台湾の蝶28『真昼のデジャヴ』

 

  第28話『江崎三筋』

  
今回は、前回取り上げたアサクラミスジとの姉妹編になります。

 
アサクラミスジを採った翌日のことだった。
この日も南投県の同じポイント、標高約1900mの尾根筋に入った。狙いも同じくホッポアゲハである。
そして、やはりこの日もホッポがピタッと飛んで来なくなった。
で、クソあじぃ~し、同じようにゲンナリ気分で地べたに座り込んでいたのである。
そこへ、又しても右手からふらふらと低空飛行でミスジチョウの仲間が飛んできた。
何なんだ、この既視感は。(;・ω・)デジャヴじゃね❓
天気も同じだし、時間もさして変わらない。全てが昨日のシチュエーションとほぼ同じだ。一瞬、暑さでアタマがオカシクなって、白昼夢でも見てるのかと思った。
裏の淡い色の感じからすると、昨日採ったアサクラミスジかなと思った。どこまでデジャヴやねん( ̄ロ ̄lll)
ヨッコラショと立ち上がって、ぞんざいに網を振る。

網の中を見て、アサクラミスジの♀かなと思った。
昨日のものより一回り大きくて横幅か広かったからだ。蝶の♀と云えば、殆んどの種が♂よりも一回り大きくて横長になりがちというのが相場なのだ。

実を言うと、この時に撮った写真は1枚も無い。
アサクラミスジは昨日に証拠写真を撮ったから、もういいやとでも思ったのだろう。クソ暑いと大概のことが面倒くさくなるのである。

それが宿に帰ってから、その日の戦利品を整理していて、あれれ(;・∀・)?????、何か変だなと気づいた。
昨日の奴って、こんなだったっけ❓ 違和感を感じたのである。どこか雰囲気が違う気がしたのだ。
慌てて昨日の奴と見比べてみると、明らかに裏面の斑紋が違うではないか。線がギザギザじゃない。それに大きさも全然違ってて、デカイ。
こりゃ、どう見ても別種だわさ。でも、その時点では何という種類の蝶なのかは分からなかった。

帰国後に調べてみると、コレが何と台湾におけるミスジチョウの仲間では、最稀種のエサキミスジだった。
しかも、たぶん中々採れないであろう♀だぜd=(^o^)=b

 
【エサキミスジ Neptis sylvana esakii ♀】
(2016.7.12 南投県仁愛郷 alt.1900m)

 
(^o^ゞハハハ、1年以上ほったらかしだったから、胴体が埃まみれになっとるやないけー。
相変わらず、ええ加減な性格やのう。

アサクラミスジと同じく、ちょっと上翅を上げすぎたかなあ…。
でも、ミスジチョウの類は上翅を下げると、寸詰まりになる。それって何だかモッチャリしててカッコ悪いんだよなあ…。今後の課題です。
まあ、展翅も既存のイメージに囚(とら)われてはならないと思うし、コレはコレでカッコイイような気もするから、良しとしよう。

  
【裏面】

 
確か、この写真は展翅前に撮った写真だな。
あらためてアサクラミスジと見比べてみよう。

【アサクラミスジ ♀】 

 
こうして並べてみると、似てはいるけど全然違うことがよく解る。アサクラミスジは紋がギザギザだ。
斑紋だけでなく、翅形も違う。アサクラミスジの方が丸っこい。
大きさも違うし、こんなの間違うかね?と思うが、きっと裏がこんな色したミスジチョウが他にもまさかいるとは思っていなかったのだろう。だいたいがだ、そもそもが発作的に初の台湾行きを決めて、3日後には出発だったのである。だから旅の仕度で手一杯で、台湾の蝶を調べてるヒマなど無かったのだ。

採れたのは、この♀らしき1頭のみだから、♂の画像を探して引っ張ってこよう。

 

(出典『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
ネットでググったが、なぜか標本写真が自分のもの以外は一点も見つからなかった。
情報量が少ないので、せめてでも生態写真を貼りつけておこう。

 

(出典『台湾生物多様性資訊入口網』)

 
イケダミスジなんかにもよく似ているが、裏面の色が全然違う。

 
(出典『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
とにかく、採ったのは間違いなくエサキミスジだね。
落ち着いたところで、前へ進もう。

『原色台湾産蝶類図鑑』の解説には、こうあった。

「本種は現在の知見では台湾の特産種。同島産大型ミスジチョウ属の中でも最も稀な1種で、従来記録されたものは4頭にすぎない。」

アサクラミスジもそこそこの稀種だと思われるが、もっと珍しいってことだね。
その4頭の内訳も書いてあった。

 
1♂ 台中州東勢郡(ウライ~ピスタン~サラマオ)1932.7.16 江崎悌三教授採集(本種の記載標本)

1♂ 高雄州阿里山沼ノ平 1932.5.21 梅野明・平貞市採集

1♀ 台北州文山郡檜山 1935.7.1 和泉泰吉採集

1♀ 台北州文山郡チャゴン~檜山 1935.6.28 和泉泰吉採集

 
州となっているのは、昔の台湾の行政区分の時代だからだろう。現在は縣(県)となっている。因みに、図鑑は1960年刊行である。

それにしても、たった4頭かあ…。
ネットで調べても画像は少ないから、おそらく現在でも稀種の座にあるものと思われる。

 
【学名】Neptis sylvana (Oberthür, 1906)

台湾のものは亜種 esakii(Nomura, 1935)とされている。
原色台湾蝶類大図鑑では、「Neptis esakii」という学名になっていたので、てっきり独立種で台湾の固有種かと思いきや、亜種なんだね。
昔の図鑑と今の図鑑とでは学名が変わっていることがしばしばあるので、注意が必要だすな。

属名 Neptisはラテン語の「孫娘、姪」の意。
小種名 sylvana(シルバニア)の語源もラテン語で「森林、樹林、森の土地」を意味するものと思われる。
亜種名 esakiiは日本の昆虫学者 江崎悌三博士(註1)に献名されたもの。和名もそれに因んでいる。

 
【台湾名】深山環蛺蝶
 
訳すと、深山に棲むミスジチョウって事だね。
別名に、林環蛺蝶、淺色三線蝶、森環蛺蝶、江崎環蛺蝶、江崎三線蝶がある。
林環蛺蝶と森環蛺蝶は、学名の小種名由来であろう。
淺色三線蝶は、淡い色のミスジチョウという意味で、裏面の色を指しての命名だろう。
江崎環蛺蝶と江崎三線蝶は、和名からの命名であるに違いあるまい。

 
【英名】
 
特に無さそうだ。
ミスジチョウ属の英名はGlider(滑空するもの)だから、もしつけるとすれば『Deep Forest Glider』辺りが妥当かな。

  
【分布】
 
台湾では、北部から中部の山地帯に見られる。
台湾以外では、中国南西部(雲南省)とミャンマー北部に分布する。
中国南西部のものが原名亜種 sylvana sylvana となる。台湾の他には亜種は無いようなので、ミャンマーのものも原名亜種に含まれるものと思われる。

分布図は、今回も杉坂美典さんからお借りしよう。

 
(出典 杉坂美典『台湾の蝶』)

 
中国南西部と台湾とにかけ離れて孤立分布しているのがよく解る。分布が狭いゆえ、アサクラミスジよりも稀種度が高いのも容易に想像できるね。
でも、こんなに分布が離れてるなら、もう別種でええんとちゃうのん❓などと素人は考えちゃうなあ。
両者が分断してから相当長い時間が経っているワケだし、遺伝子解析したら別種って事になるんでねえの❓

 
【生態】

開長55~65mm。
「原色台湾蝶類大図鑑」によれば、「資料より判断すれば本種は台湾中北部~中部のかなりの山地帯に産するもので、その出現期は5~7月。食草・幼生期は勿論未知。」とある。
一方、杉坂美典さんのブログには、台湾の北部・中部の低・中・高標高(600m~2500m)に産し、発生は5~8月の年1化としている。
両者の記述に大きな齟齬はないが、気になるのは標高についてである。低地でも得られているのだろうが、自分の採集地点や台湾名の深山環蛺蝶と云う名前からも、おそらく垂直分布は高地寄りだろう。

ネットの情報だと、常緑の広葉樹林の林縁および林冠で見られるという。
林冠で活動するとなれば、アサクラミスジよりも活動場所は高所なのかもしれない。日本のミスジチョウも梢上を好むので、同じような生態だと考えられなくもない。一方、コミスジなどはわりかし低い所を好むから、アサクラミスジはコミスジ寄りの生態なのやもしれぬ。同じば場所で、互いに空間を上下に棲み分けている可能性はある。
森林性が強く、湿地で吸水したり、動物の糞尿に集まる習性もあるようだ。

雌雄同形で、♀は♂よりも一回り大きく、翅形が丸みを帯びると考えられる。
アサクラミスジと同じく♂は前脚に毛が密生するが、♀には殆んど見られない。
コレは両種の裏面横からの画像でも確認できるので、ヒマな人は拡大してみて下され。両種とも♀だと解ります。

 
【幼虫の食餌植物】

台湾のサイト『DearLep 圖錄檢索』では、こうなってた。

寄主資訊
中名  學名
(未填寫) (未填寫)

未填寫というのは、未解明という意味だろう。つまり、食樹は未知だと云うことである。
しかし、ネットの『台湾生物多様性資訊入口網』には、幼虫はブナ科植物の葉を食べると書いてあった。だが、それ以上の詳しい記述は無く、具体的な植物名は挙げられていなかった。
ブナ科かぁ…。何かの間違いじゃないのか❓ミスジチョウとブナ科なんて全然イメージに無い。ブナ科を食ってるミスジチョウなんていたっけか❓

世界的にみると、Neptis属の食樹はマメ科やアサ科(旧ニレ科)のエノキ属、及びアオギリ科が多い。
ここは一度原点に帰って、改めて日本のNeptis属の食樹を確認しておこう。
『日本産蝶類標準図鑑』に拠れば、以下のようなものが食樹が挙げられている。

(コミスジ)
ハリエンジュ、フジ、ハギなど各種マメ科。稀にクロツバラ(クロウメモドキ科)、ケヤキ、ハルニレ、エノキ、ムクノキ(旧ニレ科)、アオギリ(アオギリ科)、タチアオイ(アオイ科)にも幼虫がつくことがある。

(リュウキュウエノキ)
コミスジと同じくマメ科全般を食う。奄美大島では旧ニレ科のクワノハエノキ(リュウキュウエノキ)からも幼虫が発見されている。

(フタスジチョウ)
ユキヤナギ、シモツケ、コデマリなどのバラ科。

(ホシミスジ)
フタスジチョウと同じくユキヤナギなどのバラ科。
シバザクラ(ハナシノブ科)でも幼虫が見つかっている。

(オオミスジ)
ウメ、アンズ、スモモ、モモ、エドヒガンザクラなどのバラ科。

(ミスジチョウ)
イロハモミジなどのカエデ科全般とカバノキ科のアカシデ、クマシデ、サワシバ。

ここで驚くべき記述にブチ当たった。
「ブナ科も食草となる記録もあり、クヌギで幼虫を発見し、飼育した結果、羽化したという報告、飼育中の幼虫3頭が横にあったナラガシワにうつり、ナラガシワを食べて蛹化、羽化したという報告があり、大きさは正常のものと違わなかったという。」

これは、エサキミスジの食樹がブナ科というのも有り得ると云う事だね。ブナ科だとすれば、はたして何だろう?
常緑のカシ類なのかな、それとも落葉性のコナラ類なのかなあ?上の例だと、おそらく落葉性のコナラ属かと思うが果たしてどうだろう?ブナ科とは全く別な意外なものが食樹になっている可能性もあるので、まあ予断はよしておこう。本当は他の科の植物がメインのホスト植物で、ブナ科はあくまでもサブ的な食餌植物というケースも無きにしもあらずだからだ。

ついでながら言っておくと、日本には他にもミスジと名のつくシロミスジというのが与那国島に土着している。しかし、これは似てはいるものの Neptis属ではなく、近縁関係のAthyma(ヤエヤマイチモンジ属)に含まれるので、除外した。食樹はトウダイグサ科のヒラミカンコノキ。

気になるので、台湾の他のNeptis属の食樹も可能な限り調べてみた。

(チョウセンミスジ)
カバノキ科 クマシデ属のCarpinus kawakamii。他にホソバシデ、シマシデなども食し、シデ類やハシバミ類を好むようだ。

(スズキミスジ)
アサ科エノキ属(ナンバンエノキ等)とマメ科(クズ等)が中心だが、シクシン科、アオイ科、イラクサ科の記録もある。

(タイワンミスジ)
主にマメ科と旧ニレ科(エノキ類)を食し、アオギリ科、イラクサ科、トウダイグサ科、シソ科など他の広葉樹も広く利用している。普通種たる所以だ。

こうして各ミスジチョウの食樹をみると、はたと思う。
食樹の嗜好傾向で、ある程度グループ分けが出来るのではないだろうか❓。
コミスジなどの小型種はマメ科と旧ニレ科のエノキ属を中心に幅広く色んな植物を利用している広食型で、これにはコミスジの他にリュウキュウミスジ、スズキミスジ、タイワンミスジなどが挙げられる。一方、ミスジチョウなどの中大型種は、マメ科、旧ニレ科とは別な科の植物を食樹としていて、決まった科以外の植物はあまり食べない狭食性のものが多いのではないだろうか。ミスジチョウ、オオミスジ、ホシミスジ、チョウセンミスジ、アサクラミスジなどが、このグループに含まれる。たぶん、同じNeptis属でも、両者は種群が違うのではなかろうかと推察する。

(ホリシャミスジ)
これも後者のグループに含まれるかと思う。
エサキミスジとは裏の地色が異なり、一見かなり違う印象をうける。しかし、よく見れば裏も表も斑紋パターンが似ていて、一番近い関係なような気もする。

 

 
(裏面)

 
コレだけではちょっと分かりにくいから、図鑑の両者が並んでいる画像を貼りつけよう。

 
(出典『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
上がホリシャで下がエサキである。 
こうして並んでいるのを見ると、両者の関係がかなり近いように見えてくる。

圖錄檢索に拠れば、ホリシャミスジの食餌植物に以下のようなものが挙げられていた。

樟樹 Cinnamomum camphora
クスノキ科 ニッケイ属 クスノキ

長葉木薑子 Litsea acuminata
クスノキ科 タブノキ属 ホソバタブ(アオガシ)

黃肉樹 Litsea hypophaea
クスノキ科 タブノキ属 タブノキ

假長葉楠 Machilus japonica japonica
クスノキ科 ハマビワ属 バリバリノキ

豬腳楠 Machilus thunbergii
クスノキ科 ハマビワ属 タイワンカゴノキ

臺灣雅楠 Phoebe formosana
クスノキ科 タイワンイヌグス属 タイワンイヌグス

 
何とクスノキ科を食っている❗変わり者だわさ。
コレには驚いた。クスノキを食ってるミスジチョウがいるだなんて、夢にも思わなかった。タテハチョウ科で、クスノキ食ってる奴なんて珍しいよね。そんな奴、いたっけ?クスノキといえば、食樹にしてるのは、アゲハ類くらいだろう。
でも、エサキミスジの食樹がクスノキ科とは思えない。もしそうだったとしたら、こんなに稀種なワケがなかろう。いや、待てよ。非常に特殊で稀なクスノキ科の植物だけを食べている可能性も捨てきれないよね。

まあいい。それよりも問題なのはミヤジマミスジだ。
『アジア産蝶類生活史図鑑』に拠れば、アサ科のTrema olientalis(ウラジロエノキ)だと判明している。しかし、DearLep 圖錄檢索だと、エサキミスジの項と同じように未填寫となっているのだ。つまり、エサキの食樹が未知かどうかも疑っておくべきだと云うことだ。
とは云うものの、エサキミスジの幼生期の画像は一切見つからない。一番近い関係なのではないかと推察するホリシャミスジの幼生期もナゼか一切見つからない。お手上げである。この辺が潮時だろう。
仕方がないので、参考としてアサクラミスジとミスジチョウの幼生期の画像を添付して終わりにしましょう。

 
【アサクラミスジ】

(出典『DearLep 圖錄檢索』)

 
【ミスジチョウ】

(出典 手代木 求『日本産蝶類幼虫・成虫図鑑 タテハチョウ科』)

 
遠く台湾の山河に思いを馳せる。
またいつかエサキミスジに会えるだろうか❓
脳裡に、高い梢の上を滑るようにして優雅に舞う姿が浮かんだ。その空は、どこまでも青かった。

 
                 おしまい

 
追伸
エサキミスジの採集記は別ブログにあります。

 
発作的台湾蝶紀行39『揚羽祭』

 
発作的台湾蝶紀行40『ダブルレインボー』

 
発作的台湾蝶紀行57『踊る台湾めし』

 
青文字をタップすれば記事に飛びます。
また、当ブログには、オスアカミスジの回にチラッと登場します。

 
台湾の蝶10『オスアカミスジ』

 
よろしければ、コチラも読んでくだされば幸いです。

 
(註1)江崎悌三博士
えさき・ていぞう(1899年生~1957没)
明治生まれの著名な昆虫学者。東京に生まれ育ち、1923年(大正12年)東京帝国大学理学部動物学科卒。同年九州帝国大学助教授に就任。1924年、研究のため渡欧し、1928年に帰国。1930年九州帝国大学教授となる。のちに九州大学農学部長、教養部長、日本学術会議会員、日本昆虫学会会長、日本鱗翅学会会長などを歴任した。水生半翅類(タガメ、ミズカマキリなどの類)の世界的権威で、国際昆虫学会議常任委員として国際的にも活躍した。昆虫全般、動物地理学、動物関係科学史にも造詣が深く、全国の昆虫研究者の尊敬と信頼を集め、また昆虫少年たちにも多大なる影響を与えた。水生半翅類の分類のほか、日本とその近隣のチョウ、ミクロネシアの動物相、ウンカの生態などの研究にも大きく貢献した。
昆虫の名前に博士の名を冠したものも多く、エサキミスジの他にもエサキオサムシ、エサキキチョウ、エサキモンキツノカメムシ、エサキタイコウチ、エサキキンヘリタマムシ等々多数の名前が残っている。
著書に「動物学名の構成法」「土壌昆虫の生態と防除」「太平洋諸島の作物害虫と駆除」などがある。
昆虫関連の共著・監修には以下のようなものがある。

・『日本昆蟲圖鑑』石井悌,内田清之助,川村多実二,木下周太,桑山覚,素木得一,湯浅啓温共編 北隆館 1932
・『原色日本昆虫図説』堀浩、安松京三共著 三省堂 1939
・『原色少年昆虫図鑑』河田党共著 北隆館 1953
・『原色昆虫図鑑 学生版 第2 甲虫・半翅類篇』素木得一,高島春雄共著 北隆館 1955
・『原色幼年昆虫図鑑』共監修 北隆館 1956
・『原色図鑑ライブラリー 第22 蝶』監修 北隆館 1956
・『天然色昆虫図鑑』監修 学習研究社 天然色生物図鑑シリーズ 1956
・『原色日本蛾類図鑑』一色周知、六浦晃、井上寛、岡垣弘、緒方正美、黒子浩共著 保育社の原色図鑑 1957-58

また、翻訳も手掛けてられている。

・ビー・ピー・ウヴァロフ『昆虫の栄養と新陳代謝』国際書院 1931
・ヘンリー・ジェームズ・ストヴィン・プライヤー『日本蝶類図譜』白水隆校訂 科学書院 1982

ほかに雑文や著作を纏めたものもある。

・『江崎悌三随筆集』江崎シャルロッテ編 北隆館
・『江崎悌三著作集』全3巻 思索社 1984

著作集は、日本の蝶の学名の命名に関して興味深い記事もあり、蝶屋必見のようだが、読んだことはないです。
また、随筆集を編んだのは妻であるシャルロッテ。
ドイツ留学中に恋に落ち、博士は365日間毎日欠かさずに彼女にラブレターを送ったという。夫人は日本で、ドイツとの文化交流にも尽力し、名を残しているので、興味がある方は調べてみてもよろしかろう。
因みに本文の最後のエサキミスジが飛ぶ一節には、この夫人のイメージも重なっている。夫や子供たちを空から見守る姿であったりとか、2頭が江崎夫婦のように仲睦まじく飛んでいる姿であったりとかがリンクして、頭の中にはあった。それを文章化する事も考えたが、そうなると1から文章を組み直さなければならないので断念した。もしも、そうなってたらタイトルも『華麗なる一族』とかになっていたかもしれない(笑)
余談はまだまだあって、博士の母方は江戸時代の蘭学者として有名な杉田玄白の家系にも繋がっている。また、息子は「よど号ハイジャク事件」の時のパイロットである。その他、親戚縁者には名前がある人が多いようだ。

 

台湾の蝶27『朝倉の君(きみ)』

 
   第27話『朝倉三筋』

  
アサクラミスジに会ったのは一回だけだ。

標高約1900m。尾根筋でホッポアゲハを待っていた時だった。
ホッポが全然飛んで来なくて、クソ暑いし、グッタリ気分で所在なげに座っていたら、低空飛行で右横からパタパタ飛びでやって来た。
ミスジチョウの仲間にしては何か変やなあと思いつつ、ぞんざいに網を振ったら、こんなんやった。

 
(2016.7.11 南投県仁愛郷)

 
東南アジアでは見たこともないミスジチョウだったので、驚いた。沈みがちの心に、💡ポッと灯りがともったような気がしたのを憶えている。

 
展翅すると、こんな感じ。

 

 
今思えば、上翅を上げ過ぎたかもしれないなあ…。
触角の角度と頭の位置、および上翅との距離を基準に展翅してるから、こないな風になったんだろね。お手本が少なくてイメージがインプットされてない蝶だと、ままそんな事もあるわな。

それにしても、コレって翅が丸くて♀っぽいけど、♀なのかなあ❓
この1頭しかないので、雌雄と裏面の画像をネットから引っ張ってこよう。

  
(出典『OXFORD ACADEMIC』)

 
上が♂で下が♀である。
(゜ロ゜)ありゃま、♂も翅が円いんでやんの。困りましたなあ。
しかし、あとで調べたらどうやら♀のようだ。♂は前脚に毛が密生しているが、♀は無毛らしい。冒頭の写真の前脚は無毛だから♀でいいかと思う。根元の基節が体毛に埋まってて微妙だけど、たぶん間違いなかろう。

それにしても、やはりこの裏面はミスジチョウ類としては独特のデザインで変わってる。色も薄い。この仲間は、だいたいが焦げ茶や濃い赤茶色なのだ。

 
【ミスジチョウ】

 
【タイワンミスジ?】

 
上は日本のミスジチョウ。下は台湾のもの。
タイワンミスジ?としたのは、台湾には似たようなミスジチョウの仲間が沢山いて、同定がややこしいのだ。
まあ、たぶんタイワンミスジであってるとは思うけど。

 
【学名】Neptis hesione podarces(Nire, 1920)

Nymphalidae タテハチョウ科 Neptis ミスジチョウ属に分類される。

属名 Neptis はラテン語の『孫娘、姪』のこと。
小種名の hesione はギリシア神話の女神ヘーシオネー(ヘシオネ)が由来だろう。
ヘシオネはトロイア(トロイ)王ラーオメドーン(ラオメドン)の娘で、ティートーノス、ラムポス、ヒケターオーン、クリュティオス、ポダルケース(プリアモス)、キラ、アステュオケーと兄弟である。サラミース島の王テラモーン(テラモン)との間にテウクロスを産んだ。

ちょっと引用が長いけど、亜種名とも繋がるのでもう少し補足説明しよう。

ヘシオネの父ラオメドンは、アポロンとポセイドンを雇ってトロイアに城壁を築いたが報酬を支払わなかった。このためトロイアは神の怒りに触れ、ポセイドンは海の怪物を送り込んでトロイア人を襲せた。ラオメドンは災厄から逃れるため神託に従ってヘシオネを怪物に捧げた。そのときヘラクレスがやって来て、怪物を倒し、ヘシオネを救い出した。しかしラオメドンはヘラクレスにも報酬を払おうとしなかった。ヘラクレースは復讐を誓ってトロイアを去っていった。
後にヘラクレスはトロイアを征服し、ヘシオネはラオメドンや他の兄弟と共に捕らわれた。ヘシオネはヘラクレスに助けてほしい者を1人選べと言われ、ポダルケスを選んだ。さらに何か代償を払えと言われたので、頭からヴェールをとって代償とし、ポダルケスを自由の身にした。ラオメドンと他の兄弟たちは殺され、ヘシオネはテラモンに与えられて、その妻となる。またポダルケースはこれにちなんでプリアモスと呼ばれるようになった

亜種名 podarces は、おそらくギリシア神話のポダルケスに因んだものだろう。ポダルケースとも言い、イピクロス(ラオメドン)の子で、トロイア王プリアモス(註1)の本名でもある。
姉はヘシオネだから、何と学名に姉と弟の名前が並んでいるのだね。ちょっと微笑ましい。

この蝶は、仁礼景雄氏(1920)が1918年6月に埔里で得られた1♂をもとに、亜種として記載されたものである。
同年7月に花蓮港(花蓮県の昔の呼び名)で得られた1♀によって松村博士の記載した Neptis karenkonis は、タッチの差でシノニム(同物異名)になっている。アサクラミスジの別名カレンコウミスジは、おそらくその辺からの由来だろう。

原名亜種 Neptis hesione hesione(Leech,1890)は、「原色台湾蝶類大図鑑」によれば中国西部にいて、翅表の白帯が濃黄色を呈する。

 

(出典『jpmoth.org 』)

 
へぇ~、キミスジみたくなるんだ。面白い。
Neptisには斑紋が黄色い系統がいるのは知ってるけど、白い系統と黄色い系統はそれぞれ別な系統だと勝手に思ってた。ところがどっこい、一つの種に黄色いのも白いのも内包されてるんだね。
とゆうことは、環境、その他の要因に拠って、そもそも白にも黄色にもなり得る遺伝子みたいなものが本属の中にはあるって事なのかな?

上に示した画像の個体は、四川省で採られたもののようだ。
たぶん四川省と台湾の間には、濃い黄色と白い斑紋との中間的なクリーム色のものがいそうだ。或いは、黄色いのと白いのが両方混在する移行地帯みたいな所があるかもしれない。

杉坂美典さんのブログ『台湾の蝶』によれば、中国の南西部・南部・東部に分布しており、西蔵自治區、雲南省、四川省、湖北省、広西自治區、湖南省、広東省、浙江省、福建省に記録があるそうだ。
「原色台湾蝶類大図鑑」の時代と比べて、分布地が随分と増えている。これはその後に分布調査が進んだと云う事なんだろね。
一応、杉坂さんのサイトの分布図をお借りして貼付しておきましょう。

  
(出典 杉坂美典『台湾の蝶』)

  
この分布図ならば、ラオス北部なんかに居てもおかしかない。もしかして、コレって採った事あるのでは?
と一瞬思ったが、この特徴的な裏面からそれは無いなと直ぐに考え直した。採ってれば、この特徴的な裏面ならば憶えてる筈だもん。

 
【台湾名】蓮花環蛺蝶

花蓮じゃなくて、蓮花?
なぜ前後がひっくり返っているのかワカンねえや。
蛺蝶はタテハチョウのことだから、環はおそらくミスジチョウ属(Neptis)の模様を指しているのだろう。

別名に花蓮三線蝶、朝倉三線蝶、齒紋環蛺蝶などがある。
三線は表翅の三本の線を表し、朝倉は和名に因んだものだと推察される。
齒紋は中国の字体だけど、ようするに歯みたいな紋だと言いたいのだろう。きっと後翅裏面の鋸歯状の紋のことだね。

 
【英名】

特に無し。
英名のある蝶はヨーロッパやアメリカなどの欧米のものには当然ついているとしても、他は限られてくると云うのが現状だ。欧米以外では、インドなど欧米に植民地支配されていた地域には英名がついているものがそこそこある。あとは特別に美しいとか、非常に個性的な蝶には英名がついている場合がある。
例えば日本のオオムラサキには、「The Great Puple Emperor」という英名がついている。
一応、Neptis(ミスジチョウ)属は「Glider(滑空するもの)」と呼ばれているようだ。
例を挙げると、コミスジには「Comon Glider」という英名がある。Comonは「普通の」とか、「民衆の」とかだね。Gliderは、おそらくその飛び方に対しての命名だろう。ミスジチョウは余り羽ばたかずに、スウーッ、スウーッと滑るように飛ぶからだろう。

と云うワケで、勝手に独断と偏見でアサクラミスジにも英名をつけてしまおう。

取り敢えず『Muse Glider』なんてのはどうだろうかしら❓「女神」由来でつけてみた。
悪かないけど、自分的には今一つシックリこない。

ならば、『Princess Glider』。
なんて、ヽ(・∀・)ノでや❓
プリンセスはお姫様とか王女と云う意味だから、トロイの王女には相応しい。それにアサクラミスジはミスジチョウとしては小さい。姫と云うイメージにも合致する。しかも稀種なれば、異論はそうはなかろう。

蛇足だと思うけど、台湾亜種にも英名をつけちゃおう。
『Last Troy King』。
トロイの最後の王だからなんだけど、捻り一切無しだな。他に良いのが浮かばないし、暫定ということで、次へ進みましょう。

 
【生態】
開長45~52㎜。♀は、若干翅形が丸くなり、♂は前脚に長毛が密生し、♀は無毛なので区別できる。
台湾では、北部から中部の低山地から高地(300m~2500m)にまで見られるが、その分布は局所的。
『原色台湾蝶類大図鑑』によれば「個体数は極めて少ないものと思われる。」とある。
同図鑑によれば、発生期は年一化。成虫は6~9月に発生するとされている。一方、杉坂さんのブログには、成虫は3月下旬~9月上旬に現れ、羽化期にかなりのズレがあって長期にわたって見られることから、発生回数が複数である可能性もあると云う見解を述べておられる。

成虫は各種の花を訪れ、獣糞にも集まる。♂は吸水にも訪れるようだ。
一度しか採った事はないが、おそらく基本的な飛び方は他のミスジチョウ類と同じで、そう速くはないだろう。飛ぶ高さも概ね低いと思われる。

 
【食餌植物】

2016年に、以下の論文で台湾産のアサクラミスジの生活史が明らかになったようだ。

Huang, C. L. & Hsu, Y. F., Immature Biology of Nep-
tis hesione podarces(Lepidoptera: Nymphalidae)
in Taiwan, With Discussion on Its Frass Chain
Function. Annal. Entomol. Soc. America. 109(3):357
-365<D>

表題訳は「台湾産アサクラミスジの生活史」。
これにより、本種の食餌植物がクワ科イタビカズラであることが正式に発表された。

ネットで調べたら、Ficus sarmanetosaと出てきたから、それで再度検索しなおしたら、ネパール原産の食用イチジクが出てきた。食用イチジク❓
んなもん、台湾にだってあるだろう。なのに何でアサクラミスジは稀種なんだ❓ワケワカンねえなあと思って、今度はイタビカズラで検索したら漸くらしきものが出てきた。

見ると、実が小さい。ようするに、食用イチジクと聞いて日本の食用イチジクを想像してたワケである。
その後、ちゃんとした食樹名もわかった。

珍珠蓮 Ficus sarmentosa nipponica

 

(上3点とも出典『松江の花図鑑』)

 
日本のものと同じ学名だから、同種みたいだ。
このイタビカズラは新潟・福島から沖縄まで分布する。蔓(つる)性植物ゆえに最近は壁面緑化にも使われているようだから(註2)、誰かが放蝶すれば日本でも定着するかもしれない。誰ぞか、そゆ事しないかなあ(笑)
でも滅多に採れない蝶だし、ましてや♀を捕まえるのは至難だろう。それを生かして日本まで持って帰り、さらに卵を産ませて飼育して、数をある程度累代で増やしてからでないと放蝶はできないだろう。
ハードル高いから、無理っぽいネ。

Neptis属の食餌植物は、マメ科とアサ科(旧ニレ科)のエノキ類が多い。他にアオギリ科をホストとするものもいる。しかし、知る限りではクワ科の植物を食うものはクロミスジ(Neptis harita)くらいしか知らない(註3)。ミスジチョウの仲間としては珍しいクワ科の植物を食樹とする事が、幼生期の解明が遅れた原因の一つともいえるだろう。

 
【幼生期】

最近になって幼生期が判明したので、いつも御世話になっている『アジア産蝶類生活史図鑑』にも、もちろん載っていない。
しかし、探したら台湾のサイトに画像があった。

卵はこんなのです↙。

 
(出典『圖錄檢索』)

 
ちょっとイナズマチョウの卵に似てるけど、典型的なミスジチョウ属の卵である。
デザイン性があって、中々キレイな卵だ。蝶の卵って色んな柄や色と形があって、アートだと思う。

 
幼虫はこんなの↙。

  
(出典『圖錄檢索』)

  
たぶん終齢幼虫だろう。
(^_^;)グロいなあ…。怪獣みたいやんけ。
左が尻で、右が顔みたいだね。
顔だけ白いって、何なん❓

とはいえ、基本的な形態はミスジチョウ属の幼虫だ。
ホシミスジの幼虫に少し似ているかもしれない。近縁と思われるエサキミスジやイケダミスジの幼虫画像は見つけられなかった。参考までにミスジチョウの幼生期を紹介しておこう。

 

(出典 手代木 求『日本産蝶類幼虫・成虫図鑑 タテハチョウ科』)

 
この属独特の顔が笑える。なんちゃってバットマンというか、キャットウーマンというか、はたまたなんちゃってクリオネというか、顔にしまりがなくてダサい。まあ、愛嬌はあるけどね。

残念ながら、なぜか蛹の写真は無かった。
でも幼虫の形態からして、おそらく近似種とそう変わらないと推察する。仕方がないので、ミスジチョウとホシミスジの蛹の画像を貼付しておきましょう。

 

 
(出典 手代木 求『日本産幼虫・成虫図鑑 タテハチョウ科』)

 
上がミスジチョウで、下がホシミスジです。
色も形も少し違うが、基本的には同じような見てくれだ。
だが、アサクラミスジの方が幼虫にワサワサした突起物が多いから、もしかしたら蛹にも何らかの突起物がある異形の者かもしれない。
稀種は稀種ゆえに幼生期も特別なもので、他のモノとは一線を画す個性的な姿であってほしいよね。

 
 
       君が飛ぶ
       日長くなりぬ
       山たづね
       迎えへか行かむ
       朝倉の君(きみ)

 
アサクラミスジとも随分と会っていない。
2016年の夏だから、もう二年以上も経っている。
それも、たった一度きりの逢瀬だった。
今度はいつ逢えるのでしょうか、朝倉の君よ。

 
                  おしまい

  
追伸
今回は、前回のアサクラコムラサキに引き続いてのアサクラ並びで、稀種並びでもある。
当初は残り3つのコムラサキ亜科のどれかを書く予定だったのだが飽きた。本当は読み手のことを考えて、同じ系統のものは纏めて書くべきなのだろうが、このペースだとタテハチョウ科から抜け出すのだって膨大な時間を要するのは明らかだ。と云うワケで、これからも書きたい蝶のことをアトランダムに好きに書いてゆくつもりであります。

アサクラミスジについては、採集記が別ブログにあります。

 
発作的台湾蝶紀行32『(-“”-;)ヤッチマッタナ!』

 
また、本ブログ内に関連記事あり。

 
台湾の蝶10 オスアカミスジ

 
よろしければ、併せて読んでくだされ。

 
最後の創作和歌については、註釈の(4)としてに末尾に解説しておきます。

(註1)プリアモス
ギリシア神話におけるトロイの最後の王。ラオメドン(イピクロス)の息子。トロイがヘラクレスに攻略された時に父王らは殺されたが,彼は幼かった為に命拾いをし,のちに王位を継承した。最初,アリスベを妻としたが,その後ヘカベを妃に迎え,彼女との間にヘクトル,パリス,ポリュドロス,クレウサ,ポリュクセネ,カッサンドラらの子をもうけた。トロイ戦争ではヘクトルをはじめ息子たちの戦死にあい,自らは落城の際,アキレウスの息子ネオプトレモスに殺され,妻や娘たちは捕虜としてギリシア方に連れ去られた。

  
(註2)最近は壁面緑化にも使われている
イタビカズラも使われるが、より葉の大きいオオイタビカズラの方がよく使われるらしい。
オオイタビ(Ficus pumila)はクワ科イチジク属の常緑つる性木本。東アジア南部に分布し、日本では関東南部以西、特に海岸近くの暖地に自生し、栽培もされる。茎から出る気根で固着しながら木や岩に這い登る。オオイタビの名は、イタビカズラに似て大型であることによる。台湾に生育する変種のアイギョクシ(F.pumila var.awkeotsang)は果実を食用に用いる。愛玉子と書き、その果実から作られるゼリーのデザートをオーギョーチ(台湾語のò-giô-chíから)という。
 
(註3)クワ科を食うものはクロミスジしか知らない
「アジア産蝶類生活史図鑑」に拠れば、食餌植物はクワ科の植物であろうと云う推論の域でしかない。マレー半島で幼生期が解明されたのだが、植同定が極めて難しい植物らしい。と云うことはクワ科だとしても、イチジク属ではない可能性が高いのではなかろうか。

(註4)創作和歌について
万葉集の歌のパクリです。
原典は磐之媛命(磐姫皇后)が仁徳天皇に宛てて詠んだもので、『君が行き 日長くなりぬ 山たづね 迎へかん 待ちにか待たむ』です。
訳すと「あなたと離れてからずいぶん長い月日が経ってしまった。あの山道をたずねて迎えに行こうかな。やっぱり待っていようかな」といった意味です。
これは謂わば嫉妬の歌で、妾宅に行ったまま戻って来ない天皇に対するサヤ当ての歌でもあるようだ。
因みに文中の和歌はアサクラミスジを男性ではなく、女性に見立てておりまする。

余談だが、飛鳥時代の豪族に朝倉の君と云う人がいて、光徳天皇に可愛がられたそうだ。
正確な名は不明で「日本書紀」によれば、東国国司の長官 紀麻利耆拕(きの・まりきた)らに勝手に馬の品定めをされたり、弓や布を取り上げられるなどのイジメをうけていた。彼らは罪に問われたが、結局恩赦をうけて罰せられなかったようだ。何か現代社会でもありそうな話で、可哀想だぜ、朝倉の君。
でもイジメたくなるような人だったのかもしれんね。

そういえば、朝倉といえば戦国大名の朝倉義景を頭に浮かばれた方もいると思うが、今回の朝倉の君のモチーフにはなっておりませぬ。あんなダメ大名は無視なのじゃ。

 

台湾の蝶26『突然、炎のごとく』

 
  第26話『朝倉小紫』

 
アサクラコムラサキに初めて会った時は、何者だかワカンねぇけど、( ☆∀☆)超カッケーと思った。
今回のヘッドタイトルもそこから来ている。
その時の事は3年前にアメブロに書いたので(註1)、そちらを是非読んで戴きたい。当時の驚きと感動っぷりは充分伝わるかと思う。

 
【Helcyra plesseni アサクラコムラサキ♂】
(2016.7.9 南投県仁愛郷)

 
青みを帯びたグレーの地に鮮やかなオレンジ紋が並び、とても美しい。もう蝶界の浅倉南ちゃん(註2)なのである。表側ではなくて裏面から先の御披露目なのは、この美しさたる所以(ゆえん)だ。
地面に吸水に来ていたのだが、見た瞬間のその衝撃度たるや、かなりのものだった。腰が抜けそうとはこう云う時の事を言うんだろう。二度見したもん。

それに比して、表側はあまりに地味。
裏側の美しさに驚き、予想外の表側の地味さに驚くという連続技のダブルびっくりだったのをよく憶えている。

 

 
展翅写真も添付しておこう。

 

 
採った時は完品だと思ったが、残念ながら下翅が少し欠けている。(ToT)うるるー、これ1頭しか採れてないし、ガックシだよ。

 
♀は採れていないので、画像を他から借りよう。

 
(出典『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
下が♀である。
♂と♀の色彩斑紋は殆んど同じだが、♀は♂と比べてやや大型になり、翅形は丸みを帯びて幅広くなる。また翅表の白帯及び白斑が、より広く大きくなる。裏面の亜外縁細黒条も強くなるようだ。

因みに台湾には近縁のシロタテハもいる。

 
【シロタテハ Helcyra superba 】
(出典『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
シロタテハと比較すると、アサクラコムラサキは裏面に輪郭のはっきりした白帯があり、これに沿う橙色と黒色の配列は全Helcyra属の中で最も発達するというのがよく解る。アサクラコムラサキは、シロタテハ属の中では特異な存在なのだ。

 
【学名】Helcyra plesseni (Fruhstorfer,1913)

Nymphalidae タテハチョウ科 Apaturrinae コムラサキ亜科 Helcyra シロタテハ属に分類される。

シロタテハ属はインドからパプアニューギニアまで見られ、コムラサキ亜科の中では最も広大な分布域をもつ属である。だが稀種ぞろいで生息地は局所的。どの種も数が少なく、ルソン島(フィリピン)とボルネオ島(マレーシア)からは、それぞれ1頭のみの記録しかない(註3)。

平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』によれば、属名 Helcyra(ヘルキュラ)は、ギリシア語のhelko(引く、引っ張る)+oura(尾)からきているという。
これは Felder(1860)の創作で、造語上はHelcuraが正しいが、爬虫類のHelcuraが既に存在するので「u」を「y」と綴ったものと平嶋氏は推定されておられる。
語源はピンとこないが、ヘルキュラという響きは何となくカッコイイ。プリキュアに対抗するライバル軍団の名前みたいやね。

小種名の plesseni(プレッゼンアイ)は、ドイツ人であるBaron von Plessen氏に因む。
ふ~ん、プレッゼンアイって読むんだね。ラテン語とはいえ、そんな読み方をするとは思いもよらなかったよ。滑舌の悪い人なら舌を噛みそうな名前だ。

増井さん&猪又さんコンビの論文(註4)によると、本種は長くApatura属(コムラサキ属)に入れられていたようで、以前はApatura plesseni、或いはApatura asakuraiの学名で知られていた。これを♂交尾器の形態に基づいてシロタテハの仲間(Helcyra属)だと最初に指摘したのは柴谷篤弘博士(1943)だそうである。

和名のアサクラコムラサキは、戦前の台湾・埔里に在住していた標本商、朝倉喜代松氏に因んでいる。
原色台湾蝶類大図鑑には「アサクラ」という和名がつけられた蝶は他に6種類あり(註5)、これらは全て同氏に由来する。
最初、Fruhstorfer(Seitz Vol.9,1913)はミュンヘン在住のBaron von Plessen氏の蒐集品中に発見した1♂に基づいてこれをApatura属の新種として記載したが、その産地は”台湾”とのみ記され、他の詳しい記述は無いようだ。
その後、これに遅れること1917年に仁礼景雄氏により埔里付近のターケイ山で採集された個体に基づいて新種 Apatura asakurai として記載された。だが、これはシノニム(同物異名)になっていて、現在は使用されていない。

軽い気持ちで、一応台湾の対岸に似たようなものがいないかどうか調べてみた。
したら、驚いた事にコレが何といるんである。今回は台湾特産種だし、書くのはそれほど面倒ではなかろうと安心していたのに、いきなり崖から突き落とされたような気分である。またしても迷宮世界に徨(さまよ)うことになりそうだ。毎度毎度の展開でゲンナリだよ( ´△`)

 
中国に産するものはコレです。

 
(出典『old.hkls.org』)

 
広東省の南嶺国有森林保護区で撮られたもののようである。

 
(出典『www.jxjis.com.keji_show』)

(出典『ebay』)

 
こんなのアサクラコムラサキやんけー(*`Д´)ノ❗❗
同種の亜種関係にしか見えへんわ。
学名を見ると、Helcyra subalba subsplendes となっていた。どうやらHelcyra subalbaという種の亜種のようだ。

一応、表側の画像を探そう。
見落としていたが、2枚目の写真と同じサイトに画像があった。

 
(出典『www.jxjis.com.keji_show』)

 
アサクラコムラサキと比べて白色の斑紋や帯が減退している。
これは中国の九连山保护区という所のもので、江西省にある原始林のようだ。台湾の対岸の省ではないが、その奥にある省だから、そう遠くはない。
この亜種は原名亜種ssp.subalba subalba よりも白紋がやや発達し、アサクラコムラサキとの中間的な特徴を示すようだ。しかし、この個体は表翅の斑紋の発達が悪い。でも他にダウンロードできるような画像が見当たらない。拠って、中間的なフォームである山東省の個体のリンク先を貼っておきます。

  
山东省科技厅

 
山東省は沿岸部の省ではあるが、だいぶ北に位置している。ということは、subsplendesの分布域はかなり広いという事になる。
えっ、そんなに広いの?俄(にわか)には信じがたい。

 
原名亜種の方も確認してみよう。

 

(2点とも出典『old.hkls.org』)

 
(出典『picclick.com』)

 
(♂)

(同♀)

(以上4点とも出典『jpmoth.org 』)

 
上2つの画像が♂の表と裏で、下が♀である。
表も裏も斑紋が消失しかかっている。

北ベトナム産の標本写真も見つけた。

 

(以上2点とも出典『yutaka.it_n.jp』)

 
微かに帯の痕跡があるが、コチラも斑紋が減退している。

そういえばコイツらって、見憶えがあるような気がするぞ。もしかしたら…と思い「アジア産蝶類生活史図鑑」を開いてみた。

 

(以上2点とも出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
やっぱりコヤツだ。
ウラギンコムラサキという和名がついている。
この画像だけだと、まさかアサクラコムラサキに近い種だとは思わないわな。もちろんシロタテハ属だとも思ってなかった。見開きで並んでいるのにも拘わらず、どうせマレーコムラサキとかに近い奴なんだろうと漠然と思っていたのだ。だって地味なんだも~ん(# ̄З ̄)
アサクラコムラサキの斑紋が消失したのがウラギンコムラサキだと言われれば、納得だわさ。まだまだ修行が足りませぬな。

和名ウラギンコムラサキで検索しても、殆んどヒットしない。出てくるのはアンビカコムラサキばかりだ。これはきっと他にも和名があるに違いない。
こんな時は、コムラサキの権威である増井さんに頼るしかあるまい。
前述した増井さんと猪又さんコンビの論文を読み進めると、色んな事が解ってきた。

先ずは和名だが、他にもこんなものがあった。

・ウラギンクロコムラサキ(村山, 1979)
・ウラシロタテハ(森下,1985)
・ウラギンシロタテハ(小岩屋,1989)
・テツイロコムラサキ(青山,1992)

やっぱ沢山あるわ。ややこしいねー。
(# ̄З ̄)ったく、何で外国の蝶ってこんなにも和名があるんだよ❓蝶屋って自己顕示欲の塊だな。皆が納得いくような和名が無いのならば、いっそ無理矢理につけないで学名を頭につけといた方が余程混乱が少ないと思うよ。
と云うワケで、以後の文章で和名を使用する場合は、混乱を避けるために学名からとったスバルバシロタテハに統一しようと思う。

スバルバシロタテハはアサクラコムラサキよりやや大型で、中国大陸の稀種だそうである。やはりシロタテハ軍団は稀種揃いなんだね。
増井さんたちはアサクラコムラサキの代置種と考えておられるようだ。なるほど、そういう事なら理解できなくもない。

亜種には以下のようなものがある

 
◆原名亜種 ssp.subalba (Poujade ,1885)

◆ssp.subsplendes (Mell ,1923)

 
(о´∀`о)助かったあ。亜種区分は2種類だけだ。沢山の亜種があると、ややこしい話が益々ややこしくなる。カラスアゲハの時みたく脳味噌崩壊するのは、もう御免だ。

論を進める前に、少し遠回りだが増井さん&猪又さんの論文の冒頭部分に触れよう。

「シロタテハグループのうち、アサクラコムラサキ種群は黒い祖先型のシロタテハから進化の過程でイチモンジチョウグループに収斂していったものと見なすことができよう。」

なるほど、そう言われてみれば、そんな気もする。
つまり、シロタテハの祖先の表翅は元々黒っぽくて、そこから表が白く進化したグループと斑紋や帯が発達してイチモンジチョウタイプに進化したグループとに分かれたのではないかと推察しているワケだね。

一応、参考までに別族(Limenitidini族)であるイチモンジチョウの画像を添付しておきましょう。

 
【イチモンジチョウ Ladooga camilla】
(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
確かにパッと見はアサクラコムラサキに似ている。
でも、どうしてこの紋様に収斂されていくんだろう?
似ることによって、何かメリットでもあるのかな?
似たような模様で毒のある蝶とか蛾とかも浮かばないし、全然ワカンナイや。
まあ全然ワカンナイなら、この問題は寧(むし)ろスルーできる。前回のヒョウマダラみたいに擬態地獄に落ちないだけでも、まだマシかもしんない。

 
そして、お次は祖先型?的なシロタテハ。
先月、アサクラコムラサキの事など全く意識せず、黒いシロタテハの三角紙標本を買った。500円と安かったし、そういう出物は滅多に出ないのではと思い、一応買っといたのである。

 
【セレベスシロタテハ ペレン島亜種】

 
黒いけど、完全な黒ではなくて、うっすら白っぽい部分がある。白いシロタテハの斑紋が透けて見えるような感じだ。コレってさあ…、果たして元々黒いものが白っぽくなったものなのか、それとも元々白いものが黒っぽくなったのか判断に苦しむところだよね。
とはいえ、白いシロタテハの斑紋が透けて見えるってことは、白から黒へと変貌していったと云う説明の方が素直に受け容れやすい。その逆に進化するのは難しいような気がする。白い蝶が黒くなる黒化型と黒い蝶が白くなる白化型だと、蝶の場合は前者の例の方が遥かに多いような気がするんだけど、どうだろう❓
けれど、タテハチョウって黒を基調にしているものが多いんだよなあ。白いタテハは、ごく少数だ。シロタテハ類とシンジュタテハくらいしか思い浮かばない。あとは広義のタテハチョウ科にまで広げれば、モルフォチョウ亜科のシロモルフォ(カテナリウスモルフォ)くらいか。いや、そういえばホウセキフタオなどのPolyura属なんかも白いのがいるか…。
何れにせよ、白を基調としたタテハチョウは少ない。ということは、シロタテハは元は黒で、進化の過程で白になったと考えるのが自然でもある。
えーい(ノ-_-)ノ~┻━┻、白➡黒なのか、黒➡白なのかどっちなんだ❓もう、白黒つきまへんわ。
(/´△`\)オデ、アタマ悪いから、だいぶ脳味噌の温度が沸々と上がってきたよ。

 
(セレベスシロタテハ 裏面)

 
セレベスシロタテハ(セレベンシスシロタテハ)は、裏の帯がそこそこ発達しているんだね。
話は逸れるが、こうしてシロタテハの仲間を並べてみると、この属はみんな触角の先が独特の形に膨らむのが特徴なんだという事がよく解る。

一応、塚田図鑑の図版も添付しておこう。

 

(以上4点とも出典 塚田悦造『東南アジア島嶼の蝶』)

 
学名は、Helcyra celebensis faboulose。
インドネシア北東部バンガイ諸島のペレン島に生息する。この島の蝶は特異なものが多いことで有名だ。それらのどれもが祖先種的な形質を具えているのかどうかは、浅薄な知識しかないので知らない。
スラウェシ(セレベス)島のものが原名亜種となるが、コチラは白いシロタテハだ。

 
【原名亜種 Helcyra celebensis celebensis】

(出典『東南アジア島嶼の蝶』)

 
北部のミナハサ半島のものが原名亜種celebensisとされ、他の大部分は australis と云うまた別亜種に分けられている(図版2枚目、3枚目の右個体)。
ネットで検索しても、このスラウェシ島の白いシロタテハのカラー写真が全く出てこない。きっと、かなりの珍品なのだろう。珍品の蝶を数多く載せた塚田さんの図鑑はやっぱスゴいや。

ついでだから塚田図鑑の分布図を添付しよう。

 

 
ペレン島は意外とスラウェシ島から近いね。
しかし、行ったことあるけどスラウェシは馬鹿デカイ。淡路島とは大きさのレベルが違う。地図の見た目以上に互いの距離はあるだろう。

話は元に戻るが、この表翅の黒いイチモンジチョウ型のシロタテハとして最初に記載されたのが、スバルバシロタテハらしい。
基産地は四川省峨眉山産。その後、江西省、湖北省、浙江省、河南省などが産地として追加された。増井さんたちは福建省産のラベルのついた標本を見る機会があり、これが「ウラシロ型」斑紋にならない「アサクラ型」の別亜種ssp.subsplendesだったと述べている。
因みに広東省西部のチョウを扱った伍(1988)の図鑑には、本亜種subsplendesも原名亜種subalbaも含まれていないという。文献が古いと、まだ詳細な分布がわかっていないので、混乱を助長するなあ…。

さて、ここからが本題である。
改めてアサクラコムラサキにソックリなスバルバシロタテハの亜種 subsplendesについて述べよう。
増井さんたちの論文には次のように書かれている。

「亜種 subsplendesは、最初にMell(1923)により
Apatura属の新種として記載されたものである。この記載文中で、Mellはplesseni(アサクラコムラサキ)との比較検討を行っている。その詳細についてはここでは述べないが、重要な事実は、翅表がsubalba型(白帯の発達の悪いイチモンジ型)、裏面が台湾のPlesseni型(橙色の及び黒色紋が前後翅ともに発達)といった中間的な個体群が台湾の対岸の広東省北部に分布するということである。」

つまり、表はスバルバに見えて、裏はアサクラコムラサキにソックリってことだ。
それが最初の方に ssp.subsplendesとして紹介した江西省 九连山保护区の個体みたいな奴ってことか。

 
更に調べていくなかで重大なことに気づく。subsplendesの1枚目の生態写真とsubalbaの1枚目と2枚目の生態写真も、場所は同じ広東省の南嶺国有森林保護区で撮られたもののようなのである。
( ・◇・)どゆこと❓
同じ地域にスバルバシロタテハ的なものとアサクラコムラサキ的なものが混棲してるってこと❓
アタマ、ワいてきた。コイツらって、何なんだ❓
亜種として分類できなくなるじゃないか。

頭を整理するために、中国の省の地図を見てみよう。

 
(出典『吉林野日記』)

 
これに「アジア産蝶類生活史図鑑」にあった分布図を重ねてみよう。

 
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
山東省などが産地として漏れててピッタリではないが、記録のある産地と分布図は大体あっている。

\(◎o◎)/あれれー❗❓
分布図に台湾が入っとるやないけー❗❗
そっかあ…、それで思い出したよ。この分布図を見て、ウラギンコムラサキ(スバルバシロタテハ)も台湾にいるんだと思って必死で探したんだよね。
もちろん見つかる筈もなく、その時は単なる誤植だと片付けたんである。当時は全くアサクラコムラサキとは繋げて考えられなかったワケだね。
もしかして、この分布図は誤植ではなくて、五十嵐邁さんと福田晴夫さんは両者の幼生期を見て、スバルバシロタテハとアサクラコムラサキは同種だと考えていたのかもしれない。
とはいえ、本文には何らその点については言及されていないし、アサクラコムラサキの分布図は台湾のみになっている。こっちの勝手な妄想で、やっぱり単なる間違いだったのかもしれない。またアタマがワいてきそうなんで、そういう事にしておこう。

アサクラコムラサキって、本当に独立種なのかなあ…。見てくれは ssp.subsplendes とよく似てはいても、交尾器に明確な差異があったりするって事なのかな?

増井さん&猪又さんコンビの論文には、まだ続きがある。中間的な個体群が台湾の対岸にいるという文章の後だ。

「改めて我々は種 subalbaとplesseniが、それぞれ大陸と台湾の代置関係にあるという見方を確信すると共に現段階では、subsplendesはsubalbaの地方変異として亜種扱いにしておくのが妥当であると判断する。今後、大陸と台湾で代置関係にある他のグループについても、中間的な変異個体群が広東省から発見される可能性がありそうである。この地域の調査の進展を強く希望するものである。」

説明を聞いても、今やなぜ亜種扱いが妥当なのか今一つ納得できない。

ところで、両者の遺伝子解析は、もう済んでいるんだろうか❓
済んでいるならば、subsplendesとplesseniは、おそらく同種と云う結果になっているのではないかと思う。下手したら、subalbaだって同種になっているかもしれない。しかし、探した範囲では何処にもそういう事は書かれていない。相変わらずアサクラコムラサキは台湾特産種のままだ。
と云うことは、やはり plesseniとsubsplendes は別種だと云う結果が出てるのかな?
アサクラコムラサキは台湾の特産種であってほしいけど、何れにせよ唯一無二のものとは言いにくいよね。
何だか、ちょっぴりガッカリだよ。

色々調べるうちに、また新たなものが出てきた。

 
【亜種 ssp.takamukui】
(出典『Wikiwand』)

 
コヤツには上のような別な亜種名がついていた。
(# ̄З ̄)ったくよー、迷宮スパイラルだ。
おや、変だな?
( ̄∇ ̄*)ゞ何だよー、よく見ればコレってスバルバじゃなくてシロタテハ(Helcyra superba)だわさ。
superbaとsubalbaの綴りが似ているので、見間違えた。
労多くして益少ないネットサーフィンをしてて、相当疲れてたんだろうなあ…。

それはそうと、このシロタテハグループの起源は何処なのだろう❓何処で誕生し、どう分布を拡大して、各種に分化していったのだろうか❓
これも遺伝子解析が済んでいれば明らかになっている筈だが、情報が無いので自分で推察してみよう。
グループ全体の分布を見ると、ヒマラヤを西端に、東はインドシナ半島から中国を経由して台湾に至り、南はマレー半島を経由して東南アジア島嶼を経てパプアニューギニアにまで至っている。この分布形体は、以前紹介したキゴマダラのグループ(Sephisa属)の分布を更に拡大したものとは考えられまいか?ならば、キゴマダラ属と同じくシロタテハの祖先種は、おそらくヒマラヤ圏で誕生し(註6)、東方や南方に分布を拡大し、その過程で幾つかの別種に進化していったのだろう。そして、中国では白いシロタテハのグループ(superba種群)から黒いシロタテハのグループ(subalba種群)が分化し、台湾で更にアサクラコムラサキへと進化したのではないだろうか❓

だとしたら、セレベスシロタテハの黒いペレン島亜種はどう説明する❓
( ̄∇ ̄*)ゞアレはですねー、先祖帰りです❗
離れた島に長きにわたり隔離されたことによって、祖先種に戻っちまったんであ~る。
なあ~んか説明に矛盾を含んでいないでもないよな気がするが、もう知らん。アタマがグチャグチャになってきてるんである。

 
【台湾名】普氏白蛺蝶

普氏って誰だ❓朝倉さんではないの❓
本当はこの普さんが発見したとか❓
調べてもよくワカンナイ。
参考までに言っとくと、普という字には「全て」とか「全能」と云う意味もあるようだ。

その他に次のような別称がある。
臺灣白蛺蝶、國姓小紫蛺蝶、寬信紫蛺蝶、北山小紫蛺蝶、朴銀白蛺蝶。

コレも難題だな。
とりあえず臺灣白蛺蝶はまだ解りやすい。臺灣は台湾のことで、蛺蝶はタテハチョウのことだから台湾の白いタテハチョウって意味だね。
國姓小紫蛺蝶の國姓は国の姓、すなわち台湾の事だろう。つまり台湾の小さな紫の蝶って意味か…。でも小さな紫ってのが気にかかる。そんなに小さい蝶ではないし、紫がかっていると言われればそんな気もするが、前面に押し出すという程のものでもない。
寬信紫蛺蝶と北山小紫蛺蝶にも小紫がついている。ここで漸く小紫がコムラサキの事だと気づく。オイラ、疲れてるなあ…。
寬信と北山ってのは、人名もしくは地名かな。こんなの調べようが無さそうだ。諦めよう。
最後の朴銀白蛺蝶もまた難題だ。銀白蛺蝶ってのは解る。たぶん裏面の色を指しているのだろう。問題は朴の字。最初は幼虫の食樹かと思った。しかし、この蝶の幼虫はホオノキなんて食べない(註7)。だとしたら苗字の朴(ぼく)さんって事が考えられる。なぜに、こんなにも苗字だらけなのだ❓まったくもって解せないよ。

 
【英名】

調べたけど、英名は特には無さそうだ。
ただシロタテハの何種かには「White emperor」と云う英名がついている。白い皇帝だね。
となると「Orange line white emperor」辺りが候補にあがりそうだ。
しかし、個人的には「Roaring flames white emperor(紅蓮の炎の白い皇帝)」とかつけたくなる。とはいえ、ちょっと長いか…。
ならば、「White passion emperor(白き情熱の皇帝)」なんか、でや( ・◇・)❓

 
【生態】

開張50~56㎜。
台湾中北部~中部に分布する台湾特産種。原色台湾蝶類大図鑑によれば、台湾におけるタテハチョウ科最稀種の一つとされている。
平地から標高2000mまで見られるが、500~1000m付近に多い。北東部の海岸地帯にも見られるというが、これは低標高にもかかわらず食樹が自生しているからだろう。ここにはシロタテハもおり、両者の分布や生態はよく似ているという。
杉坂美典氏は4~12月に年数回発生するとしているが、山中氏(1975)によれば成虫は3〜9月に得られており、年3回程度発生しているだろうとし、アジア産蝶類生活史図鑑には年2回、3~6月と7~9月に発生すると書いてある。
個人的見解だと、たぶん年2化で、だらだら発生なのだろう。もしくは、意外と成虫の寿命が長いのかもしれない。
主に午前中に活動し、午後には目撃する数を減じるという。日当たりのよい樹林の空間を好み、樹液、腐敗した果実、蛙や蟹の死体、獣糞などに集まる習性がある。♂は湿った地面に吸水にも訪れる。また占有性が強いという。
♂は何処で占有活動をしているのだろうか?
やっぱり山頂とか尾根筋かなあ? でもタイワンコムラサキなんかは林道沿いのテリ張りだったぞ。
とにかく、そういう場所さえ見つければ楽勝で採れそうなんだけど、おいそれとは見つからないんだろうなあ…。

参考までに補足しておくと、『東南アジア島嶼の蝶』のシロタテハの項の解説に興味深い記述がある。

「本来は低地の樹林を好む孤独タイプの蝶で、単独で行動する為に得られる数が少ない。飛翔力は比較的強いが、短距離型で森から遠く離れることはない。こんな習性のせいで隔離され易く、孤立分化を成し独立種が多く見られる理由になっている。」

次の幼虫の食餌植物の項でも述べるように、稀種で分布が狭いのは食樹のせいだとばかり思っていたが、他にも成虫の習性が関係しているとは考えもしなかった。
どんな事象でもその理由は一つではなくて、複数考えられる場合が多いということを忘れてたよ。

それにしても、よくそんなんで分布を拡大してこれたよね。昔は食樹であるエノキの1種(コバノエノキ)が繁栄していたのかなあ?
そのエノキは原種に近いもので、昔はそればっか生えていて、そこから現在のように様々なエノキに分化していって、シロタテハグループはそれに対応出来なかったとか考えられなくもないけどさ。もう謎だらけだよ。

 
【幼虫の食餌植物】

Cannabaceae アサ科 Celtis エノキ属

◆Celtis biondii コバノチョウセンエノキ

分布が限られる植物のようで、この蝶の発生地が局所的なのはそのせいだろう。
エノキ(Celtis sinensis)を与えても生育はしないようだ。おそらくこの食性の狭さも稀なる理由だろう。

 
【幼生期】

ここは「アジア産蝶類生活史図鑑」の力を借りよう。

♀は小型の食樹を選んで2m以下の葉の裏面外縁寄りに1個の卵を産みつける。

 
(卵)
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
( ☆∀☆)ワオッ!、卵まてお洒落じゃないか。
美人は手を抜かない。美しい者には完璧を目指すプライドがあるのだ。

 
(終齢幼虫)
(アジア産蝶類生活史図鑑)

(出典『随意窩日誌』)

 
体の真ん中辺りが膨らむ小太り体型だが、基本は典型的なコムラサキ型の幼虫だね。
背中のペラペラの突起は減退していて、真ん中にらしきものが1つだけあって、黄色い。

「1、2齢幼虫は葉の裏面先端部に葉柄に頭を向けて静止する。食痕はシロタテハに似るが、やや深く食い込む。越冬は通常3齢で行うが、冬季でも1、2齢幼虫が見られることがある。幼虫は食樹の葉柄を糸で柄に固定させ、枯葉の凹みの中で冬を越す。早春に目覚めた幼虫は摂食を開始するが、以後蛹化するまで葉の裏面で生活する。蛹化は食樹の低い位置の裏面で行われる。」

集団はつくらず、全ステージ葉裏生活型ってことだな。
越冬幼虫の齢数がまちまちなのが、だらだら発生に繋がるのかもしれない。
台座については特に述べられていない。しかし、シロタテハはオオムラサキのように台座をつくり、それに固執するようだ。

 
(終齢幼虫頭部)
(アジア産蝶類生活史図鑑)

(出典『随意窩日誌』)

 
おー、顔までシュッとした男前だ。
コムラサキの仲間の幼虫は、だいたい可愛い系だけど、カッコイイ系の顔だとはね。恐れ入りました。

角は他のコムラサキ亜科の幼虫よりも遥かに長く、鹿角みたいだ。その辺も男前的に見えるゆえんだろう。

 
(蛹)
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

(出典『随意窩日誌』)

 
コチラも典型的なコムラサキ型の蛹だね。
ただし、色は明るい黄緑色だ。黄色い筋も目立つ。

ここで問題発生🚨、問題発生🚨
全文章が完成したあとで、たまたま『世界のタテハチョウ図鑑』を見る機会があって、アサクラコムラサキの幼生期を見て仰天。急遽、間に画を挟むことに相成った。また書き直しだよ(T_T)

問題はコヤツだ。

 
(出典 手代木求『世界のタテハチョウ図鑑』)

 
何と茶色いタイプの幼虫がいるではないか❗
ってことは、越冬幼虫なのかなと思った。日本のコムラサキやオオムラサキ、ゴマダラチョウと同じく冬の風景に溶け込むために変色するんだと思ったワケだね。
でも、越冬幼虫は3齢だけど、何とコヤツは4齢幼虫なんである。つまり、越冬後に脱皮した奴だ。おいおい、どこに変色する意味があるのだ❓ 意味ねぇじゃん❗❓
ワケわかんないよなあ…。
因みに終齢幼虫(5齢)は、また緑色になる。

 

(出典『世界のタテハチョウ図鑑』)

 
この図鑑によれば、シロタテハも茶色いタイプの幼虫がいるようだ。しかも終齢(5齢)幼虫になっても、この茶色いタイプがいて、緑色と両タイプが存在するようだ。益々、ワケわかんねえや(´д`|||)

さて、そんな事よりも問題は、Helcyra subalba スバルバコムラサキ(ウラギンコムラサキ)とアサクラコムラサキの幼生期がどれくらい違うかである。もしくは似ているかである。
もし同じならば、両者は同種という事になる。
早速、比べてみよう。

「アジア産蝶類生活史図鑑」に載ってる原名亜種らしきモノの幼生期を見てみよう。

食餌植物はコバノエノキ Celtis nervasa。
コバノチョウセンエノキでも飼育可能のようだ。つまり、アサクラコムラサキやシロタテハと食樹は基本的に同じだと言える。

それにしても五十嵐さんと福田さんは流石だね。
こういう稀種の幼性期を数多く解明して載せてるのはスゴいわ。
でも、卵の画像が無かったので、ネットで探した。

 
(卵)
(出典『zschina.org.cn』)

 
画像が小さ過ぎて解りづらい。
似てるっちゃ似てるけど、全く同じってワケでもない。
ちょっと気になったのは、産みたての卵。無地で赤い斑点が無い。と云うことは、孵化が近づくにつれて模様が出てくるってワケだ。アチキは普段全くと言っていいほど飼育はしないので、これは盲点だったよ。

 
(終齢幼虫)
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
(出典『蝴蝶鳥渡鴉』)

 
あっ、背中に黄色いペラペラのが無い❗❗
頭にある角も黒っぽい。
こりゃ、別種だと言わざるおえないよなあ。

あとは4齢幼虫が何色かだ。
残念ながら『世界のタテハチョウ図鑑』にはスバルバシロタテハの幼虫は図示されていなかった。でも、さっきの卵の画像のサイトに全幼虫期の画像があった。

 
(出典『zschina.org.cn』)

 
画像が小さくて見づらいけど、4齢幼虫は明らかに茶色じゃなくて緑色だ❗
と云うことは、やはり別種なのか…。
とはいえ、待て、待て。結論を急いてはならない。
スバルバシロタテハは年2化以上の発生が考えられる。ということは、越冬する第1化と越冬しない第2化以降とでは色の変化の有無が生じる可能性がある。で、この幼虫は第2化以降のものではなかろうか?
しかし、再びサイトを訪れて翻訳された文章を読むと、どうやら越冬幼虫を飼育したようなニュアンスだ。
「アジア産蝶類生活史図鑑」に図示された画像も越冬個体の筈だよね。そこには茶色の幼虫なんていなかった。ということは、やはり茶色タイプの幼虫はいないのか…? これもまたスバルバとアサクラか別種という証左になりうるのかなあ…。いや、あれは終齢幼虫で、4齢幼虫は図示されてないか…。段々、集中力が無くなってきた。取り敢えず解説欄に目を通そう。

産卵及び1、2齢幼虫は、図鑑発行時には観察されていないようだ。

「越冬は3齢幼虫。食樹の低い位置で枝に糸で結びつけられた枯れ葉の巣の中で冬眠する。4月上旬に伸び始めた新芽を求めて枝に移る。以後、蛹化に至るまで幼虫は葉の裏面に静止する。蛹化は低い位置の葉の裏面で行われる。」

表現は違えど、基本的にアサクラコムラサキの幼虫と生態は特に変わったところは無いみたいだ。
幼虫の体色については全く言及されていない。ということは、裏を返せば茶色にはならないって事かもな。
いや、でもアサクラコムラサキの解説欄でも一切体色のことには触れられていなかった。なのに『世界のタテハチョウ図鑑』には茶色いのがいる。やっぱり謎だらけの迷宮に迷いこんどるやないけー。

 
(終齢幼虫頭部)
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
似てるけど、違うっちゃ違う。男前度が一段下がる。
よく見ると顔の柄が違うし、鹿角の色が濃くて枝的な突起が小さい。

 
(蛹)
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
蛹も違う。
色が明らかにアサクラコムラサキよりも濃い緑色だ。
背中の盛り上がりもやや弱いような気がするが、これは♂♀の差もあるから何とも言えない。
とにかく、これを見た限りではアサクラコムラサキとスバルバコムラサキの原名亜種は別種とするのが妥当だろう。
しかし、亜種 subsplendesはどうなんだろう❓
もしもアサクラコムラサキに近い幼虫ならば、話は違ってくる。スバルバコムラサキの亜種ではなく、アサクラコムラサキの亜種とすべき事になるよね。
両者の中間的なものならば、解釈は人によって変わるから、見解は分かれるところだろう。

だが、subsplendesの幼生期の画像が、いくら探しても見つからなかった。
subalba、subsplendes、plesseni 三者の関係は謎のままだ。謎は愉し。何でもかんでも解明されてしまえば、世の中おもしろくない。そう云う事にしておこうか。

ここまで読んだ人は、こんな終り方だとスッキリしないだろなあ…。
ホント、ゴメンナサイ。でも、一番スッキリしてないのはアタイなのさ。その辺は切に御理解されたし。

 
時々、今でもアサクラコムラサキが舞う姿が脳裡をよぎることがある。
稀種にして佳蝶であるこの蝶には、今だに恋しているのかもしれない。

                  おしまい

 
 
《あとがき及び註釈》
今回のメインタイトルは3年前に書いたアメブロの文章のものを、ほぼそのまま使用した。他に考えなかったワケでもないが、これを越えるものはどうしても思いつかなかったのである。
タイトルは、名匠フランソワー・トリュフォーの仏映画『突然炎のごとく』から拝借して、間に「、」を入れた。なお、3年前に書いたアメブロの文章のタイトルは『突然、炎の如く』と「ごとく」が漢字表記になっている。

映画は1962年に公開され、恋愛ドラマの古典的名作として知られる。第一次世界大戦前後のフランスを舞台に、親友同士の二人の青年と一人の女性との不思議な三角関係を描いている。
自分の生まれる以前の古い映画だが、破滅的で自由奔放なヒロインを演じたジャンヌ・モローが素敵だった。
本作は様々な分野にも影響を与え、これに刺激された巨匠ジャン=リュック・ゴダールが、名作『気狂いピエロ』を撮ったともいわれている。
原題は「Jules et Jim」。原作はアンリ=ピエール・ロシェの小説。

アサクラコムラサキとの出会いのシーンが今回のタイトルのモチーフになっているが、そこには同時にこの映画の魅惑的な主人公であるジャンヌ・モローへのオマージュも込められています。

 
(註1)その時の事はアメブロに書いたので…

以前書いていたアメーバブログの『発作的台湾蝶紀行』シリーズの一章のこと。
そういえば、コレって最初は酔っ払って書いたもので、誤字脱字だらけなんで後日書き直した改訂版なんだよね。
青文字をタップすれば、記事に飛びます。

 
発作的台湾蝶紀行21『突然、炎の如く』

 
(註2)浅倉南(アサクラミナミ)

週刊少年サンデーに連載されていたあだち充の人気漫画『タッチ』のヒロイン。アニメ放映当時は明石家さんまを筆頭に、男性の理想の女性像としてあげられる事が多かった。一方、男心をもてあそんでいるとして、女性からの反発も強かったようだ。とはいえ、浅倉南を知って新体操を始めたという女子は多く、新体操ブームの火付け役になったとも言われている。

 
(註3)それぞれ1頭のみの記録しかない

 
【ミヤザキシロタテハ Helcyra miyazakii】
(出典『東南アジア島嶼の蝶』)

 
フィリピン・ルソン島のバナウエから1♀のみが得られている。

ボルネオ島のシロタテハは、画像がないが北部のマレーシア領から1頭のみが得られており、ヘミナシロタテハのボルネオ亜種(H. hemina borneeneis)とされている。
参考までにスマトラ島亜種(ssp.watanabei)とジャワ島亜種(ssp.masina)の画像を添付しておきます。

 
(出典『東南アジア島嶼の蝶』)

 
右がスマトラ亜種で、左がジャワ亜種です。

  
(註4)増井さん&猪又さんコンビの論文

増井暁夫・猪又俊男「世界のコムラサキ(4)」
やどりが 151号 (1992)

 
(註5)和名にアサクラと名のつく6種の蝶の名前

上の(註4)の論文に6種類あると書いてあったが、羅列はされていない。
アサクラコムラサキの他に「アサクラアゲハ」「アサクラミスジ」「アサクラシジミ」までは頭に浮かんだ。でも、他が何なのかワカラナイ。ミツオシジミの別名「ミツオアサクラシジミ」とアサクラシジミの別名「アサクラムラサキツバメ」を加えても一つ足りない。隠れアサクラが雌伏してるとかって事なのかな?
おいおい、それじゃ南斗六聖拳のユリアだよ。
あっ、コレは漫画の『北斗の拳』の中の話ね。書いてて長いので、アタマが完全にオカシクなってきてるな。

 
(註6)おそらくヒマラヤ圏で誕生し

もしかしたら、キゴマダラ属とかシロタテハ属とか云うレベル以前に、そもそもコムラサキ亜科の祖先自体がヒマラヤ圏で誕生し、そこで一斉放散的な進化が起こり、多くの属に分化したのかもしれない

 
(註7)この幼虫はホオノキなんて食べない。

台湾のサイトの生態欄に「幼蟲取食朴樹科沙楠子樹葉片。」とあった。
日本では「朴」と書けばホオノキ(モクレン科の落葉高木)のことを指すが、どうやら台湾や中国ではエノキのことを漢字で「朴樹」と書くらしい。
因みに、日本でエノキの漢字といえば「榎」だが、中国ではキササゲ(ノウゼンカズラ科の落葉高木)のことを示す漢字みたいです。
同じ漢字でも、日本と中国とでは全く別な意味になることがあるので、注意が必要だ。たとえば日本では「鮎」は川魚のアユのことだが、中国ではナマズのことを指したりするのだ。

 
《あとがきのあとがき》
いやはや、今回も苦労した。書いてるうちに様々な疑問が生じてきて、文章がどんどん長くなっていった。時間もかなりかかって、完全に泥濘(ぬかるみ)状態になってまっただよ。
実を云うと、さらに今回は初の試みとしてあとがきを先ず書いて、そこから前に向かって書き始めた。
しかし、実験は見事に失敗して、途中でワケわかんなくなってきて何度も文章を組み替える破目になってしまった。
愚かちゃんである。それでもバカはバカなりに、少しでも正確で流れるような文章を書きたいと願い、色々と試してみるのである。まっ、何しようが文才は全然無いけどさ。

 

台湾の蝶25『淋しき豹柄女』

 
   第25話『豹斑』

 
ヒョウマダラに初めて会ったときは、何じゃこりゃ❗❓と思った。
咄嗟には何者だか解らず、軽いパニックに陥ったのだ。

 
【Timelaea albescens ♀】
(2016.7.5 南投県仁愛郷)

 
(出典『den531.pixnet.net』)

 
(裏面)
(2016.7.5 南投県仁愛郷)

 
和名は、そのヒョウのような模様(斑紋)を表している。
でも豹柄だからって、ヒョウみたいな性質をしているワケではござらん。しなやかだとか敏捷だとか、猛スピードで移動するとか、そういうの一切なし。もちろん獰猛さの欠片(かけら)もない。むしろ、その逆でトロい。飛ぶスピードもフワフワ飛びで遅い。

 
【Timelaea albescens ♂】
(出典『圖錄檢索』)

 
なぜか外で撮った♂の表側写真が無いので、ネットから引っ張ってきた。
雌雄の違いは、♂が全面ほぼオレンジ色で、♀は下翅の内側が白くなる。また、♂と比べて翅が丸みを帯びる。
裏面は一見したところ、素人風情ではコレといった大きな差異は見当たらない。たぶん下の画像が♂の裏側だと思うんだけどなあ…。

 
(裏面)
(2027.6.26 南投県仁愛郷)

 
話は冒頭に戻る。
何じゃこりゃ❗❓とは思いつつも、その存在を全く知らないと云うワケではなかったような気がする。
だが、発作的に3、4日前に突然台湾ゆきを決めて来島したので、頭の中から完全に消えていた。所詮は雑魚キャラなのである。来島にあたって図鑑にザッと目を通したその残像の端に辛うじて引っ掛かっていたにすぎない。
初めての台湾の、初採集日の帰り際に採れたんだったんじゃないかな?もう少し記憶を遡ろう(註1)。
林道から少し奥まったところ、木陰の葉っばに止まっているのがたまたま目に入った。正直、見つけた瞬間は蝶か蛾か判断がつかなかった。でも直感で蛾ではないような気がした。この辺は感覚的なもので、何で解ったかと言われても説明は難しい。そう感じたから、そうとしか言い様がないのだ。センスってのは、そうゆうもんだろ。

あっ、この最後の辺りのくだりは草稿の時点で、確実に酔っ払って書いてるな。面倒くさくなって説明放棄したに違いない。
説明しなおすと、たぶん瞬時にターゲットの特徴を分析したのだろう。蝶には蝶、蛾には蛾の、それぞれ固有の特徴があるのだ。とはいえ、考えたっていうのとは違う。感じたっていう方が近い。感覚的に漠然と何処か雰囲気が違うと感じるのだ。虫捕りをしていると、後から考えて何故あの時ああ判断できたんだと自分でも驚くことはよくある。シックスセンス。第六感みたいなものかな。これは虫捕り以外の他の事でもそうだから、役に立つ事が多い。小さいお子さんをお持ちのお母さんは、是非とも情操教育のために子供に虫捕りをさせて欲しいと思う。変人になる可能性も高いけど…(笑)

のっけから、横道に逸れる悪い癖が出た。話を前に進めよう。
改めて展翅写真を並べてみる。

 
【ヒョウマダラ ♂】

 
【ヒョウマダラ ♀】

 
たぶん完品の♀も採ってる筈なんだけど、写真が無い。
きっと面倒くさくて撮らなかったのだろう。もしくは展翅すらしてなかったりして…。
ぞんざいな扱いだよなあ。完全に雑魚キャラポジションだわさ(笑)。

この属には、他に中国にもう1種類いる。

 
【タイリクヒョウマダラ Timelaea maculata】

 
(出典 上2点とも『新浪博客』)

 

 
(出典 上2点とも『ぷてろんワールド』)

 
似ているが、ヒョウマダラよりも黒斑が小さく、全体的に密な感じがする。上翅中室の斑紋数も多い。裏面の白の入り方も違うと思う。
後述するが、両者が似かよっている事もあって誤同定も多く、分類上、様々な混乱が引き起こされてきた。

それにしても、ヒョウマダラをコムラサキの仲間だと看破した白水先生と三枝先生(註2)は偉いと思う。こんなの、見てくれはどうみてもヒョウモンチョウの仲間だと思うよね。飛び方だって、とてもコムラサキグループの蝶だとは思えないゆるゆる飛びで、胴体も細いしさ。

 
【ホソバヒョウモン Clossana thore】
(2013.6.23 北海道 芽室町 伏美仙峡)

 
【コヒョウモン Brenthis ino】
(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
【ヒョウモンモドキ Melitaea scotosia】
(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
これらは科(亜科)とか属が違うのに、ヒョウマダラによく似てるよね。
実際、長い間ヒョウモンチョウ亜科(Argynninae)とかヒョウモンモドキ属(Melitaea)の仲間だと思われてきた。
ヒョウマダラの分類の変遷史は波瀾万丈とも言うべきもので、まつわる話には事欠かない。
とはいえ、自分の力では到底上手く伝え得ない。ここは先達の優れた論文の力をお借りしようと思う。
長いが、増井さんと猪又さんの論文(註3)から抜粋させて戴こう。

 
「本属は発見以来長い間 Melitaea(ヒョウモンモドキ)、Argynnis(ヒョウモンチョウ)といった草原性のタテハチョウのグループに属すると思われてきた。本属をめぐっては斑紋が一見似ているだけの理由で生じた分類上の混乱に満ちている。このことについては歴史的に少し詳しく述べておく必要があろう。
Timelaea属が草原性タテハチョウグループと分類上近い位置にはないことは、古くからFruhstorfer (1913)が外部形態の点から気づいていたようである。
しかし、その後長い間にわたって本属の分類についてはあまり関心が払われなかったと思われる。ユンクのカタログ(Stichel,1938)やLe Moult(1950)のコムラサキ亜科のRevisionでも本属は見落とされている。台湾産のヒョウマダラが全く意外にもコムラサキ亜科に所属すべきであることを♂交尾器の形態に基づいて最初に指摘したのは白水(1960)である。図示された異様に長いphallusとsaccusはまさしくコムラサキ亜科のものである。台湾産のヒョウマダラがコムラサキ亜科に属することは、この時点ではっきりしたものの、Timelaeaの分類にはまだ問題が2つ残されていた。台湾産ヒョウマダラの学名についてである。
台湾産のヒョウマダラの最初の記録はT.albescens(Miyake,1906)である。
続いて Fruhstorfer(1908)によりfomaosanaという亜種名が与えられたが、種名はalbescensではなく、maculataとされた。
これはSeitz Vo1.9(Fruhstorfer,1913)でも踏襲されており、ここには台湾からの最初の発見者としてH.Sauterの名が記されている。しかし、既にLeech(1892)及びSeitz Vol.1にalbescensとmaculata(タイリクヒョウマダラ)が別種として正しく記載図示されていることから考えるとまことに不注意なことで、後年に与えた影響は大きかった。
平山(1939)や白水(1960)も台湾産ヒョウマダラに対して種名maculataを用いたので、以後も多くの文献がこれに従うことになった。しかし、台湾産のヒョウマダラは明らかに種albescensに帰属すべきものであり、これを指摘したのはNiepelt(1916)、Gabriel(1932)などかあるが、いずれも個人的な出版物において公表されているため普及性に乏しく、少なくとも日本の研究者にはOkano(1984)の指摘で初めて一般化したと言ってよい。
次の問題は、Timelaea属に分類されてきた種nana(Leech,1892 TL:Moupin,Wa −shan,Omei-shan,Chia−kou−hou,Huang-mu-chang)の分類上の所属についてである。Leech
(Pl.23)やSeitz(Vol.1,Pl.71)の図を見れば確かにnanaは上記のヒョウマダラ属と似ているが、本種はそもそもタテハチョウ科ではなく、シジミタテハ科に属する。これが斑紋の類似によってTimelaeaに紛れ込んだものであって、Okano(1985)によりシジミタテハ科の新属Takashia(白水 隆博士への献名による)に移されて整理が終わったのである。
こうした知識をもってヒョウマダラ属2種を眺めてみれば、コムラサキ特有の後翅第2室の眼状紋も黒斑の分離として明瞭であるし、チビコムラサキの♀やキゴマダラグループ(Sephisa属)との斑紋上の類似性も認められる。
幼生期は台湾産と浙江省産のヒョウマダラ(T.albes cens)について知られている。幼虫、蛹ともコムラサキ亜科の特徴を明瞭に表しており、もはや分類上の疑問を差し挟む余地は全くない。
しかしながら、振り返れば、白水(1966)以後も本属
がコムラサキ亜科であることを多くの著者が見落としている上に、種 maculataとalbescensの誤同定が繰り返されているのはまことに残念なことである。例えばD’Abrera(1985)では台湾産ヒョウマダラをヒョウモンチョウ亜科の位置に図示した上、種名 maeulataを宛てているし、塚田(1991)でもコムラサキ亜科全属リストからTimelaeaが欠落している。 最近の中国の図鑑では、西北農学院による陝西省の 図鑑(1978)で種maculataが正しく同定されているものの、ヒョウモンチョウ類の位置に図示されている。王治国らによる河南省の図鑑(1990)では図示されたmaculataがalbescensと誤同定された上、同じくヒョウモンチョウ類の位置に図示されている。こうした原因は、白水隆の名著“原色台湾蝶類大図鑑”が、日本語で書かれていたこと、また、ヒョウマダラがコムラサキ亜科の位置に図示されなかったために多くの人々の注意を引かなかったことによると思われる。せっかく御自身で分類上の位置を定めておきながら、どうしてその位置に図示しなかったかについては、御記憶にないとのことであった(私信)。
なお、本属のコムラサキ亜科における分類上の位置は、久保(1967)と小岩屋(1989)が幼虫の形態に基づいて指摘しているように、Rohana(チビコムラサキ)に近縁と考えられる。」

 
ややこしいねぇ。
そのややこしさは今も続いていて、ネットでも両種の同定間違いや学名の間違いをしばしば見かける。いや、ネット社会だからこそ、新たなる混乱の拡散が危ぶまれる。
そのややこしいというワードで、更なるややこしい事を思い出した。この蝶、分類がややこしい上に似たような蛾(ガ)もいるのだ。

 
(2016.7.13 南投県仁愛郷 尖台林道)

 
おそらくシャクガ科のエダシャクの仲間だろう。
飛んでいる時は、大きさといい飛び方といいヒョウマダラとソックリだった。両者が擬態関係にある事を強く疑ったね。
これは蛾がヒョウマダラに似てるんじゃなくて、ヒョウマダラが蛾に似せているというのが正解だろう。
エダシャクの仲間ならば、体内に毒を持っている確率が高い。それにより天敵である鳥から身を守っている。鳥は賢いから食ってみてクソ不味いものは吐き出して二度と食わない。これは最初の1頭は犠牲にはなるが、他は狙われないと云う高度な生き残り戦術なのだ。だから、毒のある者はたいてい捕食者の記憶に強烈に残るような派手な色をしている。つまりヒョウマダラの生き残り戦術は、自身には毒は無いものの、毒のある蛾に我が身を似せる事によってドサクサで生きのびようと云う更なる高等戦術だといえよう。

余談だが、網の上から写真を撮っているのは蛾が怖かったから。当時は蛾が気持ち悪くて近づく事すらままならなかったのである。

次の蛾は、もっとヒョウマダラと似ている。

 
(2017.7.2 南投県仁愛郷 青青高原)

 
一番最初の奴は簡単に見破ったが、コヤツは暫く凝視したよ。大きさも形も、ほぼ同じ。飛び方も同じだった。
参考のために再度ヒョウマダラの画像に御登場願おう。

 

 
とんでもない擬態精度である。下翅に黒斑があるかどうかの違いだけである。
こんなもん、飛んでたら殆んど一緒だ。
ヒョウマダラの♂の表はあまり白くないから、明らかに♀は、より蛾を意識して進化したとしか思えない。
それにしても、似せたいと思ったからって、そこまで似せれるものかね?だとしたら、女の一念、巖(いわお=岩)も砕くってヤツだね。

この蛾の表側のデザインにも驚いた。

 
(2017.7.2 南投県仁愛郷 青青高原)

 
コッチも相当似ている。♀にソックリだ。
豹柄女のフェイク、恐るべし❗❗

余談だが、写真はさっきと違って採集してちゃんと網の上に乗っけて撮ってる。コレはこの年の春に「春の三大蛾(イボタガ・オオシモフリスズメ・エゾヨツメ)」を採りに連れていってもらったので、ある程度の免疫がついていたからだ。とはいえ、持って帰ってきたかどうかは分からない。記憶にないのだ。どうあれ、展翅をしていないのは確かだすな。

一応、蛾の名前も調べてみよっかな。
あ~、また面倒くさいとこに足を踏み入れそうだよ。

 
撒旦豹紋尺蛾
Epobeidia lucifera extranigricans
(Wehrli, 1933)
(出典『圖錄檢索』)

(出典『gaga.biodiv.tw』)

 
前回のタイワンキゴマダラの回でも擬態相手として紹介した奴だ。学名のLuciferaって、Lucifer由来だよなあ。ルシファーと云えば、魔王サタンの堕天使前の名前だ。台湾名の撤旦は、サタンの宛て字でしょう。
結構、デカそうだ。
裏面の画像をダウンロードできなかったけど、網の中に入れて写真を撮った方の蛾にかなり似ている。大きさ的にどうだったかな?特別大きいという記憶はないんだよね。よくよく見れば翅の尖り方も違うし、たぶんサタンと同一種ではないな。

 
狹翅豹紋尺蛾
Parobeidia gigantearia marginifascia
(Prout, 1914)
(出典『圖錄檢索』)

(出典『gaga.biodiv.tw』)

 
コヤツもデカそうだ。画像の背景から推察すると、さっきの魔王と大きさ的には変わらないような気がする。
あっ、学名がgiganteariaだ。ギカンティアということは、コレも間違いなく大きいだろう。学名にギガとかメガとかつく奴は99%デカブツなのだ。

 
大斑豹紋尺蛾
Obeidia tigrata maxima
(Inoue, 1986)
(出典『gaga.biodiv.tw 』)

(出典『圖錄檢索』)

 
(裏面)
(出典『woodman 秘密花園』)

 
網の中に入れて写真を撮った蛾と似ているが、白い部分の黒斑が大きいね。

因みに香港には、亜種なのかヒョウマダラの♂みたいなのもいる。

 
(出典『以自然為本』)

 
♀ほどではないにせよ、♂だって擬態の精度は高い。きっとこの手の黄色系(&白)のエダシャクは、他にも何種類もいるんだろうなあ。だとしたら、ヒョウマダラってメチャメチャええとこに目をつけたね。毒持ちの似たようなのが沢山いればいるほど、その身は安全だ。生きるためにそこまでしてコムラサキグループの生き方を捨てれるって、ある意味あっぱれだ。
ヒョウマダラは普通種だと言われる。思うに、普通種というのは某(なにがし)かの生存戦略がたまたま大当たりして繁栄した者たちなのだろう。

コイツらも大型種のような気がするなあ…。
だいたい亜種名が「maxima(マキシマ)」って時点でデカいわな。

ここでシナプスが繋がった。
コレって、日本でも中国地方なんかで珠に採れてるキベリゴマフエダシャクに似てねえか❓

調べてみたら、やっぱそうだったよ。

 
キベリゴマフエダシャク
Epobeidia tigrata leopardaria
(Oberthür, 1881)

(出典 2点とも『廿日市の自然観察』)

 
でも、亜種名が違うな。leopardalisか…。
ようするに英語のレパード。豹だね。

(´д`|||)クソー、結構似たような奴がいるなあ。
やっぱ、ややこしいじゃないか、(`ロ´;)バーロー。

 
豹紋尺蛾
Obeidia vagipardata albomarginata Inoue, 2003
(出典『圖錄檢索』)

 
網の中の奴はコレっぽいなあ。
たぶん、コレだろ。そういう事にしておこう。キリがない。
あとは、もう1つの翅のもっと丸っぽい蛾の正体を暴いて、とっとと終わらせよう。

 
波尺蛾與豹紋蝶
Euryobeidia largeteaui (Oberthür, 1884)
(出典『gaga.biodiv.tw』)

 
(*`Д´)ノよっしゃー❗、決定打じゃろう❗❗

 
(出典『nc.biodiv.tw』)

 
大きさもヒョウマダラと同じくらいみたいだし、きっとコレだな。間違いなかろう。
そういえば、居た環境も同じような様子の林道沿いだったわ。いやはや、このミミクリー度はスゴイやね。

しつこく擬態精度に拘ったけど、実際は大きさの大小は擬態効果にはあまり関係ないのではないかと思う。細かい斑紋の違いも関係ないだろう。酷似しているに越したことはないけれど、鳥がそこまで厳密に見て判断しているとは思えない。もし鳥が毒のあるエダシャクを食ったとしよう。それが非常にマズかったら、たぶん大小に関係なく似たようなものは全て食べないだろう。そこまでリスクを冒す必要性は無いからだ。
あなたに質問です。もしAの皿には毒の無いフグが盛られていて、Bの皿には毒のあるフグが盛られていたとしよう。見てくれは少しばかり違うとして、あなた、食べますか❓
んなもん、どっちも選ばんでしょうよ( ̄ヘ ̄メ)

 
【学名】
Timelaea albescens (Oberthür, 1886)

タテハチョウ科 コムラサキ亜科のヒョウマダラ属に分類される。
属名のTimelaea(ティメラエア)はMelitaea(ヒョウモンモドキ属)のアナグラム(言葉あそび)。
小種名のalbescens(アルベスケーンス)は「白くなった」の意で、ラテン語のalbesco(白む)の現在分詞。これは♀の白い部分が目立つことからだろう。
亜種名formosanaは「台湾の」という意味。
前の学名であり、混同されてきたmaculata(マクラータ)は、ラテン語で「斑点のある」を意味する。

因みに『アジア産蝶類生活史図鑑』では、学名が違っていて「Rohana albescens」が採用されている。
この図鑑は、しばしば従来知られている学名とは違うものが採用されているので注意が必要だ。
Rohanaはチビコムラサキの属名である。おそらく幼虫が互いに似ているからだろう。ようするに、幼生期の観点からの分類なのだ。学名が違うのは困るけれど、アプローチとしては面白い。その姿勢は、けっして間違ってはいないと思う。

英名は特に無さそうだ。小さくて地味というのもあるだろうが、おそらくインド・ネパール・パキスタンなどの英語文化圏には生息していないからだろう。
英名をつけるとしたら、何がいいだろう。
例えば『Leopard Baron(豹男爵)』なんてどうだ?
盛りすぎのような気もするが、こういうのは少しくらいジャッキアップしといた方がよろし。タキシードにシルクハット、でも顔はヒョウそのものなんてのを想像しちゃったんだよね。みんなも勝手に英名を想像してみれば?けっこう遊べますよ。
何れにせよ、名前にLeopardがつくのは必至だね。

 
【台湾名】白裳貓蛺蝶

貓蛺蝶というのは、Timelaeaヒョウマダラ属のこと。属名にも、この漢字が使われている。
小さいから豹ではなくて猫なんだね。猫的タテハチョウかあ…。オデ、馬鹿だから、蝶の羽を有した猫がバッサバサ羽ばたいているのを想像したよ。
白裳の白は、この蝶かタイリクヒョウマダラと比べて白いからだろうか?「裳」は古代のスカート、袴(はかま)のこと。
別称としては、他に豹紋蝶、豹斑蛺蝶、白斑蛺、豹紋蛺蝶などがある。

 
【分布と亜種】

亜種は現在のところ、2つに落ちついているようだ。

◆Timelaea albescens albescens
(Oberthür, 1886)名義タイプ亜種
中国

◆Timelaea albescens formosana
(Fruhstorfer, 1908)
台湾亜種

原名亜種 T.albescens albescensは、増井さんたちの論文によると、台湾の対岸から四川省にかけての狭い分布域であろうと述べている。

「大陸における産地は、確実な報告が少なく、Obe
thurによる基産地Chfipa(四川省)、Leech(1892)に述べられたWa−ssu−kow(四川省)のほか、成虫の写真を示した童雪松ら(1986)と幼虫を示した小岩屋(1989)による浙江省での記録以外は採用できない。著者は浙江省の標本しか実見していない。」

杉坂美典さんのブログでは、中国の南西部・中部・南部・東部に分布していると書かれている。
記録は陳西省、山東省、河北省、遼寧省、河南省、四川省、貴州省、広西自治区、湖南省、広東省、福建省にあり、かなり広い。これは、中国での分布調査が進んだせいなのかもしれない。とはいえ、T.maculataとの誤同定も多いから疑わしい記録もあるだろね。
参考までに、杉坂さんの分布図を載せておこう。

 
(出典 杉坂美典『台湾の蝶』)

 
増井さんは狭いと書いていたけど、全然狭くない。
あれっ?、この分布図って何処かで見たような記憶がある。

 

 
『原色台湾蝶類大図鑑』のヒョウマダラの分布図だ。
コレって、学名がT.maculataになってるけど、タイリクヒョウマダラを含めた分布図なのか、それともヒョウマダラだけの分布図として載せたのか、どっちだ?

因みに、こういう分布図も見つけた。

 
(出典『www.jpmoth org』)

 
もうどっちだっていいや。なんだか段々面倒くさくなってきたよ。

( ´△`)あー、やだ、やだ。
更にややこしいのは、ネットで見るといまだに亜種が他にあげられている事である。

◆ssp.obscurior (Hall 1935)

上の分布図にこの亜種の画像があった。

(出典 2点とも『www.jpmoth org』)

真面目に比べたワケじゃないけど、一見してどう違うのかワカラン。どうせ亜種にする程の大きな差違はないでしょう。

◆ssp.orientalis (Belter 1942)

◆ssp.reticulata (Matsumura 1939)

◆ssp.albescens (Oberthür, 1886)

◆ssp.formosana (Fruhstorfer, 1908)

下に記すシノニムと被ってるヤツもあるね。
何れにせよ、記載年代が古いから原名亜種に集約されたのだろう。

シノニム(同物異名)には、以下のようなものがある。

◆Timelaea albescens muliebris
(Fruhstorfer, 1912)

◆Timelaea albescens confluens
(Nire, 1917)

◆Timelaea albescens reticulata
(Matsumura, 1939)

あと、抜けてるけど、シジミタテハのssp.nanaなんかもシノニムかな?それは、maculataのシノニムかえ❓

ssp.muliebrisは冬〜春型で、後翅表裏の白化が顕著なものという(白水,1960,0kano,1984)
台湾産の本種には個体の大きさや、後翅中央部の白化 の程度に変異が大きい。そのために多くのフォーム名が記載されたようだ。

 
【生態】
開張50~62mm。台湾では全土に分布し、海岸から2000mを越える高地まで広く見られるが、1000m以下の低山地に多い。4月~10月に亘って数回の発生を繰り返すが、1月でも飛び古した個体を見かけるという。
飛翔は緩やかで、すぐに止まる。♂は路上や崖などに止まるほか、湿地で吸水する。♂♀ともに樹液や腐った果実に集まり、アカメガシワの樹液やギランイヌビワの果実の吸汁を行うことが観察されている(福田 1975)
因みに、自分の記憶ではフルーツトラップには一度も訪れていない。
原色台湾蝶類大図鑑には「樹液に集まる習性からも本種がヒョウモンチョウ亜科の種でないことが推定される」と書いてあるが、台湾のヒョウマダラのサイト(圖錄檢索)を見ると、生態欄に「會訪花」とあった。花に吸蜜に訪れるとしたら、ヒョウモンチョウみたいではないか。俄(にわか)には信じがたい。普通、コムラサキ亜科の蝶は花には訪れない。う~ん、だとしたら、やっぱりコムラサキ亜科のクセに変なやっちゃのう。どんどんグループから離れていって、そのうち別属にまで進化するかもしれんぞ(;゜∇゜)

そう珍しくない普通種みたいだが、産地での個体数は少ないという記述もある。言われてみれば、そんな気もしないでもない。とはいえ、見つけたら楽勝で採れます。

 
【幼虫の食餌植物】
台湾では、Vlmaceae(ニレ科) エノキ属をホストとしている。

・Celtis formosana タイワンエノキ
・Celtis sinensis エノキ
・Celtis nervosa コバノエノキ

幼生期については『アジア産蝶類生活史図鑑』に詳しい解説があるので、一部転載させて戴こう。

【卵】
(出典『随意窩』)

 
♀は2m以下の小型の食樹の葉裏に1個ずつ卵を産みつける。
前回、前々回に取り上げたSephisa キゴマダラ属とは違い、縦に筋が入る如何にもコムラサキ系タイプの卵だ。但し、色はオオムラサキやコムラサキみたいに緑色ではないね。たぶん卵は真っ白。上が紫がかってるのは幼虫の孵化が近いせいだと思う。

【2齢幼虫】
(出典『随意窩』)

 
(о´∀`о)可愛ゆすぅ~。
角(つの)のギザギザ度が強いね。

幼虫は葉の裏面に糸を吐きつけて台座をつくり、頭を葉柄に向けて静止する。越冬は3齢。食樹の枝につく枯葉の巣の中で冬を越す。
越冬幼虫は枯れ葉色に変色するのだろうか?
でも調べた限りでは、緑色のものしか見つけられなかった。

 
【終齢幼虫】
(出典『随意窩』)

 
コムラサキ亜科特有のナメクジ型だが、下ぶくれで、ブサいくでやんの。どーでもいいけど、なんか小さい時は可愛いらしい女の子だったのに、大人になったらブサいくになってましたー。みたいな感じじゃないか。
ともあれ、この形からチビコムラサキに近いと判明したんだね。

 
(出典『My Chat 敷位男女』)

 
顔がダダに似てなくね❓
顔面をアップしてみよう。

 

 
目の辺りが、ダダのブツブツみたいだな。
全然、可愛くねぇよ。

春になると摂食を開始し、幼虫は台座を築いた葉を食わず、他の葉へ移ってこれを食う。これはオオムラサキやゴマダラチョウと同じ習性だね。

蛹化は食樹の低い位置の葉裏で行われる。

 
【蛹】
(出典『随意窩』)

 
コムラサキ亜科典型の蛹だけど、背中がギザギザだあー。こうゆうのって、角の形と連動するのかな?

図鑑では、ヒョウマダラの幼生期について次のようなことを指摘している。
「本種の生活の特徴は「葉裏産卵➡葉裏生活」すなわち全幼生期を通じて葉裏生活(隠れる生活)をすることにある。これは「葉裏産卵➡葉表生活」のHestina ゴマダラチョウ属、「葉表産卵➡葉表生活」(表面に身をさらす生活)のAptura コムラサキ属などと対比すれば興味深い。」

言われてみれば、そうだ。でも何で葉裏型と葉表型があるのだろう?普通に考えれば裏にいた方が天敵に見つかりにくいだろうに。でもエノキの葉っぱは日の光の下では照り映えるから、意外と幼虫はそれと同化して見つかりにくいのかもしれない。

ヒョウマダラは、コムラサキの1種なのにずっとヒョウモンチョウの仲間に入れられたまんまだったり、学名はたらい回しと云うか間違えだらけにされてたりと、何だか不憫だよなあ…。
コムラサキグループからは「おめぇ、俺たちのグループじゃねえだろ?」と言われ、ヒョウモンチョウ軍団からは「おめぇ、ホントにワシらの仲間かあ?」と疑われる図を絵本的に想像してしまったよ。なあ~んか一人ぼっち感があって、淋しいだろね。
あまり注目されてないし、蝶屋からも無視されがちで、愛も足りないよね。ホント、淋しい蝶だよ。
自分だったら、こんな扱いをされたら淋しくって泣いちゃうね。

 
                  おしまい

 
追伸
べつにヒョウマダラが淋しいワケじゃない。
ヒョウマダラ本人は、そんなこと露とも思っていないだろう。生きることで精一杯なのだ。そう見えるのは自分の勝手な憶測にすぎない。豹柄て淋しいのは、豹柄を纏った女だけだ。
何でこんなタイトルにしたかと云うと、豹柄を纏った若い女性が淋しいと思ったからだ。正確を期すならば、タイトルは「豹柄女は淋しい」とすべきだったろう。しかし、タイトルを「豹柄女は淋しい」としてしまえば、身も蓋もない。

あれっ❓、おいら何が言いたかったんだろう❓
ようは豹柄は若い女性にとっての武装のアイテムなのだ。
しかし、決して攻撃的ではなく、寧ろ敵から身を守るためのものだ。変な男が近づいて来ないようにしているのである(それを見抜いてアプローチをかける♂もいる)。
豹柄を着ている女にアプローチする男はあまりいない。
そこには、いくつかの理由が考えられる。とりあえず、ここではヒョウ柄のオバチャンは除外して説明する。そこをシッカリ留意しておいて戴きたい。アレはまた別な生き物で生態も違うから、別種と考えるべきなのだ。

①ケバい。

豹柄=派手のイメージだ。金好きのワガママな女というイメージも加味される。
そういう女は、大抵が面倒くさい。押し込みが強かったり、物をねだるのも上手い。近づかないに越したことはない。
そして、一緒に歩いていて恥ずかしい。
『アイツなあ、こないだ豹柄女を連れて歩いとったでぇ~』
こう言われるのがオチである。その場合、決して良い意味では使われない。変な女を連れていたという意味だ。アイツ、騙されとるんちゃうかあ?とか、趣味悪いなあとか、そんな意味が込められている。

②親や友だちに紹介できない。

上記の理由に加えて、家庭的なイメージが無いために周りからの交際反対必至である。男は最終的に家庭的な女を結婚相手に選びたがるのである。

③ヤのつく自由業の恐い人の情婦という可能性

今時、美人局(つつもたせ)なんて流行らないが、後で恐いお兄さんが出てきて、脅される可能性は無きにしもあらずなのである。もしくは前カレがパイオレンス系のお方で、ボコボコにシバかれるというケースも考えられる。さわらぬ神に祟りなし。豹柄女には、常にトラブルのイメージがついてまわるのだ。

④精神的に不安定
ここが「豹柄女は淋しい」という論理に繋がる。
経験上、豹柄女はかまってもらいたい人が多い。それがゆえの豹柄なのだ。常に注目されていたいタイプだ。だから、ちょっとでもぞんざいに扱おうものなら、心が不安定になり、泣いたり喚いたりする女性が多い。かまってもらいたいがゆえのエキセントリックな行動なのだ。豹柄女は淋しいのだ。そして、面倒くさい。

とはいえ、正直言うと豹柄女はそんなに嫌いじゃない。扱いさえ間違わなければ、一緒にいて楽しかったりもする。
そういえば、一時(いっとき)だけど、昔、都会の街が豹柄の姉ちゃんたちで溢れかえったことがある。何事かと思って驚いたけど、これは当時若い女性に絶大なる影響力を持っていたあゆ(浜崎あゆみ)が豹柄の服を着ていたからだと、少しあとで解った。
また豹柄のお姉ちゃんが増えないかなあ。見てる分には楽しいもんね。

邪魔くさいが、一応ヒョウ柄好きのオバチャンたちの事も分析しておこう。さっきの若い豹柄女と被るところがあるが、別種(別物)である。

 
(出典『blog.goo.ne.jp』)

 
47人からなる大阪のニューヒーロー『オバチャーン』なんだとさ。アメちゃんを配りまくるらしい。
強烈やわ。スゴイね。
「オバチャーン」は気になるが、本題に入ろう。

『なぜ、大阪のオバチャンがヒョウ柄が好きなのか』

①派手好き
関西といっても、各府県でフアッション傾向に違いがある。他府県の事は置いといて話を進める。
とにかく大阪のオバチャンは派手好き。派手がカッコイイと思っているのである。目立ってなんぼなのだ。その目立つ最たるアイテムがヒョウ柄なんである。そこには淋しさなんて要素はコレっぽちも無い。
その目立ちたい精神は、同じブランド品でも東京なんかと比べてブランドのロゴ、ドオーンのものを圧倒的にお好みあそばすことでもわかる。上品な神戸や京都のオバサマはドン引きなのだ。

余談だが、ヒョウ柄オバチャンのコメントに「一度ヒョウ柄で味わったゴージャス感がやみつきになってしまった」というのがある。
そっかあ…。ヒョウ柄には中毒性があるのだね。ヒョウ柄は麻薬と一緒なのだ。大阪はヒョウ柄の服が店頭に並ぶことが他府県よりも圧倒的に多い。アレはヒョウ柄オバチャンの購買欲を限りなく掻き立てる店側の作戦なんだね。シャブ漬けの如くヒョウ柄中毒になったオバチャンは、オートマチックに買ってしまうのであろう。大阪ヒョウ柄黒社会だ。

②威嚇
大阪のおばちゃんのヒョウ柄には威嚇の意味がある。
自分を鼓舞する戦闘服でもあろう。
上品ぶる神戸や京都のオバサマに対して「アンタら、なに上品ぶっとんねん。」なんである。

大阪のオバチャンの大半はアクが強くて言いたいことをズケズケ言う。押しが強いのだ。その中で、それに対抗するためには派手な服やアクセサリーが必要なのだ。それがヒョウ柄なのである。ヒョウ柄は着ることによって己の精神をも強化できる、謂わばバトルスーツの役割を担っているのである。
ヒョウ柄を着ているオバチャンにインタビューしたら、次のような答えが返ってきたという。

「テンション上がる」
「闘争心が起こってくる」
「勝てそう」
「怖いものがなくなる」

きっと買い物で値切る時などにも活躍している筈だ。ヒョウ柄のオバチャンがゴリゴリで攻めてきたら、値引きせざるおえないだろう。
そこには、若い女の子が健気(けなげ)に自分を強くみせようとする弱さみたいなものは微塵も存在しない。

③お金持ちに見せたい
ヒョウ柄といえば、本来は毛皮である。数ある毛皮の中でも最高にゴージャスに見えるのがヒョウ柄の毛皮だ。最高級のお金持ちファッションのイメージですな。ヒョウ柄の服は、そのお手軽廉価版なのだ。オバチャンたちは毛皮より安いのにお金持ちに見えるといった理由で着ているんだとさ。でも、それって成金趣味にしか見えないよね。オバチャンたちが望んでいる上品なお金持ちには到底見えまへんえー。

ヒョウ柄ってフェイクだなあ~。
謂わばオバチャンたちも擬態してるんだね。

④スタイルを隠すため
昔と比べて醜くなったスタイルを補うためにオバチャンたちはヒョウ柄を着ると、何かの記事で読んだことがある。心理学的アプローチで、どーのこーのと書いてあった。
うろ憶えだが、要旨はこんな感じだったかと思う。
ヒョウはしなやかなイメージを持ち、ウエストが細く、歩く時にお尻を振って歩いているように見えるため、セクシーさの象徴である。
もう色気がなくなったと感じているオバチャンたちは無意識にヒョウ柄の持つセクシーパワーの助けを借りて、まだまだ私は女性なのよとアピールしているとか何とかって書いてたっけ。
無理矢理なこじつけのような気もしないでもないが、確かに若い女の子はあまりヒョウ柄を着ない。充分に色気があるから必要ないのだとも言える。

そういうヒョウ柄好きの大阪のオバチャンたちだが、最近は減ってきているようだ。マスコミが、あーたらこーたら取り上げるので恥ずかしくなったのかもしれない。だとしたら、残念なことだ。大阪のオバチャンとヒョウ柄は今や文化である。消えてゆくのは寂しい。大阪までもが個性を失って、平準化の波に呑み込まれていく時代がすぐそこまで来ているのかもしれない。だとしたら、つまんねえ世の中だよなあ。

 
(註1)もう少し記憶を遡ろう
アメブロにある採集記には、ヒョウマダラ関連の記事が4編あります。よろしかったら、読んでくだされ。
下の青文字をクリックすると、記事に飛びます。

発作的台湾蝶紀行6 豹柄女はフェイクなのさ

発作的台湾蝶紀行9『空飛ぶ網』

発作的台湾蝶紀行43『白水さん大活躍、ワシ虐待男』

発作的台湾蝶紀行46『大名様のお通りだーい』

 
(註2)白水先生と三枝先生
九州大学の師弟コンビ、白水隆と三枝豊平両氏のこと。この二人の共同研究という形で、ヒョウマダラがコムラサキだと看破した論文が書かれたようだ。
白水先生は蝶界の巨匠みたいな人だが、数年前にお亡くなりになられた。お会いしたことはないけど、合掌。

 
(註3)増井さんと猪又さんの論文
増井暁夫・猪又敏男『世界のコムラサキ(3)』。
やどりが 148号(1992)

 
(註4)ダダ
(出典『プレミアムバンダイ』)

 
ウルトラマンの怪獣(星人)。
オイチャンは、コレとケロニアが泣くほど怖いのだ。

 

台湾の蝶24『日光菩薩』

 
 
  第24話『大名黄胡麻斑』

 
前回のキゴマダラが月光菩薩ならば、ダイミョウキゴマダラはさしづめ日光菩薩(註1)ってところだろうか。
色が輝くような橙色だから太陽の光(日光)を連想させるし、台湾特産種だ。それくらいの称号を与えてもいいだろう。しかも、かなり珍しい。自分もたった一度しか出会ったことがない。

 
【Sephisa daimio ダイミョウキゴマダラ♂】

 
何で片羽だけの画像かって❓
理由は、こうなのさ。

 

 
♂の新鮮な個体なのに、片方の羽がザックリいかれとるのよ。たぶん鳥に啄(ついば)まれたんだろね。
これにはマジ、ガッカリした(´д`|||)
しかも、羽を閉じて止まっている時は破れていない方の面が見えていたから、完品だと思って心の中で小躍りした。それが採ってみたら、コレだもん。(ToT)泣いたよ。

 

 
(2016.7.14 南投県仁愛郷 alt.1900m)

 
この時の採集記『大名様のお通りだーい』(註2)はアメブロにあるので、よろしかったらソチラも読んで下され。リンク先を文末に貼っておきます。

 

 
裏がまたカッケーんだよなあ。
白とオレンジの組み合わせって、上品な感じがする。
♀は表にも白が入り、橙色が淡くなるから、さらに高貴なるお姿だ。

 
(出典『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
キゴマダラほど顕著ではないが、一応雌雄異型。
♀は更に稀で、長年その存在が未知だったようだ。
上の原色台湾蝶類大図鑑に図示されたものが最初に世に出た画像なんだそうだ(1960年)。ネットでググっても、今でも写真が極めて少ないし、生態写真となると、もっと少ない。しかもロクなものがない。唯一、美しい写真を撮られているのは杉坂美典さんだけだ。
リンク先を貼っておきます。クリックでサイトに飛びます。

 
杉坂美典『台湾の蝶』

 
ちょっと画像をお借りさせて戴こう。

 

 
(出典 2点とも杉坂美典『台湾の蝶』)

 
高貴とまで思えてしまうのは、稀種ゆえの思い入れからかもしんないけど、やっぱカッコイイもんはカッコイイ。

こうして鮮明な画像を見ると、本種は同属他種と比べて前後翅外縁に並ぶ斑紋列が顕著な楔(くさび)型になるのがよくわかるね。この特徴は本種のみにある。

ふつうはタテハチョウ科の蝶は♂に比べて♀は大型になるのだが、インドキゴマダラ(Sephisa dichroa)と同様にそれほど大型にはならないという。なお、♂と見紛うような♀の黄色型は、今のところ例が無いみたいだ。

 
【学名】Sephisa daimio (Matsumura,1910)

タテハチョウ科 コムラサキ亜科のインドキゴマダラ属に分類される。
属名のSephisa(セフィーサ)の語源は不詳。
小種名のdaimioは「大名」を意味する。あの戦国大名の大名だ。これは日本人である松村松年が命名したから。蝶の立派さを大名で表したかったのだろう。つまり、日本人的感性でつけられた名前なのである。
松村松年は日本の近代昆虫学の礎を築いた人で、日本の昆虫の和名を統一し、自らも多くの昆虫に和名をつけた人でもある。
台湾の昆虫の学名には、日本人によって命名、記載されたものが数多くある。これには時代背景があって、当時の台湾が日本の統治下にあった事を物語っている。かつては台湾は日本の領地だったのである。また、当時の台湾で昆虫を本格的に研究している人などいない時代だったと云うのもあるだろう。
そういう背景があったとしても、蝶の名前に大名という立派な名がついているのは、日本人の自分としては何だか嬉しい。daimioだなんて、外国人からすれば何のこっちゃだと思うだろうけどさ。

因みに、学名にこの大名が使われている種は他にもいる。日本にいるダイミョウセセリ Daimio tethysとベニシジミの日本亜種 Lycaena phlaaeas daimio である。
ダイミョウセセリは日本以外にも、朝鮮半島、済州島、中国北部~東北部、ロシア南東部、中国中部~南部、中国西部・チベット、中国雲南省からインドシナ半島北部と台湾にもいて、亜種区分もされている。もしも豊臣秀吉の朝鮮侵攻が成功し、さらに領地を拡大していたならば、朝鮮大名とか支那大名、雲南大名、西蔵(チベット)大名、露西亜(ロシア)大名、暹羅(シャム。タイの旧名)大名とかだよなあと想像したら、笑ってしまった。みんなチョンマゲなのだ。
もし別種のDaimio属のセセリチョウが他にもいるとしたら、それぞれフィリピン大名とかジャワ大名、マレー大名、ビルマ大名になるね、なっちゃいますね(笑)。
アジア群雄割拠の大名祭りだよ~ん\(^o^)/
いかん、また話が横道大介になってもた。本筋に戻そう。

増井さんと猪又さんの論文(註3)を読むと、ダイミョウキゴマダラの学名には紆余曲折があり、興味深いので要約してみよう。

「1908年に松村松年がSephisa princepsの亜種として記録したのが最初である。その2年後に同氏によって、Sephisa属の新種として記載された。松村の命名に遅れること1ヶ月、Wileman(1910)も新種として「Sephisa taiwana」の名で発表したが、これは、S.daimioのシノニム(同物異名)となった。しかし本種はその後、1913年にFruhstorferによって、S.dichroaの亜種とされた。それ以降、全ての研究者がこれに従った。本種を再び独立種として扱ったのは白水(1944)である。」

蝶一つとっても、歴史を紐解くと色々あるんだね。
ダイミョウキゴマダラが一時期は亜種とされていたのは理解出来なくもない。たしかにこのグループは互いに似ているのだ。今一度、Sephisa属を整理しておこう。

 
【Sephisa dichroa インドキゴマダラ】

本種は、Sephisa属の中で最も西寄りのヒマラヤ西北部から中部の南側の樹林帯(ネパール・インド・パキスタン)に分布する稀種。地理的変異は特に知られていないようだ。
小種名dichroaは、多分だがラテン語で「二つの色」と云う意味だろう。これは植物のジョウザンアジサイの属名としても使われている。

 
(インドキゴマダラ♂)
(出典『Butterflies of India』)

 
(出典『wikipedia』)

 
雌雄同型、♂も♀も斑紋が同じなので、♀の画像は割愛させて戴いた。

 
(裏面)
(出典『Butterflies of India』)

 
(出典『Wikipedia』)

 
【Sephisa princeps カバイロゴマダラ】

本種の分布はSephisa属の中で最も北寄りに偏る。
その分布域は広く、南限の雲南省から中国全土(西部の砂漠地帯は除く)・朝鮮半島・ウスリー・アムール地方にまで至る。
小種名の、princeps(プリンケプス)はラテン語の「支配者・君主」の意。

 
(カバイロゴマダラ♂)
(出典『LEPIDPOTELISTES DE FRANCE』)

 
(出典『jpmoth.org 』)

 
(裏面)
(出典『jpmoth.org』)

 
♂はS.dichroa(インドキゴマダラ)と物凄くよく似ている。実際、ネットでも両者がグチャグチャに混同されていて、同定は間違いだらけだ。dichroaとしている画像の、その殆んどがprincepsのものなのだ。
自分もデータを鵜呑みにしてて、やらかした。前回のキゴマダラ編で、dichroaの雌雄同柄の例としてあげた画像は、princepsの♂2頭並びだった。お陰で、あとで別な画像に差し換えなおしたよ。
両者の違いとして先ずあげられるのが、前翅中室の三角形のオレンジ紋。ここの紋がprincepsはdichroaと比べて内側(基部)に一つ多い。だからdichroaは、そこだけポッカリ空いたような感じに見える。また、前翅上端部の斑が白っぽくなる。一方、princepsは翅外縁部の明色斑列が明瞭で、紋が全てオレンジ色になる。

 
【カバイロゴマダラ♀】
(出典『sunyou.vo.kr』)

 
♀はこんなにカッコいいんだ…。知らなかったよ。
薄青い幻光色が出る個体もいるという。
たとしたら、( ☆∀☆)スッゲー。ポチ、欲しいよ。

Princepsはキゴマダラと同じで雌雄異型なんだね。S.dichroaは雌雄同型なのに、不思議だよねぇ~。
♀はきっと毒系の蛾に擬態してるな。この手の柄の蛾は居て当然な気がする。
しかし、調べていくと、♂と同柄の黄色型の♀もいるようだ。ウスリーや朝鮮半島は全て白色型で、中国中部辺りから西にいくにつれて黄色型が増え、雲南省や四川省までくると黄色型が優勢になるようだ。
おそらくカバイロゴマダラが種として誕生した場所は西ヒマラヤで、きっとその辺りでSephisa属の祖先種からdichroa、chandra、そしてprincepsが分化したのだろう。たぶんだがdichroaが祖先種に近く、そこからprincepsが分かれて東へと分布を拡大したのではないかな。前回のキゴマダラの回でも触れたけど、東へ進む段階で♀は徐々に擬態と云う武器を獲得していったとは言えまいか❓
ダイミョウキゴマダラは、princepsが台湾に到達し、長年隔離される中で独自進化したものだろね。
ところでこの属って、遺伝子解析はされてるのかな❓
されてたら、類縁関係が一発で解るのになあ。

 
(出典『www.guri.go.kr』)

 
【Sephisa chandra キゴマダラ】
分布はネパールからインドシナ半島北部、中国南部を経て台湾に至る。飛び離れてマレー半島にもいる。
小種名chandraは梵語由来で「月・月の神」を意味する。

 
(キゴマダラ♂)

 
(裏面)

 
一見して他とはかなり違う印象をうけるけど、上翅の白斑をオレンジにすれば、他とそう変わらない雰囲気になるかもしれない。

 
(キゴマダラ♀)

 
(裏面)

 
流石にキゴマダラの♀は特異だすな。
擬態化すると、個性が際立ってくるんだろね。

  
【Sephisa shizuyai ヒメキゴマダラ】
ミャンマー・サガイン州

 
(出典 2点とも『月刊むし』2016 11月号)

 
記載されたものの1♂?のみで、♀は未知。
異常個体ではないかという意見もあるようだ。たぶん、別種のような気がするけど、複数個体と♀が発見されないと何とも言えないね。

 
【台湾名】臺灣燦蛺蝶

蛺蝶はタテハチョウの事を指すから、燦(きら)びやかな台湾のタテハチョウってことだすな。
他に、臺灣黃斑蛺蝶、臺灣繚斑蛺蝶、臺灣黃胡麻斑蛺蝶、高砂黃斑挾蝶、臺灣帥蛺蝶、白裙黃斑蛺蝶という別称がある。
漢字でだいたいの雰囲気がつかめるが、いくつかわかりづらいものもある。
「繚」には、まとう・まつわる・めぐる・めぐらすと云う意味があり、百花繚乱にも使われている。よくわからないが、百花繚乱の華やかさを表しているのかもしれない。
「高砂」は山岳民族である高砂族のことだろう。
「帥」の字は将軍を表す。
「白裙」の裙は裳(もすそ)や裙子(くんす)のことで、僧侶がつける黒色で襞(ひだ)の多い下半身用の衣服。裙(くん)、内衣(ないえ)、腰衣(こしごろも)。これは、外縁の楔形の紋のことを言ってるのかなあ。
それはそうと、台湾名には大名の文字は使われていないんだね。残念だ。きっと中国語では大名は通じないんだろう。

 
【英名】
特に無いようだが、キゴマダラに倣いそれに準じるならば、「Formosa Courtier」ってところだろうか。
Courtierは宮廷や朝廷に仕える人、朝臣、廷臣、公家を指し、Formosaは欧州での旧い台湾の呼び名だから、さしづめ『台湾の宮人(みやびと)』といったところだろうか。
でも大名なんだから、もう少し威厳のある名前であってもいいと思うけどねぇ。
例えば「Orange Feudal Lord」なんかはどうだろう。Feudal Lordは、封建時代の君主って意味だから「オレンジの君主」。きっとオレンジ色の派手な甲冑を纏っているのだ。でも、甲冑って、大概がそんな感じの色やんけ( ̄∇ ̄*)ゞ
大名なんだから、そのまま「Orange Daimyo」とか、日光菩薩由来で「God-Sunshine Daimyo」とかさ(笑)。あっ、仏さんは神様じゃないか。
でも日光菩薩には、別にちゃんとした英名があるのではないかと思って調べてみたら、やはりありました。「Suryaprabha」というらしい。何かピンとこないわ。もっ、いっか。

それにしても何で学名はdaimyoじゃなくて、daimioなんだろう。ためしにdaimioで検索したら、すぐに大名と出てきた。ここで漸く解ったような気がした。学名の基本は英語ではなくてラテン語なのだ。daimioはラテン語表記なのかもしれない。相変わらず、どうでもいい事が気になる人だよなあ。だから、徒(いたずら)に文章が長くもなるのである。ビョーキだ。

 
【生態】
開張57~67㎜。台湾特産種で、中北部より中南部の標高500m~2500mで記録されている。だが、おそらく垂直分布の中心は1200~2300mくらいかと思われる。低地での記録は偶産だろう。
発生地は局所的で、個体数も少ないとされる。
成虫は4月下旬~9月に年1回発生すると言われるが、圧倒的に7月の記録が多いという。自分が採ったのも7月だった。見たのもその一度きりなので、やはり個体数は少ないのだろう。
杉坂さんのブログによると、飛び方は速いが、すぐに地上に止まるので撮影はしやすかったと書いておられる。けど正直、自分にはわからない。なんせ、果物トラップに止まっているのしか見たことがないのだ。因みに飛来時間は不明だが、採集した時刻は10時20分である。再度言うが、この時の顛末はアメブロに書いたので、文末を御参考あれ。

他に詳しい生態を書いた資料が見つからないが、その生態は概(おおむ)ねキゴマダラと似たようなものだろう。花には飛来せず、樹液や獣糞、熟して発酵した果物に集まるものと思われる。ちょっと驚いたのは、吸水には雌雄ともに集まるようなのだ。この点は♀が殆んど吸水に来ないキゴマダラとは違う。近縁種なのに不思議なもんだね。
♂はキゴマダラのようにテリトリー(占有行動)を張るのだろうか❓でもなあ…聞いたことがないし、もしそうだとしたら、もっと採集例があってもよさそうなもんだよね。

『アジア産蝶類生活史図鑑』を見たら、近縁のカバイロゴマダラと生態は変わらない云々と書いてあった。
カバイロゴマダラの生態部分を抜粋してみよう。

「♂は日当たりのよい樹梢を数mの高さで活発に飛ぶ。また乾いた路上に静止する。動物の死体や腐った果実などに止まるものも見られる。♀の飛翔は緩慢で、Quercus(シイ・カシ類)の梢を高く飛ぶ。好んで腐った果実に飛来する。産卵はおそらく食餌植物のかなり高い位置で行われるのではないかと想像される。台湾に産する近縁のダイミョウキゴマダラもほとんど上記と同じ習性を示す。」

♀の飛翔は緩慢と云うことは、何か毒のあるものに擬態している可能性がある。体内に毒をもつマダラチョウには似たような種類はいないから、擬態しているとしたら蛾だろう。

  
【幼虫の食餌植物】
未知のようだが、おそらく他のSephisa属と同じくブナ科 コナラ属であることはほぼ間違いないだろう。
因みに他のSephisa属からは以下の食樹が記録されている。

-キゴマダラ-
Quercus glauca(アラカシ)
Quercus morii(モリガシ)
Quercus acata(アカガシ)
Quercus monholica(モンゴリナラ)
Quercus incana

-インドキゴマダラ-
Quercus incana

-カバイロゴマダラ-
Quercus mongolica(モンゴリナラ)
Quercus variabilis(ワタクヌギ)
Quercus crispula?(ミズナラ)

飼育では、Quercus serrata(コナラ)、Q.dentata(カシワ)、Q.gluca(アラカシ)などを広く受け容れたという。
カバイロは常緑カシ類ではなく、主に落葉性のナラ類をホストにしてるんだね。とはいえ、変な産卵習性を持ってて、他の昆虫の丸めた巣の空き家に卵を産むから、ナラ・カシ類だったら何だっていいのかもしれない。

調べた限りでは、唯一ダイミョウキゴマダラの飼育記録があるのは、台湾の蝶の幼生期の解明に多大な功績を残された内田春男さんの1例のみ。
1990年7月29日に南投県で採集した♀により、三角紙内に産卵された卵が孵化、現地でQuercus glauca(アラカシ)により飼育されたようだ。この一部が3齢まで生育したが、結局越冬には至らず死亡したという。
その後、解明が進まなかったのは、本種の♀が珍しいために人工採卵も儘ならないからだろう。

とはいえ、その幼生期はおそらくカバイロゴマダラとかなり近いものと考えられる。参考までにカバイロの幼生期を紹介しておこう。

 
【幼生期】
『アジア産蝶類生活史図鑑』の記述を要約しよう。

♀の産卵行動は、前回のキゴマダラと似ている。
人工採卵させた場合、Quercusの葉をラッパ形に丸めたり、2つに折ったりしたものに産みつけるという。キゴマダラと違うのは、筒の中よりも周辺の葉の重なった狭い隙間や折れ曲がったわずかな空間を選ぶことだ。そこに40~50個の卵を押し込むように産み付ける。
卵は他の蝶のように底辺が平らではないので葉に固定することはなく、互いに表面を覆う粘膜で付着しあっている。
孵化した幼虫はコムラサキ亜科の典型的スタイルで、いわゆるナメクジ型。強い群居性を示し、食餌植物の表面に静止する。
これはキゴマダラの幼虫の習性と同じだね。おそらくSephisa属は皆さんそうで、ダイミョウキゴマダラも同じだと推察される。
越冬は3齢で行われる。これもキゴマダラと同じだ。
越冬幼虫は枝に糸を結びつけられた枯れ葉の皺や重なった部分に体を寄せあって静止する。気温が上がったり、刺激を受けると冬季でも容易に動き始める。

 
(幼虫)
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
キゴマダラと比べて、背中の白いぺラッとした突起物が1対少ない。ダイミョウキゴマダラは、はたしてどうな姿なんだろね。突起物は同じ数なのか、もしくは多いのか、或いは色がピンクだったりしてね。

 
(幼虫正面図)
(出典 『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
キゴマダラとよく似ている。キゴマダラは、ほっぺがピンクだったけど、カバイロは目の回りがピンクなんだね。正直、キゴマダラの方が可愛い。ダイミョウキゴマダラがどんなんなのか楽しみだなあ。顔全面ピンクで、体全体も( ☆∀☆)どピンクだったりして。

群居性は5齢になると失われ、単独で葉の表面に静止する。その際、きわめて大量の糸を葉の表面に張るので、幼虫を剥がすことは容易ではないという。

 
(蛹)
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
蛹も基本的にコムラサキ亜科のそれだね。
キゴマダラと比べると、背中の盛り上りが弱く、スリムな感じがする。色も白っぽい。また頭の耳みたいなのが長めだ。
ダイミョウキゴマダラは蛹全体がピンクで…。
ええ加減フザけるのはやめましょう。

面倒だから飼育したいとは思わないけど、♀は是が非とも自分の手で採ってみたい。でも7月中・下旬って他の蝶があんまり期待できないんだよなあ…。適期といえば、シロゴマダラシジミくらいしか思い浮かばない。
あっ、幻のマレッパイチモンジがいるじゃないか。
ダイミョウキゴマダラの♀とマレッパならば、浪漫がある。コケるリスクが高いけど、ならばこそのロマンだ。行きたいなあ。行けるかなあ…。
虫採りにロマンを持てなくなったら、網を置くときだと思う。
 
                 おしまい

 
追伸
ここまで書いて、ふと気づいた。♀は擬態している可能性があると書いたけど、ならばモデルは何だろう❓

調べてみたら、シャクガ科(Geometridae)のエダシャク亜科(Ennominae)に、こんなのがいた。

 
撒旦豹紋尺蛾
Epobeidia lucifera extranigricans (Wehrli, 1933)
(出典『圖録檢索』)

(出典『gaga.biodiv.tw』)

 
結構、大型のエダシャクなんじゃないかな。
エダシャクならば、毒を体内に持っている可能性が高い。擬態のモデルとしては申し分ないだろう。

 
狹翅豹紋尺蛾 Parobeidia gigantearia marginifascia Prout, 1914
(出典『圖録檢索』)

(出典『gaga.biodiv.tw』)

 
もしコイツらだったとしたら、擬態精度はそんなに高くないよね。まあ、それでも飛んでる時はかなりの効果があるだろう。
実をいうと、もっと高い精度でこの手のエダシャクにソックリな蝶が他にいる。次回は、その蝶を紹介する予定です。

 
(註1)日光菩薩
日光菩薩(にっこうぼさつ)は、仏教における薬師如来の左脇に控える一尊であり、月光菩薩と共に薬師三尊を構成している菩薩のことである。
『薬師経』に依れば、日光菩薩は一千もの光明を発することによって広く天下を照らし、そのことで諸苦の根源たる無明の闇を滅尽するとされる。
月光菩薩と対になるように対称的に造形される。つまり、日光菩薩が右腕を上げて左腕を垂らす場合は、月光菩薩は左腕を上げて右腕を垂らすといった具合である。また、その上げた方の手の親指と人差指で輪を作る例が多く、宝冠と持物に太陽を表す標幟を表現されることも多い。

 
(註2)この時の採集記

発作的台湾蝶紀行46 大名様のお通りだーい

 
(註3)増井さんと猪又さんの論文
増井暁夫・猪又敏男『世界のコムラサキ(6)』やどりが 157号(1994)

1994年かあ…、25年も前なんだね。
それにしても25年も経っているのに、まだ幼生期が解明されていないの❓信じられないや。
でもネットで検索しても幼生期の画像が一切出てこない。それって、やっぱそうゆう事なんだろね。

 

台湾の蝶23『月光菩薩』

 
  第23話『黄胡麻斑』

 
キゴマダラは、とても好きな蝶の一つだ。
そのせいか、過去に『ネイビーブルーの衝撃』『東洋の宮人』などの採集記を含めた幾つかの文章を書いている。文末にリンク先を貼り付けておくので、興味のある方は読んで下され。

 
【分類】
蛺蝶科    Nymphalidae(タテハチョウ科)
閃蛺蝶亞科  Apaturinae(コムラサキ亜科)
燦蛺蝶屬   Sephisa(インドキゴマダラ属)

キゴマダラの他にオオムラサキやゴマダラチョウなどの胴体が頑健なものをまとめて、Euripus属群と呼ぶ場合もあるようだ。

 
Sephisa属には、以下のような種が含まれる。
 
◆Sephisa chandra  キゴマダラ
◆Sephisa dichroa インドキゴマダラ
◆Sephisa princeps カバイロゴマダラ
◆Sephisa daimio ダイミョウキゴマダラ

また近年、新たにミャンマーから新種が加えられた。
◆Sephisa shizuyai ヒメキゴマダラ(註1)
 
この中ではダイミョウキゴマダラが台湾にも生息する。というか台湾特産種だ。これについては次回に書く予定です。でもメスがまだ採れてないからなあ…。予定は未定であって、しばしば変更なのである。あまり期待はしないで下され。

 
【Sephisa chandra androdamas キゴマダラ♂】
(2017.6.15 南投県仁愛郷南豊村)

 
鮮やかな橙黄色と黒に限りなく近い紺色とのコントラストが美しい。

 
(裏面)
(2016.4.18 Laos oudomxay)

 
裏も美しい。下手したら裏の方が渋キレイなんじゃないかと思う。
なぜか台湾産の裏側の野外写真が無いので、仕方なくラオス産を貼付しときました。

 
【キゴマダラ♀】
(2017.6.21 南投県仁愛郷南豊村)

 
一方、メスは深い群青色に青や橙色が配され、落ち着いた美しさを醸し出している。そしてオスよりも一回り以上あって、かなり大きい。
採れた時は指先が震えたっけ。虫採りはエクスタシーなのだ。最近は滅多に味わえなくなったけど、この陶酔感と達成感と安堵が入り混じった感覚は何にも代えがたい。それくらい気持ちいい。謂わば麻薬的なのだ。だから虫採りはやめられまへーん。

 
(裏面)
(2017.6.20 南投県仁愛郷南豊村)

 
この蝶は、知らない人が見たら同種とは思えない程にオスとメスとでは色彩斑紋が著しく違う雌雄異型なのである。メスにはヒサゴスミナガシと云う別名もあるから、当初は同じ蝶とは思えず別種と考えられていたのかもしれない。
雌雄異型の蝶は大概どちらかが汚い。オスもメスも美しいものは案外少ないし、裏も表も美しいと云う蝶はさらに少ないと思う。おまけに分布は局所的で、中々会えないときているから、オジサンは( ☆∀☆)萌え~なのだ。
とはいえ、台湾ではオスならまだ比較的会えるチャンスがある。他の生息地域よりも個体数も多いと思う。
但し、台湾でもメスには滅多な事では会えない。

メスは個体変異が多く、それもコレクターの魂を揺さぶるようだ。

 
(2017.6.20 南投県仁愛郷南豊村)

 
一番最初に示した個体は全体的に斑紋が発達しており、上翅の亜外縁に白斑が出ている。時にここが著しく白化するものもいるようだ。
一方、上の写真の個体は全体的に斑紋の発達が悪く、暗い印象を受ける。でも、これはこれで渋い美しさがあって嫌いじゃない。

 
(2017.6.20 南投県仁愛郷南豊村)

 
これは新鮮な個体ではないが、下翅の青紋が比較的発達しているかな。

 
(2016.7.15 南投県仁愛郷南豊村)

 
コレも下翅の青紋が発達したタイプだ。しかし、上翅中室のオレンジの紋が最も小さい。

因みに、上翅が白化した個体はこんなの。

 

(出典 2点とも『季刊ゆずりは』)

 
このタイプは北タイなどに多く見られるようで、半数近くが白化するという。
台湾産のメスは黒色と青色が発達する暗色傾向にあり、青紋の上に灰色の鱗粉が乗ることから他地域のメスと区別ができるという。

他の変異としては、前翅と後翅の青色紋が白色に置き代わる型がある。
たぶんコレだろう。

 
(出典『Wikipedia』)

 
この型は北東インド・シッキム・ネパールなどの分布 域西部にのみ分布するとされ、白色部は時に黄色くなり、♂と見紛うばかりの個体まで現れるという。

 
台湾産の標本写真も貼付しておこう。

 
【♂】

(♂裏面)

 
【♀】

(♀裏面)

 
【学名】Sephisa chandra

平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』によると、属名のSephisa(セフィーサ)は語源不詳で、意味のない造語であろうとしている。
小種名chandra(チャンドラ)は、サンスクリット(梵語)由来で、Candra(月)や月の神を意味する。月の化身だね。カッコイイ学名だ。やはり、佳い蝶には良い名前がつく。因みに平嶋氏は命名者のMoorが語頭のCを発音通りのchに置き換えたものだとしている。
台湾産は亜種「androdamas」とされるが、その語源は不詳。
但し、前半部のandroはギリシア語では「人間」、特に男性を表し、強健という意味としても使われるようだ。一方damasはスペイン語で女性を指す。スペイン語もラテン語由来の言語だから、ラテン語やギリシア語でも女性を意味する言葉として使われていた可能性は高い。
つまりandrodamasは、andro+damasの造語とは考えられないだろうか❓男性と女性の両方とが合体した名前ならば、雌雄異型のこの蝶の学名にはふさわしい。それに強健というのもこの蝶のイメージと合致している。
まあ、あくまでワタスの妄想ですが…。

 
【台湾名】燦蛺蝶
「燦」は中国語の繁体字で、略字の簡体字だと「灿」と書く。意味は日本語の燦然と輝くなどの用法と同じで、鮮やかに輝く様である。蛺蝶はタテハチョウの事だから、燦(煌)めくようなタテハチョウってことだね。中国でも最大級の賛辞が送られておるのだ。

他に多くの別称がある。参考までに並べておこう。

帥蛺、黃斑蛺、蝶雌黑黃斑挾蝶、黃胡麻斑挾蝶、黃胡麻斑蛺蝶、雌黑黃斑蛺蝶、櫟繚斑蛺蝶、東方帥蛺蝶。

漢字からだいたいイメージできるが、一部わかりづらいかと思うので、少し補足しておこう。
帥蛺蝶の「帥」は日本では大宰府の長官と云う意味でもあるが、概ね将軍とか統率者(リーダー)といった意味で使われる。中国でも同じく将軍を表す字のようで、現代ではイケメン(ハンサム)を指す言葉としても使われているみたい。イケメンの将軍って、最大の賛辞だよな。ちょっと想像してみた。
( ☆∀☆)女子萌え~だよね。

帥蛺蝶がオスを表しているならば、雌黒黄斑蛺蝶はメスを主題とした名前だね。でも実物の蝶を知らなければ、漢字だけだとワケわかんない姿が目に浮かびそうだ。

櫟繚斑蛺蝶の「櫟」はクヌギを意味する。カブトムシが集まる木だね。またイチイにもこの漢字が宛がわれている。イチイとはイチイガシの事で、ようするにブナ科コナラ属の植物を表している。つまり、この蝶の幼虫がこの樹木類をホストとしている事からの命名だろう。
「繚」は百花繚乱にも使われる語だから、美しいとかと云う意味で使われているのかなと思った。ところがドッコイ、どうやら糸がもつれる様を表しているようだ。縁起悪りぃ~。他に、まとうと云う意味もある。衣服を身に纏うとかのまとうだ。にしても意味的には、どうもスッキリしない。
う~ん、困ったな。櫟繚で検索すると、オーク風という訳が出てきた。オークとはカシとかナラの木のことだ。
ここで行き詰まった。それほど重要な問題でもないし、まあ、もうええやろ。

 
【英名】Eastern Courtier
Courtierは宮廷や朝廷に仕える人、朝臣、廷臣、公家を指し、Easternは東の、東国のと云った意味だから、さしづめ『東洋の宮人(みやびと)』といったところだろうか。中々に優雅だ。但し、Courtierには御機嫌とりとか、おべっか使いという意味もあるようだ。英語名が一番敬意が払われておりませんな。

 
【分布と亜種】
(出典『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
従来、キゴマダラの分布図といえば、こうだった。『アジア産蝶類生活史図鑑』の分布図もほぼ同じだ。
インドシナ半島北部一帯とマレー半島、台湾と分布が極端にかけ離れている。
しかし、杉坂美典氏のブログ『台湾の蝶』では全然違う分布図になっていたので驚いた。

 
(出典 杉坂美典『台湾の蝶』)

 
調べてゆくと、どうやら近年になって中国で続々と新たな産地が見つかっているようだ。この飛び離れたような特異な分布に対して浪漫と畏敬の念を抱いていたから、正直残念でならない。何だか特別感が減っちゃったなあ…。憧れてた女性が、意外と「させ子」ちゃんだった…みたいなガッカリ気分になるよ。
コムラサキ亜科に詳しい研究者として知られる増井暁夫氏の論文(註2)によれば、主に中国南部で見つかっているようで、浙江省と海南島のものは亜種として記載されている。
杉坂さんは、他に雲南省、四川省、貴州省、広西自治区、湖南省、広東省、福建省を産地としてあげられている。
おいおい、結構おるやんけー(>o<“)
とはゆうものの、中国でもその分布は局所的で稀種である事には変わりはないようだ。
従来の生息域以外では、他にテナッセリム、ブータン、香港、南ベトナムでも発見されているようだ。
因みに分布の西限はネパール中部。

亜種には以下のようなものがあるとされる。

 
◆Sephisa chandra chandra
Moor,1858
原名亜種(シッキム・アッサム・インドシナ半島北部)

 
(2016.4.21 Laos oudomxay)
 
(2016.5.2 Laos oudomxay)

(2011.4.16 Thailand Changmai)

 
◆Sephisa chandra androdamas
Fruhstorfer,1908
台湾亜種

 
(2017.6.19 南投県仁愛郷)

 
ん~、表はそれほど大きな違いは感じられない。
強いていえば、原名亜種と比べて黒色部が発達傾向にあり、全体的に紋が小さくなって下翅の真ん中の黒点大きい。また、下翅外縁の紋も消失している。
裏面はまだ違いが分かりやすくて、全体的に黒い部分が多く、下翅に白斑が入っている。
とはいえ、多くの標本を検したわけではないから、何とも言えない。見立てが間違ってたらゴメンナサイ。

 
◆Sephisa chandra stubbsi
Corbet,1941
マレー半島亜種(マレーシア)

 

 
画像が小さくて分かりづらいかもしれないけど、表側下翅の黄色い部分が広い。裏側はさらに黄色くて明らかに他とは区別できる。もしかしたら、キゴマダラは表よりも裏に亜種の特徴が出るのかもしれない。

 
(出典 2点とも『ぷてろんワールド』)

 
画像はないが、♀は表側前翅中室のオレンジ斑が消失し、全体的に青色部が減退傾向にあり、これも他地域のものとは明確に区別できるようだ。

 
◆Sephisa hainanensis
Miyata & Hanagusa,1993
海南島亜種(中国)

海南島産は、かなり黒化が進んだ個体群とされる。
だが増井氏によると、ホロタイプ(正模式標本)は極めて黒化した個体で、他の海南島産の標本を検した結果(7個体)、黒化の程度はホロタイプ程ではなく、黒化が進んでいない個体も混じるようだ。
因みに、対岸のベトナムでも黒化が進んだ個体が得られるという。どうやら黒化傾向の強い個体は北ベトナムから海南島にかけて分布し、その傾向がハッキリしているのが海南島ということらしい。両地域の変異幅はかなり重なっているという。

これ、黒いなあ。↙

(出典『Wikipedia』)

 
でも産地は書かれてなかったけど海南島産ではないと思う。以前にKSLオークションで見たものは、こんなに黒くはなかったからだ(画像はダウンロード出来なかった)。
ちょっと待てよ。コレって♀じゃねえか?もしかしたらコヤツが♂の斑紋みたいな♀って奴かな?

日をおいて、しつこく探してたら、KSLオークションから新たな画像が見つかった。

 
(出典『昆虫専門KSLオークション』)

 
一番下が海南島亜種のようだ。
しかもパラタイプ(副模式標本)である。
画像をトリミングしてみよう。

 

 
確かに下翅外側の紋や上翅先端付近の紋が消失しかかっている。でもどう見ても黒化してるって感じじゃない。前に見たKSLの画像もこんなだった。
どっからどこまでを黒化と認じるかは人によって違うって事なんだろね。
もしかしたら裏が黒いのかとも思ったが、残念ながら裏の画像は無い。でも、よくよく考えればダウンロード出来なかった方の個体も黒化してるってほど特に黒いとは思わなかった。黒化って何だよ?謎だよなあ。

言い忘れたが、3頭並んだ画像の右上は北ベトナムのTam Dao産で、左上は西マレーシア産。
ということは西マレーシアのものはマレー半島亜種だね。やっぱり下翅の黄色い部分が広い。コレは変異が解りやすいから亜種区分されて当然かもしれない。

 
◆Sephisa chandra zhejiangana
Tong,1994
中国亜種(浙江省)

ググってみたが情報が得られなかった。浙江省は地理的には台湾の対岸上方にあって比較的近いから、それに準じた変異のものだと思われる。とはいえ、予想外のモノ凄く変わった奴かもしれん。ワカラン。断言は避けときます。

増井暁夫さんの論文によると、♂の地理的変異としてはブータン産のものが、かなり変わっているようだ。
一部を抜粋してみよう。

「前翅頂の内側にある白点列が黄色くなり、前翅第2室の眼状紋が明瞭に分離し、かつ翅型も丸みを帯びる。これと全く同一の特徴を有する個体が矢崎ら(1985)にも図示されている。前翅を見るかぎりSephisa dichroaと類似した斑紋といえる。図示 した個体が本種であることは、裏面の特徴から判断した。ブータン産の♀は未知と思われ、是非とも同地における変異が詳しく解明されることを望む。」

日本蝶類学会のブログで、らしきものを見つけた。

 
ブータンのキゴマダラ
(出典『BSJ BLOG』)

 
映像には文章も添えられている。
「キゴマダラはまだまだ整理がされていないようで、本種に詳しい当会の増井暁夫理事によれば隠蔽種や新亜種の可能性も秘めているという。その一つの例がブータンのものである。図示したミャンマー産の標本(原名亜種?)と動画を見比べていただければ分かると思うが、前翅表面の亜外縁の斑紋が、ブータンのものはすべてオレンジ色を呈している。増井理事によればこの変異が見られるのはブータンだけだそうで、今後の詳しい検討が待たれるところである。」

参考までに言っておくと、隠蔽種というのは見た目がほぼ同じで同種や亜種と考えられていたものが、実をいうと別種だったというパターン。例えば1種類だと思われていた日本のキマダラヒカゲには2種類が混じっている事が判明して、サトキマダラヒカゲとヤマキマダラヒカゲに分けられたなんてのがそれにあたる。見た目は同じでも、遺伝子解析してみたら、全然別物だったなんて例もポチポチ出始めている。遺伝子解析で全てがスッキリすると思っていたが、新たな混乱が生じているのだ。種って、何ぞや❓と思うよ。

一応、参考までにSephisa dichroa インドキゴマダラの画像も貼付しておこう。

 

(2点とも出典『Butterflies of India 』)

 
(出典『Wikipedia』)

 
インドキゴマダラは雌雄異型ではないんだよね。
キゴマダラ以外のSephisa属は、皆さん♂♀同型なのだ。なぜにキゴマダラだけがそう進化したんだろね。

 
シノニム(同物異名)に以下のようなものがある。

◆Sephisa chandra albofasciata
(Sonan,192)
◆Sephisa chandra hirayamai
(Nakahara,193)
◆Sephisa chandra horishana
(Matsumura,1929)
◆Sephisa chandra pandularis (Matsumura,1909)
◆Sephisa chandra rex
(Wileman,1908)
◆Sephisa chandra scurrae
(Murayama,1961)

随分とシノニムが多い。
理由は色々あるんだろなあ…。想像するに、たぶん功名心に駆られた学者たちが、よく調べもせずに無闇矢鱈と記載を競い合った結果ではないだろうか。それが後(のち)に、分布が連続する亜種間の境界地域では両者の区別がつかない事が判明したりして、亜種としては認められなくなったんじゃないかな?

 
【生態】
台湾では標高200~2700m付近の間で得られているが、その生息域の中心は中海抜の標高500~1000m前後だろう。マレー半島では1200m以上の高地に限って生息する。いずれの地方でも得られる個体数は少なく、特に♀は稀である。台湾では3月下旬から12月上旬にかけて見られ、年3回以上の発生をするものと考えられる。埔里周辺では、♂は6月中旬には鮮度が落ち始め、7月に入るとボロばっかだった。♀は6月中、下旬に鮮度の良い個体が多かった。
♂の飛翔はきわめて敏速で、特に山頂に飛来するものは速い。頂上占有癖が強く、山頂の樹梢上に静止しているところへ他の個体が接近すると激しく追尾するという。しかし、自分は占有行動を見た事がなく、多くは谷沿いや林道で見られた。
♀の飛翔は♂に比べると遥かに緩慢で、樹梢の高位置で静止もしくは飛翔するという。
とはいえ、午前中に一度モノ凄いスピードで上から降りてきて地面に一瞬止まったかと思ったら、またモノ凄いスピードで飛んでいった事がある。たぶん♀は他の毒持ちの蝶や蛾に擬態しているから、普段はゆったりと飛ぶのではないかと思う。これはケースによっては♂にも当てはまる。
それで思い出した。タイのチェンマイでの事である。初めてこの蝶の♂に会った時は、最初は蛾だと思ったのだ。派手で緩やかに飛んでいるから、てっきり昼行性のシャクガかトラガの仲間だろうと思って無視していた。しかし、ひょろひょろと近づいてきて、目の前に止まった。何気に見たら、蛾がいきなり蝶に変わった。その時はまだ蝶屋3年目でキゴマダラの存在さえも知らなかったから、死ぬほどおったまげた。

 
(2011.4.16 Thailand Changmai)

 
黄色いゴマダラチョウみたいだと思った。
上から熱帯の強烈な光が降り注いでいたから、もの凄く黄色く見えたのを憶えている。
ラオスで吸水しに飛んできた多くの個体も、普段とは違うひらひら飛びだったから、♂も毒のある蛾に擬態している可能性は充分に考えられる。

見間違えた蛾の画像を探してみた。

 
(出典『Wikipedia 』)

 
そうそう、コレ、コレ。
たぶん、Dysphania militaris だろう。トラシャクという昼行性の蛾の仲間で、東南アジア各所で吸水に集まっているところをたまに見かける。

キゴマダラの♂は、体内に毒を持つスジグロカバマダラ(以降スジカバと略す)に擬態しているという説があるようだが、可能性はあるものの、そういう風に見えたことは一度もない。
スジカバは沖縄でも何度も見ているので、脳が学習していて容易に識別できてしまう可能性が無きにしもあらずだけどね。

 
(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
でも考えてみれば、そもそもスジカバとキゴマダラの好む環境は違うじゃないか。スジカバはオープンランドの蝶で、人里付近の明るく開けた場所を好む。一方、キゴマダラは森の蝶だ。だから、両者が同じニッチ(環境&空間)に同時にいる事は稀だろう。ならばキゴマダラがスジカバに擬態する意味はあまりない。
だから、むしろ蛾の方に似せているような気がするんだよね。前にFacebookにキゴマダラについて書いた折りに、どなたかがトラシャクには毒があるっておっしゃってたし、どちらかというと擬態対象はこっちだと思うんだよな。
幼虫だって、いかにもワタシ、毒ありますって感じだもんなあ。

 
(出典『香港蛾蝶網』)

 
だいたいにおいて、派手な奴には毒があると云うのが自然界の法則なのだ。捕食者にヤバい奴だと認識してもらう為に、ワザと目につきやすい派手派手信号を送っているのである。蜂とか工事現場の看板みたいなもんだ。いわゆる警戒色ってやつだね。

そういえば台湾でトラガを一瞬だけだけど、キゴマダラの♂に間違えかけた事があったっけ…。

 
【Chelonomorpha formosana❓】
(2017.6月 南投県仁愛郷)

 
細かい柄や翅形は違うけど、飛んでいる時は直ぐには見抜けないものだ。
とはいえ、このトラガに毒があるかどうかは分からないけどさ。

そういえば♀も一度毒蝶のルリマダラと間違えた事があった。
横からふらふらと飛んできた時は、(=`ェ´=)ケッ、ルリマダラかよと思った。しかし次の瞬間にはどこか違うと感じて咄嗟に網を振った。中を見て、キゴマダラの♀だったのでバキ驚いたんだよね。

 
【ルリマダラ】
(2017.6.20 南投県仁愛郷)

 
厳密的にはそれほど似ていなくとも、飛び方さえ似せていれば、かなり騙されると云うことだ。

♀はルリマダラだけでなく、毒のある蛾にも擬態している可能性があるだろう。
例えばサツマニシキ(註3)なんかはどないだ❓
毒持ちだしアジアに広く分布しているから、擬態の対象としては有望かもしれない。
コイツ、捕まえると体の横から青酸の泡をブクブク吹き出しよんねんでー。(T△T)気味悪いったら、ありゃしない。

 
(出典『島平の自然だより』)

 
そこそこ似ているから、間違えることもあるだろう。
とはいえ、ソックリとまではいかない。
もっと似ている奴が他にいる筈だ。

コレなんか、どうだ❗❓

 
(出典『隨意窩』) 

 
Sanguiglua viriditincta という蛾。
裏面だけど、似てるよね。この蛾も昼行性の蛾だから、擬態相手の可能性は充分にある。
おそらくマダラガ科の蛾だろう。サツマニシキもマダラガ科だし、いかにも毒が有りそうだ。

種としてのキゴマダラはチベットの辺りで誕生したと言われている。想像するに、最初の頃は他のインドキゴマダラ属と同じように雌雄同型だったと思われる。たまに♂と同柄の♀が現れるのはその証左であり、先祖返りみたいなものかもしれない。擬態するという生存戦略を得て、東へと分布を拡げる中で、おそらく土地、土地の擬態相手に似せることで多くのフォームが生まれたのだろう。きっと北タイには上翅の先端部が白い毒持ちの蛾がいるに違いない。

話が生態から、だいぶ逸れた。本題に戻そう。

♂は吸水に地上に下りるほか、樹液や爛熟した果実、獣糞に飛来する。そういえば台湾でゆっくり飛ぶ♂を見たことがないなあ…。吸水に来る時も素早く飛んで来るし、地上に降りても敏感で容易に近づけない。
あるいはトラガって毒が無いのかもしれない。そもそもトラガって、吸水に来るのかあ?来るイメージが全然ない。調べた限りではトラシャクは台湾にはいないようだし、台湾の♂は特に何かに擬態しているわけではないのかもしれない。
♀も樹液や熟した果実を好むが、吸水の観察例はない。♀は吸水に来ないし、あまり飛び回らずに木の高い位置で静止しているから、出会うチャンスが少ないのだろう。基本的に♀はトラップでもかけない限り採れまへん。

 
【幼虫の食餌植物】
コムラサキ亜科の大半がアサ科 Celtisエノキ属(註4)を好むのに対し、唯一このSephisa属の蝶のみがブナ科コナラ属(Quercus)を食する。
南方では常緑カシ類、北方では落葉性のナラ類を利用しているようだ。食餌植物として記録されているものに、以下のようなものがある。

Quercus glauca 校欑  アラカシ
Quercus morii 赤柯   モリガシ
Quercus acata      アカガシ
Quercus mongolica   モンゴリナラ(ミズナラ)
Quercus incana

おそらく上2つが台湾での食樹であろう。

【卵】

(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

♀は食餌植物の周辺をゆるやかに旋回して、ゾウムシなどその他昆虫が丸めてつくった筒状の巣の放棄されたものを見つける。そしてこの筒の中に尾端をさし入れて15~20個の卵を産みつける。この習性はカバイロゴマダラの産卵にも見られるものである。産卵位置は地上2~5m。
♀の腹端が腹面側に大きく湾曲しているのは、この変わった産卵習性がゆえの進化だろう。それにしても、他の虫が丸めた葉を探すのは大変だろうなあ。と云うことは、たとえ食樹があったとしても葉を丸めてくれる虫が生息していなければ生きていけないって事だ。難儀な生き方をしてはるなあ。分布が限られ、個体数が少ないのは、そのせいなのかもしれない。

 
【幼虫】
(出典『アジア産蝶類生活歴史』)

(出典『蝴蝶的幼蟲圖鑑』)

 
角は短めだがいわゆるナメクジ型で、日本のオオムラサキやゴマダラチョウの幼虫とよく似ている。間違いなくコムラサキ亜科の仲間だと云うことがよく解るね。

顔はどうだろう❓

 
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
エイリアンだ(笑)
オオムラサキなんかと比べて顔の黒点が横にあるので、あんまし可愛くない。ほっぺがピンクなのに惜しい。

『アジア産蝶類生活史図鑑』に、幼虫について詳しく書かれてあるので、長いがそのまま引用しよう。

「孵化した幼虫は群居性が強く、1齢から終齢に至るまで常に葉の表面に身を寄せあって静止する。越冬は台湾においては3~4齢期に行われるものを観察した。越冬幼虫は体色濃緑色のままで変色せず、食餌植物の葉の表面に群居して静止する。寒さが増すと、上方に他の葉が被さる位置に移るか或いは裏面に移動する。気温が-6℃まで下がっても死ぬ個体はなかった。そして直射日光が当たると動き始める。越冬中も生命を維持するのに必要な最小限の摂食を続けるが成長はしない。3月上旬に脱皮して終齢となる。孵化直後から終齢に至るまで若葉を好まず終始して硬く成長した葉を食う習性は珍しい。終齢幼虫は単独、あるいは2匹が共生するのが見出だされる。終齢幼虫は葉の表面に大量の糸を吐いて台座を設けるが、この糸は左右両端だけしか葉に付着せず、中央部は葉の表面から離れている。したがってここに静止する幼虫の体は葉の表面には触れず宙に浮いている。幼虫は常に葉柄に頭を向けて静止する。4月の上旬~中旬に至り、幼虫は食餌植物の葉の裏面で蛹化する。」

幼虫の習性は、どうせオオムラサキやゴマダラチョウと同じようなものだろうとタカを括っていたが、かなり違うのでビックリした。
まさか群居するとは思いもよらなかったよ。日本のコムラサキ亜科の蝶は全て単独で生活しているのだ。国外のコムラサキ亜科の蝶だって、大半はそうだろう。

 
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
結構グロいなあ…(^o^;)
集まって暮らすだなんて、まるで蛾じゃないか。
きっとそんなひねくれ者は、コイツくらいなもんじゃねえか❓

越冬期になっても体の色が変わらないというのも驚きだった。オオムラサキやゴマダラチョウなどは冬になると木を下り、根元の落葉の裏で越冬する。ゆえに目立たないように枯れ葉色に変色するのだ。コムラサキのように根元には降りないものもいるが、越冬時に変色するのがコムラサキ亜科の特徴だとばかり思っていた。
でも考えてみれば理にかなっている。葉っぱの上で越冬するんだから、色が変わる必要性がないのだ。
いや待てよ。インドシナ半島北部などに分布する原名亜種は、落葉性のブナ科植物(コナラ属)を食うというじゃないか。だとしたら、木の根元で越冬する可能性もある。となると変色するに違いない。もしかしたら台湾のものだけが樹上越冬で、体色変化がないのかもしれない。だとしたら、生き物って面白いよなあ。

 
【蛹】
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
蛹も如何にもコムラサキ亜科って感じである。
オオムラサキなんかと比べたら、少しスリムかな。

 
こうして改めて雌雄の成虫が並んだ画像を見ると、美しき夜空とでも呼びたくなる。♀の羽模様はゴッホの蒼黒い夜空だ。そこにオレンジ色の星が銀河に彩りを添える。青い流れ紋は流星群のようだ。♂は夜空に浮かぶ月ってところか。羽のデザインを横に並べると、なんだか一幅の絵みたいではないか。まるで夜空の絵巻だ。さらに思念は自由に広がり、飛躍する。その夜空から冴えざえとした月光が降り注ぎ、神々しき月光菩薩(註5)の姿が重なるようにして浮かび上がってくる。手を合わせて拝もう。
この蝶にはいつ出会っても、会えた悦びにありがたやと云う感謝の気持ちが湧いてくる。
そう、菩薩なのだ。

                 おしまい

 
追伸
いやはや、ラストは空想太郎で終わってまっただよ。

今回は調べものが多くて、書くのに随分と時間がかかった。長げえし、やめてぇなあ…、このシリーズ。

メインタイトルにも悩んで、中々決まらなかった。
最初はアメブロで使った『ネイビーブルーの衝撃』だった。けれど、これはメスだけを表しているタイトルだからボツ。
次に考えたのが『阿修羅男爵の~』だった。
阿修羅男爵とは、永井豪の漫画『マジンガーZ』に出てくる半身が男で半身が女の悪役キャラのこってすな。
「阿修羅男爵の秘密」「阿修羅男爵と陽気な仲間たち」「哀愁の阿修羅男爵」「阿修羅男爵に恋して」「阿修羅男爵の華麗なる生活」etc……Σ( ̄皿 ̄;;フガー。
でも、ほにゃららの部分(~のこと)がどうしてもフザけたフレーズしか思い浮かばず、断念。
続いて浮上したのが『月の化身』とか『月の女神』。悪かないが、何だかシックリこない。こういうタイトルは、どちらかというとオオミズアオなど蛾のイメージの方が強い。
で、最後の最後に今のタイトルになった。とはいえ、一度は『夜空の絵巻』に書きかえたんだけどね。

思えば、まだ台湾以外では♀を採った事がない。
タイは個体数が少ないから厳しいが、ラオスならば何とかなるかもしれない。
生きている白っぽい♀をこの目で一度は見てみたいものだ。

アメブロの過去記事5編です。
青文字をタップすると記事に飛びます。

東洋の宮人

発作的台湾蝶紀行56『ネイビーブルーの衝撃』

発作的台湾蝶紀行11『幻の美女』前編

発作的台湾蝶紀行43『白水さん大活躍、ワシ虐待おとこ』

全然採れる気がしない

 
(註1)Sephisa shizuyai ヒメキゴマダラ
ミャンマー・サガイン州で得られた♂によって記載された。♀は未知。キゴマダラ(前翅長37~38㎜)と比べて34㎜と小さいらしい。

 

(裏面)
(出典『月刊むし』No.549 Nov.2016)

 
キゴマダラの異常型に見えるが、小岩屋さんは斑紋パターンが異常型のそれではないと述べられている。
何れにせよ、新たに複数の個体が採れないとこんなの分かんないよね。その後、3年くらい経ってるけど、採れたのかなあ?

(註2)増井暁夫氏の論文
増井暁夫・猪又敏男『世界のコムラサキ(6)』やどりが 157号

(註3)サツマニシキ
名前を漢字にすると、薩摩錦であろう。日本屈指の美しい蛾だと言われてる。薩摩は現在の鹿児島県にあたるから、たぶん最初に発見されたのがその辺りだったんだろう。
関西では、紀伊半島のみに生息するところからみると、南方系の蛾である事は間違いないだろう。

(註4)アサ科 Celtisエノキ属
Celtis属は、かつてはニレ科とされていたが、最近のAPG分類体系(遺伝子解析)ではアサ科となっている。
 
(註5)月光菩薩
月光菩薩は「がっこうぼさつ」と読み、仏教における菩薩の一つ。日光菩薩と共に薬師如来の脇を務め、薬師三尊を構成している。
月光菩薩は月の光を象徴する菩薩で、日光菩薩と共に薬師如来の教説を守る役割を果たしているといわれる。
余談だが、月光仮面のモデルは、この月光菩薩だそう。

台湾の蝶22『目玉オヤジは森の王様』

 
 
  第22話『ワモンチョウ』

 
今回は、Stichophthalma howqua ワモンチョウ。
ジャノメチョウ&ヒカゲチョウ系統を取り上げるのも初めてだ。

Nymphalidae(タテハチョウ科)
Satyrianae(ジャノメチョウ亜科)
Amathusiini(ワモンチョウ族)
Stichophthalma(ワモンチョウ属)

に分類され、台湾産は亜種formosanaとされる。

 
【ワモンチョウ Stichophthalma howqua ♂】

(2017.6.20 南投県仁愛郷南豊村)

 
デカイ。開帳100㎜前後くらいある。
不意に木陰から飛び出してくると、その迫力に一瞬たじろぐ。で、ドタバタと森の奥に逃げてゆく。きっと羽が大きいわりに体が細いので、そんなに速くは飛べないのだろう。とはいえ、ナメてると意外に採れない。
そういえば思い出した。台湾に行く前は、何が何でもワモンチョウを採りたいとは思ってなかった。まあ、採れればいいやって感じ。何でかっていうと、渋カッコイイ揃いのStichophthalma属の中にあって、このワモンチョウが一番ダサいからだ。
でも実物を見たら、そうでもなかった。結構、カッコイイし、個体変異も大きいので、見つけたら真面目に採った。それに案外一筋縄にはいかない奴なので、意外と採ってて面白いのである。

 
【ワモンチョウ♀】
(2017.6.30 南投県仁愛郷眉渓)

 
♀は更に一回り大きい。
東南アジアで、既にルイザワモンを見ていたから、そんなに大きくはないだろうとタカをくくってたけど、実際に実物を見たら、やっぱりデカイと思った。

 
【裏面】

 
この輪っか紋が和名の由来だろう。
雌雄の違いは大きさの他に、♀は翅形が全体的に丸くなる事や裏面の斑紋の違いから判別できる。
解りやすいように、標本写真も貼付しておこう。

 
【ワモンチョウ ♂】

 
♂は後翅表面基部に性標があり、♀にはこれが無い。

 
【裏面】

 
ワモンチョウ系の展翅は嫌い。翅の下辺を上げようとすると頭が羽に埋まりがちになるし、触角が微妙に波打ってて真っ直ぐになりにくいのだ。

 
【ワモンチョウ ♀】

 
う~ん、上翅を上げすぎてるなあ。まっ、いっか…。

♀は♂と比べて翅形が丸く、裏面の白帯が発達する。しかし、珠に微妙な斑紋の個体もいるそうだから、総合的に判断した方が良いようだ。

より解りやすいように図鑑の画版も添付しておこう。

 
(出典『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
上が♂で、下が♀である。
こうして並んでいると、一目瞭然だね。

 
【学名】Stichophthalma howqua

平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』によると、Stichophthalma(スティコフタルマ)は、ギリシア語のstichos(列・線)+ophthalmos(眼)の合成語で、一列に並んだ眼状紋を表現しているそうだ。
それにしてもスティコフタルマって、言いにくいよね。スティコフタルマ、スティコフタルマ、スティコフタルマ……Σ( ̄皿 ̄;;キイーッ❗❗

小種名のhowqua(ホウクワ)は、中国・清朝時代の広州の特許商社「公行」の当主の世襲的な通称「浩官」=Howqua に因むという。
台湾亜種の「formosana」は、「台湾の」と云う意味で、これは多くの台湾の蝶の亜種名に使われている。

Synonyms(同物異名)に、下記のようなものがある。

Thaumantis howqua(Westwood,1851)

 
【台湾名】箭環蝶
「箭(せん)」は弓矢のことである。羽の表にある矢先みたいな紋と裏側の環(輪)紋からの命名だろう。
念のために調べたら、箭には竹の1種であるヤダケやシノダケと云う意味もあった。弓矢の柄の部分に使われる材料だから、弓矢の柄そのものを指す言葉でもある。
別名に環紋蝶、環蝶の名がある。何れも意味は同じようなもんだね。目玉模様を表している。
中国では環紋蝶の他に、和紋蝶、黄蛇目、大黄蝶などの別名がある。こっちの方がバリエーションがある。蛇に喩えているところなんかは面白い。
そういえば、和名を最初は和の伝統的な柄(和紋)に基づいたものだと勝手に勘違いしてた。すぐに間違いに気づいたけど、和名って命名には細心の注意が必要だ。漢字をカタカナにすると、意味の取り違えが起こる可能性がある事に気をつけてないといけないよね。学者で、そこまで考えてる人って少数なんだろなあ…。毎度、和名には文句言ってるけど、たぶん学者には論理的な思考はあっても、文学的とか情緒的思考に欠けている人が多いのではないだろうか❓その両方をそなえた人は稀有だから、ダサい名前が濫造されるのかもしれない。
その点、まだ英名の方がスマートでストレートだ。
とはいえ、和名には気恥ずかしくて使えない。フシギノモリノオナガシジミ(不思議の森の尾長シジミ(チョウ))に違和感があるのも、そのせいだろう。これを英語にしたら、ファンタジックで素敵だと言いかねない。
日本語って、何ものなんだ❓と思うよ。日本人の、この言葉に対する含羞の感覚は日本独特のものかもしれない。この感覚を言葉で説明するのが難しい。外国人が理解に苦しむのも、解るような気がする。

 
【英名】The Junglequeen

ジャングルクィーン。「森の女王」って意味だね。
素直にとれば森を守る女王様ってとこなのだろうが、頭の中で何かアマゾネスみたいなのが雄叫びをあげて走り回っている。おで、アタマ、オカシイよね。
とにかく自分にはこの蝶に女性的と云うイメージがあまりない。どちらかと云うと男性的なイメージの方が強い。しかも、オッサン。色も地味だし、どこか鈍くさいからだ。色も親戚のオッチャンの駱駝(ラクダ)色のパッチを思い出す。何だかオジンくさいのだ。
因みに、他のワモンチョウ属の英名にも、たいがいこの「junglequeen」がついている。例えばルイザワモンならば「Siamese junglequeen 」と云う英名がつけられている。Siameseはシャム(タイの旧名)の事だね。
そういえばルイザワモンには女性的なものを感じたなあ…。森の中を、ゆったりとふわりふわりと飛ぶ様は優美で、あれはまさに女王様だった。

 
【ルイザワモンチョウ Stichophthalma louisa 】
(2016.5.2 Laos oudoxay)

 
んっ❗❓、これって、たぶんラオス産のノーマルタイプではないね。

 

 
やっぱそうだ。地色が焦げ茶色のベトナムとかにいる別亜種みたいな奴だったわさ。
ごめん、この地域のノーマルタイプはこんな感じです。

 
(2016.4.19 Laos oudoxay)

 
(2016.4.28 Laos oudoxay)

 
【裏面】

 
一応、展翅したものも並べておこう。

 

 
一番下のは丸みがあってデカいので、♀かなあ…。

こうして見ると、翅形が違うのがよく解る。
♀はさておき、♂はワモンチョウと比べて、ルイザワモンの上翅の先は尖って見える。ボックス型と言った方がいいかもしれない。
とにかく、このStichophthalma属の中では、ワモンチョウが最も翅が丸いのだ。

裏面は、こんなん。

 

 
やはり、ルイザワモンの方がカッコイイ。
初めて見た時は、あまりにデカくて半笑いになったのを思い出したよ。

 
【分布と亜種】
(出典『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
ワモンチョウ属では最も分布の広い種で、北インドからタイ北東部、ベトナム北部(トンキン) を経て中国西・中部~台湾にまで至る。
地方変異が多く、地色および黒紋が著しく変化し、大陸産には肛角部領域の黒化にクラインが見られる。多くの亜種が記載されているが、その中間型もあり,亜種間の同定は簡単ではないようだ。
『www.jpmoth.org』に拠れば、以下のような亜種が記載されている。一応、解説文の一部も抜粋しておきます。

 
◆ssp.howqua howqua(Westwood,1851)
中国北部~中部

(出典『AUREUS butterflies&insect』)

(出典『kknews c.c』)

 
原名亜種(名義タイプ亜種)。
表面の地色は黄橙色。台湾亜種のformosanaに似るが、亜外縁の前翅の菱形紋、後翅の魚状紋(矢型紋)はやや崩れる。6月下旬〜8月下旬に出現する。

 
◆ssp.iapetus(Brooks,1949)
タイ北部~南ベトナム

♀はベトナム北部産のtonkinianaの♂に似るが、表面はかなり淡色。外縁の菱形紋、魚状紋は他の亜種よりも細い。表面の地色は橙黄色で、前翅の中央領域でわずかに淡色になる。前後翅の亜外縁に1列の明瞭な三日月形紋が連続する。内部の端はダイヤモンド状の中央後部の1列の点と結合する。前翅頂は黒く、広がって5室で中央の点に達する。一方,近縁種のルイザワモンチョウ(S.louisa)は、6室で中央の点に達する。
裏面は表面と同じ色彩である。斑紋はルイザワモンに似る。暗色の中央の帯は強く小円鋸歯状であるが、ルイザワモンの場合のように真っ直ぐにはならない。

考えてみれば、タイやラオスでワモンチョウを見たことが無い。個体数が少ないのかなあ…。それとも単に発生期に訪れてないだけなのかな❓

  
◆ssp.tonkiniana(Fruhstorfer,1901)
北ベトナム・中国南部

(出典『ぷてろんワールド』)

(出典『kknews c.c』)

 
地色は濃い橙色。裏面の前後翅に各5個ずつ計10個の眼状紋があり、ほぼ同大の楕円形で連結するように配置され、著しく明瞭である。前翅の菱形紋は明瞭であるが、後翅の魚状紋は前部が丸くなり、1a室と1b室では崩れて繋がっている。
5~8月に現れ、産地は局地的である。

この縁が黒いタイプはカッコイイと思う。

 
◆ssp.formosana(Fruhstorfer,1908)
台湾

(出典『kknews c.c』)

 
種としてのワモンチョウのみならず、ワモンチョウ族全体の北限種でもあるようだ。ようするにワモンチョウの仲間は基本的に南方系の蝶なのである。
表面は濃い橙色でやや黄色を帯びる。外縁から亜外縁にかけての各室に金魚形の黒紋が並ぶ。その数は前翅に直列に5個、後翅に弓形に6個を数える。裏面はより暗色で、前、後翅ともに中央部と基部近くに2条の黒条が走り、この外側の2〜6室に5個、同じく後翅にも5個の眼状紋をそなえる。眼状紋の周辺は灰白色をおびる。前後翅の眼状紋は大小不同である。

 
◆ssp.miyana(Fruhstorfer,1913)
広東省

中国南部産の斑紋黒化型のようだ。
ググってもヒットしないので、次のssp.suffusaに吸収されたのかもしれない。

 
◆ssp.suffusa(Leech,1892)
四川省・福建省

(出典『Wikipedia』)

(出典『kknews c.c』)

 
名義タイプ亜種よりも淡色であるが,後翅縁の暗化が進む。後翅下部の魚紋はtonkinianaほどではないが、殆んどが黒色でおおわれる。裏面の赤褐色の眼状紋は前後翅に各5個ずつ計10個ある。肛角部に黒点1個をもち、中央部を縦に走る白帯が明瞭である。

 
◆ssp.bowringi(Chun,1929)
海南島(中国)

(出典『kknews c.c』)

 
離島の特産亜種だけあって、かなり特化が進んでいるなあ。

表面は橙黄色。前後翅の縁にやや小さく細い魚状紋が並ぶ。肛角部の魚状紋は消えかかって不明瞭。裏面の地色はやや淡い。前後翅の基部と中央に各1条の黒褐色の波状紋が縦に走る。裏面10個の眼状紋は、他の亜種より発達が悪い。また、裏面の外縁に2条の波状帯があるが、外側のものは明瞭ではない。前後翅中央のやや外側に各5個の眼状紋が並ぶ。♀の地色は、やや赤味を帯びる。

 
亜種ssp.iapetusとssp.miyanaの画像は、探しても結局見つけられなかった。まあ、とはいえ海南島産みたく特異なものではないだろう。せいぜい隣接する亜種に似たようなものだと思う。

 
【生態】
台湾全土に見られ、発生は早いものは4月、遅いもので9〜10月の記録があるが、これらは少数の例外である。台湾亜種はワモンチョウ類の中で最も北寄りに分布するために発生は主に夏季で、年1化。6〜8月が発生のピークとされる。埔里周辺では6月が採集・撮影の適期のようで、7月に入ると♂はボロい個体が目立つようになった。但し、これは標高にもよるだろう。
垂直分布は50m~2000mと広いが、主に1000m前後から500~600mの間に多く見られる。しかし棲息は局所的で、何処にでもいるというものではない。かといって特別珍しいというものでもない。主に竹林付近で見られるので、局所的なのはそのせいだろう。棲息地での個体数は多いと思う。竹の切り株に溜まった水を吸うために、時に集団が菊花状に並ぶという。
飛翔はゆるやかで、地上1m前後を上下に大きく揺れるようにしてフワフワと飛ぶ。驚くと急加速して竹林に逃げ込む。これがウザい。飛翔は緩慢なクセに巧みに茂みや樹間を潜り抜けて飛ぶので、容易に網が振れないのだ。
一度、正面から真っ直ぐに飛んできた奴が、驚いて目の前で直角に曲がって竹薮に逃げていった事があった。意外と敏感だし、林内に逃げ込まれると藪深くに潜り込まれるので見失いやすい。で、見た目ほどには採れないのである。結構ムカつく蝶なのだ。とはいえ、暫く待っているとまた出てくる事が多かった。
早朝と日没以前に最も活発に行動すると言われるが、自分はそんな時間には寝てるかビールを飲んでいるので知らない。まあジャノメ&ヒカゲチョウ系なので、生態的には間違いなかろう。しかし、その時間帯は飛ぶのが速い可能性があるので、簡単に採れるかどうかはわからない。まあ、昼間でもちょくちょく出会うから、わざわざ早朝や夕暮れどきに行かなくてもいいとは思うけどさ。
成虫は樹液や腐熟果に集まり、バナナやパイナップルなどを使ったトラップにもよく集まる。
意外と敏感で、ぞんざいに近づいたら4~5頭がシーサンプーター、一挙に逃げていった事があった。

 
【食餌植物】
イネ科(Gramineae)のSpodiopogon conuifer、Miscanthus sinensis ススキ。他に各種のタケ類から卵、幼虫が発見されている。また、Palmae(ヤシ科)のDaemonoropas margaritae トウの記録もある。つまり本種はススキ、タケ、ヤシの類を広く利用しているようだ。
参考までに、インドシナ半島では以下のようなものが記録されている。
Spodiopogon cotulifer,Trachycarpus fortunei,イネ科ハチク(Phyllostachys puberula)、Poaceae(イネ科)。
中国ではタケ,シュロなどの記録がある。

 
【幼生期】
産卵は午後から夕刻にかけて行われ、食草の葉裏に1箇所にまとめて50~80個ほど規則正しく産付される。

 
《卵》
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
孵化した幼虫は強い群居性を示し、30頭ほどが一塊になって互いに頭と頭とを突き合わせて食草の葉裏に静止し、摂食などの行動は一斉に行われる。2、3齢になっても群居性は保たれ、通常3齢で越冬する。春季に越冬から目覚めて摂食を開始し、4齢になると群居を解いて各々単独で生活するようになる。
成熟幼虫には緑色に濃淡の縦縞がある。また頭頂には赤い斑紋があり、突起をもたずに1対の黒い剛毛の束が生えている。

 
《幼虫》
(出典『圖錄檢索』)

(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
蛾の幼虫っぽいよね(笑)

主に4月下旬から5月下旬にかけて蛹化するが、幼虫の成長度はバラバラで差違が大きい。成虫の発生期が長いのは、おそらくこれに起因するものと思われる。
蛹は磁器のような光沢をもち、背面は膨れ、褐色の縁取りをもつ赤色の腰帯がある。また、頭部の突起と尾突起は短い。蛹の期間は13~18日。初夏に羽化する。

 
《蛹》
(出典『圖錄檢索』)

(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
蛹を見て、意外な形だったので少し驚いた。
少し面長だが、イナズマチョウ属(Euthalia)の蛹に似ていると思った。まさかとは思うが、案外、類縁関係はそう遠くないのかもしれない。

ワモンチョウで思い出したけど、まだゴッドフレイワモン Stichophthalma godfleyiを採った事がないんだよなあ…。
タイ南部で、らしきとてつもなく巨大な奴が上空を飛んでゆくのを見たんだけど、ゴッドフレイかルイザかは確定出来ないんだよねぇ。その時はゴッドフレイは元より、ルイザワモンさえ見たことがなく、その存在さえも知らなかったのだ。一歩も動けず、ただ、ただ呆然とその姿を見送ったのだった。それにしても、ワモンのクセに何であんな高い所を飛んでいたのだろう。4、5mはあった。普通、ワモンチョウの類は地上1mくらいを飛ぶ。だから、ゴッドフレイかルイザかを特定出来なかったのだ。上からの目線だと、両者の色は全く違うので、どちらかわかった筈だ。
まさかゴッドフレイは高く飛ぶものなの❓いやいや、そんなの聞いたことないぞ。( ̄▽ ̄;)謎だ。
嗚呼、ゴッドフレイに会いたいなあ…。

 
                 おしまい

  
追伸
えー、最初のタイトルは『森の王様』でした。
英名を少し捻ったのだが、どこか違和感を感じながら本文を書き進めていた。何か中途半端にカッコつけててヤだったのだ。それに、たかがワモンチョウを森の王様とまで言ってしまうのにも抵抗感があった。スマンが、そこまでの格はない。その呼称を使ってもいいのはゴッドフレイクラスでなければならぬ。
途中、スティコフタルマ……Σ( ̄皿 ̄;;キイーッ!と云う辺りで、ハジけた。で、ふざけたタイトルになったのである。もちろん、鬼太郎の目玉おやじで釣ろうと云うセコい算段もあった。目玉おやじを想像した人、ゴメンナサイ。でも、けっして嘘をついているワケではないからね。目玉おやじを勝手に想像したのアナタです(笑)

今回、実を言うと本当はオジロクロヒカゲを取り上げる予定でいた。しかし考えてみれば、♀の展翅もしていなければ、表展翅だってさえしていない事に気づいた。で、タイトルを決めて、本文を5行書いたところで中止。
相変わらず、ええ加減で思いつきだけで生きている男なのである。

 

台湾の蝶21『幽霊スキッパー』

 
   第21話『夕斑挵蝶 』

 
今回はシリーズ初のセセリチョウ科を取り上げてみることにした。
セセリチョウは地味な奴が多いし、蛾っぽいからあまり好きくない。でも、コヤツは可愛くて好きだ。

 
【ユウマダラセセリ ♀】
(2017.6.南投県仁愛郷)

 
【ユウマダラセセリ ♂】
(2017.6.24 南投県尖台林道 alt.1000m)

 
ユウマダラセセリ(別名シロセセリ)という和名は、どこか儚げな風情があって好きだ。夕斑とは何ぞや?と思うが、いにしえの雅(みやび)な言葉に思えてしまう。そこに何らかの深い意味があるのではと感じてしまうのだ。
しかし、おそらく蛾のユウマダラエダシャクに見た目が似ている事から名付けられたのだろう。だとしたら、なんとも不粋だ。

台湾で彼女に初めて会ったのは2016年の夏。
夕方、山から降りてくる途中、横から目の前にふらふらと飛び出してきた。見た瞬間は『(# ̄З ̄)ケッ、蛾かよ』と思った。自分は子供の頃からユウマダラエダシャクの類がどうも苦手だった。と云うか、何だか気持ちが悪くて大嫌いなのだ。見た瞬間に体が固まる。

 
【ユウマダラエダシャク】
(出典『倉敷昆虫同好会 虫たちの素顔』)

 
夕方、群れてひらひら飛んでいるのが許せない。もちろん止まっているのも許せない。背中に悪寒が走る。
人にはそれぞれ配色の好き嫌いというものがあると思う。白と黒の配色は好きなんだけれど、そこに黄色が入ると何故だか途端に気持ち悪く見えるのだ。

 
(2018.5.29 奈良市)

 
このユウマダラエダシャクには似たような仲間が沢山いて、上の蛾はまた別種の大型種なのだが、基本的に白黒柄の羽で胴体が薄黄色いのが特徴だ。
この胴体が黄色いのがダメだ。意味とか原因はわからないが、とにかく本能的に嫌いなのだ。
だから、無視しようと思った。しかし、飛び方に違和感を覚えた。蛾ではないと直感的に網を振ったら、中にコヤツがいた。

 
(2016.7.7 南投県仁愛郷alt.600m)

 
ユウマダラセセリはユウマダラエダシャクに擬態したていると言われている。ユウマダラエダシャクは体内に毒をもつので鳥の捕食から免れていると言われている(註1)。つまりユウマダラエダシャクに見た目を似せることによって、自らも鳥の捕食から免れようという生き残り戦略だね。
その擬態精度はかなり高い。羽の斑紋のみならず、飛び方までも似せているものと思われる。

羽はボロだったけど、見破った自分の感性の鋭さに、ちょっと気分が良かった。
夕暮れのやわらかな光の中、白い者がふわふわとゆるやかに飛ぶ様に不思議な感覚を覚えた。採ってみたら、白黒なのに斑紋がハッキリとはしておらず、上にヴェールとか靄(もや)が掛かったかのようだった。朧(おぼろ)げな感じがしたので、幽霊みたいだと思ったのをよく憶えている。
だから、今でもユウレイセセリと言いそうになる時がある。幽霊セセリ…。たとえ、実際自分で採った事が無くとも、その和名でも納得しそうだと思うのは自分だけだろうか…。
だが、残念なことにユウレイセセリは和名には使えない。日本の南西諸島に、他にその名を冠した蝶が既にいるからだ。

 
【ユウレイセセリ】
(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
ハッキリ言って、見た目はどこが幽霊やねん!とツッコミたくなる。見てくれからは微塵も幽霊的なものを感じないからだ。
しかし、由来はその姿に起因するものではない。
長い間その名前がわからず、正体不明の幽霊みたいなものだと云う事で名付けられたそうだ。まあ、それはそれで由来としては面白い。
自分で採った事はあるけれど、標本箱から探す気にはなれなかったので、図鑑から画像を拝借させて戴いた。だって他にヒメイチモンジセセリとかチャバネセセリやトガリチャバネセセリと云う酷似したものがいて、鬱陶しかったのだ。それに、みんな地味でブスだしね。探す気にもなれない。

あっ、写真が新たに見っかった。

 

(2017.6.24 南投県仁愛郷尖台林道)

 
ゲッ、横から見ると胸が黄色いわ。
( ̄▽ ̄;)ちょっと気色悪い。
でも、より擬態精度が高いということだ。
スゴいね、ユウマダラセセリちゃん。

雌雄の違いを示すために、オスとメスが並んだ写真を貼付しておこう。

 

 
斑紋は同じだが、♀の方が明らかに大きいし、翅形が丸いことから雌雄の区別はできる。但し、相対的のものなので慣れないと区別は困難かもしれない。

 
【学名】Abraximorpha davidii (Mabille,1876)

Hesperiidaeセセリチョウ科 Abraximorphaユウマダラセセリ属に分類される。

平嶋義宏氏の「蝶の学名-その語源と解説-」によると、属名 Abraximorpha(アブラクシモルファ)は、蛾のシロエダシャク Abraxas属+ギリシア語のmorphe(姿、形)の合成語だそうである。
Abraxasという属名は、365の天界を支配する大神アブラクサスに因む。アブラクサスは古代ギリシアのグノーシス派の人々が信奉した神で、ギリシア字母のa.b.r.a.x.a.sを組み合わせた神秘的な名。これらの文字を数字として読むと、合計365となる。蛾で、しかもエダシャクの分際のクセに物凄く良い学名だ。
小種名のdavidiiは「David氏の」の意。平嶋氏は、おそらくPere Armand David(1826~1900)に献名したものではないかと推察されておられる。
因みに、このArmand Davidはフランスの宣教師にして博物学者。最初にパンダの存在を欧州に報告した人である。中国での博物調査の折りに、その存在を知り、探したが実物は見つけられずに毛皮を送ったらしい。余談だが、欧州では長い間パンダは鉄(金属)を食う珍獣と信じられていたらしい。

台湾のものは亜種ssp.ermasisとされるが、語源はよくわからない。ermasisは女性の名前を連想させるから、女性に献名されたのかもしれない。

 
【台湾名】白弄蝶
他に白花斑弄蝶、白挵蝶白弄蝶、也稱夕斑弄蝶の別名がある。

「弄」は日本では弄(もてあそ)ぶと読む。
相手を翻弄するとか、女を弄ぶとか、男心を弄ぶなんて感じで使われる。ひどい奴なんである。
何でそんな酷いネーミングをされたんだろう❓ユウマダラセセリの生態とは合致しない。気になるので、中国語の意味を調べてみた。
しかし、出てきた意味は以下のようなものだった。

①手に持って遊ぶ。いじる②得る③細い路地④~する、させる

ん~、スッキリしない。
たぶん遊ぶようにひらひらと飛ぶからかなあ…。

 
【英名】
◆Magpie flat
magpieは鳥のカササギのこと。白黒模様なので、それになぞらえたのだろう。flatは水平とか平たいという意味だから、これはこの蝶が羽を水平に開いて止まるからだろう。

◆Chequered flat
chequeredはチェック模様の事だね。日本語にすると市松模様。これも羽の模様を表している。

ここで、あれっ?と思う。セセリチョウの事を英語ではスキッパーと呼ぶ筈だからだ。たぶんピョンピョンと飛んでは止まり、飛んでは止まるので、スキップしているように見えるところから来ているのであろう。

探したら、『White skipper』というのが見つかった。
白いスキッパーだね。雨上がりに、白いレインコートを着た小さな女の子がスキップしてる画が浮かんだ。何だか、微笑ましい。

 
【分布と亜種】
(出典『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
台湾の他には中国、インドシナ半島北部に分布し、亜種には次のようなものがあるとされる。

 
◆ssp.davidii davidii(原名亜種)
中国(四川省、陝西省、湖北省、浙江省、江西省、安徽省)

 
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

(出典『yutaka.it-n.jp』)

 
上が香港産で、下がラオス産である。
沢山の個体を検したワケではないが、原名亜種は台湾産と比べて概ね黒い部分が発達し、全体的に黒っぽい印象をうける。

 
◆ssp.ermasis (Fruhstorfer,1914)
台湾

台湾亜種は全島に広く分布し、低地から2500mの高地まで見られるが、個体数は少ないようだ。

 
◆ssp.elfina (Evans,1949)
インドシナ半島北部(ベトナム・タイ・ラオス)

 
(出典『yutaka.it-n.jp』)

(出典『Butterflies of vietnam』)

 
今度は白っぽいのが特徴のようだ。
分布の端にいけばいくほど白っぽくなる傾向があるのかもしれない。

なお、『原色台湾蝶類大図鑑』に以下のような記述があった。
「Evans(1949)は原名亜種に属する”朝鮮”産の1♂がBritish Museum(大英博物館)に保存されていることを記録しているが、これは恐らくラベルの誤であろう。また”ジャバ(ジャワ島)”産と称する1♂で新亜種 A.davidii elfina Evans を記載しているが、これもラベルの誤である可能性が強い。」

余談だが、図鑑には次のような記述もあった。
「斑紋解析の見地から考察すると本種は極東産セセリチョウ科の中では最も原始的な斑紋排列(配列?)を示す1種でその斑紋はセセリチョウ科全般の斑紋解析に重要なヒントを与えるもののように思われる。」

補足すると、「アジア産蝶類生活史図鑑」に拠れば、現在は飛び離れて南ベトナムや香港でも分布が確認されている。南ベトナムには従来から分布している可能性があるが、香港では過去に記録が無く、狭い地域なのにもかかわらず近年になって発見されたので、人為的な移入も考えられる。

 
同属の近似種に以下のようなものがある。

◆Abraximorpha esta (Evans,1949)
雲南省,ミャンマー,ベトナム,ラオス

 
(出典『Wing Scales』)

(出典『yutaka.it-n.jp』)

 
ユウマダラセセリの亜種とする見解もあるようだが、見た目には別種っぽい。とはいえ、斑紋パターンは同じではある。しかし両者の分布が重なるので、ここでは別種扱いとする。

 
◆Abraximorpha heringi (Liu&Gu,1994)
広東省,福建省,ベトナム

いかにも蛾っぽい。これもきっと似たような柄の蛾がいるんだろう。かなりの稀種のようで、ネットでググっても画像が極めて少なく、勝山さんがブログで取り上げていらっしゃるものくらいしか、まともな画像が無い。
参考までに、URLを貼付しておきます。
 
Lepido and Scales

青文字をタップすると、サイトに飛びます。

  
◆Abraximorpha pieridoides (Mell,1922)
海南島(中国)

 

(出典『wikiwand』2点とも)

 
わおっ(@ ̄□ ̄@;)!!、何と雌雄異型なんだね。
海南島にはオウゴンテングアゲハがいるし、生物相が特異で面白そうな島だから、一度は訪れてみたい所だ。
でも、たぶん採集禁止地域なんだろなあ…。

記事をアップしたあとに勝山礼一朗さんから御指摘があった(註2)。詳細は追伸の欄に書きますが、これって、Abraximorpha pieridoides じゃないです。
Calliana pieridoides(Moore,1878)と云う別種。いわゆるモンシロモドキセセリという珍稀種だ。小種名が同じで、見た目が見た目なので間違ってしまった。まさか属名が違うとは思いもしなかったよ。
でも、ググってもAbraximorpha pieridoides
の画像が見つからないんだよね。

  
【生態】
台湾では標高50mから2500mまで見られるが、垂直分布の中心は300m~1000m。3月~12月まで年数回発生するとされる。一方、香港では100~200mの低山地に生息するようだ。周年経過はわからない。
杉坂美典さんのブログでは、飛び方が非常に速いと書かれているが、「アジア産蝶類生活史図鑑」には飛翔は他のセセリチョウのように敏捷ではないと書いてある。自分も速いというイメージはない。何れにせよ、センダングサなど路傍の花によく集まるので、見つけたら採集は容易。
普段は林道沿いなどあまり暗くない樹林の内外で見られるというが、自分は林道沿いの他に渓流、尾根、山頂でも見た。目にした事はないが、驚くと葉裏に静止する習性があるという。この習性はコウトウシロシタセセリやダイミョウセセリにもあるから、分類的には近い間柄なのかもしれない。
♂は地上2~3mの葉先に羽を水平に広げて止まり、他の個体が近づくと激しく追尾する占有活動を行う。これらの習性もダイミョウセセリやコウトウシロシタセセリとよく似ているというが、私見ではそれほど占有行動に執着心は無いように見えた。

 
【幼虫の食餌植物】
Rosaceaeバラ科 Rubasキイチゴ属を食する。
『圖祿檢索』では、台湾での食草は以下のようなものがあげられている。

◆羽萼懸鉤子 Rubus alceifolius

◆榿葉懸鉤子 Rubus alnifoliolatus

◆灰葉懸鉤子 Rubus arachnoideus

◆變葉懸鉤子 Rubus corchorifolius

◆臺灣懸鉤子 Rubus formosensis

◆斯氏懸鉤子 Rubus swinhoei

因みに香港での食草は、Rubas reflexus。
「アジア産蝶類生活史図鑑」では、台湾での食草として、Rubas sumatrensis コジキイチゴ、Rubas shinkoensis ヒメクマイチゴ、Rubas rolfei ミヤマカジイチゴをあげている。全然、最初に挙げられている植物と被ってないよね。
( ・∇・)どゆ事❓
まあ、植物には同物異名がよくあるから、スルーしておこう。自分にとっては、突き詰めて調べる程には興味が無い。

 
【卵】
(出典『圖錄檢索』)

 
毛がついているんだね。
たぶん成虫の腹端の毛だろう。
シジミチョウには、こういう毛のついた卵があるのは知ってたけど、セセリチョウもそういう習性のある奴がいるんだね。何か意味でもあるのかな?

 
【幼虫】
(出典『圖録檢索』)

 
ガイコツ顔で、ブサいくだなあ(笑)。
越冬態は幼虫のようだ。何齢で越冬するのかはわからない。

 
【蛹】
(出典『圖録檢索』)

(出典『圖録檢索』)

 
蛹は綺麗だね。
白と緑の2色のタイプがあるのかな?
因みに『アジア産蝶類生活史図鑑』では、両者の中間の色のものが載っていた。

成虫の見た目が違うOdontoptilum angulatum(イシガケセセリ)の蛹と形態が似ているのは興味深い。両者は見た目以上に近しい関係なのだろう。

 
【イシガケセセリ Odontoptilum angulatum 】
(出典『ButterflyCircle Checklist』)

 
東南アジアのどっかで何回か採った事があると思うが、どこだかが思い出せない。たぶん調べればわかるだろうけど…。

 
(出典『ButterflyCircle Checklist 』)

 
こっちの蛹には朱が入り、さらにスタイリッシュでお洒落さんだ。

虫の世界では他人の空似もあるし、又、その逆もあるのだ。だから虫は面白い。

                  おしまい

 
追伸
簡単に解説できるかと思ったが、調べれば調べるほど新たな疑問が湧き出してくる。先が思いやられるよ。

(註1)体内に毒をもっている
ユウマダラエダシャクの幼虫の食餌植物は、マサキ。
庭木にもよく使われるから、見た事がある人も多いと思う。幼虫はいわゆる尺取り虫。特徴的な動きで移動する事から付けられた名だ。
マサキには毒があり、幼虫はそれを体内に取り込む事によって天敵から身を守っているのだろう。成虫になってもその成分を体内に貯めこんでいて、鳥からの捕食を回避しているものと思われる。

(註2)勝山礼一朗さんから御指摘があった。
「sp. heringiとsp. pieridoidesは、3年前に新属が立てられ、そちらに移動になりました。新しい属名はAlbiphasma (意味:白い幽霊)と言います。

それと、ブログ記事中でpieridoidesとして引用されている図は、Albiphasma pieridoidesではなく、オバケセセリの一種Capila pieridoides(モンシロモドキセセリ)ですね(笑)。」
 

台湾の蝶20 『檸檬色の山娘たち』

 
第20話『台湾山黄蝶と台湾小山黄蝶』

 
今回取り上げるのは、タイワンヤマキチョウとタイワンコヤマキチョウ。
両者ともシロチョウ科(Pieridae・粉蝶科)のヤマキチョウ属(Gonepteryx・鉤粉蝶屬)に含まれる。

 
【タイワンヤマキチョウ♂】

(2017.6.24 南投県仁愛郷尖台林道 alt.1300m)

 
(2017.7.1 南投県仁愛郷alt1990m)

 
レモンイエローの黄色が、とても綺麗だ。
日本にいる近縁のヤマキチョウと比べて色が濃く、より鮮やかで翅形も丸くて可愛い。初めて出会った時は、山でのびのびと育った明るい娘さんみたいだなと思った。

 
【同♀】
(2017.7.2 南投県仁愛郷alt.1900m)

 
メスは白いので雌雄は簡単に見分けられる。
元々個体数がそう多い蝶ではないようだが、特にメスには中々出会えなかった。だから初対面は中途半端に緊張してしまい、珍しく一発目を振りハズした。で、返す網で振って振って振りまくりのタコ踊りになってもた。たぶん6~7回は振ったから、相手が風圧で参って草むらに落ちて何とかゲット。オジサン、Σ(´□`;)ゼーゼーのハーハーである。誰も見てなかったら良かったけど、端(はた)から見たら相当にカッコ悪かったと思う。そんなダサい網さばきは蝶採りを始めた頃以来だから、とってもよく憶えている。
因みに♂は飛ぶのが速いが、♀はそうでもない。

 
【♂裏面】

 
葉っぱみたいだ。台湾でも千切れたキャベツだの白菜だのと呼ばれているようだ。間違いなく葉っぱや草に擬態していて、翅を閉じて止まると見失いやすい。
あとは日本のヤマキチョウと比べて、矢鱈と翅脈が目立つなと思った。

 
【タイワンコヤマキチョウ 裏面】
(2017.6.22 南投県仁愛郷alt.1900m)

 
なぜか裏面の写真しか無い。ググっても適当な表側写真が見つからない。基本的に羽を閉じて止まる蝶で、滅多に羽を開かないからだろう。ゆえに、後に展翅写真を貼付しときますので、そちらで見比べられたし。

タイワンヤマキチョウよりも小型で色もくすんでいるし、後翅がギザギザなので区別は容易である。翅もタイワンヤマキに比べて薄く、胴体も細い。

両者は日本のヤマキチョウとスジボソヤマキチョウの関係になぞらえられることが多いが、概ね当たっていると思う。それぞれを代置種として、タイワンヤマキチョウをヤマキチョウになぞらえ、タイワンコヤマキチョウをスジボソヤマキチョウになぞらえられている。但し、垂直分布は逆。日本ではスジボソヤマキよりもヤマキチョウの方が高所寄りの分布をするが、台湾ではタイワンヤマキよりもタイワンコヤマキの方が垂直分布が高い。

それでは、先ずはタイワンヤマキチョウの解説から。

 
【♂】

 
【♀】

 
ヤマキチョウ系の展翅は嫌いだ。触角が短いから展翅板にギリギリにしか乗らないから調整しにくいし、翅のバランスも分かりづらい。とにかく、触角がバンザイになり過ぎない事と頭が翅に完全に埋らないようにだけはしている。必然、翅はあまり上には上げられない。

 
【学名】
Gonepteryx amintha(Blanchard,1871)

平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』に拠れば、属名Gonepteryx(ゴネプテリュクス)の由来はギリシヤ語のgoina(角(かど))+pteryx(翅・翼)、小種名amintha(アミンタ)は語源不詳としている。しかし語感からいえば、神話のAmyntor(アミュントール)を女性形に綴り、yをiにし、tをthとしたものではないかと推測されている。
台湾産は亜種ssp.formosanaとされ「台湾の」という意味。これは昔の欧州での台湾名formosa(フォルモサ)を由来としており、台湾産の多くの生物にこのformosaが学名として使用されている。

 
【台湾名】圓翅鉤粉蝶
「圓」は円の旧い字、「鉤(かぎ)」は釣り針など「くの字」に尖った形を指すから、丸くて羽先が曲がり尖った蝶と云うことからの命名だろう。
その他に、紅點粉蝶、臺灣山黃蝶、橙翅鼠李蝶の別名がある。それぞれの意味は、漢字を見て皆さんで想像してみて下さい。この、漢字と実物の蝶のイメージを頭の中で整合させてゆく作業は結構面白い。

 
【英名】Orange brimstone
黄色いのに何でオレンジなの?と思ったが、或いは上下の中心部にあるオレンジの紋のことを指しているのかもしれない。
Brimstoneとは、硫黄(いおう)のこと。
他に「口うるさい女、地獄、地獄の火の池、地獄の業火、地獄に落ちる罪、激情、空対地ミサイル」という意味がある。おやおや、穏やかではないね。
とはいえ、そういったマイナスの意味で命名されたのではなく、おそらく硫黄の色からの連想だろう。

 
【分布と亜種】
 
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
台湾以外では主に中国の南西部~南部に分布し,日本の八重山諸島(与那国島)でも記録(註1)されている。
杉坂美典さんのブログ『台湾の蝶』によれば、中国では黒竜江省、吉林省、遼寧省、河北省、山東省、河南省、江蘇省、安徽省、湖北省、浙江省、江西省、湖南省、福建省、広東省、海南省、広西自治区、雲南省、四川省、西蔵自治区に分布しており、黒竜江省と西蔵自治区に分布しているもの以外は原名亜種(名義タイプ亜種)G.amintha aminthaとされる。

亜種には以下のようなものが記録されている。

 
◆ssp.amintha (Blanchard,1871)
原名亜種

◆ssp.formosana (Fruhstorfer,1908) (Taiwan(台湾))

◆ssp.limonia (Mell,1943)
(South Ussuri(南ウスリー), Yunnan(雲南省))

◆ssp.murayamae (Nekrutenko,1973)
(Yunnan, Sichuan(黒龍江省))

◆ssp.thibetana (Nekrutenko, 1968)
(south-eastern Tibet(チベット南東部))

 
シノニム(同物異名)には次のようなものがある。
Gonepteryx amintha meiyuanus Murayama & Shimonoya,1963

 
【生態】
垂直分布の幅は広く、台湾では海抜200~3000mで見られると書かれているが、自分は低い標高では見たことがない。1200m以上、多くは2000m前後から2500mの間で見る機会が多かった。
日当たりの良い路傍や樹林の外側を活発に飛び、花に吸蜜に集まる。飛翔は日本のヤマキチョウと殆んど同じ。しかし、ヤマキチョウよりも少し暗い環境を好むという印象がある。とはいえ、ヤマキチョウが典型的に好むような草原環境が現地には無かったせいもあるかもしれない。

 
【周年経過】
一年を通じて見られるが、冬季には極めて稀。
日本のヤマキチョウは成虫で越冬するが、その辺は果たしてどうなってんだろうと思って調べてみたが、よくわからなかった。
発生回数は年数回とされる。しかし、ヤマキチョウは年1化だから、これも果たして本当にそうなんだろうか?と思ってしまった。思っている以上にこの系統のチョウは長生きさんだ。越冬もすれば夏眠もする。因みに、自分は8月初旬にヤマキチョウのボロボロの越冬個体を採ったことがある。

 
【幼虫の食餌植物】
Rhamnaceae クロウメモドキ科が主な食餌植物。

桶鉤藤 Rhamnus formosana
和名 タイワンクロウメモドキ(シマクロウメモドキ)

小葉鼠李 Rhamnus parvifolia
和名 イワクロウメモドキ

他に、Rhamnus liukiuensis リュウキュウクロウメモドキやマメ科のCassia surattensis モクセンナの記録がある。

 
【卵】

 
【幼虫】
(以上二点共『圖錄檢索』)

 
蛹の写真はググってもヒットしなかった。タイワンコヤマキチョウとどう違うのかを知り得ないのは残念だが、たぶん属典型の蛹で、そう変わったものではないだろう。

 
それでは、お次はタイワンコヤマキチョウ。

 
【♂】

 
オスとメスの違いを解りやすくする為に、もう1枚オスの画像を添付しておこう。

 
【♂】

 
続いてメス。

 
【♀】

 
♂前翅表面には黄斑が広がり,後翅裏面の褐色斑の色が濃くなるので,雌雄を区別することができる。
それにしても、タイワンヤマキに比べて地味。全然美しくない。ゆえに2頭目からは駄蝶扱いになってしまった。

 
【学名】
Gonepteryx taiwana(Paravicini,1913)

学名が錯綜していて、ワケワカメである。
杉坂美典さんのブログでは、台湾特産種として上記のような学名を掲げられているから、それに従った。しかし、従来の学名Gonepteryx mahaguru taiwana と表記されているケースも多い。
でも更に遡ると、これが益々ややこしい事になってくる。古くは白水隆先生が『原色台湾蝶類大図鑑』で次のような解説文を書かれている。

「日本産のスジボソヤマキチョウとは翅形、色彩が著しく相違するため以前はそれとは独立の別種(註2)として取り扱われていたが、現在ではスジボソヤマキチョウと同種(別亜種)であるとされる。」

しかし、現在はスジボソヤマキチョウはG.mahaguruとは別種とされ、新たな学名Gonepteryx aspasiaを与えられている。もう何が何だかワカラナイ(@_@;)
とはいえ、台湾のサイトではGonepteryx taiwanaとするのが主流だから、現在は独立種として定着しつつあるのかもしれない。
では、他の大陸側の従来G.mahaguruとされてきたモノは台湾のモノと比べて、どれくらい違うんだろう?と思って調べてみた。
しかし、見たところ台湾産程にはギザギザの翅の奴は見つけられなかった。にしても、情報量が少ないので台湾産がどれだけ特異なのかはワカラナイ。一方、ロシア産(ウスリー)のモノは限りなく日本のスジボソヤマキチョウに近い。と云うか、種名もG.asapsia。スジボソヤマキチョウそのものの学名になっていた。
アカン、また蝶的無間地獄だ。学者や研究者じゃないんだから、ソッコー離脱じゃよ。亜種も、どんなのがあるかよくワカランし、山娘を田舎娘だとナメてかかってたら、エラいめにあいそうだ。

杉坂さんが提示した学名の小種名taiwanaは「台湾の」と云う意味で、おそらく亜種名を種に昇格させたものだろう。一方、mahaguruは梵語(サンスクリット語)由来で「偉大な師」の意。ちょっとカッコ良すぎるよね。

 
【台湾名】臺灣鉤粉蝶
台湾と強調しているあたり、やはり台湾固有種なのかな?
その他に小紅點粉蝶、臺灣小山黃蝶、鋸緣紅點粉蝶、臺灣鼠李粉蝶、尖鉤粉蝶という別名がある。

 
【英名】
mahaguruには「Lesser brimstone」と云う英名があるからして、さしづめ台湾産のコヤツは「Formosana resser brimstone」ってとこか…。
因みにLesserは「より小さい」と云う意味だ。
あのレッサーパンダくんは、ジャイアントパンダに比べて小さいからと云うことで名付けられたんだろね。
きっとタイワンコヤマキもタイワンヤマキチョウに比べて、より小さいからという意味でのネーミングだろう。安直だぜ。
一言加えておくと、好意的な訳だと「姫」という意味もあるようだ。それにしても、このタイワンコヤマキチョウと云う和名、何とかならんかね❓間に「コ」1文字しか入らんから、カタカナ表記だとややこしくてかなわん。しかも発音しにくい。せめてでも、『タイワンヒメヤマキチョウ』にしてくれ。
和名を考える奴は、もっと考えろや(#`皿´)と思う。ダサい名前ばっか付けやがって、◆$☆@£#ブツクサ、ブツクサ(# ̄З ̄)

 
【分布】
一応、台湾特産とするが、Gonepteryx mahaguruとされてきた頃の分布図も参考までに添付しておく。

(出典『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
西は雲南省、北ミャンマーよりヒマラヤ山脈に沿ってカシミヤ地方まで至り、チベット、中国より北は日本、朝鮮、ウスリー、アムール地方まで及ぶ。

台湾においての分布は中部山岳地帯の1000~3000mの常緑広葉樹林に見られるが、タイワンヤマキチョウよりも少ないとされる。
しかし、埔里周辺ではタイワンヤマキよりも多く見かけた。但し、これは発生期や行ったポイントにもよるだろうから、何とも言えない。

 
【周年経過】
年1化、3月~8月に発生し、冬場は成虫越冬するとされるが、諸説あり。2月~10月上旬に発生し、年数回発生するという説もある。年1化のわりには成虫の見られる期間が長いので、数回発生しているように思われがちということもある。果たしてどっちだろう?判断の難しいところだ。因みに日本のスジボソヤマキチョウは年1化である。

 
【生態】
樹林周辺の比較的明るい所を素早く飛翔する。自分は尾根でホッポアゲハを待っている時に、そこそこ見たから、蝶道を持っているのではと感じた。敏捷だがすぐ止まるといった記述を見かけるが、そう言われてみれば、そうかもしれない。

 
【幼虫の食餌植物】

中原氏鼠李 Rhamnus nakaharae
小葉鼠李 Rhamnus parvifolia

食樹がタイワンヤマキチョウと同じだね。
まあ日本でもヤマキとスジボソヤマキの食樹が一部だが被っている(註3)。
因みに日本ではヤマキよりもスジボソヤマキの方が食性が広い。

 
【卵】

 
【幼虫】

 
【蛹】
(以上三点共『圖錄檢索』)

 
幼生期は基本的にヤマキチョウ属の特徴をよく具えており、素人目には特に際立った特徴があるとは思えない。まあ、自分では飼育しない人だから、節穴ポンコツ意見だけどさ。

 
タイワンヤマキとヤマキチョウを筆頭に、この小娘たちの黄色い衣装は本当に美しいと思う。
蝶に興味のない方でも、是非一度は青空の下でその鮮やかな檸檬色を目にしてもらいたいなと思う。
美は自然物の細部に宿るのだ。

 
                 おしまい

 
追伸
考えてみれば、シロチョウ科の蝶を紹介するのは今回が初めてだ。シロチョウ科もネタになる蝶は結構ある。だが、まだジャノメチョウとかヒカゲチョウ、マダラチョウやセセリチョウまでもが登場してないし、先を考えると茫然とするよ。

 
(註1)日本の八重山諸島でも記録されている
1995年に迷蝶として与那国島で2例の記録があるが、放蝶では?と疑問視する声もある。これは迷蝶の多くが低い標高に棲むオープンランドの蝶だからで、タイワンヤマキチョウはそれにはあまり当てはまらず、迷蝶になりにくいのではないかと云うのと、続けて2例も採集されたからだと言われている。つまり全く記録されていなかった蝶が立て続けに採集され、以降は記録が途絶えているから、偶然にしては怪しいという事だろう。
自分としては、んな事どっちだっていい。興味なし。

(註2)以前はそれとは独立の別種
おそらく、Gonepteryx zaneka taiwanaのこと。

(註3)食樹が一部だが被っている
クロウメモドキ科クロツバラ(オオクロウメモドキ)のこと。ヤマキチョウの自然情態での食樹はコレのみ。スジボソヤマキは他にクロウメモドキ、コバノクロウメモドキ、キビノクロウメモドキ、エゾクロウメモドキ、クロカンバなども食樹としている。
この事から、日本ではヤマキチョウの方が圧倒的に少ない。今や絶滅危惧種だ。この辺も台湾とは逆である。スジボソヤマキの代置種タイワンコヤマキの方がタイワンヤマキよりも少ないのだ。本当に代置種なのかな?と思う。
 
  

台湾の蝶19『水色のさざ波』

 
台湾の蝶19 タイワンサザナミシジミ

 
シジミチョウの第2弾は、タイワンサザナミシジミ(台湾漣小灰蝶)。
カレンコウシジミと同じく美麗種揃いのTajuria属に含まれる稀種だ。

 
【Tajuria illurgis タイワンサザナミシジミ♀】
(2017.7.1 南投県仁愛郷 alt.1900m)

 
【同♀】
(2016.7.11 南投県仁愛郷 alt.1900m)

 
あちゃー、♂の画像は撮っていないようだ。
たぶん日陰の無い炎天下に長い間いたからだろう。南国の直射日光は強烈だ。殺人的と言ってもよい。晒され続けていると、思考も弛緩。色んな事が面倒くさくなり、ぞんざいにもなる。皆さん、クソ暑いところでの採集には気を付けましょう。って、(#`皿´)タアーッ❗そんなこたあ、別に言いたかったワケではない。本当は展翅写真があるから、まっ、いっかと言いたかっただけだ。何か、のっけからスベりがちであるが、気を取り直して話を進めよう。

 
【Tajuria illurgis ♂】

 
上翅を上げ過ぎた。50点ってところだな。

 
【Tajuria illurgis ♀】

 
♀の方が全体的に白っぽくて、翅形が丸みを帯びるので雌雄の区別は比較的簡単。但し、♂はクロボシルリシジミの♀に似ているので注意が必要である。

和名タイワンサザナミシジミは、裏面の特徴から名付けられたのだろう。

 
【裏面】

 
ん~、ちょっと分かりづらいか❓
他から画像をお借りしよう。

 
(出典『臺灣生命百科事典』)

 
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
たぶん、下翅の線がさざ波をうったかのように見えるからだろう。
サザナミと云う和名は雅(みやび)で悪くない。しかし、タイワンと云うのが邪魔だ。最初に台湾で発見されたワケではないし、ヒマラヤ方面にもいるから台湾の固有種と云うワケでもない。この和名だと台湾固有種だと云う誤解を生じさせかねないし、タイワンはいらないだろう。単に「サザナミシジミ」とするか、「ミズイロサザナミシジミ」等の方が良いと思うんだけどね。

 
【英名及び台湾名】

英名は、二つあるようだ。

◆The white Royal
◆The double-spot Royal

前者は翅表の特徴からで、後者は裏面由来だろう。
ダブルスポットというのは、並んだ二つの点の事を指しての命名かと思われる。

台湾名は漣紋青灰蝶。
他に淡藍雙尾灰蝶、漣紋小灰蝶、臺灣漣小灰蝶、臺灣漣漪小灰蝶、漣灰蝶の呼び名がある。

  
【学名】Tajuria illurgis(Hewitson,1869)

白水先生は『原色台湾蝶類大図鑑』で、♂交尾器の形態の違いによりTajuria属とは別属とし、新たにCophanta illurgisの名を与えたが、現在はシノニム(同物異名)とされ、使用されない。
他に以下のような記載があるが、何れもシノニムになっている。

◆Iolaus illurgis(Hewitson,1869)
◆Pratapa illurgis(荒木,1949)

 
小種名の「illurgis」の語源は不詳。平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』にも載っていなかった。一応ググってみたが、らしきものにはヒットせず。
参考までに言っておくと、「illu」には光ると云う意味があった(illusion イリュージョンに通づる語のようだ)。「rgis」はそのものの言葉は見つからなかったが、「rex rgis 」という言葉がラテン語にあり、王を表すようだ。他に「regina(女王)」などもあり、illuとrginsを組み合わせたものかもしれない。『光の王(女王)』ならば、物凄くカッコイイ学名だよなあ。

台湾の亜種名「tattaka」は、1941年に台湾中部の立鷹(霧社)で発見された1♀によって記載された事に起因すると思われる。

 
【分布と亜種】

(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
カレンコウシジミとよく似た飛び離れた分布をしている。但し、ジャワ島やスマトラ島には分布しないようだ。前回にも言ったが、どうしてこんな変わった分布をしているのだろう❓広域の空白地帯がある理由がワカラン。

 
現在、以下の2亜種に分けられている。

◆Tajuria illurgis illurgis(原名亜種)
ブータン、アッサム、インドシナ半島北部、雲南省

◆Tajuria illurgis tattaka
台湾中部

原名亜種は、台湾亜種とは印象がかなり異なる。
ちょっと画像が今イチだが、こんなん⬇

 

    (2点共 出典『Wikipedia 』)

 

(2点共 出典『yutaka.it-n.jp』)

 
何れも♂であるが、青白色の紋が著しく減退しており、一見すると別種っぽいくらいに違う。
裏面も違った印象だ。黒点が目立ち、これならダブルスポットと云う英名も納得できる。
それにしても、探してもまともな画像が出てこない。ネットから拾えないのは、きっと原名亜種もかなりの稀種なんだろな。

杉坂美典さんのブログ『台湾の蝶』によると、中国のでも見つかっているようだ。西蔵區(チベット自治区)と台湾対岸の福建省に分布しており、西蔵區に分布しているものはssp.illurgis illurgis(原名亜種)で,福建省に分布しているものは台湾と同じ亜種(ssp.tataka)だそうである。

 
【生態】
前翅長19~21㎜。
台湾においては中部の山地帯、標高600~3000mの常緑広葉樹林周辺に見られる。
成虫は3月下旬~11月上旬まで見られ、年数回発生するが、主に見られるのは4~8月、特に5月下旬から7月上旬に出会える可能性が高い。とはいえ、個体数は何処でも少ないらしいから、探す人は会えればラッキー程度に思っていた方がいいかもしれない。
♂♀共に花に吸蜜に訪れ、♂は湿地に吸水に集まる。
タイワンソクズの花と照葉樹の白黄色の花で吸蜜しているのを見た。たぶん白っぽくて小さな花が集合したようなものを好むのだろう。

杉坂美典さんのブログには、次のような記述があった。

「非常に速く飛ぶ。早朝や日中は,ほとんど活動せず,♂は,夕方の3時半頃から活動を始め,4時半頃まで活発に占有行動をする様子を観察することができた。」

占有行動は見た事はないが、採集したのは何れも4時前後以降なので、その時間帯辺りから活動するのだろう。飛翔は速いと云うが、たぶん占有行動時のことを指しておられるのだろう。自分の見た範囲では、特に速く飛ぶといったような姿は見受けられなかった。但し、それなりに敏感。近づくと、だいたい網を振る前に飛び立った。とは云うものの、すぐ近くの葉や花にとまる。

成虫が記録されている産地は仁愛郷眉渓、阿里山、八仙山、マレッパ、谷関、碧緑神木など。

参考までに言っとくと、旧ブログに2016年の採集記があります(発作的台湾蝶紀行32『(-“”-;)ヤッチマッタナ❗』)。
前半部と最後の解説部分に登場しますんで、よろしければ併せて読んで下され(リンク先は記事の最後の方に貼り付けておきます)。
 
(・。・;あらあら、一応確認のために再読してみると、朝9時くらいに採れとるやないけー。朝や日中は活動しないと聞いていたが、朝も活動するのね。
記憶というものは概して曖昧なものだ。採ったのは夕方近くだとばかり思い込んでいたが、2017年の記憶とゴッチャになったのかもしれぬ。
思うに、生態について書かれたものをそのまま鵜呑みしてはならないね。同じ蝶でもそれぞれの地方や標高によって生態が変わるケースも珠にある。書く人によって観察視点も違うだろう。思い込みが強すぎると視野が狭くなりかちだ。気をつけよっと。

 
【幼虫の食餌植物】
台湾においてはTaxillus nigrans ニンドウバノヤドリギが知られており、他に以下のようなものが記録されている。

木蘭桑寄生 Scurrula limprichtii
大葉桑寄生 Scurrula liquidambaricolus
忍冬葉桑寄生 Taxillus lonicerifolius lonicerifolius
杜鵑桑寄生 Taxillus rhododendricolius
李棟山桑寄生 Taxillus ritozanensis
蓮華池寄生 Taxillus tsaii

 
【卵】
(出典 内田春雄『常夏の島フォルモサは招く』)

 
卵の写真は「アジア産蝶類生活史図鑑」にも載っていなかったし、ネットで検索しても画像が見つからなかった。知る限り卵の画像はこの内田さんの著書のみ。
内田さんは台湾の蝶の幼生期の解明に多大なる功績を残された。このタイワンサザナミシジミの幼生期を最初に解明したのもたぶん氏だと思われる。
Tajuria属の卵もゼフィルスみたいに種によってデザインが違うんだろうが、素人にはワカラン。スンマセン。詳しくは解説できましぇん。

 
【終齢幼虫】
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

(出典『常夏の島フォルモサは招く』)

 
何れも上からと横からの写真だ。
「アジア産蝶類生活史図鑑」によると、越冬態は幼虫で、齢数は一定ではないが4月頃になると終齢幼虫と蛹だけが見られるという。

コレまたボコボコで変な形だ。怪獣みたい。
他の同属が平滑なので、白水先生が別属としたのはもしかしたら正解なのかもしれない。遺伝子解析とかは、もう済んでいるのかな❓もしまだなら、分類が変わる可能性はあるかもね。
色も地味だ。これは食樹の色に準じているのではないかと、内田春雄先生が『常夏の島フォルモサは招く』の中で推察されている。カレンコウシジミの食樹カオヤドリギは緑色だが、タイワンサザナミの食樹ニンドウバノヤドリギは茶色っぽいらしい。また、内田さんの言によると、幼虫は若齢の時は花芽(蕾)を食し、3齢になってから漸く葉を食べ始めるという。

 
【蛹】
   (出典『臺灣生命大百科』)

(出典『常夏の島フォルモサは招く』)

 
カレンコウシジミもそうだったが、垂蛹の形をとる。
コレまた色が地味だし、形も素人目には特異と云う程の特徴はない。

 
タイワンサザナミシジミも真面目に探した事はない。
他の蝶を狙ってる時に偶然採れるって感じだ。でも何となく採り方は解ったような気がする。次回、台湾を訪れる時はタコ採りしてやろうかと思っている。稀種と云うが、採り方さえ判れば結構採れるんじゃないかと思う。
でも沢山採っちゃえば、美人もその辺のブスと同じになる。やっぱ、このままでいいや。自身の中で、タイワンサザナミシジミは永遠の美蝶の儘でいい。
 
                  おしまい

 
追伸
アメブロの採集記のリンク先を貼っておきます。

発作的台湾蝶紀行32『(-“”-;)ヤッチマッタナ❗』
https://www.google.com/amp/s/gamp.ameblo.jp/iga72/entry-12199315255.html?source=images