2020’カトカラ三年生 其の四 第三章

 
  vol.27 ヨシノキシタバ 解説編

   『全ての物事は連結する』

 
【ヨシノキシタバ Catocala connexa ♂】


(2020.8.25 奈良県吉野郡)

 


(2020.8.9 長野県木曽町)

 
前翅のメリハリがやや発達した♀に似たタイプもいる。

 

(2020.9.5 長野県松本市)

 
詳細に見れば、♂でも前翅の細かいバリエーションが結構あるのかもしれない。もっと沢山採らないとワカンナイけどさ。

 

(2020.8.9 長野県木曽町)


(2020.8.25 奈良県吉野郡)

 
水銀灯の光の下で見ると、♂はかなり前翅が茶色っぽく見える。また鮮度が良いものは黄色みがあるような気がする。そんなに数は見てないから、あくまでも印象レベルだけど…。とはいえ、こうゆう黄色みを帯びた前翅のカトカラは他にいないので、慣れれば一発でヨシノだと分かるようになる。

 
【同♀】

(2020.8.25 奈良県吉野郡)


(2020.8.25 奈良県吉野郡)

 

(2020.9.5 長野県松本市)


(2020.9.5 長野県松本市)

 

(2020.8.25 奈良県吉野郡)

 
♀は前翅の柄に美しいメリハリがあり、時に強く白化する。♀は見た目か♂とは全然違うのだ。こうゆう雌雄の斑紋様式が異なるカトカラは唯一ヨシノだけである。ミヤマキシタバなんかも前翅で見分けられるが(♀の斑紋のメリハリが強い)、ここまで雌雄が異質ではないので、唯一と言っても差し支えないだろう。
♂の前翅は細く、一様に淡暗褐色で斑紋が明瞭でないが、♀の前翅は幅が広く、中央部は白化して横線などの斑紋が明瞭になり、前剣紋も明瞭となる。
とはいえ、♀には変異の幅が結構あって、前翅の色彩やメリハリの強さに差がある。『日本のCatocala』によれば、♀にもメリハリが無いものもいるそうだから判別には注意が必要。
また、珠にゴマシオキシタバにも前翅のメリハリがそれなりにある奴がいるので、コチラも注意が必要である。自分も野外で一、ニ度見間違えた事がある。ゴマシオの記録の中にヨシノが混じっている可能性を示唆している文献もあるくらいだから、間違う人は結構いるのかもしれない。とはいえ捕獲して間近に見れば、間違う事はないというレベルだ。特に写真をやりはる人は、予断で決めつけると恥かきまっせ。くれぐれも、お気をつけあそばせ。

後翅は中央黒帯と外縁黒帯が2ヶ所で繋がり、翅頂の黃紋は明瞭。腹部は、やや黄色みを帯びた淡褐色である。

 
【裏面♀】

 
【裏面♂】

 
♂の画像の後翅の黒帯が細いが、たまたまだろう。沢山の個体を見たワケではないので断言は出来ないが、雌雄の判別には使えなさそうだ。

 


(出典『日本のCatocala』)

 
この一番下の『日本のCatocala』の裏面画像は、意外にもキシタバ(C.patala)の裏面と似ているようにも見える。
一応、確認しとくか。

 
(キシタバ裏面)

(出典『日本のCatocala』)

 
やっぱ柄は似てるわ。まさかである。両種は大きさも翅形も違うから、今まで似てるだなんて概念は全く頭に無かったのだ。違和感もあって、ちょっと驚いたよ(コレが後々、色んな問題に繋がるがキッカケになった)。

自分で展翅した奴は、もっと似てるかも。

 

(2019.6月)

 
両者とも後翅の真ん中の帯が下部でU字型にならなくて、内側の黒帯を欠く。また前翅中央の黒帯の形と太さも似ているし、翅頂の黄紋が下に流れて帯状になっているのも同じ傾向だ。

ちなみに表側は全然似てない。デカくてデブだから間違えようがない。

 

(2019.6月)

 
『日本のCatocala』の図版には、ヨシノとキシタバの標本画像が並んで載せられている。まさかの近縁関係にあるの❓

かと思いきや、他人の空似でやんした。DNA解析の結果を調べてみたら、系統は全く違う。又しても何か頭を悩ますような事が起きるんじゃないかと思ってたから、ε-(´∀`*)ホッとしたよ。でも何にも起こらんのもツマランような気がしないでもない。

 
【変異】

前翅が著しく黒化するものが知られている。

 


(出典『世界のカトカラ』)

 
ハッキリ言って、ヨシノ独特の美しさが消えてしまってる。
こんなの採れても、あんまり嬉しくないや。
とはいえ、標本がある程度揃ってきたら欲しくなるんだろなあ…。ヨシノはバリエーション多そうだしね。特に一番下のタイプなんかは、ちょっと蝶のダンフォルディーフタオっぽくてカッコイイから欲しいかも。いや、とっても欲しい(☆▽☆)

 
(Charaxes durnfordi ダンフォルディーフタオ ♂)

(裏面)

 

(2015.5月 マレー半島南部)

 
蛮王ダンフォルディーについては過去に書いた事かあるから、興味のある人は探してね。
あっ、でもこのワードプレスのブログじゃないや。書いたのはアメブロの方かも…。

確認したら、やっぱりそうだった。
「蝶に魅せられた旅人 ダンフォルディーフタオ」で検索すればヒットします。東南アジア蝶紀行『熱帯の憂鬱、ときどき微笑』と云う連載の中に何編か書いた憶えがある。『発作的台湾蝶紀行』の連載にも登場したかな。あとは『新たなる覇王の降臨』と題して、新亜種についても書いてる筈だ。他にもラノーンのゴッドフレイワモンチョウの話の中で書いたような気もするけど、どうだったっけ❓思い出せないや。

 
【雌雄の判別】

既に前翅で区別できることは書いたが、色彩にメリハリの無い分かり辛いモノもいるようなので、決定的な判別方法を書いておきます。

 
(♀裏面)

 
ズバリ裏面である。
とゆうか、腹部の尻先である。ここに♀は上の画像のように縦にスリットが入っている。プラスそこに黄色い産卵管が見えていたら、間違いなく♀である。また♀は♂よりも腹部が太くて短かいものが多い。

 

 
(♂裏面)

 
このように♂には、尻先にスリットが入らない。
また腹部が細くて長い。そして尻先に毛束がある。この為、♂は尻先が丸くなる。一方♀は毛が少ないので、尖って見える傾向がある。

腹の太さと長さは横から見た方が分かり易いかもしれない。

 

 
♂の方が腹部が長いことがよく解るかと思う。
まあ前翅の表側で、大体ワカルんだけどさ。そうゆう意味ではカトカラの中で雌雄の判別が一番簡単な種かもしれない。有り難いことだ。アズミキシタバなんてワケわからんもんな。

 
【学名】Catocala connexa Butler, 1881

属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり下翅が美しいことを表している。
小種名の”connexa”はラテン語で「結合された、連結された、関連づけられた」といった意味のようである。
多分ここから派生して、英語の”Connection”や”Connect”などに変化していったのだろう。
それで思い出したけど、カトカラの英名は「UNDERWING」。下翅が特徴的だから英語でも「シタバ(下羽)」なんだね。各種の英語名は、この”UNDERWING”の前に某(なにがし)かのその種の特徴を表す言葉が付けられる。例えばムラサキシタバなんかだと「BLUE UNDERWING」となる。
だがヨシノキシタバに英名はないようだ。付けるとしたら、さしづめ「CHAIN UNDERWING」とでもなるんだろうね。でもアミメキシタバの回でも同じようなこと書いた気がするぞ。

おそらく”connexa”と命名した由来は下翅の黒帯が繋がってるからなんだろうけど、そんなカトカラは他に幾つもいる。だから特別感はあまり無い。正直、残念な学名だ。

 
【和名】

和名の由来は最初に奈良県の吉野で発見されたからだろう。
あまりいい加減な事も書けないので、念の為に調べておくことにした。

結果は、やはりそうだった。本種に対して一時用いられていた学名「Catocala rutha Wileman, 1911」はシノニム(同物異名)になって消えてしまったのだが、その”rutha”の模式産地(タイプ標本)が奈良県の吉野で採集されたものなんだそうな。ゆえにヨシノキシタバになったものと思われる。
和名は好き。関西人ゆえに吉野には特別な思い入れがあるのだ。吉野といえば、桜だし、歴史上に度々登場する土地だからね。柿の葉寿司も旨いし(笑)。
そういやお姉ちゃんと桜の時期に泊まったことがあるなあ…。山が淡い薄紅色にぼわっと霞が掛かったような光景には風情がある。吉野の桜はソメイヨシノじゃなくてヤマザクラだから派手ではないけれど、趣きがあるんだよね。最近は歳くったせいか、山桜の方が美しいと感じるようになってきた。来年はコロナ騒動がおさまって、通常の春になればと願う。

 
【旧名,別名,害虫名,同定ミスなど】

ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』の「旧名,別名,害虫名,同定ミス」の欄に「ハイイロキシタバ」とあった。聞き慣れない名前だし、何じゃそりゃ❓である。
でも何の説明もないし、ナゼに灰色なのかも全然もってワカラン。そもそも灰色というよりも茶色じゃないか。あっ、それは♂か。♀なら灰色と言えなくもないか…。にしても片方だけが灰色で「ハイイロ」と名付けるのは問題ありでしょうよ。だいち前翅が灰色のカトカラは他に幾つもいるぞ。ベニシタバやムラサキシタバなんかの方が余っぽど灰色じゃないか。

 
(ベニシタバ)

(2019.9.3 岐阜県高山市 新穂高)

 
(ムラサキシタバ)

(2019.9 長野県松本市)

 
コヤツらは雌雄ともに灰色だしね。とはいえ、コレらにハイイロキシタバなんて付けたら、アホである。オラじゃなくともボロカスだろう。
兎に角そんな和名じゃなくて、ヨシノキシタバで良かったよ。
そういや同じサイトのヒメシロシタバの別名欄に「ヨシノキシタバ」とあったなあ…。勿論、コチラも何の説明もない。カトカラ各種をググッたら、このサイトが必ず上位に出てくるのだが、このようなワケワカラン記述や間違いも多い。みんなで作るって言ってんだから、誰か周りが指摘せえよと思うのだが、アップグレードされてる形跡は全くない。間違った情報を信じ込む人もいるだろうから、マジで何とかした方がいいと思いまっせ。

と、ここまで書いて「ハイイロキシタバ」に関する文献を見つけてしまった。(;´д`)トホホ、要らぬもんを見つけてしまったなりよ。ラビリンスの予感バリバリだ。どうせパンドラの匣に決まってる。開けたらロクな事がないだろう。
チラッと見たけど難解そうだし、それについて書くとなると大変そうだ。長くなりそうなので、コレについては後で検証して末尾の註釈欄にでも書きます。

 
【亜種と近縁種】

国外では中国に分布するとされ、湖南省から記録されている。だが同一種なのかどうかは不明だという。なぜ不明なのかは不明だよ(笑)。でもそこは深堀りしない。ってゆっか、これ以上調べようがないのでスルーなのだ。ただ思うに、そんなの別種とちゃいまんのん❓湖南省は日本から遠いぞ。

Wikipediaによると、シノニム(同物異名)に以下のようなものがあるみたい。

・Ephesia connexa
・Catocala rutha Wileman, 1911

下は吉野で見つかったヤツだね。
ruthaの語源は人名かな❓ ルーサという女性名っぽい。
待てよ、もし中国のものが別種ならば、ヨシノの学名はコレに変わるのか❓それとも、このままなの❓
一応、ruthaの語源を調べとくか。

ググったら、「ヘブライ語の哀れみ深い友情、情、同情、憐れみ、慈悲、不憫、後悔」とゆうのが出てきた。ラテン語じゃなくてヘブライ語❓毎度のラビリンスの予感である。
もしかして元々は”ruth”で、女性名詞の末尾変化で「a」が付加されたのかな❓
一応、ruthでも調べてみよう。

すると出てきたのが「旧約聖書に登場する女性名 Ruth(ルツ)、ボアズの妻、ナオミの義理の娘、ダビデの先祖」と書かれていた。ダビデ以外はよくワカランが、それなりに高貴な感じではある。ちなみに、残念ながらナオミと云う名前の女と付き合ったことはない。しまった、またどうでもいい事を書いてしまった。アタマの中が痒くなるわ。
“connexa”よか”rutha”の方が語源的にはまだしもマシな学名かな。コレが由来なのかはワカランけどね。

参考までに言っとくと、幼虫の食餌植物が同じで、近縁種と思われがちなゴマシオキシタバ(C.nubila)との類縁関係は認められないようだ。

 
(ゴマシオキシタバ Catocala nubila ♀)

(2020.7 長野県白馬村)

 
(同♂)

(2020.8.8 長野県松本市)

 
下の♂は触角を真っ直ぐするのにも飽きてきたので、久し振りの前脚出しいのの、弓なり怒髪天の鬼👹仕様にしてやったわい。原点回帰。蛾は邪悪だからと、最初の頃はこうゆう感じにしていたのだ。コレからは二刀流でいこっかなあ…。

一応、DNA解析も見ておくか。

 

(出典『Bio One complete』)

 
ヨシノは単系統で、他種とはクラスターを形成しておらず、類縁関係のあるカトカラは日本にはいないようだ。
海外に近いものがいるかもと思って探してみたが、見た目で近縁種と言えるものはいなさそうだった。思ってた以上に特異な種なのかもしれない。

 
【開張(mm)】

『原色日本産蛾類図鑑』では、55〜65mm。ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』では、50〜57mm。『日本産蛾類標準図鑑』では、52〜58mm内外となっていた。
『原色日本産蛾類図鑑』は古い図鑑なので、65mmというのは無視してもいいだろう。それくらいの大きさのキシタバ類となると、クロシオキシタバ級の大きさになるからね。とはいえ、絶対デカいのがいないとは断言は出来ないけどさ。逆にむしろいて欲しいくらいだ。ナマリキシタバにしろ、このヨシノにしろ、大きさ的には物足りなさを感じてる。前翅がメチャメチャ格好良いだけに惜しいと思うのだ。

 
【分布】 北海道、本州、四国、九州


(出典『日本のCatocala』)

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
上が分布域図で下が県別の分布図である。
稀種のイメージがあるが、こうして改めて見ると割りと満遍なく記録があるんだね。北海道は南西部にしかいなくて、茨城辺りから愛知県にかけての太平洋側に空白地帯があるんだね。北海道なんかは全道にいるとばかり思ってたから、正直なところ県別の分布図には問題ありだと思う。御世話になってる石塚さんには申し訳ないけど、改善の余地ありなんじゃなかろうか。

九州産は本州産と比べて一回り大型だと言われる。また♀の変異が多いことに加え、そのハデハデしさが強烈らしい。
たぶん、こうゆうタイプの事を言ってるんだろね。

 

(2020.8.25 奈良県吉野郡)

 

(出典『日本産蛾類標準図鑑)

 
上のものの展翅画像はない。なぜなら下翅が破れてたし、その日は最後に完品の♀が採れたので藤岡くんに進呈したのだ。今にして思えば惜しいが、別に懇願されて渋々譲ったワケではなくて、自主的にあげたものだから後悔はしてない。後悔はしてないけど、勿体なかったかもなあ…。だって初めて肉眼で見た♀だったんだもん。だからそれがノーマルタイプで、むしろ最後に採れたものがレアなタイプだと思ったのだ。ゆえに、こうゆう奴は後々いくらでも採れると思っちゃったのさ。我ながら、おバカである。

都道府県別の分布図だと、近畿地方では大阪府と京都府以外に記録がある。京都府は北部にはブナ林があるから発見される可能性は高そうだ。大阪府は北部の妙見山、南部の金剛山や和泉葛城山、大和葛城山にブナ林があるから、見つかる可能性はゼロではないだろう。
とはいえ、今のところ近畿では全般的に分布は局所的で狭い。兵庫県は氷ノ山周辺の山地帯のみにしか記録がないし、紀伊半島南部では一部に残されたブナ林でしか採集記録がない。また個体数も少なく、ゴマシオが灯火に多数飛来するような時でないと採集は難しいと言われている。
記録が少ないゆえか、近畿では樹液に集まるかどうかは不明。噂でも聞いた事がないし、糖蜜もまだ一度も試してない。奈良県吉野郡のポイントは周りが金網付きの崖で、糖蜜を噴きつけるのに適した場所が無かったのだ。

四国では全県に記録があり、中央山地の標高1000m以上のブナ林帯に分布している。
興味深い記述が『高知の自然 Nature Column In Kochi』というブログにあったので、以下に抜粋しよう。

「時には二桁灯火に飛来することもある普通種である。
しかし、標高の低い500mほどの地点でも少ないながら見つかるので、ブナ林から下って移動してきたものと思っていた。
今回発見した場所も標高500mほどの山の中腹である。しかし山頂は800mもなく、ブナはないと思われる。従ってヨシノキシタバはブナ以外の植物も食べている可能性が出てきた。周辺に1000m以上のブナのある山も見あたらないので中央山地から移動してきたとも考えにくい。クロシオキシタバのような移動力があるのだろうか。
この地では初めての発見で、しかも1頭のみなので何ともいえないが、今後注目していく必要を感じた。この山にブナはあるのか調べてみようと思う。(撮影:越知町 2009.7.30)」

四国ではヨシノが普通種だと云うのは驚きだね。しかも標高の低い所でも得られており、別な食樹を利用している可能性まで示唆されている。
俄かには信じ難いので、もしかしたらゴマシオと間違ってんじゃねーの❓と思った。ゴマシオとヨシノとを同定間違いするケースはあるからさ。それにゴマシオはヨシノと同じく食樹はブナだけど、飛翔力があってブナ林から遠く離れた場所でも見つかるからね。
添付されている画像を今一度見てみる。

 

(出典『高知の自然』)

 
茶色いからゴマシオではないね。
でも一瞬、ホントにヨシノ❓というような前翅にメリハリの無い個体画像だが、仔細に見るとヨシノの♂っぽいような気がする。でも黄色っぽくないなあ…。今ひとつピント合ってないしさ。まさかアミメじゃないよね❓でもこの方の文章の内容や言い回しからすれば、どう考えてもド素人にはみえない。同定間違いをするとは思えないのだ。信じよう。
ヨシノだとすれば、コレは生態を改めて考え直す必要性があるかもしれない。後述するが、ヨシノは移動性が低い種だと考えられているからね。

順番が逆になったが、中部地方と関東北部には記録が多い。北陸地方にもそれなりに記録がある。但し豊産すると言われるような産地はないようだ。昔は群馬県の土合で大量に採れたそうだが、今では昔日の面影はないという。
東北地方の記録はそう多くない。だがコレは愛好者が少なくて調査が進んでないせいなのかもしれない。
世界遺産の秋田県白神山地のブナ林には多産はしないのかな❓あまり話は聞かないけど、実際のところどうなのだろう❓豊かなブナ林があるからといって、絶対に生息するとは限らないからね。蝶でも生息条件が揃っているように見えるのに何故か居ない地域はある。理由が絶対ある筈なのに説明不能で、ミステリアスとしか言えない場所が厳然としてあるのだ。生物はとても繊細で、人間が思ってるほど単純ではないのである。

 
【レッドデータブック】

環境省:準絶滅危惧種(NT)
宮城県:準絶滅危惧種(NT)
奈良県:準絶滅危惧種(NT)
兵庫県:Cランク(少ない種・特殊環境の種など)
島根県:情報不足

少ない種だから、もうちょっと指定されても良さそうなものなのにね。人気種のカトカラといえども所詮は蛾なんで迫害されてるのやもしれぬ。

 
【成虫の出現期】

7月下旬から10月中旬まで見られる。
そういや当初は図鑑など多くの文献が「盛夏に現れる」とかアバウトなものばかりで、いつが出始めなのか判断に困った事を思い出したよ。
ネットの『ギャラリー・カトカラ全集』によると新鮮な個体が得られるのは8月までと書いてある。だが『日本のCatocala』には10月になっても新鮮な個体が燈火に飛来すると書いてあった。これはブナ林の芽吹きが積雪量に強く影響されるからだという。積雪の多い地域では芽吹きが場所によりかなりバラつきがあり、孵化期もそれに伴うからだそうだ。

 
【成虫の生態】

『日本のCatocala』によれば、奥只見で羽化直後のものがヤナギ類の樹液を吸汁しているのが観察されている。しかし個体数と比較して樹液への飛来数は少ないようだ。また吸汁時間帯も日没直後の短時間のみだという。そういえば東日本で糖蜜トラップで採集されたという話を聞いた事がない。樹液にロクに寄って来ないものが糖蜜に来るワケがないと考えられてて、試す人が少ないのかもしれない。或いは試したが全然寄って来なかったという情報が広く流布されているのかもしれない。
しかし、自分の糖蜜にはシッカリ誘引された。
日付は2020年の9月5日。場所は長野県松本市の標高1500m付近。天候は曇り時々晴れ。月齢は17(大潮)。飛来時間はハッキリとは憶えていないが、日没直後ではなかった事だけは確かだ。たぶん午後九時から十時半くらいまでの間だったと思う。そういや採り逃したけど、もう1♀も飛来したな。と云うことはマグレではないという事だ。ヨシノは糖蜜でも採れまっせ〜(・∀・)V
一方、近畿地方以西では岡山県などで糖蜜採集で捕獲できるという。ただ西尾さんも噂話として書いておられるだけだから真偽の程はわからない。少なくとも自分は具体的な話を誰からも聞いた事がないけどね。
どちらにせよ、個体数が少ないとされるカトカラだから、糖蜜採集には向いてない種なのかもしれない。但し個体数が少ないとされるカバフキシタバが糖蜜に一晩で17頭も来た事もあるゆえ、本当のところは分からない。或いはブナ林の中や林縁で撒けば、意外とタコ採りできるかもしれない。

灯火には全国どこでも飛来するようだ。しかし食樹が同じゴマシオキシタバ(C.nubilla)と比べて飛来する数は遥かに少ない。ゴマシオが数十頭に対して1頭くらいの割合でしか会えないと言われている。個人的な見解としてはゴマシオが減っているという噂もあるし、そこまでの比率差はないように思う。にしてもゴマシオより少ないのは確かだし、ゴマシオは飛んて来てもヨシノはやって来ないと云うケースはよくある。
飛来する時間帯は特に突出した傾向はないようだ。日没直後には見た事はないが、8時過ぎくらいから午前2時の間でポツポツ見ている。一応、参考までに大まかな時間を記録しておいたものだけを列記しておく。

8月9日  午後8:15
8月25日 午後9:50、午後11:00、午前1:50
9月5日  午後10:50
9月6日  午後11:30

図鑑等に拠れば、ゴマシオキシタバは発生期後半の9月〜10月になると、発生地のブナ林から遠く離れた場所でも採集されるが、ヨシノは殆んど捕獲されていないそうだ。おそらく移動性は強くない種なのだろう。そう自分も考えていた。しかし前述したように四国ではブナのない低標高地でも見つかっている。食樹も含め、再検討の余地はあるかもしれない。

成虫は昼間、頭を下にして樹幹に静止している。小太郎くんの話によると、ブナ林で見た時はゴマシオと比べて遥かに敏感だったそうな。すぐ飛んで逃げて見失い、採集は困難とのこと。またゴマシオと比べて個体数は遥かに少なかったそうだ。何が原因で、そんなに個体数に差がでるのだろう❓
考えてみたけど、全然もってワカラン。

交尾は午後11時から午前2時の間で観察されている。ただし飼育下での事のようだ。
野外での産卵の観察例は調べた限りでは見つけられなかった。

 
【幼虫の食餌植物】 ブナ科 ブナ属:ブナ

(ブナの葉)

(出典『あきた森づくり活動サポートセンター』)

 
(ブナの樹幹)

(出典『Wikipedia』)

 
(ブナの分布図)

(出典『植物社会学ルルベデータベースに基づく植物分布図』)

 
おぉー、予想はしてたがヨシノキシタバの分布域図とほぼピッタリではないか。よくヨシノは北方系のカトカラだと書かれてあるが、コレを見ると北方系のカトカラというよりも、冷温帯のカトカラとする方が的を得ているのではあるまいか。

おそらくブナを食樹とするフジミドリシジミとも分布は重なるのだろう。

 
(フジミドリシジミ)

(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
この際だからフジミドリの分布図も確認しておこう。

 

(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
コチラも見事なまでにブナの分布図と重なるではないか。
もちろんヨシノの分布とも重なるワケだから、フジミドリの産地で灯火採集すれば採れるんじゃね❓
関西だとヒサマツミドリシジミの産地として有名な兵庫県三川山や京都の杉峠、滋賀の比良山なんかはフジもいるから、採りに行ったついでにナイターすれば得られるかもしんないね。
カトカラ類はゼフィルス(ミドリシジミの仲間)と食樹がカブるものが多い。それらゼフィルスの産地でお目当てのカトカラを探せば、意外と簡単に新たな産地が見つかるんではないかなと思ったりもする。

因みにブナの近縁種であるイヌブナからの幼虫の発見例は無いようだ。フジミドリはイヌブナも利用しているから可能性は有りそうなのにね。まあ、そのうち見つかるかもしんないけど。

西尾氏が長野県上田市でクヌギを与えてみたが、代用食にはならなかったそうだ。但し「地域によっては代用になるかもしれない」とも書いておられる。
氏はイヌブナを試してみた事は無いのかな❓

 
【幼生期の生態】

(卵)


(出典『日本のCatocala』)

 

(出典『flickeriver by kobunny』)

 
卵は、まんじゅう型で小型。環状隆起は1重だが発達は弱く、認められない場合もある。形態的に似ているのはヤクシマヒメキシタバだが、横隆起状は細かくて皺状で、間隔が広くて明瞭だという。

孵化はブナの芽吹きに左右され、かなりバラツキかある。雪解けの早い場所と吹き溜まりなど雪が残る場所とではブナの芽吹く時期がズレるからのようだ。

 
(初齢幼虫)

(2齢幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
幼虫は壮齢木から巨樹にまで見られ、大木によくいるそうだ。
昼間、中齢幼虫は葉裏や葉柄、枝先に静止しているという。

 
(終齢幼虫)

 
(終齢幼虫の頭部)

(出典『日本のCatocala』)

 
終齢は6齢で、7月上旬頃に見られる。5〜6齢幼虫は昼間は細枝に静止しており、樹幹にはあまり降りないようである。
幼虫には灰色型と黄緑色の2型がある。黄緑型の個体はゴマシオキシタバに似る。それぞれの型にも色彩の多少の濃淡があり、灰色型の幼虫では白い網目模様が発達する個体がみられる。

一応、ゴマシオキシタバの幼生期と見較べてみよう。

 
(ゴマシオキシタバの卵)

 
(終齢幼虫)

 
(終齢幼虫の頭部)

(出典 以上4点共『日本のCatocala』)

 
顔は違うが、他は確かに似てるね。
DNA解析がされていなかったら、近縁種と考える人もいて当然かもしれない。

蛹に関する生態的知見も見つけられなかった。おそらく地上に降りて落葉の下で蛹化するものと思われる。

                        おしまい

 
註釈を書くために謎のハイイロキシタバの事を追い掛けてたら、大どんでんの驚きの展開になった。でも正直クソ長い。
と云うワケだから、ここまで読んできて疲れた人は一旦休憩しましょうね。もしくは読むのは後日に回しましょうね。

ちょっとブツクサ言わしてもらう。
読む方も大変だろうけど、書いてる方はもっと大変なのだ。
もー(╥﹏╥)、ホント書いてる方はウンザリのゲンナリのグッタリの終わらない無間地獄なのだ。こんな連載なんて始めるんじゃなかったと、つくづく後悔している。勝手に始めといて文句言うなとツッコミが入りそうだけど、もうとてつもなくストレスが溜まっとるのよ。今回は笑いも無いしさ。小ボケの1つもロクにカマしておらんのだ。

 
(註1)ハイイロキシタバ

日本鱗翅学会の会誌『蝶と蛾』の1953年7月号に白井忠治氏が『關西蛾類圖説(1)』と題してヨシノキシタバ、ゴマシオキシタバ、そしてハイイロキシタバの3種について纏めて書いておられる。
相当古い記事なので言い回しが現在とは少し違うし、漢字なんかは旧字だらけだから、読んでると時空を越えた感があって不思議な気分になったよ。古文書好きの人たちの気持ちが何となく解ったような気がするわ。
だいたいは読めるけど、中には首を傾げるような部分もあるから、この先の抜粋した部分は頑張って読んでね。一応、最終的にはチョイと驚きの展開になるゆえ、それまでは我慢して読んでおくんなまし。

 
1,よしのきしたば(新稱(新称?))
Ephesia rutha WILEMAN 1911

■Catocala rutha WILEMAN,Trans.Ent.Soc.Lond,p.239,PL 30.Fig.3.n.sp,(1911)
■Ephesia rutha (WILEMAN),HAMPSON,Cat.Lep, Phal.Vol.XⅡ.pp.146,180(1913)
■Ephesia rutha WILEM.,WARREN cn Seitz,Vol.Ⅲ,p.316(1913).
(■で区切ったが、たぶんコレらは参考文献だと思われる)

威蟲の出現季:8月,10月
國内分布:奈艮縣吉野山,大峯山
分布:日本

種の斑紋解説は難解過ぎて、もうお経の域なので割愛した。
冒頭に下のような各種のデータと図版があったが、図版画像は添付しない。と云うか出来ない。PDFからは物理的に画像を取り込めないのである。それに図版は白黒だ。オマケに画像は小さくて、画質も極めて粗い。どうせ見てもワカラン人だらけだろう。ゴメン。書き疲れて、もう投げやりなのだ。

 
Fig.1. Ephesia rutha WILEMAN, よしのきしたば♀ 奈艮縣吉野山 17.10.1944.
Fig.2,do(同?). ♂ 奈艮縣吉野山 1.10.1943
Fig.3. Ephesia connexa BUTLER はいいろきしたば ♀ 大阪府箕面山 27.8.1939.
Fig.4.do(同?)♂ 大阪府箕面山 27.8.1939
Fig.5. Ephesia nubila BUTLER ごましおきしたば ♀ 奈艮縣吉野山 30.8.1943.

 
解説編で既に触れているが、ヨシノキシタバの最初の学名の小種名は現在の”C.connexa”ではなく、”C.rutha”だったようだ。そして”C.connexa”には「ハイイロキシタバ」なる現在ではほぼ死語になっている和名が宛がわれている。

それはさておき、この時代は和名を平仮名表記してたんだね。そういや江崎さんの『原色日本産蛾類図鑑』も平仮名だったわさ。レトロ感があって、ちょっと新鮮だ。今の時代だと逆にオシャレかもしんない。

種の解説後に附記があった。

(附記1)
本種は吉野山産の1♀ Typeにより學界に發表せられたものであるが其後の報告は恐らく本文が最初であり、然らばFig.1♀は Paratype,Fig.2 ♂はAllotypeとなるわけである。

ここで良い子のために解説をすると、先ず新種を記載する為の基準となる模式標本のことを”holotype”(ホロタイプ)という。そして文中の”paratype”(パラタイプ)とは、従基準標本とか準記載模式標本、副模式標本とか言われるもので、ホロタイプに準ずる標本のことを指す。もしもホロタイプが失われた場合には、このパラタイプがその替わりになるんだったかな。
あと、allotype(アロタイプ)はパラタイプのうちでホロタイプとは異なる性別の標本のことを指す。

(附記2)
既に原著に於て記されたるが如く本種には鑑別を要する近似種として E.connexa BUTLER なる種があり、後者にも又近縁の第3者 E.nubila BUTLER があって、これ等に關しては先識の LEECH,WARREN in Seitz,HAMPSON等の説が必ずしも一致せず初心者をして懊惱せしむる事が多大であった。よって筆者はこの圖説の2と3に於て少しくこれに觸れ先輩の御教示を仰ぎ度いと思う。

補足すると、Fig.2と3はそれぞれヨシノキシタバとハイイロキシタバのことである。
それはそうと、ワイルマンにバトラー、リーチと、古(いにしえ)の錚々たる名前がズラリと並んでいる。蝶屋で、この3人の昆虫学者の名前を知らないとボロカス言われても仕方あるまい。それくらいの存在なのだ。
蝶屋の目線で言うと、バトラーはツマキチョウやウラキンシジミ、ダイセンシジミなどの日本に産する蝶の記載者として知られ、その記載数は21種類にものぼる。またヨシノやカバフキシタバなど日本のカトカラ9種の記載者でもある。なおバトラーについては拙ブログのゴマシオキシタバの回『風のように、雲の如く』と題して書いた文章の中で取り上げた。人物についてはソチラを読んで下され。
リーチは、何といってもギフチョウを最初に記載した人として有名だ。いっぱしの蝶屋ならば、知らない者はいないだろう。たしかミカドアゲハを最初に記載(学名mikadoだっけ…)したのもリーチだったんじゃないかな。たぶんシノニムになってるとは思うけど。あとは珍蝶ゴイシツバメシジミの記載者でもある。カトカラはナマリキシタバ、フシキキシタバ、ウスイロキシタバを記載している。
ワイルマンは日本の蝶だと、先に挙げたミカドアゲハの本土亜種の黃斑型(G.d.albidum(Wileman,1903))にその名があるくらいだが、海外の多くの蝶や蛾を記載している。和名だと台湾のワイルマンシロチョウに、その名が残っている。日本の蛾を幾つか記載しているようだが割愛する。もう完全に脱線しているのだ。これ以上の深堀りは避けねばならぬ。あっ、そうだ。彼はカトカラではヒメシロシタバの記載をしてるんだったね。

前述しているが、ヨシノキシタバの学名の小種名は、この時点では”rutha”だったんだね。そして現在の小種名の”connexa”は次のハイイロキシタバに与えられている。どうゆう経緯で学名が入れ替わったのか探(さぐ)ってゆこう。

 
2,はいいろきしたば
Catocala connexa BUTLER 1881

■Catocala connexa BUTLER,Trans.Ent.Soc.Lond.,p,196(1881)
■Catocala connexa BUTL.,LEECH,Trans.Ent.Soc.Lond.,p.534(1900)
■Catocala Connexa BUTL.はいいろきしたば,松村松年,日本昆蟲總目録Vol.1,p,100(1905)
■Ephesia connexa (BUTL) HAMPSON,Cat.Lep,Phal., Vol.XII,pp.146,187,Pl.201,Fig.13(1913)
■Ephesia connexa BUTL.,WARREN in Seitz,Vol.III,p.317.PL.57,Fig.C,as connexa,nec Butler(1913)

筆者の思考するところでは、このFig.C.as connexaとloc,cit.d、as fasciataの両種はこの書のtextの記述と合致しない點がある。又種々の事情に搬り推察して、恐らくは真正の connexa ではなく却て次に記す ごましおきしたば E.nubila Butlerの一型であろう。

これを見ると、どうやら和名を付けたのは松村松年のようだ。松村さんといえば、日本の近代昆虫学の礎を築いた人であり、日本の昆虫の名前を整理・統一し、和名の命名法を創案した人だ。多くの昆虫に和名を付け、学名に「Matsumura」と付く昆虫も数多い。つまり黎明期に昆虫学の発展に多大なる功績を残された立派な方だ。しかし数多くの昆虫の名前を付けただけに、いい加減なところもあって雑いネーミングも多く、センスもあまり良いとは思えないと云う印象を持っている。だから、このハイイロという名前の色のイメージに、あまり引っ張られない方がいいかもしれない。灰色といっても濃いのから薄いのまであるし、灰色とも茶色とも見える微妙な色もあるからね。

それにしても、昔の論文は文章が難解だなあ…。
さておき、問題はこの幻となったハイイロキシタバだ。これは流石に斑紋についての解説をそのまま載せよう。でも、お経だぜ、ベイベェー。

本種は前述の よしのきしたば に酷似して居るので主として鑑別に資し得る特微のみを記することとする。
體長約24mm。開張50−55mm。前種より華奢である。前翅表面は前種より遙に暗色であって全面に鉛樣金屬性の色澤を漂わす。前横線は亜中襞までは一直線に外斜走するがここで細くなり第1脉上にて内方に突起を出す。途中、中脉迄は内方の暗影と合して一大斑を現わす。中横線は不明、腎状紋は新月形の中心と黒環よりなるが其の周囲は特に濃色であるため不明瞭であって其の下方の第2室に環状紋がある。前横線の外方には程度の差はあるが頗る淡色の廣斜帶を現わす事が多い。後横線は第6脉と第5脉上に2鋭齒を外突せしめ、第1脉上に於て長V字形の突出を内方に送り前横線に接近する。時としてはこの突出は癒合して槍状に突出す。後翅表面の外帶が第1、2脉上にて中帶と連絡するのは幅廣き突出部であって、前種の如き3角形の頂端にて接觸するのとは其の趣きを異にして居る。中帶が亞中襞帶を通遏して後縁帶と連絡する場合には外縁と並行して比較的太いが前種では常に細く遙に翅基に近づいて弧を畫くのが通例である。後角附近にて各帶の離合の状態が種々であるのは前種と同樣である。裹面には變化があるが矢張り横豚紋を有する個體もあって前種に似て居る。

何かの呪文みたいで、こんなの普通の人は元より虫屋でも何言ってのかワカラン人もいるだろう(笑)。耳慣れない専門用語のオンパレードで脳みそ💥クラッシュじゃ。

気になるのは「前種より華奢である。前翅表面は前種より遙に暗色であって全面に鉛樣金屬性の色澤を漂わす。」という箇所。この手のカトカラでヨシノより華奢といえば、ゴマシオくらいしか頭に浮かばない。でも前翅はヨシノよりも遥かに暗色という部分が合致しない。ゴマシオは基本的にヨシノよりも色が薄いからだ。
鉛のような金属光沢があると云うのにも首を傾げてしまう。カトカラに金属光沢とかある奴っていたっけ❓
知る限りでは、カトカラについて述べるのに金属光沢という表現を用いた例は1つもない。
(-_-;)むぅー、でもそう言われてみれば、見方次第ではゴマシオなんかは鉛色と言えるような奴はいるし、金属光沢が僅かながら有ると言えなくもないけど…。
いや待てよ。鉛は鈍色(にびいろ)だから、それはそれでいいのか。でも金属光沢と云えば、普通はタマムシやミドリシジミとかの構造色を持つピッカピッカの奴らを想像しがちだよな。
まあいい。人により、色の表現は微妙に異なるものだ。
となれば、ゴマシオは変異が多いから、そのフォーム(型)の一つをハイイロキシタバとしたのかな❓ 例えば、より前翅が暗色というならば、黒化型とかさ。

 


(出典『世界のカトカラ』)

 
確かに色は暗色になるけど、鉛色には程遠い。

 
成蟲の出現季:7、8、9月
國内分布:大阪府箕面山,奈良縣大峰山,東京都(MARIES,1♂ type)
分布:日本

(附記1)
戸澤氏編箕面山昆蟲目録 no.1136(1932)にはCatocala hymenaea ab.connexa BUTLER,ハイイロキシタバとして出て居るがこの學名の充當には少しく疑問がある。

(附記2)
LEECH(1900)は connexaとnubilaとを同一種と考え後者を前種の異名として取扱って「The type was from Tokio and the specimens in Pryer’s collection from Oiwake」と記し、「LEECH自身此の種が8月に凾館にて普通に産するを經驗し、仙臺にては9月に探集した」と述べて居る。恐らく此の時の之等の標本は全部今日の nubila のみであって眞正のconnexaのただ1頭の1♂typeは看過せられて居た事と筆者は臆測する。

(附記3)
WARREN(in Seitz,1913)は一応は兩者を獨立種として別箇に掲げたがそれでもなを爾者同一種説に左袒し「connexa と nubila とは或る一種の濃淡の二型であってこれを同一種と認めたLEECHの説は正しい」と述べ、nubilaの2圖を connexa として示しているが、HAMPSONは勿論兩者を別種として扱って居る。筆者の知る限りでは connexa の最も混同し易き種は rutha であって nubila と紛れる恐れはない。

(附記4)
筆者はHAMPSONに從って同定をなしたが寡聞にして1 ♂type以外の記事を知らぬのでここに♀♂の2圖を添えた。恐らくFig.3.♀は Allotypeで、Fig.4.♂はParatypeと見做すベきものであろう。

ゴマシオ(C.nubila)だけじゃなく、C.hymenaeaとか又新たな種が参戦してきて、やれ同種だとか別種だとかとなってるから、やはりゴマシオの1型なのかな❓

でもハイイロの産地は吉野山と東京都、大阪府箕面山と書いてある。
もしかしてヨシノの大阪府の記録ってのはコレの事なのか❓【分布】の項に載せた『日本のCatocala』の分布図では大阪府も塗り潰されているが、触れなかったのは疑問に思えたからである。おそらく誤認であろうと考えたのは、大阪府にはフジミドリシジミは居ないからだ。フジがいないのなら、ヨシノだっていないだろう。何故なら、どちらも自然度の高い人里離れた森にいるからさ。

それはさておき、箕面だとしたら、おいおいである。箕面と云えば往年の昆虫採集のメッカではあるが、標高があまりにも低い。箕面山の標高は355mしかないのだ。そんな低い標高に食樹のブナが生えてるとは思えないし、聞いたこともない(イヌブナは有るらしい)。普通に考えれば、ヨシノが棲息しているとは思えん。誤同定しやすいゴマシオキシタバだって棲息している可能性は極めて低いだろう。
じゃあ、この「ハイイロキシタバ」って何者なのだ❓いよいよもってラビリンスである。

 
3,ごましおきしたば
Ephesia nubila BUTLER 1881

■Catocala nubila BUTLER,Trans.Ent.Soc.Lond.,p.196(1881).
■Catocala nubila BuTL.,part.LEECH,Trans.Ent.Soc.Lond.,p.534(1900)
■Catocalan nubila BUTL.,part.松村菘年,日本昆蟲総目録Vo1.1,p.100(1905)
■Ephesia nubila(BUTL.),HAMPSOM,Cat,Lep.PhaL.Vol.XⅡ.pp,146,183,Pl.201.Fig.9(1913)
■Ephesia nubila BUTL.,WARREN in Seitz,Vol.Ⅲ,p.318,Pl.57,Fig.c,Figs.c,d.(as connexa and fasciata)(1913).
■Ephesia nubila BUTL,.ab.mediongra(=ab.1 and 2 HMPS.)WARREN in Seitz,l.c.
■Ephesia nubila BUTLER,ごましおきしたば,河田黨,日本昆蟲圖鑑改訂版,p.774,Fig.2184(1950).

前翅表面は はいいろきしたば に類似して居り、後翅表面は中帶と外帶とは連絡する事はないので前2種の如く黒褐環に囲まれた黄紋を形成する事はない。其の他の點は河田氏の論文を參照せられたい。

成蟲の出現季:奈良縣大峰山, 8、9、10月
國内分布:北海道凾館(LEECH,3♂ 1♀);本州、東京(MARIES,2♂ Type),追分(PRYER,1♂1♀),奈良縣大峰山
分布:日本

(附記1)
此の種の前翅中央部は各樣の色彩ある淡色部を現出する個體があって、この點では一見したところ、よしのきしたばに類似した靦がある。亦前種との闕係に就いてはその項を參照せられたい。

要約するとハイイロとゴマシオは似ており、また前翅が白化しがちなゴマシオはヨシノに似ているって事か…。
但し、ゴマシオの下翅の帯は繋がらないと明記している。コレは何を意味するかと云うと、ハイイロ及びヨシノとゴマシオとでは、この一点で区別できる事を示している。ようはどれだけ前翅が似ていようとも帯が繋がらなければ、ゴマシオだということだ。また「筆者の知る限りでは connexa の最も混同し易き種は rutha であって nubila と紛れる恐れはない。」とも書いてるしね。つまり、白井さんはハイイロはゴマシオとは全くの別物だと考えておられるってワケだね。
ゴマシオじゃないとなれば、ハイイロの正体は何だろう❓

ゴマシオのメリハリのある前翅を持つものはヨシノにやや似ているが、単純に前翅が灰色と考えるならば、アサマキシタバも候補ではないかと一瞬思った。

 
【Catocala streckeri アサマキシタバ ♂】

(2020.5月 大阪府東大阪市枚岡)

 
でもコレは除外していいだろう。後翅の黒帯がゴマシオ同様に繋がっていないので、図版のハイイロとされているものとは明らかに違うからだ。それにそもそもアサマの発生期は5月中旬からで、6月中旬には姿を消す。その時点で有り得んだろう。ハイイロの発生期は7〜9月とされているのだ。
あとは同じ灰色でも質感が違うし、後翅の黄色もくすんだ感じだ。標本を見れば、誰でも一見してアサマとハイイロは別物だと見抜けるだろう。

論文に書いてある事は大体は解るのだが、やはり難解である。旧漢字が読めない人は尚の事だね。論文の文章だけでハイイロキシタバをイメージできる人は相当レベルが高いだろね。ワテの補足でもイメージするのは困難じゃろう。でも寧ろ、かえってワシが混乱させてたりしてね(笑)
(ノ`Д´)ノえーい、やっぱ画像が必要だ。

 

(出典『蝶と蛾』1953年7月号)

 
何で貼付できたのかというと、苦肉の策でPDFの図版をスマホに映して、別なスマホで撮ったのである。
上段左からがヨシノキシタバ♀、♂、下段は3と4がハイイロキシタバの♀と♂。そして右端の5がゴマシオキシタバの♀である。

この画像を見て直ぐにピンときた人は勘がいい。
画像をロクに見ずに、論文をコピペして読みながら書き進めていたが、改めて図版の標本を見て、オラも直ぐにピンときた。

カラーじゃないけど、
コレって、アミメじゃなくなくね❓

もしくは、クロシオじゃなくなくね❓

そもそもヨシノで丸ポッチ的な腎状紋が発達した個体なんて図鑑や文献でも見たことがない。存在しないと言っても過言ではないだろう。3と4は、ヨシノではない事は明白だ。
じゃあ、何でヨシノの学名がハイイロの学名になっちゃったのよー❓

 

(出典『山陰の昆虫』)

 
⑮が腎状紋である。

けど考えてみれば、すっかり忘れてたけどアミメキシタバの前翅の地色もヨシノと同じく基本的に焦げ茶だ。後翅の黒帯が繋がるところも似ている。そしてやや小さめの中型種である。画像のハイイロキシタバも同じような大きさの範囲に見える。
補足しておくと、アミメもヨシノもどちらかと云うと小振りで、大きさは同じか、ややヨシノの方が大きい。いや待てよ、反対のケースもあるな。たまにデカいアミメもいるわ。
とはいえ、全体的にはヨシノの方が大きい。となれば、アミメはヨシノよりも華奢だとも言える。それなら論文の記述とも合致してる。また、ヨシノよりも前翅が遥かに暗色だと云う記述にも合致する。アミメの方が濃い茶色だからね。

 
【アミメキシタバ Catocala hyperconnexa Sugi,1965】

(2018.7 神戸市)


(2019.7 神戸市)

 
こうして前翅は焦げ茶色だから、ヨシノの♂と間違ったのかもしれない。派手な♀とは間違えないだろうが、♂なら有り得るだろう。なので、ここから先はヨシノの前翅(表側)と云えば、特に言及しない限りは♂の事だと思って下され。
しかし自分的には♂でも両者は全然同じようには見えない。前翅の質感が明らかに違うからだ。

 
(♀)

(2019.7 奈良市)


(出典『世界のカトカラ』)

 
(♂)

(2018.7 神戸市)

 
それにしても最後のは酷い展翅だな。まだカトカラ1年生の頃だから蛾の展翅バランスが分からなかったとはいえ、酷い。カトカラなど多くの蛾の前翅は横長なので、蝶の展翅とは勝手が違うのだ。蝶の展翅をする時は触角の角度から翅のバランスを決めていたので、こうゆうバンザイ系になってしまったのである。

アミメには腎状紋が発達しない個体も結構いる。

 

(2019.7 奈良市)

 
或いはコレをヨシノだと思ってしまう人もいるかもしれない。
思い返してみれば、オラだって最初の頃は下翅が黄色いカトカラは、全部とまでは言わないまても、殆んど同じに見えたもんなあ。あんまり偉そうな事は言えないや。

箕面ならば標高的にヨシノやゴマシオが棲息しているとは考えにくいが、アミメなら問題はない。食樹もアラカシ、クヌギ、アベマキだから、低山地なら何処にだって生えてるからね。
だけど、ザッと探したところでは箕面でのアミメの記録は見つけられなかった。(-_-メ)チッ、迷宮からの脱出の糸口がプッツリやんけ。
それにアミメキシタバが発見(記載)されたのは1965年の事だから、白井さんが論文を発表した1953年よりも後のことだ。加えて、記載した杉繁郎御大は小種名を”hyperconnexa”と名付けている。コレはヨシノの小種名である”connexa”を意識しての命名と推察できる。つまり”hyper”はヨシノよりもメチャンコ帯が繋がっているという事を指し示しているのではなかろうか❓そう考えれば、全ての物事が繋がってくる。確かにアミメの方が黒帯が太くてガッツリ繋がってる。

でも疑問が全部解消されたワケではない。
「全面に鉛樣金屬性の色澤を漂わす」と云う記述はどうなるのだ❓アミメは茶色であって、断じて鉛色ではないし、金属光沢もない。
(;)アタマ、オカシクなりそうだよ。

ちょっと待てよ。
ただし左(Fig.3)の黒化型っぽいのは、クロシオに見えなくもない。それに少し大きそうだからね。

 
【クロシオキシタバ Catocala kuangtungensis,1931 ♂】

(2019.7 兵庫県神戸市)

 
一応、ノーマルタイプも載せておく。

 

(2018.7 兵庫県神戸市)

(♀)

(2019.7 兵庫県神戸市)

 
記載は1931年だが、日本で発見されたのは1960年代だ。たしか高知県か静岡県で見つかってる筈だ。これも白井氏が論文を書いた1953年よりも後の発見になるわけだから、存在を知らなくて見誤った可能性ありだ。
とはいえ図版の個体はクロシオにしては後翅の体に近い内側の黒帯が太い。また、帯が繋がる部分も太い。クロシオはそれらがアミメと比べて細いのだ。ゆえに図版はどちらかと云うとアミメに近い。となると、Fig.3も4も両方アミメかな。
アミメとクロシオ、どちらにせよ当時は未記録だったわけだから、白井氏が懊悩したのも理解できる。それに当時はヨシノは元よりゴマシオの食樹も解明されてなかった筈だから、ハイイロ(アミメ)の食樹が判明してるワケないもんね。
白井氏が、もしもこのハイイロを全く別物の新種だと見抜いていれば、大発見だったのにね。惜しいやね。

それはさておき、調べた限りでは箕面にはクロシオの記録もなかった。食樹のウバメガシは有るみたいだけどね。まあ北側の尾根の向こうは池田市で、備長炭と肩を並べる高級木炭の池田炭(菊炭)で有名だ。ゆえにウバメガシ林もあるだろうから、いるとは思うけど…。
ゴメン、いや違うわ。菊炭の原料はウバメガシじゃなくてクヌギだったわ。忘れてたけど、そもそもウバメガシは海岸近くに生える木だったね。だから内陸部では自生しているものをあまり見掛けない。なのでクロシオの分布も主に沿岸部寄りだ。
つまりクロシオが箕面で採集された可能性は低い。箕面でも植樹されたウバメガシや生け垣に使用されているモノはあるだろうが、少なかろう。ウバメガシ林と言えるほど纏まって生えている場所はないものと思われる。となると、やはりハイイロはアミメだった確率の方が高い。
とは言いつつ、内陸部でのクロシオの記録が全くないワケではない。兵庫県猪名川町に記録があるし、去年(2019年)には生駒山地と奈良市の若草山でも採集されている。それに紀伊半島南部では内陸部にも棲息すると聞いている。ちなみに奈良市で採集されたのは7月で、極めて新鮮な個体だった。きっと食樹さえあれば、内陸部でも発生するのだろう。中国のクロシオは内陸部にいるというからね。
また別な可能性もある。クロシオは移動性が強く、秋になると食樹の自生地から遠く離れた場所でも見つかる事がしばしばある。箕面のハイイロキシタバとされたモノも、そういった偶産的なクロシオだった可能性は充分にある。もしくは移動してきたモノが一時的に発生していたのかもしれない。だとすれば、全然ロマンのない話だけどね。
昔は箕面にもウバメガシが自生していて、恒常的に発生していたとかないのかなあ…❓
しかしハイイロキシタバの記録から既に80年くらいが経っている。そして今や箕面は高級住宅地だ。30年程前から開発という名の自然破壊が著しい。稀蝶クロヒカゲモドキやキマダラモドキも絶滅しかかっていて、風前の灯になっている。なれば現在そのハイイロキシタバとおぼしきものが今も棲息しているかどうかを検証・証明する事は、もはや難しい。
やれやれ。結局のところ、出口の見えない迷宮じゃないか。

多分ハイイロキシタバの正体はアミメキシタバだとは思うけれど、一応ゴマシオキシタバの画像も貼り付けておきましょう。
あっ、前半に貼っつけたか。じゃ、別な個体で。

ゴマシオは図版だと下段一番右端の奴ね(Fig.5)。

 
【ゴマシオキシタバ Catocala nubila ♂】

 
ゴマシオは前翅が灰色だからゆえ、それが原因でハイイロキシタバ(C.connexa)と混同されて、話がややこしくなったんじゃないかなと思う。
それはそうと、アミメだったとして、なして前翅が茶色なのに「灰色黃下翅」なの❓ もー、松村さぁ〜ん。

 
【同裏面】

 
【♀】

(2020.7 長野県北安曇郡)

 
コレはわりと前翅にメリハリがある。どうやら♀にその傾向がありそうだが、どうなんだろね。
一応、♂も並べておく。

 
(♂)

(黒化型)

(2019.8 岐阜県白川村)

 
考えてみれば、ゴマシオって変異が多いんだよなあ…。これ以外にも幾つかフォームがある。それがハイイロの同定に更なる混乱を引き起こした原因なんだろね。
とはいえ、前翅は無視してもよい。灰色だからってハイイロキシタバなんて思ってはならんのだ。そこに拘泥するから問題がややこしくなるのである。ヨシノキシタバとの違いは細かくみれば幾つかあるが、一番の差異は後翅だ。ヨシノみたく黒帯が繋がらないので容易に区別できる。そこさえ抑えておけば、間違うことはない。リーチがゴマシオとヨシノを同一種だと考えてたみたいだけど、こんなの簡単に見分けられると思うんだけどなあ…。そう最初から思ってたから、論文の内容を読んで余計に混乱したのだ。
だいち裏面を見れば、んなもん、一発でワカルんでねぇの❓とも思ってた。あまり言及される事はないが、カトカラは裏面でも同定は出来る。むしろ種によっては裏の方が簡単に見分けられる場合もあるからね。と云うワケで、再度ヨシノくんの裏面に登場してもらおう。

 
【ヨシノキシタバ 裏面♀】

【同♂】


(出典『日本のCatocala』)

 
(・o・)あれっ❗❓
改めて見ると、最後の『日本のCatocala』の裏だけ、ちょっと違うぞ。いや、だいぶ違う。下翅の内側(腹部側)に細い黒帯がない。それに上翅翅頂の黄紋が下に伸びている。
確認の為に他の画像を探そう。

 

(出典『wikimedia commons』)

 
やはりヨシノは下翅の内側に細い黒帯があり、翅頂が下部に広がる事はない。とゆうことは『日本のCatocala』のヨシノの裏面はいったい何者なのだ❓
と言いつつも心辺りは無きにしもあらずだけどさ。けど、その前にゴマシオの裏面を確認しておこう。

 
【ゴマシオキシタバ 裏面】


(出典『日本のCatocala』)

 
当初は『日本のCatocala』のゴマシオの裏面画像を見て、予断で「ヨシノとは全然似てない。こんなの裏面をちゃんと見てれば別種だと簡単に分かるじゃないか。リーチでさえもそれに気づかなかったって事なのか…❓おいおい、アンタら、そんなんで大丈夫かよ❓それって節穴ですぜ。」と一度は書いた。だがヨシノの『日本のCatocala』の裏面画像を除外すれば、他は酷似してるわ。これなら両者を同種と考えたのも理解できなくもない。

ではヨシノとゴマシオ両者の裏面の違いは、どこにあるのだろう❓
最初に、ゴマシオは上翅内側の黒い紋が隣の縦の黒帯と繋がるが、ヨシノは繋がらないのが識別点だと思った。しかし『日本のCatocala』のゴマシオの画像は、そこが繋がってない。それで混乱が起きた。で、「結構、個体変異もあるとゆう事なのか…。表は楽勝で判別できるが、裏は意外とムズいぞ。」となってワケワカメになっちったのだ。初見でビンゴだったのにさ。

そこで後翅に目をつけた。
敢えていうなら、ヨシノは下翅の内側に細い縦の黒帯があり、下側外縁の黒帯と後角付近で繋がるところではなかろうか❓一方、ゴマシオは中央の帯と外縁の帯とが繋がらない。
一見すると、ヨシノの♂個体の自前画像も繋がっていないようには見える。しかし鮮度の悪い個体ゆえに細い黒帯が消えかかってるだけで、よく見ると繋がっている(ここで重大な見落としをしていたのだが、それについては後ほど書く)。
他にも識別点は有りそうだが、もっと多数の個体を見ないと何とも言えないから、これくらいにしておきます。

あー、でも念の為に横面画像でも確かめてみよう。

 
【ゴマシオシタバの横面】

 
やはりゴマシオの下翅の黒帯は上と下とで繋がってないね。
一瞬、ゴマシオの方が全体的に帯が細いのかなと思ったが、何の事はない。太いのもおるわ。

 

 
これも繋がっていないのだが、後角の部分が影になってて分かりづらい。
もう1枚、画像を貼っつけておこう。

 

 
やっぱりだ。コレも帯が繋がってないね。
比較のために、もう一度ヨシノの横面画像を貼っつけておきましょう。

 
【ヨシノキシタバの横面】

 
思った通り下翅の右下の部分、後角付近で帯が繋がっている。分かりづらい場合はピンチアウトして拡大して下され。

あっ、もっとハッキリわかる画像もあったわ。

 

 
コレなら繋がってるのがワカルっしょ。
より多数の個体を検証しないといけないのだろうが、たぶんそれで間違いないかと思われる。

続いて、ハイイロの候補の有力としたアミメキシタバ。

 
【アミメキシタバ 裏面】


(出典『日本のCatocala』)

 
ヨシノと似てるわ。違うのは前翅内側の黒紋が隣の黒帯とガッツリ繋がっていることくらいだ。これがヨシノと混同される原因だったのね。表前翅が焦げ茶色で、下翅の黒帯も繋がってるのも合わせれば同種と考えられても致し方ない面はあるかもしれない。やはりハイイロキシタバの正体はアミメキシタバなのではないかな。
ここでヨシノとアミメ(ハイイロ)の裏面の違いを整理しよう。

①アミメは裏面前翅内側の横に広がる黒紋が隣の縦の黒帯と繋がるが、ヨシノは繋がらない。
②アミメは前翅の翅頂の黄紋が小さいか消失しかけるが、ヨシノは明瞭である。
③後翅の翅頂の黄紋が比較的ヨシノの方が大きい傾向にある。
④アミメの後翅中央黒帯先端の曲がりのRが弱いのに対し、ヨシノのRはやや強い。

多数の個体を検証したワケではないので、②③④はあくまでも傾向であって、決定的なものではないかもしれない。しかし、少なくとも①は確実な識別点になるのではないかと思われる。

(´ε` ) もぉー、白井さんはどうして図版に裏面画像を載せてくれてないのだ。それさえ載っけてくれてさえいれば、これ程までに頭を悩まさなくて済むのにさー。
両者の裏面が酷似しているのは認める。でもプロなら裏面を詳細に見れば別物だと直ぐに分かった筈だ。表面の特徴と合わせれば尚の事だ。
(-_-メ)ブッちゃけ言って、画竜点睛を欠くだよ。蛾屋さんはナゼに裏面に対して此れ程までに無頓着なのだ❓意味がワカランよ。

話はまだ終わらない。
そして、第二候補のクロシオちゃん。

 
【クロシオキシタバ 裏面】


(出典『日本のCatocala』)

 
これを見て、最初はこう思った。
(☉。☉)ワオッ❗、ヨシノとソックリじゃないか。
と云うことは図版のハイイロキシタバはクロシオと混同されてたってこと❓でも図版の3と4の黒帯はガッチリ繋がってるからアミメっぽいんだよなあ…。
とは言うものの、白井氏の解説に「全面に鉛樣金屬性の色澤を漂わす」と書いてあったから、(?_?)にはなってたんだよね。
アミメは茶色いから鉛色ではない。一方、クロシオは鉛色とまでは言えないが、青っぽくて、やや金属光沢があるようにも見える。或いは、これが鉛色な見える人もいるかもしれない。少なくとも茶色いアミメよりかはそう見える。
誰か、この標本を探してきて裏面を図示してくんないかな。それで一発で解決しそうだと思うんだけど。

こう最初は書いたのだが、実をいえば自前のヨシノの裏面の標本画像も加えようと表展翅をひっくり返したところでオカシイなと気づいてた。で、その時には既に半分もしやとは思ってた。第六感が走ったのだ。相前後するが、つまり冒頭の自前のヨシノ♀の裏面標本画像は、この為に後から写真を撮って付け足したのである。

この際ハッキリ言おう。

 

 
おそらくこの『日本のCatocala』のヨシノキシタバの裏面画像はクロシオキシタバだ❗

つまり間違った画像が使われている可能性が高い。
西尾さん、毎回『日本のCatocala』の力をお借りしているのにも拘らず、暴露しちゃいました。m(_ _)mごめんなさい。

証明の為に他のサイトからクロシオの裏面画像を引っ張ってこよう。

 

(出典『昆虫漂流記』)

 
ほらね。コチラも下翅の内側には細い黒帯が無い。そして上翅の翅頂の黄紋が下に伸びており、中央の黒帯は太くて下部の先が特徴的な形をしている。たぶん自分の指摘に間違いはないかと思われる。
だから実を言えば、それでも♀だけでは不充分だと思ったので、更に慌ててスレたヨシノの♂を探してきて、急遽、裏面展翅した。それを冒頭と註釈に後で貼り付けたのだ。なので文章の各所に齟齬があるのである。
思い返せば、冒頭でキシタバ(C.patala)の裏面とヨシノの裏面が似ているのに違和感を感じたのも、そのせいなのかもしれない。
キシタバの裏面とヨシノの裏面は似てませーん❗キシタバに似てるのはクロシオでーす❗
そういや野外ではクロシオとキシタバは間違えやすいことを思い出したよ。お恥ずかしい話だが、クロシオの初採集行では夜になるとクロシオが小型のキシタバに見えてきてしまい、挙句には大半を無視してしまった。キシタバなんぞ採らんのじゃ❗で、後日わざわざ採り直しに行ったんだよね。それくらい似ているから、何となく両者は近縁種ではないかと思っていたのだ。今になって、まさかこんな形で裏まで似ていると知らしめられるとはね。ちょっとした青天の霹靂だよ。但しDNA解析では、そんなに近縁って程でもないみたいだけどね。

と、ここまで書いて、更なる重大な事に気づく。
何気に『日本のCatocala』のゴマシオの裏面画像をもう1回見たところで、バキ仰け反る。

 

 
ガビ ━━(゚д゚lll)━━ ン❗❗
何と『日本のCatocala』のゴマシオの画像は帯が繋がっとるやないけー❗❗
たぶんコヤツはゴマシオではない❗❗

じゃあ、コヤツは何のカトカラの裏なのだ❓

(-_-;)コレって、ヨシノキシタバの裏面じゃなくなくね❗❓

西尾さん、(༎ຶ ෴ ༎ຶ)ゴメンなさーい。又しても暴露しちゃったとですよー。

自前のゴマシオの裏面画像は、前翅内側の黒い紋が隣の黒帯と繋がってるけど、ゴマシオとされる『日本のCatocala』の画像は繋がってない。だからゴマシオではない。むしろ、この前翅内側の黒斑が隣の縦帯とは繋がらない特徴はヨシノのものである。しかも、この『日本のCatocala』のゴマシオ画像は後翅内側に黒帯があり、その帯が下の外縁の黒帯と繋がっている。これは完全にヨシノの特徴である。どっか少し変だなとは思ったのだが、全体に帯の感じが細いから、雰囲気的にゴマシオに見えたのだ。
兎に角、おいおいである。また間違いかよ(´ε` )
だとしたら、秀でた図鑑だから勿体ないよなあ…。しかも2つもだ。裏面画像をちゃんと載せているのは、この図鑑だけだから実に惜しい。西尾さん、この際だから修正のために廉価版の改訂版を出してくんないかなー。

となれば、コレを強固に証明するためには、もっと沢山のゴマシオの裏面を見て確認しなければならない。
しかーし、何故だかネットで探しても裏展翅したゴマシオの画像が全然見つからへーん。普通種なのに何でやねん❓
そんなに蛾の裏面は軽視されてるのかよ(´ε` )
しゃあない。邪魔くさいけど自分で何とかするよ。

 

 
去年に表展翅したものを裏返して撮ったものだが、こんだけ並べりゃ、特徴はもう明白だろう。すなわち前翅内側は基本的に隣の黒帯と繋がる。パッと見は繋がってないように見えるものでも、画像を拡大すれば繋がっているのがお分かりになられるかと思う。ヨシノは内側の黒紋と中央黒帯とが大きく離れており、余程の異常型でもない限りは繋がる事は無いだろう。また中央の黒帯の形もヨシノとは異なる。ヨシノのように黒帯が下部で内側へ向かって強く「くの字(左側の場合)」に湾曲することはない。
後翅は一番内側の細い黒帯を欠き、下側外縁に沿う黒帯とは繋がらない。よって『日本のCatocala』に図示されている裏面画像はゴマシオではないと断言できる。そして、ヨシノだとも断言できる。

解決したのは嬉しいが、お陰でゴマシオキシタバの回を書き直さねばならなくなった。ようはゴマシオの回に間違った裏面画像を貼っつけちゃってる事だからね。
まあ、今年はツートンカラーの型も採れたので、どうせ改訂版を書く予定ではあったんだけどもね。

 

 
で、結局なんだったっけ❓どうやって纏めればいいのだ❓
衝撃の発覚2連発で、着地点というかクロージングを完全に見失ったよ。

頭の中で纏まるまで時間稼ぎをしよう。
ついでに去年発見されて、アミメやクロシオに似ているマホロバキシタバ(C.naganoi mahoroba)の画像も貼り付けておこう。

 
【マホロバキシタバ ♂】


(2020.7月 奈良市)

 
後角付近で黒帯が繋がらないのが特徴。

一応、裏面画像も貼付しておきまーす。
ヒマな人は、見た目が似ていて同所的に生息する可能性のあるアミメやクロシオと見比べてみてね。全然違うからさ。

 
(♀)

(2020.7 奈良市)


(2019.7 奈良市)

 
(♂)

(2019.7 奈良市)

  
コヤツはワタクシと小太郎くんが発見したんだけど、同定は裏が決め手となった。明らかにアミメやクロシオと違うからね。
それで海外のサイトから裏面画像を探してきて、C.naganoi に近いものだと分かったんだよね。誰も気づかなかったのは、裏面をちゃんと見た人がいなかったのだろう。
付け加えると、似ているがヨシノとも違う。前翅内側の黒紋の形が異なるから区別は可能。まあ、表側で充分同定できるけどね。
マホロバに関しては、拙ブログの『真秀ろばの夏』の前・後編を読んで下され。そこに詳しく書いた。

そろそろ結論を言おう。
白井さんのハイイロキシタバとした個体は、たぶんアミメキシタバだろうが、クロシオキシタバの可能性もあるとしか言えない。裏を見ないとワカランのだ。
このブログでは再三再四言ってるけど、ホンマ、蛾を研究する人は裏面をもっと大事にして欲しいよ。
また蛾屋さんの怒りを買うような事を書いちゃったけど、まっいっか。
ところで、何故にヨシノの学名”rutha”が消えて、ハイイロの学名”connexa”が現在のヨシノの学名になったのだ❓
まっ、いっか…。どうせ中国辺りのものが”C.connexa”として既に記載されていた事が後で発覚したんじゃろうて。

赤ん坊はもう疲れたよ。いつまでも壊れた玩具で遊び過ぎたからね。もう、さよならをするよ。

                   おしまいのおしまい

 
とは言うものの、記事のアップ直前で思いとどまった。
調べると「http://ftp.funet.fi/」と云うカトカラ全体の記載について書かれているサイトで以下のような記述を見つけた。

・Catocala connexa Butler, 1881; 196; TL: Japan, Tokyo
・Catocala rutha Wileman, 1911; 239, pl. 30, f. 3; TL: Japan, Yamato, Yoshino

これを見ると、バトラーは日本で採集されたものから記載したことが解る。Tokyoとあるのは、おそらく採集された場所ではなく、ブツが東京から送られてきたからだろう。きっと、この時代はアバウトだったんだろね。バトラーからすれば、遠く離れた極東から送られてきたと云う事実だけで充分だったのだろう。それ以上の詳しい産地には興味が無かったものと思われる。

ワイルマンは既にバトラーによって記載されている事を知らずに吉野産を新種として記載したんだろね。
いや、知ってはいたが、connexaとは別種だと思って記載したのかもしれない。だったら、何故に白井さんは図示したアミメっぽい標本を”connexa ハイイロキシタバ”としたのだろう❓白井さんは何を基準にコレを”connexaとしたのだ❓もしくは誰がそれをハイイロと断定したのだ❓アレッ❗❓、自分でも何言ってんのか段々ワカンなくなってきたぞ。ワシの文章が難解化しとる。

でも白川氏はハイイロキシタバの項で「Fig.3.♀は Allotypeで、Fig.4.♂はParatypeと見做すベきものであろう。」と書いているんだよな。だったら、connexaは現在のヨシノとは見た目が違う事になってしまう。
そもそもコレが何故にタイプ標本だと言えるのだ❓標本の出自について書いてないからワカランぞなもし。しかも、もしタイプ標本ならば、そんな「〜であろう。」なんてファジーな物言いはしない筈だ。タイプ標本ならば、タイプ標本とハッキリ言える筈じゃないか。そもそもタイプ標本だったら、パラタイプであろうとアロタイプであろうが、ホロタイプと同じく、その旨を記したラベルが付いていた筈だ。それ見りゃ、一発でワカルのだ。白川さんは何をもってタイプ標本だとしたのかえ❓
だが、今となってはもう調べようは無さそうだ。とにかく、誰かが間違ってコヤツが”connexa”だと言い出した事から混乱が始まったのだろう。
そうゆう事にしておこう。

けど別な疑問が出てくるんだよね。クソー、全然終わんねぇ。
もしハイイロキシタバがアミメだったとしたら、なぜにアミメキシタバの学名は「Catocala connexa」とはならなかったのだろう❓そして、どうして「Catocala hyperconnexa」になったのだろう❓また、ヨシノキシタバは何故に”rutha”とはならずに、”connexa”になったのだ❓

きっと宇宙人のしわざだ。
もう、そうゆう事にしておこう。

              おしまいのおしまいのおしまい

 
追伸
実をいうと第二章を書いた時点で、ほぼほぼこの最終章も出来上がっていた。先に解説編から書き始めてたからね。しかしハイイロキシタバの事か何となく気になって再度調べたら、ドツボに嵌ってもうた。今回は割りとすんなり書けたのでラッキーだと思ってたけど、最後の最後で落とし穴の迷宮ラビリンスとはね、大どんでん返しだよ。まあ、謎を探究するのはミステリアスで面白いんだけどもね。あっ、タイトルは『吉野ミステリー』とか『吉野孃はミステリアス』とでもすれば良かったかな?面倒くさいから変えないけど。

あんまり沢山採れてないとゆうのもあるが、ヨシノキシタバに対してのモチベーションはまだまだ有る。♀のスゲーのを採りたいよね。コレはたぶん藤岡くんにあげちゃった個体のせいがあるんだと思う。進呈した事に対しては今更どうのこうの言うつもりは全くないが、あのタイプの完品が純粋に欲しいと思うようになったのだ。正直、♀の斑紋の美しさには魅入られる。心は、未だ見ぬ美しき♀を求めているのだ。

これでやっとこさ追いついた。
このカトカラシリーズの連載は、カトカラ採集をしだしてから1年後に始まった。だからずっと1年遅れとか、下手したら2年遅れの話を書いていたのだ。とにかくコレで漸く同じ年の年内に書き終えることができた。
とゆうワケで、これにて今年のカトカラシリーズの連載はおしまい。もし来年新たなカトカラが採れたら、連載再開となる。とはいえ、それなりに難関が残ってるから、どうなるかはワカランけどね。それに今年は念願のナマリとアズミ、そしてヨシノが採れたから、あれ程のモチベーションは、もうありましぇーん。

えー、今回も端々で結果的に蛾屋さんの事をディスる形になっちゃってるけど、許して下され。別に敵視しているワケではないので。

 
追伸の追伸
いやはや、ハイイロキシタバのせいで予想外にどえりゃあ長くなってまっただ。途中で流石に2回に分けようかとも思ったが、そうなると後編は新たに冒頭部分を書き直さなければならないし、文章のレイアウトを変える細かい調整も必要になってくる。タイトルも再考しなくてはならないし、それが邪魔くさくて、そのまま突っ切った。
それはそれで別なストレスが生じてホント、クソみたいに憂鬱になったわ。事実は、好きで長い文章を書いているワケではないのだ。単に下手クソだから、その分長い文章を書かざるおえないだけの話だ。

おしまいのおしまいの前の末文「赤ん坊はもう疲れたよ。いつまでも壊れた玩具(おもちゃ)で遊び過ぎからね。もう、さよならをするよ」は、レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説の金字塔『長いお別れ』(清水俊二 訳)からの引用です。
昔から心がメチャンコ疲弊した時によく呟いていたセリフです。今回、久々に出ちまったよ。

何はともあれ。
皆様、メリークリスマス🎄🎅

 
ー参考文献ー

◆西尾規孝『日本のCatocala』
◆石塚勝己『世界のカトカラ』
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』
◆江崎俤三『原色日本産蛾類図鑑』
◆白水隆『日本産蝶類標準図鑑』
◆白井忠治『關西蛾類圖説(1)』日本鱗翅学会『蝶と蛾』1953年7月号

(ネット)
◆『ギャラリー・カトカラ全集』カトカラ同好会
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『Wikipedia』
◆『wikimedia commons』
◆『兵庫県カトカラ図鑑』きべりはむし
◆『植物社会学ルルベデータベースに基づく植物分布図』
◆『高知の自然 Nature Column In Kochi』
◆『あきた森づくり活動サポートセンター』
◆『昆虫漂流記』

 

シルバーベルベットの想念

 
2020年 7月20日

近鉄奈良駅から外に出ると、凄い夕暮れになっていた。

 

 
何かが起こることを予兆するかのような凄絶で美しい夕景だ。
何となく、きっと今日は良いことが起きそうだなと思った。

そういえばこの日は、連日マホロバキシタバの調査に動いている小太郎くんには休むようにと釘を刺したんだっけ。前の日も一緒に能勢で灯火採集をして神戸までプーさんを送って朝方に奈良まで帰って行ったしね。だから小太郎くんには言わずに一人で春日山の原始林に入った。言ったら、近くに住んでいる彼は絶対に来る筈だからさ。

今回はイチイガシの木が多い場所に糖蜜を噴きつけた。
目的は殆んど糖蜜トラップに誘引されないマホロバキシタバを何とかこの手で捕らえることだった。この時点では色んな人がトラップを仕掛けたのにも拘らず、飛来したのはこの2年でたったの2例のみだったのだ。マホロバの発見者としては、そこんとこは抑えておかないとカッコつかないからね。
ならばとマホロバの食樹として有望視されるイチイガシの大木が多くある場所で糖蜜を撒きまくってやれと考えたのだ。
ちなみに春日山原始林と奈良公園は採集禁止である。なので、許可はちゃんと得ている。

 

 
午後8時40分。
糖蜜トラップに見慣れない蛾が来ていた。
近づくと、懐中電灯の光に照らされたそれは、渋い銀色でギラギラと鈍色(にびいろ)に輝いていた。まるでラメが入ったかのような妖しい光を放っており、質感は高級なベルベットを思わせる。シルバーベルベット。銀狐の美しさだ。闇の中で想念が慄(ふる)える。
蛾はカトカラとヤママユの仲間しか採らない主義だが、渋カッコイイので採ることにした。それにオラって牽きだけは強いからさ。2匹目の泥鰌(どじょう)、又もや新種だったりしてね。そんな目論見も無きにしもあらずだった。

 

 
やはり渋カッケーや。
当然ながら名前は知らん。珍しいかどうかもワカラン。蝶のことはそこそこ知ってはいても、同じ鱗翅目である蛾のことは素人並みの知識しかないのだ。

♀っぽいなあ…。
確認のために裏返してみる。

 

 
腹の感じからすると、♀っぽいね。
そして、やっぱ裏は汚い。蛾に今一つ踏み込めないのは、この辺に理由があるのかもしれない。勿論、裏面が美しい蛾もいるけど、相対的には野暮ったくて残念な奴が多いのだ。上翅は蝶を凌駕する多種多様で魅力的なバリエーションに富むのに、下翅と裏面がねぇ…。

暫くして下から闇をノタ打つ懐中電灯の光の束が見えてきた。
体が硬化する。一瞬、死体遺棄に来た殺人鬼かと思った。こんな時間に、こんな太古の森へと入って来る者など普通はいない。いるとしたら、彼しか有り得ないだろう。そう願おう。

正体の主は、やはり小太郎くんだった。休めよなー、この野郎。虫小僧、底知れぬ体力と精神力だわさ。

小太郎くんに、さっきのシルバーベルベットを見せると、何たらかんたらと云う長ったらしい名前を言った。(`∇´)ケッ、新種じゃないと分かって、その場で脳が名前を消去する。また、くだらぬモノを採ってしまったよ…。
彼曰く、無茶苦茶珍しいワケではないが、そこそこ珍しいらしい。特に関東方面では少なく、東日本の愛好家の間では評価が高いそうだ。だったら、まっ、いっか。

翌日、展翅するために羽を開いたら、下翅に黄色い紋がある。蛾って下翅が無紋のものが多いから、ちょい驚く。

 

 
といっても、黄色い紋は淡く、鮮やかではない。正直、あんまし綺麗じゃないよね。それに、夜に見た時みたいな妖しい光を放ってはいない。光の質とか当たり具合にもよるのかもしれない。ちょっいガッカリ。
まあいい。取り敢えず展翅すっか。

 

 
丸くて、お世辞にも形はカッコイイとは言えない。
ちなみに紫色の部分は、透明展翅テープに虫ピンの頭の色が映ってるだけで、実物にこうゆう色はない。

触角はカトカラみたく真っ直ぐにはしなかった。
カトカラと比して愛情が足りないので、邪魔くさかったのだ。

取り敢えず何者かを岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』で調べてみることにする。

 

 
結果、どうやらホリシャキシタケンモンとマルバネキシタケンモンのどちらかみたいだ。
でも形からすると、おそらくマルバネキシタケンモンだろう。
驚いたのは、♂と♀とでは触角の形が違うことだ。♂は触角が鋸歯状になるそうだ。
ということは、コヤツは思った通りに♀って事だね。

 
(マルバネキシタケンモン♂)

(出典『日本産蛾類標準図鑑』)

 
オスとメスで触角の形が違うといえば、ヤママユの仲間が思い起こされるが、ヤガ科にも居るのね。
後翅の黄色い紋が大きいのは、たぶん異常型かと思われる。

種の解説に戻ろう。
基本的な斑紋はホリシャと同様だが、より変異の幅があり、前翅外横線と亜外縁線の間が広くて灰白色を帯びる個体も見られるそうだ。
前翅は丸みを帯び、ホリシャのように翅頂部は突出しない。腎状紋内側に沿う黒条は弧を描き(ホリシャは直線的)、前翅後角にある白斑はホリシャよりも発達する場合が多い。後翅中央の黄色紋はやや細く、縦長になる(ホリシャは横長で縦に短くて丸みを帯びる)。

比較のためにホリシャキシタケンモンの画像も貼っつけておこう。

 
(ホリシャキシタケンモン)

(出典『日本産蛾類標準図鑑』)

 
左が♂で右が♀である。同じく♂は触角が櫛状だ。
裏面にも明確な違いがあるようだが、以下のサイトに詳しいので、気になる方はそちらを覗いてみて下され。

http://yokonami.web.fc2.com/4kisitakenmon.html

 
【分類】

ヤガ科(Noctuidae)
ケンモンガ亜科(Pantheidae)
ウスベリケンモン属(Trisuloides)

以前はホリシャキシタケンモンと一緒くたにされていたみたいだが、1976年に別種だと判明し、分離されたそうだ。
学名の記載者名は”Sugi”となっているから、たぶん蛾界に多大な功績を残された杉 繁郎氏の慧眼だろう。

 
【学名】Trisuloides rotundipennis Sugi, 1976

属名の後半の”loides”は「のようなもの、みたいな」という意味だが、前半の”Trisu”が分からないから何みたいなのかが不明。対象物がワカランのだ。ラテン語だと「3」に関係する言葉に使われることが多いようだけど、そこで思考は止まってしまう。カトカラじゃないから、別にいいや。掘り下げる気力なしなのさ。
小種名は前半部は”rotundity”あたりが語源だろう。意味は「丸み(丸味)、円み(円味)」。
後半の”pennis”はチンポ❓一瞬そう思った。
けど、んなワケないと思って調べてみたら「penna=羽根」とゆうのが出てきた。おそらくコレだろう。「丸い羽根」ならば意味が通る。語尾の”is”は多分ラテン語の女性形で、形容詞の語尾変化だろう。

 
【開張】♂35〜40mm。♀40〜52mm

何とオスとメスとで大きさまで違うのね。ちょっと驚き。
触角が鋸歯状だというのもあるし、来年はオスも見てみたいもんだね。

 
【分布】

伊豆半島以西の太平洋側、四国、九州。
国外では朝鮮半島南部に記録がある。

 
【成虫の出現期】

『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には、5〜6月と9〜10月となっているが、岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』には、6〜7月と9〜10月となっている。多分、岸田先生の方が正しいかと思われる。今回の個体の鮮度状態からみれば、そう言わざるおえない。それに『みんなで作る日本産蛾類図鑑』の方は、情報の一部に正確性を欠く場合が多いからね。だから鵜呑みにしない事にしてる。
とにかく発生は年2化ってことだね。

 
【成虫の生態】

ネットや図鑑で生態について書いてあるものは見つけられなかったが、糖蜜トラップに寄ってきたんだから、間違いなく樹液には飛来するだろう。
ネット情報だと灯火採集でも飛来しているから、走光性もありそうだ。
読んでいないが『ホリシャキシタケンモンとマルバネキシタケンモンの生活史(2020 宮田)』という論文があるので、そこに詳しく書かれているかもしれない。

 
【幼虫の食餌植物】ブナ科コナラ属:イチイガシ

だからイチイガシの森に居たんだね。納得だ。同時に関東方面では稀少な種という謎も解けた。イチイガシは関東方面では殆んど見られないからね。ということは、マルバネは関西でも何処にでもいるという種ではなさそうだ。イチイガシは九州を除き、西日本でもそう多い木ではないのだ。関西だと群生しているのは奈良公園及び春日山原始林内と紀伊半島南部の一部にくらいしかない。
ちなみに近縁のホリシャキシタケンモンの食樹は同じブナ科コナラ属のウバメガシだとされている。なので分布は、より沿岸部となるようだ。ウバメガシは海岸によく群生して生えてるからね。となれば、ホリシャの方が生息域は広いと思われる。実際に大発生した記録も有るようだしさ。マルバネの方が少ないから、長年混同されてたんだね。

幼虫はヤガ科には珍しく刺毛のある毛虫型。
キモいので、画像は貼っつけないけどさ。

                       おしまい

 
追伸
タイトルのモチーフは鬼才デビッド・リンチの映画『ブルーベルベット』。闇をこれだけ意識させられた作品は他にない。ハリー・ディーン・スタントンのお菓子のピエロのシーンが特に秀逸だ。

この日、念願のマホロバキシタバも糖蜜トラップにやって来た。やはりあの凄絶な夕景は予兆だったのかもしれないね。

 
【マホロバキシタバ】

(2019年 7月 奈良市)

 
マホロバに関しては当ブログに『まほろばの夏(マホロバキシタバ発見記)』と題して書いた文章など数編があるので、興味がござる方は探して下され。

 

マホロバキシタバ発見記 後編

 
   vol.20 マホロバキシタバ

   『真秀ろばの夏』後編

 
まほろばの夏は終わらない。
その後も奈良通いは続いた。次の段階は、この地域での分布と生態の解明だった。

岸田先生(註1)が帰京したのが7月16日。その2日後には先生肝いりの刺客として、ラオス在住で偶々(たまたま)帰国していた小林真大(まお)くんという若者が送り込まれてきた。彼はストリートダンスをしながら世界中の蛾を採集していると云う異色且つスケールのデカいモスハンターで、体力、運動神経ともに優れ、センス、知識、根性をも持ち合わせた逸材。おまけに男前で性格も良いときている。久々に虫採りの天才を見たと感じたよ。
彼は自分や小太郎くんが家に帰った後も、夜どおし原始林を歩き回って多くの知見をもたらしてくれた。その結果、分布や生態の調査が大幅に進んだ。
 
まだ不確定要素もありますが、それら分かったことを2019年だけでなく、2020年の分も付記しておきます。但し、まだまだ調査不足なので、以下に書かれた事は今後覆される事も有り得ると思って読んで戴きたい。

 
【マホロバキシタバ♂】

 
【同♀】

 
【♂裏面】

 
【♀裏面】

 
日本では、2019年の7月に奈良市で見つかった。って云うか、見つけた。
アミメキシタバやクロシオキシタバに似るが、表側の後翅中央黒帯と外縁黒帯とが繋がらず、隙間が広く開くことで区別できる。また、三者の裏面の斑紋は全く違うので、むしろ裏面を見た方が同定は簡単だろう。3種の判別法の詳細は前回に書いたゆえ、そちらを見られたし。

 
【雌雄の判別】
♂は腹部が細長くて、尻先に毛束がある。一方、♀は腹が短く、やや太い。また尻先にあまり毛が無くて上から見ると先が尖って見えるものが多い。とはいえ、微妙なものもいる。特に発生初期の♀は腹があまり太くないので分かりづらい。
確実な判別法は、裏返して尻先の形状をみることである。今一度、上記のメス裏面画像を見て戴きたい。尻先に縦にスリットが入り、黄色い産卵管が見えていれば(わかりにくいが尻先の黄色いのがそれ)、間違いなく♀である。

 
(オス)

 
♂は尻先の毛束がよく目立つ。

 
(メス)

 
なぜかメスの腹部が見えている写真が無い。なので、お茶を濁したような画像を貼っ付けておいた。意味ないけどー(´ε` )

 
(オス)

(メス)

 
表よりも裏の方が雌雄の区別はつきやすい事は既に書いた。しかし、時にオスの腹先の毛に分け目ができ、それが縦スリットのように見えてメスと見間違えるケースが結構ある。メスだと思ったら、最後に産卵管の有無を確認されたし。

 
(オス)

(メス)

 
実を云うと、横から見るのが一番わかりやすい。腹の太さと長さ、尻先の形、毛束の量がよく分かるからだ。また、上のようにメスの産卵管が外に飛び出ていれば、一目瞭然だ。

 
【学名】Catocala naganoi mahoroba Ishizuka&Kishida, 2019

属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり、下翅が美しいことを表している。マホロバのように黄色い下翅を持つものが多いが、紫や紅色、オレンジ、ピンク、白、黒、象牙色等の種もいて、バリエーション豊かである。

台湾の基亜種は蛾の研究の大家である故 杉繁郎氏により1982年に記載された。
小種名の「naganoi」は「長野氏の」と云った意味である。

「The specific name of the present new species is dedicated to Mr Kikujiro Nagano(1868-1919), a pioneer lepidopterist of Japan, inyrho contributed much to taxonorny and biology at Nawa Entomolegical Laboratory, Gifu.」

記載論文に上記のような文章があったから、日本の鱗翅類研究の黎明期に名和昆虫館を創設した名和靖氏の片腕として働いた長野菊次郎(註2)氏に献名されたものであろう。

亜種名「mahoroba」は日本の古語「まほろば」からで、「素晴らしい場所、住みよい場所、楽園、理想郷」などの意味が込められている。また奈良の都を象徴する言葉の一つでもあり、県内ではポピュラーな名称だというのも命名の決め手となった。コレも詳細は前回を読まれたし。

残念ながら新種ではなく、Catocala naganoiの亜種となったので、小種名「mahoroba」は幻に終わってしまった。
ぶっちゃけ、分布調査をしていたワシと小太郎くんとマオくんとの間では絶対に新種になるだろうと話し合っていた。なぜならば、その時点では奈良県春日山原始林とその周辺でしか見つかっていなかったからだ。原記載亜種のいる台湾と奈良市とでは、海を隔てて遥か遠く離れている。分布が隔離されてから少なくとも30万年以上(註3)の時が経っているわけだから、両者は分化している可能性が極めて高く、ゲニ(註4)には何らかの差異が見い出されて当然だろうと思っていたのである。
また、記載を担って戴いた石塚さんに「その剛腕っぷりで、何とかして新種にして下せぇ。」とジャッキアップ掛けえので懇願してたのもある。石塚さんも「任しときぃー。」ってな感じだったからね。
石塚さんはカトカラの新種記載数の横綱を目指されており、キララキシタバを新たに記載するにあたり、モノ凄い数のゲニを切って執念で別種であることを突き止めたと岸田先生から聞いてたしさ。ならば今回も執念で新種であることを証明してくれるだろうと勝手に思い込んでいたのだ。実際、石塚さんとのメールのやり取りでは、早い段階で「軽微だが違いを見つけた」とも仰ってたからね。その調子で、決定的な差異も見つけてくれはるだろうとタカを括ってたところがある。
亜種に落ち着いたのは、あくまでも推測だが、石塚さんと岸田先生とで話し合った結果なんだろね。オサムシみたいに軽微な差異のものでも無理からに別種にしてしまうのはいかがなものか?と云う事なのだろう。それに関しては自分も以前から同意見だったので、致し方ない結果だとは思っている。両者の見てくれは、普通に見れば同種なのだ。長年、分布が隔離されているゆえ、別種になっている可能性もないではないが、両者の交配実験でもしない限りはワカランだろ。
まだ試みられていないといえば、DNA解析も気になるところではある。但し、DNA解析の結果が絶対だとは思わない。そこに問題点が全く無いワケではなかろう。そりゃあ、DNA解析の結果、マホロバが別種になれば嬉しいけど、ホシミスジの亜種を沢山作っちゃったり、ウラギンヒョウモンを3つに分けたりとか、正直なところ何でも有りかよと思う。DNA解析の結果が何でもかんでもまかり通るんだとしたら、可笑しな話だわさ。

惜しむらくは亜種になったので、女の子にならなかった事だ。自分はカトカラを女性のイメージで捉えている。だから偶然だけど、mahorobaの綴りの末尾が「a」で終わっているのを嬉しく思ってた。学名の綴りの末尾が「a」ならば、ラテン語では女性名詞になるからね。
一方「naganoi」の語尾の「i」は男性単数(1名)に献名する場合に付記されるものだ。ようはオッサンなのだ。菊次郎さんには申し訳ないが、オッサンの蛾なんてヤじゃん。

 
【和名】
前回と学名の項で既に和名の命名由来については述べているが、もう少し詳しく書いておこう。
「まほろば(真秀ろ場)」とは、素晴らしい場所、理想郷、楽園といった意味だが、実際のところマホロバの棲む一帯は素晴らしい場所だ。棲息地は、ほぼ手つかずの太古の森で、ナチュラルに厳かな気持ちになってしまうような巨樹が何本も生えている。何百年、何千年と生き長らえてきた木は特別な存在だ。見上げるだけで理屈なく畏敬の念が湧いてくる。その林内には春日大社があり、森の近くには興福寺五重塔や二月堂、三月堂、そして東大寺があって、大仏様がおられる。他にも名の知れた歴史ある古い社寺が沢山あり、阿修羅像や南大門の金剛力士像、戒壇院の四天王像などの有名な仏像彫刻、また正倉院には数多(あまた)の宝物もある。加えて神様の遣いである鹿さん達も沢山いらっしゃる。謂わば、此処は八百万(やおろず)の神々の宿る特別な場所であり、掛け値なしの「まほろば」なのだ。だからこそ名付けたと云うのが心の根本にある。そして、我々に滅多とない機会と栄誉を与えてくれた素晴らしい場所でもあるという想いも込められている。これらが根底にある偽らざるコアなる想いだ。

だが、そこに至るのにはそれなりの紆余曲折があり、実をいうとマホロバ以外の候補も幾つかあった。

『アオニヨシキシタバ』
青丹(あおに)よし 寧楽(奈良)の都は 咲く花の にほうがごとく 今盛りなり (万葉集巻三328)

奈良で最初に発見されたので、奈良に因んだ和名にしようと考えた時に真っ先に頭に浮かんだのが、小野 老(おのの おゆ)の有名なこの和歌だった。
意味は「奈良の都は今、咲く花の匂うように真っ盛りである」と謂ったところである。
ここで出てくる「にほう」とは嗅ぐ匂いの事ではなく、赤や黄や白の花の色が目に鮮やかに映えて見えるという奈良の春景色の見事さを表している。色の鮮やかさを「におふ」と表現しているところに、当時の人達の粋と感性の豊かさが感じられる。マホロバキシタバも下翅が鮮やかだし、名前としては悪かないと思った。しかし、一般の人からみれば、アオニヨシと言われても何のこっちゃかワカラナイだろう。語呂もけっしていいとは思えないので断念。

『ウネメキシタバ』
ウネメとは「采女」から来ている。奈良時代に天皇の寵愛が薄らいだ事を嘆き悲しんだ天御門の女官(采女)が猿沢池に身投げしたという。その霊を慰める為に池の畔に建立されたのが采女神社の起こりとされ、入水自殺した池を見るのは忍びないと、一夜にして社殿が池に背を向けたという伝説が残っている。
古(いにしえ)の伝説というのは神秘的な感じがして、いとよろしだすな。マホロバキシタバの発見を伝説になぞらえ、重ね合わせるといった趣きもあるじゃないか。
女性というのもいい。自分の中では、基本的にカトカラは女性のイメージだからね。
それに毎年、秋(中秋の名月)になると「采女祭」が開催され、地元では名のしれた祭だと云うのもある。名前は棲息地近辺に住む人々に愛されるのが理想だからね。
しかし猿沢池となると、棲息地とはちょっと離れていて、森ではなく、町なかだ。さりとて、この神社は春日大社の末社でもあるワケだから、無理からに関連づけてしまう事も可能だ。けんどさあ、よくよく考えてみれば不幸な女の話だ。縁起が悪いのでやめておくことにした。
昔から不幸な女には近づかないようにしている。負のエネルギーの強い女をナメてはいけない。運の太いワシでも負のパワーに引きずり込まれそうになったもん。

ベタなところでは、以下のような候補もあった。

『マンヨウキシタバ』
これは「万葉(萬葉)」からだ。春日山の原始林を万葉の森と呼ぶ人もおり、また棲息地の春日大社の社域には「萬葉植物園」もあるからだ。「万葉集」に繋がるイメージも喚起されるだろうから、雅な趣きもある。
しかし、ベタ過ぎだと思って外した。なんか語呂の響きもダサいしさ。

『カスガノキシタバ』
春日大社一帯は「春日野」と呼ばれ、また住所も春日野町という事からの着想。
名前の響きは悪かない。しかし、春日と名のつく地名は全国に幾つもある。混同を避けるために却下。

そういえば、その関連で、↙こうゆうのもあったな。

『トビヒノキシタバ』
春日野からの連想である。これは棲息地が飛火野に隣接しているからだ。って云うか、少ないながらも飛火野にもいる。
飛火野とは、春日山麓に広がる原野のことを指す。ここは春日野の一部であり、また春日野の別称でもあって、風光明媚なことから鹿たちの楽園としてもよく知られている所だ。和名としては、そう悪かないと思う。しかし、漢字はカッコイイんだけど、カタカナにすると何かダサい。拠ってスルー。
因みに「飛火野」の地名は、元明天皇の時代に烽火(のろし)台が置かれたことに由来する。
ウネメもそうだけど、天皇さんに由縁する言葉は何となく高貴な気がするし、歴史を感じるんだよね。それってロマンでしょう。そこには少し拘ってたような記憶がある。

そう云う意味では「マホロバキシタバ」だって天皇とは関係がある。有名な「倭は 国の真秀ろば 畳なづく青垣 山籠れる 倭しうるわし」という歌は、日本武尊(やまとたけるのみこと)が詠んだとされているからだ。日本武尊は天皇その人ではないが、天皇の皇子だもんね。つまり皇族なのだ。高貴な身の上でありんすよ。どころか古代史上の大英雄だ。スサノオがヤマタノオロチから取り出して天照大神に献上した伝説の剣「草薙の剣」をアマテラスから貰って、バッタバッタと敵をブッた斬るんだもんね。
余談だが「ヤマトタケルノミコトキシタバ」というのも考えないではなかった。けど長過ぎる。「ヤマトタケルキシタバ」でも長いくらいだ。それに捻りが無くて、あまりにも名前が仰々し過ぎるのでやめた。正直、そこまでマホロバをジャッキアップするのは恥ずかしい。もし伝説の英雄になぞらえるとするならば、よほどデカいとか孤高の美しさや異形(いぎょう)で特異な見てくれでないとダメでしょうよ。日本の何処かで、とんでもなく凄い見てくれの固有のカトカラを見つけたとしたら、つけるかもしんないけどさ(笑)。

ついでに言っとくと、絶対に命名を避けたかったのが「ナラキシタバ」と「ヤマトキシタバ」。
「ナラキシタバ」は、もちろん奈良黄下羽である。全く捻りが無くて、こんなの小学生でも思いつくレベルだ。想像力と語彙力がゼロだと罵られても致し方なかろう。また語源が木のナラ(楢)と間違われる可能性もある。食樹がミズナラやコナラ等のナラ類だと感違いする人だっているかもしれない。二重にダサいネーミングだ。

「ヤマトキシタバ」の「ヤマト(大和)」は、昆虫の名前として使い古されてる感があり、国内新種なのに新しい雰囲気がどこにも感じられない。
「アンタ、考えるのが面倒くさかったんとちゃうかあ❓それって怠慢やろが。」と言われて然りのネーミングだろう。
それに「ヤマトシジミ」や「ヤマトゴキブリ」「ヤマトオサムシ」などのド普通種の駄物イメージ満載である。ヤマトと名の付く虫は「ヤマトタマムシ」だけでヨロシ。
いっそのこと「ヤマトナデシコキシタバ(大和撫子黄下羽)」にしたろかとも思った。けれど長いし、だいち言いにくい。
「ヤマトナデシコキシタバ、ヤマトナデシコキシタバ、ヤマトナデシコキシタバ」と3回早口で言うてみなはれ。噛む人、絶対おるで。
ならばと「ナデシコキシタバ」も考えてみた。「なでしこ」は、女子サッカー日本代表の「なでしこJAPAN」の愛称でもあるし、いい感じではある。しかしヤマトを外してしまったら、奈良は関係なくなるから元も子もない。それこそ本末転倒だ。
それにヤマトナデシコキシタバだと「メルヘンチックだとか、ポエムかよ❗」と笑われそうだから即座に脳内から消した。「フシギノモリノオナガシジミ」とかみたく失笑されるのはヤだもんね。
名前を付けるのって、その人のセンスが問われるから大変なんだと思い知ったよ。「フシギノモリノオナガシジミ」だって、付けた方はウケ狙いではなく、一所懸命に考えられて良かれと思って付けたに違いあるまい。
あんまし人のつけた和名の悪口言うの、やめとこ〜っと…。

(´・ω・`)しまった。どうでもいいような事に膨大な紙数を費やしてもうた。スマン、スマン。話を前へ進めよう。
おっと、そうだ。でも、ちょっとその前に書いておかなきゃなんない事を思い出したよ。申し訳ないが、もう少しお付き合いくだされ。

別種ではなく亜種になったんだから、和名は先に石塚さんが台湾の名義タイプ亜種に名付けた「キリタチキシタバ」なんじゃねえの❓と云うツッコミを入れてる人もいそうだね。私見混じりだが、マホロバキシタバになった経緯についても書いておこう。
これは自分たちが絶対に新種だと思ったから「マホロバキシタバ」と名付けて使いまくってた事に起因する。つまり新種の体(てい)で話が進んでいたのだ。新種ならば、当然名前が必要となるから名づけた。その名前を気に入って戴いた方も多かったようで、やがて関係者の間では「マホロバキシタバ」が当たり前のように使われるようになった。その後、亜種になっても、何となく「マホロバキシタバ」がそのまま使われていた。特にそれについての議論なり、協議は無かったと思う。石塚さんも何も言わなかったしさ。もしかしたら、岸田先生と石塚さんの間では何らかの話し合いがあったのかもしれないけどね。
そして『月刊むし』で発見が公表されるのだが。その際の和名も「マホロバキシタバ」のままだった。結果、キリタチではなく、マホロバの方が世間的にも定着していったってワケ。
又聞きの話だが、キリタチの和名をつけた石塚さんに、そうゆうツッコミを実際に入れた人がいたようだ。でも、ツッ込まれた石塚さんが『いいんだよー、マホロバでぇー。』と仰ったらしい。石塚さん御本人がいいって言ってんだから、それでいいのだ。もう「マホロバキシタバ」でエエんでねえの❓(註5)
亜種和名があるってのは、すごく光栄なことだと思う。幸せだ。
とはいえ、ヤヤこしいからやっぱ新種になんねぇかなあ(笑)

 
【英名】
英名は勿論ない。ゆえにここでドサクサ紛れに提唱しておこう。
「まほろば」は素晴らしい場所という古(いにしえ)の言葉だから、さしづめ『Great place underwing』といったところだろうか。カトカラは下翅に特徴があるゆえ、「Underwing」と呼ばれているのだ。
しかし外国人からすれば、「Great place」なんて何の事やら分からんだろう。和歌とか知らんし。
となると、やはり形態的特徴を示すような英名が妥当かと思われる。
マホロバキシタバの一番の特徴といえば、やはり下翅の黒帯が1箇所だけ繋がらず、隙間が開いている点だろう。帯が多い系のキシタバで、こういうのは他にあまりいないようだからね。
となると、『Broken chain underwing』ではどうだろうか❓ 意味は「断ち切られた鎖」。
とはいうものの、あくまでもお遊びの範囲内での話だから、他に相応しいモノがあれば、それでも構わない。そうゆうスタンスです。
とここまで書いて、『Great place underwing』でもいいかなあと思い直した。考えてみれば、奈良の都は世界遺産である。その時点でもう世界的に素晴らしい場所だと認定されているじゃないか。昨今は多くの外国人観光客も訪れているワケだから、外国でもかなり認知されてるんじゃないかと思われる。何せ、野生の鹿とあれだけ簡単に触れ合える場所は世界的にみても珍しいからね。我々にはそうゆう概念はあまりないけど、あれは一応野生動物だかんね。野生動物と気軽に触れ合える事のない外国人は大喜びなのさ。
まあ、本音はどっちゃでもいいけどね。どっちも悪くないと思うもん。

 
【変異】
大きな変異幅は見られないが、それなりにはある。
よく見られるタイプの一つは、上翅がベタ柄なもの。

 

 
冒頭に貼付した♂の画像もこのタイプである。
或いは♂に、このタイプが多いのかもしれない。

もう一つのタイプは上翅にメリハリのあるもの。

 

 
何れも♀である。冒頭の♀もこのタイプだし、もしかしたら、ある程度は雌雄の判別に使える形質かもしれない。
でも、微妙なのもいるんだよね。

 

 
コヤツなんかはメリハリがそれなりにあるけど♂である。
まあ、傾向として有ると云う程度で心に留めて下さればよろしかろう。

稀に上翅の中央に緑がかった白斑が入る美しいものがいる。

 

(画像提供 葉山卓氏)

 

 
コヤツらもメリハリがあるけど、ちょっと自分でも雌雄がよくワカンナなくて、♂か♀かは微妙なところだ。
とはいえ、両方とも♂かなあ…。

また、上翅が蒼っぽくなった個体が1頭だけ採れている。

 

 
コレもどちらかというとベタ柄の♂だ。やっぱ、雌雄の上翅の違いは有るかもしんないね。面倒なので展翅した個体全部の画像は貼付しないけど、傾向としては有ると言ってもいいような気がする。恣意的な部分を差し引いても、そんな気がする。とはいえ、白斑が発達した奴はたぶん♂だもんなあ…。まあ、補助的な要素として頭に入れておいても損はないだろう。

帯に隙間はあるが、上翅の茶色みが強くてアミメキシタバみたいなのもいる。

 

 
と云うか、コレってアミメキシタバそのものかもしんない。或いはハイブリッド❓(笑)。まあ、それは無いとは思うけどさ。アミメかもと思ったのは上翅の柄からだ。色が茶色いというのもあるが、マホロバみたく鋸歯状の柄が目立たず、その形も違うように見えたからだ。
こういうややこしい場合は裏面を見ましょう。それで簡単に判別できるだろう。面倒だから、この個体を探し出してまで裏面写真は撮らないけどさ。前編から長い文章を書いてきて、もうウンザリなのだ。これ以上は頭を悩ませたくない。どうせアミメだしさ。

因みにパラタイプ標本に指定してもらったものは、ちょっとだけ変。だから、展翅が今イチだけど出した。パラタイプは、バリエーションがあった方がいいと思ったのである。

 

 
ベタ柄の♂だが、よく見ると上翅に丸い斑紋がある。

自分らの標本をパラタイプに指定して貰おうと云うのは小太郎くんの発案だった。全くそういう発想が無かったから有り難い。何かタイプ標本を持ってるって、自慢っぽくて(◍•ᴗ•◍)❤嬉しいや。
石塚さん、我々のワガママをお聞き下さり、誠に有難う御座いました。

 
【近縁種】
『FIGURE 2 in The Catocala naganoi species group (Lepidoptera: Noctuidae), with a new species from Vietnam』と云う論文によれば、Catocala naganoi種群には、交尾器、翅のパターン、及びDNA解析(COI 5 ‘mtDNA特性)に基づいて、以下のようなものが含まれるとしている。

■Catocala naganoi Sugi、1982
キリタチキシタバ(マホロバキシタバ)
分布地 台湾・日本
ホロタイプ標本は桃園県。パラタイプには、新竹県のものが指定されている。また有名な昆虫採集地であるララ山でも採集されているみたいだ。ネットで見た限りでは稀な種のようだね。

 
■Catocala solntsevi Sviridov、1997
タムダオキシタバ
分布地 ベトナム〜中国南部
グループの中では一番分布域が広く、最近になって台湾でも見つかったそうだ。マホロバに似るが幾分大きく、前翅亜基線より内側が濃褐色になる傾向がある。
石塚勝己さんの『世界のカトカラ』によると、成虫は5〜6月頃に出現し、あまり多くはないという。食樹は不明とのこと。

 
■Catocala naumanni Sviridov、1996
分布地 中国雲南省
雲南省北部の標高2000mを超える地域に見られる。
「naumanni」という小種名が気になる。もしかして、コレってナウマン象とか関係あんのかな?

 
■Catocala katsumii Kons Jr, Borth, Saldaitis & Didenko, 2017
分布地 ベトナム中央高地・中国雲南省
外観はマホロバよりもアミメキシタバに似ている。
主な分布地はベトナムで、標高1600〜1700m以上で得られている。食樹は不明。
年一化が基本のカトカラ属の中では珍しく、と云うか驚いたことに新鮮な個体が5月、6月、7月、10月、12月に得られているという。新北区(北米)では、幾つかの大型のカトカラ種が同じような発生パターンを持っているそうだ。多化性だとしたら、俄かには信じ難い。カトカラと云えば、殆んどの種が年一化だ。日本で多化性なのは、今のところはアマミキシタバだけなのだ。
余談だが、学名の小種名は世界的なカトカラ研究者である石塚勝己さんに献名されたものである。

 

(出展『Catocala katsumii Kons Jr, Borth, Saldaitis & Didenko, 2017』)

 
上の図版には、C.naumanniの画像が入っていないので、別な図版を貼っつけておく。

 

(出展『Catocala naumanni Sviridov、1996』)

 
因みに石塚さんは、C.naumanniを同グループには入れられておられない。とはいえ、DNA解析のクラスター図にはあるので含めた。一応、その図も載せておこう。

 

(出展 2点共『FIGURE 2 in The Catocala naganoi species group (Lepidoptera: Noctuidae), with a new species from Vietnam』)

 
見た目が似ているアミメキシタバやクロシオキシタバは、クラスターには入っていない。つまり似てはいても系統は別だと云うことだ。どうやらキシタバの仲間は見た目だけでは類縁関係は分らないって事だね。

 
【アミメキシタバ Catocala hyperconnexa】

(裏面)

 
【クロシオキシタバ Catocala kuangtungensis】

(裏面)

 
とはいえ、DNA解析の結果が絶対ではないだろう。クラスターの中に全然見た目の違う C.kishidai なんかが入ってるしね。このアマミキシタバっぽいタイプの奴って、そもそも昔はカトカラ属に入ってなかった筈だしさ。カトカラじゃなくて、クチバの仲間だと考えてる人も多いみたい。こう云うのを見ると、DNAの解析結果を鵜呑みにしてはならないとは思う。

しかし、あとで『世界のカトカラ』を見てて、重要なミステイクに気づいた。Catocala kishidai キシダキシタバについての認識が完全に間違ってました。先の naganoiグルーブの図版の中のキシダキシタバの画像が小さいので、下翅だけを見て、うっかりアマミキシタバみたいだと思ってしまったのだ。でも、『世界のカトカラ』に載ってるキシダキシタバの上翅を見て、アマミキシタバとは全然違うことに気づいた。上翅の色、柄、形は完全にnaganoiグルーブのものだ。前言撤回です。ゴメンなさい。

 
【キシダキシタバ Catocala kishidai】

(出典『世界のカトカラ』)

 
ミャンマーで発見された極珍のカトカラで、図鑑にはこのホロタイプの1個体しか知られていないと書かれていた。その後、再発見されてるのかなあ❓…。
たぶん学名の小種名は岸田泰則先生に献名されたものだろう。

 
【開張】
52~60㎜。
中型のカトカラにカテゴライズされるが、その中では大きい部類だろう。

 

 
最大級サイズものと最小個体を並べてみた。
結構、差があるね。でも大きさのバラツキは少なく、55mmくらいの個体が多い。

 
【分布】
岸田先生肝いりの刺客として送り込まれてきたマオくんのおかげで、一挙に春日山周辺の分布調査が進んだ。
因みに虫採り名人秋田勝己さんも一日だけ参戦され、調査に御協力くださった。秋田さんはゴミムシダマシやカミキリムシの調査で原始林内を熟知されており、マオくんとコンビを組んでもらって彼に樹液の出る木を伝授して戴いた。調査地域は北部の若草山とその周辺をお願いした。
小太郎くんには最もしんどくてツマンなさそうな東側を担当してもらい、自分は南部から南東部を担った。
それにより、原始林の南西部や西部の他に、予想通り北西部や北部の若草山周辺、南部の滝坂の道でも見つかった。調査不充分で、まだ南東部や東部では見つかっていないが、そのうち確認されるだろう(とはいえ、個体数は少ないものと思われる)。
おそらく発生地は春日山原始林内で、その周辺の二次林には吸汁に訪れるものと思われる。あくまでも予想だが、それより離れた場所では見つからないだろう。離れれば離れるほど棲息に適した場所が無いからだ。つまり移動性は高くない種だと考えられる。否、飛翔力はあっても、移動したくとも移動できない種と言うべきか…。
尚、奈良公園、春日山原始林、春日大社所有林での昆虫採集は禁じられており、採集には許可が必要となる。

 

(改めて見ると、許可証じゃなくて許可者なんだ…)

 
その後、2020年春に岩崎郁雄氏によって宮崎県でも採れている事が分かり、月刊むし(No.589,Mar.2020)で報告された。氏の標本箱の中から見い出されたという。採集地は以下のとおりである。

「2015.7.25 宮崎県日南市北郷町北河内 1♂」

採集は氏御本人で、宮崎昆虫調査会主催の夜間採集の際に樹液の見回りにて採集されたものだ。ハルニレの樹液に飛来していたそうで、当時はアミメキシタバと同定されていたという。
他に、鹿児島県でも過去の標本から見つかったと聞いている。
どちらの場所にも、今年2020年に蛾類学会の調査が入ったようだし、地元の虫屋も探す筈だから、再発見の報が待たれるところだ。
たぶん九州には豊かな照葉樹林が比較的多いから、他の県でも見つかる可能性は高いと思われる。そのうち多産地も見つかるだろう。採りたい人は、採集禁止区域の多い奈良よりも九州に行った方がいいかもね。

見た目はアミメキシタバとクロシオキシタバに似ているから、標本箱の中をチェックした人は多かったみたいだね。でも紀伊半島南部のアミメやクロシオの標本の中からはまだ発見されていないようだ。
因みに、T中氏が紀伊半島南部にも絶対いる筈だから本格的に探すと言っておられた。しかし、まだ採ったと云う話は聞かない。紀伊半島南部にも居るとは思うけど、九州に居るのなら、むしろ四国に居る可能性の方が大かもね。他には中国地方でも良好な環境の照葉樹林があれば、居ても何らオカシクない。
あくまでも自分の想像だが、好む環境は手つかずの照葉樹林、及びそれに近い自然林で、空中湿度が高く、イチイガシのある森ではないかと思われる。謂わば、ルーミスシジミやヤクシマヒメキシタバが好む環境ではなかろうか❓(かつては春日山もルーミスの多産地だったが、台風後の農薬散布で絶滅したと言われて久しい)。

 
(ルーミスシジミ)

(2017.8.19 和歌山県東牟婁郡古座川町)

 
そう云う意味では、千葉県のルーミスシジミの多産地にも居る可能性はある。確率は低そうだけどもね。

 
【発生期】
日本では年一化と推定される。最初に見つけた7月10日の計9個体のうち、既に2頭がかなり翅が傷んでいた。この点から、おそらく7月上旬からの発生で、早いものは6月下旬から現れるものと思われる。最盛期は7月中旬で、下旬になると傷んだ個体が目立ち始める。
小太郎くんが最後に見たのが8月15日か16日で、♂はボロボロ、♀は擦れ擦れだったそうだ。現時点ではまだハッキリとは言明できないが、たぶん8月下旬くらいまでは生き残りの個体が見られるのではないかと思われる。
尚、此処にはアミメキシタバも生息しており、マホロバに遅れて7月中旬の後半から見られ始めた。他の場所はどうあれ、此処ではアミメの方がマホロバよりも小さい傾向が顕著で、両者の区別は瞬時につきやすい。また驚いたことに7月下旬になるとクロシオキシタバも1個体のみだが見つかった。

『月刊むし』にはこう書いたが、2020年の発生は予想を覆すものだった。6月下旬には見られず、7月に入っても姿が確認できなかった。小太郎くんが7月5日に確認に行っても見られず、ようやく発生が確認されたのは何と7月9日だった。去年に発見した7月10日と1日だけしか変わらない。年により発生期に多少の変動があるのだろうが、これは意外だった。となると、7月上旬ではなく、7月中旬の発生なのだろうか❓
どちらにせよ、来年の調査を待って最終的な結論を出さねばならないだろう。

個体数は2019年は多く、林内ではキシタバ(C.patala)に次ぐ数で、1日平均10頭くらいは見られた。しかし2020年は1日平均3頭以下しか見られなかった。
よくよく考えてみれば、2019年だって厳密的には個体数が多いとは言い切れないところがある。なぜなら、樹液の出てる御神木があって、林内には他に樹液の出てる木が殆んど見られなかったからだ。つまり其処に集中して飛んで来ていた可能性が高いとも言えるのだ。ゆえに、それだけの数が採れただけであって、もしかしたら元々はそんなに個体数が多い種ではないのかもしれない。
ただ、2020年はマホロバだけでなく、他のカトカラの個体数も少なかった。春日山原始林のみならず、関西全体どこでもそうゆう傾向があったから、何とも言えないところはある。春先が暖かくて、その後寒波が訪れた影響かもしれない。食樹がまだ芽吹いていないのに孵化してしまい、餓死したものが多かったのだろう。テキトーに言ってるけど。
個体数についても来年また調査しなくてはならないだろう。来年も少なければ、稀種だね。
それに、たとえ発生数が多くとも御神木の樹液が渇れてしまえば、かなり採集は困難となる(これについては後述する)。たとえ2020年と同じ発生数だったとしても、あんなには採れないだろう。何だかんだ言っても稀種かもね。

 
【生態】
クヌギ、コナラの樹液に飛来する。今のところヤナギや常緑カシ類の樹液では確認されていない。
飛来時、樹幹に止まった時は翅を閉じて静止する。その際、下翅を一瞬でも開くことはない。但し、小太郎くんが一度だけだが見たそうだ。

 

(撮影 葉山卓氏)

 
また更に特異なのは、多くのカトカラが樹液を吸汁時にも下翅を見せるのに対し、一切下翅を開かないことである。その為、木と同化して視認しづらく、しばしば姿を見失う。
樹液にとどまる時間は割りあい短く、警戒心が強くて直ぐ逃げがち。懐中電灯を幹に照らし続けていると、寄って来ない傾向がある。また、御神木ではキシタバ(Catocala patala)が下部の樹液にも集まるのに対して、2.5m以上の箇所でしか吸汁しなかった。
静止時の見た目は他のカトカラと比べて細く見える。これは上翅を上げて下翅を見せないところに起因するものと思われる。他のヤガ、特にヨトウ類とは見間違えやすいので注意が必要である。角度によっては今でも珠にヨトウガをマホロバと見間違える事がある。見たことがない人には、逆にマホロバがヨトウガにしか見えないだろう。
個体にもよるが、懐中電灯の灯りを当てると概ね緑色っぽく見える。飛来時、この点でアミメキシタバや他のカトカラとは判別できる。アミメは上翅が茶色に見えるし、小さいからね。
但し、慣れればの話であって、見慣れていない人には難しいかもしれない。

 
(マホロバキシタバ)

(画像提供 葉山卓氏)

 

 
昼間の自然光の中では、それほど緑っぽく見えない。

 

 
お次はアミメちゃん。

 
(アミメキシタバ)

(出典『里山ひきこもり−豊川市とその周辺の鳥と虫』)

 
なぜだか夜に撮った写真がないので、画像をお借りした。
懐中電灯で照らすと、大体はこんな風に茶色に見える。

 

 
昼間に見ると、当然の事だがバリ茶色い。
一応、クロシオキシタバの画像も貼っつけとくか。

 
(クロシオキシタバ)

 
クロシオは上翅の変異に幅があるのだが、青緑っぽく見えるものが標準タイプだ。

 

 
デカいので基本的にはマホロバと見間違うことはなく、むしろパタラキシタバ(C.patala)と間違えやすい。小さめのパタラに見えるのだ。但し、マホロバにも珠にデカいのがいるので、注意が必要。

樹液への飛来時刻はパタラ等と比べてやや遅れ、日没後少し間をおいて午後7時半過ぎくらいから姿を見せ始める。以降、数を増やし、8時前後がピークとなり、9時くらいになると急に減じることが多かった。他のカトカラと同じく飛来が一旦止まるのだ。そして10時前後から再び現れ始める。しかし断続的で、最初の飛来時よりも数は少ない。但し、その日によって多少の時間のズレはある。また晴れの日でも小雨の日でも関係なく見られ、天候による飛来数の差異は特に感じられなかった。
とはいえ、2020年は1頭も見られない日や飛来が午後9時半近くになって漸く始まった日もあった。両日共に特に変わった天候でもなかったから、頭の中が(?_?)❓だらけになったよ。我々の預かり知らぬ某(なにがし)かの理由があったのだろうが、全くもって不思議である。

糖蜜トラップも仕掛けたが、フル無視され続けた。マオくんのトラップにもずっと寄って来なかったが、キレて帰り間際に木にバシャっと全部ブチまけたら、一度だけだが来たらしい。彼曰く、酢が強めのレシピには反応するのかもしれないとの事。2019年は、この1例のみだった。
2020年にも糖蜜トラップを試してみた。しかし自分を含め、小太郎くんや蛾類学会の人達も糖蜜を撒いたにも拘わらず、全く寄って来ない日々が続いた。その後、漸く蛾類学会の人の糖蜜に一度だけ飛来し、2日後(7月20日)には自分の糖蜜にも一度だけ飛来した。何れも複数の飛来は無く、1頭のみである。樹液を好むカトカラは糖蜜にも寄ってくるというのが常道だから、ワケがわかんない。これだけ試しても3例のみしかないと云うのは謎である。正直なところ糖蜜で採集するのは、今のところかなり難しいと言わざるおえない。

ここまで書き終えたところで、追加情報が入った。
クワガタ用のフルーツ(腐果)トラップにも来たらしい。但し、2日間で各々1度ずつのみとの事。御神木の樹液が渇れていた状態でもその程度なんだから、やはり餌系トラップで採るのはスペシャルなレシピでも開発されない限りは困難と言えよう。

2019年には大々的な灯火採集は行っていないが、小太郎くんが樹液ポイントのすぐ横に設置した小さなブラックライトに、採り逃がした個体が2度ほど吸い寄せられた事から、おそらく灯火にも訪れるものと予想された。
2020年に蛾屋さん達を中心に調査が行われた結果、灯火トラップにも飛来することが確認されたようだ。灯火には何となく夜遅くに飛来するのではないかと予想していた。理由はユルい。大体において良いカトカラ、珍しいカトカラというものは、勿体ぶって深夜に現れるというのが相場と決まっているからだ。だが、予想に反して点灯後すぐに飛来したと聞いている。飛来数は計3頭だったかな。但し、たまたま近くにいたものが飛来した事も考えられる。詳しいことは後ほど発表があるかと思うので、興味のある方は動向に注視されたし。
尚、春日山原始林内や若草山周辺では、許可なく勝手に灯火採集は出来ないので、その点は強く留意しておいて戴きたい。

昼間の見つけ採りも困難だ。今のところ数例しか聞いていない。羽の模様と木の幹とが同化して極めて見つけづらいのだ。夜間、樹液に来てても視認しづらいくらいなんだから、その辺は想像に難くなかったけどね。
2019年はマオくんがクヌギの大木のそれほど高くない位置に静止しているものを見つけている。小太郎くんも後日、その近くで見たそうだ(何れも若草山近辺)。
2020年の小太郎くんの観察に拠ると、生木よりも立ち枯れの木を好む傾向があり、静止場所はやや高かったという。自分は昼間の見つけ採りはあまり積極的にしていないが、もしかしたら基本的には視認しづらい高い位置で静止するものが多いのかもしれない。
また、木の皮の隙間に半分体を突っ込んでいる個体もいたという。となると、木の皮の下や隙間、洞に完全に隠れている者もいるかと思われる。これらの事から昼間には見つけにくいのかもしれない。

昼間、樹幹に静止している時の姿勢は下向き。非常に敏感で、近づくと直ぐに反応して逃げ、その際の飛翔速度は速いと聞いている。また藪に向かって逃げ、再発見は困難だそうだ。一度だけ追尾に成功した際は、下向きに止まっていたらしい。その際、上向きに着地してから即座に姿勢を下向きに変えたか、それとも直接下向きに着地したのかは定かではないという。

昼間は見つけにくいと言ったが、夜だって同じようなものだ。いや、下手したら昼間よりも見つからん。ヤガの仲間は夜に懐中電灯をあてると目が赤っぽく光る。だから、昼間よりも見つけやすい。なのに、森の中を歩く時は注意して見ているのにも拘わらず、まあ見ない。見られるのは樹液の出ている木の周辺くらいで、しかも珠にだ。他の多くのカトカラと同じく、おそらく樹液を吸汁してお腹いっぱいになったら、近くの木で憩(やす)むのだろう。そして、お腹が減ったらまた吸汁に訪れると云うパターンだ。とはいえ、他のカトカラ、例えばパタラやフシキ、クロシオ、アミメなんかのように樹液の出ている木や周りの木にベタベタと止まっていると云う事はない。
そういえば、日没前に樹液近くの木に止まっている場合もあった。夜の帳が落ちるまで待機していたのかもしれない。こう云う生態はカトカラには割りと見られる。その際の姿勢は上向きだった。夜間の向きは他のカトカラと同じく上向きだから、夕刻や夕刻近くになると上下逆になるのだろう。
昼夜どちらにせよ、視認での採集は極めて効率が悪い。
但し、例外はある。2020年8月6日に小太郎くんが訪れた時は何故か結構止まっている個体がアチコチにいて、計10頭以上も見たという。一日で確認された数としては極めて突出している。見ない事が当たり前で、見ても複数例は殆んど無かったのだ。ちなみに全て飛び古した個体で、不思議なことに全部オスだったそうだ。偶然かもしんないけど、興味深い。尚、御神木の樹液は既に止まっており、そこから約70mほど離れた所から奥側にかけてだったそうな。いずれにせよ、マホロバの行動は謎だらけだよ。

その小太郎くん曰く、♀の腹が膨らむのは7月末くらいからだそうだ。おそらく産卵は8月に入ってから行われるものと思われる。今のところ、産卵の観察例は皆無で卵も見つかっていない。
参考までに言っておくと、二人からそれぞれ石塚さんに生きた♀を7月中旬と8月初旬に送ったが、7月中旬に送ったものは産卵せず、8月のものは産卵したそうだ(孵化はしなかったもよう)。交尾後から産卵するまでには一定の期間を要するものと考えられる。尚、交尾中の個体もまだ観察されていない。

 
【幼虫の食餌植物】
現時点では不明だが、おそらくブナ科コナラ属のイチイガシ( Quercus gilva)だと推察している。中でも大木を好む種ではないかと考えている。
なぜにイチイガシに目を付けたかと云うと、奈良公園や春日大社、春日山原始林内に多く自生し、大木も多く、イチイガシといえば、ここが全国的に最も有名な場所だと言っても差し支えないからだ。しかも近畿地方ではイチイガシのある場所は植栽された神社仏閣を除き、此処と紀伊半島南部くらいにしかないそうだ。つまり、何処にでも生えている木ではない。もしマホロバキシタバの幼虫が何処にでも生えているような木を主食樹としているのならば、とっくの昔に他で発見されていた筈だ。と云う事はそんじょそこらにはない木である確率が高い。ならば、この森の象徴とも言えるイチイガシと考えるのは自然な流れだろう。
また林内には他に食樹となりそうなウバメガシが殆んど自生しないことからも、イチイガシが主な食樹として利用されている可能性が濃厚だと考えた。但し、正倉院周辺にシリブカガシの森があり、ムラサキツバメもいるので、そちらの可能性もゼロとは言えないだろう。シリブカガシも近畿地方では少ない木だからね。
因みに林内にはアラカシ、ウラジロガシ、アカガシ、シラカシもあるそうだ。でもアラカシとシラカシは近畿地方では何処にでもあるゆえ、主食樹ではないものと思われる。またウラジロガシはヒサマツミドリシジミ、アカガシはキリシマミドリシジミの主食樹だし、けっして多くは無いものの、各地にあるから可能性は高くはないと思われる。

前述したが、マホロバはルーミスシジミなどのように空中湿度の高い場所を好む種なのかもしれない。
とはいえ、これだけでは論理的にはまだ弱い。イチイガシについて、もう少し詳しく調べておこう。

 
【イチイガシ(一位樫) Quercus gilva】

 
ブナ科コナラ属カシ類の常緑高木。
別名:イチガシ。和名はカシ類の中で材質が最も良いこと(1位)に由来する。よく燃える木を意味する「最火」に由来するという説もある。
分布は本州(千葉県以西の太平洋側と山口県)、四国、九州、対馬、済州島、朝鮮半島、台湾、中国。
紀伊半島、四国、九州には多いが、南九州では古くから植栽されて自然分布が曖昧になっているようだ。実際、天然記念物に指定されているイチイガシ林は南九州に多い。と云うことは、南九州の山地では普通に見られる木と考えても良さそうだ。
これはある程度知ってた。だから、この点からも九州を筆頭に紀伊半島南部や四国でもマホロバの分布が確認される可能性はあるだろうとは思ってた。実際、九州南部で過去の標本が見つかったからね。遅かれ早かれ、他の地方でも今後見つかるだろう。
また、イチイガシはマホロバの原記載亜種の棲む台湾にもあるみたいだから、食樹である可能性は更に高まったのではあるまいか。
あっ、そういえば台湾の佳蝶スギタニイチモンジって、イチイガシを食樹としてなかったっけ❓(註6)

低地~山地の照葉樹林に自生し、谷底の湿潤な肥沃地に多いそうだ。と云うことは、ルーミスやマホロバが好む環境とも合致する。春日山原始林内も小さな川が縦横に流れており、基本的には空中湿度が高く、標高も低いから良好な環境なのだろう。

東海~関東地方では少なく、見られるのは殆んどが社寺林である。北限(東限)はルーミスの多産地として有名な清澄山付近。静岡県以西では、ルリミノキ、カンザブロウノキなどを交えたイチイガシ群落を構成する。
神社に植栽されることが多く、特に奈良盆地で多く見られると書いてあった。他のサイトでも奈良公園と春日大社、春日山原始林に多いと書いてあるから、やはり相当イチイガシの多い場所なのだろう。

 

 
幹は真っ直ぐに伸び、樹高は30mに達し、幹の直径が1.5mを超える大木となる。長寿で、寿命は400~600年とされる。

 
(壮齢木)

 
樹皮は灰褐色で、成長するにつれて不揃いに剥がれ落ちる。

 
(若木の幹)

 
(葉)

 
(葉の裏側)

 
葉は先端が急に尖り、縁は半ばから先端にかけて鋭い鋸歯状となる。葉はやや硬く、若葉はその表面に細かい毛が密生し、後に無毛となり深緑色になる。又、裏は白に近い黄褐色の毛で覆われる。その為、木を下から見上げると黄褐色に見える。春先に見られる新芽も同じようにクリーム色で、よく目立つ。

花は雌雄同株で4〜5月頃に開花し、実(どんぐり)は食用となり、11~12月に熟す。カシ類では例外的に実をアク抜きしなくても食べることができ、生でも食べられる。そのため、昔は救荒食として重要な木であった。縄文時代から人間の食糧となっていたことが遺跡からも判明している。

丈夫な材が船の櫓に使われたことから「ロガシ」という別名もある。材は他のカシ類に比べて軽くて軟らかく、加工しやすくて槍の柄など様々な器具の材料に使われた。
和歌山県ではごく限られた地点に点在するのみであるが、遺跡からは木材がよく出土することから、かつてはもっと広く分布していたものと考えられ、人為的な利用によって減少したと見られる。和歌山県は紀伊半島南部なのに、意外と少ないのね。
ちょっと待てよ。紀伊半島の蝶に詳しい Mr.紀伊半島の河辺さんが、紀伊半島南部には意外とイチイガシが少なくて、ルーミスはむしろウラジロガシを利用している場合が多いと言ってなかったっけ❓
だとしたら、紀伊半島南部でのマホロバの発見は簡単ではないかもしれない。
あんまり変な事をテキトーに書くとヤバいので、河辺兄貴に電話した。したら、間違ってましたー。ワシの記憶力は鶏並みなのだ。兄貴曰く、和歌山、三重、奈良県共にイチイガシは多いんちゃうかーとの事。そしてルーミスは標高400m以下ではイチイガシを食樹として利用し、それより標高の高いところではウラジロガシを利用しているらしい。また、アラカシなど他のブナ科常緑樹も食ってるようだ。

イチイガシとアラカシの交雑種(雑種)が大分県で確認されている(イチイアラカシ(Quercus gilboglauca))。この事から、或いはアラカシを稀に食樹として利用しているものもいるのかもしれない。蛾類は蝶よりも幼虫の食樹が厳密的ではなく、科を跨いで広範囲に色んな植物を食すものも多いのだ。同じ科なら、飼育下では平気で何でも食うじゃろて。

一応、2020年の5月下旬に小太郎くんと幼虫探しをした。
しかし、思ってた以上にイチイガシが多く、大木も多かったから直ぐにウンザリになった。自分は、こうゆう地道な事には向いてないなとつくづく思い知ったよ。
小太郎くんは奈良市在住なので、度々探しに行ってたみたいだけど、結局見つけられなかったそうだ。もしかしたら、幼虫はメチャメチャ高いところに静止しているのかもしれない。
また小太郎くん曰く、イチイガシは他の常緑カシ類と比べて芽吹きが大変遅いそうだ。この日(5月27日)で、まだこんな状態だった。

 

 
オラは飼育を殆んどしない人なので、そう言われても正直よくワカンナイ。なので、幼生期の解明については小太郎くんに任せっきりだった。
彼曰く、下枝はこの時期になってから漸く芽吹くそうだ。となると、成虫の発生期と計算が合わなくなってくる。成虫の発生を7月上中旬とするならば、この時期には終齢幼虫になっていないといけない筈なのだ。もし幼虫が新芽を食べるとすれば、成長速度が度を越してメチャンコ早いと云う事になっちゃうじゃないか(# ゚Д゚)
新芽の芽吹きは大木の上部から始まると云うから、それを食ってるのかもしれない。にしても、新芽を食べるのならば幼虫期間は矢張り相当短いと云う事にはなるけどね。
まあいい。高い所の新芽を食べるとして話を進めよう。もし幼虫は高い所にいるのだとしたら、探すのは大変だ。ゼフィルス(ミドリシジミの仲間)の卵さえロクに探しに行った事がないワシなんぞには、どだい無理な話だ。誰かが見つけてくれることを祈ろっと。

いや、待てよ。小太郎くんは新芽を食うと断定していたが、花の時期は4月から5月だ。新芽ではなく、もしかして花を食ってんじゃねえか❓そう考えられないだろうか❓ あるいは花の蕾、または硬い枝芽を食うのなら、辻褄は合う。
待て、待て。こう云う考え方も有りはしないか❓例えば弱齢期は他のブナ科常緑樹の新芽を利用し、終齢に近づくにつれ、食樹転換をしてイチイガシを利用するとかさあ…。所詮は飼育ド素人の考えだけど、ダメかなあ❓

食樹をイチイガシと予想したが、もしかして全然違うかったりしてね。だとしたら、何を食ってんだ❓ これ以上は見当もつかないや。

何れにせよ、まだまだ生態的に未知な面もあり、来年もまた調査を継続する予定である。

 
                       おしまい

        
謝辞
最後に、Facebookにアップした記事にいち早く反応され、迅速に動いてくださった岸田泰則先生、記載の役目を快諾され、ゲニタリアを仔細に精査して戴いた石塚勝己さん、発見のきっかけをくださった秋田勝己さん、分布調査で目覚ましい活躍をしてくれた小林真大くん、またこの様なフザけた文章を掲載してくれることをお許し戴いた月刊むしの矢崎さん、そして今回の相棒であり、共に発見に立ちあってくれ、殆んどの調査行に同行してくれた葉山卓くん、各氏にこの場を借りて多大なる感謝の意を表したいと思います。皆様、本当に有り難う御座いました。

ここからは編集者の矢崎さんに送ったメールです。

矢崎さんへ
奈良公園のイチイガシの大木の写真を添付しておきます。残念ながら葉っぱの写真は撮っておりません。
それから1頭だけ採れたクロシオキシタバ(註7)のことは伏せておいた方がいいかもしれません。採れた場所が採れた場所ですから石塚さんが興味を示されています。新亜種くらいにはなるかもしれません。ゆえに状況次第で、その部分は削って戴いてかまいません。石塚さんに訊いてみて下さい。尚、そのクロシオはマオくんが採り、現在葉山くんが保有しています。

以上、多々面倒かと思われますが、宜しくお願いします。
それとマホロバの産地は伏せるとは聞いたのですが(註8)、いったい何処まで伏せるのでしょうか? 個人的にはどうせそのうちにバレるんだから、正直に書いて県なり市なりに働きかけて保護するなら保護した方がよいと思うんですが…。
とはいえ、クソ悪法である「種の保存法」とかにはなってもらいたくはないです。禁止区域外でもいるんだから、虫屋の採る楽しみを奪うのもどうかと思うんですよね。

                      
追伸
前編でもことわっているが、この文章のベースは『月刊むし』の2019年10月号に掲載されたものである。

 
【月刊むし】

 
そう云うワケだから、前編も含めて楽勝で書けると思ってた。しかし、いざ書き始めると、前・後編に分けた事もあって、大幅に書き直す破目になった。新しい知見も加わったので、レイアウトも修正しなくてはならず、思ってた以上に苦労を強いられた。たぶん50回くらいは優に書き直したんじゃないかな。文章の端々に投げやり感が出ているのは、そのせいだろう。マジで無間地獄だったよヽ((◎д◎))ゝ。結果、手を入れ過ぎて原形からだいぶと変形した大幅加筆の増補改訂版となった。

えーと、それから月刊むしの記事よりもフザけた箇所は増えちょります(特に前編)。
え〜と、あと何だっけ❓あっ、そうだ。生態面の新たな発見があれば、随時内容をアップデートしてゆく予定です。あくまでも予定ですが…。
それと参考までに言っとくと、当ブログには他にマホロバ関係の記事に『月刊むしが我が家にやって来た、ヤァ❗、ヤァ❗、ヤァ❗』と『喋べくりまくりイガ十郎』と云う拙文があります。

 
(註1)岸田先生
日本蛾類学会の会長である岸田泰則先生のこと。
国内外の多くの蛾類を記載されており、『日本産蛾類標準図鑑(1〜4)』『世界の美しい蛾』など多くの著作がある。
さんまの『ほんまでっか!? TV』で池田清彦(註9)爺さまが岸田先生を評して『アイツ、すっごく女にモテるんだよねー。』と言ってたらしい。きっとオチャメなんだろね。

 
【日本産蛾類標準図鑑(Ⅱ)】

 
【世界の美しい蛾】

 
(註2)長野菊次郎
名和昆虫研究所技師。九州で生まれ、東京の中学校で博物学を教えていたが、岐阜の中学校に移ったのを機に名和靖と交流するようになった。後に名和の研究所の技師となって、最後まで名和の仕事を支えたという。
著書に『日本鱗翅類汎論』『名和昆蟲圖説第一巻(日本天蛾圖説)』などがある。なお、天蛾とはスズメガの事を指す。
またホソバネグロシャチホコの幼性期の解明に、その名があるようだ(1916)。

 
(註3)分布が隔離されてから少なくとも30万年以上前…
おぼろげな記憶から30万年前と書いたが、実際のところはもっと幅が広く、台湾、南西諸島、日本列島の成り立ちは複雑である。

①500万年前は南西諸島全域に海が広がり、日本列島と沖縄諸島・奄美諸島を含む島と八重山諸島を含む島(台湾の一部を含む)があった。
 

(出典『蝶類DNA研究会ニュースレター「カラスアゲハ亜属の系統関係」』以下、同じ。)

 
しかし200万年〜170万年前(第三紀鮮新世末)に隆起して大陸と繋がった。

 

 
②170〜100万年前(第四紀鮮新世初期)、南西諸島の西側が沈降して海になった。だが、台湾から九州までは陸地で繋がっていた。多分この時代に、C.naganoiは台湾から日本列島に侵入したのだろう。他にも多くの種が侵入し、ヤエヤマカラスアゲハとオキナワカラスアゲハの祖先種も、この時期に渡って来たものと思われる。

 

 
③100万年~40万年前(第四紀鮮新世後期)に沖縄トラフの沈降による東シナ海の成立で、現在の南西諸島の形がほぼ出来上がると、日本列島と奄美の間、奄美と沖縄の間、与那国島と他の八重山の島々との間でさらに隔離が起こった。たぶん、この年代前後にオキナワカラスとヤエヤマカラスの分化が進んだのだろう。

 

 
カラスアゲハとオキナワカラス、ヤエヤマカラスは別種化したのに、マホロバは40万年以上も前から隔離されているのに別種にはならなかったのね。もっと進化しとけよ。おっとり屋さんだなあ。
ちなみに記載者の石塚さんは「台湾と日本の地理的位置を考慮すると、別種の可能性が高いが、今のところ決定的な形質の差異が認められないので新亜種として記載した。」と書いておられる(月刊むし 2019年10月号)。しつこいようだが何とか新種に昇格してくんねぇかなあ(笑)。新種を見つけたと云うのと、新亜種を見つけたと云うのとでは受ける印象が全然違うもんなあ…。
とはいえ、小太郎くんもマオくんも「新亜種でも大発見ですよー。国内新種だし、ましてやカトカラなんだから凄い事だと思いますよ。」と言って慰めてくれたので、まあいいのだ。

 
(註4)ゲニ
ゲニタリアの略称。ゲニタリアとはオスの交尾器の一部分で、種によって形態に差異がある事から多くの昆虫の分類の決め手となっている。

 
(註5)もう「マホロバキシタバ」でエエんでねえの❓
最近発売された岸田先生の新しい図鑑、『日本の蛾』でも和名は「マホロバキシタバ」になっている。

 

 
『日本産蛾類標準図鑑』の1〜4巻を整理して纏めた廉価版で、この中に「標準図鑑以降に公表された種」として追加掲載されている。

 

 
こんだけ既成事実があれば、もう「マホロバキシタバ」で動かないだろう。有り難いことだ。

 
(註6)スギタニイチモンジってイチイガシを食樹としてなかったっけ❓
どうやら自然状態での食樹はまだ解明されていないようだが、飼育では無事にイチイガシで羽化したそうだ。

 
【Euthalia insulae スギタニイチモンジ ♂】

(2017.6.27 台湾南投県仁愛郷)

 
【同♀】

(2016.7.14 台湾南投県仁愛郷)

 
大型のユータリア(タテハチョウ科 Euthalia属 Limbusa亜属)で、とても美しい。
しかし生きてる時にしか、この鮮やかな青や緑には拝めない。死ぬと渋いカーキーグリーンになっちゃう。それはそれで嫌いじゃないけどさ。
スギタニイチモンジについては、当ブログの『台湾の蝶』の連載の第5話に『儚き蒼』と云う文章が有ります。
そういえば『台湾の蝶』シリーズ、長い間頓挫したままだ。ネタはまだまだ沢山残ってるんだけど、キアゲハとカラスアゲハの回でウンザリになって、プッツンいってもうて書く気が萎えた。いつかは再開はするんだろうけどさ。
嗚呼、最後に台湾に行ってから、もう3年も経っちゃってるのね。行けば、間違いなく書く気も復活するんだろうな。来年辺り、行こっかなあ…。

 
(註7)1頭だけ採れたクロシオキシタバ
石塚さんは、内陸部で採れた極めて新鮮な個体だったから興味を示されたのではないかと思う。

 

(画像提供 葉山卓氏)

 
コレがその個体だ。
見た目は、どう見てもクロシオではある。
ようは移動個体ではない事が考えられ、棲息地には食樹であるウバメガシは殆んど無い事から、別な種類の木を食樹としている亜種ではないかと考えられたのだろう。しかし調べた結果、ゲニはクロシオそのものだったそうな。
つけ加えておくと、その後、クロシオは2020年も含めて、この1頭だけしか採れていない。
素人目には、この森で発見されたジョナス(キシタバ)の方が衝撃だったけどなあ…。標高が低くて、孤立した分布地だからね。

 

(2019.7月 奈良市白毫寺)

 
何で怒髪天的な触角にしたんだろね。一つしか採れてないのにさ。
因みに、マオくんも採っているから偶産ではなかろう。上の個体は南西部の白毫寺で採れたものだが、マオくんは原始林を挟んだ反対側、北西部の若草山の北側で採っているので広く薄く生息しているのだろう。

しかし「月刊むし」のマホロバ特集号が発売されて石塚さんと岸田先生の記載論文の末尾を読んで、石塚さんの本当の意図するところが解った気がした。たぶんだが、石塚さんはクロシオとは思っていなくて、もしやクロシオの近縁種であるデジュアンキシタバ(C.dejeani)の可能性を考えたのではなかろうか❓

 
【Catocala dejeani Mell, 1936】

(出典『世界のカトカラ』)

 
パッと見、ほぼほぼクロシオである。下翅の帯が太いのかな❓

 

(出典『世界のカトカラ』上がクロシオ、下がデジュアン。)

 
マホロバとアミメよりも、こっちの方が互いにソックリさんだ。こんなの、よく別種だと気づいたよな。いや、古い時代のことだから、どうせ先に記載されていたクロシオの存在(1931年の記載)を知らずに記載したんだろ。ろくに調べず、テキトーなこと言ってるけど。

ここへきて落とし穴と云うか泥沼の予感だ。出来るだけサクッと調べて、サラッと終わらせよう。

1936年にスズメガの研究で知られるドイツ人のルドルフ・メリ(Rudolf Mell)によって記載された。
分布は中国(四川省、陝西省、広西チワン族自治区)と台湾。生息地は局地的で少ないとされている。
一部の研究者は種としては認めず、クロシオキシタバの亜種と見なしているようだ。

Wikipediaによると、亜種として以下のようなものがあるとされている。

◆Catocala dejeani dejeani Mell, 1936
(中国 広西チワン族自治区?)

メリは暫くの間、広州(広東省)のドイツ人中学校の校長だったらしいから、おそらく隣の広西チワン族自治区で採集されたものを記載したのだろう。あくまでも勘だけど。

◆Catocala dejeani chogohtoku Ishizuka 2002
(中国)

ググッても、この学名では産地が出てこなかった。ほらね、やっぱり泥沼だ。
記載は石塚さんだから、御本人に直接お訊きすればいいのだろうが、こんな些事で連絡するのも気が引ける。まあ、四川省か陝西省のどっちかだろう。たぶん原記載から遠い方の四川省かな? ウンザリなので、もうどんどんテキトー男と化しておるのだ。

◆Catocala dejeani owadai Ishizuka 、2002
(台湾)

台湾では最初、クロシオキシタバとして記録されていた。でもって、その後に台湾ではクロシオは見つかっておらず、今のところ台湾にはデジュアンしかいない事になっているそうな。
ようは、石塚さんは台湾にいる C.naganoiが日本にも居たんだから、デジュアンだっているかもしれないとお考えになったのだろう。それにクロシオとデジュアンは中国では同所的に分布するところも多いというからね。日本にデジュアンが居ても不思議ではないってワケだ。

 
【台湾産デジュアンキシタバ】

(出典『www.jpmoth.org』)

 
裏面画像を見たら、どうやらクロシオとの違いは裏面にあるみたいだ。

 


(出典 2点とも『www.jpmoth.org』)

 
上翅の内側の斑紋がクロシオとは違うような気がする。何だかマホロバっぽい。それにクロシオは翅頂部の黄色い紋が大きく、個体によっては外縁にまで広がって帯状になる。本当にそれが区別点なのかはワカンナイけどさ。
いや、待てよ。下翅が全然違うわ。クロシオは一番内側の黒帯が1本無いが、コヤツにはある。
前から思ってたけど、やはりカトカラを判別するためには裏面が重要だわさ。でも裏面画像は図鑑でもネットでも載ってない事の方が多い。マジで思うけど、裏面の画像も示さないとダメじゃね❓ って云うか鱗翅類を扱った図鑑は本来そうあるべきだろう。だいたい、蛾類は蝶と違って裏面に言及されてる事じたいが少ないってのは、どゆ事❓ 何でこうもそこんとこに無頓着なのだろう。蛾は種類数が多いと云うのは解るけどさ。それに裏まで載せれば、紙数が膨大となり、値段も高くなる。蛾の図鑑なんて誰も買わねぇもんが、益々売れねぇーってか❓ あっ、ヤバい。毒、メチャ吐きそうだ。この辺でやめときます。だいち、これ以上文章が長くなるのは、もう御免なのだ。

と言いつつ書き加えておくと、春日山原始林とその周辺には今のところ14種のカトカラの生息が確認されている。内訳は以下のとおりである。
キシタバ、マホロバキシタバ、アミメキシタバ、アサマキシタバ、フシキキシタバ、コガタキシタバ、カバフキシタバ、ワモンキシタバ、マメキシタバ、ジョナスキシタバ、クロシオキシタバ、オニベニシタバ、コシロシタバ、シロシタバ。ちなみに絶対いるだろうと思ってたウスイロキシタバは見つけられなかった。とはいえ、都市部に隣接した場所で、これだけの種類がいるのは中々に凄いことだ。それだけ森が豊かな証拠なのだろう。やはり素晴らしい場所だよ。

 
(註8)マホロバの産地は伏せるとは聞いたのですが…
採集禁止区域が多いので、トラブルを避ける為の配慮かと思われる。
個人的には、四国で新たなルリクワガタが見つかった時に、「生息地 四国」と発表されたことがあったから、ああゆうダサい事だけはしたくないと思った。どうせ自分たち以外の人に採らせたくないとかケチな理由からなんだろうけど、あまりにも雑過ぎる生息域の記述だったので笑ったワ。狭小な根性が丸出しじゃないか。腹立つくらいにセコいわ。だから、ああゆう風な提言となった。
それで、思い出したんだけど、最初に”Facebook”に記事を書いた時は奈良県で採ったと書いたら、誰もが場所は紀伊半島南部を想像したみたいだね。まさか奈良市内だとはワシだって思わんもん。今まで春日山には星の数ほどの虫屋が入ってるからね。そんなもん、とっくに発見されていて然りだと考えるのが普通でしょう。でも、オラの行動範囲を知っていたA木くんだけは見破ったけどね。
因みに、産地については即座に箝口令が敷かれた。と云うワケで、Facebookの記事も奈良県から近畿地方に修正しといた。でも、色んな人が具体的な場所まで知ってたのには笑ったよ。別に誰かを批判してるワケじゃないけど、「人の口には戸は立てられない」って事だよね。まさか身をもって自分がそれを知るだなんて思いもよらなかったから、変な気分だったよ。中々に貴重な体験でした。

 
(註9)池田清彦
生物学者。評論家。早稲田大学名誉教授、山梨大学名誉教授。
ダーウィンの進化論に異を唱え、構造主義を用いた進化論を提唱している。虫好きで、カミキリムシのコレクターとしても知られる。同じく虫屋であるベストセラー『バカの壁』で有名な養老(猛)さんやフランス文学者でエッセイストの奥本大三郎さんとも仲が良い。
御三方の本は昔から結構読んでる。虫屋で頭のいい人の本は面白い。

 

マホロバキシタバ発見記(2019’カトカラ2年生3)

 
   vol.20 マホロバキシタバ

     『真秀ろばの夏』

 
倭(やまと)は 国の真秀(まほ)ろば 畳(たた)なづく青垣 山籠(こも)れる 倭し美(うるは)し

 
 ープロローグー

2019年 7月10日。曇り。
この日も蒸し暑い夜だった。

「五十嵐さぁーん、何か変なのがいますー。』
樹液の出ているクヌギの前にいる小太郎くんの声が、闇夜に奇妙に反響した。
「変って、どんなーん❓」
テキトーに言葉を返す。
「カトカラだと思うんですけど、何か細いですー。こっち来てくださぁ~い。」
どうせヤガ科のクソ蛾だと思いながら、足先をそちらへと向けた。
「どれ❓」
「これです、コレ。」
小太郎くんが懐中電灯で照らす幹に目をやる。そこには、翅を閉じた見慣れない蛾がいた。
「確かに細い感じやなあ。見たことない奴のような気がするけど…何やろ❓ でもコレってホンマにカトカラかいな❓ カトカラっぽいけど翅閉じてるしさ。」  

話は去年に遡る。
きっかけは2018年の8月の終わりに、カミキリムシ・ゴミムシダマシの研究で高名な秋田勝己さんが Facebook にアップされた記事だった。そこには奈良県でのゴミムシダマシの探索の折りに、カトカラ(シタバガ)属有数の稀種カバフキシタバを見つけたと書かれていた。

 
【カバフキシタバ Catocala mirifica】

(2020.7.7 兵庫県宝塚市 撮影 葉山卓氏)

 

(2020.7.5 兵庫県六甲山地)

  
まだその年にカトカラ採りを始めたばかりの自分は既に京都でカバフは得てはいたものの(註1)、来年はもっと近場で楽に採りたいと思い、メッセンジャーで秋田さんに連絡をとった。
秋田さんは気軽に応対して下さり、場所は若草山近辺(採集禁止区域外)だとお教え戴いた。また食樹のカマツカは奈良公園や柳生街道の入口付近、白毫寺周辺にもある旨のコメントを添えて下された(何れも採集禁止エリア外)。何れにせよ、カバフの記録はこの辺には無かった筈だ(註2)。俄然、やる気が出る。

その年の秋遅くには奈良公園へ行って、若草山から白毫寺へと歩き、カマツカと樹液の出ていそうな木を探しておいた。

 
【カマツカ(鎌束)】

(2018.11月 奈良公園)

 
カマツカは秋に赤い実をつけるから見つけやすいと思ったのだ。ちなみに春には白い花が咲かせるので、そちらで探すと云う方法もある。
   
 
 カバフキシタバを求めて

2019年 6月25日。
満を持して始動。 先ずは若草山周辺を攻める。
しかし、秋田さんに教えてもらった樹液の出る木にはゴッキーてんこ盛りで、飛んで来る気配というものがまるでない。『秋田の野郎〜٩(๑òωó๑)۶』と呟く。
もちろん秋田さんに罪はない。取り敢えず人のせいにしておけば、心は平静を保てるってもんだ。
とにかくコレはダメだと感じた。🚨ピコン、ピコン。己の中の勘と云う名のセンサーが点滅している。このまま此処に居ても多くは望めないだろう。決断は早い方がいい。午後9時過ぎには諦め、白毫寺へと向かう。

真っ暗な原始林をビクつきながら突っ切り、白毫寺に着いたのは午後10時くらいだった。目星をつけていた樹液の出ているクヌギの木を見ると、結構な数のカトカラが集まっている。しかしカバフの姿はない。
取り敢えず周辺の木に糖蜜でも吹きかけてやれと大きめの木に近づいた時だった。高さ約3m、懐中電灯の灯りの端、右上方に何かのシルエットが見えたような気がした。そっと灯りをそちらへとズラす。
w(°o°)wどひゃ❗
そこには、まさかのあの特徴的な姿があった。

 

(こんな感じで止まってました。画像提供 葉山卓氏)

 
間違いない、カバフキシタバだ❗ 後ずさりして、充分な距離を置いてから反転、ザックを置いてきた場所へと走る。
逸(はや)る心を抑えながら網を組み立てる。💦焦っちゃダメだ、焦るな俺。慌ててたら、採れるもんも採れん。
心が鎮まるにつれ、アドレナリンが体の隅々にまで充填されてゆく。やったろうじゃん❗全身に力が漲(みなぎ)り始める。
∠(`Д´)ノシャキーン。武装モード完了。行くぜ。小走りで戻り、目標物の手前7mで足を一旦止める。そこからは慎重に距離を詰めてゆく。逃げていないことを祈ろう。6m、5、4、3、2、1m。目の前まで来た。
(☆▽☆)まだいるっ❗心臓がマックスに💕バクバクだ。この緊張感、堪んねぇ。このために虫採りをやってるようなもんだ。
目を切らずに体を右側へとズラし、ネットを左に構える。必殺⚡鋼鉄斬狼剣の構えだ。武装硬化。心を一本の鋼(はがね)にする。音の無い世界で、ゆっくりと、そして静かに息を吐き出す。やいなや、慎重且つ大胆に幹を💥バチコーン叩く。
手応えはあった。素早く網先を捻る。
ドキドキしながら懐中電灯で照らすとシッカリ網の底に収まっていた。しかも暴れる事なく大人しく静止している。自称まあまあ天才なのだ。我ながら、ここぞという時はハズさない。
移動して正解だ。やっぱ俺様の読みが当たったなと思いつつ、半ば勝利に酔った気分で網の中にぞんざいに毒瓶を差し込む。
しかし、取り込むすんでのところで物凄いスピードで急に動き出して毒瓶の横をすり抜けた。
(|| ゜Д゜)ゲゲッ❗、えっ、えっ、マジ❗❓
ヤバいと思ったのも束の間、パタパタパタ~。網から脱け出し、闇の奥へと飛んでゆくのが一瞬見えた。慌てて懐中電灯で周りを照らす。だが、その姿は忽然とその場から消えていた。
(;゜∇゜)嘘やん、逃げよった…。ファラオの彫像の如く呆然とその場に立ち尽くす。
(-“”-;)やっちまったな…。大ボーンヘッドである。大事な時にこういうミスは滅多にしないので、ドッと落ち込み「何でやねん…」と闇の中で独り言(ご)ちる。

朝まで粘ったが、待てど暮らせどカバフは二度と戻っては来なかった。ファラオの呪いである。
しかし、結局このボーンヘッドが後の大発見に繋がる事になる。その時はまさか後々そんな事になろうとは遥か1万光年、想像だにしていなかった。運命とは数奇なものである。ちょっとしたズレが結果を大きく左右する。おそらくこの時、ちゃんとカバフをゲット出来ていたならば、今シーズン、この地を再び訪れる事は無かっただろう。そしてニューのカトカラを見つけるという幸運と栄誉も他の誰かの手に渡っていたに違いない。

 
 リベンジへ

その後、去年初めてカバフを採った京都市で更に惨敗するものの、六甲山地で多産地を見つけてタコ採りしてやった。思えば、これもまた僥倖だった。直ぐに奈良へリベンジに行っていたならば、彼奴が時期的には発生していたか否かは微妙のところだろう。やはり新しきカトカラの発見は無かったかもしれない。
計30頭くらい得たところで溜飲が下がり、漸くこの日、7月10日に再び白毫寺へと出撃した。屈辱は同じ地で晴らすのがモットーだ。白毫寺で享けた仇は白毫寺で返すヽ(`Д´#)ノ❗

日没の1時間半前に行って、新たに他の樹液ポイントを探す。叶うのならば、常に二の手、三の手の保険は掛けておくことにしている。手数は数多(あまた)あった方がいい。たとえ時間が短くとも下調べは必要だ。
首尾よく樹液の出ている木を数本見つけて、小太郎くんを待つ。彼は奈良市在住なので、奈良県北部方面に夜間採集に出掛ける折りにはよく声をかける。蝶屋だけど(ワテも基本は蝶屋です)、虫採り歴は自分よりも長いし、他の昆虫にも造詣が深いから頼りになる。それに夜の闇とお化けが死ぬほど怖いオイラにとっては、誰か居てくれるだけでメチャンコ心強い。

日没後に小太郎くんがやって来た。 おそらく彼が先にカバフを見つけたとしても譲ってくれるだろう。心やさしい奴なのだ。
しかし、そんな心配をよそに日没後すぐ、呆気なく見つけた。何気に樹液の出てる木の横っちょの木を見たら、止まっていたのだ。
 
難なくゲット。
 

(画像は別な個体です。背中が剥げてたから撮影せずでした)

 
早めにリベンジできたことにホッとする。
これで今日の仕事は終わったようなもんだ。急激に、ゆるゆるの人と化す。
そして、話は冒頭へと戻る。

 
 採集したカトカラの正体は?

新たに見つけた樹液ポイントで、コガタキシタバか何かを取り込んでる時だった。少し離れた小太郎くんから声が飛んできた。
『五十嵐さぁ〜ん、何か変なのがいますー。』
『コレ取り込んだら、そっち行くー。どんな〜ん❓』
『カトカラだと思うんですけど、何か細いですぅー。』
どうせヤガ科のクソ蛾だと思った。カトカラ以外のヤガには興味がない。急(せ)くこともなく取り込んで、小太郎くんの元へと行く。
『どれ❓』
『これです、コレ。』
小太郎くんが懐中電灯で照らす幹に目をやる。そこには見慣れないヤガ科らしき蛾がいた。しばし眺める。
『確かに細い感じやなあ。見たことない奴のような気がするけど…何やろ❓ でもコレってホンマにカトカラかいな❓ カトカラっぽいけど翅閉じてるしさ。』

 

(撮影 葉山卓氏)

 
『見てるヒマがあったら、採りましょうよ。』
小太郎くんから即刻ツッコミを入れられる。
<(^_^;)そりゃそーだー。確かにおっしゃるとおりである。もし採って普通種のクソ蛾だったら腹立つからと躊躇していたけど、採らなきゃ何かはワカラナイ。
止まっている位置を見定め、その下側を網先でコツンと突くと、下に飛んで勝手に網の中に飛び込んできた。カバフをしこたま採るなかで自然と覚えた方法だ。網の面を幹に叩きつけて採る⚡鋼鉄斬狼剣を使わなくともよい楽勝簡単ワザである。あちらが剛の剣ならば、こちらは謂わば静の剣。さしづめ「秘技✨撞擲鶯(どうちゃくウグイス)返し」といったところか。
網の面で幹を叩く採集方法は、その叩く強さに微妙な加減がある。弱過ぎてもダメだし、強過ぎてもヨロシクなくて、網の中に飛び込んでくれない。他の人を見てても、失敗も多いのだ。つまり、それなりに熟練を要するのである。いや、熟練よりもセンスの方が必要かな?まあ両方だ。
一方、網先で下側を軽く突いて採る方法は微妙な加減とか要らないし、視界も広いから成功率は高い。叩く方法でも滅多にハズさないけど、ハズしたらカヴァーは出来ない。横から逃げられたらブラインドになるから、返し技が使えないのだ。とにかく鶯返しの方がミスする率は少ない。飛んで、勝手に網に入ってくる場合も多いし、たとえ上や横に飛んだとしても、素早く反応して網の切っ先を鋭く振り払えばいいだけのことだ。鋭敏な反射神経さえあれば、どってことない。

網の中で黄色い下翅が明滅した。
どうやらキシタバグループのカトカラのようだ。どうせアミメキシタバあたりだろう。余裕で毒瓶に素早く取り込み、中を凝視する。
『五十嵐さん、で、何ですか❓』
小太郎くんが背後から尋ねるも、脳ミソは答えを探して右往左往する。考えてみれば、そもそも此処にアミメがいるなんて聞いた事ないぞ。
『ん~、何やろ❓ \(◎o◎)/ワッカラーン。下翅の帯が太いからアミメかなあ❓ いや、クロシオ(キシタバ)かもしんない。』
『五十嵐さん、去年アミメもクロシオも採ってませんでしたっけ❓』と小太郎くんが言う。アンタ、相変わらず鋭いねぇ。
『そうなんだけど、こっちは去年からカトカラ採りを始めたまだカトカラ2年生やでぇー。去年の事なんぞ憶えてへんがな。特定でけんわ。』と、情けない答えしか返せない。

その後もその変な奴は飛来してきたので、取り敢えず採る。だが、採れば採るほど頭の中が混乱してきた。
冷静に去年の記憶を辿ると、アミメにしては大きい。反対にクロシオにしては小さいような気がする。上翅の色もアミメはもっと茶色がかっていたような記憶があるし、クロシオはもっと青っぽかったような覚えがある。でもコヤツはそのどちらとも違う緑色っぽいのだ。しかし、採ってゆくと稀に茶色いのもいるし、青緑っぽいのもいるから益々混乱に拍車がかかる。
けど冷静に考えてみれば、クロシオは確か7月下旬前半の発生で、分布の基本は海沿いだ。移動性が強くて内陸部でも見つかる例はあった筈だが、にしても移動するのは発生後期であろう。ならば更に時期が合わない。

小太郎くんに尋ねる。
『この一帯ってウバメガシってあんの❓ クロシオの食樹がそうだからさ。』
『ウバメガシは殆んど無かった筈ですね。あるとしても民家の生け垣くらいしかないと思いますよ。』
となると、消去法でアミメキシタバと云うのが妥当な判断だろう。
でもコレって、ホントにアミメかあ❓
心が着地点を見い出せない。
とはいえ、段々考えるのが面倒くさくなってきて、その日は「暫定アミメくん」と呼ぶことにした。けれど、ずっと心の奥底のどこかでは違和感を拭えなかった。
結局、この日はオラが8頭、小太郎くんが1頭だけ持ち帰った。
 
翌日、明るい所で見てみる。

 

 
何となく変だが、どこが変なのかが今イチよく分かんない。
取り敢えず、展翅してみる。

 
【謎のカトカラ ♂】

 
【謎のカトカラ ♀】

 
展翅をしたら、明らかに変だと感じた。
見た目の印象がアミメともクロシオとも違う。確認のために去年のアミメとクロシオの展翅画像を探し出してきて見比べてみた。

 
【アミメキシタバ Catocala hyperconnexa】

(兵庫県神戸市)

 
【クロシオキシタバ Catocala kuangtungensis】

(兵庫県神戸市)

 
目を皿にして相違点を探す。
そして直ぐに決定的な違いを見つけた。下翅の黒帯下部が繋がらなくて、隙間があるのだ。ここがアミメはしっかりと繋がり、クロシオも辛うじて繋がっている。たまに少し隙間が開く個体も見られるが、ここまで開くものはいない。それにクロシオとアミメは真ん中の黒帯が途中で外側に突出する傾向があるが、コヤツにはそれが見うけられない。またアミメやクロシオと比べて帯がやや細いような気がする。とはいえ、最初は異常型かな?とも思った。しかし残りを見てみると、全部の個体が同じ特徴を有していた。
大きさも違う。クロシオは相対的にデカい。一方、アミメは相対的に小さい。コヤツは多少の大小はあるものの、相対的に両者の中間の大きさなのだ。

 

(後日、わざわざ神戸にアミメとクロシオを採りに行ったよ)

 
左上がアミメ、左下が別種と思われるもの、右がクロシオだ。
大きさに違いがあるのが、よく分かるかと思う。

裏を見て、更に別物だと云う意を強くした。
裏面展翅をして、比較してみる事にする。

 
【謎のキシタバ 裏面】

 
【アミメキシタバ 裏面】

 
【クロシオキシタバ 裏面】

 
上翅の胴体に近い内側の斑紋(黒帯)が他の2種とは異なる。
アミメは帯が太くて隣の縦帯と連結するから明らかに違う。全体的に黒っぽいのだ。また翅頂(翅端)の黄色部の面積が一番狭い。
クロシオとはやや似ているが、謎のカトカラは内側の黒帯の下部が横に広がり、上部に向かって細まるか消失しがちだ。クロシオはここが一定の太さである。決定的な違いは、その隣の中央の帯がクロシオは圧倒的に太いことだ。逆に一番外側の帯は細まり、外縁部と接しない。だから外縁が黄色い。またクロシオの下翅は帯が互いに繋がらないし、黒帯が一本少なくて内側の細い帯が無い。あとはアミメとクロシオは下翅中央の黒帯が途中で外側に突出して先が尖るが、謎のカトカラは尖らない(註3)。
ようは三者の裏面は全く違うのである。表よりも裏面の方が三者の差異は顕著で、間違えようのないレベルだ。
こりゃエラい事になってきたなと思い、小太郎くんに昨日持ち帰った個体の展翅画像を送ってもらった。

 

(画像提供 葉山卓氏)

 
やはり下翅の帯が繋がっていない。
となると、絶対に日本では未だ記録されていないカトカラだと思った。でも、じゃあコヤツはいったい何者なのだ❓ 新種の期待に心が震える。

何者かを知るにはどうしたらいいのだろう❓
足りない脳ミソをフル回転させて懸命に考える。そこで、はたと思い出す。そういえば去年、図書館で石塚勝己さんの『世界のカトカラ』のカラー図版を見開き3ページ分だけコピーしたのがあった筈だ。アレに載ってるかもしれない。

 
【世界のカトカラ】

 
でも何となく気になったページを適当にコピーしただけなので、確率は極めて低い。図版はユーラシア大陸のものだけでも20ページくらいはあった筈だ。新大陸(北米)のものまで含めると、40ページ近くはあったような気がする。見開きだから、その半分としても3/20。確率は1割5分だ。いや、そのうちの1枚はめちゃんこカッコイイ C.relicta(オビシロシタバ)の図版である事は間違いないから、確率は10%だ。となると、そこにそんなに都合よく載っているとは思えない。
そう思いつつ確認してみたら、(☆▽☆)何とあった❗❗
奇跡的にその3ページの中に同じく下翅の帯が繋がらない奴がいたのである。しかも他の2ページは北米のカトカラの図版だったから、確率は5%。まさに奇跡だ。

 

(出展『世界のカトカラ』)

 
名前は Catocala naganoi キリタチキシタバとなっている。
生息地は台湾で、特産種みたいだ。台湾は日本と近いし、これは有り得るなと思った。昔は連続して分布していたが、様々な理由で棲息地が分断され、辛うじてこの森で生き残ったのかもしれない。だったら同種か近縁種の可能性大だ。
しかし、困ったことに『世界のカトカラ』には裏面の写真が載ってなかった。両面を見ないと本当にコヤツと近縁種なのかは特定できない。ならばと学名をネットでググったら、zenodo(註4)と云うサイトで、らしきものが見つかった。そこには、ちゃんと裏面の画像もあった(下図3列目)。

 

(出展『zenodo』)

 
早速見比べてみると、どう見ても同じ種の裏面に見える。Catocala naganoi と同種か近縁種に間違いあるまい。
小太郎くんに画像を送ったら、彼の見解も自分と同じだった。ならば、こりゃ絶対に日本では未知のカトカラだと思い、夕方にはドキドキしながらFacebookに記事をあげた。

「昨日、奈良県で変なカトカラを採った。クロシオキシタバにはまだ早いし、だいち奈良は海なし県である。おらん筈。となるとアミメキシタバかなと思ったが、下翅下部の帯が繋がっていない。裏もアミメと違う。採ったやつ8つ全てが同じ特徴やった。どう見ても新種か新亜種だと思うんだけど、岸田先生どう思われます? たぶん、台湾の Catocala naganoi とちゃいますかね?」

記事をアップ後、ソッコーで蛾界の重鎮である岸田泰則先生からコメントが入った。
 
「確認しますが、すごいかもしれません。」

蛾のプロ中のプロである岸田先生のコメントだから、ホンマにエライことになってきたと思った。って事は新種ちゃいまんのん❓ 期待値がパンパンに膨れ上がる。
そして、夜9時にはもうメッセンジャーを通じて先生から直接連絡があった。どえりゃあスピーディーさである。ますます夢の新種発見が現実味を帯びてきた。

内容は以下のとおりである。

「五十嵐さん このカトカラですが、専門家の石塚勝巳さんに聞いたところ、やはり、クロシオではないようです。新種または新亜種の可能性もあります。石塚さんを紹介しますので、連絡してみて下さいませんか。」

(☉。☉)ありゃま❗、カトカラの世界的研究者である石塚さんまで御登場じゃないか。蛾の中でも屈指の人気種であるカトカラのニューなんて、蛾界は激震とちゃいまんのん❓ もうニタニタ笑いが止まらない。
それにしても岸田先生の動きの早さには驚嘆せざるおえない。優れた研究者は行動が迅速だ。でないと、多くの仕事は残せない。ところで、石塚さんに連絡せよとは岸田先生御自身で記載するつもりはないのかな❓
先生に尋ねてみたら、次のような返答が返ってきた。
「新種か新亜種の記載には、近縁種を調べないと判断できません。近縁種を一番知っているのは石塚さんです」
なるほどね。それなら理解できる。にしても、記載を人に譲るだなんて、先生って器がデカいよなあ(最終的には共著で記載された。どういう経緯かは知んないけど)。

 
 奈良を再訪

その翌々日の12日。再び奈良を訪れた。
こんな奴が元々あんな何処にでもあるような普通の雑木林にいるワケがない。おそらくすぐ隣の春日山原始林が本来の生息地で、原始林内には樹液の出る木があまりないゆえコッチまで飛んで来たのではあるまいかと考えたのである。

夕方に着き、原始林内で樹液の出ている木を探したら簡単に見つかった。でも結局、樹液の出ている木はその木だけしか見つけられなかった。不安だったが、裏を返せばここに集中して飛来する可能性だってあるじゃないかと前向きに考える。おいら、実力は無いけど、昔から引きだけは強い。どうにかなるじゃろう。

日没後、少し経った午後7時33分に最初の1頭が飛来した。
その後、立て続けに飛来し、午後9時には数を減じた。個体は重複するだろうが、観察した飛来数はのべ20頭程だった。驚いたのは、その全部が樹液を吸汁中に1頭たりとも下翅を開かなかった事だ。大概のカトカラは吸汁時に下翅を見せるから、特異な性質である。

 

(画像提供 葉山卓氏)

 
知る限りでは、そんなカトカラはマメキシタバくらいしかいない(註6)。
そして、ヨトウガ達ほどではないにせよ、樹幹に止まってから樹液のある所まで、ちょっとだけ歩く。だから最初は、どうせ糞ヤガだと思ったのだ。奴らゴッキーみたいにシャカシャカ歩くからね。そういう意味でも、日本では未知のカトカラだと確信した。

この日は岸田先生から電話も戴いた。近いうちに生息地を視察したいとの事。そのレスポンスの早さに再び舌を巻く。
その後、石塚さんとも連絡をとった。石塚さん曰く、やはり見たところ Catocala naganoi に極めて近い新種か、C.naganoiの新亜種になる可能性大だそうだ。
なお、新種の場合は学名と和名は考えてくれていいよと言われた。石塚さんも太っ腹である。
「Catocala igarashii イガラシキシタバとかも有りかな❓」などと考えると、だらしのないヘラヘラ笑いが抑えきれない。
しかし、普段から和名の命名について自身のブログ(註5)で散々ぱらコキ下ろしている身なので、それはあまりにもダサ過ぎる。そんな名前をつけたとしたら、周りに陰でボロカス言われるに決まっているのだ。そんなの末代までの恥である。ゼッテー耐えられそうにない。
それで思いついたのが「マホロバキシタバ」。もしくは「マホロキシタバ」という和名だった。
「まほろ」とは「素晴らしい」という意味の日本の古語である。その後ろに「ば」を付けた「まほろば」は「素晴らしい場所」「住みよい場所」を意味する。謂わば楽園とか理想郷ってところだ。
『古事記』には「倭(大和=やまと)は 国の真秀(まほ)ろば 畳(たた)なづく青垣 山隠(籠=こも)れる 倭し美(うる)はし」というヤマトタケルノミコト(註7)が歌ったとされる有名な和歌もあり、これが最も相応しい名ではないかと思った。
そして、この言葉は「JR万葉まほろば線(註8)」など奈良県所在の企業、店舗名、施設等々の名称にもよく使われており、奈良県の東京事務所や桜井市の公式ホームページにも使用されている。つまり奈良県民のあいだではポピュラーで親しみ深い言葉でもある。また虫屋は学のある方が多いゆえ、「マホロバ」という言葉だけでピンときて、奈良県で最初に見つかったものだと容易に想像がつくだろうとも考えた。手垢の付いた言葉ではなく、且つ、そこそこ知っている人もいると云うのが名前の理想だろう。加えて雅な言葉なら、完璧だ。とにかく、出来るだけ多くの人に納得して戴くために心を砕いたつもりだ。
小太郎くんに提案すると、奇しくも彼も同じことを考えていたようだ。「マホロ」よりも「マホロバ」の方がポピュラーだし、発音しやすくて響きもいいと云うことで、すんなり二人の間では「マホロバキシタバ」で決まった。
あとは、この和名を如何にして岸田先生と石塚さんに受け入れてもらうかである。それで一計を案じた。コチラに来るという岸田先生とのやりとりの中で「一々、新種・新亜種のキシタバと言うのは面倒なので、葉山くんとの間では便宜上マホロバキシタバ(仮称)と呼んでおります。いよいよ明日、まほろば作戦決行です❗もちろんこの作戦の隊長は先生です。明日は宜しくお願いします、隊長∠(・`_´・ )❗」というメールを送っておいた。
ようは既成事実を作ってしまおうと云う巧妙な根回し作戦だ。連呼しておけば、先生とて心理的に反対しにくかろう。わしゃ、狡い男なのだ、٩(๑´3`๑)۶ぷっぷっぷー。

 
 強力メンバーで調査

7月16日。午後4時に先生と近鉄奈良駅で待ち合わせる。その後、小太郎くんも加わって、その足で奈良公園管理事務所に調査の許可申請へと向かう。原始林内は採集禁止だから、手は早めに打っておいた方がいいだろう。
その後に白毫寺へ行き、先生に採集してもらった(採集禁止区域外)。虫屋たるもの、自分の手で採らなければ納得いかないものだ。
先生は実物をひと目見て、これは新種か新亜種だねとおっしゃった。小太郎くんが先生に「マホロバを世界で三番目に採った男ですね。」と言う。その言葉に先生も笑っていらした。お陰か、和名マホロバキシタバも気に入って戴いたようだ。自分では考えもしなかったけど、その世界で何番目という称号って、いい響きだねぇ~。ということは、さしづめオラは「新種(新亜種)を世界で一番最初に採った男」ってことかい。何だか気分いいなあ。

後日、石塚さんにも、三人の間では一応仮称マホロバキシタバになっている旨を伝えたら、気に入ってくれたようだった。

早々と切り上げて、三人で居酒屋で祝杯をあげた。
短い時間だったが、とても楽しい一刻(ひととき)を過ごせた。

店の外に出て、何気に空を見上げる。そこには沈鬱な面持ちの雲が厚く垂れ込めていた。
フッと笑みが零れる。
空はどんよりだが、心はどこまでも晴れやかだった。

                       つづく

 
追伸
この文章は『月刊むし』の2019年10月号に掲載されたものを大幅増補改訂したものである。

 

 
普段のブログと構成が少し違うのは気合い入ってたのだ(笑)。
流石にいつもみたいに何も考えずに書き始めるということはせず、先ずは頭の中で構成をシッカリと考えて、文章もある程度繰ってから書きだした。結果、最近はあまり使わない倒置法的な手法になったってワケ。出来るだけドラマチックな展開にしたかったし、珍しく読み手のこともかなり意識して書いたのさ。クソ真面目な報告文なんて自分らしくないし、オモロないもん。
「だったら、毎回そうせいよ」とツッコミが入りそうだが、それは出来ませぬ。性格的に無理なのである。毎回そんな事してたら、書く前に放り出してしまうに決まってるんである。何も考えずに書き始めるからこそ書けるのであって、一行でも書いたら、完成させねばと思って何とか最後まで書き続けられるのである。

改めて記事を読み返すと、つくづく偶然の集積だらけの結果なんだなと思う。そもそもの発端を掘り起こしてゆくと、もし蝶採りに飽きてシンジュサンを採ろうなどと思わなかったら(註9)、この発見は無かった。中々採れなくて、もし小太郎くんに相談していなかったら矢田丘陵なんかには行かなかったし、そこで小太郎くんに偶然いたフシキキシタバやワモンキシタバを採ることを奨められなかったら、カトカラなんて集めていなかっただろう。また彼がカバフキシタバについて熱く語らなかったら、カバフ探しに奔走することもなかっただろう。あとは文中で語ったように、秋田さんのFacebookの記事が無かったら奈良なんて行かなかっただろうし、カバフを逃していなかったら再訪することもなかった。一旦諦めて他の場所にカバフを探しに行ったと云うのも大きい。直ぐにリベンジに行っていたら、マホロバには会えなかったような気がする。結果とは、ホント偶然の集積なんだね。もちろん二人ともボンクラで、ニューのカトカラだと気づかなかったら、この発見は無かったのは言うまでもない。バカだけど、バカなりに一所懸命頑張ってきた甲斐があったよ。
でも、こんだけ偶然が重なると、もう必然だったんではないかと不遜にも思ったりもする。実力は無いけど、昔っから何となく運だけは強いのだ。春日山原始林といえば、カミキリ屋や糞虫屋を筆頭に数多(あまた)の虫屋が通ってきた有名な場所だ。蛾類だって、調査されたことが無いワケがない。なのに今まで見つからなかったのは、奇跡としか言いようがない。申し訳ないけど、きっとワシも小太郎くんも選ばれし人なのだ。
あっ、言い忘れた。小太郎くんと秋田さんには感謝しなくてはならないね。ありがとうございました。
おっと、岸田先生と石塚さんにも感謝しなきゃいけないや。先生が直ぐにFacebookの記事を見て気づいてくれなければ、どうなってたかワカランもん。仲の良い石塚さんにソッコーで連絡して下さり、直ぐに太鼓判を押して戴いたのも大きい。もし御二人が仲が悪かったりしたら、面倒くさいことになってたかもしんないもんね。変な奴がシャシャリ出てきて、手柄を全部自分のモノにしてた事だって有り得るからさ。この業界、人としてダメな人も多いのだ。功名心ゆえのルール無用も普通にあったりするから怖い。お二人の記載で良かった良かった。蛾界の重鎮が記載者名に並ぶというのもバリュー有りだ。御両名とも、改めて有難う御座いました。

次回、後編です。主に知見のまとめ、謂わば種の解説編になる予定です。

 
ー後記ー
この改稿版を書くにあたり、色々ネタを探してたら執筆当時のメールが出てきた。月刊むしの原稿の構成を担当して下さった矢崎さんに送ったメールだ。ちょっと面白いので載せておこう。

日付は、2019年08月04日となっている。
あれからもうきっかり一年経ってるんだね。何だが懐かしい。

 
件名: マホロバキシタバ発見記① 五十嵐 弘幸・葉山 卓
To: 矢崎さん(月刊むし)

五十嵐と申します。
岸田泰則先生から発見記を是非書いて下さいとの御要請を賜り、僭越ながら、わたくし五十嵐が代表して発見の経緯を綴らさせて戴きます。
現在、PCが無いゆえ、失礼乍ら携帯メールで記事をお送りします。多々、不備があるかとは存じますが、何卒御勘弁下さいまし。

と云う前置きがあって、本文を送った。
自分でも忘れてたけど、その最後に以下のような文章が付け加えられていた。

ー矢崎さんへー
当方『蝶に魅せられた旅人(http://iga72.xsrv.jp/ )』というおバカなブログを書いておりまする。堅苦しい文章も書けなくはないのですが、気が進まない。それで岸田先生に御相談したところ『発見記なんだから自由に書けばいいんじゃない?矢崎さんという優秀な編集者もいるし、ダメなら上手く直してくれるよ。』とおっしゃてくれました。結果、こういう勝手気儘な文章になりました。で、勢いで顔文字まで入れちゃいました(笑)。流石に顔文字はマズイと思われるので削除して下さって結構です。本文も不適切なところがあれば、直して下さって構いません。あまり大幅に改変されると悲しいですが…。
とにかく掲載のほど何卒宜しくお願いします。

追伸
えー、添付写真が送りきれないので何回かに分けてお送りします。写真を入れる位置はお任せします。
それと、実を言うと文章はこれで終わりではありません。生態面など気づいたこともありますので、稿を改めてお送りします。本文の後にそれをくっつけて下されば幸いです。

以上なのだが、矢崎さんは有り難い事に「クソ蛾」等の不適切な箇所を除いては、ほぼ原文をそのままで載せて下さった。よくこんなフザけたような文章を載っけてくれたよ。感謝だね。
オマケに読みやすいようにと、各章に「プロローグ」「採集したカトカラの正体は?」などの小タイトルを付けて下さった。これまた感謝である。気にいったので、今回その小タイトルをそのまま使わせて戴いた。岸田せんせの「矢崎さんという優秀な編集者もいるし」と云う言葉にも納得だすよ。
この場を借りて、改めて矢崎さん、有難う御座いました。

 
(註1)京都で既にカバフは得てはいたものの
カバフの採集記は拙ブログのカトカラ元年のシリーズに『孤高の落武者』『続・カバフキシタバ(リビドー全開!逆襲のモラセス)』などの文があります。興味のある方は、そちらも併せて読んで下されば幸いです。

 
(註2)奈良公園のカバフキシタバの記録
小太郎くん曰く、過去に古い記録が残っているそうだ。

 
(註3)謎のカトカラは尖らない
但し、裏面の斑紋に関しては細かい個体変異はあるかと思われる。本当はもっと沢山の個体を図示して論じなければならないのは重々承知しているが、これはあくまでもその時の流れで書かれてある事を御理解戴きたい。

 
(註4)zenodo
https://zenodo.org/record/1067407#.XTkdVmlUs0M
学術論文のサイトみたいだね。
尚、C.naganoiは1982年に蛾の大家、杉 繁郎氏によって記載された。桃園県で発見され、バラタイプには新竹県の標本が指定されている。
台湾名は「長野氏裳蛾」。ネットでググっても情報があまり出てこないので、おそらく台湾では稀な種だと思われる。

 
(註5)自身のブログ
http://iga72.xsrv.jp/ 蝶に魅せられた旅人。
アナタが読まれている、このブログの事ですね。

 
(註6)吸汁に下翅を開かないカトカラ
全てのカトカラを観察したワケではないけれど、文献を漁った結果、マメキシタバ以外にはそうゆう生態のものは見つけられなかった。優れた生態図鑑として知られる西尾規孝氏の『日本のCatocala』にも載ってなかった。

 

 
但し、通常は下翅を開く種でも、ケースによっては閉じたまま吸汁するものもいることを書き添えておく。

 
(註7)ヤマトタケルノミコト
『古事記』『日本書紀』などに伝わる古代日本の皇族(王族)。
『日本書紀』では「日本武尊」。『古事記』では「倭建命」と表記されている。現代では、漢字表記の場合には一般的に「日本武尊」の字が用いられる場合が多い。カタカナ表記では、単にヤマトタケルと記されることも多い。
第12代景行天皇の皇子で、第14代仲哀天皇の父にあたり、熊襲征討・東国征討を行ったとされる日本古代史上の伝説的英雄である。須佐之男命(すさのおのみこと)がヤマタノオロチ(八首の大蛇)をブッた斬った時に中から出てきた「草薙の剣」を携えている。この伝説の剣はスサノオが天照大神(あまてらすおおみかみ)に献上したもので、それをタケルくんが天照大神から貰ったってワケ。ようするに伝説だらけの人が絡んでくるバリバリの英雄なんである。
その倭建命が故郷の大和の国を離れ、戦いに疲れて病に伏す。そのさなかに大和の美しい景色を想って歌ったとされるのが「倭は 国のまほろば…」という歌なんである。
訳すと「大和は国の中で最も素晴らしい場所だ。幾重にも重なり合った青垣のような山々、その山々に囲まれた大和は本当に美しい場所だ。」といった意味になる。

 
(註9)万葉まほろば線
JR桜井線の別称。JR奈良駅から奈良県大和高田市の高田駅までを結ぶ西日本旅客鉄道(JR西日本)の鉄道路線。

 
(註8)シンジュサンを採ろうなどとは思わなかったら
これについては本ブログに『三日月の女神・紫檀の魁偉』と題して書いた。

  

2019’カトカラ2年生 その弐(4)

 
   vol.19 ウスイロキシタバ

 第四章『瓦解するイクウェジョン』

 

2020年 6月17日

取り敢えずウスイロキシタバの新鮮な個体を雌雄共に確保できたので、新たな産地を探すことにした。

 
【ウスイロキシタバ Catocala intacta ♀】

 
これまでの結果、ウスイロが樹液、糖蜜トラップ、ライトトラップに飛来することは分かった。となれば残る象牙色の方程式の解明は、その棲息環境だろう。予測ではアラカシの大木が有るような古い起源の照葉樹林で、且つある程度の広さを有する湿潤な環境を好むのではないかと考えていた。
そういう場所となると、近畿地方では何処だろう❓
そこで真っ先に浮かんだのが奈良県の春日山原始林だった。あそこなら、これらの条件が完璧に揃っている。広大な原始林は常緑照葉樹を主体としており、そこに落葉広葉樹が混じる。幼虫の食樹であるアラカシも有り、古い起源の森だから勿論のこと大木もみられる。またイチイガシなどのアラカシ以外のカシ類も豊富だから、それらを二次的に利用する事も充分可能な環境でもある。加えて成虫の餌である樹液の供給源、クヌギやコナラ、アベマキも点在する。そして、原始林内には川も数本流れており、湿潤な環境という要素も満たしている。ようは、ここにいなきゃ何処にいるのだ❓というような場所なのだ。もしかしたらウスイロばかりか、ヤクシマヒメキシタバ(註1)だっているかもしれない。

 
【ヤクシマヒメキシタバ】

(出展『www.jpmoth.org』)

 
もしヤクヒメが見つかったら、ちょっとしたニュースだろう。マホロバキシタバ(註2)に次ぐ2匹目のドジョウじゃないか。そんな風に想像してたら、ニヤついてきた。今年も連戦、連勝じゃーいヽ(`Д´)ノ❗

ただ、一つ気掛かりなのは此処でのウスイロの記録が探しても見つけられなかった事だ。調べた範囲では奈良県の記録は上北山村ぐらいにしか無い。まあどうせ調査が行き届いてないんだろうけどさ。所詮は世の嫌われ者の蛾だ。調べた人が少なくて、しかもイモばっかだったのだろう。
あっ、でも甲虫屋とか蝶屋もよく訪れるところだから、記録があってもよさそうなもんじゃないか…。
いやいや、だったらマホロバもとっくに発見されて然りだった筈だ。それがあれだけ長年にわたり多数の虫屋が入ってきたのにも拘らず、去年まで見つからなかったのだ。ようは皆さん、蛾なんて無視なのだ。だから記録もない。そうゆう事にしておこう。

この日はマホロバの予備調査も兼ねていたので、小太郎くんも参戦してくれた。勿論、春日山と奈良公園一帯は昆虫採集は禁止されているので、公園事務所の許可を得ての調査だ。

 

 
今年、マホロバの採集を目論んでる方は、採集禁止エリアを調べてから出掛けることをお薦めします。許可なく夜の原始林内をウロウロしてトラブルを起こすリスクをわざわざ冒さなくとも、禁止エリア外でも結構採れますから。

マホロバの事も考えて、原始林とその周辺にかけて樹液の浸出状況を確認してゆく。その経過の中で、どうせウスイロも見つかるだろうと思っていたのだ。

しかし、何処でも姿は全く見られない。どころか、別なカトカラの仲間さえ殆んど見ないし、他の蛾たちも数が少ない。居るのはノコギリクワガタばっか。あまりにも何もいないので、つい普段はムッシングするクソ夜蛾を採ってしまう。

 

 
羽を閉じて止まっているのを見て、体の真ん中の白い線(上翅下辺)が目立ったから、見たことない奴だと思ったのだ。
名前がワカンなくて、Facebookに載っけたら、何と有り難いことに石塚(勝己)さんから、ノコメセダカヨトウだという御指摘を受けた。けんど驚いたでやんす。まさか奴だとは微塵も思ってなかったからね。

ノコメセダカヨトウといえば、だいたいはこんな感じだ。

 

(出展『茨城の蛾』)

 
コヤツなら、何処へ行ってもウザいくらいにアホほどいる。
なので、(⑉⊙ȏ⊙)マジか❓と思ったワケ。でもよく見ると、コヤツの上翅の下辺にも白い縁取りがある。
石塚さん曰く「普通種ですが、色調の変異は多様です。」との事。ふ〜ん、これは謂わば黒化型みたいなもんだね。
けど、ネットで検索しても、ここまで黒いのは見つけられなかった。もしかして、コレってレアな型❓
所詮はデブ蛾だから、どっちゃでもえーけど。

最後に若草山の山頂をチェックして、この日の調査を終えることにした。

 

 
若草山の山頂は夜景スポットとして人気があり、観光客が結構来ていた。
駐車場から山頂までの遊歩道の途中で、小太郎くんが上空を飛ぶカトカラを見つけた。それなりに高くて網が届かない位置だったから見送るしかなかったのだが、アレって何だったんだろう❓という話になった。かなり裏面が全体的に黄色っぽく見えたのだ。
消去法でいくと、キシタバ(C.patala)は特別大きいから可能性は低いだろう。だいち裏面はウスイロとは全然違うから間違えるワケがない。

 
(パタラキシタバ 裏面)

 
因みに、キシタバ(註3)の回で小太郎くんの事をキシタバ虐待男と書いたが、今や蔑視度は更に上がって「デブキシタバ」と呼んでいらっしゃる。但し、その憎悪も突き抜けてしまい、虐待にも値しないようだ。キシタバくん、良かったね。悪いお兄さんは、もう怖くないよ(•‿•)

あと、この時期に此処で見られるキシタバの仲間もいえば、コガタキシタバとフシキキシタバくらいしかいない。
でもコガタは裏面が黒っぽいから、ウスイロと間違うことはない。除外していいだろう。

 
(コガタキシタバ 裏面)

 
となると、フシキかウスイロのどちらかしかない。
けど、ウスイロって飛んでるのを下から見た事って、あんましないんだよね。採ってた場所は木が密生していて、上に大きな空間が無く、皆さん横に飛んで行かはるケースが多かったのだ。
しかし、小太郎くんは、アレはフシキじゃなかったと思うと言う。たしかにフシキならば、もっと黄色が濃くて鮮やかな気がする。

 
(フシキキシタバ 裏面)

 
(ウスイロキシタバ 裏面)

 
ならば、おそらくウスイロだろうと思った。あの飛んでるのを下から見たという一点だけで充分だった。居るならば、そのうち採れる。だからその後、探し回ることも無く、直ぐにワモンキシタバを求めて平群町へと移動した。
時期的に、そろそろワモンを採っとかないとボロばっかになる。優先順位はワモンさんなのだ。ウスイロはもう新鮮な個体は採ったし、ここではボロだって構わない。居るという事実さえ掴めばいいのだ。

で、帰る時間ギリで何とか採って帰った。

 
【ワモンキシタバ Catocala xarippe ♂】

 
ワモンって、渋カッコいいから好きなのだ。
あれっ?待てよ、自分は見たことないけど、そういえば小太郎くんが若草山にもワモンがいるって言ってたな。

あの見送った奴はワモンの可能性もあるかもしれない。たぶんワモンの裏面も黄色は薄かった筈だ。

 
(ワモンキシタバ 裏面)

 
でも、こんなに黒帯は太くはなかった筈だから、ワモンでもなかったと思われる。益々、ウスイロの可能性大だ。
 
 
 
2020年 6月20日

前回は様子見だったが、この日はマジ探しだった。
一番可能性の高そうな春日山遊歩道に狙いをつけて入った。
ここは照葉樹の原始林の真っ只中だし、道の横には川が流れているからだ。予測した環境としては申し分ない。どうせ居るだろうから、まあサクッと居ることを確認して、とっとと帰ろう。

 

 
森の中、真っ暗けー。

そういえば、去年は若草山でカバフキシタバを探したが見つけられず、早めに見切ってこの道を降りたんだよね。その時も真っ暗で、相当ビビりながら歩いた。オマケに思ってた以上に道のりが長かったから、途中でバリ不安になった。もしや別な異次元世界にでも迷い込んだんじゃないかと思って、パニくり寸前の半泣きどした。
そうだ、そうだ。思い出してきたよ。その後にカバフキシタバを採ったのに、あろう事か取り込みで逃しちまったんだよな。まあそれが結局はマホロバの発見に繋がったんだけどね。人生、何が幸いするのかはワカランもんだね。

 
【カバフキシタバ】

 
樹液の出てる木は見当たらないので、取り敢えず糖蜜を霧吹きで吹き付けてゆく。
しかし、少し時間が経っても何も寄って来ない。いつもなら、このスペシャル糖蜜に何らかの虫が直ぐに寄って来る筈なのだが…。
あっ、霧吹きを振ってから、かけるの忘れてた。下にエキスが沈殿するので、振って混ぜないと効力が半減するんだったわ。
とゆうワケで、今度は振ってから掛けようとしたら、シュコシュコ、シュコシュコ。シュコシュコシュコシュコシュコシュコ…。焦って何度もやるが、暗闇にシュコ音だけが空しく響くだけで液体は全く出てこない。
(-_-;)やっちまった…。こりゃ完全にノズルが詰まったな。
慌てて霧吹きを分解するも、だが事態を打開できない。何度試してもダメ。ただ握力だけが鍛えられるのみである。

まあいい。一回分だけでも、そのうち寄ってくんだろ。我が糖蜜トラップは無敵なのじゃよ。それに今回は採るのが目的ではない。何なら写真だけでもいいのだ。とにかく1頭だけでも飛んで来て、ここに居ることさえ証明できればいいのである。

だが、待てど暮せど、見事なまでに何もいらっしゃらない。
結局、9時過ぎまで待ったが何の音沙汰もなかった。諦めて下山し、樹液や灯火に来ていないかを確認しながら駅まで歩いた。他のカトカラも殆んどおらず、パタラが1頭だけ樹液に来ているのを見たのみで終わった。

 
【Catocala patala】

 
つまり、まさかの大惨敗を喫したってワケ。
あまりの惨事に、たぶん鬼日と言われる異常な日だったんだと思う事にした。でないと、プライドが保てない。

 
 
2020年 6月22日

何で、こないだはダメだったんだろ❓
本当にあの日は、たまたま鬼日に当たっただけなのだろうか❓
もしかしたら、純然たる照葉樹林よりも少しクヌギやコナラ、アベマキなどの広葉樹が混じる環境の方が良いのではと思い始めた。成虫の餌資源が有った方が良好な環境ではないかと思い直したのである。
そうゆうワケで、この日は滝坂の道を選んだ。

ここは道の左側(北)が春日山の原始林で、右側が広葉樹の混じる森だからである。道沿いに川が流れているので、空中湿度も高い。もう此処に居なけりゃ、何処にいるのだ❓という環境なのだ。

しかし、矢張り結果は同じだった。
(・o・;)マジかよ❓である。コレで完全に心が折れた。
で、調査打ち切りにした。何にも採れないって面白くないのだ。面白くない虫探しはしないというのがオラのモットーなのだ。
別に方程式なんて解けなくてもいいや。所詮はアマチュア。そこまで調べる義理は無い。どうせワシ、根性なしの二流虫屋やけん。
(TОT)ダアーッ。

                        つづく

 
追伸
なんとも冴えない終わり方である。
想定していたイクウェジョン、方程式は見事に瓦解した。象牙色の方程式は、また来年に持ち越しだよね。
因みに6月29日にも行ったが、ついぞウスイロを見つけることは出来なかった。こんだけ探しても見つからないということは、いないのかなあ❓…。絶対いる筈なのになあ…。いるけど、めちゃめちゃレアだとか❓
それはそうと、ならば小太郎くんと見送ったアレは何だったのだ❓フシキかなあ?…。でもフシキなんかとは間違えるワケないと思うんだよなあ。
ワテは根性なしなので、もういいやと思ってるけど、誰か根性がある人に是非とも此処でウスイロを見つけて欲しいよね。

次回、解説編で閉店ざんす。

 
(註1)ヤクシマヒメキシタバ
屋久島で最初に発見され、1976年に記載された。その後、九州、対馬、四国、紀伊半島でも分布が確認されている。

 
(註2)マホロバキシタバ

【Catocala naganoi mahoroba ♂】

2020年の7月に春日山原始林とその周辺で新たに見つかったカトカラ。しかし、国内新種にとどまり、最終的には台湾特産のキリタチキシタバ(Catocala naganoi)の新亜種として記載された。

 
(註3)キシタバ

各所で何度も書いているが、Catocala patalaの、このキシタバと云う和名、何とかならんもんかと思う。
毎度説明するのが面倒クセーんだけど、しなけりゃ論が進められないので説明します。カトカラ類の中で、この下翅が黄色いグループのことを総称して、皆さんキシタバと呼んでいる。でも、この C.patala の和名がキシタバだから、誠にもってややこしい。「キシタバ」と言った場合、それがキシタバ類全体を指しているのか、それとも種としてのキシタバを指しているのかが分かりづらいのだ。だから種としてのキシタバのことをいう場合、一々「ただキシタバ」とか「普通キシタバ」「糞キシタバ」「屑キシタバ」、又は小太郎くんのように「デブキシタバ」と呼ばねばならんのだ。にしても、人によって普通とか糞とかデブの概念が違ったりするから伝わらないこともあって、それはそれでヨロシクない。
そこで、自分は学名そのままの「パタラキシタバ」を極力使うようにしていると云うワケだ。パタラだったら、パタライナズマ(註4)と云う佳蝶もいる事だし、神話の蛇神様なんだから少しは尊敬の念も出よう。
とはいえ、ずっともっと他に相応しい和名があるのではないかと思ってた。で、こないだ小太郎くんとたまたまオニユミアシゴミムシダマシの話になって、そこから「オニ」と名のつく生き物の話に発展した。そこでワイのオニ和名に対する講釈が爆発したのだが(これについては拙ブログに『鬼と名がつく生物』と題して書いた)、その流れの中で、小太郎くんがボソッと言った。

「キシタバとか、いっそオニキシタバにしたらどうですかね❓」

これには、目から鱗だった。たしかに、このグループの中では圧倒的にデカい。鬼のようにデカいし、上翅は緑っぽいから青鬼と言っても差し支えなかろう。それに鬼のパンツは黄色と黒の縞々だと相場が決まってるんだから、まさに相応しいじゃないかの灯台もと暗し。即座に「それ、いいやんか。」と返した。
だが、言った本人の小太郎くんは奴を憎んでおるから「えー、あんな奴にオニをつけるんですかあ?」と不満そうだったけどね(笑)。

カトカラ界の頂点に立たれる石塚さん辺りが、この和名を改称してくんないかなあ…❓
風の噂では新しい図鑑を出す御予定もあると云うし、ねぇ先生、この際だから和名を改称しませんか。もちろん最初に和名を付けられた方に対しての敬意を失ってはいけないのでしょうが、この問題を解決できる良い機会だと思うんだけどなあ…。
あっ、でもカトカラには他にオニベニシタバってのがいるなあ。まっ、問題はべつにないか…。オニキにオニベニの青鬼と赤鬼の揃いぶみでございやせんか。悪かないと思うよ。

 
(註4)パタライナズマ

【Euthalia patala】

(裏面)

(2016.3月 Thailand)

ユータリア(イナズマチョウ属)属、Limbusa亜属の最大種。
激カッコ良くて、裏まで美しい。そしてデカい。しかも、レアものときてる。
パーターラ(pātāla)とは、インド神話のプラーナ世界における7つの下界(地底の世界)の総称、またはその一部の名称。また、この世界はナーガ(Naga)と呼ばれるインドの伝説と神話に登場する上半身が人間の蛇神の棲んでいる世界だともされている。
パタライナズマについては、拙ブログの初期の頃に何編か書いとります。興味がある方は探してみてくだされ。

 

2019’カトカラ2年生 其の1第四章

 
  vol.18 アサマキシタバ(4)

  『ゲシュタルト崩壊』

 

翌朝、展翅しようとしてみて驚いた。
アンモニア注射した最初の1頭以外の全員が、蘇生していらっしゃったのだ。一瞬、墓から一斉にゾンビの如く這い出してくるアサマちゃん軍団の映像が浮かんだよ。
それはもう皆さん、元気、元気。毒瓶に少々ブチ込んだぐらいでは簡単には死なんのだ。恐るべき生命力である。

もう1回、1匹1匹ブチ殺すのも何か気が進まないので、そのまま2日間くらい放置していた。だが、それでもまだお元気でいらっしゃった。段々、不憫に思えてきて、逃してやりたい衝動に駆られそうになったので、全員アウシュビッツ送り。冷凍庫にブチ込んでやった。結局は悪魔の如き所業、虐殺なのである。酷いもんだ。虫屋は死んだら、全員すべからく地獄行きだな。

翌日、冷凍死体安置所から取り出し、遺体解凍を行なう。書いてて、やってる事が変態サイコ野郎だなと思う。やはり虫屋は間違いなく、全員すべからく地獄行きだな。

合掌してから展翅し始める。
しかし、憐憫の情はここまで。死んだもんは、物に過ぎない。(ΦωΦ)フフフ…、これでオスとメスの触角の長さの違いの有無が明らかになるじゃろう。

先ずはオスから。

【アサマキシタバ Catocala streckeri ♂】

(2020.5.24 大阪府東大阪市 枚岡。以下同所)

取り敢えず、触角は自然な感じに仕上げた。
しかし、展翅した後に気づく。今回は触角の長さが重要なのだ。出来るだけ真っ直ぐに伸ばしといた方が比べ易いかもしれん。

で、頑張ってみたのだが、先っちょの湾曲が直せずにどうしても完全に真っ直ぐにはならない。カトカラって生きてる時は触角が真っ直ぐなのに、何で死んだら曲がっちゃうんだろ❓ マジ、面倒くさいわ。

で、頑張り過ぎた結果、右の触角の根元が折れた(TOT)❗
カトカラの触角って細いから、すぐ切れよる。(`Д´#)ムキーッ、いまいましいざんす。
まっ、いっか。触角の長さを比べるにあたって、これくらいなら問題なさそうだ。

♂は3頭いずれも触角が長いねぇ。
目の悪い人は画像をピンチアウトして拡大してネ。

裏展翅したものも貼り付けておこう。

【♂裏面】

♂は前脚がモフモフだね。何かウサギの頬っぺみたいに見えて、ちょっと笑っちゃったよ。
今回、♂は4頭しか採れなかったのて、補足として去年に採った♂個体も幾つか並べておこう。


(2019.5月 奈良県大和郡山市矢田丘陵。以下同所)

右側の触角を見て少し短いかもと思ったが、左側を見ると矢張り長いね。
関係ないけど、♂はモフモフの前脚を思っきし出した方が邪悪度が増して好きかもしんない。

先端の細い部分が湾曲していて少し分かりづらいが、これまた長い。
最初の個体も同様だが、触角は上反りしている方が邪悪な感じがして好きかも。いや、真っ直ぐな方がいいか…。触角の調整の在り方は今でも悩みの種だ。どれが正しいのか、しょっちゅうワカンなくなる。嗚呼、もー。結局、また触角迷宮に迷い込んどるがな。

これまた先が細くて分かりづらいが、コヤツも長い。
以下、酷い展翅だが貼付しておく。

一番下の個体は左側の触角の先が切れているが、右側は切れてないから充分長いでしょう。分かりにくいから、画像を拡大してネ。
アサマの触角の先って、特別に細くねえか❓少なくとも♂はそんな気がする。他のカトカラと比べてないから、断言するのは危険だけどさ。
否、そんなわきゃないか❓早くも混乱が始まってる感じだな。

ともあれ、こうして去年の♂を並べてみても、矢張り♂の触角は長いと云う印象が強い。

さてさて、ここからが本番だ。
続いて、課題だったメスの展翅を始めよう。去年、もしかして♀の触角は♂よか短くね❓と感じた事から端を発した疑問なのだが、メスのサンプルが2、3頭とあまりにも少なかったゆえ、解決には至らなかったのだ。
その疑問の答えが、いよいよ出る。ちょいと💞ドキドキだ。

【アサマキシタバ Catocala streckeri ♀】

(゜o゜;あっ❗、短いかも。
ちなみに右触角の先は見た目よりも、もう少し長くて白いゴミの所で上に湾曲してます。そのままだとマチ針が邪魔して見えにくいので、画像を拡大してみて下され。

でも1頭じゃ、まだ何とも言えないよね。お次はどうだろ❓

これまた短いような気がするぞ。しかし、まだまだ断言は出来ない。更に展翅を続ける。

ここから先は前のスマホで撮った画像を Bluetoothで転送したものだ。最近になってスマホを買い替えたのだが、勝手に画像修整しよるのだ。上の2頭は本当はこんなに黄色くはない。もしも、こんだけ黄色ければ、カトカラ・カーストにおいて、もっと上位にランクされてもいい筈だもんね。カトカラ内におけるアサマちゃんの人気は高くないのだ。

短い。
いやはや、こりゃ♀は♂と比べて絶対に短いぞ❗
待て待て、まだたった3頭だ。検証の数としては少ない。落ち着いて次の個体へとかかる。

ハイ、これもそうだね。
さあ、どんどん行くぞ。

なぜか、どうやっても触角が真っ直ぐにならなかったけど、コレも長いとは言えないだろう。

さっきは触角の調整がままならなかったので、ムカツときた。だから、次は鬼のごたる気持ちで真っ直ぐにしてやっただよ。しかも、早くも遊び心が出て、如何にも蝶屋的な触角の角度にしてやったわい(笑)
こんだけ真っ直ぐにしてやっても短いんだから、そろそろワシの仮説の証明も現実味を帯びてきたんじゃねーの❓
へへへ( ̄ー ̄)、ゴールは近い。

さあ♀は、あと2つだ。ここは完全勝利のパーフェクトゲームといこうじゃないか。
それはちょっと言い過ぎか。もとい。完封勝利といこうじゃないか。

(・o・)へっ❓、コレって長くねえか❓
(゜o゜;えっ❗❓、(☉。☉)えっ❗❓、\(°o°)/えぇーっ❓❗
慌てて、オスの触角と見比べてみる。

(ー_ー;)微妙だなあ…。確認の為に何度も見比べる。
たぶん♂の方が長い。…ような気がする。
でも見れば見るほど微妙な気がしてきて、段々ワケがワカラナクなってきた。いよいよ、ゲシュタルト崩壊の始まりである。きっと脳がパニックを起こして、判定を拒否しておるのだ。

ここは一旦、冷静になろう。
因みに、この個体の右触角は最初から無かった。そうゆうのも何だかミステリアスだ。それって、これからを暗示する何かのメタファー❓

( ゚д゚)ハッ❗、待てよ。
腹が長いし、もしかしてオスの間違い❓ オデって、てーげーな性格だから有り得るぞっ。
そういえば、展翅前に撮った写真があった筈だ。それ見りゃ、オスかメスかが確実に分かる筈だ。

(@_@)れれれれ…❓、どっちだ❗❓
メスにしては腹が長い気がするし、オスにしては短くて腹太のような気がするぞ。
どうぞ、オスであってくんなまし。オスなら触角が長くとも何ら問題なしなんだもーん。

でも、よく見ると腹先が♂っぽくないような…(詳細は後術するが、尻先から産卵管らしきものが出ている)。

ガビ━━━━Σ(゚Д゚))━━━━ン❗❗

ならば、メスだ。
それに前脚も後脚も♂みたくはモフモフじゃないぞ。
メスであれば、メスなのに触角は間違いなく長いじゃないか。
パタッ(ο_ _)ο=З、死んだ。イガ仮説、崩壊。

そうだ❗、オスの写真も撮ってあった筈だぞ。ソイツと比べてみよう。判断はそれからだ。(ノ`Д´)ノまだ死ねん。

(@_@)アチャー、触角の長さは殆んど変わらん。
何度も見比べるが、そうとしか思えん。このままだとゲシュタルト崩壊が止まらなさそうなので、ブレイクアウト。煙草でも吸うことにした。

ぷはぁ〜(-。-)y-゜゜゜
何だかパーフェクトゲーム直前で、センター前にヒットを打たれたみたいな気分だ。
いんや、まだゲームは終わってない。ゲシュタルト崩壊、何するものぞっ❗

落ち着くために、取り敢えず先に最後の8頭目を裏展翅しよう。

【♀裏面】

♀の前脚は、あんまりモフモフじゃないね。これは雌雄を区別する条件の一つと言っていいだろう。

どれどれ触角はどうだ?
見た感じ、それほど短くはないが、♂と比べると矢張り、やや短い。例外はあるものの、これで雌雄の触角の長さに差異がことを、ある程度は証明できたような気がする。とはいいつつも、何となく引っ掛かるものがある。
なので、去年に採った♀と他の展翅前画像も並べてみることにした。
先ずは去年の♀からだ。

2つとも、どう考えても短いよね。まあ、キッカケになった者たちなんだから、知ってて当たり前なんたけどさ。
これだけ条件が揃ってくれば、そうゆう傾向はあるって言ってもいいんじゃね❓
再び乗ってきたところで、次は残った今年の展翅前画像だ。

腹の形や脚のモフモフ度、触角の長さから、これが♂だよね。
w(°o°)wあっ❗ここで気づく。
さっきの♂だと思って貼付した画像は♀だわさ。♂と♀とでは腹の形が違うのだが、あの画像は腹部の横の影のせいで♂に見えたのだ。

その件(くだん)の画像を明るくしてみよう。

ほらね。完全にメスだわさ。
何だか九回裏、パーフェクト目前でレフトのポール際に大ファールを打たれた気分だよ。いや、ホームランの判定が覆ったと言った方がいいか?とにかく首の皮一枚つながったって感じだ。

よっしゃ、試合再開だ。改めてさっき貼付した♂の画像に戻って、触角を見てみよう。

(ー_ー;)……。長いっちゃ長いけど、触角が前にせり出しているので今イチわからない。
ならば、他の♂画像を確認してみよう。

先程の個体は、やや微妙なところもあったが、コレは明らかに♂だろう。腹の形は勿論のこと、前脚と後脚が超モフモフだしさ。

触角はというと…。
かなり長い。長いんだけど、オスと間違えたメスや触角が片方しかないメスとあまり大差ないようにも見える。いや、少し長いか?

しゃあない、次を見てみよう。

左はまだしも、右の触角は角度的に全く参考にならん。使えん。えーい、次だ。

しかし、探しても無い。どうやらこの3個体しか写真を撮っていないようだ。ならばと、去年の画像も探したが、これまた無い。
もわ〜っ(;゚∀゚)=3、イガちゃん仮説に又しても暗雲が垂れ込める。

仕方ない。他の♀からのアプローチを試みよう。

短いね。
それはさておき、この写真を見るとアサマキシタバの触角は先っぽの方が白っぽくなってるのがよくワカル。印象としては特に♀に、こういうのが多いような気がするが、印象なのでハッキリとは断言できないけど…。
おそらく、この白くなるのは触角の上面かと思われる。裏返すと、大体が先まで黒く見えるからだ。つまり下面は黒いってことだ。それらの画像は面倒なので貼り付けないが、気になる方は前回の章で確認されたし。

あと気づいたのは横からでも産卵管らしきものが見えることだ。腹端から少し飛び出ている(以下の画像でも拡大すれば、それとなく確認できる)。

一見これも短く見えるが、こんなに丸まってると何とも言えない。しかも触角が前向きだから、益々ワカラン。またゲシュタルト崩壊が始まりそうな予感がするよ。

コレもパターンは同じだ。
試しに想像力を働かせて、必死に頭の中で触角を真っ直ぐに伸ばしてみる。アホだ。そんな事が出来るワケがない。たとえ出来たとしても、それじゃ何ら科学的根拠は示せない。つくづく、おバカさんだよ。厳密にはゲシュタルト崩壊ではないけれど、また新たなパターンの脳ミソ崩壊が始まったよ。ぽてちーん\(◎o◎)/

話は逸れるが、こうしてメスの前脚をいくつか見てると、やはり♀のお手手はモフ度が低いわ。

コヤツも前向き触角になってもうとる。先っちょも丸まっとるしなあ…。それでも全体的に何となく♀の方が短いような気もしないでもないが、何とも言えないというのが正直な気持ちだ。
もうこうなれば、1個1個の触角を外して軟化させ、真っ直ぐに伸ばしてノギスで計測するしかないだろう。加えて各個体の上翅前縁の長さも測り、触角との比率まで出さなくては違うと断言できまいて。そんな事までしなくてはならぬとなると、テキトー&てーげーな性格なオイラには到底無理だ。そういう事は我慢強くてキッチリした性格の人がやらないと誰もが納得する明確な差異を示す数値は示せない。そうゆうの、誰か替わりにやってくんないかなあ…。

んっ❓、あれっ❓何言ってんだオレ。コイツら既に展翅して触角が短いって分かってる奴らばかりじゃないか。触角を伸ばすとか、ワケわかんないこと言ってんじゃねえよ。完全に脳細胞がイカレポンチになっとるがな。
とは言うものの、ノギスで測って数値化しようという奇特な方かいれば、是非ともやってもらいたいけど。

それに、ここへきて漸く根本的な問題に気づいたよ。そもそも、たかだかこの程度の頭数を比較してアレコレ宣(のたま)ってるのは、賢(かしこ)な人から見れば失笑ものだろう。去年と合わせて雌雄各10頭ずつ程度で結論づけるのは、あまりに乱暴な論理だからだ。やってる事が雑いのである。検証数は少なくとも50体ずつ、いや100体ずつくらいはないと説得力に欠ける。偶然の入る余地を極力減らさねば、結果に信頼性はないとゆうことだ。

ならばとネットでググるが、これが笑けるほど標本画像が無い。有っても触角とかワヤクチャだから、使いもんになんない。カトカラは蛾の中でもトップクラスの人気者だと言われてるが、悲しいけど現状は所詮そんなもんなのだ。最近は蛾もブームになりつつあるそうだが、蛾に興味を持っている人の分母はまだまだ小さいのだろう。

もうコレは図鑑に頼るしかない。
先ずは岸田せんせの『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』の画像をお借りしよう。

図鑑には3点のアサマキシタバの標本が図示されていた。

♂だね。
触角が怒髪天なので分かりづらいが、長いことには間違いないだろう。にしても、何でこないに傾いてはるのん❓

お次は♀だ。

異常型の♀だが、触角は短いように見える。


(以上3点共 出典 岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)

う〜ん、長いかも知んない。でも♂よりかは短いと思うぞ。
こうなってくると、最早、願望がそう見せているのかもしれないと云う疑念が芽生える。段々、疑心暗鬼になってきた。脳ミソは、時に見えてる画像を自分の都合のいいように勝手に改変するというではないか。もしそうならば、もうゲシュタルト崩壊どころの騒ぎではない。そのうち人格の崩壊まで起こるやもしれない。ピッチョ§△◆♮〓✮‡ブチャカエ❡‰≒➽∌アビバビブ✔♯✪〄∀ダリャホセ〜。(ㆁωㆁ)オデ、オデ、コワレタ。

一応、『原色日本蛾類図鑑』も見てみるか…。

画像は、↙この1点のみ。

古い図鑑だけあって、酷い展翅だ。それでも左触角を見れば、長いことは想像に難くない。
それはさておき、名前が平仮名の「あさまきしたば」となっているのが何だか新鮮だな。優しい感じがする。これは古い図鑑の特徴でもあるのだが、一周まわって何かオシャレだよ。

石塚さんの『世界のカトカラ』の画像は既に第一章で使わせて戴いた。

でも何となくパラパラ見てると、海外のカトカラの欄に韓国産とロシア産のアサマキシタバがあった。


(以上2点共 出典 石塚勝己『世界のカトカラ』)

上が♂で下が♀である。コレも♂の方が少し長い気がする。
もう、そうゆうことにしておこう❗
考えてみれば、そこまで触角に拘る必要性は無い。だって、そんな不確実な雌雄の見分け方に頼らないなくとも、他の方法、腹先のスリットと産卵管の有無で100%見分けられるのである(詳しくは前章を参照されたし)。
『バッカみたい』。昔の彼女の声が、耳の奥で聞こえたよ。

出来れば、このままフェイドアウトで終わりたい。終わりたいが、それじゃあまりにもグダグダ過ぎる終わり方だ。ここまで読んでくれた人に対しても申し訳ない。壊れたアタマなりに、何とかまとめて終わらせよう。

もう、結論から言っちゃうからネ。
えー、アサマキシタバのメスの触角はオスよりも短い❗
そう言い切ってしまおう。
でも、あくまでそれは傾向的なもので、微妙なものもいる。野外で採集した時の雌雄の同定には、ある程度は使えるが、絶対的なものではない。コレでどうだろうか❓

雌雄の同定をする場合、先ずは裏返して尻先と産卵管の有無を確認しましょう。その2つが有れば、間違いなくメスです。
補足事項として、以下のような特徴が傾向として見受けられる。

①オスは腹部が細くて長い。反対にメスは太くて短いものが多い。

②オスは尻先に毛束がある。メスも無いではないが、その量は遥かに少なく、尻先がより丸くなる傾向がある。

③オスは前脚(第1脚)と後脚(第3脚)が毛に覆われ、モフモフである。特に新鮮な個体ではコレが顕著である。対するメスは毛があるにはあるが、オスよりも明らかに少なく、モフモフ度は低い。

④相対的にメスの方が翅に丸みがある。バランスは横長で、胴体の太さも相俟ってか、ずんぐりむっくりな印象を受ける。オスはそれと比して、細くてシャープに見える。

⑤触角は比較的オスの方が長い傾向にある。

但し、各項ともに例外もあるので、これらを総合的に鑑みて同定することが必要だろう。

こんなもんで許してけれ。

今回の結果はどうあれ、対象に対してどこか変だな、違ってるんじゃないかと感じる心は大事だと思う。
きっと去年、マホロバ(キシタバ(註1))を発見できたのも、そうゆう感性や姿勢があったからなんだと思う。

                        つづく

 
追伸
次回、やっとこさの種の解説編。
まだ続くんである(笑)。自分でも、いい加減にしろと言いたいよ。次回で終えれることを心から願おう。

 
(註1)マホロバキシタバ
2019年に奈良県で発見された、日本では32番目となるカトカラ。

【マホロバキシタバ Catocala naganoi mahoroba】

  

2018’カトカラ元年 其の17 最終章

   vol.17 ムラサキシタバ
       最終章
      『紫の肖像』

 
さてさて、早くも第四章から中ニ日でのシリーズファイナルの解説編である。そう、いよいよの泣いても笑ってもお終いの、シリーズ完結編なのだ。
また苦労を強いられそうだが、最後の力を振り絞って書こう。

 
【ムラサキシタバ Catocala fraxini ♂】

(2019.9月 長野県 白骨温泉)

 
【同 ♀】

(2018.9月 長野県 白骨温泉)

 
【裏面】

(2019.9月 長野県白骨温泉)

 
このムラサキシタバが、Schank(1802)によって最初のシタバガ属(Catocala属)として記載された。つまり、カトカラ属の模式種であり、会員ナンバー1番なのである。もう、無条件に偉い。
それだけでも偉いのに、このムラサキシタバ、他にも賞賛される要素がてんこ盛りなのである。下翅にカトカラ属で唯一の高貴なる青系の色を有しており、属内では有数の大きな体躯を持ち合わせている。まだまだある。美しき後翅と前翅とのコントラストの妙、バランスのとれたフォルム、そこそこの稀種で簡単には見られないと云う絶妙なレア度etc……。蛾嫌いでも興味を唆られる、謂わば蛾界のトップアイドルであり、スター蛾なのだ。
そもそも図鑑(原色日本産蛾類図鑑)でさえも「見事な蛾で、それを得たときのうれしさはまた格別である。」なんて云う、図鑑の解説を逸脱したような個人的見解が入っているのだ。
だから、めちゃんこ人気が高い。かくいうワタクシも憧憬の想い、いまだ止(や)まずである。

 
【学名】Catocala fraxini (Linnaeus, 1758)

属名の「Catocala」は、ギリシャ語の「Cato=下」と「Kalos=美しい」を合わせた造語である。

小種名「fraxini(フラクシーニ)」は、ブログ『蛾色灯』によると、ラテン語で「灰」という意味なんだそうな。そして「後翅の紫には触れないのか…。」と云う感想を述べられている。
確かに「fraxini ラテン語」でググると「灰」と出てくる。ムラサキシタバの上翅は灰色だから、これは理解できなくもない。だが、何で鮮やかな下翅の紫色を無視して灰色なのだ❓アッシも解せないよなあ…。だとしたら記載者の Linnaeus って、相当なひねくれ者だよな。
(・o・)んっ⁉️
この”Linnaeus”という人物ってさあ、もしかして「分類学の父」とも呼ばれ、動植物の学名方式を発明した博物学者のあのリンネのこと❓リンネのラテン語名はカロルス・リンナエウス(Carolus Linnaeus)だった筈。ってことは、リンネ大先生って偏屈者の変人だったのかな❓

けどさあ…、だとしてもだ。「灰」というのは何か納得できないよなあ。
と云うワケで、植物の学名で同じようなものはないかと思って検索してみた。

すると、Pterocarya fraxinifolia(コーカサスサワグルミ)というのが出てきた。
小種名の由来は、Fraxinus(トネリコ属)➕foliaの造語で「トネリコの葉のような」という意味なんだそうな。
そこで🖕ピンときた。ムラサキシタバが最初に記載されたヨーロッパでは、🐛幼虫の食樹としてトネリコ属も知られていた筈だからである。

あ~、のっけから迷宮に迷い込みそうな予感だ。いや、これって最早たぶん、下手に足を突っ込んどるパターンとちゃうかあ…。

次にトネリコ属 Fraxinus(フラキシヌス)の学名の由来を調べてみることにした。
トネリコ属はモクセイ科に分類され、英語名は、Ash(アッシュ)のようだ。ここでまたピンときた。アッシュといえば思い浮かぶのが、アッシュカラーや木材のアッシュだよね。

アッシュを英語で直訳すると「灰」だ。そこから転じてアッシュカラーは、灰色、ねずみ色、鉛色を意味している。
一方、木材としてのアッシュは、ネットで見ると主にセイヨウトネリコ(Fraxinus excelsior)のことを指すようだ。木には、古い英語で“spear(槍)”の意味があるんだそうな。更にラテン語の Fraxinusも同じく「spear(槍)」の意味があるという。或るサイトでは、“灰”の ash とは関係ないみたいだとも書いてあった。
と云うことは、学名の語源は「灰」ではないってワケかな❓
何か、益々ややこしくなってきたぞ。

とりあえず、「トネリコ」で検索ちゃん。
それによると、日本のトネリコには「Fraxinus japonica」という学名が付いてて、日本の固有種のようだ。
余談だが、野球のバットの原材料として知られるアオダモもトネリコ属に含まれる。

(ノ∀`)あちゃー。他のサイトを見て、ズッコケそうになる。
一部、抜粋要約しよう。

『学名の Fraxinus は「折れる」を意味するラテン語に由来する。これは木が容易に裂けることからだといわれる。
北欧神話では世界樹ユグドラシルはトネリコ(セイヨウトネリコ)であるといわれ、最高神オーディンに捧げられたほか、セイヨウトネリコからは人類最初の男性であるアスク(Ask)が作られたという伝説がある。
また、木材が槍の柄に使われたところから、槍、さらには戦闘を意味するようになり、そのためかギリシャ神話やローマ神話では戦争の神マルス(マレス、アレス)の木とも言われている。ゆえに、ヨーロッパ北部では持ち主を保護する木として家の周りに植えられた。
花言葉は「高潔」「荘厳」「思慮分別」「私といれば安心」。
占星術では獅子座の支配下にあるとされる。』

「槍」かあ…。「灰」より、もっとワケがワカランぞ。
いったいムラサキシタバと槍がどう繋がるというのだ❓
こうなると、さらに突っ込んで調べるしかあるまい。

「折れる」関係で探してみたら『Fraxとは略語で骨折。語源は、fracture=折れる。』というのが出てきた。
となれば、コレも候補になる。でも「折れる」とムラサキシタバにどういう結び付きがあるのだ❓
もうサッパリわからんよ。迷宮世界だ。

遠回りかもしれないが、ここは原点に帰って、根本から攻めていこう。語尾に何かヒントはないだろうか❓

トネリコの属名の「Fraxinus」はラテン語の形容詞の男性形であろう。
接尾語の~inusは「の様な、~に属する」を付した派生語男性形かな…❓
(ㆁωㆁ)アカン…。早くも脳ミソがワいてきた。
さらに調べてると、ムラサキシタバの学名「fraxini」は、もしかして「fraxin」の語尾に「i」を付け加えた男性の形容詞の最上級ではないか?とも思えてきた。書いてて、 益々アタマがこんがらがってくる。
或いは、属格の名詞で、語尾に「~i」が付くケースで、「トネリコの」的な意味でいいのか❓
属格だの接尾語だの自分でも何言ってるのかワケワカンなくなってきた。だいたい昔から外国語の文法も日本語の文法も苦手なのである。目的語とか所有格とか知るか、ボケー💢😠なのである。

(@_@)んー、だいち、こんなんで解決にはならーん。

ヤケクソでクグリまくってると、昆虫で同じ小種名のものにヒットした。
どうやらアメリカに、Arubuna fraxini という蛾がいるようだ。英語版の Wikipedia によると、以下のように解説があった。何となく、良い予感がした。鉱脈に当たったか❓

「Albuna fraxini, the Virginia creeper clearwing, is a moth of the family Sesiidae. It is known from the northern United States and southern Canada.」

翻訳すると「Arubuna fraxiniは「ヴァージニア・クリーパー・クリアウィング(ヴァージニア州の透明な翅を持つ這う昆虫の意)」と呼ばれるスカシバガ属の蛾の一種。アメリカ北部とカナダ南部から知られている。」といったところだ。

更に読み進めると、以下のような記述が出てきた。

「The larvae feed on Virginia creeper, white, red, green, and European ash, and sometimes mountain-ash.」

これは幼虫の食餌植物はトネリコ属のホワイトアッシュ、レッドアッシュ、グリーンアッシュ、ヨーロッパアッシュ。マウンテントネリコであることを示している。

 
(Arubuna fraxini)

(出典『Butterflies and Moths of North America』)

 
つまり、学名は食樹に由来していると云うワケだ。となれば、ムラサキシタバの学名も、その由来は「灰」ではなく、幼虫の食樹である可能性が高いと思われる。もう、そゆことにしておこう。間違ってたら、ゴメンなさいだけどー😜

にしても、食樹が学名とはダサくねぇか❓
これほど立派な見た目なんだから、もっと粋なネーミングがあって然りだろう。
もしかしてリンネって、賢いけどセンスねえんじゃねえの❓
まあ、リンネのオッサンのセンスは、この際どうでもよろし。
よし、兎に角とりあえずは、第一関門突破じゃ。

 
【和名】ムラサキシタバ

紫といっても色の範囲は広い。

 

(出典『泉ちんの「今日も、うだうだ」』)

 

(出典『フェルト手芸の店 もりお!』)

 
青紫もあるし、赤紫だってある。そういえば藤色や藤紫、菫色なんてのもあるなあ。
日本の色表現だと、かなり細かく分けられていて「江戸紫」「葵色」「京籘」「若紫」「桔梗色」「竜胆色」「茄子紺」「紫紺」「二人静」「紫檀色」「紫苑色」等々、何十種類もがある筈だ(註1)。

正直言うと、帯の色は自分の感覚的には紫というよりも、青に近い感覚で見てる。
だからといって、和名を否定するつもりは毛頭ない。
なぜなら、「アオキシタバ」では何となく語呂が悪いからだ。ムラサキシタバが大好きな青木くんは喜ぶかもしんないけどさ(笑)。字面の見た目で、青キシタバか青木シタバなのか脳が混乱しがちだし、ムラサキシタバの方が言葉のリズムとしては断然に良いのではないかと思うからだ。
だいち日本では、古来より紫色が一番高貴な色とされてきた。聖徳太子が制定した「冠位十二階」でも、紫は最上位の色とされてる。だから天皇や上級貴族しか身につけられなかった。それに、布を紫色に染める染料が大変高価だった為、富のある者しか身につけられなかったようだ。
また、紫は天皇の色とされ、一般庶民を筆頭に使用が禁じられていた時代もあった筈だ。紫色の衣服が庶民にも着られるようになったのは、江戸時代以降だったんじゃないかな。
そういえばローマ帝国や中国王朝でも、紫は最も高貴な色とされ、身分の高い者しか身につけられなかったよな。
ならば、青よりも高貴なる紫の方が、この蛾には相応しい色ではないか。オイチャンは、そう思うのである。

 
【英名】Blue underwing or Clifden nonpareil

「Blue underwing」の underwing は、カトカラ(シタバガ属)そのもののことを指すから、さながら”青いカトカラ”と云うことでいいだろう。
ふ〜ん、英語名は紫を示すパープルでもヴァイオレットでもなく、ブルーなんだね。欧米人の目線では、青に見えているのだね。前述したように、オラの目にも、どっちかというと青に見えている。

一方、クリフデン・ノンパレイルという名前の由縁は、イギリスでは18世紀のバークシャー・クリフデン地方で最初に見つかったからだろう。たぶん場所は現在の21世紀では、U・K(ユナイテッド・キングダム)ではなく、アイルランドだ。因みにノンパレイユはフランス語で「無比の、比較を越えたもの、比類なき、飛び切りの、特別な、最上の、逸材」といった意味があるそうな。つまり「クリフデンの比類なき者」ってところか。英国方面でも評価が高いんだね。

だが、1960年代には絶滅してしまったそうだ。これは戦後の施策により林業形態が変化し、針葉樹の森を植栽するために幼虫の食樹であるポプラ類が伐採されたからだとされている。
その後、何十年もの間、大陸側からの飛来で稀に記録されるだけだったが、近年になって目撃例が増え、さらには定着が確認されて、分布を各地に拡大しているらしい。
あっ、英文からのワシ意訳なので、間違ってたらゴメンね。

因みにドイツでも評価が高く「Blaues Ordensband」という名前が冠されている。
訳すと「青い勲章の綬」ということになる。これは勲章を胸に飾るための帯とかリボン、紐のことである。いかにも、この蛾の高貴な意匠にふさわしいじゃないか。
この呼び名は、ナチュラリストで知られるフリードリッヒ・シュナックの『蝶の生活』(岩波文庫)にあるそうだ。原文は読んでないけどさ。
とにかく、粋なネーミングだよね、それと比べて、和名のネーミングはクソ真面目で、マジ酷いものが多い。ルールに変に囚われ、虫の特徴のみを表すところに重点が置かれ過ぎててツマンナイ。粋じゃないのだ。
日本のチョウで、洒落てる名前だなと思うのは、スミナガシ、キマダラルリツバメ、コムラサキ、ヒオドシチョウくらいだろう。あとは横文字の、ルーミスシジミとかシルビアシジミくらいかな。
他にもあったような気もするが、言わんとしていることは解って貰えたかと思う。

 
【亜種】

Wikipediaには、以下のような亜種が表記されていた。

 
・Catocala fraxini fraxini(原記載亜種)

ヨーロッパのものだ。何処で最初に発見されたのだろうと思って探してみたが、『www.nic.funet.fi』で見ても「Europe」としか書かれていなかった。

 
・Catocala fraxini jezoensis Matsumura, 1931(日本亜種)

日本の亜種は、ヨーロッパの元記載亜種よりも大きいようだ。たぶんスペインや中国の亜種にも勝るだろう。
シロシタバなんかもそうだけど、日本のものの方が他国のものよりもカッケーかも。
あっ、学名の項で日本亜種の「jezoensis」について言及してなかったよね。これは語尾に「ensis」とあるから「〜産の」という意味で、前半分は地名を指している。
でも「jezon」って何処だ❓そんな地名、日本にあったっけ❓まさか、高級焼肉店の「叙々苑」でもあるまいし…。嗚呼、何か急に叙々苑に行きたくなってきたよ。マジで誰か連れてってくんないかな。
ネットで調べたら、同じ小種名を持つものにエゾマツがあった。学名は「Picea jezoensis」。それで、ピンときた。たぶん場所は蝦夷地のエゾを指しているんじゃないか❓で、アタマの「j」は発音しないものと思われる。
調べたら、👍ビンゴ。やはりそのとおりだった。ようは、日本では北海道で最初に見つけられたんだろね。

 
・Catocala fraxini legionensis Gómez Bustillo & Vega Escandon, 1975(スペイン亜種)

これまた、語尾からして地名由来のものだろう。
原産地は、”Leon”、”Villanueva de carrizo”となっている。これがヒントになった。おそらくLeon(レオン)はスペイン北部のカスティーリヤ・レオン州のレオンのことであろう。
調べてみると、古典ラテン語のローマ軍を意味する「レギーオ(Legio)」に由来し、910年に建国されたレオン王国を祖といるんだそうな。なるほど、ひとひねりしてる学名ってワケだ。
ところで、バイクでユーラシア大陸を横断した時には、レオンって通ったっけ❓
フランスのパリを出発して、ざっくり言うと、ル・マンを経由して古城で有名なロワール地方のトゥールに行き、さらにボルドー、アルカッションと移動して一番北の国境からスペインのIRUN(イルン)に入った筈だ。そこからサン・セバスチャン、ブルゴス、セゴビア、マドリード、トレドと旅した。その後、国境とは思えないような小さな村からポルトガルに入ったんだよね。何かクソ長い名前の村だったけど、何て名前だったっけ?
おっ、そうだ思い出した。Valencia de Alcantara(バレンシア・デ・アルカンタラ)だ。シェルの地図(註2)が画像で脳にインプットされてたようで、映像記憶ファイルから出てきた。
そこから海岸にあるナザレの町まで走ったんたよね。そうだ、そうだ。岬の横をジェット戦闘機が、超低空を爆音轟かせてド迫力で飛んでったんだよね。
あっ、いかん、いかん。また余談に逸れちゃったよ。そう云うワケだから、たぶんレオンには行っとらん。
しかし、あんな環境に果たしてムラサキシタバなんて、いるもんかね?レオンには行ってないけれど、スペインはフランスと比べて何処も乾燥がちで、森というか疎林といった感じのところばかりだった。つまり、日本の生息地とは、かなり環境を異にする。ナポレオンがピレネー山脈から向こうはアフリカだと言った意味が理解できたのを思い出したよ。それくらいピレネー山脈の北と南とでは様相が違うのだ。

 
・Catocala fraxini yuennanensis Mell, 1936(中国・雲南省亜種)

これも語尾は「ensis」だ。でも字面からも何となく想像できた。産地も”yunnan”となっていたから、雲南省のもので間違いなかろう。
調べたら、分布は雲南省南西部とあった。

参考までに言っとくと、『日本産蛾類標準図鑑』では、他にロシア南東部、中央アジアのものも亜種になっているとのこと。

 
【シノニム(同物異名)】

Wikipedia には、以下のようなシノニムが記されてあった。

 
・Phalaena fraxini Linnaeus, 1758

これは属名が違うから、ムラサキシタバが最初に記載された時には、属名は Catocala属ではなかったという事だね。
因みに、Phalaena(ファラエナ)という属はリンネが命名した大変古い属名で、今よりもっと大きな枠組の分類だったみたい。ドクガやシャクガなど多くの蛾がここに含まれていたようだ。
詳しく調べたら、何とリンネは初めに Lepidopera(鱗翅目)の中に Papilio(パピリオ=蝶)、Sphinx(スフィンクス=スズメガ)、Phalaena(その他の蛾)の3属しか設けていない。リンネはぁ〜ん、ザックリどすなあ。
とにかく、Catocalaという属は、のちに新設された属ってワケやね。

 
・Catocala fraxini var. gaudens Staudinger, 1901

原産地は”Ala tau”となっていた。たぶんカザフスタンと中国との国境に跨がるアラタウ山脈のことかと思われる。

 
・Catocala fraxini var. latefasciata Warnecke, 1919

原産地は”Amur region”、”Ussri”となっているから、アムール地方とウスリーだ。ようはロシア南東部ってことだな。
あれっ⁉️、ちょっと待てよ。一つ前のシノニムはカザフスタンのものだから、産地は中央アジアだ。という事は、亜種の欄でロシア南東部と中央アジアのものも亜種となっているようだと書いたが、たぶん岸田先生はコレらの事を言ってはったんじゃないのか?
おそらく今はカザフスタン、ロシア南東部のモノは、双方ともシノニムになってて、他の亜種に吸収されてしまったのだろう。

 
・Catocala jezoensis Matsumura, 1931

最初、松村松年は日本のものを新種として記載したんだろね。で、のちに亜種に格下げになったと云うワケだすな。あくまで推測だけど。

 
【変異】

上翅の色柄は、著しく白っぽいものから全体が暗化したものまであり、変異幅がある。今回も石塚さんの『世界のカトカラ』から、画像をお借りしまくろう。

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
国外のムラサキシタバだが、右下が白化したもので、左上が暗化したものの典型だろう。一応、拡大しとくか。

 

 

 
もっと上翅の斑紋が不鮮明になり、メリハリの無いベタなのもいるようだ。

 
【近縁種】
北米には、本種に近縁のオビシロシタ(Catocala relicta)がいる。本種よりも一回り小型だが、やはりPopuls属(ヤマナラシ属、またはハコヤナキ属)を食樹としており、北アメリカの西から東まで広く分布している。

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
これを初めて『世界のカトカラ』で見た時は、カッコ良過ぎて仰け反った。アメリカの国鳥ハクトウワシを彷彿とさせ、めちゃめちゃ貴賓と威厳がある。
とはいえ変異幅が広く、上翅が白ではなくてグレーのものや帯が淡い紫がかっているのもいる。

 

(出典『世界のカトカラ』)

 

(出典『Wikipedia』)

 
画像2枚目の奴なんかは、帯が紫がかってて、ほとんどムラサキシタバだ。帯が細いムラサキの異常型と言われても納得しそうである。

近縁種で思い出したが、ネット上にムラサキシタバと間違えてフクラスズメの写真が載せられていることがよくある。
まあ人間、間違うこともあるだろう。しかし、激怒されること覚悟で、敢えてモノ申す。

それって、マジダサい。

確かに彼奴が驚いて飛んだ時などは、一瞬垣間見える下翅の青色に反応してしまい『すわっ(・o・;)❗、ムラサキかっ⁉️』と思う時はある。でも次の瞬間には即違うことに気づく。ゴツくて汚らしいからだ。あれって、ホント💢腹立つよなー。
それで思い出したよ。山梨県の大菩薩山塊で必死にムラサキシタバを探していた時の事だ。樹液が出てるミズナラから突然、下翅か青い蛾が飛び出した。一瞬にして血が逆流したよ。でもそれがムラサキではなく、フクラスズメだと気づいた時のガッカリ感は半端なかった。同時に、あんなもんに見間違えた自分に激しく憤りを覚えたわ。その後、その木には何頭も寄ってきたから、憎悪の炎🔥が燃えたぎったね。
よく見ると、青い部分は中途半端なデザインだし、それに何よりも糞デフだ。フォルムが全くもって美しくないのである。上翅の柄もメリハリが無いし、まるで乞食爺さんみたいだと思ったよ。そもそも蛾嫌いなオイラにとっては、背中がゾワゾワするような邪悪な見てくれなのだ。

 
(フクラスズメ Arcte coeruta)

 
まだディスる。
こんなもんをムラサキシタバとずっと間違えたまんまの人って、どーかしてるぜ┐(´д`)┌
そういえば、虫屋の飲み会に遅れて行ったら、丁度、兵庫の明石城公園でムラサキシタバを見たと強く主張しているバカがいて、その場で『んなもん、100%フクラスズメじゃ❗そんな海沿いにおるわけないやろ、バーロー(ノ ̄皿 ̄)ノ ⌒== ┫❗』とボロクソ言ってブッ潰したことがある。
ちょっと大人気なかったかもしんない。ワシにボロクソ言われた人、ゴメンなさいね。同じことまだ主張するなら、ディスり殺すけどね( ̄皿 ̄)💢

 
(裏面)

(出典 上2点共『http://www.jpmoth.org』)

 
裏がまた、絶望的に汚ない。美しさが微塵も無いのだ。
しかも、これだけにはとどまらない。幼虫が死ぬほど醜くて超気持ち悪いのだ。あまりにも気持ち悪いから、画像は添付しない。気になる人は自分で探してくれたまえ。んでもって、思いきし鳥肌たてて仰け反りなはれ。
そういや、山梨の時はその気持ち悪さを思い出して益々憎らしくなってきて、マジで全員、網で叩き殺してやろうかと思ったよ。
そういうワケだから、見たことはアホほどあるが、採ったことは一度もない。ゆえに手持ちの標本も皆無。であるからして、ネットから画像をお借りしたのでありんす。
ついでに言っとくと、ムラサキシタバと同じくヤガ上科シタバ亜科に含まれるが、属は違い。フクラスズメ属である。認めたくはないが、意外と類縁関係は近いみたいだ。もう一言書き添えると、スズメガとは関係は浅い。和名は、鳥のスズメが羽毛を逆立てて冬の寒さに耐える様を「ふくらすずめ」と呼び、丸っこくて毛に覆われた様子をこの蛾に当てはめたものである。

 
【レッドデータブック】

福井県:希少種B(県レベル)
兵庫県:Cランク(少ない種・特殊環境の種など)
岡山県:稀少種
高知県:準絶滅危惧種
奈良県:稀少種
和歌山県:準絶滅危惧種

いつも思うんだけど、このレッドデータブックってヤツはどこかユルいわ。もっと指定されててもオカシクない都道府県が有るんでねぇの❓

 
【成虫発生期】

他のカトカラが盛夏に現れるのに対し、真打ち登場ってな感じで最も遅くに現れる。そこに風格、格の違いを感じる。謂わば、紅白歌合戦のトリや横綱みたいなもので、最後の最後に登場する大御所的な存在なのだ。この辺りも人気の高さに帰依しているところがあるのではないだろうか。

ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』では「8E-10」となっているが、早いものでは8月上旬、通常は8月中旬頃から現れ、10月下旬まで見られる。
新鮮な個体を得るには9月上旬までに狙うのが望ましいとされているが、時に10月でも新鮮な個体が得られるという。

 
【開張(mm)】

『原色日本産蛾類図鑑』では、92〜102mm。『日本産蛾類標準図鑑』だと、90〜105mm内外となっている。

日本最大のカトカラのみならず、世界的に見ても最大級種である。よくその大きさはシロシタバと並び称されるが、基本的にはムラサキシタバの方が大きいように思う。個人的意見だが、特に東日本では差異を感じる。シロシタバの方が小さいなと感じるのだ。じゃあ、何でそないな風に並び称されるのかと云うと、たぶん開翅長(横幅)だけで論じられることが多く、表面積で語られることが少ないからではなかろうか?

 

 
上が長野県産のムラサキシタバで、下が岐阜県産のシロシタバである。産地はそれぞれ白骨温泉と平湯温泉だから、場所はそう離れてはいない。
再度、個人的見解だと断っておくが、東日本のシロシタバは、ムラサキシタバに比して、どれも大体これくらいの大きさだ。東北地方や北海道で得たことはないから断言は出来ないが、たぶん甲信越地方のものと変わらんだろう。下手したら、もっと小さいかもしれん。
但し、西日本の低地のものはデカい。それでも表面積はムラサキシタバに軍配が上がるかと思われる。
両種ともカトカラ内の横綱であることは間違いないが、シロシタバは自分的には張出横綱って感じで捉えている。

 
【分布】 北海道、本州、四国、九州、対馬

主に中部地方以北に見られ、北海道では比較的個体数が多いようだ。西日本では少なく、近畿地方、中国地方では稀で、四国地方、九州地方では極めて稀。

一応、分布図を添付しておこう。

 

(出展 西尾規孝『日本のCatocala』)

 
石塚さんの『世界のカトカラ』の分布図も添付しておこう。
こちらは県別の分布図になっていることに留意して見られたし。

 

(出展 石塚勝己『世界のカトカラ』)

 
見ての通り、従来は九州では対馬のみからしか記録がなく、長い間、九州本土には分布しないとされてきた。図鑑は元より、ネット情報でも今だに殆どがそうなっている。
ところが、2011年に福岡県添田町英彦山と福岡市南区油山で採集されたそうな。また、この年は長崎県平戸や山口県秋吉台でも採集されている。九州本土内の福岡県,長崎県の個体はほぼ完全なものであったため,遠くから飛来した偶産とは考えにくく,現地付近で発生したものと考えられるそうだ。

中国地方では空白地帯になっていた山口県でも確認されたことにより、全県に記録がある事になった。
記録をあたってみると、岡山県恩原高原、西粟倉村、鳥取県若桜町、島根県鯛丿巣山、琴引山、島根半島で採集されている。広島県は北部にいるらしいが、地名は拾えなかった。

四国では愛媛県四国中央市(塩塚高原)、内子町(小田深山)、高知県香美市物部町、徳島県西祖谷村の記録のみしか拾えなかったが、全県から記録されているようだ。中央に横たわる四国山地の高標高地に局所的に分布するものと思われる。

近畿地方でもかなり少なく、大阪府と三重県には記録がない。
和歌山県は準絶滅危惧種となっていたが、産地は分からなかった。奈良県はレッドデータブックで稀少種になっていた。で、やっぱり産地は分からなかった。京都府は分布することになっているが、全く手がかり無しだった。いるとしたら、北部だろう。滋賀県には記録はあるものの、かなり古いものらしい。レッドデータブックでは情報不足となっている。どうやら思っていた以上に近畿地方では稀なようだ。確実にいるのは、兵庫県北部の但馬地方周辺の高標高地くらいだろう。

西日本では少ない理由は、先ず第一に気温だろう。ムラサキシタバは冷温帯を好む種だからだ。それに西日本では中部地方のように標高の高い山も少ない。つまり冷涼な気候の場所も少ないから、生息に適した環境があまり無いのだろう。

第二の理由は幼虫の食樹である。食樹については別項で詳しく書くが、ムラサキシタバの食樹はヤマナラシとドロノキ、ポプラである、このうちドロノキは分布が中部地方から北海道だから、西日本には自生しない。
次にポプラだが、植栽されたものしか無いから標高の高い冷涼な地域では殆ど見られないだろう。しかも、ポプラは風に弱くて直ぐに倒れるし、カミキリムシの食害にもあいやすい。ゆえに、現在ではあまり植栽されていないのだ。
最後のドロノキだけが、西日本では利用されていると考えられる。しかし、これとて少なく、西日本ではあまり見ない木だ。何故なら、種子が非常に小さいので、競争相手のいない裸地でなければ侵入できない。それにポプラと同じくカミキリムシなどの被害を受けやすく、木の寿命が短いのだ。
これらの理由から、西日本では滅多に見られないのだろう。
逆に北海道に多い理由は、ドロノキやヤマナラシ(エゾヤマナラシ)が多く自生し、冷涼な気候ゆえ、平地のポプラでも発生できるからだろう。

国外では、極東アジアからヨーロッパまでユーラシア大陸に広く分布している。
ヨーロッパでは、中央ヨーロッパと北ヨーロッパのほぼ全域、および南ヨーロッパの一部に分布している。但し、或る資料によると、ポルトガル、地中海の島々(コルシカ島を除く)、ギリシャ、スコットランド北部、スカンジナビア北部、ロシア北部およびロシア南部で絶滅、もしくは激減しているようなことが書かれていた。ヨーロッパ以外では、旧北区からトルコ北部、中国、シベリア、極東ロシア、韓国、日本に分布していることになっている。

分布は広いと知ってはいたが、思ってた以上に広い。
同じく巨体であるシロシタバはアジアの一部にしかいないから、国外の愛好家、特に欧州ではムラサキシタバよりもシロシタバの方が格上で、珍重されているのも解るような気がするよ。
 
 
【雌雄の区別】
他のカトカラは尻の形、及びその先端の毛束の量などで判別するが、ムラサキシタバはそれ以外にもっと簡単な判別法がある。

 
(オスの裏面)

 
♂の腹は♀と比べて細いことが多い。但し、この様に腹が太いものもいるから注意が必要。腹先の毛束は♂の方が多い。コチラの方が、まだ見分けやすい。

 
(メスの裏面)

 
裏の羽と胴体の感じが、ほよ(・ω・)?顔みたいで、初めて見た時は笑ったよ。
それに胸の辺りが、もふもふで可愛い(◍•ᴗ•◍)❤

参考までに言っとくと、鮮度を見るには表よりも裏面の方が分かりやすい。鮮度が良いほど白く見える。この2つだと、♂の方が鱗粉が剥がれていないから、より新鮮な個体だと御理解戴けるかと思う。

いかん、いかん。話が逸れてしまった。雌雄の見分け方だったね。
えー、メスは尻の先に縦にスリットが入るのだ。
より解りやすいように、画像を拡大しよう。

 
(オスの尻先)

 
(メスの尻先)

 
ねっ、全然違うっしょ。
にしても、何でムラサキシタバだけがそうなんざましょ❓
他のカトカラの♀には、こんな明確なスリットは入っていないと思うのだ。

 
【生態】
中部地方では標高1000〜1800mのミズナラ・ブナ林帯に産地が多いが、北海道では平地にも生息している。
生息環境はヤマナラシ、ドロノキが林立する広葉樹林の斜面や渓谷沿いの河辺林、針葉樹と広葉樹との混交林等。北海道などの、より低標高の産地では植栽されたポプラ並木や公園でも発生する。

灯火にも樹液にも集まる。また花(サラシナショウマ)での吸蜜例もある(関,1982)。

採集方法は主に灯火採集で、ライト・トラップを設置するか、外灯巡りをするかだろう。
一晩に数頭飛来すれば御の字だが、雨の前後などガスが発生するような天候の折りには、一晩で数十頭採れることもあるという。

灯火に訪れるのは午後10時くらいからが多いそうだが、日没直後や明け方に飛来するものもいるようだ。これも、その日の気象条件に多分に左右されるからであろう。因みに灯火で自分が見た時刻は、午前10時40分くらいと午前0時前後だった。

灯火採集の経験値が少ないから偉そうなことは言えないけど、周りから聞いた話を総合すると、ライトトラップに寄ってきても上空を高速でビュンビュン飛んでて、中々トラップに止まってくれないそうだ。しかも、止まっても大概は変なとこに止まるから、採りづらいらしい。でもって、かなり敏感で、下手に近づくと直ぐに飛ぶし、逃したら二度と戻って来ないらしい。
また、石塚さんの『世界のカトカラ』によると、コウモリがムラサキシタバを捕らえようと飛来した際は、コウモリから放たれる音波を敏感に察知し、逃れるために急降下するような光景もしばしば見受けられるという。

中部地方では9月中旬以降になると、低標高の長野市、松本市、上田市などの市街地の外灯にも飛来する。夏型の気圧配置が終わって山が2、3日雲で覆われた後や秋雨のあとによく本種が採れるそうである。この事からも、飛翔力は強く、移動性もそれなりに強いのではないかと推測される。

そういえば、高い位置(高さ6、7mくらい)を、らしきモノがかなりのスピードで飛んで行くのを二度ほど見ている。或いは普段は高所を飛んでいるのかもしれない。
前から疑問に思ってたんだけど、カトカラ類が普段どの程度の高度を好んで飛んでいるかについて書かれたものを殆んど見たことがない。ガ全般なら尚更だ。チョウならば、ほぼ全ての種において、飛翔の高さについて言及されているのにナゼに❓
勿論、夜だから目につきにくいというのは当然あろうが、にしても観察例が少な過ぎる。ライト・トラップだけでじゃなく、別な観察方法も必要になってきているのではなかろうか❓
もしくは、ライト・トラップしてるのならば、時にはそのまま暫く放っといて、懐中電灯を持って探しに行けばいいではないか。でも、誰もとは言わないが、あまりそんな事している人はいないんだろなあ…。

クヌギやハルニレなどの樹液やフルーツ(腐果)トラップ、糖蜜トラップに集まるが、観察例はあまり多くない。特に高原や標高の高い山地帯(ブナ帯など)での観察例は極めて少ないようだ。
その理由について西尾規孝氏は『日本のCatocala』の中で、以下のような推察をなされておられる。

「高原や標高の高い山地、とくにブナ帯にいる Catocala は
何を餌として長い成虫期を過ごしているのか不明な点が多い。本種のような冷涼な山地に生息する種の行動はほとんど未知である。山地の生息地ではもともと気温が低い(夜間の気温は10〜20℃)ので、意外と低山地ほど栄養を必要としない可能性がある。」

これは有り得るかもしれないなとは思う。
しかし、そもそもブナ帯で樹液or糖蜜採集を試みている者が少ないというのもあるのではないか?とも思う。蛾を採集する皆さんの間では、ライト・トラップなどの灯火採集が主流なのである。また、低地ではクヌギやコナラから樹液がドバドバ出ているが、そのような樹液ドバドバの木が高標高地では少ないような気がする。高標高だと樹液の出る木はミズナラ、ヤナギ類、カバノキ類になると思われるが、それを見つけるのは結構大変だ。低山地にみたいにカナブンやハナムグリ、クワガタ、カブトムシなどの甲虫やスズメバチは多くないだろうから、ヒントが少なくて探すのは容易ではないのだ。里山の雑木林みたいに、昆虫酒場に群がっているワケではないのである。それにクヌギみたく強い匂いもしないしね。と云うワケで、効率が悪いから真剣に樹液で探している人が少ないんではなかろうか。

非常に敏感で、カトカラの中でも特にムラサキシタバは樹液や枝葉に静止している際にライトを当てると慌てて飛び立つ。
腐果トラップ、糖蜜トラップに飛来した際も同じく極めて敏感で、腹立つくらいにソッコーで逃げよる。こういうところも心憎いところである。ゆえに憧憬が募る。いい女と同じで、簡単には落ちないのだ。

フルーツトラップや糖蜜トラップから飛ぶ際は、他のカトカラと同じくパタパタ飛びで、それほど速くはない。但し、一度だけだが、ライト・トラップに近寄ってきて逃げた際はメチャメチャ速いスピードで飛び去った。

腐果・糖蜜トラップに寄って来る際の姿は見たことがないが、おそらく他のカトカラと同じくパタパタ飛びでやって来るものと推測される。
カトカラ類は翅形からすると、本来はかなり速いスピードで飛翔できるものと思われるが、樹液や腐果&糖蜜トラップに寄って来る際も、また飛び去る際もパタパタ飛びだ。何か鈍臭い感じなのだ。これはもしかしたら、体が重いとか形体のバランスだとか、何らかの理由でトップスピードになるのに時間が掛かるのかもしれない。また反対に、トップスピードから急制動でピタリと止まるのも苦手なのかもしれん。意外と寄って来る際は、高いところから徐々にスピードを緩めて降りて来るのやもしれぬなあ。
我々はライト・トラップも含めて樹液や糖蜜トラップの設置位置の目線でしか物事を見ていないのかもしれない。前述したように、或いはカトカラたちは普段は我々が思っている以上の高所を主なる活動空間にしているって可能性はないのかな?

一応、補足しておくと、カトカラ類は昼間に驚いて飛び去る際、時にかなりのスピードで逃げ去ることがある。これは、その際には下向きに止まっているからなのかな❓自重で落ちる力を利用しているとかさ。

尚、自分は標高1700mで腐果トラップと糖蜜トラップの両方を試してみたが、そのどちらにも飛来した。但し腐果トラップが2例、糖蜜トラップでは1例のみである。
飛来時刻は午後9時前、9時半過ぎ、午前1時半だった。

『日本のCatocala』に拠れば、驚いたことに国内での昼間の静止場所についての記録は殆んどないそうだ。岩場の暗所に潜んでいたという観察例があるに過ぎない(四方,2001)という。
但し、ヨーロッパでは樹幹によく静止しているみたいだ。また、北海道では平地のポプラ並木で時々見掛けるという噂があるようだ。
確かにネットで画像検索すると、日本では昼間に撮られた写真は極めて少なく、壁や板塀(杭)に止まっているものが2点、自然状態と言える樹幹に止まっているものは1点だけしかなかった。因みに、何れも逆さ向きではなく、上向きに静止していた。もしも、昼間も上向きに静止しているのなら(大多数のカトカラは昼間は下向きに静止している)、そういう習性を持つカトカラは他にはジョナスキシタバくらいしかいないのではないかな?(調べたら、エゾベニシタバ、ゴマシオキシタバも上向きに止まっているそうだ)。
上翅の色彩模様は、食樹のヤマナラシやドロノキの樹皮に似ているというから、見つけにくいのかもしれない。でも、樹皮に似ているといっても、この2つの木は幼木と壮齢木、老木とでは、幹の感じがかなり異なる。昼間に探したことはないけれど、そんなに見つからないものなのかなあ❓…。
意外と見つからないのは、他のカトカラみたいに低い位置ではなく、高い所に好んで止まっているのかもしれない。勿論、これは勘だけで言ってるんだけどさ。

メスは三角紙の中でも容易に産卵し、母蛾から比較的簡単に採卵ができるようだ。
自然状態の産卵行動は、同じく『日本のCatocala』に観察例があったので、抜粋要約しよう。

「産卵行動については、ポプラの樹幹上で2例観察している。時刻はいずれも午後9時台であった。メスは樹幹に飛来し、木の下部から産卵を始め、歩行しながら次第に上部へと産卵場所を変えた。何れの場合もメスは光に敏感で、照射した光に直ぐに反応し、逃避した。照射を止めて数分後、再び産卵に訪れるもカメラのストロボ光で逃避し、暫くして再び飛来する行動を数回繰り返した。」

とにかく、懐中電灯の光には矢鱈と敏感なんだね。
よって見つけても採れないケースがあるから、余計に想いが募る人もいて、半ば神格化されるところがあるのだろう。

 
【幼虫の食餌植物】

食樹と幼生期に関しては、今回も西尾規孝氏の名著『日本のCatocala』の力を全面的にお借りしよう。

ヤナギ科:ヤマナラシ、ドロノキ、セイヨウハコヤナギ(ポプラ)などのPopulus属。日本では人によって、これをヤマナラシ属と訳したり、ハコヤナキ属と訳したりしてるからややこしい。でも一般ピーポーのことを考えれば、解りやすいポプラ属の方がエエんでねえの❓と思うよ。

主にヤマナラシ、ドロノキを食樹としているようだが、長野県ではコゴメヤナギやオオバヤナギ、カワヤナギでも卵殻が見つかっている。但し、どの程度利用されているかは調査不充分とのこと。
ヨーロッパでは、トネリコにも寄生することが知られているが、日本ではまだ見つかっていないという。たぶん真剣に探してる人がいないからだと思うけどさ。

『www.nic.funet.fi』によれば、以下のようなものが、食樹として載っていた。

Larva on Populus tremula, Betula sp., Fraxinus excelsior [SPRK], Fraxinus , Quercus , Q. robur, Tilia cordata, Fagus , Alnus , Acer , Ulmus , Salix [NE10], 96 (Beck, Anikin et al.)

ざっくり訳すと「幼虫はヤマナラシ、カバノキ科、セイヨウトネリコにいる。その他、僅かな記録があるのが、トネリコ属、ナラ属ヨーロッパナラ、シナノキ属フユボダイジュ、ブナ属、ハンノキ属、カエデ属、ニレ属、ヤナギ属。」

一番最初にヤマナラシが来ることから、おそらくヨーロッパでも主要となる食樹はヤマナラシなどのPopuls属の木だろう。
と云うことは、学名の由来であるトネリコは、たまたま最初に食樹として判明しただけって事かな❓
そう考えると、「fraxini」という学名は益々もってダサい。

それはそうと、他にも記録されてる別属の植物が矢鱈と多いな。気になるので、植物の系統図を見てみた。

 

(出典『APGⅢ』)

 
ヤマナラシ属の上位分類であるヤナギ科は、さらに上の分類にあたる「目」レベルだとキントラノオ目に分類されている。
他にヨーロッパで挙げられている食樹の分類も見ていこう。
カバノキ科はブナ目。ハンノキ属もそこに含まれる。またナラ属も科は違うが(ブナ科)、同じくブナ目だ。ニレ属はニレ科バラ目。このブナ目とバラ目が、クラスター的にはキントラノオ目にやや近い。とはいっても目レベルだから、かなり縁戚関係は遠いだろう。
次にクラスターが近いのが、シナノキ属のアオイ科アオイ目とカエデ属のムクロジ科ムクロジ目だ。
一方、食樹として認知度が高いトネリコ属は、シソ目モクセイ科に分類される。系統図を見ると、両者は「目」レベルでも、かなりかけ離れた関係である事がわかる。
この結果には驚きだった。ヨーロッパでのムラサキシタバの食性はメチャクチャじゃないか。ワケ、ワカメじゃよ。

いや、待てよ。冷静に考えると、完全に蝶目線で見てたわ。
チョウは幼虫の食餌植物の範囲が狭い。一方、それに対して蛾の幼虫の食餌植物の範囲はかなり広い。属とか科、下手したら目さえ関係なく、何でも食う奴だっていたんじゃないかと思う。その中にあって、カトカラ属は幼虫の食餌植物がチョウと同じようにかなり狭い。だから、ついつい蝶屋的観点で思考してた。でも、所詮は蛾である。元来は何でも食ってたんだろう。それが進化の過程の中で、食樹が収斂されていったのではなかろうか。で、かなり強引だが、時々先祖帰りする奴がいるとか…。そんな事、ないかね❓

 
(ポプラ)

(出典『山手の木々』)

 
(ドロノキ)

(出典『ムシトリアミとボク』)

 
(ヤマナラシ)


(出典 3点共『木々@岸和田』)

 
(セイヨウトネリコ)

(出典『キュー植物園で見られる植物』)

 
飼育する場合はヤマナラシ、ドロノキが望ましいが、ポプラでも育つという。但し、気温の高い平地室内で飼育する場合は、ポプラを与えるよりもヤマナラシを与える方が成長が良好のようだ。
また、シダレヤナギやウンリュウヤナギも代用食となるが、成長不良となる場合もあるという。
猶、飼育を成功させる為には、幼虫の孵化期と餌の葉の柔らかさのタイミング、室内温度の調整が重要となるそうだ。

 
【幼生期の生態】

卵は食樹に付着した蘚苔類や樹皮の裏、裂け目、樹皮の溝、小枝の脱落した跡などに産付され、大木の地表近くでよく見つかる。1箇所への産卵数は1個の場合が多い。
受精卵は黒色ないし黒褐色、褐色で、緑色を帯びるものもあり、孵化直前に白みががる。

 
(卵)


(出典『Lepiforum』)

 
去年、インセクトフェアで卵をタダでもらった。
100卵だったかな。その時に初めて卵の実物を見たけど、あまりにも小さ過ぎて笑ったよ。何せケシ粒くらいしかないのだ。
で、大半を飼育の上手い小太郎くんに無理矢理に預けて、5卵だけ持ち帰った。
しかし、小さ過ぎてハッチアウトがワカンなかった。一応、ポプラの若芽を入れてはいたんだけど、あまりに孵化しないので、諦めて放ったらかしにしてたら、いつの間にか孵ってた。既にその時はポプラの若芽は枯れていたから、人知れず死んでおりましたとさ。ちゃん、ちゃん。
m(_ _)mすまぬ、悪いことしたよ。やっぱ、性格的に飼育には向いておりませぬな。
因みに小太郎くんも飼育に失敗。全滅したらしい。ポプラを与えたけど食いつかず、わざわざヤマナラシを山に採りに行ったらしい。それでもやはり食いつかず、ダメだったそうだ。

長野県の標高700m付近の谷での孵化は5月中旬。終齢幼虫は7月上旬に見られ、群馬県の標高約1600mでは、6月上旬に1齢幼虫が見つかっている(つまり孵化は5月下旬から6月上旬と推定される)。
幼虫は若い木から老齢木まで幅広く見つかるが、比較的大木を好むようだ。

 
(終齢幼虫)

(出典『青森の蝶たち』)

 
幼虫の色彩変異は他のカトカラと比べて乏しいが、野外では時に全体的に暗化したものも見られるという。
ネットで幼虫は紫がかってると書いてある記事を見たけど、実物を見たわけではないので、本当のところはよく分からない。

 

(出展 文一総合出版『イモムシハンドブック2』)

 
終齢幼虫は他の多くのカトカラよりも1齢多い6齢にまで達する。成虫が姿を現す時期が最も遅くなるのは、この辺りにも理由があるのかもしれない。
終齢幼虫の体長は約90mm。体重は40gを越える。
頭幅は5.5〜6mm。幼虫の同定は、この顔面の斑紋形態で他種と区別ができるようだ。

1〜2齢幼虫は食樹の葉裏に静止しているが、中齢幼虫以降は枝に静止し、樹幹には下りない。摂食時間は主に夜間だが、終齢幼虫(6齢)になると、昼間でも活動することがあるそうだ。

1、2齢幼虫の食痕は円形に近い形状で、5、6齢幼虫になると葉柄部分だけを残し、時に葉柄部も切り落とす。この習性は日本ではオオシロシタバにも見られ、北米のカトカラ数種からも同じ生態が報告されているようだ(ハインリッチ,1985)。
ハインリッチは、これを食痕やそこに付いた唾液からハチなど天敵の目標となることを避けるための戦略だと推察している。

蛹化場所についての知見は他のカトカラと同じく少ない。西尾氏は図鑑で、樹皮の裏での脱皮殻の発見例を記しておられるが、多くは落ち葉の下で蛹になるだろうと推察されておられる。

多分、↙️こういうのだね。

 

(出典『青森の蝶たち』)

 
この方、よく見つけはりましたなあ。
驚いたのは、蛹の周りに薄い繭を作るんだそうな。そういうことは、どこにも書いてなかったからだ。写真はそれを少し破って撮影したそうだ。
よく見ると、そんな感じではある。確かに外側に繭っぽいものが見える。

 

(出典『MEROIDA E.COM』)

 
蛹は紫ががってんだね。
マミー。ミイラみたいだ。こういうのを見ると、古代の人たちが蛹から美しい蝶や蛾が羽化するのを目のあたりにして、そこに甦りとか蘇生、輪廻転生と云った神秘的な力を感じたのも頷けるような気がする。
ちなみに、このブログ『青森の蝶たち』にはムラサキシタバの羽化する様子も写真に撮られている。なかなか無い画像だし、素直に美しいと思った。それも併せて見て戴けると、よりオジサンの言ってることが解るかと思う。

サイトはコチラ↙️。 下の空白部分をタップしてね。
 
青森の蝶たち

記事に飛ばない場合もあるので、URLも書いとく。
http://ze-ph.sakura.ne.jp/zeph-blog/index.php?e=1191

中々、神秘的でやんしょ(・∀・)
サイトには、羽が伸びて開翅してる画像らしきものもあるよん。
 
えー、これにて解説編はおしまいでやんす。
してからに、『2018′ カトカラ元年』、完結でごわす。

                        おしまい
 
 
追伸
第四章から、たった中ニ日で記事をアップできたのは、四章と並行して最終章も書いていたからである。
ナゼにそんな事をしてたのかと云うと、単に飽き性だからであるというのもあるが、両方の文章に相互効果があるのではないかと思ったからだ。まあ、ホントに効果があるかどうかワカンナイけどさ。

今回のタイトル『紫の肖像』は、かなり昔の捕虫網の円光シリーズのオオムラサキかヤクシマルリシジミの回で使ったような気がするけど、他に思い浮かばなかったので仮タイトルとしてつけた。で、結局良いタイトルが浮かばず、そのまま最後まできてしまったってワケ。まあ、解説編なんだから、タイトルとしてはそう悪くはないと思うけどさ。

それにしても、長い連載だったなあ…。
改めて、毎回このクソ長い文章の連載を我慢して読んで下さった皆様方、今まで誠に有難う御座いました。感謝、感激、雨あられでやんす。

えーと、マホロバキシタバのことを今シーズンが始まる前までには書こうと思っております。
なので、そのうち気が向いたら、カトカラ2年生の2019年に採ったもので、まだ書いてない奴のことも含めて書くやもしれません。
あくまでも、気が向いたらですけど。

 
(註1)日本の紫色の種類
調べたら、なんと57色もあった。昔の日本人の色彩感覚ってスゴイや。

 
(註2)シェルの地図
Shell石油が発行しているヨーロッパのロードマップ。
道路地図としてはミシュランの方が圧倒的に知名度は高いが、地図としてはシェル地図の方が遥かに優れており、使い勝手がいい。とても見やすく、情報も細かい。お薦めのビューポイントやらキャンプ場等々がマークで記されているし、シェルのガソリンスタンドの位置も一目で解るようになっている。バイクや車で移動する者にとっては、このガソリンスタンドの位置が分かるという事は、地味ではあるが大きい。燃料が無くなりかけた状態でガソリンスタンドを探すのは、精神衛生上よろしくないのだ。それにガソリンスタンドの位置さえ分かれば、その先を見据えて、どの辺で早めにガスを入れといた方がいいとか、もう少し長いスパンの計画も立てやすい。

また、一冊でヨーロッパ全土だけでなく、トルコの西半分やロシアの一部もカバーしている。お陰でトルコの地図を買わなくて済んだ。トルコの真ん中から東側は都市が連なっているワケではないから、道路網も複雑ではないのだ。つまり、大まかな幹線道路を示した地図があれば事足りる。大まかなモノなら、イスタンブール辺りのツーリスト・インフォメーションでもタダで手に入ろう。
但し、このShell地図。本屋では手に入らない。シェルのガソリンスタンドでしか売っていないのだ。しかも、シェルのスタンドなら何処でも売っていると云うワケではなさそうだった。
あっ、一応つけ加えておくと、今も地図が売られているどうかは知らないよん。或いは、もうこの世から消えてるかもしれない。今やGPSの時代だからね。
でも、それじゃ味気ないし、つまらない。GPSは地図を読むという楽しみを奪うものだからね。地図を見て、その情報をあれこれ読み取り、考えることは一種の知的ゲームでもあるのだ。そこには当然の如くリスクもあるけれど、浪漫もある。リスクや浪漫の無い旅なんて、旅じゃない。ただの旅行だ。
ヨーロッパをバイクや車で旅する人がいるなら、是非とも紙の地図の旅をしてほしい。そう思う。

 

2018′ カトカラ元年 其の17 第四章

 
  vol.17 ムラサキシタバ act4

  第四章『パープル・レイン』

 
 2019年 9月3日

もう一晩、此処わさび平小屋周辺で粘るという手もあったが、たぶん同じ事の繰り返しだろう。採れる気が全くしない。
この際、ヨシノキシタバは諦めてムラサキシタバとエゾベニシタバの2つにターゲットを絞りなおそう。両種の幼虫の食樹は被っているから、両方採れる可能性もある。
とは言いつつも、いつの間にか頭の中は女王ムラサキシタバのことだけで占められていた。エゾベニはまだ一度も見たことがないけれど、それよりもムラサキへの想いの方が強いみたいだ。皇帝の前では、他の全てのカトカラは霞んでしまう。それくらい存在感が違うのである。

問題は場所を何処にするかだ。当初はロープウェイ駅まで下りて、そこで勝負することを考えていた。1000〜1200mと頃合の標高だし、付近にはムラサキとエゾベニの食樹であるドロノキも多い。加えて周辺には旅館やホテルもあるから外灯だってあるだろう。そこに寄って来るカトカラもいるかもしれないと思ったのだ。
しかしながら、今や夜間に虫を寄せ集める水銀灯や蛍光灯は世の中から消えつつあると云うのが実情だ。最近は、殆ど虫が集まって来ないLED照明にとって替わられつつあるゆえ、たぶん多くは望めないだろう。それに夜まで時間を潰すのは大変そうだ。チョウさえいてくれれば、何の問題もないのだが、この時期にいる蝶は少ない。さらに言えば、採りたい蝶はキベリタテハくらいしかいない。

 
【キベリタテハ】
(2009.8月 八ヶ岳)

 
けれど困ったことに、この新穂高にはキベリタテハはあまりいないのである。昔、春にボロボロの越冬個体を1頭だけ見たのみだ。それに、沢山いると云う話も聞いた事がない。
考えてみれば、左俣周辺にはキベリタテハの幼虫の食樹となるダケカンバや白樺が少なかった気がする。あるとしたら、ロープウェイで上がった鍋平くらいだろう。しかし、いるかどうかも分からないのに行く気にはなれない。
今になって考えてみると、食樹が同じであるオオイチモンジは確実にいるから、ムラサキも間違いなくいる筈だ。ゆえに、それも悪い選択ではなかったかもしれない。だが、その時は前日の辛いテントでの一夜で、すっかり疲弊してしまっていて、そこまで頭が回らなかったのだ。

(・o・)ん⁉️、ちょっと待てよ。
でもキベリタテハの幼虫ってヤナギ類も食べるよな…。
谷間にはヤナギ類は結構あるのに、何でここいらにはキベリがあんまりおらんのじゃ?
もしかして、ヨシノキシタバもそうだったりして…。
だって、あれだけわさび平小屋周辺に立派なブナ林があるのにも拘わらず、全然見なかったもんな。
同じような環境なのに、居たり居なかったりして、生き物ってよくワカンナイや。

左俣道を降りてゆくが、やはりキベリタテハの姿はない。どころか、何もおらん。いる筈のヒョウモンチョウ類やシータテハ、エルタテハ、コムラサキも全く姿を見ない。
ロープウェイまで降りてきて、何だか全てがイヤになってきた。ここには、何もおらんような気がしてきたのだ。それに身も心も芯まで冷えきっていたから、熱い温泉に浸かるのを本能ちゃんが激しく熱望していた。

そんな気分だった折りに、丁度バスがやって来た。
これも流れだと思った。ならば、それに身を任そう。そのままバスに飛び乗る。

乗った時点で、次は何処へ行くかは決めていた。
だいぶ遠いが白骨温泉へ行こう。そこで温泉に入って鋭気を養い、仕切り直して去年採った場所に行き、確実にムラサキを仕留めよう。そう決心していた。
一旦、バスで平湯温泉へと移動する。そこで白骨温泉ゆきのバスに乗り換えられる筈だ。
だが車内でネットで調べてみると、バスが白骨に到着する頃には公共温泉施設は閉まってしまうことか分かった。ギリでアウトなのだ。おまけに間が悪いことに、温泉旅館の風呂も本日は清掃日にあたっており、入浴できないときてる。
何か完全に呪われとるね( ノД`)…。どないすんねん❓

幸い白骨方面ゆきバスの出発時刻までには、まだ時間があったから、平湯で風呂に入ることにした。
バス停から一番近い日帰り温泉、「平湯の森」へ行く。

 
【平湯の森】
(出展『楽天トラベル』)

 
初めて利用したが、広くて良い風呂だった。
ちょっと、気力も戻る。
これからは日帰りならば、いつものとこよりもコッチの方がいいかもしんない。

白骨温泉へ行くには、いったん沢渡まで行って、そこでまた別なバスに乗り換えなければならない。でもバスで行くのは初めてだから、不安が大きい。バスの本数が極めて少ないので、乗り換えに失敗したら最悪の結果になる。

沢渡で降りたら、雨が降り始めた。
予想はしてたけど、やっぱりか…。我が精緻なるお天気センサーは、ハッキリと答えを出せないでいる。降ったり、止んだりという感じかなあ…としか言い様がない。たぶんこの山域では降ってるところもあれば、降っていないところもあるんだろなと思う。女心と秋の空は変わりやすいというが、正にそれで、読めない。一日雨ということはないだろうが、何時から何時までが雨と云うのまではワカラナイ。おそらく天気予報を見たところで、ピンポイントでは当たりそうにないような微妙な天気なんだと思う。
まあ、とやかく言ったところで、どうしようもない。ようは運次第ってことだろう。

なんとか無事に乗り継げて、バスは4時半前に白骨温泉の上にある泡の湯に到着した。ここから、去年ムラサキシタバが採れた場所まで歩くつもりだ。

歩き出して直ぐに光が射してきた。そして、そのうち青空まで覗き始めた。
スーパー晴れ男の面目躍如と言いたいところだが、あんまし自信がない。センサーは晴れるという明確な信号を送ってはこないのだ。とにかく、このまま回復してゆくことを祈ろう。でも、同時にあまり信用しないようにしよう。それくらい今日の天気は気まぐれな気がする。
今さら思い悩んでも仕方がない。なるようにしかならんのだ。

途中、見覚えのあるような広場に出た。たぶん昔、森さんがオオイチモンジのポイントだと教えてくれた場所だ。温泉街からそう遠くないし、面倒くさくなってきたから、もう此処にしようかなと思った。
けど思いとどまった。ここは確実を期そう。先ずは実績のある場所で確実にムラサキを仕留めたい。ギャンブルを極力避けたいと云う心理が働いてるんだろなと思い、苦笑する。我ながら、気持ち弱ってるなあ…。

坂道は思っていた以上にキツい。喘ぎながら登る。
そして、目的の場所がいつまで経っても現れない。次のコーナーさえ回れば見えてくると何度も思うが、見覚えのある風景は何故だか見えてこない。段々、本当にこの道で合ってるのか不安になってくる。
しかも、ザックの重みが次第に肩に食い込んでくる。自分は荷物が重いのが大嫌いで、普段は必要最低限の物しか持たない主義の超軽装男なのだが、今回は勝手が違う。テントと糖蜜トラップ用の2Lのペットボトル、飲料水用の2Lのお茶も持参している。液体は重たいのだ。
一瞬、お茶を半分捨てたろかと云う衝動に駆られる。とはいえ、山で最も重要なのは飲料水である。これだけはケチれないし、削れない。「命の水」と云うだけあって、これを切らせば虫捕りどころではなくなるのだ。そう云うワケで、ことのほか重くて辛い。心がどんどん磨り減ってゆく。

途中、見晴らしの良い場所に出た。見下ろすと、温泉街は遥か下にあった。
えーっ❗❓、そんなに遠かったっけ❓
車で移動した時は、ものの5分か10分だと思っていたから近いと勝手に思い込んでいたが、とんでもねえや。
冷静に考えてみれば、あの時は下りだったし、思っている以上に車は速い乗り物だ。それは知っている。だから理解はできる。完全に文明の利器の力を侮ってましたよ( ;∀;)
だからといって、折角ここまで登ってきたのだ、今さら戻りたくはない。そもそも引き返すことが性格的に大嫌いなのだ。根性で歩く。
待ってろよ、紫のキミ。無茶苦茶に凌辱しちゃる(`へ´*)ノ

歩いていると、ムラサキの食樹であるドロノキが多いことに気づく。幼木が沢山生えているところも見つけた。そこを拠点にしようかとも考えだが、果たして幼木にメス親が卵を産みに来るのかどうかもワカラナイので、やめておくことにした。冷静な判断といえば聞こえはいいが、益々ハートは大胆さを失っているようだ。

ようやく目的地に着いたのは午後5時半くらいだった。
早速、テントを張る。そう、ここで野宿するつもりなのだ。
でも、この時は熊に対しての恐怖心はあまり持っていなかった。昨日の、新穂高の熊の巣窟に比べれば、どってことないと思ってたのだ。でも後日、小太郎くんに『よくあんな熊がいっぱい居るようなところに、一人でテントなんか張って寝れましたねー。』と言われた。知らぬが仏である。🙏なんまんだあ〜。

しかし恐れたとおり、再び天気は下り坂になった。
そして、さあこれからだと云う日没直後に雨が降り始めた。慌ててテント内に避難する。

寝袋に入り、テントを打つ雨音を聞いていた。
雨粒は間段なく雨のメロディーを奏で続けている。やむ気配は全く無い。
なんでやねん❓と呟く。
やはり、秋田さんや岸田先生の言うように、マホロバキシタバの発見で、今年の運を使い果たしたのかもしれない。
まあまあ天才のオラ(笑)に限って、そんな事はあるまいと思うが、8月からの絶不調振りは呪われているとしか思えない面もある。基本的に運だけのラッキーマンでやってきたから、こんなにコケ続けてるのは、あまり記憶にない。むしろ連戦連勝の方が当たり前なのだ。でもなあ…、今年は例年と比べて絶好調が当たり前というワケでもないんだよなあ…。時々、痛い苦杯を喫してもいる。けれど、その苦杯がマホロバの発見に繋がったんだもんなあ…。
そうだ、昨日、一昨日の敗北やこの雨も、きっと栄光への布石に違いない。そう思おう。
もう、神様ったら~(人´∀`)。゚+、アッシをヤキモキさせといて、結局最後には感動のフィナーレを用意してるんざんしょ❓憎いね、この、このー(☞゚∀゚)☞

一頻り自分をジャッキアップさせたところで、退屈しのぎに雨の歌でも歌うことにした。
一人雨唄歌謡ショー。雨のヒットパレードの開幕である。

 
八代亜紀『雨の慕情』

https://youtu.be/FZMWYN8pzG0
八代亜紀『雨の慕情』You Tubeリンク先

 
雨乞いの歌なんぞ歌ってどないすんねん(#`皿´)❗
でも、私のいい人、連れて来いなのだ。この雨がムラサキシタバを連れて来るのを祈ろう。

 
日野美歌『氷雨』

https://youtu.be/FBC04hXAC7A
日野美歌『氷雨』You Tubeリンク先

 
暗いなあ~。
それはさておき、別に好きな曲じゃないけれど覚えていたね。昔の時代の歌は、覚えやすいメロディーになってたんだろな。
とにかく歌詞にもあるように、採れるまで帰るワケには行かんのだ。

 
井上陽水『傘がない』
 
https://youtu.be/bgUpt00lG1s
井上陽水『傘がない』You Tubeリンク先

 
気分は、行かなくちゃ、君に逢いに行かなくちゃなのだ。
名曲だけど、これも暗いねぇー。
でもムラサキに会いに行かなくっちゃなのである。雨が早く上がることを祈ろう。

 
太田裕美『九月の雨』
 
https://youtu.be/a32fV43B2O4
太田裕美『セプテンバーレイン』You Tubeリンク先

 
まさにセプテンバー レインなのだ。
太田裕美には意外と名曲が多いんだよね。当時は地味な気がしてあまり好きではなかっけど、今見ると太田裕美ってカワイイよね。性格も良さそうだしさ。
にしても、マジで9月の雨は冷たいわ。

 
森高千里『雨』

https://youtu.be/XZfez9KcKcY
森高千里『雨』You Tubeリンク先

 
ムラサキさん、今の私は遠すぎるわ、貴方がなのだ。
改めて聞くと名曲だよなあ。森高千里はルックス的に大好き。昔から涼しそうな女の人には惹かれるのだ。

 
イルカ『雨の物語』
 
https://youtu.be/Oh9Y2Iqzb6o
イルカ『雨の物語』You Tubeリンク先

 
僕はまだキミを愛しているんだろう…
ムラサキよ、こんな雨の中でも待ち続けているんだから、僕はまだキミを愛してるんだろう。
作詞は、元「かぐや姫」のメンバーである伊勢正三だ。イルカの代表曲「なごり雪」も正やんの作詞でやんす。
ところで、イルカさんってどことなくイルカに似てるよね。だから、まさかのアーティスト名になったのかな❓

 
風『通り雨』

https://youtu.be/IlVCiL_NLkI
風『通り雨』You Tubeリンク先

 
淋しいのなら忘れようって言われても、ムラサキ様を忘れるワケにはいかんのだ。
この雨が通り雨だったらいいのにな…。

これも、正やんの歌だ。隠れた名曲だろう。正やんの歌詞は大好きだ。どれも情景が自然と浮かんでくる。

 
オフコース『眠れぬ夜』
 
https://youtu.be/3571xM9Ri8o
オフコース『眠れぬ夜』You Tubeリンク先

 
眠れない夜と雨の日には、忘れかけてた愛が甦るってかー。ホンマに昔の彼女の事を思い出して、何だかせつなくなってきたよ。

まだ、そんなに爆売れしてない頃のオフコースの楽曲です。
たしか、この曲は西城秀樹がカヴァーしてたんだよね。そういやヒデキも死んじゃったなあ…。西城秀樹の歌唱力は掛け値なしに素晴らしいと思う。そこにロックを感じるのだ。ヴォーカリストとして、もっと世間的に評価されるべきだろう。西城秀樹はダダのアイドルではないのだ。いや、アイドルだからこそ色眼鏡で見られて評価されないのか。まあ、自分も秀樹がメチャメチャ歌が上手いと気づいたのは随分あとになってからだからね。

 
稲垣潤一『ドラマチックレイン』

https://youtu.be/1T2NOEvM8Ws
稲垣潤一『ドラマチックレイン』You Tubeリンク先

 
哀愁漂う名曲である。
この曲は車のタイヤのCMにも使われてたね。赤い車だったっけ…。俯瞰の映像がカッコ良かったんだよなー。
さておき、マジでこのあとドラマティックレイン的展開にならんかのう。
 
 
八神純子『みずいろの雨』

https://youtu.be/sPwMDmESXwI
八神純子『みずいろの雨』You Tubeリンク先

 
嗚呼〜、水色の雨、降りしきるのーおーおー。
雨、やまーん❗トホホ😢、何だか泣けてくるよ。
この曲、アタマからパワフルでインパクトあったなあ。
🎵パープルタウン パープルタウン パープルタウン うぅ〜っふーふー。
(@_@)何か壊れてきたよ。勿論、ムラサキシタバの紫と掛けてるんだけどね。

ここで思い出した。昔、同じようにテントで寝転びながら雨の歌合戦をやったことがある。但し合戦だから、一人ではない。相棒とユーラシア大陸をバイクで横断した時に、そうゆう事があった。一人用テントを並べ、入口を開けて歌ってた。
スペインのどっかの小さい町だったっけ。キャンプ場が見つけられずに、仕方なく廃館になっていた美術館だか博物館の軒下で野宿したんだった。
そこで、突然相棒が『ねぇ、雨の歌合戦しましょうよ。』と言い出したのだ。
よっぽど退屈だったのだろう。イヤイヤ応じた記憶がある。
正面には、巨大な工場の煙突群が屹立しており、そこからモクモクと大量の煙が吐き出されてたんだよね。それがオレンジ色の光に照らされて、一種異様な雰囲気を醸し出してたっけ…。まるでSF映画の世界だった。その光景を見ながら、ずっと歌ってたね。

 
吉田拓郎『たどり着いたらいつも雨降り』
 
https://youtu.be/dDrMscLOzJM
吉田拓郎『たどり着いたらいつも雨降り』You Tubeリンク先

 
こっちも、たどり着いたら、いつも雨降りって気分だ。
同時代の歌じゃないけれど、がなる拓郎はカッコイイ。
けど、ライブバージョン限定かな。先にそっちを聴いていたから(伝説の篠島のライブアルバム?)、のちにオリジナルを聴いた時はイメージとは違って、とても優しい曲だったので驚いた記憶がある。
ちなみに、この曲は氷室京介など多くのアーティストがカヴァーしている。だか断然、拓郎のライブヴァージョンの方がいい。
でも、たどり着いたらいつも雨降りって歌詞、今の状況だと確実に力抜けんなあ…。

 
村下孝蔵『初恋』

https://youtu.be/OKizrDxp54c
村下孝蔵『初恋』You Tubeリンク先

 
サビも好きだけど、何といっても🎵五月雨(さみだれ)はーと云う入りが特に好きだ。続く歌詞の🎵緑色〜というのも良い。確かに五月雨の時期は新緑の季節なのだけれど、それをサラッと言えるところが秀逸だ。曲のテーマの、あおはる(青春)とも掛かっている。
この人の曲は繊細な感じがして、どれも好き。
でも、結構早死にしちゃったんだよなあ…。その頃の恋とか思い出して、どんどんモノローグの世界に入っていってるなあ。

 
クール・ファイブ『長崎は今日も雨だった』

https://youtu.be/ynJWpwn5-Hk
クールファイブ『長崎は今日も雨だった』You Tubeリンク先

 
正に状況が、探し探し求めて、一人さまよえばーで嗚呼、今日も雨だったーなのだ。もう今の気分にピッタリじゃないか。
これも別に好きな曲じゃないし、サビしか歌えんかと思ったけど、アタマの一言が出たら一番は完璧に歌えたよ。やはり小さい頃に聞いた曲は覚えてるもんだよね。それにメロディーが良い意味で単純だ。今時の日本の歌は変調や半音が多くて、なかなか頭に残らない。そういえば歌謡曲という言葉も死語になりつつあるな。今は歌謡曲ではなくて、Jポップなのだ。何だか悲しくなってくるよ。

 
とんねるず『雨の西麻布』
雨の西麻布

https://youtu.be/AzJu_Bn5RnU
とんねるず『雨の西麻布』You Tubeリンク先

 
もっとフザけてる曲かと思いきや、意外としっとりで、ムード歌謡の良い曲なんだよね。作詞はたぶん秋もっさんかなあ?

 
小林麻美『雨音はショパンの調べ』

https://youtu.be/lNc4eKmlzqM
小林麻美『雨音はショパンの調べ』You Tubeリンク先

 
彼にはもう会えないの Rainydaysなんてフレーズを聞くと、ズブズブに未来が暗澹となってくるよ。

小林麻美はアンニュイで好きだったなあ。
映画『野獣死すべし』の小林麻美は美しかった。松田優作に殺されるシーンは名シーンだと思う。
そういえば、この曲ってユーミンの作詞だったよね。曲のアレンジもミュージックビデオも当時(80年代)では最先端のモノだった。謂わば、オシャレの最先端。そうゆう時代背景を抜きにしても、どこか気だるさのある美しい曲だと思う。

 
柳ジョージ&レイニーウッド『雨に泣いてる…』

https://youtu.be/TPi7U9k4M5Y
柳ジョージ&レイニーウッド『雨に泣いてる…』You Tubeリンク先

 
ウイッピンク・イン・ザ・レイン。雨の中、一人佇むこの俺さー。歌詞が不意に口から溢れた。記憶から消えてた曲だ。
ワタクシ、現在雨に泣いておりまする。

 
松山千春『銀の雨』

https://youtu.be/SQiac0ezl54
松山千春『銀の雨』You Tubeリンク先

 
結構、甘酸っぱい思い出のある曲。
女の子からの別れの手紙に、この歌詞が書いてあった。
今宵は失恋したくないよなあ…。

 
ASKA『はじまりはいつも雨』

https://youtu.be/Rtewdssxnzc
ASKA『はじまりはいつも雨』You Tubeリンク

 
ドラマの主題曲だったから、何となく覚えてる。いや、映画かもしれない。どっちだっていいけどさ。いやいや『SAY YES』と混同しているかも。どっちだっていいけどさ。何だか段々ヤケクソになってきてる。

 
小泉今日子『優しい雨』

https://youtu.be/LbtXSHfjdNA
小泉今日子『優しい雨』You Tubeリンク先

 
ホント、降りしきる雨に全てを流して
しまえたらいいけどーと、声を大にして歌ったよ。
これもドラマの主題曲だったような気がする。
キョンキョンは幾つになっても可愛いけど、若い頃は死ぬほど可愛いかった。声もキュートだしさ。

 
竜童組『新宿レイニーナイト』

https://youtu.be/iTmML2ToEcc
竜童組『新宿レイニーナイト』You Tubeリンク先

 
東京に住んでいた頃は、よく新宿で遊んでた。あの猥雑な街の感じが懐かしく思い返される。雨の日は、濡れてる舗道に極彩色のネオンの光が滲んでて、まるで映画『ブレードランナー』の世界だった。
この曲は宇崎竜童と所ジョージがやっていた『夜はタマたま男だけ!!』という番組のテーマ曲だった。この番組、とても好きだったから最終回は何だか悲しかったなあ。最終回のゲストは根津甚八と桃井かおりだったのもよく憶えている。そして、ラストは4人ではしゃいでる映像がスローモーションで流れ、そのバックにこの曲が流れてのエンディングだった。

 
チューリップ『虹とスニーカーの頃』

https://youtu.be/bjLm005smqE
チューリップ『虹とスニーカーの頃』You Tubeリンク先

 
自分にとっては、ものすごく甘酸っぱい曲。
夏の雨は寂しくはないけれど、せつない。

 
徳永英明『レイニーブルー』

https://youtu.be/rubfOw6X3d0
徳永英明『レイニーブルー』You Tubeリンク先

 
歌詞のように外は冷たい雨が振り続けている。
何かどんどん、せつなくなってきたなあ…。
基本的に雨の歌って暗いし、ブルーになりがちだわさ。

 
小椋佳『六月の雨』

https://youtu.be/w6M_x9pKnzg
小椋佳『六月の雨』You Tubeリンク先

 
しまった…。切なさを越えて、めちゃめちゃダークに暗いわ。
何で、こないな歌を思い出したんじゃろ…。
ちょっと気分を変えて、明るめの曲を探そう。

 
さだまさし『雨やどり』

https://youtu.be/lrfoEaiKgZA
さだまさし『雨やどり』You Tubeリンク先

 
のほほん系の癒し曲だ。
それにしても古い曲ばかりだ。もう少し新しめのを探そう。

 
大沢誉志幸『そして僕は途方に暮れる』

https://youtu.be/vWC2XYBZYVs
大沢誉志幸『そして僕は途方に暮れる』You Tubeリンク先

 
そして僕は途方に暮れる…。サビを口ずさみながらも雨は止まんし、何か本当に途方に暮れてきた。
にしても、これはもはや雨の歌とは言えないよね(笑)
よくよく考えれば、まだ雨が降ってねえし。
ネタ切れも近いかな?
余談だが、この曲はカップヌードルのCMで流れてて、大ヒットしたんだよね。今にして思えば、何でカップヌードルのCMに使われたんだろ❓オシャレ路線を目指したのか❓

 
福山雅治『Squall』

https://youtu.be/lYE5qWSq3XQ
福山雅治『Squall』You Tubeリンク先

 
私、恋をしている。哀しいくらい。もう隠せないこの切なさは。叶えて欲しい夏の憧れ等々、歌詞の断片が心に突き刺さる。
時々、虫捕りは恋みたいなもんだと思う。特に憧憬する存在に対しては、その感情は殆んど恋と同じだ。
とはいえ、あんまし雨って感じの曲じゃないなあ。あっ、そっか。これって、雨は上がってる曲だわさ。マジ、雨上がれよなー。

 
X JAPAN『ENDLESS RAIN』

https://youtu.be/QhOFg_3RV5Q
X JAPAN『ENDLESS RAIN』You Tubeリンク先

 
サビしか歌えない。
エンドレスレインなんて、縁起でもないよなあ。
このまま降り続けられたら、マジ困る( ;∀;)

 
Mr.children『雨のち晴』

https://youtu.be/lx-ZnX3iMtY
Mr.Children『雨のち晴れ』You Tubeリンク先

 
雨のち晴れ…か。
ちょっとだけ元気出たけどー。歌詞の今日の雨は諦めた感はヨロシクないよねぇ…。今晩のうちに何とかせなアカン。夜が明ける前に雨はやむと信じよう。

 
米津玄師『雨の街路に夜光蟲』

https://youtu.be/nBj0FqfUCv8
米津玄師『雨の街路に夜光蟲』You Tubeリンク先

 
タイトルには雨とあるけど、あまり雨が主題になっている曲じゃないな。段々、引き出しが無くなってきた。
はたと思う。2000年代に入ると、雨を題材とした名曲がグンと少なくなるよね。否、ヒット曲が少ない。色んな有名アーティストたちが雨の曲を作ってる筈だけど、誰もが知っているような曲って、あんまし浮かばない。

 
童謡『あめふり』

https://youtu.be/O6xq62tP9HY
童謡『あめふり』You Tubeリンク先

 
雨雨降れ降れ、母さんがー、蛇の目でお迎え嬉しいなーときて、ぴっちぴっちちゃっぷちゃっぷ らんらんらんなのだ。
これこそが誰しもが知ってる名曲だよな。にしても、だいぶネタ切れになってきたな(笑)
でも、明るい曲だから気分は少しは上がったよ。

二番を歌おうと思ったが、全然出てけえへん。
意外と、みんなも知らんのとちゃうかあ?
仕方がないので、三回続けて歌ってやった。

 
ドラマ挿入曲『子連れ狼のテーマ』

しとしとぴっちゃん しとぴっちゃん
しと~ぴ~っちゃんという秀逸なフレーズが耳に残る。で、哀しく冷たい雨すだれという言葉も情感があって良い。

https://youtu.be/fE7SspUv0Yc
橋幸夫『子連れ狼』You Tubeリンク先

 
ついに、こんなもんまで引っ張ってきただすか(笑)。
昔の時代劇『子連れ狼』のテーマ曲みたいなヤツだよね。
そろそろ、ホンマにネタ切れじゃ(`ロ´;)

ならば、洋楽なんてどうだ❓

 
BJ・トーマス『雨にぬれても』

https://youtu.be/mFvqHri0SZI
BJトーマス『雨にぬれても』You Tubeリンク先

 
Raindrops are falling on my head…から入るこの曲は、タイトルは知らなくとも誰もが聞いたことがあるだろう。
もちろん英詞は完璧に歌えてなくて、一部は鼻歌。
軽快なメロディーで歌詞の内容も前向きだから、ちょっと気持ちが上がる。
これって、たしか名画『明日に向かって撃て』で流れてた曲だよな。ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードのコンビは最高でした。

 
ジーン・ケリー『雨に唄えば』

https://youtu.be/edvN1DfRTZI
ジーンケリー『雨に唄えば』You Tubeリンク先

 
🎵ジャ、スィーギンザレイン(just singing in the rain)、バン、バーン(`Д´)ノ❗❗
ジャ、スィーギンザレイン、バン、バーン(
`Д´)ノ❗❗
あかん…。これは傘で物をバンバンにドツクという癖があったわ。それで何本の傘をブッ壊してきたことか。

この曲は名作ミュージカル『雨に唄えば』の名シーンで歌われる曲として有名だね。軽やかな曲調で歌詞も前向きだから、コレも気分が少し跳ねる。おーし、徐々に元気出てきたぞー。

 
欧陽菲菲『雨の御堂筋』

https://youtu.be/3jrBS9DLXoI
欧陽菲菲『雨の御堂筋』You Tubeリンク先

 
アップテンポで、何か乗ってきたねぇー\(^o^)/
気持ちもピッタリだし、フルコーラスで歌ってもうたわ。
よし、もっと気持ち作っていこ。
で、ノリノリで替え歌『雨の白骨温泉』まで歌ってやったワイ。著作権の関係で、歌詞は載せれないけどさ。
このままいくと、この心悩ます夜の雨の中、出ていくしかあるまい。そして貴方はいずこと、ムラサキの影を求めて一人ぼっちで泣きながら探し回るのさ。

 
THE MODS『激しい雨が』

https://youtu.be/kJ_voZJNfFA
THE MODS『激しい雨が』You Tubeリンク先

 
(ノ`Д´)ノおりゃー、気合いも入ってキタ━━(゚∀゚)━━❗❗
たとえ激しい雨が俺を洗おうとも、激しいビートが俺を奮い立たせる。そう、何もかもが変わり始める筈だ。

 
RCサクセション『雨上がりの夜空に』

https://youtu.be/yqPzwSEu8_0
RCサクセション『雨上がりの夜空に』You Tubeリンク先

 
いよいよ、この雨にやられてアタマいかれちまったぜ。フルコーラスで歌ってからの替え歌じゃい(*`Д´)ノ❗❗。フルパワーで『雨上がりの森たちに』を熱唱。勿論、著作権の関係で歌詞は載せれないけどさ。

(^3^♪よーし、元気出たぞー。
雨よ、どうぞ勝手に降ってくれ。もはや雨が降ろうが降るまいが関係ない。こんな夜だからってムラサキが採れないなんて許せない。こんな夜だからってネットが振れないなんて耐えられない。
目を閉じる。雨上がりの星降る夜空に、輝くパープルバンドが閃めく。そして同時に、白き羽裏を見せて悠然と羽ばたく姿を想い浮かべる。よっしゃ、エンジンはギンギンだぜ。いつものようにキメて、シバキ倒そうぜ。

半ばヤケクソで外を覗いて見る。
いつのまにか雨は上がっているようだった。
時刻は既に10時過ぎになっている。長かったが、一人歌謡祭のおかげで随分と時間がつぶせたよ。
にしても、オデって、やってる事がバカだなあ( ̄∇ ̄*)ゞ

準備をして外に出る。
すっかり夜は更けている。闇は濃く、静か過ぎるくらいに静かだ。そして不気味だ。武者震いする。

実際には、完全に雨は止んでいるわけではなくて、細かい霧雨が降っていた。
気にならないではないが、この先また雨が強くなるとも限らない。少ないチャンスでもヤルっきゃないのだ。それに少し雨が降っているくらいの方が、かえって蛾の活動が活性化するとも聞いたことがある。前向きに捉えよう。全ての舞台装置は、劇的フィナーレのお膳立てだと思えばいい。

さあ、ここからが本番だ。全身に力をみなぎらせ、頭の中で、プリンスの『パープルレイン』を流しながら、ゆっくりと戦地へと赴く。

 
https://youtu.be/DHRyPjXeKZ4
プリンス『パープルレイン』You Tubeリンク先

 
辺りから雨上がりの靄が煙のように立ち昇っている。それが脳内で紫色のスモークの幻影と化す。まるで自分がステージに向かうミュージシャンのように思えてくる。全てがスローモーションになる。

今回は車ではないので、昨年みたいにトラップを2ヶ所に分けて仕掛けると云うワケにはいかない。去年採れた場所付近に一点集中、其処に全てを賭けることにした。

鬱憤を晴らすかのように、\(◎o◎)/ウキャキャキャー。ここぞとばかりに、霧吹で狂ったように糖蜜を撒き散らしまくる。
さあ準備万端、ステージは整った。あとは飛んで来ることを祈るのみ。そして、再び己に向かって気合を注入する。去年みたいに、もし採れなければ虫捕りなんか一生やめたらぁー宣言まではしないものの、このままおめおめと帰るワケにはいかない。結果を出して、気持ち良く今期の最終戦を終えようではないか。

暫くして、何かカトカラらしきものが来た。
瞬時に心を戦闘モードにシフトする。

(# ̄З ̄)ケッ、オオシロかよ。
と思うが、真剣に採りにいく。大事な場面でミスしないためにも、ウォーミングアップは必要だろう。

でも、結構敏感で、近づく前に逃げられた。
(  ̄皿 ̄)クソ忌々しい。機嫌の悪いオッチャンをナメんなよ。

(ノ ̄皿 ̄)ノうりゃ❗、暫くして戻って来たところを空中で鮮やかにシバいてやったワイ。
(・o・)あっ、でもこの採集方法では、特殊過ぎて練習にはならんわ。

 
【オオシロシタバ】

 
ボロッボロッやないけー(´д`|||)
去年よか2週間も早い来訪なのに、それよりもボロとは、どうゆうこっちゃねん❓
まあいい。何も来んよりかはマシだ。帝王の露払いとでも考えよう。

その後もポツポツとオオシロが飛んで来た。しかしボロばっか。闇夜で絶叫しそうになる心を必死に抱き止める。

時間は無情にも刻一刻と削り取られてゆく。
夜気が冷たくなってきた。時計に目をやる。針は、いつの間にか午前0時を指し示していた。
何も考えるな。集中力を保て。五感を研ぎ澄ませよ。心が病めば、採れるものも採れなくなる。

午前1時。
顔が懊悩で歪んできているのが自分でも解る。それはきっと、醜い有様でベッタリと顔面に貼り付いているに違いない。他人様(ひとさま)には、とても見せられないような顔だろう。

午前1時半過ぎ。
もう何度、期待を膨らませて懐中電灯で樹幹を照らしただろう。時間の感覚さえも失われつつある。半分諦めの体(てい)で、惰性で何気に遠くから木を照らす。

 
(⑉⊙ȏ⊙)いるっ‼️‼️

 
距離約20m。闇を切り取る光の束の先に、微かに青い下翅が見えた。
慌てて懐中電灯のスイッチを一旦切る。去年は懐中電灯の光で照らしただけで逃げたことを思い出したのだ。奴の敏感さは半端ねぇと心に刻まれているのだ。
そのまま後ずさりして、急いでテントにデカ毒瓶を取りにゆく。この日のために、巨大なムラサキシタバを確実に取り込もうと用意したものだ。けど、ポケットに入らないのでテントに置いていたのである。
その刹那にも既に逃げているかもしれないと、気が気でない。半ば錯乱状態で毒瓶を引っ掴む。
そしてヘッドライトを点け、赤外線モードにする。赤外線ならば女王を刺激しないと考えたのだ。大丈夫、冷静だ。

慎重を期して、懐中電灯を直接当てないように、遠めから中心をズラして照らす。

(◠‿・)—☆よっしゃ、逃げてない。まだいる❗
網を構え、そろりそろりと距離を詰めてゆく。

距離15m。
❤️❤️❤️ドクン、ドクン。

距離10m。
❤️❤️❤️❤️❤️❤️❤️ドクン、ドクン、ドクン。

距離10mを切った。鼓動が急に高鳴る。
💕💕💕💕💕💕💕💕💕💕💕ドクン、ドクン、ドクン、ドクン……。

距離5m。
💕💕💕💕💕💕💕💕💕💕💕💕💕💕💕💕💕
😱ヤッベー、ドキドキが止まらんくなる❗

距離2m。
去年採った木と全く同じ木だ。しかも止まっている位置も全く同じの地上から1.5mくらいだ。一瞬、デジャヴ(既視感)の反転なのか、現実なのかが解らなくなる。パラレルワールド❓時空間が歪んでいるのかもしれない。
何が何だかワカンなくなってきて、さらに心臓を脈打つスピードが倍加する。
💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💕💕💕💕💕💕💕💕
リズムはバクバクのデスメタルやんけ。口から心臓が迫り出しそうだ。

(@_@)どうする⁉️、(ノ ̄皿 ̄)ノどうする⁉️
このまま木の幹を💥バチコーン叩くか❓
それとも網を下から持っていき、下をコツンと小さく叩いて、驚いて飛んだ瞬間に一閃するか迷った。
にしても、赤外線ライトは暗い。ちょっとでも視界から外れれば、闇に紛れて見失うのは必定だ。今日は小太郎くんが後ろでフォローしくれているワケではない。そう、サポートは無いのだ。頼れるのは己の力のみだ。
もしもハズしたら…。最悪のシナリオを想像して、恐怖が心の襞(ひだ)を切れ味鋭く擦過する。
しかし、迷っているヒマはない。逡巡している間に逃げられでもしたら、その場で首カッ切って死ぬしかない。
ならば死なばもろとも。意を決して懐中電灯をいったん下に向けて点けてから、静かに口に咥えた。
いなや一歩、二歩、軽やかなステップで前へと踏み出した。と同時に、止まっている女王のすぐ下を網先で突っついた。

🤯(⑉⊙ȏ⊙)飛んだっ‼️
 
リアクション、早っ(@_@)❗❗
だが、体は瞬時に反応していた。

嵐陰流奥義 秘技💜紫返し💥‼️

(ノ ̄皿 ̄)ノ だありゃあ~❗

👹鬼神の如く中空を下から斜め左上へと切り裂く。
 
振り切り、すかさず網先を捻る。
(゜o゜;手応えは…。
あったような気がする。
でも、本当のところはわからない。
もしかしたら、中を見れば木の葉か何かに化けているやもしれぬ。こんな山奥の、しかも深夜の丑三つ時だ。この世の者ならざる闇の支配者に幻覚を見させられているかもしれない。

恐る恐る、中を見る。

 
(ノ≧∇≦)ノ しゃあー‼️‼️

 
そこには、紛れもない紫の女王がいた。
(☆▽☆)カッケー‼️ 全身の血が逆流する。
(´ω`)やったぜ。何とか首の皮一枚で仕留められた…。

しかし、毒瓶にブチ込むまでは、まだ勝負の行方はワカラナイ。
😱ヒッ、😱ヒッ、😱ヒッ、お願いだから暴れないでね、暴れちゃダメよー。心が焦りでワヤクチャになる中、素早く網の中に毒瓶をブッ込み、電光石火で中に追い込む。

毒が回って動きが止まったところで、念のためにアンモニアを注射を射ち、トドメをさす。これで、突然蘇生することもないだろう。

 

 
この目を見張る大きさ。そして上品な前翅の柄とわずかに覗く紫の帯。幻ではない。どう見てもムラサキシタバ様だ。

安堵して、手のひらに乗せる。

 

 
デカイ。ずっしり感がオオシロなんかとはケタ違いだ。

 

 
この神々しき青紫色。ぴゃあ〜\(☆▽☆)/
俺は今、星 飛雄馬ばりに猛烈に感動している༼;´༎ຶ ۝ ༎ຶ༽

一応、フラッシュを焚いても撮る。

 

 
w(°o°)wあちゃー。
素早く毒瓶に放り込んで〆た筈なのに、背中が落ち武者ハゲちょろけになっとるぅー(༎ຶ ෴ ༎ຶ)

 

 
(-_-;)やっちまったな…。
思いきし高速で網を振ったせいなのかなあ❓
まっ、いっか…。
気を取り直して、裏面写真も撮っとこっと。

 

 
あっ、この腹先の形からすると、♂だね。
去年のは♀だったから、これで一応雌雄が揃ったことになる。何とか最低限の結果は残せたってワケだ。地獄の底から這い戻ってこれたことに心底ホッとする。

女王を三角紙に収めて、腕時計に目をやる。
針は午前1時45分を指していた。

長く厳しい戦いは終わり、ここに円は閉じた。
立ち上がると、再び頭の中で「パープルレイン」のイントロが鳴り始めた。

 
                         つづく

 
実を云うと、ラストには更に以下のような文章が続いていた。

「勝利者だけに許される満ち足りた感じで、煙草に火を点ける。
大きく煙を吸い込み、天に向かってゆっくりと吐き出す。
その煙が風にふわりと揺れ、すうーっと流されていった。
煙が去った夜空には、いつしか星が瞬いていた。
今日は間違いなく晴れるだろうと思った。」

でも、記事のアップ直前に削った。
何かカッコつけ過ぎがシツコイかなと思ったのだ。

この続きの話も少し書いておこう。
その後、なぜだかピタリとカトカラたちの飛来は止まり、オオシロさえも飛んで来なくなった。
と云うワケで、午前2時半には諦めてテントに戻り、熊の存在も忘れて即💤爆睡した。

一応、この時に採集した個体の展翅画像を添付しておきます。

 

 
カトカラ2年生の終わりともなると、流石に上達してますなあ。
これから先は、この翅と触角のバランスでいこうと思う。

 朝方、またえっちらおっちら白骨温泉まで歩いて下り、念願の白濁温泉にも入ることができた。

 
(白骨温泉公共野天風呂)

 
3年間も閉鎖されていたそうだが、この春に漸く再開されたという。

 


 
 
一番乗りだったから、ワシの独り占め。
湯舟から見る風景は、朝の光にキラキラしてた。
りら〜っくす。(´ω`)はあ〜、堪りまへんなあ。
何か知らんが「登別カルルス、ブチ込んでようー。」と言ってしまう。昔はよく、入浴剤の「登別カルルス」をブチ込んで風呂に入ってたのだ。で、毎回湯に浸かる度にそれ言ってた。謂わば、当時の俺的リラックスワードだったのだ。

 

 
ここの温泉玉子がバカみたいに旨かった。
食べろと言われれば、10個くらいは食える自信がある。あー、もう1回食いてぇー。

でもって、その日のうちに帰阪した。へとへとだったと云うのもあるが、露天風呂に入って何か完結した感があったからだ。それに明後日に用事があったしさ。
でもあろうことか、その用事が帰ったらドタキャンになった。
石塚(勝己)さんからのライトトラップのお誘いをお断りしてまで帰ったのに、ガックリ😔やったわ。迷わずに、石塚さんとこに行っときゃ良かったよ。お誘いのライトトラップの日まで、この日を含めて2日あったワケだから、もっとムラサキも採れただろうし、エゾベニを狙うこともできた筈だ。
まあ、今さら後悔したところで、どうにもならないんだけどさ。

 
追伸
今回は問題作にして、野心作でんなあ(笑)。
雨の歌のオンパレードだなんて、虫関係のブログでは有り得ない展開だ。でも、それでいいのでござる。別に虫の事だけを書きたいから文章を書いているワケではないのだ。
参考までに言っとくと、最初のタイトルは『深山幽谷 爆裂💥雨の歌謡祭』だった。さすがにそれだとテーマからハズレてるし、フザけ過ぎだと思って今のタイトルに変えた。

えーと、次回の解説編にて、いよいよこの連載も完結です。
解説編は調べ事が多いし、毎回のように謎にカラめ取られて迷宮を彷徨うことになるから、何だか気が重いなあ。
まあ、最終回なんだから、何とか頑張って書くけどさ。

〈追伸の追伸〉
この文章を書いた約二年後の2022年、問題作がホントに問題作になってしまった。サーバーから歌詞が著作権法に触れるとの事でクレームがきた。

「該当記事における楽曲の歌詞箇所と解釈等の関係において、歌詞に対して、歌詞の説明・要約・紹介としての記述では主従関係の要件を満たしていない為、著作権法第32条1項の規定による利用には該当せず、現状のままではご利用いただく事ができません。
また、冒頭に歌詞を全文掲載する利用は、同規定の「公正な慣行、正当な範囲内」に収まるものではありません。歌詞の一部であっても、該当楽曲と判断できるものに関してはご利用いただくことができません。」

難解な文章で、頭の悪いアッシにはチンプンカンプンだが、自分なりに解釈して、肝の部分だけを残して大幅に歌詞部分を削った。全体の文章のバランスはズタズタになったけど、致し方あるまい。ゆえに気になる人は歌詞とメロディーを探して、頭の中で雰囲気を復元して下さいね。
 と一度は書いたものの、それでもクレームが来そうだ。なので、いっその事、歌詞を全部削ってリンクを貼り付けてやった。ついでに大幅加筆もした。おかげで、かなり時間が掛かったが、コッチの方が返って全体的には良くなったかも。むしろクレームに感謝かもしんないね。

          2023.1.3 極寒の公園にて

(追伸の追伸の追伸)
それでも許可が出なくて、四日後に更に書き直した。
まっ、お陰で更に文章は良くなったけどね。コレで通る事を切に祈ろう。
 

喋くりまくりイガ十郎

   
1週間ちょっと前(12月7日)、日本鱗翅学会の東海支部総会に招待されて、不肖ワタクシなんぞが講演しに名古屋へ行って参りやした。
お題は今年7月に新発見されたカトカラ、マホロバキシタバ(註1)についてである。

 
【マホロバキシタバ Catocala naganoi mahoroba】
(2019.7月 奈良市)

 
しか~し、いい加減ちゃらんぽらん男のイガちゃんである。なあ~んも考えずにノープランで大阪からノコノコやって来た。

駅から講演会場に行く道すがら、流石にヤバいと思って話す内容を真面目に考え始めた。
それにしても、名城大学って坂が多すぎ。どうも物事を考えるのに坂道というのは向いていないようだ。考えがまとまらぬうちに会場に着いてしまう。

で、受付でチャラける。
受付が大学院生の可愛い女の子たちだったから、ソッコー笑いを取りにいってしまう。往年の悪いクセが出た。オジサンになってもアホはアホのまんまなんである。

で、調子に乗って話し込む。
一人の女の子は苔とハダニの研究をしているそうだ。
こんな若い娘がハダニとな。世の中、ワカンねえよなあ。

でも今は油を売っている場合ではニャーい(ФωФ)
「早く喋る内容を考えなさいよ、イガ十郎くん。アンタ、名古屋は鬼門やろ。恥かくで。」
心の中で自分で自分に軽くツッコミを入れて外に出る。大学構内は全面禁煙なので、外で煙草を吸いながら考えようと思ったのだ。時間はまだ30分ある。何とかなるだろう。っていうか何とかせんとマズイ。

パンフを改めて見る。
わおっ(゜ロ゜;ノ)ノ、特別講演になっとるやないけー。ちょっと背中がムズ痒い。

 

 
講演名は『マホロバキシタバ発見を振り返って』。
自分で考えたのではない。お任せしたら、そうなっていた。まあ題名としては特に問題はないし、解りやすい題名だ。つまりは、それに従って喋ればいいってだけの事だよね。問題は、最後にどうもっともらしい事を言って壇上を降りるかだ。纏まりのない話を延々して終われば、ノータリンと思われかねない。アホなクセに賢く思われたいのだ。
坂道を下りながら考える。登り坂は物事を考えるのには向いていないが、下りながら考えるのには向いている。何となく考えが纏まってきた。
取り敢えず、アタマの入りとケツの〆だけを決めた。真ん中部分は思い付くままをテキトーに箇条書きでメモっておいた。アタマとケツだけシッカリやっとけば、体裁は何とか保てるだろう。
けど、こんなんで1時間も喋れんのか❓と一瞬思った。講演なんて一度もした事がないのである。だったら、ちゃんと準備しとけよなー、俺。
けんど、アッシは昔から根拠の無い自信に満ちた男なのさ。お気楽なんくるないさで、マイナス思考を打ち消す。幼少の頃より何でもぶっつけ本番で生きてきたもんね。
お題について喋ることが無くなって、早く終わりそうになったら、途中から全然関係ない別の話にすり替えれちまえ。ウケさえすれば、聴衆も文句は無かろう。

会場に戻ると司会の若い子が打ち合わせに来た。
『内容は何をどう話される予定ですか?』
『ワカラン。ノープランでぇーす\(^o^)/。その場で適当に考えて喋りまーす。』
フザけた男である。でも、気がつけば口がそう勝手に動いていた。どうせ、お喋り糞野郎の犬の漫才師なのだ。

考えが今イチ纏まらぬうちに、いよいよ犬の漫才師劇場開幕。
流石に、やや緊張する。マイクを持って人前で喋るだなんて、あんまし有ることじゃないもん。そのまま歌でも歌って帰ったろかしらという考えがチラついたが、そんな事は幾らおバカなアチキでも、ようやりまへん。ここは真面目に話すしかない。肚を据える。

喋り出したはいいが、口の中が直ぐにパッサパッサになる。噛みまくりやがな。
こりゃマジイと思って早々と壇上を降り、持参のお茶を取ってきて飲む。( ̄∇ ̄*)ゞカッコわるぅ~。
でもそれで少し落ち着けた。あとは秋田さんの悪口をちょいちょい挟みつつ笑いを取りながらのマシンガントーク。予定の1時間を越える1時間15分も喋ってしまった。犬の漫才師の面目躍如である。

あっ、秋田さん、尊敬している旨もちゃんと話して、フォローも入れときましたから怒らないでネ(^。^)

 

 
画像はアチキが講演している姿ではないが、会場はこんな感じでありんした。

 
因みに自分のあとの講演は以下のようなものでした。

◆鈴木英文「ラオス10年間の蝶類調査の結果」

◆高橋真弓「蝶はなぜそこに棲むのか」の謎を追って

◆大岡啓二「ベトナム北部クックホン国立公園の蝶 2019」

自分もラオスには三度ほど行っているので、鈴木氏の講演は興味深かった。講演後、ビャッコイナズマのポイントも教えてもらったし、🎵ラッキョンキョンキョン。有意義だった。それだけでも来た意味はある。引きだけは強いから他の稀種には会えるのだが、ビャッコだけがナゼだか会えないのだ。

高橋真弓さんには御迷惑をお掛けした。
自分が15分も超過して喋ったので、講演時間を短くさせてしまった。この場を借りて謝らせて戴きます。先生、申し訳ありませんでしたm(__)m
因みに、せんせは女の子みたいな名前だが、男性のお爺ちゃまです。

高橋真弓さんといえば、蝶界の重鎮である。蝶屋で名前を知らない人はいないだろう。
数々の著書もあり、自分も名著と名高い『チョウ-富士川から日本列島へ』を小学生の時に読んだことがある。大人になって虫採りを再開した時にも読み直した。そんな尊敬する先生の時間を、結果的に削るだなんて恐縮しきりである。
その偉業の中でも特筆されるのは、従来1種類と考えられてきたキマダラヒカゲには実を云うと2種類が混じっていると看破したことだろう。
山地にいるものと平地にいるものとでは羽の模様が微妙に違うが、学者はキマダラヒカゲの単なる山地型と平地型だと片付けてきた。ところがどっこい、高橋先生はこの山地型と平地型を別種だと見抜き、生態や幼虫形態などを精査し、1970年に両種が別種であると証明されたのである。そして、それまで山地型とされてきたものを「ヤマキマダラヒカゲ」、平地型を「サトキマダラヒカゲ」と名付けられた。
この「日本産キマダラヒカゲ属 Neope に属する二つの種について」という論文は、全国の蝶愛好家に衝撃を与えたという。
そりゃそうだ。その年代だと海外を含めてまだまだ新種探しに熱かった時代だ。全く見た目が違う未知なる新種を追い求める虫屋が多かっただろう。そんな中にあって、先生はごく普通種のキマダラヒカゲに疑問を持ち、隠された事実を暴き出してその常識を覆してみせた。そして、それが新種として記載されたワケだから皆がビックリ仰天、灯台もと暗しの目から鱗だったようだ。

 
【サトキマダラヒカゲ】
(2018.5.奈良県 信貴山)

 
なんか、このサトキマって白くねぇかあ?…。
写真撮るのに必死で、その時は気づかんかった。スマホで写真を撮るには相当近寄らなくてはいけないので、大変なのだ。今さらだが、写真なんか撮らずに採れば良かったよ。
でもサトキマなんて、自分的チョウのヒエラルキーの中においては最下層なのだ。普段はフル無視で、ウザい存在でしかない。なので展翅画像もない。ゆえに図鑑からパクらせて戴く。

 
【サトキマダラヒカゲ(里黄斑日陰)】
(出展 以下3点共『日本産蝶類標準図鑑』)

 
【ヤマキマダラヒカゲ(山黄斑日陰)】

 
【両種の見分け方】

 
今さらながらに思うけど、見た目が殆んど同じやないけー。バリエーション豊富な同種にしか見えない。
こんなもん、よくぞ別種と見抜いたなあと思う。
高橋せんせは、やっぱ偉いや。

こう云う誰もが見過ごしてきた「当たり前」を覆したという意味では、マホロバキシタバも蛾愛好家たちに同じような衝撃を与えたかもしれない。
蛾の中でも特に人気が高く、愛好者も多いカトカラから今時まさか新種が見つかり、しかも離島や深山幽谷ではなくて、奈良市内で見つかるだなんて誰も想像していなかったのだ。
けんどオラって蛾屋じゃないから、その衝撃度を周りから言われても今イチ実感は湧かなかったんだけどね。
此処は大物のオオトラカミキリやギガンティアもいるカミキリムシ屋の聖地の一つだし、近年ではゴミムシダマシの聖地と言ってもいいだろう。またルリセンチコガネなど糞虫を求めて訪れる人も多い場所だ。蝶屋だって昔はルーミスシジミやオオウラギンヒョウモンを求めて足を運んだ人は相当数いたと思う。そんな虫屋が数多く入ってきた場所にも拘わらず、長い間発見されてこなかったのである。まあ、そこそこ知識のある虫屋なら驚くわな。絶対に、網膜には映った虫屋は何人もいた筈だからね。つまりは、見えてはいるのに見逃してきたのだ。
だから自分の講演の最後には「少しでも変だなと思ったものは採った方がいいっすよ。どんな小さな事でも疑問に思ったことは自分で調べましょう。予断や常識に囚われない事が大事です。そしたら、意外と皆さんの周りでも新たな発見はあるかもしれませんよ。」云々的な事を言って締め括った。

何かさあ、偶然にもさあ、その先駆者である高橋真弓先生を前にしてこんなセリフを喋れてる自分って、超幸せ者だなと思ったよ。会場でコレを堂々と言える特権を有するのは先生とワシだけだと思うと、強い縁を感じたね。コレって、嘘みたいに偶然過ぎやしねえか❓
神様はきっとテキトー過ぎるワシをテキトーに話させないように高橋先生を遣わしたに違いない。今ではそう思ってる。

 
と、カッコつけて、ここで句切りよく「おしまい」としたいところだが、話はもう少し、いやもうそこそこ続く。

そういえば先生は、台湾のキマダラヒカゲについても調べておられ、従来タイワンキマダラヒカゲとワタナベキマダラヒカゲに分けられていたものを1種とし、ワタナベは単なる季節型(註2)だとも看破したんだよね。今度は1種が2種になるのではなく、2種が1種になるというキマダラヒカゲ逆ヴァージョンだね。

 
【タイワンキマダラヒカゲ Neope bremeri 】
(2016.7月 台湾 南投県仁愛郷 alt.1900)

 
う~ん、上翅を上げすぎてんなあ…。
触角は完璧なのにね。まだまだですわ。

 
(裏面)
(2016.7.12 台湾南投県仁愛郷)

 
キマダラヒカゲは日本では何処にでもいる普通種だが、台湾のタイワンキマダラヒカゲは少ない種なのではなかろうか❓
台湾には6月と7月の2度行った事があるが、この蝶にはたったの1回しか出会えていないのだ。その時に訪れた各ポイントの標高は200~3000mに亘るから、この見立ては間違いないと思うんだよね。それぞれ1週間以上は居たしさ。この2回を繋ぎ合わせると、6月中旬から7月下旬になる。発生期としてはド真ん中だと思うんだよね。
台湾にはキマダラヒカゲの仲間は他に明らかに違う別種が3種いるし、ヒカゲチョウの仲間やジャノメチョウ類の種類数は日本よりも遥かに多い。ゆえに食草の競合相手が多すぎるのかなあ…。テキトーに勘で言ってるから間違ってるかもしんないけどさ。まあ何れにせよ、食草を日本ほど独占は出来ないと思う。

珍しい種だと思ったら、途端にカッコ良く見えてくるから不思議だ。いや、違うな。採って見た瞬間には、直ぐに日本のキマダラヒカゲよかカッケーと思った記憶があるぞ。だから、これは後々の印象操作ではないと思う。タイワンキマダラヒカゲは結構カッコいいのだ。

 
最後に講演された大岡啓二氏は全く知らない人かと思いきや、冒頭の自己紹介でアレ?っと思った。面識は無いけれど、お名前は存じている方だったのだ。
まだまだ蝶屋駆け出しだった頃、大岡氏が『みやくに通信』に書かれた「熱帯降雨林における蝶採集法(註3)」と題された文章は何度も読んで参考にさせて戴いたし、ブログ『ジャングルに蝶を求めて!』の海外採集の情報から随分とヒントも得た。特にバンカナオオイナズマとダンフォルディーチャイロフタオの探索に際しては、初動のヒントを貰えたという記憶がある。
それにも増して大岡氏といえば、特異なキマダラルリツバメの発見者として名の通った人だという印象がある。種名は何だったっけ❓ 確か奥さんの名前が付いてたんだよね。

調べてみたら、やっぱそうだった。

 
【Spindasis masaeae マサエキマダラルリツバメ】
(出展『清邁極楽蜻蛉』)

 
(出展『ジャングルに蝶を求めて!』)

  
キマダラルリツバメの仲間の中では異端。一見、異常型に見えるくらいに変わっている。
木村勇之助氏は、図鑑『タイ国の蝶』で、コレに「キッカイキマダラルリツバメ」なる奇っ怪な和名をつけている。まあ、それくらい変なキマルリって事だね。
 
大岡氏によって、1995年の3月にタイ北部チェンマイで2個体が初採集され、2000年4月に関 康夫氏により新種として記載されたものだ。
コレも考えてみれば、きっと目から鱗の発見だったんだろうと思う。まだ蝶採りしてない頃の発見だから、あくまでも想像だけど。

ドイステープ(Doi suthep)はチェンマイの市街地から、かなり近い。中心部からバイクで30分くらいで山の麓まで行ける。上に有名な寺があって観光客も多いからアクセスもいいし、道も良い。そんなワケだから、日本人を含めてかなりの虫屋が訪れている。なのに長年見つかってこなかったのだ。そう云う意味ではマホロバと発見のシチュエーションが似ているかもしれない。つまり、まさかまさかの新発見なのである。つーことは、この会場にはアチキと高橋先生以外に、もう一人同じ立ち位置を経験されてた人がいたんだね。だとしたら、スゴい確率だよなあ…。
大岡さんには怒られるかもしんないけど、神様は更なる一人をアッシの助けに召喚してたんだね。( ̄∇ ̄*)ゞエヘ、どんだけ自分に都合のええ解釈やねん(笑)。

閉会後、真っ直ぐ帰るかどうか迷ったが、結局飲み会にも参加した。
6、7年前だろうか、ヒサマツミドリシジミを京都・杉峠に採りに行った折りに会った若い青年とも再会できた。彼は当時京都在住だったが、その後に名古屋へ居を移したという。とは言っても、彼に言われるまで全然忘れてた。出来事は何とか憶えてはいたものの、顔はのっぺらぼう、おぼろげでしか記憶にない。青年よ、ゴメンね。でも、そんなのはキミに限った事ではない。所詮はニワトリ並みの脳ミソしかない男なのだ。人の事は大概忘れてる。こう云うケースは過去にも多々あるのだ。「どこそこで会いましたよね。」とは、よく言われる。お喋り犬の漫才師の変な人だから、向こうの記憶には残りやすいのかなあ…。

そうだ。あの時の帰りは結構スゴい人に送ってもらったんだよね。
ヒサマツの食樹の発見に関わり、また『楽しい昆虫採集案内』という伝説の採集バイブルの「京都北山」の項を執筆された方に車で出町柳まで送ってもらったのだった。そういえば、オオイチモンジの交尾写真を野外で初めて且つ完璧に撮ったのも自分だと仰って、証拠写真も見せて戴いたっけ…。

飲み会は楽しかった。
知っている人は誰もいないので、名古屋はアウェーなんだけど、全然そういうのは得意というか、物怖じしない。必要以上の気配りは無駄だと思っているのだ。言いたいこと言いまくって、楽しく過ごさせて戴いた。優しき人たちで、良かったー(^o^)

根がミーハーなだけに、最後には高橋先生ともツーショット写真を撮らせて戴いた。

 

 
先生って、柔和で良いお顔をされてるなあ…。
御年80歳だっけ…。まだまだ日本の蝶界には必要な方だから、長生きされてほしいものだ。

 

 
(|| ゜Д゜)ゲッ、それに引きかえアチキの顔が丸い。パンパンやないけー。思ってた以上に太ってんなあ…。
知らんうちに、見た目まで嘗てない程に太っとるわ。今年は夏場でも体重があまり落ちず、ずっと例年よりも5㎏前後オーバーで推移してきてたんだよなあ…。ベスト体重からだと、7㎏オーバーだもんね。
来年は東南アジアに行って、また過酷な旅でもしない限りは戻らんかもなあ…。
そんなことはどうでもよろし。
とにかく東海地区の虫屋の皆様、本当に有り難う御座いました。d=(^o^)=bとても楽しかったです。

                    おしまい

 
追伸
マホロバキシタバ関連の記事は、他に以前に書いた『月刊むし10月号が我が家にやってきた、ヤァ❗ヤァ❗ヤァ❗』と云う文章があります。又この文章以後には、2019’カトカラ2年生のシリーズ連載に2篇書きました。2篇と言っても、マホロバキシタバ発見記『真秀ろばの夏』と題して書いたものの前・後編だけどさ。現時点ではマホロバキシタバについて最も詳しく書かれた文章です。言い切っちゃうけどね(笑)。

 
(註1)マホロバキシタバ
日本においては、32種目のカトカラ。発見の経緯や生態等については『月刊むし』の10月号に詳しく載っているので、興味のある方はソチラを読まれたし。

(註2)単なる季節型
従来ワタナベキマダラヒカゲと呼ばれていたものは、単なるタイワンキマダラヒカゲの春型、もしくは秋冬型なんだそうな。

(註3)「熱帯降雨林における蝶採集法」
宮国(充義)さんが発行してた蝶のミニコミ誌『みやくに通信』の2012年のNo.195号とNo.196号に前・後編に分けて掲載された。
熱帯ジャングルでの蝶の採集法について、疑問に答える形式で基礎から応用まで細かく書かれている。東南アジアに蝶採りに行く人は必見です。

 

続・アミメキシタバ

 
   『網目男爵物語』

 
網目男爵は孤独だった。
妻には早くに先立たれていて、子供もいなかった。
芦屋の邸宅はいつもひっそりとしており、邸内には男爵と執事の近本しかいなかった。

男爵が再婚しなかったのには理由がある。自分の容貌に自信が無かったのだ。本来の容貌は悪い方ではない、と自分でも思う。中には『端正な顔なのに、勿体ないねぇ。』と言ってくれる人もいる。
しかし、その端正な顔の上に、生まれながらの網目模様の痣(あざ)がある。それが今では男爵にとって大いなる劣等感になっている。
妻と出会った頃は、まだ良かった。人間は見た目ではなく、中身だと信じていたからだ。ゆえに臆することなく自然に振る舞えていた。妻はたぶん、そういうところを気に入ってくれたのだと思う。
しかし、妻が亡くなった後、お見合いの機会があり、その時に相手の女性から『何だか蛇の鱗みたい。』と言われて、心が瞬間的に瓦解した。そこで初めて、改めて自分の容貌の気味悪さに気づいてしまったのだった。
それ以来、男爵は努めて人と極力接触しないように生きてきた。自分の脆弱なガラスのようなコンプレックスに触れられたくはなかったからだ。

そんな男爵にも、唯一の慰み事があった。
それが蛾を蒐集する事だった。皆がチヤホヤする蝶には全く興味は無かった。華やかなものに対する厭世感の投影なのかもしれないと男爵は思う。しかし、同時に男爵は世間に忌み嫌われる蛾の中に、この上もない美を見い出していた。そこには、蝶にはない複雑で変化に富んだ隠微な魅力が在った。控えめでいて、ゆるぎのない美しさを感じたのだった。
ふと、男爵は思う。そういえば妻もそういう人だったのかもしれない。

そんな蛾の中でも、特に男爵のお気に入りのグループがあった。ヤガ科 シタバガ亜科のカトカラ(Catocala属)と呼ばれる蛾たちだった。
シタバガと言うように下羽に特徴があり、普段は上翅に隠された美しい下翅が、時にハッとするような鮮やかさでもって男爵を魅了するのである。黄色、オレンジ、朱色、ピンク、紫、白、紺といった豪華絢爛とも言える色が闇の絵巻のように明滅するのだ。
だから毎年夏になると、度々その美を求めて執事の近本を従えて夜の山へと訪れる。

或る夏の日の出来事だった…。
その日は体調が悪いと言う近本を伴わず、男爵は一人で山に入った。

荘厳な夕焼けが色を失った直後だった。何気に振り返ると、若い女性が立っていた。夕暮れの柔らかい風に、辛子色のワンピースの裾が静かに揺れている。
年齢は20代後半くらいだろうか、ほっそりとしており、どこか嫋(たお)やかな佇まいがある。残光に照らされた横顔は憂いを帯びて美しい。
男爵は一瞬、その姿に魅入られた。しかし、すぐに訝(いぶか)る心が芽生えた。こんな時刻のこんな場所に、なぜ若い女性がいるのだろう❓ 夕焼けを見に来た❓ まさかこんな場所に一人で❓ どうにも違和感が有り過ぎる。
男爵は不安を打ち消すかのように、彼女に声をかけようとした…。

と、ここまで書いて、何やってんだ俺❓と思う。
全ては酔っ払いの為せるわざだ。何となく試しに網目男爵の物語を書き始めたら、気がつけば勝手に筆が動いていた。妄想まで出だしとあらば、病院に行った方がいいかもしれない。オラも網目男爵と同様に、心に深い疵(きず)を負っているのやもしれぬ。

気を取り直して、本来書くべきことに戻ろう。
象は草原に帰り、オランウータンは深い森に帰る。誰しもが本来あるべき場所に戻らなければならない。

 
2019年 7月17日。
奈良でマホロバキシタバの分布調査をしている折りに、アミメキシタバも採れた。
マホロバにしては小さいし、何か変だなと思ってよく見たら、アミメだった。ここにはアミメなんていないと思っていたから、ちょっと驚いた。
7月10日にマホロバを発見して以来、毎日のように此処を訪れている。なのに見ないから、いないと思っていたのだ。それに奈良市にいるなんて聞いたことがない。知っている一番近い産地は生駒山系南部の八尾市。そのすぐ東側の矢田丘陵では、去年足繁く通ったのにも拘わらず一度も見ていない。生駒山地北部の四條畷周辺の山でも見ていない。八尾市に連なる山地に分布しないのならば、そこからそう離れていない奈良でもいないだろうと考えるのが自然な流れでもあった。

 

 
この日は2頭採れたから偶産ではなさそうだ。鮮度が良いことからも此処で発生したものだろう。遠方からの飛来ではないと言い切ってもいい。鮮度もあるし、遠くに移動するならば、もっと遅い時期だろう。

にしても、何か変だ。発生時期としては遅くないか❓ 八尾市では7月上旬辺りから発生しているという。八尾のポイントは詳しくは知らないが、大体の予測はついている。因みに麓にある恩智神社で標高約100m、奈良で採れた所が約110mだ。さして標高は変わらないのにナゼに発生期がそんなにズレるの❓
いや、待てよ。今年は蝶の発生が1週間以上遅れているとも聞く、ならば蛾の発生も遅れているのかもしれない。
まあ1週間程度なら物凄く発生が遅いと云うワケではないから、取り立てて言う程のことではないかもしれない。とにかくマホロバと比べて1週間遅い発生のお陰で助かったと云う思いはある。
もしもマホロバを発見した日にアミメも同時に採れていたなら、気づくのはもっと遅れたかもしれない。例えば、もし最初に採ったものがアミメならば、他も全部アミメだと思い込んでいたに違いない。
否、そんなワケないな。展翅したら同じだ。同じように変だと気づいてた筈。むしろ両者が並んでたら、もっと気づき易いやね。そこに「If」は殆んど無いと言っていい。アミメが居ようが居まいが見つけてたわ。

 
2019年 7月20日。
この日も奈良市で、いくつか採れた。
これで偶産ではないことは決定的と言えよう。アミメはここで間違いなく発生している。そう断言してもいい。

 

 
ポイントは前とは違う場所だ。つまり、この山系には広範囲に居る可能性が高いと推測される。

では、ここではアミメの幼虫は何を食樹としているのだろう❓
アミメキシタバの幼虫の食樹の項を見ると、大概のものには「アラカシ、クヌギなど」、もしくは「アラカシ、クヌギ、アベマキなど」と書いてある。「など」が無いのは岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』の「これまで幼虫はアラカシ及びクヌギで得られている」という記述くらいだ。
この「など」って、何なのだ❓ その「など」については何ら言及されてはいない。何を指して「など」なんぞと書かれてあるのだ❓ ワカラン。それってみんな、孫引きなんじゃありゃしませんか(# ̄З ̄)

この地域の植物相は、中央に古い照葉樹林があり、それを囲むようにしてクヌギ、コナラなどの落葉広葉樹を主体とした雑木林が広がっている。あっ、ワシも早々と「など」を使ってしまったなりよ。コレは説明しなくとも解るとは思うけど、特定の樹種のことを言いたいワケではなくて、単に落葉広葉樹が多い植物相だって事を示したいだけだす。

調べたら、この地域には一応、以下のようなブナ科植物があった。

アラカシ、イチイガシ、ウラジロガシ、ツクバネガシ、シリブカガシ、アカガシ、ツブラジイ、スダジイ、シラカシ、クヌギ、コナラ、アベマキ。
他にツイッターにマテバシイというのもあったが、見たことも聞いたこともないし、疑わしいところがある。どちらにせよ、有ったとしても少ないだろうから、メインの食樹としては除外してもよいだろう。

有望じゃないかと思ったウバメガシは、小太郎くんを始め、色んな人に尋ねたみたが、此処には自生する木は殆んど無いそうだ。あるとしたら、民家の生け垣なんかに使われているものくらいとの事。と云うことは、ウバメガシの可能性は除外せざるおえない。

スダジイは多く見られるが、こちらは元々海岸沿いに自生するもので、おそらく植栽されたものだろう。利用している可能性は無いことはないが、元々の食樹ではなかろう。

シラカシは近年街路樹等を中心に植栽される事が多く、家の近所でもよく見かける。だが、これも本来は関東周辺から東に自生するもので、元々西の地域には少ないものだ。除外しよう。

シリブカガシは北部に纏まって自生しており、ムラサキツバメの食樹にもなっている。しかし、他ではそんなにあるようには思えない。可能性はあるが、印象的には無いと思う。シリブカガシもあまりポピュラーな木じゃない。

ツブラジイ、ウラジロガシ、アカガシ、ツクバネガシは結構自生しているそうだ。これも利用している可能性はあるかもしれない。しかし、何れもカトカラの食樹として記録された例が無い。予断は禁物だが、主たる食樹ではないだろう。

残るはイチイガシ、アラカシ、クヌギ、コナラである。
イチイガシは利用している可能性はある。しかし、この木は、そうどこにでもある木ではない。アミメキシタバの他の分布域で見られることは少ないだろう。ゆえにこれも主食樹からは除外してもよさそうだ。

コナラは何処にでもあるが、今までアミメの食樹としては記録されていない。何処にでもあると云うことは、コナラで幼虫を探した人はそれなりにいた筈だ。にも拘わらず発見されていないと云うことは、外してもいいだろう。

逆にアベマキはあまり見ない。利用しているのだろうが、コレまた主要な食樹ではないとみる。

残ったのは二つ。アラカシとクヌギだ。
どちらも地域内には有り、食樹としても記録されてもいる。だが、クヌギは意外と少ない。コナラの方が多いように思う。
たぶん、クヌギは二次的利用で、多くはアラカシを利用しているものと思われる。
何か印象でばっか言ってて、あまり科学的な検証とは言えまいが、おそらく合っているのではないかと思う。

でもなあ…、クヌギは北海道には自生していないから、アミメは分布していないとは知っているけれども、アラカシの分布はどうなんだろ❓
しゃあない、調べてみっか。

Wikipediaによると、クヌギは日本では岩手県・山形県以南の各地に広く分布し、アラカシの北限は宮城-石川とあった。
アミメの分布図を見ると、大体それと合致する。

 
(出典『世界のカトカラ』)

 
(出典『日本のCatocala』)

 
より踏み込んで言えば、アラカシとアミメの分布の方が、より重なっているように思える。
勝手に解釈すると、やはり幼虫はアラカシを主食樹としており、二次的にクヌギを利用しているのではないかと思う。

あっ、思い出した。
そういえば、今年はナマリキシタバを探しに兵庫県の武田尾渓谷に行った時もアミメを採ったなあ…。あそこも全体的にアラカシが多いもんなあ。よし、アラカシで決まりだーいd=(^o^)=b

でもアラカシって、何処にでもあるんだよなあ…。
その割りにはアミメの分布は局所的とされる。
( ´△`)うわ~、何かメンドクセー。また、変なところに首突っ込んじゃったよ。
よし、こうしよう。アミメはアラカシが沢山ある所には大概いる。でも単に探してる人が少ないだけで見つかっていないだけだ。そういう事にしちまおう。
ガ好きはチョウ好きと比べて圧倒的に少ない。人気者のカトカラと言えども、愛好者の数はたかが知れている。分布調査が進んどらんのだろう。

シャンシャンで、これでクローズできたかと思った。
けんど、この後で西尾規孝氏の『日本のCatocala』の中に、こんな記述を見つけてしまった。

「(食樹は)アラカシ、クヌギ、アベマキ、ウバメガシ、コナラなどでコナラ属全般を食餌植物としているとみられる」

(ФωФ)ニャーゴー、また1からやり直しだ。
ウバメガシも食樹としているというならば、やはりオイラの予想は的中だね。それは嬉しい。しかし、コナラというのが気にかかる。また、ややこしいのが出て来ましたなあ…。
クソッ、コナラの分布も確認しまんがな。

コナラは北海道、本州、四国、九州、朝鮮半島、中国に分布するとある。北海道にも有るんだね。と云うことは、もしアミメの主要食樹なら、もっと北に分布を拡大しててもおかしくない筈だ。いや、アミメは南方系の種だから無理か…。けど、分布を拡大してるとかって何かに書いてなかったっけ?
しかし、コナラは無いな。コナラが主要食樹ならば、もっと普通種であってもいい筈だ。そうゆう事にしておこう。

それはさておき、何でこの『日本のCatocala』にだけウバメガシとコナラが食樹に入れられてんだ❓
他の図鑑等の文献には出てこんぞ。この図鑑は自費出版で刷数が少なく、値段も8万円くらいと高価だから読んだ人があまりいなくて孫引きされてないだけ❓
にしても、ウバメガシ、コナラというのは、どこからの情報なのだろう?著者御自身で確認されたのだろうか?またそれは自然状態での事なのか、飼育実験での事なのか、どっちなのだ?気になるところではある。

それはそうと、やっぱりここでも「……、ウバメガシ、コナラなど」と「など」が出てくる。「など」の中身は何やねん❓他にもあるのか❓アカガシか❓、それともウラジロガシかあ❓

えーい(ノ-_-)ノ~┻━┻、アカガシもウラジロガシも分布を調べたろやないけー❗
とはいえ、だいたいの想像はつく。アカガシはゼフィルス(蝶=シジミチョウの1グループ)のキリシマミドリシジミ、ウラジロガシはヒサマツミドリシジミの主要な食樹だ。
ヒサマツの分布が神奈川県丹沢山系と新潟県の糸魚川辺りが東限とか北限ではなかったかと思う。キリシマは太平洋側が伊豆半島以西(丹沢かも)、北限はどこだっけ?新潟とか石川なんかにはいなかった筈だ。となると滋賀県か?いや、島根県の隠岐の島❓何かどうでもよくなってきたぞ。とにかくキリシマもヒサマツも本州の西側が分布の中心だ。
Wikipediaによれば、アカガシの北限は本州の宮城県・新潟県以西、ウラジロガシは本州の宮城県・新潟県以南とあった。同じってことだ。蝶よか、もっと北まで自生しているんだね。ヒサマツ、キリシマの分布とは微妙に異なり、ピッタリ一致はしないってワケだな。むしろアミメの分布と重なっているような気がする。
(◎-◎;)何か頭がこんがらがってきたぞ。ちょっと頭の中を整理しよう。
ヒサマツもキリシマミドリも奈良市、六甲山地には分布していない。でも、どちらの地域にもアカガシ、ウラジロガシ共に自生しているようだ。つまり、ヒサマツもキリシマも分布は局所的であり、食樹以外の条件も整わないと棲息できない特殊な蝶と言えよう。だから、この際ヒサマツもキリシマも頭から除外しよう。こんなもんと絡めてしまうから、ややこしくなるのだ。
と言いつつ、ここでまた蝶を持ってくる。しかも特殊な蝶であるルーミスシジミだ。奈良のこの森は、絶滅してしまって久しいが、かつてはルーミスの多産地であった。ルーミスの食樹といえば、イチイガシとウラジロガシである。しかし、どちらも自生する場所が少ない。ゆえにルーミスは分布が極限されると言われている。けれど、此処には両者とも沢山自生する(因みに、ルーミスがアカガシに産卵した例やアラカシより幼虫が得られたという報告もある)。
ここから強引に結論に持ってゆく。つまり、アミメキシタバは此処ではイチイガシもウラジロガシも食樹として利用している。アカガシ、アラカシ、クヌギ、コナラも食っている。六甲のものは、アラカシ、クヌギ、コナラ、ウバメガシ、アカガシを食樹として利用している。それで、もういいじゃないか。

そういう観点で冷静に見ると、この『日本のCatocala』の中の「など」は、少し他の「など」とは使い方のニュアンスが違うような気がする。後に続く言葉「コナラ属全般を食餌植物としているとみられる」と関連づけた「など」であれば理解できる。ようするに、コナラ属なら何でも食うという前提のもとでの「など」ならば、文章として辻褄が合ってると解釈できるって事だね。

それを確認するために、もう一度文章を読み直すと、その後ろに更なる文言が付け加えられている事に気づいた。
そこには「本来の食樹は成虫の分布から、カシ類、アベマキとみられる。」と続けられていたのだ。
Σ(T▽T;)ワキャー、マジ最悪の展開になってきた。
実をいうと、この食樹のくだり、あとがきも含めた全体の文章の最後に書いている。ここを書き終えさえすれば、フイニッシュだったのだ。サクッと終わらせるつもりが、何なんだ❓、この泥濘(ぬかるみ)ノタ打ち具合は❓

カシ類ってのは、あまりにザックリだし、ここへきてアベマキとは驚きだよ。
カシ類の何なんすか❓特定して下さいよ。
アベマキ❓何でクヌギではなくてアベマキなのだ❓
(# ̄З ̄)もー、アベマキについても調べなくてはならぬよ。

日本、中国、台湾、朝鮮半島に多く自生している。日本では、関東地方から四国・九州の山地に自生し、西日本では雑木林に普通にみられる。

普通に見られる❓
そうだっけ?関西ではクヌギの方が多いイメージがあるんだけど…。気になるので更に調べてゆくと、驚くべき事実が解ってきた。
関西ではアベマキと云う言葉はあまり聞かないし、名前さえ知らない人が多いと思うけど、アベマキは関西ではクヌギよりも多く自生している木らしい。ネットの素人っぽい方の情報だから鵜呑みは禁物だけどさ。

クヌギとアベマキはとても似ていて、混同されやすい。たぶん小さい時から、周りの大人にカブトムシが集まる木はクヌギだと教えられてきたので、それらしきものは全部クヌギだと脳が判断するように出来てしまっているのだろう。確かに自分の頭の中では、クヌギもアベマキもコナラもゴッチャになっている。区別せよと言われれば、一応蝶屋だから区別できるが、樹液が出てる木なら何だっていいと云う見方しかいていないのだ。これは自分が蝶の飼育をしないからだろう。木を何かの食樹としては、あまり見ていないのだ。だから特別な場合を除き、普段は似たような木を厳密的に区別する必要性を感じていないのである。

一応、クヌギとアベマキの違いを書いておこう。
ネットに『Quercusのブログ』という優れたブログがあったので、その解説をお借りしよう。

①クヌギの葉裏は無毛で緑色。アベマキは星状毛が密生し、白っぽい。また、アベマキの葉はクヌギよりもやや幅広である。

②クヌギの樹皮は灰褐色で、指で押しても硬い。アベマキの樹皮はクヌギよりも明るい灰色で、コルク層が発達し、指で押すと弾力がある。

③どんぐりはクヌギは球形、アベマキは楕円形であることが多い。アベマキのどんぐりはクヌギよりも色が濃く、殻斗の鱗片は長い。どんぐりはクヌギの方が大きい。

解り易い説明だね。

自分的には、アベマキはクヌギよりも樹皮がゴツゴツしている事。葉がクヌギは細長く、アベマキはそれに比べて幅広な事。アベマキはクヌギよりも樹高が高く、大木が多いって感じで区別している。

このサイトには、他にも重要なことが書いてあった。

「クヌギ、アベマキの国内での分布は以下の通り。
クヌギ:岩手県・山形県以南~屋久島・種子島。沖縄県まで植栽。(クヌギは薪炭材を得る目的で植栽されたものも多く、自然分布ははっきりしない)
アベマキ:山形県・長野県・静岡県以西(紀伊半島を除く)~九州。
両者はすみわけをしており、東日本にクヌギ、静岡県(大井川流域以西)・石川県より西がアベマキの林になる。
大阪府周辺の山ではアベマキはある場所とない場所があるという。
また、紀伊半島にアベマキは自生しないらしい。
このように、アベマキは特異的な分布をしている。」

大阪府周辺の山ではアベマキはある場所とない場所というのは、よく解る。だから、あまりアベマキのイメージが強くないのかもしれない。知らなかったが、紀伊半島にアベマキは自生しないと云うのもアベマキの印象を薄くしているのだろう。
アミメキシタバって、紀伊半島にはバリバリいるよなあ…。って事は、紀伊半島のアミメの食樹は別に有るって事だね。やはり一番利用されているのはアラカシ、もしくはウバメガシなんでねーの。

続きを読もう。
「また、クヌギは朝鮮半島からの移入種であり、日本にあるものは全て植栽されたものという説もある。
中国では標高600~1500mにアベマキ、標高900~2200mにクヌギが生育しているという。
私の推測の域だが、元々日本にはクヌギはなく、暖地性のアベマキが分布しない地域(静岡県・石川県以東)に薪炭材を得る目的でクヌギを植林し、現在のようなすみわけになったのかもしれない。」

クヌギは昔の里山では薪や炭として利用価値が大きく、植栽が進んだとは知っていたが、完全な移入種とする説があるとは知らなかった。
もしそうならば、クヌギはアミメの本来の食樹ではないと云う事になる。となると、西尾氏のアベマキを本来の食樹の1つとする言は慧眼かもしれない。
しかし、やはり生息環境からみれば、基本的な食樹は常緑カシ類だろう。アラカシを中心に常緑カシ類、特にコナラ属ならば何でも食うのだろう。で、二次的に落葉性のコナラ属も利用している。そうゆう事にしておこう。もう、ウンザリなのだ(ノ-_-)ノ~┻━┻
でも、そうなると、カシワ、ナラガシワ、ミズナラも利用しているの❓
(-“”-;)もう、やめとこ。

 
2019年 7月21日。
去年に引き続き、クロシオキシタバ狙いで六甲方面へ行った。

夕方前、木に静止しているアミメを見つけてゲット。

 

 
静止位置は目線のやや上、上下逆さまてはなく、頭を上向きにして止まっていた。
カトカラたちは、昼には頭を下にして逆さまに止まっているが、夜は普通に頭を上にして止まっている。
では、いつ逆さま止まりから上向き止まりになるのだろう❓ そもそも、何故に昼間は逆さまに止まるのだ❓しかも昼間に驚いて飛んだ場合、上向きに着地して一旦静止。暫くしてから、また逆さまになるという。ワザワザもう1回逆さまになると云うことは、そこには何らかの意味があるということだ。
でも、考えても意味も必要性も全くワカラーン。
この逆さまになる理由については、誰も何処にも言及していないと思う。誰か、解りやすく説明してくれんかのぅー( ̄З ̄)

夜になって、シッチャカメッチャカになったけど、それなりの数のアミメを確保できた。その辺の顛末は、前回の『網目男爵』、前々回の『絶叫、発狂、六甲山中闇物語』に詳しく書いたので、ソチラを読んで下され。

何度も使っている写真だが、この日採ったものの一部を貼付しておく。

 
【Catocala hyperconnexa アミメキシタバ♂】 

 
【同♀】

 
【同裏面】

 
それなりに採った筈なのに、画像があまり無い。
おそらく面倒臭いので、展翅はしていても写真には撮っていないのだろう。やっぱりアミメキシタバに対しての愛が少ないのかなあ❓

 
                    おしまい

 
追伸
いやはや、冒頭部がまさかの小説風の入りになろうとは自分でも予想外の展開だった。
網目男爵とカトカラを引っ付けた話だなんて、メチャメチャ過ぎて最初から無理だと思っていた。しかし、アルコールの力、恐るべしである。突然、何かが降りてきて、一気に書いた。
翌日に、誤字脱字「てにをは」句読点は一部修正したものの、あとは全文ほぼその時のままである。
また何かが降りてきてくれたら、続きを書けるかもしれない。まあ、どうせ泥酔酒バカ男と化すだけで、そんな都合よくいく事なんて有り得ないと思うけど(笑)。

今回は、かなり短くなると思ってた。それゆえの網目男爵の冒頭文の発想も出てきた。相当短いツマンナイ回になると思ったから、潜在意識の中に何かしらアクセントをつけようという考えがあったのかもしれない。駄文製造家にも、少しでも面白くしようと云うそれなりの気づかいがあるのだ。結局、最後に食樹のところで躓いて、又しても長文になっちゃったけどね。

次回は、やっと書きたかったカトカラについて書ける。謂わば、ソレとアレの2種類についての採集記が書きたくて、この『2018’カトカラ元年』のシリーズを始めたのである。
でも、思った以上に書くのは大変で、始めた事を後悔している。ソレとアレの事だけを書いときゃよかったのに、下手に完璧主義的なところがあって、前後時系列の中での、その文章であって欲しい。そういう無意識下の願望があったのかもしれない。謂わば、ソレとアレを書くために今まで駄文を重ねて来たのだ。
(-“”-;)しまった…。自分でハードルを上げてどうする。
けど、次回取り上げるカトカラも一年半近く前の話だもんなあ…。結構色んなことを忘れてるかもしんない。気合いだけ空回りして、ドツボの回になったりしてさ。
クソッ、いっそ全文小説風、しかも純文学風で押し通してやろうかしら( ̄∇ ̄*)

 
《参考文献》
・『世界のカトカラ』石塚勝己 月刊むし
・『日本のCatocala』西尾規孝 自費出版
・『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』岸田泰則 学研
・『みんなで作る日本産蛾類図鑑』インターネット
・『ギャラリーカトカラ全集』インターネット 
・『兵庫県カトカラ図鑑』阪上洸多・徳平拓朗・松尾隆人 きべりはむし
・『Quercusのブログ』インターネット