シルビアの迷宮 第三章

 
 第三章『ボルバキアの陰謀』

 

 
シルビアシジミの話はまだまだ続く。
 
それにしてもシロツメクサ(🍀クローバー)を食草とするならば、もっと分布を拡げても良さそうなものなのに、何で❓ 謎だよね。シルビアシジミって、そんなに移動能力が低いのかよ❓

さあ、そろそろ坂本女氏の論文に戻ろうか。
他にも平井規央氏等のシルビア関連の論文を見つけたので(註1)、それと併せて要約しよう。

平井規央氏の論文によれば、大阪空港周辺で分布調査を行ったところ、空港周辺から離れれば離れるほど個体密度が低下するようで、1㎞も離れると殆んど見つからないそうだ。
そっかあ…、やはり極めて移動性が低いチョウなんだね。

シルビアとヒメシルビアの種間関係だが、遺伝子解析(ミトコンドリアDNA解析)の結果、かなりの相違があることが明らかになり、全く別系統の種であることが判明した。のちに形態の相違点も見つかり、それらが2006年の別種記載の決め手となったようだ。
形態的な違いは、シルビアはヒメシルビアよりも裏面各室の小黒斑が大きく、前後翅亜外縁の黒斑列が各室の小黒斑と同等に発達している点、後翅表面外縁の黒斑列はシルビアでは波状に、ヒメシルビアシジミでは線状となる傾向が強いなどである。

 
(出典『福岡の蝶』)

(出典『カーコとダンナのお出かけ写真』)

 
上がシルビアの裏面の外縁の黒斑列で、下がヒメシルビアのものである。
言われてみりゃ、そんな気もするが、正直言うと微妙だなあ…。このシルビアの個体は比較的波状だとわかりやすいけど、いくつか確認したら判然としない個体も結構ある。識別点としてはファジー過ぎないかい?
とはいえ、両種を並べたら、裏面をパッと見ただけで区別できちゃうんだけどさ。ようはヒメシルビアは小っちゃくて、裏面の斑点が小さくて薄い。それで充分かと思うよ。

ヒメシルビアは最近になって急速に分布を拡げているそうだ。一方シルビアは極めて移動性が低いワケだから、それも両者が別種であるという証明の一助になるのではなかろうか❓
そういう事を書いている文章を見た事ないけどさ。

両種間での交配実験も行われている。
大阪府産のシルビアシジミのメスと沖縄県八重山産のヒメシルビアのオスとを円筒型ネットに入れて配偶行動を観察した結果、ヒメシルビアのオスはシルビアのメスに強い関心を示し、交尾が成立した。その結果、いずれの母チョウから得られた子世代(F1世代)もオスのみが羽化し、オスの約半数のF1個体では幼虫期に発育が遅延し、孵化後50日以上経過しても蛹化に至らなかったという。
羽化したオスは両種の中間的な形質を示すそうだ。

 
(出典『Potential for interspecific hybridization between Zizina emelina and Zizina otis(Lepidoptera: Lycaenidae)』) 
左端がシルビアの♂。右端がヒメシルビアの♀。真ん中2つがハイブリッドの♂である(スケールバーは5mm)。

 
これらと未発表データ(坂本・平井ほか)の交配実験の結果、別種であることが裏付けられるという。ようはF2世代、特にメスがちゃんと羽化してこないから別種だってワケだね。

それでも両者を別種だと認めない人もまだ結構いるようだ。頑固だなあと思うけど、種の概念なんてものは、所詮は人による勝手な線引きでしかすぎないって事の逆説的証明だとも言えるかもね。

それはさておき、問題なのはシルビアがヒメシルビアのオスから求愛行動を受けることが明らかになった事だ。これはシルビアとヒメシルビアが同所的に生息する場合、つまりヒメシルビアがシルビアの分布域に侵入したとしたら、繁殖干渉が起こる可能性があるということだ。
実際、最近になってヒメシルビアが分布を北上させており、屋久島でも確認されるようになった。そのため、隣の種子島にいるシルビアとの交配の可能性が指摘されている。となると、遺伝子汚染が進み、シルビアが絶滅してしまうって事なのかな❓それとも、いずれ新種へと進化してゆくって事❓
何れにせよ、指摘されてから何年か経っているから、或いはもう心配されたことが既に起こっているかもしれないね。

また実験では、ヒメシルビアシジミのメスは個体によってはシルビアの食草ミヤコグサに興味を示し、多数の卵を産み付けたそうな。しかし、孵化した幼虫にミヤコグサを与えたところ、発育は遅延し、多くの個体が若齢期に死亡したという。
反対にシルビアの幼虫に、ヒメシルビアの食草コメツブウマゴヤシを与えて飼育したところ、25℃長日では 4齢を経過し、幼虫期間は15~18日。シルビアシジミとほぼ同様とあった。羽化したとは書いていないが、死亡したとも書いてはいないので、おそらく成虫にはなったのだろう。それにしても、これまた謎だな。一方は育ち、一方は育たないというのは両種間の関係性において、何らかの意味と云うか、示唆されるものがあるのだろうか❓
考えてみたけど、何にも浮かばないや(´▽`;)ゞ
いや待てよ。シルビアはヒメシルビアから派生した種で、元々コメツブウマゴヤシを食べていたものが分布を東アジアに拡大する過程でミヤコグサに食性転換したとは言えまいか。
ありゃ❓、でも遺伝子解析では別系統だとか言ってなかったっけ❓まあ遺伝子解析の結果が絶対ではないもんな。情報を鵜呑みにするのもどうかとは思う。

因みにヤマトシジミのオスもシルビアシジミのメスに強い興味を示すそうだ。
そういえば、昨今シルビアと比較的近縁なヤマトシジミとの交雑種(ハイブリッド)が出現しているというネット情報もあったなあ。両種の特徴がそれぞれ翅裏の斑紋や翅表の色彩等に現れているとか言ってなかったっけ…。

調べてみたら『ホタルの独り言 part2』というサイトの記事だった。それによると、栃木県の鬼怒川流域や千葉県の一部ではヤマトシジミとのハイブリットが出現しているそうだ。ハイブリッド個体は翅形や色彩はシルビアシジミでありながら裏面の班紋はヤマトシジミというものや、翅形と色彩は全くヤマトシジミでありながら裏面の班紋はシルビアシジミという個体がいるそうである。
元ネタの論文はどんなのだろう?と思って探してみたが、それらしき論文は見つけられなかった。
だが『蝶屋(tefu-ya)のブログ』というサイトに、ほぼ同じ文面があった。これはどうやら、そこからの引用のようだ。
ということは、元々は柿澤清美氏の発信って事か…。
となると、私見が強そうだから、ちょっと気をつけないといけないな。けど、もしこれが事実だとしたら、考えさせられるところはある。
そもそも種って、いったい何なのだ❓ 種の概念がワカンなくなってきたよ。

話はまだ終わらん。
 
論文を読んで一番驚いたのは、昆虫類に性比異常を起こさせる事で知られる共生細菌ボルバキア(Wolbachia)の存在だ。
きっかけは、2002年に森地重博氏が飼育した大阪空港周辺の個体の子世代が、全て♀になった事例であった。そこから、坂本女氏や平井氏はボルバキア感染の可能性を疑った。
ボルバキア感染といえば、タテハチョウ科のリュウキュウムラサキが有名だよね。サモアだったっけ(註2)? そこのリュウキュウムラサキは♀ばっかだと聞いたことがある。あとホソチョウの仲間なんかにも例があったと思う。いわゆる細菌によってオスが成長できなくなるチョウの病気だったよね。
それにしても、メスばっかで生き残ってゆけるのかね❓リュウキュウムラサキは♀だけで繁殖できる単為生殖(註3)ではなかったよね❓
そもそも単為生殖のチョウって、この世にいたっけ❓少なくとも自分は聞いた事がない。

ここで一応ボルバキア感染について説明しておこう。
ボルバキア(Wolbachia pipientis)は、節足動物やフィラリア線虫の体内に生息する共生細菌の一種で、特に昆虫では高頻度でその存在が認められる。ミトコンドリアのように遺伝子として母から子へ伝わり、昆虫宿主の生殖システムを自身の都合の良いように変化させることから、利己的遺伝因子の一つであるとみなされている。
また遺伝子解析では、昆虫を殺して体を乗っ取ることで有名なキノコの仲間、冬虫夏草と近縁関係にあることもわかっている。

ボルバキアって、如何にも悪い奴的な名前だよなあ。
『恐怖のボルバキア』『怪人ボルバキアの呪い』『寄生怪獣ボルバキア』『ボルバキア星人の逆襲』『悪辣ボルバキアの罠』『殺戮のボルバキア軍団』etc…。なんぼでも浮かぶわ。シルビア姫に👿悪魔の手が忍び寄るのら。God save the princess silvia. おぉ神よ、シルビア姫を守りたまえ~。

ボルバキア感染には、以下のような4パターンがある。
マジ、ドえりゃあー悪い奴っちゃでぇ~Ψ( ̄∇ ̄)Ψ

〈1〉オス殺し型
オスの卵のみを殺して、メスだけが孵化するようにする。オスを死滅させることで、メスが餌を独り占めする事となり、ボルバキア菌の繁殖には好都合になるという仕組みだ。
(おみゃーに与える飯はねぇだがやー(#`皿´)❗)

〈2〉単為生殖誘導型
メスがオスなしで、メスのみを産んで繁殖できるようにする。
(男なんて、この世に必要ありませんわ、( ̄∇ ̄)オホホホホホ…。)

〈3〉性転換型
宿主のオスをメスに変えてしまう。
(キャア~、世の中みんな総オカマ化よ\(^-^)/)

〈4〉細胞質不和合型
バルボキアに感染したオスが、感染していないメスの繁殖を妨害する。この場合、オスの卵は殺されるが、メスの卵は殺されることなく正常に孵化するため、世代を積み重ねてゆくと、感染したメスのパーセンテージが集団内で高くなってゆくという手の込んだ仕組みである。
(ジワジワ~、ジワジワ~Ψ( ̄∇ ̄)Ψ、真綿で首を絞めるようにあの世に行ってもらいまっせぇ~)

ムチャクチャ悪い奴やんけ。
でも、人間はもっとズル賢いかもしれない。
近年では、このオス殺し、特に細胞質不和合の仕組みを利用して、蚊が媒介するデング熱やジカ熱などを撲滅する試みが為されている。病の原因となるネッタイシマカを人工的にボルバキアに感染させて大量に野外に放ち、病原体の媒介効率を下げようと云うワケだ。
(;・ω・)ん❗❓、でも蚊のオスって血を吸わないんじゃなかったっけ❓血を吸うのはメスだけだよね。だったら、意味なくね❓

その疑問は扠て置き、話を本筋に戻す。

DNA解析で大阪空港周辺のシルビアのボルバキア感染の有無を調査したところ、採集された個体の多くで予想通りにその感染が認められた。確認されたボルバキアは2系統あり、性比異常が認められた母蝶からは共通のボルバキア系統が確認された。この事から、この性比異常は、ボルバキアによって引き起こされる「オス殺し」であることが明らかになった。

一方、もう1系統のボルバキアでは性比異常は確認されていないが、「細胞質不和合」などの寄主操作を行
っている可能性が考えられている。
兵庫県西部など近隣のミヤコグサに依存している個体群では感染が認められなかったようだ。この事から、昆虫の寄主植物利用の変化に体内の共生細菌が深く関わっているという報告もあるので、シルビアにおいても細菌による寄主操作によってシロツメクサに寄主植物の転換が行われた可能性があると推察している。
しかし、その後の実験では、まだそこまでは証明されていないようだ。因みに、千葉県や韓国においてもシロツメクサに依存する個体群がおり、ボルバキアの感染と性比異常を見つかっている。神出鬼没だぜ、ボルバキア。

それにしても、ボルバキアってのはエグいわ。
自身が生き残る可能性を高めるために、宿主をコントロールするだなんて酷いやり口だ。しかも、宿主が産んだ卵の半数であるオスを抹殺するだなんて、血も涙もありゃしない。オスを標的としたテロであり、ジェノサイドだ。男の敵だ。悪虐非道の限りを尽くす、とんでもねぇ野郎だよ。
ここまでくると、もはや謎とかミステリーの範疇じゃなくて、ホラーの世界だな。もうパラサイト・ホラーじゃんか。
人にも、そんな悪い人がいるかもしんないから、皆さん、気をつけてネ。特に若い女子は気をつけなはれ。世の中には、ボルバキア菌みたいな相手を自在にコントロールする悪い男がいるからネ。
嗚呼、アタシもヒモ男になりたい。

 
                     つづく

 
追伸
ここで漸くクロージングに入れると思ったら、また要らぬモノを見つけてしまった。なので、まだ話は次回へと続くのである。
いつまで続くんだ❓この出口の見えないシルビア・ラビリンスのループは❓
もしかしたら、ワシもボルバキア菌みたいなものに知らず知らずに乗っ取られていて、書き続けさせられているのかもしれない。でないと、こんなパラノイア的文章を書き続けている理由の説明がつかんよ。

 
(註1)他にもシルビア関連の論文を見つけたので

・坂本佳子(2015).シルビアシジミの生息域外保全に向けた保全単位の決定(昆虫と自然,50(2))
・坂本佳子 (2015).絶滅危惧種シルビアシジミにおける遺伝子構成とボルバキア感染(昆虫DNA研究会ニュースレター,23,11-18.)
・平井規央(2016).シルビアシジミのホルバキア感染と性比異常(昆虫と自然,51(1))

 
(註2)サモアのリュウキュウムラサキ

【Hypolimnas bolina ♂】

 
サモアとフィジーのリュウキュウムラサキは、rarikっていう亜種なんだけど、画像が見つけられなかった。太平洋のド真ん中だから♀は海洋型でいいのかなあ❓
リュウキュウムラサキの♂は何処でも同じような見た目だが、♀には地域によってヴァリエーションがある。
一応、この下に海洋型の♀の画像を貼っておくけど、サモアのがこのタイプなのかは自信がない。間違ってたらゴメンなさい。

 
(出典 2点共『Alchetron』)

 
サモアのリュウキュウムラサキはオス殺しボルバキアの蔓延が約百年近く続いていたが(Dyson & Hurst,2004)、その後数年でオス殺しに対する宿主の抵抗性遺伝子(優性の胚性因子:Hornett et al,2006)が急速に広まり,集団全体でボルバキアに感染しているのにも拘わらず、オス殺しが起きなくなったことがわかった(Charlat et al,2007;Mitsuhashi et al,2011)。
興味深いことに,オス殺しが起きなくなることによって出現する感染オスは非感染メスと交尾すると細胞質不和合を引き起こすことが明らかとなった(Hornett et al,2008)。つまり、ボルバキアが持つ細胞質不和合を持つ能力はオス殺しによってマスクされていたことになる。
ボルバキア、恐るべしである。

 
(註3)単為生殖
メスがオスと交尾をしなくとも、単独で受精卵を産んでメス世代を繰り返すこと。
因みに、リュウキュウムラサキは単為生殖ではござんせん。