台湾の蝶9 イナズマチョウ

 
     タテハチョウ科 その7

   第9話『戦慄の🔥シャドウファイアー』

 
今回取り上げる蝶は、イナズマチョウ(稲妻蝶)。  
前回に引き続きユータリア(イナズマチョウ属)に含まれる蝶である。
しかし、今まで紹介してきたタカサゴイチモンジなどのLimbusa亜属(緑系イナズマ)とは少し毛色が違うイナズマチョウだ。
ゆうならば、タカサゴイチモンジなどは大陸の北方系由来のイナズマチョウだが、コヤツは南方系のベニボシイナズマ種群に含まれる。

今回もアメブロに書いた文章(註1)を大幅訂正加筆して、お送りしたいと思います。

【Euthalia irrubescens イナズマチョウ♀】 

(裏面)
(2016713 台湾南投県仁愛郷新愛村)

実にシックで妖艶だ。
濡れたような漆黒の黒に、目にも鮮やかな深紅が配されている。美しき悪女と形容したくなるような妖しき魅力をとき放っているではないか。
ワタクシ、💘心奪われておりますよ。

展翅板から外した画像も添付しておこう。

1893年 中国四川省蛾眉山の1♂より記載され、その後、台湾でも発見された。
台湾産のものには、fulguralisという亜種名がついている。この亜種名はラテン語で「稲光の、閃きの」を意味する。また、小種名のirrubescens(イルベスケンス)は「赤くなった」という意味である。

台湾と中国に分布するタテハチョウ科の中では、最も稀なる種とされており、特に中国での採集例は極めて少ないようだ。中国に比べれば台湾ではまだ見られる機会はあるが、それとて少ない稀種ゆえ、長い間その生活史は謎に包まれていた。

1989年、この蝶の生活史を解明した内田春男氏でさえ、その著書『常夏の島フォルモサは招く(註2)』でこの蝶を求めて文献にある記録地を全て歩き回ったのにも拘わらず、徒労に終わったエピソードを紹介し、如何にこの蝶との出会いが難しかったかを書いておられる。また、出会うのは偶然に近いものがあり、神の気まぐれであるとも付記されておられる。
そんな風に昔から少ない蝶として名高かったのだが、最近では従来知られていた宜蘭県や台北近くの烏来の産地でも殆ど見られなくなり、ここ15年で更に激減しているようだ。

台湾では北部と中部に産し、主に1000m以下の中低山地に生息するが、平地や山麓近くにも記録が多い事から高い山には産しないとされる。
自分が採集したのは標高約1200m。トラップにやって来たメスだった。

まさかそんな標高で得られるとは思っていなかったので、最初は頭の中のシナプスが繋がらなかった。
キショッ!!(゜ロ゜ノ)ノ、あまりの毒々しさに蛾かと思っておののいたんだよね。
一拍おいて、イナズマチョウだと気づいた時は心臓が💥爆発しそうになったっけ…。
この辺の詳しい件(くだり)はアメブロに書いたので、興味のある方はそちらを読まれたし(註2)。

それはそうと、こうして改めて画像を見ると、顔面が紅い。蝶では珍しいタイプではないかと思う。何だかセクシーだ。

他の台湾産のユータリアは年1回の発生だが、年3~4回の発生とされる。これは、この蝶が北方系のユータリアではなく、南方系のユータリアであるベニボシイナズマ系に近い種類からだと言われている。

余談だが、この蝶、発見当初はベニボシイナズマの仲間だとは思われていなかったようだ。
他のベニボシイナズマとは、かなり見た目の印象が違うのでオオムラサキの仲間のクロオオムラサキ(註3)に近い種類だと考えられていたのだ。それくらいにベニボシイナズマ系の中では異端の存在なのである。
その後、ユータリア属に籍を移されたが、他のイナズマチョウとの類縁関係は学者により異なったようだ。
そして、発見からおよそ100年後にようやく幼虫の食餌植物が発見されて幼性期の形態が判明し、晴れてベニボシイナズマグループに迎えられたという経緯がある。

参考までにベニボシイナズマの画像を添付しておきましょう。

Euthalia lubentina
ルベンティーナベニボシイナズマ♂
(2016.4.27 Laos oudmxay)

ボロのルベンティーナだが、眼の下の赤ラインがイナズマチョウと共通しているのがわかる。
そんな蝶はベニボシイナズマグループくらいしか思い浮かばない。コヤツの地色を黒くして、白紋と下翅の青緑部分を取り除いて赤紋を減らせば、イナズマチョウになる事が理解できる。

ルベンティーナの♀の画像も、ついでに添付しとこっと。

(2014.4.23 Thailand Chang Mai)

れれっ(;・∀・)ん❗❓、これってルベンティーナ❓
もしかして、Euthalia malaccana マラッカベニボシイナズマの♀なんじゃねーの❓
考えもしなかったけど、多分そうだと思う。
ならば、その前に添付した♂はどうなのだ❓本当にルベンティーナの♂であってるの❓
ベニボシイナズマって、似たような奴だらけでよくワカンナイんだよねー。特に♂はワカラン。
どうあれ、今はベニボシイナズマの話は本筋ではない。書くならば、別な機会を設けて書くべきだわさ。今回の主役はあくまでイナズマチョウなのだ。それを忘れてはならない。でないと脱線で、また話が錯綜して長くなる。それだけは避けたい。

そういえば、イナズマチョウをフラッシュを焚いて撮った写真があったな。

単なる黒ではないことがよく解る。
黒の奥に、緑色が隠されているのだ。
逆にこれに白紋を配し、赤紋も足せばベニボシイナズマになるではないか。イナズマチョウは、間違いなくベニボシイナズマのグループだね。
はて( ・◇・)❓、ここで新たなる疑問が頭に浮かぶ。イナズマチョウは果たしてベニボシイナズマの紋が減退したものなのか❓それとも祖先的なもので、紋や色が発達進化したものがベニボシイナズマなのかな❓
勝手な憶測では、紋が減退したものではなかろうか?
単なる勘だけど…。まあ、生物というものは分布の端っこにくるとひねくれる傾向があるから、あながち間違いではなかろう。

各種図鑑の解説を読むと、極めて飛翔が速く、飛翔中に種の識別が出来ない程で、和名の由来はそこからきていると思われると書いてある。飛ぶのが稲妻みたいにバカっ速いってことだね。

台湾での名称は『紅玉翠蛺蝶』。
他に紅裙邊翠蛺蝶、閃電蝶、閃電蛺蝶、暗翠蛺蝶、閃電綠蛺蝶という別称がある。閃電という文字が宛てられているということは、電光石火、閃光の如く飛ぶ様を表しているのだろう。
実際に飛んでるところはまだ一度も見てないけど、これらの解説からその速さは充分に理解出来る。やはり、クソ速いのだ。飛翔中のものを採るのは、ほぼ不可能。至難の技でしょう。
まあ、ワイなら真空斬鉄剣、必殺居合い斬りでイテこましたるけどな(笑)
Ψ( ̄∇ ̄)Ψフフフ…。アルボプンクタータオオイナズマの♂やフタオチョウ類も、はたまた日本ではスミナガシでさえも空中でシバいてきたワシなのだ。やってやれないことはない。

そういえば速く飛ぶ蝶はいっぱい見てきたけれど、自分の中での最速の双璧は同じベニボシイナズマ種群のアマンダベニボシイナズマの♂(註4)とフタオチョウ属のニテビスフタオの♂(註5)だろう。
両種とも、横をすり抜けて飛び去った時は速すぎて残像になってた。で、結局空中ではシバけんかった。多分、イナズマチョウもそれクラスのスピードで飛ぶんだろね(じゃ、採れないじゃん(@_@;)!)。

そのスピードに憧れて翌年の2017年にも台湾を訪れたが、結局会えずじまいだった。2016年、しかも♀が採れたのは、やはり僥幸とゆうべきものだったのだろう。

因みに、♀は♂より遥かに大きい。

(出典『原色台湾蝶類大図鑑』)

斑紋は♂♀同じだが、♀の翅形は円みが強く、後翅肛角部の尖りは♂に比べて目立って弱い。
参考までに言っとくと、採集した個体を測ったら、開長7㎝でした。
とはいえ、アカタテハくらいなんだけどね。
いや、もう少し大きいかな?スギタニイチモンジの♂くらいか…。

それにしても、このイナズマチョウという和名、何とかならんかね❓
色々と不便極まりないのだ。例えば、このイナズマチョウを検索したいとする。しかし、単にイナズマチョウと打っただけで検索したら、ドゥルガイナズマとかバンカナオオイナズマ等々の他のイナズマチョウと名のつく蝶がそれこそ何種類もワンサカ出てくるんである。つまり、種としてのイナズマチョウも、属としてのイナズマチョウもゴタ混ぜになって検索されてしまうのである。ややこしい事この上ない。種としてのイナズマチョウを調べたい時は、例えば「イナズマチョウ 台湾」と打つか、学名をそのまま打つしかないのだ。

和名をつけ直すとしたら、何だろう❓(しまった。また和名に難癖つける病気が始まったよ)。
普通に考えれば、先ずはクロイナズマが浮かぶ。
しかし、あまりにもベタすぎて面白くない。
他に何か良い名前はないかのう(;・ω・)?
取り敢えず色から考えてみよう。

( ̄ー ̄)………。
( ̄∇ ̄*)ゞあかん、熊本県の御当地ゆるキャラ、『くまもん』しか浮かばんよ。

(出典『くまもんスクエア』)

(*`Д´)ノえーい、無理からの命名ごっこのスタートじゃい!

アカグロイナズマ。
赤黒い蝶を想像してしまうから❌だな。だいち黒に赤なのだ。赤を前に持ってきてどうする。
いかん、赤黒い酒灼けのオッサンの顔が浮かんできて、頭から離れんようになってもうたやんけ。

クロアカイナズマ。
黒と赤の蝶とはいえ、まんまで捻りも何もありゃしない。それにダサい。❌。

スタンダールイナズマ。
古典的名作である『赤と黒』の作者スタンダールからのネーミングだ。そこそこカッコいいし、語呂も悪かない。しかし、スタンダールという言葉で、どれだけの人が小説『赤と黒』を連想できるというのだ?
だいち学名みたいで紛らわしい。却下。

ならば、黒をメインに据えてはどうだろう❓

カラスイナズマ。
鳥のカラスとは、これまたベタで貧困なる発想だ。
センス、ゼロである。それに不吉じゃねえか。❌。

ナチグロイナズマ。
これを那智黒という石と解る人は、そうはいまい。
せいぜい、あのジジむさい飴玉の「那智黒」を想像するのが関の山だ。
那智黒とは玉砂利に使用される最高級の石で、飴玉はそこから由来の命名だろう。

コクヨウセキイナズマ。
黒曜石。またしても石だ。これもカタカナだけでは意味が想像しにくい。そもそも蝶の名前にマイナーな石の名前を合体させる事じたいに無理がある。
でも、黒曜石の透明感のある黒は、イナズマチョウの持つ黒の雰囲気に近いんだよね。そう思うと、それほど酷かないネーミングにも思えてくる。とあらば、コクヨウイナズマがスッキリしてて、カッコイイよね。

ニンジャイナズマ❗
忍者といえば黒装束だし、敏捷と決まっておる。
それに忍者は外国でもそのまま「Ninja」と発音、表記され、欧米を中心にその認知度は高い。
外国人には、『Ohー、ワンダフォー!スバラシクカッコイイ名前デスネ~(ここ、外人のカタコトの日本語の発音でお願いしますね)。』と絶賛されるに違いない。
でもなあ…、こんな和名をつけたら、日本では絶賛どころかクソミソに叩かれるであろう。
忍者?おまえ、フザけてんのか?と云うワケである。
名前をつける事を何と心得るかと叱られる事、まず間違いなかろう。
それに、この名前には決定的且つ致命的な欠点がある。
台湾にも中国にも忍者はいないのである。

こうなったら、中国語名を和名にそのまま転換しようではないか。
今一度、中国名を並べてみよう。
常見俗名: 紅玉翠蛺蝶,紅裙邊翠蛺蝶,閃電蝶,閃電蛺蝶,暗翠蛺蝶,閃電綠蛺蝶。

コウギョクイナズマ。
紅玉というのは、中国語でルビーの事である。リンゴの品種「こうぎょく」もそこから来ている。
果たして、頭の中で漢字に変換できる人間がどれほどいるかは疑問だが、良い名前だと思う。候補としておいておこう。

2番目はよくワカンナイのでパス。
3、4番目はそのままだとセンデンイナズマとなる。
宣伝イナズマ?センデンを閃電と漢字に置き換えられる人は殆んどいないであろう。
ならば、閃光のセンコウイナズマでどないや?
閃光の如く飛ぶ様を見事に表しているではないか。
アカン…。カタカナからだと、フツーの人はお線香と線香花火しか思い浮かばないでしょね。

5番目は暗い緑色という意味だから、アンリョクイナズマってところか?
しかし、そもそもがパッと見は黒にしか見えない。根本的に相応しくない。

原点に立ち帰ろう。
黒がダメなら、赤をメインに据えて考えてみようではないか。

この蝶は顔の周りに赤が配されているのも特徴の一つだ。

アカエリイナズマ。
赤襟というワケである。だが、厳密には襟というよりも、目の下に赤いシャドウが入っていると云った方が正しい。

ならば、セキルイイナズマというのはどうだ?
赤い涙と書いて、セキルイと読む。漢字が解れば、愁いがあってオシャレだ。
英語だと「Red Tiadrops Butterfly」だ。なんか知らんけど、めっちゃカッコいいネーミングのちょうちょだな。悲しい逸話とかもありそうだ。

同じ特徴からのクマドリイナズマはどないですやろ?
コレで語源を正しくイメージ、理解してくれる人はどれ位いるのかなあ?…。まあ、普通は熊取りと考えるだろう。はあ?熊取?それって地名ですか?
想像力豊かな人で、せいぜい熊取り➡熊獲り=マタギの渋い爺さんまでだろう。
これは漢字にすると、隈取。歌舞伎の化粧方法の一つだね。

(出典『立命館大学浮世絵検索』)

良い名前だとは思うんだけどねぇ。
但し、他のベニボシイナズマも眼の下に赤いシャドウが入っているんだよなあ…。

裏返すと顔が赤いと云うのも特徴だ。

真っ先に浮かんだのが、ショウジョウイナズマ。
ショウジョウとは妖怪の「猩々」の事。でも、猩々って確か全身が赤いんだよねぇ…。
あっ、あのショウジョウバエも猩々から名付けられたんだよね。でも頭は赤いけど、他の部分は薄茶色であって、赤いという程ではない。
名前なんて、そう厳密的に考えなくともよいのかもしれない。でも、基調の色が黒だからショウジョウというには違和感がある。だいちチンケなショウジョウバエと一緒にするのは可哀想だ。

それにしても、表にも増して裏は艶やかだ。
あっ!、アデヤカイナズマ…。
悪くはないが、もし自分が命名者の立場ならば、ちよっと恥ずかしくてつけれない。
💡✴( ̄□ ̄)あっ❗繋がった。オイランイナズマ❗
オイランとは、あの花魁のことだ。この艶なる姿は、花魁の色気を彷彿とさせるではないか。この蝶の高貴にして妖艶なる姿を充分に伝える名前ではないかと思うんだよね。まあ、花魁ならばもっと豪華絢爛だろうと云う意見もあろうが、雰囲気的には理解して戴けるかと思う。

原点と云うならば、学名をそのまま和名に転用するという方法もあるにゃあ(ФωФ)
つまり、小種名のirrubescensそのままのイルベスケンスイナズマというワケである。言葉の響きは悪くないし、カッコイイとは思うんだけどね。
ただ、イメージは湧きにくい。オイラ的には、ギリシア戦士が浮かびました。何かそんな名前の英雄がいそうじゃん。

さらに原点まで遡ろう。
一周まわって、クロイナズマ。
最初に、クロイナズマでは普通すぎてベタで面白くないと述べたが、これはこれで捨てがたいものがある。
漢字にすると「黒稲妻」。黒い稲妻と書くと、矢鱈とカッコよく思えてくる。黒い稲妻って、何だか凄そうだ。普通の稲妻よりも激烈に強い、最強の稲妻って感じ。落ちたら、命はおまへんでぇ~。
または、轟音をとどろかせ、赤い稲妻が闇夜をつんざいて走る様も思い浮かぶ。イナズマチョウのイメージにはピッタリだ。空気を切り裂くようにジグザクに飛ぶと聞いたこともある。ならば、黒い稲妻とはメッチャクチャ飛ぶのが速いイナズマチョウの姿を具現化したようでもある。
クロイナズマ、中々にええんでねえの?

またもや妄想暴発💥寄り道オジサンになってしまったが、とにかく和名がただのイナズマチョウでは不便なのだよ。
誰か蝶界の重鎮が、一言大号令をかけて和名を変えてくんないかなあ…。
その時は是非、「コウギョクイナズマ」、「クマドリイナズマ」、「オイランイナズマ」、「イルベスケンスイナズマ」「クロイナズマ」のどれかを採用して戴きたいものだ。

それにしても、何でイナズマチョウグループのカタカナ表記は、稲妻なのにイナズマと書くのだろう❓
妻は「つま」と読むのであって、「スマ」ではない。オラのスマホでは、「いなずま」と打っても稲妻には変換されにくいんだよねぇ。
実際、古い図鑑である『原色台湾蝶類大図鑑』では、「イナヅマチョウ」となっている。どうしていつの間にかイナヅマチョウがイナズマチョウになってしまったのだろうか❓
多分、誰かが突然そう表記し始めて、皆がそれに追従➡定着したのだろうが、その経緯や意味が全然解らない。まさかイナズマの方が字面(じづら)が良いからとかじゃないでしょね❓
気になるので調べてみた。

イナヅマがイナズマになったのは、単に戦争に負けたからなのだそうだ。眼から鱗の理由である。
アメリカの占領軍が『ニホンゴ、ムズカシスギマスネー。「ヅ」ト「ズ」ノ2ツモアッテ、ヤヤコシクテワケワッカリマセーン。💢Tomorrowから「ズ」に統一したれや、Σ( ̄皿 ̄;;ワレー。』と文句を垂れて、そうなったんだとさ。
結構、その背後には屈辱的な歴史があるのね。

何か脱線しまくりである。
話をイナズマチョウそのものに戻そう。

今回はとりとめもなく書き進めたので、ここで一応イナズマチョウについて調べた事をまとめておこう。
それで終わりにさせてくだされ。脱線はするし、クソ長いし、もう疲れたよ(´;ω;`)

【生態】
分布は中国南部及び西部と台湾。台湾では中部から北部の低中山地に棲むが局所的。

(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

垂直分布は諸説あるが、200mから1200mくらいだろう。高山帯には産しないされるが、これは幼虫の食餌植物のヤドリギ類が高い標高には見られないからだと推測されている。

おそらく年3~4回の発生。
昔は2、4、6、8、9月に採集記録があり、4月と8月に発生ピークがあると言われていたが、実際は周年に渡って記録があるようだ。越冬態については不明だが、熱帯由来の蝶だけに様々なステージで越冬している可能性はある。
ふた山あるといわれる発生ピークも偶然採れる稀種ゆえ、採集記録が少くて何とも言えないだろう。
個人的見解としては、特にピークというものはなく、年間を通してダラダラと発生しているのではないかと思う。個体数の少なさも、特にピークがないことに関係しているのかもしれない。一斉に発生すれば、目につくが、ダラダラ発生だとそうはいかないだろう。

飛翔は極めて敏速。時にジグザグに飛ぶらしい。♂はシマサルスベリの木を好み、葉上で休むことが多いという。
♂♀ともに午前中に地面に吸水に集まる。しかし、♂の吸水時間は短く、すぐに飛び去る。
そっかあ…、そういえば近縁のベニボシイナズマも吸水に来ても、飛び去るのは矢鱈と早かったっけ…。
おまけに敏感だから、採るのは大変だった。
一方♀は、それと比べると吸水時間は長く、♂ほど敏感ではないようだ。羽を開いて激しく震わせながら吸水する写真を見たことがある。
とはいえ、他のタテハチョウよりかは吸水時間は短いみたいだし、♂よりも吸水にやって来る機会は少なそうだ。出会うには運が必要だろう。

また、♂♀ともに落下発酵した果物にも好んで集まる。
飛翔は速いし、吸水に来ても直ぐに飛び去るので、採集するならばトラップが最も有効な手段といえよう。吸汁に夢中で、そこそこアホになるのだ(それでも他の蝶よりかは敏感だという)。

但し、内田さんの話だと他の蝶のようにバナナやパイナップルには滅多に飛来しないという。興味は示すが、これに止まり吸汁することは殆んどなく、マンゴーや桃を好むらしい。
自分のトラップに♀が飛来したのは午後4時くらい。
トラップの中身は何だか憶えてない。最初はバナナとパイナップルのミックストラップだった筈だけど、段々発酵が進んで小さくなってきたので、テキトーに果物を足して足してのトラップだったのだ。多分、マンゴーも入れたような気がするが、テキトーゆえにそのトラップに入っていたかどうかはわからない。
去年はマンゴーだけのトラップを1つだけつくったが、全く飛来しなかったし、他の蝶の集まりも悪かった。イナズマチョウだけを狙うのならば、マンゴーだけで良いのかもしれないが、他の蝶も狙うなら考えものだ。まあ、トラップは各種条件が複雑に絡まるから、断言は出来ないけど…。
機会があったら、次は桃を試してみたいと思う。

【幼虫と食餌植物】
えー、🚧閲覧注意です。
幼虫は悪意を凝縮させたような邪悪な姿だ。
図鑑で写真を初めて見た時は、あまりの恐ろしさゆえ背中に悪寒が走り、思わずページを閉じましたよ。
うら若き妙齢の女性ならば、卒倒しかねない気持ちの悪さじゃよ。

ほな、画像いくでぇーΨ( ̄∇ ̄)Ψ
逃げる人は今のうちやでー。

ドオーンッ💥❗❗

(出典『insectーfans.com』)

(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

悪意に満ちたトゲトゲのゲジゲジだ。
2枚目の写真などは、タランチュラとかの大型の蜘蛛にも見える(写真は何れも終齢幼虫)。
威嚇だよ、威嚇。絶対に触りたくないね。

参考までに、ルベンティーナベニボシイナズマの幼虫写真も添付しておこう。

(出典『dororーaliraq.net』)

そっくりである。つまり、イナズマチョウはベニボシイナズマグループの一員であることは間違いない。
どうやらベニボシグループの幼虫の特徴は、この背中の大きな目玉模様のようだ。アドニアとかアマンダの幼虫も目玉模様がある。野外で間違って触れようものなら、\(◎o◎)/発狂するね。

幼虫は5齢までで、蛹になるまで約1ヶ月かかるという。

順番が前後したが、卵はこんなの。


(出典『常夏の島フォルモサは招く』)

これまた凄い形だ。地球外生物の卵みたい。
でも上から見た絵は、よく見ると黒い宝石にも見えてくる。美しき宝飾品だ。

産卵後、孵化までは約1週間かかるという。
大きさは1.5㎜ほどで、蝶の卵としてはかなり大きいそうだ。

蛹はタカサゴイチモンジなどの緑色系のイナズマチョウ類に似ているが、やや寸詰まりの形に見える。

(出典『圖録検索』)

羽化までは約10日だという。
卵から羽化までに要した時間は、室内飼育で43日前後、屋外では約60日間だったという。

食餌植物は、ヤドリギ科 Taxillus limprichtii。
和名は『アジア産蝶類生活史図鑑』ではリトウヤドリギとなっていたが、内田さんの『常夏の島フォルモサは招く』ではオオバフウジュヤドリギとなっていた。
これはどないこっちゃ(_)?と思ったが、和名で検索しても参考になるような記事は見つけられなかった。植物はしばしば中間的なものもあり、同定が難しいのだろう。
何れにせよ、木の高い位置に着生する植物なので、それが生活史の解明を困難にしてきたようだ。

つけ加えると、ヤドリギ類には毒があり、それを餌とするデリアス(裏が派手派手のモンシロチョウの仲間)なんぞは、皆さん体内に毒を有する事で有名だ。

【Delias hyparete ベニモンカザリシロチョウ】
(台湾産じゃないです。)

つまり、それで鳥から身を守っているのである。毒があって不味もんは鳥も食わないのだ。だから、イナズマチョウにも毒がある可能性は極めて高い。でも、アホみたいに速く飛ぶんだから、鳥も捕まえられへんって(笑)

台湾のサイトでも食餌植物を確認しておこう。

・大葉桑寄生 Scurrula liquidambaricolus
・忍冬葉桑寄生 Taxillus lonicerifolius
・杜鵑桑寄生 Taxillus rhododendricolius
・蓮華池寄生 Taxillus tsaii

1番目はオオバヤドリギ科の植物だ。
あれ?待てよ、この学名は内田さんの本で見たような気がするぞ。確認してみる。

Σ( ̄ロ ̄lll)ありゃりゃ❗❓、オオバフウジュヤドリギの下に学名が二つも並んでいるじゃないか。

1つはTaxillus limprichtii、もう1つはTaxillus liquidambaricolaとある。でも、属名がScurrulaではなく、Taxillusとなっているし、小種名のケツも微妙に違う。そもそも学名がなぜ二つもあるのだ❓ワケワカメじゃよ。
あっ、カタカナの部分は無視して、学名は2種類のヤドリギが食樹だと示しているのかな?
そうだ、写真の方で確認してみよう。某(なにがし)かの記述があるかもしれない。

( ゜o゜)あちゃー、オオバフウジュヤドリギの文字の下に学名が二つ並んでいる。

いや待てよ、Taxillus limprichtiiってリトウヤドリギの事じゃないか。
じゃあ、その下のTaxillus liquidambaricolaがオオバフウジュヤドリギの事なのか?
でも、さんざんぱら食樹がオオバフウジュヤドリギと言ってきたのに、なぜ2番目に表記されているのだ?謎だらけじゃよ。
(-“”-;)忘れよう。植物に特別興味があるでなし、飼育もしない人なのだ。学名が二つあろうとも、知ったこっちゃない。

2番目から4番目はヤドリギ科の植物。いずれも特に和名はなさそうだ。
あれっ!?、Taxillus limprichtii リトウヤドリギ(オオバフウジュヤドリギ)がない❗
内田さんが幼生期を解明したのに、何で無いんだ❓
学名がScurrula liquidambaricolusに変わったのかな❓
まあ、よろし。きっとヤドリギの類を広く食しているのであろう。

飼育下ではニンドウバヤドリギ Taxillus nigrans、シナヤドリギモドキ Scurrula parasiticaでも良好に育ち、飼育途中で食樹を入れ換えても順調に成育し、自然界でも利用している可能性が高いという。
因みに、この2種類のヤドリギは何処にでも生えているらしい。にもかかわらず、稀種なのは謎だよね(註6)。
育つのに特別な条件でもあるのかなあ❓
まあ、女王は気難かしくて謎に満ちていた方がいい。

                 おしまい

 
追伸
そそくさと片付けるつもりが、和名の変更とか脇道に逸れてしまい、結局自分で迷路に入り込んでしまった。寄り道するのは小さい頃からそうだったし、宿痾の病気なのかもしれない。

えーと、タイトルの「戦慄のシャドウファイアー」は、『発作的台湾蝶紀行』で使ったタイトルをそのまま使用しました。新たなタイトルを考えるのが面倒というのもあったが、結構気に入っているのだ。
因みにこのタイトルは、ディーン.R.クーンツの小説『戦慄のシャドウファイア』のパクリである。
この蝶との出会いが衝撃的且つ戦慄的だったし、イナズマチョウのイメージの影(黒)と炎(赤)とも重なるからだ。また、激しく飛ぶイメージとも何となく合致する。

余談だか、この追伸を書き始めて、花魁を使って新たなるタイトルを考えてもみた。だけども「花魁珍道中、台湾山岳地帯をゆく」とかワケのワカランようなタイトルしか浮かばなかったので、早々と断念した経緯もござったという事を付け加えておこう。

食樹の学名が二つ並記されていた件だが、勝山礼一朗さんから御指摘があった。
var.とは単なる属名を略してますという意味だとばかり思っていたが、varietyの略で「変種」という意味だそうです。

(註1)アメブロに書いた文章
『発作的台湾蝶紀行』の第43話「白水さん大活躍、ワシ虐待おとこ」、第44話「戦慄のシャドウファイアー」。
「発作的台湾蝶紀行 43話」で検索すれば出てきます。すんません。リンクの貼り方がワカンナクなりました。

(註2)『常夏の島フォルモサは招く』
内田春男さんの台湾の蝶シリーズの第二弾。

この文章がほぼ完成したところで、遂に買っちゃいました。古書で6480円でした。
イナズマチョウの幼生期解明に至る物語が書かれています。

(註3)クロオオムラサキ Sasakia funebris
イナズマチョウが初めて記載された時は日本の国蝶でもあるオオムラサキの仲間(Sasakia)に入れられた
という(Sasakia fulguralis)。同じグループのクロオオムラサキと見た目が近いから、そう分類されたようだ。
一部の学者には、クロオオムラサキの亜種ともされていたのではないかな?

【Sasakia funebris クロオオムラサキ】
(出展 『MY PETS BY』。小さい画像だったので、トリミングさせてもらいました。)

(裏面)
(出展 『Insect-fans.com』)

確かに一見イナズマチョウに似てはいる。
だが、細かく見れば斑紋パターンは同じではない。それに大きさが遥かに違う。並べると、まるで大人と子供だ。
クロオオムラサキは、世界最大級のタテハチョウと言われるオオムラサキに極めて近い種類で、しかもオオムラサキよりも相対的に少しデカいくらいなのだ。
これはいつの日にかシバきたい。網に入った時の手応えは相当なものだと思う。

(註4)アマンダベニボシイナズマ

【Euthalia amanda】
(2013年 2月 Indonesia Sulawesi)

インドネシア・スラウェシ島特産のイナズマチョウ。
上が♂で、下が♀である。
あっ、アマンダって、目の下が赤くないんだあ…。
名前も素敵だし、♀はマイフェバリット蝶の一つ。
アマンダには、いつかまた会いに行きたい。

(註5)ニテビスフタオ

【Chraxes nitebis ♂】
(2013年 2月 Indonesia Sulawesi)

こちらもスラウェシ島特産種で、アジアでは唯一の緑色をしたフタオチョウ。
スラウェシ島はアジアに棲む生物とオーストラリアに棲む生物の境界にある島で、独自進化した固有種が多い。だから色んな驚きがあり、生物好きには面白い島です。

(註6)にも拘わらず、稀種なのは謎だよね
ラストは『常夏の島フォルモサは招く』を読む前に書かれていたものだ。終わり方としては、わりと気に入っていたので、そのまま残した。
でもこの疑問符に、内田さんは一つの仮説を立てておられる。
ヤドリギが寄生する宿主の木はウルシや柿、桑など色々あって、同じ種類のヤドリギだとしても寄生する樹種によって葉の香りや味が違うらしい。イナズマチョウは母樹との特定の組み合わせのヤドリギにしか産卵しないんじゃないかと考えておられたようだ。
そう考えれば、食樹がどこにでも生えているのにも拘わらず、イナズマチョウが稀なる理由の説明には一応なる。
女王様はエピキュリアンなのだ。厳格な好みを持つ美食主義者の可能性はある。