2021’カトカラ4年生 壱(2)

 vol.28 ヤクシマヒメキシタバ

   『陰翳礼讃』第二話

 
 2020年 7月3日
夜に小太郎くんから電話がかかってきた。

「明日、またヤクシマヒメキシタバを採りに行きませんか❓」

忘れ物でもあったのかな?その程度に思いつつ電話に出たから、いきなりの第一声に面食らった。何せ昨日、布引の滝(三重県熊野市紀和町)で灯火採集をして惨敗したばかりなのだ。まさかそれからたった中一日おいてのリベンジのお誘いがあるなんて誰だって夢にも思わないだろう。帰宅したのは今日の朝だったから、昨日の今日みたいな話なんである。

【ヤクシマヒメキシタバ】

(出典『世界のカトカラ』)

初戦の帰りの車中が言葉少なかったのは、二人共その惨めな結果に少なからずショックを受けていたからだろう。チビでブスなヤクシマヒメキシタバ(以下ヤクヒメ)なんぞ、楽勝で採れると思っていたからだ。でも結果は満を持して出動したのにも拘わらず、まさかの姿さえも見れずの完敗だった。怒りとも悲しみとも言えない感情が宙ぶらりん、帰宅してもその事が頭から離れなかった。そして、何でやねん❓のリフレイン。頭の何処かで敗退原因をずっと考えていた。
 小太郎くんも似たようなもんだったらしく、結果に納得いかなくて、その豊富なネットワークを駆使して各方面から情報収集をし直したようだ。
そうして集めた情報を総括すると、
ヤクヒメは雨の日じゃないと採れないらしい。

(゚∀゚)おいおいである。
勿論、自分もヤクヒメは雨の日の方が比較的多く灯火に飛来する事は知ってはいた。おぼろげながらも噂で聞いていたし、日本のカトカラについて最も詳しく書かれた名著『日本のCatocala』には「成虫を飼育すると、雨天時に行動が活発となった。湿度が高い場所を好むと推測される。」と書かれていたからね。また、世界有数のカトカラ研究者である石塚さんの著書『世界のカトカラ』にも「雨の日など湿度が高い晩の灯火に比較的多く飛来することがある。」という記述もあった。
だとしても、匠である両人とも絶対に雨の日じゃないと採れないとか、雨の日以外はほぼ採れない、活動しないとまでは書いていないのだ。となると、曇りでも湿度が高ければ採れると解釈してもオカシクはないだろう。雨の日しか採れないだなんて、にわかには信じ難い。ならば、雨上がりだったらどうなるのだ❓ 空中湿度は高いぞ。或いは、雨は降ってるけど湿度は高くない日だったらどうなるというのだ❓あっ、でも雨が振ってたら、そもそも湿度は高いか…。もう、ワケわかんなくなってきたよ。
よし、わかった。そんなところに拘っても埒が開かない。何れにせよ、曇りの日で惨敗したのは事実なのだ。雨の日に合わせて行くしかあるまい。
けど、かといって土砂降りだと飛んで来ないんだろなあ…。雨予報で行ってはみたが、着いたら大雨でしたー😨ではシャレならんがな。そんなの想像しただけでも恐ろしい。絶望的だよ。たとえ大雨じゃなくとも風が強ければアウトだろうしね。風が強い日は、大方の虫は活動しないのだ。
そう考えれば、条件は案外どころか、かなりシビアじゃないか。難易度は高いぞ。
何か段々ハラ立ってきたわ。
だったら「行けば楽勝で取れるよ」とか言ってた爺さんどもよ、ナゼにそんな重要な情報を伝えてはくれなかったのだ。ヽ(`Д´#)ノボケてんじゃねぇぞ、バーロー❗❗

小太郎くんに訊ねる。
『で、天気予報はどうよ❓』
『一応、雨みたいですよ。』
『OK。なら、行こう。』
そうして、あっさりリベンジが決まった。

 問題は何処に行くかだ。
先ずは惨敗した布引の滝を除外した。同じ場所に日を置かずして続けて行くのは気が進まないし、曇りだったとはいえ、ヤクヒメの姿は影も形も無かったからだ。つまり、記録はあっても今も生息しているかどうかはワカランのだ。もし布引の滝で再挑戦して、雨が降っているのにも拘わらず飛んで来なかったら、精神的ダメージがデカ過ぎる。大いなる時間と労力の無駄だと思い知らしめられるのはゴメンだ。

 三重県北牟婁郡紀北町(旧海山町)の千尋峠は、小太郎くんが難色を示した。遠いんである。出発地の奈良からは京都を経由して大きく迂回して三重県側から入るのが一番早いようなのだが、それでも三時間以上はかかるようだ。走行距離が約200kmくらいあるのだ。

 そこで小太郎くんから提案があった。
『布引の滝と同じく紀和町なんですけど、絶対に居そうな所があるんですよねー。ウバメガシも沢山生えてるし。そこ、行きません❓』
まだヤクヒメの幼虫の食樹は自然状態では発見されていないが、成虫からの採卵による飼育下ではウバメガシとクヌギを食す事が分かっている。
 場所を尋ねると、なるほどねと思った。その辺りは雲海で有名な峰がある所だからである。となれば当然、空中湿度は高いものと考えられる。雲霧林的な環境を好むヤクヒメが居ても何ら不自然ではない。いや、いるだろう。
奈良からの距離も100km余りだから、千尋峠よりだいぶと近い。前回の布引の滝は自分推しだったし、今回は小太郎くんの考えを尊重しよう。
ただ一つ気がかりなのは、その辺りにヤクヒメの採集記録が無いんだよなあ…。まっ、蛾の中では人気が高いグループとはいえ、所詮は蛾だもんなあ。蝶みたいには分布調査が進んではいない筈だ。記録が無いのは、きっと誰も調べてないんだろ。そもそもライトトラップでしか採れないようなモノなんぞ、調査できる人間が限られてくる。照明道具が必要だからね。その点、蝶は分布調査が比較的容易だ。夜とは違う昼間だし、飛んでいるのを見つけやすい。それを網で採ればいいのだ。仰々しい道具は要らない。生態もほぼ全ての種が解明されているから、卵や幼虫を探すこともできよう。それでも分布しているという証明にはなる。その点、蛾は蝶と比べて愛好家は格段に少ないから、まだワカラナイ事だらけなのだ。幼虫の食樹や生態が解明されてない種がワンサカいる。
大丈夫、何とかなる。ヤクヒメの新産地を見つけて、溜飲を下げてやろうじゃないか。

『わかった、そこにしよう。』
『ところで、雨用に特別に持ってくもんって、ある❓』
『☂傘ですよねー。』
『んなもん、解っとるわい(`Д´#)ノ❗そうじゃなくてー、他にあったら役立つもんやがなー』
『ハイ、ハイ。』
受話器の向こうからでも半笑いなのはわかる。小太郎くん、時々ワザとそうやってイジってくる時があんだよなー。
まあ、それだけ付き合いも長くなってきたという事か。
『あっ五十嵐さん、何か雨よけになる覆いみたいなのありません❓ 発電機を濡らしたくないんですよねー。』
『一人用のテントが有った筈だけど、使える❓』
『あっ、それ助かります。それで全然OKです。』
『何だったらあげるよ。新しいの持ってるからさ。』
『アリガトございまーす。では明日、ヨロシクでぇーす。』

 余談だが、そのテントは、ユーラシア大陸をバイクで横断した時のテントだ。もう25年くらいは前のモノだけど、雨よけくらいにはなるだろうと思って提供を申し出たのだ。
その夜、ベランダのガラクタの中から引っ張り出してきたけど、意外と傷んでおらず、往時と見た目はあまり変わっていなかった。懐かしいその姿に、瞬時に当時の思い出が甦ってきて、ワッと押し寄せてきた。辛い事も沢山あったけど、エキサイティングでメチャメチャ面白かった。あんな旅は二度と出来ないだろう。さみしいけど、ノスタルジーって悪かない。

 
 2020年 7月4日

 車窓から空を見上げる。水分をたっぷり含んだ重たそうな雲で覆いつくされてはいるが、また雨は降っていない。
まさかの中一日で、また熊野に向かっている自分が信じられない。しかもチンケな蛾を採りに行くのだ。普通に考えれば阿呆だ。自分で自分に笑ってしまう。狂気の沙汰も虫次第。我々虫屋は、蝶であったり、クワガタであったりと追い求めるものはそれぞれ違えど、誰しもが身を焦がすほどに虫に取り憑かれている。虫を追い掛ける事でしか、多量のドーパミンが出なくなってしまった憐れな信者なのだ。そんな事を思いながら、流れゆく風景をぼんやりと眺める。まあ、どうあれリベンジするなら早ければ早い方がいい。心に深い傷を負わない為には、短い間にやり返すことが肝要なのだ。時間が経てば経つほど、敗残者のメンタルに染まってしまうのだ。
 現地の天気予報は、雨時々曇り。風も強くなさそうだ。条件は揃っている。今日こそは、ブス蛾をテゴメにしてくれるわ❗

 目的地近くまで来たところで、トイレ休憩を入れた。
目の前に連なる山は濃い照葉樹林だ。期待値が高まる。こりゃ、絶対いるよねーと小太郎くんと確信に満ちた言葉を交わす。だいち今回は、ワシを無事日本に帰還させてくれた、あの強運の象徴であるシングル用テントも参戦なのだ。必ずや良い結果をもたらしてくれるだろう。

 人気のない暗い林道に入る。木々は鬱蒼と繁り、ジメジメとしていて、ヤクヒメの棲息環境としては申し分ないだろう。あとは何処にライトトラップを設置するかだ。その問題さえクリアすれば、絶対に採れる筈だ。適した良さげな場所さえ見つかれば、ビクトリーロードだ。

ライトトラップが出来そうな場所を幾つか見つける。
コレなら何とかなるだろう。それで、もう勝ったも同然の気分になる。だから次第に採集の云々よりも、寧ろ帰りの事の方が気になり始めていた。どう見ても崖々は多量の雨水を蓄えている。つまり、いつ何処で土砂崩れが起こってもおかしくないような状況なのだ。実際、特に如何にもヤバそうな1箇所には土囊が積んであり、明らかに過去に土砂崩れがあった痕跡が残っている。

 2、3の候補の中から、中腹にある橋を設置場所と決める。
此処なら前が開けており、背後の斜面の環境も良いから、居れば飛んで来るだろう。そして、外は良い具合に雨がシトシト降っている。これなら万全じゃろう。採れない理由が見つからない。

 日没と共に、ライト・オーン。

 前回に引き続き、今回も小太郎くんの要請により、画像は大幅カットのトリミングである。ライトトラップの中枢部は秘密なのさ、オホホ( ̄ー ̄)である。
ちなみに、テントは発電器の雨よけに使われた。まさかキミも第二の人生があるとは思っていなかっただろうに。何にせよ、役に立つという事は喜ばしい事だ。

 点灯すると、バラバラと蛾が集まって来た。
初遭遇のシャチホコガ科のギンモンスズメモドキも寄って来た。羽に窓が有る特異な蛾として割りと有名な蛾だ。
しかし、ガッカリだった。


(出典 岸田泰則『世界の美しい蛾』)

尊敬する岸田先生の著書『世界の美しい蛾』でも紹介されていたから、仄かな憧れを持っていたのだが、実物はタダのちょっと毛色の変わった汚い蛾としか思えない。しかも特別に珍しい蛾と云うワケでもない普通種のようだ。


(出典『虫ナビ』)

一応2頭ほど採ったが、直ぐに興味を失った。だからワザワザ写真も撮らなかった。ゆえにネットからの拝借画像と相成ったワケである(写真を使わせて戴いた方、こんな使い方で申し訳ない。御免なさい)。
どころか、そういえば展翅すらしていない。おそらく冷凍庫に安置されたままだ。たぶん未来永劫にマイナス世界に封印される事になろう。拠って展翅画像もないでごじゃるよ。ワシ的には、クソ蛾ジャンル入りの存在なのだ(岸田先生、こんな扱いでゴメンナサイ)。

 午後8時半過ぎ、やがて雨が上がった。
少し不安になったが、寧ろ有り難いと解釈した。覚悟はしていたものの、ずっと雨に降られ続けて、揚句に全身グショグショになるのは憂鬱だからね。幸いな事に空中湿度は高いままだ。晴れたりしない限りは、そう簡単には湿度が下がる事はないだろう。

 午後9時過ぎ。
発電機が熱を持ち始めたので、テントから出す事になる。どうやらテント内に長く入れておくと、熱が籠もるようだ。早くも我がテント、お役御免である。第二の人生は短かったね。
ちょっとだけ嫌な予感がよぎった。流れが変わったような気がした。

 午後9時50分。

ガビー Σ(゚∀゚ノ)ノー ン❗
月が出た❗❗/
しかも、最悪の🌕満月である。灯火採集にとって一番悪い状況じゃないか。

9時半を過ぎた辺りから、妙に左側の山の端が明るくなり始めていたから、まさか…とは思っていたが、よもや雲が切れてお月様が顔を出すとは想定外も想定外、愕然の展開だ。だって天気予報は雨時々曇りだったのだ。晴れる要素なんて1ミリもなかったのである。それがどういてこおなる༼⁠⁰⁠o⁠⁰⁠;⁠༽❓
背後から直ぐに小太郎くんの声が飛んで来る。
『五十嵐さん、またですかー❗❗もーこんな時に晴れ男パワー発揮してどうするんですか。ありえませんよ。❗❗/

当然、集まって来る蛾は少ない。元々ショボい状況ではあったが、輪をかけて酷くなった。

その後の時間は長かった。
諦めた小太郎くんは車の中で寝始めたから、尚の事だ。一人、何も起こらない退屈な時を忸怩たる思いを抱えて、やり過ごす。

月は時々隠れるものの、また思い出したように煌々と輝き、辺りを柔らかく照らしている。陰翳礼讃。光と陰が織りなす世界は奥行きが深い。そこには叙情を湛えた趣きがあり、怖いような幽玄な美しさがある。山の中で眺める月は、都会とは別物だ。本当に美しいなと思う。
だからと言って、心が穏やかなわけではない。その月に向かって、何度も何度も呪詛の如く呟く。
🎵何で❓何で❓なんでやねんねん❓
🎵何で❓何で❓なんでやねんねん❓
🎵何で❓何で❓なんでやねんねん❓
🎵何で❓何で❓なんでやねんねん❓(註2)

歌ってるうちに、自分がとてつもなく滑稽な存在に思えてきて、笑ってしまう。
ひんやりとした夜気の中を、その力なく響く歌は、いつまでも浮遊していた。

                    つづく

 
追伸
誠にもって申し訳ないが、物語は終わらない。書いてるワシもカタルシスがないから辛いよ。

(註1)ギンモンスズメモドキ
岸田先生の『世界の美しい蛾』と『日本産蛾類標準図鑑Ⅰ』から引用させて戴く。

【学名 Tarsolepis japonica】

(出典『日本産蛾類標準図鑑Ⅰ』)

開張 ♂66〜69mm ♀80〜82mm。
前後に光り輝く「三角銀紋」をもつ大型のシャチホコガ。
ギラギラ光る前翅の斑紋、腹部にある赤い毛など、見どころの多いシャチホコガの一種。1年1化型で、夏季の7ー8月に出現する。カエデ類(ムクロジ科)を食樹とすることが知られ、北海道(登別以南),本州,四国,九州,対馬,ネパール,インドシナ半島,中国南東部,台湾などに分布している。国内では各地に産するが、あまり多くない。
Tarsolepis属は東南アジアに6種ほど知られ、何れもムクロジ科を食餌植物としている。
 尚、名前の由来はスズメガに似ている事からの命名だろう。

(註2)なんでやねんねんねん
ダウンタウン 浜田雅功の、きゃりーぱみゅぱみゅを模したパロディ曲。衣装もメルヘンチックであった。当然、ワタクシの頭の中ではプリティな浜ちゃんが踊り歌っておりました。

 
ー参考文献ー
◆岸田泰則『世界の美しい蛾』
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑Ⅰ』
◆石塚勝己『世界のカトカラ』

 

未だ見ぬ日本の美しい蛾2


年末に岸田先生の『世界の美しい蛾(註1)』について書いたが、本には海外の美麗蛾のみならず、日本の美しい蛾も数多く紹介されている。
今回も前回に引き続き日本に分布する未だ見たことがない憧れの美しい蛾たちである。

 
【ハグルマヤママユ Loepa sakaei】
(出展『世界の美しい蛾』)

 
鮮やかな黄色にアクセントとなる赤褐色の眼状紋が配されている。このビビットなコントラストが美しい。それを引き締めるかのような黒い波状線がまた何とも心憎い。艶やかにして、粋(いき)。この美しさには誰しもが瞠目するだろう。
ヤママユガ科(Saturniidae)の蛾は美しいものが多いが、中でもハグルマヤママユが最も美しいと思う。ヤママユガ科の中では、やや小さいと云うのもキュートな感じがして好ましい。

漢字で書くと、おそらく「歯車山繭」だろう。
ヤママユの仲間は皆さん眼状紋があるけど、波状の線が目立つゆえ動的に見えたから歯車ってつけたのかな?
由来さておき、中々良い和名だと思う。早口言葉で三回続けて言うと絶対に噛みそうだけどね。

分布は奄美大島、徳之島、沖縄本島北部とされているが、宮古島なんかでも採れているみたいだ。
ハグルマヤママユ類は東南アジアに広く分布しており、似たようなのが沢山いるものの従来はtkatinkaとして一まとめにされ、特に種としては分けられていなかったようだ。日本のものも、その1亜種とみなされてきた。しかし近年になって分類が進み、多くが種に昇格したという。日本産も別種とされ、日本固有種となったようだ。

年3回の発生で主に3月、5月、8~10月に見られるとある。ヤママユの仲間は年1化が多く、一部が2化すると云うイメージだが、南方系の種だけあって年3化もするんだね。

何だか久々に奄美大島に行きたくなってきた(註2)。
奄美にはハグルマヤママユもいるし、キマエコノハもいるもんね。それにベニモンコノハの記録も一番多い。上手くいけば憧れの美しい蛾が三つとも採れるかもしれない。
蝶だって美しいものが多い。この島特有の美しいアカボシゴマダラやアマミカラスアゲハがいるし、春ならば、日本で最も美しいとされる白紋が発達したイワカワシジミだっている。

 
【アカボシゴマダラ♂】

 
【オキナワカラスアゲハ奄美大島亜種 夏型♂】

【同♀】

 
【イワカワシジミ】
(各地のものが混じってます。)

 
そうそう、思い出したよ。そういえば最近は沖縄本島にしかいなかったフタオチョウも土着しているというじゃないか。フタオチョウは沖縄県では天然記念物で採集禁止だが、鹿児島県ならばセーフだ。あのカッチョいいフタオチョウを大手を振って採れるのだ。

 
【フタオチョウ♀】

 
つまりレピ屋には、奄美はとっても魅力的な島なのだ。
それに奄美の海はとても綺麗だ。食いもんだって沖縄とは桁違いに旨い。アバスの唐揚げとか死ぬほど美味いもんな。
(ToT)嗚呼、奄美行きてぇー。

                     おしまい

 
追伸
冒頭に蛾たちと書いたし、数種を紹介する予定でいたが、早くも力尽きた(笑)。
やっぱ不調なのである。ボチボチ書いていきます。

 
(註1)世界の美しい蛾

グラフィック社より出版されている。
今のところ、ジュンク堂など大きな書店に行けば売ってます。

 
(註2)久々に奄美大島に行きたくなった
本ブログに『西へ西へ、南へ南へ』と云う奄美大島の紀行文があります。自分的には好きな文章。昔の方が良い文章を書いてたと思う。よろしければ読んで下され。

 

『世界の美しい蛾』

 

 
『世界の美しい蛾』という、岸田先生が今年出版された本だ。
この本の存在は知ってはいたが、長いこと未見だった。春先だったと思うけど、Oくんが買って損したとか文句を言ってたので、ふ~んと思ってそのまま存在を忘れてしまってた。
で、最近になって大きな本屋に行った時に偶々(たまたま)見つけた。中をパラパラと見ると、見たこともない綺麗な蛾が並んでて、Oくんの口振りから想像していたものとは随分と印象が違った。値段も¥3850と、そう高くはなかったので衝動的に買ってしまったなりよ。ただいま絶賛ボンビー中なのにさ。

帰りの電車の中で、中を見る。
表紙の綺麗な蛾は「Baorisa hieroglyphica タナバタユカタヤガ」という名前のようだ。漢字で書くと、たぶん「七夕浴衣夜蛾」になるのだろう。一瞬、夏祭りの甘酸っぱい思い出が甦る。ノスタルジィーを掻き立てる粋な和名だと思う。

見てると、ガにはチョウには無い独特の翅のデザインが有ることに気づく。チョウよりもそのデザインはバリエーションに富み、種によってはチョウよりも複雑な模様を持っている。男性よりも女性の方が蛾に興味を持つのは、その辺に理由があるのかもしれない。仔細に見れば、スタイリッシュなのだ。
男はモノをざっくりと見がちだが、女性は細部までをよく見ているのだろう。男は色のデザインよりも形、つまりフォルムに反応するように出来ているのかもしれない。車やメカ(機械)、カブトムシやクワガタをカッコイイと感じるのが男なのだ。女性の体も、細部よりも先ずは体のライン、全体のフォルムを重視して見ているところがある。各パーツに目がいくのは、その次だ。で、顔を除けば、乳、ケツ、足に集約される。
一方、女性は最初から細部に目がいっているような気がする。男性の体の中でどこが好きですか?と訊かれて「手」と答える女性は多いが、男からすれば、有り得ない答えだ。もしも男で、最初に「手」とか答える奴がいたら、そいつは間違いなく変態です。乳、ケツ、足以外の「首筋(襟足)」とか「耳」のチョイスも解らないでもないが、1位に持ってきた時点で変態性が強い。
一言添えておくと、もちろん男は細部に拘っていないワケではない。あくまでも全体像、フォルム有りきの細部なのである。
これは太古の昔、狩猟採集の時代は男が狩猟を、女が村の周りの食物の採集を担当していた名残からなのかもしれない。
話が逸れた。このままいくと、また迷走なので本筋に戻そう。

艶やかな蛾が並ぶ中、目新しいもので特に惹き付けられたのはコレかな。

 
【レプレータルリチラシ Eterusia repleta】

 
オキナワルリチラシの親戚だね。
緑に青と少し黄色が入るって、カッコイイなあ。
蝶や蛾の知識の無い人から見れば、蝶にカテゴライズされるかもね。世間一般では、キレイ=蝶。汚ない=蛾という概念が定着しているところがあるからね。

こんなのも気になった。↙

 
【アフリカミドリスズメ Euchloron megaera】

 
黄色と緑の組み合わせの服なんて絶対に着れないけど、デザインとしては全然有りなんだよなあ…。
服や周りの調度品としての緑は好きじゃないが、自然界にある緑は掛け値なしに好きなのはナゼだろう。

更に見ていくと、後半のページで仰け反りそうになった。

 
【アサギマダラガ Cyclosia notabilis】

 
何じゃ、こりゃ(゜ロ゜;ノ)ノ❗❓
へぇ~、アサギマダラに擬態したチョウは知ってるけど、ガにもいるんだ…。そう思った。
アサギマダラは体内に毒を持つ事から、鳥に捕食されにくいと言われている。心憎いことに、殆んど襲われないと知っているからなのか、ゆるりと優雅に飛んでいらっしゃる。
それにあやかろうと、一部の毒の無い蝶や蛾が自らをアサギマダラに似せて難を逃れようと進化したのが擬態だ。本当にそうだとしたら、とんでもない高等戦術だ。しかし、似せようと思って似せられるものなのかね❓それがいまだ疑問だけど、どうあれ自然とか生き物って、やっぱスゲェーな。
ん❓、ちょい待てよ。このアサギマダラガもマダラガの仲間なんだから、元々自身も毒を持ってそうだな。だとしたら、ミューラー型擬態って事になる。種を越えて互いに擬態効果を高めてるってヤツだね。似たような毒ある奴が沢山いた方が、より鳥への訴求力は高まるって寸法だ。

解説文には「中国とラオスでの分布が確認されているが、野性下の姿を見られる機会は極めて稀だろう。」とあった。中国と云うのは、おそらくインドシナ半島北部に隣接する雲南省辺りなのだろう。
ふ~ん、ラオスにいるのなら何処かで見ててもオカシクないよな、と思った次の瞬間、記憶の映像が💥ガーンとフラッシュバックした。
コレって、見たことあるぞーΣ( ̄ロ ̄lll)
どこだっけ❓
たぶん…、インドシナ半島北部だな。確か吸水に来てるのを撮ったぞ。
 
帰宅後、探しまくって漸く画像を見つけた。

 

 
画像を拡大しよう。

 
(2016.4.22 ラオス北部)

 
遠目に見て、一瞬ちっちゃいアサギマダラ(蝶)かなと思った。だが違和感ありありで、すぐにニセモノだなと気づいた。にしても、他のマダラチョウの仲間でもなさそうだった。たぶん見たことがない奴だ。
何じゃらほいと思いながら近づいてゆくと、地面に止まって吸水し始めた。それを見て、一発で蛾だと理解した。だってさあ、触角がモロに蛾なんだもーん。

で、アサギマダラに擬態してる蛾なんて聞いたことがなかったから、一応証拠として写真を撮ったのだった。
ところで、コレって結局採ったんだっけ❓
いや、でも展翅した憶えがない。だとしたら、M氏辺りに渡したのかな❓ いやいや、当時はまだ蛾は気持ち悪かったし、写真撮ったからもういいやと思って採らなかったわ。相当に珍みたいだし、採っときゃよかったなあ…。

あれっ❗❓、でもよくよく見れば、どこかアサギマダラガと違うぞ。あっ❗上翅と下翅の地色が逆になっとるやないけー(@_@)

もしかして、まさかオスとメスとで上下の色が入れ替わるとか❓ でもそんな例、聞いたことがない。そりゃ、たぶん無いわ。
となると、これはアサギマダラガとは違う別種って事になるぞな…。
しかし、だったらコイツはいったい何者なのだ❓
でも、蛾の情報って少ないんだよなあ…。ちょっと調べてみたけど、直ぐにイヤになってやめた。まさか新種だったりして(笑)。まあ、それは無いとは思うけど。
それはそうと、コイツも珍なのかしら❓
岸田先生、教えて下され。

それはさておき、アサギマダラに擬態してる蝶がいると前述したが、コレが凄い精度なのだ。この際、ついでだから紹介しておこう。

 
【カバシタアゲハ Chilasa agestor】

 
タイやマレーシアの可能性もあるが、たぶんラオスで採ったものだろう。サムヌアかバンビエン辺りのものかな。

 
(裏面)

 
コレには完全に騙されたなあ。
その存在さえも知らなかったから、マレーシアで初めて会った時には腰を抜かしそうになった。それくらい似てるのだ。姿、形だけではなく、飛び方までソックリなのさ。マネシアゲハの仲間は擬態精度がメチャメチャ高い。アサギマダラガもいい線いってるけど、カバシタアゲハには敵わないんでねぇの❓
とは言っても、飛んでいる現物を見ないと、何とも言えねえな。余談は禁物だわさ。

おっと、本家本元、肝心要のアサギマダラにも登場して貰わないと本末転倒だ。これじゃ、普通の人には伝わらんよね。

 
【アサギマダラ Parantica sita】

 
とはいっても、ド普通種ゆえに展翅画像なんて撮ってない。よって、図鑑の画像をお借りした。

 
(裏面)
(出展 2点共『日本産蝶類標準図鑑』)

 
コレで如何に似ているかは御理解戴けたかと思う。
擬態って、改めてスゲェー世界だよなあ。

 
本を見ていると、他にも見たことや採った事があるものがそこそこ載っていた。トラシャクなんかは、そこそこ見てる。

 
【トラシャク Dysphania militaris】

 
コレは散々迷った揚げ句、採った記憶がある。
各地で珠に見ていたが、綺麗だけど蛾だと云う概念が邪魔して採る勇気がなかったのだ。じゃあ、何でこの時は採ったんだろ❓魔が差したのかなあ…。それか、この時は目ぼしいものかいなかったからヒマ潰しで、つい採ったのかも…。ブツは蛾好きのM氏に進呈したと思う。

本の解説には「日中、梢を飛翔し樹上に留まることが多いから捕獲は難しい種だと言える。ただし、稀に吸水のため地面に降りることもある。」と書いてあった。
目立つ蛾だから、そんなに珍しいモノだとは思っていなかった。しかし言われてみれば、そんな気もしてきた。よくよく考えてみると、何処にでもいたワケではない。でも吸水に来ている時は集団の事もしばしばあって、アオトラシャクなんかも混じってたなあ。採ろうと思えば、トータルで軽く20くらいは採れてたと思う。
もしも又、東南アジアに行く機会があったなら、真面目に採ろっと。

オウサマアゲハモドキもあった。

 

 
バックが暗くて分かりづらいので、他のところから画像を引っ張ってこよう。

 
【オウサマアゲハモドキ Epicopeia polydora】
(出展 『学研の図鑑 世界の昆虫』)

 
【裏面)
(出展『insectdesigns.comlithops.com』)

 
名前が王様なのだ。おそらくアゲハモドキの仲間の最大種だろう。タイのチェンマイで見たことがある。
最初はナガサキアゲハとかオオベニモンアゲハ、レテノールアゲハ(アルクメールアゲハ(註1))かなと思ったが、よく見ると違うので背中に悪寒が走ったよ。何度も言うが、その頃は蛾を忌み嫌っていたからね。
だから勿論の事、無視した。随分と後になってから、かなり稀なものだと知った。結構沢山いたので、今思えば、コレも採っときゃよかったよ。因みに此の場所以外では見た記憶はない。

チョウと見間違えたのは、コヤツも体内に毒を持つので、コレに擬態してるチョウが多いからだ。
つまり、ガがチョウに似せているのてはなくて、反対にチョウがガに似せているのだ。謂わば、それらのチョウはオウサマアゲハモドキモドキなのである。
いや、違うか❓ 違うな。勢いで、つい筆がスベったが、毒持ちなのはオオベニモンアゲハだわさ。冷静になって考えれば、オオベニモンアゲハはジャコウアゲハ系アゲハだもんね。ジャコウアゲハと言えば、食草はウマノスズクサ科(Aristolochiaceae)である。この植物には毒があり、幼虫はそれを体内に取り込み、成虫になってもその毒は体内にとどめられる。植物の種類は違うが、原理はアサギマダラと同じだ。それによって、鳥などの捕食者から身を守るのだ。
思い出したよ。台湾のオオベニモンアゲハは、確かタイワンウマノスズクサやリュウキュウウマノスズクサを食ってた筈だ。となると、インドシナ半島北部でも同じ系統のものを食しているものと推察される。毒ありなのは相違なかろう。
一方、アゲハモドキの仲間はアオキ科などを食樹としているものが多く、知る限りでは毒持ちではない。オウサマアゲハモドキが何を食ってるかは調べても分かんなかったから断言は出来ないけど、おそらく毒持ちではないだろう。間違ってたらゴメンだけど。

このチェンマイのポイントには、互いに擬態関係にあるものが数種いたと云う記憶がある。オウサマアゲハモドキに、オオベニモンアゲハ、レテノールアゲハ、ナガサキアゲハの4種類だ。

 
【オオベニモンアゲハ♀ Atrophaneura polyeuctes】

 
【裏面】

 
美しくもあるが、毒々しい。翅だけじゃなく、頭や腹まで赤いところが妖しい。毒婦じゃよ。
コレは台湾産のオオベニモンだけど、インドシナ半島のモノとそう変わらないだろう。見事にオウサマアゲハモドキに似ているね。いや、オウサマアゲハモドキがオオベニモンアゲハに似てるってのが正しいか。

インドシナ半島のモノも見っかった。

 

 
こっちは翅形的に♂かな。
白紋が大きいくらいで、やっぱ基本的には変わらんね。

 
【ワタナベアゲハ♀ Papilio thaiwanus】

 
(裏面)

 
これも飛んでたら、同じように見えるだろう。
違うと気づいたとしても、その時にはもう遅い。当然スタートも遅れる。たとえ結果的に見破られたとしても、判断を遅らせることが出来たならば、逃げれる確率は格段に上がるのである。

 
【ナガサキアゲハ♀ Papilio memnon】

 
裏展翅がないので、杉坂美典さんの画像をお借りしよう。

 
(裏面)
(出展『台湾の蝶』杉坂美典)

 
台湾産の有尾型だ。日本のものは、基本的には尾っぽがありゃせん。一応、そっちも載せとくか…。

 
【ナガサキアゲハ無尾型♀】

 
白いから、たぶん沖縄本島のものだろう。
そういえば白いのは、これまた毒を持つオオゴマダラに擬態してるという説もあったような気がするなあ。

 
(裏面)
(出展『蝶の傍らに』)

 
改めて見ると、ナガサキアゲハは腹が赤くないんだね。そういう意味では擬態精度はやや落ちるかもね。

参考までに言っとくと、当時見た記憶は無いが、此の場所にはベニモンアゲハとホソバシャコウアゲハもいるかもしれない。一応、両者とも分布域には入ってるからね。特にベニモンはいる可能性が高いだろう。

ベニモンアゲハもド普通種なので、展翅画像が無い。
まさかベニモンなんぞをブログで取り上げることなど無かろうと思ってたから、写真もありゃせんのだ。って云うか、ベニモンなんて採らない。いても普通種なので今や無視なのだよ。どうせ採っても展翅しないだろうからさ。無駄な殺生してもしゃあないし。

 
【ベニモンアゲハ Pachiliopta aristolochiae】

 
(裏面)
(出展 2点共『日本産蝶類標準図鑑』)

 
毒持ちでやんす。でもオオベニモンアゲハと比べると、かなり小さい。レテノールもやや小さいから、もしかしたらベニモンに寄せて擬態してるのかもしれない。そういう観点からみれば、オオベニモンに一番寄せてるのはオウサマアゲハモドキかもしんない。

 
【ホソバシャコウアゲハ Losaria coon】

 
変な形だニャア(ФωФ)
たぶんラオスで採ったものだ。バンビエンかタボックの個体だろう(どっちにもいる)。
裏展翅をした記憶が無いから、裏面画像はネットから拝借しよう。

 
(裏面)
(出展『SAMUIBUTTERFLIES』)

 
ホソバシャコウもジャコウと名が付くだけあって、毒持ちだ。横から見ると、やはり毒々しいねぇ。

整理すると、毒持ちはオオベニモンアゲハ、ベニモンアゲハ、ホソバシャコウ。毒無しはナガサキアゲハ、レテノールアゲハ&ワタナベアゲハ、オウサマアゲハモドキって事になる。
ここまでパッと見が互いに似ているのがいたら、天敵の鳥だってワケわかんなくなって騙されるに違いない。擬態組の何れ劣らぬ擬態振りに改めて感心するよ。
いかん、いかん。ついつい、またミミクリー(擬態)の話になってしまった。語り始めたら長くなるから、これくらいにしておこう。擬態は奥が深いのだ。
それにオウサマアゲハモドキと擬態については、以前にアメブロの方で『第三のアゲハモドキ』と題して書いた。興味のある方はソチラを読んでたもれ。一応リンク先を貼りつけておきます。

 
https://ameblo.jp/iga72/entry-12248086677.html

 
キボシルリニシキ、アオトラヤガ、アオトラシャク等々、見たり、採ったりしたものがまだまだある。もっと紹介したいところだが、調子に乗って紹介すると、先生の営業妨害になりそうだから、この辺でやめとく。興味を持った方は、あとは本を買って見て下さいな。

                      つづく

 
追伸
意外と日本の蛾も紹介されていたので、次回はそれについて少し書こうかと思います。

 
(註1)レテノールアゲハ(アルクメールアゲハ)
レテノールの画像が、めっかった。♂だけど。

 

 
(裏面)

 
昔は、Papilio rhetenorという学名だったが、近年になって Papilio alcmenorという学名になったようだ。その経緯(いきさつ)は知らないか。
だが勝手に推測するならば、たぶん、P.rhetenorよりも、P.alcmenorの方に名前の先取権があることが後に判明したのだろう。つまりコウテイモンキチョウのパターンと同じじゃないかと考えたワケだ。
個人的には、断然レテノールという名前の方が好きだ。だから、いまだにレテノールと呼んでいる。
歩くメールアゲハだなんて、ダサいじゃないか。