奄美迷走物語其の17

 第17話『スナフキンのように』

 
2021年 3月31日
小さい頃、アニメの「ムーミン」で、スナフキンが言ってた。
『一度決めたら最後までやりぬく、それが俺の人生さ』

いよいよ、今日が最終日だ。
泣いても笑っても虫採りができるのはこの日だけ。明日には大阪に帰らなければならない。
絶不調で迷走し続けてきたが、スナフキンの言葉に倣い、一度決めことは最後までやりぬく。今までだってずっとそうだったし、これからだってきっとそうだ。こんなにボコられた採集行はあまり記憶にないが、今さら方針は変えない。変えてたまるか。

ターゲットは、まだ採れていない春型のアカボシゴマダラ(註1)の雌雄とフタオチョウの♀。

 
【アカボシゴマダラ】

【フタオチョウ♀】

(出展 2点共『日本産蝶類標準図鑑』)

 
最後の一日だ。なだけに、もちろん場所の選定には心を砕いた。そして、出した答えが根瀬部だった。理由は午前中にアカボシゴマダラが採れるのは知る限りでは此処しかないし、ここなら♀のポイントも知っている。また、奄美でフタオチョウに会うのは今回が初めてだから経験値の絶対数が足りない。そんな中、僅かな経験は♀がヤエヤマネコノチチに産卵に来たのを見た此処しかないと思ったからだ。

 
【ヤエヤマネコノチチ】

 
午前8時半に宿を出て、9時前にはポイントに着いた。
今までずっと背水の陣の心持ちでやってきたが、本日は正真正銘の背水の陣で臨む。

5分後、アカボシゴマダラが高い位置を優雅に飛ぶ姿を見送る。いるね。
それにしても何で昨日はリュウアサ(リュウキュウアサギマダラ)なんかをアカボシと間違えたのだろう❓

 
【リュウキュウアサギマダラ】

(出展『沖縄の自然』)

 
台湾で間違えた事はあるが、奄美で間違えたのは初めてだった。絶不調を象徴してるのかもしんない。
まあいい、気持ちを切り換えていこう。
兎に角、やっと根瀬部でもアカボシが発生し始めたようだ。取り敢えずは読み通りだ。
しかし採れなければ絵に描いた餅だ。なんとしてでも今日中に雌雄をシバかねばならぬ。もしミッションに失敗すれば、小太郎くんやSくんから笑い者にされるだろう。多分ねぎらいの優しい言葉をかけてくれるだろうが、口には出さなくともへタレだと思われるに違いない。それだけは避けたい。プライドがズタズタになる。
 
取り敢えず少し奥に入り、アカボシもフタオも狙えそうなリュウキュウエノキの大木の下に陣取る。

 
【リュウキュウエノキ】

 
午後10時前。
フタオチョウの♂が飛び始めた。

 
【フタオチョウ♂】

 
相変わらずクソ高い位置でテリトリーを張っている。あと1メートル長竿が長ければ何とか勝負できるのだが、6.3mでは話にならん。今日も無駄に時間を浪費しそうだ。それでも一度決めた事は最後までやり抜くしかない。神様だって一度や二度のチャンスくらい与えてくれるだろう。

午前10時40分。
突然、右手から視界に白黒の飛翔体がフレームインしてきた。
(☆▽☆)アカボシだっ❗
(☉。☉)デカい❗❗

想像を超えたデカさに面喰らう。あかざき公園で最初に見た奴よりもデカい。たぶん♀だ。と云うことは、あかざき公園で見た奴は♂だったのか❓…。頭の中に残ってるイメージは夏型の大きさだったから間違えたのだ。春型って、こんなに大きいんだ…。
だが見惚れている場合ではない。あの位置なら届く。絶好のチャンスだ。
たぶん産卵に来た筈だから、直ぐには逃げないだろう。じっくりとチャンスを伺い、産卵するために止まった瞬間に網を振り抜いてやろう。
しかし、中々止まらない。嫌な予感がした。このまま慎重にチャンスを待っていたら、そのうちプイと何処かに行かれかねない。今回は慎重になり過ぎて躊躇ばかりして失敗してきている。そんな風に消極的だから、採れるもんも採れないのだ。
らしくない。本来的には、思い切りの良さが取柄だったんじゃないのか❓段々、そんな自分に沸々と怒りが込み上げてきた。
勝負に出る。飛ぶ軌道を読んで、大胆に
💥ズバババババ━━━━ン❗
全身全霊で左から右へと振り抜く。

スローモーションで網に吸い込まれてゆくのが見える。ジャストミートの『ビッグフラーイ、オオタニさーん❗』だ。

あたふたと網に駆け寄り、素早く胸を押して〆る。
そして、💥しゃあ━━━━❗、雄叫びを上げ、拳を力強く握りしめる。

 

(裏面)

 
いやはや、赤紋が大きくて美しい。
これこそが正真正銘のアカボシゴマダラだ。誰かが放した中国産の屑アカボシとは月とスッポン、美しさは雲泥の差だ。

 

 
夏型よりも明らかにデカい。そして白い。
ゆっくりと爪先から全身へと安堵感が這い昇ってくる。
兎にも角にも採れて良かったぁ…。しかも一番欲しかった♀の完品だ。
心の中で『生還。』と呟く。
もしも1つも採れずに帰ることになったら…という次第に強まる恐怖とずっと闘ってきて、サドンデスの最終日を迎えたのだ。そんな間際、崖っぷちまで追い詰められた中での起死回生の逆転ホームランだった。だから生還したというような心の境地に至ったのだろう。
虫捕りはリーグ戦でもあるが、最終的にはトーナメントなのだ。負ければ終わりだ。

コレでギリ何とか面目を保てた。SNSで奄美に来ている事は公にしているので誤魔化しは効かない。たとえ黙っていたとしても結果に触れなければ採れなかった事がバレてしまう。そして、ザマー見さらせの笑い者だ。危うく晒し者になって、恥辱に塗(まみ)れるところだったわい。

さあ、次は♂だ。♀と比べればグッと採集の難易度は下がるから、気持ちはだいぶ楽である。何とかなるっしょ。コレをキッカケにジャンジャン飛んで来るかもしんないしさ。

けれども、もうすぐ正午なのにあれから1つも飛んで来ない。
午前中に採れなければ、状況はかなり厳しいものとなろう。アカボシが飛んで来るのは主に午前中なのだ。午後は夕方まで殆んど見かけない。焦燥感がジワリ、ジワリと心の余裕を削り取ってゆく。

午後12時20分。
だいぶ間があいたが、ようやく♂が飛んで来た。
やはり見た目は夏型よりも大きい。白は膨張色ゆえに、より大きく見えるのだろう。
今度も空中でイテこましてやろう。躊躇は禁物と心に言い聞かせる。攻めてくぜ(`▽´)

(-_-メ)ちっ。しかし、木の裏側に回りやがった。裏手はブッシュだから一瞬あきらめかけた。だがこの先、そうチャンスが何度もあるとは思えない。がむしゃらに突っ込んでゆく。
ブッシュを抜けると、狭いが空間があった。ワンテンポ、ツーテンポあって、そこに蝶が向こうから飛び込んできた。目測約3m。咄嗟にスィングを始める。
(・o・)えっ❗❓、でもすんでのところで軌道を右斜めに変えやがった。あかん、ハズすパターンだ。
けど、その動きに体が勝手に反応していた。右腰を落とし、体を右から左に捻りながら網先を鋭く走らせる。

蝶が視界から忽然と消えた。
解ってる。とゆうことはジャストミート、しっかり捕らえたということだ。網の中を確認せずともわかる。

 

 
我ながらヘッドの効いた鮮やかな網さばきだった。切れ味鋭いスライダーをキッチリ捉えてスタンドに放り込んでやったような気分だ。やっぱ躊躇なんかしたらダメだね。

 
(裏面)

 
♂も夏型よりも一回り大きい。思ってた以上に春型ってカッコイイぞ。

これで取り敢えずは雌雄が揃った。
それにしても、どうして毎度毎度、こうもギリギリで何とかなるんだろ❓虫捕りってそう甘くはないって事か…。ともかく諦めずに、愚直に頑張って粘ってきたからこその結果だったに違いない。虫捕りには、執着心も必須条件なのかもしれない。

さてさて、お次はフタオチョウの♀だ。今さらになっての絶好調だけど、この調子でブイブイいわしてやろうじゃないの。

同じ所にずっといるのは好きではないし、ひと仕事を終えた後だからキリもいい。潮時だ、ポイントを変えよう。ヤエヤマネコノチチがあるポイントへ移動するために歩き出す。
でも直ぐに足が止まった。ヤエヤマネコノチチだとフタオチョウしか寄ってこないが、リュウキュウエノキならばアカボシゴマダラだけでなく、フタオチョウも寄って来るのを思い出したのだ。
フタオチョウの幼虫の食樹は元来ヤエヤマネコノチチだが、近年になって食樹転換して、リュウキュウエノキも食樹として利用するようになった。謂わば新規開拓の営業マンみたいなもんだ。(・∀・)ん❓、何か変な喩えになってるぞ。まあいい。兎に角それにより、沖縄本島ではヤエヤマネコノチチが自生していない南部にまで分布を拡大しているのである。
正直、採れるものならもっとアカボシも採りたい。両方とも飛んで来るならばゲット率も高まるし、退屈せずとも済むかもしれない。少なくともフタオの♂がこの木でずっと縄張りを張っているのだ。そやつが低い所に止まってくれるのを監視しているだけでも緊張感は保てるから、退屈はしのげる。
問題は果たしてフタオが奄美でもリュウキュウエノキに産卵しに来るかどうかだ。奄美にはヤエヤマネコノチチが沢山自生しており、何もわざわざリュウキュウエノキを利用しなくてもいい環境だからである。飼育すると、本来の食樹ではないリュウキュウエノキだと失敗する例も多いというからね。ならば母蝶だって無理にリスクを冒して、リュウキュウエノキに産卵しないだろうとも考えられる。
取り敢えず、1時間は此処に居よう。それで駄目なら移動すればいい。

心配してたけど、10分で答えが出た。
目の前のリュウキュウエノキにフタオの♀がやって来たのである。読みどおりだ。絶好調じゃないか。(◠‿・)—☆、完全に良い流れに乗ったんじゃないのー。

 
【フタオチョウ♀】

 
長竿をスルスルと伸ばす。だが、ギリギリ届きそうにない。
彼女は産卵場所を吟味しているのか、葉に纏いつくようにして飛んでいる。
ドキドキしながら、高度を下げてくれる事をひたすら念じる。手に汗握るような、このヒリヒリした感じが堪んない。エクスタシーだ。そして採れれば、カタルシスを爆発させることができる。気持ち良く昇天できることを祈ろう。

降りてきた❗
その一瞬を逃すまいと網を振ろうとした刹那だった。
横から猛スピードで彼女目掛けて突っ込んでくる者があった。
w(°o°)wわっちゃー、何すんねんワリャー❗
♂が飛んで来て、♀を手ごめにしようと追いかけ回し始めたのだ。
😱NOー、Bad Timing❗
ビックリした♀は急加速、慌てて繁みの奥へと逃げてゆく。それを尚も♂は執拗に追い掛けてゆく。
そして、2頭は絡まるようにして飛んでゆき、やがて見えなくなった…。

結局、すんでのところで網を振れずじまいだった。まあ、振ったところで100%採れんかっただろう。射程外になってたからね。とはいえ、もうワンテンポ早くスィングに入ってたら採れてたかもしれない。上手くしたら♂♀一網打尽のミラクルが起きていたかもしれん。ほんの少しであれ、結局は躊躇が大きく勝敗を分けた恰好だ。

暫くして♂が帰って来た。さっきの♂だ。
(ノ ̄皿 ̄)ノおどれ、何さらしてくれとるんじゃい❗❗
怒りで網で思いっきしブン殴ってやろうかと思った。しかし罰を与えようにも長竿が届かない所に止まっていやがる。
宙に浮いた怒りを何処に持っていっていいか分からず、悔しまぎれに地面を蹴りつけた。地団駄踏むとは、まさしくこうゆう事を言うんだろね。
それにしても、この期に及んで何でノコノコ帰って来るのだ。邪魔したんだから、せめて♀のハートを射止めろよなー。それならやむなしと許せたかもしれないのに…。

その後、待ち続けるもフタオの♀は二度と姿を見せなかった。アカボシの姿も全くなし。小さなミスが又しても流れを断ち切ってしまったようだ。

午後2時半を過ぎた。
これ以上待ったところで駄目と判断して、移動することにする。
いつもなら、あかざき公園に行くところだが、アカボシは採ったからもう行く必要がない。あかざき公園は、そもそもアカボシのポイントだからね。フタオもいないワケではないが、一度しか見ていないので多くは望めないし、イワカワシジミはあれだけ食樹のクチナシがあるのにも拘らず一度も見てないから、これまた多くは望めないだろう。
となると、残された時間も考えれば、自ずと知名瀬しか選択肢はなくなってくる。でもフタオのポイントを詳しくは知らないし、たとえ知っていたとしても既に誰かがそのポイントを抑えているだろう。
まあいい。ポイントの場所が確認できるだけでも価値はある。環境が解れば、似たような場所を探して勝負する事だってできる。
それに、そういや柿澤清美名人が知名瀬でイワカワをタコ捕りしたとか言ってたな。かなりウソ臭いけど、それを確かめるのも悪かない。採れればラッキーだし、採れなきゃ採れないで、法螺(ほら)話だったと確認できる。探して損はないだろう。

午後3時過ぎ。
林道に入って暫く走ると、Sくんがいた。
張ってる場所は予想していた所とは少し違う。意外とツマンなさそうなポイントだ。まあ、道沿いで空間があいている場所ならば、何処にでもいるって感じだけどもね。

Sくんに『アカボシ、採れたよー。メスの完品もね。』と言ったら、『見せてくださいよー。』と言うので見せる。
実物を見せたら、『いいなあー。』と羨ましそうに言ったので、良し良しと思う。若いのにクールでドライだからサイボーグかよ❓と思っていたが、初めて人間らしいところが垣間見えた。純粋なリアクションで、ちょっと可愛かった。コレで少なくともへタレ呼ばわりされる事もないだろう。

Sくんに、イワカワは見た❓と尋ねる。

 
【イワカワシジミ】

 
答えは目撃なしとの事。やはりね。イワカワのポイントとフタオのポイントは全く同じではないだろうが、共に林道沿いなんだから隣接はしてるだろ。となれば、もしそんなに沢山いるなら1つくらいは見ても良さそうなものじゃないか。でも、ここへはSくんもワシも何度も訪れているのに1つも見てないのだ。となると、名人の話は眉唾くさい。そもそもが出会った採集者の意見を総合すると、今年のイワカワはどうやら不作らしいのだ。自分も今まで1つしか見ていない。そこがワシら凡人と名人との差なのかもしれないけどね、(≧▽≦)きゃは。

清美名人は林道沿いのミカン畑にいると言っていたから、中に入れる所で一番可能性が高そうな場所を選ぶ。
えー、言っとくけど、柵のあるミカン畑には入ったらあきまへんでぇ。特に挨拶もろくに出来ないようなクズ採集者は厳に慎まれよ。アンタがトラブルを起こせば、他の人にも確実に迷惑を掛ける事になるからさ。ただでさえ虫捕りしてる大人は、世間的にはキショい変人のイメージだからね。

けど、探し回るも全く姿なし。食樹のクチナシもない。情報は疑わしいと言わざるおえない。やっぱ、話を盛っていた可能性が高そうだ。とはいえ、こっちの場所選定が間違っている可能性もある。今度お会いしたら、こと細かに場所をお訊きしてやろう。でも、まともに答えてくれるかなあ❓…。

時刻は4時を回った。陽はだいぶと傾いてきてる。タイムリミットは近い。イワカワを諦め、再びターゲットをフタオの♀に絞りなおす。

林道を流していると、梢を飛ぶフタオチョウが目に入った。しかも100%メスだ。♀は♂と比べてかなり大きいし、翅の形も違うから、簡単に見分けられるのだ。
慌ててバイクを停める。見ると一本の木に纏わりつくように飛んでいる。おそらくヤエヤマネコノチチの木だろう。そっか、産卵に来ているのかも❗
ギリのギリ、タイムリミット寸前での千載一遇のチャンスが巡ってきた。やっぱ、俺って引きが強い。次を仕留めれば、逆転さよならホームランだ。ならばヽ(`д´;)ノやってやろうじゃん❗ ここで鮮やかに試合を決めてやる❗

逸る気持ちで長竿を伸ばす。
けれど網を振る間もなく裏に回られてしまい、姿を見失った。裏は濃い藪になってて、入れないのだ。
それでも此処で待とう。暫くしたら又飛んで来るだろうし、他のポイントを探してる時間はない。
自分に向かって言い聞かす。そんな簡単に採れては面白くない。ヒーローは、いつの時代も苦しめられて苦しめられて、最後の最後に逆転勝利すると相場が決まっているのだ。ここはドラマチックにいこうじゃないか。

しかし、またたく間にブヨの軍団にタカられる。
コイツらに喰われるとムチャクチャ腫れ上がって、めちゃんこ痒い。しかも症状が1週間は続くのを今回の旅で骨の髄まで知らしめられている。神よ、ヒーローを別な局面から苦しめてくるってかあ❓ストーリーに手が込んでるぜ。
せっせとブヨどもを網に入れては纏めて上から握り潰して、あっという間に何十頭とブチ殺してやる。
(-_-メ)ジェノサイド、大量虐殺じゃ❗
けど、殺しても殺しても湧いて出てきやがる。そして対処に忙殺されて徐々に集中力が削がれてゆく。
そんな時に限ってフタオが飛んで来た。

ブヨを気にしつつも長竿を伸ばす。両手が塞がるから手で払えなくて咬まれ放題だが、でないと採れないんだから仕方あるまい。
幸い竿は何とか届きそうだ。とはいえ慢心と躊躇は敵だ。枝先に止まることなど期待せず、空中でシバくことを固く決意する。
しかし、ふらふらとアッチャコッチャに細かくブレるような軌道で飛ぶので狙いを定めにくい。しかも逆光で距離感が上手く掴めない。けっしてイージーではない。空振り率高しだ。
そして、振るか振らざるまいか迷ってるうちに裏側に回られ、又しても見失った。結局、躊躇して網を振れなかった己の決断力の無さに、ベソをかきそうだ。

時間は刻一刻と削り取られてゆく。
午後4時45分。そろそろ飛ばなくなる時間だ。リミットは近い。チャンスは、あとワンチャンか、あってもツーチャンスだろう。さよなら逆転ホームランだとか言ってる余裕が無くなってくる。ここはスナフキンのようにクールになろう。

(☆▽☆)来たっ❗
(。ŏ﹏ŏ)でも下翅の1/3がゴッソリないボロだ❗

多分、鳥に襲われて啄まれたのだろうが、価値なしだ。んなもん採っても仕方がない。ガックリくる。

けど思い出した。すっかり忘れていたが、小太郎くんに卵を持った♀の確保を頼まれていたのだ。アレだけボロなら、間違いなく腹に卵を抱えているだろう。ボロ過ぎるかなゆえ標本にもならないから、気持ち良く御進呈できる。

高揚感もなく、躊躇なしに網に入れる。緊張さえしていなければ、簡単な事なのだ。どちらかというとプレッシャーに強いオラでもこうなんだから、スポーツ選手の大舞台での緊張感とか重圧は半端ないんだろね。想像を絶するよ。

網の中でバタつくのを見て、暫し考える。生かして持って帰らなければならぬのだ。しかも、できるだけ傷めずに。飼育をしない人だからよくワカンナイけど、きっと脚が1本でも取れれば、産卵行動に極めて悪い影響を与えるに違いない。そんな事になれば、小太郎くんに必ずや言われるだろう。
『五十嵐さん、アバウトだからなー。別に何とかはなりますけどね。』
とでもね。
まあ、その通りだから文句は言えないんだけどもさ。

取り敢えず、ボロでも♀が採れたんだから不完全ながらもミッションはクリアだ。忸怩たる想いではあるが、コレで言いワケも立つ。そう思いながら、写真を撮るためにスマホを出そうとした時だった。右上空に気配を感じた。空を見上げる。

いたっ❗また♀だ❗しかも今度は完品❗
わっ(@@)💦、わっ(@@)💦、わっ(@_@)💦、でもどうする❓どうする❓
網の中には生きたボロ♀がいるのだ。そのままでは網が振れない。となれば、大至急で生きたまま回収しなければならない。でもそうなると、その僅かな間に飛んでるアヤツが逃げて行ってしまうかもしれない。それは辛い。チャレンジもせずに敗北するだなんて、負け方として最悪だ。
ならば、中のボロ♀を放棄するしかない。
w(°o°)w💦どうする❗❓
w(°o°)w💦どうする❗❓
けど躊躇している暇はない。
どりゃあ〜(ノ ̄皿 ̄)ノ ⌒== ┫、ボロ♀放〜棄❗❗
飛んでいる♀を凝視しながら、手元には見向きもせずに網をひっくり返してリリースする。
それを目で追うこともなく、心の中で『命拾いしたんだから、二度と捕まんなよ』と独りごちて、グイと体を前へと近づけて行った……。

                    つづく

 
追伸
いよいよ残すところ、あと2話となった。たぶんだけど(笑)
このあと、いつものように註釈の解説なんだけれども、先に解説をして、最後に追伸という順番の方が正しかったかもなあ…。あと2話だから、今更の話だけど。

次回、恐怖渦巻く夜編っす。あなたは、その恐怖に耐えれますか?

 
(註1)春型のアカボシゴマダラ

【春型♂】

 
完品だとばかり思っていたが、右後翅の内縁が欠けている。

【春型♀】

色彩斑紋は雌雄とも同じだが、♂と比べて♀の方が遥かに大型で、翅形が幅広く横長。また全体的に丸みを帯びることから判別は比較的容易である。あとは夏型も含めて♀より♂の方が抉れが強い事でも判別できる。

【夏型♂】

【夏型♀】

(2011.9月 奄美大島)

やはり春型の方が白い部分が多い。だから飛んでいる時はより白く見えるのだろう。
あとは外縁線が夏型の方が内側に入り、抉れたように見える。
形的には夏型の方がカッコイイかもしんない。白と黒とのコントラストも夏型の方が強いから、小太郎くんなんかは夏型の方がカッコ良くて好きだと言ってる。自分はどっちも好きなので、甲乙つけがたいかな。

まだしてなかったと思うので、種の解説をしておこう。

『アカボシゴマダラ(赤星胡麻斑)』
東アジアの広域分布種で、斑紋は近縁のゴマダラチョウによく似るが、和名が示す通りに後翅に鮮やかな赤い斑紋があることで区別される。タテハチョウの仲間にしては飛翔は緩やかで、これは斑紋が似ている毒蝶のリュウキュウアサギマダラなどのマダラチョウ類に擬態していると考えられている。

【分類】
タテハチョウ科 Nymphalidae
コムラサキ亜科 Apaturinae
ゴマダラチョウ属 Hestina

【学名】Hestina assimilis(Linnaeus, 1758)
「分類学の父」と称されるリンネにより広東産の標本に基づいて記載された。あらゆるチョウの中でも最も古くに命名された種類の一つなんだそうな。たしかに1758年は古いね。約260年前だもんね。

属名の「Hestina(ヘスティナ」は、ギリシア神話の炉の女神”Hestia(ヘスティアー)”+ina(inusの女性形の接尾辞)。この接尾辞には「〜に属する」という意味がある。
ヘスティアはオリュンポスの十二神の一人で、クロノスとレアの長女として生まれた。彼女はポセイドンとアポロンの二神に求婚されたが,弟のゼウスにすがって永遠の処女を守る誓いを立てた。それにより、処女神としても知られる。

小種名の「assimilis(アシミリス)」はラテン語で、「類似の」という意味。これはきっとゴマダラチョウに対しての命名だろう。そう思いきや、ところがドッコイ違うようだ。アカボシの記載は1758年だが、ゴマダラチョウはもっとあと、約百年後の1862年に記載されているのだ。
Hestina属に含まれる他の種の記載年を調べて、アカボシよりも古い記載のモノがいたら、そいつが類似するとされたモデルの蝶となる筈だ。
検索すると、ウィキペディアでは以下のようになっていた。

・Hestina assimilis (Linnaeus, 1758)
・Hestina dissimilis Hall, 1935
・Hestina divona (Hewitson, 1861) – Sulawesi sorcerer
・Hestina japonica (C. & R. Felder, 1862)
・Hestina jermyni Druce, 1911
・Hestina mena Moore, 1858
・Hestina mimetica Butler, 1874
・Hestina nama (Doubleday, 1844) – Circe
・Hestina namoides de Nicéville, 1900
・Hestina nicevillei (Moore, [1895])
・Hestina ouvradi Riley, 1939
・Hestina persimilis (Westwood, [1850]) – Siren
Hestina risna
・Hestina waterstradti Watkins, 1928

おいおい、アカボシが圧倒的に古いじゃないか。とゆうことは、いったい何に対しての「類似の」なのだ❓ 謎である。もしかしたら、他の属、ひいては別な科のチョウの事を指しているのかもしれない。だとしても格子柄の蝶など幾らでもいるから、候補は膨大な数になるだろう。
何か大ごとになってきたなあ…。これは間違いなく迷宮地獄のドツボにハマるので、そっとしておこっと。

いや、でもやっぱ気になる。
そういや学名の記載者名と発表年が()括弧で括られてたな。これは属名が後から変更になったことを示している。じゃあ元の属名は何だったのだ❓
リンネ(Linnaeus)が最初に生物の分類を体系化して、学名を属名と種小名の2語のラテン語で表す二名法(二命名法)を考えだしたんだけど、その最初の蝶はモンシロチョウだった筈だ。えーと学名は何だっけ❓
調べたら、Pieris rapae (Linnaeus, 1758)となっていた。\(◎o◎)/❗わっ、記載年が何とアカボシと同じじゃないか❗
コレで謎が解けてきたぞ。たしかリンネは全ての蝶に、最初はアゲハチョウの属名である「Papilio」と付けたんだよね。ようは当初は世の中の蝶の全てが”Papilio属”にまとめられていたのだ。つまり、1758年にリンネがモンシロチョウに名前をつけた時は学名が「Papilio rapae Linnaeus, 1758」だったというワケ。
で、数年後には”Pieris(モンシロチョウ属)”に分類し直されて、「Pieris rapae (Linnaeus, 1758)」となったのである。
となると、最初はアカボシも「Papilio assimilis」という学名だったのね。
よし、ならばリンネが1758年に命名した蝶をピックアップし、その中からアカボシと似ている奴を探せばいいのではなかろうか❓オラって、アッタマいいーv(^o^)v

全部”Papilio”だったというのが頭に残ってたから、リンネの命名した蝶で近いのがパッと浮かんだ。アゲハチョウ属のナミアゲハ(Papilio xuthus)とキアゲハ(Papilio machon)である。

【ナミアゲハ 春型】

(2021.4 大阪府四條畷市 飯盛山)

【キアゲハ 春型】

(2019.4月 福井県南越前町 藤倉山)

ナミアゲハなんか結構似ているっちゃ似てるよね。一方、キアゲハは黄色味が強いから似てるとまでは言えないよね。
リンネが最初に記載した蝶の中からアカボシに似たのを探すだなんて相当に骨が折れそうだし、面倒臭いからもうナミアゲハで決定でいいんじゃないか❓そうゆう事にしておこう。😸🎵終了〜。
でも、ここまで調べといてやめたら、各所からお怒りの言葉を投げつけられそうだし、何となく釈然しないところもある。このままウヤムヤにするのも癪だし、調べっかあ…。早めにリストが見つかる事を祈ろう。

(◠‿・)—☆ラッキー❗
ネットで、比較的簡単に「NATURAL HISTORY MUSEUM」というサイトの『Linneus’s Butterfly Type Specimens』という文献が見つかった。
それによると、リンネによって最初に記載された蝶は約120種だったらしい。結構あるね。

見ると、いきなり冒頭でコモンタイマイ(Graphium agamemnon)が目に止まった。


(出展『Linneus’s Butterfly Type Specimens』)

263年前のタイプ標本だ。よく残ってるよね。
でもこれじゃ本来の姿が分かり辛いので、補足のための画像も添付しておきます。

【コモンタイマイ】

(2011.4月 タイ チェンマイ)


(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

でも柄は似てても地色が緑色だし、形も違うから無理があるか…。そんなこと言うと、ナミアゲハだって形が違うから似てないって事になるな。早くもナミアゲハ説、危うしだ。

そしてアカボシゴマダラのタイプ標本。


(出展『Linneus’s Butterfly Type Specimens』)

明らかに中国の名義タイプ亜種(原記載亜種)だね。
話は逸れるけど、この名義タイプ亜種とかの表記にはいつも悩まされる。名義タイプ亜種とは、ある1つの種が複数の亜種に分かれる時に自動的に定義されるもので、小種名と同じ学名の亜種のことだ。
つまり最初に記載された個体群のことを指し、アカボシならば”Hestina assimilis assimilis”となり、中国産のものがコレにあたる。
でも、その基準となる亜種名の和名表記がバラバラなのだ。古くはコレを「原名亜種」と呼んでいた筈だが、いつの間にか「原亜種」とか「基亜種」「原記載亜種」「名義タイプ亜種」と云う別表記のものが増えていた。因みに英語では、nominotypical subspeciesと表記される。
個人的には「原記載亜種」を使う事が多く、最も嫌いで使わないのが「名義タイプ亜種」。なぜなら、言語的に意味が分かり辛いからだ。「名義タイプ」って、どんなタイプやねん❓オッサン的なタイプ❓でも、字面はお爺ちゃんぽいよね。などと素人には「タイプ」の意味が誤解されやすく。正確な意味が伝わりにくい。タイプがタイプ標本(模式標本)を指すだなんて分かるワケがない。それに「名義」と云う言葉にも違和感がある。おそらく「名義を貸す」みたいなイメージなのだろうが、名義なんて言葉は今どきの若者は使わんぞ。意味さえワカランようなアンポンタンだっているだろう。どころか、言葉そのものを聞いた事がないと言う者までいかねない。
お願いだから、ややこしいのでどれか1つに纏めてほしい。で、もし統一するなら、元々使われていた「原名亜種」を推す。シンプルだけど十分に意味は伝わるからだ。「名義タイプ亜種」なんてのは言語感覚のない学者の発想だろう。ようするに正確性を強く求めるあまり、かえって意味不明になってるという図式だ。「トゲナシトゲトゲ」みたくパラドックスを内包してる。まあ「トゲナシトゲトゲ」は笑えるけどもね。棘が無いのにトゲトゲなのだ。なぞなぞ問題かよ❓みたいなネーミングだが、同時に逆説的名称でもあり、そこには哲学的な香りさえ漂っている。
たぶん意図して命名はしてないだろうが、たまたま結果的には奇跡的とも言えるお茶目過ぎるくらいお茶目な傑作ネーミングになっている。
トゲナシトゲトゲの事は、どうでもよろし。
勝手に想像すると「名義タイプ亜種」なんてのは、大方が「ウスバキチョウ」をアゲハの仲間だからといって「キイロウスバアゲハ」なんていう酷い名前に改名した九州大学の昆虫学者辺りの提唱だろう。「薄羽黄蝶」の薄羽黄という言葉は雅びだが、「黄色薄羽揚羽」の黄色薄羽はダサい。それにキイロウスバアゲハという語感がサイテーだ。リズムが悪い。それに略しにくい。おそらく「キイロウスバ」となろうが、中途半端な長さだし、何だか蛾っぽい。試しに「キイロウスバ、キイロウスバ、キイロウスバ」と3回唱えたら、(`Д´#)キレそうになったよ。
因みに、付けられたはいいが「キイロウスバアゲハ」なんて蝶好きの間では誰も使っていない。99%は以前からの「ウスバキチョウ」を使用している。人は正確性だけを求めているワケではないのだ。情緒のないような名前は愛されないし、認められないのである。

話が大幅に逸れた、本筋に戻そう。

次に目に止まったのだが、マネシアゲハ(Chilasa clytia)。最近はキベリアゲハと呼ばれることも多い。


(出展『Linneus’s Butterfly Type Specimens』)

【マネシアゲハ(キベリアゲハ)】

(出展『Wikipedia』)

【裏面】

(2011.4月 ラオス ウドムサイ)

コレは似てるよね。裏も赤紋じゃないけど黄色い紋がある。今まで挙げた中では一番近い。多分コレじゃないのー❓
因みに、これは”dissmilis”という型である。余談だがマネシアゲハには幾つもの型があって、それぞれが毒蝶であるマダラチョウ類に擬態しているとされている。ワシも初めて見た時は格子柄のマダラチョウの1種に見えた。マネシアゲハの仲間の擬態度はどれも精度が極めて高く、その凄さにはいつも感服する。同時に、自然の造形の妙に唸ってしまう。

でも、最後にまさかの奴が出てきた。


(出展『Linneus’s Butterfly Type Specimens』)

たぶん、Ideopsis similis リュウキュウアサギマダラだ。
たぶんと書いたのは、サイトに学名が載ってないからだ。このリュウアサグループにはコモンマダラ、ウスコモンマダラやミナミコモンマダラ、ヒメアサギマダラ等々、似たようなのが沢山いるのだ。

【コモンマダラ】

(2016.7月 台湾南投県仁愛郷)

【ヒメアサギマダラ】

(2017.6月 台湾南投県仁愛郷)

一応、図鑑で確認しておこう。
したら「Ideopsis similis (Linnaeus, 1758)」となっていた。つまり、間違いなくリンネの記載だ。

【リュウキュウアサギマダラ】

(2016年 台湾?)


(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

アカボシは毒蝶であるリュウアサに似ていて、これは鳥からの捕食を免れるための擬態だと言われている。確かに似てて、間違いやすい。ワシも恥ずかしながら、前回で書いたように見事に騙された。けど、まさかそんな上手い具合にキレイなオチになるだなんて思いもよらなかったから一瞬、(・∀・)キョトンとしたよ。
もしかしたら、リンネも騙されたのかもしれない。但し、パターンは逆で、アカボシに騙されたって構図だ。で、類似を意味する「assimilis」と名付けたに違いない。とはいえ、実際にフィールドで見たワケではないだろう。この時代は学者が自ら採集旅行に出るという事は少なく、各地から送られてきた標本を見て記載する事の方が多かっただろうからね。リンネがアジアに旅行したというのも調べた限りでは出てこなかったしね。

とはいえ、マネシアゲハとも相当似ている。コチラの可能性も充分ありうるだろう。となれば、どちらを対象にして名付けられたのかは微妙で特定は出来ない。記載年は3種とも同じだが、どちらがアカボシよりも先に記載されたかが分かれば、ジャッジメントできるんだけどもね。でも学名には記載月までは記されていないんである。記載論文を見れば分かるのかもしれないけど、もうそこまでして調べるような気力は残ってない。ここから先は自分で調べてケロ。
因みに、似ている蝶たちのサイトに出てくる順番は、最初がコモンタイマイで、次にアカボシゴマダラ、以下マネシアゲハ、キアゲハ、リュウキュウアサギマダラ、最後にナミアゲハの順だった。となると、コモンタイマイに対してのネーミングだったりしてね(笑)。多分、並んでる順は関係ないと思うけどさ。
ただ各ラベルには番号が振ってあった。
コモンタイマイ21&748 アカボシゴマダラ129 マネシアゲハ130 キアゲハ135 リュウキュウアサギマダラ101&772 ナミアゲハ161 だった。数字の若い順に並べると、コモンタイマイ、リュウアサ、アカボシ、マネシ、キアゲハ、ナミアゲハになるが、リュウアサには772という番号も振ってあるので何とも言えない。こりゃ迷宮入りだね。

でも、サイトをザッと見直したら、番号がなぜ2つあるのかが解った。そこに、以下のような文章を見つけたのである。

「Labels
The small labels associated with the images are by Linnaeus, while the larger ones were added subsequently by Sir James Edward Smith, who purchased Linnaeus’s collection.」

訳すと、こんな感じになる。

「ラベル
各画像と関連するラベルは、サイズの小さなものはリンネの手書きによるものだが、大きなラベルはリンネのコレクションを買ったジェームズ・エドワード・スミス卿によって追加されたものである。」

でも、そもそもこの番号が何を意味してるのかが定かではないだよね。たぶん標本番号なのだろうが、それがそのまま記載順になっているとは限らないのだ。ここで、問題解決は一旦頓挫した。
しかしながら、諦めずに調べ進めてるうちにWikipediaのページで新たな鉱脈を見つけた。
「Lepidoptera in the 10th edition of Systema Naturae」というものだ。
おそらくこれは1758年に出版されたリンネの「自然の体系」第10版の鱗翅目の巻だね。リンネ自身が書いたものだから、これだと命名順に並んでいるんじゃなかろうか。ならば期待できる。
そこには、以下の順で並んでいた。

・Papilio similis – Ideopsis similis
・Papilio assimilis – Hestina assimilis
・Papilio dissimilis – Papilio clytia

上からリュウアサ、アカボシ、マネシアゲハの順だね。
とゆうことは、やはりアカボシの学名はリュウキュウアサギマダラと比しての命名だった可能性が高い。つまり、学名の小種名「assimilis」の意味する「類似の」とは、リュウキュウアサギマダラに類似していると云うことだ。そう断言しちゃってもいいんじゃないかな。
( ´ー`)フゥー………、間違ってるかもしんないけど、もうこれくらいで勘弁してくれよ。

【英名】『Red ring skirt』
直訳すると「赤い輪のスカート」になる。おそらくスカートとは下翅を指しているのだろう。テキトーに言ってるけど(笑)

【亜種】
奄美群島、台湾の個体群は一見して他の地域の個体とは斑紋が異なり、それぞれ別亜種に分類されている。

◆奄美亜種 ssp.shirakii(Shirozu, 1955)
奄美亜種の「shirakii(シラキィー)」は昆虫学者の素木得一博士(1882―1970)に献名されたものである。
氏は直翅類・双翅類の分類の権威であると共に、応用昆虫学にも深い知識をもち、農作物の害虫であるワタフキカイガラムシの大発生に対してベダリアテントウを導入して駆除を行った。これは日本初の天敵を利用した生物的防除の成功としてよく知られている。
また、台湾帝国大学や台湾大学在職中に多くの報告・論文を発表し、多数の昆虫を新種として記載したことでも知られている。その名がシラキトビナナフシやシラキミスジ(台湾の蝶)などの和名に残っている。
晩年には『昆虫の分類』『衛生昆虫』『昆虫学辞典』などの大著を出版し、また日本応用動物昆虫学会の会長をもつとめ、昆虫学の発展に大いに寄与した。

他亜種と比べて後翅の赤紋が発達していて、最も美しい亜種。赤紋の色は濃く鮮やかで、リングは太くて大きく、形が崩れない。また輪の中の黒い部分も大きい。白斑は他亜種よりも地色が白く、面積もやや広い。

奄美大島、加計呂麻島、徳之島、請島、与路島、徳之島、喜界島に産する。他にはトカラ列島の小宝島(2000年)と中之島(2003年)に記録があり、数頭が採集されている事から一時的に発生していたものとみられる。
尚、沖縄本島からも奄美亜種の古い記録があるが、その後絶滅したのか、偶産であったのかは不明である。台湾にもいるから、間の沖縄本島にもかつては居た可能性は高いだろう。だとしたら、何で絶滅しちゃったんだろうね❓コレ以上、氏数を増やすワケにはいかないので、この問題には立ち止まらないけどさ。

奄美大島には全土に広く分布するが、近年になって個体数を減らしており、昔と比べてかなり少なくなったそうだ。
主に平地の集落内や墓地、その周辺に多く見られ、山地で見る機会は占有活動時を除き少ない。これは食樹であるニレ科 リュウキュウエノキ(クワノハエノキ)が集落周辺に多く、山地ではあまり見られないからだと言われている。
3月下旬から4月上旬に現れ(春型)、以後数回にわたって発生を繰り返し、11月下旬まで見られる。発生回数は5、6回程度と推定されているが、年によってバラつきがあり、年4化の年もあるという。
6月中旬〜7月上旬に発生する第2化目が最も個体数が多く、この時期に白斑が減退した黒化異常型が得られる。


(出展『変異・異常型図鑑』)

コレはレベル5とも言える最も黒化した個体だが、黒化度合いは段階的に顕在し、軽度のものから真っ黒に近いモノまで見られる。

飛翔習性はゴマダラチョウとほぼ同じで、♂は占有活動を行い、樹冠を旋回するように飛び、高所の葉上に静止する。変わっているのは、普通の蝶は広葉樹に止まることが多いが、何故か針葉樹のリュウキュウマツに好んで静止することが多い。
飛ぶ位置は木の高さに準ずるが、ゴマダラチョウよりは低い。また飛翔速度もゴマダラチョウ程には速くない。特に♀の飛翔は緩やかである。これは毒蝶のリュウキュウアサギマダラに飛び方まで似せる事によって、鳥からの捕食を免れていると考えられている。
時に湿地に降りて吸水するが、♂のみで、♀にはそのような習性は観察されていない。
夏場にはホルトノキの花に吸蜜に訪れることが知られているが、意外にも樹液での観察例は少ないようだ。因みに自分は秋(9月)に柑橘類で3度、スダジイで3度ほど見ている。他にサルスベリでの吸汁例もあるようだ。またパパイヤでの吸汁例やアブラムシの分泌物を吸汁していた例もあるという。
バナナやパイナップルを発酵させた腐果トラップにも誘引されるが、夏期のみで春や秋には何故か殆んど誘引されない。
交尾は高い樹上で行われ、飛翔形式は⬅♀+♂であることが分かっている。
産卵は幼虫の食樹 Celtis boninensis リュウキュウエノキ(クワノハエノキ)の成葉、樹幹、太い枝に1個ずつ産みつけられるが、葉に産むよりも幹や枝に産むことの方が多い。
幼虫は成葉を好み、若葉を与えても摂食しよとせずに死亡した例もある。飼育時にエノキ、エゾエノキを与えると、時に辛うじて成長し、小型の成長を生じる場合がある。
越冬態は幼虫。但し、地面の落葉下で越冬するゴマダラチョウとは違い、樹幹に静止して越冬する。

元来日本には、この固有の亜種のみが分布していたが、近年になって原記載(名義タイプ)亜種が人為的に関東地方に持ち込まれ、分布を拡大している。これについては次項にて詳しく書く。

奄美諸島亜種は、環境省レッドリストの準絶滅危惧種(NT)に指定されている。一方、移入された原記載亜種は外来生物法により、特定外来生物に指定されている。

◆原記載亜種 ssp.assimilis (Linnaeus, 1758)

(夏型)

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

後翅赤紋が奄美産と比べて小さく、円が崩れがちで多くがリング状にならない。また色も淡く、赤というよりもピンク色をしている。
ハッキリ言って、ブサいくなアカボシだ。品がないのが許せない。個人的にはアカボシゴマダラの価値を著しく下げた存在として激しく憎悪している。

(春型)

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

春型は白化し、赤色紋が多くの個体で消失する。
奄美産や台湾産には、このような型は見られない。ただ、原記載亜種に分類されている朝鮮半島産も白化型は見られないそうだ。

ベトナム北部~大陸中国南部~東部~朝鮮半島,および済州島と周辺島嶼に分布する。


(出展『原色台湾産蝶類大図鑑』)

中国や韓国では里山的環境から都市部まで広く見られるようだ。但し『原色日本産蝶類生態図鑑(Ⅱ)』には「韓国では人家周辺にはほとんど産せず、渓流沿いの樹林地帯のかなり高地(標高800m付近)まで生息する。このような事実は本種がもともと樹林性の蝶であることを示している。」とあった。

本来は日本にはいない亜種だが、1995年に埼玉県秋ヶ瀬公園などで突如として確認された。外見上の特徴から、これらは奄美のモノではなく、中国大陸産の名義タイプ亜種であることが判明した。自然状態の分布域から飛び離れていることから迷蝶とは考えられない事や、突如として出現したことなどから蝶マニアによる人為的な放蝶の可能性が高いと言われている。
この埼玉での発生は一時的なものに終わったが、その後1988年には神奈川県を中心とする関東地方南部でも本種が発見され、またたく間に繁殖、やがて定着するようになった。
そして2006年には東京都内でも発生し、2010年以降には関東地方北部や山梨県・静岡県・福島県、さらには愛知県・京都府、奈良県や伊豆大島からも記録され、分布の拡大が続いている。増加の原因は本州の気候風土に適していたためと考えられており、また市街地の公園など人工的な環境にもよく適応している事から、今後も分布が拡大していくと推測されている。
尚、日本ではこの移入個体群が「特定外来生物」に指定されているが、もはや手遅れの感がある。

放した奴は、どうしようもないクズである。蝶屋の風上にもおけない大馬鹿モンだ。美しい奄美産に、このブサいくなアカボシの血が混ざったら最悪だ。もしそうなったら、どう落とし前をつけるというのだ❓放した奴は首を括って死んでもらいたいくらいだ。何で、こないなドブスなアカボシを放ったのだ❓美的センス、ゼロだ。どうせ放つのなら、クロオオムラサキとか放てよな。コヤツといい、ホソオチョウといい、何で二線級の蝶をわざわざ放すのだ❓もし会ったら、タコ殴りしてやりたいくらいだ。

成虫は5月から10月まで見られ、少なくとも年3回発生する。
中国や関東地方での食樹はエノキ Celtis sinensisで、食樹を同じくするゴマダラチョウやオオムラサキ、テングチョウへの影響が懸念されている。特に類似の環境に生息するゴマダラチョウとは生態的に競合するのではないかと危惧されている。但し最近の研究結果では、ゴマダラチョウの幼虫は大木を好み、アカボシゴマダラは幼木に付くことが多い事が判ってきており、ニッチはガチンコでバッティングはしないようだ。但し糞アカボシが今後各地で個体数を増やしていけば、将来的にはどうなるかはワカンナイけどね。
越冬態は幼虫だが、稀に蛹も見つかるそうだ。又、多くは4齢幼虫での越冬だが、終齢(5齢)幼虫も見つかっている。
越冬場所は奄美では樹幹だが、この原記載亜種は樹幹のみならず、ゴマダラチョウのように落葉の裏で越冬するものも結構いるそうだ。そして、樹幹で越冬するものの殆どが木の根元、地面から30cm以内で見つかるという。

◆台湾亜種 ssp.formosana (Moore, 1895)

(夏型♂)

(2017.6 台湾南投県仁愛郷)

(夏型♀)


(2017.6月 台湾南投県仁愛郷)

台湾名は「紅斑脈蛺蝶」。学名の「formosana」は「台湾の」という意。
4月から11月に亘って見られ、台湾全土の平地から山地帯に広く分布するが、個体数はあまり多くないとされる。
たまたまかもしれないが、自分は人家周辺など平地ではあまり見掛けず、渓流沿いや尾根で姿を見る機会の方が多かった。

原記載亜種との違いは以下の通りである。
①後翅第2〜第4室の赤色紋の黒円斑は大型。
②その外側の青白斑は第5〜7室のものと殆んど等大か、僅かに小形で、原記載亜種のように著しく小さくはならない。
③奄美亜種よりも赤紋は小さくて細い。またリングの下半分が消失して輪状にならず、外側の白紋と合わせて楕円状に見える。

自分の印象を述べると、地色が白ではなく、淡い水色に見える。ゆえに、よりリュウキュウアサギマダラに似ており、たまに見間違えた。でも何となく違和感があるから、直ぐに違うと見破れるけどね。
尾根沿いを飛ぶ姿や吸水に集まるのをよく見た。また腐果トラップにも頻繁に訪れた。

なお、台湾産にも白斑が減退した黒化異常型が見られ、これには「ab.hirayamai Matsumura」という型名が付けられている。

食樹は「DearLep 圖錄檢索」では以下のものが挙げられてた。

◆沙楠子樹 Celtis biondii
◆石朴 Celtis formosana

上の沙楠子樹を学名で検索すると、サキシマエノキと出てきた。しかし、サキシマエノキは日本では宮古諸島にしか自生しておらず、国外ではインドネシアのスラウェシ島とニューギニアに分布しているそうだ。これをどうとるべきかはワカンナイ。
下の石朴も学名から検索したが、和名は出てこなかった。でも学名を直訳すれば、「タイワンエノキ」となる。
タイワンエノキで検索すると「Celtis tetrandra」というまた別物の学名が出てきた。植物は変種も多いし、こうなると素人にはお手上げだ。奄美亜種の項でリュウキュウエノキをニレ科と書いたが、今はアサ科に分類されてるらしいし、ワケわからん。突っつくと迷宮地獄になりそうなんで、これについて特に掘り下げるのはやめておく。
因みに、台湾にも日本と同じエノキが分布しているそうだ。

 
追伸の追伸
解説の学名の項で大脱線してしまい、予想外に長くなってしまった。ほぼ完成していたものを見直していたら、学名の意味について書くのを忘れている事に気づいた。それがキッカケだった。で、平嶋さんの『蝶の学名』を見たら、小種名は「類似の」という意外なものだった。どうせゴマダラチョウに似てるんだろうと、そのままスルーしても良かったのだが、つい記載年まで確認したのが運の尽きだった。見逃せばいいものを、何かと疑問を持ってしまうこの性格、どうにかならんかね。

 
ー参考文献ー
◆『日本産蝶類標準図鑑』
◆『原色日本産蝶類生態図鑑(Ⅱ)』
◆『原色台湾産蝶類大図鑑』
◆新版『蝶の学名−その語源と解説』平嶋義宏

(インターネット)
◆『変異・異常型図鑑』
◆『Wikipedia』
◆『Linneus’s Butterfly Type Specimens』by「NATURAL HISTORY MUSEUM」
◆『DearLep 圖錄檢索』
◆『侵入生物データベース』
◆『探蝶逍遥記』