続・クロシオキシタバ

 
     クロシオキシタバ続篇

『絶叫、発狂、六甲山中闇物語』

 

2019年 7月21日

既に7月初めに六甲で発生していることは聞いていた。しかし、マホロバキシタバ(註1)の分布調査をしていたので、中々クロシオを採りに行けなかった。で、漸く出動できたのがこの日だった。

去年と同じコースをゆく。

 

  
生憎(あいにく)と天気は悪い。

 

 
淡路島も雲に隠れかけている。
とはいえ、蝶採りじゃないから晴天である必要性はない。むしろ曇天の方が有り難いくらいだ。気温が下がってる分、身体的には楽なのだ。
蛾がターゲットなんで、ベースは夜だしね。太陽は関係ない。月の満ち欠けの方が重要なのだ。月が隠れていた方が蛾採りには良いとされている。でも外灯廻りやライトトラップをするワケではないので、それすら今日は関係ない。樹液採集の優れているところは、あまり天候に左右されないところだ。晴れていようが雲っていまいが、カトカラは腹が減ったら餌を求めて動く。むしろ霧雨や小雨程度の雨が降っている方が活性化されたりもするという意見さえある。

天候条件云々以上に、ここは去年に二度訪れているから気持ち的にはメチャメチャ楽だ。現地を知っているか知らないかの差は大きい。ポイントへのルート、所要時間、周囲の環境等々を知っていれば、効率よく動けるし、トラブルが起こる可能性も少なくなるのだ。ましてや夜だ。これが精神的にどれだけ余裕を与えてくれるか、その利点は計り知れない。

しかし、全く心配がないワケではない。昨年、木から樹液が出ていたからといって、今年もその木から樹液が出ているとは限らないからだ。
そもそも、木が樹液を出しているということは、健常な状態ではない。謂わば、体液ダダ漏れの怪我とか病気をしているみたいなものなのだ。だから一年も経てば、自らの治癒力でお治しあそばせているケースも多々ある。
それに樹液が出ていたのはウバメガシだ。ウバメガシから樹液が出るなんて、それまで聞いたことがなかった。一部の常緑カシ類からも樹液が出ることは知ってはいたが、あまり一般的ではない。出ている木も少ないし、その流量も少ないと云う印象だ。世間的に昆虫の集まる樹液の出る木といえば、一番はクヌギ。あとはコナラ、アベマキ、ヤナギ類辺りだ。他にハルニレからもよく樹液が出るようだが、ハルニレは北方系なので関西では極めて少ないようである。
とにかく目指すポイントは、謂わばウバメガシの純林だ。もしもあの木から樹液が出ていなければ、周囲にはクヌギもコナラも殆んど無いから苦戦すること必至なのだ。

雲に隠れてゆく淡路島を見ながら、ふと気づく。
そういえば登ってくる途中の最初のウバメガシ林で、今日はクロシオを一つも見かけなかった。去年は夕方前にその林を通過する時には、二度とも数頭ずつ見たのにアレレ~( ̄O ̄)❓ ちょっと嫌な予感がした。

歩き始めて15分くらいだろうか、木に止まっているアミメキシタバを偶然に見つけた。ほぼ木と同化していた。木遁の術だ。コイツら、まるで忍者だよね。よほど注意して見ていないと見破れない。

でも見破られたら終わりだ。オジサンに拐われる。

 

 
下向きではなく、上向きに止まっていた。
カトカラは昼間は逆さま、つまり下向きに止まっているというが、夜は上向きに止まっている。じゃあ、何時頃に向きを変えるのだろう❓ 因みに採ったのは午後6時25分だった。この日の日没時刻は7時10分。日はまだ沈んでいない。
ずっと疑問だったんだけど、ナゼそもそも昼間は下向きに止まっているんだろう❓何かメリットでもあるのかね❓ 上向きに止まろうが下向きに止まろうが、さして見た目に変わりがあるとは思えない。理由が全くワカラン。それについて言及されている書物も見たことがない。何でやねん❓誰か答えてくんろ。

 
【裏面】

 
次第に尾根道は細まってゆく。いわゆる痩せ尾根ってヤツだ。そして、両側は切れ落ちた急峻な斜面になっている。特に右側の神戸方面は斜度がキツい((画像は去年のものです)。

 

 
この辺りは源平合戦(治承・寿永の乱)の古戦場として知られ、一ノ谷の合戦があったところだ。一ノ谷の合戦といえば、源義経による奇襲作戦「鵯越の坂落し(逆落し)」が有名である。義経はここから海に向かって(神戸方面)馬で駆け下り、平家方は想像だにしていなかった背後の急峻な山からの奇襲攻撃に総崩れになったというアレだね。

やがて、去年樹液がバンバンに出ていた木が見えてきた。
(-“”-;)……。
遠目に見るも、カナブンもスズメバチもおらん…。夕方遅いから、お家に帰っちゃったことを祈ろう。

木の前までやって来た。
ゲロゲロゲロー\(◎o◎)/、不安的中やんけー。
樹液が出ている様子なし。見事に傷は癒えて、健康な状態に戻っているではないか。(|| ゜Д゜)ヤッベー。

まあ、仕方あるまい。
そんな事もあろうかと、それを見越して今年は糖蜜トラップを用意しているのだー\(^o^)/。イガちゃん、かしこーい。フフフ( ̄∇ ̄)、カトカラ採りも二年目ともなれば、それなりに進化しているのだ。まあまあ、天才をナメなよである。

 

 
日が暮れてゆく。
それを合図に糖蜜を木の幹に吹き付ける。
( ・∀・)/占==3しゅっしゅらシュッシュッシュー。

しかし、辺りが真っ暗になっても何も飛んで来ない。
寄って来たのは、気色の悪いゲジゲジと👿邪悪なムカデだけだ。おぞましい奴らめ、この世から滅びてしまえばいいのに。

楽勝気分だったのに、おいおいである。焦る💦。
他のカトカラには絶大なる効力があったのに何で❓
そうとなれば、飛んでるものをシバキ倒すしかない。
しぇー、キビシ━━ィッΣ(ノд<)
でもグズってても、何も始まらない。やるっきゃない。ヘッドライトを点け、網を持って歩き始める。

歩き始めて直ぐに沢山飛んでるところを見つけた。
15mほど離れた山の斜面に大木が生えており、その周辺でカトカラたちが乱舞していた。おそらく、木からは樹液が出ているのだろう。
しかし、ここは前述したように鵯越と呼ばれる急峻な斜面だ。あそこまで行くのは至難に思える。降りようと思えば降りれなくはないだろうが、戻ってこれない。なぜなら上部は道からスパッと切れ落ち、崖状になっているからだ。攀じ登るには、かなり厳しそうなのだ。もし降りて、ここから登れないとなれば、登れそうなところを探して彷徨(さまよ)う事になる。こんな急斜面を、しかも暗闇でトラバースし続けるなんて地獄だ。下手したら遭難だ。リスクが高過ぎる。

仕方なしに糖蜜を撒いた場所に戻ったら、糖蜜トラップにクロシオくんが来ていた。
(^-^)効力あるじゃん、あるじゃーん。
一応、上翅の色を確認する。去年やらかしたから、その辺は抜かりがない。昨年はクロシオをパタラ、いわゆる普通キシタバ(C.patala)だと思って無視してしまったのだ。お陰で、再度採り直しに来る破目になったのだった。カトカラ1年生だったとはいえ、情けない。
けど、慣れないうちは誰でも見分けがつかなくて当たり前なんじゃなかろうか。特に野外では難しい。それくらいこのキシタバグループは似た者同士だらけなのだ。

よし、青っぽい。緑色ではないからパタラではない。間違いなくクロシオだ。
慎重に近づき、大胆にネットイン。最初の1頭をゲットする。

 

 
でも、大胆にブン殴るように網を払ったので、中で大暴れ。たちまち背中がハゲちょろけの落武者になってしまった。一瞬、去年の落武者の恐怖を思い出し、半笑いになる。去年は落武者の亡霊が怖くて、Σ( ̄ロ ̄lll)ビビりまくってたんだよなあ。

裏面の写真も撮っておこう。

 

 
お目々、( ☆∀☆)ピッカリンコである。
カトカラは夜に懐中電灯の光を当てると、目が赤っぽく光る。それで比較的簡単に見つけることが出来る。昼間の見つけ採りよか、こっちの方が余程見つけ易いと思う。
それにしても、考えてみれば夜に目が光るだなんて怖いよなあ。これって知ってるから「(^o^)vラッキー、めっけー」だと思うけど、そんなの知らない一般ピーポーからしたら、鬼火とか得体の知れない魑魅魍魎に見えるやもしれぬ。それって、ビビるよねぇ。発狂もんだと思うよ。

けれど糖蜜に来る個体は少ない。仕方なしに空中シバキと糖蜜採りとの二本立てでいくことにした。

一時間が経った。しかし、数が伸びない。去年みたく楽勝で次々とゲットというワケにはいかない。やはり樹液が出ている木がないと厳しい。こうなったら、もう少し探す範囲を広げて、樹液が出ている木を見つけよう。

幸いな事に、少し歩いただけでカトカラの乱舞する木が見つかった。しかも斜面ではない。道沿いの木だ。木は大木ではなくて、結構細い。ウバメガシは大木しか樹液が出ないと思ってだけど、そうでもないんだね。
懐中電灯で照らしていくと、吸汁している者の他にもベタベタと何頭もが木に貼り付いている。おそらく1回目の食事が終わり、休憩しているのだろう。あっ、アミメキシタバも結構いる。
フハハハ…Ψ( ̄∇ ̄)Ψ、ここから楽勝街道爆進じゃあ❗

しかし、問題も有りだった。樹液が出ている箇所が高いのである。4、5mくらいはある。そうなると毒瓶をカポッと被せるという方法が使えないから、網で採るしかない。しかも高いから結局網を振り回す事になる。それに道が細いから両側から木が迫ってきていて、枝も一部覆い被さっている。つまり狭い空間で網を振らざるおえないと云う事だ。狭い場所での長竿のコントロールは難しい。枝に引っ掛けたりするから、自由に振り回せないのだ。
しかも、そんなだから、当然採れてもカトカラたちは網の中で暴れ倒す。特にクロシオが激しく暴れる。で、採っても採っても落武者になりよる。おまけに位置が高いゆえ、真下からだとブラインドになりがちで距離感も掴みにくい。また木が細いと云うのもよろしくない。幹を💥バチコーン叩く手法も使えないからだ。
そういうワケだから、百発百中というワケにはいかない。採り逃しもそこそこあるのだ。いつもよか打率がかなり低い。思うようにいかなくて、段々(=`ェ´=)イライラしてくる。

そんな中、捕らえたやや禿げのクロシオを三角紙に入れた直後だった。右耳の辺りに違和感を感じた。で、耳を触るとガザガサ、ゴワゴワしたものに触れた。
あれっ❓、かさぶた❓ でも耳を怪我なんかした覚えはないよね。一拍おいて、今度は右頬に違和感を感じた。反射的に触れた瞬間だった。
💥バッチ━━━━ン❗❗
Σ( ̄皿 ̄;;痛っ、てぇ━━━━━━━━━ ❗❗❗
赤々と熾(おこ)った火箸をジュッと当てられたような鋭い激痛が走り、その場で絶叫した。
(@_@;)何だ❗❓、(◎-◎;)何だ❗❓、何が起こっているのだ❓ワケわかんなくて頭の中がパニクる。
まさか落武者の呪い❓Σ(T▽T;) 発狂しそうになる。と同時にズキズキとヒリヒリの両方混じったよな痛みで、皮膚がカッと熱くなる。
でもさぁー、それってオカシかないか❓オラ、平家の末裔だぞ。家の家紋も、その証てある蝶だしさあ。守られこそすれ、呪われる筋合いはない。( ;∀;)ポロポロ。御先祖さま、酷いよ。

落武者の亡霊を頭から追いやる。そんなもん居てたまるものか。冷静に考えよう。これは何かに刺されたか咬まれとしか考えられない。でも、じゃあいったい何者なのだ❓
夜だし、スズメバチとは考えにくい。それにスズメバチに刺された時の感覚とは少し違うような気がする。蛇❓ヘビなら、いくらなんでもわかるだろう。
他にヤバイ奴っていたっけ❓そこで漸く思い至る。さっきの木にそういえばムカデがいたことを思い出した。クロシオを網に入れた時に一緒に混入した可能性はある。そうとしか考えられない。でも、どうやって体に這い登ってきたのだ❓あんなもの、這い登ってきたら気づく筈だ。厚いコートを着ているワケでなし、Tシャツ1枚なんだから感じない筈はなかろう。
と、ここで更に思い至った。そういえばチビッコのまだ子供みたいなムカデもいたなあ…。きっとアレに咬まれたに違いない。
ムカデに咬まれたのは初めてだけど、こんなにも痛いものなのか❓あんなチビでもこんだけ痛いのなら、あのデカくて邪悪そのものの奴にやられたとしたなら、どんだけの痛みなのだ❓ ムカデ、恐るべしである。

採っても採ってもクロシオはハゲちょろけになるし、何で誰もいない真っ暗闇の山中に勇気を奮って来たのに、こんな目に遭わなければならないのだ。半泣きで、ベソかきそうである。
でも、何かムチャクチャ腹立ってきた。虫採りって、サイテーの趣味だ。こんな趣味を始めていなかったら、ヒルに血を吸われることも無かったし、スズメバチやアブ、ブヨに刺されることも無かった。ダニに喰い付かれることも無かっただろうし、ハブとかマムシなどの毒蛇や熊に怯えることも無かった筈だ。海外だったら、もっとヤバイ。熊もいるだろうし、蛇はコブラとか青ハブ、百歩蛇(ひゃっぽだ)だぜー。そういえば、虎に豹、野象がいる森に入ったことだってある。地雷の恐怖もあったし、知らぬうちに治安のバリバリ悪そうな村に入ってしまった事だってあった。
で、蛾採りを始めたら、ムカデかよ。夜の闇は死ぬほど怖いし、オイラ何やってんだよと思う。虫採りさえ始めなかったら、こんな目に遭いはしなかった。ヒルもダニもブヨも虫採りを始めてから初めて見たのだ。
だいたい、そもそも虫採りとかをやってるタイプではない。女の子にモテるような事ばっかしやってきたチャラい人間なのだ。

Σ( ̄皿 ̄;;こんな事やめたらぁ~❗

発狂して、闇に向かって絶叫する。
虫採りなんて生産性ゼロだ。やってられっかである。

叫んだら、痛みが増してきた。痺れたような感覚もある。何だか心臓も💓ドキドキしてきた。いや、バクバクか。
そんな事よりどうする❓ムカデって、アナフィラキシーショックとかってなかったっけ❓
いや、あった筈だ。ならば、一刻も早く下山して病院に行かなければならない。
でもハゲちょろけてないクロシオが、まだ一つも採れていない。こんなとこ、もう二度と来たくない。クソッ、採れるまで下りてたまるか、(#`皿´)ボケッ❗

 
午後10時過ぎ。
痛みを堪えて真っ暗な道を下る。
相変わらずの悪路だ。道の横には暗渠の如き闇が口を開けている。誘(いざな)われているような気がする。しかし足を踏み外せば、急斜面をどこまでも転がり落ちることになる。
縮こまった心を抱きしめる。何が何でも無事に下山しなければならぬ。ミッションは何とかやり遂げた。それだけが今の心の支えだ。

途中で、やっと目の前が開けた。

 

 
眼下に神戸の夜景が見える。
ホッとして、少し痛みも和らいだような気がする。
ここまでくれば、あとは道も良い。
さあ、もう一踏ん張りだ。大きく息を吐き出し、気持ちを切らさないようにして再び坂道を慎重に下りていった。傍らを風がそよと吹いた。

                    おしまい
 
 
今年採ったクロシオの一部を並べよう。

 

 
見事なまでに落武者禿げチョロケである。
カトカラって背中の毛が脱落しやすい。ホント、忌々しいわい(=`ェ´=)

因みに左右で展翅バランスが違うのは、ワザとである。どうせ禿げチョロケなので、この際、皆さんの意見を訊いてやろうと思ったのだ。バランスを変えるだけで、印象だけでなく、見た目の大きささえも違ってくるのである。
皆さん、右と左でどっちのバランスがいいと思いますぅ~❓

 

 

 
上翅の白紋って、♀にしか出ないのでは?と思ってたけど、♂でも出るのね。

 

 
コチラは通常タイプの青いの。
この青いタイプと白紋が発達したタイプは好きだ。クロシオって、キシタバの中では割りとカッコイイ方だと思う。

裏面の画像も添付しておこう。

 

 
キシタバ類の裏面って、どれも似たような感じでワケわかんないや。
そういう意味でも図鑑には裏の画像も欲しいよね。大図鑑は膨大な種類を載せなければならないから無理だとしても、属レベルの図鑑くらいは裏面を図示して欲しいよね。

似ているアミメキシタバとの違いは、上翅の翅先(翅頂部)に黄色い紋が出るところだろうか。あとは下翅の真ん中の黒帯の形かな。けんど、こんなの沢山並べてみないとワカランな。

 

 
左上がアミメ、下がマホロバキシタバで、右がクロシオである。
アミメと比べてクロシオは大きいから、それでだいたいは区別できる。問題はアミメとマホロバだ。両者は似ていて、この状態では判別が難しい。概してマホロバの方が大きいが、微妙な大きさなのもいるから注意が必要だ。確実に同定したいなら、上翅の内側を見るしかない。
いかん、いかん。本題から大きく逸れてしまいそうなので、この三者の違いはマホロバの回に纏めて解説しようと思う。けんど、シリーズにマホロバが登場するのは、まだまだ先の事だけどさ。

こんな説明してもワカランだろうから、アミメの画像も貼っとくか。

 
【アミメキシタバ♂】

 
【同裏面♀】

 
表は上翅が茶色く、下翅下部の黒帯が完全に繋がっているのが特徴。クロシオはこの部分がやや隙間が開くか、微かに繋がる程度だ。裏は上翅の内側の黒斑が強く出る。

クロシオの生態に関しては、前回に書いた以上の目新しい知見はない。強いて言えば、やはり敏感な奴だってことくらいかな。

おっ、そうだ。
マホロバの分布調査の仮定で、小太郎くん&マオちゃんコンビが奈良県の若草山でクロシオを見つけた。

 
【クロシオキシタバ】
(画像提供 小太郎くん)

 
他の分布地からかけ離れた場所だったから、これまた新亜種ではないか?と色めき立った。クロシオは移動性が強いと言われ、秋口に時々分布地からかけ離れた場所で偶発的に見つかっている、しかし、この個体は鮮度が良いし、日付も7月23日だったので、遠方から飛来したものとは考えにくい。遠距離移動するのは、もっと遅い時期なのだ。現地で羽化したものと考えるのが妥当だろう。
しかし、石塚さんがゲニを見た結果、ただのクロシオだった。2匹めのドジョウを期待したが、そうそう新種や新亜種が簡単に見つかるものではないよね。世の中、そんなに甘かない。

 
追伸
帰宅後、熱めのお湯(43℃)で患部を洗い流した。
ネットにそうすればいいと書いてあったのだ。水だとかえって痛みが増すらしいから、気をつけてね。
それで痛みがかなり和らいだ。で、メンタム塗って寝た。4、5日もしたら、ちょっと痒いくらいで、ほぼ治った。しかし、ムカデもアナフラシキーショックがあるらしい。今度、咬まれたら、おっ死ぬかもしれない。対馬でツマアカスズメバチにメチャメチャ刺されたから、それも合わせて注意しなければならない。ホント、因果な趣味だよ。(;´д`)トホホである。

話は変わる。
実を云うと、この文章は2ヶ月以上も前に大半が書き上がっていた。ムカデに咬まれて発狂、絶叫の下りだけを残して放置されていたのだ。
理由はマホロバの一件もあるが、一番は想定外だったシルビアの連続もの(全5話)のせいだった。シルビアに関しては、調べものが膨大になり、それを要約しつつ文章に配置するのにかなりの時間を要したからだ。
因みに完成したのは4日前だ。最終稿を読むのが面倒で放ったらかしになってたのだ。

 
(註1)マホロバキシタバ

 
今年、日本で新たに加わった32番目のカトカラ。
新種とはならず、台湾の Catocala naganoi の亜種(ssp.mahoroba)におさまった。
画像は♂。下翅下部の帯が繋がらず、大きく隙間が開いているのが最大の特徴である。

 

シルビアの迷宮 第四章

 
 第四章 『断崖のシルビア』

 
ボルバキア感染まで辿り着いて、漸くクロージングに入れると思ったら、また要らぬモノを見つけてしまった。

『石川県能登半島産と日本各地産シルビアシジミの比較検討及び1新亜種』(2016’木村富至)という論文だ。シルビア関連の論文を探してて、ブチ当たってしまったなりよ。
もう何も書きたくないのだが、性格がスルーを許さないのだ。我ながら最悪の性格だよ。

そういえば石川県能登半島西部で、シルビアが17年振りに再発見されたとは聞いたことがある(註1)。たぶん、月刊むしの巻頭カラーだろう。
なぜそんなにも再発見に年月がかかったのかというと、生息環境が全然違うんじゃなかったかな。シルビアといえば、普通は河原や河川敷の堤防、田畑の畔、池の土手といった場所が生息地だが、ソヤツは何と海岸沿いの急峻な断崖絶壁近くの僅かな草地に棲んでいる。だから、そんな場所にまさかいるとは誰も思わなかったのだ。それゆえ、ちょっと特異なシルビアとして記憶している。

この論文タイトルからすると、それを亜種として記載したのだろう。いつの間にそんな事になってたのだ。全然知らなかったよ。

気になるので、調べてみた。
どうやら、Zizina emelina terukoae(Kimura 2015?)という亜種名みたいだ。たぶんテルコさんに献名されたんだろね。きっと奥さんなのだろうが、娘さんだったら驚くなあ。
しかし、困ったことに亜種記載されたらしき冒頭にあげた論文の中身が読めない。仕方なしにネットサーフィンしてたら、能登のシルビアについて色々出てきた。

シルビアフリークの間では、河川の堤防や池の周りの斜面に棲むシルビアのことを「土手ビア」と呼び、海岸沿いに棲むシルビアのことを「海ビア」と呼んでいるそうな。
最初は意味が解らず、土手で飲むビールとか海で飲むビールで、シルビアが採れたらそこで祝杯をあげるのがシルビアフリークの習わしなのかと思った。オデ、バカだからさあ、「中々気持ち良さそうだ。さぞかしビールも旨いだろう」なんて思ったのだ。
でもこれは「土手シルビア」と「海シルビア」の略ってこってすなあ。気づいて苦笑いしたよ。
また、田畑周辺のものを「畔ビア」、能登半島のシルビアを「能登ビア」と呼んでいるサイトもあった。

海ビア(能登ビア)が棲んでいるのは、多分こんな環境なのだろう。

 
(出典『Alis』)

 
写真は能登金剛の関野鼻という景勝地のようだ。
テキトーにキレイな写真を貼っ付けて「能登金剛って有名な観光スポットだし、いつか行きたいものだ」とか何だとか書こうとしたところで、突然、⚡電撃に打たれたかのように脳内でシナプスが繋がった。関野鼻といえば、能登で最初にシルビアが見つかった場所と同じ地名じゃないか。能登にこのような変わった地名が2つあるとは思えない。ならば、これは同一の場所だろう。偶々(たまたま)貼っ付けた画像が、まさかのビンゴだったとはね。何だか嬉しいや。

それにしても、こんなとこにいるとは驚きだな。
前述したが、シルビアといえば河川の堤防や田圃の畦、公園や空港など定期的に手入れされる人為的な場所での発生が殆んどだ。それゆえ、生息地は開発や整備で容易に消滅しやすいし、反対に放置されれば、植物が繁茂して植生が変わってしまい、これまた生きてはいけない。だからこそ、絶滅危惧種になっているのだが、ここは逆に人の手が殆んど入っていない環境だ。ある意味、置かれている環境は端っこと端っこなのだ。何かメタファーみたいなものを感じるよ。でもよくよく考えてみたら、結局好む環境は同じく低草地の所謂(いわゆる)シバ草原的環境なんだけどね。
太古の昔、シルビアは元々こういう厳しい環境に棲んでいるチョウだったのかもしれない。後に人間が作る環境に順応して増えていったとも考えられる。しかし、人間社会に順応したがゆえに、現在の土地開発という新たな局面の中で数を減らしていっているのだろう。何だか皮肉だね。プリンセスは時代の波に翻弄される運命なのだ。

何とか上手いこと纏めたかなと思ったが、ちょい待てよ。能登の環境こそが本来のシルビアシジミの生息環境だと思ったが、むしろ海岸部に追いやられて、細々と生きているといった方が正しいような気もしてきたぞ。河原なんかの方が自然だと思う。
でも、こんなのどっちが正しいのか証明できないよなあ…。

それはさておき、何で17年ものあいだ再発見されなかったのだろう❓
最初に発見された1992年の場所は、シルビアがいる典型的な環境だと勝手に想像してた。だからこそ、まさかそんな断崖絶壁にいるとは誰も考えもしなかったゆえ、発見が遅れたんだと思ってた。しかし、再発見された場所は、関野鼻そのものかどうかはわからないにしても、同じ羽咋郡志賀町だ。と云うことは、同じ場所か近い場所ということになる。となれば、探せば、簡単に再発見できたんじゃないかと勘繰りたくもなる。何で❓謎だよ。

もしかして、誰も探していなかったとか❓
ならば、発表された媒体が地方の昆虫同好会の機関誌か何かで、目に触れる機会が少なかったのではないかと考えた。しか~し、報文が載ったのは、調べてみると『蝶研フィールド』だった。刊行されていた時代には、まだ自分は蝶採りを始めていなかったけど、発行元は蝶研出版だ。蝶マニアにはかなり読まれていた雑誌だと云う認識がある。記事を読んだ人は少なくない筈だ。なのに19年もの空白があるなんて不思議だ。単に怠慢で、誰も探さなかったとしか考えられないじゃないか。でも短報だったとしても、特異な生息環境なんだから、それについての何らかの言及はあった筈。言及されていたのなら、そんな特異な場所にいるシルビアだ、好奇心を持つ蝶屋は居て然りだろう。なのに誰も探さなかったの❓或いは、探しても見つけられなかったのか❓けれど、そういう好奇心を持つ蝶屋ならば、経験値もあり、勘も鋭い優れた蝶屋の可能性が高い。にも拘わらず、見つけられなかったのか❓これまた、謎でしかない。
またしても、迷宮のシルビア・ラビリンスである。

こういう煮詰まった時は他の箇所を書いたりしてると、意外と新たな考えが頭に浮かんだりする。あとがきを先に書いてたら、別な理由が浮かんだ。
或いは1頭だけしか採れなかったから、どうせ偶産だと思われたのかもしれない。つまり、相手にされなかったというか、誰もがバカにしてスルーしたのではあるまいか。これって一番可能性があるような気がしてきたぞ。思い込みとか予断はよくないね。

色んなサイトに能登ビアの生態写真も数多くアップされている。

 
(出典『蝶の生態写真-Photograph of Japanese Butterflies-』)

 
良い写真だね。素晴らしいロケーションだ。
自分の知るシルビアの生息環境とは大きく異なるので、やっぱ、ちょっと驚きだよね。

ここのシルビアは分布の北限にあたる(以前までは栃木県さくら市)。或いはシルビアシジミ属(Zizina)全体の北限にあたるかもしれない。
考えてみたら、この場所は他の棲息地とは随分かけ離れている。今一度、現在の分布状況を確認しておこう。

 
(出典『日本のレッドデータ検索システム』)

 
白い部分は未発見の都道府県。グレーの部分が既に絶滅したと考えられる地で、赤が絶滅危惧種Ⅰ類、オレンジは絶滅危惧種Ⅱ類、黄色が準絶滅危惧種に指定されており、緑色がその他である。
絶滅した場所で一番近い県は岐阜県だけど、これは岐阜市なので意外と遠い。反対にこの図では分布しているとされている群馬県は実際には既に絶滅しているようだ。つまり現存している場所だと一番近い生息地は栃木県という事になる。何れにせよ、それだけ飛び離れた場所で、生息環境も異なるとあらば、生態も違い、DNAレベルでも分化が進んでいて、形態的にも独自進化している可能性はある。ゆえの亜種記載になったのかな❓

ネットを見ていると、食草はミヤコグサみたいだ。
正当派シルヴィーちゃんなんだね。たぶん、ボルバキアには感染していなさそうだ。
ネット情報だと、能登のシルビアには他と違う特徴も見い出だされているようだ。能登ビアの斑紋の特徴の一つは、前翅裏面の上から3つ目の紋が横になる事だそうだ。もう少し詳しく言うと、前翅裏亜外縁の黒点列の一番上が内側にずれ、上から3番目が横長になるというのが北限のシルビアの特徴らしい。

さっき画像をお借りした方の写真が素晴らしいので、再び画像をお借りしよう。良い写真ばかりなので覗いてみられることをお勧めします。

蝶の生態写真-Photograph of Japanese Butterflies –

 
【能登半島のシルビアシジミ】
(以下4点共 出典『蝶の生態写真ーPhotograph of japanese Butterfliesー』)

 

 
前翅裏亜外縁の黒点列の上から3番目の黒点は、確かに横長になっている。
地色なんかも、ちょっと白っぽいような気もするね。でも、色に関しては写真の撮り方にもよるから何とも言えない。それに、そもそもが春・秋型と夏型とでは色に違いがある。♂と♀とでも微妙に違ったりするから、軽率に判断は出来ないよな。

次に、他の産地の裏面を並べてみよう。

 
【兵庫県加古川市のシルビア】

 
【和歌山県白浜市のシルビア】
(出典2点共『蝶の生態写真ーPhotograph of japanese butterfliesー
』)

 
黒点列の一番上が内側にズレるというのは微妙だけど、確かに3番目の黒点には言われているような違いはあるね。コチラは横長にはなっていない。
でも他の写真を見てると、能登産でも微妙なのもいるんだよなあ。

 
【能登ビア】
(出典『Gramho』)

 
コレなんかは、言うほど横長ではない。
逆に別産地のものでも、珠に3番目の黒点が横長になる奴も見受けられる。
おいおい、そんなの亜種としての識別点としては使えんぞ。
大丈夫かよ(# ̄З ̄)、ssp.terukoae❓

更にネットサーフィンしていると、幸い論文と同じ著者である木村富至氏がそれ以前に書いた『能登半島産シルビアシジミの形態的特徴と分布について』という論文を見つけることができた。長いが抜粋しよう。

1.重要な固有の特徴

能登半島産は前翅裏面の外中央斑紋列のなす角度が概ね101°以下の鈍角となり、他産地は101°以上の鋭角となる。ただし、能登半島産春型及び他産地産で稀に角度θが101°前後の紛らわしい個体も出現する。その場合は、同じ季節型同士で比較したり、前翅裏面外中央斑紋の並び方、裏面地色や縁毛と斑紋の色、翅形などを総合的に見て両産地を見比べて判断する必要がある。
外中央の斑紋列は、4室〜5室の黒点が外側に張り出し強く角張った弧を描く(他産地は緩く滑らかな弧を描く)。

2、傾向として見られる特徴

〈1〉♂♀共通の傾向的な特徴

縁毛の色は白色で外縁付近が黒褐色となる(他産地は白色で外縁付近が茶褐色になる)。
前翅裏面の外中央の斑紋列のうち4室の斑紋は5室の斑紋の真下か、やや外側に位置する(他産地は4室の斑紋は5室の斑紋のほぼ真下に位置する)。
1C室の黒点は2室の斑紋の真下から外側に位置する(他産地は真下から内側に位置する)。
前翅の翅形は、幅のやや狭い横長が多い(他産地は、やや幅の広い横長が多い)。
前翅後角部は、やや丸みを帯びる(他産地は、やや角張る)。

〈2〉♂の傾向的な特徴

裏面の地色は青白い灰色系(他産地は茶色味を帯びた灰白色系)。
裏面において、外中央と亜基部の斑紋の色は濃い黒灰 色系でその他の斑紋の色は薄い黒褐色系(他産地は茶褐色系)。

〈3〉♀の傾向的な特徴

裏面地色は青灰色系(他産地は白味を帯びた茶褐色系)。
裏面において、外中央と亜基部の斑紋の色は濃い黒灰色系で、その他の斑紋の色は薄い黒褐色系(他産地は暗い茶褐色系)。

3.幼虫形態で見られた特徴

能登半島産は越冬前の幼虫で食草から落下しないという習性が見られた。他産地では一般的に衝撃や吐息を吹きかけると落下すると報告とされ、また飼育した伊丹市産のものも落下した。但し、今後もっと多くの産地(特に山陰地方(島根半島)の岩場に生息する個体群)で検証する必要がある。

オデ、アタマが悪いので、難しくて今イチわからん。
更に詳しい説明もあるので、それも抜粋しておく。

「能登半島産シルビアシジミシを日本における他産地の個体から区別する最重要地理的変異箇所は、前翅裏面外中央の斑紋の位置にある。具体的には第4室の斑紋の中心からみた第3室と第2室の斑紋の中心の間を結ぶ線と第6室と第5室の斑紋の中心とを結ぶ線が成 す角度θ(以後単に「角度 θ」と称する)が104°以下 (概ね100°以下)が能登半島産であり、他産地は101 °以上(概ね105°以上)の角度になる。標準偏差も小さく他産地とは充分区別できる。但し、線の引き方などにより誤差が、±2.OD程度出る。これらのことを考慮に入れ、春型などの季節型や個体変異を加昧してもこの相違点だけで能登半島産と他産地を少なくとも90 %以上の確率で見分けることができると言える。」

もう何言ってのか全然ワカンナイ。言葉の迷宮じゃよ。
論文には画像もあるので、もう少し解り易いのだが、画像は貼付できないから、今読んでる人はワシより更にワケワカメじゃろう。
何で論文って、こう小難しく書くのだろう?
別にコレは木村氏だけではなくて、他の人も大なり小なりそうだ。木村氏個人を責めているワケではない。もしかして学界(学会?)とかの、「文章は論文らしく難解で格調高くあらねばならぬ」と云う縛りでもあるのかね?小難しい文章でないと、賢く見えないとでも思ってるのかなあ…。

まあいい。そんなことは本題ではない。続けよう。

「ここで間違えてほしくないのは、第6室の外中央斑紋が内側に寄っているのが能登半島の特徴という誤解である。たしかに能登半島産では第6室外中央斑紋が内側に寄る個体が多いがそれほどでもない個体も出現するし、その他の産地でも能登半島産と似たように内側に寄っている個体が出現するので第6室外中央斑紋の位置だけでは角度θを決定する要因になっていない。それでは角度θがこのように能登半島産で安定して狭くなる要因は何かというと実は第6室だけでなく第2室と第3室の外中央斑紋も内側に寄っている。そして、第6室外中央斑紋が内側(外側)に寄ると第2室と第3室の外中央斑紋はその分外側(内側)に寄る傾向がある。つまり角度θは第6室と第2室と第3室の外中央 斑紋の相対的位置関係のバランスにより決定している。この現象は能登半島産もその他の産地も同じである。したがって、第6室外中央斑紋の位置だけで能登半島産を見分けることは難しい。
その他、この能登半島産個体群は一般的な特徴として前翅裏面第4室外中央の斑紋の形状が楕円か横長になるという指摘があるが、山梨、鳥取、岡山、徳島、栃木県産からも多く見られることから能登半島産の特徴とすることは出来ないようだ。」

ようは、巷で言われている能登半島の特徴「前翅裏亜外縁の黒点列の一番上が内側にずれ、上から3番目が横長になる」というのは、亜種としての決定的な相違点ではないと云うことだね。アタマの悪いオイラには、文章が難し過ぎるわ。

「傾向的に見られる相違点としては、縁毛基部の外縁翅脈端付近の色が能登半島産は黒褐色系であり、他産地は茶褐色系である。また、裏面斑紋の色も同様である。この色の違いは汚損した個体では紫外線のため色が劣化したりして見分けにくく、秋型では濃くなるなど季節型の変異などでも見分けにくい。しかし、対象物が小さ過ぎて正確な測定は出来ないものの彩度や明度を考慮してルーペなどで観察すると色が定量的に 表す国際的な尺度の一つであるマンセル表色系(JIS規格のJIS Z 8721を参照)でいうところの色相が違うように見える。その他、第2室と第1C室及び第5室と第4室の黒点の位置関係や翅形(要素が複雑で数値化が難しいし、他産地でも幅の狭い横長の個体が出現する)、裏面地色など総合的に判断するとかなりの確率で見分けることが可能であると思われる。
その他にも他産地では前翅表面第1室外縁付近にはっきりとした白化斑が現れる個体が春型と秋型に出現するが、能登半島産では筆者が被検した個体においてはこの前翅表面第室外縁付近の白化斑がほとんど現れず現れてもかすかに痕跡程度である。」

言わんとしてることは何となく解るけど、やはり難解だね。また、エラいとこ突っついてしまったなりよ。

記載論文を読んでないから、あまり偉そうな事は言えないけど、感想的には角度とか色って微妙過ぎてよくワカンナイや。幼虫の形態ではなく、生態ってのも曖昧で微妙だよなあ…。亜種にする程のことなのかなあ…。あまり能登産シルビアが亜種になりましたという噂を聞かなかったのは、亜種として認めてない人が多いのかもしれない。Zizina emelina terukoaeでググっても殆んど出てこないし、あまり使われていない形跡がある。まあ、その辺の亜種か否かの線引きは素人にはよくワカランよ。
とはいえ、実物を見たことないからなあ…。見たら、瞬時にして違うと感じるかもしんない。経験上、野外で見て直感的に違うと感じたものは、どこがどーのとは具体的に説明できないが、帰って調べてみると大概が別種だったり、亜種だったりすることは多い。海外の蝶なんかは、知識まるで無しで行っても大体それであってたもんね。やっぱり「百聞は一見にしかず」なのだ。
そういえば思い出した。まだヒメシルビアがシルビアの亜種だった時代、石垣島で初めてヒメシルビアに御対面した折りに、直感的に違うと感じた。亜種レベルの違うじゃなくて、別種としか思えなかった。これが何でシルビアの亜種なのか感覚的に理解できなかったのだ。
とにかく「百聞は一見にしかず」である。野外で実物を見ないと、何とも言えないと思う。
いつか、能登半島のシルビアには会いに行かないといけないね。

もう、この辺でいっか…。
第一章から延々と続いてきた迷宮ラビリンスに疲れ切って、もうヘトヘトだよ。
とはいえ、第一章の伊丹市でのシルビアの採集行というか、確認に行った折りの話に戻らないと終えることは出来ない。
 
一応、その時のものを展翅してみた。
ちっこくて大変だ。最近、全く展翅してないしさ。

 
【シルビアシジミ♂】

 
♂だけど、思ってた以上に翅が擦れてる。
裏はキレイだったから、新鮮な個体だと思ったんだけどなあ…。展翅も今イチだし、ガックリくるよ。

 
【シルビアシジミ♀】

 
あっ、低温期型の良い型だ。
秋が深まると、♀はだいぶと青くなるのだ。
なのに、頭が歪んどるやないけー。
このクラスの小ささになると、展翅してても小さ過ぎて細かいとこが見えない。なおすの面倒くさいし、もういいや。

シルビアって小さいし、特別キレイではないけれど、今回のアレやコレやで、より深い魅力を感じた。
ミステリアスな存在は素敵だ。また、来年もシルビアには会いに行こう。そう、思う。

                     つづく

 
追伸
これで終わりかと思いきや、そうではないのだよ。まだ、後日談があるのだ。(ToT)ポテチーン。

一応つけ加えておくと、能登半島のシルビアを亜種と認めていないワケではない。木村氏があれだけ細かく調べて書いておられるのだから、きっとそうなのだろう。ただ、強引に軽微な違いをあげて、亜種としたんじゃないかと考える人もいるだろう。
でもさあ、新種や新亜種の記載をする側の気持ちも解るんだよねぇ。自分も経験があるからだ。今年、蛾のカトカラ(ヤガ科シタバガ属)のニューを見つけ出したんだけど(註2)、記載をお頼みした世界的なカトカラ研究者である石塚勝己さんに『おでぇーかん様~、豪腕で何とか新種にしてくんなせぇー。』とか何とか、恥も外聞もなく頼み込んだもんなあ。新種発見と新亜種発見とでは、響きに雲泥の差があると思ったのである。結局、新亜種になっちゃったんだけどね。正直ガックリきたけど、冷静に考えれば、あれは亜種レベルだと思う。だから、納得はしている。
それでも、実を云うと隠蔽種で、DNA解析したら全然違う別種でしたー、とかってなんねぇかなあと時々思ったりもする(笑)。

 
(註1)能登半島のシルビアの再発見
最初の記録は1992年8月18日、石川県羽咋郡志賀町関野鼻にて小松清弘氏によって採集されたものだった(小松,1993・蝶研フィールド)。だが、その後は全く記録がなく、17年後の2009年に西口 隆氏によって再発見され、まとまった数も採れた(西口,2009・フィールドサロン)。

(註2)カトカラのニュー
Catocala naganoi mahoroba マホロバキシタバ。
『月刊むし』の2019年の10月号にて記載された。

 

ゼフィルスなんて、どうでもいい

  
ゆえあってカトカラの連載がひと月ほど書けないので(註1)、キアゲハの回で力尽きていた『台湾の蝶』の連載を再開させる気になった。
再開するに辺り、何をテーマにするかを考えた。
あまり地味過ぎるのも何だし、ここは一発、勢いづけに派手な奴から始めよう。そう考えた。で、今まで一度も取り上げてこなかったゼフィルス(ミドリシジミ類)にしようかなと思った。綺麗だし、とても人気のあるグループだから、再開の第1回目には相応しい。謂わば、再開に花を添えるような存在だと思ったからだ。
因みに、ゼフィルス(Zephyrus)とは「西風」もしくは「西風の妖精」という意味である。

だが、画像を探してるうちに、ワケわかんなくなってきた。整理してなくてグッチャグッチャに並んでるのだ。
これって、何だっけ❓

 

 
エサキミドリシジミ(Chrysozephyrus esakii)❓
でも、よくよく見れば、どうやらただのミドリシジミ(Neozephyrus japonicus)のようだ。
念の為に展翅した日付から野外写真を探すと、間違いなくミドリシジミであることが判明した。

 
(2018.5.27 京都市)

 
スマン。情けないが、ミドリシジミの類って、いまだに同定に自信がないのだ。
正直、ハヤシミドリシジミとヒロオビミドリシジミ、エゾミドリシジミ、ジョウザンミドリシジミの♂を並べられて、『ハイ、どれがどれでしょう❓』と尋ねられたら、すぐにテキパキとは答えられないと思う。ジッと見て考えてからでないと、正しい答えは導き出せないだろう。
♂はまだ何とかなる。♀なんか正しく答えられるかどうか、まるで自信がない。
ゼフィルス好きの人からみれば、ダッせー、アホちゃうかと言われそうだが、蝶屋にしてはゼフ(こう略称するのが通例)なんてどうでもいいと思っているのである。

蝶好きの間の中で最も人気のあるグループといえば、ギフチョウとこのゼフが双璧ではないかと思う。

 
【ギフチョウ】

 
シーズンになると、皆さんゼフの仲間を嬉々として採りに行くし、冬場は卵探しに余念がない。完品の標本を得る為に卵から飼育するのだ。蝶の中で最も飼育されているのがゼフィルスではないかと思う。それくらい人気があるのである。
でも、自分は正直、熱量が低い。宝石のように美しいし、可憐だとは思う。だから嫌いじゃない。寧ろ好きだ。けれど日本産ゼフィルス全種を採ってからは、急速に興味を失った。
正直、採っててあまり楽しくないのである。
ゼフィルスの成虫採りといえば、それぞれの♂が縄張り行動(占有活動)をする時間帯に行って採ると云うのが基本である。これが嫌いだ。だいたいが木の高い所で飛び回るから長竿が必要になってくる。最低でも7mくらいはないと勝負にならない。中には10m以上を持つ猛者もいる。自分のような非力なものは、これを振り回すのがしんどい。シャープに振れないのも苛つく。一閃💥電光石火の如く振り抜きたい性質(たち)なのだ。また、たとえ振り回せたところで、しなるからそれを計算して網を振らなければならない。これが難しい。
それに目線は上になる。下から見ると人の目は距離感が狂うようだ。そのままの視覚で網を振ると、大概は手前を振ってしまうのだ。中には蝶が枝先に止まっているのに、とんでもない手前を振っている輩もいる。つまり、これまた修正、計算しなくてはならないのである。
そして、最も嫌いなのが上をずっと見てるから首が痛くなることだ。自分のような細くて美しい流麗な首を持つものには(笑)、これが誠にもって辛い。

あっ、もっと嫌いなことがあるわ。
ゼフィルスはテリトリーを張る時間帯があって、主にその時間帯に採集するという事を既に述べた。じゃあ、それ以外の時間はどうやって採るのかというと、「叩き出し」と言われる手法が使われる。これはどんな方法なのかというと、網で木の枝先を叩きまくって、驚いて飛び立たせるという戦術だ。やがて蝶はどこかに止まるから、位置を確認して採るのである。
しかし、これが儘ならない。飛び立った蝶が思い通りの場所に止まってくれるとは限らないのである。更に上、網の届かない所に行ってしまう場合も多いし、見失ってしまうケースも多々ある。それに叩けば幾らでも飛ぶというものではない。叩いた回数に対して、蝶が飛ぶ回数は圧倒的に少ない。ダメな時は、どんだけ叩いても全く飛ばないなんてことはよくあるのだ。
夏のクソ暑い、しかも一番湿気の多い時期に上を向き、首の痛みと腕の痛みに耐えてひたすら叩くのである。その頑張りに与えられる対価は極めて低い。殆んど罰ゲームの域である。
これを自分は「労働」と呼んでいる。囚人の無益な労働だ。そこにはクリエイティブなものは無い。自分の好きな採集スタイルではないのだ。

でもなあ…、今年は結局一度もゼフ採りに行かなかったんだよなあ。そうなると何だか淋しい。
あの美しい輝きは何にも変えがたいのだ。『森の宝石』と言われるだけのことはある。
来年は「労働」を厭(いと)わず、会いに行こう。

  
                    おしまい

 
追伸
この文章は7月に書き始めて、途中で投げ出したものである。こんなこと書くと、ゼフィリストに無茶苦茶罵られるのではないかと思ったのである。もとより好んでワザワザ揉め事を起こしたくはない。
しかし、折角書いたのに破棄するのも勿体ないと考え直した。と云うワケで加筆して完成させたのが、この文章である。
ゼフィリストの皆さん、怒らないでネ。

 
(註1)ゆえあってカトカラの連載がひと月ほど書けないので

カトカラのニュー、マホロバキシタバを発見しちゃったので、「月刊むし」に発表されるまでは書けなくなった。連載の次作はカバフキシタバだったのだが、マホロバの発見にカバフが深く関わっていたのである。カバフの事を書くとならば、どうしても場所に触れなければならない。そうなると勘のいい人ならば、マホロバの産地を特定できる可能性が出てくる。まさかそんな事はあるまいとは思ったが、それを見つけて先に記載される可能性が無いとはいえない、との事で、関係者の間で箝口令が敷かれていたのだ。
因みに、月刊むしの10月号は無事に発行され、記載も完了した。一方、カバフの回の方も書き終えることができた。拙ブログに『2018′ カトカラ元年』と題して書いた連載の第5話とその続篇に、その辺のことは書いてあるから御興味のある方は読まれたし。

 

2018′ カトカラ元年 その八

 
 Vol.8 オニベニシタバ

    『嗤う鬼』

 
彼女に、ちゃんと会えたのは意外と遅かった。
「ちゃんと」とわざわざ書いたのは、既に2017年の9月の終わりに会っているには会っているからだ。A木くんにハチ北にライトトラップに連れていってもらった時、帰り道のコンビニにいたのだ。
A木くんに要ります?と訊かれたが、要らないと答えた。ボロボロだったし、元々カトカラなんて集める予定はなかったからだ。この日の目的は、あくまでもムラサキシタバの実物を見ることだけだったのだ。

そもそも自分にとって蛾は基本的に忌み嫌うべき存在だった。チョウは好きなのに、ガは見ただけでオゾける。大の大人が女の子みたいにキャッと言って飛び退くぐらい怖かったのだ。おそらくこれは幼少の頃に植えつけられた蛾に対する負の概念の刷り込みだろう。通常、そう云うものは生涯変わることはない。概念として、脳髄の奥の奥まで染み込んでいる。それがまさか翌年には蛾を追っかけてることになろうとは夢にも思わなかった。カトカラは美しいものが多いとはいえ、青天の霹靂である。

あかん。このままいけば脱線確実なので、話を本筋に戻す。

そういえば、A木くんがオニベニなんて…みたいな言い方してたなあ。それで普通種なんだと認識した記憶がある。
翌年の初夏、小太郎くんにも『ド普通種だから、いっぱいいますよ。下手したら、ただキシタバ(C.patala)よか多いんじゃないですかね。』と聞かされていたから、やっぱ普通種なんだという認識をより強くした思いがある。だから7月に入れば、そのうち何処かで会えるだろうと思っていた。
しかし、なぜだか何処でも姿を見なかった。
(;・ω・)あれれ❓、オニベニって普通種じゃなかったのー❓
そうこうするうちに、7月も下旬になった。まさかである。このままだと新鮮な個体が得られない。それに、小太郎くんにも『えっ?まだオニベニを採ってないんですか?』と言われかねない。それも癪だ。
そんなマジで焦り始めていた頃のことだった。

 
2018年 7月26日。

2週間振りに矢田丘陵にやって来た。
日没直後にいつもの森へと入る。ここに樹液のドバドバ出ているクヌギの大木がある。そこには様々な虫が寄ってくる。昆虫酒場だ。カブトムシやクワガタをはじめ、各種の昆虫たちでいつも賑やかだ。勿論、カトカラたちも集まってくる。

木の前まで来ると、アカアシオオアオカミキリ(註1)がワチャワチャと軍団で群れていた。均整のとれた美しいカミキリムシで、かなりカッコイイんだけれども、こんだけいるとウザい。
カトカラは、見飽きまくって最近は憎悪さえ感じるパタラしかいない。何処にでもいるし、図体がデカイから邪魔なのだ。ゆえなのか、小太郎くんなんかは酷い仕打ちをしている(この辺のくだりは本シリーズの「続・キシタバ」の回に詳しく書かれています。おもろいから読んでね)。

何でオニベニいないのー(ノ_・。)❓
まさか今年から突然大減少したとか?でも、そんな事ってあるの?ワケわかんねえやと思って、ふと何気に隣の木に目をやった。
体の動きが止まる。あっ(゜ロ゜)、何かおる…。
そこには、翅を閉じて木肌と同化している蛾がいた。
見た瞬間、カトカラだと云う直感があった。種は特定出来ないものの、他の糞ヤガではないと感じたのだ。でも最初はどの種類のカトカラなのかは分からなかった。けど、大きさと上翅の色柄からして消去法で考えてゆくと、オニベニシタバではないかと云う予感はあった。
どうであれ、初めて見るカトカラだと感じれば、それなりに緊張感は走る。
でも、網を使った記憶がないんだよなあ…。

多分、この最初の1頭は毒ビンを被せて採ったものじゃなかろうか❓
書きながら、段々思い出してきた。高さは低かったから毒ビンを直接使ったのだ。どうせオニベニだろうから、たとえハズしてもこの先いくらでもチャンスはあるだろうとでも思ったのだろう。全然見つからなくて、しかも最初の1頭のわりには心の余裕があったのネ。
とはいいものの、この毒ビンを上から被せて採るという方法は苦手なので、それなりに緊張した感覚は残っている。
毒ビンを上から被せるのって、慣れてないから妙に緊張するのだ。網を振る時みたいに心を上手くコントロールできない。その緊張が相手にも伝わるのだろう。だいたいすんでのところで逃げられる。手で蝶を採るのは得意なんだけど何でだろ❓
蝶は心頭を滅却すれば、わりかし簡単に手掴みで採れる。そんな神技みたいなことができて、何で毒ビンを被せるのが下手なのかなあ…。そっちの方が簡単な筈なんだけどね。やっぱ慣れるしかないのかなあ…。

完全に思い出した。やはり最初の1頭は毒ビンで採ったわ。でも当日写した画像がない。どうやら写真を撮らなかったようだ。
と云うことは、さしたる感動もなかったのだろう。
周りに言われたり、図鑑等を読んでオニベニシタバ=ド普通種という概念が植え付けられてたんだろね。
こういうのは、あまりヨロシクない。情報が自分本来の素直な感性で見る心を阻害してしまっている。虫採りは感動があってこそ面白い。なのに、それを自ら放棄するのは勿体ないことだ。

で、翌日に取り敢えず撮ったのがコレ。

 
(2018.7.26 大和郡山市 矢田丘陵)

 
あっ、この画像を見て思い出したよ。
想像してたよりも美しいなと思ったのだ。皆がクソミソに言ってた程には汚くはない。渋い美しさがある。
下翅が同じ紅色系統のベニシタバと比べて色が暗くて鮮やかさに欠けるから、下に見られがちなんだろうけど、コレはこれで美しいなと思った。
もしも、日本にベニシタバやエゾベニシタバがいなければ、それなりに高い評価とか人気を得ていただろうに…。オニベニくんって、何だか不憫な存在だな。同情するよ。

昔、小学生の頃、クラスに松宮という性格の悪い嫌な奴がいた。小学校6年生か5年生の時だ。そいつが理科の天才とモテ囃されていた。しかし、Mくんという転校生がやって来てから、事態は一変した。彼がもっと理科の天才だったからだ。理科の授業中、先生の質問に何でもスラスラと答えたのである。松宮が先にあてられて、答えられなかった後だっただけにクラスに衝撃が走った。その時の、松宮の醜く歪んだ顔は忘れられない。恥と屈辱がベッタリと貼り付いていた。
Mくんは性格もいい奴で、瞬く間にクラスの人気者になった。当然、松宮の株は暴落した。松宮は嫌な奴だけど、その凋落振りは目を覆いたくなるような残酷な感じで、他人事ながら気の毒だった。先生も難しい問題は真っ先にMくんをあてるようになったからね。
自分はそんな目にあった事は一度もないけれど、もしもそんな立場になったとしたら、相当キツいと思う。自分だったら確実に今よりも性格がネジ曲がっていたに違いない。別人格になっていたのではないかと思うと、マジ怖い。今よりも数段イヤな奴になっていた自信がある。実際、松宮は益々イジけた陰険な野郎になった。中学生になってから、俺様に陰湿な方法で牙を剥いてきた時には驚いたよ。俺、全然関係ないのに、女の子の事で謂れのないトバッチリを受けた。無視したけどね。おまえの好きな女の子が俺の事を好きだからって、陰で悪口をある事ない事その娘に吹き込むんじゃねえよ。そのせいで、別な俺の好きな女の子にも嫌われそうになった。まあ、陰湿で人気のない奴だったから、皆が自分に味方してくれて、それ以上悪い方向にはいかなくて済んだけどさ。

いつもの如く、話が逸れた。
もちろん、オニベニシタバは松宮みたく性格は悪くはない。むしろ、いい方だ。カトカラの中では性格は素直な方だと思う。だから、採るのはそんなに難しくはない。ムラサキシタバなんかは結構性格が悪いもんな。異常に敏感だし、ライトトラップには中々近くまで寄ってこなくて、寄ってきたと思ったら、採りにくい変な所に止まるとかって、よく聞くもんね。

 
(2018.7.26 大和郡山市 矢田丘陵)

 
真ん中の黒帯が細くて、ジグザクになっているのがオニベニさんの特徴だ。色よりも、この黒帯の形で他の近似種と区別する方が同定間違いはしにくい。なぜなら、古い標本や飛び古したものは色が褪せているからだ。あとは翅形も違う。ベニやエゾベニは上翅が横長で、先端が尖る。オニベニはここが他の2種と比べて丸い。この二点さえ抑えておけば、判別間違いすることはないだろう。

この太い腹の形からすると、たぶん♀だろう。
でも、オニベニは♂もデブだから雌雄の区別は意外と難しい。

それにしても、やっぱり一年目の展翅は酷いな。上翅が上がり過ぎてる。まあ、カトカラ1年生だし、しゃあないか…。

この日は、他にも何頭か採った。

 

 
たぶん、コチラが♂だろう。
♀よりも腹が若干細くて長い。先端もやや丸い。でも他のカトカラの♂みたく尻先にいっぱい毛束があるワケではないから、やはり分かりにくい。

あっ、これは上翅に白い紋が入るタイプだね。こっちの方がカッコイイ。
どうやら前翅斑紋は個体変異に富むようだ。何処にも書いてないけど、この白紋が出るのは♂の方が多いような気がするが、本当のところはどうなんだろ?まだカトカラ2年生なので、断言できないけど…。
どちらにせよ、クロシオキシタバとかコガタキシタバ程にはヴァリエーションはないようだ。

裏面が意外と美しい。

 

 
そういえば、初めて飛んでいるのを下から見た時は、数秒間その場で固まった。何だかワカンなかったのだ。シロシタバにしては小さいし、白もオフホワイトではなくて真っ白だったからだ。因みに飛翔中は赤い部分は意外と目立たない。白の方に目がいくのだ。
答えは、コレまた消去法でオニベニにゆきついた。

 

 
赤、白、黒のコントラストが効いていて、素晴らしい。色の配分も申し分ない。
ベニシタバやエゾベニシタバには表の美しさでは負けるが、裏はオニベニが一番美しいと思う。

次に出会ったのは、四條畷だった。
シロシタバ探査の折りで、昼間にウワミズザクラを探していたら、突然飛んで逃げた。結構早いスピードだった。この日はコシロシタバも見たけど、やっぱり早かった。カトカラは夜に樹液に飛来する時はパタパタ飛びで遅いけど、昼間は飛ぶのが速いと知ったのは、この時が初めてだったかもしれない。マジ飛びのカトカラは速い。
それで、突然思い出した。カトカラを初めて見たのは、A木くんに連れて行ってもらったハチ北で見たジョナスキシタバではないや。実を云うと、もっと早い時期にオニベニシタバを見ていることを、まじまじと思い出したよ。間違いなくそれがカトカラとのファーストコンタクトだ。しかも、真っ昼間に見ているのだ。
あれって、ちょっとした白昼夢的だったよなあ…。

詳しい年月は憶えてない。
でも、おそらく2011年か2012年のどちらかの8月だ。場所は生駒山地だった。目的はオオムラサキ(註2)の♀狙いだった。
その場所は誰にも知られていないオラだけの秘密の樹液ポイントで、必ず複数の♀がゲットできた。樹液がドバドバ出ているクヌギの大木に、多い時では♂が一同に10数頭も集まっていたこともある。

時刻は午前10時過ぎだったと思う。
パンパンに膨らんだ期待を胸に、その木に向かって真っ直ぐに斜面を降りてゆく。オオムラサキの♀は綺麗じゃないけど、バカでかくて笑けるほど迫力があるので、その頃は毎年会いに行っていたのだ。
で、目の前まで来て、ゲゲッΣ( ̄ロ ̄lll)、見たら大きめの蛾たちがベタベタと樹液の出ている所に止まっていた。元々、大の蛾嫌いだったから激引きした。
向こうも驚いたようで、複数が下翅をパッと開いた。どひゃ\(◎o◎)/❗❗茶色かと思いきや、突然ビビットな赤が悪魔の口のように開いた❗
ヘ(゜ο°;)ノひっ、思わず飛び退いたよ。( ; ゜Д゜)ビックリしたなあ、もー。
キシタバは普段色鮮やかな下翅を隠して止まっており、天敵に襲われそうになったら、パッとそれを見せて相手を威嚇すると言われている。毒々しい鮮やかな色なので、相手が怯むのだ。それにまんまと引っ掛かったというワケだ。あたしゃ、しっかり怯みましたよ。

やや遠目から様子を伺う。数えたら5、6頭はいた。
コレが何とかシタバとか云う名前の人気のある蛾のグループの1種なんだろうなと思った。
ミーハーなので、人気があるものには興味がある。ちょっと悪魔的で怖くはあるけれど、綺麗といえばキレイだ。だから、採ろうかどうか悩んだ。でも、蛾だから採ったら暴れて、鱗粉を辺りにその辺に撒き散らす光景が目に浮かんだ。((((;゜Д゜)))ブルッときたよ。
だいち、蛾なんて元来よう触らんのだ。網に入れても、心がワヤクチャになってパニックになるやもしれぬ。考えた結果、採集は見送ることにした。
とはいえ、オオムラサキが飛んで来たら邪魔だ。排除せねばならぬ。
一旦、深呼吸をしてから、再び木に小走りで近づき、勢いをつけて思いきし前蹴りしてやった。
Σ(゜Д゜)ヒッ、(゜ロ゜;ノ)ノヒッ、Σ(T▽T;)ヒィーッ❗全員驚いて飛びやがった。それを狙ったんだけども、思った以上にシッチャカメッチャカ四方八方に飛んで横をかすめていったので、発狂しそうになっただよ。
(´д`|||)キモ~。一瞬、背中が凍りついたわ。体に異常なまでの変な力が入っていたようで、その場で肩で息したよ。

その日の夜、夢を見た。
何十頭ものオニベニシタバが、自分の周りを飛び交っている夢だ。下翅の赤い色がチカチカと明滅する。それが鬼の口が開いたり閉じたりして、まるでケタケタ嗤(わら)っているように見えた。嗤う鬼軍団だ。怖すぎる。
アキャーo(T□T)o、魘(うな)されて、恐怖のあまり飛び起きた。
もちろん、パジャマは汗ビッショリだった。

今宵、貴方の夢にもオニベニが乱舞するやもしれませぬぞ。

 
                   おしまい

 
 
今回も続編は書かない。前回と同じく解説は後回しの、2019年版をくっ付けたヴァージョンでいきます。

 
【学名】Catocala dula (Bremer, 1861)

小種名の「dula」は、ネットで調べたがワカランかった。dula じゃなくて、dura というのが矢鱈と出てくる。
頼みの綱の平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』にも載っていなかった。
ヒカゲチョウ属に、Lethe dora オビクロヒカゲ という似ているのがあったけど、綴りが微妙に違う。
ついでだから言っとくと、ドゥーラの語源はラテン語で「堅い、鈍感な」という意味。梵語由来ならば「遠い、長い」です。

ワカンねぇから、ここから先はいい加減な推測を書く。
たぶん、これは誰かに献名されたものではなかろうか❓おそらく女性の名前で、ドゥーラじゃなくて、ダラと読むんではないかな。ダラとかって、アメリカ人女性の名前とかに多くねえか❓
綴りがそれだと違うよな気がするが、もういいや。ゴメンナサイ。ワッカリまっしぇーん\(ToT)/

 
【和名】
オニベニシタバという和名は悪くないと思う。
たぶん赤鬼から来ているのだろう。その鬼の赤と下翅の色とを重ね合わせたのだと思われる。
いや、待てよ。オニと名のつく生物には、デカイとか厳(いか)ついとか凶暴だとかといった意味が込められたものが多い。
例えば、オニカマス(バラクーダ)、オニイトマキエイ(マンタ)、オニオコゼ、オニダルマオコゼ、オニハタタテダイ、オニヒトデ、オニヤドガリ…。あっ、思い浮かんだのは、海の生物ばかりだ。これはダイビングインストラクター時代の名残だね。
因みにオニカマスは、その厳つい風貌と鋭い歯から名付けられた。オニイトマキエイは、そのデカさからだろう。オニオコゼ、オニダルマオコゼは鬼のように醜くくて厳つい。また猛毒があり、危険なことから名付けられたものだと思われる。オニハタタテダイは、目の上にある小さな突起を鬼の角に見立てたようだ。オニヒトデはデカくてトゲトゲだからだろう。性格も荒い。トゲトゲは鬼の角だけでなく、鬼の金棒のイメージでもあるのだろう。オニヤドガリは、毛むくじゃらで獰猛だからかな?
植物ならオニユリ、オニアザミ、オニバス、オニグルミ、オニツツジなんかが有名だ。
オニユリの名の由来は、花が大きく豪快だとか、花の様子が赤鬼に似ているなど諸説あるようだ。オニアザミやオニバスは、その棘と大きさに由来する。以下は面倒くさいので、省略する。
ようするに生物に鬼の名がつく場合は「①大きい。②刺、角がある。③見た目が厳つい。④凶暴・獰猛である。⑤色合いが鬼に似ている」の何れかの理由から付けられている模様だ。
昆虫はといえば、オニヤンマ、オニクワガタが代表か…。他にもいるようだが、でもこの辺で止めとく。あまりにもショボい面々揃いなので、更なる脱線、怒気を含む言葉になるのが必至だからだ。コレについては機会があれば、また別稿で書くかもしんない。

話をオニベニの和名に戻そう。
オニベニシタバの和名には、色合いだけでなく、厳ついと云う意味も込められているのではないかと思う。オニベニは翅に比して胴体が太い。ゴツいんである。その体躯と赤黒い翅とが相俟って、鬼っぽく見えるといえば見えなくもないのだ。初めて会ったあの日の昼間は、その姿に兇々(まがまが)しい感じを受けたもん。

 
【開張】 65~70㎜
カトカラ全体の中では大きい部類に入るが、他の下翅が赤いグループ(ベニシタバ、エゾベニシタバ)の中では一番小さい。でも腹と胴がデブだからか、あんま大きさは変わんない印象がある。人だって身長が低くてもデブだと迫力があるから、そんなに小さく見えないんだよね。あっ、コレってデブ批判じゃないからね。迫力があった方が得です。
因みに、同じ下翅が紅いグループでも、オニベニシタバとベニシタバ&エゾベニシタバとは分類学的に系統が違うようだ。下翅が紅いだけで、あとは形態や斑紋、幼虫の食樹も異なるから、言われてみれば納得だすな。

 
【分布】
北海道、本州、四国、九州、対馬。
九州南部には分布していないようだ。ということは暑さや湿気には弱く、どちらかというと北方寄りの種なのかもしれない。低山地のカトカラというイメージがあったから、南方系とまでは言わないまでも、暖かい地域を好むカトカラだと勝手に思ってたけど、違うんだね。そういえば去年、長野県の標高1700mぐらいのとこでも採ったことあるわ。
因みにレッドデータブックだと「千葉県:D(一般保護生物)、高知県:準絶滅危惧、長崎県:絶滅危惧IA、大分県:情報不足」となっているようだ。こんなもんと言っては失礼だが、稀な地域もあるんだね。
あっ、長崎、大分、高知が入っているから、やはり温暖なところには、あまりいない種なんだ。納得だよ。

参考までに言っとくと、国外ではアムール(ロシア沿海州)、樺太、朝鮮、中国(中北部)に分布が知られる。

  
【成虫出現期】 6~10月
近畿地方では6月下旬辺りから現れるとあるが、実際見る機会が多いのは7月上旬からだろう。その頃から次第に個体数を増やし、8月半ば迄よく見かけた。

 
【生態】
クヌギの木が多い比較的乾燥したに二次林でよく見られる。コナラ主体の雑木林や常緑カシ林には少ない。
クヌギ、ヤナギ、ハルニレの樹液によく飛来する。また、ブドウなどの果実にも好んで集まるようだ。
樹液への飛来時刻は比較的早く、日没後すぐに現れる。但し、直接樹液には寄ってこず、近くの木に頭を上向きにして止まっていることも多い。
糖蜜トラップは、オニベニ狙いで試したことはないので、効果の程は分からない。とはいえ、おそらく反応するものと思われる。

発生初期は他のカトカラと同じく夜間に活動するが、8月に入って繁殖期になると昼間でも活発に活動し、昼夜を問わず樹液やブットレアなどの各種花にも吸蜜に訪れる。昼間に活動するカトカラは他にあまりいないので(註3)、カトカラの中では得意な生態を持つ種だと言えよう。
発生初期の昼間は、頭を下向きにして木の幹に止まっており、驚いて飛ぶと他の木に頭を上向きにして着地し、ややあってから下向きとなる。しかし、交尾期になると頭を上向きにして止まる個体が多いという。

灯火にもよく誘引されるようだ。けれど、灯火に来ているものを見たことが殆んどない。数えるくらしかした事がないけれど、ライトトラップでも見たことは一度もない。だから、光に寄ってくるという実感は個人的にはあまりない。
あっ、思い出した。標高1700mで採った奴は車のライトに飛んで来たわ。

 
【幼虫の食餌植物】
食樹はクヌギ、ミズナラ、カシワ、コナラなどブナ科コナラ属全般だが、少ないながらもアラカシなど常緑カシ類も利用している。
幼虫はクヌギを最も好み、以下ミズナラ、カシワの順に嗜好するが、コナラはあまり利用されていないようだ。これはコナラの芽吹きが早く、若葉がかたくなるのが早いからだと推察されている。マメキシタバやアサマキシタバも同様の傾向があるという。
樹齢15~30年くらいのものによく付くが、大発生するような年には老齢木にも幼虫が見られるそうだ。

 
2019年は、驚いたことに2頭しか採っていない。

 
(2019.7.10 奈良市白毫寺町)

 
こうして見ると、上翅があんま魅力的じゃないよなあ。その辺もベニやエゾベニに比べて、一段劣る評価になってんだろな。

裏面の写真もあった。

 

 
胸がもふもふだね。もふもふ大好き~(^o^)

この個体を採ったの時のことは、場所もシチュエーションもよく憶えている。
場所は白毫寺町東山緑地の雑木林で、日没後すぐの時間帯に樹液に寄ってきていた。小太郎くんが来るまでヒマだったので、新たな樹液ポイントを探している時に見つけたんだよね。
しかし、シチュエーションの記憶がこれだけ鮮明なのに、なぜだか日付の記憶はどうにも曖昧だ。
日付を確認してみると七月十日になっていた。七月十日といえば、日本で初めて見つかったカトカラ、新亜種マホロバキシタバ(註4)を発見した日だ。
と云うことは、そっちのインパクトが強すぎて、それ以前のオニベニの記憶がその日からフッ飛んでたみたいだ。

 
(2019.7.10 奈良市 白毫寺町)

 
♀かなあ…。だと思うんだけど。
今年は展翅もだいぶとマシになった。触角をどうするかは今だに迷ってて模索中だけどね。前脚も気分で出したり出さなかったりと、統一されてない。
コレは前脚出しいの、アンテナ真っ直ぐ寝かしーのパターンだす。
下の2頭目の個体も、同じパターンの展翅だね。

 
(2019.7.16 奈良市 高畑町)

 
これは住宅街で捕らえたんだよね。だから、ちょっとドキドキした。夜に住宅街で網持ってたら、怪しまれて当然なのだ。

2頭とも♀だと思うけど、見てると段々自信が無くなってきたよ。

それにしても、何で2頭しか採っていないんだろう❓
別に採るのをサボってたとかスルーしてたワケではないのにね。つまりこれは、それだけ今年は見ていないって事だ。多い時期に、去年一番個体数の多かった矢田丘陵に行っていないと云うのもあるかもしんないけど…。
或いは、意外といる所には沢山いるけれど、いないとこにはいないカトカラなのかもしれない。たった二年間でのモノ言いだけどさ。
でも、もしかしたら雑木林が放置されて老齢木ばかりになってきていて、幼虫が好む樹齢15~30年くらいの木が減っているのかもしれない。
ド普通種だとバカにしてたら、そのうち段々減っていって、いつの間にか絶滅危惧種になってたりしてね。

 
               おしまいのおしまい 
 
 
追伸
書くことが、あまりないから楽に終わるかと思いきや、そうでもなかった。松宮の事なんて思い出したのが間違いだったよ。そこから、何だかエンジンがかかっちゃって、どんどん長くなっていった。

最初のタイトルは『紅の鬼豚』だった。宮崎駿の映画『紅の豚』がモチーフだ。オニベニってデブでピンク系だからって安易につけた。自分でも笑ったわ。
テキトーにつけたけど、どうやってこのタイトルとオニベニをリンクさせんねんと思いながら書き始めた。まあ、どうせゼッテーまたフザけた方向にいくねんやろなあと思ったけどさ(笑)
因みに、そこから派生した『紅の鬼嫁』と云うのも候補としてあった。益々、どうやって本文とリンクさせるねんって感じだよね。輪をかけてムチャクチャな展開になること、明白である。
で、そのうち過去のファーストコンタクトの記憶が甦ってきて、今のタイトル『嗤う鬼』に落ち着いたと云うワケ。

 
(註1)アカアシオオアオカミキリ
(2018.7 大和郡山市 矢田丘陵)

 
夜行性。夏場、わんさか樹液に寄ってくる。今年も多かった。

 
(註2)オオムラサキ
世界最大級のタテハチョウの1種。日本の国蝶でもある。

 
【♂】

 
【♀】

 
下はブルーオオムラサキのスギタニ型。

 
(註3)昼間に活動するカトカラは他にあまりいない

エゾベニシタバやオオシロシタバなどに例があるが、通常の生態ではない。おそらく大発生した時などに限った生態ではないかと推察される。

 
(註4)マホロバキシタバ

【Catocala naganoi mahoroba ♂】

 
日本で32番目に見つかったカトカラ。
詳しくは月刊むしの2019年10月号を見て下され。

 
《参考文献》
▪西尾規孝『日本のCatocala』自費出版
▪石塚勝己『世界のカトカラ』月刊むし社
▪江崎悌三ほか『原色日本蛾類図鑑』保育社

 

続・カバフキシタバ(後編)

 

『リビドー全開❗逆襲のモラセス』後編

  
2019年 7月4日。

当初は奈良にリベンジしに行く予定だったが、急遽方針を転換して六甲へ。
勘ではあるが、天気予報も含めて考えた結果だ。
予定は未定であって、しばしば変更。虫採りは常にフレキシブルでなくてはならない。特に天候に関してはビビットであるべきだと思う。

今日は下見の時とは違う別ルートを探すも、やっぱり幼虫の食樹であるカマツカの木は見つけられなかった。近くにカバフの記録はあるが、ホンマに此処におるんかいのお❓ このままの流れだと、再び辛酸ナメ子さんになりかねない。見えないけど、恐怖を好物とする性格の悪い小人くんたちが、傍らでクスクス笑いをしてそうだ。テメエら(=`ェ´=)、人の人生に悪さすんじゃねえぞ。

夜がやってきた。
暗い山道を黙々と登る。夜になってもクソ暑い。瞬く間にTシャツが汗でビッチャビチャになる。

午後7時半。
ようやく樹液ポイントに到着した。さあ、今日こそカバフを手ゴメにしてやろう。

が、(◎-◎;)ゲロゲロー。
あろうことか、半月程前にあれほどカトカラが乱舞していたコナラの木の樹液が止まっていた。
(・_・)……。見事なまでに何もいない。嘘でしょ❗❓
三連敗という現実が目の前にグッと迫ってくる。

暫く様子を見てみたが、やっぱ何も飛んで来ーん。
( ̄ロ ̄lll)まさかである。これってさあ、世間的に言うところの、見事に思惑が外れるってヤツだよね…。惨敗の予感は益々濃厚となる。
だが、備え有れば愁いなし。昼間、用心のために別な場所で新たな樹液ポイントを見つけておいた。オデ、だいたいアホだけど、たま~に賢いのである。
僅かな期待を抱き締めて、そちらへと移動する。

Σ(◎-◎;)アキャア━━━。マジかよ❗❓
けんど、糖蜜を吹き掛けるための霧吹きが一回使用しただけで、早々と詰まった。やること為(な)すこと上手くいかない。再び暗雲が垂れ込める。惨敗の予感、ダダ黒モジャモジャだ。

コシュコシュ、コシュコシュ。コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュー…、(ノ-_-)ノ~┻━┻ ダアーッ❗何度やっても霧吹きから何も出てこん(#`皿´)❗
気が短い男ゆえ、ダンダンダーン(*`Д´)ノ❗、思わず破壊の衝動に駆られる。
(; ̄ー ̄A 落ち着け~、(; ̄ー ̄A 落ち着け~、俺。

🎵( ̄ー ̄)落ち着いたあ~、お~れ~。
と云うワケで、わりかし簡単に冷静になったワタクシは、一旦アタマの部分を取り外し(ワシの頭やないでぇ~、霧吹きでっせー)、管も抜いてお茶をブッかけてみた。
でもって、Ψ( ̄∇ ̄)Ψこちょこちょ~、Ψ( ̄∇ ̄)Ψこちょこちょ~。魔法の愛撫をしてやる。
Ψ( ̄∇ ̄)Ψええんか、Ψ( ̄∇ ̄)Ψええんかあ~。

装着しなおして、再度シュコシュコやってみる。
暫くやってたら、ピュッ💦と出た。
❤あっはあ~ん。💕うっふ~ん。とれびあ~ん。
<(`^´)>ふっか~つ❗❗オイラ、🎵\(^o^)/てくにしゃあ~ん。
ぬははははΨ( ̄∇ ̄)Ψ、エロ男の超絶テクニックをナメんなよである。リビドー全開だぜ❗
これで思う存分、ブッカケてやれる。その辺の木を、まみれまみれのヌチョヌチョのネチャネチャにしまくってやらあ。男のリビドー、💥爆発じゃーい❗

だが寄ってくるのは糞キシタバのパタラ(C. patala)とチョコチョコ歩き回る糞ヤガのみ。この歩き回るところが💢癇(かん)に障る。イラッときて、石を投げつけたくなる。
名前はたぶんカラスヨトウって奴だ。ヨトウというのは漢字で書くと「夜盗」らしい。だから泥棒みたく歩き回るのか?、(=`ェ´=)小癪なっ。もしも携帯用殺人レーザービームとかがあったら、1匹1匹ピンポイントで八つ裂きにしてくれるのに(-_-)
人間、焦りが募ると心が荒れてくる。きっと闇の中の今の顔は、焦燥がベットリと貼り付いた醜い顔になっているに違いない。

午後8時26分。
樹液に何やら他とは違うカトカラが飛来していた。
でも結構高い位置だし、角度的にも真横に近くてよく見えない。おまけに手前の葉っぱが邪魔で下側が見えづらい。下翅を僅かに開いていそうだが、それも確認できない。持ってる懐中電灯が100均で買ったモノだから、光量が弱いというのも相俟って(註1)、兎に角よくワッカラーン。
でも消去法でいくと、マメキシタバにしては大きいし、パタラにしては小さい。アサマキシタバやフシキキシタバは季節的にもう終わっているし、ウスイロキシタバもそうだろう。ワモンキシタバも関西では終わりかけの時期だ。見たところ鮮度は良さそうだから、コヤツらも除外していいだろう。反対にアミメキシタバやクロシオキシタバには時期的にまだ早い。となると、残るはカバフキシタバとコガタキシタバしかいない。大きさ的にもそれくらいだ。でもコガタキシタバは最近ちょくちょく見ているから、雰囲気的に違うような気がする。ということはカバフ❓だよね❓
けど、そもそもカトカラじゃないと云う可能性もあるなあ…。上翅の見た目は似てるけど、下翅に色鮮やかさが無い糞ヤガの一種かもしれない。ヤガ科全般の知識がないから、それも充分有り得る。採ってはみたものの、下翅がドドメま○こ色でしたーという残念なパターンは往々にしてある事なのだ。

まあここでグダグダ考えていても埒が開かない。
取り敢えず採ってみっか。4m竿をするすると伸ばす。
それなりに緊張感はあるものの、それは通常のもので、過度な緊張感は無い。どうせ糞ヤガだろうという気持ちが心のどこかに有るからだ。きっと連敗で打ちひしがれていて、マイナス思考になっているのだ。糠喜びで、更なる落ち込み簾(すだれ)男になるのは避けたいという深層心理が無意識に働いてるんだろね。

高さを慎重に合わせて、💥叩く。
飛んで逃げた形跡はないから、たぶん網に入った筈だ。竿をすぼめて、中を覗く。

あらま(@ ̄□ ̄@;)❗、カバフやんかあ。
急に緊張感が高まる。今度は何があっても逃すワケにはいかない。もし又やらかしたら、その場で首カッ切って息絶えねばならぬ。慎重に慎重を期して、毒ビンに取り込んだ。

 

 
とはいえ、思っていた程の高揚感はない。何か拍子抜けした感じだ。奈良と京都の惨敗があったから、次の出会いはもっとドラマチックな展開を想像してたからだろう。背水の陣での戦いを覚悟していたのだ。それがまさかのシチュエーション曖昧の棚ボタ的だったから、どこかガッカリ感は否めない。虫採りにロマンとドラマ性を求める者としては、肩スカシを喰らったような気分だ。
それに背中の毛が落武者禿げチョロケになっているのに、途中で気づいちゃったと云うのもあるかもしれない。憧れていた美人さんが実をいうと円形脱毛症だった…。なんて事は万に一つも無いことだろうから、喩えとしては無理があるとは思うけど、そんな感じだ。

 

 

 
そんなに暴れてなかったし、取り込みも早かったのになあ…。何でやのん…❓

でも1頭いるということは複数いる可能性が高い。気を取り直して、糖蜜を集中的に撒いた場所へと移る。

(@ ̄□ ̄@;)あっ❗こっちにもおった。
今度は糖蜜トラップに来てるから、目の高さだ。
楽勝じゃん。テンション⤴上がるうーっ(о´∀`о)
しかし、ネットを構えかけてやめた。この高さだと毒ビンを直接かぶせる事ができる。ならば暴れる時間も短い。さすれば落武者化も防げる可能性が高い。そう踏んだのさ。

ヘッドライト、スイッチ・オーン。
準備万端。毒ビンを持ち、そっと近づく。
幸い、夢中で甘汁を吸っている。油断しているスキに背後からガバッじゃ❗でもって、カクカクカクカク…、手ゴメにしたるぅー(=`ェ´=)

だが、カブしたが紙一重。すんでのところで飛んだ❗
あちゃーΣ(×_×;)、また失敗かよう。俺、この毒ビンを被せるやり方って苦手なんだよネー。いつも、すんでのところで逃げられる。慣れてないから、下手に緊張感とか殺気が出ちゃうんだろなあ。蝶を手で採るのは得意なのになあ…。心を無にするには、対象に対して、それなりの経験値が必要だ。蝶には慣れていても、カトカラに対しての慣れはない。もう少し時間が必要そうだ。

逃したが、飛び方はパタパタ飛びだから目で追える。懐中電灯を拾って、あとを追う。
普段、カトカラはビュンビュン飛びで、かなり飛翔速度が高い。夜空を飛んでいる時などはスズメガの仲間かと見紛うばかりだ。しかし、なぜか樹液や花に飛来する時や、そこを飛び去る時はパタパタ飛びで遅い。ホバリングや方向転換が下手で、なんか鈍クサイ飛び方なのだ。急発進できないというか、トップスピードになるのに時間がかかり、急にスピードを落とす事も出来ないのだろう。
原因は体が重いのかな?とも思ったが、それほど特別に胴体がデカイわけではないのにナゼ❓胴体はスズメガの仲間とさして変わらんぞ。いや、寧ろスズメガよか細いくらいだ。はて…、何でやろ❓
もしかしたら、翅の形と厚さが関係しているのかも…。種類にもよるが、スズメガの方が上翅がより横に長くて、下翅がコンパクトだ。翅も分厚い。その辺に答えがあるのかもしれない。

目で追っていると、10mほど飛んで木の幹に止まった。
今度もわりと低い位置だ。毒ビンを被せる事も出来よう。しかし、位置をシッカリと確認してから網を取りに戻る。毒ビンで採る自信が無かったのだ。今度またハズせば、せっかく気分が乗りかけてたのに再び暗黒ビチャグチョの精神世界に沈みかねない。もうこれ以上、カタルシスが無い日々が続くのは辛いのだ。虫は採れてこそ、面白い。

幹を💥ブッ叩き、なんなくゲット。
しかし、又もや禿げチョロケ。まあ、いいや。採れないよかマシだろ。仕方なく、裏面写真を撮ることにする。

 

 
カバフは、裏も微妙にいいねぇ。
それを三角紙におさめてる時に、またカバフが糖蜜に飛んで来るのが視界に入った。

 

 
今度は、もっとハゲ~(ToT)
これは裏展翅ゆきだろなあ…。

その後も立て続けに飛んできた。
カトカラ国内No.1の稀種であるカバフキシタバを怒濤の20分間で3♂1♀ゲット❗❗
相変わらず無傷の背中フサフサさんは採れてないが、気分は悪かない。カバフの1日最高ゲット数のレコードをも射程内なんじゃないの~(^o^)v

と思ったけど、それでピタッと止まった。その後、11時前くらいまで粘るも飛来なし。
まあ、一日で複数採るのも難しいとされる稀種がこれだけ採れれば、いいだろ。
ところで、1日最高ゲット数っていくつなのだ❓ 最高ゲット数のレコードも射程内とか言っといて、知らんのだ。所詮は何も考えとらんテキトー男の、テキトー発言なのだ(笑)

 
一応、展翅画像も貼付しておこう。

 
【カバフキシタバ ♂】

 
無惨なハゲ度合いだが、カバフは美しい。
カバフキシタバの特徴と云えば、その特異な上翅のデザインだが、下翅も個性的だ。他のキシタバ類に比して下翅が明るい黄色で、しかもその領域が広い。珍しくて個性的で、しかも美しいとあらば、特別な存在とされるのも理解できる。

 
【カバフキシタバ ♀】

 
何か黄色の色が違うような気がするので、撮り直す。

 

 
( ̄~ ̄;)ん~っ、今イチ再現できてないが、まっいっか…。
 
雌雄の見分け方は、♀の方が♂よりも大きく、翅は全体的に丸みがある。また♀は腹部が太くて短く、先っちょの毛束の量も少ない。

 

 
裏展翅もした。
でも酷い写真だな。

 
【裏面】

 
裏面は他のキシタバ類と比べて劇的に違うワケではない。全体的に黄色みが強くて白っぽいところがあまりなく、領域も広い印象がある。但し、一つ一つ仔細に見たワケではない。同定するにあたって、裏を見る必要性がないし、特異とまで言える程の斬新性はないからである。

 
7月5日。

そこそこ満足したとはいえ、やはり落武者ハゲちょろけじゃない完品が欲しい。
と云うワケで、翌日も六甲に出掛けた。

午後8時17分。
最初の1頭が糖蜜に飛んできた。
その後、立て続けに4頭飛来。何れも糖蜜に寄ってきた。京都で採った最初の1頭も飛んできたのは8時半くらいだったし、どうやらカバフは日没直後には飛んで来ないようだ。基本的には8時を過ぎないと現れないと思われる(註2)。

15分程で一旦飛来が止まり、午後9時過ぎに1頭追加。その後、午後9時50分に1頭、10時15分に1頭が飛来して終了。

 


 

 
Ψ( ̄∇ ̄)Ψふはははは…、糖蜜、樹液に完勝❗
周囲には樹液が出ている木が計3本あるが、今日は樹液には1頭も来ず、7頭全てが糖蜜に寄ってきた。オラの作ったモラセス(糖蜜)ってスゴくねっ❓

レシピはテキトー&且つ複雑過ぎて正確なところは、教えたくともお教えできない。だから、たぶん二度と同じものは作れないだろう。
ベースはカルピス➕麦焼酎。そこに酸味として酢を足し、バヤリースオレンジジュースを加えた。しかし、今一つ匂わない。そこに飲み残しのビールを足したが、やっぱ今一つ。もうヤケクソでバナナを皮ごとグジャグジャにして入れてみた。焼酎も増量。これで香りにエッジが立った。イガちゃんスペシャルモラセスの誕生である。
もし真似するなら、ちゃんと濾してから使いましょうね。ワシみたいにエエ加減に作ると、霧吹きが詰まりもうすぞ。

流石に7頭も採れば、落武者じゃないのも採れる。

 

 
仔細に見たら、ナゼにこんなにも禿げチョロケになるのかが、概(おおむ)ね解ってきた。どうやらカバフちゃんの背中の真ん中の毛が元々薄いようなんである。毛が短くて、他と比べてフサフサ度が低いと思うんだよね。だから、すぐ円形脱毛症みたくなるんじゃないのかなあ…。

比較のために、参考として他のキシタバの画像を貼付しておきませう。

 

 
上がアサマキシタバ、下がコガタキシタバである。
毛が長いのが、お解り戴けるかと思う。
たぶん、普通のキシタバやフシキキシタバなんかも長い方だと思われる。
反対に短いタイプは他にもいるかもしれない。ムラサキシタバなんかも禿げちょろけ易いので、短いのかもなあ…。沢山採ったワケではないので、全然言い切れませんけど…。
或いは毛が長いタイプと短いタイプの2系統に分かれるとかないんだろうか❓
でも書いてて、段々自信が無くなってきた。所詮は印象で言っているだけの事で、数多くの個体を検証したワケではない。それに野外品ではジャッジメントの線引きが難しい。検証には不向きだ。こう云うのは、厳密的には各種を飼育、羽化させて比較してこそ、検証可能なものだろう。だから、この件に関しては半分以上は戯れ言として聞き流して戴けると有り難い。
但し、カバフに関してだけは、そこそこ当てはまってると思うんだけどなあ…。

今回も、展翅した画像を貼っておきます。
但し、便宜的に適当に選んだ写真なので、採集日は違うかもしれないです。

 

 
この時期は触角を自然な感じにするのが、マイ・トレンドだったんだろうなあ…。来年は真っ直ぐにしよっと。

 
7月6日

今日こそ、奈良でカバフをシバく予定だった。
しかし天気予報を見ると、生憎(あいにく)そっち方面の天気は思わしくない。どうやら、にわか雨があるようなのだ。雨はヨロシクない。網が濡れて、取り込む時に翅の鱗粉が剥がれてしまい、ボロ化しやすいのだ。当然、背中の毛も禿げ易いだろう。
それで急遽、昨日、一昨日のポイントにチェンジした。まさかの三連続出勤である。
また、7頭のうちの2頭は♀だと思ったのに、全部♂だったというのもある。これでは10♂1♀じゃないか。蝶や蛾は基本的に同柄ならば、♀の方が圧倒的に魅力があるのだ。♀、ぽちぃ~。

カバフは8時を過ぎないと飛来しないことが解ってきたので、今日は出発を30分ほど遅らせた。
今日もまた、エッチらオイラ…、じゃなくてエッチラオッチラと駅から長い坂道を歩く。

午後7時半、ポイントへと向かう入口に到着。
でも三日目ともなれば落ち着いたもんだ。念入りに全身に虫避けスプレーを散布して、毒瓶二つを両ポケットに捩じ込む。ヘッドライトを装着後、左手に捕虫網と懐中電灯、右手には糖蜜入りの霧吹きを持って夜の山へと入る。

寄って来たがる木にも好みがあるようで、昨日、一昨日を踏まえて、実績のある木を中心に8ヶ所に糖蜜を吹き付けた。辺りに、甘い香りが立ち込める。

2日間で11頭得ているので、気持ちは楽だ。
しかし、不安が全くないワケではない。虫採りに油断は禁物。常に予断は許せぬものなのだ。2日間でそこそこの数を得たからといって、翌日にまた同じように採れるという保証はどこにも無いのである。条件は変わらないのに、なぜだか1頭も採れない、姿さえ見ないということは往々にしてある事なのだ。況(ま)してや珍品で、個体数が少ないと言われているカバフキシタバである。この2日間で採り尽くした可能性も無いワケじゃない。
でも、♀は一つしか採れてないから、これからは♀の時期になってゆく可能性も無きにしも非ずとも考えられる。まだチャンスはある筈だ。

夕焼け空が次第に色を失い、群青色からやがて漆黒の闇へと移りゆく様は、いつ見ても飽きない。このカトカラを待つあいだの時間は、毎回特別な時の流れの中にあると思う。美しい風景と期待や不安が混じった感情が、不思議な感覚を一時(いっとき)与えてくれるのだ。マジックアワーとでも呼びたくなる素敵な時間だ。
少しニュアンスは違うが、これは昼間の蝶採りの時でも基本は同じだ。中学生がデート相手の女の子を待つみたいな気分なのだ。そこには期待と不安、ワクワクとドキドキ、胸を締め付けるようなものがある。
大人になると、そんな心持ちになれる事は滅多に無くなる。この歳になっても、そのワクワクを味わえるのは幸せなことだ。だから、蝶採りにハマったのかもしれない。
但し、待ち人きたらずで、心がズタズタになる事も多いんだけどね。

午後8時過ぎ。
早くも樹液に来ているカバフを発見。今日は飛来が早い。
でも矮小個体の♂だ。驚いたことにマメキシタバくらいしかない。思わず、二度見したよ。
カバフって、大小の個体差が大きい種なのかもしれないないと思う(註3)。

しかし、あとが続かない。
どうやらフライング個体だったようだ。まさか、これでおしまいってワケじゃないよね❓不安が擦過する。

8時22分。糖蜜トラップに漸く1頭が飛来。
この8時半前後が、カバフのゴールデンタイムの口火の時間なのだろう。

昨日、編み出した下コツッの採集方法で、難なくゲット。
そこから怒濤のラッシュが始まった。
9時前まで間断なく糖蜜トラップにやって来て、休む暇も無かった。あっという間に10頭をゲット。
その後も時折飛んできて、そこからあとは数を数えるのも面倒くさくなって、いくつ採ったかわからなくなった。
しかも、最初の矮小個体1頭以外は全部我がスペシャル糖蜜に来たものだ。ほぼ完勝と言っていいだろう。この三日間を合わせれば、モラセス(糖蜜)の圧倒的勝利だ。
ふははははΨ( ̄∇ ̄)Ψ、モラセスの逆襲だぜ❗

 

 
生息地は局所的で個体数も少ないと言われるカバフキシタバを、この日は結局17頭も採ってしまった。
1日で17頭って、それこそレコードじゃねえの❓(註4)

前の2日間も合わせると計28頭だ。
カバフって、ホンマに珍品かいな(;・ω・)❓

 

 
 
7月7日。

カバフをタコ採りしてやったので、溜飲も下がった事だし、この日はお休みにする予定だった。
しかし昨日、調子に乗って小太郎くんに自慢メールを送ってしまった。

小太郎くんは20代後半の若者で、基本的には蝶屋だが、虫全般について詳しい。驚くほど何だって知っているのだ。若いけど、かなりレベルの高いオールラウンダーだ。ゆえに、結構バカにされている(笑)。でも虫歴は向こうの方が長いし、レベルも高いから仕方がないのだ。それにカトカラの最初の先生だしさ。
彼は蛾にもそこそこ詳しくって、カトカラの事も基本的な事はだいたい知っている。最初にカトカラに興味を持ったのも、彼に影響されたところが大きい。中でもカバフの美しさと珍しさについての熱弁は印象に残っている。彼は基本的にカトカラは採らないし、採っても誰かに進呈するみたいだけど、カバフだけは別格らしい。アレだけは、人にはあげないと言ってた。
その彼から案内して下さいと言われて断るワケにはいかない。そう云うワケで、御案内申しあげた。まさか、まさかの四連チャンである。

今宵も我がモラセスは鬼のごたる効力を発揮した。
小太郎くんも、その効果を素直に認めたくらいである。ただし、この日は樹液に飛んできたヤツもそれなりにいた。

この日もそこそこの数が飛んできたが、正確な数はわからない。おそらく10頭ちょっとは飛んできたのではないだろうか❓前半は小太郎くんの採集と撮影のサポートをしていたので、正確な数を把握していなかったのである。

 

(写真提供 小太郎くん)

 
小太郎くんが満足したところで、最後に自分も幾つか採ったと思うけど、数は定かではない。それさえもあんまり憶えてないのだ。たぶん、急速にカバフに対して興味を失っていたのだろう。

カバフキシタバは稀種と言われてるけど、それに対しての疑問を明確に自覚したのは、この日からではないかと思う。本当はそれほど珍品ではなくて、意外と何処にでもいるんではないかと思ったのだ。それと同時に、食樹に対しての疑念も芽生えた。自分の目が節穴という可能性もあるが、随分と注意してカマツカの大木を探したつもりだが、結局1本も見つけられなかった。にも拘わらず、こんなにも成虫が採れたのである。
カバフの幼虫はカマツカの大木を好むと言われ、それが個体数の少なさの原因だと推測されてきた。けど、こんだけ採れりゃあ、別に大木じゃなくても発生するんじゃないかと疑ったのである。大木を意識するあまり、小さな木を見逃していた可能性はある。
また、こうも考えた。或いは此処ではカマツカ以外の植物も食樹として利用していて、見つからないのは、そのせいではないかと。
しかし、これはあくまでも推測に過ぎない。大ハズレの可能性もあるからね。

 
7月10日。

漸く奈良のカバフにリベンジする日がやって来た。
カバフに対するモチベーションは、かなり下がっているけど、奈良で享けた仇は奈良で返す❗やられたら、やり返す。それが人生のモットーだからだ。負けたままでは終われない性格なのだ。
とはいえ、返り討ちにされないとも限らない。勝つパーセンテージは少しでも上げておくべきだ。早めに行って、新たに樹液が出ている木を探しておいた。

この日は、家が近い小太郎くんにも声をかけておいた。日没後に合流する。
そこで、あのカトカラのニュー、マホロバキシタバ(註5)と出会ったのである。アミメキシタバともクロシオキシタバとも違う何じゃこりゃ❓のそれで、その日はカバフどころではなくなった。リベンジする事すら、頭から消えていたのである。

 
7月某日。

マホロバの発見で、蛾界の一部が騒然となった。
完全にカバフどころではなくなって、マホロバの分布調査にいそしむ事となる。
でも心の奥底では、通っているうちにそのうち何とかなるだろうと思っていた。それがこの日だった。

樹液の出ている木のそば、別な木に翅を閉じて静止していた。
でも、リベンジという意識はあまりなくて、『あっ、カバフおるやんか。』と云う感じで、さしたる興奮はなかった。特別緊張も無いから、なんなくゲット。

 

 
でも落武者になっとるー( ̄∇ ̄*)ゞ。
せやけどワシのせいちゃいまっせ。最初からやった。やっぱ、カバフは驚く程すぐ禿げチョロけるのねー。

時間は正確には憶えてないけど、たぶん8時は絶対過ぎていたと思う。
因みに、結局この周辺では糖蜜に飛来したものはゼロだった。もっとも、樹液がバンバン出ていたので、あんまり真面目に糖蜜採集やってなかったけどさ。

ここまで書いて、はたと気づいた。
7月某日だなんて、何で日付がハッキリわからんねやろ?と。
それで、上の展翅写真のデータを見直した。すると、何と日付が7月11日となっていた。と云うことはマホロバを見つけた日、つまりリベンジ初日の7月10日に、ちゃんとカバフを採っていたと云うことになる。Facebookに上げた記事もマホロバの記事を最初にあげた翌日(12日)の昼間になっている。12日は、小太郎くんが用事があるとかで、一人で訪れている。となると、10日に採っている可能性が極めて高い。

慌てて小太郎くんに電話して確認を取ったら、「その日かその前かはどうかは微妙ですけど、マホロバを採る前だったと思いますよ。」と云う答えが返ってきた。このカバフを採った時には、小太郎くんも一緒にいたのだ。
7月7日に彼と一緒にカバフを採りに行ってから、何処にも行ってない筈だ。ましてや奈良に行っていたとしたら、記憶がないワケがない。たとえパープリンの記憶喪失男だったとしても、小太郎くんが一緒に居たことは間違いないワケだから、それは有り得ない。
たぶん、マホロバの発見が強烈過ぎて、その日カバフを採った記憶がフッ飛んでいるのだ。
その後、なかなか次の1頭が得られなかったので、記憶がソチラに引っ張られたのかもしれない。奇しくも、如何に人間の記憶が曖昧なのかの証左を突きつけられた感じだ。思い込みとは恐ろしい。
何はともあれ、リベンジ一発目でカバフを採ったんだね。俺ってやっぱ、やる時はやる男やんか。何かプライドが強化されたようで、得した気分(о´∀`о)

その後、岸田先生がマホロバの分布調査に送り込んできた刺客、小林真大くんが若草山近辺でもカバフを見つけて、複数採った。そういえば、彼が言ってたなあ。糖蜜にソッコー来たそうだが、樹液には一つも来なかったって。カバフは樹液よりも、モラセス好きなのかもしれない。
自分も、後に赤松の幹に止まっているのを見つけた。カバフは赤松の木が好きで、昼間よく止まっていると聞いてたけど、この時初めて見た。真大くんも赤松の木で見つけたと言っていたから、やはり赤松好きなのだろう。もしかして、アカマツも食樹だったりしてね(笑)。日本のカトカラは基本的に針葉樹を食わないだろうから、それは無いとは思うけど…。
それで思い出したが、若草山近辺にもカマツカの木はそれなりにあるようだ。自分も2本くらい見た。探せば、もっと北や東にもあって、カバフもいるんじゃないかと思う。

自分の六甲でのタコ採り、奈良近辺での採集数、それに松尾さんが兵庫県西部で相当数のカバフを見ていることから、今年は大発生なのではと云う意見もあるようだ。しかし、果たして本当にそうなのかな?と疑問に感じている。それ以外で、他にはあまり例を聞かないからだ。たまたま沢山いる所が見つかって、情報が強調されたにすぎないんじゃないかと思ってる。間違ってたら、ゴメンナサイ。

思ったんだけど、大発生とかではなくて、寧ろ今まであまり調査されてこなかっただけの事ではなかろうか。意外とカバフは何処にでもいて、個体数も思われているほど少なくないのではないか。単にベストな採集方法が分かってなかっただけではないかと云う考えに傾き始めている。
今までカバフがあまり目に触れてこなかったのは、採集を主に外灯に来たものやライトトラップ、或いは昼間に静止しているもの、樹液への飛来に頼ってきたせいではなかろうか❓
カトカラの中でも、カバフは特徴的な上翅をしているから見つけ易いとは言われているが、にしても昼間の見つけ採りは決して効率が良いとは言えないだろう。樹液にも、個体数のわりには寄って来ないのかもしれない。自分の経験値と真大くんの見解を併せれば、樹液で採るよか、糖蜜の方が遥かに有効である可能性はあると思う。
しかし、糖蜜トラップでカバフを採ったという話はあまり聞かない。常識的に考えれば、糖蜜よりも樹液の方に寄ってくると考えるのは当たり前だろう。が、その当たり前が常に正しいとは限らないと云うことだ。
ライトトラップにも、そもそもあまり寄って来ない種なのかもしれない。或いは寄って来るのが遅い時間帯と云うのも有り得る。皆が皆、そんなに夜遅くや明け方までライト・トラップをやってないだろうからね。撤収した後がゴールデンタイムと云う可能性も無くはないか❓

結局、奈良でも六甲でもライトトラップを試してないから、ライトへの飛来に関しては本当のところはわからない。あれだけの数が糖蜜で採れて、ライトトラップにはあまり寄って来なかったとしたら、走光性が低いという可能性がある。
同地で、糖蜜とダブルで試してみたら、事実の一端が見えてくるかもしれない。どちらが有効であるか、来年試す価値はあると思う。
でもさあ( ̄∇ ̄*)ゞ、おいらライトトラップの道具持ってないんだよねー。

 
                   おしまい

 
追伸
計3話に渉る長々としたクソ文章にお付き合いくださいました方々、御拝読ありがとうございました。
相変わらずフザけまくるは、生意気に意見するわでスンマセンm(__)m

夏の強烈な日射し、荘厳なる夕暮れ、木々を揺らす風、部活動をする学生たちの声と楽器の音、タールのような漆黒の闇、儚く光る蛍たち、溶けそうな蒸し暑さ、糖蜜の甘い香り、帰り道の静まりかえった夜の街、そして灯りの中で明滅するカバフキシタバの鮮やかな黄色。
この長い文章を書いている間、色んな風景や温度、その他もろもろがフラッシュバックした。
来年も、カバフキシタバに会いに行きたい。

 
(註1)100均の懐中電灯
100均の懐中電灯はショボい。でも、敢えて使っている。何でかっつーと、照らしてもカトカラがあまり逃げないからなのである。カトカラは敏感だ。強い光を当てるとビックリして飛びがちなのだ。光量があって性能が良い懐中電灯は素晴らしいと思う。が、性能が良過ぎて、あまりヨロシクないんである。あくまでワタクシ的感想ですが。

 

 
ただしコヤツ、100均だけあってマジしょぼい。すぐに接触不良を起こして調子悪くなるのだ。で、しばしばブラックアウト。ドツいて、また光だすというポンコツ振り。電池が無くなりかけると、驚くほど光量が落ちるしさ。だから、予備電池は必須アイテム。お陰で、初期の頃は夜の山中で懐中電灯が消えかけて半泣きになったことが何度かある。一人ぼっちだったし、チビりそうになった。

 
(註2)8時を過ぎないと現れないと思われる
そんな事、図鑑とか何処にも書いてないけど、少なくとも関西では間違いなかろう。今夏、他人の採集も含めて知っている範囲では、50近い飛来数のうちで例外は一つもない。

 
(註3)カバフって大小の個体差が大きいのかもしれない

展翅した一部を並べてみた。

 

 
特別そうだとは言えないだろうが、それなりにはあると思う。

それよりも気づいたのは、♂と♀の下翅の斑紋の違いである。
今一度、並べてきた展翅写真を見て戴きたい。下翅の真ん中の黒帯が♂の方が細い傾向がある。だから、♂の方が黄色っぽく見える。そんな事、どこにも書いてなかったよね?
とはいえ、微妙なのもいる。同定の際の決定的な相違点とはならないだろうが、その一助にはなると思う。♂か♀なのか微妙な個体の場合には、使えるかもしんない。

 
(註4)それこそレコードじゃねえの❓
調べたら、石塚勝己さんの『世界のカトカラ』によると、島根県で143頭も採れた記録があるらしい。物凄い数だにゃあ。ケタが一桁違うわ。
但し、よくよく見たら外灯(水銀灯)に来たもので、しかも1959年から1960年の二年間での総数のようだ。
成虫の発生期間を少なく見積もって1ヶ月として、2年間で60日としよう。単純に143を60で割ったとしたら、2.83だ。つまり1日3頭も採れていないことになる(それでもスゴい数字とは言える)。となると、1日17頭って、凄くねえか❓レコードも有り得るよね。もちろん単純計算に過ぎないから、天候不順の日だってあるだろうし、飛来日数はもっと少ないかもしれない。けど、カトカラは雨でも全然飛んで来るからね。また、1日3頭ずつコンスタントに飛んで来るワケではなかろう。中には爆発的に集まって来る日もあっただろう。にしても17と云う数字は、かなりいい線いってると思うんだけどなあ。
因みに3日間で28頭だから、それを3で割ると平均は約9である。9×60=540だ。圧勝じゃん❗
小太郎くんと行った日も10頭くらいは採れているから、仮に38÷4としても9.5である。コチラの方がもっと凄いことになる。
まあ、何だかんだ言っても、所詮は机上の理論に過ぎないんだけどね。
とはいえ、少なくとも樹液&糖蜜採集の数としては、レコードに近いんじゃなかろうか❓

 
(註5)マホロバキシタバ

 
学名 Catocala naganoi mahoroba 。
日本で32番目に見つかったカトカラ。詳しいことは『月刊 むし』の10月号を見てくだされ。不肖ワタクシの発見記も有るでござる。

 

続・カバフキシタバ

  
随分と間があいたが、連載『2018’カトカラ元年』シリーズの再開である。
何でこんなに開いたのかと云うと、日本では未知のカトカラ、Catocala naganoi mahoroba マホロバキシタバ(註1)を目っけてしまったからである。
この発見にはカバフキシタバが深く関わっており、それでマホロバの記載が終わるまでは下手な事は書けなくなった。奈良県で見つけたカバフとマホロバの生息地が同一である事から、情報漏れを防ぐために自粛したのである。

と云うワケで、今回は前回のカバフキシタバの続編でありんす。
(-o-;)ん~、何かちょいややこしくなってるかもなあ。いっそ各カトカラの続編は『2019年’ カトカラ二年生』というタイトルに変えてやろうか…。でもそれはそれでゴチャゴチャになって、ややこしくなりそうだ。それに前に書いた続編シリーズのタイトルも全部書き直さないといけないしさ。面倒くさいし、とりあえずは暫くはこのまま2018年版と2019年版を交互に書いていくスタイルでいこう。

前半部は月刊むしの2019年10月号掲載の『マホロバキシタバ発見記』の文章が下敷きになっています。
もちろん「てにをは」を含めて微妙には変えるつもり。というか、遠慮してマイルドになったところも書き直すつもりの増補改訂版になろうかと思う。
完成すれば、たぶん時間が経ってる分、コチラの方が文章はコナれていると思う。ヒマな人は微妙な違いを探してね。とはいえ、書いてるうちに大幅に改変するかもしんないけど。

前置きが長くなった。取り敢えずタイトルを新たにつけて、前へと話を進めよう。

 
『リビドー全開❗逆襲のモラセス』

 
2018年、8月の終わり頃だったと思う。
カミキリムシ・ゴミムシダマシの研究で高名な秋田勝己さんが、Facebookに奈良県でのゴミムシダマシ探査の折りに、たまたまカバフキシタバを見つけたと書いておられた。
その年にカトカラ採りを始めたばかりの自分は、既に京都でカバフは得てはいたものの、来年はもっと近くで楽に採りたいと思った。それで、秋田さんとは殆んど面識はないものの、勇気を出してメッセンジャーで連絡をとった。
秋田さんは気軽に応対して下さり、場所は若草山近辺の昆虫採集禁止区域外だとお教え戴いた。また食樹のカマツカは奈良公園や柳生街道の入口付近、白毫寺周辺にもある旨のコメントを添えて下された。

ところで、奈良県にカバフの記録ってあったっけ❓
ネットで調べてみる。てっとり早いのは『ギャラリー カトカラ全集』だ。このサイトには各都道府県別のカトカラの記録の有無が表にされているのだ。
それによると、奈良県にカバフの記録は無いようだ(註2)。こういう誰も採った事が無い的なものは大好物だ。それで、俄然やる気が出た。根が単純なので、だったらオラが最初に採ったろやないけー❗となるのである。

その年の秋遅くには奈良公園へ行き、若草山、白毫寺と歩き、幼虫の食樹であるカマツカと樹液の出ていそうな木を探しておいた。

 
【カマツカ】
(於 奈良公園)

 
この画像を『コレがカマツカで、よござんすか❓』と秋田さんに送ったところ、正解との御墨付きを戴いた。
因みに月刊むしの原稿で、秋田さんが「こやつ、カマツカも知らんとカバフを探しとんのか❓イモかよ。」的なニュアンスの事を書かれていたが、まあその通りかな。
だってカトカラ1年生だし、飼育なんて蝶さえ殆んどしないから、植物には疎い。ましてや蛾の食樹だ。んなもん、知るワケないもーん<(`^´)>
そんなオイラだが、引きだけは強くて日本でも海外でも何か知らんけど珍しい蝶や甲虫だのを採ってきてしまう。海外なんかは現地にいる虫の事をろくに下調べもせず出掛けて行って、ガイドも雇わないというテキトー振りでだ。だから、周りに冷ややかな目で見られ、『おまえ、虫採りナメとんのか。』と御叱りを受けるのである。
まあ、皆さんが怒るのも解るけど、採れるんだから仕方がないのさ( ̄▽ ̄)ゞ。そないに叱られてもなあ…。
 
そんなオイラだが、翌年は秋田さんのお陰もあって、万を持して始動。

2019年 6月25日。

先ずは若草山近辺を攻める。しかし秋田さんに教えて戴いていた樹液の出てる木はゴッキーてんこ盛り。
Σ( ̄ロ ̄lll)キショっ、皮膚が粟立ち、おぞける。
一瞬、意地の悪い秋田さんのことだから、もしかしてワザとゴッキーだらけの木を教えたんじゃないかと疑う。
しかし、悪魔のような秋田さんといえども、たぶんそこまで手の込んだことはすまい。
そう思うが、一応『(=`ェ´=)秋田の野郎~。』と呟いとく(秋田さん、ゴメンナサイ)。

霧吹きで糖蜜を撒き散らすも、全然ダメ。小汚いクソ蛾どもと、ただキシタバ(パタラキシタバ)しか来ない。カバフが飛んで来る気配というものがまるでないのだ。
この気配を感じる感じないかは、謂わば勘みたいなものだ。言葉にするのは難しいが、その勘というものを自分は大切にしている。今回もそれに従おう。ダメなもんはダメ。決断は早い方がいい。チラッと若草山からの夜景を見て、午後9時過ぎには諦めて白毫寺へと向かった。

 

 
周囲は原始の森だ。真っ暗闇の中、長い坂道をひたすら下る。忍耐である。
勿論、人っ子一人いない。闇の奥で、何かあずかり知らぬ者どもが蠢いていそうな気がしてくる。マジで、こういう古い森は精霊とかがいそうだ。でも精霊が皆が皆、良い精霊だとは限らない。中には邪悪な精霊もいるかもしれない。でもって、ゴブリン、ゴブリン。小人で、人相がゼッテー悪いんだな。そうに決まってる。そいでもって滑舌が悪くって、何言ってるか解らないのだ。
一人で暗闇の中を歩いていると、色んな思いが去来して、どんどん心が磨り減ってゆく。コレが結構キツイ。ボディーブロウのように心身を次第に蝕んでゆくのだ。「こんなとこで、ワシ何やっとんねん❓」である。
冷静に考えれば、やってる事が一般ピーポーから見ると狂人の域だ。フツーの人は怖すぎて絶対に夜の森を一人でなんて歩き回りゃしません。そんなの、アタマおかしい人か犯罪者くらいだ。
でも、それに耐え忍ばねば、甘い果実は得られない。虫採りとは、勘と忍耐である。

白毫寺に着いたのは午後10時くらいだったと思う。
目星をつけていた樹液の出ているクヌギの木を見ると、結構カトカラが集まっている。
しかしカバフの姿はない。取り敢えず周辺の木に糖蜜を吹きかけてやれと、大きめの木に近づいた時だった。
高さ約3m、懐中電灯の灯りの端、右上方に何かのシルエットが見えたような気がした。そっと灯りをそちらへ持ってゆく。

そこには、あの特徴的な姿があった。
だが、脳が現実なのか幻なのか直ぐには判断てきなくて、頭の中で時間が止まる。ややあってから、目と脳の認識が漸く一つに重なりあった。
間違いない、カバフキシタバだっΣ( ̄ロ ̄lll)❗
瞬間フリーズ。ゴーゴンかメデューサの凶眼に射すくめられたかのように、その場で石化する。体が動かない。
だからといって、いつまでも🐍ヘビ女の呪縛に雁字搦めに囚われているワケにはゆかぬ。懸命に心を鎮め、ゆっくりと後ずさりする。7、8mほど離れてから反転。音を立てないようにして忍者の如く爪先立ちで走る。心は高揚感で乱れに乱れている。
30mほど後ろの荷物が置いてある場所まで戻った。離れたことにより、少し心を落ち着かせることが出来た。
しかし、ここからが仕切りなおしの本当の勝負だ。大きく一回、深呼吸をして気を整える。
焦ったら負けだ。逸る心を抑えて網を組み立てる。
Σ(T▽T;)ヒッ、でも手が覚束なくてネジに真っ直ぐ入れれな━━い。落ち着こう、俺。ここで焦ってどうする。ネジがバカになったら元も子もないではないか。もう一回深呼吸する。だいたい立ってやってるからダメなんだ。しゃがんでやろう。
それで何とか装着することができた。すっくと立ち上がる。もう大丈夫だ。侍魂がフツフツと甦ってくる。
いよいよ、ここからが本チャンの闘いが始まるかと思うと、背中がブルッとくる。武者震いってヤツだ。このギリギリ感、溜まんねえや。これがあるから虫採りはやめられない。我が愛刀、蝶次郎で必ずや斬る❗
軽く息を吐き、ゆっくりと一歩を踏み出す。落葉がカサカサと乾いた音をたてる。静かな夜の森に、その音が奇妙に誇張されて響く。彼奴を刺激しないように、懐中電灯の光を直接当てずに慎重に近づいてゆく。

この木だったな。
歩みをやめ、ゆっくりと懐中電灯を止まっていた辺りにズラしていく。再び緊張感が高まる。
ピピピピピピッ……、ロックオーン❗
ほっ( ̄▽ ̄)=3、逃げずにまだいる。よっしゃ、ゲーム続行だ。
けれども刹那、どう網を振るか迷う。ダメだ。その一瞬の躊躇が負の連鎖を呼び起こしかねない。自念する。迷いは捨てろ。何も考えるな。メンタルの弱い奴には幸運など降りてきはしない。
蝶次郎の柄を握り締める。そして次の瞬間、息を詰め、大胆に幹をバチコーン💥❗思いっきしブチ叩く。
秘技✴嵐流狼牙斬鉄剣❗❗

手応えはあった。
空中で網を素早く捻り、地べたへと持ってゆく。
どうだ❓ 波立つ心で、慌てて懐中電灯を照らす。
そこには、シッカリ網の底に収まっている彼奴の姿があった。しかも暴れる事なく大人しく静止している。安堵がさざ波のように拡がってゆく。
やっぱ俺様の読みが当たったなと思いつつ、半ば勝利に酔った気分で近づき、ぞんざいに網に毒瓶を差し込んだ。まあまあ天才をナメんなよ(`◇´)、狙った獲物はハズさないのさ。

しかし、取り込むすんでのところで物凄いスピードで急に動き出して、毒瓶の横をすり抜けた。
(|| ゜Д゜)ゲゲッ、えっ、えっ、マジ❓
ヤバいと思ったのも束の間、パタパタパタ~。網から抜け出して飛んでゆくのがチラッと見えた。
嘘でしょ❓嘘であってほしい。慌てて周りを懐中電灯で照らすも、その姿は忽然とその場から消えていた。
(;゜∇゜)嘘やん、逃げよった…。ファラオの彫像の如く呆然とその場に立ち尽くす。
(-“”-;)やっちまったな…。大ボーンヘッドである。あんま普段はこういうミスはしないので、ドッと落ち込み、「何でやねん…。」と闇の中で独り言(ご)ちる。己の詰めの甘さに心の中が急速にドス黒い後悔で染まってゆく。

結局、その日は明け方まで粘ったが、待てど暮らせどカバフは二度と戻っては来なかった。ファラオの呪いである。

しかし、その時はまだこのボーンヘッドが後のマホロバキシタバの発見に繋がろうとは遥か1万光年、露ほども想像だにしていなかった。
運命とは数奇なものである。ちょっとしたズレが、その後の結果を大きく左右する。人生は紙一重とはよく言ったものである。おそらくこの時、ちゃんとカバフをゲット出来ていたならば、今シーズン再びこの地を訪れる事は無かっただろう。そしてニューのカトカラを見つけるという幸運と栄誉も他の誰かの手に渡っていたに違いない。

閑話休題。
でも、この時点では後にそんな大発見に至るとは知らないという前提で話を先に進めまする。

 
2019年 7月2日。

天気や個人的な用事もあり、あれから約1週間のインターバルがあいてしまった。

この日は奈良にリベンジをしに行く事も考えだが、その前に去年カバフを採った京都市左京区へ行くことにした。

  
【カバフキシタバ Catocala mirifica ♂ 】

(2018.7.15 京都市左京区)

 
去年、人為的にボロにしてしまった1♂のみしか採れなかったとはいえ、先ずは実積のある場所で確実におさえておきたかったからである。
ここなら寄ってくる樹液も知っているから、楽勝である。♂♀の完品が採れれば、気分はだいぶと楽になる。その後でジックリ奈良を攻めればいい。

 
今年もまだ有りまんな、ビビらす看板。

 

 
去年の、あの真っ暗闇の世界と謎の動物の咆哮を思い出したよ。超ビビりまくったんだよなあ…。マジあん時は恐かったもんなあ。怖すぎて逆ギレしてたっけ…。
しかし、あれからコチラもそれなりに闇の経験を積んできている。今回は二度めの来訪だし、あの時の恐怖感と比べれば、どって事ない。鬼採りでイテこましてくれるわ。今日こそ、まあまあ天才の実力をとくと見せてくれようぞ(=`ェ´=)

去年、カバフの食樹であるカマツカかなと思っていた木はウワミズザクラだった。

 

 
木肌の感じからしても間違いないかと思われる。
さっきも言ったけど、一年も経てばアチキだってそれなりに進化しているんである。植物の知識も少しは増えているのだ。
だが、その後歩き回るもカマツカの木が一つも見つからない。嫌な予感が、サッと撫でるようにして走る。もしかして、個体数が元々少ない場所だったりして…。

夜の帳が降りると、やっぱ真っ暗になった。

 

 
でも今年は蛍が沢山いた。
去年は一つも見なかったのに、不思議だ。
だから最初見たときは、🔥鬼火かと思って腰くだけになりそうになっただよ。京都って、妖怪だの幽霊だのの魑魅魍魎が跳梁跋扈してそうじゃん。そういうイメージがある。それに、この辺は昔は刑場とか墓場だったと聞いたことが有るような気がしてきた。だから、マジで出たなと思った。
稀代の怖がり屋としては、熊よか鬼火の方が余っぽど怖いんである。もちろん熊も怖いけど、まだ現実の存在だから対処のしようもある。マウントされたとしても、脇に息が出来ない程の強烈なフックをおみまいしてやることだって出来る。けれど、お化けだったら対処のしようがない。いらぬ想像力が増幅して、恐怖が異様に膨れ上がってのお地蔵さんだ。動けるか、ボケッ❗急に得体の知れないものがボオーッと闇から浮き出てきて、口から緑色の液をジャーと吐きでもしたら、どうするのだ❓オチンチン、激りんこメリ込むわい。この世のものならざる者は、あきまへーん(T▽T)

蛍は源氏も平家もいた。川沿いにはゲンジボタル、真ん中の水田にはヘイケボタルと、棲み分けしていて、時々その境界線で両者が絡まって飛ぶ。道ならぬ恋。ちょっとした幻想的風景だ。
それで、心にフッと上手い具合に隙間が空き、何だか心が休まってくる。このリラックスした気分で、カバフをジャンジャン採りまくるけんね。

 

 
(-o-;)……。
夜が明けた。

嫌な予感が当たってしまった…。
夜通し探し回り、明け方まで粘ったのにも拘わらず、1頭たりとも見ることすらできなかった。まさかの返り討ち、又しても大惨敗を喫してしまう。
見もせんもんは、如何にワシでも採れん。やはり、此処は個体数が少ないのかもしれない(註3)

結局、採れたのはコカダキシタバと、まあまあ渋いんでねえのと思って採った、この蛾くらいだった(註4)。

 

 
けど、いまだに展翅すらしていない。
如何せん渋過ぎるのだ。

何にせよ、(◎-◎;)ショックで身も心もボロボロじゃよ。徒労感、半端ない。

やがて、朝日が昇ってきた。
無駄に眩しい。
日の光に照射されたヴァンパイアの如く、いっそ、その場で灰になってしまいたかった。

やはりカバフ採りは、甘くないのか…。
珍品と言われたる所以が解ったよ。

                     つづく

 
追伸
スランプで、思うように筆が進まない。
気に入らなくて何度書き直したことか…。
そう云う時は必要以上に長くなるし、気持ち的にもシンドイ。なので一旦前編で切ることにした。

そういえば思い出した。朝まで粘ったのは、今年はこの連続の二回だけだった。
両日ともに、あまりにも退屈過ぎて、睡魔と戦いながらずっと一人シリトリをやってたんだよね。何処にも到達しない、未来永劫救われることのない無益なシリトリだ。
アレは今思い出しても辛かった。そりゃ、ドラキュラみたく灰になりたくもなるよ。

 
(註1)マホロバキシタバ

 
新種になりかけた時期もあったが、結局は台湾のみに分布が知られていた Catocala naganoi の新亜種におさまった。
マホロバに関しては、またいつか書く機会はあろうが、まだカトカラ No.5なので、まだまだ先のことになりそうだ。

(註2)奈良県にカバフの記録は無いようだ
「大切にしたい奈良県の野生動植物2016 改訂版」には、カバフキシタバが絶滅危惧種としてリストアップされている。記録地の詳細は書かれていないが、大阪と奈良の県境、信貴山辺りでも採れているみたいだし、記録は間違いではないだろう。
「ギャラリー カトカラ全集」の都道府県別のカトカラ記録表は参考にすべきものではあるが、それをそのまま鵜呑みにしてはならないと思う。例えばフシキキシタバは奈良県から記録が無いとされているが、実際にはアホほどいるからね。

(註3)個体数が少ないのかもしれない
もしかしたら、まだ未発生でフライングだった可能性はある。去年の採集日よりも2週間くらい早い出陣だったし、今年は蝶の発生が1週間以上遅れていたようだからだ。それからすると、蛾の発生も遅れていた可能性は充分ある。
とはいえ、今のところ来年リベンジしに行くつもりはない。ごっつ真っ暗なとこだし、謎の動物の咆哮も怖いので、行くとしても来年はもう一人では行かないと思う。

(註4)この蛾くらいだった
たぶん、Phalera minor クロツマキシャチホコという蛾かと思われる。
あまり見かけない蛾だが、幼虫の食樹はブナ科コナラ属のウバメガシ、クヌギ、コナラ、アラカシとなってるから、そんなに珍しくはなさそうだ。

 

月刊むし10月号が我が家にやって来た、ヤア❗ヤア❗ヤア❗

  
ポストに郵便物が届いていた。
見ると『月刊むし』だった。一瞬、購読してないのに何で❓と思った。けど、直ぐに解った。10月号に原稿を書いたんだわさ。
やったぜ、タダで貰えるとは思わなかったから嬉ぴーよ~ん\(^o^)/

💓ドキドキしながら、封筒から出す。

 

 
表紙は、かなりカッコイイd=(^o^)=b
幻想的で、お洒落だ。センスいい。
でも、惜しむらくはカトカラではなくて、ヒメヤママユとウチスズメだ。日本で32番目のニューのカトカラの特集号なのになあ…。
(・o・)あっ❗、巻頭の記事も岸田先生と石塚さんの記載文ではない。ヒメアトスカシバとか云う聞いたこともない蛾の幼生期についての記事だ。何故に❓綴じ方の関係で、そうせざるおえなかったのかな❓
まあいい。今の自分にとって、そんなのは些末な事だ。この号が世に出たことの喜びの前では、どって事ない。

でも、嬉しいんだけど、何だか怖いような恥ずかしいような変な気持ちで、まだ中を開いてない。
書いた内容は結構忘れているので、逆にとんでもないおバカ文章炸裂なのではないかと不安になってきたのである。
段々思い出してきたよ。かなりフザけたことを随所に書いた記憶がある。
取り敢えず、3日ほど寝かしてから読も~っと。

誌の発売日は25日の筈だけど、岸田せんせも石塚さんもFacebookに記事を既にあげておられるので、もう解禁という事でもいいのだろう。書いちゃえ。

 
【マホロバキシタバ Catocala naganoi mahoroba】

 
新種ではなく、新亜種になった時はガックリきたけど、周りが新亜種でもスゴい事だとおっしゃるので、そうなのぉー( ̄∇ ̄*)ゞ、じゃ、まっいっかと今は納得している。誰も興味のない矮小昆虫ではないし、あの毒舌家の秋田さんだって悔しがっているんだから、それだけでもう充分なのだ(^-^)v

上が♂で、下が♀である。
特徴は下翅の黒い帯が下部で繋がらない事である。
他の黄色い系統のカトカラはここが繋がるか、もしくは近接しているので、見分けるのは比較的簡単。
因みに、この♂は通常の型とは違い、上翅が蒼っぽい個体。普通は淡い緑色か茶色です。

和名は概ね好評のようで、イガラシキシタバなんてダサい名前をつけなくてよかったよ(笑)

一応、これでホッとした。
三ヶ月くらい箝口令が敷かれてたしね。

この場を借りて、もう一回お礼を言っておこう。関係各位の皆様方、色々と御尽力有難う御座いました。

 
                   おしまい

 
追伸
えー、つーワケで、『2018′ カトカラ元年』の連載を再開します。次の回の内容が、モロこのマホロバの発見と被ってて書けなかったのだ。
けど、まだ一行たりとも書いてないっす。下書きくらい書いとけゃよかったのにと思うが、その日暮らしのキリギリスにはそんな事できるワケがないのだ。

追伸の追伸
マホロバキシタバ関連の記事は、その後に当ブログにて三編書きました。一つは『喋くりまくりイガ十郎』と云うタイトルで、請われて名古屋でマホロバについて講演してきた話です。あと2つは、2019’カトカラ2年生のシリーズ連載、マホロバキシタバ発見記の『真秀ろばの夏』の前・後編です。現時点では、マホロバキシタバについて最も詳しく書かれた文章です。自分で言っちゃったけど、そうなんだから仕方がないのさ(笑)