2020’カトカラ3年生 其の壱

 

    vol.24 アズミキシタバ

   『白馬わちゃわちゃ狂騒曲』

 
 2019年 8月2日

一瞬、自分が何処にいるのか分からなくなる。
ひと呼吸あって、黄緑色のテントの天井に焦点が合う。寝起きの澱んだ脳ミソが、それでようやく自分の置かれている状況を認識した。そうだ、長い長い電車移動の果てに、この湖までやって来たんだったわさ。
マホロバキシタバ(註1)の分布調査が一段落したので信州遠征に出たのだ。また過酷な虫捕り旅が始まったってワケだ。
目的は会ったことのないカトカラ(シタバガ属)たちを採るためである。マホロバという国内新種を見つけたのにも拘らず、カトカラの採集を始めてまだ2年目のペーペー、採ったことのないカトカラがまだまだある。新種を見つけておいて、他のカトカラはあまり採った事が無いというのではカッコがつかない。だから10月の発表までに少しでも採集種類数を増やしておこうと思ったのだ。この時点では、マホロバを含めた全32種のうちの20種しか採れておらず、あと12種類も残っていたのである。

テントから出て歯を磨きに行くと、湖が見えた。

 

 
昨日は日没間近に着いたから気づかなかったけど、こんなにも碧くて綺麗な湖だったんだね。
同時に昨日の苦い記憶が甦ってくる。湖の周辺でミヤマキシタバ(註2)を狙うも擦(かす)りもせずの惨敗だったのだ。
こんだけロケーションが良いのなら、もう1日いてもいいかなと思った。昼間はじっくりミヤマの食樹であるハンノキを探しながら湖畔を散歩するのも悪かない。
しかし、昨日の貧果から多くは望めないと考え直した。もう1回アレを繰り返したら、ハラワタが煮えくり返ってホントに奴らに危害を加えかねない。
ちなみに奴らとは↙コイツの事である。

 
(フクラスズメ Arcte coerula)

(出典『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)

 
コヤツ、カトカラじゃないし、デブだし、醜くてマジキモい。
それに一瞬だけ佳蛾ムラサキシタバ(註3)に見えて、あらぬ期待を持ってしまうから💢イラッとくる。

 
(ムラサキシタバ Catocala fraxini ♂)

(2019.9月 長野県松本市)

 
オマケに普通種のクセして妙に敏感で、こっちはさらさら採る気もないのに大袈裟に逃げてゆくのも腹立たしい。何だかそれがバカにされてるようで(-_-メ)超絶ムカッとくるのだ。なので標本は一つもない。なので岸田先生の図鑑の画像をお借りしたのである。

とにかく、此処で目的のミヤマが採れる気がまるでしない。そうゆう時は自分の勘に素直に従うべきだ。今までだってそうだし、これからだってきっとそうだ。己の勘を信じよう。湖を後にして、白馬村へと向かう。

 

 
又してもキャンプ場なのさ。ボンビー旅行なのもあるが、宿に泊まれば自由が効かない。何てったって蛾採りは夜がメインなのだ。しかも深夜に及ぶことが多い。宿泊してると、おいそれと夜に出歩くワケにはいかぬのだ。要らぬ心配や迷惑をかけたくない。

取り敢えず、ここを拠点にして各所を回るつもりだ。
狙いはアズミキシタバ、ノコメキシタバ、ハイモンキシタバ、ヒメシロシタバ、ヨシノキシタバである。こんだけ居りゃあ、どれか1つくらいは採れんだろ。

温泉入ってテント張ったら、もう夕方になった。
蜩(ひぐらし)の悲しげな声が辺りに侘しく響く。その何とも言えない余韻のある声を聞いていると、何だかこっちまで物悲しくなってくる。夏もいつかは終わるのだと気づかされてしまうからだ。でも、そんな夏の夕暮れこそが夏そのものでもある。この気持ち、何となくノスタルジックで嫌いじゃない。

岩に腰掛けて、ぼおーっと蜩たちの合唱を聞いていたら、サカハチチョウがやって来た。

 

 

夕暮れが訪れるまでの暫しの時間、戯れる。
こちらにフレンドリーで穏やかな心さえあれば、案外逃げないものだ。慣れれば手乗り蝶も意外と簡単。心頭を滅却して無私になれない人はダメだけど。
たぶん20分以上は遊んでたんじゃないかな。お陰さんで心が癒やされたよ。ありがとね、サカハっちゃん。

この地での最初のターゲットは、アズミキシタバだ。
近くの崖にいると聞いている。だが、ぼんやりとした不安が心の隅に蹲(うずくま)っている。

 

 
何となく見覚えのある場所だと思ったら、西尾規孝さんの名著『日本のCatocala(註4)』に載っていた場所と同じだ。しかし様相は随分と変わっている。

 

(出典『日本のCatocala』からトリミング。)

 
たぶん2000年代前半以前に撮られた写真だろう。今と比べて広範囲に岩が露出しており、アズミの食樹であるイワシモツケには適した環境だ。しかし現在は周囲からミズナラなどの木が侵入してきていて、どう見ても環境は悪化している。とゆうことは確実にアズミの数は減っているという事だ。それに此処は標高が低いから発生期のピークは過ぎているものと思われる。果たして採れるんかね❓

とはいえ、悪い事ばかりじゃない。
崖の近くにはアズミが吸蜜に訪れるというヒヨドリバナとリョウブの花があった。

 
(ヒヨドリバナ)

 
(リョウブ)

 
樹液にはあまり来ないとも聞いていたから、これならたとえトラップがダメでも何とかなる可能性はある。実力はさしてないけど、引きだけは強いと言われるワタクシだ。何とかなるっしょ。

夕焼けにバイバイしてから崖下に行き、木に霧吹きで糖蜜を吹き付けてゆく。
アズミキシタバが糖蜜トラップで採れたという話は聞いた事がないが、カバフキシタバ(註5)だってタコ採りの我がスペシャルレシピだ。寄って来るじゃろう。ワシがアズミも糖蜜で採れるという事を証明してやろうではないか。ψ(`∇´)ψケケケケケ…。

幸先良く、直ぐにベニシタバ(註6)がやって来た。
٩(๑´3`๑)۶ほら、見さらせじゃ。

 

 
昨日も採れたけど、嬉しい。元来ベニシタバは💖好きだもんね。それに発生初期であろうこの時期のベニシタバは格別に美しいのだ。

しかし、さあこれからというと段になって、⚡ガラガラピッシャーン❗本気の雷雨がやって来て、チャンチャンで惨敗に終わる。
🎵ズタズタボロボロ、🎵ズタボロロ~。
そして、その後も此の地でことごとく敗退。新しきカトカラは何一つ採れず、泥沼無間地獄の3連敗となる。でもって、秋田さんや岸田先生に「マホロバの発見で、今年の運を全部使い果たしたんじゃないのー。」と揶揄される始末。

 
2020年には、前から買う買うと言っていた小太郎くんが遂にライトトラップのセットを購入した。
なので即座に尻尾を振りまくり、アズミ遠征の約束を取り付けた。去年の惨敗と、その後の調べでアズミはライトトラップ無しでは採るのが難しいと痛感したのだ。この際、形(なり)振りなんか構ってらんない。でも以後、小太郎くんには事あるごとに「アズミ、行くの止めよっかなあー。」などとイジメられ続けたよ。世の中、持つ者と持たざる者とでは、常に持たざる者は虐げられる運命なのだ(笑)。

問題は、お天気である。もし晴れならば、新月でもなければ効果はあまり期待できない。灯火採集に月夜はヨロシクないんである。夜間に活動する昆虫は月の光を頼りに行動していると言われている。だから曇っている方が条件的には良い。月の光に影響されないからだ。詳しい説明は長くなるので割愛するが、とにかく虫たちは月の光と間違えて人工光に吸い寄せられる。
かといって同じく月が隠れる雨もヨロシクない。雨でも蛾は平気で飛んで来るらしいのだが、雨で羽が濡れてボロ化しやすいからマズイんである。それに小太郎くん曰く、雨はライトトラップセットの故障の原因にもなりやすいそうだ。
あとは風が強くてもダメだし、気温が低過ぎるのもヨロシクないと言われている。灯火採集は案外と条件がシビアなのだ。その点、糖蜜採集は楽だ。強い雨や気温が低い以外は、あまり天候に影響されない。自分的には糖蜜トラップの方が性格的には合ってる。ライトトラップは荷物の量が多いし、用意と後片付けとか面倒くさいのだ。あとは待つのが大嫌いな性格とゆうのもある。糖蜜トラップも一見待ちの採集だが、ポイントを巡回するのでアクティブなのだ。網を使う機会も多いしね。動的な採集の方が自分には合ってる。だからライトトラップの時は、今一つ気合が入らない。とはいえ、今度ばかりは気合が入っている。アズミには、そこそこ憧れてるし、絶不調続きで今年はまだ未採集のカトカラを一つも採れてないんである。

 
 2020年 7月26日

天気予報は雨模様で微妙だったが、イチかバチかでGOする事に決定した。この機会を逃すと、時期的に鮮度が良いものは望めないからだ。いくら沢山飛んで来ても、ボロばっかじゃ意味ないのだ。
博奕を打てない奴に良い虫は採れない。でも、どちらかというと予報は悪い方に傾いている。強い雨ならば、ライトトラップは中止にせざるおえない。とはいえ、小雨程度ならガスが掛かり、むしろ絶好のコンディションになるかもしれない。謂わば、我々はゼロ百の状況下にあるのだ。
雨予報でも晴れさせてしまうスーパー晴れ男のワシの力をもってすれば大雨は有り得んとは思うが、最近は何をやっても上手い事いかんしなあ…。こんなとこまで来てダメだったら泣くに泣けんよ。いや、( ;∀;)ダダ泣きさ。どうにかなることを心から祈るよ。

白馬村に入る頃には完全に日が暮れて、夜の帳がおりた。
場所の選定は山の中腹と高地の2箇所で、まだどちらにするか決めかねている。鮮度を考えれば高標高のポイントだが、細かいポイントは知らない。一方、中腹は小太郎くんが場所を詳しく聞いているから確実性は高い。だが、鮮度は落ちている可能性が大だ。ここが運命の分かれ目、思案のしどころである。

相談の結果、高標高のポイントを目指すことにした。もしポイントが見つからなければ、中腹ポイントに変更すればいいと判断したのである。アズミのライトへの飛来は夜半過ぎだと言われている。だから時間的にそれでも何とかなると踏んだ。夜遅くに飛んで来る蛾は待つのがウザいのだが、こうゆう場合は寧ろ助かる。周囲の環境や天候等々、様子によっては、そのポイントを捨てて移動することだって可能なのである。

小雨降る中、車は山へ向かう道へと入ってゆく。
すると、ガスり始めてヘッドライトの前を蛾がワンサカ飛びだした。完全に活性が入ってるって感じで、絶好のコンディションだ。このまま天気がもてば、何とかなる。どころか大爆発だって有り得る。心が期待でグンと膨れ上がる。

しかし着いた場所は真っ暗けで、周囲の環境が全然ワカラン。どこにライトを設置すれば良いのか、さっぱりワカランぞなもし。それでもこの状況ならば、たとえポイントを少々ハズしていたとしても1つや2つは飛んで来るだろう。
けど、嫌な予感がしないでもない。今シーズンのワシはマホロバもカバフもあんまり採れてなくて、絶不調がバリ続いているのだ。何が起こるかワカランのだ。慎重に状況を把握してから決断すべきだ。
考えてみれば、標高が高ければ高いほど雨になりやすい。高い分だけ気温が低いのも気にかかる。気温が低いと虫の活動は鈍くなるのだ。ゆえに確実に採れる場所である中腹を選択すべきではないかと思った。
小太郎くんは此処でやる事を望んでそうな素振りだったけど、ここは譲ってはならぬと感じた。なので、半ば強引に中腹でやることを主張した。小太郎くん、ゴメンね。&譲ってくれてアリガトね。

一旦、山を降り、別なルートを登り返して中腹ポイントを目指す。さあ、気持ちをリセットしてアズミをテゴメにしてやろうじゃないか。

ポイントは人に詳しく聞いていなければ、夜だと絶対に辿り着けないような場所だった。マジ真っ暗けだ。さっきの比じゃない漆黒の闇だ。

幸い雨は止んでいる。
けど寒い。途中で上着を忘れたのに早めに気づき、「GU」で買っといて大正解だったよ。良い兆候だと考えよっと。今日はツイてるから大丈夫だと自分に言い聞かせる。何につけ、ちょっとした事でもメンタルを強化しとくのは大切なのだ。

時計を見ると、早くも午後8時半近くになっていた。
ソッコーで今夜の屋台を組む。

 

 
何だかんだで結局ライトが点灯したのは、たぶん9時になる10分前くらいだった。

 

 
ほぼ雨は止んでいたが、傘つきの雨仕様になっておる。
とはいえ、活躍はあまりしてくれない事を祈ろう。どうか大雨にだけはなりませぬように👏

午後10時。
小太郎くんが突然椅子から立ち上がり、小走りに駆け出した。

えっ❗❓、えっ❗❓、えっ❗❓、もう飛んできたの❓

慌てて、自分も後を追っかける。

小太郎くんがライトトラップの裏へと回った。ねっ、ねっ、アズミなのー❓何か言ってくれよー。

コレ、密かに狙ってたんすよー❗

見ると、手にケバいくらいの派手派手な蛾を持っている。しかも、デカい。
(⑉⊙ȏ⊙)見たことあるぞー、ソレ。

 

 
ジョウザンヒトリである。
ワシも会ってみたかった蛾の一つだ。思ってた以上にデカいんで驚いたよ。それに想像していた以上に美しい。百聞は一見に如かずだね。何だって実物が一番美しくて、生きているオーラがある。

午後10時20分くらいだったと思う。
再び小太郎が慌てて走り出した。

いたっ❗いました❗たぶんアズミに間違いないです❗

しかし、飛んで逃げて忽然と姿を消した。(ㆁωㆁ)マジかよ❓
絶対に、まだ近くにいる筈だ。二人で辺りを探し回る。
思った通りだった。しかし何度か地面にいるのを見つけるのだが、クソ忌々しい事に直ぐに飛んで逃げよる。それを数度繰り返す。何でライトの近くまで寄ってこんの❓

暫くして、ようやくブラックライトまで近寄ってきたのを小太郎くんが見つけた。
白布で行き止まりだから、もう袋のネズミだ。余程の事がない限りは採れるだろ。これで、やっとこさ間近でじっくりと眺められる。小太郎くん、ゲットよろしくー。

しかーし、(⑉⊙ȏ⊙)あちゃま❗、何とブラックライトの隙間に入っていきよるー❗

こりゃ、ボロ化必至だな。
肉を切らして、骨を断つ。それでも小太郎くんは意地で何とか無理矢理ゲットした。

で、見せて貰ったけど、あちゃーの背中ズル剥けになってた。
小太郎くん、御愁傷様(´ε` )
それにしても、思ってた以上に小さい。マメキシタバ(註7)よか小さい。ここまでくると、もう小人ちゃんレベルだな。
とはいえ、実物を見て俄然やる気が出る。

けれど後が続かない。表情には出さないようにしてはいたが、心の中は相当波立っていた。このまま二度と飛んで来ないのではと考えると、胸が締めつけられそうだった。やっぱ絶不調のスパイラルにハマったまんまなのか…。いい加減、勘弁してくれよ、ジーザス。

11時過ぎ。
ようやく自分にもチャンスが巡ってきた。
ふと何気に地面を見たら、ペタッと止まっていたのだ。けどコヤツも同じように敏感で直ぐに飛び立った。目を切らずに姿を追い掛け、止まった辺りに目を凝らす。どこよ、どこー❓地面と同化して、よくワカンナイ。焦燥感が心を撫でる。

(☆▽☆)いたっ❗

けど、必死で毒瓶を被せようとしたら、すんでのところで逃げやがった。クソッ(-_-;)、マジかよ。でも飛びそこねて、ひっくり返りよった。

ダメー❗(༎ຶ ෴ ༎ຶ)ボロになっちゃうー。

ヽ(`Д´#)ノえーい、もうどうなってもええわい。とにかく何でもいいから採らなきゃ来た意味がない。強引に毒瓶を被せた。

中を見ると、ちゃんと毒瓶に収まっている。
(´д`)フゥー、何とか採れたよ。
毒が回り、ほぼ動かなくなったところで、やや震える指先で手のひらに乗せる。

 

 
(・o・;)ちっちゃ❗
そして、暴れ倒したので、ワシのも背中がハゲちょろけて見事なまでの落ち武者化しとるー。(;´д`)トホホのホー。

 

 
ちっちゃいけど、後翅の黄色が鮮やかで綺麗だ。前翅も複雑な紋様でカッコイイ。

腹や羽の形からすると、♀かな❓
それに尻先に毛束があまり無いような気がするもんね。カトカラの♀は♂と比べて腹が短くて太く、尻先の毛の量が少ない傾向がある。また翅形は丸みを帯びることが多い。

確認のために裏返してみる。

 
(裏面)

 
 
裏面は、どって事ない。どう見ても美しいとは言えないやね。
それに随分と擦れてる。時期的にもう遅いのかな❓それとも暴れて擦れたせいなのかな❓判断に苦しむところだ。
あれっ❗❓、♀と思ったけど尻先に縦スリットが入ってないし、産卵管も見えない。って事は♂❓

午前0時前。
ようやくマシなのが採れた。

 

 
(・o・;)やっぱ、ちっちゃ〜。

 

 
これは腹が細く、尻先に毛束があるから♂だろう。
じゃあ、最初のはどっちだったのだ❓
まあいい。数を採ってりゃ、そのうち自ずと分かってくるだろう。

2頭目を三角紙に収めたところで、雨がパラパラと降りだした。
このまま小雨で踏み堪えることを祈ろうと思って歩き出したら、また地面に止まっているのがいた。今度は崖の縁だ。

『いたっ❗』
と言ったら、一拍おいて小太郎くんも
『こっちもいましたあー❗』
と声を上げる。そして次の瞬間には、
『あっ、アッチにもコッチにもいます❗』
と叫んだ。
目を戻すと、視界に何かが入った。
(⑉⊙ȏ⊙)わちゃっ❗❗
コッチも2つ3つ飛んどる❗

雨で活性が入ったのかもしれない。そこから先は、祭が始まった。次から次へと崖の下からアズミが湧くように這い昇って来た。
でも相変わらず白布には止まらず、落ち着きなく地這い飛びしとる。歩くと複数が地面から飛ぶし、もうワチャワチャだ。それを二人とも中腰で右往左往で追いかけ回しているから、滑稽きわまりない。もし第三者が見ていたとしたら、泥鰌掬いのおっさんショーに見えたかもしれない。そして、採っても採っても地面で暴れて次々とボロ化してゆくから、その泥鰌掬いの動きに拍車がかかる。早く採らないとボロボロになってしまうから必死なのだ。もうワシらまでワチャワチャの、わちゃわちゃダンスパーティーなのだ。

狂騒曲は午前1時過ぎまで続いた。
一段落し、何だかバカバカしくって二人して笑う。

気がつけば、いつのまにか雨は上がっていた。

                        おしまい

 
後日談を少し書く。
深夜2時くらいに撤収して山を降りたら、晴れてきて星まで出てくる始末。そして、昼間にコヒョウモンモドキの様子を見に乗鞍まで行った時にも晴れてきた。天気予報は完全に悪かったから、やはり我ながらスーパーな晴れ男なのである。
とは言うものの、その後は土砂降りだったけどね。
で、その日に帰宅したのだが、2頭だけ展翅して睡魔に勝てず、残りを冷凍庫にブチ込み昏倒。以後、今まで1つも展翅してない。
一応、その時の展翅画像と昼間に見たらこんなんです画像を添付しておこう。

 

 
昼間に見ると、よりいっそう美しいことが解る。
下翅の黄色はキシタバ類の中でもトップクラスの鮮やかさだ。上翅もカトカラの中では見たことのないような独特の渋いグレーで、複雑な模様はデザイン性が高い。
とはいえ、激ちっちゃいけどさ。もう少しデカけりゃ、評価はもっと高いのにね。せめて中型サイズくらいあればなあ…。

 
【Catocala koreana azumiensis アズミキシタバ♂】

 
【同♀】

 
スーパー落武者にさせてしまったなりよ(´ε` )
触角も真っ直ぐに出来てないし、胴体も縒れてるしさ。
まあ睡魔に勝てずに力尽きたと云うこってすな。

 
追伸
こうして文章を書いていると、改めて場所の選択は正しかったんだなと思う。高標高側のポイントだと、ずっと雨だったんじゃないかという気がする。たぶん気温も更に下がっていただろう。
それに何よりアズミキシタバは殆んどが上からではなく、下側から飛んで来たからね。

2019年の採集記は他の回とも繋がっており、今のところ前後の話はベニシタバとミヤマキシタバ、ハイモンキシタバ、ノコメキシタバの回と繋がっている。どっかに憎悪のフクラスズメとの戦いも書いてある。おそらく今後、ヒメシロシタバやヨシノキシタバ、ケンモンキシタバの回ともコネクトしてゆく事になろう。御興味のある方は読んで下され。

 
(註1)マホロバキシタバ

【Catocala mahoroba ♂】

(2019.7月 奈良市)

 
2019年に日本で新たに見つかったカトカラ。新種が期待されたが、結局は台湾の”Catocala naganoi”の新亜種に収まった。
拙ブログに『真秀ろばの夏(2019’カトカラ2年生 其の3)』の前・後編、『月刊むし10月号がやって来た、ヤァ❗ヤァ❗ヤァ❗』『喋くりまくりイガ十郎』の4編の文章があります。

 
(註2)ミヤマキシタバ

【Catocala ella ♀】

(2020.8月 長野県木曽町)

 
詳しく知りたい方は本ブログに『突っ伏しDaiary(2019’カトカラ2年生 其の4)』と、その後編となる『灰かぶりの黄色きシンデレラ』と題した文章があるので宜しければ読んで下され。

 
(註3)ムラサキシタバ

【Catocala fraxini】

(2020.9月 長野県松本市)

 
フクラスズメとは、下翅にブルーが入っているのが共通するだけで、似ても似つかない。色、柄、フォルム、全てにおいてムラサキの方が格段に美しいのだ。しかも稀でデカいときてる。謂わば、フクラスズメとは月とスッポンくらいの身分の差があるのである。

拙ブログに『2018’カトカラ元年』シリーズの其の17として、『青紫の幻神』『憤激の蒼き焔(ほのお)』『2019’紫への道』『パープルレイン』『紫の肖像』というムラサキシタバについて書いた五章からなる大作がありんす。おいちゃん、ムラサキシタバ愛が強しなのである。

 
(註4)『日本のCatocala』

 
日本のカトカラについて書かれた図鑑の最高峰。生態図鑑としては圧倒的に群を抜いている存在だと思う。

 
(註5)カバフキシタバ

【Catocala mirifica ♀】

(2020.7月 奈良市)

 
拙ブログの『孤高の落武者(2018’カトカラ元年 其の5)』と『逆襲のモラセス(続・カバフキシタバ)』の前・後編を見られたし。

 
(註6)ベニシタバ

【Catocala electa ♀】

(2019.9月 岐阜県高山市)

 
拙ブログの『薄紅色の天女(2019’カトカラ2年生 其の16)』と、その後編『紅、燃ゆる』を読まれたし。

 
(註7)マメキシタバ

【Catocala duplicata ♂】

(2020.8月 長野県木曽町)

 
拙ブログの『侏儒の舞(2018’カトカラ元年 其の4)』を読まれたし。