青春18切符oneday-trip春 第一章(4)

 
 第4話  昭和タイムスリップ

 
気比神宮を離れ、飲食店が集まった敦賀の歓楽街とも言えるゾーンに潜入する。

此処に、敦賀へやって来た本当の理由がある。と云うか、それがこの旅一番のメイン・イヴェントだ。ギフチョウ(註1)採りなんぞは、そのついでに過ぎない。

エリアに入ると、いきなり目を引く看板があった。

 

 
『働き』❓
店みたいだけど、(+_+)何じゃそりゃ❓である。
いったい何屋やねん❓ 見当もつかんわい。
と思ったら、影になっているものの、ちゃんと居酒屋と書いてある。店の名とメルヘンチックな絵に目がいっちゃって気づかなかったよ。

 

 
でもよく見ると横の看板のサイド面に小さく「韓国家庭料理専門」と書いてある。どうやら韓国居酒屋のようだ。にしても、こんなおバカな店名、フツーつけるかね❓
百歩譲って『働き者』ならまだしも、ナゼに『働き』と、途中でプツッと途切れたみたくなってるのよ❓
「韓国家庭料理専門」と云うのもオカシイ。本来ならば「韓国家庭料理専門店」とするのが妥当で、コチラも尻切れトンボ感がある。この宙ぶらりん的残尿感、どうしてくれよう。何処にも心の行き場がないじゃないか。

壁から何か玉がブラ下がっているのも変。正直、理解不能で気持ち悪い。何本かのビニール傘が乱雑に立て掛けられてるのも違和感を助長している。きっとアタマが👼天使な人がやってるのだろう。でも、こう云う店が案外🎯当たりだったりするんだよな。段々この店、実は知る人ぞ知る店で、メチャクチャ旨いんじゃないかと思えてきた。今日は目的があるから無理だが、次回敦賀に来る機会があれば、是非ともチャレンジしたいところだね。

本来の店探しとは、情報など無く、自分の勘と経験だけでフラリと店に入るべきものだろう。己の嗅覚に頼り、信じる。それが店探しの醍醐味だ。謂わば『孤独のグルメ』の世界だ。それこそが正しい有り様(よう)じゃないか。食べログは便利だけど、カーナビとおんなじで人をアホにする。

それにしても、変な名前だよなあ。何がどうなって、こうなったんだろ?まるっきり経緯が想像できない。
しかし、こんなものはただの序章に過ぎなかった。

 

 
上段の『スナック 5年3組』も変だが、これはよくあるオチャラケ系だから理解できなくもない。昭和の時代は、〜組というのがそれなりに流行ったのだ。ラッツ&スターの「め組の人」とか、おニャン子クラブの「後ろ指さされ組」とかさ。
問題はむしろその下の『甘雨』だ。『甘雨』って何なんだ❓およそ、店の名前らしくない。
それによく見ると、その下に『タンヒ』と云う意味不明のルビが振ってある。
「甘雨」は少しは何となくイメージできそうだが、「タンヒ」という言葉は全くもって聞いたことがないし、何も類推できない。その場でググる。

丹翡(タンヒ)という中国っぽいものしかヒットしてこない。
漫画かゲームか知らんけど『Thunderbolt fantasy 東離劍遊記』というモノの登場人物らしき丹翡(タンヒ)というのしか出てこないのだ。仕方なしに内容を確認してみる。

この『東離劍遊紀』、どうやら台湾では知らない人はいないと云う大ヒット人形劇で、丹翡とはそのヒロインの名前らしい。日本でもメディア展開され、宝塚歌劇団の星組もリメイクしたようだ。何と偶然にも現在、BS日テレで放映してるのも見つけたよ。恥ずかしながら、(^~^;)ゞ全然知らんかったー。

 
【丹翡】

(出典『Thunderbolt fantasy Project』)

 
ついでに甘雨もググると、以下のような解説が出てきた。

【甘雨(かんう)】
程好い時期に降って草木を潤し、育てる雨。慈雨、滋雨(じう)。膏雨(こうう)

あの『日本霊異記』に「水を施し、田を塞ぐ。甘雨時に降り、美(よ)き誉長(とこしへ)に伝ふ」と云う一節があるようだ。もしかして、それ由来❓だとしたら、奥が深い。
あっ、『日本霊異記』とは平安時代の初期に景戒によって書かれた日本最古の説話集『日本国現報善悪霊異記(にほんこくげんほうぜんあくりょういき)』の事ね。あまりに長いタイトルなので、『日本霊異記』や『霊異記』と略して呼ばれることが多い。上・中・下の三巻に分かれ、変則的な漢文で表記されている。
もちろん原文は読んどりまへん。処々、断片的に読んだだけっす。

もしもこの『甘雨 タンヒ』が『霊異記』と『東離劍遊紀』のヒロインを繋げてのネーミングとあらば、相当に博識の方が名付けたのではあるまいか?と震撼しそうになったが、有り得ないよねー。そんな博覧強記な人が同時に『5年3組』とは名付けるワケないもん(++)
とはいえ、確率はゼロではない。知ってて同時併記しているならば、とんでもない人物ということになる。
(ー
ー゛)アレ❓、何言ってんだろ俺。2つの店が同じ経営者とは限らないではないか。玄関が鍵付きの扉だし、店名がセットのように併記されているから、てっきりそうだと思い込んでたよ。何だか頭の中がゴチャゴチャになっとる。
ホールドアップ。お手上げだ。もしも、この謎の店名がどうしても気になるという人は、敦賀まで行って直接店主に訊いとくれ。

と、ここまで書いて、画像を拡大したら\(◎o◎)/どひゃあ〜。

 

 
なんと「タンヒ」ではなく、「タンビ」と語尾が濁っとるやんけー。イチから調べなおしじゃよ。
調べながらも、ふと頭を過る。タンビとは耽美主義の耽美かも❓耽美ならば、その店に耽りハマるという願いが込められていてもオカシクない。でもそれってカタカナにする意味があるのかね❓

結果、どうやら韓国語であることが判明した。
ハングルで『단비』と書いて、タンビと読むようだ。
漢字にすると「甘雨」「慈雨」となり、意味は「恵みの雨」。これで漸く繋がりましたな。

この字は女性の名前にも使われるようだ。と云うことは、店主の名前がタンビさんで、それがそのまま店名になった可能性が高い。
これで完全に謎が解けましたな。解ってしまえば、どうという事はない。でもこの時点では、頭の中に韓国と云う発想が全く無かったのだ。だって韓国人の多い大阪生野区辺りだったら類推できても、ここは福井県の敦賀なのだ。まさか韓国系のネーミングだとは夢にも思わんでしょうよ。

 

 
『居酒屋どんたく』って、博多かよ❗❓
でも一切、博多料理とか九州料理とは書いていない。
もしかして「博多どんたく」とは関係なくて、語源であるオランダ語の「zondag」が訛った「どんたく」を意識したものかもしれない。それだと意味は日曜日とか休日になる。
でもそんな捻った名前を果たして居酒屋がつけるかね❓
┐(´(エ)`)┌たぶん付けないね、せにょ〜る。

『居酒屋だるまや』ってのもなあ…。
あえて何にも言わないけどさ。

まあ、それらはまだしも『スナック オンリー遊💕』ってどうよ❓
この英語に漢字を宛がうネーミングって『来夢来人(ライム・ライト)』とかに代表される完全にダサダサ系昭和センスだ。
そう云えば、実家に同じ店名の喫茶店があったな。小柳ルミ子の歌にも、そんな曲名があったような気がする。
(・o・)ん❗❓、そっちが原典か❓全国のルミ子ファンが、こぞって我が店に名付けたとか❓(笑)

目的の場所が開店するまでには少し時間があるので、時間潰しに辺りを徘徊することにした。

 

 
右から『スナック 童夢』『アクアマリン』『Story(ストーリー)』。

「童夢」といえば思い出されるのは、レーシングカー会社「童夢」。そして、もう一つは漫画家 大友克洋の代表作の一つであり、第4回日本SF大賞を受賞した「童夢」だ。小説以外の作品での同賞初受賞と云うスゴい作品である。ワテも初めて読んだ時は衝撃を受けた。当時は映画化不可能と思ったが、今のCG技術なら可能なんじゃないか?誰ぞ、映画化してくれんかのう(•ө•)

どちらかの熱烈なファンなのだろうか…。にしても、パクリ感満載だ。
因みに、漫画は昭和の終わり頃の作品だ。レーシング会社の活動は今に至るが、ステッカーなどが流行ったのは昭和の時代である。昔は車にこのステッカーを貼った走り屋の兄ちゃんが沢山いたね。懐かしいわ。

「アクアマリン」って、何だかダイビングショップの店名みたい。アクアマリンは、ラテン語で海水って意味だからね。でも、きっと宝石のアクアマリンを意識してのネーミングだろね。どうあれ、宝石を店名にするのは昭和的だよな。

『Story』。
ストーリー=物語である。あまりに陳腐過ぎるネーミングゆえ、コメントのしようがない。
「この店で、アナタのストーリーを作って下さいね。」とでもいうのだろうか❓

「ニュー東京ビル」というネーミングも、如何にも昭和くさいや。

 

 
『ラウンジ アクセス』。
何処へアクセスすると云うのだ❓
ラウンジなのに、看板のテキトー過ぎるクオリティに笑ってしまう。雑だよなあ。

 

 
『スナック 薔蘭』。
イージーに薔薇と蘭を引っ付けたんだろなあ…。
薔薇と蘭をこよなく愛する店主なのかな❓にしても、好きなもん同士を合体したとするなら安易だよな😚

ところでコレ、何と読むんだ❓普通に読めば「バラン」だよね。それって怪獣の名前っほくね❓もしくは寿司折りとか弁当の仕切りの、あの緑色でギザギザのヤツ。

(. ❛ ᴗ ❛.)何か段々面白くなってきたぞ。
この調子だと、まだまだ変なネーミングの店がありそうだ。

 

 
わーい\(・∀・)/、大量確保じゃよ。
🎵右上からいってみよっ。

あーた、『お嬢』って…(^~^;)
これまた大胆に自身のことを表現しましたなあ。

その下の『16区 in Pairs』もツッコミどころ満載である。
敦賀なのにパリ16区を名乗るとは、時空を超越されてるのね。解った。たぶん店内とパリ16区は特殊なトンネルで繋がっているのだろう。

お次は真ん中の列。
\(☆▽☆)/おー、『Cat’s Eye(キャッツ・アイ)』とな。スナックネーミングの王道じゃよ、王道❗
(ΦωΦ)ニャーゴーの猫目のことじゃないよ。キャッツ・アイといえば、レオタード姿のセクシー美人三姉妹の怪盗でしょうよ。泥棒猫なのだ。アンタの心を盗みますってかー。
ちょっと怖いけど、🤩入ってみてーなー。
きっとセクシーな美人三姉妹が迎えてくれるに違いない。若いかどうかの保証はないけどもね。

その下の『凛』と『一花』もツッコミたくはあるが、もうアタマが別な観点でしか見れなくなっているから、よそう。冷静にみると、この程度ならマトモの範疇だ。

それでは最後の左列に移ろう。
上から『すず』『1one million』『祐綾亜(ユリア)』『心愛』。
どれも微妙だなあ…。

『すず』はナゼに漢字にしないのだ❓鈴なのか、錫なのかがワカラン。名前だから広瀬すずのすずでいいのか❓まさか広瀬すずの熱烈なファンのマスターがやってるとか❓
あっ、ゴメン。よく見ると右上に鈴の絵の上に「鈴」と書いてあるわ。早くも注意力が散漫になっとりまんな。

『1 one million』。
一見すると、フツーにダサいだけの名前だ。でも、よくよく考えてみると、何か変だ。one millionは100万のことだが、店名に100万は変っしょ❓ 普通はone millionとあらば、100万$ナイトとか、100万$の男だとか、ドルと後ろに何かをつけるもんっしょ❓だいち100万$は1億700万円〜800万円だが、100万は、あくまで百万だぞ。金額のスケールが圧倒的に小さくねえか❓
だいち、最初に「1」のみがバーンときて、下にone millionってなってるのは何ゆえ❓
「1」を強調しているって事は、本当はナンバーワンを意識したと云うことなの❓
もう、\(◎o◎)/ワッケわかりませーん。

『祐綾亜(ユリア)』…ね。
ユリアといえば、真っ先に思い浮かぶのが漫画「北斗の拳」のヒロインの名前だ。それに憧れて名付けたのかな? にしても、宛字がよく見りゃ変くないかい❓「綾」を普通は「リ」とは読まんしょ❓ 音読みするにしても、「りん」もしくは「りょう」でしょうよ。重箱の隅をつつく小姑みたいでヤだけどさ。

最後の『心愛』はルビが振ってないけど、たぶん「ココア」って読ませるんだろなあ…。
あっ、又しても注意力散漫。後ろの色柄に紛れて気づかなかったけど、これもちゃんと「ここあ」とルビが振ってあるわ。

ユリアもそうだけど、英語だけでなく、カタカナや平仮名までも無理から漢字にするのも昭和の時代が発祥ではないだろうか?ツッパリが好んで使ってた「夜露死苦(ヨロシク)」とかさ。今から思うと相当ダサいけど、それがカッコイイと思われていた時代もあったのだ。
いや、違うな。オラは当時からダサいと思ってたもん。訂正しよう。それをカッコイイと思う人が一部いた時代が嘗(かつ)てあったのだ。若者よ、驚愕したまえ。昭和はダサいのだ。しかし、昭和の時代はおおらかであったかい。

 

 
『はな・び』❓
壁の看板のデザインから花火のことだと理解できるが、にしてもナゼに間に「・」が入るのだ❓あえて「・」で区切る意味がワカラン。
それより何より、1Fがスナックで2Fが「メン’S」というメンズオンリーのゲイバーで、3Fがうどん屋という凄い組み合わせのビルかと思いきや、どうやら3つ並べて1店舗のようなのだ。脳内が物事を処理できずに、❓❓❓の嵐になる。「うどん屋 はな・び」なら、まだギリで理解できなくもないが、ナゼにうどん屋がメンズという男性専科的なものと合体するのだ❓まさかまさかの女人禁制のうどん屋だったりしたら、スゲーんだけどな。

ここで、ようやく理解する。メン’Sのメンは、おそらく麺のことなのだ。だったら麺’Sでよいではないか。何ゆえカタカナにする必要性があるのだ❓(ノ`Д´)ノ彡┻━┻えーい、ややこしいわい‼️
だいたい、この看板にはうどん屋的雰囲気が全然ないじゃないか。どうしてこうなっちゃうのかなあ…。

 

 
『jyutan snack 女騎士館』。
スゲー斬新。アマゾネスかよ❗❓
甲冑を着た屈強なお姉ちゃんたちに、jyutan(絨毯)に跪(ひざまづ)かされ、甚振(いたぶ)られるとかスペシャルプレイがあるのかな❓
Mっ気はないけど、中を覗いてみたい好奇心に駆られるよ。

 

 
『バニーガール』。
(^3^♪いいねー、🐰バニーちゃん。オジサン、とっても好きです😍💞❗
にしても、店名に『バニーガール』って付けてしまえるメンタリティーってスゴイな。簡単そうで中々付けれるものではない。バニーガールが店内にいなけりゃ、詐欺だもんね。けど、こんな地方都市のスナックに、バニーガールがホントにいるのかなあ…❓今や都市部でもバニーガールは絶滅危惧種で、探すのは大変だぞ。だいたい、あんな格好してくれる女子とかって、今どきいるのかね❓

バニーガールで思い出した。そういえば大学時代にクラブ対抗の体育祭があって、ウチの部はワシの権限で一回生に仮装をさせた。で、一人の女の子にバニーガールの衣装を強制的に着させたんだよなあ…。今なら完全にパワハラ&セクハラのWハラスメントだと糾弾されても致し方なかろう。
で、その娘のスタイルがこれまた抜群であった。おっぱいデカいし、足がとっても綺麗でウエストもキュッと締まっていて尻(ケツ)プリ。いわゆるボーン、キュッ、ボーンのスラーッなのだ。顔はウーパールーパーだったけどさ(笑)
彼女を見た他のクラブのアホどもが言ってたなあ…。

『五十嵐さん、アレは反則ですわ。あんなん見させられたら、走れませんやん。ワシら、ジャージですし。』

言った奴の股間を見たら、ホンマにテント張っとった。
アレは笑ったなあ…。
ところで、今どきの若い男子って、果たしてバニーガールの存在を知ってるのかね❓知らないとしたら、嘆かわしいことだ。即、ググリなさい。で、おっ勃てなはれ。
あっ、涼宮ハルヒちゃん(註2)がバニーガールの姿をしてたから、若者も意外と知ってるかもな。

ちょっと待てよ。よくよく考えてみれば、バニーガールといえばクラブとかラウンジ的なもので、高級感がそれなりにある。スナックでバニーガールって、少し違和感がある。ちょっと安っぽくねえか?嫌な予感がするよ。
もし店に入って、オバちゃんのバニーガールだらけだったりしたら、引くなあ。絶対に全員が小太り以上の体格だろうから、肉が網タイツに食い込んでボンレスハムみたくなっとるに違いない。そう考えると、入るの怖いなあー。

 

 
『ロングパット』。
ゴルフ好きの人なんでしょうな。
好きなモノの名前をつけたがるのは解る。でも、いいのかそれで❓ゴルフに興味のない者は絶対入らんぞ。
まあ、「ワシの店じゃ。ワシの好きにして何が悪い❓」と言われてしまえば、返す言葉もないんだけどね。
それはさておき、店名の上の黒白のバーコードと云うか簾(すだれ)状のものはいったい何なのだ❓
もしかして、テントをビニールテープでとめてる❓

スナックやラウンジの他にも、名前が変なの目白押しだよ〜ん。

 

 
🥶ア➖➖➖➖ギ❗
控えめに叫んでみる。
そんな事をしても、大いなる疑問が解決するワケもない。脳味噌レベルがフツーな人間には全く意味不明の単語だ。
沖縄言葉かとも思ったが、調べても沖縄言葉にそんな言葉は見当らなかった。ゆえに今もって謎のままである。

 

 
『敦賀 コンパ』。
一見したところ居酒屋っぽいが、何屋か書いていない。コチラも謎過ぎる店名だ。
ここで敦賀の若者たちが夜な夜なハレンチなコンパをしているのやもしれぬ。だったら、ワシも行くぅー(☆▽☆)❗
気になるのでググる。ホントにそんな店ならば、絶対行くぞ。

すると、色んな事が分かってきた。ワタスの見立ては完全にハズレで、居酒屋ではなくてダイニング・バーのようだ。元祖敦賀焼きソバとステーキが有名なんだってさ。特に焼きソバは、全国のコアな焼きそばファンにも知られているらしい。

ちなみに「コンパ」というのは昭和30~40年代に流行した飲食店の業態で、「パブ」「スナック」「バー」「スタンド」などと同列のジャンルらしい。そっかあ…。この言葉って一度廃れてから別な意味あいとして復活したってワケやね。
オジサンも、マジ(ToT)コンパしたいよー。

 

 
『ちょっと変わった焼肉居酒屋!! うしなべ 梅ちゃん』。
端で興奮してるマッチョな牛がポージングしておる。結構変わった名前だと思うけど、『居酒屋アーギ』と『敦賀コンパ』の前では、インパクトに欠けると言わざるおえない。

名前は特別変わってるワケではないけれど、怪しい中華料理屋も見つけた。

 

 
全面山吹色と云うアヴァンギャルドな見てくれだ。
しかし名前の『唐子(からこ)』は、どこか旨そうな雰囲気を醸し出している。でも入るとしたら、ゼロ百の賭けだろなあ…。
因みに唐子は女の人の名前ではない。中国風の髪形や服装をした子供や頭の左右にわずかに髪を残して他を剃るその髪型、または「唐子人形」の略である。つまり、それなりに考えられたと覚しき店名なのだ。そう云う人がやっている店ならば、それなりに期待が持てようと云うワケやね。

 

 
こっちは紅色だ。

 

 
右側の漢字だらけの本格的なメニューを見ると、かなりヤル中華屋なのではと思った(ピッチアウトすると、画像拡大できます)。
しかし、店名が『中國料理 敦賀』。コレがやや引っ掛かる。○○飯店とあれば、中国人がやってそうだから更に期待値が上がるが、この店名だと日本人の経営っぽい。相対的に世界どこでも中国人が作る中華の方が旨いのだ。
それに右横に電光掲示板があるのも気になる。安っぽくて、センス台無しなのだ。
ここも、入るにしても賭け率は決して低くはないだろう。しかし、次回敦賀に来訪した折にはトライしてみる価値はあるだろう。

この2軒、しかも斜め前同士にあって、目と鼻の先にある。極めて近いのだ。普通は中華街でもなけりゃ、こんな近くに中華料理屋が近接する事など稀だろう。そこに両中華料理屋の長きにわたる確執と血みどろの歴史があったりしてね(笑)。

 

 
解るような解らんような、ツッコミを入れたくなるような入れたくないような微妙な店名が並んでいる。とりあえずスルーしとこっと。

 

 
右から、『スナック やよい』『No.2』『ナイトスポット 沖縄』『スナック ゆず』『Happy voice(ハッピーボイス)』。

『やよい』と『ゆず』は、まあいいとしよう。
まず気になるのは『NO.2』。
なぜにNO.1ではなく、ナンバー・ツーなのだ…。もしかして2号店❓
だとしても、ナンバー・ワンの次の店にナンバー2って普通つけるかね❓それじゃ、あまりにも何も考えとらんって事になるじゃないか。

しかし、探しても『NO.1』と云う店は見つからなかった。ならば、最初から『NO.2』と名付けたと云うワケか。
俺はナンバー2が好きなのさ、そこに男の美学があるとか何とか面倒くさいタイプの店主なのかもしれない。個人的には、そう云うのって嫌いじゃないけどね。

『ナイトスポット 沖縄』って…(笑)
一瞬、風俗かと思ったよ。それと同時に、ここが何処だかを忘れそうになったわ。何で、敦賀で沖縄やねん…。それ程までに敦賀市民は沖縄を求めておるのか❓

『Happy Voice』。
店内に明るい声が響くのを願ってのネーミングだろうか?
ゴメン。陳腐過ぎて、それ以上はコメントのしようがないな。

 

 
(゜o゜;キタ➖➖➖➖➖➖ッ‼️
『隠れ家 来人 Light』。
英語に漢字を宛がうと云えばお約束の「来夢来人」そのものではないが、王道路線だ。

 

 
右奥の酒瓶の並べ方からして、どうやらスナックではなくてBarのようだ。
ところで、自ら隠れ家って言ったら、隠れ家にならんのでねえの❓ 揚げ足とってるようで、申し訳ないけど。

 

 
(☆▽☆)おー、ここにも『オンリー遊💕』があるじゃないか❗流行ってるのかな…。

『すなっく まどんな』。
これは英語を漢字ではなく、平仮名にしたパターンだ。こうすると、のほほん感が出やすい。そこが狙い目だろう。この手法も昭和に流行った気がする。でも、こう云う風に両方とも平仮名にすると、間抜け感が出ちゃうぞ。

他にもツッコミどころ満載の店が並んでいるが、ここは『すなっく まどんな』に止どめておく。

それにしても、スナックの名前って陳腐なものか、ブッ飛んだもんしかないのかよ❓ センスの砂漠だな。

 

 
『上・昇・気・流』に『花馬車』ですか…。
もうツッコむのも面倒くさい。

 

 
少々ツッコむのにも辟易してきたが、これは粒揃いなので避けて通れんだろう。

『ナイトキャビン シーマン』。
ようは夜の船室の海の男だがね。店主はヨットとかクルーザーの船乗りかしら❓
漁船だったら、むしろカッケーんだけどなあ。

『韓国居酒屋 ゆめ』。
凄いカラーリングだな。韓国料理屋なのに何故か歌舞伎調なところが笑える。それにしても、韓国系の店が多いね。敦賀は崇神天皇の時代に朝鮮半島から「都怒我阿羅斯等(ツヌガアラシト)」がやって来て、それが名前の由来になったと云う歴史がある。だから、古来より朝鮮半島から渡来する人が多いのかもしれない。

ふと思ったんたけど、何で人は色んなものに矢鱈と「夢」「ゆめ」なんて云うコッ恥(パズ)かしいネーミングをしたがるのだろう❓
これは別に昭和の時代だけでなく、今の時代にも連綿と続いている。日本人って「夢」って言葉が相当好きなんだろなあ。

『ジュンハ』。
それって、韓国人の名前かな❓たしかパク ジュンハっていう韓国人男性アーティストがいたよね。
う〜ん、又しても韓国だすな。敦賀のイメージが変わったよ。

この中で一番目を惹く看板は『歌謡酒場 七色』ですな。
おそらく「七色の声」とかがモチーフになってんだろなあ…。
ところで歌謡酒場って、どんな形体の店なのだ❓
想像したけど、ソレって結局のところスナックの事だよね。

七色の字がレインボーカラーになってるネ。虹色ではなく、ここはレインボーと呼ぶのが昭和の流儀だ。それが昭和の掟でもある。

ここまで色んな店の名前を見てきて、改めて思う。
例えば蝶ちょの名前にも救いようのないダサい名前のものが多々ある。世の中、ようはネーミングセンスの無い人の方が圧倒的に多いんだろね。考えてみれば、皆んなが皆んなセンスが良いワケじゃないもんね。
ところで、世の中にネーミングを請け負う会社ってあるのかな❓
そこに頼めば良いのにと思った次第なんだけど、ダメだな。たとえあったとしても、スナックや居酒屋の店主たちが利用するとは思えないもん。名前を付けれると云うのは、店主の特権なんだもんね。その特権をむざむざ人に与えることなど有り得ない。

 

 
(☆▽☆)出た➖➖➖➖➖➖➖っ❗
遂に出ましたお約束の『来夢来人(ライムライト)』‼️

この名前のスナックと喫茶店が、いったい日本全国にどれだけあるのだろう❓減ってはいるだろうが、確実に全都道府県に1個はあるに違いない。

因みに下の寿司屋は奥まったところにあり、隠れ家的な感じで旨そうだなと思ったら、偶然あとで知る人ぞ知る名店だとわかった。敦賀って、行きたい店が目白押しじゃないか。

 

 
そして、ここにも『来夢来人』❗
増殖しているのか❓、ライムライト‼️

このビル、他の店も強力ラインナップだすな。
『なんちゃってBAR(バ)ナナ』、『みんなの🍊みかん』とズッコケ系シュールなのが目を惹く。

『なんちゃって…』は、やはりナナさんという人がやってるのだろうか❓男性か女性かは微妙なところだな。ななオジサンだったらヤだな。

『みんなの🍊ミカン』って、どういう発想からのネーミングなんだろう❓
アタシのノーマルな脳ミソでは、まるで見当がつかない。必死で考えたら、物凄いゲスでエロ的想像しか浮かばなかった。

イエロー
大胆にも店名のみである。潔いとも言えるが、スナックとかラウンジとか何も書かれていないから飛び込み客には相当勇気がいるだろう。扉を開けたら、全身真っ黄色で、グラサンかけたバナナ男が立っているやもしれぬ。
(-_-;)うーむ。『なんちゃってBARナナ』の姉妹店かもしれぬな。

『韓流居酒屋 味彩』。
この味彩という店名の食堂やレストラン等の飲食店は、おそらく日本全国に5万とあるに違いない。

 

 
『サテンドール』に目がいって、すわっ!これこそ風俗店かと思いきや、スナックであった。
Dollには、人形と云う意味の他にも少し頭の弱い女性という意味もあるようだ。そこにサテンが加わると、売春婦の隠語となる。だから風俗店にはこの名前が多いのだ。
喫茶店名にもこの名が多いのは、サテンと茶店を掛けているからだとも言われている。正直、脱力エピソードだ。

でも冷静に考えれば、JAZZの巨匠 デューク・エリントンの有名なスタンダード・ナンバーの曲名からだと思われる。
因みに、その歌詞に登場する女性は娼婦ではなく、沢山の男たちに言い寄り捲くられている小悪魔的な女性で、なかなか口説き落とせない「高嶺の花」的存在として表現されている。

その下は渋い字体で『武蔵野』とある。
何かエロい字体だ。たぶん大岡昇平の小説『武蔵野夫人』と同じ題名の熟女モノのポルノ映画かエロビデオ(DVD)があって、こんな字体だったような気がする。それらと『エマニュエル夫人』とか『チャタレイ夫人の恋人』とか夫人系官能小説的なものが、頭の中でゴッチャになっているのだろう。
それはさておき、何で北陸なのに関東平野の武蔵野なのだ❓

一番上の『スナック Enchante』の「Enchante(アンシャンテ)」は、多分フランス語の挨拶だろう。「はじめまして」と云う意味だ。
だが、最初に店名を見た時は英語の「Enchant」に見えた。こちらは「魅了する、酔わせる、ウットリさせる、化かす」とかそんな感じの意味あいだからだ。それって怖いけど、エスプリが効いてて洒落てるなと感心した。けれど、スナック界にはそんな洒脱なネーミングなど滅多に有りはしないのである。
スナックの名前といえば、だいたいはダサ系で、だいたいこんなとこなのである👇

 

 
レジャーセンターかあ…。今の時代には、逆にインパクトあるわ。
どうあれ、この寂れた感、スゴイな。昭和の残骸だ。
向かって右上から『韓国居酒屋 麦畑』『スナック ゆめ』『snack Ka-Rin』左上は『スナック ゆみ』『すなっく 春』。

真ん中で『スナック ゆめ』『すなっく 春』『snack Ka-Rin』が合体しているのが意味不明だ。昭和とは、ワケワカンナイことしてる人だらけの時代なのである。

それにしても、あまりにも昭和的安易なネーミングの数々だ。この地帯は時間軸が歪んでて、昭和の時代と通底しているのかもしれない。
そういえば、この街に入ってから殆んど人の姿を見ていない。閑散としているのだ。まるで、間違って昭和の時代にタイムスリップしたかのような錯覚に陥る。

 

 
『一本松』かあ…。
何がどうなれば、この名前を付けようと云う発想になるのだろう?これも全然、ワカラン。これら首を傾げるような名前をつけた人たちって、きっと愛すべき人たちなんだろな。話してみたら、オモロイおばちゃんとかオッチャンなんだと思う。
それはそうと、このビル、廃墟寸前って感じだな。昭和的なものは消えつつある運命なのだろう。

 

 
『Blue Lotus ブルーロータス』。
直訳すれば、ロータスは「蓮」もしくは「睡蓮」と云う意味になる。ようは青い蓮、もしくは青い睡蓮だね。好きなネーミングだ。
但し、語源はギリシア神話の「ロトス」と言われ、その果実を食べると楽しくて忘我の境地に陥り、故郷に帰ることも忘れるとされている。もしコレを知っていて名付けたのなら、その名付け親は学のある人だと云うことになる。だったら、お見事でやんす。

或いは、印象派の巨匠クロード・モネの絵『青い睡蓮』から名付けたとも考えられるな。どちらにせよ、相当に学のあるお方と察する。
でも世の中には青い蓮なんて存在しないんだよね。
だから、逆にいいのか…。その方がミステリアスだもんね。幻の青い睡蓮というのは、人を忘我の境地にさせるに充分な魔力があるに違いないからね。
補足すると、モネの時代に青い睡蓮は無く、どうしてモネがそんな色の睡蓮を描いたかと云うと、色覚異常だったという説が有力視されているようだ。白内障だったっけかなあ。

キレイに纏まったので御機嫌気分だったが、一応ホントに青い睡蓮が無いのか調べてみた。したら、(@_@)ゲロゲロー、有るやんか‼️

 

(出典『PAKUTASO』)

 

(出典『メモリアルフラワーショップ』)

 
青い蓮の花もあった。

 


(出典『みんなの趣味の園芸』)

 
どちらも美しいが、蓮の花の方が、よりゴージャスである。
これはいつか自分の眼で生で見てみたいな。

『スナック ミロ』。
まさか健康ドリンクの「ミロ」のワケないだろう。たぶんミロのヴィーナスとかのミロだろう。ミロじたいは女神を意味する言葉ではなく、古代ギリシア時代のミロス島を指す。健康飲料のミロもたぶん語源は同じかと思われる。とはいえ、おそらくは美神とか女神って意味あいを込めてのネーミングだろうね。

待てよ。ミロという有名なスペイン画家もいたな。
って云うか、シュールレアリスムの巨匠だよね。そうなると、このミロは画家のミロ由来で、この2店舗は姉妹店の可能性が出てくるな。ブルーロータスがモネ由来ならば、絵画繋がりと云うのは充分有り得る。

はたと思ったんだけど、店の名前って、皆さんどういう意識でネーミングしているのだろう❓
店の名前は大事だ。下手すれば、店が流行るか流行らないかの重要なファクターを担っているからだ。
でもカッコイイとかお洒落だとか良い名前をつけたからといって流行るかというと、決してそんなワケではないから難しい。店の雰囲気や場所、その他もろもろの要因も関係するからだ。名前と店そのものにギャップが有り過ぎるとダメだし、変に凝り過ぎてるのもダメなのだ。名前には、それぞれの身の丈と云うものがあるのである。
ようは、その店に合っているか合ってないかなんだけど、たぶんそれは客が決める事なのかもしれない。

一番下は看板が破壊されている。その後ろには、ひしゃげたビニール傘が転がっている。建物にも、そこはかとない荒廃感が漂っており、どんどん寂れた感が色濃くなっていってるような気がする。

その隣は外壁に看板があり、ラーメン屋のようだ。

 

 
しかし覗いて見ると、ラーメン屋は黒い看板を残して廃墟と化していた。
昭和の死だ。
今や平成を通り越して、令和の時代。日本の各地で、ありとあらゆる昭和的なものが、今のこの瞬間にも音も無く静かに朽ちていっているのだろう。目に見えるものも見えないものも、刻(とき)の流れが全てを風化させるのだ。

 
変テコな名前を探してたら、いつの間にか結構な時間が経ってしまっていた。
さあ、そろそろ目的の場所へ行こう。唖黙ったような夕暮れの街を早足で引き返した。
 

                        つづく

 
追伸
随分と敦賀の各店舗の名前をスナックを中心にディスりまくったけど、ごめんなさい。怒らんといてください。
決して悪意をもって書いたものではなくて、昭和の時代へのオマージュとして御理解戴きたい。

自分がスナックに行っていた時代は主に高校生の頃だった。バイト先の先輩によく連れて行って貰ったのだ。大人の世界に初めて足を踏み入れたって感じで、その時のワクワク感は今でもよく憶えている。あの時、確実に大人の階段を一段昇ったのだ。
大学生になるとディスコに行く機会が圧倒的に増えたが、それでも周りにスナック好きもいたので、たまには行っていた。元来、好きな環境なのだろう。今思うと、ディスコよりもスナックの方が本当は好きだったような気がする。若者が古いものを否定したがるのは一種の病気で、麻疹(はしか)みたいな一過性のものなのだろう。単純な好き嫌いではないのだ。
正直なところ、最近またスナックに行きたいと云う気持ちになってきている。一周回って再ブームの兆し有りなのだ。それが深層心理にあるから、無意識だが今回スナック街をうろうろしたのではないだろうか。
来年、敦賀に行ったら、何処かのスナックに入ろうと思う。
皆さん、それまでコロナウイルスに耐えて生き残ってもらいたいと切に願います。どうか踏ん張って下さい。

このシリーズ、ソリッドに全体で4、5回で終えるつもりが、第一章だけで4話も費やしてしまった。
でも、次回もまだ第一章なのである。我ながら、何の構想もなく気分で書き出してるなあ…。この先を書くのが辛いよ。

 
(註1)ギフチョウ


(2020.4.3 福井県南条郡南越前町今庄)

 
「春の女神」とも呼ばれ、年一回春先にのみ現れる蝶の一種。
因みに、上がオスで下がメスです。

 
(註2)涼宮ハルヒ
原作 谷川流のノベライズ&アニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』のヒロイン。


(出典『Tsundra.com』)


(出典『テラフォーマー』)

 
アニメは放火されて多数の死傷者が出た京都のアニメ会社で作られたものだ。合掌。

 

青春18切符oneday-trip春 第一章(1)

 
第1話 ノスタルジック・トレイン

 
一回くらいはギフチョウ(註1)を採りに行こうと、金券ショップで青春18切符を探した。
しかし、コロナウィルス騒動の影響か何処も5回分や4回分のチケットばかりだった。それくらいチケットが動いていないのだろう。
6軒目にダメ元で1回分のものはないかと尋ねてみたら、4回分のものを2回分の料金で売ってもいいと持ちかけられた。売れてないから、店としては少しでも金を回収しようと云う苦渋の判断をしたってワケだ。正直、たとえお得でも4回分も要らないと思った。けれど、ふと思い直した。昔の彼女にタダでいいから行こうと誘えばいいじゃないか。最近、無理な頼み事をした事だし、少しは恩返しできるかもしれない。そう考えて買うことにした。値段は5千円くらいだった。

 
2020年 4月3日

早朝、午前5時48分。JR難波駅を出発。
新今宮で環状線に乗り換え、大阪駅へ。
満開の桜が、白み始めた朝の光に仄かに浮かび上がっている。

6時18分発の米原ゆき新快速に乗り換える。
生駒山から朝日が登ってきた。そういえば、こんな時間に女性を生駒方面に車で送ったことがあったな。あの時と同じような日の出だ。
先物取引の会社に勤めていて、とても足が綺麗な女性だった。顔は加藤登紀子だったけど…。

沿線は至る所で桜が満開になっていた。
この時期、満開の桜を見ると必ず「桜の樹の下には屍体が埋まっている。」という梶井基次郎の短編小説の一節を思い出す。
あんなに美しいのは死体を養分としているに違いない。それが人を不安にさせると云うお話だ。
たしかに桜の美しさには、どこか狂気じみた匂いを感じる。狂ったように咲く様は時に凄惨であり、凶々(まがまが)しさと通底しているような気がする。満開の桜には人を惑わせ、狂わせるものがあるのかもしれない。
そういえば満開の桜の下、好きになってはいけない人に告白したことがあったな…。

米原で、敦賀ゆきに乗り換える。
電車は、やがて長浜駅に近づいてゆく。長浜には何度か女性とデートに来たことがある。長浜城に行ったこと、黒壁スクエアでガラス食器作りを体験したこと、有名な親子丼を食ったことが思い返される。その彼女たちも、今では結婚したり、子供を産んでいたりしているのだろう。心に軽い後悔と痛みが走る。

木ノ本駅。ここには古戦場として有名な賤ヶ岳の麓に宿があり、当時の彼女と泊まったことがある。五右衛門風呂で有名な宿で、観音開きのドアのクラシック・カーで送迎してくれたっけ…。新米が美味かったから、たぶん秋だったのだろう。そうだ、宿の前には秋の稲穂がどこまでも続いていて、緩やかな風に揺れていた。

8時40分に敦賀に到着。
しかし、やっちまった。ろくに時刻表を見ずに来たものだから、スタック。福井方面への乗り継ぎ電車まで、あと1時間もある。ギフチョウが飛び始めるのは9時くらいだから、致命的なミスである。1時間以上は出遅れることになる。
まあ悔いたところで、どうにかなるワケでもない。それに、どうしてもギフチョウを採りたいという気分でもない。福井県のギフチョウは何回も採っているのだ。杣山型も特に採りたいとは思っていない。

時間つぶしに駅の外に出る。青春18切符の良いところは、乗り降りが自由な事だ。ただ、ぼおーっと駅で待つのは退屈なだけでなく、間抜けな感じがして耐えられないところがあるから助かる。

先ずは観光案内所に寄って地図を貰い、色々と訊く。
帰りにまた敦賀で降車せねばならない。重要なミッションがあるからだ。

 

 
有名な気比神宮以外にも赤レンガ倉庫とかもあって、結構見所がある。

駅前に大魔神みたいな銅像が建っていた。

 

 
すわっ!大魔神かと心踊ったが、顔があんなに憤怒の形相ではない。だいち片手を上げていて、何だかフランクだ。

 

(出典『紀行歴史遊学』)

 
退屈だし、調べてみることにする。

この銅像は、都怒我阿羅斯等(つぬがあらしと)という朝鮮の人らしい。日本書記には、崇神天皇の時代に角の生えた人物が船で此の地を訪れたと書かれており、その彼が渡来した場所ということで、角鹿(つのが)となり、やがて敦賀(つるが)となったという由来説があるそうだ。

少し歩いてみたが、まだ店は殆んど閉まっていたので、駅の待合室に引き返す。
テレビでは、朝からコロナ関係のニュースで溢れている。この時期に、こんな事してていいのかとも思うが、来てしまったものは仕方がない。今さら帰ったところで、何がどうなると云うワケではないだろう。

午前9時53分。
福井ゆき普通電車に乗る。

南今庄を過ぎ長いトンネルに入った。
突然、想念が過去へと向かって走り出す。
学生の頃、当時の彼女が福井県鯖江に帰省する時に、このトンネル(註2)が怖いとよく言ってた。トンネルを抜けるまでは、毎回とても不安で堪らなくなり、祈るような気持ちになるとも言ってた。実際、過去には大きな事故もあったとも言ってた。
その時の彼女の姿が紗が掛かったように朧気に浮かび、その声や口振りが聞こえたような気がした。

真冬に彼女の実家に行くときに初めてこのトンネルを通ったが、確かに彼女の言う通りだった。人を不安にするに充分な長さだった。10分くらいはトンネルの中を走り続けていた。
そしてトンネルを抜けると、目の前がパッと開け、光を照り返す眩ゆい雪景色が広がった。その時、違う国へと来たんだと実感したんだっけ…。
その後、何度かこのトンネルを通っているが、やはり落ち着かない気持ちに襲われた。トンネルも又、人を不安にさせる。

 

 
午前10時過ぎ、目的地の今庄駅に着いた。
さあ、ノスタルジーとはおさらばして、気持ちを切り替えよう。虫捕りにノスタルジーは必要ない。

                         つづく

 

(註1)ギフチョウ

 
春にのみ現れるアゲハチョウの仲間。
「春の女神」とも呼ばれ、蝶愛好家の間では人気が高い。

 
(註2)このトンネル

北陸トンネルの事。福井県の敦賀市と南条郡南越前町に跨がる複線鉄道トンネル。北陸本線の敦賀〜南今庄駅間に位置し、木ノ芽峠の直下にある。総延長は13,870mもあり、1962年6月10日に開通した。
1972年(昭和47年)に山陽新幹線の六甲トンネルが完成するまでは日本最長のトンネルであった。なお、狭軌の陸上鉄道トンネルとしては2020年時点の今でも日本最長である。

1972年11月6日、北陸トンネルを通過中の急行「きたぐに」の食堂車で火災が発生し、30名の死者、729人もの負傷者を出した。この事故をきっかけに長大トンネル区間を想定した列車の空調、電源設備の安全性改善が進んだと言われている。
また、この事故の前の1969年12月にも北陸トンネルを通過中の寝台特急「日本海」の電源車から出火する事故があったが、運転士の判断で列車をトンネルから脱出させて消火したため死者は出なかった。(Wikipediaの記事からの編集)