続・舞妓はん

 

前回の続編である。
6日後の21日にも、マイコちゃんを探しに行った。
場所は同じ矢田丘陵方面で、今回もK太郎くんが参戦してくれた。

午後8時前にポイントに着いた。
月はあれからかなり満ちてきている筈だが、曇っており、いい具合に隠れている。
光に集まる昆虫の数は、月の満ち欠けと天気に大きく左右される。月明かりの無い新月がベストだと言われるが、月が雲に隠れてさえいれば期待は持てる。とはいえ、その日の気温や湿度、風などにも影響されるから、結果は常に読めない。現地に行ってみないとわからないと云うのが現状なのだ。

と言いつつも、楽勝だと思っていた。勘みたいなものだ。いくら条件が揃っていても、嫌な予感がする時はダメな事が多く、それほど条件が揃っていなくともイケると感じた時は、大概良い結果が得られる。その分岐点は何処に有るのだろうと自分でも時々考えるが、正確な言葉には出来ない。ただそう感じるとしか言い様が無いのだ。
で、今回も直ぐにロック・オン。既に3頭が来ていた。
その後に飛来は無かったので、矢張りマイコトラガは日没後すぐに飛んできて、以降はあまり飛んで来ないと思われる。この6日間のあいだにK太郎くんが一度来たそうだが、やはり飛来パターンは同じだったと言う。他の地方では違う可能性もあるが、少なくとも関西ではそういう生態だと思われる。

棒で軽く突っついたら、前回と同じく下にボトッと落ちた。

 
(2019.3.20 奈良市)

 
舞妓はんの着物のような柄が、お洒落さんだ。
手のひらの上に乗せると、前脚を投げ出して『いとはん、もうどうにでもしておくんなましー。』の体勢になりんした。

 

 
これが可愛い❤
寄って写真を撮る。

 

 
蒼い❗
ブルーベルベットだ。

 
舞妓はぁぁぁーん( ☆∀☆)❗

 
おいちゃん、又しても心の中で叫ぶのであった。
懐中電灯の光を当てると、上半身がこんなにも蒼いのね。
もふもふだし、お主、可愛いのぉー(≧∀≦)
死んだフリしてる感じも微笑ましい。

前回、死んだフリの効果について意味ねぇんじゃないの❓的な事を言ったが、撤回しようかと思う。
考えてみれば、此所は下がコンクリートだから目立って当然だ。でも、天敵に襲われて落下した場合、通常ならば下は土や草だ。となれば、落ちてしまえば地面に色が紛れてしまって発見しにくいに違いない。下手に動くよか、死んだフリをした方が生き延びられる可能性は高いかもしれない。

突っつくと歩いた。

 

 
これがヨチヨチ歩きでカワユい( ̄∇ ̄)
オジサン、すっかり彼女に❤参っチングである。

 
翌日、展翅して、♂と♀の違いが漸く解った。
先ずは前回と今回の♀とおぼしきものから。

 

 
そして、♂である。

 

 
残念ながら羽化不全の個体だ。右側の上翅が伸びきっていないせいか、小さい。だから、全体のバランスが悪い。でも、雌雄の区別に上翅は関係ないかと思う。 
OくんとK太郎くんが言うように、♂は下翅の黒い部分が広くなり、黄土色の中にある点が大きくなるようだ。大きさも、基本的には♂の方が小さい。
但し、K太郎くん曰く、♀と変わらない大きさの♂もいるようだ。翅も含めて、どっちとも判別し難い個体もいるという。

 

 
コレなんかは、大きさ的には♀であるが、下翅の黒点は♂、黒い部分の領域は中間的だ。
♂だと思うんだけど、微妙なんだよなあ…。
いや、♀のような気もしてきた。なぜかというと、お尻の先の形に雌雄の違いが表れるのではないかと思ったのである。
♂の尻先には毛が多いし、四角っぽい。一方、♀の尻先には毛が少なくて、やや尖ったように見える。

 
(♂に違いない個体の尻と下翅)

 
尻毛がフサフサで、下翅が黒くて黒点が大きい。

 
(♀に違いない個体の尻と下翅)

 
尻毛が少なくて、下翅が黄色で黒点が小さい。

 
(微妙な個体)

 
大きさは♀と同じであるが、下翅は黒っぽくて黒点も大きく♂的。尻毛はあまりなく、形も♀っぽい。
最初は♂だと思っていたが、尻まで含めるとワケわかんなくなってきた。
一応、最初に採った個体も検証してみよう。

 

 
♀だとばかり思っていたが、下翅を見てると、段々自信が無くなってきた。意外と黒い領域が多いし、黒点の大きさも微妙である。尻の形も♂っぽい。
♂だったりして…Σ(×_×;)

でも、サンプルがあまりにも少な過ぎる。
もう一回行って、もっと♂を採らなきゃいけんかなあ❓
 

                 つづく…かも

 
追伸
はたと思ったのだが、手のひらの上の写真、どうにでもしてくんなせい的な姿は猫に通じるものがある。だから、可愛いって感じた部分もあるかもしれない。
画像は添付しなかったけど、裏バンザイも可愛いおます。

後日、岸田さんの蛾図鑑を見た。
益々、わからなくなったが、もし図鑑の雌雄の見た目が合っているとするならば、下翅の黒点の大きさは関係ないと思われる。だとするならば、下翅の黒の領域と形が判別点になると感じた。
その判別方法だと、2回目に採集した中で、明確に♀と断じたもの以外は、♂となる。
でも、それで納得はできる。線引きのラインが見えたなら、違う地平が見えてスッキリするところはあるのだ。

 

舞妓はぁ ━━━━━ ん!!!

 
夜空に上弦の月が掛かっている。
裸木の影が時折、風に静かに揺れる。
何だかちょっぴり淋しげな、口笛を吹きたくなるよな夜だ。
3月も半ばだが、奈良の早春の夜はまだまだ底冷えがする。じっとしていると、足元から冷気が這い昇ってきて、体の芯まて染み込んでくる。

午後8時過ぎ。K太郎くんと待ち合わせて矢田丘陵方面へとやって来た。今年最初の虫採りは、外灯回りをして早春の蛾を探す事と相成った。

着いて早速、蛍光灯にお目当てのマイコトラガがいらっしゃった。

 

(2019.3.15 奈良市)

 
羽は横にベターッとは広げないで、大体はこういう風にすぼめてはる。
だから、サイドから見る方が羽の柄がよく見える。

 

 
マイコトラガは、日没後すぐに灯りに寄ってくると云うイメージがある。ライトトラップに何度か連れてってもらった時に、いつもそうだったからだ。厳密に言うと、完全に日が落ちて暗闇が支配する世界になると1、2頭飛んで来て、あとはパッタリと来なくなる。
とはいえ、これはあくまでも蛾初心者の少ない経験値からの印象です。なので、あまり鵜呑みにはなさらぬように。

小網で突っつくと、ボトッと下に落ちた。
一瞬、空中で羽を開いたが、飛べずに墜落したって感じだ。きっと飛ぶには、まだ寒すぎるんだろね。
じゃあ、何でわざわざこの時期に羽化してくるんだろう?しかも、年一回の春先だけに。もうちょっと暖かくなってから出てきても良さそうなもんじゃないか。急ぐ必要がどこにあるの?
まあ、とはいうものの我々のあずかり知らぬ、彼女たちには彼女たちなりの某(なにがし)かの事情ってのがあるんだろう。

下に落ちたら、仰向けになって動かなくなった。
えっ(;・ω・)、ショック死❗❓
だが、K太郎くん曰く、コヤツは捕まえると死んだふりをするらしい。えっ(・o・)、マジでー❓何だか微笑ましいなあ。けど、効果あんのかね?死んでるフリくらいで、そう簡単に捕食者は見逃してくれるもんかね?食われる時は食われるやろ。それってさー、ちょっとアホっぽくね❓

写真を撮るために表向きにひっくり返そうとするが、羽をすぼめているので、すぐコロンと横に倒れる。
何とか立たせて、スマホで写真を撮る。

 

 
(*´∀`)羽の柄が洒落オツだねー。黒地に白い勾玉紋、アクセントに赤が入り、斜線と波のような線が複雑に絡み合っている。そして、とどめとばかりにオレンジの縁取りが全体を引き締めていて、心憎いばかりのデザインだ。
和名を付けた人は、きっと舞妓さんの着物をイメージしたんだろね。粋で良い名前だと思う。
でも、どっちかというと、舞妓さんというよりかは芸妓さんの着物の柄だと思う。けど、ゲイコトラガじゃなあ…、様にならない。断然マイコトラガの方が秀逸だ。名前に厳密さを求める人もいるだろうが、無粋である。そういう人とは、あまりお友だちにはなりたくないネ。

背中から頭は結構毛だらけで、もふもふというよりもモサモサのふぁっさ~なのだ。まるでスターウォーズの猿人チューバッカみたいだ。

 
(出典『www.amazon.co.jp』)

 
前脚はもふもふ。

 

 
それを前に投げ出しているのが、「もう、どうにでもしてくださぁ~い。」って感じで可愛い。
マイコちゃんは、💕サセコちゃんなのだ(笑)。

暫くしたら、ひょこひょこ歩き出した。

 

 
ぴゃあ~、( ☆∀☆)超 ━━━━ キャワイイ━━。
(о´∀`о)可愛い過ぎるぅ━━━━❗❗

舞妓はぁぁぁぁーん❗❗❗

 
本当はロッキーみたく両腕を天に突き上げて、
『エ━━━イドリア━━━━━ン❗』ばりに絶叫したかったのだが、K太郎くんにキ○ガイ扱いされかねないので、心の中で叫んだ。

よく見ると、背中にぼんぼりみたいなフサフサ玉があるじゃないか、これまたキュートちゃん(゜∇^d)!!
しかも黒と思えし色が、よくよく見れば濃い群青色である。限りなく濃い群青色なので、黒く見えるってワケなんだね。前脚のもふもふも青黒い。しかも水色の紋が入る。あんさん、どこまで洒落乙やねん。
シックな柄の着物に、毛皮の襟巻き。手元はブルーベルベットの手袋だ。( ̄▽ ̄;)う~ん、ここまでくれば、可愛いいを通り越して大人のめちゃめちゃスタイリッシュなお姉さんだ。
あ~(@ ̄□ ̄@;)❗❗、ここで気がついた。
ブルーベルベットといえば、あの鬼才デヴィッド・リンチ監督の最高傑作の映画タイトルと同じじゃないか❗
そうだ、そうなのだ。タイトルの『ブルーベルベット』には、ベルベットのような青が重なって重なって重なったものの集積が暗闇であることを示唆しているのではなかったか❓ 闇というものは、単純な黒ではないのだ。
そう思うと、何だかゾクゾクしてきたよ。何かそれって、超カッケーんですけどー《*≧∀≦》

マイコトラガは、早春の闇が偶然に産み落とした徒花(あだばな)のお稚児さんかもしれない。いや、姫ぎみかしら。
とにかく春先に現れるこの美蛾は、スプリング・エフェメラル、春の女神の名に相応しい。

 
ここまでで文章はおしまいだったのだが、一般ピーポーには何の事だかワカンナイと思われるので、ちょこっと種の解説もしておきますね。

ヤガ科(Noctuidae)のトラガ亜科(Agaristinae)に属するようだ。あまり意識してなかったけど、名前にトラガ(虎蛾)と付いているのは、トラガの仲間だったからなんだね。

学名は、Maikona jezoensis jezoensis(Matsumura 1928)
あらあら、属名も舞妓さんなんだ。Maikonaは訳すと『舞妓さんの』という意味ですな。

小種名の jezoensis は、最初は意味がワカランかった。ジェゾエンシス❓ゾゾタウンの親戚みたいやんけと思った。でも、ラテン語だから、アタマの「j」を発音しないで「エゾエンシス」と読むのだろう。とすると「蝦夷(えぞ)の」という意味になる。つまり、蝦夷は北海道の昔の呼称だから、最初に発見されたのが北海道だったんだろう。
記載は「Matsumura, 1928」となっているゆえ、おそらく命名者は松村松年先生だろね。

亜種名は、jezoensis jezoensis と同じ綴りが連なっているから、日本産が原名亜種(名義タイプ亜種)のようだ。北海道から九州までのものがこれにあたり、屋久島産のモノが別亜種とされているようだ。
学名は、Maikona jezoensis tenebricosa。
亜種名の tenebricosa は、おそらくだがラテン語の「暗い・暗闇」を表しているものと思われる。
これは本土産のものよりも、黒っぽいからなのかな?

調べてみたら、ドンピシャだった。
原名亜種に比べて著しく暗色で、前翅の白帯は狭くなり、後翅は基半まで黒くなるという。
記載は「Inoue, 1982」となっているので、亜種になったのは比較的最近みたいだね。

そういえば、K太郎くんが『関西の奴の方が大きくて、カッコイイっすねー。』と言ってたなあ。
東の方のは、小っちゃくて斑紋がハッキリしないらしい。でも、特に亜種区分はされていないということは、両者の変異が連続的で明確な線引きが出来ないんだろう。

分布は、北海道の中部および南部、本州では東北地方から近畿地方までの主として日本海側と内陸部に産するが、伊豆半島と伊豆大島にも記録がある。 また、対馬でも発見されている。四国では香川・徳島県に産する。
分布の南限は屋久島だから、どちらかと云うと温帯系の種類なんだと思われる。
思った以上に分布は広いが、局所的で数は少なく、稀種の部類に入るらしい。
とはいえ、関西と北海道には割と多くいるみたい。こういうパターンはあまり見ないので、ちょっと不思議だ。なぜ北海道と関西では多いのか、その原因がまるで思い当たらない。

調べたところ、海外では発見されていないみたいだ。
と云うことは、今のところ日本の固有種ってことだね。
ちょっと誇らしい。でも、そのうち中国のどっかとかで見つかるんだろなあ…。

成虫の出現時期は3月から6月。関西では3月から4月初めのごく短い時期に見られる。
夜間、アセビ(馬酔木)や梅などの花に吸蜜に訪れ、灯火にもよく集まる。

幼虫の食餌植物は、ブドウ科のノブドウ。
野ブトウなんて何処にでもありそうだけど、何で少ないんだろ❓不思議といえば、不思議だよね。

翌日、展翅した。
とはいえ1頭だけ。もう1頭採れたんだけど、そっちはK太郎くんの元へ行ったのです。

 

 
まだ微かに生きていた。
歩く時は、羽をベタにしたこの状態で進まはります。
考えてみれば、羽をすぼめてたら歩きにくいよね。

 

 
裏面はこんな感じです。

 

 
想像してたのと、ちょっと違う。
もっと汚いかと思ってたけど、縁取りがあって意外と渋い魅力がある。

ではでは、展翅です。

 

 
いざ展翅をしたら、どうせ胴体と腹がクソぶっとくて可憐さが失われたブス糞蛾と化すのだろうと踏んでいたが、そうでもない。下翅もどうせ真っ黒かと思いきや、意外とお洒落なツートンカラーである。
( ̄▽ ̄)ん~、カッコイイかもしんない。

実をいうと、最初は前脚を出さない普通のパターンで展翅した。でも前脚がもふもふで可愛いのを思い出したので、1からやり直すことにしたのである。
触角はとても細い。先は緩やかに湾曲していて、まさに蛾眉。美人さんの綺麗な眉を意味する言葉の語源は、まさかの蛾の触角なんですな。
でも、くれぐれも女性に対して、褒め言葉のつもりで『蛾みたいな眉だね。』などと言ってはなりませぬぞ。そんなこと言ったら、確実に(#`皿´)激ギレされまっせ。
世の中の女子の大半は、申し訳ないがモノを知らない。でも、それでいいんである。何でも知ってるような女子は可愛げがないからね。

触角は自然な感じが良かろうと、殆んど手を加えていなかったが、どうも気に入らないので整形することにした。

 

 
しかし、右側の途中で真っ直ぐするのを諦めた。
段々、面倒くさくなってきたのだ。それに、これ以上コチャコチャ触ってると折れると思ったのよ。

 

 
前翅張は48㎜越えていた。大きい方だと思う。
ということは、♀なのかなあ❓

でも、調べても♂と♀の違いがワカンナイんだよね。
まあ、ともあれ大きい方を譲ってくれてアリガトね、K太郎くん。

数日後にOくんが、『後翅の黄色が少なくて黒っぽいやつが♂だと勝手に決めてまーす🎵(・ε・` )ノ』とSNSでコメントをくれた。
けんど、断言はしていないので何とも言えない。
でも数日後にK太郎くんも同じような事を言ってて、プラス下翅の黒点がメスの方が小さいのが特徴だと話してくれた。但し、中間的なモノもいるから、微妙ではあるとはつけ加えてた。
二人ともスゴいなあ。そんな知識、どっから仕入れてるのん?ネットでは見つからなかったぞ。もし、センスで違いを渇破しているならば、尚のことスゴいよね。

以下、写真を撮りまくるが、よれて真っ直ぐに撮れない。蝶や蛾の展翅写真って、中々左右対称には撮れないのじゃよ。見た目はキレイに展翅してる筈なのに、溝が真っ直ぐ写ってないもん。

 

 
マイコちゃんは、もっと欲しいなあ。
そろそろ春の三大蛾であるオオシモフリスズメ、エゾヨツメ、イボタガも出てくることだし、明日あたり、もう1回行こっかなあ…。

                  おしまい

                        2019.3.19

  
追伸
今回のタイトルは、映画『舞妓Haaaan!!!』がモチーフになっている。主なキャストは阿部サダヲと堤真一、柴咲コウ。脚本はクドカン(宮藤官九郎)だから、バカバカしくて面白かった。あっこまでフザけてくれると楽しい。
因みに映画は、第31回日本アカデミー賞主演男優賞、助演男優賞、脚本賞優秀賞を受賞しております。

余談だが、途中で「ブルーベルベット」というワードが出てきたので、タイトルの変更も考えた。
でも「闇夜のブルーベルベット」とか「舞姫ブルーベルベット」、「舞妓はんはブルーベルベット」、「ブルーベルベットな夜」なんていう今イチなタイトルしか浮かばなかったので断念しました。

この文章を完成前する直前に、もう1回舞妓はんに会いに行った。それでオスとメスの区別がある程度わかったので、続編を書く予定です。