青春18切符oneday-trip春 第一章(2)

第2話 Spring fairy‐春の妖精‐

 

 
春の女神に会うために4時間半かけ、はるばる大阪からここまでやって来た。

 

 
逸る心で山へと向かう。

 

 
苔むした階段を上がり、登山口に取り付く。
麓ではカタクリの花が保護されているが、女神の姿はない。

 

 
やがて傾斜がキツくなる。去年のことを段々思い出してくる。ナメてたけど、この山は急登続きでキツい事をすっかり忘れてたよ。しかも、尾根まで上がらないとギフチョウはいない。

 

 
ようやく尾根まで登ってきたが、如何にもギフチョウが好きそうな環境なのにナゼか姿が見えない。しかも、もう10時半過ぎだ。彼女たちが活発に飛び回っている時間帯なのに何で❓
早くもヘロヘロになりながら、そう云えば去年もそうだったなと思う。歳を喰うと忘却の人になりがちだ。

暫く歩いたところで、ようやく飛び回る女神が視界をかすめた。
心が沸き立つ。全身がゾワゾワする。この見つけて最初の一振りまでがギフチョウ採りの醍醐味にしてクライマックスだ。
背景に溶け込み、断続的に姿が消えるが、動きを予測して後を追う。
細かくステップを踏みながら、距離を詰めてゆく。
射程内に入った。
最初の一振りで空振りするのは縁起が悪い。コンセントレーションを高める。
しかし、左に飛んだかと思いきや、急に右に進路を変えよった。😨ヤバイと思いつつも、素早く反応して咄嗟に網を左から右へと💥一閃する。

ジャストミートで振り抜いた手応えがあった。
逃亡を防ぐためにすかさず網先を捻り、中を確認する。
網の中で蝶が暴れている。
(ノ`Д´)ノよっしゃ❗GET。
まあまあ天才の、ここぞと云う時の集中力をナメんなよである。
だが、生きたまま取り出すと、翅がやや擦れている。今年は発生が早く、1週間程前から発生していると聞いてはいたが、やはり遅かったか…。

リリースしてやったら、飛んで行かずに地面にふらふらと止まった。ギフチョウ本人も何が起きたかワケ解らず、ショックを受けているのだろう。何だか申し訳ない気持ちになった。ゴメンね。
折角だから写真を撮ることにした。

 

 
これは近い距離だから姿が容易に視認できるけれど、1Мも離れれば、枯葉と同化して姿がかき消える。派手な翅のように見えるが、保護色になっているんだよね。生き物って、よく出来てるよな。

オスだね。
と云うことは、この鮮度だとメスはまだまだ綺麗なものもいそうだ。

写真を撮っていると、立て続けにギフチョウが飛んで来た。
ここは鞍部になっており、どうやら集まって来やすい場所のようだ。

短時間に5頭GETして、鮮度の良い1頭と少し斑紋が変なものをキープして、あとはリリースする。

そうこうしていると、下から4人連れの登山者が上がってきた。
毎度の事ながら、訝り目線が飛んでくる。まあ、大の大人が大きな網を持って立っているんだから、当たり前といえば当たり前のリアクションである。4人のうち一人は男性で「ギフチョウですか?」と声を掛けてきた。「そうです。」と答えていたら、丁度ギフチョウが飛んで来た。
ここで、オバサンたちの前でカッコつけたろと思ったのがイケなかった。派手に思い切り網を振ったら、

 
💥べキッ❗

 
(-_-;)やっちまったな…。
強く振り過ぎて、柄の2段目が折れた。
鮮やかに決めてやろうと云う虚栄心にバチが当たったに違いない。
(눈‸눈)カッコ悪りぃ〜。

既に採っているものをオバサンたちに見せて、何とか体裁を保つ。オバサンたちも喜んでいたから、それでいいじゃないかと自分を慰める。

取り敢えず補修しておこうと、いつもザックに入れっぱなしになっているビニールテープを探すが、無い…。
😥マジかよ❓である。たぶん去年のシーズンが終わって、ザックを洗濯した時に取り出したものと思われる。で、今回は開幕戦ゆえにパッキングする時に入れ忘れたのだろう。又しても、(-_-;)やっちまったな…である。
仕方がないので、殺している1段目に巻いていたビニールテープを剥がす。先程、2段目が折れたと書いたが、正確には3段目が折れたのである。1段目が細いから折れ易いので1段目を殺して2段目と合体させていたのだ。と云うワケで1〜3段目までを合体させる。
しかし試し振りをしたら、連結部の固定が弱くてフニャフニャだ。仕方なく、人差し指と親指を網枠に掛けて残りの指で柄を掴んで振ることにした。ようするに網を伸ばさずに、網の根元を掴んでそのまま左手一本でスウィング、勝負するしかないってワケだ。

早速飛んで来た奴を、すかさず片手一本で居合斬り。
どーじゃ、ワレー( `Д´)ノ、”弘法、筆を選ばず”じゃ❗まあまあ天才をナメなよである❗❗

暫くいたが、やはり鮮度が悪いものが多い。もっと上へ行くことにした。
しかし、どんどん道は急になってゆく。斜度がキツくてロープが張られている箇所も何ヶ所か出てきた。余程さっきの場所に戻ろうかとも思ったが、去年来ているから上にもっと良いポイントがあると知っているだけに戻れない。だいち性格上、今さら引き返すのも癪にさわる。

時々、飛んで来るギフチョウを拾い採りしながら、喘ぎながら登ってゆく。

視界が開けた。

 

 
白山だろうか、遠くに雪を冠した山塊が望見できる。

 

 
眼下には今庄の宿場町が見える。随分と登って来たな。

左側に目を転じると、日野山らしき山容も見える。
その先は武生、鯖江、福井の街だ。一瞬、ノスタルジーが溢れ出しそうになるが、それを振り払うかのように踵を返した。

道は先程でもないが、相変わらず急登が続く。
途中、待望のメスが採れた。

 

 
ギフチョウはオスよりもメスの方が美しい。
特に裏面は、より色鮮やかだ。

 

 
午後12時過ぎ。やっとこさポイントに着く。
予想通りギフチョウは沢山いた。次々と飛んで来る。
しかし、鮮度は特に良くなりはしない。ギフチョウは麓と山頂を往復する蝶だから、当たり前っちゃ当たり前なんだけどね。

段々飽きてきて、惰性でぞんざいに網を振ったら、枠に当たったようで、ふらふら飛んで行って枯枝に止まった。
半ヤラセみたいなものだが、コレ幸いにと写真を撮る。

 

 
それにしても、去年はいたキアゲハを今日は1頭も見ない。
ここではキアゲハの方が珍しい。

 

 

 
(裏面)

 

(2019.4.6)

 
こうして見ると、キアゲハの美しさはギフチョウにも負けてないと思う。少なくともスタイルは負けていない。
でも悲しい哉、普通種。あまり評価されることはない。

午後1時過ぎ、完全に飽きたので下山を開始する。
登りもキツかったが、下りの方がしんどかった。こんなキツイとこ登ってきたのねと、より斜度を実感した。此処は足に自信のない老人は訪れるべきではないだろう。

 

 
途中、辛夷(コブシ)の花が咲いているのに癒やされる。
登りの時に気づかなかったわけではないが、その時はじっくり見てる余裕がなかった。白木蓮も好きだが、たおやかに野で咲く辛夷の方が好きだ。

駅まで下りてきたが、へとへと。体力落ちてる。
福井に行くにせよ敦賀に戻るにせよ、電車の時間まで1時間程あったので、馴染みの蕎麦屋にでも行くかと思った。ここ今庄の蕎麦は「今庄そば」として、つとに有名だ。おろし蕎麦が旨い。しかし、あまり腹が減ってないので、やめにした。

一応、馴染みの蕎麦屋を紹介しておく。

 
【ふる里】

 
何とはない、飾らない店だ。

 

 
店内には、来店したのだろう、名優 宇野重吉の写真が飾ってある。息子は、これまた名優の寺尾聰だね。

 

 
右の、おろし蕎麦を強く推す。
素朴だが、真っ当に旨い。越前そばと云えば、やはりおろし蕎麦に限る。因みに自分は、大根を皮ごと擦ってもらう。その方が辛みが増し、エッジが立つのだ。
婆さんが一人でやってるから、いつ無くなるかワカランので、早めに行かれることをオススメする。

 
宿場町をゆるゆると歩く。

 

 

 

 

 

 
古(いにしえ)の宿場町は風情があるだけでなく、レトロだ。
昭和の匂いが色濃く残っている。

 

 
ここでも桜は花盛りだ。
早朝や夜に見る桜はどこか妖艶だが、昼間に見る桜は、ただただ美しい。

 

 
喉か渇いたので、古い造り酒屋でビールを買って横の長椅子でビールを飲む。
(≧▽≦)プハーッ。歩いたあとのビールは殊の外に旨い。

 

 
平日のせいか、宿場町の人通りは少ない。
時が止まったかのように森閑としてる。
やわらかい光が辺りの景色に陰影をもたらしている。
春だなと、しみじみ思う。

                         つづく

 
一応、この時のギフチョウを展翅したものを並べておきます。

先ずはオス。

 
【ギフチョウ♂】

(2020.4.3 福井県南条郡南越前町今庄)

 
正直言って、ギフチョウの展翅は大嫌いだ。
触角が元々湾曲しているし、先端がびよ〜んと伸びるので整形が難しいのだ。だから真っ直ぐにしづらいし、左右の長さを揃えるのも大変。オマケに長さを合わせる為に無理に先端を伸ばすと、すぐプチッと千切れよる。クソ忌々しいかぎりである。
あとは下翅の赤紋が縮れているので、それを伸ばしてやらないといけない。コレが面倒くさい。でも、やらないと美しさが半減してしまう。

 

 
矮小個体だ。北陸のギフチョウは関西なんかと比べて小さい。そして黒っぽいものが多い。好み的にはデカくて黄色いギフチョウが好きかな。

 

 
ギフチョウの展翅が嫌いな理由を、もう一つ思い出した。
毎年、上下の翅のバランスが分からなくなるのである。二番目は上翅を上げ過ぎだし、一番下のモノなどは寸詰まりになっとる。でも昔の展翅写真なんかは、だいたい寸詰まりだった。触角も真っ直ぐにはされてない。蝶の展翅にもトレンドがあるようである。
自分的には一番最初、冒頭に貼付した画像のようなバランスが好きかな。そのうちまた変わる可能性はあるけど。

 

 
これは越前にしては黄色みが強い個体。

 

 
コレも矮小型だが、尾状突起が短い。

 

 
一方、コチラは尾状突起が長くて細い。しかも左上翅の斑紋に異常がある。ここの黒帯が分断されるのを「H型」と言うらしい。黄色いところがアルファベットのHに見えるからだとさ。

 

 
コヤツは地面に止まった時に変な奴だぞと思って採った。
この辺りのギフチョウとしては黄色い領域が多い。そして赤紋もオレンジ色だ。
良い型なのに、左側の触角がプチッと切れた。こう云う事が起こるから忌々しいのである。

お次はメス。

 
【ギフチョウ♀】

 
メスはオスよりも相対的に大きく、翅が全体的に丸みを帯びる。そして、頭の下の毛が赤っぽい。

 

 
綺麗な個体だなと思ったら、赤紋が上に伸びる「赤上がり」と呼ばれる型だった。
越前ではかなりの数のギフチョウを採っているが、赤上がりは初めて見た。この辺にもいるのね。

それにしても、知らぬうちに結構な数を採ってしまってるね。
殆んどリリースしたから、まさかこんなに採っているとは思わなかった。たぶん網に入れたのは40頭は下らないと思う。だからヘトヘトにもなったのね。

 

2017 春の女神に会いにゆく

火曜日(4月4日)に春の女神ギフチョウに会いに行ってきた。

蝶好きにとってはギフチョウは特別な存在である。
年に一度早春に現れ、待ちに待ったシーズンの到来を告げる美しい蝶だからだ。
だから、蝶好きたちは今年はいつ姿を見せるのかとヤキモキするし、どこで開幕戦を迎えようかと思いを巡らせたりもするのだ。
そうなのだ、ギフチョウに会いにゆくということは、謂わばプロ野球の開幕戦みたいなもので、ワクワクが止まらない特別な一戦なのである。

実を言うと、ギフチョウに会うのは新潟県の弥彦以来(註1)だから、二年振りになる。
去年のこの時期はタイとラオスにいたのだ。それだけに久し振りの再会を前に心は沸き立っている。

とここまで書いて、本文に入ろうと思ったのだが、何だかまた長くなりそうだし、面倒臭くなってきた。
それに色々と釈然としない事もあったから、いつもみたいな書き方だと激しく毒づきそうだ。
なのでサラッと書くことにします。

今日は単独ではなくて、珍しく三人組である。
メンバーは最近蝶採りを始めた植村くんとギフマニアの小太郎くんの若者二人だ。

関西から福井方面に向かって、ひた走る。
だが色々あって、9時に着く予定が10時半に南越前町のとある山の麓に着いた。
え~い(ノ-_-)ノ~┻━┻、面倒くせぇ。インターネットでは暗黙のルールらしいから場所を隠そうかとも思ったが、福井県と言えば誰だって知っているポイントだ。今さら勿体ぶってどないすんねん。杣山型で有名な杣山じゃよ、そまやま。

中腹の駐車場に向かって登ってゆくと、青い網が並んでいるのが見えた。既に各々が陣取る場所でギフチョウを待ち構えているのだ。
結構いる。それでも今日は少ない方だろう。初めて来た時は50~60は人が入っていた。
ここ杣山は、杣山型と言われる特異な柄をしたギフチョウが極く稀に出現する事から、全国のギフマニアが集結する場所なのである。
自分は変異に拘る人ではないから、それほど興味は無いが、ギフマニアはこの変異に対する拘りが驚くほど強い。変異だけにとどまらず、全国のギフチョウを都道府県ごと、また産地ごとに集めている人だっているのである。ギフマニア、恐るべし。

車の窓を開けて、挨拶がてらに状況を訊いてゆく。
(◎-◎;)ありゃま。
天気は快晴。気温も上がってきているのに、まだ誰も採れていないらしい。例年に比べて発生が相当遅れているようだ。

嫌な予感がした。この時間になっても1頭も見掛けないということは、ここに居てもそう成果は上がらないだろう。そう読んだ。
二人に別な場所に転戦する事を提案する。判断が遅いと果実は手に入らない。だから、トロい奴が嫌いだ。
そもそもが植村くんに沢山ギフチョウを採ってもらうのが今回の目的の第一義なのだ。特に杣山型に強く拘っているワケではない。それに、杣山でしか杣山型が採れないワケでもなかろう。少ないながらも周辺でも杣山型は採集されていると聞いた事がある。採れる奴は、何処へ行っても採れる。採れない奴は何度杣山に足を運ぼうが採れない。そういうものだ。

休憩がてらに駐車場に車を停める。
降りると、すぐに小太郎くんが飛んでいるギフチョウを見つけた。流石、ギフ好き。気合いが違う。
しかし、女神は木立の中へと消えていった。
気合いが入り過ぎた❓
気合いが入り過ぎると、蝶は殺気を感じて逃げるのだ。蝶も生きる為に必死なのだ。

小太郎くんが言う。
『下のお堂まで様子を見てきてもいいですか?それで居なかったら移動しても構いません。』

どうぞ、どうぞである。姿を見たら、そうもなる。
スイッチの入った小太郎くんの後ろについて皆で尾根を降りてゆく。
だが、傾斜がものスゴくキツい。ここに来るのは6、7年振りだからすっかり忘れていたが、そういえばそうだったわ。

『やめとくわー。』
根性なしはソッコーで降りるのを諦めて、駐車場に戻ることにした。でも、戻ろうと思ったのは根性なしだからだけではない。本能的に下よか上の方がいると感じたのだ。

駐車場横のギフチョウが飛んできそうな場所に入った途端に木立の中を飛んでいるのを発見。
瞬時にアドレナリンが全身を駆け巡る。この感じ、堪んねえ。眠っていた狩猟本能が呼び覚まされる。最近の男の子は小さい時から虫捕りもさせて貰えないから、植物系男子などと呼ばれるのだろう。かわいそう、かわいそう教育なんぞ糞喰らえだ。

んな事は今はどうでもよろし。ι(`ロ´)ノやったるでぇ~。闘争心ギンギンで小走りに追いかける。
だが、前の灌木がブラインドになった。ヤバい。足を速める。
こりゃ見失うパターンだなと思った瞬間、いきなり横から飛び出てきてコチラに向かって飛んできた。
不意を突かれて一瞬あたふたする。

だが体が勝手に動き、反射的に左から右へ払う。
2mくらい先で捌いたから、捕らえたかハズしたかは自分でも半信半疑だ。

網の中を覗く。
(^o^)おっ、いたわ。
俺、やっぱまあまあ天才やわー(笑)

(_)ありゃりゃ、メチャンコちっけー。
福井のギフチョウは小さいとは知ってはいたが、こんなに小さかったっけ❓
そのせいか、いつもなら年度最初の1頭は指が震えたりするのだが、全然そんなことは無かった。

それでも、(* ̄◇)=3ホッとする。
これで少なくともヌル(ドイツ語=採集ゼロ)は無くなった。福井くんだりまでやって来て、全く成果なしで帰るのは悲惨である。
蝶採りに来て、目的の蝶が得られないとマジ落ち込む。それはちよっとした💔失恋くらいの落ち込みようなのだ。
そう、大袈裟ではなく蝶を追い求めるのは恋と同じだ。少なくとも自分にとってはそういうところがある。だから、やめられない。

二人が戻ってきた。
成果なし。
一応、歳上の面目が保たれて胸を撫で下ろす。
蝶採りは勝ち負けじゃないとは思いつつ、やっぱりバカにされるのはイヤだ。裏で下手クソ呼ばわりされるのには耐えられない。無駄にプライドが高いのも困りものだ。

発生が此処より早そうで、しかも数も多そうな越前市の池ポイントへと移動する。
ここは初めて行くポイントだが、数が多いという事は前から聞いていた。だから、一度行ってみたかった場所ではある。

着いて、歩き始めたら上から車が降りてきた。
大木さんだった。7つ採れたと言う。
OK。ここの方がいそうだ。

一時間後に集合と決めて、三人それぞれに散り散りとなる。
初めて来る場所だから何処が良いポイントだか知らない。だから、腕の見せどころでもあるし、宝探しみたい気分で燃える。
けれど、同時に読みを間違えれば能力の無さを露呈してしまうという恐さもあるんだよねえ。
こういう時は、負けず嫌いとか恥を掻きたくないとかという自分の性格を呪うね。周りなんか気にせずマイペースでやればいいのに…。我ながらバカだと思うよ。

杉林を詰めかけて、すぐに踵を返す。
何となく違うと感じたからだ。この勘みたいなのを、いつも大事にしている。勘が悪いと蝶は採れない。

しかし、違う道を奥に向かって歩くも、環境は全然良くない。どうもギフチョウが好む場所とは思えない。
目的の蝶が好む場所を読み取れなければ、出会うことさえ出来ないのが蝶採りである。知識、経験、勘、体力、視力、根性、運動神経、道具やトラップなどの工夫etc…、蝶採りにはあらゆるものが必要とされるのだ。アホでは蝶は採れないんである。

既に時計の針は15分を経過している。
💦焦るで、焦るでぇー。

ようやく良い環境らしき所に出た。
と思ったら、背後から飛んできてスミレの花に止まった。吸蜜にやって来たのである。
難なくゲット。

道はここから上にのぼってゆく。
そのまま進むのは集合時間を考えると、賭けだ。
登りは時間を取られるし、奥に行けば行くほど帰る時間も要する。タイムオーバーになりかねない。自分で1時間後と言っといて、遅刻は許されないだろう。

息を吐き、一旦冷静になって周りを見回してみる。
背後の暗い杉林の奥に簡単に取りつけそうな低い尾根を見つけた。ギフチョウは尾根に集まる習性がある。抜群の環境とまでは言えないが、試してみる価値はありそうだ。

道無き斜面を登って尾根に到達すると、1つ飛んでいた。
これも難なくゲット。さらに尾根を進んでゆく。
だが、すぐに小枝だらけのブッシュになり、前を阻まれた。
左手の谷を見下ろすと、暗い杉林が切れて雑木林になっている。良さげな環境だ。

斜面をズリ降りると、舞う女神の姿が見えた。
盛んに地面を飛び回っている。遠目に見て、どうやらカタクリの花に訪れているようだ。

ここまで書いて、全然サラッとやないやんかと思う。
でも、今さら書いた文章を削除も出来ない。続けよう。

ここで2頭立て続けにゲット。
さらに良い場所を求めて谷を詰める。

1頭追加するも、再び暗い杉林が立ちはだかった。
引き返してカタクリの花が咲くポイントに陣取ることに決めた。ここが一番採れると判断したのだ。

思った通りに次々と飛んで来る。
青い網にも寄ってくる。
6つ追加して計10頭になった。実質30分間で10ならば、まあまあじゃろ。

集合場所に戻る。
各々それなりに採れたようだ。ホッとする。何人かで行く場合は全員が採れないと雰囲気が悪くなるもんね。

車に戻りしなに1頭追加。
やけに赤っぽい黄色だと思ったら、♀だった。
この辺の♀って、こんなに赤っぽかったっけ❓

同じ越前市の神社裏にある有名ポイントへと移動。

ここも有名産地である。
取り敢えず一番近い楽勝ポイントに案内する。
着いたと同時に2頭が飛び、立て続けにバラバラと前後左右から飛んで来る。ギフチョウ交差点だね。
10分程でそれぞれ3頭、計9頭が採れた。

ここで植村くんが、『ニホンセセリモドキがおる❗』と叫んだ。さっきの場所にもいたそうだ。植村くんは蛾屋から蝶屋に転身したという珍しいタイプなのだ。
そういえば蝶屋であり、蛾屋でもある尊敬するMさんが、昔、このニホンセセリモドキを探し回っていると言ってた事があったなあ…。
全くもって蛾には興味が無いが、珍品らしいし、ニホンと名の付くものなんだから、きっと日本だけの固有種だろう。だから一応、どんなもんなのかを見ておきたいと思った。百聞は一見に如かず。

どれ❓どれ❓どれよー❗❓
植村くんの指差す所を見ると、日向ぼっこしているのか地面に止まっている。
えっ⁉、こんなにこんまい奴なの❓
それにミヤマセセリに擬態していると聞いていたが、全然ぽくない。ただの小さい地味な蛾じゃん。

(出典『一寸の虫にも五分の魂』)

因みに飛んでる姿は小さくて速いから、まるで蝿みたいだ。
最初は間違えてコツバメを採っちまう。

上がニホンセセリモドキで、下がコツバメ。
一応、画像を拡大しときますね。

(_)ぶっさあ~。
どうしようもなく、地味で変なカタチー。

充分納得したので、右側奥のポイントへと移動する事にした。
だが、以前とは環境が随分と変わっている事に驚く。
下草がほとんど無いのだ。4年程前に来た時は笹がいたるところに生えていて、カタクリの花も沢山あったのに…。
多分、鹿の食害のせいだろう。全国的に鹿が爆発的に増えているが、政府や自治体はちゃんと対策しているのかね❓
植物が無くなると、それを食う虫は当然減る。ということは、その虫を食う鳥や動物も減るのは自明の理だ。で、結局何もいなくなるのだ。日本の豊かな生態系もそのうち滅ぶで。
でも、それを知ってる人って案外少ないんだよね。
寧ろ虫なんてこの世からいなくなってしまえばいいのにと思ってる人が大半なんだろなあ…。

ギフチョウを採る気も起こらなくなって、セセリモドキの居た場所に戻る。

ワシらのあとに別なオッサンが陣取っていた。
聞けば、一つもギフチョウが飛んで来ないそうである。
同じ場所なのに採れない人は採れない。虫捕りには運も必要なのだ。

オッサンは仕方なくセセリモドキを採り始めた。
ドン臭いオジサマで、せっかく網を被せたのにことごとく網の横から逃げられていた。
見かねて毒瓶をお貸しする。というかワシが取り込んであげました。

でも、見ると自分の採ったのとは何か違う。
あっ、コレってもしかして♀じゃね❓
自分の奴(♂)よりも大きくて、下の黄色い紋が鮮やかだ。こっちの方が遥かにミヤマセセリっぽいし、ちよっと可愛いかも。

完全にギフチョウそっちのけで♀を探し始める。
だが、♂ばっかだ。(`Δ´)フガー。
しかも、戻ってきた小太郎くんが♀を採りよった。
まあ所詮は蛾だから、そんなに悔しくはないんだけど、クソ♂だけなら展翅する気も起こらんやんけ。

でも、見つからん。
そのうち♂さえ全然見なくなった。
所在なくなってきたし、時間はもう午後3時だ。
植村くんに電話して、帰ろうぜと言う。
集合場所で待っていると、下から三人組のオジサマチームが上がってきた。
挨拶すると、何と山口さんだった。
久し振りだ。二年半前の名古屋でのムシャクロツシジミ以来である。気合いの入った蝶採りは、東京からこんな所にまで遠征してくるのである。
このオジサマ、結構ヒドいところがあってイタズラ好きだ。それがどこか茶目っ気がある。だから、面白くて好きだ。こんな生意気な目下にツッこましてくれるしね。

みんなで立ち話をしていると、お連れのオジサマが飛んでいるニホンセセリモドキを見つけてくれた。

難なくゲット。人が見ていると滅多に振り逃さない。人前で外したらカッコ悪いと思うので、集中力が高まるんだろう。
どんだけ自意識が強くて、自己顕示欲が高いねん(笑)

帰りに蕎麦を食いに行く。
福井といえば蕎麦である。せっかく来たんだから、食べない手はない。

今庄の蕎麦屋に入る。
この辺の蕎麦は今庄そばと呼ばれ、ソバの名産地なのだ。

『ふる里』。
田舎そのものの店名だなと思いつつ、中に入る。

何だかよくワカランが、ミニ提灯だらけだ。
で、なぜか遺影みたいな写真が掲げられている。
最初は在りし日の店のオヤジさんかと思った。でも、よく見ると随分と前に亡くなった「宇野重吉」だ。昔、お店に来たのだろう。
えーと、どんな人かと言えば、名優と謳われた役者さんで、「ルビーの指輪」の寺尾聡のお父さんだね。
と言われても、若い子はワカランか…。重吉さんどころか、大ヒット曲のルビーの指輪も俳優・寺尾聡も知らんかもね。

福井で蕎麦といえば「おろしそば」である。
店のオバチャンに訊いても、お奨めはおろしそばだと言うし、迷いなくオーダーすっぺよ。

【おろしそば 650円】
(○○)!!
画像を入れようと思ったら、チャンチャン。
(@
@;)ゲッ、せっかく写メ撮ったのに画像を消しとるやんけー。

このままチャンチャン落ちで終わらしてやろうかしらと思ったが、そうもいくまい。何とか説明します。

え~と、蕎麦に大根おろしがかかってます。
え~と、素っ気ないほどシンプルです。
え~と、蕎麦はかなり細めの田舎蕎麦系です。とは言いつつ、色はそんなに濃くないソバ茶色だす。
え~と、え~と、旨いです❗
歯を心地よく押し返すコシがあって、舌触りがツルツルだ。
入って正解だ。文句なく旨いっす。
因みに大根おろしはそんなに辛くないとです。自分としては、もう少し辛ければ満点と言ってもいいでしょう。

え~と、おしまいです。
チャンチャン。

《追伸》
一応、この日採ったギフチョウをいくつかの展翅画像を添付しておきます。

【杣山産】

形が、やや寸詰まりになったか…。
それにしても、ちよっと黒くねえか❓
この辺の個体って、こんなだっけ❓
昔の標本を調べたら分かりそうだけど、面倒臭いからまあいいや。

【2ヶ所目の越前市の個体 ♂】

こっちが福井の典型的な個体だったっけ…。

【2ヶ所目の個体 ♀】

やはり赤っぽい黄色だわさ。

【3ヶ所目の個体】

次はちよっと下翅を下げ気味にしてみた。

下げ過ぎたか…。
まっ、いっか。

まだまだあるけど、ここで力尽きる。
そもそもが展翅嫌いなのに、ギフチョウの展翅はもっと嫌い。触角がびよ~んと伸びるので整形が上手くいかないのである。

セセリモドキの画像も添付しておきます。
取り敢えず、♂から。

南米のツバメガを展翅した事があるけど、実質的に蛾の展翅をするのは初めてだ。
蛾は前足を前に出して整形するらしい。(_)メンドクセー。

同じく♂。

蛾なだけに胴体がブッとい。
それにしても、蝶とは違うから翅のバランスがワカラン。
触角も矢鱈と細いし、湾曲気味で超メンドクセーよ。
こんなんでエエのんか❓

最後に♀。

こっちの方が紋の色が濃くて、まだしもミヤマセセリに似ている。
と言っても、こんなもん羽を広げたアブラゼミやんか。ブサいくやのぉー。

【註1】新潟県の弥彦以来
前のアメブロの捕虫網の円光シリーズの新潟編に採集紀行があります。題名は何だっけ❓
そうだ、『越後の虎』だ。
暇な人は読んで下され。

捕虫網の円光『越後の虎』
http://ameblo.jp/iga72/entry-12012035619.html