、結界を張ることも出来る。
これは「仏の言葉」や「秘密の言葉」と言われる真言の一種で「神様の軍隊が通るため、立ち去るように」という最終通告を意味している。
また九字護身法には、悪霊や邪気、災いを祓う浄化効果だけでなく、その人が持つ霊力を高めて幸福へと導く開運効果もあるとされている。

オンソワカの「オン」は、真言の頭につける慣用句。「帰命する」という意味。
「ソワカ」は聖句の末尾につけられ、「成就あれ」の意味。

 
(註2)カバブキシタバかマホロバキシタバの時だね

【カバブキシタバ】


(2019.6 兵庫県宝塚市)

上がオスで、下がメスである。次のマホロバも同じ。

 
【マホロバキシタバ】


(2019.7 奈良市)

木の幹に止まったカトカラの簡単採集法は、たぶんカバブキシタバの時の後半辺りで気づき、マホロバの時に確立した。採り方は、マホロバの回の時にでも詳しく書くつもりだ。まあ、蛾捕りの天才であるマオ(小林真央くん)も、その採り方を実践してたから、知ってる人は知ってんだろうと思うけどね。

 
(註3)スミナガシ 
タテハチョウ科に属するチョウの一種。

【スミナガシ 春型♂】

 
(裏面)

(2018.4.28 東大阪市枚岡公園)

名前の由来は、平安時代から続く伝統的な芸術技法であり、遊びの一種でもある「墨流し」から。墨汁を水に垂らした際に出来る模様、及びそれを紙に写したもので、その模様を布に染めた物のことも指す。

 

フレスコのカツサンド

 
11月にママチャリで伊丹にシルビアシジミ(註1)の様子を見に行った帰りに北浜に寄った。
目的はスーパー「フレスコ」に行って、カツサンドと京都の「ミスターギョウザ」が出している冷凍餃子を買うことだった。

 

 
ここのカツサンドがメチャンコ旨い( ☆∀☆)
時々、無性に食いたくなる。でもマイナーなスーパーゆえ(註2)、近所には無い。というか大阪市内では見たことがない。
というワケで、今回は事前に大阪市内にあるフレスコを調べてワザワザ寄ったのである。

このカツサンドを知ったのは四條畷のフレスコだった。
2018年のゴールデンウィーク、久し振りに四條畷にミヤマカラスアゲハ、スミナガシ、アオバセセリの様子を見に行った帰りに見つけたのだ。

 
【ミヤマカラスアゲハ 春型♂】

(2018.5.28 大阪府四條畷市)

 
数ある日本の蝶の中で、最も美しいと思う人も多い美麗種だ。

 
【スミナガシ 春型♂】

(裏面)

 
見た目も名前も渋くて美しい。
眼が青緑色なのも蜜を吸うストロー(口吻)が紅いのも、日本ではこの蝶だけだ。何かと素敵な奴なのだ。

 
【アオバセセリ 春型♂】

(裏面)

 
野崎観音から登り、尾根を縦走して四條畷に下りたので相当疲れた。だから、ご褒美に駅前でビールでも飲もうとスーパーに寄ったのである。

そこに、こんなポップがあった。

 
(出展『京都で暮らそう』)

 
「スーパーマーケット お弁当・お惣菜大賞」なんて賞が世の中にあるだなんて全く知らなかった。聞いたことがない。ちょっと胡散臭いような気もするが、何せ準大賞なのである。期待をそう裏切ることはないだろう。
値段も350円と安いし、買うことにした。

 

 
見よ、この分厚さを❗

 

 
渇いた喉にグビグビとビール(スマン、この日は発泡酒やった)を流し込む。で、おもむろにカブりつく。

( ☆∀☆)うんめえーっ❗
食べてみて驚いたのは、簡単に歯でスッと噛み切れたことだ。この厚さなのに肉が柔らかいのである。しかも変に脂っぽくない。かといってパサパサでもない。しっとりとしているのである。
ソースも旨い。甘辛さのなかにコクがあるのだ。
この値段で、このクオリティーは正直やるなと思った。
更に驚くべきは、このカツサンドには端っこが使われていないことだ。カツの厚さが全て同じなのである。
分厚いカツサンドは今やそう珍しいものではない。しかし、上から見たら分厚くとも、横から見たら下がスカスカだったりする。ようするにカツの端っこの丸い部分が使われているのだ。謂わば詐欺みたいなものなのだ。何度、騙された事か。イオングループの厚切りロースカツサンドなんて酷い。3切れ入っているのだが、まともなのは真ん中だけで、両端はボリュームに劣る端なのだ。ようは小さめのカツを三分割しているってワケ。
因みにフレスコのカツサンドの端っこの部分は、端っこだけ寄せ集めて少し安い値段で売っている。

その年の夏、シロシタバ(註3)の産地探索の折りにも買った。

 

 
この時は3個入り(¥498)のを買った。
昼過ぎから夜遅くまでの長丁場になる予定だったからだ。

 

 
夜間に駅に戻って来るので、この日は春とは逆に先にカツサンドを買ってから山に入った。
美味いのは勿論だが、背水の陣での探索だったので縁起を担いだというのもある。カツ=勝つというワケだ。
お陰さまで、大勝利だったよ。

あまりにも旨かったので、数日後の再訪の折りには合流予定だった小太郎くんの分も買っていった。

 

 
今年2019年も買って、山へ登った。

 

 
この山には、その後もう1回入ったのだが、その時は買えなかった。売り切れていたのである。それなりに人気商品だから、夕方近くには売り切れてるケースもあるって事だね。ガックリきたよ。

それ程このカツサンドが好きなのだが、1つだけ不満がある。辛子があんま効いていないのである。だからといって、わざわざ山にチューブの辛子を持ってゆくのはバカバカしい。かといって現地で買うというのも何か腹立つ。ようするに虫採りに行くのに、そういう煩わしいことはあまり考えたくはないのだ。

と云うワケで、今回は外で食うのではない。家で食うのだ。カラシなら冷蔵庫にある。思う存分に塗りつけてやる事が出来る。荷物がちょっとでも増えるのが嫌な人なのだ。

 

 
でや❓、思う存分という程ではないが、たっぷりと塗りつけてやったわい。
バクッといったるでぇー(*`Д´)ノ❗

ガブッ❗❗
辛っ❗鼻にツンときたよ。涙もちょい滲んだわ。
それをビールで流し込む。辛いが美味いねぇ。
あ~、でもソースが辛子に負けてるような気もする。バランスがやや悪い。( ̄ヘ ̄メ)ソースも増量したろか。
でも、思いとどまった。これ以上何かを加えると味のバランスがブッ壊れると思ったのである。
きっと辛子の量を減らすのが正解だな。
よし、これからは「551の豚まん」を買う時は辛子を多めに貰おう。で、それを貯めてやろう。
来年、四條畷に行く時は、その貯めた辛子持ってゆくのだ。さすれば、チューブみたくそう邪魔じゃない。
その際、キンキンに冷えたビールも持ってゆこ~っと。

                    おしまい

 
(註1)シルビアシジミ

 
シバ草原に見られる小型のシジミチョウで、絶滅が危惧されている。拙ブログに『シルビアの迷宮』と題した連載ものがあります。謎が謎呼ぶミステリーなので読んでみたい人はどうぞ。

 
(註2)マイナーなスーパーゆえ…
フレスコは京都府に本社を置く株式会社ハートフレンドが運営するスーパーマーケットで、京都ではマイナーではなく、ポピュラーな存在らしい。

 
(3)シロシタバ

 
主に山地に見られ、下翅の雪のような白が特徴的な大型蛾。飛んでいる姿は結構迫力がある。
現在、シロシタバについては執筆中。だが、上手く書けなくて懊悩、呻吟している。時々、呻き声を上げて、シャッシャッシャーと爪でガラス窓を掻きむしったりしておるのだ。

  

『西へ西へ、南へ南へ』18 愚か者、憤死

蝶に魅せられた旅人アーカイブス
2012-08-28 18:17:23

       ー捕虫網の円光ー
      『西へ西へ、南へ南へ』

     (第十四番札所・愚か者、憤死)

 
2011年 9月20日

8時に目覚ましが鳴った。
外を見て愕然。
天気悪っるッ( ̄0 ̄;❗
台風、行っちゃったんじゃないの❓
風、強よッ❗❗( ̄ロ ̄lll)
昨日の天気予報では快晴だった筈なのに…。

それよか、まだ酔っ払っている(//∇//)
昨日、板前の竹さんと従業員(ホール)の福ちゃんに誘われて飲みに行った。
スナックを二軒梯子して、最後はバーに行き、帰ったのは朝4時半。痛飲と云うか、うえーっぷ、泥酔。

愚か過ぎる…。
大体、福ちゃんが『僕は歌が巧い、酒も強い❗』
竹さんも『俺も歌が巧い、酒も強い❗』なんて言い出すからアカンのだ。
こっちは負けず嫌いなんだから…。

板前の竹さんは渋い人だと思ってたら、全然違った。明かる過ぎ。と云うか、駄じゃれ連発やん❗
いきなり、一発目からo(%)○ウルトラマンガイア熱唱やもんなあ。
福ちゃんに至っては、キョンキョンとか、森高千里等女の子の歌しか歌わない。声高過ぎ❗裏声❓
(^^;)知らなかった…。完全におかまちゃんキャラやんか❗❗❗
ついでに大ママに惚れている。いわゆるフケ専ね。でも、大ママは60歳のおぱあちゃんだぜ。もう、ワケわからん。
二人共、面白すぎーρ( ^o^)b
♪♪

何年振りだろうか?、久しく歌なんて歌ってない。
でも、完璧(^o^)v
俺、歌巧すぎー❗完全に周囲を黙らせてやった。(性格、悪っるうーf(^_^))
でも、黒すぎてフィリピーナに『アンタ、フィリピン人だ❗』と笑われた。
何か、おネエーちゃん達もみんな可愛いくて、ぴょんぴょんぴょーん ̄(=∵=) ̄アマミノクロウサギ・ギャグ連発のハシャギ過ぎー❗

9時にバイクを借り、谷村ポイント行ってみた。
どう見ても(@_@;)べろんべろんの完全飲酒運転。
しかも、何もおらん。雨まで降ってきた。
そのうち晴れんだろう。何にしても前向きなのだ。

10時半。フェリー会社から電話が入った。
一応、23日のウルトラ早朝午前3時半の便が出る事になったと云う連絡だった。これで何とか帰れる。

一昨日見つけた小宿の樹液ポイントに行ったが、アカボシはおらず。
根瀬部で、チラッと♂を見たが犬に吠えられ撤退。
山を越え、国直まで行ったが風が凄い。
海、荒れ荒れー。
こんなんで本当に船出るのかよ(^_^;)?

1時半。ようやく陽が射し始めた。
取り敢えず根瀬部に戻る。
エノキもあり、柑橘畑も有りいののベストポイント発見。

おう、翔んどる、翔んどる。
しかし、酔いがやっと醒めたと思ったら完全に二日酔い。
アッタマ、痛てぇー(´Д`)))
オエ━━Σ(-∀-;)、えずきっぱなし。
正直、立ってるだけで精一杯。
一応、ネットを振るがヘナヘナだ。足がもつれてダメダメ星人。

一応♀も採ったが、又バッサリいかれていた。♂もほとんど擦れ、欠け、ボロと傷んでいる。
二日酔いも相俟ってガックリだ。

3時には移動して、知名瀬、小宿経由で4時に谷村ポイントに戻ったが、天気も良くないし、暴風。
1頭だけスーパーおんぼろスミナガシがいただけ。
5時に名瀬のイワカワポイントに行ったが発見出来ず。
正直、己のせいではあるが、最低の一日。

そして、懲りもせず今日も脇田丸へ。
勿論、ハリセンから入った。

ハーシビ(トガリヱビス)の酒蒸し(690円)。

美味すぎ❗ 煮付けも旨かったが、酒蒸しは上品で絶品である。

さてと…、うに丼(890円)でも食っか?

いよいよ、残すところあと一日。
明日がラストチャンスだ。

                  つづく

(subject)

煮付けの写メも入れとこっと。

兎に角、タイ、ノドグロ、キンキ、キンメダイ等の海の赤ピンク系の魚はみんな旨いわ。

【飛べ‼、スミナガシ】

スミナガシの♂はテリトリーを張るので、どんどん採っていかないと新しい奴が入ってこない。
そして、大概は最初に陣取っているのが古参のボロ。仕方なく1頭目のボロを後で逃がしてやるつもりで採ったのだが、忘れてて持って帰ってしまった。
で、部屋から逃がしてやったらなぜか網戸に止まってぶるんぷるん翅を震わせ始めた。
写メでは分かりにくいけど、スミナガシの複眼の色は深いエメラルドグリーンなのだ(画像を拡大すれば少しはわかるかと思う)。真っ赤なストローと相俟って、蝶の中ではかなり特異で妖艶な美しさです。その辺も人気の理由かもしれないですね。
でも、死んだら残念ながらその色は儚く消えてしまう。トンボなんかもそう。オニヤンマのグリーンの複眼は是非生きている時に近くで見て欲しい。どんな美しい宝石も勝てない透明なグリーンなのだ。

S

『西へ西へ、南へ南へ』14 迷走男と迷走台風

蝶に魅せられた旅人アーカイブス

     ー捕虫網の円光ー
   『西へ西へ、南へ南へ』

   (第十番札所・迷走男と迷走台風)

2011年 9月17日

起きたら、意外と天気が良い。風もない。
まさか、台風が忽然と消えたりなんかしたりして…。
どっちでもいい。とにかくこの晴れ間を逃すわけにはいかない。

8時半に慌てて出て、らんかん山の登山口に行った。
入口横の民家に大きなリュウキュウエノキがある。 ここがアカボシゴマダラの発生地と睨んだ。ということは、♀が卵を産みにくるんじゃないかと予測したのだ。

【アカボシゴマダラ奄美大島亜種】

しかし、陽が射しても♀は現れない。
9時半まで待ったが、姿はない。
仕方なく上に様子を見に行った。

♂も翔んでいない。
だが、テリトリーを張る場所の松の枝に1頭が静かに止まっているのが見えた。アカボシの♂だ。
この蝶、何故か松が好きな変わり種だ。普通の蝶は、松にはあまり止まりたがらない。そもそも、針葉樹に止まる蝶は少ないのだ。
記憶にあるのは、杉や桧にわりと停まるギフチョウとヒサマツミドリシジミ。あとはハイマツに止まるタカネヒカゲ等の高山蝶くらいだろう。

【タカネヒカゲ】

網を近づけたら、めんどくさそうに他の枝に移った。もう一度近づけたら、再びめんどくさそうに梢の向こうに消えていった。
春と夏とではどうか分からないが、この蝶、やっぱり日中は不活発なんじゃないかと思う。昼間に翔んでいるのを未だ見たことがない。

10時過ぎ、どんどん晴れ間が拡がってきた。
昨日の天気予報では完全に雨だったから、この先まったく天候が読めないが、駄目元でチャレンジしようと思った。
一度、部屋に帰り、レンタルバイク屋に電話して借りる旨を伝えた。

昨日、酔っ払って買った半額ぶっかけウドンを急いでカッ込み、10時半にバイク屋へ。

最初はアカボシの個体数が一番多い蒲生崎に行く予定をしていたが、スミナガシ、イワカワシジミも狙える南東部の西仲間、三太郎峠に変更することにした。
出来れば行った所のない違う場所の方がいい。未知なる場所は新鮮だから楽しい。ようするに飽き性なのだ。

58号線は、海岸線みたいにアップダウンがないから楽だ。そのかわりにトンネルが多い。涼しくて良いのだが、3〜4㎞と長いトンネルばかりで、案外疲れる。それにトンネルって、ちよっと気持ち悪い。

西田、小湊、西仲間と回るが成果はあがらない。
せめてイカワカワシジミの幼虫でもとクチナシの木を見て回るが、実がほとんど無い。
よく見ると誰かが採集に入ったような形跡があり、所々枝先がカットされている。有望なクチナシの実を持って帰ったのだろう。これじゃイワカワシジミの幼虫は全く期待できない。

三太郎峠にも行った。
だが、嫌な予感が的中して、崖崩れで通行止めだった。

さらに南の湯湾岳まで行ってしまうことも考えたが、名瀬まで帰ってくるには遠すぎる。
それに一応、台風が向かって来ているのだ。いつ天候が豹変し、荒れ狂いだすとも限らない。南部は山ばっかで避難できる場所も少ないのだ。こないだみたいに雨風に晒され続けて走る苦難は避けたい。

思案の末、とっちゃん坊やの谷村さんがぼわっと教えてくれた微妙なポイントに行くことにした。
名瀬からは比較的に近いので、最悪の事態は免れるだろう。雨宿りできる場所もあるし、天候が急変したとしても被害は最小限に食い止められる筈だ。

午後3時。
勘で林道を上がって行った。
尾根近くまで上がってきたら、( ̄□ ̄;)❗
ここじゃないか?という環境に出た。
と同時に黒い影がよぎった。
スミナガシだ❗

伊達にスミナガシを採ってきていない。生息環境を読む力は、だいぶ上がっている。
更に上を見上げると、アカボシも翔んでいるではないか。
谷村さん、アカボシがいるなんて一言も言ってなかっぞー。(# ̄З ̄)あんにゃろー。

きっと、あんまり教えたくなかったんだろう。
だから、曖昧にしかポイントを教えなかったんだろうなあ…。
フンッ(=`ェ´=)、見つけられるわけないと思っていたようだが、ところがドッコイ、まあまあ天才をなめて貰っては困るのだよ( ̄^ ̄)V

周りをみると、吊り下げ型のフルーツ・トラップもあった。ここに間違いない。

スミナガシは枯れ枝の真ん中に止まっている。
アカボシもかなり高い所を滑空している。どちらも網が届きそうにない。

一応、トラップを幾つか掛けて廻り、そそくさとその場を後にした。もっと上に良い場所がある筈だ。

読み通り、少し開けた切通しでスミナガシたちが追っかけっこをしていた。
楽勝だヽ(^。^)ノ

だが、なかなか止まってくれない。
おまけに敏感だ。本州なら正面から被せればイージーなのだが、ここでは網を被せる前に気付いて翔んでいってしまう。
赤い網が悪いのかと思い、緑に付け替えるが、結果は同じ。
止まったら、素早く横振りでいくしかない。
何度か外した。蚊にいっぱい咬まれたし、(#`皿´)イライラしてくる。

いいかげん怒りに🔥火が入った。
翔ぶ軌道をあらかじめ予測すりゃいいんだろ、ボケがっ( ̄ヘ ̄メ)。空中で仕留めたるわい❗

んなろー、小癪なっ💥❗❗
気合いを入れたら、一発で決まった。
怒った方が採れるって、どゆこと❓でも、そっちの方が案外成績良かったりするんだよねー( ̄∇ ̄*)ゞ
結局のところ、原動力は喜怒哀楽の怒なのだ。

擦れ、欠け、ボロが3つ。綺麗なのが2つ。計5頭採れた。
だが、一昨日のよりも此処のはみんな小さい(註1)。本州の春型と同じくらいだ。
でも、一つかなり蒼いのが採れたから嬉しい。

アカボシも別なもっとイージーな場所を見つけて、駆け込みで2♂捕らえた。
やっぱり、3時から5時というのが♂の占有活動の時間帯のようだ。

山を降りて、道路沿いの回転寿司屋(註2)に行った。
どうしても、寿司が食いたくなったのだ。

だが、失敗。
こんなところで美味い寿司が食えるわけがない。行くなら、ちゃんとした寿司屋に行くべきだった。

(@_@)
飲酒運転で帰る。

結局、軽い夕立があったが、ほぼ晴れの一日だった。
台風どこ?

                   つづく

追伸
えー、今回は四番だっけ?五番札所だっけ?かに続き、アメブロでは抜けてた回でした。
色々理由はあるのだが、多分当時はやらされてた感があったのだろう。共同経営の店の為のブログだったのだ。

(註1)一昨日のより小さい…。
部屋に帰ってからようやく気づいたのだが、一昨日に採れたのは♀でした。

(註2)奄美大島の回転寿司屋
当時は、多分ここが島唯一の回転寿司屋だったのではないかと思う。地魚は全然無くて、ヤケクソのようにマグロばっか食ってやった。
でも、普通のマグロ。せめて近代マグロなら、まだマシだったんだけど…。単なる冷凍マグロでおました。

『西へ西へ、南へ南へ』11 ブルーの肖像

ー蝶に魅せられた旅人アーカイブスー
2012-08-15 19:33:53

      ー捕虫網の円光ー
   『西へ西へ、南へ南へ』第11話

  (第八番札所その2・ブルーの肖像)

ブルーの残像が脳裡に残っている。
自分の不甲斐なさにベソを掻きそうだ。
辛い…。大失恋をした時のような気分だ。
心をどう持ってゆけばいいのかさえわからない。
敗色濃厚。溜め息が何度も洩れる。

正午になった。
空を見ると、帰るべきだと思った。

だが、男は見た蝶を採れないと云うのが許せない。
見ても物理的に採れないノーチャンスの場合は別として、可能性がある場合は何があってもターゲットは落とす。それが男の矜持だ。
今まで、その日のうちにリベンジできなかったのは、キリシマミドリシジミくらいだろう。
現在、ベニモンカラスシジミも3連敗中だが、一度も見たこともないから採れるわけがない。だから、そう悔しくもない。
だが今は、既に何度もチャンスを逃している。
このままおめおめと帰るわけにはいかない。それは、敗北を認めると云うことだ。心が折れた儘で大阪に帰るのは御免だ。

1時40分までリミットを延ばした。
これがアカボシがテリトリーを張る時間に間に合うギリギリの時間だ。修行僧を続けよう。

マジで両手を合わせて、神と仏に祈った。
声に出して、『神様、仏様、お願いですから、もう一度わたくしにチャンスをお与え下さい。』と手を組んで頼んだ。他人から見たら漫画のような光景だが、本人はいたって真剣だ。

1時13分。
緑の間から待望の黒い蔭が現れた。
周囲を弧を描くように滑空している。
だが、様子が今までの奴とは少し違う。飛行時間が長いし、低い。男のすぐ傍らをスーッと通過して行った。違う個体かもしれない。
それが二度繰り返されたから、よっぽど空中で勝負をつけてやろうかとも思った。だが、長竿では素早く振る自信が無かった。
らしくない。きっと慎重になり過ぎているのだ。心が縮こまっている証拠だ。

なかなか止まらない。
止まってくれ、お願いだから止まってくれ。祈りにも似た気持ちで黒い影を目で追う。

止まった❗
あ~(´Д`)
だが、あの幹の樹液ではなく、頭上5mくらいの枝の間に止まった。

(・。・;ほよ❓、何してるだすか❓
見たこともない行動に戸惑う。
そのうち枝を歩き回り始めた。そして、暫くして止まった。
どうやらそこからも樹液が出ているようだ。
でも、あの位置では枝が邪魔になって、かなり難易度が高い。
真下にしゃがみこみ、どうしたもんかなと思案する。
このまま状況が変わるのを待つか、駄目元で勝負をかけにゆくかのどちらかだ。

悩んだ…。
頭の中が破裂しそうだ。
だが、愚図愚図悩んでいる場合ではない。台風が近づいている。天候が急変するのは時間の問題だ。
意を決して勝負にいくことにした。
このまま何もしないうちにプイッと突然消えられたら、激しい後悔で夜も眠れないだろう。
見逃し三振って、ヘタレで最低だ。駄目元でチャレンジして失敗した方がまだ魂は救われる。

何かまるで恋愛を語ってる人みたいである。
中年男の恋の独白みたいで、普通なら笑うところだがそんな余裕はない。

そろりそろりと長竿B・Jを上に伸ばす。
ヤケクソで枝ごと行ったれと思った。

( ̄□||||うわちゃ❗
1mくらい網を近づけたところで、ふわりと逃げた。
(*ToT)止まれ、止まれ、止まってくれ━━。
悲痛に願う。焦燥と緊張で気が変になりそうだ。

(;A´▽`A ふうーい。
よし、何とか3mくらい向こうの枝先に止まってくれた。手前の枝が邪魔だが、さっきよりかはマシだ。これなら採れないこともない。

(;゜∇゜)あちゃー。
またネットを慎重に近づけるが、同じようにふわりと翔んだ。マジですか?

ほっ( ̄▽ ̄)=3
さらに2m程先へと移動して止まった。
今度は邪魔するものはない。存分に網が振れる。
高さは5~6m。テリトリーを張る時と同じように枝先に止まってくれた。葉先から2本の触角が突き出ているのがわかる。
これを逃したら、その場で切腹したくなるだろう。蝶採りなんて即刻やめてやる(=`ェ´=)❗

最初はテリを張っている時のように正面から被せようかと思ったが、状況が違うと思い直した。ここのスミナガシはそんなアホではない。敏感だ。横から払おう。

高さを慎重に合わせる。
息を止め、万感の想いを込めて渾身のスイングを繰り出す。
トゥリャ━━━(*`Д´)ノ❗❗❗
💥横殴りになぎ倒し、マトリックス的にそのまま背後に向かってネットを流す。
手を離し、そのまま体を捻り反転する。
スローモーションのように網が真っ直ぐに落ちてゆく。
手応えはあった。
下は平らなアスファルト。横から逃げられる心配はない。

男は、ゆっくりと近づいていった。

終わった…。
渋いブルーが中で暴れている。
男の体が一挙に弛緩した。と同時にその場にヘタり込みそうになる。

やっぱり、本州のものより明るくて蒼い。
右端の上あたりが擦れているが、この際関係ない。
粋(いき)で美しい。

敗北をすんでのところで免れた安堵と勝利の陶酔感がジワジワと背中を這い登ってきた。
タイミングを図ったかのように強めの雨が降り出した。
男は慌てて役に立たなかったトラップを回収して、バイクのエンジンをかけた。

見上げると、風雲急を告げるように黒い雲が物凄いスピードでこちらに近付いて来ていた。

                   つづく

【追伸】
ラッキーな事に、後日この個体は♀と判明した。
この蝶、♂はそれなりに採れるのだが、♀は滅多に採れないのだ。

【再録にあたっての追伸の追伸】
あれから♀は、石垣島で1頭、沖縄本島で1頭、台湾で数頭採っただけだ。
本州では、その後現在(2017年4月)に至るまでいまだに一度も採った事が無い。あれだけ♂がいる生駒山系でさえも、♀はほとんど見たことがないのだ。スミナガシの♀って、謎だよなあ…。
今年は枚岡でトラップでもかけてやろうかしら。

『西へ西へ南へ南へ』10 蒼の洗礼

蝶に魅せられた旅人アーカイブス
2012-08-14 20:18:17

     ー捕虫網の円光ー
    『西へ西へ、南へ南へ』

     第八番札所 蒼の洗礼
 

2011年9月15日

朝6時前に起き、支度を始める。
天気予報では晴れのち雨。
降水確率は午前と午後、それぞれ40%と90%だ。
台風が近づいている。時間との競争だ。

24時間スーパーに行って、濡れるのは必至とみてポイントマップをcopyした。原本をcopyさせて貰ったのをそのまま持ってきたから損傷を避けたかったのだ。

昨日、酔っぱらって買ってしまった(半額だった)奄美名物・鶏飯(けいはん)をレンジで温める。これが昼兼用の朝食だ。

この先どうなるか分からない。生死を分かつトラブルに会わないとも限らない。取り敢えず何か腹に入れておいた方が良いだろう。
それにしても、久し振りに食うがやっぱり鶏飯は旨い❗

一応、カッパも探してみたがスーパーには無かった。
まあいい。どうせ今日は最初から濡れる覚悟なのだ。たとえ有ったとして、台風ならば役に立つかどうかも疑問だ。

目指すは、昨日スミナガシ(註1)がいた樹だ。
実物を見てしまうと、プライオリティーが変わった。
アマミカラスの♀もアカボシの♀もかなり魅力的だが、元々男は大の墨流し好きなのだ。

【Dichorragia nesimachus スミナガシ】(2014.5.11 大阪府東大阪市額田尾根)

すっかり忘れていたが、蝶採りを始めてまだ二年目の春だった。
大和葛城山で会った居酒屋を経営する酔っ払い爺々の家に招待された事がある。
その時見せて貰った標本箱に収まっていた奄美大島産の蒼いスミナガシが、男の胸に燦然と甦ってきた。

ジジイは、自慢気に『奄美大島のスミナガシは特別に蒼くて、珍品だよ。簡単には採集できない!』と言ってたなあ。

多分、朝早くから樹液に来ている筈だと読んだ。
進んで地獄へ向かうのだ。期待を込めてそう思わないとやってらんない。
上手く片が付けば、早めに山を降りて、そのあとアカボシ、アマカラの♀を狙えば良い。

用意にとまどい、やっと出れたのは7時。
先ずはガソリンを入れに行く。
悪天候が予想される中、ほとんど誰も通らない林道でガス欠でスタックでもしたら危険過ぎる。

天気は意に反して既に雨雲の勢力が領空を制圧しようとしている。
飛ばして一時間で着けば御の字だ。
帰りの事を考えれば顔が引きつるが、自分で決めたことだ、怯むわけにはいかない。

1時間10分でポイントに着いた。
横目で樹を確認した。

いる❗
読み通りだ。
いきなりのクライマックスだ。
アドレナリンが全身に駆け巡る。
サッサと片付けてやる❗

バイクを停め、早る気持ちを抑えてネットを組み立てる。
息を詰め、忍び足で近づく。

樹の下まで来た。
さあ、とっとと終わらせるぞと思ったが、白網の中に小枝が入っているのがつい気になった。蝶が枝にぶつかって羽が損傷したら元も子もない。

えっ(;゜∀゜)❓
だが、枝を取り除いて見上げたら、スミナガシの姿はもうそこにはなかった。忽然と消えていたのだ。目を外して数秒と経ってない。

あうぅ…( ̄0 ̄;
殺気が出てたのか…。
昨日に引き続き網さえ振ってない。

小雨が降り始めた…。
気を取り直して、樹の周辺に果物トラップを仕掛ける。戻ってきてくれることを祈ろう。

その後、降ったり止んだり、時々晴れ間が覗いたりの繰り返しが続く。
だが、彼女は姿を見せない。焦燥と退屈で身が引き裂かれそうだ。

9時半、ようやく翔んできた。
かなり警戒している様子だ。
周囲を気にしながらも樹液に止まった。

一回、静かに深呼吸した。
暇だったから、頭の中で作戦はシュミレーション済みだ。網を下から近づけて、翔んだ瞬間に反射神経で空中でシバいてやろうと思った。

そっと網を寄せる。
白網はもしかしたら警戒されるのではと思い、わざわざ赤に付け替え済みだ。

だが、際まで持っていったのに逃げない。
( ̄▽ ̄;)焦る。
仕方なく触れてみた。

ビュン❗
その瞬間に⚡電光石火、軌道も予想と違う無茶苦茶で翔び去った。

(-o-;)……痛恨だ。
自分を慰める術(すべ)さえない。

雲の流れる速度がドンドン速くなってきている。
リミットは、12時と決めた。
それを過ぎると、たぶん嵐に巻き込まれる。

この場所は他の蝶を採りながら待つというわけにはいかないポイントである。
アマミカラスアゲハは沢山翔んでいるが、高いし速い。採集難度が高いし、こちゃこちゃ網を振り回して、スミナガシが寄り付かなくなるのもこわい。
仕方なく、時間潰しに樹を横目で見ながら同時進行的に文章を走り書きで思いつくままにザアーっと書いてゆく。あとで推敲すればよい。

11時40分。
永かった…。
一日千秋の想いで待った甲斐があった。
2時間待ちだ。普通の生活でなら、とっくにキレてる。

また深呼吸する。
まあまあ天才なんだから、もうミステイクは許されないだろう。

今度は横からバチコーンと強く幹を叩くように被せて、驚いた反動でネットの底に入れてやろうと決めていた。
ジリジリと近づいてゆく。網を振るまでのこの瞬間は、他では味わえない堪んない緊張感だ。
今度こそ大丈夫だと自分に言い聞かせる。

照準を合わせて、思い切りよく💥バチコーンいったった❗

黒い影が一瞬網に入ったようだが、確認できない。
素早く道路に網を叩き下ろした。

慌てて近寄り中身を確認する。
あれ!? あれ!? あれ!?
居ない( ̄0 ̄;❗
嘘やん!?( ̄▽ ̄;)……。

網の口径より樹の幹の方が細いので、すんでのところで脇から逃げたのだ。

小次郎、破れたり。
原生林の中に男の哄笑が谺した。
精神の限界を超えると、笑い出すってホントだ。

                  つづく

追伸
(註1)スミナガシ
タテハチョウ科に属し、その分布は東南アジアから東アジアまでと広く、多くの亜種に分かれる。
日本では、北は東北地方から南は八重山諸島(石垣島・西表島)にまで産し、屋久島以北の本土産亜種(n.nesiotes)、沖縄本島・奄美大島亜種(n.okinawensis)、八重山亜種(n.ishigakianus)の3亜種に分けられいるが、何れの地方でも一般的に個体数は少ないとされる。
飛翔は敏速。樹液等に集まる。♂は午後2時から夕暮れにかけて山頂などで占有活動(縄張り争い)を行う。
幼虫の食樹はアワブキ、イヌビワなどのアワブキ科。
和名スミナガシの由来は、むかし、宮中で行われていた遊びの一つ”墨流し”(流水に墨を流して、その変化を見て楽しむ)からだろう。

墨流しってネーミングした人はセンスがあると思う。
だいたい学者がつける名前ってもんは、まんまで何の捻りも無くつまんないモノが多いんだよね。
アタマ、硬いんだよね。何でも遊び心が必要です。