黄昏のナルキッソス 第四話

 
最終話 『蠱惑のナルキッソス』

 
2023年 9月23日

奈良から蛹と幼虫を持ち帰ったら、直ぐに近所のスーパーにダンボール箱を2個ほど貰いに行った。
一つは、その中で蛹を羽化させるためだ。もう一つは、幼虫に繭を作ってもらい、中で蛹化してもらうためである。ちなみに、ダンボールはお菓子のカールのチーズ味と湖池屋のポテトチップスのストロングサワークリーム味である。

一応、幼虫の食餌植物であるシンジュ(ニワウルシ)の葉も近所から取ってきた。木を這い回る幼虫のみを選んで持って帰ったから、たぶん摂食はせずにそのまま繭になるとは思ったが、念のために用意したのだ。

先ずは幼虫を移すことにする。
シンジュの枝の切り口を水中で斜めにカットし、濡らした脱脂綿で覆って、更にその上からアルミホイルで包む。それをダンボールに入れたら、幼虫を傷つけないように筆に乗せて移す。
幼虫は3頭だとばかり思ってたけど、4頭いた。
移し終えたら、ガムテープで蓋をする。部屋内に置こうと思ったが邪魔だし、だいち夜中に逃げ出して、体をモゾモゾと這い回りでもされたらコトだ。😱💦キショ❗ 想像しただけでも背中に悪寒が走ったよ。慌ててベランダに出す。

次は蛹である。箱の下にクッションがわりのティッシュを敷く。あとは其処に蛹を背中向きに置いていくだけである。なぜ背中側にするかというと、繭の中の蛹の向きと同じにするためである。
そして、さあ蛹を移そうとタッパーの蓋を開けた瞬間だった。
いきなり目の中に鮮やかな黄色と青が飛び込んできた。
😲w⁠(⁠°⁠o⁠°⁠)⁠w何じゃこりゃ❗❓

面食らって一瞬、何が起きているのか理解できなかった。でもどこかで見た覚えがある姿だ。そして、次の瞬間には全てを理解した。たぶんアレがアレになったのだ。

羽化が近そうだった蛹が、早くもタッパーの中で羽化し終えていたのだ。まさか、そんなに早く羽化するとは思ってもみなかったし、それに裏側だったので起こっている事の意味が余計飲み込めなかったのだ。ネット上でも、裏面画像は少ないからね。当然、脳にインプットされた情報量は少ない。ゆえに印象も薄い。よって直ぐには脳内シナプスが繋がらなかったのだろう。
でも、何で裏側❓ 何ゆえヒックリ返っておるのだ❓ それに飛んで逃げないのはナゼ❓
あわててタッパーを引き寄せる。それで漸く事態が飲み込めた。どうやらポケットティッシュの空袋に頭から突っ込んで動けなくなっているようなのだ。そういや蛹を傷つけまいと、クッションがわりにテイッシュを使ったのだが、全部使い果たしたんだよね。で、その空袋をそこいらに捨てるワケにもいかず、一番上に置いて、タッパーのフタをしたんだわさ。って事は、羽化して底から這い登ってきて、偶然にも空袋に入ったって事か。しかも裏向きで。だとすれば、すごい確率だ。殆んど奇跡に近い。
待てよ。でも何がどうなったら裏側になるのだ❓ 裏向きに袋に入ってゆくシチュエーションが全然想像できない。それとも表向きに入って行って、中でヒックリ返ったのか❓ けど、どうやったらヒックリ返れるのだ❓ どちちにせよ、謎だらけだ。

でも惜しいかな、この時の画像はない。なぜなら、この状態で暴れられでもしたら、背中の毛がハゲチョロケ、醜い落武者化してしまいかねないからだ。それはマズイ。救出には、一刻の猶予も許されない。写真なんか撮っているヒマなどない。そう思って、慌ててテイッシュ袋から脱出させたのだ。

真ん中にあるシミは、おそらく羽化後に出した体液であろう。だとすれば、蛹から脱出して羽も伸びきらぬうちに空袋に入ったのか❓ それとも完全に羽が伸びきってから入ったの❓
蝶の場合だと、体液を排出するのは後者だった筈だ。と云う事は、羽が伸び切ってからか❓
バカバカしくなってきた。それが、どうしたというのだ。詮索したところで何の意味もない。もう、どっちでもいいや。

一応、裏面展翅の画像を貼り付けておく。
コレ⬇が上のティッシュの空袋に入っていたと想像してみてほしい。

(シンジュキノカワガ Eligma narcissus 裏面)

かっなりインパクトがあるっしょ❓
蓋を開けたら、コレがバーンと目に飛び込んできたら、誰だって面食らうだろうし、直ぐには事態が呑み込めなかったのも御理解戴けるかと思う。

それにしても、蛹を得てからこんなに早く成虫に会えるとは思っていなかったし、まさか初めて見るのが裏側だなんて想像だにしていなかった。衝撃的な巡り逢いだよね。簡単に恋に落ちる典型的シチュエーションだ。

袋を開くと、彼女は慌てたようにパタパタと飛んで行き、ベッドの端に静止した。それを優しく手に移し、カーテンに止まらせた。驚くほど従順だ。素直な愛(う)い娘じゃ。

幸いにも背中はハゲチョロケにはなっていないようだ。

前脚を揃えて止まっている。何か律儀と云うか、お行儀が良くて可愛い。オラを惑わすだなんて、蠱惑のナルキッソスだね。

(⁠⁠´⁠ω⁠`⁠⁠)ほよ。前脚はモフモフだねぇー。
直ぐに殺すには忍びないので、暫く彼女を肴にして酒を飲むことにする。何か、ええ気分やわ。

あれから既に4時間くらい経っているが、段々と愛着が湧いてきて殺せないでいる。取り敢えず、このままスルーして眠りまーす。

 
2023年 9月24日

したら、翌朝には忽然と消えていた。
慌てて探し回る。しかし、何処をどう探しても見つからない。💦焦る。
部屋は閉め切っていたから、外には逃亡はしていない筈だが、どっかタンスの裏にでも潜られたらオシマイだ。引っ越しするまで見つからない。で、ボロボロになっている可能性大だ。もしそうなったとしたら、泣くに泣けない。情けなんぞ掛けずに、早めにシメておけば良かったと後悔する。

時々、思い出したように探し回るが、昼を過ぎても見つからない。まさか神隠しにでもあったのか❓そなた、いずこへ❓

さておき、小太郎くんに電話しよう。
昨日、現地から採集できた御礼のLINEを送ったら、すぐに返信が返ってきた。

「夜までやってライト焚いたら、成虫も来るかも?」

でも、そんな気力は無かった。
「考えたけど、あのクソ重たいポータルバッテリーを持って此処まで歩くのは辛い。なので今回は断念。あっ、明日付き合ってくれるなら、やるけどー。」と返した。その確認のための電話である。

現在、羽化した奴が行方不明中である事と、その成り行きを説明したら、笑って言われた。
「夜行性なんだから電気を消したら、そりゃ飛び回りますよー。」
そりゃ、そーだー。ツンマセーンm(_ _)m

幼虫の様子も気になったので、ベランダに出た。
したら、何とガムテープの端が剥がれており、フタが浮いておるではないか。慌てて箱を開けて中を確認する。
ひー、ふー、みー、…。アレっ❗❓ 一つ足りない。畜生めがっ、おのれ、逃亡しおったな。だが周りを見回すも、姿なし。
けど自分のミスだから仕方がないよね。まっ、いっか…。取り敢えず、ついでに洗濯物を取り込もう。

洗濯物を取り込んで、何気に窓側を振り返ってピンときた。部屋の中からは死角になっている部分がある。もしやと思い、窓に向かって目を凝らす。
ハッ❗いたっ❗ 何と真ん中の窓枠の裏側に止まっておるではないか。どうりで見つけられなかったワケだ。勿論、窓際のチェックを怠っていたワケではない。何度も捜索している。でも前に置いてあるテーブルが邪魔で、窓枠の裏側はブラインドになっていて見えなかったのだ。

向かって右側が部屋。左側がベランダである。

また、前脚を前に出していらっしゃる。
どうやら、それが基本姿勢のようだね。

あれっ❗❓ 前脚の左横から何か毛束のようなものが出ているように見える。性フェロモンを出すヘアペンシルみたいなモノかな❓ いや、でも蛾がフェロモンを出すといえば、尻先からだったよな。じゃあ、コレは何❓
まあいい。とにかくキュートだ。こんなにオラをヤキモキさせておいての、この可愛い子ちゃん振り。蠱惑すぎる。もう少し生かしておこう。

とはいえ、2時間後には気が変わった。
今夜は出かけるのである。留守中、夜になって飛んで、また行方不明になられても困る。意を決して捕まえにかかる。

でも止まっている位置が悪い。よく見えるであろう左側からは、タンスとテーブルが邪魔で毒瓶を被せようにも手が届かない。かといって右側からだとテーブルが邪魔だし、ブラインドになってて見えないのだ。正確な位置が分からなければ、毒瓶は被せられない。大体の位置が分かっているからといって、闇雲に被して的をハズしたら、背中がハゲチョロケになりかねないのだ。それはマズい。もしかしたら、コレが最初で最後の成虫になるかもしれないのだ。なぜなら他の蛹や幼虫が謎の病気に罹って次々と斃れてゆき、全滅する可能性だってあるのだ。だから、落武者化だけは絶対に避けたい。完品の標本が1つも手に入らないと云う事態は、何が何でも避けねばならぬ。

ここは慎重にいこう。
先ずは正攻法、刺激を与えて飛ばそうと思った。したら、何処か壁にでも止まるだろうから、あとは上から毒瓶を被せればいいだけだ。

けれども、窓を勢いよくガラガラと動かしても飛ばない。二度、三度と繰り返すも反応なし。
難儀じゃのう。棒を持ってきて、左側から突っつくことにした。

けど、突っついたら、
ボトッ❗、😲落ちた❗❗
で、動かない。普通なら飛んで暴れるのにナゼ❓
えっ❗、もしかして死んでるの❓

慌てて右側に周り、サッシの溝でヒックリ返っているのを広い上げようとするも、体勢が悪くて指では上手く掴めない。溝にスッポリ嵌ってしまっているのだ。
(´ε` )もー、難儀な奴っちゃのー。
ピンセットを持ってきて何とか拾い上げる。

それにしても、何で死んだんやろ❓
まさかショック死とか❓ そんな事ってある❓ まだ羽化してから24時間と経っていないのに、サドンデスとかって聞いたことがない。カゲロウじゃあるまいし、そんなに寿命が短いワケないだろ。

脚を広げて、腹部を内に折り曲げている。
手の中で、コロコロと転がすも動かない。どうみても死んどるなー。何がどうなったら、こうなるのだ❓
ハッ( ゚д゚)❗でもこのような形って、どこかで見た事があるぞ…。
あっ、そうだ❗ 今年の春、奄美大島に行った時にタッタカモクメシャチホコ(註1)が、同じような姿勢になってピクリとも動かなくなったのを思い出したよ。擬死ってヤツだ。天敵など捕食者から身を守るための方法の1つで、死んだふりをする事によって相手が姿を見失ったり、興味を失ったりするらしい。

15秒?、それとも30秒くらいだったろうか、テレビに目を遣りつつ暫く見てると、ゆっくりと動き始めた。
あら、やっぱり死んだふりだったのね。完全に騙されたよ。お見事です。ナルキッソスちゃんったら、そんな技まで身につけてるのね。驚きだ。あんさん、スゲーな。

面白いから、もう1回突っついてやると、また死んだふりになりはった。それを表に返してみる。

あっ、脚は途中までは鮮やかな黃色だが、先の方は黒っぽい。へぇー、ツートンカラーなんだ。脚までオシャレさんなんだね。
暫く、蘇生しそうになる度ごとに突っついてやった。オラを騙した罰である。
あとで知ったのだが、刺激を与えると再び擬死するが、その持続時間は次第に短くなり、5回を越すと反応しなくなるという(1974 上田)。反応しなくなるという事はなかったが、確かに、そうゆう傾向はあった。
お嬢、徐々に思ったんだろなあ。「このままじゃ、ダメかしら❓ もしかして、もうバレてる❓」。そういった感情の流れが、そのままインターバルの長さの推移に表れていて、それが手に取るようにわかった。そうゆうところもコケティッシュだ。

ちょっと気が引けたが、毒瓶にブチ込む。ゴメンね、小悪魔さん。

標本写真など従来の展翅画像の多くが、上翅を上げ過ぎてるような気がしたので、思い切って下げて展翅してみた。

こっちの方が自然で正しいのかもしれないけど、あんましカッコよくない。もう少し上げてもよかったかなあ…。
やり直そうかとも思ったが、でも時間がない。慌てて用意して家を出る。

 
小太郎くんとは、17時30分に近鉄奈良駅で待ち合わせていた。
辺りは、もう暮れなずみ始めている。すっかり、日が落ちる時刻も早くなったね。6月とかは、真っ暗になるのは8時近くだったもんな。

小太郎くんの車で昨日の場所へと向かう。歩きだと1時間近くかかるけど、車だと直ぐだ。たぶん10分程度だろう。文明の利器に感謝だ。

灯火採集するのに適した場所を探すが。此処だと云う場所が見つからない。比較的まだ良さ気な橋の袂に陣取ることにする。

午後6時半に点灯。

でも、待ち人来たらず。
アホほどカメムシが寄ってきただけであった。ロクな蛾は飛んで来ず、永遠の天敵スズメバチどもを駆逐する。悪いが対馬でツマアカスズメバチにしこたま刺されて以来、トラウマになっているのだ。次もし刺されたら、アナフィラキシーショックで、おっ死んでしまうかもしれんからね。悪いが、アタシャそんなに心は広くないのだ。

 
2023年 9月26日

幼虫に1頭逃亡されたので、昨日のうちにカールさん(ダンボール)を部屋に移しておいた。

一応言っとくと、下の湖池屋さんには蛹、上のカールさんには老熟幼虫が入っている。

シンジュの葉を取り除くと、既に2頭が繭を形成していた。
ダンボール箱に入れたのには理由がある。幼虫は周りにある素材を噛み砕いて、自身の吐く糸と混ぜ合わせて繭を作るからだ。

このように基本的には、シンジュの樹皮を顎で削って混ぜ合わせる。幼虫の顎は強靭で、時には土砂、腐蝕した鉄、塗料、モルタルの吹付け、コンクリートなどをも材料にしてしまうらしい。ならば、ダンボールなんぞは朝飯前だろうと考えたのさ。

だが1頭めはダンボールではなく、シンジュの葉を材料にしたようだ。シンジュの木に付いた繭とは趣きが違う。淡いグリーンで美しい。色紙とかを入れておけば、或いはカラフルな繭が出来るかもしれない。

2頭めも、シンジュの葉を利用している。だが、趣きは違う。葉を沢山使っているらしく、濃い緑色だ。とはいうものの、作りは雑い。上の方は葉っぱを使ってないし、途中で面倒くさくなったと云う感じだ。

尚、2つとも基本通りにダンボールの横壁に繭を作った。
遅れて3頭めも繭を作り始めていたが、なぜか底面であった。

あとで見たら、繭作りは全然進んでいなかった。中途半端にも、ここ迄で終わりのようだ。途中で力尽きたか、邪魔くさくなったのだろう。それにしても、めちゃくちゃ雑な作りである。スカスカじゃないか。
たぶん幼虫にも、それぞれに性格とか個性があるんだろうね。

ちなみに繭の完成には7〜8時間を要するそうだ。その後、前蛹を経て3日程で蛹化するという。

  
2023年 9月27日

転がしていた蛹から3頭が羽化してきた。

裏返してみて、腹端の形に2タイプがあることに気付いた。どちらかがオスで、どちらかがメスだと云うことだね。

(裏面A)

腹の先が∪字型になるのが特徴。そして、腹が全体的に太いモノが多いような気がする。あくまでも傾向としてだけど。

(裏面B)

腹端に縦にスリットが入っており、複雑な形をしている。交尾器だね。たぶん、コチラがメスだろう。ムラサキシタバなどカトカラの仲間の♀は、皆そうだからね。

【ムラサキシタバ♀】

(2023.9.2 長野県白骨温泉)

画像を拡大して戴ければ解ると思うが、我ながら触角がビシッと決まった完璧な展翅だ。


(2018.9.17 長野県白骨温泉)

腹端に縦のスリットが入っており、その先には産卵管らしきものが見える。
と云うワケで、画像の裏面Aが♂オスで、裏面Bがメス♀でヨロシイのではないかと思う。

とはいえ、間違ってたらゴメーン。ワシの雌雄の見立てが本当に正しいのかどうかはワカラナイのら。だって幾ら探しても、シンジュキノカワガの雌雄の見分け方は何処にも載ってなかったんだもーん。

と、ここまで書いたところで、ペンが止まる。でも、♂と思われる個体の方が、どっちかといえば腹ボテなんだよなあ…。つまり、沢山お腹の中に卵を抱えている可能性が高いように思えてきた。逆なんじゃねっ❓
そう思うと、スリットはアゲハチョウのオスの交尾器であるバルバ(把握器)にも見えてきた。ヤットコみたくガシッとメスの腹先を掴むのに如何にも適していそう形じゃないか。となれば、そっちがオスと云うことになる。

改めてアゲハの交尾器を見直そう。

(ナミアゲハ オス)

(同メス)

(出典 2点共『趣味のアゲハ館』)

何かコッチの方が、形的に合致してんじゃねーの❓
そう考え始めると、止まらなくなる。正しいのはコッチじゃないかという想いが強くなり。暫くの間、自分の中では雌雄が完全に逆転していた。
だがそのうち、段々また自分の見立てに自信が持てなくなってきた。その見立てだと、交尾器の構造的に何処かオカシイような気がしてならない。違和感が拭えないのだ。あんな形で、はたしてメスの腹端を掴めるのか❓ にしては、間が広過ぎないか❓
考え直そう。さんざん偉そうな事を書いておいて、もしも雌雄を間違えていたとしたら、大恥を掻くことになる。めちゃめちゃカッコ悪い。
よし、もう一度イチから調べ直そう。絶対に何処かからヒントが見つかる筈だ。

色んな言葉を取っかえ引っかえ入れ替えて検索し、漸く重要な手掛かりに辿り着いた。
『On the copulation mechanism of Eligma narcissus (Cramer) (Lepidoptera: Noctuidae)』(K. Ueda, T. Saigusa 1982)と云う英論文である。
和訳すると『Eligma narcissus(クラマー) (鱗翅目:ヤガ科)の交尾機構について』と云うタイトルになる。
「Eligma narcissus」はシンジュキノカワガの学名だから、つまりシンジュキノカワガの交尾について述べられている論文と云う事になろう。

そこに交尾器の図も載っていた。

論文に「male」とあったので、コレがオスだね。やっべー、大恥を掻くところだった。

そして、こちらは「female」とあるから、メスの交尾器だ。
(´ε` )危ねぇ、危ねぇ。一番最初の見立てで合っていたのに、わざわざ変えちゃってたって事だね。

コチラは交尾のメカニズムを描いだ図だ。こうして見ると、オスには左右に開くバルバ(左図下側↙↘)がちゃんとあって、こうゆう風に隠されていたんだね。とても解りやすい図で、納得したよ。

この流れで、ふと、蛹の段階で雌雄が見分けられるのではないかと考えた。早速、比べてみる。
しっかし、ワカラン。残りの蛹を検分したが、全部同じにしか見えんのだ。よくよく考えてみれば、そもそも雌雄が混じっているかどうかもワカランのだ。全部メスかもしれないし、オスかもしれんのだ。
なので後々、改めて抜け殻で比べてみた。

(抜け殻 背中側)

(抜け殻 腹側)

コレを見ると、当たり前だが背中側が割れて出てくるのだね。

コチラは、どちらかがメスで、どちらかがオスの筈だが、見たところ違いはない。但し、取り違えた可能性もある。その時はまだ、そこまで気にかけて回収したワケではないからね。

ズラリと抜け殻を並べてみる。コレだけあれば、絶対に雌雄が混じっている筈だ。

(⁠ノ⁠≧⁠∇⁠≦⁠)⁠ノ⁠ ⁠ミ⁠ ⁠┻⁠━⁠┻ワッカラーン❗
絶対どこかに性比を示す差異がある筈なのだが、ワシの眼力では見抜けなかった。尾端の形は、どれも同じにしか見えない。

今度は前翅を上げ気味に展翅した。

(シンジュキノカワガ♂)

(2023年9月 奈良市白毫町 蛹採集)

また自画自賛で申し訳ないが、我ながら美しい仕上がりだ。
やっぱコッチの方がカッコいい。
ようは、誰もが見て美しいと思えるモノが正解なのだ。

次は上と1頭めとの中間を意識して仕上げた。

(同♀)

コチラも悪くない。と云うか、一番このバランスが自然かもしんない。
触角はあえて真っ直ぐにはせず、蛾眉調にした。面倒くさいというのもあるが、邪悪な感じを出したかったのだ。
ありゃ❗❓それはそうと、コイツには後翅に青紋が殆んどないぞ。ほぼ消失しかかっている。こう云うタイプの画像は見たことがない。つまり異常型と言っても差し支えないのではないかと思う。

もう1頭は裏展翅にした。

(シンジュキノカワガ♂ 裏面)

表が美しい蛾だが、裏もまた美しい。個人的には、寧ろ裏の方がスタイリッシュなんじゃないかとさえ思ってる。なのにネットで見ても、殆んど裏展翅の画像が出てこないのは何でやろ❓
右側の真ん中の脚は、後で何とか整形するつもりじゃきぃ。

 
2023年 10月1日

次の週も奈良市にナルキッソスを探しに行った。
もっともっと欲しいと思ったからだ。完全に虜になっている。

今回は、ダイレクトに病院へ行くバスに乗った。病院の送迎バスではなく、路線バスの方ね。

先ずは蛹から探してゆく。

取り敢えず4つ確保。
まあ、それだけ採れれば良い方だろう。小太郎くんも言ってたけど、前回に来た時には、幼虫が鈴なりになっているような場所は無かったからね。

少ないながらも、まだ幼虫はいた。
今回は積極的に網を伸ばして採る。幼虫の下に網を持っていき、揺らしたり突いたりすると落下してくる。遂にこんな毒々しい幼虫を自ら進んで採る事になるだなんてね。いよいよ常人には理解不能の、アブノーマルな領域に足を踏み込んだな。コレでアタマおかしい人たちの仲間入りじゃよ。

基本的には蛇とか芋虫・毛虫類など脚が無いような系はオゾましいが、顔はパンダみたいでちょっと可愛い。


(出典『円山原始林ブログ』)

結果は蛹が4に、終齢幼虫が6頭。幼虫は全て終齢だが、そのうち約半分は黄色みが強いので、おそらく蛹化が近い老熟幼虫だろう。残りは、より色が淡くて明るい黄色ゆえ、まだ摂食が必要かと思われる。
因みに画像は、まだ摂食が必要な幼虫。側面が薄い黄緑色をしていることから判別できる。文献に拠ると、一般に夏の暑い時期の幼虫は黒化が強く、晩秋の頃の幼虫は色が淡いようである。

まだ摂食が必要と思われる幼虫の為に、シンジュの蘖(ひこばえ)から喜びそうな若葉を摘む。そして、幼虫が入ったビニール袋にバサッと入れて持ち帰った。

尚、各ステージの期間は、卵が6日。初齡幼虫は3日。2齡幼虫4日、3齡幼虫3日、4齡は5日。終齢が5日。そして蛹の期間が12〜14日間だそうである。と云う事は、卵から親になるまでは38〜40日間となる。意外に短い。
あと、孵化直後の初齡は白色で、2齡以降から黄色と黒の阪神タイガースカラー、いわゆる虎縞模様が次第に明瞭となる。また、3齡頃までは葉裏などで集団を形成するが、その後には分散するようだ。

因みに、此処ではシンジュの大木には付かず、殆んどが若木や幼木で発生していた。また、道路の東側の森には殆んどおらず、もっぱら西側の開けた場所にある木で発生していた。

帰宅して、蛹と老熟幼虫をそれぞれ分けてダンボールに移す。
摂食が必要そうな幼虫は、より大きなビニール袋を用意して針で細かな穴を開けて、そこに移した。コレだと、葉が萎れにくいと考えたからだ。中が蒸れて、幼虫が病気になるかもしれんけどー。

 
2023年 10月2日

翌日、前週のモノから1♀が羽化した。

こっちの画像の方が、腹端のスリットが鮮明に写ってるね。
更にその内側には複雑な構造物が有りそうだ。

展翅の方向性も決まってきた。

腹の真ん中が沈んでいたので、調整しなおす。

う〜ん、暫くはこのバランスでいこう。
飽きたら、また変えればいい。

 
2023年 10月3日

さっきからずっと、ダンボール内から『チッ、チッ、チッ…』と連続的に繭が鳴いている声がしている。何が起ってんだ❓
中を開けてみたら、1週間前に最初に繭になった奴の右隣で、老熟幼虫が新たな繭を作り始めていた。その振動に反応して最初の奴が鳴いているらしい。「迷惑だよなー」とでも思ってんだろなあ…。同情するよ。
体力を使い過ぎて羽化できなくなるんじゃないかと心配になったが、考えてみれば自然状態では繭が寄り添うように集団を形成するから大丈夫だろう。

あっ、黄色い幼虫の姿が透けて見えるね。
どうやらダンボールは材料にはしないみたいだ。今のところ、ダンボールを材料に使った形跡のある繭は1つもないのだ。
ちなみに右下に見える緑色のモノは、繭の外壁を作りかけた跡である。最初は其処で繭を作り始めたのだが、堤を少し作ったところで、どう云うワケか気が変わったようで、やめて近くの繭の隣に繭を作り始めたのである。ちなみに、どの幼虫も先ずは左側の外壁から作り始めていた。偶々かもだけど。
もしかしたら、途中でやめたのは、この外壁を作るのが面倒くさくなったのかもしれない。繭の隣に重ね合わすように繭を作れば、省エネで左側の工程の一部を端折れるのかもしれない。

 
2023年 10月5日

葉を摂食していた幼虫が、ビニール袋の中で繭を作った。
でも、葉は噛み砕かずに、そのまま綴り合わせたようだ。繭の上に葉をクッ付けたような形になった。
ハサミで切り取って、裏返してみる。

まだ完全には蛹になっていないようだ。前蛹と蛹の中間状態みたいなモノなのかな❓ それとも前蛹から蛹になる直前か直後❓
とにかくコレで黄色い蛹の説明がつくね。

やはり蛹化後すぐは黄色なのだと推察できる。その後、徐々に茶色になってゆくのだろう。

 
2023年 10月7日

黄色かった蛹が、茶色に変わっていた。
見立ては間違ってなかったという事だね。

こう云う変化を観察できたのは、ビニール袋に入れて飼育したお陰だな。たまたまやけど。

柄が浮き出ている羽化間近の蛹も見つけた。

しかも3つもだ。今晩から羽化ラッシュが始まるかもしれない。

 
2023年 10月8日

翌朝、そっとダンボールを開けたら、3つとも羽化していた。

(シンジュキノカワガ♀)

(同♂)

(同♂)

今までの感じからだと、どうやら羽化は夜から明け方にかけて行われるようだ。ネット上に、昼間に写したであろう羽化画像も幾つかあったから、昼夜に関係なく羽化するのかなと思っていたが、アレはイレギュラーだったんだね。


(出典『ささやま通信』)

ちなみに、羽化して翅を伸ばす時は、蝶のように翅を立てるようだ。1回も見れてないけど。

さておき、展翅しても腹部以外では雌雄の区別がつかんな。
例えば蝶なんかは、比較的に雌雄異型が多く、オスに比べてメスは大型で、全体的に翅形が円くなる傾向がある。
だが仔細に見比べてみたけど、特徴的な斑紋の違いは見つけられなかった。大きさも雌雄それぞれバラバラだし、翅形も同じだ。蛾は雌雄で触角の形が違うものが多いが、それも無し。全く同じだ。つまり腹端の交尾器の形でしか判別できないのだ。
話が少しズレるけど、思うに、蛾って雌雄の斑紋が違う種って少ないよな。そこはツマンナイとこだよね。やっぱ、雌雄異型の方が素敵だもんな。採っててモチベーション上がるしさ。

 
2023年 10月9日

翌日も羽化してきた。

♂である。
今のところ、雌雄アトランダムに羽化してきてる。つまり決まった傾向は見られない。蝶なんかは、先ずはオスが羽化して、暫くしてからメスが遅れて羽化してくるモノが多い。たぶんオスの精巣が成熟するまでには、ある程度の時間を要するのだろう。蛾のカトカラの仲間なんかも、特にメスが遅れて羽化してくると云う感じは見受けられないし、蛾って皆そうゆうものなのかなあ❓

 
2023年 10月11日

今日の様子を見ようと、重ねていたダンボールの上を除けたら、蓋の上に鎮座しておった。

いちいち毎回のようにガムテープを剥がすのが邪魔くさいので、フタがわりにダンボールを上に置いていたのだ。
あっ、背中が落武者ハゲチョロになっているではないか。きっと隙間から無理に脱出したせいだろう。
ならば、急いで殺す事もなかろう。暫く放ったらかしにする事にした。普段、どう云う風に過ごしているのかも知りたい。

飛ばして、布団の上に止まらせる。

指で軽く触っても翅を少し開く程度で、飛び立つ気配はない。反応が薄く、おとなしいのだ。でも小悪魔ナルキッソスのことだ。猫かぶってるのかもしれない。油断してはならない。
でも布団の上は邪魔なので指に移らせてカーテンに止まらせたら、そのままジッとしていた。おそらく日中は木陰とかで休んでおり、殆んど活動しないものと思われる。姫路で昼間に、ホバリングするように上空を飛んていたと云うのは例外なのだろう。

夜になったら、急に活発に活動し始めた。天井の照明付近で、巧みにホバリングするように飛んでいる。飛び方は軽くて、エアリー。力強さはなく、意外にも優雅な飛び方なのだ。翅も薄そうだし、それも納得だね。
しかし、下翅を震わすスピードは、けっして遅くはない。かなり速い方だ。パタパタ飛びかもしれないが、モンシロチョウみたいなフワフワ飛びではないだろう。もしも本気を出して飛べば、おそらく速い部類だ。翅形から見ても、鈍足なワケねぇだろ。
かといってヤママユガ系やススメガ系みたくバカみたいに暴れ飛びするってタイプではない。直ぐに壁に止まり、暫くはジッとしている。まあ、狭い部屋の中だからね。自由に飛べないゆえ、そうなってしまうのかもしれない。

翌朝に見たら、就寝前とは違う場所に止まっていた。夜中には、それなりに飛び回っていたのだろう。
その後の観察を含めて参考までに言っておくと、基本的には壁に真っ直ぐに止まっている。カトカラみたく、上下逆さまに止まることは殆んどなかった。一度だけ、頭を右斜め下にして止まっていた事があるだけだ。天井に止まる事は、時々あった。計3度見た。向きは一定していない。あとは、あまり低い所には止まらない。大体が天井近くに止まっていた。或いは野外では、木のかなり高い位置に止まっているのかもしれない。

この個体は、ハゲチョロケなので裏展翅にした。

(♀裏面)

メスだね。生きている時には気付かなかったが、青い部分の色が他と比べて暗くて黒っぽい。裏にも、それなりに変異はありそうだ。

 
2023年 10月13日

最初の蛹採集から既に2週間以上が経っているが、羽化してこないモノが幾つかいる。もしかして死んでんの❓

拾い上げて見ると、黒ずんでいる。しかもカチカチになっていた。完全に死んでまんな。
生きている蛹は柔らかくて、色にツヤがあるのだ。

(生きている蛹 腹側)

(背中側)

だが、内部を食われたような形跡もないし、脱出孔らしき穴も見当たらない。と云う事は、寄生蜂や寄生蝿にヤラれたワケではなさそうだ。じゃあ何で死んだん❓
理由を探してみたが、全然思い浮かばない。強いて言えば、乾燥❓

 
2023年 10月18日

久し振りの羽化である。
性別はオスだね。

展翅は、触角を真っ直ぐにしてみた。

でもシンジュキノカワガって触角が短いから、なんかカッコ悪いんだよね。

 
2023年 10月19日

翌日にも羽化があった。♂である。
実をいうと、この個体を使ってヤラセ写真を撮ったんだよね。

そうしようと考えた時に、たまたまオスだったから使えると思ったのだ。

成虫との初めての出会いが衝撃的だった事は、既に書いた。でも画像を撮っていなかったので、それではヴィジュアルが伝わりにくいと思った。文章力が無いから、正確に読者に伝える自信が無かったのである。なので、ヤラセ写真を撮ろうと考えたと云うワケだね。けど、浅墓だった。

あの時みたいな大きく上下に翅を広げた形には、どうしても出来なかったのだ。死んでる個体は翅の付け根の筋肉が弛緩しているから、基本的に無理があるみたい。ましてやビニールはツルツルだから、前日の画像みたく何処かに引っかかって広がってくれる事もない。
で、一応は写真を撮ったはものの、こんなんじゃかえってイメージを損ねてマイナスだと思ったので、使うのを断念したのである。神様が、ヤラセはアカンって言うてんねやろ。

今度は、昔の図鑑風の触角にしてみた。

何か、より蛾っぽく見える。キショい。
まだまだ蛾に対しての偏見があるかもなあ…。

いよいよ蛹も、あと残り1つとなった。
お楽しみも、そろそろ終わりだね。

 
2023年 10月21日

最後の1頭か羽化してきた。
コレで全部の羽化が終了したことになる。

心苦しいが、予定があるので〆た。

此処まで延べ6年。本当に長くて色々あったけど、円は閉じた。物語は終ったのだ。
寂しくなるな…。

 
2023年 10月22日

朝、目覚めて、ぼんやりと天井を見ると、見覚えのある形と色のモノが、へばり付いていた。

幻覚か❓ まさか黄泉の国から舞い戻って来たとでもいうのか…。
寝ぼけ眼(まなこ)をこすって、二度見する。
だが、どう見ても間違いなく実物のシンジュキノカワガだ。
でも何で❓ まさか寂しがってたアチキに、わざわざ会いに来てくれたの❓ だとしたら、蠱惑すぎる。でも、たとえ幻惑であろうとも素直に嬉しい。もう、いくら小悪魔に翻弄されようとも構わない。それで地獄に落ちたとしても後悔はない。地獄の道行き、共に落ちるところまで落ちよう。
(⁠⁠´⁠ω⁠`⁠⁠)ハハハハハ。自分でも何を言ってるのかワカラナイ。まるでコアな恋愛話じゃないか。オジサンの恋狂い。イカれポンチだ。

せっかくだから、飼おっかなあ…。
砂糖水を脱脂綿に染み込ませて、飼育箱の天井からブラさげたら、何度も吸汁に来るそうだし、長いものは28日間も生存したらしいからなあ…(1983.阿部)。
でもなあ…。飼育箱なんて無いし、部屋の天井からブラ下げるには、どうすれば良いのだ❓ 何か工夫して考えなければいけない。だいち、床にボトボトと砂糖水が落ちたらベトベトになるじゃないか。それは、やだなあ。
ʕ⁠ ⁠ꈍ⁠ᴥ⁠ꈍ⁠ʔふう〜。どうするかは、明日また考えよう。

さておき、成虫は餌を摂るんだね。と云うことは、去年に糖蜜を撒いたのも、あながち間違いではなかったワケだね。
けど冷静に考えると、それも当たり前かもしれない。遠く中国から長旅をするような種なんだから、エネルギーを補給しないと旅を続けられないからさ。

 
2023年 10月23日

悩んだ挙げ句、〆る事にした。
やっぱり飼うのは邪魔くさい。親に小さい頃から「口のある者を飼う時には、心して責任をもって飼え。」と諭されてきたからね。
それに、よくよく考えてみると、生きていた繭&蛹の数と羽化した成虫との数が何となく合わないような気がしていたのだ。きっと、こっそりダンボールから脱け出していたのである。奇跡でも何でもないのだ。小悪魔に騙されてはいけない。魔法を解こう。

毒瓶を被せた。
中で激しく暴れている。苦しいよね。ゴメンね。
何だか、愛し過ぎるがゆえに愛する人の首を絞めて殺すような気分だ。昔、そんな悲しいドラマがあったよね。

御臨終…。

でも、いざ殺してしまうと、悔いが残る。
けれども、どれだけ悔いたところで彼女は、もう戻ってはこない。
オイラ、なんて事をしたのだ…。

 
2023年 10月24日

流石にコレで打ち止めだろうと思っていたら、あろう事か目覚めたら、また見覚えのある姿、形が壁に張り付いているではないか。
今度こそ、幻覚だと思った。きっと良心の呵責が生んだ亡霊だ。もしくは化けて出たとか❓ 何れにせよ、俄かには信じ難い光景だ。

現実かどうか確かめるべく、網を取り出して、捕まえにかかる。網の中に入れたら、フッと消えたりして…。

網を下に持っていき、網枠で壁をコツンと叩いた。
すると彼女は飛んで、自ら網の中へと飛び込んで来た。

でも、彼女は消えたりなんかしなかった。
そして、手で掴むと死んだふりをした。
暫し、弄(もてあそ)ぶ。ψ(`∇´)ψほれほれ〜、ほれほれ〜。騙した罰じゃよ〜。

よくよく見ると、羽の先が少し傷んでいる。おそらく羽化してから何日か経っている。たぶん、夜には活発に飛んでいたのであろう。

でも殺すには忍びないと思った。
取り敢えずカーテンに止まらせ、この原稿の後半を書き始めた。時折、チラリ、チラリと目をやりながら書き進めるも、頭の何処かでは考えていた。何とか生かす手立てはないものか…。

あっ、そうだ。メスなんだからトラップに使えないだろうか❓
いわゆるフェロモントラップってヤツだね。未交尾のメスは、オスを呼び寄せるためにフェロモンを出す。そして寄って来たオスの中から相手を選んで交尾をするのだ。つまりは、その習性を利用しようと云うワケだ。
故郷の奈良の都まで持って行けば、アホほどオスが群がって来るかもしれない。蠱惑のナルキッソスの本領発揮だ。
それに、まだ野外で成虫を見たことがないから、もう一度灯火採集に出掛けようとは思っていたのだ。
そして、もしも交尾を始めたら、そのままそっとしておいてやろう。逃がしてやれば、きっと何処かで卵を産み、次の世代へと命を繋いでくれるだろう。美しい別れじゃないか。恋の終わりとしては相応しい。ならば、優しい男を演じきろうじゃないか。
それにそうなれば、少しは今まで殺(あや)めてきた罪滅ぼしにもなる。

だが、思考はそこでピタリと止まる。
そんな事しても無駄だ。たとえ次世代に命を繋げたとしても、やがてはその命も断絶する。その先には残酷な運命が待っている事を、すっかり忘れてたよ。どうせ蛹にまでなったところで、冬の寒さに耐え切れずに全て繭の中で死滅するのだ。それが流浪の民たちの末路なのだ。
美談に酔っていた自分が呪わしい。そして虚(むな)しくなってきた。
ふらふらと立ち上がり、毒瓶を持った。
殺してしまおう。

コレで魔法から醒めたような気がした。蠱惑な小悪魔の呪縛からは解き放たれたのだ。来年は、たぶんもう彼女を追い掛けはしないだろう。たぶん…ね。

窓の外に目をやる。
いつしか空は鮮やかな橙黄色に染まり始めていた。

                おしまい

 
 
追伸
ナルキッソスシリーズ、ようやっと完結である。
この最終話は特に時間がかかった。足したり削ったり、何度書き直した事か。バイオリズムも最悪で、マジしんどかった。
とはいえ、長々とした文章に御付き合い下された方々には、ほんまに感謝です。相変わらずの駄文でスンマセン。

結局、持ち帰った蛹&幼虫21頭のうち、16頭が羽化してきた。他の内訳は、幼虫が1頭逃亡。蛹のまま死亡した者が3頭。寄生された者はゼロ。羽化不全が1頭と云う結果となった。

(羽化不全の個体)

コレは葉を噛み砕かずに綴り合わせて繭を作った個体だ。蛹の色が黄色から茶色に変化するのを観察できた奴だね。

あっ、ゴメン。こっちが裏面(腹側)だったね。
裏返す。もとい、表返す。

下部に何本かの太い縦線が透けて見える。この縦線と蛹の背中のヤスリ状器官とを擦り合わせて音を出すんだね。

別の繭を分解した画像があるので、分かり易いように貼り付けておきます。

内部下側に太い線が縦に並んでいるのが、よく分かる。
自ら楽器を作るだなんて驚きだね。神秘的だ。昆虫にも未来に対する明瞭な思考や意志があるのだろうか❓ 何がどうなって楽器を自分で作る事になったのだ❓

ナルキッソスは、繭が音を奏でるし、幼虫は阪神タイガースカラーで、顔はパンダ。親は美しく、1000キロを旅して日本へやって来る流浪の民で、神出鬼没。オマケに死んだふりまで出来る。そして冬になれば死滅してしまうと云う悲しくも潔い運命。全てが愛おしく、ドラマチックで魅惑的だった。彼女には深く感謝している。久し振りに虫に対して恋する事ができたからね。虫捕りは、ロマンてあり、ラブストーリーてないといけない。でないと、面白くない。

スマン、話が逸れた。
中がどうなっているのかが気になって、繭を取り除いてみた。

(背面)

(腹面)

首の辺りに太い横糸が強く絡みついていた。どうやらそれが原因で脱出できなかったようだ。

あっ、今まで気付かなかったけど、口吻(ストロー)は黄色いんだね。おっしゃれー。

有り難い事に、逃亡した幼虫を除くと羽化率は、20分の16。つまり8割だ。この打率の高さは自然界では驚異的な数字である。蝶だと、百匹分の卵に対して、せいぜい親になれるのは1頭か2頭だと言われているからだ。勿論、ナルキッソスだって鳥やクモなどに捕食されるだろうし、病死や事故死する者もいるだろうから、実際の生存率はもっと低いだろう。にしても、蛹が1つも寄生されていなかったと云うのは、他の鱗翅類では普通は有り得ない。つまり、コレはシンジュキノカワガが外来種であり、日本には定着していない事を示しているのではなかろうか。もし定着しているのなら、もっと寄生バチやら寄生バエに寄生されてるからだ。それもかなりの率で。シンジュキノカワガも全く寄生されないワケではないようだが、その例は極めて少ないみたいだ。ようするに、定着していないがゆえに、まだあまり寄生相手として認識されていないのではないだろうか。でも今後、もし温暖化が進んで定着したとするならば、必ずや本格的にターゲットにする寄生者が現れるだろう。

 
(註1)タッタカモクメシャチホコ

(2023.3月 奄美大島)

学名 Paracerura tattakana
南方系のシャチホコガの1種。大型でスタイリッシュなデザイン、また何処にでもいるような種ではない事から人気が高い。特に関東以北では少ないゆえ、憧れの対象になっているようだ。
自分も初めて奄美大島で出会った時は、そのゴツい体躯と美しい姿に一発で魅了された。名前も知らなかったけど、ひと目見て大物だと感じるくらいの存在感があった。
「🎵ツッタカター、🎵ツッタカター」の西川のりおを思い起こさせるリズミカルで個性的な和名だが、リズム系のエピソードがあるワケではない。由来は台湾の立鷹峰に因んでいる。
なお、幼虫の食餌植物はヤナギ科のイイギリで、主に原生林が残された地域に生息し、環境指標性が高い種のようだ。

死んだふり画像と標本写真も載せておこう。


(出典『散策レポ』)

上からではなく横からの画像だけれど、それでも充分に伝わるのではないかと思われる。検索してもタッタカの死んだふり画像は殆んどないから、コレでも貴重な写真なのだ。そうゆう変わった生態の画像は、他の種でも少ないのである。あん時、ワシも撮っときゃ良かったよ。
あっ、ならばシンジュキノカワガの死んだふり画像だって、あまり無かった筈だ。やったね。


(2021.3月 奄美大島)

今年は、わりと沢山見たが、全てオスであった。♀は灯火に滅多に飛んで来ないから、かなりの珍品らしい。いつか会いたいものだ。

 
ー参考文献ー

・宮田彬『日本の昆虫④ シンジュキノカワガ』文一総合出版

・『On the copulation mechanism of Eligma narcissus (Cramer) (Lepidoptera: Noctuidae)』
上田恭一郎 三枝豊平 1982

・岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』学研

(インターネット)
・『昆虫漂流記』ー「シンジュキノカワガ 採集から飼育 2023年9月2、3日 以降の観察」

・『趣味のアゲハ館』

・『みんなで作る日本産蛾類図鑑』

・『ささやま通信』

・『散策レポ』

・『円山原始林ブログ』

・『Wikipedia』

 

2018’カトカラ元年 其の17 最終章

   vol.17 ムラサキシタバ
       最終章
      『紫の肖像』

 
さてさて、早くも第四章から中ニ日でのシリーズファイナルの解説編である。そう、いよいよの泣いても笑ってもお終いの、シリーズ完結編なのだ。
また苦労を強いられそうだが、最後の力を振り絞って書こう。

 
【ムラサキシタバ Catocala fraxini ♂】

(2019.9月 長野県 白骨温泉)

 
【同 ♀】

(2018.9月 長野県 白骨温泉)

 
【裏面】

(2019.9月 長野県白骨温泉)

 
このムラサキシタバが、Schank(1802)によって最初のシタバガ属(Catocala属)として記載された。つまり、カトカラ属の模式種であり、会員ナンバー1番なのである。もう、無条件に偉い。
それだけでも偉いのに、このムラサキシタバ、他にも賞賛される要素がてんこ盛りなのである。下翅にカトカラ属で唯一の高貴なる青系の色を有しており、属内では有数の大きな体躯を持ち合わせている。まだまだある。美しき後翅と前翅とのコントラストの妙、バランスのとれたフォルム、そこそこの稀種で簡単には見られないと云う絶妙なレア度etc……。蛾嫌いでも興味を唆られる、謂わば蛾界のトップアイドルであり、スター蛾なのだ。
そもそも図鑑(原色日本産蛾類図鑑)でさえも「見事な蛾で、それを得たときのうれしさはまた格別である。」なんて云う、図鑑の解説を逸脱したような個人的見解が入っているのだ。
だから、めちゃんこ人気が高い。かくいうワタクシも憧憬の想い、いまだ止(や)まずである。

 
【学名】Catocala fraxini (Linnaeus, 1758)

属名の「Catocala」は、ギリシャ語の「Cato=下」と「Kalos=美しい」を合わせた造語である。

小種名「fraxini(フラクシーニ)」は、ブログ『蛾色灯』によると、ラテン語で「灰」という意味なんだそうな。そして「後翅の紫には触れないのか…。」と云う感想を述べられている。
確かに「fraxini ラテン語」でググると「灰」と出てくる。ムラサキシタバの上翅は灰色だから、これは理解できなくもない。だが、何で鮮やかな下翅の紫色を無視して灰色なのだ❓アッシも解せないよなあ…。だとしたら記載者の Linnaeus って、相当なひねくれ者だよな。
(・o・)んっ⁉️
この”Linnaeus”という人物ってさあ、もしかして「分類学の父」とも呼ばれ、動植物の学名方式を発明した博物学者のあのリンネのこと❓リンネのラテン語名はカロルス・リンナエウス(Carolus Linnaeus)だった筈。ってことは、リンネ大先生って偏屈者の変人だったのかな❓

けどさあ…、だとしてもだ。「灰」というのは何か納得できないよなあ。
と云うワケで、植物の学名で同じようなものはないかと思って検索してみた。

すると、Pterocarya fraxinifolia(コーカサスサワグルミ)というのが出てきた。
小種名の由来は、Fraxinus(トネリコ属)➕foliaの造語で「トネリコの葉のような」という意味なんだそうな。
そこで🖕ピンときた。ムラサキシタバが最初に記載されたヨーロッパでは、🐛幼虫の食樹としてトネリコ属も知られていた筈だからである。

あ~、のっけから迷宮に迷い込みそうな予感だ。いや、これって最早たぶん、下手に足を突っ込んどるパターンとちゃうかあ…。

次にトネリコ属 Fraxinus(フラキシヌス)の学名の由来を調べてみることにした。
トネリコ属はモクセイ科に分類され、英語名は、Ash(アッシュ)のようだ。ここでまたピンときた。アッシュといえば思い浮かぶのが、アッシュカラーや木材のアッシュだよね。

アッシュを英語で直訳すると「灰」だ。そこから転じてアッシュカラーは、灰色、ねずみ色、鉛色を意味している。
一方、木材としてのアッシュは、ネットで見ると主にセイヨウトネリコ(Fraxinus excelsior)のことを指すようだ。木には、古い英語で“spear(槍)”の意味があるんだそうな。更にラテン語の Fraxinusも同じく「spear(槍)」の意味があるという。或るサイトでは、“灰”の ash とは関係ないみたいだとも書いてあった。
と云うことは、学名の語源は「灰」ではないってワケかな❓
何か、益々ややこしくなってきたぞ。

とりあえず、「トネリコ」で検索ちゃん。
それによると、日本のトネリコには「Fraxinus japonica」という学名が付いてて、日本の固有種のようだ。
余談だが、野球のバットの原材料として知られるアオダモもトネリコ属に含まれる。

(ノ∀`)あちゃー。他のサイトを見て、ズッコケそうになる。
一部、抜粋要約しよう。

『学名の Fraxinus は「折れる」を意味するラテン語に由来する。これは木が容易に裂けることからだといわれる。
北欧神話では世界樹ユグドラシルはトネリコ(セイヨウトネリコ)であるといわれ、最高神オーディンに捧げられたほか、セイヨウトネリコからは人類最初の男性であるアスク(Ask)が作られたという伝説がある。
また、木材が槍の柄に使われたところから、槍、さらには戦闘を意味するようになり、そのためかギリシャ神話やローマ神話では戦争の神マルス(マレス、アレス)の木とも言われている。ゆえに、ヨーロッパ北部では持ち主を保護する木として家の周りに植えられた。
花言葉は「高潔」「荘厳」「思慮分別」「私といれば安心」。
占星術では獅子座の支配下にあるとされる。』

「槍」かあ…。「灰」より、もっとワケがワカランぞ。
いったいムラサキシタバと槍がどう繋がるというのだ❓
こうなると、さらに突っ込んで調べるしかあるまい。

「折れる」関係で探してみたら『Fraxとは略語で骨折。語源は、fracture=折れる。』というのが出てきた。
となれば、コレも候補になる。でも「折れる」とムラサキシタバにどういう結び付きがあるのだ❓
もうサッパリわからんよ。迷宮世界だ。

遠回りかもしれないが、ここは原点に帰って、根本から攻めていこう。語尾に何かヒントはないだろうか❓

トネリコの属名の「Fraxinus」はラテン語の形容詞の男性形であろう。
接尾語の~inusは「の様な、~に属する」を付した派生語男性形かな…❓
(ㆁωㆁ)アカン…。早くも脳ミソがワいてきた。
さらに調べてると、ムラサキシタバの学名「fraxini」は、もしかして「fraxin」の語尾に「i」を付け加えた男性の形容詞の最上級ではないか?とも思えてきた。書いてて、 益々アタマがこんがらがってくる。
或いは、属格の名詞で、語尾に「~i」が付くケースで、「トネリコの」的な意味でいいのか❓
属格だの接尾語だの自分でも何言ってるのかワケワカンなくなってきた。だいたい昔から外国語の文法も日本語の文法も苦手なのである。目的語とか所有格とか知るか、ボケー💢😠なのである。

(@_@)んー、だいち、こんなんで解決にはならーん。

ヤケクソでクグリまくってると、昆虫で同じ小種名のものにヒットした。
どうやらアメリカに、Arubuna fraxini という蛾がいるようだ。英語版の Wikipedia によると、以下のように解説があった。何となく、良い予感がした。鉱脈に当たったか❓

「Albuna fraxini, the Virginia creeper clearwing, is a moth of the family Sesiidae. It is known from the northern United States and southern Canada.」

翻訳すると「Arubuna fraxiniは「ヴァージニア・クリーパー・クリアウィング(ヴァージニア州の透明な翅を持つ這う昆虫の意)」と呼ばれるスカシバガ属の蛾の一種。アメリカ北部とカナダ南部から知られている。」といったところだ。

更に読み進めると、以下のような記述が出てきた。

「The larvae feed on Virginia creeper, white, red, green, and European ash, and sometimes mountain-ash.」

これは幼虫の食餌植物はトネリコ属のホワイトアッシュ、レッドアッシュ、グリーンアッシュ、ヨーロッパアッシュ。マウンテントネリコであることを示している。

 
(Arubuna fraxini)

(出典『Butterflies and Moths of North America』)

 
つまり、学名は食樹に由来していると云うワケだ。となれば、ムラサキシタバの学名も、その由来は「灰」ではなく、幼虫の食樹である可能性が高いと思われる。もう、そゆことにしておこう。間違ってたら、ゴメンなさいだけどー😜

にしても、食樹が学名とはダサくねぇか❓
これほど立派な見た目なんだから、もっと粋なネーミングがあって然りだろう。
もしかしてリンネって、賢いけどセンスねえんじゃねえの❓
まあ、リンネのオッサンのセンスは、この際どうでもよろし。
よし、兎に角とりあえずは、第一関門突破じゃ。

 
【和名】ムラサキシタバ

紫といっても色の範囲は広い。

 

(出典『泉ちんの「今日も、うだうだ」』)

 

(出典『フェルト手芸の店 もりお!』)

 
青紫もあるし、赤紫だってある。そういえば藤色や藤紫、菫色なんてのもあるなあ。
日本の色表現だと、かなり細かく分けられていて「江戸紫」「葵色」「京籘」「若紫」「桔梗色」「竜胆色」「茄子紺」「紫紺」「二人静」「紫檀色」「紫苑色」等々、何十種類もがある筈だ(註1)。

正直言うと、帯の色は自分の感覚的には紫というよりも、青に近い感覚で見てる。
だからといって、和名を否定するつもりは毛頭ない。
なぜなら、「アオキシタバ」では何となく語呂が悪いからだ。ムラサキシタバが大好きな青木くんは喜ぶかもしんないけどさ(笑)。字面の見た目で、青キシタバか青木シタバなのか脳が混乱しがちだし、ムラサキシタバの方が言葉のリズムとしては断然に良いのではないかと思うからだ。
だいち日本では、古来より紫色が一番高貴な色とされてきた。聖徳太子が制定した「冠位十二階」でも、紫は最上位の色とされてる。だから天皇や上級貴族しか身につけられなかった。それに、布を紫色に染める染料が大変高価だった為、富のある者しか身につけられなかったようだ。
また、紫は天皇の色とされ、一般庶民を筆頭に使用が禁じられていた時代もあった筈だ。紫色の衣服が庶民にも着られるようになったのは、江戸時代以降だったんじゃないかな。
そういえばローマ帝国や中国王朝でも、紫は最も高貴な色とされ、身分の高い者しか身につけられなかったよな。
ならば、青よりも高貴なる紫の方が、この蛾には相応しい色ではないか。オイチャンは、そう思うのである。

 
【英名】Blue underwing or Clifden nonpareil

「Blue underwing」の underwing は、カトカラ(シタバガ属)そのもののことを指すから、さながら”青いカトカラ”と云うことでいいだろう。
ふ〜ん、英語名は紫を示すパープルでもヴァイオレットでもなく、ブルーなんだね。欧米人の目線では、青に見えているのだね。前述したように、オラの目にも、どっちかというと青に見えている。

一方、クリフデン・ノンパレイルという名前の由縁は、イギリスでは18世紀のバークシャー・クリフデン地方で最初に見つかったからだろう。たぶん場所は現在の21世紀では、U・K(ユナイテッド・キングダム)ではなく、アイルランドだ。因みにノンパレイユはフランス語で「無比の、比較を越えたもの、比類なき、飛び切りの、特別な、最上の、逸材」といった意味があるそうな。つまり「クリフデンの比類なき者」ってところか。英国方面でも評価が高いんだね。

だが、1960年代には絶滅してしまったそうだ。これは戦後の施策により林業形態が変化し、針葉樹の森を植栽するために幼虫の食樹であるポプラ類が伐採されたからだとされている。
その後、何十年もの間、大陸側からの飛来で稀に記録されるだけだったが、近年になって目撃例が増え、さらには定着が確認されて、分布を各地に拡大しているらしい。
あっ、英文からのワシ意訳なので、間違ってたらゴメンね。

因みにドイツでも評価が高く「Blaues Ordensband」という名前が冠されている。
訳すと「青い勲章の綬」ということになる。これは勲章を胸に飾るための帯とかリボン、紐のことである。いかにも、この蛾の高貴な意匠にふさわしいじゃないか。
この呼び名は、ナチュラリストで知られるフリードリッヒ・シュナックの『蝶の生活』(岩波文庫)にあるそうだ。原文は読んでないけどさ。
とにかく、粋なネーミングだよね、それと比べて、和名のネーミングはクソ真面目で、マジ酷いものが多い。ルールに変に囚われ、虫の特徴のみを表すところに重点が置かれ過ぎててツマンナイ。粋じゃないのだ。
日本のチョウで、洒落てる名前だなと思うのは、スミナガシ、キマダラルリツバメ、コムラサキ、ヒオドシチョウくらいだろう。あとは横文字の、ルーミスシジミとかシルビアシジミくらいかな。
他にもあったような気もするが、言わんとしていることは解って貰えたかと思う。

 
【亜種】

Wikipediaには、以下のような亜種が表記されていた。

 
・Catocala fraxini fraxini(原記載亜種)

ヨーロッパのものだ。何処で最初に発見されたのだろうと思って探してみたが、『www.nic.funet.fi』で見ても「Europe」としか書かれていなかった。

 
・Catocala fraxini jezoensis Matsumura, 1931(日本亜種)

日本の亜種は、ヨーロッパの元記載亜種よりも大きいようだ。たぶんスペインや中国の亜種にも勝るだろう。
シロシタバなんかもそうだけど、日本のものの方が他国のものよりもカッケーかも。
あっ、学名の項で日本亜種の「jezoensis」について言及してなかったよね。これは語尾に「ensis」とあるから「〜産の」という意味で、前半分は地名を指している。
でも「jezon」って何処だ❓そんな地名、日本にあったっけ❓まさか、高級焼肉店の「叙々苑」でもあるまいし…。嗚呼、何か急に叙々苑に行きたくなってきたよ。マジで誰か連れてってくんないかな。
ネットで調べたら、同じ小種名を持つものにエゾマツがあった。学名は「Picea jezoensis」。それで、ピンときた。たぶん場所は蝦夷地のエゾを指しているんじゃないか❓で、アタマの「j」は発音しないものと思われる。
調べたら、👍ビンゴ。やはりそのとおりだった。ようは、日本では北海道で最初に見つけられたんだろね。

 
・Catocala fraxini legionensis Gómez Bustillo & Vega Escandon, 1975(スペイン亜種)

これまた、語尾からして地名由来のものだろう。
原産地は、”Leon”、”Villanueva de carrizo”となっている。これがヒントになった。おそらくLeon(レオン)はスペイン北部のカスティーリヤ・レオン州のレオンのことであろう。
調べてみると、古典ラテン語のローマ軍を意味する「レギーオ(Legio)」に由来し、910年に建国されたレオン王国を祖といるんだそうな。なるほど、ひとひねりしてる学名ってワケだ。
ところで、バイクでユーラシア大陸を横断した時には、レオンって通ったっけ❓
フランスのパリを出発して、ざっくり言うと、ル・マンを経由して古城で有名なロワール地方のトゥールに行き、さらにボルドー、アルカッションと移動して一番北の国境からスペインのIRUN(イルン)に入った筈だ。そこからサン・セバスチャン、ブルゴス、セゴビア、マドリード、トレドと旅した。その後、国境とは思えないような小さな村からポルトガルに入ったんだよね。何かクソ長い名前の村だったけど、何て名前だったっけ?
おっ、そうだ思い出した。Valencia de Alcantara(バレンシア・デ・アルカンタラ)だ。シェルの地図(註2)が画像で脳にインプットされてたようで、映像記憶ファイルから出てきた。
そこから海岸にあるナザレの町まで走ったんたよね。そうだ、そうだ。岬の横をジェット戦闘機が、超低空を爆音轟かせてド迫力で飛んでったんだよね。
あっ、いかん、いかん。また余談に逸れちゃったよ。そう云うワケだから、たぶんレオンには行っとらん。
しかし、あんな環境に果たしてムラサキシタバなんて、いるもんかね?レオンには行ってないけれど、スペインはフランスと比べて何処も乾燥がちで、森というか疎林といった感じのところばかりだった。つまり、日本の生息地とは、かなり環境を異にする。ナポレオンがピレネー山脈から向こうはアフリカだと言った意味が理解できたのを思い出したよ。それくらいピレネー山脈の北と南とでは様相が違うのだ。

 
・Catocala fraxini yuennanensis Mell, 1936(中国・雲南省亜種)

これも語尾は「ensis」だ。でも字面からも何となく想像できた。産地も”yunnan”となっていたから、雲南省のもので間違いなかろう。
調べたら、分布は雲南省南西部とあった。

参考までに言っとくと、『日本産蛾類標準図鑑』では、他にロシア南東部、中央アジアのものも亜種になっているとのこと。

 
【シノニム(同物異名)】

Wikipedia には、以下のようなシノニムが記されてあった。

 
・Phalaena fraxini Linnaeus, 1758

これは属名が違うから、ムラサキシタバが最初に記載された時には、属名は Catocala属ではなかったという事だね。
因みに、Phalaena(ファラエナ)という属はリンネが命名した大変古い属名で、今よりもっと大きな枠組の分類だったみたい。ドクガやシャクガなど多くの蛾がここに含まれていたようだ。
詳しく調べたら、何とリンネは初めに Lepidopera(鱗翅目)の中に Papilio(パピリオ=蝶)、Sphinx(スフィンクス=スズメガ)、Phalaena(その他の蛾)の3属しか設けていない。リンネはぁ〜ん、ザックリどすなあ。
とにかく、Catocalaという属は、のちに新設された属ってワケやね。

 
・Catocala fraxini var. gaudens Staudinger, 1901

原産地は”Ala tau”となっていた。たぶんカザフスタンと中国との国境に跨がるアラタウ山脈のことかと思われる。

 
・Catocala fraxini var. latefasciata Warnecke, 1919

原産地は”Amur region”、”Ussri”となっているから、アムール地方とウスリーだ。ようはロシア南東部ってことだな。
あれっ⁉️、ちょっと待てよ。一つ前のシノニムはカザフスタンのものだから、産地は中央アジアだ。という事は、亜種の欄でロシア南東部と中央アジアのものも亜種となっているようだと書いたが、たぶん岸田先生はコレらの事を言ってはったんじゃないのか?
おそらく今はカザフスタン、ロシア南東部のモノは、双方ともシノニムになってて、他の亜種に吸収されてしまったのだろう。

 
・Catocala jezoensis Matsumura, 1931

最初、松村松年は日本のものを新種として記載したんだろね。で、のちに亜種に格下げになったと云うワケだすな。あくまで推測だけど。

 
【変異】

上翅の色柄は、著しく白っぽいものから全体が暗化したものまであり、変異幅がある。今回も石塚さんの『世界のカトカラ』から、画像をお借りしまくろう。

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
国外のムラサキシタバだが、右下が白化したもので、左上が暗化したものの典型だろう。一応、拡大しとくか。

 

 

 
もっと上翅の斑紋が不鮮明になり、メリハリの無いベタなのもいるようだ。

 
【近縁種】
北米には、本種に近縁のオビシロシタ(Catocala relicta)がいる。本種よりも一回り小型だが、やはりPopuls属(ヤマナラシ属、またはハコヤナキ属)を食樹としており、北アメリカの西から東まで広く分布している。

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
これを初めて『世界のカトカラ』で見た時は、カッコ良過ぎて仰け反った。アメリカの国鳥ハクトウワシを彷彿とさせ、めちゃめちゃ貴賓と威厳がある。
とはいえ変異幅が広く、上翅が白ではなくてグレーのものや帯が淡い紫がかっているのもいる。

 

(出典『世界のカトカラ』)

 

(出典『Wikipedia』)

 
画像2枚目の奴なんかは、帯が紫がかってて、ほとんどムラサキシタバだ。帯が細いムラサキの異常型と言われても納得しそうである。

近縁種で思い出したが、ネット上にムラサキシタバと間違えてフクラスズメの写真が載せられていることがよくある。
まあ人間、間違うこともあるだろう。しかし、激怒されること覚悟で、敢えてモノ申す。

それって、マジダサい。

確かに彼奴が驚いて飛んだ時などは、一瞬垣間見える下翅の青色に反応してしまい『すわっ(・o・;)❗、ムラサキかっ⁉️』と思う時はある。でも次の瞬間には即違うことに気づく。ゴツくて汚らしいからだ。あれって、ホント💢腹立つよなー。
それで思い出したよ。山梨県の大菩薩山塊で必死にムラサキシタバを探していた時の事だ。樹液が出てるミズナラから突然、下翅か青い蛾が飛び出した。一瞬にして血が逆流したよ。でもそれがムラサキではなく、フクラスズメだと気づいた時のガッカリ感は半端なかった。同時に、あんなもんに見間違えた自分に激しく憤りを覚えたわ。その後、その木には何頭も寄ってきたから、憎悪の炎🔥が燃えたぎったね。
よく見ると、青い部分は中途半端なデザインだし、それに何よりも糞デフだ。フォルムが全くもって美しくないのである。上翅の柄もメリハリが無いし、まるで乞食爺さんみたいだと思ったよ。そもそも蛾嫌いなオイラにとっては、背中がゾワゾワするような邪悪な見てくれなのだ。

 
(フクラスズメ Arcte coeruta)

 
まだディスる。
こんなもんをムラサキシタバとずっと間違えたまんまの人って、どーかしてるぜ┐(´д`)┌
そういえば、虫屋の飲み会に遅れて行ったら、丁度、兵庫の明石城公園でムラサキシタバを見たと強く主張しているバカがいて、その場で『んなもん、100%フクラスズメじゃ❗そんな海沿いにおるわけないやろ、バーロー(ノ ̄皿 ̄)ノ ⌒== ┫❗』とボロクソ言ってブッ潰したことがある。
ちょっと大人気なかったかもしんない。ワシにボロクソ言われた人、ゴメンなさいね。同じことまだ主張するなら、ディスり殺すけどね( ̄皿 ̄)💢

 
(裏面)

(出典 上2点共『http://www.jpmoth.org』)

 
裏がまた、絶望的に汚ない。美しさが微塵も無いのだ。
しかも、これだけにはとどまらない。幼虫が死ぬほど醜くて超気持ち悪いのだ。あまりにも気持ち悪いから、画像は添付しない。気になる人は自分で探してくれたまえ。んでもって、思いきし鳥肌たてて仰け反りなはれ。
そういや、山梨の時はその気持ち悪さを思い出して益々憎らしくなってきて、マジで全員、網で叩き殺してやろうかと思ったよ。
そういうワケだから、見たことはアホほどあるが、採ったことは一度もない。ゆえに手持ちの標本も皆無。であるからして、ネットから画像をお借りしたのでありんす。
ついでに言っとくと、ムラサキシタバと同じくヤガ上科シタバ亜科に含まれるが、属は違い。フクラスズメ属である。認めたくはないが、意外と類縁関係は近いみたいだ。もう一言書き添えると、スズメガとは関係は浅い。和名は、鳥のスズメが羽毛を逆立てて冬の寒さに耐える様を「ふくらすずめ」と呼び、丸っこくて毛に覆われた様子をこの蛾に当てはめたものである。

 
【レッドデータブック】

福井県:希少種B(県レベル)
兵庫県:Cランク(少ない種・特殊環境の種など)
岡山県:稀少種
高知県:準絶滅危惧種
奈良県:稀少種
和歌山県:準絶滅危惧種

いつも思うんだけど、このレッドデータブックってヤツはどこかユルいわ。もっと指定されててもオカシクない都道府県が有るんでねぇの❓

 
【成虫発生期】

他のカトカラが盛夏に現れるのに対し、真打ち登場ってな感じで最も遅くに現れる。そこに風格、格の違いを感じる。謂わば、紅白歌合戦のトリや横綱みたいなもので、最後の最後に登場する大御所的な存在なのだ。この辺りも人気の高さに帰依しているところがあるのではないだろうか。

ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』では「8E-10」となっているが、早いものでは8月上旬、通常は8月中旬頃から現れ、10月下旬まで見られる。
新鮮な個体を得るには9月上旬までに狙うのが望ましいとされているが、時に10月でも新鮮な個体が得られるという。

 
【開張(mm)】

『原色日本産蛾類図鑑』では、92〜102mm。『日本産蛾類標準図鑑』だと、90〜105mm内外となっている。

日本最大のカトカラのみならず、世界的に見ても最大級種である。よくその大きさはシロシタバと並び称されるが、基本的にはムラサキシタバの方が大きいように思う。個人的意見だが、特に東日本では差異を感じる。シロシタバの方が小さいなと感じるのだ。じゃあ、何でそないな風に並び称されるのかと云うと、たぶん開翅長(横幅)だけで論じられることが多く、表面積で語られることが少ないからではなかろうか?

 

 
上が長野県産のムラサキシタバで、下が岐阜県産のシロシタバである。産地はそれぞれ白骨温泉と平湯温泉だから、場所はそう離れてはいない。
再度、個人的見解だと断っておくが、東日本のシロシタバは、ムラサキシタバに比して、どれも大体これくらいの大きさだ。東北地方や北海道で得たことはないから断言は出来ないが、たぶん甲信越地方のものと変わらんだろう。下手したら、もっと小さいかもしれん。
但し、西日本の低地のものはデカい。それでも表面積はムラサキシタバに軍配が上がるかと思われる。
両種ともカトカラ内の横綱であることは間違いないが、シロシタバは自分的には張出横綱って感じで捉えている。

 
【分布】 北海道、本州、四国、九州、対馬

主に中部地方以北に見られ、北海道では比較的個体数が多いようだ。西日本では少なく、近畿地方、中国地方では稀で、四国地方、九州地方では極めて稀。

一応、分布図を添付しておこう。

 

(出展 西尾規孝『日本のCatocala』)

 
石塚さんの『世界のカトカラ』の分布図も添付しておこう。
こちらは県別の分布図になっていることに留意して見られたし。

 

(出展 石塚勝己『世界のカトカラ』)

 
見ての通り、従来は九州では対馬のみからしか記録がなく、長い間、九州本土には分布しないとされてきた。図鑑は元より、ネット情報でも今だに殆どがそうなっている。
ところが、2011年に福岡県添田町英彦山と福岡市南区油山で採集されたそうな。また、この年は長崎県平戸や山口県秋吉台でも採集されている。九州本土内の福岡県,長崎県の個体はほぼ完全なものであったため,遠くから飛来した偶産とは考えにくく,現地付近で発生したものと考えられるそうだ。

中国地方では空白地帯になっていた山口県でも確認されたことにより、全県に記録がある事になった。
記録をあたってみると、岡山県恩原高原、西粟倉村、鳥取県若桜町、島根県鯛丿巣山、琴引山、島根半島で採集されている。広島県は北部にいるらしいが、地名は拾えなかった。

四国では愛媛県四国中央市(塩塚高原)、内子町(小田深山)、高知県香美市物部町、徳島県西祖谷村の記録のみしか拾えなかったが、全県から記録されているようだ。中央に横たわる四国山地の高標高地に局所的に分布するものと思われる。

近畿地方でもかなり少なく、大阪府と三重県には記録がない。
和歌山県は準絶滅危惧種となっていたが、産地は分からなかった。奈良県はレッドデータブックで稀少種になっていた。で、やっぱり産地は分からなかった。京都府は分布することになっているが、全く手がかり無しだった。いるとしたら、北部だろう。滋賀県には記録はあるものの、かなり古いものらしい。レッドデータブックでは情報不足となっている。どうやら思っていた以上に近畿地方では稀なようだ。確実にいるのは、兵庫県北部の但馬地方周辺の高標高地くらいだろう。

西日本では少ない理由は、先ず第一に気温だろう。ムラサキシタバは冷温帯を好む種だからだ。それに西日本では中部地方のように標高の高い山も少ない。つまり冷涼な気候の場所も少ないから、生息に適した環境があまり無いのだろう。

第二の理由は幼虫の食樹である。食樹については別項で詳しく書くが、ムラサキシタバの食樹はヤマナラシとドロノキ、ポプラである、このうちドロノキは分布が中部地方から北海道だから、西日本には自生しない。
次にポプラだが、植栽されたものしか無いから標高の高い冷涼な地域では殆ど見られないだろう。しかも、ポプラは風に弱くて直ぐに倒れるし、カミキリムシの食害にもあいやすい。ゆえに、現在ではあまり植栽されていないのだ。
最後のドロノキだけが、西日本では利用されていると考えられる。しかし、これとて少なく、西日本ではあまり見ない木だ。何故なら、種子が非常に小さいので、競争相手のいない裸地でなければ侵入できない。それにポプラと同じくカミキリムシなどの被害を受けやすく、木の寿命が短いのだ。
これらの理由から、西日本では滅多に見られないのだろう。
逆に北海道に多い理由は、ドロノキやヤマナラシ(エゾヤマナラシ)が多く自生し、冷涼な気候ゆえ、平地のポプラでも発生できるからだろう。

国外では、極東アジアからヨーロッパまでユーラシア大陸に広く分布している。
ヨーロッパでは、中央ヨーロッパと北ヨーロッパのほぼ全域、および南ヨーロッパの一部に分布している。但し、或る資料によると、ポルトガル、地中海の島々(コルシカ島を除く)、ギリシャ、スコットランド北部、スカンジナビア北部、ロシア北部およびロシア南部で絶滅、もしくは激減しているようなことが書かれていた。ヨーロッパ以外では、旧北区からトルコ北部、中国、シベリア、極東ロシア、韓国、日本に分布していることになっている。

分布は広いと知ってはいたが、思ってた以上に広い。
同じく巨体であるシロシタバはアジアの一部にしかいないから、国外の愛好家、特に欧州ではムラサキシタバよりもシロシタバの方が格上で、珍重されているのも解るような気がするよ。
 
 
【雌雄の区別】
他のカトカラは尻の形、及びその先端の毛束の量などで判別するが、ムラサキシタバはそれ以外にもっと簡単な判別法がある。

 
(オスの裏面)

 
♂の腹は♀と比べて細いことが多い。但し、この様に腹が太いものもいるから注意が必要。腹先の毛束は♂の方が多い。コチラの方が、まだ見分けやすい。

 
(メスの裏面)

 
裏の羽と胴体の感じが、ほよ(・ω・)?顔みたいで、初めて見た時は笑ったよ。
それに胸の辺りが、もふもふで可愛い(◍•ᴗ•◍)❤

参考までに言っとくと、鮮度を見るには表よりも裏面の方が分かりやすい。鮮度が良いほど白く見える。この2つだと、♂の方が鱗粉が剥がれていないから、より新鮮な個体だと御理解戴けるかと思う。

いかん、いかん。話が逸れてしまった。雌雄の見分け方だったね。
えー、メスは尻の先に縦にスリットが入るのだ。
より解りやすいように、画像を拡大しよう。

 
(オスの尻先)

 
(メスの尻先)

 
ねっ、全然違うっしょ。
にしても、何でムラサキシタバだけがそうなんざましょ❓
他のカトカラの♀には、こんな明確なスリットは入っていないと思うのだ。

 
【生態】
中部地方では標高1000〜1800mのミズナラ・ブナ林帯に産地が多いが、北海道では平地にも生息している。
生息環境はヤマナラシ、ドロノキが林立する広葉樹林の斜面や渓谷沿いの河辺林、針葉樹と広葉樹との混交林等。北海道などの、より低標高の産地では植栽されたポプラ並木や公園でも発生する。

灯火にも樹液にも集まる。また花(サラシナショウマ)での吸蜜例もある(関,1982)。

採集方法は主に灯火採集で、ライト・トラップを設置するか、外灯巡りをするかだろう。
一晩に数頭飛来すれば御の字だが、雨の前後などガスが発生するような天候の折りには、一晩で数十頭採れることもあるという。

灯火に訪れるのは午後10時くらいからが多いそうだが、日没直後や明け方に飛来するものもいるようだ。これも、その日の気象条件に多分に左右されるからであろう。因みに灯火で自分が見た時刻は、午前10時40分くらいと午前0時前後だった。

灯火採集の経験値が少ないから偉そうなことは言えないけど、周りから聞いた話を総合すると、ライトトラップに寄ってきても上空を高速でビュンビュン飛んでて、中々トラップに止まってくれないそうだ。しかも、止まっても大概は変なとこに止まるから、採りづらいらしい。でもって、かなり敏感で、下手に近づくと直ぐに飛ぶし、逃したら二度と戻って来ないらしい。
また、石塚さんの『世界のカトカラ』によると、コウモリがムラサキシタバを捕らえようと飛来した際は、コウモリから放たれる音波を敏感に察知し、逃れるために急降下するような光景もしばしば見受けられるという。

中部地方では9月中旬以降になると、低標高の長野市、松本市、上田市などの市街地の外灯にも飛来する。夏型の気圧配置が終わって山が2、3日雲で覆われた後や秋雨のあとによく本種が採れるそうである。この事からも、飛翔力は強く、移動性もそれなりに強いのではないかと推測される。

そういえば、高い位置(高さ6、7mくらい)を、らしきモノがかなりのスピードで飛んで行くのを二度ほど見ている。或いは普段は高所を飛んでいるのかもしれない。
前から疑問に思ってたんだけど、カトカラ類が普段どの程度の高度を好んで飛んでいるかについて書かれたものを殆んど見たことがない。ガ全般なら尚更だ。チョウならば、ほぼ全ての種において、飛翔の高さについて言及されているのにナゼに❓
勿論、夜だから目につきにくいというのは当然あろうが、にしても観察例が少な過ぎる。ライト・トラップだけでじゃなく、別な観察方法も必要になってきているのではなかろうか❓
もしくは、ライト・トラップしてるのならば、時にはそのまま暫く放っといて、懐中電灯を持って探しに行けばいいではないか。でも、誰もとは言わないが、あまりそんな事している人はいないんだろなあ…。

クヌギやハルニレなどの樹液やフルーツ(腐果)トラップ、糖蜜トラップに集まるが、観察例はあまり多くない。特に高原や標高の高い山地帯(ブナ帯など)での観察例は極めて少ないようだ。
その理由について西尾規孝氏は『日本のCatocala』の中で、以下のような推察をなされておられる。

「高原や標高の高い山地、とくにブナ帯にいる Catocala は
何を餌として長い成虫期を過ごしているのか不明な点が多い。本種のような冷涼な山地に生息する種の行動はほとんど未知である。山地の生息地ではもともと気温が低い(夜間の気温は10〜20℃)ので、意外と低山地ほど栄養を必要としない可能性がある。」

これは有り得るかもしれないなとは思う。
しかし、そもそもブナ帯で樹液or糖蜜採集を試みている者が少ないというのもあるのではないか?とも思う。蛾を採集する皆さんの間では、ライト・トラップなどの灯火採集が主流なのである。また、低地ではクヌギやコナラから樹液がドバドバ出ているが、そのような樹液ドバドバの木が高標高地では少ないような気がする。高標高だと樹液の出る木はミズナラ、ヤナギ類、カバノキ類になると思われるが、それを見つけるのは結構大変だ。低山地にみたいにカナブンやハナムグリ、クワガタ、カブトムシなどの甲虫やスズメバチは多くないだろうから、ヒントが少なくて探すのは容易ではないのだ。里山の雑木林みたいに、昆虫酒場に群がっているワケではないのである。それにクヌギみたく強い匂いもしないしね。と云うワケで、効率が悪いから真剣に樹液で探している人が少ないんではなかろうか。

非常に敏感で、カトカラの中でも特にムラサキシタバは樹液や枝葉に静止している際にライトを当てると慌てて飛び立つ。
腐果トラップ、糖蜜トラップに飛来した際も同じく極めて敏感で、腹立つくらいにソッコーで逃げよる。こういうところも心憎いところである。ゆえに憧憬が募る。いい女と同じで、簡単には落ちないのだ。

フルーツトラップや糖蜜トラップから飛ぶ際は、他のカトカラと同じくパタパタ飛びで、それほど速くはない。但し、一度だけだが、ライト・トラップに近寄ってきて逃げた際はメチャメチャ速いスピードで飛び去った。

腐果・糖蜜トラップに寄って来る際の姿は見たことがないが、おそらく他のカトカラと同じくパタパタ飛びでやって来るものと推測される。
カトカラ類は翅形からすると、本来はかなり速いスピードで飛翔できるものと思われるが、樹液や腐果&糖蜜トラップに寄って来る際も、また飛び去る際もパタパタ飛びだ。何か鈍臭い感じなのだ。これはもしかしたら、体が重いとか形体のバランスだとか、何らかの理由でトップスピードになるのに時間が掛かるのかもしれない。また反対に、トップスピードから急制動でピタリと止まるのも苦手なのかもしれん。意外と寄って来る際は、高いところから徐々にスピードを緩めて降りて来るのやもしれぬなあ。
我々はライト・トラップも含めて樹液や糖蜜トラップの設置位置の目線でしか物事を見ていないのかもしれない。前述したように、或いはカトカラたちは普段は我々が思っている以上の高所を主なる活動空間にしているって可能性はないのかな?

一応、補足しておくと、カトカラ類は昼間に驚いて飛び去る際、時にかなりのスピードで逃げ去ることがある。これは、その際には下向きに止まっているからなのかな❓自重で落ちる力を利用しているとかさ。

尚、自分は標高1700mで腐果トラップと糖蜜トラップの両方を試してみたが、そのどちらにも飛来した。但し腐果トラップが2例、糖蜜トラップでは1例のみである。
飛来時刻は午後9時前、9時半過ぎ、午前1時半だった。

『日本のCatocala』に拠れば、驚いたことに国内での昼間の静止場所についての記録は殆んどないそうだ。岩場の暗所に潜んでいたという観察例があるに過ぎない(四方,2001)という。
但し、ヨーロッパでは樹幹によく静止しているみたいだ。また、北海道では平地のポプラ並木で時々見掛けるという噂があるようだ。
確かにネットで画像検索すると、日本では昼間に撮られた写真は極めて少なく、壁や板塀(杭)に止まっているものが2点、自然状態と言える樹幹に止まっているものは1点だけしかなかった。因みに、何れも逆さ向きではなく、上向きに静止していた。もしも、昼間も上向きに静止しているのなら(大多数のカトカラは昼間は下向きに静止している)、そういう習性を持つカトカラは他にはジョナスキシタバくらいしかいないのではないかな?(調べたら、エゾベニシタバ、ゴマシオキシタバも上向きに止まっているそうだ)。
上翅の色彩模様は、食樹のヤマナラシやドロノキの樹皮に似ているというから、見つけにくいのかもしれない。でも、樹皮に似ているといっても、この2つの木は幼木と壮齢木、老木とでは、幹の感じがかなり異なる。昼間に探したことはないけれど、そんなに見つからないものなのかなあ❓…。
意外と見つからないのは、他のカトカラみたいに低い位置ではなく、高い所に好んで止まっているのかもしれない。勿論、これは勘だけで言ってるんだけどさ。

メスは三角紙の中でも容易に産卵し、母蛾から比較的簡単に採卵ができるようだ。
自然状態の産卵行動は、同じく『日本のCatocala』に観察例があったので、抜粋要約しよう。

「産卵行動については、ポプラの樹幹上で2例観察している。時刻はいずれも午後9時台であった。メスは樹幹に飛来し、木の下部から産卵を始め、歩行しながら次第に上部へと産卵場所を変えた。何れの場合もメスは光に敏感で、照射した光に直ぐに反応し、逃避した。照射を止めて数分後、再び産卵に訪れるもカメラのストロボ光で逃避し、暫くして再び飛来する行動を数回繰り返した。」

とにかく、懐中電灯の光には矢鱈と敏感なんだね。
よって見つけても採れないケースがあるから、余計に想いが募る人もいて、半ば神格化されるところがあるのだろう。

 
【幼虫の食餌植物】

食樹と幼生期に関しては、今回も西尾規孝氏の名著『日本のCatocala』の力を全面的にお借りしよう。

ヤナギ科:ヤマナラシ、ドロノキ、セイヨウハコヤナギ(ポプラ)などのPopulus属。日本では人によって、これをヤマナラシ属と訳したり、ハコヤナキ属と訳したりしてるからややこしい。でも一般ピーポーのことを考えれば、解りやすいポプラ属の方がエエんでねえの❓と思うよ。

主にヤマナラシ、ドロノキを食樹としているようだが、長野県ではコゴメヤナギやオオバヤナギ、カワヤナギでも卵殻が見つかっている。但し、どの程度利用されているかは調査不充分とのこと。
ヨーロッパでは、トネリコにも寄生することが知られているが、日本ではまだ見つかっていないという。たぶん真剣に探してる人がいないからだと思うけどさ。

『www.nic.funet.fi』によれば、以下のようなものが、食樹として載っていた。

Larva on Populus tremula, Betula sp., Fraxinus excelsior [SPRK], Fraxinus , Quercus , Q. robur, Tilia cordata, Fagus , Alnus , Acer , Ulmus , Salix [NE10], 96 (Beck, Anikin et al.)

ざっくり訳すと「幼虫はヤマナラシ、カバノキ科、セイヨウトネリコにいる。その他、僅かな記録があるのが、トネリコ属、ナラ属ヨーロッパナラ、シナノキ属フユボダイジュ、ブナ属、ハンノキ属、カエデ属、ニレ属、ヤナギ属。」

一番最初にヤマナラシが来ることから、おそらくヨーロッパでも主要となる食樹はヤマナラシなどのPopuls属の木だろう。
と云うことは、学名の由来であるトネリコは、たまたま最初に食樹として判明しただけって事かな❓
そう考えると、「fraxini」という学名は益々もってダサい。

それはそうと、他にも記録されてる別属の植物が矢鱈と多いな。気になるので、植物の系統図を見てみた。

 

(出典『APGⅢ』)

 
ヤマナラシ属の上位分類であるヤナギ科は、さらに上の分類にあたる「目」レベルだとキントラノオ目に分類されている。
他にヨーロッパで挙げられている食樹の分類も見ていこう。
カバノキ科はブナ目。ハンノキ属もそこに含まれる。またナラ属も科は違うが(ブナ科)、同じくブナ目だ。ニレ属はニレ科バラ目。このブナ目とバラ目が、クラスター的にはキントラノオ目にやや近い。とはいっても目レベルだから、かなり縁戚関係は遠いだろう。
次にクラスターが近いのが、シナノキ属のアオイ科アオイ目とカエデ属のムクロジ科ムクロジ目だ。
一方、食樹として認知度が高いトネリコ属は、シソ目モクセイ科に分類される。系統図を見ると、両者は「目」レベルでも、かなりかけ離れた関係である事がわかる。
この結果には驚きだった。ヨーロッパでのムラサキシタバの食性はメチャクチャじゃないか。ワケ、ワカメじゃよ。

いや、待てよ。冷静に考えると、完全に蝶目線で見てたわ。
チョウは幼虫の食餌植物の範囲が狭い。一方、それに対して蛾の幼虫の食餌植物の範囲はかなり広い。属とか科、下手したら目さえ関係なく、何でも食う奴だっていたんじゃないかと思う。その中にあって、カトカラ属は幼虫の食餌植物がチョウと同じようにかなり狭い。だから、ついつい蝶屋的観点で思考してた。でも、所詮は蛾である。元来は何でも食ってたんだろう。それが進化の過程の中で、食樹が収斂されていったのではなかろうか。で、かなり強引だが、時々先祖帰りする奴がいるとか…。そんな事、ないかね❓

 
(ポプラ)

(出典『山手の木々』)

 
(ドロノキ)

(出典『ムシトリアミとボク』)

 
(ヤマナラシ)


(出典 3点共『木々@岸和田』)

 
(セイヨウトネリコ)

(出典『キュー植物園で見られる植物』)

 
飼育する場合はヤマナラシ、ドロノキが望ましいが、ポプラでも育つという。但し、気温の高い平地室内で飼育する場合は、ポプラを与えるよりもヤマナラシを与える方が成長が良好のようだ。
また、シダレヤナギやウンリュウヤナギも代用食となるが、成長不良となる場合もあるという。
猶、飼育を成功させる為には、幼虫の孵化期と餌の葉の柔らかさのタイミング、室内温度の調整が重要となるそうだ。

 
【幼生期の生態】

卵は食樹に付着した蘚苔類や樹皮の裏、裂け目、樹皮の溝、小枝の脱落した跡などに産付され、大木の地表近くでよく見つかる。1箇所への産卵数は1個の場合が多い。
受精卵は黒色ないし黒褐色、褐色で、緑色を帯びるものもあり、孵化直前に白みががる。

 
(卵)


(出典『Lepiforum』)

 
去年、インセクトフェアで卵をタダでもらった。
100卵だったかな。その時に初めて卵の実物を見たけど、あまりにも小さ過ぎて笑ったよ。何せケシ粒くらいしかないのだ。
で、大半を飼育の上手い小太郎くんに無理矢理に預けて、5卵だけ持ち帰った。
しかし、小さ過ぎてハッチアウトがワカンなかった。一応、ポプラの若芽を入れてはいたんだけど、あまりに孵化しないので、諦めて放ったらかしにしてたら、いつの間にか孵ってた。既にその時はポプラの若芽は枯れていたから、人知れず死んでおりましたとさ。ちゃん、ちゃん。
m(_ _)mすまぬ、悪いことしたよ。やっぱ、性格的に飼育には向いておりませぬな。
因みに小太郎くんも飼育に失敗。全滅したらしい。ポプラを与えたけど食いつかず、わざわざヤマナラシを山に採りに行ったらしい。それでもやはり食いつかず、ダメだったそうだ。

長野県の標高700m付近の谷での孵化は5月中旬。終齢幼虫は7月上旬に見られ、群馬県の標高約1600mでは、6月上旬に1齢幼虫が見つかっている(つまり孵化は5月下旬から6月上旬と推定される)。
幼虫は若い木から老齢木まで幅広く見つかるが、比較的大木を好むようだ。

 
(終齢幼虫)

(出典『青森の蝶たち』)

 
幼虫の色彩変異は他のカトカラと比べて乏しいが、野外では時に全体的に暗化したものも見られるという。
ネットで幼虫は紫がかってると書いてある記事を見たけど、実物を見たわけではないので、本当のところはよく分からない。

 

(出展 文一総合出版『イモムシハンドブック2』)

 
終齢幼虫は他の多くのカトカラよりも1齢多い6齢にまで達する。成虫が姿を現す時期が最も遅くなるのは、この辺りにも理由があるのかもしれない。
終齢幼虫の体長は約90mm。体重は40gを越える。
頭幅は5.5〜6mm。幼虫の同定は、この顔面の斑紋形態で他種と区別ができるようだ。

1〜2齢幼虫は食樹の葉裏に静止しているが、中齢幼虫以降は枝に静止し、樹幹には下りない。摂食時間は主に夜間だが、終齢幼虫(6齢)になると、昼間でも活動することがあるそうだ。

1、2齢幼虫の食痕は円形に近い形状で、5、6齢幼虫になると葉柄部分だけを残し、時に葉柄部も切り落とす。この習性は日本ではオオシロシタバにも見られ、北米のカトカラ数種からも同じ生態が報告されているようだ(ハインリッチ,1985)。
ハインリッチは、これを食痕やそこに付いた唾液からハチなど天敵の目標となることを避けるための戦略だと推察している。

蛹化場所についての知見は他のカトカラと同じく少ない。西尾氏は図鑑で、樹皮の裏での脱皮殻の発見例を記しておられるが、多くは落ち葉の下で蛹になるだろうと推察されておられる。

多分、↙️こういうのだね。

 

(出典『青森の蝶たち』)

 
この方、よく見つけはりましたなあ。
驚いたのは、蛹の周りに薄い繭を作るんだそうな。そういうことは、どこにも書いてなかったからだ。写真はそれを少し破って撮影したそうだ。
よく見ると、そんな感じではある。確かに外側に繭っぽいものが見える。

 

(出典『MEROIDA E.COM』)

 
蛹は紫ががってんだね。
マミー。ミイラみたいだ。こういうのを見ると、古代の人たちが蛹から美しい蝶や蛾が羽化するのを目のあたりにして、そこに甦りとか蘇生、輪廻転生と云った神秘的な力を感じたのも頷けるような気がする。
ちなみに、このブログ『青森の蝶たち』にはムラサキシタバの羽化する様子も写真に撮られている。なかなか無い画像だし、素直に美しいと思った。それも併せて見て戴けると、よりオジサンの言ってることが解るかと思う。

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青森の蝶たち

記事に飛ばない場合もあるので、URLも書いとく。
http://ze-ph.sakura.ne.jp/zeph-blog/index.php?e=1191

中々、神秘的でやんしょ(・∀・)
サイトには、羽が伸びて開翅してる画像らしきものもあるよん。
 
えー、これにて解説編はおしまいでやんす。
してからに、『2018′ カトカラ元年』、完結でごわす。

                        おしまい
 
 
追伸
第四章から、たった中ニ日で記事をアップできたのは、四章と並行して最終章も書いていたからである。
ナゼにそんな事をしてたのかと云うと、単に飽き性だからであるというのもあるが、両方の文章に相互効果があるのではないかと思ったからだ。まあ、ホントに効果があるかどうかワカンナイけどさ。

今回のタイトル『紫の肖像』は、かなり昔の捕虫網の円光シリーズのオオムラサキかヤクシマルリシジミの回で使ったような気がするけど、他に思い浮かばなかったので仮タイトルとしてつけた。で、結局良いタイトルが浮かばず、そのまま最後まできてしまったってワケ。まあ、解説編なんだから、タイトルとしてはそう悪くはないと思うけどさ。

それにしても、長い連載だったなあ…。
改めて、毎回このクソ長い文章の連載を我慢して読んで下さった皆様方、今まで誠に有難う御座いました。感謝、感激、雨あられでやんす。

えーと、マホロバキシタバのことを今シーズンが始まる前までには書こうと思っております。
なので、そのうち気が向いたら、カトカラ2年生の2019年に採ったもので、まだ書いてない奴のことも含めて書くやもしれません。
あくまでも、気が向いたらですけど。

 
(註1)日本の紫色の種類
調べたら、なんと57色もあった。昔の日本人の色彩感覚ってスゴイや。

 
(註2)シェルの地図
Shell石油が発行しているヨーロッパのロードマップ。
道路地図としてはミシュランの方が圧倒的に知名度は高いが、地図としてはシェル地図の方が遥かに優れており、使い勝手がいい。とても見やすく、情報も細かい。お薦めのビューポイントやらキャンプ場等々がマークで記されているし、シェルのガソリンスタンドの位置も一目で解るようになっている。バイクや車で移動する者にとっては、このガソリンスタンドの位置が分かるという事は、地味ではあるが大きい。燃料が無くなりかけた状態でガソリンスタンドを探すのは、精神衛生上よろしくないのだ。それにガソリンスタンドの位置さえ分かれば、その先を見据えて、どの辺で早めにガスを入れといた方がいいとか、もう少し長いスパンの計画も立てやすい。

また、一冊でヨーロッパ全土だけでなく、トルコの西半分やロシアの一部もカバーしている。お陰でトルコの地図を買わなくて済んだ。トルコの真ん中から東側は都市が連なっているワケではないから、道路網も複雑ではないのだ。つまり、大まかな幹線道路を示した地図があれば事足りる。大まかなモノなら、イスタンブール辺りのツーリスト・インフォメーションでもタダで手に入ろう。
但し、このShell地図。本屋では手に入らない。シェルのガソリンスタンドでしか売っていないのだ。しかも、シェルのスタンドなら何処でも売っていると云うワケではなさそうだった。
あっ、一応つけ加えておくと、今も地図が売られているどうかは知らないよん。或いは、もうこの世から消えてるかもしれない。今やGPSの時代だからね。
でも、それじゃ味気ないし、つまらない。GPSは地図を読むという楽しみを奪うものだからね。地図を見て、その情報をあれこれ読み取り、考えることは一種の知的ゲームでもあるのだ。そこには当然の如くリスクもあるけれど、浪漫もある。リスクや浪漫の無い旅なんて、旅じゃない。ただの旅行だ。
ヨーロッパをバイクや車で旅する人がいるなら、是非とも紙の地図の旅をしてほしい。そう思う。

 

2018′ カトカラ元年 其の17 第四章

 
  vol.17 ムラサキシタバ act4

  第四章『パープル・レイン』

 
 2019年 9月3日

もう一晩、此処わさび平小屋周辺で粘るという手もあったが、たぶん同じ事の繰り返しだろう。採れる気が全くしない。
この際、ヨシノキシタバは諦めてムラサキシタバとエゾベニシタバの2つにターゲットを絞りなおそう。両種の幼虫の食樹は被っているから、両方採れる可能性もある。
とは言いつつも、いつの間にか頭の中は女王ムラサキシタバのことだけで占められていた。エゾベニはまだ一度も見たことがないけれど、それよりもムラサキへの想いの方が強いみたいだ。皇帝の前では、他の全てのカトカラは霞んでしまう。それくらい存在感が違うのである。

問題は場所を何処にするかだ。当初はロープウェイ駅まで下りて、そこで勝負することを考えていた。1000〜1200mと頃合の標高だし、付近にはムラサキとエゾベニの食樹であるドロノキも多い。加えて周辺には旅館やホテルもあるから外灯だってあるだろう。そこに寄って来るカトカラもいるかもしれないと思ったのだ。
しかしながら、今や夜間に虫を寄せ集める水銀灯や蛍光灯は世の中から消えつつあると云うのが実情だ。最近は、殆ど虫が集まって来ないLED照明にとって替わられつつあるゆえ、たぶん多くは望めないだろう。それに夜まで時間を潰すのは大変そうだ。チョウさえいてくれれば、何の問題もないのだが、この時期にいる蝶は少ない。さらに言えば、採りたい蝶はキベリタテハくらいしかいない。

 
【キベリタテハ】
(2009.8月 八ヶ岳)

 
けれど困ったことに、この新穂高にはキベリタテハはあまりいないのである。昔、春にボロボロの越冬個体を1頭だけ見たのみだ。それに、沢山いると云う話も聞いた事がない。
考えてみれば、左俣周辺にはキベリタテハの幼虫の食樹となるダケカンバや白樺が少なかった気がする。あるとしたら、ロープウェイで上がった鍋平くらいだろう。しかし、いるかどうかも分からないのに行く気にはなれない。
今になって考えてみると、食樹が同じであるオオイチモンジは確実にいるから、ムラサキも間違いなくいる筈だ。ゆえに、それも悪い選択ではなかったかもしれない。だが、その時は前日の辛いテントでの一夜で、すっかり疲弊してしまっていて、そこまで頭が回らなかったのだ。

(・o・)ん⁉️、ちょっと待てよ。
でもキベリタテハの幼虫ってヤナギ類も食べるよな…。
谷間にはヤナギ類は結構あるのに、何でここいらにはキベリがあんまりおらんのじゃ?
もしかして、ヨシノキシタバもそうだったりして…。
だって、あれだけわさび平小屋周辺に立派なブナ林があるのにも拘わらず、全然見なかったもんな。
同じような環境なのに、居たり居なかったりして、生き物ってよくワカンナイや。

左俣道を降りてゆくが、やはりキベリタテハの姿はない。どころか、何もおらん。いる筈のヒョウモンチョウ類やシータテハ、エルタテハ、コムラサキも全く姿を見ない。
ロープウェイまで降りてきて、何だか全てがイヤになってきた。ここには、何もおらんような気がしてきたのだ。それに身も心も芯まで冷えきっていたから、熱い温泉に浸かるのを本能ちゃんが激しく熱望していた。

そんな気分だった折りに、丁度バスがやって来た。
これも流れだと思った。ならば、それに身を任そう。そのままバスに飛び乗る。

乗った時点で、次は何処へ行くかは決めていた。
だいぶ遠いが白骨温泉へ行こう。そこで温泉に入って鋭気を養い、仕切り直して去年採った場所に行き、確実にムラサキを仕留めよう。そう決心していた。
一旦、バスで平湯温泉へと移動する。そこで白骨温泉ゆきのバスに乗り換えられる筈だ。
だが車内でネットで調べてみると、バスが白骨に到着する頃には公共温泉施設は閉まってしまうことか分かった。ギリでアウトなのだ。おまけに間が悪いことに、温泉旅館の風呂も本日は清掃日にあたっており、入浴できないときてる。
何か完全に呪われとるね( ノД`)…。どないすんねん❓

幸い白骨方面ゆきバスの出発時刻までには、まだ時間があったから、平湯で風呂に入ることにした。
バス停から一番近い日帰り温泉、「平湯の森」へ行く。

 
【平湯の森】
(出展『楽天トラベル』)

 
初めて利用したが、広くて良い風呂だった。
ちょっと、気力も戻る。
これからは日帰りならば、いつものとこよりもコッチの方がいいかもしんない。

白骨温泉へ行くには、いったん沢渡まで行って、そこでまた別なバスに乗り換えなければならない。でもバスで行くのは初めてだから、不安が大きい。バスの本数が極めて少ないので、乗り換えに失敗したら最悪の結果になる。

沢渡で降りたら、雨が降り始めた。
予想はしてたけど、やっぱりか…。我が精緻なるお天気センサーは、ハッキリと答えを出せないでいる。降ったり、止んだりという感じかなあ…としか言い様がない。たぶんこの山域では降ってるところもあれば、降っていないところもあるんだろなと思う。女心と秋の空は変わりやすいというが、正にそれで、読めない。一日雨ということはないだろうが、何時から何時までが雨と云うのまではワカラナイ。おそらく天気予報を見たところで、ピンポイントでは当たりそうにないような微妙な天気なんだと思う。
まあ、とやかく言ったところで、どうしようもない。ようは運次第ってことだろう。

なんとか無事に乗り継げて、バスは4時半前に白骨温泉の上にある泡の湯に到着した。ここから、去年ムラサキシタバが採れた場所まで歩くつもりだ。

歩き出して直ぐに光が射してきた。そして、そのうち青空まで覗き始めた。
スーパー晴れ男の面目躍如と言いたいところだが、あんまし自信がない。センサーは晴れるという明確な信号を送ってはこないのだ。とにかく、このまま回復してゆくことを祈ろう。でも、同時にあまり信用しないようにしよう。それくらい今日の天気は気まぐれな気がする。
今さら思い悩んでも仕方がない。なるようにしかならんのだ。

途中、見覚えのあるような広場に出た。たぶん昔、森さんがオオイチモンジのポイントだと教えてくれた場所だ。温泉街からそう遠くないし、面倒くさくなってきたから、もう此処にしようかなと思った。
けど思いとどまった。ここは確実を期そう。先ずは実績のある場所で確実にムラサキを仕留めたい。ギャンブルを極力避けたいと云う心理が働いてるんだろなと思い、苦笑する。我ながら、気持ち弱ってるなあ…。

坂道は思っていた以上にキツい。喘ぎながら登る。
そして、目的の場所がいつまで経っても現れない。次のコーナーさえ回れば見えてくると何度も思うが、見覚えのある風景は何故だか見えてこない。段々、本当にこの道で合ってるのか不安になってくる。
しかも、ザックの重みが次第に肩に食い込んでくる。自分は荷物が重いのが大嫌いで、普段は必要最低限の物しか持たない主義の超軽装男なのだが、今回は勝手が違う。テントと糖蜜トラップ用の2Lのペットボトル、飲料水用の2Lのお茶も持参している。液体は重たいのだ。
一瞬、お茶を半分捨てたろかと云う衝動に駆られる。とはいえ、山で最も重要なのは飲料水である。これだけはケチれないし、削れない。「命の水」と云うだけあって、これを切らせば虫捕りどころではなくなるのだ。そう云うワケで、ことのほか重くて辛い。心がどんどん磨り減ってゆく。

途中、見晴らしの良い場所に出た。見下ろすと、温泉街は遥か下にあった。
えーっ❗❓、そんなに遠かったっけ❓
車で移動した時は、ものの5分か10分だと思っていたから近いと勝手に思い込んでいたが、とんでもねえや。
冷静に考えてみれば、あの時は下りだったし、思っている以上に車は速い乗り物だ。それは知っている。だから理解はできる。完全に文明の利器の力を侮ってましたよ( ;∀;)
だからといって、折角ここまで登ってきたのだ、今さら戻りたくはない。そもそも引き返すことが性格的に大嫌いなのだ。根性で歩く。
待ってろよ、紫のキミ。無茶苦茶に凌辱しちゃる(`へ´*)ノ

歩いていると、ムラサキの食樹であるドロノキが多いことに気づく。幼木が沢山生えているところも見つけた。そこを拠点にしようかとも考えだが、果たして幼木にメス親が卵を産みに来るのかどうかもワカラナイので、やめておくことにした。冷静な判断といえば聞こえはいいが、益々ハートは大胆さを失っているようだ。

ようやく目的地に着いたのは午後5時半くらいだった。
早速、テントを張る。そう、ここで野宿するつもりなのだ。
でも、この時は熊に対しての恐怖心はあまり持っていなかった。昨日の、新穂高の熊の巣窟に比べれば、どってことないと思ってたのだ。でも後日、小太郎くんに『よくあんな熊がいっぱい居るようなところに、一人でテントなんか張って寝れましたねー。』と言われた。知らぬが仏である。🙏なんまんだあ〜。

しかし恐れたとおり、再び天気は下り坂になった。
そして、さあこれからだと云う日没直後に雨が降り始めた。慌ててテント内に避難する。

寝袋に入り、テントを打つ雨音を聞いていた。
雨粒は間段なく雨のメロディーを奏で続けている。やむ気配は全く無い。
なんでやねん❓と呟く。
やはり、秋田さんや岸田先生の言うように、マホロバキシタバの発見で、今年の運を使い果たしたのかもしれない。
まあまあ天才のオラ(笑)に限って、そんな事はあるまいと思うが、8月からの絶不調振りは呪われているとしか思えない面もある。基本的に運だけのラッキーマンでやってきたから、こんなにコケ続けてるのは、あまり記憶にない。むしろ連戦連勝の方が当たり前なのだ。でもなあ…、今年は例年と比べて絶好調が当たり前というワケでもないんだよなあ…。時々、痛い苦杯を喫してもいる。けれど、その苦杯がマホロバの発見に繋がったんだもんなあ…。
そうだ、昨日、一昨日の敗北やこの雨も、きっと栄光への布石に違いない。そう思おう。
もう、神様ったら~(人´∀`)。゚+、アッシをヤキモキさせといて、結局最後には感動のフィナーレを用意してるんざんしょ❓憎いね、この、このー(☞゚∀゚)☞

一頻り自分をジャッキアップさせたところで、退屈しのぎに雨の歌でも歌うことにした。
一人雨唄歌謡ショー。雨のヒットパレードの開幕である。

 
八代亜紀『雨の慕情』

https://youtu.be/FZMWYN8pzG0
八代亜紀『雨の慕情』You Tubeリンク先

 
雨乞いの歌なんぞ歌ってどないすんねん(#`皿´)❗
でも、私のいい人、連れて来いなのだ。この雨がムラサキシタバを連れて来るのを祈ろう。

 
日野美歌『氷雨』

https://youtu.be/FBC04hXAC7A
日野美歌『氷雨』You Tubeリンク先

 
暗いなあ~。
それはさておき、別に好きな曲じゃないけれど覚えていたね。昔の時代の歌は、覚えやすいメロディーになってたんだろな。
とにかく歌詞にもあるように、採れるまで帰るワケには行かんのだ。

 
井上陽水『傘がない』
 
https://youtu.be/bgUpt00lG1s
井上陽水『傘がない』You Tubeリンク先

 
気分は、行かなくちゃ、君に逢いに行かなくちゃなのだ。
名曲だけど、これも暗いねぇー。
でもムラサキに会いに行かなくっちゃなのである。雨が早く上がることを祈ろう。

 
太田裕美『九月の雨』
 
https://youtu.be/a32fV43B2O4
太田裕美『セプテンバーレイン』You Tubeリンク先

 
まさにセプテンバー レインなのだ。
太田裕美には意外と名曲が多いんだよね。当時は地味な気がしてあまり好きではなかっけど、今見ると太田裕美ってカワイイよね。性格も良さそうだしさ。
にしても、マジで9月の雨は冷たいわ。

 
森高千里『雨』

https://youtu.be/XZfez9KcKcY
森高千里『雨』You Tubeリンク先

 
ムラサキさん、今の私は遠すぎるわ、貴方がなのだ。
改めて聞くと名曲だよなあ。森高千里はルックス的に大好き。昔から涼しそうな女の人には惹かれるのだ。

 
イルカ『雨の物語』
 
https://youtu.be/Oh9Y2Iqzb6o
イルカ『雨の物語』You Tubeリンク先

 
僕はまだキミを愛しているんだろう…
ムラサキよ、こんな雨の中でも待ち続けているんだから、僕はまだキミを愛してるんだろう。
作詞は、元「かぐや姫」のメンバーである伊勢正三だ。イルカの代表曲「なごり雪」も正やんの作詞でやんす。
ところで、イルカさんってどことなくイルカに似てるよね。だから、まさかのアーティスト名になったのかな❓

 
風『通り雨』

https://youtu.be/IlVCiL_NLkI
風『通り雨』You Tubeリンク先

 
淋しいのなら忘れようって言われても、ムラサキ様を忘れるワケにはいかんのだ。
この雨が通り雨だったらいいのにな…。

これも、正やんの歌だ。隠れた名曲だろう。正やんの歌詞は大好きだ。どれも情景が自然と浮かんでくる。

 
オフコース『眠れぬ夜』
 
https://youtu.be/3571xM9Ri8o
オフコース『眠れぬ夜』You Tubeリンク先

 
眠れない夜と雨の日には、忘れかけてた愛が甦るってかー。ホンマに昔の彼女の事を思い出して、何だかせつなくなってきたよ。

まだ、そんなに爆売れしてない頃のオフコースの楽曲です。
たしか、この曲は西城秀樹がカヴァーしてたんだよね。そういやヒデキも死んじゃったなあ…。西城秀樹の歌唱力は掛け値なしに素晴らしいと思う。そこにロックを感じるのだ。ヴォーカリストとして、もっと世間的に評価されるべきだろう。西城秀樹はダダのアイドルではないのだ。いや、アイドルだからこそ色眼鏡で見られて評価されないのか。まあ、自分も秀樹がメチャメチャ歌が上手いと気づいたのは随分あとになってからだからね。

 
稲垣潤一『ドラマチックレイン』

https://youtu.be/1T2NOEvM8Ws
稲垣潤一『ドラマチックレイン』You Tubeリンク先

 
哀愁漂う名曲である。
この曲は車のタイヤのCMにも使われてたね。赤い車だったっけ…。俯瞰の映像がカッコ良かったんだよなー。
さておき、マジでこのあとドラマティックレイン的展開にならんかのう。
 
 
八神純子『みずいろの雨』

https://youtu.be/sPwMDmESXwI
八神純子『みずいろの雨』You Tubeリンク先

 
嗚呼〜、水色の雨、降りしきるのーおーおー。
雨、やまーん❗トホホ😢、何だか泣けてくるよ。
この曲、アタマからパワフルでインパクトあったなあ。
🎵パープルタウン パープルタウン パープルタウン うぅ〜っふーふー。
(@_@)何か壊れてきたよ。勿論、ムラサキシタバの紫と掛けてるんだけどね。

ここで思い出した。昔、同じようにテントで寝転びながら雨の歌合戦をやったことがある。但し合戦だから、一人ではない。相棒とユーラシア大陸をバイクで横断した時に、そうゆう事があった。一人用テントを並べ、入口を開けて歌ってた。
スペインのどっかの小さい町だったっけ。キャンプ場が見つけられずに、仕方なく廃館になっていた美術館だか博物館の軒下で野宿したんだった。
そこで、突然相棒が『ねぇ、雨の歌合戦しましょうよ。』と言い出したのだ。
よっぽど退屈だったのだろう。イヤイヤ応じた記憶がある。
正面には、巨大な工場の煙突群が屹立しており、そこからモクモクと大量の煙が吐き出されてたんだよね。それがオレンジ色の光に照らされて、一種異様な雰囲気を醸し出してたっけ…。まるでSF映画の世界だった。その光景を見ながら、ずっと歌ってたね。

 
吉田拓郎『たどり着いたらいつも雨降り』
 
https://youtu.be/dDrMscLOzJM
吉田拓郎『たどり着いたらいつも雨降り』You Tubeリンク先

 
こっちも、たどり着いたら、いつも雨降りって気分だ。
同時代の歌じゃないけれど、がなる拓郎はカッコイイ。
けど、ライブバージョン限定かな。先にそっちを聴いていたから(伝説の篠島のライブアルバム?)、のちにオリジナルを聴いた時はイメージとは違って、とても優しい曲だったので驚いた記憶がある。
ちなみに、この曲は氷室京介など多くのアーティストがカヴァーしている。だか断然、拓郎のライブヴァージョンの方がいい。
でも、たどり着いたらいつも雨降りって歌詞、今の状況だと確実に力抜けんなあ…。

 
村下孝蔵『初恋』

https://youtu.be/OKizrDxp54c
村下孝蔵『初恋』You Tubeリンク先

 
サビも好きだけど、何といっても🎵五月雨(さみだれ)はーと云う入りが特に好きだ。続く歌詞の🎵緑色〜というのも良い。確かに五月雨の時期は新緑の季節なのだけれど、それをサラッと言えるところが秀逸だ。曲のテーマの、あおはる(青春)とも掛かっている。
この人の曲は繊細な感じがして、どれも好き。
でも、結構早死にしちゃったんだよなあ…。その頃の恋とか思い出して、どんどんモノローグの世界に入っていってるなあ。

 
クール・ファイブ『長崎は今日も雨だった』

https://youtu.be/ynJWpwn5-Hk
クールファイブ『長崎は今日も雨だった』You Tubeリンク先

 
正に状況が、探し探し求めて、一人さまよえばーで嗚呼、今日も雨だったーなのだ。もう今の気分にピッタリじゃないか。
これも別に好きな曲じゃないし、サビしか歌えんかと思ったけど、アタマの一言が出たら一番は完璧に歌えたよ。やはり小さい頃に聞いた曲は覚えてるもんだよね。それにメロディーが良い意味で単純だ。今時の日本の歌は変調や半音が多くて、なかなか頭に残らない。そういえば歌謡曲という言葉も死語になりつつあるな。今は歌謡曲ではなくて、Jポップなのだ。何だか悲しくなってくるよ。

 
とんねるず『雨の西麻布』
雨の西麻布

https://youtu.be/AzJu_Bn5RnU
とんねるず『雨の西麻布』You Tubeリンク先

 
もっとフザけてる曲かと思いきや、意外としっとりで、ムード歌謡の良い曲なんだよね。作詞はたぶん秋もっさんかなあ?

 
小林麻美『雨音はショパンの調べ』

https://youtu.be/lNc4eKmlzqM
小林麻美『雨音はショパンの調べ』You Tubeリンク先

 
彼にはもう会えないの Rainydaysなんてフレーズを聞くと、ズブズブに未来が暗澹となってくるよ。

小林麻美はアンニュイで好きだったなあ。
映画『野獣死すべし』の小林麻美は美しかった。松田優作に殺されるシーンは名シーンだと思う。
そういえば、この曲ってユーミンの作詞だったよね。曲のアレンジもミュージックビデオも当時(80年代)では最先端のモノだった。謂わば、オシャレの最先端。そうゆう時代背景を抜きにしても、どこか気だるさのある美しい曲だと思う。

 
柳ジョージ&レイニーウッド『雨に泣いてる…』

https://youtu.be/TPi7U9k4M5Y
柳ジョージ&レイニーウッド『雨に泣いてる…』You Tubeリンク先

 
ウイッピンク・イン・ザ・レイン。雨の中、一人佇むこの俺さー。歌詞が不意に口から溢れた。記憶から消えてた曲だ。
ワタクシ、現在雨に泣いておりまする。

 
松山千春『銀の雨』

https://youtu.be/SQiac0ezl54
松山千春『銀の雨』You Tubeリンク先

 
結構、甘酸っぱい思い出のある曲。
女の子からの別れの手紙に、この歌詞が書いてあった。
今宵は失恋したくないよなあ…。

 
ASKA『はじまりはいつも雨』

https://youtu.be/Rtewdssxnzc
ASKA『はじまりはいつも雨』You Tubeリンク

 
ドラマの主題曲だったから、何となく覚えてる。いや、映画かもしれない。どっちだっていいけどさ。いやいや『SAY YES』と混同しているかも。どっちだっていいけどさ。何だか段々ヤケクソになってきてる。

 
小泉今日子『優しい雨』

https://youtu.be/LbtXSHfjdNA
小泉今日子『優しい雨』You Tubeリンク先

 
ホント、降りしきる雨に全てを流して
しまえたらいいけどーと、声を大にして歌ったよ。
これもドラマの主題曲だったような気がする。
キョンキョンは幾つになっても可愛いけど、若い頃は死ぬほど可愛いかった。声もキュートだしさ。

 
竜童組『新宿レイニーナイト』

https://youtu.be/iTmML2ToEcc
竜童組『新宿レイニーナイト』You Tubeリンク先

 
東京に住んでいた頃は、よく新宿で遊んでた。あの猥雑な街の感じが懐かしく思い返される。雨の日は、濡れてる舗道に極彩色のネオンの光が滲んでて、まるで映画『ブレードランナー』の世界だった。
この曲は宇崎竜童と所ジョージがやっていた『夜はタマたま男だけ!!』という番組のテーマ曲だった。この番組、とても好きだったから最終回は何だか悲しかったなあ。最終回のゲストは根津甚八と桃井かおりだったのもよく憶えている。そして、ラストは4人ではしゃいでる映像がスローモーションで流れ、そのバックにこの曲が流れてのエンディングだった。

 
チューリップ『虹とスニーカーの頃』

https://youtu.be/bjLm005smqE
チューリップ『虹とスニーカーの頃』You Tubeリンク先

 
自分にとっては、ものすごく甘酸っぱい曲。
夏の雨は寂しくはないけれど、せつない。

 
徳永英明『レイニーブルー』

https://youtu.be/rubfOw6X3d0
徳永英明『レイニーブルー』You Tubeリンク先

 
歌詞のように外は冷たい雨が振り続けている。
何かどんどん、せつなくなってきたなあ…。
基本的に雨の歌って暗いし、ブルーになりがちだわさ。

 
小椋佳『六月の雨』

https://youtu.be/w6M_x9pKnzg
小椋佳『六月の雨』You Tubeリンク先

 
しまった…。切なさを越えて、めちゃめちゃダークに暗いわ。
何で、こないな歌を思い出したんじゃろ…。
ちょっと気分を変えて、明るめの曲を探そう。

 
さだまさし『雨やどり』

https://youtu.be/lrfoEaiKgZA
さだまさし『雨やどり』You Tubeリンク先

 
のほほん系の癒し曲だ。
それにしても古い曲ばかりだ。もう少し新しめのを探そう。

 
大沢誉志幸『そして僕は途方に暮れる』

https://youtu.be/vWC2XYBZYVs
大沢誉志幸『そして僕は途方に暮れる』You Tubeリンク先

 
そして僕は途方に暮れる…。サビを口ずさみながらも雨は止まんし、何か本当に途方に暮れてきた。
にしても、これはもはや雨の歌とは言えないよね(笑)
よくよく考えれば、まだ雨が降ってねえし。
ネタ切れも近いかな?
余談だが、この曲はカップヌードルのCMで流れてて、大ヒットしたんだよね。今にして思えば、何でカップヌードルのCMに使われたんだろ❓オシャレ路線を目指したのか❓

 
福山雅治『Squall』

https://youtu.be/lYE5qWSq3XQ
福山雅治『Squall』You Tubeリンク先

 
私、恋をしている。哀しいくらい。もう隠せないこの切なさは。叶えて欲しい夏の憧れ等々、歌詞の断片が心に突き刺さる。
時々、虫捕りは恋みたいなもんだと思う。特に憧憬する存在に対しては、その感情は殆んど恋と同じだ。
とはいえ、あんまし雨って感じの曲じゃないなあ。あっ、そっか。これって、雨は上がってる曲だわさ。マジ、雨上がれよなー。

 
X JAPAN『ENDLESS RAIN』

https://youtu.be/QhOFg_3RV5Q
X JAPAN『ENDLESS RAIN』You Tubeリンク先

 
サビしか歌えない。
エンドレスレインなんて、縁起でもないよなあ。
このまま降り続けられたら、マジ困る( ;∀;)

 
Mr.children『雨のち晴』

https://youtu.be/lx-ZnX3iMtY
Mr.Children『雨のち晴れ』You Tubeリンク先

 
雨のち晴れ…か。
ちょっとだけ元気出たけどー。歌詞の今日の雨は諦めた感はヨロシクないよねぇ…。今晩のうちに何とかせなアカン。夜が明ける前に雨はやむと信じよう。

 
米津玄師『雨の街路に夜光蟲』

https://youtu.be/nBj0FqfUCv8
米津玄師『雨の街路に夜光蟲』You Tubeリンク先

 
タイトルには雨とあるけど、あまり雨が主題になっている曲じゃないな。段々、引き出しが無くなってきた。
はたと思う。2000年代に入ると、雨を題材とした名曲がグンと少なくなるよね。否、ヒット曲が少ない。色んな有名アーティストたちが雨の曲を作ってる筈だけど、誰もが知っているような曲って、あんまし浮かばない。

 
童謡『あめふり』

https://youtu.be/O6xq62tP9HY
童謡『あめふり』You Tubeリンク先

 
雨雨降れ降れ、母さんがー、蛇の目でお迎え嬉しいなーときて、ぴっちぴっちちゃっぷちゃっぷ らんらんらんなのだ。
これこそが誰しもが知ってる名曲だよな。にしても、だいぶネタ切れになってきたな(笑)
でも、明るい曲だから気分は少しは上がったよ。

二番を歌おうと思ったが、全然出てけえへん。
意外と、みんなも知らんのとちゃうかあ?
仕方がないので、三回続けて歌ってやった。

 
ドラマ挿入曲『子連れ狼のテーマ』

しとしとぴっちゃん しとぴっちゃん
しと~ぴ~っちゃんという秀逸なフレーズが耳に残る。で、哀しく冷たい雨すだれという言葉も情感があって良い。

https://youtu.be/fE7SspUv0Yc
橋幸夫『子連れ狼』You Tubeリンク先

 
ついに、こんなもんまで引っ張ってきただすか(笑)。
昔の時代劇『子連れ狼』のテーマ曲みたいなヤツだよね。
そろそろ、ホンマにネタ切れじゃ(`ロ´;)

ならば、洋楽なんてどうだ❓

 
BJ・トーマス『雨にぬれても』

https://youtu.be/mFvqHri0SZI
BJトーマス『雨にぬれても』You Tubeリンク先

 
Raindrops are falling on my head…から入るこの曲は、タイトルは知らなくとも誰もが聞いたことがあるだろう。
もちろん英詞は完璧に歌えてなくて、一部は鼻歌。
軽快なメロディーで歌詞の内容も前向きだから、ちょっと気持ちが上がる。
これって、たしか名画『明日に向かって撃て』で流れてた曲だよな。ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードのコンビは最高でした。

 
ジーン・ケリー『雨に唄えば』

https://youtu.be/edvN1DfRTZI
ジーンケリー『雨に唄えば』You Tubeリンク先

 
🎵ジャ、スィーギンザレイン(just singing in the rain)、バン、バーン(`Д´)ノ❗❗
ジャ、スィーギンザレイン、バン、バーン(
`Д´)ノ❗❗
あかん…。これは傘で物をバンバンにドツクという癖があったわ。それで何本の傘をブッ壊してきたことか。

この曲は名作ミュージカル『雨に唄えば』の名シーンで歌われる曲として有名だね。軽やかな曲調で歌詞も前向きだから、コレも気分が少し跳ねる。おーし、徐々に元気出てきたぞー。

 
欧陽菲菲『雨の御堂筋』

https://youtu.be/3jrBS9DLXoI
欧陽菲菲『雨の御堂筋』You Tubeリンク先

 
アップテンポで、何か乗ってきたねぇー\(^o^)/
気持ちもピッタリだし、フルコーラスで歌ってもうたわ。
よし、もっと気持ち作っていこ。
で、ノリノリで替え歌『雨の白骨温泉』まで歌ってやったワイ。著作権の関係で、歌詞は載せれないけどさ。
このままいくと、この心悩ます夜の雨の中、出ていくしかあるまい。そして貴方はいずこと、ムラサキの影を求めて一人ぼっちで泣きながら探し回るのさ。

 
THE MODS『激しい雨が』

https://youtu.be/kJ_voZJNfFA
THE MODS『激しい雨が』You Tubeリンク先

 
(ノ`Д´)ノおりゃー、気合いも入ってキタ━━(゚∀゚)━━❗❗
たとえ激しい雨が俺を洗おうとも、激しいビートが俺を奮い立たせる。そう、何もかもが変わり始める筈だ。

 
RCサクセション『雨上がりの夜空に』

https://youtu.be/yqPzwSEu8_0
RCサクセション『雨上がりの夜空に』You Tubeリンク先

 
いよいよ、この雨にやられてアタマいかれちまったぜ。フルコーラスで歌ってからの替え歌じゃい(*`Д´)ノ❗❗。フルパワーで『雨上がりの森たちに』を熱唱。勿論、著作権の関係で歌詞は載せれないけどさ。

(^3^♪よーし、元気出たぞー。
雨よ、どうぞ勝手に降ってくれ。もはや雨が降ろうが降るまいが関係ない。こんな夜だからってムラサキが採れないなんて許せない。こんな夜だからってネットが振れないなんて耐えられない。
目を閉じる。雨上がりの星降る夜空に、輝くパープルバンドが閃めく。そして同時に、白き羽裏を見せて悠然と羽ばたく姿を想い浮かべる。よっしゃ、エンジンはギンギンだぜ。いつものようにキメて、シバキ倒そうぜ。

半ばヤケクソで外を覗いて見る。
いつのまにか雨は上がっているようだった。
時刻は既に10時過ぎになっている。長かったが、一人歌謡祭のおかげで随分と時間がつぶせたよ。
にしても、オデって、やってる事がバカだなあ( ̄∇ ̄*)ゞ

準備をして外に出る。
すっかり夜は更けている。闇は濃く、静か過ぎるくらいに静かだ。そして不気味だ。武者震いする。

実際には、完全に雨は止んでいるわけではなくて、細かい霧雨が降っていた。
気にならないではないが、この先また雨が強くなるとも限らない。少ないチャンスでもヤルっきゃないのだ。それに少し雨が降っているくらいの方が、かえって蛾の活動が活性化するとも聞いたことがある。前向きに捉えよう。全ての舞台装置は、劇的フィナーレのお膳立てだと思えばいい。

さあ、ここからが本番だ。全身に力をみなぎらせ、頭の中で、プリンスの『パープルレイン』を流しながら、ゆっくりと戦地へと赴く。

 
https://youtu.be/DHRyPjXeKZ4
プリンス『パープルレイン』You Tubeリンク先

 
辺りから雨上がりの靄が煙のように立ち昇っている。それが脳内で紫色のスモークの幻影と化す。まるで自分がステージに向かうミュージシャンのように思えてくる。全てがスローモーションになる。

今回は車ではないので、昨年みたいにトラップを2ヶ所に分けて仕掛けると云うワケにはいかない。去年採れた場所付近に一点集中、其処に全てを賭けることにした。

鬱憤を晴らすかのように、\(◎o◎)/ウキャキャキャー。ここぞとばかりに、霧吹で狂ったように糖蜜を撒き散らしまくる。
さあ準備万端、ステージは整った。あとは飛んで来ることを祈るのみ。そして、再び己に向かって気合を注入する。去年みたいに、もし採れなければ虫捕りなんか一生やめたらぁー宣言まではしないものの、このままおめおめと帰るワケにはいかない。結果を出して、気持ち良く今期の最終戦を終えようではないか。

暫くして、何かカトカラらしきものが来た。
瞬時に心を戦闘モードにシフトする。

(# ̄З ̄)ケッ、オオシロかよ。
と思うが、真剣に採りにいく。大事な場面でミスしないためにも、ウォーミングアップは必要だろう。

でも、結構敏感で、近づく前に逃げられた。
(  ̄皿 ̄)クソ忌々しい。機嫌の悪いオッチャンをナメんなよ。

(ノ ̄皿 ̄)ノうりゃ❗、暫くして戻って来たところを空中で鮮やかにシバいてやったワイ。
(・o・)あっ、でもこの採集方法では、特殊過ぎて練習にはならんわ。

 
【オオシロシタバ】

 
ボロッボロッやないけー(´д`|||)
去年よか2週間も早い来訪なのに、それよりもボロとは、どうゆうこっちゃねん❓
まあいい。何も来んよりかはマシだ。帝王の露払いとでも考えよう。

その後もポツポツとオオシロが飛んで来た。しかしボロばっか。闇夜で絶叫しそうになる心を必死に抱き止める。

時間は無情にも刻一刻と削り取られてゆく。
夜気が冷たくなってきた。時計に目をやる。針は、いつの間にか午前0時を指し示していた。
何も考えるな。集中力を保て。五感を研ぎ澄ませよ。心が病めば、採れるものも採れなくなる。

午前1時。
顔が懊悩で歪んできているのが自分でも解る。それはきっと、醜い有様でベッタリと顔面に貼り付いているに違いない。他人様(ひとさま)には、とても見せられないような顔だろう。

午前1時半過ぎ。
もう何度、期待を膨らませて懐中電灯で樹幹を照らしただろう。時間の感覚さえも失われつつある。半分諦めの体(てい)で、惰性で何気に遠くから木を照らす。

 
(⑉⊙ȏ⊙)いるっ‼️‼️

 
距離約20m。闇を切り取る光の束の先に、微かに青い下翅が見えた。
慌てて懐中電灯のスイッチを一旦切る。去年は懐中電灯の光で照らしただけで逃げたことを思い出したのだ。奴の敏感さは半端ねぇと心に刻まれているのだ。
そのまま後ずさりして、急いでテントにデカ毒瓶を取りにゆく。この日のために、巨大なムラサキシタバを確実に取り込もうと用意したものだ。けど、ポケットに入らないのでテントに置いていたのである。
その刹那にも既に逃げているかもしれないと、気が気でない。半ば錯乱状態で毒瓶を引っ掴む。
そしてヘッドライトを点け、赤外線モードにする。赤外線ならば女王を刺激しないと考えたのだ。大丈夫、冷静だ。

慎重を期して、懐中電灯を直接当てないように、遠めから中心をズラして照らす。

(◠‿・)—☆よっしゃ、逃げてない。まだいる❗
網を構え、そろりそろりと距離を詰めてゆく。

距離15m。
❤️❤️❤️ドクン、ドクン。

距離10m。
❤️❤️❤️❤️❤️❤️❤️ドクン、ドクン、ドクン。

距離10mを切った。鼓動が急に高鳴る。
💕💕💕💕💕💕💕💕💕💕💕ドクン、ドクン、ドクン、ドクン……。

距離5m。
💕💕💕💕💕💕💕💕💕💕💕💕💕💕💕💕💕
😱ヤッベー、ドキドキが止まらんくなる❗

距離2m。
去年採った木と全く同じ木だ。しかも止まっている位置も全く同じの地上から1.5mくらいだ。一瞬、デジャヴ(既視感)の反転なのか、現実なのかが解らなくなる。パラレルワールド❓時空間が歪んでいるのかもしれない。
何が何だかワカンなくなってきて、さらに心臓を脈打つスピードが倍加する。
💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💕💕💕💕💕💕💕💕
リズムはバクバクのデスメタルやんけ。口から心臓が迫り出しそうだ。

(@_@)どうする⁉️、(ノ ̄皿 ̄)ノどうする⁉️
このまま木の幹を💥バチコーン叩くか❓
それとも網を下から持っていき、下をコツンと小さく叩いて、驚いて飛んだ瞬間に一閃するか迷った。
にしても、赤外線ライトは暗い。ちょっとでも視界から外れれば、闇に紛れて見失うのは必定だ。今日は小太郎くんが後ろでフォローしくれているワケではない。そう、サポートは無いのだ。頼れるのは己の力のみだ。
もしもハズしたら…。最悪のシナリオを想像して、恐怖が心の襞(ひだ)を切れ味鋭く擦過する。
しかし、迷っているヒマはない。逡巡している間に逃げられでもしたら、その場で首カッ切って死ぬしかない。
ならば死なばもろとも。意を決して懐中電灯をいったん下に向けて点けてから、静かに口に咥えた。
いなや一歩、二歩、軽やかなステップで前へと踏み出した。と同時に、止まっている女王のすぐ下を網先で突っついた。

🤯(⑉⊙ȏ⊙)飛んだっ‼️
 
リアクション、早っ(@_@)❗❗
だが、体は瞬時に反応していた。

嵐陰流奥義 秘技💜紫返し💥‼️

(ノ ̄皿 ̄)ノ だありゃあ~❗

👹鬼神の如く中空を下から斜め左上へと切り裂く。
 
振り切り、すかさず網先を捻る。
(゜o゜;手応えは…。
あったような気がする。
でも、本当のところはわからない。
もしかしたら、中を見れば木の葉か何かに化けているやもしれぬ。こんな山奥の、しかも深夜の丑三つ時だ。この世の者ならざる闇の支配者に幻覚を見させられているかもしれない。

恐る恐る、中を見る。

 
(ノ≧∇≦)ノ しゃあー‼️‼️

 
そこには、紛れもない紫の女王がいた。
(☆▽☆)カッケー‼️ 全身の血が逆流する。
(´ω`)やったぜ。何とか首の皮一枚で仕留められた…。

しかし、毒瓶にブチ込むまでは、まだ勝負の行方はワカラナイ。
😱ヒッ、😱ヒッ、😱ヒッ、お願いだから暴れないでね、暴れちゃダメよー。心が焦りでワヤクチャになる中、素早く網の中に毒瓶をブッ込み、電光石火で中に追い込む。

毒が回って動きが止まったところで、念のためにアンモニアを注射を射ち、トドメをさす。これで、突然蘇生することもないだろう。

 

 
この目を見張る大きさ。そして上品な前翅の柄とわずかに覗く紫の帯。幻ではない。どう見てもムラサキシタバ様だ。

安堵して、手のひらに乗せる。

 

 
デカイ。ずっしり感がオオシロなんかとはケタ違いだ。

 

 
この神々しき青紫色。ぴゃあ〜\(☆▽☆)/
俺は今、星 飛雄馬ばりに猛烈に感動している༼;´༎ຶ ۝ ༎ຶ༽

一応、フラッシュを焚いても撮る。

 

 
w(°o°)wあちゃー。
素早く毒瓶に放り込んで〆た筈なのに、背中が落ち武者ハゲちょろけになっとるぅー(༎ຶ ෴ ༎ຶ)

 

 
(-_-;)やっちまったな…。
思いきし高速で網を振ったせいなのかなあ❓
まっ、いっか…。
気を取り直して、裏面写真も撮っとこっと。

 

 
あっ、この腹先の形からすると、♂だね。
去年のは♀だったから、これで一応雌雄が揃ったことになる。何とか最低限の結果は残せたってワケだ。地獄の底から這い戻ってこれたことに心底ホッとする。

女王を三角紙に収めて、腕時計に目をやる。
針は午前1時45分を指していた。

長く厳しい戦いは終わり、ここに円は閉じた。
立ち上がると、再び頭の中で「パープルレイン」のイントロが鳴り始めた。

 
                         つづく

 
実を云うと、ラストには更に以下のような文章が続いていた。

「勝利者だけに許される満ち足りた感じで、煙草に火を点ける。
大きく煙を吸い込み、天に向かってゆっくりと吐き出す。
その煙が風にふわりと揺れ、すうーっと流されていった。
煙が去った夜空には、いつしか星が瞬いていた。
今日は間違いなく晴れるだろうと思った。」

でも、記事のアップ直前に削った。
何かカッコつけ過ぎがシツコイかなと思ったのだ。

この続きの話も少し書いておこう。
その後、なぜだかピタリとカトカラたちの飛来は止まり、オオシロさえも飛んで来なくなった。
と云うワケで、午前2時半には諦めてテントに戻り、熊の存在も忘れて即💤爆睡した。

一応、この時に採集した個体の展翅画像を添付しておきます。

 

 
カトカラ2年生の終わりともなると、流石に上達してますなあ。
これから先は、この翅と触角のバランスでいこうと思う。

 朝方、またえっちらおっちら白骨温泉まで歩いて下り、念願の白濁温泉にも入ることができた。

 
(白骨温泉公共野天風呂)

 
3年間も閉鎖されていたそうだが、この春に漸く再開されたという。

 


 
 
一番乗りだったから、ワシの独り占め。
湯舟から見る風景は、朝の光にキラキラしてた。
りら〜っくす。(´ω`)はあ〜、堪りまへんなあ。
何か知らんが「登別カルルス、ブチ込んでようー。」と言ってしまう。昔はよく、入浴剤の「登別カルルス」をブチ込んで風呂に入ってたのだ。で、毎回湯に浸かる度にそれ言ってた。謂わば、当時の俺的リラックスワードだったのだ。

 

 
ここの温泉玉子がバカみたいに旨かった。
食べろと言われれば、10個くらいは食える自信がある。あー、もう1回食いてぇー。

でもって、その日のうちに帰阪した。へとへとだったと云うのもあるが、露天風呂に入って何か完結した感があったからだ。それに明後日に用事があったしさ。
でもあろうことか、その用事が帰ったらドタキャンになった。
石塚(勝己)さんからのライトトラップのお誘いをお断りしてまで帰ったのに、ガックリ😔やったわ。迷わずに、石塚さんとこに行っときゃ良かったよ。お誘いのライトトラップの日まで、この日を含めて2日あったワケだから、もっとムラサキも採れただろうし、エゾベニを狙うこともできた筈だ。
まあ、今さら後悔したところで、どうにもならないんだけどさ。

 
追伸
今回は問題作にして、野心作でんなあ(笑)。
雨の歌のオンパレードだなんて、虫関係のブログでは有り得ない展開だ。でも、それでいいのでござる。別に虫の事だけを書きたいから文章を書いているワケではないのだ。
参考までに言っとくと、最初のタイトルは『深山幽谷 爆裂💥雨の歌謡祭』だった。さすがにそれだとテーマからハズレてるし、フザけ過ぎだと思って今のタイトルに変えた。

えーと、次回の解説編にて、いよいよこの連載も完結です。
解説編は調べ事が多いし、毎回のように謎にカラめ取られて迷宮を彷徨うことになるから、何だか気が重いなあ。
まあ、最終回なんだから、何とか頑張って書くけどさ。

〈追伸の追伸〉
この文章を書いた約二年後の2022年、問題作がホントに問題作になってしまった。サーバーから歌詞が著作権法に触れるとの事でクレームがきた。

「該当記事における楽曲の歌詞箇所と解釈等の関係において、歌詞に対して、歌詞の説明・要約・紹介としての記述では主従関係の要件を満たしていない為、著作権法第32条1項の規定による利用には該当せず、現状のままではご利用いただく事ができません。
また、冒頭に歌詞を全文掲載する利用は、同規定の「公正な慣行、正当な範囲内」に収まるものではありません。歌詞の一部であっても、該当楽曲と判断できるものに関してはご利用いただくことができません。」

難解な文章で、頭の悪いアッシにはチンプンカンプンだが、自分なりに解釈して、肝の部分だけを残して大幅に歌詞部分を削った。全体の文章のバランスはズタズタになったけど、致し方あるまい。ゆえに気になる人は歌詞とメロディーを探して、頭の中で雰囲気を復元して下さいね。
 と一度は書いたものの、それでもクレームが来そうだ。なので、いっその事、歌詞を全部削ってリンクを貼り付けてやった。ついでに大幅加筆もした。おかげで、かなり時間が掛かったが、コッチの方が返って全体的には良くなったかも。むしろクレームに感謝かもしんないね。

          2023.1.3 極寒の公園にて

(追伸の追伸の追伸)
それでも許可が出なくて、四日後に更に書き直した。
まっ、お陰で更に文章は良くなったけどね。コレで通る事を切に祈ろう。
 

2018′ カトカラ元年 其の17 第三章

 
  vol.17 ムラサキシタバ

   『2019′ 紫への道』

 
今回も、初期の頃みたいに『続・~』というような続編形体にはせず、2019年版を本編に組み込むことにした。

シロシタバやベニシタバの回と被るところも多々あるけれど、新たに書き直すので、飛ばさずに我慢して読まれたし。尚、フィナーレを書いているうちに長くなったので、2回に分けることにした。そう云う意味でも読んでおいて戴きたい。

 
 2019年 9月2日

8月も青春18切符の旅だったが、懲りもせず、再び長く辛い旅に臨んだ。

 

 

 
大阪駅の人混みは疎らだった。
10時20分くらいの電車に乗る。今回は時刻表をバッチリ見たから、この時間の出発でも大丈夫なのだ。早く出たからといって、早く着くとは限らないのが青春18切符の旅だ。

米原、大垣と乗り継ぎ、岐阜駅で下車。乗換の時間まで30分程あったので、煙草を吸いに外に出る。

 

 
駅前の風景を見るのは何十年か振りだ。岐阜駅も随分と変わったなと思う。その頃は勿論こんな高層ビルは建っていなかった。あの頃、岐阜には何しに来たんだっけ?
あっ、そうだ。大学時代の友達の新婚家庭に遊びに行ったんだったわ。岐阜城とか案内してもらったんだよね。

そういえば降りる時にチラと駅の反対側方面も見たが、金津園の寂れた感があまりにも哀れで声を失った。

ソープランドという言葉も、最近はあまり聞かなくなった。
ソープといえば、すすきの、吉原、川崎・堀ノ内、西川口、金津園、雄琴、神戸・福原あたりが有名だったけど、今は寂れてしまっているところも多いという。雄琴なんかは、近年は普通の温泉街へと変貌しつつあると聞いたことがある。
エロの形体も多様化し、変わってきているのだろう。
「泡踊り」なんて言葉も、そのうち死語になりそうだ。いや、もう既になっているかもね。
淋しいが、時代と共に朽ちていくものもある。

ちなみに、物凄く思い入れがあるようなことを書いてるけど、ソープランドには若い頃に1回か2回しか行ったことないんだけどもね。
知らず知らずのうちに、昭和という時代に対するノスタルジーが年々強くなっているのかもしれない。

 

 
前回は名古屋で中央本線に乗り換えて長野方面へ行ったが、今回はここで高山本線に乗り換え、飛騨方面へと向かう。

 

 
電車は飛騨古川駅まで行くようだ。ということは、今回は途中で乗り継ぎせずに済む。前回のことを思えば、かなり楽だ。乗り換えは気分が変わるから嫌いじゃないけど、時間を喰う。回数が多いと、いつ着くんだと思って、段々気持ちが疲弊してくるのだ。

 

 

 
下呂駅で5分ほど停車した。
下呂といえば、下呂温泉だ。昔、大学を卒業して何年間かは、毎年、大学時代の友だちが集まって旅行してた。でも、ここ下呂温泉が最後となった。
何でかというと、全然面白くなかったからだ。そう記憶している。あまりにツマランかったから、翌年から誰も旅行に行こうとは言わなくなったのだ。で、そのままフェイドアウトとなった。

 

 
飛騨萩原駅でも、ちょっとだけ停車時間があった。
正面右側に真っ直ぐな道が奥まで続いているのを見て、突然下車したいと云う強い衝動に駆られた。背後のこんもりとした山との組み合わせが素晴らしく、何ともいい風情の通りで、旅愁を誘う。

旅と旅行とは違う。少なくとも自分の中では明確な線引きがある。スケジュールが予め決まっているものが旅行で、予定は未定であって、しばしば変更、ゆきあたりバッタリというのが旅だと思ってる。

勿論、踏みとどまって降りなかった。今年もムラサキを採らねばならぬのだ。
ふと思う。虫捕りって、色んなことを阻害してるなあ…。虫捕りをしてると、何やかんやと様々なことが犠牲になる。自由も奪われてるような気がしてきたよ。

高山駅が近づいてきた。
突然、フラッシュバックで記憶が甦る。蝶採りを始めて初の遠征が高山方面だった。当時の彼女と平湯温泉に泊まり、新穂高の左俣へオオゴマシジミに会いに行ったのだった。カッコ悪いことに彼女に先にオオゴマを見つけられんだよね。
帰りしなは高山の街も観光したっけ…。その時のあれやこれやの記憶が数珠繋ぎで思い出される。
青春18切符の旅の好きなところは、過去の自分と向きあえることだ。謂わば、ノスタルジィーの旅なのだ。

 

 
高山駅に着いて、違和感を覚える。自分の知っている高山駅とは全然違っていたからだ。

 

 
外に出て驚く。改築されて、メチャメチャお洒落になってるじゃないか。

 

 
噴水まで出よるがな。

でも、昔の駅舎の方が好きだ。新しい建物には風情というものがない。

 

 
これが昔の駅舎だ。写真を探し出してきて貼付した。
懐かしいなあ。思い出の中の高山駅は全部これなのだ。当時はこんなもん撮ってどうすんだ?と思ったが、写真、撮っておいて良かったよ。

ここで、バスに乗り換える。

 

 
8月の時は乗り継ぎが上手くいかず、名古屋駅と中津川駅、松本駅で随分と無駄に時間を過ごしたが、今日はかなりスムーズにいってる。バスの待ち時間も短かかった。
このバスに乗るのも久し振りだ。4、5年程前まてはオオイチモンジに会う為に毎年訪れていたが、いつの間にか足が途絶えていた。

 
【オオイチモンジ ♀】
(2012.7月 岐阜県高山市)

 
【♂ 裏面】
(2013.7月 岐阜県高山市)

 
1時間ほどバスに揺られて、やっと今日の目的地である平湯温泉までやって来た。今回は全部で約8時間の移動だった。何度も言うが、8月の時と比べれば、だいぶ楽だ。

既に陽は沈んだようで、辺りは暗くなり始めている。

 

 
常宿だった宿泊施設に入り、温泉に直行。
で、すかさず下の居酒屋でキンキンに冷えた生ビールを頼む。

 

 

 
でも、そのキンキンに冷えた生を飲み、ホルモン焼を食って、やる気をなくす(笑)

 
嗚呼、蛾採りなんかやめて、このままビール飲んで旨いツマミ食って、ヘラヘラしていたい。
けど行かなきゃ、何しに来たかワカラナイ。重い体を引き摺って出陣の用意をする。
時々、一人で虫を追い求めていると、バカバカしくなってくる。そういえば普通の旅をしなくなってから、もう随分になる。観光なしの旅って、どこか歪(いびつ)だ。

今回の旅のターゲットは、夏に結局会えなかったエゾベニシタバとヨシノキシタバ。そして帝王ムラサキシタバである。ムラサキは去年、白骨温泉で採ったが、翅が少し破れてたし、採れたのは♀1頭のみ。完品が欲しいし、♂も見てみたい。もっと言うと、厭きるくらいにタコ採りしたい。

 
【Catocala fraxini ムラサキシタバ♀】

 
本当は一挙に新穂高まで行きたいところだったが、そこまで行ってしまうと、着いた時には完全に夜だ。それに安い宿泊施設はあまりないし、その時間帯は外で飯を食えるところもない。一気にポイントまで行くにしても、夜道を1時間くらいは登らないといけない。移動に疲れた心には、あまりにも過酷だ。根性無しなので、一旦温泉につかって、ビール飲まないとリセットできないのだ。まあ、それでやる気が益々なくなったんだけどもね(笑)

目指すは白谷方面。狙うはエゾベニシタバ。運が良ければムラサキにも会えるかもと期待している。
此処を選んだのは、白谷の下の道路沿いには川が流れており、エゾベニの幼虫の食樹であるヤナギ類がいっぱい生えていたと記憶しているからだ。それに、その近辺でオオイチモンジを見たこともある。ならば、ムラサキに会える可能性だってあると考えたのだ。

今年は果物トラップではなく、糖蜜トラップを用意した。嵩張らないし、ゴミも出ないから導入したのだ。カトカラ2年生ともなれば、如何なアホのオイラでも、それなりに進化しておるのじゃ。

しかし、真っ暗けー。

 

 
温泉街を外れると、外灯もニャーい(ФωФ)

ここには妖精クモマツマキチョウを採りに何度か訪れているが、夜はこんなにも真っ暗だなんて予想だにしていなかったよ。

 
【クモマツマキチョウ(雲間褄黄蝶)♂】

 
【裏面】(2019.5.26 岐阜県高山市新穂高)

 
【展翅画像】

 
そういえば思い出した。白谷では、そのクモツキ採りの折りに熊の親子連れを見てるわ。つまり、此処には確実に森のくまさんがいるのである。
真っ暗だし、熊は黒い。背後から襲われでもしたら、お手上げだ。((((;゜Д゜)))ブルッとくる。

🎵ラララ…星き~れい~、とか何とか口に出して歌ってはみるが、恐い。マジ卍で熊も闇も恐い。
幸い❓なことに川沿いの道に糖蜜トラップを噴きつけるのに適した木がない。道から木が遠いのだ。と云うワケで撤退。温泉街の反対側へ行くことにした。
言っとくけどオラ、チキンじゃないからね(=`ェ´=)
いや、本当はチキンだけど、目的の前ではチキンじゃないぞ。何か言い訳がましいが、そんなに悪い判断ではなかったと思う。だって雰囲気がヤバかったんだもん。心の奥で、やめとけ警告音が鳴ってたんだも~ ん。

糖蜜を噴き付けて、だいぶ経ってから漸くカトカラが飛んで来た。
しかし、エゾベニではない。低い位置、地表近くを飛んでいたので、すぐにベニシタバだと理解した。
けど、トラップには寄り付かず、笹藪の端をチマチマとホバリングしながら飛んでいる。
見たところ♀だ。もしかしたら、卵を産みに来たのかもしれないと思った。でも近くに食樹であるヤナギ類なんてなかったぞ。しばらく見てたが、笹藪の中に入りそうになったので、網を一閃。ゲットしてしまった。

 
【ベニシタバ】

 
他には、シロシタバが糖蜜に飛んで来た。

 
【シロシタバ】

 
飛来は結構早い時間だと記憶してたけど、確認すると時刻は午後11時09分になってた。
西日本では日没と共にカトカラが樹液や糖蜜トラップに寄って来るけど、ナゼか東日本だと遅い時間の飛来ばかりである。8時半くらいになって、やっと飛んで来るという感じで、日没後すぐの飛来は少ない。一番多いのが夜10時を過ぎてからだ。西と東で違うなんて、そんなワケないと思ってたけど、コレだけ飛来時間が遅い例ばかりだと考えざるおえない。何か要因があんのかなあ…。でも、遅くにやって来るワケってある❓ もし気温が原因だったら、この時期は真夏よりも夜はだいぶと過ごしやすい。だったら、もっと早くに飛んできてもオカシクないじゃないか。それに西日本だと真夏でも日没後にワッと飛んで来るのは何でだ❓ カトカラにも暖地系と寒冷地系があって、それに因るとか❓ となると、西日本にいる寒冷地系カトカラって何だ❓ 段々、自分でもワケがワカンなくなってきた。もう、たまたま偶然に飛来時間が遅いパターンばっか続いただけなんじゃないのう❓ できれば、そうであって欲しいよ。中々、飛んでこないと待ってるのが辛いのだ。オイラ、どんな事であろうと、待つのは大ッ嫌いだかんね。

ベニとシロが1頭ずつだけで、この日は他のクソ蛾さえも殆んど寄り付かずだった。糖蜜のレシピを間違ったやもしれぬ。いい加減に作ったもんなあ…。
ましてやヨシノやエゾベニには糖蜜はあまり効果がないとされている。何で糖蜜や樹液にやって来るカトカラと、そうでないカトカラが居るのだ❓何でかが全然ワカンナイ。
とにかく序盤から劣勢だわさ。
そうだ、ワシってキベリタテハを採りに来たのじゃ。

 
【キベリタテハ】

 
カトカラ採りは、そのついでだ。
そゆことにしておこっと( ̄∇ ̄*)ゞ

 
 
 2019年 9月3日

平湯から新穂高へ移動した。

 

 
左俣を登ってゆく。
この時期は、殆んど蝶がいない。退屈過ぎて、途中でキンモンガなんぞを採ってしまう。

 
【キンモンガ】

 
本日のターゲットはヨシノキシタバとエゾベニシタバ。あとはムラサキシタバとゴマシオキシタバってところか。
ここは、わさび平小屋付近に大きなブナ林があるし、その下部にはドロノキやヤナギ類もある。わさび平にヨシノがいると聞いたことはないけど、絶対いるじゃろうと思ったのだ。
もしダメでも、このどれかは採れるだろうと読んだのである。併せ採り狙いの、効率重視の男なのだ。

 
【わさび平小屋】

 
この右横の奥のサイトにテントを張った。

 

 
改めて見ると、周りはブナだらけだ。

 

 
こんだけ生えてりゃ、ヨシノもいるだろう。
否が応でも期待値が上がる。

夜まではまだ時間があるので散歩してたら、アサマイチモンジがいた。

 

 
遊ぼうと思って、地面に止まってたのを手に移す。

 

 
邪気を消して自然体で接すれば、意外と簡単だよん。
不思議なもので、てめぇ、ブッ殺すかんなーとか思うと逃げる。蝶だって殺気は解ってるよね。バッドテイストのオーラには感づくのだ。
蝶採りをしてると、時々、草木などに止まっている蝶と目が合うことがある。そういう時は、蝶の考えてることが手に取るように解る。

 
『( ; ゜Д゜)えっ!?、もしかして目っかった❓』

『(^_^;)あー、来ないでね。』

『( ; ゜Д゜)あっ、やっぱ近づいて来てるぅー。』

『(/´△`\)来ないで、来ないでー。』

『\(ToT)/きゃあ━━━❗』

パタパタパタ~。

 
だいたい、こんな感じだ。
まあ、飛ぶ前に💥ネット一閃。大概はスルーせずにシバいてるけどね。

それにしても、オーラって目に見えないのに、アレって何でワカンだろね。視覚が5原色くらい見える目だったら、可視化できんじゃないか❓
因みに人間は3原色、犬や猫が2原色。鳥や昆虫は4原色であるとされている。

余談だけど、知り合いに占い師のお姉さんがいて、この人の占いがメチャメチャ当たった。店で月1回、そのお姉さんに占いに来て貰ってたんだけど、怖いぐらいに当たるんで、みんなビビってたもんね。
ワシも占ってもらったけど、マジでヤバかった。具体的な事をズバズバ言い当てるのである。普通の占い師みたいに、やたらと「あなた、○○でしょう?」と訊いてきたりはしない。ほぼ断言なのだ。そんな事、何でアンタが知ってるんだ❓ということまで言わはる。

例えば、或るお客さんなんて、「あなたは金属が苦手で、普通のスプーンでカレーを食べるのは嫌でしょう。」とか言われてたのだ。それが当たっているんだから恐い。

 

 
寄って来るのは、こうして汗だのミネラルだのを吸いに来るのだが、ワシ、今日は汗をそんなにかいとらんぞ。

頑張って、手のひらまでもってくる。

 

 
ほいっ、手乗り蝶の出来上がり~。

でも手乗り蝶をやると、前のサカハチチョウみたく、その後は悲惨な結果になるんじゃないかと云う思いがよぎった。悪いジンクスだ。
でもこういう事を思うじたい、絶不調なのだろう。らしくないや。メンタル弱ってんなあ…。

夕方になって強い雨が降った。悪いジンクスが当たったかなと心配したが、何とか日没前には上がった。
さあ、戦闘開始である。ブナ林を中心に霧吹きで糖蜜を噴き付けていく。

撒き終わったところで、真っ暗になった。
(T_T)マジで恐い。
看板は特に設置されてないが、ここには熊が沢山いる事は周知の事実である。知り合いの目撃例も多い。ワシも此処のすぐ近くで見たことがある。だから、さすがに今日は熊鈴をジャンジャン鳴らしたよ。前日以上に恐怖に怯えながら、夜道を歩き回る。

しかし、ブナ林は不気味なまでに静かで、糖蜜トラップには何も来ん。泣きたくなってくる。

小屋の灯りに寄って来た名前もワカランような蛾を、退屈しのぎについ採ってしまう。末期的症状だ。

 

 
渋いなあ…。名前は調べてないから、いまだにワカラズじまいだ。

時間が経っても状況は変わらない。東日本では、糖蜜トラップがカトカラにはあまり通用しないことをヒシヒシと痛感する。ヨシノやエゾベニどころか、ゴマシオ、エゾシロさえも寄って来ん。
やっぱライト・トラップが無いとアカンわ。だいぶと前の回に「灯火採集にばかり頼りきりの蛾屋ってダサい。」と言ったけど、前言撤回。灯火採集は蛾を採るためには必要不可欠のアイテムざんす❗
蛾屋の皆様、m(__)mゴメンなさい。

結局、来たのはベニシタバ2頭のみ。それと、なぜか標高1500mにも桃色クソ蛾ムクゲコノハちゃんが複数飛来した。おまんら、低地の蛾とちゃうんけ❓

それが、コチラは全く採る気もないのに、いっちょまえにも一々敏感に反応して、慌てて飛んで逃げよる。
おどれら、( ̄ヘ ̄メ)ナメとんかである。毒々しいし、形も気持ち悪いからブッ殺したくなる。

 
【ムクゲコノハ】

 
ホント、何処にでもおるやっちゃのー(=`ェ´=)
💧涙チョチョギレそうやわ。(*ToT)ダアーッ。

10時半頃に雨が降り始めたので、小屋で雨宿りする。止みそうにない雨だ。たぶんこのまま、降り続けるだろう。ジ・エンドだ。
小屋に前払いしておいたビールを水桶から取り出す。川の水を引いた天然の冷蔵庫だ。

 

 
暗闇で飲むビールは苦かった。

テントに入ると同時に、雨は激しくなった。
やがて、テントの下は川となり、凍えながら眠った。

                     つづく

 
追伸
( ;∀;)ボロボロの大惨敗でしたねー。

冒頭にも書いたように、本当は2019年版は第三章として一回で終わらせる予定だった。しかし、この翌日のことを書いているうちに色々と思い出してきて、全体的にとても長くなりそうだった。なので一旦書くのをやめて、2つに分けることにしたのである。
次回、いよいよ話は佳境に入る。乞う、御期待あれ❗

因みに、ワードプレスとの契約は先月で切れているので、いつ突然に記事がアップできなくなるか分からない。いつまで経っても次回がアップされないようだったら、アメブロで同じタイトルのサイトを探してね。

 
 

2018′ カトカラ元年 其の17

 
  vol.17 ムラサキシタバ

  第一章『青紫の幻神』

 
この回を書きたいがために、この連載を始めた。
お陰で、ここまで大変な労苦で書き続ける破目になってまったけどね。

ムラサキシタバに初めて出会ったのは、まだカトカラを殆んど見たことがない2017年の秋だった。

 
 2017年 9月23日

日本の蝶も粗方採ったし、東南アジアでの採集にも厭きていた。全てが予定調和になりつつあったのだ。だから、心の何処かで新たなモチベーションを求めていた。虫採りの最大のエクスタシーは、まだ見ぬ、心が震えるような凄い奴らに会うことだ。その為にワザワザ現地に赴き、其処で生きている姿を見た時の感動は何をもにも換え難い。そこには特別な幸福感が在る。謂わば、オイラは痺れる瞬間を求めて虫捕りをしているのだ。

そこで考えたのが、蝶以外で昔から気になっていた別のカテゴリーの虫たちに会ってみようというアイディアだった。
そう云う有名どころ、謂わばスター昆虫は意外と見たことがなくて、まだまだ残っている。
例えば甲虫ならば、最初に思い浮かぶのはオオクワタだ。恥ずかしいことに、いまだに天然物は見たことがないのだ。そのうち偶然会えるだろうと、探しにすら行ったことがない。
他にも結構ある。ヤンバルテナガコガネ、オオチャイロハナムグリ、ダイコクコガネ、オオトラカミキリ、ギカンティア(オニホソコバネカミキリ)、フェリエベニボシカミキリ、ツシマカブリモドキ、キタマイマイカブリ、オオルリオサムシ、アイヌキンオサムシ、シャープゲンゴロウモドキetc…、っといった辺りだろうか。
甲虫以外なら、あとはタガメ、マルタンヤンマ、マダラヤンマかな。
蝶以外の鱗翅類、つまり蛾ならば、イボタガ、オオシモフリスズメ、メンガタスズメ、キョウチクトウスズメ、イブキスズメ、シンジュサン、ハグルマヤママユ、キマエコノハ、そして今回の主役であるムラサキシタバだった。

その手始めに、この年の春先、イボタガとオオシモフリスズメに会いに灯火採集に連れて行ってもらった。連れていってくださったのは虫捕りの天才の御二人だ。だから、ゲスト気分だった。

 
【イボタガ】

 
【オオシモフリスズメ】

 
その夜は、これらに加えてエゾヨツメまで採れて、楽しい夜だった。オオシモフリなんてフィナーレにアホほど飛んできてシッチャカメッチャカになり、笑てもうた。

 

 
虫捕りの天才お二人の手に、オオシモフリてんこ盛りである(笑)

その第2弾として、同じくお手軽方式で画策したのが、ムラサキシタバに会いにゆくと云うものだった。

ムラサキシタバの素晴らしさは、蝶屋である自分の耳にも以前から届いていた。周りの蝶屋の爺さんたちにも、アレは別格だと度々聞いていたからだ。デカくて美しく、しかもそう簡単には会えないらしい。オマケに会えても敏感で、中々採れないとも聞いている。ネットで見ても、皆さんがこの蛾のことを矢鱈と持ち上げていらっしゃる。それ程のものならぱ、是非一度、お目に掛かりたいものではないか。

と云うワケで、蝶屋でもあり、蛾屋でもあるA木くんにせがんで兵庫県のハチ北高原に連れて行ってもらった。彼はライト・トラップのセットを持ってるし、何度もムラサキシタバを採っているのだ。

 

 
ゲスト気分でついてゆくと云うのは春と同じで、気持ち的には見るだけで良かった。イボタガ、オオシモフリスズメと邂逅したとはいえ、まだまだ蛾に対する嫌悪感が強かったのだ。幼少の頃から植え付けられてきた「蛾=気持ち悪い」と云う概念はちょっとやそっとでは拭い去れないものなのだ。

その日はパタラキシタバ、ジョナスキシタバ、ベニシタバ、シロシタバが飛んできた。でも「ふ~ん、カトカラってこんなんなのね。」というのが、正直な感想で、特に心は動かなかった。今思うと、時期的に遅くて鮮度が悪かったせいもあるかもしれない。

 
【パタラキシタバ】

 
【ジョナスキシタバ】

 
【ベニシタバ】

 
【シロシタバ】

 
一応、参考までに各種の画像を並べたが、画像は全て別な日、別な場所のものである。以下、特に採集日を記していないものはそうだと理解されたし。あっ、上のオオシモフリとイボタガもそうです。
 
待望のムラサキシタバが飛んできたのは、深夜の11時近くだった。A木くんが急に左手の闇に向かって慌てて走り出した。何事かいな?と思って見てたら、網が空中で閃いた。次の瞬間、A木くんが『採ったあー、ムラサキ❗』と叫んだ。

おー、やったやん。見せて見せてー、ってな感じで近づいてった。してからに、ワシがアンモニア注射を射ったのを何となく覚えてる。シロシタバを見た後だから、それほどデカイ!というインパクトは無かったが、立派だとは思った。折角だから、写真を撮らせてもらった。

 

 
翅が破れてたから、これも他のカトカラみたいに進呈されるのかと思いきや、御本人のお持ち帰りだった。
見ると、欲しがるのが虫屋の性(さが)ゆえ、ちょっぴり残念だった。でも今にして思えば、この時に貰わなくて良かった。貰っていたなら、満足して完全に興味を失っていたかもしれない。手に入らなかったことが、逆にその後のモチベーションになったところはある。

 
 
 2018年 6月

翌年の6月半ば、シンジュサンを探していた折りにカバフキシタバとワモンキシタバが採れた。鮮度も良くて、結構カッキレーだなと思い、少し興味を持った。

 
【カバフキシタバ】

 
【ワモンキシタバ】

 
この時に、小太郎くんにカトカラについての基本的レクチャーを受けたと云うのも影響があるだろう。中でも、日本のカトカラではトップクラスに珍しいと言われるカバフキシタバの魅力について熱く語られたのが大きい。そんなに珍しいのならば、そんなもんワテが一年目にサラッと仕留めたろやないかと思ったのだ。
意外にもシンジュサンに難儀して、その頃は再びシバキ魂に火が灯りかけてた頃だったから、それがカッ🔥と燃え上がった恰好になった。
虫には採ったり、飼ったり、集めたりと色々楽しみがあるけれど、自分は圧倒的に採るのが好きだ。採集難易度が高いモノであればあるほど、採るには己の全知全能を総動員しなければならぬ。ゆえにゲーム性が高い。謂わば狩猟なのだ。だから何よりも燃えるのである。しかも、難易度が高いものほど負けん気とやる気のスイッチがブチッと入る。

 
【シンジュサン】

 
【カバフキシタバ】

 
カバフキシタバを仕留めたところで、あとはシロシタバとムラサキシタバをシバいてフイニッシュにしてやろうと考えていた。それで取り敢えず蛾は一旦おしまい。次は甲虫を視野に入れていた。

 
 
 2018年 8月

近畿地方の近場での情報が少なく、かなり苦労を強いられたが、何とか自力でポイントを見つけてシロシタバも落とした。

 
【シロシタバ】

 
これで機運は高まった。残る真打ちムラサキシタバもイテこまして、気分良くフィナーレを飾ろうと思った。

 
 
 2018年 9月1日

強力なライト・トラップセットを持っている植村を焚き付け、満を持して再び兵庫県北部のハチ北高原を訪れた。因みに植村は何ちゃって蛾屋から蝶屋に転身した天才なのかアホなんかワカラン男である。

天気は曇り。しかもガスってると云う灯火採集には最高のコンディションだった。

 

 
思ったとおり、水銀灯二灯焚き➕ブラックライトの大伽藍に、アホほど蛾が集まってきた。

しかし、カトカラは何故かパタラしか来ない。設置場所の選定をシクったかもと思った。のんびり屋の植村が迎えに来たのが遅かったせいもあって、良い場所を探している時間があまり無かったのだ。
でも、所詮そんなのは言いワケだ。この場所に決めたのはワシだから、全部ワシのせいじゃ。A木くんに泣き入れて、去年のポイントを使わせて貰うべきだったと激しく後悔する。けど、そんなの自分で採った気がしないし、気持ち良く終われない。だいちプライドが許さないじゃないか。正面きって立ち向かってないみたいで、ムラサキシタバに対しても失礼な気がする。ポテンヒットのタイムリーヒットなんかで勝てても、素直には喜べない。

午後10時を過ぎて、漸くジョナスとゴマシオキシタバが現れた。

 
【ゴマシオキシタバ】

 
けれど後が続かず、時刻は午前0時になった。
そろそろ帰らねばならない。仕方なく、屋台を撤収することにした。

ワシが備品を車に運んでいる時だった。背後から声が飛んできた。

『ワッ💦ワッ💦、何かデカイの飛んできた❗❗』

振り向くと、白布をポールから外している植村が叫んでる。確かに何やらデカイ蛾が彼の頭辺りに寄ってきている。デカいスズメガかと思ったが、逆光になってて、影しか見えない。

💥( ̄□||||ハッ❗、けど、もしやと思い駆け出す。だが駆け寄る前に植村はパニくって、それを頭で振り払った。アホ、やめろ!と思った次の瞬間、驚いたソイツは物凄いスピードでスキー場の下の闇へと、あっという間に消えていった。その時にハッキリと鮮やかな青紫の下翅が見えた。

(-“”-;)……。茫然とその場に立ち尽くす。間違いない。ムラサキシタバだ。
青紫の巨大なる神だ。物凄くデカかった。残像が頭の中でリフレインする。

背後から植村の、のほほんとした声が聞こえてきた。

 
『五十嵐さん、アレ何でしたん❓』

 
やっとのことで、絞り出すように答える。

 
『(-“”-;)たぶん…、ムラサキシタバや…。』

 
(ー_ー;)嘘だろ❓と思った。現実が上手く呑み込めない。
あと2分、いや1分でも撤収を遅らせていれば採れてたのに、(#`皿´)何でやねんの、何でやねん(*ToT)
怒りと悲しみがグチャグチャに混ざり合って、心がドス黒いマーブル模様になる。

このままでは帰れない。もう30分だけやろうという事になって、再度屋台を組み直した。

0時45分まで粘った。
だが、紫の君は二度と戻っては来なかった。

 
 
 2018年 9月7日

 
チケットショップで2回分の青春18切符を買って、山梨までやって来た。

このままでは終われない。でもライトトラップは持ってないし、近畿地方ではムラサキシタバはレア中のレアで、簡単には採れない。ゆえに、まだ比較的採れるとされる中部地方まで足を伸ばしたのだ。

 
【ペンションすずらん】

 
ここは関東の虫屋には名の知れたペンションで、常時ライト・トラップが設置されている。

 

 
夜になると、こないな感じになる。

 

 
ネットを見ていると、ここにムラサキシタバが飛んで来るらしい。ダサい採り方だ。そんなにまでしてと自分でも思うが、形振り構っていられない。カッコつけてる場合ではないのだ。本気モードになったのに、一年目に採れないだなんてダサ過ぎて、プライドが許さない。しかも最終戦だ。フィナーレを飾れないなんて辛すぎる。残尿感を抱えて、また来年まで待つなんて、想像しただけでゲンナリだ。

ライトトラップはデカくて強力だとは知っていた。しかし、待ちの姿勢だけで採れるとは思わなかった。此処で何もせずに奇跡をただ待つだなんて、考えが甘すぎる。神様は、そんな他力本願の輩には幸運を授けてはくれまい。そう思っていた。だから今回、カトカラ採りに初めて果物トラップを導入した。🍌バナナや🍍パインに焼酎をブッかけて発酵させ、ストッキングに詰めて木から吊るすのだ。その甘い香りに誘われて虫たちが寄って来ると云う寸法だ。

出来うる限りのやれる事を尽くして天命を待とう。
とはいえ、まあまあ天才と勝手に自負している俺様の人だ。正直、何とかなるじゃろうと思って乗り込んで来てた。基本、なんくるないさの楽観主義なのである。

宿の兄ちゃんにムラサキの幼虫の食樹であるドロノキとヤマナラシの場所を訊ねる。
しかし、返ってきたのはガッカリの答えだった。何とドロノキは、この周辺には無いと言う。ヤマナラシは一応あるが、それも極めて少ないらしい。( ; ゜Д゜)マジかよ。
しかも『此所はムラサキシタバは元々少ないよ。今年は、まだ見てないなあ…。』と言われた。
何だ、多産地じゃないのかよ❓頭の中の、明るかった風景が急に暗くなって、暗闇の中の心もとない1本の蝋燭の炎のようになった。

やや半泣きで場所を訊いたら、車で案内してくれるという。この宿は親切な人ばかりだ。その後も宿の奥さんに随分と世話になった。

ヤマナラシは宿から暫く下ったところにあった。確かに4、5本ほど纏まって生えている。壮齢木が2本、それよりも若い木が何本かって感じだ。

日没前、まだ辺りが明るいうちに下見がてらにトラップを仕掛けに行く。車だと近いと思ったが、歩いてみると遠い。たぶん3㎞くらいはあるだろう。それに道を下ったら、帰りは登らねばならない。往復で6㎞だ。此所と宿のライト・トラップの間を往復せねばならないと考えたら、気が重い。しかも夜道を一人ぼっちで歩かねばならないのだ。👻お化けが怖いなあ…。でも、そっちを心配する前に奴のことを心配すべきだろう。絶対、いるもんね(翌日、やっぱり証拠があったわ)。

 

 
甲信越では、何処でも珍しくないものだが、昼間に活動する蝶屋にとっては殆んど記憶に残らない看板だ。現実的ではないからだ。でも蛾を追いかけるようになってから、矢鱈と目に付くようになった。熊は紛れもなく夜行性なのだ。昼間よりも会う確率は格段に上がる。

 

 
風呂入って、晩飯食って出掛ける。

だいぶと慣れてきたとはいえ、闇、怖えー。

 
👻お化け、怖えー。

熊、怖えーよー(ToT)

 
背中の毛が半分逆立っているのが自分でも解る。

途中で、樹液の出てるミズナラの木を別々に2本見つけた。一つにはベニシタバが来ていたが、逃した。もう1本にはパタラキシタバが来ていたが、ド普通種なので無視。

果物トラップには、なぜかオサムシが来ていた。しかも2頭も。見るとクロナガオサムシの仲間だった。

 

 
近畿地方で見るものよりも、遥かに小さい。多分、別種なのだろう。コクロナガオサムシ?
それにしても、全く知らないワケではなかったが、オサムシも甘いもんに寄って来るんだな。オサムシの餌といえば、基本的にミミズや毛虫、芋虫、カタツムリなどだから、肉食と云うイメージが強い。だから、何か違和感がある。

戻って、ライト・トラップを確認したら、シロシタバとエゾシロシタバ、ジョナスキシタバが来ていた。どれも飛び古した個体で、テンションはあまり上がらない。

 

 
果物トラップに戻ったら、遠目に見たことのないカトカラが来ていた。しかもデカイ。一瞬期待したが、どう見てもムラサキじゃない。よくよく見れば、全く頭になかったオオシロシタバだった。オオシロには初めて会うので、ちょっぴりテンションが上がった。

 
【オオシロシタバ】

 
でも、所詮は外道である。それに、暗い色で渋すぎるわ。

この日は上と下を何往復もして、死ぬほど歩いた。たぶん20㎞以上は優に歩いている。ヘトヘトで風呂入って、爆睡した。ここのペンションは夜中でも風呂に入れる。虫屋に優しいペンションなのだ。有り難いね。

 
 
 2018年 9月8日

翌日は、東京から蛾好きの高校生が父親に連れ添われてやって来た。名前は斎藤くんといったかな?
彼には色々世話になった。別なライト・トラップでは黄色いヤママユを採らせてくれたし、灯台もと暗しのポイントにも案内してくれた。蛾の採り方とか他にも沢山のことを教えてくれた。感謝である。

 

 

 
彼が初めてムラサキを採った時の興奮に満ちた話も聞かされたし、何やかんやと、結構楽しい夜だった。
けれど、この日も紫色の巨神は、一度も姿を見せてはくれなかった。

彼とLINEで連絡先を交換したけど、電話番号を変えたみたいで帰阪後しばらくして連絡がとれなくなった。大学、ちゃんと合格したのかな❓
オジサン、蛾ド素人だったけど、ちょっとはレベルも上げて、翌年には日本では未知のカトカラを新発見したよー(^-^)v

 
 
 2018年 9月9日

いよいよ最終日である。

この日は晴れたので、大菩薩峠を目指した。山の上の環境を見たかったし、気分転換もあった。この辺はキベリタテハの大産地としても有名だしね。キベリは好きだから、真面目に採ってやってもいい。いや、採らせて下さい。

 
【キベリタテハ】
(2016.9 長野県松本市)

 
それに、来たことはないが、大菩薩峠と云う名前には思い入れもある。

バスで登山口まで上がった。

 

 
周囲はブナ林が広がっていた。ブナ林は好きだ。緑が瑞々しくて、心が落ち着く。

 

 
大菩薩峠まで登ってきた。雲が掛かってて富士山は見えなかったけど、眺望は最高だった。

大菩薩峠といえば、中里介山の小説である。盲(めしい)のダーティ天才剣士、ニヒリスト剣士の草分けでもある机 竜之介になった気分だ。この小説は映画化もされている。古い映画だから、勿論のこと後から見たんだけど、市川雷蔵がめちゃんこカッコいいんだよな。

少し戻り、キベリタテハの好きそうなここぞと云う場所で張っていたが、1頭さえも見られなかった。
帰って、宿の女将さんに訊くと、今年は大不作の年らしい。
何だか。何をやっても上手くゆかぬ。

三晩目は高校生に教えてもらった場所、ライト・トラップの裏に果物トラップを仕掛けた。そこに去年、ムラサキが来たらしい。
これで歩き回る距離は格段に短くなったし、移動時間も大幅短縮になった。時間を有効に使おうと云うワケだ。

なぜかライト・トラップには蝶が来ていた。

 

 
どうしてこんなところに❓のベニシジミちゃん。

 

 
何で交尾までしてんねん❓のヤマキマダラヒカゲ。

何か、段々腹立ってきた。
別にキミたちに罪はないんだけど、何で蛾を探してるのに蝶が来んねんと思ってテンションが限りなく下がったわ。ワシを蝶界に引き戻したいんかい❓

この夜、少し心が躍ったのは、ヒゲナガカミキリとベニシタバくらいだった。

 

 

 
そう、何も起こらなかったのだ。

満天の星空を仰ぐ。綺麗だ。
でも、三日連続で熊とお化けの恐怖に耐えて死ぬほど歩いたが、ついぞムラサキシタバは現れなかった。
途中で採れる気が全くしなくなって半ば諦めかけてはいたが、こうして結果が出てしまうと、やはり暗然たる思いにはなる。

そういえば、思い出した。
そろそろお開きにしようとしたところで、耳の穴に蛾が入り、奥に潜り込んでエレー事になったんだよね。パニくって、宿の人に泣きついたよ。ホント、(;´д`)トホホの結末だったわ。

翌日、朝風呂に入り、しみじみアカンかったなあ…と思う。

 

 
失意をどっぷりと纏って帰路についた。

 

 
空は心を映すように、どんよりだ。
また青春18切符で戻るかと思うと、益々心は重くなる。

 

 
途中、何処かで蕎麦を食う。

 

 
負け犬の、ほぼ夢遊病者だから記憶は殆んどないが、たぶん中津川駅辺りだろう。

 

 
やっとこさ米原まで戻ってきた。
日が沈み、夜との狭間の僅かな時間の空が美しい。その色は、まだ見ぬ青紫のようだった。

                     つづく

 
追伸
ワードプレスのプロバイダー契約は2月いっぱいなのに、ナゼかまだ文章が書ける。しかし、いつダメになるやらワカランので急ぎ書いている。ダメになったら、アメブロに書きます。

今回登場した各カトカラやイボタガ&オオシモフリ、シンジュサンについては個別に拙ブログに文章があります。宜しければ、ソチラも探して読んで下され。

 

2018′ カトカラ元年 其の14

   vol.14 オオシロシタバ
  『その名前に偽りあり』

 
2018年 9月7日

オオシロシタバを初めて採ったのは、エゾシロシタバと同じく山梨県甲州市塩山だった。

 
【ペンションすずらん】

 
但し、ジョナスやエゾシロシタバのようにペンションすずらんのライトトラップではない。
じゃ何かというと、果物トラップで採れたのだ。糖蜜ではないところが、いかにも蝶屋らしい。蝶屋はあまり霧吹きシュッシュッの糖蜜は使わないのだ。
簡単な方法はストッキングにバナナやパインをブチ込み、焼酎をブッかけて発酵させたものを木に吊るす。
だから、翌日に蛾マニアの高校生が霧吹きを持ってシュッシュシュッシュやってるのを見て、衝撃を受けた。彼はライトトラップも別な場所でやってたしなあ。純粋なる蛾好き魂に触れたような気がするよ。

 

 
そういえば、この日が初めてのカトカラ狙いでのフルーツトラップだったんだよね。でもって、同時に初ナイトフルーツトラップでもあったわけだ。
カトカラにそこまで嵌まっていたワケではなかったから、そうまでして採ろうとは思わなかったのだ。
でも、ムラサキシタバとなれは話は別だ。大きさ、美しさ、稀少性、どれを取っても別格のカトカラなのだ。彼女だけは何としてでも採りたかった。だからカトカラ目的で遠征したのもこの日が初めてだったし、トラップまで用意したのだろう。

果物は何を使ったっけ❓
一つは即効性の高い🍌バナナを使ったことは間違いないが、ミックスしたもう1種類が思い出せない。普通で考えればパイン🍍なのだが、それは沖縄や東南アジアでの話だ。中部地方では、勿論のこと露地物のパインなんぞ栽培されているワケがない。ゆえに誘引されないかもしれないと考えた記憶がある。因みにバナナも中部地方に露地物はないだろうが、トラップとしては万能だと言われている。だから選んだ。実際、過去に効果もあったしね。
となると、もう1種はリンゴか梨、桃、スモモ辺りが考えられる。
🍎リンゴは発酵するのに時間がかかるし、一度も使った記憶が無いから有り得ないだろう。
梨かあ…。今、テキトーに並べたけど、もともと梨なんて考えてもしなかったよ。使ってるって聞いたことないもんな。でも産卵させる為に親メスを飼う場合は餌として梨がよく使われている。有りかもなあ…。機会があったら試してみよっと。でもリンゴと同じく発酵には時間がかかるかもしれない。
🍑桃は効き目がありそうだが、高価だ。ズルズルになるのもいただけない。それに季節的にもう終わってるよね。コレも無いだろう。
となると、スモモの可能性が大だ。そういえばオオイチモンジを採るのに使ったことがあるけど、効果あったわ。たぶんスモモだろね。そう思うと、そんな気もしてきたわ。

 
【オオイチモンジ】

 
場所は標高1400mにあるペンションすずらんから30分程下った所だった。となれば、標高1300~1200mってとこだろう。
何で、そんな遠い場所にトラップを仕掛けたのかというと、コレにはちゃんとした理由がある。宿のオッチャンに尋ねたところ、その付近にしかムラサキシタバの食樹であるヤマナラシが生えていないと言われたからだ。
だんだん思い出してきたわ。ペンションとそこを何度も往復したんだよね。コレが肉体的にも精神的にもキツかったんだよなあ。一晩に何10㎞と歩いたし、一人で夜道を歩くのはメチャメチャ怖かった。お化けの恐怖もあったけど、何といってもクマ🐻ざんすよ。近畿地方の低山地じゃないんだから、100パーおるもん(T△T)

時間は午後9時台だったと思う。
降りてきたら、ヤマナラシの幹に縛り付けておいたトラップに見慣れぬ大型の蛾が来ていた。
しかし、見ても最初は何だか理解できなかった。けど下翅を開いて吸汁していたのでカトカラの仲間であることだけは判った。でも何じゃコレ(;・ω・)❓である。
10秒くらい経ってから漸くシナプスが繋がった。

『コレって、オオシロシタバじゃなくなくね❓』

ムラサキシタバしか眼中になかったから、全くターゲットに入ってなかったのだ。それに『日本のCatocala』には、オオシロは花には好んで集まるが、樹液には殆んど寄ってこない云々みたいな事が書いてあった。ネットの情報でも糖蜜トラップでオオシロを採ったという記述は記憶にない(註1)。だから、こう云うかたちで採れるとは思ってもみなかったのだろう。

採った時は、そこそこ嬉しかった。
思った以上に大きかったし、予想外のモノが採れるのは嬉しいものだ。それに良い流れだと感じたことも覚えている。ムラサキシタバの露払いって感じで、モチベーションが⤴上がったもんね。
だが同時に、薄汚いやっちゃのーとも思った。その証拠に、この時撮った写真が1枚たりとも無いもんね。
発生から1ヶ月くらい経っているから致し方ないのだろうが、このカトカラって他のカトカラよりもみすぼらしくなるのが早くねぇかい(・。・;❓

此処には3日間通ったが、毎日複数頭が飛来した。
おまけに、シラカバの樹液を吸っている個体も見た。
ということは、偶然ではない。間違いなくオオシロシタバは樹液やフルーツトラップに誘引される。そう断言してもいいだろう。
そういえば、この時には思ったんだよなあ。シロシタバは夜間、樹液で吸汁する時以外でも下翅を開いて樹幹に止まっているものが多いなんて(註2)何処にも書いてなかったし、こんな風にオオシロシタバの生態も間違っていたから、何だよ、それ❓ってガッカリした。蛾は、蝶みたく全然調べられてないじゃないかと軽く憤慨しちゃったもんね。でも、今考えると、それも悪いことじゃない。殆んど調べ尽くされているものよりも、そっちの方がよっぽど面白い。性格的にも、そういう方が合ってる。先人たちをなぞるだけの採集なんてツマラナイ。

 
【Catocala lara オオシロシタバ】

 
その時に採った比較的マシな個体だ。
全然、シロシタバ(白下翅)って感じじゃない。どちらかというと黒っぽい。コレを白いと思う人は少ないと思うぞ。
下翅の帯が白いから名付けられたのだろうが、それとて純粋な白ではない。せいぜい良く言ってクリーム色だ。悪く言えば、薄黄土色じゃないか(上にあげた画像が白く見えるのは鮮度が悪いくて擦れているから。後に出てくる野外で撮った写真を見て下されば、言ってる意味が解ると思う)。
和名はオオシロシタバよか、シロオビシタバの方がまだいいんじゃないかと思うよ。
その下翅の帯だが、この形の帯を持つものは日本では他にムラサキシタバしかいない。両者って類縁関係はどうなってんだろね?(註3)

オオと名前が付いているのにも不満がある。
初めて見た時は大きいと思ったが、明らかにシロシタバより小さい。重厚感も全然足りてない。なのにオオなのだ。完全に見た目と名前が逆転現象になってる。名前に偽りありだ。何がどうなったら、そうなってしまうのだ。謎だよ。

 
2018年 9月16日

その1週間後、また中部地方を訪れた。
とはいえ、今度は長野県。そして、一人ではなくて小太郎くんが一緒だった。
小太郎くんの目的はミヤマシジミとクロツバメシジミの採集だったが、ついでにムラサキシタバの採集をしてもいいですよと言うので、車に乗っけてもらったのだ。
この時は殆んど寝ずの弾丸ツアーだったので、幻覚を見るわ、発狂しそうになるわで、アレやコレやと色々あって面白かった。
しかし、そんな事を書き始めたら膨大な文章になるので、今回は端折(はしょ)る。

場所は白骨温泉周辺だった。
この日もフルーツトラップで勝負した。
たぶん前回使ったものに果物を足して、更に強化したものだ。車の後部座席の下に置いたら、小太郎くんが『うわっ、甘い匂いがスゴいですねー。』とか言ってたから、間違いなかろう。

トラップを設置して、直ぐにオオシロシタバが現れた。勿論、もう感動は1ミリたりともない。擦れた個体だったし、みすぼらしい汚ない蛾にしか見えなかった。
それでも一応、1頭目は採った記憶がある。

 

 
その後も、オオシロくんは何頭もトラップに飛来した。
これで、やはりオオシロシタバはフルーツトラップに誘引されると云うことを100%証明できたぜ、ざまー見さらせの気分だった。
けど、フル無視やった。もうゴミ扱いだったのである。だから、この日もオオシロシタバの画像は1枚もない。

そういえば、この日は白骨温泉の中心でもオオシロを見ている。外灯に飛んで来たものだ。図鑑やネットを見てると、オオシロの基本的な採集方法は灯火採集のようだ。
思うに、この灯火採集が蛾界の生態調査の進歩を妨げている部分があるのではないだろうか❓
確かに、この採集方法は楽チンで優れている。一度に何種類もの蛾を得られるから効率がいい。その地域に棲む蛾の生息を調べるのには最も秀でた方法だと思う。しかし一方では、生態面に関しての知見、情報はあまり得られないのではなかろうか❓せいぜい何時に現れるとか、そんなもんだろ。
まだまだ蛾の初心者のオイラがこう云うことを言うと、また怒られるんだろなあ…。
まっ、別にいいけどさ。変に忖度なんかして感じたことを言えないだなんて、自分的にはクソだもんな。

今回も2019年版の採集記を続編として別枠では書かない。面倒くさいし、そこには何らドラマ性も無いからだ。書いても、すぐ終わる。
と云うワケで2019年版も引っ付ける。

 
2019年 9月5日

2019年のオオシロシタバとの出会いも白骨温泉だった。
ポイントも同じ。違うところは、細かいところを除ければ、一人ぼっちなところと1週間ほど時期が早いことくらいだ。

天気がグズついてて、ようやく雨が上がったのが午後10時過ぎだった。やっとの戦闘開始に気合いが入る。
霧吹きで、しゅっしゅらしゅしゅしゅーと糖蜜を噴きつけまくる。
そうなのだ。フルーツトラップから糖蜜にチェンジなのじゃ。( ̄ー ̄)おほほのホ、一年も経てぱバカはバカなりに少しは進化しているのである。
フルーツトラップは天然物なだけに、効果は高い。但し、問題点もある。荷物になるのだ。それに電車やバスに乗ってて、甘い香りを周りに撒き散らすワケにはいかないのだ。されとて、ザックの中に入れるワケにもゆかない。液漏れでもしたら、悲惨なことになる。だいち重いし、かさ張る。ようするに邪魔なのだ。今回のように全く車に頼れない時は、そういう意味ではキツい。一方、糖蜜トラップは蓋をキッチリしめてさえいれば、匂いが漏れる心配はない。荷物もコンパクトにできる。液体が減れば、当然軽くもなるし、補充も現地で何とかなる。山の中で売ってる果物を探すのは至難だが、ジュースや酒ならまだしも手に入る。

糖蜜トラップのレシピは覚えてない。
なぜなら、決まったレシピが無いからだ。基本は家にあるものをテキトーに混ぜ合わせるというアバウトなものなのさ。
たぶん焼酎は入ってる。ビールは入っているかもしれないが、入ってないかもしれない。
果実系のジュースも何らかのものは入っていた筈だ。ただ、それが🍊オレンジジュースなのか、🍇グレープジュースなのかは定かではない。下手したら、それすら入ってなく、カルピスやポカリスエットだった可能性もある。勿論、それら全部がミックスされていた可能性だってある。
酢は入れなかったり、入れたりする。普通の酢の時もあれば、黒酢の時もある。気分なのだ。ゆえにワカラン。
この時は絶対に入ってないと思うが、作り始めた初期の頃などは黒砂糖なんかも入れていた。効果は高いけど、溶かすのが面倒くさいから次第に入れなくなったのだ。
コレってさあ、普段自分が作る料理と基本的な流れが同じだよね。やってることは、そう変わらない。もちろん料理の場合は基礎が必要だけれど、最終的にはセンスとかひらめきとか云う数値にできない能力で作ってる部分が多い。でも料理より酷いハチャメチャ振りになる。たぶん自分で食ったり飲んだりしないから、必然もっとテキトーでチャレンジャーになってしまうのだ。
それでも何とかなってしまうところが怖い。って云うか、だから努力を怠るのでダメなんだけどもね。メモさえ取らないから、いつも行き当たりバッタリの調合で成長しないのだ。自分で、まあまあ天才なんて言ってるけど、少しばかりセンスのある単なるアホだ。基本的に論理性に欠けるのだ。だって右脳の人なんだもん。

結果は、やっぱり撒いて程なくオオシロくんが来た。
そして、やっぱりボロばっかだった。
違うのは、それでも一応写真は撮っておいたところくらい。この時には、もう既にカトカラシリーズの連載を書き始めてだいぶ経っていたゆえ、さすがに必要だと思ったのさ。

 

 
【裏面】

 
酷いな。やっぱり汚ないや。腹なんて毛が抜けて、テカテカになっとるがな。ここまで腹がデカテカなカトカラは初めて見るかもしれんわ。
そう云えば、たぶん『日本のCatocala』にメスは日が経ってるものは腹の鱗粉がハゲていると書いてあったな。それは多分、産卵するために樹皮の間に腹を差し込むからだろうとも推定されていた筈だ。
何か樹液の件で文句言っちゃったけど、やはり著者の西尾則孝氏はスゴイ人だ。日本のカトカラの生態についての知識量は断トツで、他の追随を許さないだろう。この図鑑が日本のカトカラについて述べたものの中では最も優れていると思う。

けど、コレって♀か❓
まあ、いいや( ・∇・)

その時に採ったものを展翅したのがコチラ↙

 

 
二年目の後半ともなれば、展翅もだいぶ上手くなっとるね。如何せん、鮮度が悪いけどさ。

今年は、もし真剣に採る気ならば8月上旬に行こうかと思う。鮮度が良い本当のオオシロシタバの姿を知るためには、それくらいの時期に行かないとダメだね。
実物を見たら、オオシロシタバに対する見方も大幅に変わるかもしれない。

次回、解説編っす(`ー´ゞ-☆

                    つづく

 
追伸
実を云うと、この回は先に次回の解説編から書いている。
そっちがほぼ完成に近づいたところで、コチラを書き始めた。その方が上手く書けるのではないかと思ったのだ。まあまあ成功してんじゃないかと自分では勝手に思ってる。

 
(註1)ネット情報でも糖蜜トラップでオオシロを採ったという記述は記憶にない

ネットで糖蜜トラップでの採集例は見つけられなかったが、樹液での採集を2サイトで見つけた。青森でミズナラとヤナギ類で吸汁しているのが報告されている。もう片方のサイトでは、樹液に来たとは書いていたが、具体的な樹木名は無かった。

 
(註2)シロシタバは樹液吸汁時以外も下翅を開いてる

これについてはvol.11のシロシタバの回に詳しく書いた。気になる人は、そっちを読んでけれ。

 
(註3)両者って類縁関係はどうなってんだろね?

実を云うと、先に次回の解説編を書いた。
あれっ、それってさっき追伸で書いたよね。兎に角そう云うワケで、時間軸が歪んだ形でDNA解析について触れる。えーと、説明するとですな、これを見つけたのは解説編を書いている時なのだよ。

 
(出展『Bio One complate』)

 
石塚勝己さんが新川勉氏と共にDNA解析した論文である。
(/ロ゜)/ありゃま。オオシロ(C.lara)とムラサキシタバ(C.fraxini)のクラスターが全然違うじゃないか。
つまり、この図を信じるならば、両者に近縁関係はないと云うことだ。共にカトカラの中では大型だし、帯の形だけでなく、翅形もわりと似てるのにね。DNA解析は、従来の見た目での分類とは随分と違う結果が出るケースもある。蝶なんかはワケわかんなくなってるものが結構いるから、見た目だけで種を分類するのは限界があるのかもしれない。違う系統のものが環境によって姿、形が似通ってくるという、いわゆる収斂されたとする例も多いみたいだしさ。
まあ、とは言うものの、DNA解析が絶対に正しいとは思わないけどね。

 

2018′ カトカラ元年 其の11 最終章

 
  vol.11 シロシタバ act5

     ー解説編ー
 『天鵞絨(びろうど)の褒章』

 
長々と書いてきたが、やっと種の解説だ。
ここまで、ホント長い道程(みちのり)だったよ。

 
【シロシタバ Catocala nivea ♂】

 
【同♀】

 
【♀裏面】

 
【学名】Catocala nivea nivea (Butler,1877)

小種名のnivea(ニヴェア)は、雪(白)、雪のように白いの意。ラテン語のniveusの女性形。

学名の小種名はニベア(ニヴェア)は女性形なんだね。本文中で度々シロシタバを彼女と呼んだのも、あながち間違っていなかったワケだ。

ニベアで最初に連想したのは、あのスキンクリームで有名なニベア。どうやら両者の語源は同じみたいだ。虫採りをやってると賢くなるのら。今度何かで使ったろー。

『キミの素肌はニベアだね。透き通るように美しいよ。』
『えっ、ニベア❓ニベアってあの手とかに塗るクリームの❓』
『そう、そのニベア。元々ニベアとはラテン語で雪のように白いって意味なんだ。クリームのニベアはそこからパクったってワケ。』
『へぇー、そうなんだー。アナタって❤素敵❗』
『いや、キミの美しい素肌の方が何倍も素敵だよ。』

( ☆∀☆)おー、使えんじゃねえかー。
と云うのは、もちろん嘘で、(/ロ゜)/わうっと仰け反るくらいにゲロ安っぽいわ。
(-_-)んなもん使えねえよ、バーカ(# ̄З ̄)である。

深夜に書いてると、アタマがワいてくるニャー(ФωФ)
一人妄想ごっこはコレくらいにして、先へと進めよう。

学名は「雪のように白い」だが、厳密的にはシロシタバの下翅は真っ白ではない。限りなく白に近い質感のあるオフ・ホワイトだ。それが織物のベルベット、もしくはビロードや別珍(ベッチン)みたいで(註1)、それがかえって上品さを醸し出している。蘚(こけ)のような上翅とのバランスが何とも気品があって素敵だ。

余談だが、ジジミチョウ科の Lachnocnema(ラクノクネマ)属に Lachnocnema nivea というのがいる。和名はケブカアシジジミ。脚がモフモフでとても可愛い。

 
【Lachnocnema bibulus】
(出展『iNaturalist』))

 
L.nivea の画像が見つけられなかったので、同属の別種を貼り付けておいた。
他にもシジミチョウ科には、シロシジミ属(Ravenna(ラヴェンナ))に Ravenna nivea という種がいるみたいだ。

 
【和名】
度々、オオシロシタバとの和名の逆転現象が指摘されている。オオシロシタバよりシロシタバの方が明らかに小さいのにオオと付くのは紛らわしいというワケだ。
『原色日本産蛾類図鑑』のシロシタバの解説欄には「前種(オオシロシタバ)よりは常に大きく、その和名は前種と入れかえる方が合理的であるが、永年使用されてきたものであるし、さして不便もないのでそのままにしておく。」と書いてあるから、皆が妙に納得して声高に糾弾するまでには至らなかったのであろう。この図鑑のメインの著書は江崎悌三先生だもんね。偉い先生だから、文句言えないよね。
自分も図鑑に倣(なら)い、このままで良いと思う。シロシタバはシロシタバでよろし。今さら「明日からシロシタバはオオシロシタバになります。オオシロシタバはシロシタバになります。」と言われても困る。そんなの余計にややこしくなるに決まっているのだ。一々、旧シロシタバとか旧オオシロシタバとかと説明するのは面倒くさ過ぎるし、文献だって後々シロ、オオシロのどっちを指しているものなのかがワカンなくなっちゃうぞー。

でもさあ、そもそも何でこんな和名の逆転現象が起きちゃったのだろう❓
名付けた人が単におバカだったのかなあ❓
いくらなんでも、それはないと思うんだよね。裏には驚愕の命名譚が隠されているのかもしれない。
とはいえ、ここで脱線するワケにはいかない。これは宿題としよう。オオシロシタバの回までに何らかの回答を探しておきま~す。

 
【英名】Snow underwing(雪下翅)

ネットの『ギャラリー・カトカラ全集』には、そう書かれてあった。英名としては違和感がない。でも、それを訳した「雪下翅」というのが気にかかる。
確かに「underwing」は直訳すれば下翅(下羽)だが、「カトカラ」と訳す方が適切なのではないだろうか。いや、それなら「underwing moth」でしょうよと云う指摘を受けそうだが、辞書やネットの表記ではカトカラそのものとして「underwing」が適用されているのだ。ゆえに和訳は「雪カトカラ」もしくは「雪のようなカトカラ」が正しいのではないかと思う。

けれど「snow underwing」で検索してもシロシタバは殆んど出てこない。世界的にはポピュラーな称号ではなく、あまり浸透していないみたい。
試しに「white underwing(白いカトカラ)」で検索してみたら、1件だけシロシタバにヒットした。しかし、その殆んどは北アメリカに生息する Catocala relicta というカトカラの称号として出てくる。

 
【Catocala relicta】
(出展『iNaturalist』)

 
ハクトウワシみたいでカッコイイ奴ちゃのー。
でもシロシタバというよりもシロオビシタバだ。もっと言えぱ、印象的なのは上翅の白だから、ウエシロシタバかな。どちらかと云うと「White underwing」というよりかは「White upperwing」だね。しかし、カトカラを「underwing」とするならば、コレはオカシイ。
厳密的には「White upperwing underwing」、もしくは「White-upperwing underwing」になる。けれど、これでは上白羽下羽になってしまい、何ちゃらワカラン錯綜した名前になるからダメじゃないか(笑)。ややこしい。自分でも段々何言ってんのか分かんなくなってきたよ。
幸いコヤツには他のタイプもいて、上翅がグレーなのもいるようだから「White upperwing underwing 」は使えないだろう。一安心だよ。

 
(出展『Butterflies and Mothes of North America』)

 
(出展『Lepidoptera Odonata web Atlas Detail 』)

 
あれっ❗❓、コレって下翅の帯を青紫色にしたら、何かとソックリになると思いません❓
ほら、↙コレなんか近い。

 
(出展『wikipedia』)

 
そう、ムラサキシタバ(註2)様にソックリなのだ。

 
【ムラサキシタバ】
(2019.9月 白骨温泉)

 
何で似てるのかと云うと、両者は近縁種で親戚関係にあるのだ。但し、大きさは違い、ムラサキシタバの方が遥かにデカイようだ。

今、思い出した。そういえぱ、いたなあ…。
「White underwing」といえば、その名に最も相応しいものがいるわ。2007年に中国四川省で見つかったカトカラは下翅が本当の意味で白いのだ。
話がどんどんシロシタバから離れていくが、まっ、いっか。

で、ネット検索したら見つかった。
画像を見た瞬間は「えっ、これがカトカラ❓」と思ったくらいカトカラに見えなかった。帯紋が全く無い下翅もそうだが、上翅がベタで全然カトカラっぽくない。

 
【Catocala uljanae (Sinyaev,Saldaitis&Ivinskid,2007)】
(出展『BOLDSystems v3』)

 
これこそが「White underwing」だよね。
尻が無いが、論文(註3)には尻有り画像もあって、尻まで真っ白なのだ。こんなに腹が白いカトカラって他に類を見ない。
あっ、そうだ。コレって石塚さんの『世界のカトカラ(註4)』にも載ってたよな。

見たら、シロムクシタバと云う和名で載ってました。

 
(出展『世界のカトカラ』)

 
シロムクかあ…、秀逸な和名だすな。中々、白無垢なんて発想は出てこないもんね。素敵な和名だと思う。
図鑑が発刊された2011年の時点では、中国四川省中部の1ヶ所のみから知られる大珍品で、ホロタイプの1個体しかなかったそうだ。
シロシタバとの関係を連想させるが、ゲニタリア(交尾器)の形状などから類縁関係は無いそうだ。

 
【開張(mm)】95~105㎜。

ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』にはそうあった。おそらくコレは『原色日本産蛾類図鑑』から、まんま引用したものであろう。一方、岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』には、80~95㎜とあった。随分とズレがある。どっちが正しいのだ❓

もう自分で測っちゃったよ。結果は♀の一番大きなもので、104㎜ほどあった。産地は四條畷だ。
私見では概して西のシロシタバの方が東のものよりも大きい。おそらく『日本産蛾類標準図鑑』では、東の方の標本を基準に検したのだろう。とはいえ、反対に小さい個体は東でも西でも95㎜以下のものもいるから『原色日本産蛾類図鑑』よりも岸田図鑑の方が合っている。まあ、どちらかの記述が正しくて、どちらかの記述が間違っていると云うワケでも無かろう。両者を合わせた開張80~105㎜でエエんでねえの❓
何れにせよ、カトカラの中ではムラサキシタバと並ぶ最大級の大型種である。他のカトカラと比べて、この二つが群を抜いてデカくて迫力がある事に異論はないだろう。

そういえばA木くんに「ムラサキシタバが最大種と言われてるけど、シロシタバとそう変わんないんじゃないの❓」と訊いたら、「似たような大きさだけど、全体的には少しムラサキの方が大きいかなあ…。」という答えが帰ってきたっけ。

ちょっと驚いたのは『原色日本産蛾類図鑑』では、ムラサキシタバの開張が92~102㎜とあり、シロシタバの方は95~105㎜と、シロシタバの方が大きいとされていることだ。発行元の保育社は関西の会社だから、関西の標本を検した結果なのかなあ?…。

ここでまた私見を述べよう。
一般的にはムラサキシタバの方がシロシタバよか大きいとされるが、主に関東方面の意見なんだろね。確かに東日本では、明らかにムラサキシタバの方がデカイと思う。

 

 
上は白骨温泉のムラサキシタバの♂で、下は平湯温泉のシロシタバ♀である。測ったら、ムラサキシタバの開張が100㎜、シロシタバが92㎜だった(一言を添えておくと、一見すると写真では両者は同じ翅幅に見えるけど、下からあおって撮っているので、そう見えます。展翅板の溝幅の違いを見て下されば、御理解いただけるかと思う)。
今のところ中部地方で採ったシロシタバで、ムラサキに匹敵する大きさのものは見たことがない。一方、西日本では同じくらいの翅幅のモノは結構いる。但し、開翅長はそう変わらないが、翅の表面積まで含めるとムラサキシタバに軍配があがると思う。

 
【雌雄の判別法】
何か唐突ではあるが、ここで♂と♀の見分け方を書いておこう。本文の方で、それには一言も触れていないことに気づいたからだ。

♂と♀は翅形が違い、♀は♂と比べて全体的に翅に丸みがある。ゆえに、だいたいはパッと見で判別できるのだが、中には微妙な個体もいたりする。なので、確実な方法は腹を見ることだ。

 
【♂の腹部】

 
【♀の腹部】

 
♂は腹が細く、長い。そして、腹端に毛束があるのが特徴だ。一方♀は腹が太く短い。毛束は無いことはないが、♂と比べて非常に少ない。これで大体の区別はできるだろう。
他に翅の付け根にある毛の数で判別する方法もある。

 
(出展『日本のCatocala』)

 
その刺毛が♂は1本、♀には3本あり、それが一番正確な判別方法なのだが、上翅をめくらないと分からない。なので、素人にはあまり現実的な方法とは言えないだろう。

 
【分布】
北海道、本州、四国、九州。
東日本では普通種だが、西日本では分布が局所的で少なく、関西都市部近郊ではレア。四国でも少なく、九州では珍品だとされる。また、ネット情報だが、北海道でも少ないそうだ。
海外ではインド北部、中国(四川省など)、台湾、朝鮮半島、ロシア沿海州に分布する。

低地から山地帯まで生息域は広いが、個体数はそう多くはないようだ(但し、時に大量に灯火に飛来するケースがある)。
日本では、より局所的に生息するムラサキシタバと比べて分布が広い事から一段下に見られがちだが、海外では逆にムラサキシタバよりも評価が高いそうだ。これは世界的にみれば、シロシタバの方がムラサキシタバよりも分布域が狭いからだろう。アジアの特産種で、特に日本はその分布の中心とされ、他地域と比べて個体数が多いようだ。ゆえに本種の標本は外国の収集家に好まれ、格は逆に一段上とされているという。

 
【亜種】
以下のものが亜種記載されている。

◆Catocala nivea nivea (Butler,1877)
 日本・朝鮮半島・中国(四川省)

日本のシロシタバが原記載亜種のタイプ標本になっている。ようするにシロシタバが最初に見つかったのは日本だということだね。

 
◆Catocala nivea asahinaorum (Owada,1986)
 台湾

(出展 二点共『dearlep.tw』)

 
上が♂で、下が♀。
一見したところ、下翅の黒帯が細くて白い領域が多いように見える。(^^)いいねっ。コレくらい綺麗なら、台湾に行った折りには探してもいいかなと思う。

台湾名は「後雪裳蛾」。
成虫は7月末から9月にかけて発生し、標高1700〜2400メートル付近の森林地帯に生息する。灯火採集をすると、時に3000メートルの山岳地帯にも飛来するという。但し、台湾では稀な種のようだ。
へぇ~、亜熱帯ゆえに日本と比べてかなり標高の高いところに棲んでるんだね。元々は、冷温帯を好む種なんだろね。

 
◆Catocala nivea kurosawai (Owada,1986)
 ネパール

(出展『世界のカトカラ』石塚勝己)

 
石塚さんの図鑑に拠ると、上翅が暗色化するのが特徴なのだそうだ。
記載論文を確認出来ていないが、台湾とネパールの亜種記載者は、おそらく蛾の研究者として知られる大和田守博士であろう。

 
【レッドデータブック】
大阪府:絶滅危惧II類、高知県:準絶滅危惧、佐賀県:情報不足。

こういうのを見ると、レッドデータって間違ってはいないけど、情報量が少ないよね。分布調査って誰がやっているんだろうと思うよ。たぶん、調査してる人員が少ないんだろな。致し方ないところはあるんだろね。

 
【成虫出現期】
成虫期間は比較的長く、7月中旬から現れて10月下旬まで見られる。
新鮮な個体が得られるのは8月下旬から9月上旬迄ってところかな。但し、10月でも新鮮な個体が得られた例もあるようだ。

 
【生態】
最初に断っておくが、生態面については多分に私見が入っている。そういう部分は出来るだけ私見である旨を示すようにするが、微妙な表現もあるかもしれないので、そこんとこ留意されたし。

平地にも見られるが、山地に多く見られる。
長野県などの中部地方では成虫が8月に夏眠するらしい。あまり聞いたことがないし、より暑い関西では8月でもバリバリ活動しているからホントかなと思う。
但し、私見だと西の方が羽がボロになるのは早い。発生期は関西と中部地方との間にそれほど大きな差はないようだから、やっば中部地方とか東では夏眠するのかなあ…。ところで、何を指して夏眠するとしたのだろう。じっとしてて、樹液にも灯火にも集まらないと云うことでいいのかな❓全く活動しないのか、活動が鈍りがちになるのかが書かれていないから、気になるところではある。

成虫は日中、頭を下にして木の幹や岩に静止している。驚いて飛んだ時は上向きに着地し、まもなく下向きとなる。昼間、静止している時は比較的鈍感だという。しかし、自分の経験ではそうでもなく、それなりに敏感だと思った。とはいえ、これは産地や時期、時間帯にもよるものだろう。

それはそうと、何でカトカラって昼間は逆さ(下向き)に止まってんだ❓
これがずっと疑問だった。頭が悪いゆえ、その理由が全く思いつかなかったのだ。
この疑問に対して、どなたかが Facebook で答えておられた。失礼ながら御名前は失念したが、要旨は以下のようなものだったと記憶している。もしも解釈が間違ってたら、ゴメンなさい。

「彼らが下向きに止まるのは、鳥などの天敵から逃れれる為である。つまり、下向きに止まることによって、自重による飛び出しの初速度は上がる。それによって、少しでも天敵に捕まる確率を下げようと云う生き延び戦略だと考えられる。」

なるほど、それだと理にかなってる。
実際、昼間に驚いて飛んでゆくカトカラのスピードは速いもんね。夜、木から飛び立つ時とは大違いだ。上向きに止まっている夜は、逃げる際はパタパタ飛びで、けっして速いとは言えない。それに上に飛ぶ方が目立ち易い。昼間なら、下から鳥にバクッといかれそうだ。反対に低く飛べば、背景に紛れ易いと云うのもある。鳥だって見失いがちだろう。

でもさあ、だったら何で夜も下向きに止まらないのだ❓鳥は活動してはいないものの、コウモリがおるがな。
あっ、コウモリは空中で獲物を捕らえるから、止まってる蛾は襲わないか…。
にしても、遅く飛び出すよりも速いに越したことはないだろう。まさか下向きにばっか止まっていると、血が頭に昇るからとか❓ それは半分冗談にしても、やはり下向きに止まるということは、カトカラにとっても不自然なのだろう。自分がカトカラになった気持ちになってみると、ずっと逆立ちしてるのは耐え難いもんね。生き延びる為に昼間は我慢して逆さに止まってるのかもね。

飛ぶ速度だが、夜は木から飛び立つ時も飛んでゆく時も遅い。樹液に飛来する時も遅い。どこかドタドタ感があるのだ。
だが、灯火に集まって来る際などは速い。空をビュンビュンに飛んでいる。灯火に関係なく、高い位置を高速で飛んでゆくカトカラを見たことも何度かある。本気を出せば速いのだろう。飛ぶのが速い蛾の代表であるスズメガの仲間と翅形が割りと近いから、それは理解できる。
上向きに飛び出すと、トップスピードになるまで時間を要するのかな❓逆にスピードをゆるめるのも下手っぽい。蝶に比べて蛾は胴体が太くて重そうだから、スピードの調整が苦手なのかもしれない。
そういえぱ、夜間上向きに止まっているカトカラは、木から飛び立つ際に、一旦下向きに飛んでから上昇する。体が重いから重力に負けるのかもしれない。だから、採るのは楽勝だ。下から網を持ってゆき、真下をコツンと叩けば、勝手に自ら網に入ってくるのだ。そこを掬い上げるようにカチ上げる。我が秘技の一つ、静居合💥龍昇剣(しずいあいりゅうしょうけん)である(笑)。

夜間、灯火に飛来し、9~10月になると発生地周辺の市街地の街灯にも飛来するという。
灯火採集の経験は少ない。兵庫県の但馬地方と山梨県の大菩薩山麓ぐらいでしか、灯火に来たシロシタバを見た事がない。ゆえに大きな事は言えないが、飛来時間は早くなく、9時半以降だった。尚、灯火に飛来時は、翅を閉じて静止することが多いようだ。自分が見たのも全部閉じていた。

クヌギ、オニグルミ、ハルニレなどの樹液に好んで集まる。腐った果実で吸汁したという例は自分の知る限りでは無い。また花蜜に飛来することは極めて稀で、一例しか観察されていないようだ(池ノ上 2005)。
自分の経験では、樹液に飛来したのは大阪府四條畷市と山梨県大菩薩山麓の2例のみ。何れも遅い時間帯で午後10時を過ぎていた。四條畷では樹液の出ている木の周辺にいるのにも拘わらず、寄って来ないケースを二度見た。何れも日没後、早い時間帯である。一旦、近くまで移動して、夜遅くになって樹液を吸いに来るのかもしれない。

糖蜜トラップにも反応し、比較的よく集まるという。
トラップに寄って来たのは計4回だったと思う。岐阜県と長野県で、それぞれ一回ずつ。四條畷で二回(三回だったかも)だった。時間は何れも夜遅くで、早いものでも9時半だった。
樹液・糖蜜のどちらにも、日没直後に飛来したものは見た事がない。遅々(おそおそ)の御登場なのだ。これは他のカトカラの生態からすれぱ、変わっている。特に樹液・糖蜜に集まる時間が遅いように思われる。多くのカトカラは、日没後、比較的早い時間に樹液に集まって来るのだ。
一応ネットで、シロシタバが樹液・糖蜜に飛来した時刻について言及してあるものを探してみたが、調べた限りでは出てこなかった。

昼間は翅を閉じているが、夜間、樹液や糖蜜を吸汁時には下翅を開く。また、刺激を受けると前翅を広げて目立つ後翅を出すが、これには外敵を驚かす効果があるとされている。この習性を利用として、写真を撮る時は刺激を与えてやるそうだが、やり過ぎると飛んで逃げるので注意が必要みたい。
ところで、下向きに止まっている時は、驚かすと翅を開いて威嚇するのだろうか❓あまり聞いたことがない。おそらく脱兎の如く逃げるんだろな。

下翅を開くで思い出したが、四條畷では夜間はそれ以外の時でも下翅を開いていた。樹液を吸っていない時でも翅を広げているのだ。そんな事はどの図鑑にも一行も書かれていない。
それを確認する為に、翌年再び四條畷を訪れた。

 
(2019.8.11 四條畷市)

 
結果は同じだった。2019年も夜間に木に静止している時は全て下翅を開いていた。
上の写真なんかは、こんな細い木の幹に樹液が出ているワケがないし、実際出ていなかった。露とか他の何かを吸汁していないことも確認している。なのにパンチラなのだ。
もしかしたら、四條畷だけの生態かもしれないけれど、勝手に論を進めてゆく。これは某(なにがし)かの生殖活動、つまり交尾と関係している行為ではなかろうか❓ と言いつつ勘だけの思いつきで言っております(笑)。一瞬、♀が♂に見つけてもらうための行動だと思ったのさ。でも考えてみれば、オスメス関係なしに下翅を開いてたわ。理由は謎のまんまだ。
カトカラ二年生が不遜にも言ってしまうと、カトカラ採集の殆んどが灯火採集で、一部が樹液採集とか糖蜜採集だろう。夜の見つけ採り採集なんてしている人はあまりいるようには思えない。蛾の生態解明が遅れているのは、そういった事も関係しているのではなかろうか。

四條畷では、昼間は翅を閉じて下向きに止まっているが、夜は翅を開いて上向き止まっている事は前述した。ならば、いつぐらいから上向きになり、下翅をいつ開くのだろう❓
これについては、幾つかの観察例を持っているので付記しておく。
下向きから上向きになるのは比較的早いようだ。日が傾き始めた4時、5時台には、上向きに止まっているのを2例ほど見た。但し、下翅は開いていなかった。日没後も薄暮の間は下翅を開いていなかった。これも2例ほど見ている。下翅を開いた個体は暗闇になってからしか見ていない。
来年は見つけても捕獲せず、いつ下向きから上向きに位置を変え、いつぐらいから翅を開くかを観察しようと思う。
朝まで現地にいた事は一度もないので、反対にいつ上向きから下向きになり、翅を閉じるのかも分からない。これも課題で、時間をかけての観察が必要だろう。

交尾は羽化後すぐには行われず、8月下旬頃から行われ、9月に入ってから食樹の根元などに産卵するそうだ。

思うに、シロシタバが生息する場所は河畔、池畔、湿地周辺など、ある程度湿潤な環境ではなかろうか。これは、次に紹介する食餌植物が好む環境と関連しているものと考えている。

 
【幼虫の食餌植物】
バラ科のウワミズザクラ。イヌザクラも食すとされている(両者ともサクラ属ウワミズザクラ亜属に含まれる)。
例外はあるだろうが、主にやや湿潤な環境を好む植物のようだ。

 

 
『原色日本産蛾類図鑑』には、リンゴもあげられている。他にリンゴをあげている図鑑は無いから、ちょっと怪しい。とはいえ、もしかしたら代用食となるのかもしれない。でも同じバラ科でもリンゴ属だから、それも怪しいけど。
なお、シロシタバは「日本産蛾類生態図鑑」にはヤマザクラやソメイヨシノは食べないと書いてある。しかし「日本のCatocala」ではこれらも代用食となると書かれている。自然状態では大抵はウワミズザクラで見られ、孵化幼虫はヤマザクラなどには食いつかないケースが多いそうである。

 
【幼生期】
幼虫を観察したことは全くないので、主に西尾規孝氏の『日本のCatocala(註5)』を参考にさせて戴いた。

 
(出展『フォト蔵』)

 
左下は頭部の画像。
顔がカラフルなんだね。ちょっと可愛い。

 

(出展 2点共『Σ こんちゅーぶ!』)

 
毛虫ではなく、尺取り虫型である。
幼虫の色彩は変化に富み、全体が灰褐色の淡い色調のものから黒い模様が著しく発達したものまでいて、同一種かと疑うほどの差異があるそうだ。

カトカラの幼虫には似通った種が多く、且つ色彩変異が激しいので、同定が難しいと言われている。同定は食餌植物、頭部の斑紋、第5腹節の隆起、分布から総合的に判断する事が必要だという。
ウワミズザクラ及びイヌザクラで幼虫が見つかれば、ほぼシロシタバといっていいだろう。知る限りでは、これらを食樹としているカトカラは他にはいないからだ。但し、絶対ではない。記録されていないだけで、他のカトカラも利用している可能性はあるからだ。
因みにサクラ属を食べるカトカラにはワモンキシタバ、キララキシタバ、ハイモンキシタバの3種がいる。ワモンとキララはウメ、マメザクラ、スモモ等のサクラ属とズミなどのリンゴ属を食する。ハイモンは基本的にはズミなどのリンゴ属だが、サクラ属のスモモも過去に食樹として記録されている。
なるほど。シロシタバもリンゴ属を食う可能性はゼロではないね。

形態からの判別法だが、前述したようにカトカラ類の幼虫には色彩変異があり、同種内でも背面突起がオレンジ、黒、白と様々で、体色も明るい色から黒い色まであって、色だけでは同定は困難とされている。ではどこで見分けるのかというと、区別点として重要なのは第5腹節背面の隆起なんだそうである。シロシタバだけが斑紋がやや横長で幅広い形をしている。ハイモンとノコメは小さめで、ワモンとキララは長く突出するという。また、体表を走るジクザグ模様にメリハリがあって、目立つらしい。

食樹の樹齢15~30年の壮齢木を好む。
若齢幼虫は日中は葉裏に静止しており、成長に従って自身の太さ程の枝に静止するようになる。老熟すると幹の下部や地表近くまで降りてくる。尚、終齢幼虫(5齢)は6月上旬から下旬まで見られ、最終的には80~90mmほどに成長する。
幼虫の葉の食べ方は独特で、枝に止まって葉の主脈から食するため、中央から虫食い穴が出来るそうだ。柔らかい若葉を食べ尽くすと、次には葉柄までも摂食し、食後は尺取り運動で移動する。尚、尺取りで後退も可能なんだそうな。バックもでけるでぇ~なのだ。想像すると、ユーモラスで可愛いかもしんない。それはちょっと見てみたい。

6月下旬辺りから木から降りて、落葉の下などで蛹化する。
ネットでシロシタバの蛹の画像を探したが、見つけることが出来なかった。なので、替わりにムラサキシタバの蛹の画像を添付しておきます。

 
(出展『Lepidoptera and their ecology』)

 
如何にも蛾然とした蛹だね。
細部の形態はシロシタバとは違うのだろうが、基本的な姿はあまり変わらないだろうと思われる。

今年も引き続き生態については観察していこうと思う。けど、夜の森を一人で歩き回るのはヤだなあ…。

                    おしまい

 
あとがき

長かった…。
このカトカラ関連の連載ではシロシタバが最も長くなったのではないだろうか。それだけ思い入れのあるカトカラだったのだろう。
という事は、読む側も大変だったのではなかろうか。
脱線の連続で長かったし、低俗エロ表現も連発だったしね。
それに最後までお付き合いして下さった方は偉い。本当に感謝します。有難う御座ぇますだ。

余談だが、第一章を書き始めた当初は、本気でアミメキシタバの回のように物語仕立てにしてやろうと思っていた。網目男爵に続く白い騎士の物語である。実際、その路線で30行くらいは書いた。
だけど、書いてて直ぐに気づいた。今まで各カトカラについて書き連ねたことはフィクションではない。時々誇張したり、フザけたりもしてきたが、基本はあくまでもノンフィクションである。けれど男爵や騎士の物語となると、フィクションの領域になっちゃう。だいち、フィクションを続けるのは未知の領域だ。小説なんて書いたことが一度もないのである。前回、途中で投げ出した『網目男爵物語』が小説を意識して書いた初の文章なのだ。どうみても無理がある。ただてさえ書くのが大変なのに、そうなると益々まとまりがつかん。そんな事までやりだしたら地獄だもんね。

今回の小タイトルは、当初『攻めた解説』だった。
しかし、つまらないので第四章で使おうとして結局やめてしまった「天鵞絨(びろうど)」という言葉を持ってくることにした。
びろうど(ビロード)はポルトガル語の「veludo」、またはスペイン語の「velludo」からきた言葉で、本来は毛織物の名称だ。この織物はポルトガル商船から京都に伝わり、慶長年間より織り始められたという。結構、歴史は古いのだ。
漢字は、生地が光沢のある白鳥の翼に似ているところから「天鵞絨」の字が宛てられたという。「天鵞」が白鳥を意味し、「絨(じゅう)」が毛の厚い織物を意味している。
と云うことは、もしかしたら「びろうど」とは、元々は光沢のある白い織物のことを指していたのかもしれないと考えた。如何にも、あの美しい下翅に相応しいタイトルじゃないかと思い直したのだ。

褒章は、紫綬褒章とかに使われているから解る人も多いと思うが、勲章という意味。他にメダル、リボンという意味もある。
シロシタバは大きくて立派だし、美しい。世界的に見ても人気があり、評価も高い。それに、最初に見つかった場所が日本というのも褒章に値すると思ったのである。

次回からは、もう少しタイトに書こうと思う。
たぶん書きたくともネタがあまり無いのが2、3あるから、頑張らなくとも短くなる回もありそうだ。ラッキーである。素直に嬉しいわ。

 
(註1)織物のビロードやベッチンみたいで
布製品として両者は見た目では区別がつきづらく、混同され易い。しかし製法に違いがある。
ビロードは、タテ糸パイルの比較的毛足の長い絹やレーヨンで作られたパイル織物の一種。ポルトガル語のveludoが訛ってビロードと称されるようになったとされる。英語ではベルベットと呼ばれる。またスペイン語はベジュド(velludo)、フランス語ではベロア(velours)、和名では天鵞絨(てんがじゅう)と呼ばれる。
一方ベッチン(別珍)は、ヨコ糸パイルの比較的毛足の短い綿で作られたパイル織物の一種を指す。英語名はベルベッティーン(velveteen)。綿ビロードとも呼ばれる。
ベッチンは、日本にはポルトガルからもたらされ、16世紀の戦国武将の帽子や外套に使われた。
また、和名である天鵞絨の天鵞は白鳥の意味であり、伝来した当初は絹製の白い生地を指していたためと書いてあった。
( ̄O ̄)おーっ、自分の見立て通りだ。初期の頃は特に白いビロードの事を指していたのではないかと云う推理は、ビンゴだったってワケだね。

 
(註2)ムラサキシタバ
学名 Catocala fraxini。
日本で最も大きく、最も珍重されるカトカラ。
ヨーロッパから日本まで分布し、日本では北海道、本州中部以北の山地に多い。8~10月に見られ、幼虫はヤマナラシやドロノキの葉を食べる。

 
(註3)論文
New catocala species (lepidoptera, noctuidae) from China

 
(註4)世界のカトカラ

 
月刊むしの昆虫図説シリーズの中の一冊。

 
(註5)日本のCatocala

 
日本のカトカラの生態について最も詳しく書かれた図鑑。特に幼生期の生態解明には大きな足跡を残した。

 

2018′ カトカラ元年 其の11 第三章

 

   vol.11 シロシタバact3
   『パンチラを追え』

 
シロシタバの初採集から中2日後に再び出撃した。
中2日間空いたのは甲子園に高校野球を観に行っていたからなのだ(註1)。

 
2018年 8月22日

   

 
これを買っている時点で、又しても四條畷なのらー。
こないだは思いの外、シロシタバが5♂1♀も採れたので今日もシバくのだ(^o^)v
とは言いつつも、本日は小太郎くんが途中から参戦してくる事になっている。四條畷でシロシタバを採った報告をしたら、行きたいと言ってきたのでホントはその案内ってワケ。ゆえに冒頭のスーパーマーケット フレスコの分厚いカツサンド(註2)も彼の為に買ったものだ。マジで旨いから食ってもらいたいと云う気持ちからだったが、今日は車で来るという事なので(註3)、帰りに駅まで送ってもらうつもりだし、まあその駄賃みたいなもんでもある。あの恐怖に満ちた長く辛い夜の山道を一人で下る事を考えれば安いものだ。

 
今宵は月夜。

 

 
懐中電灯なしでも山道も何とか見える。
夜の山を一人彷徨(さまよ)うのにもすっかり慣れた。人工的な明かりが全く無い世界は恐しくもあり、美しくもある。

謂わば、夜の蛾採りはミステリーである。そして、スリルとサスペンスに満ちている。中でもライトを焚かない夜間採集は暗闇が支配する世界。ホラーであり、スリラーでもある。ミステリーな上にスリルとサスペンスに満ち、更にホラーでもあると云う謂わば全部乗せスペシャルなのである。
ここでふと疑問に思って、ついミステリーとサスペンスとスリラーとホラーの違いについて考えてみた。夜の山に一人いると、想念がどこまでも広がりがちだ。闇と対峙しているうちに、普段ある意識と内奥にある意識との間にある薄い膜のようなもの、心理的障壁や夾雑物が消えるのかもしれない。

その手の映画をAはミステリー映画、Bはサスペンス映画と言ったりする事は多い。それをホラーやスリラーとする人だっているかもしれない。ジャンル分けが人によってバラバラなのだ。自分の中でもそれら似たような言葉がゴッチャになってるところがある。その線引きって、どの辺りにあるのかなと思ったワケ。
したら、急に筆がバッシバッシに走り始めた。でも途中で、こりゃマズイ。大脱線になるのは必至だと気づいて急制動。
脱線ばかりしていては話が全然進まない。徒(いたずら)に長くなるから、それについては最近自分でも反省しているのだ。無駄な文章が多すぎ。
このお題に関しては後日、稿を改めて書けたら書こう。だいち、この日は小太郎くんが後から来たから、全然怖くなかったのだ。それだと論旨にリアリティーを欠きそうだし、タイムリーな話題とは言えまい。

暗闇の世界から暫し離れ、待ち合わせ場所へ行く。
小太郎くんが車でやって来たのは、日没後の7時半から8時の間くらいだった。
この日は小太郎くんには2頭ほど採ってもらったっけかなあ?(註4)。でも最初の1頭しか覚えていない。

一番個体数が多かった森に差し掛かった時だった。
森の入口で、小太郎くんが早くも木に止まっているのを見つけた。三日前、自分が最初に採った個体もその木に止まっていたし、止まっている高さもほぼ同じだったから驚いた。御神木かもと思ったよ。もっとも自分の場合は止まっているのに気づかずに飛んでったけどね。その辺のてんやわんやの件(くだり)は前回に詳しく書いたので、そちらを読んで下され。

記憶は朧ろだけど、下翅は開いていなかったと思う。小太郎くんは、止まっているそれを毒瓶を被せて採ったからだ。ワテの毒瓶を貸したのだが、コンビニで売ってるワンカップ焼酎で作ったものゆえ、大きさ的に翅を閉じて止まっているシロシタバでギリの口径なのだ。もし翅を開いていたなら、鱗粉が傷ついてしまうから網で採っていた筈だ。

 
【毒瓶】

 
でも小太郎くん本人に電話で確認したところ、下翅は少しだが開いていたと言う。清純チラ見せパンチラだったワケだね。言われてみたら、翅を開いていたような気もしてきた。
これで人間の記憶が如何にいい加減で曖昧なのかがよく分かったよ。同じ木だっただけに、時間の経過と共に自分が採った夕方4時半の時の記憶とゴタ混ぜになってしまい、いつのまにか夕方なら翅を閉じていた筈だという概念に支配されてしまったようだ。結構、自分の都合の良いように脳が記憶を改竄してるってことは有るんだろなあ…。

ここで今一度、パンチラ問題について説明しておこう。
シロシタバを含むカトカラ(Catocala)属は、上翅が木肌に似た地味な色だが、下翅は黄色や紅色、紫など鮮やかな色を持つものが多い。しかし、普段は昼でも夜でもその鮮やかな色を隠して木に静止している。これは鳥などの天敵から身を守る為だと言われている。つまり上翅の地味な色柄を木と同化させることによって、天敵の眼を欺くと云う高度な生き残り隠遁術なのだ。
そのせいか、下翅を見せる機会は少ない。飛んでいる時と、樹液などの餌を摂取している時くらいにしか下翅を開かないのだ。あとはイレギュラーな例として、天敵に襲われそうになったら、鮮やかな下翅を見せて威嚇するとも言われている。
これがカトカラ属全般の基本的な生態だろう。それが白き女王様ったら、此処では夜になると樹液を吸ってるワケでもないのに、恥ずかしげもなく御開帳。おおっぴらにおっぴろげていらっしゃる。🎵サービス、サービス(あっ、ここ、エヴァ(ヱヴァンゲリヲン)の次回予告の葛城ミサトの口調ねっ❤)。
しかし、こういう生態は自分の知る限りでは聞いた事がない。どこにも書いていないのだ。だから今日はその生態が、はたしてあの日一日だけのものなのか、それとも通常の行動なのかを確かめるという目的もあった。

因みに止まっていた向きは上向きだった。これは覚えているし、小太郎くんにも確認したから間違いない。
カトカラの多くは昼間は下向きに止まっているが、夜になると上向きに止まる。前回書かなかったけれど、一番最初に採った個体だけが日没前の4時半で、驚いて飛び立ったから不明だが、日没後に見た他の5頭は全て上向きに静止していた。
でも何で昼間は下向きに止まってるんだ❓
逆さになって何の得があるのだ❓そこには何らかの理由がある筈なのだが、全くもってその理由がワカラン。

それにもう一つ疑問点がある。では、いつ下向きから上向きになるのだ❓夕方❓夜❓何時何分❓
また、いつ上向きから下向きになるの❓明け方❓朝❓それとも昼❓
これに関しても詳しく書かれたものを見たことがない。
これら疑問については、おいおい解き明かしていくつもりだ。出歯亀探偵、引き続きパンチラも追うぜ。

この日の2頭目は、たぶん自分が見つけたと思う。
池の畔側で、シロシタバがあまり好まない場所なのか、池側ではその一度だけしか見たことがないから覚えてる。上向きに止まっており、下翅は開いていなかった。
後にも先にも日没後に下翅を開いていないノーパンチラ、貞操の固い個体はコレだけだった。この日は前回にも増して個体数が多く、小太郎くん曰く10頭以上は見たそうだが、木の幹に止まっていたものは全て下翅を開いたパンチラ状態だったそうだ。
その割りには採った記憶があまり無いなあと思ってたら、これも小太郎くんの言で疑問が解けた。なぜかと云うと、殆んどの個体が翅が欠けていたり、破れたものばかりで、スルーやリリースしたからみたい。話を聞いているうちに、そういえばそうだったと思い出したよ。
『ほらね、やっぱり下翅を広げてるでしょ。』と小太郎くんに自慢げに言ったわ。彼もちゃんとそのオラの言動は憶えてたし、それで概ね合ってるだろう。
記憶がだいぶ甦ってきたぞ。そういえばこの日はそれだけいたにも拘わらず、1頭たりとも樹液に飛来しなかった。やはり夜遅くにならないと樹液に来ないのか❓そんなワケあるかいと思うのだが、事実なんだから何らかの理由なり意味なりを考えざるおえない。(T_T)もう謎だらけだよ。

情けないことに鮮明に記憶に残っているのは、帰る間際に採ったものくらいだ。
最後に前回♀が採れたウワミズザクラの大木に寄ったのだが、見たところいないので諦めて帰ろうとして振り向いたら背後の木の枝葉に止まっていたのだ。不意だったから、中々に衝撃的だった。
高さは1.8メートルくらいで、幹ではなくて枝と云うか常緑樹の葉っぱに止まっていたのをよく憶えている。葉っぱに止まってるのは珍しいから、映像記憶として鮮明にメモリーされている。勿論、パンチラ全開だった。
今思えば写真を撮っておけば良かったと悔やまれる。パンチラの証拠写真を撮るなら、高さ、近さは申し分なかったし、絵的にも素晴らしいアングルだったのだ。しかも鈍感な子で、近づいても逃げる素振りは微塵も無かった。謂わば最高の条件が揃ったシャッターチャンスだったのだ。終電の時間が気になっていたのだろうが、写真を撮る時間なんてたかがしれている。勿体ない事をした。

結局、この日の個体は翌日に撮った写真しか残っていない。

 

 
お尻の形からすると、♀だね。
次は、たぶん同じ個体の裏面。

 
【裏面】

 
裏面は生成(きなり)色。所謂オフホワイトだ。表よりも薄汚れた感じで、あんまし綺麗じゃない。

探しても展翅写真がナゼか無い。
なので、前回のものをひと纏めに撮ったのを載せて御茶を濁そう。

 

 
この夜に採集したものは、どうせ面倒クセーからと写真を撮らなかったんだろうね。

 
 
2018年 9月7日

 

 
線路の両側の稲穂が金色に輝いていた。

この日は青春18切符で遠路はるばる山梨県までやって来た。
目的は大菩薩嶺の麓で帝王ムラサキシタバ(註5)を狙う為だ。
とはいえ、ライトトラップなんて持ってないからペンションのライトトラップで何とかならんかなと思ったのである。
このペンションは虫屋の間では有名で、毎夜ライトトラップが焚かれているのだ。

 
【ペンション すずらん】

 
ライトトラップはペンションの裏というか横にあり、巨大である。

 

 
横幅が4メートルくらい、高さは3メートルくらいはあったかなあ。
ここにシロシタバが飛んで来た。時刻は比較的早い時間だったと思う。たぶん7時か8時辺りだったかな。

 
【シロシタバ】

 
スマン、間違い。写真のデータを解析したら9時過ぎに撮られたものだったよ。やっぱり古い記憶というものは当てにならん。

ライトトラップに飛来したものはパンチラなし。
灯りに寄って来るカトカラは、翅を閉じるものが多いようだ。ネットの画像なんかでも閉じているものが多い。中々、翅を開いてくれないというコメントも散見されるから、閉じるのが基本だと思われる。
こうして見ると、上翅の黒いスリットのような柄が目立つね。殆んど下翅を開いているものしか見てないから、あまりそっちには目がいかなかったんだろ。シロシタバの苔(地衣類)みたいな上翅は、世界中のカトカラを見回しても唯一無二だが、この黒いスリットが入るカトカラも他には存在しない。
とは言っても、もはや全然興味が無かった。一回やったら飽きるような酷い男なのだ。
それに何だか小さい。四條畷の奴と比べて断然小さく、細いような気もして重量感をあんま感じない。もう魅力半減なのだ。萎えても致し方なかろう。

翌日の夜にはペンション入口の外灯の柱に鎮座していた。飛来時間は同じく9時くらいだったと思う。
この時もパンチラなし。翅は閉じられていた。
翅がコレも少し欠けていたので、蛾LOVEの高校生に譲ったっけ。いや、もしかしたら別な人だったかもしれない。
ここには3泊したが、見たのはその2頭のみだった。

大菩薩山麓で採ったシロシタバ♂を展翅画像を貼り付けとこっと。

 

 
(・。・;あれれっ❓、翅が破れてないぞ。
おっ、そうか。これまた健忘太郎だ。樹液に来たのも採ったんだわさ。たぶん、それだね。
翅は開いていたと思う。なぜなら閉じていたという記憶がないからだ。樹液を吸ってる時は下翅を開くのが当たり前だから、もし閉じていたならば逆に強く印象に残っている筈だ。それが無いという事は、閉じていなかったという三段論法でしかないんだけどもね。
と云うことはライトトラップに来たものは翅が破れていたのでスルーしたんだね。そう云えば持って帰った記憶は1頭しか無い気がする。

あっ、今さら8月22日に四條畷で採った個体の画像が出てきた。随分と後になって撮られたものだから、気づかなかったのだ。

 

 
カトカラの展翅は何が腹立つかって、時間が経って乾燥が進むと触角に狂いが生じてくる事である。
上の画像なんかは、元々はもっと整っていた筈だ。こんなアッチ向いてホイを良しとするワケないのだ。

 

 
両方とも♀だ。
そういえばコレって、たしか秋田さんに蝶屋的展翅だと指摘されてたので、上翅を下げてみたんだよね。
なるほどで納得したよ。確かに、このバランスの方がシックリくる。
同時に、それで画像が後になって撮られた理由も氷解した。展翅バランスが変わったという事は、きっと山梨の個体よりも後に展翅されたものだ。あんまし記憶に無いけど、後になってから軟化展翅したとしたら、話の辻褄が合う。

あっ、よく見ると前肢がもふもふで可愛い(о´∀`о)

 
                     つづく

 
追伸
この第三章から小タイトルを毎回変えることにした。
と云うわけで、第ニ章にも新たにタイトルをつけて、本文も一部手を入れた。
小タイトルの話が出たので、ついでだから書き忘れていたことを書こう。
第一章の小タイトル『ホワイト・ベルベット』のモチーフはデヴィッド・リンチ監督の映画『ブルー・ベルベット』。通の映画好きならば誰もが知っているリンチの代表作であり、カルトムービーの金字塔の一つだ。エキセントリックにしてファンタジック。そしてスタイリッシュ。何度見ても飽きない。
勿論、怪優デニス・ホッパーのガスマスクとか変態っぷりも光るが、一番好きなのはディーン・ストックウェルが「お菓子のピエロ」を歌うシーンだ。映画のストーリーとは直接関係ないのに、とても心奪われる。
そういえば、これまたストーリーとは直接関係ないローラ・ダーンの尋常じゃない泣きじゃくりっぷりがメチャンコ怖いんだよ。全然怖いシーンじゃないんだけど、何だか矢鱈と怖いのだ。
この映画は闇のシーンが多い。それが夜のカトカラ採集と重なり、夜道を歩いている時に珠にこの映画の事を思い出したりもした。更にそこにシロシタバのベルベッドのような下翅とがリンクしたゆえに思いついたタイトルだろう。まあ、映画へのオマージュだね。

第ニ章の『白き、たおやかな女王』のモチーフは北杜夫の小説『白きたおやかな峰』。但し、インスパイアーされたのは題名だけ。ヒマラヤの高峰に臨む登山家たちの話で、その内容とは全く関係がない。

今回の第三章は特に決まったモチーフはない。パンチラという言葉が気に入ったので、単にタイトルに使いたかっただけだ。カッコつけたがると同時にフザけたい人なのだ。
いや、もとい。あるっちゃある。白い下翅を何度も見ているうちに『まいっちんぐマチコ先生』みたいやのうと思った覚えがある。マチコ先生といえば純白パンティーだ。でもってパンチラなのだ。すっかり忘れていたが、その辺が深層心理にあったのだろう。
一瞬、タイトルを『まいっちんぐマチコ先生』に変えてやろうかと今思ったが、やめとく。フザけ過ぎだと叱られそうなんだもん。

次回のタイトルは未だ考えてないから、どうしょっかなあ…。でも全然思い浮かばない。結構、タイトルを考えるのって大変なんだよね。

 
(註1)高校野球を観に行っていたからだ

準決勝と決勝、2日連続で甲子園に行った。

 

 
そう、大阪桐蔭が春夏連覇した時だね。
但し、決勝戦は入場出来ずに近くの喫茶店でTV観戦してた。満杯で入れなかったのだ。下の画像を拡大すると、外野席までもが売り切れになっていることが分かります。

 

 
そういえば毎年恒例の『(@@;)べろ酔い甲子園』と題したシリーズをこの年は結局書いてないんだよねー。選抜の(@@;)ベロ酔いレポートは書いたんだけどさ。

 
(註2)クソ分厚いカツサンド

スーパー・マーケット フレスコの名物カツサンド。
これについては拙ブログにて『フレスコのカツサンド』と題して書いた。

 
(註3)今日は車で来るということなので

こんな事にまで註釈を付ける必要性は無いと思うが、小太郎くんが遂に車を買ったのだ!何か言いたい。
勿論、この日の帰りは車で送って貰ったのだが、車を買って初めて助手席に乗せたのがオラらしい。物凄く残念そうに言われたよ。アンタ如きにと云う気持ちが言外に溢れてとったわさ。
若い女の子じゃなくてゴメンねー(・┰・)

 
(註4)小太郎くんには2頭ほど採って貰ったのかなあ

本人に確認したら、最初の1頭のみだった。この日は発生も終盤なのかボロばっかだったのだ。

 
(註5)ムラサキシタバ

 
日本におけるカトカラの最大種。しかも、美しくて稀な種なので人気が高い。
 

2018′ カトカラ元年 其の11 第二章

 
   Vol.11 シロシタバ act2

  『白き、たおやかな女王』

 
 
うす暗い森の中に足を踏み入れた瞬間だった。
Σ( ̄ロ ̄lll)わちゃっ❗、突然、目の前の木から何かが飛んだ❗
( ̄□ ̄;)デカッ❗❗もしや…と思った次の瞬間、仄暗い中で下翅の白がチラリと見えた。間違いない、白き女王だっ❗❗

しかし、足が固まる。普段ならば即座に反応し、鬼神の如く猛然と走り出すのだが、咄嗟に動けなかった。
目だけで後(あと)を追う。彼女は森の奥へと飛んでゆく。網膜に映る画像がスローモーション化する。
突然訪れたチャンスに驚いて固まってしまったというのもあるが、下手に走って追い掛けると相手に必要以上の恐怖感を与えかねない、これ以上驚かせて本気で逃げられたらマズイと思ったのだ。どうしても採りたいという気持ちが、そう云った慎重な作戦を選ばせたのかもしれない。
それに場所は道なき森の中のキツめの斜面だ。足下が悪過ぎる。追い掛けるにしても飛翔体から目を切ってしまう可能性が高い。一瞬でも目を離してしまえば見失いかねないと判断したのだ。止まった場所をある程度把握できれば、そこからジックリ攻めてけばいい。

彼女は真っ直ぐ森の奥へと向かっている。全身が巨大な目になったかのようになる。しかし、網膜に映るそれはどんどん小さくなってゆく。これ以上離れるとヤバイ。見失う可能性がある。心の中で、止まれ、止まれ、止まってくれと悲痛なまでに念じる。

祈りが通じたのか、やがて途中で大きく右に旋回した。半円を描くような軌道で再び視界に戻ってくる。そして突然、フッと消えた…。

一瞬、見失ったかと思って、(-“”-;)💦焦る。
でも消えたという事は、その周辺の何処かに止まったに違いない。距離は約20mってところか…。その辺りの景色を脳ミソにシッカリと刻み込む。そして、逸る心でザックから網を取り出して組み立て始める。
気持ちを落ち着かせようとするが、組み立ててる間に心がどんどん昂(たか)まってきた。興奮と期待、絶対に結果を出さなくていけないと云うプレッシャー、もし逃がしたら…という怖れと不安、そしてエクスタシーを激しく希求する動物的本能、それらがグジャグジャに交ぜ合わさって溢れ出しそうになる。背中がゾクゾクしてきた。この緊張感、堪んねぇ。久し振りに味わう最高クラスのギリギリ感だ。ワクワクする。

慎重に斜面を登り、距離を詰めてゆく。
やがて近くまでやって来た。目を皿のようにして周辺の木の幹を凝視する。彼女は忍者ばりに木と同化して止まっている筈だ。その木遁の術、見破ってやるぜ。

あれれー?、けどワッカラーンヽ( ´△`)ノ
本当にこの辺に止まったのか❓作戦失敗❓
焦れて一歩踏み出したら、飛んだ❗
\(◎o◎)/ゲッ、何処にいたのだ❓全然ワカランかったぞ。
今度は追い掛けた。危険を感じてか、彼女はスピードを速めてる。コチラもスピードを上げる。ある程度の距離を詰めておかなくては見失いかねない。

止まった❗
よし今度こそ、その隠遁の術を見破ってやる。
しかし、やっぱワカラーン。ワシの眼は節穴か。苛立ってくる。もしかして見失ったか❓
不安に駆られて一歩踏み出したら、また飛びよった。
なしてーε=ε=ε=ε=(ノT_T)ノ。再び追い掛ける。

そして、又しても同じ事を繰り返す。
(ToT)ひぇ~、また飛びやがった❗
走りながら思う。シロシタバって鈍感だと何かに書いてあったけど、全然そんな事ないじゃないか。
それにしても、ワシャ、何をやっとるのだ❓森の妖精の悪戯かよ❓ エンドレスで延々この追いかけっこが続いたりして…。悪い夢でも見てる気分だ。
その間も目は逃すまいと飛ぶ彼女を追尾している。

やがて、森の端で止まった。
(=`ェ´=)追い詰めたぜ。ここなら外からの光が入って明るい。てめぇの姿、次こそ暴いてやる。

5メートル程手前で、やっと視認できた。高さは約2メートル。翅を閉じて静かに止まっている。
やっぱデカイ。今年見てきたカトカラの中では断トツの大きさだ。
今度こそテゴメにしてやり、この追いかけっこに終止符を打ってやる。慎重に木の下まで近づき、そっと下から網を伸ばす。
久々に緊張感で💓ドキドキし過ぎて、網を振る前にフッと笑ったよ。たかが虫にここまで必死って滑稽すぎだろ。我ながらアホだ。笑える。
こういう時はハズさない。力が適度に抜けてるからだ。

網の枠で、止まっている下をコツンと軽く叩く。
ハッ( ̄□ ̄;)❗驚いて右に飛んだ。
でも、そこが狙いじゃい❗
筋肉が収縮し、躍動する。
ダアリャアーι(`ロ´)━○、秘技❇カチ上げ斬撃剣❗
その刹那を見逃さず、ネットを空中でブン殴るようにして左から右上へと💥一閃した。

素早く手首を返して網先を捻る。
ネットを斜め上に掲げたまま一瞬静止する。我ながら美しいフォロースルーである。
(* ̄ー ̄)決まったな…。クリーンキャッチした確信がある。

すかさず網に目をやると、しっかり影が見えた。
感情が爆発する。(#`皿´)ダボがあー❗、ざまー見さらせ。まあまあ天才をナメなよ❗

でも心を弛めるにはまだ早い。肝心なのはここからだ。もし網の横から逃亡されでもしたら、全てが水の泡だ。それだけは何としても避けねばならぬ。己の能力の詰めの甘さを呪って、木の幹に千回、血が出るまで頭を激しく叩きつける事となる。

それはヤだ。この際、毒瓶方式は止めて、確実を期して悪魔的伝家の宝刀、ファイナル・ウェポンを登場させよう。

逃げないように、地面に置いた網の枠を膝でおさえながらザックから注射器を取り出す。用意周到、注射器の中には既にアンモニア液が入っている。
狙いをつけてエイやっ、(`Δ´)💉ブスッ❗
Ψ( ̄∇ ̄)Ψケケケケケ…。死神博士、注射針をブッ刺し、悪魔の毒液を注入する。
クワッ❗、彼女は驚いたように一瞬バッと羽を大きく開いた。そして、次の瞬間にはゆっくりと力を失っていき、静かに事切れた。
もし彼女が声を発する事が出来たなら、毒液を注入した瞬間に断末魔の声をあげていたに違いない。心がちょっとだけ痛む。安楽死とはいえ、殺しには変わらない。酷い所業だ。やってる事は所詮はマッドサイエンティスト。こんな方法で生き物を殺(あや)めまくっとるワシって、ろくな死に方せんで(-“”-;)

しかし、憐憫の情よりも喜悦の感情の方が遥かに勝(まさ)る。ゆっくり、じんわりと幸福感が全身に拡がってゆく。
エクスタシーは狩猟にこそある。それが男性にとって最も大きな本能的快楽なのだ。

我、戦いに勝利せり。全身全霊の渾身の戦いだったぜ。アリガトネ。
網から出して、そっと手の平に乗せる。

 
【シロシタバ Catocala nivea 】

 
地ベタにへたり込む。
朝から探し回って、4時半になって漸く拝めたよ。
安堵が更に身体の力を弛めてゆく。

 

 
手にはズッシリとした感触がある。存在感が半端ない。
シロシタバはその立派な大きさもさることながら、この苔(地衣類)みたいな渋い上翅と下翅のビロードのような白の組み合わせが素晴らしい。上品な美しさを醸し出している。たおやかで、どこか気品があるのだ。去年見たものよりも新鮮なだけに、より美しいと感じる。

あっ、尻に毛束があるから、♂だね。彼女じゃなくて彼だ。とはいえ、蝶も蛾も自分にとっては女性だ。擬似恋愛なのだ。だから男に恋焦がれて追い回すって感覚は受け容れ難い。あちき、バイセクシャルの性癖は無いんじゃもーん。

改めて下翅の白を仔細に見る。
その白は、ただの白ではなくて、ベルベットような質感を持つ白だ。滑らかで色に奥行きがある。ふわふわで撫で撫でしたくなるような毛並みに暫し魅入られる。

次に上翅に目を移す。
渋いグレーにエメラルドグリーンの紋が散りばめられている。(≧∀≦)渋カッケー。神秘的ですらある。宇宙を感じるよ。
こんな柄の上翅を持つカトカラは他にはいない。日本のみならす、海外だっていない。ホントの苔みたいだ。ウメノキゴケとかの地衣類にソックリじゃないか。

 
(出展『いきものは おもしろい!』)

 
そりゃ木肌と同化しちやってワカランわな。精度の高い立派な擬態だ。あんた、偉いね。

 
やがて闇が訪れた。
そして、直ぐに2頭目が採れた。今度も♂である。
木の幹に下翅を広げて止まっていたのだ。楽勝でゲット。

その次も同じく下翅を広げて止まっていた。そのまた次も同じ状況だった。2つとも♂である。
もしかしてシロシタバの♂って、夜は下翅を出して止まっているものなのかあ❓或いは♀へのアピールだったりして…。でもそんな事、図鑑にも文献にも一切書いてなかったぞー。

そして、ウワミズザクラの大木で♀も見つけた。
これまた下翅を広げていた。♀もそうなら、♂のアピールとかは関係ないな。けど、だったら何でパンツ丸見えなの❓まさか男前のワシへのアピールではあるまいに。いやいや♂もパンチラなのだ。だからぁー、オラはバイセクシャルじゃないっつーの(# ̄З ̄)

考えてもコレといった意味が他に思いつかないが、とにかくパンチラは目立つ。ここまで5頭のうちの4頭が下翅を開いていた。夜だとシロシタバの見つけ採りは超簡単やないけ。何処にも書いてないけど、ムラサキシタバ(註1)とかも夜に行けば下翅を開いていて、簡単に見っかったりするんじゃねえの~❓

とはいえ、どこにも書いてないと云う事はたまたま今日だけがそう云う生態なのかもしれない。本日はシロシタバのお祭り、年に一度のパンチラフェスティバルなのかもしれない。
もしくは、この場所のシロシタバだけが特異な生態を持っていると云う事も考えられる。
あまり現実的な考えとは思えないけどさ。

そう云えば、もう一つ疑問点がある。
樹液に飛来したのは最後の6頭目だけだった。しかも時間は帰る間際の午後10時過ぎ。それまで他のカトカラは山ほど樹液に来ていたのにだ。マメキシタバ、オニベニキシタバ、パタラキシタバ、コシロキシタバ、この地に生息するであろうカトカラはシロシタバを除いて日没後すぐに全員集合だった。だから不思議感が拭えない。ゲットしたシロシタバのうちの2頭は樹液の出ている木の周辺の木にいたから、日没後すぐに樹液に来てもオカシクない状況だったのに何で❓
シロシタバが樹液に来るのは遅い時間帯なのか❓
これまた文献には、そういった事はどこにも書かれていない。そもそも常に樹液にそんなに夜遅くに飛来するカトカラなんて聞いたことがないし、経験上も憶えがない(註2)。

色々と疑問は残るが、6頭も採れれば御の字だ。気分は頗(すこぶ)るいい。
午後10時15分撤退。谷を下り始めた。

別に書かなくともいい事だけど、帰りはそこそこ大変だった。メインの下り道が崖崩れで通行止めになっていて、他のルートを使わざるおえなかったのだが、この道が精神的にも肉体的にもキツかった。

満ち足りた気分は下り道を歩き始めて直ぐにフッ飛んだ。昼間でも一度も歩いた事がない道を歩くのは不安なのに、夜ともなるとその精神的負荷は何倍にもなる。ルートを外れて迷う可能性は格段に上がるし、所要時間も読めない。それに付随して終電に間に合わないかもしれないという焦りも生じてくるからだ。

歩き始めてさして間もなく道は真っ暗となり、ビビった( ̄ロ ̄lll)
辺りは樹木が鬱蒼としており、不気味極まりない。今宵は月が隠れていて、光が全く入ってこないのだ。
👻お化けとか本気で恐いマックス怖がり屋さんとしては、チビりそうな様相である。

おまけにダイソーで買った100円の懐中電灯がチンケ過ぎて半泣きだ。光量が弱いし、接触が悪くて時々消えやがる。その都度叩いて復活させるものの、いつブッ壊れてブラックアウトするかもしれへんと思うと、その恐怖感は尋常じゃない。ユルい性格なので、予備の灯りも持ってないのだ。もしも灯りが消えたら、発狂するか、醜態さらしてワンワン泣き喚きそうだ。
オデ、オデ、ココロガオレソウ。ワタス、キオクソウシツニナリマスデス。サヨウナラ。

道もどんどん悪くなり、石がゴロゴロ転がってて歩きにくい。荒れているのは、あまり人が使わない登山道なのだろう。
勾配もかなりキツくなってきた。そしてステップ幅の短い急な階段になった。コケたら、谷下まで転げ落ちるだろう。確実に大怪我するレベルだ。しかも水が滲み出していて滑りやすいときてる。
泣きたくなる心を懸命に抱きしめる。ここで死ぬわけにはいかんのだ。採ったシロシタバをまだ展翅もしてないのに死ねるか、ボケ。死んでも死にきれんわ。

一時間近く歩いて、ようやく住宅街に通じる暗い舗装路に出た。
大きく息を吐き出し、一旦立ち止まる。そしてペットボトルのお茶を飲む。喉が渇いている事さえ忘れていた自分に、何だか可笑しくなって笑みがこぼれる。

道の奥、眼下には街の灯りが瞬いていた。

                    つづく

 
一応、この日に採ったものの展翅画像を並べておこう。

 

 
上3つが♂で、一番下が♀である。
死んでも死にきれんと言ったわりには、酷い展翅だ。
カトカラ一年生、まだまだ展翅が下手クソだよなあ。上翅を上げ過ぎてるし、触角も整えきれてない。まだマシなのは♀くらいか。

あれっ❓、数が合わないな。全部で6頭なのに4つしか展翅画像がない。
おっ、そうだ。翅が破れてたから、修理用にと敢えて展翅しなかったわ。全然、修理してないけど。

 
追伸
この文章は去年酔っ払って書いていたせいか、徒にダラダラに長くなり収拾がつかなくなった。年が明けて文章を整理しようと思ったが、どこをどう切り捨てていいのかも分かんなくなって一部書き直すのみで断念。ソリッドさがないし、テンポも悪いけど、もう書き直すのが嫌になって、そのままいく事にした。絶不調なので投げた感じだ。まあ、そう云う事もある。そのうち調子が出てくることを祈るしかないね。

パンチラ問題は、このあとの回も引き続き取り上げてゆきます。去年2019年までの知見は全部織り込んでゆくつもり。

 
(註1)ムラサキシタバ
(2019.9 白骨温泉)

 
シロシタバに並ぶ大型のカトカラ。且つ美しく稀なことから人気が高い。他のカトカラは既に連載に登場していて画像も紹介しているが、ムラサキシタバのみ未登場なので貼付しておいたなりよ。

 
(註2)常に樹液に遅く飛来するカトカラなんて…
近畿地方の経験だと大概のカトカラは日没後まもなく現れる。カバフキシタバのみが8時を過ぎないと飛来しない。経験値が低いから何とも言えないが、今のところミヤマキシタバ、ベニシタバ、ムラサキシタバも遅めの時間帯の飛来しか見たことがない。中でもムラサキシタバは9時半以降と遅かった。