闇夜の絢爛

 
2020年 7月26日

ライトトラップを設置して30分くらい経った頃だったろうか。
突然、小太郎くんが椅子から立ち上がり、小走りに駆け出した。

何❓何〜❓もしかしてアズミ❓
えっ❗❓、えっ❗❓、えっ❗❓、もう飛んできたのー❓

この日はアズミキシタバ(註1)狙いで長野県を訪れていた。

 

 
慌てて自分も後を追っかける。
アズミキシタバが灯りに飛んで来るのは夜半前後と聞いていたけど、イレギュラーも有り得ると思ったのだった。

小太郎くんがライトトラップの裏へと回った。そして、深く濃い闇の手前でしゃがみこんだ。どうやらターゲットを追い込んだようだ。
ねっ、ねっ、アズミなのー❓もしかしてアズミキシタバが採れたのー(゜o゜;❓
しかし、返答がない。もー、何か言ってくれよー(・o・;)

三拍くらいおいて漸く小太郎くんは立ち上がり、振り向いて言った。

コレ、密かに狙ってたんすよー❗

見ると、手にケバいくらいの派手派手な蛾を持っている。
驚愕が走る。一瞬、その強烈な姿に仰け反りそうになった。
黄色、赤、黒。闇夜に浮かび上がる鮮やかな色のコントラストは衝撃的だった。しかも、デカい。
(⑉⊙ȏ⊙)図鑑で見たことあるぞー、ソレ。

名前は、たぶんアレだ。
『それって、もしかしてジョウザンヒトリ❓』
こともなげに小太郎くんが返答する。
『(・∀・)そうですよー。此処だと採れるんじゃないかと思ってたんですよねー。』
 
やっぱ、そうだったのね。ジョウザンヒトリはワシも会ってみたかった蛾の一つだ。俄然、奮い立つ。
思ってた以上にデカいんで驚いたけど、それ以上に驚いたのはその美しさだ。正直、図鑑で初めて見た時は毒々しくって背中がオゾった。華美が過ぎて邪悪な毒婦といった趣きに畏怖さえ感じたのを憶えている。だけど実物は絢爛ゴージャス。毒々しさを美しさが凌駕している。
百聞は一見に如かずだね。どんな生き物だって実物が一番美しい。そこには輝くような生命のオーラがある。素直にジョウザンヒトリって、こんなにも美しいんだと思った。

しかし、その時の画像はない。
写真を撮らせてもらおうかとも思ったが、負けず嫌いなんで自分で採って、自分で撮ったるわいと思ったのだ。
とはいえ小太郎くんのライトトラップなんだから、結局のところは採らせて戴くというのが正しいんだけどもね。

午後10時過ぎ。
闇の中で極彩色が明滅した。
(☆▽☆)来たっ❗❗

慌てて追いかけるがライトに飛んで来たと思ったら、スルーして地面に落ちた。で、暴れ倒している。わちゃわちゃしてるターゲットに、わちゃわちゃで駆け寄り、何とか手で抑えこんだ。

 

 
暴れ倒したせいで翅が少し擦れてしまったが、キレイだ。
小太郎くんの採ったのよりも鮮度は良い。
よく見ると、前翅の紋は黄色じゃなくて、クリーム色なんだね。地色も黒じゃなくて焦げ茶色だ。一方、後翅の紋は焦げ茶色ではなくて黒だ。そして、胴体はドギツいまでの鮮紅色である。概念を飛び越えて、豪奢に美しい。

自分は元々蝶屋で蛾は忌み嫌っていたから、こうやって蛾を手で触るだなんて、2年前なら考えられないことだ。蛾を見たら恐ろしくて飛び退いていたくらいだから、隔世の感ありだ。人生、何が起こるかわからない。そういや、あんまし好きじゃなかった女の子にいつの間にかズブズブに惚れてたって事もあったよな。

午後11時半に、もう1頭飛んで来た。

 

 
今度のは擦れていて、やや小振りだ。
時期的には少し遅いのかもしれない。アズミキシタバも♂の鮮度は落ちているものが多かったから、2021年はもう1週間早めに来た方が良さそうだ。
とは言いつつも、小太郎くんが連れてってくんないとどうしようもないんだけどね。

                         つづく

 
「つづく」としたし、次回を種の解説編として2回に分けて書くつもりだったが、後編の繋ぎの前書きを書くのが邪魔くさくなってきた。このまま続けよう。

だいぶ経った秋の終わりに漸く展翅した。

  

 
いやはや、裏もドギツいね。
あれっ(・o・)❓、採った時には全然気づかなかったけど、コヤツ、何か腹先から突起物が出ているぞ。
蛾に、こんなもんがある奴がいるとは知らなんだ。何かハサミムシの尻みたいだ。或いはナウシカに出てくるトンボとヘビトンボの合の子みたいな蟲とかさ。これって、ちょっと邪悪感ありだな。
野外写真で確認すると、1頭目の2枚目の写真にもハッキリとヤットコみたいなのが写っている。
オスかなあ❓メスなのかなあ❓
何のために、こんなもんがあるのかな❓このハサミでメスを無理矢理おさえつけ、オラオラで手ごめにする強姦蛾だったりしてね(笑)

 

 
展翅すると、ものスゲー毳(けば)い。
絢爛というよりかは、毒々しさが勝っている。ハサミムシみたいな突起物もあるし、やはり邪悪やね。それに美しいのは美しいけれど、下手したら道化の衣装みたく見えてきた。

一応、触角は真っ直ぐ系にしてみたが、何か違和感がある。あんまし蛾っぽく見えないのだ。やはり蛾は邪悪な感じでないといけんような気がする。まあ蝶屋の勝手な思い込みだけど…。
余程やり直して湾曲系の怒髪天にしてやろうかとも思った。
しかし、手のひらに乗せた横面画像では触角が真っ直ぐになっているし、採った直後の写真でも真っ直ぐっぽい。ならば、このままにしておくか…。

もう1頭の方も確認してみる。

 

 
(☉。☉)!あらま、コチラには尻に突起物がござらん。
とゆうことはだな、オスとメスとでは尻の形が違うって事だね。ちょっと驚きさんだ。じゃあ、どっちがオスでどっちがメスなんざましょ。やはり、こっちが♀で強姦される方なのかな❓

 

 
でも、こちらの方が小さいし、翅の形も全体的にシャープだから♂かなあ❓蝶や蛾の雌雄は相対的にオスよりもメスがデカい。そして翅形はオスがシャープでメスが丸みを帯びるというのが定番だからね。じゃあ、強姦どうのこうのという話は無しか…。
(´-﹏-`;)むぅ……。ならば、こうならどうだ。
メスはフェロモンでオスを誘い出し、近づいて来たところを尻のハサミでワッシと掴み、身悶えするオスを無理矢理に逆に手ごめにするとゆうのはどうだ❓男を巧みに誘い出しては屠る毒婦じゃよ。カマキリ夫人ならぬ、ペリカリア夫人だ。
Σ( ̄□ ̄lll)ハッ❗、なに言ってんだ❓、オラ。頭イカれてるぞ。何をアホみたいなことを妄想しておるのだ。想像力がクズだ。

(・o・ ) おっ、それとこっちは後翅の黒い斑紋が繋がってて、帯状になっとるね。コレも雌雄に関係あるのかな?まあ、それはないと思うけど。
ゴチャゴチャ言っても始まらない。取り敢えずは、どっちがオスでどっちが♀なのかを調べよう。

(@_@)ゲッ❗、調べたら、どうやらハサミムシみたいなのがオスみたいだ。又しても驚きだ。予想を裏切られたよ。
 
♀は、やや触角を湾曲させてみた。
でもなあ…、思ってた程にはカッコよくないんだよなあ。カトカラ(註2)みたく、ビシッと決まらない。
思うに、蛾において触角が短い種は真っ直ぐさせるよりも湾曲させた方が格好いいんではないだろうか❓
前脚も前に出した方が邪悪度は増すかもしれない。もし来年また採れたら、今度は思いっきし邪悪仕様にしてやろう。

一応、並べて撮ってみよう。

 

 
やはり明らかにメスよりもオスの方がデカイ。
普通、鱗翅類の多くの種はメスの方がデカいし、全体的に丸っぽいから違和感ありありだ。でも、たまたまこの♀が小さいだけなのかもしれないから何とも言えないけど…。

手を抜いていると言われるのも癪だから、カトカラの連載と同じく種の解説もシッカリしておこう。

 
【分類】
科:ヒトリガ科(Arctiidae) ヒトリガ亜科(Arctiinae)
属:Pericallia Hübner, 1820

 
【和名】
ジョウザンヒトリのジョウザンは北海道の温泉地として有名な定山渓の事を指しているものと思われる。おそらく最初に定山渓で発見されたから命名されたのだろう。
ヒトリはヒトリガの仲間の略称だね。

 
【学名】
Pericallia matronula (Linnaeus, 1758)

属名の”Pericallia”の語源は調べたが分からなかった。
因みに植物のシネラリア(キク科)の属名に”Pericallis”という近いものが使われている。

小種名の”matronula”は「未亡人」を意味するそうな。
これは良いネーミングセンスだと思う。ソソるね。想像力を掻き立てられる。
それにしても、えらくド派手な未亡人だなあ(笑)。
とんでもない毒婦で、金持ちの旦那を毒殺して遺産ガッポリ。派手に遊びまくってる未亡人を想像してしまったなりよ。若い男を次々と歯牙にかけてゆくのら〜。
ところで、ジョウザンヒトリって毒あんのかな❓こんだけド派手ならば、当然ながら警戒色である可能性が高い。如何にもアタシャ、毒ありますよアピールでしょうよ。
とはいえ、幼虫の食餌植物を確認しないと何とも言えない。もし餌に毒が有れば、間違いなく幼虫も成虫も有毒だからだ。
これは後で、別項でじっくりと検証しよう。

 
【亜種】
原記載(名義タイプ)亜種を含めて、現在のところ3亜種に分類されている。

◆ssp. matronula(名義タイプ亜種)


(出展『世界の美麗ヒトリガ』)

 
前脚を出してる方がカッコイイかも。あと、ハサミの部分はちゃんと整形した方がカッコイイんだね。そこまで考えて展翅すべきたったよ。今さらなおす気はないけどさ。

 

(出展『Photo Gallery Wildlife Pictures』)

 
名義タイプ(原記載)亜種はヨーロッパに産する。但し分布が限られる稀種で、絶滅の危機に瀕しているようだ。

極東のモノとは、どう違うのだろう❓
検索してみたら、前翅が焦げ茶色の極東のものと比べて色が薄く、カーキ色というか黄土色、オリーブグリーンのものが多いような気がする。けど、それが固有の特徴なのかは分かりませぬ。あくまでも印象で言ってます。

 
◆ssp.sachalinensis Draude,1931 (サハリン亜種)


(出展『世界の美麗ヒトリガ』)

 
コチラは♀だね。後翅の黒帯は繋がってないから、雌雄の判別とは関係ないようだ。
さておき、他に見た限りは繋がってるのはいないから、コレって珍しい型なのかもしれない。

ちなみにヨーロッパでは珍品だけど、極東では普通種なんだそうな。

 
◆ssp.helena Dubatolov & Kishida, 2004 (日本亜種)


(出展『世界の美麗ヒトリガ』)

 
日本産は以前はサハリン亜種に含まれていたが、♂交尾器の差違により近年になって分離された。但し、外見上からは区別が殆んどつかないらしい。

尚、岸田先生の『世界の美麗ヒトリガ』には、異常型が載っている。

 

(出展『世界の美麗ヒトリガ』)

 
白骨温泉で採集されたものだが、こんなもんワシだったら直ぐにはジョウザンヒトリとは気づかんだろね。見てもスルーしてるかもしんない。

 
【シノニム(同物異名)】
シノニムとして無効になった学名がいくつかある。

・Phalaena matronula
・Pleretes matronula agassizi

 
【開張(mm)】
ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には、73-79mmとなっている。
一方『日本産蛾類標準図鑑』には、♂70mm内外 ♀80mm内外となっていた。
(・o・;) あれっ、やっぱり基本的には♀の方がデカいじゃないか。じゃあ、ワシの採った♀は矮小型❓
でも、よくよく見ると、ワシの採った♀も胴体は小さくとも開張(前翅の横幅)は上の♂とあまり変わらないのである。そうゆう意味では間違ってはいない。
以前から常々思ってたけど、この鱗翅類の大きさを表す開張とか前翅長ってのは、時に正確な大きさを表せていないケースがある。例えば前翅が横に幅広いが、後翅は小さいスズメガの仲間などは表面積は意外とないのだ。

 
(オオシモフリスズメ♂)

(2018.4月 兵庫県宝塚市)

 
そうはいえども、表面積なんか簡単には測れないから致し方ないんだけどもね。
されどテクノロジーの発展が目覚ましい現代ならば、近い将来にはスマホをかざせば、面積を瞬時に教えてくれるようになるかもね。そのうち図鑑でも表面積で大きさを表す時代がやって来るかもしれない。

話が逸れた。ジョウザンヒトリの大きさに戻ろう。
とゆうことは、本来の大きさの♀は、この♂よかデカいって事なのか…。♂70mm内外 ♀80mm内外というならば、この♂よりも1センチもデカいワケだね。だったら、相当にデカいとゆうことになる。それって、スゲーな。ワクワクするぞ。
確認のためにコヤツらを計測することにしたっぺよ。

(◎o◎)ありゃま❗上の♂は84mmもある。って事は♂の平均が70mm前後とすれば、スーパーなデカ♂って事じゃないか。
下の♀も測ってみる。
(--;)……79mm。何だよ、それって♀の平均的な大きさじゃないか。ようは別に矮小個体でも何でもないってことか…。得したような気もするが、何だか損した気分だ。デカ♂が採れたんだと思うと嬉しいが、♀の馬鹿デカさへの期待は見事に萎んだワケだからガッカリなのだ。チェッ(--メ)

 
【分布】
ヨーロッパ(フランス東部のアルプス地方と東ヨーロッパの中央部及び南部)から極東までのユーラシア大陸北部。
日本では、北海道,国後島,本州(東北地方・中部地方)に分布している。但し、記録は滋賀県辺りまであるようだ。滋賀県も冬は雪深いし、寒冷な気候に適応した種なのだろう。

余談だが、滋賀県で採集されたものは、かなり変わったフォームをしている。

 

(出展『九重自然史研究所便り』)

 
前翅前縁の4個の黄斑が小さく、前翅下縁先端近くにあるはずの黄斑が消失している。また、後翅の斑紋も縮小している。
2011年7月11日に比良山系の滋賀県朽木小入峠で採集されたオスで、得られているのはこの1頭のみ。
この場所から一番近い記録は福井県だが、岐阜県や長野県の生息地と繋がる県東部から南部の県境の比較的標高の高い地域から得られたもののようだ。つまりは隣県とはいえ、滋賀県で得られた場所からは遠く離れており、産地は連ならない。伊吹山系で見つかれば、また少し話も違ってくるけどね。
とにかく、今のところ滋賀県の産地はジョウザンヒトリの分布の南限であり、他の産地から孤立している。また、最も低い場所で採れたものかもしれないそうだから、独自に進化した可能性はある。となると、もしも朽木で同様の斑紋を持つ個体ばかりが採れれば、亜種になる可能性があるというワケだ。
ロマンがある話だけど、探しには行かないだろうなあ…。心のどこかで、どうせ偶々採れたのが異常型だったのだろうと考えてるのだ。それにその時期に採りたいものは他にいっぱいいるのだ。そこまでジョウザンヒトリに御執心にはなれない。
でも、そうゆう考えが凡人なんだろなあ。
ロマンある人は探しに行ってほしいね。そこそこヒーローになれまっせ。そこの若い人、名をあげるチャンスですぜ。

 
【レッドデータブック】
岩手県:Dランク
福井県:分布限界種B(県レベル)

 
【成虫の出現期】
7月〜8月。

 
【幼生期】


(出展『Photo Gallery Wildlife Pictures』)

 
たぶん終齢幼虫だろう。所謂、毛虫型ですな。特にこうゆう毛だらけのタイプのものを「クマケムシ」と呼ぶそうだ。たぶん熊みたいってことだろう。
猶、日本の幼虫画像は見つけられなかったので、外国のものを使わせて戴いた。

驚いたのは、卵から成虫になるまで何と2年も要することだ。
まるで高地にいる高山蝶や高山蛾みたいな生活史じゃないか。
殆んどの鱗翅類は年一化か年二化、もしくは多化性である。親になるまで2年以上かかるものは高山などの特殊な環境に棲むものくらいなのだ。それとて、平地で飼育すると大概の種は1年で親になることが多いというから、益々ワケがわからない。高山蛾でも何でもないのに、何故に2年もかかるのだ❓そこに重大な秘密が隠されていたりしてね。
何だかジョウザンヒトリって、規格外だらけだ。そうゆうのって何だか素敵だ。好感がもてる。

 
【幼虫の食餌植物】
ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には、以下のものが挙げられていた。
ヤナギ科、キク科:タンポポ、オオバコ科、スイカズラ科。
しかし『みんなで作る日本産蛾類図鑑』は全面的には信用出来ない。誤記が多く、情報も古くてアップデートが全然されてないからだ。
『日本産蛾類標準図鑑』には、キク科ヤナギタンポポ、タンポポ、スイカズラ科、オオバコ科とあった。
ほらね、やっぱり『みんなで作る日本産蛾類図鑑』は間違ってたやないの。ヤナギ科ではなくて、キク科のヤナギタンポポじゃないか。このサイトには助けられているし、重宝もしているが、何度も騙されてもいる。だから今では鵜呑みにしてはならないと肝に銘じておるのじゃ。変だなと思うものは調べ直している。
まあ、それはさておき、ヤナギタンポポなんていう柳なのかタンポポなのかようワカランものが世に存在するとは夢にも思わなんだよ。

一応、海外での食餌植物の記録も調べてみた。
ヨーロッパのサイトを見ると、やはり多食性で以下のものが食餌植物として挙げられている。

・Lonicera(スイカズラ科スイカズラ属)
・Viburnum(ガマズミ科ガマズミ属)
・Rubus(バラ科キイチゴ属 ラズベリーなど)
・Corylus(カバノキ科ハシバミ属 ヘーゼルナッツの木など)
・Hieracium(キク科ヤナギタンポポ属)
・Vaccinium(ツツジ科スノキ属 ブルーベリーなどベリー系)
・Fraxinus(モクセイ科トネリコ属)
・Quercus(ブナ科コナラ属)
・Prunus padus(バラ科ウワミズサクラ属)

蝶と違い、結局のところ科を跨いで何でも食うぜの悪食蛾風情なのだ。こうゆう節操のないところが、蛾が蝶屋から蔑まされる理由の1つなのかもしれない。まあ、所詮は蝶屋の選民意識にすぎないと思うけどね。
それはさておき、見たところ毒の有りそうな植物は特に無さそうだ。とはいえ、一応チェックしておこう。

調べた結果、やはり特に毒性の強いものはなかった。むしろ殆どの植物が食用や薬用になっているくらいだ。
とゆうことは、ジョウザンヒトリには毒が無いって事なのか❓
だったらド派手に見せる必要性はない。いや、擬態か❓毒は無いのに毒のあるものに似せることによって天敵から身を守ってるのか❓
あっw(°o°)w❗、そういやドクガの仲間にジョウザンヒトリにソックリな奴がいたな。

 
(シロオビドクガ♀)


(2019.8月 長野県松本市)

 
よくよく見れば、色彩の配色パターンは同じだけど、厳密的にみると斑紋パターンが違う。
そういや、恥ずかしながら松本の新島々駅で初めて見た時はジョウザンヒトリかと思って小躍りしたんだよね。蛾は素人とはいえ、虫屋が間違うとゆうことは擬態の精度は結構それなりに高いと言ってもいいレベルなんじゃないかな。
(・∀・)んっ❓ちょっと待てよ。シロオビドクガはドクガの仲間に分類されてはいるが、毒は無かった筈だぞ。当時、名前が分からなくて調べたから、間違いない筈だ。
とゆうことは、シロオビドクガがジョウザンヒトリに擬態しているってワケか。ならば、ジョウザンヒトリには毒があるという逆証明になりはしまいか。

思い出した。このシロオビドクガ、面白いことにオスは見た目が全然違ってて、また別な蛾に擬態していた筈だよな。

 

(出展『BIGLOBE』)


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

 
雌雄異型なのだ。たしか見た目が違うことから、昔はそれぞれが別な種類だと考えられていた筈だ。そうだ、メスは「ハヤシヒトリ」という名で記載までされてたんじゃないかな。
過去にはヒトリガ科の1種だと思われてたんだね。ドクガの仲間とヒトリガの仲間は分類的には近いと思われるが、蛾の和名は錯綜しがちだ。ドクガとマイマイガなんて名前は違うが、同じカテゴライズ化されてる事が多いからワケわかんねえや。
他にも例えばカクモンキシタバ(Chrysorithrum amatum)という蛾がいるが、カトカラ(Catocala)属の下翅が黄色いグループ(カバフキシタバ、ナマリキシタバ、ヨシノキシタバetc…)をキシタバと呼ぶから、和名的に混同されがちだ。カクモンの属は、”Chrysorithrum”という全くの別属だったりするのだ。同じヤガ科のシタガバ亜科ではあるんだけども、ややこしい。蛾って、こうゆう人を惑わす和名が多いと思う。コレって何とかならんかね❓

♂は昼行性のホタルガに擬態していると言われている。それにしても、雌雄で擬態相手を変えてるだなんて手が込んでんな。

 
(ホタルガ)


(2018.9月 兵庫県宝塚市甲山)


(出展『対馬の蛾類』)

 
ホタルガの方が一回り小さいけど、見た目の擬態精度は高い。
昼行性とゆうことは、目立つだけに毒が有る可能性が高そうだが、一応有無を確認しておこう。

調べたら、幼虫には毒があるようだ。でも、まさかの成虫には毒が無いそうだ。だったら、擬態する意味ないじゃん❗ とゆうことは擬態しているワケではないって事❓ならば♀も別に擬態してなかったりして…。
いや、でもホタルガの幼虫に毒があるならば、それが成虫にも受け継がれてる筈だ。毒蝶や毒蛾とされるものは、知っている限りは全部子も親も毒ありなのだ。だいたいが毒をそのまま持って成虫になるというシステムになっている。だって、その方が捕食される可能性が低くなるから理に適っているからね。ホタルガの成虫に毒がないってホントかね❓何かの間違いなんじゃないかと疑いたくもなるよ。
翻って、もしジョウザンヒトリに毒が無いとすれば、何の為にド派手な姿をしているのだ❓ミミクリー(擬態)する相手に毒があるか、もしくは自身に毒が有るかでないと目立つ意味がないではないか。無駄に派手だと、どうぞ食べてございましと言っているようなもので、天敵にソッコー見つけられて捕食されるだけじゃないか。
う〜ん、ラビリンス(´-﹏-`;)、毎度の事ながら迷路に迷い込んじまったよ。

でも、ヒトリガのグループを代表するヒトリガ(ナミヒトリ)って、毒が有るって聞いたことがあるような気がするぞ。ならば、そこから突破口が見い出せるかもしれない。

 
(ヒトリガ)

(出展『Wikipedia』)

  
ジョウザンヒトリは黄色系の毳々(けばけば)しさだが、こっちは紅系のケバさだ。同じく、よく目立つ。どうみても毒ありまっせーと言ってるパターンだ。

 
【学名】
Arctia caja phaeosoma (Butler, 1877)

(・o・)あれれ❓、同じヒトリガの仲間なのに、ジョウザンとは属名が違うぞ。
(-_-;)ったくよー。こんなとこでもラビリンスに迷い込むとは思ってもみなかったよ。

調べてみたら、どうやら両種は同じArctiinae(ヒトリガ亜科)には入れられてはいるが、属は異なり、ジョウザンヒトリの属である”Pericallia”は1属1種、つまりこの属に含まれる種はジョウザンヒトリだけみたい。そしてヒトリガの属であるArctia属も、日本ではこのヒトリガ1種のみのようなのだ。これって蛾は属が細分化されてるって事なのかな❓だとしたら、それってどうよ❓って感じだなあ。

一応、標本画像も貼付しておこう。

 

(出展『オークフリー』)

 
美しいね。紅が目立つが、下翅の紋が青いというのが、またシャレオツだ。

あれっ(・o・)❓、当然、雌雄が並んでいるとばかり思っていたが、ジョウザンヒトリの♂の尻先にあるハサミムシみたいな突起物が両方ともない。まさかの2つとも♀なの❓それとも、元々ハサミムシ的な突起を持ってないとゆう事❓
気になるので、ここはハッキリさせておこう。

 

(出展『the insert collector』)

 
あった。
上が♀で下が♂のようだが、♂はハサミムシみたくなってない。他の画像でも確認したが、ハサミムシ的突起物のある個体は1つも見つけられなかった。とゆうことはヒトリガには突起物は元来ないとゆうことだ。なるほど、それなら両者の属が違うことも理解できなくもない。

極めて稀に下翅が黄色くなるものが見られ、宮崎県や長野県で得られているという。

 

(出展『世界の美麗ヒトリガ』岸田泰則 著)

 
一瞬、ジョウザンと間違えたよ。シロオビドクガとも似てる。
ヒトリガは個体変異が著しく、同じ斑紋の個体は無いに等しいらしい。それゆえか人気が高く、海外ではヨーロッパを中心に金魚みたく交配して新しい色柄を産み出しているようだ。

 
【和名】
「飛んで火に入る夏の虫」という言葉がある。
目の前に危険が待ち構えているのにも拘らず、火に飛び込んでしまう昆虫の習性を人間に置き換えたものだが、そのモデルになったのがヒトリガだと言われている。夜行性の昆虫の中でもとりわけ自ら火の光へ飛び込んでいく習性を持っているそうな。ゆえに漢字では「火取蛾・燈取蛾・火盗蛾」と表記がされるらしい。コレは目から鱗だった。勝手にヒトリガは「一人蛾」なんだと思い込んでたからね。何でロンリーなんだ?もしかして単為生殖なのかもとか色々と想像してたが、そっちかよ。
けど、蛾の中で特にヒトリガだけが火の中に飛び込みたがるとは、ちょっと信じ難い。ヒトリガの実物をまだ見たことがないから何とも言えないけど、どうにも眉唾っぽい。
そういえば有名な日本画に、飛んで火に入る夏の虫的なのがあったな。えーと、何だっけ❓そうそう、速水御舟の『炎舞』だね。あそこにはヒトリガは描かれていたっけか❓描かれていたとしたら、ヒトリガ自殺率高し説も納得なんだけどさ。

 

(出展『Wikipedia』)

 
どうやら描かれていないみたいだね。
なあ〜だ、つまんなねぇなあ。

さてさて、肝心の幼虫の食餌植物である。

 
【幼虫の食餌植物】
クワ科:クワ、スイカズラ科:ニワトコ、スグリ科:スグリ、キク科:キク類、アサ科:タイマ、雑草

『みんなで作る日本産蛾類図鑑』に書かれていた食餌植物だが、最後の”雑草”ってのにはズッコケたよ(笑)。
何じゃそりゃだし、元々このサイトは全面的には信用できないから、ここは岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』でも一応確認しておこう。

以下のものが挙げられていた。
クワ(クワ科)、スグリ(スグリ科)、アサ(アサ科)、ニワトコ(レンブクソウ科)、オオバコ(オオバコ科)。
飼育ではタンポポ類(キク科)、ギシギシ、イタドリ(タデ科)、キャベツ(アブラナ科)なども食うとなってた。とにかく、科とか関係なく何でも食うってことだね。好き嫌いがないと言えば聞こえがいいが、味音痴なだけじゃないのかえ(笑)。

尚、特に毒については言及されていなかった。
ならば、自分で探すしかあるまい。先ずは『Wikipedia』から覗いてみよう。

「本種の毒性についてはまだ解明されていないが、アセチルコリン受容体をブロックする神経毒作用を示すコリンエステルであると考えられている。また、小鳥のような天敵にとって、この配色には学習効果もあると考えられる。通常、木などに留まっているとき、本種は保護色にもなっている前翅の下に後翅を隠している。
しかし、危険を感じたらすばやく後翅の朱色を示して飛び立つ。これは鮮やかな色で天敵を混乱させるだけでなく、捕食された場合であっても、中毒を経験することで鮮やかな色がかえって記憶に焼きつく効果がある。それにより、近寄らない方が無難であることを学習し、結局この色彩が天敵に対する警告となる。」

やはり、毒はあるようだ。
でも、『Wikipedia』には同時にこうも書いてあったので、脳みそパニックを起こしそうになる。

「毛虫そのものの幼虫は、知らない人が見るといかにも毒々しいが、実際には毒はない(食草に含まれたアルカロイドを体内に含有していることがあるので、小鳥のように摂食する分には有毒ではある)。ただし幼虫の柔毛がアレルゲンとなり発疹などを引き起こすことがある。また同じヒトリガ科のヤネホソバなど近縁種の幼虫は、この毛が有毒の毒針毛になっているため、むやみに素手で触れるべきではない。」

「実際には毒はない」なんて書いてるから、一瞬ワケがわからなくなったよ。しかし、これはあくまでも手で触れても毒はないという事を言っているだけのようだ。食べない限りは毒に侵されることはないって事ね。ややこしい書き方すんなよな。

Wikipediaでは毒があるとは書いているが、推測の域でしかなく、どうにも曖昧だ。もう少し突っ込んで探そう。

ネットで探していると『胡蝶の社』というサイトに次のような文章が書かれてあった。

ヒトリガ科の幼虫の多くは広い範囲の植物質を食べます。大部分の種の幼虫は夜に活動します。幼虫は毛むくじゃらで、多くの種はジャガイモやキングサリなど、有毒物質を含む植物の葉を食べるため、毒をもっています。

ヒトリガの成虫の後翅は非常に目立つ朱色をしています。
実はこれは毒を持っていることを示す警戒色です。ヒトリガの毒を持つ経緯は次のようになります。

幼虫は毒であるピロリジジンアルカロイドを含んだ植物を優先的に食べます。しかし、幼虫は広食性でさまざまな植物から毒性化合物を取り込んでいます。

見た目が毒々しい毛虫そのものの幼虫ですが、実際に毛に毒はないといわれています。しかし、食草に含まれたアルカロイドなどの毒を体内に含有しているので、鳥のように摂食する分には有毒です。
また、幼虫の毛がアレルゲンとなり発疹や炎症などを引き起こすことがあります。
同じヒトリガ科の幼虫の中には、毛が有毒の毒針毛があるため、毛虫を素手で触れるのは危険です。

成虫
幼虫のころに蓄えた毒は成虫になっても体液などに残ったままです。翅の目立つ色と模様は捕食者への警告色として役立ちます。
ヒトリガの毒性についてはまだ解明されていませんが、アセチルコリン受容体を妨害することによって作用する神経毒作用を示すコリンエステルであると考えられています。

ヒトリガの成虫は危険を感じたらすばやく後翅の警告色を示して飛びます。
また、コリンエステルを噴霧することもあるそうです(噴射なんてヤバ過ぎだぜ。目に入れば失明だな。😱怖〜)。

この模様は他の蛾も擬態しているものと見られ、オスのシロオビドクガはホタルガに似ており、メスのシロオビドクガが羽を広げている姿はジョウザンヒトリに似ていることから、オスとメスで異なる蛾に擬態しているのではないかと考えられています。

一方、毒がないとする記述も多い。
「よく毛虫に刺されたという、被害を聞きますが、毛虫や芋虫などの昆虫の幼虫で毒があるのはごく一部。もちろん、このヒトリガの幼虫には毒毛や毒針はありません(「アウトドアの交差点」より)。」
見落としていたが『みんなで作る日本産蛾類図鑑』にも「幼虫は無毒。1971年環境衛生18-10より」とある。
ネットで更に検索したが、他も概ね毒はないと書いてある。
しかし、その殆どはワシと同じく孫引きである可能性が高いだろうから、そこのとこは留意しておいた方がいいだろう。
ちなみに幼虫に毒が無ければ、成虫にも毒はないと言っても過言ではなかろう。成虫だけに毒がある鱗翅類なんて例は自分の知る限りではいない。成虫が新たに体内に毒を有するためには何かから摂取するしかないが、そうするには毒水か毒蜜を吸うしかないけど、そんな奴がいるとは思えない。そうそうそんな場所はないし、そんな植物もないからだ。まさかの無から体内生成することが出来れば別だけど。

神奈川県衛生研究所のネットサイトで以下のように記述を見つけた。
「毒針毛などを持つグループとしてドクガ類、カレハガ類、ヒトリガ類、イラガ類などがあります。カレハガ類、ヒトリガ類、イラガ類は幼虫のみ害がありますが、ドクガ類の中には卵から成虫まで全てが害を与える種類がいます。」

ほら、こうゆうのが出てきた。
ヒトリガそのものを指してはいないが、ヒトリガ類の幼虫には毒が有るとハッキリと書いてある。ただし、問題点もある。幼虫のみ害があると書いてあるワケだから、つまりは幼虫には毒が有るが、成虫には毒が無いとゆうことだ。ホタルガと同じパターンだ。
 
Wikipediaのヒトリガ科のページにも以下のような事が書いてあった。

「発育のための栄養摂取を直接の目的としない、何らかの化学物質を摂取するための摂食行動・習性のことをpharmacophagy(薬物摂食, 薬物食性)と呼び、本科の、とくにヒトリガ亜科に関してはこの薬物摂食行動でよく知られる。幼虫期、あるいは成虫が羽化後に行う薬物摂食によって植物からピロリジジンアルカロイド、強心配糖体、イリドイド配糖体などの二次代謝産物を摂取・蓄積し、捕食者から身を守る化学防御機構に役立てるほか、雄成虫が性フェロモン合成や雌への婚姻贈呈 nuptial gift に用いる例も知られる。また、上述したような派手な体色や有毒昆虫への擬態はこの化学防御機構を捕食者に示す警戒色、およびミューラー型擬態として機能すると考えられる。」

となれば、ジョウザンヒトリの幼虫や成虫に毒があるという可能性もある。
それに10年程前(2011年)にツマベニチョウ(註3)の成虫に毒が有るってことが判明したという例もある。
オーストリアの研究チームがフィリピン、インドネシア、マレーシアで採集したツマベニチョウの羽や幼虫の体液成分を分析した。その結果、イモガイ(アンボイナ)と呼ばれる猛毒を持つ貝の毒と同じ成分であるコノトキシンが検出されたという。
イモガイはマジでヤバい。結構、日本でも死んでる人がいるみたいだからね。ダイビングインストラクターをしている時も、絶対にそれっぽいものは触らないようにしていた。ダイバーが死亡した例もあるのだ。
ツマベニチョウは日本にもいて、九州南部から南西諸島にかけて分布しているから勿論採ったことはある。それにアジア各地でも採っているから相当な数に触れている計算になる。だから当時はビビったね。羽を触った手で🍙オニギリ食ってて、誤って口に入りでもしてたら死んでたなあとか思ったもん。
しかし後に知ったが、鱗粉には毒は含まれないので、触っても全く問題ないそうだ。たぶん鱗粉じゃなくて、羽そのものの成分に毒があるのだろう。ようは食ったりしない限りは大丈夫ってことなんだろね。

 
(ツマベニチョウ♂)

(2016.7月 台湾南投県)


(2016.4月 ラオス)

 
何を言いたいかというと、まだ知られていないだけで、意外と毒を持つ鱗翅類は他にも沢山いるんじゃないかということだ。ドクガみたいに直接触れただけで被害をうけるモノなら直ぐに毒の存在がわかるが、体内にのみ毒を有するものならば、食べない限りはワカランのだ。そのうち、アレもコレも毒ありとなるかもしれない。特に派手な柄の奴は、その可能性が高いんじゃないかと思うんだよね。

「トレンドライフ」というサイトで、ヒトリガの毒をめぐる現在の状況が書かれてあった。
このサイトによると、ヒトリガの幼虫には毒があるという説と、毒はないという説の両方があり、確実なところは今もって分かってないと書かれてあった。重複部分があるが、以下に記しておく。

(毒がある説)
その毒はアセチルコリンを阻害する神経毒作用を持つコリンエステルであると考えられているという説があります。
又、体内の毒についてはまだ詳細は解明されていないが、植物由来の毒で鳥から身を守っているという説もあります。
いずれにしても、ヒトリガの幼虫の毒については、未だ研究は進んでいないようですね。

(毒がない説)
長い茶色の毛で覆われているので毒を持っているように見えますが、実際には毒は持っていないというものです。
又、成虫も毒はないと言われています。
但し、毒はないが長い毛にかぶれて炎症を起こすことは、希にあるようです。

なるほどね。
でも派手な色は鳥に何らかの警告信号を与えているに違いない。でないと、派手な色である説明がつかない。もし成虫に毒が無く、♂が♀を誘引するために派手な姿をしているのならば、理解できなくもない。鳥や蝶には、そうゆう種が沢山いるからだ。でも、そうなると派手なのは♂だけでよく、♀まで派手である必要性はない。むしろ地味な方が捕食されにくいだろうから、そうゆうケースは、♀が地味である例の方が圧倒的に多い。それにだいたいにおいてヒトリガが活動するのは夜なのだ。真っ暗な中では色彩もへったくれもない。
となると、昼間に鳥に捕食されないために警戒色を利用している可能性の方が高い。ようは鳥などの天敵に対して警告&抑止ができて、捕食を免れさえすればいいのであって、この際、毒が有ろうが無かろうかは関係ないのかもしれない。

                        おしまい

 
追伸
後からネットで、新たな文章が見つかった。
日本生態学会の大会講演の要旨みたいだ。
今さらどっちでもいいやという気分だが、一応載せておく。

一般講演(ポスター発表)P1-199(Poster presentation)

なぜシロオビドクガは雌雄で色彩が異なるのか:性によって擬態の対象が異なる可能性
Sexually different mimicry in the lymantriid moth Numenes albofascia?
*矢崎英盛, 林文男(首都大・生命)
*Hidemori Yazaki, Fumio Hayashi(TMU, Biology)

 警告色が介在する擬態は多くの昆虫で知られている。それらを雌雄に分けて理論的に再検討してみると、4つのパターンが存在する。このうち、(1) 雌雄とも同一モデル種に擬態する例(アサギマダラに擬態するカバシタアゲハなど)と(2) 雌のみが擬態する例(カバマダラに擬態するメスアカムラサキなど)は広く知られているが、(3) 雄のみが擬態する例、(4) 雌雄がそれぞれ別のモデル種に擬態する例についてはまったく研究されていない。警告色と擬態には、ベイツ型擬態(無毒の種が有毒の種に似る)とミュラー型擬態(有毒の種どうしが類似する)の2つが存在し、上記の4つのパターンの中でもこれら2つの擬態の判別を行う必要がある。
 日本に生息するシロオビドクガは、オスはホタルガに、メスはジョウザンヒトリおよびヒトリガに成虫の斑紋が酷似し、両者の成虫出現時期(初夏と初秋)は一致する。そのため、(4) の可能性がある珍しい例と考えられ、雌雄の斑紋の著しい性的二型は性選択ではなく擬態によって進化した可能性が高い。
 そこで、まず、ヒガシニホントカゲを用いた捕食実験を行い、シロオビドクガは捕食者に対して毒性がないこと、モデル種と考えられるホタルガ・ヒトリガには毒性があり忌避することが明らかになった。つまり、両者にはベイツ型擬態が成立していると考えられる。

ここにはハッキリと「ホタルガ・ヒトリガには毒性があり忌避することが明らかになった。」と書いてある。
とゆうことは、やはりヒトリガには毒が有るって事だ。ひいてはジョウザンヒトリも毒性がある可能性が高いってところだろう。とはいうものの、毒が何であるかは明示されていないし、その植物アルカロイドが何に由来しているかも書かれていない。
思考停止。最早、(ㆁωㆁ)白目ちゃんだよ。もうジョウザンヒトリは毒が有るって事でいいじゃないか。有れば全ての事が丸くおさまるんだからさ。

 
(註1)アズミキシタバ

【Catocala koreana Staudinger, 1892】


(2020.7.26 長野県白馬村)

 
日本では長野県と福島県の極めて狭い地域にのみ生息する蛾のの1種。
アズミキシタバについては拙ブログのカトカラシリーズの連載に『白馬わちゃわちゃ狂騒曲』『黃衣の侏儒』と題して前後編を書いたので、宜しければ読んで下され。

 
(註2)カトカラ
ヤガ科 シタバガ亜科 カトカラ(Catocala)属(和名だとシタバガ属)に分類される蛾の総称。

 
(ムラサキシタバ)

(2020.9月 長野県松本市)

 
(ベニシタバ)

(2019.9月 岐阜県高山市)

 
(ミヤマキシタバ)

(2020.8月 長野県木曽町)

 
(シロシタバ)

(2020.9月 長野県松本市)

下翅が鮮やかな種類が多く、蛾では屈指の人気グループ。
日本には現在のところ32種の分布しており、註1のアズミキシタバも含まれる。アマミキシタバを除き年一化の発生。春から秋にかけて見られる。

 
(註3)ツマベニチョウ

(褄紅蝶 Hebomoia glaucippe)は、チョウ目(鱗翅目)アゲハチョウ上科シロチョウ科に分類されるチョウの一種。
開張9〜10cm。モンシロチョウの仲間では世界最大級種で、中でも石垣島など八重山諸島のものが世界最大だとされる。モンシロチョウの仲間とは思えないくらいに飛翔は力強く、高所を飛ぶ。そのため、花に吸蜜に訪れた時や吸水に地面に降りた時くらいしか採集するチャンスはない。尚、ハイビスカスに吸蜜に訪れる姿は、とってもフォトジェニックである。
アジアに広く分布し、多くの亜種がいる。特に東南アジア南部には特異な亜種がいて、コレクターも多い。
添付した画像だが、もちろん日本でもツマベニチョウを採ったことは何度もあるのだが、標本を探し出して新たに写真を撮るのが面倒なので台湾とインドシナ半島のものを使用した。大きさはさておき、見た目は殆んど同じだから、まっいっかとなったのである。
そういや、長らく連載休止の『台湾の蝶』でも、まだツマベニチョウは取り上げてなかったな。ゼフィルスやジャノメチョウ・ヒカゲチョウ類、セセリチョウ類など、まだまだ書いてない蝶はゴチャマンとあるけど、果して再開するのかね。
もう一回、台湾にでも行かないとエンジンは掛かりそうにない。でも海外一人旅にも疲れた。誰か一緒に行ってくれないかなあ…。

  
ー参考文献ー

◆『世界の美麗ヒトリガ』岸田泰則 著 むし社

世界のヒトリガを一同に集めた図鑑。
これを見れば、ヒトリガの世界が俯瞰できる。

 
◆『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』岸田泰則 編著 学研

全4巻から成り、現在のところ日本の蛾について最も詳しく書かれている図鑑。

 
ーインターネットー
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』

◆『Wikipedia』

◆『胡蝶の社』

◆European Lepidoptera and their ecology

◆Photo Gallery Wildlife Pictures

◆九重自然史研究所便り「滋賀県で採集されたジョウザンヒトリ」

◆『アウトドアの交差点』

◆『トレンドライフ』

◆朝日新聞デジタル「美しいチョウには毒がある 東南アジアの種、羽に神経毒」

◆神奈川県衛生研究所「有毒ケムシ類ードクガとイラガ」

◆日本生態学会の大会講演要旨『なぜシロオビドクガは雌雄で色彩が異なるのか:性によって擬態の対象が異なる可能性』
矢崎英盛, 林文男