『世界の美しい蛾』

 

 
『世界の美しい蛾』という、岸田先生が今年出版された本だ。
この本の存在は知ってはいたが、長いこと未見だった。春先だったと思うけど、Oくんが買って損したとか文句を言ってたので、ふ~んと思ってそのまま存在を忘れてしまってた。
で、最近になって大きな本屋に行った時に偶々(たまたま)見つけた。中をパラパラと見ると、見たこともない綺麗な蛾が並んでて、Oくんの口振りから想像していたものとは随分と印象が違った。値段も¥3850と、そう高くはなかったので衝動的に買ってしまったなりよ。ただいま絶賛ボンビー中なのにさ。

帰りの電車の中で、中を見る。
表紙の綺麗な蛾は「Baorisa hieroglyphica タナバタユカタヤガ」という名前のようだ。漢字で書くと、たぶん「七夕浴衣夜蛾」になるのだろう。一瞬、夏祭りの甘酸っぱい思い出が甦る。ノスタルジィーを掻き立てる粋な和名だと思う。

見てると、ガにはチョウには無い独特の翅のデザインが有ることに気づく。チョウよりもそのデザインはバリエーションに富み、種によってはチョウよりも複雑な模様を持っている。男性よりも女性の方が蛾に興味を持つのは、その辺に理由があるのかもしれない。仔細に見れば、スタイリッシュなのだ。
男はモノをざっくりと見がちだが、女性は細部までをよく見ているのだろう。男は色のデザインよりも形、つまりフォルムに反応するように出来ているのかもしれない。車やメカ(機械)、カブトムシやクワガタをカッコイイと感じるのが男なのだ。女性の体も、細部よりも先ずは体のライン、全体のフォルムを重視して見ているところがある。各パーツに目がいくのは、その次だ。で、顔を除けば、乳、ケツ、足に集約される。
一方、女性は最初から細部に目がいっているような気がする。男性の体の中でどこが好きですか?と訊かれて「手」と答える女性は多いが、男からすれば、有り得ない答えだ。もしも男で、最初に「手」とか答える奴がいたら、そいつは間違いなく変態です。乳、ケツ、足以外の「首筋(襟足)」とか「耳」のチョイスも解らないでもないが、1位に持ってきた時点で変態性が強い。
一言添えておくと、もちろん男は細部に拘っていないワケではない。あくまでも全体像、フォルム有りきの細部なのである。
これは太古の昔、狩猟採集の時代は男が狩猟を、女が村の周りの食物の採集を担当していた名残からなのかもしれない。
話が逸れた。このままいくと、また迷走なので本筋に戻そう。

艶やかな蛾が並ぶ中、目新しいもので特に惹き付けられたのはコレかな。

 
【レプレータルリチラシ Eterusia repleta】

 
オキナワルリチラシの親戚だね。
緑に青と少し黄色が入るって、カッコイイなあ。
蝶や蛾の知識の無い人から見れば、蝶にカテゴライズされるかもね。世間一般では、キレイ=蝶。汚ない=蛾という概念が定着しているところがあるからね。

こんなのも気になった。↙

 
【アフリカミドリスズメ Euchloron megaera】

 
黄色と緑の組み合わせの服なんて絶対に着れないけど、デザインとしては全然有りなんだよなあ…。
服や周りの調度品としての緑は好きじゃないが、自然界にある緑は掛け値なしに好きなのはナゼだろう。

更に見ていくと、後半のページで仰け反りそうになった。

 
【アサギマダラガ Cyclosia notabilis】

 
何じゃ、こりゃ(゜ロ゜;ノ)ノ❗❓
へぇ~、アサギマダラに擬態したチョウは知ってるけど、ガにもいるんだ…。そう思った。
アサギマダラは体内に毒を持つ事から、鳥に捕食されにくいと言われている。心憎いことに、殆んど襲われないと知っているからなのか、ゆるりと優雅に飛んでいらっしゃる。
それにあやかろうと、一部の毒の無い蝶や蛾が自らをアサギマダラに似せて難を逃れようと進化したのが擬態だ。本当にそうだとしたら、とんでもない高等戦術だ。しかし、似せようと思って似せられるものなのかね❓それがいまだ疑問だけど、どうあれ自然とか生き物って、やっぱスゲェーな。
ん❓、ちょい待てよ。このアサギマダラガもマダラガの仲間なんだから、元々自身も毒を持ってそうだな。だとしたら、ミューラー型擬態って事になる。種を越えて互いに擬態効果を高めてるってヤツだね。似たような毒ある奴が沢山いた方が、より鳥への訴求力は高まるって寸法だ。

解説文には「中国とラオスでの分布が確認されているが、野性下の姿を見られる機会は極めて稀だろう。」とあった。中国と云うのは、おそらくインドシナ半島北部に隣接する雲南省辺りなのだろう。
ふ~ん、ラオスにいるのなら何処かで見ててもオカシクないよな、と思った次の瞬間、記憶の映像が💥ガーンとフラッシュバックした。
コレって、見たことあるぞーΣ( ̄ロ ̄lll)
どこだっけ❓
たぶん…、インドシナ半島北部だな。確か吸水に来てるのを撮ったぞ。
 
帰宅後、探しまくって漸く画像を見つけた。

 

 
画像を拡大しよう。

 
(2016.4.22 ラオス北部)

 
遠目に見て、一瞬ちっちゃいアサギマダラ(蝶)かなと思った。だが違和感ありありで、すぐにニセモノだなと気づいた。にしても、他のマダラチョウの仲間でもなさそうだった。たぶん見たことがない奴だ。
何じゃらほいと思いながら近づいてゆくと、地面に止まって吸水し始めた。それを見て、一発で蛾だと理解した。だってさあ、触角がモロに蛾なんだもーん。

で、アサギマダラに擬態してる蛾なんて聞いたことがなかったから、一応証拠として写真を撮ったのだった。
ところで、コレって結局採ったんだっけ❓
いや、でも展翅した憶えがない。だとしたら、M氏辺りに渡したのかな❓ いやいや、当時はまだ蛾は気持ち悪かったし、写真撮ったからもういいやと思って採らなかったわ。相当に珍みたいだし、採っときゃよかったなあ…。

あれっ❗❓、でもよくよく見れば、どこかアサギマダラガと違うぞ。あっ❗上翅と下翅の地色が逆になっとるやないけー(@_@)

もしかして、まさかオスとメスとで上下の色が入れ替わるとか❓ でもそんな例、聞いたことがない。そりゃ、たぶん無いわ。
となると、これはアサギマダラガとは違う別種って事になるぞな…。
しかし、だったらコイツはいったい何者なのだ❓
でも、蛾の情報って少ないんだよなあ…。ちょっと調べてみたけど、直ぐにイヤになってやめた。まさか新種だったりして(笑)。まあ、それは無いとは思うけど。
それはそうと、コイツも珍なのかしら❓
岸田先生、教えて下され。

それはさておき、アサギマダラに擬態してる蝶がいると前述したが、コレが凄い精度なのだ。この際、ついでだから紹介しておこう。

 
【カバシタアゲハ Chilasa agestor】

 
タイやマレーシアの可能性もあるが、たぶんラオスで採ったものだろう。サムヌアかバンビエン辺りのものかな。

 
(裏面)

 
コレには完全に騙されたなあ。
その存在さえも知らなかったから、マレーシアで初めて会った時には腰を抜かしそうになった。それくらい似てるのだ。姿、形だけではなく、飛び方までソックリなのさ。マネシアゲハの仲間は擬態精度がメチャメチャ高い。アサギマダラガもいい線いってるけど、カバシタアゲハには敵わないんでねぇの❓
とは言っても、飛んでいる現物を見ないと、何とも言えねえな。余談は禁物だわさ。

おっと、本家本元、肝心要のアサギマダラにも登場して貰わないと本末転倒だ。これじゃ、普通の人には伝わらんよね。

 
【アサギマダラ Parantica sita】

 
とはいっても、ド普通種ゆえに展翅画像なんて撮ってない。よって、図鑑の画像をお借りした。

 
(裏面)
(出展 2点共『日本産蝶類標準図鑑』)

 
コレで如何に似ているかは御理解戴けたかと思う。
擬態って、改めてスゲェー世界だよなあ。

 
本を見ていると、他にも見たことや採った事があるものがそこそこ載っていた。トラシャクなんかは、そこそこ見てる。

 
【トラシャク Dysphania militaris】

 
コレは散々迷った揚げ句、採った記憶がある。
各地で珠に見ていたが、綺麗だけど蛾だと云う概念が邪魔して採る勇気がなかったのだ。じゃあ、何でこの時は採ったんだろ❓魔が差したのかなあ…。それか、この時は目ぼしいものかいなかったからヒマ潰しで、つい採ったのかも…。ブツは蛾好きのM氏に進呈したと思う。

本の解説には「日中、梢を飛翔し樹上に留まることが多いから捕獲は難しい種だと言える。ただし、稀に吸水のため地面に降りることもある。」と書いてあった。
目立つ蛾だから、そんなに珍しいモノだとは思っていなかった。しかし言われてみれば、そんな気もしてきた。よくよく考えてみると、何処にでもいたワケではない。でも吸水に来ている時は集団の事もしばしばあって、アオトラシャクなんかも混じってたなあ。採ろうと思えば、トータルで軽く20くらいは採れてたと思う。
もしも又、東南アジアに行く機会があったなら、真面目に採ろっと。

オウサマアゲハモドキもあった。

 

 
バックが暗くて分かりづらいので、他のところから画像を引っ張ってこよう。

 
【オウサマアゲハモドキ Epicopeia polydora】
(出展 『学研の図鑑 世界の昆虫』)

 
【裏面)
(出展『insectdesigns.comlithops.com』)

 
名前が王様なのだ。おそらくアゲハモドキの仲間の最大種だろう。タイのチェンマイで見たことがある。
最初はナガサキアゲハとかオオベニモンアゲハ、レテノールアゲハ(アルクメールアゲハ(註1))かなと思ったが、よく見ると違うので背中に悪寒が走ったよ。何度も言うが、その頃は蛾を忌み嫌っていたからね。
だから勿論の事、無視した。随分と後になってから、かなり稀なものだと知った。結構沢山いたので、今思えば、コレも採っときゃよかったよ。因みに此の場所以外では見た記憶はない。

チョウと見間違えたのは、コヤツも体内に毒を持つので、コレに擬態してるチョウが多いからだ。
つまり、ガがチョウに似せているのてはなくて、反対にチョウがガに似せているのだ。謂わば、それらのチョウはオウサマアゲハモドキモドキなのである。
いや、違うか❓ 違うな。勢いで、つい筆がスベったが、毒持ちなのはオオベニモンアゲハだわさ。冷静になって考えれば、オオベニモンアゲハはジャコウアゲハ系アゲハだもんね。ジャコウアゲハと言えば、食草はウマノスズクサ科(Aristolochiaceae)である。この植物には毒があり、幼虫はそれを体内に取り込み、成虫になってもその毒は体内にとどめられる。植物の種類は違うが、原理はアサギマダラと同じだ。それによって、鳥などの捕食者から身を守るのだ。
思い出したよ。台湾のオオベニモンアゲハは、確かタイワンウマノスズクサやリュウキュウウマノスズクサを食ってた筈だ。となると、インドシナ半島北部でも同じ系統のものを食しているものと推察される。毒ありなのは相違なかろう。
一方、アゲハモドキの仲間はアオキ科などを食樹としているものが多く、知る限りでは毒持ちではない。オウサマアゲハモドキが何を食ってるかは調べても分かんなかったから断言は出来ないけど、おそらく毒持ちではないだろう。間違ってたらゴメンだけど。

このチェンマイのポイントには、互いに擬態関係にあるものが数種いたと云う記憶がある。オウサマアゲハモドキに、オオベニモンアゲハ、レテノールアゲハ、ナガサキアゲハの4種類だ。

 
【オオベニモンアゲハ♀ Atrophaneura polyeuctes】

 
【裏面】

 
美しくもあるが、毒々しい。翅だけじゃなく、頭や腹まで赤いところが妖しい。毒婦じゃよ。
コレは台湾産のオオベニモンだけど、インドシナ半島のモノとそう変わらないだろう。見事にオウサマアゲハモドキに似ているね。いや、オウサマアゲハモドキがオオベニモンアゲハに似てるってのが正しいか。

インドシナ半島のモノも見っかった。

 

 
こっちは翅形的に♂かな。
白紋が大きいくらいで、やっぱ基本的には変わらんね。

 
【ワタナベアゲハ♀ Papilio thaiwanus】

 
(裏面)

 
これも飛んでたら、同じように見えるだろう。
違うと気づいたとしても、その時にはもう遅い。当然スタートも遅れる。たとえ結果的に見破られたとしても、判断を遅らせることが出来たならば、逃げれる確率は格段に上がるのである。

 
【ナガサキアゲハ♀ Papilio memnon】

 
裏展翅がないので、杉坂美典さんの画像をお借りしよう。

 
(裏面)
(出展『台湾の蝶』杉坂美典)

 
台湾産の有尾型だ。日本のものは、基本的には尾っぽがありゃせん。一応、そっちも載せとくか…。

 
【ナガサキアゲハ無尾型♀】

 
白いから、たぶん沖縄本島のものだろう。
そういえば白いのは、これまた毒を持つオオゴマダラに擬態してるという説もあったような気がするなあ。

 
(裏面)
(出展『蝶の傍らに』)

 
改めて見ると、ナガサキアゲハは腹が赤くないんだね。そういう意味では擬態精度はやや落ちるかもね。

参考までに言っとくと、当時見た記憶は無いが、此の場所にはベニモンアゲハとホソバシャコウアゲハもいるかもしれない。一応、両者とも分布域には入ってるからね。特にベニモンはいる可能性が高いだろう。

ベニモンアゲハもド普通種なので、展翅画像が無い。
まさかベニモンなんぞをブログで取り上げることなど無かろうと思ってたから、写真もありゃせんのだ。って云うか、ベニモンなんて採らない。いても普通種なので今や無視なのだよ。どうせ採っても展翅しないだろうからさ。無駄な殺生してもしゃあないし。

 
【ベニモンアゲハ Pachiliopta aristolochiae】

 
(裏面)
(出展 2点共『日本産蝶類標準図鑑』)

 
毒持ちでやんす。でもオオベニモンアゲハと比べると、かなり小さい。レテノールもやや小さいから、もしかしたらベニモンに寄せて擬態してるのかもしれない。そういう観点からみれば、オオベニモンに一番寄せてるのはオウサマアゲハモドキかもしんない。

 
【ホソバシャコウアゲハ Losaria coon】

 
変な形だニャア(ФωФ)
たぶんラオスで採ったものだ。バンビエンかタボックの個体だろう(どっちにもいる)。
裏展翅をした記憶が無いから、裏面画像はネットから拝借しよう。

 
(裏面)
(出展『SAMUIBUTTERFLIES』)

 
ホソバシャコウもジャコウと名が付くだけあって、毒持ちだ。横から見ると、やはり毒々しいねぇ。

整理すると、毒持ちはオオベニモンアゲハ、ベニモンアゲハ、ホソバシャコウ。毒無しはナガサキアゲハ、レテノールアゲハ&ワタナベアゲハ、オウサマアゲハモドキって事になる。
ここまでパッと見が互いに似ているのがいたら、天敵の鳥だってワケわかんなくなって騙されるに違いない。擬態組の何れ劣らぬ擬態振りに改めて感心するよ。
いかん、いかん。ついつい、またミミクリー(擬態)の話になってしまった。語り始めたら長くなるから、これくらいにしておこう。擬態は奥が深いのだ。
それにオウサマアゲハモドキと擬態については、以前にアメブロの方で『第三のアゲハモドキ』と題して書いた。興味のある方はソチラを読んでたもれ。一応リンク先を貼りつけておきます。

 
https://ameblo.jp/iga72/entry-12248086677.html

 
キボシルリニシキ、アオトラヤガ、アオトラシャク等々、見たり、採ったりしたものがまだまだある。もっと紹介したいところだが、調子に乗って紹介すると、先生の営業妨害になりそうだから、この辺でやめとく。興味を持った方は、あとは本を買って見て下さいな。

                      つづく

 
追伸
意外と日本の蛾も紹介されていたので、次回はそれについて少し書こうかと思います。

 
(註1)レテノールアゲハ(アルクメールアゲハ)
レテノールの画像が、めっかった。♂だけど。

 

 
(裏面)

 
昔は、Papilio rhetenorという学名だったが、近年になって Papilio alcmenorという学名になったようだ。その経緯(いきさつ)は知らないか。
だが勝手に推測するならば、たぶん、P.rhetenorよりも、P.alcmenorの方に名前の先取権があることが後に判明したのだろう。つまりコウテイモンキチョウのパターンと同じじゃないかと考えたワケだ。
個人的には、断然レテノールという名前の方が好きだ。だから、いまだにレテノールと呼んでいる。
歩くメールアゲハだなんて、ダサいじゃないか。