台湾の蝶31『続・消えたキアゲハ』

 
 
 第31話『続・消えたキアゲハ』

 
(出展 五十嵐 邁『世界のアゲハチョウ』)

 
早くも続編である。
何でかっていうと、幼虫の食草の新たな情報が見つかったからだ。
カッコ悪いことに、内田さんの台湾の蝶に関する著書の存在をすっかり失念していた。内田春男氏と云えば、台湾の蝶の幼生期の解明に多大なる功績を残された方だ。それを忘れるだなんて、ブラマヨの吉田風に言えば『どーかしてるぜっ❗』である。
しかも、台湾三部作と言われるシリーズの一冊『常夏の島フォルモサは招く』の古書を去年の秋に買って持っているのである。我ながらド阿呆である。

 

 
その著書によると、内田さんは1988年5月4日に南投県翠峰で2齢幼虫を採集。同年8月10日に台中県石山渓で卵と各齢の幼虫を採集されている。
あちゃま(;゜∇゜)、成長の過程がバラバラじゃないか。と云うことは、一部は第3化として秋に羽化するって事だよね❓

食草はセリ科のモリゼリ Angelica morii となっていた。
えっ❗、Peucedanum formosanum タイワンカラスボウフウ以外にも食草があるの❓
和名と学名からすると、たぶんセリ科植物の1種だろう。キアゲハの基本的な食餌植物と云えばセリ科だから、違和感はない。

巻末資料「台湾産蝶類の食草に関する覚書」には、更に以下のようなものが食草の記録として付記されていた。

 
・ヨロイグサ Angelica dahurica
・ハマトウキ Angelica hirsutiflora
・ニイタカシシウド Angelica morrisonicola
・ミツバ Cryptotaenia canadensis
                (蔡百峻,1988)

 
上3つがセリ科植物で、一番下のミツバも属は違うだろうが、おそらくセリ科であろう。
えっ、ミツバ❓ たぶん吸い物に入っているあのミツバだよね。だとしたら、んなもん何処にでも有りそうじゃないか。それ食ってたら、絶滅なんかしないよね❓

他にも更に別な植物の記録が4つあった。

 
・オランダミツバ Apium graveolens
・コエンドロ Coriandrum sativum
・タイワンカワラボウフウ Peucedanum formosanum
・ニンジン Daucus carota
              (李俊延ほか,1988)

 
ニンジン❓ 勿論「🎵1本で~も人参、2本で~も人参」のニンジンだやね。

前回、食草とした Peucedanum formosanum 臺灣前胡(セリ科カラスボウフウ属)も、ちゃんとあるじゃないか。ひと安心だわさ。
あれれ(/ロ゜)/❓、でも和名はタイワンカラスボウフウではなくて、タイワンカワラボウフウとなっている。考えられるとすれば、内田さんの誤記の可能性が高い。
一応念のために検索してみたら、あっしの方が誤記だった。カワラボウフウが正しい。内田さん、ゴメンナサイ。前回の間違ってる箇所を全部修正しとこっと…。
何か、こういうのってガックリくる。恥ずかしいし、自分が悪いので怒りの持っていきどころがないのだ。

この際だから、今一度日本でのキアゲハの食草を記しておこう。

「ニンジン、ノダケ、ミツバ、ウイキョウ、シシウド、ハナウド、ハマウド、エゾシシウド、オオハナウド、セリ、オカゼリ、イブキゼリ、ドクゼリ、ヤマゼリ、マツバゼリ、ハマニュウ、エゾニュウ、ハマボウフウ、ボダンボウフウ、イブキボウフウ、タカネイブキボウフウ、アメリカボウフウ、ハクサンボウフウ、シラネセンキュウ、カワラボウフウ、イシヅチボウフウ、ミヤマセンキュウ、オオバセンキュウ、ウマノミツバ、イワミツバ、イワテトウキ、シラネニンジン、ノラニンジン、ミヤマニンジン、ヤブジラミ、アシタバ、パセリ、セロリ、トウキ、ミシマサイコ、エゾノヨロイグサなどの各種のセリ科植物を食草とするが、キハダ、サンショウ、イヌザンショウ、カラスザンショウ、コクサギ、カラタチなどのミカン科植物や、ギョリュウ(ギョリュウ科)、フジアザミ、コスモス、ベニバナボロギク(キク科)を野外で食べる場合も知られている。」

ここでもカワラボウフウとなっている。完全にオラのミステイクだ。カワラボウフウだと認識すると、カワラは河原の事だと解る。たぶん河原に生えるボウフウの仲間なんだろね。
とはいえ、ボウフウといっても食用のボウフウ(防風)とはまた違うようだ。ボウフウは正式名をハマボウフウ Glehnia littoralis)といい、同じセリ科だがハマボウフウ属と云う別属でありんす。カワラボウフウは食用ではないれす。

 

 
ボウフウは海岸に生えてて、だいたいは刺身などのあしらい(飾り)や薬味に使われる。

 

 
茎に縦に包丁を入れて水に放つと、くるくると巻くちょいとお洒落な高級野菜だがね。

そういえば、カラスボウフウってカラスが好んで食べるのかな❓なんて事をほんやりと思いつつ、同時にどこか違和感を覚えてたんだよなあ…。
情けない言いワケはこれくらいにするとして、話を本題に戻そう。

OTTOさんがブログ内で食草としたタイワンサイコなるものは入ってない。やはり謎のままだ。
待てよ、臺灣前胡の前胡って、もしかしたら台湾(中国)語で、サイコと読むんだったりして…。
(^-^)vひらめいたねー。おいら、名探偵じゃよ。
でも「胡」って「フー」って読むんじゃなかったっけ? なぜなら中国語圏では蝶のことを蝴蝶と書き、読み方は「フーディエ」の筈だからだ。あまり期待は持てそうにない。

調べたら、名推理ならず。やっぱ見当違いだった。
前胡と書いて「チィェンフー」と読むらしい。
タイワンサイコって、何なの~(T△T)❓
永遠の謎、こりゃ迷宮入りになりそうじゃよ。

謎といえば、気になるのが内田さんが幼虫の食草を発見した年が1988年。蔡氏が新たな食草を発表したのも同じ年の1988年。李氏がまた別の食草を発表したのも同じく1988年だ。そう、全部が1988年なのだ。偶然の一致にしては不自然過ぎやしないか❓(?_?)ミステリーである。
内田さんがセリ科アンジェリカ(アンゼリカ)属の植物から幼虫を発見した事に刺激されて、探査が一挙に進んだという可能性はある。しかし、それ以前から日本や欧州のキアゲハの食草はセリ科だと、とっくに解っていた筈だ。その情報が1988年以前に台湾に伝わっていない筈はない。有り得ないと言い切ってしまってもよい。それがなぜ1988年になって、急に一極集中して発見されたのだ❓そもそも1988年までタイワンキアゲハの食草が未知だったのにも驚きだが、同時に何でそんなに遅くまで解明されなかったのかも謎だ。そこに至るまでには、それなりの物語があった筈でドラマツルギー(註1)を感ぜずにはおられない。
台湾のキアゲハは謎だらけだ。多くの謎を残したまま絶滅するだなんて、ドラマチック過ぎるじゃないか。

謎だ、謎だとばかり言っていてもしようがない。気を取り直して、取り敢えず各植物を上から順に検証していこう。

 
【Angelica morii モリゼリ】

(出展『kplant.biodiv.tw』)

 
ネットで検索したら、アンジェリカ・モリーという綺麗なパツキン(金髪)の姉ちゃんがいきなり出てきて笑ってしまったよ。
たしかに学名そのままだと人名だよな(笑)。Facebookの名前検索とも繋がってて、見てみたら世界にはアンジェリカ・モリーさんの他にアンジェリカ・モリさん、アンジェリカ森さんとかが結構いて、静岡県にも住んでいたりしたから再度笑ってもうた。

Angelica(アンジェリカ)はセリ科シシウド属の総称。
たぶんだけど、どうせ命名者が自身に縁(ゆかり)のある人物に献名したのだろう。
何かテキトーだなあ…。疲れてくると、ぞんざいにもなる。たとえ献名であってもAngelicaと云う名前にも由来がある筈だ。面倒くさいが検索してみよう。

語源由来図鑑に、その由来がちゃんと記されていた。
『「angelica(アンジェリカ)」は、「天使」を意味するラテン語に由来し、「angel(エンジェル)」と同系。「天使」に由来する理由は、アンジェリカの香りには、心身を強壮するはたらきがあるため、天使がもたらしたものといった喩えからといわれる。』
なるほどね。m(__)m失礼しやしたー。

学名の後ろには”Hayata”とあるので、おそらく記載は「台湾の植物の父」とも呼ばれる早田文蔵氏であろう。
あれっ?、この人の名前ってどっかで出てきたよな。
何だったっけ❓まあいい。思い出せないので、話を前へと進めよう。

標高3000m以上の高山地帯に自生し、台湾特産種のようだ。完全に高山植物だね。
台湾では「玉山當歸」と呼ばれ、食用や薬用として利用されているようだ。玉山とは日本統治時代には新高山と呼ばれていた台湾最高峰(alt.3952m)のことである。たぶん最初に見つかったのが玉山だったんだろね。なるほど、ならば三千メートル以上の高山地帯に自生すると云うのも頷ける。

タイワンキアゲハの垂直分布よりも標高が高いが、台湾は亜熱帯だから利用は可能だろう。日本の標高3千メーターとは環境が違う。まだ森があったりもするのだ。つまり森林限界がもっと上なのである。キアゲハは元々寒帯から温帯に棲むチョウだから、寧ろ丁度いいくらいかもしんない。

(;・ω・)ん❓
でも内田さんが幼虫を見つけたという翠峰の標高は、それほど高くはない筈だ。たぶん2200~2300m前後だったかと思う。3000mには程遠い。おそらく、もっと低い所にも自生しているのだろう。そう考えた方が自然だし、論を進めるのにも都合がいい。

 
【Angelica dahurica ヨロイグサ】

(出展『松江の花図鑑』)

 
大型の多年草で、花期は5~7月。
日本では九州に自生し、根は生薬ビャクシ(白芷)として古くから知られている。主成分はフロクマリン誘導体で、消炎・鎮痛・排膿・肉芽形成作用がある。その消炎と血管拡張の作用から肌を潤し、むくみや痒みをとるとして古来中国の宮廷の女性達により美容に用いられていた。また鎮痛、鎮静の効果のため、五積散などの漢方薬にも配合されている。因みに、同じアンジェリカ属でも、種によって生薬の用法がそれぞれ異なるという。

台湾名は野當歸(ノトウキ)。別名に臺灣當歸(タイワントウキ)、臺灣独活(タイワンウド)がある。

 

 
どうやら野生のものは台湾北部の低山地に分布しているようだ。となると、タイワンキアゲハの分布する台湾中部~中南部からは外れている。とはいえ、薬草園らしき「福星花園」というサイトでも画像が載ってるから、薬草として中部の山地帯でも栽培されているかもしれない。
因みに中国では、海抜200m~1500mの森林地の林縁部、川岸、草原などで見られると云う。

 
【Angelica hirsutiflora ハマトウキ】

(出展『随意窩日誌』)

 
台湾では「濱當歸」と呼ばれている。
台湾北部と北東部の沿岸地域、及び近隣の島々のみに分布し、主に標高100m以下の丘陵地帯、海岸や岩石地形の岩石節理で見られる。
ということは、これもタイワンキアゲハの分布域からは外れている。しかも、主に標高100m以下に見られるというから、いくらなんでも標高が低すぎる。台湾のキアゲハが自然状態で利用しているとは思われない。おそらく飼育時に幼虫に与えたら、単に食したという事だけなのではなかろうか❓

一般的に台湾固有のものと考えられているようだが、日本の Angelica japonica var hirsutiflora と同種のようである。

 
【Angelica japonica var. hirsutiflora】

(出展『nangokuudo』)

 
石垣島で撮られた写真だ。
和名はナンゴクハマウド(南国浜独活)。沖縄地方の海岸地帯に生えてるみたいだ。そういえば、見たことがあるような気もする。

つけ加えると、ハマトウキで検索したらセリ科 マルバトウキ属の Ligusticum hultenii マルバトウキ(円葉当帰)が出てくる。別名がハマトウキだからのようだ。

 
(マルバトウキ)
(出展『素人植物図鑑』)

 
分布は北海道、本州北部である。
ハマトウキやナンゴクハマウドが大きくなるのに対して小さいし、葉の形も著しく違う。何より学名が違うので、これは完全に別種だろう。
和名って必要なものだとは思うけど、混乱を引き起こす素でもあるよね。特に植物と魚は別名が多すぎるわ。

 
【Angelica morrisonicola ニイタカシシウド】
(出展『随意窩日誌』)

(出展『Useful Temperate Plans』)

(出展『随意窩日誌』)

 
検索すると、玉山當歸と出てくる。
あれっ(;・ω・)❗❓、この名前ってモリゼリと同じじゃね❓
写真を見ても同じ植物っぽい。どうやら2つは同物異名であるようだ。つまり、同じものだってワケだね。
おそらくモリゼリ Angelica morii がシノニムになるかと思われる。小種名を morrisonicola としているサイトの方が断然多いからだ。

おいおい、それにしても次々と討ち死にしていっとるやないけー。今のところ台湾のキアゲハの食草として納得できるものは、このニイタカシシウド(モリゼリ)だけじゃないか。

 
【ミツバ Cryptotaenia canadensis】
(出展『kplant.biodiv.tw』)

 
こちらもセリ科ではあるが、ミツバ属に含まれる。
台湾名「鴨兒芹」。他に「山芹菜」の別名がある。
どう見ても日本でもお馴染みの、あのミツバだ。亜種記載くらいはされているのだろうが、ほぼ同じものと考えてよいだろう。生えている場所も日本と同じで、湿った所に生えるとあった。

台湾でも食用として利用されているみたいだ。間違いなく栽培もされているものと思われる。
翻訳が危ういけど、台湾全土に見られ、中部と南部には野生種がある云々的なことも書いてあった。いい感じだ。キアゲハの分布とも合致する。
でも気になるのは、垂直分布はどうやら低山地が中心のようなのだ。利用はしていた可能性はあるが、メインの食草ではないだろう。

 
【オランダミツバ Apium graveolens】
(出展『grttingimages』)

 
皆さん、この植物には見覚えがあるでしょう(^o^)❓
そう。何のこっちゃない。オランダミツバとはセロリの事なのだ。
\(◎o◎)/アタシもコレには面喰らいましたよ。名前からして渡来種とか帰化植物だろうとは思ってはいたが、まさかのセロリなんだもーん。
セロリも同じくセリ科だが、オランダミツバ属に分類されている。

ところで、セロリの花ってどんなんだろ❓
見たことないなあ。にわかに知りたくなってきたよ。

 
(出展『VEGGY DESIGN』)

 
特に変わったところはなく、セリ科らしい花だ。
メチャメチャ変なのを期待してたから残念なりよ。
ついでだから、ミツバの花も調べとくか。

 
(出展『奥行き1mの果樹園』)

 
ミツバが一番セリ科らしくない花だね。
まあ、植物そのもののフォルムが他のセリ科植物とは印象を異にするから、セリ科の異端児くんなのかもしんない。
 
セロリの台湾名は「芹菜」。もしくは「西洋芹菜」なんだそうな。
もちろん野生種ではない。栽培作物である。
でも台湾の蝶の本(図鑑?)『鳳翼蝶衣』でもセロリが食草に挙げられているようだから、幼虫が食べて育つことは間違いなさそうだ。
セロリって高原野菜っぽいよなあ…。意外と食草として有望かもしれない。

調べてみたら、思ったとおりだった。台湾では野外での生育温度は16〜21℃で、高温では育ちにくく、また品質も落ちるために夏場は中高度地で育てるらしい。おー、完全に高原野菜じゃんか!
でもなあ…。ゼッテー、しこたま農薬とか掛かってそうだ。幼虫が食えば、緑色のビートルジュースを吐き出して、憐れ(○_○)悶絶死するに違いない。そうでなくとも、あんなド派手で目立つ幼虫だ。すぐに農家の人に目っけられて💥ブチュじゃよ。食草としては、利用したくとも中々利用できないと云うのが現状だろう。

 
【日本産キアゲハ幼虫】
(出展『あおぞらネット』)

 
でもその半面、メリットもある。もしもキアゲハが再発見されれば、このセロリやミツバ等を代替植物にして育てることが出来る。ガンガン増殖させて野に放せば、また復活するやもしれぬ。
とはいえ、自然ってそんなに甘いもんじゃないし、台湾政府が本腰を入れて保護増殖させるかどうかは疑問だけどさ。
絶滅したのには必ず何らかの原因がある。食草の問題以外にも土壌や気候などの環境変化も要因として考えられうる。それらを解決しなければ、いくら放したところで定着はしないだろう。
考えてみれば、キアゲハが絶滅したのにも拘わらず、モリゼリ(ニイタカシシウド)やタイワンカワラボウフウは絶滅してはいない。多くはない植物なのだろうが、ネットを見る限りでは絶滅に瀕しているワケでもなさそうだ。それに標高が高い方が乱開発されにくい。つまり、食草の減少だけが絶滅の理由ではないと云うことだ。じゃあ、何で絶滅したの❓
(-“”-;)謎すぎる…。

 
【コエンドロ Coriandrum sativum】
(出展『新浪博客』)

 
これも見覚えがあるでしょうよ(^o^)
ヒントは今や日本でもすっかりポピュラーになった野菜で、東南アジアではお馴染みの葉っぱだ。西洋では種(果実)や葉を乾燥させたものが香辛料としてよく使われている。
見当はついたかな❓それでは答えの発表\(^^)/❗
答えはコリアンダー。このヒントで解った人は偉い!
コリアンダーでもピンと来なければ、あの好き嫌いがハッキリする、カメムシ草とも言われる野菜といえば流石に解るじゃろうて。
そうなのだ。巷では女子を中心に中毒者(註2)が増えているというパクチーなのだ。オイラもタイで中毒患者になりましたよん。

パクチー、アローイ( ☆∀☆)❗❗

実をいうと、今アチキの部屋にもあるのじゃよ。

 

 
料理に使うのは勿論だが、時々手で毟って食っている。

中国名は香菜(シャンツァイ)。こちらもポピュラーな名称だね。日本では中国パセリとも呼ばれていたね。
とにかく中国人も昔からコヤツが好きなのさ。とはいえ在来種ではなく、外来のものであろう。原産地は、たしか地中海辺りだったかと思う。

調べたら、台湾全土で栽培されているようだ。まあ普通に消費量を考えれば、そうだわな。
これも高原野菜なのかな❓ でも調べても、今一つよくワカンナイ。高原野菜だとしても、たぶんコレにも農薬が掛かってんだろな…。

そういえば、パクチーの花も見たことないなあ。
興味が湧いてきたから、これも調べちゃおう。

 
(出展『kplant.biodiv.tw』)

 
中々、可愛い花だ。カスミ草の替わりにでもなりそうだな。
それで思い出したけど、そういえば台湾名をまだ書いてなかったね。台湾では「芫荽」と呼ばれているようだ。字が花ではないけど、花っぽい字なんで思い出した。

おっ、そういえばコエンドロという名称の説明もしていなかったね。
えー、このコエンドロが実をいうと、本来の和名なのだ。日本に入ってきたのは意外と古く、鎖国前の時代にはもうあったようで、ポルトガルから伝来したそうな。つまり、コエンドロはポルトガル語なのだ。
用途は刺身の臭みを消すために使われていたという。

ここまできて、あと残りはニンジンとタイワンカワラボウフウだけとなった。
ニンジンは言わずもがなだが、一応調べておこう。

 
【ノラニンジン Daucus carota】
(出展『had0.big.ous.ac.jp』)

(出展『FLOWER PHOTOGRAPH』)

 
セリ科ニンジン属に含まれる一年草。
学名+臺灣で検索したところ、胡蘿蔔=ワイルドキュロットと出てきた。どうやら野生種のノラニンジン(野良人参)の事のようだ。このノラニンジンはヨーロッパ原産の帰化植物で、人参の原種とも言われており、日本のキアゲハも食草として利用している。
一方、ニンジンで検索すると、原産地はアフガニスタンとあった。そこから東西に伝播していったそうだ。東と西でそれぞれ独自に進化、もしくは品種改良されて、西洋ニンジンと東洋系ニンジンとなったとされる。昔は日本でも東洋系ニンジンが食されていたようだが、栽培が難しく、次第に栽培が容易な西洋ニンジンへと移り変わっていったようだ。つまり、今我々日本人がニンジンと呼んで食っているものは、ほぼほぼ西洋ニンジンって事だね。

ニンジンもノラニンジンも基本的には学名は同じみたいなので、台湾のキアゲハがノラニンジンと栽培種のニンジンのどちらを利用していたかはわからない。
ノラニンジンは北海道では結構どこでも見られるそうなので、台湾の高地にも生えていてもオカシクない。
食草として利用されていた可能性はあるだろう。

しかしながら、内田さんは和名をニンジンと書いておられる。そこが引っ掛かる。別な研究者の発表とはいえ、もしそれがノラニンジンであるとするならば、たとえ学名が同じであっても和名をニンジンではなく、ノラニンジンとしていた筈だ。となれば、栽培種のニンジンの可能性の方が高いとは言えまいか?
けど、何も考えずに、単にそのまま書き移しただけかもしんないけど…。

 
【Peucedanum formosanum タイワンカワラボウフウ】
(出展『福星花園』)

(出展『随意窩日誌』)

 
タイワンカワラボウフウについては、前回書いたので、写真のみ添付しておきます。

ここで漸く思い出したよ。これも早田文蔵氏の記載だわさ。つまりキアゲハの食草であるモリゼリもカワラボウフウも、この方の記載なワケだね。もしかしたら、発見した折に派手派手な幼虫も見ておられたかもしれない。ほんでもって、激引きだったりして(笑)。
植物学者って、昆虫に興味があるのかな❓もちろん人にもよるのだろうが、相対的にはどうなのだろう❓
虫好きは植物に興味があるのは間違いない。その昆虫のホスト植物を知らなければ、採集も儘ならないからだ。必然、興味を持たざるおえない。しかし、植物に興味があるからって、虫のことまで知る必要性はあまりなさそうだ。植物学者で虫好きの人って、あまり聞いたことがないし、むしろ嫌いなんじゃなかろうか❓

 
脱線した。いい加減、まとめに入ろう。
ヨロイグサとハマトウキはタイワンキアゲハの分布と重ならないから、食草として利用されることは殆んど無かったと考えられる。ミツバは垂直分布が低いからメインの食草ではないだろう。
セロリ、コリアンダー(パクチー)、ニンジンは栽培植物で、ムチャクチャ古くから台湾にあったワケではないだろう。それらの流入以前に台湾のキアゲハは存在していた筈だから、本来の食草ではないだろう。また栽培作物ゆえ、農薬の影響で無事に育たないケースも多々あるだろう。メインではなく、あくまで二次的利用だったかと思われる。
これらの理由から、基本的に食草として利用されていたのはニイタカシシウド(モリゼリ)とタイワンカワラボウフウだろう。+ノラニンジンを利用していた可能性もあるってところか。
いずれにせよ、食草の利用範囲が狭かったゆえ、個体数も自然少なかったのだろう。

論をここまで進めといて、遅ればせながら『常夏の島フェルモサは招く』の本文の記述を取り上げよう。
ここまで書いといて、実をいうと巻末の食草のところしか見てなくて、本文を読んでいなかったのだ。パラパラと見て、無いやと思って見過ごしていたのである。
とはいえ、そこには吸蜜に訪れた成虫の生態写真しか載っておらず、残念ながら幼虫写真は無かった。
飼育された筈なのに(;゜∇゜)なぜにぃ~❓
もしかして、飼育に失敗したんちゃうん❓

文章でも幼生期については詳しく触れられていなかった。触れているのは以下の程度で、台湾中部の石山渓に訪れた時のものだ。

「断崖の続くこのあたりを注意すると、いたる場所にモリゼリの株が見え、白い花をつけていた。これは台湾名を山当帰といって薬草になる。(中略)幼虫も比較的多く、それは鳥の糞のように葉の上に止まっていた。高地でもあまり見掛けない蝶であるが、時期とポイントを押さえれば、さほど少ない種でもないことを知った。」

まさか内田さんも、のちに台湾のキアゲハが絶滅するとは思いもよらなかっただろう。「断崖の続くこの辺りを注意すると、いたる所にモリゼリの株が見え、時期とポイントを押さえれば、さほど少ない種でもない」と云った印象を述べられているが、もしかしたら此所だけがキアゲハの多産地だったのかもしれない。
しかし、石山渓は1999年の大地震により崩壊し、中部横貫公路は長らく寸断されたままだ。
OTTOさんが「タイワンサイコという台湾特産の植物ただ一種を食草としていたため、地震による生息地の崩壊などで、命脈を絶たれたと考えられている。」と書いた場所は、おそらくこの石山渓のことを指していたのだろう。そして、謎の食草タイワンサイコとは、このモリゼリ(ニイタカシシウド)のことではあるまいか。その可能性は高い。

一応、謎の一部は解決した。
とはいえ、この植物は石山渓だけに生えているワケではない。だから、地震による崖崩れだけがキアゲハの絶滅の理由にはならない。これが一番の謎かもしれない。
だいち現地には人は入れない状態だから、モリゼリが絶滅したかどうかは本当のところはわからないよね❓
誰かドローンを飛ばせば、崖崩れ何のそので、意外とシッカリ生き残ってたりしてね。

  
内田さんが最初にモリゼリ(ニイタカシシウド)で幼虫を見つけられたのは南投県の翠峰だ。
となれば、自分がキアゲハの幻を見たのは、その下の松岡付近だから地理的にはかなり近い。
あながち自分の見た光景は、幻ではなかった可能性もあると云うことだ。

 
                 おしまい

 
 
追伸
本文脱稿後、内田さんの三部作の第1巻にあたる『ランタナの花咲く中を行く』を見る機会を得た。

 

 
そこには、1987年6月27日に松岡で幼虫を採集したと書いてあった。
と云うことは、松岡周辺にもモリゼリが自生していた事になる。つまり、キアゲハも生息していたわけだ。益々、朧げな幻影が輪郭を帯びてきたような気がする。

この『ランタナの花咲く中を行く』を見た折りに、五十嵐 邁 著『世界のアゲハチョウ』を見る機会にも恵まれた。冒頭のキアゲハの写真はそこに載っていたもので、脱稿後、急遽コチラに差し替えた。
その図鑑からは、新たな知見も複数得た。もしかしたら、更なる続編を書くかもしんない。
完全にキアゲハの迷宮のドツボにはまっとるがな。

 
(註1)ドラマツルギー
元々は演劇用語で、ドラマの製作手法。作劇論。演劇論。それがアーヴィング・ゴッフマンによって社会行動学にも応用され、日常生活における社会的相互作用を取り扱う微視的社会学として発展した。その社会学的観察法そのものを指す場合も多い。
もう少し説明すると、人は普段の生活でも自然と何らかの演技をしており、ある一人が行動することによって、他者や世界に影響を及ぼす。逆に世界性や文化性、その他諸々の要因によってある一人の人物の役割や演技に影響を及ぼしている。その相互作用によって社会と個人の関係が成り立っていると捉えることが「ドラマツルギー」である。

(註2)女子を中心に中毒者が…
パクチーサラダとか女子が喜んで食ってるが、タイの人たちがそれを見ると首を傾げるらしい。何でかっていうと、タイではそもそもパクチーは薬味扱いで、料理のメインになることなど考えられないからだ。謂わば、パセリのサラダを喜んで食ってるようなもんなのさ。たしかに、もしパセリだけのサラダを食ってる人がいたら、オカシな人だと思うもんね。