2021’カトカラ4年生 其の壱

 
vol.28 ヤクシマヒメキシタバ

   『陰翳礼讃』第一話

 超久し振りのカトカラシリーズである。
下手すりゃ二年半振りくらいの更新やもしれぬ。どんだけサボってんねんである。頓挫していた理由は色々あるのだが、そんな事をつらつらと書いたところで読者にはツマラナイと思われるので書かない。勿論、書けと言われれば幾らでも書けるが、第一章がワタクシの言いワケだけで終わっても知らんでぇ(ー_ー)。んなもん誰も望まんでしょうよ❓

 それはさておき、書くにはのっけから問題山積である。
先ずタイトルからして問題ありきだ。ヤクシマヒメキシタバを最初に採りに行ったのは2020年だから、タイトルは『2020’ カトカラ3年生』とすべきではないかと云うツッコミが入りかねない。まあ、それは甘んじて受けるとしても、読む側にとっては時系列を把握しにくい面がある。その年(2020年)に書いておけば良かったのだが、サボったせいで時系列の整合性がとれるどうか自信ないよ。まだしも2021年に書いておけば何とかなったのになあ…。でも今はもう2023年なんであ〜る、ψ(`∇´)ψケケケケ…。オデ、オデ、頭パー。早くも追い詰められてプレッシャーかかってのヤケクソ笑いじゃよ。
それに当時から既に2年と9ヶ月もの月日が経っているのだ。記憶も薄いヴェールが掛かったかのように曖昧模糊となりつつある。そして当然ながら、ちゃらんぽらん男にメモをとる習慣などなーい。🎵記憶たどれなーい。
そう云うワケだから、勝手な思い込みの、事実とは乖離した間違いだらけの文章になりかねないし、時系列もメチャメチャになるかも…。記憶が欠落してるがゆえに、書くことが無くて文章がスカスカになる可能性だって否めない。「たぶん」とか「おそらく」とか「かもしれない」等々のファジーな文言だらけにもなるやもしれぬ。そして何よりも長い間まともな文章を書いてないんで、クソおもろない駄文になる確率高しでしょう。
皆様方はそれを踏まえた上で読まれたし。期待してはならんのだ。そこんとこヨロシク〜(^o^)v

 
2020年 7月2日

 車中から外に目をやる。こんもりとした照葉樹林の明るい黄緑色が目に眩しい。ようやく森の仙人が棲む領域に入ってきたのだと実感する。

奇しくも、この日はオイラの誕生日だった。
正直、やっぱオラって持ってる男だよなーと思ったね。もしかして神様の計らいで、この日に導いてくれたんじゃないか。だとしたら、もう神様からのプレゼントを貰ったも同然じゃないか。しかもヤクシマヒメキシタバ(以下ヤクヒメ)は深山幽谷に棲む珍種とはいえ、ポイントに行けさえすれば絶対に採れるみたいな話も聞いていたからスーパー楽勝気分だった。そういや道すがら、余裕の心持ちで「おー、ここが高校野球の名門、智弁和歌山高校かあー」とか言ってた憶えがあるもんなあ。

【ヤクシマヒメキシタバ】

(出典『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)


(出典『世界のカトカラ』)

 申し訳ないが、下翅が黄色や赤、オレンジ、ピンク、紫色など色鮮やかに彩られるものが多いカトカラグループの中においては、最も小汚い種だ。そう言わざるおえないような地味な見てくれのカトカラなのである。
オマケにチビッ子ときてる。国内では最小クラスの小人カトカラでもあるのだ。チビでブス。純粋に見たら魅力的ではない(あっ、チビとかブスとかってコンプライアンス的に言っちゃマズかったかしら❓)。
されど、屋久島、九州南部、対馬、四国、紀伊半島南部等に局所的に棲む種ゆえに、簡単には会えない珍種とされている。また、標高は高くはないものの、深山幽谷の様相を呈するような環境、いわゆる原生林、もしくはそれに準ずるような自然度の高い照葉樹林でしか見られないことから、愛好家の間では憧れられていたりもする。どこか神秘的なものを感じるのだろう。その深山幽谷のイメージとリンクして、お爺ちゃんみたいな見てくれでさえも、視点を変えれば”仙人”の風情を湛えているように見えなくもない。そうゆう目で改めて見ると、落ち着いた渋い魅力があるような気もする。ゆえに高貴で格調高いと評する人もいるのだろう。
とはいえ、オラはそもそもが美人好きであり、美食を好み、美しい絵画、美しい風景etc…、世のあらゆる正統派の美をこよなく愛する男なのだ。当然、蝶や蛾も美しい者に強く惹かれる。つまり、パッパラパーのミーハー男なのさ。だから今までヤクヒメにはあまり食指が動かなかった。
それに関西からでも紀伊半島南部の山奥は直線距離以上に遠いんである。山深いから、所要時間的には飛行機で北海道や沖縄に行くのと変わらんのだ。場所によったら、下手すればもっと時間がかかる。謂わば陸の孤島なのだ。ゆえに腰も重くもなる。
加えて、ヤクヒメは灯火採集でないと殆んど得られないと言われている。だからワシのようなライトトラップの道具を持ちあわせておらず、糖蜜トラップのみに頼るような採集では極めて分が悪い。惨敗濃厚だ。なのに小汚いブス蛾に誰が会いに行けるかっつーのである。ブスに会いに行って告白して、挙げ句の果てにはフラれるなんざ目も当てられない。ワシの人生経験には、んなもん皆無なのだ。つまりワシ的辞書には無いって事。なので後回し。そのうち行く機会もあるだろう程度に思っていた。

 そんな折り、カトカラ採集の盟友である小太郎くんからヤクヒメ採集のお声が掛かった。遂に灯火採集のセットを購入したらしい。因みに、この年はコロナウイルスが日本中を恐怖に陥れた最初の年だった。で、全国民に等しく給付金10万円が配られた。彼は、そのあぶく銭(笑)をドーンと注ぎ込んだというワケだね。嫌味ではなく、もうコロナ様々である。この年は、後々その小太郎くんのライトトラップのお陰で、アズミキシタバ、ヒメシロシタバ、ナマリキシタバ、ヨシノキシタバと、未採集のカトカラを次々と撃破できたからね(これらの採集記は既に書いてあるので、興味のある方は遡って読まれたし)。

 採集ポイントは、最初はヤクヒメが最も得られている和歌山県田辺市の大塔渓谷にターゲットを絞っていた。単純に個体数が多ければ多いほど採れる確率が高まると考えたからだ。知り合いの爺さんも、大塔に行けば楽勝で採れると言ってたしさ。
しかし、数日前に谷が土砂崩れで通行不能になっていると云う情報が入り断念。なので1から計画を練り直さざるおえなくなった。そこで新たに候補に挙がったのが、三重県熊野市紀和町の布引の滝と三重県北牟婁郡紀北町(旧海山町)の千尋峠、奈良県上北山村の貯水池だった。
で、小太郎くんとディスカッションして最終的に選んだのが布引の滝。アクセスの良さとかもあるのだが、決め手は西尾規孝氏の名著『日本のCatocala』に載っている写真だった。


(出典『日本のCatocala』)

背後の森の感じとか環境が良さげなのは勿論だが、一番の理由は橋が架かっている事である。この手の橋があると云う事は、地面がほぼ平らであることを示している。つまり、ライトトラップが設置しやすくて安全度が高い。傾斜がある所だと安定感を欠くのだ。となれば強い風が吹けば倒れかねない。もしも小太郎くんのライトトラップのデビューの日に、三脚がコケて高価な水銀灯が割れでもしたら最悪である。小太郎くん本人の落ち込みは当然激しいだろうし、ワシの申し訳ないという気持ちもマックスになる事は想像に難くない。それだけは何としてでも避けたかったのだ。縁起が悪いからと、コンビを解消されたら悲しすぎる。
他にも理由はある。実を言うと、以前この場所には一度だけ来たことがある。Mr紀伊半島。紀伊半島の蝶に造詣が深く、ワシの兄貴分でもある河辺さんに珍蝶ルーミスシジミの採集に連れて来てもらったことがあるのだ。

【ルーミスシジミ】

(2017.6月 三重県熊野市紀和町)

ルーミスといえば、空中湿度の高い場所に棲息する蝶だ。そして、ヤクヒメも雨が多くて湿度が高い雲霧林的な環境を好むと言われている。ならば、採れる確率は高い。更に言えば、橋は駐車場に隣接しているから利便性も良い。荷物運びが楽だかんね。水銀灯用の安定器や発電機はバリ重いのだ。勿論、近いと時間の節約になるのは言うまでもない。設置や撤収に無駄な時間を要しないということだ。つまり、布引の滝は申し分ないくらいの好条件が揃っている地なのだ。

 まだ空が明るい夕方近くにポイントに到着した。
ここは紀和町の中央に位置し、一族山(標高801m)の南側の登山口にもなっており、楊枝川の上流部に辺る。そして、少し下った所には高さ29mの「布引の滝」がある。三段からなる優雅で気品ある美しい滝で、日本の滝百選にも選ばれている。

【布引の滝】

(出典『滝ガール』)

調べてみると、この周辺は自然度の高い天然林と原生林が広がっており、1991年6月には「紀和町切らずの森」と名付けられて、20.1haにわたる面積が保護される事になったようだ。
生物相も豊かで、キツネ、タヌキ、シカ、ノウサギ、ニホンザル、イノシシ等の哺乳類が多く生息し、稀少種であるワカヤマヤチネズミもこの周辺では数多くみられるという。鳥類も多く、猛禽類のハチクマ、サシバをはじめ、アオゲラ、コゲラ、ルリビタキ、キビタキ、アカハラ、ミソサザイ、オオルリ、キバシリ等々が確認されているそうな。そして沢沿いや渓流には、アマゴやオオダイガハラサンショウウオも棲むという。
昆虫は蝶で言えば、ルーミスの他には、同じく珍品とされるヒサマツミドリシジミや美麗なるキリシマミドリシジミ、メスアカミドリシジミなど「森の宝石」とも称されるゼフィルス(ミドリシジミの仲間)も豊富にいると書いてあった。まあコレは蝶屋なんだから、さすがに知ってたけどさ。

【ヒサマツミドリシジミ】

(2014.6月 京都市左京区杉峠)

あと、特筆すべき記述も見つけた。何と此処は幻のヘビ、あの「ツチノコ」の伝説が残る里でもあるらしい。
バチヘビじゃ、バチヘビ〜❗テンション、バキ上がるわ〜🤩
あっ、バチヘビとはツチノコの別名ね。ちなみにツチノコ(槌の子)とは、日本に生息すると言い伝えられる未確認動物(UMA)の1つで、形が横槌に似ていて、胴が太くて短い蛇の事やね。北海道と南西諸島を除く日本全国で目撃例があるという。ワシも、小学生の頃に九頭竜で見たでぇー。あっという間に石の隙間に潜り込みよったけど、アレは絶対にツチノコだったわさ。

【ツチノコ】

(出典『海洋堂』)

そういや昔、ツチノコブームってのがあって、スゲー額の懸賞金がかかってたよなー。あの頃は他にも中国山地の類人猿ヒバゴンとか、屈斜路湖の首長竜クッシーとかも話題になってたなあ…。なので子供心にも、日本ってどんだけ謎の怪物がおるねんと思ったものだ。昭和の時代って、夢のある幸せな時代だったんだね。
嗚呼、ツチノコ見てぇー🤩❗お~し、ツチノコもヤクヒメも一網打尽じゃあ〜。

おっと、肝心の植物のことを書き忘れてたよ。
滝周辺は、アラカシ、アカガシをはじめとするカシ類を中心に、シイノキ、ヤブツバキ、クスノキ、トチノキ、各種カエデ類などの落葉樹が混生する天然林となっているそうだ。原生林じゃないのは気になるが、まあ大丈夫っしょ。

 天気は上々。有り難いことに望んだような極上の曇り空だ。雲が厚めだから、これだと月が顔を出すことは無いだろう。ヤクヒメは曇りか雨の日にしか飛んで来ないとされている。月夜には姿を現さないのだ。そして、雨を降らせるような雲も見当たらない。雨に濡れるのは嫌だし、かといって晴れられると困る。そう云う意味では、ワシ的にはまるで誕生日を祝うかのような絶好の天気なのだ。

 小太郎くんは橋の中央部に、ワシは何ちゃってライトトラップを駐車場に設置。日没後に同時点灯した。

【小太郎くんのライト】

尚、上の画像は大幅にトリミングしていて、小太郎くんの屋台(ライトトラップの事)は除外してある。初期の屋台組みなのでプロフェッショナルな人から見ればダサいからとの理由で、本体は載せないでくれと言われたのだ。小太郎くん、バラしてゴメンね、ゴメンねー。
さておき、緑色に映ってるから、メチャメチャ紫外線が出とる証拠やねぇー。水銀灯は肉眼では普通の色の灯りに見えるが、スマホで写すと緑色に映る。なので外灯回りで虫採りする場合には、とても役に立つのだ。一見、水銀灯に見えても、殆んど紫外線が出ていない外灯もあったりするのである。もっとも最近では水銀灯は絶滅しつつあり、世はLEDライトだらけになってしまったから、あんま意味ないんだけどね。ようは普通のLEDライトは紫外線がカットされていて、虫が誘引されないってことね。

 駐車場の脇に鳥居があり、その奥の環境が良さげなので、一応ワシのスペシャル糖蜜を木に撒いておいた。ヤクヒメは糖蜜トラップには来ないと言われ、吸汁したという記録がないのは知っている。けれども、まあまあ天才のワシの作ったスペシャルレシピである。悪いが、大どんでん返しさせてもらうえー。

暫くして様子を見に行ったら、早速ウスイロキシタバが来ていた。しかも2頭も。流石、ワシのスペシャル糖蜜じゃよ。ここまで良い流れできてるし、この調子だとヤクヒメも楽勝で採れんじゃないのー😙

【ウスイロキシタバ Catocala intacta】


(2020.6月 兵庫県西宮市)

まだウスイロを一度も採ったことのない小太郎くんを呼びに行き、無事ゲットしてもらう。
しかし、如何せん鮮度が悪い。羽も一部が欠けている。となると、ヤクヒメの鮮度も気になるところだ。完品が採れることを祈ろう。

 時間が経つに連れ、小太郎くんのライトトラップは虫だらけの阿鼻叫喚状態と化す。けれど、圧倒的に多いのはカワゲラやトビケラなどの気持ちの悪い羽虫どもだ。中でも巨大なヘビトンボどもは邪悪な成りで超絶気持ち悪い。

【ヘビトンボ】

(出典『Wikipedia』)

 コヤツは昔から敵視してきた。生態はロクに知らんが、見てくれからして絶対邪悪な奴に決まってるからだ。(⁠⁠´⁠ω⁠`⁠⁠)デヘデヘ、お嬢ちゃん、ちぃとばかし股開きんしゃい。きっと、か弱き者たちに不埒な悪戯(いたずら)をしているに違いない。
しっかし、シクったなあ…。体中、羽虫にタカられるとは想定外だったわい。でも普通に考えれば、川のそばなんだから当たり前なんだよなー。奴らの生活圏の真っ只中なんだからさ。

虫は羽虫ども以外にもコガネムシなどの甲虫や各種の蛾が大量に飛んで来るのだが、カトカラは普通種のキシタバ(Catocala patala)しかやって来ない。当然、フル無視である。

【キシタバ】

 コヤツは市街地近くから標高2000m近くの深山に至るまで、ホント何処でも見掛ける普通種だ。灯火にも樹液にも一番集まるから節操がない感じがするし、オマケに図体がデカくてデブだから邪魔で💢マジむかつく。時に他の良いカトカラをパワーで追い散らかしたりもするので憤りの対象になるのだ。
とはいえ、外国、特にヨーロッパ圏では人気が高いらしいんだよね。確かに大きくてゴツいから、見方によっては重厚感や風格があるようにも見える。たとえ我々にとってはド普通種ゆえに評価が低くとも、そんなのヨーロッパの人々にとっては当て嵌まらないのだ。だってヨーロッパには生息していないんだからね。
所変われば品変わるというが、場所により評価も変わる。そんなものは容易に変容するものなのだ。そういや北海道では南部の一部にしか分布していないから珍しいのだ。だから北海道の虫屋の間では「おー、キシタバやんけー❗カッケー🤩」的扱いになってるやもしれん。
色眼鏡や珍稀度に惑わされずに、純粋な姿、形のみで評価ができる人間になりたいけど、ワシって人間できてないもんなあ…。

【ワシの何ちゃってライト】

 この日がデビュー2戦目の5w UV LEDライトである。
小太郎くんがライトトラップを買ったのに刺激されて、ワシも買ってもうた。とはいえ威力は遥かに及ばない。でも車では入れない場所でも灯りを焚けるような機動力の有る携帯タイプの方が、自分には合ってると思ったのさ。
本体重量は超軽量の130g。モバイルバッテリーが200gだから、合わせてもたったの330gしかない。それでいて一応、謳い文句には40wのブラックライト蛍光灯と同程度の威力があると書いてあった。
まあ、それくらいの効力はあるかもしれない。ちなみに、この日はコチラにはウスイロキシタバも飛んで来た。にしても、矢張りこっちにもヤクヒメは飛んで来ない。
不安がよぎる。でもヤクヒメは雨の日じゃないかぎりは遅い時間帯にしか飛んで来ないという説もあるようだし、気長に待とう。

 とはいえ退屈なので、橋を渡った向こう側にも糖蜜を撒きに行く事にする。鳥居周辺は疎林だからヤクヒメはいなくて、もっと深い森に居るんじゃないかと思ったのだ。小太郎くんも誘うが、リー即で却下された。冷たいよねー。
まあ、いつ突風が吹いてライトが倒れるやもしれぬから、離れられないってのもあるんだろうけどね。

一人、橋を渡り、暗黒世界に足を踏み入れる。直ぐにライトトラップの光は届かなくなり、真っ暗闇になる。
背中に緊張感がサッと広がる。メチャメチャ不気味なのだ。そもそもルーミスの生息地は気持ちの悪い場所が多い。そういや大塔渓谷にルーミスを採りに行った際には、プーさんが子供の声が聞こえたと騒いでたな。で、声がした方に行ってみたら、子供用の靴が片方だけ落ちてたらしい。けれど子供の姿なんて影も形もなかったという。あんな奥まった不気味な谷に、子供が一人ぼっちでいるワケがない。非現実的だ。或いは、その場に埋められてたりなんかしたりして…。で、その霊が呼んでたとか…。余談だが、その何日か前にはルーミス採集に来ていた人が、このすぐ近くの滝の横崖から墜落して死んだらしい…。
そんな事を思い出しながら歩く。良くない兆候だ。だが思念を止めたくとも止めれない。他にもアレやコレや想像してしまう。そして、とてもじゃないが此処には書けないような恐ろしい事まで想像して、ビクッ⁠( ꒪⌓꒪)❗悪寒が走る。ヤバい。我ながら相当ビビっている。元来、オラは超がつくウルトラ怖がり屋なのだ。チビりそうだ。懸命に意識を滅却させる。考えてはならない。考えれば考えるほど恐怖は膨張するのだ。
だが、空気がジメジメしていて重く澱んでいるし、足元には水が流れていてビチャビチャで気持ちが悪い。そして…、静か過ぎる。自分の歩く足音だけが奇妙に反響し、強調される。心頭なんて滅却できるワケがない。😱怖ぇー。
早く戻りたい一心で、あたふたと霧吹で糖蜜を木に吹き付け、慌てて引き返す。

橋まであと少しというところで、目の前の闇から突然光がぼわ〜っと浮き上がり、すう〜っと横切って消えた。足がピタリと止まる。😨すわっ❗鬼火🔥かぁ❗❓全身の血が逆流する。何じゃ❓何が起こっておるのだ❗❓必死で状況を把握しようと頭の中が高速で回転しているのが自分でもわかる。
暫くして、また光った。それを身じろぎもせずに凝視する。刹那、答えを求める脳ミソのシナプスが繋がる。この動きは何処かで見た事があるような気がする。
ホタル❓ でも見慣れたゲンジボタルやヘイケボタルよりも遥かに小さくて弱い光だ。色も少し違う気がするし、点滅の間隔も異なるように感じる。じゃあ、何❓
次の瞬間には無意識に体が勝手に動き、光を追い求めて夢遊病者の如くふらふらとついて行っていた。
そして、気がついたら両手で光を覆い包んでいた。
ゆっくりと掌を開く。と、そこには見たことのない小さな蛍が静かにゆっくりと明滅していた。もう恐怖は無かったが、幻想的で不思議な感覚だった。よく蛍の灯は死者の魂になぞらえるが、或いはそうなのかもしれない。そう思った。

橋まで戻って小太郎くんにそのホタルを見せると、即座に「これ、ヒメボタルですよ。」という答えが返ってきた。

【ヒメボタル】

(出典『東京にそだつホタル』)

ゲンジボタルやヘイケボタルのように幼虫時代を水中で過ごす水棲ホタルではなく、陸棲のホタルなんだそうだ。
欲しいって言うから進呈したけど、小太郎くんが欲しがるくらいだから、それなりに稀少なホタルなのだろう。

 午後11時を過ぎた。さあ、ここからが正念場だ。そろそろ飛んで来てもいい時刻だ。彼奴を見逃すまいと周囲にせわしなく目を配る。

でもヤクヒメは11時半になっても、いっこうに姿を現さない。
時間は刻一刻と削られてゆく。(⁠゜⁠o⁠゜⁠;マジかぁ❓楽勝じゃなかったんじゃないのー❓神様〜、アチキへの誕生日プレゼントはどうなっちゃってんのよー❓

小太郎くんと相談して、12時半に店じまいすると決める。
素早く後片付けして午前1時に此処を出られたとしても、それでも帰ったら明け方近くにはなっているだろう。もっと居たいのはやまやまだったが、妥当な判断だ。反対はできない。

午前0時。東側の空が少し明るくなってきた。まさかと思って見ていたら、やがて山の端から朧月(おぼろづき)が顔を覗かせ始めた。
小太郎くんが笑う。
「マジっすか❓ 五十嵐さん、どんだけ晴れ男なんすかあ。天気予報では曇り時々雨だったのにー。」
そうなのだ、彼の中ではオイラはスーパー晴れ男なのだ。彼の前だけに限ったことではないが、たとえ雨の予報でも「晴れるでー」とワシが宣言したら本当に晴れるのだ。だから周囲にはしばしば驚かれる。ゆえに小太郎くんには重宝されている面がある。蝶採りには晴れが絶対条件だかんね。だが今回に至っては、それが完全に裏目になった。せやけどワシ、今日は晴れさせるなんて一言も言ってないからね。
こりゃ終わったなと思いながらも、それでも一縷の望みをもって待つ。

0時半になった。しかし、ヤクヒメはついぞ飛んで来なかった。惨敗決定だ。呆然とした面持ちで後片付けを始める。
そんな中でも、頭の中ではずっと
(⁠・⁠o⁠・⁠)何で❓(⁠☉⁠。⁠☉⁠)⁠何で❓
(⁠@⁠⁠@⁠)何で❓ヽ⁠(⁠(⁠◎⁠д⁠◎⁠)⁠)⁠ゝ何で❓
щ⁠(⁠゜⁠ロ⁠゜⁠щ⁠)何で❓w⁠(⁠°⁠o⁠°⁠)⁠w何で❓
༼⁠⁰⁠o⁠⁰⁠;⁠༽何でぇー❓(⁠●⁠
⁠_⁠●⁠)何でやねーん❓

の、あらゆる何でやねん嵐が吹き荒れ続けていた。

                   つづく

追伸
 久々に虫の話を書いたが、大変じゃったよ。
文章の書き方を忘れてて、調子が出るまでだいぶ時間がかかったし、画像の貼付方法や字のフォントの大きさの変更等々とか技術的な事も忘れてて困った。それに、ロクに構成も考えずに行き当たりバッタリで書き進めていったから、筆が止まる事もしばしばだった。で、アレコレ文章をイジくってるうちに長くなったってワケ。予定では解説編を除く全2話に収めるつもりだったが、この調子だと少なくとも3話以上にはなりそうだ。
まあ、いつもの如く長丁場になるとは思うが、これからも気長に付き合ってつかあさい。

 
《参考文献》 
◆西尾規孝『日本のCatocala』
◆石塚勝己『世界のカトカラ』
◆岸田泰則編『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』
◆新宮市教育委員会 文化振興課『熊野学』
◆Wikipedia
 

2020’カトカラ3年生 其の壱

 

    vol.24 アズミキシタバ

   『白馬わちゃわちゃ狂騒曲』

 
 2019年 8月2日

一瞬、自分が何処にいるのか分からなくなる。
ひと呼吸あって、黄緑色のテントの天井に焦点が合う。寝起きの澱んだ脳ミソが、それでようやく自分の置かれている状況を認識した。そうだ、長い長い電車移動の果てに、この湖までやって来たんだったわさ。
マホロバキシタバ(註1)の分布調査が一段落したので信州遠征に出たのだ。また過酷な虫捕り旅が始まったってワケだ。
目的は会ったことのないカトカラ(シタバガ属)たちを採るためである。マホロバという国内新種を見つけたのにも拘らず、カトカラの採集を始めてまだ2年目のペーペー、採ったことのないカトカラがまだまだある。新種を見つけておいて、他のカトカラはあまり採った事が無いというのではカッコがつかない。だから10月の発表までに少しでも採集種類数を増やしておこうと思ったのだ。この時点では、マホロバを含めた全32種のうちの20種しか採れておらず、あと12種類も残っていたのである。

テントから出て歯を磨きに行くと、湖が見えた。

 

 
昨日は日没間近に着いたから気づかなかったけど、こんなにも碧くて綺麗な湖だったんだね。
同時に昨日の苦い記憶が甦ってくる。湖の周辺でミヤマキシタバ(註2)を狙うも擦(かす)りもせずの惨敗だったのだ。
こんだけロケーションが良いのなら、もう1日いてもいいかなと思った。昼間はじっくりミヤマの食樹であるハンノキを探しながら湖畔を散歩するのも悪かない。
しかし、昨日の貧果から多くは望めないと考え直した。もう1回アレを繰り返したら、ハラワタが煮えくり返ってホントに奴らに危害を加えかねない。
ちなみに奴らとは↙コイツの事である。

 
(フクラスズメ Arcte coerula)

(出典『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)

 
コヤツ、カトカラじゃないし、デブだし、醜くてマジキモい。
それに一瞬だけ佳蛾ムラサキシタバ(註3)に見えて、あらぬ期待を持ってしまうから💢イラッとくる。

 
(ムラサキシタバ Catocala fraxini ♂)

(2019.9月 長野県松本市)

 
オマケに普通種のクセして妙に敏感で、こっちはさらさら採る気もないのに大袈裟に逃げてゆくのも腹立たしい。何だかそれがバカにされてるようで(-_-メ)超絶ムカッとくるのだ。なので標本は一つもない。なので岸田先生の図鑑の画像をお借りしたのである。

とにかく、此処で目的のミヤマが採れる気がまるでしない。そうゆう時は自分の勘に素直に従うべきだ。今までだってそうだし、これからだってきっとそうだ。己の勘を信じよう。湖を後にして、白馬村へと向かう。

 

 
又してもキャンプ場なのさ。ボンビー旅行なのもあるが、宿に泊まれば自由が効かない。何てったって蛾採りは夜がメインなのだ。しかも深夜に及ぶことが多い。宿泊してると、おいそれと夜に出歩くワケにはいかぬのだ。要らぬ心配や迷惑をかけたくない。

取り敢えず、ここを拠点にして各所を回るつもりだ。
狙いはアズミキシタバ、ノコメキシタバ、ハイモンキシタバ、ヒメシロシタバ、ヨシノキシタバである。こんだけ居りゃあ、どれか1つくらいは採れんだろ。

温泉入ってテント張ったら、もう夕方になった。
蜩(ひぐらし)の悲しげな声が辺りに侘しく響く。その何とも言えない余韻のある声を聞いていると、何だかこっちまで物悲しくなってくる。夏もいつかは終わるのだと気づかされてしまうからだ。でも、そんな夏の夕暮れこそが夏そのものでもある。この気持ち、何となくノスタルジックで嫌いじゃない。

岩に腰掛けて、ぼおーっと蜩たちの合唱を聞いていたら、サカハチチョウがやって来た。

 

 

夕暮れが訪れるまでの暫しの時間、戯れる。
こちらにフレンドリーで穏やかな心さえあれば、案外逃げないものだ。慣れれば手乗り蝶も意外と簡単。心頭を滅却して無私になれない人はダメだけど。
たぶん20分以上は遊んでたんじゃないかな。お陰さんで心が癒やされたよ。ありがとね、サカハっちゃん。

この地での最初のターゲットは、アズミキシタバだ。
近くの崖にいると聞いている。だが、ぼんやりとした不安が心の隅に蹲(うずくま)っている。

 

 
何となく見覚えのある場所だと思ったら、西尾規孝さんの名著『日本のCatocala(註4)』に載っていた場所と同じだ。しかし様相は随分と変わっている。

 

(出典『日本のCatocala』からトリミング。)

 
たぶん2000年代前半以前に撮られた写真だろう。今と比べて広範囲に岩が露出しており、アズミの食樹であるイワシモツケには適した環境だ。しかし現在は周囲からミズナラなどの木が侵入してきていて、どう見ても環境は悪化している。とゆうことは確実にアズミの数は減っているという事だ。それに此処は標高が低いから発生期のピークは過ぎているものと思われる。果たして採れるんかね❓

とはいえ、悪い事ばかりじゃない。
崖の近くにはアズミが吸蜜に訪れるというヒヨドリバナとリョウブの花があった。

 
(ヒヨドリバナ)

 
(リョウブ)

 
樹液にはあまり来ないとも聞いていたから、これならたとえトラップがダメでも何とかなる可能性はある。実力はさしてないけど、引きだけは強いと言われるワタクシだ。何とかなるっしょ。

夕焼けにバイバイしてから崖下に行き、木に霧吹きで糖蜜を吹き付けてゆく。
アズミキシタバが糖蜜トラップで採れたという話は聞いた事がないが、カバフキシタバ(註5)だってタコ採りの我がスペシャルレシピだ。寄って来るじゃろう。ワシがアズミも糖蜜で採れるという事を証明してやろうではないか。ψ(`∇´)ψケケケケケ…。

幸先良く、直ぐにベニシタバ(註6)がやって来た。
٩(๑´3`๑)۶ほら、見さらせじゃ。

 

 
昨日も採れたけど、嬉しい。元来ベニシタバは💖好きだもんね。それに発生初期であろうこの時期のベニシタバは格別に美しいのだ。

しかし、さあこれからというと段になって、⚡ガラガラピッシャーン❗本気の雷雨がやって来て、チャンチャンで惨敗に終わる。
🎵ズタズタボロボロ、🎵ズタボロロ~。
そして、その後も此の地でことごとく敗退。新しきカトカラは何一つ採れず、泥沼無間地獄の3連敗となる。でもって、秋田さんや岸田先生に「マホロバの発見で、今年の運を全部使い果たしたんじゃないのー。」と揶揄される始末。

 
2020年には、前から買う買うと言っていた小太郎くんが遂にライトトラップのセットを購入した。
なので即座に尻尾を振りまくり、アズミ遠征の約束を取り付けた。去年の惨敗と、その後の調べでアズミはライトトラップ無しでは採るのが難しいと痛感したのだ。この際、形(なり)振りなんか構ってらんない。でも以後、小太郎くんには事あるごとに「アズミ、行くの止めよっかなあー。」などとイジメられ続けたよ。世の中、持つ者と持たざる者とでは、常に持たざる者は虐げられる運命なのだ(笑)。

問題は、お天気である。もし晴れならば、新月でもなければ効果はあまり期待できない。灯火採集に月夜はヨロシクないんである。夜間に活動する昆虫は月の光を頼りに行動していると言われている。だから曇っている方が条件的には良い。月の光に影響されないからだ。詳しい説明は長くなるので割愛するが、とにかく虫たちは月の光と間違えて人工光に吸い寄せられる。
かといって同じく月が隠れる雨もヨロシクない。雨でも蛾は平気で飛んで来るらしいのだが、雨で羽が濡れてボロ化しやすいからマズイんである。それに小太郎くん曰く、雨はライトトラップセットの故障の原因にもなりやすいそうだ。
あとは風が強くてもダメだし、気温が低過ぎるのもヨロシクないと言われている。灯火採集は案外と条件がシビアなのだ。その点、糖蜜採集は楽だ。強い雨や気温が低い以外は、あまり天候に影響されない。自分的には糖蜜トラップの方が性格的には合ってる。ライトトラップは荷物の量が多いし、用意と後片付けとか面倒くさいのだ。あとは待つのが大嫌いな性格とゆうのもある。糖蜜トラップも一見待ちの採集だが、ポイントを巡回するのでアクティブなのだ。網を使う機会も多いしね。動的な採集の方が自分には合ってる。だからライトトラップの時は、今一つ気合が入らない。とはいえ、今度ばかりは気合が入っている。アズミには、そこそこ憧れてるし、絶不調続きで今年はまだ未採集のカトカラを一つも採れてないんである。

 
 2020年 7月26日

天気予報は雨模様で微妙だったが、イチかバチかでGOする事に決定した。この機会を逃すと、時期的に鮮度が良いものは望めないからだ。いくら沢山飛んで来ても、ボロばっかじゃ意味ないのだ。
博奕を打てない奴に良い虫は採れない。でも、どちらかというと予報は悪い方に傾いている。強い雨ならば、ライトトラップは中止にせざるおえない。とはいえ、小雨程度ならガスが掛かり、むしろ絶好のコンディションになるかもしれない。謂わば、我々はゼロ百の状況下にあるのだ。
雨予報でも晴れさせてしまうスーパー晴れ男のワシの力をもってすれば大雨は有り得んとは思うが、最近は何をやっても上手い事いかんしなあ…。こんなとこまで来てダメだったら泣くに泣けんよ。いや、( ;∀;)ダダ泣きさ。どうにかなることを心から祈るよ。

白馬村に入る頃には完全に日が暮れて、夜の帳がおりた。
場所の選定は山の中腹と高地の2箇所で、まだどちらにするか決めかねている。鮮度を考えれば高標高のポイントだが、細かいポイントは知らない。一方、中腹は小太郎くんが場所を詳しく聞いているから確実性は高い。だが、鮮度は落ちている可能性が大だ。ここが運命の分かれ目、思案のしどころである。

相談の結果、高標高のポイントを目指すことにした。もしポイントが見つからなければ、中腹ポイントに変更すればいいと判断したのである。アズミのライトへの飛来は夜半過ぎだと言われている。だから時間的にそれでも何とかなると踏んだ。夜遅くに飛んで来る蛾は待つのがウザいのだが、こうゆう場合は寧ろ助かる。周囲の環境や天候等々、様子によっては、そのポイントを捨てて移動することだって可能なのである。

小雨降る中、車は山へ向かう道へと入ってゆく。
すると、ガスり始めてヘッドライトの前を蛾がワンサカ飛びだした。完全に活性が入ってるって感じで、絶好のコンディションだ。このまま天気がもてば、何とかなる。どころか大爆発だって有り得る。心が期待でグンと膨れ上がる。

しかし着いた場所は真っ暗けで、周囲の環境が全然ワカラン。どこにライトを設置すれば良いのか、さっぱりワカランぞなもし。それでもこの状況ならば、たとえポイントを少々ハズしていたとしても1つや2つは飛んで来るだろう。
けど、嫌な予感がしないでもない。今シーズンのワシはマホロバもカバフもあんまり採れてなくて、絶不調がバリ続いているのだ。何が起こるかワカランのだ。慎重に状況を把握してから決断すべきだ。
考えてみれば、標高が高ければ高いほど雨になりやすい。高い分だけ気温が低いのも気にかかる。気温が低いと虫の活動は鈍くなるのだ。ゆえに確実に採れる場所である中腹を選択すべきではないかと思った。
小太郎くんは此処でやる事を望んでそうな素振りだったけど、ここは譲ってはならぬと感じた。なので、半ば強引に中腹でやることを主張した。小太郎くん、ゴメンね。&譲ってくれてアリガトね。

一旦、山を降り、別なルートを登り返して中腹ポイントを目指す。さあ、気持ちをリセットしてアズミをテゴメにしてやろうじゃないか。

ポイントは人に詳しく聞いていなければ、夜だと絶対に辿り着けないような場所だった。マジ真っ暗けだ。さっきの比じゃない漆黒の闇だ。

幸い雨は止んでいる。
けど寒い。途中で上着を忘れたのに早めに気づき、「GU」で買っといて大正解だったよ。良い兆候だと考えよっと。今日はツイてるから大丈夫だと自分に言い聞かせる。何につけ、ちょっとした事でもメンタルを強化しとくのは大切なのだ。

時計を見ると、早くも午後8時半近くになっていた。
ソッコーで今夜の屋台を組む。

 

 
何だかんだで結局ライトが点灯したのは、たぶん9時になる10分前くらいだった。

 

 
ほぼ雨は止んでいたが、傘つきの雨仕様になっておる。
とはいえ、活躍はあまりしてくれない事を祈ろう。どうか大雨にだけはなりませぬように👏

午後10時。
小太郎くんが突然椅子から立ち上がり、小走りに駆け出した。

えっ❗❓、えっ❗❓、えっ❗❓、もう飛んできたの❓

慌てて、自分も後を追っかける。

小太郎くんがライトトラップの裏へと回った。ねっ、ねっ、アズミなのー❓何か言ってくれよー。

コレ、密かに狙ってたんすよー❗

見ると、手にケバいくらいの派手派手な蛾を持っている。しかも、デカい。
(⑉⊙ȏ⊙)見たことあるぞー、ソレ。

 

 
ジョウザンヒトリである。
ワシも会ってみたかった蛾の一つだ。思ってた以上にデカいんで驚いたよ。それに想像していた以上に美しい。百聞は一見に如かずだね。何だって実物が一番美しくて、生きているオーラがある。

午後10時20分くらいだったと思う。
再び小太郎が慌てて走り出した。

いたっ❗いました❗たぶんアズミに間違いないです❗

しかし、飛んで逃げて忽然と姿を消した。(ㆁωㆁ)マジかよ❓
絶対に、まだ近くにいる筈だ。二人で辺りを探し回る。
思った通りだった。しかし何度か地面にいるのを見つけるのだが、クソ忌々しい事に直ぐに飛んで逃げよる。それを数度繰り返す。何でライトの近くまで寄ってこんの❓

暫くして、ようやくブラックライトまで近寄ってきたのを小太郎くんが見つけた。
白布で行き止まりだから、もう袋のネズミだ。余程の事がない限りは採れるだろ。これで、やっとこさ間近でじっくりと眺められる。小太郎くん、ゲットよろしくー。

しかーし、(⑉⊙ȏ⊙)あちゃま❗、何とブラックライトの隙間に入っていきよるー❗

こりゃ、ボロ化必至だな。
肉を切らして、骨を断つ。それでも小太郎くんは意地で何とか無理矢理ゲットした。

で、見せて貰ったけど、あちゃーの背中ズル剥けになってた。
小太郎くん、御愁傷様(´ε` )
それにしても、思ってた以上に小さい。マメキシタバ(註7)よか小さい。ここまでくると、もう小人ちゃんレベルだな。
とはいえ、実物を見て俄然やる気が出る。

けれど後が続かない。表情には出さないようにしてはいたが、心の中は相当波立っていた。このまま二度と飛んで来ないのではと考えると、胸が締めつけられそうだった。やっぱ絶不調のスパイラルにハマったまんまなのか…。いい加減、勘弁してくれよ、ジーザス。

11時過ぎ。
ようやく自分にもチャンスが巡ってきた。
ふと何気に地面を見たら、ペタッと止まっていたのだ。けどコヤツも同じように敏感で直ぐに飛び立った。目を切らずに姿を追い掛け、止まった辺りに目を凝らす。どこよ、どこー❓地面と同化して、よくワカンナイ。焦燥感が心を撫でる。

(☆▽☆)いたっ❗

けど、必死で毒瓶を被せようとしたら、すんでのところで逃げやがった。クソッ(-_-;)、マジかよ。でも飛びそこねて、ひっくり返りよった。

ダメー❗(༎ຶ ෴ ༎ຶ)ボロになっちゃうー。

ヽ(`Д´#)ノえーい、もうどうなってもええわい。とにかく何でもいいから採らなきゃ来た意味がない。強引に毒瓶を被せた。

中を見ると、ちゃんと毒瓶に収まっている。
(´д`)フゥー、何とか採れたよ。
毒が回り、ほぼ動かなくなったところで、やや震える指先で手のひらに乗せる。

 

 
(・o・;)ちっちゃ❗
そして、暴れ倒したので、ワシのも背中がハゲちょろけて見事なまでの落ち武者化しとるー。(;´д`)トホホのホー。

 

 
ちっちゃいけど、後翅の黄色が鮮やかで綺麗だ。前翅も複雑な紋様でカッコイイ。

腹や羽の形からすると、♀かな❓
それに尻先に毛束があまり無いような気がするもんね。カトカラの♀は♂と比べて腹が短くて太く、尻先の毛の量が少ない傾向がある。また翅形は丸みを帯びることが多い。

確認のために裏返してみる。

 
(裏面)

 
 
裏面は、どって事ない。どう見ても美しいとは言えないやね。
それに随分と擦れてる。時期的にもう遅いのかな❓それとも暴れて擦れたせいなのかな❓判断に苦しむところだ。
あれっ❗❓、♀と思ったけど尻先に縦スリットが入ってないし、産卵管も見えない。って事は♂❓

午前0時前。
ようやくマシなのが採れた。

 

 
(・o・;)やっぱ、ちっちゃ〜。

 

 
これは腹が細く、尻先に毛束があるから♂だろう。
じゃあ、最初のはどっちだったのだ❓
まあいい。数を採ってりゃ、そのうち自ずと分かってくるだろう。

2頭目を三角紙に収めたところで、雨がパラパラと降りだした。
このまま小雨で踏み堪えることを祈ろうと思って歩き出したら、また地面に止まっているのがいた。今度は崖の縁だ。

『いたっ❗』
と言ったら、一拍おいて小太郎くんも
『こっちもいましたあー❗』
と声を上げる。そして次の瞬間には、
『あっ、アッチにもコッチにもいます❗』
と叫んだ。
目を戻すと、視界に何かが入った。
(⑉⊙ȏ⊙)わちゃっ❗❗
コッチも2つ3つ飛んどる❗

雨で活性が入ったのかもしれない。そこから先は、祭が始まった。次から次へと崖の下からアズミが湧くように這い昇って来た。
でも相変わらず白布には止まらず、落ち着きなく地這い飛びしとる。歩くと複数が地面から飛ぶし、もうワチャワチャだ。それを二人とも中腰で右往左往で追いかけ回しているから、滑稽きわまりない。もし第三者が見ていたとしたら、泥鰌掬いのおっさんショーに見えたかもしれない。そして、採っても採っても地面で暴れて次々とボロ化してゆくから、その泥鰌掬いの動きに拍車がかかる。早く採らないとボロボロになってしまうから必死なのだ。もうワシらまでワチャワチャの、わちゃわちゃダンスパーティーなのだ。

狂騒曲は午前1時過ぎまで続いた。
一段落し、何だかバカバカしくって二人して笑う。

気がつけば、いつのまにか雨は上がっていた。

                        おしまい

 
後日談を少し書く。
深夜2時くらいに撤収して山を降りたら、晴れてきて星まで出てくる始末。そして、昼間にコヒョウモンモドキの様子を見に乗鞍まで行った時にも晴れてきた。天気予報は完全に悪かったから、やはり我ながらスーパーな晴れ男なのである。
とは言うものの、その後は土砂降りだったけどね。
で、その日に帰宅したのだが、2頭だけ展翅して睡魔に勝てず、残りを冷凍庫にブチ込み昏倒。以後、今まで1つも展翅してない。
一応、その時の展翅画像と昼間に見たらこんなんです画像を添付しておこう。

 

 
昼間に見ると、よりいっそう美しいことが解る。
下翅の黄色はキシタバ類の中でもトップクラスの鮮やかさだ。上翅もカトカラの中では見たことのないような独特の渋いグレーで、複雑な模様はデザイン性が高い。
とはいえ、激ちっちゃいけどさ。もう少しデカけりゃ、評価はもっと高いのにね。せめて中型サイズくらいあればなあ…。

 
【Catocala koreana azumiensis アズミキシタバ♂】

 
【同♀】

 
スーパー落武者にさせてしまったなりよ(´ε` )
触角も真っ直ぐに出来てないし、胴体も縒れてるしさ。
まあ睡魔に勝てずに力尽きたと云うこってすな。

 
追伸
こうして文章を書いていると、改めて場所の選択は正しかったんだなと思う。高標高側のポイントだと、ずっと雨だったんじゃないかという気がする。たぶん気温も更に下がっていただろう。
それに何よりアズミキシタバは殆んどが上からではなく、下側から飛んで来たからね。

2019年の採集記は他の回とも繋がっており、今のところ前後の話はベニシタバとミヤマキシタバ、ハイモンキシタバ、ノコメキシタバの回と繋がっている。どっかに憎悪のフクラスズメとの戦いも書いてある。おそらく今後、ヒメシロシタバやヨシノキシタバ、ケンモンキシタバの回ともコネクトしてゆく事になろう。御興味のある方は読んで下され。

 
(註1)マホロバキシタバ

【Catocala mahoroba ♂】

(2019.7月 奈良市)

 
2019年に日本で新たに見つかったカトカラ。新種が期待されたが、結局は台湾の”Catocala naganoi”の新亜種に収まった。
拙ブログに『真秀ろばの夏(2019’カトカラ2年生 其の3)』の前・後編、『月刊むし10月号がやって来た、ヤァ❗ヤァ❗ヤァ❗』『喋くりまくりイガ十郎』の4編の文章があります。

 
(註2)ミヤマキシタバ

【Catocala ella ♀】

(2020.8月 長野県木曽町)

 
詳しく知りたい方は本ブログに『突っ伏しDaiary(2019’カトカラ2年生 其の4)』と、その後編となる『灰かぶりの黄色きシンデレラ』と題した文章があるので宜しければ読んで下され。

 
(註3)ムラサキシタバ

【Catocala fraxini】

(2020.9月 長野県松本市)

 
フクラスズメとは、下翅にブルーが入っているのが共通するだけで、似ても似つかない。色、柄、フォルム、全てにおいてムラサキの方が格段に美しいのだ。しかも稀でデカいときてる。謂わば、フクラスズメとは月とスッポンくらいの身分の差があるのである。

拙ブログに『2018’カトカラ元年』シリーズの其の17として、『青紫の幻神』『憤激の蒼き焔(ほのお)』『2019’紫への道』『パープルレイン』『紫の肖像』というムラサキシタバについて書いた五章からなる大作がありんす。おいちゃん、ムラサキシタバ愛が強しなのである。

 
(註4)『日本のCatocala』

 
日本のカトカラについて書かれた図鑑の最高峰。生態図鑑としては圧倒的に群を抜いている存在だと思う。

 
(註5)カバフキシタバ

【Catocala mirifica ♀】

(2020.7月 奈良市)

 
拙ブログの『孤高の落武者(2018’カトカラ元年 其の5)』と『逆襲のモラセス(続・カバフキシタバ)』の前・後編を見られたし。

 
(註6)ベニシタバ

【Catocala electa ♀】

(2019.9月 岐阜県高山市)

 
拙ブログの『薄紅色の天女(2019’カトカラ2年生 其の16)』と、その後編『紅、燃ゆる』を読まれたし。

 
(註7)マメキシタバ

【Catocala duplicata ♂】

(2020.8月 長野県木曽町)

 
拙ブログの『侏儒の舞(2018’カトカラ元年 其の4)』を読まれたし。

 
 

三日月の女神・紫檀の魁偉ー完結編

 
 
第3話である。ようやく完結編だけんね。今度こそ、ちゃんとクロージングさせまっせ。

 
思えば、シンジュサンにはまさかの惨敗に次ぐ惨敗だった…。

 
2018年 6月7日。
この日は午後3時くらいに東大阪市の枚岡公園に出掛けた。ウラジロミドリシジミの様子を見るためである。
まだウラジロミドリを採ったことが無いという中学生に会ったので、ポイントに案内してあげる。
今どき虫採りをしている若者なんざ絶滅危惧種だから、大事にしないといけんのだ。

しかし、個体数は例年よりも多いものの発生が早かったようで、既に傷んだ個体ばかりだった。
それでも中学生は採って感激してくれていた。自分も最初の1頭には震えた事を思い出した。
フィリップ・マーロウの言葉を借りれば、『初めてのキスには魔力がある。2度めには、ずっとしていたくなる。だが、3度めには感激がない。』である(註1)。最初の1頭にこそ価値があるのだ。少々羽が破れていても関係ない。もちろん完品が望ましいが、ファーストインプレッションは必ずしもそうであることが絶対条件にはならない。
どうあれ、よかった。百聞は一見にしかず。狙った虫は、採らなきゃ何も始まらないのだ。虫捕りは恋愛とよく似ているかもね。

 
夕陽を眺める男女を囃し立てて写真を撮らしてもらい、山をおりる。

 

 
枚岡公園から転戦。今宵も矢田丘陵へ。
そう、又しても懲りずにシンジュサンを求めての灯火巡りなのだ。何としてでも6連敗は阻まねばならぬ。これ以上の連敗は自信喪失、心がポッキリと折れかねない(現在のヤクルトスワローズみたいに15連敗もしたら、虫採りなんかやめるね)。

名前がワカランがスタイリッシュで、シャレ乙な蛾がいた(註2)。

 

 
採るかどうか迷ったが、そのままにしておく。
邪魔くさいので、チビッ子蛾はフル無視なのだ。

小太郎くんがコチラに来る道中でバカでかいスッポンを拾ってきた。

 

 
写真はビニール袋を破って逃亡を企てている様子。
持ってみたら驚くほど重かった。このデカさは主(ぬし)クラスだわさ。売ったら、相当な値がつくだろう。

スッポンはスープが絶品なんだよなあと呟いたら、
小太郎くんが『さばきます?』と言ってきた。
(゜ロ゜;ノ)ノそれは絶対無理❗❗

夜10時半。
ヒマ潰しに樹液ポイントを回って戻ってきたら、柱に見慣れぬ蛾が止まっていた。
(;゜∀゜)あっ!、もしかしてカトカラ❗❓
何となく勘でそう思った。

 

 
採って裏返したら、特徴的な黄色と黒の縞々模様がある。やはりカトカラくん(キシタバの仲間)だった。

 

 
キシタバはカッコ渋美しいから嫌いじゃないけど、正直どうだっていい。今はシンジュサン以外は眼中にない。あとは皆、所詮は雑魚だ。
袖にされまくって、いつしか心はシンジュサンに奪われている。そう、恋い焦がれていると言ってもいい。
世の中の、うら若き女子に告ぐ。口説いてくる男子は1回は振っておきましょう。さすれば、バカな男子は貴方により熱を上げまするぞ。2回目のアプローチが無くとも責任持たないけどさ(^o^)

 
気温が高くなってきたせいか、格段に飛来する蛾の種類数と個体数が増えてきている。

 

 
これはトモエガの仲間(註3)だね。
昔は感覚的に気持ち悪かったけど、今や蛾に対する免疫も少しづつ出来てきたので初ゲットしてみる。

 

 
わっΣ(゜Д゜)、裏が鮮やかな紅(くれない)なのね。
紅蓮の🔥炎じゃよ。地獄の業火の色だ。この感じ、まるで地獄の使者みたいじゃないか。
でも同時に素直に美しいと思う。今まで飛び退いてて、ゴメ~ン。

そういえば、台湾に蒼くて糞カッコイイ綺麗なトモエガがいるみたいなんだよね(註4)。生来の青好きとしては、あれはマジで採りたい。でも、名前も何処へ行けば採れるのかもワカラン。アレに会えたら、蛾世界にも素直に入っていけるかもしれんのにのぅ(# ̄З ̄)。
きっと人生には、時に何かを飛び越えるキーワードとか、切っ掛けが必要なんだよね。

  
時刻は既に午後11時を過ぎている。
車が無いので、本来ならば帰らないといけない時刻だ。しかし、今日は背水の陣で臨んでいる。朝まで粘ると決めた。ここまでくれば、もう意地である。執念が無ければ欲しいものは手に入らない。

午前0時前。
小太郎くんとしゃがみこんで、網に入れたクソ蛾についてグダクダ言っている時だった。
視界の端で何かが飛んだ。と同時に『来た❗❗』と叫んでクソ蛾を網に入れたまま走り出していた。💨猛ダッシュだ。久々に体内でアドレナリンが💥爆発しているのが自分でも解る。

夜空に、恋い焦がれていたシンジュサンが舞っていた。
だが、思ってた以上に飛翔速度が速い。しかも、飛ぶ軌道がメチャクチャだ。
背後に小太郎くんがいる気配を背中で感じる。ここで振り逃がしたら笑い者だ。何があってもハズせない。それに、もしハズせばグダクダとあーだこーだと言いワケしかねない。いや、絶対するに決まっている。そうなれば、そこにどう正当な理由があろうともカッコ悪いことには変わらない。結果を出さなければ、クソだ。
緊張と慎重の狭間で構える。脳が躊躇はするなと命令する。両肩にグッと力が入る。距離を詰めた。迷いは禁物だと肝に命ずる。スウィングの始まった瞬間に目の前で左下に急降下した。内角を抉ってくるシンカーの軌道だ。(|| ゜Д゜)えっ、マジ❗❓
その落ち際を💥一閃、左から右へと振り抜く。スローモーションでターゲットがネットに吸い込まれてゆく。すかさず網を捻り、逃亡を防ぐ。
乾坤一擲。鬼神の如き網さばきで、一振りで鮮やかに決めた。超気持ちイイー。
 
しかし、クソ蛾とシンジュサンの両方が網の中で暴れており、(;゜0゜)わっ💦、(;゜0゜)わっ💦、(@_@;)わっ💦、あたふたする。
『どっち❓、どっち❓どっちを先に〆たらいいのー❓』
軽くパニくっちゃってて、小太郎くんにワケのワカランことをのたまってしまう。
『何言ってるんすかー❗❓ クソ蛾よか当然シンジュサンでしょうよ。』
( ・∇・)☝そりゃ、そーだー。
クソ蛾なんぞ、どうなってもいい。2匹が絡んでシンジュサンの羽が傷んだらエライコッチャである。何ならクソ蛾の方は踏みつけて、それを阻止したっていいのだ。
でも、そこまで悪人にはなれないので、手で網を押さえて両者を分かち、その間に小太郎くんにアンモニア注射を打ってもらう。

💉ブチュー❗
一発で👼昇天じゃよ。
虫屋って、やってることがマッドで変態やなあ。

網から取り出す。この僅かな時間がもどかしい。でも同時にその刹那は歓喜へ通ずるプレリュードでもある。

そっと手のひらに乗せる。

 

 
💕やっと会えたよ、シンジュサン。
全身に多幸感がゆっくりと広がってゆく。
4枚の羽一つ一つに三日月紋が配されているね。
シンジュサンの学名の小種名は「cynthia(シンシア)」。ギリシア神話の月の女神に由来している。だったら、神が遣(つか)わし三日月の女神だね。

狙った獲物をシバいた時の❤エクスタシーは堪んないよね。これこそが虫捕りの醍醐味じゃけぇ。
(о´∀`о)ぽわ~ん。我、今年最初の多幸感に包まれり。

『いやあー、普段はチンタラしてるのに、マジ反応早かったですねー。しかもダッシュが半端なく🚀ロケットスタートでしたわ。』
小太郎くんが笑いながら言う。
誉め言葉と取ろう。小太郎くん、蛾好きでもないのに付き合ってくれてアリガトねー。

とにかくコレで何とか一つの種の連敗記録の更新を免れた。5連敗したのはキリシマミドリシジミとコヤツだけ。2連敗したのが、ベニモンカラスシジミとタカネキマダラセセリで、あとは運と引きの強さで全部その日のうちに仕留めてきたのだ。打たれ慣れてないから泣きそうだったけど、これでまたヘラヘラ笑えるよ。

初の出会いの興奮が醒めやらぬうちに、シンジュサンは立て続けに飛んできた。
 
2頭目はデカかった。
さすが日本で2番目に大きいと言われる蛾だ。
羽の厳(いか)ついデザインも相俟って、魁偉と言ってもいい姿かたちだろう。
とはいえ、冷静に見れば、想像してた程の大きさではない。他のヤママユガ科の蛾たちと比べて胴体が細く、羽も薄いので、やや迫力に欠けるきらいがある。ヤママユの方が羽が分厚いし、腹もぽってりで迫力がある気がする。厳ついとかゴツいというよりも、寧ろ優美かもしんない。
いや待てよ。それはあくまでも見る側の視点の置き所にすぎないだけかも…。蛾を怖れる女子やお子ちゃまにとっては、充分恐ろしい姿に見える筈だ。ならば、やはり魁偉と言えよう。

そして、更に続けて飛んで来たのは、何じゃこりゃのチビッ子シンジュサン。大きさにかなりの個体差があるのに驚く。

 

 
他のヤママユガ科の蛾は、だいたい大きさが揃っている印象があるのだが、コヤツらは大きさに落差があり過ぎる(註5)。

午前0時前から約30分間で怒濤の計5頭が飛来。
その後、パッタリと来なくなって、やがて朝を迎えた。
明けてくる菫色の空が美しかった。
爽やかな微風が頬を撫で、背後の森の木々たちを静かに揺らした。
それを合図かのように立ち上がり、駅へとゆっくりと歩き始めた。

 
                 おしまい

 
追伸
ゲットして、懐中電灯を照して撮った写真があまりにも酷くて、全然その美しさが伝わってないような気がする。
と云うわけで、自然光で撮りなおした。

 

 
灯火の下ではオリーブグリーンに見えたが、こうして日の光のもとで見ると、だいぶと印象が変わる。
エレガントだ。何ともいえない淡い赤紫に惚れ惚れとする。でも単純な赤紫色ではない。もっと相応しい色の表現がある筈だ。
そして思い浮かんだのが、紫檀色。これは高級タンスなんかにもよく使われる紫檀(したん)の木の色から来ている。紫檀色って、ちょっと高貴な感じがしてピッタリじゃないか。

 
(出展『伝統色のいろは』)

 
(-_-;)むぅー、でもシンジュサンの写真の色と見比べてみると、違うなあ…。頭の中の記憶ではこういう色に見えた筈なんだけどなぁ…。写真の映りが悪いのか、それとも脳内で勝手に色を増幅させたのかにゃあ…。
ι(`ロ´)ノえーい、この際そんな事どっちだっていい。わたしゃ、イメージ重視の人なのだ。記憶の中の色こそが、リアルな色だ。

因みに、紫檀の木は英名をローズウッドという。
今はコチラの呼び名の方が、紫檀よりもポピュラーかもしんない。

 
(出展『伝統色のいろは』)

 
木の方は更に赤く見える。
けど、これは木にもよるだろう。
例えば、こんなのもあった。

 
(出展『エコロキア』)

 
噺は変わって、羽の先は鉤状に湾曲している。

 

 

 
コレを蛇、もしくは蛇の頭の形に擬態しているとする説が誠にしやかに流布されているが、ホントかよ❓と思う。
んなもんで、鳥が騙されてくれるかね❓それって、無理からでねーの❓所詮は言い出した人の願望であって、こじつけじゃねえの❓
日本の学者とか研究者は、何でもかんでも擬態にしたかる傾向があるような気がするんだけど、おいらの思い過ごしかなあ…。

それにしても、この個体だけ腹ボテで群を抜いてデカいから、てっきりメスだとばかり思ってたけど、触角の形はオスなんだよなあ…。オカマかえ?
たぶん、♂だとは思うけどさ。去年は♀が採れてないから、今年は採らんといかんな。

それでは、恒例の(´・ω・`)もふぅ~。

 

 
🐰うさぴょんみたいだ。
シンジュサンもヤママユの仲間なので、もふ度は高しで可愛いい。前足とか、もこもこやんか💕

 
(註1)フィリップ・マーロウ「初めてのキスには魔力がある…」

レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説の主人公の名前。セリフはハードボイルド小説の金字塔『長いお別れ』の中でのもの。

 
(註2)シャレ乙な蛾がいた
アカスジシロコケガというコケガの1種かと思われる。
美しいが、特に珍しいモノではないようだ。

 
(註3)トモエガの仲間

【ハグルマトモエ Spirama helicina ♀】

 
分類はヤガ科(Noctuidae) シタバガ亜科(Catocalinae) Spirama属とある。
漢字にすると、おそらく「歯車巴」と書くのだろう。
歯車みたいな巴紋をもつ蛾ってことだろね。

トモエガの仲間としたのは、この時点ではハグルマトモエとオスグロトモエの♀との区別がつかなかったからだ。両者は、ホントよく似ているんである。

 
【オスグロトモエ ♀】
(出展『北茨城周辺の生き物』)

 
違いはハグルマトモエと比べて巴紋がやや小さくて、全体的にメリハリがないところ。

 
(註4)台湾の糞カッコイイ青いトモエガ

調べたら、Erebus albicincta obscurata という蛾らしい。台湾名は「玉邊目夜蛾」「玉邊目裳蛾」「白邊魔目夜蛾」など複数があるようだ。

 
(出展『Wikimedia commons』)

(出展『Xuite日誌 随意窩』)

 
バリ、カッケー( ☆∀☆)
結構珍しい蛾のようで、そこそこ高い標高に生息しているみたいだ。誰か採れる場所と採り方を教えてけれ。

(註5)大きさに落差が有りすぎる

 
大人と中学生と小学生くらいに大きさが違う。
自然状態でコレくらい個体差がある鱗翅目って、他にあったっけ❓
たぶん、いる筈だが、ちょっと浮かばない。

ついでに各々の展翅写真も添付しておこう。

 

 
上から大中小である。
それにしても展翅が酷いね。特に1頭目は最初にした展翅だから、上翅を上げすぎてる。慣れない蛾の展翅でバランスがワカランかったのさ。以下、少しづつマシになってゆくのは、上の順の時系列で展翅したから。それがそのまま出ている。パープリンといえど、ちょっとは学習能力があるんである。
今年採れたら、もう少しマシな展翅しよっと。

ついでに展翅板から外した画像も添付しとくか。

 

 
バランスはそんなに悪くはないんだけど、やっぱダメだな。

この日は全部で5頭飛来したのだが、1頭は小太郎くんが持ち帰った。残りの1頭は羽が結構破れていたので展翅していない。修復用にとってあるのだ。けど、こんだけ大きさが違うと、使えんのかね?
この蛾、飛び方の軌道が無茶苦茶で雑い。すぐ地面に落ちて暴れまわるし、木々の中を縫うようにして飛ぶ。おまけに羽が薄いときてる。ゆえに羽が損傷しやすいのだろう。小太郎くん曰く、中々完品に出会えないというのは、そういう事からだろう。

生態面を付け加えておくと、灯火への飛来はこの日が一番多く、他の日は全部1頭のみの飛来だった。何れも飛来時間は遅く、午後11時から午前4時の間であった。
で、後日採れたのは、全て羽が破れていた。採集適期は短いと思われる。

さあ、これでやっとカトカラシリーズに取りかかれる。乞う、御期待あるよ(^o^)

  

2017′ 春の三大蛾祭り 其の参 闇の絵巻編

 
前回「悪鬼暗躍編」の続きである。

 
『ひ、一人でですかあ(◎-◎;)?』

 
巨匠のライトトラップの様子を見に行きましょうとMさんを誘ったのだが、キッパリと断られた。
で、一人で行ってこいと懐中電灯を渡されたのだった。

(-o-;)マジですか?

( ; ゜Д゜)マジですか?

( ̄□||||マジですかあ?

 
自慢じゃないが、オイラはものすごーく怖がり屋さんなのである。お化けとか幽霊とか妖怪とかがこの歳になってもメチャンコ恐いのである。ビビりのチキンハートのヘタレ野郎なのだ。
そんな男に、一人で山中の闇夜の道を歩けというのか。旦那~、ひどい、ひどすぎるよ(/´△`\)
しかも待っているのは闇の住人やら、蛾の怪物たちときてる。気がふれそうだ。

しかし、それを隠して『(`◇´)ゞアムロ、行っきまーす!』とか言ってしまったのだ。今さら、口が裂けても行けませんとは言えない。
(・。・)あっ、口が裂けてるといえば「アタシ、キレイ❓」の口裂け女だよね。また、いらぬ事を思い出してしまったではないか。闇夜に口裂け女に追い掛けられる様を想像して、ブルッとくる。
おまけに映画『八つ墓村(註1)』の白塗りの山崎努まで思い出してしまう始末。恐怖は連動する。
満開の夜桜をバックに、努がスローモーションで駆けてくるのだ。鬼の形相。躍動する筋肉。凄惨であり、美しくもある稀有な映像だ。口裂け女よか、努に追いかけ回される方がよほど怖いかもしんない。
そのシーンの後だっけ?前だっけ?
とにかく努は懐中電灯2本を鉢巻きにブッさし、修羅の形相で村人を追いかけ回し、💥🔫ダキューン❗、💥🔫ダキューン❗
猟銃で、村人全員皆殺しである。
( ̄□|||| こっわ~。

時刻は午前0時過ぎ。
泣く子も黙る丑三つ刻(うしみつどき 註2)である。
うしみつ💓ドキドキとMさんにわからぬよう小さく声に出して呟いてみる。
それで少しは気が楽になるかと思ったが、そんな低レベルの駄洒落、全然もって笑えない(-“”-;)

気のせいか、少し闇が濃くなったような気がした。
懐中電灯を手に持ち、意を決してなだらかな坂道を登り始めた。
チップス先生、さようなら(;_;)/~~~(註3)

歩き出してすぐにグンと一段、気温が下がった。
ひんやりとした空気が首筋を撫でる。
相変わらず細かな霧雨は音もなく降り続いている。
辺りは幻想的な靄(もや)に包まれており、懐中電灯で照らすと、光の束が闇を貫くようにして真っ直ぐに伸び、その先で漆黒の闇へと呑み込まれている。
奥は暗くて何も見えない。背中の毛が逆立つ。五感が鋭くなる。あらゆる音に耳をすまし、全身の皮膚で気配を感じ取ろうとする。なんとしてでも戦場から生きて帰らねばならない。

闇は単一ではない。微妙な濃淡があり、何か秘密の絵が何枚もそこに描かれていて、上から黒く塗り込められているような気がしてくる。闇の絵巻…。
梶井基次郎(註4)の小説にそんなタイトルの短編があったなと思う。どんな話だったっけ?
思い出そうとするが、どうしても思い出せない。

 
『哀れなるかなイカロスが、幾度(いくたり)も来ては落っこちる。』

 
あれは別な短編、『Kの昇天』か?
一瞬、自分がもう一人いて、今ごろ部屋でTVを見ながら酒でも飲んでいるのではないかと思った。
現実感がまるでない。同時に、このシーンとシチュエーションは過去にもあったのではないかと思えてきた。妙な既視感があるのだ。でも、そんなワケはない。この土地に訪れるのは間違いなく初めてなのだ。
ドッペンゲンゲル(ドッペルゲンガー)とデジュヴュがグチャグチャに混じりあって、その錯覚世界に脳が溺れそうになる。思考的溺死…。気が狂うのも時間の問題かもしれない。

昇天…。
(*`Д´)ノえーい、昇天とは縁起でもない。
想像が恐怖を増幅させる。恐怖とは想像だ。想像するからこそ、そこに恐怖が生まれる。何も考えるな。考えるからこそ、モノは恰(あた)かもそこに存在するかのように思えてくるのである。
普段我々が生きている現実世界でさえも、もしかしたら仮想の現実にすぎないのかもしれない。世界が本当にあるかどうかは誰にも証明出来ないのだ。

道の真ん中をゆっくりと歩く。
なぜなら横から何かが出てきても逃げられるようにする為だ。最初の一歩が肝腎なのである。距離が少しでもあれば、🚀ロケットスタートで逃げおおせる。ガキの頃から逃げ足だけはメチャンコ速いんである。

そういえば、大学時代の友人と3人で山の中で日が暮れたことがあった。熊とか何かが出たら、3人で戦おうぜとか言って手を繋がさせたんだよね。
これはホントは熊とか何だとかは関係なくて、だだオラが怖かっただけだ。
もちろんオイラは真ん中である。何かあったら、二人に守って貰わねばならないのだ。
暫く歩いた時だった。突然、横でガサガサガサーと云う音がした。
音がした瞬間の0.01秒後には、二人の手を振りほどいてロケットスタートでε=ε=ε=ε=┏( ≧∇≦)┛爆走し、彼らを遥か後方へと置き去りにしていた。
深層心理の中では、何なら彼らが熊の餌食になっている間に首尾よく逃走しようなどと思っている男なのだ。
そうです。ワタシは卑怯者なのです。
単に右隣の奴が横のススキを何気に叩いただけだったのだが、当然のことながら、あとでブチブチ文句は言われましたなあ。

懐かしい思い出だ。一瞬、和む。
だが、気を許してはならない。
時々、背後を振り向く。いつ口裂け女が追いかけてくるかワカランのだ。油断は禁物だ。

脳内モノローグは、エンドレスで目まぐるしく思念を
駆け巡らせる。
口裂け女に追いかけ回されたら死を覚悟するしかあるまい。ならば、窮鼠、猫を咬む。全身全霊をもって一矢報いようではないか。口裂け女のそのアゴの辺りに渾身のストレートを上から下に叩きこんじゃるぅ(#`皿´)❗

5分ほど歩いただろうか。遠くから地鳴りのような音が聞こえてきた。
このクソ真夜中に、👽宇宙人めがっ、地底基地でも作っているのか❓

ゴオーッ、バババババババ……。
近づくにつれ、段々音が大きくなってくる。

100mほど先で、膨大な光が空に向かって漏れ出しているのが見えた。
この期に及んで、宇宙人までもがワシの命を亡きものにしようとしているのか?…。
だったら、受けて立ってやろうではないか。刺し違えちゃる。

しかしすぐに、もしかして…と思った。

翼よ、あれが巴里の灯だ!(註3)

坂を登りきると、ハッキリと見えてきた。
たぶん、あれが巨匠のライトトラップだ。
闇夜に浮き立つ煌々と輝くそれは、未知との遭遇の世界だ。まるで着陸した宇宙船に見える。
同時に( -。-) =3ホッとする。
光とは、なんと人の心を安寧にすることよ。
もう大丈夫だと安堵の心がじんわりと全身を包み込む。

 

 
ガガガガガカァー、ドルルルルルゥー……。
目の前まで来ると、ものスゲー爆音だ。
巨匠は強力な発電機を使っているようだ。ライトも水銀灯だろう。バッキバキの強烈な光だ。
悪いが、Mさんのライトトラップとは次元が違う。スケールがデカいのだ。さすが虫捕り王と言われたお方は違う。

大きく息を吐く。さあ、目的を果たそう。
何だか肝だめしに来たみたいだなと思いつつ、まずは白布から点検していく。集まってきた蛾たちが、この白い布に止まるようにと配慮されたものだ。
だが、降り続けた霧雨のせいか、布はぐっしょりと濡れており、滑り落ちた蛾たちが底の方で折り重なるようにして弊れこんでいた。
下には水が溜まり始めており、半ば溺死、その殆どは亡骸と化している。死体の混沌(カオス)である。

『哀れなるかなイカロスが、幾度も来ては落っこちる。』

イカロスは太陽に向かって飛び、蝋でできた羽が溶けて墜死したが、蛾たちは人工の光に向かって飛んで、屍となった。🙏合掌。

それにしても酷いな。恐怖と闘いながらせっかくここまでやって来たというのに、目ぼしいものはまるでおらず、死屍累々とした蛾の死体の山を見させられるだなんて、サイテーだ。何かの罰だとしか思えない。

恐がり屋さんは長居などするつもりはない。ひととおりサラッと見たら、魑魅魍魎が跋扈する前に一刻も早く戻ろう。

そう思って、ふと何気に右側の杭の辺りに目をやった。

 
ドオ━━━ (◎-◎;) ━━━ン❗❗

 
いきなり強引のカットインで、おどろおどろしい映像が暴力的に網膜を支配した。
瞬時に全身がフリーズする。腰が抜けそうになった。

( ̄□||||あわわわわ…。
そこには、闇の将軍がたおやかに静止していた。

                   つづく

 
追伸
ハイ、またもや完結しませんでしたねー。
前にも言ったけど、書いてるうちに色んなことを思い出して、つい長くなるんである。
次こそは最終回です、ハイ。申しわけなかとです。

 
(註1)映画「八つ墓村」
(出典『サンダーストームのブログ』)

 
1977年に公開された日本映画。
原作は横溝正史。実際にあった事件「津山三十人殺し」をモチーフとしている。この事件はいまだに犯人が捕まっておらず、一人で人を殺した数の日本レコードである。
出演は渥美清、萩原健一、小川眞由美、山崎努など豪華キャスト。秘密は龍のアギトにあるのじゃあ~。
てっきり、努の疾駆するシーンは夜桜だと思っていたが、どうやらそうではないらしい。夜明けかな?
人間の記憶は曖昧である証左だね。勝手に恐怖を増幅させているのだ。

 
(註2)泣く子も黙る丑三つ刻
本当は「草木も眠る丑三つ刻」です。しかも丑三つ刻と言われる時間帯は、正確には午前1時から3時の間である。因みに、丑三つ時と書くと、午前2時から2時半を指す。なぜそんな間違いをしたのかというと、怖くて考える余裕が無かったのである。恐怖は判断力を鈍らせる。丑三つ刻といえば、幽霊とか、この世の者ではならざる者が現れると言われているのである。で、夜中➡怖い➡丑三つ刻と頭の中で勝手に三段論法になったと云うワケですな。

 
(註3)チップス先生、さようなら
ジェームス・ヒルトンが1934年に発表したイギリス小説。名作文学の古典です。読んだことないけど。
小説の中身と本文の内容とは直接の関係はありましぇん。この世とおさらばの気分の時に、よくワテが使うフレーズです。

 
(註4)梶井基次郎
日本の小説家。1901年~1932年。
20篇あまりの短編を遺して、31歳の若さで肺結核で病没した。代表作には「檸檬」「櫻の樹の下には」「冬の蝿」などがある。

「Kの昇天」の文中の「哀れなるかな…」のくだりの句読点の位置は、本当は「哀れなるかな、」である。
自分的には「哀れなるかなイカロスが、」がしっくりくるから、そう記憶していたのであろう。
記憶では、梶井は中3か高1の頃に耽読してたと思う。ナィーヴで独特の世界観のある素敵な短編群だ。
今でも文庫本で売ってる筈なので、読まれることをお薦めする。

 
(註5)翼よ、あれが巴里の灯だ!
チャールズ・リンドバーグの伝記映画「翼よ!、あれが巴里の灯だ」からの引用。
1957年に公開されたアメリカ映画で、名画の一つとされる。
監督 ビリー・ワイルダー。主演 ジェームス・スチュアート。
リンドバーグの歴史的な偉業、大西洋横断無着陸飛行を描いた作品で、歓迎に沸くパリ、ル・ブルジュ空港に凱旋飛行した時にリンドバーグが放ったとされる「翼よ、あれがパリの灯だ!」と云う台詞が、そのまま邦題となったようだ(実際はそんなカッコイイことは言ってなくて、後付けのフィクションみたいです)。
因みに原題は「Sprit of St.Louis」。これはリンドバーグの愛機、セントルイス号の事である。シンプルなタイトルで好感が持てる。だが、邦題の方がロマンティックで素敵だ。
最近の洋画の邦題は原題そのままの事が多く、邦訳のタイトルをあまり見かけなくなった。何だか寂しい。
監督の意の入った作品そのままの題名にすべきと云う意見は理解できるが、タイトルだけ見ても、瞬時には意味が解らない事ってよくあるよね?あれって、何だかもどかしい。また、調べても直訳だと全く意味が解らないという事もよくある。邦訳って、結構味があって好きだったから、復活させてほしいよね。まあ、ワケのワカンナイの和訳や行き過ぎた意訳、ベタでダサいタイトルが増えるのは困りもんだけどさ。
この辺は、蝶の和名と同じだ。名付ける人に広範な深い知識がないから、クソみたいな和名がつけられるのだろう。昔の人の方が、風情とか粋の境地の精神があったのではないかと思う。

 

2017′ 春の三大蛾祭り 其の弐(悪鬼暗躍編)

 
前回「青天の霹靂編」の続きである。
今回も先に警告しておきますね。たぶんオモロい回になるとは思うけど、💀閲覧注意です。

蝶だけではなく蛾にも詳しいMさんに拠ると、3月の末から4月上旬が春の三大蛾の採集適期だという。
しかし、今年(2017年)は寒い日が続き、ギフチョウの発生も遅れている。ギフチョウしかり、天候が安定しないこの時期の動植物の見頃を読むのは難しい。
拠って、4月上旬から半ばにかけての様子をみて、天候次第で日を決めようということになった。

因みに、天候といっても蝶採りのように晴天がグッドウェザーではない。むしろ反対の天気である。曇り、もっといえば雨上がりとか霧雨のようなコンディションが、蛾の灯火採集には最高のシチュエーションらしいのだ。
これは蛾に限らず走光性のあるカブトムシとかクワガタとかもそうで、光に向かって飛ぶ習性がある者は、月が出ていると人工の光には集まりにくいようなのだ。たぶん月光に負けてしまうからだろう。つまり晴れていても、新月のような月の無い夜には灯火効果があるとされている。
霧や霧雨の場合は、スモーク効果で光の帯がハッキリと見える。そうなると、他に光源が無ければ虫たちは光の束に向かって一直線に飛んでゆくというワケなのだ。但し、気温が低いと飛ばないとの事。
蝶とは全く違う道理に戸惑うが、愉しい。実をいうと、自分は蛾の採集も灯火採集も初めてなのだ。
未知なるものには、いつもo(^o^)oワクワクする。

 
4月7日。
いよいよ初陣の日がやってきた。
午後3時頃にMさんが車で迎えに来てくださった。
一路、兵庫県宝塚市の某所へと向かう。

今回は、Mさんと同じく標本商を生業(なりわい)とする巨匠Mさんも参加されると聞かされる。
伝説的な人で、虫を捕らしたら天才とも言われている方だ。心強い。虫捕りの天才ならば、経験とセンスは抜群じゃろう。ならば、いくらなんでもボウズは無かろうて。
しかし、相手は自然だし、生き物だ。絶対は無い。
やや不安がもたげるが、まあ、何とかなるっしょ。
ならなくとも、どうせワシはそもそも蛾屋ではない。れっきとした蝶屋なのだ。たとえ結果がダメだったとしても痛くも痒くもない。そう自らに言い聞かせる。

車内では、エロ話の花が咲く。
虫屋には珍しくMさんも若い頃からチ○ポの先が乾くことかなかったというタイプだ。武勇伝をたくさん聞かせて戴く。Mさんは、周囲に犬と呼ばれたくらいの男なのだ。爆笑エピソードてんこ盛りなのである。
なぜか虫好きはエロ話をしないが、Mさんとワテは結構したりする。
何で虫屋はエロ話をしたがらないのだろうか?
二人して理由を考えてみたが、今イチ明快な答えは見つけられなかった。誰か良い解答があったら、教えてくれ。
花より団子。女より虫❓

車窓の外を流れる風景は寒々しい。
木々の芽吹きにはまだ早く、白骨化したようや雑木林がどこまでも連なっている。その上には、暗鬱な鉛色の空が不気味に垂れ込めていた。とても今から虫捕りに行くって云う雰囲気ではない。
でも、Mさんが『ええ感じやね。』と呟いた。
そっか…、ええ感じなんだ。プロが仰るのだから間違いない。沈みがちだった気持ちに💡ポッと灯がともる。
自分は虫捕りの実力はさしてないが、引きだけは強い。何とかなるだろう。

途中、買い物やら何やらして、午後5時過ぎ頃に現地到着。

 

 
周囲を雑木林に囲まれた窪地だ。
いよいよ、魔神たちの領域に踏み入ったというワケだ。期待と緊張でブルッとくる。

早速、ライト・トラップの用意をお手伝いする。

 

 
ぬりかべ❓いったんもめん❓(註1)
早くも魑魅魍魎の登場かあーい!と心の中でツッコミを入れる。

左は蛍光灯かな?右の青黒っぽいのはブラックライトだな。昆虫はブラックライトの光がお好きのようだ。光の波長とかが、きっと違うんだろね。
蛍光灯はそれ自体にも誘蛾効果もあるが、どちらかと云うと視認性を高める為のものだろう。ブラックライトだけでは暗くて、何が飛んできたのか今イチわからないのだ。

段々、日が暮れてきた。

 

 
ライトの色も鮮明になりつつある。

そんな折り、颯爽と巨匠が現れた。
お付の者一人も一緒だ。
ライト・トラップは来た道の途中に仕掛けてきたとおっしゃる。巨匠がどんな装備か見たかったので、ちょっぴり残念。

やがて、酒盛りが始まる。
Mさんは小さめのフライパンを出してきて、肉を焼き始めた。何だかキャンプに来たみたいだ。
今回は用意してないようだが、巨匠なんかは普段は準備万端、お好み焼きまで焼くらしい。
目から鱗だ。夜間採集には、こんな楽しみ方もあるのかあ…。
諸先輩方曰く、昼間の網を持って追い掛けまわす採集とは違い、灯火採集は謂わば待ちの採集。けっこうヒマで長丁場だから、酒でも飲んでないとやってらんないらしい。
なるほどね。オイラには合ってるかもしれんね。

生来の蛾嫌いゆえ、酒をガブ飲みする。
だって、蛾がメッチャ怖いんだもーん(# ̄З ̄)
見ただけでも、幼少から( ̄□||||オゾるのだ。
素面(しらふ)じゃ、とても耐えれそうにない。ましてや、今回は邪悪なる魔王と梟(フクロウ)男爵、そして妖鬼青眼メフィストの魔界三衆なのだ。泥酔でもしてなければ、とてもじゃないがまともに対峙できない。

ここで魔界三衆をあらためて紹介しておこう。
先ずは魔王から。

【Langia zenzeroides オオシモフリスズメ】
開張140~160㎜。日本産スズメガの中では最大種。
前翅外縁は鋸歯状。全身鼠色。胸部から腹部にかけて毛状鱗が密生し、前脚~後脚は青みを帯びる。
分布は本州中部地方以西、四国、九州、対馬。国外では台湾、朝鮮半島南部、中国南部、インドシナ半島北部からネパールにかけて分布する。基亜種は朝鮮半島産。日本産は亜種ssp.nawaiとされる。
幼虫の食餌植物はサクラ類、ウメ、アンズ、モモ、スモモなどのバラ科。

次将は梟男爵だ。
実を言うと、コヤツが今回一番見たいと思った蛾だ。
と云うか、蛾全部の中で最も実物を見てみたい蛾である。
そのモノトーンのデザインは、スタイリッシュ且つソフィスケートされたものだ。複雑怪奇のオンリーワン。他に似たデザインをもつ蛾も蝶もいなくて、異彩を放っている。とにかく、小さい頃にすぐ名前を覚えたくらいに特異なお姿なのだ。

【Brahmaea japonica イボタガ】
英名 Owl moth。つまりフクロウ蛾である。
開張90~100㎜。翅に複雑な斑紋と無数の波状紋があり、前翅後縁中央部に大きな眼状紋がある。雌雄同紋だが、♀の方が一回り大きく、前翅に丸みを帯びる。
分布は北海道、本州、四国、九州、屋久島。
以前はインド、中国、台湾に分布する巨大(140㎜もある)なBrahmaea wallichiiの亜種とされていたが、それと比べて遥かに小型であること、♂交尾器に差があることから別種とされ、現在は日本の固有独立種。
幼虫の食餌植物は、イボタノキ、キンモクセイ、トネリコ、ネズミモチ、ヒイラギなどのモクセイ科。

ここでイボタガのウルトラ邪悪なる幼虫画像を一発ブチかまして、皆をΨ( ̄∇ ̄)Ψビビらせたろかと思ったが、踏みとどまる。
なぜなら、あまりの衝撃画像ゆえ、ページから離脱されかねないと思ったからだ。話はまだ序盤なのである。この先も読んでもらわねば困る。皆さん、忘れて前へ進んでくれたまえ。

そして、最後は青き眼の妖鬼だ。

【Aglia japonica エゾヨツメ】
開張♂65㎜内外、♀100㎜内外。
オレンジ色の地に後翅に青い眼状紋を配し、日本産ヤママユガの仲間では最も小型種である。
雌雄同型だが、♀の方が大型で翅に丸みを帯び、地色が淡くなる。
分布は北海道、本州、四国、九州、サハリン。
以前はヨーロッパから朝鮮半島までのユーラシア大陸北部に分布するAglia tauの亜種とされてきたが、近年サハリンと日本産は分けられて別種となった。
幼虫の食餌植物はハンノキ(カバノキ科)、ブナ、クリ、コナラ、カシワ(ブナ科)など。

上記3種とも年一回春先に現れ、蛾愛好家の間では「春の三大蛾」と呼ばれている。3種とも特別珍しいものではないが、生息地は局所的とも言われ、けっしてどこにでもいると云うような蛾ではない。

画像は今のところ、あえて添付しない。
まあ、せいぜい脳内で姿を想像してくれたまえ。想像こそが恐怖を増幅させるのである。Ψ( ̄∇ ̄)Ψケケケ…。

そうこうするうちに日が暮れて、辺りが暗くなってきた。

 

 
闇の世界のお出ましである。魑魅魍魎が大挙してやって来るやもしれぬ。黒々とした森が、とっても不気味だ。闇の奥で悪鬼たちの暗躍する気配がある。
お化け怖い。妖怪怖い。蛾も怖いという怖い怖いづくしの身としては戦々恐々である。
あまり人前では言った事はないが、ガキの頃、お化けが怖くて、寝ているうちに異界に連れ去られるのではないかと思い、妹に30円を払って手を繋いで寝てもらっていたような男なのだ。喧嘩はそれなりに強かったけど、昔からお化けとか幽霊とかは大の苦手だったのだ。
そういえば女の子とお化け屋敷に入って、腰が抜けそうになった事がある。あれは情けなかったなあ…。
でも、怖いもんは怖いのである。

それにしても、オッチャンたちは凄いなあ。
今回は四人もいるけど、普段は人里離れた淋しい山の中で、夜に一人で虫捕りをしておられるんである。怖くないのかね❓
ワシだったら、恐怖のあまり悶絶発狂死するやもしれん。本気で虫捕りをするなら、狂人にならざるば一流にはなれんちゅー事か…。
それなら、オデ、オデ、二流でええだすぅー(T△T)

午後6時。
蒼き眼のメフィストが早々と現れた。
魔王の露払いとあらば、順番的には先ずは貴女でしょう。
ドラマーツルギーだね。全世界は劇場だ。然るべき役者が、然るべき時に現れるようになっているのである。

しかし、けっこう素早い。モスラさんは翅を小刻みに震わせて動き回り、全然落ち着かないのだ。

あっ( ̄∇ ̄*)ゞ……。
気づいたら、手で掴んでいた。
蛾恐怖症にしては信じられない行為だ。見ただけでもフリーズするのに、手で掴むとは何事かである。
頭のネジがフッ飛んだとしか思えぬ。これも全ては酒の為せるわざである。酒の霊力、恐るべし。

 
【エゾヨツメ♂】

 
( ☆∀☆)おーっ、コバルトブルーの紋がメッチャクチャ綺麗じゃないか❗❗
こんなに蒼いんだ…。思っていた色よりも遥かに鮮やかな深淵なるブルーだ。陳腐な表現だが、まるで宝石のサファイアのよう。その青をジッと見つめていると、引き込まれそうになる。
あんまり見ちゃダメー(>_<)、ゴーゴンの呪いみたく、石になっちゃうぞー。

でもさあ…。見れば見るほど不思議とカワゆく見えてくるんだよなあ。

 
(出典『誘色灯』)

 
(出典『fandf.exblog.jp』

 
( ・ω・)もふぅ~。
目が円(つぶ)らで、体はもふもふのモコモコなんでげすよ。ウサちゃんみたいだ。
このこのこのぅー(σ≧▽≦)σ、キャワイイぞー、お主~。

Mさんがコヤツは♂だと教えてくれる。
♂は触角が羊歯(シダ)状なんだってさ。♀は、このシダみたいなもんじゃなくて、いわゆる蛾眉、細長い触角らしい。ヤママユガの仲間の♂♀はみんなそうだという。
ふ~ん、なるほどね。
プロのおじ様たちは初心者に優しい。色々と教えてくれる。補足すると、エゾヨツメは基本的に日没直後にしか飛んで来ないんだってさ。(^o^)へぇ~。
どんな事であっても、上手な人、知識が深い人のそばにいた方がいい。その方が何でも上達が早いよね。

それを合図のように次々と小型の蛾が集まり始めた。カルナヴァル(祝祭)の予感だ。
があ~祭りの始まりじゃーい\(^o^)/
嬉しいような怖いような変な気分だが、酒飲んでるから、もうどうなったっていいのだ。蛾でも鉄砲でも飛んで来やがれと云う心持ちになってくる。

しかし、(・ω・)もふちゃんの3頭めが飛んできたところで、ピタリと飛来が止まる。以後、屑みたいな矮小蛾がポツポツとしか来なくなった。
えっ(^_^;)、フィーバー、もうおしまいなの❓
不安になってくる。この先大丈夫かよ?
エゾヨツメは勿論見たかったけど、それよりも見たいのは梟男爵と魔王なのだ。このままで終わるワケにはいかない。

ベテランのオジサンたちに訊いてみると、オオシモフリやイボタガは、もっと遅くに飛んで来るという。
そっか…、蛾によって飛来する時間帯が違うんだ。昼間と違って、夜なんて何時だって同じようなもんじゃないか?と思うんだが、蛾には、蛾にしか預かり知らぬ事情があるのだろう。

やがて、霧雨が振りだした。
絶好のコンディションである。この靄(もや)の立つ幻想的なシチュエーション、如何にも怪物が現れそうな様相ではないか。映画なら、確実にチビりそうな雰囲気である。出るね。絶対ヤバいのが来るね。
脳内でおどろおどろしい重低音が流れ始める。映画『シャイニング(註2)』のテーマ曲だ。

ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。

いよいよ闇の世界の支配者が満を持してワタクシを恐怖のズンドコ、もといドン底に陥れる時がやって来るのだ。凍りつくまであと何秒?何分?
心臓が💓ドキドキしてくる。

しか~し、9時になっても10時になっても現れず。
辺りは相変わらず細かい霧雨が舞っているのに何故❓
そして、11時になっても音沙汰なし。
巨匠が『今日はアカンのかなあ~?』と呟く。
まさかの御言葉である。頼みにしていた巨匠がそんな弱気なセリフを吐くとは、事態はあまりヨロシクないというか、惨敗のピンチではないか…。

Mさんも、『こんな日もあるよ。虫はなあ、ワシらでもワカラン事だらけなんや。いくら条件が揃ってる時でも、アカン時はあるねん。』とおっしやった。
そりゃ、ワテだって、それなりに蝶採りをしてきたのだ。言わんとしておられる事は充分に承知してますよ。でも、よりによって何でそれが今日なのよー(T_T)

11時半前。
巨匠が『ワシ、もう寝るわ~。』と言い残して、ワゴン車に消えていかはった。
益々、惨敗感が満ちてきた。
セーブしていた酒の量がグッと増えて、ヤケ酒気味になってくる。

12時前。
光の屋台に集まるお客さんは、相変わらずショボショボの面々だ。
退屈すぎて、段々居ても立ってもいられなくなる。
酒を飲みながら、Mさんに『巨匠のライトトラップの様子を見に行ってみません❓』と提案した。
しかし、Mさんからは、『いかへーん。一人で行ってきいや。』と云うニベにもない一言が返ってきた。

 
『ひ、一人でですかあ(◎-◎;)?』

 
『マ、マジっすか(|| ゜Д゜)❓』
声が心なしか震えている。

『でもオイラ、懐中電灯とか持ってないっすよ。』
もしかしたら、「仕方がないから一緒に行ってやっか。」とか言ってくれるんじゃないかという期待を込めての言葉だ。

しかし、Mさんは素っ気なく言った。
『懐中電灯くらいなら、貸したるわー。』

『イヤイヤ、そうじゃなくてー。そんな事ではなくてー、1人だと怖いんですよー。お化けが出たらどうするんですかあ。虫捕りのプロフェショナルの旦那~、頼みますからついてきて下さいよー(T_T)』
と云う言葉が喉元まで出かかったが、グッと呑み込む。
あとでネタにされるに決まってるんである。それは何があっても避けたい。チキンと蔑まれるのは真っ平御免だ。そんなことはプライドが絶対に許さない。

 
『わっかりましたー。(`◇´)ゞアムロ、行っきまーす。』

 
気づいたら、心とは裏腹の言葉が出ていた。
(-。-;)えらいこっちゃである。何かあったらどーするのだ❓
闇の世界に引き摺り込まれるかもしれんし、得体の知れない者に追いかけまわされたあげくに非業の死を遂げるやもしれんのだ。
でも、言ったからには行かねばなるまい。

 
    If I die combat zone.

もしもオイラが死んだなら、誰か骨を拾ってくれ。

 
                   つづく

   
追伸
いやはや、又しても完結せずである。
書いてると、色んな事を思い出してくるのである。
そうなると、自然長くもなる。で、途中で力尽きたと云うワケだ。

次回『闇の絵巻編』、もしくは『魑魅魍魎編』。
いよいよ怪物たちの全貌があらわになります。
乞う、御期待❗

(註1)ぬりかべ?いったんもめん?
両者とも水木しげる大先生の「ケゲゲの鬼太郎」でお馴染みの妖怪さんである。

 
【ぬりかべ】
(出典『matome.navar.jp』)

 
何だかライト・トラップって、ぬりかべと次のいったんもめんを足して2で割ったハイブリッドのようなもんだなあ。

 
【いったんもめん】
(出典『猫八のカッチコロヨ!』)

 
こんなもん、わざわざ画像をダウンロードせんでも自分で書けるがなーと思ったが、やめといた。
フザけた人間なのだ。どうせ鼻毛とか書いちまうんである。
試しに書いてみようか?

 

 
ほらね。

テイッシュの箱に書いたんだけど、フザけてるよねー。

拡大しまあーす。

 

 
やっぱり鼻毛ボーボーにしとります。
さらにフザける。

 

 
今度は脇毛ボーボーである。

最後は何ちゃらワカランことに。

 

 
フザけてるよなー。

 
(註2)映画『シャイニング』
1980年に上映されたアメリカ映画。
巨匠スタンリー・キューブリック監督によるホラー映画の金字塔。キューブリックがホラー映画を作るとこうなるのだ。双子がヤバすぎです。カメラアングル(ローアングル)と三輪車の効果音だけで、あそこまで人を怖がらすかね。
因みに文中の「ジャックは狂ってる…」の羅列は、映画の或るシーンがモチーフになっている。主演のジャック・ニコルソンがタイプライターで打った小説の原稿が、全部同じ文言『All work and no play makes Jack a dullboy.(仕事ばかりで遊ばない。ジャックは今に気が狂う)』と云う言葉て延々と埋め尽くされていたという怖いシーンだ。
そのままの文言では使えないので、短くアレンジしたのが「ジャックは狂ってる…」である。
原作はこれまたホラー小説の巨匠スティーヴン・キングだけど、キングはこの原作を無視した映画を気に入らなかったみたいだ。よほど肚に据えかねたのか、後にわざわざ自分で撮りなおしたくらいなのだ。
たしかに両者は全然違う。映画では父親が主役だが、小説では子供が主役なのである。まあ、どちらも面白いんだけどね。