エウダミップスの迷宮

 
 
       台湾の蝶 番外編
     『エウダミップスの迷宮』

 
前回本編第2話の『小僧、羽ばたく』と重複する所があるが、おさらいの意味もあるので了承されたし。

『台湾の蝶』第2話で、Polyura eudamippus フタオチョウを取り上げた。しかし、手に余って頓挫してしまった。分類につい触れてしまい、無間地獄(むけんじごく)に嵌まってしまったのだ。
けれど、このまま終えるのも何だか癪だ。素人は素人なりに出来る範囲の中で解説していこうと思う。

2016年に台湾で初めてフタオチョウを採った時は、日本のものとさして変わらないなと云う印象だった。
だが帰国後、日本のフタオチョウと比べてみて、細かいところがかなり違う事に気づいた。そこで本当に同種なのかな?と云う疑問が湧いてきた。
当時、その疑問をFacebookにまんま書いたところ、その道の研究者として名高い勝山(礼一朗)さんからの御指摘があった。
なんと日本のフタオチョウは最近になって、Polyura weismanni と云う別種になったというのだ❗
因みに学名は、亜種名だった「weismanni」がそのまま小種名に昇格した。
この2016年の時点では、まだ日本のフタオチョウは台湾や大陸のものと同じエウダミップスフタオで、その1亜種にすぎないとばかり思っていたから驚いた。

百聞は一見にしかず。ゴチャゴチャ言ってるより、先ずは台湾のフタオチョウと沖縄のフタオチョウの画像を並べて、改めて比べてみよう。

【Polyura eudamippus formosana 台湾亜種】

(2016.7.9 台湾南投県仁愛郷)

 
【Polyura weismanni 沖縄本島産】

(出典『日本産蝶類標準図鑑』。日本では天然記念物に指定されているので、図鑑から画像を拝借です)

パッと見は同じ種類に見える。
だが、じっくりと見比べてみて、だいぶ違ったので思いの外(ほか)驚いた。
沖縄産のフタオは黒いのである。白い部分が少ない。
それに下翅の双つの尾状突起が明らかに短い。プライドある日本男児としては、慚愧に耐えない短小さだ。
ハッΣ( ̄ロ ̄lll)!、また危うく脱線するところだった。今は、んな事はどうでもよろし。

他にも相違点はある。
裏面上翅の黄色い帯が太いし、色も黄色いというよりかオレンジに近い色だ。
細かな点を見ていけば、まだまだ相違点があって、下翅の外縁が青緑色ではなく白い。また、白紋の形や大きさにも差があって、(◎-◎;)あらあら、(・。・)ほぉ~の、(;゜∀゜)へえ~なのだ。

そういえば両者の幼虫の食樹も全く違う。
噂では幼虫形態も違うと聞いた事がある。だから、一部では別種説も囁かれていたのは知ってはいた。
けんど、天然記念物がゆえに許可が降りないと大っぴらには研究は出来ないし、飼育も出来ない。だから研究結果の発表も気軽には出来ないというのが現状なのだ。
そういう理由から日本のフタオチョウの幼生期の情報は少ない。日本の自然保護行政は、クソ問題有りで、色々と難しいところがあるのだ。

また話が逸れていきそうなので、話を元に戻そう。
エウダミップスフタオも含めて、フタオチョウグループの幼虫の食樹はマメ科の植物が基本だ。
台湾のフタオチョウもマメ科のムラサキナツフジが食樹である(与えれば同じマメ科のタマザキゴウカン(アカハダノキ)やフジ(藤)でも飼育可能らしい)。

なのに日本のフタオチョウは、食べる植物の科さえも違っていて、クロウメモドキ科のヤエヤマネコノチチを主食樹にしている。近年は、サブ的食餌植物だったニレ科 クワノハエノキ(リュウキュウエノキ)を積極的に食うようになり、沖縄本島南部にまで分布を拡大しているという(南部にはヤエヤマネコノチチが殆んど生えて無いようだ)。
どちらにせよ、両植物ともフタオチョウグループとしては異例の食樹である。
食べ物が違えば、見た目が変わってくるのも頷ける。
多分、台湾のフタオチョウと遠く離れて分布する事により(日本のフタオチョウは八重山諸島にはおらず、沖縄本島のみに分布する)、長い隔離の中で独自に進化していったのだろう。

でも、何で全く違う系統の植物に食樹転換しちやったのかなあ?マメ科の植物なら、沖縄にだって他にも沢山あるでしょうに?
なぜに猫の乳なのだ?

いや待て待て。そもそも沖縄にはムラサキナツフジやタマザキゴウカン、フジは自生してないのかな?
(ー_ー;)あ~あ。又ややこしい話しになってきたよ。いらん事に気づくのも、どうかなと思う。

調べてみると、フジ(藤)は日本本土の固有種で、南西諸島は分布には入っていない。
ムラサキナツフジの分布は、台湾から中国にかけてだが、既に園芸種として日本に入って来ているようだ。
となると、フジもムラサキナツフジも、園芸種として沖縄本島にも間違いなく入って来てると思う。
ならば、そのうち先祖帰りする奴とかいないのかね?
絶対いるよね。藤やムラサキナツフジが野生化して増えたら、そっちを積極的に食い始める奴がいるのは充分に考えられる。
そうなったら百年、千年後には、また台湾のフタオチョウみたくなっちやって、再び亜種に格下げされたりしてね(笑)

3つめ、最後はついつい脳内で「玉裂き強姦」に変換されちゃうタマザキゴウカンの事を調べましょうね。
あっ!Σ( ̄□ ̄;)、おいおい何とタマザキゴウカン(アカハダノキ)は、石垣島と西表島に自生しているというじゃないか。
多分、フタオチョウは台湾から南西諸島沿いに分布を拡げていき、沖縄本島にまで達したのだろう。
だが、なぜだか他のところでは絶滅してしまい、食樹転換をした沖縄本島のものだけが生き残ったとゆう事か…。

いや、ちょい待ちーや。八重山諸島にも、まだフタオチョウが生き残ってる可能性だってあるかもしれないぞ。
開発が進んだ石垣島は、まあ有り得ないとしても、西表島は人跡未踏のジャングルだらけだ。どこか山奥で生き残っている可能性は無いとは言えないんじゃないか?
見つけたら、国内的には大発見だ。功名心がある人はトライしてみませう。ロマンでっせ。

次は、形態も違うと噂される幼虫を検証してみよう。
たしか『アジア産蝶類生活史図鑑』に台湾のフタオチョウの幼生期の写真が載っていた筈だ。早速、探してみる。

おうーっと、その前に言っとかなきゃなんねー。
えー、一般ピポー、特に女子はこの先閲覧注意です。
ハイ、もう間違いなく仰け反るであろうグロい芋虫さんが登場します。
( ̄ロ ̄lll)ゾワゾワされても、当方としては責任は持てませんからネ。ホント、知りませんからネ。
あっ、でもさー、意外と男子より女子の方が免疫力があるかもしんない。『あら、❤可愛いじゃないのよ。』などと云う前向きなコメントが発せられるとも限らん。その辺、女子の方が視野が広いというか、何でも可愛い化させてしまうのはお上手なのだ。

(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

!Σ( ̄□ ̄;)うわっ、頭が邪悪じゃよ。
もうエイリアン。まるでプレデターだな。
あっ、そういえば昔、『エイリアンVSプレデター』という映画があったなあ…。
たしかプレデターの方が知能が高くて、エイリアンを狩る側なんだよね。そもそもシュワちゃんを窮地に陥れた強敵だもんね、強いわ。
こういうのを英語だと、ドラゴンヘッドと呼ぶらしい。プレデターの方がピッタリだと思うんだけど、プレデターを知らん人もおるもんなー。どう考えてもドラゴンの方が知名度が圧倒的に高いでしょう。仕方あるまい。

一応、プレデターの画像も添付しておきますか。
きっと、こういう寄り道ばっかしてるから、文章が長くなる原因になってんだろなあ…。
まっ、いっか。

【プレデター】
(出典『キャラネット』)

でも、これほど邪悪ではないよね。
見慣れると、イモムシさんも結構可愛く見えてきたりするものだ。

それはさておき、問題は日本のフタオチョウの幼虫である。探そうとも、幼虫の画像があんま無いのだ。

あっ、ラッキー(о´∀`о)
『イモムシ ハンドブック③』の表紙に、らしき姿があるじゃないか(上段の右端です)。

(出典『うみねこ通販』)

やったぜーd=(^o^)=b、これで簡単解決だ。
早速ページをめくる。

おっ、( ☆∀☆)あった、あった。

(出典『イモムシ ハンドブック③』)

あっ、体に帯が無い❗

いや待てよ。
でも、これってヒメフタオチョウの幼虫じゃないの❓
さっき見た『アジア産蝶類生活史図鑑』の台湾のフタオチョウの隣のヒメフタオの欄に、こんなのがいたような気がする。
だいち、どう見ても成虫写真が明らかにヒメフタオじゃないか。改めて、図鑑に記述されてる事が全て正しいワケではないと認識する。

『アジア産蝶類生活史図鑑』で、再び確認してみよう。

(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

ほらあ~、やっぱそうじゃんかー❗
『イモムシハンドブック③』の監修者には御大・高橋真弓さんの名前もあったから、つい信用したけど、こりゃ間違いだね。出版社は、即刻なおされたし。

次に見つけたのが、蛭川憲男氏の『日本のチョウ 成虫・幼生図鑑』。

(出典『日本のチョウ 成虫・幼虫図鑑』)

画像、ちいせぇなあ。
あっ、でも全然台湾のとは違うぞ。
やっぱ、帯みたいなのが日本のフタオには無い❗
けど、画像が小さいだけに画質悪いよね。これも又、もしかしてヒメフタオと間違えてんでねえか?
黄色い側線が目立たないから、それは無いとは思うけど、この一点の写真だけでは何とも言えない。

そこで、💡ピコリーン。不意に記憶のシナプスが繋がった。たしか手代木さんがタテハチョウの幼虫図鑑を書いておられた記憶がある。それがたぶん中央図書館の蔵書にあった筈だ。

(^^)vありました。
飼育にはまるで興味が無いからサラッとしか見てなくて、うろ憶えだったけど、ちゃんとフタオチョウの幼虫の細密画がありました。

【終令(5令)幼虫】

【各令の顔面と卵】

【蛹】
(以上4点とも、手代木求『日本産蝶類幼虫・成虫図鑑』)

やっぱり、幼虫に帯紋が無い❗

こうなると今度は逆に、もっと台湾のフタオチョウの幼虫の事を知りたくなってくる。
手代木さんで思い出した。そういえばここ最近、2016年に新著『世界のタテハチョウ図鑑』を上梓された筈だ。
勿論、そんな高い図鑑を持っているワケがない。
知りあいをあたって、見せてもらう。

(二点とも出典『日本産蝶類幼虫・成虫図鑑』)

ほらほらあ~、全然違うじゃないかあー。
日本のフタオは帯紋ねえし、お顔の柄も全然違う。
卵の色だって、日本のは黄緑色だけど、台湾のは黄色い。面倒くさいので割愛したが、蛹もやや違う。
こりゃ、別種とするのも致し方ないところではある。それくらいに明らかな形態的差異はあると思う。

もっとも、個人的な種の概念としては微妙かも…。
さんざんぱら別種説で進めてきたにも拘わらず、言ってしまおう。本能的に、種として完全に分化する前の進化途中の段階、モラトリアムな状態にあると感じている。それが正直な見解なんだよね。

ここまで書いて、やっとネットで幼虫の写真が見っかった。
別にわざわざなんだけど、可愛いので添付。

(出典『(C)蝶の図鑑』)

それはそうと、フタオチョウの和名の方はどうなってんだ?
別種になったんだから、当然の事ながら和名も二つに分けなければならない。でないと区別できない。

でも日本の蝶愛好家だって、まだ多くの人が別種になったとは知らないようだ。その証拠にネット情報では、学名は以前のまま、和名も「フタオチョウ」のままだ。「オキナワフタオチョウ」とか「リュウキュウフタオチョウ」、「ニッポンフタオチョウ」とかの表記は見受けられない。
しかし、一つだけ別種として新学名に変えてあるサイトがあった。
『ぷてろんワールド』である。流石だねd=(^o^)=b

そこには和名も付けられてあった。
( ・∇・)ふむふむ。日本のフタオチョウは「フタオチョウ」、台湾やユーラシア大陸に棲むものは「タイリクフタオチョウ」となっておる。
えっ(;・ω・)❓、原名亜種は大陸にいる奴だから、そっちの方が本家本元だぞ。ならば、そっちを「フタオチョウ」とすべきで、日本のものは「ニッポンフタオチョウ」とかにするのが妥当なんじゃないの❓

でも、暫し考えて納得。日本では「フタオチョウ」という和名が既に浸透している。ならば、混乱を避ける為にそのままにしておく方が得策だろう。それに和名が新しくなれば、図鑑だって何だって今までの表記を全部変えなくてはならなくなる。これまた混乱が起きるし、無駄な労力を生じさせるだけだ。良い御判断だと思う。
しかし、「タイリクフタオチョウ」は一考の余地がありそうだ。台湾は大陸ではないし、大陸って何処の大陸やねん?とツッこむ輩もいるでしょうよ。
個人的には、ここはあえて無理に和名をつけなくてもいいんじゃないのと思う。もう「エウダミップスフタオチョウ」でエエのとちゃいまんのん。

あ~、ユーラシア大陸の原名亜種が出てきたから、コッチも説明せざるおえないじゃないか。これがまた、姿かたちが日本のフタオや台湾のフタオとは全然違うのである。

【Polyura eudamippus nigrobasalis 】
(2011.4.1 Laos Tadxaywaterfall)

だから、ここからが更にややこしい話になってくるんだよなあ…。

オダ、オダ、もうダメだあ~o(T□T)o
ここで再び力尽きる。

これ以上、迷宮にいると危険だ。
脳ミソ、グシャグシャなのである。精神の崩壊も近い。
ここは一旦、『待避~❗、待避~❗全軍撤退❗❗』

というワケなので、部隊を立て直してまた戻ってきます。

                  つづく

追伸
すんません。また頓挫です。

それはさておき、このあと今日(1月2日)午後2時から何とBSーTBSで映画『プレデター』を放映するじゃないか。
いやはや、何というグッドタイミングだ。面白い映画なので、暇な人は見ませう。