令和二年のブラックホール冷凍庫

 
冷凍庫から正体不明なものが出てきた。
タッパーに入ってるから食いもんであることは間違いないと思われるが、何なのか見当もつかない。
いや、果たして食いもんと断定してよいものだろうか❓
冷凍庫には蝶々を中心に虫関係の物も入っておるのだ。誰かに頼まれて奇怪で醜悪な蟲を採集したはいいが、渡し忘れている可能性だってある。そう、相も変わらず冷凍庫がブラックホール化したままなのだ。
もしそんな醜悪な蟲に熱が入れば、とんでもない悪臭を放つのではないか❓ げに恐ろしや。想像してチビりそうになる。
なワケで、ビビってレンジで急速解凍するのを回避することにし、自然解凍に委ねることにした。

そして一晩冷蔵庫に安置してあった棺、もといタッパーをだいぶビビりながら開けてみた。
(?_?)はあ❓ 開けてみても何なのか今ひとつワカラン。邪悪な蟲でないことは確かだが、白っぽいゴワゴワなもので何かワカランのだ。オラが作ったものである筈なのだが、全く記憶にない。ワシの脳ミソ内も整理されないままの記憶の塵だらけでブラックホール化が進行しているみたいだ。

匂いを嗅ぐと冷凍臭がする。そのせいか、他の匂いがあまりワカラン。おまえ、誰じゃ(;゚∀゚)❗❓
捨てようかとも思ったが、それはそれで敵前逃亡みたいで何か癪にさわる。
何者かを特定するためには、ここはもう食うしかないだろう。そう考えた途端、急に💕ドキドキしてきた。よくテレビでお笑い芸人が得体の知れない食いもんを食わされているが、その気持ちが解るような気がした。
仕方なしに指で摘んで、えいや❗と口に放り込む。
ゆっくりと咀嚼してゆくのだが、直ぐには味がしなくて少しインターバルがある。この僅かな間に何とも言えない感情が来襲する。恐る恐る感が半端ないのだが、その数秒の間に様々な思考と感情が交錯するのだ。背中がゾワゾワして、何かあれば即吐き出すモードになってる事が解る。
冷凍臭の後から、魚らしき味が立ち上がってきた。
どうやら酒蒸しした鯛のほぐし身のようだ。ベースの味付けは良い。でも、いつのやねん❗❓って感じだ。
それに乾燥が進んでカピカピだ。なので、とりあえず酒に浸す。ここまですれば、もう捨てられないわな。
もう半日おいて、冷凍臭さを軽減させる。

さてさて、どうしたものか❓
雑炊あたりにするのが誤魔化しが効いて、何とかなりそうだが、それじゃ芸がない。発作的に玉子焼きにする事を思いついた。寿司屋の玉子焼きに魚のスリ身が入っていることを思い出したのだ。

玉子3個を溶いて、鯛のほぐし身を入れ、水も少し入れてかき混ぜる。水を足したのは、やや出汁巻き寄りにしようと云うワケだ。
少しだけ砂糖と塩、顆粒の昆布だしを入れて味を調整する。
あとはじっくり弱火で玉子焼きを巻いてゆく。

 

 
何か素っ気なくてさみしいので、豆苗を飾るが今ひとつ決まらない。

 

 
豆苗を千切ってみる。
まあ、こんなもんじゃろ。
そのままラップして冷蔵庫に入れる。
玉子焼きは温かいものより、冷やしたものの方が味が濃くて旨いと思ってるからだ。

翌日、食べてみることにする。
ここまで三日間も要している。何だか笑けてきたわ。

 

 
あいにく大根おろしがないが、まあええじゃろ。そのままでもしっかり味がついている筈だ。

食う。
味は冷凍臭もなく、普通にかなり旨い。
スリ身ではないから、寿司屋の玉子焼きのような滑らかさはないが、味は近いものがある。魚を入れた玉子焼きを初めて作ったけど、有りだな。
わざわざその為に魚を買ってきてまで作らないけどさ。

                        おしまい