2021’カトカラ5年生 ヤクヒメ編4 解説編

 
vol.28 ヤクシマヒメキシタバ

 『雲霧林の賢人』

 
 最初に断っておくが、この解説編は2021年の冬には既に完成していた。だから長文にも拘わらず、前回からたった中3日で記事をアップできたのである。つまり、実を言うとヤクヒメ編は解説編から書き始めたのだ。その後に本編が書かれると云う逆パターンだったってワケ。
一昨年に書かれた文章を改めて読むと、ちょっと新鮮だ。へぇー、そんな事を考えてたんだ…と驚く。しまった。これでは3歩あるけば忘れる鶏頭、脳みそパープリン男の証明になってしまうではないか。

 その後、2022年にも採集に行ったので、今回はその文章を母胎に訂正加筆したものです。

 先ずは画像を並べておこう。

 
【ヤクシマヒメキシタバ♂】


(2022.6.20 三重県北牟婁群紀北町)
 
 
【ヤクシマヒメキシタバ♀】

(2021.6.30 三重県北牟婁群紀北町)


(2021.6.30 三重県北牟婁群紀北町)


(2021.6.30 三重県北牟婁群紀北町)


(2022.6.20 三重県北牟婁群紀北町)

 
雌雄の見分け方も書いておこう。
一番わかりやすいのは、裏面から見た腹端である。♀ならば産卵管が剥き出しになっており、腹部は太く短い傾向がある。また♀は♂と比べて翅形が全体的に丸みを帯びる。一方、♂は腹部が細長く、腹端の毛が♀よりも長く、束状となる。以上の事から判別は容易である。

 
【裏面】

(2021.6.30 三重県北牟婁群紀北町)

 
ボロ過ぎて、斑紋が不鮮明なので、他から画像をお借りしよう。

 

(出典『日本のCaocala』)

 
蛾の裏面画像は少ない。その点『日本のCatocala』は流石だ。図鑑として抜かりがない。

 
(♂裏面)


(2022.6.20 三重県北牟婁群紀北町)

 
(♀裏面)

(2021.6.30 三重県北牟婁群紀北町)


(2022.6.20 三重県北牟婁群紀北町)

 
 1972年に屋久島で発見された小型種で、稀なことからマニアの間では人気が高く、珍品とされる。
後翅地色はくすんだ淡いクリーム色。中央黒帯と外縁黒帯はボヤけて明瞭でなく、繋がらない。この点が他のカトカラと大きく違うところだろう。言ってしまうと、最も下翅が汚いカトカラなのだ。他のカトカラの多くが黄色や赤やオレンジ、紫色、白など美しいものばかりだからね。

 
(キシタバ♀)

(ミヤマキシタバ♀)

(ナマリキシタバ♀)

(ベニシタバ♂)

(ムラサキシタバ♂)

(シロシタバ♂)

(オオシロシタバ♂)

(ヒメシロシタバ♀)

 
よって、カトカラは蛾類の中でも最も人気の高いグループの一つだと言われている。

ヤクヒメの話に戻ろう。
前翅は少し青みを帯びた淡暗灰褐色で、斑紋は不明瞭。胸部は前翅と同じ色調の淡暗灰褐色で、腹部は後翅と同じ色調の暗めの淡いクリーム色をしている。

前翅斑紋に、雌雄とは無関係に2つの型が認められる。
 
 

 
コチラがノーマル型だが、個体によって色の濃淡があり、メリハリのある白っぽいモノの方が少ないような気がする。あくまでも私見的印象だけど。

他に前翅の底部(下部)が黒化する型が知られており、稀に著しく黒化するものも見られる(註1)。

 

(出典『jpmoth.org.www』上記2点とも)

  
『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』の画像も貼り付けておこう。

 


(出典『日本産蛾類標準図鑑2』)

 
アレっ❗❓、コレって下は『jpmoth.org.www』に掲載されてる黒化型と同じ個体じゃないか。今になって漸く気づいたよ。
写真の撮り方や印刷によって、こうも色の印象が変わるのね。
だから「百聞は一見に如かず」、実物を見ないとその種の本当の美しさや魅力は解らないのだ。
なので比較的再現性の高そうな石塚さんの『世界のカトカラ』からも画像を拝借させて戴こう。

 


(出展『世界のカトカラ』)

 
画像は拡大できるので、詳細に比較したい人はピッチアウトしてね。

 
【分類】
科:ヤガ科(Noctuidae) シタバガ亜科(Catocalinae)
属:Catocala Schrank, 1802

 
【学名】Catocala tokui Sugi, 1976
属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり下翅が美しいことを表している。

小種名の「tokui」は、1972年に屋久島で最初にこのカトカラを発見した渡辺徳氏の名前に因む。尚、語尾の「i」は学名が人物(男性)に献名される場合には「i」を付け加えるのがルールになっているからだ。ややこしい話だけど、けっして徳井さんではないのだ。
ちなみに氏は翌1973年には対馬でも精力的に蛾類の調査をされ、そこでも本種を発見されている。その後、1978年に中谷進治氏によって和歌山県大塔山系でも発見された。

 
【和名】
屋久島で発見され、小さいことから「ヒメ」と名付けられたのだろう。補足しておくと、昆虫の名前は大きいものには頭の部分に「オオ」もしくは「オニ」が使用されるが、小さいものには「コ」、もっと小さいものには「ヒメ」と名付けられるケースが多い。

 
【亜種と近縁種】
先ずは亜種から。
日本産が原記載亜種”Catocala tokui tokui”となり、台湾のものは別亜種”ssp.tayal”とされる。亜種名は、おそらく台湾の地名「タイヤル」に因んでいるものと推察される。あの珍品タイヤルミドリシジミが発見されたタイヤルだ。
余談だが、台湾名は『渡邊氏裳蛾』。命名の由来は発見者の渡辺徳氏からだろう。

 
(ヤクシマヒメキシタバ台湾亜種)

(出典『臺灣生命大百科』)

 
(⁠・⁠o⁠・⁠;⁠)んっ❗❓ でも、あれれー❓

 

 
ラベルをよく見ると、何と日本のホロタイプの標本じゃないか。このサイトは台湾の蛾について一番参考になるサイトだ。なのに台湾亜種の標本画像を表記できないだなんて、それ程までに台湾では稀種なのか❓
仕方なく他の画像を探す。

 

(出典『飛蛾資訊分享站』)

 
が、この一点しか見つけられなかった。なので裏面画像もない。
おそらく♀だろう。採集地は台湾中部の南投縣凌霄殿となっていた。他も調べたが、わかった事は最初に発見されたのが桃園仙蘇漣の標高1200m地点で、台中県梨山にも記録があると云う事くらいで極めて情報量が少ないのだ。やはり相当な珍品みたいだ。
見た目は下翅の外側の黒帯が日本産のモノより細いような気がする。又、地色の色も、明るくて黄色味が強いように見える。だが、この1個体だけを見て両者の違いを述べるのには無理がある。それは亜種固有の特徴ではなく、単なる個体変異かもしれないからだ。

 中国南東部のモノにも亜種名が付けられている筈だと思ったが見つけられなかった。『世界のカトカラ』では、”tokui”となっているから、特に亜種区分はされていないのだろう。
ナゼに台湾だけが亜種❓という疑問符が頭に浮かばないワケではないが、変にツッコミを入れると藪蛇になりかねない。やめておこう。台湾では各種の生物が独自進化している例が多い。ヤクヒメもその例に漏れずという事なのだろう。そうゆうことにしておこう。

 
(中国産ヤクシマヒメキシタバ)

(出典『世界のカトカラ』)

 
日本のものと比べて、前翅にややメリハリを欠くような気もするが、見た目は殆んど同じだ。なるほど亜種区分する程のことはないと云うのも理解できる。

 タイから中国南部に近縁種のシャムヒメキシタバがいる。

 
(Catocala siamensis kishida&Suzuki, 2002)

(出典『世界のカトカラ』)

 
ヤクヒメに似るが、後翅の黒帯の形状などで区別できるそうな。稀な種だそうで、食樹も不明とのこと。

 他に中国南東部に生息するヒメウスイロキシタバとも見た目が近い。

 
(Catocala hoferi Ishizuka&Ohshima, 2003)

(出典『世界のカトカラ』)

 
日本のウスイロキシタバと比べて、かなり小型。
成虫は5月頃に現れるが、少ないという。食樹は不明。

 ついでだからウスイロキシタバの画像も貼り付けておこう。

 
(ウスイロキシタバ Catocala intacta ♂)

(裏面♀)

(2020年 6月 兵庫県宝塚市)

 
表側はヤクヒメと少し雰囲気が似ているくらいだが、裏面はかなり近いものがある。両種を間違うことはあるまいが、ヤクヒメの生息地には必ずと言っていいほどウスイロもいるので、一応裏面の違いを列記しておこう。

①ヤクヒメはウスイロと比して上翅の黒帯、特に中央の黒帯が太い。
②ウスイロは上翅の頭頂部(先端)に黄色い小紋が入るが、ヤクヒメには入らない。
③ヤクヒメは下翅中央の黒帯が外側に向かって膨らみ、丸く弧を描くような曲線を示す。また、その内側に「くの字形」の小紋が入る。
④ヤクヒメは下翅外側の黒帯が太い。一方、ウスイロはその黒帯が細く、外縁から離れて見える。また上部で帯が消失する。

図鑑では並べて図示される事が多いし、共に照葉樹林のカトカラだから、おそらく近縁関係にあるのだろう。
一応、念の為にDNA解析で確認しておこう。

 

(出典『Molecular Phylogeny of Japanese Catocala Moths Based on Nucleotide Sequences of the Mitochondrial ND5 Gene』)

 
図は拡大できるが、探すのが大変だろうから拡大したものを載せておきます。

 

 
やはり近そうだ。
でもクラスターは上の Catocala streckeri アサマキシタバの方が近縁に見えるぞ。

 
(アサマキシタバ♂)

(同♀)

(2023.5.12 東大阪市枚岡公園)

(裏面)

 
表も裏も全然似てない。ホンマに近縁かあ❓
ここで漸く思い出した。そういやこのDNA解析に関しては、世界的なカトカラ研究者である石塚勝己さんからメールで次のような御指摘があったんだわさ。

「ブログ、楽しく読ませていただきました。
引用されているDNA系統樹は、新川さんにやっていただいたミトコンドリアND5をMLで処理したものです。これでアサマとウスイロが近縁と判断するのは誤りです。ここで類縁が指摘されているのはワモンとキララ、オオシロとcerogama、ムラサキとrelicatだけです。そのほかのものは類縁関係は判断できません。おそらくミトコンドリアND5の解析ではカトカラの系統を推定するのは無理なのだと思います。😀」

つまり、この図でウスイロとアサマが近縁でないならば、ヤクヒメとの類縁関係も証明されないとゆう事だね。
だとしたら、この系統図って何なのよ❓ 素人目には混乱を助長しているとしか思えんぞ。

 
【開張】40〜48mm内外
日本のカトカラの中ではアズミキシタバ、マメキシタバと並ぶ小型種。
だが、アズミキシタバと比べて胴体がゴツい。またマメキシタバは大きさに幅があり、同等の小さいものから更に大きなものまでいる。
常々、大きさを開張だけで述べるのには疑問を感じている。翅の表面積と胴体の表面積とを無視して大きさを語るのは間違ってるんじゃないかと思うんだよね。
例えば日本最大のカトカラはムラサキシタバだとされる事が多いが、シロシタバも最大種としているケースは結構ある。なんだか曖昧なのだ。コレは両種の開張が同じくらいだからだろう。ところが、時に西日本の低地のシロシタバは開張だけならムラサキシタバを凌駕する大きな個体もいる。でもシロシタバの上翅はムラサキシタバと比べて細長いし、やや下翅も小さいのだ。つまり表面積はムラサキシタバの方が広い。だからムラサキシタバを最大種とするのが妥当かと思われる。
その論に則れば、小さい順はアズミ、ヤクヒメ、マメという並びになると思う。まあ、どうでもいいっちゃ、どうでもいい話だけど…。

 
【分布】本州,四国,九州,対馬,屋久島


(出典『日本のCatocala』)

 
分布域図である。コチラの図鑑の方が出版が少し早いので、高知県ではまだ発見されていないゆえ空白になっている。

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
コチラは塗り潰されている範囲が広いが、県別の分布図であることに留意されたし。つまり対馬にしか分布していなくとも長崎県全体が塗り潰され、鹿児島県は屋久島にのみ分布していても鹿児島本土までも塗り潰されてしまうという事だ。調べた範囲では、九州本土の鹿児島県や長崎県からの記録は見つけられなかった。『日本のCatocala 』の分布図でも、長崎・鹿児島両本土共に分布を示してはいないしね。尚、分布図にはないが、2018年には大分県でも見つかっている(註2)。

アカガシ、ウラジロガシを主体とするシイ・カシ類の多い自然度の高い照葉樹林帯(暖帯多雨林)のカトカラで、屋久島の中腹や対馬の有明山、宮崎県美郷町、大分県、宿毛市や日高村などの高知県西部、徳島県、紀伊半島南部の大塔山系などの原生林に局地的に産する。
分布はクロシオキシタバの棲息域に包含されるが、クロシオよりも遥かに局限される。コレは雨量が多くて湿度の高い、いわゆる雲霧林的な環境でしか見られないからだろう。
尚、分布図にはないが、他に2018年の『誘蛾燈』に、兵庫県市川町から得られたという報文がある。但し、その後の追加記録は無いようだ。また広島県の庄原市東城町にも記録があるみたいである。
国外では台湾中部の山地、中国南東部に分布している。

垂直分布は、生息地のロケーションが深山幽谷の原生林といった趣きだから、高い標高に棲むと思われがちだが案外低い。
和歌山県田辺市の大塔渓谷は約400m。安川渓谷も400mだ。三重県熊野市の布引の滝で299m。奈良県上北山村の坂本貯水池で385m。採集した三重県紀北町のポイントは、何とたったの115mであった。そして高知県の日高村に至っては100m前後だという。対馬の有明山は標高558m。おそらく生息地はそれ以下だから高くはないだろう。あと比較的高い標高ならば、三重県紀北町(旧海山町)の千尋峠の766mというのがある。そうなると、一番高い所に生息しているのは屋久島と云う事になりそうだ。屋久島は高い所では標高2000m近くある。ヤクヒメは中腹に棲息しているらしいから、単純にそれを2で割ると1000mにもなる。とはいえ、一番高い標高を2で割っただけの数字だ。多くの山はもっと低標高ゆえ、実際はもっと低い所に生息しているものと思われる。だとしても高い。千尋峠と同等か、それ以上の高さに居るという計算になる。でも、俄には信じ難い面もある。基本的には低山地のカトカラだ。そんな高い所に好んで居るかね❓
あっ、待てよ。もしかして雲霧林があるのが、それくらいの標高なのかもしれない。そういえば屋久島に遊びに行った時、下はピーカンに晴れてるのに山の上の方には雲が掛かってるなんて事はよくあった。で、その中に突っ込んで行ったら、大雨だったんでビックリした事があるな。納得である。あながち1000m以上に居ても何らオカシクはない。

 
【レッドデータブック】
和歌山県:学術的重要
長崎県:絶滅危惧IB
宮崎県:絶滅危惧IB類(EN-R)
三重県:絶滅危惧種I類

 
【成虫の出現期】
6月中旬から現れ、7月下旬頃まで見られる。
とはいえ、西尾規孝氏は『日本のCaocala』の中で「野外個体の飼育結果から、成虫の寿命は約3週間と推定される。」と書かれているように比較的発生期間は短いようだ。そういえばT氏など採集されたことのある方々からは「すぐボロになる。」と聞いた事がある。おそらく寿命が短いだけに発生期を少しでもハズすと鮮度の良い個体は得られないのだろう。確かに最初に採集した2021年の6月30日の時点で、既に♂はボロであった。2022年の6月20日でも、♂♀共に完品は採れたが、既にスレ個体もいた。或いは早いものでは6月上旬から発生しているかもしれない。それらから推察すると、紀伊半島南部では6月中旬が採集適期と考えられる。

 
【成虫の生態】
産地では時に灯火採集で多数得られることもあるが、元々は少ない種のようだ。『世界のカトカラ』でも珍品度は★4つがついているし(最高ランクは★5つ)、分布域が狭くて局所的だから珍品だと言って差支えないだろう。また今のところ採集方法が、ほぼ灯火採集に限定されており、樹液や糖蜜での採集では結果が望めないというのも採集難易度を高めている。あと、雨が降らないと灯火にもあまり来ないようだし、かといって土砂降りではダメだから、その点でも厳しいものがある。条件はシビアなのだ。

対馬では樹液に集まるようだが、糖蜜トラップで採集された例は今のところ1例も無いようだ。とはいえ、おそらく対馬なら糖蜜にも誘引されるだろう。しかし樹液で観察されているのだって、知りうる限りでは対馬のみで、他では観察例がない。だから対馬以外では糖蜜トラップでの採集は難しいだろう。実際、T氏の話では何度も生息地で糖蜜を撒いたが一度も寄ってきた事はないと言っておられた。そういや蛾採りの天才小林真大(まお)くんも、そんな事を言ってたような気がする。
尚、自分が糖蜜を撒いたのは最初の布引の滝の時の一度のみ。結果はウスイロキシタバしか寄って来なかった。他は全て雨天だったので撒いていない。どうせ撒いても雨で流れるだろうと思ったからだ。やるなら糖蜜ではなく、バナナトラップ等の腐果トラップの方がまだしも採れる可能性があるかもしれない。

灯火へは雨の日など湿度の高い日に多く飛来する。
それを証明するような記述が『日本のCatocala』にあり、著者の西尾氏は「成虫を室内で飼育すると、雨天時に行動が活発になる」と書いておられる。つまり日本のカトカラの中では、最も湿潤な環境を好む種だと考えられる。ようは主に雲霧林に棲むカトカラなのだ。
灯火に飛来する時間帯は特に決まっていなくて、夜暗くなってすぐ来る者があれば、夜明け前になって漸く飛来する者もいるという。だが、雨の日以外の飛来は概して遅く、午後11時くらいにならないと飛んで来ないと聞いたことがある。
自分の少ない観察例だと、2021年の6月30日は午後8時半に1頭目(♀)が飛んで来た。その後、9時過ぎまでに2頭が飛来。10時台前半から中盤に散発で2頭が飛来。長いインターバルがあって11時15分から立て続けに3頭が現れた。その後、雨が強くなったせいかピタリと飛来が止まった。2022年は、21:50と0:45に♀が、午前0:50と01:20に♂が飛来した。偶然だろうが、前半は♀、中盤以降から♂が混じり始めるという印象を持っている。

『日本のCatocala』には、他にも野外での試験、飼育下での観察経過が書かれている。それによると、成虫は昼間は他の多くのカトカラと同じように頭を下にして静止しているという。交尾は多数回交尾で、時刻は夜の午後11時から午前2時だったとあった。

 
【幼虫の食餌植物】
成虫から採卵した飼育下ではあるが、ブナ科コナラ属のウバメガシとクヌギを摂食することが分かっている。
大方の予想では、食樹はウバメガシだと推測されているが、野外では未だ幼虫や卵は発見されていない。ウバメガシは海岸に多いから原生林に生えてると云うイメージはない。文献では誰も言及していないが、案外ウバメガシじゃなくて他の樹種が本命の食樹だったりしてね。
カトカラと生活史や食樹が似ている蝶のゼフィルス(ミドリシジミの仲間)の例もある。ゼフィルスは野外では食樹が限定的なのに、飼育下では広範囲の植物で飼育可能なのだ。ゆえにカトカラにもその可能性はある。ましてや蛾だ。基本的に蝶よりも食性は広い。つまり、メインの食樹は他の木である事は充分に考えられるのだ。

 
(ウバメガシ(姥女樫))


(出典『庭木図鑑・植木ペディア』)

 
学名:Quercus phillyraeoides
別名:イマメガシ(今目樫)、ウマメガシ(馬目樫)

ブナ科コナラ属に分類される常緑広葉樹の1種。
日本に自生するアカガシ亜属のカシ類よりもナラ類に近縁で、カシ類では唯一コナラ亜属に属している。
南欧に自生するコルクガシ(Quercus suber)とは特に近縁であり、交雑もするという。
そういや南欧にコレを食うであろうカトカラがいたな…。

 
(コルクガシキシタバ Catocala conversa)

(出展『世界のカトカラ』)

 
食樹が近いものならば、もしかして近縁種かと思ったのだが、全然似てないね。因みに分布は南欧、北アフリカ、ロシア南部(ヨーロッパ)、トルコにかけてと広いが、あまり多くない種だそう。

話をウバメガシに戻そう。
常緑広葉樹の高木で、高いものだと20m近くまで成長するが、通常は5〜6m程度の低木が多い。樹形はゴツゴツしていて、樹皮には独特の縦方向のひび割れが出る。若枝には黄褐色の柔らかい毛が密生する。
葉の長さは3~7㎝。日本産の常緑カシ類では特に丸くて小さく、また硬い葉を持つ。葉の上半分に浅い鋸歯があり、裏は淡緑色。若葉の頃は葉裏に星状毛が見られる。葉は厚くて硬く、艶があって乾燥や塩分に強い。小柄の葉は乾燥への適応とも考えられ、裏側に丸まるのは付着した波しぶきを落としたり、葉の裏側から水分が蒸発するのを防ぐためだとされる。また、硬いので落ち葉になっても分解が遅く、そのぶん保水力があるとも考えられている。新芽は茶色く、和名はこれに由来するとされるが、葉が馬の目に似ていることから「馬目樫」と名付けられたという説もあるようだ。
 硬くて小さいなんて、如何にも不味そうな葉じゃないか。そんなのワザワザ好んで食うかね❓他に柔らかい葉はいくらでもあるだろうに。ホンマにウバメガシかえ❓
 乾燥だけでなく刈り込みにも強く、病気にも強いことから生け垣や街路樹としてもよく植えられている。その材は密で硬く、備長炭の材料となることでよく知られている。備長炭といえば、高級焼鳥店で使われる炭だ。そして、その品質の最高峰と評されているのが紀州備長炭である。それゆえだろう、和歌山県の県の木にも指定されている。

分布は日本、朝鮮半島、中国(中部、南部、西部)、ヒマラヤ。
日本では本州の房総半島以西、四国、九州、南西諸島(屋久島、種子島、伊平屋島、伊是名島、沖縄島など)に分布する。但し沖縄県での分布域は極めて狭く、伊平屋島、伊是名島と沖縄本島から僅かな記録があるのみである。
主に太平洋側の暖かい地方に見られ、潮風や乾燥に強い特性を持つことから、海岸付近の乾燥した尾根や岩石地、急傾斜地に自生する。群落を作り、密生することが多く、トベラやヒメユズリハと共に海岸林を構成する代表的な樹木である。降水量の少ない瀬戸内式気候地域に多い。

こうゆう特性を見ていると、ホントにウバメガシがヤクシマヒメキシタバの食樹なのかなあ❓と思ってしまう。ウバメガシは乾燥地に生える木だが、ヤクヒメの生息地は真逆なのである。全ての生息地の環境を調べたワケではないが、ヤクヒメは基本的には湿潤な環境を好む。しかも多くは谷間で、極めて空中湿度が高い場所だ。だからヤクヒメの産地にはルーミスシジミやキリシマミドリシジミも生息している場合が多い。両方とも空中湿度が高い場所を好む種だからね。
意外とメインの食樹はイチイガシやウラジロガシ、アカガシだったりして…。

だが、ウバメガシについて更に詳しく調べていくと、新たな事が分かってきた。驚いたことにウバメガシは紀伊半島では内陸部の渓谷の岩場にも生育しているのだ。

 

(出展 後藤伸『明日なき森』より)

 
この図を見ると、かなり山側にもウバメガシが生育している事が解る。そういやウバメガシを食樹とし、主に海岸部で見られるクロシオキシタバが紀伊半島南部では山地帯でも見られるというのを思い出したよ。
図の解説によると、紀伊半島南部では内陸部の崖地にウバメガシが優占する森林があり、やや特殊な昆虫相を維持しているという。その代表的なものとしてウラナミアカシジミの亜種、キナンウラナミアカシジミが挙げられている。すっかり忘れていたが、キナンウラナミアカもウバメガシが食樹だったわ。本来ウラナミアカはクヌギなどの落葉ナラ類の柔らかい葉を食すのに、このイジけた亜種はクソ硬いウバメガシを餌にしているのだ。キナンウラナミは十津川村だとか内陸部にも居て、確かに其処にはウバメガシがあるわ。
この内陸部にあるウバメガシ林は、紀伊半島独特の例外的存在であるかのように言われることがあるが、実際には他にも四国など西日本各地に内陸のウバメガシ林が点在し、それぞれの地域で「ここは例外である」と言われているという。
尚、和歌山県大塔山系法師山の山頂(1120m)にはウバメガシの低木林があり、おそらく最も高い標高の生育地だそうだ。
また、紀伊半島南部ではあちこちの低山地の斜面に、備長炭の用材としてウバメガシが優占するように育成された森林があるらしい。しかしながら最近は備長炭の需要増加のため、減少が目立つという。

でも屋久島のウバメガシの分布を調べたら、殆んど海岸部にしかないような感じなんだよなあ…。ヤクヒメの棲息域は島の山地中腹部だというし、やっぱホントにウバメガシが食樹なのかな❓それに海外での分布は朝鮮半島、中国(中部、南部、西部)、ヒマラヤとなってたよな。となれば、ヤクヒメ台湾亜種がいる台湾には無いって事になる。益々、ウバメガシがメインの食樹ではない可能性が出てきた。
意外とルーミスの食樹であるイチイガシだったりして…。

 
(ルーミスシジミ)

 
でもその前に、一応ウバメガシが本当に台湾に生えていないのか調べ直そう。

(⁠@⁠_⁠@⁠)ゲッ❗、台湾にもバチバチに生えてるじゃないか。ったくよー、鵜呑みにして大恥かくとこじゃったよ。
気を取り直してイチイガシで検証してみよう。

 
(イチイガシ)

 
(イチイガシの分布)

(出典『雑想庵の破れた障子』)

 
ちなみにこの図はイチイガシの分布そのものではなく、巨樹の分布である。それでもだいたいの分布と合致しているものと思われる。尚、イチイガシも台湾に自生しちょります。

分布図を詳細に見る。
ゲッ❗、でも対馬にはあまり生えていないようだ。巨樹の分布ではあるが、4本以下しかない。対馬はヤクヒメの個体数が比較的多いとされているから(註3)可能性は低まる。
となると、同じくルーミスの食樹ウラジロガシなんかはどうだろうか❓

 
(ウラジロガシ)


(出典『庭木図鑑・植木ペディア』)

 
(ウラジロガシの分布)

(出展『植物社会学ルルベに基づく植物分布図』)

 
この分布ならば、ヤクヒメの分布とも合致する。台湾でも自生している。となれば、可能性は高まる。
誰かウラジロガシで飼育してみてくんないかなあ。

そういや対馬も屋久島もキリシマミドリシジミの産地として有名だったな。

 
(キリシマミドリシジミ♂)

 
だとすれば、キリシマの食樹であるアカガシの可能性も考えられはしまいか…。いや、ルーミスはヤクヒメの居る所には大体いるが、高知県と対馬には生息しない。ではキリシマはどうだ❓ 居ないとこって、あったっけ❓ 全て居たんじゃないかしら。急ぎ図鑑で確認する。

 

(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
\⁠(⁠◎⁠o⁠◎⁠)⁠/おーっ、やっぱヤクヒメの分布地全てにキリシマは生息している事になってる❗となれば、アカガシが一番有望ではないか。

 
(アカガシ)


(出典『庭木図鑑・植木ペディア』)

 
(アカガシの分布)

(出展『植物社会学ルルベに基づく植物分布図』)

 
コチラもヤクヒメの分布と重なるし、台湾でも自生している。
もうアカガシじゃね❓

けど待てよ。そういや思い出したぞ。【分布】の欄に、自分で「対馬と屋久島と紀伊半島南部のヤクヒメの生息地は、アカガシとウラジロガシ等を主とする原生林で発見されている。」と書いてたよな。すっかり忘れてたよ。脳みそ鶏並みじゃよ。
それでまた思い出した。キリシマミドリシジミの幼虫はの食樹はアカガシだが、それ以外にウラジロガシも食樹としているよな。となると、ウラジロガシも同等の可能性があるよね。
(⁠ب⁠_⁠ب⁠)むぅー、となればアカガシやウラジロガシはヤクヒメの食樹として、かなり有望とは言えまいか。或いは、どっちもメイン食樹だったりして…。
重ねて言う。どなたかイチイガシ、ウラジロガシ、アカガシで飼育してくんないかなあ。オラって、蝶さえもロクに飼育した経験がないからさ。自分で究明するのは無理でごわすよ。

 でも、話はまだ終わらない。
さらに屋久島の植物構成を調べてみると、イスノキが多そうだ。イスノキも照葉樹だし、マンサク科だ。大部分のカトカラはブナ科とバラ科を食樹としているが、少ないながらもニレ科、ハンノキ科を食樹としているものもいる。またカトカラはゼフィルス(ミドリシジミ類)と食樹がかぶるものも多い。マンサクはミドリシジミの仲間であるウラクロシジミの食樹だから、可能性はゼロではないだろう。

 
(イスノキ)


(出典『庭木図鑑・植木ペディア』)

 
(イスノキの分布)

(出典『植物社会学ルルベデータベースに基づく植物分布図』)

 
ウラジロガシやアカガシ等に比べれば可能性は低そうだが、一応ヤクヒメの分布とも重なる。分布か海岸部に片寄りがちなのが気になるが、イスノキの可能性もないではないね。コレも誰か試してくんないかなあ…。

 
【幼性期の生態】
幼生期については西尾氏の『日本のCatocala』の力をお借りして、全面的にオンブに抱っこで書かせて戴きやす。

 
(卵)


(出典『日本のCatocala』以下全て同じ)

 
卵は長経と短経の差がやや大きい饅頭(まんじゅう)型。大きさは小さく、ヨシノキシタバの卵に似るが、横隆起条の間隔がより広い。参考までに付け加えておくと、ヨシノキシタバもヤクヒメと同じく湿った苔に産卵されると推測されている。
環状隆起は認められない。花弁状紋とその外側の類似層は合わせて4、5層。縦隆起条、横隆起条は共に直線的。
受精卵は褐色で、若草色の斑紋があるが、まだ野外では発見されていない。西尾さんは「母蝶の採卵経験から、卵は湿潤な苔の中に産付されると推定される。」と書いておられる。やっぱ雨が相当降るような所じゃないと生息できないカトカラなのかもね。屋久島はもとより紀伊半島南部、特に大台ケ原から尾鷲市辺りは日本有数の多雨地帯だもんね。当然、苔も多いだろう。
ところで対馬とか他の生息地はどうなのだ❓

調べてみると、海に囲まれた対馬は対馬暖流の影響を受ける温暖で雨が多い海洋性の気候だと書いてあった。
年間降水量は2250mm。全国平均の1611mmよりも多く、6~8月に年間量の約45%(990mm)の雨が降る。この数値は同期間の東京の約2倍、札幌の4倍弱にあたり、台風の多い那覇と比べても1.6倍程だそうだ。
なお、年間降水量の1位は屋久島で4477mm、2位は宮崎県えびの市(4393mm)、3位が高知県馬路村(4107mm)で、4位が三重県尾鷲市(3848mm)となっていた。尚、県別では高知県が1位だそうである。とゆうことは高知県や宮崎県の生息地も雨が多い地域であろうことは想像に難くない。
あっ、予断でモノを言っちゃダメだね。邪魔くさいが調べれば分かりそうなものは、ちゃんと確認しておこう。

Wikipediaによると、生息地の宮崎県美郷町はケッペンの気候区分において、温帯夏雨気候となっている。降水量の多い宮崎県内でも特に多雨な地域の一つで、年降水量は毎年2500〜3500mm前後で推移しており、多い年は年降水量が4000mmを越える事もあるようだ。
高知県宿毛市の気候は暖かく温暖で、コチラも年間雨量が非常に多いそうだ。最も乾燥している時期でも雨がよく降り、年平均降雨量は2074mmとあった。
鏡地区は四国山地と太平洋の間に挟まれた場所にあり、四国地方の中では特異な気候である。夏季は太平洋に近いため、高温多湿かつ台風が襲来する地域である。但し鏡村では気象観測が行われておらず、隣接する土佐山村で行われているそうだ。矢張り、ヤクヒメと雨とは切っても切れない仲なんだね。

 ♀の産卵管には特徴的な剛毛を輪生しており、西尾氏は産卵習性に関連があるとみられている。繊維質なものを産卵床に敷いておくと、卵に繊維を巧妙に絡ませるという。この点から、西尾が苔に卵を産むと考えたのだね。苔に卵を産む為にヤクヒメは進化したのだ。雲霧林の賢人だね。

 

(出典『日本のCatocala 』)

 
確かに♀裏面の交尾器周辺は他のカトカラとは随分と違う。今一度、画像を貼り付けておこう。

 

 
比較のために他種の画像も並べておく。

 
(カバフキシタバ♀裏面)

(2020.6.29 奈良市)

(ノコメキシタバ♀裏面)

(2019.8.6 長野県上田市)

(ハイモンキシタバ♀裏面)

(2019.8.6 長野県上田市)
 
(マホロバキシタバ♀裏面)

(2019.7.16 奈良市)

(ムラサキシタバ♀裏面)

(2019.9.4 長野県白骨温泉)

(ヨシノキシタバ♀裏面)

(2020.8.25 奈良県吉野郡)

(ミヤマキシタバ♀裏面)

(2020.8.10 長野県開田高原)

(ヒメシロシタバ♀裏面)

(2020.8.9 長野県開田高原)

(ナマリキシタバ♀裏面)

(2020.8.8 長野県松本市)

(アサマキシタバ♀裏面)

(2019.5.22 東大阪市枚岡公園)

 
まだ他の種の画像もあるが、コレくらい並べれば充分だろう。兎に角、何れも尻先のスリットが細い。載せてない他のカトカラも同じようなものだ。それと比してヤクヒメは極めて特異な形をしており、溝が圧倒的に広い。その特異な形態には何らかの理由がある筈だ。西尾氏は産卵管の剛毛については言及されているが、交尾器全体についての形態的理由には触れられていない。ではなぜこのような形態になったのか❓暫し考えたけど、全然思いつかーん。

最後にウスイロキシタバを載っけておこう。

 
(ウスイロキシタバ♀裏面)

(2020.6.19 兵庫県西宮市)

 
まだしもウスイロがヤクヒメと近いかもしれない。
ウスイロも暖帯照葉樹林に棲み、どちらかといえば湿潤な気候を好む。それと何か関係があるのかもしれない。

 次に幼虫についてみていこう。

 
(1齢幼虫)

(出典『日本のCatocala 』以下全て同書からの引用)

 
(2齢幼虫)

 
(5齢幼虫)

 
終齢は5齢。体長は約55mm。頭の幅は3mm。
西尾さんは数系統を飼育したが色彩変異は特に認められなかったそうだ。

 
(終齢幼虫の頭部)

(頭部の脱皮殻)

 
ウスイロキシタバの回で既に言及してるけど、卵は全然似ていないが終齢幼虫は結構似ているかも。詳しくはウスイロキシタバの回を読んでくれたまえ。
邪魔くさいからそうは書いたものの、アタイはいい人なのて画像を貼付しておきます。

 
(ウスイロキシタバの卵)

(終齢幼虫)

(幼虫の頭部)

(頭部の脱皮殻)

 
カトカラの幼虫の識別には頭部の斑紋の違いが重要だと言われている。となると、顔はかなり似ているから親戚くさいぞ。卵が似てないから微妙ではあるが、両者は近縁関係にあると言えなくもないってところか…。

                 おしまい

 
追伸
 結局、2021年は♂が採れなかったし、2022年も紀伊半島南部に足を運ばざるおえないだろう。でもなあ…、渋い魅力はあるけれど、それは珍品であるがゆえにそう見えるだけかも。冷静に見れば子汚い蛾だから、あんましモチベーションが上がんないんだよなあ…。

前書きに書いたように、コレは2021年に書かれたものです。ここからは追伸の追伸です。

 えー、カトカラシリーズの中でもヤクヒメ編が一番の難産でした。ホント疲れたよ。書き始めてから足掛け三年だもんね。
コレで、あと残るはケンモンキシタバ、エゾベニシタバ、キララキシタバ、アマミキシタバの4種となった。書くのが段々億劫になってきたが、何とかシリーズの完結を成し遂げたい。

 尚、複数の人から聞いた噂だと、2020年、2021年共に紀伊半島南部では雲霧林の賢者は不作だったようで、何処でも数があまり採れなかったそうだ。2022年も、一部では個体数が多かった所もあったものの、全体的には不作だったと聞く。北牟婁郡も少なかったしね。
正直、思っていた以上の稀種だったので、少しばかり驚いている。気候変動が進めば、益々珍しい種になるだろう。雲霧林の賢者が、いつまでも雨の中を元気に舞ってくれる事を願ってやまない。

 
(註1)稀に著しく黒化するものも見られる…
画像は邪魔くさいので貼り付けないが、ブログ『南四国の蛾』の「変異」の項目に、それに該当するような個体の画像がある。

 
(註2)2018年には大分県でも見つかっている
大分昆虫同好会の会誌『二豊のむし』の、No.56号に記事がある。中身は読んでないけどー。

(註3)対馬では個体数が比較的多いとされるから…
但し、2008年発行の『日本のCatocala』には「対馬は原生林の伐採により絶滅状態にある。」と云う記述があった。そういや長崎県ではレッドデータ入りしてるな。
一方、個体数が多いような事が書いてあったのはツイッターの「火の粉」さんのサイトで、2020年の投稿に「対馬最優先種と言っても過言ではないくらいいた。」と書いてあった。猶、おそらく「優先」は間違いで、ホントは「占有」と書きたかったのだろう。でないと意味が通らない。つまりはその時はニッチを支配するようなド普通種だったってこったろう。
しっかし、十数年前に絶滅寸前だったものが、今になって個体数が増えてるってどゆ事❓対馬といっても広いから、多産地もあるのかな❓

 
ー参考文献ー

◆『世界のカトカラ』石塚勝己
◆『日本のCatocala』西尾規孝
◆『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』岸田泰則
◆『明日なき森』後藤伸
◆『日本産蝶類標準図鑑』白水隆

インターネット
◆『Wikipedia』
◆『南四国の蛾』
◆Twitter『火の粉』
◆『庭木図鑑・植木ペディア』
◆『植物社会学ルルベデータベースに基づく植物分布図』
◆『雑想庵の破れた障子』
 

2020’カトカラ3年生 第二章

 
   vol.27 ヨシノキシタバ

    『吉野物語』後編

 
2020年 8月9日

空から神々が降臨した。

 

 
傾いた太陽が、雲の隙間から地上に向かって幾本もの光の階段を下ろしている。久方振りに見るレンブラント光線だ(註1)。
壮麗なる雲の神殿を眺めていると、何となく良い事が起きる予兆なのではないかと思えてきた。

この日の朝から昼は、小太郎くんと長野県松本市の某有名な峠のオオゴマシジミに会いに行った。

 
【オオゴマシジミ】

 
久し振りに見るけど。オオゴマちゃんは可愛いね。やっぱ蝶はいい。
でも5、6年前に突然個体数が減ってからあまり回復はしていないようだ。考えてみれば、その時以来の再会だ。あの時は的場ちゃんと岐阜県の新穂高に行ったのだが1つも見れず、仕方なくこの峠に移動してきたのだった。
そういや入口で奥から戻って来た爺さんに状況を訊いたんだよね。延べ30人近くが入ってるけど、爺さん本人がさっき1頭採っただけで、他は誰も採れてないって言ってたな。で、そのあと自分も1頭採った。実際、奥から戻って来た人たちに尋ねても誰も採れてなかったから、多分この日は爺さんとオラしか採れていなかった筈だ。
今回もワシら以外は誰も採れていなかった。沢山いた頃と環境はほぼ変わってないのにナゼなんだろ❓
正義感が矢鱈と強くて思考力の乏しい写真屋なんかが、乱獲だとか声高に言ってそうだが、いくら採っても翌年には又いくらでもいたそうだから、おそらくメインの理由は他にあるのだろう。一応言っとくけど、採っても蝶は減らないと言っているワケではない。物理的には採ったら確実に減るからね。
あっ、やめとこ。こうゆう話をすると大脱線になるから、この件に関しては今回これ以上は話さない。今後、別な機会にまた話すことも有ろうかと思う。
とにかく、たぶん此処にはもう行かない。絶滅されても困るからね。基本的に蝶を最も愛してるのは蝶屋なのだ。絶滅させてしまえば、自らの首を締めることになる。
話を戻そう。相変わらず食草は腐るほどあったから、種そのものの衰退期にあるのかもしれない。オオウラギンヒョウモンが全国で一斉に衰退したようにね。
或いはアリと共生関係にあるから、アリが何らかの理由で激減したのかもしれない。まあ、理由は一つではなくて複合的なんだろうけどね。

ちなみに、この個体はゴマなしオオゴマといって、斑紋が一部消失した珍しいフォームだ。小太郎くんが羨ましがったので、ノーマルなのと交換してあげたけどね。いつも小太郎くんには世話になっているのだ。それくらいの恩返しは吝(やぶさ)かでない。

午後には奈川村へゆき、これまた久し振りのゴマシジミとの御対面。御対面と書いたのは、奈川村はゴマちゃんが採集禁止だからである。と云うワケで写真だけ撮った。

 
【ゴマシジミ】

 
採っちゃダメなので、小太郎くんは手乗りゴマシジミをやってた。小太郎くんのゴマ愛は強いのだ。

 

 
考えてみれば、一日のうちで両方とも会ったのは初めてだ。まだ昨日からの良い流れが続いているかも。昨日は、これまた久し振りの佳蝶ムモンアカシジミと念願のナマリキシタバに会えたしね、

 
【ムモンアカシジミ】

 
【ナマリキシタバ】

 
奈川から松本市の温泉周辺へ行くか木曽町の高原に行くか迷ったが、木曽町を選択。何となく小太郎くんは温泉に行きたそうだったが、「どっちでもいいですよ。」と言うので遠慮なく木曽町をグイと選ばせて戴いた。なぜなら勘がそっちを指し示していたからだ。自分は自分の勘に絶対的な自信を持っている。だからたいした実力もないのに何処でも良い虫が採れる。引きが強いのは、そうゆう事なのである。
あとは小太郎くんに未採集のミヤマキシタバを採ってもらいたいと云う思いもあった。アズミキシタバとナマリキシタバは小太郎くんのライトトラップのお陰で採れたようなものだ。ゆえに恩返しの気持ちもあった。もっとも小太郎くんはヤンコウスキーキリガの方が欲しかったようだ。それは後々わかる事なんだけどもね。

 
【アズミキシタバ Catocala koreana 】


(2020.7.25 長野県北安曇郡)

 
【ナマリキシタバ Catocala columbina ♀】


(2020.8.8 長野県松本市)

 
【ミヤマキシタバ Catocala ella ♀】


(2020.8.9 長野県木曽町)

 
目的地周辺には4時くらいに着き、有名なアイスクリーム屋でソフトクリーム食って、ヤマキチョウとツマジロウラジャノメのポイントの様子を見てから灯火採集が出来そうな場所を探した。
そして、冒頭の場所へと辿り着いた。

 

 
やがて夕日は声も無く山並みの向こうへと沈んでいった。
そして今宵も虫たちの夜会が始まる。

 

 
点灯して暫くして、背後から飛んで来たらしいカトカラが目の前で地面にボトッと落ちた。
(ㆁωㆁ)何じゃこりゃ❓と思った次の刹那、脳が理解した。

w(°o°)w小太郎くん、これミヤマやっ❗

小太郎くんも、やや遅れて気づいたようだった。しかし二人のただならぬ殺気が届いたのか、あっという間に飛んで逃げ、何処かへ消えてしまった。

その後、たぶん同じ個体が何度か飛んで来るのだが、落ち着きがなく、直ぐに飛び立ってしまう。
それにしてもエラく早い時間帯での飛来だ。ミヤマの飛来は深夜0時前後からだと聞いていたから意外だった。最初に飛んで来たのは午後8時くらいとかじゃなかったかな。

やっとこさ見つけたのは、東屋の裏側だった。
けれど柱の隙間の変なとこに止まってた。急ぎ小太郎くんを呼んで採ってもらう。
しかし変なとこに止まってたから、背中の毛がズル剥けになって落ち武者みたくなってもうてた。残念である。カトカラ類は直ぐに背中の毛が剥げて、ツルピカハゲ丸になるのである。

午後9時前くらいだったろうか、小太郎くんが東屋の天井にヘバり付いてるカトカラを見て、声を上げた。

あっ❗、ミヤマ❗

(・o・)えっ❗❓、アレってそうだったの❓
そこにカトカラが止まっていたのは知ってたけど、ミヤマには見えなかったのだ。

小太郎くんがスルスルと網を伸ばし、難なくネットイン。
そして、そのまま網を持って車の方へアンモニア注射を打ちに行った。
鮮度が良さそうだったから、何だかε-(´∀`*)ホッとする。
コレで漸くお礼を果たせた気分だ。作戦完了のメデタシ、メデタシである。

と思ってたら、車の方から小太郎くんの声が飛んで来た。

五十嵐さぁ〜ん、コレ、ミヤマと違う〜❗ヨシノでしたー❗

(☉。☉)えっ❗❓、マジー❗❓

 
道理で変だとは思ったのだ。ミヤマなら去年何度も見てるし、気づいてた筈だもんね。慌てて確認しにいく。

\(°o°)/ワオッ❗、コレって30分くらい前に見たぞ❗

飛んて来て白幕に一瞬止まって、アッと思って近づこうとしたら、一瞬にして飛んで逃げたのだ。ミヤマかなと思ったが、にしては茶色くて黄色いなとは思ったのだ。まだヨシノキシタバの実物を見たことが無いから、こうゆう事になっちゃうのね。
(〒﹏〒)クチョー、ヨシノと解っていれば、対応も全然違ってたのにぃ〜。ナマリを採った翌日にヨシノが採れたら、それって2試合連続ホームランの快挙だったのにぃー…。なんだかチャンスに見逃し三振の気分だ。痛恨の失態である。少しでもオカシな奴だと思ったら迷わず採るのがセオリーなのに、サボってきたツケが重要な場面で露呈したわい。

ここでポロッと、情けない一言が口から零れ落ちた。

さっきミヤマを譲ったし、それ譲ってくれへん❓

プライドもへったくれもない。普段はそうゆう事はあまり言わないから自分でも驚く。余程欲しかったのだろう。

いいですよー。オオゴマも交換してくれたし。

小太郎くん、アンタやっぱ良い人だよー。(༎ຶ ෴ ༎ຶ)ありがとねー。

オマケに、こんな事まで言ってしまった。

コレ、俺が採った事にしてくれへん❓

我ながらサイテーだ。ブログを書くのに、貰ったんじゃ採った事にはならないから、カッコつかないとでも思ったのだろう。

コチラも、一つ返事で「いいですよー。」と言ってくれた。
小太郎くん、アンタ、ホント良い人だよ。

何か複雑な気持ちだが、手のひらに乗せてもらう。

 

 
茶色くて、黄色っぽいねー。こんなカトカラって他にはいないよね。今まで見たカトカラのどれとも違う。

裏面はこんなだった。

 

 
意外な事に、裏面はキシタバ(Catocala patala)に似てる。類縁関係があるとは思えないけどもね。

にしても、まさか此処でヨシノが採れるとは思ってもみなかったよ。棚からボタ餅のような、拍子抜けしたような複雑な気分だ。
何だか告白するつもりがアッチから告ってきた感じだ。あっ、自分で採ってないから、それは違うか…。

この日は特に気象条件が良かったわけでもないのに、わんさか虫が飛んで来た。
まだ採った事のなかったヒメシロシタバも採れたし、この時期には採った事のないオオシロシタバも初めて採れた。オオシロはムラサキシタバを採りに行った時によく見るのだが、いつも時期的に遅くて、ボロしか採った事がなかったのだ。

 
【ヒメシロシタバ Catocala nagioides】

 
【オオシロシタバ Catocala lara】

 
この日やって来たカトカラは、オオシロシタバ、ミヤマキシタバ、ヨシノキシタバ、キシタバ、エゾシロシタバ、ワモンキシタバ、コガタキシタバ、ハイモンキシタバ、ノコメキシタバ、マメキシタバ、コシロシタバ、ヒメシロシタバ、ゴマシオキシタバ、オニベニシタバ、ムラサキシタバと、何と15種類。
だが、なぜか居る筈のジョナスとベニシタバ、シロシタバは飛んで来なかった。もしコレらも来てたら、軽く全カトカラの半数を越える。喜ばしい事だけど、ふと何だか今までしてきた苦労がスカみたいな気分になった。
あっ、でも最初がコレだったとしたら、カトカラに対する興味を直ぐに失くしていたかもしれない。採集はコツコツと1つずつターゲットを落としてゆく方が長く楽しめるからね。1つ1つの物語があるからこそ面白いのだ。色んなタイプのお姉ちゃんを口説き落としてゆくのと同じだ。今日みたいに15種類も採れてしまえば、物語もへったくれもない。

そして、ヤンコウスキーキリガもやって来た。

 

 
自分が見つけたけど小太郎くんが欲しがったので、お譲りもうした。それで小太郎くんがヤンコウスキーが欲しかったんだと判明したワケである。とはいえ温泉方面に行ったからって採れたかどうかはワカンナイけどね。

結局、その後ヨシノは新たに飛んで来ることは無かった。
美しいと言われる♀はお預けになったワケだが、ここは楽しみが残ったと考えよう。今度こそヒリつくような恋がしたい。ヨシノの物語は、まだまだ終わらない。

 
 
2020年 8月25日

この日は、小太郎くんと藤岡くんの3人で紀伊半島南部にやって来た。
狙いはルーミスシジミとヨシノ。昼間にルーミスを採り、夜にはヨシノを採るという2本立てだった。

 

 
しかし、まさかのルーミスを1頭も見ずで終わった。
この日、この三重県の産地には全部で6〜7人が入っていたが、結局誰も採れなかった。どころか誰も見ていない。毎年ルーミスを100頭も採ってるというミスタールーミスの森岡さんでさえも採れていないのだ。その森岡さんの師匠の方も採れてなかった。だから採れなくて当たり前だったのかもしれない。ルーミスはいる時には沢山いるけれど、どんだけ天気が良くても採れない時は全く採れない。超敏感な日もあれば、ゆるゆる飛びで楽勝な日もあるから、不思議な蝶だ。それでもルーミスとは相性が抜群に良くて、誰も採れてなくても自分だけは採れたりするから、あれれ(・o・)❓ではある。来て一つも採れなかったのは初めてなのだ。

 
【ルーミスシジミ】

(2017.8.19 和歌山県新宮市)

 
ルーミスは好きだから残念ではあるけれど、正直ダメージは全く無かった。頭の中はヨシノの♀の事で一杯に埋まっていたのである。その♀さえ採れれば、万々歳なのである。

しかし奈良県のヨシノのポイント近くまで移動してきたら、激しい雨になった。ヤッベーっ😱

けれど雨はやむと分かっていた。己のセンサーがそう告げていたからである。ワシが雨が上がると言ったら上がるのである。昔から肌で天気を読めるという特殊能力が有しておるのだ。それで何度も周りを驚かせてきた。それに、スーパーな晴れ男だから何とかなるっしょ。

予言どおり雨は止み、8時まえくらいにようやく点灯。

 

 
だが、雨のせいでグッと気温が下がった。肌寒いくらいである。不安に駆られる。温度が低いと虫たちの行動力が鈍るから、あまりヨロシクないのだ。

心配したとおり、飛んで来る虫の数はあまり多くない。
カトカラは、キシタバとゴマシオキシタバが飛んで来たくらいだ。

 
【ゴマシオキシタバ Catocala nubila】

 
関西では兵庫県北西部と紀伊半島南部の一部くらいにしかいないけど、どってことないカトカラだ。基本的にボワッとしてて魅力に乏しいのだ。但し変異の幅は広いから、時々めちゃくちゃカッコイイ前翅をした奴がいるけどもね。

 


(2020.9.5 長野県松本市)

 
10時前に、やっとヨシノが飛んで来た。

 

 
でも♂だった。自分で採ったのは初めてだし、和名の由来である吉野で採ったワケだから嬉しくないワケではないけれど、♀が欲しいんだよ、♀がぁー( ̄皿 ̄)ノ

待ってるのは辛い。
恋心が募ってゆく。

11時過ぎになって、やっと待望の♀が飛んで来た。サアーッと緊張感が走る。
でも心は不思議に落ち着いていた。何となく採れそうな気はしていたのである。そっと毒瓶を上から被せる。

 

  
(☆▽☆)ぴゃあ〜❗激美しい❗❗

(´ω`)美人だなあ。初めて♀を見たけど、カトカラ屈指の前翅の美しさと言われてるのがよく解ったよ。小太郎くんもカトカラの中では、このヨシノとナマリ、カバフの前翅がベストスリーと言ってたからね。木曽町で♂を見た時はミヤマキシタバの方がカッコイイじゃねぇかと思ったけど、♀を見たら納得だわさ。

でも、よく見ると羽が破れている。何でやねん(;O;)
完品の♀が欲しかあー(╥﹏╥)

裏面写真も撮っておこう。

 

 
腹先に縦にスリットが入ってるから間違いなく♀だね。

しかし、後が続かない。ガードレール越しに闇を凝視するが、カトカラは何も姿を現さない。刻一刻と時間は削られてゆく。反対に焦燥感は募ってゆく。
藤岡くんは、せっせせっせとアレコレ採っている。彼は基本的に蝶屋だが、蛾や甲虫など何でも採る人だ。生粋の虫好きなのだ。正直、そうゆうのって羨ましいなと思う。だって退屈しないもんね。それに、たとえターゲットが採れなくとも、別なモノが採れれば落胆が中和される。下手したら逆にテンションが上がる事だってあるだろう。ワシも何でも屋になったろうかしら❓
面倒くさがり屋だから、たぶん無理だろうけど…。

午前1時。そろそろ店じまいの時間が近づいてきた。やっても2時までだろう。
そんな時に藤岡くんが飛んでるカトカラを見つけた。裏の感じからすると、ヨシノだろう。藤岡くんは何でワカルんですか❓と訊くけど、慣れればワカルものだ。小太郎くんもワカルしね。けど、或いは何度見てもワカラン人もいるかもしれない。どこがどうのってワケではないのだが、何となく全体的な感じでワカルのだ。

だが、中々寄って来ない。
やっと来たと思ったら、ガードレールの向こう側に落ちやがった。覗くと、辛うじて崖っ縁に止まっている。近づいた途端に飛んで逃げた。そしてパタパタパタ〜。大きく旋回しながら彼方の右奥の谷へと飛んでゆき、やがて見えなくなった。それを茫然と見送る。
チラッと見た感じでは♀っぽく見えた。しかし、あの感じだと二度と戻っては来んだろう…。どんよりとジ・エンド感が広がる。

午前1時45分。風が強くなってきた。
いよいよ終戦の雰囲気が漂ってきたよ。
一応、幕が風で倒れそうになっても大丈夫なように、すぐ傍らに立つ。倒れたら、小太郎くんの激怒されるかもワカランもんね。
やがて、さらに風は強くなり、倒れそうなので手で支えなければならなくなった。こりゃ、もうダメだなと思ってたら、

\(°o°)/ワッ❗
\(☉。☉)/ワッ❗
ヽ((◎д◎))/ワッ❗

タイムリミット、ギリで幕に飛んで来て腰の辺りの高さに止まった❗

(◍•ᴗ•◍)❤ワオッ、メスだっ❗

しかし、風が強いから幕枠から手を離せない。

小太郎くーん、ヾ(・ω・*)ノ来た、来た、来たッ❗

小太郎くんが素早く寄ってきて、枠を持ってくれた。

僕が支えてますから、五十嵐さん、採って下さい❗

ガッテンだ。慌ててポケットから毒瓶を取り出し、フタを開けて近づけようとした瞬間だった。再び強い風が吹き、幕が煽られた。

驚いたお嬢はパタパタパタ〜。
飛んでった…(ㆁωㆁ)


なして、このタイミングで逆神風なのー(ToT)❓

暫く待ったが、戻って来なかった。
完全にジ・エンドだ。
まあいいや…。一応メスは採れたんだから良しとしよう。そう自分を慰めるしかなかった。美人との恋は一筋縄ではいかないものなのね。

屋台をバラし、後片付けも終わって、さあ車に乗ろうとした時だった。
車のボンネットを見て、一瞬その場で固まる。
あろう事か、ヨシノお姉さまがペタッと止まっているではないか。嘘みたいな奇跡的な展開だ。

щ(゜ロ゜щ)おったー❗❗

その声に、小太郎くんと藤岡くんも動きを止める。見て二人とも信じられないと云った顔をしてる。ワシだって信じられんわい。だいたい最後の最後に逆転で採ってしまうような人だが、ここまでギリでチャンスが巡って来た事はそうない。ワシ、どんだけ引きが強いねん。

たぶん、さっき逃げた奴と同じ個体だ。でもどんだけ引きが強かろうとも、ここで逃したら元も子もない。だいちカッコ悪過ぎる。この先二人に、何かにつけて一生言われ続けるだろう。
「あの人、メンタル弱いからなあ〜」と陰で半笑いで誰かに言われるのだけは御免だ。もしここでやらかしたら、ガードレールから崖下にダイブして死んでしまえなのだ。

心頭を滅却して、体から力を抜く。心を水面のように鎮めて毒瓶を上からスッと被せた。

  

 
(☆▽☆)ゲットー❗❗

しかも今度こそ完品だ。
九回裏ツーアウト、フルカウントでの逆転さよならホームランだ。
やっぱオラ、引きだけは強い。

あまりに嬉しくて、藤岡くんに最初に採った♀をプレゼントとしてしまった。藤岡くんから♀は採った事がないと聞いていたからだ。その個体が一番美しかったから勿体なかった気もするけど、大団円のためには致し方なかろう。

帰宅して三角紙を広げて、マジマジと見る。
直ぐに帰らないといけなかったので、じっくりと見る暇が無かったのだ。
ジワジワと喜びが全身に広がってゆく。恋の成就を穏やかな気持ちで噛みしめる。コレがあるから、虫捕りはやめられない。

 
 
2020年 9月5日

9月に入った。この日は長野県松本市まで遠征した。
目的はミヤマシジミと帝王ムラサキシタバである。

 
【ムラサキシタバ Catocala fraxini ♂】

(2019.9 長野県松本市)

 
ムラサキは大好きなカトカラなので、いっぱい飛んで来ることを祈ろう。シーズン最終戦だし、気持ち良く終われることを願おう。

日の傾きが早い。もう秋に入ろうとしているのだ。
6時半には点灯。

 

 
一応、周囲の木に糖蜜も噴きつける。
ムラサキは糖蜜トラップでも採れるからね。

8時くらいだったろうか、わりと早い時間帯に小太郎くんがヨシノを採った。気づいたら、いつの間にか幕に止まっていたそうだ。蛾って、そうゆう事よくある。忍者かよ。
それはさておき、こんなとこにも居たのね。ヨシノの存在なんて全く頭に無かったから、少し驚く。この場所でヨシノの記録は見た事が無かったから、居ないとばかり思っていたのだ。

そして、深夜に入った午後11時前。我が糖蜜トラップにもヨシノ嬢がやって来た。

 

 
何だ、糖蜜トラップにも、ちゃんと寄って来るじゃないか。
コレで東日本でも糖蜜で採集可能だという事が証明できたよ。

目的のムラサキシタバも、ちゃんと採れた。

 

 
それについては、気分が乗れば別な機会に書くかもしんない。
それなりに新たな発見はあったからね。

この日は計3頭のヨシノキシタバが飛んで来た。
1頭は羽が破れていたので、様子を見に来た小太郎くんの知り合いの若者くんが持って帰った。自分らの採ったものも、破れこそしていないが、鮮度は8月に採ったものよりも落ちる。場所的な事もあろうが、採集適期は8月半ばがベストかもしんない。

日を跨いだ深夜になっても蛾たちの宴は盛況だ。
小太郎くんが用意してくれた折りたたみ椅子に座り、それをぼんやりと眺める。
秋の風がふわりと吹いた。
そして、頬を優しく撫で、ゆっくりと通り過ぎていった。

 
                        おしまい

 
展翅画像を貼り付けておこう。

 
【ヨシノキシタバ Catocala connexa ♂】

 
【同♀】

 
 
追伸
タイトルの『吉野物語』は、「伊勢物語」や「雨月物語」とか古典文学っぽい感じがするから付けてみた。
ベタなタイトルと言われてしまえば、それまでだが、吉野太夫(よしのたゆう)という絶世の美女と謳われた花魁もいるから、それになぞらえたところもある。ヨシノキシタバの♀は美しいからね。

余談だが、よみうりテレビが1988年に制作した同名の朝の連続ドラマがある。奈良県吉野で和紙作りに賭けた女の一代記だというが、見た記憶は全然ない。
他には、吉野にある酒造会社北岡本店が、吉野物語シリーズと銘打って様々な商品を販売されております。

尚、採集記は元々一話完結のつもりで書いていた。しかし、後半部分の2020年を書き終えて2019年の事を書き始めたら、思いの外に筆が進んで長くなってしまった。で、前・後編の2つに分ける事にしたという経緯がある。だから、こうして記事を連日でアップできたってワケ。まあ読んでる人には、どうでもいいような事だとは思うけど。

次回、第三章は種の解説編です。

 
(註1)レンブラント光線

薄明光線(はくめいこうせん)の事。太陽が雲に隠れている時に雲の切れ間、あるいは端から光が漏れ、光線が柱のように放射状に地上へ降り注いで見える現象の俗称。通常とは逆に、雲の切れ間から上空に向かって光が出ることもある。主に地上から見た太陽の角度が低くなる早朝や夕方に見られる現象。
英語では「crepuscular rays」と言い、世界中の人々の間で美しい自然現象として認識されており、狙って写真撮影をする人も多い。
「薄明光線」の他に別名が多数ある。気象現象としては「薄明光線」だが、宗教や芸術などの各分野や地域によって様々な呼び名がある。

・光芒
・天使の梯子(てんしのはしご、angel’s ladder)
・天使の階段(angel’s stairs, angel’s stairway)
・ゴッドレイ(God Ray)
・ヤコブの梯子(Jacob’s ladder)
・レンブラント光線

ヤコブの梯子、天使の梯子という名称は、旧約聖書創世記28章12節に由来する。この記述では、ヤコブが夢の中で雲の切れ間から射す光のような梯子が天から地上に伸び、そこを天使が昇り下りしている光景を見たとされる。この事から、やがて自然現象もそのように呼ばれるようになった。
レンブラント光線という名称は、画家のレンブラントがこれを好んで描いたことに由来する。光の当たる部分と闇の部分との対比が強調され、非日常的な雰囲気や宗教的な神々しさが表現されている。
作家の開高健は、晩年しばしばテレビなどで好んで「レンブラント光線」という言葉を口にした。
宮沢賢治はこの現象を荘厳な「光のパイプオルガン」と称している。

 

マホロバキシタバ発見記 後編

 
   vol.20 マホロバキシタバ

   『真秀ろばの夏』後編

 
まほろばの夏は終わらない。
その後も奈良通いは続いた。次の段階は、この地域での分布と生態の解明だった。

岸田先生(註1)が帰京したのが7月16日。その2日後には先生肝いりの刺客として、ラオス在住で偶々(たまたま)帰国していた小林真大(まお)くんという若者が送り込まれてきた。彼はストリートダンスをしながら世界中の蛾を採集していると云う異色且つスケールのデカいモスハンターで、体力、運動神経ともに優れ、センス、知識、根性をも持ち合わせた逸材。おまけに男前で性格も良いときている。久々に虫採りの天才を見たと感じたよ。
彼は自分や小太郎くんが家に帰った後も、夜どおし原始林を歩き回って多くの知見をもたらしてくれた。その結果、分布や生態の調査が大幅に進んだ。
 
まだ不確定要素もありますが、それら分かったことを2019年だけでなく、2020年の分も付記しておきます。但し、まだまだ調査不足なので、以下に書かれた事は今後覆される事も有り得ると思って読んで戴きたい。

 
【マホロバキシタバ♂】

 
【同♀】

 
【♂裏面】

 
【♀裏面】

 
日本では、2019年の7月に奈良市で見つかった。って云うか、見つけた。
アミメキシタバやクロシオキシタバに似るが、表側の後翅中央黒帯と外縁黒帯とが繋がらず、隙間が広く開くことで区別できる。また、三者の裏面の斑紋は全く違うので、むしろ裏面を見た方が同定は簡単だろう。3種の判別法の詳細は前回に書いたゆえ、そちらを見られたし。

 
【雌雄の判別】
♂は腹部が細長くて、尻先に毛束がある。一方、♀は腹が短く、やや太い。また尻先にあまり毛が無くて上から見ると先が尖って見えるものが多い。とはいえ、微妙なものもいる。特に発生初期の♀は腹があまり太くないので分かりづらい。
確実な判別法は、裏返して尻先の形状をみることである。今一度、上記のメス裏面画像を見て戴きたい。尻先に縦にスリットが入り、黄色い産卵管が見えていれば(わかりにくいが尻先の黄色いのがそれ)、間違いなく♀である。

 
(オス)

 
♂は尻先の毛束がよく目立つ。

 
(メス)

 
なぜかメスの腹部が見えている写真が無い。なので、お茶を濁したような画像を貼っ付けておいた。意味ないけどー(´ε` )

 
(オス)

(メス)

 
表よりも裏の方が雌雄の区別はつきやすい事は既に書いた。しかし、時にオスの腹先の毛に分け目ができ、それが縦スリットのように見えてメスと見間違えるケースが結構ある。メスだと思ったら、最後に産卵管の有無を確認されたし。

 
(オス)

(メス)

 
実を云うと、横から見るのが一番わかりやすい。腹の太さと長さ、尻先の形、毛束の量がよく分かるからだ。また、上のようにメスの産卵管が外に飛び出ていれば、一目瞭然だ。

 
【学名】Catocala naganoi mahoroba Ishizuka&Kishida, 2019

属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり、下翅が美しいことを表している。マホロバのように黄色い下翅を持つものが多いが、紫や紅色、オレンジ、ピンク、白、黒、象牙色等の種もいて、バリエーション豊かである。

台湾の基亜種は蛾の研究の大家である故 杉繁郎氏により1982年に記載された。
小種名の「naganoi」は「長野氏の」と云った意味である。

「The specific name of the present new species is dedicated to Mr Kikujiro Nagano(1868-1919), a pioneer lepidopterist of Japan, inyrho contributed much to taxonorny and biology at Nawa Entomolegical Laboratory, Gifu.」

記載論文に上記のような文章があったから、日本の鱗翅類研究の黎明期に名和昆虫館を創設した名和靖氏の片腕として働いた長野菊次郎(註2)氏に献名されたものであろう。

亜種名「mahoroba」は日本の古語「まほろば」からで、「素晴らしい場所、住みよい場所、楽園、理想郷」などの意味が込められている。また奈良の都を象徴する言葉の一つでもあり、県内ではポピュラーな名称だというのも命名の決め手となった。コレも詳細は前回を読まれたし。

残念ながら新種ではなく、Catocala naganoiの亜種となったので、小種名「mahoroba」は幻に終わってしまった。
ぶっちゃけ、分布調査をしていたワシと小太郎くんとマオくんとの間では絶対に新種になるだろうと話し合っていた。なぜならば、その時点では奈良県春日山原始林とその周辺でしか見つかっていなかったからだ。原記載亜種のいる台湾と奈良市とでは、海を隔てて遥か遠く離れている。分布が隔離されてから少なくとも30万年以上(註3)の時が経っているわけだから、両者は分化している可能性が極めて高く、ゲニ(註4)には何らかの差異が見い出されて当然だろうと思っていたのである。
また、記載を担って戴いた石塚さんに「その剛腕っぷりで、何とかして新種にして下せぇ。」とジャッキアップ掛けえので懇願してたのもある。石塚さんも「任しときぃー。」ってな感じだったからね。
石塚さんはカトカラの新種記載数の横綱を目指されており、キララキシタバを新たに記載するにあたり、モノ凄い数のゲニを切って執念で別種であることを突き止めたと岸田先生から聞いてたしさ。ならば今回も執念で新種であることを証明してくれるだろうと勝手に思い込んでいたのだ。実際、石塚さんとのメールのやり取りでは、早い段階で「軽微だが違いを見つけた」とも仰ってたからね。その調子で、決定的な差異も見つけてくれはるだろうとタカを括ってたところがある。
亜種に落ち着いたのは、あくまでも推測だが、石塚さんと岸田先生とで話し合った結果なんだろね。オサムシみたいに軽微な差異のものでも無理からに別種にしてしまうのはいかがなものか?と云う事なのだろう。それに関しては自分も以前から同意見だったので、致し方ない結果だとは思っている。両者の見てくれは、普通に見れば同種なのだ。長年、分布が隔離されているゆえ、別種になっている可能性もないではないが、両者の交配実験でもしない限りはワカランだろ。
まだ試みられていないといえば、DNA解析も気になるところではある。但し、DNA解析の結果が絶対だとは思わない。そこに問題点が全く無いワケではなかろう。そりゃあ、DNA解析の結果、マホロバが別種になれば嬉しいけど、ホシミスジの亜種を沢山作っちゃったり、ウラギンヒョウモンを3つに分けたりとか、正直なところ何でも有りかよと思う。DNA解析の結果が何でもかんでもまかり通るんだとしたら、可笑しな話だわさ。

惜しむらくは亜種になったので、女の子にならなかった事だ。自分はカトカラを女性のイメージで捉えている。だから偶然だけど、mahorobaの綴りの末尾が「a」で終わっているのを嬉しく思ってた。学名の綴りの末尾が「a」ならば、ラテン語では女性名詞になるからね。
一方「naganoi」の語尾の「i」は男性単数(1名)に献名する場合に付記されるものだ。ようはオッサンなのだ。菊次郎さんには申し訳ないが、オッサンの蛾なんてヤじゃん。

 
【和名】
前回と学名の項で既に和名の命名由来については述べているが、もう少し詳しく書いておこう。
「まほろば(真秀ろ場)」とは、素晴らしい場所、理想郷、楽園といった意味だが、実際のところマホロバの棲む一帯は素晴らしい場所だ。棲息地は、ほぼ手つかずの太古の森で、ナチュラルに厳かな気持ちになってしまうような巨樹が何本も生えている。何百年、何千年と生き長らえてきた木は特別な存在だ。見上げるだけで理屈なく畏敬の念が湧いてくる。その林内には春日大社があり、森の近くには興福寺五重塔や二月堂、三月堂、そして東大寺があって、大仏様がおられる。他にも名の知れた歴史ある古い社寺が沢山あり、阿修羅像や南大門の金剛力士像、戒壇院の四天王像などの有名な仏像彫刻、また正倉院には数多(あまた)の宝物もある。加えて神様の遣いである鹿さん達も沢山いらっしゃる。謂わば、此処は八百万(やおろず)の神々の宿る特別な場所であり、掛け値なしの「まほろば」なのだ。だからこそ名付けたと云うのが心の根本にある。そして、我々に滅多とない機会と栄誉を与えてくれた素晴らしい場所でもあるという想いも込められている。これらが根底にある偽らざるコアなる想いだ。

だが、そこに至るのにはそれなりの紆余曲折があり、実をいうとマホロバ以外の候補も幾つかあった。

『アオニヨシキシタバ』
青丹(あおに)よし 寧楽(奈良)の都は 咲く花の にほうがごとく 今盛りなり (万葉集巻三328)

奈良で最初に発見されたので、奈良に因んだ和名にしようと考えた時に真っ先に頭に浮かんだのが、小野 老(おのの おゆ)の有名なこの和歌だった。
意味は「奈良の都は今、咲く花の匂うように真っ盛りである」と謂ったところである。
ここで出てくる「にほう」とは嗅ぐ匂いの事ではなく、赤や黄や白の花の色が目に鮮やかに映えて見えるという奈良の春景色の見事さを表している。色の鮮やかさを「におふ」と表現しているところに、当時の人達の粋と感性の豊かさが感じられる。マホロバキシタバも下翅が鮮やかだし、名前としては悪かないと思った。しかし、一般の人からみれば、アオニヨシと言われても何のこっちゃかワカラナイだろう。語呂もけっしていいとは思えないので断念。

『ウネメキシタバ』
ウネメとは「采女」から来ている。奈良時代に天皇の寵愛が薄らいだ事を嘆き悲しんだ天御門の女官(采女)が猿沢池に身投げしたという。その霊を慰める為に池の畔に建立されたのが采女神社の起こりとされ、入水自殺した池を見るのは忍びないと、一夜にして社殿が池に背を向けたという伝説が残っている。
古(いにしえ)の伝説というのは神秘的な感じがして、いとよろしだすな。マホロバキシタバの発見を伝説になぞらえ、重ね合わせるといった趣きもあるじゃないか。
女性というのもいい。自分の中では、基本的にカトカラは女性のイメージだからね。
それに毎年、秋(中秋の名月)になると「采女祭」が開催され、地元では名のしれた祭だと云うのもある。名前は棲息地近辺に住む人々に愛されるのが理想だからね。
しかし猿沢池となると、棲息地とはちょっと離れていて、森ではなく、町なかだ。さりとて、この神社は春日大社の末社でもあるワケだから、無理からに関連づけてしまう事も可能だ。けんどさあ、よくよく考えてみれば不幸な女の話だ。縁起が悪いのでやめておくことにした。
昔から不幸な女には近づかないようにしている。負のエネルギーの強い女をナメてはいけない。運の太いワシでも負のパワーに引きずり込まれそうになったもん。

ベタなところでは、以下のような候補もあった。

『マンヨウキシタバ』
これは「万葉(萬葉)」からだ。春日山の原始林を万葉の森と呼ぶ人もおり、また棲息地の春日大社の社域には「萬葉植物園」もあるからだ。「万葉集」に繋がるイメージも喚起されるだろうから、雅な趣きもある。
しかし、ベタ過ぎだと思って外した。なんか語呂の響きもダサいしさ。

『カスガノキシタバ』
春日大社一帯は「春日野」と呼ばれ、また住所も春日野町という事からの着想。
名前の響きは悪かない。しかし、春日と名のつく地名は全国に幾つもある。混同を避けるために却下。

そういえば、その関連で、↙こうゆうのもあったな。

『トビヒノキシタバ』
春日野からの連想である。これは棲息地が飛火野に隣接しているからだ。って云うか、少ないながらも飛火野にもいる。
飛火野とは、春日山麓に広がる原野のことを指す。ここは春日野の一部であり、また春日野の別称でもあって、風光明媚なことから鹿たちの楽園としてもよく知られている所だ。和名としては、そう悪かないと思う。しかし、漢字はカッコイイんだけど、カタカナにすると何かダサい。拠ってスルー。
因みに「飛火野」の地名は、元明天皇の時代に烽火(のろし)台が置かれたことに由来する。
ウネメもそうだけど、天皇さんに由縁する言葉は何となく高貴な気がするし、歴史を感じるんだよね。それってロマンでしょう。そこには少し拘ってたような記憶がある。

そう云う意味では「マホロバキシタバ」だって天皇とは関係がある。有名な「倭は 国の真秀ろば 畳なづく青垣 山籠れる 倭しうるわし」という歌は、日本武尊(やまとたけるのみこと)が詠んだとされているからだ。日本武尊は天皇その人ではないが、天皇の皇子だもんね。つまり皇族なのだ。高貴な身の上でありんすよ。どころか古代史上の大英雄だ。スサノオがヤマタノオロチから取り出して天照大神に献上した伝説の剣「草薙の剣」をアマテラスから貰って、バッタバッタと敵をブッた斬るんだもんね。
余談だが「ヤマトタケルノミコトキシタバ」というのも考えないではなかった。けど長過ぎる。「ヤマトタケルキシタバ」でも長いくらいだ。それに捻りが無くて、あまりにも名前が仰々し過ぎるのでやめた。正直、そこまでマホロバをジャッキアップするのは恥ずかしい。もし伝説の英雄になぞらえるとするならば、よほどデカいとか孤高の美しさや異形(いぎょう)で特異な見てくれでないとダメでしょうよ。日本の何処かで、とんでもなく凄い見てくれの固有のカトカラを見つけたとしたら、つけるかもしんないけどさ(笑)。

ついでに言っとくと、絶対に命名を避けたかったのが「ナラキシタバ」と「ヤマトキシタバ」。
「ナラキシタバ」は、もちろん奈良黄下羽である。全く捻りが無くて、こんなの小学生でも思いつくレベルだ。想像力と語彙力がゼロだと罵られても致し方なかろう。また語源が木のナラ(楢)と間違われる可能性もある。食樹がミズナラやコナラ等のナラ類だと感違いする人だっているかもしれない。二重にダサいネーミングだ。

「ヤマトキシタバ」の「ヤマト(大和)」は、昆虫の名前として使い古されてる感があり、国内新種なのに新しい雰囲気がどこにも感じられない。
「アンタ、考えるのが面倒くさかったんとちゃうかあ❓それって怠慢やろが。」と言われて然りのネーミングだろう。
それに「ヤマトシジミ」や「ヤマトゴキブリ」「ヤマトオサムシ」などのド普通種の駄物イメージ満載である。ヤマトと名の付く虫は「ヤマトタマムシ」だけでヨロシ。
いっそのこと「ヤマトナデシコキシタバ(大和撫子黄下羽)」にしたろかとも思った。けれど長いし、だいち言いにくい。
「ヤマトナデシコキシタバ、ヤマトナデシコキシタバ、ヤマトナデシコキシタバ」と3回早口で言うてみなはれ。噛む人、絶対おるで。
ならばと「ナデシコキシタバ」も考えてみた。「なでしこ」は、女子サッカー日本代表の「なでしこJAPAN」の愛称でもあるし、いい感じではある。しかしヤマトを外してしまったら、奈良は関係なくなるから元も子もない。それこそ本末転倒だ。
それにヤマトナデシコキシタバだと「メルヘンチックだとか、ポエムかよ❗」と笑われそうだから即座に脳内から消した。「フシギノモリノオナガシジミ」とかみたく失笑されるのはヤだもんね。
名前を付けるのって、その人のセンスが問われるから大変なんだと思い知ったよ。「フシギノモリノオナガシジミ」だって、付けた方はウケ狙いではなく、一所懸命に考えられて良かれと思って付けたに違いあるまい。
あんまし人のつけた和名の悪口言うの、やめとこ〜っと…。

(´・ω・`)しまった。どうでもいいような事に膨大な紙数を費やしてもうた。スマン、スマン。話を前へ進めよう。
おっと、そうだ。でも、ちょっとその前に書いておかなきゃなんない事を思い出したよ。申し訳ないが、もう少しお付き合いくだされ。

別種ではなく亜種になったんだから、和名は先に石塚さんが台湾の名義タイプ亜種に名付けた「キリタチキシタバ」なんじゃねえの❓と云うツッコミを入れてる人もいそうだね。私見混じりだが、マホロバキシタバになった経緯についても書いておこう。
これは自分たちが絶対に新種だと思ったから「マホロバキシタバ」と名付けて使いまくってた事に起因する。つまり新種の体(てい)で話が進んでいたのだ。新種ならば、当然名前が必要となるから名づけた。その名前を気に入って戴いた方も多かったようで、やがて関係者の間では「マホロバキシタバ」が当たり前のように使われるようになった。その後、亜種になっても、何となく「マホロバキシタバ」がそのまま使われていた。特にそれについての議論なり、協議は無かったと思う。石塚さんも何も言わなかったしさ。もしかしたら、岸田先生と石塚さんの間では何らかの話し合いがあったのかもしれないけどね。
そして『月刊むし』で発見が公表されるのだが。その際の和名も「マホロバキシタバ」のままだった。結果、キリタチではなく、マホロバの方が世間的にも定着していったってワケ。
又聞きの話だが、キリタチの和名をつけた石塚さんに、そうゆうツッコミを実際に入れた人がいたようだ。でも、ツッ込まれた石塚さんが『いいんだよー、マホロバでぇー。』と仰ったらしい。石塚さん御本人がいいって言ってんだから、それでいいのだ。もう「マホロバキシタバ」でエエんでねえの❓(註5)
亜種和名があるってのは、すごく光栄なことだと思う。幸せだ。
とはいえ、ヤヤこしいからやっぱ新種になんねぇかなあ(笑)

 
【英名】
英名は勿論ない。ゆえにここでドサクサ紛れに提唱しておこう。
「まほろば」は素晴らしい場所という古(いにしえ)の言葉だから、さしづめ『Great place underwing』といったところだろうか。カトカラは下翅に特徴があるゆえ、「Underwing」と呼ばれているのだ。
しかし外国人からすれば、「Great place」なんて何の事やら分からんだろう。和歌とか知らんし。
となると、やはり形態的特徴を示すような英名が妥当かと思われる。
マホロバキシタバの一番の特徴といえば、やはり下翅の黒帯が1箇所だけ繋がらず、隙間が開いている点だろう。帯が多い系のキシタバで、こういうのは他にあまりいないようだからね。
となると、『Broken chain underwing』ではどうだろうか❓ 意味は「断ち切られた鎖」。
とはいうものの、あくまでもお遊びの範囲内での話だから、他に相応しいモノがあれば、それでも構わない。そうゆうスタンスです。
とここまで書いて、『Great place underwing』でもいいかなあと思い直した。考えてみれば、奈良の都は世界遺産である。その時点でもう世界的に素晴らしい場所だと認定されているじゃないか。昨今は多くの外国人観光客も訪れているワケだから、外国でもかなり認知されてるんじゃないかと思われる。何せ、野生の鹿とあれだけ簡単に触れ合える場所は世界的にみても珍しいからね。我々にはそうゆう概念はあまりないけど、あれは一応野生動物だかんね。野生動物と気軽に触れ合える事のない外国人は大喜びなのさ。
まあ、本音はどっちゃでもいいけどね。どっちも悪くないと思うもん。

 
【変異】
大きな変異幅は見られないが、それなりにはある。
よく見られるタイプの一つは、上翅がベタ柄なもの。

 

 
冒頭に貼付した♂の画像もこのタイプである。
或いは♂に、このタイプが多いのかもしれない。

もう一つのタイプは上翅にメリハリのあるもの。

 

 
何れも♀である。冒頭の♀もこのタイプだし、もしかしたら、ある程度は雌雄の判別に使える形質かもしれない。
でも、微妙なのもいるんだよね。

 

 
コヤツなんかはメリハリがそれなりにあるけど♂である。
まあ、傾向として有ると云う程度で心に留めて下さればよろしかろう。

稀に上翅の中央に緑がかった白斑が入る美しいものがいる。

 

(画像提供 葉山卓氏)

 

 
コヤツらもメリハリがあるけど、ちょっと自分でも雌雄がよくワカンナなくて、♂か♀かは微妙なところだ。
とはいえ、両方とも♂かなあ…。

また、上翅が蒼っぽくなった個体が1頭だけ採れている。

 

 
コレもどちらかというとベタ柄の♂だ。やっぱ、雌雄の上翅の違いは有るかもしんないね。面倒なので展翅した個体全部の画像は貼付しないけど、傾向としては有ると言ってもいいような気がする。恣意的な部分を差し引いても、そんな気がする。とはいえ、白斑が発達した奴はたぶん♂だもんなあ…。まあ、補助的な要素として頭に入れておいても損はないだろう。

帯に隙間はあるが、上翅の茶色みが強くてアミメキシタバみたいなのもいる。

 

 
と云うか、コレってアミメキシタバそのものかもしんない。或いはハイブリッド❓(笑)。まあ、それは無いとは思うけどさ。アミメかもと思ったのは上翅の柄からだ。色が茶色いというのもあるが、マホロバみたく鋸歯状の柄が目立たず、その形も違うように見えたからだ。
こういうややこしい場合は裏面を見ましょう。それで簡単に判別できるだろう。面倒だから、この個体を探し出してまで裏面写真は撮らないけどさ。前編から長い文章を書いてきて、もうウンザリなのだ。これ以上は頭を悩ませたくない。どうせアミメだしさ。

因みにパラタイプ標本に指定してもらったものは、ちょっとだけ変。だから、展翅が今イチだけど出した。パラタイプは、バリエーションがあった方がいいと思ったのである。

 

 
ベタ柄の♂だが、よく見ると上翅に丸い斑紋がある。

自分らの標本をパラタイプに指定して貰おうと云うのは小太郎くんの発案だった。全くそういう発想が無かったから有り難い。何かタイプ標本を持ってるって、自慢っぽくて(◍•ᴗ•◍)❤嬉しいや。
石塚さん、我々のワガママをお聞き下さり、誠に有難う御座いました。

 
【近縁種】
『FIGURE 2 in The Catocala naganoi species group (Lepidoptera: Noctuidae), with a new species from Vietnam』と云う論文によれば、Catocala naganoi種群には、交尾器、翅のパターン、及びDNA解析(COI 5 ‘mtDNA特性)に基づいて、以下のようなものが含まれるとしている。

■Catocala naganoi Sugi、1982
キリタチキシタバ(マホロバキシタバ)
分布地 台湾・日本
ホロタイプ標本は桃園県。パラタイプには、新竹県のものが指定されている。また有名な昆虫採集地であるララ山でも採集されているみたいだ。ネットで見た限りでは稀な種のようだね。

 
■Catocala solntsevi Sviridov、1997
タムダオキシタバ
分布地 ベトナム〜中国南部
グループの中では一番分布域が広く、最近になって台湾でも見つかったそうだ。マホロバに似るが幾分大きく、前翅亜基線より内側が濃褐色になる傾向がある。
石塚勝己さんの『世界のカトカラ』によると、成虫は5〜6月頃に出現し、あまり多くはないという。食樹は不明とのこと。

 
■Catocala naumanni Sviridov、1996
分布地 中国雲南省
雲南省北部の標高2000mを超える地域に見られる。
「naumanni」という小種名が気になる。もしかして、コレってナウマン象とか関係あんのかな?

 
■Catocala katsumii Kons Jr, Borth, Saldaitis & Didenko, 2017
分布地 ベトナム中央高地・中国雲南省
外観はマホロバよりもアミメキシタバに似ている。
主な分布地はベトナムで、標高1600〜1700m以上で得られている。食樹は不明。
年一化が基本のカトカラ属の中では珍しく、と云うか驚いたことに新鮮な個体が5月、6月、7月、10月、12月に得られているという。新北区(北米)では、幾つかの大型のカトカラ種が同じような発生パターンを持っているそうだ。多化性だとしたら、俄かには信じ難い。カトカラと云えば、殆んどの種が年一化だ。日本で多化性なのは、今のところはアマミキシタバだけなのだ。
余談だが、学名の小種名は世界的なカトカラ研究者である石塚勝己さんに献名されたものである。

 

(出展『Catocala katsumii Kons Jr, Borth, Saldaitis & Didenko, 2017』)

 
上の図版には、C.naumanniの画像が入っていないので、別な図版を貼っつけておく。

 

(出展『Catocala naumanni Sviridov、1996』)

 
因みに石塚さんは、C.naumanniを同グループには入れられておられない。とはいえ、DNA解析のクラスター図にはあるので含めた。一応、その図も載せておこう。

 

(出展 2点共『FIGURE 2 in The Catocala naganoi species group (Lepidoptera: Noctuidae), with a new species from Vietnam』)

 
見た目が似ているアミメキシタバやクロシオキシタバは、クラスターには入っていない。つまり似てはいても系統は別だと云うことだ。どうやらキシタバの仲間は見た目だけでは類縁関係は分らないって事だね。

 
【アミメキシタバ Catocala hyperconnexa】

(裏面)

 
【クロシオキシタバ Catocala kuangtungensis】

(裏面)

 
とはいえ、DNA解析の結果が絶対ではないだろう。クラスターの中に全然見た目の違う C.kishidai なんかが入ってるしね。このアマミキシタバっぽいタイプの奴って、そもそも昔はカトカラ属に入ってなかった筈だしさ。カトカラじゃなくて、クチバの仲間だと考えてる人も多いみたい。こう云うのを見ると、DNAの解析結果を鵜呑みにしてはならないとは思う。

しかし、あとで『世界のカトカラ』を見てて、重要なミステイクに気づいた。Catocala kishidai キシダキシタバについての認識が完全に間違ってました。先の naganoiグルーブの図版の中のキシダキシタバの画像が小さいので、下翅だけを見て、うっかりアマミキシタバみたいだと思ってしまったのだ。でも、『世界のカトカラ』に載ってるキシダキシタバの上翅を見て、アマミキシタバとは全然違うことに気づいた。上翅の色、柄、形は完全にnaganoiグルーブのものだ。前言撤回です。ゴメンなさい。

 
【キシダキシタバ Catocala kishidai】

(出典『世界のカトカラ』)

 
ミャンマーで発見された極珍のカトカラで、図鑑にはこのホロタイプの1個体しか知られていないと書かれていた。その後、再発見されてるのかなあ❓…。
たぶん学名の小種名は岸田泰則先生に献名されたものだろう。

 
【開張】
52~60㎜。
中型のカトカラにカテゴライズされるが、その中では大きい部類だろう。

 

 
最大級サイズものと最小個体を並べてみた。
結構、差があるね。でも大きさのバラツキは少なく、55mmくらいの個体が多い。

 
【分布】
岸田先生肝いりの刺客として送り込まれてきたマオくんのおかげで、一挙に春日山周辺の分布調査が進んだ。
因みに虫採り名人秋田勝己さんも一日だけ参戦され、調査に御協力くださった。秋田さんはゴミムシダマシやカミキリムシの調査で原始林内を熟知されており、マオくんとコンビを組んでもらって彼に樹液の出る木を伝授して戴いた。調査地域は北部の若草山とその周辺をお願いした。
小太郎くんには最もしんどくてツマンなさそうな東側を担当してもらい、自分は南部から南東部を担った。
それにより、原始林の南西部や西部の他に、予想通り北西部や北部の若草山周辺、南部の滝坂の道でも見つかった。調査不充分で、まだ南東部や東部では見つかっていないが、そのうち確認されるだろう(とはいえ、個体数は少ないものと思われる)。
おそらく発生地は春日山原始林内で、その周辺の二次林には吸汁に訪れるものと思われる。あくまでも予想だが、それより離れた場所では見つからないだろう。離れれば離れるほど棲息に適した場所が無いからだ。つまり移動性は高くない種だと考えられる。否、飛翔力はあっても、移動したくとも移動できない種と言うべきか…。
尚、奈良公園、春日山原始林、春日大社所有林での昆虫採集は禁じられており、採集には許可が必要となる。

 

(改めて見ると、許可証じゃなくて許可者なんだ…)

 
その後、2020年春に岩崎郁雄氏によって宮崎県でも採れている事が分かり、月刊むし(No.589,Mar.2020)で報告された。氏の標本箱の中から見い出されたという。採集地は以下のとおりである。

「2015.7.25 宮崎県日南市北郷町北河内 1♂」

採集は氏御本人で、宮崎昆虫調査会主催の夜間採集の際に樹液の見回りにて採集されたものだ。ハルニレの樹液に飛来していたそうで、当時はアミメキシタバと同定されていたという。
他に、鹿児島県でも過去の標本から見つかったと聞いている。
どちらの場所にも、今年2020年に蛾類学会の調査が入ったようだし、地元の虫屋も探す筈だから、再発見の報が待たれるところだ。
たぶん九州には豊かな照葉樹林が比較的多いから、他の県でも見つかる可能性は高いと思われる。そのうち多産地も見つかるだろう。採りたい人は、採集禁止区域の多い奈良よりも九州に行った方がいいかもね。

見た目はアミメキシタバとクロシオキシタバに似ているから、標本箱の中をチェックした人は多かったみたいだね。でも紀伊半島南部のアミメやクロシオの標本の中からはまだ発見されていないようだ。
因みに、T中氏が紀伊半島南部にも絶対いる筈だから本格的に探すと言っておられた。しかし、まだ採ったと云う話は聞かない。紀伊半島南部にも居るとは思うけど、九州に居るのなら、むしろ四国に居る可能性の方が大かもね。他には中国地方でも良好な環境の照葉樹林があれば、居ても何らオカシクない。
あくまでも自分の想像だが、好む環境は手つかずの照葉樹林、及びそれに近い自然林で、空中湿度が高く、イチイガシのある森ではないかと思われる。謂わば、ルーミスシジミやヤクシマヒメキシタバが好む環境ではなかろうか❓(かつては春日山もルーミスの多産地だったが、台風後の農薬散布で絶滅したと言われて久しい)。

 
(ルーミスシジミ)

(2017.8.19 和歌山県東牟婁郡古座川町)

 
そう云う意味では、千葉県のルーミスシジミの多産地にも居る可能性はある。確率は低そうだけどもね。

 
【発生期】
日本では年一化と推定される。最初に見つけた7月10日の計9個体のうち、既に2頭がかなり翅が傷んでいた。この点から、おそらく7月上旬からの発生で、早いものは6月下旬から現れるものと思われる。最盛期は7月中旬で、下旬になると傷んだ個体が目立ち始める。
小太郎くんが最後に見たのが8月15日か16日で、♂はボロボロ、♀は擦れ擦れだったそうだ。現時点ではまだハッキリとは言明できないが、たぶん8月下旬くらいまでは生き残りの個体が見られるのではないかと思われる。
尚、此処にはアミメキシタバも生息しており、マホロバに遅れて7月中旬の後半から見られ始めた。他の場所はどうあれ、此処ではアミメの方がマホロバよりも小さい傾向が顕著で、両者の区別は瞬時につきやすい。また驚いたことに7月下旬になるとクロシオキシタバも1個体のみだが見つかった。

『月刊むし』にはこう書いたが、2020年の発生は予想を覆すものだった。6月下旬には見られず、7月に入っても姿が確認できなかった。小太郎くんが7月5日に確認に行っても見られず、ようやく発生が確認されたのは何と7月9日だった。去年に発見した7月10日と1日だけしか変わらない。年により発生期に多少の変動があるのだろうが、これは意外だった。となると、7月上旬ではなく、7月中旬の発生なのだろうか❓
どちらにせよ、来年の調査を待って最終的な結論を出さねばならないだろう。

個体数は2019年は多く、林内ではキシタバ(C.patala)に次ぐ数で、1日平均10頭くらいは見られた。しかし2020年は1日平均3頭以下しか見られなかった。
よくよく考えてみれば、2019年だって厳密的には個体数が多いとは言い切れないところがある。なぜなら、樹液の出てる御神木があって、林内には他に樹液の出てる木が殆んど見られなかったからだ。つまり其処に集中して飛んで来ていた可能性が高いとも言えるのだ。ゆえに、それだけの数が採れただけであって、もしかしたら元々はそんなに個体数が多い種ではないのかもしれない。
ただ、2020年はマホロバだけでなく、他のカトカラの個体数も少なかった。春日山原始林のみならず、関西全体どこでもそうゆう傾向があったから、何とも言えないところはある。春先が暖かくて、その後寒波が訪れた影響かもしれない。食樹がまだ芽吹いていないのに孵化してしまい、餓死したものが多かったのだろう。テキトーに言ってるけど。
個体数についても来年また調査しなくてはならないだろう。来年も少なければ、稀種だね。
それに、たとえ発生数が多くとも御神木の樹液が渇れてしまえば、かなり採集は困難となる(これについては後述する)。たとえ2020年と同じ発生数だったとしても、あんなには採れないだろう。何だかんだ言っても稀種かもね。

 
【生態】
クヌギ、コナラの樹液に飛来する。今のところヤナギや常緑カシ類の樹液では確認されていない。
飛来時、樹幹に止まった時は翅を閉じて静止する。その際、下翅を一瞬でも開くことはない。但し、小太郎くんが一度だけだが見たそうだ。

 

(撮影 葉山卓氏)

 
また更に特異なのは、多くのカトカラが樹液を吸汁時にも下翅を見せるのに対し、一切下翅を開かないことである。その為、木と同化して視認しづらく、しばしば姿を見失う。
樹液にとどまる時間は割りあい短く、警戒心が強くて直ぐ逃げがち。懐中電灯を幹に照らし続けていると、寄って来ない傾向がある。また、御神木ではキシタバ(Catocala patala)が下部の樹液にも集まるのに対して、2.5m以上の箇所でしか吸汁しなかった。
静止時の見た目は他のカトカラと比べて細く見える。これは上翅を上げて下翅を見せないところに起因するものと思われる。他のヤガ、特にヨトウ類とは見間違えやすいので注意が必要である。角度によっては今でも珠にヨトウガをマホロバと見間違える事がある。見たことがない人には、逆にマホロバがヨトウガにしか見えないだろう。
個体にもよるが、懐中電灯の灯りを当てると概ね緑色っぽく見える。飛来時、この点でアミメキシタバや他のカトカラとは判別できる。アミメは上翅が茶色に見えるし、小さいからね。
但し、慣れればの話であって、見慣れていない人には難しいかもしれない。

 
(マホロバキシタバ)

(画像提供 葉山卓氏)

 

 
昼間の自然光の中では、それほど緑っぽく見えない。

 

 
お次はアミメちゃん。

 
(アミメキシタバ)

(出典『里山ひきこもり−豊川市とその周辺の鳥と虫』)

 
なぜだか夜に撮った写真がないので、画像をお借りした。
懐中電灯で照らすと、大体はこんな風に茶色に見える。

 

 
昼間に見ると、当然の事だがバリ茶色い。
一応、クロシオキシタバの画像も貼っつけとくか。

 
(クロシオキシタバ)

 
クロシオは上翅の変異に幅があるのだが、青緑っぽく見えるものが標準タイプだ。

 

 
デカいので基本的にはマホロバと見間違うことはなく、むしろパタラキシタバ(C.patala)と間違えやすい。小さめのパタラに見えるのだ。但し、マホロバにも珠にデカいのがいるので、注意が必要。

樹液への飛来時刻はパタラ等と比べてやや遅れ、日没後少し間をおいて午後7時半過ぎくらいから姿を見せ始める。以降、数を増やし、8時前後がピークとなり、9時くらいになると急に減じることが多かった。他のカトカラと同じく飛来が一旦止まるのだ。そして10時前後から再び現れ始める。しかし断続的で、最初の飛来時よりも数は少ない。但し、その日によって多少の時間のズレはある。また晴れの日でも小雨の日でも関係なく見られ、天候による飛来数の差異は特に感じられなかった。
とはいえ、2020年は1頭も見られない日や飛来が午後9時半近くになって漸く始まった日もあった。両日共に特に変わった天候でもなかったから、頭の中が(?_?)❓だらけになったよ。我々の預かり知らぬ某(なにがし)かの理由があったのだろうが、全くもって不思議である。

糖蜜トラップも仕掛けたが、フル無視され続けた。マオくんのトラップにもずっと寄って来なかったが、キレて帰り間際に木にバシャっと全部ブチまけたら、一度だけだが来たらしい。彼曰く、酢が強めのレシピには反応するのかもしれないとの事。2019年は、この1例のみだった。
2020年にも糖蜜トラップを試してみた。しかし自分を含め、小太郎くんや蛾類学会の人達も糖蜜を撒いたにも拘わらず、全く寄って来ない日々が続いた。その後、漸く蛾類学会の人の糖蜜に一度だけ飛来し、2日後(7月20日)には自分の糖蜜にも一度だけ飛来した。何れも複数の飛来は無く、1頭のみである。樹液を好むカトカラは糖蜜にも寄ってくるというのが常道だから、ワケがわかんない。これだけ試しても3例のみしかないと云うのは謎である。正直なところ糖蜜で採集するのは、今のところかなり難しいと言わざるおえない。

ここまで書き終えたところで、追加情報が入った。
クワガタ用のフルーツ(腐果)トラップにも来たらしい。但し、2日間で各々1度ずつのみとの事。御神木の樹液が渇れていた状態でもその程度なんだから、やはり餌系トラップで採るのはスペシャルなレシピでも開発されない限りは困難と言えよう。

2019年には大々的な灯火採集は行っていないが、小太郎くんが樹液ポイントのすぐ横に設置した小さなブラックライトに、採り逃がした個体が2度ほど吸い寄せられた事から、おそらく灯火にも訪れるものと予想された。
2020年に蛾屋さん達を中心に調査が行われた結果、灯火トラップにも飛来することが確認されたようだ。灯火には何となく夜遅くに飛来するのではないかと予想していた。理由はユルい。大体において良いカトカラ、珍しいカトカラというものは、勿体ぶって深夜に現れるというのが相場と決まっているからだ。だが、予想に反して点灯後すぐに飛来したと聞いている。飛来数は計3頭だったかな。但し、たまたま近くにいたものが飛来した事も考えられる。詳しいことは後ほど発表があるかと思うので、興味のある方は動向に注視されたし。
尚、春日山原始林内や若草山周辺では、許可なく勝手に灯火採集は出来ないので、その点は強く留意しておいて戴きたい。

昼間の見つけ採りも困難だ。今のところ数例しか聞いていない。羽の模様と木の幹とが同化して極めて見つけづらいのだ。夜間、樹液に来てても視認しづらいくらいなんだから、その辺は想像に難くなかったけどね。
2019年はマオくんがクヌギの大木のそれほど高くない位置に静止しているものを見つけている。小太郎くんも後日、その近くで見たそうだ(何れも若草山近辺)。
2020年の小太郎くんの観察に拠ると、生木よりも立ち枯れの木を好む傾向があり、静止場所はやや高かったという。自分は昼間の見つけ採りはあまり積極的にしていないが、もしかしたら基本的には視認しづらい高い位置で静止するものが多いのかもしれない。
また、木の皮の隙間に半分体を突っ込んでいる個体もいたという。となると、木の皮の下や隙間、洞に完全に隠れている者もいるかと思われる。これらの事から昼間には見つけにくいのかもしれない。

昼間、樹幹に静止している時の姿勢は下向き。非常に敏感で、近づくと直ぐに反応して逃げ、その際の飛翔速度は速いと聞いている。また藪に向かって逃げ、再発見は困難だそうだ。一度だけ追尾に成功した際は、下向きに止まっていたらしい。その際、上向きに着地してから即座に姿勢を下向きに変えたか、それとも直接下向きに着地したのかは定かではないという。

昼間は見つけにくいと言ったが、夜だって同じようなものだ。いや、下手したら昼間よりも見つからん。ヤガの仲間は夜に懐中電灯をあてると目が赤っぽく光る。だから、昼間よりも見つけやすい。なのに、森の中を歩く時は注意して見ているのにも拘わらず、まあ見ない。見られるのは樹液の出ている木の周辺くらいで、しかも珠にだ。他の多くのカトカラと同じく、おそらく樹液を吸汁してお腹いっぱいになったら、近くの木で憩(やす)むのだろう。そして、お腹が減ったらまた吸汁に訪れると云うパターンだ。とはいえ、他のカトカラ、例えばパタラやフシキ、クロシオ、アミメなんかのように樹液の出ている木や周りの木にベタベタと止まっていると云う事はない。
そういえば、日没前に樹液近くの木に止まっている場合もあった。夜の帳が落ちるまで待機していたのかもしれない。こう云う生態はカトカラには割りと見られる。その際の姿勢は上向きだった。夜間の向きは他のカトカラと同じく上向きだから、夕刻や夕刻近くになると上下逆になるのだろう。
昼夜どちらにせよ、視認での採集は極めて効率が悪い。
但し、例外はある。2020年8月6日に小太郎くんが訪れた時は何故か結構止まっている個体がアチコチにいて、計10頭以上も見たという。一日で確認された数としては極めて突出している。見ない事が当たり前で、見ても複数例は殆んど無かったのだ。ちなみに全て飛び古した個体で、不思議なことに全部オスだったそうだ。偶然かもしんないけど、興味深い。尚、御神木の樹液は既に止まっており、そこから約70mほど離れた所から奥側にかけてだったそうな。いずれにせよ、マホロバの行動は謎だらけだよ。

その小太郎くん曰く、♀の腹が膨らむのは7月末くらいからだそうだ。おそらく産卵は8月に入ってから行われるものと思われる。今のところ、産卵の観察例は皆無で卵も見つかっていない。
参考までに言っておくと、二人からそれぞれ石塚さんに生きた♀を7月中旬と8月初旬に送ったが、7月中旬に送ったものは産卵せず、8月のものは産卵したそうだ(孵化はしなかったもよう)。交尾後から産卵するまでには一定の期間を要するものと考えられる。尚、交尾中の個体もまだ観察されていない。

 
【幼虫の食餌植物】
現時点では不明だが、おそらくブナ科コナラ属のイチイガシ( Quercus gilva)だと推察している。中でも大木を好む種ではないかと考えている。
なぜにイチイガシに目を付けたかと云うと、奈良公園や春日大社、春日山原始林内に多く自生し、大木も多く、イチイガシといえば、ここが全国的に最も有名な場所だと言っても差し支えないからだ。しかも近畿地方ではイチイガシのある場所は植栽された神社仏閣を除き、此処と紀伊半島南部くらいにしかないそうだ。つまり、何処にでも生えている木ではない。もしマホロバキシタバの幼虫が何処にでも生えているような木を主食樹としているのならば、とっくの昔に他で発見されていた筈だ。と云う事はそんじょそこらにはない木である確率が高い。ならば、この森の象徴とも言えるイチイガシと考えるのは自然な流れだろう。
また林内には他に食樹となりそうなウバメガシが殆んど自生しないことからも、イチイガシが主な食樹として利用されている可能性が濃厚だと考えた。但し、正倉院周辺にシリブカガシの森があり、ムラサキツバメもいるので、そちらの可能性もゼロとは言えないだろう。シリブカガシも近畿地方では少ない木だからね。
因みに林内にはアラカシ、ウラジロガシ、アカガシ、シラカシもあるそうだ。でもアラカシとシラカシは近畿地方では何処にでもあるゆえ、主食樹ではないものと思われる。またウラジロガシはヒサマツミドリシジミ、アカガシはキリシマミドリシジミの主食樹だし、けっして多くは無いものの、各地にあるから可能性は高くはないと思われる。

前述したが、マホロバはルーミスシジミなどのように空中湿度の高い場所を好む種なのかもしれない。
とはいえ、これだけでは論理的にはまだ弱い。イチイガシについて、もう少し詳しく調べておこう。

 
【イチイガシ(一位樫) Quercus gilva】

 
ブナ科コナラ属カシ類の常緑高木。
別名:イチガシ。和名はカシ類の中で材質が最も良いこと(1位)に由来する。よく燃える木を意味する「最火」に由来するという説もある。
分布は本州(千葉県以西の太平洋側と山口県)、四国、九州、対馬、済州島、朝鮮半島、台湾、中国。
紀伊半島、四国、九州には多いが、南九州では古くから植栽されて自然分布が曖昧になっているようだ。実際、天然記念物に指定されているイチイガシ林は南九州に多い。と云うことは、南九州の山地では普通に見られる木と考えても良さそうだ。
これはある程度知ってた。だから、この点からも九州を筆頭に紀伊半島南部や四国でもマホロバの分布が確認される可能性はあるだろうとは思ってた。実際、九州南部で過去の標本が見つかったからね。遅かれ早かれ、他の地方でも今後見つかるだろう。
また、イチイガシはマホロバの原記載亜種の棲む台湾にもあるみたいだから、食樹である可能性は更に高まったのではあるまいか。
あっ、そういえば台湾の佳蝶スギタニイチモンジって、イチイガシを食樹としてなかったっけ❓(註6)

低地~山地の照葉樹林に自生し、谷底の湿潤な肥沃地に多いそうだ。と云うことは、ルーミスやマホロバが好む環境とも合致する。春日山原始林内も小さな川が縦横に流れており、基本的には空中湿度が高く、標高も低いから良好な環境なのだろう。

東海~関東地方では少なく、見られるのは殆んどが社寺林である。北限(東限)はルーミスの多産地として有名な清澄山付近。静岡県以西では、ルリミノキ、カンザブロウノキなどを交えたイチイガシ群落を構成する。
神社に植栽されることが多く、特に奈良盆地で多く見られると書いてあった。他のサイトでも奈良公園と春日大社、春日山原始林に多いと書いてあるから、やはり相当イチイガシの多い場所なのだろう。

 

 
幹は真っ直ぐに伸び、樹高は30mに達し、幹の直径が1.5mを超える大木となる。長寿で、寿命は400~600年とされる。

 
(壮齢木)

 
樹皮は灰褐色で、成長するにつれて不揃いに剥がれ落ちる。

 
(若木の幹)

 
(葉)

 
(葉の裏側)

 
葉は先端が急に尖り、縁は半ばから先端にかけて鋭い鋸歯状となる。葉はやや硬く、若葉はその表面に細かい毛が密生し、後に無毛となり深緑色になる。又、裏は白に近い黄褐色の毛で覆われる。その為、木を下から見上げると黄褐色に見える。春先に見られる新芽も同じようにクリーム色で、よく目立つ。

花は雌雄同株で4〜5月頃に開花し、実(どんぐり)は食用となり、11~12月に熟す。カシ類では例外的に実をアク抜きしなくても食べることができ、生でも食べられる。そのため、昔は救荒食として重要な木であった。縄文時代から人間の食糧となっていたことが遺跡からも判明している。

丈夫な材が船の櫓に使われたことから「ロガシ」という別名もある。材は他のカシ類に比べて軽くて軟らかく、加工しやすくて槍の柄など様々な器具の材料に使われた。
和歌山県ではごく限られた地点に点在するのみであるが、遺跡からは木材がよく出土することから、かつてはもっと広く分布していたものと考えられ、人為的な利用によって減少したと見られる。和歌山県は紀伊半島南部なのに、意外と少ないのね。
ちょっと待てよ。紀伊半島の蝶に詳しい Mr.紀伊半島の河辺さんが、紀伊半島南部には意外とイチイガシが少なくて、ルーミスはむしろウラジロガシを利用している場合が多いと言ってなかったっけ❓
だとしたら、紀伊半島南部でのマホロバの発見は簡単ではないかもしれない。
あんまり変な事をテキトーに書くとヤバいので、河辺兄貴に電話した。したら、間違ってましたー。ワシの記憶力は鶏並みなのだ。兄貴曰く、和歌山、三重、奈良県共にイチイガシは多いんちゃうかーとの事。そしてルーミスは標高400m以下ではイチイガシを食樹として利用し、それより標高の高いところではウラジロガシを利用しているらしい。また、アラカシなど他のブナ科常緑樹も食ってるようだ。

イチイガシとアラカシの交雑種(雑種)が大分県で確認されている(イチイアラカシ(Quercus gilboglauca))。この事から、或いはアラカシを稀に食樹として利用しているものもいるのかもしれない。蛾類は蝶よりも幼虫の食樹が厳密的ではなく、科を跨いで広範囲に色んな植物を食すものも多いのだ。同じ科なら、飼育下では平気で何でも食うじゃろて。

一応、2020年の5月下旬に小太郎くんと幼虫探しをした。
しかし、思ってた以上にイチイガシが多く、大木も多かったから直ぐにウンザリになった。自分は、こうゆう地道な事には向いてないなとつくづく思い知ったよ。
小太郎くんは奈良市在住なので、度々探しに行ってたみたいだけど、結局見つけられなかったそうだ。もしかしたら、幼虫はメチャメチャ高いところに静止しているのかもしれない。
また小太郎くん曰く、イチイガシは他の常緑カシ類と比べて芽吹きが大変遅いそうだ。この日(5月27日)で、まだこんな状態だった。

 

 
オラは飼育を殆んどしない人なので、そう言われても正直よくワカンナイ。なので、幼生期の解明については小太郎くんに任せっきりだった。
彼曰く、下枝はこの時期になってから漸く芽吹くそうだ。となると、成虫の発生期と計算が合わなくなってくる。成虫の発生を7月上中旬とするならば、この時期には終齢幼虫になっていないといけない筈なのだ。もし幼虫が新芽を食べるとすれば、成長速度が度を越してメチャンコ早いと云う事になっちゃうじゃないか(# ゚Д゚)
新芽の芽吹きは大木の上部から始まると云うから、それを食ってるのかもしれない。にしても、新芽を食べるのならば幼虫期間は矢張り相当短いと云う事にはなるけどね。
まあいい。高い所の新芽を食べるとして話を進めよう。もし幼虫は高い所にいるのだとしたら、探すのは大変だ。ゼフィルス(ミドリシジミの仲間)の卵さえロクに探しに行った事がないワシなんぞには、どだい無理な話だ。誰かが見つけてくれることを祈ろっと。

いや、待てよ。小太郎くんは新芽を食うと断定していたが、花の時期は4月から5月だ。新芽ではなく、もしかして花を食ってんじゃねえか❓そう考えられないだろうか❓ あるいは花の蕾、または硬い枝芽を食うのなら、辻褄は合う。
待て、待て。こう云う考え方も有りはしないか❓例えば弱齢期は他のブナ科常緑樹の新芽を利用し、終齢に近づくにつれ、食樹転換をしてイチイガシを利用するとかさあ…。所詮は飼育ド素人の考えだけど、ダメかなあ❓

食樹をイチイガシと予想したが、もしかして全然違うかったりしてね。だとしたら、何を食ってんだ❓ これ以上は見当もつかないや。

何れにせよ、まだまだ生態的に未知な面もあり、来年もまた調査を継続する予定である。

 
                       おしまい

        
謝辞
最後に、Facebookにアップした記事にいち早く反応され、迅速に動いてくださった岸田泰則先生、記載の役目を快諾され、ゲニタリアを仔細に精査して戴いた石塚勝己さん、発見のきっかけをくださった秋田勝己さん、分布調査で目覚ましい活躍をしてくれた小林真大くん、またこの様なフザけた文章を掲載してくれることをお許し戴いた月刊むしの矢崎さん、そして今回の相棒であり、共に発見に立ちあってくれ、殆んどの調査行に同行してくれた葉山卓くん、各氏にこの場を借りて多大なる感謝の意を表したいと思います。皆様、本当に有り難う御座いました。

ここからは編集者の矢崎さんに送ったメールです。

矢崎さんへ
奈良公園のイチイガシの大木の写真を添付しておきます。残念ながら葉っぱの写真は撮っておりません。
それから1頭だけ採れたクロシオキシタバ(註7)のことは伏せておいた方がいいかもしれません。採れた場所が採れた場所ですから石塚さんが興味を示されています。新亜種くらいにはなるかもしれません。ゆえに状況次第で、その部分は削って戴いてかまいません。石塚さんに訊いてみて下さい。尚、そのクロシオはマオくんが採り、現在葉山くんが保有しています。

以上、多々面倒かと思われますが、宜しくお願いします。
それとマホロバの産地は伏せるとは聞いたのですが(註8)、いったい何処まで伏せるのでしょうか? 個人的にはどうせそのうちにバレるんだから、正直に書いて県なり市なりに働きかけて保護するなら保護した方がよいと思うんですが…。
とはいえ、クソ悪法である「種の保存法」とかにはなってもらいたくはないです。禁止区域外でもいるんだから、虫屋の採る楽しみを奪うのもどうかと思うんですよね。

                      
追伸
前編でもことわっているが、この文章のベースは『月刊むし』の2019年10月号に掲載されたものである。

 
【月刊むし】

 
そう云うワケだから、前編も含めて楽勝で書けると思ってた。しかし、いざ書き始めると、前・後編に分けた事もあって、大幅に書き直す破目になった。新しい知見も加わったので、レイアウトも修正しなくてはならず、思ってた以上に苦労を強いられた。たぶん50回くらいは優に書き直したんじゃないかな。文章の端々に投げやり感が出ているのは、そのせいだろう。マジで無間地獄だったよヽ((◎д◎))ゝ。結果、手を入れ過ぎて原形からだいぶと変形した大幅加筆の増補改訂版となった。

えーと、それから月刊むしの記事よりもフザけた箇所は増えちょります(特に前編)。
え〜と、あと何だっけ❓あっ、そうだ。生態面の新たな発見があれば、随時内容をアップデートしてゆく予定です。あくまでも予定ですが…。
それと参考までに言っとくと、当ブログには他にマホロバ関係の記事に『月刊むしが我が家にやって来た、ヤァ❗、ヤァ❗、ヤァ❗』と『喋べくりまくりイガ十郎』と云う拙文があります。

 
(註1)岸田先生
日本蛾類学会の会長である岸田泰則先生のこと。
国内外の多くの蛾類を記載されており、『日本産蛾類標準図鑑(1〜4)』『世界の美しい蛾』など多くの著作がある。
さんまの『ほんまでっか!? TV』で池田清彦(註9)爺さまが岸田先生を評して『アイツ、すっごく女にモテるんだよねー。』と言ってたらしい。きっとオチャメなんだろね。

 
【日本産蛾類標準図鑑(Ⅱ)】

 
【世界の美しい蛾】

 
(註2)長野菊次郎
名和昆虫研究所技師。九州で生まれ、東京の中学校で博物学を教えていたが、岐阜の中学校に移ったのを機に名和靖と交流するようになった。後に名和の研究所の技師となって、最後まで名和の仕事を支えたという。
著書に『日本鱗翅類汎論』『名和昆蟲圖説第一巻(日本天蛾圖説)』などがある。なお、天蛾とはスズメガの事を指す。
またホソバネグロシャチホコの幼性期の解明に、その名があるようだ(1916)。

 
(註3)分布が隔離されてから少なくとも30万年以上前…
おぼろげな記憶から30万年前と書いたが、実際のところはもっと幅が広く、台湾、南西諸島、日本列島の成り立ちは複雑である。

①500万年前は南西諸島全域に海が広がり、日本列島と沖縄諸島・奄美諸島を含む島と八重山諸島を含む島(台湾の一部を含む)があった。
 

(出典『蝶類DNA研究会ニュースレター「カラスアゲハ亜属の系統関係」』以下、同じ。)

 
しかし200万年〜170万年前(第三紀鮮新世末)に隆起して大陸と繋がった。

 

 
②170〜100万年前(第四紀鮮新世初期)、南西諸島の西側が沈降して海になった。だが、台湾から九州までは陸地で繋がっていた。多分この時代に、C.naganoiは台湾から日本列島に侵入したのだろう。他にも多くの種が侵入し、ヤエヤマカラスアゲハとオキナワカラスアゲハの祖先種も、この時期に渡って来たものと思われる。

 

 
③100万年~40万年前(第四紀鮮新世後期)に沖縄トラフの沈降による東シナ海の成立で、現在の南西諸島の形がほぼ出来上がると、日本列島と奄美の間、奄美と沖縄の間、与那国島と他の八重山の島々との間でさらに隔離が起こった。たぶん、この年代前後にオキナワカラスとヤエヤマカラスの分化が進んだのだろう。

 

 
カラスアゲハとオキナワカラス、ヤエヤマカラスは別種化したのに、マホロバは40万年以上も前から隔離されているのに別種にはならなかったのね。もっと進化しとけよ。おっとり屋さんだなあ。
ちなみに記載者の石塚さんは「台湾と日本の地理的位置を考慮すると、別種の可能性が高いが、今のところ決定的な形質の差異が認められないので新亜種として記載した。」と書いておられる(月刊むし 2019年10月号)。しつこいようだが何とか新種に昇格してくんねぇかなあ(笑)。新種を見つけたと云うのと、新亜種を見つけたと云うのとでは受ける印象が全然違うもんなあ…。
とはいえ、小太郎くんもマオくんも「新亜種でも大発見ですよー。国内新種だし、ましてやカトカラなんだから凄い事だと思いますよ。」と言って慰めてくれたので、まあいいのだ。

 
(註4)ゲニ
ゲニタリアの略称。ゲニタリアとはオスの交尾器の一部分で、種によって形態に差異がある事から多くの昆虫の分類の決め手となっている。

 
(註5)もう「マホロバキシタバ」でエエんでねえの❓
最近発売された岸田先生の新しい図鑑、『日本の蛾』でも和名は「マホロバキシタバ」になっている。

 

 
『日本産蛾類標準図鑑』の1〜4巻を整理して纏めた廉価版で、この中に「標準図鑑以降に公表された種」として追加掲載されている。

 

 
こんだけ既成事実があれば、もう「マホロバキシタバ」で動かないだろう。有り難いことだ。

 
(註6)スギタニイチモンジってイチイガシを食樹としてなかったっけ❓
どうやら自然状態での食樹はまだ解明されていないようだが、飼育では無事にイチイガシで羽化したそうだ。

 
【Euthalia insulae スギタニイチモンジ ♂】

(2017.6.27 台湾南投県仁愛郷)

 
【同♀】

(2016.7.14 台湾南投県仁愛郷)

 
大型のユータリア(タテハチョウ科 Euthalia属 Limbusa亜属)で、とても美しい。
しかし生きてる時にしか、この鮮やかな青や緑には拝めない。死ぬと渋いカーキーグリーンになっちゃう。それはそれで嫌いじゃないけどさ。
スギタニイチモンジについては、当ブログの『台湾の蝶』の連載の第5話に『儚き蒼』と云う文章が有ります。
そういえば『台湾の蝶』シリーズ、長い間頓挫したままだ。ネタはまだまだ沢山残ってるんだけど、キアゲハとカラスアゲハの回でウンザリになって、プッツンいってもうて書く気が萎えた。いつかは再開はするんだろうけどさ。
嗚呼、最後に台湾に行ってから、もう3年も経っちゃってるのね。行けば、間違いなく書く気も復活するんだろうな。来年辺り、行こっかなあ…。

 
(註7)1頭だけ採れたクロシオキシタバ
石塚さんは、内陸部で採れた極めて新鮮な個体だったから興味を示されたのではないかと思う。

 

(画像提供 葉山卓氏)

 
コレがその個体だ。
見た目は、どう見てもクロシオではある。
ようは移動個体ではない事が考えられ、棲息地には食樹であるウバメガシは殆んど無い事から、別な種類の木を食樹としている亜種ではないかと考えられたのだろう。しかし調べた結果、ゲニはクロシオそのものだったそうな。
つけ加えておくと、その後、クロシオは2020年も含めて、この1頭だけしか採れていない。
素人目には、この森で発見されたジョナス(キシタバ)の方が衝撃だったけどなあ…。標高が低くて、孤立した分布地だからね。

 

(2019.7月 奈良市白毫寺)

 
何で怒髪天的な触角にしたんだろね。一つしか採れてないのにさ。
因みに、マオくんも採っているから偶産ではなかろう。上の個体は南西部の白毫寺で採れたものだが、マオくんは原始林を挟んだ反対側、北西部の若草山の北側で採っているので広く薄く生息しているのだろう。

しかし「月刊むし」のマホロバ特集号が発売されて石塚さんと岸田先生の記載論文の末尾を読んで、石塚さんの本当の意図するところが解った気がした。たぶんだが、石塚さんはクロシオとは思っていなくて、もしやクロシオの近縁種であるデジュアンキシタバ(C.dejeani)の可能性を考えたのではなかろうか❓

 
【Catocala dejeani Mell, 1936】

(出典『世界のカトカラ』)

 
パッと見、ほぼほぼクロシオである。下翅の帯が太いのかな❓

 

(出典『世界のカトカラ』上がクロシオ、下がデジュアン。)

 
マホロバとアミメよりも、こっちの方が互いにソックリさんだ。こんなの、よく別種だと気づいたよな。いや、古い時代のことだから、どうせ先に記載されていたクロシオの存在(1931年の記載)を知らずに記載したんだろ。ろくに調べず、テキトーなこと言ってるけど。

ここへきて落とし穴と云うか泥沼の予感だ。出来るだけサクッと調べて、サラッと終わらせよう。

1936年にスズメガの研究で知られるドイツ人のルドルフ・メリ(Rudolf Mell)によって記載された。
分布は中国(四川省、陝西省、広西チワン族自治区)と台湾。生息地は局地的で少ないとされている。
一部の研究者は種としては認めず、クロシオキシタバの亜種と見なしているようだ。

Wikipediaによると、亜種として以下のようなものがあるとされている。

◆Catocala dejeani dejeani Mell, 1936
(中国 広西チワン族自治区?)

メリは暫くの間、広州(広東省)のドイツ人中学校の校長だったらしいから、おそらく隣の広西チワン族自治区で採集されたものを記載したのだろう。あくまでも勘だけど。

◆Catocala dejeani chogohtoku Ishizuka 2002
(中国)

ググッても、この学名では産地が出てこなかった。ほらね、やっぱり泥沼だ。
記載は石塚さんだから、御本人に直接お訊きすればいいのだろうが、こんな些事で連絡するのも気が引ける。まあ、四川省か陝西省のどっちかだろう。たぶん原記載から遠い方の四川省かな? ウンザリなので、もうどんどんテキトー男と化しておるのだ。

◆Catocala dejeani owadai Ishizuka 、2002
(台湾)

台湾では最初、クロシオキシタバとして記録されていた。でもって、その後に台湾ではクロシオは見つかっておらず、今のところ台湾にはデジュアンしかいない事になっているそうな。
ようは、石塚さんは台湾にいる C.naganoiが日本にも居たんだから、デジュアンだっているかもしれないとお考えになったのだろう。それにクロシオとデジュアンは中国では同所的に分布するところも多いというからね。日本にデジュアンが居ても不思議ではないってワケだ。

 
【台湾産デジュアンキシタバ】

(出典『www.jpmoth.org』)

 
裏面画像を見たら、どうやらクロシオとの違いは裏面にあるみたいだ。

 


(出典 2点とも『www.jpmoth.org』)

 
上翅の内側の斑紋がクロシオとは違うような気がする。何だかマホロバっぽい。それにクロシオは翅頂部の黄色い紋が大きく、個体によっては外縁にまで広がって帯状になる。本当にそれが区別点なのかはワカンナイけどさ。
いや、待てよ。下翅が全然違うわ。クロシオは一番内側の黒帯が1本無いが、コヤツにはある。
前から思ってたけど、やはりカトカラを判別するためには裏面が重要だわさ。でも裏面画像は図鑑でもネットでも載ってない事の方が多い。マジで思うけど、裏面の画像も示さないとダメじゃね❓ って云うか鱗翅類を扱った図鑑は本来そうあるべきだろう。だいたい、蛾類は蝶と違って裏面に言及されてる事じたいが少ないってのは、どゆ事❓ 何でこうもそこんとこに無頓着なのだろう。蛾は種類数が多いと云うのは解るけどさ。それに裏まで載せれば、紙数が膨大となり、値段も高くなる。蛾の図鑑なんて誰も買わねぇもんが、益々売れねぇーってか❓ あっ、ヤバい。毒、メチャ吐きそうだ。この辺でやめときます。だいち、これ以上文章が長くなるのは、もう御免なのだ。

と言いつつ書き加えておくと、春日山原始林とその周辺には今のところ14種のカトカラの生息が確認されている。内訳は以下のとおりである。
キシタバ、マホロバキシタバ、アミメキシタバ、アサマキシタバ、フシキキシタバ、コガタキシタバ、カバフキシタバ、ワモンキシタバ、マメキシタバ、ジョナスキシタバ、クロシオキシタバ、オニベニシタバ、コシロシタバ、シロシタバ。ちなみに絶対いるだろうと思ってたウスイロキシタバは見つけられなかった。とはいえ、都市部に隣接した場所で、これだけの種類がいるのは中々に凄いことだ。それだけ森が豊かな証拠なのだろう。やはり素晴らしい場所だよ。

 
(註8)マホロバの産地は伏せるとは聞いたのですが…
採集禁止区域が多いので、トラブルを避ける為の配慮かと思われる。
個人的には、四国で新たなルリクワガタが見つかった時に、「生息地 四国」と発表されたことがあったから、ああゆうダサい事だけはしたくないと思った。どうせ自分たち以外の人に採らせたくないとかケチな理由からなんだろうけど、あまりにも雑過ぎる生息域の記述だったので笑ったワ。狭小な根性が丸出しじゃないか。腹立つくらいにセコいわ。だから、ああゆう風な提言となった。
それで、思い出したんだけど、最初に”Facebook”に記事を書いた時は奈良県で採ったと書いたら、誰もが場所は紀伊半島南部を想像したみたいだね。まさか奈良市内だとはワシだって思わんもん。今まで春日山には星の数ほどの虫屋が入ってるからね。そんなもん、とっくに発見されていて然りだと考えるのが普通でしょう。でも、オラの行動範囲を知っていたA木くんだけは見破ったけどね。
因みに、産地については即座に箝口令が敷かれた。と云うワケで、Facebookの記事も奈良県から近畿地方に修正しといた。でも、色んな人が具体的な場所まで知ってたのには笑ったよ。別に誰かを批判してるワケじゃないけど、「人の口には戸は立てられない」って事だよね。まさか身をもって自分がそれを知るだなんて思いもよらなかったから、変な気分だったよ。中々に貴重な体験でした。

 
(註9)池田清彦
生物学者。評論家。早稲田大学名誉教授、山梨大学名誉教授。
ダーウィンの進化論に異を唱え、構造主義を用いた進化論を提唱している。虫好きで、カミキリムシのコレクターとしても知られる。同じく虫屋であるベストセラー『バカの壁』で有名な養老(猛)さんやフランス文学者でエッセイストの奥本大三郎さんとも仲が良い。
御三方の本は昔から結構読んでる。虫屋で頭のいい人の本は面白い。

 

巨樹と仏像 ー奈良公園 冬ー

 
先日アップした「なら瑠璃絵」と富山県の郷土料理屋の回の前の話(2019年 2月14日)。

 
冬の奈良公園を訪れた。

近鉄奈良駅で降り、先ずは高札場の隣にあるムクノキの大木に挨拶へ行く。

 

 

 
高札場に猫がいた。
眠ってる猫は可愛い。この日は寒かったから、猫は丸くなるのである。

 

 
白黒写真みたいになった。
樹高25m。幹周り6.5m。推定樹齢は千年とも言われている。千年とは気が遠くなりそうな時間だ。
ムクノキはアサ科ムクノキ属に含まれ、成長が早くて大木になりやすいと言われるが、それでも千年はスゴい。

 

 
ムクノキ(椋の木)の語源は、カミキリムシ好きの東さんの話だと幹の皮が簡単に剥けるからだそうだ。ホントかね❓

調べてみると、諸説あるようだ。

①良く茂る木の意である「茂くの木」から来ているという説。

②新葉に細かく粗い毛(ムク毛)が密生しているから。

③葉には珪酸を含み、ザラザラしており、この葉を乾燥したものが木や竹・骨・角などの表面を磨きはがすのに使われた。この物を剥(は)いだり、剥(む)いたりする事から「剥(む)くの木」になったと云う説。

④古来、日本人は心身の穢れを忌み嫌い、穢れを落として無垢な心を持つことを願った。その心を木に託し、無垢(むく)の木と名付けた説。

⑤老木になると樹皮が剥げてきて、簡単に剥けるので、剥くの木と呼んだ説。

⑥ムクドリ(椋鳥)が好んで実を食べることから「ムクノキ」となったという説。

よくぞ、こんなにも語源とされる説があるもんだなあ。⑥番目なんかは、ちょっと怪しいけどさ。

普段はそのまま南円堂に向かうのだが、本日は三重塔のある裏道へ入った。

 

 

 
入ってすぐの所にお地蔵さんがいた。
お地蔵を見ると、何だか心がほっこりするね。

 

 
三重の塔。
北円堂と並び、興福寺で最も古い建物の一つだ。

 

 
三重の塔から南円堂を望む。

 

 
この角度から南円堂を見るの初めてかもしれない。

 
北円堂へと向かおう。

 

 
なだらかな坂の先に北円堂が見える。
一本道の向こうに建物があるってのは、ちょっとした高揚感があって好きだ。何かに向かってゆく気分ってのは悪くない。

北円堂も古い建物である。他の多くの伽藍は火事で何度も焼失し、また再建もされているようだ。

この道は裏道だから行き交う人も少なく、落ち着いた気持ちになれる。

南円堂の正面を通って興福寺国宝館へ。
ここを訪れるのは何十年か振りだ。

画像は撮ってないが、綺麗に建てかえられていたので、ちょっと驚く。
どうやら、去年(2018年)の元旦に新設されたようだ。

チケットは700円だった。高いのか安いのかよくわからない値段だ。

 

 
国宝館といえば、阿修羅像である。
東京で「阿修羅展」が開催された時は、阿修羅像を見るために物凄い数の人が押し寄せたらしい。それも若い女子ばっかだったという。「阿修羅萌え」なんて言葉もあるとか聞いたことがある。
若い女子たちが騒ぎ立てるのも解るような気がする。無垢な少年の顔と清楚な少女の顔が重なったようなその顔は、確かに誰が見ても美しい。

入って直ぐに山田寺仏頭が優しい顔で出迎えてくれた。

 
(出典『researchmap.jp』)

 
千手観音のお顔も穏やかで、心を和ませてくれる。
仏像の顔ってのは、案外癒されるものだと最近になって気づいた。あっ、でも若い時は秋篠寺の伎芸天に恋した事もあったっけ…。

 
(出典『DEEPだぜ!!奈良は。』)

 
天燈鬼と龍燈鬼。
生きてるみたいで、ちょっと恐い。
恐いけど、カッコイイ。

コイツら、だいたいは四天王などに踏みつけられてるから、こういう主役になってるものは珍しい。

 
【阿修羅像】
(出典『徒然cello日記』)

 
(出典『観仏日々帖』)

 
ウン十年か振りに見る阿修羅像は、変わらぬ優美さを湛えていた。
ただし、前の古い建物の中で見たときの方が背景としっくりと馴染んでいたような気がする。何だか美術館で見ているみたいな感じがして、少し違和感がある。

お顔は右手側からよりも、左側から見た方が美しいと思う。
阿修羅像をまだ見たことがない人は、死ぬまでには一度は見るべきだろう。それくらいの価値はある。

 
国宝館を出て、春日大社方面へと足を向ける。

 

 
イチイガシの大木だ。
一位樫と書き、ブナ科コナラ属に含まれる。語源は一位の樫の木と云う意味なんだそうだ。どこが一位なのかはよくワカンナイけどさ。

大木の魅力はその大きさもさることながら、その枝振りにもある。縦横無尽に曲がりくねった形は見てて飽きない。

 
飛火野へと出た。

 

 
こちらもイチイガシだ。

 

 

 
奈良公園にはイチイガシの巨樹が多い。
『春日大社境内のイチイガシ巨樹群』と名付けられ、市指定の天然記念物にもなっている。

すぐ近くには、クスノキの大木もある。
クスノキはクスノキ科ニッケイ属に含まれ、神社の御神木なんかにもなっているから、大木を見る機会は多い。

 

 

 
とてつもなく大きく見えるが、樹齢は百年くらいしかない。
実をいうと、この木は一本ではなく、三本の木が寄せ集まっているのだ。だから、矢鱈とデカく見える。
樹高は23.5mもあるという。

この木にだけは囲いがあって、中には入れない。
なぜかというと、陸軍の大演習の折りに、明治天皇が座ったところに記念として植樹されたからだ。

飛火野には、大木という程ではないけれど、そこそこ大きなナンバンハゼ(南蛮櫨)がある。秋になると、カエデに負けないくらいに紅く色づく。

  

 

 
飛火野を林縁に添って南へ歩くと、存在感のあるコレぞ巨樹といった木が在る。

 

 

 

 

 

 
これもクスノキである。
樹高は23m。幹周りは7.1m。樹齢は700年だそうだ。

幹が空洞になっているが、木自体は結構元気で、青々とした葉を繁らせている。
この空洞の部分には焼け焦げたような痕があるので、たぶん雷でも落ちたのだろう。
大木は他の木よりも高いので、きっと雷が落ちやすいんだろね。

 
春日大社まで移動した。

 

 

 

 

 

 
もちろん鹿さんもいる。
燈籠の間からコンニチワ。

 

 
春日大社の中にも巨木がある。

 

 

 
奥に見える杉の木だ。
『社頭の大杉』という名前がついている。
樹高25m。幹周り8.7m。樹齢800年~1000年という。

春日大社境内には、『砂ずりの藤』と呼ばれる樹齢800年の藤の大木もある。

 
(出典『よしひろ館』)

 
美しい。
花期はゴールデンウィークくらいだったろうか?
自分も見たことがあるが、ゴージャスな藤だ。
ただし、人も多い。見るなら朝の早い時間帯に行かれることをお薦めする。
とはいえ、周辺の少し離れたところには藤の大木がちょこちょこあるんだけどね。

 
春日山の原生林には杉の巨樹も何本かあり、二の鳥居付近にも「若宮大楠」という大木がある。

 
若宮神社の方へ進むと、クスノキの大木があった。

 

 

 
注連縄(しめなわ)が張ってあるので、御神木である。
一見するとそんなに大きくは見えないが、何と驚いたことに樹齢1700年だという。
写真は撮らなかったが、実をいうと表からそうは見えないが、裏から見ればその凄さが解る。デコボコのゴツゴツなのだ。因みに樹高は24m。幹周りは11.5mもある。

 
さらに金龍神社まで進むと、大きなイチイガシもある。

 

 

 

 
このイチイガシも大きい。
樹高18m。幹周り4.85m。樹齢は300年だと言われている。なあんだ300年ぽっちかよと一瞬思ったが、よくよく考えてみれば三百年も生きてるってスゴい事だ。動かぬ植物が生物の最強で、生命力が一番あるのかもしれない。

春日山のイチイガシといえば、そういえばルーミスシジミだなあ。
ルーミスシジミとは、日本屈指の珍蝶で人気も高い。
そのルーミスシジミの産地として、かつてはこの春日山一帯が有名だった。国の天然記念物にも指定されている。

 
【ルーミスシジミ Panchala ganesa】

 
日の光の下では、この水色が明るく輝き、とても美しい。

そういえば学名の小種名は ganesa(ガネーシャ)だったな。ガネーシャといえば、インドの神様だ。ルーミスシジミは神様なのである。

以下、何れも紀伊半島のルーミスだ。

 

 
たぶん、下のが♀かなあ…。

 

 
雌雄同体で、区別がそこそこ難しいのだ。

 

 
コレはちょっと変わった斑紋だね。

 
(裏面)

 
しかし、春日山原始林では既に絶滅して久しい。
伊勢湾台風の折りに多くの木が倒れたので、害虫の発生(?)を抑える為に農薬を空中散布したのが原因だとされている。

だとしたら、愚かな事だ。行政って動植物の事を何にも解ってないから馬鹿な政策ばかりしている。天然記念物の指定でもトンチンカンなものが結構ある。この春日山のルーミスだって、伊勢湾台風といえば1959年なワケだから、もう絶滅してから50年以上も経っているのに天然記念物の解除がなされていない。

それにしても、愚の骨頂とはいえ、そんなに簡単に絶滅するもんかね❓
他の昆虫で、ここ春日山で絶滅したとされるものは聞いたことがない(註1)。だいち、幼虫の食樹は山ほどまだ残っているのである。採集は禁止されているから、採集圧で絶滅したということも考えられない。にも拘わらずいないのである。
それに紀伊半島のルーミスを春日山に放した輩が絶対いるに違いない。それでも復活しないというのは、やはり他に問題があるのだろう。森の乾燥化が進んでいるとも言われるが、環境はたぶん50年前とそれほど大きくは変わってない筈なんだけどね。
きっと、人間があずかり知らぬ目に見えない環境の変化があったのだろう。

他に有名なイチイガシとしては、萬葉植物園内に『臥竜のイチイガシ』と云う木がある。これは名前のとおり枝が横に伸び、竜が如き佇まいだからだ。長い間、見てないけど結構見応えがある。

 
再び春日大社へと戻り、二月堂に抜ける道へと入ってゆく。
暫く歩くと、迫力のある木にブチ当たる。

 

 

 

 

 
水谷(みずや)神社のイブキ(ビャクシン)の木だ。
漢字は伊吹と書き、ヒノキ科ビャクシン属に含まれる。

幹の面妖さが凄い。
こういう老樹を見ると、精霊が宿っているのではないかと思ってしまう。
でも葉がほとんど無くて、瀕死の状態だ。
頑張れ!、おじいちゃん。

樹高は途中で折れてるから12.5mだが、幹周りは6.55mもある。樹齢は750年だそうだ。
中の空洞からは杉の木が生えていて「水谷神社の宿生木(やどりぎ)」と云う名もある。植物の逞しさには、驚くばかりだ。

 

 
ケヤキ(欅)の大木。
ケヤキは大木になりやすい木で、これくらいのものなら結構ある。

若草山の麓を通り、二月堂までやって来た。
お水取り(修二会)が近いせいか、もうそれ用の竹が用意されていた。

 

 
今年のお水取りは3月1日から3月14日に行われる。
お水取りが始まれば、いよいよ春の到来だと言われ、お水取りが終われば本格的な春が始まると言われている。

 

 
鮮やかな紅い花が咲いている。
モチノキ(モチノキ科モチノキ属)だろうか?
クロガネモチならば、もっと葉が小さい筈だから多分そうだろう。

 
東大寺の裏へと繋がる道をゆく。

 

 

 

 
この道はとても風情があって好きだ。
タイムスリップしたような不思議な気分になる。

坂道が終わると、右手に紅梅が咲いていた。

 

 

 

 
右の柑橘系の木との取り合わせが良いね。

 

 

 
ひっそりと蝋梅(ろうばい)も咲いていた。
名前に梅とついているが、梅の仲間ではなく、ロウバイ科 ロウバイ属に属する。蝋細工の梅みたいに見えることから、ついた名前だろう。
目立たない花だが香りが素晴らしい。
甘い香りがするのだ。その香りは香木の伽羅(きゃら)の匂いだとか、ジャスミンや水仙の花の香り、石鹸の匂いなどにも例えられる。

 
東大寺の裏手を歩く。
いつ見ても巨大で、毎度ながら要塞みたいだなと思う。

 

 
戒壇院まで来た。
残念ながら風情のある入口の山門は改修工事中で見られなかった。
本来はこんな感じ。

 
(出典『kiis.or.jp』)

 
この階(きざはし)の低い階段がいい。
でも正面からの姿もいいが、右斜め横から見る角度の方が好きだ。

仕方がないので戒壇堂の写真を撮る。

 
【戒壇堂】

 
パンフの表紙は広目天さんだ。

 
(以下、多聞天まで出典は戒壇院のパンフレットから。)

 
キリリと引き締まった顔が凛々しい。
シルエットもカッコイイねぇ~。
仏像の良さは顔だけやない。そのシルエットも大事だ。

パンフの表紙が仏像なのは、この寺には奈良(天平)時代の有名な四天王像があるからだ。
四天王とは、仏教における守護神である。
その配置は決まっていて、持国天➡増長天➡広目天➡多聞天の順に眺めるそうだ。

 

 
寺の人の話によれば、四天王は関西弁で『地蔵、買(こ)うた』と覚えればいいそうだ。「地・増・広・多」ってワケだね。

 
【持国天(じこくてん)】

 
東方の守護神であり、武神である。
左手に刀、右手に宝珠を持つものが多いが、戒壇院のものは右手に刀を持っている。国家安泰を表し、その刀で魔物を払うという。
足下に邪鬼を踏みつけている。これは他の四天王も同じだが、それぞれ踏んでいる邪鬼の種類が違うので、それを見比べるのも面白い。

 
【増長天(ぞうじょうてん)】

 
ぞうちょうてんとも読む。
南方の守護神。槍に似た戟(げき=古代中国の武器)を持ち、五穀豊穣を司る。

ドヤ顔である。
それでハタと思った。調子にのり過ぎることを増長(ぞうちょう)するというが、もしかしたらその語源はこの増長天から来ているのかもしれない。
それを確かめる為に寺の人に尋ねてみたが、「わっからへんなあ~。」と言われた。

 
【広目天(こうもくてん)】

 
西方の守護神。サンスクリット語(梵語)で「様々な眼を持つ者」を意味する。その千里眼のような眼でこの世の中のあらゆる事を見抜き、仏の教えと信者を護るといわれる。
右手に筆、左手に巻物を持っているのは、知の象徴でもあるのだろう。

この顔はいつ見ても荘厳だ。でも、ちょっと新撰組局長の近藤勇の顔に似ているなと思うのは自分だけだろうか?何れにせよ、相当頑固そうな顔だ。

この戒壇院の四天王だが、各自の身長が違う。持国天が160.5㎝。増長天が162.2㎝。多聞天が164.5㎝。そして広目天が169.9㎝と一番高い。広目天がスラッとしていて一番カッコ良く見えるのは、そのせいもあるのかもしれない。

 
【多聞天(たもんてん)】

 
宝塔を捧げ持つ北方の守護神。
物事をあまねく聞く者とされ、四天王最強と言われる。四天王としてはこの名だが、ソロ活動もしており、二つ名がある。その場合は「毘沙門天(びしゃもんてん)」と呼ばれ、財福の神や無病息災の神となる。また七福神の一尊としても数えられ、誠に忙しいお人である。

 
ちょっと疲れたので、お茶する。

 

 
抹茶ラテ。
普段は甘いものはあまり口にしないが、ちょっと疲れてきているので丁度いい。

 
日が暮れたので、東大寺南大門へ。
『なら瑠璃絵』を見る前に、あの仏像を拝んでおこうと思ったのだ。

門の左右には、天才仏師と謳われる運慶の手による金剛力士像(仁王像)が安置されている。

 
【阿形(あぎょう)像】

 
デカイ。下に人が写ってるから、そのバカでかさ加減がよく解るだろう。
身長は8.4m、体重は6.67トンもある。

木像だから相当デカイ大木が使われているに違いないよね。解体修理の時に分かったそうだが、木は檜(ひのき)が使われているようだ。

 

 
口を開けているのが阿形。
そして、口を閉じているコチラ↙が吽形(うんぎょう)像である。

 
【吽形像】

 
二つ合わせて阿吽。
「阿吽の呼吸」という言葉は、ここから来ている。

仁王像がこうして左右向かい合って立っているのは珍しいそうだ。
また門の右に吽形があり、左に阿形があるのも珍しい。普通は右に阿形、左に吽形が安置されていて、逆なのだ。

 

 
それにしても、隆々とした凄い筋肉だ。
筋骨隆々とは、この事だろう。
金剛力士も仏教における守護神だから、強くなくては話にならない。だから当然なんだけどね。

 

 
生きていて、今にも動き出しそうな迫力だ。こんなのが動き出したら、マジやばいよね。
それにしても人間が造ったものとは、とても思えない。そんなのを超越したものを感じる。
もしかして、運慶さんは宇宙人じゃねえの❓
名人が作ったものには魂が入るというが、ホントだと思えるくらいに凄いワ。
しかも、この仁王像の製作期間が仰天ものだ。
二体同時進行で、たったの69日間で造られたそうだ。やっぱ運慶さんは宇宙人だよ。

二体同時進行❓
ここで漸く思い出した。これは運慶さん一人で彫り上げたもんではないや。
運慶作と伝えられるもので大きなものは、だいたいが運慶さん率いる仏師集団が造ったものだと云うことを忘れてたよ。運慶が親方とか棟梁で、その指揮のもとに製作されたようだ。つまり運慶作とは、運慶個人の名前でもあるが、工房の名前でもあったワケだ。これは、ガラス工芸で有名なガレと同じようなものだと考えればいいだろう。

因みに伝だが、阿形が運慶と快慶の親子の作で、吽形が定覚と湛慶のコンビ作だと言われている。おそらくその下には多くの仏師がいたのだろう。
それでも約70日間と云うのは超人的バカっ早さだ。
これは寄せ木造りという工法が編み出されたからだが、それでもそれを齟齬なく組み立てるのは至難の技だったろう。

二体の仁王像は、宇宙人の始まりと終わりを表しているという。
阿形が始まりで、吽形が終わりだ。
仏像や曼陀羅には、仏教の壮大な思想が詰まっているのだ。

                 おしまい

 
追伸
そして、このデイトリップは前に書いた『なら瑠璃絵』へと繋がるのである。

 

よかったら、そっちも読んでね。

 
(註1)絶滅したとされるものは聞いたことがない
そういえば、若草山のオオウラギンヒョウモンも絶滅している事を忘れてた。
この蝶も今や日本有数の稀種であるが、局所的に分布するルーミスシジミとは少し事情が違い、昔は広く分布していたようだ。草原性の蝶で、生息に適した草原が人間の生活の変遷と共に激減したのが原因だと言われている。